「買い物袋の中にお金があるはずだから、それ受け取って、メモに書かれている品物渡してあげてください」

　え、えーと……幕ノ内弁当と……ウーロン茶のペットボトル……

　店長、ロボ帰りました

「ロボ君はたまに来るからね、ちゃんと相手をしてあげてください」

　あ、はい
　……て、あのロボット、なんなんですか？

「お客様ですよ」

　はあ……

「ロボ君の持ってきたメモの商品が売り切れの時は、メモに売り切れって書いて渡してあげてくださいね」

　はい

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　ロボは、次の日もやってきた

　はいはい、メモメモ……おにぎりと……えーと……なに？　月刊アイドル？
　そんな雑誌あったっけ

「これこれ」

　あ、先輩が持ってたんですか

「取り置きだ取り置き、雑誌の取り置き頼まれてるからな」

　でも、二冊ありますよ？

「馬鹿、一冊は俺のだ」

　先輩、アイドルマニアだったんですか

「ファンといえ、ファンと」

　……あれ、それじゃあ、あのロボの持ち主って、アイドルファンなんですかね？

「それどころか、あのロボ……いや、ウサミンロボが元アイドルだぞ」

　は？

「いやな、あのウサミンロボは昔、アイドルと一緒に活動してたらしいぞ」

　え、あのロボットが？

「本人？じゃなくて、単なる同型機かも知れないけどな」

　へー
　あ、ていうことは、その、共演してた元アイドルがこの近所に住んでるとか？

「そうかも知れないってことだな」

　そのウサミンロボと一緒に出てたのは誰なんでしょうね

「……誰って言うより、そこのプロダクションのアイドルとは大体共演してたらしい」

　先輩も知らないんですか？　マニアなのに

「だからマニアじゃねえ、第一、ウサミンロボがアイドルしてたのは俺らが生まれるより前だぞ」

　あのロボット、そんなに古いんですか

「大切にされてるみたいだな」

　それとも、当時のファンが今になって再現したとかですかね

「あー、それもあるかもな」

　アイドル本人か、あるいは往年のファンか

「どっちだろうな」

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　バイトを始めて三ヶ月
　今日もまた、月刊アイドルの発売日だ
　ウサミンロボと先輩のために二冊が取り置きしてある……あれ？　三冊ある

　ウサミンロボ、そろそろですね

「おう、あ、そうだ、これ」

　なんですか？　これ、店内掲示用の販促ポスターじゃないですか

「廃棄処分にするやつだけどな、それウサミンロボにおまけで持たせてやれ」

　なんでまた

「ほら、これ」

　ん？
　あ、月刊アイドルの表紙とこのポスターって……

「そうだよ、同じ子がやってるんだ」

　新人アイドル絶賛売り出し中か……えーと……

「ままい、こと、佐久間まい」

　ふーん

「これくらい、オマケしてもいいだろ。いつも来てくれるしな、ファン仲間だし。店長もオッケーだって言ってた」
　
　可愛いッスね、この子

「お？　気になるか？」

　少し

「実はその子な、アイドル二世なんだよ」

　ってことは？

「ウサミンロボのいた事務所でアイドルやってたらしいぞ、お母さんのほう」

　え、それじゃあ

「おお、飼い主さんが知ってる可能性は高いだろ。ま、サービスサービス」

　ちょっと、この雑誌見ててもいいですか

「こんなこともあろうかと、今月は三冊取り置きしてる。買え」

　う……
　わ、わかりましたよ

　あ、休憩入りまーす

　……ほー、佐久間まいちゃんか……
　可愛いなぁ
　何か表情だけでも「一途」って感じだよなぁ

　プロフもある……
　え？
　母子家庭なんだ
　えーーー、お母さん、未婚の母かよ
　誰なんだよ、お父さんは……
　……どれどれ

「まいはお父さんのこと知らないんです。だけど、目元がそっくりで、知ってる人なら一目でわかるはずだって、お母さんが言うんです」

　知らない？
　なんだこれ？
　ガチで不明？　いや、まさかねぇ
　そういう売り方なのかねぇ

　ん？
　本名も秘密？　愛称は、ままい
　秘密多いなぁ……佐久間まいって芸名なのか？
　それとも、本名そのままでフェイク入れてるのかなぁ

「おーい、ウサミンロボ来たぞ」

　はーい
　……って、俺休憩中なんだから、先輩お願いしますよ

「お前、ウサミンロボ係」

　マジですか

「ちゃんとサービスのポスター忘れるなよ」

　はいはい


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　……そういえば、この一週間ほど、ウサミンロボ来ませんね

「言われてみればそうだな」

　一体……

「お、噂をすれば来た来た」

　いらっしゃいませ
　
　あれ？
　今日のメモはお弁当じゃないのか
　カミソリ？

　危ないから気をつけて……って、ロボに言っても仕方ないか

　毎度ありがとうございました

「ウサミンロボ帰った？　じゃあ、俺休憩入るから」

　あーい
　あれ？　先輩、その週刊誌は？

「ん？　これは取り置きでも売り物でもないぞ、昨日買った俺の私物だ」

　珍しいですね、そんなオッサン向けゴシップ誌なんて

「いや、ままいの記事があったからな」

　え？

「正確には、ままいのお母さんだけどな。一体ままいのお父さんは誰なんだろうって」

　うわ。ままい人気に便乗見え見えのゴシップ記事じゃないですか

「おお、好き放題書いてるぞ。ままいのお父さんは当時のお母さんのプロデューサーじゃないか、とか」　

　うわ、嘘くさいゴシップ

「その時のプロデューサーは、もう亡くなってるんじゃないかって話だけどな」

　へぇ　

「プロデューサー辞めて以来、一切表に出てこないらしいからな」

　へー
　因みに、誰と結婚したんですか？

「さあ？　所詮マイナーアイドルだしな、あんまり話題にならなかったみたいだぞ」

　ままいのお母さんとは違うんですかねぇ？

「違うだろ、もしそうだったら、隠さずに言うんじゃないか？」


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　え、自殺ってマジですか？　店長

「ああ、浴槽で手首切ったって。あれ、ウチで買ったカミソリだよ」

　げっ

「浴槽の中で、ウチであげたままいの販促ポスターを握りしめてたんだって、しかも、ボロボロに千切ってだよ」

　うわぁ、そりゃあ……

「だよね、お陰で警察に呼ばれて、てんてこ舞いだよ」

　あちゃあ……

「まあ、ウチに関係ないと解ってもらえたとは言え、凹むねぇ」

　亡くなったかた、ロボの飼い主だったんですよね

「うん。そうらしいね。なんでも若い頃に通り魔に刺されて、それ以来車椅子生活だったらしい」

　それでロボに買い物を……

「ちょうど妊娠していたらしいんだけど、それが元で流産してね。同時に旦那さんも行方不明になって」

　可哀想な人だったんですね

「それで、ロボと一緒にずっと一人暮らしだったらしいよ」


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「もう上がりか？」

　あ、先輩、ちーす

「ウサミンロボ係ももうお役御免だな」

　ええ。しかし、あんなことになるなんてねぇ

「まったく……ああ、ポスターのこと聞いたか？」

　はい

「なんか、流産した子が生きてたら、ままいと同じ歳だったらしいわ。俺、余計なことしたのかなぁ」

　先輩、気にしない方がいいですよ
　あのポスターが原因だったら、あげたその日に自殺してますよ

「そっか、ありがとな」


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「ちぃーす」

　ちぃーす

「よお、ままいの事件聞いたか？」

　ままいの自宅の話ですよね？

「おお、ビックリしたなぁ」

　自宅が放火されて、母子揃って行方不明って……

「怖いよなぁ」

　怖いですねぇ

「さてと、着替えてくるわ、レジ頼む」

　うぃーす

　
　以上、お粗末様でした


　ウサミンロボがお買い物する話を書こうと思っただけなんだ……

　どうしてこうなった

　でも後悔はしていない