京介「なあ、桐乃」 桐乃「なに? 京介」 前編

463: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:05:28.37 ID:ZpJuh1to0
京介「今日じゃないと駄目なんだ。 こんな時間になったのは、悪い」

京介「そんで……」

俺は言い、隣に座る桐乃に視線を向ける。

桐乃「お父さん、お母さん。 まずは、ごめんなさい」

そう言い、桐乃は頭を下げた。 その辺りのことはきちんと謝りたいと桐乃からの要望があったから。

佳乃「……良いわよ。 別に」

佳乃「それより、京介の話の方が私は気になるわね」

 

俺の妹がこんなに可愛いわけがない (12) (電撃文庫)
伏見 つかさ
アスキー・メディアワークス (2013-06-07)
売り上げランキング: 57,118
464: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:06:10.06 ID:ZpJuh1to0
お袋は桐乃を座らせると、俺の方に鋭い視線を向ける。

桐乃の家出をひと言で済ませる、か。

……やっぱりだよなぁ、これは。

お袋も親父も、多分分かっているのだ。

分かっていて、今まで直接的にこういう話し合いの場を作らせなかった。

俺を家から出すという対処法を取って、改善を図っていた。

勿論、あくまでも俺の予想なので、事実は違うかもしれんが。

465: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:06:42.61 ID:ZpJuh1to0
京介「お袋、親父」

京介「俺は……」

言うんだ。 言わなければ、何も変わらない。

京介「俺は、桐乃のことが好きだ」

はっきりと言葉にして、お袋と親父に向けて言う。

そんな俺の言葉を受け、お袋は目頭をつまみ、目をきつく瞑った。

466: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:07:09.95 ID:ZpJuh1to0
佳乃「……一応、聞いておくわ」

佳乃「京介、それは家族として? 兄妹として?」

それは多分、最後の助け舟でもあった。

ここで俺がそうだと言えば、何事も無く終わらせてやるという、最後の助け舟。

……だが、残念ながら俺はそれには乗れない。

467: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:07:37.27 ID:ZpJuh1to0
京介「それも勿論ある。 だけど、一人の異性として、好きだ」

佳乃「……そう。 やっぱり、ね」

京介「知っていたのか。 俺と桐乃のこと」

佳乃「最初は、そうなんじゃないかって疑っていたくらいよ。 確信したのは、京介のアパートに行った時ね」

佳乃「最初に行った時、あの日……桐乃が居たでしょう? 嘘は吐かないでね」

お袋は真っ直ぐと俺を見て、尋ねてくる。 嘘を吐く隙なんてのは皆無。 そんな鋭い眼差しだった。

468: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:08:06.80 ID:ZpJuh1to0
京介「……ああ、居たよ。 お袋にばれないように、隠れてた」

京介「でも、どうして分かった? ばれる様なことは……」

佳乃「あなた、本当に気付いていないと思っていたの? 玄関に置いてあった靴、気付かない訳が無いでしょ?」

……ばれてた、か。

あの時、お袋は無理にでも中を調べて、桐乃を見つけることは出来たはずなのに。

それをしなかった。

……理由は恐らく、俺と桐乃を信じようとしたから。

そして、俺たちはそれを裏切っている。 お袋の気持ちを全て。

469: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:08:34.41 ID:ZpJuh1to0
京介「……」

俺が押し黙っていると、お袋は心底辛そうな顔をした後に親父の方に顔を向ける。

佳乃「お父さん。 後は任せてもいいかしら」

自分ではもうどうにも出来ないとの判断からか、お袋は親父に助けを求める。

大介「……うむ」

親父は組んでいた腕を解き、立ち上がった。

大介「京介、ちょっと立て」

怒りが滲み出ていることは、容易に見て取れる。 内心もう本当にびびりまくってやばいが……やるっきゃねえ!

470: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:09:02.52 ID:ZpJuh1to0
京介「ああ」

言い、俺は椅子から立ち上がると親父の前まで歩く。

大介「貴様、自分が何を言っているのか分かっているな」

京介「分かっている。 自分の言葉には責任を持て。 だろ」

大介「……そうだ。 なら、覚悟も出来ているな」

殴られる覚悟は未だにできてねえけど……だって仕方ねえじゃん。 痛いのは嫌に決まっているし、親父はマジで怖いんだからさ。

だがここで「いや、全然」とか言ったらそれこそ殺さねかねん。 出来てないなら、今、覚悟を決めるだけだ。

471: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:09:34.58 ID:ZpJuh1to0
京介「おう! とっくのとうにな!」

俺は自分に言い聞かせるように、言う。

大介「この……大馬鹿者がッッ!!」

親父は家中に響き渡る声で怒鳴り、俺の顔を本気で殴る。

当然、まるでゲームのように俺は吹っ飛んでいった。

こりゃ、強攻撃どころじゃねえ。 必殺技じゃねえか。

472: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:10:02.37 ID:ZpJuh1to0
大介「貴様ッ! 自分がどれだけふざけたことを抜かしているのか分かっているのか!!」

親父はそのまま倒れている俺の胸倉を掴み、立ち上がらせる。

京介「……分かっているさ。 ふざけたことってのも、馬鹿なことってのも」

京介「だけど! 俺は桐乃を好きになっちまったんだよ!! それはもうどうしようもねえんだ!」

大介「……考えを改める気は、無いと言う事か」

473: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:10:31.62 ID:ZpJuh1to0
京介「無い。 誰になんて言われても、親父に殺されることがあったとしても、俺は桐乃を好きでいることはやめない。 絶対にそれだけは、やめねえよ」

かつて、桐乃が俺に言ったように、俺は言う。

京介「死んでも、嫌だね」

親父は耐え切れなくなったのか、もう一度俺の顔を殴り飛ばし、再度倒れた俺の上に馬乗りになりながら、言う。

大介「京介、これで最後だ」

大介「今すぐ俺と母さんと桐乃に土下座をするか、今すぐこの家から出て行くか、選べ」

474: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:11:08.40 ID:ZpJuh1to0
……本当に、俺はどれだけ愛されているのだろうか。

お袋も、この親父でさえも、最後は俺に助け舟を出してくれる。

今ならまだ引き返せると、必死に止めてくれている。

これが、愛情以外の何だと言うのだ。

……だが、俺は言わなければならない。

泣きそうになっているのを抑えて、堪えて。

お袋と親父に、言わなければならない。

それが、俺の決めたことだ。

-------------------俺は周りの不幸を取り、自分の幸せを取る。

475: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:11:42.33 ID:ZpJuh1to0
これだけは、揺るがない。 それが、俺の『最悪の選択肢』だ。

京介「……今まで、お世話になりました」

俺がそう言うと、親父は本当に一瞬だけ悲しそうな顔をし、俺の胸倉を掴んでいた手を離す。

これで、終わりだ。

桐乃にもこの事は伝えていない。 ここまで踏み切った行動をするとも言っていない。

476: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:12:09.72 ID:ZpJuh1to0
あいつは多分、俺と桐乃が恋愛していたことは言って、なんとか全員が納得できる展開を望んでいたはずだ。

それくらい桐乃にとっても、二人は掛け替えの無い物だろうから。

そんで桐乃は親父にも怒られ、お袋にも泣かれ、それである種の区切りを付けるのだと、思っていたはずだ。

……そう考えると、案外俺も不幸なのかね。 全員が不幸になる選択ってとこか。 間違いねえや。

にしても自分でも意外だったぜ。 どうしようかと思ったとき、俺はどうしても桐乃のことが諦められなかったから。

これが桐乃の大好きなゲームなら、お袋も親父も納得して、以降は幸せに暮らしましたとさ。 みたいになるんだろうけど。

477: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:13:02.41 ID:ZpJuh1to0
生憎、現実はそうもいかねえ。

お袋を泣かせて、幻滅させて。

親父を怒らせ、悲しまれ。

それでも俺は、この選択を取る。

桐乃に対する俺の感情には、嘘を吐きたくない。

散々、親父にもお袋にも嘘を吐いた俺だけど、それだけはどうしても偽ることができねえんだよ。 しょうがないだろ。

これが、この馬鹿げた物語の決着だ。

478: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:13:28.50 ID:ZpJuh1to0
……さて、そういう訳で、終わりにしよう。

長々としたくだらない話をしてしまったが、俺の物語はこれにて終わり。

こんなつまらない結末だからこそ、リアリティーがあるってもんだろ?






そう、思ったときだった。

479: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:13:55.62 ID:ZpJuh1to0
桐乃「あたしも京介のことが好き」

桐乃の声が、聞こえた。

佳乃「桐乃?」

大介「……桐乃」

桐乃「お父さん、お母さん。 本当にごめん」

桐乃「でも、それでもあたしは京介のことが好き。 京介と一緒で、好きでいることはやめない。 絶対に」

桐乃「だから、京介が家から出て行くなら、あたしも出て行く」

桐乃「今まで、ありがとう。 ごめんなさい」

480: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:14:25.19 ID:ZpJuh1to0
それから少し経って。

桐乃は荷物をまとめる為、一度部屋に戻っていった。

俺の荷物は大方向こうのアパートに置いてあるので、そのままでも問題は無いだろう。

お袋は泣いていて、親父は先ほどから腕を組み、何やら思考している様子である。

……完全に、出て行くタイミングを逃してしまった。

今からのそのそと移動するのも、なんか違うよな……。

481: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:14:56.57 ID:ZpJuh1to0
かと言って、ここに桐乃が来るまで残っているというのも辛い。

つうか、あいつは何を言ってんだよ。 マジで今年一番驚いたぜ。

俺が『最悪の選択』を選んだと思ったら、桐乃も桐乃で『最悪の選択』を選んだと言う訳だ。

はは……そうだよな。

あいつは言っていたもんな、さっき。

俺のことが何より大切だと、言ってくれたもんな。

単純なことだ。

482: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:15:22.24 ID:ZpJuh1to0
……こんなことになって、巻き込んじまったよなぁ。

だけど……それでも今、俺は嬉しかった。

お袋にも親父にも嫌な思いをさせているっつうのに、嬉しかった。

桐乃が一緒に来てくれると言ってくれて、泣きそうなくらいに。

そんな風に考えていたとき、親父から声が掛かった。

483: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:15:53.93 ID:ZpJuh1to0
大介「京介」

京介「……はい」

大介「一応、最後の情けだ。 貴様が大学を卒業するまで、桐乃が高校を卒業するまでの費用は出してやる。 それ以降は関わらん」

大介「貴様のことは、息子だとは思わん。 家族だとも思わん」

俺は、黙ってその言葉を聞く。

大介「最後に、ひとつだけ約束しろ。 もしも破ったら、俺は貴様を殺しにいく」

大介「……桐乃を泣かせるな」

484: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:16:21.17 ID:ZpJuh1to0
それは、その言葉は。

親父から息子に向けての、最後の言葉だった。

京介「分かった。 必ず、幸せにする。 泣かせない。 守ってやる」

京介「……今まで、本当にありがとうございました」

気づけば、涙が零れ落ちていて。 それはどうやら、止まらなく、溢れ続ける。

この世に、俺以上に親不孝者は居るのだろうか。 まあ世の中は広いしいるっちゃいるんだろうが……それでもトップクラスの親不孝者だぜ、やれやれ。 全く、百人が聞いたら百人が馬鹿なことをしている。 ということを俺はしている訳だ。

だけど、それでも……俺は後悔をしちゃいない。

もう、迷わずに歩くと決めたから。

俺は再度、親父とお袋に頭を下げ、家を出て行った。

485: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:16:46.27 ID:ZpJuh1to0
外で待つ事数十分、やがて、桐乃が姿を見せる。

桐乃「……ごめん、待った?」

京介「今日はお前に驚かされたばかりだぞ。 そんな台詞が聞けるなんてな……俺がお前を待たせた時間を考えれば、待った内なんかにはいらねーって」

桐乃「ひひ。 そっか。 んじゃ、いこ」

桐乃は少し大きめのキャリーバッグを引きながら、俺の隣を歩く。

京介「おう。 行くか」

そうして俺も、歩き出す。

486: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:17:32.17 ID:ZpJuh1to0
アパートまでの道のり、桐乃が顔を伏せたまま、呟くように喋る。

桐乃「……お母さん、泣いてた」

京介「……だろうな」

桐乃「……あたしたちには見せなかったけど、お父さんも泣いていたと思う」

京介「そりゃ、そうだろ。 大切な息子と娘が、恋愛しちまってるんだもん」

桐乃「……だよね。 馬鹿なことしてるよ、あたしたち」

487: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:18:00.00 ID:ZpJuh1to0
京介「……ああ、そうだな」

京介「だけど、俺は後悔しちゃいねえぞ。 悪いとか、申し訳ないとかは思うけど」

桐乃「あたしもだよ。 京介があそこまでするなんて思ってなかったケドね?」

京介「……俺はお前が一緒に来るなんて言いだすとは思っていなかったぜ」

桐乃「ふん。 そんなのちょっと考えれば分かることじゃん」

京介「考えるって、何を?」

488: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:18:27.02 ID:ZpJuh1to0
桐乃「チッ……」

俺がわざとそう聞くと、桐乃は舌打ちをしながら、顔をふいっと逸らす。

ちなみにこの時、桐乃の顔は赤かったのだが、それは寒さの所為だろう。

だから、俺は言う。

京介「お前、顔真っ赤じゃねえか。 寒いのか?」

桐乃「……そ、そう! めちゃくちゃ寒いし? その所為……たぶん」

な? 寒さの所為だったろう?

489: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:18:53.41 ID:ZpJuh1to0
京介「そうかよ。 んじゃ、そういうことにしとくわ」

桐乃「……なーんか、ムカつく」

京介「なんかって何だよ。 俺はただ、お前の顔がすっげえ赤いのは寒さの所為だなぁ……って言ってるだけだぞ?」

桐乃「それがムカつく! あんたわざとでしょ!?」

京介「へへ、わざとって何のことだか」

桐乃「……チッ」

490: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:19:20.04 ID:ZpJuh1to0
桐乃は可愛らしく舌打ちをすると、急に歩く足を止め。

京介「おい、どうしたんだよ。 そんな怒ることか?」

桐乃「京介、人生相談!」

いつもの笑顔を俺に向けながら、それは始まった。

……おいおい。 ついさっきすんげー難しい人生相談終わった後じゃねえか。 だってのに今からかよ!

491: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:19:49.25 ID:ZpJuh1to0
京介「へいへい。 分かったよ。 なんだ?」

桐乃「今からちょっと行くところができたから、付いてきて」

京介「今から? 俺はもう疲れ果てているんだけど!」

桐乃「うっさい。 そんなの知らない。 京介だって、そうゆってあたしを連れて行ったじゃん? だから別にいいっしょ!」

京介「わーったわーった。 行きゃ良いんだろ? んで、どこ行くの」

桐乃「あそこ」

492: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:20:18.20 ID:ZpJuh1to0
桐乃は言うと、すぐ近くにある川沿いの土手を指差す。

……まさか「あんた、今からあそこで泳いでみて」とか言うんじゃねえだろうな!? なんてことだ、これはまさかのバッドエンド……!

俺のそんな心配を他所に、桐乃は喋り続ける。

桐乃「少し、話してこ」

493: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:20:48.96 ID:ZpJuh1to0
京介「よっと」

桐乃「つーかれーたーなー」

俺と桐乃は、川のすぐ近くの土手に座り込む。 並んで、一緒に、寄り添って。

桐乃「うわ。 星ちょー綺麗」

言われ、俺も視線を空に移す。

そこには、クリスマスの日に見た夜景よりも輝いて見える星空があった。

数時間前までの大雨が嘘のように、空は綺麗に見渡せる。

494: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:21:20.51 ID:ZpJuh1to0
京介「ほんとだ。 すっげえな」

桐乃「今回はゆわないんだ?」

京介「あ? 何を?」

桐乃「「お前の方がよっぽど綺麗だぜ」って」

京介「ぶっ! 言わねえよ! あれは忘れろ!!」

桐乃「ムリ。 後になってから思ったケドさ。 あれ若干キモイよね」

495: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:21:46.77 ID:ZpJuh1to0
京介「や、やめろ……割とマジで恥ずかしいから、やめろ」

京介「てか、お前だってめっちゃ嬉しそうな顔してたじゃん! 人のこと言えんのかよ!?」

桐乃「あたしは良いの。 あんたはダーメ」

……変わらないよなぁ。 こいつ。

京介「……はぁ。 俺はこの先心配で仕方ねえよ」

桐乃「なんとかなるっしょ。 あたしに任せなさい!」

496: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:22:15.81 ID:ZpJuh1to0
京介「どこからその自信が出てくるのか気になるけど……頼りにしてるぜ。 桐乃さん」

桐乃「ひひ。 まずはグッズの整理からしないと」

ああ、そうだ。 俺の部屋、こいつのグッズまみれになるんじゃねえの……? 最大の心配だぜ、それ。

まあそれは追々考えるとしよう……今考え始めたら、気が重くてやってられんからな!

しっかしこいつ、さっきからニタニタずっと笑ってやがるな。 何を考えているんだか。

497: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:22:42.59 ID:ZpJuh1to0
京介「……なあ、桐乃」

そう思い、俺は聞いてみることにした。

京介「今、幸せか?」

桐乃「……どうだろ。 お母さんとお父さんのこともあるし、ちょっと気持ちぐちゃぐちゃしちゃってるケド」

桐乃「幸せ、かな」

桐乃は俺に笑顔を向けて、言う。

498: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:23:34.45 ID:ZpJuh1to0
桐乃「あんたはどうなの? 幸せ?」

桐乃からの問い。

俺はそれに、こう答える。

京介「へへ、お前と一緒だよ」

いつか桐乃が俺に言った様に、同じ様に俺は返した。

499: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:24:26.74 ID:ZpJuh1to0
それを聞いた桐乃は、ただでさえ緩んでいる顔を更に緩め、言う。

桐乃「そか。 良かった」

桐乃「……本当はさ、怖くて怖くて仕方なかった。 京介が来てくれるまで」

桐乃「泣きそうになって。 我慢して。 それでも頑張らないといけないんだーって思って」

桐乃「なのに、京介がそんなの全部ぶっ飛ばしてくれて。 嬉しかった」

桐乃「……よし。 もう一回、言おうかな」

500: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:24:57.01 ID:ZpJuh1to0
京介「ん?」

桐乃は俺の方に体を向け、自身の胸に手を当て、口を開く。

桐乃「あたしは、京介のことが好き。 だから、あたしと付き合ってください」

それは桐乃から俺に向けての、正真正銘、心からの告白。

俺の答えなんて物は、それこそ決まりきっている答え。

京介「俺も、桐乃のことが好きだ」

京介「桐乃。 付き合うか」

俺が返事をすると、桐乃は笑い。

桐乃「うんっ」

夜空にも負けない程の笑顔で、言った。

501: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:25:26.49 ID:ZpJuh1to0
それから数分後。 俺たちは未だに座って空を眺めている。

いや、彼氏彼女になったのは良いが……何を話せば良いのやら、妙に意識しちまうぜ。

そんな時、桐乃から声が掛かる。 いっつもこの状態を打破してくれるのは、桐乃からなんだよな。 昔も、今も。

桐乃「あんた、それちょー痛そうだよね」

桐乃は俺の頬を指差しながら、そう言う。

……付き合い始めて最初の会話が「親父に殴られたこと」かよ! なんだそれ!

502: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:25:53.15 ID:ZpJuh1to0
京介「めっちゃ痛い。 ぶっちゃけ泣きそう」

だって親父手加減しねえんだもん。 そりゃそうだろうけどさ。 骨折れるんじゃないかって思ったぜ。 つうか泣くのを我慢できた俺は偉いと思う。

桐乃「すごい音してたし。 死んだんじゃないかって思った」

京介「へっ。 お前より先に死ねるかっつうんだ。 まだまだあるだろうしな、人生相談」

桐乃「あたしだって、あんたより先に死ぬ気はないケドね」

顔を見合わせて、笑う。 今更のことだが、俺は桐乃と居る時が一番笑っている気がするよな。 多分、それは気のせいでも何でも無いだろう。

こいつと居る時が、一番楽しいし。

503: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:26:26.70 ID:ZpJuh1to0
桐乃「てゆうか、あたしも殴られるんじゃないかなーってびびってた」

京介「それはねえよ。 絶対に」

桐乃「なんでそこまで断言できんの?」

京介「もしそうなりそうだったら、俺が親父を殴ってた」

桐乃「……あたしたちが悪いのに?」

京介「おう」

桐乃「……ふ、ふうん」

504: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:26:52.42 ID:ZpJuh1to0
京介「決めたんだよ。 今日、お前と話してさ」

京介「絶対にもう桐乃のことを泣かせないって。 幸せにしてやるって、決めた」

それは改めて親父に言われるまでも無いこと。 俺が決めて、俺が守るべき物。

京介「だから、いくらお前が間違えていても、悪かったとしても、俺だけはお前の隣に居るよ。 一緒に悩んで、一緒に考えようぜ」

桐乃「……ばかじゃん。 シスコン」

京介「へへ、どうも。 んで、お前はどうなの?」

505: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:27:19.02 ID:ZpJuh1to0
桐乃「聞かなくたって分かってるっしょ。 わざわざ聞くこと? それ」

京介「生憎、俺は察しが悪い奴だからなぁ。 直接言われないとわかんねーんだよ」

桐乃「……分かった。 ゆえば良いんでしょ」

桐乃「あたしも一緒。 京介がいくら悪くても、いくら間違えていたとしても、あたしだけは隣に居る。 絶対に、何があっても」

桐乃「だから、これからもよろしくね。 京介」

京介「おう。 よろしくな、桐乃」

506: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:28:13.30 ID:ZpJuh1to0
その時、一際強い風が吹く。

京介「……さっみい」

桐乃「そう? あたしは暖かいケド」

京介「……俺も一応そうだが、寒いもんは寒い! それはそうだとしても!」

桐乃「はぁ~~~。 折角良い雰囲気だってのに。 ったく」

桐乃「でも京介がそうゆうなら仕方ないし、かえろっか?」

京介「ああ、そうしよう。 帰ってコタツの中にでも入って、話の続きでもしようぜ」

桐乃「うん。 おっけ!」

507: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:28:44.25 ID:ZpJuh1to0
こうして、俺と桐乃は並んで歩く。

俺たちが俺たちだったからこその、結末。

ゲームみたいに綺麗にハッピーエンドとは行かないけど、泥臭くて、全部が全部解決したって訳でもねえけど。

それでも、俺にとって……俺と桐乃にとっては、今が幸せだった。

すんげえ遠回りで、道を間違えて、ようやく辿り着いた場所。

それは人に決して誇れる物では無いし、自慢できる物でも無い。

508: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:29:11.33 ID:ZpJuh1to0
本当に徹頭徹尾、馬鹿げた話ではあったが。

それでも俺は、桐乃と別れ、再び結ばれたこの一年間は忘れることが無いだろう。

どうだろうか?

この物語の決着、終着点。

俺は悪くねえって思うし、満足しているぜ。


第二十四話 終

509: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:29:37.77 ID:ZpJuh1to0
あたしは。

あたしは、色々な人に迷惑を掛けてしまった。

お母さんに、お父さん。

黒猫に、沙織に。

あやせや加奈子……一応、入れておいてあげよっかな。 麻奈実さんにも。

そんで、京介にも。

510: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:30:06.49 ID:ZpJuh1to0
今、隣で一緒に居られるのは、京介のおかげだと思う。

あの時、京介が来てくれなかったら、あたしたちはすれ違ったまま、二度とこうすることは出来なかった。

土砂降りの中、京介と話して、今までの気持ちを全てぶつけた。

そして、京介は今回もあたしを助けてくれた。

いつもの様に、俺に任せろって言って、助けてくれた。

511: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:30:38.02 ID:ZpJuh1to0
あたしは相変わらず素直じゃないし、京介はどうしようも無く鈍い。

今はなんかムカツクくらいに鋭いから、嫌になっちゃうけどね? でも基本こいつはどうしようも無く鈍い。 それはやっぱり変わらない。

そんなんだから面と向かって大好きオーラなんてのは出せないけど。 今でもかなり、はずいし。

でもいつか、そう言える日も来るんじゃないかと思う。

512: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:31:04.01 ID:ZpJuh1to0
顔を見て、抱きしめて、抱きしめられて……「京介、ありがとう、大好きだよ。 本当に、世界で一番好きだよ」って。 言える日が。

よし。

次の人生相談は、どうやらそれになりそうかな。

あたしはあたしで、作戦を立てないと。

513: ◆IWJezsAOw6 2013/07/06(土) 13:31:31.91 ID:ZpJuh1to0
そして。

この話はもう少しだけ続く。

時は流れて、三年とちょっと経ったとき。

あたしが大学一年から二年へ移る日。

京介が大学を卒業する日。

そんなある日、あたしはあいつに声を掛けた。


第二十五話へ続く

540: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 13:53:59.53 ID:4UXxdehK0
「京介! 人生相談!」

大学の卒業式を終え、いつものアパートに入るや開口一番、桐乃は俺にそう言った。

京介「おおう。 早速だな……よっし任せろ!」

桐乃「ひひ。 ってゆっても、車を出して欲しいってだけなんだケドね」

おおう。 いつもの事だな……はあ、任せろ。

京介「まあ別に良いけどよ。 今からか?」

541: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 13:54:45.21 ID:4UXxdehK0
桐乃「……うーん。 お昼食べてからでも大丈夫かな?」

京介「オッケー。 んじゃあ桐乃さんの超美味い飯を頂くとするか」

桐乃「嬉しいことゆってくれるじゃん。 今日のお昼はそうめんだけどね?」

京介「……お前、最近そればっかじゃね?」

桐乃「いーじゃん別に。 あたしが作るそうめん美味しいっしょ?」

ううむ。 確か数年前に同じ様なやり取りをした気がするな……確か、逆パターンで。

その時はかなりの文句を言われた気がするのだが、気のせいだろうか。

542: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 13:55:20.09 ID:4UXxdehK0
京介「まあな。 お前の作る物なら何でも美味いぜ。 マイハニー」

桐乃「うわ、キモッ……さすがにそれはキモイって」

京介「……へいへい」

面と向かってキモイキモイ言われるのは、未だに慣れないぞ。 ショック受けてるんだぜ、それ。

自分の肩を腕で掴み、ぶるぶるとわざとらしく震える桐乃の頭をぽんぽんと叩き、俺は部屋の中へと入る。

桐乃「あー。 ご飯食べたらそのまますぐ行くから、着替える暇無いかんね」

543: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 13:56:01.68 ID:4UXxdehK0
京介「……マジか。 俺は一刻も早くこのスーツから解放されたい」

桐乃「あんた私服ださいじゃん。 あたしと一緒に歩くんだから、それくらい我慢してよ」

京介「お前……それ俺じゃなかったらマジで泣いて部屋に閉じ篭る台詞だからな……」

桐乃「なら問題ナシ! 他の奴に同じ台詞なんてゆう気無いし?」

京介「そりゃそうだ。 それでこそ俺の彼女だぜ!」

桐乃「……だからそうゆーのゆってて、恥ずかしくないの?」

544: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 13:56:27.24 ID:4UXxdehK0
京介「大分恥ずかしいな」

桐乃「ならやめれば良いのに。 ばかじゃん?」

京介「ほ、ほう……だってお前が言う度にニヤニヤ嬉しそうな顔するからじゃねえか! そんな顔されたらまた言いたくなるに決まってんだろ!?」

桐乃「そ、それをゆうな! そんなのふつー、心の中でだけ思ってればいーの! わざわざゆうことじゃ無いかんね!?」

京介「はっはっは。 熱でもあるのか? 顔真っ赤だぞー」

桐乃「……ばーか」

桐乃は最後にそう言い、台所へと入っていく。

いやあ、いじり甲斐がある奴だな……全く。

まぁ、俺も嘘を言っている訳じゃねえからな。 その辺りは勘違いしないで欲しいところだ。

545: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 13:56:56.08 ID:4UXxdehK0
京介「あー、そういやさ」

未だに出したままのコタツに入り、台所に居る桐乃へと声を掛ける。

桐乃「んー? なに?」

京介「今日、どこ行くの? また服でも買いに行くのか?」

桐乃「あ~。 ちょっと違うかな? ま、京介はあたしの言われた通りに車で向かえばいいから。 安心して良いよ」

一体どの辺りに安心要素があるのか小一時間ほど話し合いたいが……。 ううむ、だとするとどこに行くのだろうか。

546: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 13:57:30.75 ID:4UXxdehK0
京介「ひょっとして、アキバか?」

桐乃「ひひ。 はっずれー。 京介にはわっかんないかもね」

……ふむ。 そう言われると当ててやりたくなる、が。

服でも桐乃の趣味であるオタ系でも無いとすると……マジで何だろうか。

まぁ、着けば分かるしそこまで気にしなくても良いのかな。

うううう。 とは言ってもやはり気になる……行く場所が分からないって、すげえ不安だし、落ち着かない。

よし、あの手を使おう。 あの手を。

547: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 13:57:56.36 ID:4UXxdehK0
京介「桐乃、愛してるぜ」

桐乃「ぶっ!」

桐乃「ちょ、ちょっと待ったぁ! いきなりゆうなっていっつもゆってんじゃん!?」

京介「んだよ。 良いじゃん別に。 だから教えてくれよ~」

桐乃「う、うううう……! だ、ダメ!! それでもダメ!」

お、おお!? マジかよ!? これでも駄目なのか!?

548: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 13:58:29.10 ID:4UXxdehK0
いつもならこの手で桐乃はコロッと言う事を聞いてくれるんだが……くそ、そこまでして秘密ということか。

なら、俺もそれは諦めるしか無いだろう。 桐乃がそこまで頑なに口を割らないってことは、本当に言いたく無いことなのだろうから。

京介「ちっくしょー。 分かった分かった。 んじゃあもう聞かない」

桐乃「……う、うん」

少しだけ申し訳無さそうな顔をこちらに向け、桐乃は言う。

549: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 13:58:55.61 ID:4UXxdehK0
それを見て、俺は先程の台詞の補足をすることにした。

京介「まあ、だからと言って愛してるってのは嘘じゃねえぞ? マジで、心の底からそう思ってるから」

桐乃「ばっ! だーかーらー! そうゆーのをやめろってゆってんの!! もう!」

ぷりぷりと怒りながら、桐乃は料理を再開する。 ただそうめんを茹でているだけだが。

それに怒っているとは違うな。 これは明らかに恥ずかしがっているのだ。 可愛い奴め。

550: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 13:59:25.04 ID:4UXxdehK0
そんなやり取りをしている間に、やがてそうめんが茹で上がる。

桐乃「ほら、出来たよ」

京介「おう。 さんきゅー」

桐乃「つゆ薄めだったよね? はい」

京介「さっすが桐乃さん。 良く分かってらっしゃる」

桐乃「ふん。 たまたまあたしの好みと京介の好みが一緒だったってだけでしょ。 だから覚えてんの」

551: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 13:59:51.29 ID:4UXxdehK0
京介「そうかいそうかい。 そりゃどうも」

京介「んじゃ、いただきます」

桐乃「召し上がれ……って、ヤバ。 準備しないと!」

京介「ん? お前そのままで行くんじゃねえの? 見た感じ準備出来てる風だけど」

桐乃「化粧直さないといけないし、色々あんの! ちょっと先食べてて!」

京介「ふうん。 ま、頑張れや」

552: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:00:18.84 ID:4UXxdehK0
慌しく準備をし始める桐乃に向け、声援を送ったところ、こう返された。

桐乃「他人事みたいにゆってるケド、あんたも準備してよね? 髪整えて、服についたゴミとかしっかり取ってね」

お、俺もかよ……。

別に俺は良くねえか? と返したら、多分こう返される。 あたしと歩くんだから、きちんとしてよ。 って。

……しっかたねえなぁ。 とっとと食って、準備するとしますか。

俺は気持ち早めにそうめんを押し込み、桐乃同様に慌しく準備を始めるのだった。

553: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:01:56.27 ID:4UXxdehK0
桐乃「よっし! んじゃあいこっか!」

テンションたけえな、おい。 あれだけ慌しく動いていたのに、タフな奴だ。

京介「へいへい。 んで、結局どこに向かえば良いんだよ? 道案内するっつっても、大体の場所は教えて欲しいんだけど」

桐乃「うーん……分かった。 仕方無いか」

桐乃「ええっと、じゃあまずは」

と、桐乃は本当に大体の場所を説明する。

554: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:02:29.71 ID:4UXxdehK0
……気のせいか? なんだか、以前同じ場所に行った気がするんだが。

まあ、良い。 着けば分かることだ。

俺は近くの駐車場に置いてある車に乗り、助手席に桐乃を乗せ、車を走らせる。

一応言っておこう。 この車は桐乃に買ってもらったとかそういう情け無い事情では無いと。

必死にバイトして、ようやく買った車ってわけだ。 中古だけどな。

そんな車を走らせること数十分。 目的地とやらはそこまで遠く無く、すぐに到着した。

555: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:03:00.09 ID:4UXxdehK0
桐乃「すとーっぷ。 ここで良いよ。 いこ」

京介「……ええっと。 ここって殆ど住宅街じゃね? 目的がお前の友達……だとしても、ここら辺に住んでたっけ?」

桐乃「だーかーらー。 こっから少し歩くの。 京介って普段歩いたりしてないし、丁度良いでしょ?」

京介「丁度良いかどうかはしらねえけど……まあ、良いか」

やっぱりだ。

どう考えても、俺は数回、ここには来ている。

具体的には思い出せない……が、確実に来た事がある場所だ。 身に覚えがある。

556: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:03:32.08 ID:4UXxdehK0
桐乃「ほら。 それじゃこれ着けて」

そう言い、桐乃が手渡してきたのは目隠し。 アイマスクの様な形をしている。

京介「……お前、俺を監禁するつもりか!?」

桐乃「ばかゆってないで。 早くする」

桐乃は言いながら俺の額にデコピンをし、車の外に出る。

……なんだって言うんだ。 マジで気になるじゃねえか。

俺は車の外に出ると、渋々それを装着した。

557: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:04:20.28 ID:4UXxdehK0
桐乃「んじゃ、ほら。 付いてきてね」

んで、離れていく足音。

京介「ちょ、ちょっと待てえい!! お前! 俺がこのままでしっかり歩けると思ってんの!?」

桐乃「ひひ。 冗談だって。 ほーらー」

桐乃は見ずとも分かるいつもの笑顔で笑い、俺の手を掴む。

桐乃「さ、いこ。 そんな遠く無いから」

京介「お、おう」

558: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:04:54.47 ID:4UXxdehK0
なんだか、目隠しをしながら桐乃と手を繋ぐと新たな可能性が見えてきそうで怖いな……。

いや、そんな変なことを考えているのがばれるとさすがにマズイから、現状について考えることにしよう。

まず、どうしてか今日、桐乃は人生相談だと言って俺をここまで連れてきた。

んで、ここら辺にはどうしてか身に覚えがある。

最後に、今日は大学の卒業式だった。

559: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:05:22.17 ID:4UXxdehK0
……あーくそ。

どうせなら、察しがすげー悪かった頃の俺に戻りたいぜ。

どうやら桐乃のしようとしていることが、分かってしまった。

こいつは多分、サプライズとして用意した物だろう。

それのネタバレを食らってしまったみたいで、なんだか申し訳無い。

桐乃が連れて来た場所は、恐らく。

俺と桐乃が二人っきりの結婚式を挙げた、その場所だ。

560: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:05:51.00 ID:4UXxdehK0
桐乃「んじゃ、あたしはちょっとだけ離れるけど……絶対に目隠しは取らないでね?」

京介「ん、おう。 分かった」

桐乃は言い、俺から離れる。

ううむ。 やはりこの部屋の空気には覚えがあるぞ。 俺の予想に間違いは無い。

……はぁ。 素直に心から感動できないってのも、酷い話だよな。 ったく。

そして、待つ事数分。

561: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:06:17.50 ID:4UXxdehK0
桐乃「お待たせ。 目隠し、取っていいよ」

目の前から、桐乃の声が聞こえた。

京介「……おう」

俺はゆっくりと、目隠しを外す。

桐乃「へへ、どう?」

すぐ目の前には桐乃が居て、純白のウェディングドレスに身を包んでいる。

562: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:06:44.05 ID:4UXxdehK0
京介「……すげえ綺麗だよ」

予想はしていたが、それでもこいつは相変わらず、俺の予想の更に上を行くよな……似合いすぎだろ。

桐乃「なーんか感動薄くない? 折角用意したのにさー」

京介「そ、そうか? 驚いているぜ?」

桐乃「ふうん。 ま、良いや。 んじゃあ始めよっか? 四年前の続き」

京介「……おう。 そうだな」

563: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:07:13.32 ID:4UXxdehK0
桐乃「最初に、これ。 渡しとく」

桐乃は言い、手に持っていた小さい箱を俺に手渡す。

京介「お前、これって……」

桐乃「やっぱ分かった? あの日、あたしが京介に返した指輪。 家を出て行くときさ、京介の部屋から持ってきちゃった」

京介「……そうだったのか。 ありがとよ」

それは、俺が唯一後悔していたことだった。

564: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:07:41.40 ID:4UXxdehK0
桐乃を守るのに必死で、桐乃を幸せにすることに必死で、俺は大事な思い出を残していたから。

だから、それは本当に嬉しくて。

京介「……じゃ、始めるか」

桐乃「うんっ!」

こうして、俺と桐乃は結婚式を挙げる。 四年前の続きとして。

565: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:08:15.17 ID:4UXxdehK0
薬指に指輪をし、桐乃の手を取り、俺は指輪を嵌める。

それは四年前のクリスマスイブと同じで、しっかりと指に嵌った。

桐乃「……やば、ちょっと泣きそうかも」

京介「感動するの早くねえか? まだ、だろ?」

桐乃「……うう。 まぁ、そうだケド」

京介「……じゃ」

桐乃「……うん」

俺は桐乃の体を抱き寄せ、頭を支え、桐乃の唇に俺の唇を重ねる。

566: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:08:47.74 ID:4UXxdehK0
桐乃「……ん」

京介「……さすがに久し振りにすると緊張するな」

桐乃「そーゆうことはゆわないの」

一指し指で俺を制し、八重歯を見せ、桐乃は優しく笑う。

京介「はは、わりいわりい」

京介「四年前は……ここで終わりだったけど」

京介「今は、これが始まりだな」

桐乃「……うん。 そだね」

567: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:09:18.15 ID:4UXxdehK0
桐乃「あ、そだ」

京介「ん? どした」

桐乃「いや、今の内にやっておかないと、後で出来なくなっちゃうからさ」

京介「……ええと、何を?」

桐乃「外行ってからじゃムリってゆってんの。 相変わらず察しわるっ!」

京介「いやいや……そうは言われてもマジでわからねえって」

京介「なんだってんだよ、きり----------------」

568: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:09:48.75 ID:4UXxdehK0
そう名前を呼ぼうとした瞬間、桐乃が正面から抱き着いて来た。

京介「お、おい?」

桐乃「今まで本当にありがとう。 兄貴」

桐乃は言う。 俺の顔を見ながら。

桐乃「いっつもいっつも助けてくれて、あたしの為に頑張ってくれて、ありがとう」

それは多分、今までのこと。

569: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:10:16.60 ID:4UXxdehK0
桐乃「いくらワガママいっても、走り回って、聞き入れてくれてありがとう」

それは多分、ある日の人生相談のこと。

桐乃「あたしが逃げようとした時も、あたしを見てくれてありがとう」

それは多分、ある日の土砂降りのこと。

桐乃「あたしと一緒に歩いてくれて、ありがとう」

それは多分、今も続く道のこと。

570: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:10:47.32 ID:4UXxdehK0
京介「……俺も、お前には感謝してるよ。 ありがとう」

桐乃「ひひ。 そっか。 じゃあ」

桐乃「京介、ありがとう、大好きだよ。 本当に、世界で一番好きだよ」

桐乃は俺に抱き着いたまま、俺の顔を見て、真っ直ぐとそう言った。

……ずりいっての、それはさすがに。

571: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:11:16.11 ID:4UXxdehK0
京介「桐乃、ありがとう、大好きだ。 世界で一番、愛してる」

そう答えるしかねえじゃん。

俺と桐乃はお互いに顔を見合わせたまま、再度唇を交える。

京介「つか、今までじゃねえよ」

京介「これからも、だろ?」

桐乃「あはは。 そうだったね」

桐乃「これからもよろしく、京介」

これにてハッピーエンド。

572: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:11:49.93 ID:4UXxdehK0
……と、行かないのが俺の妹であり、桐乃なのだから困ってしまう。

桐乃「じゃ、ほらほら」

嬉しそうだな、こいつ。 というか俺を引っ張っていくのは別に構わないんだが、外に出てどうするっつうんだよ。

着替える場所、中じゃねえの?

と、呑気に思いながら桐乃に引っ張られるままに外に向かう。

桐乃がでかい扉に手を当て、押して開ける。

まばゆい光りが差し込んできて、俺は一瞬視界を奪われる。

そして、次に目の前に広がった光景は。

573: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:12:15.18 ID:4UXxdehK0
……ああ、ちくしょうめ。

これはちょっと反則じゃねえの? 馬鹿野郎が。

今回のサプライズを予想してしまい、油断していた俺も俺だが、これは少し予想外すぎるぜ。

……すっかり忘れていた。 桐乃はいつも、俺の予想の上を行く奴だってことを。

横を見ると、桐乃はニヤニヤと笑っている。 最後の最後で、してやられてしまったよ。



「「結婚、おめでとう!」」

574: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:12:41.60 ID:4UXxdehK0
俺が見た光景。

外には、俺と桐乃を祝ってくれる、友人が居た。

黒猫に、沙織に、あやせに、加奈子に、御鏡に、瀬菜。

少なくではあるが、大切な……俺と桐乃の友人。

京介「桐乃……」

桐乃「ひひ。 びっくりした? てゆうか、泣かないでよ」

京介「うっせ。 泣いてねえよ……くそ」

575: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:13:09.54 ID:4UXxdehK0
桐乃「はいはい。 んじゃそうゆうことにしといたげる。 んで、感動した?」

京介「めちゃくちゃな……一体、どうやって?」

俺が桐乃にそう聞くと、黒猫がその会話に割って入る。

黒猫「それはわたしが説明するわ。 良いでしょう?」

桐乃「うん。 あたしからゆーのはちょっと恥ずいし。 お願い」

黒猫「ええ。 分かったわ」

黒猫は桐乃に向けて言うと、次に俺の方に顔を向け、話始めた。

576: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:13:44.96 ID:4UXxdehK0
黒猫「つい先月、桐乃から連絡があったのよ。 で、必死に頼まれたの」

京介「……それで、皆来てくれたってことか?」

すると黒猫は小さく咳払いをし、口を開く。

黒猫「「あたしさぁ。 京介と結婚するんだけどぉ。 あんた特別に呼んであげるから? きてもいいよ~。 ラブラブなのみせたいし? みたいな。 きゃはっ」と言われてね」

京介「……お前、それマジで言ったの?」

俺が桐乃に聞くと、桐乃は手をぶんぶんと振って否定する。

桐乃「ちょっと捏造しないでくんない!? そこまではゆってないじゃん!」

577: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:14:10.86 ID:4UXxdehK0
黒猫「捏造かしら? 事実にほんの少しだけ色を加えただけじゃない」

桐乃「だいぶ捏造だっつーの!! あんたほんっとに変わんないね?」

黒猫「あなたこそ変わらないじゃない。 まぁ、それがあなたらしくて好きよ」

桐乃「そ、そう? ……ありがと」

いやいや、俺からしたら二人ともお互いに対する態度はかなーり柔らかくなってると思うぜ。 ずっと身近で見てきたから、分かることだけどさ。

578: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:14:38.27 ID:4UXxdehK0
そこでしばらく三人で話していたところ、桐乃の方にあやせや加奈子から声がかかり、俺に軽く手を挙げ、桐乃はそちらの方に走っていく。

残されたのは、俺と黒猫。

黒猫「……懐かしいわね。 こうやって集まるのも」

京介「そうだな。 俺と桐乃とお前と沙織でってのは、何回もあったけどさ。 こうやって沢山集まるのは、随分久し振りだよ」

京介「……何人かは、欠けちまったけどな」

黒猫「……そうね。 そんな物よ、人生なんて」

579: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:15:08.08 ID:4UXxdehK0
黒猫「ところであの日、わたしが言っていた言葉、覚えているかしら?」

あの日……っていうと、俺の人生を動かした、あの日のことか。

京介「お前と話した時のこと……で良いよな? お前に言われて、やっと気付いた日のこと。 気付こうと決めた日のこと」

黒猫「ええ。 あの日、わたしが見せてもらうと頼んだ未来……このことで良いかしら?」

京介「……さぁな。 どうだろう。 けど、良い未来だったとは思う。 俺はな」

580: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:15:42.88 ID:4UXxdehK0
黒猫「ふふ。 そうね。 わたしも同じ事を感じているわ」

黒猫「どうしてかしら……わたしはあなたのことが好きで、この未来は悲しい物だと思ってもおかしくは無いのに」

黒猫「……自然と、笑ってしまう」

黒猫「それも多分、しっかりとわたしもわたしでケジメを付けたから、でしょうね」

京介「……そっか。 お前には一番、迷惑掛けていたからな」

黒猫「本当よ。 最後の最後まで引っかき回されたわ。 全く」

そう言いつつも、黒猫は笑っている。

581: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:16:18.52 ID:4UXxdehK0
京介「悪かったよ。 そんで、ありがとな」

黒猫「構わないわ。 とても、騒がしくも楽しい日々だったから」

黒猫「そして、それはこれからも……」

京介「へへ、当たり前だろ。 お前にはこれからも、色々迷惑掛けるかもしれねえけど、よろしくな」

黒猫「こちらこそ。 だけどもあまりにも鬱陶しかったら怒るわよ?」

京介「……ええっと、例えば?」

黒猫「そうね。 例えば……」

黒猫「急に雌らしい顔付きになって、あなたにいきなり抱き着いたと思ったらキスをする姿を見せられたりしたら、とか」

582: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:16:48.56 ID:4UXxdehK0
……マジ、で?

京介「……お前、見てたの?」

黒猫「あら、わたしだけじゃないのだけど」

京介「ど、どういう事だ?」

黒猫「ここの式場は、中の様子を外で見られる様になっているのよ。 桐乃は気付いていない様子だったけど、そして、なんだか面白いことになりそうな予感がして黙っていたの」

言いながら、黒猫は設置されているモニターを指差す。

……気づけよ桐乃!! こんだけ準備しておいて、それに気付かないとか!?

そうだ。 そうだった……あいつ多分、浮かれてたんだな。 間違いねえ。

583: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:17:14.49 ID:4UXxdehK0
黒猫「ふふ。 案の定、だったわね?」

京介「……一応聞いておくが、音は?」

黒猫「普段なら聞こえるらしいのだけど、生憎今日は何故かスピーカーの調子が悪いみたいで、残念ながら」

黒猫は言いながら、くすくすと笑う。

……こいつもこいつで、楽しんでるじゃねえか。

スピーカーの件は後でお礼を言っておくとしよう。 映像は……まあ、そのくらいなら問題はねえさ。

桐乃の言葉と俺の言葉。 あの会話は、俺と桐乃二人っきりの物にしておきたかったから。

黒猫には本当に、最後の最後まで付き合わせちまったな。

584: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:17:43.16 ID:4UXxdehK0
京介「……桐乃には、口が裂けてもいえねえなぁ。 あれが見られてたなんて」

黒猫「良いんじゃない? それならわたしが直々に……」

京介「や、やめてくれ! 頼む!」

黒猫「……はぁ。 まさか、冗談よ。 言う訳が無いでしょう」

京介「……おお、そうか……なら良いんだけど」

黒猫「あなた、そんなので良くあの桐乃と一緒に暮らせているわね。 尻に敷かれているとしか思えないわよ?」

585: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:18:27.14 ID:4UXxdehK0
京介「知ってる奴全員にそう言われるんだよなぁ。 けど、実際はそうでもねえぞ?」

黒猫「……もの凄く信用の無い言葉ね」

京介「っへ。 そこまで言うんだったら、証明してやるよ。 見とけよ」

俺は黒猫にそう言うと、あやせや加奈子、御鏡や瀬菜、そして桐乃が居る場所へ向けて声を掛ける。

京介「おーい、桐乃!」

桐乃はそれを聞くと、俺の方に向き笑顔で手を振る。

黒猫「……デレデレじゃない。 鬱陶しいわ……全く」

586: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:18:57.40 ID:4UXxdehK0
京介「いや、まだだ」

京介「桐乃ぉおお!! 愛してんぞぉ!!」

言った瞬間、桐乃は顔を強張らせ、大声で返事をする。

桐乃「ちょ、ちょっと待てぇええええええええい!!!!」

桐乃「み、みんなが居るところでなんてことゆってんの!? 二人っきりのときで、雰囲気が良い感じのときにしよーって約束したじゃん!!」

……予想以上に狼狽してんな。 後で怒られるかもしれん。

587: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:19:27.10 ID:4UXxdehK0
黒猫「……バカップルも程ほどにした方が良いと思うわよ。 正直、キモいわ」

俺の隣では、黒猫が冷めた目で俺の方を見る。

京介「でも、分かったろ?」

黒猫「今ので分かったのは、あなたたちがバカップルということね。 それと」

黒猫「妙な約束ばかりをしている、ということかしら?」

京介「……お、おう」

……それもそうだな。

588: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:20:18.87 ID:4UXxdehK0
結局恥を掻いたじゃねえか。 つうか桐乃の所為だからな! あいつが余計なことを言わなければ!

そう思い、桐乃の方に視線を向けたとき。

俺は驚き、目を見開いた。

京介「黒猫」

黒猫「どうしたの? そんな驚いた顔をして」

京介「悪い、少し行かないといけないところが出来た。 桐乃には適当に言っといてくれ」

黒猫「いつものパターンと言ったところかしら。 分かったわ。 こっちは任せて頂戴」

京介「……わりいな、ありがとう」

589: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:20:44.87 ID:4UXxdehK0
黒猫「今更ね。 早く行きなさい」

その声を受け、俺は走って式場の外へと出る。

俺が、さっき見たのは確実に、絶対に見間違いじゃねえ。

何年も、何年もずっと見てきた影なんだ。 間違える訳がねえ。

だとするならば……。

590: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:21:23.00 ID:4UXxdehK0
京介「来てくれたのか」

肩で息をして、両手を両膝につきながら。

式場から少し離れた場所、ようやく、その背中に追いついた。

俺と桐乃の面倒をずっと見てきていた人。

俺の、親父に。

591: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:21:49.87 ID:4UXxdehK0
大介「……たまたま近くを通りかかっただけだ」

親父は俺の方を見ずに、そう言う。

京介「そうか。 ありがとう」

大介「勝手な解釈をされても困る。 近くを通ったら馬鹿な事をしている奴らが居たからな。 少し覘いていたというだけだ」

京介「そうか。 その……」

お袋は。 と言おうとし、言葉に詰まってしまった。 俺は果たしてそう呼んで良いのだろうか。

592: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:22:33.46 ID:4UXxdehK0
大介「母さんなら、来ていたぞ。 今回のこと、母さんの方は桐乃に声を掛けられたみたいだがな……俺は違うぞ?」

俺の言わんとしたことを見透かすように、親父は言う。

ていうか、親父も親父で桐乃級の素直さじゃねえよな。 はは。

京介「……ありがとう。 本当に、ありがとう」

俺は親父の背中に頭を下げ、誠心誠意、その言葉を紡ぐ。

それに対し、親父はようやく振り返り、俺に言う。

593: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:23:20.83 ID:4UXxdehK0
大介「約束は、守っている様だな」

約束。

あの日、俺が親父の息子では無くなった日。

その時の、約束。

京介「勿論だ。 有言実行、よく言われていたからな」

大介「……そうか」

大介「さて、俺は帰るぞ。 元々ただ近くを通り掛かっただけだしな。 あんまりくだらん事ばかりしているなよ」

594: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:23:54.51 ID:4UXxdehK0
そう言い、親父は再度俺に背中を向け、歩き出す。

大介「……そうだ、一つ言い忘れていることがあった」

大介「母さんの企画でな。 今度の夏休みにでも『家族』で旅行をしないかと、頼まれていてな」

大介「勿論、俺はそんなのはどうだって良いのだが……一応、母さんが言ってくれたことだしな。 お前にも伝えておく」

大介「お前と桐乃。 もし良ければ来ないかという話だ」

595: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:24:38.26 ID:4UXxdehK0
京介「……親父」

大介「なんだ」

京介「……はは。 勿論、行くぜ。 必ず」

大介「……俺は反対だが、勝手にしろ。 この馬鹿息子」

その言葉は、俺にとって、一生忘れることのできない言葉だろう。

596: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:25:17.06 ID:4UXxdehK0
大介「後、母さんからの伝言が一つある」

大介「京介、桐乃のことはあなたに任せる。 だそうだ」

京介「……そうか。 ありがとうって伝えておいてくれ」

大介「ああ。 今度、直接自分の口からも伝えておけ」

大介「それと……俺は一応、桐乃については昔と変わらない考えだ」

そう言い、親父は去っていった。

597: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:25:55.91 ID:4UXxdehK0
桐乃「お、戻ってきた。 どこいってたの?」

式場に戻ると同時、桐乃が声を掛けてくる。

京介「分かってるだろ。 お前が声を掛けたんだしさ」

桐乃「……っていうと、来てくれてたんだ。 お父さんとお母さん」

京介「ああ。 お袋はもう帰っちまった後みたいだったけど。 つうか、お前は良く声を掛けたよな」

桐乃「だって、世界に一人ずつしか居ない人だから。 来るとしても、来ないとしても、ゆっておきたかったの」

598: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:26:43.53 ID:4UXxdehK0
京介「……そうかい」

京介「親父、家族旅行を計画しているんだとよ」

俺の言葉を聞き、桐乃は驚いた顔をした後に、目に涙を溜める。

京介「一緒に来ないかって言ってた。 勿論、行くって言ったぜ?」

桐乃「……うん、うん」

京介「んで、そうしたら馬鹿息子って言われちまったよ」

桐乃「……ひひ、そっか」

599: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:27:25.07 ID:4UXxdehK0
京介「……すっげえ嬉しかった」

桐乃「うん……だろうね。 あたしも一緒」

涙をぽろぽろと零す桐乃に向け、俺は言う。

京介「なあ、桐乃」

桐乃「なに? 京介」

600: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:27:52.39 ID:4UXxdehK0
京介「お前の言っていた『人生相談』だけどさ。 今日で、やっと本当に終わったのかもな」

桐乃「……そうだね。 きっとそう」

京介「つうわけで、これからも何かあったら言ってくれよ? いつもみたいに相談に乗ってやるからさ」

桐乃「あはは。 お願いって言いたいところだけど……あたしさ、今日でそれ卒業しようと思ってるんだよね」

京介「……そうなのか? なんていうか、寂しいな」

601: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:28:31.36 ID:4UXxdehK0
桐乃「大丈夫だって。 今度は、あたしの番だから」

京介「って言うと?」

桐乃「あたしが京介に解決してもらった人生相談。 それに感謝しているのは今も同じなの」

京介「……おう」

桐乃「んで、その恩は多分、一生分くらいはあるんだよねー」

桐乃「だから、さ。 これからはあたしが、京介の人生相談に乗ってあげる。 勿論、あたしが感じた恩を全部返せるまで」

602: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:29:09.69 ID:4UXxdehK0
桐乃「ってゆっても、一生分だけどね?」

京介「……そうだな。 んじゃあ、そうさせてもらうとするよ」

京介「俺の人生相談もかなりあるからな。 覚悟しとけよ?」

桐乃「ひひ。 上等だっつーの」

京介「桐乃」

京介「これからよろしくな。 ずっと、いつまでも」

桐乃「京介」

桐乃「これからよろしく。 ずっと、いつまでもね」

603: ◆IWJezsAOw6 2013/07/07(日) 14:29:45.74 ID:4UXxdehK0
桐乃の見せた表情は、言う必要の無い物だろう。

そして、こういうときの終わり方なんてのは、もう決まりきっている。

ここまで見てくれているのなら、その言葉の裏の意味なんてのも当然、知っているだろうという前提で。

最後は、いつもの様に締めくくらせてもらおうか。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない。


最終話 終

642: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:20:38.83 ID:qaOlIDll0
あの日、俺と桐乃が家を追い出され、二人暮しを始めた日。

その日の夜、俺と桐乃は二人揃って色々とまあ驚愕することとなった。

京介「……お、おい?」

桐乃「……なに?」

そして現状である。

ど、どうしてこうなった!? 何故、俺は今桐乃と体を密着させて布団の中で寝ているんだ!?

……く、くそ。 記憶がぐちゃぐちゃだぜ。 い、一旦落ち着こう。 状況をまずは整理だ!

643: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:21:15.49 ID:qaOlIDll0
という訳で、時は少し遡り、俺と桐乃が家に着いた辺り。

京介「……んで、どうすっか」

桐乃「とりあえず、フィギアを飾る棚欲しいよね」

京介「そういう話じゃねえよ!」

俺と桐乃は現在、コタツに入り、向かい合いながら会議中。 これから先、どうするかという二人の人生相談である。

前のとは違った意味でのこれから先、どうするか。

それはどれだけ幸せなことなのだろう。 ま、始めてみないと分からないか。

644: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:21:46.72 ID:qaOlIDll0
桐乃「……ってゆーと?」

京介「お、お前マジで言ってるのか……これから、あれだろ?」

京介「その……二人で、暮らす訳だし?」

と、桐乃がいつも言う様な感じで俺は言う。

対する桐乃は。

桐乃「べっつに。 いつも通りで大丈夫っしょ?」

軽いなぁ! 俺は既に色々な意味でヤバイんだけど!?

645: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:22:29.50 ID:qaOlIDll0
京介「よ、よし……じゃあ一個ずつ潰していくか」

京介「まず、ひとつ目な。 桐乃」

俺の真面目な顔付きと真剣さを醸し出している空気に押され、桐乃の顔も若干強張る。

桐乃「な、なに?」

京介「……朝飯とか、昼飯とか、夜飯とか作ってくれる?」

桐乃「……うん。 良いよ」

よし! 懸念事項がひとつ消えた! 少し安心したぜ!

646: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:23:09.55 ID:qaOlIDll0
京介「助かるぜ。 マジで」

桐乃「そのくらいで一々感動しないでよ……」

京介「おし。 んじゃあ次だな」

俺は桐乃の言葉を軽く流し、ふたつ目の問題へと移行させることにした。 テンポ良くいくぜ。

京介「ふたつ目……せ、洗濯はどうだ?」

桐乃「せ、洗濯ッ!?」

647: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:23:35.31 ID:qaOlIDll0
京介「……おう」

こ、これはさすがに難易度が高かったか……? だけど確かに、いきなり桐乃に任せるってのも不安っちゃ不安だしな……。

桐乃「……う、うーん」

そう言いながら、頭を抱える桐乃。

京介「あ。 そーいやあやせは洗濯してくれてたな」

桐乃「は、ハァ!?」

え、ちょっと待てよ! 俺は「そーいえば」みたいな感じでぽろっと言っただけだっつうのに、そこまで怒ることだったか!?

648: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:24:02.67 ID:qaOlIDll0
桐乃「……そ、それって」

桐乃「そ、それってもしかして下着! う、うう……下着、とかも?」

京介「ま、まあ……一応?」

桐乃「一応じゃないっ!!」

桐乃は俺に向かって叫ぶのと同時、ミカン攻撃を加えてくる。

マジで潰れたら面倒なんだからやめろよ! 食べ物を粗末にするんじゃねえ!

649: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:24:30.48 ID:qaOlIDll0
京介「わ、悪かった!! 許してくれ!!」

二人暮しを始めてまだ一時間も経っていないのに、既に浮気がばれた男みたいな状態の俺である。

桐乃「チッ……あやせ、今度話さないと」

対あやせ最終兵器だな……桐乃は。

京介「……えっと、それで、どうなの?」

歯を食いしばり、顔を赤面させながら、桐乃はしぶしぶといった感じで口を開いた。

桐乃「……分かった。 洗濯、やる」

650: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:24:59.65 ID:qaOlIDll0
お、おお! ふたつ目の懸念事項も消えてくれた! なんてことだ!

桐乃「……だけど、あたしと京介の奴を一緒に洗うのはなんかヤダ」

京介「そ、そうですか……」

なんかあれだな。 思春期の娘が父親に言う台詞だよな、それ。

なんで俺は大学一年にしてそんな心境になっているんだろう。

……まぁ、桐乃も恥ずかしくて言っているだけで、本気で嫌がっている訳では無いはずだが。

無いと思いたい。

651: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:25:44.13 ID:qaOlIDll0
京介「……よし、じゃあみっつ目、いくぜ?」

桐乃「ま、まだあったの?」

京介「おう。 色々決めないといけないしな」

桐乃「……うん。 分かった。 なに?」

京介「……掃除、やってくれるか?」

桐乃「それは二人でやろうよ」

京介「……そうだな」

652: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:26:11.40 ID:qaOlIDll0
くそ! なんとか流れに乗せて押し付けようと思ったのに! やりやがる、桐乃の奴め。

ううむ……駆け引きが難しいな。 次はどう切り出すべきか。

そう思ったとき、桐乃が口を開く。

桐乃「んじゃさ」

桐乃「あたしからも、決めておきたいルールあるんだけど」

653: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:26:38.53 ID:qaOlIDll0
京介「桐乃から? 良いぜ、何だよ?」

桐乃「京介は一日ひとつ、あたしの言う事に従うってどう?」

京介「……ふむ、なるほど」

京介「なるほどじゃねえよ! なんだそのアホみたいなルールは!!」

こいつもう流れにうまく乗せる気とか皆無だな!! 普通に真正面から斬り込んできやがった!

654: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:27:30.11 ID:qaOlIDll0
桐乃「そう? 可愛いあたしの言う事に従えるなんて、幸せじゃん?」

京介「お、お前なぁ……!」

桐乃「落ち着きなって。 ちょっと考えてみて?」

京介「どこにどう考える要素があるんだよ……」

桐乃「だーかーらー」

桐乃「一日一個だけだよ? 一週間で七個。 一ヶ月で三十個前後。 そう考えると少ないと思わない?」

655: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:28:02.50 ID:qaOlIDll0
京介「……そうか?」

桐乃「んじゃあスケールを拡大して……一年で三百六十五個。 十年で三千六百五十個。 うるう年もあるから、正確にゆーと三千六百五十二個」

桐乃「どう? そう考えると少なくない?」

京介「……ううむ。 確かに」

桐乃「それにさ、このルールは京介の為でもあるんだよ?」

京介「俺の為?」

656: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:28:45.60 ID:qaOlIDll0
桐乃「そ。 ほんとーだったら、一日二個とかのとこをね、一個に抑えようってルールなの」

桐乃「だから、京介の為」

京介「……お前、そこまで俺の事を考えてくれているのか」

やばい、軽く感動。

……。

京介「いやそうじゃねえよ!! お前何ナチュラルに命令に従えさせようとしてんだ!!」

あぶねぇ!! 危うく乗せられるところだった!! 油断も隙もありゃしねえぞ!!

657: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:29:13.50 ID:qaOlIDll0
桐乃「チッ……んじゃ諦める」

全く、随分とヒートアップしちまったじゃねえか。

京介「……ふう。 飲み物取ってくるけど、なんか飲むか?」

俺は冷静になるべく、一旦お茶を飲むことにする。

桐乃「んー。 だいじょぶ。 そうゆう気分じゃないし」

京介「あいよ」

台所へと行き、自分の分の麦茶をコップにいれ、再びコタツの中へ。

658: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:29:40.43 ID:qaOlIDll0
桐乃「さんきゅー」

そう言い、桐乃は俺の麦茶を奪うと、飲み干す。

京介「……お前、そういう気分じゃないんじゃなかったの?」

桐乃「気が変わったの。 よくあるっしょ?」

京介「……そうですね」

こいつ絶対さっきのことを根に持っている。 俺の今までの勘がそう告げている。 ちくしょう。

俺は再度麦茶をいれ、コタツへと三度戻る。

659: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:30:09.56 ID:qaOlIDll0
今度は奪われないようにガードしながら、桐乃との会話を再開。

京介「他になんか決めておくこと、あったっけ?」

桐乃「んー。 後はやっぱグッズかなぁ。 フィギアとか、置く場所の確保」

この話、もう三回目くらいだよな。 そんなに重要なことかよ。

まあ、こいつにとってはそうなのかもしれんが。

京介「……つっても、この部屋ちっせえからなぁ」

660: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:30:51.21 ID:qaOlIDll0
桐乃「でも置く場所はあるっしょ? 前に御鏡さんに貰ったケースも、いちおあるし」

京介「一旦はそこに収まり切るくらいにしとけよ? フィギアとか●●●●に埋もれた部屋として、テレビに取材されるのは嫌だしな」

桐乃「おっけ。 あー、あとぉ」

桐乃「あたしは趣味を少し我慢するんだから、京介も我慢ね」

京介「俺も我慢? そう言われても趣味なんてねえぞ……? 一体何を我慢しろっつうの?」

桐乃「ひひ。 あんたが持ってる●●本とか全部捨てる」

661: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:31:19.20 ID:qaOlIDll0
京介「ま、マジ?」

桐乃「当たり前っしょ! あ、あたしはいちお……彼女、なんだし」

顔を伏せながら、俺の顔を見ずに桐乃は言う。

桐乃「そうゆうの持たれてたら……嫌だし」

よっし全部捨てよう! 今のお前の仕草で決心付いた!!

京介「明日中に全部処分しておく……で、良いか?」

桐乃「……うん」

662: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:31:44.97 ID:qaOlIDll0
さて、これで大体は決まった……かな。

そんな風に俺が思ったとき、桐乃が文字通りの爆弾発言をした。

桐乃「あ、お風呂はどうする?」

京介「おー、風呂か……って風呂!?」

桐乃「な、なによ? 急におっきな声だして……」

京介「いや! だってお前! 俺と風呂入るの!?」

663: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:32:21.05 ID:qaOlIDll0
桐乃「な、なぁ!? ち、違うっての!! あたしがゆってるのはお風呂掃除どうするかってハナシ!!」

京介「あ、ああ……そ、掃除か。 驚かせるなよ……」

桐乃「京介が勝手に勘違いしたんでしょ!? な、なんであたしがあんたとお風呂一緒に入らなきゃいけないの!!」

京介「そ、そうだよな……はは」

桐乃「……もしかして、マジで一緒に入りたかったりした?」

京介「……どうだろう」

桐乃「そか……」

664: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:32:48.26 ID:qaOlIDll0
……どうすんの、この空気。

桐乃「んで、結局どうするワケ?」

京介「え? 俺と一緒に入るかどうするか?」

桐乃「ちっがーう!! 掃除の話!!」

京介「冗談だって。 ううん、掃除かぁ」

京介「交代でいいんじゃね? それか、時間ある方がやるか」

665: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:33:14.27 ID:qaOlIDll0
桐乃「……ま、それが一番良いよね。 あたしだって忙しい時あるし、京介だってそうだろうし」

京介「おう。 んじゃそれはそういうことで」

京介「で、次で最後なんだが……」

桐乃「ま、まだあるの?」

京介「一番大事なことが、まだ残っているんだ」

桐乃は俺の言葉を黙って待つ。 顔付きから、一段と緊張しているのが見て取れる。

666: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:33:41.00 ID:qaOlIDll0
京介「ふ、布団。 どうする?」

桐乃「……どうするってのは?」

京介「いや……だから、布団」

京介「一つしか、ねえし……」

桐乃「ぶっ! あ、あんた二つ用意してないの!?」

京介「当たり前だろ! こんな、その……二人暮しするなんて、思ってなかったし!!」

667: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:34:11.07 ID:qaOlIDll0
桐乃「そ、そりゃそうだよね……」

むしろ俺がこの状況で「お前の分の布団もあるぜ」とかドヤ顔で言ったらそっちの方が酷い気がするっての!

京介「……やるしかねえか」

桐乃「そ、それって……」

京介「桐乃」

桐乃「は、はい」

京介「……一緒の布団で寝よう」

桐乃「くっ……それしかないか……」

そうして、俺と桐乃は同じ布団で寝ることになったのだが。

668: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:34:37.08 ID:qaOlIDll0
京介「……な、なんか近くね?」

桐乃「そ、そうかな? ふつーじゃん?」

桐乃はどうしてか、俺の体にくっつかんばかりの距離で横になっている。

……どうしてだろうなぁ! 俺分っからねえや!! ははは!!

京介「……」

桐乃は俺の顔を真っ直ぐとみて、何も言わずに少しだけ潤んだ瞳を向け続ける。

669: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:35:12.33 ID:qaOlIDll0
京介「……お、おい?」

桐乃「……なに?」

京介「い、いや……何でも無い」

桐乃「……そんなにイヤ?」

京介「そういう訳では無い! ……けど」

な、なんでこいつはこんな可愛いの!? え、えええっと?

670: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:35:41.70 ID:qaOlIDll0
布団ですぐ隣に横になってて? 俺の体にぴったり寄り添うようにしていて? んで? 俺の寝間着を掴んでいる?

……やべえ、頭がなんかふわふわしてんぞ!

京介「き、桐乃……」

桐乃「……なに?」

京介「……む、ムリ! 無理無理無理無理無理ッ!!」

俺はそう言い、布団から出て、立ち上がり、桐乃と距離を取る。

671: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:36:09.60 ID:qaOlIDll0
桐乃「ちょ、なにが?」

桐乃「やっぱり、その……気持ち悪かった?」

う、うううう! そうじゃねえ! そんな訳あるか!!

京介「それは無い! 絶対に断じてねえよ! だけど……あれだ」

京介「お前が可愛すぎて無理! 心臓止まらせる気かっつうの!!」

672: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:36:35.80 ID:qaOlIDll0
桐乃「……あ、そか……ごめん」

桐乃は言い、申し訳無さそうな顔をする。

あ、謝るなよ……。 俺が勝手にそう思ってるだけなんだからよ。

京介「と、とにかく桐乃。 マジで、俺が死んでしまうから、今日は少し距離を置こう……な?」

桐乃「……おっけ。 分かった」

言い、桐乃は俺に背中を向ける。

673: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:37:03.55 ID:qaOlIDll0
……うわぁ。 悪い事、しちゃったかな……?

すげえ申し訳ないぜ、本当に。

少しの間、桐乃の背中を見つめた後、俺はのそのそと布団に入る。

桐乃との距離は、ほんの少しだけ開いていた。

京介「……ごめんな」

桐乃「……」

桐乃からの返答は、無い。

674: ◆IWJezsAOw6 2013/07/08(月) 13:37:31.75 ID:qaOlIDll0
明日、もう一度しっかり謝ろう。

そう思い、俺は目を瞑り、眠りに入る。

意識が完全に消える前、それはもしかしたら幻聴なのかもしれないが、俺の耳に小さな声が聞こえた。

「……別に良いっての。 あたしだって……死にそうだったし」



決着の日の夜 終

694: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:29:03.51 ID:iNChR+u+0
そう思い、携帯をポケットから取り出し、あやせの名前を呼び出し、通話ボタンを押そうとして。

一瞬、何かが頭に過ぎった。

しかしそんなのを考えている暇は無い。 俺は、一刻も早く桐乃に会わないといけないから。

嫌な予感は未だにひしひしと伝わってくる。 だが。

俺はそのまま、通話ボタンを押した。

数回のコール音が鳴った後、電話は繋がる。

695: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:29:41.54 ID:iNChR+u+0
「もしもし、お兄さんですか? どうしました?」

京介「あやせ。 一つ、聞きたいことがあるんだ」

「……はい。 何でしょう?」

京介「桐乃が今どこで何してるか、教えてくれ」

俺が言うと、あやせは数秒の間の後、話し出す。

「……分かりました。 やはり、お兄さんにはしないと駄目……ですよね」

「私の家に来てくれますか? 桐乃も今、居るので」

696: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:30:11.40 ID:iNChR+u+0
俺は駆けていた足を止め、体の向きを変える。

京介「桐乃が、居るのか? お前の家に」

「ええ、そうです」

京介「……分かった。 今から行く」

「……はい。 お待ちしてます」

そうして、俺はあやせの家へと向かっていった。

697: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:30:41.49 ID:iNChR+u+0
あやせ「お待ちしてました」

玄関。 家からすぐ出たところに、あやせは居た。

桐乃の姿は見えない。 部屋にいるのだろうか?

京介「悪いな、こんな時間に。 で、桐乃は?」

そう言うと、あやせは頭を下げる。

あやせ「ごめんなさい。 私、嘘を吐きました」

698: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:31:20.01 ID:iNChR+u+0
あやせ「桐乃はここには居ません。 そして、メールも送っちゃいました」

あやせは言いながら俺に携帯を見せる。 画面には、数分前、俺が桐乃を探している旨を伝えるメールが表示されている。

京介「お前……どうして」

あやせ「すいません。 でも、桐乃の為にこうするしかなかったんです」

京介「何でそうなる……? 何で、俺に嘘を吐いたんだよ」

699: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:31:48.12 ID:iNChR+u+0
あやせ「お兄さんには沢山嘘を吐かれたので……というのは、言い訳ですよね」

あやせ「少し、場所を変えましょう」

言いながら、あやせは俺の横を通り過ぎ、一人歩く。

……俺は。

俺は何も考えられず、ただその背中に付いて行った。

700: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:32:16.90 ID:iNChR+u+0
いつか、来たことのある場所。

あれからもう、何年経ったのだろうか。

桐乃とはあれから、一度も連絡を取っていない。

京介「……懐かしいな、ここも」

辺りには誰もおらず、この公園には俺一人っきりだ。

701: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:32:45.19 ID:iNChR+u+0
遠い昔、あやせとここでは色々あったよな。

あの日。

桐乃が家出をして、そのままどこかへ消えて。

そして、あやせが俺に嘘を吐いた日。

京介「忘れられる訳、ねえか」

702: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:33:12.13 ID:iNChR+u+0
「ごめんなさい。 本当にごめんなさい」

あの日、公園に入るやすぐにあやせは俺の方を向き、再度頭を下げた。

京介「謝って欲しいなんて、思ってねえよ」

あやせ「……ですよね」

京介「俺が知りたいのは、どうしてってことだけだ」

あやせ「理由、ですか」

703: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:33:40.26 ID:iNChR+u+0
あやせ「……多分、私は間違えたことをしているんだと思います」

あやせ「本当なら、本当に桐乃のことを思っているのなら、私は嘘を吐かないべきだったんです」

あやせ「桐乃は、黒猫さんの所に居たらしいです。 それを伝えるべきでした」

京介「なら、どうして? どうして俺にそんな嘘を吐いたんだよ」

自分でも、自分の声から抑えきれない感情が溢れ出しているのが分かる。

704: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:34:10.55 ID:iNChR+u+0
あやせ「それは、私が桐乃の友達だからです。 親友だからです」

あやせ「私のしたことは、回りまわって桐乃を傷付けてしまうかもしれません。 落ち込ませてしまうかもしれません」

あやせ「ですが、桐乃は言ったんですよ。 私に」

あやせ「もし、あいつがあたしのことを探していたらすぐに伝えて。 そう、言ったんです」

京介「それを鵜呑みにしたってのか? お前は」

あやせ「ええ、そうですね」

705: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:34:58.67 ID:iNChR+u+0
あやせ「私は桐乃のこと、大好きですよ。 本当はこんなこと、したくないんです」

京介「……良く言うぜ」

あやせ「……ごめんなさい。 でも、それが私の、友達としてのやり方なんです」

あやせ「友達として、私は桐乃の言葉を信じました。 絶対に嘘だと分かっていましたけど……それでも、私は桐乃の友達です。 親友です」

あやせ「だから私は、桐乃を信じました。 桐乃も多分、私を信じてそう言ったのだと思います」

あやせ「お兄さん。 桐乃のことが好きなお兄さん。 桐乃の本当の気持ちを分かるのは、分かってあげるのは私の役目では無いんですよ」

706: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:35:25.39 ID:iNChR+u+0
あやせ「それはきっと、お兄さんの役目ですから」

あやせ「ですが、お兄さんは分かってあげられませんでした。 責めるつもりなんて、勿論ありません。 私が上手く立ち回っていれば、こうはなりませんでしたしね」

桐乃の、気持ち。

嘘偽り無い本心。

それを俺は分かってあげられたのだろうか。

それを俺が、分かっていなかっただと?

……そんなこと、ねえよ。

707: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:35:52.26 ID:iNChR+u+0
あやせ「……どうしてでしょうね。 なんで、こんなことになっちゃったんだろう」

あやせは言い、空を見上げる。

あやせ「お兄さん、これでも一応、それなりに覚悟は決めているんです」

あやせ「もし、私を恨むのなら恨んでください。 罵声を浴びせるのなら、好きなだけ浴びせてください」

あやせ「全部、私は受け止めます」

どんよりと曇った空から、やがてぽつりぽつりと雨が落ちてきた。

708: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:36:19.48 ID:iNChR+u+0
京介「……恨みはしねえよ。 罵声も浴びせない。 お前は、悪くねえからさ」

あやせ「……お兄さん」

あやせがメールを送ってから数十分。

既に、桐乃は逃げているだろう。

もう、間に合わない。

もう、手遅れ。

709: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:36:45.78 ID:iNChR+u+0
京介「くそ……」

雨はやがて、強くなり。

あやせ「……ごめんなさい」

あやせはその言葉を残し、帰っていく。

俺はしばらく、そのまま雨に打たれていた。

710: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:37:16.02 ID:iNChR+u+0
京介「あいつ、今どーしてんのかね」

俺は空を見上げ、いつか会えると信じている妹のことを考える。

この世界のどこかで、多分あいつは元気にやっているだろう。

それとも、俺と同じことを考えているのだろうか。

……遠く離れてしまった今は、ちょっと分からないな。

違うか。

711: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:37:42.71 ID:iNChR+u+0
今も昔も、きっとこれからも。

俺はあいつのこと、何一つ分かっていなかったのだろう。

あやせは「恨んでくれても構いません」と言っていた。

馬鹿か。 そんなので一々恨んでられねえよ。

紛れも無く俺の所為で。

紛れも無く俺の失敗で。

どうしようもない、ことだった。

712: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:38:09.27 ID:iNChR+u+0
今ではもう、皆と会うことも殆ど無くなってしまった。

良くも悪くも、あいつが中心だったから。

それが無くなれば、崩れるのも当然かもしれない。

京介「情けねえなぁ。 こんなんで、いつか会った時どうすんだっつーの」

頭をぼりぼりと掻き、座っていたベンチから立ち上がる。

713: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:38:34.65 ID:iNChR+u+0
そろそろ帰るとするか。 明日も明日で仕事がある訳だしな。

空は青く、風は気持ちが良い。

空気は綺麗で、気温は心地良い。

しかし、心はどうしようもなく、曇っている。

714: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 11:39:08.51 ID:iNChR+u+0
それは恐らく、俺が大切な物を無くしてしまったから。

一番に気付かなければいけないことに、気付けなかったから。

絶対にしてはいけない忘れ物をあの日、してしまったから。

だが、いつかまた、一緒に笑えると信じて。

俺は今日も、一人歩く。


もう一つの結末 終

721: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:17:55.45 ID:iNChR+u+0
京介「ふぃー……」

桐乃「どしたの? そんな疲れきった顔して」

桐乃のサプライズ、結婚式を終えて帰宅し、一息付いたところ。

京介「……お前、昔からずっと思ってたけどさ、マジでタフだよな」

桐乃「そうかな? 楽しいことは全力でやらなきゃ損っしょ?」

京介「全力でやって、それでもお前いっつも体力ありあまってんじゃん」

722: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:18:25.14 ID:iNChR+u+0
桐乃「……なんかそーゆわれると、少し乙女心が傷付くんですケドぉ」

京介「はは、わりわり。 すげーなって思っただけだよ」

桐乃「すごい? えーっと」

京介「陸上も、モデルも、お前の趣味にだって、いつでも全力だろ?」

桐乃「まあ、ね。 それがあたし流だし」

京介「俺にはそーいうのは、今まで無かったからなぁ」

723: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:18:50.35 ID:iNChR+u+0
桐乃「ふうん。 ま、昔の京介見てるから分かるケド」

桐乃「あんた、いっつもだダラダラぐだぐだしてたもんね~?」

京介「へっ。 あれはあれでいーんだよ。 ほっとけ」

桐乃「ひひ。 でも……」

京介「ん?」

桐乃「んーん。 なんでもなーい」

京介「んだよ」

桐乃「あはは。 怒らないでって。 あたしご飯作るからさ、お風呂入っちゃいなよ」

京介「へいへい。 んじゃお言葉に甘えて」

724: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:19:20.18 ID:iNChR+u+0
湯船に浸かり、一人考える。

今日は、人生で一番の日だったと胸を張って言える。

これから先、多分色々な壁にはぶつかると思うが。

それでも、桐乃と一緒なら大丈夫だ。 あいつと一緒なら、俺は何度でも立ち上がれる。

そりゃそうだろ。 俺はあいつの兄貴なんだから、当然だ。

この数年間の間、あいつと過ごして分かったこと。

725: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:19:46.15 ID:iNChR+u+0
昔はとても強く見えた妹だったけど、そんなことなんてない。

……そういや、確か麻奈実は桐乃に昔「桐乃ちゃんが憧がれていた凄いお兄ちゃんなんて、最初から居なかったんだよ」と言った事があるらしい。

そりゃーそうだとは思う。 それは正しいんだろうさ。

だがそれでも、桐乃は今の俺を見てくれている。 妹の為に、桐乃の為に、行動する俺を。 それは勿論、俺の為であったりもする訳だが。

んで、桐乃のことだ。

その麻奈実の台詞を借りよう。

俺が凄いと思っていた妹なんて、最初から居なかった。

726: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:20:13.84 ID:iNChR+u+0
今だからこそ、だな。

そりゃあ、あいつはすげえよ。 自慢の妹だし、俺の誇りでもある。

足も俺なんかよりずっと速い、モデルもやってて、頭も良いし、美人だ。 そういや小説も出してたし、アニメ化とかもしてたっけ。

性格は……まぁ、俺から見たら超可愛いぜ。 他の奴が見たらどうかなんて知らん。 俺が見た桐乃の話をしているんだしな。

でも。

あいつのその結果は全て、努力から来ている物で。

それでもあいつもあいつで、弱いし脆い。 そんなの、当たり前だ。

727: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:20:42.07 ID:iNChR+u+0
だけどあいつは一人で頑張ろうとしてしまう。 いつだって。

俺に頼ってくれることは多いが、それでも超大事なときに限って、あいつは一人で突っ走る傾向がややあると思う。

昔に比べたら、そりゃある程度それも無くなったのかもしれんが。

それはそれで、あいつの良いところでもあるのかもしれんが。

だけど、俺は不安で不安で仕方ねえんだよ!

そう思って、俺は決めたんだ。

728: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:21:08.13 ID:iNChR+u+0
絶対こいつを手離さないって。 一生、一緒に歩いてやろうって。

あやせにも確か、昔そんなことを言われたっけな。 一緒に歩いてくれと。

……あいつ、こうなるの分かってたのかね? だとしたらすげー恐ろしいんだが。

さて、そろそろ上がるとしよう。 もう飯も出来ている頃合だろうしな。

729: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:21:51.09 ID:iNChR+u+0
京介「しかしよー、桐乃」

桐乃「んー?」

飯を食べ終え、パソコンに向かっている桐乃に話し掛ける。 大方、新作のチェック等しているんだろう。

京介「お前、いつから今日のあれって考えてたんだ?」

桐乃「秘密~」

京介「……そですか」

730: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:22:18.10 ID:iNChR+u+0
桐乃「……そんな知りたい?」

パソコンから視線を外し、俺の方に向けながら桐乃は言う。

京介「まぁ、気にならないって言えば嘘になるけど」

桐乃「ふうん。 もうすっごい前ってことだけ、ゆっとく」

京介「すごい前、か」

桐乃「うん。 その時は、皆も呼ぼうって思ってなかったケドね」

731: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:22:47.87 ID:iNChR+u+0
京介「あれはすっげえ驚いたぜ。 事前に俺のところになんも無かったからな」

桐乃「ひひ。 じゃ、大成功じゃん」

京介「はは、だな」

京介「……最初さ、本当に一番最初。 俺とお前がまだ仲悪かったとき」

京介「こうなるなんて、想像できたか?」

732: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:23:22.55 ID:iNChR+u+0
桐乃「無い無い。 あたしは昔から一途だったケドぉ。 京介はちょーふらふらしてたしね?」

京介「……すいませんでした」

桐乃「べっつにー? あたしはそんなの気にしないし?」

京介「そ、そうか」

桐乃「だからあたしが今からふらふらしても、問題無いよね?」

そんなことを言いながら、桐乃はにやにやと笑う。

733: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:23:48.17 ID:iNChR+u+0
京介「だ、駄目だ! それは駄目!」

桐乃「え~。 どうしよっかなぁ」

桐乃「う~~~~ん。 どーしても?」

京介「……どうしても」

桐乃「しっかたないなぁ! 京介がそこまでゆーなら、これからも一途でいたげよっかな」

……楽しそうだなぁ、こいつ。

734: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:24:14.24 ID:iNChR+u+0
桐乃「で」

桐乃はそう言うと、パソコンの前から移動し、俺のすぐ傍までやってくる。

桐乃「あんたの方はどーなの?」

京介「お、俺か?」

京介「決まってんだろ。 俺もお前と一緒だよ」

桐乃「そか」

桐乃はにやにやした笑いから、満足そうに笑う。 その笑顔に多分、俺は見蕩れていてしまった。

735: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:24:45.88 ID:iNChR+u+0
桐乃「ねね。 それっていつから?」

京介「い、いつからって……」

桐乃「いーじゃん。 あたしも答えてあげたんだし」

お前は大して答えになってなかったじゃねえかよ! けどだからと言って。

京介「……すっごい前から」

と、答えると。

736: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:25:16.19 ID:iNChR+u+0
桐乃「はぁ? そんなのダメ。 正確な時期が知りたいの」

って言う。 分かりきっていたことだ。

京介「ああくそ……俺がお前に告白した時だよ。 あのクリスマスの日から」

京介「正確に言えばもーちょい前だけどな……そんくらいの時期」

桐乃「ふうん……へえ。 そんな前からだったの? ずっと妹のこと好きだったんだぁ?」

京介「……わりいかよ」

737: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:25:46.60 ID:iNChR+u+0
桐乃「ううん。 すっごい嬉しい」

俺の顔を見て、桐乃は言う。 冗談じゃないなんてことは、すぐに分かった。

ほんっとにこいつは……不意打ちというかなんというか。

そうする度に俺の寿命が縮められている事実に気付いているのだろうか?

京介「そ、そか」

答えるのとほぼ同時、桐乃はそのまま近くにしゃがみ込むと、俺に抱き着いてきた。

738: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:26:13.29 ID:iNChR+u+0
桐乃「……」

京介「……お前、泣いてるの?」

桐乃「……ゆわないで。 色々、思い出してて」

嬉しくて、泣いているんだろう。 そのくらいは分かる。

京介「……そっか。 あったからな、本当に色々と」

そんな桐乃を俺は、頭を撫でて、抱き締める。

739: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:26:41.93 ID:iNChR+u+0
桐乃「うん……もうダメかって、何回も思っちゃったしね」

京介「……ああ、そうだな」

桐乃「でも、京介が居てくれて、兄貴が居てくれて」

京介「俺にとっちゃ、桐乃が居てくれて、妹が居てくれて、だけどな」

桐乃「あはは。 そっか」

桐乃「大好きだよ。 京介」

桐乃は言い、俺に唇を重ねた。

740: ◆IWJezsAOw6 2013/07/09(火) 13:27:11.49 ID:iNChR+u+0
桐乃「ね。 京介」

京介「ん?」

桐乃「昔さ、この部屋にあたしが泊まったときに「ちゃんとケリをつけないと、そーゆうことはしない」って」

桐乃「……あたしはいちお、今回のでついたと思ってるんだケド……そっちは?」

京介「……俺もまあ、そうは……思う、かな」

桐乃「……そか」

京介「……おう」

……ここから先は、俺と桐乃、二人の話ということで。


そして二人は 終

768: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:17:17.55 ID:fg3LFwRh0
こ、これは試す価値があるのか……?

俺は昼間、アパートの一室でテレビを見ていた。

12月31日。 大晦日の日のこと。

例の如く、時を少し遡ろう。

769: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:17:51.15 ID:fg3LFwRh0
桐乃はどうやら今日はモデルの仕事があるらしく、今は家に居ない。

一人暮らしから二人暮しに変わり、今はめちゃくちゃ楽しい毎日を送っている訳だが……。

二人で住み始め、まだ数日しか経っていない内に俺はあることに気付いた。

京介「案外、一人の時間って貴重なんだな……」

そりゃあ勿論、桐乃と一緒に喋ったり遊んだりしている時が一番楽しい。

楽しいのだが、プライベートな時間というのも必要な訳で。

770: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:18:59.61 ID:fg3LFwRh0
桐乃もそれは同じだと思う。 だからこうしてどちらかが家に居ない時は、お互いがお互いに好きな事をして過ごそうと決めている。

で、桐乃の奴はどうやら●●●●をやっているらしい。

何故それが分かったのかってのも、お隣から苦情が来たからだ。 奇妙な声が聞こえる、と。 今日の朝言われた。

出掛ける前に桐乃にはもう少し落ち着いてやってくれと頼んで、渋々だがあいつも承諾してくれたのは良い事である。

んで、俺はというと。

771: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:19:36.25 ID:fg3LFwRh0
京介「……●●●●やるにしても、なんだかなぁ」

そっち関連で行くと、冊子を眺めるのが楽しかったりするのだけど。

ついこの前、俺と桐乃が一緒に暮らし始めた日。 その日の内に桐乃には「そーゆうのを持っているのはイヤ」とはっきり言われてしまったしな。

そういう流れで今あるのは●●●●だけなのだが、勿論桐乃の所有物である。

そんで、俺も別に●●●●自体が好きって訳でもないしな……つうか、今あるのって殆ど桐乃にやらされてプレイ済みな訳だし。

適当に暇を潰せるアイテムとしては重宝しているが、それにしてもそれだけをやるってのも変な話だし。

桐乃みたいにフルコンプリートなんて、する気はさらさら無いしな。

772: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:20:02.66 ID:fg3LFwRh0
仕方ない、テレビでも見るか……。

そう思い、テレビを付けたのが切っ掛けだった。

どこもかしこも大晦日特番だとかで、普通の番組は一切やっていない。

そんなのにはもう見飽きていたので、適当にリモコンでチャンネルを次々と変える。

京介「……ん?」

773: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:20:44.01 ID:fg3LFwRh0
途中、俺のリモコンを操作している手は止まった。

それもそう、テレビ画面にはでかでかと、俺の動作を止めるだけのテロップが表示されていたから。

『新年を迎える前に! 今の彼女と更にラブラブに!』

京介「きたか……!」

思わずコタツからガタッと身を乗りだして、画面を見る。

やべ、誰にも見られていないよな? そう思い、辺りを確認。

774: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:21:17.70 ID:fg3LFwRh0
当然誰かが居る訳も無く、ただ虚しい光景が広がっている。

京介「……一応、チェーン掛けとくか」

桐乃が帰って来る時間まではまだ大分ある。 しかし、どんな緊急事態が起こるかも分からない。 安全策は取っておくべきだ!

こんな番組を見ているのを桐乃に知られでもしたら、さすがの俺でも恥ずかしさから家を飛び出してしまいそうだし。

京介「……よし、完璧」

玄関扉にチェーンを掛け、再びコタツへ。

ミカンをぱくぱくと食べながら、テレビ画面に視線を向ける。

775: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:21:46.49 ID:fg3LFwRh0
『仲良くなる秘訣その2!』

その1終わってるじゃねえかよ!! ふざけんな馬鹿ヤロー!!

こ、こんなことならチェーンなんて無視して、見ておくべきだったか……。

いや、後悔しても仕方ねえ! とにかくその2からでも良いから、見ておくんだ!

『その1を終えて仲良くなった後は……思い切って、コスプレを頼みましょう!!』

776: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:22:13.12 ID:fg3LFwRh0
なんでそうなるんだ!? この番組……頭おかしいんじゃねえの!?

……いや、でもコスプレか。 ありっちゃあり、だな。 ふむ。

つっても、もうコスプレとかしてもらってるしなぁ。 写メも持ってるし。

ちくしょう。 駄目だ。 次だ次!

777: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:22:43.10 ID:fg3LFwRh0
『仲良くなる秘訣その3!』

『その1とその2を済ませ、大分仲良くなったあなた達……ここで切り出してみてはどうでしょうか? 一緒の布団で寝ようと!』

無理だろ!? ん……? 思わず突っ込んでしまったが……普通に一緒の布団で寝てるわ俺。 未だに。

なんだよ、全然参考にならねえ!

『さぁ、次でいよいよ最後です!』

もう最後なのか? 今のところ全部既にやってることだから、どうしようもねえんだけど。

778: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:23:11.88 ID:fg3LFwRh0
『その4!』

『仕事を終えたあなたは家に帰ります。 そして、玄関先で迎えてくれる彼女。 その彼女に思い切って抱き着きましょう!』

は、はぁああ!? 無理だろ!! 恥ずかしすぎる!! それは無い!!

『今までの行動に比べたら、こんなのはなんとも無いと思いますが……単純に愛を示す行動が一番だということですね。 それではまた~』

そうして、番組は終わる。

だ、抱き着くだと!? き、桐乃に!?

779: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:24:14.79 ID:fg3LFwRh0
京介「……無理だろ」

し、しかし……俺は他のを全てやってしまっている訳だし……残されているのはそれしかない。

いや、抱き締めた事が無いと言えば嘘になるけど、あいつが帰ってきていきなりとか難易度高すぎやしねえか?

そ、それに? 桐乃は仕事終わって疲れているだろうし……。

やるとしても立場が逆だし……。

780: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:24:41.91 ID:fg3LFwRh0
……。

……ああ分かったよ! やれば良いんだろ!? やれば!!

立場が逆なのは問題ねえしな、ぶっちゃけ。

……おし。 今日の俺はやると決めたらやりきってやる! なんつったってもうすぐ今年も終わっちまうんだからな! モヤモヤした気持ちで新年は迎えたくねぇ!

俺はその後、玄関で何回かシミュレーションをして、桐乃が帰って来るまでの時を過ごした。

781: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:25:20.73 ID:fg3LFwRh0
あー。 つかれたぁ。

全く、大晦日だってのに急に仕事入るとか……サイアク。

って、新年まで後6時間も無いじゃん! うう、京介と一緒にごろごろしていたかったのに。

気分はほんっとどん底。 帰って、お風呂入って、ご飯食べて、寝ようかなぁ。

初詣も行きたかったケド……そんな元気無いし。

……また、京介には悪態を付いてしまいそうだ。

782: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:25:49.02 ID:fg3LFwRh0
桐乃「……はぁ」

溜息を吐いても、既にアパートの部屋の前。

会いたいのに、嫌な思いをさせてしまいそうで会いたくない。

……ダメダメ。 そんな風に考えていたら、また京介に怒られちゃう。 せめて愚痴を吐いて、慰めてもらおっかなぁ。

そう思いながら、玄関扉を開ける。

鍵もチェーンも掛けていなかったのか、すんなりと扉は開いた。

783: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:26:21.29 ID:fg3LFwRh0
桐乃「ただいまぁ」

京介「おう、おかえり」

桐乃「ちょ! なんでそこで待ってんの!?」

び、びっくりしたぁ! なんで!?

京介「ん? 別に良いだろ、待ってても」

桐乃「……そ、そうだケド」

……ヤバイヤバイヤバイ。 これはヤバイ!

784: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:26:49.60 ID:fg3LFwRh0
一気に顔が熱くなるのが分かる。 うう、見られないようにしないと。

桐乃「……ふん」

そう言い、あたしは顔を若干俯き気味にしながら、京介の横を通り、部屋の中へと歩いて行く。

あーもう! どうして素直にお礼を言えないの! あたしは!

で、でも……恥ずかしいし? い、いつか言えばいいかなぁ……みたいな?

自分で自分に言い訳をし、すたすたと歩く。

785: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:29:22.90 ID:fg3LFwRh0
その時だった。

京介「桐乃」

後ろから声が聞こえたと思ったら、京介が、抱き着いてきた。

桐乃「ふぇ!? な、なななななに!?」

桐乃「なっ! なんであんたいきなり抱き着いてんの!?」

じょ、状況を! 誰か状況を!!

786: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:30:00.04 ID:fg3LFwRh0
京介「……あれだ、なんつうか。 そうしたかったから?」

そ、そうしたかったって……。

京介「わり、嫌だった?」

京介に多分、そのつもりは無いんだろうケド。

耳元で、囁かれるように声がした。

787: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:30:27.20 ID:fg3LFwRh0
桐乃「い、嫌じゃない! 嫌じゃないケド……」

桐乃「ぎ、ギブ……」

足に力が入らず、腰が抜けてしまう。

つ、疲れの所為から! 多分そう!

京介「お、おい? 大丈夫か?」

京介はそう言いながら、あたしの体を支える。

やっばぁ。 これはちょーやばい。 ふひひひ。 さっきまでの嫌な気持ちだとか、全部吹っ飛んだんですケド!!

788: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:30:54.50 ID:fg3LFwRh0
こ、これはどういうことだ!?

あのアホ番組を参考にして、帰って来た桐乃に後ろから抱き着いた。 そこまでは良いとしよう……いや、良くはねえかもだけど。

で、そうしたと思ったら桐乃は腰を抜かして床に座り込んでしまった!

……完全に俺の所為じゃねえか! これは、このパターンはあれだ。

今はこいつの顔はすげー緩みきっていて、俺としてはそれはもう嬉しいのだが。

後になって、ほぼ確実に俺は怒られる。 間違いねえ!

789: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:31:22.55 ID:fg3LFwRh0
そんな俺の予感は見事的中。

桐乃が回復するまでに約一時間を使い。 正気を取り戻した桐乃に呼ばれ、俺と桐乃はコタツで向かい合っていた。

桐乃「……そんで、なんのつもりだったの」

コタツの布団で顔を少しだけ隠しながら、桐乃は聞いてくる。

京介「ええっと……な、なにが?」

桐乃「……とぼけないで。 さっきの」

790: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:31:51.06 ID:fg3LFwRh0
京介「あ、あー。 あれか! はは、あれね」

桐乃「……」

じっと俺のことを見つめてくる桐乃。 どうやら、言い逃れは出来そうにない。

京介「そ、そうすれば桐乃ともっと仲良くなれるかなぁ……みたいな」

桐乃「……ばかじゃん」

791: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:32:24.83 ID:fg3LFwRh0
京介「マジで悪かったって! お、お前があそこまでになるとは思ってなくてさ……」

桐乃「チッ……そりゃなるっつーの」

最後の方はもごもごと言い、俺の耳には入ってこず。

京介「え? なんつった?」

桐乃「な、なんでもない!!」

俺が聞き返すと桐乃はミカン攻撃を加えてくる。 もうこれにも大分慣れてきたので、そのミカンを見事キャッチし、コタツの中央へと俺は置いた。

792: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:32:51.90 ID:fg3LFwRh0
京介「……本当に悪かったって、ごめんな?」

桐乃「そこまでマジで謝らなくても良いっての……」

桐乃「でも……いちおーさ、そうゆーのいきなりするの、やめてよ?」

桐乃「あたしだって驚くし、あんな風になっちゃうかも……だし」

793: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:33:41.61 ID:fg3LFwRh0
京介「……おう!」

つまり嫌だってことではねえんだよな? へへへ、これは良い楽しみを見つけてしまったかもしれないぜ!

アホ番組に感謝だ。 ありがとう。

桐乃「ちょ、ちょっと待って……その顔、信用ならないんだケド」

京介「んなこたぁねーよ! はっはっは」

桐乃「……覚えときなさいよ」

794: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:34:13.53 ID:fg3LFwRh0
それから数時間経ち、もうすぐ新年を迎えるというとき。

桐乃「ねね。 初詣行かない?」

京介「初詣かぁ。 おう、良いぜ」

桐乃「ひひ。 んじゃあ年越ししたら、即出発ね!」

京介「はいよ。 そーいや、お前って着物とか着ないの?」

795: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:34:59.34 ID:fg3LFwRh0
桐乃「うーん。 和服はねぇ。 趣味じゃないし」

へえ。 振袖とか浴衣とか、めっちゃ似合いそうだけどな。

桐乃「仕事とかで着ることはあるけどぉ……なに? そうゆうのみたいの?」

京介「まぁな。 お前って何着ても最高に引き出せそうだし……って、そうだ」

京介「それで良い事思い出した。 桐乃! 一つ頼みがあったんだよ!」

桐乃「な、なに? 急に。 ……イヤな予感がするんですケド」

796: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:35:26.32 ID:fg3LFwRh0
京介「今日さ、沙織とチャットしてたんだが……ちょっと待ってろ」

そう言い、俺はパソコンを立ち上げ、カタカタと操作する。

やがて目的のページを開き、桐乃を呼び。

京介「これ! これ着てくれないか!?」

その画面を桐乃に見せる。

797: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:35:57.46 ID:fg3LFwRh0
桐乃「あ、あんた……これって」

京介「な? 良いだろ?」

桐乃「ば、バニーガールの格好しろってゆってんの?」

京介「そうだ。 頼む」

桐乃「……なんか、あんた自分の欲望を忠実に曝け出す様になったよね」

京介「良い事じゃねえか。 で、どうなの?」

798: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:36:25.47 ID:fg3LFwRh0
桐乃「いーや。 絶対してやんない」

京介「んだよ。 折角衣装は今度沙織から借りるってのに」

桐乃「もうそこまで手を打ってる時点で、ちょっと怖いんですケド」

京介「……まぁ、仕方ねえか」

ああくそ。 ちくしょう……。 一度は見て見たい物だってにのによぉ。

799: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:36:51.33 ID:fg3LFwRh0
桐乃「そ、そこまで落ち込むこと!?」

京介「だってよぉ……マジで見たかったし」

桐乃「……だ、ダメ。 それはさすがにダメ!」

京介「……おう。 俺も無理にとは言わないしな。 分かったよ」

桐乃「い、いつかね? 本当にいつか気が向いたら……したげる」

京介「ま、マジか! さっすが桐乃だぜ!!」

800: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:37:20.81 ID:fg3LFwRh0
桐乃「なんかそれ、あまり嬉しくない……」

京介「いよっしゃあ! 今年は良い年だった! なあ、桐乃?」

桐乃「あたしは複雑な気持ちで新年を迎えそう。 誰の所為だとおもう?」

京介「さーな。 さっぱりわかんねー」

桐乃「チッ……むっかつく!」

そう言うと桐乃はコタツに入るべく、俺に背中を向ける。

801: ◆IWJezsAOw6 2013/07/10(水) 13:37:47.03 ID:fg3LFwRh0
なーんてな。 そんな気分で新年を迎えるのはさすがに嫌だろうし。

俺は椅子から立ち上がり、桐乃に再び後ろから抱き着いた。

京介「桐乃。 今年はありがとうな。 色々と、お世話になった」

桐乃「っ! だ、だから急にすんなってゆってんのに……ばーか」

桐乃「……あたしも。 今年は色々お世話になりました」

桐乃「来年もよろしく。 京介」

そして、一年は終わる。

新しい一年は、まだ始まったばかりだ。


新年へ 終

820: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:14:20.92 ID:absZoSPa0
あたしの名前は高坂桐乃。

今は高校生で、モデルの仕事をやってて、携帯小説が本になったり、アニメ化されたり、陸上をやってたりしてます。

それで……それで今は彼と同棲しているどこにでも居る普通の女子高生!

あたしはそんな彼のことがだ~い好き! マジで、世界中探してもあんなに格好良い人は絶対にいない! 断言できる!!

821: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:14:46.28 ID:absZoSPa0
桐乃「……さすがにないかぁ」

今はモデルの仕事の自己紹介文を書いているワケだけど。

なんてゆうか、これじゃああたしじゃなくて京介の自己紹介じゃない?

うまく書けないんだよねぇ。 うーん。

1月の終わり、あたしはアパートの一室で紙と睨めっこをしていた。

822: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:15:28.58 ID:absZoSPa0
桐乃「そだ。 あたしが書いてもうまく書けないってことは……」

桐乃「他の人に頼んでみれば、うまくいくかもじゃん」

机に突っ伏していた体を起こし、あたしは独り言う。

よしよし。 案外うまくいきそうじゃない? この作戦。

とゆーわけで、まずはあたしのしんゆ……知り合いの、黒猫に電話でもしようかな。

スマホをいじり、黒猫に発信。

823: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:15:56.47 ID:absZoSPa0
桐乃「……」

一分ほど待って、ようやくあいつは電話に出た。

「もしもし。 生憎わたしは忙しいのだけど」

桐乃「出んのおっそ! てゆうかいきなりその台詞は無いと思うよ。 どーせまた呪いの儀式とかやってたんじゃないの?」

「ふ。 はずれね。 わたしがやっていたのは聖なる儀式……神との誓い」

824: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:17:05.42 ID:absZoSPa0
桐乃「はいはい厨二病乙。 んでさぁ、あんたにちょっと相談あるんだけど、良い?」

「あなたがわたしに? 構わないけれど……あまりにも無理難題は勘弁して頂戴ね」

桐乃「だいじょーぶだって。 ちょー簡単なことだし?」

「だと良いのだけど……」

桐乃「きりりんのすごいって思うところとか、可愛いって思うところとか、挙げるだけだから」

ガチャリと音がして、通話が終了した。

825: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:17:31.88 ID:absZoSPa0
桐乃「あ、ああああああいつ……!!」

な、なんで電話切った!? 信っじられないんだけど!!

苛立ちを募らせながら、リダイヤル。

今度は数秒もしない内に、すぐに繋がる。

桐乃「ちょっとあんた切るってどうゆーこと!?」

826: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:17:59.86 ID:absZoSPa0
「あら? ごめんなさい、電波の調子が悪かったようね。 そうじゃなかったとしたら、わたしの耳がおかしくなってしまった可能性も否定できないわ」

桐乃「いい? あんたのボケてる耳にも聞こえるように、ゆってあげるから」

桐乃「きりりんのぉ、すごいなーってところとか、可愛いなってところと、ゆってみ?」

「……あら大変、悪魔が舞い降りてきたわね……丁度良い事だし、あなたに仕向けておこうかしら」

桐乃「さ、最後まで聞け! 別にあたしだっていきなりあんたに褒めさせようってゆってるんじゃないんだかんね?」

827: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:18:29.07 ID:absZoSPa0
「そう言うと……ただの嫌がらせと言う事? ふ。 あなたらしいわ」

桐乃「ちーがーうっつうの。 モデルの仕事で自己紹介文を書く事になってさー。 それでけっこー困ってるんだよね。 今」

桐乃「いざ自分で書こうって思っても、どう書けば良いのか分からないっしょ?」

「そうかしら? あなたならそういうのは得意そうだけど」

桐乃「なんで?」

「ナルシストだから」

828: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:18:56.10 ID:absZoSPa0
桐乃「は、はぁ!? あたしはそんなんじゃないっつうの! てゆうか、それをゆったらあんたの方が酷くない?」

「わたしが、ですって? 言ってみなさいな。 一体、わたしのどこがどうナルシストだと言うの?」

桐乃「まず、その喋り方。 「ですって?」とか「言ってみなさいな」とか。 それに私服がゴスロリってね(笑)」

「そ、そんなの個人の自由じゃない……それを言ったらあなただって同じよ。 初めてのオフのとき、あんな場違いな格好をしてきて恥ずかしくなかったの? 一人だけ「あたしは~、モデルやってますし~」みたいな格好をして」

桐乃「あたしにとってはあれがフツーなの! あんたの見方がずれてるんじゃなーい?」

829: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:19:38.81 ID:absZoSPa0
「ふ。 何も分かっていない愚直な人間はこれだから……いい? 良く聞いておきなさい」

「何を基準に見るか、よ。 問題は。 確かに渋谷や原宿といった町ではあなたの格好の方が正しいのかもしれないわ。 それが基準だから、ね」

「だけど、秋葉原ではわたしのファッションの方が基準になるのよ。 逆に考えてみなさいな」

「わたしがあの格好で渋谷や原宿に居たらおかしいでしょう? 浮いていると思うでしょう?」

「それはつまり、秋葉原であなたがいつもの格好をするのと同じ事よ。 短絡的に捉えれば、わたしが渋谷や原宿であの格好をする恥ずかしさと同じくらいの恥ずかしさが、あなたが秋葉原でする格好にはある。 ということね」

……なんかメンドーになってきた。 てか説明長すぎ。

830: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:20:13.97 ID:absZoSPa0
桐乃「おっけーおっけー。 んじゃ、そうゆーワケであたしの自己紹介文考えてよ」

「……あなた、何も聞いていなかったでしょう?」

桐乃「うん」

「……もう良いわ。 あなたは一生気付かない恥を掻いておけばいい」

桐乃「はいはい。 で、あたしの自己紹介文どうぞ」

831: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:20:40.36 ID:absZoSPa0
「まぁ、大体の事情は分かったわよ。 そういうことだったのなら先に言えばいいじゃない」

桐乃「それをしようとしたらあんたが電話切ったんじゃん!? チッ……まあ良いケド。 で、あんたから見てあたしってどんな風に見えてるワケ?」

「仕方ないわね。 ならばわたしが今から言う言葉をその自己紹介文に書き入れなさいな」

桐乃「おっけおっけ。 よろしく」

832: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:21:07.10 ID:absZoSPa0
「あたしの名前はぁ。 高坂桐乃でぇ。 現役女子高生。 みたいなぁ! えへ」

「んでぇ。 お金持ってるおかげで友達はいっぱいいるしぃ? 皆あたしの奴隷! みたいなかんじぃ(笑) うけるっしょ?」

「男なんて腐るほどいるしっ。 あたしのゆーことは皆聞いてくれる、ってことぉ。 きゃはっ」

「という感じでどうかしら?」

桐乃「ダメに決まってるでしょ!! あんたから見たあたしってどんな感じで見えてんの!?」

833: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:21:36.73 ID:absZoSPa0
「強ち間違いでは無いでしょうに……ね? 京介」

桐乃「は? え……京介、そこにいんの?」

「あらあら。 ふふふ。 どうしたの、そんなに声を強張らせて。 慄いているのが電話越しでも分かるわよ?」

桐乃「そ、そんなの聞いてないっ!! きょ、京介と代わって!!」

「全く……仕方無いわね。 京介、電話よ」

834: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:22:25.59 ID:absZoSPa0
「……」

桐乃「も、もしもし?」

「……」

桐乃「きょ、京介? 返事、して?」

「……」

桐乃「……お願い、お願いだから。 京介」

835: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:22:51.70 ID:absZoSPa0
あたしが言うと、電話からようやく声が聞こえる。

「さすがにかわいそうになってきたわ」

黒猫の声が。

「冗談よ。 先輩が居る訳ないでしょう」

桐乃「あ、あんた……騙したの?」

836: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:23:18.32 ID:absZoSPa0
「人聞きが悪い事は言わないで頂戴。 わたしがぬいぐるみに京介という名前をつけているだけの話よ……」

桐乃「あ、あんたねぇ!!」

「なぁに? 勝手に勘違いしたのはあなたじゃない。 ちなみに今の音声は録音済み」

桐乃「……今から会おう。 黒猫」

「……遠慮しておくわ。 出来れば後一ヶ月は」

桐乃「えっと……どうして一ヶ月?」

837: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:23:45.65 ID:absZoSPa0
「一ヵ月後にはあなたの機嫌も直っているだろうしね。 それまではわたしは逃げ続ける。 悔しいのなら捕まえてごらんなさい! あっはっはっはっは!」

桐乃「こ、こんのぉ!」

「まぁそんな怒ることでも無いでしょうに……ね、桐乃」

桐乃「怒るっつうの!」

「……あなたに言ったんじゃないわよ」

桐乃「はぁ? じゃあ誰にゆったっつうの」

838: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:24:35.66 ID:absZoSPa0
「もう片方のぬいぐるみよ。 桐乃という名前の」

桐乃「な、なに勝手にあたしの名前つけてんの!?」

「そんなのわたしの自由じゃない。 そうそう、このぬいぐるみには面白くも切ない話があるのだけど……聞きたい?」

桐乃「なんであんたの厨二妄想を聞かなきゃいけないワケ?」

「実はね。 この桐乃とこの京介は付き合っているのよ」

桐乃「……ちょ、ちょっと詳しく」

839: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:25:01.25 ID:absZoSPa0
「……仕方ないわね。 分かったわ」

「昔は仲が良かった二人。 しかし、いつの日かすれ違い、お互いがお互いを避けながら日々を過ごしていた」

「そんなある日。 二人は偶然再会した。 それは何年か越しの再会」

「最初はお互いになんとなく相手との距離を計り損ねていたわ。 まぁ、それも当然の話でしょう」

「しかし、何度も何度も数々の問題を解決して、二人で乗り越えている内に、気付けばお互いに惹かれあっていた」

「……何度も何度も挫けそうになりながらも、支え合って、やがて」

「二人は、結ばれたわ」

840: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:25:34.61 ID:absZoSPa0
桐乃「ちょ、ちょー良い話だね! マジで!」

「し、か、し」

「そんなある日、京介は桐乃に言ったの」

「「お前、何でいっつも俺にワガママしかいわねえの? あん?」とね」

「桐乃はそれに答えたわ。 「はぁ? あんたあたしの命令聞けて幸せっしょ? ん?」と」

「京介はついに我慢出来ず、家を飛び出し……そして」

「その先で出会った黒猫という娘と結ばれるの。 めでたしめでたし」

841: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:26:00.68 ID:absZoSPa0
桐乃「な、なんでそうなるッ!? あんた絶対あたしたちに置き換えてるでしょ!!」

「あら? あなたが言うには厨二妄想とのことじゃない。 なら問題は無いはずだけど?」

桐乃「だけど!」

「それともなぁに? 心当たりがもしかしてあったり……」

桐乃「ない! ないないないない! あんたマジで許さないからね! この屑猫!!」

842: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:26:27.98 ID:absZoSPa0
「く、屑猫……? ふ、ふふ。 良いわ。 あなたがその気ならこちらにも策があるのよ……」

黒猫がそう言うと、電話の奥でカチッとの機械音が聞こえてきた。

『も、もしもし?』

『きょ、京介? 返事、して?』

『……お願い、お願いだから。 京介』

桐乃「~~~~ッ! こんのぉ!!」

843: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:26:53.41 ID:absZoSPa0
「ふふふふふ。 今からメールを送ってあげるわ。 あなたが心配で心配で仕方の無い先輩に」

桐乃「……チッ。 仕方ない」

桐乃「ゆっとくケド、あたしだってあんたの弱味なんていくらでも持ってるんだからね? その辺、分かってんの?」

「……わたしの、弱味ですって?」

桐乃「あっれぇ? この前スカであんた騙した時、どんなチャットしてたか覚えてないのぉ?」

「……そ、それは!!」

844: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:27:21.48 ID:absZoSPa0
桐乃「た、し、かぁ? 「ど、どうしたの? いきなりだなんて」とかゆってぇ。 あたしが「いや、お前の顔が見たかった」みたいにゆったらぁ? 「そ、そう? わたしも丁度あなたの顔が見たかったわ」とかゆっちゃってぇ?」

桐乃「んでその他にもイ、ロ、イ、ロ、あるケドぉ……ま、あんたがその気なら仕方ないかぁ!」

「くっ……桐乃」

桐乃「なによ?」

「わ、わたしにもまだ手はあるのよ……だけど、これ以上はお互いにとってただの殴り合いにしかならないわ……やめましょう」

桐乃「……おっけ」

845: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:27:48.74 ID:absZoSPa0
「さて、そろそろわたしは忙しいので切るわよ?」

桐乃「……結局あたしの話、なんも解決してないじゃん」

「別に良いでしょ。 適当に書いておけばいいのよ。 そんなのは」

桐乃「あんた……最初から真面目に考えて無かったっしょ」

「そんなことは無いわ。 自己紹介文に書けること。 一つ分かったわよ?」

846: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:28:14.39 ID:absZoSPa0
桐乃「……期待しないで聞いたげる」

「あたし、高坂桐乃はお兄ちゃんが……京介が大好き! ってところね」

黙って電話を切った。

桐乃「あ、あいつマジでムカつくぅ……!!」

くうぅぅぅ! この恨みはいつか絶対晴らす!

847: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:28:45.40 ID:absZoSPa0
そう誓い。 またしても紙と睨みあいを再開。

……にしても、京介は何してるんだろう。

今日は確か、夕方には帰るって聞いてるし、もうすぐ帰って来ると思うんだけどなぁ。

あ、そだ。 夜ご飯作らないと。

よし。 一旦はこっちの方は後回し。 ご飯ご飯っと。

848: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:29:16.03 ID:absZoSPa0
京介「お前、本当に飯作るのうまくなったよなぁ」

京介がテーブルの上に並んだ物を食べながら、あたしに向けて言う。

桐乃「そ、そう? 元から才能あったしぃ。 当然じゃん?」

京介「おうおう。 さすがだぜ」

京介は言いながら、あたしの頭の上に手を置き、ぽんぽんと叩く。

849: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:29:47.83 ID:absZoSPa0
桐乃「……早く食べないと冷めちゃうんですケド」

京介「ああ、だな。 わりい」

手を引っ込め、京介。

……もうちょっと撫でてくれても良くない!?

はっ。 違う違う! そうじゃなくって! する話があるんだった。

850: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:30:20.74 ID:absZoSPa0
桐乃「ねえ、ちょっと相談あるんだケド。 良い?」

京介「ん? 何でも来い!」

言いながら、いつもの様な顔をする京介。

この顔を見るのが、少し楽しみだったりする。

桐乃「実はさぁ……」

そう切り出し、あたしは自己紹介文の件を説明。

……勿論、黒いのとのことは秘密で。

851: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:31:13.83 ID:absZoSPa0
京介「うーん。 なるほどねぇ」

京介「で、何を書けば良いのか悩んでいる訳か」

京介「……前と一緒で良いんじゃね?」

前……前っていうと、あれか。

休日は大好きなお兄ちゃんと買い物をして過ごしています♪ ってヤツ。

852: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:32:44.85 ID:absZoSPa0
桐乃「そ、それはダメ!」

京介「どうして?」

桐乃「だ、だって……今は毎日じゃん?」

京介「ぐっ……桐乃、ちょっとタンマ!!」

京介は慌てながら言い、置いてあった水を飲み干す。

京介「……あぶねぇ。 死ぬところだった」

853: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:33:12.35 ID:absZoSPa0
桐乃「……今、そんなヘンなことゆった?」

京介「いや! そうではない、そうではないんだけど」

京介「……お前、自分の攻撃力を理解した方が良いぞ」

と、意味の分からないコトを言う。

桐乃「……ふうん? ま、良いや。 んでぇ、とにかくそれはダメなの。 他になんかない?」

854: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:34:12.11 ID:absZoSPa0
京介「ううむ……なら、趣味とか……は書けないよなぁ」

京介「そうだ。 桐乃の良い所とか書けば良いんじゃね?」

桐乃「……だからそれは難しいんだって」

京介「なんで?」

桐乃「んじゃ、質問。 京介の良いところってなに?」

855: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:34:43.48 ID:absZoSPa0
京介「……自分で言えってのは難しいな」

桐乃「でしょ?」

京介「じゃあさ、代わりに俺が桐乃の良い所を言うから、それ書けばいいじゃん」

きょ、京介があたしの良いところを? ちょっと期待しちゃうんだケド!

うう、なんて言ってくれるのかな?

856: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:35:11.53 ID:absZoSPa0
桐乃「……ゆってみ?」

京介「そうだなぁ」

京介「可愛いだろ? 料理が美味いだろ? スタイルが良いだろ? 優しいだろ? 気が利くだろ? 髪が綺麗だろ? 笑顔が良いだろ? 寝顔も可愛いだろ?」

桐乃「た、タンマぁああああああああああ!!!」

857: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:35:41.73 ID:absZoSPa0
京介「ど、どうした?」

桐乃「……京介、自分の攻撃力を理解した方がいいよ」

危ないから本当に! 死ぬかと思った……!

桐乃「と、とりあえず? それは分かったケド……それ全部書いたら、ただの嫌な女だと思うっしょ?」

京介「まあ……確かにそうだな」

桐乃「でしょ? だからダーメ。 もっと真面目に考えてよ」

858: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:36:12.77 ID:absZoSPa0
京介「別に良いんじゃね? 嫌な女って思われても」

桐乃「は、はぁ!? 喧嘩売ってんの!?」

京介「だって、俺は何があってもそうは思わないし。 それじゃ駄目か?」

こ、こいつは……。

こいつはヤバイ! あたしを確実に殺そうとしてきている!

駄目なワケ無いっしょ!! 馬鹿なの!?

859: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:36:41.66 ID:absZoSPa0
……落ち着こう。 もう今でも顔は真っ赤になっているだろうケド。 それでも一旦落ち着こう。

桐乃「と、とにかくー! もっと簡単な物でいいんだって! どこにでもありそうなカンジでいいんだって!」

京介「うーん。 んじゃあ仕方ねえな。 ちょっくら一緒に考えるか」

京介「ま、それは後回しでとりあえず、飯食っちゃおうぜ」

860: ◆IWJezsAOw6 2013/07/11(木) 13:37:08.79 ID:absZoSPa0
その後、京介とあーだこーだ言いながら内容を決めた。

最後は結局あたしが決めちゃったんだけどね。

内容は秘密で。

と言っても雑誌に掲載されたら見られちゃうんだろうけど、それまでの秘密。

決まった内容は。

高坂桐乃。

最近は、毎日お兄ちゃんと遊んでいます。 もっと仲良く出来ると良いな。


あたしのお兄ちゃん 終

881: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:16:04.49 ID:UlKoPKT90
2月のある日。 休日を堪能するべく布団の上でごろごろとしていたら、電話が鳴った。

京介「……もしもーし」

「随分とだらけた声ね。 大方、休日を堪能するべく未だに布団の上ということかしら?」

黒猫か。 つうか、なんで俺の状態をそこまで把握しているんだよ、こいつ。

京介「この部屋には監視カメラでも付いてんのか……」

「そのくらい想像できるわよ。 で、折角の休みのところ申し訳無いのだけど、今から秋葉原に行かない?」

882: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:16:48.59 ID:UlKoPKT90
京介「今から? うーん」

今日は確かに桐乃はちょっと用事があるとか言ってたし……。 多分、モデルの仕事だとは思うけど。

それもあり、暇っちゃあ暇なんだが。

んでも、だからと言って黒猫と二人っきりで遊ぶっていうのは……マズくね? さすがに。

そんな考えを予想していたのか、黒猫は電話越しに言う。

「桐乃には言ってあるわよ。 それにわたしと二人じゃなく、沙織も居るのだから良いじゃない」

883: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:17:14.16 ID:UlKoPKT90
京介「おおう。 そっか。 そういうことなら行くかな」

「全く。 わたしと付き合っている時は桐乃と二人っきりなんて良くあることだったんでしょう? それに桐乃の部屋で後ろから抱き締められたらしいじゃない」

京介「なんでお前はそれを知っているんだよ!! つうか、兄妹なんだから二人っきりなんてあって当然だろうが!!」

「あらあら。 わたしの情報収集能力を舐めないで頂戴」

……言ったのは桐乃の奴だ。 間違いねえ!

あいつめ、くっそ。 帰ったら説教コースだな! いつもは変にはぐらかされてしまうから、今日は一度びしっと言った方が良さそうだぜ。

884: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:18:15.47 ID:UlKoPKT90
京介「はぁ……んで、何時にどこ?」

「今から、いつものメイド喫茶で。 ちなみにわたしと沙織はもう待っているから」

……へいへい。 例の如くアキバね。 ま、沙織も居るって聞いた時点で大体の予想はしていたけども。

ていうかそれなら「今から行かない?」って聞き方をするんじゃねえよ。 道中の話し相手にでもなると思ったのによお。 結局独り寂しくアキバに行かなきゃならねえじゃねえか。

しかし一度行くと言った以上、断るのも気が引けてしまう。

俺はこうして、休日を珍しい組み合わせで過ごす事となったのである。

この三人で会うってのも無かった訳では無いが……まあ、珍しいよな。

一応桐乃にはメールを入れておき、俺は身支度を整えると駅へと向かった。

885: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:20:24.63 ID:UlKoPKT90
時間は経って、現在メイド喫茶。

京介「で、なんで俺を呼んだんだ?」

黒猫「別に。 特に理由は無いわよ?」

京介「……マジかよ。 ただなんとなくで俺は秋葉原まで来てるのか!?」

先にそれを聞いておくべきだったよな。 そうすりゃ俺もわざわざここまで来てるなんてことは……無いとは言い切れないのが悲しいところ。

886: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:21:05.11 ID:UlKoPKT90
沙織「まぁまぁ。 暇でしたのなら、別に構わないでござらんか。 京介氏」

京介「ちっくしょう……俺の折角の休日が……」

黒猫「布団の上で過ごすよりは有意義でしょう?」

手の甲に顎を乗せながら、黒猫は言う。 殆ど無理矢理呼び出しておいて偉そうだな、こいつ。

京介「メイド喫茶で過ごすのも有意義とは言えないよな?」

沙織「京介氏、我々にとっては、秋葉原で過ごすその行動にこそ、意義はあるのですぞ。 そこら辺、しっかりと分かってもらいませんと」

887: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:21:35.72 ID:UlKoPKT90
……なんで俺は説教されているのだろうか。

つうか、そんなの知らねえっつうの! どうでも良いわ!

京介「んじゃあさ、その有意義な過ごし方を教えてくれよ。 さすがにずっとここって訳じゃねえんだろ?」

俺が言うと、沙織と黒猫は少しの間顔を見合わせ、互いに頷く。

黒猫「仕方ないわね。 分かったわ」

沙織「それではいざ、参りましょうか」

こうして俺と黒猫と沙織は三人で、秋葉原の町中へと繰り出していくことになった。

888: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:22:02.47 ID:UlKoPKT90
はずだった。 つい数分前まで。

京介「沙織、黒猫は?」

沙織「と、聞かれましてもなぁ。 拙者はこっちに夢中でしたので」

そう言い、アーケードゲームの方を指差す沙織。

画面にはでかい文字で沙織の勝利を伝えるメッセージが流れている。

889: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:23:33.61 ID:UlKoPKT90
京介「なるほど。 なら仕方ねえな……じゃねえよ!!」

京介「黒猫迷子じゃねえかよ! 一応あいつだって」

……そういや、あいつってもうすぐ高三なのか、一応。

いやあ、時が流れるのははえーな。 マジで。

そして、時間の経過と共に黒猫の言動が治る気配が無いってのは少し心配になっちまうけど……。

まぁ、大学行く頃には気付くだろ。 さすがに。 そうだと思っておこう。

890: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:24:01.09 ID:UlKoPKT90
京介「ていうかそうじゃない。 沙織」

沙織「にん」

京介「黒猫と連絡取れないか? 俺、携帯忘れてきちゃったんだよ」

桐乃にメールして、そのまま置き忘れ。 気付いたのは地元の駅に着いてからだったが、わざわざ取りに戻るのもあれだったので、そのまま来てしまった。

それに集合場所は決まっていたしな。

沙織「ほほう。 京介氏ともあろうお方が……まさか携帯を忘れるなんて!」

891: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:24:34.38 ID:UlKoPKT90
京介「おい。 お前絶対馬鹿にしてるだろ、それ」

沙織「いえいえ。 拙者は心配しているのでござるよ」

京介「心配? 一体何を?」

俺が言うと、沙織は俺の方へ少しだけ身を寄せ、耳元で言う。

沙織「……拙者との愛のメールが、きりりん氏に見つかってしまってはマズイではござらんか」

892: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:26:33.40 ID:UlKoPKT90
京介「キモッ! 今日のお前なんかキモいぞ!! つうか話を脱線させるんじゃねえよ!」

いやいや、この台詞を言っているのが実は美少女なんてことは分かっているが……それでもキモイ! なんか今日の沙織は変だ!

……言っておくが、いくら沙織の素顔が美少女だとしても、桐乃の方が可愛いからな。 これは揺るがない。

沙織「はっはっは。 さすがに冗談が過ぎましたかな?」

京介「冗談ってレベルはとっくに過ぎてるけど……?」

893: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:27:13.96 ID:UlKoPKT90
京介「……まあ良い。 んで、黒猫と連絡は取れるか? 話戻すけどさ」

沙織「うーむ。 その必要は無いかと思いますが」

京介「どして?」

沙織「これですな。 先程、黒猫氏から届いたメールでござる」

そう言い、沙織は俺に自身の携帯を突きつける。

画面には黒猫からのメールが届いていて、内容は。

894: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:27:41.25 ID:UlKoPKT90
京介「ええっと……今日は疲れたので帰るわ。 後はよろしく」

京介「なんだよそれ!! あいつってそんな奴だっけ……?」

びっくりだぜ本当に。 疲れたので帰る。 しかもそれをメールで済ませるなんてさ。

いくら桐乃でもここまで酷くは……あるか? 普通にあるかもしれんな。

895: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:28:27.13 ID:UlKoPKT90
いやぁ! でも今の桐乃じゃ絶対にそれは無い! そんなことされたら俺泣くし!

沙織「落ち着いてくだされ、京介氏。 とにかくこうなってしまった以上、仕方ありませぬ。 今日は二人でデートと行きましょうぞ」

京介「ははは。 何が楽しくて俺はこんなところに居るんだろうな……」

こうして俺は沙織と二人で、秋葉原の町中へと繰り出していった。

896: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:28:54.93 ID:UlKoPKT90
はずだった。 つい数分前まで。

京介「……なんかすっげーデジャヴだな。 なんでだろうな」

独り言を呟きながら、辺りを見回す。

なんで沙織も居なくなってるんだよ! これってあれか? もしかして新手のイジメか? 俺なんか悪いことしたっけ?

理由は分からんが……だけど、とにかく謝っておくことにしよう!

つっても連絡取る手段が無いからなぁ。 とりあえず、町中適当に歩いて探し回るか……。

897: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:29:29.23 ID:UlKoPKT90
その後、俺は約数時間に渡り、一人で秋葉原を散策する。

んで、その結果は。

京介「……はぁ」

ただの時間の無駄、ってことだ。

マジ、休日が本当に休日じゃなくなってるじゃん! くっそお!

……居ない物は仕方ない。 今日はもう、帰るとしよう。

夕日で赤く染まりつつある秋葉原の街並みに切なくなりながら、駅へと向かって歩く事にした。

898: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:30:54.42 ID:UlKoPKT90
京介「……たっだいまー」

いつもの癖からそのまま引っ張った玄関扉は開いていて、それから桐乃が帰ってきていることが分かった俺は、そう挨拶をしながら部屋の中へと入る。

桐乃「お。 お帰り。 早かったじゃん」

コタツの中にうつ伏せで寝転ぶ桐乃が、俺の方に顔だけを向けて言う。

京介「……そう思う? よし、桐乃。 今から俺の苦労話をたっぷり聞いて貰うから、覚悟しとけよ」

そう言いながら、俺もコタツの中へ。

899: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:31:24.06 ID:UlKoPKT90
桐乃「ふうん。 ま、特別に聞いてあげてもいいケドぉ。 その前に!」

桐乃はうつ伏せから体を起こすと、俺の方に顔をぐいっと寄せた。

俺は当然、急にそんなことをされた恥ずかしさから、顔を逸らしながら。

京介「な、なんだよ」

と答える。 未だにこいつのこういうさり気無い仕草には、慣れないんだよな。

900: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:31:51.79 ID:UlKoPKT90
桐乃「はぁ~。 マジでわっかんないワケ? しっかたないなぁ」

桐乃「……ん。 これあげる」

言うと、桐乃は何やら少し大きめの箱を俺に手渡す。

京介「え、えっと?」

桐乃「だーかーらー! 今日、バレンタインデーっしょ。 チョコあげるっつってんの」

901: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:34:39.10 ID:UlKoPKT90
京介「……そういや、そうだっけ?」

桐乃「はぁ……これだからあんたは」

京介「わ、悪かったな。 ていうか、お前が俺にチョコくれんの!?」

桐乃「な、なに? 文句ある?」

京介「そ、そういう訳じゃねえけどさ……」

902: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:35:09.44 ID:UlKoPKT90
桐乃が俺に、チョコをくれるだと!?

以前、毒物みたいな石灰みたいなチョコを貰ったことはあるっちゃあるが……。 あれをチョコと形容するのは、ちょっと違うだろう。

ってことは! これが初チョコってことか!? 桐乃から俺への!?

なんというかあれだ!

京介「お前なんか彼女っぽいな!!」

903: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:35:52.85 ID:UlKoPKT90
桐乃「……彼女なんですケド?」

京介「……はは、そうだった」

ううむ。 とは言われても……。

いや、ここは素直に喜ぶべきだろ。 俺も内心超嬉しいし。

京介「ありがとな、桐乃」

桐乃の顔を見て、俺は礼の言葉を述べる。

904: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:43:52.25 ID:UlKoPKT90
それを聞いた桐乃は。

桐乃「ち、違うし! それ義理だし!!」

京介「ぎ、義理なの!? この状況で!?」

さっすがに驚くぜそれは!

桐乃「そ、そう! 義理チョコ!」

905: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:44:19.31 ID:UlKoPKT90
京介「……いやいや、この状況で義理っていうのは無理があるんじゃね?」

桐乃「……とにかく! それは義理! ギリギリで!」

京介「ぎ、ギリギリで?」

えーっと。

つまりどういうことだよ。 ギリギリで義理って。

桐乃「……三分の二くらいは義理だから」

ってことは残りの1割は何だよ! とは聞けないよな。 それくらいは察しろってことだろ。

906: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:44:51.78 ID:UlKoPKT90
京介「ま、まあとにかく嬉しいぜ! ありがとよ!」

桐乃「……うん」

桐乃「じゃ、じゃああたし、ご飯作るから」

そう言うと、桐乃はそそくさと台所へ移る。

その背中を見ながら、俺は桐乃から貰った2/3は義理チョコというのを箱を開けて見たのだが。

907: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 13:45:17.61 ID:UlKoPKT90
中にはチョコが三つ……なるほど。 そういうことね。

そう思い、携帯を開くとメールが二件。

一件は黒猫からで、もう一件は沙織からで。

俺は二人にお礼と一ヵ月後楽しみにしていろとの内容のメールを送り、台所で料理を作る桐乃の後ろ姿を眺めていた。


残りのひとつは 終

917: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:03:43.78 ID:UlKoPKT90
3月。

土曜日で学校は休み。 仕事の方も今日は休み。 で、暇。

京介が居れば、適当に二人で遊んで暇を潰せるんだけど……生憎、今日は大学で講義があるらしい。

……あたしと大学どっちが大事なの!? と言えば京介は休んでしまいそうだけど……さすがにそんなことは言えない。

で、あやせや黒いのとか沙織とかと遊ぼうと思ったのに。

思ったのに! こーゆうときに限ってみんな、忙しいみたいで。

918: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:04:53.04 ID:UlKoPKT90
黒いのと沙織は一緒に何やら同人誌の作業があるらしくて。

あたしも行こうかと思ったケド、手伝えるような内容じゃなかったのでやめておくことにした。

……することがなーい。

桐乃「新作の●●●●も全部やっちゃったしなぁ……」

桐乃「シスカリも、一人でやってもつまんないし」

うーん。

テレビでも見ようかなぁ。

919: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:06:49.41 ID:UlKoPKT90
土曜日のお昼過ぎ。 チャンネルを回しても特に面白そうな番組はやっていない。

ある程度回して、やっぱ他の事でもしようかなと、思ったとき。

『最近ちょっと冷めすぎてる? そんな彼と、更にラブラブに!』

桐乃「きたか……!」

思わずテーブルから身を乗り出す。 勢いでテーブルに足をぶつけてしまい、ガタッとの音が部屋に響いた。

920: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:07:17.87 ID:UlKoPKT90
……誰も見てないよね? 今の。

誰かいたらそれこそ驚きなんだけど……一応、部屋の中を確認。

よし、誰もいない!

桐乃「いちお、チェーン掛けておこっと」

京介にもしこんな場面見られたらイヤだしね。 念の為、念の為。

あたしは玄関扉のチェーンを掛けると、再び居間に戻り、テレビに視線を向ける。

921: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:07:58.25 ID:UlKoPKT90
『仲良くなる秘訣その2!』

1終わってるじゃん!! ちょ、ちょっと巻戻し巻き戻し!!

あー! これ録画じゃないし! なんなの!?

……うううう。 ちょー悔しいケド。 仕方ない、その2からでも目に焼き付けておこう。

『二人の時間はとっても大切。 そんな時間を大切に使うため、二人で寝転んで一緒にゲームはどうでしょう?』

桐乃「ぐはっ!」

ふ、二人で寝転んでゲームだとぉ!? え、●●●●なんてそんな状況で二人でやったらどうなるか分かってんの!? この番組!!

922: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:08:29.76 ID:UlKoPKT90
……いや、でもそういえばやったことあったよね。 確か。

桐乃「つ、次次!」

あ、そだ。 メモも一応取っておこうっと。

『仲良くなる秘訣その3!』

『一日の疲れを癒す物と言えば……そう、お風呂! そんな癒し空間で彼と二人っきり。 仲良くなること間違い無しです!』

桐乃「し、しねぇえええぇええぇえええ!!」

握り締めていたペンを構え、テレビに向ける。

923: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:08:57.35 ID:UlKoPKT90
……はっ。 テレビに恥ずかしがってどうすんのあたし!?

で、でもぉ……一緒にお風呂とかありえないっつーの!!

ん……あれ? そういえば前に一緒に入ったっけ?

桐乃「全然ダメじゃんこの番組!!」

む、むっかつくなぁ……折角あたしの貴重な時間を割いて見てあげてるのに、なんの参考にもならないんですケド。

仕方ない……これはもう、最後に期待するしかない!

あたしは心の中で言い、画面を凝視。

924: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:09:24.31 ID:UlKoPKT90
『仲良くなる秘訣その4!』

『普段通りのあなたとして接しても、いつかは飽きられてしまうかも……』

桐乃「ま、マジで!?」

『そんな時はいつもと違った姿を見せてみては? 張り切って、レッツコスプレ♪』

桐乃「意味わかんないんですケドぉ!!」

我に帰る。

テレビと会話って、なんかちょっとだけ寂しいな。

925: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:10:59.84 ID:UlKoPKT90
……で、でもコスプレって。

あいつはそりゃ……喜ぶとは思うケド……?

だ、だけど!

……。

……また言い訳して、終わらせちゃうのかな。

926: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:11:39.72 ID:UlKoPKT90
桐乃「っ! よし! やってやる!」

衣装は……そうだ。 この前のアレがあるはず。

よ~し。 京介が帰って来るのは夕方のはずだから……それまでに準備を済ませて、待ち伏せだ!

桐乃「えへへ。 ひひ」

半ば若干壊れながら、あたしは準備を始めるのだった。

927: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:12:11.37 ID:UlKoPKT90
京介「だっりー……」

大学生は楽な物だとばかり思っていたが、案外だるいことに気付いた今日この頃。

俺は仕事疲れで帰るサラリーマンの如く、アパートの一室へと向かっていた。

まぁ、だけど帰ったら超可愛い妹様が待っていると思うと自然と足取りも軽くなるってもんよ! はっはっは。

京介「……またゲームやらされるんだろうなぁ」

ぶっちゃけ、ここ最近の俺の生活サイクル。

ゲーム、大学、ゲーム、ゲーム、大学、アキバ、ゲーム。

928: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:12:37.38 ID:UlKoPKT90
おかしいぞ! 俺はもっときゃっきゃしたいというのに! そりゃアキバに行けば二人で飯を食ったり、新作のゲームを発掘したり、すっげえ楽しいんだけどさ。

でも、なんかこう……もっと刺激的なことは無い物か! と俺は思っていたりする。

たとえばだなぁ。

桐乃が「お帰り、京介♪」ってすげー上機嫌で出迎えてくれるとか?

桐乃が「京介、あーん」とかな?

そんくらいのことが起きない物なのかね! マジで!

929: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:13:05.66 ID:UlKoPKT90
そんなことを考えている内に、部屋の前へと到着。

うーん。

或いは桐乃がコスプレをして出迎えてくれる、とか?

はは、さすがにそれはねーよ! あったとしたら俺、この二階から飛び降りてもいいね!

そして玄関扉に手を掛け、引っ張る。

930: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:13:33.20 ID:UlKoPKT90
桐乃「おかえり、京介♪」

京介「入る部屋間違えたわ!!」

急いで扉を閉める。

……なんだ、今のは。

あ、あれか? 俺の目と耳が同時におかしくなっちまったのか!

あろうことかあの桐乃が……バニーガールの姿をして上機嫌で俺の帰りを待っていてくれただと!?

931: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:14:01.20 ID:UlKoPKT90
ありえん! 断じてありえん!

もうどのくらいありえないかっていうとだな……桐乃がある日「京介、実はあたしって男なんだ……」とか言うくらいありえねえ!

……想像したらちょっと気分が悪くなってきたな。

いやいや、それより現状だろう。

ま、まず部屋の番号は……俺の部屋、だよな。

932: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:14:31.19 ID:UlKoPKT90
だが、中の光景がありえないことになってしまっている。

しかし、恐らく嬉しいことにというか、俺の目と耳は正常のはず……。

だとすると。

答えは一つ。

宇宙人か! 桐乃の奴、宇宙人に薬でも打たれちまったのか!?

933: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:14:57.76 ID:UlKoPKT90
俺の妹に、彼女になんてことをしやがる! 許さねえぞ!!

桐乃「ね、ねえ?」

空を見上げ、今にも叫びだしそうになっていた俺に声が掛かった。

玄関扉から顔だけを出し、桐乃が俺に向けておどおどした視線を向けている。

934: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:15:24.08 ID:UlKoPKT90
……耳が可愛いな、これ。

じゃねえええっっよお! どうしちゃったのこいつ!?

京介「お、おおおお前に聞きたいことが山ほどあるんだが……と、とりあえず中入るか」

出来るだけ平静を装い、桐乃に言うと、部屋の中へと入る。

935: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:15:49.67 ID:UlKoPKT90
今、俺は最強破壊兵器を目の前にしているわけだ。

……こいつはヤバイ。 とりあえず、かるーく状況説明するぜ?

テーブルを挟んで、俺と桐乃は今向かい合っている。

で、何故か俺も桐乃も正座。

桐乃の方はぺたんとした感じ。 女の子座りって言うんだっけ? あれだ。

936: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:16:47.47 ID:UlKoPKT90
頬は紅潮していて、手遊びをしながら、時折俺の顔色を窺っている感じだ。

さっきからずっとこれ! ヤバイだろ?

な、何を言えばいいんだよ。 これって俺にどうしろってメッセージなの!?

……どうするべきなんだ、これは。

このイベントの選択肢はマジで分からないぞ! いくら俺が冴えている時期でも絶対に無理!!

937: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:17:13.61 ID:UlKoPKT90
し、しかたねえ……ここは飛びぬけた事でも言って、桐乃の調子を戻す作戦……でいくか。

京介「な、なあ。 桐乃」

桐乃「……?」

手は未だにもじもじとしながら、きょとんとした顔をしながら、桐乃は頭をかくんと傾ける。

死ぬ! 俺ちょっと死ぬかもしれん!

938: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:17:48.01 ID:UlKoPKT90
だ、だが言わなければ……。

このままでは俺の体力やら気力やら、根こそぎ吹き飛んでしまうだろうし!

京介「……写真、撮らせてくれ」

よし……これでこいつはいつも通り近くにある物を俺に投げつけて、一件落着だ。

……嫌な一件落着だけどな。 でもこうするしかねえんだよ。

桐乃「……ん」

言いながら、頷く桐乃。

……よっしゃきたあ!! 実はちょっと期待してたもんね! やったぜ!!

939: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:18:14.95 ID:UlKoPKT90
で、携帯片手に桐乃の姿を写真に収める俺。

お互いにひと言も話さないので、シャッター音だけが部屋に響く。

……俺って、もしかしたらかなりの変態なんじゃねえのか?

なんて思ってしまう程の状況だ。 どうしてこうなった。

だが、そんなことで俺の手は止まらない。 だってすげえレアじゃん!

それを続ける事、数分。

940: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:18:45.53 ID:UlKoPKT90
桐乃の姿を撮ることに集中していた俺は、全く気付かなかった。

桐乃も桐乃で明らかにいつも通りでは無かったので、気付いていなかった。

来訪者に。

黒猫「……ごめんなさい。 プレイ中だったかしら」

沙織「は、はっはっは。 これは中々に」

声のした方に顔を向けると、そこには見慣れた俺のお友達。

941: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:19:11.81 ID:UlKoPKT90
京介「な、なんでいんのっ!?」

黒猫「何故、と言われてもね。 桐乃の遊びを断ってしまったから、寂しがっているのじゃないかと来てみたらこれという訳よ」

沙織「……まあ、きりりん氏も寂しくは無かったようですがな」

俺の見られ方が変わった瞬間じゃねえの、これ。

京介「え、ええっとだな……はは、これは」

慌しく、視線をあちらこちらに移す。

一瞬視界に入った桐乃は、恥ずかしさからか今にも泣き出しそうな顔をしていた。

京介「と、とりあえず一回外出ようぜ? 桐乃も着替えたいだろうしな?」

桐乃はその言葉に小さく頷き、俺は沙織と黒猫を部屋の外へと追いやるのだった。

942: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:19:38.49 ID:UlKoPKT90
黒猫「で、何があったのよ?」

数分後、着替え終わった桐乃に呼ばれ、俺と黒猫と沙織は部屋の中へと入る。

今現在はテーブルを4人で囲っている状態。 まるで何かの会議みたいな光景だな……。

桐乃「な、なにってゆわれても……気分?」

黒猫「いえ、別にあなたのコスプレについてじゃないわよ?」

京介「それ以外に何か突っ込むところ、あったか?」

943: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:20:05.00 ID:UlKoPKT90
俺が聞くと、黒猫はギロリと睨む。 恐ろしい視線で。

黒猫「あなたがどうして物凄く幸せそうな顔をしながら写真を撮っていたのかって話よ」

あ、あー。 そっちね。 ははは。

沙織「ははーん。 さては京介氏。 撮った写真を売り捌いて一儲けするおつもりだったのでは? 拙者にも言ってくれれば良い物を」

京介「なんでそうなるっ!? 桐乃の写真は俺だけの物だ!!」

沙織「は、はは。 そうでござるか。 ははは」

944: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:20:30.79 ID:UlKoPKT90
桐乃「ちょ、ちょっと京介。 やめてよ……」

京介「お、おう……わり」

桐乃「……別にいいケド」

黒猫「それで、話がずれているわよ。 どうしてあなたは●●●顔をしながら写真を撮っていたのかしら?」

●●●顔ってな……お前。

京介「そりゃ、桐乃が●●●格好をしてたから?」

945: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:20:56.88 ID:UlKoPKT90
バシン。 という音と共に頭を叩かれる。 勿論桐乃から。

京介「……は、はは」

すっげえ汚い物を見るかの様な目で見られているんだが! 俺ってそんな酷い事言ったか? 今。

黒猫「だとしてもあんなに嬉しそうな顔をして……気持ち悪いわ」

京介「わ、悪かったって……つうか、そんなことよりお前らはどうして俺の部屋に無断でずかずか上がりこんでいるんだよ!」

946: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:21:35.51 ID:UlKoPKT90
沙織「それは前からの癖、ですかな? 拙者たちの集合場所みたいな物なので」

俺の部屋を勝手に集合場所にするんじゃねえっつうの!

黒猫「別に良いじゃない。 迷惑かしら?」

京介「……迷惑、とは言ってねえけどよ」

桐乃「あたしも、別にそうは思って無いケド」

947: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:22:02.21 ID:UlKoPKT90
黒猫「あら。 それは嬉しいわ。 ありがとう。 でも次からは一応連絡は入れるわね。 二人で破廉恥なことをしている場面には遭遇したくないから」

京介「し、しねえぇえええよ!! するかアホ!」

黒猫「ふふふふふ」

その後、少々の雑談をした後に、黒猫と沙織はようやく家へと帰って行ってくれた。

948: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:23:18.25 ID:UlKoPKT90
京介「……そ、そんで。 さっきのって」

桐乃「あ、あー。 あれね。 あれは多分、気付いたら」

京介「気付いたら!? お前気付いたらコスプレしてんの!?」

どう考えたって言い訳じゃねえかよそれ!

桐乃「……う、うう。 その、さ」

桐乃「そうすれば、京介喜ぶかなぁって。 もっと仲良くできるかなぁって、思って。 ……そんだけ」

949: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:23:45.41 ID:UlKoPKT90
そういう桐乃の声はいつもより格段に小さい。 黒猫や沙織に見られたのが多分、恥ずかしかったのかもしれない。 勿論、今言った言葉その物からも来ているのだろうけど。

それより、なんだか身に覚えがあるパターンだな……なんでだろ。

京介「お、おう……そうだったのか」

献身的すぎる……。

で、でもこいつは以前に比べたらかなり素直になったし、そう言うならそう言うことなのだろう。

950: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:24:12.21 ID:UlKoPKT90
桐乃「な、なに?」

京介「久し振りに、一緒に飯作ろうぜ」

京介「俺はそれが嬉しいし、仲良く出来ると思うんだけど、どうだ?」

桐乃「きょ、きょーすけがそうゆーなら、作ろっか、一緒に」

京介「おう」

桐乃と一緒に料理するのって、あれ以来だよな。 あのカレーを作ったとき以来。

そう思うと、なんだか少しの懐かしさを感じる。 今じゃもう、俺が教えられる立場になってるんだもんな。

951: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:24:39.70 ID:UlKoPKT90
その後、二人で作った夜飯を食べ終えた俺たちは、テーブルを挟んで雑談中。

京介「中々上手くできたんじゃね?」

桐乃「……かな?」

京介「味も美味かったろ」

桐乃「……うん。 まあね」

952: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:25:07.20 ID:UlKoPKT90
ちなみに。

ちなみに俺は、当然先程から桐乃に元気が無いのは気付いている。

それは俺が帰ってきてからずっとのことで、俺はその理由にも行き着いている。

京介「あーっと、そうだ。 桐乃」

そんな訳で、俺は今思い出したかの様な口ぶりで桐乃に話し掛け、密かに持ち込んでいた紙袋を桐乃の前に差し出した。

953: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:26:06.69 ID:UlKoPKT90
だってさ、実はずっと頭の中にそれがあって、お前にいつ渡そうか悩んでいたんだ! なんて恥ずかしくて言えねえって。

だからこんなついでみたいな感じで申し訳ないとは思うのだが、こいつの場合はこれでいい。

京介「これ、バレンタインのお返し」

桐乃「え? あ、あんた覚えてたの?」

京介「おいおい、さすがに俺もそこまで抜けちゃいねえぞ……」

954: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:26:34.09 ID:UlKoPKT90
桐乃「……へ、へえ。 そか。 ふうん……ひひ」

桐乃「てゆうか、あんた演技下手すぎじゃない? 絶対準備してたっしょ、これ。 今思い出したみたいにゆっちゃってさぁ」

な? そんなことなんてすぐばれちまうんだから、意味ないんだよ。

京介「へっ。 ほっとけ」

桐乃「照れてんのぉ? ウケるぅ~」

桐乃「まぁ? 折角貰った物だしぃ。 貰っといてあげよっかなぁ」

955: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:27:01.02 ID:UlKoPKT90
京介「はは、そりゃありがたい」

桐乃「……その、ありがとね。 京介」

ほんっと、支離滅裂な奴だな。 貰っといてあげるの後にありがとうだぜ? どういうことだっつーの。

京介「別に。 俺は俺がしたいようにしてるだけだって。 で、俺が今したいのはお前と仲良くすることだって話」

956: ◆IWJezsAOw6 2013/07/12(金) 18:27:30.51 ID:UlKoPKT90
桐乃「そ、そか。 ならさ、京介」

桐乃「●●●●、やろ!」

結局そこに落ち着くんだよな、こいつの場合は……。

やれやれと思いながらも、俺はやっぱり言ってしまう。

京介「おう。 ●●●●やるか!」


返す気持ち 終

979: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 16:47:10.24 ID:I9tC+SP+0
桐乃「よ。 久しぶり」

京介「おう。 なんつうか、あれだなぁ」

京介「やっぱ、この家が一番落ち着くんだよな」

桐乃「あんた、殆どこっちに帰ってこないしね。 そりゃそうなるよ」

京介「落ち着くっていうか、懐かしいの方が正しいのかもしれねえけど」

980: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 16:47:36.54 ID:I9tC+SP+0
京介「とりあえず、桐乃。 一年振りだな」

桐乃「なに? 急に」

京介「んだよ。 久し振りの兄妹水入らずの会話だぜ? もっと可愛く「お兄ちゃんがいなくて寂しかった」くらい言えよ」

桐乃「ひひ。 あんた、まだそんなこと言ってるんだ? 成長しないねぇ」

京介「うっせ。 それより元気してるか? 皆」

981: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 16:48:03.67 ID:I9tC+SP+0
桐乃「まあね。 あやせとは時々買い物に行くし、加奈子も面白い噂とか、結構聞くしね」

桐乃「沙織ともちょくちょく遊んでるよ。 未だにアキバだけど」

京介「そっか。 また、皆で集まりたいなぁ」

桐乃「言っとくけど、あんたの所為で集まれないんだからねー? 仕事仕事仕事って、妹のあたしと仕事、どっちが大切なの?」

京介「すげえ台詞だな……それも」

982: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 16:48:29.94 ID:I9tC+SP+0
京介「ま、一応答えてやろう。 勿論、お前の方が大切だぜ!」

桐乃「ひひ。 シスコンきもーい!」

京介「はっ。 何とでも言え」

桐乃「あはは。 なんか、昔思い出しちゃうね」

京介「昔?」

983: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 16:48:56.90 ID:I9tC+SP+0
桐乃「あんたとあたし。 色々と面白いことがあったじゃん?」

京介「……あー。 それか」

桐乃「……うん。 ちょっと、懐かしいな。 あんたと話すと昔を思い出しちゃう」

京介「それが、嫌だって?」

桐乃「嫌じゃないよ。 思い出だからさ。 でも、やっぱり馬鹿だったなぁ……とは思うけどね」

984: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 16:49:22.37 ID:I9tC+SP+0
京介「どーだかな。 それはもっと生きてみないと分からねえや」

桐乃「……そか。 そうだよね」

桐乃「あ! ちょっとだけ話戻すけどさ、黒猫は元気にやってんの?」

京介「ん? あー、あいつか。 まあ、それなりにはな」

桐乃「ふーん。 気まずくない? 一緒の仕事とか」

985: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 16:49:59.84 ID:I9tC+SP+0
京介「そうでもねえよ。 でも、時々黒猫って呼びそうにはなるけどな?」

桐乃「あはは。 それはマズイっしょ」

京介「むしろ、一回呼んだけどな……」

桐乃「あ、あー……どんまい」

京介「……おう」

986: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 16:50:26.14 ID:I9tC+SP+0
京介「そんで、そっちの方はどうなの?」

桐乃「んー? そっちって言うと、あやせたちの事は話したし……子供たち?」

京介「そ。 元気してんのかなって思って」

桐乃「毎日大変だっつーの。 それがまた、楽しいんだけどね」

桐乃「今は一応平日だから、学校行ってるよ。 もうすぐ帰ってくると思うけど」

987: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 16:50:52.64 ID:I9tC+SP+0

京介「あー。 そうか。 んじゃあ、俺はそろそろ行くとするかな」

桐乃「会ってかないの?」

京介「いやいや……おじさんって呼ばれるの、結構ショックなんだぜ?」

桐乃「あはは。 かわいそー。 おじさん」

京介「うっせ。 お前もいつかお婆ちゃんって呼ばれるんだから、気をつけとけよ?」

988: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 16:51:19.66 ID:I9tC+SP+0
桐乃「うわ。 それ想像したくないんですけど」

京介「ま。 まだ大分先の話だろうけどなー。 んじゃあ、俺は行くよ」

桐乃「はいはい。 またね。 次はいつこっちに戻ってくるの?」

京介「なんとも言えねえなぁ。 そんな長くはならないと思うけどさ」

京介「悪いな。 なんか、こんなたまにしか会えない奴で」

989: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 16:51:46.44 ID:I9tC+SP+0
桐乃「なーに言ってんの。 もし顔見たくなったら、あたしがそっち行けば良いしね? アメリカよりは近いし」

京介「……お前、毎回その話出すのやめろよ。 思い出す度に若干恥ずかしいんだからよ」

桐乃「ひひ。 ほらほら、早く行かないとおじさんって呼ばれちゃうよ?」

京介「へいへい。 じゃ、またな。 桐乃」

桐乃「うん。 気を付けて、行ってらっしゃい」



あるひとつの未来 終


次回 京介「ただいま」 桐乃「おかえり」