前回 京介「ただいま」 桐乃「おかえり」

19: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:02:11.22 ID:dvH6gEG70
二日目。

昨日は中々寝付けず、気付けば朝を迎えていたという感じ。 多少は寝れたけど、それでもやはり気分は悪い。

それはそうと昨日の夜。 風呂に入ってから着替えようとしたら、寝るとき用のスウェットが一着無かったんだよな。 どっかに置きっぱなしか、干しているときに飛んでいってしまったか。

まあ、その内出てくるだろうしどうでもいいことだけど。

そして今は夕方。 ほんのり暗くなり始めている空に、綺麗な月が段々と浮かび上がってくる。

引用元: 京介「おかえり」 桐乃「ただいま」 


 

俺の妹がこんなに可愛いわけがない Blu-ray Disc BOX(完全生産限定版)
アニプレックス (2013-02-27)
売り上げランキング: 22,888
20: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:02:40.21 ID:dvH6gEG70
京介「……あいつ、今何してんだろ」

窓の外を眺めてそんな事を思いながら、携帯を開く。

昨日の朝のメール以来、桐乃からの連絡は無い。 それはつまりあいつは向こうで楽しくやっているからだろうし、俺から連絡してそれを邪魔してしまうのも気が引ける。

……あー、つっまんね。

携帯を布団の上に放り投げ、俺自身も布団に身を投げる。

ほんの少し、その布団からは桐乃の匂いがした。

21: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:03:10.46 ID:dvH6gEG70
あやせ「桐乃ー。 もうすぐご飯だけど、何してるの?」

部屋でくつろいでいたところ、あやせが話しかけてきた。 ちなみにあやせとは同室。 当たり前だケド。

桐乃「う、ううん。 何でもない!」

そう言い、慌てて携帯を閉じる。 今日も結局、あいつから連絡はこなかった。 昨日の朝から、連絡無し。

……むっかつく! 自分は黒いのとか沙織とかと楽しくやってるから、大丈夫ですよって!? あの馬鹿兄貴!

22: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:03:36.64 ID:dvH6gEG70
むう。 考えたら余計にムカついてきた。 いきなり電話してやろうかな? でも、それはそれでなんか負けた気分だし……。

あやせ「……お兄さんから、連絡来た?」

あやせは心配そうに、そう言う。

桐乃「ううん……来てない」

あやせ「……あの男!」

め、目が怖いよ? あやせ。 なんだか寒気もするんですケド……。

23: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:04:03.87 ID:dvH6gEG70
桐乃「あ、あたしは大丈夫だって。 別にそのくらい」

そうそう。 あたしはそんな依存なんてしてないし。 たった数日会えないくらいで、だしね。

あやせ「桐乃がそう言うなら、良いけど……」

桐乃「うん。 ほら、ご飯でしょ? いこ、あやせ」

あやせ「う、うん」

あやせの手を引き、あたしは食堂へと向かう。 足取りは少し、重かった。

24: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:04:33.04 ID:dvH6gEG70
「今日は一緒に遊んでくれてありがとう。 また遊ぼうね、お兄ちゃん♪」

画面の中には笑顔で手を振るキャラクター。 俺はそんなキャラクターを無機質とも呼べる感情で眺めていた。

桐乃が置いていった●●●●をやっていた(修学旅行にまで●●●●を持って行こうとしたら、さすがに止めるけど)訳だが、どうにも暇潰しにすらならない。

いつもならいつの間にかやり込んでいて暇潰しくらいにはなるのだが、今日はそんな気分にもならず、なんだか馬鹿らしくなってしまう。

25: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:05:00.44 ID:dvH6gEG70
何故か。

やっべえ。

今更気付いた。

俺、桐乃がいないと寂しくて無理だ。

一人っきりの部屋は広すぎて。 一人っきりの飯は不味くて。 一人っきりの朝は不快で。 一人っきりの夜は眠れない。

26: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:05:33.39 ID:dvH6gEG70
京介「……桐乃」

呟いても、返事をする奴は今居ない。 虚しく、部屋の中にその声は消えて行く。

なんだよ、くそ。

俺ってここまでシスコンだったのかよ。 笑えてくるぞ、なんか。

いつも当たり前の様にあるモノ。 失って、初めて気付くモノ。 短い期間だったが、俺にはそれが分かった。

当然の様に傍にあるそれが、どれだけ幸福な物なのか。 どれだけその日常が、かけがえの無い物なのか。

27: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:06:53.98 ID:dvH6gEG70
……時刻は22時。 いつの間にか、俺は桐乃に電話を掛けていた。

コール音一回目。 あいつはやはり、すぐに電話に出る。

京介「……桐乃か?」

「そだケド、なに? あたし今チョー忙しいんだよねぇ」

桐乃の声はいつもより暗く聞こえる。 俺の気分が落ち込んでいるからだろうか。 それとも。

28: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:07:28.42 ID:dvH6gEG70
京介「わ、わりい。 なんていうか……な」

「え~? もしかしてあたしの声聞きたかったとかぁ? ひひ。 シスコン」

京介「……そうだよ。 お前の声が聞きたかった」

「……ふん。 あっそ」

京介「でも、忙しいみたいだったな。 少しでも話せて良かったわ。 またな」

「は、はぁ!? ちょっと待てい!!」

29: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:07:56.90 ID:dvH6gEG70
京介「な、なんだよ?」

「あ、あたし……今、チョー忙しいところを時間作って、少しなら話せるようにしたんですケドぉ」

「なのにもう切るとかぁ~。 マジで言ってるの~?」

京介「お、おう……そうだったのか、悪いな。 んじゃあもう少し話そうぜ」

「ひひ。 やった!」

「じゃない! そうじゃない!!」

30: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:08:23.46 ID:dvH6gEG70
な、なんだ……一人でなんか盛り上がってるな、こいつ。

京介「で、そっちはどうよ? 楽しいか?」

「……まぁまぁかな? でもまだ家で●●●●やってた方がマシかも」

京介「んだよ、折角の修学旅行なんだから楽しんで来いよ」

「はいはい。 でもつまらない物はつまらないし」

31: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:08:51.78 ID:dvH6gEG70
京介「行ったことがある場所とか?」

「そうじゃないケド……」

京介「見たい物が無かった、とか?」

「……そうでもないケド」

京介「ならどうして?」

「わかんない。 自分でもちょっと分かんない。 なんか知らないケド……つまらないってだけ」

32: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:09:17.65 ID:dvH6gEG70
京介「ふうん? じゃあ帰ってきたら桐乃の好きな場所行こうぜ。 一緒に」

「お! ほんとに!? じゃーあ……ハワイ行きたいなぁ」

京介「ハワイアンズくらいなら……」

「ケチ。 だけど、どこでもいーよ。 なんなら一日家でデートでも。 あはは」

京介「ん。 じゃあそうだな……ごろごろしながら、●●●●でも話でもするか」

「うん。 それで良いよ、京介」

33: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:09:45.97 ID:dvH6gEG70
京介「おう。 じゃ、気をつけて帰って来いよ」

「はいはい。 あんたはいっつも心配しすぎ」

京介「仕方ねーだろ。 妹の心配しない兄貴なんていねーし、彼女の心配しない彼氏もいねーんだよ」

「……うん。 だよね」

それからしばらく、俺は桐乃と電話を続けた。

34: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:10:13.64 ID:dvH6gEG70
他愛も無い話で笑って、驚いて、時には少し恥ずかしくて。

そんな話をしている最中が、この二日間では一番楽しかった。 少なくとも、俺にとっては。

京介「そういや、明日って何時にこっち着くの? 場所は学校だっけか」

「明日? えーっと……確か、夕方の五時だったかな。 そのくらいにガッコに着くと思うケド」

京介「ふうん。 じゃあ飯は俺が作ろうか? お前、疲れてるだろうし」

「良いって。 そんくらい余裕だっつーの」

35: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:10:40.18 ID:dvH6gEG70
京介「でもなぁ……」

「じゃあさ、また二人で作ろうよ。 ね?」

京介「……それなら別にいいけどよ」

「ならけってーい。 材料しっかり買っといて……あ、ヤバ」

京介「ん? どした」

「……時間が。 ごめん、切るね。 今電話してるのばれたらヤバイから。 もう部屋で寝てる時間だしさ」

36: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:11:12.23 ID:dvH6gEG70
言われ、時計に目を移すと既に時刻は23時。 1時間も電話してたのか。 全く気付かなかった。

てか、こいつは超忙しいとか言ってなかったっけ。

京介「そかそか。 そりゃあ超忙しいだろうな。 へへ」

「ば、ばか。 察しろっつーの……じゃ、おやすみ」

京介「おう。 おやすみ」

そして、桐乃との電話を終える。

37: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:11:41.64 ID:dvH6gEG70
その電話を終える最後の言葉、桐乃の声色は……いつも通りに思えた。 それは俺の気分が戻ったからか、それとも。

それが分からない俺では無いな。 もう。

にしても不思議だよ。 このたった1時間の電話で、俺がさっきまで感じていた不快な気持ちだとかは、全部まとめて吹っ飛んでいったんだぜ。

約一年前。 俺は桐乃に「お前がいないと俺は幸せになんてなれない」と言った。 それは正しくその通りだったって訳だ。

いやいや、まさか俺も桐乃が三日間……正しくは家に居ない時間は一日だけど、たったそのくらい居ないだけで、こんな気持ちになるなんて思ってもいなかったぞ。

38: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:13:03.80 ID:dvH6gEG70
……ぶっちゃけ、桐乃がいないと俺は生きていけんかもしれん。

当然、桐乃にそんな俺のうだうだした想いを言いたくは無いけどな。 冗談で言うことはあるかもしれねえけど。

さて、俺もそろそろ寝るとしよう。

桐乃と俺とは今、遠い場所に居るのだが。

俺が眠る布団のすぐ隣に、桐乃が居るような、そんな気がした。

39: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:13:29.23 ID:dvH6gEG70
電話を終えて、一人。

実は、あたしからも電話を掛けようとしたところに京介から電話があった。 そういうワケで、今は泊まっている旅館の休憩所的なところに来ているんだケド。

先生に見つかったら、多分怒られるだろうなぁ。 でも、そんなことはどうでも良かったりする。

桐乃「……えへへ」

未だに電話の余韻は残っていて、自然と笑い声が漏れてしまう。

こんなとこ誰かに見られたらヤバイよねぇ。 でも仕方なくない? うん、仕方ない。

40: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:13:57.21 ID:dvH6gEG70
あたしは片手で持っていたスマホを抱き締めるようにして、少し大きめのソファーの上に寝転がる。

桐乃「……なんか、久し振りに緊張したかも」

てゆうか、あたしってどれだけ京介のことが好きなのだろうか?

いつからだって言われれば、そりゃもう昔からずっと……だけど。 どのくらいか、って言われると少し難しい。

だって、比べられる物が無いから。

41: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:14:25.07 ID:dvH6gEG70
●●●●も、友達も、モデルの仕事も、色々な趣味も。

どれも大切だけど、京介のことは、そのどれよりも大切で。 どれよりも好きで。

桐乃「……な、なに考えてるんだろ。 あたし」

顔が熱くなっているのが分かる。 だけど、昨日と今日、胸にあったモヤモヤとした感情はすっきりとしていた。

桐乃「これじゃ、ブラコンって言われてもなんも言えないじゃん」

42: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:14:51.95 ID:dvH6gEG70
でも、楽しいな。

楽しいし、幸せだ。

明日、家に帰れば京介が居てくれる。 あたしを待っていてくれる。

……それはやっぱり、幸せなことなんだろう。

43: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:15:18.13 ID:dvH6gEG70
ずっと想って、何年も何年も。 無理だと思ったりもして。

それで、あたしは決めた。

あたしのワガママで、京介が高校を卒業するまで付き合って貰う事によって、決着を付けようと。

でも。

京介はそれが終わった後。

あたしに、キスをしてきて。

あたしが心配している様なことを全部吹き飛ばしてくれて。

44: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:15:45.24 ID:dvH6gEG70
……あたしはそれが、自分ではどうしようも出来ない程に、嬉しかった。 幸せだった。

そして今。

夢みたいになっちゃってて。 京介と付き合っていて、一緒に暮らしていて。

もう、一生分の幸せを使い切ってしまったんじゃないかと思うほど、幸せだよね。

桐乃「……ふひひ」

あーヤバ。

45: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:16:13.58 ID:dvH6gEG70
でもさ、そうなるともっと何か無いかなって思うよね? ふつー。

あたしとしては……やっぱり、夜景が見えるレストランとか行っちゃって、その後は腕とか組んじゃったりして? 街の中歩いて、色々見たりして。 ほ、ホテルに行くのはありかな!? いや、落ち着けあたし。

その、ホテルとか行っちゃっても良いケド……それでも、あの京介と一緒に暮らしている部屋が良いかな。 落ち着くし。

沢山、その日の思い出話とかしちゃって~。 一緒にコタツ入って? ひひ。

桐乃「……こ、これチョーやばくない? えへへ」

……いつの間にか、京介と電話を終えてから大分時間が経っている。

そろそろ戻ろっと。

46: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:16:43.45 ID:dvH6gEG70
あやせ「もう、どこ行ってたの? 桐乃」

部屋に入るとすぐ、あやせがあたしに声を掛ける。

桐乃「あ、あははは。 ちょっとね~」

あやせ「……あはは。 分かっちゃった。 電話でしょ?」

桐乃「ちょ! 聞いてたの……? あやせ」

47: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:17:13.63 ID:dvH6gEG70
あやせ「ううん。 聞いてないけど、桐乃の顔を見れば分かるって。 すっごい幸せそうだし」

桐乃「そ、そんなことないって!!」

あやせ「こ、声でかい! 静かにしないと、先生来ちゃうよ」

桐乃「あ、あー。 ごめん……でも、そんな幸せそうになんてしてないって」

あやせ「そう? さっきスキップしてたの窓から見えたけど」

48: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:17:39.42 ID:dvH6gEG70
み、見られてた!?

桐乃「そ、それは……な、なんとなくスキップしたくなったの。 いきなり」

あやせ「ふうん? なんとなくねぇ……」

桐乃「何その目は~。 信じてない?」

あやせ「桐乃には悪いけど、全く信じてないかな。 あはは」

49: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:18:07.53 ID:dvH6gEG70
桐乃「もう……」

あやせ「それと桐乃、あと一ついいかな」

桐乃「なに?」

あやせ「さっきから少しニヤけすぎだから、気をつけてね」

桐乃「……うう。 あやせのばか」

50: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:18:33.61 ID:dvH6gEG70
翌日。

渋滞やらで遅れて、学校に着いたのは結局、18時を回った頃だった。 バスから降りると風が冷たく吹いていて、冬が近づいているのを感じる。

桐乃「……ちょっと寒くない? あやせ」

あやせ「だね。 もうちょっと暖かい格好すれば良かったかも」

桐乃「だよねぇ」

そんなことを言いながら、校門に向かって歩いて行く。 すると突然、あやせが口を開いた。

51: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:19:05.34 ID:dvH6gEG70
あやせ「あ、ごめん桐乃。 またね」

桐乃「へ? ちょ、ちょっとあやせ?」

理由も言わず、あやせは駆け足で去っていく。 何だろう? 何か用事でもあったのかな。

……まあ、それなら仕方ないか。 一人で帰るとしよう。

あたしは歩くのを再開し、校門から外に出る。

52: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:19:31.26 ID:dvH6gEG70
丁度出たところで、肩に手を置かれた。 そっちの方に視線を移すと。

あたしが、一番会いたい人が居てくれて。

京介「よ。 なんか久し振りって感じだな」

桐乃「あんた……なんで?」

京介「妹の顔が早く見たかった! ってのじゃ駄目か? 荷物持つぜ。 重いだろ」

桐乃「……ありがと」

53: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:19:57.48 ID:dvH6gEG70
京介「ん? なんか言ったか?」

桐乃「なんでもない。 聞こえなかったらそれでいーの」

京介「……そか。 へへ、どういたしまして」

桐乃「……聞こえてたんじゃん」

京介「いいや、聞こえてねーよ。 なんて言ったか考えただけだ」

桐乃「……ふうん」

54: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:20:24.36 ID:dvH6gEG70
京介はそう言い、あたしが片方の手で持っているバッグを指差す。

桐乃「うん。 こっちは良い」

桐乃「……ほら」

言いながら、あたしは京介に手を差し出した。 空いている方の手を。

京介「……ん。 おう」

京介も空いている手を差し出し、あたしの手をしっかりと掴む。 寒さの所為で冷えていたけど、暖かかった。

55: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:20:52.73 ID:dvH6gEG70
桐乃「さあて、京介はぁ~。 ト、ウ、ゼ、ン! 料理の勉強してただろうし? 帰ったら期待してるからね~。 あたしの足引っ張らないでよ?」

京介「と、当然だろ。 風呂沸かしといたからさ、帰ったら入れよ。 寒かったろ?」

……話題変えてるし。 別に良いケドね。 あたしが教えればいいことだから。

いや……ちょっと待てあたし。 京介に後ろから抱かれる様に料理教えられるのもありっちゃあり……かな?

だってそうだよね。 結構前に一緒に作ったときなんて、そうされたし。 あれはマジでやばかった! あの時キスされてたらあたしは多分死んでた。 間違い無い。

56: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:21:19.38 ID:dvH6gEG70
桐乃「ふ、ふひひ」

京介「……大丈夫かお前」

桐乃「え、え? あ、あはは。 あたしは大丈夫! ほんと!」

京介「なら良いけど」

こんなの想像してるのばれたら生きていけないって。 それにしても。

寒かったろ、か。

何を言ってるんだろうね、この馬鹿。 そんなの……どっちがだっつーの。

57: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:21:46.77 ID:dvH6gEG70
桐乃「うん。 仕方ないから入ってあげよっかな」

京介「へへ。 どーも」

そうして、あたしと京介は並んで歩く。 あたしたちの、家に向かって。

辺りはもう暗く、街灯が道を照らしていた。

58: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:22:31.32 ID:dvH6gEG70
桐乃「……てか、こっちに着くの五時って言ってなかったっけ?」

京介「ああ、言ってたな」

桐乃「今、六時だけど……」

京介「たった一時間じゃん。 そんくらいなんでもねーよ。 それだけお前に会いたかった」

桐乃「……あっそ」

京介「反応薄っ! んだよ。 折角来てやったのに嬉しくねえの?」

59: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:23:24.67 ID:dvH6gEG70
それを聞くかなぁ? ふつー。

桐乃「どう思う? あたしが嬉しいと思ってるか、思ってないか、どっちだと思う?」

あたしは試すように、そう言ってみることにした。

京介「……うーん。 そうだなぁ」

京介「ヤバ! 京介が来てくれてる! マジ、チョー嬉しいんですケドぉ!」

京介「って感じ?」

60: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:23:53.93 ID:dvH6gEG70
珍しく、京介があたしの思ってることを外す。

昔はそんなのしょっちゅうすぎてイライラしてたケドね。 今となっては、逆にそっちの方が珍しい。

桐乃「全然違うんですケドぉ」

そりゃそうでしょ。

だって、あたしが想ったのはその程度の物じゃないし。

そんなのは絶対に言ってあげないケドね。

61: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:24:24.43 ID:dvH6gEG70
京介「……そうかい。 ま、良いさ。 それよりお土産楽しみにしてんだけどさ」

桐乃「え~。 どーしよっかなぁ……欲しい?」

京介「まさか、買ってきてねえの?」

桐乃「買ってきたに決まってるっしょ。 でもぉ、あんたがそーゆう態度だとあげるか悩むな~。 ひひ」

京介「……へいへい」

桐乃「あはは」

62: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:24:50.19 ID:dvH6gEG70
桐乃「……あ」

言って、あたしは足を止める。

その所為で数歩進んだ京介は、振り返りながら口を開いた。

京介「なんだ? 何か忘れ物でもしたか?」

桐乃「じゃなくって」

笑って、一歩ずつ近づいて。

63: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:25:18.46 ID:dvH6gEG70
あたしは京介に、キスをした。

桐乃「ただいま。 京介」

京介「……おう。 おかえり。 桐乃」

京介の驚いた顔を見て、あたしは笑顔を向けて。

帰ってきたと実感した。

64: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:26:03.58 ID:dvH6gEG70
桐乃「ごちそうさま」

桐乃は言うと、食器を片付ける。 俺はそんな桐乃の姿を見つめている。

まあ、いつもの光景。

それに気付いた桐乃は俺の方を向き、口を開いた。

桐乃「なにニヤニヤしてみてんの」

京介「……別にニヤニヤなんてしてねえよ」

65: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:26:33.99 ID:dvH6gEG70
桐乃「どーみたってしてるじゃん。 なんかヘンなこと想像してない?」

京介「してねーよ! つうか、お前だってニヤニヤしてんじゃねえか」

桐乃「はぁ!? あたしはフツーだっての。 これがいつものあたしの顔。 文句ある?」

俺はお前の顔を十年以上見ているけど、今の表情がデフォルトってことは無いぞ。 絶対に。

京介「なら俺もこれが普通なんだよ。 これがいつもの俺の顔だ」

66: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:27:00.56 ID:dvH6gEG70
桐乃「なワケ無いでしょ。 なに言っちゃってんの?」

その台詞、そっくりそのままお前に返すぞ。

京介「あー。 俺に会えたのがそんな嬉しかったのか。 はは、可愛い奴め」

桐乃「違う違う違う!! ばっかじゃないの!?」

京介「そうかいそうかい。 へへ」

桐乃「チッ……。 てか、それを言ったら京介だってあたしに会えて嬉しかったんじゃないの? ん?」

67: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:27:40.38 ID:dvH6gEG70
馬鹿な奴め。 俺はお前と違って素直なんだよ。

京介「おう。 そうだよ。 お前に会えて超嬉しいし、マジで今日はすっげえ良い日だ」

桐乃「……ばか」

案の定、桐乃は顔を真っ赤に染めて、パソコンの前へ行き、何やらカタカタと操作を始める。

京介「何してんの?」

俺がそう聞くと、桐乃は俺の方を見ることもせずに、そのままの姿勢で口を開く。

68: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:28:22.23 ID:dvH6gEG70
桐乃「決まってんでしょ。 今まで我慢してた分、●●●●やるの」

今の流れから●●●●に持っていくのかよ、こいつは。 すげえな、さすが俺の妹だ! はは。

京介「……お前はほんとお前だな」

俺はなんだかその光景を見て、それが如何に幸せな物か、噛み締める。

変わらない日常というのは、それだけで幸せな物なのだ。 それが今回、俺が学んだこと。

69: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:28:50.51 ID:dvH6gEG70
桐乃「……京介、ちょっと良い?」

京介「ん? どーした?」

桐乃「あんた、あたしが居ない間●●●●やってたでしょ」

京介「な、なんで分かるんだよ……てか、別にやってても良いだろ?」

桐乃「このゲームはプレイしたら履歴が残るの。 で、妹が居ない時に妹とそーゆうことするゲームやってたとか、変 」

京介「お前が居る時にやってもお前なんも言わねーじゃんか! 何でお前が居ないときにやったら駄目なんだよ!」

70: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:29:27.15 ID:dvH6gEG70
桐乃「うっさい変 。 あたしが見てる前以外でこれからやったら許さないから」

……一般常識的に考えて、妹が見てる前で妹と●●いことをするゲームをやる方が問題ある気がするんだけど。

まあ、それを言ったらお終いか。 俺はこいつと●●●●的展開になっている訳だし。

何より、俺と桐乃じゃあ、桐乃の許可が出ないとそれは駄目ってことだしよ。

71: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:29:53.59 ID:dvH6gEG70
京介「桐乃」

桐乃「なに? 変 」

一々変 変 言うんじゃねえよ。 まさか俺の呼び方を「変 」にする気じゃあるまいな、このヤロー。

京介「俺が愛してるのはお前だけだぜ。 それはこれからも、ずっとな」

72: ◆IWJezsAOw6 2013/08/01(木) 13:30:20.85 ID:dvH6gEG70
それを聞いた桐乃は肩をぴくっと震わせ、いつもの様に慌てて……。

だと思ったのだが、桐乃は振り返ると、こういった。

桐乃「……あたしも一緒」

桐乃をからかおうと思って言った台詞だったのだが、どうやらそれはそっくりそのまま俺に返ってきてしまったらしい。


修学旅行 後編 終

97: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:19:30.37 ID:DkWWXJGh0
桐乃「京介、喜んで。 人生相談あるから」

桐乃が修学旅行を終えて数日。 そんなある日、こいつはいつもの様に俺にそう言った。

ちなみに時刻は23時。 眠い。

京介「……そう喜べって強要されると素直に喜べないんだけど」

桐乃「なによ。 折角あたしが相談してあげてるんだから素直に喜べばいいのに。 あんたってホント、捻くれてるよね」

ど、どっちがだ……。 これだけは言わせて貰うぜ、桐乃。 お前の方が確実に捻くれている!

98: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:19:58.98 ID:DkWWXJGh0
言わないよ? だってそうだろ、言ったら睨まれるし、怖いじゃん。

俺の心の中だけで言わせて貰うってことだ。 分かったか。

京介「や、やったー。 桐乃からの人生相談だ。 ちょー嬉しいぜー」

桐乃「心が篭ってないからやり直し。 どーぞ」

京介「よ、よっしゃあああ!! 桐乃からの人生相談だって!? なんつう幸運なんだ!!」

99: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:20:25.10 ID:DkWWXJGh0
桐乃「ちょっと大声出さないでよ。 うるさいな」

京介「……すいませんでしたね。 桐乃さん」

もう慣れた。 慣れた慣れた。 こんなのいつものことだから。

……慣れたよ。

桐乃「なに泣いてんの? そんな嬉しい?」

京介「あ、ああ……泣くほど嬉しいぜ。 はは」

100: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:20:52.24 ID:DkWWXJGh0
桐乃「ふうん。 じゃあどうしよっかな~。 相談しよっかなぁ~。 やめちゃおっかな~」

……じゃあどうしよっかな。 そろそろ夜も遅いし寝ようかな。

京介「……どうぞ相談してください。 桐乃さん」

桐乃「しっかたないなぁ! 最初からそーゆう風に言っとけばいいのに」

京介「……へいへい。 で、今回はどんな相談だよ?」

101: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:21:22.79 ID:DkWWXJGh0
桐乃「えっとね。 これ、見て」

そう言い、桐乃は雑誌を取り出す。

ええっと……これってあれだよな。 桐乃が載ってる雑誌。 俺も持ってるから分かるが。

京介「これってあれだよな。 超美少女が載ってる雑誌だよな」

桐乃「そうそう! よくわかってんじゃん! 偉い偉い」

102: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:21:54.53 ID:DkWWXJGh0
京介「当たり前だろ。 なんつったってあのあやせが……」

桐乃「なんか言った?」

京介「いえ何も」

桐乃「で、誰が載ってるって?」

京介「そりゃあ決まってるだろ。 あの超可愛くて、超美人で、超優しい桐乃さんが載ってる雑誌だ」

桐乃「ふふん。 そのとおり! で、それでなんだケドぉ……」

103: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:22:23.50 ID:DkWWXJGh0
桐乃「あたしさぁ、最近ちょーっと有名になってきて、街中歩いてると時々声掛けられるんだよね。 ちょっと遊ばない?って」

京介「どこのクソ野郎だそいつ! ぶっ飛ばしてやる!!」

舐めた真似しやがって! 桐乃をナンパとか許せねえ!

桐乃「……で! 当たり前だけどそんなの全部シカトしてるよ? でも、やっぱりちょっと怖いんだよね」

京介「……ふむ」

104: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:22:49.88 ID:DkWWXJGh0
桐乃「それで、それを防止したいから……」

京介「ああ、分かった。 俺が学校とか仕事とか行く時全部付いて行けば解決だな」

桐乃「ま、マジで?」

桐乃「じゃない! ちがくて、その」

桐乃「変装とかした方がいいかなぁ……って思うんだよね」

京介「……変装? 頭から被るマスクでも買うの?」

105: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:23:46.61 ID:DkWWXJGh0
桐乃「買うワケないでしょ! そっちの方が絶対に声掛けられるじゃん!」

それもそうか。 主に警察の方とかに。

京介「なら、やっぱり俺が付いて行けば……」

桐乃「あ……あれ、そっちの方が良いかも」

京介「ん? 何か言った?」

桐乃「な、なんでもない。 とにかく、変装用でメガネが欲しいの。 だから、今度の休みに一緒に買いにいこってハナシ。 京介から見て、丁度良い奴選んでよ」

106: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:24:27.24 ID:DkWWXJGh0
京介「そういうことか。 分かった。 そのくらいならいくらでも付き合うぜ」

……なんということだ。 俺、冷静を装っているけどかなりテンション上がってるぜ。 だって、あの桐乃がメガネを掛けてくれるって言うんだぜ!?

ああヤバイ。 想像したらよだれが出そうな勢いだ。

桐乃「……身の危険感じるんだケド」

京介「桐乃、俺に任せろ!」

桐乃「……今までで、一番任せたく無い顔してるよ?」

京介「気のせいだろ、気のせい」

107: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:24:56.65 ID:DkWWXJGh0
それはそうと、俺の考えだと桐乃が声を掛けられる理由って、こういう言い方をすると失礼かもしれんが、雑誌で有名になったのだけが理由では無いよな。 そりゃあそれの影響も多少はあるかもしれないけど。

だってさ、こいつってマジですげー美人だから、普通に歩いてるだけで声掛けられるだろうし? なら別にメガネを買ったからって、声を掛けられることが無くなるとは思えないんだが……。

つうかだな、俺としては桐乃に言い寄る男が居るって時点で、それはもう許せない事態なのだ。

なので、桐乃の提案には乗るだけ乗っておいた方が良い……のかな。 それで多少変わればいいし、変わらなかったら俺が桐乃を毎日学校まで送っていって、仕事の時は付き添えばいいだけだしな!

108: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:25:29.09 ID:DkWWXJGh0
そして次の日。

桐乃「伊達メガネだし、可愛いの選んでよ?」

京介「……いや、すっげーダサいの選んだ方が、声掛けられないんじゃね?」

桐乃「それじゃダメだっつーの!」

京介「な、なにが?」

桐乃「……色々と」

109: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:25:55.99 ID:DkWWXJGh0
むう。 そう言われると困るぜ。 普通に俺が思ったのを選んじゃって良い物なのか。

それより昨日は確か、丁度良い奴と言っていたのに、今日は可愛い奴になっているぞ。 どうせならってことなのか?

京介「じゃ、じゃあ……とりあえず、これはどうだ?」

まあ、実際に掛けて貰わないと分からないかもしれないし。

そう思い、手短にあるメガネを一つ桐乃に渡す。

110: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:26:23.02 ID:DkWWXJGh0
桐乃「これね。 ……どう?」

俺が選んだのは赤ぶちのメガネで、可愛らしい表情をしながら、桐乃は俺を見る。

京介「いや……あれだな。 なんか女王様みたいになってる」

桐乃「は、はぁ!? あんた、喧嘩売ってんの!?」

言動も殆どそれじゃねえか。 だけど、それでも可愛いが。

桐乃「……ふん。 とりあえずキープね」

キープするんだ。 結局。

111: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:26:51.69 ID:DkWWXJGh0
京介「じゃあ……これは?」

そう言う俺が選ぶのは丸メガネ。 桐乃は手に取り、掛けようとして動作を止める。

桐乃「ヤダ。 気に入らない」

京介「そか。 うーん」

桐乃「京介が似合うと思ったので良いんだって。 いっぱいあるでしょ?」

なんか段々変わってないか? 俺が似合うと思った奴で良いの?

112: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:27:25.71 ID:DkWWXJGh0
京介「まあ、お前は最悪鼻眼鏡でも似合うと思うけど……」

桐乃「それは明らかにバカにしてると思うから、怒るよ」

京介「……冗談だっつの。 じゃあ」

俺は一つ、メガネを手に取る。 一般的にありそうな、普通のメガネ。

桐乃「これか……どう?」

見た瞬間、俺は思わず桐乃を抱き締めた。 ヤバイ、カワイイ。

113: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:27:51.86 ID:DkWWXJGh0
桐乃「ちょ、ちょっと! こんなとこでやめてよ……」

言葉の割りには声は小さく、更に抱き締めたい衝動に駆られるが、なんとか抑える。 ギリギリで正気を取り戻すことに成功したのだ。 あぶねぇ……。

京介「お、おう……悪い。 めちゃくちゃ似合ってたというか、めちゃくちゃ可愛かったというか……」

桐乃「そ、そう? じゃあこれにしよっかな!」

114: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:28:19.17 ID:DkWWXJGh0
京介「でもよ……お前そんだけメガネ掛けた状態が可愛かったら、今よりもっと声掛けられるんじゃねえの?」

桐乃「ひひ。 なに、心配してんの?」

京介「ったりめえだろ」

桐乃「……大丈夫だって。 京介があたしのことしっかり見とけば、大丈夫だから」

京介「……おう。 りょーかい」

115: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:28:52.06 ID:DkWWXJGh0
つう訳で、帰宅。

桐乃「……ふひひ」

桐乃は先ほどから、買ったメガネをニタニタと笑いながら見つめている。 こいつ、メガネが欲しかっただけなのかな?

京介「なあなあ、ちょっと掛けてくれよ、それ」

桐乃「え~。 どーしよっかな? そんな見たい?」

116: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:29:18.41 ID:DkWWXJGh0
京介「そりゃもう! めっちゃ見たいっす!」

桐乃「おっけおっけ。 一回だけだかんね?」

京介「お、おう!」

言うと、桐乃は若干慣れない動作でメガネを掛けた。

文句を言わない辺り、桐乃もかなり乗り気な様子。

117: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:29:45.12 ID:DkWWXJGh0
桐乃「……はい」

京介「は、破壊力やべえな……」

桐乃「……あんまジロジロ見られると恥ずかしいんですケド」

京介「で、でもお前それはマジでやべえぞ!?」

桐乃「……そう?」

京介「おう! いや、つうかお前、それ外で着けるな。 やっぱ駄目だ」

118: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:30:10.56 ID:DkWWXJGh0
桐乃「な、なんでよ。 変装用で買ったのに」

京介「俺以外に見せるとか耐えられん。 だから、見せるのは俺だけにしてくれ! 頼む!」

無茶苦茶言ってるのは分かるが、それでもそうして欲しかった。

桐乃「……どうしてもってゆうなら……それでいいケド」

京介「マジで!? よっしゃ!!」

119: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:30:38.00 ID:DkWWXJGh0
京介「でも……それだと、結局意味無いよな……ううむ」

桐乃「あ、あれは……その」

京介「なら、こうしようぜ。 桐乃」

桐乃「え? な、なに?」

京介「お前の顔に、俺とキスしてる写真を貼るとか」

120: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:31:04.25 ID:DkWWXJGh0
桐乃「するワケ無いでしょ!! 絶っ対しないかんね!!」

京介「……なら、お前の顔に「京介の」って書いとくとか」

桐乃「イヤに決まってんでしょ! あんたは顔に「きりりんの」って書かれてイヤじゃないの!?」

京介「俺は別に構わないけど……」

桐乃「……マジ?」

京介「割と、マジだ」

121: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:31:45.09 ID:DkWWXJGh0
桐乃「…………で、でもヤダ! あんたは良くてもあたしはフツーにイヤだし!」

少し悩んでなかったか、こいつ。 気のせいだと言う事にしておくか。

京介「……うーーーーん。 だが、それだと俺がなあ」

桐乃「……あたしが声掛けられるっての、そんなにヤなの?」

京介「まぁな。 で、どうすっか」

122: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:32:11.12 ID:DkWWXJGh0
桐乃「な、なら……出来る限り、あたしと一緒に居ればいいんじゃない? 買い物とか、どっかいくときも」

京介「お前がそれで良いなら、そうしたいけど」

桐乃「……じゃないと京介はヤなんでしょ? あたしはベツに京介がそこまでゆうなら構わないし……むしろ」

桐乃「っ! とにかく! それでこのハナシは終わり!」

京介「……分かった。 そうするか」

桐乃がそれで良いのなら、俺としても喜ばしいことだしな。

123: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:32:43.64 ID:DkWWXJGh0
……さてと。

京介「で、話が変わるんだけどよ、桐乃」

桐乃「なに?」

京介「……ちょっとコスプレしてくれよ」

桐乃「は、はあ!? なに言ってんの、いきなり」

京介「いや、お前のそのメガネとコスプレの組み合わせがどれ程の破壊力があるのか、少し興味があってな」

124: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:33:20.70 ID:DkWWXJGh0
桐乃「……それで、コスプレしろって?」

京介「……おう」

桐乃「……変 。 なら早く違うとこいってよ。 着替えられないから」

……文句は言いつつもしてくれるのか。 全く可愛い奴だぜ。

125: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:33:47.62 ID:DkWWXJGh0
京介「わ、分かった……ありがとな」

桐乃「……ふん」

つうかだな、前に温泉旅行行ったときは俺の前で平然と下 姿にならなかったっけ? あの時は桐乃も多少暴走していたが。

……いやまあ、俺も目の前で着替えられたら色々と大変だし、それならそうで助かるけど。

126: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:34:13.75 ID:DkWWXJGh0
数分後。

桐乃「京介? もう、いいケド」

桐乃から声を掛けられ、再び中へ戻る。 俺はゆっくりと、そこに居る桐乃に顔を向けた。

京介「こいつはヤベぇ……」

目の前にはメイド。 メイド服を着てメガネを掛けた桐乃。 普通に殺人兵器だろ、これさ。

127: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:34:41.88 ID:DkWWXJGh0
桐乃「え、えっと……とりあえず、無難にこれかなって」

京介「さすが俺の妹! 写真撮っていいか!?」

桐乃「……京介だけしか見ないなら、良いよ?」

うおっ! この台詞とその格好はかなり来るぞ!?

桐乃「京介以外に見られたくないし……京介だけにしか見せないから」

京介「ま、待て! ストップ! それ以上言うと俺が死ぬ!!」

128: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:35:08.57 ID:DkWWXJGh0
桐乃「あ……ご、ごめん」

可愛いなあ! もうほんと、今日の夜抱き締めながら寝ようかな!

京介「よ、よし……次、頼んでいいか?」

桐乃「……うん」

129: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:35:34.81 ID:DkWWXJGh0
京介「じゃあ……制服に、エプロンとか?」

桐乃「……着替えるから」

言い、外を指差す桐乃。 一回乗ると、結構ノリいいよな、こいつ。 素で嫌がってたら言う奴だし、そう言わないってことは……。

京介「……おう」

130: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:36:13.39 ID:DkWWXJGh0
また数分後。

桐乃「ど、どうかな?」

言いながら、手を前にして俺を上目遣いで見る。 もう俺、今日で死んでも良い気さえしてきたな。 ははは。

京介「……まずは、抱き締めていいか?」

桐乃「へ? いきなり?」

京介「まあ断っても抱き締めるけどさ!」

言いながら、俺は桐乃を抱き締める。 桐乃は抵抗せず、されるがまま状態。

131: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:36:43.78 ID:DkWWXJGh0
桐乃「……う、うう」

京介「……」

桐乃「ちょ、ちょっといつまで抱き締めてるの」

京介「……」

桐乃「ね、ねえ。 ヤバイって……」

京介「……何が?」

桐乃「……聞かないでよ……ばーか」

132: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:37:10.33 ID:DkWWXJGh0
京介「じゃあ……やめるか?」

桐乃「……もう少しだけなら許したげる」

京介「そうかい。 好きだぜ、桐乃」

桐乃「……その代わり、一つ命令」

京介「ん?」

133: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:37:36.16 ID:DkWWXJGh0
桐乃「え、えっと……その、い、一日」

桐乃「……一日一回、好きって言って?」

京介「おう。 良いぜ」

桐乃「じゃあ……ほら」

京介「……さっき言わなかった?」

桐乃「い、今からだからさっきのはナシ! 早くいって!」

134: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:38:05.84 ID:DkWWXJGh0
京介「わーったよ。 桐乃」

京介「……好きだ」

桐乃「こ、この変 っ!!」

なんで!? おかしくね!? なんで俺今殴られたの!?

いやそりゃあ照れ隠しだってのは分かるけどさ、それでも理不尽すぎて驚くぜ! ほんと!

135: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:38:43.51 ID:DkWWXJGh0
桐乃「あ、ご、ごめん……つい」

倒れた俺の傍にしゃがみ込み、俺の顔を覗き込む桐乃。 しかし、俺の目線はそれ以外のところに向いていた。

京介「……お前、結構●●い●●●履いてるんだな」

桐乃「ばっ! ど、どこみてんのよ!! サイテー!!」

136: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:39:10.06 ID:DkWWXJGh0
京介「俺が見るのは、お前だけだぜ、桐乃」

桐乃「だからヘンな方を見ながらいうなっ! せめて顔見て言ってよ!!」

京介「いや……だって、お前いつまで経っても下を隠さないから……」

桐乃「~~~~!!! このばかっ!!」

137: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:39:39.67 ID:DkWWXJGh0
時間は経って、今は夜。 桐乃は「もう二度とコスプレしてあげない」と怒り、風呂へと行ってしまった。

んで、何故か風呂場から時折変な声が聞こえて来る。

「こ、これはヤバイって! ふひひひ。 さすがにやめないとヤバイよねぇ! ひひ」

な? さっきからこういうったのが聞こえて来るんだ。 何をしてんのか分からないが。

「で、でも……ここなら良いかな? いやでもぉ!!」

……勉強でもするかな。

138: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:40:12.50 ID:DkWWXJGh0
ちなみに結局、あのメガネは俺専用にしてくれたようだ。 その代わりと、後は俺が桐乃の●●●を凝視していたことによる制裁として、俺の額にでかでかと「きりりん専用」と書かれたのだが。

いや、さっきは構わないとか言ったけどさ、これで実際外出ろとか無理だろ。 しかも油性だし。

……風呂場でなんとか洗って落とさないと、明日大学行けないじゃん。

京介「はぁ……」

そんな風に落ち込んでいると、桐乃が風呂から出た様で、戻ってきた。

139: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:43:36.10 ID:DkWWXJGh0
桐乃「うわ~。 あたし専用とか、キモ~」

京介「お前が書いたんだろうが!! それでキモいとか言うんじゃねえよ!!」

桐乃「だってぇ、京介それで外行くんでしょ? ヤバイって~。 えへへ」

京介「でねえよ!? 俺これで出たら頭おかしい奴だからな!?」

桐乃「……出ないの?」

急にしおらしくなる桐乃。 それを見て、俺は若干だが焦る。

140: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:44:12.90 ID:DkWWXJGh0
そうだよな……。 俺、さっきは桐乃に「構わない」って言っている訳だし。

京介「な、なんだよ。 普通出て行かないだろ……?」

桐乃「……それって、京介はあたしだけの物じゃないってことだよね? そう、だよね?」

京介「そうじゃねえよ! 俺は桐乃だけの物で、桐乃は俺だけのだ! 誰がなんと言おうと!」

桐乃は聞き、表情を一転させる。

桐乃「ぷ。 あんたおでこにそれ書いて言われてもギャグなんですケドぉ?」

141: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:44:52.37 ID:DkWWXJGh0
京介「て、てめえ……騙したな?」

桐乃「あんたが勝手に騙されたんじゃん? ウケる~」

桐乃「じゃ、あたしは明日朝からあやせと加奈子と約束あるし~。 おやすみ。 ひひ」

言うと、桐乃は布団の中へと潜る。

……風呂、入るか。

142: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:45:26.37 ID:DkWWXJGh0
結論から言おう。 落ちなかった。 普通に残ったままである。

京介「……明日どうすんだよ、これ」

多少は消えたが、文字は余裕で読めてしまうレベルだ。 どんなイジメだよ。

桐乃「……うーん」

で、その張本人はぐっすりと寝ているときた。 先ほど、頬を突付いてみたのだが、起きる気配は皆無。

これは余談だけど、こいつの肌ってすっげえ柔らかくて、綺麗なんだよな。 女子高生って全員こんなもんなのか? それとも、桐乃だけなのだろうか。 まあ、桐乃以外には興味ねえけど。

143: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:45:58.32 ID:DkWWXJGh0
……しかしあれだな。 こう、人を困らせておいて自分は気持ちよく寝るとは、随分な奴である。

でも何か妙だな……いつもはそうなのに、そうじゃない『何か』がある気がするのだが。

……ま、考えても仕方ねーか。

よし、それならやるか!

当たり前だろ? 俺だけこのまま泣き寝入りとか嫌だもん。

144: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:46:32.08 ID:DkWWXJGh0
そう思い、俺は油性ペンを取り出す。 することなんて決まってるぜ。

京介「……寝顔可愛いなぁ」

違う違う。 そうじゃねえ。 危うく寝顔を眺めるだけで終わっちまうところだった。 なんつう魔性の女だ、この妹め。

京介「……京、介、専、用っと」

よし。 これで痛み分けだ。 どうせ気付くだろ、朝起きたら。

145: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:46:59.55 ID:DkWWXJGh0
京介「……お、兄、ち、ゃ、ん、大、好、きっと」

空いているスペースを使っておまけ的に書いてみた。 このくらいなら別に良いだろ? 多分。

京介「……写メ撮っとくか」

京介「いや、でも前怒られたしなぁ……寝よ」

言えば撮らせてくれるらしいし、明日頼むとしよう。 今日はなんだかんだ言って疲れたしな。

俺はそんな風に思いながら、桐乃の隣に入り、眠りに就いた。

146: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:47:25.36 ID:DkWWXJGh0
頬に衝撃。 俺起床。

京介「……桐乃か」

桐乃「あたしじゃなかったら誰だっつーの!! てかそれよりそんなことはどーでも良いの!」

朝から元気な奴だな。 俺はもう少し寝ていたいんだけど。

京介「なんだよ……騒々しいな」

147: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:47:52.26 ID:DkWWXJGh0
少しの文句を吐きながら、俺は体を起こす。

その所為で桐乃との距離が縮まり、お互いすぐ目の前に相手の顔。

桐乃「……これ、あんたがやったんでしょ」

言うと、桐乃は自分の顔を指差す。

……ああ、そうだった。 昨日寝る前にそんなこともしたっけか。

京介「似合ってるぜ、桐乃」

148: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:48:31.54 ID:DkWWXJGh0
桐乃「そんなカッコいい顔して言ってもムカつくだけだからっ!! どーすんのよこれ!?」

京介「どうするって言われてもな……俺もどうしようってところだし」

京介「大体、元はと言えば桐乃が俺の顔に書くからだろ?」

桐乃「だ、だからって! 今日あやせと加奈子と約束あるっていったじゃん!」

京介「俺だって大学あるんですー。 お前は休みだっけ? なら良いじゃん。 今更あいつらに見られたって別に良いだろ」

149: ◆IWJezsAOw6 2013/08/02(金) 13:48:57.75 ID:DkWWXJGh0
桐乃「良いワケあるかッ!」

桐乃の見事な突っ込み、もとい肘打ち攻撃が俺の腹に入り、俺はこう思う。

それにしても、こいつは顔が自分の顔がニヤけていることに気付いているのだろうか? ってな。

ちなみにだが、その後数日は相手が寝ているときに顔に落書きをするのが俺たちの間で流行ることになった。 勿論、水性で。

それの発端でもある今日は、結局家で桐乃と遊ぶことになったのだが。

……ああ、それと後一つ。 メイク落としでそういうのは落ちると、俺は知っている。


変装メイク 終

174: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:07:20.53 ID:glCiKFgd0
京介「冬コミ?」

黒猫「ええ、そうよ。 わたしはサークル参加をするのだけど、あなたたちは一般参加でしょ?」

桐乃「あんた、まーた本出すの? 去年の夏コミはたまたま売れてたケドぉ。 今回はムリっしょ。 あはは」

ひでぇなこいつ。 完全に馬鹿にしてる。

黒猫「あら? ふふ。 あなたは知らなかったかしら? わたしのサークル……今じゃ結構有名なのよ。 今年は百部刷る予定というくらい、ね」

桐乃「はいはい嘘乙。 あんたの厨二同人誌がそんな売れるワケないでしょ。 妄想は頭の中だけにしときなって」

175: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:08:07.93 ID:glCiKFgd0
……こりゃあれだな。 またいつものパターンだ。 やれやれ。

沙織「きりりん氏。 黒猫氏の言っていることは本当のことでござるよ? 前までは確かに無名サークルでしたが」

黒猫を庇っているとも貶しているとも取れる台詞だぞ、それ。 こいつも大概だな……もっと言い方って物があるだろ!

桐乃「……マジ? 世も末だね」

京介「お前が言うなよ……」

11月のある日。 俺たち4人はたまたま時間が空いていた今日、集まっていた。 場所は最早恒例にもなりつつある俺と桐乃が住んでいるアパートだ。

176: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:08:37.97 ID:glCiKFgd0
京介「そんで、出来の方はどうなんだ? また何か手伝うこととかあればやるけどよ」

黒猫「今年は問題無いわ。 抽選漏れも無かったし、同人誌の方も殆ど完璧に仕上がっているしね」

黒猫「ま。 作家様のお手を借りずとも、問題無いと言う事よ」

沙織「はは。 前回協力して頂いた夏コミの分を随分と参考にしておられた様ですが」

黒猫「あ、あなた! それは言わないでと……」

177: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:09:13.33 ID:glCiKFgd0
桐乃「へえ?」

黒猫「……何よ?」

桐乃「いやぁ、なんでも? ふひひ」

黒猫「……鬱陶しいわね。 呪い殺すわよ」

桐乃「はいはい。 ……ま、参考になってるなら良いケド」

黒猫「ふ、ふん」

178: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:09:40.95 ID:glCiKFgd0
……仲良いな。

そんなことを思いながら、俺は沙織に耳打ちをする。

京介「なあ沙織。 こいつらって前と少し変わったか?」

沙織「何を仰いますか、京介氏。 お二人は最初からこうでござろう」

京介「……それもそうか」

これも恐らくは一緒なのだ。

俺と桐乃と一緒で、大きく変わった訳じゃあない。 変わったのは多分、二人の関係ってところだろう。

179: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:10:14.74 ID:glCiKFgd0
桐乃「ちょっとあんたなに沙織にデレデレしてんの」

言いながら、蹴りが俺の右足に命中。 テーブル下での攻撃。

……うむ。 いつも通りな我が妹だ。

黒猫「ふふ。 大変ね、兄さん。 独占欲の強い女の相手という物は」

桐乃「そんなんじゃないっつーの! なんか気に入らないだけだし! てゆうかその呼び方やめてっつってんでしょ!」

180: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:10:53.43 ID:glCiKFgd0
黒猫「その発言よ。 それが最早そうじゃない。 大方、家に居る時はいつもべったりなのでしょう?」

桐乃「なワケあるかっ!」

……何も言うまい。 俺はな。

沙織「きりりん氏と黒猫氏は本当に仲良しでござるなぁ。 羨ましいですぞ」

京介「羨ましくはねえだろ……」

181: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:11:20.19 ID:glCiKFgd0
沙織「いやいや。 拙者もああいう風に、思いっきり話したい時もあるのですよ」

沙織「それとも何か。 京介氏が拙者のお相手になってくれるということですかな?」

京介「俺だけじゃねーよ。 あいつらも、お前の話相手にはなってくれるだろ? どんな時でも」

沙織「……そうですな。 はは」

桐乃「だからデレデレすんなっつってんの!」

182: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:11:46.26 ID:glCiKFgd0
今度は左足に命中した。 次はどこに飛んでくるのだろうか。

そんな風に思える辺り、俺も成長したのだろう。 いや、慣れただけかもしれねえけど。

黒猫「待ちなさい。 まだ話の途中よ」

桐乃「チッ……どこまで話したっけ?」

黒猫「わたしが兄さんとプールに行った話と、家で何回か遊んだ話と、お祭りに行った話、までね」

桐乃「ぷ。 たったそれだけ? ウケルんですケドぉ」

183: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:12:14.06 ID:glCiKFgd0
ちょっと待て! こいつら何の話してるんだよ!?

黒猫「大事なのは時間と、その内容よ? あなたの様なビ  には分からないでしょうけど」

黒猫「わたしは二週間も付き合っていなかったのに、それだけのことをしているのよ。 対してあなたはどうなの?」

桐乃「……ふん。 たった二週間で別れるとか、あんたの方がよっぽどビ  じゃない? ねえ、京介」

頼むから俺に振らないでください桐乃さん。 その話題に俺は入り込めねえぞ!?

184: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:12:41.23 ID:glCiKFgd0
黒猫「それにしても、あなたは京介と十年以上一緒の家に住んでいるというのに、キスしたのは最近のことでしょう? ふ。 それに比べてわたしは」

黒猫「あなたがアメリカに行っている間、キスなんて済ませたわよ」

桐乃「……はぁ!?」

……おいおい。 マジでもうやめてくださいよ。 ほんとに。

桐乃「ちょっとあんたどーゆうこと!? あたしがアメリカ行った時って、あんたらまだ付き合ってなかったっしょ!? なのにキスしたって!!」

京介「違う! お前が思っているようなことじゃない!! 頬だから!!」

185: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:13:09.76 ID:glCiKFgd0
桐乃「……口と口じゃなくて?」

京介「そうだよ! てかあの時はマジでお前が思ってる様な不純なことにはなってねーからな!」

桐乃「ふん……」

黒猫「あらぁ? 悔しいのかしら。 ふふふ」

やっべ。 なんで俺は元カノに過去の話をされながら、妹でもあり今の彼女でもある奴に責められているんだよ。

……改めて考えると、俺ってすごいことになってんな。

186: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:13:47.93 ID:glCiKFgd0
桐乃「へえ? たったそれだけで悔しがるとでも思ってんのぉ? あたしなんて、京介と温泉旅行行ったし~」

桐乃「んでぇ、その部屋でキスしちゃったしね~。 それも普通のキ」

京介「待て待て待て待て待て待て待てぇええ!!!! 桐乃ちょっとこいッ!!!」

こいつは何を言おうとしたんだよ!? 予想は付くけどさ!!

俺は急いで桐乃の腕を引っ張り、一度台所へと避難。 黒猫と沙織には聞こえない様に、小声で会話を始める。

187: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:14:21.51 ID:glCiKFgd0
京介「……お、お前。 それは言うんじゃねえよ」

桐乃「……ベツにいーじゃん」

京介「……良くねえ! なんで赤裸々に語られないといけねえんだ!」

桐乃「……だって……負けたくないし」

いつから勝ち負けになってんだっつうの……。 はぁああ。

188: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:14:47.86 ID:glCiKFgd0
京介「……そんな勝負しなくたって、お前は負けちゃいねえよ。 だからそういう暴露話をするんじゃねえ。 恥ずかしくて死ぬ」

桐乃「……じゃあ、あいつの前であたしが一番だって言って」

京介「……お前なぁ」

桐乃「……じゃなきゃ話す。 全部」

まーじーかーよー。 ていうか、恥ずかしい思いをするのはこいつだって同じじゃねえのかよ。

189: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:15:16.88 ID:glCiKFgd0
京介「……分かったよ。 やりゃいいんだろ、やりゃ」

桐乃「……うん」

で、話し合いを終えた俺と桐乃は再び居間へ。

黒猫「仲が良いことね。 ふふ」

沙織「そうですなぁ。 羨ましい限りでござる」

ほっとけほっとけ。 もうこの際どうにでもなれ、だ。

190: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:15:45.86 ID:glCiKFgd0
桐乃「ちょっと黒いの、京介があんたに言っておきたいことがあるんだって」

言うと、桐乃はにこにこと笑いながら、俺の方に顔を向ける。

分かったとは言った物の、いざ言えって言われてもどう切り出せば良いんだ。 嘘を吐く訳じゃねえから良いんだけどさ。

京介「……あー。 えーっと」

桐乃「早くしろ」

こええ。 つうかこれって二人から見たら、俺が脅されているように見えてるんじゃないのか。

191: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:16:21.33 ID:glCiKFgd0
京介「お、俺は……桐乃が一番だ。 い、一応」

桐乃「はぁ? 一応?」

京介「……桐乃が一番だ。 絶対に」

桐乃「……ふん。 シスコン」

公開いじめみたいだぜ。 今でもこれはこいつらの罠なんじゃないかって思うくらいだ。 穴があったら入りたい。

192: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:19:04.55 ID:glCiKFgd0
黒猫「はあ。 知っているわよ。 今更どうしたの?」

沙織「黒猫氏。 これは恐らく……結婚報告みたいな物でござるよ。 子が親にする奴ですな」

もしそうだったとしてもお前らに改まって挨拶はしねえよ!! なんで親の心境になられてんだっつーの!!

黒猫「なるほど……つまりあなたたち、結婚するのかしら?」

桐乃「す、するワケないっしょ!」

193: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:19:42.06 ID:glCiKFgd0
沙織「はは、またまた……実はもう既婚、ですかな?」

桐乃「ちっがーう!!」

……ふむ。 流れは流れ、乗っておくか。

京介「……お前、俺と結婚したくねーの?」

桐乃「そ、そうじゃないって! ち、違うんだケド……」

194: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:20:12.50 ID:glCiKFgd0
黒猫「あら、結婚おめでとう」

桐乃「だ、だーかーらー!!」

沙織「く、くく、あははは」

ついには沙織が堪えきれずに笑い出し、黒猫も釣られて笑い、俺も同様に笑い出す。

桐乃だけは顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうにしているのが余計におかしくて、自然と場が和んでいた。

195: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:20:41.18 ID:glCiKFgd0
京介「は、ははは。 わりいわりい、さすがに悪ノリしすぎたな。 く、あはは」

沙織と黒猫が未だに笑う中、桐乃は俺の方を向き、小さくひと言。

桐乃「……あんた、あいつらが帰ったら分かってるんでしょうね」

京介「は、はは……は……え?」

俺は次第に、笑顔が強張っていくのを感じていた。

196: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:21:13.30 ID:glCiKFgd0
桐乃「正座」

京介「……はい」

夕方。 黒猫と沙織が帰宅し、今は俺と桐乃だけがここに居る。 つまりは説教開始というわけ。

桐乃「まず謝罪ね。 どうぞ」

京介「え、ええっと……調子に乗ってすいませんでした」

197: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:21:49.65 ID:glCiKFgd0
桐乃「ま、良いか。 じゃあ次、あたしをからかった理由。 どうぞ」

京介「……はい。 桐乃……桐乃さんが恥ずかしがってるのが可愛くて、つい」

桐乃「ふ、ふうん? 可愛かった?」

京介「そりゃもう!」

桐乃「……ふん」

言いながら顔を逸らす桐乃。 うむ。 可愛い。

198: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:22:18.28 ID:glCiKFgd0
桐乃「……じゃあ次。 あ、あたしのこと好き?」

京介「勿論。 超好き」

桐乃「ふ、ふひひ。 ならよし!」

桐乃「次、最後ね」

桐乃「……黒いのにキスされた場所、教えて」

……なんだ? まだ疑ってるんだろうか。

199: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:23:18.53 ID:glCiKFgd0
別に変な場所では無いしな。 そのくらいなら言っても良いのか?

京介「こ、ここだけど」

俺は言い、右の頬を指差す。

桐乃「そこね。 おっけ」

短く言うと、桐乃は正座をしている俺の隣に座り、顔を近づけて。

同じ場所にキスをした。

200: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:23:44.55 ID:glCiKFgd0
桐乃「……ん。 どう? どうせあいつのことだし、呪いだとかなんとか言ってたんでしょ? 解けた?」

意地悪っぽく笑う桐乃を見て、俺は顔が赤くなるのを感じる。 なんか、恥ずかしいぞ。

京介「解けたっつうよりは……」

実際、黒猫自身はとっくに呪いは解けたと言っていたけども。

俺としちゃあ、あれだな。

京介「……強力な呪いをかけられた感じだ」

201: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:24:11.97 ID:glCiKFgd0
桐乃「ひひ。 それもそれでいいかな。 あはは」

隣で笑う桐乃は嬉しそうで、楽しそうにしている。

俺はそんな桐乃をみて、習って、俺は同じ様にキスをする。 不意を突かれた所為か、桐乃は俺がキスした場所を押さえ、硬直。

京介「……そんな驚くことか? 一応感想聞きたいんだけど」

桐乃の頭に手を置きながら、顔を覗き込みながら俺は聞く。 程なくして、桐乃は口を開いた。

桐乃「……あんたと一緒」

202: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:24:37.61 ID:glCiKFgd0
それから少し時間が経過。

夕食を食べ終えた後、俺はごろごろしながら本を読み、桐乃はどうやら●●●●中の様子。

まあ、いつもの光景と言った感じである。

そんな中、桐乃は俺の方を向くと、用意していた様な棒読み具合で口を開いた。

桐乃「あ、そーいえばぁ。 今度あたし文化祭あるんだよねー」

203: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:25:06.82 ID:glCiKFgd0
京介「……へえ」

桐乃「でー。 カフェやる予定なんだよねー」

京介「……ふうん?」

桐乃「ら、来週の土日なんだけどぉ」

京介「……そうか」

桐乃「……こ、この!」

204: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:25:40.72 ID:glCiKFgd0
ちょっと待て! 俺はしっかり返事してたじゃねえか! どうしてお前は俺に掴みかかってくるんだよ!?

京介「んだよ、いちゃいちゃしたかったのか?」

桐乃「今日は違うの! あんたが興味無さそうに流すからでしょ!?」

今日はってことはいつもはそうなのかよ。 新事実だぜ。

京介「じゃ、じゃあどう反応すればよかったんだ……? めっちゃ興味ありそうに聞くのも、あれじゃね?」

205: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:26:15.31 ID:glCiKFgd0
桐乃「そうじゃなくって……京介、どうせ暇でしょ? 家に引き篭もってるだけだし。 だから、文化祭来てみれば?」

……まるで俺が引き篭もりみたいな言い方をするのには異論を唱えたいが、ここはとりあえず抑えよう。

ええっと、なんだ。 要するに桐乃は文化祭に来て欲しいってことでいいよな? 多分。

京介「……そりゃあ行きたいけど、お前の学校ってあれだろ? あやせとか加奈子も居るんだろ?」

206: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:26:46.94 ID:glCiKFgd0
桐乃「いるケド?」

京介「……良い予感がしないんだが」

桐乃「だいじょーぶだって。 もし何かあったらあんたを追い出すから」

そこは嘘でもあやせや加奈子を止めるって言えよ。 行った途端そうなったら俺、泣くぞ。

桐乃「で、どうすんの? 来るの? 来ないの?」

京介「行かないって言ったらどうなんの?」

207: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:27:24.33 ID:glCiKFgd0
桐乃「あやせに泣きながら「京介に無理矢理キスされた」っていう」

京介「回りくどい言い方はやめようぜ。 死刑って言おう。 率直に」

桐乃「いくらあやせでもそこまで怒らないって。 良い子なんだから」

……お前はあいつの本当の恐ろしさを知らんからそんなことを言えるのだ。 多少は知っているかもしれねえけど、そんなの氷山のうちの一角だぜ。 割とマジで。

京介「……そ、そうか」

208: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:27:55.12 ID:glCiKFgd0
つまりあれか。

行かなければ死刑で、行けば死刑になるかもしれない。 ってことだよな。

生存確率が高い方は当然後者で、生存本能がある俺としては当然そっちを選ぶしかない。

これはあれだ。 二択の様に思えて実は一択しかない選択肢である。 最早、選択肢ですらねえな。 強制イベントっつうことだ。

京介「分かった。 行くよ、文化祭」

209: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:28:38.40 ID:glCiKFgd0
桐乃「マジで? やった! えへへ」

そう喜びながら、元居た場所へと戻る桐乃。 俺に見えている背中からは、嬉しさが溢れ出ている様にも見える。

京介「時間とか教えてくれよ。 その時行けばいいだろ?」

桐乃「いいケド、京介ってば妹にそんな会いたいのぉ?」

……おいちょっと待てこの野郎。

今、お前が来いつったんじゃねえかよ。 それとも何だ? 俺の耳が腐ったか。 こいつはやっぱりこうやって俺をからかうのを楽しんでいるよな。

210: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:29:20.68 ID:glCiKFgd0
京介「悪いか? 俺はお前のことを愛してるから、会いたいに決まってるじゃねえか」

言いつつ、桐乃を後ろから抱き締める。

桐乃「……や、やめてって。 毎回いきなりするのマジでやめて」

京介「言ってもお前だって抵抗しないじゃんか」

桐乃「ち、違うの……したいケド、あんたにそうされるとできないんだって……」

211: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:29:49.83 ID:glCiKFgd0
消え入りそうな声で言い、桐乃は横にある俺の顔を見つめる。 後ろからの所為で、距離は予想以上に近かった。

あー。

破壊力やっべえ。

京介「わ、悪い……」

結局は俺と桐乃、二人共が恥ずかしがるという展開になった訳だが、この空気はどうにも癖になってしまいそうだ。

212: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:30:23.73 ID:glCiKFgd0
桐乃「……なんで離してんの」

若干怒った様子の桐乃はやがて、そう呟く。

京介「いや……ちょっと恥ずかしくて」

桐乃「そこはフツー、更に抱き締めてキスでしょ!? ありえないんですケドぉ!」

桐乃「チッ……空気読めっつーの!」

大分ご立腹のご様子。 お前ってキス好きだよなぁ。 なんて思う。

213: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:30:50.89 ID:glCiKFgd0
京介「……すまん」

が、こういう場合は素直に謝っておくべきだろう。 桐乃が望んでいたことを見抜けなかったのは俺だしな。

桐乃「ふん。 もー良いし。 明日」

桐乃「……明日、どっか連れていきなさいよ。 お詫びで」

ああ、そうか。

京介「おう。 任せとけ」

214: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:31:17.01 ID:glCiKFgd0
未だにこんな感じのデート約束ではあるが、それもまた俺たちならではで楽しいのかもしれない。

桐乃「分かれば良いよ。 ほら、こっち来て」

桐乃「久し振りにシスカリやらない? 最近やってなかったし」

京介「良いぜ。 べっこべこにしてやるよ」

桐乃「ひひ。 上等じゃん。 じゃあどうせならさ、何か賭けるってのどう?」

215: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:31:43.28 ID:glCiKFgd0
京介「ほお、負けてもしらねえぞ? 俺はお前に一晩抱き枕になれっつう命令をするが……」

桐乃「ふうん? あんたそんなこと望んでるワケ? ま、良いケドね」

京介「よし、決定だな。 じゃあ次はお前の番だぜ」

桐乃「あたしかぁ……どーしよっかな」

今更、気付いた。

どこか見覚えがあると感じていたこの光景……一年前と、一緒だ。

216: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:33:27.36 ID:glCiKFgd0
桐乃は唇に指を当てながら考える。 そして、やがて思いついたのか、口を開いた。

桐乃「じゃあ、あたしが勝ったら」

桐乃「京介が一晩、あたしの抱き枕になること。 それでいい?」

京介「……一緒じゃね?」

桐乃「……一緒かも」

一緒で、一緒じゃねえな。

217: ◆IWJezsAOw6 2013/08/05(月) 13:34:02.12 ID:glCiKFgd0
京介「ま、とにかく勝負しようぜ」

俺は言う。 桐乃に向けて、笑顔で。

桐乃「そんな焦っても負けるのが早まるだけなのに。 ひひ」

対する桐乃はそう言い、俺にコントローラーを手渡す。

俺はしっかりとそれを受け取ると、桐乃のすぐ隣に腰を掛けた。


冬に向け 終

237: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:12:38.64 ID:6TN7S5vf0
京介「ええっと……」

桐乃「ご、ご、ごごごごっ、ごちゅ、ご注文は?」

噛み過ぎだろ。 なんて言っているか殆ど解読不可能だぞ。

京介「じゃあ、桐乃で」

桐乃「……どーぞ」

もじもじと手遊びをしながら、視線を横に向け、桐乃はすぐさまそう言った。

238: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:13:07.78 ID:6TN7S5vf0
京介「ぶっ! ちょっと待てい!!」

こ、こいつ可愛いなほんと。 もう可愛いって次元を通り越している気さえするぜ。

京介「お前それ俺以外に言ったら怒るぞ!?」

桐乃「ゆーワケないっしょ!? ばかじゃん!?」

京介「う、うむ……」

239: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:13:33.54 ID:6TN7S5vf0
京介「てか……それで本当に大丈夫なの? 明日」

桐乃「……多分」

練習の時点でこんな状態なら、到底出来ると思わないんだけどな。

……そう。 俺は今日、明日ある文化祭の練習という名目で、桐乃に付き合わされていた。

240: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:14:00.25 ID:6TN7S5vf0
桐乃「て、てか。 あんたにゆうとなんか緊張する。 キャラ変えてよ」

京介「なんでそんな理由でキャラを変えないといけねーんだよ!」

桐乃「いいじゃん。 イメチェンにもなるでしょ?」

京介「……ふむ」

京介「えと、例えば?」

桐乃「おねえキャラとか」

241: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:16:05.39 ID:6TN7S5vf0
京介「するかっ! お前は俺がそうなった方が良いのかよ!?」

桐乃「だって、京介のままだと緊張しちゃって……」

京介「別に俺だけが来るわけじゃないんだから、緊張しねえだろ……」

桐乃「そだケドさ……」

京介「つか、それならやっぱ俺は行かない方が」

桐乃「ダメ。 来なかったら怒る」

242: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:16:54.17 ID:6TN7S5vf0
京介「……はいよ」

俺としちゃあ、そりゃ行きたいけどな。 桐乃だけしかいないんだったら! だが。

加奈子はまあ、まだ良いよ。 ガキだし。 問題はもう一人だろ。

先ほど桐乃としたやり取りなんて、あいつの前でやったとしたら俺はどうなることやら。

桐乃「じゃ、じゃあ少しキャラ変えてやってみてよ。 ね?」

結局そうなるわけか。 はぁ……仕方ねえ、ここは桐乃の提案に乗っておこう。

243: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:20:21.37 ID:6TN7S5vf0
京介「わーったよ。 面倒な客って設定な」

桐乃「うん。 おっけ」

よし。 なんかぶっちゃけこれって役に立つか分からないし、少し桐乃をからかって遊ぶとしよう。 そのくらいお礼として貰っておいても良いだろ。

桐乃「……いらっしゃいませー」

京介「え~? なに~? 聞こえなかったんですケドぉ」

桐乃「す、すいません」

顔笑ってねえぞ……。 大丈夫か、こいつ。

244: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:20:47.93 ID:6TN7S5vf0
京介「ま、良いや。 早く席案内してくんない? チョー疲れてるから」

桐乃「……こちらになります」

京介「ん。 じゃ、とりあえず飲み物ヨロシク」

桐乃「え、ええっと……どれになさいますか?」

京介「はぁ? 飲みたいのくらい察しろつーの。 使えないなぁ」

桐乃「やってられるかッ!! つうかなにそのムカつくキャラ!? ウザすぎ!!」

キレやがったよ。 ていうかムカつくキャラって言われてもな。 モチーフは俺の目の前に居る訳だが。

245: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:21:13.98 ID:6TN7S5vf0
京介「まあ、ここまで言う客もいねえとは思うけどな……多分」

桐乃「チッ……とりあえずあんた、謝りなさいよ」

京介「なんで!? 俺なんかしたっけ!?」

桐乃「使えないとか、どの口が言ってるのってカンジなんですケドぉ。 早く謝って」

京介「だからあれはキャラ作りであってだな……」

246: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:22:26.82 ID:6TN7S5vf0
桐乃「それでもカンケー無いし。 あたしがムカついたからあんたは謝るの。 あたしに謝れるとか嬉しいでしょ?」

こいつは一体、俺のことをどれだけ変 だと思ってやがるんだ。 さすがに桐乃に謝るのが嬉しいとか断じて無いんだけども。

京介「……さーせん」

桐乃「はぁ? なにそのやる気の無い謝り方? 誠意が感じられないからやり直し」

京介「こ、この……すいませんでした」

247: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:23:00.52 ID:6TN7S5vf0
桐乃「最初に今「この」って言ったよね。 謝り方としてありえないから。 やり直し」

京介「……すいませんでした」

桐乃「え~? なに~? 聞こえなかったんですケドぉ。 謝る時にそんな小さな声で言ってさ、相手が許すと思う? 京介」

京介「ゆ、許さないんじゃないんですかねぇ……」

桐乃「よく分かってるじゃん。 ま、でもぉ」

桐乃「あたしは許してあげるケドね?」

248: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:23:29.78 ID:6TN7S5vf0
……やべ、今ちょっとだけだが良かった、嬉しい、みたいな感情が出てきたぞ。 俺、良い様にしつけられている気がするんだけど。

京介「……どうも」

いやいやいや。 冷静に考えても今の状況は絶対おかしい! 俺は桐乃のためにこの練習に付き合っていたっつうのに、なんで俺は必死になって謝ってるんだよ!?

桐乃「まあ、仕方ないし明日あんたが来たらあやせに任せようかな……。 あたしじゃ無理だし」

249: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:25:37.49 ID:6TN7S5vf0
京介「やめて!? ねえ桐乃さん、マジでやめてください!!」

桐乃「だ、だって仕方ないでしょ! あたしだって京介来たらあたしが行きたいケド……無理なんだもん」

桐乃「へ、ヘンな風になって皆に見られるのもヤダし……」

……明日で俺の人生も終わりか。 良かったよ。 うん。

250: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:26:04.86 ID:6TN7S5vf0
そして次の日。

京介「……なんかあれだな。 大学の合格発表より緊張するぜ」

しかも場所は高校な。 あーこええ……。

俺の命日となる今日。 目の前に建つ巨大な墓場を俺は見据えていた。

「お? 高坂じゃねえか!」

京介「うわあ!? やめて!! 許して!!」

251: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:26:31.38 ID:6TN7S5vf0
「……大丈夫か? お前」

俺が恐る恐る声の方を見ると、そこには親友。 赤城が立っていた。

京介「あ、赤城かよ……驚かせるんじゃねえよ、殴るぞ」

赤城「いきなり理不尽だな……お前」

赤城「高坂……お前さ。 最近理不尽っぷりが発揮されてるぜ。 この前のドタキャンと言い、今のと言い。 誰にどんな悪影響を受けてるんだよ」

252: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:27:00.44 ID:6TN7S5vf0
京介「はっ! そんなことはどうでも良い。 なんでお前がここに居るんだ?」

赤城「ん? 決まってんだろ。 天使ちゃんの姿を見に来たんだよ。 当然じゃねえか」

京介「天使……ああ、桐乃か」

赤城「ちげえよ! 瀬菜ちゃんを見に来たんだ!」

京介「そーいやそうだったな……忘れてた」

赤城「お前マジで殴るぞ……一応お前と同じ部活だったじゃねえかよ」

253: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:27:26.87 ID:6TN7S5vf0
京介「いやいや、だって俺桐乃以外は全部同じ生き物にしかみえねーもん。 しょうがないだろ?」

赤城「……なんか、お前大学入ってからちょっとおかしくなったな」

ほっとけほっとけ。 良いんだよ別に。

赤城「で、高坂もここに居るってことは妹を見に来たってことだな。 一緒に行こうぜ」

京介「まあな。 んじゃ、そうする------」

254: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:27:53.92 ID:6TN7S5vf0
いやちょっと待て。

瀬菜の場合は俺と桐乃の関係を知っているから良いとして、だ。

赤城の場合はどうだ?

こいつは知らないわけだし、例えばこいつを連れて桐乃のところに行ったとしよう。

で、俺がまあ桐乃に挨拶するだろ? 桐乃は多分、普段と違う展開で焦ると思うけど。

まあそこまでは良いさ。 別に可愛い妹だ。 で済むからな。

255: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:28:19.43 ID:6TN7S5vf0
問題はその後……か?

桐乃が万が一にでも口を滑らせたとして、昨日の様な展開になったらどうだろう。

昨日、練習した時の様な展開。

……いやでも、赤城は馬鹿だし普通に誤魔化せるかもしれんな。

だったら問題無くね? こいつを連れて行ったとしても。

ううむ……。

256: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:28:47.95 ID:6TN7S5vf0
ん?

待て、待てよ。

桐乃は今日、ウェイトレスの格好をしているんだよな。 カフェをやっているし。 メイドカフェじゃなかったのは悔やまれるが、それでもさすがは桐乃だけあり、めちゃくちゃ可愛い。

……それで、だ。

その格好を赤城に見せる……? あの桐乃を?

257: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:29:14.62 ID:6TN7S5vf0
京介「お前調子乗ってんじゃねえぞ!?」

赤城「何が!? 俺は普通に一緒に行こうって誘っただけなのに、なんでお前はキレてんの!?」

京介「お、おう……すまん。 でも、とにかくそれは駄目だ。 絶対に」

赤城「いや……別に俺もどうしてもお前と行きたいって訳じゃないから、良いけどよ。 よっぽど大事な理由があるんだろうし」

京介「ま、まーな。 はは」

赤城「うっし。 じゃあ高坂、ここからは別行動だ。 また会おう!」

258: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:29:40.58 ID:6TN7S5vf0
……爽やかな奴だなぁ。

俺はそんな赤城に適当に手を振り、再び学校を見据える。

別に隠していた訳じゃないが、桐乃は俺が行っていた高校へ進学したってことだ。 理由は、なんとなく分かるけどな。

さて。

そろそろ、行くか。

259: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:30:11.37 ID:6TN7S5vf0
桐乃から教室は教えてもらっていたので、すんなりとその教室の前には到着。

なんだか懐かしい感じだよ。 こうして来ると。

京介「ええっと……入っていいのかな、これ」

一応、教室の前には営業していることを知らせる看板が置かれている。

いつまでも悩んでいたって仕方無いし……入るか。

そう思い、扉に手を掛け、俺はゆったりとした動作で、開く。

260: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:30:37.93 ID:6TN7S5vf0
あやせ「いらっしゃいま------」

ぴしゃり、と思いっきり扉を閉められる。 入店拒否らしい。 ははは。

京介「……桐乃の奴、あやせに何も言って無かったのかよ」

そりゃ閉められるかもな! めちゃくちゃ名残惜しいが帰るか!

ふう、命拾いしたぜ。

261: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:31:05.67 ID:6TN7S5vf0
あやせ「……あの」

振り返ったところで扉が開くと音がし、あやせから声が掛かる。

京介「え、ええっとなんでしょうか」

あやせ「どうして居るんですか。 帰ってください」

京介「……今からそうしようと思っております」

あやせ「そうですか。 それで、何故ここに?」

262: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:31:32.29 ID:6TN7S5vf0
京介「……桐乃は何も言ってなかったのか? あいつが来てくれって言ったんだよ」

あやせ「……なるほど、桐乃が」

言いながら、あやせは僅かに開いた隙間から教室の中へと視線を移す。 そこには多分、桐乃が居るのだろう。

あやせ「わ、分かりました。 特別に入っても良いです。 桐乃を呼びますね」

ここってあやせの許可制だったんだな。 桐乃しか入れないんじゃねえのか、ここ。

263: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:32:03.67 ID:6TN7S5vf0
京介「ああ、いや。 それなんだけどさ……」

京介「あいつ、どうにも俺の相手は無理っつうんだよ。 緊張するだとか、なんとか」

あやせ「……お兄さんがセクハラをするからじゃないですか?」

京介「してねえよ! そんなことは」

……セクハラじゃない。 俺がしているのはスキンシップだ!

264: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:32:31.35 ID:6TN7S5vf0
あやせ「怪しいですね……でも、いつも一緒に居るのに……どうして?」

京介「俺に聞かれてもな。 まあ、俺が思うにあいつは普段と違う姿を見られるのが、恥ずかしいんじゃねえのかな」

あやせ「あ。 今ので納得しました」

京介「……っていうと?」

あやせ「だって、普通に考えたらおかしいじゃないですか。 お兄さんの相手が出来ないのに、お兄さんに来て欲しい。 だなんて。 変じゃないですか?」

ふむ……。 確かに、そう言われて見ればそうだ。 明らかに矛盾しているな。

265: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:33:08.57 ID:6TN7S5vf0
京介「で、それで納得したってのは?」

あやせ「普段と違う姿を。 の部分です。 桐乃は多分、お兄さんに学校での桐乃を見て欲しかったんじゃないですか?」

そーいうことね。 なるほど。

京介「……それであやせに頼むとか言ってたのか。 でもさ、俺が居るって分かったら結局あいつは緊張しちゃうんじゃねえの?」

あやせ「ううん……そうですねぇ。 あ、ではこうしませんか? ここからしばらくの間、二人で桐乃を眺めましょう」

266: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:33:37.72 ID:6TN7S5vf0
……乗った! 良い案だ!

京介「お、おう。 そうしよう」

と言う訳で、俺とあやせは桐乃にばれない様、しばらく扉の隙間から観察。

あやせ「……桐乃、最近どうですか?」

京介「どう……っていうのは?」

あやせ「決まってるじゃないですか。 お兄さんに対して、ですよ」

267: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:34:03.30 ID:6TN7S5vf0
京介「……ううむ」

京介「……相変わらず素直じゃねえし、すぐ怒るし、理不尽なことばっかだけど」

京介「でも……笑ってる顔ばっか、見てる気がするな」

あやせ「そうですか……良かったです」

京介「……たまに殴られるけどな?」

あやせ「良いじゃないですか。 お兄さんはそれでお礼を言うべきですよ」

268: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:34:29.86 ID:6TN7S5vf0
京介「……お前も俺のことを勘違いしてるよな。 ちくしょう」

あやせ「強ち間違いでは無いと思うんですけど……」

あやせ「……可愛いなぁ、桐乃」

ん!? ああ、あやせか。 俺の心の声が漏れたのかと思ったぜ。

京介「あー。 それでさ、お前は俺の相手してくれんの?」

あやせ「それを私に聞きますか。 お兄さん」

269: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:34:56.11 ID:6TN7S5vf0
京介「……んだよ」

あやせ「一応もう一度聞いておきます……それで、桐乃はどうしろと?」

京介「……俺の相手はあやせに頼むとか、言ってた」

あやせ「嫌です」

京介「そこまではっきりと速攻拒絶されると、泣きたくなるぜ……」

あやせ「何故、私が変 セクハラ野郎の相手をしなきゃいけないんですか。 でも……桐乃が、かぁ」

270: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:35:25.00 ID:6TN7S5vf0
桐乃の頼みだと、本当に弱いよなぁ……あやせの奴。

あやせ「お兄さん、ここは桐乃に頼んでください。 あやせは嫌だと」

京介「それを俺が言ったら確実にしばかれるんだよ……桐乃はお前のこと、大切な親友だと思ってるし」

あやせ「それって、何か問題あります?」

あやせ「だって、桐乃はお兄さんを殴って終わりで、私も嫌な思いをすることもないし……円満に解決じゃないですか」

京介「俺が殴られてる時点で円満じゃねえからな!?」

271: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:35:53.03 ID:6TN7S5vf0
あやせ「もう……我侭ですね。 分かりましたよ」

京介「お。 なら相手してくれるのか? 悪いな、あやせ」

あやせ「だからそれは嫌だと言ったじゃないですか。 耳が腐っているんですか」

ひっでえ……。 そこまで言わなくても良いだろ。 敬語でグサグサ言ってくる辺り、下手したら桐乃より酷いぞ。

京介「でも、なら分かったってなにが?」

272: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:36:21.57 ID:6TN7S5vf0
あやせ「すぐ分かります。 お兄さん、桐乃の普段と違った姿は、しっかりと見ましたか?」

京介「ん? ああ、まあ。 あいつが頑張ってる姿は、しっかりとな」

あやせ「ふふ。 なら大丈夫ですね。 少し待っててください」

あやせは言うと、教室の中に戻って行く。

何だってんだ? まさか、桐乃に声を掛ける訳じゃねえよな。 言ったとしても、あいつが素直に来るとは思えんし。

273: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:37:00.20 ID:6TN7S5vf0
俺がそうしてしばらく廊下で待っていると、やがて教室の中から声が聞こえて来る。 あやせの声だ。

「桐乃ー! 彼氏さん来てるよー!」

声でかっ!? いやそれよりも逃げられない状況を作りやがった!? つうかそれにしても彼氏って!

いや、間違ってはいねえけどさ!

ど、どうする……逃げるか? でも俺が逃げたら恥を掻くのは結局あいつだよな……くそっ!

そう考えるとやはり逃げることなんて出来ず、俺は渋々、その廊下で桐乃を待つ事にした。

274: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:37:26.94 ID:6TN7S5vf0
あやせにあれだけ大声で言われた手前、桐乃はすぐに姿を現す。 顔は……ああ、予想通り、めちゃくちゃ真っ赤。

京介「……よお」

桐乃「……ふん」

で、しばらく無言。

京介「き、桐乃?」

桐乃「……ちょっと待ってて」

275: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:37:59.47 ID:6TN7S5vf0
桐乃は言うと、扉を閉める。

……ふむ。 俺は一体いつになったら中に入れるのだろうか。

桐乃「……おっけ。 いこ」

桐乃はすぐに戻ってくると、廊下の外に出る。 いこって言うけど……どこに?

京介「中入っちゃ駄目なのか?」

桐乃「ダメ。 いいから早くいこ」

京介「……へいへい」

そうして俺は桐乃に手を引かれ、学校の屋上へと連れて行かれた。

276: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:38:45.49 ID:6TN7S5vf0
桐乃「その……ごめん!」

屋上に着くや、すぐさま桐乃は俺に頭を下げる。

京介「え、えっと? どうしたんだよ?」

桐乃「本当だったら、あたしが案内しなきゃいけないのに……ごめん」

京介「別に良いって。 桐乃が無理って言うなら、我慢してまでやってもらおうとも思わねーよ」

俺は言いながら、設置してあるベンチへと腰を掛けた。

277: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:39:19.51 ID:6TN7S5vf0
桐乃「……うん。 嫌じゃないんだよ。 ほんとに」

桐乃も倣い、俺の隣へと腰を掛ける。

京介「知ってるっつうの。 だって、お前は俺に惚れてるもんな?」

桐乃「う、うっさい。 文句ある?」

京介「ねえよ。 はは」

よっぽど恥ずかしいんだろうな。 それなら最初から呼ばなきゃいいのに。

278: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:39:50.76 ID:6TN7S5vf0
……ま、そういう姿も見て欲しかったから呼んだんだと、俺は先ほどあやせに言われたが。

京介「少しだけど、頑張ってる桐乃が見れて満足だぜ?」

桐乃「ほんと? どうだった?」

京介「どう……って言われてもな。 もうちょっと笑った方が良いんじゃね?」

桐乃「そ、そうかな?」

京介「でもなぁ……お前の笑顔は正直超絶可愛いからな……他の奴に見せるってのは、嫉妬する」

279: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:40:18.59 ID:6TN7S5vf0
桐乃「……そか。 えへへ」

京介「……嬉しそうじゃねえか」

桐乃「そりゃそうでしょ。 そんなこと好きな人に言われたら、嬉しいって」

言い、桐乃は俺に笑顔を向ける。

京介「……やっぱ桐乃、笑顔がすげー似合うよ」

桐乃「どーも。 ひひ」

280: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:40:48.22 ID:6TN7S5vf0
俺は桐乃の頭を撫で、ベンチから立ち上がる。

京介「さて、俺はそろそろ帰るかな。 桐乃の姿も見れたことだし」

桐乃「そ、そか。 その……あのさ」

京介「ん?」

桐乃「……これ、あげる」

桐乃は言い、俺の方に一枚の紙切れを差し出す。

京介「おう、サンキュー。 って……これ、なんだ?」

281: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:41:18.63 ID:6TN7S5vf0
その紙切れを見ると、どうやら何も書いておらず、本当にただの紙切れの様で。

桐乃「……あたしが」

桐乃「あたしが、なんでもゆーこと一つだけ聞いてあげる。 その券で!」

言いつつ、顔を完全に俺から逸らす。 ほ、ほう。

京介「ま、マジ?」

桐乃「……お詫びだし。 マジ」

282: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:41:46.92 ID:6TN7S5vf0
京介「さ、さんきゅ」

桐乃「……ヘンなことには使わないでね」

京介「あ、当たり前だろ。 は、はは」

危ない。 ヘンなことに使う気満々だったぜ。 ふう。

桐乃「じゃ……あたし戻らないといけないし。 またね、京介」

283: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:42:13.62 ID:6TN7S5vf0
京介「おう。 またな」

桐乃は未だに少しだけ頬を染めながら、屋上から降りて行く。

俺はというと「んだよ、キスくらいしてけよ」なんて思っていたのだが、当然そんなことは言える訳が無い。

言ったら怒られるしな。

……うむ。 虚しいぞ。 この空気。

284: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:42:40.05 ID:6TN7S5vf0
帰ってどうするかな……●●●●は桐乃に禁止されているし。 そう考えると家に帰ったとしてもやることがねえんだよなぁ。

そもそも、●●●●を取り上げられてやることが無くなる俺ってどうなのかとも思うが。

つうか、妹に妹物の●●●●を禁止されるってすげえシュールじゃない? 改めて考えるとさ。

まぁ……帰ろ。

285: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:43:28.71 ID:6TN7S5vf0
一人での帰り道。

ポケットに入れていた携帯から、着信音が聞こえてきた。

携帯を開き、確認すると、どうやらメールで差出人はあやせ。

最近では珍しいっちゃ珍しいが、一体何用だろうか? まあ、今日のこともあるし、恐らくそれ関係だとは思うけど。

286: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:43:55.13 ID:6TN7S5vf0
From 新垣あやせ
今日はすいませんでした。 あの後、たっぷり桐乃に怒られちゃいましたよ。


To 新垣あやせ
いや、俺としては感謝してるよ。 あのくらいしないと桐乃は俺の前に来なかっただろうし。 ありがとな。
にしても、わざわざ彼氏だって大声で言う必要は無かったんじゃ……。

287: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:44:24.68 ID:6TN7S5vf0
From 新垣あやせ
では、私はどういたしまして。 と言えば良いんですかね?
彼氏だって言ったのには理由がちゃんとありますよ。 知りたいんですか?


To 新垣あやせ
ああ、それで良い。
理由? まぁ、確かに桐乃の可愛い顔は見れたけど。

288: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:45:18.32 ID:6TN7S5vf0
From 新垣あやせ
気持ち悪いですね。 変 。
理由は桐乃に言い寄る輩が居なくなる様に、ですよ。 桐乃って人気者ですから、そういうのが多いみたいなので。
勿論、お兄さんが桐乃に変な事をした日には、御挨拶に伺いますので。


京介「……御挨拶って。 あっち系の人みたいな恐怖を感じるぞ」

京介「ま、あやせも桐乃のことを考えてくれてるんだな」

そう思い、携帯をポケットに仕舞おうとしたところで、違和感。

289: ◆IWJezsAOw6 2013/08/06(火) 13:45:45.71 ID:6TN7S5vf0
メールには普通、文章の終わりにENDだとか付くよな。 少なくとも、俺の携帯ではそうなのだが。

あやせから来た最後のメールには、それが無い。 つうことは。

俺はボタンをカチカチと押し、本文をずらしていく。 下へ、スクロールしていく。

やがて、文が一つ。


それと、桐乃の彼氏はこれだけ格好良い人なんだぞ。 という自慢です。


文化祭 終

308: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:03:00.86 ID:e2aba8qV0
12月。

俺と桐乃はコタツに入り、向かい合っている。

京介「じゃあ……そうだな。 こんなのはどうだ?」

京介「質問に、自分の考えと正反対の答えをしなきゃいけないって縛り」

桐乃「……ふうん? ベツにいいよ。 質問して」

ぶっちゃけ暇なのだ。 出掛けるにしてもこの寒さだし、行く場所という物が無いし。 最近新作のゲームも無いし。 ってなことで、暖かいコタツの中で会話をしようってことになった。

309: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:03:57.62 ID:e2aba8qV0
京介「よし。 じゃあ最初な」

京介「桐乃は俺のこと、好きか?」

桐乃「……ストップ。 京介、こういうゲームするときいっつもそうゆー話題にするのやめて」

腕を組み、俺のことを睨みながら桐乃は言う。 さすがに最近だとそう聞くだけでは慌てなくなってきたな。 やりすぎたか。

京介「んだよー。 良いじゃん」

310: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:04:36.19 ID:e2aba8qV0
桐乃「よくなーい。 なんで毎日の様にあたしに「好き」って言わせようとすんの? ふん」

……そっくりそのまま返してえなぁ! おい!

ちょっとだけ、ここだけの話をしよう。

桐乃は学校に行く前、俺が起きていたら目の前まで来て。 俺が寝ていたら起こして。

今日の分は? と聞いてくる。 そりゃあ勿論あれだ。 前に桐乃に言われたこと。 一日一回言えって奴。

んで、俺は言ってやるんだけどな。

ちなみに休みの日は布団の中でお互い向き合ったまま言わされる。 ぶっちゃけすげー恥ずかしい。

311: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:05:10.74 ID:e2aba8qV0
京介「いやいや、だってお前が恥ずかしそうに「好き」って言ってるの見るとぐっとくるんだよ!」

京介「つうか、逆のことを言えば良いんだから「嫌い」って言えばいいんじゃねえの?」

俺がそう言うと、桐乃はしばし考え、口を開く。

桐乃「……そ、そうだった」

京介「ははん。 お前って……もしかして、普段から好きって言おうとしてんのか? 咄嗟にそう出てくるってことは」

312: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:05:47.17 ID:e2aba8qV0
おうおう、なんだよ。 それならどんどん言えよなー。 こいつって滅多にそう言わないし。

桐乃「うるさい! とにかくダメな物はダメ。 逆の立場になって考えてよ」

コタツをばんばんと叩きながら、いつもの様にこいつは言う。 もうちょっと素直になれば良い物を。 今のままでも可愛いけどな。

京介「ふむ、逆の立場か……」

つまり、俺が桐乃に「あたしのこと、好き?」って聞かれたらってことだよね? そんなの決まってるじゃねえか。

313: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:06:22.78 ID:e2aba8qV0
京介「別に、俺は全然構わないけど」

桐乃「ほ、ほお。 じゃああたしが質問する側ね? いい?」

京介「考えてることと反対のことを言えば良いんだよな? 来い」

桐乃「そうそう。 京介は、あたしのこと好き?」

……めちゃくちゃ好きだけど! 好きだけど、言わないといけないのか。 そういうルールならば。 全然そこまで考えて無かった。

314: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:06:50.21 ID:e2aba8qV0
京介「……き、きききっ、嫌い」

言うのに15秒ほど掛かった気がするぜ。 予想以上にこれは辛い。

桐乃「ちょ、ちょっと待ってね」

桐乃は言うと、何回か深呼吸を繰り返す。

桐乃「……これ、聞いた方のダメージの方がでかいかもしれない」

なら最初から逆で、とか言わなければいいのに。

315: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:07:23.51 ID:e2aba8qV0
京介「そうか? じゃあ俺から質問、桐乃は俺のこと、好きか?」

俺がそう聞くと、桐乃は先ほどのことも踏まえ、答える。

桐乃「嫌い」

……即答されると傷付くな。 ていうか、こいつ今、殆ど反射的に答えなかったか?

京介「お、おう……」

桐乃「ね? 聞いた方がダメージでかくない?」

318: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:08:50.54 ID:e2aba8qV0
京介「……ていうか、お前の即答っぷりがちょっと傷口を広げた気がするぜ」

桐乃「ふうん? あたしに嫌われるのそんなヤなの?」

京介「そりゃそうだろ。 当たり前じゃねえか」

俺が言うと、桐乃は表情を一変させ、ニタニタと笑い出す。

桐乃「そっかぁ~。 ひひ。 ねね、京介」

京介「な、なに?」

桐乃「あたしぃ。 京介のことチョー嫌いなんだよねぇ」

319: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:09:16.37 ID:e2aba8qV0
京介「お、お前……」

桐乃「チョー嫌いとゆうよりはぁ。 チョー大ッ嫌い、みたいなカンジ?」

こ、こいつわざとやってやがる……そんなのは分かってる。 分かってるんだけども。

京介「待って、頼むから待って。 桐乃さん、それすげーぐさぐさくるから、やめて」

桐乃「どーしよっかな? じゃあ~。 京介はあたしのことどー思ってるの?」

京介「……好きに決まってんだろ」

320: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:09:44.69 ID:e2aba8qV0
桐乃「えへへ。 でもあたしは嫌いっ!」

京介「……うう」

やべ、涙出てきた。

桐乃「ちょ、ちょっとなに泣いてるの? そこまでになる? フツー」

京介「冗談だとは分かってるんだけどよ……お前に嫌いって言われるとマジで悲しいんだよ……」

桐乃「う……。 ご、ごめんって。 だから泣かないでよ」

321: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:10:10.74 ID:e2aba8qV0
桐乃は慌しく俺の横に入ると、俺の顔を自らの服で拭う。

京介「桐乃ぉ……」

桐乃「も、もう……」

俺はそのまま桐乃に抱き着き、桐乃と共に横に倒れ。

322: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:10:38.80 ID:e2aba8qV0
桐乃「……動けないんですケドぉ」

京介「……わり」

桐乃「……寒いし、しばらくこーしてても良いケドね」

京介「……おう」

桐乃の体は、熱いほどの体温だった。

323: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:11:10.65 ID:e2aba8qV0
三十分ほど経った後。

京介「よし! 気を取り直して次行こうぜ!」

桐乃「テンション上がりすぎじゃん?」

京介「んなことねーよ。 良いから次やろうぜ」

桐乃「って言われてもねぇ。 やること無くない?」

324: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:11:36.92 ID:e2aba8qV0
それなんだよなぁ。

京介「仕方ねえ……シスカリでもやるか?」

桐乃「またぁ? てゆうか、あんたそーゆうケドいっつも負けてるじゃん。 この前賭けたときだって、結局あたしに負けてたし」

京介「……そういや、それで抱き枕にされたな」

桐乃「それはいーのっ! とにかく、あんたとやってもつまんないんだって。 せめてもーちょっと強くなってよ」

325: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:12:05.42 ID:e2aba8qV0
……いつかその台詞をそっくりそのままお前に返したいな。 黒猫や沙織にはボコボコにされてる癖によ!!

京介「ならネットで黒猫とか沙織とか……あ、そうだ。 あいつらと遊ぶか? どうせなら」

桐乃「良い案だとは思うケドぉ……遊ぶって言っても、結局四人集まってもやることなくない?」

京介「心配すんな。 俺にも考えがあるからよ。 とにかく一度、声掛けてみようぜ」

326: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:12:32.33 ID:e2aba8qV0
桐乃「おっけ。 それは分かったんだケド」

京介「なんだ?」

桐乃「その……抱き着かれたままだと、電話出来ないんですケドぉ」

京介「は、はは。 そりゃそうだな……」

327: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:12:58.71 ID:e2aba8qV0
黒猫「で、わざわざあなたの家に来たのだけど。 なんかこの部屋、やけに暑いわ」

京介「そうか? コタツはあるけど、暖房とかそんな効いているわけでは無いと思うが」

沙織「ふむ……ああ。 はは。 確かに黒猫氏の仰るとおりですな。 やけに暑い」

桐乃「あんたらどんだけ寒さに強いワケ? こーしてコタツに入ってても、フツーに寒いくらいなんですケド」

あの後、桐乃が二人を電話で呼び、予定も空いていた為にこの家へと集まっている。 割とこうやって集まってると落ち着くんだよな。

328: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:13:26.23 ID:e2aba8qV0
黒猫「……状況を説明するわね。 あなたたちは分かっていないらしいから」

京介「おう? よくわかんねーけど、頼むわ」

それこそ黒猫の言っている意味が全く分からないが、こうして俺と桐乃が良く分かっていない事態を沙織や黒猫に納得した表情をされるのは少し嫌だしな。 聞いておこう。

黒猫「分かりやすく、今のわたしと沙織をあなたに置き換えさせてもらうわ」

黒猫「まず、あなたが友達の家に呼ばれたとするわね?」

京介「うん」

329: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:13:53.95 ID:e2aba8qV0
そうだな。 赤城の家に呼ばれたとして考えるか。

黒猫「で、その友達の家には通い慣れているから、インターホンなどを使わずに勝手に入るじゃない?」

京介「俺はそんなことしねえぞ……? てか、その時点でかなりの常識知らずだよな……お前ら」

沙織「はは。 拙者にとっては、ここはもう第二の家みたいな物ですから」

京介「勝手に人の家を自分の家にするんじゃねえ!」

その内、勝手に私物を持ち込んで、暮らすんじゃねえのか!? そうなったら俺と桐乃の二人暮らしが終わりじゃねえかよ!

330: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:14:32.60 ID:e2aba8qV0
黒猫「……で、まぁ、それは流して頂戴。 あなたはそれで友達が待っていると思われる居間に行くじゃない?」

京介「まあ、そうだな。 まさか勝手にくつろぐわけには行かないしな?」

嫌味ったらしく、俺は黒猫と沙織に言う。

対する黒猫はそんなのはなんとでも無いように、話を続けた。

黒猫「友達の姿を見たあなたは驚く」

京介「……どして?」

331: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:14:59.41 ID:e2aba8qV0
黒猫「決まってるじゃない。 その友達とその友達の妹が仲良くコタツに入っているのだから」

京介「別に普通じゃね……なあ、桐乃?」

俺は言い、横に居る桐乃へと声を掛けた。

桐乃「うん。 ベツにおかしいとこなんて無くない? それともあんたの家って、そんな兄妹関係冷めてんの? ウケル~」

お前が言うな、お前が。

黒猫「別に同じコタツに入っているくらいじゃ驚かないわよ。 わたしが驚いたのは」

332: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:15:25.28 ID:e2aba8qV0
黒猫「あなたたちがわざわざ同じ面に、寄り添うようにしてコタツに入っているからよ」

……ええっと。 俺が赤城の家に行ったとして。

赤城と瀬菜が寄り添うように座っていたら……うわ! キモっ!!

桐乃「あ、あんたどうしてあたしの隣に居るのよっ!! 出てけっ!!」

恐らく、俺と同じくらいのタイミングで事実に気付いた桐乃は言いながら、俺に蹴りを放った。

……今日も我が妹は理不尽である。

333: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:15:52.55 ID:e2aba8qV0
京介「いや待てよ!! お前そう言うけど、こいつら来る前まで「えへへ」とかにやにや笑ってたじゃねえか!?」

桐乃「は、はぁ!? あ、あれは! あれはその……●●●●やりたくなって笑ってたの!!」

どう考えても嘘だが、それはそれで酷いな!? ●●●●やりたくていきなり笑い出すとか病気かよ!?

黒猫「ほら、だから暑いと言ったじゃない。 いえ、この場合は熱いかしら?」

京介「言い直すんじゃねえ!!」

桐乃「いいから早くあんたは出てけッ!」

334: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:16:22.51 ID:e2aba8qV0
沙織「はは。 いつも通り平和な光景ですな」

京介「どこがだよ!? お前らには見えてないかもしれないが、今もコタツの中で桐乃に攻撃されてるからな!?」

桐乃「あっち行けっつってんの! 近寄るな!!」

京介「わ、分かったら蹴るのをやめろ! 今場所変えるから!!」

……いやいや、マジでさっきまで桐乃は「ミカン食べる?」とか笑顔で言いながら隣に居たと言うのに。

黒猫の奴め……恨むぞ。

335: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:17:48.12 ID:e2aba8qV0
黒猫「ふう。 それで、今日は何故集まっているのかしら?」

桐乃が俺の正面。 左に沙織。 右に黒猫。 結局、この形になった訳なのだが、先ほどから黒猫と沙織にばれない様に桐乃と俺はコタツ下で攻防を繰り広げている。

京介「ああ、それだったな。 ぶっちゃけて言うと暇だったんだよ。 すること無いし」

黒猫「それだけの理由でこのわたしを呼び出したというの? あなたも随分と偉くなったわね」

逆にお前はどれだけ偉いのか聞きたいな。 どうせ聞いたら「堕天聖のわたしに向かって」とか言い出すから聞かないけど。

……言いそうなことが分かりつつある俺がちと怖いな。 はは。

336: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:18:17.47 ID:e2aba8qV0
桐乃「またまたぁ。 あんた昨日言ってたじゃん。 「わたし、明日家に一人で暇なのよね……お願いだから遊んでください」って」

黒猫「暇だとは言ったけれど……そこまでは言って無いわよ」

沙織「はっはっは。 幸い、拙者も暇を持て余しておりましたのでな。 今日のお誘いは丁度良かったでござるよ」

京介「そうなのか。 なら呼んで良かったぜ。 お前らと居ると楽しいし」

そう言うと、足に今までのより数倍強い攻撃が加わる。

337: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:18:48.54 ID:e2aba8qV0
京介「いっ! お、おま……」

黒猫「どうしたのよ。 急に変な声を出して?」

京介「い、いや……何でもねえ」

桐乃「……」

無言で俺を睨む桐乃。 怖いっス。

……あれか。 俺が「お前らと居ると楽しい」と言ったのが気に食わなかったのか。 いやいや、そうは言っても桐乃と居る時が一番楽しいに決まってるじゃんか。 察してくれよ!

338: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:19:18.18 ID:e2aba8qV0
そんな願望を込めつつ、桐乃を凝視。 凝視。 凝視。

やがて桐乃は口を開く。 とは言っても、声は出さない。 口パクの要領でこう言った。

キ、モ、イ。

京介「……はぁ」

沙織「お疲れの様ですなぁ。 何かお手伝いすることがありましたら、言って下されば手を貸しますぞ?」

京介「いや、そうじゃねえんだ……ただ、な」

339: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:19:48.31 ID:e2aba8qV0
言うまい。 俺はもう黙って妹の攻撃に耐えるとしよう。 こいつが俺にきつく当たれば当たるほど、ちょっとしたことがすげー可愛く見えるしな! プラス思考プラス思考。

京介「……よし。 じゃあ俺が今日計画してること、発表するけど良いか?」

そしてこんな時は気持ちの切り替えが大事だし。 未だに軽い攻撃は桐乃から受けていて、俺も時々反撃しながらなので、時々変な声が出そうになるのは我慢せねば。

黒猫「早くしなさい。 退屈すぎて寝そうよ」

沙織「まぁまぁ、黒猫氏。 京介氏は焦らすのが大好きなのですよ。 そうでしょう? きりりん氏」

340: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:20:20.81 ID:e2aba8qV0
桐乃「な、なんであたしに聞くワケっ!? そんなの知らないしどーでもいいっつーの!」

京介「別に俺は焦らすの大好きじゃねえよ! 勝手にキャラ付けすんじゃねえ!」

京介「さて……今日はだな」

京介「人生ゲームでもやろうかなって思ってるんだよ」

桐乃「うわ。 つまんなそー」

始まってもいないのに文句を言うんじゃない! そう思い、足で軽く小突くと、その数倍の威力で蹴りが返って来る。

341: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:20:48.73 ID:e2aba8qV0
黒猫「ふっ。 人生ゲーム……たかが卓上ゲーム如きに、わたしの人生を委ねろというの?」

京介「そこまで求めてねえよ……」

沙織「はは。 たまにはそういった物も良いですな。 ですが京介氏、そのゲームはどこに仕舞ってあるのですか?」

京介「ん? あー。 ああ、出すの忘れてたな」

ちなみに俺が言っている人生ゲームだが、以前に桐乃と二人でやろうとか言って買った物の、二人だと果てしなくつまらなかったので押入れに封印してあるという物だ。

それで俺と桐乃が学んだこと。 二人で人生ゲームはやめたほうが良い。 開始数分でお互い作業感漂っていたぜ、あれは。

342: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:21:15.90 ID:e2aba8qV0
京介「押入れに仕舞ってあるから、ちょっと待ってろ」

そう良い、コタツから出ようとしたところで、黒猫が口を開く。

黒猫「あら。 それならわたしの方が近いし、持ってくるわよ」

京介「お。 なら頼むわ」

黒猫は頷くと、コタツから出て、押入れの前へ。

……なんか忘れてる。

343: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:21:41.36 ID:e2aba8qV0
なんか、なんか……ええっと。

あの押入れに、仕舞ってあるのって。

京介「ストップ! 黒猫止まれ!!!」

黒猫「な、なに……? 急に大声を出さないで頂戴。 びっくりするじゃない……」

京介「よし、よし。 そのままゆっくり引き返せ。 コタツの中に戻るんだ」

黒猫「……何故? それが仕舞ってあるのはこの押入れでしょう? ならわたしが持っていった方が」

344: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:22:08.38 ID:e2aba8qV0
京介「良い。 そこに入っているのは間違いねえ。 だが、落ち着け。 お前は大人しく元居たコタツの中へ戻れ」

黒猫「何よ。 全く……」

少しだけ怒りながら、黒猫は渋々だが、コタツの中へと戻っていく。

桐乃「なに? あんたそこに仕舞ってあるあたしの雑誌見られるのがイヤなの? ぷ」

京介「言うなよ! 折角隠してたのに意味ねえじゃねえか!!」

桐乃「ベツに隠す物じゃないじゃん。 むしろ飾っとけっつーの」

345: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:22:41.10 ID:e2aba8qV0
お前は自分が表紙の雑誌とかを飾られて恥ずかしくねえのかよ。

黒猫「ふん。 何かと思えばそんなくだらないことだったのね。 まあ良いわ。 早く持ってきて頂戴」

京介「……へいへい」

俺は返事をし、押入れの前まで移動。

そしてゆっくりとそこを開く。 目に入るのは、殆ど新品のままの人生ゲーム。

346: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:23:12.12 ID:e2aba8qV0
……あーぶーねー!

マジで危なかった。 危うくこれがあいつらの目に入る所だったぜ……。 桐乃にも言って無い、この俺の宝物が。

俺は人生ゲームの外箱を開ける。 そこには一冊のノート。

表紙にはこう書いてある。

「桐乃アルバム」

ふむ。 これはヤバイ。 見られたらマジで終わるからな。

347: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:23:37.43 ID:e2aba8qV0
このノート。 この危険物には「桐乃の写真」が沢山収められているのだ。 それはあいつが乗っている雑誌から切り取った奴(当然保管用と別の分から)と、個人的に撮った奴(勿論、許可を取って撮った)と、桐乃から送られてきた写メを印刷した奴など、様々。

簡単に言えばスクラップブックの様な物である。 そして、これは誰にも話していない。 つうか話せるわけが無い。

京介「思い出せて良かった……」

大分前に撮ったあれも貼ってあるからな。 桐乃とキスしてる奴。 普通にヤバイだろ。

俺はそっと、そのノートを押入れの奥に仕舞い、人生ゲームをコタツへと運ぶ。

348: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:24:04.27 ID:e2aba8qV0
京介「待たせたな。 持ってきたぞ」

黒猫「仕方ないわね。 そこまでしてわたしに人生をぶち壊されたいというのなら、やってあげるわ」

沙織「はは。 山あり谷ありですからな。 銀行は拙者が努めさせて頂きます故」

桐乃「最下位の人は罰ゲームね。 厨二病を卒業するって罰ゲーム」

黒猫「……それは誰に言っているのかしら?」

桐乃「んー? 誰にも言ってないケドぉ? 敢えてゆうならここに居る全員にだケド。 あんたはなんで反応したの? ねえねえ?」

349: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:24:31.43 ID:e2aba8qV0
黒猫「ふふ。 そうね。 ごめんなさい」

桐乃「……う、うん」

黒猫の予想外の余裕っぷりに、桐乃は若干困惑する。 いつもなら黒猫の方が慌てそうな感じだったが。

黒猫「ならわたしは、最下位の人はマル顔を卒業するという罰ゲームを提案するわ」

桐乃「ま、マル顔!? このクソ猫!!」

黒猫「あっらあ? わたしはひと言もあなたがマル顔だなんて言っていないけれど? それとも……もしかして自覚があったのかしら。 ごめんなさい。 ふふ」

350: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:25:12.73 ID:e2aba8qV0
桐乃「へ、へえ。 そーゆうこと言っちゃうんだ? だ、だから京介に陰で負け猫って言われるんじゃないのぉ?」

京介「言ってねえよ!? 捏造するんじゃねえ!!」

黒猫「ま、負け猫ですって……? これだからビ  は厭なのよ。 すぐに股を開くというのに」

桐乃「あたしはまだそんなことしてないっつーの! それとも負け犬の遠吠え? あ~。 そかそか、猫だから負け猫だよね。 鳴いてみなよ。 にゃーって」

黒猫「あらあら。 弱い犬ほど良く吠えるのよ。 あなたの場合はクソビ  だけども。 ふふ」

351: ◆IWJezsAOw6 2013/08/07(水) 13:25:40.08 ID:e2aba8qV0
京介「……なあ、いつになったら始まるんだ?」

沙織「さあ? それとも二人で人生ゲームをしますか? 京介氏。 拙者と二人っきりで」

京介「頼むからお前だけはまともで居てくれ……」


人生ゲーム 終

367: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:04:14.70 ID:JYXsQbly0
桐乃「えっと……モデルの仕事に就く。 だって! やっぱあたし才能あるよねぇ~」

京介「でも給料的には黒猫とか沙織の方が上だよな」

桐乃「うっさい。 フリーターに言われたく無いんですケドぉ?」

京介「……ほっとけ」

にしても始めたは良いが、俺はいきなりフリーターかよ。

368: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:04:41.94 ID:JYXsQbly0
んで、桐乃がモデルねぇ……。

なんだろうな、この暗示は。 怖い怖い。

桐乃「てゆうかぁ。 あたしがモデルなのにあんたフリーターとかどうすんの? やっていけなくない?」

京介「ゲームの話だろうが! 現実はちゃんとやっていけるから心配すんじゃねえ!」

桐乃「京介がそーゆうなら信じるケド……」

黒猫「ちょっと。 まだ始まって数分しか経っていないというのに、二人の世界を作らないで頂戴」

二人の世界ってな。 別に普通の会話をしていただけだっつうのに。

369: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:05:09.50 ID:JYXsQbly0
桐乃「なに? 嫉妬~? ウケルんですケドぉ」

黒猫「言ってなさいな……このビ  」

こいつらはこいつらで、未だにこうだしな。

沙織「賑やかで何よりですな。 京介氏~」

京介「騒がしくて頭が痛いですな。 沙織氏~」

もうちょっとこう、静かにできんもんなのか。

370: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:05:35.19 ID:JYXsQbly0
……まぁ、無理だろうなぁ。

黒猫「次はわたしの番ね。 ええっと」

言うと、黒猫はルーレットを回す。 出た数字とマスを見比べ、黒猫は唐突に顔を上げた。

黒猫「……そういえば、少し関係の無い話なのだけど」

京介「どうしたよ。 急に」

371: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:06:02.06 ID:JYXsQbly0
黒猫「この人生ゲーム、結婚できるのよね」

京介「ん? あー、そういやそうだな」

買うときに桐乃がこれにしろって言ったんだよな。 すげー必死に。

黒猫「あらそう。 ではわたしが止まったマスね。 左隣の人と結婚。 らしいわ」

京介「……それって俺だよな」

黒猫「そうね。 ふふ」

372: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:06:27.64 ID:JYXsQbly0
黒猫の方から、俺はゆっくりと視線を桐乃に向ける。 コタツ内での攻防は大分落ち着いたのだが……。

京介「……うっ」

やべえ。 物凄い形相で俺のことを睨んでやがる。 ていうかなんで俺!? 俺はなんも悪いことしてなくね!?

桐乃「……チッ」

黒猫「あら。 どうしたの? たかがゲームじゃない。 ふふ。」

桐乃「べ、ベツにぃ? ゲームで京介がいくら他の奴と結婚しても、あたしは何とも思わないしぃ?」

373: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:06:53.81 ID:JYXsQbly0
言いながら俺の足を蹴るのをやめて頂けませんかね。 桐乃さん。

沙織「はっはっは。 ではきりりん氏は拙者と結婚致しますか?」

桐乃「え~? どーしよっかなぁ?」

桐乃は言いながら、俺のことをチラチラと見る。

……いやお前が沙織と結婚しても、別に俺は構わないが……ゲームだし。 それに沙織は女だし。

京介「いいんじゃね?」

軽くそう言ってみたのだが、案の定強烈な攻撃がコタツ下で行われる。 結構痛い。

374: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:07:21.75 ID:JYXsQbly0
黒猫「何を変な顔をしているの? 『あ、な、た♪』 次は『あ、な、た♪』の番よ?」

桐乃「そのキモイ呼び方辞めてくんなーい? マジ鳥肌立つんですケドぉー」

黒猫「別にわたしがどう呼ぼうとわたしの勝手でしょう? なんと言ったって、わたしの旦那なのだから」

京介「……頼むから喧嘩しないでくれよ」

桐乃の怒りが大分蓄積されているな……こりゃ。 これ以上あいつが怒るようなことが起きなきゃいいが。

京介「えっと、俺の番か」

そう言い、ルーレットを回す。

375: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:07:47.39 ID:JYXsQbly0
出た数字の分だけコマを進め、そこに書いてあった文字は。

「おめでとうございます。 元気な子供が生まれました。 結婚している場合は子供を一人乗せてください」

京介「なんだこのクソゲー!?」

黒猫「ふふ。 随分と手が早いこと」

沙織「これはこれは……」

俺は恐る恐る、桐乃の顔色を窺う。

桐乃「……こ、この……!」

376: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:08:16.61 ID:JYXsQbly0
肩を震わせ、俯いて、若干見える顔は殺意とも取れる表情をしていた。 ああ、ヤバイ。

桐乃は数秒そうした後、顔をあげ、俺に向けて口を開いた。

桐乃「…………ちょっと集合」

京介「……はい」

そういう訳で桐乃に連れて行かれ、台所へ。

桐乃「あんた、どーゆうつもり?」

377: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:08:47.89 ID:JYXsQbly0
京介「ええっと……な、何がでしょう?」

桐乃「とぼけんな。 なんであいつと結婚したり……こ、子供作ったりしてんの!?」

俺が聞きてーよ! なんでゲームで浮気者扱いになってるわけ!?

京介「し、仕方ねえだろ? マスにそう書いてあるんだし」

桐乃「マスに書いてあることに素直に従うんだ。 へ~」

いやいや、従わないでどうやってゲームするんだよ。 マスの意味ねえじゃんそれ!

378: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:10:10.86 ID:JYXsQbly0
京介「あくまでゲームはゲームだって。 現実じゃ結婚するのなんてお前しかいねえと思ってるって……」

桐乃「そ、そう? なら……なら、子供は?」

京介「……お、お前しかいないと思ってるけど」

桐乃「へ、へえ。 なら良い。 うん」

一気に怒りが収まったな……。 つうか、なんで俺はこんな恥ずかしい台詞を言わされているんだよ。

379: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:11:04.58 ID:JYXsQbly0
京介「……分かってくれたなら良いが。 んじゃ、戻ろうぜ。 待たせても悪いし」

桐乃「ひひ。 おっけおっけ」

……あれだな。 こんなことになるなら人生ゲームをやろうなんて提案しなきゃ良かったぜ。 やれやれ。

黒猫「お帰りなさい。 あなた♪ 変な女に連れて行かれていたみたいで心配したわよ?」

こいつも一々煽るんじゃねえよ! 折角怒りが静まったというのに!

380: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:11:30.68 ID:JYXsQbly0
桐乃「勝手に言ってれば~? 所詮ゲームだしね。 なにムキになっちゃってんの?」

俺はその台詞をついさっきまでのお前に聞かせてやりたいわ。

京介「はぁ……次、沙織の番だぞ」

沙織「お疲れの様ですな。 ご苦労様でござる」

京介「……もうこれをやめてゆっくりしたい気分だ」

沙織「はは」

381: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:11:56.56 ID:JYXsQbly0
それからは黒猫も煽っては無駄と悟ったのか、大して煽らずに。

桐乃も桐乃で大きな反応はせず、つつが無くゲームは進行する。

まあ、こうなってしまえば後は楽だろう。 目的自体が「平和にゲームを終えること」になりつつある俺だが、もうそれでいいや。

なんて思っていた。 今の今まで。

ゲームも終盤に差し掛かってきた時。 事件は起きたのだ。

382: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:12:26.41 ID:JYXsQbly0
黒猫「わたしの番ね。 えっと……」

黒猫「な、なによこのマスは」

黒猫が若干焦り、そんなことを言う。 勿論俺は不審に思い、そのマスを見たのだが。

「多額の借金を背負った結婚相手に愛想を尽かす。 結婚しているならば、離婚となります」

京介「相手ってことは俺じゃねえか……つうか借金って?」

黒猫「マスによれば、一億円の借金らしいわね。 資産は全て没収らしいわ。 可哀想に」

完全なる被害者じゃね? 俺。 勝手に結婚させられて勝手に借金まみれだぜ。

383: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:12:58.10 ID:JYXsQbly0
京介「……自殺しかねえだろ、それ」

沙織「という訳で、京介氏の資産は没収ですな」

うむ。 これもう俺が最下位だよ。

桐乃「ざっまああ!! ふひひ。 チョーウケルんですケドぉ!!」

誰に言っていると思う? 俺じゃねえんだよこれが。 黒猫に言っているんだぞ、こいつ。

黒猫「随分と嬉しそうね……。 この男に未来は無いわよ」

384: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:13:26.20 ID:JYXsQbly0
ひでえ言い草だな。 さっきまで笑いながら「あなた」とか言ってたのによ。

京介「その辺にしとけよ……次は俺か」

言い、ルーレットを回す。 出た数字は6。

マスは……。

京介「……誰か一人を選んで結婚できる。 らしい」

385: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:13:52.51 ID:JYXsQbly0
やべー。 黒猫を選んで酷い目にあわせてやりたいぜ。 はは、さてどうするか。

まあそうは言っても、俺がそう言ってからずっっっと、桐乃がこっちを見ているんだよな。

……良いのか? お前を選んで良いのかよ? 資産無しの借金一億とか悲惨ってレベルをとっくに通り越しているぞ。

桐乃「だ、誰にすんの?」

選ぶしかねえか……。

京介「え、ええっと。 じゃ、桐乃で」

386: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:14:19.77 ID:JYXsQbly0
桐乃「えええ~? あんた借金まみれじゃん~? チョーイヤなんですケドぉ」

桐乃「まぁでもぉ……マスにそう書いてあるなら仕方ないなぁ~。 従わないといけないし? 何より京介が選んだんだしねぇ~」

どんだけ嬉しそうなんだよ、こいつ。

桐乃「ふひひ。 よし」

桐乃は言うと、席を立ち上がる。 見ると何やら自分の前に置いてあったお金やらを手に持っているが。

……何してんだ?

387: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:14:51.00 ID:JYXsQbly0
そう思ったのも束の間。 桐乃は俺の隣に座ると、コタツに足を入れた。

京介「……えっと、どした?」

桐乃「ん? だって結婚したんだしこれがフツーじゃない? 席的には」

桐乃「ね? でしょ? えへへ」

顔が綻びまくってる。 例えて言うなら●●●●をやっているときの顔だ。 例えがちょっとアレだけどな。

388: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:15:17.74 ID:JYXsQbly0
京介「そ、それにしても近くね?」

桐乃「ベツによくな~い? 結婚してるんだしぃ。 当たり前っしょ?」

……隣に座るというよりかは、もう殆ど密着していると言って良い程に近いのだが。

つうか、それ以前に頭を俺に預けてきているし。

桐乃「えへへへ」

……可愛いなぁ! おい!

389: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:16:18.50 ID:JYXsQbly0
黒猫「……一気にサウナになったわね」

沙織「サウナというよりは、真夏と言った方が正しいかと」

黒猫「真夏にサウナを加えた感じよ。 それが一番しっくりと来るわ」

沙織「良い例えですな。 黒猫氏」

好き勝手言いやがって……。 ちくしょう。

390: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:16:47.46 ID:JYXsQbly0
桐乃「なになに。 僻み? ぷ。 あんたもこうすれば良かったんじゃない? もう今はあたしの旦那だけどね? ひひ」

黒猫「いえ。 そこまではさすがのわたしも……」

黒猫が引き気味に笑ってんぞ! こいつのそういう顔も珍しいな……。 それ程までの状況ってことなのだが。

沙織「はは。 それよりきりりん氏。 ここにお菓子があるのですが、愛する旦那様に食べさせてあげましょうぞ」

京介「ちょっと待て!! お前何言ってんの!?」

391: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:17:16.87 ID:JYXsQbly0
桐乃「え~。 しっかたないなぁ! 京介がそうして欲しいならぁ……ベツにいいケドぉ」

それでお前は承諾してんじゃねえよ!! 今すぐにでも逃げ出してえ!

桐乃「ほら、京介。 あーんって」

そして俺はそうして欲しいなんてひと言も言ってねえんだけど!? ああ、分かった。 こいつ大分暴走してやがる。

……恐らく。 俺と黒猫が結婚していた所為で、こいつの中では色々と溜まっていたのだろう。 なんてことだ。

392: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:17:44.05 ID:JYXsQbly0
京介「い、いやあ……それはちょっと」

桐乃「……」

泣きそうになってる!? あの桐乃が!? 目に涙いっぱい溜めてんぞ!?

京介「な、なんてな! はは! 桐乃からそうして貰えるなんて超幸せだわ!」

桐乃「ほ、ほんと? ふひひ」

桐乃「じゃあほら、あーん」

京介「あ、あーん……」

393: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:18:12.01 ID:JYXsQbly0
その一部始終を見ていた黒猫がひと言。

黒猫「バカップルね」

京介「うるせえ! ほっとけ!」

桐乃「きょーすけ。 ほら、こっち向いてよ」

京介「……お、おう」

沙織「良い光景ですな。 心が和むでござる」

こ、このヤローども……好き放題しやがって! 俺はもう死にたい程に恥ずかしいんだが!

394: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:18:38.12 ID:JYXsQbly0
桐乃「おいし? ひひ」

ああでもやっぱりこれだけ可愛い桐乃を見れたから良かったかもしれない! 良くねえけど良かった!

桐乃「えへへ……」

黒猫「あら? どうして桐乃は満足そうにしているのかしら?」

桐乃「はぁ? そりゃ京介と結婚できたしぃ? こうして京介も嬉しそうだしぃ? あんたよりはあたしの方がお似合いってことかなぁ! とか思ったりしてるからじゃん? ふひひ」

黒猫に対する態度はすげーいつも通りだな……。 逆に驚くぜ。

395: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:19:09.92 ID:JYXsQbly0
黒猫「そうね。 それは良いことだわ。 でも、桐乃」

黒猫「あなたは尽くすより尽くされる。 といった感じじゃないかしら? その男に「あーん」とかされたいのでは?」

桐乃「……そ、それは」

……あの、なんか雲行きおかしくないですか? 黒猫さん。

黒猫「それとも、もしかしてあなたはそれすらやってもらえない悲しい女だったのね……可哀想に」

桐乃「そんなこと無いしっ!」

396: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:19:55.36 ID:JYXsQbly0
桐乃は顔をあげ、勢いよく黒猫に言う。 対する黒猫はニヤニヤと笑っている。 なんだこの展開。

桐乃「ね? 京介」

京介「ええっと……まあ」

桐乃「じゃあ、はい」

やらねばならんのか!? 黒猫と沙織の目の前で!? 俺が桐乃に「あーん」って!?

397: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:20:24.46 ID:JYXsQbly0
京介「……」

桐乃「ふひひ」

俺を上目遣いでじっと見つめる桐乃を見ると、これでもかってくらいの笑顔を俺に向けていた。

……もうなるようになっちまえ。 今日はそういう日だったということなのだから、諦めが肝心だしな。 はは。

京介「……わーったよ。 ほら」

京介「……あーん」

桐乃「あ、あーん」

398: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:20:52.72 ID:JYXsQbly0
黒猫「ちょっと待ちなさい。 その姿勢のまま」

京介「な、なんだよ?」

黒猫は強く言うと、何やらごそごそと携帯を取り出す。

黒猫「桐乃。 折角だから写真に収めましょう。 記念として」

京介「そんな記念いらねえよ!? お前は悪ノリしすぎだっつうの!!」

399: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:21:21.02 ID:JYXsQbly0
桐乃「きょ、きょうすけ……お願い!」

お前とことんおかしいな!? 後になって絶っ対に「あらあら。 この時はこんな可愛かったのに、どうしたのかしら?」ってネタで脅されるんだぞ!! 俺もだが!

京介「う……」

しかしこうも桐乃にお願いされてしまうと参ってしまう。 俺は助けを請うように、沙織の方へと顔を向けた。

沙織「もうちょっと寄った方が良いかと」

……こいつまで携帯構えてやがる。 もう駄目だ。 ここには俺の敵しかいねえ!

400: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:21:53.01 ID:JYXsQbly0
京介「分かったよ! 好きにしてくれ!!」

それから色々と……本当に色々とあったのだが、際どいこともあったので内容は割愛させてもらう。

際どいと言ってもあれだぞ。 服を脱げだとかそこまでのことじゃないからな。 最初は写真撮影に始まって、段々とヒートアップして、その内に黒猫が「口移ししてみなさいな」とか言って。

……勿論、さすがにそれは断ったけどな? 念の為に言っておくけど。

いや俺としては黒猫や沙織が居なかったら……とは思ったかもしれない。 あくまでも「かもしれない」なので思わなかった方の可能性が高い! うむ。

401: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:22:18.32 ID:JYXsQbly0
沙織に至っては「京介氏ときりりん氏のキスが見たいですな」とか言いやがってさ……。

マジでこいつら追い出そうかと思ったよ。 いくらなんでもふざけるにしたって限度があるっつうの!

……キスをしたかどうか? そんなこと聞くなよ。 別にそれはどうでもいいじゃねえか。

で、そんなこんなで今。

402: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:22:45.32 ID:JYXsQbly0
沙織「では京介氏。 またでおじゃる」

黒猫「さようなら。 今日は良い夢が見られるわね」

京介「二度と来るなっ! お前らが入って良い場所はここにはねえ!!」

桐乃「えへへ。 またね~」

桐乃はもうすっかりご機嫌。 今だけだろうけどな。 明日になったら多分、酷く後悔するんだろうよ。

403: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:23:27.69 ID:JYXsQbly0
……さて。

京介「桐乃」

桐乃「な、なに? ひひ」

京介「一緒に風呂入ろうぜ! 風呂!」

桐乃「い、今から? まだ早い時間だケド……」

京介「良いじゃんか、別に。 嫌か?」

桐乃「イヤじゃない! イヤじゃない……ケド。 でも……ちょっと恥ずかしいかも」

404: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:23:54.42 ID:JYXsQbly0
可愛いなぁああ!! あいつらが居なくなって、思う存分桐乃と一緒にいちゃいちゃできるじゃねえか! しかも桐乃は今、なんだかほわほわしているしな! これを逃す手はねえ!

京介「俺も一緒だっつうの。 でも、良いだろ?」

桐乃「…………うん」

よし! よーし! やったぜ! へへ。

思わずガッツポーズ。 桐乃は恥ずかしそうに笑っている。 うむ、今日もこいつは可愛い。

それから俺は桐乃と一緒に風呂に入り、桐乃の作った飯を食べ、二人仲良く布団で寄り添い、その日は寝るのだった。

405: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:24:21.97 ID:JYXsQbly0
ここからが超悲惨。 次の日のことだ。

桐乃「……座れ。 そこ」

俺が大学の講義を終え、アパートの部屋に戻った瞬間に桐乃に命令される。

指す場所は勿論、玄関。 いつかのことが頭をよぎる。

京介「き、桐乃さん……?」

406: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:24:47.81 ID:JYXsQbly0
桐乃「早く座れ。 今すぐ」

……はは。 なんとなく想像付いてきたぜ。

京介「は、はい」

俺は大人しく座る。 正座で。 玄関で。

桐乃「……これ、どーゆうこと?」

桐乃は言うと、俺にスマホを向ける。 画面には写メ。 恐らくは黒猫から送られてきたのだろう。

……俺と桐乃がキスしている写メ。

407: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:25:22.19 ID:JYXsQbly0
京介「ど、どういうことって言われても……てか、お前覚えて無いの?」

桐乃「お、覚えてるケド……なんか、なんでそうなったのかよく覚えてない」

桐乃「だから説明しろっつってんの! 早く」

お前は酔っ払いかよ! どんだけだ……マジで。

京介「分かった。 分かったから落ち着け。 な?」

408: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:25:57.78 ID:JYXsQbly0
桐乃「チッ……」

俺はこうして、桐乃に事細かに事情を伝えるのだった。 泣きながら。

桐乃「事情は分かったケド……あんたも調子乗りすぎ」

京介「だって仕方ねえだろ? お前めっっっちゃ可愛かったし!」

桐乃「ふ、ふうん? ま……次から気を付けてね?」

なんだか俺が悪いことをしている気がしてきたぜ。 いや、ていうか実際こうして正座をさせられているわけだけどな。

409: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:26:30.88 ID:JYXsQbly0
にしても、今日はやけにあっさり引いていくんだな、こいつ。 いつもだったらもっと言ってくると思うのだが。

京介「おう。 多分大丈夫だ」

桐乃「多分じゃない! 絶対だかんね」

京介「ぜ、善処はしよう」

ここまでなら、もしかしたら笑い話で済んだかもしれない。

410: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:26:59.59 ID:JYXsQbly0
桐乃「……ったく」

そう言い、桐乃は部屋の奥へと向かって行く。

一歩、二歩、進んで。

……なんだ?

411: ◆IWJezsAOw6 2013/08/08(木) 13:27:32.77 ID:JYXsQbly0
桐乃の足取りが、なんだかおかしい。

体がやけに左右にぶれていて、やがて、足でそれを支えきれなくなり。

桐乃は崩れるように、その場に倒れた。

それが沙織や黒猫とクリスマスパーティを計画していた日から、一週間前のことだ。


クリスマスまで 終

438: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:25:12.58 ID:pLcKhaJT0
頭が痛い。

吐き気もする。

体が熱い。

意識は朦朧としていて、視界はぼやけている。

「桐乃? おい、桐乃!」

それでもあいつの声だけは、しっかりと聞こえていた。

439: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:26:49.92 ID:pLcKhaJT0
桐乃「っ!」

あれからどのくらい経ったのだろうか? 目を開けると不快な感じは消えていて、いつものアパートの一室にあたしは居た。

桐乃「……あたし」

……そっか。 倒れちゃったのか。

京介にはばれない様にうまいこと隠していたつもりだったんだけど……これじゃばれちゃってるよね。

昨日辺りから具合が悪くて、今日も昨日よりはマシだったけど。 それでもさすがに無理をしすぎたのか、ついには倒れちゃったか。

440: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:28:20.60 ID:pLcKhaJT0
桐乃「……心配掛けてるだろうなぁ」

今は本当に大丈夫。 でも、動き回るのは良くないかな。 怒られるだろうし。

……そだ。 京介は?

桐乃「いない、よね」

体を起こした状態で辺りを見回す限り、京介の姿は見えない。

どこかに買い物にでも行っているのか。 お風呂にでも入っているのか。

441: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:29:46.52 ID:pLcKhaJT0
桐乃「少しくらいなら……動いても大丈夫っしょ」

せめて、家の中だけは確認しよう。 何よりいち早く京介に会いたいし。

……いやいや。 勿論、京介に会って「会いたかったよ!」とかいうわけが無いケド。

よし。 そうと決まれば。

桐乃「……まだちょっと体重いかも」

自分の体では無いような、そんな感じがする。 重いというよりかは、宙に浮いている感じと言った方が正しいかもしれない。

442: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:31:40.54 ID:pLcKhaJT0
あたしはそんな体を引きずり、まずは家の中を確認。

……お風呂場、無し。

……台所、無し。

……お手洗い、無し。

桐乃「……いないし」

どうやら、家の中には居ないらしい。 それに確信を持てたのには理由がある。

玄関に、京介の靴が無かったからだ。

443: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:32:09.70 ID:pLcKhaJT0
桐乃「どこ行ってるんだろ? あたしがこんな状態だっつーのに」

そう一人愚痴を吐き、若干の目眩。

……やっぱ、まだ全然本調子じゃないかなぁ。

桐乃「あ、そだ。 ケータイ」

それをまずは一番最初に確認しておくべきだったよね。 京介のことだから、どうせメールか電話か、あるはずだし。

桐乃「えーっと……」

部屋の中を見回し、場所を確認。

444: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:32:40.35 ID:pLcKhaJT0
桐乃「……あれ?」

そういえば、確かスマホはあの時……手に持っていたはず。 でも今は、丁寧にしっかりと充電器によって充電されている。

場所は、テーブルの上。

桐乃「京介がやってくれたのかな? でも、あの京介がそこまで気を利かせるのもヘンなハナシ……」

京介って細かいことにはホント、気が利かないしね!

……とっても大事なことには、すぐ気付いてくれるけど。

445: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:33:08.56 ID:pLcKhaJT0
だけど、今回のあたしの不調は全然ばれてなかったなぁ。 あたしの隠し方がうまかったのだろうか? それとも、いつもみたいに気付いて貰いたく無かったからだろうか?

ま、良いや。 とにかく今は連絡っと。

桐乃「京介、は」

スマホの画面を触り、手慣れた動作でまずはメールBOXと着信履歴を確認。

……ふむ。 両方無しか。 せめてどこへ行ったかくらい言っとけっつうの。 あの馬鹿。

あたしは少しだけ苛立ちながら、電話帳から京介の名前を出す。

446: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:33:39.56 ID:pLcKhaJT0
……ここだけのハナシ。

京介の登録は、一番上に来るようにしてある。 気分だよ? 気分。 別にヘンな意味なんて無いし。

で、あたしはそのまま京介に電話を掛ける。 数回のコール音が鳴り、電話は繋がった。

「桐乃か? どした?」

は、はぁ!? どしたってなに!? どうしたもこうしたも無いっての!!

桐乃「あ、あんたねえ……あたしが倒れたのに、どしたってどうゆーこと? 喧嘩売ってんの?」

447: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:34:08.35 ID:pLcKhaJT0
「た、倒れた!? 桐乃がか? すぐに行くから待ってろ!!」

……あれ?

おかしいな。 京介はその時居たはずなんだけど……。 今の反応を見る限り、明らかに今初めて知ったと言った感じだったよね。

勘違い、かな?

桐乃「う、うん……分かった。 待ってる」

448: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:34:46.10 ID:pLcKhaJT0
「おう!」

あたしは疑問に思いながらも、通話を終える。 今聞いた声は、間違い無くあたしを心配してくれている京介だったから。

京介が来てくれるというのなら、あたしはここで待つだけだ。

あ。 場所を言うの忘れてたけど……大丈夫だよね? あいつのことだし、そんなのすぐ分かるはずだし。

449: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:35:51.70 ID:pLcKhaJT0
結局、あたしの予想通り。 京介は数十分程でここにやって来る。

京介「桐乃? だ、大丈夫か?」

桐乃「……うん。 今はへーき」

あたしの顔を見るや、すぐさま京介はそう言った。 額には汗を掻いていて、必死にここまで来てくれたのがすぐに分かる。

京介「そっか……。 ふう、心配したぜ。 倒れたとか言うから」

桐乃「ちょっと具合悪くてね」

桐乃「……その、ごめん。 何も言わないで」

450: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:38:26.05 ID:pLcKhaJT0
京介「んだよ。 謝るなんてお前らしくねーな? いつもなら「ったく。 そんくらい分かって当たり前じゃん?」くらい言ってそうだけど」

桐乃「あたしだって悪いと思ったら謝るっつーの。 人を無礼者みたいにゆうのやめて」

京介「はは。 わりいわりい」

なんだか久し振りに見た京介の顔は、とても安心出来る物だった。

京介「そだ、桐乃」

あたしの正面で椅子に座る京介は立ち上がりながら言う。

451: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:39:11.88 ID:pLcKhaJT0
京介「まだちょっと具合悪いんだろ? おかゆでも作るか?」

桐乃「いーよ。 京介の作った料理食べるくらいなら自分で作った方が美味しく出来るし~?」

京介「具合は悪くても口は減らねえな……。 俺もそれなりには料理出来んだよ。 大人しく待ってろ」

桐乃「はいはい。 じゃあ食べてあげる。 感謝してよ?」

京介「……へいへい」

京介はいつもの様に言い、台所へと向かっていった。

452: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:40:06.01 ID:pLcKhaJT0
……やっぱり。

やっぱり、安心するな。 こうして京介と話しているだけで。

そんな風に思いながら、窓の外を眺める。

太陽は昇りきっておらず、天気は快晴。 雲一つ見当たらない綺麗な空だった。

「おーい、桐乃ー」

そんな景色をぼーっと眺めていた所為か、少しばかり眠くなってしまっていたあたしに声が掛かる。

453: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:40:39.64 ID:pLcKhaJT0
桐乃「なにー?」

「これ、調味料とかどこにあんの?」

……だから任せられないんだっての。 全く。

てゆうか、何回かは一緒に作っているんだし、そのくらい覚えとけばいいのに。 ほんと、抜けてるよねぇ。

桐乃「ひひ。 しっかたないなあ。 今行くから待ってて」

「へーい」

454: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:41:10.59 ID:pLcKhaJT0
それから、京介が作ってくれたおかゆを食べて。

少しの雑談をして。

やがて、京介は言った。

京介「おし。 じゃあお前も大丈夫そうだし、そろそろ行くわ」

桐乃「へ? 行くってどこに?」

455: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:41:39.99 ID:pLcKhaJT0
京介「ん? 言ってなかったっけ。 黒猫と遊ぶんだよ、今日」

黒猫と遊ぶ? そんなの、何も聞いてないんだけど。

桐乃「そ、そうだったんだ。 でも言ってくれたって良いじゃん。 てゆうか言いなさいよ」

あたしが焦っているのを隠しながら言うと、それに答える京介は平然としていて、何でも無いことのように言った。

京介「おいおい。 なんで俺がデートの予定を妹であるお前に言わなきゃならねえんだよ。 お前だって、俺たちのこと応援してくれてたじゃねえか」

456: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:42:11.15 ID:pLcKhaJT0
……あれ? 今、何て言った?

桐乃「なに? それ」

京介「言葉のまんまの意味だが……俺が、黒猫と今日デートの予定だってことだよ」

桐乃「……うそ」

京介「嘘じゃねえって……大丈夫か? まだ熱、あるんじゃねえの?」

言葉がうまく飲み込めず、京介の顔をぼーっと見つめる。 いつもと変わらない顔。 あたしが大好きな顔。

458: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:43:15.09 ID:pLcKhaJT0
桐乃「……ね、ねえ。 あたしと京介って、どんな関係だっけ」

やっと絞り出したその質問。 恐る恐るで、聞いた質問。

それに答える京介は、やはり平然としていて。

京介「決まってるだろ。 俺たちは兄妹だよ」

桐乃「……それだけ?」

京介「本当に大丈夫か? 兄妹以外に何があるっつうんだよ」

残酷だった。

459: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:43:47.56 ID:pLcKhaJT0
もし、もしこれが京介の冗談だとしたら。

あたしは多分、京介を殴ってしまうだろう。

でも、京介の言葉からはどこからもそんな様子は窺えず、嘘偽り無い本音ということがあたしには分かってしまう。

だから、普段ならあたしは怒っているのだろうけど。

桐乃「そか。 行ってらっしゃい」

顔に笑顔を貼り付けて、心にも無い言葉を吐いていた。

460: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:44:15.52 ID:pLcKhaJT0
京介が去ってからしばらく、あたしはその場に座り込んでいた。

なんとなく、分かっていたのかな。

何かおかしいって。 嫌な夢でも見ている気分で、だけど意識ははっきりとしていて。

だってそうでしょ。

この部屋には、あたしの物しか無いのだから。

京介と一緒に暮らしていたら必ずあるはずの、京介の物が全く無かったから。

461: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:44:53.47 ID:pLcKhaJT0
何が起こってるのか全く分からない。 ただただ、気分が悪い。

分かっているのは一つだけ。 あたしが今、泣いていて。 その涙はどうしても止められないということだけだ。

桐乃「……これからどーしよ」

京介は黒猫と付き合っていると言っていた。 あたしじゃなくて、黒猫と。

おかしいよね。 つい昨日まで、この部屋で一緒に寝て、一緒に起きて、一緒にご飯食べて、一緒にゲームして、時々一緒にお風呂なんか入っちゃったりして。

そんな風に、ずっと一緒に居たのに。

462: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:45:25.75 ID:pLcKhaJT0
あたし的にはこんなのは夢だと思うしかないんだけど。 いつになっても覚める気配が無い。 これじゃあまるで、別の世界に来たみたいだ。

桐乃「あいつだったら、どうするんだろ」

こんな信じられない状況になったとして、あいつだったら。

昔のあいつだったとしたら。

諦めてしまうのだろうか。 無理だと思って。 それとも、昨日までのことが悪い夢だとでも思って。

463: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:46:02.91 ID:pLcKhaJT0
でも、今のあいつだったら。

……そんなの、決まってるか。

桐乃「……ムカつく。 ムカつくムカつく。 むっかつく!! なにあたしを放置して黒いのと付き合ってるとか言っちゃってんの! 信じられない! サイテー!!」

だけど、それでも。 あたしは京介のことが、やはり好きだ。

464: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:46:38.44 ID:pLcKhaJT0
あたしがまず、最初にしたこと。

桐乃「沙織? いきなりごめんね」

「きりりん氏ではござらんか。 どういったご用件で?」

友達を頼ることだ。 あいつみたいに。

桐乃「実はさ、あたしちょーっと風邪で倒れちゃったみたいなんだよね。 で、記憶が混乱してるというかなんというか」

桐乃「そんで、あたしたちってどうやって知り合ったんだっけ? 細かく思い出せなくてさぁ」

465: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:47:05.13 ID:pLcKhaJT0
我ながら、かなり大胆な切り出し方だと思う。 ぶっちゃけ病院に連れて行かれてもおかしくなくない?

「おお……拙者の知らぬところでそんな一大事が……。 ええっと、拙者ときりりん氏の運命の出会いの話でしたな」

それから沙織が語りだした事は、あたしが全て知っていることだった。 オフ会で会って、意気投合して。 といった感じ。

桐乃「そっか。 ありがとね、沙織」

「いえいえ。 お力になれたのなら、光栄でござる」

桐乃「……あ、そういえばさ。 黒いのと京介っていつから付き合っているんだっけ?」

466: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:47:31.73 ID:pLcKhaJT0
「……きりりん氏。 まだ京介氏のことが?」

「ああ、いえ。 野暮でしたな。 あのお二人が仲良くなったのは……」

「そうですなぁ。 京介氏が高校を卒業して、きりりん氏が中学を卒業して、その後のことですな」

「その年が終わる頃には、付き合っていたはずですぞ」

桐乃「……そう。 ありがと」

それから少しの雑談をし、電話を切る。

467: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:48:46.20 ID:pLcKhaJT0
……なんとなく、状況は分かってきた。

あたしは京介とは普通の兄妹で、京介は黒猫と付き合っている。

それが今から一年ほど前のことらしい。 つまり、京介と普通の兄妹に戻る。 という約束をして、それがそのまま叶ったということだ。

だとしたら、やっぱりあたしは昨日の昨日まで、ずっとあんな夢を見ていたのだろうか?

ううん……そんなワケ、無いよね。 今でも強く覚えているあれらのことが、夢だなんてありえないし。

468: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:49:49.09 ID:pLcKhaJT0
でも、そんなことを考え続けても状況は変わらない。 普通の兄妹に戻って、その兄に対してあたしは未だに恋愛しちゃってる。

そんで、兄はそれを切り抜けて、あたしとの約束を成し遂げた。 ということだよね。

……ふん。 上等だっての。

あたしはいつだってワガママだし、理不尽だし、素直じゃない。

でも、良いでしょ? 妹なんだし。

あたしは決意を固めると、京介に再び電話を掛けた。

469: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:50:21.14 ID:pLcKhaJT0
京介「どうした? 急に呼び出して。 つうか具合は大丈夫なのか?」

……変わらないなぁ。 デート中だったはずなのに、妹の為にそれを途中で終わらせるだなんて。

黒猫じゃなかったら、とっくに振られてるよ、あんた。

桐乃「具合は平気。 京介に、話したいことがあったの」

あたしと京介は今、近くの公園へと来ている。

昔、一緒に良く遊んだ公園。

470: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:50:53.38 ID:pLcKhaJT0
京介「そか。 また人生相談か?」

桐乃「ちょっと違うかな……。 うん」

京介「ふうん? ま、良いぜ。 聞くよ」

言ったとしても、何も変わらないかもしれない。

昔のあたしだったら、それを伝えるなんてことは絶対にしなかったけど。

471: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:51:19.94 ID:pLcKhaJT0
想い続ければ、いつかは届くはず。

京介は京介で、あたしはあたし。

そんなの、どこでも一緒だから。

どこまで行っても、どこに行ったとしても、一緒。

だから、あたしは言う。 あたしとあたしが想っていることを。 いつになく素直に、率直に。

472: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:52:15.21 ID:pLcKhaJT0
桐乃「あたしは」

桐乃「……あたしは、京介のことが好き。 京介が黒猫と付き合っているのはイヤ。 ううん、黒いのだけじゃなくて、誰と付き合っててもイヤ。 辛くて、悲しくて、涙が出てくるから」

桐乃「あたしは、兄貴が好きで、京介が好きで、そんな……兄に恋しちゃってる妹だけどさ」

桐乃「でも、あたしはこの気持ちを押し殺すなんて出来ない。 ワガママで、迷惑掛けて、うざがられてた時もあるかもだけど」

言葉を紡ぐ。 いつかのあいつの様に。

しっかりと顔を見て、逸らす事無く、最後まで。

473: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:52:44.24 ID:pLcKhaJT0
桐乃「あたしは、京介が居ないと幸せになんてなれないから」

桐乃「だから、これからずっと、あたしと歩いて欲しい。 一緒に」

最後の言葉を言い終わり、あたしは笑顔をあいつに向ける。 先ほどとは違って、心からの笑顔。

そしてその時、何故か……あたしはあたしの姿と京介の姿を眺めているような感覚を受けていた。

474: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:53:10.32 ID:pLcKhaJT0
いや、それは最初からずっとだったのかもしれない。 目が覚めてから、なんとなく……だけど。

京介「桐乃……」

京介「……そうか。 やっぱ、そうだよな」

京介「なあ、桐乃。 俺-----」

京介がそう言った瞬間、視界が白く染まった。

475: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:53:40.18 ID:pLcKhaJT0
「おい、大丈夫か? 桐乃!」

声が聞こえる。 はっきりと、近くで。

桐乃「……京介?」

頭は若干痛く、体は熱を持っているのが分かる。 それと、やけに体が重い。

京介「……良かった。 急に倒れるから心配したぞ。 病院行くか?」

やっぱり、夢だったのかな。

476: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:54:07.97 ID:pLcKhaJT0
桐乃「ん……だいじょぶ。 ただの風邪だから」

あたしは言いながら、体を起こす。

京介「分かってたなら言っとけっつうの……はあ、マジで死ぬかと思った」

布団のすぐ横、京介は心配そうにあたしを見ていた。

……心配そうにというよりかは、安心した表情と言った方が正しいかも。

477: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:54:33.86 ID:pLcKhaJT0
桐乃「うん……ごめん……う、うう」

それが、今のあたしにとってはとても嬉しいことで。

嬉しくて嬉しくて、気付けばあたしは泣いている。 いつから、こんな泣き虫になってしまったのだろう?

京介「お、おい? 悪い、なんか嫌なこと言ったか? 俺。 ごめんな、桐乃」

桐乃「ひひ……そうじゃないっての」

慌てる京介が面白くて、ついつい笑ってしまう。

478: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:55:29.06 ID:pLcKhaJT0
京介「……そか。 大丈夫か?」

桐乃「……大丈夫じゃない。 だから抱き締めて」

涙をぽろぽろと零しながらも、笑顔であたしは言う。 はっきりと、大好きな人に向けて。

京介「おう。 任せとけ」

京介は言うと、あたしを抱き締め、頭を撫でる。 暖かくて、嬉しくて、幸せで。 京介の匂いはとても、安心できる物だった。

479: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:55:55.96 ID:pLcKhaJT0
桐乃「……会いたかったよ」

京介「なに言ってるんだよ。 毎日会ってるじゃねえか」

桐乃「……そだね。 えへへ」

多分。

あたしが見ていたのは、夢じゃなかったのかもしれない。

480: ◆IWJezsAOw6 2013/08/09(金) 14:56:22.18 ID:pLcKhaJT0
こんな風に考えてしまうのも、もしかしたらあの黒猫の所為なのかな? あの電波女め。

でもさ、やっぱり……夢というよりかは、別の話って感じ……だったんだよね。

だから、あたしはこう思うことにしよう。

頑張れ、あたし。

今回は、そんなちょっぴり変わった話。


見る夢は 終

496: ◆IWJezsAOw6 2013/08/10(土) 13:04:52.93 ID:UXHW0AGS0
桐乃「なーんでクリスマスまでわざわざあいつらに会わないといけないワケ?」

俺の隣を歩く桐乃は先ほどから、こんな感じの文句を永延と垂れている。 もう言わなくても分かるとは思うが、言動とは裏腹に表情はとても嬉しそうだ。

京介「んだよ。 じゃあ俺だけでいこっかなー」

桐乃「はぁ? 京介は家で一人の方が似合ってるし。 だからあたしだけで行く」

……仮にもこいつ、俺の彼女でもあるよな? なのに家で一人が似合ってるってどういうことだよ。 妹としても、彼女としても今のは酷い!

497: ◆IWJezsAOw6 2013/08/10(土) 13:05:29.34 ID:UXHW0AGS0
京介「ふむ……ああ。 そういうことか」

桐乃「なによ。 一人で納得されても困るんですケドぉ」

京介「要はあれだろ? 俺が黒猫とか沙織と話すのが嫌だから、桐乃しか話せない家に居ろって言いたいんだよな?」

桐乃「……」

桐乃「自意識過剰乙! 黒いのとかにいくら言われても、あんたはあたし大好きだから大丈夫っしょ?」

ぽかんと口を開けた後、桐乃は若干慌てながらそう言う。

いやてか、どっちが自意識過剰だっつーの。

498: ◆IWJezsAOw6 2013/08/10(土) 13:05:56.43 ID:UXHW0AGS0
……でも確かに桐乃の言うとおりではあるからな、そうでも無いのか?

京介「……どうだろうな?」

が、俺は敢えてそう言った。

桐乃「ふん。 そんな風に言ったって、分かるっつーの」

言いつつも、若干だが不安そうな顔付きだぞ、こいつ。

可愛いなぁ。 堪らん! だけど、こんな顔をいつまでもさせておくのはあれだよな。 うむ。

499: ◆IWJezsAOw6 2013/08/10(土) 13:06:23.66 ID:UXHW0AGS0
京介「んな不安そうにすんなよ。 お前の言うとおりだっつうの」

俺は言い、桐乃の頭の上に手を置く。

桐乃「……知ってるし」

京介「ほう? じゃあどうして「本当かな?」みたいな顔してんの? はは」

桐乃「……知ってるし! そんなの知ってるし、そんな顔してないし!」

京介「そうかいそうかい。 分かったよ」

500: ◆IWJezsAOw6 2013/08/10(土) 13:08:04.39 ID:UXHW0AGS0
桐乃「……チッ」

この舌打ちでさえ、最早可愛いの領域だよなぁ。 ったく、昔の俺はこんな奴が近くに居たのに、何をしてたんだか。

そんなことを考えながら横を見ると、桐乃は頬を少し赤く染め、むすっとした顔付き。

桐乃「……さむ」

呟く桐乃を見て、俺は一つのことを思い出した。 丁度今から一週間くらい前のこと。



次回 京介「おかえり」 桐乃「ただいま」 後編