1 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 22:44:01 ID:alBDdRYU
ここは、ある国から闇と言われている。

その国は、選挙と呼ばれるもので一番偉い人間を選び、そして国を運営する人間も一枚の紙で決めていく。

その国は、大国であった。

その国は、比類なき軍事力を有していた。

その国は、王を嫌った。

その国は、わが国を滅ぼした。そう、王が直接支配する国は、国民が傷つけられ、自尊心を失うと。

その国が、わが国に宣言した。

「これは、魔王が支配する闇の国に、新たな秩序を与えるための聖戦である。」 



 

魔王降臨
魔王降臨
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(2019-07-11)
2 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 22:48:58 ID:alBDdRYU
その国の軍事力は、異常なまでに突出していた。

さらに、勇者と呼ばれる英雄を生み出した。

その勇者は、魔物を多く殺した。

彼の歩む道は、死体と血と涙で塗装されていた。




我々には、成す術も無かった。

魔物は、ただただレベルを上げるための道具になった。

虐殺だ!

わが国からのその声は、一蹴された。

魔物は殺される運命にあると。彼らの存在は、我々人間の平和を脅かすものだと。 


3 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 22:51:31 ID:alBDdRYU
平和。

それがわが国に訪れるのには、魔王が死ぬ必要があった。

そして、魔王が殺されたとき、その国のトップに立つ人間が言った。

魔王を排除した。君たちは、魔王から解放された。




平和。

・・・結局、そんなものは無かった。 

4 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 23:00:26 ID:alBDdRYU
一部の魔物たちは、戦争を引き起こした罪とその国の兵士を殺した罪により斬首された。

魔物であった我々は、魔物と称されなくなった。

さぁ、平和になった今こそ、私たちと手を取り合うべきだ!

勇者がそう言った。

よく言う。お前は、私の家族を殺したくせに。

3歳になったばかりの笑顔で可愛い娘と、優しくもしっかり者であった私の妻を、亡骸にしたのはお前だ。

だが、あちこち上がるその声はこう反論された。



あの時は、全然君たちのことが分からなかった。



たった一文だけの声明が、我々の本当の声を掻き消した。 

5 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 23:06:21 ID:alBDdRYU
そんなある日、隣に住む商人が連行された。

罪は騒乱罪であった。

彼は、一時期、その共和国にいたことがある。

種族の違う彼が、その共和国で商いが出来たのは何故か。

それは簡単である。

彼が滞在していたとき、共和国のトップは今とは違う者が務めていたらしい。

その男は、来る者拒まずの精神を国に広めた。

その結果、共和国ではあらゆる種族から人々がやってきたのだった。

だが、それは国民の失業率を上げてしまい、彼は選挙に敗れた。

そして、今、別の男がトップにいる。

彼は、国を守ると称し、一部の種族が共和国に滞在することを禁じた。 


7 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 23:09:05 ID:alBDdRYU
その中に、我々の国の種族も含まれることになった。

それだけであれば、良かった。

しかし、そのことで国民はさらに過激なことを要求した。

彼は、国のトップであり、感情を殺す必要があった。




選挙が無ければ。 

8 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 23:13:52 ID:alBDdRYU
選挙があった彼は、その国民の支持を得るため、他国に対し脅迫まがいなことをするようになった。

それが数年続き、選挙に勝てば、さらに拍車がかかった。

だが、何事も大儀名分は必要である。

はっきり言って何でもいいのだ。

何かあればいい。

こうして、民主主義を掲げない国は滅ぶ運命となった。

選挙をせず、国民の声を聞かない国は滅ぶべし。



その声に反論したい。

わが王は、常に国民のことを考えていたと。 


9 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 23:28:41 ID:alBDdRYU
選挙が行われた。

しかし、不正があったとかなんとかで、4回不成立となった。

5回目にやっと決まった頃、一つの事件が起きた。



商人が獄死したという報告が始まりであった。

誰もが思った。あいつらに殺されたと。

死体は帰ってこなかった。

遺族や仲間は、共和国を非難した。

その非難の声が大きくなると、彼らは捕まっていった。

彼らも帰ってこなかった。 

10 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 23:32:06 ID:alBDdRYU
流石に1万人規模の抗議デモが行われると、この事件に共和国は声明を出す必要になった。

その声明がこれである。



彼らは、闇の国の国民の顔をした魔物である。

魔物は、平和を脅かすので、即刻牢につなげる必要がある。ただただ、治安と平和のために行われているだけだ。



これで納得する奴を知りたいものだ。

結局、誰もいなかった。

そして、誰もいなくなっていった。 

11 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 23:34:54 ID:alBDdRYU
ある者は、捕まっていなくなっていった。

ある者は、駐屯軍の目の前で「メガンテ」を唱えた。

ある者は、細々と生活した。

ある者は、反乱を起こした。

つい数年前まであった、この国の豊かさと秩序はこうして奪われていったのだった。 

12 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 23:40:37 ID:alBDdRYU
私は反乱軍のリーダーにおさまった。

何かの縁であったが、急速に拡大していく反乱軍の中で、選挙で選ばれずに力を誇示する形でリーダーになっていた。

その事に、誰も異論を挟まなかった。

民主主義の選挙に、飽き飽きしていた我々としては、力を誇示することでトップを選ぶほうが安堵感があったのだろう。

それに、力はただただ暴力とか戦略とかそういうものではない。器量とか、仲間を思いやることも力の中に入る。

民主主義が正しいのであれば、私は不適格なリーダーなのだろう。

であれば、この反乱は失敗するはずだ。 

13 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 23:43:10 ID:alBDdRYU
反乱は成功した。

元々軍事力が、新政権には欠如していた。

駐屯軍は、勝利と支配者になったことで堕落し、さらに本国の厭戦感情がサポートする形となって、我々の国から退去することになった。

こうして、我々の国は元に・・・





戻ることは出来なかった。 

14 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 23:46:59 ID:alBDdRYU
こうして、第二次の戦争が始まることになった。

1回負けている我々は、ゲリラ戦を中心に戦った。

堕落した軍は、恐怖に支配されることになった。

あるときは、35人の小隊が2000の敵を排除することにも成功した。

あるときは、司令長官なるものを捕虜とした。

あるときは・・・

あるときは・・・

こうして、我々は再び魔物になった。 

15 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 23:52:57 ID:alBDdRYU
今まで本国を戦地にすることがなかった共和国にとって、この戦争は、初めて自分の地で相手の兵士と対決することになった。

捕まえたと思ったら、「メガンテ」で周りを道連れにすることもあった。

我々は、戦争中に思った。

初めて魔物になった。




今まで、ただ種族が違うだけだった魔物から、平和を脅かす魔物に変わったのだった。

これが我々の国に無理矢理、民主主義を持ち込んだ結果である。

私は、これ以上悲劇を止めようとする気持ちと復讐の気持ちの両者に支配された。

後者が上回った。

娘と妻のことを思い出すと、どうしても止めることが出来なかった。 

16 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/14(火) 23:55:47 ID:alBDdRYU
本来、支配者は感情を捨て、国民に安堵感を与えなければならない。

だが、悲劇を多く味わった国民は、復讐を選んでしまった。

私も復讐を選んでしまった。

仮に、今選挙なるものを行っても、復讐を選ぶであろう。

歯止めをしなかった私の罪は重い。 

17 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/15(水) 00:02:48 ID:rD8BiLcs
ある報告を、先ほど受け取った。

勇者が私を殺すために、こちらに向かっているそうだ。

あと2、3日で到着するらしい。

私の命は・・・その時、散るのだろうか。

散るのならば、それは私の行いに対する罰であろう。

本来守るべき国民を、感情に任せた罪だ。

国民を宥める義務を忘れた罪は重い。

その罪のために、勇者の太刀に私の血を捧げよう。

ただ、対峙する時、こう問いたいものだ。



勇者よ、民主主義は絶対正しいのか?貴様の奉ずる共和国の民主主義なる制度は、本当に正しいのか? 


18 : ◆jPzZXA.GZU:2013/05/15(水) 00:04:20 ID:rD8BiLcs
―魔王が、本当に勇者に聞いたのかは、誰も知らない。

―勇者が、どう答えたかも、誰も知らない。

―だが

―その後、30年にわたり、悲劇は繰り返されるのであった。



Fin