1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 17:56:35.32 ID:yRkoYi6L0
ジャングルの中、大きな河沿いに灰色の巨大な壁に囲まれた国があった

壁の外からでも見えるたくさんの大きな工場からは無数に煙突が突き出しており、
黒煙が空に伸びていき曇り空に混ざって灰色へと変わっていく

おだやかな流れの大河に隣接された小さな港からは、多くの小型漁船がのんびりと河をくだり漁をしている
国へと続く陸路はしっかりと舗装がなされ、大型の貨物トラックが何台もすれ違える程の大きな道路が敷かれていた

緑一色のジャングルに、その国だけが異色を放っている

その大きな舗装路を一人の旅人と一台のモトラド(注・モトラドは二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が走っていく

引用元: キノ「この国の主な産業は…え?コンドーム工場ですか?」 


 

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4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 18:02:05.37 ID:yRkoYi6L0
モトラドが旅人に向かって話しかける

エルメス「ねえキノ。次に行く国はどんなとこなの?」

キノと呼ばれた旅人は黒いジャケットにゴーグル、腰には大型のハンドパースエイダー(注・パースエイダーは銃器、この場合は拳銃)を下げている

キノ「ああ、エルメス。何でもジャングルの奥で工業が盛んな国らしいよ」

エルメス「へー、珍しいね。ジャングルの奥で何を作るんだろ?」

キノ「ボクもそれが気になっててね」

エルメス「ふーん?キノが食べ物以外の事を気にするなんてね」

キノ「失礼な・・・」

ブロロロロロ・・・

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 18:09:27.68 ID:yRkoYi6L0
ブルン・・・

キノ「こんにちは」
エルメス「ちはー」

入国管理官「こんにちは旅人さん。滞在日数と目的をお願いします」

キノ「今日を含めて3日間の滞在を希望します」

入国管理官「お仕事でしょうか?」

キノ「主に観光を。取引が出来る物があればしようと思っています」

エルメス「そんなわけでさ、この国の工業で造ってる物って何があるの?」

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 18:13:30.41 ID:yRkoYi6L0
入国管理官「この国ではゴム製品を多く造っていまして、主に『コンドーム』の生産が盛んです」

キノ「へぇ、コンドームですか」

入国管理官「ええ、この国ではもともとゴムの生産が盛んでして」

エルメス「こんなジャングルの奥で?」

キノ「こらエルメス」

入国管理官「いえいえ」

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 18:19:48.48 ID:yRkoYi6L0
入国管理官「旅人さんはゴムが何から造られるか知っていますか?」

キノ「えっと、植物の樹脂・・・ですか?」

入国管理官「その通り!このジャングルの木々こそが、ゴムの原料となるのです!」

エルメス「なるほどねー」

入国管理官「昔は人間が斧で木を削り、イカダで河を下って原料の樹脂を運びましたが、
今は全て機械で効率的に運用しているんですよ」

キノ「なるほど。よくわかりました」

エルメス「ありがとおっちゃん」

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 18:25:12.06 ID:yRkoYi6L0
キノ「なるほど、コンドームが名産か」

エルメス「どうするキノ?」

キノ「少し買っていこうかな。いざという時必要な物だしね」

エルメス「そうだね。買っておこっか」

キノ「あとは何か他の国で売れそうな物・・・ゴム製品だと何かな?」

エルメス「工業に直接行ってみたら?工業見学がてら」

キノ「それがいいね。面白そうだ」

エルメス「それじゃあしゅっぱーつ」

ブロン!ブロロロロロロ・・・

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 18:33:29.62 ID:yRkoYi6L0
コンドーム工業

キノ「ここだね」

エルメス「見学ツアーがあるコンドーム工業かー。この国ならではだよね」

キノ「うん。さっそく申し込もう。じゃあねエルメス」

ガチャ

エルメス「はいはい。モトラドは駐輪場にいますよー」


受付

キノ「すいませーん。見学ツアーをお願いしたいのですが」

受付係「あ、はーい。今参りますので」

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 18:39:36.01 ID:yRkoYi6L0
受付係「はい、見学ツアーの申し込みですね?」

キノ「はい。一人からでも受けられますか?」

受付係「もちろんですよ」

キノ「あと、もう一つお願いがあるのですが・・・」

受付係「はい?」


コンドーム工場内

エルメス「素晴らしい工場だね。キノ」

キノ「そうだねエルメス」

ツアー係「こちらがコンドームの原料、ゴムの樹脂になります」

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 18:46:35.86 ID:yRkoYi6L0



ツアー係「ここがコンドームの形を成型するラインです」

キノ「おお~」

ツアー係「我が国のコンドームは薄くても破れないので、とても人気があるんですよ」

キノ「へぇ、薄いと人気があるんですか?」

ツアー係「もちろんです!」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 18:49:54.73 ID:yRkoYi6L0
エルメス「他の国でも人気があるなら、多めに買っていったらどう?」

キノ「コンドームにも人気とかがあるんだね。大きさ以外全部いっしょかと思ってた」

ツアー「とんでもない!大きさ、形、丈夫さ、何より薄さが命ですよ!」

キノ「職人技ってやつですね」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 18:55:24.65 ID:yRkoYi6L0
キノ「しかし、こんなに大量に生産するものなんですね。コンドームって」

ツアー係「必要な人にとっては毎日使う物ですからね」

キノ「へ~毎日ですか。ああ、この国は熱帯雨林ですしね」

エルメス「雨が多いんだね」

ツアー係「ん?」

キノ「うん。ボクも国の外にいる時はよく使うから、ちゃんと用意しとかないとね」

ツアー係「そ、そうですか・・・??」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 18:59:16.49 ID:yRkoYi6L0
ツアー係「では、最後に我が国のコンドーム12個入りをキノさんへプレゼントいたしますね」

キノ「わぁ、ありがとうございます」

エルメス「得したねキノ」

キノ「うん。ボクが使う分はこれで充分だよ」

エルメス「たまーに必要になるだけだもんね」

ツアー係「・・・。ちなみに旅人さん」

キノ「はい?」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 19:13:02.35 ID:yRkoYi6L0
ツアー係「先程からうかがっておりますと、旅人さんはコンドームをかなり特殊な用途で使用しているように思えるのですが」

キノ「え?そうでしょうか?」

ツアー係「コンドームを作る者として知っておきたいのですが、お教え願いませんか?」

キノ「え、ええ。もちろんですよ

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 19:25:49.16 ID:yRkoYi6L0
キノ「すみませんが、パースエイダーを取り出しますね?」

ツアー係「え?はい、どうぞ」

腰に吊り下げたホルスターから、大口径のリボルバー『カノン』を取り出す

キノ「ボクは雨の日に野外でパースエイダーを使うさいに、コンドームを銃口に取り付けて使っていますよ」

エルメス「そういう道具だって教わったんだよね?」

キノ「う、うん。こうやって袋を口にくわえて・・・」あむっ

キノ「ピッと裂いてとりだします」ビリッ

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 19:36:51.24 ID:yRkoYi6L0
キノ「中身を取り出して・・・」ぬるっ

キノ「こうやって、銃口に指でくるくるっと巻いて」くるくりゅ

キノ「・・・雨水が入りませんし、このまま撃つこともできるので、はい」

ツアー係「なるほど・・・」

キノ「あの、コンドームについてる機械油みたいなぬるぬるしたもの、何とかなりませんか?手につくと面倒で」

ツアー係「あ、はい」

キノ「あと、この先っぽの膨らみみたいな部分は何に使われるものなんでしょうか?
ずっと気になってて」

ツアー係「えっと・・・」

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 19:44:53.24 ID:yRkoYi6L0
ツアー係「旅人さん、あなたの使い方ももちろん間違ってはいないのですが、コンドームの本来の使い道はですね」

キノ「はい。ボクはずっとこの方法で使っておりましたので、本当の使い方を知りたいです」

ツアー係「ええと、それに関してはこちらの冊子をご覧ください。見学ツアーに参加いただきありがとうございました~」

キノ「???」

エルメス「なんだか最後は変だったね」

キノ「そうだね。まあいいやこの冊子を読めばいいんだね」パラッ

キノ「・・・・・・えっ?」

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 19:56:46.05 ID:yRkoYi6L0
ブロロロロ・・・

エルメス「まさかだったね。キノ」

キノ「・・・言わないでエルメス」

エルメス「どうするキノ?他の国で売る分のコンドーム買ってく?」

キノ「ボクが買えるわけないよ!ひ、避妊具なんてっ」

エルメス「でも、今後もパースエイダーの雨よけにコンドームを使うんでしょ?」

キノ「ううっ、だって、他に代わりになる道具なんてっ・・・」

エルメス「だったら自分で買いにいかないと」

キノ「ああぁあぁあぁぁ~~あの時とかあの時とかあの時もボクはこんなものを普通にお店の中で・・・うぁぁ・・・」

ぐらんぐらん

エルメス「ちょっとキノ!?運転!前見てっ!」

ぐらぐらふらふら


雨の多い国・終わり

153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 23:47:17.95 ID:dtrsSRK50
疎らに木の見える広大な草原、その中を一本の茶色い線が分断していた。
その線上をモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。

運転手は茶色いコートを着て、暖かそうなたれのついた帽子をかぶっており、
腰にはパースエイダー(注・銃器。この場合は拳銃)を釣り下げていた。
精悍な顔つきの若者だった。

エルメス「それで、次の国はどういうところなの、キノ」

キノ「前の宿屋で聞いたけど、なんでも変わった食べ物がたくさんある国らしい。一度は覗いてみても損はないそうだよ」

エルメス「ああ、食べ物が目的なの、わかりやすいね、キノは。道理で他の面白そうな国に行かないわけだよ」

キノ「うるさいな。保存の効く食べ物があるらしいから、それを買い貯めしておこうと思っただけだよ」

エルメス「そんなに携帯食料が嫌い?」

キノ「アレは駄目だ。アレは。―ほら、城壁が見えてきたよ」

156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/27(金) 23:52:13.42 ID:dtrsSRK50
―国内―

キノ「この宿に二泊したいのですが、部屋は空いていますか?」

店主「ええ、空いていますよ。この国に来るのは初めてですか?」

キノ「はい。出来ればこのあたりでおいしいレストランがあれば教えていただきたいのですが……」

店主「それなら、うちで食べるのが一番いいですよ!私どもは宿の料理、特に蝗と蜂の子には自信を持っておりますから!」

キノ「……イナゴとハチノコ?」

店主「あれ、ご存じないんですか?この国ではこのあたりでも有名な、昆虫食の国ですよ!」

キノ「……興味はありますが……おいしいんですか?」

店主「それはもうおいしいですよ!食べることに抵抗を示される旅の方もいらっしゃるようですが。
   珍味としても高く評価を頂いております!」

159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/28(土) 00:00:15.20 ID:i+6EYuQ10
キノ「普通の料理が食べられるところはないんですか?」

店主「いえ、この国では穀物などの食べ物を生産することが出来ないので」

キノ「食べ物を生産できない?」

店主「よかったらお話ししましょうか?」

キノ「そうですね……お願いできますか」

店主「それではお話ししましょう!この肥沃な土地で、私達の先祖は稲、麦、トウモロコシ……様々な穀物を育てようと試みました。
   しかし、どうしても、農薬を撒いても蝗や毛虫に全て食べつくされてしまうのです。
   そのため我が国は長らく貧しい生活が続いておりました……。
   ある時、全くといっていいほど雨が降らず作物が全て駄目になり―」

キノ「飢饉ですか?」

店主「そうです。もうこの国は滅びるのか、その時気付いたのです!我々の周りには沢山の生き物、究極のタンパク源……
   そう!虫がいたのです!私たちは死に物狂いで虫をかき集め、この国の伝統的調味料である醤油で煮込んで食べました。
   すると、意外にもおいしいではありませんか!」

163: 突っ込まないたげて 2012/01/28(土) 00:07:29.81 ID:i+6EYuQ10
キノ「それで、皆が虫を食べるようになったと」

店主「ええ!しかも後々の研究で明らかになったのですが、昆虫というものはカロリーが極めて高い上、ビタミン、ミネラルその他数多くの栄養素をふんだんに含み、
  なおかつそこら中に居る!これを食べなかった私たちのなんと愚かなことか!
  この国ではもう穀物を育てて食べるというような非、効率的なことはしないのです!」

キノ「はぁ……そうですか」

店主「さらにさらに!佃煮すれば冬の間も長期的に保存が―」

164: 突っ込まないたげて 2012/01/28(土) 00:11:26.97 ID:i+6EYuQ10
――国外――

エルメス「で、どうだったの、結局」

キノ「食べたよ。それしかなかったし。
   見た目は確かに気味が悪いかも知れないけど、意外といけるものだ。
   でも、漬けたものはどれもショーユ味しかしないのはいただけないな」

エルメス「どんな虫を食べたのさ?カブトムシのクッキー?サソリのパイ?」

キノ「そういうのはあまり食べなかったな。他所の国にあるというのは聞いたことがあるけど。
   煮込みミミズとか、蚕の蛹を揚げたものとか、ザザムシのヤマト煮とか。
   卵を大量に並べて卵焼き、なんていうのもあったな」

エルメス「目的の保存食は買ってきたの、イナゴの姿煮、蚕のなんとか漬けとか?」

キノはモトラドを止め、荷物の中から一本の瓶を取り出した。

166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/28(土) 00:17:56.80 ID:i+6EYuQ10
キノ「買ってきたよ?ほら」

エルメス「虫の姿も形も見えないけど――そうか!虫の絞り」

キノ「ハチミツだよ。食虫国家を言うだけあって、タダみたいな値段だった」

エルメス「……折角面白い珍味達を見てきたのに、買ってきたのはそれだけ?」

キノ「うん。所詮珍味は珍味だよ。長く食べるには向かない
   これなら栄養価も高いし、おいしいし、保存もきく。紅茶に入れるのにちょうどいい」

エルメス「それでもお腹は膨れないでしょ。携帯食料食べるの?」

キノ「これをかけて食べてみる」

エルメス「あんまり美味しくないと思うけどなぁ……」

キノ「ものは試しさ……昼食には早いけど、少しだけ食べてみようか」

粘土状の携帯食料を少しちぎって、ハチミツにつけて口の中に放り込む

168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/01/28(土) 00:23:57.39 ID:i+6EYuQ10
エルメス「どう?」

キノ「……エルメス、やっぱりさっきの国に戻ってツクダ煮を買ってこよう」

エルメス「あ~あ、珍味は所詮珍味って言ったの誰だったっけ?」

キノ「おいしいものはおいしいんだよ」

エルメス「三日間のルール破っちゃうことになるじゃない。
     今までかたくなに守ってきたくせにさ~」

キノ「わかってるよ……早く次の国に行こうか」

ハチミツと食いかけの携帯食料を荷物にしまい込んで、再びモトラドを走らせる

エルメス「お馬鹿で食い意地のはったキノは、
     くだらない試みでおいしいお弁当が食べられなかったとさ」

ガン