2: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:15:05.68 ID:+UGrP0MJo


**********

連合艦隊旗艦


ビックセブン


栄光ある肩書と責任。それに見合う実力。

長門はとても立派だと思うわ。


**********




引用元: 【艦これ】 陸奥「堅物なこまったさんね~」 


 

3: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:15:31.60 ID:+UGrP0MJo


長門 「今作戦の総旗艦を務める長門だ。作戦を通達するので、みな心して聞いて欲しい」


一同 「はい! 」


長門 「きつい作戦になる。誰一人気を抜くことは許されない。厳しく監督させてもらうぞ。みな、最後まで気を抜かず、わたしについてこい! 」


一同 「はいっ! 」




4: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:16:01.72 ID:+UGrP0MJo


**********


でも……艦娘になったわたしたちには、感情が……女の心がある……。


**********




5: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:16:58.73 ID:+UGrP0MJo


長門 「吹雪! 戦列を乱すな! 訓練が足らんぞっ 」

吹雪 「は、はい! 申し訳ありませんっ!(涙目) 」



長門 「暁! 何だその射撃精度はっ。 そんなことでは沈むだけだぞ! 」

暁  「は、はいっ。ご、ごめんなさい!(涙目)」



長門 「…………はぁ(しょんぼり) 」




6: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:17:29.42 ID:+UGrP0MJo


**********


せっかく艦娘なんて不思議な存在に転生したんだから


もっと新たな艦生を楽しめば良いのに……


**********




7: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:17:56.66 ID:+UGrP0MJo


【作戦終了】


那珂 「作戦も終わったし、早速ライブの準備しなきゃっ! みんな~応援してね~☆ 」


赤城 「さ、思いっきり食べましょ~~♪ 」


金剛 「さーミンナ! 忙しくてできなかった分、思いっきりTeaTimeを楽しむデース! 」


白露 「さ! 白露型みんなで甘味処に突撃するよ~♪ 」



長門 「…………はぁ」




8: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:18:37.36 ID:+UGrP0MJo


陸奥 「ね、長門。作戦は無事終わったんだし、わたしたちも打ち上げに甘味処でも行きましょうよ」

長門 「……いや、わたしが行くと、せっかく楽しんでいる皆を緊張させてしまう。遠慮しておこう」

陸奥 「えー。長門だって甘いもの好きなんだから、そんな遠慮しなくてもいいじゃない」

長門 「いや……。作戦中、また皆に辛くあたってしまった。せっかく作戦が終わったんだから、皆には気持よく息抜きしてもらいたい」

陸奥 「も~。それもこれも作戦を成功させたり、皆が無事帰還できるようにするためでしょ? 」

長門 「それはそうだが……。憎まれ役になるのもわたしの努めだ。仕方がない」

陸奥 「しょうがないわねー。じゃあわたしが買ってくるから、せめて二人でお祝いしましょ! 」

長門 「ああ、それはいいな。ではお願いしようか」




9: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:19:05.80 ID:+UGrP0MJo


**********


わたしの姉、長門はいつだってこんな感じ。真面目で堅物で責任感が強くて……。本当は可愛い物と甘いものが大好きで、女らしい面も沢山あるのに、いつだって仕事仕事。


でも、こんな不器用な姉が可愛くてほおっておけないわたしは、こうしてあれこれお世話をしちゃう。まったく困ったものね。


**********




10: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:19:53.89 ID:+UGrP0MJo


陸奥 「長門、これ、可愛がってあげてくれない? 」

長門 「なんだこれは……失敗ペンギンのぬいぐるみか? 不吉だな(可愛いけど) 」

陸奥 「そうなの。そのぬいぐるみを可愛がると、開発失敗しにくくなるっていうジンクスがあるんですって 」

長門 「なんだと! そうか……連合艦隊旗艦たるもの、わずかな可能性でも疎かにするわけにいかないな。趣味では無いのだが仕方がない。可愛がるとしよう(なでなで) 」


………
……


長門 「zzz....」


あらあら、抱きしめて寝てるなんて、よっぽど気に入ったのね。そんなに必死に隠さなくても、女なら可愛い物が好きなのは当たり前。長門も変な見栄をはらずに、艦娘として、そして女としての艦生を楽しめたらいいのに……。




12: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:20:30.79 ID:+UGrP0MJo


陸奥 「長門、街にファンシーショップがオープンしたらしいわよ」

長門 「……? ファンシーショップとはなんだ? 」

陸奥 「あらあら。ファンシーショップっていうのは、女の子向けの可愛い小物を売る店よ。アクセサリーとかぬいぐるみとか」

長門 「なんだと!! ……いや、そうか。わたしには関係ないな 」

陸奥 「えー。わたし行ってみたいー。行きましょうよー 」

長門 「連合艦隊旗艦たるわたしには必要ない。わたしには責務がある。行きたいのであれば行ってくればいい 」

陸奥 「ぶー。絶対楽しいのにー」



でも、この頑固な姉は堅物から抜けだそうとしない。わたしがいくらがんばっても、少しも日々を楽しもうとしない。困ったものね~




13: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:21:25.20 ID:+UGrP0MJo


陸奥 「長門、今日、例のファンシーショップに行ってきたわ 」

長門 「そ、そうか。わたしには関係ないから興味など全然無いが、どうだった? 」

陸奥 「それがね、ぬいぐるみ屋さんに近かったわ。もう、可愛いぬいぐるみがいっぱいで! 」

長門 「そ、そうか。わたしにはこれっぽっちも必要ないが、駆逐艦などの良い息抜きになるかもしれないな、うん 」

陸奥 「でね、これがおみやげ 」

長門 「なんだ……両手をバンザイした猫のぬいぐるみ……。奇妙だな(可愛いけど) 」

陸奥 「なんでも、その猫の両手を持ってぶら下げていると、不吉なトラブルを避けられるらしいわよ。不吉を象徴する妖精さんを避けるジンクスだとか 」

長門 「なにっ! 連合艦隊旗艦たるもの、トラブルを避けるためなら、たとえわずかな可能性でも疎かにできないな! こうかっ 」

陸奥 「そうそう、ぶらーんってぶら下げて。うん、可愛いわよ! 」

長門 「可愛いだと……! これは、旗艦としての努めなのだ、可愛いなど二の次だ! 」



せっかく好きなものを楽しむのに、こんな理由を付けないといけないなんて……。かわいそうな子……。




14: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:22:22.76 ID:+UGrP0MJo


――――― 朝 廊下


暁 「な、長門さんっ。お、お、おはようございます!! (直立) 」

雷 「おはようございますっ! 」

電 「おはっ、おはっ、おはようございますなのです!(ビクビク) 」

響 「おはようございます 」

長門 「うむ、おはよう 」

陸奥 「みんなおはよう。今日は早いのね。早起き偉いわ~ 」

電 「はいなのですっ! これから遠征なのです! 」

陸奥 「そうなの。今日は良いお天気だから、きっと遠征も気持ちいいわよ。ゆっくり楽しんで行ってらっしゃいな 」

響 「うん、陸奥さん、ありがとう 」

暁 「レディとして、しっかり遠征してくるわ! 」

雷 「わたしにまっかせて! 」

ワイワイ


長門 「じーーー(うらやましい) 」



本当は駆逐艦の子たちが可愛くてしかたがないのに、役目上厳しくあたっては恐れられて……。それでしょんぼりしている長門は、可愛いけれどやっぱり可哀想。何とかしてあげたいんだけど……。




15: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/16(火) 22:22:58.52 ID:+UGrP0MJo


陸奥 「ねえ長門。作戦や出撃のときは仕方が無いにしても、普段はもっと艦隊の子たちと仲良くコミュニケーションしたらどうかしら? 」

長門 「というと? 」

陸奥 「一緒に甘味処に行ったり、お買い物したり……」

長門 「……わたしと一緒にいて楽しめる艦など居るものか。普段から厳しくされていては、緊張するなという方が無理だ。せっかくの余暇を邪魔するわけにはいかないさ」

陸奥 「……それでいいの? 」

長門 「それがわたしの仕事だ。良いも悪いもないさ…… 」



結局、わたしが何を言っても、頑として曲げないのよね。
うーん……でも、これだけ堅物なら、唯一の上官である提督の言うことなら聞くかも?


一石二鳥になるかもしれないし、ちょっと提督にも相談してみようかしら……?




24: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/17(水) 20:12:32.80 ID:VTEiN6JRo




――――― ある日 提督執務室





25: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/17(水) 20:12:59.57 ID:VTEiN6JRo


陸奥 「今日の執務はこれで完了かしら? お疲れ様、提督」

提督 「そうだな。今日はこのぐらいにするか。お疲れ様」

陸奥 「じゃあ、お茶を入れるわね」

提督 「すまないな、そんな雑用をさせて」

陸奥 「何を言ってるの。秘書艦のお仕事よ♪ 」


うちの鎮守府は、長門とわたしで交互に秘書艦を担当しているの。今日はわたしの日。




26: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/17(水) 20:13:27.06 ID:VTEiN6JRo


陸奥 「はい、どうぞー」

提督 「ありがとう」

ずずー

陸奥 「最近は業務が少なくて暇ねー。今日もこんなに早く終わっちゃった」

提督 「作戦明けだからな……遠征組には苦労をかけるが」

陸奥 「ちゃんとローテーションしてるもの。大丈夫よ♪ 」


あ、せっかく暇な時間だから、例の件を相談してみようかしら




27: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/17(水) 20:13:54.31 ID:VTEiN6JRo


陸奥 「提督、私的なことなんだけど、ちょっと相談に乗ってもらっていい? 」

提督 「…………」

陸奥 「あら、ダメ? 」

提督 「いや、俺で役に立てるとは思えないが……俺で良ければ喜んで」

陸奥 「何を堅いこと言ってるの~。気軽な相談よ♪ 」

提督 「そういうものか……いや、こういうのはあまり慣れてなくてな。それで、どんな相談なんだ? 」

陸奥 「えっとね、長門のことなんだけど…… 」


かくかくしかじか




28: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/17(水) 20:14:33.45 ID:VTEiN6JRo


陸奥 「そんなわけで、長門ったらとにかくお堅くて息抜きが無いのよ。あれじゃあそのうち疲れちゃうわ」

提督 「そうか……。しかし意外だ。長門もやっぱり女性なんだな」

陸奥 「わたしがこんな話したって、長門には言っちゃダメよ」

提督 「もちろんだ」

陸奥 「それでね、わたしとしては長門にはもっと息抜きをして日々を楽しんでもらいたいんだけど、いくら言っても頑として自分を曲げないのよ、あの子」

提督 「ああ、それは長門らしいな」

陸奥 「でも、あの子は命令とか上下の規律にはすごく厳しいでしょ? だから提督の命令なら少しは変わるかなと思って」

提督 「……なるほど」

陸奥 「どうかしら? 」




29: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/17(水) 20:15:15.98 ID:VTEiN6JRo


提督 「うーん………………」

陸奥 「難しい? 」

提督 「いや……命令するのは簡単だ。だが命令して性格や価値観を変えるというのは、上官としてやりたくないというのが本音だ」

陸奥 「うーん……そうねぇ。結果的に本人が楽しめるとしても、命令されてっていうのは違うわね」

提督 「ああ、そう思う」

陸奥 「ごめんなさい、その通りだわ。この件は忘れてちょうだい」

提督 「いや、命令するのは無しにしても、長門のためにできることはないか、ちょっと考えてみよう。せっかく相談してくれたんだからな」

陸奥 「……ええ、ありがとう。でも、あの子はちょっとやそっとじゃ曲がらないと思うわー」

提督 「そうだな……。とりあえず宿題にしておいてもらえるだろうか? 俺なりに考えてみる」

陸奥 「そんなに一生懸命にならなくても大丈夫よ。でも相談に乗ってくれてありがとう♪ やっぱり提督に話して良かったわ」

提督 「今のところ何の役にも立ててないけどな(苦笑)」




30: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/17(水) 20:15:47.33 ID:VTEiN6JRo


――――― 2日後 提督執務室


陸奥 「よし、今日も執務終了っと。お茶を入れるわね」

提督 「ああ、ありがとう。ところで陸奥、先日の相談の件なんだが」

陸奥 「え、まだ悩んでくれてたの? 」

提督 「ああ。それでな、俺ではあまり頼りにならないが、陸奥と同じ悩みを持っていそうな艦娘は思いついた。良かったらその子も交えて相談してみないか? 」

陸奥 「三人よれば文殊の知恵って言うし、同じ悩みを持っているなら良いと思うけれど……誰かしら? 」

提督 「荒潮だよ」

陸奥 「荒潮ちゃん……ああ、そうね。確かに同じ悩みを持っていそうだわ(くすくす) 是非お話したいわね」

提督 「じゃあ荒潮を呼ぶから、お茶は3人分頼むよ」

陸奥 「はぁ~い」




31: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/17(水) 20:16:37.15 ID:VTEiN6JRo


荒潮 「荒潮まいりました。突然の呼び出しなんてどうしたのかしらぁ~? 」

提督 「ああ来てくれたか。時間があればでいいんだが、ちょっと陸奥の悩み相談を受けて欲しい」

荒潮 「ええぇ? 」

陸奥 「うふふ、よろしくね♪ 」

荒潮 「いいけれど、どうして突然わたし? 」

陸奥 「聞いてくれればわかると思うわ。あ、でも一応、ここで相談することは他言無用にしてね。長門の名誉に関わるから」

荒潮 「長門さんのことなの? わかったわぁ、聞かせてください」


………
……

陸奥 「というわけなの」

荒潮 「ああ、わたしが選ばれた訳、すっごいよく分かるわぁ。わたしと朝潮ちゃんの話を聞いてるみたい」

陸奥 「うふふ、やっぱりそうなのね。朝潮ちゃんは、リトル長門って感じの堅物ですものね」

荒潮 「そうなんですよー。まぁうちの場合は、朝潮ちゃんを筆頭に、満潮ちゃんとか霞ちゃんとか、堅物な子が多くって」

陸奥 「あらあら。考えてみたら朝潮型って確かに堅い子が多いわね」




32: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/17(水) 20:17:04.52 ID:VTEiN6JRo


荒潮 「でもやっぱり、朝潮ちゃんが一番の堅物ねー。甘味に誘われても断るし、かわいいものとか娯楽とかを必死に遠ざけようとするんですよぉ」

陸奥 「完全に長門と同じパターンね。せっかく艦娘になったんだから、お休みの時ぐらい羽を伸ばせばいいのにねぇ」

荒潮 「ほんとですよねぇ。でもこの間なんて、部屋でこっそり、わたしのぬいぐるみを抱きしめてニコニコしてて……わたしが見てるって知らずに……うふふふ……」

陸奥 「わかるわぁ。長門もね、色々理由をつけてぬいぐるみを渡すとね……」



*** しばらく姉萌え談義が続きます ***



陸奥 「はっ! 提督、ごめんなさいね、ほったらかしだったわ」

荒潮 「そうですね、すっかり姉談義に花が咲いてしまったわぁ」

提督 「いや、二人がいかに姉が好きか良く分かったよ」

陸奥 「あら、ちょっと恥ずかしいわ」




33: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/17(水) 20:18:00.29 ID:VTEiN6JRo


提督 「さて、長門と朝潮が似たタイプなのは良く分かった。あとは対策だな」

荒潮 「そうねぇ。朝潮ちゃんが、恥じらいつつ影でこっそりかわいい物を楽しむのを見たりひやかすのも楽しいんだけど……」

陸奥 「……その気持もすっごくよくわかるわ」

提督 「……じゃあ特に何もせずこのままか? 」

荒潮 「でも、やっぱり朝潮ちゃんにはいつも幸せでいてほしいから、この際わたしの趣味は我慢してなんとかしてあげたいわぁ」

陸奥 「そうね。やっぱり長門が幸せなのが一番ね。でも、どうしたらいいかしら?」

荒潮 「朝潮ちゃんも、わたしがいくら言っても頑として譲らないのよねぇ」

陸奥 「そんなところまで同じね。提督に命令されたら少しは変わるかと思ったんだけど、そういうのは良くないし」

荒潮 「そうですねぇ。提督に命令されるのはちょっと重すぎる気がするわねぇ」

提督 「む……それだっ」

陸奥 「? なにがそれなの? 」




34: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/17(水) 20:18:59.09 ID:VTEiN6JRo


提督 「俺に命令されると重すぎる。でも目上の艦娘仲間からのアドバイスはいいんじゃないだろうか? 」

荒潮 「そうねぇ。そういうことは日常的にあるわね……。具体的にはどうするのぉ? 」

提督 「長門お願いするんだよ。『朝潮がこれこれこんな堅物で休暇すら楽しめていない。少しは息抜きできるようにアドバイスしてあげてほしい』といった感じで」

陸奥 「…………なるほどね。提督に頼まれたら長門は断らないだろうし……朝潮ちゃんをリラックスさせようとあれこれ考えることで長門の意識も変わるかもしれないわね」

荒潮 「朝潮ちゃんも、長門さんのアドバイスであれば無下に出来ないし、変わるかもしれないわぁ」

提督 「ただな……俺が思うに長門は結構不器用だ。上手く朝潮にアドバイスできるかどうかは微妙かもしれない」

陸奥 「ぷっ。そうね、そのとおりだと思うわ。そこはわたしたちで作戦を立ててフォローしましょ♪」

荒潮 「うふふ……。なんだか悪巧みっぽくて楽しいわぁ」

提督 「ふむ……」

陸奥 「じゃあ早速作戦会議ね。まずは甘味がいいと思うのよね……」

荒潮 「じゃあやっぱり間宮さんのところの……」


ワイワイ




43: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:22:32.63 ID:2fEOC8Zdo



――――― 翌日 提督執務室




44: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:22:59.10 ID:2fEOC8Zdo


長門 「よし、これで本日分の執務は完了だ」

提督 「今日は随分早くおわったな。お疲れ様」

長門 「それでは片付けて失礼する」

提督 「いや、時間も余ったことだし、少し長門にお願いしたい任務がある」

長門 「任務……? もう夕方だ。出撃には流石に遅すぎないか? 」

提督 「いや、内部的な……ある艦娘の心のケアについてだ。これから説明する」

長門 「ふむ……。長くなりそうだな。では飲み物でも準備しよう」




45: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:24:03.03 ID:2fEOC8Zdo


長門 「ここに置くぞ(ゴトン)」(冷水)

提督 「ありがとう」

長門 「では聞こうか。わたしに戦闘以外の任務とは珍しいな」

提督 「聞いてもらえばわかると思う。どうも長門が適任な感じでな」

長門 「ほう」

提督 「実は荒潮から相談を受けたんだ。姉の朝潮のことでな」

長門 「ふむ(駆逐艦から相談なんてうらやましいぞ!)」

提督 「知っての通り、朝潮は駆逐艦の中では規律に厳しく、とても真面目だ」

長門 「ああ、彼女は軍の規律を大切にして、妹達を律してくれるから助かっている」

提督 「そうだな。それはとても良いことなんだが……その代わり息抜きがとても下手らしくてな」

長門 「ふむ……」

提督 「例えば今のような出撃が殆ど無い暇な時期でも、余暇を楽しんだりせず、娯楽や休養をひたすら遠ざけようとするらしい」

長門 「……」

提督 「荒潮は、そんな生活を続けていては、いつか倒れたり病んだりしてしまうのではないかと心配してるんだ」




46: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:25:01.15 ID:2fEOC8Zdo


長門 「いや、まってくれ提督。今は戦時だ。常に緊張感を持つことも大事だろう。そもそも余暇の使い方は本人の好きにさせてやれば良いだろう」

提督 「そういう考え方もあると思う。だが、この戦いは今後どれだけ続くのか想像もできない。何年、十何年……数十年と続くかもしれない」

長門 「……」

提督 「その間、ずっと緊張し続ける生き方は難しいと思う。継続して戦い続けるためには、時には休養を取り、心に潤いを与えることも必要だろう。荒潮はそういう心配をしているんだ」

長門 「そ、それは……そうだが……」

提督 「そこで……だ。朝潮の規律を重んじるところ、緊張感を持とうとするところ……そういうところは長門によく似ている。荒潮が言うには、朝潮は長門を手本にしている風らしい」

長門 「そうなのか……」

提督 「だからその長門が、連合艦隊旗艦として務めつつ、余暇にはしっかりとリフレッシュしていることを知れば、朝潮もそれに倣うと思う。だから朝潮と余暇を過ごして、リフレッシュの仕方を教えてやってくれないだろうか」

長門 「あ……ぐ……。そ、それは……」

提督 (ここで陸奥が教えてくれた一言を添えれば……)

提督 「連合艦隊旗艦たるもの、配下の艦艇に救いを求められれば全力を尽くすものだと思うが……」

長門 「っ! と、当然だ! 連合艦隊旗艦たるもの、配下艦艇の危機を見過ごしたりはしない! 」

提督 「そうか、やってくれるか。では成果を期待している」

長門 「ああ、任せておけ! ビッグセブンに乗ったつもりで吉報を待つといい! 」




47: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:25:47.17 ID:2fEOC8Zdo


長門 「そ、それでは失礼する」


バタン


提督 「俺には長門にあれこれ言う資格なんて無いんだがな………。おっと、第一段階終了の連絡を入れねば。あの二人も余計なところで凝ってるな……。連絡用のトランシーバーは……と」

提督 「あーあー提督より。トワダヤマノボレ」

陸奥 「了解、第二段階決行するわね。期待しててねー♪ 」

荒潮 「陸奥さん、がんばってねぇ~ 」


提督 「はめるような真似をして、長門や朝潮にはかわいそうなことをしたかな……。いや、自分を縛って苦しむなど愚かなことだ。こんなにも心配してくれる人が側にいるんだから、自分を縛るのはやめたほうがいい……きっとそうだ……」




48: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:26:50.82 ID:2fEOC8Zdo


――――― 夜 長門型の部屋

長門 「はぁ~~↓」

陸奥 「長門、今日は元気が無いわね。一体どうしたの? 」

長門 「い、いや。なんでもないんだ。ただちょっと新しい任務が難しくてな…… 」

陸奥 「あら、長門が任務で悩むなんて珍しいわね。どんな強敵が相手なの? 」

長門 「いや、戦闘ならこんなに悩んだりしない。実はな……(長門説明中)……というわけなんだ」

陸奥 「あらあら、余暇を満喫してリフレッシュなんて、長門が一番苦手なことじゃない。それを朝潮ちゃんに教えないといけないのね」

長門 「ああ、そうなんだ。しかし任務を頂いて『苦手だから出来ません』と言うわけにもいかず……安請け合いをしてしまった」

陸奥 「大丈夫よ~。朝潮ちゃんと余暇を楽しくすごせばいいだけなんでしょ? 」

長門 「それはそうなんだが……」




49: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:27:30.10 ID:2fEOC8Zdo


陸奥 「朝潮ちゃんなら、むやみに長門に怯えたりしないでしょ。でも二人でいるところを想像すると……ちょっと堅いわね。そうねぇ、やっぱり堅さを溶かすには甘いもの。これなんてどうかしら? 」

長門 「ん? それは? 」

陸奥 「これはねぇ……特別な間宮券よ。メニューにないスペシャルパフェを出してもらえるやつ」

長門 「スペシャル……」

陸奥 「わたしも今日食べたんだけどね。新鮮なフルーツとチョコレートをいっぱいいっぱい使った大盛りパフェでね……」

長門 (ゴクリ)

陸奥 「もー、おいしくてほっぺたが落ちるかと思ったわ~。これ、二枚残ってるから、朝潮ちゃんを誘って食べてきたら? 」

長門 「もらってもいいのか? 」

陸奥 「ええ♪ 長門と食べに行こうと思ったんだけど、そういう事情ならね。わたしはもう1回食べちゃったし(試食と称してね)」

長門 「ありがとう陸奥、感謝する! 」




50: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:28:22.78 ID:2fEOC8Zdo


長門 「しかし、どうやって誘ったものか…… 」

陸奥 「そうねぇ……。間宮券が余ったから、作戦で頑張ってくれた朝潮ちゃんをねぎらいたい、とかでいいんじゃないかしら? わたし、朝潮型駆逐艦に仲の良い子がいるから、良かったらアポイント取るわよ」

長門 「な、なるほど……。感謝状の代わりと言うわけか……うむ、それならわたしでも出来そうだ! 」

陸奥 「じゃあ明日のおやつの時間、1500に間宮さんのお店で待ち合わせでいいかしら? 長門と朝潮ちゃんじゃ、会話の間が持たないでしょうから、現地集合でおいしく食べて解散! これなら行けるんじゃない? 」

長門 「う、うむ……そうだな。しかし陸奥、流れるような作戦立案だな」

陸奥 「えっ! そ、そうねぇ、ほら、わたしは普段からいろいろ余暇を楽しんでるから、こうやって待ち合わせとかすることが多いのよ、あははは」

長門 「そうか、やはり何事も経験だな……」

陸奥 「それじゃあ、後はどんなお話をするかを考えましょ、そうしましょ♪ 」

長門 「うむ、何から何まですまないな」




51: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:28:50.86 ID:2fEOC8Zdo


………
……

長門 「うむ、これで何とかなりそうだ。ありがとう陸奥、明日はしっかりと任務を果たして見せる」

陸奥 「ええ、がんばってね長門。明日はわたしが秘書艦の日だから応援には行けないけれど……」

長門 「大丈夫だ、任せておけ! 」

陸奥 (よし、これで計画通りね)


陸奥 「それじゃあ荒潮ちゃんに連絡しなきゃ……えっと、『ネコネコネコ1500』」

荒潮 「1500了解。楽しみねぇ~」


陸奥 「さぁーて、明日はしっかりと覗かなきゃね! 準備準備……」




52: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:29:17.80 ID:2fEOC8Zdo


――――― 1500 間宮さんのお店

朝潮 (そわそわ そわそわ)

長門 「おお朝潮はもう来ていたか。今日は呼び立ててすまないな」

朝潮 「長門さん! ほ、本日はお招きいただき、きょ、きょ、恐縮です! 」

長門 「まぁ、そう固くなるな。今日はわたしからの感謝なのだからな」

朝潮 「は、はい! 」




53: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:31:13.28 ID:2fEOC8Zdo


――――― 少し離れた木陰

荒潮 「あ、陸奥さん、もう少し低くならないと角がはみだしてるわ」

陸奥 「あらあら、もう、こういう時は邪魔ね! 」

荒潮 「二人とも座りましたよ……朝潮ちゃん、すっごく緊張してる……かわいいわぁ」

陸奥 「長門も余裕ぶってるけど、あれは相当緊張してるわね。もー、小さい子の緊張をといてあげる立場なのにぃ」

荒潮 「でもー、朝潮ちゃんも急に話しかけられたら困っちゃうタイプだし、意外と相性はいいのかもですよぉ~? 」

陸奥 「そうなの~? あ、でも長門が頑張ってお話する気よ。盗聴器スイッチオン」

荒潮 「うわ、これよく聞こえるわねぇ~ 」

陸奥 「青葉に借りたのよ。あの子ったらどこでこんなの手に入れるのかしら」




54: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:31:51.60 ID:2fEOC8Zdo


――――― 再び間宮さんのお店

長門 「あー、朝潮」

朝潮 (がたっ)「は、はい! 」

長門 「いちいち起立しなくていい。今日は余暇なのだからな」

朝潮 「は、はい、では失礼します」(がたっ)

長門 「まずは先日の作戦、ご苦労だった。朝潮型の皆には物資調達のために遠征フル回転してもらったからな」

朝潮 「い、いえ! それが我々の任務ですから! 」

長門 「いや。妹たちから前線に出たいなどの不満も出ただろう。それをしっかり律してくれたこと、感謝している」

朝潮 「そ、そんな。わたしは当然のことをしたまでで……」

間宮 「あらあら、めずらしいお二人ですね。いらっしゃいませ」

長門 「間宮か。すまんな、おじゃましている。今日はこの特別間宮券でお願いしたい」

間宮 「はーい、特製パフェお二人分ですね。少しお待ち下さいね~」




55: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:32:19.07 ID:2fEOC8Zdo


朝潮 「あ、あのっ」

長門 「ん、なんだ? 」

朝潮 「その……お褒め頂くのはとてもうれしいのですが……実際に頑張ったのは妹達です。ですので、わたしだけがその……ごちそうしていただくのは……」


………
……

荒潮 「朝潮ちゃん……なんて健気な……帰ったら良し良ししてあげなきゃだわぁ」

陸奥 「ほんとに真面目な子ね。すぐに妹のことを気にかけるところとかも、ほんと、長門そっくりね(対抗)」




56: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:33:03.21 ID:2fEOC8Zdo


長門 「ふっ……。その妹が心配しているぞ。朝潮は余暇の時も息抜きをせずに張り詰めているとな」

朝潮 「えっ……」

長門 「余暇に良い休養をとり、妹を安心させるのも姉の努めだ。そして良い余暇がすごせたら、今度は妹達を連れて行ってやればいい」

朝潮 「安心……」

長門 「わたしも人のことは言えないがな(苦笑)。わたしも余暇を楽しむのが苦手でな。陸奥からいつも心配されているんだ」

朝潮 「長門さんも陸奥さんから……。わたしも、いつも荒潮から口うるさく言われています。もっと休もう、もっと遊ぼうって」

長門 「ふふ……妹というのはどこも口うるさいものなのかな? 」

朝潮 「わたしのところは、満潮も霞もいますから……もう大変です」(くすくす)


………
……

荒潮 「口うるさいなんてひどいわぁ~。もー、あとでいじめてあげるんだから」

陸奥 「うふふ……。でも、妹談義で打ち解けたみたいで良かったじゃない」




57: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:33:40.42 ID:2fEOC8Zdo


間宮 「おまたせしましたー。スペシャルパフェでーす」

長門 「こ……これは……! 」

朝潮 「す、すごい……。巨大で……チョコと生クリームがたっぷりで……」

長門 「貴重品のいちごがこんなにも贅沢に……」

間宮 「皆さんから大好評なんですよー。さ、溶けないうちに召し上がって下さいっ」

朝潮 「はいっ、い、頂きます! 」

長門 「ああ、い、頂こうっ」


ハムハム パクパク


………
……

陸奥 「もー、せっかくの機会なのにひたすら無言で食べるなんて」

荒潮 「あのパフェを前にしてはしかたないわぁ。でも、あの朝潮ちゃんが遠慮も忘れてパクパク食べるなんて……ふふ、よっぽど食べたくなったのねぇ」

陸奥 「長門も、いつも世間体を気にするのに、それどころじゃないって感じね。ふふ、パフェはお持ち帰りできないから、なかなか食べられないものね。良かったわ」




58: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:34:19.46 ID:2fEOC8Zdo


朝潮 「…………夢のようでした(ぼーぜん)」

長門 「……天国を垣間見たな(ぼーぜん)」

間宮 「うふふ、お二人共見事な食べっぷりでした。ありがとうございます♪ 」

朝潮 「…………」

朝潮 「……はっ! し、失礼いたしましたっ。わたしとしたことがガツガツとっ」

長門 「あ、ああ……。いや、気にしなくていい。そんなにも喜んでもらえて良かった。実はわたしもはじめて食べたのだが、我を忘れてしまった……」

朝潮 「わ、わたしも……パフェというものをはじめて食べたのですが……このような魔性の食物だったとは……」

長門 「甘いものの魔力は恐ろしいな…… 」

朝潮 「ほんとうに……はっ! わ、わたし、キラキラしてしまっています……パフェを食べただけで戦意高揚するなんて……恥ずかしいです……」

長門 「いや、わたしもだ。艦娘は良い余暇を過ごせるとみなこうなるらしい。だから余暇も大切だということだな(陸奥の受け売りだが)」

朝潮 「な、なるほど! 長門さん、今日は本当に勉強になりました! これからは妹達にも甘いものを食べさせようと思います! 」

長門 「ああ、余暇を満喫することで次の作戦に備えてくれ」

朝潮 「はいっ! ありがとうございますっ! 」




59: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:34:48.73 ID:2fEOC8Zdo


――――― 夕方 提督執務室


陸奥 「まぁそんな感じで、長門にしては上々だったわ♪ 」

提督 「そうか……これで少しは長門の意識も変わるといいな」

陸奥 「そうね。急に性格が変わる、なんていうことは無いでしょうけど、少しずつでもね」

提督 「そうだな」

陸奥 「それより、今日は無理を言って抜け出させてもらってごめんなさいね」

提督 「いや……見届けたくなるのは当然だろう。こうして報告してもらうことで俺も助かるから、気にしなくていい」

陸奥 「ありがと♪ お礼に美味しいお茶を入れるわね」




60: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/19(金) 20:35:30.75 ID:2fEOC8Zdo


陸奥 「はい提督。美味しいお茶と、おみやげに買ってきた間宮印の羊羹よ」

提督 「ああ、ありがとう」


ズズー


陸奥 「ね、提督」

提督 「ん? 」

陸奥 「わたしや荒潮ちゃんが、こんなに大騒ぎしてまで、姉の息抜きを応援するのってどう思う? やっぱりおせっかいだと思う?」


じっと目を見ながら聞いちゃう。この人は嘘をつくのが嫌いだから、きっと本音を言ってくれる。


提督 「いや……。誰かが自分の幸せのため頑張ってくれるのは素晴らしいと思う。まして今回の件は、陸奥や荒潮が正しいだろう」

陸奥 「ほんと……? 本当に正しいと思う……? 」


じっ……


提督 「……ああ、本当にそう思う」

陸奥 「うふふ、それなら良かったわ♪ 」


うふふ、言わせたみたいでごめんね。今回の件が長門だけじゃなく、あなたにも何かのきっかけになると良いんだけれど……。わたしが幸せを願っているのは、長門だけじゃないんだから♪




67: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/21(日) 19:22:10.19 ID:J6ij/0KYo



――――― 数日後 街のファンシーショップ




68: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/21(日) 19:22:50.81 ID:J6ij/0KYo


朝潮 「わたしが選んだのはこのイルカさんです! 」

長門 「ほう……では理由を聞こうか」

朝潮 「はいっ! まずイルカさんはとてもかわいいです。しかも、わたしたちが航海中、並走して挨拶してくれたりする海の仲間でもあります。毎晩一緒に寝る相手としては最高だと思います! 」

長門 「ふむ……悪くないが、まだまだ甘さもあるな」

朝潮 「……」

長門 「わたしが選んだのは……これだ」

朝潮 「そ、そんな……巨大なくじらさん……しかも二頭ペアで……! 」

長門 「今回の任務は、毎晩一緒に寝るパートナーぬいぐるみを選ぶことだ。だが……大きさも数も指定されていないことに気が付かなかったか? 」

朝潮 「!! 」

長門 「海の仲間であるイルカさんを選んだことは評価する。しかし、一緒に寝るということはつまり抱いて寝るということ。その子では大きさが不足だ」

朝潮 「た、確かに…… 」

長門 「しかも……仲間たちから離れて朝潮の部屋に引っ越すんだ。一頭だけではきっと寂しいだろう…… 」

朝潮 「そ、そのとおりですっ。この朝潮、配慮が足りずイルカさんに寂しい思いをさせるところでした! 」

長門 「わかってくれればそれでいい。さあ、選びなおしてくるといい」

朝潮 「はいっ! 長門さん、アドバイスありがとうございます! 」




69: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/21(日) 19:23:22.19 ID:J6ij/0KYo


――――― 少し離れた棚の影


陸奥 「長門ったら、あんなに生き生きして……良かったわね…… 」

荒潮 「朝潮ちゃん、あんなに楽しそうにぬいぐるみを選んで……。よかったわぁ」

陸奥 「でも、あのくじらさん二頭が部屋に来るのね。せまくなりそうねぇ」

荒潮 「朝潮ちゃんのイルカさんは小さめで良かったわぁ。うふふ、でも、帰ったら満潮ちゃんにからかわれそうね」

陸奥 「うふふ、そうね。そこはフォローしてあげてね」

荒潮 「もちろんですよぉ。それに、満潮ちゃんだって本当は羨ましいからからかうんですよ~。今度は朝潮型みんなで買いに来ようかしらぁ」

陸奥 「そうね、これをきっかけに姉妹みんなで来るのも楽しそうね。わたしも長門と来ようかしら~」




70: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/21(日) 19:23:54.80 ID:J6ij/0KYo


――――― 別の棚の影


電  「はわわ……なんだか長門さんと朝潮ちゃんが変なのです」

雷  「す、すごいものを見ちゃったわね」

暁  「長門さんどうしちゃったのかしら……はっ! まさか深海棲艦の『せいしんこうげき』かも! 」

響  「二人とも買い物を楽しんでるだけじゃないか。楽しそうで良いと思うけど」

雷  「そうだけど……長門さんがあんまりにもイメージと違って……」

響  「長門さんがぬいぐるみ好きだって別におかしくは無いだろう? 」

電  「そ、そうですね……長門さんがぬいぐるみを好きでもおかしくは無いです……でも、すごく意外なのです! 」

暁  「長門さんは仕事ができる大人のレディだと思っていたけど……レディがぬいぐるみを好きでもいいのかしら……そういえば大人のレディであるわたしもぬいぐるみが好きだから、うん、全然おかしくないわね! 」

雷  「そうね、意外ではあったけど別におかしくはないわね。長門さんにも本当は可愛らしいところがいっぱいあるのかも」




71: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/21(日) 19:24:27.10 ID:J6ij/0KYo


――――― 午後 提督執務室


陸奥 「とまあ、そんな感じで今日の作戦も大成功だったわ♪ 」

荒潮 「ぬいぐるみを持って帰ってきて『これは任務だから!』なんて必死に言い訳する朝潮ちゃんを見るのが楽しみだわぁ」

提督 「………… 」

陸奥 「な、なあにその沈黙。確かに、ちょおっと趣味に走っているとは思うけど、ちゃんと長門のためになってるわよ……多分……」

提督 「そうだといいんだが…… 」

陸奥 「あ、でもちょっと困ってはいるのよね」

荒潮 「あらぁ。順調だと思っていたけれど、そうでも無いの? 」

陸奥 「えっとね、陸奥は駆逐艦の子たちに怖がられて遠巻きにされてるでしょ? 」

荒潮 「そうですねぇ……確かにそれはあるかもだわぁ」

陸奥 「朝潮ちゃんと仲良くなったことをきっかけに、いろんな駆逐艦の子たちと仲良くなれればって思っていたのよ」




72: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/21(日) 19:25:01.66 ID:J6ij/0KYo


陸奥 「でもねー。長門と朝潮ちゃん、確かに仲良くはしているんだけれど……なんか上官と部下っていう感じで、お友達の輪が広がりそうな感じじゃないなぁって」

荒潮 「あははは~、朝潮ちゃんにそれを求めるのは無理よぉ。姉妹相手にすら堅い子だもの~ 」

陸奥 「そうよねぇ。そろそろ次の段階として、長門とお友達になってくれる駆逐艦を探してみようかしら」

荒潮 「うふふ、陸奥さん、長門さんのママみたいですよぉ」

陸奥 「うーん、過保護かしら? でもねぇ。長門って無愛想な上に大柄でしょ? それだけで駆逐艦の子たちから怖がられちゃうのに、立場もあるからなおさらねー」

提督 「確かに、長門には総旗艦としていつも先頭に立ってもらっているから、厳しく律することで小さい子から恐れられることも多いだろう」

荒潮 「そうねぇ。必要なことだと分かっていても、厳しく叱られて泣きそうになってる子とかいるわよねぇ」




73: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/21(日) 19:25:40.56 ID:J6ij/0KYo


荒潮 「大柄で無愛想で、立場上厳しいことも言って恐れられるって、提督もそうじゃない。遠征報告とかもみんな来たがらないしぃ」

提督 「……俺は司令官だから構わないが、長門は同じ艦娘仲間から怖がられてはつらかろう」


……この人は、また自分だけ雑な扱いをするんだから。もうっ!


陸奥 「だーめよ提督。最終的には、駆逐艦の子が嬉しそうに報告に来るような執務室にしなきゃ! 今来るのは曙ちゃんとか満潮ちゃんとか霞ちゃんとか……向こうっ気の強い子たちばかりじゃない」

荒潮 「しかもなるべく、陸奥さんが秘書艦の日を選んでるんですよぉ(くすくす)」

陸奥 「え、そうなの!? 」

提督 「そういえば、俺と長門で執務しているときは、ほとんど誰も来ないな…… 」

陸奥 「事態は深刻だわ……はぁ」




74: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/21(日) 19:26:24.98 ID:J6ij/0KYo


バタン

金剛 「ヘーイ提督~! 今日こそ一緒にAfternoon Teaといきまショウ! 」

陸奥 「あら金剛。出撃お疲れ様~ 」

比叡 「ただいま戻りましたっ 」

榛名 「今日も無事勝利を勝ち取ってまいりましたっ 」

霧島 「報告書はこちらに」

提督 「みな出撃ご苦労だった。損傷も特に無いようで良かった」

金剛 「ワタシ達は平気なのですが…… 」

榛名 「加賀さんと赤城さんが入渠しています。ごめんなさい、わたしたちがついていながら……」

陸奥 「開幕雷撃はどうしようも無いわよねぇ。無事突破できたんですもの、みんなお疲れ様♪ 」

金剛 「Thank you! では報告も終わったので、提督、一緒にAfternoon Tea行きまショウっ! 」

比叡 「お姉さま、司令はこれまで何度お誘いしても来なかったじゃないですか。もう誘うのはやめたほうが…… 」




75: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/21(日) 19:27:09.70 ID:J6ij/0KYo


提督 「毎度毎度申し訳ないが、俺はここを離れるわけには行かないし、まだ執務時間中だ。皆で楽しんできてくれ」

金剛 「Oh...提督は今日も連れないデース! では、残念ですが失礼シマース! 」

陸奥 「あ、ちょっと待って。良かったらちょっとアンケートに答えて欲しいんだけど」

榛名 「アンケート……ですか? 」

陸奥 「ええ。『戦艦相手でも物怖じせずに仲良くできる駆逐艦』のおすすめを教えて欲しいのよ」

霧島 「ふむ……艦隊編成上の悩みでしょうか? 」

荒潮 「そうなんですよぉ。長門さんみたいな怖い戦艦さん相手でも萎縮しない子って誰かなーって相談してたんです」

霧島 「そうですね……わたしたちと違って武闘派っぽい長門さんは怖がられるかもしれませんね」

榛名 「えっ……? 」

霧島 「ん? どうしたの榛名? 」

榛名 「あ……う、ううん、なんでもないの……あはは」




76: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/21(日) 19:28:10.41 ID:J6ij/0KYo


金剛 「ワタシのおすすめはやっぱりブッキー……吹雪ネ! いつも前向きで可愛い子デース! 」

比叡 「うーん……わたしは五月雨かな。物怖じするどころか戦艦に砲撃してくる子ですからっ(誤射だけど)」

榛名 「わたしはそうですねぇ……雪風さんかしら。雪風さんと一緒にいると、いつも良いことが起きる気がして楽しくなります」

霧島 「そうですね……綾波かしら。あの子は芯に強烈なものを秘めているわ」

陸奥 「ふむふむ……なるほど、参考になりました。皆さんありがと♪ 」

金剛 「ハーイ! では失礼するデース! 」

比叡 「では早速Afternoon Teaの準備に入りましょう。今日はこの比叡がスコーンをつくr」

榛名 「比叡姉さんっ! 今日はわたしがスコーンを用意しました! 」

霧島 「比叡姉さんはいつも通り、ワゴンのご用意をお願いしたいです」

比叡 「わっかりましたー! 」


ワイワイ




77: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/21(日) 19:29:49.78 ID:J6ij/0KYo


陸奥 「とりあえずお友達候補を決めて、そこから作戦を考えるのが良さそうね。おすすめしてもらったけど誰がいいかしら~ 」

荒潮 「朝潮型が誰も出なかったけれど……そうねぇ、わたしから見ても朝潮型には候補はいないわねぇ。しいて言えば山雲ちゃんかしらぁ」

陸奥 「金剛型からの候補は、吹雪、五月雨、雪風、綾波……。他に誰かいるかしら? 」

荒潮 「そうですねぇ……漣ちゃんなんかは、誰とでも仲良くしてるわねぇ」

陸奥 「あとは……島風ちゃんは長門相手にも気後れはしなさそうだけど……声もどことなく似てるし……でもお友達って感じじゃないかしら……」

荒潮 「こうやって見ると駆逐艦って多いわねぇ」


さて、もう一人の本命からも意見を聞いてみようかしら。とは言え提督がおすすめを言うとは思えないけれどね。


陸奥 「提督はどう思う? 長門相手でも気後れせず友だちになって仲良くしてくれそうな子って、心当たりある? 」

提督 「……いま出た候補だと、吹雪や綾波は朝潮と同じような感じで上官と部下の関係になるだろうな。雪風はああ見えて繊細だからやめたほうがいい。漣は相手をみて行動を決めるタイプだから、そもそも長門には近づかないだろう」




78: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/21(日) 19:30:39.92 ID:J6ij/0KYo


荒潮 「あらぁ意外。随分細かく見てるのねぇ」

陸奥 「それは提督ですもの。色々難しいのはわかるとして、提督のおすすめの子はいるの? 」

提督 「比叡とかぶるが、五月雨だな。五月雨なら間違いなく上手くいくだろう」


!! 意外! 提督がおすすめを言うだけじゃなく、こんな断言するなんて!


荒潮 「……さらに意外だわぁ。提督がそんなに五月雨ちゃん押しだったなんてぇ」

陸奥 「……ええ、わたしもびっくり。提督が誰かをこんな風に押すのはじめて見たわ」

提督 「俺なりの意見だ。ではこの話は終わりでいいな。仕事に戻る」



この提督が「間違いなく上手くいく」なんて自信をもって断言するなんて……。さすがにちょっと嫉妬しちゃうわね! 五月雨ちゃんと提督、以前に何かあったのかしら……? これは早速確認しないといけないわね!




86: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/23(火) 19:11:19.60 ID:Gf19dp4Co



――――― 同日夕方 五月雨たちの部屋




87: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/23(火) 19:11:56.42 ID:Gf19dp4Co


コンコンコン

涼風 「はーい、あいてるよー! 」

陸奥 「おじゃましまーす。ごめんね、突然」

涼風 「おや陸奥さん、めずらしいねぇ」

五月雨「あ、陸奥さーん、こんばんは! 」

陸奥 「こんばんは。ちょっと五月雨ちゃんにお話があってねー」

涼風 「陸奥さんっ! 五月雨には悪気はないんだっ! ただドジなだけなんだよっ。だから許してやってくれよ! 」

五月雨「ご、ごめんなさい……あのことかな……このことかな…… 」

陸奥 「え……? あ、ううん、何かを怒りにきたんじゃなくて、ちょっとお願いがあってね」




88: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/23(火) 19:12:52.47 ID:Gf19dp4Co


涼風 「なんだぁ、またやらかしたのかと思ったよ」

五月雨「えへへ、わたしもそう思っちゃった」

陸奥 「うふふ、ドジは五月雨ちゃんのトレードマークだものね」

五月雨「ああ、ひどいですっ(ぷくっ)」

涼風 「ほんとのことだから仕方ないよっ! 」

陸奥 「あはは、ごめんね。じゃあ涼風ちゃん、ちょっと五月雨ちゃんを借りるわね」

涼風 「なんだ、ここで話してくれてもいいのに」

五月雨「ナイショ話なんですか? 」

陸奥 「内緒ってほどじゃないけどね」

涼風 「ふぅーん、がってんだよ、晩ごはんまでには帰っておいでよー」

五月雨「はぁーい」




89: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/23(火) 19:14:02.31 ID:Gf19dp4Co


――――― 少し後 中庭のベンチ


??? 「サア、ソロソロヤセンダヨー」

陸奥 「うふふ、あの声が聞こえると、そろそろ日が暮れるって気がするわねー」

五月雨「はいっ! 声で時間を知らせるなんて、なんだかニワトリさんみたいですね! 」

陸奥 「……。じゃ、じゃあ晩ごはんまでにお話済ませないとだから、ぱっぱと話しちゃうわね」

五月雨「はいっ、どうぞ! 」

陸奥 「実は長門のことなんだけどね、長門って結構怖がられてるでしょ? 特に駆逐艦の子たちから」

五月雨「長門さんが怖い……ですか? うーーん……言われてみれば、なんだか怖がっている子が結構いたような……」

陸奥 「そうなのよー……(陸奥説明中)……そんな感じなの」

五月雨「そっかぁ。作戦の時なんかに厳しくされて、怖がってる子が多いってことですね! 」

陸奥 「でもね、そんな風に遠巻きにされると長門がかわいそうだし……あとはね、長門が秘書艦の時は、駆逐艦の子たちは怖がって報告に来なかったりするんですって。そういう実害もでていてねー」

五月雨「そんなに怖がられているんですか。困りましたねー」

陸奥 「それでね、もし良かったら五月雨ちゃん、長門と仲良くしてあげてくれないかしら? 」

五月雨 「???」

陸奥 「それでね、それをきっかけに、駆逐艦の子たちとの交流が増えたらいいなと思うのよ。実はもう始めていて、朝潮ちゃんとは仲良くしてるんだけどね」

五月雨「すごい、素敵ですね! そういうことであれば是非お手伝いさせて下さいっ」




90: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/23(火) 19:15:04.90 ID:Gf19dp4Co


陸奥 「でも……五月雨ちゃんは長門を怖がらないのね? 」

五月雨「うーん……わたしも、ドジやっちゃって何度も叱られてますけど……それは長門さんだけじゃなくいろんな人から叱られてますし……比叡さんとか…… 」

陸奥 「……叱られ慣れなのかしら」

五月雨「わかりません……(しょぼん)」

陸奥 「でも、怖がらず仲良くしてくれるのはとっても嬉しいわ♪ 」

五月雨「はいっ、お任せ下さい! でも長門さんはわたしみたいなドジな子は苦手かもですけど(ぺろっ)」

陸奥 「大丈夫よ~。長門は小さい生き物やかわいいものが大好きなの。だから、ほんとは駆逐艦の子とも仲良くしたいのよ 」

五月雨「小さい生き物……確かに長門さんから見たら小さいですけどっ」

陸奥 「あは♪ 」




91: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/23(火) 19:16:42.10 ID:Gf19dp4Co


陸奥 「実はね、長門と仲良くしてくれそうな駆逐艦ということで、提督が五月雨ちゃんを推薦してくれたの。絶対上手くいくって」

五月雨「そうだったんですか! それはご期待に応えないとですねっ。最近全然お会いできないけど、ちゃんと覚えててくれて嬉しいです~♪ 」

陸奥 「でもね、あの提督が『絶対上手くいく』なんて太鼓判を押したのにすごく驚いたの。五月雨ちゃんは提督とはそんなに仲良しなの? 」


やっぱり気になるのよね。五月雨ちゃんが言うとおり、二人で会っているところとか見たことも無いし……。


五月雨「そうですね、最近は全然お会いする機会がなくなっちゃいましたけど、最初に二人で鎮守府を始めた時は、ずっと秘書艦として頑張ってました! 」

陸奥 「……そっか、五月雨ちゃんは初期艦だったのね」

五月雨「はい、きっとその時のことを覚えていてくれたんだと思いますっ! 」




92: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/23(火) 19:17:21.43 ID:Gf19dp4Co


陸奥 「そうねぇ……。それじゃあこういうのはどうかしら。長門が秘書艦の時に、秘書艦補助みたいな感じでひさしぶりに秘書艦仕事をやるの」

五月雨「うわぁ、それは嬉しいです! 」

陸奥 「一緒にお仕事すれば仲良くなれるかもしれないし……それにね、長門は多分、秘書艦としても相当堅いと思うのよ。で、提督があれでしょ。きっと無言の、すごい寒々しい感じの執務室になっているでしょうから……きっと良い刺激になるわ」

五月雨「提督が……? でも、わかりましたお任せ下さいっ。ひさしぶりの秘書艦、とっても楽しみです! 」

陸奥 「五月雨ちゃんは、明日は遠征予定は何も無かったわよね。じゃあ、急で悪いんだけど明日でも大丈夫かしら? 」

五月雨「はい、明日で大丈夫です。うわぁ、何を着て行こうかなぁ~ 」

陸奥 「五月雨ちゃん、執務なんだからちゃんと制服で来てね」

五月雨「あはは、そうでした(ぺろっ)」


うふふ、五月雨ちゃんはかわいいわ。さてっ、急だけれどうまくいきそうだし早速提督に伝えにいかなきゃね!




93: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/23(火) 19:18:02.89 ID:Gf19dp4Co


――――― 夜 提督執務室

コンコンコン

提督 「どうぞ」

陸奥 「こんばんは提督。もう今さらだけど、こんな暇な時期でもやっぱり残業してるのね」

提督 「簡単なチェックをしているだけだ。どうした、こんな時間に? 」

陸奥 「長門の件よ。早速五月雨ちゃんのところにお願いに行ったんだけど、確かに提督の言うとおり、彼女なら長門と仲良くしてくれそうね♪ 」

提督 「そうか」

陸奥 「五月雨ちゃんは初期艦だったのね。提督が五月雨ちゃんと話してるところなんて見たことなかったから、知らなかったわ」

提督 「そうだな。秘書艦が変わってからは、そもそも接点もないからな」

陸奥 「それでね、初代秘書艦でもあることだし、長門が秘書艦の時に秘書艦補助で来てもらって、それで仲良くなってもらおうかなって思うの」

提督 「……」

陸奥 「でね、急なんだけど明日来てもらうことにしたの。大丈夫かしら? 」

提督 「…………まずい」

陸奥 「うん、じゃあ大丈夫ね♪ って、えぇ! ダメなの!? 」


まさか提督がダメって言うとは思わなかったわ!




94: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/23(火) 19:18:29.39 ID:Gf19dp4Co


陸奥 「ごめんなさい、まさかダメとは思わなくて、五月雨ちゃんともう決めて来ちゃったの。早速断ってくるわね」

提督 「あ……いや、そういうことなら断らなくていい」

陸奥 「え……? 本当に大丈夫? 」

提督 「ああ……俺が叱られれば済むことだ」

陸奥 「は……? 提督が叱られるの? 五月雨ちゃんじゃなくて? 」

提督 「………… 」


ど、どういうことなの! 気になる、すっごい気になるわ!
明日はしっかり覗きに来ないとね!




101: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/25(木) 20:12:15.30 ID:ecQuw+FHo



――――― 翌朝 提督執務室





102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 20:13:17.25 ID:ecQuw+FHo


五月雨「おはようございまーす! 」

長門 「おはよう。陸奥から話は聞いている。今日はよろしく頼む」

五月雨「はいっ、おまかせください! うわー、提督おひさしぶりです! 最近全然お会いできませんでしたがお元気でしたか? 」

提督 「あ、ああ。元気にしている。ひさしぶりだな」

五月雨「ほんとですよー。もー、提督ったら執務室から全然出てきてくれないんですから。初期の頃からのメンバーはみんな寂しがってますよっ」

提督 「い、いやその、いろいろ忙しくてな…… 」

五月雨「忙しくて大変なんですね! それなら五月雨がばっちりお手伝いしますっ」

長門 「……五月雨は、提督と随分と親しいんだな」

五月雨「初期艦ですから、長い付き合いですしっ」




103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 20:14:05.68 ID:ecQuw+FHo


――――― 隣の物置部屋


陸奥 「……この盗聴器、ほんとに良く聞こえるわね。提督がなんだかうろたえてるみたいだけど……どういうことなのかしら」


気になって盗み聞きに来てるんだけど……こんな高性能な盗聴器で青葉は普段から何をしているのかしら。あの子にも困ったものねー。


陸奥 「ま、今のわたしじゃ、人のことは言えないわね。でも気になっちゃうんだからしょうがないのよね~ 」


さてさて、提督が五月雨ちゃんに叱られるって、どういうことなのかしら……




104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 20:15:20.22 ID:ecQuw+FHo


――――― 再び提督執務室


五月雨「えっと、遠征記録は……わたしの頃と比べるとものすごく増えてますね。ありました、これです」

提督 「ああ、ありがとう」

長門 「五月雨、ついでに横にある補給記録もとってもらえるか? 」

五月雨「はいっ、えっと、これですね。今お持ちしますっ」

長門 「ふふふ……五月雨は戦場でドジをしている印象が強かったが、秘書をしているとテキパキとしていて頼りになるな」

五月雨「ああ、ひどいですっ。わたしだってやるときはちゃんとやるんですよっ……って、うわぁ!」


ステン


五月雨「うう、言ったそばから転びましたぁ」

長門 「……やっぱり五月雨は五月雨だな」

五月雨「う~、返す言葉もありません~ 」

提督 「五月雨用の絆創膏がまだ引き出しに入っていた。さ、使うといい」

五月雨「まだ残ってたんですね……えへへ」




105: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/25(木) 20:16:27.24 ID:ecQuw+FHo


長門 「さて、補給の状況をチェックするか」

五月雨「じゃあリストの読み上げはわたしがやります」

長門 「おお助かる。五月雨は秘書艦仕事の分業に慣れているなあ」

五月雨「えへへ、最初はわたしひとりじゃうまくできなくて、他のみんなが手伝ってくれたりしていたんです。それでですねー」

長門 「そうだったのか。では早速お願いしよう。補給は生命線だからな。入念にチェックしなくては」

五月雨「はいっ! 補給無しでは戦えませんからっ! 」


……


陸奥 (五月雨ちゃん、長門をほんとに怖がらないのね。いつも一緒にいるみたいに普通に溶けこんでるなんてすごいわぁ)


でも、提督は全然叱られたりしていないわね。提督が五月雨ちゃんに叱られるとか全然ピンとこなかったけど、やっぱりあれは提督の冗談か何かだったのね。




106: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/25(木) 20:17:20.98 ID:ecQuw+FHo


――――― 1030 提督執務室

五月雨「あ、1030ですね。午前休憩の時間ですよー」

提督 「あーっと……五月雨、その件なんだがな……」

五月雨「? 」

長門 「ん……? 午前休憩なんて取っていないぞ」

五月雨「えっ……? 休憩してないんですか? 」

長門 「ああ、特にとったことはないな」

提督 「いや、これはだな……」

五月雨「…………まさかとは思いますが……お昼休憩はちゃんととっていますよね……? 」

長門 「いや、昼も食べないことが多いな。わたしも提督も、特に昼食にはこだわらないからな。職務のほうが大切だ」

五月雨「……………… 」

提督 「…………」

五月雨「…………提督? 約束……しましたよね…………? 」

長門 「約束……? 」

五月雨「まさか……忘れちゃったんですか? 」




107: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/25(木) 20:18:34.14 ID:ecQuw+FHo


提督 「いや、その……忘れてはいない。ただその……忙しくてうっかりとな……」

五月雨「もうっ! もうっ! そんなの前からじゃないですかっ! あんなに約束したのにっ! うわぁぁっぁあん」

長門 「ど、どうした五月雨、約束とはなんなのだ」

五月雨「ぐす……秘書艦を退任するとき……提督と約束したんです。秘書艦がかわっても、休憩と食事はちゃんとするって」

長門 「な、なぜまたそんな約束を…… 」

五月雨「長門さんも長門さんですっ!(キレ気味) 」

長門 「な、なんだっ」

五月雨「提督の健康管理も秘書艦の大事なお仕事です! 休憩と食事は補給みたいなものですから、これがなくては提督だって戦い続けることはできませんっ! 」

長門 「!! 」

五月雨「提督は仕事仕事で、自分の休憩や食事をすぐに蔑ろにします。だから秘書艦が気を使って、しっかり補わないとですよ! 」

提督 「いやその、俺が何も言わなかったからで、長門が悪いわけでは…… 」

五月雨「提督は黙っていてください! 」

提督 「はい……」


……


陸奥 「……驚いたわ。提督、ほんとに叱られてる…… 」

五月雨ちゃん、おとなしい子だと思ってたけど、おねえちゃんタイプだったのね。でも、五月雨ちゃんのいうことには大賛成よ。提督はとにかく自分の扱いが雑なのよね。



108: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/25(木) 20:19:36.95 ID:ecQuw+FHo


提督 「いやその、本当に俺が悪いんだ。相変わらず休むのが苦手でな」

長門 「その、わたしも確かに配慮が足りなかった。そういえば陸奥が秘書艦の時はほどほど休憩をとっていると聞いていた。今後はわたしも気をつける」

五月雨「本当ですか……今度こそ本当に約束ですよ……? 」

提督 「…………。わかった、今度こそ必ず守るから。今回はそれで許してくれ」

五月雨「わかりましたっ! 許しちゃいますっ。じゃあ、早速休憩用のお茶請けを買ってきますね!」


ドタドタドタ バタン


長門 「……。おとなしい娘だと思っていたんだが……実は強気なんだな……」

提督 「ああ……。普段は優しいんだが、特定のことに関しては本気で怖くてな」

長門 「誰かに叱られたなどどの位ぶりだろう……」


バタン


長門 「っ! ど、どうした! 」

提督 「いや、怖いとか言ってないぞ! 」

五月雨「……おさいふを忘れました! 」




109: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/25(木) 20:20:15.92 ID:ecQuw+FHo


――――― 昼過ぎ 提督執務室

五月雨「う~ん(伸び)。そろそろお昼ですね。食堂に行きますかっ? 」

提督 「いや、ここを離れたくない。弁当か何かだと助かるのだが」

五月雨「もー、提督。最近食堂にも全然来てくれないですよね! 仕方ない、ちょっと買ってきますっ。長門さんもお弁当でいいですか? 」

長門 「ああ、それでいい」

五月雨「はーい、では行ってきます! 」

提督 「五月雨、財布はもったか? 」

五月雨「……あ」

提督 「ほら、俺の財布だ。これで買ってきてくれ」

五月雨「はいっ、行ってきます! 」




110: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/25(木) 20:21:28.77 ID:ecQuw+FHo


――――― 少し後 提督執務室 昼食中


五月雨「モグモグ それでですね、最近入った嵐ちゃんっていう子が、涼風や江風となんだか気が合うみたいで」

長門 「嵐は陽炎型だな。仲良くしているなら良いことじゃないか? 」

五月雨「それがですね、三人ともすごく男の子っぽくて……鉄砲のおもちゃで森で戦いごっこをしたりとかしてるみたいなんです」

提督 「本格的なサバイバルゲームを戦いごっこというのはかわいそうだと思うが……」

長門 「ほう。訓練にもなって楽しそうではないか」

五月雨「えー、でもみんな女の子なんですから、もうちょっと女の子らしいことにも興味を持ってもらわないと、お姉ちゃんとしては心配です」

長門 「その辺は、わたしも人のことは言えないからな」

提督 「でも長門は最近、ぬいぐるみや甘いものも楽しんでるそうじゃないか」

五月雨「うわー、いいですね! あの子たちもそういうのに興味をもってくれないかなぁ」

長門 「そうだな、ぬいぐるみは心を癒やしてくれる……おすすめだぞ」

五月雨「はい! 妹たちにも話してみますね」


ワイワイ


……


陸奥 (長門と五月雨ちゃん、もうすっかり仲良しね。さすが、提督が太鼓判を押しただけのことはあるわ! ……わたしも、お腹すいたなぁ…… )




111: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/25(木) 20:22:34.48 ID:ecQuw+FHo


――――― 夕方 提督執務室

長門 「さて、今日はこれで終了だな」

五月雨「はいっ。お疲れ様でした! 」

提督 「ああ、お疲れ様」

長門 「五月雨は明日も来るのか? 」

五月雨「はいっ。次の遠征は来週なので、それまでは毎日来るつもりですっ」

提督 「そんなに無理しなくていいんだぞ? 」

五月雨「だめですっ! 提督がちゃんと約束を守ってくれているか見守らないとっ! 」

長門 「あははは、ちゃんとわたしが監視するから大丈夫だ。だが、来てくれるのはわたしも嬉しい。明日は陸奥が秘書艦だから、わたしとはまた明後日にな」

五月雨「はいっ! 明後日もよろしくお願いします! 」

長門 「それでは、わたしは帰るとしよう」

提督 「お疲れ様」

五月雨「お疲れ様でした! 」

長門 「五月雨はまだ帰らないのか? 」

五月雨「えっと、あとちょっとだけ……」

長門 「そうか。ではお先に」


バタン




112: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/25(木) 20:23:33.54 ID:ecQuw+FHo


五月雨「ふー、ひさしぶりの秘書艦仕事は、忙しかったけどとっても楽しかったです! 」

提督 「そうか、それなら良かった。あと……約束を破っていたのは本当にすまなかった」

五月雨「あはは……きっと理由があるんですよね。でもっ! お体が一番大事ですから、これからはちゃんと約束を守ってくださいね」

提督 「ああ、わかったよ」

五月雨「それから……提督? 」

提督 「ん? 」

五月雨「その……一体……どうしちゃったんですか? 」

提督 「いや、どうもしないが? 」

五月雨(じっ………… )

提督 「…… 」

五月雨(うるうる)

提督 「いや……その……五月雨が言いたいことはちゃんとわかっているつもりだ」

五月雨「じゃあ…… 」

提督 「だが……俺にもいろいろ悩みがあり事情がある。時間をかけてゆっくり解決できる……かどうかもわからないが、そういうものだということで勘弁してくれないだろうか」

五月雨「わかりました……でも、わたしにできることがあったら何でも言ってください。本当に心配なんです! 」

提督 「わかった……ありがとう」


……


陸奥 (どういうことなのかしら……)




113: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/25(木) 20:24:15.61 ID:ecQuw+FHo


**********


わたしは、提督は長門と同じような「堅物なこまったさん」だと思っていたんだけど……。この頃から、提督は長門とは違うんじゃないか?って思うようになったのよね。

とにかく提督の心が気になって……明日は絶対、五月雨ちゃんからいろいろ聞き出そう!って決意してたっけ……


**********




120: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:29:34.27 ID:kDRIRqJMo



――――― 夜 長門と陸奥の部屋




121: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:30:42.03 ID:kDRIRqJMo


陸奥 「ただいまぁ~ 」

長門 「おかえり」

陸奥 「遅くなってごめんね、すぐご飯作るから」

長門 「いや、こちらこそ毎日作ってもらってすまんな」


……


長門 「モグモグ それで、五月雨から提督共々がっつり叱られてな」

陸奥 「見たかったわ~。うふふ、長門が駆逐艦に咤られるなんて初めてじゃないかしら? 」

長門 「ああ、小さいのにすごい迫力でな。しかも五月雨のほうが正しいわけだから、わたしとしてもぐうの音も出ない。反省しきりだったぞ」

陸奥 「あらあら。提督のほうはどうだったの? 」

長門 「提督はわかっていて約束を破っていたわけだからより罪は思い。五月雨に怒られて泣かれて、オロオロしながら小さくなっていた。あんな提督をみたのは初めてだったよ……ふふふ」


盗み聞きしていたから当然知っているけれど、やっぱりそんな様子だったのね。うーん、なんだかもやもやするわね。




122: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:32:03.01 ID:kDRIRqJMo


陸奥 「でも、すっかり仲良くできているみたいじゃない。怖がられるから駆逐艦は苦手だって言っていたから心配していたのよ」

長門 「それがな……五月雨はわたしのことをちっとも怖がらないんだ。その上、おしゃべり好きでなんでも話してくれるから、とても楽だった」

陸奥 「五月雨ちゃんはいかにもそういうタイプだものねー」

長門 「それにな、なんというか……」

陸奥 「? 」

長門 「随分と違うように見えるのに……陸奥、どこかお前を重なるところがあってな。それで余計に気楽なんだ」

陸奥 「え、わたしと? 」


わたしはそんなにドジじゃないし……どこか似ているところがあるかしら?


長門 「なんとなくそう感じたんだ。何はともあれ、仲良く出来て助かったよ」

陸奥 「しばらく来てくれるみたいだから、それなら気楽で楽しくていいわね♪ 」

長門 「ああ」


この辺は狙い通りでとっても嬉しいんだけど……。わたしは五月雨ちゃんからいろいろ聞くという目的ができちゃったから、明日はがんばってお話を聞かなきゃね!




123: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:32:49.15 ID:kDRIRqJMo


――――― 翌日1600 提督執務室


陸奥 「今日の執務は無事終了! やっぱりお手伝いに来てもらうと早いわね~。お疲れ様! 」

五月雨「はい、お疲れ様でした! 」

提督 「お疲れ様」

陸奥 「終わったからお茶でも……と言いたいところだけど、ついさっき三時のおやつを食べたばっかりよね」

五月雨「あはは、そうですね」

提督 「俺はもう飲み物はいいよ」

陸奥 「やっぱりそうよねー。じゃあ五月雨ちゃん、帰りましょうか」

五月雨「はい、では今日もお疲れ様でした。提督、また明日! 」




124: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:33:41.96 ID:kDRIRqJMo


――――― 少し後 鎮守府近くの街 静かなカフェ


陸奥 「ごめんね五月雨ちゃん、付き合ってもらって」

五月雨「いえ、どうせこんなに早く終わっちゃいましたし! お話ってなんですか? 」


うーん……まさか昨日盗み聞きしていたという訳にはいかないし……


陸奥 「えっとね、五月雨ちゃんのお話を聞いてると、提督は昔と結構違ってるのかなって気がするのよ」

五月雨「そうなんです! 今とは全然違う感じでした! 」

陸奥 「それでね……。なんというか、秘書艦として改めるべき部分とかもあるかもしれないし、参考までに昔のことを教えてほしいなって」

五月雨「そうですね……わたしも提督には昔みたいに元気になってもらいたいし……是非聞いてください! 」




125: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:34:54.10 ID:kDRIRqJMo


五月雨「わたしが初期艦として提督にお会いしたのは……もう1年以上前になりますね」

陸奥 「わたしは着任から半年ぐらいだから、こうやってみると五月雨ちゃんは大先輩ね」

五月雨「あはは……。随分昔のことのような気がしますね~」


五月雨「最初は二人で、ちょっとずつ仲間を増やしながら手探りで新しい海域を見に行って……そんな生活をしていたんですけど、その頃の提督って、今よりずっと明るかったんです」

陸奥 「明るい……どんな感じかしら。すごく社交的なチャラチャラした提督とか想像もつかないわね」

五月雨「あははは。人見知りで口数が少ないのは変わらないですよ。ただ……まず、良く笑っていました」

陸奥 「…………わたし、提督が笑っているところ、見たことないわ……。苦笑いをしているのぐらいで……」

五月雨「ほんとなんです、いつも優しくて笑顔で……今よりずっと楽しそうでした…… 」




126: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:35:56.16 ID:kDRIRqJMo


――――― 五月雨の回想話


**

五月雨「うわぁ!(コテン) うう、また転びました」

提督 「本当になにもないところで転ぶな……。どこか怪我してないか? 」

五月雨「うう、また膝小僧を擦りむいてます……」

提督 「またか……ほら、絆創膏はるから膝だして」

五月雨「ありがとうございます……」

提督 「おや、これはもう空っぽだな。ふふ……この一箱、結局五月雨が全部使ってしまったな」


ペタリ


五月雨「ありがとうございます! これからは転ばないように気をつけますね! 」

提督 「あ、別に気をつけなくていいぞ」

五月雨「え! ど、どうしてですかっ! 」

提督 「多分、気をつけても絶対に転ぶと思うから、それなら気をつけなくても同じかなってな」

五月雨「ああ! ひ、ひどいですっ! 」

提督 「あははは、すまんすまん、でも半分本音だ、わはは」


**


五月雨「こんな感じで冗談をいったりからかわれたり……」

陸奥 「……(むかむか)」




127: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:37:04.85 ID:kDRIRqJMo


―――――― 再び五月雨の回想話


**

五月雨「それじゃあ、鎮守府正面海域突破を記念して、かんぱーい! 」

那珂 「かんぱ~い♪ 」

電  「かんぱいなのです! 」

睦月 「かんぱいなのねっ! 」

提督 「ささやかだが乾杯。みなお疲れだったな」

那珂 「ふふーん、那珂ちゃんにはよゆーだったよ! 」

五月雨「やっぱり那珂さんはお強いですよね。火力も装甲もかないません」

睦月 「やっぱり軽巡はさすがなのねっ」

那珂 「うん、那珂ちゃん最高でしょ♪ でも、那珂ちゃんが本当に輝くのはアイドル活動のほうだからねっ。早速一曲歌うから聞いてね! 」

電  「わーい、お歌大好きなのですっ」

那珂 「提督も一緒に歌うのよ? 」

提督 「ええっ、お、俺がか……? 」

那珂 「そうだよ、みんなで歌わなきゃ! 」

五月雨「うふふふ、いいじゃないですか提督、一緒に歌いましょう(にっこり)」

提督 「ぐ……仕方ない、上手くないけど勘弁しろよ」


**


五月雨「わたしとだけじゃなくて、初期の仲間とはこんなふうにお祝いしたり騒いだりすることもあって」

陸奥 「へ、へぇ……本当に今とは全然違うのね(むかむか)」

五月雨「他にもですね、こんなこともあって……」




128: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:38:23.67 ID:kDRIRqJMo


――――― 五月雨による諸々の思い出話が続いたあと


五月雨「とまあ、こんな感じで……。昔は笑顔と冗談がいっぱいあったんです……」

陸奥 「なるほどね、それで今の提督を見ると、ギャップの凄さにびっくりするわね」

五月雨「そうなんです……。あ、でも…… 」

陸奥 「ん? でも、どうしたの? 」

五月雨「その……本質的なところは何も変わっていないと思うんです。優しいところとか、わたしたちのことをいつも気にかけているところとか……」

陸奥 「そうね……それはそう思うわ」

五月雨「だから、人格が変わってしまったとかではなく……その……笑ったり楽しくできないような……そんな風に、生活とか気持ちが変わってしまってるだけなのかなって」

陸奥 「わたしも同感ね。お話の頃と違って、鎮守府も大所帯になって、敵もすごく強くなって……お仕事内容も随分変わってしまってるしね」

五月雨「はい、わたしは賢くないから良くわからないですけど……。何かが大変で笑えないのであれば、できるだけお手伝いして、また笑えるようになってもらえたらいいなって思うんです」

陸奥 「そうね……ありがとう」




129: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:39:56.38 ID:kDRIRqJMo


――――― 夜 鳳翔さんのお店

コトン

陸奥 「ふー。あら、もう空だわ」

とくとくとく

ごくっ

陸奥 「ふー」


変わってしまった提督……か。

冗談を言ったり、艦娘たちと勝利を喜び宴会をする提督……。想像もできなかった。

一体なにが提督をそんなに変えてしまったのかしら?


そして、それより何より……。

五月雨ちゃんが語る、提督と二人きりの時間!

あれは何なのよ、もうっ! 恋人同士みたいにきゃっきゃうふふしちゃって!

わたしと二人の時は、にこりともしないで仕事ばっかりなのに!




130: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:40:49.04 ID:kDRIRqJMo


ごくごく

陸奥 「ふー。あら、もう空だわ」

とくとく

陸奥 「あら、ビンのほうも空ね。鳳翔さーん、もう一本くださーい」

鳳翔 「ええっ! 一升、もう空けちゃったんですか!? 」

陸奥 「あら、わたしはお酒強いのよ♪  このぐらい平気平気っ」

鳳翔 「はい、お持ちしましたけど……珍しくお一人で飲まれてると思ったら……流石にペースが早すぎますよ」

陸奥 「はーい、ちょっと落としますね」


ごくごくごく


陸奥 「ふー」

鳳翔 「よいしょっと。心配ですのでわたしもご一緒しちゃいますね」

陸奥 「あら、珍しいわね」

鳳翔 「うふふ……。それより陸奥さん、今のあなた、どう見てもやけ酒ですよ。何があったのか、よかったらお話いただけませんか? 」

陸奥 「もー、それがですね、聞いてくださいよ鳳翔さん」

ごくごく




131: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:42:13.63 ID:kDRIRqJMo


鳳翔 「そうですか……。確かに提督は笑わなくなってしまいましたね」

陸奥 「そっか、鳳翔さんも初期から鎮守府にいるから、その頃をご存知なのね」

鳳翔 「そうはいっても、わたしが着任したときにはもう、秘書艦は五月雨ちゃんから神通さんに変わる頃でしたけど」

陸奥 「2代目秘書艦は神通だったのね」

鳳翔 「ええ。でもそうですね、秘書艦が神通さんになってから提督は笑わなくなって……お店にも全然来てくれなくなりましたね」

陸奥 「ふ~ん、笑顔の元は、やっぱり五月雨ちゃんだったっていうことね」

鳳翔 「そうですね、いろいろ要因はあると思うんですけど……。確かに、五月雨ちゃんが提督の笑顔を支えていたのかもしれないですね」

陸奥 (むかむか)


ごくごくごく




132: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:42:54.92 ID:kDRIRqJMo


**********


わたしも秘書艦としてそばにいて、提督の毎日が楽しくなるといいなって思いながらすごしていたわけだけど……。

五月雨ちゃんは、彼女らしくあるだけで提督を日々笑顔にしていた。そう考えるともうムカムカがとまらなくて、こうしてやけ酒しちゃってたのよね、今思うと。

これ、今振り返るとただの嫉妬よね……。うわぁ、恥ずかしいわ……。


**********




133: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/27(土) 18:43:59.20 ID:kDRIRqJMo


陸奥 「あーもうっ! 黙ってられないわ。一言いってきてやるっ…………ヒック 」

鳳翔 「あのー……陸奥さん、顔に出てないだけで、実は完全に出来上がってます? 」

陸奥 「わたしぃ? 酔ってなんかないですよ! さ、諸悪の根源のところに文句言いにいってやるわっ。おっと、これも忘れずに……」

鳳翔 「あ、あの、一升瓶を抱えてどこに……? 」

陸奥 「あの堅物のところよぉ。どうせ今も執務室で難しい顔してるんだから。無理やり飲ませてでも、笑わせてやるんだからっ……ヒック」


そうよっ! 優しくしても笑ってくれないなら、お姉さんが無理やり笑わせてやるんだからっ!




144: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 19:59:30.65 ID:cqY7eUjto



――――― 少し後 提督執務室





145: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 20:00:01.30 ID:cqY7eUjto


提督 「………… 」

カリカリカリカリ


ドンドンドンドン!

提督 「ん、なんだっ? 」

バタン

陸奥 「ほらぁ、やっぱりお仕事してる」

提督 「あ、ああ…… 」

陸奥 「もー、やらなききゃいけないお仕事なんてなにもないのに、また余計なお仕事してたんでしょー? 困った人ねぇ」

提督 「いや、長期計画の吟味とか…… 」

陸奥 「はーい、そんなお仕事はぽいぽーい」

提督 「ああ、まだ途中だったのに…… 」




146: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 20:01:57.19 ID:cqY7eUjto


ドンッ(一升瓶)

陸奥 「さ、飲むわよ! 」

提督 「なるほど、酔っ払ってるわけか」

陸奥 「酔ってなんていないわよ~♪ 」

提督 「酔っぱらいは必ずそう言うんだけどな…… 」

陸奥 「なあにぃ、お姉さんに何か意見でも? もー、ちょっと背が高いからって生意気よっ。いっつもわたしを見下ろしちゃってさー」

提督 「別にそんなつもりは…… 」

陸奥 「わたしなんて、前世では排水量4万トンよ~。提督なんてちびっ子なんだからっ」

提督 (ダメだ、本当に酔っぱらいだ)

陸奥 「さ、飲んで飲んで♪ 嫌いじゃないの知ってるんだから。この部屋のお酒、ちゃんと減ってるもんね。どーせ一人で飲んでるんでしょー」

提督 「わかったわかった……。おお『南部美人』か。いい酒じゃないか」

陸奥 「ふふーん、わたしにぴったりでしょ♪ 」




147: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 20:03:11.47 ID:cqY7eUjto


陸奥 「五月雨ちゃんから聞いたわよー。五月雨ちゃんが秘書艦だったころは、ニコニコしながらお仕事してたそうじゃない」

提督 「……それは誇張だな。別に今と変わらない」

陸奥 「ごまかしてもだーめ。ちゃーんと詳しく聞いたんだから」

提督 「そうだな……ニコニコは大げさだが……。ああ、確かに今よりは笑って仕事をしていたように思う」

陸奥 「ほぉら、やっぱ本当なんじゃない。どーせ、わたしは五月雨ちゃんみたいに可愛くないですよー。なによっ、そりゃ提督だって、可愛い子とお仕事したらニコニコするわよねっ」

提督 「(苦笑)なんだよそれは……。可愛いとは違うかもだが、陸奥はすごい美人じゃないか。この酒の名前じゃないけどさ」

陸奥 「えぇ! まぁ……そう言われると悪い気はしないわね♪ 」

提督 「そういう問題じゃなくてな……やっぱり提督なんてやってると、色々と思うところがあるんだよ。そういうことで勘弁してくれ」

陸奥 「提督業が大変なことぐらいは分かるわよ~。だからこそ、ちゃんと息抜きして笑って仕事しなきゃでしょっ」




148: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 20:04:12.78 ID:cqY7eUjto


提督 「俺だって、ちゃんと趣味ぐらいあるし、ほどほど息抜きしているから大丈夫だ」

陸奥 「だ~め。夜にこっそり一人でキャンプしてくるぐらいじゃ、ちゃんと息抜きできてるとは言いませーん! 」

提督 「なんだ……知っていたのか」

陸奥 「あ゛……。うっかりしゃべっちゃった。でもみんな知ってるわよ」

提督 「見つからないようにしていたんだがな」

陸奥 「夜に大荷物もってコソコソと出かけていくところを見られちゃったのよ、川内に」

提督 「あいつは夜になるとあちこちに出没するからな。特に気をつけていたんだが……」

陸奥 「その話を青葉が聞いちゃってね……それで、調査隊が結成されて…… 」

提督 「ああ、目に見えるようだ」

陸奥 「あ、で、でもほらっ。一人でキャンプしてるだけって分かったから『邪魔をしないこと』っていう淑女協定が結ばれてるから! 」




149: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 20:04:50.37 ID:cqY7eUjto


陸奥 「おっとっと、そうじゃなくてー! 」

提督 「なんだ」

陸奥 「何で笑えなくなったのか……事情はきかないけど。でも、また笑って暮らせるようにしましょうって話よっ! 」

提督 「…………」

陸奥 「そのためには娯楽よ娯楽! 提督も長門みたいに好きなぬいぐるみを買ったりすればいいのよっ」

提督 「いや、俺は長門と違って、ぬいぐるみを抱いて寝る趣味は無いから……」

陸奥 「なあに、女の子を抱いて寝るほうが趣味なの……? 」

提督 「そ、そんな話はしていないっ。まったく、ほんとに酔っ払いだな」

陸奥 「あはは、ごめんなさい♪ 」




150: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 20:05:41.91 ID:cqY7eUjto


――――― 1時間後


陸奥 「あらぁ、もう空っぽ。困ったわねー」

提督 「なんだとっ。仕方ない、俺の秘蔵を出してやろう」

陸奥 「うわぁ、八海山じゃない。いい趣味してるのね♪ 」



……

陸奥 「もー、お化粧もダメ、お洋服もダメ、スイーツもダメ、食べ歩きもダメ……。一体どんな趣味なら楽しいっていうのよぉ~ 」

提督 「そもそも候補がお前の趣味ばっかりじゃないか。俺はそういうのは好きじゃないのっ」

陸奥 「なーにー、なにか文句あるの~? なによっ、一人でキャンプなんて全然楽しくないじゃない。そんな趣味の人に言われたくありませ~ん」

提督 「一人キャンプの何が悪いっ。一人静かに焚き火を見ながら酒を呑むのは至高だっ」

陸奥 「悪くは無いけど、もっとぱーっと楽しいこともしましょうよ~ 」



……

陸奥 「それでねぇ、長門ったら真面目な顔で、『くじらさんが寂しくないように二頭買ってきた。わたしたちと同じような姉妹くじらさんだ。こっちの妹の方は陸奥が抱っこして寝てくれ』なんて言うのよぉ~。もうかわいいったら! 」

提督 「長門、女の子すぎだろっ。あいつ意外と少女チックなんだなー」

陸奥 「そのギャップがいいんじゃないっ」

提督 「あんなにでっかいのになー」

陸奥 「なに~! やっぱりでっかい女はダメだっていうの~? 」

提督 「んなこと言ってないだろっ。てか、でっかいの気にしてたんだな」

陸奥 「気にしてたわけじゃないわよぉ。ただ、小さい子はやっぱり可愛いって思うからね~ 」




151: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 20:06:27.03 ID:cqY7eUjto


陸奥 「そういえば前から思ってたんだけど、提督ってば、強気な駆逐艦の子に弱いわよねー。曙ちゃんとか満潮ちゃんとか霞ちゃんとか」

提督 「そうか……? 」

陸奥 「そうよぉ、なんかそーっと接しているというか、ビクビクしてるというか。そんな態度をみて、さらにイライラされてるじゃない」

提督 「……そうかぁ。そういうの伝わっちゃうものなのかな? 」

陸奥 「当然よぉ」


……


陸奥 「そういえばね、暁ちゃんが妙に提督を怖がってるから理由を聞いてみたことがあるのよぉ」

提督 「ほう」

陸奥 「そしたらね、『提督が悪いわけじゃないけど、提督ってなんだか巨大なんだもの』って言ってたの。おっかしー! 」

提督 「巨大……」

陸奥 「そうそう、巨大! 表現がいいわよね! 」

提督 「さすがに少し傷つくな……」

陸奥 「にゃははは、お姉さんが慰めてあげるわよ、よしよし、巨大で可哀想ねー」

提督 「陸奥だって大きいのを気にしてる風じゃないか」

陸奥 「ああ、言ってはならないことを…… 」


ワイワイ




152: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 20:07:02.60 ID:cqY7eUjto


提督 「zzz...zzz... 」

陸奥 「あらぁ、提督つぶれちゃったのぉ? もー、でっかい図体してだらしないわねぇ。仕方ない、秘蔵の八海山はわたしがぜーんぶ飲んであげるわね♪ 」


ゴクゴク


陸奥 「さてとっ、風邪引かないように毛布をかけてっと」

提督 「zzz...zzz... 」

陸奥 「さーって、わたしも帰ろっと。……でもわたし、なんで執務室で提督と呑んでたのかしら? 」




153: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 20:07:36.54 ID:cqY7eUjto


――――― 翌朝 長門と陸奥の部屋

チュンチュンチュン

長門 「朝か……。早速支度に取り掛かるか」

ノシノシノシ

バタン

長門 「な、何だこの酒臭さは……どこからだっ」

キョロキョロ

長門 「玄関に……陸奥が! 陸奥、どうした、しっかりしろ! 」

陸奥 「う~ん……むにゃ」

長門 「う……臭いの元は陸奥か……陸奥、起きろ、何故玄関で寝ている! 」

陸奥 「むにゃ……あら、長門おはよう ボー 」

長門 「おはようではない。何だこの酒の臭いは。どうして玄関で寝ている? 」

陸奥 「お酒……? 玄関……? 」


あら、ほんとに玄関。わたし何で玄関で……って……


陸奥 「あ、あ、あ、あああーーーー!! 」




154: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 20:08:05.57 ID:cqY7eUjto


長門 「うわっ、なんだ、どうした陸奥!? 」


思い出した……わたしったら執務室を襲撃して提督と無理やり呑んで……酔っ払って好き勝手なこと言って……


陸奥 「/// あーん、ながと~~」

長門 「抱きついてきてどうした……うぷっ、酒くさ…… 」

陸奥 「昨日はちょっとやけ酒して……やっちゃった~~ 」

長門 「やっちゃったって…… 」

陸奥 「うう、酔っ払った挙句、執務室に突入して……提督に無理やり呑ませて酔い潰しちゃった…… 」

長門 「お、おまえというやつは…… 」




155: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 20:08:34.79 ID:cqY7eUjto


長門 「わかったから離してくれ。もう準備しないと間に合わない。提督にはわたしから謝っておくから」

陸奥 「ほんと? お願いね。あーん、提督怒ってるわよね~ 」

長門 「怒ってるというより……陸奥に潰されたんだ、今頃げっそりと二日酔いしていることだろう……おまえ、ほんとに底なしだからな」

陸奥 「てへ♪ 」

長門 「しかも明るいからみ酒ときた……。とりあえず二日酔いの薬をもって出勤するさ。お前はちゃんと布団で寝ておくんだぞ」

陸奥 「はぁ~い、ありがと長門♪ 」




156: ◆8sA8xtnAbg 2016/02/29(月) 20:09:01.44 ID:cqY7eUjto


**********

お布団にはいって目を閉じると……前夜の会話の数々が頭にうかんじゃって……。

ああああああ゛、あんな無礼なことや、こんなひどいことを言っちゃって……。お酒には気をつけなきゃって思ってたのにぃぃ。

はぁ……後で提督にちゃんと謝りにいこっと……はぁ。


**********




163: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/03(木) 19:43:21.94 ID:XrDNIXICo



――――― 夕方 提督執務室





164: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/03(木) 19:43:49.44 ID:XrDNIXICo


コンコンコン

提督 「はい」


カチャ


シーーン


提督 「……? 」


ぴょこ


提督 「……陸奥、隙間から覗いても、角がはみ出ていてまるわかりだぞ」


ビクッ




165: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/03(木) 19:44:16.67 ID:XrDNIXICo


コソッ

陸奥 「…………怒ってる? 」

提督 「大丈夫だ、怒ってない」

陸奥 「ほんとーに、怒ってなあい? 」

提督 「本当に怒ってないから、ちゃんと入って来い」


ガチャ


陸奥 (しょぼん)




166: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/03(木) 19:45:00.12 ID:XrDNIXICo


シーーン

提督 「…… 」

陸奥 「あの……提督、ほんとにごめんね」

提督 「ふふっ……まったく、昨夜の陸奥と同一人物とは思えないぐらいしおらしいな」

陸奥 「昨夜はもう、すっかり酔っ払っちゃって……」


あれ……提督が……微笑んだわっ!


提督 「さすがに、一升瓶を振り回して飛び込んできた時はびっくりしたぞ」

陸奥 「あちゃ~、思ったよりやっちゃってたみたいね~。わたしは記憶が飛ばないタイプだけど、さすがにところどころあやふやで…… 」

提督 「俺も強いほうだと思うんだがなぁ。潰されたのなんてはじめてだよ。しかも、秘蔵の八海山、全部呑んだな……? 」

ギクッ

陸奥 「あ、あははぁ~ 」

提督 「ふふふ、まぁいいさ。ひさしぶりに楽しい時間をすごさせてもらった」




167: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/03(木) 19:46:03.39 ID:XrDNIXICo


陸奥 「そ、そう……。あは♪ それならいいんだけど」

提督 「しかし、前から思っていたが……。やっぱり陸奥と五月雨は同じタイプだな」

陸奥 「長門にもそんなこと言われたわねー。そうかしら? わたし、そんなにドジじゃないと思うけれど…… 」

提督 「こんな言い方は失礼かもしれないが……。五月雨がもし大人になったら、きっと陸奥みたいになるんじゃないかと思ってたんだ」

陸奥 「うーん、わたしは艦娘だから『子どもの頃』が無いのよね~。だからちょっとピンと来ないんだけど、似てる? 」

提督 「ああ。五月雨が大人になって、落ち着きが出てドジをあんまりしなくなって……。でも明るく人懐こい性格はそのままで誰とでも仲良くなり……。でも、大人の分別がちゃんとあるから、引くべきところはちゃんと引いて、みたいな、そういう感じだ」

陸奥 「ふ~ん、言われてみれば似ているかもね。まぁ、昨日はドジしちゃったけどね」

提督 「ああ、しっかり者に見えてちょっと抜けているところが、相手を緊張させない、愛されるポイントだと思うぞ」

陸奥 「褒められてる気がしないわねぇ~ 」

提督 「ふふっ……まぁそうだな。」


提督……いつになく饒舌で、ちらっと微笑みもでて……どうしよう、ものすごく嬉しいわ。


提督 「……。不思議なものだ。陸奥だって曙たちと同じでもおかしくないはずなのにな」

陸奥 「曙ちゃん? 」

提督 「いや、いいんだ」


なんで突然曙ちゃんなのかしら?




168: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/03(木) 19:46:44.76 ID:XrDNIXICo


提督 「ま、それはそれとして……昨日は1回目だったから大目にみるが、今後酒をもって乱入は禁止だ。覚えておいてくれ」

陸奥 「えー。楽しかったなら、また飲みましょうよ」

提督 「……俺は禁酒してるんだよ。少なくとも鎮守府内では飲まないって決めてるんだ」

陸奥 「そうなの……。分かったわ、そもそも昨日も酔った勢いで飛び込んできちゃったわけだし、今後はしないわ」

提督 「ああ、ありがとう」


提督……楽しかったって言ってたのに……今だって思い出しつつ笑いながら楽しく話していたのに……それでもダメなのね……。この人の、この頑なさは、わたしではどうすることも出来ないのかしら。


陸奥 (しょぼん)




169: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/03(木) 19:47:30.76 ID:XrDNIXICo


提督 「あー、陸奥? 」

陸奥 「なあに……? 」

提督 「その……。昨夜の件は本当に怒っていないし、楽しかったというのは本当だ」

陸奥 「うん…… 」

提督 「だが、俺にも思うところがあってな……。それで自分に課していることを簡単に変える気は無いんだ」


それが……知りたいんだけどね


提督 「それでな、その……」

陸奥 「……? 」

提督 「陸奥が……大人の分別で、そういうことを聞かないでそっとしておいてくれていること。本当に感謝している」


うん……ちゃんと分かってくれているのね


陸奥 「うふふ……過大評価かもよ♪ 」

提督 「(苦笑) 陸奥のそういう大人なところに甘えていてすまない。いつも苦労をかける」

陸奥 「いいのよ、わたしは秘書艦ですもの。支えさせて…… 」


でも……それでもいつかは、あなたが抱えている何かを取り除きたいと思うわ。楽しいと思うことを故意に遠ざけなければならないなんて、そんなものは捨てちゃうべきよ!




170: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/03(木) 19:49:25.57 ID:XrDNIXICo


――――― 夜 長門と陸奥の部屋

長門 「モグモグ そうか、謝れたならよかった。陸奥、もう飲み過ぎはいかんぞ」

陸奥 「はぁい。さすがに反省したわ」

長門 「それならばいい モグモグ」


ほんと、お酒はちょっと控えよっと……。でも、今回は結果的に、少しだけ前に進むきっかけになった、そんな気がするのよね。


長門 「しかし提督もなかなかだな」

陸奥 「なにが~? 」

長門 「いやな、今朝はさすがにちょっと二日酔いで辛そうだったが……。それでも仕事はきっちりいつも通りでな。それどころか、いつもより上機嫌なぐらいだった」

陸奥 「へぇ~、それなら良かったわ♪ 」


それなのに……そんなに楽しかったのに、やっぱり二度としちゃダメって言ったのね。

提督は一緒に長門対策をしていた時、ずっと緊張し続ける生き方は難しいからしっかり息抜きはすべきだと言っていたわ。

でも、自分自信は頑なに息抜きをしようとしない。分かっていてやっているだけに、ほんっっとにたちが悪いわ。やっぱり……余計なおせっかいかもしれないけど、何とかしたいわねっ!




171: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/03(木) 19:50:02.68 ID:XrDNIXICo


陸奥 「それなのにね、提督からは、もう酒を持って執務室に乗り込んできちゃダメだって言われちゃったの」

長門 「当たり前だ。神聖な執務室で酒盛りなどダメに決まっているだろう」

陸奥 「えー、鎮守府によっては執務室にカウンターバーを作ってみんなで飲んでるらしいわよ」

長門 「よそはよそ、うちはうちだ」

陸奥 「ぶー! 」


陸奥 「それにね、そもそも執務室とかいう問題じゃなくてね…………ううん、やめておくわ」

長門 「なんだ、歯切れが悪いな」

陸奥 「まぁ、昨日はほんとに酔った勢いで大変だったから……ちゃんと言うこと聞いて自重するわ」

長門 「ああそうしてくれ」




172: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/03(木) 19:50:39.09 ID:XrDNIXICo


**********

提督が、息抜きや楽しさを頑なに遠ざけようとするところ。それを何とかする相談を長門にしようとして……出来なかった。

言ってはいけないことだと感じたのか……ううん、違うわね。わたしがこの手で解決して……提督と一歩前に進みたい。そう感じたのね。

でもどうやって? あの岩のような人をどうやって動かせばいいのやら……。ほんっとに、堅物なこまったさんね~!

**********




179: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:09:44.75 ID:1Wi16PQKo


――――― 二週間後 夜 長門と陸奥の部屋




180: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:10:23.77 ID:1Wi16PQKo


モグモグモグ

長門 「……ふむ」

陸奥 「あ、ちょっと味薄かった? はい、お醤油」

長門 「おお、すまない。わたしが何が欲しいかよくわかるな」

陸奥 「何を言ってるの、姉妹なんだから当たり前じゃない♪ 」

長門 「そういうものだろうか…… 」


姉妹だしいつも一緒にいるから、長門のことはよく分かるのよね。最近は息抜きも順調で、前と比べて随分と穏やかになってきた感じだわ。




181: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:10:50.64 ID:1Wi16PQKo


陸奥 「うーん…… 」


でも提督のことはよく分からないのよね。長門と同じで『司令官たるものチャラチャラしては……』みたいな感じだと簡単に考えていたけど、どうも全然違うみたいなのよね……


陸奥 「はぁ…… 」


分かりたくて結構がんばって観察してるけれど、今のところ手がかり無し……。うーん、どうしたものかしら……。




182: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:11:25.08 ID:1Wi16PQKo


長門 「陸奥……。最近、ぼんやりしたりため息をつくことが多いが、なにか悩みでもあるのか? 」

陸奥 「えっ! そ、そうかしら。全然そんなこと無いわよ」

長門 「…… 」

陸奥 「ちょっとあれこれ考え事をしてるだけで、ほんと、困ったりしてるわけじゃないからね」

長門 「それなら良いのだが……何かあるならちゃんと相談してくれ」

陸奥 「長門……うん、ありがと♪ 」


心配してくれてありがとうね、長門。やっぱり相談したほうがいいのかしら……。ううん、できれば自分で解決したいし……。それに提督が長門にだけ何か話しているとも思えないわ。やっぱりわたしが頑張って見つけるしか無いわね!


長門 「…… 」




183: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:12:11.96 ID:1Wi16PQKo


――――― 翌日 提督執務室


曙 「以上、東京急行遠征は無事大成功よ」

陸奥 「大成功助かるわー。お疲れ様♪ 」

提督 「今回もご苦労だった」

曙 「ほんとによっ。毎日のように南方までせっせと遠征よっ。それでも頑張って大成功させてるんだから、感謝してほしいわねっ」

陸奥 「ドラム缶も満載だし、ほんとに大変よね~、感謝感謝♪ 」

曙 「あ、はい……ありがとうございます。じゃなくて、陸奥さんじゃなくて、あんたによっ、このクソ低督っ! 」

提督 「高練度が要求される関係で、どうしても七駆の4人に頼ることが多くて申し訳なく思っている。すまない…… 」

曙 「くっ……あ、謝ってもらったってしょうが無いわよっ。任務なんだからちゃんとやるわっ。じゃあね、報告終わりっ! 」


バタバタバタ バタンッ




184: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:13:14.46 ID:1Wi16PQKo


提督 「…………はぁ」

陸奥 「ふふ、曙ちゃんのことは本当に苦手みたいね」

提督 「実際つらい思いをさせているからな。しかし他に手段が無いから謝ることしか出来ない。ままならない仕事だよ…… 」

陸奥 「うーん、そうかしら……。曙ちゃんは、謝ってほしいんじゃなくて、褒めて欲しいんじゃないかと思うのよねー」

提督 「現状、全員が東京急行遠征をこなせる練度になっているのは七駆だけだからな。それで彼女の言うとおり毎日毎日遠征だ。褒めるなんておこがましい……謝るだけだよ」

陸奥 「う~ん、駆逐隊セットにこだわらず、練度到達しているメンバーで遠征専用の艦隊を組むというのもいいと思うけど……提督はそれはやらないわよね 」

提督 「……。ああ、姉妹や駆逐隊ごとのセットは崩したくない。それなら遠征を減らしたほうがまだマシだな」

陸奥 「こだわりねぇ。ま、そこまできついスケジュールにはしてないから大丈夫よ。ちゃんとお休みも取れてるじゃない」

提督 「だといいんだが……はぁ」


艦隊規模が大きくなったから仕方が無いんだけど……100人以上の艦娘たちを指揮統率する提督はホントに大変ね。




185: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:13:49.47 ID:1Wi16PQKo


――――― 夜 陸奥の部屋


ピヨヨーン

陸奥 「あら、提督私室扉センサーに感あり。こんな時間に出かけるのかしら…… 」


提督のことをもっと知るために……青葉に相談したら貸してくれたのがこれ。執務室と提督私室の扉が開くと音がなるセンサーね。……なんだか間違った方向な気がするけれど、便利といえば便利ね~


陸奥 「気になるわね……ちょっとだけ様子を見てこようかしら」


バタバタ


長門 「ん、陸奥、こんな時間に出かけるのか? 」

陸奥 「あ、あははは、ちょっとね。すぐ戻ってくるわ」

長門 「ああ、気をつけてな」

陸奥 「はーい、いってきまーす」


バタン


長門 「………… 」




186: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:14:24.44 ID:1Wi16PQKo


――――― 少し後 鎮守府玄関


提督 (キョロキョロ)

コソコソ


陸奥 (やっぱり…… )


大きなバックパックを背負った提督がこっそり出て行く所ね。本人としてはコソコソしてるつもりなんでしょうけど、あの巨体じゃあねぇ……。人の趣味にとやかく言うつもりは無いけれど、こんな遅い時間にわざわざキャンプ道具持って出かけるなんて……かわってるわね。


陸奥 「って、わたしなんだかストーカーみたいね……。青葉に相談したのがそもそも間違いだったかしら。借りた機械は返しちゃおっ。持ってるとどうしても使いたくなっちゃうし」


さ、帰ろ帰ろ。




187: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:15:03.54 ID:1Wi16PQKo


――――― 翌日夕方 提督執務室


提督 「業務分はこれで終わりか。長門、今日はもう上がってもらっていい。お疲れ様」

長門 「ああ、提督もお疲れ様。提督はまだ帰らない……んだろうな」

提督 「ああ、俺はまだやりたいことがあってな」

長門 「……急ぎの仕事でないなら、先にちょっと相談に乗ってもらえないだろうか? 」

提督 「……長門が俺に相談とは珍しい……というかはじめてだな。構わない、聞かせてくれ」

長門 「ありがとう。実は陸奥のことなんだが……明らかに様子がおかしい。どうやら悩みがあるようなんだ」

提督 「陸奥が……そういえば確かに最近少し様子が変だとは思ったが…… 」

長門 「わたしから見ると、少し変どころではない。とにかくため息ばかりだし、突然頭をかきむしって『あ゛~~ 』などと奇声を発したり……。夜遅くに急にでかけたり…… 」

提督 「あの陸奥が…… 」




188: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:15:39.72 ID:1Wi16PQKo


長門 「陸奥にだっていろいろあるだろう。だがこんなに様子がおかしい陸奥ははじめてだ。さすがに心配でな」

提督 「ふむ……長門にはなにか心当たりはないのか? 」

長門 「……1つだけ思い当たることが無くもない」

提督 「聞かせてくれ」

長門 「ちょっと話しにくいことではあるんだがな……。提督、前世でのわたしの最後は知っているな? 」

提督 「………………ああ、知っている」

長門 「艦娘となってしばらくたったころ、その時の夢を見てな。その圧倒的な衝撃に、さすがに身が震えた」

提督 「そうか……やはりそういうことがあるんだな」

長門 「それからしばらくは、フラッシュバックというのか? その場面が頭をよぎっては、身震いするような感覚があったな」

提督 「なるほど……今の陸奥もそうなんじゃないかということか」

長門 「ああ。もしかしたら、前世の何か嫌な記憶を思い出して、それで苦しんでいるのかもしれない」




189: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:16:08.48 ID:1Wi16PQKo


長門 「わたしの場合は、少ししたら落ち着いたから問題無かったが、陸奥も同じとは限らないと思うと心配でな」

提督 「ふむ……俺の前ではそんな様子は見せていなかったが……しかし俺も心配だ。なにかできることは無いだろうか」

長門 「陸奥には、悩みがあるなら相談して欲しいと言っているが、ごまかされるばかりでな」

提督 「本人に聞いてもダメとなると……とりあえず情報収集だろうか」

長門 「諜報活動か……正直苦手だな」

提督 「俺も得意ではないな……ここは得意そうなやつに聞くのがいいだろう」




190: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:17:07.89 ID:1Wi16PQKo

――――― 少し後

青葉 「それで突然のお呼び出しでしたか。長門秘書艦からの出頭命令でしたから、ちょっと死を覚悟しましたよっ。もー、先に用件を言ってくださいよっ」

長門 「それは後ろ暗いところがあるからだろう。それで、こういう時の調査はどうしたら良いだろうか」

青葉 「うーん、なんというか、全然似ていないようで、実は似たもの姉妹ですね~ 」

長門 「ん? どういうことだ」

青葉 「いえいえ、こっちのことです! 調査するなら、やっぱり張り込みと尾行が基本だと思いますよ~ 」

提督 「地道ではあるが、やはりそれが一番か…… 」

長門 「ふむ……となると、わたしや提督が知らない時間。休日の陸奥を調査するのが一番だろうか」

提督 「……。そうだな。考えてみると、秘書艦じゃない日に陸奥が何をしているか俺は全然知らない」

長門 「たまに買い物に行っている話などは聞くが、わたしも詳しくは知らないな」

提督 「では、陸奥の次の休日に尾行してみるか」

長門 「そうだな……人目につかない場所で一人泣いていたりするかもしれない……」

青葉 「なんというか……がんばってくださいね」

青葉 (陸奥さんに知らせておいたほうがいいのかなぁ)




191: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:17:50.10 ID:1Wi16PQKo


――――― 夜 青葉の部屋


陸奥 「よかったわー、ちょうど一式返そうかなと思っていたところなの。はい、ありがとね」

青葉 「はい確かに! でも、お呼び立てしたのは機材返却の件じゃないんですよー」

陸奥 「あれ、違うの? 」

青葉 「お話すべきか迷ったんですけど……えっと実はですね、今日長門秘書艦に呼ばれまして……(青葉説明中)……という感じの話に…… 」

陸奥 「ぷっ……ぷぷ……あははは! そっかー、二人で心配してくれてるんだぁ」

青葉 「ええ、それはとても素敵なことだと思うのですが……。ちょっとおかしな方向に行っちゃってるみたいなので」

陸奥 「ま、わたしも人のこと言えないけれどね~ 」

青葉 「ですから、悩みの件を早く長門さんにお話して安心してもらったほうがいいかなと」

陸奥 「青葉、そんなこと言いながら、目は別のことを期待してるわよ」

青葉 「えっへっへー、わかりますか? 」

陸奥 「うふふ……そりゃ、同じこと考えてると思うからねっ」

青葉 「正直言って……司令官と長門さんの尾行、見てみたいです! 」

陸奥 「そうよね~♪ このまま黙っておいて、尾行されてみるわ」

青葉 「楽しみです! 」




192: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/06(日) 20:18:40.53 ID:1Wi16PQKo


**********

まったくあの二人と来たらっ。わたしに心配ばっかりかけているくせに、逆にわたしの心配なんてっ。

見当違いだし、そんなことより自分のことを心配しなさいって感じだけど……。でもやっぱり嬉しいわ。心配してくれてありがとう長門。そして、心配してくれてありがとう、提督♪

それはそれとして……二人に尾行されるなんてちょっと楽しみだわっ。

……でも、あの不器用な二人で尾行なんてできるのかしら……


**********




198: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:20:46.07 ID:UhoB13U/o


――――― 翌日夜 長門と陸奥の部屋




199: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:21:18.35 ID:UhoB13U/o


モグモグモグ

長門 「あー、その、なんだ、陸奥」

陸奥 「なあに、どうしたの長門? 」

長門 「明日はわたしが秘書艦の日だが、陸奥は何か予定があるのか? 」


ふむふむ。提督は特に何も変化が無かったけど……。明日に向けての情報収集は長門がやることになってるのね。


陸奥 「特に大事な用事は無いけれど……なあに、何かあったの?」

長門 「い、いや、別になんでも無いんだ。ただの世間話だな、うん」


もー、長門ったら、そんなに焦ったら『何かあります』って言っているようなものじゃない。ま、ここは黙っていてあげるのが優しさよね♪




200: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:22:26.70 ID:UhoB13U/o


陸奥 「えっとね、明日の朝は青葉と間宮さんのお店で待ち合わせしてるわ。その後は街に買い物に出る予定ね」


尾行しやすいように、朝の予定は青葉と調整したのよ。感謝してほしいわ~♪


長門 「そうか……。陸奥は休日にも色々予定があるんだな」

陸奥 「そういう長門は、休日は訓練訓練よね。もっと息抜きしなきゃダメよ~ 」

長門 「そんなことはない。工廠の視察や演習の見学などもしているぞ」

陸奥 「どれもこれも仕事じゃない。最近仲良くなった朝潮ちゃんや五月雨ちゃんとお出かけしたりしないの? 」

長門 「五月雨とは2回ほど甘味処に行ったな。次の休みにも行く予定だ。何やら紹介したい駆逐艦がいるとか」

陸奥 「あら、それは良かったじゃない♪ 少しずつでも息抜きが増えるのはいいことだわ」

長門 「まぁ……そうだな。わたしのことより陸奥のほうが心配だが。ちゃんと息抜きできているのか? 」

陸奥 「ぷぷっ……。大丈夫よ~、まさか長門にそんな心配されるなんてね♪ 」


まったく、困った姉ね~♪




201: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:23:09.19 ID:UhoB13U/o


――――― 翌日 午前 間宮さんのお店


陸奥 「どう、見える? 」

青葉 「はい、よく見えますよ~♪ お二人共、あれで隠れてるつもりなんでしょうか」

陸奥 「うふふ、やっぱりね……。振り返っちゃうと、うっかり目があっちゃいそうだから見ないようにするわね」


何気なくあたりを見渡すと……ショーウインドウに、がんばって隠れているつもりの提督と長門の姿が……うふふ、二人で小さくなってるの、なかなか珍しいわね♪


青葉 「すごく面白いですけど、記事にしたら怒られますかね? 」

陸奥 「命が惜しくないなら、記事にするのもいいかもね」

青葉 「はぁ、やっぱりそうですよねー。ま、楽しめたから良しとしますっ」

陸奥 「そうね、それが賢明だと思うわ♪ さて、青葉ありがとう。わたしは次に行かないと」

青葉 「こちらこそ良い物を見させて頂きましたっ」


さてさて、次は街に出ちゃうけれど、二人ともついてくる気かしら……




202: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:23:43.56 ID:UhoB13U/o


提督 「ふむ、青葉とはお茶を飲んだだけで分かれるのか」

長門 「楽しそうに笑っていたから、深刻な悩み相談などではなさそうだな」

提督 「まずいな……鎮守府を出て街のほうに行くようだ」

長門 「提督は軍規で鎮守府を出てはならないはずだな。近くの街に出たぐらいで何かあるとは思えないが……どうする? 」

提督 「軍規違反は気が進まないが……しかし何より陸奥が心配だ。今日だけは気にせずに追いかける」

長門 「わかった。しかし、街への一本道だとあまり隠れる場所がないな…… 」

提督 「少し距離をあけて追おう。振り返った時に見えなければ良いわけだからな」

長門 「わかった、そうしよう」




203: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:24:19.82 ID:UhoB13U/o


陸奥 (尾行確認用の手鏡を持っているなんて気づいて無いでしょうね~ )


手鏡で確認すると、がんばって隠れながらついてくる二人がよーく見えちゃうわ。提督もちゃんとついてきてるのね。


陸奥 (軍規違反なのについてくるんだぁ。それだけ心配してくれてるのかしら? )


面白がって尾行されてるけど、ちょっと罪悪感……。

でもそれ以上に……二人が……わたしにとってとても大事な二人が……わたしを心配して必死に追いかけてきてくれていると思うと……すごく幸せで嬉しい気持ちだわ。


陸奥 (うふふ、悪い女でごめんね、二人とも♪ 今日はがんばってわたしを追いかけてねっ)




204: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:24:46.51 ID:UhoB13U/o


――――― 鎮守府近くの街 ファンシーショップ前


荒潮 「陸奥さーん、こっちよ~ 」

陸奥 「あら、みんなもうお揃いね」

朝潮 「陸奥さん、今日はお招きありがとうございます! 」

大潮 「陸奥さんありがとう! 今日は全力で選びますよ~! 」

満潮 「わたし、なんでこんなところに…… 」

荒潮 「まぁまぁ、そんなこと言わないでっ。せっかくだもの、可愛い子を選びましょ~ 」

満潮 「はぁ…… 」


………
……

長門 「今度は第八駆逐隊と待ち合わせか」

提督 「陸奥は休日も忙しそうだな」




205: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:25:35.33 ID:UhoB13U/o


荒潮 「というわけで今日は、大潮ちゃんと満潮ちゃんのぬいぐるみゲット大作戦で~す」

満潮 「わたしはいらないのに……(キョロキョロソワソワ) 」

大潮 「わーい、アゲアゲ~!! 」

朝潮 「満潮もそんなこと言わないの」

陸奥 「そうよ~、おごりなんだから好きなのを選んでね」

満潮 「そんな、申し訳ないですから…… 」

陸奥 「わたしからじゃないのよ、提督からの好意なんだから」

大潮 「ええ~! 司令官のおごりなんですかっ」

陸奥 「ええ。提督にね、長門が朝潮ちゃんとぬいぐるみを買いに行って、ペアぬいぐるみを買った話をしたのよ~ 」

朝潮 「うう、そのようなお話が提督に……恥ずかしいです…… 」

陸奥 「恥ずかしく無いわ。提督とても喜んでいたわよ。ただね、駆逐隊全員でお揃いにしてほしいから、大潮と満潮の分を陸奥が買ってあげてくれって」

荒潮 「提督がそんなこと気にするなんてね~ 」

陸奥 「あら、提督はそのへんはすごくうるさいのよ。だって第八駆逐隊だって、出撃も遠征もいつも一緒でしょ? 」

朝潮 「そういえばそうですね……。一度も別れたことがありません」

陸奥 「その辺は提督の意向なのよ~。どうもお揃いにこだわりがあるみたいね、提督は♪ 」

満潮 「……そうなんですか」




206: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:26:33.05 ID:UhoB13U/o


大潮 「わたしはこれですっ! 」

満潮 「わたしも決めたわ」

陸奥 「はやいのね~……って、やっぱりね。迷う事もないものね(くすくす)」

荒潮 「やっぱりお揃いのイルカさんにするのね~♪ 」

満潮 「べ、別にお揃いにこだわった訳じゃないわ。ただこの子が気に入っただけっ」

朝潮 「うんうん、イルカさんはかわいいものね」

大潮 「実は大潮もすっごく羨ましかったから……嬉しいですっ。陸奥さんありがとう! 」

満潮 「まぁその……お礼はちゃんと言っておきます。陸奥さん、ありがとうございます」

陸奥 「いいえ~♪ お揃いになってよかったわ」

満潮 「あと、その司令官にも……な、なんでもない! 」

陸奥 「はいはい、提督にもお礼を伝えておくわね♪ 」

大潮 「はいっ、大潮からもお願いしますっ! 」

満潮 「っ~/// 」




207: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:27:31.86 ID:UhoB13U/o


――――― 店の外


長門 「店の中はなかなか楽しそうだな。見たところ、大潮と満潮がぬいぐるみを選んでいるようだが」

提督 「そのようだな。しかし声が聞こえないとまるで様子がわからんな」

長門 「こういう時は、盗聴器がほしいな」

提督 「青葉に借りておけば良かったな」

長門 「声が聞こえない分、せめて様子がもうちょっと見れれば…… 」

提督 「長門、あまり身を乗り出しては見つかるぞ」

長門 「店の外だし大丈夫だろう……お、選んだのはイルカさんか。朝潮たちとお揃いにするんだな」

提督 「満潮も持っているか? 」

長門 「ああ、大潮と満潮がお揃いのイルカさんを買うようだ」

提督 「そうか、それなら良かった」




208: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:28:11.65 ID:UhoB13U/o


――――― ファンシーショップ 棚の裏


電 「今度は陸奥さんなのです…… 」

雷 「長門さんと陸奥さんが駆逐艦とぬいぐるみを買いに行く……うーん、なんだか変な話ね」

響 「ちらっとだけど提督の話も出ていたから……もしかしたら何か深い理由があるのかもしれないね」

暁 「な、なにかの作戦なのかしら…… 」

電 「ぬいぐるみを買う作戦って……想像もできないのです……」

雷 「もっともっとぬいぐるみを集めてきていいのよ作戦みたいな感じかしら? 」

暁 「ちょっと嫌な作戦ね、それ……」

響 「ふむ……でもちょっと気になるね。店の外から陸奥さんを見つめている提督と長門さんのことはもっと気になるけれど」

暁 「ほんとうね。一体なんなのかしら……」




209: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:29:12.67 ID:UhoB13U/o


――――― その後 鎮守府近くの街


長門 「次に入った店は……あれは化粧品の店か」

提督 「立ち話している相手は……熊野と鈴谷か。こうしてみると陸奥は本当に友達が多いんだな」

長門 「そうだな。先ほどの洋服の店では飛龍や蒼龍と楽しそうにしていたしな」

提督 「しかし、なんというか……休日を満喫しているように見えるばかりで……悩みの手がかりは全然つかめないな」

長門 「それどころか、全然悩んでいる風に見えないぞ、今日の陸奥は」

提督 「上手に息抜きができているということなのだろうか」

長門 「……そうだな。息抜きに関しては我々より陸奥のほうがはるかに上級者だ。そういうことなのかもしれないな」




210: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:29:47.21 ID:UhoB13U/o


――――― 化粧品店内


陸奥 「そうなのよ~、わたしに悩みがないか心配して、尾行してるみたいなの」

鈴谷 「尾行って言っても丸見えじゃん。あれ、ほんとに隠れてるつもりなの? 」

熊野 「うふふ……そういうところも含めて、なかなか可愛らしいじゃありませんか。提督と長門さん、ちょっと見直しましたわ」

鈴谷 「えー、見直すところなの? 」

熊野 「ええ! 仲間の心配をして、不器用な尾行をしようだなんて……お二人はもっとドライかと思っていましたけど、実はとても仲間思いなんですのね」

陸奥 「そうなのよ~。不器用だから優しさを表に出すのが苦手な二人なの」

鈴谷 「まー、そういうことならそうかもねぇ。でも、もうちょっと隠れようがあると思うけどね、わたしは! 」




211: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:30:16.62 ID:UhoB13U/o


――――― 午後 鎮守府近くの街


陸奥 (さて、そろそろ帰ろうかしら。尾行してる二人も疲れちゃうだろうし…… )


??? 「あんた、こんなところで何してんのよっ! 鎮守府の外に出ちゃダメなんでしょ!? 」


陸奥 (この声は……霞ちゃんね。あらあら、怖い子に見つかっちゃったみたいね)


霞 「はぁ!? どんな理由があっても軍規は軍規でしょっ、このクズ! 早く戻りなさいったら! 」


陸奥 (あー、叱られてる叱られてる…… )


霞 「あんたが軍規違反で捕まったりしたら、わたしたちみんなの迷惑になるのよっ。分かったら早くなさいっ! 」


陸奥 (提督と長門がトボトボと帰っていく……。ま、時間もちょうどいいし、今日はもう終わりね。うふふ、二人ともお疲れ様♪ )




212: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/08(火) 20:30:47.56 ID:UhoB13U/o


**********


二人には悪いけど、尾行されるの楽しかったわ……ちっとも隠れられて無かったけどね♪

大好きな相手に「追いかけられる」っていうのは、なかなか素敵。普段はわたしが二人のことをあれこれお世話してるんだもの……たまにはこういうのもいいわよね♪

さ、今日は素敵なリフレッシュが出来たし……明日からまたがんばろーっと

長門と提督も……こんな素敵な休日が送れるようになるといいわね


**********




220: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/10(木) 18:49:13.40 ID:vfxgdt28o


――――― 数日後 間宮さんのお店




221: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/10(木) 18:50:16.37 ID:vfxgdt28o


五月雨「というわけで今日は清霜ちゃんを連れて来ました! 」

長門 「紹介したいというのは清霜か。しかし清霜とはすでに面識があるが…… 」

清霜 「う、うん、こんにちは」

五月雨「えへへー、実はですね、清霜ちゃんが紹介したい子がいるんですよ。大丈夫だよ、長門さんは怒ったりしないからお話して? 」

清霜 「えっとね、長門さん。わたし最近、リベッチオちゃんとお友達になって…… 」

長門 「ああ、イタリアの駆逐艦だな。ちらっと顔を見た程度だが」

五月雨「元気でかわいい子ですよー! 」

清霜 「そ、それでね、あの子も戦艦が大好きで、イタリアの強い戦艦だよーってリットリオさんやローマさんの話をしてて……それでわたしも、日本が誇るビックセブンだよって長門さんや陸奥さんのお話をして…… 」

長門 「うむ、日本の誇りと言われるのは嬉しいな」

清霜 「そ、それでその……お互いに自分の国の戦艦を連れて来て紹介し合おうみたいになっちゃって……。リベちゃんはリットリオさんやローマさんとはすごく仲が良いみたいでさ。わたしもついつい対抗して、わたしも長門さんや陸奥さんと仲良しだから連れて行くって言っちゃったの…… 」

長門 「なんだ、そんなことか。リットリオやローマとは同じ戦艦としてよく顔を合わせているし、わたしは一向にかまわないぞ」

清霜 「ほ、ほんとに! やったー!! 」

五月雨「清霜ちゃん良かったね」




222: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/10(木) 18:51:12.07 ID:vfxgdt28o


――――― 翌々日 提督執務室


陸奥 「……そんなことがあったらしくて、今度イタリア艦との食事会をすることになったの」

提督 「ふむ。長門の息抜きを広げる作戦は順調のようだな」

陸奥 「ええ! 提督のおかげよ、ありがとう! 」

提督 「せっかく相談してくれたんだからな。あまり力にはなれなかったが、なんとかなって良かったよ」

陸奥 「何を言ってるの。ほんとに感謝してるわ♪ 」


提督の言うとおり、長門の息抜き計画……それに駆逐艦と仲良くする計画は順調ね。でも……一石二鳥を狙っていた提督の息抜き作戦は全然ダメ。全く進行せずね……




223: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/10(木) 18:51:52.00 ID:vfxgdt28o


提督 (黙々と仕事中……)

陸奥 (じーーーー)


ここ三週間、提督の悩みを理解しようと、ずっと提督を観察してきたけれど……。これ!っていう確信は掴めてない。でも……他人をこんなに一生懸命観察するなんてはじめてで、それはそれでとても新鮮な良い体験だったわ。


提督 (ふと窓の外を見る)


例えばこういう所。一歩も外に出ない生活をしているくせに、外の様子をすごく気にする。最初は出撃時の天候を気にしているのかと思ったけれど……出撃や遠征が無い時でも同じ。五月雨ちゃんが言うには、昔はじっとしているのが苦手で、いつもあちこちウロウロしていたとか。きっとそっちが本性で、今は我慢して執務室から出ないようにしてるのね。




224: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/10(木) 18:52:28.23 ID:vfxgdt28o


提督 「陸奥、第七駆逐隊が帰ったから、東急は第十八駆逐隊に交代で頼む」

陸奥 「えっ……あ、はいはい了解よ」


こういう駆逐隊や姉妹にこだわるところも、最初はそういう趣味かと思っていたけど……。これは多分、仲良しが離れ離れにならないようにという配慮と優しさよね。そういう配慮と効率を両立させるために、沢山残業して計画を密にしてる。


提督 「はぁー」


そしてため息。艦娘の誰かと上手く行かなかったり、きついことを言われると明らかに増える。やっぱりこの人の悩みの元は艦娘との関係よね。さっきまた曙ちゃんとやりあったから落ち込んでるのね。




225: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/10(木) 18:53:11.44 ID:vfxgdt28o


――――― 夜 鎮守府玄関


提督 (コソコソ)

陸奥 (ああ、やっぱり今日はキャンプに行くのね)


そして提督は、昼間に落ち込むことがあった日にこっそりとキャンプに行く。これはきっと、お酒が飲みたいからなのね。

……きっと落ち込んで眠れない時に、気分転換で始めたこと。


まったくもう! まったくもう!


この人は一生懸命頑張っている。それなのにどうして、こんなに辛そうな毎日を送らないといけないの! しかも自分からそうしてるの!


はぁ……何とかしたいわ……本当に心の底から思うけれど……何とかしたいわっ!




226: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/10(木) 18:53:55.90 ID:vfxgdt28o


――――― 二日後 提督執務室


提督 (黙々と仕事中……)

陸奥 (じーーーー)


大体ね、この人が頑固なのがダメなのよ。修行僧じゃあるまいし、自分を律するにも程が有るわ。息抜きせず自分を追い詰めていたっていつか破綻するって自分で言っていたんじゃない!


提督 (黙々と……)

陸奥 (じーーーー)


でも何を言ってもダメなのはもうわかってるし……。結局この人が息抜きしない理由は分かってないし……。でも、夜のキャンプとお酒はヒントよね。確か提督は『少なくとも鎮守府では禁酒してる』って言ってた。この人は息抜きとか気分転換とかそういうのを鎮守府内ではやりたくない……。もしかして、そういう姿を艦娘に見せたくないの?


提督 「あ、あの……陸奥? 」

陸奥 (じーーーー)


やっぱり長門みたいに『リーダーたる自分が遊んでいては示しが付かない』とかなのかしら。でもそういう感じでもないんだけどなー。でも、もしそういうことなのであれば……できることはあるわね。人目につかないように息抜きするって、別に深夜のキャンプだけじゃないはずだもの。


提督 「あー、聞こえているか、陸奥? 」

陸奥 「え……? あ、はい! 聞こえてるわよ、なになに? 」




227: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/10(木) 18:54:27.39 ID:vfxgdt28o


提督 「陸奥、その……最近元気が無いように見えるが……。一時期盛り返した感じだったが、またここの所様子がおかしいな。何かあったのか? 」

陸奥 (むっ……)


何かあったかじゃないわよぉ~。わたしの心配してる暇があったら自分の心配をなさいよっ。もうっ、もうっ!


陸奥 「えーえー、先週、誰かさんが楽しい尾行をしてくれたおかげで少し元気になったんですけど、また最近悩んでますよー」

提督 「……尾行……気づいていたのか」

陸奥 「会った人みーんな気づいてましたよーだ。提督も長門も隠れるの下手すぎっ」

提督 「むむむ……そうか……それはその……すまん…… 」

陸奥 「謝る必要はないわ。追っかけてきてくれて、わたしもとっても楽しかったんだから」

提督 「そういう……ものなのか? 」

陸奥 「そういうものよっ」




228: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/10(木) 18:54:55.70 ID:vfxgdt28o


提督 「それでその……尾行しても陸奥の悩みは全然わからなかった訳だが、その後元気になったようで安心していたんだ。だがな…… 」


心配してくれるのは嬉しいのよ、ほんと。でもね、それはこっちのセリフだーって言いたいのよ、わたしは


陸奥 (むすー)

提督 「その、悩みを話せないなら……俺に何かできることがあれば言ってくれないか。できるだけ力になりたいんだ」


う゛、提督を困らせてる……。ちょっと大人気無かったかしら……。あ、でもこれはもしかしてチャンスかも!?


陸奥 「ほんとに……協力してくれる? 」

提督 「ああ、俺にできることなら」




229: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/10(木) 18:55:38.49 ID:vfxgdt28o


えっと、人目につかない良い場所……そうだ!


陸奥 「それじゃあ……明後日の日曜日に行きたい場所があるんだけど、一緒に行ってくれる? 」

提督 「場所次第だな。知っての通り俺は鎮守府から出られない」

陸奥 「多分ギリギリ大丈夫よ。行き先は猫島なの」

提督 「湾内にある島か。あの断崖絶壁に囲まれた、灯台があるだけの小さな島だよな? 一体何でまた……? 」

陸奥 「正直言えば、あそこに行くことがわたしの悩み解決に繋がるかは分からないの。でも、前進する可能性はあるかなって。どう? 」

提督 「……そういうことであれば一緒に行こう」

陸奥 「やった! じゃあ日曜の朝ね。見つからないように行きたいから待ち合わせは…… 」




230: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/10(木) 18:56:04.93 ID:vfxgdt28o


**********

うふふ、やっちゃった。デートよデート!

色々準備しなきゃ。楽しみ~♪


おっとっと、ダメダメ。これは提督の息抜きのためなんだから。あそこならきっと、提督も喜んでくれるわ♪

**********




236: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:15:12.63 ID:xv9izA/0o


――――― 日曜日 朝 港の隅




237: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:15:38.90 ID:xv9izA/0o


陸奥 「提督、こっちこっち」

提督 「……そのボートに乗ればいいのか? 」

陸奥 「ええ♪ モーターボートだと音がうるさくて見つかっちゃうからね。わたしがこっそり引っ張るから。……それとも、提督を抱っこして行きましょうか? (くすくす)」

提督 「……是非ボートでお願いしたい」

陸奥 「むー。なーんか不満だわ、その反応」


約束通り、こっそりと猫島に向けて出発!

提督と荷物を載せたボートをわたしが引っ張る……ちょっとシュールね!




238: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:16:09.79 ID:xv9izA/0o


提督 「……随分軽々と引っ張るんだな。それに思ったより速い」

陸奥 「こう見えても8万馬力よ。ボートなんて楽勝よ~♪ 」

提督 「しかし……海に出るのは着任以来だ。良い風だ……懐かしいな」

陸奥 「提督は深海棲艦が出てくる前も海軍だったんでしょ? 」

提督 「ああ、軍とはちょっと違ったけどな。軍艦乗りだったよ。ああ、やはり海はいいな……この感覚、忘れていたよ」

陸奥 「うふふ、提督も一緒に出撃できたらいいのにね♪ 」

提督 「そうだなぁ……艦漢とかになれないかな? 」

陸奥 「その響きはやだわぁ……あははは」

提督 「確かに……汗臭そうだ(苦笑) 」




239: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:16:49.39 ID:xv9izA/0o


陸奥 「はい到着。この小さな小さな浜からかろうじて上陸できるの」

提督 「ほかの場所は本当に断崖絶壁だな。しかし陸奥はこの島に随分と詳しいな」

陸奥 「覚えてない? この島の灯台が不調になったとき、明石とわたしで修理に来たのよ」

提督 「ああ、そういえばそんなこともあったな」

陸奥 「最初は明石に頼んだら、一人では怖いですぅぅって引き返して来ちゃったのよね」

提督 「ああ、そうだった。なんか出そうでって震えてたな……。ふふ、艦娘なんて不思議な存在が何を言ってるんだかって思ったな」

陸奥 「あー、艦娘だって女の子ですもの、怖いものは怖いのよ。そんなこと言ってたって明石に告げ口しちゃおうかしら」

提督 「怒られるから勘弁してくれ(苦笑) 」

陸奥 「さて、ここから結構歩くわよ。しかも急な登りだからね。運動不足の提督には大変よ。覚悟してね」

提督 「うぐ、確かにひどい道だな……。ま、たまには良いだろう」




240: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:17:24.68 ID:xv9izA/0o


――――― 猫島 灯台の近く


提督 「ふう……本当にひどい道だったな……誰も来ないから当然か……はぁはぁ」

陸奥 「お疲れ様、でもほら、もう到着よ」

提督 「おお、灯台の周りはひらけた草原になってるのか」

陸奥 「ええ、素敵な場所でしょ♪ 」

提督 「ああ。断崖絶壁に囲まれた島だからな。こんな場所がある風には見えなかった」

陸奥 「ええ、ここは外からは全く見えない場所だものね。さ、ちょっとまってね」


ばさっ


陸奥 「はい、どうぞ座って」

提督 「ふう、休憩はありがたい。しかし敷物を持ってきているとは準備がいいな」

陸奥 「休憩じゃないわ。ここが目的地よ」




241: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:18:22.45 ID:xv9izA/0o


提督 「ここに、陸奥の悩みに繋がるものがあるのか……? 」

陸奥 「はいはい、ちゃんとお話するから、まずは飲み物ね。はい、冷たいお茶」

提督 「あ、ああ、ありがとう(ごくごく)」

陸奥 「それから、はい、お昼にはまだはやいけど……。お弁当よ」

提督 「なにか大きな荷物を持っていると思ったら、弁当だったのか……しかも随分と多いな」

陸奥 「えへへ、ちょっと浮かれて作りすぎちゃったの。好きなだけ食べてね」

提督 「……これが本当に悩みの解決に繋がるのか……? 」

陸奥 「もちろんよ。おにぎり、こっちが昆布でこっちが梅干しよ。どっちが良い? 本当はシャケが欲しかったんだけど、球磨に全部食べられちゃった後だったのよね」

提督 「ああ……じゃあ梅干しで…… 」

陸奥 「はいどーぞ。じゃあわたしは昆布にしよっと。あと、こっちは唐揚げね。爪楊枝で食べてね」

提督 「………… 」




242: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:19:06.36 ID:xv9izA/0o


陸奥 「ふー、ごちそうさま」

提督 「ごちそうさま。美味しかったよ。陸奥は料理がうまいな」

陸奥 「うふふ、毎日長門のご飯を作ってるからね。鍛えられてるわ♪ 」

提督 「ふふ……そうか、いかにもって感じだな」

陸奥 「はい、デザートはマンゴーよ。甘いのよ~ 」

提督 「あ、ああ、じゃあもらおうか……」


ヒュ~~~~ ソヨソヨ


陸奥 「う~~ん、いい風ね! 」

提督 「ああ、ここは良い海風が吹くな」


ピーーヨ ピーーヨ


陸奥 「南国っぽい鳥もいるわねー。オウムかしら? 」

提督 「さすがに鎮守府までは入ってこないが、この辺にはいるんだなぁ 」




243: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:19:34.23 ID:xv9izA/0o


提督 「さて、なんかのんびりしてしまったが、そろそろ陸奥の悩みについて教えてくれないか? 」

陸奥 「もー、せっかちねぇ。でもそうね、そろそろはじめましょう。手伝ってくれるんでしょ? 」

提督 「ああ、俺にできることならだがな。何をすればいい? 」

陸奥 「じゃあ、悪いんだけど仰向けに横になって、ここに頭を乗せて」


ポンポン


提督 「……………………は? 」

陸奥 「もー、ちゃんと聞いてよ」

提督 「いや、聞こえていたが……え? 」

陸奥 「もー、じれったいわね。それっ! 」

提督 「な! う、うわぁ」

陸奥 「ふふん、パワーでわたしに敵うわけ無いじゃない♪ おとなしく横になりなさーい! 」




244: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:20:14.20 ID:xv9izA/0o


提督 「な、なぁ陸奥……これって膝枕な気がするんだが……」

陸奥 「? そうよ」

提督 「そうよって……(すごい眺めだな) 」

陸奥 「いいからいいから。ほら、往生際が悪いわよ。諦めてリラックスして♪ 」

提督 「はぁ……分かった分かった……」

陸奥 「♪~~ ポン ポン」

提督 「……なんだろう、そうやってポンポンってされるのは、何故か懐かしい感じがするな」

陸奥 「子どもを寝かしつけるときに自然とこうするのよ。うふふ、ちょっと大きな子どもだけどね」

提督 「子ども……。はぁ……陸奥がこんなに強引だとは……してやられたよ」

陸奥 「だって、ちょっと強引にでもしないと、提督は息抜きも何もしてくれないじゃない。言っても聞かない子には実力行使よ♪ 」

提督 「わかったわかった、降参だ。……もしかして陸奥の悩みって、俺が休まないことだったのか? 」

陸奥 「あっきれた~! ほんとに分かってなかったのね」




245: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:20:51.77 ID:xv9izA/0o


提督 「そうか……ははは、考えすぎだったわけか……でもそれなら良かった」


あら、提督から力が抜けたみたい。よっぽど深刻に考えてたのね。


陸奥 「なあに、どんな悩みだと思ってたの? 」

提督 「いや……長門がな、自分は前世で沈んだ時の記憶でしばらく苦しんだから陸奥もそうなんじゃないか? と言っていてな」

陸奥 「……だから長門もあんなに心配していたのね。悪いことしちゃったわ」

提督 「艦娘のみんなは大なり小なり、前世の記憶で苦しんでいると思う。まして陸奥は辛い記憶を持っているはずだ。だから俺もてっきりそれが原因だと思ったんだ」

陸奥 「あら、わたしは長門みたいにひどい最後って訳じゃなかったし、そんなに辛い記憶じゃないわ」

提督 「本当にそうか……? 」

陸奥 「えっ……? 」




246: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:22:12.42 ID:xv9izA/0o


提督 「艦娘の記憶は、艦としてのものだけじゃない。艦長をはじめ乗っていたみんなの想いなんかも受け継いでるだろ」

陸奥 「……そうよ。良く知っているのね」

提督 「君たちを見ていれば分かるさ。そういう部分で言えば、陸奥の前世は随分と辛いものだと思うし……海軍上層部を……俺達を恨んでいてもおかしくはないはずだ。俺はてっきり、そういう記憶が強く出てきたのかと思っていた」

陸奥 「それで最近、なんだか遠慮がちだったのね……。まったく、困った堅物さんね」


ポン ポン


陸奥 「でもそれは考えすぎよ。改めて言うけど、わたしの前世はそんなに辛い記憶じゃないわ」

提督 「…… 」


うん、これは本当。思い出してみると……嬉しいことも悲しいことも色々。でも決して嫌な記憶じゃない……




247: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:23:17.96 ID:xv9izA/0o


陸奥 「長門とわたしはビッグセブン、世界最高の戦艦として建造されて……国民にも大々的に宣伝されたのよ。長門と陸奥は日本の誇りなんて言われたりね。わたしの進水式なんて何万人もの人が見に来てくれて……。那珂ちゃんじゃないけど、本当にアイドルみたいな存在だったのよ」

提督 「そうらしいな……男の子たちの憧れのお姉さんだったわけだ」

陸奥 「うふふ、そうよ♪ だからね、乗組員のみんなも、わたしの乗組員になったことをすごく誇りにしてくれていてね。いつも大切にピカピカに磨いてくれていたわ」

提督 「そうだな……自分の船を大切にしない船乗りなどいない。まして最高の戦艦ともなればな」

陸奥 「ええ♪ だからわたしはみんなが大好きだったわ」

提督 「…… 」

陸奥 「でも、時代の変化って凄いわよね。いざ大戦が始まると戦艦の出番なんてまるでなし。でもやっと、いざ出撃!となったらね……」

提督 「いや、辛いことは話さなくて良い」

陸奥 「大丈夫よ。そう、やっと出撃で南方に行ったと思ったら……。速度不足で実戦参加出来ず、補給艦扱いよ。まぁしょうが無いのよ、時代ですもの」

提督 「……」

陸奥 「でもね……わたしはともかく乗組員のみんながね……。帰り道、みんな集まっては男泣きに泣いていてね……。自分のことじゃない、わたしが活躍出来ないことをみんなで泣いてくれていてね」

提督 「ああ……分かるよ……自分の船を愛するってそういうことだ…… 」




248: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:23:52.27 ID:xv9izA/0o


陸奥 「結局、戦うこと無く内地に戻って……落胆のなか再び訓練の日々を送っていたら……ある日突然事故で轟沈……がっかりな最後よねぇ」

提督 「……」

陸奥 「しかも、沈んだことを秘匿するために、生き残った乗組員のみんなは生きて帰れない最前線に送り込まれて……」

提督 「やっぱり……そのへんも知っていたか」

陸奥 「記憶には無いけどね。やっぱりわたしの大事な人達ですもの、その後が気になって調べたわ」

提督 「そうか……」

陸奥 「ふふ、これにてビックセブンたる戦艦陸奥のお話はおしまい。竜頭蛇尾という感じのちょっと残念なお話よね」

提督 「……すまない……俺たち軍人が……人間が……身勝手で……お前たちを……」


そうか……この人が感じている責任はこういうことだったのね……




249: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:24:33.55 ID:xv9izA/0o


陸奥 「こら」


ギューー


提督 「ふごっ……鼻を……イテテ…… 」

陸奥 「何をしょんぼりしてるの。わたしの素敵な前世の話なのにっ」

提督 「……」

陸奥 「確かに最初から最後まで栄光に包まれて、なんて話じゃないわ。でもそんなの当たり前よ。わたしたちは軍艦なんですもの。戦ったり傷ついたり古くなったり事故をおこしたり……当然じゃない」

提督 「それは…… 」

陸奥 「わたしはね。大勢の人に愛されて、存在するだけで喜ばれて、いつもピカピカにしてもらって……そういう日々がとても楽しかったわ。今思い出してもとても嬉しくなる。うふふ……わたしがお化粧やおしゃれが好きなのは、そのへんの記憶が理由なのかもね」

提督 「……」

陸奥 「そりゃね、事故とかを思い出すとやっぱり嫌だし、今でも第三砲塔とか火遊びとかには敏感だけど……。それに、大切な家族だった乗組員の最後を思うとね……」

提督 「……」

陸奥 「でもね。それはもうずっと昔のこと。もう過ぎたことよ。それにね、それ以上に…… 」

提督 「それ以上に……? 」




250: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:25:17.59 ID:xv9izA/0o


陸奥 「今は最前線で、長門と肩を並べて戦っているわ。自慢の41cm砲をぶっ放して敵を沈め、自慢の装甲で味方をかばって…… 」

提督 「ああ、いつも助けられている…… 」

陸奥 「うふふ、前世であれほど夢見た大活躍よ。わたしの中にいる、わたしの家族たちの魂も……戦いの中で喜びに震えてるわ。前世の悲しみなんて吹き飛ぶぐらいにね! 」

提督 「…… 」

陸奥 「だからね……艦娘になって前世では果たせなかった大活躍ができて、本当に嬉しいのよ」

提督 「だが……君を転生させたのは、人間を護るための道具としてだ……俺たち人間のエゴだ……」

陸奥 「理由なんてどうだっていいじゃない。わたしも、わたしの中の家族たちも……転生できて本当に幸せだし……提督、あなたには心から感謝してるわ♪ 」

提督 「感謝……そんな……転生して幸せだって……? 」

陸奥 「ええ♪ わたしを活躍させてくれるだけじゃない。わたしの大切な仲間たちも、沈めたりせずみんな大事にしてくれてるでしょ♪ そういうのも含めて、とっても幸せよ」




251: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:26:03.75 ID:xv9izA/0o


提督 「……………… 」

陸奥 「♪~~ 」


ポン ポン


提督 「辛い戦いを終え、ようやく静かに眠っていた君たちの魂を無理やり呼び戻して、また人間のために戦わせる……。俺は自分の……自分たちの行為をそう捉えている」

陸奥 「…… 」

提督 「だが結果的に、それが幸せだと言ってもらえることもある……そういうことがあるとは考えたことも無かった。いや、考えたことはあったが、それは自分の希望的観測だったんだと諦めていた……」


この人も……沢山の悩みを抱えて提督業をしてきたのね……


陸奥 「提督。あなたはもっと執務室を出て、艦娘のみんなとお話すべきね」

提督 「……? 」

陸奥 「わたしもみんなの心が分かるわけじゃないわ。だけどね、今を幸せだと感じてるのはわたしだけじゃない。毎日を幸せに過ごしている子は沢山いるわ」

提督 「そうか…… 」

陸奥 「それはあなたが生み出した幸せなのよ。あなたが転生させて、あなたが作った鎮守府で、あなたが作った方針で日々を生きてるんですもの」

提督 「…… 」




252: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:26:44.56 ID:xv9izA/0o


陸奥 「だからね、あなたに幸せをもらってるわたしたちとしては」

提督 「…… 」

陸奥 「提督、あなたが『不幸』の責任を感じて、わざと苦しい日々を送ろうとしていることが不満なの。……だから、ちょっと強引な手を使ってでも幸せにしたいのよ。例えば日曜日にピクニックしたりね♪ 」

提督 「そうか……今日はそういう理由でこれなのか…… 」

陸奥 「ええ♪ 」

提督 「しかしこの膝枕はさすがにオーバーなんじゃ…… 」

陸奥 「この膝枕は、わたしからの『幸せのおすそ分け』よ」

提督 「意味がわからん……」

陸奥 「わたしはいっぱい幸せだから、提督も幸せにしてあげようかなって。膝枕気持ち良いでしょ♪ 」

提督 「ははは……そうだな、気持ちいいよ。ああ、今日は俺の全面敗北だ。まったく、陸奥にはかなわないな」

陸奥 「あたりまえよ、わたしは世界のビッグセブンよ」




253: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:27:15.28 ID:xv9izA/0o


陸奥 「さ、今日はずっとここでのんびりしましょ。ここなら絶対に誰も見てないから、気を抜いていいのよ」

提督 「ああ……こんなにリラックスした気分は本当にひさしぶりだ」

陸奥 「うふふ、無理やり連れ出したかいがあったかな♪ 」

提督 「陸奥……ありがとう」

陸奥 「うふふ、どういたしまして♪ 」


ポン ポン


提督 「…… 」

陸奥 「♪~ 」




254: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/12(土) 22:27:42.11 ID:xv9izA/0o


**********


そよぐ風、鳥の声、遠くに波の音……とても静かな場所。

やっと重荷を置いてわたしに寄りかかってくれているあなた。

もちろんこんなのは今だけ。あなたはきっとまた重荷を背負ってつらい日々に戻っていく。

それでも……ほんのすこしでも、あなたの本音を聞き出して、あなたを休ませることが出来たこと。
それが本当に嬉しくて……今日もまた幸せが増えた。そんな時間だった


**********




260: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/14(月) 21:10:12.68 ID:bKLwuMfvo


――――― ???




261: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/14(月) 21:10:38.80 ID:bKLwuMfvo


明石 「提督、ご注文のマシュマロが届きましたよ! 」

提督 「ああ、無理な取り寄せを頼んですまなかった」

明石 「いえ、これも仕事ですから! ただちょっと問題がありまして…… 」

提督 「ん、なんだ? 」

明石 「すごい量が届いてしまったんです……ほら! 」


ドサドサドサドサ


提督 「な、なんだ……うわ、溺れる……マシュマロに溺れる! 」

明石 「あはは~、でもマシュマロに潰されるってなんだか幸せじゃないですか。良かったですねー! 」

提督 「もがが……た、助け…… 」




262: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/14(月) 21:11:05.76 ID:bKLwuMfvo


――――― 1600 猫島




263: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/14(月) 21:11:40.73 ID:bKLwuMfvo


提督 「はっ! も、もごご……く、くるし……」

陸奥 「zzz...zzz... 」

提督 (一体何が……そうだ、俺は陸奥の膝枕で…… )

提督 「もがが……陸奥、起きてくれ陸奥! 」

陸奥 「zzz...ふぇー、提督? 」


むくっ


提督 「はぁはぁ、死ぬかと思った……。どうやら眠っていたようだ」

陸奥 「ええ。提督、よく寝てたわよ。それでわたしもウトウトしちゃって……ごめんね、わたしも寝ちゃったみたい……って、やだ、押しつぶしてた? ごめんね提督、大丈夫だった? 」

提督 「いや、大丈夫だ」

陸奥 「それなら良いんだけど……あはは」




264: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/14(月) 21:12:22.19 ID:bKLwuMfvo


陸奥 「もう日が傾いてる。結構寝ちゃったわね」

提督 「ああ。こんなにゆっくりと眠ったのは久しぶりだ。妙にすっきりしてる」

陸奥 「あら、それは上出来ね♪ でも、そろそろ帰りましょうか」

提督 「そうだな、またあのきつい道だからな」

陸奥 「うふふ、下りだから随分楽よ、朝よりはね♪ 片付けちゃうから少し待ってね」

提督 「ああ」

陸奥 「よいしょ、よいしょっと」



提督 「あのな、陸奥」

陸奥 「え、なあに? 」




265: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/14(月) 21:13:11.54 ID:bKLwuMfvo


提督 「改めて言うが……今日は本当にありがとう。やはり陸奥の言うとおり、俺には息抜きが必要なのかもしれないと思ったよ、今日は」


やっとわかってくれたのかしら♪


陸奥 「ええ、どういたしました♪ 」

提督 「そして何より……転生できて良かった、今が幸せだという言葉、本当に救われた」

陸奥 「…… 」

提督 「仲間を次々と失い、そして自らも沈んだ……殆どの艦娘の前世ってそういうものだろう。その記憶を持ち、そして転生した今も終わりの見えない戦いに投げ込まれている。それが君たちだ。例え明るく振舞っていても、きっとそういう諸々に苦しんだりしているんだろうと、そう思っていた」

陸奥 「そうね……そういうことが全く無いとは言わないわ」

提督 「だが……そういう苦しみを抱えながらも、喜びや幸せを多く感じて、今を楽しんでくれている艦娘もいるということ、今日はそれをきちんと覚えておこうと思う」

陸奥 「ええ、そうしてね。わたしを筆頭にね♪ 」

提督 「ああ、そうしよう。だけどな……」

陸奥 「……だけど……? 」




266: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/14(月) 21:14:01.13 ID:bKLwuMfvo


提督 「やはり苦しい記憶のほうがはるかに強く、今が不幸な艦娘もたくさんいると思う。俺には彼女たちをそういう運命に引きずり込んだ責任がある」

陸奥 「うーん……一人ひとりの心の中を覗けるわけじゃないからなんとも言えないけれど……。ちょっと前までの長門なんかもそうよね。幸せそうではなかったわ 」

提督 「ああ。だから彼女たちの苦しみを思うと……彼女たちを苦しめて自分だけが楽しく日々を送るなんてできない。だから俺は、これからも今までどおりの日々を送ると思う」

陸奥 「……」


やっぱり……わかってくれないのかしら……


提督 「でもな」

陸奥 「? 」

提督 「でも、彼女たちと同じ不幸な立ち位置になることで満足するのはやめる。今は不幸に沈んでいる一人ひとりが、少しでも楽しく幸せに生きられるように、少しずつでいいからできることをしようと思う。……陸奥が俺にしてくれたように」


やっと……想いが……通じたのね……ぐす……




267: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/14(月) 21:14:58.64 ID:bKLwuMfvo


陸奥 「提督……うん……応援するからがんばりましょ! 」

提督 「ま、俺は陸奥みたいに上手くできないだろうが……ゆっくり頑張るよ」

陸奥 「うふふ……そうね。でも、あの長門が駆逐艦の子たちと楽しく遊んでるよ? 提督だってきっと、できなかったことができるようになるわ」

提督 「そうだな……そうだといいな」

陸奥 「それにぃ~、前はもっとはじけてたんでしょ? みんなの前で那珂ちゃんとデュエットしたりとか♪ 」

提督 「ぐ……、どこでそんなことを……。あれは俺の黒歴史……押し切られて無理やり……ぐあああ」

陸奥 「黒歴史でもなんでも、実際できたんじゃない。為せば成る、よ♪ 」

提督 「は、ははは……ま、ゆっくり頑張るよ。どうかお手柔らかにな(苦笑)」

陸奥 「じゃ、帰りましょうか♪ 」

提督 「あっと、その前に」




268: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/14(月) 21:15:36.32 ID:bKLwuMfvo


提督 「陸奥……」

陸奥 「…? 」


あ、あれ……珍しく提督が近づいてきて……ど、どうしよう!


提督 「本当にありがとうな。お前が秘書艦で良かった」

陸奥 「え、ええ。陸奥で良かったでしょっ(テンパリ)」

提督 「至らない俺だが……これからもどうかよろしく頼む」

陸奥 「う、うん、も、もちろんよっ」


スッ


え……手……? あ、ああ、握手ね、握手!


陸奥 (ぎゅっ)「はい、これからもよろしくね! 」


この雰囲気は……本当は抱きしめるところよね! ほんと、提督はダメね!


陸奥 (ぎゅ~~ )

提督 「陸奥……痛いんだが…… 」

陸奥 「ゆ・う・じょ・う の証は痛いくらいでちょうどいいのよっ」




269: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/14(月) 21:16:22.16 ID:bKLwuMfvo


陸奥 「さて、じゃあ帰り道でいろいろ計画でも相談しましょ!」

提督 「計画なぁ……」

陸奥 「長門はもう大丈夫だと思うから、次は誰をターゲットにしましょうか」

提督 「そうだなぁ……。不幸で大変そうと言えば扶桑や山城だが」

陸奥 「……いきなりハードルが高すぎるわね。しかもあの二人は転生がどうとかの問題じゃないような…… 」

提督 「空が青くて幸せです! なんて言う扶桑は想像できんな…… 」

陸奥 「毎日が楽しいです♪ って言う山城も想像できないわねぇ……くすくす……」

提督 「ふふ……ま、ゆっくりやっていくか」

陸奥 「ええ♪ 」




270: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/14(月) 21:17:09.13 ID:bKLwuMfvo


**********


簡単な問題じゃないことは十分にわかっているつもり。提督の言うとおり、前世の記憶や今の戦いに苦悩している子がたくさんいるのも確か。

堅物な提督が、そんな子たちの見ている前で明るく楽しく暮らすなんてできないのはよく分かるわ。

それでも……一番不幸であろうとするのではなく、彼女たちみんなと少しずつ幸せになろうと……そう思ってくれた……。

今日はそんな革命的な日。そう実感するに連れて……足取りは軽く、ついつい笑顔になってしまうのでした。


**********




276: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:11:16.50 ID:/RloWyPno


――――― 1ヶ月後 鳳翔さんのお店




277: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:12:03.58 ID:/RloWyPno


ガヤガヤ ワイワイ


長門 「さすがに少し緊張するな…… 」

陸奥 「何を言ってるの。みんなの前で訓示なんて慣れっこでしょ? 」

長門 「それはそうだが…… 」

陸奥 「大丈夫よ。もう以前の長門じゃないんだから」

長門 「そうだな……陸奥と提督には本当に感謝しないといけないな」

陸奥 「あら……気がついていたの? 」

長門 「いくらわたしでも気がつくさ。あれだけ一生懸命、駆逐艦との仲を取り持ってくれればな」

陸奥 「うふふ……確かに途中まではそうだったけど、その後は友達の友達つながりばっかりだったじゃない」

長門 「そうだな、朝潮や五月雨からはじまり……今では多くの駆逐艦と普通に話せるようになった。夢のようだよ」

陸奥 「威厳だ職務だと難しく考えなければ、みんなと仲良くできるわよ。あなたは元々こども好きだし……それに、長門型は国中の子どもたちの憧れだったんですからね♪ 」

長門 「あはは、そうだな……。さて、では行ってくる! 」

陸奥 「はい、行ってらっしゃい」




278: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:12:42.28 ID:/RloWyPno


長門 「注目! 」


シーン


長門 「みな集まってもらって済まない。まずは今回の任務ご苦労だった。サンマは無事目標数集まった。皆の奮戦に感謝する」


ワーワー


長門 「慣れない任務で本当に大変だったな……。そういうわたしも釣りなどはじめてで、漁師さんの偉大さを痛感した」


くすくす


長門 「さて、集まってもらったのは他でもない。今日は任務の無事完了を祝って、鎮守府主催の打ち上げだ。今日の飲食はすべて無料なので、皆遠慮せず食べて飲んで楽しんで欲しい」


赤城 「え……いいんですか……食べ放題!? 」

加賀 「さすがに気分が高揚…… 」

長門 「ああ、提督の計らいだ。本当に食べ放題だ」

隼鷹 「うひょー、飲み放題っていうのは酒もかい? 」

長門 「ああ、ジュースも酒もなんでも飲み放題だ」


わーーーー!




279: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:13:52.53 ID:/RloWyPno


ワイワイワイワイ


陸奥 「うふふ、長門お疲れ様。笑いも取れた素敵な演説だったじゃない。はい、オレンジジュース」

長門 「ははは、手は震えたがな。しかし……そうだな、出来なかったことが出来るようになった。そういう充実感があるな」

陸奥 「それは素敵だと思うわよ♪ 」


暁 「あ、あの、長門さん、陸奥さんっ! 」

陸奥 「あら4人ともお疲れ様。特に雷はサンマ漁のリーダーお疲れ様だったわね」

雷 「ありがとうっ。もっともっとわたしに頼ってもいいのよ♪ 」

長門 「ああ、今後も頼らせてもらおう。ありがとう」

電 「えっと……それでですね……次のごほうびは第六駆逐隊の番かなって思って来てみたのです! 」

陸奥 「??? 」

響 「長門さんと陸奥さんが、がんばった駆逐隊へのご褒美にぬいぐるみをプレゼントしていると聞いたんだよ」

雷 「わたしたちも、朝潮ちゃんたちや涼風ちゃんたちが、ぬいぐるみを買ってもらっているのも見たもの」

暁 「わ、わたしもね……一人前のレディらしく、立派なぬいぐるみがほしいなって」

陸奥 「うふふ……そういうことなら大歓迎よね、長門? 」

長門 「ああ、今回は雷を中心に皆がんばってくれた。明日にでも皆で買いに行こう」

暁 「ほんと! やったぁ! 」

電 「長門さん、ありがとうなのです! 」

響 「ハラショー! 楽しみだな」

雷 「早速、どのぬいぐるみがいいか考えなきゃ! 」


ワイワイ




280: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:14:19.78 ID:/RloWyPno


**********


わたしの大事な堅物さんその1である長門はもう大丈夫ね♪

こうしてみんなと仲良くしたって……誰も長門を侮ったり、命令を軽く見たりなんてしない。長門にはそれだけの力があるんだもの。長門もやっとそれを分かってくれたみたいね。

これからも、みんなと仲良く戦い抜けたらいいわね。


さて……大事な堅物さんその2のほうも頑張らないと!


**********




281: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:14:53.20 ID:/RloWyPno


陸奥 「じゃあ、そろそろ迎えに行ってくるわ」

長門 「ああ。今更ゴネたりはしないと思うが…… 」

陸奥 「うふふ、援軍を呼んであるから大丈夫よ♪ 」

長門 「援軍……? 」

五月雨「陸奥さーん、お呼びですかー? 」

長門 「なるほど……これは確実だな」

陸奥 「でしょ? 」

五月雨「??? 」

陸奥 「五月雨ちゃん、実は力を貸して欲しくてね……ごにょごにょ」

五月雨「うわぁ、それは素敵です。では早速行きましょう! 」




282: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:15:21.36 ID:/RloWyPno


――――― 提督執務室


陸奥 「提督、そろそろ出番よ~ 」

提督 「ああ陸奥か。しかし……やっぱり俺は遠慮しておこうかt」

五月雨「さ、提督、行きましょう! すぐ行きましょう!(ぐいぐい) 」

提督 「五月雨まで来たのか…… 」

陸奥 「さ、もう観念して行きましょ? 」

五月雨「そうですよー、みんな喜びますよ! さ、早く早く! 」

提督 「はぁ……分かった、行こうか」


うふふ……やっぱり援軍を頼んで正解ね♪




283: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:16:05.70 ID:/RloWyPno


――――― 少し後 鳳翔さんのお店


長門 「皆、歓談中に悪いが注目してくれ」


ピタ シーン


長門 「提督からも挨拶がある。提督、どうぞ」


ザワザワザワザワ …… 提督ひさしぶりに見た …… ザワザワ


提督 「あー…… 」


あー……じゃないわよー。もうちょっと明るく挨拶しなきゃっ。頑張れ提督!


提督 「皆、任務ご苦労だった。なぜサンマ漁なんて任務が来るんだと疑問に思った者も多いと思う。……正直俺にもわからん」


しーん


提督……ちょっと意味が分からないし硬いわ!


提督 「だが……皆が工夫して頑張ってくれたおかげで任務は無事達成できた。ありがとう」


しーん




284: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:17:21.93 ID:/RloWyPno


あ、静寂に提督が焦ってきてる……大丈夫かしら……


提督 「あ、曙なんて、気合入れた釣り装備までして、一生懸命勉強してくれてたみたいだしな」

曙 「/// なっ……! ど、どうせ空回りだったわよ! 何よ嫌味なの、このクソ提督! 」

提督 「い、いや……成果はともかく、こんなおかしな任務でも全力を尽くしてくれたことが本当に嬉しいんだ。その……ありがとう」

曙 「べ、別にっ! 任務だしっ! 」

提督 「そ、そうか……」


しーん


提督 「そ、それでだな……」

五月雨「ていとくー、がんばってー!(にこにこ) 」


五月雨ちゃん……やっぱり強いわね


長門 「提督、そろそろ締めを」

提督 「あ、ああ。えっとだな……何が言いたかったかというと」


頑張れ提督っ!


提督 「その……無事任務が終わって良かった……何より皆が無事で良かった。無事に帰ってきてくれてありがとう…………以上だ」

長門 「……そうだな、皆が無事なのが一番嬉しいことだ。提督、ありがとうございました」


ぱちぱちぱちぱち




285: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:17:53.21 ID:/RloWyPno


五月雨「提督のご挨拶、すっごいひさしぶりに聞きました! 素敵でしたよー! 」

提督 「最後に皆の前で話した時はまだ総勢20人ぐらいだったが、今では150人とかだからな……。恐ろしく緊張したよ」

陸奥 「うふふ、緊張してたのはよーく分かったわ。でも、素敵な挨拶だったわよ。本当に、みんなが無事なのが一番よね」

長門 「本来ならわたしが最初に言うべきことだったな。わたしもまだまだだ」

提督 「いや、いつも挨拶などを任せてすまんな。本当にこういうのは苦手だ。さて、では俺は戻る」

五月雨「えー、もう戻っちゃうんですかー? 」

提督 「ああ、今日はこのぐらいで勘弁してくれ」

長門 「わかった。後は任せてくれ」




286: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:18:19.40 ID:/RloWyPno


陸奥 「もー、せっかくの打ち上げなんだからそのまま参加してくれてもいいのに~」


まったくもう! まだまだね!


長門 「そう言うな。そもそも提督は人混みが苦手なんだろう。挨拶だけでぐったりしていたのもあるがな」

五月雨「でもー……やっぱり寂しいですよ~」

陸奥 「五月雨ちゃんもそう思うわよね」

五月雨「はいっ! これはもう……行くしかないですね! 」

陸奥 「賛成! 行きましょっ」

長門 「行くってなんだ……? 」

五月雨「あ、じゃあちょっと仲間を集めてきます! 」

陸奥 「じゃあわたしも集めてくるわね! 」




287: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:18:51.68 ID:/RloWyPno


那珂 「襲撃賛成~! やっと出てきたと思ったらすぐ引っ込んじゃうなんてダメだよねー! 」

電 「はい、それはやっぱり寂しいのです……」

睦月 「せっかくだから暇そうな睦月型も引き連れて行くにゃしっ! 」

電 「あ、じゃあわたしも第六のみんなを誘うのです」

五月雨「わたしも涼風と江風を誘おっと。あと第二のみんなにも声かけてみようかな……古参多いし」

那珂 「じゃあわたしも川内ちゃんと神通ちゃんを連れて行こっと! 」

青葉 「おお、襲撃ですか! 是非この目で取材しないとっ」

鈴谷 「面白そうじゃーん! 行く行くっ」

熊野 「プライベートを踏みにじるのは賛成出来ませんが……今日ぐらいは無礼講ということで良いですわね」

ワイワイ ワイワイ




288: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:19:25.48 ID:/RloWyPno


五月雨「な、なんだか凄い人数になっちゃいましたね……これだったら提督を引っ張り出してきたほうが良かったでしょうか? 」

陸奥 「うーん……わたしはこれで良いと思うわ」

五月雨「でも、執務室が凄いことになっちゃいそうで……」

陸奥 「いいのいいの♪ 提督を無理やり引っ張りだすんじゃなくて……みんなが提督のところに行くっていうのが良いと思うのよ」

五月雨「あ……。はい、そのとおりです! じゃあ入りきらないぐらいいっぱいで押しかけちゃいましょう! 」

陸奥 「ええ! じゃあみんなー、料理とお酒は持ったわね~。ではしゅっぱーつ! 」


ぞろぞろぞろ




289: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:19:52.21 ID:/RloWyPno


――――― 提督執務室


コンコンコン

提督 「はい」

陸奥 「提督……ちょっといいかしら」

提督 「陸奥か……どうした? 」

陸奥 「実はね、せっかくの打ち上げだから提督ともう少しお話したいっていう子がいるんだけど、入れてあげてもいいかしら? 」

提督 「そうか……かまわないぞ」


うふふ、言質はとったわ!


陸奥 「はーい、提督の許可がでたわよー! みんな、突撃!! 」


バタン


白露 「いっちばーん! 」

島風 「負けないからっ! 」


ドタドタドタ


提督 「な、なんだ! 」




290: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:20:35.97 ID:/RloWyPno


陸奥 「ごめんねー、提督のところに押しかける仲間を募集したら、こんな凄いことになっちゃって」


ワイワイ ワイワイ


提督 「し、しかしこの騒ぎは…… 」

五月雨「みんな提督にひさしぶりにお会いできたから……少しでいいからお話したいんです。だからお願いしますっ」

陸奥 「そうよ~。ひさしぶりに提督が出てきてくれて、みんな……特に古参の子は本当に嬉しそうだもの」

提督 「そう……か……。俺なんかに会って何が嬉しいのかは分からないが……」

五月雨「嬉しいに決まってるじゃないですか。わたしたちの大事な大事な提督なんですから♪ 」

夕立 「五月雨ちゃんばっかり提督とお話してずるいっぽいー」

陸奥 「大丈夫よ、今日はちゃんとゆっくりお話してくれるから。でしょ、提督? 」

提督 (苦笑)「わかったわかった。今日はちゃんと最後までいるから、何でも話そう」

荒潮 「あらぁ~。何でも話すなんて気楽に約束したら、凄いこと聞いちゃいますよ~♪ 」

朝潮 「こら荒潮、司令官を困らせちゃダメよ」


ワイワイワイ




291: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:21:05.51 ID:/RloWyPno


――――― 深夜 提督執務室


五月雨「ふぁ……それじゃ……おやすみなさい……ふらふら」

陸奥 「はい、おやすみなさい♪ 」

提督 「ああ、おやすみ」


バタン


陸奥 「うふふ、五月雨ちゃん最後まで頑張ったけど、さすがに限界か~ 」

提督 「陸奥は、更に酒も入ってるのに元気だな……ふぅ~~」

陸奥 「お酒が入っているから元気なのよ♪ 」

提督 「納得だ…… 」




292: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:21:50.30 ID:/RloWyPno


陸奥 「提督、今日は大勢で押しかけちゃってごめんね。でも、これは今日だけ。特別よ」

提督 「いや……かまわない」

陸奥 「ううん、本当はね、提督には提督のペースがあるから、わたしはちゃんとそれに合わせるべきだって思っているのよ。でもね」

提督 「…… 」

陸奥 「今日は……五月雨ちゃんや他のみんなの……提督が出てきてくれたことが嬉しい!って思っている子たちの気持ちを、そのまま提督に見せたほうがいいなって思ったの」

提督 「ふむ」

陸奥 「うふふ……釈然としない顔ね」

提督 「だってなぁ……俺は別に笑顔を振りまけるわけでもない、面白い話が出来るわけでもない……。俺に会うことが嬉しいっていう気持ちが、さっぱりわからんのだ」

陸奥 「相変わらずねー。提督、よーく聞いてね」

提督 「? 」

陸奥 「家族とか仲間っていうのは、そういうものなの! ただそこにいてくれることが大事なの! 」

提督 「俺が……家族か……そうか…… 」

陸奥 「ええ♪ 」




293: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:22:16.58 ID:/RloWyPno


**********


自分だけ艦娘ではなく人間、自分だけが司令官。それは事実だけど……でも、わたしたち艦娘にとっては、提督は本当に近い、魂でつながった存在。そういうことを少しでも分かってもらえたかしら?

みんな、本当にあなたのことが大切なのよ♪


**********




294: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:22:53.73 ID:/RloWyPno


提督 「そうだな……今は艦娘の皆との接点がない俺だ。古参はともかく、比較的最近参加した艦娘は、ほとんど言葉を交わしたことすらない」

陸奥 「ええ、そうね」

提督 「それでも……それでも皆、特別に大切な存在で……。そうだな、俺の中でも皆は仲間であり家族だ。そうか、同じなんだな」

陸奥 「うふふ、そうよ。わたしだって、接点が殆ど無い艦娘の子はたくさんいるわ。それでもみんな仲間であり家族……おんなじよ」

提督 「不思議な絆だな」

陸奥 「ええ。本当にね」




295: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:23:52.10 ID:/RloWyPno


陸奥 「ま、わたしを含めて何人かは、家族や仲間っていうだけじゃない思いもあるのよ」

提督 「そうなのか……? 」

陸奥 「そうよ~。ほんっと、提督は鈍いわねぇ」

提督 「やっぱり、恨みやわだかまりがあるのか……? 」


責任感が強くて真面目なのは素敵だけど、この硬く考えすぎる鈍い人をどうしてくれようかしら


陸奥 「ほんっっとに、提督は分かってないわ。だめねぇ」

提督 「ダメか……」

陸奥 「そうよ。言うなれば……アホ提督ね! あ、これは曙ちゃん風でいいわね。このアホ提督っ! 」

提督 「アホ……陸奥、お前また酔っ払ってるだろ……? 」

陸奥 「ご想像にお任せしまーす! あ、そうそう提督」

提督 「? 」

陸奥 「確かにアホ提督だけど……わたしはそんなアホ提督が大好きよ。わたしだけ特別な家族にしてくれても……い・い・の・よ・♪ 」

提督 「/// くっ……この酔っぱらい陸奥めっ! 」

陸奥 「うふふふふ♪ 」




296: ◆8sA8xtnAbg 2016/03/16(水) 21:24:22.40 ID:/RloWyPno


**********


今はお酒の勢いで冗談交じりに言うだけだけど……。

家族や仲間じゃない……もっと特別な存在としてあなたの隣に立つことも、わたしの大事な大事な目標なのよ。堅物を治すの共々、いつになることやらっ。

でも、ゆっくりがんばるわ。


うふふ……覚悟しててね、わたしのアホ提督♪


**********


続く