1: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/06(月) 23:48:51 ID:4zzsTsYo
車を運転中――

ブロロロロ……!

男「あ、まずいな。そろそろガソリンなくなりそうだ」

男「あそこにあるガソリンスタンドに寄っていくか……」

男(店員がいない……。どうやら出迎えがないタイプのガソスタか……ま、大丈夫だろう)

男(……待てよ?)

男(そういや俺、自分でガソリン入れたことねえ!)

引用元: 男「はじめてのガソリンスタンド」 


 

2: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/06(月) 23:51:35 ID:4zzsTsYo
男(俺んちの近くのガソリンスタンドは、最初から最後まで店員がやってくれるタイプだし)

男(セルフに寄った時は――)



友『俺にやらせてくれよ! 俺、ガソリン入れるの大好きでさ!』

女『給油ならあたしがやってあげるわ! こう見えても元店員だったし!』

先輩『た、頼む、俺にやらせてくれッ! ガソリン代はもちろん払うからッ!』ハァハァハァ



男(――てな感じで、誰かしら同乗者が入れてくれたりしたもんなぁ)

男(特に先輩の給油大好きっぷりは異常すぎる……。おかげでガソリン代浮いたけど)

3: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/06(月) 23:53:49 ID:4zzsTsYo
男(でも、セルフ方式のガソスタにも、店員って常駐してるはずだよな)

男(だったら、店員に頼めばいいか――)

男(いや、ダメだ!)

男(いつまでも店員に頼ってたら、俺は自立できない!)

男(今日ここでセルフ給油チェリーを捨てるんだ!)

4: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/06(月) 23:55:33 ID:4zzsTsYo
男(まず……給油装置の横に、自動車を止めるんだったな?)ブロロロ…

男(くそ……ただの停車だってのにムチャクチャ緊張しやがるぜ!)

男(一ミリのズレもなく……止める!)キキッ

男(よし……大成功!)

5: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/06(月) 23:59:06 ID:4zzsTsYo
男(次に……ガソリン給油口を開ける!)

男(そういや……あれ開けるやつってどこにあるんだっけ? ド忘れしちゃった)モゾモゾ

男(これか?)ビビーッ

男(あ、これクラクションか)

男(こっちか?)ウイーン

男(あ、これ窓開けるやつだ)

男(じゃあこれ!)ガタンッ

男(あ、イス倒れちゃった)

男(これだ!)カチッ

男(ビンゴォォォォォッ!!!)

6: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:05:12 ID:Nn.eyA7g
男「外に出て、と」バタンッ

男(いよいよか……いよいよはじめてのたった一人のガソリン給油が始まる!)

男「とりあえず、機械に近づいてみるか……」ジリ…

機械『支払い方法を選んで下さい』

男「どわっ!!?」ビクッ

7: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:07:13 ID:Nn.eyA7g
男(支払い方法……現金でいいよな)ピッ

機械『油種を選んで下さい』

男(ガソリンの種類を選べ……か)

男(もし、これを間違えたら、きっと――)

8: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:10:40 ID:Nn.eyA7g
~~~



ブロロロロ……!

男『――ん?』ガクッガクッ

男『なんだ!? 車の様子がおかしい!』ガクガク

男『しまった! 間違えてハイオクを入れたから……!』ガクガクガク

男『うっ、うわぁぁぁぁぁっ!!!』

スガァァァァァンッ!!!



~~~

9: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:13:09 ID:Nn.eyA7g
男(――ってなことになりかねない!)

男(慎重に、慎重に……! 間違えたら、一巻の終わりだ……!)ゴクッ

男「これだっ! レギュラーッ!」ポチッ

男(ふう……まるで赤か青のコードのどちらかを無事切り終えた爆弾処理班の気分だぜ……)

機械『給油量を選んで下さい』

男(給油量はもちろん“満タン”だ!)ポチッ

10: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:14:38 ID:Nn.eyA7g
機械『静電気除去シートに触れてから、給油キャップを外し、ノズルから給油して下さい』

男(いよいよ給油か……)

男(静電気除去シートってのは、この黒くて丸いやつだよな……)

男(もし、万が一こいつに触れずに給油したらきっと――)

11: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:16:51 ID:Nn.eyA7g
~~~



男『よっしゃーっ! 給油開始だぜ!』

男『おっと静電気が』バチバチバチッ

男『うわっ、ガソリンに引火して――』

ドゴォォォォォンッ!!!



~~~

13: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:19:12 ID:Nn.eyA7g
男(――ってことになるんだ、きっと! 俺の肉体は原型も留めないに違いない!)

男「絶対触らなきゃ!」ペタッ

男「……」

男「……」

男(ところで、これどのぐらい触れればいいんだ?)

男(5秒? 10秒? 1分? それとももっと? ちゃんと書いといてくれよ!)

14: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:22:37 ID:Nn.eyA7g
10分後――

男(これだけ触れとけば大丈夫だろう!)

男(キャップを外して、と……)キュポンッ

男(次はいよいよ、マジに本当に給油か……!)

男(レギュラーだから……この赤いやつでいいんだよな?)

男(くそっ、緊張して、このノズルが拳銃かなにかに見えやがるぜ……!)ガシッ

15: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:25:30 ID:Nn.eyA7g
男「!」ズシッ…

男(お、重い……! なんだこの重さ……!)

男(ガソリンの危険性がそのまま重量になったような重さだ!)

男(こんな重火器……俺みたいなド素人に扱えるのか!? 扱っていいのか!?)

男「あ、ああ……ど、どうすれば……!」



店員「お客様」スッ

16: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:27:38 ID:Nn.eyA7g
男「あ、あなたは!?」

店員「このスタンドの店員です」

店員「よろしければ、給油のお手伝いをしましょうか?」ニコッ

男(た、助かった……)

男(きっと給油に手こずってる俺を見かねて、助けに来てくれたんだ!)

男(俺はもう十分よくやったよ! 後はこの人に任せちゃえばいいじゃん!)

男「じゃあ、お願いしま……」

17: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:31:37 ID:Nn.eyA7g
男「……いや、ダメだァッ!!!」

店員「!」

男「ここでアンタに任せちまったら……逃げちまったら……俺は一生チェリーボーイだ!」

男「俺が……この俺が給油するッ!」

店員「……フッ、よくいったぜ、兄ちゃん」

店員「だったら俺はここで見届けてやる! アンタの晴れ姿をな!」

店員「もしアンタがミスりそうになったら、アドバイスしてやっから安心しなッ!」

男「感謝するッ!!!」

18: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:34:21 ID:Nn.eyA7g
男「ノズルを……持って……うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」グイッ

男「給油口にブチ込むッ!」ズブッ

店員「まだ浅いッ! もっとだッ! もっと中に差し込めッ!」

男「了解ッ!」

男「うおおおおおおおおっ!!!」ズブズブズブッズブブッ

店員「いいぞぉ! そんだけ差し込めばもう十分だろう!」

店員「引き金(トリガー)を引くんだァ―――――ッ!!!」

男「うわぁぁぁぁぁ―――――ッ!!!」

19: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:37:10 ID:Nn.eyA7g
男「自動車ッ! 中で出すぞッ!」ジュルルルル…

店員「そうだッ! それでいいッ! あとはもう引き金を引き続けるだけだァ!」

店員「車ン中、ガソリンでパンパンにしてやれいッ!」

男「ああっ! どんどん入れてやるぜェッ!」ジュルルルルル…

男「ガショリンが、ガショリンが入ってくよォォォォォッ!」ジュルルルルル…

20: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:41:38 ID:Nn.eyA7g
男「と、ところで――」

店員「ん?」

男「これ、いつ引き金を止めればいいんだ?」

店員「安心しろッ! 満タンになったら、機械が勝手に止めてくれるッ!」

男「マジかよ! すげェェェェェ!」

店員「21世紀のガソリンスタンドを舐めるなよ!」ニヤッ

21: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:44:29 ID:Nn.eyA7g
男「!」ガチャッ

男(引き金が引けなくなった……ッ! 完了ッ!)

店員「今だッ! 車の給油キャップを閉めろォォォォォ!」

男「応ッ!」ガパッ

男「給油口も……シャット!」ガチッ

男「お、終わった……」ハァ…ハァ…

店員「よくやった……! ガソリンは一滴もこぼしてねえぜ……!」

店員「初めてにしちゃあ上出来だァ!」

男「へっ……やればできるもんだな……」ゼェ…ゼェ…

22: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:47:04 ID:Nn.eyA7g
店員「あとはそのレシートを、あっちにある精算機にかざして、釣りをもらうだけだ」

男「お、おう」ヨロヨロ…

店員「手を貸そうか?」

男「いや、いい……ここまできたら最後まで自分一人でやり遂げたいんだ……」

店員「かっこいいぜ……お前」

23: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:49:37 ID:Nn.eyA7g
男「レシートォォォォォ、ON!」ピッ

ジャラジャラ…

男「ウホォッ! 出た出たっ! お釣りがっ!」

男(も、もう一回……)サッ

店員「残念ながら二回お釣りが出ることはないぜ」

男(バレた……ッ!)

店員「気持ちは分かる」

24: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:53:31 ID:Nn.eyA7g
店員「これで終わりだ……さ、車に乗んな」

男「店ちゃん、世話になったな」

店員「だけど事故ンなよ! ガソ満タンにした直後に事故るとか、笑い話にもなりゃしねェ!」

男「おう!」キュルル…

男「また油入れにくるぜ!」ブロロロ…

店員「あざーっしたぁーっ!!!」

25: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/06/07(火) 00:58:30 ID:Nn.eyA7g
ブロロロロ……!

男(これでやっと……俺もガソスタチェリー卒業だ……!)

男(店員さん……ありがとう……!)

男(――ん)ポロッ…

男(ガソリンはこぼさなかったけど……涙はこぼしちまったか……)

男「俺もまだまだ、修行が足りねえな……」



ブロロォォォ……






― 完 ―