1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/29(月) 18:43:37.93 ID:rS1+NB8Z0
雪乃「比企谷くんを救うことになった。」

雪乃「比企谷くんを救うことになった。」 after  


↑の続編になります。

まず最初に言っておくことがあります。
当ssのオリキャラである少女Aのせいでゆきのんとガハマさんが痛い目に合ってしまい
それを見て心苦しくなされた方々には申し訳なく思っています。
なのでこのssではゆきのんを勝たせてあげたいと思います。
ゆきのんを勝利させてみせます。そして劇中で必ず少女Aに頭を下げさせてみせます!
それとついでにヒッキーもですね。今までの無礼を謝らせるためにも土下座させます。

何故ならゆきのんは負けるのが大嫌いですからね。勝たなきゃいけませんからね。

それでは始めていきたいと思います。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1456739017

引用元: 雪乃「比企谷くんを救うことになった。」final 


 

2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/29(月) 18:44:28.23 ID:rS1+NB8Z0


『キミには奉仕活動を命じる。罪には罰を与えんとな。』


『ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ。』


『何でヒッキーがここにいんの!?』


目を瞑ればあの頃のことを思い出す。

それは私たちの出会い…

国語の授業で馬鹿げた作文を提出した比企谷くんは、

生活指導担当の平塚先生に連れられて私の所属する奉仕部にやってきた。

比企谷くんはその懲罰を受けるため、それに私も彼の孤独体質の更生を命じられ、

彼は奉仕部へ強制入部することになった。

そして彼の後を追うように、

由比ヶ浜さんも奉仕部にやってきてクッキー作りという初の依頼を引き受けた。

それ以来、私たち三人はこの学校の生徒たちの悩みを次々と解決していった。

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/29(月) 18:44:59.03 ID:rS1+NB8Z0

当初、私はこの二人との関係を軽んじていた。

でもその考えは改めることになった。

生まれて初めての同性の由比ヶ浜さんとの友情。

それに普段は頼りにならないけど、

いざという時には捻くれた発想でいつも私たちを助けてくれる比企谷くん。

由比ヶ浜さんはそんな比企谷くんに当初から恋心を抱き、

それに私も文化祭の頃から彼を気になるようになった。

そう、この奉仕部の関係がいつしか私にとって掛け替えのないものとなった。

けれど今はもう…


4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/29(月) 18:45:26.85 ID:rS1+NB8Z0


『あなたのやり方…嫌いだわ…』


『人の気持ち…もっと考えてよ…』


修学旅行の嘘告白。

あれから比企谷くんと私たちは不仲に陥った。

それだけじゃない。

いつの間にか彼と私たちとの間に大きな亀裂まで生じてしまった。

そして…

突然現れたあの女が私たちから比企谷くんを連れ去ってしまった。


5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/29(月) 18:46:16.94 ID:rS1+NB8Z0


結衣「ゆきのんどうかした?何かボーッとしてたけど?」


雪乃「心配してくれてありがとう由比ヶ浜さん。
でも平気よ。少し考え事していただけだから。それよりも覚悟は出来ているの?」


結衣「うん!私は大丈夫!だから今度こそヒッキーを!」


雪乃「そうね、それじゃあ行きましょう。」


今、私たちは家庭科室の前にいる。

その家庭科室では和気藹々とした声が外まで聞こえるほど盛り上がっている。

そして私と由比ヶ浜さんは覚悟を決めて家庭科室の扉を開けた。


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/29(月) 18:46:44.16 ID:rS1+NB8Z0


雪乃「失礼するわね。」


結衣「やっはろ~!」



「 「!?」 」



私たちが入室したと同時に先程まで家庭科室にいた人たちの談笑がピタリと止んだ。

そして誰もが突然の訪問者である私たちに視線を向けている。

その視線は明らかに歓迎されたものではない。

例えるなら私たちは敵地に乗り込んだと言ってもいいくらいだ。

するとそんな私たちの下へ一人の少女が尋ねてきた。

それは…私たちと比企谷くんの仲を引き裂いたあの女だ。

そう、少女Aが私たちの前に姿を現した。


7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/29(月) 18:47:34.26 ID:rS1+NB8Z0


少女A「雪ノ下さん…由比ヶ浜さん…一体どんな御用ですか…?」


雪乃「随分とご挨拶ね。
ここへ来た理由なんてひとつだけよ。私たちも女子なのだから。」


結衣「そうそう!私たちもみんなと一緒にチョコを作りに来たんだよ!」


私たちの発言にこの女は苦い顔を浮かべている。

ちなみにこの部屋で何が行われているのか説明すると、

もうじき世間ではバレンタインデーが間近に迫っている。

由比ヶ浜さん曰く『恋する女の子が大好きな人に想いを伝える日』だそうだ。

生徒会でもその日に備えて何かしようという意見があったようで、

そこで比企谷くんのアイデアで生徒会主催による試食会を開催することになったらしい。

それに私たちも参加しようというわけなのだけど…


8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/29(月) 18:49:58.56 ID:rS1+NB8Z0


少女A「お断りします。
この試食会は事前に私たち生徒会へ受付を済ませていないと参加はできません。
それに飛び入り参加は認めていませんので。」


雪乃「あなたでは話にならないわね。
責任者である比企谷くんを呼びなさい。彼と話がしたいのだけど。」


少女A「八幡は所用で席を外しています。
だからこの場は副会長である私が八幡の代理を務めていますので。
文句があるなら八幡ではなく今この場にいる私に言ってください。」


結衣「そんな…だって…」


事前に申し込みなんてできるわけがない。

何故ならこの試食会の申し込みを行うには生徒会室へ直接出向かなければならないからだ。

当然、出向けば否応なく私たちはこの女からバッシングを受ける羽目になる。

こんな女に兎や角言われるのは好ましくない。

だから私たちはこの試食会に申し込みをすることができなかった…

けどこんなことは想定内だ。

何故ならこちらも手は打ってあるのだから。


9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/29(月) 18:52:27.72 ID:rS1+NB8Z0


平塚「副会長、雪ノ下たちの参加を認めてもらうぞ。」


少女A「平塚…先生…?でも彼女たちは!?」


平塚「最近比企谷はめっきり奉仕部に姿を見せなくなってしまってな。
まあ生徒会役員になってしまったから仕方ないが…
このままでは三人が疎遠になりかねん。
だから今回の試食会を兼ねて奉仕部の部員たちの親睦を深めたいわけだ。協力してくれ。」


少女A「ですがこれは規則です!簡単に認めるわけには…」


平塚「ならば教師特権だ。
それに私は学校側からこの場の監督を任されている。嫌とは言わさんぞ。」


いくら彼女が生徒会役員でしかも副会長でも教師である平塚先生に逆らえるはずがない。

彼女は渋々ながらも平塚先生に従うしかない。

こうして私たちの飛び入り参加が認められた。

けど私たちがここへ来た目的は単なるチョコ作りなんかじゃない。


10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/29(月) 18:54:43.74 ID:rS1+NB8Z0


少女A「でも飛び入り参加だからあなたたちのスペースはありませんよ。
他の参加者のいるところへ加えてもらって調理してもらうことになりますけど…」


雪乃「私たちだって贅沢を言える立場でないことくらい自覚しているわ。」


結衣「ゆきのん頑張ろうね!ヒッキーに私たちの美味しいチョコを食べてもらわなきゃ!」


雪乃「そうね、それでは失礼するわ。私たちはこれから忙しくなるのだから。」


少女A「どうぞお好きに…まあ…みんなに歓迎されればいいですけどね…」


何か言いたげなあの女を無視して私たちは調理用のテーブルへと向かった。

そう、私たちがここへ来た目的はチョコを作りそれを比企谷くんに渡すためだ。

けど単にチョコを作りに来たわけじゃない。

この忌々しい女から彼を取り戻す。そのために私たちはやってきた。

私たちにとってこのバレンタインは単に想いを告げるだけじゃない。

これは戦いだ。

私と由比ヶ浜さんがこの女から比企谷くんを取り戻すための謂わば聖戦。

待っていなさい比企谷くん。

私たちは今度こそあなたにこの想いを伝えてみせるわ。


47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 21:47:36.96 ID:LRHzTz3Z0


<三浦優美子:海老名姫菜との同席>


結衣「やっはろー!優美子!姫菜!」


雪乃「ここ、使わせてもらいたいのだけど。」


優美子「由比ヶ浜…」


海老名「それに雪ノ下さんも…久しぶりだね…」


まず私たちが訪れたのは三浦さんと海老名さんのいるテーブルだ。

彼女たちは由比ヶ浜さんのクラスメイトでありかつては同じグループにいた。

けれど残念ながら今は由比ヶ浜さんと彼女たちもまた不仲になっている。

でも由比ヶ浜さんは持ち前の明るい性格を駆使して、

三浦さんたちと仲直りをしようとしている。

これは私としてもこれは大いに助かる。

この場で味方を増やせば比企谷くんを取り戻すことに繋がるのだから。


48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 21:48:34.43 ID:LRHzTz3Z0


海老名「由比ヶ浜さん…最近…
教室であまり喋らなかったよね…こうして話すのも久しぶりだね。」


結衣「えへへ~そういえばそうだね!
でも二人とも私に黙って生徒会に入るんだもん。水臭いよ?
何で私にも教えてくれなかったのかな~?」


海老名「それは…ハッチーへの償いも兼ねて…」


雪乃「そうなの。
でもそれは傍から見たら、
葉山くんのグループから比企谷くんへ乗り換えたようにしか思えないのだけど。」


今の私の発言に海老名さんは少しだけ表情を曇らせた。

少し意地悪いけど元はといえば彼女の依頼で私たちが不仲になってしまった。

その責任を少しは感じてもらわなければ。


49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 21:49:20.44 ID:LRHzTz3Z0


海老名「それは…悪かったと思ってる…」


雪乃「そう思うなら私たちに協力してほしいのだけど。」


結衣「私たちヒッキーにチョコを上げようと思ってるんだ。
あれ…姫菜もチョコ作ってるんだ…しかも二つも…?誰に上げるの?」


由比ヶ浜さんが気づいたように海老名さんの手元には作りかけのチョコが二つあった。

修学旅行で彼女は戸部くんの告白の件で恋愛には興味を示さないと思っていたのに…?


50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 21:50:58.99 ID:LRHzTz3Z0


海老名「これは…ハッチーと…それに戸部っちの分だよ…」


結衣「へ…へぇ、姫菜もヒッキーにチョコ渡すんだ。」


海老名「うん、ハッチーにはあの通り奥さんがいるから義理だけど…戸部っちは…」


雪乃「まさか…本命を…?」


私の質問に彼女は照れ臭そうに頷いた。

その返答に私は驚きを隠せずにいる。

何故ならかつてあの女が修学旅行の真相を暴いた時、

その際に戸部くんは海老名さんにこっ酷くフラれたと思っていたのだから。


51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 21:51:34.83 ID:LRHzTz3Z0


海老名「私はこの通り腐っているし…
おまけにかつての葉山くんのグループを潰すきっかけになった張本人だよ。
そんな私が戸部っちの告白を受けるわけにはいかないと思ってたんだ…」


雪乃「そんなあなたがどうして心変わりしたの…?」


海老名「それは…あの時…ハッチーに謝りに行った時のことなんだけどね…」


あの少女Aによる修学旅行の件が暴かれた後、

海老名さんは比企谷くんへ謝罪に出向こうとしたらしい。

でもその時の海老名さんは自分が仕出かしたその罪悪感から随分と思い悩んだそうだ。


52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 21:52:16.55 ID:LRHzTz3Z0


海老名「でもね、そんな時に戸部っちが俺も一緒に謝りに行くって言ってくれたんだよ。」


結衣「へぇ、あの戸部っちが…なんだか意外だね!」


海老名「私もそう思ったよ。
それで悪いのは海老名さんじゃなくて俺なんだからあまり思い詰めるなよって…
そして最後にはその謝罪の意味も込めて彼はあの茶髪のロン毛を丸坊主にしちゃったんだ。
あれを見て私はそれまで戸部っちのことを改めて見直してね。」


雪乃「だから戸部くんとのお付き合いを始めたのね。」


私の言葉に海老名さんは照れ臭そうに頷いた。

最も付き合いと言ってもまだ友達以上恋人未満の関係らしい。

経緯はどうあれあの修学旅行での戸部くんの依頼はこれである意味達成されたと私は思う。

それなら今度は…


53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 21:52:47.77 ID:LRHzTz3Z0


雪乃「それでは海老名さん。今度は私たちに協力してもらえる?」


結衣「そうだよ。私たちヒッキーと仲直りしたいんだ!だからお願い!」


海老名「え…それは…」


海老名さんは戸惑った表情を見せる。

恐らく同じ生徒会メンバーであるあの女のことを気にしているのだろう。

けど海老名さんは私たちに借りがあるはずだ。

本来、奉仕部の活動は無償で行われるものだけど今はそんなことを気にしてる余裕はない。

この借りを今この場で返してもらわなければ…


54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 21:53:34.23 ID:LRHzTz3Z0


三浦「姫菜、そんなの気にする必要ないよ。つーかアンタら勝手なこと言い過ぎだし。」


雪乃「三浦さん、協力する気がないなら黙っていて欲しいのだけど。」


結衣「ゆきのん抑えて。私たち喧嘩しに来たんじゃないんだからさ…」


一触即発寸前だった私と三浦さんの仲裁に入った由比ヶ浜さん。

さすがに私では三浦さんと喧嘩になってしまう。

そんな私を見かねた由比ヶ浜さんが三浦さんとの仲を取り持とうとしてくれた。


55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 21:55:22.16 ID:LRHzTz3Z0


結衣「優美子…こうして話すのも久しぶりだよね…」


三浦「…」


結衣「ほら、クラスじゃあんまり話してくれないからさ…」


三浦「…」


結衣「うん、確かに隼人くんのグループが解散してから私たち女子も話さなくなったよね。」


三浦「…」


結衣「でもさ、私たち女子はなんていうかさ…
男子とは…そのちがうっていうか…女子だけの仲っていうのがあるわけで…」


三浦「…」


結衣「私たちは…その…何も問題なかったじゃん…」


由比ヶ浜さんは疎遠になってしまった三浦さんに対して必死に会話の糸口を探している。

けどそんな由比ヶ浜さんに対して三浦さんは無言を貫いている。

私もこれ以上由比ヶ浜さんに対する不当な扱いに耐え切れず、

口を出そうかと思ったのだけど…


結衣「だからさ…前みたく仲良くしよ…ほら…葉山くんみたいにみんな仲良くみたいな…」


その一言に思わず三浦さんが反応を示した。

そして三浦さんは不快そうな顔をしながら由比ヶ浜さんに面と向かってこう言ってきた。


56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 21:56:05.02 ID:LRHzTz3Z0


三浦「チッ…あんさぁ…いい加減にしてくんない…」


結衣「え…優美子…?」


三浦「さっきから黙って聞いてたけど…
結衣が言ってることって全部自分勝手なことばっかじゃん!
大体アンタらここに何しに来たわけ!?」


結衣「私たちは…その…チョコを作りに…」


三浦「だったら大人しくチョコ作ってればいいし!それが出来なきゃ余所に行きな!」


三浦さんの怒鳴り声が家庭科室に響き渡る。

それと同時に室内が一気に険悪な雰囲気になった。

けれど三浦さんはそんな周りなど気にせず、

怖気づく由比ヶ浜さんに対して更に酷い追い打ちを掛けてきた。


57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 21:59:13.44 ID:LRHzTz3Z0


三浦「つーか由比ヶ浜さぁ…
アンタ本当ならチョコなんか作るよりもやることがあるはずだよね?」


結衣「え…やることって…」


三浦「はぁ?マジでわかんないわけ?ハチオに謝ることに決まってんじゃん!」


雪乃「待ちなさい!何で比企谷くんに謝ることになるの!?」


三浦「ふざけんなし!
アンタらがハチオを自殺未遂に追い込んだことをあーしらがもう忘れたと思ってんの!?」


三浦さんの発言に私はある出来事を思い出していた。

今から数ヶ月前…

私と由比ヶ浜さんは、

あの少女Aが屋上で比企谷くんに告白するのを防ぐために彼女よりも先に告白した。

けどその想いは…彼に届かなかった…

その原因は私たち奉仕部の不仲にあったからだ。

修学旅行での件、比企谷くんが行った海老名さんに対する嘘告白。

あれが私たちと比企谷くんの仲を裂く原因となった。

けど後にあれは葉山くんが私たち奉仕部に面倒事を押し付けたことが判明して、

彼の無実が証明された。

けれど…彼の私たちに対する疑心を拭うことが出来なかった…


58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 21:59:55.76 ID:LRHzTz3Z0


海老名「確かにあなたたち奉仕部に面倒なことを頼んだことについては…
その…ごめんなさい…
本当なら私たちがあなたたちを糾弾することは間違っていると思う。」


三浦「それでもさぁ…
アンタらはまずこんなチョコ作るよりもハチオに謝るべきじゃん!
それなのに…アンタたちは何で…!?」


結衣「それは…だって…」


雪乃「私たちに…非はないからよ…」


そうだ。私たちに非などあるはずがない。

あの時…

あの女が告白なんかしようと思わなければ私たちの告白は受け入れてくれたはずだ。

それなのに…

私たちの告白を比企谷くんは嘘告白と誤解してしまった。

その結果、彼は全てに絶望して自殺未遂を図ろうとした。


59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/02(水) 22:02:16.31 ID:LRHzTz3Z0


三浦「自分たちは悪くないってアンタら本気で言ってんの?正気を疑うんだけど!」


結衣「だって…あれは仕方なかったことだから…」


三浦「仕方がないって…いい加減にしなよ!
由比ヶ浜…あーしさぁ…アンタのことをずっと待ってたんだよ!
アンタがハチオの前で謝りに来てくれるって。
そしたらあーしはアンタの味方になってハチオとの恋仲も応援しようと思ってた!」


結衣「だったら…!」


三浦「それなのに今更ノコノコやってきてチョコ作りにきたって何だし!
あーしは修学旅行の件でハチオに許してもらった時にこう思ったんだ。
アンタが噂通りのことをハチオにやったのならあーしはハチオを守る。
だから由比ヶ浜、あーしはもうアンタの味方になることはできないから…」


海老名「悪いけど私も優美子と同じ意見だから。
あなたたちが不仲になった原因は私だけど…ハッチーをこれ以上傷つけたくないから…
だから…ごめんなさい…」


結衣「そんな…」


私たちは三浦さんと海老名さんに真っ向から拒絶された。

この状況でこの二人と一緒にチョコを作るなんて不可能だ。

私は泣き崩れる由比ヶ浜さんを支えながら他のテーブルへと向かった。


105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:02:40.16 ID:vUq0vZFA0


<一色いろは:相模南:城廻めぐりとの同席>


雪乃「そういうことですのでこちらに厄介になりたいと思います。」


結衣「アハハ、よろしくね。」


いろは「は…はぁ…わかりましたけど…」


相模「うちらは別に構わないけどさ…」


めぐり「そ…それじゃあみんなで仲良くチョコを作ろうね~!」


次に私たちが訪れたのは一色さん、相模さん、それに城廻先輩のいるテーブルだ。

元生徒会長であり現在は大学の推薦入試も決まっている城廻先輩。

それに1年生の一色さんに文化祭で私たち奉仕部に依頼を持ちかけてきた相模さん。

あまり接点のないメンバーで構成されているテーブルだ。

先ほどの三浦さんたちとはちがい私も由比ヶ浜さんも彼女たちとはこれといった縁がない。

けど却ってそれがいいのかもしれない。

下手に接点があると先ほどと同様の事が起こる恐れがある。

ここは敵地なのだから極力問題行動は控えるべきだ。


106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:03:49.43 ID:vUq0vZFA0


雪乃「相模さん文化祭以来ね。」


相模「そ…そうだね…文化祭じゃ迷惑かけたよね…」


雪乃「あなた、今では生徒会の一員らしいわね。」


相模「うん…八幡のおかげでね…」


雪乃「そう…比企谷くんがね…」


かつて文化祭で実行委員長だったにも関わらず、

その責務を放棄して作業のほとんどを私と比企谷くんに押し付けた相模さん。

そんな彼女が今では生徒会役員として比企谷くんの近くにいる。

それが私たちには妬ましかった。

何故なら私と由比ヶ浜さんは生徒会役員に立候補したけれど、

比企谷くんの自殺未遂の噂が出回り落選する結果に終わった。

せめて庶務ならと申し出てみればそれすら相模さんに奪われる形になったのだから。


107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:04:19.08 ID:vUq0vZFA0


相模「文化祭については…その…ごめん…うちが悪かった…」


雪乃「あなたには随分迷惑をかけられたものね。」


結衣「ゆきのん倒れて大変だったんだよ。」


相模「本当にごめん…」


雪乃「そう思うなら私たちに協力してほしいのだけど。」


結衣「私たちヒッキーと元の関係に戻りたいんだ!さがみんも協力して!」


今思えば文化祭の頃から比企谷くんの悪評が目立ち始めた。

これというのも元はといえば相模さんの不手際が原因だ。

つまり彼女に私たちの申し出を拒むことなどできないはず…!


108: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:04:49.56 ID:vUq0vZFA0


相模「それは…無理…」


雪乃「無理って…どういうことかしら…?」


相模「それは…うち…
今でこそこうして生徒会の役員やってるけど…その少し前は孤立しててさ…
まあ殆どうちの自業自得なんだけど…」


相模「でも…八幡のおかげで少しは自信が持てた…」


相模「それに文化祭の時でも八幡がいなかったらうちはどうなっていたか…」


結衣「そっか。ヒッキーはさがみんのために頑張ったんだね。」


相模さんは照れ臭そうな顔をして由比ヶ浜さんの言葉に頷いた。

恐らくあの文化祭で奉仕部が成し遂げられなかった彼女自身の成長が、

比企谷くんの生徒会に入ったことで達成できたのだろう。

けれど私には思う所がある。

相模さんが成長したのなら何故彼女は私たちに協力してくれないのかと…?


109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:06:04.61 ID:vUq0vZFA0


雪乃「どうして私たちに協力してくれないのか改めて聞きたいのだけど…?」


相模「それは…二人が反省してないからだよ…」


結衣「反省って…そんなの…」


相模「だって二人は八幡を傷つけたじゃん!
しかもその後…何も言わないで…それじゃあダメだってことくらいうちにもわかるし!」


相模「こんなの…文化祭でうちがやらかした時よりも酷いよ…」


相模さんは残念そうにそう語った。

そんな彼女は哀れむ目を私たちに向けてきた。

そんな目で見ないで…私たちに同情でもする気なの…?


110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:07:36.29 ID:vUq0vZFA0


いろは「相模先輩、こんな人たちの言うことなんて聞く必要ないと思いますよ。」


雪乃「一色さん。何か文句でもあるのかしら?」


結衣「私たちはヒッキーと元通りの関係に戻りたいだけなんだよ!」


いろは「元通りの関係って今のままじゃ無理ですよ。
お二人が先輩に何をしたのかこの学校中の噂になってますからね。」


相模「うちも…いろはちゃんの言うようにたぶん今のままじゃ無理だと思うよ…」


結衣「そんな!どうして…!?」


相模「それなら聞くけど夏の花火大会の時のことを覚えているよね?」


結衣「花火大会?もちろんだよ。ヒッキーと一緒にいったし!」


夏の花火大会…

私も後で聞いた話だけど、

どうやら夏休み中に由比ヶ浜さんは比企谷くんを花火大会に誘っていたらしい。

ちなみにそこで姉さんとも合流して三人で花火を観賞したとか…


111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:09:26.72 ID:vUq0vZFA0


相模「あの時の結衣ちゃんさぁ…
うちにどこかよそよそしかったよね。
たぶんうちが八幡のこと品定めでもしてたからだと思うけど。
でもあの時はもう結衣ちゃん八幡のこと好きだったはずだよね…?」


結衣「そうだよ!私はヒッキーのことが…!」


相模「それなら何でちゃんとうちに紹介しなかったの…?」


結衣「それ…どういう意味だし…」


相模「だって…好きな人なんだよね…?
それなら普通は自慢なりするよね。
それなのに何で結衣ちゃんはあの時八幡のことをうちに紹介しなかったの…?」


その場にいなかった私には分からないが、

どうやら相模さんは花火大会の時に比企谷くんと会っていたようだ。

それにしても相模さんの指摘は正直無理なところがある。

何故なら比企谷くんはあの通りぼっちな性格で面倒事を好まない。

それに由比ヶ浜さんだって比企谷くんとの仲を他人に知られたくはないはずだ。

だからその指摘には無理があるだ。


112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:11:13.48 ID:vUq0vZFA0


結衣「恥ずかしいって…どうして…」


相模「うち…結衣ちゃんとは1年の頃一緒のグループだったからわかるけど…
結衣ちゃんって他人の顔色伺うところがあるよね。
だからあの時はこう思ったんだ。
結衣ちゃんはうちに八幡と一緒にいるところを恥ずかしいと思われたくないから、
ろくに紹介しなかったんだってね。」


結衣「さがみん…ちがうよ…」


相模「あの時は大したことないと思って全然気にしなかったけど…
でも今ならわかっちゃう。
結衣ちゃんはきっと八幡のことを心のどこかで見下してる。うちにはそう思えるよ。」


結衣「さがみん…だからちがうって言ってんじゃん!?」


相模さんのこの指摘に由比ヶ浜さんは思わず大声を上げた。

今の言葉は由比ヶ浜さんにとって比企谷くんとの関係を否定されたようなもの。

由比ヶ浜さんが怒るのも当然のことだ。


113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:13:36.54 ID:vUq0vZFA0


めぐり「ちょっとみんな…喧嘩はよくないよ…」


雪乃「いいえ、これは相模さんにこそ非があります。よくも私たちの関係を侮辱して!」


結衣「そうだよ!いくらさがみんでも許さないからね!」


相模「別に許さなくてもいいけど…
でも結衣ちゃんが八幡のことを見下してるっていうのは本当のことだよ。
あの花火大会の時、
結衣ちゃんはうちに八幡と一緒にいるとこ見られたら、
クラスでの自分のステータスが下がるとか思ってたんじゃないの?
そうやって結衣ちゃんが八幡を見下してる間は元通りの関係なんて絶対無理だから…」


相模さんは尚も由比ヶ浜さんと比企谷くんの仲を否定する言動を続けた。

その相模さんの言葉に由比ヶ浜さんは顔を真っ赤にさせながら怒りを顕にしている。

それは今まさに襲いかかるのではないかと思うくらいの雰囲気を晒し出しているほどだ。

けど場所が場所だけにその怒りを辛うじて抑えているようだけど…


114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:16:28.95 ID:vUq0vZFA0


いろは「結衣先輩って…
確かに場の空気を読むのはうまいですよね。でも今は空気を読めなくなってますけど。」


結衣「そんなことは…」


いろは「いやいや、さっき三浦先輩に葉山先輩がどうだとか言ってたじゃないですか。
あれ酷過ぎでしょ。三浦先輩の前で葉山先輩のこと言うとか空気読めてませんよね。
しかもあんなことがあったのに…」


雪乃「あんなことって…?」


いろは「葉山先輩学校辞めちゃったじゃないですか。
しかもその理由って雪ノ下先輩たちが馬鹿な頼み事したからでしょ。」


葉山くんが転校したことは人伝で聞いていた。

けど私はその理由を詳しく知らない。

それから一色さんは葉山くんが転校した理由を話してくれた。

どうやらあの男、

私が奉仕部に入る条件として比企谷くんを連れてくるようにという条件を満たそうとして、

相当無茶な真似を仕出かしたらしい。

それがみんなの前で暴かれてしまい転校に追い込まれたとか…

あの男…私たちの知らないところでなんてことを…やらかしていたの…


115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:17:57.67 ID:vUq0vZFA0


雪乃「そんなことがあったなんて…葉山くんはなんて馬鹿な真似を…」


いろは「確かに葉山先輩は馬鹿な真似をしたと思いますよ。
でもその馬鹿な真似をさせるまで追い込んだのは雪ノ下先輩ですよね。
しかもその理由をようやく知るとか葉山先輩は勿論自業自得ですけど報われませんよ…」


雪乃「それは…」


いろは「今だから聞いちゃいますけど…
雪ノ下先輩…こうなることがわかっていて葉山先輩にあんなことやらせたんですか?
だとしたらかなり悪党ですよね。ぶっちゃけ恐ろしいです。」


雪乃「まさか…憶測で物事を判断するのはやめなさい…」


私たち奉仕部を不仲に追い込んだのは葉山くんが修学旅行の件を押し付けたからだ。

そのことに関して確かに思うところがある。

けどまさかあの男が転校にまで追い込まれるとは…

そのことを今更ながら知った私の胸の内に罪悪感が押し寄せてきた。


160: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 23:31:35.66 ID:MzbTSelx0


めぐり「ほらほら、みんな気を取り直してチョコ作りましょうねぇ。」


結衣「そうですね…ほらゆきのんも!早くチョコ作ろうね!」


雪乃「ええ、話をしている場合じゃなかったわ。」


めぐり「それじゃあ仲直りを兼ねてみんなで一緒にチョコを作りましょうね~」


この場を見かねた城廻先輩が年長者として私たちの仲裁に入ってくれた。

こうして私たちはようやく作業を開始することになったのだけど…


161: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 23:33:46.15 ID:MzbTSelx0


めぐり「うわっ!雪ノ下さん上手だよね~!」


結衣「ゆきのんプロになれるよ!」


雪乃「この程度、簡単よ。」


私は持ち前の腕前で鮮やかにチョコ作りを始めた。

みんなで協力と言われていたけど私一人でやった方が効率的だ。

先程まで喚いていた一色さんと相模さんも私の腕前に何も言えなくなっている。

そんな私に由比ヶ浜さんだけでなく城廻先輩までもが興味を示してきた。


162: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 23:34:36.43 ID:MzbTSelx0


めぐり「やっぱり雪ノ下さんは一人でなんでも出来ちゃうんだね。すごいよねぇ。」


雪乃「ありがとうございます。
こんな時にですけど城廻先輩にお聞きしたいことがあるのですが…」


めぐり「私に聞きたいことって…何かな…?」


私はこの機会にある疑問を城廻先輩にぶつけてみた。

それは生徒会選挙で何故彼女が私を生徒会役員に推さなかったことについてだ。

庶務にまで立候補したのにそれすらダメだった。

その理由を知りたかった。


163: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 23:35:17.14 ID:MzbTSelx0


めぐり「私もね…最初は雪ノ下さんたちが生徒会に入ってくれたらいいなぁと思ってたよ。」


めぐり「雪ノ下さんが会長で由比ヶ浜さんが会計。比企谷くんが庶務って感じかな。」


めぐり「それで私は卒業後にOGとして三人のいる生徒会に顔を見せる。
そんなあり得たかもしれない生徒会室の光景を思い描いていたんだよねぇ。」


雪乃「だったら…!」


私は城廻先輩を問い詰めた。

けれど城廻先輩の口から出たのは意外な言葉だった。


164: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 23:36:22.65 ID:MzbTSelx0


めぐり「でも雪ノ下さんはなんでも一人でやれちゃうから…」


雪乃「一人でやれる…それの…何が悪いというのですか…?」


めぐり「確かに雪ノ下さんは他人に頼らずにやるよね。
でもそれは必ずしもいいことじゃないよ。
たとえば文化祭の時に雪ノ下さんはなんでも自分でやってたけど見ていて不安に思った。」


めぐり「確かに雪ノ下さんのやり方は合理的で正しいかもしれない。
でも一人だけ突っ走ってもダメなの。文化祭の時のことを覚えているよね。」


城廻先輩は文実での私の行動を指摘してきた。

姉さんの発言により実行委員が離れてひと騒動起きた文実作業。

その時は私がスタンドプレーに走りなんとかその作業を続行することができた。

けれど元々体力が乏しい私はすぐに限界を来たして休むことに…

それからスローガン決めで、

比企谷くんの発言により委員たちが戻ってきて作業も無事に再開できたけど…


165: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 23:37:22.65 ID:MzbTSelx0


めぐり「あの時はごめんね。
私がしっかりしていれば委員のみんなに戻ってきてもらうことだって出来たはずなのに。」


雪乃「別に問題ありません。あの時は私一人の方が作業も捗ると思ったまでです。」


めぐり「でも…そのせいで雪ノ下さんは倒れちゃったよね…」


雪乃「それは…体調をしっかり管理さえしていれば問題はなかったはずです…」


めぐり「ちがう、そうじゃないよ。
雪ノ下さんがいない時に代わりにやってくれる人がいないのが問題なの。
文実の時にも言ったよね。誰かを頼るべきだって。
雪ノ下さんは文実の時に誰も頼らずにいた。
生徒会だってそう。あなた一人が頑張ればいいってものじゃないんだよ。」


城廻先輩は悲しい顔をしてそう呟いた。

私にだって頼れる人くらいいる。

今だって私の隣にいる由比ヶ浜さん。それに比企谷くんだって…


168: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 23:39:18.69 ID:MzbTSelx0


めぐり「それで結局…
比企谷くんがスローガン決めであんなことを言ってみんなを連れ戻した。」


めぐり「あの時の雪ノ下さんには頼れる比企谷くんがいたよ。でも今はどうなの…?」


雪乃「それは…だからこうして私たちは…!?」


めぐり「うん、そうだね。
彼を取り戻しに来たんだよね。でも…今はやめた方がいいと思う…」


めぐり「今のあなたたちのやり方じゃ比企谷くんは戻ってこない。
それだけじゃない。たぶんもっと酷いことになるかもしれない。だから…」


城廻先輩はこれ以上何も言わなかった。

完全なる拒絶だと思えた。

それから私はこの場に居ることが出来なくなり、

由比ヶ浜さんの手を引っ張り何も言わずに静かにこの場を離れてしまった。

何か…言葉には出来ないもどかしさがあった…

これならむしろさっきの三浦さんみたく怒鳴ってくれた方がまだマシだ。

そんなことを思いながら私たちは次のテーブルへと向かった。


184: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:02:07.73 ID:RFEAJyjx0


<川崎沙希:京華:との同席>


京華「うぇぇぇぇん!?」


沙希「この…出て行け!」


結衣「待ってよサキサキ!ゆきのんは!?」


雪乃「その子が言ったのよ。
悪いことしたら謝らなきゃダメなんてふざけたことを言うからきつく注意しただけで…」


沙希「黙りな!
雪ノ下…アンタって面倒な女だよね。
以前、私のバイト先に乗り込んできた時もちょっとした挑発ですぐ怒ったりしてさ。
一見冷静だけど奉仕部の中じゃ雪ノ下が一番感情で動くタイプなんじゃないの。」


沙希「まあ何を言われようが…
こんな小さなけーちゃんを泣かすアンタらの言うことなんて聞く気はないから!!」


結衣「待って!私たちチョコを作らなきゃ…!?」


沙希「知らないよ。私らはアンタらに関わる気ないから。さっさと消えな!!」


続いてやってきた川崎さん姉妹のテーブルから追われてしまった。

まだ空いているテーブルはないかと辺りを見回したけど…

私たちを受け入れてくれそうな場所は見当たらない。

これまでの私たちの行動を見て誰もが警戒している。

そんな中、ひとつだけ空きがあるテーブルがあった。

けどそこは…

いいえ、もう贅沢を言っている場合じゃない。

最早、背に腹は変えられない。

こうなればあそこでもいい。

私たちは藁にもすがる思いであるテーブルへと向かった。


185: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:02:52.66 ID:RFEAJyjx0


<少女A:比企谷小町との同席>


雪乃「ここ、いいわよね。」


結衣「やっはろぉ…お邪魔するね…」


少女A「まさかここへ来るなんて…」


小町「小町もこれには驚きです。」


私たちが最後にたどり着いたのは恋敵であるこの女と小町さんのテーブルだ。

まさかここへ来る羽目になるなんて…

けどもうここしか空きがない。

こうなればここでやるしかないのだから。


186: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:04:08.57 ID:RFEAJyjx0


少女A「先程から見てましたけど…
あなたたちはチョコを作りに来たのか喧嘩を売りに来たのかどっちなんですか?」


雪乃「私たちは…チョコを作りに来ただけよ…」


小町「でもお二人とも行った先々で追い出されてるんですけど…」


結衣「小町ちゃんも久しぶりだね。アハハ…」


こんな恋敵の女と一緒にチョコを作る羽目になるなんて…

それに小町さんも私たちのことを敵視してくる。

恐らく比企谷くんの自殺未遂の件を未だに誤解しているようだ。

せめて小町さんだけは味方につけたいのけど…

187: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:04:37.32 ID:RFEAJyjx0


雪乃「小町さん…受験の方は大丈夫なの?よければ私が見てあげても…」


小町「あ、受験はちゃ~んとお義姉ちゃんに見てもらっているのでどうかご心配なく。」


小町「さぁ、お義姉ちゃん。早くチョコ作ろうねぇ!」


少女A「そうだね小町ちゃん。八幡に美味しいチョコを食べてもらいましょう。」


結衣「お義姉ちゃんって…」


雪乃「小町さん…あなたは…」


かつては私たちをお義姉さん候補だと言って騒いでいた小町さん。

けどそれも昔の話…

小町さんにとっての義姉はあの女になってしまった。


188: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:05:22.89 ID:RFEAJyjx0


雪乃「そう…あなたもその女の味方なのね…」


結衣「どうしてだよ小町ちゃん!今まで私たちのことを応援してくれたじゃん!?」


小町「それは…確かに小町もあなたたちに期待していました…」


小町「でも…お兄ちゃんに嘘告白して自殺未遂に追い込んで未だに謝りにもこない…」


小町「そんな人をどうやって信用しろと言うんですか…?」


だからそれは…誤解だと…

今回を機に私たちは元の関係に戻ろうと…

いや…今は何を言ったところで無駄だ…

今はもうチョコを完成させることだけを考えなければ。


189: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:06:52.80 ID:RFEAJyjx0


結衣「えへへ~♪ゆきのん似合うかな~?」


雪乃「それは…以前あなたの誕生日の時にプレゼントしたエプロンとそれに首輪ね。」


結衣「うん!ヒッキーとゆきのんがくれた大事なモノだよ!」


雪乃「実は私も…」


大切なエプロンを着て意気込みを見せる由比ヶ浜さん。

それに私も今日のための願掛けに、

以前比企谷くんがくれたパンダのパンさんのぬいぐるみを鞄に入れていた。

そう、私たちの方が比企谷くんと一緒に居た時間は長い。

その時間は掛け替えのないものだ。

そして由比ヶ浜さんの首輪にエプロンや私のパンさんも彼との素敵な思い出の品…

今は比企谷くんと離れていてもこの品がある限り私たちは心で通じ合っているのだから。


190: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:07:49.21 ID:RFEAJyjx0


少女A「キレイなエプロンと…それに首輪ですね。」


結衣「そうだよ。これはヒッキーとゆきのんがくれた大切なモノなんだよ!」


雪乃「私たちには掛け替えのない思い出があるのよ。」


少女A「掛け替えのない思い出ですか…」


雪乃「そうね、いい機会だからあなたに私たち奉仕部のことを話しておくわ。」


雪乃「持つ者が持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える。
人はそれをボランティアと呼ぶの。
途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、モテない男子には女子との会話を。
困っている人には救いの手を差し伸べる。
それが奉仕部の活動よ。」


それから私たちは比企谷くんとの思い出を語った。

私が嘘や欺瞞を嫌っていること、彼が奉仕部に入部した経緯、

それに文化祭や修学旅行だけではない、

戸塚くんのテニス部の強化、川崎さんのスカラシップ、林間学校での鶴見留美さんのイジメの件、

私たち奉仕部が解決した案件をこの女に教えた。

191: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:08:24.27 ID:RFEAJyjx0


少女A「そう、八幡はなんでも救っちゃうんですね…」


雪乃「ええ、彼はなんでも救ってしまう。
けどあなたはそんな私たちの思い出を踏みにじったわ!」


小町「ちょっと待ってください。いきなり何言ってるんですか!?」


そうだ。この女は私たちの思い出を踏みにじった。

これまで私たち奉仕部が歩んできた道のり。

けどそれもいきなり現れたこの女が私たちのこれまでを土足で荒らしたのだから…


192: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:09:14.58 ID:RFEAJyjx0


雪乃「あなたがやったこと。
比企谷くんを守るためとはいえ文化祭や修学旅行で謗りを受けるべき人に報いを与えた。」


雪乃「まさに偽善ね。正義の味方にでもなったつもり?」


雪乃「彼には守るべきものがあった。それを否定したあなたに彼の隣にいる資格はないわ!」


少女A「それは…」


文化祭に修学旅行。この女が比企谷くんのために暴いた件を私は指摘した。

確かにそれは比企谷くんを救うためのものだったのかもしれない。

けれどあの方法は彼なりに守るものがあったからこそだ。

それを否定して彼の隣に居座るなんてことは許されるべきではないのだから。


193: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:10:37.01 ID:RFEAJyjx0


小町「あの、それはちがうと思いますよ。」


雪乃「ちがうとはどういうことかしら?」


小町「小町は部外者だからこの件に関しては口を挟めません。
けど好きな人の悪口を言われて黙って見てろというのは酷な話だと思いませんか?」


結衣「だからってヒッキーがやったことが全部無駄になったら…」


小町「その無駄になるって話ですけど、
兄が受けた依頼というのは…
文化祭を成功させたり修学旅行でフラれたくないってものですよね。
それって一応成功してるじゃないですか。」


小町「お義姉ちゃんから話は聞きましたけど、
小町にも兄が取った方法が褒められたものじゃないことはわかっています。
でもそれで文化祭や修学旅行では一応事なきを得たじゃないですか。
お義姉ちゃんがやったことはお兄ちゃんがやったことのフォローみたいなものですよ。」


雪乃「フォローとはどういう意味かしら?」


小町「あのままお兄ちゃんが泥を被って終わりなんてあんまりでしょ。
依頼者は勿論ですけどその後のお兄ちゃんのこともフォローしてみせる。
それが理想の終わらせ方だと小町は思います。」


小町「ていうかこれって本来同じ部の雪乃さんたちの役目ですよね。
何でお二人はお兄ちゃんにばかり嫌なこと押し付けて、
自分たちは文句しか言わないんですか?
文句だけ言うならそんなの誰にでも出来ることですよ。」


小町さんの言葉は比企谷くんの身内だけあって重みがあった。

確かに私たちは比企谷くんに嫌なことを押し付けてしまったのかもしれない。

そのことに関しては今更何を言っても言い訳にしかならないのかもしれない…


194: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:11:38.48 ID:RFEAJyjx0


小町「それにお兄ちゃんとの思い出ならお義姉ちゃんも持ってますから。」


雪乃「思い出って…そんなものあるはずが…」


小町「疑っているならその目で確かめてみたらどうですか。お義姉ちゃんも見せてあげたら。」


少女A「うん、わかったよ。」


それからあの女は左手の薬指を私たちの前に見せつけた。

彼女の薬指には…光り輝く指輪があった…

その指輪は…まさか…?


195: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:13:16.51 ID:RFEAJyjx0


結衣「その指輪…何…?」


少女A「これはクリスマスの時に八幡が私にプレゼントしてくれた大切な指輪です。」


雪乃「クリスマスですって…!?」


私はクリスマスの時のことを思い出していた。

あの日、私たちは葉山くんに比企谷くんを呼ぶように頼んでおいた。

けれどいつまで待っても彼が私たちの下へ来ることはなかった。

仕方なく彼を呼びに行ってもらった葉山くんに連絡しても…

『ゴメン…俺にはもう無理だ…』の一言だけ。

私たちにとってあんな惨めなクリスマスを過ごしたのは初めてのことだ。

それなのにこの女は…

あろうことか比企谷くんから指輪をプレゼントしてもらった…なんて…!


196: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:16:02.86 ID:RFEAJyjx0


雪乃「ごめんなさい…少し気分が悪くなったから休ませてもらうわ…」


結衣「ゆきのん…私も…一緒に行くね…」


少女A「気分が優れないなら一緒に付いて行きましょうか?」


雪乃「心配には及ばないわ…すぐに戻るから…」


私たちは荷物を持って家庭科室を出てお互い顔を合わせないようにしている。

あの女は比企谷くんから指輪をもらっていたなんて。

男女関係に疎い私たちだけどこれでも女という生き物だ。

だから私たちが比企谷くんからもらったモノとあの女が彼からもらった指輪と、

どちらが想い人としての価値があるのかはくらいは十分わかる…


197: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:17:37.89 ID:RFEAJyjx0


雪乃「由比ヶ浜さん…私たちは…」


結衣「うん…私たちが持ってるモノだって…ヒッキーがくれた大事なモノだよ…けど…」


私は鞄の中にある比企谷くんがくれたパンさんのぬいぐるみを

自分の視界に入らないようにさら鞄の奥に詰め込み…

それに由比ヶ浜さんも私と比企谷くんがプレゼントした首輪とエプロンを外していた。

正直、さっきまで私たちはあの女よりも優位であったはずだ。

けれどあの女は…比企谷くんから…指輪を…受け取っている…

あのデリカシーのない比企谷くんのことだ。

きっと深い意味を込めて贈ってはいないはず。

それでも…惨めだ…

今…私たちの心は…悔しさと…惨めな思いでいっぱいだ…


198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:18:33.01 ID:RFEAJyjx0


陽乃「二人ともひゃっはろ~!」


雪乃「姉さん…どうしてここに…?」


陽乃「うん、お姉ちゃん実は特別講師として来たんだよ。
まあそれはともかく、雪乃ちゃん。さっさと帰りましょうね~♪」


結衣「帰るって…私たちまだ何もしてないですよ!?」


私たちが打ちひしがれている時に追い打ちを掛けるように姉さんが現れた。

いきなりやってきて、そして帰ろうなどと言ってのける姉さん。

一体何だと言うの…?


199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:19:34.64 ID:RFEAJyjx0


陽乃「これでもお姉ちゃんはあなたたちに助け舟を出してるつもりだよ。
このまま居続けても間違いなくろくなことにならないはずだから。
それよりも傷の浅いうちに逃げた方がまだマシだよ。
さぁ、尻尾巻いて逃げちゃお~♪」


雪乃「ふざけないで!まだ私たちは何もやり遂げていないのよ!」


結衣「そうだよ…こんな中途半端で帰りたくないし…」


私たちは姉さんの申し出を蹴った。

冗談じゃない。このまま尻尾を巻いて逃げてなるものかと…

せめて比企谷くんに渡すチョコを作り終えるまでは意地でもここにいなければ。


200: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:20:29.28 ID:RFEAJyjx0


陽乃「これでもお姉ちゃんは二人のことを助けてるつもりなんだけどなぁ。」


雪乃「どう考えても嫌がらせにしか思えないのだけど。」


結衣「なんと言われようと私たちここにいるし!」


私たちは姉さんの前でこの場に留まる決意を示した。


陽乃「冗談抜きでやめた方がいいと思うよ。
さっき彼女ちゃんとの話を聞いてたけど雪乃ちゃんは嘘や欺瞞はないって言ってたよね。
でもこのままここにいたら雪乃ちゃんたちの嘘や欺瞞がみんなにバレちゃうかもよ。」


結衣「私たちに嘘なんかないし!」


雪乃「由比ヶ浜さんの言う通りよ。私たちが嘘や欺瞞なんてありえないわ。」


陽乃「本当にそうかな~?
雪乃ちゃんたちが勝手に思い込んでいて、
実はまだ大事なことを見落としているんじゃないの~?」


姉さんは私たちに向かってそんなことを問い詰めてきた。

私たちの間に嘘や疑問なんてあるはずがない。


201: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:20:58.97 ID:RFEAJyjx0


陽乃「へぇ、あなたたちの間に嘘や欺瞞はないって本当にそう思っているんだ。」


雪乃「当然よ。姉さんの勝手な憶測にこれ以上付き合っていられないわ。」


結衣「そうだよね。早く戻らなきゃ!」


陽乃「待って。その前にお姉ちゃんからひとつだけ質問があるの。」


姉さんも観念したのかようやく諦める素振りを見せてくれた。

だけどその代わり、姉さんはあることを私たちに質問してきた。


202: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:21:27.13 ID:RFEAJyjx0






『集団を最も団結させる存在はなんでしょう?』






203: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:22:42.20 ID:RFEAJyjx0


結衣「集団を…え~とつまりみんなが力を合わせるにはどうするかってことですか…?」


陽乃「そうだよ。突然だけどこの質問に答えてくれるかな。
これは以前、文実のスローガン決めでも比企谷くんに聞いたことなんだけどね。」


雪乃「突然の質問に理解できないけど答えは優秀な指導者よ。
いつの時代も愚かな人々を率いるのはひと握りの優れた人物に決まっているわ。」


陽乃「ブッブ~!大外れ~!」


私が自信を持って言った解答を姉さんはそれを真っ向から否定してきた。

それなら答えは…それよりもこの質問の意味は何だというの?

そう尋ねたけど姉さんはその答えはこの件が終わってから教えてあげるの一点張りだ。


204: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:23:58.43 ID:RFEAJyjx0


陽乃「あ、そうだ。
雪乃ちゃん今日はこれからお母さんから呼び出されているの。
だから都築を置いてくからちゃ~んと実家に帰ってきなさい。それじゃあね~♪」


雪乃「やっと帰ってくれたわね。
姉さんが何をしに来たのかわからないけど早く戻って作業を再開しましょう。」


結衣「そうだね!早く美味しいチョコを作ろうね!」


姉さんもいなくなり私たちは作業を再開するために室内へ戻った。

あれだけのことがあったのだからどう考えてもこれ以上は悪い事態は起きないはず。

そう思いテーブルに着いた。

けれど…何か様子がおかしい…?

室内にいたみんながチョコ作りを中断して窓に集まっていたからだ。

何の騒ぎなのか気になった私たちは彼女たちの会話を聞き取ってみた。


205: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:24:33.38 ID:RFEAJyjx0


三浦「姫菜、今の話本当なん?」


海老名「間違いないよ。私たちの入学式の日に目撃したから。」


少女A「それじゃあ姫菜の言うようにあの車が…」


彼女たちは一体何の話をしているのか?

それは海老名さんがこの室内の窓から発見したあるものが原因だった。


206: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:26:14.40 ID:RFEAJyjx0


海老名「うん、2年前の入学式の日にね。
私…見ちゃったんだ…あの車がうちの男子生徒を轢いたのを…」


いろは「そんな車がうちの校門前に止まってるんですか?信じられません…」


相模「でもあの車って結構な高級車だよ。どっかのお偉いさんが乗ってるのかな?」


彼女たちの話から察するに、

どうやら今から2年前の私たちの入学式の日にある高級車がこの学校の男子生徒を轢いた。

そしてその車が現在校門の前に止まっているとか。

そんな話を耳にして思わず私たちも窓を覗いてみた。

するとそこにあった車は…


207: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:27:56.28 ID:RFEAJyjx0


今から2年前の入学式の日。


私は入学式で新入生代表の挨拶を行うために実家からの送迎で早めに学校へ趣いた。


けれど時を同じくして由比ヶ浜さんも愛犬のサブレの散歩に出ていたらしい。


そこへ運の悪いことにサブレのリードが外れて危うく車と事故に巻き込まれそうになった。


そんな時、偶然にもその場に出会したこの学校の男子生徒がサブレの命を救ってくれた。


でも彼はその時の事故が原因で怪我を負い入院する事態に陥った。


それから数週間後、


怪我を完治させた彼が登校した時には既にクラス内でもグループ形成が済んだ後だった。


結局、その男子生徒は友人関係がろくに成立できずに孤立した。


これが事件の顛末だ。


ちなみにサブレを助けた男子生徒というのは…


208: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/22(火) 19:29:25.23 ID:RFEAJyjx0


小町「たぶんその男子生徒は兄のことだと思います。
お兄ちゃんは事故で入院してそれからぼっちになったと言ってましたから。
でも小町思うけどたぶんお兄ちゃんは事故がなくても間違いなくぼっちでしたけどね。」


沙希「それじゃあ事故にあったのは比企谷で…」


三浦「あの車がハチオを轢いたってわけ!?」


少女A「なんて酷いことを…
八幡を轢いておきながらその車でこの学校に来るなんて!
あの車の持ち主の人…許さない…!?」


あの女をはじめこの場にいる誰もが我が家のハイヤーを敵視している。

そう、入学式の日…

我が家のハイヤーに轢かれたのは比企谷くんだ。

あの時の事件は私たちの間では既に解決されたはず…なのに…

私の心に今まで感じたことのない罪悪感が押し寄せてくる。

一体…どうして…?


226: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 19:40:14.45 ID:4djIuWxi0


めぐり「とにかくみんな落ち着いて。冷静になって!
あんな高級車を乗り回してるんだから持ち主は相当偉い人だよ。
騒ぎを起こしちゃダメだって。」


少女A「でも今日は学校にそんな来客者が来る予定はなかったはずですけど…?」


沙希「そういえば小町。アンタその時の事故について何か知らないの?」


小町「実は小町も…
加害者の人については一切知らされていないんですよ。
今にして思えばよほどの大物さんだったからなんでしょうね。」


私たち以外のみんながあの車の持ち主を追求しようとしている。

こんなこと問題ないはずなのに…

でも居心地の悪さを感じてしまう。


227: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 19:40:53.36 ID:4djIuWxi0


小町「でも結衣さんなら知ってるかも。
実はお兄ちゃんが事故の時に庇ったのは結衣さんのワンちゃんなんです!」


三浦「由比ヶ浜とハチオにそんな縁があったなんて意外だし。」


少女A「由比ヶ浜さん答えてもらえますか?」


結衣「え…あの…それは…」


みんなからの質問に由比ヶ浜さんは困った顔を私の方へと向けてきた。

やめて…今は私に顔を向けないで…

事故の件は私たちの仲では既に解決している。

けれど…こんな人たちに兎や角言われたくはない…

だから私は由比ヶ浜さんに助け舟を出すことなんて出来ない。


228: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 19:41:26.07 ID:4djIuWxi0


結衣「ご…ごめん…あの事故の時…私も動揺してたから…」


海老名「けど偶然だよね。
事故でワンちゃんを庇ったハッチーと同じ部活になるなんて。」


相模「本当だよね。でも結衣ちゃんって1年の頃は八幡とあんまり話してなかったけど…?」


三浦「そういえばアンタがハチオと話し始めたのって2年の頃からじゃない?」


いろは「何で1年の頃に事故の件を話さなかったんですか?」


結衣「そ…それは…その…アレがアレしてみたいな…?」


由比ヶ浜さんはまるで比企谷くんのような言い訳で誤魔化そうとしている。

確かにこれだけの人たちを前にいきなり質問攻めに合えば戸惑うはず。

とにかく由比ヶ浜さんは私のことを話そうとはしないだろう。

けどこれでいいはずだ。

あの事故の件は私たちの仲で既に決着がついている。

それをこの人たちの前で糾弾される筋合いはない。

あとはやり過ごせばいい。

そう思った時だった…


229: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 19:42:22.26 ID:4djIuWxi0


『…』


雪乃「今のは…何…?」


それは他の人たちは気づきもしないこの場にて私だけが感じ得たモノだった。

今、私が感じたのは明らかに敵意だ。

まさか…私や由比ヶ浜さん以外にあの事故のことを知っている人がいるとでも…?

そんなことはありえない。

普通なら私の家の車が比企谷くんを轢いたなんて発想にたどり着けるはずがないのだから。

それにこの場に我が家のハイヤーを見たことある人は由比ヶ浜さん以外にいるはずが…


230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 19:43:55.86 ID:4djIuWxi0




「あの車って…雪乃さんの家の車じゃありませんか…?」




突然、誰かが私に爆弾発言を向けてきた。

そんな…一体どうして…?

私の家の車を知っている人なんているはずがないのに…!?

待って、本当にそうなの?

そういえば…夏の林間学校のボランティアの時…

確か我が家の車を見て比企谷くんがあの事故の車が私の家のモノだと知った時、

彼と一緒に居たのは誰だった?

私と…それに…由比ヶ浜さん…

そういえば…もう一人いた…

それは比企谷くんにもっとも近しい人だ。


231: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 19:44:51.26 ID:4djIuWxi0


小町「あの車…雪乃さんの家の車ですよね!そうですよね!」


雪乃「こ…小町さん…」


結衣「小町ちゃん!落ち着いて!ねっ!」


由比ヶ浜さんが小町さんを必死に宥めている。

そういえばあの林間学校のボランティアの帰り、小町さんも私の家の車を見ていた。

以前の彼女なら私が事故の件を隠していても、

『あれは兄が勝手に飛び出したことだから気にしないで』

そう言って許してくれたかもしれない。

けど今は違う。


232: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/25(金) 19:45:56.31 ID:4djIuWxi0


小町「何であの時…夏の林間学校の時に言ってくれなかったんですか!?」


雪乃「それは…その…」


少女A「ちょっと待ってください。
あなたたち奉仕部ってその時の事故の被害者と加害者の集まりなんですか!?」


結衣「あの…だから…それは…」


事故の件が明るみになり、

小町さんだけでなくこの場にいる誰もが私たちに敵意を向けてきた。

最早この場に私たちの味方は誰もいないと考えていいだろう。


255: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 20:16:19.25 ID:4lQ0ALij0


めぐり「みんな、まず冷静になって。
これはもう2年前の話なんだよ。
きっと奉仕部の三人の間でちゃんと解決された問題だよ。たぶん…だけど…」


少女A「小町ちゃんどうなの?」


小町「その…前にチラッと聞いたけど…
お兄ちゃんは奉仕部に入った頃、
小町が話をするまで結衣さんがサブレの飼い主だったことを知らなかったみたいなんです。
だから雪乃さんたちが本当に事故の件を話しあったのかちょっと疑わしいんですけど…?」


小町さんの話を聞き彼女たちは疑惑を持ち始めた。

私たちのことをまるで卑しいモノを見るような目で睨みつけている。

そしてあの女が私に対してこう問い質してきた。


256: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 20:18:55.59 ID:4lQ0ALij0


少女A「雪ノ下さんお聞きします。2年前の事故の件、ちゃんと八幡と話をしましたか?」


雪乃「部外者であるあなたに教える筋合いはないのだけど…」


少女A「確かに私はこの件に関しては完全に部外者です。
けど関係がないとは言わせませんよ。
八幡は私の大切な人です。そんな彼をあなたは傷つけた。」


少女A「もしあなたが八幡を傷つけたまま何もしてないのなら私はあなたを許さない。」


少女A「だから答えてください。事故の件、本当に八幡と話をしましたか?」


大切な人が傷つけられたから…

その言葉は今の私にとって無性に腹ただしいものだ。

何が大切な人よ。彼は私の想い人だ。あなたの伴侶なんかじゃない。

それにあの件ならもう私たちの中では既に解決している。

今更問題を掘り返されてもどうということはないのだから。


257: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 20:19:40.24 ID:4lQ0ALij0


私は彼女たちを納得させるために文化祭直後のある出来事を話した。


『別に嘘ついてもいいぞ。俺もよくついてる。』 


『知ってるものを知らないっつったって、別にいいんだ。』


『許容しないで、強要する方がおかしい。』


それは文化祭の日に比企谷くんが私に向けて告げた言葉だ。

それに対して私はこう返答た。


『あなたのことなんて知らなかったもの。でも…今はあなたを知っている。』


私たちはお互いを知った。

そして彼の言葉に私は惹かれた。

それがあの事故の件の顛末だと説明してみせた。


258: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 20:20:15.94 ID:4lQ0ALij0


「…」


今の話を聞いてこの場にいる誰もが口を閉ざしている。

そう、これはもう終わった話だ。

これ以上蒸し返す要素はもうどこにもない。

けどあの女はちがった。

まだ私を睨みつけている。

今の話を理解出来なかったのかと疑問に思うほどだ。

そしてあの女は私に対してこう言った。


259: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 20:21:34.63 ID:4lQ0ALij0


少女A「それ…謝ってませんよね…」


雪乃「え…?」


少女A「今の雪ノ下さんの話、八幡に謝るという肝心な部分が欠けているんですよ!
事故の件はどう考えてもあなたに非があるはずです。
それなのにあなたは肝心なことを有耶無耶にしている。
どうしてなの!?」


有耶無耶だなんて…そんな…

この女は私の話をちゃんと聞いていたの…?

だから私と比企谷くんはわかり合えたのだと…


260: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 20:23:55.00 ID:4lQ0ALij0


結衣「ねえやめてよ!あれはゆきのんが悪いんじゃなくて…!?」


三浦「つーか由比ヶ浜。アンタもおかしいよ。」


結衣「え…おかしいって何が…?」


沙希「今の小町の話からして、
アンタは事故の件を小町が話すまで比企谷に何も伝えてないよね。
それなのに今まで平然とあいつと一緒に居たとかおかしいと思わないの?」


海老名「しかも由比ヶ浜さんがハッチーと話すようになったのは2年になってからだよね。
それまで由比ヶ浜さんは何でハッチーにお礼を言わずにいたの?」


結衣「そ…それは仕方がなかったというか…」


いろは「仕方ないって何ですか?
結衣先輩の大事なワンちゃん助けてもらったのにお礼も無しっておかしいでしょ!」


彼女たちの敵意は由比ヶ浜さんにも向けられた。

由比ヶ浜さんも彼女たちから詰問を受けている。


261: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 20:25:09.82 ID:4lQ0ALij0


海老名「そういえば由比ヶ浜さん…
1学期の頃、奉仕部にクッキー作りに行ったとか話してたよね。
もしかしてだけど…そのクッキーって…?」


結衣「そうだよ!あれはその時のお礼を込めてヒッキーに渡そうと思って…」


三浦「でもそれおかしいし!何でその時ハチオに事故のこと言わなかったし!?」


結衣「だから…それは…」


相模「ひょっとして結衣ちゃん…事故のこと…バレたくなかったんじゃないの…?」


結衣「ち…ちがうよ!大体どうしてそんなことになるし…!?」


海老名「それは…由比ヶ浜さんが責められるかもしれないって思ったからじゃないの。
今の話を聞く限りだと事故の発端はあなたが犬のリードをしっかり管理してなかったから。
そのことを誰かに知られて、
それを責められるのが嫌だから曖昧な形でお礼をしたんじゃないかな?」


海老名さんの指摘に由比ヶ浜さんは狼狽えだした。

その指摘は間違っている。

由比ヶ浜さんは優しい人だ。

そんな彼女が卑怯な真似をするはずがない。


262: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 20:26:56.52 ID:4lQ0ALij0


結衣「あの事故は…」


結衣「でもヒッキーとゆきのんは言ってくれた…」


『もうお前は俺を気にかけなくていい。だからこれで終わりだろ。』


『終わったのなら、また始めればいいじゃない。』


かつて私と比企谷くんが由比ヶ浜さんに送った言葉だ。

彼らは出会いを間違えた。

それなら一度終わらせてもう一度始めればいいのだと…

それ以来、由比ヶ浜さんは比企谷くんにもう一度歩み寄れたのだから。


263: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 20:27:14.71 ID:4lQ0ALij0


少女A「だから…それ全然謝ってませんよね!」


結衣「え…?」


三浦「結局由比ヶ浜も雪ノ下と同じじゃん!肝心なことを全部有耶無耶にしてるし!」


海老名「どうしてあなたたちは素直に謝ることができないの…?」


結衣「だから…それは…!?」


なんということだろうか。

この人たちは由比ヶ浜さんを責め出した。

何故ここまで拗れてしまうのかわけがわからない。


264: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 20:29:20.08 ID:4lQ0ALij0


雪乃「あの事故は…比企谷くんが…急に飛び出してきたから避けようがなかったの…」


結衣「そうだよ…あんなの避けられるわけがないし…ゆきのんは悪くないし…」


少女A「それが彼を傷つけたあなたたちの言い分ですか…?
だとしたら雪ノ下さん、由比ヶ浜さん、あなたたちは最低ですよ!!」


雪乃「黙りなさい。非のないことを謝るなんてそんなの…欺瞞よ…」


私は目を背けながらそう呟いた。

けれどこれがいけなかった。

この女はさらにネチネチと私たちを追い詰めていった。


265: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 20:29:52.66 ID:4lQ0ALij0


少女A「ひょっとして…道具に謝る必要はないと思いましたか…?」


雪乃「何を…言って…」


少女A「以前私はこう指摘しました。
あなたたちは八幡を道具としてしか見てなかったと。
つまり雪ノ下さんたちは、
彼を道具扱いしていたから謝る必要なんかないとでも思ったんじゃありませんか?」


雪乃「あなた…!?」


結衣「そんなことない!私たちだってヒッキーのことを!?」


私たちは必死になって彼女たちの言葉を否定した。

けれど…どんなに否定しても…

彼女たちの意見を覆すことなどできなかった…


266: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/31(木) 20:30:57.56 ID:4lQ0ALij0


三浦「結局アンタらは何ひとつハチオに謝ってないわけじゃん…」


いろは「さっきは言い過ぎだと思っていましたけど…案外そうでもなかったようですね…」


相模「そうだね。二人とも八幡のこと本当に見下してる。普通ならこんなのありえない…」


沙希「けーちゃんの言った通り謝ればいいものを…
園児でもわかることなのに…アンタら…バカじゃないの…?」


誰もが私たちを白い目で見ていた。

あの件は私たちの中で解決されたはずなのに…

どうしてこんなことに…


521: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 19:40:18.29 ID:MU80edIR0


平塚「キミたち、何をしている?」


雪乃「平塚先生!」


結衣「あの…実はですね…」


この騒ぎにようやく気づいたのか、

これまで室内の隅で寛いでいた平塚先生が私たちの前に駆けつけてくれた。

これでとりあえず事態は収拾するものかと思われたのだけど…


522: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 19:40:46.13 ID:MU80edIR0


少女A「平塚先生お聞きします。
奉仕部の三人…八幡とこちらの二人ですが…
先生は三人が2年前の事故の被害者と加害者の関係だと知っていましたか!?」


平塚「あぁ、知っていたぞ。
私は生徒指導を受け持っているから生徒の事情は大体把握している。」


少女A「それなら何でこのことを事前に注意しないんです?
この二人…八幡が傷ついた事故について有耶無耶にして終わらせて…
八幡をなんだと思っているんですか!?」


この女は平塚先生の配慮の足りなさを指摘してきた。

当初、私も事故については比企谷くんがあの時の被害者だとは知らなかった。

けどそれを平塚先生が事前に知っていたということは…?


541: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 20:26:41.52 ID:MU80edIR0


平塚「私は生徒の自主性を重んじている。
あの三人に成長を促すため、
そして自分たちで気づいてもらいたかったから敢えて何も言わなかったんだ。」


少女A「それでも配慮が足りないと思います…」


平塚「それはどういう意味だね?」


少女A「確かに平塚先生の意見も一理あると思います。
けれど車の事故ですよ。先生も車に乗られるならわかりますよね。
一歩間違っていたら八幡は死んでいたかもしれないんですよ?
それなのにその当事者たちを同じ部に入れるなんてトラブルが起きると思いませんか!」


平塚「愚問だな。それこそ彼らが乗り越えるべき壁だ。
私はあの三人が必ずその壁を乗り越えて真にわかりあえると思っていたよ。」


さすがは国語教師というべきか。

平塚先生はあの女の質疑を次々と論破してみせた。

確かに放任主義ではあるけれど…


525: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 19:46:45.51 ID:MU80edIR0


少女A「それにしても…
事故の関係者を一緒にさせるのは…普通入部させる前に注意しておくくらいの配慮は…」


小町「あれ?前にお兄ちゃんが愚痴ってたの聞いたけど…
確かお兄ちゃんって平塚先生が奉仕部に強制入部させましたよね。
つまり入部したのはお兄ちゃんじゃなくて平塚先生の意思によるものじゃ…?」


少女A「ちょっと待って?強制入部?一体どうして?」


平塚「比企谷は私の授業でふざけた感想文を書いてな。その懲罰で奉仕部に入れたんだ。」


少女A「強制って…部活って学生の意思で入るものじゃ…?」


平塚「だから懲罰だと言っているだろ。ちなみに比企谷には拒否権はないがな。ハハハ!」


平塚先生は豪快に笑いながらそう言ってのけた。

それは平塚先生にしてみれば単なる笑い話にしか過ぎなかったのかもしれない。

けれど…この女はちがった…

今の平塚先生の話を聞いて私たちをまるで汚物でも見るかのような目で嫌悪感を顕にした。


526: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 19:47:11.37 ID:MU80edIR0


少女A「つまり…あなた方…奉仕部は…」


少女A「2年前に八幡を事故で傷つけてその謝罪もせずに…」


少女A「そして懲罰だと言って彼を加害者たちのいる奉仕部へ入れた。」


少女A「それからは八幡に責任を擦り付けるかのように次々と依頼を達成させていった。」


少女A「あなたたちは…」


それからこの女はあることを私たち三人の前で吐き捨てた。

それは私たち奉仕部のあり方を全て否定するものだ。


527: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 19:47:38.13 ID:MU80edIR0







「どこまで残酷なんですか!」







528: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 19:48:55.18 ID:MU80edIR0


雪乃「な…何を言っているの…?」


結衣「そうだよ…私たちは…」


少女A「これが残酷と言わず何と言うんですか!
出会い頭に八幡を傷つけてそれについて二人は八幡に何も言わない!
それから彼を奉仕部に入れてその後は自分たちに都合のいいように利用し続けた!
そして修学旅行の件で用済みとなった後は八幡を見捨てた!
これを残酷と言わずに何というんですか!?」


残酷…そんなはずは…

確かに事故の件は仕方なかった。

あんなのは避けられることなど出来なかった。

そのことを今更悔やんでも仕方ない。

けど私たちの間では既に解決している。

比企谷くんだってそのことについて納得してくれたはずだ。


530: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 19:50:20.74 ID:MU80edIR0


平塚「いい加減にしたまえ。これ以上事故の件を蒸し返すな。
あの件は既に示談が成立していて解決済だ。
まだ何か言うのならこのまま生徒指導室に行って話をすることになるぞ。」


少女A「私はそれでも構いません。
けどこれだけは言わせてください。この件に関しては先生も同罪ですよ。」


平塚「私にも罪があるとは…どういうことかね…?」


少女A「平塚先生は奉仕部の顧問ですよね。
顧問なら部活に問題があればそれを正すのが役目のはずです。
それなのに先生はその役目を放棄している。何故ですか?」


平塚「またそれを言うとは愚問だな。私は生徒の自主性を重んじて…」


少女A「生徒の自主性を重んじて、それは随分とうまい言い訳ですね。
本音を言えば面倒事を全部奉仕部に…いえ…八幡に押し付けていただけですよね。
平塚先生はこの件が面倒だと思って知らないふりをしていただけじゃないんですか。」


その発言に今まで余裕の態度を見せていた平塚先生の表情が険しくなった。

けどこの女の発言に私も以前から少し思うところがあった。

確かに平塚先生は私たち奉仕部に押し付けている面はあると…


531: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 19:54:36.12 ID:MU80edIR0


少女A「それに平塚先生には事故以外にも問題があります。
たとえば文化祭の件です。
もう解決した話ですけど屋上での一件、八幡が南に暴言を吐いてしまった件。
平塚先生は文化祭の顧問として大体の事態を把握していましたよね。
それなのにどうしてあの時八幡のことを周りにフォローしてあげなかったんですか?」


平塚「あの時は一応比企谷にこう言ったぞ。」


『比企谷、誰かを助けることは、キミ自身が傷ついていい理由にはならないよ』


平塚「あいつを慰める言葉をかけてやった。これも顧問としての勤めだからな!」


私は知らないが文化祭で相模さんが逃げ出した屋上の一件。

あの後、周りからバッシングを受ける比企谷くんに平塚先生は慰めの言葉を掛けたらしい。

平塚先生はそのことを誇らしげに語ってみせた。


532: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 19:55:14.19 ID:MU80edIR0


少女A「それで…?」


平塚「だからこうして労わる言葉をだな…」


少女A「いえ、言葉だけでなくその時の対応は?
平塚先生は文化祭の顧問ですよね。まさか八幡へのフォローを何もしなかったんですか?」


平塚「それは…私は教師だから中立の立場を取らなければな。
いくら顧問とはいえ一生徒にだけ肩入れするわけにはいかないだろ。」


確かに平塚先生は教師だ。

教師は一生徒に肩入れせずに中立である立場を取らなければならない。

それは正論だ。教師として本来の役割だ。


533: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 19:57:23.73 ID:MU80edIR0


少女A「教師だから…中立…
確かにもっともな正論です。けれど私たちはまだ未熟な学生ですよ。
全て正しい方向へ向かって行けるわけじゃありません。間違うことだってあります。
現に文実の作業は切羽詰まった状況でした。」


平塚「未熟な学生だから何だと言うのだね。まさか甘えさせてほしいとでも言う気か?
キミたちはもう高校生で大人の一歩手前だぞ。
いつまでもおんぶに抱っこというわけにはいかないはずだ。」


少女A「確かに私が言っていることは甘えかもしれません。
けど先生はあの時文化祭の顧問でした。
それなら八幡が文実委員として誰よりも働いていたことをご存知のはずですよね。
そんな頑張った生徒に対して…
何のフォローもしないのは顧問としてありえないことだと思います!」


その反論に平塚先生は思わず苦い顔になった。

私も以前から平塚先生の放任主義は問題があるとは思っていた。

けどそれは先生なりのやり方が…


534: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 20:13:25.48 ID:MU80edIR0


いろは「それなら私からも言わせてください。
以前、私はクラスの子たちの嫌がらせで生徒会長に立候補させられました。
一応言っておきますけどこれは自分の意志とは無関係でのことですから。」


めぐり「その件に関して一色さんから相談を受けた私は平塚先生に話しました。
その件を受けて平塚先生は奉仕部に依頼としてこの問題を丸投げされました。
けどこれはどう考えてもおかしいですよね。」


平塚「おかしいとは…何だ…?」


めぐり「この件は明らかに学校側が負わなければならない問題です。
それを私たち生徒だけで解決するなんて普通なら出来るはずがありません。
それに当初、比企谷くんは自ら応援演説を失敗させて一色さんを落選させようとしました。
こんな汚れ役を一生徒に押し付けるくらいなら、
学校側がこの問題に介入してくれた方がまだ事が荒立てずに解決できたはずですよ。」


なんとあの女だけでなく一色さんと城廻先輩までもが平塚先生の指導を指摘してきた。

私はこの件に関わってはいないけれど、

平塚先生はこの件も奉仕部に押し付けようとしていたなんて…

さらにまだ追い打ちをかけるように海老名さんや三浦さんまでもが平塚先生を問い詰めた。


535: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 20:14:19.67 ID:MU80edIR0


海老名「今度は私にも言わせてください。
夏の林間学校、鶴見留美ちゃんのイジメ問題についてのことです。」


結衣「あれは一応解決できたはずだよ。」


海老名「でもあの解決方法って今考えたら相当やばかったよね。
だって高校生が寄って集って小学生の女の子たちを脅したんだよ。
あの時はイジメを行っていた子たちに非があったから大事に至らなかったけど…」


小町「もしかしたら停学か下手したら退学処分でしたよね。
最悪の場合は警察沙汰だってありえたかもしれないし…
小町も今だから言えますけどあんなやり方普通の教師なら絶対止めに入りますよ?」


平塚「それは…」


夏の林間学校による鶴見留美さんのイジメ問題。

あの時、平塚先生は私たちにこの件を任せると言って自分はさっさと寝てしまった。

けれど彼女たちの指摘することもわからなくはない。

あれは私ですら最低だと思える方法だから。


543: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 20:28:45.69 ID:MU80edIR0


三浦「あーしからも言わせてもらうよ。
これはあーしらのグループが悪いことだけど修学旅行の件…
あの依頼って本来なら受けちゃいけないものじゃないの?」


結衣「そんな…何で…?」


三浦「だって他人の恋愛についてだよ。
しかもあの時の戸部の依頼は告白を成功させたいっていう話だったし。
それって普通に考えたら成功するはずないし…」


沙希「まず海老名の意思を完全に無視してるからね。
顧問ならトラブルが起こると判断したら止めるべきじゃないの?」


海老名「あの時はハッチーに気づいてもらえてよかったけどそのせいでハッチーは…」


平塚「いや…その修学旅行に関しては何も聞いてないが…?」


修学旅行についても触れられた。

私たち奉仕部の仲に亀裂が入るきっかけとなった出来事だ。

最後は比企谷くんに全ての責任を負わせて終わらせた後味の悪い結末。

葉山くんからの依頼さえなければ私たちは今もあの関係を続けられたのに…



平塚「まったく比企谷はいつも最低な方法ばかり考えて困ったものだな!ハハハ!」


それを聞いて平塚先生は笑って誤魔化そうとしていた。

けれど…


537: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/05(火) 20:17:48.54 ID:MU80edIR0


少女A「笑うのをやめてもらえますか。」


平塚「うん、どうした…?」


少女A「八幡が最低な方法を取るのはその生い立ち故彼がそれしか思いつけないから。
でもその方法で彼が傷つくのがわかっているのなら他の方法を提示してあげればいい。
それが教師であり顧問としての平塚先生の役目ではありませんか?」


平塚「それはちがうな。
人は間違い、傷つきながら成長を遂げていく。キミたちはまだ成長途中だ。
だからいくらでも間違えればいい。それで過ちがあればその時は私が叱る。
それに叱られるのは悪いことではないよ。誰かが見てくれている証だ。」


人は傷つきながら成長する。

確かにそうかもしれない。

私もそうだ。

小学生の頃、この端正な容姿を妬まれ同性の女子にイジメを受けた過去がある。

確かにあれは嫌なものだった。

けれどその時の経験が私を強くしたのもまた事実だ。

やはり平塚先生の言葉には私たちに対する想いが込められていると改めて思う。

そのことをこの女もわかってくれたはず…


589: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 02:01:06.25 ID:qEQdaS6u0


少女A「もういいですよ。今の先生の言葉は虚しいだけですから。」


平塚「なんだと…何が言いたい…?」


少女A「立派な言葉を並べられても説得力がないと言っているんです。
結局、先生は八幡に全ての責任を押し付けて逃げただけの卑怯者じゃないですか。
着飾った言葉で誤魔化して、
未だ八幡に謝ることもできない雪ノ下さんや由比ヶ浜さんと同じですよ!」


あの女は平塚先生の言葉を虚しいと言って罵った。

なんてことを…

かつて比企谷くんは、

平塚先生の言葉にどれほど救われたのかそれを理解してないから言えるのね。


590: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 02:03:10.00 ID:qEQdaS6u0


少女A「平塚先生、本当に八幡を思うなら彼を今すぐ退部させてあげてください。
それが八幡のため、このまま雪ノ下さんたちと同じ部に居ればろくなことがありませんよ。」


平塚「それは許可できんな。
元々比企谷は孤独体質を矯正させるために奉仕部に私が強制入部させた。
まだヤツの更生は終わっていない。だから退部は認めん!」


雪乃「そうよ、あなたの勝手な思い込みで彼を退部させるわけにはいかないわ!」


結衣「ヒッキーだってそんなこと望んでないし!」


彼の退部なんて私たちは認めない。

これ以上、土足で私たち奉仕部を踏みにじるのは許さないのだから。


593: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 02:08:44.51 ID:qEQdaS6u0


少女A「矯正って…
それが本当に必要なのはあなたたちの方じゃありませんか。」


平塚「どういう意味だ…?」


少女A「まだわかりませんか?
あなたたちは困ったことがあればすぐに八幡に泣きついて、
そして八幡にその責任を擦り付けて自分たちは知らぬ存ぜぬなんて…
彼と一緒にいること自体が恥だと思った方がいいですよ。」


平塚「おい小娘…さすがに女相手でもこれ以上何か言うなら私は手を上げるぞ…」


その発言に今まで余裕だった平塚先生の態度が一変した。

まさに火花散ろうとする瞬間だった。


594: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 02:09:22.71 ID:qEQdaS6u0


少女A「それならちがうと言えますか?
感想文の懲罰で部活に強制入部させたのは単なる口実で、
本当は先生の雑用係にちょうどいい生徒が八幡だったから彼を入部させただけ。」


平塚「黙れ…」


少女A「だから先生は八幡に問題を押し付けて大した責任も取ろうとしない。」


平塚「黙れと…言ってるだろ…」


少女A「矯正だの更生だとか言っているのも、
全ては八幡を奉仕部に縛り付けて逃がさないための口実。
それとも…もしかして部長である雪ノ下さんと共謀でもしているんですか?」


雪乃「共謀とは…どういうこと…?」


少女A「雪ノ下さんは奉仕部の部長ですよね。
そして平塚先生はその顧問、それに強制入部させられた八幡。
二人で共謀して面倒事を引き受けて八幡に汚れ役を全て押し付ける。
解決すれば雪ノ下さんは部長として、それに平塚先生も顧問としてそれぞれ評価される。
そのために彼を尽く利用した。そうじゃありませんか?」



平塚「キサマ…黙れというのがわからんのかァァァァァァァッ!!!!」



平塚先生の怒号が家庭科室に響き渡った。

もう私たちとこの女の間にある溝はあまりにも深すぎる。

これは永遠に埋められないものであるとお互い確信した。

そして他の人たちも…

誰もが私たちを敵視している。


595: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 02:14:19.70 ID:qEQdaS6u0


三浦「ねぇ、今の話どうなん!」


海老名「さすがに本当なら引くよ?」


小町「うちのお兄ちゃんを何だと思ってるんですか…?」


結衣「ち…ちがうよ…そんなわけないよ…私たちはヒッキーをそんな風に利用したりは…」


いろは「でも副会長さんの指摘してることって特に間違ってませんよ。」


沙希「実際比企谷は面倒な問題を押し付けられてるからね。」


めぐり「そうだね…文実でも最後は全部彼が…」


相模「それに関してはうちは強く言えないけど…」


平塚「待ってくれ…私は…その…」


少女A「雪ノ下さん。あなたたちは本当に卑怯です。
いつまでも八幡に甘えて、
そのくせ自分たちが行った八幡への仕打ちに関しては有耶無耶にしてばかり!
人として最低ですね!!」


雪乃「よくも…」


悔しい。

かつてここまで徹底的に他人から蔑まれたことなどなかった。

私はこれまで挑んできた相手に対しては完膚なきまでに叩きのめした。

けど今度ばかりは…

この場に私たちの味方はいない。

今のこの女の話を聞いてみんながそれを信じている。

まるで世界が敵になった感じだ。

嫌な世界だ。

もう抗うことはできないのだろうか…?


596: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/11(月) 02:16:14.32 ID:qEQdaS6u0


そう諦めかけた時、私は糾弾するこの女の左手を見た。


それは自分こそが、


比企谷くんに選ばれた証だとでも言うように私たちへ見せつけたあの指輪だ。


本来その指輪は私の手にあるべきなのに…


このままでは比企谷くんはこの女に奪われてしまう。


ダメ…それだけは絶対に認めない…


こんな弱くて醜くてすぐ嫉妬し蹴落とそうとする人が私たちを糾弾しようとしている。


こんな世界…


私は認めない。


だから変えなければ。人ごと世界を…!


621: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/12(火) 20:29:43.52 ID:/USTzt5m0


雪乃「平塚先生、彼女は校則違反を犯しています。」


少女A「雪ノ下さん…何を言っているの…?」


雪乃「彼女の指輪、こんなモノを校内で付けているのは間違いなく校則違反です。」


私はこの女の左手を力強く掴み、校則違反を指摘した。

そして私の意見に同調するかのように平塚先生と由比ヶ浜さんも…


622: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/12(火) 20:31:08.55 ID:/USTzt5m0


平塚「確かに雪ノ下の言う通りだ。
副会長、生徒会役員でもあるキミがこれでは他の生徒に対して示しが付かないな。」


結衣「そうだよね!没収しなきゃ!」


少女A「そんな!?」


この女は急に怯えだした。

今までさぞ調子に乗って私たちを糾弾したのでしょうね。

けれどまさか自分が逆の立場になるとは思わなかったのだろう。

当然の報いだ。

私たち三人は力尽くでこの女の左手にはめ込まれている指輪の没収を行おうとした。

けど私たちのこの行動を良しとしない人たちが…


623: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/12(火) 20:33:16.82 ID:/USTzt5m0


めぐり「待ってください!今はもう授業中じゃないんですよ!」


いろは「そうですよ!こんなの雪ノ下先輩たちの嫉妬じゃないですか!」


優美子「本当にやめろし!」


海老名「そうだよ。こんなの間違っているよ。」


沙希「アンタら醜いよ。」


京華「お姉ちゃん…この人たち怖いよ…」


小町「雪乃さん…結衣さん…平塚先生…これはないよ…」


相模「本当…今のあなたたちは文化祭の頃のうち以下だよ…」


平塚「黙れ小娘ども!文句を言うなら全員処罰を下すぞ!!」


結衣「そうだよ!私たちがやってることは正しいんだし!」


誰もが私たちの行動に反感を抱いている。

けれどみんな私たちの気迫に気圧されてそれ以上何も言えない。

それどころか泣き出す始末だ。

何を今更、こうなることはわかっていたはずでしょ。

最初に仕掛けてきたのはあなたたちの方だ。

ならばこちらも容赦なく戦うまでだ。


624: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/12(火) 20:35:14.83 ID:/USTzt5m0


雪乃「今まで散々コケにしてくれたわね。けどそれも今日でおしまいよ。」


少女A「お願い…雪ノ下さん…指輪だけは…やめて…」


雪乃「今更手遅れよ。早く指輪を寄越しなさい。」


少女A「嫌よ…これは八幡から貰った大切な指輪なの…」


雪乃「そうなの、でもあなたは私たちから比企谷くんを奪った。これはその報いよ。」


少女A「ダメ…やめてぇぇぇぇ!?」


この女は泣き叫びながら必死になって私に許しを請おうとしている。

冗談じゃない。誰が許すものか。

私たちの比企谷くんを奪い取り、さらにはこうして悪評まで広めた。

今こそ報いを受けてもらわなければ!

さぁ、あともう少しだ。

あの女がはめている指輪を取り出せる。

この指輪は元々私の手にあるはずだった。

本来は私が手にしていなければならないはずの指輪だ。

それを今こそ取り戻せるはず…!

けどその時だった。


625: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/12(火) 20:36:46.93 ID:/USTzt5m0



「何…してるんだ…?」



突然、家庭科室の扉が開いた。

誰かがこの室内に入ってきたのだ。

この人の声を…私は知っている…

この数ヶ月、私と由比ヶ浜さんは彼が奉仕部へ来るのを何度も待っていたのだから。

私たちは恐る恐るうしろを振り返った。

そこにいたのは…


702: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:07:42.03 ID:JUY01b4f0


八幡「大丈夫かおい…何があったんだ…?」


三浦「ハチオやっと来てくれた…」


いろは「先輩遅すぎです。危うく幻滅するところでしたよ!」


小町「そうだよお兄ちゃん。遅れてくるなんて小町ポイント低いんだから!」


そこには私たちがこの数ヶ月の間、待ち焦がれていた比企谷くんがいた。

先程まで泣き崩れていた誰もが比企谷くんに駆け寄り慰めてもらっている。

そんな最中、私たちは彼と目が合った。


703: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:08:20.80 ID:JUY01b4f0


八幡「あ…」


雪乃「比企谷くん…」


結衣「ヒッキー!来てくれたんだね!」


私たちはようやく会えた彼を暖かく迎えようとした。

けれど…


704: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:09:20.41 ID:JUY01b4f0


少女A「八幡…恐かった…恐かったよぉ…」


八幡「わかったからもう泣くな。遅れてすまん。けどもう大丈夫だから。」


比企谷くんは私たちのことなど目もくれず泣きじゃくるあの女の下へ駆け寄った。

彼は泣きじゃくるあの女の頭を優しく撫でながら慰めている。

私は今まで撫でられたことなど一度もないのに…羨ましく思った。

それから比企谷くんはこの場にいるみんなを外へ出るように指示を出した。

そして残ったのは私と由比ヶ浜さんに平塚先生。

それに比企谷くんとあの女の5人だ。


705: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:11:01.62 ID:JUY01b4f0


八幡「まずは…何があったか聞きたいんですけど…」


平塚「簡単に説明してやる。
我々は副会長が持っている指輪を没収しようとしただけだ。
生徒会役員が校内でそんな指輪をしているなど言語道断。
それに指輪なんて私が持っていないモノだぞ!けしからん!」


八幡「そうなのか…?」


少女A「うん…私のせいで…ごめんなさい…」


あの女は先ほどの威勢は何処へ行ったのかただひたすら比企谷くんに泣きついている。

本当ならなんて情けない姿をと思いたい。

けれど…妬ましい。

彼に慰めてもらえるあの女が…

けれどそれも今日でおしまいだ。


706: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:12:04.59 ID:JUY01b4f0


雪乃「比企谷くん部長命令よ。その女の指輪を没収しなさい!」


平塚「そうだ。比企谷、キミは生徒会長だ。部下の責任はキミが取るべきだ。」


結衣「ヒッキー!ほら、早く!」


私たちは比企谷くんにあの女の指輪を没収するように命じた。

これもあの女の自業自得だ。

自分の好いた男によって、

指輪を失わなければならないなんて皮肉な結末だと少しは同情するのだけど…

それにしても比企谷くんは先程から何をしているの?

早くその女の指輪を持ってきて。

そしてもう一度私たちと関係をやり直しましょう。


707: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:12:35.68 ID:JUY01b4f0


八幡「悪いが…それは出来ない…」


雪乃「何を言ってるの?これは部長命令よ!」


平塚「お前には選択権も拒否権もないことを忘れたのか!?」


結衣「そうだよヒッキー!」


まさか比企谷くんが私たちの命令に背くなんて…

私たちは揃って何故そんなことを言うのかと聞いた。

すると彼はこう言った。


708: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:16:05.02 ID:JUY01b4f0


八幡「こいつの代わりに俺が罰を受けます。俺はこの試食会の責任者ですから。」


少女A「そんな…ダメだよ八幡!」


雪乃「そう、あなたはそんなことを言うのね。」


平塚「よかろう比企谷。
ならばその女の代わりにお前に罰を受けてもらうぞ!」


比企谷くんは私たちの申し出を断った。

これまで彼が私たちの言うことを断ることなんて一度もなかった。

それどころか彼は私たちではなくあんな女の味方をしている。

私にとってそのことが一番腹立だしかった。

だからこの時、私たちには一切の躊躇もない。

唯、徹底的に彼とあの女に罰を下す。

それだけしか頭になかった…


709: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:17:33.53 ID:JUY01b4f0


平塚「まずはこいつから。兄貴譲りの…衝撃の!ファーストブリットォォォォッ!!」


八幡「がはっ…」


平塚「続いて撃滅のセカンドブリット!」


八幡「ごふぁっ…」


平塚「そして…抹殺のォォォッ!ラストブリット!!」


八幡「うげぇっ…」


少女A「八幡が…イヤァァァ…!?」


平塚先生はなにやらよくわからないことを叫びながら比企谷くんに三打の拳を打ち込んだ。

その拳をまともに喰らった比企谷くんは苦しみながら床に倒れこんだ。


710: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:18:24.76 ID:JUY01b4f0


八幡「う…げぇ…」


少女A「八幡…しっかりして…!」


平塚「待たせたな小娘。次はお前の番だ。その指輪を没収する。」


傷ついた比企谷くんはまるでヒキガエルのような唸り声を上げている。

けど二人がいくら泣き喚こうが私たちは容赦などしない。

この女さえ比企谷くんに近づかなければ彼が惑わされることもなかった。

さぁ、その指輪を渡してあなたも罰を受けなさい!


711: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:20:05.17 ID:JUY01b4f0


八幡「や…め…て…くれ…こいつには…手を出さないでくれ…」


少女A「八幡…ダメ…立ち上がらないで!」


平塚「ほぅ、比企谷め。
この私のラストブリットを喰らってもまだ立ち上がるとはこの死に損ないが。」


雪乃「比企谷くん見苦しいわよ。
その女には罰を下さなければならないの。いい加減理解しなさい。」


結衣「そうだよ。私たち怒ってるんだからね!」


今、私たちの怒りは頂点に達している。

そこで泣き喚く女に散々罵られ、一色さんや三浦さんたちからも誤解された。

それなのに何故比企谷くんはこんな女に味方するのか…私たちにはそれが理解できない。


712: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:21:37.77 ID:JUY01b4f0


八幡「ぶっちゃけ…俺には…
この状況がよくわからん…だからどちらが悪いのかなんて言うことはできない…」


雪乃「それなら私たちの味方をしなさい。あなたは私たち奉仕部の備品、当然でしょ。」


八幡「備品か…まあそうだよな…お前たちにとって俺ってそんなもんだよな…」


結衣「わかったなら早くして!ヒッキーだってこれ以上痛い思いするのは嫌でしょ!」


私に備品だと言われた比企谷くんは何か残念そうな顔を浮かべていた。

でも今の私にはそんなことなど露ほどどうでもいいことだと思った。

今の私にとってあの女の指輪を没収することこそが第一なのだから。



714: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:23:20.53 ID:JUY01b4f0


八幡「なぁ…雪ノ下…由比ヶ浜…平塚先生…
聞いてくれ…俺は…今まで…
自分が傷ついたところで誰も心配してくれるヤツなんていないと思っていた…」


八幡「けど…そうじゃなかった…」


八幡「こいつは…
『 』は俺がお前らの嘘告白を受けて自殺しそうになった時に助けてくれた…」


八幡「正直嬉しかった…
俺のことを命懸けで助けてくれるヤツが現れるなんて思わなかったからな…」


八幡「その後は優美子やいろはたちが集まってくれて…
俺は人を信じることができるようになった…だから俺は…『 』を守ってやりたい…」


彼は傷ついたその身体を無理やり立ち上がらせて私たちに向かってそう言った。

そんな…彼は何を言っているの…?

私たちはこの女のせいで悪評を広められたというのに…

何故こんな女に味方するの。

思えばあなたはいつでも私たちの味方だった。

それなのに…どうして…?


715: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:26:56.76 ID:JUY01b4f0


雪乃「あなたも…あなたもそうなの…?
かつて私が小学生の頃にイジメられていた時みたく私たちを見限るつもりなのね…」


八幡「ちがう…なぁ…二人とも聞いてくれ…
俺はお前たちと一緒に奉仕部をやっていた頃だって楽しかったと思ってる。」


結衣「だったら私たちの味方になってよ!
もうヒッキーだけだよ。ヒッキーしか私たちの味方はいないんだよ!?」


八幡「それは…」


私たちは再度彼に味方になってくれと命じた。

けどそれを聞いた彼の顔は重苦しいものになっている。

何故私たちの申し出に応えてくれないの?

そしてそんな彼が出した答えは…


717: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:29:18.07 ID:JUY01b4f0


八幡「好きにしてくれ…」


雪乃「それは何のつもりなの…?」


八幡「俺にはお前たちか…『 』かのどちらかを選ぶことはできない。
だからお前らが気の済むまで殴る蹴るなりしてくれたらいい。
だからこれで勘弁してくれ。」


少女A「そんな…八幡…やめて…!?」


彼の出した決断は私たちを失望させるものだった。

まるであの時と同じだ。

あの修学旅行の日、海老名さんに嘘告白を聞いてしまった時と同じ心境に陥った気分だ。

だからもう彼を許す気にはなれなかった。


719: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:31:03.08 ID:JUY01b4f0


平塚「よかろう比企谷。
最早何も言うまい。覚悟しろ!その身体欠片一つ消し去ってくれる!」


少女A「やめてください先生!八幡は何も悪くは…」


平塚「うるさい!女ごときが邪魔をするな!」


平塚「さあ、行こうぜ雪ノ下!由比ヶ浜!」


平塚「こいつは、この光は!私と…お前たちの輝きだァァァァァッ!!」


平塚先生は掌を頭上にかざして変なポーズを取っている。

特に輝いてなどいないけど今はそんな野暮なことは言わないでおこう。


720: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:32:13.89 ID:JUY01b4f0


平塚「ここから先は初めてだよなぁ比企谷!シェルブリットォォォォォッ!!」


少女A「待ってください。八幡はもうこんなにボロボロなんですよ。もうやめて!」


平塚「黙れ!これは喧嘩だ!
お前らが売った!私が買った!だからお前らをボコる!徹底的にだ!!」


少女A「何言ってるんですか…それが教師の言うことなの…?」


平塚「そうだ。私は教師だ。
だからこそ生徒を指導せねばならんのだ。
さぁ、もっとだ!もっと輝け!シェルブリットバーストォォォォォッ!!」


それは今まで平塚先生が繰り出したどの拳打よりも荒々しく激しいものだった。

けどその一撃だけでは終わらない。

平塚先生はさらに容赦なく比企谷くんへ拳を振るった。


721: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:33:38.05 ID:JUY01b4f0


平塚「比企谷…私とお前は…ラーメン食べに行く仲だよなぁ…」


平塚「私は常にお前たちのことを見守っていた…」


平塚「それなのに…お前は私を置いてあんな女と…」


平塚「ていうかお前…私を貰ってやると言ったじゃないか!」


平塚「何であんな女に指輪を渡すんだ!?」


平塚先生はその後もこれでもかという勢いで比企谷くんに暴力を振るった。

何度も立ち上がろうとする彼の髪を鷲掴みにして床に叩きつけ、

この室内にある胡椒や塩などを目潰しとして当てつけ、

それに彼の顔面を思い切り掴み脳点締めを行い、

さらに床に伏した彼のお腹に全体重を乗せた膝蹴りを当て悶絶させた。


722: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:34:11.12 ID:JUY01b4f0


八幡「ゲホッ…ゴホッ…」


結衣「平塚先生!ヒッキーをやっつけちゃえ!」


雪乃「そうね。これで彼も懲りるはずよ。」


私たちは平塚先生を応援していた。

これも彼を懲らしめるために必要なこと…

そう思っていた時だ。


723: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:35:01.13 ID:JUY01b4f0


少女A「先生やめてください!悪いのは私だから八幡は…」


平塚「喧しい!比企谷は私を激しくムカつかせた!だから徹底的にボコるだけだ!」


少女A「でも…このままじゃ八幡が死んじゃう…だからもう許して…」


あの女が比企谷くんを助けるために必死に懇願していた。

それを見た時、私はなんと惨めな姿をと思った。

けれど…

その時、偶然ガラスに映ったこの光景を見てしまった。


724: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:38:23.09 ID:JUY01b4f0


八幡「げほっ…」


大切な人を守るために自分の身を犠牲にする比企谷くん。


平塚「オラァッ!」


何かよくわからない理由で彼をボコボコにしている平塚先生。


少女A「もうやめてよ!」


それにそんな平塚先生を止めようとするあの女。

それに…


結衣「そこだやっちゃえー!」


雪乃「早く諦めなさい。比企谷くん。」


彼が傷つき倒れる様子を面白がって観ている目が異様なまでに腐った醜い二人の女たち。

それは紛れもなく私たち自身だ。

ガラスに映った自分たちの姿を目の当たりにして、

それまで怒りに駆られていた頭の中が急に冷静になってしまった。

これが…本当に私たちなの…

彼が傷つく姿を見て喜ぶなんて…私たちは何をしているの…?


725: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:39:21.86 ID:JUY01b4f0


結衣「ねえ…ゆきのん…」


結衣「私たち…ひょっとしたら…とんでもないことしてるんじゃ…?」


どうやら由比ヶ浜さんもこの光景を見て正気を取り戻したようだ。

けど平塚先生は比企谷くんへの暴行をやめようともしない。

むしろエスカレートする一方だ。

あんな激情に駆られた平塚先生を止めることなど不可能だろう。

そう思った時だ。


726: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:40:04.63 ID:JUY01b4f0


少女A「お願いします…」


少女A「この指輪は没収されてもいいです。」


少女A「だから八幡のことを助けてください…」


なんとあの女は私たちの前に大切にしていた指輪を差し出そうとしていた。


これには私たちも驚かずにはいられなかった。


727: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:40:35.32 ID:JUY01b4f0


雪乃「あなた…何を考えているの…?
これはあなたが彼から手渡された大切な指輪のはずでしょ!」


結衣「何でそんな大切な指輪を渡しちゃうの…?」


雪乃「それでは彼が虐げられている意味がないわ!彼の行いを無碍にするつもり!?」


やはりこの女は比企谷くんに相応しくない。

彼の行いを無碍にするなんて…

悲劇のヒロインを気取ろうとでもしていたのだろうか?


728: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:42:17.35 ID:JUY01b4f0


少女A「私だって…大切な指輪を失いたくない…」


結衣「それなら何で…?」


少女A「そんなの…八幡を助けるために決まってるじゃない…」


雪乃「それは…どういうことなの…」


少女A「目の前で大切な人が傷ついてるのに放っておけるはずないでしょ!?」


少女Aが泣きながらそう訴えた。

大切な人が傷ついている。

それを放っておけるはずがない…

その言葉を聞いた時、

私の中にある今まで解けなかった難解のパズルが瞬時に解けた気分になった。


729: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:44:10.58 ID:JUY01b4f0


平塚「フン、指輪だけでは足りないな。これまでの非礼の数々を謝ってもらわないと。」


少女A「どうしろというんですか…?」


平塚「決まっているだろ!私たちの前でちゃんと土下座して謝らんか!!」


平塚先生はあの女に冷徹な命令を下した。

けどそんなことをあの女ができるはずがない。

何故なら私たちにはこれまでに埋めることのできない深い溝がある。

それなのに頭を下げるどころか土下座なんてするわけがない。

そう思っていた…


730: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:45:36.71 ID:JUY01b4f0


少女A「雪ノ下さん…由比ヶ浜さん…それに平塚先生…」


少女A「今まで…申し訳ありませんでした…」


少女A「だから…どうか…八幡を助けてあげて…」


なんとこの女は私の予想に反してその場で土下座を行い、私に指輪を差し出した。

なんてはしたない真似を…

この女にはプライドがないのだろうか…?

そう思ったのだけど…私はこの女の顔を覗き見た。

必死な顔をしていた。

比企谷くんを救うためにこの女はこんなことをやってみせたというの?


731: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/25(月) 01:48:05.98 ID:JUY01b4f0


平塚「ようやく土下座したか。だが…もう遅い!」


平塚「お前と比企谷は私を激しくムカつかせたからな!だから最後まで徹底的にやる!」


平塚「喰らえ比企谷!これが私の…自慢の…拳だぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


平塚先生は比企谷くんに渾身の力を込めた拳を放った。

そして次の瞬間、私たちの前に比企谷くんの血飛沫が舞い落ちた。



「 「イヤァァァァァァッ!?」 」



あの女は絶叫し、私と由比ヶ浜さんはその光景をただ呆然と見ているしかなかった…


779: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 20:48:52.44 ID:xrmxt8ZR0





……


………


『ゆきのん!やっはろ~!』


『あら、由比ヶ浜さんこんにちは。』


それはいつもと変わらない日常。

放課後、この奉仕部の部室へいつものように私たち部員が集まった。

私と由比ヶ浜さん。

それにもう一人…


780: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 20:49:29.57 ID:xrmxt8ZR0


『ウス、今日もダルいな。』


『ナマケ谷くんもこんにちは。相変わらず締まりのない顔をしているわね。』


『ヒッキーは本当にキモいんだから。』


『いきなり罵倒すんな。泣いちゃうだろ…』


比企谷くんもやってきて私たち三人は他愛のない話題で盛り上がっている。

なんということもないごく普通のことだ。

そんな時に部室へ誰かがやってきた。

この扉をノックせずに入るのは恐らく…平塚先生だろう。


781: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 20:49:57.87 ID:xrmxt8ZR0


『やあ諸君。やっているかね?』


『平塚先生、入る時はちゃんとノックするように何度もお願いしていますが…』


『もう諦めなよゆきのん。平塚先生はガサツだからね。』


『そのせいで結婚相手がいないからな。』


『なんだと比企谷!衝撃のファーストブリット!』


平塚先生から鉄拳制裁を受ける比企谷くん。

妙齢の女性に相手のことを尋ねるなんて馬鹿な真似をするのだから。

いい加減学習しなさい。


782: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 20:50:56.07 ID:xrmxt8ZR0


『ハハ、ここはいつも賑やかだね。』


『あ、隼人くんだ!やっはろー!』


『何だよ葉山。また何か面倒なことでも起きたのか?』


『まあね。すまないが頼まれてくれないか。』


平塚先生に付き添われてやってきた葉山くん。

奉仕部は便利屋ではないのだけど…

結局、由比ヶ浜さんが乗り気になり葉山くんの依頼は引き受けることになった。


『そういえばお茶を出していなかったわね。すぐに用意するわ。』


私はみんなのために紅茶を用意した。

私と由比ヶ浜さんには専用のカップで、平塚先生と葉山くんには来客用の紙コップで、

最後に比企谷くんには…


783: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 20:51:49.64 ID:xrmxt8ZR0


『いつも思うのだけど…紅茶を淹れるのにその湯のみはどうなのかしら…?』


『別に構わんだろ。この方が俺らしくていいしな。』


『フフ、相変わらず捻くれているのね。』


『そういえば…
この前のバレンタインデーは義理とはいえ悪かった。これお返しのクッキーだ。
今日は3月14日のホワイトデーだから小町から持たされてな。他意なんかないぞ!』


『わぁっ!ゆきのんクッキーだよ。ヒッキーありがとね!』


『あなたがこんな洒落たことをするなんて今日は雪でも降るのかしらね?』


私たちは紅茶を飲みながら比企谷くんが持ってきてくれたクッキーを食べた。

それはとても暖かくて居心地のいい瞬間だ。

こんな平穏で心安らぐ日々がこの先もずっと続く。

そう信じていた。


………


……





785: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:15:51.98 ID:xrmxt8ZR0


「…」


「お…て…」


「お…き…て…」


「起きてください…」


「起きなさい!」


雪乃「今のは…夢…?」


結衣「あ、ゆきのんおはよう。ふぁぁ…」


ここは…先ほど見た夢と同じく奉仕部の部室だ。

今日は3月14日、あれから一ヶ月が経過している。

どうやら私と由比ヶ浜さんは部室でいつの間にか居眠りをしていたようだ。


786: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:16:50.73 ID:xrmxt8ZR0


結衣「意外だよね。ゆきのんが居眠りするなんて…」


雪乃「最近…どうにも寝不足で…ところで私を起こしたのは由比ヶ浜さんなの?」


結衣「ううん。ちがうよ。私もちょうど起きたところだから…」


それでは先ほど誰かが私を起こしたと思ったのは気のせい?

いいえ、ちがう。

誰か…もう一人…この部屋に居る。

私たち二人の他にこの部屋にいるのは…

もしかして彼…比企谷くんでは…?

そう思った私は目をぱっちり開かせて周囲を見回した。


787: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:17:33.23 ID:xrmxt8ZR0


少女A「ようやく起きましたね。お二人共おはようございます。」


結衣「そんな…」


雪乃「また…あなたなのね…」


少女A「随分といいご身分ですね。部室で呑気にお昼寝なんて…
それなら部室じゃなくてさっさとお家に帰ったらどうですか?
ここはあなた方の寝室じゃありませんよ。」


どうやら私たちを起こしたのはこの女…少女Aだった。

まったく、寝起きにこんな女の顔を拝むだなんて…

正直最低な気分だ。


788: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:17:59.95 ID:xrmxt8ZR0


雪乃「それで…要件は何かしら。」


結衣「もしかして…依頼…?」


少女A「依頼?馬鹿なことを言わないでください。
こちらへ来た要件はこれです。雪ノ下さんこの書類に署名して頂けますか。」


この女は私たちの前に一枚の紙を出した。

それは退部届け。

氏名欄には『比企谷八幡』と記されている。

これは比企谷くんが奉仕部を辞めるためのモノだ。


789: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:19:46.02 ID:xrmxt8ZR0


少女A「あとは部長であるあなたの署名さえ頂ければ受理されます。早く書いてください。」


雪乃「ふざけないで!
部外者であるあなたがこんなモノを提出するなんて…私は認めない…」


結衣「そうだよ!大体これってヒッキーが書いたの!?」


少女A「いいえ、この退部届けは八幡が書いたものではありません。私が書きました。」


雪乃「なら論外よ。本人の意思を無視してよくもこんなものを捏造するわね…」


私はこの女が持ってきた退部届けの用紙をクシャクシャにしてゴミ箱へ捨てた。

別にこのやり取りは今回が初めてなわけじゃない。

何故ならこの一ヶ月間、ずっと同じことを繰り返しているのだから…


790: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:20:54.78 ID:xrmxt8ZR0


結衣「いい加減にしてよ…
もうこの一ヶ月ずっと同じことして!こんなの嫌がらせだし!?」


雪乃「私たちは彼を辞めさせるつもりもないし彼にもその意思はない。
あなたがやっていることは単なる独りよがり。
由比ヶ浜さんの言うようにくだらない嫌がらせにしか過ぎないわ。」


少女A「嫌がらせですか?
確かにあなたたちにしてみればそうかもしれません。
けどあなたたち…忘れてませんよね?あの日、一ヶ月前に起きたことを…」


この女がこんなことをしてくるようになったのは一ヶ月前。

それはあの事件が発端だ。

そう、一ヶ月前のバレンタインの試食会で起きたあの事件について…


793: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:27:38.06 ID:xrmxt8ZR0


『八幡!お願い…しっかりして!?』


『平塚先生!一体何やってるんですか!』


『これは…その…カズマが徹底的にボコれと言ったので…』


あの日、比企谷くんが平塚先生から徹底的に暴行を受けた直後のことだ。

小町さんたちは戸塚くんや材木座くんに戸部くん、先生方を連れて室内へと戻ってきた。

駆けつけた彼らは室内の惨状を見るなりすぐに平塚先生を取り押さえた。

それからあの女は警察に通報して平塚先生は傷害罪で逮捕されてしまった。

その後が大変だった…


794: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:28:15.95 ID:xrmxt8ZR0


『平塚先生が逮捕されたって!』


『なんでも生徒会長の比企谷をボコボコにしたそうだ。』


『あの人よく体罰してたからな。いつかやると思ってたよ。』


『けど何でそんな真似を?』


『どうやら雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣がやらせたらしい!』


『教師を言うこと聞かせて比企谷を殴らせたと?何それ恐い…』


『しかもカズマって男も関わっているらしいぞ。』


『おのれカズマ!毒蟲が!』


『カズくん最低だよ。』


教育指導の教師が生徒を、それも生徒会長に暴行を振るった。

それだけでも大事なのにさらに、

これまでにも平塚先生による比企谷くんへの暴行が問題視されてしまい…

平塚先生は懲戒免職の処分が下さて教師としての職を失った。

それに平塚先生という唯一の後ろ盾のなくなった私たちは、

この学校一の悪人として扱われるようになった。

何で…どうしてこんなことに…


796: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:28:53.03 ID:xrmxt8ZR0


少女A「あの日、あなた方は八幡を容赦なく傷つけました。
八幡が…あの後3週間近く入院していたのをあなたたちは知ってましたか…?」


雪乃「けど…だからといってあなたにそこまでする権利はないはずよ…」


結衣「そうだよ…私たちヒッキーと離れたくないし…」


彼と一緒に居たい。

その想いをこの女に言ってみせた。

けれどこの女に私たちの想いが伝わるはずもなかった。


797: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:31:18.26 ID:xrmxt8ZR0


少女A「離れたくないって…ふざけないで!
それなら何で八幡を傷つけたの?彼が傷つく姿を見てなんとも思わなかったの!?」


雪乃「あの時は…私たちも冷静ではなかったから…」


結衣「ほら、優美子たちに色々言われたあとで頭に血が上っていたみたいな…」


少女A「そんな理由で彼を傷つけていいことになるわけないでしょ。
何でそんなこともわからないの!あなたたち…八幡に甘えるのもいい加減にしてよ!?」


雪乃「とにかく退部届けを出すならせめて比企谷くん本人を連れてきなさい。
そうでなければ私たちはこの退部届けを受理することなどできるはずがないわ。」


少女A「八幡をこんなところへ行かせるわけないでしょ。
それに私が八幡にここへは行かないようにきつく言ってありますからね。」


結衣「何でそんなことをするの?それじゃあヒッキーここへ来れないじゃん!」


少女A「当然ですよ。
彼を傷つけるようなあなたたちがいるこの部室に近づけさせることなんて出来ますか?」


そう言ってのけたこの女の目が私には酷く冷酷に見えた。

まるで私たちのことを何か汚らしいモノを見ているようにすら思えてならない。

けどそれだけでは収まるはずもなかった。


800: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:36:40.35 ID:xrmxt8ZR0


少女A「むしろ雪ノ下さんたちが八幡の前で謝るべきですよね。
彼に傷を負わせたのはあなたたちなんだから。
言っておきますが八幡はまだあの時の傷が残っていて満足に身体を動かせないんですよ。」


雪乃「けど…あれは…」


結衣「平塚先生がやったことだし…」


少女A「そうですね。あなたたちは悪くありませんよね。
あの日、八幡が重傷を負わされて平塚先生が警察へ連行されていく時、
先生方があなたたちのことを問い質したらお二人はこう言いましたよね。」



『私たちは何もしていない。平塚先生が勝手に暴行を行っていた』



あの時、確かに私たちはそう言った。

仕方がない。それが事実なのだから…

私たちは比企谷くんに手を出してはない。

それなので学校側が私たちに罰を与えることはなかった。

でもその答えに誰も納得などしなかった。


801: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:38:23.96 ID:xrmxt8ZR0


『雪ノ下と由比ヶ浜は平塚先生を利用して比企谷を傷つけた』


『自分たちの手も汚さずに…最悪じゃね?』


『比企谷の恋人の副会長は土下座までしたのにそれすら許されずにトドメ刺したとか…』


『恐っ!女の恨みは恐ろしいわな!』


私たちに流される最低最悪な悪評の数々…

噂は瞬く間に炎上して止めることなど出来やしない。

それに小町さんたちも…


803: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:41:00.62 ID:xrmxt8ZR0


『よくもお兄ちゃんをあんな目に!二度とお兄ちゃんに近づかないで!』


『先輩に重傷負わせて何の罰も受けないとか。本当雪ノ下先輩たち最低ですね。』


『あーしはアンタらのこと絶対許さないし!』


『確かに修学旅行の件はゴメン。けどこれは…』


『ほら、比企谷くんに謝りに行こうよ。私も協力するから!』


『本当アンタらって最低だね。』


『八幡はウチのことを救ってくれた。その人を傷つけるなんて…』


あの場にいた小町さん、三浦さん、海老名さん、一色さんたちからも散々罵られた。

気づけば私たち二人はこの学校で最も恐れられる悪女と化していた。


804: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:43:17.38 ID:xrmxt8ZR0


少女A「まあ…あなたたちが八幡に謝罪するとは思えませんけど。
お二人とも2年前の事故の件を有耶無耶にして終わらせていますからね。」


結衣「だって…あの事故は…
仕方ないじゃん。ほら、こういうのはタイミングが大事だし…」


少女A「タイミングなんてこの2年でいくらでもあったはずですよ。
むしろこの2年間あなたは何をしていたの。
まさか八幡の方から声をかけてくれるとでも思っていたわけじゃないですよね?」


雪乃「いい加減あの事故の件を蒸し返すのはやめなさい。
それにあなたが私たちに比企谷くんと会わせてくれるなんて到底思えないのだけど。」


少女A「ええ、仰る通り私はあなたたちを八幡に会わせたくなんかありません。
今のあなたたちが八幡に何をするのかわかりませんからね。
けれど…八幡はそうでもないみたいですけどね…」


比企谷くんは私たちと会おうとしてくれている…?

その言葉に私たちは思わず反応した。


807: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:45:04.86 ID:xrmxt8ZR0


少女A「クリスマスの時に聞いたけど八幡はいつかあなたたちともう一度話し合いたいと…」


雪乃「その時…彼はなんて言っていたの?」


少女A「いつまでもあなたたちから逃げるわけにはいかない。そう言ってました。
それともうひとつだけ言っておくことがあります。
あのあなたたちがやらかした屋上での嘘告白、八幡はあなたたちのことを信じてた。
決してそんなことをやるような人たちじゃないって一ヶ月前のあの日までね。」


結衣「それなら私たちがヒッキーと仲違いする理由なんてないってことだよね!」


今の話を聞いて、

由比ヶ浜さんはまるで欲しがっていた玩具を買って貰えた子供のように喜んでいた。

でも私は安易にこの話を喜べない。

この女はさっきこう付け加えていたはずだ。

『一ヶ月前までは』と…


808: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:46:54.56 ID:xrmxt8ZR0


雪乃「つまり、今はもうちがうということね。」


少女A「そうです。一ヶ月前のあの日以来八幡はあなたたちを信じられなくなった。
今ではもう疑心暗鬼に駆られて見ている私たちの方がつらい…どうしてこんなことに…」


結衣「だからそれは誤解だよ!ちゃんと話せばヒッキーだってわかってくれるよ!」


少女A「ちゃんと話せばって…どうやってお話しするんですか?
八幡はあなたたちが恐くてこの部室に近づけないし私だって行かせるつもりはない。
それにあなたたちがわざわざ八幡のところへ行くとは思えませんしね…」


やはりこの女は簡単に比企谷くんに会わせようとはしてくれない。

それどころか追い打ちをかけるようにある話を始めた。

それは奉仕部の存亡に関わるものだ。


809: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:49:44.35 ID:xrmxt8ZR0


少女A「最後くらいあなたたちなりの誠意を見せてほしかったのですが…」


雪乃「最後とはどういう意味なの…?」


少女A「これは昨日の職員会議で決定したことらしいですけど
奉仕部は今月で廃部が決定しました。当然ですよね。顧問がいなくなったんですから。」


雪乃「そんな…奉仕部がなくなるなんて…」


結衣「それじゃあヒッキーもう来れないよ…」


少女A「まだそんな心配してるの?
最後くらいこんな部活から八幡を開放してあげるくらいの誠意があればいいのに…
あなたたちは本当に救えませんね。」


そう吐き捨てながらあの女は部室を出て行った。

私たちの方から出向かなければこの先ずっと彼とはわかりあえない。

そんな話を聞かされて私たちはどうすべきか悩んだ。


811: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/26(火) 21:51:11.67 ID:xrmxt8ZR0




「 「アッハハハハ!馬鹿だ!馬鹿がいる!!」 」




そんな時、突然誰かの笑い声が聞こえてきた。

由比ヶ浜さんは唖然としていたけど私はこれと似たようなことを聞いた覚えがある。

あれは文実のスローガン決め会議の際に比企谷くんが意見した、


『人~よく見たら片方楽してる文化祭~』


あの時、誰もが今の由比ヶ浜さんと同じく唖然とした中で一人だけ爆笑していた。

これは姉さんの笑い声だ。


881: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:23:51.36 ID:d55hgFNB0


陽乃「あー、雪乃ちゃんたちはやっぱり面白いねぇ♪」


結衣「陽乃さん…」


雪乃「姉さんよくも私の前に顔を出せたわね!あなたのせいで私たちは…」


今の光景を見てお腹を抱えて爆笑している姉さんに私は怒りがこみ上げた。

こうなったのも全て姉さんの所為だ。

一ヶ月前のあの日、わざとらしく我が家のハイヤーをみんなの前に見せた。

あんなことをすればどうなるのか姉さんなら予想できていたはずなのに…


882: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:24:39.17 ID:d55hgFNB0


陽乃「へぇ、私のせいだって言うんだ?
ここまで事態が深刻だっていうのに未だに誰かの所為にする癖が治らないなんて…
これはもう重症だね。」


結衣「そんな…だって陽乃さんが…
みんなの前で車を見せなければ知られることもなかったんですよ!」


陽乃「え~?お姉ちゃん悪いことしたのかな~?
あの時は可愛い妹を連れて帰ろうとしただけだよ?それって悪いことになるの~?」


姉さんは惚けた振りを装いながら私たちを冷やかしている。

そんな姉さんの態度は今の私たちにとっては腹立だしいだけだ。


883: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:25:18.23 ID:d55hgFNB0


陽乃「まあちょっとは悪かったと思うよ。
まさかお姉ちゃんもこんな事態になるとは思わなかったからね。
でも、事故の件に関しては二人に問題がなかったとは言わせないよ。」


雪乃「だからもう事故の件は片付いていると何度も言ってるはずよ。」


陽乃「片付いてる…?
私も夏の花火大会の時に比企谷くんがうちのハイヤー不思議そうに見て、
雪乃ちゃんが事故の話をしていないことに気づいたんだよ。
あの時はお姉ちゃんも、
雪乃ちゃんが比企谷くんに事故のことを話したと思ってたから恥かいちゃった。
まったく雪乃ちゃんのせいだからねプンプン!」


どうやら姉さんは夏の花火大会の時に、

比企谷くんが我が家の車を見て私が彼に事故の件を話していないことに気づいたようだ。

私はそのことを今まで全然知らなかった。

きっと私を想って二人は言わなかったのだろう。


884: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:26:23.14 ID:d55hgFNB0


陽乃「確かに事故の件はお母さんたちが処理してくれたよ。
でもそれはあくまで普通の対応だからね。
だからといって雪乃ちゃんが何もしなくていいという話じゃないんだよ?」


雪乃「それなら私は何をしたらよかったの…?」


陽乃「簡単だよ。一応形だけでも謝っておけばよかったんだよ。
親や保険会社が責任取ってくれたから自分は何もしないのは甘えだと思わないのかな?」


形だけでも謝れだなんて…

まさに人付き合いで仮面をつけている姉さんならではの発想だ。

そんなのは嘘や欺瞞でしかない。

その行為に何の意味があるの…?


885: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:27:54.85 ID:d55hgFNB0


陽乃「こんなの嘘や欺瞞だと雪乃ちゃんは思うだろうね。
けど事故の被害者である比企谷くんに対して何も言わない方が卑怯だと思わないの?」


雪乃「仕方ないでしょ…私が事故を起こしたわけではないのだし…」


陽乃「いい加減学びなよ。そんなことだからこんな事態になったんだよ。
それとついでに言っておくけど今回の件はお母さんの耳にも入っているからね。」


雪乃「え…なんですって…?」


陽乃「当然だよ、ここまで噂が広まってるんだから。
うちの親は県会議員で建設会社の社長、その馬鹿娘が学校で騒動を起こした。
そうなれば各家庭の親御さんに知れ渡り我が家の今後のお仕事に差し支えるわけだしね。
だからお母さん雪乃ちゃんにカンカンだよ。」


姉さんの話によると、

両親はわざわざ比企谷くんの家まで出向いて謝罪したらしい。

そこで両親は比企谷くんの前で深々と頭を下げてお詫びしたそうだ。

そのことで特にお母さんは私に対して心底失望したとか…

只でさえ苦手な母なのにまた厄介なことになったものだ。


886: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:29:46.20 ID:d55hgFNB0


陽乃「それにしてもよくもまあここまで見事に事態が悪化したよね。
私の思惑としては事故の件を改めて説明してそれで和解に持ち込めればと思ってたけど…
けどここまで拗れるとはさすがのお姉ちゃんも思わず引いちゃうほどだよ。
どうしたらこんな風になるの?」


結衣「これというのも…全部あの子のせいだよ…」


雪乃「そうね。
あの女が比企谷くんを救うなんて依頼をしなければこんなことにならずに済んだのに…」


陽乃「比企谷くんを救う依頼ねぇ。
考えてみればあなたたちは随分と難易度の高い依頼を引き受けたもんだよね。」


比企谷くんを救うことが難易度の高いことだと呟く姉さん。

何故彼を救うことが困難なのか、ふと疑問に思ってしまった。


887: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:30:17.19 ID:d55hgFNB0


雪乃「何故…彼を救うことが困難だというの…?」


陽乃「あれれ?まさか知らずにこの依頼を引き受けたの?」


結衣「だってヒッキーを救うっていうのがおかしいし。ヒッキー別に困ってなかったし…」


陽乃「そうかな。部外者の私から見ても彼を取り巻く環境はかなり最悪だったと思うよ。」


姉さんは比企谷くんを救うというこの依頼をこなす上であるいくつかの要因を上げた。

それは3つの要因。

その3つの要因を姉さんは淡々と説明した。


888: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:35:44.56 ID:d55hgFNB0


陽乃「まずこれはもう解散しちゃったけど隼人のグループ。
いつも奉仕部というか比企谷くんに無理難題を押し付けてきたでしょ。あれはやばいね。」


結衣「でもそれは…隼人くんが私たちを頼ったからで…」


陽乃「自分たちのグループの問題を余所に頼むことがそもそも間違いなの。
以前彼女ちゃんが指摘してたけど、
依頼を解決できなかったら隼人は間違いなくその責任を奉仕部に押し付けていたはずだよ。
あいつがここへ依頼しに来ていたのは今思えばそういうことだったんじゃないかな~?」


雪乃「そうかもしれないわね…」


由比ヶ浜さんは残念そうな顔をしているけど私はこの話に辻褄が合うと思う。

そもそも修学旅行の件。

あんな厄介な問題を私たちに押し付けなければこんな拗れたことにはならなかったはずだ。

いなくなって改めて思い知らされる。

やはりあの男は私にとって害でしかないのだと…


889: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:36:29.06 ID:d55hgFNB0


陽乃「それと次は静ちゃん。」


結衣「何で平塚先生…?」


陽乃「だって静ちゃんいつも問題事を押し付けてばかりで責任は取らないんだよ。
こんなわけのわからない部に強制入部させて逆らえば暴力で脅す。
たまにいいこと言ってるけどやってることは最悪じゃないの?」


陽乃「大体奉仕部って無償で動くんだよね。
つまり解決したところで比企谷くんの利益になるようなことは何もない。
それどころか動く度に悪く言われるなんて、
比企谷くんはこの部活やっていいことあるのかな~?」


雪乃「確かに…そうね…」


度重なる比企谷くんに対する暴行…

冷静になって考えると教師としてあの対応はどうかと…

だからあの人結婚できないのではないのか?


890: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:37:36.66 ID:d55hgFNB0


陽乃「それと最後は奉仕部。」


陽乃「もっと正確に言うと雪乃ちゃんとガハマちゃんの二人だね。」


結衣「そんな…何で私たちなの…」


雪乃「どういうことよ姉さん!?」


最後に私たちの名前を上げる姉さん。

何故私たちが…

そう思った私たちは姉さんに抗議した。

姉さんは私たちの抗議に呆れた顔を見せながらこう答えた。


891: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:38:16.82 ID:d55hgFNB0


陽乃「まさか無自覚なんてね…
考えてみなよ。あなたたちはこれまで比企谷くんとどう接してきた?」


結衣「どうって…普通にお話したりしてたし。」


雪乃「そうよ。彼を蔑んだことなんて一度もないわ。」


陽乃「コラコラ、嘘はいけないぞ!わからないならお姉ちゃんが教えてあげるよ~♪」


それから姉さんはまるで無邪気な子供みたいな笑顔で語りだした。

私たちがこれまで比企谷くんに行ったことについて…


892: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:38:52.65 ID:d55hgFNB0


陽乃「まずガハマちゃん。
最初にクッキーを作る依頼を口実にしながら、
2年前の事故の件を知らせることもなく比企谷くんに接したね。」


結衣「それは…あの時はまさかヒッキーが奉仕部にいるとは思わなかったから…」


陽乃「でも会った時にちゃんとお礼なり言っておけば彼も気を遣わずにすんだよね。
どうして自分の都合ばかり気にして比企谷くんの気持ちを考えてあげなかったのかな?」


結衣「だって…タイミングが…」


陽乃「それはさっき彼女ちゃんに言われたでしょ。
タイミングなんてこの2年間でいくらでもあったはずだって。
それが出来なかったのは単にガハマちゃんに打ち明ける勇気がなかっただけじゃん。」


姉さんは由比ヶ浜さんに反論を受け付けないほどの正論を叩きつけた。

それだけでなく…


陽乃「ガハマちゃん。もっと人の気持ち考えなよ。」


修学旅行で由比ヶ浜さんが言ったことをそのまま突き返すという皮肉まで。

私は彼女のために抗議しようとそれができない。

何故なら次は私の番だから…


893: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:41:33.70 ID:d55hgFNB0


陽乃「続いて雪乃ちゃん。
あなたもガハマちゃんと同じ…ううん。あなたはもっと悪質かな。」


雪乃「何故私が悪質なの…?」


陽乃「だってそうでしょ。
こんな人助けのボランティアを謳った部活を作っておきながら、
あなたは嫌な問題を全て比企谷くんに押し付けた。要は甘えていたわけ。」


雪乃「私は甘えてなど…」


陽乃「思いっきり甘えていたよ。
例えば最初の依頼、ガハマちゃんのクッキー作りだけど美味くなるまで続けさせるだっけ。
結局最後は比企谷くんが女子の手作りならなんでもOKですませたよね。
あれって雪乃ちゃんに発想できた?できないよね。
きっと馬鹿の一つ覚えみたく美味く出来るように最後までやらせていたはずだよ。」


陽乃「続いて隼人が持ち込んだテニス勝負だね。
何でその場でちゃんと断ろうとしないの?
あの勝負ってあなたたちが勝っても何も得がないよね。
しかも雪乃ちゃんは部長だよ。毅然とした態度で断らなくてどうするの?」


陽乃「それにチェーンメールの件もそうだよ。
雪乃ちゃんは何かやった?何もやってないよね。
まず雪乃ちゃんはF組じゃないから満足な対応ができない。
それなのに犯人捜しだって自分だけ息巻いてたとか滑稽にしか思えないよ。」


陽乃「他には夏合宿だっけ。
あれは随分と危ない橋を渡ったよね。下手したら警察沙汰だったはず。
小学生同士のイジメなんて放置しておけばいいじゃん。
どの道、部外者のあなたたちは何かできるほど親しい関係じゃないんだし…
それよりも小学校側に子供を脅してたのがバレてたらどうなってたと思う?
全員なんらかの処分を受けてたよ。責任も取れないのによくもやらかすよね。」


姉さんはどこで知ったのかこれまでの奉仕部の活動の欠点をネチネチと上げていった。

何故あなたにそこまで言われなければならないの…?

それは全部私たちが頑張ってきた結果なのだから。


894: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:42:17.47 ID:d55hgFNB0


陽乃「私だって雪乃ちゃんが頑張っていたらこんな小姑みたく言わないよ。
問題はこれが全部比企谷くんの頑張ったことだから。
雪乃ちゃんたちはそんな比企谷くんにおんぶに抱っこ状態だったでしょ。
あなたたちはうまいこと彼に乗っかっただけなのが問題なの。」


結衣「そんなことない!私たちだって頑張ったし!」


陽乃「へぇ、それじゃあたとえば?言ってみなよ。」


結衣「それは…ほら…文化祭の時…
いなくなったさがみんをヒッキーが連れ戻すために…
私たちが時間稼ぎしてライブをやりました…」


由比ヶ浜さんの言葉を聞いて私は思い出した。

確かに私たちは彼に頼ってばかりではない。

文化祭の時、逃げ出した相模さんを比企谷くんが探すための時間稼ぎを行った。

あれこそ私たち奉仕部が一丸となって成し遂げたことのはずだ。


895: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:42:43.53 ID:d55hgFNB0


陽乃「ああ…あのライブ…」


陽乃「あれが…あなたたちが一丸となって頑張ったって…」


陽乃「プ…ププ…」


陽乃「アハハハハハハ!本当に笑わせてくれるね!!」


姉さんは先ほどみたくまた爆笑している。

何故笑うの…?

あなただってあのライブに参加していたはずなのに…


897: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:43:54.41 ID:d55hgFNB0


陽乃「あー、面白かった。けど今のは最高に笑えたよ。」


結衣「何で笑うんですか!あの時私たちは必死で時間稼ぎを…」


雪乃「由比ヶ浜さんの言う通りよ。
彼を行かせるために私たちは時間を稼いだ。その結果、彼は相模さんを探し出せた!」


その後、彼は相模さんに暴言を吐いて無理やり連れ帰った。

確かに比企谷くんのやり方はよくなかった。

けどそのことを姉さんに否定される筋合いはないはずだ。


陽乃「やっぱり文化祭の頃からあなたたちは歪んでいたんだね。」


雪乃「歪んでいたってどういうこと…?私たちは歪んでなんて…」


陽乃「おまけにこれまた自覚無しとは酷いね。」


姉さんは私に対して『歪み』を指摘した。

歪みなんて…一体…何のことなの…?


898: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:45:32.35 ID:d55hgFNB0


陽乃「そもそもあのライブだけど、
確かにお姉ちゃんも楽しかったよ。可愛い妹と壇上で一緒に歌えたし…
でも本来あれはちがうんじゃないかな?」


結衣「ちがうってどうしてですか…?」


陽乃「それじゃあ言うね。
相模ちゃんの依頼、引き受けたのは一体誰だったかな?」


雪乃「それは…私が…相模さんの依頼を引き受けたから…」


陽乃「そう、引き受けたのは雪乃ちゃんだね。
それならあの時、
相模ちゃんを探しに行くのは比企谷くんじゃなくて、
相模ちゃんから直接依頼を受けた雪乃ちゃんの役目になるよね。
それを何で比企谷くんに押し付けたの?」


確かに姉さんの言うことはある意味正しいのかもしれない。

けどそれは無理な話だ。

何故なら私は文化祭では副委員長の職務に携わっていた。

その私が持ち場を離れて相模さんを探しに行くことなんて不可能だ。


899: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:48:01.99 ID:d55hgFNB0


陽乃「なるほど、確かに副委員長の雪乃ちゃんが持ち場を離れちゃダメだよね。
もっともな言い訳だね。でもあの場には生徒会長のめぐりが居たよ。
だからあの場をめぐりに任せてあなたも探しに行くべきだったんじゃないかな?」


雪乃「そんなの…今更な話よ…
第一、私たちがいなければあのライブは成立しなかったはず…」


陽乃「ライブは私に任せれば良かったんだよ。
お姉ちゃんは雪乃ちゃんの分までフォローしてあげたよ。」


結衣「そんな…だってゆきのんがいたからあのライブは盛り上がったんだし!」


私と由比ヶ浜さん。私たち二人がいたからこそあの時間稼ぎは成功したはずだ。

けれど姉さんはそのことに納得などできるはずもなかった。


陽乃「うん、ライブは大成功。
あなたたちは学校のみんなから賞賛を浴びた。
それに相模ちゃんも逃げたという汚名を被せられることもなく文化祭を全うできた。
うん、よかったね。」


雪乃「いい加減冷やかすのはやめなさい。何が言いたいの!」


陽乃「それじゃあ言うよ。雪乃ちゃんたちは…」



「卑怯だよね…」



姉さんは私たちのことを卑怯と罵った。

何で…どうしてあの女みたいなことを言うの…?


900: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:49:34.55 ID:d55hgFNB0


陽乃「雪乃ちゃん…
比企谷くんが相模ちゃんを見つけ出せると期待したのはよかったよ。
けどその後、比企谷くんがどうやって相模ちゃんを呼び戻せると思ったの?」


雪乃「それは…彼が…」


陽乃「改めて考えてみれば無理な話だよね。
文実のスローガン決め会議で比企谷くんは相模ちゃんに暴言を吐いた。
それであの時の比企谷くんと相模ちゃんの仲は最悪だったはず。
そんな比企谷くんじゃ相模ちゃんを連れ戻すのは普通に考えれば不可能だよ。」


そういえばそうだった。

スローガン決めの会議で彼は相模さんに暴言を吐いた。

確かに姉さんの言うように、

あの時の比企谷くんでは相模さんを連れ戻すなど普通なら不可能なはずだ。


901: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:50:19.19 ID:d55hgFNB0


陽乃「まあ雪乃ちゃんでも無理だね。
雪乃ちゃんは文実で相模ちゃんの仕事を全部奪っていたから。
あれなら最初から雪乃ちゃんが委員長になればよかったのにね。」


雪乃「そんなの結果論よ。あの時どうすればよかったのかなんてわかるはずがないわ。」


陽乃「そうでもないよ。
雪乃ちゃんはある程度の予想は付いたはず。
誰が行こうがあの時の相模ちゃんを呼び戻すなんて無理だとわかっていた。
それは勿論雪乃ちゃんも含めて。だから敢えて比企谷くんを行かせた。
本来なら自分がやるべきことの身代わりになってもらうためにね。
上手くいけば儲け物、失敗しても自分は咎められることもないと判断したのかな。
その思惑通り、相模ちゃんは連れてこれたけど代わりに比企谷くんの悪評が広まった。」


陽乃「つまりあなたは自分が逃げるための口実が欲しかったんだよ。
それももっともらしい理由がね。
そのために彼を利用した。そして上手いこと責任逃れをやってのけた。」


陽乃「わかるかな?
あのライブこそ雪乃ちゃんが依頼を受けておきながら、
面倒で嫌なことを比企谷くんに押し付けて逃げたことの証だよ。」


姉さんはあのライブの件をこれでもかというほど攻め立てた。

勿論否定しようと思った。

けれど…何も言い返せない…

結果がその通りだから…

姉さんの言うようにライブで会場は大盛り上がりした。

でもその裏で彼は相模さんの説得を行っていた。

無理かもしれなかった私の願いを彼は叶えてくれたのは事実だ。

彼と相模さんの間にトラブルが起こることなど私には予想できたはずなのに…


902: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:50:52.93 ID:d55hgFNB0


結衣「やめてよ陽乃さん。ゆきのんだってつらいんだよ!」


陽乃「あらあら、他人事のように言ってるけどガハマちゃんも同じでしょ。」


続いて姉さんの矛先は由比ヶ浜さんに向けられた。

今度は何を言う気なの…?


陽乃「あの文化祭の時、ガハマちゃんは何をしていたの?
相模ちゃんの依頼であなただけ何もしていないように思えるけど…」


結衣「それは…私はクラスの出し物に加わっていて…
でもゆきのんが休んだ時に言ったんです。

『私とヒッキーを頼ってよ』

だからゆきのんが私を頼ってくれたことが嬉しくて…」


由比ヶ浜さんは、

文実の作業で過労により倒れた私をマンションで勞ってくれた時のことを話してくれた。

確かにあの時の由比ヶ浜さんの言葉に私は救われた。

だからこそあのライブで彼女を頼ることができたのだから。


903: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:51:45.83 ID:d55hgFNB0


陽乃「私とヒッキーを頼ってよ…か…
ガハマちゃん、それはちょっと狡いんじゃないかな。」


結衣「狡いって…私はゆきのんを心配して…」


陽乃「あなたが言ったことはつまり保険でしょ。
自分は何も出来ない。
でもそこに無理やり比企谷くんを入れることで助けることを成立させる。
ガハマちゃんは何もせずいざとなれば比企谷くんに丸投げ出来てあとは知らんぷり。
それで丁度いいタイミングに現れて雪乃ちゃんに協力を申し出てライブを行う。
いやぁ、いいとこ取りだなんてガハマちゃんも雪乃ちゃんに負けず劣らずの策士だね!」


姉さんは最低な解釈で由比ヶ浜さんを煽った。

豪快に笑う姉さんとは対照的に青ざめた顔になる由比ヶ浜さん。

やめて…彼女を傷つけないで…


904: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:53:31.97 ID:d55hgFNB0


陽乃「それにガハマちゃんは比企谷くんを文化祭の打ち上げに誘おうとしたらしいね。
それってさ、あの時の比企谷くんにしてみればかなり酷い仕打ちになるんじゃないの~?」


結衣「酷いってどうして…?」


陽乃「だってそうでしょ。
文化祭で比企谷くんは屋上で相模ちゃんに暴言を吐いたって噂されてたんだからね。
そんな彼を打ち上げに行かせていたらどうなっていたと思う?
間違いなく彼はその場でバッシングされていただろうね。
それであなたはどうしてたかな?
そんな比企谷くんは置いて素知らぬ顔でもしてお友達とお喋りでもしてたのかなぁ?
うわっ!自分で誘っておきながらあとは知らぬ存ぜぬだなんて…私でもやらないよ!」


結衣「ちがう…そんなことしないよ…」


陽乃「そんなことしないって…
そもそもそんな場所へ誘おうとすること自体配慮が足りてないよね。
まさに追い打ちってヤツ~?」


結衣「だからちがう!私はヒッキーが…そんな…」


姉さんの言葉に由比ヶ浜さんはもう何も言えずにいた。

何もそこまで言う必要はないはず…

けど話はまだ終わらなかった。


905: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:54:57.78 ID:d55hgFNB0


陽乃「それで話を戻すけどさっきの歪みのことだけどね。
これは以前比企谷くんにも言ったけどこの部活の理念は確か…
飢えた人に魚を与えずその取り方を教えるんだっけ?」


雪乃「そうよ…私たちはこれまでその方針でやってきたのだから…」


陽乃「でも文化祭ではその方針がズレていたんじゃない?
雪乃ちゃんは相模ちゃんの仕事を殆ど請け負っていた。
あれじゃあ飢えた人にそのまま魚を与えていただけだよ。本人全然成長しないよね。」


結衣「でもそれはあの時のさがみんがサボッていたから…」


陽乃「それこそ雪乃ちゃんが諌めなきゃならないことでしょ。
ていうか文実で私が煽った時もそうだよね。
雪乃ちゃんは何と言われようと頑なに拒否するべきだった。
何故それができなかったのかな~?」


姉さんの私に対する鋭い詰問。

そして姉さんは核心を突く一言を発した。


陽乃「答えは簡単。
雪乃ちゃんは他人を嫌うことは出来るけど嫌われるのが嫌だから。」


雪乃「な…何を…言って…」


陽乃「否定しちゃダメだよ。それで全ての辻褄が合うんだから。
雪乃ちゃんは一見孤立しがちだけどみんなの憧れ。
努力しているというのも要は他人から嫌われたくないから憧れの存在として偽るだけ。
昔イジメられてたもんね。その時の斜め上の発想でそう振舞うようになったんだよね。」


結衣「でも…それは悪いことじゃないですよ!」


陽乃「勿論それが悪いことにはならないよ。
問題はその嫌われるようなことを自分でやろうとせず人に押し付けることがダメなの。」


それから姉さんはこう語った。

文実で相模さんや姉さんの意見を否定できなかったのは、

あの場で私がみんなの嫌われ者になる度胸がなかったからだと…

それだけではない。

ライブの時も私が比企谷くんのような嫌われ役になりたくないから

その役を押し付けたのではないのかと改めて問い詰めてきた。


906: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:55:26.50 ID:d55hgFNB0


陽乃「さてと、文化祭で彼はこの学校のほとんどの人たちから嫌われちゃったね。」


結衣「それは…けどヒッキーには私たちがいるし!」


雪乃「ええ、私たちは彼を見捨てはしなかったわ。」


確かに文化祭の後でも私たちは彼を見捨てはしなかった。

あの屋上での一件のあとでも私たちの仲に影響はなかった。

むしろ以前よりも絆を深めたのだから…


907: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:56:13.47 ID:d55hgFNB0


陽乃「それなら修学旅行での件。
あなたたちは比企谷くんが行った嘘告白を目撃して彼を見捨てた。」


結衣「それは…」


雪乃「あれは葉山くんたちが悪いのよ。」


陽乃「確かに一番悪いのは大事なことを黙っていた隼人だね。
けどあの時、雪乃ちゃんたちはあっさりと比企谷くんを見捨てた。
それも自分たちが受けたふざけた依頼をただ一方的に押し付けて…
その結果、彼はまた人から誤解をされるようになった。」


姉さんの言うように私たちは修学旅行で彼を見離してしまった。

それは一時の感情による過ちだったかもしれない。

けど問題はそれだけではなかった。


908: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:57:17.85 ID:d55hgFNB0


陽乃「ここでひとつ、ある問題が出てくるね。
雪乃ちゃんって比企谷くんが入部した時、静ちゃんにあることを頼まれていたよね。
それが何だったか覚えているかな?」


雪乃「ええ、比企谷くんの孤独体質の更生を頼まれたわ。」


陽乃「そうだね、彼の孤独体質の更生。
けどさぁ、修学旅行の件で比企谷くんの悪評は広まり、
周りから疎まれ、さらに酷く孤立してしまったよ。
この状況でどうやってその更生を行うわけ?」


陽乃「それにあなたたちは彼を見捨てた。
あなたたちから見捨てられたら比企谷くんがどうなるかわかるよね。」


姉さんの鋭い指摘が私の心に突き刺さった。

修学旅行の時点で彼に対する周囲の反応は最悪だった。

そんな彼を中途半端に見離せばどうなるかなんて…

彼は学校のみんなから孤立して結局孤独体質が悪化するだけだ。


結衣「でもヒッキーには私たちがいるから…」


陽乃「だから自分たちだけが比企谷くんのいいとこを知っていればいい。
そう思ったわけだね。
でもそれはちがうんじゃないの?それじゃあ彼の孤独体質の改善にならないよ。」


姉さんはこう言った。

私たちが仲良くなることと彼の孤独体質の改善はまったくの別物だと。

その私たちの勝手な解釈で彼の状況を利用しているようなものだとそう言ってのけた。


909: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:58:24.26 ID:d55hgFNB0


陽乃「それにしても考えてみれば本当に酷い話だよ。
比企谷くんは孤独体質の改善だと言われて奉仕部に強制入部させられた。
けど雪乃ちゃんやガハマちゃん、それに静ちゃんからの後始末を押し付けられてばかり。
それなのに肝心の自身の更生とやらは何もなされていないからねぇ。」


陽乃「それでもし修学旅行の件を誤解されたままでいたら彼はどうなっていたかな?」


陽乃「彼の人間不信はさらに酷くなってそのうち誰も信じることができなくなるよね。」


陽乃「おまけにそれを助長した雪乃ちゃんたちは、
罪の意識なんて感じずにその後もずっと彼に面倒事を押し付けていたのかな?」


陽乃「そう考えたらあの彼女ちゃんに正せてもらえて正解なんじゃないの。」


姉さんはあざ笑うかのようにあの女が私たちに行った仕打ちを肯定してみせた。

あの女のやり方が正しいなんてありえない。

現に私たちの仲は引き裂かれてしまったのだから。


910: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:58:51.44 ID:d55hgFNB0


陽乃「結局あなたたちは試食会でみんなに指摘された通りだったね。」


陽乃「三浦ちゃんからはさっさと謝りに行けと言われた。」


陽乃「いろはちゃんには空気が読めてないと言われた。」


陽乃「相模ちゃんにはあなたたちは比企谷くんを見下していると…」


陽乃「川崎ちゃんからは園児の妹ちゃんでも謝ればすぐにすむって言われてるし…」


陽乃「まさにその通りじゃん。
みんなから指摘されたことこそがあなたたちは歪んでいるなによりの証拠だね。」


まさかここまで言われるとは思わなかった。

でもあそこまで敵視される筋合いはないはずなのに…


911: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 19:59:46.22 ID:d55hgFNB0


陽乃「みんなが敵意を向けていたのはあの子たちが比企谷くんと信頼を築いたからだよ。」


雪乃「けどそれでどうして…私たちはみんなと顔見知りのはずなのに…」


陽乃「それはガハマちゃんにならわかるんじゃないかな。」


結衣「私になら…?」


以前の由比ヶ浜さんは二つのグループを行き来していた。

葉山くんグループと私たち奉仕部。

でもそれが何を意味するのかがわからない…


陽乃「たとえばの話だよ。
一方のグループで認められていたことが、
余所のグループではそれが変だと指摘されたという経験はあるかな?」


結衣「あ、それは…」


陽乃「うん、つまりそういうことだよ。
あなたたち奉仕部が比企谷くんに行っていたことがもう一方の…
まあこれは今現在彼女ちゃんを含めて比企谷くんと親しい人たちのことだね。
その人たちにしてみれば異常だと思われていたんだよ。」


雪乃「けど…彼女たちには…関係ないはずよ!」


陽乃「そうでもないよ。
仲のいい人が不当な目に合っているんだから…
今まであなたたちが比企谷くんへ行ってきた数々の愚行。
それは本来なら許されるべきものじゃないの。」


陽乃「思い出してみなよ。
車の事故から始まってそれから今日まで比企谷くんとの間に何があったのか…」


その話を聞き私はこれまでのことを思い出していた。

きっかけとなった車の事故

比企谷くんの奉仕部への強制入部

テニスの勝負

夏の合宿

文化祭

修学旅行

それにあの屋上での嘘告白に先月の試食会での出来事

全ての事柄において彼のみが嫌なことを背負わされている…


912: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:01:49.20 ID:d55hgFNB0


陽乃「それに三浦ちゃんたちは一応比企谷くんに謝っているからね。
対して雪乃ちゃんとガハマちゃんはバレンタインの試食会を口実にちょっかいを出しただけ。
あの子たちが雪乃ちゃんたちにムカついたとしてもそれは仕方のないことだと思うよ。」


陽乃「それにあなたたちが本来すべきことは、
バレンタインのチョコを上げることでも愛の告白をすることでもない。」


陽乃「まず比企谷くんに面と向かって謝ることだった。」


陽乃「それなのにあなたたちは…
修学旅行からもう数ヶ月も経ってるのに前に進めていない。」


陽乃「だからあなたたちはこの学校のみんなから敵意を向けられるようになってしまった。」


陽乃「雪乃ちゃん、試食会の時に私の質問を覚えているかな?」


試食会で姉さんが言ったあの質問。


『集団を最も団結させる存在はなんでしょう?』


あの時は気にも止めなかった。

けどあの言葉にどんな意味が隠されていたのか今ならわかる気がする。


陽乃「今の雪乃ちゃんになら集団を団結させる存在がわかるよね。」


雪乃「集団を団結させる存在…まさか…」


陽乃「そう、それはすなわち『敵』だよ。」


敵と聞いて色々と気づかされた。

今回の騒動で私と由比ヶ浜さんはみんなの敵となっていた。

だから私たちはみんなから挙って糾弾されたわけだ…


913: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:03:02.45 ID:d55hgFNB0


陽乃「今、みんなの敵意は雪乃ちゃんとガハマちゃんに集中しているよ。」


陽乃「それもあなたたちの非道な行いから比企谷くんを守るために。」


陽乃「雪乃ちゃんは以前世界を変えたいと言っていたね。」


陽乃「もしかしたらそれが実現されているのかもしれないよ。」


陽乃「今までぼっちだった比企谷くんをみんなが守る優しい世界にね。」


陽乃「よかったね。
比企谷くんの更生ができて優しい世界も作れて何もかもが雪乃ちゃんの理想通りじゃん!」


私たち自身が悪役となることで比企谷くんとその周りのための優しい世界を作ってみせた。

姉さんはそう語ってみせた。

私が否定した彼の自己犠牲を…私たちがこんな形で…やってみせるなんて…

嫌だ…そんなの…冗談じゃない…


914: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:03:58.30 ID:d55hgFNB0


結衣「嫌だよ…こんな形でヒッキーとお別れなんかしたくないよ…」


雪乃「姉さん…いい加減にして…私たちは…」


陽乃「どうやらまだ納得がいかないようだね。
それならある人をあなたたちに会わせてあげる。
姿はすっかり変わり果てているけど二人が知ってる人だから安心していいよ。」


それから姉さんは部室にある人を招いた。

招かれたその人は…年齢は30~40代くらいの中年の女性。

髪型はショートヘアだけど手入れがなされていないようでボサボサ。

それに不健康な生活を送っているのだろうか肌も荒れていた。

私にはわからなかったけど由比ヶ浜さんはこの人が誰なのか気づいたらしい。


915: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:05:05.51 ID:d55hgFNB0


結衣「あの…ひょっとして…平塚先生ですか…?」


平塚「あぁ…久しぶりだな…雪ノ下…由比ヶ浜…」


雪乃「嘘…この人が…あの平塚先生なの…!?」


そう、私たちの前にいたのは試食会で暴力事件を起こして逮捕までされた平塚先生だ。

かつてのクールで知的な彼女の面影はどこにもなかった。

やつれ果てて何かに怯えているそんな弱々しい女性しかいなかった。


雪乃「せ…先生は…あの後…逮捕されたとお聞きしまたしたが…?」


平塚「ああ…だが…親が弁護士を雇ってくれてな…
それで比企谷の家に多額の示談金を払ってなんとかムショ行きだけは免れたんだ。」


陽乃「でもその後は大変だったよ。
静ちゃんあの事件で教員免許剥奪されちゃってね。もう教職に戻れないの。」


確かにあれだけの事件を起こしたのだから教員免許剥奪は仕方ないのかもしれない。

けど…それだけでここまでやつれ果てるものなの…?


916: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:06:40.90 ID:d55hgFNB0


平塚「あの事件の後…
実家から勘当を言い渡された…親にもう二度と顔を見せるなと言われたんだ…」


結衣「そんな…」


平塚「それだけじゃない。
あの事件でこの学校の誰かが私の素性をネットに公開したんだ。
そのせいで再就職すら満足にできない状況だ。」


雪乃「あ…」


平塚「ついでにな…髪を切った理由だが…
夜道を歩いてたら誰かに変な液体をぶちまけられたんだ。それがもう酷い異臭で…
臭いが落ちなくて仕方なく切ったんだ…」


平塚先生の話は悲惨すぎた。

私はこのことを警察に通報すればよいのではと助言したが、

警察からは『これもアンタの自業自得なんじゃないの?』と言われたそうな…


平塚「担当した警察の人な…
自分の子供も教師に理不尽に虐げられたと言って相手にしてくれなかったよ…」


平塚「酷いよな…今までの自分の行いがこうまでしっぺ返しになるなんて…」


平塚「今更悔やんでも無駄だが…」


平塚先生は涙ながらそう語った。

これがかつては私が一度は憧れた平塚先生の姿だなんて…

信じられない。いえ、信じたくもない。

何がどうなったらここまで人生を転落させてしまうのだろうか。


917: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:07:26.23 ID:d55hgFNB0


陽乃「雪乃ちゃん、ガハマちゃん、今の静ちゃんは二人にとっては他人事じゃないよ。」


雪乃「姉さん…何が言いたいの…?」


陽乃「わからないかな。二人も静ちゃんと同じだって言いたいんだよ。」


結衣「同じって…?」


陽乃「静ちゃんがこうなったのは過ちを犯したから。
そして今はこうして制裁を受けてしまい世間から蔑まれている。」


陽乃「二人も同じだよね。みんなから見離されている。
もうわかるよね。この静ちゃんの姿はこれからあなたたちが辿る末路なんだよ。」


このボロボロにやつれ果てた平塚先生こそが私たちの末路…

そんな…嫌だ…

こんな…惨めにやつれ果てた挙句に…比企谷くんに想いを伝えられないで終わるなんて…


918: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:09:28.61 ID:d55hgFNB0


結衣「もうやめてよ…陽乃さんは私たちをイジメて楽しいんですか!?」


陽乃「あらあら、私は別にイジメているわけじゃないよ。
これはあなたたちが成長するために必要なことだからやっているだけなんだから。」


雪乃「成長…?」


陽乃「試食会で静ちゃんが言ってたよね。」


『人は間違い、傷つきながら成長を遂げていく』


陽乃「今回の件で雪乃ちゃんたちは間違い傷ついた。
まあ一番傷ついたのは静ちゃんにボコボコにされた比企谷くんだけどね。」


陽乃「これであとは成長するだけだよね!」


その話を聞いて苦笑いする平塚先生とは対照的に、

姉さんは妙に楽しそうな顔をして言ってみせた。

間違って傷ついたから成長しろですって…?

他人事だと思っているからそんな風に言えるのだろう。

けれど…どうすればいいの…

私たちは比企谷くんとどう接すればいいの…?

お願い…誰か教えて…


919: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:10:23.20 ID:d55hgFNB0


結衣「待ってるだけじゃダメなんじゃないかな。」


雪乃「由比ヶ浜さん…?」


結衣「私…文化祭の時にヒッキーに言ったんだ。」


『待たないでこっちから行くの!』


結衣「私たちここで動かなきゃダメだよ!
そうじゃなきゃもう二度とヒッキーとわかりあえないよ!?」


由比ヶ浜さんの言葉に私も思った。

このままだと私たちは間違いなく平塚先生と同じ末路を辿る。

けど今ならまだ間に合うかもしれない。

もう一度彼と話合って今度こそわかりあわなければ…


陽乃「ここまで言ってようやく動くんだね。まあ手遅れかもしれないけど頑張れば?」


雪乃「姉さんに言われなくてもそのつもりよ。でも比企谷くんは生徒会室よね。」


結衣「あそこはあの子や優美子たちがいるからヒッキーには近づけないよ。」


まず比企谷くんと話し合うにはこれは当然なことだが彼に近づかなければならない。

以前の私たちならそれは簡単だった。

けれど今はちがう。

試食会での事件以降、

あの女はいつも比企谷くんに付き添うようになり私たちは彼に近づくことができなかった。


920: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:10:51.11 ID:d55hgFNB0


陽乃「それならお姉ちゃんが助け舟を出してあげる。」


雪乃「助け舟ですって…?」


陽乃「そうだよ。
なんと比企谷くんはこの後ある人のお葬式に出席するの。そこなら話せる機会があるよ。」


姉さんからの提案は私たちにしてみれば実に都合のいいものだ。

けれど気になることがある。

比企谷くんは誰のお葬式に出席するの…?


921: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:11:31.11 ID:d55hgFNB0


陽乃「隼人だよ。」


雪乃「え…葉山くん…?」


結衣「どうして…隼人くんが…」


陽乃「あ、二人とも知らないんだっけ?実は隼人二日前に死んじゃったの!」


平塚「私たちはこれから葉山の葬式に出席するんだ。だから二人を呼びに来たんだ。」


葉山くんが死んだ。

なんでも転校先の学校で交通事故にあったとか…

いつもの私ならその事実を知れば多少は驚いたのかもしれない。

けど…今の私たちに彼の死を悼む余裕はなかった…


922: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:13:02.02 ID:d55hgFNB0


陽乃「これは天国にいる隼人がくれた最後のチャンスかもね。
でもお姉ちゃん思うんだけどなんかこれ呪いみたくて逆に気味が悪いよ」


結衣「でも行かなきゃ。じゃなきゃ一生後悔するよゆきのん!」


雪乃「そうね、いつまでもこの部室に閉じこもっているわけにはいかないわ。」


こうして私たちは姉さんに連れられて葬儀場へ向かった。

まだ間に合うはず。

葬儀場までの道中、私たちは最後の希望を心に抱いていた…


923: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:15:29.52 ID:d55hgFNB0


葬儀場―――


「この度はお悔やみ申し上げます。」


「いえ、不甲斐ない息子のためによくお出でくださいました。」


私たちは葬儀場へ到着した。

そこでは葉山くん…いえ…彼自身というよりも彼の両親の関係者が来訪していた。

それは私の両親は勿論のこと、この街の有力者などの姿が見受けられた。

彼の家は弁護士だ。そういった類の人たちと関係があってもおかしくはないのだろう。

私たちと同行した姉さんと平塚先生も別行動を取り葉山くんのご両親に挨拶をしている。

それに…見つけた…


924: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:16:00.30 ID:d55hgFNB0


八幡「この度はお悔やみ申し上げます。
総武高校生徒会として全生徒の代表としてやってきました。」


比企谷くんだ。

学校側に命じられたのかそれとも自分の意思で来たのかわからないが彼の姿があった。


少女A「葉山くんが亡くなるなんて…」


いろは「葉山先輩とは12月にあんな別れ方をしたっきりですからね。」


相模「まさかこんな形で再会はないよね…」


他にもあの女や一色さんに相模さん。

さらに…


925: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:16:49.47 ID:d55hgFNB0


三浦「隼人…アンタバカだよ…」


戸部「隼人くん…本当に死んじまったんだな…」


海老名「最期くらいは和解したかったよ…」


かつての葉山グループである、

三浦さんに海老名さん、戸部くんが葉山くんの柩の前で泣き崩れていた。

かつて葉山くんは修学旅行の一件で奉仕部に無理な難題を押し付けた。

その一件が暴かれて彼らのグループは解散してしまった。

そして葉山くんは彼と親しかった人たちから見離された。

けれどそんな葉山くんでもこうしてその死を悼んでくれる人がいる。

こんなこと思いたくはないのだけど今の私が死んだら誰がその死を悼むのか…?

由比ヶ浜さんと姉さんくらいか。あとは両親…

学校関係者は…以前ならともかく今はもう期待できない。

比企谷くんは…どうなのだろうか。

彼は私が死んだら悲しむのか…?

そんな不謹慎なことを思っていた時だ。


926: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:18:10.45 ID:d55hgFNB0


八幡「俺は小町に連絡するから少し三浦たちのことを慰めてやってくれ。」


少女A「わかったよ八幡。」


いろは「早く戻ってきてくださいね。」


どうやら比企谷くんはお家に連絡を取るためにその場から離れた。

これはまさにチャンスだ。

あの女がいないのなら話は滞りなく進むはず。

そう思った私たちは彼を尾行した。


八幡「ああ、今日は帰りが遅くなるから…」


比企谷くんは人気のない場所で携帯を取り出して小町さんに話をしている。

それから連絡を終えてあの女がいるところへ戻ろうとした。

話しかけるなら今しかない。

決意した私たちは思い切って比企谷くんに話しかけた。


927: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 20:20:04.17 ID:d55hgFNB0


雪乃「久しぶりね比企谷くん。」


結衣「やっはろーヒッキー。」


八幡「雪ノ下…由比ヶ浜…そうか…お前らも葉山の葬儀にきてたのか…」


比企谷くんは私たちも葉山くんの葬儀に参加しているのだと思っている。

この葬儀は姉さんに連れられて来ただけ。

それに葉山くんが亡くなったことすら私たちは先ほど知ったばかりだけど…

まあそんな話はどうでもいい。

それよりも問題は…


雪乃「比企谷くん…その…」


結衣「ヒッキー。私たちは…あの…」


私たちは比企谷くんに今までのことを謝罪しようとしたのだけど…

いざ面と向かって話すと何から話していいのかわからない。

けれどこれが私たちにとって最後の機会だ。

これを逃せばもうその機会はないはず…


944: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:27:02.22 ID:d55hgFNB0


八幡「………その…すまなかったな。」


結衣「ヒッキー?」


八幡「本当なら俺の方から出向くべきだった。
それなのにわざわざお前たちの方から来てもらうことになるなんて…」


雪乃「え…ええ…いつまでも待っているわけにはいかないものね。」


比企谷くんは私たちに対して意外な反応を見せてくれた。

なんと彼の方から詫びてきたからだ。

それから彼はこう言ってくれた。


945: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:27:46.03 ID:d55hgFNB0


八幡「『 』から聞いたかもしれんが奉仕部のことだが…」


雪乃「その…奉仕部が…廃部になると聞いたわ。」


結衣「私たちの部活が無くなるなんてヒッキーだって嫌だよね。」


八幡「その件だが…
鶴見先生に掛け合って臨時顧問を引き受けてもらった。
これで4月からも奉仕部を存続させることができる。」


奉仕部が存続される。

その知らせは今の私たちにとっては実に喜ばしいものだ。

これでいつ比企谷くんが奉仕部に帰ってきても迎えることができる。

あとは彼と和解するだけ。

いいえ、そんな必要はないのかも。

何故なら私たちはこうしてわかりあえているのだから。

彼が奉仕部を守ってくれたことこそがなによりの証だ。

そう思っていた。

次に起きる彼の行動を見るまでは…


946: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:28:31.71 ID:d55hgFNB0







八幡「だから………これでもう許してください………」







947: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:29:16.75 ID:d55hgFNB0


雪乃「比企谷くん…あなた…何をしてるの…」


結衣「ちょっとやめてよ…ヒッキー!」


比企谷くんは私たちの前で土下座をしていた。

何でこんなことをするの…?

彼のありえない行動に私は混乱した。


八幡「すまない…けど…お前たちが…恐いんだよ…」


八幡「あの試食会で…見ちまったんだよ…」


八幡「俺がボコられているところをお前らが笑っているのを…」


そんな…あの時…私たちは笑ってなんていない…

でも彼にはそう見えてしまったのかもしれない。

試食会の時、私たちはみんなに糾弾されて頭に血が昇っていた。

だから…


948: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:30:22.64 ID:d55hgFNB0


八幡「それだけじゃない…」


八幡「あいつが…『 』が土下座していたよな…」


八幡「何であんなことさせたんだよ…?」


八幡「なぁ…雪ノ下…由比ヶ浜…
俺はお前たちがあんなことをやるようなヤツらだとは今でも思えない…」


八幡「俺に不満があるなら俺だけに言えばいい。
でも他のヤツらは巻き込まないでくれ。
こんなぼっちな俺を信じてくれる大事な人たちなんだよ…」


八幡「だからお願いだ…もうあんなことしないでくれ…やるなら俺だけにしてくれよ…」


彼は私たちの前で土下座を続けた。

ちがう…私たちがあなたに求めているのはこんなことじゃない。

私たちは…あなたと…


950: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:31:02.71 ID:d55hgFNB0


結衣「ヒッキー!土下座なんてやめてよ!」


雪乃「そうよ私たちはこんなこと求めてはいないの!私たちはあなたに…」


私が言おうとした時だ。


少女A「あなたたち…何してるの…?」


またしてもあの女がタイミング悪く現れた。


少女A「こんなところまで八幡を土下座させるなんて…あなたたちは…」


結衣「ち…ちがうの!これはその…」


雪乃「そうよ!これは…!?」


比企谷くんが戻ってくるのが遅いと気になったこの女が心配して様子を見に来たらしい。

それだけではない。

この騒ぎを聞いたこの葬儀の来訪者たちが続々とこの場に押し寄せてきた。


951: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:33:18.30 ID:d55hgFNB0


『おい…あれ…誰か土下座されてるぞ?』


『ちょっと待て?土下座させてるのは…』


『あの娘…雪ノ下議員のお嬢さんじゃないか!?』


誰かが私のことに気づいたようだ。

葬儀の場で雪ノ下家の娘が学校の同級生を土下座させた。

葬儀の参列者に挙って誤解されてしまった。

まさしく最悪の事態だ。


952: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:34:04.92 ID:d55hgFNB0


雪ノ下母「雪乃さん…あなた…なんてことを…」


雪乃「お母さん…その…これは…」


雪ノ下母「こんな場所で…その少年を土下座させるなんて…」


雪ノ下母「それにその子は比企谷くんでしょ…あなた…彼に何をしたの…?」


さらに私が姉よりも苦手であった母にこの場を見られてしまった。

母の目はこう語っている。


『この馬鹿娘…なんてことをしてくれたの…』


母はこの間の試食会での暴行事件で比企谷くんに謝罪していたと姉さんから聞かされた。

あの母が自らで向いて頭を下げたのだ。

それなのに私が比企谷くんに土下座をさせてしまった。

こんな光景を目の当たりにすればどうなるのかなんて…

最悪だ。

私は取り返しのつかない過ちを犯した。


953: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:35:32.00 ID:d55hgFNB0


雪ノ下母「雪乃!あなたという子は!」


雪乃「お願い…お母さん…話を聞いて…」


雪ノ下母「話ですって…?
あれだけ騒ぎを大きくしただけでは飽き足らず…
こんな場所で比企谷くんを土下座させてどんな言い訳をする気ですか!?」


結衣「ちがうんです!これは誤解です!」


雪ノ下母「黙りなさい!
衆目の場でこんなことを仕出かして…
どれだけ親に恥をかかせれば気が済むの!
もうあなたとは親子の縁を切ります!これからは勝手に生きなさい!?」


私は激怒した母から絶縁を言い渡された。

同じだ…

私も平塚先生と同じく家族から見離されてしまった…

それから私は由比ヶ浜さんを連れてその場から逃げ出した。

あてなんてない。

けどここにいたくはなかった。


955: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:37:14.73 ID:d55hgFNB0





……


………


雪乃「…」


結衣「ゆきのん!しっかりして!」


気づけば私たちは学校の部室へ戻っていた。

街を彷徨っているうちに由比ヶ浜さんが私をここまで連れてきてくれたらしい。

いい判断だと思う。

たぶんマンションに戻れば否応なく姉さんか母さんが待ち構えているはずだ。

今の私にあの二人と話すような気力は残ってはいない…

それにしても…まさか…ここまで拗れるなんて思わなかった。

これは死んだ葉山くんの呪いなのではないのか…?

思わずそんなことを疑うほど私たちは運に見離されていた。


956: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:37:43.85 ID:d55hgFNB0


雪乃「私たち…彼に…完全に拒絶されてしまったわね…」


結衣「そうだね…でも…まだ大丈夫だよ!」


雪乃「何故…そんなことが言えるの…?」


結衣「アハハ…ほら…これはタイミングが悪かったんだよ!そうだよ!きっと…」


由比ヶ浜さんは力なくそう答えた。

タイミングだとか言っているけど恐らく由比ヶ浜さん自身もこう思っているのだろう。

もう手遅れであると…


958: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:38:40.27 ID:d55hgFNB0


「…」


結衣「今…扉から物音が…」


雪乃「ひょっとして…まさか…?」


意気消沈していた私たちの耳に聞こえてきた物音。

私たちはすぐに扉を開けた。

かつてこれと似た光景を思い出したからだ。


雪乃「比企谷くん!」


私は辺りを見回した。

けど…既にそこには誰もいなかった。


結衣「ねえ…小包が置いてあるよ…?」


そこには二つの小包と…それに同封されていた一通の手紙が置いてあった。

私たちはその手紙を読んだ。


963: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:41:25.48 ID:d55hgFNB0


雪ノ下、由比ヶ浜、俺だ。比企谷だ。


まず面と向かえず手紙にして伝える形になることを許してくれ。


今回は本当にすまなかった。


試食会の時だが、俺はなんとかみんなを諌めようと考えた。


でもどうにかするにしても、


お前らは怒り狂っていて『 』も泣き崩れていて冷静に話も聞けない状況だった。


それに俺では葉山みたく誰かを簡単に宥めるようなことはできない。


だから平塚先生の鉄拳制裁を受けることでその場を治めようと思った。


だがまさか…こんなことになるなんて…


雪ノ下、一応お前の母ちゃんにはさっきのことは誤解だと言っておいた。


だが俺の説得なんかでどこまでうまくいくかはわからない。


俺ができるのはここまでだ。あとはお前自身で親と向き合ってくれ。


それと今日はホワイトデーだからプレゼントを用意しておいた。


お前らのお気に召すのかはわからん。もし気に食わないのなら捨ててもいい。


最後に…こんなことになって本当にすまない…


比企谷くんからの手紙には以上のことが書き綴られていた。

それから私たちは小包の方を開いてみせた。

その中に入っていたのは…


964: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:42:10.26 ID:d55hgFNB0


雪乃「これは…クッキー?」


結衣「そっか、今日はホワイトデーだもんね。」


由比ヶ浜さんの言葉で私も気づいた。

ホワイトデーといえば、

バレンタインデーでチョコを受け取った男子がその時のお礼を渡す日だ。

私たちは彼に何も与えられなかったのに…

姉さんが言ったように私たちは今まで本当に彼に甘えていたようだ。


結衣「うん、美味しいね。」


雪乃「そうね。比企谷くんが作ったにしては中々の味だと思うわ。」


私たちは紅茶を飲みながら彼がプレゼントしてくれたクッキーを食べた。

美味しい…

きっと何度か練習してこうして美味しく作ったのだろう。

でも何故かしょっぱい気がする。塩の加減を間違えたのだろうか…?

いえ、ちがう。このしょっぱさは…


965: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:43:01.34 ID:d55hgFNB0


結衣「アハハ…なんか…涙が止まらないや…」


雪乃「そうね…どうして止まらないのかしら…」


私たちの涙がクッキーに落ちてしまうからだ。

さっき見た夢と同じ光景なのに…ここには彼が…比企谷くんがいない…

葬儀場で比企谷くんと会った時に真っ先に謝罪すべきだった。

それなのに私たちはそのことを疎かにしてしまった。

選択を誤ったのは他の誰でもない。私たち自身だ…


966: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:49:22.97 ID:d55hgFNB0


それから―――


雪乃「今日も依頼なんてこないわね…」


結衣「そうだね…」


あの葬儀場での出来事から数ヶ月が経過した。

私たちは3年生に進級した。

あの日以来、姉や母は私に一切干渉しなくなった。

噂の火消しそれどころではないのだろう。

それに一度だけ母からメールを貰った。

大学までは面倒を見るがその後はもう知らない。あとは勝手に生きなさいと書かれていた。

結局、私も平塚先生と同じく親から見捨てられたようだ。

部活は比企谷くんの言ったように奉仕部はその後も存続している。

けれど依頼はひとつも入ってこない。

元々奉仕部の依頼は平塚先生を通していたものだから、

その平塚先生がいなくなれば依頼がこなくなるのは当然のことだ。

あの女からの比企谷くんを救うという依頼、

まさかあれが私たちにとって最後の依頼になるのではと最近では思うようになっている。

それから私たちは職員室へ部室の鍵を戻しに行こうとした矢先、ある光景を目にした。


967: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:50:23.22 ID:d55hgFNB0


八幡「うぅ…痛…まだ痛むな…」


少女A「八幡、無理しちゃダメだよ。ほら、掴まって。」


八幡「ああ、いつもすまねえな。」


比企谷くんとあの女だ。

彼らも今日の生徒会活動を終えて帰ろうとしているのだろう。

あの二人は今や学校の誰もが認めるカップルだ。

本当なら彼の傍には私たちがいたはずなのに…


969: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:50:55.00 ID:d55hgFNB0


結衣「ヒッキー幸せそうだね。」


雪乃「そうかしら…」


結衣「本当なら…私たちがヒッキーの傍にいたはずなのにね…」


雪乃「そうね…そうだったのかもしれないわね…」


結衣「私たち…どこで間違えたんだろうね…」


どこで間違えたのか…?

もしかしたら最初から全て間違えていたのかもしれない。

私たちの出会うきっかけとなった車の事故。あれがそもそもの間違いだった。

けどこんなこと今更悔やんでも始まらない。

そんな光景を目の当たりにして、

居た堪れなくなった由比ヶ浜さんは一足先にその場から立ち去った。

一人になった私はこちらに気づかない比企谷くんにあることを語りかけた。


970: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:53:14.51 ID:d55hgFNB0


雪乃「比企谷くん…」


幸せそうな比企谷くんを眺めながら私は自分の左手を見つめた。

実は由比ヶ浜さんにも知らせていないことがひとつだけあった。

それは…


971: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:55:43.90 ID:d55hgFNB0


雪乃「これをいつかあなたに返さなくてはいけないわね。」


指輪だ。

試食会の時にあの女が比企谷くんを守るために差し出された指輪。

その指輪はあの事件の後、紛失されたかと思われたが実は私が密かに所持していた。

いつか彼ともう一度向き合いたい。

その時はこんな薄汚れた心ではなくかつてのような純粋で真っ白な心で…

そして彼にこの指輪を返した後は改めて彼から指輪を受け取りたい。

今度こそちゃんと彼と向き合い近しい関係になるために。

そんなことを思った。だから…


972: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/06(金) 22:56:51.85 ID:d55hgFNB0







「ねえ比企谷くん。いつか、私を助けてね。」







end