前回 エレン「なんだこの本?」

3 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:16:40 ID:QrW51sfE

――教会――

駐屯兵「誰か!誰か助けてくれぇぇぇぇっ」

駐屯兵「家内が!高熱を出しているんです!」

神父「…はやりの病です。治療のすべがありません。自然回復を待つしか……」

駐屯兵「自然回復だって!?もう何人も何人も死んでいる。うちのだってこのままじゃ死んじまう!」

神父「ここに運び込まれた皆さんには、我々も懸命の介抱をしています。やれる事は全てしているんです」

駐屯兵「……っ!」 

 

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4 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:18:05 ID:QrW51sfE

駐屯兵「…お、おまえ、どうしたっ!?苦しいのか?何…?」

駐屯兵「よしわかった。水だな!ほら!」

駐屯兵「…そう。ゆっくり飲むんだ。ああ」

駐屯兵「落ち着いたか?…そうか、よかった」

駐屯兵「きっと治るからな。ゆっくり寝ているんだぞ」

駐屯兵「………」

駐屯兵「すまねぇ…オレにはこのぐらいしかしてやれねぇ。オレに力がないばかりに」 


5 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:19:02 ID:QrW51sfE

駐屯兵(二年前に結婚したばかりじゃないか。まだまだ…これからだろう?オレたち…)

駐屯兵(きっと治るさ。治るに決まってる。なぁ)

駐屯兵「………誰か助けてくれよぉ」



―――どきなさい



駐屯兵「誰…だ?」 

6 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:20:17 ID:QrW51sfE

―――そこをどきなさい。ふむ

駐屯兵「あ、あんた。何してんだ」

―――水を汲んできなさい。それから清潔な布も

駐屯兵「は?……わ、わかった。だが、家内に変なことするんじゃねぇぞ」 

7 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:21:06 ID:QrW51sfE

駐屯兵「これでいいか?」

―――いいでしょう。それでは奥さんの袖をまくって腕を出してください

駐屯兵「……何する気だ」

―――薬です。今からこれを注射します

駐屯兵「なっ。薬だと!?嘘をつくんじゃねぇ!こいつには何も効かねぇんだ」

駐屯兵「もう何人死んだかわからねぇ。ここの教会だけだって三十人以上死んでんだ。そんなもんあるわけが」 

8 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:22:00 ID:QrW51sfE

―――これはこの病に対する抗体です。私を信じなさい

駐屯兵「いきなり来て、そんな話が信じられるわけねぇだろ!それとも他に治ったやつでもいるのかよ!変なもの打つんじゃねぇっ」

―――やれやれ。理解のない人だ、あなたは
―――そこまで分かっているなら、このままでは死ぬだけだって知ってるだろう?

―――何もせず死を待つか。コレにすがってみるか…選びなさい 

9 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:22:49 ID:QrW51sfE

駐屯兵「……嘘じゃねぇだろうな。もし嘘だったら、オレはおまえを…許さねぇ」

―――何事にも絶対はありませんから。失敗した時はいくらでも恨んでください

―――もとより、その覚悟なくして医者になる者なんていません

駐屯兵「………」

………

……

… 

10 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:23:26 ID:QrW51sfE

駐屯兵「もう家内はすっかり良くなりました」

駐屯兵「本当に…本当によかった。オレの周りの連中も皆先生に感謝してます」

駐屯兵「…先生。どうもありがとうございました。このご恩は一生忘れません」

―――そんなにかしこまらなくてもかまいませんよ。私は私の仕事をしたまでです

駐屯兵「ですが」

―――……あなたの名は?

駐屯兵「オレは……ハン――……」 

11 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:24:43 ID:QrW51sfE

――十余年後・調査兵団本部――


キース団長「先生。今回も本当にありがとうございました」

―――いえ、大したことはしていません

キース団長「謙遜されるな。団員一人ひとりを懇切丁寧に診ていただき、感謝しております」

―――命の重さは皆等しいものです

キース団長「……先生にはいつも申し訳なく思っています」

―――なぜでしょうか 

12 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:25:42 ID:QrW51sfE

キース団長「先生は軽傷ですら丁寧な治療を施してくださる」

―――ええ

キース団長「我々の活動場所は壁外です。壁外で巨人を調査することです」

キース団長「先生が救ってくださった命、治してくださった腕、足」

キース団長「何ヶ月もかけて治癒したものを…巨人は一撃で奪っていく」

―――…… 

13 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:27:51 ID:QrW51sfE

キース団長「治しては壊され、治しては壊され…それでも我々は行かねばならない」

キース団長「先生の仕事が無に帰すことになっても、行かねばならないのです」


―――無ではありませんよ


キース団長「ほう」 

14 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:28:58 ID:QrW51sfE

―――私が治療をした分だけ、その人は長く生きられます

―――その人の生きた証は、その分だけ長く他の者の心に刻まれます

―――あなた方の誰かが生き残っている限り、その人も忘れられる事はないでしょう

―――私も覚えています


キース団長「先生……」 

15 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:29:59 ID:QrW51sfE

キース団長「我々は運が良い。先生のような有能な医者に出会えたのですから」

―――私は有能ではありません

キース団長「なぜですかな?」


―――私は……

―――初めての患者の病状に十年間気づきませんでした 

16 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:30:43 ID:QrW51sfE

―――その人が体を痛めて苦しんでいる姿を見ていたのに、何もすることもなくその人の前から去りました

―――十年後に再会したとき、その人は

―――後遺症に苦しみながらの死が間近でした


キース団長「……」


―――ですが非常に幸運なことに、その人はそこから回復していったのです 



18 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:31:23 ID:QrW51sfE

―――奇跡と言うほかありませんでした

―――結局その人自身の回復力で死は遠ざかりましたが

―――私はそばにいること以外に、できることがありませんでした

―――そのとき私は自分の無力さを痛感しました


キース団長「……」


―――今でも自分が有能などと思えたことはありません 

19 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:32:03 ID:QrW51sfE

キース団長「……先生」

―――はい

キース団長「その奇跡は、先生がいたから起きたのではないですかな?」


―――……

―――……では失礼します


キース団長「……」 

20 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:33:45 ID:Ws5WLB5M

団員「きゃっ」

―――君は?

団員「あ、すみません。団長に話があって来たら部屋の中から声がしてたから」

―――聞いていたのですか

団員「盗み聞きするつもりはなかったんですけど……ごめんなさい」 


21 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:34:26 ID:Ws5WLB5M

―――まぁ、いいでしょう。それでは

団員「待ってください」

―――なんでしょう

団員「さっきの最後の話を詳しく聞かせてもらえませんか」

―――なぜですか 

22 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:35:26 ID:Ws5WLB5M

団員「私……いつか物書きになりたいと思っているんです」

団員「文章を書くのが好きで、調査報告書も私が書いたりしてるんです」

団員「でも、もし本を執筆する機会があったら、その、先生の本を書いてみたいなって思って」


―――私は本に載るほど立派な人間ではありませんので

―――それは遠慮願いたいですね 


24 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:40:29 ID:Ws5WLB5M

団員「それなら物語のモデルになるだけでいいですから。是非お願いします」

―――モデルですか。まぁ、そのくらいならいいでしょう

団員「ありがとうございます!じゃあ、ちゃっちゃっと団長との用事を済ませてきちゃいますね!」

―――はい。ところであなたの名は?

団員「私は――ゼ・ラング――と言います」

―――そうですか 

25 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:41:42 ID:Ws5WLB5M

――845年・壁外――


キース団長「――総員、戦闘用意!!」

キース団長(ヤツは……これまで出会った巨人の中でも異形の存在。だがっ)

キース団長「目標は一体だ!!必ず仕留めるぞ!!」

キース団長(単独で行動していることが命取りだ)

エルヴィン「……目標との距離400!!こちらに向って来ます!!」

キース団長(奇行種がっ!) 

26 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:42:47 ID:Ws5WLB5M

キース団長「訓練通り5つに分かれろ!!囮は我々が引き受ける!!」

エルヴィン「目標距離100!!」

キース団長(今だっ)

キース団長「全攻撃班!!立体機動に移れ!!」 

27 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:43:41 ID:Ws5WLB5M

キース団長(団員たちが霧のように拡散していく)

統率の取れた、それでいて個々の動きを悟らせないランダム機動だ。

前回の怪我も皆しっかり治っている。

素晴らしい団員たちよ…先生、感謝しますぞ。



おまえたちを死なせはしない。

キース団長「我々は囮だ。もっと派手に動け!正面相対!!」 

28 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:44:35 ID:Ws5WLB5M

キース団長(こちらに食いついてきた。いけっ!)

攻撃班「全方向から同時に叩くぞ!!」



<人類の力を!!>

<思い知れッッ!!> 

29 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:45:25 ID:Ws5WLB5M

―――

バカな……バカなっ……。

伝令「第一班、第五班壊滅!」

我々がヤツを無人の森に追い詰めていたはずなんだっ。

エルヴィン「左前方、巨人二体ッ!」

周囲の平原には何もいなかったはずだっ。

エルヴィン「完全に!包囲されています!!」 

30 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:46:27 ID:Ws5WLB5M

なぜだっ……!

キース団長「散るなっ。全軍集合!撤退する!」

団員「七メートル級!後ろからきまぁぁぁすっ!」

キース団長「一点強行突破だ。私に続けーー!」 

31 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:47:20 ID:Ws5WLB5M

第三班班長「第三班!班長以下生存五名のみ!しんがりにつきますっ」

キース団長「無駄だっ。命を粗末にするな!全速で引けーー!!」

第三班班長「団長!どうかご無事でっ!」

第三班班員「仲間を頼みます!団長!」

<オオオオオッ>

バカ者どもがぁぁぁぁ! 

32 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:48:08 ID:Ws5WLB5M

ブラウン「後方より例の奇行種ッ!接近!速い!!」

化け物め……!

キース団長「ブラウンッ!左だ!!」

エルヴィン「七メートル級……っ!」

ブラウン「!?」 

33 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:49:04 ID:Ws5WLB5M

キース団長「ブラウンーーッ!こっちだ!つかまれ!!立ち止まるな!!」

ブラウン「団長ーーー!」

キース団長「ここだ!私の手を取れ!飲み込まれるぞっ」

ブラウン「団長ぉぉぉ……!」

キース団長「よし!引っ張る!!」

……軽い!?

キース団長「ブラ…ウン…?」 

34 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:50:16 ID:Ws5WLB5M

――ウォール・マリア正門――


<これだけしか帰ってこれなかったのか…>
<20人もいないぞ…>

ザワザワザワ


キース団長「………」

エルヴィン「………」

団員「………」 

35 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:51:06 ID:Ws5WLB5M

老婦人「ブラウン!!ブラウン!!」

キース団長「……!」

老婦人「あの…息子が…ブラウンが見当たらないんですが…」

老婦人「息子は…どこでしょうか…!?」 

36 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:51:58 ID:Ws5WLB5M

キース団長「……!!」

キース団長「ブラウンの母親だ…持ってこい……」

老婦人「……え?」

キース団長「……」

老婦人(右…手……) 

37 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:52:40 ID:Ws5WLB5M

キース団長「それだけしか…取り返せませんでした……」

老婦人「…うぅ……うぁ……」

キース団長(ブラウン……)

老婦人「うああああぁぁ…うぁああぁああ」

キース団長「……」 

38 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:53:30 ID:Ws5WLB5M

老婦人「…でも…息子は…役に立ったのですよね……」

キース団長「……!!」

老婦人「何か直接の手柄を立てたわけではなくても!!」

老婦人「息子の死は!!人類の反撃の糧になったのですよね!!?」

キース団長「……もちろん――…………」

ブラウン、私は……。 

39 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:54:24 ID:Ws5WLB5M

キース団長「………イヤ…」

おまえばかりか、得体の知れない奇行種に突っ込ませ、

キース団長「今回の調査で…我々は……今回も…」

皆を…共に過ごした…共に育った仲間たちを…

キース団長「なんの成果も!!」

殺したっ!

キース団長「得られませんでした!!」 

40 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:55:30 ID:Ws5WLB5M

キース団長「私が無能なばかりに……!!」

キース団長「ただ、いたずらに兵士を死なせ…!!」

おまえたち!先生!!

キース団長「ヤツらの正体を…!!」

すまなかっ……

キース団長「突きとめることができませんでした!!」

………申し訳ありませんでしたっ!! 

41 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:56:32 ID:Ws5WLB5M

――847年・第104期訓練兵団入団式――


キース教官「私が教官のキース・シャーディスである!」

キース教官「貴様らは不幸にも私が担当することになった!」


もう二度と… 

42 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:57:24 ID:Ws5WLB5M

キース教官「私の訓練はヌルくはない。今ここに半端な気持ちで立っている者は、半端な死に方をして終わるだけだ!」


おまえたちを散らせたくない。


キース教官「人類のために自分の命を差し出す覚悟を持つ者のみ立ち続けよ!」


おまえたちには私の持てる全てを叩き込んでやる。必ず生き残れ。


キース教官「……よろしい」 


43 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:58:41 ID:Ws5WLB5M

キース教官「それでは貴様らに敬礼の所作を教える」

キース教官「これは公に心臓を捧げる決意を示すものだ」


私もこれより三年間…一日も休まずおまえたちに心血を注ぐ決意を示そう。 

44 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/21(火) 19:59:47 ID:Ws5WLB5M

キース教官「これは最初の訓練である。全員、私と同じように振舞うように」


キース教官「人類に対し」

おまえたち一人ひとりに対し、


キース教官「……礼っ!」



おわり

次回 進撃の訓練兵団