前回 京介「なあ、桐乃」 桐乃「なに? 京介」

11: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:22:07.55 ID:I9tC+SP+0
4月。

俺は目の前に居る桐乃と探り合いをしていた。

それもそう。 今日はエイプリルフール。 嘘を吐いてもいい日とかなんとか言われている日。

元々そんな日には興味が無かったのだが……。

桐乃と前にした会話で、4月1日開始から24時間、お互いに1つ嘘を吐いてそれを見破られたら負け、騙せたら勝ちという良く分からないゲームをすることになっていた。

ああ、負けたら今度アキバに行った時、デート代は全てそっち持ちという罰ゲームがあるが。

引用元: 京介「ただいま」 桐乃「おかえり」 

 

12: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:22:37.90 ID:I9tC+SP+0
勿論、その罰ゲームであっても、私物を買うときは自腹となっている。 そうしないと俺の財布が底を尽きてしまうからな。

これで何故こんな真っ昼間からテーブルを挟んで探り合いをしているかは分かって貰えただろうか。

桐乃「ひひ。 ゆっとくケド、このままあたしを騙せなかったら次遊ぶ時分かってるよね?」

言うなよ! ネタバレじゃねえか!

……そうだ。 俺は既に桐乃に騙されている。

つうか、こいつの嘘ってのも相当酷いからな?

13: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:23:18.25 ID:I9tC+SP+0
朝、俺が気持ち良く寝ているところを桐乃が叩き起こしてくる。

桐乃「きょ、京介! ちょっと起きて!」

いつもと全然様子が違う桐乃の声を聞き、勿論俺は飛び起きた。

京介「ど、どうした!?」

桐乃「わ、わかんない……いきなり電話がきて「お前の写真をばら撒くぞ」ってゆわれて」

怯えて、泣き出しそうになっている桐乃。 こいつがここまでうろたえるってのも珍しいな……。

14: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:24:05.11 ID:I9tC+SP+0
京介「……それって、いつだ?」

桐乃「ついさっき。 起きて、ご飯作ってたら電話が鳴って。 出たらそうゆわれたの」

ってことは……桐乃のストーカーか何かか?

まぁ、居ても不思議ではねえか……あやせにもストーカーが居た時期もあったくらいだし。

あいつの場合は、少し入り組んだ事情もあったけどな。

と、そう思ったときに桐乃の電話が鳴る。

15: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:24:49.85 ID:I9tC+SP+0
桐乃「……非通知。 多分、そうだと思う」

そうだと思うというのは、要はストーカーからってことだろう。 そして桐乃は俺の方を見る、助けを請うように。

京介「俺が出る。 貸してくれ」

言うと桐乃はすぐさまスマホを俺の方に手渡した。 よっぽど、気味悪いと感じている様だ。 無理もねえけど。

京介「……もしもし?」

「…………」

16: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:25:24.49 ID:I9tC+SP+0
無言、か? 奥から生活音らしき物が聞こえるから、誰かが居るってのは確実だが……。

京介「おい」

俺が怒りを込めて言うと、電話からようやく人の声が聞こえる。

「そう。 わたしは聖界より遣わされた天上の者……そして、桐乃のストーカーよ」

京介「……?」

何事かと思い、桐乃の方に顔を向けると。

桐乃「……くっ」

腹を押さえ、肩がぷるぷると震えていた。

17: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:26:46.87 ID:I9tC+SP+0
「全く、どうしてわたしが朝からこんな茶番に付き合わされなければいけないのよ。 まぁ、今度遊んだ時に遊び代を出してくれると言うから別に良いけどね」

京介「……あん?」

桐乃「ひ、ひい……ひひ」

息を整えながら、桐乃がようやく口を開く。

桐乃「ねえ、きょーすけ。 今日はなんの日?」

何の日? そりゃあ勿論。

京介「……な! お前騙したのか!?」

18: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:27:19.32 ID:I9tC+SP+0
桐乃「まだ始まって九時間も経って無いよぉ? ふひひ」

京介「ずりいぞ! 寝起きでそれは!」

桐乃「はぁ~? そんなルール無かったんですケドぉ~? 悔しかったらあんたも頑張ればぁ~?」

……いくらこいつが可愛いからと言っても、ムカつく物はムカつくんだな。 はははは。

京介「おい黒猫! お前どういうつもりだよ!」

これ以上桐乃と言い合いをしても、俺のストレスが溜まってしまう一方なので、黒猫に話を振ることに。

19: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:28:27.93 ID:I9tC+SP+0
「どういうつもりと言われても。 桐乃が「京介を騙すのに協力してくれれば、上手くいったときアキバで全部あいつが奢ってくれるらしい」と言われてしまったからね」

京介「なんでお前の分も金出さなきゃいけねーんだよ!!」

「知らないわよ。 わたしはそう言われたからこうしたまでよ」

「それじゃ、妹たちの面倒を見ないといけないので。 さようなら、兄さん」

京介「おいお前ちょっと待て!」

そんな声も虚しく、桐乃のスマホからは通話の終了を告げる機会音だけが鳴り響いている。

桐乃「はい。 しゅ~りょ~」

桐乃「まぁまだ時間あるしぃ。 頑張ってねぇ~」

こ、この野郎……。

20: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:29:07.50 ID:I9tC+SP+0
ってことだ。 酷いだろ? 酷すぎるだろ?

そういう訳で、今現在、俺と桐乃はテーブルを挟んで向かい合っているんだ。

京介「……今日も可愛いな」

桐乃「そ、そう? ひひ」

お? これで嘘だよぉ~! とか言えばオッケーじゃね?

桐乃「それ嘘だったら許さないかんね」

京介「……はい」

21: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:29:34.58 ID:I9tC+SP+0
怖いよ桐乃さん。 いや、まぁ、嘘じゃねえから良いけどさ。

だが、俺はもう勝つことが出来ないので、引き分けに持っていかなければならないんだよな。

……これは最早戦争だ! 何故か知らないが黒猫の分まで俺が出すことになっているらしいし!

京介「……ん? 黒猫」

京介「桐乃。 黒猫の分も俺が出すって話だけどさ……もしかして、そこに沙織もいんの?」

桐乃「なにゆってんの。 当たり前っしょ」

当たり前かぁ! なら仕方ねえなぁ! あっはっは。

22: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:30:06.83 ID:I9tC+SP+0
京介「……ぜってー騙してやるからな、お前」

桐乃「ふん。 もう無理だと思うケドねぇ~」

桐乃「だって、あたしはあんたがゆーこと、全部疑っとけばいいんだよ? それが嘘なら見破られて乙! だし。 本当なら、ああそうだったんだぁ。 で終わるし?」

京介「いやいや、待てよ。 もしそれが本当のこと……そうだな、例えば俺が「今日宇宙人に会ったんだが」ってお前に言ったとするじゃんか?」

桐乃「うん」

京介「で、お前はそれを「どーせ嘘でしょ? もっとまともな嘘吐けないのぉ? ひひ」って返すだろ?」

桐乃「……全然似てないんですケド」

23: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:31:51.70 ID:I9tC+SP+0
いやめっちゃ似てたと思う。 そっくりだったぜ。

京介「しかし、それが本当だったとしたら、お前は騙されたことにならないか?」

桐乃「うーん。 確かにそうゆわれちゃうと、そうかも……」

桐乃「でもダメ!」

京介「な、何でだよ?」

桐乃「あたしがイヤだから。 それじゃ引き分けになっちゃうじゃん」

24: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:35:10.14 ID:I9tC+SP+0
なるほど。 それは納得する理論だな。

京介「……はぁ。 いいぜ、分かった。 普通に騙してやるよ」

桐乃「はいはい。 無駄な努力頑張って~」

京介「へっ。 騙されて後々文句言われてもしらねえぞ?」

桐乃「ぷ。 あんたに騙されるワケないって」

聞けば聞くほどムカつくなぁ、おい!

俺をあっさり騙せたのが余程嬉しかったのか、すげーテンションの高さだよ。

……良いぜ。 上等だ。

25: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:35:37.31 ID:I9tC+SP+0
京介「桐乃、お前俺のこと好きか?」

桐乃「は……は? なに、いきなり」

京介「いや、だからお前は俺のこと好きなのかなって思って」

桐乃「な、なんでそんなこといきなり聞くの? 意味わかんない」

京介「別にいいだろー。 んで、どうなの?」

桐乃「そ、そんなの……ふ、ふつーだし!」

26: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:36:07.20 ID:I9tC+SP+0
京介「普通か……そっか」

桐乃「……なによ」

京介「……好きだったのは、俺だけだったのかって思っただけだよ」

桐乃「ち、ちがっ! そんくらい分かれっつーの!」

桐乃はテーブルをばんばんと叩きながら、俺に対して言う。

京介「いやいや、だってお前、今日はもう嘘ひとつ吐いてるじゃん? だからそれは本当のことだろ?」

27: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:36:34.88 ID:I9tC+SP+0
桐乃「そ、それは……」

桐乃「……違うし」

京介「何が、どう違うんだよ」

桐乃「あーもう! 嫌いじゃないし、普通でもない! これで良い!?」

京介「へえ~~~。 そっかぁ~~~~」

どんだけ恥ずかしがってるんだよこいつ。 そう思いながら、にやにやしながら桐乃を見ていたら、案の定桐乃はシスカリの妹の如く攻撃を加えてくる。

28: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:37:38.65 ID:I9tC+SP+0
桐乃「こ、このっ!」

京介「待て! 蹴りはやめろ!!」

それは聞いてない! 俺の予想だと可愛らしくぽかぽかといった感じだったんだが、今の桐乃はゲシゲシといった感じで俺を踏み潰そうとしているじゃねえか! それはやめて!

桐乃「うっさい! あんたがヘンなことゆーからでしょ!!」

京介「べ、別に変なことなんて言ってねーよ! ただ俺は気持ちの確認をしただけだっつの!」

桐乃「そーれーがー! ヘンなことだってゆってんの!」

京介「分かった分かった! 謝るから蹴るのやめてくれ!」

29: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:38:06.27 ID:I9tC+SP+0
桐乃「ふう……ふう……」

俺が言うと、桐乃はようやく攻撃を止める。

京介「よし。 じゃあ桐乃、一旦落ち着いて座ろう」

桐乃「チッ……」

そして数分前までの状態へと戻る俺たち。

京介「桐乃」

桐乃「なに? 次またヘンなことゆったら怒るからね」

ついさっきまでキレてたじゃねえかよ。 今更何言ってんだこいつ。

30: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:39:06.33 ID:I9tC+SP+0
京介「新婚旅行にハワイ行こうぜ」

桐乃「…………はぁ」

桐乃「あんた、その嘘はさすがにつまらなすぎ! てゆうか、まだ結婚してないじゃん?」

京介「まだってことはこれから予定があるってことか?」

桐乃「チッ……それがヘンなことだって、分かってんの!?」

言葉では怒っているが、表情は恥ずかしがっている様にも見える。 俺にそう見えるってことは、そうなんだろう。

31: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:39:33.35 ID:I9tC+SP+0
京介「んだよ。 いいじゃねえか別に」

桐乃「……ふん」

桐乃「ま、良いや。 これで京介の負けだしね~♪」

京介「……わーったわーった。 奢りゃいいんだろ、奢りゃ」

桐乃「あー、でもぉ。 皆と行く時とあたしと二人で出かける時は別カウントだからね?」

京介「……すげえ後付ルールだな」

32: ◆IWJezsAOw6 2013/07/13(土) 22:40:07.36 ID:I9tC+SP+0
桐乃「ひひ。 負けたあんたがわるーい」

京介「はあ……へいへい。 負けは負けだしな。 分かったよ」

まあ。

今回は負けということにしておこう。

俺の嘘も、強ち嘘ではねえんだけど。

今はまだ、嘘ということにしておこう。


それは果たして 終

49: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:33:07.54 ID:/JFVNfU00
4月の終わり。 ゴールデンウィークを目前に控えた今日。 俺は、あやせと会うことになっていた。

この事は桐乃にも秘密にしてある。 ばれたら多分、そうとう怒らせるだろうが、それでもあいつには言えない。

俺と、あやせの話。

思えばあやせとは色々あった。 出会いはそう、桐乃が家に連れてきたことだったかな。

その時に桐乃の趣味がばれそうになって、俺が部屋に飛び込んで、なんとか一応は治まったんだ。

で、その後メルアドやらをあやせと交換して……。

50: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:33:33.20 ID:/JFVNfU00
……あいつには結局、桐乃の趣味がばれちまったんだよな。

一度は絶交を告げられて、桐乃は酷く落ち込んで。

俺が馬鹿みたいな方法を取って、あいつらは仲直りして。

他にも沢山、あやせとはあった。

その中でも記憶に新しいことと言えば、俺が一人暮らしを終えたときの事だろうな。

あの日のことは、今でもすぐに思い出せる。

51: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:33:59.81 ID:/JFVNfU00
必死で想いを伝えてきたあいつを俺は断った。 好きな人がいると言って。

……あやせは多分、気付いていたんだろう。 俺の好きな奴が桐乃だってことに。

そんな普通じゃ納得しないような理由だったっていうのに、あいつは身を引いた。

そして、今から丁度一年くらい前か? あやせと再び話す機会があって。 お互いに多分、整理は付いたのだろう。

そう思いに馳せている時、ポケットの携帯が振動する。

52: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:34:25.84 ID:/JFVNfU00
開くと一件のメール。 差出人は、あやせ。

From あやせ
今から行きます。 遅れてすいません。

簡素な文。 それを見て、俺はそのまま携帯をポケットに仕舞う。

待ち合わせ場所は、いつもの公園。

53: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:34:54.92 ID:/JFVNfU00
あやせ「ごめんなさい。 お待たせしちゃって」

京介「いいさ。 その台詞は俺だと中々聞けないからな」

あやせ「ふふ。 そうですね。 桐乃なら、そうかもしれません」

京介「お、聞いてくれるか? 俺の苦労話」

あやせ「それはまたの機会にしておきます。 今日は、それよりも大事なお話なんですから」

ま、そうだな。 そんな話はいつでも出来る。 今日する話だって、別にいつでも……出来るには出来るが、先延ばしってのは良くねえよな、この場合は。

54: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:35:24.10 ID:/JFVNfU00
京介「ああ、分かったよ」

俺は言い、そのまま続ける。

京介「ちょっと報告遅れちゃったけどな、お前には言っておかないといけないと思って」

あやせ「ええ。 約束でしたからね。 勿論、お兄さんから何も連絡が来なかったらぶち殺しに行ってましたけど」

京介「そうかい。 なら今日の選択は正解ってとこか?」

あやせ「どうでしょう? それはお兄さんのお話を聞いてから、私が決めます」

55: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:35:52.77 ID:/JFVNfU00
京介「了解。 じゃあ、結果から言うけど」

京介「桐乃からも聞いているかもしれないが、両親に話したんだ。 俺と桐乃のこと」

京介「当然怒られて、殴られた」

あやせ「……そうですか。 それで、お兄さんは何て言ったんですか?」

京介「桐乃を好きでいることだけは、絶対にやめない」

京介「そう、言ったよ」

56: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:36:18.29 ID:/JFVNfU00
あやせ「あはは。 お兄さんらしいですね」

京介「そうかぁ? この言葉も、受け売りなんだよな。 桐乃からの」

京介「まあ、あいつの場合はそれを向けていた対象がちっと酷い物だけどな……」

あやせ「……なんとなく分かりましたので、それ以上は結構です」

京介「はは、そっか。 んでまあ、さっきの続きだけどよ」

57: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:36:45.07 ID:/JFVNfU00
京介「そんで、家から出て行けって父親に言われた。 で、俺は出て行く選択を取ったんだ」

京介「……意外っつうか、俺は多分それも分かっていたのかもしれんが。 桐乃も来るって言ってさ」

京介「俺たち二人で家を出て、今はあのアパートで暮らしているんだ。 それが去年の終わりのこと」

京介「あれからもう半年近いってのにまず驚きだよ。 時間が経つのがはえーはえー」

あやせ「ふふ。 そうでしたか」

58: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:37:12.01 ID:/JFVNfU00
京介「……おう」

あやせ「どうして、なんだか腑に落ちないような顔付きをしているんです?」

京介「いや……それが無いなら無いで、俺にとっては良いことかもしれないんだけど。 てっきり、お前には殴られるのかと思ったんだよ」

あやせ「なら質問です。何故、そう思いました?」

京介「だって、結局は桐乃を巻き込んだ訳だしさ。 これが本当にあいつにとっては良かったのかって、思っちゃうんだよ。 どうしても」

京介「それは普通だろ? だから、桐乃のことを大切に思っているお前が聞いたら、怒るんじゃねえかってさ」

59: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:37:45.59 ID:/JFVNfU00
あやせ「……少しだけ、予め桐乃からは聞いていましたからね。 お兄さんと二人で暮らしている、くらいですが」

京介「そうだったのか。 あいつってさ……それ言いふらしたりしてるの?」

あやせ「学校の授業で発表してましたよ?」

京介「は、はぁ!? マジで!?」

あやせ「冗談です。 あはは、お兄さん騙されやすすぎじゃないですか?」

京介「び、びっくりしたぜ……さすがに」

60: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:38:12.89 ID:/JFVNfU00
あやせ「そんなこと、桐乃がする訳無いじゃないですか。 自分で言うのもあれですけど……桐乃が信用している人にしか言ってないはずですよ」

京介「そうか。 なら安心だ」

あやせ「……」

京介「どした?」

あやせ「あ、いえ。 なんか、良いなって思ったんです」

京介「えーっと……何が?」

61: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:38:40.98 ID:/JFVNfU00
あやせ「お兄さんと桐乃の信頼関係、ですかね。 お兄さん、自分では気付いていないのかもしれませんけど、今凄く安心した顔をしてましたよ。 それで、良いなって思ったんです。 お互いに信頼し合っているんだなって」

京介「どうだかね。 俺がもしそうだとしても、多分桐乃の方は俺のことそこまで信じきってるって訳でもねえと思うけど」

あやせ「それは、自意識過剰だとか、そう思われるのが嫌だからですか?」

京介「……ちょっとな」

あやせ「なら良いです。 本気で言っていたのなら、今殴っている場面でした」

京介「笑いながら言わないでくれよ……怖いから」

62: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:39:07.92 ID:/JFVNfU00
あやせ「あはは。 ごめんなさい。 でも、桐乃を悲しませないでくださいね」

京介「当たり前だ。 それは俺自身で決めて、約束もしていることだよ」

あやせ「なら、心配いらないですね」

京介「そりゃどうも。 ……えっと、何の話だっけ?」

あやせ「あれ? ああ、私がどうして殴らないか、の話でしたね」

京介「あー。 そうだそうだ。 で、結局何でなの?」

63: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:39:34.97 ID:/JFVNfU00
あやせ「そんなの決まってますよ。 桐乃の顔を見たら、大丈夫だなって思っちゃいましたから」

あやせ「お兄さんに桐乃と二人暮しだなんて、考えただけで気持ち悪いですけど。 ぶち殺したくなってきますけど」

あやせ「でも、桐乃にとってはそれが幸せなんだろうなって、良い事なんだろうなって思うんです」

あやせ「……お兄さんのことは、大嫌いですけどね?」

京介「……そうかい。 ありがとな、あやせ」

あやせ「どうしてお礼を言うんですか。 私は私がやりたい様にやっているだけですよ? ふふ」

64: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:40:07.47 ID:/JFVNfU00
京介「おお、なんだそれ、すげえ良い台詞だな。 格好良い」

あやせ「……ぶち殺されたいんですか?」

京介「すいませんでした」

あやせはそこで一度咳払いをし、再度口を開く。

あやせ「お兄さん、ちょっと立ってください」

京介「ん? 別にいいけど」

あやせ「言っておきますが、今までの言葉は桐乃の友達としての言葉です。 そして、今から言うのは新垣あやせとしての言葉です。 良いですか?」

京介「……ああ、聞くよ」

65: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:40:42.53 ID:/JFVNfU00
あやせ「……この馬鹿っ!!」

言い、あやせは俺の頬を平手打ち。 そこまで本気だった訳では無いと思う。 いつもの様に、痛いって程ではなかった。

あやせ「そんなことして……どうするんですか! お兄さん、私は心配なんです!」

あやせ「これから先、自分のこともそうです……どうするつもりなんですか!!」

京介「あやせ……」

俺は新垣あやせの言葉を受け止め、返す。

66: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:41:09.10 ID:/JFVNfU00
京介「俺は、馬鹿な選択だったとは思ってる。 俺にとっても、桐乃にとっても、掛け替えの無い物だったから」

京介「だけどそれでも、それと比べたとしても、俺は桐乃が大事なんだ。 大切なんだよ」

京介「あいつの気持ちも、想いも、考えも。 俺にとっては何より大切で、どんな物と比べても掛け替えの無い物なんだ」

京介「俺はあいつを幸せにする。 絶対に。 もしそれが出来ていないとお前が思ったら、いつでもぶっ飛ばしに来てくれ」

あやせ「……馬鹿ですね。 何を言っているんですか」

あやせ「そんなの……ぶっ飛ばすで済む訳無いじゃないですか」

67: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:41:36.12 ID:/JFVNfU00
あやせ「お兄さん」

あやせ「宜しくお願いします。 お兄さんなら大丈夫だと、信じてます」

京介「……ありがとな、あやせ」

あやせ「どういたしまして。 で良いんですかね?」

京介「俺に聞かれても……」

あやせ「あはは」

あやせは笑い、口を押さえる。

68: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:42:03.18 ID:/JFVNfU00
あやせ「そうでした、一つお願いがあります」

京介「前に言ってたのとは違うお願い、か?」

あやせ「ええ。 それとは違う、これからのことについてのお願いです」

京介「おう。 分かった」

あやせ「聞く前からそんなこと言って、良いんですか?」

京介「よっぽど無理なお願いじゃなきゃな。 死んでくれとかはやめてね……?」

69: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:42:30.89 ID:/JFVNfU00
あやせ「もう。 そんなこと言う訳無いじゃないですか」

あやせ「では、お兄さん。 お願いがあります」

そしてあやせは笑顔のまま、お願いを口にした。

あやせ「結婚式には、呼んでくださいね」

……はは、結婚式ね。

70: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:43:36.59 ID:/JFVNfU00
京介「……随分話が吹っ飛んだな」

あやせ「そうですか? 私的にはそうでもない気がしますけど」

京介「周りから見たらってこと?」

あやせ「かもしれません」

くすくすと笑いながら、あやせはそんな風に言う。

京介「そっか」

俺は少し照れ臭いのもあり、あやせから視線を外しながら答える。 一体、俺と桐乃って周りからどう見えているのか、少し気になってしまうじゃねえか。

……今度、誰かに詳しく聞いてみるか。

71: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:44:03.25 ID:/JFVNfU00
あやせ「それで、お願い聞いてくれますか?」

外していた視線を戻し、あやせの顔をしっかりと見ながら。

京介「悪いが、俺にはそれを聞くことはできねえよ」

俺はそれを断る。 聞くことが出来ないお願いに当たるから。

あやせ「……どうしてですか? 返答次第では」

言いながら懐に手を入れるあやせ。 何が入ってるんですか、そこに。

72: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:45:12.97 ID:/JFVNfU00
京介「お、落ち着け!! こんなとこで包丁を取り出すんじゃねえよ!!」

あやせ「どうしてそういう解釈をするんですか! 私が懐から突然に包丁を出したことなんてありましたか!?」

京介「めちゃくちゃあった気がする! ねえかもしれないけど、俺の中ではお前イコール包丁なんだよ!」

あやせ「どんなイコールですか……はぁ」

すげえ呆れかかった溜息だけどさ、それならなんでお前は懐に手を入れるという紛らわしい動作をしたんだよ!

京介「と、とりあえず落ち着け。 どうしてか、だったよな?」

あやせ「ええ。 どうぞ続けてください」

73: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:45:39.40 ID:/JFVNfU00
京介「お前を呼ぶのは俺じゃないからだよ。 声が掛かるとしたら桐乃から、だと思う」

あやせ「……なるほど。 そういうことですね」

京介「ああ、そうだ。 だからお前のそのお願いを俺が聞くことはできねえ」

京介「桐乃に言ってみたらどうだ? へへ」

あやせ「馬鹿ですか。 言える訳無いじゃないですか」

京介「……だろうな。 多分、回りまわって俺がとばっちりを受けるんだろうよ。 そんな未来が見えるぜ」

74: ◆IWJezsAOw6 2013/07/15(月) 19:46:05.38 ID:/JFVNfU00
あやせ「ふふ。 ですね」

あやせ「なら、私は桐乃を信じて、お兄さんに違うお願いをします」

京介「おう」

あやせ「幸せになってください。 二人で」

それを聞き、俺は。

京介「ああ、任せとけ!」

やはりいつもの様に、そう答えるのだった。


結果報告 終

84: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:03:20.42 ID:bC2xh02r0
5月。

ゴールデンウィークに突入した初日。

桐乃の方は仕事があるらしく、朝から家を空けている。

こういう日はテレビを見るか、一日中ずっとごろごろしているか、適度に勉強するか、沙織や黒猫と遊ぶか、のどれかなのだが。

今日の予定は埋まっていて、沙織と黒猫と遊ぶこととなっている。 勿論、桐乃には伝えてある。 じゃないと後が怖いからな。 かと言って、言わずに別の女の子と遊ぶなんてことはしないが。

で、今はいつもの様にアキバへと集合したって訳だ。

85: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:04:05.58 ID:bC2xh02r0
京介「今日はなにすんの? また俺をイジメんの?」

いつものメイド喫茶。 俺が座る対面には二人の友達。

黒猫「……この前のこと、まだ根に持っているのね。 つくづく借りを忘れない兄妹だわ」

沙織「はっはっは。 ですが京介氏、我々には感謝していたでは無いですか」

京介「一応はな。 一緒に作ってたんだろ? 俺にばれない様に」

京介「だがそれはそれ、これはこれだ。 俺がどれだけアキバ散策をしたことか……」

86: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:04:34.01 ID:bC2xh02r0
京介「今日はなにすんの? また俺をイジメんの?」

いつものメイド喫茶。 俺が座る対面には二人の友達。

黒猫「……この前のこと、まだ根に持っているのね。 つくづく借りを忘れない兄妹だわ」

沙織「はっはっは。 ですが京介氏、我々には感謝していたでは無いですか」

京介「一応はな。 一緒に作ってたんだろ? 俺にばれない様に」

京介「だがそれはそれ、これはこれだ。 俺がどれだけアキバ散策をしたことか……」

87: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:05:05.12 ID:bC2xh02r0
あの日の辛さは今でも覚えているぜ。 足が棒になってたからなぁ。 いつの間にか、アキバの地図が頭の中に出来ちまってるよ。

黒猫「良かったじゃない。 これで桐乃とのデートコースも完璧ね」

京介「俺が主導しても意味ねーだろ。 あいつが見たい所を基本的には回っているんだし」

黒猫「……なるほど。 けど、あなたはそれで楽しいの?」

京介「ん? 楽しいけど、なんで?」

黒猫「いえ、少し気になっただけよ……でも、桐乃と居るだけで楽しいあなたには聞く意味は無かったわね」

88: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:05:31.13 ID:bC2xh02r0
京介「……ほっとけ」

俺が恥ずかしさから視線を逸らすと、沙織が思い出したかの様に口を開く。

沙織「あ、そうでしたそうでした」

京介「ん?」

沙織「京介氏と黒猫氏に、お土産があるんでござるよ」

おお、さすがは沙織。 でも、こいつのお土産っつうとなんだ?

89: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:05:57.48 ID:bC2xh02r0
沙織「これでござる。 海外へ行った時に姉上が買ってきた物なのですが」

京介「ふうん……って、これって酒じゃねえの?」

沙織が渡してきた物は、見た目がいかにもって感じの……ワインか? こりゃ。

黒猫「いくらわたしに耐性があると言っても……それは今では無意味なのよ。 時が経たねば解かれない呪いが掛けられているわたしは飲めないわよ」

えーっと。

つまりは二十歳までは飲めないってことだな。 黒猫語も大分、解読に時間を割かない様になってきたぜ。 なんのステータスになるのか分からないけどな。

90: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:06:32.30 ID:bC2xh02r0
沙織「いえいえ。 そう見えるだけですな。 ただの葡萄ジュースでござるよ。 試しにひと口飲んで頂ければ、すぐに分かるかと」

黒猫「そう? なら」

つっても、一応ここは店だからな。 さすがにこの場で空けて飲む訳には……。

と思ったとき、メイドさんがニコニコ笑いながらグラスを差し出す。 良いのかよ。

沙織「常連ならではの配慮ですな。 はは」

京介「……あんま嬉しくねー配慮だな」

91: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:08:03.61 ID:bC2xh02r0
黒猫「あら、本当。 美味しいわね」

声の方を見ると、黒猫はいつの間にか空けていたジュースとやらを口に運んでいた。

京介「……なんか、その格好でその色の飲み物飲んでいるのを見ると、マジで変な物体に見えてくるな」

黒猫「あなたって、意外と失礼よね。 だけど、美味しいのは事実よ?」

黒猫は沙織から貰ったいかにもなパッケージをまじまじと見つめる。

黒猫「ほら、あなたも

92: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:09:15.66 ID:bC2xh02r0
黒猫はそう言うと、俺の所に置かれたグラスにそれを注いだ。 その自然な動作から、日頃から日向ちゃんや珠希ちゃんに接している態度が伺える。 良いお姉ちゃんだよな、こいつ。

今でも桐乃は俺にそれはやってくれたことないんだよな。

……いや、逆か? 兄である俺がやってやるべきなのだろうか。

京介「良いのか? お前の貰っちゃって」

黒猫「構わないわ。 妹たちに飲ませても、飲みきれないでしょうし」

京介「んじゃ、お言葉に甘えて」

93: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:09:56.80 ID:bC2xh02r0
黒猫に礼を言い、俺はグラスに口を付ける。

京介「ほんとだ。 うめーなこれ」

見た目は本当にワインその物だが……味は濃い葡萄ジュースって感じだな。

アルコールが入っていないのもすぐに分かる。 ていうか紛らわしすぎるだろ。

沙織「そう言って頂けると光栄ですな。 結構値段も張った様でしたので」

京介「……へえ。 ぶっちゃけ、いくらしたの?」

94: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:11:00.39 ID:bC2xh02r0
俺が聞くと、沙織は小さな声で俺に耳打ちをする。

沙織「……」

京介「たっか!? そんなの貰っていいのかよ!?」

お、驚いたぜ……。 未だにパックの麦茶を冷蔵庫に仕舞いこんでいる俺が情けなく思えてきてしまう。

沙織「構いませぬ。 日頃のお礼ということで。 それと、京介氏へのお詫びも兼ねて」

京介「……悪いな、本当に。 桐乃にも礼を言わせるよ」

沙織「はっはっは。 きりりん氏には、お礼は体でとお伝えください」

……多分、コスプレか何かの要求だろう。 言い方がすげー怪しいのが気になるけど。

95: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:11:49.63 ID:bC2xh02r0
黒猫「……」

京介「おい、どした?」

黒猫「こ、これを売れば……これを売れば!」

黒猫さんトリップしちゃってるじゃねえか!

京介「お、落ち着け黒猫。 それを売ったら色々と人としてマズイ」

黒猫「ば、莫迦じゃないの。 そんなことする訳が無いでしょう!」

すっげえ冷や汗掻いているけど、本当に大丈夫かね。

96: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:12:25.53 ID:bC2xh02r0
黒猫「とにかく! 今日はこれからどうするのかしら?」

慌てて話題を変える黒猫。 今度日向ちゃんと珠希ちゃんに聞いておくことにしよう。 どうなったか。

沙織「そうですな。 今日は……実は、京介氏には昔、頼んだことをしようと思いまして」

京介「俺に?」

沙織「バイトでござるよ、バイト」

97: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:13:30.04 ID:bC2xh02r0
あー。

あったな、そんなのも。

黒猫「バイト? 秋葉原で?」

黒猫が沙織に尋ねると、沙織は眼鏡を外し、答える。

沙織「ええ。 メイド喫茶のアルバイト、です」

98: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:15:04.21 ID:bC2xh02r0
黒猫「ふ、ふふふふふ。 ここから先は地獄のメイド達が待ち構える、メイド喫茶。 冥土の土産にあなたも、どうかしら?」

バイト開始五分。 黒猫が暴走した。

京介「ちょっと待てい!! お前それじゃあ客こねーだろ!!」

黒猫「そ、そうかしら?」

沙織「黒猫さん、もう少しお客様を歓迎するような形で……」

黒猫「……分かったわ」

99: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:16:03.13 ID:bC2xh02r0
京介「ほら、人来たぞ」

黒猫「……よ、ようこそ! 我が魔城へ! 歓迎するわ!」

言われ、びびって逃げる客。

京介「魔城じゃねえ! メイド喫茶だ!」

黒猫「くっ……わたしにはやはり、荷が重いわね」

京介「……なんつうか、お前も結構人見知りだよな」

100: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:17:18.08 ID:bC2xh02r0
黒猫「なっ! コミュ力が無いと言ったの? あなた」

京介「そうは言ってねえけど……」

沙織「あ、あの……このままだと、怒られてしまうと思いますが……」

ごもっともだ。 これじゃあバイトじゃなくて営業妨害って感じだからな。

黒猫「やれば良いんでしょう、やれば。 仕方ないわね」

101: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:19:04.93 ID:bC2xh02r0
京介「……最初からそれで頼むわ。 マジで」

京介「ほら、来たぞ。 今度こそ頼むぜ」

黒猫「……っ!」

黒猫「よ、ようこそメイド喫茶へ。 少し、休憩してはどうかしら?」

すっげー棒読みだ。 つうかなんだか怪しい店への勧誘みたいになってんな。

メイド喫茶が怪しい店かどうかは、ノーコメントで。

102: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:20:19.58 ID:bC2xh02r0
が、一応はそのメイドっぽい振る舞いが効いたのか、客は店の中へと向かっていく。

……こういうのも野暮なことだけど、大体は元々入ろうと思っていた客なんだろう。

まあ、そんなことは嬉しそうにしている黒猫を見たら言える訳もないが。

京介「やればできるじゃねーかよ。 今の調子でどんどんいこうぜ」

黒猫「ふ。 あのくらいなら朝飯前よ」

沙織「では黒猫さん。 次も張り切っていきましょう」

黒猫「ま、まだやるの……?」

103: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:21:54.37 ID:bC2xh02r0
沙織「うふふふ。 当たり前では無いですか。 まだまだ始まったばかりですよ」

怖いなぁ。 俺は是非とも巻き込まれたくない。 昔は俺が沙織の立ち位置で、沙織が黒猫の立ち位置って感じだったのに。

沙織も沙織で、色々あった一年だったんだろうな。

……それもそうだ。 その人にはその人の物語があって、それぞれが歩いているんだから。

俺が知らないところでも、色んな話があったんだろうよ。

沙織「京介さん。 何をぼさっとしているんですか。 しっかりと黒猫さんを手伝ってあげてください」

……かしこまりましたぁ!

104: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:23:29.47 ID:bC2xh02r0
そんなこんなでようやくバイトを終え、帰宅途中。

沙織とは方向が違うので、俺と黒猫での帰り道だ。

黒猫「……疲れたわ」

京介「だろうな。 俺も疲れた」

こうして黒猫と並んで歩くのは、中々今では珍しいかもしれない。

昔は、少し気になる相手として。 短い間だったけど、恋人として。

そして今は、友達として。

105: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:24:04.07 ID:bC2xh02r0
黒猫「……でも、ちょっとだけ楽しかったかもしれない」

京介「……はは、なら良かったじゃねえか」

どう見たってちょっとって顔じゃないけどな。 それは言わない方が賢明だろう。

そして、黒猫は夕暮れの空を見ながら、ふと声を漏らした。

黒猫「後、どのくらいでしょうね」

京介「どのくらいって?」

黒猫「わたしと、あなたと、沙織と、桐乃。 四人で遊べるのは、後どのくらいでしょうね」

106: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:24:44.34 ID:bC2xh02r0
京介「……なーに馬鹿なこといってんだよ」

黒猫「莫迦って……」

京介「言っとくが、俺の予定ではこれから先、年取ってもずっとだからな。 桐乃も当然そう思ってる」

京介「で、沙織もあれで友達大好きだからさ。 後はお前がどう思うか、だよ」

黒猫「……わたしは。 そんなの、決まっているじゃない」

107: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:25:25.29 ID:bC2xh02r0
黒猫「後どのくらいでは無いわね。 わたしが魔界に帰るまでは、一緒に居てあげましょう」

京介「……お、おう」

後何年か先。

その光景は今はまだ見えてこないが、きっと多分、幸せなはずだろう。

そう思い、俺は黒猫と並んで家へと帰る。

108: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:26:20.12 ID:bC2xh02r0
京介「たっだいまー」

いつもの様にそう言うと、すぐに部屋の奥から声が聞こえてきた。

桐乃「おかえりー。 アキバ行ってたんだ?」

布団の上に寝転がりながら、ノートパソコンを見ている桐乃はこちらを見ずに言う。 なんつうか、ニートみたいだな……。

京介「おう。 黒猫からでも聞いたか?」

俺は壁に背中を預ける形で座り、桐乃の背中を眺めながら。

109: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:27:45.63 ID:bC2xh02r0
桐乃「さっきチャットがあってね」

桐乃「「先輩と二人っきりで、手を繋ぎながら帰ったわ」って」

あの野郎。 なんてことを言ってやがる。 さっきの帰り道でのしんみりとした雰囲気をどこにやりやがったんだ。

京介「それは事実無根だぞ……?」

桐乃「ふーん。 どーだか」

京介「マジだって。 そりゃ家が近いってのもあるから、二人で帰ったっつーのは本当だけどさ。 手なんて繋いでねえよ」

110: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:28:34.92 ID:bC2xh02r0
桐乃「ま、別にいーケド」

……ああ、こいつ確実に怒ってる。 怒ってるというか、不貞腐れているって方が正しい。 これは多分、俺じゃなくても分かるくらいに分かりやすいぞ。

京介「……悪かったよ。 ごめん」

桐乃「ふん」

駄目だ。 こりゃ怒りが収まるのを待っていた方が良さそう……かな。 下手に変なことを言うよりは。

京介「あー。 これ、沙織からのお土産な。 冷蔵庫いれとくから」

111: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:29:24.37 ID:bC2xh02r0
桐乃「キョーミ無いし」

……へいへい。

京介「んじゃ……風呂入ってくるわ」

俺はそのまま、冷蔵庫に仕舞い、風呂場へと向かう。

出てくる頃にはコロッと機嫌が治ってればいいんだけど。

112: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:29:55.00 ID:bC2xh02r0
京介「……お前、どうしたの?」

風呂からあがり、居間に戻ると、テーブルの上に桐乃が突っ伏していた。

ええっと……そこまでへこんでる、とか?

京介「……おーい」

俺は桐乃の近くに座り込み、肩を叩く。

桐乃「……んー」

京介「さっきは本当にすまなかったよ。 桐乃」

言いながら、桐乃の顔を覗き込む。

113: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:30:25.48 ID:bC2xh02r0
桐乃「……ひひ」

京介「お前……顔めっちゃ赤いぞ?」

泣いてたから……じゃねえよな? しかもなんかすっげえニヤニヤ笑ってるし。

その時、視界の隅に可能性としては考えられる物が写った。

京介「……いやいや」

まさか。 まさかとは思うが。

114: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:31:22.40 ID:bC2xh02r0
目頭をつまんで、思考。

テーブルの上に置かれた、沙織からのお土産。 正確に言うと、沙織の姉からのお土産だけど。

……そうだとしても、だ。 俺はひと口飲んだが、別に普通のジュースで、俺が今見出した可能性は無い筈。 間違いねえ。

だ、だが……一応、確認しとこう。

桐乃「えへへへ」

未だにニヤニヤ笑い続ける桐乃を見て、もうそれくらいしか考えられないが、俺は外れて欲しいと思いながら、テーブルの上に置かれ中身が半分ほどに減っているジュースを手に取り、匂いを確認。

京介「……これって」

何度か嗅いだことがある匂い。 俺もまあ、親に隠れてこっそりってのもあったから分かるのだけど。

115: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:32:46.23 ID:bC2xh02r0
京介「酒、だよな……」

で、でもどうして? 確かに昼間、メイド喫茶で飲んだあれはただのジュースだったはずだ。 匂いも全然違う。

桐乃「きょーすけ!」

と、俺が何故こうなったのかを考えていると、桐乃が突然飛び掛ってくる。

京介「ど、どした?」

桐乃「なーんでもなーい。 ひひ」

俺の首にしっかりと腕を回し、いつもより断然近い距離で桐乃は言う。

116: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:33:12.25 ID:bC2xh02r0
……やべ、可愛い。

じゃねーよ! こいつ酔っ払ってるじゃねえか!

京介「……そだ、沙織」

あいつ、まさかわざとではねえよな?

桐乃に抱き着かれたままで動き辛いが……俺はなんとかテーブルの上の携帯を手に取る。

携帯を開くと、既に沙織から着信が来ていた。

その履歴から急いで掛け直す。 あいつから連絡があったってことは、気付いたってことか?

117: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:33:42.86 ID:bC2xh02r0
「京介氏! 申し訳ありませぬ!」

京介「……その様子だと、わざとでは無いな」

「……はい。 先程、家にあるのを確認してみたところ、どうやら京介氏に渡したのは」

京介「ああ。 わーってるよ。 悪気があったんじゃねえんだろ? なら良いよ」

「明日、代わりの品をお持ち致しますので……」

京介「そこまでしなくても良いって。 てか、もう空けちゃってるしな」

118: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:34:10.03 ID:bC2xh02r0
「と、仰いますと……」

京介「……桐乃がな」

「うう……今度お会いした時、お詫び致します」

京介「はいよ。 ま、桐乃もそこまで怒らないとは思うから、お前もそんな気に病むなよ」

「……はい。 かたじけないでござる」

こんな時までしっかりキャラ作りとは、恐れ入ったぜ。 ははは。

で、その後、お互いに別れの挨拶をして通話終了。

119: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:34:42.16 ID:bC2xh02r0
京介「……大丈夫か?」

未だに抱き着いたままの桐乃に視線を移し、そう聞く。

桐乃「んー……あたし?」

京介「おう。 お前」

桐乃はそれを聞き、俺に顔を一段と近づけ、笑顔を消して答えた。

桐乃「大丈夫じゃない!!」

120: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:35:13.37 ID:bC2xh02r0
京介「……はは、だよな」

京介「寝るか? 顔真っ赤だぞ?」

桐乃「やだ」

桐乃「きょーすけいなくて、寂しかったし」

お、おおう……。 いつもは殆ど言わないような事を言われると、ちょっとびびるぜ。

桐乃「だから大丈夫じゃない」

あ、あー。 そういうことか。 そっちの意味での大丈夫じゃない、か。 だからこいつは怒ってるのか。

121: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:35:41.44 ID:bC2xh02r0
京介「俺は絶対お前の傍に居るよ」

桐乃「……でも今日いなかったし」

京介「お前が呼べば、俺はどこへだって行くっつーの」

桐乃「ほんとに?」

京介「ああ、マジだ」

桐乃「えへへ。 ならいい。 許す」

……機嫌、治ったのか?

122: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:36:08.50 ID:bC2xh02r0
桐乃「ねー、きょーすけ」

京介「ん?」

桐乃「だっこして」

京介「だ、抱っこ?」

桐乃「うん」

な、なんだ……この桐乃に甘えられる感じ。 すっげードキドキするんだけど!

123: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:36:40.54 ID:bC2xh02r0
京介「……お、おう」

俺は言い、桐乃の背中と腰に手を回す。 正面から。

桐乃「ちがう!!」

京介「おま! 耳元で大声出すんじゃねえよ!」

桐乃「ちーがーうー」

京介「分かったよ……で、どうしろっつうの?」

桐乃「あれやって。 こんな感じのやつ」

桐乃は言うと、身振り手振りで俺に説明をする。

124: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:37:08.29 ID:bC2xh02r0
あー。 なーんとなく分かったが……。

やらねば、ならんのか。 お姫様抱っこ。

桐乃「きょーすけ」

……断ったら、間違い無く怒るよなぁ。

まぁ、良いか。 後で思い出して黒歴史になるのはこいつなんだしさ。

京介「分かった分かった。 ほら」

俺はそのまま桐乃の横に立ち、背中と太腿辺りに手を回す。

125: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:37:34.75 ID:bC2xh02r0
桐乃「ひひ。 やったあ」

無邪気に笑う桐乃を見て、俺は少し思った。

もしかしてこいつって、普段からこんな甘えたがってるのか……?

……いや、仮にそうだとしても、俺が変なことすればこいつは恥ずかしがるだろうしな。 今だけってことにしておこう。

京介「あんま動くなよ? 落ちるとあぶねえからさ」

桐乃「うん。 だいじょーぶ」

126: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:38:06.84 ID:bC2xh02r0
俺はゆっくりと桐乃を持ち上げる。 すっげえ今更だけど、こいつって軽いんだな。

桐乃「ありがとお」

なんて言いながら、桐乃は俺の首に手を回してくる。

……なんか、めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。

京介「……べ、別に」

桐乃「ん~? きょーすけ、照れてるの?」

京介「ち、違う! そうじゃない!」

127: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:39:15.14 ID:bC2xh02r0
桐乃「えへへへ」

嬉しそうだなぁ。 こいつ。

今度、隙を付いて抱っこしてみるか……?

……殴られるか蹴られるかの未来しか見えねえな。 やめておこう。

京介「んじゃ、このまま布団まで連れてくぞ」

桐乃「よろしくー」

128: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:39:52.11 ID:bC2xh02r0
若干だが、眠そうな目をしているのが分かった。 あの減りから相当飲んだみたいだし、早い内に休ませておいた方が良いだろう。

ていうか、こいつも最初のひと口で気付けよな……。 こんなになるまで飲みやがって。

京介「よっ……っと」

桐乃を布団の上に寝かせ、掛け布団をかける。

京介「大丈夫か?」

俺がそう聞くと。

桐乃「もうだいじょーぶ。 ひひ」

桐乃はそう言った。

129: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:40:27.65 ID:bC2xh02r0
その大丈夫の意味なんて、充分すぎる程に俺に伝わっている。

京介「そっか、なら良かった」

京介「桐乃」

桐乃「んー?」

京介「なんかその状態のお前に言うのは、ちょっとずるいかもしれねえけどさ」

京介「俺は、お前のことが好きなんだよ。 だから、心配すんな」

京介「この気持ちだけは、絶対に誰にも負ける気はしないから」

130: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:41:04.56 ID:bC2xh02r0
桐乃「うん。 うん」

桐乃「でも、あたしの方がきょーすけのこと好きだし!」

こいつはヤバイな。 思わず抱き締めたくなっちまうぞ。

桐乃「ねー」

京介「ん?」

桐乃「ちゅーして」

……こいつはヤバイな! 思わず逃げ出したくなっちまうぞ!!

131: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:41:32.57 ID:bC2xh02r0
京介「お、お前な……」

桐乃「いーじゃん。 あたしのこと、好きなんでしょ?」

京介「……分かった分かった。 じゃ、目瞑っとけ」

桐乃「んー」

俺が言うと、桐乃は虚ろな目を瞑る。

京介「……」

俺は黙って、桐乃にキスをする。

132: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:42:22.66 ID:bC2xh02r0
ばれたらマジで、超怒られそうだが。

面倒見てあげたお礼として! 貰っておこう!

桐乃は特に反応見せず、未だに目を瞑っている。

……ま、寝ちまったかな。

そう思い、離れようと思ったところで桐乃が突然、俺の体をがっちりと抱き締めて、捕まえてきた。

桐乃「……おやすみい」

……これじゃ俺、身動きできねえじゃん。

京介「……おう。 おやすみ」

渋々俺も、寝る事にした。

133: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:42:49.14 ID:bC2xh02r0
次の日。

桐乃は二日酔いで寝込み。

俺は朝起きたらどうして抱き合っていたかの理由を原稿用紙に纏めろとの命を受け、現在テーブルに向かっている。

……いやいや。 これを纏めろって言われても、絶対最終的に俺は怒られるじゃねえかよ。

捏造……は良くないから、事実を若干飛ばすことにしておこう。 主に桐乃が言っていた色々なこととか、抱っこしたこととか、キスをしたこととか。

桐乃「頭痛い……京介、水ー」

……へいへい。

134: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 00:43:16.83 ID:bC2xh02r0
まあやっぱり、俺もなんだかんだ言いつつ、いつもの桐乃が接しやすいってことだろうよ。

それでもたまには、桐乃にして欲しい事を聞くのも悪く無いかもな。 本当に、して欲しいことを。

あいつが素直に言うとは思わないけど、それを分かってやるのが俺の仕事っつうことだ。

桐乃「はーやーくー……」

京介「ああ、わり! 今持ってくから!」

桐乃「……頭に響くから大声だすなっつうの」

……へいへい。


その中身は 終

145: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:33:40.75 ID:YKWbGWMl0
6月。

少し暑い日が増えてきたこの頃。 俺は家に行く途中のコンビニで、雨宿りをしていた。

梅雨はまだのはずなのだが、予報外れの雨。 空模様を窺う限り、どうやらしばらく晴れそうには無い。

今雨宿りをさせてもらっているコンビニで傘を買って行けば良いのだが……どうにも、負けてしまった気分になるよな。

そりゃあ、雨宿り開始してからすぐなら、買ってもそこまで負けた気分にはならなかったんだろう。 しかし、もう既に……なんと、30分も経っているのだ!

……言い訳をさせてもらおう。 立ち読みしてたら雨が降ってきて、もう少し暇潰してから行くかと思い、立ち読み時間を伸ばした結果がこれだ。

146: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:34:07.97 ID:YKWbGWMl0
勿論、ただ立ち読みをするだけなんて真似はしない。 桐乃がいっつも読んでいる雑誌が今日発売なので、それはついでに買っておいたしな。

でも、だけども! 突然に降ってきた雨の為に傘をわざわざ買うのはなんとなく負けた気分なんだよ! 貧乏性で悪かったな!

俺と桐乃が今住んでいるアパートは、ここからだとそれほど遠くはねえが……雨は残念ながら結構降っている。 走っていったら確実に雑誌が濡れてしまう。

袋に包んで、服の中にいれれば良いって思うだろ? それは俺も考えたさ。 だけどこの前あった事を思い出したんだよ。

あれは確か、今日みたいに突然の雨が降った日だったな。

147: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:34:35.33 ID:YKWbGWMl0
あの日も俺はコンビニで少し雨宿りをして、降り止む気配が無いのを知って、走って帰ったんだ。

で、部屋に入ると同時に桐乃に怒られた。 傘くらいさして帰ってきなよ! って。

俺の事を心配してくれたんだな……って思うだろ? 俺もそう思ったよ、最初はね。

あいつ、次になんて言ったと思う? メルルのポスターが湿気でダメになっちゃうでしょ! ただでさえ雨が降って気を遣っているのに、濡れたまま入ってこないで! だとさ。

いや、実際そのくらいで何がどうなるとも思えないんだけど、多分……突然の雨であいつも少しイラついていたのかもしれんしな。 別の日のことだが、そういう日もあったし。

148: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:35:03.99 ID:YKWbGWMl0
んで、もうね。 俺の心までどんより雨降っちまったよ。 それから俺は、雨に濡れて帰ることが無いように気を付けているんだ。

って訳で、ダッシュして帰るのは論外ってこと。 分かってくれたか。

さて、そうなってくるとどーするかって話。

……ううむ。

視界には傘を差して道を歩く人がぱらぱらと見える。

つい先程、俺と一緒に雨宿りをしていた人はどうやら家族が傘を持ってきてくれたらしい。 一部始終を見ていた俺が考えるに。

149: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:35:30.42 ID:YKWbGWMl0
……桐乃を呼ぶか? 傘持ってきてくれーって。

いや、わざわざそんなので呼ぶのもあれだろ。 俺が傘を買えば良いだけの話だしさ。

変な意地みたいな物だしな、俺が傘を買わないってのも。

そんな風に悩んでいるとき、携帯が鳴る。

京介「ん? 誰だろ」

携帯を開くと発信者は桐乃。

150: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:35:57.96 ID:YKWbGWMl0
京介「もしもし」

「あんた、今どこいんの?」

京介「近くのコンビニ。 で、雨止むの待ってる」

「傘買えばいーじゃん。 ばかじゃん?」

京介「うっせ。 これはな、桐乃。 俺と雨との勝負なんだよ」

「ふうん。 ま、頑張ってねー」

京介「……へいへい。 で、これは何の電話?」

151: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:36:23.44 ID:YKWbGWMl0
「はぁ? 京介の声が聞きたかったから~♪」

京介「そういうの似合わねえな……」

あくまでも、いつものテンションでやられるとって話。 あの酔っ払っていたときはどんどんばっち来いって感じだったけどな。

「うっさい。 で、理由無く電話しちゃダメなワケ?」

京介「別に、そういう意味じゃねえって」

京介「話し相手になってくれるなら、俺も暇しねえからな」

「そか。 んじゃ」

152: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:36:49.91 ID:YKWbGWMl0
桐乃「帰りながら、話そっか」

目の前には……いつから居たのか、傘を差した桐乃がこちらを見ている。 気付かなかった俺も俺だけど。

京介「わざわざ来たのかよ」

桐乃「だって、どーせ傘持ってなくてどっかいるんだろうなぁって思ったし? んで、大学の方にいったら、途中のコンビニで京介を見かけたってワケ」

それで電話したってことか。 そうだとしても、わざわざ来てくれたのには変わりねえ。

京介「はは……その通りって訳だな」

153: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:37:15.78 ID:YKWbGWMl0
桐乃「ま、半分以上はあたしの優しさだけどね~」

京介「今日は素直にそう思う。 ありがとよ」

桐乃「いーからいーから。 早くかえろ」

京介「おう……で、桐乃。 一つ聞きたいことがある」

桐乃「ん? なに?」

京介「傘、一本だけ?」

154: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:37:54.43 ID:YKWbGWMl0
桐乃「問題ある?」

京介「……無いの?」

桐乃「なに、いまさらそれが恥ずかしいとかゆっちゃうワケ?」

数秒思考。

京介「……よし! 二人でラブラブ帰るか!」

桐乃「……ったく、声がでかいっつーの。 ほら、ちゃんと傘持ってね」

155: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:38:23.67 ID:YKWbGWMl0
とは言いつつも、笑っているんだよなぁ、こいつ。

京介「おう」

桐乃が差し出した傘を受け取り、一つの傘の元、俺と桐乃は二人で帰る。

雨は未だに止む気配が無い。 こりゃあ、帰るまでに止むかも怪しいな。

桐乃「……なんか近くない?」

歩き出して数分。 桐乃がそんなことを言う。

156: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:38:50.42 ID:YKWbGWMl0
京介「そ、そうか?」

桐乃「……別にいーケドさ」

京介「はは……あ、そういやさ」

京介「前も似たようなこと、無かったっけ?」

桐乃「似たようなこと? うーん。 あー、あったあった」

桐乃「……あの時は確か、逆だったんだよね。 あたしが雨宿りしてて、京介が傘持ってきてくれて」

157: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:39:20.64 ID:YKWbGWMl0
京介「そうそう。 まだそんな話して無い時だったよな? 桐乃の最初の人生相談、趣味のことを聞いて、結構すぐのことだったっけ」

桐乃「うん。 懐かしいなあ」

桐乃の顔を見ると、昔を懐かしむように、それでも少し嬉しそうに、そんな表情だった。

そうだな。

あの日は今日とは違う立場だったっけか。

158: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:40:25.90 ID:YKWbGWMl0
リビングで寝転び、漫画を読んでいたら、お袋が急に俺を呼び出した。

なんでも、桐乃が傘を忘れて帰れないらしい。 場所は最寄の駅。 桐乃自身は傘を買うと言っていたらしいが、お袋が迎えに行くからとのことで、桐乃は駅で待っているらしい。

佳乃「で、私は夜ご飯作らないといけないじゃない? だから、お願い」

京介「なんでそうなるんだよ……ていうか、行けないなら最初から傘買わせとけっつうの」

佳乃「嫌よ。 勿体無いでしょ?」

159: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:40:52.45 ID:YKWbGWMl0
……勿体無い、ねえ。 お袋が桐乃の趣味を知ったら、どんな反応をするんだろうな。 あいつの金の使いっぷりには俺も大分驚かされたからな。 お袋の反応には少し興味があるぜ。

京介「チッ……よりにもよって俺か」

佳乃「京介しかいないのよ。 それに最近少し仲良いでしょ? だから良いじゃない」

京介「少し仲良いじゃねえ。 少し仲が悪くなくなった、だ」

佳乃「一緒一緒。 いいからほら」

160: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:41:22.04 ID:YKWbGWMl0
京介「はあ……分かった分かった分かったよ。 行けばいいんだろー行けば」

佳乃「うん、よろしく」

……あーくそ! マジで面倒くせえ! わざわざ雨の中、駅で待っている妹を迎えに行くだと!? どこの世界にそんな心優しい兄貴が居るんだっつうの。

後でなんかご褒美でもあるのかね? ねえよなぁ。 無いだろうなぁ。 お袋に限ってそんな優しいわけがない。

まあ、まあ仕方ない。 傘をとっとと渡して、俺はとっとと帰るとしよう。 お袋は傘を持っていけと言っただけで、一緒に帰って来いとは言って無いしな。 言われたとしても一緒に帰るなんて想像できないが。

161: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:41:48.08 ID:YKWbGWMl0
……あー、着替えするのも面倒だな。 制服のままでいいか。

俺はそう思い、そのまま玄関で靴を履く。

京介「んじゃ、行って来ます」

お袋はどうやら飯の準備に取り掛かったらしく、聞こえていなかったのか、返事は無い。

俺は小さく舌打ちをし、駅へと向かって歩いて行った。

162: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:42:23.75 ID:YKWbGWMl0
駅に到着。 桐乃を発見。 あいつ、顔を逸らして雨の中歩き出す。

京介「おいおいおいおい!! お前しかとしてんじゃねえよ!」

桐乃「……なに?」

京介「何じゃねえっつーの。 傘持っていけって言われたから、持ってきてやったんだよ」

桐乃「何であんたなんかに傘渡されないといけないワケ? しかもさっきまであんたが使ってた傘とか。 キモッ」

……折角持ってきてやったのに、こいつはこんな事を言う。 俺が使った傘がそんな嫌だっつーのかよ。

163: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:44:17.83 ID:YKWbGWMl0
京介「いいから使えよ。 俺じゃなくて、お袋がそう頼んでるんだから」

桐乃「……お母さんか。 あんたじゃなくて?」

京介「そうだよ。 俺がそんなことすると思う?」

そう答えると、桐乃は一段と怒りを増した表情をした。

多分、お袋に迷惑を掛けてしまったとか、考えているんだろうよ。 そんなキレるなら折り畳み傘の一つでも常に持っとけっつうの。

164: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:45:03.74 ID:YKWbGWMl0
桐乃「ふん。 早く渡して」

先程まで雨宿りしていた場所に戻ると、桐乃は言う。

京介「へいへい……」

そう言いながら、俺はクソ生意気な妹様へと傘を渡す。

ちなみに、この時お礼の言葉無し。 妹様が受け取った時にした反応と言えば、舌打ち一つだ。 雨が降って困っている奴に傘を渡すことなんて、殆どあることでは無いけど、それで舌打ちされるってのは随分と心に来る物があるな……。

まあ、別にこいつだし、どうでも良いけど。

165: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:45:31.91 ID:YKWbGWMl0
桐乃「……一つ聞いていい?」

京介「あん?」

桐乃「別にあたしに傘渡すのはいーケドさ。 あんた、自分の傘は?」

京介「ん……? ああ、やべえ」

傘一本しか持ってきてねえじゃん! マジかよ。

桐乃「ばかじゃん? あそこにコンビニあるから買ってくれば?」

166: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:46:08.88 ID:YKWbGWMl0
えーっと。 その場合ってあれだよな。 俺が金出さないといけないよな。

……なんか、おかしくね?

俺は今日、駅まで傘を忘れた妹の為にわざわざ傘を届けて。

で、傘が一本しかなくて。

その傘を渡された妹は、コンビニあるから買ってくれば? と俺に言う……と。

ま、まあ傘を忘れたのは俺の責任だ。 それは認めよう。

けど、だけど! だからといって俺が金出してまで傘を買うっておかしくねえか? おかしいよな?

167: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:46:40.93 ID:YKWbGWMl0
桐乃「なにぼーっと突っ立ってんの。 邪魔なんですケドぉ」

京介「……悪かったな」

渋々、俺はコンビニへと向かう。 ちくしょう。 せめて金はお袋に出させてやろう……そうじゃないと、マジで割りに合わねーって。

そうして歩く俺の服に、何かが引っ掛かり、引っ張られる。

京介「ん?」

どうやら見ると、傘の持ち手が服に引っ掛けられているようで。

168: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:47:12.61 ID:YKWbGWMl0
桐乃「チッ……マジでキモいけど、仕方ないから傘入れてあげる」

京介「いや良いって。 俺は傘買うから」

桐乃「それだとあたしが悪者みたいじゃん。 あんたの所為でそーなるとかムカつくから却下」

京介「……分かったよ。 んじゃお言葉に甘えさせてもらうとする」

桐乃「……ふん」

169: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:47:38.91 ID:YKWbGWMl0
で、一緒に帰ることになったのは良いが。

桐乃「もうちょっとあっち行ってくれない?」

京介「……お前、言っておくけど、俺既に体の半分は外に出ているからな?」

桐乃「指一本でも一緒に入れるだけマシっしょ」

酷いなこいつ。 少なくとも妹が兄に向けて言う言葉では絶対ねえぞ。

というか、こっちの方が明らかに悪者に見えるんじゃねえかなぁ。 だって、二人で傘に入っているというより、一人が傘を使って入れてあげてないみたいな光景だし。

170: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:48:10.38 ID:YKWbGWMl0
桐乃「ま、いちおーはあたしが傘忘れたのが原因だしね。 感謝してよ?」

何にどう感謝すんだよ! 言っていることが訳分からないぞ!?

むしろお前が感謝しろって。 生意気な奴だよ、ほんとに。

京介「ありがたき幸せでーす」

俺は精々嫌味ったらしく、言った。

171: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:48:37.51 ID:YKWbGWMl0
桐乃「キモッ」

もう、何も言うまいって感じだよね。 ほんとさ。

桐乃「そーゆえば、あんた、あたしが貸してるゲームクリアしたの?」

……ここで来たか。 未だに手付かずなのは言わない方が良いよな。 適当に言っておこう。

京介「……も、もうちょいでクリア」

桐乃「はぁああぁああ!? 貸してからもう一週間も経ってるんですケド!? どんだけゆっくりプレイしてればそうなるワケ!?」

172: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:49:15.15 ID:YKWbGWMl0
京介「い、いや……俺もそれなりに忙しいしよ」

桐乃「チッ……今日中にクリア。 じゃないと許さないから」

京介「……努力はする」

努力はな。 クリアできるかは知らん。 ってか、お前に許されなかったからといって、何がどうなるって訳でもないしな。

桐乃「これだからしっかりプレイしない奴は……あ」

京介「ん? 急に止まるなよ」

173: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:49:42.84 ID:YKWbGWMl0
桐乃「……何でも無い」

なんだ、空を見上げてた?

桐乃「ほら、ぼさっとしてないでさっさ歩いてよ。 あんたが歩かないと、あたしも歩けないんだから」

京介「あ、ああ。 悪い」

桐乃「……ふん」

それから数分。 俺と桐乃は無言のまま、一つの傘の元、家へと向かって歩いて行った。

174: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:50:09.90 ID:YKWbGWMl0
京介「思えばそうだな。 あれが始めての相合傘だった!」

桐乃「……それって、覚えとく意味あんの?」

京介「さあな。 でも、桐乃がそのまま一緒に入っていいって言わなかったら、俺は結構ショックを受けていたかもしれんな」

一緒に入っていたかどうかには疑問が残るが、あれもあれで今となっては良い思い出。

桐乃「ひひ。 あたしの優しさだって、さっきもゆったじゃん」

京介「おうおう。 感謝してんぜ、桐乃さん」

175: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:50:37.76 ID:YKWbGWMl0
桐乃「うんうん。 その調子その調子」

どんな調子なのだろうか? 少し気になる。

桐乃「ま、結局は今も昔もそんな変わらないってことかな?」

京介「……さぁ? 俺は大分変わったと思うけどな」

桐乃「やっぱそうだよね。 昔はこんなにくっついてなかったし?」

京介「言いながら近づくなって、俺も一応恥ずかしいんだからよ……」

176: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:51:04.92 ID:YKWbGWMl0
桐乃「あはは。 シスコン」

京介「へいへい。 どーも」

桐乃「ってワケで、今度あたしが傘忘れても、しっかりと持ってきてよね?」

京介「お安い御用だ。 任せとけ」

桐乃「うん。 よろしくっ! ……あ」

京介「ん? どうした?」

177: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:51:31.00 ID:YKWbGWMl0
急に立ち止まる桐乃。 俺は桐乃が傘から出ないように、足を一緒に止めた。

桐乃「雨、止んだみたい」

言われ、空を見上げる。

先程まで空を覆っていた雲は薄くなっていて、切れ目からは太陽の光りが差していた。

京介「……お、ほんとだ。 夕立みたいなもんだったのかな?」

桐乃「どだろ? んじゃ、傘はもういらないかぁ」

178: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:51:59.80 ID:YKWbGWMl0
京介「んだな」

言いながら、俺は傘を畳み、左手で持つ。

桐乃「京介、その雑誌も左手でもって」

京介「ん? 別に構わないけど」

桐乃「ひひ。 はい、どーぞ」

桐乃は言うと、左手を俺に差し出した。 小さな、桐乃の手。

179: ◆IWJezsAOw6 2013/07/16(火) 13:52:28.05 ID:YKWbGWMl0
黙って、少し笑い、俺はその手をしっかりと掴む。

そうだな。

随分変わったよ。 あの日から比べたら。

それは多分、俺たち自身が変わった訳ではない。

変わったのは、俺たちの関係だろう。

俺は昔の雨の日を思い出し、なんだか面白おかしくなってしまうのだった。


昔と今 終

200: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 13:53:57.19 ID:LnLoabtm0
5月の中旬。 あたしは●●●●に興じていた。

新作の●●●●で、本日やっと届いたってワケ。 掲示板でネタバレを読まない様に、感想だけ少し見てみたんだけど、評価はかなりの物だったから、チョー楽しみにしてたんだよね。

桐乃「おお、きたきたきたきたあ!!」

こ、このシーンってあれだよね。 掲示板とかでも噂になってたかなりの名シーンってヤツ!

ただ、兄が妹を抱き締めるってだけのシーン。 それだけ見たら、妹ゲーには腐るほどあるシーンだけど。

それまでの過程、妹と兄の心境、そんでこの絵師さんの絵! それらを全部考慮すると、マジ神シーン!

201: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 13:54:34.71 ID:LnLoabtm0
桐乃「え、えへへへへへへ……」

しっかりとCGもあることだし、後で見返そうっと!

と、とりあえずは……ふひひ。 このシーンを堪能しよう! 心行くまで!

桐乃「……はああ。 かわいいなぁ」

画面では妹と兄が会話をしている。 在り来たりな会話だけど、心が込められている会話。

それぞれの想いがしっかりと伝わって、すれ違いばかりだった二人がようやく分かり合えて。

202: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 13:55:01.45 ID:LnLoabtm0
桐乃「ヤバ……泣けてきた」

一文一文、一字一句見逃す事なく、しっかりと読む。 悲しげなBGMが余計に涙腺を刺激してくる。

桐乃「うう……」

ここで、この流れ……あたしの予想だと、これから告白シーンのハズ!

や、ヤバイって。 マジで目真っ赤になっちゃうって。

と、その時だった。

203: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 13:55:41.58 ID:LnLoabtm0
突然暗転する画面。 え?

シーンの移り変わりにしては、長すぎる。 それに部屋の電気も一緒に消えている。

部屋の中に響いていた機械音も全て止まった。

こ、これって……もしかして。

桐乃「……停電?」

は、ははは。 死ねっ!!!

204: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 13:56:08.22 ID:LnLoabtm0
ありえない! 今から最大の見せ場だってゆーのに!? なのにここで強制ゲーム終了!? どんな仕打ちだっつーの!!

せ、セーブはちょくちょくルートの度に取っていたけど……こっちのルートに入ってから一本道で大分長かったので、また結構な時間を取られちゃうってことだよね。

桐乃「……はぁああぁああ」

その日はゲームをまたやる気分にもならず、寝るまでずっと落ち込んだままだった。

205: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 13:56:35.78 ID:LnLoabtm0
次の日。

モデルの仕事を終えて、あやせと喫茶店。

あやせ「桐乃、今日どうしたの?」

桐乃「ど、どうしたって?」

あやせ「何だか顔色悪かったし……カメラの人も、事務所の人も、なんか変だなって言ってたよ?」

桐乃「……そか」

あたしとしたことが、どうやら昨日のあれが相当効いてしまっているらしい。 それで、連鎖しちゃってる。

206: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 13:57:12.91 ID:LnLoabtm0
あやせ「……大丈夫? 何かあったの?」

い、言えない……。 ●●●●の神シーンで停電してテンション最悪とか言えない!

桐乃「な、何かってほどでも無いよ。 大丈夫」

飲んでいる紅茶の底を見ながら、あたしはあやせに言う。 余計な心配を掛けてしまっていると、思いながら。

あやせ「もしかして……お兄さんと喧嘩しちゃったとか? 明日も仕事あるけど……休めるように頼んでみる?」

桐乃「そこまでしなくていいって! それにそうじゃないよ。 明日にはもう元通りだって。 ちょっと早い夏風邪みたいなものだし」

207: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 13:57:40.73 ID:LnLoabtm0
あやせ「そっか……うん。 分かった」

あやせは渋々納得したようで、その後は世間話をして、今日のところは別れた。

で、本当に嫌なことというのは立て続けに起こってしまう。

あやせと別れ、一人でアパートへ向かっている途中、雨が降ってきた。

208: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 13:58:07.28 ID:LnLoabtm0
ぽつりぽつりっていう感じじゃなく、大雨。 降り始めて5分もしない内に、全身がずぶ濡れ。

桐乃「……なんだっての」

あたしなんか悪いことしたっけなぁ? ふん、くだらないくだらない。

だけど、イライラとムカムカと、そんな気持ちは募っていく。

……帰ってとっととお風呂入ろっと。

209: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 13:58:35.12 ID:LnLoabtm0
桐乃「……ただいまぁ」

扉は開いていたので、京介は多分帰ってきているんだろう。 そう思い、部屋の奥へ向けて声を掛ける。

しかし、部屋の中から返事は無い。

……あれ?

良く聞くと、洗面所の方からシャワーの音。

京介が入っているのだろう。 ええっとつまり……ってことは。

あたしはどうやら、京介が出るまで玄関に立っていなければならないらしい。

桐乃「……はぁ」

210: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 13:59:10.93 ID:LnLoabtm0
それから待つ事数分。 ようやく、京介が洗面所から姿を見せる。

あたしの姿を見るなり、京介は慌てながら口を開いた。

京介「おま、傘無かったのか? 風呂入っちゃえよ」

桐乃「……あんたが入ってたから入れなかったんだケド」

京介「あ、ああ。 そっか……ごめんな」

言いながら、両手を合わせて謝る京介。 その姿を見て、また胸がちくりと痛む。

211: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 13:59:48.53 ID:LnLoabtm0
京介「でもよ、お前がそれで風邪でも引いたら」

桐乃「良いってゆってんでしょ! ウザイ!」

あたしは苛立ちを京介にぶつける様に言い、申し訳無さそうな顔をしている京介の横を通り過ぎ、洗面所へ。

中に入って扉を閉め、あたしはそのままお風呂場へと入った。

桐乃「……はぁ」

何度目かの溜息。 あたしは、どうしてこうなんだろうか。

212: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:00:16.36 ID:LnLoabtm0
たった二日続いた嫌なことが原因ってだけで、京介に八つ当たりをしてしまう。

京介に悪気なんてあったワケ無いし、普通だったら京介は怒ってもおかしくないのに。

だけど京介はあたしに謝ってくる。 自分が悪いと思って。 そんなこと……あるワケ無いじゃん。 あたしが勝手にイライラして、勝手に怒ってるだけ。 それだけ。

それでもあたしは何も言えない。 さっきもごめんのひと言でさえ、言えなかった。

シャワーを捻り、頭からお湯を浴びる。

213: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:00:44.44 ID:LnLoabtm0
ムカつく。 ムカつくムカつく。 ムカつくし、情け無い。

この二日、色々あったけど。

自分自身に一番苛立つ。 どうしてあたしはいっつもこうなんだろう。

考えれば考える程に気分は落ち込んで、恐らくもう溢れ出ているであろう涙は止まらない。

桐乃「……なんだっての」

214: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:01:11.65 ID:LnLoabtm0
今更、謝っても遅いかもしれない。

あたしがずっとこんなんだったら、京介もいつかは愛想を尽かすかもしれない。

そんなことを京介はしないって分かる。 分かってるけど。

こんな気分の時は、不安になってしまう。

……明日になれば、またいつも通りになっているかな。

215: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:01:37.49 ID:LnLoabtm0
それは。

それは、甘えだ。

些細なことでも、しっかりとケジメを付けないと。

あたしだっていつまでもこうしているワケにはいかない。 京介と一緒に居る為にも、変わらないと。

……やっぱり、京介にはきっちりと謝っておこう。 それだけでも、しておかないとダメだ。

216: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:02:11.88 ID:LnLoabtm0
京介「ごちそうさまでした」

手を合わせ、ご飯を食べ終えた京介は言う。

食器を持って台所に向かう京介の背中に、あたしは声を掛けた。

桐乃「……さっきはごめん」

意外にもすんなりと出てきたその言葉は、小さい物。 本当だったら、しっかりと顔を見て言わないといけない言葉。

217: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:02:50.69 ID:LnLoabtm0
そしてその言葉が聞こえていないのか、京介は反応せずに食器を片付けていた。

……それとも、無視、されちゃったか。

あたしは顔を伏せて、零れそうになるそれを必死に堪える。

どうしよう。 家を出て行けと言われたら、どうしようか。

……どうにもできない。 あたしじゃ、多分。

変わらないと、あたしが。 そう思っても、変われない。 あたしはあたしで、それはもうどうしようも無いことだから。

218: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:03:40.61 ID:LnLoabtm0
そんな風に考え、顔を伏せて、歯を食いしばって、涙を堪えて。

コツンと、頭に軽い衝撃。

京介「なに謝ってんの? お前」

驚いて顔をあげると、すぐ近くに京介の顔。 あたしの頭を軽く、手の甲で叩いたのか。

桐乃「……え?」

京介「だから、なんで謝ったんだ?」

219: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:04:19.28 ID:LnLoabtm0
……聞こえてたんだ。 あたしの言葉。

桐乃「なんでって……あたし、酷いことゆっちゃったし」

京介「今更なーに言ってんだよ……もうそんなのはむしろ楽しくなり始めてるっつうの」

桐乃「で、でも」

京介「良いから。 次の質問な。 どうしてそんな泣きそうになってんだよ、桐乃」

桐乃「……」

220: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:04:51.33 ID:LnLoabtm0
あたしは。

ゆっくりと、あった事を話す。

桐乃「……昨日と今日で、色々やなことがあって」

桐乃「ゲームやってたら停電しちゃって、仕事では失敗しちゃって、急に雨に降られて」

桐乃「……帰ったら、京介に八つ当たりしちゃって」

桐乃「それで、お風呂の中で考えてたの」

桐乃「あたしはどうして変われないんだろうって。 あたしがこのままだったら、京介に嫌われちゃうのかもって、思って」

221: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:05:19.11 ID:LnLoabtm0
泣いているのかいないのか、自分でも分からない。

だけど、声は震えていたと思う。

京介「変わる必要なんてねーよ」

京介「お前はお前のままで良いんだよ。 俺に暴言吐いて、怒ったり優しかったり、ミカン投げつけてきたり?」

京介「確かに、お前は素直じゃねえしなぁ。 愛想尽かす奴もすげーいそうだよ」

京介「だけどな、桐乃」

222: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:06:06.98 ID:LnLoabtm0
京介「俺はそんなお前が好きなんだ。 前に言ったろ? 俺だけはお前の味方だって」

京介「誰にどう言われようと、俺はお前のことが好きだぜ?」

桐乃「……京介」

言葉は暖かく。 二日間で募っていた気持ちは嘘のように消えていく。

京介の顔は、滲んで見えた。

京介「俺がお前のことを嫌うなんて、ねえよ。 もしあるとしたら……」

223: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:06:34.23 ID:LnLoabtm0
京介「……実はお前が男だったりとか?」

京介「いや、でもそうだとしても嫌いにはならねえな……むしろ、今までのことを考えるとなぁ」

桐乃「……なワケ無いでしょ。 ばか」

あたしは自然と、笑っていて。

京介「だよな? お前、妹だもんな?」

京介も、笑っていた。

224: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:07:10.77 ID:LnLoabtm0
桐乃「……ありがと。 んで、さっそく一つ頼みがあるんだケド」

京介「……さすがの切り替えの早さだな。 良いぜ、何だよ?」

あたしは想いを込めて言う。 今日は少し、素直になろうと。

桐乃「……ぎゅって、して」

京介は一瞬驚いた顔をした後、いつもの様に言った。

任せろと、優しく、あたしを抱き締めて。

225: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:07:38.65 ID:LnLoabtm0
その日の夜。

桐乃「きたきたきたきたきたきたあああああああああああ!!」

京介「馬鹿! うるせーよ! もうちょい静かにやれ!」

桐乃「だ、だってえ……ふひひひ。 このシーン、マジ神シーンなんだって!」

京介「わ、分かった分かった。 分かったからもうちょい落ち着け、マジで。 苦情受けるの俺だからね?」

226: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:08:06.73 ID:LnLoabtm0
桐乃「……仕方ないなぁ。 ったく」

京介「ほら、セーブしとけよ? 一応」

桐乃「わかってるって。 ひひ」

停電で出来なかった●●●●を京介と一緒にやって。

桐乃「よし……セーブおっけ」

桐乃「次は次は~っと」

227: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:08:36.06 ID:LnLoabtm0
桐乃「うっはあ!! きたああ……んー!」

京介「うるせえっつうの! 少し黙ってろ!!」

京介はあたしの口を塞ぎ、声を遮る。

桐乃「んー!!」

そんなこんなで、エンディングまで騒がしく、あたしと京介はゲームをやっていた。

228: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:09:03.64 ID:LnLoabtm0
次の日。

モデルの仕事が終わり、あやせと喫茶店。

あやせ「さっすが桐乃! 桐乃の言うとおりだったね」

桐乃「ん? 何が?」

あやせ「一日経てば元通りって奴だよ。 元通りっていうよりは、今日はいつもより綺麗だったよ?」

229: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:09:32.57 ID:LnLoabtm0
桐乃「そ、そう? なんか照れるなぁ」

あやせ「やっぱ桐乃はそうじゃなくっちゃ。 でも、どうして今日はそんなに元気良かったの?」

桐乃「……さ、さあ?」

あやせ「……」

じーっとあたしを見つめるあやせ。 怖い。

あやせ「……ま、良いかな。 桐乃はすごく嬉しそうだし」

230: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:09:59.46 ID:LnLoabtm0
桐乃「そ、そんなことないって~。 ただいつも通りってだけだよ?」

あやせ「そう? 事務所の人も、カメラマンの人も、今日はいつもより綺麗に写るって言ってたけど……」

桐乃「あ、あー! あたし用事思い出した! ごめんあやせ!!」

あやせ「ちょ、ちょっと桐乃? どうしたのー?」

逃げ帰るように、あたしは喫茶店を後にするのだった。

231: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:10:29.60 ID:LnLoabtm0
桐乃「ただいまっ!」

玄関扉を開け、元気良く声を掛ける。

相手は勿論、あたしの兄貴で、あたしの彼氏。 あたしが一番、好きな人。

京介「おう。 おかえり。 今日はどうだった?」

昨日言っていたことを覚えていたのだろう。 京介は、そう聞いてきた。

232: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:10:56.22 ID:LnLoabtm0
桐乃「あたしを誰だと思ってんの? ばっちしだっつーの」

京介「へへ。 聞くまでも無かったなぁ。 それでこそ桐乃だ」

桐乃「ひひ。 じゃあ仕事終えて疲れてるあたしの為に、冷たいお茶入れてきて欲しいなぁ?」

京介「へいへい。 任せとけって」

あたしが居間に座り、そう言うと、京介はすぐに台所へと向かっていった。

その背中を見ながら、一人想う。

233: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:11:23.29 ID:LnLoabtm0
思えば、こんな風になるなんて誰が予想できたのだろう。

あたしと京介が、あれだけ仲が悪かったあたしたちが、今はこんな風になっているなんて。

……小学生のあたしからのメッセージ。 それに今なら笑って、優しく、返事が出来る。

「大丈夫だよ。 昔のあたし」

「諦めないで。 追い続けて。 そうすればきっと、いつか並んで歩けるから」

「ゲームなんかよりも素敵な話、きっと見つかるから」

「だから、もう何年か頑張って」

234: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 14:11:51.09 ID:LnLoabtm0
そうすればきっと。

京介「ん? なんか言ってたか? 桐乃」

桐乃「んーん、なんでもなーい。 それよりお茶は?」

京介「しっかり入れてきてやったよ。 ほら」

桐乃「ひひ。 さーんきゅ」

想いは、届くから。


その理由 終

243: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:25:21.73 ID:LnLoabtm0
桐乃「暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い!!」

京介「……八回?」

桐乃「数えんなっ! とにかく暑すぎ! どうにかしてよ!」

7月。 うだるような暑さの中、俺と桐乃はアパートの一室で会議を執り行っていた。

ご丁寧にも桐乃は小さなメモ帳を置き、先程から会話の内容を書き起こしている。

244: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:26:06.49 ID:LnLoabtm0
京介「それ、何書いてんの? さっきから思ってたんだけどさ」

桐乃「見たい? どうしよっかなぁ~~~?」

そこまで興味がある訳じゃねえんだけど……まあでも、ここで俺が「あ、いや、ならいいっす」とか言ったらこいつは怒るんだろう。 間違いない。

京介「ちょ、ちょーみたいっす」

桐乃「ふ~~~ん? え~~~? う~~~ん」

京介「そこをなんとか……」

245: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:26:37.43 ID:LnLoabtm0
俺が手を合わせ頭を下げると、桐乃はさっきまでの元気良い感じとは百八十度変わり、だるそうな声で呟く。

桐乃「……あっつ」

……うん。

京介「暑いな……」

会議内容。 この暑さをなんとかしろ。

ちなみにメモには「暑い」と殴り書きがしてあるだけだった。 全く持って役に立たない。

246: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:27:26.25 ID:LnLoabtm0
んで、まあ要するに桐乃様からの命令って訳だ。 この気温をどうにかしろってことだな。 どんな相談なんだろうな、これ。

京介「一応扇風機あるけど……」

桐乃「それじゃ一人しか涼しくならないっしょ」

京介「……俺は別に無くていいからさ、お前使えよ」

桐乃「ヤダ。 それじゃあたしが納得しないの」

いやいや……多分こいつなりの優しさなのだろうが、俺はマジでお前が涼しくなってくれれば良いんだけど。

一応、去年も同じくらい暑かったと思うが、それは乗り切っている訳だし。

247: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:28:23.67 ID:LnLoabtm0
桐乃「てゆうか、前の家住んでたときもさ、京介の部屋ってエアコンとかなかったよね?」

京介「まーな。 その点、お前の部屋は実に快適だった……」

あれこそ格差社会だよね。 俺が夏、暑っちい暑っちい言いながら必死にリビングで涼んだりしているとき、こいつはクーラーが効いた部屋で●●●●を嗜んでいたのだろう。 なんだか想像したらちょっとムカツクな……。

桐乃「……勝手に入ってないでしょうね?」

じっとりしたような、だけど暑さにやられて若干死んだ目のような、そんな視線を俺に向ける桐乃。

京介「え? めちゃくちゃ勝手に入ってたけど」

先ほどの少しムカついた気持ちをぶつけるべく、俺は本当にどうでもいい嘘を付く。

248: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:29:36.61 ID:LnLoabtm0
桐乃「は、はぁ!? な、なななにしてんの!?」

京介「そういえば、桐乃のベッドはすげー寝心地良かったぞ。 うんうん」

桐乃「べ、ベッドって……!」

先程までの目が嘘のように、桐乃は見開いた眼差しをふらふらと彷徨わせている。 動揺しまくりだな、こいつ。

京介「ははは、さすがに冗談だぜ? 勝手に入ったりしてねーよ」

桐乃「……お、驚いた。 マジで一瞬、京介と一緒に暮らしているのが不安になりかけた」

249: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:30:20.01 ID:LnLoabtm0
京介「俺もそこまではしねーって。 お前だって、俺の部屋に勝手に入ったりそんなしてないだろ?」

一番最初。 メルルのパッケージに入った●●●●を探しに来た時。

俺が一人暮らしして、部屋に私物を置いた時。

そのくらいかな。

桐乃「……ま、まあね?」

……そのくらいですよね?

250: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:30:46.43 ID:LnLoabtm0
京介「き、桐乃?」

桐乃「あ、電話!!」

と、鳴り初めて1秒も経たないうちに桐乃は言い、電話を取る。 すっげえ速度だ。 体力まだあるじゃん。

桐乃「もしもーし」

桐乃「……なんだ、あんたか」

お、分かった。 黒猫だな、どうせ。

251: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:31:56.30 ID:LnLoabtm0
桐乃「は? 暑いかどうかって? 暑いに決まってんでしょ! 一々そんなんで電話したワケ?」

桐乃「え? ……なに、教えて」

桐乃「ふむふむ……はぁ!? ちょ、ちょっとそれはマズイでしょ!!」

な、なんだ……明らかに桐乃の様子がおかしいが。

桐乃「だ、だけどっ! ……うん。 マジ?」

桐乃「そ、そか。 なら、やってみよっかな」

桐乃「ありがと。 は!? するワケないっしょ!!」

252: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:32:38.15 ID:LnLoabtm0
桐乃「……ふう」

ようやく黒猫との一戦を終えたらしい。 桐乃はヒートアップしていたのか、先程よりも汗を掻いているようにも見える。

京介「黒猫か? なんの電話だったんだよ?」

桐乃「そだケド……なんか、暑さを和らげる方法があるとかナントカ……ゆってた」

京介「そんなのあるのか? で、どうすんの?」

さすがは黒猫。 あいつって、意外と物知りなんだよな。 助かるぜ。

桐乃「え、えっとぉ……」

253: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:33:19.98 ID:LnLoabtm0
桐乃「……暑いと思うのは、中途半端な暑さの所為、とか?」

京介「全然中途半端じゃねえぞ……」

この部屋の温度、三十度はあるんじゃね? そんくらい暑いぜ。

桐乃「だ、だから。 えっと」

言い辛そうに、しかし健気に、桐乃は言葉を紡ぐ。

桐乃「…………くっつけば、マシになるって」

254: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:33:47.69 ID:LnLoabtm0
京介「……」

京介「……え?」

桐乃「……あんたとあたしでくっつけば、マシになるって」

京介「くっつくって……物理的に?」

桐乃「……ぶ、物理的に」

聞かなきゃ良かったよ! 黒猫の奴ろくでもないこと言いやがって!!

255: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:34:15.88 ID:LnLoabtm0
京介「……嘘だろ?」

桐乃「で、でも……試さないと分からないじゃん?」

京介「そりゃ……一理あるけど」

京介「……ううむ」

桐乃「ど、どうすんの」

京介「……一応、やってみるか?」

桐乃「……う、うん。 おっけ」

256: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:34:52.97 ID:LnLoabtm0
で、黒猫さんの言われた通りにくっつこうとしたのだが。

京介「ど、どうやってくっつくの?」

桐乃「どうせなら、京介の膝の上……とか」

京介「……マジ?」

桐乃「く、くっつくならそっちの方がそうっぽいっしょ!? だ、だから!」

京介「わ、分かったよ……じゃあ」

京介「ほら」

俺は言い、胡坐を掻いて桐乃を見る。

257: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:35:25.07 ID:LnLoabtm0
桐乃はこくりと小さく頷くと、俺の近くまで来て、その上へと座った。

京介「ど、どうだ?」

桐乃「どうってゆわれても……」

桐乃、耳まで真っ赤じゃねえか。 相当恥ずかしがってるだろ、これ。 いや、俺もすっげえ恥ずかしいけどさ。

桐乃「も、もっとくっついた方が良いんじゃない?」

ヤバイ! 桐乃さん、若干壊れ始めてないか? なるようになれ状態になってんぞ!

258: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:36:02.12 ID:LnLoabtm0
桐乃「……ほら、早く」

言いながら、桐乃は俺の腕を掴む。

……多分、抱き締めろってことだろう。

京介「……おう」

俺は素直に、それに従う。 後ろからゆっくりと、桐乃を抱き締めた。

俺ってこのクソ暑い中、妹と何をやっているんだろうな? そんな風に思ってしまうほどに暑い。

259: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:36:39.73 ID:LnLoabtm0
……んで。

京介「……ちょっといいか?」

桐乃「……なに?」

京介「……これ、普通に暑いし汗でめちゃくちゃ気持ち悪いんだけど、お前は?」

桐乃「……同意見」

こうしてその黒猫案は却下となった。

260: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:37:27.27 ID:LnLoabtm0
桐乃「暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い!!」

京介「……十五回?」

桐乃「数えるなっつーの!! とにかく暑すぎ! この部屋おかしいんじゃないの!?」

京介「部屋がおかしいっつうよりは、気温がおかしいんだと思うが……」

桐乃「あーつーいー。 どうにかしてよ」

京介「だから、扇風機を使えばいいんじゃねえの?」

桐乃「それじゃ、あたしだけしか涼しくならないっしょ。 扇風機小さいし」

261: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:37:57.39 ID:LnLoabtm0
京介「……なら、コンビニ行ってアイスでも買ってくるか?」

桐乃「外歩きたくなーい。 暑いし」

京介「桐乃は家で待ってても良いって。 俺が買ってきてやるからさ」

桐乃「……やだ」

京介「なんで?」

桐乃「なんとなく、ヤダ」

……面倒くさいなこいつ! どうしろっつうんだ!?

262: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:38:37.29 ID:LnLoabtm0
桐乃「あーつーいーんーだーケードー」

京介「……昼飯、冷たいもの食べるか?」

桐乃「涼しくなるの一瞬じゃん。 意味なーい」

京介「金出し合って、クーラー買うか?」

桐乃「今すぐじゃないからヤダ」

263: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:39:11.83 ID:LnLoabtm0
京介「……じゃあ」

京介「今から海でも、行くか?」

桐乃「いくっ!!」

……つくづく面倒臭い奴だった。 マジで。

海に行きたいなら最初から言えって。

264: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:39:52.17 ID:LnLoabtm0
それから。

桐乃と俺は身支度を整え、電車に乗り、海へと向かった。

さすがにめちゃくちゃ近いって訳では無いが、そんな遠くも無い、そのくらいの距離にある海。

桐乃「海きたぁあああああ!!」

嬉しそうだなぁ。 メルルのイベントと同じくらい嬉しそうだ。 比較対象があれだけど。

265: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:40:42.10 ID:LnLoabtm0
京介「そーいやさ」

まだ夏休みにも入っていないので、人はそこまで多くない。 辺りの音が静かなことから、少し離れた場所で海に入っている桐乃にもその声は届いた。

桐乃「んー?」

京介「お前、俺と一緒に海に行くくらいなら、あやせと行くって言ってなかったっけ?」

桐乃「……忘れたし」

嘘付けや! 気まずそうに視線逸らしやがって。

266: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:41:33.06 ID:LnLoabtm0
京介「おっかしいなぁ。 俺はちゃんと覚えてるんだけどよー」

桐乃「ふん。 もしゆってたとしても、何か問題あるワケ?」

京介「……いや、だからあやせと行った方が楽しかったんじゃね?」

桐乃「はぁ。 あんたさー、彼氏と海に来てつまんないって思う彼女がいると思ってんの?」

と、八重歯を見せながら笑い、言う桐乃。

267: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:42:13.06 ID:LnLoabtm0
京介「へっ。 だろうな」

京介「桐乃。 俺もお前と海に来れて、めちゃくちゃ楽しいわ」

桐乃「ひひ。 でしょ?」

そうして、日が傾き、涼しくなるまでの間、俺と桐乃はしばらく遊んでいた。

……別に、そんなイチャイチャ遊んでた訳じゃないからな? ベタなドラマとかである「捕まえてごらん」「あはは、待てー」みたいなことは無かったし。

あったことと言えば、桐乃が急に海水を掛けてきたので、俺も仕返しに掛け返したりってくらいだし。 ただの喧嘩みたいな物だろ?

っつう訳で、別にイチャイチャしてはいない。 うむ。

268: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:42:57.35 ID:LnLoabtm0
帰り道。

駅から出て、近くのコンビニで買ったアイスを食べながらの帰り道。

隣を桐乃が歩いていて、夕日に照らされた顔は思わず見蕩れてしまう物だった。

桐乃「なーに見てんの?」

京介「ん、ああ。 いや、なんでもねえよ」

桐乃「……ふーん」

いきなりお前って綺麗だよな、と普段なら返してそうな物だけど。

ただ、本当になんとなく桐乃の顔を見ていただけなので、急に聞かれると対応に困ってしまう。

269: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:43:55.31 ID:LnLoabtm0
京介「……今日、楽しかったか?」

桐乃「チョーつまんなかった」

桐乃「ってゆったら、これからどっか連れて行ってくれるの? ひひ」

京介「お前がマジでそう思ってるならな。 超楽しかったって言うまで付き合ってやるよ」

桐乃「さっすがー。 でも、大丈夫。 今日はチョー楽しかったから」

京介「そうかい。 そりゃ良かったぜ」

270: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:44:28.73 ID:LnLoabtm0
セミが鳴く中、吹く風は幾分か気持ちが良い。 何気無い会話の一つ一つがとても楽しくて、新鮮で、一日が終わってしまうのが少しだけ、寂しく思えてしまう。

桐乃「あ、そだそだ」

京介「ん?」

桐乃「今度さ、お祭りあるらしいんだけど、行かない?」

祭り、祭りかぁ。 もうそんな時期か。 ほんと、早い物だ。

桐乃と一緒に祭りね。 何気にすっげー久し振りじゃね? 最後に行ったのって確か、俺と桐乃が小さいときだったような。

こいつ、行きたい行きたい言うわりにはすぐに迷子になるんだよな。

271: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:45:30.09 ID:LnLoabtm0
京介「良いぜ。 俺が行かないとお前迷子になるもんな」

桐乃「どーでも良いこと覚えてるよね。 そんなの忘れろっつの」

京介「やだよ。 お前が「お兄ちゃん!」って言って泣きながら来たのを俺は今でも……」

桐乃「あーっ! 忘れろ忘れろ!! そーゆうのマジで良いから!!」

京介「ははは。 一生覚えといてやるよ」

桐乃「チッ……」

京介「怒るなって。 今となっちゃ良い思い出だろ?」

272: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:46:02.06 ID:LnLoabtm0
桐乃「……どーだろ」

桐乃「子供の頃ってさ。 お祭りとか、すっごく楽しいじゃん? お祭りだけじゃなくて、家族で出かけるってのが……それだけで楽しいことだったりするじゃん?」

京介「まぁ、それはあるかもな。 なんとなく、分かるぜ」

桐乃「でも、迷子になったり、嫌なことも沢山あるんだよね。 一人になると、怖いし」

桐乃「もう誰も来ないのかな、なんて思ったりね」

京介「……そっか」

273: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:46:34.65 ID:LnLoabtm0
京介「よし。 決めたぜ、桐乃」

桐乃「ん? 決めたって、何を?」

京介「今度の祭りで、お前に絶対嫌な思いはさせないって」

桐乃「ほ~う。 じゃあ、あたしはどっかで休んでるから、食べたいってゆったヤツ買ってきてね」

京介「……それはなんか違くね?」

桐乃「ふ~ん。 足痛くなるから歩くのヤなんですケドぉ」

274: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:47:04.21 ID:LnLoabtm0
京介「ほ、ほう……なら、お前は俺が嫌な思いをしても良いって言うんだな?」

桐乃「はぁ? べっつにそれは良いケド。 でもぉ、京介がどーしてもってゆーなら仕方ないかなぁ?」

桐乃「どーしてもあたしと一緒に歩きたいってゆーなら、考えてあげるケド……?」

いつもなら。

275: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:47:43.06 ID:LnLoabtm0
いつもなら軽口でも叩いて、それかからかうように言って、終わる場面。

だが、今日は何故か少し違った。 それは多分、俺が桐乃と居る時間を少しずつだが失っている様に思ってしまったから。

一緒に暮らし始めてから、もう既に半年以上経っている。 あの時は冬で、今は夏。 勿論、これから先ずっとこいつとは居るつもりだけどな。

それでも、この一年は一度っきり。 絶対に、やり直しはできない。

だから、俺は言った。

276: ◆IWJezsAOw6 2013/07/18(木) 15:48:15.53 ID:LnLoabtm0
京介「どうしてもだよ! 俺はお前と一緒に居たい」

桐乃「え、あ……う……うん」

桐乃「……なら、一緒に居よ」

京介「へへ。 おうよ」

夏はまだ、始まったばかりだ。


気温上昇中 終

295: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:09:53.77 ID:Lp7w0Gy60
7月の終わりが見えてきた頃。

京介とあたしが暮らしているアパートにて、あたしと加奈子とあやせは向かい会っていた。

桐乃「え、ええっと……今日はどうしたの? 急に」

京介は今大学へ行っていて、あたしたちは終業式を終えて、そのままここに集まったというワケ。 それも突然、あやせと加奈子が今日行くと言って付いて来たんだケド。

加奈子「急にじゃねえって。 前々からあやせと、桐乃については話さねーとって話してたんだから」

296: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:10:19.99 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「あたしについて? ……何を?」

あたしは言いながら、あやせの方に顔を向ける。

あやせ「あ、えーっとね。 あはは」

桐乃「……笑って誤魔化さないで」

あやせ「うう……うん。 分かった」

何かを決めたような顔付き。 こ、これから何が始まるのだろう?

297: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:10:45.97 ID:Lp7w0Gy60
加奈子「桐乃とぉ。 京介がぁ。 バカップルすぎて見掛ける度にキモイって話だよな?」

あやせ「ちょ、ちょっと加奈子!!」

桐乃「ふ、ふぇ?」

あ、あたしと京介の話? それより、バ、バカップルって!?

桐乃「ど、どーゆうこと!? 別にそんなんじゃないし!!」

加奈子「は~? マジで言ってんの? 周りから見たお前らってぇ。 相当アレじゃね?」

298: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:11:11.25 ID:Lp7w0Gy60
あやせ「……加奈子、ちょっと話を纏めるから、少し黙っててね」

加奈子「……あ、オッケ」

あやせ怖い。 加奈子を一発で黙らせてしまった。 だけど今は少しありがたいカモ。 全然話の内容が見えて来ないし。

あやせ「き、桐乃。 怒らないで聞いてね……?」

桐乃「聞いてから決める。 んで、なに?」

あやせ「え、えーっとね……桐乃とお兄さんって、少し仲が良すぎなんじゃないかなぁ? って話をしててね」

299: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:11:39.02 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「そんなことないしっ! ふつーだっての! フツー!!」

あやせ「で、でも……」

桐乃「それにそうだとしても良くない? だ、だって……付き合ってるんだし」

加奈子「惚気来た? 惚気来ちゃった?」

桐乃「ち、ちがっ! そうじゃないって!!」

な、なんなの!? これってなんの話なワケ!?

300: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:12:21.64 ID:Lp7w0Gy60
あやせ「……その、話を聞かされる私たちの身にもなって欲しいなぁ。 ってことかな。 嫌では無いんだけど……なんか」

桐乃「なんか、なに?」

あやせ「……聞いてて恥ずかしいから」

そ、そんなワケないじゃん! あやせや加奈子にしている話なんてマジで当たり障りの無い話だっての!!

桐乃「そんな話はぜったいしてない! あ、あー。 分かった。 分かっちゃった」

加奈子「分かったって、何が?」

301: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:12:48.49 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「ふ、ふふん。 あやせも加奈子も、あたしみたいに純粋な付き合いをしたことが無いから、そう思っちゃうんじゃない?」

加奈子「は、はぁ!? テメー、加奈子の恋愛経験舐めてんの?」

桐乃「だって、加奈子のってなんか不純だしぃ。 仕方ないかなぁ!」

加奈子「……お前だって人のこと言えねーだろ」

なんか言った気がするけど、無視無視。

302: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:13:15.68 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「ね? だからあたしのはそういうのじゃないの。 分かった? あやせ」

あやせ「じゃ、じゃあ聞くよ!? この前桐乃が私にした話だけど!」

あやせ「「ねね、あやせ。 この前京介とアイス食べたんだケドぉ。 あいつってば、美味しくない美味しくないゆってさー。 あたしはそんなこと無いと思うんだよね」って話、覚えてる?」

似てるなぁ。 あたしが話しているみたいだ。

桐乃「……あったケド、それが?」

あやせ「そ、それが!? この話にはまだ続きがあるからね!?」

303: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:14:14.09 ID:Lp7w0Gy60
あやせ「良く良く聞けば……一つのアイスを一つのスプーンで食べてたとか!」

桐乃「え? え? そ、それってマズイ?」

た、確かに恥ずかしかったケド……そんな、マズイことだったのかな? 世の中のカップルたちは皆やってると思うケド。

だってそれに仕方なくない? たまたまアイスが一つしかなくて、わざわざスプーンを二つ使うのもあれだったし……。

あやせ「ま、マズイって! 普通はそこまでしないから! したとしても人に話さないから!!」

桐乃「……う、ごめん」

そこまで強く言われると、なんだか申し訳ない。

304: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:14:44.95 ID:Lp7w0Gy60
あやせ「わ、悪いことでは無いと思うよ……だから、謝らないで」

桐乃「……うん」

加奈子「あ、そーだ!」

桐乃「な、なに? 加奈子」

加奈子「この前さぁ。 渋谷でお前ら見たんだよね」

桐乃「……あたしと京介?」

305: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:15:12.06 ID:Lp7w0Gy60
加奈子「ったりめーよ。 桐乃と京介」

桐乃「べ、別にどこで見たって良くない? 結構出掛けてるし」

加奈子「あたしだって、そんなので一々文句は言わねーって。 行動がヤバかったから言ってるんだっつーの」

行動がやばかった? そんなワケ、無いと思うケド。

桐乃「それっていつのこと?」

加奈子「先週末。 加奈子が仕事終えて、一息付いてたら見掛けたんだよ」

……それは確かにあたしと京介で間違い無いと思う。 でもあの日っていつも通りだったし、ヘンなことなんてしていないはずだよね。

306: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:15:39.65 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「……具体的に、どんな風にやばかったの?」

加奈子「桐乃、自分で分かってねーもんなぁ。 んじゃさ、ちょっとその日のことを話してくれよ。 その後あたしは話すからさー」

桐乃「わ、分かった。 じゃあ、話すね」

あたしはその日のことを思い出しながら、ゆっくりと語り始める。

307: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:16:05.88 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「よ。 待った?」

京介「……どうした? お前、熱でもあるのか?」

桐乃「は、はぁ? なんでそんなこと聞くワケ?」

京介「いや、だって「待った?」とか桐乃が言うなんて。 いきなりびびったぜ」

桐乃「たまにはいーっしょ。 デートみたいじゃん」

京介「みたいってなぁ。 普通にデートだけど」

桐乃「ひひ。 だね」

308: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:16:33.95 ID:Lp7w0Gy60
加奈子「はいアウトー」

桐乃「な、なにがよっ! まだ始まって一分も経ってないんだケド!!」

これからじゃん!? 会って数分で何がアウトだっての!!

加奈子「いや。 同棲してんだから、わざわざ待ち合わせしている意味が分からないっつー話」

桐乃「そ、それは……そっちの方が、盛り上がるし」

加奈子「ハァ? んなメンドくせーことしてどうすんのぉ?」

309: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:17:04.14 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「……別に良いじゃん! あ、あやせはどう思う?」

あやせ「え? 私は別に……そのくらいなら良いと思うけど」

桐乃「ほらぁ! そのくらいなら良いって! 加奈子聞いてたぁ?」

加奈子「裏切るってのかよ、あやせ! ……ったく。 あやせは本当に桐乃には甘いよなー。 ま、どーでも良いけど」

加奈子「じゃ別にその事に関してはいーや。 桐乃、話続けてくれよ」

桐乃「ふん。 だから普通だってゆってんのに」

中途半端なところで区切られた話を続ける。 まだまだ1/10も語れてないしね。

310: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:17:37.54 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「ねね。 今日はどこいく?」

京介「ん? 今日はお前が服を見たいって言うから来てるんだけど……」

桐乃「……はぁ。 そうじゃないって。 可愛い彼女がどこに行くかって聞いているんだから、どこに行きたいか察してってことでしょ?」

京介「お、おう……悪いな」

桐乃「良いよ。 で、どこ行く?」

京介「……えっと。 お前ってどこ行きたいの?」

311: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:18:13.36 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「なんでそうなるッ!? 今さっきゆったばっかじゃん!!」

京介「いや。 まずお前がどの店に行きたかったのか知らないし」

桐乃「チッ……ま、良いや。 ほら、付いて来て」

そう言い、あたしは京介の手を掴み、目的地まで連れて行くことにした。 ったく、たまには格好良く居て欲しいのに。

……今のままでも充分だケド。

312: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:18:42.80 ID:Lp7w0Gy60
加奈子「アウトアウト」

桐乃「だからなにがよっ! どこにもアウトになるところなんて無かったんですケドぉ!」

あやせ「……わたしもそう思うよ? 加奈子。 付き合ってはいるんだから、別に普通じゃないかな?」

桐乃「ほらぁ! ほらぁ!」

加奈子「まぁ、あやせはその場面見てなかったからよー。 仕方ねえかもだけど」

加奈子「加奈子が見てたっての、その場面なんだよなぁ」

313: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:19:21.11 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「そ、そうだったの? でも別に見てたとしても、あたしたちはおかしくなかったっしょ?」

加奈子「……桐乃、マジで言ってんの?」

加奈子が心配そうな眼差しをあたしに向ける。 なんなの? 本当にヘンなところなんて無いはずなんだケド。

あやせ「か、加奈子。 どういうこと?」

加奈子「こいつらさぁ。 このくっそ暑い中べったべったくっついてるんだぜ? しかも手を繋いだってふつーに言ってたけど、恋人繋ぎだったからな。 で、腕まで組んでたし」

314: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:19:47.54 ID:Lp7w0Gy60
あやせ「……本当に?」

加奈子「あたしが見間違える訳ねーって。 マジだよ、マジ」

桐乃「……そうだケド。 それが?」

加奈子「ハァ!? お前らこのセミも死ぬような気温の中、あんだけくっついて気持ちわるくねえの!?」

桐乃「べ、別に……? 付き合ってるんだし」

桐乃「あやせも、問題無いと思うでしょ?」

あやせ「……ごめん桐乃。 アウト」

315: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:20:18.10 ID:Lp7w0Gy60
あやせまで!? なんでなんで、どうして!?

あやせ「だって、今まで桐乃が「あいつと手繋いだ」って言ってたのが全部そうなんでしょ? それはちょっと……」

桐乃「あーもう! 付き合ってるんだから良いの! はい終わり! 次話すよ!?」

加奈子「……大分吹っ切れてるな、桐乃」

あやせ「あ、あはは」

316: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:20:50.06 ID:Lp7w0Gy60
京介「欲しい服、あったか?」

桐乃「うん。 ばっちし! 来て良かったぁ」

京介「そか。 なら俺も良かったぜ」

京介は言い、あたしに笑顔を向ける。 本当に楽しめていたかな、と思っていたケド……大丈夫だったらしい。

それがまた、来て良かったと思える。

317: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:21:28.43 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「んじゃ、次はどーする? まだ時間あるケド」

京介「そうだなぁ。 どっか、飯でも食っていくか? 腹減ったし、前に渋谷の方で美味しい店があるとか、言ってたろ?」

桐乃「さすが! 良く覚えてたじゃん。 ひひ」

やればできる! やっぱあたしの彼氏はこうでなきゃね。 いや、京介以外はあり得ないケド。

で、京介と手を繋ぎながら道案内。 向かう先は、喫茶店。

318: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:21:54.30 ID:Lp7w0Gy60
京介「へえ。 やっぱ桐乃が選ぶ店ってお洒落なところばっかだよな」

席に付き、辺りを見回しながら京介は言う。 嬉しそうな顔を見ると、あたしも連れて来た甲斐があるよね。

桐乃「でしょ? もっと褒めてもいいよ?」

京介「……別にそれは良いけど、俺が言うとお前いっつも、しばらくはだらけるじゃん」

桐乃「う、うっさい! あんたのは言いすぎなの! 突然言うし……」

京介「へいへい……すいませんでした」

319: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:22:29.21 ID:Lp7w0Gy60
だってさぁ、京介の褒め方ってマジでヤバイって。

真顔でヘンなこと言うし……お前って本当に綺麗だよな、とか。 死んじゃうから。

桐乃「……そだ。 今度のお祭り、浴衣着ていくから」

京介「どした? 急に。 和服って趣味じゃないって言ってなかったっけ」

桐乃「気分だし。 別にあたしがなに着てもいいっしょ?」

京介「まぁ、それはそうだけど……」

320: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:22:55.29 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「……京介が見たいって前にゆってたから、着ようかなって思っただけ」

京介「……げふっ!」

京介「お、お前! そういうの急にすんのやめろ! 危うく死ぬところだったぞ!」

桐乃「ひひ。 さっきの仕返し~。 でも嘘じゃないんだからよくない?」

京介「お前なぁ……」

京介「……よし」

321: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:23:42.32 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「んー?」

アイスティーを飲みながら、顔付きがちょっとだけ格好良いようにも見えなくも無い京介を眺める。 そして、京介はゆっくりと口を開いた。

京介「ま、そういう部分も好きだけどな。 お前の」

桐乃「ぐはっ……!」

今のはヤバイ! さっきまでヘラヘラ笑ってたあたしがメチャクチャ恥ずかしくなってきた! からかったのにそれを褒めるとかヤバイって!

322: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:24:10.55 ID:Lp7w0Gy60
加奈子「ハイハイハイハイハイ」

桐乃「な、なによ……?」

加奈子「まず、場所確認な。 お前らどこでその会話したの?」

桐乃「どこって……喫茶店だケド」

加奈子「だってよー、あやせ」

あやせ「あ、あはははは」

あやせ、顔が笑ってないよ。

323: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:24:38.97 ID:Lp7w0Gy60
加奈子「もう、バカップルってことでいい? めんどくせ」

桐乃「だ、か、ら! ふつーだってゆってんの!! むしろこれから……」

加奈子「これから? これから、なに?」

桐乃「これから……もっと仲良くなれると良いなって、思うし」

あやせ「ごほッごほッ!」

飲んでいた麦茶で咽てしまったようで、苦しそうにするあやせ。

324: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:25:22.51 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「だ、だいじょぶ?」

加奈子「なぁ、あやせ。 もうこいつら手に負えないって」

あやせ「う、うう……まだ、まだ桐乃は大丈夫だと思う」

加奈子「……いやぜってー無理だろ」

そんな言い方をされると……なんかちょっとムカつくんですケド。

325: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:25:52.01 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「もう! なにがそんなおかしいの!? 別に良くない!?」

あやせ「き、桐乃……」

桐乃「あたしがどうしようと別に良いでしょ!? あやせや加奈子に関係ある!? これからそういう話は二人にしないってことで、良いでしょ?」

加奈子「あー……。 違うんだよ、桐乃」

あやせ「……うん。 ごめんね」

326: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:26:20.14 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「……なにが?」

あやせ「実は、ちょっとだけからかおうって面が強かったの。 私や加奈子も本気で嫌がってる訳じゃないよ。 桐乃、お兄さんのお話するとき、すごく幸せそうだし」

桐乃「そ、そんなことないし……」

加奈子「けどよぉ。 桐乃」

加奈子「京介ってぇ、絶対浮気するぜ? あやせとかあたしとか、この前居た……野良猫だっけ? とか」

327: ◆IWJezsAOw6 2013/07/19(金) 13:26:47.99 ID:Lp7w0Gy60
桐乃「そんなことないもんっ! 絶対に無い!!」

加奈子「ふうん。 じゃあさ、試してみようぜ?」

桐乃「た、試す?」

加奈子「そ。 ま、あたしに任せとけ!」

なんだかすっごく不安なんだけど……大丈夫かな。


ガールズトーク 前編 終

358: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:04:46.63 ID:J75+2acv0
あやせ「ごめんね……桐乃。 こんなことになっちゃって」

横であたしと同じ様に隠れているあやせが、そう話し掛けて来た。

桐乃「いいよ、別に。 気にして無いから」

あやせ「……うん」

あたしとあやせは今、公園内の茂みに身を潜めている。 こうなったのも加奈子が「試してみよう」とか言うから。

京介を疑ってるワケじゃない……だけど、京介があたしが居ないところだとどんな話をしているのかってのには、少しだけ興味があった。

359: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:05:14.63 ID:J75+2acv0
加奈子「おっせーぞ! 京介!」

ベンチに座っていた加奈子が、声を出した。 京介が来たんだろう。

京介「わりいわりい。 で、何の用事だよ?」

京介からは先ほどメールが来ている。 加奈子と会うけど良いかって。 あたしはそんなのは構わないんだけど、真面目だよね。 それにちゃんと言ってくれるのは……やっぱり嬉しい。

加奈子「京介、あたしと付き合えよ」

ちょ、直球すぎ!? そんなんじゃ京介がオッケーするワケないじゃん! むしろオッケーしたらすぐに殺す! あやせと一緒に!

360: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:05:42.01 ID:J75+2acv0
京介「はぁ? なに言ってんの、お前」

京介「あー、もしかして……また仕事関係か? 俺、もうあれはやってねえんだけど」

加奈子「は~。 ま、良いや。 じゃあ、あたしとデートしてくれない?」

京介「お前今日どうしたの……? 頭でも打ったか?」

加奈子「ひっど! 折角あたしが誘ってるのにそれは酷くね!?」

京介「はは。 悪かったな。 んで、何の企みだよ、それは」

361: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:06:11.97 ID:J75+2acv0
加奈子「なんも企んでないっつーの。 だからデートしてくれよ~」

京介「んー。 悪いけど無理だ。 軽く話すくらいなら良いけどよ」

加奈子「桐乃が嫌だって言うからだろぉ? ばれなきゃいいべ」

京介「ばれたら俺が死ぬじゃねえかよ……つうか、それ以前にあいつが嫌な気分になることを俺はしたくない」

加奈子「ふーん。 加奈子のこと嫌い?」

362: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:06:42.34 ID:J75+2acv0
加奈子「知ってる知ってる。 で、こんな風に軽く話すくらいなら良いってことだよな?」

京介「ま、このくらいならな……」

い、良いんだ。 このくらいなら。 別にあたしもイヤってワケじゃないから良いケド……。

そ、そうそう。 京介のことは信用してるし? そりゃ、京介だって友達とは話したいだろうし?

なによりあたしって京介と一緒に暮らしちゃってるし!! だからあたしが他の女に負けるわけがない!

363: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:07:20.50 ID:J75+2acv0
加奈子「うっし。 じゃあとりあえず、なんか飲み物買って来いよー。 京介のオゴリで」

京介「お前は本当に可愛くねえな……いきなり呼び出しておいて、飲み物買って来いって桐乃並だぞ」

加奈子「桐乃よりはかわいーだろ? ははは」

あやせ「……チッ」

あ、あやせ? なんか凄く怖い顔してるけど……。 加奈子、明日無事でいられるのかな。

あやせはそのままの顔でカチカチと携帯をいじり、あたしの方に顔を向けた。 ちなみにもう、笑顔。

364: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:07:47.74 ID:J75+2acv0
あやせ「桐乃。 もう大丈夫だから」

だ、大丈夫って……なにが? ちょっと怖いんですケド。

京介「おーう。 買ってきたやったぞ。 感謝しろよ」

加奈子「あ、お、おう……」

京介「どした? 携帯見て青ざめてるけど」

加奈子「な、なななんでもねーっつーの! 大丈夫!」

365: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:08:18.27 ID:J75+2acv0
京介「挙動不審すぎるだろ……大丈夫なら良いが」

加奈子「……桐乃の方が可愛いな、間違いねえ!」

京介「……マジでお前どうしたの? 今日なんかおかしくね?」

加奈子「んなことねーって! で、そう思うだろ?」

京介「ん? あー、桐乃の話か」

京介「そりゃまあそうだろ! 俺の彼女だし俺の妹だぜ? 可愛くないわけがねえよ!!」

366: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:08:44.35 ID:J75+2acv0
……そんな大声で言うなっつーの。 ばーか。

加奈子「……テンションの上がりっぷりがキメエ」

京介「ははは。 いやあ、だってさ。 桐乃の話が出来る奴ってすげー少ないからなぁ」

加奈子「それは仕方ねーだろ? 世間一般じゃ受け入れられないんだからよ」

京介「まあな。 でも、やっぱこうして話せる奴がいるっての幸せなことだよ」

加奈子「へえ。 あたしは桐乃に惚気話ばっかされてイヤになってるけどな?」

367: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:09:17.42 ID:J75+2acv0
京介「お、おう……それは悪い」

加奈子「っつうわけで、そんな桐乃なんかよりあたしと付き合おうぜー。 京介」

何かが軋む音が横で聞こえた。 音の方を見ると、あやせが携帯を握り締めている。

桐乃「……あ、あやせ?」

あやせ「……うん。 あやせ。 大丈夫。 大丈夫だよ、桐乃」

いや絶対大丈夫じゃないっしょ!? 止めないと今すぐにでも、加奈子の命が危ないかもしれない! ついでに京介の命も!

368: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:09:44.69 ID:J75+2acv0
と、そんな風に思ったとき声が聞こえた。

京介「加奈子、今のは取り消してくれないか」

声色からすぐに分かる。 京介、怒ってる。

京介「俺のことは別になんて言ってもいいけど、桐乃のことを悪くは言わないでくれ。 俺が、誰よりも好きな奴だから」

加奈子「……はいはい。 分かった分かった。 取り消してやんよ」

369: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:10:10.91 ID:J75+2acv0
加奈子「じゃあさ、もしも加奈子と桐乃のどっちかしか助けられないってなったら、どーする?」

京介「……嘘は言わない方が良いよな。 俺は、桐乃を助けるよ」

加奈子「そっか、そうだよなぁ。 そー言うと思った」

加奈子「うっし。 んじゃあ今日の話し合いは終わりってことで! またな~」

京介「突然すぎるだろ……ごめんな、加奈子」

加奈子「謝って済むかっつーの! あたしだから許してやるけどぉ」

京介「ありがとよ。 これからも、桐乃と仲良くしてくれよ」

加奈子「ったりめーじゃん!」

370: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:10:39.34 ID:J75+2acv0
桐乃「ほらほらほらほらぁ!! だーかーらーゆったじゃん!?」

加奈子「うっぜ……桐乃うぜー」

現在は喫茶店。 あたしと、加奈子と、あやせで。

桐乃「京介が浮気するワケないじゃーん! えへへへへ」

あやせ「うんうん。 もし加奈子程度の女の子になびいてたら、今頃お兄さんは息してないよね」

加奈子「自然に加奈子程度とか言うのやめてくんね? ねえ、あやせ」

371: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:11:09.17 ID:J75+2acv0
桐乃「京介はぁ……あたしのことがぁ……誰よりも好きなんだってぇ~~~。 聞いたっしょ? ん~?」

加奈子「はいはい……聞いた聞いた」

桐乃「んでぇ。 加奈子とあたしだったらあたしを助けるんだってぇ~~~。 即答だったよ? そ、く、と、う! 考えるってゆーより、条件反射だったよねぇ~。 どんな条件だったんだろうね? 気になる? 気になる?」

加奈子「どうでもいいっつうの! んなもん知りたくねーよ!」

桐乃「え~? それはぁ……あたしのことが好きだから、かなっ! ひひ」

加奈子「だー! うっぜええ! 桐乃とこれからも仲良くしろとかマジ無理だろ!?」

372: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:11:35.64 ID:J75+2acv0
桐乃「あははははは! あいつあたしに惚れすぎっしょ~。 マジ、チョーキモイって~!」

キモイキモイ! えへへへ。

あやせ「桐乃、桐乃」

桐乃「ん? ああ、あやせ。 どしたの?」

あやせ「それくらいにしておかないと、加奈子が死んじゃうから……」

桐乃「あ、あー。 えへへ」

桐乃「……うん。 分かった……ふひ」

373: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:12:11.04 ID:J75+2acv0
京介「ただいまぁ」

加奈子との良く分からない話を終えて、帰宅。

何故か途中で黒猫が家に来いと言って、桐乃に断りを入れてから言ったのだが、家の前に着いた途端やっぱり良いとか酷い仕打ちを受けているので、若干だがテンションは下がり気味。

無駄な労力を使ってしまったからな。 急に加奈子に呼び出されたり、黒猫からいじめを受けたり、今日は一体なんだってんだ……。

そんなことを考えながら、部屋の中に入る。

374: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:12:41.29 ID:J75+2acv0
桐乃は今日、学校が終わったら家に居るとは言っていたので、それを考えると若干だがテンションは上がってきた気がするぜ。 へへ。

桐乃「おかえりっ!」

桐乃は珍しく、玄関に姿を見せる。 こういう時は決まって機嫌が良いときである。 何か良い事でもあったのだろう。

桐乃「えへへ。 カバン持つよ?」

そう言い、桐乃は俺が手に持っていたカバンを持ち、運んでいく。

……なんか機嫌良すぎじゃね? どんだけ良い事あったんだよ、こいつ。

375: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:13:09.66 ID:J75+2acv0
京介「お、おう……サンキュー」

いつもと違う様子に若干戸惑いながら、俺は桐乃の後に付いていく。

居間に入ると、桐乃はカバンを置き、膝を抱えて床に座る込んだ。

京介「あー、レポートでもやるかな……」

桐乃「そう? ひひ。 じゃあ、あたしは静かにしてるね……ふひ」

……まあいい! とにかく気にしないでおこう!

376: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:13:36.75 ID:J75+2acv0
そう思い、レポートに取り組む事にしたのだが。

時折、桐乃の方から「ふひひ」とか「あは」とか、そんな笑い声が延々と聞こえて来る。 ぶっちゃけ気味が悪いぞ。

しかも、横目でちらっと見たら、すっげー笑顔。 どうしたんすか、マジで怖いんですけど。

どれだけ良い事があったらこんな上機嫌になるんだろうな……つうか、もう上機嫌を通り越して少し頭が悪い人になりつつあるが。

ちょっと試してみるか……? 普段だったら断られるようなことを頼んでみるとか……?

377: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:14:03.21 ID:J75+2acv0
京介「……喉渇いたな」

桐乃「あたしなにか作ろうか!?」

言った瞬間、桐乃が手をパンッと叩き、立ち上がる。 す、すげえ反応速度だ。 驚いた。

京介「お……う? じゃ、じゃあ頼む……あ、頼みます」

桐乃「おっけ! えーっと、コーヒーのがいい?」

京介「いや……何でも良いよ? 桐乃が作ってくれるなら、何でも嬉しいし」

378: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:14:29.37 ID:J75+2acv0
桐乃「そ、そう? ひひ。 じゃあすぐに作ってくるねっ!」

桐乃は俺の方を向くと、一度にっこりと笑い、台所へと消えて行く。

……なんかおかしいぞ!? 普段の桐乃だったら、そうだな。

「はぁ? チッ……仕方ないなぁ。 どーしてもってゆーなら、別にいーケド」とか「ほら、しっかり感謝しなさいよ?」とか言いそうだぜ? なのに、今は二つ返事でOKと来た物だ。 何があったのだろうか……?

まさか、また酒を飲んだとか? いや、そうだとしても妙なんだよな……あの時は甘えてたって感じだったけど、今回は機嫌が良いって感じだし。

それに、あの時よりもなんだか自然な感じなんだよな……。

379: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:14:59.90 ID:J75+2acv0
桐乃「お待たせっ。 はい、どーぞ」

言いながら、桐乃は俺のところにカップを一つ置く。

……やっぱり変だわ! も、もしかしてこれは夢……とか?

それにしては妙にリアルだよな。 ううむ。

桐乃「な、なに? あたしの顔に何か付いてる?」

380: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:15:28.82 ID:J75+2acv0
京介「なあ、ちょっとこっち来てくれ」

桐乃「へ? う、うん」

手招きすると、桐乃は少し戸惑った様子を見せながらも、それに従う。

桐乃「……えっと、なに?」

すぐ隣に桐乃は座ると、首を傾げながら俺に聞いてきた。 見た感じ、普通だよな……。

京介「ちょっとごめんな」

言い、俺は桐乃の額に手を当てる。

381: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:15:54.66 ID:J75+2acv0
……熱は無いか。 どうやら原因はそれでは無いらしい。

ってなると、他に考えられる可能性は。

桐乃「……はふん」

俺がそのままの姿勢で思考していたところ、桐乃はそんな声を漏らし、床に寝転ぶ。

京介「お、おい? 大丈夫か?」

382: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:16:21.31 ID:J75+2acv0
桐乃「えへへ」

……すげえ嬉しそうだな。 足をばたばたしながら、床を手で叩いている。 なんだかこうして見ていると意地悪をしたくなってくるが……ここは我慢だ! まずは桐乃を元に戻さねえと!

京介「桐乃、聞きたいことがあるんだけど……」

桐乃「は、はい! なに!?」

一瞬でそこに座る桐乃。

……面白いな、こいつ。

383: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:16:50.93 ID:J75+2acv0
京介「……えーっと。 なんか良い事でもあったのか?」

桐乃「あった! チョーあった!」

お、おおう……やっぱりか。

京介「へえ。 どんなことがあったの?」

桐乃「それは……」

桐乃「ひ、秘密……じゃ、ダメ?」

384: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:17:16.27 ID:J75+2acv0
言いたくて仕方なさそうな顔だけど……それでも、言えないことって訳か。

なら俺が取るべき行動は。

京介「いや、良いよ。 お前が言いたく無いなら、無理には聞かねーよ」

桐乃「そうゆーワケじゃ無いケド……ごめんね」

京介「良いって。 気にすんなよ」

桐乃「えへへ。 うんっ」

385: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:17:50.79 ID:J75+2acv0
可愛すぎる! ちょっと待てよ、落ち着け京介。

これはヤバイ! 今まで必死に我慢してたがこの桐乃は可愛すぎる! いつもとのギャップが堪らねえんだけど!

だ、抱き締めてやりたいが……今してしまったら、自分を抑えられなくなる可能性がある……。 ここが、ここが最後の防衛線ってことか。 ちくしょう!

なんていうか、あれだな。 好きとはまた違った感情だな。 勿論、桐乃のことは大好きだけど、それとはまた違った感情。

なんだ、守ってやりたいみたいな、そんな感じ。 桐乃さん天使すぎんだろ!?

俺はそんな葛藤を延々としながら、その日を過ごすのだった。

386: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:18:17.48 ID:J75+2acv0
……ちなみに次の日。

一晩明けた次の日のことだ。

俺は昨日のこともあり、朝飯を食べ終わった後にこう言ってみた。

京介「桐乃、コーヒー淹れてくれよ」

と。

したら桐乃はこう返した。

387: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:18:52.91 ID:J75+2acv0
桐乃「はぁ? なんであたしが淹れなきゃいけないの。 自分で淹れろっつーの」

まあ、そう言いながらも台所へ行ってくれるのでありがたいっちゃありがたいんだが、一日で元に戻りやがったな。

京介「……昨日のは何だったのかね」

一人呟き、次は桐乃に向けて言う。

京介「桐乃ー。 結局昨日のって何だったの?」

388: ◆IWJezsAOw6 2013/07/20(土) 13:19:18.44 ID:J75+2acv0
それを聞いた桐乃は台所から顔を出し、答える。

桐乃「やだ。 教えない。 聞かないってゆったじゃん?」

京介「……へいへい。 分かりましたよ」

桐乃「ふん……ふひひ」

……まだ少しだけ、続いている様だった。


ガールズトーク 後編 終

408: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:06:52.00 ID:O8T45POS0
桐乃「へへ。 どう?」

京介「なんつうか……ほんと、すげえ似合ってるな」

目の前にはピンク色の浴衣を着た桐乃。 可愛らしく笑い、俺に浴衣を見せている。

8月15日。 今日は、二人で祭りに行く事になっていた。

日は沈み始め、時刻は18時。 夏だけにまだ明るいが、もう少し時間が経てば花火も綺麗に見える程に暗くはなるだろう。

409: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:08:13.67 ID:O8T45POS0
桐乃「当ったり前じゃん? モデル舐めんな!」

京介「へいへい。 んじゃ、行こうぜ。 桐乃」

桐乃に向けて、手を指し伸ばす。 その手をしっかりと桐乃は掴み、俺と桐乃は祭りへと向かう。

桐乃の手は暖かく、俺の気持ちも心なしか穏やかになるのを感じた。

410: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:30:05.78 ID:O8T45POS0
京介「うお。 結構人居るんだな」

まるで初詣みたいだ。 なんて呑気なことを思いつつ、隣に居る桐乃へと話し掛ける。

桐乃「ここら辺じゃ一番大きいお祭りだしね。 迷子にならないでよ?」

京介「どっちがだよ。 小さい時はすーぐ迷子になってやがったのに」

桐乃「ふん。 今は京介の方が心配だっての。 あんたって頼り無いし~?」

京介「……そうかいそうかい。 悪かったな」

411: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:30:46.04 ID:O8T45POS0
桐乃「だから、手離さないでね」

京介「……おう」

んだよ。 なんだかんだ言いつつそういうことね。 まあ、言われなくても離す訳がねえけどよ。

京介「じゃ、どっから行く? 桐乃が行きたいところからで----------」

あ、やべえ。

あやせ「こんばんは。 お兄さん」

桐乃の後ろに、あやせが居た。

412: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:31:13.83 ID:O8T45POS0
桐乃「お。 あやせじゃん」

京介「お、おま! なんで桐乃にストーカーしてんだよ!?」

あやせ「桐乃、偶然だね……って、な、なっ!? そんな訳無いじゃないですか!! 私がたまたまお祭りに居るのがそんなに変ですか!? ぶち殺しますよ!?」

あやせ「私はただ、友達と一緒にお祭りに来ているだけですっ!! それでお兄さんと桐乃を見かけたから声を掛けただけです!」

京介「あ、あー。 そういうことか。 なるほどね」

びびったびびった。 てっきり俺と桐乃が仲良く歩いているからストーカーしてんのかと思ったぜ。 全く紛らわしい真似をする女だぜ。

413: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:31:43.79 ID:O8T45POS0
あやせ「何か、失礼なことを考えてませんか?」

京介「へ? いや、全然」

あやせ「どうにも嘘っぽいですね……」

京介「全然嘘じゃねえよ。 大真面目だって。 ほら、俺の顔を見てみろ。 どう見たって嘘なんか付いてる顔じゃねえだろ?」

そう言いながら、あやせの顔を見る。

と、横腹に衝撃。

桐乃「……なにあやせのことじっと見てんの?」

414: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:32:10.45 ID:O8T45POS0
京介「お、おう……悪い」

桐乃が怒った原因は、そういうことだろう。 そんなのはもう、考える余地すらない。

あやせ「あはは。 じゃあ、邪魔者は失礼しますね。 またね、桐乃」

そう言い、あやせは俺と桐乃に手を振りながら人込みの中へと消えて行く。

昔だったら俺と桐乃が手を繋いでるだけで、多分ぶん殴られたんだろうが……。 あいつも、色々と考えているんだろうな。 つっても結局俺は桐乃に殴られている訳で。

桐乃「……ちょっとびっくりしたね」

415: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:32:52.02 ID:O8T45POS0
京介「ああ、まあな。 てか、友達と来てるって言ってたけど」

桐乃「ん? それがどしたの?」

京介「……俺の事を兄貴だと知ってるのは、少ないからいいけどさ。 お前が男と歩いてるのって、見られたらマズくね?」

桐乃「んー。 えーっと、なんで?」

京介「いや、だってお前って学校じゃかなりの人気者なんだろ? 中学でもそうだったけどさ。 で、そんなお前が男と歩いてたらマズイんじゃねえの?」

桐乃「べっつにー。 あたしに彼氏が居ようが居まいが、あたしの勝手っしょ。 周りのヤツになんてゆわれても、気にしないし。 あたしは京介と一緒に居られればいいから」

……そうかい。 そりゃ、ありがたいお言葉だぜ。 桐乃。

416: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:33:20.91 ID:O8T45POS0
桐乃「てゆーか、もっと堂々としてろっての。 なんなら腕組んじゃう? ひひ」

おうおう。 こいつはどうせ、知り合いに見られるから俺がそんなことはしねーと思っているんだろうよ。 だったら良いぜ……。

京介「ああ、そうだな。 そうするか」

言い、俺は桐乃の体を寄せて、腕を組む。

桐乃「へっ? ちょ、ちょっと……」

京介「ん? もしかしてお前、恥ずかしがってんの?」

桐乃「は、ハァ!? なワケないでしょ! 余裕だっつの。 ばーか」

417: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:33:52.04 ID:O8T45POS0
京介「の割りには顔赤いけど」

桐乃「あ、暑いからっ! あんたがべたべたするからでしょ! ったく」

地面をダンダンと音を鳴らしながら踏み、桐乃はそう俺に訴える。 ついでに、空いている右手で俺の体をポカポカと叩きながら。

京介「ふ~ん。 ま良いや。 そういうことにしておいてやるよ。 でも暑いのかぁ。 なら離れるか?」

俺は言いながら、組んでいた腕を解く。 すると桐乃は小さく「あ」と言い、どこか寂しそうな顔をしていた。

……ああ、ちくしょう。 本当ならもう少しいじって遊びたいんだが、そんな顔をされてしまっては、俺にはどうにもこれ以上は無理だ。

418: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:34:17.40 ID:O8T45POS0
京介「うっし。 んじゃあ気を取り直して……最初、どこ行く? 適当に歩くか?」

桐乃「うーん。 あんま歩くと、足痛いから……やっぱり普通に靴履いてくればよかったかな」

桐乃の足元をみると、夏らしく、祭りらしく下駄を履いている。 まぁ、確かに長距離歩くのには辛いよな。 それだと。

京介「もしあれだったらおぶってやろうか? はは」

桐乃「ばーか。 ま、適当にまわろっか」

京介「りょーかい」

419: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:34:52.98 ID:O8T45POS0
とりあえず、ゆっくり回る事になった俺たちは屋台の間を歩く。 結構大きな祭りなので、出店の数は中々の物。

桐乃「あ、あれ!!」

桐乃が指差す先には射的。 ええっと、なに。 そんな珍しいか?

桐乃「ちょっと京介! あれ取ってよ!」

……ああ、そういうことか。

景品としてメルルのフィギア。 見た所普通のフィギアだけど、そんな欲しいのか? こいつ。

420: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:35:19.75 ID:O8T45POS0
桐乃「結構前のイベント限定だったヤツ! あ、あれすっごい価値あるのに……こんなところにあるなんて」

京介「……ふうん。 いや、でもなんで俺にやらせようとしてんだ」

桐乃「ハァ? 可愛い彼女が可愛く頼んでるのに断るワケ? ありえないんですケドぉ」

……いや、可愛い彼女ってのは別に否定しないけど、可愛く頼んではいないだろ。 メルルの所為で緩んだ顔が若干こええぞ。

京介「人生そう上手くはいかねーんだよ。 まずは自分でやってみろよ」

桐乃「チッ……まぁ良いや。 取れればどうでもいいし」

421: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:35:48.83 ID:O8T45POS0
で、射的開始。

桐乃「……」

黙りこくって黙々と銃を撃つ桐乃。 ちなみに、既に使った金は2000円程成り。

京介「……おーい」

桐乃「ちょっと黙ってて」

京介「……すいません」

つうか、こいつ下手すぎだろ!? 全然かすりもしてねーじゃん! んで、そのメルルのフィギアってのも結構な大きさだし、当たったとしてもあれじゃあ落ちないよな。

まー、とは言っても俺とて別段上手いって訳じゃねえし、任されたとしても、取れる自信は無いけどさ。

422: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:36:14.85 ID:O8T45POS0
桐乃「あーもう!! 京介パス!」

言い、俺に銃を手渡す桐乃。 結局そうなるのね。

こいつ、あれだな。 自分が下手なの分かってて、俺にやらせようとしてたんだな。 素直にそう言えば良いのに。 まぁ、そこが可愛くもあるんだが。

京介「取れなくてもキレるんじゃねえぞ……?」

桐乃「あたしはそんな理不尽なことで怒らないって。 良く分かってるでしょ?」

何言ってんだこいつ。 ありえないんですケドぉ。

数秒間、桐乃の言葉を理解するのに時間が掛かっちまったぞ。

423: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:36:42.79 ID:O8T45POS0
京介「はは」

返事代わりに苦笑いをして、金を払い、銃を構える。

……チャレンジしようとして分かったけどさ。 これ普通にやっても無理じゃね? どう考えたってこの弱っちい鉄砲であの箱に入ったフィギアを落とせる気がしねえんだけど。

無理ゲー無理ゲー。 思いながら桐乃の方に視線を向けると、なんだかすごい目付きをしていた。

くそ……あいつの考えていることが分かってしまう。 大方、絶対取ってね♪って思っているんだろうよ。

ちなみにフィルターをかけまくっているのでそう見えるが、実際は「取らないと後で分かってるよね?」くらいの事を思っているはずだ。 いや、もっと恐ろしいかもしれん。

424: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:37:10.43 ID:O8T45POS0
桐乃が2000円ちょっとで、俺が1000円ちょっとか。 そんくらいの金を射的に使ったが、手元には何も残らなかったと。

……よし、気を取り直して別の場所行くかぁ。

桐乃「どこ行くの? まだ終わってないっしょ」

……はぁ、いつまで続ければ良いんだよ!!

「あなたたち、何してるの?」

もう祭りに来たというより、射的をしに来た感じになりつつある俺たちに、声が掛かる。 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには黒猫が居た。

425: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:37:36.22 ID:O8T45POS0
黒猫「なんだか騒がしいと思って見てみれば……射的、かしら?」

京介「おお! 黒猫じゃねえか! 一人で来てるのか?」

桐乃「ぷ。 お祭りに一人で来るとかどんだけ寂しいの~? かわいそ」

開口一番に酷い事を言う桐乃。 お前は本当に容赦ねえな。

黒猫「……なんでわたしはお祭りに一人で来るキャラになっているのよ。 家族と一緒よ」

426: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:38:03.54 ID:O8T45POS0
桐乃「え!? マジで!? ってことはひなちゃんもたまちゃんも来てるってことだよね!? どこどこ!!」

黒猫「今は待たせてあるけど……場所は教えないわ。 あなたの目が怖いから」

黒猫「それと、あなたもあなたよ」

そう言うと、俺の事を指差す黒猫。 俺、なんか変なことしたっけか?

黒猫「最初の台詞、友達と来てるのか? とか、家族で来てるのか? じゃなくて、一人で来てるのか? ってね。 酷い人だわ」

あ、あー。 そういやそうだったな。 あはは。

427: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:38:56.18 ID:O8T45POS0
黒猫「……まぁ、良いわ。 それよりあなたたちは何が楽しくてずっと射的をしているの?」

京介「あぁ、それだけどな……」

と、俺が説明しようとしたところで、桐乃が横から口を挟む。

桐乃「なんかさ~。 京介がどーしても欲しい物があるってゆっちゃってぇ~。 仕方なく付き合ってあげてんの」

なんでそこで嘘ついてんのっ!? つうか、俺の所為にするんじゃねえよ!

428: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:39:22.56 ID:O8T45POS0
黒猫「なるほど。 で、どれが欲しいのよ。 桐乃」

まぁ、そんな嘘に騙される黒猫では無いからいいけど。

桐乃「ん? あたし? あたしはぁ。 あのフィギア! チョー可愛いっしょ? あれ」

黒猫「……くだらないフィギアね。 百円の価値も無いわ」

桐乃「はぁ!? あんたがこの前あたしに見せてきたマスケラのフィギアの方が論外だから! あんなの道端に落ちてるレベルだっつーの!」

黒猫「な、なんですって……ふ、ふふ。 まあ良いわ。 それで、あなたたちはあのゴミにいくらお金を使ったのよ」

確かに俺から見たら何千円の価値も無いとは思うが、ゴミとはな。 ははは。

429: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:39:49.76 ID:O8T45POS0
京介「えーっと。 二人合わせて……三千円くらいか?」

黒猫「……莫迦すぎね。 仕方ない、今からお手本をあなたたちに見せてあげるから、それを参考にして取りなさいな」

そう言い、黒猫は金を払うと、すぐさま銃を構える。

黒猫「……ククク。 闇より出でし銀色の弾丸よ……はっ!!」

見ていてすごく恥ずかしいが、一応参考にしねえとな。

で、俺はその光景をしっかりと見ていたのだが、黒猫が撃った銃は見事に商品に命中。 そして。

430: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:40:15.67 ID:O8T45POS0
メルルのフィギアはしっかりと、下に落ちた。

黒猫「あぁ。 なんということ。 わたしとしたことが……あんなゴミを取ってしまうなんて」

黒猫「ゴミはゴミ箱にやった方が良いわね。 という訳で桐乃、あのゴミを受け取って頂戴な」

桐乃「え? マジで!? 良いの!?」

黒猫「な、なによ……わたしはただ、ゴミを押し付けただけよ」

桐乃「サンキュー! 黒猫!」

黒猫「だ、だから違うと言っているでしょう! 感謝される覚えなんて無いわ!」

431: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:40:43.85 ID:O8T45POS0
桐乃「てか、あんたってめっちゃ射的うまいんだね。 やるじゃん?」

黒猫「あ、あなたね……ふん。 もう良いわ。 好きに言って頂戴」

こいつらマジで仲良いよな。 黒猫とか、明らかにメルルのフィギアを狙ってたし、桐乃も素直に喜んでるし。

黒猫「大体ね。 莫迦みたいに狙っても、落ちる訳が無いでしょう。 少し下から、角度を付けて撃つのよ。 狙う場所は中心よりやや下、そうすれば距離にも寄るけど、大体良い位置に当たってくれるわ」

京介「へえええ。 お前、すっげえな」

黒猫「べ、別にこのくらいは当然よ。 下僕を従えているわたしにとっては……」

432: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:41:09.33 ID:O8T45POS0
げ、下僕……? うーんと、ああ。

妹たちのことか。 なるほどね。 それで黒猫は詳しいってわけね。

見た目は黒猫、中身は白猫って感じだなぁ。

……今のはつまらなかったな。 言わないでおこう。

しっかし、こうもあっさり取られちまうと俺としては少し納得が行かないんだけど……。

433: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:41:35.98 ID:O8T45POS0
桐乃「やっぱ持つべきは友達ってことかなぁ? ねえ、京介」

ほらな? こうなるからだよ。

京介「……へいへい。 すいませんでしたね、情け無い奴で」

桐乃「次はもうちょっと頑張ってよね~。 ひひ」

お前だって人のこと言えねーだろ。 とは言うまい。 売り言葉に買い言葉って訳じゃないが、わざわざ気分を悪くするようなことは、言いたくないしな。

434: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:42:31.16 ID:O8T45POS0
黒猫「ふふ。 それじゃあそろそろわたしは行くわ。 家族が待っているから」

京介「おう。 ありがとな、黒猫」

黒猫「だから、違うと言っているじゃない! あなたたちと来たら……全く」

そんなことを呟きながら、黒猫は去っていった。 家族のところへ。

……意識してあいつも言ったつもりじゃ無いんだろうが、家族……ね。

後悔しているつもりは無い。 また最初から、人生をやり直したいとも思ってはいない。 俺が選んだ、俺の話だから。

だけど、いつかまた、俺たちも……とは、思っちまうよな。

435: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:42:58.78 ID:O8T45POS0
桐乃「どしたの。 ぼーっとして」

京介「ああ……黒猫、家族と来てたんだなって」

桐乃「……ふうん」

京介「……家族って良いよな。 なんて思ってさ」

桐乃「なっ!? あ、あんた子供欲しいワケ!?」

……何言ってんだこいつ!?

436: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:43:24.24 ID:O8T45POS0
京介「馬鹿!! ちげーよ!! どうしてお前はいっつもぶっ飛んだ解釈をするんだよ!?」

桐乃「だ、だってそうじゃん!! あたしのこと●●●目で見てたし!!」

京介「見てねーーーーよ!! お前が勝手に勘違いしているだけだ! 勘違いしないでよね!!」

桐乃「キモッ! あんたのツンデレマジでキモイからっ!」

へ、減らず口叩きやがって……。

いやでも待てよ……? こいつがそう解釈したってことは、それを望んでいる……ってことか? いやぁ、さすがになぁ。 高校生だぜ? 桐乃は。

……そう思っておこう。

437: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 15:44:06.72 ID:O8T45POS0
京介「……ま、まあ次行くか。 いつまでもここでこうしてるのもあれだし」

桐乃「チッ……帰ったら説教だかんね」

なんで俺が説教される側なんだよ。 まあ、桐乃に説教する場合でも、される場合でも、最終的には雑談になるから良いんだけどさ。

京介「へいへい。 んじゃ、行くぞ」


夏の一夜 前編 終

451: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 23:19:33.86 ID:O8T45POS0
今日は4月1日、エイプリルフール。

去年までならどうともなかったこの日だが、今年は例外で、少しだけだが警戒しないといけない日となっている。

というのも、最近になって桐乃は妙に俺に絡んでくるからだ。 それは当然、あの高校の卒業式の後のことが絡んでいるのは言うまでもあるまい。

んで、どうせあいつのことだ。 何かしらの嘘を俺に吐いて高笑いでもしようと企んでいるに違いねえ。 今、この時にでも「家が火事になってる!」と俺の部屋に飛び込んできてもおかしくは無いはず。

……ふむ。 となると、先手を打って俺が先に嘘を吐くか? いや、それだと逆手に取られて妹に酷い嘘を吐く奴のレッテルを貼ってきそうだし。

452: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 23:20:56.72 ID:O8T45POS0
ううむ。

やはりここは、冷静に大人の対応として、素直に騙されておくのも良いのかもしれない。 あいつはそれで喜ぶだろうしな。

とにかく、ここでこうして考えているだけでは何も分かるまい。 一度、様子見も兼ねてリビングに赴いてみることにしよう。

そう思い、俺は自室から出るとリビングへと向かった。

453: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 23:22:03.00 ID:O8T45POS0
桐乃「あやせ? 今日さぁ、丁度空いてるんだケドぉ。 この前ゆってた洋服見に行かない?」

リビングに入ると、いつものポジションで電話をしている桐乃が視界へと入る。 別段、変わった様子は無い。

桐乃「え~? 今日ダメなんだぁ……分かった。 え? 良いよ良いよ、そんな謝ることじゃないし」

しっかし、俺に対する態度とあやせに対する態度のこの差は何なんだろうな。 あんな一件があったにも関わらず、桐乃は相変わらず桐乃だし。

桐乃「うん……うん。 おっけ。 じゃあまた今度ね」

会話が終わったのか、桐乃は電話を切ると俺の方へと顔を向け、ひと言。

454: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 23:22:42.16 ID:O8T45POS0
桐乃「なにじっとみてんの?」

おいおい、今はまだ午前9時だぜ? とりあえず朝の挨拶が先じゃねえのかよ。

とは思いながらも、それを口にすることはしない。 言ったとしても、何かしらの反論が飛んでくるのは間違い無いから。

京介「……別に、なんでもねーよ」

そう答え、俺は冷蔵庫に向かうと麦茶を取り出す。 桐乃はそれ以上何も言う気は無かったのか、テーブルの上に置いてある雑誌へと手を伸ばした。

桐乃「……そーゆえばさぁ」

京介「ん?」

455: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 23:23:12.71 ID:O8T45POS0
視線をこちらに向けることもしない桐乃に対し、俺も視線を桐乃の方へやったのは一瞬で、麦茶をコップに注ぎながら次の言葉を待った。

桐乃「この前貸したゲーム、クリアした?」

……なんか借りてたっけ、俺。

京介「……えっと」

桐乃「チッ……どーせやってないんでしょ。 暇な大学生の癖に」

京介「大学生が全員暇みたいな言い方をするんじゃねえよ……俺だってなぁ」

桐乃「なに? あたしが貸したゲームより優先してやることとかあんの?」

それに限定するとしたら、他のこと全てが優先してやるべきことになるんじゃね? 妹に借りた●●●●を速攻でやり込む兄貴とか、どこを探しても居ないだろうよ。

456: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 23:23:57.10 ID:O8T45POS0
京介「俺も色々忙しいんだよ。 やることだってあるし」

麦茶を注いだコップを片手に、ソファーの空いている部分に座りながら、俺はそう言う。

桐乃「じゃあ質問。 昨日はなにしてたの?」

京介「……家で、ごろごろしてた」

桐乃「一昨日は?」

京介「……部屋で音楽聴きながら漫画読んでた」

桐乃「今日これからの予定は?」

京介「……特に無いっす」

桐乃「ぜんっぜん暇じゃん!! なに偉そうにやることがあるとかゆってんの!?」

457: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 23:24:48.35 ID:O8T45POS0
京介「す、すんません」

いやはや、確かにこれには言い返せないな。 でも、妹に●●●●をやっていないって理由でキレられるこの状況は、ちっとばかし理解しがたいぜ。

桐乃「ったく……ほら」

言いながら、桐乃はテーブルの上を指差す。 俺はつられて視線を移したが……当然ながら、そこには何も無い。

京介「……テーブル、がどうかしたか?」

桐乃「じゃなくて。 あたしが見てあげるからノーパソ持って来いっつってんの。 今日はお母さんもお父さんも家に居ないし」

京介「あ、ああ。 はは、そういうことね……」

桐乃「なに。 ヤダってゆーわけ?」

京介「……滅相もありません」

458: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 23:25:19.86 ID:O8T45POS0
桐乃「だーかーらー! そこの分岐の意味、しっかり考えてよ! 今までのこと考えれば、そっちの選択肢はありえないっしょ!?」

確かにな。 どこでどう間違えたら休日の真昼間っから妹とリビングで●●●●をする展開になるんだろう。 こっちの選択肢はありえなかったぜ。 やれやれ。

桐乃「……ほらあ、バッド直行じゃん。 あんたそれでやる気あんの?」

京介「あると思う?」

桐乃「無いっつったら死刑だから」

マジかよ。 高坂家では●●●●のやる気が無かったら死刑なのか……? いや、高坂家っていうよりは桐乃法って感じか。 独裁政治すぎる。

京介「分かった分かった……やる気はめっちゃある。 これでいいか?」

459: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 23:25:46.28 ID:O8T45POS0
桐乃「チッ……ほら、次いくよ」

カチカチと慣れた操作で桐乃はマウスを動かし、先ほどバッドエンドになってしまったルートの選択肢まで戻る。

京介「ってことは……一番下がバッドエンドだったから、真ん中か」

横で真剣な顔付きの桐乃の顔を伺いながら、俺は独り言のように呟き、真ん中をクリック。

桐乃「だああああかあああらあああああ!!! なんでそうなんのっ!? そんなの選んだらまた同じじゃん!!」

460: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 23:28:56.68 ID:O8T45POS0
京介「クリックする前に言えよ!? そうすればこうはならなかった!!」

桐乃「はぁあああ!? そーしたら意味ないっしょ!! ったく……」

やべえ、なんか泣きたくなってきた。 ●●●●始めてから横に座る妹にもう10回以上は舌打ちされてるぞ……。

なんで俺は、妹に怒られて妹と●●●ことをするゲームを妹に見られながらやっているのだろう。 すげえ羞恥プレイじゃねえか、これ。

で、結局その羞恥プレイはお袋が帰ってくる夕方まで続くのだった。

461: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 23:29:26.97 ID:O8T45POS0
京介「……なんか忘れてるな、俺」

夕飯を食べ終え、風呂にも入り、今は自室。

ベッドの上に寝転び、天井を見つめながら俺は一人呟く。

京介「……ううむ」

時計に目をやると、時刻は23時30分。 大分遅い時間になってきた。

京介「あれ」

ああそうだ! 思い出した! 今日はエイプリルフールじゃねえか!! すっかり忘れてたぜ……。

462: ◆IWJezsAOw6 2013/07/21(日) 23:29:57.69 ID:O8T45POS0
とは言っても、未だに桐乃からは嘘っぽいのは言われてないんだよなぁ。 あいつも忘れてるのかね?

……いや、まだそう決め付けるのは早計だな。 30分も残っているんだ、4月1日は。

京介「桐乃、どこにいんのかな」

行動を起こしてくるとしたら、残り30分の内だろう。 一応まだ警戒は解かない方が良いはずだ。 その為にも、やはり桐乃の姿を捉えておく必要がある。

そう思い、俺はリビングへと向かう。


次回 京介「ただいま」 桐乃「おかえり」 後編