2: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:17:17.15 ID:MKSeivLG0
天道家居間。

時刻は夕暮れ時。茜色の光が差し込む天道家の居間には、家主である天道早雲と、山田と名乗る燕尾服姿の老人が向かい合い座っていた。

テーブルにはまだ口のつけられていない、湯気の立つ湯呑が二つ。

早雲「して、早速ですが我々に退治を依頼したい妖怪とは?」

無差別格闘流の看板を掲げる天道家には時たま、このような妖怪退治の依頼を持ち込む客人が訪れる。山田と名乗る老人もその一人であった。

山田「はあ、そのことなのですが、まずはこれをご覧ください」

山田はそう言うと、背負っていた風呂敷から一枚の、別段変わったところのない手鏡を取り出し机に置いた。

引用元: 乱馬「かぶき町?」 

 

3: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:20:18.84 ID:MKSeivLG0
早雲「この手鏡が何か?」

山田「実はこの何の変哲も無い手鏡、名前を『転生鏡』と言いまして。こうしているとただの手鏡なのですが、ある条件をきっかけに、この鏡に宿る邪悪な妖   怪が現れまして、悪さをするというので困っているのです」

早雲「邪悪な妖怪が悪さ、ですか……」

邪悪な妖怪という言葉に早雲の頭には、自身のすちゃらかな師匠が暴れまわる様が思い浮かび、顔を引きつらせながら山田の言葉を復唱するのであった。

早雲「で、どんな悪さを働く妖怪なのですか?それと、そいつが姿を現し、暴れまわる条件というのはなんなんですかな?」

山田「それなんですがね……」

山田はバツが悪そうに下を向き、湯呑に口を付け、もう一度口を開く。

山田「その条件についてはまったくわかっとらんのですよ。ただ、こいつは『神隠し』を起こすと言われてまして……」

4: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:23:24.05 ID:MKSeivLG0
その言葉に困った唸り声を上げ、蓄えた髭を撫でながら言葉を続ける早雲。

早雲「うーん、その条件が分からないと退治は難しいですな。そもそも、そんな危ない手鏡なぞ使わずに質屋に売り飛ばすか、押入か蔵の中にでも放り込んで無視をするというのはいかがですかな?」

依頼人の話に多大な面倒を感じ始め、多少投げやりに返すと、山田はぼそぼそとこの手鏡にまつわるエピソードを語った。

山田「……『かくかくしかじか』というわけなのです」

早雲「ほぉー、そんな謂れのある代物だったとは驚きましたなぁ」

山田はとある温泉街で、何代と続く由緒正しき旅館の番頭をやっているという。その伝統ある旅館で、代々の女将に伝わっているのが転生鏡なんだそうな。

先代からはこの手鏡を無くしたり、質屋に売り飛ばしたりはしないようきつく言われており、なんでも、この手鏡を手放すとその旅館には必ず不幸が訪れるのだという。また、必ず旅館の玄関に飾るようにと釘を刺された。

5: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:24:32.83 ID:MKSeivLG0
若かりし先代は曰くつきの鏡など手放そうと質屋に売り払ったのだが、突如経営が傾いたりしたそうな。しかし、ものは試しと手鏡を質屋から取り戻すと傾きは納まったという。

それともう一つ、この手鏡には妖怪が住み着いており、とんでもない悪さをするという話も伝えられたそうだ。一体何をきっかけに暴れだすのか、という話は不明なままで。

先代はその悪さをされたことは無いのだが、その一代前の女将が当主であった時には、旅行客や従業員が何人かその被害に、『神隠し』にあったという。

一日二日で帰って来るケースが大半であったが、何故か被害者は不機嫌そうに、何があったか言おうとせず、中には記憶を無くした者もいたそうな。

そんな物騒な代物が先日、とある条件を満たしたようで男性二名、女性二名の旅行客を神隠しにあわせてしまった。

6: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:26:18.07 ID:MKSeivLG0
幸い二日後に帰ってきたそうなのだが、何があったか話そうとしないばかりか、仲良く見えた四人は互いに目も合わせん勢いで不仲になり、宿を飛び出すように出て行ったそうだ。

そして山田は、お客様に手を出すとは許せぬ、と激昂した女将にこの手鏡に憑く妖怪を払うよう命じられ、さる神主の紹介を受け、天道家に行き着いたというわけであった。

山田「で、私共の依頼を受けて頂けるのでしょうか?」

早雲「うーん、破壊するわけにもいかぬし妖怪も姿を現さないとなると難問ですな。申し訳ありませんが、此度の話、お力添えはできないかと……」

山田「もちろんタダでお願いしようとは申しません。もし解決をお約束頂けるなら当旅館で好きなだけ飲めや食えやの大宴会、そして最上級のお部屋に温泉貸切――」

?「天道君っ!!!」

?「お父さんっ!!!」

山田のセリフを遮るように襖が勢いよく開き、二つの声が響いた。

7: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:27:53.76 ID:MKSeivLG0
一人は無差別格闘早乙女流開祖、そして天道家の居候、早乙女玄馬。

もう一人は早雲の三人娘の真ん中、天道なびきであった。

二人の目から、早雲は彼らが何を言いたいのか、そしてこれから何を要求してくるのか全てが伝わり、深いため息を付いた。

玄馬「天道君!君はいつからそんな白状な男になったんだ!親友として恥ずかしいよ!我ら武道家は、このような弱き人々を守るため日々修行に励むのではなかったか!君がなんと言おうとも、私はこの依頼を受けるからね!」

なびき「早乙女のおじさまの言う通りだわ!無差別格闘流の娘として悲しい!お父さんがやらないなら代わりに私もやらせてもらうわよこの依頼!で、妖怪退治したら何してくれるのかしらお爺さん?口約束は私信じないから、この証書にサービス内容とお爺さんの署名捺印をお願いね。はい、これが証書とペン」

8: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:29:16.88 ID:MKSeivLG0
突如現れた勢いの良すぎる二人に圧倒された山田は、「は、はぁ」と目を白くさせながら差し出されたペンを受け取ると、証書に記入を始めた。

早雲「ちょ、ちょっと早乙女君、どうするんだい?そりゃあ僕だって最高級サービス付きの無料温泉旅行は行きたいけどさぁ、以前のパンダのお札や升の鬼みたいにうまくいく気がしなくなぁい?」

山田が証書に筆を進めている隙に、早雲が玄馬に耳打ちをする。

玄馬「別に本当に解決する必要はないだろう天道君?どこかで似た鏡を買って来るもよし、適当にやってもこんな耄碌した爺さんには何も分からんさ、クックックックック」

なびき「うまいこと一芝居打ってあげるから安心してお父さん、私に任せておいて。それと早乙女のおじさまは下手打つ可能性があるからなるべく口を開かないように」

耳打ちを聞きつけたなびきも会話に参加する。

9: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:30:46.03 ID:MKSeivLG0
山田「こ、これでよろしいでしょうか?」

証書を書き終えた山田が三人に紙を突き出す。それをひったくるようになびきが受け取り、隈なくチェックを済ませ、笑顔で答える。

なびき「ええ、確かにこの依頼お引き受けいたしますわ。大舟に乗った気持ちで私たちに任せて――」

なびきのセリフに被さるように、テンションが上がった玄馬もドンと胸を叩き、調子に乗ってあること無いこと叫ぶ。

玄馬「遥か昔の話になりますが!八宝菜という大妖怪を封印したこともあるこの私にどうかお任せあれ!この依頼、無事解決して――」

?「誰が大妖怪じゃぁぁぁ!!このバカモンがぁぁぁ!!」

何が起きたか分からない程の一瞬で倒された玄馬の腹の上で、小さな老人がキセルを咥え座っていた。

10: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:32:16.13 ID:MKSeivLG0
早雲「お、お師匠様ぁっ?!お、お久しぶりです!」

早雲と玄馬の師匠、無差別格闘流の創始者である八宝斎がそこにはいた。普段の条件反射からか、はたまた玄馬の失言からか、秒速で土下座をする早雲を尻目に、なびきは舌打ちをした。

なびき(だから余計なこと言うなって言ったのに!八宝斎のおじいちゃんが絡んだら、うまくいくものもうまくいかないじゃない!)

八宝斎「まったく久し振りに弟子達の顔を見ようと思って来てみたら、師匠に対してなんと失礼なことを!ふんっ!」

八宝斎のへその曲り具合を見て、なびきが早々に温泉旅行を諦めかけたその時であった。

八宝斎「お、なんじゃ?その鏡は転生鏡か?懐かしいのう」

11: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:33:35.36 ID:MKSeivLG0
机に置かれた鏡を見て八宝斎が言った。数秒の間、時が止まったが

なびき「おじいちゃん!この鏡を知ってるの?!」

なびきは目を輝かせて、失神している玄馬の腹の上から動かない八宝斎に訪ねた。

八宝斎「知ってるも何も、コロンちゃんのいた女傑族の村からワシが譲り受けて日本に持って来たものじゃからな。確かタチの悪い妖怪が憑いているとかいう話で気味が悪かったから、良くしてくれた宿屋に置き土産として置いてきたはずじゃがの」

なびき「この際譲り受けていないで盗んだだけとか、一体それは何年前の話だとか、なんで気味の悪いものを良くしてくれた宿屋に置いてきたんだとか細かい話はいいわ。おじいちゃん、その妖怪を出現させる方法とか退治の仕方とか知ってるんじゃない?!」

八宝斎「ああ、色々とこの鏡のことはコロンちゃんから聞いてるからもちろん知っておるよ、なびきちゃん」

後ろを振り向き見え見えのガッツポーズを晒すと、なびきは八宝斎の手を握って詰め寄った。

12: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:35:27.09 ID:MKSeivLG0
なびき「おじいちゃん!是非それを教えてくれないかしら?」

八宝斎「えー、教えてもいいけどタダじゃあなぁ。いくら早雲の娘と言えどもタダじゃあなぁ」

そっぽを向いて、チラチラと厭らしい目線だけはなびきに寄越しながら八宝斎が答える。

ただそんなことは予想済みのなびきは

なびき「今答えれば最高級温泉旅館無銭飲食大宴会よ?」

何が起きているか良く分かっていない山田に、聞こえないように提案する。

八宝斎「うーん、もう一声!」

なびき「今なら女らんま君のセクシー写真10枚セットと、今日のあかねの下着の色を教えるわ」

そのなびきの一言に目付きが変わった八宝斎は、玄馬の腹から立ちあがり、今までの厭らしい顔を一変させ皆に言った。

八宝斎「では今こそ教えよう!この転生鏡の秘密を!」

13: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:36:32.05 ID:MKSeivLG0
早雲・玄馬「ははぁ!ありがたき幸せ!」

早雲といつの間にやら復活した玄馬は、深々と畳に頭をこすり付け師匠の言葉を待った。

山田も固唾を飲んで、突如現れた小さな老人の次のセリフを見守る。

八宝斎「転生鏡の秘密!それは!『かくかくしかじか』じゃぁぁぁ!!」

早雲、玄馬、なびきの間に雷鳴が走る。

早雲「な、なんとタチの悪い妖怪なんだ!」

玄馬「き、気持ちは分からんでもないが、ひどくタチが悪い……」

なびき「タチが悪いのを通り越してとっても馬鹿らしいわっ!」

驚愕する三人であった。

14: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:41:19.90 ID:MKSeivLG0
そんな三人とは対照的に、ようやく胸を撫で下ろせた山田が八宝斎に頭を下げる。

山田「おお、これで奥様に顔向けできます。ではこれより、その妖怪を呼び出し退治して頂けますでしょうか?」

その言葉に八宝斎は

八宝斎「お主、ワシの話を聞いておったのかい?この面子じゃ無理じゃろがい。そんなことよりさっさと今すぐ旅館に連れて行かんか!ワシの機嫌を損ねたら退治してやるモンも退治してやらんぞぉ。さ、退治してやるからそんな辛気臭い鏡は放って早く案内せい!」

とキセルを燻らせながら、ふんぞり返って答えるのであった。

山田「そ、それは困ります!では早速旅館にご案内いたしますから皆様ご準備を!」

15: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:42:32.21 ID:MKSeivLG0
早雲「かすみぃ!今から温泉旅行だぁ!準備を!準備をしてくれぇ!」

なびき「やったやった!荷物まとめてくるねー」

玄馬「ワシもさっさと荷造りをしなければ!」

それぞれが慌ただしく動き始め、玄馬となびきが出て行った居間に、早雲の三人娘の一番上、天道かすみがエプロン姿で現れる。

かすみ「あらあらお父さん、どうしたの?それと八宝斎のお爺様、お久し振りです」

皆のドタバタもなんのその、マイペースで八宝斎に挨拶をするかすみであった。

早雲「今すぐ旅行の準備をしなさい。今からみんなで楽しい楽しい温泉旅行だよかすみぃ」

八宝斎「ワシの人徳のおかげでな。ささ、かすみちゃん。ちゃっちゃと支度をしてきなさい」

16: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:43:41.73 ID:MKSeivLG0
その二人の言葉に、口に手を当て困った顔をしてかすみは言った。

かすみ「すぐに行くんですか?丁度今さっき、あかねと乱馬君にお使いを頼んでしまって、二人とも行ってしまったところなのだけど……」

早雲「ななななんと、お師匠様!どうか二人を、せめてあかねだけでも待ってやっては下さらないでしょうか?!」

かすみの話を聞いた早雲が、大量の涙を流しながら頭を下げる。

八宝斎「ええい!駄目じゃ駄目じゃ駄目じゃ!もうワシは今すぐ酒が飲みたい!女風呂を覗きたい!そしてお姉ちゃん達と一緒に温泉に入りたいんじゃあ!」

八宝斎が駄々をこね始めたのを見て、これを説得するのは無理だと悟った早雲は

早雲「かすみ、行先を書いたメモを残して我々は先に行こう。このままではお師匠様が何を言い出すか、何をしだすか分からん。最悪の場合、温泉旅行が無くなるだけならまだしも、我々に容赦のない八つ当たりをしてくる可能性があるのでな」

と今までの涙を嘘のように止め、かすみに向き直り言った。

17: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:44:43.53 ID:MKSeivLG0
かすみ「まあ、メモを残していくのだったら二人も後から来れるしいいかしらね。私も用意してきまぁす」

かすみも居間から出て行くと、早雲は山田から目的地である旅館の住所を教えてもらい紙に書き記し、机の上に置き、自分も旅行の支度をしに自室に戻るのであった。

その約五分後、乱馬、あかねを除く面々は意気揚々と温泉旅行へと旅立つのであった。

曰くつきの鏡を居間の机に置きっぱなしにしたまま。

行先を書き記したメモが、開け放したままの居間に風が吹き込み、部屋のごみ箱に入ったのにも気付かないまま。

19: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:50:19.04 ID:MKSeivLG0
かぶき町、万屋。

?「『てんせいきょう』だぁ?ああ、あのハムみたいな●●がはまってたエサのことだっけ確か?」

住居兼仕事場として使われている手狭な一室で、気怠そうに足を机に投げ出し、椅子に体を放り出している、この万屋の主である坂田銀時は言った。

?「違うアルよ銀ちゃん。ハムみたいな●●じゃなくて雌のハムだったアルよあれは」

銀時のぶっきらぼうな発言に反応したのは、チャイナ服を着たまだ幼さの残る少女。名前は神楽。

?「どちらも違いますよ、ハム子さんは人間で本名は公子だったはずです。そもそもハムに性別ないからね、神楽ちゃん。ちなみにその『転生郷』ではなくて鏡の方の『転生鏡』なんです。てか、僕が持ってるものを見たらなんとなく分かるでしょ。むやみに公子さん傷付けたかっただけでしょアンタ達」

長々としたセリフを初っ端から喋った眼鏡の名は志村新八。ソファに腰掛ける彼は、何の変哲も無い手鏡を二人によく見えるように突き出した。

20: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:51:52.51 ID:MKSeivLG0
神楽「ああ!分かったアル銀ちゃん!ほら、ツッキーとかいるあの吉原のあだ名みたいなやつのことネ!」

銀時「はいはい桃源郷ね、あのザキ太夫のいる。で、今回はどんな面倒事持ち掛けられたのよ」

新八「違ぁぁう!お前らワザとやってるだろ!だいたい即死魔法みたいな名前の太夫がいるかぁ!月詠さんが聞いたら怒りますよ?!」

銀時「あいつの名前なんかどうでもいいだろ。それに腐っても太夫なんだ、下半身的な意味で即死魔法かけてくれるくらい芸達者かもしれねえぜ?」

新八「開始早々シモに話を持ってくなぁ!」

21: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:53:05.02 ID:MKSeivLG0
神楽「え、銀ちゃんそんな三こすり半的な意味で言ってないアルよ。新八きもいアル。新八だけがきもい世界アル」

銀時「まあそう言うなって神楽。この三こすり半蔵君も思春期が故に、すぐに思考がそっち方向行っちゃうんだよ。ほとばしる熱いパトスが色々裏切っちゃうだけなんだよ」

新八「三こすり半蔵ってなんだっ!熱いパトスってなんだっ!新八だけがきもい世界ってなんなんだぁぁっ!そんな世界僕はいらないっ!てかお前らがふざけ過ぎて全然話が進まないんですけどっ!いつまでも本題に入れないんですけどぉっ!」

いつもの如くの新八のうるさい突っ込みを冷めた目で見る二人であった。そんなのっけからテンションの低い彼らの様子を見て、新八は少し荒くなった呼吸を整えた。

新八「まったく、僕の話を聞かないとホント後悔することになりますよ。とっても良いニュースがあるんだから。もう、いつまでもこんなとこで尺取ってられないから、さっさと手短に、何があったか一から説明しちゃいますね」

22: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:54:11.49 ID:MKSeivLG0
はーい、とやる気の無い返事をして二人は手を挙げた。

新八「まず二人がよろず屋を空けていた間に、一人のお客さんが来たんですよ」

銀時「ほー、お客さんとは珍しい。最近はめっきり見なくなったからね。俺がジャンプ買いに行ってパチンコですってる間にそんなレアキャラ出たのかよ」

と、新八そっちのけでジャンプに視線を奪われている銀時が言った。

新八「ジャンプ買いに行くって出たっきり全然帰って来ねえと思ったらそんなことしてたのかよアンタは。まあいいや、話を戻しますよ。ついでに視線も僕に戻してください」

コホン、と咳払いをした新八は話を続ける。

23: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:55:47.89 ID:MKSeivLG0
新八「依頼人の名前は山田さんというご老人でした。なんでも大企業の会長の秘書をされてる方で、あの赤ちゃん騒動の時の、橋田賀兵衛さんに紹介を受けてやって来たらしくて」

神楽「私が近所のガキの缶蹴りの缶を、空の彼方に蹴り飛ばしてる間にそんなことがあったアルね。てかシルバージェイフォックス懐かしいアルな。元気にやってるかちょっと気になるねー、定春ぅ。それにしてもアイツ、とうとうお客さんの幻覚まで見るし、そんな作り話するようになったアルねー。あの眼鏡はもう現実も何も見えない、無用の長物と化したアルねー」

新八の話に飽きた神楽は、笑顔で超大型犬の定春とじゃれている。

新八「君も君で全然帰って来ないと思ったらそんな荒んだことやってたのかよ……それによくそんな笑顔で無用の長物とか言えるね。ああもう!話が進まない。でですね、その山田さんがこの転生鏡と呼ばれる鏡を置いていったんです」

そう言うと、新八はもう一度二人によく見えるように手鏡を見せたが、二人がその手鏡を見ることは無く、思い思いで暇を潰しているだけなのであった。そんな態度にイライラし始めた新八は立ち上がり叫んだ。

24: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:56:56.50 ID:MKSeivLG0
新八「ちょっともう嫌になってきたんで結論から話しますけどぉ!この鏡の謎を解いてくれれば、この前金の十倍の額の報酬をくれるってよぉぉ!!ほら見ろ!貧乏人ども!これがその!前金だぁぁぁ!!!」

懐から出した分厚い封筒を膝元の机に叩き付ける。

その音に、今まで新八の方を見向きもしなかった二人はようやく視線を向ける。

その封筒の分厚さに目を丸くした銀時だが、フン、と鼻で笑うと

銀時「お、俺はそんなモンに騙されないぜ?その封筒に札が本当に入ってるのかよ、中身は子供銀行券とかじゃねえの?それかババアやらと手を組んでまた俺をはめようとしてんのかコノヤロー、絶対お前らの汚い手の平なんかで踊ってたまるかよ」

と疑ってかかった。

新八「汚いのは人の話を信じられない貴方の心ですよ。それに中も確かめました、ちゃんと福沢先生がいましたよ」

25: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:58:04.69 ID:MKSeivLG0
銀時「……は?じゃあマジなの?だってその封筒かなり分厚いぜ?今でさえジャンプと同じくらいの厚みがあるのに、十倍にしたらジャンプ十週分の厚みになるんだぜ?ちょっと縛って捨てに行くのが面倒くさいくらいになっちゃうよ?富樫先生の集中連載分くらいにはなるのよ新八君」

疑ってかかった割にはすんなり話を受け入れ始める銀時であった。

新八「なんで物の厚みをジャンプでしか例えられないんですか。そんなに疑うなら実際に確認してみたらいいじゃないですか、ほら」

新八が封筒を銀時に近付けると、恐るべき速さでぶんどり、中身を確かめた。

神楽「銀ちゃん、どうなの?それマジモンのお金アルか?もう三食天かすだけ食う生活から抜け出せるくらい入ってるアルか?」

神楽も封筒の中身が気になり、定春との遊びを止め銀時に尋ねた。

26: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 21:59:20.65 ID:MKSeivLG0
新八「そんな悲しいこと言ってないで神楽ちゃんも見てみなよ!これだけあればお米はもちろん、肉だって魚だってたくさん食べれちゃうよ!ついでに貰ってなかった給料まで出ちゃうくらいだよ!」

神楽「それ本当アルか新八!でも私そんな贅沢言わないネ。卵かけご飯、ごはんですよご飯、納豆ご飯のローテーションを組んでもらえるだけで幸せネ」

十代の少女とは思えない侘しい願いを口にする少女の横で、銀時は札束を手にしながら震えていた。

銀時「うぉぉぉい、これマジじゃねえか。マジモンの万札じゃねえかよ。これだけあれば滞納してた家賃払ってお前らに給料払って、ツケで飲んでた呑み屋にも払って……いや、それよりもこの金を元手にもっと増やそう。そう、例えばパチンコだよ。お金が増えれば俺もみんなももっと幸せになれるもんね?そうだよね?きっとそうに違いないよねパトラッシュ、なんだかとっても眠いんだ……」

新八「ようやく信じてくれたんですね。まあ、あまりの金額にわけわかんないことになってますけど、天に召されかけてますけど。ていうか家賃に給料にちゃんと払えよ、そこは絶対に譲りませんからね」

27: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:01:26.17 ID:MKSeivLG0
神楽「うおおおお!!銀ちゃんがテンパりまくってるってことはモノホンのマネーで間違いないアルな!キャッホウ!定春!これでお前もちゃんとしたドッグフード喰えるアルよ!もう公園でおっさんが撒いてるクラッカーを鳩に混じって喰わないで済むアルよ!」

新八「最近依頼がなくて貧乏なのは分かってたけどお前らなにやってんだよ、逞し過ぎるだろオイ。とにかくテンパるのも喜ぶのも良いですけど落ち着いて話を聞いてください。肝心の依頼内容について説明しますから」

落ち着きのない二人を宥めつつ、新八が少しでも話を進めようとする。

銀時「なんでも来いやぁ!なんだっけ?謎解きゃいいんだっけ?俺昔あやつり左近とか読んでたから結構謎解きには自信あるぜ?けけけ、これで報酬もゲットだぜ!」

神楽「私も私も!名探偵コナンとか金田一とか読んでるからもうすっごいアルよ!歩く度に死人が出るレベルね!」

どこからか銀時は小さい操り人形を、神楽は鹿打ち帽と虫眼鏡を装着していた。二人ともまるで修学旅行前日、を通り越して初日の夜のようにはしゃいでいる。

28: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:02:40.63 ID:MKSeivLG0
新八「二人が全く頼りになりそうにないってことだけは分かりました。でも、山田さんが言っていた謎を解いてくれっていうのは、そっち方面じゃないんですよね」

その人形や虫眼鏡の出どころに対して突っ込みたい気持ちを抑え、新八は必要最低限の言葉を返す。

銀時「そっち方面じゃないっていうとどっち方面なのよ、あやつり左近じゃなくてデスノート方面だった?まああれも謎解きっちゃ謎解きだもんな」

新八「いい加減ジャンプから離れてください」

今度はジャンプを開きながらをリンゴをかじっている銀時に対して、ずり落ちた眼鏡だけを直して話を戻そうとした新八に、続けざまに髪を逆立てた神楽が強烈なオーラを放ちながら言った。

神楽「そんな突っ込みばっか入れてないでちゃちゃっと本筋入れヨ。早くツエー謎解きたくってオラ、ウズウズしてっぞ!」

新八「強い謎ってなんだよ!神楽ちゃんは早くそのどっかの戦闘民族みたいな設定から離れて!そうしたら余計な突っ込み入れずに本題に入れるんだから。てかお前らはしゃぎ過ぎだぞ!」

とうとう自分の性を抑え切れずに突っ込んでしまった新八であった。

29: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:04:21.91 ID:MKSeivLG0
銀時「で、ぱっつぁん。その謎ってのはなんなんだ?そろそろおふざけは止めてちゃんと話を聞こうじゃねえか」

新八「……やっぱりふざけてたんですね、でも話を聞く気になってくれて良かったです。まあ簡潔にまとめますと、ある古物商からこの転生鏡を山田さんの主人、会長さんが手に入れたんです。この鏡にまつわる逸話を大変気に入って」

ここでようやく新八は転生鏡に伝わる謎について語り始める。

新八「なんでも転生鏡には妖怪がとり憑いているらしくて、その妖怪が異世界に人を飛ばしたりと、つまり『神隠し』みたいな話ですね。そんな悪さをすることがあるらしいんです」

銀時「……」

神楽「……」

鏡の逸話に、いつもは騒がしい万屋の空気も静まりかえるが、そのまま新八は続けた。

30: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:05:47.97 ID:MKSeivLG0
新八「でも誰にでも悪さをするのではなくて、ある条件の下にしか現れないらしいんです。そこでどうやったらその妖怪が出現するのか条件を探ってくれ、っていうのが今回の依頼内容です。会長さんが一度で良いから異世界を見てみたいって言って聞かないらしくて」

新八「で、金に糸目は付けないからとにかくこの鏡の謎を解いてくれって話なんです。いやー、やっぱ超お金持ちともなると、普通の人とは感覚が違うんですね。そもそもこの鏡に妖怪なんてとり憑いていないかもしれないのに。てか異世界なんておとぎ話にも程がありますよね」

銀時「……返してきなさい。」

新八「へ?」

神楽「銀ちゃん?」

銀時の一言に、先程とは違った意味で事務所内が静まりかえる。

銀時「もうウチには定春君がいるでしょう!それに加えて妖怪なんてウチでは飼えません!結局銀さんが散歩行ったりすることになるんだから!絶対ダメです!」

31: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:07:03.03 ID:MKSeivLG0
急にママ口調になった銀時はキビキビと椅子から立ち上がり、机に放りっぱなしにしていたジャンプを片付け、はたきで掃除を始めた。

神楽「そんなぁ、ちゃんと私が散歩行ったりエサあげたりするからぁー!お願いアル!飼って飼って飼ってぇ!それに私しっかり定春の面倒も見てるアル!」

手足をその場でジタバタさせながら神楽が駄々をこねる。神楽の天性の怪力により、床がとんでもない音を立てていた。

銀時「ダメですよ!そんなこと言って銀さんがたまに散歩連れて行ったりエサあげたりエサになったりしてるんだから!」

新八「もうその捨て犬コント終わりでいいですか?てか銀さん、もしかして怖いんですか?あの坂田銀時が、かぶき町四天王の一角である元白夜叉が!いるかいないかも分からない鏡にとり憑いた妖怪が怖いんですかぁ?」

ニタァっとした、厭らしい笑みを浮かべながら新八が銀時ママに突っ込む。この依頼を受けた時、既に銀時がこうなることは今までの付き合いで見当はついていたので、用意していた煽り文句を浴びせるのであった。

32: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:08:59.55 ID:MKSeivLG0
神楽「そうなのか銀ちゃん?もしそうだったらめちゃくちゃだっさいアル、がっかりアル、もうお前必要ないわ。今日これより、ここは万屋グラさんの事務所として一から始めるからさっさと出てけよ。ケツまくるなら一人でまくりな、私は絶対にやるからな」

新八「ちょっと何このチャイナ娘。途中からいつものエセチャイナ語じゃなくなって急に日本語ペラペラになったんだけど。まあ銀さん、報酬のこと考えるとここで怖がって依頼を断るなんて、万屋の懐事情的に有り得ないですよ」

新八「僕等がちゃんとフォローしますから頑張りましょう、ね?あと神楽ちゃんもあまり言い過ぎないように。それにそもそも妖怪なんていないですって」

このまま煽って煽って銀時を挑発して依頼を受けさせようとしていた新八であったが、暴走し始めた神楽のせいで、温和路線に切り替える。

神楽「そうアル、熱くなってちょっと言い過ぎたアル。まあ鏡に憑いてるっていう妖怪がもしいても、今までのパターンだと十中八九天人だから安心するネ。なにかあっても私がちょちょいのチョイ君アル」

33: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:10:28.52 ID:MKSeivLG0
しかし二人のフォローも虚しく銀時は

銀時「ちょ、ちょっとその感じ止めてくれない?まるで俺がビビッてるみたいじゃん?なんか嫌だなぁーこの感じ。ビビッてないって言っても、もうビビッてるとしか思ってくれない感じだもんこれ。」

銀時「『キレてんの?』って聞かれて『キレてない』って言い返しても『やっぱキレてんじゃん』ていう一連の応酬を彷彿とさせるやつだよ。もともとキレてなかったのにちょっとイライラしてきちゃうやつだよ」

椅子に倒れこむように座り込んだ。

新八「あー……なんかすっごい面倒くさいんだけどこの人。どうしよっか神楽ちゃん」

神楽「どうするも何も私たちは頼まれた依頼を完遂するだけよ志村さん。早速動き出しましょう、でないと私のお腹と背中がくっついてそのまま離れ離れになってしまいそうよ。あ、今の表現はそれ程お腹が減っているという意味だから、実際にそんな現象が起こるということでは無いわ」

ありもしない後ろ髪を神楽は、たなびかせるように掻き上げる動作をした。

34: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:11:54.82 ID:MKSeivLG0
新八「神楽ちゃんは空腹とこの大金を前にテンパってそんなキャラになってるってことで良いのかな?てかそんなにお腹空いてるならこの前金で何か食べてからでも遅くないんじゃない?何か食べたいものはある?」

神楽「私ねー、私ねー……」

一瞬で素に戻った神楽が脳ミソフル回転で食べたいものを思い浮かべていると

銀時「おいお前らぁ!なぁーに社長無視して話進めてくれちゃってんの?この依頼は受けないって言ってるだろうが!そもそもこの話、よくよく考えてみれば隅から隅まで胡散臭えし怪しいじゃねえか」

銀時「そんな夢みたいな話にこの高額の依頼料って絶対何か裏があるって。簡単に話受けたら長編エピソード並の厄介事に巻き込まれるの目に見えてんじゃん!」

銀時が冷静に突っ込みを入れる。

35: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:13:40.30 ID:MKSeivLG0
新八「確かに胡散臭いってのは分かりますけど一獲千金のチャンスなんですよ?銀さんだってお金欲しいでしょう?」

このままでは本当に依頼を断りかねない銀時に新八が詰め寄った。

銀時「いやそれは欲しいけどさ。まあここだけの話なんだけど、俺もう見えちゃってるからね、その鏡に憑いてるやつ。俺も似たような能力持ってるから見えるんだけどさ」

銀時「なんだろう、両右手の包帯グルグル巻きなのとか、マンインザミラー的なのとか、なんかそんなん憑いてるんだわそれ。だから止めよう、俺達の手には負えないから」

新八「まんまジョジョじゃねえかスタンドじゃねえか!あとマンインザミラー的なのってなんだよ、もうちょっと頑張ってぼかせよ!」

神楽「なんだ、妖怪じゃなくて良かったアルな。じゃあウイルスに感染してワクチンと一緒に鏡の中に行けば相手はリタイア、私達の勝利アル!」

新八「倒しちゃダメだから!目的変わってるよ!僕らはあくまでどうやって鏡の中のスタンド使いを引きずり出すかを調べれば良いだけだから、戦闘不能に追い込んじゃアウトだから!」

銀時「お前らそもそもスタンド持ってないだろ?だから今回の依頼は無理無理。ほーら、さっさとこの鏡と依頼料返してこーい!」

銀時はそう言うと手元のジャンプに視線を落とし、これ以上会話はしない、というスタンスを見せた。

36: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:14:58.42 ID:MKSeivLG0
新八「ちょっと何またジャンプ読み始めちゃってるんですか!まさか本当に断る気――」

銀時の様子に見かねて新八がジャンプを取り上げようとしたその時であった。

神楽「おおおお!鏡が光り始めたね!何アルかこれ!もしかして神龍か?!願い叶えてくれるアルか?!」

いつの間にかソファに投げ出されていた鏡から黄金色のまばゆい光がこぼれる。

新八「ちょ、ちょっと何これぇぇぇぇぇ!!!マ、マジだったの?!この鏡マジのヤバイアレだったの?!ぎ、銀さん!ど、どうしますかぁぁぁ!!!!これヤバイっすよ!!妖怪出て来ちゃう感じですよぉぉぉ!!!」

銀時「お、落ち着け新八っ!!こ、これはきっと神楽の言う通り神龍だよ、神龍なんだよ!」

新八「そ、そんなわけあるかぁぁぁ!!!だいたい僕等ひとっつも球集めてないでしょう!!」

銀時「何言ってんだよ新八君っ、その股にぶら下がってるのは何かね!」

新八「それでも僕と銀さんで四つですよ!三つも足りてないですよぉ!」

37: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:16:05.83 ID:MKSeivLG0
銀時「お、お前には言ってなかったけど俺実は三つ球があるのよ、それで定春の分足したら合計七つで神龍召喚だコノヤロォォォ!!!ってこんな馬鹿なこと言ってる場合じゃねえだろこのダメガネがぁぁぁ!!」

新八「誰がダメガネだコラァァァ!!」

神楽「世界を私のモノにするアル!!」

二人が顔を寄せ合い絶叫する中で、神楽は暢気に自分の願いを叫んだ。

銀時「そ、そうだ!おい神楽!そんな馬鹿なこと言ってないでその鏡壊せ!それ神龍出てこないから!あの悪い方の龍出てきちゃう方だから!」

神楽「何言ってるアル、私ドラゴンボールは42巻までしか認めてないネ。だからGTで何をやっていようが知らないアル。私にとっての神龍はアイツだけネ」

新八「そんなアホ言ってないで早く鏡を壊して神楽ちゃん!!それかさっさと逃げなって!!もうなんでそんなヤバイ光出てる鏡持って満面の笑みなんだよ!」

銀時「か、神楽!もう鏡は壊さなくて良いからこっち来て机の陰に隠れろ!!」

机の陰にいつの間にか隠れていた銀時が神楽を呼び寄せる。

38: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:17:04.31 ID:MKSeivLG0
神楽「お、なんか軍隊ごっこぽくって私もそれやりたいネ!私も隠れるアル!」

新八「だからなんでこの状況楽しんでんだよ!!てか僕も隠れる!!」

新八と神楽は銀時に隠れるように身を隠した。

神楽「うわ、さっきより光強くなったネ!」

新八「くっ!もう何も見えなくなりそうですよ銀さん!」

神楽「オイ新八!」

新八「どうしたの神楽ちゃん!」

神楽「光が眼鏡に反射して面白いアル!ハッハッハッハ!」

新八「この状況でそんなことで笑うなぁぁぁ!!!

39: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:17:53.95 ID:MKSeivLG0
光はさらに強さを増し、とうとう何も見えなくなるほどであった。

銀時「逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ逃げてイイヨ」

新八「何逆シンジ君やってるんですか!ってうわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

神楽「お、ウオォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」

銀時「逃げときゃ良かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」

40: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:19:03.52 ID:MKSeivLG0
天道家居間。

?「かすみお姉ちゃーん、お父さーん、いないのー?夕飯の買い物行ってきたよー」

ショートカットの快活そうな少女が家中を探しながら、とうに旅行に出発してしまった家族の名前を呼ぶ。

?「ダメだあかね、親父も誰もいねえや。みんなで甘味処でも行ってんのかな?」

あかねと呼ばれた少女が、ぶっきらぼうな物言いのおさげ髪の少年、乱馬に答える。

あかね「それはないんじゃない?だって買い物行って来たらすぐ夕飯にするからってお姉ちゃん言ってたもん」

乱馬「そうだよなぁ、かすみさんが家事ほっぽって遊び行ったりするわけねーもんな。あぁったく、それにしても腹減ったぜぇ」

41: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:20:10.62 ID:MKSeivLG0
乱馬がトレーニングと買い物でいつもより空いた腹を悲しそうにさすると、それを見たあかねが名案を思い浮かべたと言わんばかりに手を打って提案した。

あかね「そうだ!そんなにお腹減ってるなら私が今日作るよ!」

誰もが心ときめくようなスマイルのあかねに対し、乱馬は青い顔をしながら

乱馬「い、いいっていいって!お前も今日疲れてるだろ?!なんだったら俺が何とか作るし、シャンプーんとこに出前でも、あ!うっちゃんトコ行くってのもいいんじゃねえか?!」

と両手をぶんぶんと振り回し言った。

あかね「あー、また私がとんでもないもの作ると思ってるんでしょ?!でも今日は大丈夫ですー!今夜は水炊きなんだから、肉と野菜適当に切って鍋に入れて煮るだけでしょ?私にもそれぐらい出来るんだから」

乱馬「その『適当に』ってところが怖いんだよ!俺は野菜と一緒にまな板のかけらなんて食いたくねえからな!」

42: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:21:15.30 ID:MKSeivLG0
あかね「だから大丈夫って言ってるじゃない!わ、私だってこのままじゃまずいなって思って、最近おばさまにお料理習い始めたりしてるんだから……」

乱馬は許嫁が自分の母に、究極に料理下手なのを気に病み料理を習っていること、またそのことを少し顔を赤くしながら言う姿に、さっきまでの毒牙を抜かれてしまった。

乱馬「……そ、そうだったのかよ。で、何作れるようになったんだ?」

乱馬も少し赤くなった頬を、ポリポリと掻きながら尋ねた。

あかね「うん!最近はお皿を一枚も割らないように洗い物したり、砂糖と塩をあんまり間違えないようになったの!だから、ね?お鍋くらいなら私にも普通に作れるようになったかなって――」

乱馬「そうか、それは凄い進歩だぜあかね。じゃ、俺は修行の旅に出てくるから。かすみさんが帰るころには俺も帰る」

あかね「なんでそうなるのよ馬鹿乱馬ぁ!私の料理が食べたくないなら素直に言えばいいじゃない!」

43: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:22:11.28 ID:MKSeivLG0
どこからか用意した大きいリュックを背負った乱馬に、あかねがしゃもじを投げつける。それを華麗に躱し縁側に立つと

乱馬「いやー、ホントは食べたいんだけどさ。やっぱ無差別格闘流を継ぐ身としては一時もたゆまず鍛錬に精を出す方が良いと思ったんだ。止めてくれるな」

あかね「誰が止めるもんですか!乱馬の馬ぁ――!」

あかねが乱馬に追撃しようと迫りかけた時、乱馬の足元が急に盛り上がった。

あかね「ん?」

乱馬「へ?」

と、間抜けな声を発した直後、真下から凄まじい衝撃が乱馬を襲い、彼を庭まで吹っ飛ばしたのであった。乱馬が今まで立っていた場所からは土煙が上がり、そこからなんとも力強い声が聞こえてくる。

44: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:23:16.26 ID:MKSeivLG0
?「ごめんください!いやーお久し振りです!俺が旅をしている間に天道家に繋がる地下トンネルが掘られていたなんて驚きましたよ、ハッハッハッハ!」

あかね「りょ、良牙君じゃない!久し振りねー!また旅に出てたんだー!」

土煙が晴れると、大きなリュックと番傘を担ぎ頭にバンダナを巻いた少年、響良牙が満面の笑みで立っていたのであった。

縁側が破壊されたのを気にもせず、あかねが再会を喜ぶ。あかねを目にした良牙は一瞬で目を輝かせ、リュックから包みを取り出した。

良牙「そうなんですあかねさん。今回は日本最北端まで行って来てやりましたよ、そこの土産の八つ橋です。ぜひ食べてみてください!」

乱馬「へー、今回は京都に行ってたんだぁ、方向音痴のPちゃんは」

良牙の差し出した包みをいつの間にか復活した乱馬が受け取る。

45: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:24:18.32 ID:MKSeivLG0
良牙「なっ、乱馬ぁ!お前にやるために買ってきたのではない!返せっ!」

良牙の鋭い突きを巧みに躱す乱馬。

あかね「ちょっと乱馬!意地悪しないの!それに良牙君とPちゃんは関係ないでしょ」

乱馬「あ、そうだっけか?ちなみに良牙。お前が通ってきたのトンネルじゃなくて勝手にお前が作った穴だからあとでしっかり埋めとけよ」

良牙「そ、そうだったんですかあかねさん!俺はてっきりそういう道だったのかと、ならば今すぐ穴を埋めにかかりますので!あ!穴を埋めている間に夜になり、『ついでだから夕飯食べて、今日は泊まっていけば?』とかいった展開なんて全く期待してないですからっ!!」

良牙が溶けそうな程顔をにやつかせてあかねに話しかけたが返ってきた返事は

乱馬「おめえ、誰に向かって言ってんだ?」

乱馬のものであり、あかねはそこにいなかった。

46: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:25:41.33 ID:MKSeivLG0
良牙「貴様っ!あかねさんをどこに!」

あかね「良牙君、これ!穴埋めるんだったらスコップ必要かなって思って取りに行ってたの。はい、これ使って」

乱馬の返答に怒りかけた良牙であったが、笑顔のあかねにスコップを渡され

良牙「この響良牙!天道家の庭を復元させるために尽力します!」

あかね「そんな頑張んなくて適当でいいわよ、いつも乱馬やおじさまに八宝斎のおじいちゃんが暴れまくってるんだから。そうだ、終わったら良牙君も夕飯一緒にどう?今日はお姉ちゃんいないから私が作ることになるかもしれないんだけど……」

良牙「うおおおおお!!あかねさんの手料理が食べられると分かれば庭の修復なんて一瞬で終わらせてやる!喰らえぇ!爆砕つ、点穴っ!!」

あかねの言葉にテンションが振り切った良牙は、もう何が何だかわからず、得意の土木技、爆砕点穴で天道家の庭をほじくり返していった。

47: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:27:34.73 ID:MKSeivLG0
あかね「こりゃ片付くまで結構時間がかかりそうね、ハハハ……」

乱馬「あかねの飯食って何度も卒倒してるってのに、よくそんな張り切れるな良牙のやつ……」

あかね「なんか言った乱馬?!」

乱馬「いーや何も、じゃあ今度こそ俺は行くからな。あ、良牙に飯食わしてやってもいいけど、ちゃんと腹の薬用意してからにしろよ。じゃっ」

あかねの料理を食べる生贄が都合よく出来たと思った乱馬は、この機に乗じて庭の塀から天道家を出て行こうとしていた。

あかね「だからさっきからそういうことしか言えんのか!この馬鹿ら――」

塀から飛び降りて脱走しようとしている乱馬に、あかねがお玉を投げつけようとした時であった。

48: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:28:35.58 ID:MKSeivLG0
?「ニーハオ乱馬!元気してたあるか?!」

チャイナ服の似合う片言の少女が乱馬に抱き付き、そのまま庭に二人で落下していった。

乱馬「ぐええ!シャ、シャンプー!」

シャンプー「そう、乱馬の花嫁シャンプーね。私いなくて寂しくなかたか乱馬ぁ?」

シャンプーと呼ばれた少女は、猫撫で声で乱馬に抱き付き甘えている。

乱馬「何でもいいから早く離れろ!俺が下敷きになってんだろうが!」

落下した二人であったが、乱馬がクッションになりシャンプーは無事であった。

シャンプー「身を挺して私を守ってくれるなんてやっぱり乱馬は私のこと大好きあるな。大歓喜!」

乱馬「そんなつもりはねえっての!」

49: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:29:30.05 ID:MKSeivLG0
シャンプー「そんな悲しいこと言うと私水かぶってしまうかもしれないぞ!」

乱馬「わああ!そ、それだけは止めておけシャンプー!」

その後もすったもんだと離れろ、離れないなどと寝転び抱き合いながらのやり取りをしていると

あかね「乱馬ぁ……」

乱馬が声のする方見上げると、あかねが憤怒の表情で立っていた。

乱馬「……あ、あかね?ぜ、全部見てたろ?俺は別にそんなつもりもなくだな!」

シャンプー「あらあかねいたのか、全然気付かなかったね」

あかね「人んちの庭で何ベタベタイチャついてんのよ!さっさと修行でも地獄でも行って来ぉぉぉい!」

どこからか持ち出したハンマーであかねは乱馬、シャンプー二人を狙ってフルスイングをする。

50: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:31:33.12 ID:MKSeivLG0
シャンプー「何するあかね!」

乱馬の上にいたシャンプーはヒョイと避けハンマーを躱すが、彼女が乗っかっていた乱馬には逃げる余裕が無かった。

乱馬「なんで俺だけなん――!」

ハンマーで殴られた乱馬はそのままお空のお星さま軌道に乗ったのであったが、突如空中に現れた自転車に顔面をひかれ、天道家の庭に戻って来た。

乱馬「ぐえっ?!」

?「おい乱馬!おらのシャンプーを返してもらうぞ!」

自転車から華麗に飛び降りた長髪の男は決め顔でそう言った。

あかね「ムース、それは壁よ」

ムースと呼ばれた男はあかねの言葉を確かめるように目の前の壁を凝視し振り返った。

51: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:36:18.75 ID:MKSeivLG0
シャンプー「何しに来たかド近眼、そして私はお前のものではないね。乱馬ぁ!大丈夫か?」

ハンマー、自転車と二度のダメージを受け倒れた乱馬に、心配するシャンプーが駆け寄った。

乱馬「な、なんで俺だけこんな目に……」

ムース「何故じゃシャンプー!どうしておらはお前だけを見てるのに、お前はおらを見てくれないんじゃ?!」

もうシャンプーが離れないようにと喚きながらきつく抱きしめるムース。

あかね「それはあんたが今抱きしめてるのが私だからじゃない?そんなにシャンプーに見てほしいなら!正面からぶつかってこい!」

誤ってあかねを抱いていたド近眼なムースは、あかねに投げ飛ばされシャンプー目がけて投げ付けられる。

52: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:37:16.49 ID:MKSeivLG0
ムース「うおおお!!シャンプーーーー!!」

シャンプーに向かって一直線に飛行するムース。

シャンプー「さっきから危ないね、この暴力女!」

両手を広げて飛んだムースは冷静にシャンプーに躱され、後方で未だ天道家の庭を掘っていた良牙に激突した。

良牙「いってじゃねかこのド近眼!」

衝撃でようやく正気を取り戻した良牙に、ようやく眼鏡をかけたムースが答える。

ムース「どうしてお前に正面からぶつからんといけないのじゃ」

良牙「そんなこと俺が知るかぁ!」

53: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:38:12.85 ID:MKSeivLG0
乱馬「だああ!!もううるせえ!なんだってこんな一気に人んちに押しかけてくるんだお前らは!」

あかね「あんたの家でも無いでしょーが!」

シャンプー「そうね、あかねを亡き者にしたあとこの家は私と乱馬のものになるね」

あーでもないこーでもないとギャーギャー騒いでいると居間の方から、聞き慣れた関西弁が聞こえ、皆そちらに顔を向けた。

?「乱ちゃーん、あかねちゃーん、おらんのー?勝手に上がらせてもろてるでー!」

あかね「この声は……」

あかねが言い終わる間もなく縁側に顔を出したのは

乱馬「うっちゃんまで?!」

巨大なヘラを背中に差し、お祭り衣装風な少女、久遠寺右京であった。

54: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:42:06.90 ID:MKSeivLG0
右京「なんや、今日はたくさん人がおるんね。まあなんでもええか、晩御飯作りに来たで」

右京はにこっと笑うと、スーパーの買い物袋を顔の横で見せた。

乱馬「うっちゃーん、頼れるのはお前だけだぜぇ。こいつらホント酷くてさぁ……」

庭から縁側までひとっ飛びすると乱馬は右京に泣きついた。

右京「まあまあ乱ちゃん。私の美味しいご飯でも食べて元気出し。許嫁として当然の務めを果たしたるからな」

乱馬「ありがとうっちゃん!すんごい腹減ってるし、あかねが飯作るって言うからもう俺どうなるかヒヤヒヤだったぜ……」

右京「よしよし、私が来たからには大丈夫や」

55: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:47:26.28 ID:MKSeivLG0
乱馬の頭を撫でる右京に

シャンプー「右京!いきなり現れて何を言うか!それに乱馬!そんなに腹空いてるというなら私がスペシャル中華フルコース女傑族風作ってあげるね!」

あかね「ちょっと乱馬!それどういう意味よ!それと右京も!今日の夕飯は私が作るんだから!」

二人の少女が食いついた。またまたあーでもないこーでもないと三人の女子の喧嘩が始まる。とそこにムースが乱入した。

ムース「あい分かった!それならば良い解決策がある、それはな!今からおぬしら三人娘がそれぞれ料理を作り、対決をするのじゃ!」

そう高らかに声を上げたムースは近くにいた良牙を反転させ、素早く耳打ちをした。

56: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:55:54.70 ID:MKSeivLG0
ムース「審査員としておらはシャンプーの、お前は天道あかねの手料理を食えるチャンスじゃ。この話乗っておけ、良牙」

良牙「ムース。お前ってやつは……天才じゃねえか!」

一瞬で作戦会議を終え、裏でがっつり握手を交わすと良牙は

良牙「そうだな、この際争いの原因なんてどうだって良い。ただ今は誰の料理が一番うまいか、そいつが今日の勝者ってことでいいんじゃないか?」

と向き直って言った。そこに右京がしたり顔で真っ先に声を上げた。

右京「あんたらのそのやっすい企み、乗ってあげてもええで。どうせ勝つのは私やからな!」

シャンプー「中国四千年の歴史、甘く見るでないね!」

あかね「もう砂糖と塩は間違えないんだから!」

乱馬「あかね、お前は棄権したほうがいいんじゃないか」

57: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:58:50.21 ID:MKSeivLG0
あかね「乱馬は黙っ――」

あかねが乱馬に一喝しようとした時、またも乱馬に不幸が、白馬の蹄が降りかかったのであった。

?「天道あかね!お前の料理、僕が吟味してやろう!」

乱馬「ぶへぇっ?!」

皆が視線を向けた先には、腰に木刀をぶら下げ白馬に乗った青年が、優雅に扇子を広げていたのであった。

あかね「九能先輩っ?!」

右京「今日はホンマにオールスターかってくらい人が集まるなぁ」

右京が半ば呆れたようにぼやく。

58: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 22:59:55.01 ID:MKSeivLG0
九能「天道なびきから話を聞きつけて会いに来てやったぞ天道あかね。そして時に早乙女乱馬よ。僕の愛馬の足の下で何を寝ているんだ」

乱馬「これが寝てるように見えるのかこのスットコドッコイ!」

踏まれ続けていた乱馬は颯爽と起き上がり、九能を愛馬もろとも蹴り飛ばした。

ムース「綺麗に飛ぶもんじゃのー。それにしても乱馬よ、馬まで蹴り飛ばすとはなんとも鬼畜!」

乱馬「うるせえ!それより九能先輩が『天道なびきから話を聞きつけて』って言ってたな。なんのことだ?」

あかね「私も気になったから聞こうと思ったのに、乱馬が蹴り飛ばしちゃうんだもの」

乱馬「それなら大丈夫だ。もうすぐ落ちてくる頃だぜ」

59: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 23:03:54.57 ID:MKSeivLG0
乱馬がそう言うやいなや、九能が庭に頭から落下し周囲に重い音が響く。

九能「何をする、痛いではないか」

乱馬「人の顔、馬で踏んづけといてよく言うぜ。それより九能先輩、なびきから何を聞いたんだ?」

九能「早乙女乱馬、お前には教えたくない」

乱馬「何拗ねてやがる!」

頭の先が地面に突き刺さっている九能が、プイとそっぽを向く。

60: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 23:05:00.22 ID:MKSeivLG0
あかね「お願い九能先輩、教えて?買い物から帰ってきたら誰もいなくて困ってたところなの」

九能「教えてやろう天道あかね。僕が優雅に街で乗馬を楽しんでいたところでな、大荷物を抱えた天道家の面々に会ったつい先ほどのことだ」

ムース「いっそすがすがしいくらいに態度を変える奴じゃな……」

良牙「それにしても街で乗馬とは、なんとはた迷惑な……」

とここで九能はようやく頭を地面から抜き、ずうずうしくも天道家の居間に座り込んだのであった。

61: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 23:06:17.46 ID:MKSeivLG0
九能「天道なびきが近付いてきて、今宵天道あかねと早乙女乱馬が二人きりで夜を過ごすかもしれぬという情報を僕に勝手に吹き込み、情報料一万円を請求し無理矢理奪い去り、駅の方へ小躍りしながら向かって行ったというわけだ」

乱馬「つまり先輩はなびきにカツアゲされたと……」

あかね「そうじゃないでしょ!まったく、みんなしてそんな荷物持ってどこに行ったのかしら?」

あかねが首をひねる。そこへ右京が

右京「え?!乱ちゃん達何も聞いてへんの?」

驚いた声を上げる。

乱馬「どういうことだようっちゃん」

62: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 23:12:08.92 ID:MKSeivLG0
右京「私は乱ちゃんのオッチャンからプラカードで教えてもらったんだけど、『温泉に行ってくる。馬鹿息子が腹を減らしているかもしれないからよろしく頼む』って書かれたん見せられたで」

乱あ「お、温泉?!」

シャンプー「ホントに何も聞いてないあるか?私も駅の方走り去るハッピーから聞いたし誘われたね。でもその中に乱馬いなかったからもしやと思いこっち来てみたね。そしたら会えた、温泉行かないで良かったね」

驚愕し困惑する二人をよそにシャンプーは実に嬉しそうである。

あかね「温泉ってどういうことよ?!私達なんにも聞いてないじゃない!たまに私達二人だけのけ者にすることあるけど、今回のはちょっとひどいわよ!」

乱馬「おめえら二人は何か聞かなかったか?!行先とか、何かヒントになることとか!」

乱馬が良牙とムースに尋ねる。

63: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 23:13:23.93 ID:MKSeivLG0
良牙「い、いや、俺は何も。旅の途中で寄っただけなんで……」

ムース「お、おらはシャンプーを追ってきただけで何も知らん……」

良ム「なんかすまん……」

二人は申し訳なさそうに、乱馬達と視線を合わせずに謝った。とそこで乱馬が頭を掻きむしり低い声で唸り始めたのを見て、皆怒り出すと構えていたが

乱馬「だああああああ畜生!!もうこうなったらヤケでい!今日はパーッと食いまくるぞ!」

執念深くしつこい乱馬には珍しい意見が口から出てきた。それを聞いてあかねも一息着くと

あかね「ま、それもそうね。いい加減私もお腹空いてきちゃったし、これからみんなを追っても行けないし。よし!右京!シャンプー!みんなでいーっぱい料理作りましょ!」

笑顔でその話に乗ったのだった。

64: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 23:20:07.51 ID:MKSeivLG0
右京「お、ええな!ウチも今日は腕振ろうたるから、若いモンだけで楽しもか!」

シャンプー「乱馬がそう言うなら私美味しい料理たくさん作るね!」

良牙「おお!一時はどうなるかと思ったが、災い転じて福と為すとは正にこのこと!」

ムース「おなご達の仲も良くなったようで、正に雨降って地固まるじゃな!」

九能「フフフフ、やはり青春とは良いものだ……」

大団円。このまま皆で楽しい夜を過ごしたのであった。というわけにはもちろんいかなかった。誰も気付くことなくテーブルの上に放置されていた転生鏡が突如、激しく輝き出したのだった。

65: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 23:21:11.37 ID:MKSeivLG0
良牙「な、なんだこの光は?!」

ムース「くっ?!眩しくて何も見えん!」

シャンプー「何も見えないのはいつものことある!あかね、あの手鏡お前のあるか?!」

あかね「わ、私は知らないわよ!」

皆が混乱する最中、鏡はどんどんその光の強さを増していった。

66: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/21(火) 23:22:17.72 ID:MKSeivLG0
右京「も、もう眩しすぎて目ぇ空けられへん!」

九能「もしや妖の類か!それならばこの九能帯刀が成敗してくれよう!」

乱馬「たまには良いこと言うじゃねえか!賛成だ九能先輩!おっらああああ!!」

光の中心に乱馬が飛び込んだ直後、七人の体は鏡の方へ吸い寄せられたのであった。

そして光が止んだ。天道家の居間には人っ子一人、生きる者の影は無かった。

74: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:35:42.79 ID:qBjfuwT70
???

乱馬「いってててて……みんなぁ!無事かぁ!」

光に吸い寄せられた直後、視界は一瞬ブラックアウトし、何故だか体が宙に放り出され、その後地面に叩き付けられたのであった。

あかね「ってててて。もう、一体なんなのよぉ」

頭をぶつけたあかねが痛そうにおでこをさする。

良牙「い、一体ここは、どこなんだぁぁぁぁ!!!」

誰よりもタフな良牙は、皆よりも早く周囲の状況を把握し、何よりも言い慣れているセリフを叫んだ。

75: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:37:30.67 ID:qBjfuwT70
右京「うるさいなぁあんた。ここがなんや言うのよ?」

ようやく光にやられた目が回復してきた面々は、周囲を見渡して驚いた。

シャンプー「ま、真っ暗……?」

ムース「このいくつもの窓はなんじゃ?!」

九能「確かにこれは窓だが、ただ窓はこのように浮かびながら移動したりはせん。ここは一体……?!」

そこは上下左右一面闇の中であった。そしてその闇に浮かび上がるように数々の窓枠が、思い思いに動き、時に反転し、隣り合わせの窓枠ではあり得ない程の景色を覗かせるのであった。

76: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:39:30.17 ID:qBjfuwT70
あかね「こっちは雪景色なのにこっちは砂漠……ねえ!これ何なの?!」

あかねは不安げな素振りを隠さずに、傍にいた乱馬の腕に組みついた。

乱馬「心配するなあかね、まずは落ち着くんだ」

シャンプー「あかねだけずるいね!私だって怖いある乱馬!」

右京「ちゃっかりそんなくっつきよるなんてあかねちゃんもやるな、それなら私もや乱ちゃん!」

二人も負けじと乱馬の腕にすがりつく。

乱馬「でえええい!今はそんなことやってる場合じゃないだろ!」

77: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:40:47.27 ID:qBjfuwT70
良牙(あかねさんが怖がっている!男響良牙!ここでなんとかしなくては!)

ムース(状況はなんだかよく分からぬがシャンプーに良いところを見せるチャンスじゃ!)

良ム(いや、でも待てよ……)

良牙(いっそここでうまいことあかねさん以外を亡き者にして、ここであかねさんと甘い新婚生活を送るというのはどうだろうか。くっくっくっく……)

良牙『ほら見てごらんあっちの窓。夜空が綺麗だよ。あれはペテルギウなんちゃら座っていうのさ』

あかね『へぇー、良牙君て物知りなのね。あの夜空に負けないくらい素敵っ!』

良牙『フッ、この俺が素敵なのは揺るがない事実だが、そんなことより俺の一等星は君だけなのさ!』

あかね『何言ってるか意味分かんないけど好きよ!』

良牙『俺もだ!』

良牙(……よし!これで行こう!)

78: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:43:05.17 ID:qBjfuwT70
ムース(いっそここでうまいことシャンプー以外を亡き者にして、ここでシャンプーと甘い新婚生活を送るというのはどうだろうか。くっくっくっく……)

シャンプー『一体いつになったら助けが来るあるかな……』

ムース『心配するでないシャンプー。何かあればおらがお前を助けるし、いつか必ずここからお前を連れ出してやる』

シャンプー『ムース……ここに来るまで知らなかたある。お前が、いやあなたが。こんなにも男らしく頼もしかったなんて!』

ムース『フ、ほめ過ぎじゃシャンプー。ただ能ある鷹は鷹爪拳と言うじゃろ。つまりはそういうことじゃ』

シャンプー『そんな言葉聞いたことないけどなんか好き!ずっと一緒にいたいある!』

ムース『おらもじゃああ!シャンプーーーー!!』

ムース(……よし!これで行こう!)

79: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:44:36.72 ID:qBjfuwT70
良ム(差し当たっては乱馬が厄介なのだが、まずは乱馬を葬り去るまではこいつと手を組んでおくか!なんなら邪魔しなければ生かしといてやってもいいわ!)

良ム「くっくっくっく……」

九能「この異様な空間、やはり妖で間違いないようだな。出てこい!この風林館高校の蒼い雷!九能帯刀が成敗してくれよう!」

この異常な空間においても、常にマイペースな一同であった。

?「ふざけた奴等だとは思ったが、一人なかなか出来る奴がいるらしいな。蒼い雷とやら。」

そこに聞き慣れない、妙に甲高い男の声が響き渡った。

乱馬「誰だっ?!姿を現しやがれ!」

80: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:46:04.37 ID:qBjfuwT70
右京「……やだ、なんか今の声気持ち悪なかった?」

ムース「確かに、あまり生理的に受け付けんタイプの声であったな」

乱馬「あ、やっぱり?俺もぞっとして真っ先に声上げちゃったぜ、ハッハッハッハ!」

一同「ハッハッハッハ!」

楽しく笑い合う中で、再度声が響く。

?「馬鹿にしているのか貴様ら!そもそもお前らこの状況どういうことか分かってんの?!常識じゃ考えられない景色が目の前に広がってるんだよ?アンビリバボーだよ、これで驚かないお前らはダンカンより馬鹿野郎だよ!」

81: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:48:12.20 ID:qBjfuwT70
良牙「とにかく姿を現して俺たちをこんなところに連れてきた目的でも話したらどうだ?このままじゃお互い埒が明かんだろう!」

シャンプー「そうね、早く出てくるよろし!」

?「そこまで言うならこの異空間の主、魔鏡の間の王、火神凶也の姿を見せてやろう!」

乱馬達の周囲に、どこからか煙が立ち現われ、彼らに体感したことのないようなプレッシャーを感じさせた。

――ドドドドドド

九能「いや待て、そこまでもったいぶられる程には見たくないぞ僕は」

火神「えええ?!このタイミングで止めんの?!ウソだろおい!わざわざ煙出したり『ドドドドドド』とか効果音まで流してんだよこっちは!それにだって君、自分のこと蒼い雷とか言ったり一番こっちぽかったじゃん、ここで裏切るのかよぉ……」

82: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:50:47.04 ID:qBjfuwT70
乱馬「いやー、珍しく今日は意見が合うな九能先輩!俺もそこまでやられて見たいかって言われたら絶対見たくねえもん、ハッハッハッハ!」

一同「ハッハッハッハ!」

笑い声が響く中で、先程とは違い余裕の感じられなくなった声が響いてくる。

火神「もう完璧怒ったわ、俺を怒らせちまったわ。お前らの態度によっては軽い感じで済まそうと思ったけど、こりゃかなりエグイとこ飛んでもらいますわ。まあええ、今からそっち行くさかい、待っときぃ!」

右京「なんか変な訛りやな」

すると上空から、辺りの闇よりも更に一段暗い闇と黒いマントを纏った、それなのに顔だけが奇妙なほど白い人物がふわりと降りてきた。

83: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:53:12.69 ID:qBjfuwT70
ムース「お、お前はっ!……ック」

あかね「な、なんて姿なの……?!ップ」

その姿に思わずムースとあかねは絶句し口に手を当てる。

火神「ようやく我の身に纏う闇を目の当たりにし恐れおののいたか。くっくっくっく、それで良いのだ人間共」

余裕を取り戻し、満足気に頷く火神。

右京「……オシロイ塗ってんのこいつ?」

乱馬「プスッ!」

右京の呟きにとうとう乱馬が噴き出す。乱馬が噴き出したことにより、皆ザワザワクスクスとざわめき出す。ただその中でも良牙だけは何故か難しい顔をしていた。

84: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:55:52.29 ID:qBjfuwT70
火神「な、なんだよ!び、ビビッてンのか?!ああ?!」

取り戻した余裕を、一瞬で無くす火神。

良牙「そうか!閣下だ!閣下を小さく太らせてタコ殴りにしたような顔だ!」

手の平をポンと叩き、ようやく取れた胸のモヤモヤに喜ぶ良牙であった。

一同「ハッハッハッハ!」

火神「閣下ではない!これはそういう魔を現すメイクなの!笑うなぁぁっ!!このいじめっ子どもが!!」

ムース「笑うなと言われてものう……」

85: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:57:53.30 ID:qBjfuwT70
右京「そもそも声とセリフが合ってなくておかしいねん」

シャンプー「体型と服装も合ってないね」

あかね「顔と声も合ってないかも」

火神「……っ。もういいもん……」

火神は長すぎて床に垂れているマントを翻し、しゃがみ込み地面を指でグリグリしている。

乱馬「あー、ちょっと言い過ぎたかもな。ま、閣下!元気出せよな!」

乱馬が鏡を励まそうと肩に手をかけるが

火神「だから閣下ではない!」

その手を勢いよく払いのけると飛び上がり叫んだ。

86: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 20:59:31.11 ID:qBjfuwT70
火神「本当は何故ここにお前らが呼ばれたのかとか、色々物語上話さなきゃいけないことあったけどもういいわ!これ以上いじられたくないのでな!早いとこお前らなど、数ある世界の中でもトップクラスに荒廃した異世界に送ってやるわ!」

あかね「ど、どういうこと?!」

火神「フ、泣いて謝ってももう遅いもんね!もうそこすっごい酷いから、人も街もなんかやべえことになってるから!我だったら絶対行きたくないって感じー!」

良牙「俺も言い過ぎたとは思ったが、やはりこいつは腹が立つな」

良牙が拳をわなわなと震わせる。

87: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:01:33.81 ID:qBjfuwT70
九能「異世界に送ってやるというと、もしやこの窓がその異界とやらに通じているとでも言うのか?!」

火神「ほう、流石は蒼い雷。その通り!我は様々な異世界へ移動し、また移動させる能力を持った魔の者よ!」

九能「気安く僕の名を呼ぶな」

火神「ああもうホント嫌こいつら!顔も見たくない!もうさっさと行ってしまえぇ!お前ら人間共が支配されている、あの世界へぇ!」

火神がそう叫ぶと、乱馬達の下へ一枚の窓枠が近付き、光を放ち始める。

88: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:03:11.20 ID:qBjfuwT70
乱馬「わっ、わああああ!!まぁ待て!何するつもりか分からねえがちょっと話を――!」

この空間に連れてこられた時よりも早く光は強まり、火神は乱馬が最後まで言い切る前に彼らを異世界へと送り出した。

火神「あぁーせいせいした。もう今日はジャンプ読んで寝よ。あとサンデー編集部に苦情の電話入れてやる」

涙目の火神は、そう言うとケツをバリボリ掻きながら自室へ向かうのであった。

89: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:05:49.81 ID:qBjfuwT70
かぶき町、万屋。

乱馬「どっ、わああああっと!!!」

またも宙に体を投げ出された一同。その中でも乱馬は綺麗に着地を決めたが、上から降って来る仲間達に潰され結局痛い目を見たのであった。

あかね「いっててて、こ、ここは?」

良牙「天道家の居間ではないですね、どうやらどこか民家の一室のようだが」パリン

シャンプー「とにかくさっきの辛気臭いところから出られて良かったね」

ムース「おらはシャンプーのいるところならどこでも構わんがな!」

90: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:08:19.62 ID:qBjfuwT70
右京「出られたのは良かったけど、あの白豚の言ってたことが気になるな」

九能「ああ、元の世界に帰ってきたのではなく、本当に奴の言う通り異世界に飛ばされた可能性がある。まあ、集団で夢を見ていただけという線も考えられるが」

あかね「夢を見ていただけなら、ここがうちの居間じゃないとおかしいんじゃ……」

乱馬「いいから俺の上からさっさとどきやがれぇぇっ!!!」

乱馬の怒鳴り声に、一同はヒョイとその体を彼の上からどかせた。そんな彼らに控えめに声が掛けられる。

91: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:10:12.14 ID:qBjfuwT70
銀時「あ、あのー、おたくらさ、人んちにどうやって入ってきたのかね?もしやウチに閃光弾投げ込んでその隙に入ってきたとか?だったらさ、今の激しい光はその鏡に纏わるオカルト的なエトセトラじゃなくて、ああ、テロリストの仕業かなぁ、っておじさん超安心するんだけど」

机の陰に隠れていた銀時が、申し訳なさそうに出てくる。

新八「鏡の妖怪も嫌ですけどいきなり閃光弾投げて侵入してくるテロリストに安心しないでください!」

神楽「もしかしてテロリストじゃなくて警察かもなー。最近のポリ公は平気でバズーカ撃ってきたりするし、この事務所、叩けばいくらでも埃は出るからなー」

銀時に続いて新八、神楽も顔を出す。

92: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:12:33.04 ID:qBjfuwT70
新八「埃って掃除してないって意味で良いんだよね?世間様に顔見せ出来ない方の埃じゃないよね、一応確認したいんだけど」

銀時「……と、時に新八君、いつも通りに暢気に突っ込んでる場合じゃねえぞ。こ、こいつらの格好見てみろ!」

神楽「あー、私や兄貴となんか似てるネ。あのごっつい傘とかも!」

神楽が無邪気に良牙の番傘や、乱馬達のチャイナ服を指差す。

新八「も、もしかして!や、夜兎?!テロリストの中でもこの宇宙で一番凶悪なの来ちゃったの?!」

新八が頭を押さえる。

93: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:14:50.81 ID:qBjfuwT70
銀時「おい神楽、この兄さん達は親戚かなんかか?ダメだろぉ、親族会議する時はちゃんと家主の銀さんにお伺い立てなきゃ。それにしても頭の眩しいお前の親父さんは来てないけど、もしやさっきのハゲしい光は親父さんだったりするのかな?」

銀時の明らかな動揺を気にもせず神楽は

神楽「そんな予定全くないアル。あの宇宙パイレーツ共がカチコミにでも来たんじゃないアルか?なんだかんだで結構あいつらの邪魔してるからな私達」

と冷静に返した。

新八「ちょ、ちょっとおおおお!夜兎一人でも厄介だってのにこんな人数で来られたらもう終わりですよ!は、早いとこ逃げましょう銀さん!神楽ちゃん!」

言うやいなや窓から飛び降りようとする新八と銀時。

94: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:18:22.26 ID:qBjfuwT70
良牙「ま、待ってくれ!何か誤解をしているぞ、俺達はテロリストでも警察でも宇宙パイレーツでもない!話を聞いてくれ!」

窓から飛び降りようとする二人を良牙が止める。

乱馬「お、おい……こいつらが何言ってるか分からねえが、これ本当に違う世界に来ちまったってのかよ……」

あかね「ほ、ほら!この人たちの格好!あの日光の方にある江戸村みたいなとこの従業員さんかもしれないじゃない!」

銀時「ここは江戸のかぶき町だ、江戸村なんてとこじゃねえぞ」

乱馬「かぶき町?」

あかねの言葉に窓枠に足をかけていた銀時が返す。

95: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:21:03.48 ID:qBjfuwT70
右京「そもそもさっきまであかねちゃんの家にいたのに、そんな知らんとこにうちらがいるわけないやろ」

ムース「これはどうやら落ち着いて話を聞いてもらった方が良いのではなかろうか」

ムースが珍しく真面目な顔で、眼鏡を外しながら言った。

シャンプー「その意見には賛成だがムース、眼鏡かけるね」

新八「ぎ、銀さん、もしかしてこの人達、鏡の……」

銀時「そ、そんなわけあるめえよぱっつぁん。まさか異世界からこんにちはとでも言うのかよ……」

事務所内に探り合う空気が流れる。

96: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:24:44.31 ID:qBjfuwT70
あかね「……実は私達『かくかくしかじか』な事情でどうやら異世界に来てしまったみたいなの」

新八「ええっ?!そ、そんな『かくかくしかじか』があったんですか?!銀さん!やっぱりあの鏡は本物だったんですよ!」

互いにこれまでの経緯を説明し合った一同。

神楽「いやー、そっちの人達とクロスとなると『かくかくしかじか』で説明省けるから助かるアル」

新八「神楽ちゃん、そういうのさらっと言うの止めようね」

銀時「とにかくだ。鏡が本物だったってことならさっさとその不細工な鏡の妖精とやらを引きずり出そうぜ。俺達はそれで依頼達成、お前らは元の世界に帰れる。どっちもハッピーでこの話終了じゃねえか。長編エピソードに流れ込まないで済むわ」

97: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:26:58.50 ID:qBjfuwT70
乱馬「そうだ!鏡っ!」

良牙「閣下の野郎引きずり出してやる!」

皆で一斉に鏡を探し出す。

右京「うわっ、最悪や……」

床に放り棄てられた転生鏡を見つけ、手にした右京が皆に見せる。

ムース「わ、割れておる……」

シャンプー「これ、本当に帰れるのか?」

鏡の部分は割れ、破片が無残に床に散らばっていた。

98: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:28:59.34 ID:qBjfuwT70
新八「えええええええっ?!割っちゃったんですか?!どうしてくれるんですか?!せっかく成功報酬貰えると思ったのに!!てかこれじゃ成功報酬どころか前金没収、それで済めばいいけど損害賠償なんて話になったら万屋無くなっちゃいますよぉ!」

新八が半狂乱で割れた破片を元に戻そうとパズルに奮闘する。

良牙「待て待て!俺たちが割ったとはまだ決まってないだろ!」

神楽「確かにな。でも私聞いたネ、お前らの登場シーンで『パリン』って音」

九能「それは本当か。時に話は変わるが少女よ。君の親戚におさげ髪のチャイナ服の健康美溢れる少女はいないかね?」

神楽「銀ちゃん、こいつごっつきもいアル。なんていうか新八とは違う、マジモンのやばさを感じるネ」

99: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:31:30.97 ID:qBjfuwT70
銀時「こいつの格好見てみろ、お侍さんだろ?本物の侍ってのはどこか狂気を身に纏ってるもんなんだよ。どこぞの腑抜けたアイドルオタ眼鏡侍と違うのは当たり前だろうが」

神楽「おお納得、銀ちゃんの天パもどこか狂気じみた音楽家を彷彿させるもんな!」

銀時「お前あとで校舎裏でシメるからな。まあそれは置いといて早速こいつらの登場シーンを見てみよう!VTR!スタート!」

右京「そんな便利な機能あるんや!」

100: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:33:53.56 ID:qBjfuwT70
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

乱馬『どっ、わああああっと!!!』

あかね『いっててて、こ、ここは??』

良牙『天道家の居間ではないですね、どうやらどこか民家の一室のようだが』パリン

シャンプー『とにかくさっきの辛気臭いところから出られて良かったね』

ムース『おらはシャンプーのいるところならどこでも構わんがな!』

右京『出られたのは良かったけど、あの白豚の言ってたことが気になるな』

九能『ああ、元の世界に帰ってきたのではなく本当に奴の言う通り異世界に飛ばされた可能性がある。まあ、集団で夢を見ていただけという線も考えられるが』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

101: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:37:03.85 ID:qBjfuwT70
一同「……」

皆の冷え切った視線が良牙に向けられる。

良牙「ち、違う!俺じゃない!確かに俺のセリフの後に割れた音がしているが、行動の描写が無いじゃないか!俺がやった証拠にはならないだろう?!」

銀時「見苦しいぜ兄ちゃん、いい加減罪認めちゃいなよ。こっちもさ、警察突き出そうとかってわけじゃないから。払うモン払ってくれりゃそれでいいんだから」

新八「警察に突き出された方がマシなような気が……」

神楽「だいたい何アルかそのバンダナ、時代錯誤も甚だしいネ。そんなの今時トッシーくらいしかしてないネ」

良牙「バンダナは関係ないだろう!」

102: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:39:34.71 ID:qBjfuwT70
あかね「良牙君」

良牙「あ、あかねさん……」

あかねの悲しげな視線に思わず良牙の胸は痛くなった。

あかね「私たちも一緒に謝ってあげるから。ね?」

良牙「あかねさん!あなたって人は……」

この中で唯一味方をしてくれるあかねがいつも以上に天使に見えた良牙であった。

あかね「それでしっかり罪を償って、ちゃんとこの人たちにお金を返すのよ?」

良牙「……あ、はい。やっぱ払わなきゃいけないですよね」

103: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:42:40.51 ID:qBjfuwT70
ムース「とにかく割れたとはいえ、使えなくなったと決めつけるのは早計ではないか。この眼鏡の小僧が鏡を復元させようとしておる。なんとかなるやもしれん」

乱馬「それに賭けるしかねえか、ここで良牙をとっちめても何も変わりやしねえしな。おい閣下!聞こえるか!返事しろぉ!」

乱馬は仕方なさそうに頭を掻き、新八が必死に復元しようとしている鏡パズルを覗き込んだ。

銀時「おいおい、お前らはそれでいいかもしれないが、こちとら客の大事なモンぶっ壊されてんだ。そんなんで――」

銀時の言葉は突如鏡から放たれた光に遮られた。だがその光は先程に比べると限りなく弱いものであった。

104: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:46:39.44 ID:qBjfuwT70
良牙「これはいけるんじゃないか?!」

シャンプー「元の世界に帰れるあるか?!」

あかね「火神さんお願い!酷いこと言ったのは謝るから元の世界に私たちを帰して!」

すると鏡の破片から微かに声が聞こえてくる。

?「ちげーよ!ダチだよ!彼女じゃねえし!てか部屋勝手に入ってくんなっていつも言ってんじゃん!」

?「いやー、お母ちゃん嬉しいわ、マー君にお電話かかって来るなんて一万年と二千年振りくらいだもんねぇ!お母ちゃん八千年過ぎた頃から友達いないんじゃないかと思っちゃてて。し・か・も、女の子の声したじゃない!」

105: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:51:24.66 ID:qBjfuwT70
マー君「『しかも』の間の『・』やめろババア!いいから早く出てけよ!あとマー君て呼ぶな!」

お母ちゃん「はいはい、なんだっけ?水鏡凍季也さんだっけ?じゃあもう行くから、あと下にチャーハンあるから好きな時に食べるんだよ」

マー君「火神凶也だよ!」

鏡から聞こえてくる一連のやり取りを呆れた表情で聞く一同。

新八「……何これ、こんなんが鏡の妖精なんすか?」

右京「ああ、確かにこの生理的に受け付けん声はあいつやなぁ……」

106: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:56:54.13 ID:qBjfuwT70
銀時「洞爺湖の仙人といい、こういう奴等しかいないのかこの手の話は」

とここで鏡から咳払いが聞こえ、先程よりトーンを落とした声が聞こえてきた。

火神「クックックック、苦しんでいるようだな貴様ら。我に歯向かった報いを受けるがいいのだ、ハッハッハッハッハッハ!」

あかね「そんなことよりマー君さん、鏡が割れちゃったの!これでもちゃんと元の世界に帰れるの?!」

火神「マー君て呼ぶなぁっ!!てか会話聞こえてたのかよぉ、もういいよぉ。マジ萎えるわぁ……ってえ?鏡、割っちゃったの?」

乱馬「ああ、割れちまったんだ。で、どうなんだ?俺達は帰れるのかよ?」

107: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 21:59:27.71 ID:qBjfuwT70
火神「道理で反応が弱すぎると思ったわけだ。はっきり言おう。その割れた鏡ではどうにも出来んな。残念でしたー、我を愚弄した罪だと思って生涯その世界で生き続けるといい!」

乱馬「……この鏡、粉々にしていい?」

乱馬が拳をワナワナさせながら皆に尋ねる。皆、気持ちは分かるがといった顔で首を横に振った。

あかね「本当にごめんなさい!でも私達どうしても元の世界に帰りたいの!方法は本当に無いの?!」

火神「え?!い、いいや、な、無いってわけでもないんすけどぉ……」

あかねの真摯な言葉に先程までとは打って変わったテンションになる火神。そこで銀時はあることに感付き、シャンプー、右京、あかねに走り書いたメモを見せる。

そこには『こいつは女に免疫がない。色仕掛けで説得しろ』と書かれていた。

108: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:01:09.78 ID:qBjfuwT70
右京「ああ、私はなんて事を言うてしまったんや。聞けば聞くほど魅力的な素晴らしい声や、聞くだけで良い意味でゾクゾクするわぁ」

シャンプー「私もね。さっきは暗くてよく見えなかったけど、思い返せば思い返すほど、あなたの姿がかっこ良く私の脳裏に蘇るね。ああ、早く会いたいある」

ムース「シャ、シャンプー!なななんてことを言うんじゃああああがふっ!!!」

暴走し始めたムースを男子全員で鎮圧する。

あかね「そ、そうよ!私もぜひ自慢の手料理を火神さんに食べさせてあげたいなぁなんて」

乱馬「それはよした方が良いんじゃ――」

あかね「なんか言った?!」

乱馬「言ってません」

109: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:02:13.42 ID:qBjfuwT70
火神「そ、そうか。そこまで言うのならば仕方ない。実はな、その世界にはまだ転生鏡がある。元来、転生鏡は世界に一つなのだがその世界はまだ我が魔族になる前に生きていた世界でな。我の子孫にスペアとして幾つかの転生鏡を残してあるのじゃ。それを見つけよ!その暁には、そなた達は我の花嫁となることができるだろう!」

最後の部分は聞かなかったことにして、その言葉に皆が喜ぶ。

新八「やりましたね銀さん!これで賠償金払わずに済みそうですよ!」

銀時「ああ、ついでにスタンドの発動条件も聞けば依頼完了!一気に億万長者だぜぇ!」

ハイタッチに小躍りで喜ぶ二人。

良牙「お前の子孫とやらは一体どこにいるんだ?!やっぱりあの閣下なのか?!」

火神「だから閣下じゃねえよ!まあある意味閣下なんだけどさ。我はそこから遠い異星の王族じゃった。今も我の血が続いていれば、異星の王として君臨していよう」

110: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:03:31.55 ID:qBjfuwT70
右京「ホントに閣下やったんや」

九能「それはどこにあるのだ?!サイド7か?!」

火神「どこだよそれ知らねえよ、無駄に良い声だし。まあ今その星があるかは分からんが転生鏡の反応はあるからの。とにかく鏡を探せ!探すのじゃ!」

銀時「おい水鏡マー君閣下!ちなみにお前のスタンドの発動条件はなんだ?!ついでに聞かせてくれ!」

鏡「おいお前全部名前間違えちゃてるよ。まあよい。聞きたいか?!我が力の発動条件を!クックックック」

一同が固唾を飲んで見守る。

111: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:04:26.73 ID:qBjfuwT70
火神「それはなぁ!じ――」

定春「クチュン!」

定春のくしゃみの勢いと何やらで、今度こそ鏡は粉々に宙を舞ったのであった。

一同「あ……」

112: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:15:57.49 ID:qBjfuwT70
――なんやかんやあった後

銀時「まあなんやかんやあったが、俺たちの目的と利害は一致しているわけだ。俺達は依頼達成のため、お前たちは元の世界に帰るため。ここは協力してあの鏡を探そうじゃねえか」

良牙「そうは言ったってあんた。宇宙まで含めてどこにあるか分からん鏡を探すなんて無茶苦茶じゃないか?」

神楽「それは心配いらないネ。漫画特有のご都合主義でなんやかんやあってきっと見つかるはずネ」

あかね「そういうものなのかしら」

乱馬「ま、この世界のことなんて全く俺らには分からねえんだ。手組んでくれるってんなら喜んで誘いに乗ろうじゃねえか」

乱馬の言葉に一同が頷く。

113: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:35:46.76 ID:qBjfuwT70
新八「それならまず自己紹介でもしませんか?いつまでも互いの名前も知らないままじゃ色々やりにくいですし!」

九能「それもそうだな。少年、名はなんという?」

九能が新八に名前を尋ねる。

新八「僕ですか?僕は志村新八っ――」

九能「聞いておいてなんだが人に名を問う時は自分から名乗るのが礼儀だな!よし僕から名乗ろう!」

新八「は、はあぁ……」

九能「僕の名前は九能帯刀。人呼んで風林館高校の蒼い雷、青春真っ盛りの17歳だ」

どこからか取り出したマサカリを掲げ九能の自己紹介が終わった。

114: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:39:18.43 ID:qBjfuwT70
新八「なんかこのタイプの話を聞かない人、銀さんの周りによくいますよね」

銀時「ああ、これは紛れもねえ。ヅラ系馬鹿男子だ、ほっとくぞ」

小声でささやき合う二人とは対照的に神楽が楽しそうな声をあげた。

神楽「おお!自己紹介とかなんか合コンみたいで楽しくなってきたアル!飲みモン持ってくるネ!気の利く女をアピールしてライバルに差をつけるネ!」

すぐに神楽が台所へ走り出す。

右京「なんや元気な子やなぁ、微笑ましいわ。あ、私は久遠寺右京。得意料理はお好み焼き、そこの乱ちゃんの許嫁や」

流れで右京も軽く自己紹介を済ます。

115: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:41:39.64 ID:qBjfuwT70
シャンプー「サラッと勢いで何言ってるね!乱馬はこの私、シャンプーの花婿ね!」

二人がしょうもない言い合いを始めるのを横目に

銀時「これはどう見るね、新八君」

銀時が新八に尋ねる。

新八「ええ、これはどうやらハーレム系漫画からやってきた方々と判断できますね」

銀時「よろしい、合格だ」

乱馬「だあああ!!もううるせえよお前ら!今そんな話してる場合じゃねえだろ!さっさと自己紹介なりなんなり終わらせて、早く鏡見つけて帰るんだよ!」

乱馬の言葉に二人が仕方なそうに黙る。

116: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:43:36.14 ID:qBjfuwT70
乱馬「俺の名前は早乙女乱馬。よろ――」

神楽「飲みモン持って来たヨー!ってうわああっ!」

走って戻ってきた神楽が躓き、お盆に乗っていたオロナミンCを乱馬にぶちまけてしまう。

乱ま「どわああああ!!冷めてえっ!!」

新八「ど、どうなってるんですかこれ?!」

銀時「フ、ファーストチルドレン?!」

神楽「OH、一瞬で私よりグラマーね……」

呪泉郷での悲劇により、水をかぶると女に変身してしまう体質の乱馬に三人が驚く。

117: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:45:32.12 ID:qBjfuwT70
らんま「……中国の呪泉郷ってとことで修行してよ、かくかくしかじかなワケで水をかぶるとこんな体になっちまうってわけさ。ちなみに俺と一緒でシャンプーとムースとりょ――」

良牙「乱馬ぁ!!」

らんまの言葉を良牙が遮る。

九能「おお!おさげの女よ!僕に会いに世界の壁まで越えて来てくれるとは!その気持ち、しっかりと受け止めよう!」

九能がらんまを力強く抱きしめる。

らんま「……俺から、離れやがれぇっ!」

らんまの渾身の右アッパーで、九能が開けっ放しの窓から空の彼方へ消えていった。

118: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:47:45.03 ID:qBjfuwT70
新八「な、なにあの威力……ぎ、銀さん!やっぱりこの人たち夜兎なんじゃないですか?!変な指の形したままお星さまになっちゃいましたよ九能さんて人?!」

銀時「な、なぁにビビんなよ。ほらあれだよ、ギャグ漫画補正だよ。このクラスの威力は最近あんまり見ねえけど、この人たちはそういう世界から来たんだよ。きっと一コマ経てばなんてことなく戻ってきてるから」

一コマ後。

新八「戻って来ねええええええ!!!!」

らんま「九能先輩なら大丈夫だ。あの人記憶喪失だろうが頭にわけわかんねえ鳥が乗ってようが逞しく生きていける人だから」

神楽「確かに逞しくはありそうネ。ただあの人乱馬が変身すること知らないアルか?」

神楽が先程のやり取りを見て疑問を投げかける。

119: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:49:43.06 ID:qBjfuwT70
あかね「そうなの。一体何がどうなったら乱馬の変身体質に気付かずに女のらんまに惚れちゃうなんておバカなことが起こるのか分からないけど、とにかく気付いていないの」

銀時「まあ帰って来ないのは少し心配だが一人減って会話も回しやすくなったことだしよ、サクサクいこうぜ。じゃあ、そこのショートカット」

あかね「あ、はい。私は天道あかねっていいます。と、得意料理は、野菜炒め、かな?」

らんま「無理して料理の話しなくていいじゃねえか」

銀時「で、君は乱馬君とは何もないの?この流れだと君もハーレムの一員なわけでしょ?」

らんま「は、ハーレムってお前?!」

120: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:52:22.27 ID:qBjfuwT70
あかね「い、一応、許嫁です。ただそれは勝手に親同士が決めただけであって別に私達はなんにも――」

新八「ツンデレキターーーー!!!」

神楽「銀ちゃん、新八きもいネ。属性という仮面に惑わされた哀れなピエロネ。てか私も分類的にはツンデレヒロインなんだけど」

銀時「新八がきもいのは確かだが神楽、ヒロインはゲロ吐かねえんだよ。この漫画のヒロインは結野アナだから」

神楽「万歩譲ってヒロイン結野アナでいいけど、ツンデレなら私負けないアル。『このバカ犬!』」

新八「ツンデレに反応した僕が悪かったからもう止めようか神楽ちゃん!」

121: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:53:47.82 ID:qBjfuwT70
神楽「『うるさいうるさいうるさい!』」

新八「だから簡単に壁越えるようなマネは止めろって言ってんでしょうがぁぁぁ!!!

あかね「ハハハ……ホントに元気な人達ね……」

銀時「よーし、じゃあ次はそこのセクシーチャイナ娘」

銀時がシャンプーを指差す。

シャンプー「私はシャンプー。女傑族の戦士ね。そして乱馬の花嫁ある!」

そう言ってシャンプーは乱馬に抱き付いた。

らんま「は、離せシャンプー!」


122: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:55:52.24 ID:qBjfuwT70
シャンプー「皆が見てるからって恥ずかしがることないね」

その様子を見ていたあかねが、ムスっとした顔で台所に向かう。

新八「なんか女の子同士のこういう風景ってのも中々良いもんですね。他の作品では良く見るけど、うちの女性陣はどうもギスギスしてるのが多いからこういうのあんまりないじゃないですか」

銀時「うん、悪くないね。それにあの色気のある感じ。チャイナ服を着る女ってのはああじゃなきゃな。いっそ流れであの子のこと神楽って呼んで、いつの間にかレギュラーチェンジ的な展開に――」

神楽「面白くないネあいつ。私と服装から喋り方、あの女を武器にする感じとかキャラがダダ被りネ」

神楽の言葉に耳を疑う二人。

123: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 22:59:34.04 ID:qBjfuwT70
新八「へ?お、女を武器にって神楽ちゃん。神楽ちゃんの武器はその怪力と傘じゃないか、嫌だなぁもう」

銀時「神楽ちゃん?君とシャンプーがキャラ被ってるとなるともうなんでもアリになっちゃうから。俺と流川楓だってキャラ被ってない?とかワケ分かんないことになってくるからね?ひとまず鏡でも見て来なさい」

神楽「……いつか消してやる。レギュラー争いってものの厳しさ、教えてやんよ」

新八「神楽ちゃん?今ボソッと流暢に恐ろしいこと言ってなかった?」

そんなやり取りをしていると、バケツを持ったあかねが戻って来る。

あかね「いつまでイチャイチャしてんのよ馬鹿乱馬ぁぁぁぁ!!!!」

二人にバケツの水をかけると、今度はシャンプーが猫に変身したのであった。

124: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:01:00.56 ID:qBjfuwT70
シャンプー「ニャーオ!」

らんま「猫は嫌だぁぁぁぁぁ!!!」

猫になったシャンプーが顔に張り付いたまま、半狂乱でらんまが部屋を駆け回る。

新八「ほ、本当にシャンプーさんも変身しちゃった……って一体らんまさんに何があったんですか急に!」

良牙「乱馬は極度の猫嫌いなんだよ」

当惑する新八に良牙が答える。

ムース「いつまでオラのシャンプーに抱き付いてるか早乙女乱馬ぁぁぁぁぁ!!!」

怒り心頭のムースがらんまだけを綺麗に蹴り飛ばし、どこからか持ち出したヤカンでシャンプーにお湯をかけた。

125: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:04:09.52 ID:qBjfuwT70
シャンプー「私と乱馬の邪魔するでないねムース」

うまいこと変身時にチャイナ服を着ることができたシャンプーが、鋭い視線でムースを睨み付ける。

銀時「よし、じゃあ次はそこのシャンプーちゃん大好きなロン毛が自己紹介しろー。ちなみに銀さんなんとなく関係見えて来ちゃったぞー」

銀時がムースに振る。

ムース「オラはムース。暗器使いのムースじゃ」

定春「ワン!」

神楽「なんであの人、定春に向かってカッコ付けて自己紹介してるアルか?」

あかね「あの人はね、酷いド近眼なの」

神楽の質問にあかねは優しく答えた。

126: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:06:16.79 ID:qBjfuwT70
銀時「じゃあラストはそこの幸薄そうな、鏡を割ったバンダナ君、どうぞ」

良牙「くっ、幸薄そうなって言うな!」

らんま「そうだ!こいつは幸薄そうじゃなくて幸薄いんだ!」

良牙「黙っとれ乱馬!」

突如顔を出してきたらんまの頭を下げさせる良牙。

良牙「俺の名前は響良牙だ。よろしく」

神楽「で、お前は誰が好きアルか?」

127: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:08:30.75 ID:qBjfuwT70
良牙「へ?なな、何を言っているお嬢ちゃん。あまり年上をからかうもんじゃあ無いぜ」

神楽「ちょっと私より年上だからって年上面すんじゃねーヨ。人生は長さじゃなくて濃度なんだよバッキャロウ。で、誰が好きアルか?」

良牙「な、生意気なクソガキめぇ……!」

銀時「なんかその声聞き覚えあんだよなぁ、誰だったっけなぁ……」

良牙の声を聴きながら物思いにふける銀時。

新八「まあまあ神楽ちゃん、その話は置いといてさ。せっかくあちらのみんなが自己紹介してくれたんだ。今度はこっちの番じゃないかな」

128: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:11:12.10 ID:qBjfuwT70
神楽「それもそうネ!私は神楽!かぶき町の女王ネ!何か困ったことがあったらいつでも私のトコに来るといいよ!酢昆布持ってな」

あかね「よろしくね、神楽ちゃん」

あかねが微笑みかける。

神楽「おう!なんか姉御みたいな雰囲気アルなあかねは」

新八「確かに言われてみればそんな気も」

銀時「エディ・マーフィーだ!金曜ロードショーで見たエディ・マーフィーの声にそっくりなんだ!」

新八「い、いきなりなんなんですか銀さん」

129: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:12:24.21 ID:qBjfuwT70
銀時「いや良牙の声だよ。どっかで聞いたことあるなぁって思ってたらそうだよエディに似てんだよ!いやーすっきりした。まー、それとは別になんかクソ懐かしい感じがするんだがまあいいか」

銀時「オッスオラ坂田銀時。この町で万屋やってまーす。ってことでこれで全員自己紹介終わったな!このまま作戦会議だ!」

一同「オーッ!!」

新八「……アレ?僕やってなくね?あの人に邪魔されてそのまま流れたっきりなんですけど……ねえ、ねえってば!みんなぁ!」

ガヤガヤと作戦会議に移ってしまった皆の耳には新八の声は届かないのであった。

130: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:14:51.78 ID:qBjfuwT70
?「アンタ達!さっきからどったんばったんうるさいんだよ!ろくに家賃を払わないどころかウチの開店準備まで邪魔する気かい?!」

そこで玄関のドアが勢い良く開かれ、煙草を指で挟んだ、着物を着た老婆の怒鳴り声が響く。

新八「げっ?!お登勢さん?!」

お登勢と呼ばれた老婆が、我が物顔で玄関から入って来る。

銀時「いやーすまなかった。だがいくら開店準備前とはいえ、今からじゃもうその顔面整えるのは無理じゃなかろうかね?」

131: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:15:56.78 ID:qBjfuwT70
お登勢「顔面ならとっくに戦闘態勢万端だいバカヤロー!で、一体何なんだいそのガキ達は?寺子屋でも新しく始めんのかい?」

煙を吐き出しながらお登勢が迷惑そうに言った。そしてその後ろから

?「ソレナラ私ノヨウナセクシー女教師ヲ雇ウ気ハナイカ?!アホノ坂田ァ!」

着物姿の、猫耳を全く活かしきれていない女が威勢良く出てくる。

銀時「『給食費盗んだのは誰?みんな顔を伏せて、犯人だけ手を挙げてください。先生誰にも言わないから、ね?はい、手を挙げて』って流れで自分が手を挙げちゃうような先生は嫌だね」

132: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:18:10.86 ID:qBjfuwT70
神楽「ていうかキャサリンが嫌ある」

新八「銀さんちょっと失礼ですよ!もうキャサリンさんだって心を入れ替えたんですから。それと神楽ちゃん、今のじゃ普通に嫌いな感じ出ちゃってたからね。もうちょっとオブラート使っていこう」

キャサリン「何言ッテルカアホノ坂田、私ガ手ヲ挙ゲルノハ頭ニ銃突キツケラレタ時クライイナモノネ。盗ルモン盗ッタラコンナトコ、マッハデ脱出スルワボケェ!」

新八「このブス猫全然心入れ替えてなかったぁぁぁ!!ってあっ!!キャサリンさんを見たららんまさんの猫嫌いが発症しちゃうんじゃ?!」

新八が心配そうにらんまの方を見る。

133: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:20:09.46 ID:qBjfuwT70
らんま「う、うわあああ!!ね、猫ぉっ!?……じゃないな、これなんだ新橋?」

新八「新八です」

キャサリン「猫ダヨブスオサゲ!コノ神聖ナ猫耳ガ貴様ニハ見エナイッテノカ!」

?「もしキャサリン様の頭に付いているものが猫耳と初対面で見破れる方がいましたら、直ちに私が責任を持って病院に連れていきます」

お登勢の影からモップを持った可愛らしい着物姿の少女が出てくる。

良牙「大丈夫だ、ただの妖怪にしか見えん」

たま「それは良かったです。私はメイドロボのたまと申します」

134: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:22:25.84 ID:qBjfuwT70
あかね「ロボットなのあなた?!ここの科学力って凄いのね……」

たま「源外様の改造により、キャサリン様くらいなら小指で消し飛ばす程の戦闘力も有しております」

たまが微笑みながら頭を下げた。

キャサリン「モット他ニ良イ例エナカッタノカヨ!」

ムース「シャ、シャンプーが二人いるだと?!ど、どうなっておる?!」

新八「ムースさん、アンタ今までどうやってシャンプーさんを認識してたんですか?」

シャンプー「こんな化け物と見間違うとは心底見損なたある。新横浜、その竹刀でこの男叩き出すよろし」

新八「新八です」

135: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:23:51.88 ID:qBjfuwT70
ムース「おい新木場!どっちが本物のシャンプーなんじゃ!同じ眼鏡同士、オラに答えを教えてはもらえぬか?」

新八「新八です。てかおいぃぃっ!お前らわざとやってるだろ?!なんでこの世界来て一時間と経たずに僕のキャラ掴んでんだよ!」

お登勢「あーもう!ギャーギャーピーピー煩いんだよ新八景島シーパラダイス!さっさとこれがどういう状況なのかを説明しな!」

新八「途中まで惜しかった!僕新八です!って、お登勢さんまで一体なんなんですかもう……まあ簡単に説明しますとですね、『かくかくしかじか』ってわけなんですよ。信じてもらえるか分からないですけど」

いい加減痺れを切らしたお登勢に新八が説明する。

136: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:25:15.58 ID:qBjfuwT70
お登勢「俄かには信じられない話だけど、アホなアンタ等の周りで起こる話だ。そんなアホなことも起こるもんなのかもしれないね」

右京「いやぁ、話の分かるおばあちゃんで助かるわぁ」

お登勢「誰がおばあちゃんだい!今でも心は遥かセブンティーンだよ!で、銀時。アンタこのガキ達の面倒どうする気だい?私は払うモン払ってくれたらなんでも良いがね、家賃もろくに払わないような穀潰しのくせに、このガキ達の面倒見るなんて言ったらタダじゃおかないよ!」

お登勢がぴしゃりと言い放つ。

良牙「払うモン払ってくれたらとは、この銀髪と同じこと言いやがる……」

先程の銀時のにやついた笑みが良牙の脳裏によぎる。

137: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:27:36.86 ID:qBjfuwT70
神楽「確かにこの穀潰し機は私一人満足に養えていないからナ」

銀時「何その世界で一番いらなそうな機械」

新八「でもお登勢さんの言う通りですよ銀さん。ちゃっちゃと鏡が見つかればいいですけどすぐに見つかるとは限らないし」

新八「そうなれば住まいだって食事だって必要になってきますよ?いくら鏡が見つかれば億万長者だからって、現状の生活すらままならない僕等じゃサポートしきれませんよ」

新八の言葉で行き詰った空気が流れるが、銀時は不敵な笑みを浮かべ言った。

138: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:29:32.32 ID:qBjfuwT70
銀時「このかぶき町で何甘えたことぬかしてんだぱっつぁん。自分の食い扶持は自分で稼ぐ、この町で生きてく上で当たり前のことをしてもらうんだよ」

良牙「どういうことだ?」

銀時「これからお前らにはそれぞれの適正に見合った職場で、働きながら鏡の件について調査してもらうことに今決まった!ここんとこ丁度な、何カ所からか良い人柱力じゃなかった人材紹介してくれないかって依頼が来ていてな」

あかね「わ、私たちがこの町で働くの?」

あかねが不安げに尋ねる。

銀時「ああ、まあ安心しろって。●●●に沈めなんて酷な事は言わねえからさ」

139: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:30:58.60 ID:qBjfuwT70
らんま「何勝手なこと言いやがる!俺達は早く鏡見つけて元の世界に帰るんだ!それを働きながらなんて悠長な――」

右京「まあまあ乱ちゃん、やっぱ先立つものがないと人生やっていけへんのも事実や。ウチが幼少の頃、屋台盗られた時に比べれば全然マシやで。仕事紹介する言うてくれてるんやから」

らんま「う……そ、その話は……」

威勢良く啖呵を切った乱馬であったが、右京の屋台盗難話を聞き引っ込んでしまう。

右京「それに仕事しながら鏡の調査もしてって、それって無差別格闘流としては良い修行のチャンスなんやないの?乱ちゃんならその生活の中で更に強くなれるはずや」

らんま「く……やるしかねえのかぁ……」

140: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:32:45.70 ID:qBjfuwT70
お登勢「ま、話も決まったみたいだから私たちはもう行くよ」

そう言ってお登勢は玄関へと、あとの二人を引きつれて向かう。

たま「皆さん、失礼いたします」

キャサリン「アデュー!私ニ惚レルナヨー!」

良牙「なんだろう、今ならかなり高威力の獅子咆哮弾を撃てる気がする」

とここでお登勢は振り返り、銀時に声をかけた。

お登勢「そうだ最後に銀時。私のとこにも活きの良いの一人見繕っておくれよ。どっかの万屋と違って給料もメシも住むとこも用意あるからさ」

141: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:33:53.99 ID:qBjfuwT70
銀時「了解。神楽ぁ、一番テーブルご指名です!フゥ!」

神楽「なんで私アルか銀ちゃん!ここは幸薄バンダナ辺り行かせて皿洗いでもさせとけばいいネ!」

神楽は憤慨した様子で良牙を指差す。

良牙「おいチャイナ娘!幸薄バンダナと呼ぶなぁ!」

あかね「まあまあ良牙君、子供の言うことなんだから、ね?今はとにかく働くとこ決めてもらって、鏡の調査に乗り出さなきゃ!」

良牙「あかねさん……」

142: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/22(水) 23:34:44.84 ID:qBjfuwT70
ムース「で、おら達を一体どこに売り飛ばそうというんじゃ?返答によっては容赦せんぞ」

壁にもたれかかったムースの、眼鏡の奥がキラリと光った。

銀時「そんな物騒な顔するんじゃねえよ。どこも俺達とは顔馴染みの奴等のトコばっかだから安心しろって。よし!じゃあ一人一人このアンケートに記入してくださーい!このアンケート結果から、皆さんに合った就職先を紹介しまーす!」

148: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 19:45:06.17 ID:DFpt0rPM0
一か月後、スナックお登勢。

銀時「お、おーっす」

時刻は午後九時も回ったところ。銀時ら万屋組は、夕飯と晩酌を済まそうとスナックお登勢に顔を出していた。

あかね「あら銀さん、いらっしゃい。新八君も神楽ちゃんも、お疲れ様」

カウンター越しに和服姿で割烹着を着たあかねが笑顔で出迎える。奥のテーブル席ではキャサリンとたまがお客の相手をしていた。

新八「こ、こんばんはあかねさん。いやー、まったく疲れちゃいましたよ」

首をゴキゴキと鳴らしながら新八がカウンター席に座る。

神楽「今日もなーんも成果無かったネ、あか姉」

ぐったりとした様子で神楽もカウンターに倒れこむ。

149: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 19:46:21.07 ID:DFpt0rPM0
あかね「あれからもう一か月、なんの手掛かりも得られないんじゃ流石に疲れてきちゃうよね、まあこんな時はご飯食べて元気出してよ!みんな、何食べたい?」

疲れ切った三人を元気付けようと、あかねはカウンターから身を乗り出して尋ねた。

銀時「あ、あー、お、俺はとりあえず熱燗もらおうかな?飯は後でいいや、ハハ、やっぱ疲れてると先に酒飲みたくなっちゃうんだよねオジサンさんだからさ」

銀時が引きつった顔で酒を注文する。

あかね「はーい、新八君と神楽ちゃんはどうする?」

新八「僕はお茶で。それとぼ、僕もご飯は大丈夫です。後で姉上と食べるんで!」

今日は夜の仕事で自分の姉が家にいないことを知っていた新八であったが、咄嗟にそんな言葉が出てしまっていた。

150: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 19:49:38.20 ID:DFpt0rPM0
神楽「私卵かけメガマックス盛りご飯!」

神楽が元気に手を挙げて答える。

あかね「うん、すぐに作るからね」

あかねが注文を受け三人から離れると、銀時は気怠そうに口を開いた。

銀時「よくお前はあいつの出す謎にマズい卵かけご飯が食えるな。なんだったらもうその辺の雑草とかでいいんじゃねえの?タダだし」

神楽「何を言うか銀ちゃん。あか姉の作った卵かけご飯が何故か酸っぱくても、口に入れた途端吐き出しそうな辛味を帯びていても私は気にしないネ。そこに白米があるという事実だけでご飯山盛り食えるネ」

銀時「じゃあいっそ山でも食ってこい味覚崩壊娘」

151: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 19:50:14.27 ID:DFpt0rPM0
神楽「私卵かけメガマックス盛りご飯!」

神楽が元気に手を挙げて答える。

あかね「うん、すぐに作るからね」

あかねが注文を受け三人から離れると、銀時は気怠そうに口を開いた。

銀時「よくお前はあいつの出す謎にマズい卵かけご飯が食えるな。なんだったらもうその辺の雑草とかでいいんじゃねえの?タダだし」

神楽「何を言うか銀ちゃん。あか姉の作った卵かけご飯が何故か酸っぱくても、口に入れた途端吐き出しそうな辛味を帯びていても私は気にしないネ。そこに白米があるという事実だけでご飯山盛り食えるネ」

銀時「じゃあいっそ山でも食ってこい味覚崩壊娘」

152: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 19:52:36.34 ID:DFpt0rPM0
新八「ハハ……あかねさんの料理も姉上程ではないですけどかなり強烈ですからね。一体なんでただの卵かけご飯であの味が出せるんだろう」

新八が今日の疲れとはまた別の理由でゲッソリした苦笑いを浮かべる。

銀時「まあどんな物体でもダークマターに変換できるお前の姉ちゃんクラスの錬金術師はそういねえからな。ったく一体何を練成しようとしたらあれだけの呪いを受けるんだよ」

神楽「兄さんは人体練成を――」

新八「神楽ちゃんストップッ!」

疲れた体に鞭を打ち、新八は神楽のセリフを遮った。

新八「はぁ、それにしてもお腹減ったなぁ。てか銀さん、今日はあかねさんシフト入ってないはずだったんじゃないんですか?だからここでご飯食べようって話だったのに」

新八は非難の念がこもった瞳で銀時にぼやいた。

153: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 19:58:10.85 ID:DFpt0rPM0
銀時「昨日来た時には明日休みって言ってたんだよ」

銀時も空の腹をさすりながら不機嫌に返答する。

神楽「流石あか姉、きっと休みだったけど働きたくって店出ちゃったネ。仕事に対してバカ真面目アルな。お前らクズ共も少しは見習えヨ、これだから昨今の駄眼鏡はとか尾木ママに言われるネ」

新八「○木ママは駄眼鏡なんて絶対言ったことねえよ!」

銀時「いーや言ってたね。ちなみに大木凡人も言ってたわ」

新八「それもねーよ!てかなんで二人とも眼鏡かけてんのに眼鏡ユーザー貶めるようなこと言うんですか!そして名前伏せろよ!」

154: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 20:21:55.15 ID:DFpt0rPM0
新八が声を荒げて突っ込んでいると

あかね「出来たわよー」

とあかねが注文の品を持って三人の前に置いた。新八は突っ込むのを止め、はぁと一息吐くと、湯気の立ったお茶に口を付けた。

銀時「今日お前休みだったんじゃないのか?」

銀時もお猪口に口を付けながらあかねに尋ねた。

あかね「そうだったんだけどね、今日お登勢さんちょっと用事があるみたいだから代わりにお店出ることにしたの。やっぱりお世話になってるし少しでも恩返ししたいから」

神楽「いやー、やっぱあか姉は良い奴アルな。この不真面目と無能眼鏡も少しは見習って欲しいネ」

猛烈な勢いでメガマックス盛りのご飯を片付けながら神楽が口を挟む。

155: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 20:22:57.54 ID:DFpt0rPM0
新八「ちょっと神楽ちゃん、駄眼鏡より酷いことになってんだけど」

銀時「お前が店に立たないで危険物を量産しないことが、何よりの恩返しだと俺は思うんだけど」

あかね「なんか言った銀さん?」

銀時「いや何も」

あかね「全くもう、乱馬みたい」

銀時「ったく、お妙みたいだぜ」

少しすねた様子であかねがそっぽを向き、銀時は呆けた顔で酒を飲む。それを見た新八達は、疲れているとはいえ、いつもの変わらぬ日常の有難さをほんのりと感じていた。

156: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 20:26:12.24 ID:DFpt0rPM0
そう、ここには退屈だけど穏やかで、ありふれてはいるが、かけがえのない時間がゆっくりと流れていた。きっと明日も明後日も、そのまた次の日も、何年経ってもこんな温かい日々が続いていくのだろう。

絶対この幸せな日々を守り続けよう。誰も口には出さないが、皆そう思っていた。場末の汚いスナックで。大好きな人達に囲まれながら。

END

158: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 20:52:47.03 ID:DFpt0rPM0
銀時「っておぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!!!ふっざけんな!!>>157の言う通り終わってる場合じゃねえだろ!!何勝手に日常END的なナレーション入れてんだよ誰だよ?!そもそもあかねぇ!!!」

銀時が勢い良く立ち上がり、カウンターを強く叩いた。

あかね「は、はい!」

その勢いに気圧され背筋を伸ばしてあかねが答える。

銀時「何がババアが用事あるから代わりに店出てるだぁ?恩返ししたいだぁ?そんなことより鏡の手掛かりを見つけに行けよぉぉぉ!!!確かにさぁ、言ったよ?働いてもらうって。でもさ、それってあくまで鏡について調査しながらって感じじゃん!」

銀時が頭を掻き毟りながら更に言葉を続ける。

159: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 20:57:45.56 ID:DFpt0rPM0
銀時「それが何よ今の状況、完璧スナックお登勢の看板娘だったじゃん!一日働いて疲れて帰ってきた俺らを優しく出迎えてくれてちょっと嬉しかったじゃん!それと新八、神楽!お前らもだ!何微笑ましくあのナレーションを享受しながらエンディング迎えようとしてんだコラ!」

新八「す、すいません銀さん。あまりに心地良い日常の空気に突っ込みも忘れて浸っちゃってました。もうこのまま終わりでいいかなぁって、この話」

神楽「私はそんなことなかったヨ、この後如何にして宇宙大皇帝になるかを夢想していたネ。設定上では私一度死んだし、もう体の9割がサイボーグ化しているアル。ちなみにメタリックモードは一回使ったらその後30分は使えなくな――」

銀時「お前に至っては日常どころか現実すら見えてねえじゃねえか馬鹿野郎!」

神楽の長々とした妄想を遮り、銀時はもう一度カウンターを叩いた。

160: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 20:58:48.32 ID:DFpt0rPM0
銀時「とにかくだ!あかね、お前も含めて異世界組にこれから説教に行こうと思う!」

あかね「せ、説教?!そ、そんな」

銀時「だいたい最初に決めてあったろ、仕事しながらでも調査をして4、5日に一回で良いから報告をしに来るってよぉ」

あかね「そ、そういえばそんな話だったかも。ハハハ……」

第一回作戦会議のことを思い出し、気まずそうにあかねは笑顔を作った。

161: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:00:13.60 ID:DFpt0rPM0
銀時「それがお前をはじめ、どいつもこいつも仕事が忙しくって来なくなってよぉ。まだお前はこうやって会ってるからあれだけど、他の奴等なんかここ2、3週間見てねえぞ」

神楽「そういえば全然見てないアルな。町であいつらの噂は良く聞くようになったけど」

新八「九能さんはあの日吹っ飛ばされたまま行方不明。良牙さんに至っては仕事初日に迷子で未だに行方不明だけどね。みんなは大丈夫って言ってたけど流石に心配になってくるよ。てか良牙さん、方向音痴にも程があるでしょ……」

九能、良牙のことを思い出し、ずり落ちた眼鏡を新八は人差し指で戻した。

銀時「ってことでお前ら行くぞ!若造共に一発ガツーンときついのお見舞いして目ぇ覚まさしてやるってんだ」

銀時がそう言って店を出て行こうとすると、店の戸が開き、一人の男が入ってきた。

162: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:01:12.52 ID:DFpt0rPM0
?「お!銀さんじゃねえか、昨日のパチンコ屋振りだな」

その男は薄汚れた衣服の上からミカンと書かれた段ボールを装備し、咥え煙草でサングラスをかけていた。

新八「昨日ちょっと見かけない時間ありましたけどそんなとこ行ってたんですか?そんなんじゃ説教にも説得力がありませんよ銀さん」

銀時「そ、それは紳士の嗜みとしての一環でだな」

?「でも結構昨日は調子良く玉出てたみたいじゃねえか。みんなには幸せのおすそ分けはしたのかい?で、どうだい?俺にも少しはこの店で幸せ分けてくれよぉ、金欠で困っててさぁ。ヘヘヘ」

『?』はサングラスの上からでも分かるようないやらしい顔つきで言った。

163: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:07:21.84 ID:DFpt0rPM0
神楽「ええ?!銀ちゃんパチンコで勝ったのに何もお土産無かったアルか?!いつもなら酢昆布二日分は買って来てくれるのにぃ」

あかね「酢昆布二日分がどれだけの量か分からないけど、お財布に余裕あるならもう少し飲んでから行けばいいじゃない、銀さん」

銀時「っかぁー、これだから餓鬼とはいえ女ってのは。商売上手になってる場合じゃねえだろうが」

あかね「あ、そうだった」

あかねは舌を出して片目で笑った。

?「何?これからみんなどっか行くの?てか俺の名前の『?』いつ取れるの?いつまで経っても未確認のポケモン図鑑みたいなんだけど。バグってんのこれ?」

銀時「バグってんのはアンタの人生設計だよ。悪いな、俺達行くところがあるからよ。また今度な」

銀時は『?』に言った。

164: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:13:24.69 ID:DFpt0rPM0
?「なんだよぉ、ノリ悪いなぁ。せっかく俺の公園に若い新入りが入ったから歓迎記念に連れてきたってのに」

銀時「そこは家無し宿無し金無し同士で楽しくやってくれ。今日ババアはいねえみたいだからうまくやりゃあタダ酒できんじゃねえか?」

それを聞いた『?』は先程より一層厭らしいゲスな顔をして喜ぶと、外に待たせているらしい新入りを呼んだ。

?「おーい!入ってこいよぉ、気にすることはねえ。今日はタダだってさぁ!あといつまで経っても名前表示されないから自己紹介するわ。俺、長谷川泰三でーす」

開かれた戸からボロボロな衣服の上に、リンゴと書かれた段ボールを身に纏った少年が、木の枝を杖代わりにしてよろけながら入ってきた。

?「ほ、本当か……。と、とにかく飯だ。め、飯を、く、くれ……」

165: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:14:35.31 ID:DFpt0rPM0
マダオ「もう大丈夫だぞ、今日はタダで食い放題の飲み放題だ!でもなんで本名で自己紹介したのにマダオ表記されてんの?やっぱバグってねこれ?」

あかね「りょ、良牙君!!ど、どうしたのよそんな恰好で!!」

新八「りょ、良牙さん?!」

あかねが慌ててカウンターから飛び出しボロボロの少年、良牙に駆け寄る。

マダオ「何々?みんな知り合いなの?どういう事よ、オジサンだけ仲間外れにしないで教えてよぉ」

そんな長谷川の言葉には誰も反応せず、とうとう力尽きたのか良牙が倒れ込む。そこを地面寸前であかねが受け止めた。

166: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:16:22.53 ID:DFpt0rPM0
あかね「もう、一体こんなになるまでどこ行ってたの?!」

良牙「……あぁ、あかねさんの幻が見える……ま、まるで天使だ、これで飯さえ食えればもう思い残すことは……」

あかね「分かった!とにかくすぐご飯作るわね!」

あかねはそう言って良牙を放り出すと、調理のために店の奥に駆けていった。今度は地面すれすれで新八が受け止め、なんとか良牙をテーブル席のソファに座らせた。

神楽「全く、どこほっつき歩いてたネ幸薄バンダナ。みんなお前のこと心配で飯も喉通らなかったんだぞ」

銀時「さっき危険物一山平らげてたろうが」

銀時の視線の先にはいつの間にか空になった大きな丼があった。

167: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:17:24.71 ID:DFpt0rPM0
新八「でも良かったですよ、ちゃんと帰って来れて。とりあえずはい、お水どうぞ。」

良牙「……み、水?……水!」

良牙は薄目で水の入ったコップを確認すると、新八から奪い取るように一息で飲み干した。

銀時「で、一体どこをさ迷ってたんだ?出勤初日からサボタージュかましやがって」

どうやら少し落ち着いたらしい良牙に声をかける。

良牙「ああ、あの日俺は指示された場所に向かったんだが。気付いたら宇宙船に乗り込んでいたらしくてな」

新八「もう方向音痴のレベルが地球じゃ納まりきらなくなっちゃたんですね……」

新八が呆れた様子で呟く。

168: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:18:23.33 ID:DFpt0rPM0
良牙「降りる間もなく俺はそのまま宇宙に上がったんだ。ただその乗組員たちがタチの悪い野郎ばっかりでな。そうだ、みんな乱馬や神楽みたいな恰好をしていたな……」

神楽「ハハハ、もしかしてあの夜兎ばっかりの海賊船だったりしてな」

神楽が暢気に笑った。

良牙「夜兎?確かにあいつら自分たちのことを夜兎族がどうとか言っていたな。そして恐ろしく強い連中だった」

銀新「……」

淡々と語る良牙のその言葉に絶句する二人であった。

169: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:19:29.95 ID:DFpt0rPM0
良牙「その後執拗に戦いを仕掛ける奴等と激闘の末、なんとか小型艇を奪取した俺はその宇宙船から脱出。見知らぬ星に不時着したんだがそこは気持ちの悪いペンギンのような生き物しかいない機械の星だった。どいつもこいつもプラカードで会話をし、ご飯にスーファミのカセットをかけていた」

マダオ「なんだよそれ、そんな奴等がいるわけねえだろ。ハッハッハッハ!」

神楽「ハッハッハッハ!」

良牙「それが本当なんだよ長谷川さん、神楽」

銀新「……」

事情を知らずに声を上げて笑う長谷川とは対照的に、良牙の話に口を開けない銀時、新八であった。と、過去の事をすっかり忘れて笑う神楽。

170: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:21:08.14 ID:DFpt0rPM0
良牙「そこでもダースベーダーみたいな恰好した悪い奴が復活したとかで一戦闘あって。まあ、それは俺や周りの協力もあって解決したんだがな。その戦いのせいで俺の小型艇もその星の宇宙船も全部使い物にならなくなってしまって……」

マダオ「それでどうしたんだい?」

良牙「そのペンギン達が知り合いの商人に連絡を取ってくれることになって、その商船に乗っけてってくれることになったんだ。九州訛りが強い人で、坂本さんって言うんだ」

良牙「ただ体調が良くなかったのか、なにかと吐いていたな。だがとても気の良い人だった。まあそんなこんなでその後も色々あってボロボロになって、フラフラさ迷っていたところを長谷川さんに助けてもらって、ようやくここに戻って来れたってわけさ」

良牙は話を終え一息付くと、ソファに体を投げ出した。

171: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:22:15.67 ID:DFpt0rPM0
話が終わったと察した銀時と新八は無言で目配せをし何事かをジェスチャーで伝え合うと、新八は深く頷いた。そして大きく息を吸うと

新八「って何それぇぇぇぇぇぇ?!!!!もうすっごい摩訶不思議アドベンチャーしてんじゃないですかっ?!もう鏡がどうとかじゃなくてそっちの話メインでやった方が絶対面白いって!!そもそもこっちの話みぃぃぃんな仕事に夢中で全然進んでないしぃっ!てかアンタ強ええええええええ!!!!!どんだけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

と大声で突っ込んだ。銀時はそれを見て満足気に頷き彼の突っ込みを称賛した。

銀時「流石新八だ。俺達の突っ込みたかったところを漏れなく突っ込んでくれた。そしてこの話は今の突っ込みをもって終わりとしよう。いい加減話を進めないとな」

神楽「そうアルな。ただ今の突っ込みで唯一足りないところがあるとしたら、『その段ボールの中のリンゴおいしかったかーい!』アル」

銀時「足りないのはお前の頭だ」

銀時が神楽の頭にチョップをした。

172: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:24:54.43 ID:DFpt0rPM0
マダオ「いやー、良牙君がそんな凄い大冒険していたとはなぁ。なんだよぉ、てっきり俺と一緒で底辺をギリギリ崖の上を行くようにフラフラしてんのかと思っていたよ」

新八「大丈夫ではないですよ、貴方の場合は」

マダオ「彷徨える蒼い弾丸、略してマダオかと思っていたのに」

新八「あの無理にB‘z絡めようとするの止めてもらえません?!それにそのマダオの略し方強引すぎるだろ、言葉の順番まで変わっちゃてるじゃねえか!」

新八の突っ込みを聞き流しながら、いつの間にやら銀時の徳利の酒を直飲みし始める長谷川。

マダオ「まあそう堅いこと言うなよ新八君。で、みんなと良牙君はどういう関係なんだ?」

新八「それは話すと長いんですけど『かくかくしかじか』なことがありまして、なんやかんやで今の状態です」

173: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:31:30.79 ID:DFpt0rPM0
マダオ「へぇぇぇ!そんなことがあったのかぁ。俄かには信じられねえが銀さんの周りじゃさもありなん、って奴だな。ハッハッハッハ!」

銀時「笑ってないで俺の酒返しやがれ、このたまねぎ剣士」

銀時は長谷川から徳利を奪い返し、自分のお猪口に注いだ。

あかね「良牙君お待たせ!たくさん作ったからいっぱい食べてね!」

そこへ大盛の肉野菜炒めとご飯をあかねが運んでくる。

良牙「あ、あかねさん!よ、ようやくだ。ようやく飯が食える……それもあかねさんの!」

銀時「まあとにかくだ。俺達は異世界組に喝入れてくっからお前は飯食ってここで休んでろ。じゃあまた後でな、もうお前はここから動くんじゃねえぞ。長谷川さん、残りの酒アンタにやるからしっかり見張っといてくれ」

目を輝かす良牙にそう言うと、銀時は背中を向けた。

174: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:34:31.41 ID:DFpt0rPM0
銀時「ほら、ちゃっちゃと行くぞてめえら。あとあかね、お前もついて来い」

新八「さ、話進めるためにもサクサク行きますか」

神楽「そうネ、いい加減進展欲しいネ!」

あかね「ちょ、みんなちょっと待ってよ!」

良牙「いただきます!」

銀時の背中を追って三人は夜の歌舞伎町へと繰り出した。よろず屋組は後ろで良牙の叫び声が聞こえた気がしたが、皆気付かないフリをして歩を進めた。

175: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:36:05.61 ID:DFpt0rPM0
かぶき町、通り。

神楽「で、まず誰から会いに行くアルか?」

銀時「そうだな、まずは右京に会いに行く」

新八「確か右京さんは町外れで黒駒の勝男さんが仕切ってる屋台村で働いてるんでしたっけ?」

銀時「ああ、ちょうど七三から良い屋台出せそうな人間いないかって話が来てたからな」

あかね「でも右京大丈夫なの?その人危ない人なんでしょ?」

176: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:39:14.96 ID:DFpt0rPM0
四人が歩いているとけたたましいサイレンの音と共に、何台ものパトカーとすれ違った。その最後尾のパトカーが銀時のもとに止まり、助手席の窓が開くと、黒い制服に身を包んだ美少年が声をかけてきた。

?「よぉ、よろず屋の旦那ぁ。今日はお供を連れてどちらまで?お、その見かけねえ嬢ちゃんは最近町賑わしてる奴等の一人ですかい?確か暴行と毒物製造の常習犯で『暴力毒料理』とか呼ばれてる――」

あかね「違います!って私そんな風に言われてるの?!」

彼の名前は沖田総悟。真選組一番隊隊長。剣の腕前が天才的な、サディスティック星の王子である。

銀時「別にこの町の人間なら誰だって危ねえよ。この警察官だって平気でバズーカ撃ってくるからね、スピード違反くらいで」

あかね「ハハハ……過激な人なんですね」

あかねが苦笑いで総悟に会釈する。

177: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:42:11.71 ID:DFpt0rPM0
新八「それより沖田さんどうしたんですか?このパトカーの数は」

沖田「それが今夜は大変でね。ロン毛の攘夷志士と新手の攘夷志士がタッグで現れたって通報に、天人のお偉いさんが二人組の男女に天誅されたって話。そのうえ町じゃホストやらキャバ嬢やらオカマやらが喧嘩してるってんで、動ける隊士総出で現場に向かってるんでさぁ」

沖田「旦那達、何か心当たりでもありませんかい?」

銀時「い、いやー相変わらず物騒だねこの町も。んー、でも特に心当たりないかな。ま、沖田君、今日も頑張って江戸の平和を守ってくれたまえ!」

一瞬嫌なものが頭をよぎった銀時であったが、激励の意味を込めて沖田の肩を叩き紛らわす。

178: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:44:40.62 ID:DFpt0rPM0
神楽「そうネ、さっさと逝くネ」

沖田「おい字が違うんじゃねえかチャイナ娘。てめぇが先に逝け馬鹿って今日は相手してる場合じゃねえんだぃ。まあ旦那、くれぐれもこんな日に暴れねえで下さいよ。それじゃ。おい神山、車出せ」

神山「はい、ドSバ……沖田隊長!」

沖田「お前今ドSバカって言おうとした?てめえ絶対まだ携帯の登録名変えてねえだろおい」

あかね「今の人、ムースの声に似てるわねぇ」

何やら一悶着ありそうだったがパトカーの窓は閉まり、そのまま車は走り去っていった。

179: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:48:22.04 ID:DFpt0rPM0
新八「銀さん、沖田さんが言ってた話って……」

銀時「十中八九、異世界組絡みだろうな」

あかね「まったくみんなったら、異世界来ても問題起こしちゃうなんて」

銀時「自分は違うみたいな雰囲気出してるけどお前も十分問題児だからね?」

新八「とにかく真選組に検挙される前に皆さんを回収しましょう!」

新八の言葉に皆力強く頷き、歩き始めようとしたその時であった。すぐ脇の裏路地から大きな物音が二つ響いたのであった。

180: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 21:49:49.51 ID:DFpt0rPM0
神楽「な、何アルか今の音?!」

神楽が裏路地に入っていく。

新八「ま、まずいって神楽ちゃん。こういう時は大抵めんどくさい話になってくるから無視して右京さんのところに……」

新八が神楽を追って裏路地に入り、物音の原因と思われる二人組を目にすると、銀時に声をかけた。

新八「銀さん、問題児一人発見しました」

それを聞いた銀時とあかねも裏路地に入っていく。そこにはどこからか落下したのであろうか、痛みに顔をしかめ、打ち付けた頭や腰を押さえ倒れている二人組がいた。

181: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 22:00:54.22 ID:DFpt0rPM0
あかね「ムースじゃない!も、もう一人の人は……忍者?」

?「こ、この匂いは……銀さん?!」

長いマフラーを巻いたくノ一姿の女性は痛みも気にせず立ち上がり、すぐ傍のゴミ箱に勢いよく抱き付いた。

銀時「俺はそんな臭いしてねええええ!!!」

銀時がゴミ箱ごとその女性を蹴り飛ばす。

?「ボロボロの人間にこの仕打ち……本当に銀さんだわ!ムース、銀さんよ!」

ムース「やったなさっちゃん!残念ながらおらは今ほとんど何も見えんが、幸せそうで何よりじゃ!」

182: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 22:03:09.99 ID:DFpt0rPM0
さっちゃんと呼ばれた女性の名前は猿飛あやめ。悪党専門の始末屋をしている超ド近眼くノ一である。ただ、今トレードマークでもある眼鏡を付けてはいなかった。ムースも同様だ。

新八「なんで超ド近眼コンビが眼鏡もかけずに外出歩いてんだぁぁぁ!!てかお前らだろ天人を天誅した二人組って!!もう警察動き出しちゃってるよ!それに眼鏡もかけずにそんなことすんなよっ!!」

ムース「いや何、簡単な話じゃ。眼鏡はかけておったんだが逃げる際にな、さっちゃんの納豆が原因でおら達の眼鏡が襲われたんじゃ」

あかね「ムース、全っ然簡単じゃないわその話。それとも私が馬鹿になったのかしら……」

あかねが心底不安そうに両手で頭を抱える。

183: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 22:08:12.13 ID:DFpt0rPM0
神楽「ははは、こんな話も分からないなんてあか姉も馬鹿アルな。つまりは納豆派の世界制覇を邪魔したい梅干し派の仕業ってことネ」

新八「大丈夫ですよあかねさん。馬鹿なのはこのド近眼コンビと神楽ちゃんです。そもそも銀さん、なんでムースさんをさっちゃんさんのところに派遣させたんですか?どう考えたって相性良くないでしょう」

新八がもう興味が無くなったように鼻をほじっている銀時を責めた。

銀時「いやぁ、ド近眼同士で生み出されるケミストリーを感じてみたくてつい」

新八「悲劇しか生んでないじゃないですか、一体どうすんですかこの化学反応!最悪のケミストリーですよ絶対売れませんよ!」

184: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 22:10:11.87 ID:DFpt0rPM0
ムース「新八!それは間違っているぞ!」

ムースが電柱にを指差し言った。

あかね「間違ってるのはあなたよムース」

ムース「おらとさっちゃんのコンビはかぶき町にて最強!そして何者も寄せ付けぬ相性の良さを誇っておるぞ!」

銀時「確かにまったく近寄りたくはないな、あぁあっと」

銀時はなおも鼻をほじりつつあくびをした。

185: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 22:11:39.03 ID:DFpt0rPM0
猿飛「悲劇など生んでいないわ新八君。そりゃ最初は銀さんが出張サービスで来てくれると思ってお金払って派遣をお願いしたわけだから少し悲しかったけれど」

銀時「人を●●●●みたいに言うな」

新八「言ってねえよ!アンタの思考が常にそっち方面行ってるだけだろ!」

猿飛「ド近眼ロン毛キャラが被ってる、銀さん以外の男が来た時はがっかりしたものだけれど。でもそれも銀さん特有の放置プレイなんだって気付いた時には興奮したわ!」

目を輝かせてゴミ箱に話しかけるさっちゃん。

神楽「こいつらは人と話す時はその人の方見なきゃダメって教わらなかったのか、二人には一体何が見えてるアルか?」

186: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 22:33:59.84 ID:DFpt0rPM0
猿飛「んでぇ、まぁちょっとムースと話してみたらぁ、結局なんかすっごく気が合っちゃってぇ!お互いとっても好きな人がいることとかぁ、恋に臆病で不器用なとことかぁ」

銀時「なんかその女子女子した喋り方うざいんですけど。それに恋に臆病なやつは人んちに不法侵入したりしないから。海賊王並みに勇気あっからそれ」

猿飛「ちなみにムースもその好きな子とは、直接暴力的なSMプレイを頻繁に行っているらしいの、そんなとこまで被ってたらもう意気投合するしかないじゃない?!」

銀時「ムース『も』ってなんだ『も』って!いつものアレ、プレイとかじゃないからな。本気で死んで欲しいと思っての攻撃だからな」

若干青筋をヒクヒクさせながら銀時がさっちゃんに言った。


187: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 22:39:22.92 ID:DFpt0rPM0
ムース「ということでな!今日も今日とて以心伝心の頼れるパートナーと、仕事を終えて帰宅途中というわけじゃ」

猿飛「そう、私たちは恋に仕事に一生懸命な、今を逞しく生きるかぶき町人!それにしてもごめんねムース。私だけ好きな人に出会えてしまえて。ホーホッホッホッホ!」

ムース「なーに、気にするなさっちゃん。だがおぬしらを見ていたらシャンプーに会いたくなっただ。今日はこの後シャンプーに会いにでも行こうかのぉ、ハァーハッハッハッハ!」

神楽「だからお前が見てるの電柱だけアル。さっちゃんの『さ』の字も見えてないネ」

高笑いする二人を尻目に、珍しく神楽が冷静に突っ込みを入れた。

銀時「そうかそうか、ムース君も猿飛さんと一緒で恋に仕事に頑張ってるわけか。うん!銀さんも仕事を紹介した身として安心したよ」

188: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 22:53:58.14 ID:DFpt0rPM0
ムース「いや、こちらこそこんな良い職場を与えてくれて感謝しておる。さっちゃんの忍術を取り入れることによって、おらの暗器使いも一段レベルが上がりもしたしな。フフ、ということで特別に、この一か月で体得した忍術との融合秘儀を見せてやろう!」

あかね「暗器と忍術の融合秘儀……?」

タダならぬ気配を感じてあかねが身を固くする。

ムース「秘儀!亀甲緊縛術ぅっ!」

一瞬にしてムースの両腕から放たれた縄の付いたナイフやヨーヨーにより、ムースの体は宙に浮かびながら、見事なまでの●●●りを体に受けていた。

新八「ってそれ忍術じゃねえよ!タダのSMプレイの一幕だよ馬鹿!なんて下品なものと融合させてんだ!技名聞いた時もしやと思ったけどやっぱそんなオチかいぃぃぃ!!」

189: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 22:57:53.13 ID:DFpt0rPM0
あかね「な、なんて早業なの?!」

新八「あかねさんもそんなことで驚かないで下さい!」

新八が忙しそうにムース、あかねと続いて突っ込む。

猿飛「流石はムースね。この短期間の間にここまで腕を上げるなんて、末恐ろしいわ……」

新八「こんなことで驚愕してるアンタが恐ろしいわ!」

銀時「いやぁ、惚れ惚れするくらいの早業。おまけに完成度の高い●●●りだねぇこれは」

ムース「おお!やはりお前にも分かるか銀時よ!」

190: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 22:58:44.42 ID:DFpt0rPM0
銀時「ってそんなこと言うわけねえだろこの馬鹿チンがぁぁぁ!!!」

銀時は宙に浮いているムースの頭を掴み、思いっきり電柱に打ち付けた。

ムース「があぁぁぁぁぁぁ!!!め、目の前が赤いっ!さてはまたも梅干し派の連中の攻撃かぁ?!」

あかね「ほ、本当に梅干し派の連中に襲われてたのっ?!」

新八「そこは気にしちゃダメですあかねさん!ていうか気にするとこそこぉ?!」

心配そうに胸に手を当てるあかねに新八が言う。

191: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 23:01:09.53 ID:DFpt0rPM0
銀時「何が恋に仕事に頑張ってるだぁ?!丸の内のデキるOL気取りかグータンヌーボーかこの野郎!そこじゃなくて鏡の調査を頑張れよぉぉぉぉ!!!」

痛みに喘いでいるムースはその言葉を聞くと、何もなかったかのようにあぐら座りをし、ポンっと手を叩いた。

ムース「おお!そうじゃったそうじゃった!充実した毎日を送っていたらそんなことすっかり忘れておったわ。そろそろまた始めんとな」

銀時「忘れてたじゃねえよ!そっちが丸の内OLごっこして充実してる間も、こちとら朝から晩まで死んだ顔で鏡の調査してたってのによ!」

あかね「いえ、どちらかっていうと死んだ魚のような目だったわ」

192: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 23:04:50.13 ID:DFpt0rPM0
新八「あかねさん、少し黙っててください」

神楽「私は丸の内OLごっこじゃなくグータンヌーボーごっこしたいアル、あのソファに座りたいアル」

新八「神楽ちゃんもね」

あかねと神楽の戯言に新八がストップをかける。

銀時「まあ分かったなら明日からまた鏡の調査だ!今日はこのあとお前の仲間たちを集めて作戦会議だからな、先にババアのとこ戻ってろ!もう良牙が待ってっから」

新八「銀さん、先に戻ってろって大丈夫なんですか?先も何も見えないこの人達だけで行かせたらいつ着くか、それに警察に捕まってしまうかもしれませんよ?」

194: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 23:05:32.60 ID:DFpt0rPM0
銀時「その点は大丈夫だ。おい、腐れストーカー!」

さっちゃん「何かしら銀さん!」

銀時に呼ばれて、嬉しそうに腐れストーカーは両手を上げた。

銀時「お前なら俺の匂いを辿っていつものように屋根伝いによろず屋まで行けるだろ。その下の飲み屋で大人しく待ってろ」

さっちゃん「いや!銀さんったら匂いだけでウチに辿り着けなんて、まるでどこぞの王様みたいに横暴なのね!もう!何よそれ!」

あかね「銀さん、流石に今の言い方は女の子にはきつかったんじゃ……」

195: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 23:08:04.56 ID:DFpt0rPM0
さっちゃん「最っっっっ高じゃない!!その上放置プレイだなんてオプションまで着いてくるなんて!今夜は寝かさないんだからね!」

銀時「いや寝ろ、ムースを送り届けた瞬間に永眠しろ。あーったく、鬱陶しいからさっさと行きやがれ」

さっちゃん「分かったわ銀さん、もう本当にせっかちなんだからぁん。じゃあ行くわよムース!銀さんの布団の匂いを辿って!」

ムース「了解じゃ、さっちゃん!とうっ!」

二人は仲良くゴミ箱に突っ込んだ。

銀時「だから俺はそんな臭いはしてねええええ!!!!」

196: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/25(土) 23:08:47.02 ID:DFpt0rPM0
神楽「もう行くネ、チンタラやってたら朝になっちゃうヨ。睡眠不足はお肌の敵アル」

あかね「そうね、神楽ちゃん。はぁ……」

新八「初っ端からこんなに疲れるとは……」

ゴミ箱に突っ込んだ二人を蹴り付ける銀時を背中に、三人は夜の通りに再びくり出したのであった。

203: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 22:46:56.92 ID:nX8LmTUf0
かぶき町、屋台村。

新八「いやぁ!凄い賑わいですね!」

あかね「なんだかお祭りみたいで私ウキウキしてきちゃった!」

銀時「っかぁ、すげえ人だな」

神楽「うぉぉぉ!銀ちゃん私あの肉の串食べたいネ!突撃するアル!」

そこには通りの左右を隙間無く、ぎらぎらと輝く屋台が並んでいた。どの店からも美味しそうな匂いと煙が漂い、それにつられて沢山の人がこの屋台村につめかけていた。

204: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 22:48:53.31 ID:nX8LmTUf0
新八「あ、神楽ちゃん!そんな走ったら人にぶつかっちゃう――」

神楽「イテっ!」

新八が神楽に注意しようと声をかけるも時すでに遅く、強面三人組の一人にぶつかってしまっていた。

チンピラA「うおおおおおおお!!!!いてぇぇぇぇぇぇ!!!かあちゃぁぁぁぁん!!!いてぇよぉぉぉぉぉ!!!!折れた、こりゃ確実に折れたぁぁぁぁ!!!!」

ぶつかった男は大げさに腕を抑えて転がり回った。

チンピラB「てめえこのクソガキがぁぁぁ!!!」

痛がる男の連れが、ドスを効かせた声で怒鳴る。

205: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 22:49:40.36 ID:nX8LmTUf0
銀時「あーあ、言わんこっちゃねえや」

あかね「そんな暢気なこと言ってないで助けないと銀さん!神楽ちゃん絡まれてる!」

そう言うやいなや、あかねは男達の中に飛び込んだ。

あかね「ちょっと!軽くぶつかったくらいで骨が折れるわけないじゃない!何言いがかりつけてるのよ!」

チンピラB「何言いやがる女!こいつはなぁ、骨密度が異常に低くてちょっと触れたくらいで簡単に骨が折れちまうんだよ!」

206: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 22:50:58.55 ID:nX8LmTUf0
あかね「そんなカルシウム不足連れてこんな人混み来るのが悪いんじゃ――」

チンピラC「てめえらからぶつかっといてなんて言い草だ!ったく、こうなったら慰謝料だ!慰謝料よこせや!」

チンピラA「もう投げれねえよぉ、こんな腕じゃあのスライダーはもう投げれねえよぉぉぉ!!野球できねえよ!!もう生きてたって!生きてたって!!」

チンピラB「ああよしよし。俺達がこいつ等からがっぽり慰謝料もらってやっから!その金でアメリカで手術しようなぁ!」

あかね「そ、そんな……そんな凄い野球選手だったなんて……」

勢い良く飛び込んだあかねだったが、頭が弱いせいで三人の男達に丸め込まれようとしていた。

207: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 22:51:45.58 ID:nX8LmTUf0
神楽「そこまで言うんだったらいっそ私が楽にしてやるネ。お前はもう生きていなくていい、私はお金払わない。WINWINな関係の成立アル」

チンピラA「いやそれ全然WINWINな関係じゃねえよ!!俺が一方的に殺されただけだよきっちり勝敗ついちゃったよ!ただWINWINな関係って言ってみたかっただけだろお前!」

神楽「チッ、ばれたネ。なんかグータンヌーボーで、行きずりの男と体の関係持つってお互いWINWINな関係って言ってたから私も言ってみたかったアル」

チンピラA「行きずりの男と体の関係ってそうじゃねえよ!」

あかね「なんだぁ、意外と元気じゃないあなた。そんな元気があるなら大丈夫!もう一度野球、頑張ってみよ?私も応援するから、ね?」

あかねが膝をつくAと同じ目線にしゃがみ込み、素敵な微笑みを浮かべ肩に優しく手をかけた。

208: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 22:53:44.62 ID:nX8LmTUf0
チンピラA「じょ、嬢ちゃん……そ、そうだな、俺もう一度!もう一度頑張ってみるよ!そしてア、アンタを、甲子園に連れてってやんよ!」

Aがはにかんだ笑顔で、頬を赤くしながら言った。

あかね「フフフ、嬉しい。待ってるね、たっちゃ――」

新八「ストォォォォォップ!!!!野球の話になった時やばいかなと思ったら案の定だよコンチクショウ!そういう危険球は止めてください!そんな往年の名作使ってボケてたら僕等なんか簡単に潰されちゃいますよ?!」

あかね「あれ?私の意志とは別に、知らない人の名前が口から……」

遠目に見ていた新八が、これはまずいと思いあかねを止めた。

209: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 22:56:44.46 ID:nX8LmTUf0
チンピラB「てめえも何再起を誓ってんだよ?!どん底から這い上がるお前の野球人生なんてどうでも良いんだよてかそんな物語始まらねえよ!さっさと金ふんだくってずらからるぞ!早くしねえとあいつらが来ちまうだろ?!」

チンピラA「す、すまん。彼女の声と笑顔が今の設定上、恐ろしいくらい魅力的に感じられて……」

銀時「あっれー、今金ふんだくってって言ったぁ?設定って言ったぁ?まるで当たり屋みたいなこと言うんですねぇ、お兄さん方ぁ」

それまで黙って見ていた銀時も、Bの言葉尻を捕らえて輪に入って来る。

チンピラC「い、今のはちげえよ!そういう意味で言ったんじゃないんですぅ!」

そんな中、身振り手振りを交えて子供じみた言い訳をするCの腕が、軽く銀時に当たってしまう。

210: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:00:24.88 ID:nX8LmTUf0
銀時「いってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!折れたぁぁぁぁぁぁ!!!もう打てねえ!!!アイツの球をバックスクリーンにぶち込むができねえぇぇぇぇ!!!」

銀時も勢い良くひっくり返り、腕を押さえ転がり回った。

新八「お前もやるんかいぃぃぃぃ!!!てかこの当たり屋返し前やったんだからやるなよ!四天王編の序盤でやってたからっ!それにわざわざ同じフィールド立つなぁぁぁ!!!なんなの?!ライバルだったのっ?!」

神楽「銀ちゃんの●●の●●なら私がバックスクリーンにぶち込んでやるネ、それでWINWINネ」

新八「お前はもうWINWIN止めろぉっ!絶対意味分かってないだろっ!」

211: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:05:16.76 ID:nX8LmTUf0
銀時「俺も応援してくれ南ちゃぁぁぁぁぁん!!!」

新八「だから名前は伏せろぉぉぉぉ!!!」

あかね「ごめんなさい銀さん。私なんだか、バッターよりピッチャーを応援してあげなきゃいけない気がしてるの」

銀時「え、マジか……」

新八「本気で落ち込むなよ!どれだけ期待してたんだよ?!」

?「おうおうお前ら!天下の往来でさっきから何喚きちらしとんのじゃボケェェェ!!シバキ回すぞコラァ?!」

馬鹿騒ぎする銀時達の背後から、関西弁の男の声が響いた。

212: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:10:40.76 ID:nX8LmTUf0
チンピラA「こ、こいつは!かぶき町の暴君……」

チンピラB「黒駒の勝男ぉ?!」

チンピラC「や、やべえ!逃げろぉっ!」

声の主の姿を見ると、三人の男たちは先程までの威勢もなんのその、怯えながら走り去っていった。

そのチンピラ達を一瞬で怯えさせた七三分けが印象的な男の名前は黒駒勝男。溝鼠組の若頭で、現かぶき町四天王の一人である。愛犬の名前はメルちゃん。

213: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:12:42.54 ID:nX8LmTUf0
あかね「ね、ねえピッチャーさぁん!あなた腕大丈夫なのぉ?!」

勝男「何きっちりオチまで付けて道の真ん中でコントやっとんじゃい劇団天然パーマ!」

銀時「おう、なんかポマードくせえと思ったらいたのかい、七三」

銀時は傍の電柱に寄りかかりながら、ニヒルな表情で言った。

勝男「何お前今の当たり屋コント無かったかのように振る舞ってんの?!お前が転げ回る辺りからずっと見とったからな?!何その久し振りにライバルに会ったみたいなクールな切り返し!なんか服に土付いとるからね?!」

今までの醜態をリセットして話を進めたい銀時であったがそうはいかなかった。

214: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:16:07.24 ID:nX8LmTUf0
銀時「こ、これは土じゃねえよ。あれだよ、球児達の汗と努力の結晶的なやつだよ」

勝男「まだその設定引きずるんかい!お前が南ちゃんに素っ気なくされてんのも見てたからな?!わざわざ自分から傷口に塩塗るなや!ナメクジだったら消滅してるレベルの塗り方やぞそれ!」

神楽「もうこれ以上銀ちゃんを苛めないであげてよ七さん」

勝男「七さんって誰の名前じゃ!俺の名前は黒駒勝男で髪型が七三なだけや!」

新八「そ、それはそうと勝男さんはここで何していたんですか?」

話が進まないと思った新八は、無理矢理に話題を変えた。

215: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:19:46.37 ID:nX8LmTUf0
勝男「ああ?何って巡回に決まってるやろ坊主。この屋台村は今のワシらにとっての大事な資金源なんじゃ。そこでお前らみたいなタチの悪いもんに騒がれてみぃ、あっちゅう間に一般のお客さんいのぉなってしまうやろ」

神楽「タチが悪いってなんだよ七さん。私をこの当たり屋天パと一緒にするんじゃないネ。私はただアイツにトドメ差そうとしてただけアル」

勝男「はぁ?!当たり屋なんかより全然タチ悪いやん!シャバに出て来ちゃマズい奴やんけお前!さっさと帰れぇぇぇ!!」

あかね「ちょっと待ってください、カツオさん!話を聞いてください!」

あかねがすかさず勝男を止めに入る。

216: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:21:13.04 ID:nX8LmTUf0
勝男「うん、お嬢ちゃんはこの中でもマシな方に見えるから話聞いてやってもええで。でもな、カタカナでワシ呼ぶの止めてくれる?それだと日曜夜六時半思い出すねん、なんか気分めっちゃ重なんねん。で、何よ話って」

あかね「ありがとうございます。実は私達、ここの屋台で働いてるっていう右京に会いに来たんです。会って話したらすぐ帰りますから、どこにいるか教えてくれませんか?」

勝男「おお?お前らなん――」

?「あらー!あかねちゃんやないの!銀さん達まで!今日はどしたん?こないなとこ来るの珍しいやん!」

あかね達が声のする方を見ると、左右で白と黒とで色の違う着物を着た右京が手を振って立っていた。すると勝男が大声を上げて頭を下げた。

217: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:23:42.62 ID:nX8LmTUf0
勝男「姉さん!今日もお疲れ様ですっ!」

それに習ったかのように屋台で働く店員達も

おっさん一同「お疲れ様ですっ!姉さん!」

頭を下げ、右京の姿を見た通りのおっさん達も

おっさん一同「お疲れ様ですっ!姉さん!」

一様に頭を下げた。その様子はまるで、海を割り歩くモーセの様だったと後に新八は語る。

銀新神あ「……」

新八「……な、なんか極妻みたいな人来たぁぁぁぁぁぁ!!!」

218: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:26:21.04 ID:nX8LmTUf0
右京「もうちょっとみんな止めてぇや。お客さんもおんねやから、さっさと仕事に戻りぃやぁ!」

周りの対応に驚きもせず、右京はにっこりと笑って周囲に声をかけた。

おっさんA「はい、姉さん!喜んで!」

おっさんB「合点です姉さん!」

おっさんC「姉さん!あとでウチのたこ焼きもらってってくだせえ!」

おっさんD「姉さん!今日も綺麗だねえ!」

おっさんE「姉さ――」

新八「おっさんのセリフこんなに拾わんでいいわぁぁ!!」

右京の一声で皆は先程までの活気を取り戻し、いやそれ以上の勢いを持って営業を再開した。

219: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:28:34.51 ID:nX8LmTUf0
銀時「おい右京、これ一体どうなってんのよ。確かにヤクザが経営する屋台村に派遣させたけどさ、何?嫁いじゃったの?妻たちの一人になったの?」

右京「ちょっと銀さん何言うのよ、私が乱ちゃん以外と結婚するわけないやんかもう」

困惑する銀時に右京が笑って答える。

勝男「おいよろず屋ぁ、ワシらの姉さんに何気安く声かけてんねん?その口の利き方直さんと、いつかみたいにゴミ箱詰めてコンクリかけてまうでぇ!」

おっさんF「ホンマじゃボケェ!ナメた口聞いてるといてまうどコラァ!」

220: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:31:22.79 ID:nX8LmTUf0
おっさんG「誰に向かってその鼻の下の●●穴開いとんじゃいクソがぁ!」

おっさんH「覚悟は出来とんのかワレェ!」

銀時「す、すいませんしたぁ!なんか軽口聞いちゃってすいませんしたぁ!なんかこの眼鏡がそういうテンションで喋れって言うんでぇ!じゃないとお前を眼鏡掛け機にしてやろうかぁって脅してくるんで仕方なくてぇ!」

新八「ちょ!ちょっとぉぉ!!僕全然そんな事言ってないでしょぉ!だいたい眼鏡掛け機にしてやろうかなんて脅しでもなんでもないだろ!てかなんでちょっと蝋人形にしてやろうか風なんですか!」

いつものノリで話しかけた銀時に勝男を始め、四方八方からヤクザの罵倒が飛んでくる。

221: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:34:15.45 ID:nX8LmTUf0
右京「ちょっとみんな、この人らは私の友達で今の仕事紹介してくれた恩人さんなんやで。そんなきつく当たらんといてや」

勝男「すいませんしたぁ!姉さん!」

右京がたしなめると、勝男と男達は即座に右京に、そして銀時達に頭を下げた。

新八「い、一体この一か月の間に何があったんですか?あの溝鼠組がここまで右京さんに心酔してるってちょっとただ事じゃないですよ?!」

何があったか分からない新八が不気味そうに銀時に尋ねる。

銀時「そんなもん俺が知るかよ、ただ何事かあったのは確かだろ。ここは穏便に聞き出せ新八。無遠慮な物言いだと、いつまたこの辺のヤクザ共が吠え出すか分からんからな」

銀時が周りに聞こえないように新八に耳打ちをする。

222: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:47:50.09 ID:nX8LmTUf0
神楽「どうして右京はこのヤクザ共にこんなに慕われてるアルか?もしやアレか?体をうまいこと使ってガンガンのし上がったアルか?WINWINな関係アルか?」

新八「最悪の爆弾ぶっこんできたぁぁぁぁぁぁ!!!だからもうWINWIN使うなって言っただろ!しかも最悪のタイミングで使っちゃったよどうすんだよこれぇぇぇ!」

周囲の空気が張り詰めるのを銀時、新八は確かに感じた。勝男達ヤクザ軍団の眉間の皺はとんでもなく深くなり、湯気が上がる程の怒りのオーラが彼らを包んでいた。

銀時「あ、そうだ。今夜の金曜ロードショー紅の豚じゃん。やべ、録画すんの忘れちゃったよ。つーことで先に帰ってるから、じゃ」

新八「この状況で逃がすかぁぁぁ!!だいたい今日火曜だよ!吐くんならもう少しまともな嘘吐けよ!!」

背を向けこの場から退散しようとしていた銀時を、新八が背後から抱き付いて止める。

223: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:49:26.73 ID:nX8LmTUf0
右京「まったく神楽ちゃん、そんな言葉どこで覚えたん?そういう事は子供のうちは言ったらアカンで。ちなみに私は特に何もしてへんのよ。いつも通りにお好み焼きを焼いて、半端なことする奴にはヤキ入れてってやってただけやねん。それを勝男さん達が姉さん姉さんって言うもんやから、ウチもちょっと気恥ずかしいねん」

右京がペロッと舌を出して照れ臭そうに笑った。

神楽「おお、そうだったアルか。腕一本でのし上がったアルな、カッコいいアル。キャリアウーマンネ、グータンヌーボー出る資格のある女ネ」

右京「そんなカッコいいモンちゃうよ。あー、それとみんな。子供の言ったコトやねんからいちいち目くじら立てんといてな」

勝男「はい!姉さん!」

勝男たちから発散されていた怒りのオーラがみるみると霧散していく様子に、ようやく人心地着く銀時と新八であった。

224: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:50:30.56 ID:nX8LmTUf0
銀時「た、助かった……」

新八「本気で東京湾コースかと思っちゃいましたよ……」

あかね「で、カッツォさん達は実のところなんでそんなに右京を慕っているの?」

勝男「カッツォってどこのイタリア人やねんボケ。嬢ちゃんもしかしてアレか?見た目まともだけど結構頭イッてんの?まあええわ。最初はこのアホよろず屋の紹介やからどんなアホが来るか思って正直あまり期待してなかったんやけどな」

勝男は右京が来たばかりの時を思い出すように、少し遠い目をして語り出した。

225: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/28(火) 23:59:03.59 ID:nX8LmTUf0
勝男「それが並居る人気店を押さえ仕事初日にしてこの屋台村で売り上げ一位。あとはこの喧嘩っ早いアホ共の喧嘩の仲裁。それも見事と言わざるを得ない手際やった。他には敵対勢力との抗争では先陣切って相手に突っ込み、組員を守りながら相手の大将にヤキ入れとった」

勝男の話を黙って聞くよろず屋組であったが、目をキラキラ輝かせながら右京の武勇伝を聞く神楽とは対照的に、銀時、新八の表情は暗いものであった。

新八「なんで良牙さんといい、この人達は本編と関係ないところでそんなにドラマチックに生きてんすか……てかまたもや本編より面白そうじゃないですかこの話……」

勝男「そして極め付けはメルちゃんがまた妊娠したんやけど、そん時にメルちゃん体弱って大変やったんやぁ。そこで姉さんは三日三晩寝ずにメルちゃんに付いてくれて無事出産を済ませてくれたっちゅう話や」

226: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/29(水) 00:00:29.01 ID:vNKHSeKA0
勝男「もうその頃には気付いたら皆姉さん姉さんと呼んでおったわ。で、ワシもメルちゃんの件以来、姉さんの下に付こう思ての、おまけにお礼として今来ている着物をプレゼントさせてもらったわけ。ま、このまま順調にいけば、溝鼠組を姉さんが率いるのもそう遠くない話やろな」

右京「ちょっと勝男さん、なんか恥ずかしいから止めてぇや。それに組継ぐ気なんてあらへんよ。私はお好み焼きが焼けて、乱ちゃんが傍におればそれだけで良いんやから」

勝男「……ね、姉さん!そんなこと中々言えるもんじゃあらへんで。ああもう!一生ついて行かせて下さい!」

右京「まったく大げさやねんから勝男さんは。で、あかねちゃん達は今日は何用やったんや?」

右京があかねに質問すると、あかねは銀時に視線を向けた。

227: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/29(水) 00:05:06.92 ID:vNKHSeKA0
銀時「言えねえよぉぉ!!こんな状況で現実見ろ鏡の調査再開しろボケェなんて言えねえよ!さっきのムースの時みたいなテンションで言えるわけないじゃん!」

銀時が新八にだけ聞こえるように小声で怒鳴りつける。

新八「そんなん僕に言われたってどうにも出来ないですよ!でもさっき言ってたじゃないですか、ガツンと言ってやるって。頑張ってください銀さん、ここが男の見せ所ですよ!」

新八は応援の意味を込めて拳を強く握って銀時に見せた。

銀時「そうは言ってもよぉ……」

銀時がどう穏便に伝えようか頭をフル回転させていると、神楽が先に喋り出した。

228: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/29(水) 00:06:16.11 ID:vNKHSeKA0
神楽「実はな、銀ちゃん右京に『さっさと鏡の調査始めろやボケェェェ!!何いつまでチンタラお好み焼き焼いてんねん!!いてまうどコラァァァ!!』って言いに来たネ」

新八「何言ってくれちゃってんだお前はぁぁぁぁ!!いい加減空気読んで発言することを学べぇぇぇ!!」

神楽「銀ちゃんなんだか言いにくそうだったから私が代わりに言ってあげたネ。フフ、別に恩に着ることは無いからネ」

神楽は褒めてくれと言わんばかりに銀時に無邪気な笑顔を向けた。

銀時「恩に着ることは無いから安心しろ神楽。むしろこの木刀でお前を斬りたい、出来るならKillしたいくらいだから」

再び不穏な空気が立ち込める中、右京が思い出したように手をポンと叩いた。

229: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/29(水) 00:07:43.49 ID:vNKHSeKA0
右京「そういやそうやったな!色々あり過ぎてついつい忘れとったわ鏡のこと!」

あかね「そりゃそんな色々あったら忘れもするでしょうね……」

勝男「鏡ってなんのことですかい姉さん?」

事情を知らない勝男が右京に質問する。

右京「まあ信じられない話かもしれないんやけど『かくかくしかじか』なわけでな、その鏡探さないかんねん」

勝男「そ、そんな!ってことはその鏡を見つけたら、姉さん元いた世界に帰ってしまうってことやないですかい?!」

あかね「結構すんなり信じてもらえるのね……」

勝男の態度に素直に驚くあかねであった。

230: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/29(水) 00:09:04.05 ID:vNKHSeKA0
右京「ウチもここ離れるのは寂しいけど仕方ないことや。色々と残してきたモン向こうにあるし。お好み焼きがあって乱ちゃんがいる今の生活も捨てがたいんやけど、やっぱ納まるモンは納まるべきトコがある。だから私は鏡を見つけて帰らないかんねん」

おっさんI「か、帰らないでくださいよ姉さん!」

おっさんJ「お、俺!姉さんがいない生活なんて想像できねえ!帰んねえで下せえよぉぉ!!」

おっさんK「やだぁぁぁ!!!姉さんがいなくなるなんて嫌だぁぁぁぁ!!!」

通りのそこかしこから右京を惜しむ声がし、中には泣き出す者もいるくらいであった。勝男も何も言いはしないが、その表情は悲しみに暮れていた。

右京「大の大人たちがピーピー泣くもんじゃあらへん!」

右京が怒鳴ると、辺りの男達は一瞬で声を上げるのを止めた。そしてゆっくりと、優しく右京は言葉を続けた。

231: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/29(水) 00:11:38.53 ID:vNKHSeKA0
右京「ウチかて寂しいしみんなとも離れたないねん。でもな、分かるやろ?人間帰る場所があるんなら、いつかはそこに帰らないかんねん。だから、この世界で帰る場所を作ってくれたみんなにはとっても感謝しとる。ホンマにありがとうな。で、私はこの後無事向こうに帰ってな。たまにみんなのこと、異世界の帰る場所のことを思い出すねん」

銀時「アレ、なんだろう?目から汗出そうなんだけど。野球し過ぎたせいかなこれ」

辺りのヤクザ同様、銀時の目にも水分が溜まっていた。

右京「みんな元気しとるかなとか、メルちゃん病気してないかなとか。そんで私はいつかまたここに帰ってくんねん。ここも私の帰る場所の一つやから。ま、言うても鏡見つかるまでどんくらいかかるか分からんし、すぐ向こう帰るってわけでもないから当分はまだ、みんなよろしくな!」

232: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/29(水) 00:13:43.20 ID:vNKHSeKA0
おっさんL「姉さんんんん!!!!うおぉぉぉ!!!」

おっさんM「悲しいけど!悲しいけど!全力で応援させていただきやす!!」

おっさんN「うわぁぁぁぁ!!!涙が!涙が止まらねえ!!」

勝男「この溝鼠組!全身全霊で姉さんをサポートするでぇぇぇ!!!」

銀時「右京!!アンタ最高だよっ!!よ!日本一!」

新八「何アンタまで混じって泣いてんすか!!まあ気持ちは分からなくはないですけと、僕も正直ウルってますけども」

右京「ま、そういうわけでお好み焼き屋は当分休業かな。勝男さん、この着物、私が戻るまでとっといて!」

右京が着物をばさりと脱ぐと、下にはいつものお祭り風の服が現れる。

233: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/29(水) 00:16:35.37 ID:vNKHSeKA0
右京「その着物も好きなんやけど、やっぱ私にはこれが一番かな」

そう笑うと右京は、男泣きしている勝男に着物を渡す。

あかね「じゃあ右京。スナックお登勢で待っててもらえる?先に良牙君やムースが待ってるはずだから」

右京「了解やあかねちゃん。じゃあみんな、ほなな」

右京は振り向きながらそう言うと、目を閉じながら片手を上げた。

234: ◆sT.xLigL/Q 2015/07/29(水) 00:18:06.40 ID:vNKHSeKA0
神楽「かっけえアル!!今のすんげえかっけえアル!!」

新八「渋いよ、渋すぎるよ!あんなキャラなんでしたっけ右京さんて?とにかくかっけえよ!ずりいよ!」

銀時「右京!憎いねこの野郎!よっ!」

あかね「銀さん、それなんだか古くないかしら……」

屋台村の右京コールはその後、暫く鳴り止むことはなかったという。

241: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:05:45.47 ID:zt9i67Bw0
かぶき町、通り。

神楽「銀ちゃん、次はどの馬鹿に会いに行くアルか?」

屋台村を後にした一行は、夜のかぶき町を歩いていた。

銀時「……とうとうボス戦だ」

神楽「へ?」

銀時「ホストキャバ嬢オカマ達が騒いでるってドSが言ってたろ?その爆心地に向かう。そこに残りの異世界組もいるだろうからな」

状況が良く分かっていない神楽に、銀時が思い詰めた表情で語る。

242: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:07:12.02 ID:zt9i67Bw0
神楽「それの何がボス戦アルか?」

新八「その辺りで騒いでいる人達の事を想像するだけで気分が重くなりますね……おまけに真選組までいるっていうんだから、ハハハ……」

神楽「ああ!そういう事アルか!確かに濃いーメンツが揃ってそうアルな、オラワクワクしてきたゾ!」

銀時「そう言うんならちょっと一人で行って来てくれない?お前の戦闘力なら心配ないだろうから、ヤムチャくらいなら一撃でいけそうだろうからお前なら」

あかね「そ、そんなに危険な人達がいっぱいいるとこなの?」

かぶき町の住人にあまり詳しくないあかねが心配そうに尋ねる。

243: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:11:23.70 ID:zt9i67Bw0
銀時「腐るほどいるな。まあでもこのパーティーなら大丈夫なんじゃね?ニート侍♂にクソ強い格闘家♀二人、眼鏡♂が一つ。これで駄目ならもう一度レベル上げしてまた別の日に挑もう。てかもうなんなら諦めても良い気がしてきたわ」

新八「おいちょっと待てぇぇぇ!!今パーティーにさらっと無機物入ってたんですけど?!それって僕のこと?!ねえ!僕のことですか?!」

神楽「落ち着くアル新八。銀ちゃんはお前が眼鏡って意味じゃなくて職業的な意味で眼鏡って言っただけネ」

新八「職業眼鏡ってなんだぁぁぁ!!そんな職業で今から歴代魔王ばっかみたいなパーティーと戦いたくないわぁぁ!!ちょっと僕ダーマ行ってきますから!!」

銀時「待て待て新八、行っても無駄だぞ。お前、まだ全然レベル足りてないから。お前がなれるとしたらこのままレベル30で魔法使いくらいだから」

新八「それどういう意味で言ってんすか銀さん。僕が30歳になるまで●●のままって話してんすか?」

神楽「あ!テレビカメラが来てるネ!」

青筋の入った新八の突っ込みを無視し、神楽がテレビ番組の取材クルーを発見し興奮しながら指を差す。

244: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:31:44.15 ID:zt9i67Bw0
銀時「お、ホントだ。誰来てんの?結野アナ?結野アナ来てんの?」

新八「あ、あのお店、幾松さんのラーメン屋さんじゃないですか!すごいなぁ、テレビに取材されるくらい有名になったんですね」

新八が店を見ながら感慨にふけって言った。その間僅か数秒であったが、三人に視線を戻すと全員の着替えは終了していた。

銀時「よし、今日は幾松のところでラーメンを食べよう。新八君、まだ僕等夕飯食べてないもんな。よし、行こう。ものっそい常連ですみたいな顔で行こう、まあ普通に常連なんでそんな顔する必要もないんだがそういう雰囲気で行こう。あかね、蝶ネクタイずれていないか?」

タキシードに赤い蝶ネクタイを付けた銀時が、あかねにネクタイのずれを確認する。

245: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:32:41.71 ID:zt9i67Bw0
あかね「ずれてないわ、大丈夫よ銀さん。それより私のこの恰好、どうかな?最近ずっと和服で洋服久し振りだから、なんか変じゃない?」

白い帽子に、可愛らしい白のワンピース姿のあかねが銀時に聞き返す。

銀時「そちらも問題ない。さわやか夏コーデって感じで問題ない」

新八「問題ありまくりだお前らぁぁぁぁ!!!何おめかししてんだよテレビに映る気満々じゃねえかよ!僕等急いでるんでしょう?こんなとこで常連面してテレビに映ってる場合じゃないですから!それにあかねさん、ラーメン食べるのにその色のチョイスは問題ありですよ!」

あかね「ハッ!ス、スープのシミが目立ちやすい……!」

あかねがその事実に気付き頭を抱える。

246: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:37:42.14 ID:zt9i67Bw0
神楽「はーい、それでは一旦CMでーす」

タモリ風衣装の神楽がマイクで喋る。

新八「お前に至っては何を狙ってるんだぁぁぁ!!まだオシャレして張り切るとかなら分かるけどなんでタモさんになってんだよ意味分かんないよ!何?!フジのお昼枠でも狙ってるの?!」

神楽「グラさんて呼んでくれるかな?」

新八「いいともぉ!なんて言うわけないだろぉ!」

銀時「おいぱっつぁん、まあそう固いこと言うなって。飯食ってないのは事実なんだしよ。ボス戦前にいっちょ腹ごしらえでもして気合い入れ直そうぜ?」

新八「確かにお腹はすごい減ってますけど……はあ、じゃあちゃちゃっと食べて行きますか!腹が減っては戦は出来ないって言いますしね」

神楽「はーい、それでは一旦ラーメン屋でーす」

247: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:39:34.75 ID:zt9i67Bw0
ラーメン屋、北斗心軒。

?「おお!銀時ではないか!こんなところで奇遇だな!」

銀時「よし、帰ろう」

一行が店に入ると、カメラを向けられラーメンを啜る長髪の男が銀時に気付き声を掛けてきた。

神楽「またここ来てたアルかヅラァ!それに何キャメラ独占してるアル?私もキャメラ独占してウインクとかしたいネ!」

桂「ヅラじゃない、桂だ」

神楽がヅラと呼んだ男の名前は桂小太郎。銀時らと攘夷戦争を共に戦った戦友で、今も攘夷志士として日々戦いを続けている。

248: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:42:27.49 ID:zt9i67Bw0
?「おお!天道あかねではないか!僕を追ってここまで来たのか!いや、なんとも可愛い奴め!」

桂の横に立っていた男はあかねの姿を見ると、一瞬で彼女の肩を抱いた。

あかね「く、九能先輩!こんなところで一体何を?!それに無事だったんですね!そして離れて下さい!」

あかねは言うだけ言うと返答も待たず、九能の顔面に思い切り拳をめり込ませた。

新八「二大馬鹿が夢の競演しちゃってますよ、馬鹿の祭典バカリンピック開催しちゃってますよ銀さん。ここは帰りましょう、こんなところで無駄に体力を削っている場合じゃないです今は」

銀時「ああ、撤退だ。さっさと店出るぞ新八」

249: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:44:12.06 ID:zt9i67Bw0
桂「九能君、花野アナ。彼の名前は坂田銀時。攘夷戦争時代は白夜叉として恐れられた歴戦の攘夷志士だ。そして俺の戦友、攘夷友達でもある」

銀時「飲み友達みたいな感じで紹介するな」

今までの流れも気にせず、桂は九能とレポーターの女性、花野アナに銀時を紹介した。

九能「おお!貴方があの『白夜叉』だったとは!初めて会った時は死んだ魚のような眼をしたダメ人間だと思っていたが、それ程までに有名な攘夷志士の大先輩だったとは!これは失礼なことを。いや、とんだご無礼を」

銀時「うん、思ってただけなら言わなきゃ良かったよね今の。言ったことによって失礼がばれたわけだからね」

花野「おーっと!ここで桂さんの戦友であり、今話題の新進気鋭の攘夷志士、九能さんの尊敬する先輩志士の登場だぁー!よくここで攘夷志士の会合が開かれるのですか?」

銀時がテンションの高い花野アナにマイクと、そしてクルーにカメラを向けられる。

250: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:48:17.06 ID:zt9i67Bw0
銀時「ちょっと待てヅラ。これなんの撮影なの?確認なんだけど北斗心軒の撮影なんだよね?ラーメンの取材なんだよね?」

するとここで今まで黙っていた北斗心軒女店主、幾松がムスッとした顔で口を開いた。

幾松「それが違うんだとよ銀さん。そこの若い兄ちゃん、『蒼い雷』さんの密着取材なんだってさ。ったく、二回目ともなるともうどうでも良くなっちまうもんだね。で、何頼むんだい?」

銀時「おいヅラァァァ!!何勝手にそんな取材で人のこと攘夷志士とか紹介してくれちゃってんだよ馬鹿野郎!もう今はそういうのとは関係ない一般人なんだよ俺は!警察にマークでもされたらどうしてくれんだよ!」

新八「もうとっくにマークされてるんでその辺の心配はいらないと思いますよ」

桂の襟首を締め上げながら銀時が抗議する。

251: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:49:46.46 ID:zt9i67Bw0
銀時「ちゃんと放送の時にピー音とかモザイクとか入れてくれんのこれ?」

花野「編集入るんで大丈夫です。もうなんなら全身モザイクの全音声ピーでもいけます」

銀時「人のこと全身●●みたいな表現すんなぁ!」

花野「あなたが聞いたんでしょう?!」

変わり身の早さに驚く花野アナに、銀時が無遠慮に突っ込む。

252: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:53:20.50 ID:zt9i67Bw0
神楽「私ラーメン超大盛アル!」

新八「あ、幾松さん。僕はラーメン大盛で一つください。昼から何も食べてないんでお腹減っちゃって」

あかね「私は普通のラーメンでお願いします」

幾松「はいよ」

銀時達のことなぞお構いなしに注文をする三人であった。

桂「別に良いではないか銀時。これを機にまた二人で、いや、九能君を入れて三人だな。三人でこの国に夜明けをもたらそうではないか」

九能「そうだ白夜叉殿!不肖ながらこの九能帯刀、命尽きるまで尽力致そう!」

銀時「いや、もうホントそういうの良いんで。攘夷志士とかやってたのもなんか若さ故っていうか、ちょっと中二病入ってたっていうか、なんかそういうのモテるかなって思ってやってただけなんで」

253: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 11:57:23.12 ID:zt9i67Bw0
花野「お話が弾んでいるようですが、この辺りでインタビューの続きをさせていただきます。九能さんは元々遠い異国の地に住まわれていたそうですがどうしてこの江戸の町に?また桂さんとの出会いや攘夷を志すきっかけがあればお聞かせください」

花野アナが今度は九能にマイクを向ける。

九能「うむ。とある事件に巻き込まれてこの国に来ることになってな。そんな僕はこの国に到着した途端何者かに襲われたようで、意識も記憶もあまり無くフラフラ歩いていたそうだ。そこを助けてくれたのがこの桂殿というわけだ」

九能「そして世話をしてもらっている中でこの国の惨状を聞き、僕にも何か出来ることはないかと立ち上がった次第である」

決め顔で九能はカメラに向かって言った。その後を桂が引き継ぐ。

桂「その後は皆さんも知っての通りの大活躍ぶりというわけだ。ただあまり皆に知られてはいないようだが、過酷な戦があってな」

254: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:01:43.10 ID:zt9i67Bw0
九能「おお、『あれ』ですね。桂殿」

花野「『あれ』とは一体どんな戦だったんでしょうか?!是非お聞かせください!」

スクープの匂いを感じたのか、より一層花野アナのテンションが高くなる。

九能「ああ、僕達は桂殿とエリザベス殿と三人でその日も攘夷活動に励んでいたのだが。桂殿が発見した巨大な箱から噴出したガスを浴びた途端、周囲の景色が一変してな」

桂「もう核戦争によって秩序も文明も失って、暴力に支配されたような世界が広がっていた。人々は絶えず恐怖に怯え、モヒカン頭の肩にギザギザを付けた男たちが『ヒャッハー!』と叫びながらハーレーで走り回る地域であったな。この国にまだあんな酷い場所があろうとは知らなんだ」

銀時「……へ?」

255: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:03:39.98 ID:zt9i67Bw0
九能「中でも聖帝、拳王と名乗る二人の漢は手強かった……まあその後その一帯をなんやかんや平定した僕達は再びガスを浴び、この江戸の町に戻ってきたというわけだ。いや、それにしてもあんなガスで移動できるとはこの国の科学力にも驚きだ」

銀時「またまたお前は別の事件に巻き込まれてんじゃねえよぉぉ!!」

銀時が桂の頭を掴み、思いっ切り机に叩き付けた。

銀時「それ別の世界だから!核の炎に包まれた199×年の世界だから!てか異世界行けんならもうこの長編終われんじゃん!おい九能!そのガスはどうなった?!」

頭から血を流し倒れる桂を無視して銀時が九能に尋ねる。

九能「残念ながら僕達が戻ってきたのを最後に、もうガスは出ることは無かったな」

銀時「ああもうホンットお前ら使えねえしめんどくせえな!いっそ拳王倒したんなら修羅の国行っちゃえば良かったのに!そしてそこで死ねぇぇぇ!!」

銀時が息を切らしながら馬鹿二人に突っ込む。

256: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:05:15.50 ID:zt9i67Bw0
銀時「ったくよぉ。って、ん?そういや世紀末救世主の一人が今日は見当たらねえじゃねえか。あの白い気持ち悪いの」

桂「白い気持ち悪いのでない!エリザベスだ!ってあれおかしいな?どこに行ったのだエリザベスは?」

復活した桂は辺りをきょろきょろと見回すが、白いペンギンのような生き物、エリザベスの姿はどこにも無かった。

九能「む?そういえば聖帝戦辺りから見かけていないような。命懸けの戦いだった故、あまり周囲に目が届かなかったが……」

九能は深く考えるように顎に手を置いてブツブツ呟き始めた。その横で桂が頭を押さえ、苦しそうな表情をする。

257: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:07:08.62 ID:zt9i67Bw0
桂「ん?なんだこの記憶は?エリザベスが聖帝の作ったピラミッドの階段を、てっぺんに置く石を背負いながら歩いているぞ……?な、何故だエリザベス?!どうして矢に撃たれているのだっ?!エ、エリザベスゥゥゥ!!!」

銀時「お前ら良いように記憶消してるけどそれエリザベス死んでるからぁぁぁ!!もう聖帝十字領の下敷きになってるからっ!異世界置いてけぼりだからっ!てかなんでそんな大役あいつがやってんの?!どんだけ世界改変してきたのお前ら?!」

桂「おおおおお置いていくなどそんなわけあるまいっ!ああああ、ああアレだ!洗剤切れてたから買いに行ってもらってるだけだ!な、なあ!九能君!」

全身から汗を流しながら桂が九能に話を振る。

九能「そ、そうです白夜叉殿!ぼ、僕達がエリザベス殿を置いてくなんて……い、今まままま、ママ・レモン買って来てもらってるだけでずっ!ぜっだいそうでず!!うヴぅ……!」

銀時「ヅラはキョドって汗だくだし九能に至ってはワンピースみたいな感じで泣いちゃってんじゃん!絶対お前ら記憶蘇ってんじゃん!ってか新八ぃ!早く仕事しろぉ!もう俺じゃこいつらのボケ捌ききれないから!あ、俺ラーメン大盛で」

銀時が馬鹿二人とこれ以上関わっていられないと判断し、幾松に注文してカウンター席に腰掛ける。

258: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:14:31.25 ID:zt9i67Bw0
新八「僕だってこの二人のボケなんて捌き切れませんよ」

新八は到着したラーメンを、眼鏡を湯気に曇らせて食べながら銀時に答える。

神楽「そうネ、こんなスライムレベルの脳ミソの奴等には何言っても無駄ネ」

あかね「神楽ちゃん、それは言い過ぎよ。九能先輩だってぶちスライムくらいの脳ミソはあるわよ」

銀時「その差なんなの?ぶち?」

エリザベスを置いてきた罪悪感に死にかけている救世主二人のことなんて無かったかのように、いつも通りの会話を始める四人であった。

259: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:17:47.85 ID:zt9i67Bw0
?「うーす、やってるかぁ?」

そこに先程の真選組の沖田と同じ制服に身を包んだ男二人が店に入って来る。先頭の男の眼つきは鋭く、口には煙草を咥えていた。

花野「おーーーっと!!ここで真選組鬼の副長!土方十四郎の登場だぁぁぁ!!『蒼い雷』九能帯刀を追ってきたのかぁぁぁ?!」

花野アナが大声で店内に入ってきた男の説明をすると、カメラが男に近づき、アップでその端正な顔立ちを映した。

彼の名前は土方十四郎。真選組鬼の副長と呼ばれ、腕が立つだけでなく頭も切れる真選組のナンバー2である。

260: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:20:37.52 ID:zt9i67Bw0
土方「へ?え、あ、ああ!そうだ!ご、御用改めである!」

一瞬花野アナの言葉に戸惑った土方であったがすぐに立て直し、よく分からずもいつものセリフを言い放った。

?「もう違うでしょ副長。腹も減ったしなんかテレビが来てて気になって入っただけじゃないっすか。ってあぁぁぁ!!!万事屋の旦那達!そ、それに桂とこいつは!ほら九能とかいう新手の攘夷志士じゃないですか副長!いやぁ、野次馬根性でラッキー拾っちゃいましたね!」

土方の後ろから顔を覗かせたのは山崎退。真選組の監察で自他共に認める地味キャラである。本日は土方らと攘夷浪士発見の通報を受け町に出たが、結局見つからず腹が減り、ラーメンと取材クルーが気になった副長と入店してきた今日だけラッキーボーイだ。

261: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:24:48.09 ID:zt9i67Bw0
土方「よ、余計な事ばっかくっちゃべってんじゃねえ!それに別に気になってねえし!警察の勘がこいつらがここにいるって教えてくれたんだ黙ってろボケ!」

山崎「そ、そんなぁ!店入る前めっちゃサイドミラー見てたじゃないですか!『襟、ずれて変になってない?』とか聞いてきたじゃないですか!」

土方「あー、うるせえうるせえ。俺は仕事しに来たんだ。ってことで不貞浪士一人逮捕だ」

そう言うと土方は躊躇いもなく、ラーメンを食べていた銀時の手首に手錠をかけた。

銀時「なんで俺ぇぇぇぇ?!これまためんどくせえのが来たと思ったから黙って食って帰ろうと思ったのにぃ!」

土方「その酷く捻じ曲がった天パーで暴力的にキューティクルを拘束していることによる監禁と暴行の罪だ」

銀時は勢い良く丼をカウンターに置くと、二人を離れて撮っていたカメラに近づきレンズを覗き込んだ。

262: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:27:19.87 ID:zt9i67Bw0
銀時「ちょっとキャメラの向こうの全国の皆さーん!不当逮捕です!チンピラ警察24時でーす!助けてくださーい!」

土方「ちょ、何言ってやがんだてめえ!まだまだ風当たりきついんだからマジ止めやがれこのクソ天パ!」

カメラにしがみつく銀時を、風評を恐れた土方が必死になって引きはがそうとする。

銀時「皆さん見てください!今暴行を受けてます!こ、この瞳孔開きっぱなしのカタギとは思えない警官に暴行をぉ!」

花野「カ、カメラの前の皆さん!見たくなくても見えているでしょうが、今私達は現役警察官の暴行現場を捉えております!大不祥事です!」

263: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:30:07.09 ID:zt9i67Bw0
山崎「ふ、副長ぉ!止めてください!マジ洒落になんなくなりますって!こんな事が問題になれば松平のおっさんに物理的に首飛ばされかねないっすよぉ!」

カメラの前でもいつもと変わらず、情けなく土方にすがりつく山崎であった。

幾松「ちょっとアンタ達!喧嘩すんなら表でやりな!ここはラーメン屋だ!客じゃないんなら出てっておくれ!」

幾松がぴしゃりと彼らを叱りつけると、銀時と土方は互いに小さい声でブツブツ言いながらも、大人しく席に座ったのであった。

土方「っち、俺ぁマヨネーズラーメン一つだ」

銀時「ねえよそんなもん!それと早くこの手錠外しやがれ、食いにくくってしょうがねえや」

山崎「は、はい!すぐ外します!あ、お姉さん!今のシーン、全体的にカットでお願いね。それと僕はネギラーメンで!」

引きつった笑顔で山崎はポケットから鍵を出し、銀時の手錠を外した。

264: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:35:16.05 ID:zt9i67Bw0
九能「店主に言われてすぐさま引き下がるとはお笑いだ。実はこの僕に怯えているのではないか?フフフフフ」

土方の横に座った九能が、食べかけていた自分のラーメンを再び啜りながら不敵に笑った。

あかね「ちょっと九能先輩!せっかく静まったんだから余計な事言わないの!」

あかねが丼に胡椒を振りながら九能に注意する。

土方「何言ってんだクソガキが、俺は腹減ってるからここに来たんだ。飯食ってこの店出たら、よーいドンでてめえを斬り殺してやる」

265: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:37:14.05 ID:zt9i67Bw0
幾松「はいよ、マヨネーズラーメン」

銀時「あったのかよ!じゃあ俺の丼にもあんこトッピングしてくれよ、今からでいいからさ」

銀時が食べかけの丼を幾松に渡そうとするが

幾松「それはないね。はい、ネギラーメン」

銀時「なんでそれはねえんだヘボラーメン屋が!クソッ!」

すぐに戻すと納得いかない顔で食事に戻る。

桂「幾松殿を愚弄するな銀時!お前でも笑って聞き逃せぬことがあるぞ。時に幾松殿よ、このラーメン冷えて食えたものではないのでな。代わりに蕎麦をくれ」

新八「あんたが一番酷い愚弄の仕方してるわぁぁぁぁ!!!」

思わず橋を置いた新八の突っ込みと同時に、桂の額には幾松の投げた包丁が突き刺さった。

266: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:41:04.65 ID:zt9i67Bw0
神楽「食べ物を粗末にするなんて許せないアル。この国もそんな奴に救われたくないネ」

超大盛をあと少しで食べきりそうな神楽が、離れた席の桂に声を掛ける。

桂「おお、その通りだ!俺はなんと愚かだったのだ……リーダー!リーダーの言う通りだ!幾松殿、すまなかった」

そう言って額には包丁が刺さったまま、血は流れたままの桂は食事を再開した。その横では無言で山崎がラーメンを啜っている。

銀時「そういえば馬鹿二人は仲間置いてきたことからもう立ち直ったのかよ」

267: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:41:58.76 ID:zt9i67Bw0
桂「何を言うか銀時。置いてきていない、エリザベスはいつもこの胸の中にいる」

新八「もう完璧に過去の思い出にしちゃった人のセリフですよねそれ」

九能「そんなことは無い。エリザベス殿は我らの頭上に、南斗を守護する一星として輝いている」

土方「俺は山のフドウが好きだな」

銀時「誰も聞いてねえよ。誰も山のフドウが鬼のフドウと呼ばれていたことも覚えてねえよ。って何?自分が鬼の副長と呼ばれているからって自己投影しちゃってんの?今後お前は山の副長って呼ばれんの?」

神楽「山岳救助隊みたいアル」

土方「おいクソ天パ。お前は哀しみを知る前に殺す」

268: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:46:47.88 ID:zt9i67Bw0
山崎「ちょ、え?!あの白い変な生き物死んじゃったんですか?」

銀時「お前は黙ってろジャギ」

山崎「ザキっす、僕」

あかね「不吉な名前ねぇ……」

花野「す、すごい状況ですっ!」

皆がひたすらラーメンを貪る後ろで、相変わらず自分の仕事を全うする花野アナ。

花野「今も第一線で活躍を続ける『狂乱の貴公子』桂小太郎。新進気鋭の攘夷志士、『蒼い雷』九能帯刀。『白夜叉』として恐れられていたという坂田銀時。そして攘夷志士の仇敵である真選組ナンバー2『鬼の副長』土方十四郎。この面子が今、カウンター一列でラーメンを啜っております!」

269: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:47:31.32 ID:zt9i67Bw0
花野「そして話す内容と言えば実に下らない!中学生が放課後ラーメン屋に立ち寄ったレベルです!なんと馬鹿らしい!ってもうやってられるかぁぁぁぁ!!!またこんなかいぃぃぃ!!!以上、現場の花野でした」

そこでインタビュー映像は終わり、ニュース番組のスタジオに画面が切り替わった。

お登勢「一体なんだい、こりゃあ。はぁ……」

お登勢は深い溜息と共に煙草の煙を吐き出すと、呆れた顔でテレビのスイッチを切った。

270: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:50:31.53 ID:zt9i67Bw0
ここで一旦、銀時らがラーメンを貪るより少し前に時間は遡る。

かぶき町、飲み屋街。

らんま「ったく!こんなに働かされてたら鏡の調査なんて出来やしねえぜ!」

きわどい和服姿で女体化中のらんまは愚痴をこぼしつつも声を潜め、オカマバー『かまっ娘倶楽部』の裏口から人目を盗んで脱出しようとしていた。

らんま「あのクソよろず屋めぇ、次会ったらただじゃおかねえ!この俺を、ていうか俺だけ三店舗に売り払いやがってぇ!」

無事通りに出たらんまは拳をわなわなと震わせながら、自分を夜の店に売り払った銀時への怒りに燃え上がるのであった。

271: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:52:41.46 ID:zt9i67Bw0
そう、彼はその女性への変身体質を買われ、ホストクラブ『高天原』、オカマバー『かまっ娘倶楽部』、キャバクラスナック『すまいる』に派遣されていた。

?「あらぁ、らん子?仕事中に一体どこ行くのさ。化粧室なら店の中じゃないの」

らんまの後ろから突如気配もなく、野太い声が上がった。

らんま「げぇっ?!西郷のおっさん!」

声の主は西郷特盛。かまっ娘倶楽部のママであり、『鬼神マドマーゼル西郷』という通り名を持つ元かぶき町四天王の一人である。青ヒゲが濃く、伝説の攘夷志士であったガタイの良いオカマである。

272: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:55:12.28 ID:zt9i67Bw0
西郷「おっさんじゃなくてママって呼べっていつも言ってんだろうがてめぇ!●●引っこ抜くぞ!それとさっさと仕事に戻りな!アンタ目当ての客が今日も大勢詰めかけてんだ!」

らんま「この体にゃ●●なんて付いてねえよーだ!それに今日はどの店にも仕事が入ってねえ休みの日なんだ!好きにやらせてもらうぜ」

らんまの言う通り今日は一日オフなのであったが、彼目当ての客が大勢来ていると、西郷率いるオカマ軍団に無理矢理連れて来られた次第なのである。

西郷「休みだろうがなんだろうがそこにお客がいるんなら関係ないんだよ!世の中ブラック企業とかいうのが蔓延ってるらしいけど、それに比べたらウチなんて限りなくホワイトに近いじゃない」

らんま「いや、限りなく透明に遠いブルーなんだけど」

西郷「誰がヒゲの話しろって言ったのさ!」

273: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:57:13.41 ID:zt9i67Bw0
らんま「とにかくおっさんのトコだけならまだしも『高天原』に『すまいる』でも働かされてんだこっちは!時間が無いなんてもんじゃねえぞ!俺には元の世界に帰るって目的があるんだ。悪いがそっちを優先させてもらうぜ」

西郷「あーら、いいのかしらぁ?そんなことで本当にこの町のトップを取れると思っているの?」

らんま「……くっ!」

一か月という短い期間ながらも共に過ごした西郷は的確に、らんまの『負けず嫌い』、『一番にならなくては気が済まない』という性格を見抜き、上手に手綱を握っていた。

西郷「確かにアンタは何十年に一度現れるかってくらいの良いモンを持っている。この一か月にも満たない短い間に『かまっ娘倶楽部』でナンバー1、『高天原』に『すまいる』でも五本の指に入る売り上げを記録している。かぶき町史上初のオカマでありホストでありキャバ嬢でもあり売上ナンバー1という『夜王』、いや、『夜皇』に最も近い男!」

背景に雷を轟かせながら西郷がらんまに指を差す。

274: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 12:59:12.12 ID:zt9i67Bw0
西郷「でもね、うちの店でナンバー1を取ったからといって、そのアンタ贔屓のお客さん達をほっぽってたら足元なんてすぐ掬われちまうんだよ!おまけにアンタはまだまだ新参者、この町で足場を固めるには、一日もたゆまぬ営業が必要なのさ!」

今度はらんまが雷に打たれたように膝を着くのであった。

らんま「がはぁっ?!お、俺は、そんな簡単なことも分からない馬鹿な男だったなんて……悪かったママ、どうやら目先の利益に囚われ過ぎていたようだぜ!」

鏡の調査を忘れていない流石のらんまであったが、何が目先の利益なのか分からない程には頭が弱いのであった。

西郷「分かってくれればいいのよ、さ!お店に戻るわよらん子!」

?「その大いなる夢の手助け、是非今晩私の店にてさせてもらえないでしょうか?」

店に戻ろうとした彼ら二人に声が掛かる。

275: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:01:14.54 ID:zt9i67Bw0
らんま「お、店長」

西郷「やぁん、狂死郎さんじゃない!今日はどうしたの?そんなにお仲間引き連れて。私と飲み比べでもしに来たのかしら?」

彼らに声を掛けたのは本城狂死郎。ホストクラブ『高天原』のオーナー兼ナンバー1ホストである。その脇にはもちろん、アフロ頭が印象的な八郎が控えていた。そして狂死郎にしては珍しく、その後ろに十人ほどのホストを連れていた。

狂死郎「その提案も楽しそうですが、今日ここへ来たのはその為ではありません」

西郷「すると何かしら。やだ、アフターのお誘い?流石の私もこんな人数相手じゃ嬉しくて気が狂いそうだわん。腰がもってくれるかしら」

らんま「オヴェェェェ!」

西郷「ちょっとらん子!お客さんの前ではしたないわよ!」

らんま「どっちがじゃ!」

276: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:03:12.65 ID:zt9i67Bw0
狂死郎「今日はらん子さんを迎えに来たんです。どちらかというとらん子さんというより乱馬君なんですが」

西郷「ほう?」

狂死郎の一言で、今までとは西郷の周囲の空気が変わる。

狂死郎「今日乱馬君はオフでしたのでゆっくり休んでもらいたかったのですが、大口の予約が入ってその方々がどうしても乱馬君をご指名したいらしくて。そこで乱馬君にお頼みしようと自宅に向かったら、大勢のオカマさん達にさらわれたと話を聞きまして」

らんま「お前ら俺の休みはホンットどうでもいいのな」

277: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:06:09.97 ID:zt9i67Bw0
西郷「らん子誘いに来るくらいでこんなたくさん引き連れてくる必要なんてある?やだぁん、私嫉妬しちゃうわ狂死郎さん」

西郷が狂死郎を始めホスト達を、嘗め回すように見つめる。

西郷「それにしても良く出来た人ね貴方。後ろの子達は顔に『力ずくでも』って書いてあるのに、貴方はただデートに誘いに来たような表情なんですもの」

狂死郎「いえいえ、恐縮です。でも私は本当にそんな軽い気持ちで来たのですよ。ただこの話を聞いたウチの若いのが、ね。何分まだまだ血の気が多いみたいで」

大柄のオカマとホスト軍団の間で、不穏な空気が流れる。

らんま(さっきは場の空気でおっさんに説得されそうになったが、やっぱりここは逃げる!このドンパチしそうな雰囲気の隙に……)

278: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:07:56.25 ID:zt9i67Bw0
向かい合う西郷と狂死郎の脇から見えないように、差し足でその場を脱出しようとしたその時であった。

?「ちょっとママにらん子!いい加減お店戻ってちょうだい!忙しくてタチの手でも借りたいくらいなんだから!っていけない!タチじゃなくてネコの手でしたー!」

店の裏口から逞し過ぎるアゴを持った陽気なオカマが出てきた。

らんま「か、花王のマークが喋った?!」

花王「誰が花王のマークよ!一か月近くいるんだからいい加減驚くのやめなさいよ馬鹿ぁ!あ・ず・みよ、あずみ!」

彼の名前はあずみ。かまっ娘倶楽部で働く大きなアゴを持つオカマで、西郷が一線を退いてからは、『拳王アゴウ』としてかぶき町四天王の一人に数えられている。

279: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:09:13.88 ID:zt9i67Bw0
らんま「もう少しで逃げられそうなのに思わず突っ込んじまったぁぁ!!どうしてくれんだこの野郎!」

あずみ「その理不尽なキレ方、パー子を思い出すわね……ってあらぁぁ!!狂死郎さんじゃなぁぁぁい!今日はどうしたの?もしかして私に会いに来てくれたとかぁ?!」

らんま「どうしてここのオカマはどいつもこいつもそんなにポジティブなんだ……」

逃げられなかった落胆とあずみの精神力にやられ、がっくり肩を落とすらんまであった。

西郷「あずみが来たことだし私は店に戻るわ」

狂死郎「おや、今日は引いてくださるのですか?」

てっきり話のカタが着くまで西郷は引かないものだと思っていた狂死郎は不思議に感じ、背を向け店に戻ろうとする西郷に尋ねた。

280: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:10:16.41 ID:zt9i67Bw0
西郷「私は一線を退いた身。サボってる子に説教はするけど他の勢力とやり合うつもりはないの。こっからはあずみがお相手するわ。それじゃあね、狂死郎さん。今度はお客さんとして来て頂戴」

西郷はそう言ってウインクすると、店の裏口に消えていった。

あずみ「ちょっとらん子、これどういう状況なの?!私がこのイケメン達の夜のお相手しちゃっていいの?!」

興奮して鼻息を荒くして詰め寄るあずみにドン引きしながらも、らんまが状況を説明する。

らんま「落ち着け妖怪。今『かくかくしかじか』って状況なんだよ。お前の妄想しているような事には決してならん」

281: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:12:16.08 ID:zt9i67Bw0
あずみ「そ、そんな!いくら狂死郎さんの頼みでも、らん子を貸すことは出来ないわ!そうだ!代わりに私を連れて行きなさいよ!いくらでもらん子の代わりを務めるわ!そうして私の身も心も蹂躙すればいいじゃない!」

ホストA「お前みたいな化けモンに代役が務まるわけねえだろ!それにもう身も心も蹂躙され尽くしたみたいになってんじゃねえか!」

ホストB「そうだそうだ!鏡見てこい!エアーズロックみたいな逞しいアゴ持ちやがって!」

あずみ「んだとコラァ!喰らわすぞてめえら!」

あずみのアホな言葉に怒ったホスト達が怒鳴り飛ばすが、彼も負けてはいない。

282: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:13:24.70 ID:zt9i67Bw0
オカマA「ちょっとアンタ達!あずみに向かってなんてこと言うのよ!」

オカマB「それにエアーズロックは言い過ぎよ!せいぜいグランドキャニオンくらいよ!」

らんま「お前それフォローしてるつもりなのか?」

西郷が消えていった店の裏口から今度は、十名ほどのオカマが勢い良く現れあずみの後ろを固めた。

あずみ「あ、貴方たち!どうしてここに?!」

オカマA「ママから事情は聞いたわ!加勢しに来たの!」

オカマB「らん子は私たちの大事な仲間!いくら狂死郎様とはいえ渡すわけにはいかないわ!」

283: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:14:41.58 ID:zt9i67Bw0
ホストC「なんだこんな大勢で!やるってのかよ!」

ホストD「こっちだって引くわけにはいかねえんだ!」

らんま「はぁ、帰りてぇ……」

徐々にヒートアップしていくホストとオカマ達を見てらんまは、深くため息をついたのであった。

?「らんまぁ!こんなところで何してるあるか?」

そんなホスト軍団とオカマ軍団の喧騒に割って入ってきたのは、少しカタコトな日本語の女性の声であった。

284: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:15:39.75 ID:zt9i67Bw0
らんま「よー、シャンプーじゃねえか」

狂死郎「これは困ったことになりましたね……」

あずみ「め、『女豹』シャンプー?!」

三者三様のリアクションで迎えられた彼女の名前はシャンプー、相も変わらずセクシーにチャイナ服を着こなしている。そして羽根飾りが妖艶な扇子を手に、それをらんまに向け嬉しそうに振っている。

ちなみに今は『すまいる』で働くナンバー1キャバ嬢である。

シャンプー「狂死郎、これはどういうことあるか?この私が乱馬の予約したというのに、どうして乱馬は今ここで女の姿でこんな恰好してるね?」

後ろにこれまた十名ほどのチャイナ服に身を包むキャバ嬢を連れたシャンプーが、腕を組み不機嫌な表情で狂死郎を威圧する。

彼女は今や、かぶき町でも他の追随を許さない程にお水の花道を駆け抜けており、狂死郎にすらこのような態度が許される数少ない一人であった。

285: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:18:54.61 ID:zt9i67Bw0
らんま「どういうことなんだ店長?」

狂死郎「さっき言っていた大口で乱馬君を指名したいお客様というのがシャンプーさんなんですよ。今日はシャンプーさんのグループが休みなので、『高天原』で乱馬君とがっつり呑みたいという話なんです」

気付けばシャンプーは、自分の派閥が出来るほどにこの町のキャバクラ界で力を付けていた。

シャンプー「そういうことね、店に着いたら誰もいなかったからもしやと思って来てみれば。ということで乱馬!さ、早く着替えて店行くね!」

らんま「わ!引っ張るなシャンプー!というかお前は休みなら毎度毎度飲みに出てないで鏡の調査をやらんか!」

飛びついて来たシャンプーを振りほどきながら、らんまはシャンプーを怒鳴りつける。

286: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:19:39.78 ID:zt9i67Bw0
シャンプー「……か、がみ?」

らんま「忘れたんかいおのれはぁ!」

シャンプー「冗談ね、フフ。それは今私の奴隷たちが……ゲホゲホっ、なんでもないね。今私のお客さんたちが必死に探してくれてるから大丈夫ね。果報は寝て待つよろし」

らんま「客商売する身としては絶対言っちゃいけないこと言わなかった?」

あずみ「こ、これが『女豹』のシャンプー……!なんて恐ろしい子……!」

彼女はその容姿の端麗さ、性格のドキツさ、圧倒的な強さから『女豹』と呼ばれかぶき町の住人から畏れられていた

287: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:21:52.05 ID:zt9i67Bw0
らんま「とにかくだ!お前の奴隷だか客だかわけわかんねえのに任せてられねから俺は鏡の調査に行く。それに何度も言ってるが俺は今日休みなんだ、お前らにこれ以上付き合ってらんないぜ」

あずみ「ちょっとらん子ぉ!あんたの事情は聞いてるし気持ちもわかるけどさ、今日はお願いだから舞台に立って?ね?お願い」

シャンプー「ばかうけは黙ってるね!乱馬は私と遊ぶね!」

あずみ「誰が青のりしょうゆ味だこの野郎!この青髭でてめえのスベスベお肌すりおろすぞ!」

オカマA「そうよそうよ!あんたちょっと綺麗だからって調子乗ってんじゃないわよ!」

オカマB「それにばかうけは言い過ぎよ!せいぜいグランドキャニオンくらいよ!」

らんま「さっきからお前のそれ全っ然フォローになってないからな」

288: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:24:11.57 ID:zt9i67Bw0
キャバ嬢A「シャンプー様に向かってなんて口聞いてんのよおっさん共!この町からはたき出すわよ?!」

ホストA「だいたいばかうけよりグランドキャニオンの方がひでえじゃねえか!」

あずみ「もうアゴの話はやめてぇ!」

シャンプー「やめて欲しかったら大人しく乱馬を渡したあと整形外科でも行くよろし!」

あずみ「らん子渡す意味皆無じゃないっ!」

先程よりも人数が増えたことで更に場がヒートアップしていく。その騒ぎにほとほと嫌気が差すらんまであったが、これはチャンスとまたも抜き足でその輪から逃げ出そうとする。

と、そこに一人の女性の大声が響き渡った。

?「らんまちゃーん!迎えに来たわよー!出勤のお時間でーす!」

290: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:27:54.55 ID:zt9i67Bw0
その声の主を顔も見ずに分かったらんまは、今日一番がっくりとうなだれ

らんま「ははは……もうなんでもいいや。好きにしてくれ」

と涙を流しながら両手を上げ逃走を諦めた。

あずみ「あ、あんたは?!」

狂死郎「かぶき町四天王が一人、『女王』――」

シャンプー「お妙!」

そこには新八の姉であり、お登勢、西郷からの後押しを受け四天王に成り上がった、シャンプーと同じく『すまいる』で働くキャバ嬢、かぶき町最強の『女王』志村お妙が立っていた。これまた他勢力同様、その後ろには何人もの自らの傘下、キャバ嬢を従えながら。

291: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:28:36.66 ID:zt9i67Bw0
お妙「あら、皆さんこんなに集まってどうしたんですか?宴会でも開いているんですか?でしたらこの後『すまいる』にも寄って行ってくださいな」

お妙が不気味なほどの営業スマイルでその場の者に話しかけた。すると今までの騒ぎがまるで嘘のように静まり、皆本能に従い身を構えるのであった。

ただその中でも、自然体で口を開ける者が数人。

狂死郎「こんばんはお妙さん。今日はそんなに綺麗な女性を引き連れて何用ですか?」

狂死郎が得意の必殺スマイルを顔に浮かべながらお妙に尋ねる。

お妙「嫌ですよ狂死郎さん、今言ったじゃないですか。らんまちゃんを迎えに来たんです。そろそろ店を開けなきゃならないんで」

狂死郎の笑顔に一ミリも心動かさずにお妙は言葉を返し、輪の外で逃走を諦めたらんまに声を掛けた。

292: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:29:07.19 ID:zt9i67Bw0
お妙「ごめんねぇ、らんまちゃん今日休みなのに働いてもらうことになっちゃって。お店、人が休み過ぎてこのままじゃ営業できなくなっちゃうの。だから、ね?命令」

らんま「もうお願いでもねえのかよちくしょう!」

シャンプー「勝手な事言ってるんじゃないねお妙!乱馬は今日私のものね!」

お妙「あらシャンプーちゃんいたの?でもそんなこと言われても、店を開けられない元凶はそもそもあなたなのよ?」

わざとらしく今気づいたフリをしながらお妙は話を続ける。

293: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:30:18.83 ID:zt9i67Bw0
お妙「あなたが自分の派閥全員休ませて、ホストクラブで遊ぶだなんて言うから人が足りなくなったのよ。稼ぎまくってるあなたには店長も何も言えなかったみたいで。まったくもう何なの?このまま独立して行政特区『チャイナ』でも立ち上げる気なの?お水の騎士団団長さんなの?」

シャンプー「そんなに人足りないならそいつら引き連れてさっさと店にでも基地にでも帰るよろし、バストゼロ」

今日最大級の火花がシャンプー、お妙の間で飛び散る。いや、爆散する。

お妙「誰がバストゼロじゃスリット全開の●●猫がぁっ!!」

シャンプー「うるさいね全身まな板女!それに何度も何度も私と乱馬の逢瀬を邪魔するな!お前なぞに乱馬は渡さないね!」

この一か月の因縁が互いに噴き出し、周囲を寄せ付けない闘気の風が二人から発生する。

294: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:31:17.82 ID:zt9i67Bw0
お妙「私はあんな脳みそスチャラカでデタラメな変身体質持った変態いらんわぁ!そりゃあの子を見てると『おすわり!』って言いたくなるけど、なんか白い犬っころ思い出すけど――」

らんま「だから度々言ってるけどそれなんなんだよ!」

お妙「女のあなたには関係ありません!」

シャンプー「私を差し置いて乱馬と飼い犬プレイなど許さないね!」

近藤「そうだそうだ!けしからん!それにお妙さんには俺という忠実な犬がすでにいるじゃなですか!」

お妙「誰が飼い犬プレイなんて希望するかぁ!こちとら碌に稼いで来ねえ愚弟養うだけで精一杯なんだよ道場復興とか夢のまた夢なんだよ!その上こんな駄犬飼えるかぁ!」

らんま「誰が駄犬じゃ誰が!」

295: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:32:20.47 ID:zt9i67Bw0
シャンプー「そうね!乱馬は私の忠犬ね!」

近藤「えええ?!そうだったの?!シャンプーちゃんと早乙女そんなただれた関係だったのぉ?!うらやまけしからんな、逮捕だっ!」

らんま「なんでそうなるんだクソゴリラ!……って、え?」

一同「……ん?」

お妙とシャンプーから発せられていた闘気の渦が収まり、皆、とある人物を見て固まる。

一同「……」

お妙「……お前は何さっきからいましたみたいな感じで会話に参加してんだ腐れストーカーがぁぁぁ!!!」

近藤「ぐぶほぉっ!!」

お妙の渾身の右ストレートが近藤の顔にめり込み、人体からはおよそ鳴らない鈍い音を立てて近藤は崩れ去った。

296: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:33:50.92 ID:zt9i67Bw0
らんま「ホンットこいつはどうしようもねえな」

シャンプー「なんか興醒めしたある」

お妙「みんなごめんなさいね、このストーカーのせいで不愉快な思いをさせて」

あずみ「いいのよ、困った時はお互い様じゃない。それより何もされなかった?」

狂死郎「大丈夫ですか?お妙さん。すぐに警察を呼び――いえ、この方が警察でしたね……」

険悪なムードが去った一同の脇に倒れている男の名は近藤勲。土方や沖田の属する真選組の局長である。隊士達からの信望は厚く剣の腕も立つ。が、お妙を愛するあまりストーカーと化してしまった哀れなゴリラである。

297: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:35:34.66 ID:zt9i67Bw0
近藤「……ち、違うんですよお妙さん。今日はお妙ハンター勲Gとしてではなく、警察官として仕事しにここに来たんです」

常人ならば確実に絶命しているであろうダメージを受けた近藤であるが、こんなの慣れっこと少しよろけただけで普通に立ち上がり、ここに来た経緯を話し始めた。

近藤「今日も今日とてお妙さんに会いに行こうとパトカーに乗っていた時でした」

らんま「何も違わねえじゃねえか!」

シャンプー「それに仕事中とは公私混同甚だしいね」

近藤「まあ待て早乙女にシャンプーちゃん。そこで俺は一本の無線を受けたのだ」

近藤が目を瞑り顎に手を当てる。

298: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:36:44.30 ID:zt9i67Bw0
近藤「『かぶき町でホストにオカマにキャバ嬢が暴れてるらしいんで近藤さん、そっち頼みやす』との通信だった。ということで現場に駆け付け今に至る。そして早乙女、逮捕だ」

近藤は懐から取り出した手錠を、慣れた手つきでらんまの両腕に掛けるのであった。

らんま「なんでだぁぁぁ!!!俺はなんにもやっちゃいねえ!!!」

近藤「何をしらばっくれてんだ。ホストでオカマでキャバ嬢なんて珍妙な生き物お前しかいないだろ。それに喧嘩の常習犯だし。今は女の子の格好してるからって容赦しないぞ、お前の変身体質にはもう騙されん」

この一か月、乱馬が喧嘩する度に何故か近藤が現場に駆け付けることが多く、二人は顔見知り以上の間柄になっていた。

また『すまいる』でもなんやかんやあったのだが、ここはそのエピソードは割愛して読んでくれている人のご想像にお任せしようすいません。

299: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:39:40.57 ID:zt9i67Bw0
らんま「ホスト『と』オカマ『と』キャバ嬢『が』暴れてんだ!ホストでオカマでキャバ嬢なんて珍妙な生き物が暴れてる話じゃねえんだよ!手錠外しやがれぇ!」

近藤「まあ話はゆっくり署で聞くから。おい、さっさと行くぞ」

そう言ってらんまをしょっぴこうとした近藤に、四方八方から激しい罵詈雑言が飛んだ。

あずみ「最後にのこのこ現れてらん子かっさらうなんて許すわけないでしょ!早く離しなさいよ!」

狂死郎「彼は私たちの大事な仲間です。警察の方とはいえ、連れていくなら容赦はしませんよ」

シャンプー「おいゴリラ人間!私の乱馬をさっさと解放するね!」

お妙「近藤さん?らんまちゃんにはこの後たっぷりウチで働いてもらわ、あー、なんか喋んのめんどくさくなってきたから早く死んでください」

300: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:42:25.48 ID:zt9i67Bw0
ホストA「早く乱馬君離せよ!」

キャバ嬢B「そうよそうよ!じゃないとアンタの上にコスモキャニオンが降って来ることになるんだから!」

あずみ「おいコスモキャニオンって私のことかこらぁ!誰がエアリスに似てるだこらぁ!」

ホストB「んな事誰も言ってねえだろこのモルボル!てかさっさと滅べ古代種がぁ!」

オカマB「それにエアリスは言い過ぎよ!せいぜいミドガルズオルムくらいよ!」

らんま「もうお前は敵側だと思うんだが」

オカマA「アンタ何勢いで裏切ってんの?!それセフィロスに惨殺された蛇よ?!」

オカマB「ごめんなさい。エアリスの思い出を汚された気がしてつい……」

あずみ「この子を裏切らせるなんてもう許さないわ!アンタ達!行くわよぉぉぉ!!!」

301: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:43:27.04 ID:zt9i67Bw0
一旦は鎮火しかけた騒動であったが、渦中のらんまを近藤が連行しようとしたことで再燃。そしてとうとうオカマ軍団がホスト、キャバ嬢軍団に突撃をしかけたのであった。

ホストA「やる気かてめえら?!俺達も行くぞぉっ!」

狂死郎「止めはしませんが女性に手を出すことは許しませんからね」

ホストBCD「命に代えてもぉぉぉぉ!!!」

シャンプー「私たちも行くね!そしてこの機に乗じてお妙一派を亡き者にするある!」

キャバ嬢ABC「それ超イケてるぅぅぅ!!!」

お妙「全軍突撃!動くものは全て殲滅せよ!繰り返す!動くものは全て殲滅せよ!特にスリット全開のチャイナ服を着た動くものは入念に殲滅せよ!」

キャバ嬢LMN「サーイエッサー!」

それに応戦する形で全軍入り乱れての乱戦が始まってしまったのであった。

302: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/02(日) 13:44:32.17 ID:zt9i67Bw0
らんま「あーあ、俺しーらねっと」

近藤「早乙女ぇ、お前の言ってたことホントだったんだな……ちなみにこれ、俺のせいなのかな?」

らんま「たぶんなぁ……」

決戦の火ぶたは、まさかの警察官によって切って落とされたのだった。

311: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:19:35.81 ID:Oji/WYwd0
らんま「……ったく。おい近藤、俺ならこいつらを一瞬で鎮圧できる。この騒ぎを止めて欲しいならさっさとこの手錠を外せ」

殴り殴られ蹴り蹴られの大乱闘が始まる。その騒ぎに釣られ、喧嘩好きのかぶき町の住人も野次馬根性で集まって来る。

近藤「うーむ、まぁ今回は仕方ないか。早くこの騒ぎを止めなきゃいかんしな。それにこの大乱戦、お妙さんが心配だ」

数秒程の間、あまりの喧嘩の激しさに現実から遠ざかっていた二人だが、このまま傍観している場合でもないことに気付き、近藤はらんまの手錠を外した。

らんま「ああ、お妙による死者が出る前にこの馬鹿騒ぎを終わらせる!」

近藤「そっちじゃねえよ!純粋にお妙さんのこと心配してんだよ!」

312: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:22:21.52 ID:Oji/WYwd0
らんま「あれでも?」

らんまの指差す先にはどこからか持ち出した薙刀で、周囲の敵をばったばったと蹴散らす戦鬼、お妙がいた。

らんま「呂布かっつーの」

近藤「……そ、それにしてもアレだな!」

三國無双と化しているお妙のことは都合が悪いので見なかったことにして、近藤は話を逸らした。

近藤「ホスト、キャバ嬢、オカマの三勢力がぶつかり合うなんてまるで三国志だな!なんだっけ?『魏』、『ア呉』、『蜀』だっけ確か」

あずみ「ちょっと今人体のパーツ混じってたわよ!どの三国志作品にも出てきたことない国出てきてたわよ!」

あずみはホストの猛攻に耐えながら、必死に近藤のボケに突っ込みを入れた。

313: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:29:31.44 ID:Oji/WYwd0
らんま「――さて、いくか」

近藤「あんまりやり過ぎるなよ早乙女。あと、くれぐれもお妙さんには怪我をさせるんじゃないぞ。怪我させた時点でお前のその首、斬りっぱねてやるからな」

奮闘するあずみの突っ込みを相手にもせず、らんまは右腕をグルグルと回し、喧嘩の輪に歩み寄る。

らんま「はいはいっと。まあ俺が何したって怪我するようなやわな女じゃねえだろ、ありゃ」

腕を組み、それを後ろから見つめる近藤。憎まれ口こそ叩きあうものの彼らの間には、短いながらも築かれた信頼があるようであった。

314: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:31:13.45 ID:Oji/WYwd0
らんま「女を相手にするのは気が引けるが、今は俺も女の体ってことで許してくれよ?」

誰に言うわけでもなく一人呟くとらんまは、不敵な笑みを浮かべながら戦の渦に飛び込んだ。

オカマD「おりゃぁぁぁ!!!」

すぐさま、興奮しすぎて誰を相手にしているかも分かっていないオカマの右拳がらんまに迫る。

らんま「……ふっ」

これを難なく躱すと、周囲の荒れ狂う者たちとは対称的に、冷静にステップを踏み円を描きながら、人と人の間を縫うように動く。

315: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:39:01.63 ID:Oji/WYwd0
シャンプー「らんまぁ!私を助けに来てくれたあるか?!ってその動き――!!」

お妙「らんまちゃん!今から加勢してくれたらあとで破亜限堕津買ってあげるわよ!ってあのアホ私まで巻き込もうとしてんじゃねえか!」

らんまの不思議な動きの意図に気付いた二人は、自分に群がる敵を蹴散らし、逃げの構えを取った。

その間もらんまは喧嘩の輪の中心へ、螺旋を描くように移動する。

キャバ嬢E「くらえぇぇぇ!!」

ホストG「おらぁっ!」

キャバ嬢の蹴りをいなし、ホストの一太刀を避け続けるらんま。

316: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:40:17.26 ID:Oji/WYwd0
そして遂に、熱い熱い闘気の中心に辿り着く。

らんま「……これで少しは頭を冷やしな」

そこで彼は、冷たい冷たい右拳を振り上げる。

らんま「飛竜っ!昇天破ぁっ!」

突如として彼を中心とした小規模の竜巻が起こり、それまで暴れていた一団を軒並み豪快に吹き飛ばしたのであった。

近藤「相っ変わらず滅茶苦茶やるなぁ、あいつは……」

お妙が事前に竜巻の射程外に避難するのを確認していた近藤は落ち着きながら、また半ば呆れながら四方八方に飛んでゆくオカマや野次馬を眺めていた。

317: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:42:59.97 ID:Oji/WYwd0
らんま「……ふぅ、これでも最大限手加減したつもりなんだがな。ま、お前らの闘気が凄まじかったってことで勘弁な」

今や誰もいない円の中心で、らんまは静かになった周囲を見回す。すると背後から、お妙同様一足先に避難し、難を逃れたシャンプーが抱き付いてくる。

シャンプー「良くやったねらんま!これで誰にも邪魔されることなく遊び行けるね!」

らん馬「だあああっちぃぃぃ!!!」

そして抱き付くとともに、どこからか調達してきたヤカンの熱湯を乱馬に掛けるのであった。そんな中

お妙「何が誰にも邪魔されることなくじゃ甘ちゃんがぁ!」

お妙の薙刀による一閃が二人を襲う。

318: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:45:22.40 ID:Oji/WYwd0
乱馬「どわぁぁぁっ!!」

シャンプー「まだ生きてたか、ゴキブリの如くしぶといねっ!」

それを間一髪、二人とも毛先を斬られながらもすれすれで躱す。

お妙「らんまちゃん、いえ、今は乱馬君ね」

躱された薙刀を構え直したお妙が向き直る。

お妙「てっめえ!そこのチャイナ●●は良いとして私まで巻き込もうとしやがったなこの野郎!」

乱馬「ち、違うんだって!お前らなら俺の動きに気付いて逃げ延びるって信じてたんだよ!ほ、ホントだって!な?!」

体中から冷や汗を流し、腰を抜かした乱馬が近藤に話を振った。

319: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:50:19.53 ID:Oji/WYwd0
近藤「そうですよお妙さん!いやー、流石の身のこなしでした!」

シャンプー「私は最初から乱馬の思惑に気付いてたね。私と乱馬とは以心伝心、お前と違って思いが通じ合ってるね」

シャンプーがお妙に扇子を向け挑発する。

お妙「ちょっとさっきからいちいち乱馬君絡めて張り合ってくるのやめてくれない?私そういうの興味ないんで、それにもっと男らしい年上の人がタイプなんで」

近藤「そうだぞシャンプーちゃん。ちなみに今のは愛の告白と受け取ってよろしいのでしょうかお妙さん!」

お妙「代わりにこれ受け取ってください!」

お妙が笑顔で薙刀の一閃をプレゼントする。

320: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:51:02.52 ID:Oji/WYwd0
近藤「うおぉぉぉ!!お妙さんそれ当たるとマジヤバイ奴です!!」

近藤も命からがら、乱馬同様腰を抜かしながらお妙の薙刀から逃れたその時であった。

シャンプー「危ないね!」

お妙「ちぃっ!」

シャンプー、お妙は咄嗟に反応し飛び上がったが、腰を抜かしていた二人は動くことができなかった。

乱馬「げっ!――」

近藤「へっ?――」

飛んできたバズーカの弾は乱馬、近藤の間に着弾。二人をもろに巻き込んで爆発したのであった。

321: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:53:10.54 ID:Oji/WYwd0
お妙「犬夜――」

シャンプー「乱馬ぁ!!」

お妙の声は都合よくシャンプーにかき消され、辺りを覆っていた爆煙が晴れる。そこに二人の男が上空から、気絶している乱馬、近藤の傍に着地した。

九能「おお、早乙女乱馬ではないか。こんなとこで寝ていたら風邪を引くぞ馬鹿者」

桂「『鬼の副長』恐るべし……まさか、自らの上官や知り合いすら巻き込んで我らを亡き者にしようとは……」

現在、かぶき町でもトップを走る馬鹿二人の到着であった。その遥か後方から、またも別の声が上がる。

322: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:55:32.05 ID:Oji/WYwd0
山崎「うわぁぁ!!ヤバイっすよ?!ターゲットじゃなくて一般人に当てちゃってましたよ今!!」

土方「だ、大丈夫だ。この際もう全部、なんもかんも過激派攘夷浪士のせいにしちまえ!」

野次馬をかき分けて桂、九能を追っていた土方と山崎が駆け付ける。

山崎「うわ!良かったぁ。一般人じゃなくて局長といつもの喧嘩少年でした。この二人なら超合金Zで体できてるから大丈夫ですね」

土方バズーカの被害者を発見した山崎は、その正体が分かると安堵で胸を下ろすのであった。

323: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/08(土) 23:57:14.63 ID:Oji/WYwd0
土方「近藤さん!近藤さんっ!しっかりするんだ!」

土方は近藤に駆け寄り、膝を着き彼の体を力強く抱き上げた。、

土方「……くそっ!俺達の近藤さんをこんな姿にっ!攘夷浪士共め!絶対許さねえ!」

乱馬「白々しい芝居打ってんじゃねえ!全部聞こえてたわ!」

実験に失敗した科学者ヘアーの乱馬が起き上がり怒鳴りつける。

土方「まぁたお前か早乙女。で、この惨状はお前の仕業か?それともあの女傑二人か?」

土方はかったるそうに近藤を放ると、周囲の死屍累々を見回しながら尋ねた。

324: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:00:17.60 ID:PG+3UYdE0
シャンプー「私何も知らないある。そもそも日本語よく分からないある」

お妙「私もなんのことかさっぱり分からないわ。怖いわねぇ、シャンプーちゃん」

恐ろしいほどに息を合わせる二人であった。

山崎「まあ、この惨状はここにいる全員の合作なんでしょうね。ははは、はぁ……」

事態の収拾の面倒さを憂い、山崎が顔を引きつらせながら笑った。

九能「自らの過ちを僕らになすり付けるとは許せん!」

桂「この国の警察はここまで腐敗しておるのか……」

乱馬「脳ミソ腐敗してるお前らには言われたくないだろうな」

幾松のラーメン屋を出た途端に命懸けの追いかけっこを開始させられた攘夷志士二人組が、口惜しそうに拳を震わせる。

325: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:02:17.71 ID:PG+3UYdE0
桂「とここで質問だ早乙女君!君もこやつらにはさぞ煮え湯を飲まされているだろう?」

乱馬「ま、まあこいつらのせいでさんざんとっ捕まったり何やらひでえ目には会ってるな……」

この一か月の間のいざこざを思い出し、苦い顔をする乱馬。

桂(裏声)「そんな貴方に朗報です!今私たち攘夷志士は新しい新入志士を大募集中!君ほどの男なら、数ある試験も全部パス!」

九能「お前と組むのは遠慮したいが桂殿がここまで言うのだ。僕に異論はない」

桂(裏声)「それになんと今ならママ・レモン一か月分を無料でプレゼント!おまけに特別応援プラカード付き!」

桂がどこからか大量のママ・レモンと、『このピラミッドの石、重いっす』と書かれ血で汚れたプラカードを取り出した。

326: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:05:05.56 ID:PG+3UYdE0
乱馬「そんなもんやってられるか!それとこのプラカードの持ち主に一体何があったんだよ!」

桂(裏声)「ぬ、ぬうっ?!い、いかん!このプラカードを見た途端再び頭痛が……過去のトラウマが……」

九能「だ、大丈夫か桂殿!貴様!桂殿に何をした!」

乱馬「どう見てたって俺は何もしとらんだろ!こいつが勝手に自分の古傷えぐっただけだろうが!それと早く声戻せバカツラ!」

桂(ビブラート)「バカツラではない、桂だ」

そんな彼らの下らないやり取りも、とある男の叫び声で中断させられる。

沖田「かぁつらぁ!!」

彼ら三人は声がした瞬間に、何が飛来してくるか瞬時に察し勢い良く飛び上がった。

327: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:13:39.25 ID:PG+3UYdE0
桂「ちぃっ!」

乱馬「毎度毎度お前らはいきなりバズーカ撃ってくるんじゃねえ!」

彼らの足元を、沖田が発射したバズーカの弾が火を噴き通過する。

九能「ぼさっとするな!そこぉ!」

土方「んっ?――」

周囲を検分していた土方に、歴戦の艦長よろしく九能が注意するも時すでに遅く、弾は土方の体に直接着弾。大きな爆発が起こる。

神山「うわぁぁ!!ヤバイっすよ?!ターゲットじゃなくて一般人に当てちゃってましたよ今!!」

沖田「だ、大丈夫だ。この際もう全部、なんもかんも土方のせいにしちまえ!」

真選組一番隊隊長沖田と、その部下神山が被弾し倒れている被害者に駆け寄る。

328: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:14:25.61 ID:PG+3UYdE0
神山「うわ!良かったぁ。一般人じゃなくて副長でした。この人ならゲッター線浴びてるから大丈夫ですね」

沖田バズーカの被害者を発見した神山は、その正体が分かると安堵で胸を下ろすのであった。

沖田「近藤さん!近藤さんっ!しっかりしてくれ!」

沖田は近藤に駆け寄り、膝を着き彼の体を力強く抱き上げた。、

近藤「……お、うぅ。総悟じゃねえか。こ、こりゃ一体……?」

意識を取り戻した近藤だが、如何せんファミコン並みの容量しか持たない頭であるため、記憶を少し飛ばしたようであった。

329: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:15:35.39 ID:PG+3UYdE0
沖田「全部なんもかんも土方さんのせいですぁ」

土方「なんでそうなるんだお前はぁ!!それに自分で俺吹っ飛ばしといて真っ先に近藤さんとこ行く普通?!せめて白々しい芝居打てよ!!全部聞こえてたわ!」

爆発パーマの土方がむくりと起き上がり、さらっとした顔の沖田に突っ込みを入れる。ただ土方は自分が近藤を撃ったのも知られてはいないが事実であるので、早々にこの話を切り上げた。

土方「で、お前はなんでこんなとこでバズーカ撃ってんだ?天人襲撃犯追跡の仕事はどうした、またサボりかこの野郎」

沖田「やめてくださいよ土方さん。仕事で来たんでさぁ、仕事で。こっち方面でそのホシらしき野郎共を見たって連絡が入ったんで。まあお前にバズーカ撃ち込んだのは趣味だけどな」

土方「あ?お前最後ぼそっとなんて言った?趣味って言った?趣味で上司にバズーカ撃っちゃうの?南アフリカでもそんな危ねえ奴いねえぞこら」

330: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:20:59.08 ID:PG+3UYdE0
沖田「お、噂をすればなんとやらだ。どうやら俺が早く到着しすぎたみたいで。怪しいやつらが、ほれ」

至近距離でメンチ切りまくってる土方のプレッシャーをものともせず沖田は、通りの向こうからやってくる騒がしい一団を指差した。

右京「らんちゃーん!やっぱりここにいた!許嫁のうちが会いに来たでぇ!」

ムース「シャンプー!こんなとこにいただか!さ!今日もじゃんじゃんおらがボトル入れたるだ!」

猿飛「銀さん?!銀さんはどこ?!こんなに人がいるのにあの人は何故いないの?!そう、そういうプレイなのね!もうどんだけ興奮させれば気が済むのよっ!!」

良牙「おい眼鏡女!さっきからはしたないぞ貴様!」

長谷川「しょうがねえさ良牙君、この子と銀さんはそういうプレイで楽しんでんだよ。ま、あと数年すれば良牙君にも分かるさ」

その一団の正体はスナック『お登勢』で待機中のメンバーであった。その中にはもちろん、沖田が追っている天人襲撃犯の二人の姿もある。

331: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:25:37.59 ID:PG+3UYdE0
乱馬「これまた面倒なのがわんさかと……この場所は馬鹿が集まる呪いのアイテムでも埋まってんのか……」

どんどん人が増えるにつれ、自分の目的が離れていくのを感じ、今まで以上に肩をうなだれる乱馬であった。

良牙「おい乱馬!貴様聞いたぞ!」

そんな落ち込む乱馬に。良牙が指を差し叫ぶ。

良牙「鏡の調査もあかねさんもほっぽり出して、毎夜毎夜やれ水商売やら夜遊びやらと呆けているらしいじゃねえか!男として恥ずかしくないのか!」

乱馬「うるせえ!逃げても逃げてもオカマにホストにキャバ嬢が追っかけてくるんでい!こっちの身にもなってみろ!で、そういうお前はどうなんだ、良牙」

良牙「ふ、俺か?」

乱馬の切り返しに自信ありげに良牙が微笑む。

332: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:31:41.72 ID:PG+3UYdE0
乱馬「な、何か手掛かりを掴んだのか?!」

良牙「そんなものあるわけなかろうが!この一か月!宇宙を巡って戦っていた俺にそんなこと期待するなボケェェ!!」

乱馬「自信満々に言うことかっ!」

良牙のセリフに、乱馬の顔が思わずへのへのもへじに変わる。

良牙「まあそんなことはどうでも良い。俺がここに来たワケはな乱馬!この一か月宇宙を転戦し成長したこの力を、お前で試そうというわけだ!」

良牙(クックックック。水商売で碌に修行もしていない弱体化した乱馬などここで亡き者にしてくれるわ!そして俺はあかねさんと!!)

333: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:32:46.65 ID:PG+3UYdE0
ムース「その決闘、おらが立会人を務めよう!乱馬!まさか断るつもりもなかろうな?」

ムース(クックックック。頼んだぞ良牙、最悪お前が仕損じても控えでおらがついてるだ!そしておらはシャンプーと!!)

良牙の突然の宣言。そして乱馬の返答も聞かずにムースも声を上げた。そう、彼らが銀時の言いつけを破ってまでここに来た目的は、ここで乱馬を始末することだったのだ。

ちなみに右京は乱馬に会いたかったから、さっちゃんは言いつけを破っての銀時のお仕置きが目的である!

乱馬「良い度胸じゃねえか良牙。こっちはストレス溜まって溜まって仕方なかったところだ。すっきりするまでやらせてもらうぜ!それにな、ただ俺がこの一か月、アホみたいに夜の町に浸かっていたとでも思ったか?」

334: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:36:44.31 ID:PG+3UYdE0
良牙「何?!」

ムース「ど、どういうことじゃ?!」

今度は良牙に代わって乱馬が自信満々ににやりと笑った。

乱馬「無差別格闘流は常に進化し続けているってことだよ、ふっ」

あずみ「ま、まさかあの子!!」

右京「わ!Mr.シャイン?!」

あずみ「違うわよ!それにどれだけの人がMr.シャインでピンと来ると思うの?!わざわざググってもらうことになるから止めなさい!」

ようやく復活したあずみは一突っ込み入れると、乱馬の自信のワケを続けた。

335: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:39:07.86 ID:PG+3UYdE0
あずみ「この短期間で私から伽魔仙流の極意を盗んだんじゃ……?!」

乱馬「いや、それは知らない」

狂死郎「そうですよ、あずみさん」

フラフラになりながらも、狂死郎も復活し確信に満ちた表情で言う。

狂死郎「彼は百須斗神剣の使い手となったのですよ」

乱馬「ああ、それも知らない」

右京「なんなんやあんたらは……」

とそこに警察官たちの一声が入る。

336: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:42:20.54 ID:PG+3UYdE0
土方「おいお前らぁ。話勝手に進めてるが、警察官の前で決闘なんて許されるわけねえだろーが。このままだと全員パクることになるがいいんだな?」

近藤「そうだぞ早乙女。さっきは乱闘を止めるため仕方なくお前を解放したが、これ以上やるってんなら見過ごすわけにはいかなくなる」

沖田「俺は面白そうだからいいんですけどね」

賛成1、反対2で警察の意見は割れたものの彼らの言葉に、その場に緊張が走った。そこにさらに追い打ちをかけるような人物が現れる。

勝男「ワシはその若いあんちゃんに一票や!」

右京「勝男さん!それにみんなも!」

櫛でトレードマークの七三をぴっしり決めながら、大勢の部下を連れた勝男である。

337: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 00:43:26.64 ID:PG+3UYdE0
勝男「姉さん!俺らあのあと話し合いましてね、さっそく今日から姉さんの手伝いさしてもらいましょってことであの天パのとこ向かう途中やったんですよ」

右京「そうなんかぁ!いやぁ、そりゃ助かるわぁ!」

勝男「そしたらこんな面白そうな見世物やってるやないですか、警察の皆さん。なんや決闘や言うても所詮はガキの喧嘩。ワシらいい大人は微笑ましく観戦と洒落込もうやないですか」

土方「そうはいくか溝鼠が。最近真っ当な商売に手を出したと聞いて少しはマシになったと思っていたんだがな」

土方が煙を吐き出しながら勝男を睨み付ける。

338: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 06:49:38.73 ID:PG+3UYdE0
ムース「始めぇぃ!!」

勝男「始めんの?!」

土方「勝手に始めんなよ!こっちシリアスパート始まりかけてたんだけどっ?!」

大人の事情など知ったこっちゃない彼らの決闘が始まる。

良牙「異界の地で眠れ乱馬ぁ!」

乱馬「そうはいくかよっ!」

良牙が策も防御も考えも無しに乱馬に突撃する。それを乱馬は飛び上がり躱し技を放つ。

乱馬「この一か月の成果を喰らえ!おしぼり千烈破っ!」

339: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 06:55:49.86 ID:PG+3UYdE0
良牙「くっ?!」

空中の乱馬から熱々のおしぼりが雨のように降り注ぎ、良牙の足を止まらせ視界を奪う。

乱馬「マドラー返し!」

その隙に後ろに回り込んだ乱馬は、マドラーで良牙の足を払い、彼を転倒させた。

乱馬「お名刺楔掛けっ!」

そこで逃げられないように、もう一度飛び上がり数十枚の名刺を投擲。その角で良牙の服を地面に固定する。

340: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 06:57:47.81 ID:PG+3UYdE0
ムース「おお!流れるような連続技!」

右京「ただなんか緊張感あらへんな」

あずみ「ま、まさかこの一か月でらん子、ここまで……」

狂死郎「流石ですね」

彼の多彩な水商売格闘術にそれぞれの感想を漏らす。

乱馬「そしてトドメだ!コースター落とし!」

自身が落下する勢いを利用して、手の平にコースターを当て良牙目がけて降下する。

341: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 06:59:47.49 ID:PG+3UYdE0
良牙「ふんっ!」

乱馬「へっ?」

良牙はなんてこと無しに名刺の拘束を破ると、何もない地面に着地した乱馬の後ろに回り込んだ。

良牙「やっぱり水商売してただけじゃないかボケナスがぁ!!」

そのまま背後から乱馬の腰を掴み、華麗にジャーマンスープレックスホールドを決めた。

乱馬「ぐへぇっ?!」

見事な技に周囲の野次馬から割れるような歓声が上がる。

342: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/09(日) 07:02:21.47 ID:PG+3UYdE0
ムース「これまたなんとも綺麗に決まったな」

右京「まあ、こうなるやろな」

あずみ「そうよね、マドラーにコースターって」

狂死郎「普通に戦った方が彼強いですからね」

彼の無様なホールドっぷりにそれぞれの感想を漏らす。

?「乱馬!良牙君!喧嘩はやめなさいっ!」

そこに熱狂に燃える野次馬を掻き分けながら、良く通る女の子の声が響いた。

343: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/09(日) 07:04:27.96 ID:PG+3UYdE0
?「早くどくアル、このモブ共がぁ!かぶき町の女王のお通りネ!さっさと酢昆布の花道用意するヨロシ!」

野次馬からどよめきが起こり始める。

?「検挙される前に回収ってのはダメになっちゃいましたね、真選組がこんなにもって何これぇ!歴代魔王で天下一武道会でもやってんすか?!」

何が来るのか、それを察した者は喜び、頭を抱え、ため息を吐き、とそれぞれの表情を見せる。

?「火事と喧嘩は江戸の華って言うだろ?この町はこれくらいでいいんだよ」

とうとう真打ちの、遅れての入場となる。

銀時「どうもぉ、万事屋でーす。待たせたな」

銀髪の男たちがニタリと顔をにやけさせながら登場したのであった。

350: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 20:55:35.75 ID:hK49HR9c0
銀時「で、うちで待ってろって言った連中はなんでこんなとこでお祭り騒ぎしやがってんですかコノヤロー。碌にお留守番もできないんですか、少しは自宅警備員の皆さん見習ったらどうですか馬鹿野郎共が」

新八「そこを見習うのはどうかと思うんですけど……」

神楽「まったく最近の十代は落ち着きがないネ、すぐ夜の街で非行に走るアル。やっぱり夜回りして正解だったな」

新八「そういう狙いで僕達歩き回ってたわけじゃないからね?神楽ちゃんの記憶も十分落着きないからね」

場の空気もなんのその、いつも通りのノリで万事屋トークを始める三人。

351: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 20:58:25.66 ID:hK49HR9c0
あかね「……乱馬」

そんな中、あかねが一歩前に出て乱馬を切なそうな目で見つめた。

乱馬「よ、よぉあかね。ひ、久しぶりだな……」

無様なホールド状態から立ち上がった乱馬も一歩あかねに近寄る。

シャンプー「なんだか不穏な空気ね」

良牙「そうか!きっと乱馬の街での 蕩三昧を聞いたあかねさんは嫌気がさし、三くだり半を突き付けようとしているのだ!」

近藤「俺が言うのもなんだが都合の良い妄想すぎやしないだろうか」

あかねは尚も切なげな顔をして言葉を紡げないでいる様子ある。

352: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:01:08.50 ID:hK49HR9c0
乱馬「そ、そんな顔してどうしたんだ?あ、なんか俺の変な噂を聞いたかもしれないがどれもきっと誤解だからな!俺は真面目に鏡の調査をしようとしていたのに――」

あかね「違うの!そ、そうじゃないの……もっと、別のことなの……」

乱馬「べ、別のこと……?」

あかねの次のセリフに一同がゴクリと唾を飲みこんで待つ。

あかね「は、早く着替えて来た方が良いと思うの。今は男の姿なのよ、乱馬」

乱馬「へ?」

そう言われて乱馬はマジマジと自分の服装を見つめる。女性の姿では際どくセクシーだった和服姿だったが、男に戻った今となっては変態以外の何者でもなかった。

353: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:04:47.25 ID:hK49HR9c0
あずみ「言われるまでまっっったく気付かなかったわ!!」

お妙「こんな変態丸出しの格好でも当然だと思っていたわ!!」

近藤「逮捕されてしかるべき姿なのに、いつも通りだと思い完全に意識の外にあったぞ!!」

沖田「プークスクス」

土方「あ、お前は気付いてたんだ。ホンット嫌な奴だなお前」

乱馬「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

一同にボロクソ言われた乱馬は顔を真っ赤にして『かまっ娘倶楽部』の裏口へと駆け込んでいった。

354: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:09:04.85 ID:hK49HR9c0
新八「物凄く赤い顔をしてましたね、それにしても素速い」

神楽「さすが赤いと三倍速く動けるネ」

二人が暢気に会話をしていると、息の上がった乱馬が普段のチャイナ服に着替えて戻ってきた。

あずみ「出た!お得意早着替え!」

近藤「よっ!その速さ江戸随一!」

乱馬「はぁはぁ……よぉ、あかね。久し振りだな」

馬鹿な合いの手は一切無視して出会いテイク2を始める乱馬。

355: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:13:48.17 ID:hK49HR9c0
神楽「あ、さっきの無かったことにしようとしてるアル。七さんに会った時の銀ちゃんみたいアル、ださいアル」

勝男「だから誰やねんそれ」

銀時「そう言ってやるな神楽、男は誰だってってわけじゃないがあんな格好してハメ外したり  たかったりする日もあるんだよ。それを許嫁に見られちまったんだ、そりゃうまくいくまで何度でも時をかけるさ」

乱馬「元はと言えばてめえが俺をこんなトコに売り飛ばしたせいだっつーの!!それに俺にそんな趣味は無い!!そして万屋ぁ!!」

怒りに燃える乱馬が死んだ眼で鼻をほじる銀時を指差す。

乱馬「ここで会ったが百年目!この一か月の恨み、晴らさせてもらうぜ!」


356: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:19:26.24 ID:hK49HR9c0
あかね「待って乱馬!銀さんも何も悪気があって乱馬を夜のお店で働かせたわけじゃないと思うの!鏡の調査も頑張ってやってくれてたし、ね?銀さん!」

銀時に襲い掛かろうとした乱馬をあかねが立ち塞がり止めた。

銀時「へ?あ、ああ!そうだよ、悪気なんてこれっぽっちも無かったさ!いや、君ならどんな困難でも乗り越えらると信じてたんだよ!な、だから一回落ち着こう。さっきの女装姿も銀さん見なかったことにするから、脳ミソ内で今消しゴムめっちゃ使ってるから」

乱馬「その話は止めろぉ!」

お妙「おすわり!」

乱馬「はぅっ!」

再度銀時に飛び掛かろうとした乱馬であったが今度はお妙に、そのオーラによって阻止された。

357: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:21:38.35 ID:hK49HR9c0
お妙「ちょっとこれはどういう事か説明してもらえますか銀さん?」

銀時「えーっとぉ、すんません。マジでなんのことかわかんないですけど……」

顔は笑ってはいるものの、お妙の身体から発せられている殺気を察知した銀時は真剣に思い巡らせるも、何に対して説明すればいいのやら分からないでいた。

新八「姉上、一体なんのことですか?お願いですからこれ以上話がこじれるようなことだけは止めて――」

お妙「新ちゃんは黙ってて。さぁ銀さん、その今一緒に来た女の子について説明してもらいましょうか?」

銀時「そりゃどういう意味で――」

猿飛「そうよそうよ!」

困惑する銀時をよそに、お妙の言葉にさっちゃんも乗っかる。

358: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:27:02.42 ID:hK49HR9c0
ムース「お、まさかあのゴリラ女が天道あかねに嫉妬しておるのか?!そんな事とは無縁そうであったのに」

右京「ゴ、ゴリラ女てあんた。普段どんな人なん?」

ムース「シャンプー目当てでキャバクラに通い詰めていたせいで何度も絡む機会があったんじゃが、なんというかのう。もう、むごい……」

右京「この町らしい人っちゅうわけやな」

ムースの表情と説明でだいたいを察した右京は苦笑いで話を流した。

お妙「銀さんじゃお話にならなそうなのでもう本人に言ってしまうけれど、まずあなたお名前は?」

あかね「て、天道あかねっていいます」

突然の質問に戸惑うあかねに構わずお妙は言葉を続ける。

359: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:29:03.70 ID:hK49HR9c0
お妙「私は志村お妙といいます。そこの駄眼鏡の姉です。そして私は第一話から登場しています。そして私は第一話から登場しています」

一同(なんで二回言ったんだろう……)

あかね「あ、あなたが新八君のお姉さんだったんですね。はじめまして!」

猿飛「私は猿飛あやめ。そこの天パの嫁です。そして私は第四十話から登場しています。そして私は第四十話から登場しています」

銀時「しれっと嘘を吐くなぁ!」

お妙「それでなんだけど、もう私が何を言いたいか分かったかしら?」

あかね「え、ええ?!す、すいません。なんのことやらさっぱりなんですけど……」

ほぼノーヒントといえる状態で答えを迫られた、というよりイチャモンを付けられたあかねは困惑するばかりであった。

360: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:32:24.26 ID:hK49HR9c0
猿飛「まったく最近の主人公やヒロインってのはどうしてこう鈍いのかしらねぇ?眼ん玉に焼き火箸突っ込まれても気付かないんじゃないのかしら?プフッ」

お妙「言い過ぎですよ猿飛さん、それにこの子最近のヒロインて感じがしないわ。九十年代の香りがプンプンするもの、プフッ」

新八「や、やべぇ……我が姉ながらドン引きするレベルで底意地が悪い……」

銀時「卵焼き以外も真っ黒じゃねえかお前の姉ちゃん」

お妙に聞こえないように声を潜める二人。

お妙「分からないなら教えてあげるわ!いい?!今あなたがいるポジション!万事屋三人の横っていうのはね、あなたみたいなポッと出の人がいていい場所じゃないのよ!」

お妙の背景に雷鳴が轟く。

361: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:37:01.04 ID:hK49HR9c0
一同「へ?」

猿飛「そのポジション争いのため、何人の女の子が今まで涙を飲んできたことか!今日だってほら見なさいよ!ツッキー達だって言ってしまえばあなたのせいで来れなかったのよ!」

さっちゃんの背景に納豆が轟く。

一同「えぇー……」

理不尽な二人の主張にもはや打つ手なしの一同であった。

お妙「ということで早くそのポジションを私に返しなさい。この晴れの舞台、やっぱりそこには第一話から登場している私が立っているべきです」

良牙「俺達の世界と『ということで』の使い方が違うのかこの世界は……」

右京「大丈夫や良牙。ウチにも何が何やらや」

ムース「やはり女王お妙。むごいのう……」

362: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:40:55.93 ID:hK49HR9c0
猿飛「ちょっとなんでお妙さんなのよ!ここは私に決まってるでしょ?!今から私と銀さんでTo LOVEるの世界にクロスしに行って色々トラブっちゃう予定なんだか――」

銀時「もう色々トラブり過ぎだお前らはぁ!」

思い切り蹴り飛ばしながらさっちゃんに突っ込みを入れた銀時はお妙と対峙する。

銀時「もうこの辺でいいだろ?これ以上はなんだか見てられねえぜ。さ、異世界組ぃ、さっさと帰って説教アンド作戦会議だバカヤロー」

あかね「銀さん……」

お妙との間に入ってくれた銀時を見てあかねが表情を緩める。

363: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:47:20.02 ID:hK49HR9c0
お妙「あら、もうこの天パを懐柔したの?シャンプーちゃんと一緒で手が早いのねぇ」

あかね「ちょっとそれどういう意味ですか?!」

お妙「聞こえた通りの意味よ。まったく自分の作品の男もきちんと捕まえられないくせに他にも手を出すなんて」

乱馬「ま、まあまあ。少しは落ち着こうぜ?な、あかねもさ。万事屋の言う通りここは鏡の調査を――」

あかね「乱馬はどっちの味方なのよ!」

お妙「ちなみに乱馬君だって今はあなたとくっつくみたいな感じですけど、次回作だと私とくっつきますからね。あなた次回作の『犬○叉』じゃもういきなり死んだ設定ですから、負け確ヒロインルートという深い業を背負わされてますから」

365: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:51:19.79 ID:hK49HR9c0
新八「もうこれ以上はホントに止めてください姉上!!次の人気投票どうなっても知らないですよ?!てか今更作品名隠す意味あんのかこれ……」

近藤「そうですよお妙さん。ちなみに俺とお妙さんの次回作『勲物語』じゃ俺達二人序盤でくっついてその後ラブラブルートですから安心してください」

乱馬「こじれるから馬鹿ゴリラは黙ってろ!」

あかね「あら!大変!」

近藤の立ち居振る舞いを見たあかねは今までのいざこざもなんのその、近藤にどこからか持ち出したヤカンで熱湯をかけた。

近藤「うおあっちいいいいいい!!!」

366: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 21:58:21.20 ID:hK49HR9c0
あかね「そんな!!変身が戻らない!!乱馬大変よ!!この人ゴリラ溺泉で溺れた人だと思うんだけどお湯をかけても戻らないわ!!」

乱馬「あ、ああ。そいつな、別に呪泉郷で溺れたわけじゃないんだ。俺もてっきり最初はそう思っていたんだがそれが素なんだ」

あかね「そ、そうだったの?!ご、ごめんなさい!私ったら良かれと思ってつい……」

取り出したハンカチで慌てて近藤を拭くあかね。

近藤「熱過ぎてこれが恋なのかと思ったが大丈夫だ。よく分からんが君の優しさはおじさんにも伝わったよ」

右京「全然大丈夫ちゃうやろ!大やけどしといてこれが恋かと思ったって頭大丈夫ちゃうやろ!」

367: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 22:01:36.51 ID:hK49HR9c0
お妙「だいたい良かれと思って熱湯をかけるって何?この子ダチョウ倶楽部にでも育てられたのかしら?それに近藤さんにもちょっかいをかけるなんてもはや無差別テロね」

新八「姉上!また暗黒面に侵されています!気を確かに!」

沖田「おいそこの女ぁ!近藤さんに熱湯かけといてタダで済むと思ってんのかぁ?!動物虐待で逮捕しろ土方ぁ!」

土方「動物虐待じゃなくて暴行と傷害だろぉが!あとなんで普通に呼び捨て?!」

勝男「おいおいなんやこの茶番は?こんなもんやのうてさっきの喧嘩の続きしてくれへんのぉ?退屈やとおっさん達が暴れてまうでぇ!」

良牙「そうだ乱馬!決闘の続きだ!」

乱馬「そんなことしてる場合じゃないだろぉが!」

乱馬の思いとは裏腹に場はますますヒートアップしていく。

368: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 22:05:13.90 ID:hK49HR9c0
ムース「この混乱の勢いに乗じてならいけるやも!シャンプー!好きじゃあ!」

シャンプー「……良かったなマダオ、ムースがお前のこと抱きしめるほど好きあるって。ったく、ちゃんと眼鏡かけるよろし」

長谷川「え、ええ?!そ、そうなの?!もう止めてくれよムース君!何回かキャバクラで会っただけだってのに、そ、それに俺にはハツって女房がいてよぉ」

狂死郎「セリフとは反対に何故そんなに顔がほころんでいるのでしょうか……」

アゴ美「やだぁ!カマップル成立よぉ!一番アゴ美!ハッピーカマーウエディング歌いまーす!」

369: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 22:11:52.28 ID:hK49HR9c0
桂「誰がカツラップルだ!桂だ!」

エリザベス『その聞き間違いは流石に無理がありますよ桂さん』

九能「おお!!エリザベス殿!!戻って来られたのですね!!」

山崎「ええ?!こんな流れの中で俺も一言いいんですか今日は?!よーし、わ――」

神山「シャンプー!好きじゃあ!」

新八「中の人ネタもう止めろぉ!飽き飽きしてんだこっちは!」

神楽「なあ新八、アレ何あるか?あの気持ち悪いの、あ、隠れた」

新八「何を言ってるんだか分からないけど知らないよ!とにかくこの騒ぎを止めなきゃ!」

370: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 22:13:36.17 ID:hK49HR9c0
お妙「騒ぎを止める?新ちゃんこそ何を言っているの?こんな乱世でこそ英雄は生まれるもの!フハハ、世界よもっと乱れるのだぁ!あの星を目指すのだぁ!」

新八「あんたは一体何キャラ目指してんだぁ!」

猿飛「銀さぁん!私ならもうとうに乱れてるから早くあなたの金ピカの英雄王見せてぇ!」

近藤「お妙さん!代々伝わる俺の●●の裏の星型のアザでいいなら見せましょうか?!」

新八「そんな血統は滅びちまえぇぇ!!」

状況はまさにカオスとしか言いようの無い状態であった。周りを囲んでいた野次馬達からも不安の声が上がる。

野次馬A「現かぶき町四天王が全員集結、武装警察に攘夷志士、おまけに最近かぶき町を騒がしている奴らまで揃ったぞ……い、一体何が始まるってんだ?!」

371: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 22:16:09.31 ID:hK49HR9c0
野次馬B「せ、戦争だ!戦争に違いねえ!華陀の時とは比べ物にならねえ程の戦争が始まるんだきっと!」

銀時「うるせえぇぇぇ!!!もう何も始まらねえよ!!!この後の展開なんて知るか!!!こんなめちゃくちゃになった後の流れなんて思い付かないからこのあとみんなでピアノの音に合わせてお辞儀して終了かもしくは夢オチでいいわぁぁぁ!!!」

神楽「ねえ銀ちゃん、アレ何アルか?今度はあの空飛んでるやつ」

銀時「知るかぁぁぁ!!なんでもは知ってるわけじゃねえんだよ!!知ってることだけなんだよ!!」

あかね「飛行船?それになんだかとっても近いし大きなスクリーンまで……」

空を見上げるあかねの言葉に銀時と新八も顔を上げる。

372: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 22:19:42.64 ID:hK49HR9c0
銀時「ん?なんだあ――」

パァァァッン!!

パァァァッン!!

パァァァッン!!

三発の大きな花火が上がり、その場で騒いでいた連中も何事かと空を見る。なんだなんだとざわめく一団の上には周囲のビルすれすれで大型の飛行船が浮いていた。そして甲板からは地上に向けて大きなスクリーンが垂れ下がっていた。

?「かぶき町の諸君、御機嫌ようなのじゃ」

スクリーンに光が灯り、二つの人影が映し出された。だがシルエットのみで誰だかはまるで分からない。

乱馬「……この声、どこかで聞いたような気が」

373: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 22:27:06.17 ID:hK49HR9c0
?「早速じゃが血気盛んな諸君らに良い知らせがある!」

首をかしげる乱馬。尚もシルエットの言葉は続く。

?「かぶき町バトルロワイヤルの開催をここに宣言する!」

シルエットの声にエコーが入り周囲にこだまする。数秒の間呆気にとられて黙ったままの一同であったが、銀時の罵声をきっかけに皆スイッチが入った。

銀時「何ワケ分かんねえこと言ってんだ!もうこの話は夢オチってことで終わらせんだよ!分かったらさっさとすっこみやがれぇ!」

新八「そうですよ!もうこの後の展開なんてどうせグダグダになるんですからここらで畳むのが正解なんです!だいたいその話も唐突すぎるんですよ、無理矢理感半端ないです」

神楽「そうアル!だいたい何アルかその超上から目線!私と話したいならその頭地面にこすり付けて喋るヨロシ!」

そう言うと神楽は新八の眼鏡を奪い取り、レーザービームのような威力で飛行船に投げ付けた。

374: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 22:30:56.29 ID:hK49HR9c0
新八「な、何やってんだお前はぁぁ!!」

神楽「むしゃくしゃしてやった、後悔はしてない」

新八「後悔と反省と弁償をしろぉぉ!!」

あかね「ああっ!!新八君がっ!!」

新八「僕こっちぃぃぃ!!!」

近藤「警察を前にしてなんて事言ってんだこらぁ!」

沖田「賞品とか賞金は出るんですかこらぁ!」

土方「返答次第でどうするつもりだお前は!」

真選組もバズーカ、拳銃を容赦なく撃ち込む。周囲の人々も空き缶や棒切れを次々に投げ付ける。

375: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 22:35:29.31 ID:hK49HR9c0
乱馬「次から次へと厄介事をぉぉ……!!もうあったま来た!!喰らいやがれ!猛虎高飛車ぁ!!」

良牙「……なんだかあの豚野郎を思い出してムカついてきたな、俺も乗ったぞ乱馬!獅子咆哮弾っ!!」

右京「ウチらも続くでぇ!」

シャンプー「私と乱馬の邪魔する、許さない!」

ムース「ククク、こんな船!おらが縛り上げてやるだぁ!」

九能「弾幕薄いぞ!何やってる!」

異世界組も上空の飛行船にそれぞれのありったけをぶつける。

376: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 22:39:50.22 ID:hK49HR9c0
?「わ、あああ!!や、止めるのじゃ止めるのじゃあ!!おい!じい!なんとかせいっ!この艦、波動砲とか付いてないの?!薙ぎ払うのじゃぁ!」

?「イスカンダルまで行くわけじゃないんだから付いてるわけないでしょ!だいたいワシは嫌だって言ったじゃないですか!この星の人間たちは、特にこの町の人間たちは野蛮なサイヤ猿より野蛮なんですから!」

地上からの攻撃が次々に命中し、大型飛行船はグラグラと揺れ、そこかしこから煙が上がり始める。スクリーンに映る二つのシルエットも大慌てである。

?「お、落ち着くのじゃ皆の者!よ、余はちゃんと莫大な賞金と、世にも珍しい賞品を用意しておる!優勝した者にはもちろんこれを贈呈しよう!」

一同「……」

その言葉に一同の攻撃が嘘のようにピタリと止む。

377: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 22:43:00.10 ID:hK49HR9c0
銀時「ち、ちなみになんだけどさ、興味はないけどまあ代表して聞いとくけどさ。その賞金てのはいくらなのよ?」

?「ふぅ、やっと落ち着いたか。まるで猛獣じゃな」

神楽「ああ?!なんか言ったアルかこらぁ!」

?「な、なんでもないぞ!賞金はなんと!百億円じゃ!!」

またもシルエットの声にエコーが入り、音が響き渡るが先程とは違い失笑の嵐であった。

新八「ひゃ、百億円て。小学生じゃないんですから」

スペアの眼鏡を掛けながら新八が鼻で笑う。

お妙「フフ。まあ飛行船でわがまま出来るほどにはお金はあるようだけど、さすがに百億円と言われると笑っちゃうわね」

賞金のあり得ない額に、スクリーンの向こうの人物を嘲笑する声がいくつも上がる。

378: ◆sT.xLigL/Q 2015/08/10(月) 22:44:23.87 ID:hK49HR9c0
?「ほ、ホントじゃぞ!これが証拠じゃ!」

シルエットが画面から消えると台座に置かれた、サッカーボール大の眩いばかりに輝くダイヤが映し出された。

?「現金で百億を用意するのは難しいのでな、この宇宙で最も希少で巨大な宝石を進呈しよう。この石の時価がまあ百億というとこのなのでな」

アゴ美「あ、あれ本物じゃない?!私ヒルナンデスで見たわよこの前の宝石特集で!!」

狂死郎「あ、あれは幻の……?!一度お客様に写真だけ見せられたことがありますがあの輝き、そっくりです!」

夜の世界で生きる、そういった方面には耳聡い二人の言葉で一同は驚きの声を上げた。


次回 乱馬「かぶき町?」 後編