あかり「わぁ、喋る猫さんだぁ」 QB「僕は猫じゃないよ」 前編

325: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/11(木) 01:24:03.00 ID:6miwKucS0
エピローグ2


ごらく部


青い光がごらく部の中心に現れ、光がはじけたかと思うと3人がそれぞれ転がりながらごらく部の部室に姿を現した。

京子「痛ってーー!?」

結衣「あ、頭ぶつけた…」

ちなつ「痛たたた… こ、ここ部室ですか?」

京子「部室!? や、やった、成功したんだ…」

結衣「成功って… 京子、お前一体なにを?」

京子「…瞬間移動ってやつかな?」

ちなつ「瞬間移動って…」

京子「あのままあそこにいたらあいつが何やってくるかもわかんなかったからね」

結衣「そ、それもそうだけど… お前、どうやって瞬間移動なんか…」

京子「あー、結衣が癒しの願いで自己治癒能力とかっていってたじゃん、だったら私の願いはみんなを私の前に連れて来てほしいっていう移動系の願いだったから、もしかしたらできるんじゃないかなーって思ってやったんだよ」

ちなつ「も、もしかしたらで成功させるなんて… めちゃくちゃですよ…」

京子「滅茶苦茶でもなんでも、出来たんだからいーじゃん、それにこれで少しは時間が稼げるでしょ?」

ちなつ「まあ、そうですけど…」

京子「…あかりが一人で過去に戻っちゃった以上、あいつから逃げ切る別の方法を考えないといけないしね…」

結衣「やっぱりあかりは一人で…」

京子「多分… ね…」

結衣「あかり… どうしてあそこまで… 私たちが魔法少女になってしまっているけど何とかする方法もあったかもしれないのに…」

京子「…………」

引用元: あかり「わぁ、喋る猫さんだぁ」 QB「僕は猫じゃないよ」 


 

 
326: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/11(木) 01:25:26.32 ID:6miwKucS0
京子「……二人とも、あかりがああやって過去に戻っちゃった以上もう私たちで何とかするしかないよ、あかりのことは一旦忘れてあいつへの対策を考えよう」

ちなつ「…京子先輩、何言ってるんですか………」

結衣「…………」

京子「言葉の通りだよ、あかりの事を今考えていても仕方ないでしょ? それならまだ魔法少女になっていないちなつちゃんをあいつから守る為にどうにかする方法を考えないと…」

京子「一つの案としては、私のこの瞬間移動の魔法をどこまでの範囲で使えるかを試してみて、暫くの間あいつから逃げ続けて………」

ちなつ「京子先輩!!」

京子「…何?」

ちなつ「何じゃないですよ!! なんでそんなに平気そうにしてるんですか!? あかりちゃんがあんな風に… おかしくなっているのにあかりちゃんを放っておくなんてできるわけないじゃないですか!!」

京子「だからあかりはもう過去に…」

ちなつ「そんな事まだ分からないじゃないですか! またキュゥべえを殺そうとしてるのかも知れないじゃないですか! それだったら早くあかりちゃんを見つけて止めないとあかりちゃんはもっとおかしくなっていっちゃいますよ!!」

京子「…………」

ちなつ「京子先輩も言ってたじゃないですか、あかりちゃんを助けるって! それなのになんであんな状態のあかりちゃんを放っておくんですか!?」

京子「…………」

ちなつ「京子先輩冷たいですよ! あかりちゃんは京子先輩の幼馴染じゃないんですか!? 親友じゃないんですか!? そんな簡単に割り切るなんて冷たすぎますよ!!」

ちなつの言葉に京子の身体か小さく跳ね、京子は下を向き俯いてしまった。
京子の様子が変わったことにちなつ訝しげな顔をしていたが、再び京子に問い詰めようとしたところで今まで黙っていた結衣がちなつを止めに入った。

327: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/11(木) 01:27:12.72 ID:6miwKucS0
結衣「…ちなつちゃん、ストップ」

ちなつ「結衣先輩?」

結衣「ちなつちゃんの言ってることはわかるよ… でもそれ以上京子を責めないで、京子も限界なんだよ…」

ちなつ「えっ?」

結衣の言葉に再び京子を見ると、京子は大粒の涙を零しながら座り込んでいた。

ちなつ「き、京子先輩…?」

京子「わかってるよ… そんなの、わかってるよ…」ポロポロ

京子「私だってあかりの事をすぐ捜しに行きたいよ… でも、あの状況だとあかりは過去に戻ったとしか思えないんだよ… それならもうあかりを追うことなんて出来ないよ…」ポロポロ

ちなつ「ま、まだわからないじゃないですか………」

京子「わからないよ! なんでこんなことになっちゃったのかわからないんだよっ!」

京子「私が知ってるあかりだったら私たちを置いて一人で行くわけないのにっ! 私たちと一緒に過去に戻るはずだったのにっ!」

京子「あかりのことがわからないんだよぉ… どうしてなんだよぉ… あかりぃ…」ポロポロ

ちなつ「き、京子先輩…」

結衣「…ちなつちゃん、私もあかりのことがわからなくなっちゃった…」

ちなつ「結衣先輩…」

結衣「私も京子と一緒だよ… なんでもわかってるつもりだったあかりのことがわからなくなってしまったし、それにちなつちゃんをあいつから守らないといけない… 殺しても死なないような相手から… もうどうすればいいかわかんないんだよ…」グスッ

結衣「なんで一人でいっちゃったんだよ… あかり…」グスッ

ちなつ「うぅっ………」

328: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/11(木) 01:28:36.28 ID:6miwKucS0
京子と結衣はあかりの事を想いながら涙を流し続けた。
泣き続ける二人を見てちなつは二人にとってあかりの存在がどれほど大きいものだったのかを理解し考え始める。

ちなつ(二人ともあかりちゃんに置いていかれた事がよほどショックだったんだ…)

ちなつ(私もショックだったけど、二人は小さい頃からずっと一緒だったんだもんね…)

ちなつ(あかりちゃん… みんなあかりちゃんのことをこんなに思ってるのに… どうしてこんなことになっちゃったの…)

ちなつ(違う………)

ちなつ(…私達があかりちゃんを思ってるように、あかりちゃんも私達の事を思ってあかりちゃんは一人で行っちゃったんだ…)

ちなつ(私達の心とあかりちゃんの心がすれ違っちゃっていたんだ…)

ちなつ(あかりちゃんの本当の気持ちがわからなかったからこうなっちゃったんだ…)

ちなつ(…あかりちゃんの気持ち)

ちなつ(京子先輩も結衣先輩もわからなかった…)

ちなつ(そんなあかりちゃんの気持ちを知ることなんて…)

ちなつ(…………)

ちなつ(…あった)

ちなつ(あかりちゃんの気持ちを、心を知る方法…)

ちなつが思い浮かべるものは契約。
魔法少女の契約をすればあかりの心を理解できるのではないかと考えた。

329: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/11(木) 01:29:12.41 ID:6miwKucS0
エピローグ2終わり。

335: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/13(土) 14:35:29.95 ID:NqOGQJns0
エピローグ3


ちなつ「結衣先輩、京子先輩… 私決めました」

結衣「ちなつちゃん…?」

京子「…なにを?」グスッ

ちなつ「私、魔法少女になります」

結衣「なっ!?」

京子「だ、駄目だよっ!! わかってるの!? 石ころにされちゃうんだよ!?」

ちなつ「わかってますよ、でも叶えたい願いを見つけたんです… 意味がないかもしれないけど、それでも知らないといけないと思うんです…」

結衣「一体何を知りたいの!? そんなの命を賭けてまでの…」

ちなつ「あかりちゃんの気持ちが知りたいんです…」

京子「え………」

ちなつ「あかりちゃんが何を思ったのか、あかりちゃんが何を考えていたのか…」

結衣「な、何を言ってるんだよ!? あかりの事を知るって何でそんな事を!?」

京子「そ、そうだよっ! そんな事の為にちなつちゃんは石ころになってもいいって言うの!?」

ちなつ「そんな事って言ってますけど、あかりちゃんの気持ちを知りたいのは先輩達も一緒なんじゃないですか?」

京子「そ、それは…」

結衣「そうだけど…」

ちなつ「今こうなっているのは、私たちがあかりちゃんの気持ちを理解できなかったからなんだと思います… そして先輩たちがあかりちゃんの気持ちが分からない以上、もう願いで知る以外にないじゃないですか」

京子「あかりの… 気持ち…」

結衣「でもさ… それを魔法少女になってまで…」

ちなつ「もう決めたんです。それにこのままだといつか私はキュゥべえに無理やり魔法少女にされてしまうと思うんです」

ちなつ「四六時中、眠ってる間とかもキュゥべえは何かをやってくると思います… そうなったらいつかは…」

336: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/13(土) 14:36:38.26 ID:NqOGQJns0
結衣「…………」

京子「うっ… そ、それでも、私たちが…」

ちなつ「…ありがとうございます。先輩たちに守ってもらえるのはとても嬉しいです。だけど、私はただ守られているだけで見ているだけなんて嫌なんです」

結衣「そっか… ちなつちゃんは本当にそれでいいの?」

京子「ゆ、結衣!?」

ちなつ「はい、私も先輩たちと一緒に戦いたいんです」

結衣「…わかったよ、それなら私は止めないよ」

京子「結衣!! 何言ってるの!! そんなの駄目だって!!」

結衣「京子… お前もわかってるだろ?」

京子「何が!?」

結衣「このまま逃げていてもいつかちなつちゃんは魔法少女になっちゃう… あいつの罠にかかって無理やり魔法少女にされてしまう… お前みたいに…」

京子「うっ…」

結衣「それなら、ちなつちゃんの意思で魔法少女になって皆であいつと戦うほうがいいと思うんだ」

京子「…でも」

ちなつ「京子先輩、私は大丈夫ですから」

京子「ちなつちゃん…」

ちなつ「石ころにされてしまうって言っても、先輩達もあかりちゃんももうそうなってるじゃないですか、私だけ仲間はずれなんて嫌ですよ」

ちなつ「最終的にはみんなで助かる道を探すんです。それにはみんな人間に戻るって言うことも含まれているじゃないですか?」

京子「…………」

ちなつ「それに、あかりちゃんはもしかしたら過去に戻っていないかもしれないじゃないですか、願いであかりちゃんのことが分かればあかりちゃんが何処にいるかも分かるはずですよ」

京子「!!」

ちなつ「そうなったらあかりちゃんを見つけて、あかりちゃんを説得しましょう。あかりちゃんの心を勝手に覗いた後ですし、あかりちゃんは怒るかもしれないですけど… それでも心の底から謝ればあかりちゃんも許してくれるはずです…」

京子「あかりの居場所… そうか… それが分かれば…」

ちなつ「京子先輩?」

急にブツブツと呟き始めた京子にちなつは疑問の声を投げかけるが、京子は何かを思いついたのかちなつの声に反応せず思考を続けていた。

337: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/13(土) 14:37:31.68 ID:NqOGQJns0
結衣「おい、京子… どうしたんだよ?」

京子「………ちなつちゃんの願いは『あかりの気持ちを知りたい』だよね?」

ちなつ「えっ? は、はい、そのつもりです…」

京子「その願い、少し変えて貰ってもいいかな?」

結衣「京子? 急に何を…」

ちなつ「変えるって… どんな願いにですか?」

京子「………『あかりの事を何もかも全て知りたい』っていう願い」

ちなつ「な、何もかもですか? それは流石に…」

京子「…もしもあかりが見つかったら私はあかりにぶん殴られる覚悟だよ。でも、思いついちゃったんだ… 可能性は殆どないかもしれないけど… だけどもしかしたら…」

ちなつ「一体何を…」

京子が自分の考えを二人に話そうとした時、部室の片隅から突然声が聞こえてきた。

QB「やあ」

全員「!?」

いつの間にかQBが姿を現していた。

QB「ようやく見つけることが出来たよ。まさか空間移動魔法を使用してあの場から移動するなんてね、本当に驚いたよ」

結衣「いつの間に…」

京子「みんな! 私に捕まって!!」

京子が再び瞬間移動をしようと二人を抱き寄せ集中し始める。
京子の脳裏に自分の部屋が浮かび上がり、再び瞬間移動をする為に魔力を解き放ったが解き放たれた魔力は3人を包み込む前に雲散し消滅した。

京子「えっ…」

QB「無駄だよ。君の空間移動魔法に対する対策はさせてもらったからね」

京子「な、何を…」

QB「…黙秘させてもらおうかな、君は何をしでかすか分からない、無駄に情報を与えることはもうしないよ」

京子「くっ…」

QB「ああ、結衣、君も動かないでもらえると助かるよ」

QB「君が動いたら僕はなすすべなく壊されてしまう、そうしたらまた強引な方法でちなつを連れ去らないといけないからね」

結衣「っ!」ピタリ

338: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/13(土) 14:39:05.33 ID:NqOGQJns0
QB「さてと… ちなつ、僕と契約してくれないかな? できれば魔法少女システムを破綻させるような願いを言わないでもらえると僕も嬉しいのだけど」

ちなつ「…………こんなの契約でもなんでもないじゃない」

QB「そうかな? 僕はお願いしているだけで願いを言うのはあくまで君だよ?」

QB「…まあ、その願いによって僕達のやり方も少し強引なものになるかもしれないけどね?」

ちなつ「…………」

QB「できれば僕達も穏便に済ませたいんだよ、こうやって話し合いでね」

ちなつ(何が穏便によ、脅して無理やりじゃない…)

ちなつ(京子先輩の瞬間移動も封じられちゃったしもう逃げることも出来ない… もしも逃げれたとしても、次は本当に無理やり魔法少女にさせられちゃう…)

ちなつ(私の意志で魔法少女になる最後のチャンス…)

ちなつ(…願い、さっきの京子先輩の言葉)

ちなつ(あかりちゃんの全てを知る… 京子先輩は何かを思いついたみたいだけど、この状況だと京子先輩に聞くことも出来ない…)

ちなつ(…………考えていても仕方ない、か)

ちなつ「わかったわよ… 私、魔法少女になるわよ…」

QB「それはよかった。それじゃあ、ちなつはどんな祈りでソウルジェムを輝かせるのかな?」

ちなつ「…………」チラッ

京子「…………」

結衣「…………」

QB「どうしたんだい?」

ちなつ「………私の願いは」

ちなつ「私の願いはあかりちゃんの事を全て知りたい、あかりちゃんが何を思っているのか、あかりちゃんが何を経験したのか、あかりちゃんが今何をしているのか、そしてあかりちゃんはこれからどうなってしまうのか」

QB「…良く分からない願いだね、そもそも赤座あかりは既にこの宇宙の何処にも存在しないんだよ? 無駄な願いになるとしか思えないけどね」

ちなつ「…っ! …あなたの言葉なんて当てにならないわ、さあ叶えなさいよ、私の願いを!!」

QB「…まあ、いいけどね。…契約は成立だ」

ちなつ「うぅ… あああああああああああああああ!!」

ちなつは水色の光に包まれると共に、意識が急激に遠のいていった。
どこかに引っ張られるような感覚と、何かが入り込んでくる感覚に耐え切れずちなつの意識は闇に落ちた。

339: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/13(土) 14:39:36.83 ID:NqOGQJns0
エピローグ3終わり。

345: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 23:15:36.96 ID:Q/Kyieeb0
エピローグ4


―――――――――――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
――――



ちなつ(…………)

ちなつ(…ここは?)

ちなつは気が付くと暗い空間に浮かんでおり、辺りには不思議な泡が漂っていることに気が付く。

ちなつ(これって…)

ちなつが近くにある泡に触れると泡は大きく広がりちなつを包み込みちなつの脳裏にちなつが見たことのない光景が浮かび上がった。

ちなつ(私が中学生くらいの女の子に何かを渡そうとしてる…? あれ? この女の子ってあかりちゃんのお姉さん…?)

ちなつが女の子の顔立ちにあかねを結びつけると、どこからか声も聞こえてきた。

『おねぇちゃん、いつもありがとぉ。これ、プレゼント!』

『えっ? お姉ちゃんにくれるの?』

『うん!』

『あかり~~~! ありがとう、あかり、大好きよっ!!』

『あかりもだいすきぃ~~』

ちなつ(こ、これってやっぱりあかりちゃんのお姉さん… それで私が渡してるんじゃなくてあかりちゃんが渡してる記憶って事…?)

漂っていた泡が再びちなつに触れ、ちなつは別の記憶を見始める。
小さい頃のあかりの記憶、小学校の頃のあかりの記憶、そして中学になって自分と出会ってごらく部で楽しんでいる記憶。
その全ての記憶が暖かい気持ちに包まれるような記憶だった。
見ているだけで幸せになってくる、そんな記憶だった。

ちなつ(あかりちゃんの心が伝わってくる…)

ちなつ(あかりちゃん… 本当にみんなのこと大好きなんだ…)

暖かい記憶を触れ続けたちなつだったが、一つの泡に触れて、その記憶を見てちなつは顔色を変えた。

346: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 23:16:35.85 ID:Q/Kyieeb0
ちなつ(な、何… これ…)

崩壊した町を歩き続ける記憶。
雨の降る中、誰かが倒れている光景。
倒れている人影は自分自身だった。

ちなつ(わ、私?)

『うそ、こんなのうそだよぉ! ちなつちゃん! おきてっ!』

『おねがいだからぁ!! おきてよぉ!! うわあああああん!!』

暖かかった記憶が、冷え始める。

ちなつ(これって… あかりちゃんが経験した、私達が死んじゃった世界の記憶…?)

自分自身を背負い、歩き始め小さな池に誰かが浮いている。

ちなつ(ゆ、結衣先輩、京子先輩…)

『結衣ちゃ………ん………?』

ちなつ(ひっ!? ゆ、結衣先輩の身体が… な、何なのよ、何なのよこれは…)

そして、京子の身体を抱き起こした瞬間、京子の首がぐらりと動き胴体から離れ水面に落ちる。

ちなつ(い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)

『!? いやぁあああああああ!?』

ちなつ(き、京子先輩っ! やだっ、なにこれっ!? 何なの!?)

ちなつ(こんなの酷い… 酷すぎる… あんまりよ…)

記憶の中で暫く立ち尽くしていたが、その後二人の遺体を池から引き上げ池のほとりでQBとやり取りをしている光景が浮かび上がる。

『あかりは…』

『あかりはみんなを助けたい… こんなことにならないようにしたい… みんなともう一度笑って一緒にいられる時間を取り戻したい』

((こんなのは絶対に嫌だよ… みんなが死んじゃうなんて… あかりはみんなと一緒に幸せな時間をもう一度…))

ちなつ(あかりちゃん… こんな… こんな経験をしてたの…)

ちなつ(あかりちゃんが私たちを何としても守ろうとしてたのはこんな酷い結末を迎えないためだったのね…)

あかりの心が一度冷え切ってしまった記憶だった。
だが、あかりは時間を戻すことによって心の平静を何とか保つことが出来た。
ちなつは暖かかく明るい記憶が冷たく暗い記憶に変わっていくことに気が付いた。

347: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 23:17:17.99 ID:Q/Kyieeb0
次の泡がちなつに触れる。

先ほどの記憶より数段冷たく暗い映像が浮かび上がってきた。
記憶の中で自分がQBと話していた。

ちなつ(この記憶って… あかりちゃんが時間を巻き戻した後の世界?)

ちなつ(だとしたら、この世界でも私たちは死んじゃうの…? またあんな酷いことになっちゃうって言うの…)

『もぅ! だから今言ったように結衣先輩が私の事を愛してくれるようにしてほしいの!』

『ま、待っ…』

『………わかったよ、契約は成立だ。君の祈りはエントロピーを凌駕した』

ちなつ(こ、これって、私、結衣先輩が私の事を好きになるように願いを…?)

それからは数日ちなつと結衣がいない記憶が続いた。
そして、京子と共に結衣の部屋に着き、京子は一人で結衣の部屋に入っていった。

ちなつ(…凄く、凄く嫌な予感がする)

ちなつ(結衣先輩が私の事を好きになって、まさか結衣先輩が京子先輩を殺すなんてことを…)

かなりの時間が経過し、自分自身も結衣の部屋のドアを開け入っていく。
目の前には倒れている京子の姿があった。

ちなつ(き、京子先輩!? や、やっぱりなの…?)

『京子ちゃん! 大丈夫!?』

『んぁ…? あれ? あかり? 私、どうしてたんだっけ…?』

ちなつ(あ… よかった… 京子先輩、大丈夫だったんだ…)

そして、記憶はさらに冷たさを増し、結衣が何をしているかを覗き込み結衣の顔を見てしまう。

ちなつ(は?)

ちなつ(えっと、なに? これ?)

結衣はちなつを食べていた。

しばらくは結衣が自分の頭を食べている光景が映し出され続けていた。
その間、記憶に暗い影が重なり、冷たさが増し続ける。

348: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 23:18:00.57 ID:Q/Kyieeb0
ちなつ(なん、なの…? これって…)

ちなつ(私、結衣先輩に食べられてる…? どういうことなの…?)

ちなつが暫く放心状態だったが、その脳裏にあかりの記憶は再生され続ける。
やがて、結衣の家から吹き飛ばされて木に打ち付けられ、身体中の骨が砕け、痛みに苦しみながら悶え目を開けると、涙目の京子が手をかざしている光景が浮かび上がった。

((京子… ちゃん… たす… けて…))

『お願い… 良くなって…』

((きょうこ、ちゃん… いたい… いたいよ…))

ちなつ(嫌よ、こんなの… 結衣先輩は魔女になってしまった… 私は結衣先輩に… あかりちゃんもこんな酷い怪我で…)

ちなつ(何で… 何で私たちがこんな目にあわないといけないのよ………)

痛みで何も考えられない状態から、徐々に痛みが和らぎ、京子とQBが話している声がはっきりと聞こえる。
そして、あかりの隣に胸に風穴を空けて、絶望しきった顔の結衣が京子によって連れてこられた。

((ゆいちゃん… なんで… なんでぇ… やだよぉ…))

ちなつ(…もう嫌なのに、何でよ… もう勘弁してよ…)

そして、最後の瞬間を見た。
動かない手を伸ばそうとして、京子に手を伸ばそうとして、京子のソウルジェムが黒く濁りきる瞬間を。

((いやぁぁぁ!!))

ちなつ(京子先輩も… 酷すぎるわよ… 何なのよこれ…)

ちなつはいつの間にか大粒の涙を流しながら記憶を見ていた。
そして、再びあかりの心の声が聞こえる。

((酷いよ… なんでこんなことに…))

((京子ちゃんが魔女さんになって… 結衣ちゃんも死んじゃって… ちなつちゃんは…))

((こんなの嫌、絶対に嫌))

((みんながこんなことになるなんて絶対に嫌…))

((もう一度… 神様、あかりにもう一度やり直せる機会を…))

あかりの心の叫びはあかりの力を発動させ光に包まれる。
そして視界から消えたQBを見てあかりの心に一つの闇が生まれた。

((キュゥべえ…))

((京子ちゃんに… みんなに… どうしてここまでこんな酷いことを…))

((最初からこういうつもりだったんだ…))

((みんなを騙して…))

((……許せない))

((…………悔しい))

((………………憎い))

ちなつ(…………)

ちなつはあかりの心が氷のように凍てついたことに気が付く。

349: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 23:18:58.19 ID:Q/Kyieeb0
ちなつ(こんな事って………)

ちなつ(あかりちゃん、こんな酷い経験を………)

ちなつ(あそこまで頑なに私たちが魔法少女になるのを止めた理由が分かった…)

また別の泡がちなつに触れた。

今度は暗闇の中何かを手に持ったバットで何度も叩きつけ、潰している感触が伝わってくる。

((…ごめんなさい)) グシャッ

((……ごめんなさい)) グシャッ

((………ごめんなさい)) グシャッ

ちなつ(な、なに? 今度は一体何の記憶が…)

しばらくの間、生々しい感触にちなつはいったいなにが起きているのかと混乱していたが、やがて叩き潰す感触が消え、周りの空間にひびが入り、光が差し込み目の前に頭部が潰れた魔女がいることに気が付く。

((うぅぅぅぅ……… ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…))

ちなつ(ま、魔女? これってあかりちゃんが…?)

魔女の空間が崩壊すると同時に、目の前にいた魔女も崩壊する空間に飲み込まれ、気が付けば薄暗い工事現場に立っていた。
そして、少し離れたところにグリーフシードを見つけると、それを拾い上げる。

『あかりが… 殺した…』

((………嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ))

『キュゥべえに騙されただけの女の子を…』

((………怖い、辛い、苦しい、悲しい))

((………こんな事したくない、誰か助けて、嫌だよ、苦しいよ、なんであかりがこんな事を………))

『…何を考えてるんだろう』

((………苦しいの、胸が引き裂かれそうなの))

『あかりのことなんてどうでもいい』

((………悲しいの、本当はこんな事をしたくないの))

『これで結衣ちゃんは大丈夫… あかりがこれを持っていけば…』

((………嫌なの、誰かを傷つけるなんて))

『できるもん… あかりはできたんだから… これからも… ずっと…』

((………もうやりたくない、こんな酷いことしたくない))

『行かないと… 結衣ちゃんが待ってる…』

((………こんな事したくないよぉ、もう嫌だよぉ………))

『結衣ちゃんを守るんだ… みんなを守るんだ…』

ちなつ(あかりちゃんの本当の気持ち…)

ちなつにはあかりの心の奥底に封じられた声がはっきりと聞こえていた。
3人を守る為に、自分の心を殺しきって魔女を倒した、あかりの本当の気持ちが。

ちなつ(こんなに無理してまであかりちゃんは…)

350: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 23:20:51.36 ID:Q/Kyieeb0
そのまま記憶が流れ続け、薄暗いあかりの部屋で膝を抱えて震え続けている記憶が浮かび上がってきた。
あかりは部屋に戻ってから、思考が負の感情で満たされ追い詰められていた。
そして、その追い詰められた精神状態でQBと出会い、QBの言葉に心が黒く塗りつぶされていった。
あかりはその感情に流されるままに、QBの首をへし折ってしまった。

『死んじゃえ』

((…………))

『…………』

((………あはははは))

ちなつ(あ、あかりちゃん…?)

『……あかり、魔女さんだけじゃなく、キュゥべえまで殺しちゃった』

((………やった、やったよ))

ちなつ(ど、どうしたっていうの?)

『…でも、これでもうみんなが魔法少女になることはないし、他の子たちも騙されて魔女になることはないよね………』

((………キュゥべえがあかり達を殺すつもりだったんだから、殺されても文句は言わないでよね))

ちなつ(な、なに? あかりちゃん?)

『…これでよかったんだよ、これでもう本当に大丈夫…』

((………もっと早くこうすればよかった、そうすれば結衣ちゃんは魔法少女にならなかったのに))

ちなつ(こ、これってあかりちゃんの本心…?)

((………悔しかった ………憎かった))

ちなつ(で、でも、あかりちゃんがこんな事を考えてるなんて…)

((………キュゥべえなんて、死んで当然だよ))

ちなつ()

((………あかりに死んでほしい? そんな事言うならあかりが殺してやるんだから))

ちなつ()

((………あはははは、あははははははは))

ちなつ()

ちなつ(な、なに? さっき魔女を倒した時はあんなに悩んでたのに…)

ちなつ(あかりちゃん… 一体何が…)

あかりの心の奥底に封じられた声、あかりが始めて抱いた殺意という感情に呑みこまれてしまった声もちなつははっきりと聞いていた。

ちなつ(…そっか)

ちなつ(…これも、あかりちゃんの本当の気持ち)

ちなつ(…あかりちゃんはいい子なのは間違いないけど、怒ったり、悔しがったりもする)

ちなつ(…こうやって、誰かを憎んだり、場合によっては… 殺したいって思ったりもするよね…)

ちなつ(…あかりちゃんはこんな感情とは無縁だって思い込んでた)

351: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 23:21:45.27 ID:Q/Kyieeb0
記憶は流れ、あかりがQBを再び見つけ、QBを1匹ずつ殺していく間もあかりはQBに対する殺意を絶やすことはなかった。
そして、あかりとの最後の場面が記憶に浮かび上がってきた。

『!? おいっ! あかり、待っ………』

『ごめんね』

3人の時が停止し、あかりだけの声が聞こえる。

『…みんな、ごめんね』

『…みんなと一緒に戻ったら、多分あかりはみんなに甘えちゃう』

ちなつ(…………)

『…そしたらまた一緒、あかりはただみんなに助けられて、それでみんながまた死んじゃう…』

ちなつ(…………違うよ)

『…この世界でもみんなに助けられてばっかり… 結衣ちゃんに怪我を治してもらって、京子ちゃんにはあの公園で閉じ込められちゃった魔女さんの結界から逃がしてもらったんだよね…』

ちなつ(…………違うよあかりちゃん)

『…結局あかりは何も出来なくって… このままだとちなつちゃんもあかりの為に魔法少女になっちゃう…』

ちなつ(…………それだと、あかりちゃんは一人ぼっちになっちゃうよ)

『…変わらないと』

ちなつ(…………変わらなくてもいいんだよ)

『…みんながあかりを守ってくれるのは、あかりが弱いからだ』

ちなつ(…………あかりちゃんは強いよ)

『…みんながあかりを守ろうなんて考えもしないくらいあかりが強くなればいいんだ』

ちなつ(…………私だったらもう絶望しきってる)

『…弱いあかりなんかいらない』

ちなつ(…………待ってよ)

『…変わって見せる、そしてみんなを守ってみせる』

ちなつ(…………行かないで)

『どんな手を使ってでも… どんな事をしてでも…』

ちなつ(駄目ぇぇぇ!!)

あかりの瞳が輝いて、あかりが別の時間軸に移動したことをちなつは理解した。

ちなつ(あかりちゃぁぁぁぁん!!)

ちなつ(…うっ、うぅぅっ)

ちなつ(…やっぱりあかりちゃんはもうこの世界にはいないんだ)

ちなつ(…あかりちゃんは、別の世界に行っちゃった…)

ちなつ(…私たちを守る為に、一人で別の世界に…)

ちなつ(…もう、あかりちゃんとは二度と…)

ちなつ(…そんなの、嫌だよ)

352: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 23:23:26.65 ID:Q/Kyieeb0
ちなつは二度とあかりとは会えないのかと嘆き悲しんでいたが、再びあかりの声が聞こえてきて目を見開く。

『………戻って、これた』

ちなつ(あかりちゃん!? 何処にいるの!?)

『…今度こそ、絶対に』

ちなつ(お願い!! 私に気付いて!!)

『もうみんなを魔法少女にさせない、あかりが全部一人でやって見せる』

ちなつ(何で私の声は届かないの!? あかりちゃん!!)

『キュゥべえを… いなくなるまで殺す… ううん、駄目だよね…』

ちなつ(あかりちゃんの声は聞こえるのに… あかりちゃんはすぐ傍に感じられるのに…)

『それで前の世界であかりは失敗した… 別の方法を考えないと…』

ちなつ(こんなのってないわよ… 何で… どうして…)

別の時間軸に旅立ったあかりの存在をちなつは認識できた、だがちなつはそれだけしか出来なかった。
ただ、あかりの声を、あかりの考えを、あかりが見ているものを、あかりが感じているものをただ認識するだけだった。
ちなつはあかりの過去から現在までを実体験するように認識した。

ちなつ(…………?)

ちなつ(………なに?)

ちなつ(……頭の中に何かがまた流れ込んでくる)

ちなつ(…これって一体)

ちなつは願っていた。
あかりの事を全て知りたいという願いの中で、あかりがこの先どうなってしまうのかということも。
ちなつの頭に流れ込んでいくのは、これからありえるかもしれない未来。
あかりの行き着く一つの可能性をちなつは見る。

353: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 23:23:59.69 ID:Q/Kyieeb0
エピローグ4終わり。

359: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 01:05:05.49 ID:USvZdQu20
エピローグ5


ちなつの脳裏に浮かぶあかりの姿がブレ始め、浮かび上がる記憶が徐々に早く加速していく。
加速していく意識の中、ちなつはあかりが再び自分達を守る為に行動をしている姿を見た。

記憶の中であかりは一人で行動していた。
3人を守る為に、あかりは学校にも行かず魔法を駆使してQBを3人に近づけさせないように動いていた。
だが時間停止魔法を持ってしても3人を同時に監視することは不可能だった。
あかりの隙を付き、QBは京子を魔法少女にしてしまう。
あかりは京子を戦わせないために、再び魔女を狩り始めたが、逆に魔女に追い詰められ殺されたけた所で京子に庇われて京子は死んでしまった。

京子の死体は魔女の結界が崩壊すると共に消えてしまい、あかりは魔女の結界があった場所に蹲りながら嘆き続けた。
虚ろな目をしながら、あかりは再び時間を巻き戻す。

また別の記憶がちなつの脳裏に浮かび上がる。
その時にはちなつはこれは未来の記憶なんだと分かっていた。

次の記憶では、あかりは3人を結衣の家に集め、結衣の家で毎日泊まり、毎日行動するよう3人にお願いをする。
3人をいつでも見ていられるようにするためで、3人もそれを了承した。
だがそんな生活が長く続けられるわけもなく、3人はそれぞれの親に連れ戻される。
あかりは3人を引きとめようと、3人の親に懇願するが、あかりは頭のおかしい子供と思われ一蹴される。
あかりは両親にも理由を話し、魔法を見せたが魔力のないあかりの両親は魔法を見ることも感じることも出来ずに、あかりがおかしくなってしまったと判断され精神病院に連れて行かれかける。
だが、あかねが両親に頼み込み、あかりを庇いあかりの面倒を見ると言い両親も渋々納得した。
しかし、あかねはあかりの言うことを全て信じ、あかりに協力すると言った。
あかりも泣きながらあかねに抱きつき、今まで経験してきた全てを吐き出し、あかねもあかりの嘆きを全て受け止めた。
その日、あかりとあかねは一緒に寝て、次の日から二人は3人を助ける為に動き始めた。

数週間は二人で行動し、3人を守れていた。
しかし、あかねは魔女の結界に捕らわれ、あかりの目の前で魔女に食い殺されてしまった。

あかりに3人が死んでしまった最初の世界と匹敵する絶望が襲い掛かる。
あかりは真っ黒に染まりかけたソウルジェムをあかねを食い殺した魔女が落としたグリーフシードを使い浄化した後にグリーフシードが粉々になるまで殴りつけ再び時間を巻き戻す。

次はあかねを巻き込まないと誓って。

360: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 01:06:09.75 ID:USvZdQu20
次の記憶で、あかりは自衛隊の基地や暴力団の事務所から武器を盗み出していた。
素手や鈍器では倒せない魔女がいると考え、悩んだ上での決断だった。
あかりはごらく部の押入れに武器を隠し、今まで持ったこともない銃や爆弾を使いこなすために魔女を狩り始めた。
そしてこの世界であかりは3人を連れ去っていた。
少ないお金を使い、電車に乗り遠い町に3人を連れて逃げていた。
3人ともあかりを信じ着いて来た、後のことは考えずに4人は遠い町へ、QBから逃げる為に。

だが、4人は逃げ切れなかった。
QBに見つかり、あかりは追ってくるQBを処理しつづけ、QBも固体を破壊され続け、あかりたちの前から姿を消した。
数日間、QBが現れずにあかりは安堵するが、1週間が経った頃にQBは再びあかりたちの前に姿を現した。
あかりはQBを破壊しようとするが、QBが破壊されるより早くあかりたちにテレパシーを送り、4人の頭の中に、綾乃や千歳、櫻子と向日葵が魔女に殺される寸前の映像を見せ付けた。
あかりたちはQBに問い詰めるが、QBは何も言わずに姿を消して、4人はすぐさま七森町に戻った。

そこで4人は、生徒会の4人が行方不明となってしまったことを知る。
再びQBが現れ、綾乃たちは魔女に殺されたと4人に告げ、京子は綾乃たちを生き返らせる為に契約を行った。

あかりは京子が契約を行い、何が起こったのかも分からない様子の綾乃たちを見ながら、時間を巻き戻した。

次は生徒会の4人も守らないといけないと思いながら。

ちなつは記憶を見続ける。
次の世界では、りせと奈々が死んでまた京子が魔法少女になった。

その次の世界では、楓とまりが魔女の口付けを受け首をつって自殺した。
そして、結衣が魔法少女となった。

また別の世界では、あかり以外全員死んでしまった。

別の世界では……………

数え切れないくらい、あかりは時間を巻き戻し、近しい人の死を見続けて行った。
あかりは時間を戻すたびに何かを捨て、何かを失っていく。
優しさを捨て、笑顔を失い、涙も枯れ、本心を隠し、嘘をつき、手を汚し………
それでも、あかりは前に進み続けた。
もう前に進むしかあかりには道は残されていなかった。

361: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 01:07:13.38 ID:USvZdQu20
そして、最後の記憶が始まった。

『あかり! 本当に魔女っ娘になれるの!?』

『本当だよ京子ちゃん』

『うおおおおお! テンションあがってきたぜ~~~!!!!』

『ちょっとは落ち着けよ… それであかり、魔女っ娘になるときに願い事を決めることが出来るんだったっけ?』

『そうだよ結衣ちゃん』

『? あかり… どうかした?』

『どうもしてないよ結衣ちゃん』

『………それならいいけど』

『それで、私達の願い事はあかりちゃんが決めるんだったよね?』

『そうだよちなつちゃん』

『ちくっしょーーー! ゲームで負けた罰ゲームとは言えそれはないだろー、あかりー』

『最初に決めたことだよ、みんなはあかりに負けたんだから罰ゲームは守ってもらわないと』

『ま、いいけどね! 私は魔女っ娘になれるんだったらそれが願い事って言っても違いはないかんね!』

『京子先輩… まあ、私もそんなどうしても叶えたい願い事なんてないけど… 本当はあるけど…』

『ちなつちゃんは約束を破るの?』

『うっ… あ、あかりちゃん、ちょっと怖いよ』

『…………』

『わかった、わかったよ! あかりちゃんに願い事は譲るから、そんな目で見ないでよ!』

『ありがとう、ちなつちゃん』

『…結衣先輩、あかりちゃんどうしちゃったんですかね?』

『…わかんない、夏休みが終わるまでは普通だったのに…』

『そうですよね… この二日で何があったんですかね?』

『うーん… 後で聞いてみようか…』

『はい。…どうせ今聞いても京子先輩がこんな状態だったらちゃんと聞けないですしね』

『あかりぃーーーーー!! 早くキュゥべえってのを呼んでくれよ!!』

『わかったよ、京子ちゃん』

『だね…』

『ほんとに京子先輩は…』

362: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 01:08:10.21 ID:USvZdQu20
あかりがQBを呼ぶとすぐQBは姿を現した。

『う、うおおおおおおお!! ほんとに来た、来たよ結衣!!』

『はいはい、そろそろ落ち着けって…』

『約束どおり3人を連れて来たよ』

『…話には聞いていたが、信じられないな、3人ともここまでの潜在能力を…』

『それじゃあ早速契約してもらえないかな?』

『ああ、僕はいつでも準備は出来ているけど、3人を紹介してくれてもいいんじゃないかな?』

『そんな事はどうでもいいでしょ?』

『…まあ、そうだね』

『おいおいあかりー!! 何勝手に話進めてるんだよ! 私もキュゥべえと話させてよ!!』

『………京子ちゃんはすぐ魔女っ娘になりたくないの?』

『!! あかりも私の事を理解できるようになったなぁ、あかりの言うとおりだ! 早く魔女っ娘の契約だ!!』

『…分かったよ、それじゃあ契約を行うとしようか』

『ええと、願い事は昨日言っていた内容でいいのかな?』

『君達3人は願い事の権利を、あかりに譲渡する。それでいいかい?』

『おっけー!』

『うん、あかりがどうしても願いたいことがあるって言うくらいだしね』

『私も大丈夫だよ』

『わかったよ、それじゃあ、契約は成立だ』

3人から光の柱が立ち昇り、それぞれの手にソウルジェムが現れる。

『これで君たちは魔法少女となった、そして君達の祈りはあかりに託された』

『さあ、あかり、君は何を願うんだい?』

『…………』

『あかり? どったの?』

『…………なんでもないよ、京子ちゃん』

『そーなの? なら早く願い事をいいなよ! 私は待ちくたびれてるぜーー!』

『…………うん』

363: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 01:10:11.26 ID:USvZdQu20
『…………まず一つ目』

『みんなの魔法少女としての才能をあかりに全部移して』

『えっ?』

『…その願いは …いや、わかったよ。だけどいいのかな? その願いだと3人には魔法を使う才能がなくなり、今後戦うこともできなくなると思うけど…』

『た、戦う? 何言ってるの…?』

『いいよ、叶えて』

『わかったよ』

3人から立ち昇っていた光の柱は上空で捻じ曲がり、あかりに目がけて降り注いだ。
数分間、光はあかりに降り注ぎ続け、やがてあかりを中心に大きな円状の光として膨れ上がり、その光はあかりのソウルジェムに全て吸い込まれて消えた。

『一つ目の願いは完了だ、これで君はこの3人の全ての力を受け継いだ最強の魔法少女となった』

『あ、あかり? な、何してんの?』

『…それじゃあ次の願い』

『あかりっ! ねぇ!』

『みんなを人間に戻してあげて』

『人間? あ、あかりちゃん、それって一体どういう…』

『…君は一体何を知っているのかな?』

『なんだっていいでしょ、早くみんなを人間に戻してあげて』

『…わかったよ』

3人が持っていた、色がくすんだソウルジェムは手のひらに吸い込まれるように消えていった。

『これで二つ目の願いも叶ったよ、3人はもう魔法少女としての力も何もない普通の人間に戻った』

『あ、あかりっ! 何をやってるの!? キュゥべえもいなくなっちゃったし… ねぇ、あかりっ!』

『最後の願い事だよ』

『あかり! 待ってくれよ! 京子もちなつちゃんも混乱してる、話を聞かせてくれよ!!』

『最後の願い事は…』

『あかりっ!!』

364: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 01:11:19.32 ID:USvZdQu20
『この世界の全ての人間の記憶からあかりの存在を消して』

『!? あかり!! お前何言ってるんだよ!? おいっ!!』

『そ、そうだって! あかりっ、訳わかんないよっ!!』

『あかりちゃん… じょ、冗談だよね… ねっ、そんな怖いこと言わないでよ…』

『…君は一体何を言っているんだい?』

『…………早く叶えて』

『あかりっ!!』

『あかりぃっ!!』

『あかりちゃん!!』

『………わかったよ』

その瞬間、世界中に薄い光が駆け巡り、全ての人間の身体を通過していった。
そして、あかりに詰め寄ろうとしていた3人は必死な顔から、なにが起きたのかわからない顔に変化してあかりを見ていた。

『…? あれ? 何で私ここに居るんだっけ? あ、結衣だ』

『? 京子…? ここって… 私、何をしてたんだっけ?』

『? 結衣先輩、京子先輩… あれ?』

『…………』

『なんだろー? なんか変な感じだぞ… あれ? この子って結衣の知り合い?』

『ん? いや、知らない子だけど…』

『………ちょっとあなた、私達の事をそんなに見て何か言いたいことあるの?』

『…………』

『…な、なんだよ』

『…………』

『…ちょっと! 何か言ったらどうなのよ!』

『…………』

『…京子、ちなつちゃん、帰ろう。なんだか怖いよこの子…』

『…………』

3人はあかりから逃げるようにその場から去っていった。
あかりはそんな3人をただ見続け、3人が見えなくなった後もその方向を見続けていた。
あかりの目から枯れ果てたはずの涙が一筋だけ頬を伝った。

365: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 01:12:18.00 ID:USvZdQu20
『…これですべての願いは叶ったよ。しかし良く分からない願いを祈ったものだね』

『…………』

『…まあ、いいけど。君は途方もない力を持った魔法少女となった。これから君は一体どんな道を歩んでいくのかを見届けさせてもらうよ』

『…………もう』

『?』

『…………もう、これで終わりだよ』

『何を言っているのかな?』

あかりは懐から銃を取り出し、自分のソウルジェムに銃口を突きつける。

『!? 何をやっているんだい!? ソウルジェムにそんなものを突きつけて、危ないから止めるんだ!!』

『…………みんなはもう魔法少女になることはない』

『君は知らないかもしれないが、ソウルジェムは君たち魔法少女の本体なんだ!!』

『…………みんなが魔法少女にならなければ、もうワルプルギスの夜をこいつがおびき寄せることもない』

『ソウルジェムが破壊されると君たちは死んでしまうんだよ!!』

『…………後はあかりが魔女にならなければ全て終わる』

『………魔女? まさか君は!?』

あかりは最後にQBを見ながら、酷く歪んだ笑みを見せて一言呟いた。

『…………あかりの呪いがお前達、インキュベーターに降りかかります様に…………』

そのままあかりは銃の引き金を引き、あかりのソウルジェムは破壊された。

そして記憶は完全に闇に閉ざされた。

ちなつ(…………)

ちなつ(…………)

ちなつ(…………)

ちなつ(…………い、嫌)

ちなつ(嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)

叫びと共にちなつは目を覚まし、京子に抱きかかえられた状態から跳ね起きた。

366: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 01:12:56.08 ID:USvZdQu20
エピローグ5終わり。

374: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 23:47:54.28 ID:BTYDwvo/0
エピローグ6

京子「ちなつちゃん!? ど、どうしたの!?」

ちなつ「駄目ぇぇぇぇぇぇぇっっっ!! あかりちゃぁぁぁぁぁん!!」

ちなつ「あああああぁぁぁぁぁ……… ぁぁぁ、ぁ、あれ………?」

ちなつは目を覚まし、自分を抱きかかえていた京子の顔を見ながら状況を理解できずにいた。

ちなつ「わ、私… あかりちゃんを見てたんじゃ………」

京子「!! あかりの居場所が分かったの!? ちなつちゃん、あかりは何処にいるのか分かったの!?」

ちなつ「居場所…? あ… そっか、私願い事であかりちゃんのことを…」

ちなつ「それじゃあ、あかりちゃんはこれから… あんな事に…?」

京子「ちなつちゃん…? ねぇ、どうしたの…? 一体何があったの?」

結衣「ちなつちゃん! 大丈夫!?」

京子に続き、QBを剣でなぎ払っていた結衣もちなつに駆け寄りちなつの心配をするが、当のちなつは今自分が見てきたあかりがこれから歩んでしまうだろう未来を思い出し顔を青ざめ二人に話し始めた。

ちなつ「き、京子先輩、結衣先輩… あかりちゃんが… あかりちゃんがこのままだと死んじゃうんです…」

京子「!?」

結衣「なっ!? 何を言ってるんだよちなつちゃん!?」

ちなつ「あかりちゃんの過去も現在もそして、未来も見てきたんです… あかりちゃんは私たちを守る為に、私たちの力を全て引き受けてそれで…」

京子「未来…? それに私達の力を…?」

ちなつ「あかりちゃん… あんな未来嫌だよ… なんであかりちゃんが…」

あかりのやりきれない最後を見てしまったちなつは悲しみに満ちた表情で視線も定まらずに京子と結衣を見ている。
少しずつちなつの心は絶望に向かっていたが、そんなちなつを京子はちなつの肩を掴み焦った表情で話し始める。

375: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 23:48:48.62 ID:BTYDwvo/0
京子「ちなつちゃん! 気をしっかり持って!」

ちなつ「………京子先輩、でも、あかりちゃんが…」

京子「あかりを助ける方法があるんだよ!」

ちなつ「………え?」

結衣「京子、お前の言ってた考えってそれなのか?」

京子「うん、ちなつちゃんはあかりの事が見えたんだよね? 何処にいるかわかったんだよね!?」

ちなつ「はい… でも、あかりちゃんはもう別の世界に… もうこの世界には…」

京子「あかりはこの世界にはいない、だけどちなつちゃんにはあかりの居場所が見えたんだよね?」

ちなつ「はい…」

結衣「………やっぱり …もう、あかりとは………」

ちなつ「…………」

結衣とちなつはあかりが過去に戻ってしまいもう会うことすら出来ないと理解し悲しみにくれる。
だが、京子は二人を引き寄せ、二人の目を見ながらはっきりと言った。

京子「追うよ」

結衣「え?」

ちなつ「…何を?」

京子「だからあかりを追うんだ」

ちなつ「…そんな事もうできないですよ」

結衣「………あ」

結衣「京子… お前、まさか…」

ちなつ「?」

京子「結衣、そのまさかだよ」

京子「ちなつちゃん、ちなつちゃんが見たあかりが今いる場所に私の力で移動するんだ」

ちなつ「!? 何を… そんな事できるわけが…」

京子「できるできないじゃないよ、やるんだ」

京子「あかりが今いる場所さえ分かれば、そこに飛ぶことができるはず…」

京子「いや、絶対にやってみせる!!」

376: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 23:49:29.65 ID:BTYDwvo/0
京子が力強く言い、それに結衣も頷く。

結衣「…うん、やろう」

ちなつ「結衣先輩も…」

結衣「あかりを追いかけてあかりを助けないといけない…」

ちなつ「あかりちゃんを…?」

結衣「ちなつちゃんはあかりが死んでしまう未来をみたんだろ?」

ちなつ「…はい」

結衣「そんな未来絶対に許さない、あかりが死ぬ未来なんて絶対に認めるもんか!」

結衣「未来は私たちが変えてやる!!」

ちなつ「あ…」

結衣の言葉にちなつは気が付く。
自分の見たのは未来、それならばまだ変えることもできるのだと。

ちなつ「そうですよね…」

ちなつ「あんな未来… あかりちゃんが死んじゃう未来なんて変えないと…」

京子「そうだよ! 絶対に変えないといけないんだ! そんな未来なんて!」

結衣「あかりを死なせはしない… 絶対に…」

京子「だから行こう、あかりのいる世界に!」

3人の心が一つになり、あかりのいる世界に行くと決めた矢先、どこかからかQBの声が聞こえてきた。

QB「それは止めておいたほうがいいと思うよ」

結衣「っ!? 何処から!?」

京子「…………止めるって何をさ?」

QB「今君が言った空間移動魔法を使っての時空間移動の事さ」

QB「空間移動魔法を使って時間を飛び越えるなんて不可能だよ。それにそれはとてつもなく危険な行為なんだよ」

京子「…………不可能とか危険とか関係ないね、それに今更あんたの言うことを聞くとでも思ってんの?」

QB「それでも聞いてくれないかな? 時間を飛び越える… いや、世界を超えるためには次元の壁を突破しなければならないんだよ」

QB「空間移動魔法なんかで次元の壁に突っ込んだりしたら君たちの身体は耐え切れず吹き飛んでしまうだろう」

QB「赤座あかりのような時空間操作魔法の使い手でない限りは、次元の壁をすり抜けることなんてできやしないよ」

QB「これは純粋に君たちの事を思っての事だよ、もしも君たちがそんな馬鹿げたことをして死んでしまったら僕達はエネルギーを回収することが出来ない」

QB「お願いだよ、君のしようとしている事はどれだけ危険なことかを理解してほしいんだ。次元の壁を越えることなんて僕達のテクノロジーでも不可能なことなんだからね」

京子「…………知ったことじゃないね」

QB「…残念だ、それじゃあ君たちを動けなくしなければならなくなったわけだ」

QB「魔法も使わせることも出来ない、本当はこんな事をしたくはないんだけどね」

京子「っ!!」

377: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 23:50:22.03 ID:BTYDwvo/0
QBが京子達に言いその言葉に対し、京子が身構えた瞬間、京子とちなつの身体は結衣に抱きかかえられると共にごらく部の天井を突き破り3人は空を舞っていた。

京子「~~~~~~~っ!?」

ちなつ「き、きゃああああああああああああああ!?」

結衣「ゴメン、二人とも、ちょっと我慢してて」

京子「ゆ、結衣~~??」

京子がとてつもない風圧ではっきりと開けられない目を少しだけ開くと、夜空一面に輝く星空と真下に雲の絨毯が敷き詰められた光景が飛び込んできた。

京子「こ、ここって」

結衣「雲の上、今雲の上を走ってる」

ちなつ「な、なななな…」

結衣「あいつが何かしようとしてたし、京子の魔法が使えなくされてたみたいだから咄嗟にね」

京子「と、咄嗟にっても、空! 結衣、空飛んでる!? これも結衣の魔法なの!?」

結衣「違うぞ、空気を蹴って空を走ってるんだ。これは魔法じゃないぞ」

京子「」

京子「わ、私より滅茶苦茶なことやってんね…」

結衣「そう?」

京子は結衣のトンデモ発言に顔を引きつらせながら必死に結衣にしがみついていた。
背負われているちなつは若干気を失いかけているようだった。

結衣「それで京子、今魔法を使うことは出来る?」

京子「つ、使うも何も、こんな状態じゃ無理! 集中できないよっ!」

結衣「無理じゃないだろ? あかりを追うのにこんな事で無理なんて言ってたらあかりの所に行くことなんてできないぞ」

京子「っ!! …………できる、最初に使ったときと同じ感覚と魔力が集まってる。さっきみたいに魔力が散らされることもない、飛べるよ」

結衣「やっぱりあの場所でなにかされてたみたいだね、飛び上がるときに何か変な感覚があったんだ、遮られるようなそんな感覚が」

結衣「今ならあいつの妨害もなくいけるはずだ。京子、あかりの所に行こう…」

京子「うん… って、ちなつちゃん! 目を覚まして!」

結衣「えっ?」

ちなつ「」

378: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 23:51:18.03 ID:BTYDwvo/0
結衣は背負っていたちなつが気絶していることも気が付かずに空を駆け続けていた。
気を失ってしまったちなつを起こすために結衣は雲の上から地上に戻り、高い山の頂上に降り立った。
京子と結衣はちなつを起こし、ちなつも状況を聞いて、あかりの居場所を京子に伝えようとして固まってしまった。

ちなつ「…京子先輩、あかりちゃんの居場所を伝えるってどうやって伝えればいいんですか…?」

ちなつ「言葉で言っても、京子先輩はあかりちゃんの居場所を理解して飛ぶことなんて出来るんですか…?」

京子「………言葉で聞いても飛ぶことはできないね、私の頭の中であかりのいる所を正確に思い浮かべないといけないんだ」

ちなつ「そ、それじゃあ………」

京子「ここで賭けその1になるよ」

結衣「その1?」

京子「うん、それじゃあ、ちなつちゃん魔法少女になってみようか」

ちなつ「私がですか…?」

京子「そうだよ、ちなつちゃんの魔法が鍵になってくるんだ…」

ちなつ「わ、わかりました」

ちなつは光に包まれると共に魔法少女と変身した。

ちなつ「それで私の魔法って…」

京子「…結衣は癒しの願いで身体能力や自己治癒能力」

京子「私は移動系の願いで瞬間移動の力」

京子「ちなつちゃんはあかりの事を知りたいという、思考系の願い… だったらちなつちゃんの魔法でちなつちゃんの思考を私に見せることも出来るんじゃないかな?」

結衣「…そういうことか」

京子「これが最初の賭け、それでこれがうまくいかなかったらまた別の方法を考える…」

京子「ちなつちゃん… お願いできるかな?」

ちなつ「わかりました」

ちなつ「行き当たりばったりですけど、これから私たちがやろうとしてることなんてもっと行き当たりばったりですよね」

ちなつ「最初で躓いてなんていられないです! やってみせますよ!」

ちなつは両手を胸の前に組んで祈るように集中を始めた。
すると、自分のすぐ傍にとても大きな何かがあるような感覚を掴む。
その感覚はとても心地よく、ちなつはそれに向かい意識の中で手を伸ばした。
そして、ちなつの手はそれに触れた。

379: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 23:52:00.62 ID:BTYDwvo/0
エピローグ6終わり。

383: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/04(金) 01:44:48.72 ID:3FVaEwCd0
エピローグ7


ちなつ「こ、これって…」

結衣「!!」

京子「!?」

ちなつ達の周りは真っ白で何も無い空間に変わっていた。
そこは何処までも白く、前後左右何処を見ても白、気が遠くなるほど白い空間だった。
そんな空間にちなつと京子と結衣が3人立ち尽くしていた。

京子「!? な、何!? まさか… あいつに見つかったって言うの!?」

京子「(そうだったらマズイよ… くっそぉ… 折角結衣が作ってくれたチャンスを無駄にしてしまった…)」

結衣「何処にいるんだよっ!! 出てこいっ!!」

結衣「(さっきと同じ… 何も分からないフリをして油断させる… あいつが姿を見せて隙を見せたらまた逃げてやる…)」

ちなつ「ちょ、ちょっとまってください!」

京子「ちなつちゃんは魔法を使うことに集中して、ここは私たちに任せて」

京子「(そう、ちなつちゃんが狙い通りの魔法を使えさえすれば…)」

ちなつ「違うんです! 多分これ、私の魔法ですよ!」

京子「えっ?」

京子「(これが… だったら失敗したって言うの…?)」

結衣「(駄目だったのか… いや、まだだ、まだ方法が…)」

ちなつ「二人の考えていることがわかるんです!」

384: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/04(金) 01:45:32.30 ID:3FVaEwCd0
京子「へ?」

京子「(考えてることが…?)」

結衣「…考えがわかるって?」

結衣「(私が今思っていることを分かるっていうの…)」

ちなつ「はい、京子先輩の言っていた思考系の魔法だと思います」

京子「…………」

京子「(…私はラムレーズンが大好き。…本当に考えが分かるんならこの言葉を言ってみて)」

ちなつ「ラムレーズンが大好き、ちゃんと聞こえてますよ」

京子「!!」

結衣「(私もラムレーズン大好き)」

ちなつ「結衣先輩も、ラムレーズン大好きって考えました」

結衣「!!」

京子「はぁぁぁぁ~~~、よ、よかった… てっきりあいつに何かされたのかと…」

結衣「ふぅ… ひとまず安心だね」

京子と結衣は大きく息をつき白い地面に座り込んだ。
今の状況がちなつの魔法によるものだと認識して、一息つくと共にこの世界が一体なんなのかと話し始めた。

385: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/04(金) 01:46:13.73 ID:3FVaEwCd0
京子「私達の考えがちなつちゃんに伝わっているってことは分かったけど、一体この世界はなんなんだろ?」

ちなつ「…魔法を使うときに、そばにいた大きな何かを掴むと同時に私の中に引きこんだ感覚がありました」

ちなつ「大きな何かが先輩たちだったとすると、ここは私の中の世界…?」

結衣「ちなつちゃんの中? ちなつちゃんの心の中ってことかな?」

ちなつ「そ、そうです、私の心の中ってことです!」

京子「心の中の世界か…」

京子はちなつの言葉に少し考え、最初に考えていたちなつの思考を自分達に伝えることが出来るかどうかを試すことにした。

京子「………この世界では私達の考えはちなつちゃんに伝わる。それなら逆も、ちなつちゃんの考えを私たちに伝えることもできないかな?」

ちなつ「…やってみます」

京子「(お願い… がんばってちなつちゃん…)」

結衣「(頼むよ… 成功してくれ…)」

ちなつが再び祈るように意識を集中し始めると、今度は京子と結衣に違和感が起き始めた。

京子「(な、なんだこれ? 頭の中に何かが…)」

結衣「(私の中に何かが… 誰かがいる…?)」

二人はその感覚を探ろうと目を瞑り、ちなつと同じように意識を集中させる。
すると、目を瞑っているはずなのに目の前に光り輝く手がさし伸ばされていた。
二人とも最初は驚いたが、その手が自分達の見知った形、その手がちなつのものということが分かり、導かれるように自分の手を重ね合わせた瞬間、
3人の意識が完全に一つになった。

真っ白な世界のあらゆる場所に色が付き始めた。
色が増えると共に、その色は形となり、記憶となって白い世界が埋め尽くされる。
3人はお互いの記憶を全て共有し、意識を共有し、精神的に完全に繋がった。

386: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/04(金) 01:46:49.44 ID:3FVaEwCd0
『あ…』

『この魔法は…』

『わかる… ちなつちゃんの記憶も… 結衣の記憶も見える…』

『成功したんだ… 京子の考えも、ちなつちゃんの考えもわかるぞ…』

『全部わかる… あかりの未来の記憶も見えた…』

『あかり… あんな… あんなに傷つきながら… それでも逃げることも出来ずに…』

『あのあかりが… 優しいあかりが誰かを恨みながら… 呪いながら死んでしまうなんて…』

『…あかりちゃんは一人で頑張っていました… どうしようもない状況でも頑張って… もう逃げることも… 逃げるなんてことも考えられなくなっちゃって…』

『うん… そうやって全部抱え込んで… 背負いきれないくらいのものを抱え込んで…』

『最後は一人ぼっちで… あんまりだろ… こんなことって…』

『…………』

『……させない』

『…ああ、絶対に』

『…絶対にあんな未来にするわけにはいかない』

『…そのためにもあかりのいる世界に絶対に飛んでやる、私達みんなであかりの元にいかないと…』

『ああ… それであかりに言ってやらないとな…』

『私たちに頼ってくれって、あかり一人で頑張る必要はないんだって…』

『はい… 今度はあかりちゃんと気の済むまで話をしましょう…』

『…気の済むまで話し合って、あかりちゃんと一緒にみんなで助かる未来を見つけるんです』

『そうだね… そうと決まれば、こうやってる時間も惜しいよ』

『あかりが今いる世界も見えた… 飛べる… あかりの元に行くよ』

『うん… …あかり今行くよ』

『はい… 待ってて、あかりちゃん…』

一つになっていた3人の意識が遠のき始め、やがて弾かれるように3人は目を覚ました。

387: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/04(金) 01:47:52.68 ID:3FVaEwCd0
ちなつ「ぷはぁっ!! はぁっ… はぁっ…」

結衣「ちなつちゃん、大丈夫!?」

ちなつ「は、はい… でも、頭がボーっとして…」

京子「…ありがとう、ちなつちゃん。ちなつちゃんは少し休んでて」

京子「ここからは… 私の番!」

ちなつ「お願いします… 京子先輩…」

京子は頬を両手で叩き気合を入れると、真剣な顔で結衣に向き直った。

京子「結衣…」

結衣「ん、わかってる。あいつが邪魔をしてきてもお前とちなつちゃんは私が守るよ」

京子「ありがと」

結衣「お前は魔法を使うことに集中してくれよ、何があっても私が何とかするから」

京子「うん」

京子「それじゃあ… やるね」

結衣「ああ」

ちなつ「はい」コクン

京子「…………」

388: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/04(金) 01:48:50.97 ID:3FVaEwCd0
京子が集中し始めると共に、京子の脳裏にちなつが見て感じたあかりの姿が浮かび上がってくる。
京子の魔力も徐々に集まり、あかりの姿も鮮明に映し出され始めたが、それと同時に京子の周囲で放電が起き空間が歪み始めた。
京子の魔力が大きくなるにつれ、空間は歪み続け放電も大きな雷となり、3人に襲い掛かってきた。
魔法を使用する事に集中し無防備な状態の京子に襲い掛かった雷は、

結衣「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

京子に直撃する瞬間に、結衣の剣によって切り裂かれた。

京子は目を瞑って集中している、集中すると共にさらに雷は激しさを増し雷鳴が鳴り響くが、京子は何も聞こえていないのかただ魔法に集中し続ける。
その間、京子に、ちなつに、そして自分に降り注ぐ雷光を結衣は切り裂き続けていた。
どれだけ時間が過ぎたのかも分からないくらい、結衣は動き続けた、その手は電撃によって焼け爛れていたが結衣は剣を落とすこともなく襲い掛かる雷光を引き裂き続ける。

ちなつ(ゆ、結衣先輩の手が…)

ちなつ(でも… 京子先輩の集中を途切れさせるわけにはいかない…)

ちなつ(お願い… 早く…)

ちなつが京子の魔法の完成を祈ったその時に、白い影がちなつの目に映った。

QB「待っ………」パァン

だが、ちなつがその姿を認識する前に、その白い影は弾けて消えた。

QB「聞………」パァン

QB「き………」パァン

QB「…」パァン

QB「」パァン

全て結衣が切り裂いていた。
姿が見えると同時に、見えるよりも早く結衣はQBを切り裂き吹き飛ばしていた。
幾度もQBは吹き飛ばされ、やがてQBは姿を現さなくなり、3人の頭の中に直接声が聞こえ始める。

389: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/04(金) 01:49:29.44 ID:3FVaEwCd0
QB『やれやれ、少しくらい話を聞いてくれてもいいんじゃないかな?』

結衣「…………」

ちなつ「…………」

QB『…本当にこれは君たちの事を思っての忠告なんだ、これ以上は危険なんだよ』

QB『既に次元の壁が視認できるくらいの状態になっている、君たちにも見えるだろう? 空間が歪み波打っている状態が』

QBの言うように、3人の周囲はまるで天に水が昇っていくような現象がおき始めていた。
空間に波が現れ、その波は天に昇り続け、先ほどまで荒れ狂っていた雷鳴はピタリと止まり、ただ静かに空間が揺れていた。

QB『それが次元の壁だよ、絶対に超えることの出来ない世界の壁、そこまで実体化した状態だと触れただけでも君たちの身体は吹き飛んでしまう』

QB『結衣、ちなつ、早く京子を止めるんだ。これ以上は本当に…』

ちなつ「黙んなさいよ…」

QB『…黙らないよ、こんな馬鹿げたことをして君たちが死んでしまったら、折角のエネルギーも回収できないじゃないか』

QB『どうせ死ぬんだったら、魔女になってくれないかな? 君たちが魔女になることによってどれだけの………』

結衣「黙れって言ってるだろ?」

QB『!?』パァン

テレパシーを送っていたQBの一固体の背後に結衣が現れ、QBをなぎ払い吹き飛ばした。

QB「馬鹿な… どうやって位置を掴んだって言うんだ…」

結衣「どうやってだろうね?」

QB「!?」パァン

再びQBの一固体は結衣によって吹き飛ばされた。
それと同時に、周囲に配置されていたQBの個体の全てがほぼ同時に結衣の手で吹き飛ばされ破壊される。

QBは破壊される寸前に結衣の動きを観測していた。
結衣の身体能力は人間の限界も超え、生物の限界も超え、そのとてつもない才能から生み出された動きは、音を置き去りにして、光速の域にまで達していたのだった。
結衣は光の速度で自分たちの周囲を動き、QBを見つけるたびに破壊した。
そして、結衣は京子達の元に1秒もかからずに全てのQBを破壊し戻って来ていた。

390: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/04(金) 01:50:08.69 ID:3FVaEwCd0
QB『………本当に驚いたよ、まさか光速で動くなんて… ああ、僕を探そうとしても無駄だよ、僕は今地球にいないからね』

結衣「っ!!」

ちなつ(光速…? それに地球にいないって…)

QB『…もう間もなく京子によって魔法が完成してしまう』

QB『お願いだよ、京子を止めてよ、このままだと君たちは確実に死んでしまうんだ』

結衣「……私たちが死ぬって誰が決めたの」

QB『…何を言っているんだい、このままだと君たちは間違いなく………』

結衣「…私たちはあかりの所に行くんだ」

QB『だからそんな事は不可能なんだよ』

結衣「不可能なんかじゃない… 私たちを邪魔するものはどんなものでも私が切り裂いてみせる」

QB『…結衣? 君は何をしようとしているんだ…』

結衣「この世界が私たちを邪魔するって言うんなら」

結衣「この世界を切り裂いて、私たちは進む!」

391: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/04(金) 01:51:03.10 ID:3FVaEwCd0
結衣は波打った空間に向かい剣を振るった。
その太刀筋は誰の目にも映ることもなく、音を発することもなく、光すらも遅れる速度の一撃となり、その一撃により空間に一筋の線が現れ3人の目の前で空間がズレた。

QB『ば、馬鹿な… ありえない…』

結衣「京子ぉぉぉぉっ!!!!」

ちなつ「京子先輩っっっ!!」

京子「見えたっ!! 飛べるっっっ!!」

京子が目を見開くと同時に、青い光が爆発するように広がり、ズレていた空間の裂け目に吸い込まれるように流れていった。
京子はちなつの手を取り、ちなつは結衣の手を取って3人は青い光となってこの世界から消失した。

QB「………そんな馬鹿な」

QB「………この世界を、宇宙を局所的といえど破壊してしまったというのか」

QB「………信じられない、彼女達は一体…」

3人がいた場所は切り裂かれた空間も元に戻り静寂に包まれていた。
QBは3人が消えた空間を観測しようと試みていたが、どれだけ観測しても何の成果も得られることはできなかった。

そして、3人は世界を越える。
あかりの元に辿り着く為に…

392: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/04(金) 01:51:48.46 ID:3FVaEwCd0
エピローグ7終わり。

396: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 14:22:34.81 ID:UxvHdNCC0
エピローグ8


京子達は青い光に包まれて、真っ暗な空間を飛んでいた。

京子「やった… やったよ! 結衣! ちなつちゃん! 私たちは賭けに勝ったんだ!」

ちなつ「ですね! これであかりちゃんのところに… ………結衣先輩?」

結衣「…………」

ちなつは結衣の様子がおかしいことに気が付き、結衣を見る。
結衣は隠そうとしていたが、ちなつは見てしまった、
結衣の右腕が無くなっていることに。

ちなつ「ゆ、結衣先輩!?」

京子「ちなつちゃん? 結衣がどうかしたの…?」

結衣「あはは… ちょっと無茶しちゃったみたい」

ちなつ「む、無茶って、結衣先輩… 腕が…」

京子「ど、どうしたの? ねぇ?」

3人は京子、ちなつ、結衣と手を繋ぎながら飛び続け、京子からはちなつが影になり結衣の姿が殆ど見えていなかった。

結衣「…京子は気にしないで大丈夫、また到着するときは言って。私がまた空間を切り裂くから」

京子「待ってよ、何隠してんのさ… ちなつちゃん、結衣に何があったの!?」

ちなつ「ゆ、結衣先輩のう………」

結衣「ちなつちゃん!!」

ちなつ「うっ…」

397: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 14:23:26.92 ID:UxvHdNCC0
京子「ねぇっ! 結衣!? 何があったの!?」

結衣「なんでもないさ、お前は気にせずに魔法を使うことに集中してくれよ」

京子「なんでもないって事ないでしょ!? 何があったの!?」

結衣「…大したことじゃないよ、ちょっとだけ怪我しただけ」

京子「っ! でも… ちなつちゃんもあんなに…」

結衣「大丈夫、本当に大したことじゃないから」

京子「………本当に?」

結衣「ああ」

京子「…信じるよ」

結衣「うん」

京子は結衣がどんな怪我をしてしまったかすぐにでも確認したかったが、魔法の維持をする為に意識を他に回すことが出来ない状態だった。
だが、どれだけ集中しようと一度頭にこびりついてしまった思いは取れず、京子はの頭の中に浮かび上がったあかりの姿と共に、結衣の姿も浮かび上がってきてしまう。

京子(結衣……… 一体何があったんだよ…?)

京子(怪我って、本当に大丈夫なのかな… 酷い怪我だったら…)

京子(うぅ… 駄目、今は集中しなきゃ…)

京子(あかりの場所に… でも… 結衣が………)

398: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 14:24:57.86 ID:UxvHdNCC0
『………ユイ』

京子(え…? 何今の…?)

京子の頭の中に誰かの声が届く。

『………ユイ、ドコ?』

京子(な、なんなのさ… 誰の声なの?)

『………ドコニイルノ?』

京子(ちなつちゃん…? いや、違う… 一体なんなんだよ…)

頭の中に響く声と共に京子の意識が先ほどまで浮かび上がっていたあかりと結衣の姿が砂嵐と共に消え、空の上から木々が吹き飛ばされてさら地となった森が浮かび上がっていた。
それとともに今まで進んでいた方向から、別の方向に引っ張られるように3人は飛ばされ始めた。

京子「なっ!? そっちじゃないよっ!!」

ちなつ「京子先輩? どうしたんですか?」

京子「わかんない! でも、頭の中に誰かの… 違う場所が上書きされて… ヤバイ、このままだと…」

京子「み、みんな、気をつけて! 何かに引っ張られてる! 違う場所に行っちゃう!!」

結衣「違う場所? あかりのいる世界じゃないのか!?」

『ユ・イ?』

京子「マズっ!! うわあああああああ!!」

京子の目の前の空間に針の先ほどの小さな穴が空いていた。
紫色の光に包まれた穴は今にも閉じる寸前だったが、閉じきる寸前に京子はその小さい穴に入り込み、真っ黒な空の上で京子達が包まれていた青い光は弾け、3人は空中に投げ出された。

399: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 14:25:49.69 ID:UxvHdNCC0
京子「ああああああああああ!!」

ちなつ「きゃぁあああああああ!!」

結衣「っ!!」

投げ出された二人を結衣は受け止めた。
右腕が無かったため、左手で無理やり二人の服を掴み空中を蹴りながら鋭角な動きで地上に降り立った。

ちなつ「あ、ありがとうございます。結衣先輩」

京子「ゆ、結衣ありがと……… っ!! 結衣!! 腕がっ…」

ちなつ「っ…」

結衣「ん、さっきちょっと無茶しちゃってね」

京子「そ、そんな…」

結衣「そんな顔するなよ」

京子「するって! なんで結衣はそんなに平気そうにしてるのさ!?」

ちなつ「そ、そうですよ! 早く手当てしなくちゃ…」

結衣「手当ては必要ないよ、もう治ってるから」

京子「は?」

ちなつ「ど、どういうことなんですか?」

結衣「私の力、自己治癒能力もかなり高いみたいでさ。怪我した次の瞬間には治ってたんだよ」

京子「で、でも、腕がなくなっちゃって…」

結衣「それも気にしなくても大丈夫さ」

ちなつ「な、何言ってるんですか!」

結衣「ほら、あいつも言ってただろ。私は回復魔法も使えるかもしれないって」

結衣「今はまだどうやるかは分からないけど、回復魔法を使えば腕の一本や二本生やすこともできるだろ」

京子「…………結衣、流石にそれは滅茶苦茶すぎるよ」

ちなつ「…………はい」

結衣「そう? さっきのことに比べたら滅茶苦茶でもなんでもないと思うぞ?」

京子「…そうなのかな?」

結衣「うん、そうだよ」

京子「そっか…」

400: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 14:26:45.88 ID:UxvHdNCC0
ちなつ「って、京子先輩も納得しないでくださいよ!! どう考えても滅茶苦茶じゃないですか! 生えるわけないじゃないですか!」

京子「はっ… そ、そうだよ結衣!」

結衣「その話は置いておこうよ、私が大丈夫だって言ってるんだから」

ちなつ「もうっ! 結衣先輩! なんだか行動が京子先輩みたくなってますよ!!」

京子「わ、私みたいって…」

ちなつ「そうじゃないですか、無鉄砲で何も考えてないのに行動して人のことも全く考えない言動なんて京子先輩じゃないですか!」

京子「」

結衣「い、一応みんなのことは考えてるよ?」

ちなつ「わかってますよ! だからそういうのも全部含めてってことです!」

結衣「………京子っぽくなったんじゃなくて昔に戻っただけなんだけどな」

ちなつ「何か言いました!?」

結衣「い、いや、なんでもないよ」

あまりにも自分の怪我を軽いものとして扱う結衣に二人は心配していた感情も薄まり、実際に結衣の怪我も肉も塞がり、痛みも感じていないようで、ひとまず後回しにすることとなった。

結衣「京子、魔法は成功したのか? あかりは一体どこにいるんだ?」

空は真っ黒な雲で覆いつくされ、木々がなぎ倒され吹き飛んでいる森に3人は降り立っていた。
そして付近にはあかりの姿はどこにもなく結衣が疑問を持ち京子に尋ねる。

401: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 14:29:49.25 ID:UxvHdNCC0
京子「………この世界、私が飛ぼうとしていた世界じゃないんだ」

ちなつ「え… それって一体?」

京子「わかんない… なにかが私の頭の中に、声が聞こえてその後は意識も………」

『ミツケタ』

京子「っ!?」

再び京子の頭の中で声が聞こえた。
そして、視界が一瞬ブレたかと思うと空の上から、自分達を… 結衣を見ている光景が浮かび上がり消えた。

京子「ま、また… 何なの…? 空から…?」

ゾクリと京子の背中に悪寒が走る。
空から何かが見ている。
その感覚を、視線を感じ京子は空を見上げた。

『………ナンデ』

そこには小学生くらいの少女が浮かんでいた。
その少女に京子は見覚えがあった。
見覚えがあるなんてものではなかった、それは京子自身だった。

輪郭は全て幼い頃の京子だった、
しかし、その姿は顔色はどこまでも白く、
目と口にあたる部分はぽかりと穴が空いてその中には闇が渦巻き、
その表情は悲哀と絶望が入り混じり、見るだけで絶望の深遠に誘われるほどの姿をしていた。

京子「わ、私………?」

ちなつ「ヒィッ!? な、なんなんですかあれ!?」

結衣「き、京子… なのか? で、でも、京子はここに…」

『………カエセ』

白く小さな少女はゆっくりと京子達の元に近づいてきた。

京子「さっきから一体なんなんだよっ! 頭の中に声がっ!」

『………ユイヲ』

京子の頭の中に声が聞こえ、視界もブレ続け、自分達を空から見ている視界と、白い少女を見ている視界に交互に切り替わる。

『ユイヲカエセエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ』

白い少女が両腕を伸ばし襲い掛かってきた。

402: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 14:30:33.00 ID:UxvHdNCC0
エピローグ8終わり。

405: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 23:10:07.98 ID:UxvHdNCC0
エピローグ9


京子「うぇっ!? ぐはっ!?」

結衣「京子っ!?」

ちなつ「京子先輩っ!?」

白い少女の手は京子の首に絡み付き、京子は宙吊りになり足をばたつかせもがき始めた。

『ソコハワタシノバショナンダ………』

『オマエジャマ』

京子「うぇっ……… ぐっ………」

結衣「お前っ! 京子を離せよっ!!」

結衣は白い少女の腕を京子の首から剥がそうとするが、どんなに力を入れてもその手が京子の首から外れる気配はなかった。
京子の顔色が青くなり始めたところで、結衣は剣を左手に作り出し白い少女の腕に切りつけた。

結衣「このっ… 京子を離せって言ってるだろぉっ!!」

しかし結衣が切りつけた剣は白い腕に到達した瞬間、剣の刀身が完全に消滅した。

結衣「なっ!?」

消えてしまった剣を驚愕の表情で見つめる結衣。
そして、そんな結衣を白い少女はずっと見つめていた。
結衣が白い少女の腕に触れたときからずっと。
絶望の表情の少女の表情が、口元だけ裂けるように広がり、表情が笑っているような歪な形に変化する。

『ユイダ… ユイガモドッテキテクレタ…』

京子(こいつ… なんなんだよ…)

『マモレナカッタ… デモイキカエッテクレタ…』

京子(さっきから聞こえる声… まさかこいつの声なの…?)

『チナツチャンモイル… ウレシイ…』

京子(こいつ… まさか…)

『アカリハ… アカリハドコ…』

京子(信じたくない… だけど…)

『ワタシノダイジナトモダチ…』

京子(こいつは… 私だ…)

406: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 23:11:51.72 ID:UxvHdNCC0
京子が白い少女の正体に気が付く。
白い少女は2度目の世界で魔女になってしまった京子だった。
京子達は接触することにより互いの意識や記憶も共有しあっていた。
それは元が同じ存在だから起きた現象だった。

京子(この記憶……… みんな魔女になってしまった世界の記憶!?)

京子(それじゃあ、この私は… 魔女になった、あの世界の…)

白い少女に掴まれた時から、京子と白い少女は繋がっていた。
白い少女の声も聞こえ、白い少女が見ているものが京子には見えた。
そして、京子の脳裏にフラッシュバックするように白い少女の記憶が浮かび上がった。

京子(や、やめてっ! 私なんでしょ!?)

『ワタシ…? オマエガワタシ?』

京子(そうだよ! 記憶が見えたんだよっ! ねぇ、そっちも見えるでしょ? 私の記憶!)

『オマエノキオク…』

京子(そうだよっ! そっちの記憶も見えた、それならそっちも私の記憶が見えてるんでしょ?)

『キオク… アカリヲタスケル…』

京子(そう! 私たちはあかりを助ける為に世界を超えたんだ!)

『アカリガシンジャウ?』

京子(そうだよっ! あかりの所にいかないとあかりが死んじゃうんだ! そんなの嫌でしょ!?)

『イヤ』

京子(やっぱり私だ… 魔女になってもみんなのことを思って…)

京子(そうだよね! だったらこの手を離してよ、私たちはあかりの所に行かないといけないんだ!)

『イヤ』

京子(!?)

『ズルイ』

京子(えっ…)

『オマエバッカリズルイ』

京子(な、何を…)

『ワタシハユイヲタスケレナカッタノニ』

『ソコハワタシノバショ』

『オマエハイラナイ』

『ワタシガキョウコナンダ』

『オマエハニセモノ』

京子(ま、待って! お願い、話を…)

『シネ』

407: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 23:14:51.94 ID:UxvHdNCC0
京子の首が魔女京子によってへし折られる寸前、

結衣「うおおおおぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

魔女京子は結衣の光速の飛び蹴りによって吹き飛ばされた。

京子「げほっ!! げはっ!! はぁっ、はぁっ…」

結衣「京子っ!! 大丈夫かっ!?」

ちなつ「京子先輩! 結衣先輩!」

結衣「あいつ… 一体なんなんだ…」

結衣「っ!? またこっちに!?」

吹き飛ばされた先から再び魔女京子が3人の元に向かって飛んで来ていた。

京子「げほっ… ゆ、結衣、あれは… こほっ…」

結衣「喋るなっ! ひとまず逃げるぞっ!!」

結衣「ちなつちゃん、私の首に手を回してしっかり捕まって!」

ちなつ「は、はいっ」

ちなつは結衣の背中にしがみつき、京子は結衣の左腕で抱きかかえられ、結衣は地面を強く踏み抜き空のかなたに跳躍した。
結衣が消える瞬間を見た、魔女京子は絶望の表情を濃くし、その手を伸ばしたが結衣を掴むことはできずに空を切った。

『ユイィィィィ………』

『ナンデ、ドコニイッチャッタノ』

『………ソウカ、アイツニ』

『ニセモノ… コロシテヤル…』

魔女京子は結衣達を追う、その顔は絶望に歪みながらも悪鬼のような表情に変わっていた。

408: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 23:16:54.14 ID:UxvHdNCC0
結衣「ここまで来れば一旦安心かな…?」

3人は魔女京子から逃げた後に、見晴らしのいい山の山頂に降り立った。
結衣に下ろされた京子は震える声で呟いた。

京子「あれは… 私…? それじゃあ、この世界って… あかりが移動した後の世界…?」

ちなつ「どうしたんですか…?」

京子「落ち着け… 考えろ… 冷静になって可能性を…」

結衣「京子…?」

しばらく京子は考え込み、可能性のひとつを導き出し2人に話し始める。

京子「結衣、ちなつちゃん… ここはあかりのいる世界じゃない、多分あかりの記憶で見たみんなが魔女になってしまった世界だよ」

結衣「!?」

ちなつ「なっ!? ど、どうしてそんなことが!?」

京子「さっきの白い魔女、あれは私だったんだ」

結衣「!? あ、あれがお前!? なんでそんなことが!?」

京子「首を掴まれたときに… いや、移動しているときからあの私の心や、思考が私の中に入り込んで来てたんだ…」

京子「ああやって触れられたときに理解したよ、これは私なんだって…」

ちなつ「あれが… 京子先輩…?」

京子「多分、あの私の思考と私の思考が重なってしまってこの世界に飛ばされてしまったんだと思う」

ちなつ「そんな…」

京子の予想は正しかった。
この世界の時間はあかりが時を巻き戻し、世界を渡って間もない時間帯。
そしてあかりが移動した際に、時空に穴が空いた状態でその世界を横切ろうとしていた京子に、この世界で魔女となってしまった京子の思考が流れてきて、京子はそれを感知してしまいこの世界に飛ばされてしまったのだった。

409: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 23:17:45.01 ID:UxvHdNCC0
結衣「…あれがお前だって言うのは間違いないのか?」

京子「うん、間違いない、あれは私だよ」

結衣「そっか…」

京子「…でも、仕方ないよ、ああなってしまったのならもう… 早くあかりの世界に行かないといけない、みんな集まってよ」

再び京子は魔法を使うために準備を始めるが、結衣は動かずに京子を見つめていた。

京子「結衣?」

結衣「本当に京子はそれでいいの? あんな風になってしまった自分を放っておいていいの?」

京子「…うん」

結衣「そっか… なら私はあの京子を助けるよ」

京子「はぁっ!? そ、そんな事、なんでっ!?」

ちなつ「…………」

結衣「私がやりたいから、それだけ」

京子「や、やりたいからって… 危ないよ! あの私は私を殺そうとしてたし、結衣も何されるか分からないんだよ!?」

京子「それに一刻も早くあかりの所に行かないといけないんだよ!? こんなところで足止めを喰らっているわけには…」

結衣「それなら一刻も早くあの京子を助けて、あかりのいる世界に向かわないといけないな」

京子「違うって! 私のいいたいことはそうじゃなくて!」

ちなつ「…私もあの京子先輩を助けたいです」

京子「ちなつちゃんまで!?」

ちなつ「…あの京子先輩が記憶の中で見た京子先輩だったら絶対に救わないといけないです」

ちなつ「あんな酷い結末を迎えてしまった京子先輩… あんなに一生懸命頑張っていたのに最後には報われず絶望して…」

ちなつ「それに、京子先輩一人救えなくて、あかりちゃんを助けることなんてできるわけないじゃないですか! 私も結衣先輩と一緒にあの京子先輩を救います!」

結衣「ちなつちゃん… ありがとう」

410: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 23:19:44.53 ID:UxvHdNCC0
京子は魔女になってしまったこの世界の自分を救うと言う二人を止めたかった。
合理的な思考を優先していた京子はこの世界に留まるよりも一刻も早くあかりのいる世界に移動したかった。

だが、京子は魔女となった京子の感情を受け取っていた。
結衣を救えなかった後悔、ちなつの悲惨な姿を見てしまった嘆き、そしてあかりが既にこの世界にいないことを知ってしまった悲しみ。
そして自分に対する嫉妬、みんなを救える可能性を持った自分自身に対する嫉妬。
京子は魔女となってしまった自分の感情も全て受け取り、その上で自分を放置し旅立とうとしていた。

しかし、本心は自分自身を救いたかった。
自分の気持ちは自分が痛いほど分かっていた。
もしも自分があの立場だったら同じことをしてしまうと思う。
そんな自分が嫌だった、そしてそんな自分を救いたかった。

京子は揺れていた。
そして揺れる京子を吹っ切らせたのは結衣だった。

結衣「ほら」

京子「…結衣?」

結衣「お前も本当は何とかしたいって思ってるんだろ?」

京子「そんな事は…」

結衣「思ってるよな」

京子「…………」

結衣「よし、わかった」グィッ

京子「ゆ、結衣?」

結衣は京子の手を引き立ち上がらせる。

結衣「お前が本当に嫌だったらこんな事しないけどさ、お前は迷ってるだけだもんな」

結衣「それだったら私がお前の迷いを断ち切ってやるよ」

京子「結衣…」

結衣「京子、お前は私について来ればいいんだ」

結衣「ほらっ、いくぞ」

京子「………うん」

3人はこの世界の京子を救うために立ち上がる。
絶望に染まり、魔女に堕ちた京子を救うために。

411: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 23:20:11.93 ID:UxvHdNCC0
エピローグ9終わり。

415: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 14:36:17.72 ID:eELSFhW30
エピローグ10


3人が魔女京子を救うと決め、京子が結衣に手を引かれ立ち上がったとき、
再び京子の視界が切り替わり、魔女京子の声が聞こえた。

『ニガサナイ… ニセモノ、コロシテヤル』

京子「っ… 見つかった…」

結衣「見つかったって… あの京子にか?」

京子「…うん、あっちも私の事を感知できるみたい。私の居場所がばれてるよ」

ちなつ「丁度いいじゃないですか、わざわざ出向いてくれるなんて」

結衣「ああ、これであの京子を探す手間も省けたって事だ、後はどうやってあの京子を助けるかだけど…」

ちなつ「それなら、私の魔法であの京子先輩を説得する方法なんてどうですか?」

結衣「…あの世界か、それも一つの手だよね」

ちなつ「はい! あそこならあの京子先輩も暴れることはできないと思いますし、もし暴れても私が何とか押さえ込めるはずです」

ちなつ「でも、問題はあの京子先輩を引きこむことが出来るかどうかですが…」

結衣「そこは私があの京子を押さえ込んで動きを封じるよ、その間に引き込めば」

京子「…………ちょっとまって」

ちなつ「どうしました?」

京子「…そもそもあの私に魔法って通じるのかな?」

結衣「!」

ちなつ「そういえば、あの京子先輩の力って…」

京子「うん、魔法を打ち消してた、魔法無効化能力… 魔女になってもその力が変わってなかったら…」

結衣「……そういえば私の剣がさっきあの京子に届く前に消え去ってた」

ちなつ「そ、それって!」

京子「能力はそのまま… ってことだね」

ちなつ「…本当に厄介な、さすが京子先輩ですね………」

結衣「…魔法が通じなくても、私たちの声は届くはずだよ」

結衣「呼びかけ続けよう、あの京子に」

京子「…そだね。もうあっちも来ちゃったみたいだしね」

416: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 14:36:53.61 ID:eELSFhW30
3人の視線の先に、暗雲と共に白い京子が近づいて来ていた。
視界に入ったかと思うとあっという間に魔女京子は3人の目の前まで到達し京子に攻撃を仕掛けてきた。

京子「!? ま、まっ…」

京子の頭を狙った魔女京子の手は結衣によって間一髪で防がれた。

『…ユイ? ナンデソノニセモノヲ…』

結衣「京子! 聞いてくれっ! 自分を殺そうとなんかしないでくれよ!」

『ジブン? コノニセモノノコト?』

ちなつ「京子先輩! 元の京子先輩に戻ってくださいよ! こんな事悲しすぎるじゃないですか!」

『チナツチャン? モトノキョウコッテ? ワタシガキョウコダヨ?』

京子「ねぇっ! 私だったらわかるでしょ! 私たちがこんな事をしても意味ないよ!」

『ダマレ… ニセモノ』

京子「っ! 私の気持ちは私が一番良く分かるよっ! 今だってずっとそっちの気持ちが流れ込んできてる、そっちも一緒でしょ!?」

『ダマレダマレダマレダマレ…』

京子「悔しかった気持ち、悲しかった気持ち、後悔した気持ち、全部わかる! だったら私の… 私の気持ちも分かるでしょ!?」

『ダマレ…』

京子「私はあかりを助けたい、みんなを助けたい、そして私も… あなたも助けたいんだよっ!」

『ウルサイ……』

結衣「そうだよ! 京子、私たちはお前を助けたいんだ! 魔女になってしまったって言っても元に戻る方法だってあるはずだ! 一緒にその方法を探そう!」

『…………ユイ』

ちなつ「京子先輩はあんなに頑張ったんですよ! 私たちがここに来たのも京子先輩を助けるためだったんです! こんな悲しい結末京子先輩も嫌ですよね!?」

『…………チナツチャン』

魔女京子の攻撃はいつの間にか止まっていた。
空中に浮きながら3人をただ見つめているだけだった。
結衣とちなつは攻撃を止めた魔女京子を見てもう少しで説得が出来ると安堵の表情を見せた。
その表情を、京子に向かって。

417: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 14:38:55.39 ID:eELSFhW30
『ナンデ』

『ナンデ、ユイモチナツチャンモワタシヲミテクレナイノ』

京子「っ!? ち、違う! みんなあなたを見てるよ! 結衣だってちなつちゃんだって!」

『ウソダ、ミテクレテナイ』

『ニセモノ、ワタシヲダマスツモリダッタ』

京子「騙してなんかない! 分かるでしょ!? 私たちはあなたを騙すなんてことはしないよ!!」

結衣「京子!? どうしたんだ!?」

ちなつ「あの京子先輩が何を言ってるんですか!?」

京子の様子が変わり、二人は京子に詰め寄る。
魔女京子の声は京子だけに聞こえ、二人には京子たちの間で何が起こっているのかがわからなかった。
だが、二人が完全に京子に意識を向け、魔女京子から意識を外したとき、魔女京子の全身から闇の粒子があふれ出した。

『ヤッパリワタシヲミテクレナイ』

『フタリトモワタシヲミテクレテナンカイナイ』

京子「違うっ!!」

『ズルイ、ナンデオマエダケ…』

『オナジワタシナノニ、ナンデオマエダケ…』

京子「聞いてよっ! 私たちはあなたを!」

『ソウカ…』

『オマエモワタシ…』

『ワタシガコンナスガタダカラ、フタリハミテクレナイ』

『ダケドオマエノスガタナラ、フタリハミテクレル』

京子「!?」

『オマエ、イラナイ』

『ダケド、オマエノカラダヲイタダク』

京子「何言ってんのさ! そんな事…」

『ダマレ』

魔女京子の身体が闇の粒子となり京子に纏わり付いた。
一瞬で纏わり付いたソレは京子の姿を覆いつくし、京子の目や耳や口から京子の体内に侵入を始めた。

418: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 14:42:29.18 ID:eELSFhW30
京子「がっ!? うがぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁあぁぁぁ!?」

結衣「き、京子ぉぉぉぉっ!!」

ちなつ「う、嘘っ!? 何が起きたのっ!?」

京子は頭を抱えのた打ち回り、絶叫を上げ続ける。
結衣とちなつは京子を抱き起こそうと動いた瞬間、
2人の周囲に複雑な立方体の光が現れその光は何重にも重なり合い、結界となって2人の動きを封じ込めた。

結衣「なっ!?」

ちなつ「今度は何なのよっ!?」

混乱する2人に、声が聞こえてきた。

QB「捕獲完了、だね」

山頂の岩場や、物陰から無数のQBが姿を現す。
その姿を見た瞬間、結衣は剣を作り出そうとするが、剣を作り出そうとした魔力は雲散し結衣の手に剣が現れることはなかった。

結衣「っ!? なら…」

結衣は左手で結界を殴りつけ、少しだけ切れ目が入ったところから、内側から結界を破りだした。

QB「!?」

何重にも張られた結界を破り続けたが、残り数枚となったところで結衣の意識は落ち、結衣はその場に崩れ落ちた。

QB「…やれやれ、信じられないな、魔力を散らす性質を持ち尚且つ物理強度にも優れた結界なんだけど…」

QB「…肉体強化型の魔法少女になっているみたいだね、肉体の内側からの魔力は散らせないけどここまでの力を持っているとは…」

ちなつ「ゆ、結衣先輩っ!? あなた! 結衣先輩に何をしたのよっ!?」

QB「君はちなつで間違いないようだね? そして、結衣と京子… あかりはいないようだね」

QB「君達がこの世界に現れたときから、会話も全て聞かせてもらった。君たちは別次元の君たちで間違い無さそうだね?」

ちなつ「質問に答えなさいよっ!! 結衣先輩に何をしたの!?」

QB「ああ、少しだけ精神に干渉させてもらっただけさ、精神支配も効かなかったらどうしようかと思ったけど安心したよ」

ちなつ「精神支配って… 結衣先輩に何をするつもり!?」

QB「少しだけ眠っているだけさ、あのままだと結界を破られていたからね」

ちなつ「っ!!」

京子「うがっ!! あぎっ!!」

ちなつ「き、京子先輩っ!!」

京子は結衣とちなつがQBに捕らわれた事に気付く。
だが京子は動くことすらままならず、その場で痙攣をしながらただ魔女京子の侵入が進む一方だった。
涙を流しながら、結衣とちなつを見続けていた京子だったが、魔女京子が全て京子の身体に収まったと同時に京子は白目をむき完全に意識を失った。

419: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 14:44:50.38 ID:eELSFhW30
ちなつ「京子先輩!!」

ちなつ「出しなさいよ! このままじゃ京子先輩が!!」

QB「そうだね、魔女に侵食された魔法少女は過去何人もいるけど、同一体の場合はどうなるかなんて前例はないからね、とても興味深いよ」

ちなつ「ふざけないで!! 早く出しなさいよ!!」

QB「君は結衣と違い、結界を破る力は無さそうだね。その中で京子がどうなるか見届けるといい」

QB「おや、始まったみたいだね」

京子の身体から闇の粒子が溢れ出して、少しずつ京子の身体を包み込んだ。
結界の内側からちなつはその様子を見続けていた。
京子の身体は闇の繭に包まれ、その姿は完全に闇に覆い尽くされた。

ちなつ「な、何!? なんなの!? 京子先輩っ!!」

QB「…同化しているのか? ソウルジェムの反応が消えた… 魔女に取り込まれただけか…」

ちなつ「!? デタラメ言わないで!」

QB「いやいや、でたらめなんかじゃないさ。どうやら京子は魔女に取り込まれたみたいだね。今までの魔法少女と同じ、同一体といえど例外はなかったわけだね」

ちなつ「嘘よ… 私はそんな事信じないわ!!」

QB「君が信じる信じないは勝手だけどね… おや、動きがあるね…」

闇の繭に皹が入り始めた。
皹が入った部分から、闇が噴出し禍々しい瘴気が山頂に充満する。
やがて繭の皹が全体に広がり、繭が割れた。
そこには何も変わっていない京子が倒れているだけだった。

ちなつ「京子… 先輩…?」

420: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 14:52:51.95 ID:eELSFhW30
京子はムクリと起き上がり、左右を見渡し、正面を向き結衣とちなつを見た。
その時にちなつは京子の顔を見てしまった。

ちなつ「ヒィッ!?」

京子の目は何処までも深い闇に覆われ、ただの黒い穴となっていた。
そのまま立ち上がった京子は首だけを動かし自分の手元を見ていた、
そこには闇色に染まりきった京子のソウルジェムがあった。

京子は手に持っていた闇色に染まったソウルジェムを口元まで運び、口づけするようにゆっくりと口に含み、

ちなつ「!? だっ、だめっ!?」

そのソウルジェムを噛み砕いた。

ちなつ「あぁ… そんな………」

噛み砕かれたソウルジェムはその場に留まり、京子の口の中から出てきたグリーフシードと混ざり合って闇色の宝石となり、その宝石を京子は再び飲み込む。

同時に、京子の身体から溢れ出ていた闇色のオーラは勢いを増し、京子の身体に纏わりつき形をおび始めた。

京子の髪に纏わり付いていた闇は京子の髪を漆黒に染め上げ、

京子の身体に纏わり付いていた闇は漆黒のドレスとなり、

周囲に撒き散らされていた闇は京子の背に集まり、漆黒の翼となって広がる。

QB「………これは一体?」

QB「…何故、魔女になったはずなのにエネルギーを発生させない?」

QB「それとも… 魔女ではないのか?」

闇に覆われた京子の目が閉じられる。
再び京子が目を開くと、黒く染まった目の中に青色の瞳が輝く。
闇の中に輝く瞳は確かに強い意志を感じさせる瞳だった。

421: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 14:53:19.57 ID:eELSFhW30
エピローグ10終わり。

428: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/07(月) 00:29:22.48 ID:16UUx0zj0
エピローグ11


時間は少し戻り、QBによって結衣とちなつが捕らわれてしまった所を京子は見る。

京子(結衣!? ちなつちゃん!?)

『モウスコシ… モウスコシデ…』

京子(待ってよ!! 結衣が! ちなつちゃんがあいつに!)

『ニセモノ… オマエノコトバニダマサレルモンカ』

京子(見えるでしょ!? 二人がっ!)

『アトスコシデワタシガモトノスガタニ…』

京子はただ悲しかった。
救おうとしている自分は言葉も聞いてくれずただ自分勝手に自分の体を乗っ取ろうとしている。
結衣とちなつが危機に瀕しているのに自分は何も出来ずに、もう一人の自分には何も伝わらない。

京子(何で… 何で私の事を信じてくれないの… あなたは私なのに…)

『ダマレニセモノ、モウスコシデ、ユイモチナツチャンモ、ワタシヲミテクレル』

京子(結衣も… ちなつちゃんも… 危ないんだよ… あいつに何かされてるんだよ…)

『ワタシハダマサレナイ、オマエハソウイッテニゲルツモリダ』

何度言っても京子の言葉は伝わらなかった。
そして、京子の視界で結衣が崩れ落ち、ちなつがQBと言い争っていた。

『アトスコシ… フフフフフフ…』

『ヤットニセモノガイナクナル… フフフフフハハハハハハハ…』

その言葉に京子の中で沸々と怒りがわき始めた。
自分が見えている光景は、この京子にも見えているはずなのにこの京子は結衣やちなつの事を見ようともせずに自分のことだけを考えていた。

429: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/07(月) 00:30:53.86 ID:16UUx0zj0
『ユイィィ… チナツチャン…… ワタシガニセモノヲコロシテアゲルカラネ』

『ニセモノニダマサレタ、カワイソウナフタリヲ、タスケテアゲルカラネ』

その言葉に京子の怒りは爆発した。

京子(………ふざけんなよ)

『フン、ニセモノガナニヲシヨウトモウムダ…』

京子(何が偽者だ! お前が偽者だろ!!)

『ナニヲイッテル、ワタシハホンモノノキョウコダ…』

京子(本物の私だったら、結衣が、ちなつちゃんが危ないのに知らない顔なんてしない!!)

『ナニヲイッテイル…』

京子(お前にも見えてるんだろ!! 分からない何て言わせない!!)

『…………』

京子(今度は黙るのかよ!?)

『…ニセモノノコトバナンカ………』

京子()プチーン

魔女京子の言葉に京子の中で何かが切れた。
そのまま京子は、魔女京子の侵入を自分から受け入れ始めた。

『ナニヲシテイル…?』

京子(喜びなよ、私の身体をお前にあげるよ)

『…ナニヲタクランデイル』

京子(私は、一刻も早く、二人を、助けたいだけ!)

『………ウソダ』

京子(そう思いたいのならそう思えば? だけどお前が私の身体を手に入れて二人を助けなかったら絶対に許さないからね)

『……オマエ』

京子(後、一言だけ言っておくよ)

『…ナニ?』

京子(私の… バカ!!)

『…………』

魔女京子は京子が大粒の涙を流しながら自分の中に消えるのを見た。
そして、京子たちは一つになった。

430: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/07(月) 00:32:02.56 ID:16UUx0zj0
魔女となった京子はうっすらと目を開ける。
目を開けて感じたのは、今まで心の中で渦巻いていた絶望や嫉妬、そういった負の感情が消え、とてもはっきりと自分の心を認識できたことだった。

『ここは… 部室…?』

目に入ってきた光景はごらく部の部室に良く似た場所だった。
そして、机に向かい側から自分を見ている存在に気が付いた。

『!?』

「また会ったね」

顔を怒りに染めた京子がそこに座っていた。
魔女京子は京子の姿を見て先ほどまで自分が彼女に行ってしまったことを思い出す。
さっきまで感じなかった罪悪感が急激に襲い掛かり、搾り出すように声を出した。

『な、何でまだ…』

「さあね? でも、まだ私は残っている、でももうすぐ消えると思う」

その言葉に魔女京子は心の中で安堵する。
しかし、すぐに安堵したことに対する後悔の念に捕らわれた。

『…………』

「何ほっとしてんの? それで、何でのん気にあんたは寝てるの?」

『な、何?』

「言ったでしょ? 二人を助けろって、私の身体をあげたんだからあんたは私の代わりに二人を助けないといけないんだ」

魔女京子の記憶が蘇る。
確かに京子は二人を助けだすことしか考えていなかったことを。
しかし、魔女京子は震える声で言った。

『あの言葉… 本当だったの…?』

「本当も何もないでしょ? 私の心もずっと伝わってたでしょ? 私は最初から嘘なんか何も言ってない」

その言葉は真実だと理解してしまう。

『そ、そんな…』

「ほら、さっさと動いて、あんたは私の代わりに二人を助けて、その後はあかりを助けに行かないといけないんだから」

『わ、私が?』

「そうだよ、もう私はいなくなるんだ、だからあんたがやらなきゃならない」

431: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/07(月) 00:33:06.58 ID:16UUx0zj0
京子の言葉に魔女京子はガタガタと身体を震わせ始める。
そして、自分を消してしまうことに対して言いようのない不安と後悔を感じていた。
その顔には既に魔女のときのような悪鬼に見まごう顔ではなく、小さな子供が大切なものを無くしてしまって泣いている顔に変わっていた。

『うぁぁ… ち、違うの… 私はただ… 羨ましくて…』

「何が?」

魔女京子は言い訳をするように話す。

『あなたが… 私が失ったものを全部持ってるあなたが羨ましくって…』

「…………だから私から全部奪ったの?」

そして、京子の言葉に心を射抜かれた。

『うぁぁぁぁ… ご、ごめん、ごめんなさい… そんなつもりじゃなかったのに… 何で… 何であんな事を…』

魔女京子はそのまま泣き続けてしまった。
そんな魔女京子を見て、京子はため息をつき、魔女京子のそばまで歩み寄った。

「ふぅ… もういいよ、全部分かってるから」

『え…?』

「あんたが魔女になってたときは、どうしようもなかったんだよ、こうやって一つになってようやく何とか出来た」

「魔女になるって、そういうことなんだろうね… 自分の気持ちが抑えられなくなる、知らず知らずのうちに他人を絶望に追い込んでしまうんだ… そして自分自身も…」

『…………』

「あんたが私にした事は全部許してあげるよ」

『え…』

「でも、ちゃんとみんなを助けてあげて… 今のあなたにならお願いしてもいい…」

『待って…』

「今度はさ、あなたもみんなを助けることが出来るよ。それだけの力を私たちは持ってるんだ」

『待ってよ…』

「みんなを、お願いね…」

『待って! 行かないで!!』

432: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/07(月) 00:35:07.13 ID:16UUx0zj0
消える寸前だった京子の手を掴む。
すると、消える寸前だった京子の身体が色を取り戻し、魔女京子を驚いた顔で見た。

「っ!? 戻った…?」

『待って… あなたが消えちゃうのは駄目だよ…』

「…そういってもね、もうこんな状態なんだし…」

『あなたが消えたら… 結衣も、ちなつちゃんも、あかりも悲しむよ…』

「それはあなたが何とかして、私が消えたことを感じさせないようにね…」

『…………』

『ううん… やっぱり、駄目だよ… こんな事をした私が言う言葉じゃないと思うけど…』

「…でも、もう時間はないよ? あなたも分かると思うけど、外の世界で私の身体はあなたに乗っ取られてもう殆ど魔女になっちゃってる」

『…うん』

「それなら、私があなたの絶望や悲しみを全部引き受けて消えるからさ、あなたはみんなを守ってあげてよ」

『!? 私が正気に戻ったのは… まさか…』

「ま、そゆこと」

『…………』

「魔女の力を持って、正気に戻れたら多分凄いよ? 魔力不足なんて気にせず魔法を使えると思うし、私とあなたの力なら瞬間移動+魔法無効化っていう力になると思うし、あいつがどんな邪魔をしてきても何とかできると思うんだ」

『…………』

「だからさ、この手を離してよ… あなたが掴んでいたら私が残り続けるみたいだしさ…」

『…………離さない』

「…私が消える事でみんなが助かる可能性が一番高くなると思うんだけど」

『……もう』

「?」

『もう、誰も失いたくないんだ… 誰も殺したくなんてないんだよぉ…』

「!」

433: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/07(月) 00:36:31.59 ID:16UUx0zj0
京子の心に魔女京子の心が伝わる。
魔女京子は魔女になってしまった結衣とちなつを殺してしまったことにとてつもない後悔を抱いていた。
そして、最後に結衣の死体を見たときの喪失感、魔女京子はもう二度とあんな気持ちを味わいたくなかった。
例えそれが、自分自身であったとしても。

「………わかったよ」

『……え?』

「…あなたの気持ちは伝わったし、そういう考えなら私も消えない。あなたの手を握り続ける」

『ほんと…?』

「うん、どうなっちゃうかは分からないけど…」

『…多分大丈夫だよ』

「…なんで?」

『だってさ、私たちが好きなミラクるんだったらこういうときは絶対に何とかなるでしょ?』

「ぷっ… 確かにそうだね」

『だから大丈夫…』

「うん…」

『…後、最後に言わせて』

「なに?」

『本当にごめんね』

「いいよ、そんな事」

『ありがと…』

「うん」

そして、京子たちは完全なる融合を果たした。
ソウルジェムとグリーフシードは一つとなり、魔女の身体がベースとなった京子は禍々しい外見… 悪魔のような外見に変貌していたが、その心は元の京子のまま、京子として新たに生れ落ちたのだった。

京子は魔法少女や魔女という存在から一つ上の領域の存在にシフトした。

434: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/07(月) 00:38:18.49 ID:16UUx0zj0
ちなつ「き、京子先輩…? その姿って…」

呆然と変わり果てた京子を見るちなつに、京子は視線を向ける。

京子「…………」

ちなつから視線を外し、結衣を見て最後にQBを見据える。

QB「これは… 君は一体…?」

京子は右手を見ながら指を動かし手を握り締めた。
視線を再び結衣とちなつに戻し、京子は右手を前に出し、手を握り締める動作を行った。

QB「なっ!?」

何の前触れも無く結衣とちなつを封じていた結界が消滅する。
再び京子が手を開くと、今度は結衣とちなつの周りに黒い闇が発生し二人を包み込んだ。

QB「一体何が起きているんだ!?」

一瞬で黒い闇は消え去ったかと思うと、京子の背後に現れ結衣とちなつが闇の中からふわりと地面に下ろされた。

京子「ふぅん… こうやって使えばいいんだ…」

ちなつ「き、京子先輩!? 何が起きたんですか!? その姿って!?」

京子「ちなつちゃん、ちょっと待っててね」

ちなつ「きゃっ」

京子の漆黒の翼がちなつと結衣を包み込み、二人の姿は翼の中に消え去った。
そして、再び京子はQBを見据え歩き始めた。

京子が一歩進むごとに、京子の姿が掻き消え、数歩前の位置に現れる。
数十メートル離れていたQBの前までに辿り着くまでに、何度もその現象は起こり続け、京子とQBの距離は0になった。

435: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/07(月) 00:39:42.20 ID:16UUx0zj0
QB「空間移動なのか…? いや、それよりもその姿は一体…?」

京子「…………」

QB「魔法少女でもなければ、魔女でもない… 君は一体何者なんだ? 一体どういった存在になってしまったんだ?」

京子「私がどういう存在?」

QB「そうだよ、魔法少女は魔女になる… それは覆されないこの宇宙の概念なんだ、君は魔法少女から魔女にもならず別の存在に変わってしまった」

京子「それってさ、あんたたちが勝手に決めた事でしょ?」

QB「…違うよ、これはこの宇宙に…」

京子は手を目線の位置まで上げ指を動かす、次の瞬間にはQBが京子の手に収まっていた。

京子「あんた達が決めたルールなんて、私達が滅茶苦茶にしてやる」

京子「まずは手始めに…」

京子は左手から闇の粒子を放出し始め、山頂一面が覆われるくらいの闇が渦巻き始める。

QB「一体…?」

京子が人差し指と中指を上に折り曲げたかと思うと、闇の粒子は掻き消え辺りには静寂が戻ってきた。
だが、その静寂もつかの間、空一面が埋まるくらいの量のQBが空中に現れた。

QB「な、なん…」

京子「ふふふふふ……… あんた達、確か死なないんだったよね?」

京子「だけどさ、全部の固体が死んでしまったらどうなるのかなぁ?」

QB「…………」

QBは京子をつぶらな瞳で見たまま何も言わずに固まっていた。
しばらくはその状態だったが、京子が指を弾いた途端空中に浮かんでいた全てのQBが消え去っていた。

QB「!?」

京子「ほら… これで後はあんただけ…」

QB「馬鹿な… そんな事が…」

京子「この宇宙にいる全てのあんたを連れてきて消したんだけどさ、こうなってしまってもあんたは死なないのかな?」

QB「ありえない… 本星の個体も… 予備の個体も… 別星系にいる個体まで全てなんて…」

京子「へぇ… 今にも殺される寸前だって言うのに他のことを考えられるんだ?」

京子の言葉に漸くQBは自分が死ぬ寸前だということに気が付く。

436: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/07(月) 00:41:26.81 ID:16UUx0zj0
QB「ま、待つんだ京子、僕を殺してしまったらこの星に… この宇宙を湧いた呪いをどうやって処理するというんだい!?」

京子「それもあんたが勝手に決めたルールでしょ? そんな事知ったことじゃないね、そんなルールも私達が滅茶苦茶に壊してやるからあんたは安心して死ねばいいよ」

京子の言葉にQBは固まる。

京子「あれ…? 青ざめてるの? ねぇ、あんたには感情がなかったんじゃないのかな?」

QB「………馬鹿な、感情なんて単なる精神疾患にしか過ぎない…」

京子「精神疾患ね… それじゃあ、あんたがその疾患を患ったのか試してあげるよ」

そう言うと京子はQBを岩肌に向かい全力で投げつけた。
凄まじいスピードで投げられたQBはどうすることも出来ずに岩肌に向かい飛び続ける。

QB(速… 動けな… 衝突…)

QB(………死)

QBが死を垣間見たところで、QBは京子の手に収まっていた。
京子の黒い目がQBを射抜く。

京子「ねぇねぇ、今どんな気持ちだった? 怖かった? 死ぬかと思った?」

QB「ハァーーッ! ハァーーーッ!!」

京子「その様子だと、あんたにも感情って言うものが芽生えたみたいだね」

怪しく、凄惨な笑みを見せる京子にさらにQBは凍りついた。

京子「よかったよ、あんたに感情が芽生えなかったらこのまま殺そうと思ってたけど、これなら色々楽しめるよね」

京子「ほら、これであんた達が決めたルールが二つも覆っちゃったよ?」

京子「まあ、感情が芽生えたばかりのあんたと遊ぶのはつまらないから、遊ぶのはまた今度だけどね」

QB「………な、何をする気なんだい?」

京子「………ふふふっ」

京子は笑いながらQBを黒い穴に沈め始めた。

QB「こ、これは一体!?」

京子「…………」

QB「ま、待ってくれ、京子!!」

トプンと波紋が広がるようにQBの姿は黒い穴に沈んで消えた。

京子「さてと…」

京子「これであいつは処理できたし大丈夫」

京子「後は、あの場所に行かないとね…」

京子は漆黒の翼を広げ、目的の場所に飛び立った。
その姿は黒き目に漆黒の翼を広げ、体から闇を溢れさせた漆黒のドレスの少女。
今の京子は、人々が思い描く邪悪な悪魔の姿そのものだった。
だがその表情だけは、とても人間臭い表情を浮かべて闇夜を駆けていた。

437: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/07(月) 00:41:57.64 ID:16UUx0zj0
エピローグ11終わり。

444: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:32:37.24 ID:XWtQ0n+/0
エピローグ12


京子はこの世界に辿り着いた最初の場所である木々が吹き飛ばされた森の上空に辿り着いていた。

京子「見つけた」

上空から辺りを見渡して、目的のモノを発見した京子はそれの場所まで移動する。
それの前に空間移動した京子は壊れ物を扱うかのように優しく拾い上げた。

京子「…………」

京子がそれを拾い上げ静かに佇んでいると、京子の翼の中から声が聞こえてきた。

ちなつ「京子先輩ーーー! どこにいるんですかーーー!?」

結衣「京子ーーー! おーーーーい!!」

京子「あ… 結衣も起きたんだ」

京子は翼を大きく広げ自分の前まで持ってくると、両の翼に人が腰掛けるような形を作る。
すると、そこには結衣とちなつがいつの間にか腰掛けていた。

ちなつ「あっ…」

結衣「!?!? き、京子… なの…?」

ちなつは京子が変わった瞬間を見ていたので今の京子を見てもそこまで驚かなかったが、結衣は京子の変貌してしまった姿を見て驚き戸惑いながら問いかけた。

京子「うん、私だよ」

結衣「お、お前… その髪や目は… っていうか、お前、翼生えてる!?」

京子「うん、生えちゃった」

結衣「生えちゃったって… 一体何があったんだよ!? あの京子はどうなったんだ!? お前は大丈夫なのか!?」

京子「えっと… なんと言いますか… 気が付いたらこうなってたって言うか… あの私も私と一緒になっちゃったって言うか… もう私は私だし…」

結衣「ちゃんと説明してくれよ!!」

ちなつ「あー… 本当に京子先輩みたいですね… よかった…」

少しだけ警戒していたちなつは京子と結衣のやり取りを見てほっとため息をつく。
結衣は京子になにが起きたのかを問い詰め、京子は自分とのやり取りを二人に説明した。

445: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:34:31.35 ID:XWtQ0n+/0
結衣「…それじゃあ、あの京子の説得は成功して今お前達は融合した状態だって言うことなんだな?」

京子「ま、そんな感じかな?」

ちなつ「はぁ… 本当に良かった…」

京子「心配かけさせちゃってごめんね?」

ちなつ「本当ですよ… まあ、結果オーライってやつですね」

結衣「そうだね… っ!! そういえばあいつは!? 京子があいつからちなつちゃんや私を助けてくれたの!?」

京子「あ、そうそう。あいつのことも言っておかないといけないんだった」

ちなつ「…何があったんですか?」

京子「あいつはもう私たちに何もできないよ」

結衣「…どういうこと?」

京子「簡単に言うと、あいつを捕まえて調教中」

ちなつ「…わけわかんないんですけど」

京子「直接見たほうが早いか、こっち来てよ」チョイチョイ

京子が二人を呼び寄せ手を前にかざすと、目の前の空間に黒い鏡が現れその中に無数のQBが映し出されていた。

ちなつ「な、なんですかこれ? キュゥべえが数え切れないくらい…」

京子「この宇宙にいるって言ってた全部のあいつを捕まえたんだよ、それでこうやって私の結界に幽閉中」

結衣「この宇宙って… そんな事どうやって…?」

京子「なんか出来ちゃった」

ちなつ「…………」

結衣「そ、そうなんだ…」

京子「そうそう、それでね、この私の結界は光も、魔法も、何もかも遮って封じ込めることが出来る結界なんだけど、あいつを閉じ込めるときに一匹だけ外に出したまま閉じ込めたら面白いことが起きたんだ」

ちなつ「…あの、その結界って一体なんなんですか?」

京子「あー、魔女の空間の応用ってやつだよ。心の中でギューってしてパッって開くと出来上がるんだ」

結衣「…………」

ちなつ「そ、そうですか…」

京子「うん。それでさ、外の世界に残った個体に色々やってたらなんか感情を芽生えさせたみたいでさ、今その個体を調教してるんだよ」

京子「ほら、こいつ」

京子が指を刺した先には、闇の中にボロボロのQBが何かから逃げるように走り続けている姿が映し出されていた。

446: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:36:10.18 ID:XWtQ0n+/0
ちなつ「…なにかから必死で逃げてるような」

京子「私の使い魔をけし掛けて、死なない程度に追い掛け回してるのさ」

結衣「…使い魔? …それになんでそんな事を?」

ちなつと結衣が質問してる間にも、京子が指を動かすと、闇の中から漆黒の烏が現れQBの身体を啄ばんでいた。
その様子を京子は楽しげに見て哂っていた。

京子「あの個体が芽生えたのは恐怖とか絶望とかの感情だと思うから、それをちゃんと認識させて芽生えたばかりの心に刷り込んでるんだよ。ほら、そういう感情ってうまく操ってしまえば私に逆らえなくすることもできると思うしね。あいつには利用価値もあるし操るだけ操って………」

結衣「………お、お前、何を言ってるんだよ?」

ちなつ「き、京子先輩…? どうしちゃったんですか…?」

京子の言葉に二人は信じられないものを見るように京子を見ていた。
京子はハッとした様子で二人に慌てて弁明しだす。

京子「待った!! 今の無し!!」

京子「って、無しに出来ないかな…?」

結衣「…………」

ちなつ「…やっぱり京子先輩、あのときに何かが…?」

京子「…まあ、何かあったって言ったら、ちょっとだけこういう悪い考えをしちゃう様になっちゃったって感じかな?」

京子「それでも元は変わってないと… 思う。姿形が変わったとしても、私の心は変わってないと… 思う…」

実際、京子は不安だった。
魔女となってしまった京子の負の感情は、消え去ることはなく京子の中に留まり続けていた。
だが、その感情を完全にコントロールできていたのだが、それでも京子は不安でたまらなかった。
こうして二人の前で、自分の暗い面を曝け出したことによって、さらにその不安は大きくなり、京子の表情に浮かび上がった。
いつかこの負の感情に囚われて再び暴走してしまうのではないかと。

447: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:37:11.12 ID:XWtQ0n+/0
京子の表情は非常に小さい変化だったが、結衣はその表情を見て京子の不安を見抜いていた。
結衣はそっと京子の頭を撫でながら言う。

結衣「………確かに少しだけ変わっちゃったのかもしれないな」

京子「結衣?」

結衣「さっきは少し驚いちゃったけど、そういうのも全部含めてお前はお前さ。だからそんなに不安そうな顔するなよ」

京子「…でもさ」

結衣「そこまで不安だったら、お前がおかしくなってしまったら私が何とかしてやるよ」

京子「…ほんとに?」

結衣「ああ」

京子「ありがと…」

京子は結衣にもたれ掛かかり、結衣の肩に頭を乗せ結衣の体温を感じていた。
先ほどまで不安でいっぱいだった京子の心はいつの間にか別の感情で満たされていた。
二人はそのまま永遠にそうしているかと思われたが、その空気をたやすく切り裂いた少女がいた。

ちなつ「あの、そろそろいいですか? 私もここにいるんですけど?」

ブスっとした顔のちなつが言い放つ。

京子「あっ、ご、ごめんねちなつちゃん、無視をしていたわけじゃ…」

ちなつ「まあ、いいですよ。あ、それと私も京子先輩のこと信じてますんで。どんなに変わっても京子先輩は京子先輩ですもんね」

京子「あ、ありがと」

448: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:40:39.82 ID:XWtQ0n+/0
ちなつ「はいはい、それじゃ、次はどうするんですか? そのキュゥべえを使って何かするんですか? そうやって遊んでる暇があったらさっさとあかりちゃんのいる世界に行きたいんですけど、私」

結衣「そ、そうだったね。早くあかりのいる世界に行かないといけない……」

京子「待って、その前にこの世界でやらないといけないことがあるんだ」

結衣「やらないといけないこと?」

ちなつ「…なんなんですか?」

再び真面目な顔になった京子は、二人に巨大なグリーフシードを見せる。

結衣「そ、それって!?」

ちなつ「まさか…」

京子「うん… この世界の結衣とちなつちゃん…」

京子は優しくグリーフシードに触れながら二人に言った。

京子「私は… 今度こそ結衣を… ちなつちゃんを助けたいんだ」

黒く輝くグリーフシードに結衣とちなつの顔が映り、反対側には強い目線でグリーフシードを見ている京子の姿が映っていた。

449: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 01:41:16.08 ID:XWtQ0n+/0
エピローグ12終わり。

453: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:31:55.52 ID:hlRkXPcR0
エピローグ13


ちなつ「この世界の私たちを…」

結衣「助ける、か」

京子「うん」

結衣「どうやって?」

京子「…私の結界の中に連れて行く。さっき二人がいたところに」

ちなつ「さっきのところ… 部室に良く似た部屋でしたね?」

京子「あそこは特別な場所なんだよ。あそこなら肉体がなくなったこの世界の二人も存在することが出来る。私があそこに二人を繋ぎとめることができるんだ」

結衣「そんな事までできるのか?」

京子「できる。私が融合したときに私が出来ることは全て理解できたんだ。自分がどうすればなにが起きるかって言うことが感覚的にね」

京子「だから、待っててほしい。私が結衣とちなつちゃんを連れてくるまで」

京子の言葉に結衣とちなつは同時にお互いの顔を見合わせた。
目線をあわせ、二人はお互い何を考えているかを瞬時に理解する。
二人とも同じことを考えていたからだ。

ちなつ「ちょっと待ってもらえますか?」

京子「何? ちなつちゃん?」

ちなつ「そのこの世界の私たちを何とかするのは私たちに任せてもらえませんか?」

京子「…? 何を…」

結衣「私もちなつちゃんを一緒、今回は私たちにやらせてくれないかな?」

京子「結衣まで… 一体何を…」

ちなつ「簡単です。私たちもこの世界の私たちと一つになるんです。京子先輩と同じ方法を取ろうと思うんです」

京子「…………」

結衣「驚かないんだな?」

京子「なんとなく予想できてたから…」

京子「でも、いいの? 私みたいに普通の人間の姿ってやつを失ってしまうかもしれないんだよ?」

結衣「私は構わないさ」

ちなつ「そんなの後回しですよ。京子先輩のその外見も後からどうにかすればいいんですから」

京子「………あかりの記憶でも見たと思うけど、この世界の結衣はちなつちゃんを…」

結衣「それも承知の上さ…」

ちなつ「…はい」

京子「………本気みたいだね」

結衣「ああ」

ちなつ「京子先輩にばっかり甘えてられないですからね」

京子「…わかったよ、それじゃあ、二人にお願いするよ」

454: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:32:30.27 ID:hlRkXPcR0
京子は二人にグリーフシードを持たせ翼を大きく広げ二人を包み込んだ。
二人は翼に包まれたかと思うと、先ほどまでいたごらく部に瓜二つの京子の結界に移動していた。
二人が結界の中にいることを確認し、京子は二人に伝え始める。

京子「その中なら何かあっても私がどうにかできる。後は… ちなつちゃんの魔法を使ってグリーフシードに干渉ってできるかな?」

ちなつ「…多分、できると思います」

京子「よし、それじゃあ、ちなつちゃんがグリーフシードに干渉してこの世界の二人を説得する。…もう邪魔ははいらない、二人はこの世界の二人と融合することだけを考えて」

結衣「わかったよ」

京子「後、融合する方法は… 多分自分自身に会えば分かると思う」

ちなつ「…本当に適当って言うか感覚派ですよね、京子先輩って」

京子「…否定はしないよ」

結衣「会えば分かるんだったら会ってみるしかないさ」

ちなつ「まあそうですけど…」

結衣「それじゃあ、ちなつちゃん、お願いしてもいいかな?」

ちなつ「…はい、大丈夫です」

結衣「京子、頼んだよ」

京子「うん。頼まれた」

ちなつは魔法を使うために集中を始める。
結衣と共にグリーフシードを持ち、ちなつの魔力が高まるにつれ、ちなつは不思議な感覚を受け始める。
とてつもなく大きな何かに包まれている自分、すぐ傍に自分が以前に感じた結衣の気配。
そして、一つの大きく冷たい気配。
ちなつは結衣の気配を掴むと同時に、冷たく大きな気配を掴んだ。

京子「…………」

ちなつの精神世界に旅立った二人を京子は外の世界から見守り続ける。

455: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:33:33.84 ID:hlRkXPcR0
ちなつは白い世界に二人の結衣を引きずり込んだ。
片方の結衣は頭に手を当て顔を顰め、
もう片方の結衣はボロボロの騎士甲冑を身につけ、虚ろな視線で宙を見ていた。

結衣『ぅぁ………』

ちなつ「つ、連れてこれました… 成功です!」

結衣「うぅぅ………」

ちなつ「ゆ、結衣先輩、お二人とも大丈夫ですか!?」

結衣に魔女結衣の記憶が流れ込んでいた。
自分が嬉々としてちなつを貪り食う記憶。
あかりの記憶として客観的に見た記憶とは桁が違う生々しい記憶は、覚悟して赴いた結衣だったがその記憶に呑まれかける。

結衣「だ、大丈夫… 覚悟していたから…」

ちなつ「うっ… この記憶… 確かにきついですね…」

ちなつも同時に結衣達の記憶と思考が伝わる。

結衣「ふぅっ… ふぅっ… 落ち着いてきたよ…」

ちなつ「む、無理をしないでください」

結衣「…ありがとう、でもそんな事を言ってられない状況だからね」

結衣「この私と話を………」

ちなつ「っ… こ、この結衣先輩は…」

結衣「この私… もう心が………」

結衣『…………ぁ』

二人は記憶以外に魔女結衣の思考が伝わっていたが、魔女結衣の心は既に壊れているといっても変わりない状態だった。
その心にあるのは、絶望と恐怖と後悔、ただそれだけ。

結衣「それでも… それでも呼びかけ続ければ…」

結衣は魔女結衣に呼びかけ始める。

456: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:34:11.67 ID:hlRkXPcR0
結衣「…ねぇ、私。私の声が聞こえるかな…?」

結衣『…………ぁ………ぅ』

結衣「あなたがやったこと、全部私にも伝わってきた… 絶望するのもわかるよ…」

結衣『…………ぅぅ』

結衣「私もあなたと同じ立場だと絶望して、あなたと同じように魔女になってたと思う」

結衣『…………』

結衣「あなたの苦しみ、悲しみ、私も一緒に背負うよ…」

結衣『…………』

結衣「一人だと背負いきれない苦しみも二人なら、二人で背負えば一歩踏み出すことも出来るはずだよ」

結衣『…………』

結衣「二人でもう一度歩こうよ、一歩ずつ歩いて、私たちの日常に戻るんだ」

結衣『…………』

結衣「あかりがいて、京子がいて、そして… ちなつちゃんがいるいつもの日常に…」

結衣『…………』

結衣の言葉は何も魔女結衣に届いてはいなかった。
魔女結衣の中で渦巻いている絶望は、魔女結衣の思考を全て遮り、誰の言葉もその心に届くことはなく、魔女結衣はただ虚空を見つめ続ける。
それでも結衣は魔女結衣に言葉を紡ぎ続けた。
言葉が届くと信じて。

457: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:35:29.20 ID:hlRkXPcR0
ちなつ「…………」

そうやっている間に、ちなつはあらぬ方向を見ながらその顔を険しい物としていた。
そして、ちなつは何も無い空間に向かい歩き始める。

ちなつ「…………ねぇ」

ちなつ「……ねぇ、そこにいるんでしょ」

結衣「…?」

ちなつ「…何やってんの? あなたは一体何やってるのよ!?」

結衣「どうしたの…? ちなつちゃん?」

ちなつが声を荒げ始めたところで結衣もちなつの行動に気が付く。
結衣が声をかけたと同時にちなつは何も無い空間に手を伸ばし、その手が消えたかと思うと、誰かの手を掴んで再び手が現れた。

ちなつはその手の主を乱暴に投げ飛ばし、その人物は結衣の傍まで転がってきた。

結衣「…この世界のちなつちゃん?」

その人物はちなつと同じ姿をした、魔女ちなつであった。

ちなつ『…………』

ちなつは自分自身を見ながら怒りの篭った目で睨みつける。

ちなつ「…なんで隠れてたのよ」

ちなつ『…………』

ちなつ「…なんで、なんであなたはこの世界の結衣先輩がこんな事になってるのに何もしようともせずに隠れてたのよ!?」

ちなつ『…………』

ちなつ「あなたは結衣先輩に声をかけることも出来たでしょ!? それなのになんで!?」

ちなつ『…………』

ちなつは魔女ちなつに掴みかかり叫ぶ。
だが、魔女ちなつは目を逸らしたまま言葉を発しようともせずにされるがままになっていた。

458: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:36:34.45 ID:hlRkXPcR0
ちなつ「何とか言ったらどうなのよ!?」

ちなつ『…………しょ』

ちなつ「何よ!? 聞こえないわ!!」

ちなつ『…できるわけないでしょ』

ちなつ「何が!?」

ちなつ『私が、結衣先輩に、何が出来るって言うのよ… 私のせいでこんな事になっちゃったのに…』

ちなつ「っ!」

魔女ちなつの言葉にちなつは固まる。

ちなつ『私が… あんな願いをしなければ、こんな事にならなかった…』

ちなつ『全部私のせいなのよ… そんな私が結衣先輩に何を言えばいいのよ…』

ちなつ『私が… 私のせいで、結衣先輩がおかしくなって… 京子先輩は魔女になって…』

魔女ちなつの思考がちなつに伝わる。
魔女ちなつも後悔していた。
自分が願わなければ、こんなことにはならなかった、自分が願ったから全てが壊れてしまった。

ちなつ『私が… あんな馬鹿なことをしなければ… うっ… うっ…』

魔女ちなつが泣き崩れちなつはそれを見続けていた。
しばし無言だったちなつだったが、再び魔女ちなつを掴み上げ強い言葉で言い放った。

ちなつ「甘ったれないで!」

ちなつ『っ!』

ちなつ「かける言葉が見つからない? あんな事をして後悔している? あなたはただ逃げてるだけじゃない!」

ちなつ『…………』

ちなつ「あなたがこの結衣先輩にもっとはやく手をさし伸ばしてたら、違っていたのかもしれない、結衣先輩の心はここまで壊れなかったのかもしれない!」

ちなつ『……ぅぅぅ』

ちなつ「まだウジウジしてるの!? 逃げないでよ! あなたは…」

ちなつ「結衣先輩を助けたくないの!?」

ちなつの言葉に魔女ちなつは漸く顔を上げちなつの目を見た。


459: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:37:23.92 ID:hlRkXPcR0
ちなつ『……たいわよ』

ちなつ「何!? 聞こえない!!」

ちなつ『助けたいわよ!! 私だって結衣先輩を助けたい!!』

ちなつ「だったら立ちなさいよ!! 何を這い蹲ってるのよ!?」

ちなつ『うるさい… あなたに言われなくたって…』

ちなつ「…フン、何グズグズしてるの? そうやってモタモタしてて結衣先輩を助けれるとでも思ってるの?」

ちなつ『うるさい… うるさいうるさい!! 助けてみせるわよっ!! 私が…』

ちなつ「あなたがじゃない、私達がよ」

ちなつ『っ!!』

ちなつ「私の心、伝わってるでしょ。だったらわかるわよね?」

ちなつ『…うるさい、わかってるわよ』

ちなつ「私も結衣先輩を助けたい」

ちなつ『わかってるって…』

ちなつ「絶対に助けるわよ」

ちなつ『言われなくても…』

ちなつと魔女ちなつは手を重ねあう。
それと同時に二人の姿は光に包まれ、徐々にその姿も重なり始める。
二人の姿が重なりきった瞬間、二人を中心に光が爆発するように溢れ始めた。

柱状の光が煌々と立ち昇り、その光はちなつの身体に徐々に吸い込まれていく。

ちなつの魔法少女の衣装は純白のドレスに変わったかと思うと、そのドレスのいたるところに黒い文様が浮かび上がる。

光がちなつに吸い込まれきったと同時に、その背に片翼は白、もう片翼は黒の翼が現る。

結衣「…ちなつちゃん…」

ちなつ「…結衣先輩、少しだけ… 少しだけ私に任せてくれませんか?」

ちなつの言葉に結衣はコクリと頷いた。
それを見てちなつはふわりと浮き上がり魔女結衣の元に降り立ち、その身体を抱き起こした。

460: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:42:02.34 ID:hlRkXPcR0
エピローグ13終わり。

466: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 17:17:09.29 ID:63iFpoc+0
エピローグ14


ちなつ「結衣先輩… 私の言葉聞こえますか…?」

結衣『…………ぁ』

ちなつ「本当にごめんなさい… 結衣先輩の心を弄ぶような事をしてしまって、結衣先輩を狂わせてしまいました…」

結衣『…………』

ちなつ「結衣先輩は苦しまなくていいんです… 私は結衣先輩にされたことはこれっぽっちも恨んでなんかないです、むしろ私を恨んでください… 叱ってください…」

結衣『…………ぅぁ』

ちなつ「…この言葉をもっと早くかければよかった… ただそれだけだったのに…」

結衣『…………ぁ』

ちなつ「結衣先輩、ごめんなさい。私がグズグズしてたから…」

結衣『…………』

ちなつ「結衣先輩の心はもうどうしようもないくらいボロボロだって言うことがわかります…」

結衣『…………』

ちなつ「でも、まだ壊れきっていない… とても深いところに結衣先輩の意識が眠っているのを感じます」

結衣『…………』

ちなつ「まだ、壊れていないなら…」

ちなつは魔女結衣を抱えながら結衣に向き直り話し始めた。

ちなつ「結衣先輩、今の私ならこの結衣先輩を救うことができます」

結衣「どういうことなの…?」

ちなつ「京子先輩が言っていたように融合したことによって私の力の使い方が分かったんです」

ちなつ「今の私なら、人や他の生物の心を見ることも、操ることも、壊すことも何でも出来ます」

ちなつ「…壊れかけた結衣先輩の心を、記憶を治したり改ざんすることも」

結衣「…そう、なの?」

ちなつ「はい、ですから…」

467: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 17:17:54.11 ID:63iFpoc+0
ちなつは結衣に言おうとした。
魔女結衣の記憶を書き換え、ちなつにしてしまったことを全て忘れさせ、壊れかけた心を元に戻し、何もかもをなかったことにする。
ちなつの口に出掛かっていた言葉は結衣がちなつの目を見て首を振ることで飲み込まれることとなった。

結衣「ちなつちゃん、ありがとう… でも、大丈夫。大丈夫だよ」

ちなつ「だ、大丈夫って… この結衣先輩はもう言葉も届かないくらい心が壊れているんですよ。そんな状態はもうどうしようも…」

結衣「………ちなつちゃんも京子も自分自身と納得した上で一つになったよね」

ちなつ「え… そ、そうですけど…」

結衣「…それなのにさ、私だけ二人に頼りきりで何もしないって… そんなの嫌なんだよ」

ちなつ「そ、そんな事を言っても…」

結衣「大事なことだよ… このまま二人に頼っていたら私は駄目になってしまう」

結衣「二人に頼りきって、自分では何も出来ないように…」

ちなつ「…………」

結衣「そんなのは嫌だし、二人とは対等な関係でいたい」

結衣「だから、これは私が何とかしなくちゃいけないんだよ」

結衣の言葉にちなつは少しだけ考え、結衣の意思を酌むことにした。

ちなつ「…わかりました。でも、ちょっとだけサポートさせてください… 二人が話しやすくするためのサポートならいいですよね?」

結衣「………お願いするよ」

ちなつ「はい! それじゃあ…」

ちなつは二人の結衣の手を取る。
それと共に、ちなつから淡い光が溢れ出し、3人を包み込んだ。

468: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 17:19:16.09 ID:63iFpoc+0
―――――――――――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
――――


暗い世界。
なぜか意識がクリアに感じられる。
今まではもっと濁っていた。

そうだ…

私は…

ちなつちゃんを殺した…

その言葉を意識してしまった、
暗い世界にちなつちゃんの姿が浮かび上がってくる。

―――結衣先輩

結衣『ちなつちゃん…』

―――なんで私を殺したんですか?

結衣『違う、違うんだよ、私はそんなつもりなんて…』

―――違うってどういうことですか? 結衣先輩は私をこんな風にしちゃったじゃないですか?

目の前のちなつちゃんの左腕がポトリと落ちた。
それを皮切りに、ちなつちゃんの身体が徐々に崩れ始めていく。

―――結衣先輩酷いですよ。

ちなつちゃんは下半身が崩れ落ちてしまった。

結衣『う… うぁぁぁぁ…』

―――こんな姿じゃ、もう何も出来ないじゃないですか。

ちなつちゃんの上半身まで崩れ落ち、ぐらりと傾き、そのまま落ちた首は私の元まで転がってきた。

結衣『ひっ… ひぅっ… ひぃぁぁぁぁぁ…』

―――どうしてこんな事をしたんですか?

ちなつちゃんの顔が、口が、鼻が、耳が、目が、崩れ落ちていく。

結衣『あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ………………』

―――私は生きていたかったのに。

ちなつちゃんは完全に崩壊しきってしまった。
残されたのは、原型もわからないほどぐちゃぐちゃになった血と肉と骨。

結衣『ぁ―――ぅ―――っ―――』

―――この人殺 「結衣先輩っっっ!!」

どこかから声が聞こえると共に、
私の目の前が白い光に満たされ、その先に光り輝く手を見た。

469: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 17:19:55.32 ID:63iFpoc+0
結衣『ぅぁ… こ… こは…?』

魔女結衣はちなつの力により、心の奥底に残っていた小さな理性を無理やり引き出されていた。

ちなつ「…結衣先輩、私がするのはここまでです。後は、お願いします」

結衣「ありがとう、ちなつちゃん」

結衣『ぁ… ち、ちな… ぅぁぁぁぁ……… ぁぁぁぁぁぁぁぁ…』

魔女結衣はちなつの声に反応し、自分の手を握っているちなつを凝視し、やがて身体中を震わせながら怯え始めた。
結衣は怯え始めた魔女結衣を抱き起こす。
すると、魔女結衣に自分の覚えのない記憶が頭の中に流れ込み、それと同時に恐怖の感情や絶望の感情がどこかに流れ出していることに気が付く。

結衣『うぅぅ… なに… 私…?』

結衣「…うん、そうだよ」

結衣『私の心が… あなたの心と…』

魔女結衣の中で渦巻いていた負の感情は薄まっていた。
今まで魔女結衣の心で巣食っていた負の感情の大半を結衣が肩代わりをしていたからだ。

結衣『なに…? なんなの? なにが…』

さらに魔女結衣に自分の知らない記憶が浮かび上がる。
記憶の中で自分はあかりに対して何も出来ずにいて、あかりは旅立ってしまった。
そして、あかりのやりきれない最後を見て、記憶の中の自分はあかりを救うために全ての迷いを断ち切り前を進みだしていた。

結衣『あかり…?』

結衣「………そう、私たちは… あかりを救うために… 世界を、飛び越えて、きたんだ…」

結衣『あかりが… …っ!?』

470: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 17:20:41.87 ID:63iFpoc+0
記憶は続く。
この世界に辿り着き、京子とちなつが別の世界の二人と融合したという記憶が浮かぶ。
それと同時に魔女結衣はちなつを見た。

結衣『ち、ちな、ちなつ… ちゃん…』

ちなつ「はい…」

結衣『ゆるし…「ごめんなさい!! 本当にごめんなさい、結衣先輩!!」 …え?』

ちなつ「私が、私があんな事を願ってしまったから結衣先輩は… 結衣先輩の心は狂ってしまってあんな事に… 全部私が悪かったんです」

結衣『ちなつちゃんは何も…「私が悪いんですっ!!」

ちなつ「だから、結衣先輩は、もう苦しまないでくださいっ! 私は結衣先輩を恨んでませんし、恨んだりすることなんてないんですから!」

結衣『ちなつちゃん…』

ちなつ「お願いします… 私、結衣先輩が苦しんでいるところを見るのはもう…」

魔女結衣はちなつの言葉を聞きながら、自分のやったことを思い出していた。
ちなつはこう言ってくれるが、自分がちなつを殺したことに違いないと考えてしまう。

結衣『それでも、私は… 自分のやったことを…』

ちなつ「…………許せない、ですか?」

結衣『うん… ちなつちゃんは許してくれても、私は…』

ちなつ「…………私も同じです、自分自身を許せません」

結衣『…ちなつちゃんは悪くなんて………』

ちなつ「…………」

ちなつは無言で魔女結衣の前まで移動した。

結衣『ちなつ、ちゃん…?』

ちなつ「…結衣先輩、私を殴ってください」

結衣『え…? な、何を?』

ちなつ「けじめです。このままだと私たちはお互い自分自身を許せませんし、ずっと引きずってしまいます」

ちなつ「でも、結衣先輩は私を許してくれるっていっています。だったら結衣先輩からきつい一発をもらってそれで自分自身を許そうと思います」

結衣『…そんなこと』

ちなつ「結衣先輩が殴ってくれないなら私は自分自身を一生許せません!」

結衣『うぅ…』

ちなつ「それに、結衣先輩が殴ってくれた後は私も結衣先輩にきつい一発をお見舞いします。それでチャラにしましょう。お互いを許しあいましょう…」

結衣『…………』

471: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 17:21:25.39 ID:63iFpoc+0
魔女結衣はちなつの言葉に涙を流しそうになる。
あんな酷い目にあわせてしまったちなつが自分を許してくれる、そして自分自身を許す道を作ってくれている。
必死に涙をこらえながら魔女結衣は立ち上がる。
これ以上ちなつに迷惑をかけれない、ここまでしてくれるちなつの気持ちを無碍にすることなど魔女結衣にはできなかった。

結衣『わかったよ… ちなつちゃんの言う通り、お互い一回ずつ… それでもうおしまい。今回のことは許しあおう』

ちなつ「結衣先輩… はいっ!」

結衣『…それじゃあ、ちなつちゃん。いくよ?』

ちなつ「…………」コクン

魔女結衣の平手がちなつの頬を弾き、ちなつはよろめきながらもその場に踏みとどまった。

ちなつ「っっ~~。結衣先輩、ありがとうございます…」

結衣『ううん… それじゃあ、ちなつちゃん…』

ちなつ「はい、いきますよ!」

ちなつは魔女結衣に平手打ちを放った。魔女結衣もよろめいて燃えるような頬の痛みに身体を震えさせるが、すぐにちなつと向き合う。

結衣『…効いたよ、ちなつちゃんの一発』

ちなつ「私もです、でもこれで…」

結衣『うん、これで今回のことはお互い許しあおう。もう蒸し返すこともしない』

ちなつ「はい、これ以上は野暮ってやつですね」

魔女結衣とちなつはお互いを許しあった。
お互い思うところも色々あるが、もうこの話を蒸し返したりはしない。
再び蒸し返しても同じことになるだけなのだから。

472: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 17:22:37.98 ID:63iFpoc+0
魔女結衣はそう考えているうちに、違和感を感じた。
何故自分は冷静にこんな事を考えていられるのかと。
今までは何処までも絶望が渦巻いて、冷静な思考など出来なかったというのに。

結衣「…………」

魔女結衣が結衣を見る。
結衣は二人を見ながら、ただ見守っているだけのように見えた。
だが、魔女結衣は理解してしまった。自分が抱いた負の感情を全て結衣が持っていってしまったことを。

結衣『あ、あなたは…』

ちなつ「…結衣先輩」

ちなつもそれに気が付く。

結衣「話は、出来たみたいだね…」

結衣『っ! 出来た、もうこうやって私たちはお互いを許しあえた! だからもうそれを返して! あんな… あんな気が狂ってしまうような感情を他人に………』

結衣「…他人じゃないでしょ、だって、あなたは、私なんだから………」

結衣「それに、言ったでしょ……… 私も、あなたの… 苦しみを一緒に背負うって…」

結衣『あなたはっ…』

結衣「ははは… でも、これ、きっついね… こんな感情にあなたはずっと晒されていたんだね…」

結衣『む、無理しないで! 早くそれを私に!』

魔女結衣と結衣の手が重なる。

結衣「…大丈夫、だって… ね?」

結衣『あっ…』

二人は淡い光に包まれ、ゆっくりと同化していく。

結衣「ほら… もう私たちは一つになるんだ… もう、この感情をあなた一人で背負うことはないんだよ」

結衣『………本当に何て言えばいいのかな… 私は何もできなかったのに… ここまでしてもらって…』

結衣「気にしないで… 私が、やりたいことを、やってるだけだから…」

結衣『…やりたいこと、か』

同化している二人の意識は既に一つになっていた。

結衣(私が私と一つになった…)

結衣(私のやりたいこと、みんなを守りきる…)

結衣(ちなつちゃん… あかり… そして、京子…)

結衣(…もう、後悔なんてしない)

結衣(…みんなを守るために私は戦う)

結衣を包んでいた淡い光は爆発するように立ち昇った。
その光の中で結衣の姿に変化が生じる。

結衣の魔法少女の衣装は純白のドレスとなり、その上に漆黒の騎士甲冑が現れその身を包む。

失われた右手が再構築され、両の手に光に輝く騎士剣と闇に覆われた騎士剣を握り、

光を吹き飛ばすように、黒と白の両翼を羽ばたかせ舞い降りた。

473: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 17:23:21.25 ID:63iFpoc+0
エピローグ14終わり。

476: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 23:27:58.33 ID:63iFpoc+0
エピローグ15


結衣「…これは」

結衣が再生した自分の右手を見て、さらに自分の力をどうやって使えばいいか理解したと同時に京子の声が聞こえてきた。

京子『二人とも、成功したみたいだね』

結衣「京子… ああ、何とかね」

ちなつ「はい、無事成功です!」

京子『おっけー、それじゃ戻ってきてよ、そっちの様子は分かるけど、二人の力が強くなって無理やり干渉ってのも難しくってさ』

京子の言葉にちなつは自分の魔法を解除し、京子の結界に戻ってきていた。
戻ってきたかと思うと、視界が変わり外の世界に戻ったことに気が付く。

京子「二人ともお帰り… って、結衣! 手が戻ってる!!」

結衣「ああ、元に戻ったみたいだ。うれしい誤算ってやつかな」

京子「よかった… 本当によかった…」

結衣「大げさだな、腕の一本や二本のことで」

京子「大げさなんかじゃないし… もう…」

ちなつ「はいはい、それじゃあそろそろあかりちゃんのいる世界に行きましょうか。あんまりグズグズもしてられないですし、私早くあかりちゃんに会いたいです」

京子「う、うん… そうだね」

477: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 23:28:55.80 ID:63iFpoc+0
世界移動をする準備をしようとした京子だったが、ふと思い出したように手を叩く。

京子「あ… 忘れるところだった」

ちなつ「? なんですか?」

京子「キュゥべえのこと、あいつには色々やらせようと思ってたんだけどね」

結衣「…あいつか、色々って何をさせようとしてたんだ?」

京子「んー、とりあえずは調教した後に私に絶対服従を誓わせて、もう二度と魔法少女を生み出さないようにさせるつもりだったんだ。その後は、魔法少女になってる子たちを死なせないように動かそうと思ったんだけど…」

結衣「…それって、そんなに簡単にできるのか? というか、感情が産まれたのって確か一匹だけなんだろ? 流石に無理があるような…」

京子「まー、そうだけど、その一匹をモルモットにして、他の個体も感情を生み出す方法を見つけようと思ったんだ。その方法が見つかれば全部のキュゥべえに感情を作り出すことも出来るでしょ?」

結衣「どれだけ時間がかかるんだよ、それって…」

京子「そうだよねぇ… 何の考えもなしにあいつを全部捕まえたけど、この世界の魔法少女はこのままだとグリーフシードの処理が出来ないし、魔女や使い魔を処理するのもこいつがいないと出来ないし… どうしたもんか」

京子が頭を悩ませていると、ちなつが京子に声をかける。

ちなつ「…それ、私が何とかできるかもしれないです」

京子「へ?」

478: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 23:30:01.68 ID:63iFpoc+0
ちなつ「私の力なんですけど、他の生物に対する精神干渉が出来るんです。今の私の力ならキュゥべえたちに感情を生み出すことも出来ますよ?」

結衣「確かに私のときも、私の心の奥底にあった理性を呼び覚ましてくれたよね…」

ちなつ「はい、あの時は結衣先輩の心を壊さないように慎重にやりましたけど、キャゥべえに感情を作るだけなら無理やり作り出すことは簡単ですよ」

京子「ちなつちゃん、すげぇ!」

ちなつ「あー… それよりも、キュゥべえを操りましょうか? 魔法少女を守って、魔女の処理をするだけの存在にするのが手っ取り早いと思いますけど」

京子「そんな事もできるの?」

ちなつ「はい、むしろその方が簡単ですね」

京子「…ちなみにちなつちゃんが出来るのって、ある特定の感情を与えることなんかも出来るの?」

ちなつ「できますけど… どうしたんですか?」

京子「…………」

結衣「京子?」

京子「いーこと思いついた」

京子は口元を吊り上げ、クスクスと笑い始めた。
笑いながら黒い鏡を作り出し、その中で逃げ続けているQBを見ながらちなつにQBに与える感情を話し始めた。

479: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 23:31:19.15 ID:63iFpoc+0
見渡す限りの闇に覆われた空間。
その中に白い生物が必死に走り続けていた。

QB「ハァッ! ハァッ!」

その身体は傷だらけになっており、その顔には明らかに一つの感情を思わせる表情が浮かんでいた。
その感情は恐怖、QBはいつ現れるか分からない京子の使い魔からの攻撃に恐怖していた。

QB「ハァッ! ハァッ!」

京子によって捕まったQBはまずQB達のネットワークにアクセスできるかを試した、だが駄目だった。
次に他の個体とリンクが繋がっているか確認した、それにも何の反応もなかった。
そこで初めてQBは群体ではなく、個としての意識を芽生えさせることとなった。

個としての意識が芽生えたQBに京子は死の恐怖を与えた。
それはQBにとって今までに感じたこともないものだった、だが生き物としての本能がQBに感情を芽生えさせることとなる。

その後、京子により闇の空間に閉じ込められ、いつ襲ってくるか分からない攻撃に晒され続けQBの感情は、恐怖という感情は膨れ上がるように育っていく。
今も恐怖だけを感じ逃げ続けていたQBだったが、急に視界が切り替わり目の前に結衣とちなつの姿を捉えた。
QBは京子に首根っこを掴まれて外の世界に戻ってきていた。
QBは外の世界に戻ってきたことに気が付き、目の前にいる二人に向かい必死に懇願をし始める。

QB「た、助けて! お願いだ!」

ちなつ「は?」

QB「こ、怖いんだ、あんな所にいるのは怖いんだよ!」

結衣「…………」

QB「お願いだよ、助けて… もう君たちには何もしない、君たち人類からも手を引く、だから…」

QBの視界がぐるりと半周し、目の前に無表情の京子の顔が現れ、
真っ黒な目で自分を凝視している姿が目に入り恐怖の悲鳴を上げる。

QB「うわぁぁっ!?」

京子「ねぇねぇ、あんた今なんつった? マジでさ、私が寝ぼけてなければあんた今、「助けて」って言った?」

QB「ひっ…」

京子「いやー、面白い冗談言うようになったねー。散々私たちを殺そうとしたのに、いざ自分が死にそうになったら、助けてーって…」

京子「ほんと、笑っちゃうよねー」

笑いもせずに淡々と言う京子。

480: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 23:33:26.16 ID:63iFpoc+0
京子「ちなつちゃーん、こいつには何もしないで。こいつ以外にさっき話していた処理をしてもらえればいいから」

ちなつ「…いいんですか?」

京子「うん、こいつはさ、何ていうか私の手で処理したくなっちゃった」

QBは固まったまま動けなかった。
京子の視線から目を離すこともできずにただ震えていた。
震え続けるQBに京子は歪んだ笑顔を見せながら、QBを落ち着かせるように話す。

京子「ふふふふふ… 大丈夫、そんなに怖がんなくても、あんたを殺したりなんてしないよ」

QB「ほ、本当かい?」

京子「ほんとだよー、あんたにはこれから私達がすることを見ていてもらわないといけないんだからね」

京子はQBを持つ手とは別の手を空にかざす。
すると空一面に黒い鏡が現れ、中に無数のQBが映っていた。

QB「こ、これは…」

京子「あんた以外のあんた達だよ。これからこいつらが面白いことになると思うからよーく見ていてね」

京子「ほい、そんじゃちなつちゃんお願い」

ちなつ「わかりました、それじゃあ…」

ちなつも京子と同じように手を空にかざし、黒い鏡に向かって何かをし始めた。

QB「一体何をしているんだ…」

京子「あんた以外の個体に感情を芽生えさせてるんだよ」

京子「罪悪感っていう感情をね」

QB「ど、どういうことなんだ…? それが一体…?」

京子「まあ、見てればわかるんじゃない?」

ちなつ「終わりましたよ。これで全部完了しました」

京子「おー、早いね」

QB「一体… 何が…」

QBが京子達の行動に疑問を抱いていると、
黒い鏡の中にいるQB達に変化が現れ始めた。

481: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/20(日) 23:34:13.60 ID:63iFpoc+0
エピローグ15終わり。

490: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/26(土) 21:53:47.38 ID:41ljf7Z40
エピローグ16


闇の中にいるQBの一匹が動きを見せる。

QB「これは一体なんなんだ… 京子の魔法によって僕達は捕まってしまったようだが…」

QB「まったく信じられないな… 宇宙にいる全ての僕達を捕まえるどころか、それぞれの個体へアクセスもできない… 完全に捕獲されてしまったようだ」

QB「あの力… いや、魔女になったはずの彼女が一体どうやって………」

QBは魔女になった京子のことを思い出し、そこで何か違和感を感じ始めた。

QB「魔女… そうだ、僕は確かに京子を魔女にした…」

QB「彼女を追い詰めて、それで結衣の死体を見せ付けて絶望させ魔女にした…」

QBの違和感が少しずつ大きくなっていく。

QB「いや… それだけじゃない… 僕は今まで数え切れないくらいの少女達を魔女にしてきた…」

QB「時には騙して… 時には誘導して絶望に…」

QBの身体が震え始め、その視線が揺れ始めた。

QB「な、なんなんだこれは… 僕は一体何を考えているんだ…?」

QB「か、彼女達は、この宇宙の為に… ひ、必要な犠牲なんだ…」

QBの脳裏に今まで魔女になった少女たちの姿が思い出されていく。
どの少女達も願いが叶い、QBに笑顔を見せQBに感謝をしていた。
だが、少女達は最後まで笑顔でいることはなかった。
そして、最後に決まって見せる表情、絶望した表情。
今までは何も感じていなかった。
だが何故か、今、その表情を思い出すと何かがこみ上げてきて震えが止まらなかった。

QB「ぼ、僕をそんな顔で見ないでくれ…」

今まで感じたことのない感覚に取り乱すQB。

QB「や、やめてくれ… 僕は… 僕はこの宇宙の為に…」

QBがかつて魔法少女にした、全ての少女たちの記憶が鮮明に蘇る。

QB「い、いや… ぼ、ぼ、僕は… か、彼女達に…」

QBの中で急速に何かが形作られていく。

QB「な、なんてことをしてしまったんだ…」

QBはある感情を芽生えさせられた。

QB「うわぁぁぁぁああああああああああーーーーーーーーーっっっ!!!!」

491: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/26(土) 21:55:39.39 ID:41ljf7Z40
外の世界で京子達はQBの様子を眺めていた。
京子は外の世界にいるQBの頭を掴みながら、闇の結界内のQB達を笑いながら見続けていた。
結界内のQB達は次々に叫びを上げもだえ苦しんでいる。
その様子を見せ付けられたQBは怯えた声で呟いていた。

QB「な、なんなんだ… なにが起きているんだ…」

京子「聞きたいの?」

QB「ひっ!?」

既にQBにとって京子の姿は恐怖の対象でしかなかった。

京子「そんなに怯えなくてもいいじゃん。京子ちゃん傷ついちゃうなぁ~~~」

QB「…………」ガタガタ

京子「ま、いいや。それでさっき言ってた、なにが起きているかって事の回答だけど」

京子「あんた達に罪悪感を芽生えさせたんだよ。特に、魔法少女にした子たちに対して罪悪感を抱くように調整してね」

QB「そ、それが、なんであんな事に…」

京子「………あー、あんたにはわかんないか。…ちょっと試してみるか」

京子は無数にある闇の鏡の中で一際苦しんでいるQBを見定めると、その結界の中からQBを引きずり出した。

QB『ゴメン、ゴメンよぉぉぉぉ! 僕は… 僕はぁぁぁぁ………』

京子「こいつでいいや。ほら、あんた達はそれぞれ思考を繋げることも出来るんでしょ? 今まではそれを邪魔してたけど、こいつとだけは出来るように解除してあげたよ。こいつの気持ちを感じてみれば、なにが起きたかって分かると思うよ」

QB「…………」ガタガタガタ

QBの目の前に何かに謝り続けるQBが突きつけられた。
だが、QBはその個体とのリンクを回復させることができなかった。
恐怖という感情を芽生えさせてしまったQBは目の前の個体とリンクすることで、自分も同じようにされてしまうのではないかと恐怖していたからだった。

京子「どうしたの? ほら、早くしなよ」

QB「い、嫌だよ… こ、怖いんだよ…」

京子「怖い、ねぇ…」

QB「お、お願いだ。君たち人類にはもう手を出さない、僕達は別の星でエネルギーを回収するから… だからもうやめ………」

京子「…………」

京子はQBを持つ手に力をこめ、QBの瞳を覗き込むように言った。

京子「さっさとやれよ」

QB「ひっ!?」

QBはその言葉に逆らえず、思考リンクを回復させてしまった。

492: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/26(土) 21:57:11.13 ID:41ljf7Z40
QB「うぁ… こ、これは…」

QBは目の前の個体が何に苦しんでいるのかを感じ取る。
QB達が今まで契約してきた少女達の姿。
運命を狂わされ、絶望し死んでいった少女達の姿が浮かび上がる。
別個体が感じている何かがQBにも伝わり、QBもその感情が芽生えてしまう。

QB「あ、あ、あ… ぼ、僕が今までしてきたことは…」

京子「おっ? 何何?」

QB「ぼ、僕は、今まで、こんな酷いことを…」

QBが漏らした言葉を聞いた京子は、別個体を元の結界に再び閉じ込め、QBを両手で掴みその眼を見ながら観察する。

京子「ねぇ、今どんな気持ちなの?」

QB「あ… あぁぁ… き、京子…」

京子「あれ? なんか怖がってないね? 私を見て何を思ってんの?」

QB「ぼ、僕は、僕は君に… ゆ、許してくれ…」

京子「許す? 何を?」

QB「き、君を追い詰めて魔女にしてしまった… 結衣もちなつも見殺しにして、魔女となった彼女達を君の手で殺すように仕向けたのも僕なんだ…」

京子「…あぁ、そういうことね」

QBは京子に恐怖以外に、罪悪感を感じながら許しを請う。

京子「そうだよねぇ~、キュゥべえは私たちにとっても酷いことをしちゃったんだもんね~~~?」

QB「うっ、うぅぅぅぅ…」

京子「ねぇ、許してほしい?」

QB「う、うん。お願いだ… 僕が今までやってきたことを考えると、凄く痛いんだ、何かに潰されそうなんだよ…」

京子「ふふふ… そうなんだ、とっても痛いんだ? そんなに許してほしいんだ?」

QB「お、お願いだよ。僕を許して… 助けて…」

京子は花が咲くような満面の笑みでQBに言い放った。

京子「絶対に許さない」

QBはその言葉に自分の中で何かが落ちていく感覚を感じ取った。

493: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/26(土) 21:58:45.55 ID:41ljf7Z40
QB「そ、そんな………」

QBの視線が定まらず、何かを感じ取っている様子を見ながら京子は優しくQBを撫で始めた。

京子「今、何かを感じてるよね? それはね、絶望ってやつだよ」

京子「凄いじゃない、これでキュゥべえは恐怖や絶望って感情を自分で生み出すことが出来たんだよ」

QB「う、うぅぅ…」

京子「あれれ? 聞いてない?」

絶望に打ちひしがれるQBには京子の声も届かなかった。
少し詰まらなさそうな顔をしながら、京子はQBを再び闇の結界に閉じ込める。

京子「今回はこんなもんか。ま、ゆっくりと色々調教してやらないとね」

そんな様子を見ていた結衣とちなつは京子に声をかける。

結衣「終わった?」

京子「うん、お待たせー! 結構順調だぜ! あの感じならいろんな感情もその内芽生えていくんじゃないかな?」

ちなつ「…まあ、いいですけど。それで他のキュゥべえ達にはさっき言ってた処理をし直せばいいですか?」

京子「あ、そだね。目的も達成できたし、こいつらは完全に操ってしまっちゃおうか。とりあえず、この世界の魔法少女を死なせないようにするのとグリーフシードを処理する行動だけを可能にしておいて」

ちなつ「わかりました。………はい、これで大丈夫ですよ」

京子「ありがと! そんじゃ、結界も解除しておくかな」

京子が指を振ると黒い鏡は消え、空一面にQBが現れる。
ちなつは全てのQBが自分の支配下に置かれていることを確認し、京子に問題ないと告げた。
京子はその言葉に頷き、QBの拘束を解除する。
それと同時にQB達は散り散りになるようにどこかに走り去って行った。

494: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/26(土) 21:59:55.44 ID:41ljf7Z40
京子「これで、この世界はもう大丈夫だね…」

ちなつ「そうですね、違う世界に行っても私の魔法が解けることはないですから、この世界ではもう二度と魔法少女は生まれないですね」

結衣「これで、この世界でやることは…」

京子「全部終わったし、決着が全て付いたね。あかりのいる世界に行ったときも今回と同じ方法で何とかしてしまおっか」

ちなつ「…それはかまわないですけど、ひとつだけ言っておきたいことがあります」

京子「?」

結衣「どうしたの?」

ちなつ「私の魔法ですけど、次の世界でキュゥべえを操った後は封印してもう二度と使わないようにしてもいいですか?」

京子「…別にそれは構わないけど、何で?」

ちなつ「…人の心を勝手に操る魔法なんて好んで使いたいと思います?」

京子「あー… ごめん」

結衣「…………」

ちなつ「そういうことです。あんまり使いたくないんで、次に使ったら私の魔法はお終いです」

京子「うん、そのほうがいいね」

結衣「…私も、そう思う」

ちなつ「それだけです! それじゃあ、あかりちゃんの元にいきましょう、もうこれ以上時間をかけたくないですし、さっさとちゃっちゃといっちゃいましょう!」

結衣「………ん、そうだね」

京子「…おっけー、そんじゃ行っちゃおうか」

京子「今度こそ、あかりの所に」

結衣「ああ」

ちなつ「はい!」

京子が目を閉じあかりの姿を思い浮かべると、すぐにあかりの姿が浮かび上がってきた。
頭の中にあかりの姿がはっきりと映し出されたと同時に、京子の両手から闇の粒子が溢れ、その粒子は結衣とちなつの身体を包み込む。

京子「いつでもいけるよ。後は… 結衣、またお願いできる?」

結衣の身を案じながら京子はお願いする。

結衣「心配しなくても大丈夫さ」

結衣は両手に光と闇の騎士剣を生み出し、剣を交差させ構えを取る。

結衣「今の私なら… 無傷でやれるっ!!」

京子とちなつの目には結衣が動いた姿が映らなかった。
結衣は剣を振りぬいた体勢で、数メートル移動し、結衣が今までいた場所には十字に切り裂かれた歪んだ空間が存在していた。

京子「見える… この先にあかりが…」

結衣「あかり… 待っててくれ…」

ちなつ「今行くからね… あかりちゃん…」

3人は闇に包まれ時空のかなたに飛び立った。

495: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/26(土) 22:01:32.50 ID:41ljf7Z40
あかりのいる世界


雲ひとつ無い満月の夜。

夜空に歪みが生じ、放電が始まった。

空間が歪み、夜空の月が引き伸ばされて縦伸ばしになったように見えたかと思うと、

伸びきっていた空間に十字の裂け目が現れた。

裂け目からは闇が溢れ出し、その闇は月夜の空を満たすように広がり、月光を遮った。

やがて闇は集まり、3つの影を形作り始めた。

空に3つの何かが姿を現す。

その姿は何れも翼を持ち、禍々しい気配を携えてその世界に顕現した。

それと同時に、時空の裂け目から別の何かが現れた。

それは誰の目にも見えず、先の3つの存在に絡みつくように繋がっていた糸のようなものであった。

その糸のようなものは、3つの存在に絡みつきながらも、この世界の何かを目指し動き始める。

そして、その糸はある存在に絡み付いた。



あかり「えっ………?」



あかりの眼が黄金色に輝き、その姿が何処までも強い光に包まれた。

496: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/26(土) 22:03:33.45 ID:41ljf7Z40
エピローグってなんだか分からないほど長くなったエピローグ終わり。
最終章に続く。

518: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:50:03.18 ID:6eUCwj7W0
最終章


あかりの部屋


あかり「…………」

あかり「……戻って、これた」

あかりは戻ってきた。
みんなを置いて、またあかりだけ……
でも、それでも、あかりは……

あかり「……今度こそ、絶対に」

そう、今度こそ……

あかり「もうみんなを魔法少女にさせない、あかりが全部一人でやって見せる」

そのためにはどんなことでも……
たとえ誰かを傷つけることになっても……
…………やってみせるんだから。

あかり「まずは…… キュゥべえを…… いなくなるまで殺す……」

そう、キュゥべえ……
キュゥべえさえいなくなれば…… でも……

あかり「ううん、駄目だよね…」

前の世界では殺しても死ななかった……
どれだけいるかもわからない、殺しつくすことなんて出来るかもわからない……

あかり「それなら……」

キュゥべえをみんなに近づかせない。
ずっとあかりがみんなを監視して、キュゥべえを見つけたらあかりが時間を止めてあかりに気付かれる前に殺す。
あかりの存在を気付かれないように、慎重に、確実に殺す。

あかり「そうすればいつか……」

いつか諦める……
駄目、そんな事を考えちゃ。
諦めるなんて無い、前の世界でもどんなに殺してもみんなを追ってきた……

それなら、今回は……
キュゥべえが死なない理由を探る……
そして、その秘密を暴いたら……

あかり「そのときは…………」

確実に……

あかり「……殺す」

519: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:50:39.03 ID:6eUCwj7W0
あかりが色々考えているうちに、いつの間にか時間が経っていたみたいだ。
外から京子ちゃんの声が聞こえてきた。

「おーい! あかりーー!」

京子ちゃん……

「おい、朝からそんな大声だすなよ」

結衣ちゃん……

階段を下りて、玄関のドアを開けたら京子ちゃんと結衣ちゃんが少し変な顔をしてあかりを見ていた。
どうしたんだろう?

結衣「あかり? どうしたの?」

あかり「?」

京子「あかり、なんか顔つき変わった? なんか目つきがあかりっぽくないぞ?」

結衣「うん…… なんというか鋭い目つき?」

あかり「……そう?」

二人ともこんなあかりを見てくれている。
みんなを裏切って一人で帰ってきたあかりなんかを。

あかり「京子ちゃん、結衣ちゃん。ちなつちゃんも呼んで聞いてほしいことがあるんだ」

京子「? どしたの? なんか妙に真剣な顔してるけど?」

結衣「ちなつちゃんもって、今から?」

あかり「うん、大事な話だから」

京子「な、なんか、変な威圧感あるな」

結衣「それだけ真面目な話ってことだろ。とりあえずちなつちゃんも呼ぼうか」

あかり「……ありがとう」

520: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:51:25.62 ID:6eUCwj7W0
少しして、ちなつちゃんもあかりの部屋に来てくれた。
みんながそろったところであかりは話し始める、魔法について、キュゥべえについて。
みんな最初は信じられない顔をしていたけど、あかりが実際に魔法をつかって見せたことであかりの話を信じ始めてくれた。

京子ちゃんは前と同じようにあかりに詰め寄ってきたけど、あかりが時間を止めて京子ちゃんを動けなくしたところでみんなはあかりが魔法を使えることを完全に信じてくれ、その後の話も黙って聞いてくれた。

しばらくあかりは話し続けていたけど、前回とは違って全部は話さないことにした。
みんなに話したのは、あかりは魔法少女としてキュゥべえと戦っていること。
キュゥべえは言葉巧みにみんなを騙して、みんなの命を狙っているということ。
ここでキュゥべえがみんなをだます為に、どんな願いでも叶えるということや、魔法少女になれるって言葉巧みに誘惑してみんなを連れ去ろうとしているんだよって説明した。

結衣ちゃんやちなつちゃんは詐欺師みたいだねって言って納得しているような感じだったけど、京子ちゃんだけは何か考えているみたいだった。
まだもしかしたら魔法少女になれるんじゃないかって考えているみたいだったけど、その時に泣きながら騙されないでってお願いしたら、完全に信じてくれたみたいだった。

あかりが魔法少女になっている理由は秘密にした。
キュゥべえをやっつけてから話すよって説明したらしぶしぶ納得してくれたけど、また聞かれるかもしれない……
何かいい作り話を考えておかないといけないや……

その後長い間あかり達は、キュゥべえに対する対策を夕方まで立てながら話し合いをし続けた。
夜になるまで続いた話し合いは、キュゥべえが現れたらあかりにすぐ連絡をするようにすることで一旦終わり、みんなが家に帰るのを見送った後、あかりは魔法少女に変身して動き始める。

521: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:52:37.30 ID:6eUCwj7W0
夜 結衣の家付近


あかり「……今日は現れなかった」

結衣ちゃんの部屋が見える木の上であかりは結衣ちゃんの部屋を見続けていた。
今日は大丈夫だった… ううん、油断しちゃ駄目、いつ現れるか分からないんだから…
今日は結衣ちゃんの家、明日は京子ちゃんの家、明後日はちなつちゃんの…

あかり「……?」

そう考えながら結衣ちゃんの家を見ていたら、何か変な感じがした。
その感じはすごく大きくなって、あかりの身体が知らないうちに震え始めていた。

あかり「な、なに?」

感じた、遠いところで何かが現れたのを。
あかりにはそれがとてつもなく大きな魔力だってことだけが分かった。
身震いするくらいの大きな魔力、あかりがみた魔女や使い魔なんて比較できないくらいの魔力だった。

あかり「なん、なの… これって…」

あかりが呆然と遠い空を見上げていると、また大きな違和感があかりを襲う。
それはあかりの中から何かが溢れだしたからだった。
止め処なくあふれ出すそれは、あかりの魔力なのかな…?
いつの間にかあかりの身体は内側から溢れ出した光に包まれあたり一面を照らすくらいの光を放っているみたいだった。

あかり「えっ……?」

あかりが何が起きているか分からない状態で戸惑っていると。
結衣ちゃんの家の屋上に、キュゥべえがいつの間にか現れてあかりに話しかけてきていた。

522: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:53:23.74 ID:6eUCwj7W0
QB「……信じられない、一体何が起きているんだ?」

あかり「っっ!!」

キュゥべえの姿を見た瞬間、あかりは咄嗟に時間を止めた。
そう、時間を止めたはずなのに……

QB「」サァァァァァァ

あかり「な、何?」

あかりの視界に入っていたキュゥべえがぴたりと止まったかと思ったら、ゆっくりと崩れていき塵となって消えちゃった……

ううん…… 違う……
時間を止めるときとは違う感覚……
この感覚は……

そう考えていると、建物の影になっている所からキュゥべえが姿をあらわしてあかりに話しかけてくる。

QB「……君は、一体何者なんだ? その魔力量…… 契約記録がない魔法少女…… そしてその魔法……」

あかりは再びキュゥべえを見ながらさっき感じた感覚を逆にして、キュゥべえに魔力を解き放った。
すると今度はキュゥべえがどんどん小さくなり、やがて目に見えなくなるほど小さな粒になって消えちゃった。

やっぱりそうだ。
時間を戻すだけでなく進めたりできる。
あかりの魔力を包み込むことで細かく調整することが出来る。

なんで急にこんなことが……
そう考えていたら、今度はテレパシーであかりの頭の中に声が聞こえてきた。

523: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:54:23.28 ID:6eUCwj7W0
QB『……僕の個体のみを対象に時間の加速・逆行を行ったというのか?』

……どこにいるの? 姿さえ見えれば……

QB『……テレパシーを送っている個体には何の影響もなし。君の力は視認しなければ発動しないタイプと言うことかな? 先ほども個体が崩壊する直前に君の魔力が個体の周囲に展開される事を観測したし、恐らくは君の魔法は視認した対象に魔力を展開して、その魔力範囲内における対象の時空間を操作する魔法と推測できるけど……』

あかり「…………」

QB『……沈黙されたらお手上げだ。でも、君はテレパシーを送っている僕には何も出来ないと言うことだけはわかったよ。これでようやく話が出来るということだね』

あかり「…………」

QB『君は一体何者なんだ? 僕が契約した記憶がない魔法少女…… そしてそのとてつもない魔力係数…… その魔法……』

あかり「…………」

QB『……やれやれ、何も話してくれないか。つい先ほど発生した謎の時空断層から現れた3つの存在もそうだし、一体なにが起きていると…………』

あかり「……?」

急にテレパシーが途切れた。
あかりは周囲を見渡しながらキュゥべえを警戒していたけど、何も起きずにテレパシーが送られてくることもなく、キュゥべえを探す為に今度こそ時間停止を行おうとしたその時。

あかりの周りに黒い霧が漂っていた。

この霧… さっき感じたとてつもなく大きな魔力…
だけど、なんでかは分からないけどあかりにはこの霧に触れていると心が落ち着いて、安心できる不思議な感じがする。
なんでだろう? そう思っているとあかりの前に黒い霧が集まり、やがて霧は黒い影を形作って、辺りに凄い風が巻き起こりゆっくりと影の中から何かが出てきたみたい。
薄っすらと目を開けながら、あかりは影の中から何かが突き破って現れるのを見た。
後姿しか見えなかったけど、真っ黒な髪で真っ黒な翼を広げた女の子だった。

「やっと…… やっと、たどり着いた」

その声に聞き覚えがあった。
そしてその女の子はゆっくりと振り向き、あかりの目にその横顔が飛び込んでくる。
その顔は……

あかり「きょうこ…… ちゃん……?」

京子「よっ、あかり」

524: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:54:55.86 ID:6eUCwj7W0
あかりの知っている京子ちゃんとは違う髪。
目も黒いし、翼も生えている。
だけどこの女の子は……

どういうことなの?
あかりの目の前にいる女の子は、京子ちゃんなの?

あかり「な、なに……? 京子ちゃん、なの?」

京子「私の顔を忘れたって言うの?」

間違いない。
京子ちゃんだ。
でもなんで、その格好は一体……

そうやって考えていると、京子ちゃんは無言であかりに近づいてきて、あかりとの距離が0になったかと思うと、あかりを抱きしめてきた。

京子「この…… 馬鹿あかりっ! 何で私たちを置いて一人でいっちゃったんだよっ!!」

え……?
何を言っているの……?

京子「私達がどれだけ心配したかわかってんのか!?」

あかり「え……? え……?」

京子「でも…… また、こうやって会えた……」

京子ちゃんはそのまま泣き始めてしまった。
何がどうなっているの?
そう思っていると、空に二つの影が現れて、あかりの近くにその影は舞い降りてきた。

あかり「ゆ、結衣ちゃん? ちなつちゃん?」

結衣「あかり…」

ちなつ「あかりちゃん、やっと会えた…」

二人の姿は魔法少女としか思えない姿だった。

あかり「な、何? どういうことなの?」

京子「もう、もう絶対に離さないんだからな!」クスン

結衣「うん…… これからはみんな一緒だよ……」

ちなつ「……あかりちゃん。本当にあかりちゃんがここにいるんだよね……」クスン

わかんない……
一体何が起きてるのかがわからないよ……

なんで京子ちゃんはそんな姿になっているの?
なんで結衣ちゃんとちなつちゃんは魔法少女になっているの?
なんであかりを見てそんな嬉しそうな顔をして泣いているの?

わからないよ……
なにがなんだかわからないけど……

すごく、嫌な予感がする。

525: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:55:28.43 ID:6eUCwj7W0
京子ちゃんとちなつちゃんはあかりに抱きついたまま泣き続けてる。
結衣ちゃんも目に涙をにじませながらあかりをみてる。
しばらくあかりはそのままの状態で、何が起きているかわからなかったけど二人が泣き止むまで待っていた。
しばらくして、泣き止んだ京子ちゃんがあかりに話してくれた。

京子「へへ…… ごめんな、あかり。あかりの顔をこうやってまた見れたら我慢できなくなっちゃった」

あかり「……また?」

京子「そうだよ。大変だったんだぞ! あかりが一人で戻るもんだから私たちはみんなで力を合わせてようやくこの世界にたどり着いたんだ!」

…………待って。

結衣「……あかりが一人でこの世界に行ってしまった理由はもうわかってるよ。だけど、あかり一人で抱え込まなくてもいいんだよ。これからは私たちと一緒に歩いていこう。それで元の日常にもどろう」

…………嘘だ。

ちなつ「あかりちゃんはあんなに頑張ったんだから…… あんなに苦しんで、傷ついたんだから…… もう休んでも大丈夫だよ。あかりちゃんがあれだけ頑張ったんだからもう私たちに任せてくれても大丈夫だよ」

あかり「……まさか ……みんなは」

みんなの視線があかりに集まる。
前の世界で最後に見た光景と同じ……

あかり「……前の世界から ……あかりと同じように時間を戻して」

京子「時間を戻すなんて出来ないって。だけどみんなで力を合わせてこの世界までやってきたんだよ」

あかり「え……?」

京子「あかり、あの後に何が起こったかって言うのはね…………」

京子ちゃんの話をあかりはただただ呆然と聞いていた。
あの後、ちなつちゃんが魔法少女になってあかりの居場所を見つけて、京子ちゃんの魔法で飛んできた……
その途中で、あの世界に、みんなが魔女になってしまったあの世界に行って、魔女になってしまったみんなと融合してこの世界にたどり着いた……

その話はあかりにとっての絶望だった。

526: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:56:00.36 ID:6eUCwj7W0
あかり(……あかりは時間を巻き戻していたんじゃなかったの?)

あかり(……あの世界でみんなが魔女になったままだったって言うことは)

あかり(……最初の世界のみんなは)

あかり(…………)

あかり(……わかんない)

あかり(わかんないよ…… どうすればいいの……)

あかり(時間を巻き戻してみんなを助ければよかったんじゃなかったの……?)

あかり(時間を戻してもみんなが魔女のままだったっていうことは……)

あかり(あかりのした事は意味の無いことだったの……?)

あかり(わかんない…… わかんない…… わかんない……)

京子「あかり?」

あかり「っ!?」

京子ちゃんがあかりの顔を覗き込んでいた。
あかりは京子ちゃんの声も聞こえないくらいに考え込んでいたみたいだった。
少し心配そうな顔をしてあかりを見る京子ちゃん……

京子「……あかり。私達が魔法少女になってしまったことを自分のせいにするのは止めようぜ」

あかり「え……?」

ちなつ「そうだよ、あかりちゃんがどれだけ思いつめていたのかは私が一番知ってるんだから! もうそのことで苦しまないで…… 私たちみんなでもとの人間に戻る方法を探そうよ」

あかり(……違うの)

あかり(……そうじゃないの)

あかり(みんなが元の人間に戻る方法は…… 多分あかりのさっき使えるようになった力を使えば……)

あかり(だけど…… そうじゃないんだよ……)

あかり(もうみんなはこの世界に来てしまってるし…… 最初の世界のみんなは死んじゃってる……)

あかり(もう、どうしようも…………)

あかりの心が絶望に向かい始めたその時、
結衣ちゃんが話し始め、言葉があかりの頭に入ってくる。

527: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:56:39.11 ID:6eUCwj7W0
結衣「そのことだけどさ。私達みんな人間に戻る方法の一つとして、私の力を話しておくよ」

京子「結衣の力? 確かトンデモ身体能力と自己治癒能力…… あと回復魔法も使えるんだっけ? あっ! もしかして、結衣の回復魔法は魔法少女を人間にする力もあるの!?」

結衣「いや、そうじゃなくて、魔女としての私の力だよ」

ちなつ「……あっ」

京子「それって……」

結衣「他の生物との同化能力」

ちなつ「……」

京子「それが一体……?」

結衣「この力の使い方の一つとして、他の生物のある一部分だけを奪い取ることも出来るんだ。それは肉体の一部でも、魂の一部でもね」

結衣「だから私の力を使えば、みんなの身体を作り変えて人間に戻すことも出来るかもしれないってことだよ」

京子「それ、マジ?」

結衣「……最終手段の一つと思ってもらえればいいさ」

京子「……わかった。候補のひとつだね」

結衣「ああ……」

結衣「あっ、そうだ。後みんなに私の力の一部を渡しておくよ」

京子「? どゆこと?」

結衣「魂の一部…… 魔法少女や魔女の力を奪い取ることもできるんだけど、受け渡すことも出来るんだよ。私の力はね」

京子「…………」

ちなつ「どうしたんですか?」

京子「……今の結衣の発言を聞いて、ちなつちゃんは驚かないの?」

ちなつ「知ってましたから特には」

京子「…………そっか」

結衣「ちなつちゃんの世界で私はこの力を手に入れたから、ちなつちゃんには知られているさ」

京子「あぁ、そうだったね」

京子「それでさっき言った私たちに渡す力ってなんなの?」

結衣「私の身体能力向上魔法と自己治癒能力向上魔法さ。この二つをみんなに渡しておけばいざって言うときに何とかなるって思うから」

京子「……あぁ、あの滅茶苦茶な力か」

あかり「…………」

528: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:57:25.17 ID:6eUCwj7W0
みんなは考え込んでいるあかりにを気にしながらだけど話し合いを続けてる。
だけどあかりの頭の中ではさっき結衣ちゃんが言った言葉がぐるぐると回り続けていた。

魔法少女や魔女の力を奪い取って自分のものにできる……
それに力を受け渡すこともできる……

さっき聞いた話だと、京子ちゃんの力は瞬間移動の力。
京子ちゃんの力を使って、この世界までみんなはやってきた……

それなら、京子ちゃんの力を結衣ちゃんに頼んであかりに移してもらえれば……
今ここにいるみんなを元の世界に戻すことが出来る。

そして、元の世界に戻したところでさっき使えるようになったあかりの魔法でみんなを人間だったときまで時間を巻き戻す……
これで三番目の世界のみんなは助かる……

ううん…… 違う、それだけじゃ駄目だよ……
まず結衣ちゃんの力もあかりに移してもらって魔女になってしまったみんなを今のみんなから分けて、そのみんなも人間だったときまで時間を巻き戻さないと……

……でも時間を巻き戻したとして、記憶はどうなるんだろう。
……多分同じように記憶もその時まで戻るはずだけど……
駄目…… 確証が無い…… それだったら……

もしも記憶はそのままだったときの保険として、ちなつちゃんの力もあかりに移してもらわないといけない……
記憶がそのままだったときは、書き換えないといけない……

そうすれば大丈夫。
魔女になってしまったみんなも元の人間に戻って、あの恐ろしい記憶も書き換えてしまえば大丈夫。
二番目の世界もみんな助かる。

あとは一番最初の世界に戻って、みんなが死んでしまったあの場所に行ってみんなの身体の時間を巻き戻す……
それで全てが終わる。
全部の世界でみんなが生き返る。

キュゥべえも京子ちゃんがやったように全部捕まえてどこかに閉じ込めてしまえば……
ううん、全部捕まえたら。そのまま処分してしまおう。
それで本当に全部終わる。

みんなが助かる!
全部の世界でみんなが助かる!!

あかりの頭の中にみんなが助かる光景が浮かび上がったその時、あかりは決めた。

今考えたことを実行に移すと。

そして、それを実行に移すためには結衣ちゃんにお願いしないといけない。

そのために…………



あかりは時間を止めた。



529: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:58:04.10 ID:6eUCwj7W0
停止した時間の中、あかりは結衣ちゃんに向かって歩き出す。

結衣ちゃんは動かない。隣にいるちなつちゃんも止まっている。

だけど、違和感を感じた。

そう、京子ちゃんだ。

止まっているはず、止まっていないといけないのに……

京子ちゃんは停止した時間の中、あかりに話しかけてきた。

京子「こ、これって……?」

あかり「そっか、魔法無効化の力…… だったよね?」

京子「結衣? ちなつちゃん? 二人とも……」

京子「っ!! まさか!?」

京子ちゃんと視線が絡み合う。

京子「……なんで時間を止めてるの?」

あかり「必要なことだから」

京子「わかんないよ!! ちゃんと説明して!!」

あかり「分からなくても大丈夫だよ。全部あかりがやるんだから」

京子「何言って……」ハッ

京子「お前…… まさかまた私たちを置いて過去に戻るつもりじゃ!?」

あかり「そうじゃないよ。でも大丈夫だから。京子ちゃんは何も気にしなくても」

京子「……」


530: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/29(日) 03:58:41.98 ID:6eUCwj7W0
京子ちゃんはあかりの目の前から飛び上がって空に浮かびながらあかりを見る。

京子「あかりっ! お前が何をしようとしているかは分からないけど、今のお前は何かおかしいっ!」

あかり「…………」

京子「悪いけど私の結界に無理矢理にでも来てもらうぞ! そこで、詳しく聞かせてもらうからな!」

京子ちゃんはそう言って手を広げるとあかりの回りに黒い霧が現れあかりを取り囲むように広がった。
これが京子ちゃんの魔法……
結界に連れて行くって言っていたし、この黒い霧に触れたら強制的に瞬間移動をされてしまうのかも……

あかり「…………」

あかりは周囲一帯に魔力を撒き散らす。
京子ちゃんの黒い霧にあかりの魔力を当て、京子ちゃんの魔力の時間を加速させた。
すると黒い霧は制御を失ったように雲散し、あかりは周りの黒い霧をひとつ残らず消し去ることに成功した。

京子「!?!?」

京子「な、なんで? 何が、どうなって……?」

あかり「……京子ちゃんが止まった時間の中を動けるって言っても」

京子「っ!!」

あかり「京子ちゃんを眠らせてしまえば、止まっているのと変わらないよね?」

京子「あかり、お前……」

あかり「京子ちゃん、少しだけ眠ってもらうよ」

あかりは内側から溢れ出す魔力を、外側に向かって放出した。
するとあかりの背に光の翼が現れて、あかりも京子ちゃんと同じように空に浮かび、再び京子ちゃんと視線が会う。

京子「な、なんで…… あかりの魔力がなんでそんなに高くなって……」

あかり「いくよ、京子ちゃん」

あきらかにうろたえている京子ちゃんに向かい、
あかりは魔力を展開し、その魔力を解き放った。

534: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/11(土) 18:36:56.09 ID:mH6iPAAf0
中編1


あかりは京子に向かい魔力を解き放つ。
時間の操作も何も無い、ただの魔力の奔流。
それは京子を傷つけるためのものではなく、京子の意識を奪うためのもの。
そのとてつもなく大きな魔力が京子に到達した場合、大きすぎる魔力の奔流は京子の身体を駆け巡り、魔力に耐え切れず意識を飛ばしてしまうそんなシロモノだった。

だがその魔力波は京子の目の前で掻き消え、あかりは苦虫を噛み潰したような顔で京子を見る。

あかり「……これも、駄目なの?」

京子「あかりぃ!? お前今の攻撃、本気だったろ!?」

あかり「それじゃあ……」

京子「聞けって!! おいっ!!」

京子の叫びを聞くこともなくあかりは京子との距離をつめ、両手から魔力の弾を生み出しながら京子に投げ始めた。
一発でも頭部に命中すれば先ほどの魔力波と同じように意識を刈り取られる魔力弾。

京子はその魔力弾から逃れるように、一瞬でその姿を闇に包み込みその姿をくらませる。
京子の闇は闇夜と完全に同化し、溢れ出る魔力を隠蔽し、その状態を維持する。

あかりは姿も魔力も見失った京子を探すように、空中に浮きながら360度全てを見渡しながら呟いた。

あかり「京子ちゃん、どこ?」

あかりの呟きには返さず、闇と同化した京子はあかりを見ながら考えていた。

京子(何を考えてんだ…… あかり……)

京子(私を眠らせるって…… その後は一体何をしようとしてんだよ……)

京子(時間を戻すつもりじゃない…… あかりのあの感じ…… 何かを決めた感じ……)

京子(あかりは自分だけで何とかするって言っていた…… 自分だけで……)

京子の脳裏にちなつの記憶を共有した際に見たあかりの最期が浮かびあがる。

京子(ふっざけんな! あんな未来にさせないためにも私たちはこうやってあかりを追ってきたんだ!)

京子(グダグダ考えないで、まずはあかりをとっ捕まえてやる!)

京子(その後は説教だ! 二度とあかりが一人で何でもかんでも抱えこむ考えをしなくなるように説教してやる!!)

京子(そのためにもまずは……)

535: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/11(土) 18:38:00.70 ID:mH6iPAAf0
京子は目線を自分を探しているあかりから、完全に停止している結衣とちなつに向けた。

京子(二人を私の結界に連れて行く)

京子(私の結界内なら二人の時間停止も解除されるし、ちなつちゃんの力があればあかりの意識をちなつちゃんの世界に引きずり込むことも出来るかもしれない)

京子(そうなれば…………!?)

京子は違和感を感じる。
結衣とちなつを見ていた京子だったが、二人の姿は太陽の光に照らされていた。
そう、先ほどまで闇夜だったはずなのに、突如として太陽が現れ、その日差しはあたりを照らし出していた。

京子(太陽!? 何が起きたの!?)

京子の疑問。
その回答は、あかりが世界の時間を加速させ夜を昼にしたという単純なものであった。
停止している時間の中、時間を加速させるという無茶だったが今のあかりにとってはその無茶を押しとおす力があった。

そしてあかりが何故夜を昼にしたのか。
それは、あかりは京子が力を使うときに闇が溢れ出していることを見ていたからだ。
京子が力を使うたびに溢れ出す闇、あかりはそれを見る為に、京子の魔力の発動タイミングを見えるようにする為に。
そして視界の確保を考えて夜を昼に変えた、ただそれだけだったのだが、その行為はあかりにとって思わぬ収穫をもたらすこととなる。

太陽に照らされた空に一部分だけ霧状の闇が浮かんでいたからだ。
そして、ぽつりと呟く。

あかり「見つけた」

京子「!?」

あかりはそれに向かい再び大きな魔力の奔流を放ち、京子は瞬間移動を試みるが間に合わず、あかりの魔力の奔流をかき消すために両手を突き出しギリギリのところで打ち消すことに成功した。

あかりは魔力を再び消されたことに渋い顔をし、その顔を見た京子はあかりに向かい叫ぶ。

京子「あかりっ! 何をしようと無駄なんだって!」

京子「お前の魔法は私が全部打ち消せる! お前が私を魔力を使って眠らせるなんて絶対にできないんだよっ!!」

あかり「…………」

京子「だからっ……」

京子があかりに叫ぶ言葉にかぶせるようにあかりは京子を指差し話しはじめた。

あかり「京子ちゃん、さっきより魔力が減ってるよね?」

京子「!!」

あかり「あかりの魔力を打ち消す前と今、ものすごく魔力が減っているのが分かるんだよ?」

536: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/11(土) 18:39:11.60 ID:mH6iPAAf0
あかりの指摘は正しかった。
京子の魔法無効化の力も無制限に使えるわけではなく、その使用に大本の京子の魔力が必要となる。
そして京子は2度の世界移動と2度の世界でQBを宇宙中から捕まえる為に魔力を使っていた。
その魔力行使は、魔法少女や魔女という存在から逸脱し、新たなステージに上った京子だったが、その京子を以ってしても魔力が底を付くのに十分な魔力行使だった。

そして今、あかりの時間停止を抗いつづけ、数度あかりの巨大な魔力を打ち消したことにより、京子の魔力の残量は枯渇寸前まで陥っていた。

京子(くっ…… 確かにこの身体になってから魔力を使い続けていたし、あかりのあの馬鹿でかい魔力やこの時間停止を打ち消すためにもずーっと使っている状態……)

京子(このままだと、いつか魔力が底をついてあかりの魔法を打ち消せなくなる)

京子(そうしたら私の時間も止まってしまうし、ここは一旦引いて少し魔力を回復させる……)

京子(私は何を考えてるんだよ…… あかりを一人にしちゃったらあかりはまた私たちを置いて…… ううん、もしかしたら私たちの手の届かないところまでいっちゃうかもしれない……)

京子(……あかりはここで捕まえる。絶対に!)

京子は実際瞬間移動を使いこの場から離れることも出来た。
だが、京子はその選択はせずにあかりに向き直り、周囲に黒い霧を展開し続け、空一面を覆うくらいの闇を形成させあかりに言葉を紡ぐ。

京子「あかり…… もう手加減なんかしてやんないからな……」

あかり「…………」

京子「お前を絶対にとっ捕まえて説教をしてやる! いくら私たちのためだって言ったってお前が……」

京子の言葉の途中であかりは動き出した。
あかりは空一面の魔力を見て、最初に行ったように自分の魔力をぶつけて相殺を狙う。
京子の闇色の魔力に対し、あかりは黄金色の魔力を撒き散らし、空は闇と黄金の光によって色を成し、二人の魔力はぶつかるたびに色を失い雲散し続ける。

京子(くっそぉ! 何で魔力無効化の効果もつけてるのに消えてしまうんだよ!?)

京子は自分の魔力が何故掻き消えてしまうのか分からなかった。
魔力を打ち消す効果も付与した京子の魔力、通常ならばそれはいかなる魔力障壁や魔力効果のある魔法であっても止める事は不可能なシロモノだった。
だが何故かあかりの魔力とぶつかると雲散しコントロールを失い掻き消えてしまう。

その答えはあかりの魔力が京子の魔力とぶつかる寸前に周囲の空間を含めて時を加速させていたからだった。
周囲の空間ごと時間加速が発動し、京子の魔力はその空間に取り残される。
空間内の時は通常時間とは異なる時間帯、京子には別の時間帯にある自分の魔力をコントロールする術は持っていない、そのために魔力は雲散し消えてしまう。

もしこれがあかりの時間加速が発動する前に京子の魔力がぶつかれば京子の魔力が先にあかりの時間加速の魔力を打ち消していただろう。
だが、あかりのほうが先に魔法を発動させ、発動した後の空間自体に京子の魔力が干渉することはなかった。
いわばどちらかが先に当てれるか、発動するかのタイミング次第だった。

京子があかりの力を真に理解していれば他に手はあったのかもしれない。
だが、あかりが新しく身につけた力を京子はしらない。
京子はあかりに消されていく自分の魔力を見ながらも考える。
それと同時に、必死に京子の魔力を止める為に時間加速処理を続けていたあかりも考える。

537: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/11(土) 18:40:18.54 ID:mH6iPAAf0
京子(周囲に散らした魔力で駄目なら、あかりに纏わり付くよう魔力を瞬間移動させて……)

あかり(あかりの周囲の空間の時間も加速させ続けて京子ちゃんの魔力が入ってこないようにしないと)

京子(っ!! あかりを包み込むように魔力を展開しようとしても、作り出した瞬間に制御が出来なくなってしまう!?)

お互いの魔力を相殺しあっている間にも二人とも相手がやってくると予想できることに対し対策も行いながら魔力を使い続けた。
京子の闇色の魔力と、あかりの黄金色の魔力は永遠に衝突し会うように見えたが、少しずつ空を覆う色が変わって行っていた。

空は眩い黄金の輝きに覆われていく。

京子(マズイ、マズイ、マズイ…… もうこれ以上は駄目だ)

あかり(京子ちゃんの魔力は目に見えて少なくなって行っている。でも、油断しちゃ駄目…… あかりはいつもいつも油断して取り返しの付かないことをしてきたんだもん)

京子(私の魔力もどんどん減って行ってる…… この状態であかりのあの馬鹿魔力を喰らったら多分数回で私の魔力はすっからかんになっちゃう。なんとしてもその前にあかりを捕まえないと…… そうしないとあかりは……)

あかり(このまま京子ちゃんに魔力を使わせて、京子ちゃんが魔力を使えないくらいまでにする)

京子(あかりは…… 私たちとはもう……)

あかり(今度こそ、今度こそ……)

京子(…………)

あかり(今度こそ、絶対に、みんなを助けてみせるんだから)

空を覆う魔力が黄金に染まりきったとき、京子は自分の周囲に闇を展開しその闇につつまれ瞬間移動を行った。
あかりはそれを見て、視線を動かすが、その瞳が少し動いたところで、闇の塊を見つけそこに向かい魔力の奔流を放つ。
その魔力があたる寸前に京子は翼をはためかせ急上昇しあかりの魔力を回避した。

京子「はぁっ…… はぁっ……」

あかり「…………」

京子は自分に向かい手を向けてくるあかりに言葉をかける。
魔力を放つ寸前だったあかりだったが京子の言葉にその手を止めた。

538: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/11(土) 18:42:06.54 ID:mH6iPAAf0
京子「あかり…… これがお前に止められたら私の魔力は0になる」

あかり「……そうだね。もう京子ちゃんの魔力は殆ど残っていないみたいだね」

京子「だからこれが最後……」

あかり「安心してね。次に京子ちゃんが目を覚ますときには全部終わった後だからね」

京子「…………そんなことさせないってーのぉ!!」

京子が叫びと共にその翼から先ほどまでとは違う濃い闇の奔流をあかりに向けて放つ。
あかりは先ほどと同じように魔力をぶつけようとするが、その闇の奔流はまるで意思を持つかのようにあかりの魔力に触れることも近づきもせずに、不可思議な軌道であかりに迫っていく。

あかり(これって……)

あかり(どんなに魔力を展開しても、時間を加速させた空間も関係なく進んでくるの?)

あかり(どうやって……)

あかり(!! もしかして……)

京子が放った闇の奔流、それは京子自身だった。
あかりが先ほどまでと同じように時間を加速させるが、京子自身が突っ込んで魔力を生み出し続けているために魔力も雲散されず、時が加速した空間に突っ込むたびに京子の突進する速度は上がりあかりに目がけて一直線に突き進む。

京子(捨て身の特攻だ!! あかりがどんなことをしてきても全部の魔法を打ち消してあかりに突っ込んでやるっ!!)

京子(あかりに触れた瞬間、あかりが何かをする暇なんて与えずに私の結界に取り込む!)

京子(もうあかりも目の前!! 後は手を伸ばして触れて…………)

京子が闇の中から手を伸ばし、あかりに触れる寸前にそれは起きた。
四方八方から黄金色の魔力弾が京子に襲い掛かり、
あかりに触れる寸前だった京子の全身を、黄金色の魔力弾が通過していった。

京子「」

あかりの目の前にあった京子の手がゆっくりと下がっていく。

京子(いったい、なにが…………)

既に途切れかけの意識の中、京子はあかりの声を聞いた。

あかり「危なかったよ…… でもあかりの勝ちだね」

あかり「京子ちゃんにばれないように魔力を作り出して、あかりの周りに設置しておかなかったらあかりは捕まってたかもしれないね」

あかりの周りには、先ほど京子を打ち抜いた魔力弾がピタリと止まり停止していた。
あかりが行ったことは、
京子に見えないように魔力を背後に展開し、その魔力弾自体は時間停止の影響を受けるように作り出し、停止した魔力弾を数個維持する。
その後に、京子が射程内に入ったと同時に、停止している魔力弾を一斉に動かし、全弾京子に命中させた。

京子は自分自身が特攻したことが完全に裏目となり、あかりに敗北することとなってしまった。

京子は薄れ逝く意識の中、あかりを見て、視線をさらに動かそうとしたところで、
その身体の動きを止め、完全に停止した。

539: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/11(土) 18:43:45.02 ID:mH6iPAAf0
あかりは京子を見て、ほんの少しだけ泣きそうな顔をしながら言葉を紡ぐ。

あかり「……本当にごめんね京子ちゃん」

あかり「こんなあかりの為に、そんな姿になってまで、こうやって来てくれて……」

あかり「でも、大丈夫…… あかりの魔法で京子ちゃんの身体の時間を巻き戻せば、京子ちゃんも、みんなも人間に戻れるんだよ……」

あかり「……みんなを元の世界に戻して、みんなの記憶も魔法のことなんて覚えていない状態にして、みんなは元の生活に戻ることが出来るんだよ……」

あかり「全部の世界でひとつずつやりきらないと…… そのためにも、あかりにみんなの力を集めないと……」

あかり「……結衣ちゃんは、あかりのお願いを聞いてくれるかな……?」

あかり「…………ううん、聞いてもらわないと、結衣ちゃんを騙してでもあかりにみんなの力を…………」

あかりが悲しげな目線を結衣に向けようとしたその時、
あかりの首に衝撃が襲い掛かった。

鋭い衝撃は一瞬にしてあかりの意識を刈り取るほどの一撃であった。

結衣「そんなお願いは聞けないよ…… あかり……」

薄い闇を身体から溢れさせた結衣は、あかりを優しく抱きしめて呟いていた。


540: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/11(土) 18:45:12.13 ID:mH6iPAAf0
時は少し遡り、京子は気絶する寸前に最後の力を振り絞り結衣とちなつの近くに闇を生み出し、その中から闇色の烏、京子の使い魔を召還した。

その使い魔は、よたよたと歩き、停止した結衣の元にたどり着くと、その背を上り結衣の肩に乗った時点でその姿を崩し、結衣の身体を薄い闇が包み込んだ。
そして、結衣の身体が薄い闇につつまれきったところで、結衣の目は色を取り戻し、あかりの時間停止の影響を退けた。

結衣「!?」

京子『まって結衣! 喋らないで! 動かないでっ!!』

結衣(……? 京子?)

京子『そう、今は動かずに私の話を聞いて! 時間が無いんだ!』

結衣(一体……?)

京子『簡単に説明するけど、今あかりが時間を止めて何かをしようとしてるんだ。私はあかりを止めようとしたんだけど、返り討ちにされてもう少しで完全に意識を失う状態』

結衣(!?)

京子『結衣、あかりを止めて…… 絶対にあかりは馬鹿なことを考えてる。このままあかりを行かせてしまったら……』

結衣(……ああ、わかった。あかりを止めるよ)

結衣(その後は、あかりを交えて話し合いだ。今度こそあかりにも私たちの気持ちを知ってもらおう、もうこれ以上すれ違うのは嫌だからな)

京子『……うん』

京子『それじゃあ、結衣。私の力を受け取ってよ。……といっても、この魔法無効化の力の一部しか渡せないけど』

結衣(十分だよ。…………確かに受け取ったよ)

京子『……うん。でも油断しないで…… あかりは、本気だよ……』

結衣(……今のお前がやられるくらいなんだろ? 油断なんてしない、一瞬でケリをつけるさ)

京子『…………あかりを、お願い』

結衣(ああ)

541: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/11(土) 18:48:07.54 ID:mH6iPAAf0
結衣は京子の力の一部を自分のものとし、あかりの時間停止を退ける魔法無効化の力を手に入れた。
だが、ほんの一部だけを受け取ったに過ぎないその力は、京子のように放出した魔力に魔法無効化の効果を付与することは出来ず、自分の身体に影響を及ぼす魔法のみを無効化するというだけのものであった。

だが、結衣にはそれだけで十分だった。
とてつもない身体能力を駆使し、目にも映らぬ速度で動きあかりの背後に現れ、あかりの呟きを聞いた結衣は無防備なあかりの首に手刀を打ち込んだ
魔法少女であってもその肉体は人間の構造と変わらない、結衣の一撃は確実にあかりの意識を刈り取るほどの一撃を放っていた。
全てが完璧な一撃、力、速度、タイミング。そしてあかりが絶対に怪我をしないように想いを込めた一撃、意識だけを刈り取る一撃。

ゆっくりと崩れるあかりの身体を優しく抱きとめた結衣はあかりに抵抗されずに事を成せたことに安堵した。
ひとまずはこれで安心、この後は京子とちなつと共にあかりと話し合うためにどうするかと考えていた結衣は怪訝な顔をしながら周囲を見渡す。

結衣「…………時間が止まったまま?」

まさかと思いあかりを見たその瞬間、

あかり「…………っ!!」

結衣「なっ!?」

あかりの全身から爆発するように魔力が噴出し、あかりは魔力を噴出させながら結衣との距離を十分に取って結衣をその視界に入れた。

あかり「ぜぇっ…… ぜぇっ……」

肩で息をしながらあかりは空中に留まっていた。

結衣(浅かった!? いや、そんなはずは……)

結衣の一撃は完璧だった。
あかりも一瞬で意識を刈り取られるはずだった。
だが、その意識が飛ぶ寸前に結衣の身体に抱きとめられた。
あかりの身体に結衣の温もりが伝わる。
あかりの身体に結衣が自分を気遣うように抱きとめたことが伝わる。
その時、刈り取られるはずのあかりの脳裏に想いが駆け巡る。

――――結衣ちゃんだ。

――――あれ、あかりは結衣ちゃんに抱きかかえられて?

――――結衣ちゃんも止まった時間の中に?

――――お願いを聞けないって、それじゃああかりはみんなを助けられないの?

――――嫌だ。

――――そんなのは、嫌だ。

――――あかりは絶対にみんなを助けるんだ。

――――そのためにも、そのためにも!!

あかりの意識は最後の最後で踏みとどまり、意識を飛ばすことはなく結衣との距離を取り再びあかりは臨戦態勢をとる。

あかり「ぜぇっ…… はぁっ……」

結衣「っ!」

荒い息のあかりは、その全身から膨大な魔力を噴出し空中で結衣と対峙する。
その噴出された魔力はあかりの目に集まり、あかりの瞳が黄金色に輝き瞳の内部で時計の針が目まぐるしく動き始めた。

542: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/11(土) 18:49:33.67 ID:mH6iPAAf0
中編1終わり。

545: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 03:14:18.48 ID:4bm/kQIU0
中編2


結衣はあかりが魔力を集め始めたことを悟り、再びあかりの意識を奪うために動いた。
先ほどと同じ様にあかりの首筋を狙い、手刀を繰り出す。
動き出してから手刀を繰り出すまでの一連全てが一瞬にも満たないほどの速度だった。
そして、結衣の手が再びあかりに届こうとしたその時、

あかりの身体がゆらりと動き結衣の手刀は空を切った。

結衣「!?」

あかり「ぜぇっ…… ぜぇっ……」

結衣の驚愕。
確実に首元に打ち込んだはずの手が空を切っている。
あかりが偶然動いたせいでだが、何かが腑に落ちない。
頭を切り替え再び結衣は同じように動いてあかりを気絶させる為に手刀を打ち込む。

結衣「!?」

だが再びその手刀は空を切る。
またあかりが結衣の手が届く寸前に動いたせいだ。
そして、三度結衣が手刀を打ち込みあかりがよろめくように動きその手が空を切ったとき、結衣はこれが偶然ではないことを悟る。

結衣(避けてる……のか?)

あかり「はぁっ…… はぁっ……」

あかりは荒い息を整え始め、頭を振りながら結衣を見る。
最初に結衣があかりに与えたダメージはまだ残っている、だがもう行動に影響がないほどまで回復していた。
あかりの息が落ち着いてくるのとは対照的に結衣は焦り始める。

結衣(一体何が!? だ、だけど、すぐにでもあかりを気絶させないと。あの京子ですらやられちゃったあかりだ、モタモタしてるとこっちがやられる!)

結衣はあかりの意識を奪うことを優先しあかりに向かい行動を開始した。
だが、結衣があかりに手刀を放つがすべてそれは紙一重のところであかりに避けられ続けた。
あかりはまるで結衣が何をしてくるか分かっているかのように、結衣の手刀を避け続けた。

546: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 03:14:51.61 ID:4bm/kQIU0
あかり「……無駄だよ」

あかり「結衣ちゃんはあかりには絶対に触れられないよ」

結衣「っ! そんな事分からないだろ?」

あかり「わかるんだよ。だってあかりには未来が見えるんだから」

結衣「!?」

あかりが放った言葉。
それはあかりが予知を出来るという言葉だった。

結衣「それって、予知能力っていう事?」

あかり「そうだよ」

結衣「そんな力使えるなんて聞いてなかったけど?」

あかり「さっき出来るようになったんだよ」

結衣「……さっきって」

あかり「それ以外にも、いろんなことが出来るようになったんだよ? 時間を止めたり戻すだけじゃない。進めることも、こうやって未来を見ることも時間を進める魔法の応用…… 多分あかりは時間を自由自在に操ることが出来るようになったんだと思う」

結衣「……なんでそんな急に」

あかり「わかんない。でもそんなのはどうだっていいんだ。この力を使えばみんなを助けることができるって事が分かってるんだから、あかりにはそれだけわかっていれば十分だよ」

結衣は決めかねていた。
今の自分なら光すら超える速度で動くことができる。
その速度ならあかりが予知をしようとも避けることなど不可能、結衣の手刀はあかりに届くと確信していた。
だが、そんな速度の手刀をあかりに放ってしまっては最悪あかりの首を切り落としていしまう。
あかりに怪我をさせずに意識を奪う。そのギリギリの速度で結衣は動いていたが、その速度では予知を行うあかりに避けられる速度だということが分かってしまった。
煮詰まってしまった結衣は、あかりに問いかけ始める。

結衣「あかり…… 私がこうやって止まった時間の中で動けていることには驚かないんだな?」

あかり「京子ちゃんが何かをやったんでしょ? 多分さっき…… 最後かな? 京子ちゃんの最後の力を結衣ちゃんが受け取ったんだと思うけど」

結衣「……なんでそうだと思うの?」

あかり「だって最初から京子ちゃんの力を貰ってたんだったら京子ちゃんと一緒にあかりを止めようとして来るだろうし、それをしなかったって言うことは、そのときにはできなかったっていうことだよね? だったら考えられるのは最後の最後で京子ちゃんがあかりに分からないように結衣ちゃんに力を渡したことって事しか考えられないよ」

結衣「……まあ、その通りだよ」

結衣はさらに問う。

547: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 03:15:53.00 ID:4bm/kQIU0
結衣「あかり。一体何を考えてるんだよ…… なんでこんな、京子を気絶させてまで何をしようとしてるんだよ……」

あかり「…………」

あかりは少しだけ考え、結衣に話しはじめた。

あかり「……あかりがやろうとしていることはね、みんなが…… 全部の世界のみんなを助けようと思ってるの」

結衣「全部? それって……」

あかり「あかりは今まで4つの世界を渡ってきた」

あかり「この世界、一つ前の結衣ちゃんがいた世界、もう一つ前のみんなが…… 魔女になった世界、そして…… 一番最初の…… みんな死んじゃった世界」

あかり「最初はあかりが時間を戻して、みんなを助ければいいんだって思ってた」

あかり「だけど、そうじゃなかった。みんながこの世界に来たことで、それがわかっちゃった……」

結衣「……それって」

あかり「あかりが時間を戻しても、あかりがいた世界のみんなは助かってなかった…… あかりはただみんなを傷つけて、一人だけ安全な所に逃げ続けていただけだったんだって」

あかり「もう…… どうすればいいのかわからなくなっちゃった……」

結衣「あかり……」

あかり「でも」

あかり「結衣ちゃんの言葉を聞いて、みんなの力を聞いて、あかりは思いついたんだよ?」

結衣「思いついたって……」

あかり「みんなの力をあかりに集めれば、全部の世界でみんなを助けれるって!」

結衣「な、何を?」

あかり「だってそうだよね?」

あかり「京子ちゃんの力があれば別の世界に渡ることが出来る。ちなつちゃんの力があればみんなの記憶から魔法のことを消すことが出来る。そして結衣ちゃんの力があれば……」

あかり「…………もしもみんなの力やあかりのこの時間を戻す力でもみんなを助けることができなかった場合に、他の魔法少女や魔女から必要な力を奪い取ることができる」

結衣「!! あ、あかり、お前!?」

あかりはその未来を考えながら空を見上げて笑っていた。
今まで結衣はあかりの笑い顔を見てきていたが、今のあかりの笑い顔は狂気を携えるような歪な笑いで、そんな顔をするあかりに結衣は顔を顰めながら見続ける。
そして、結衣はたまらず叫んだ。

548: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 03:16:26.89 ID:4bm/kQIU0
結衣「な、なんでだよ!? みんなで協力すればいいだけだろ!? お前一人でやる必要なんてないだろ!!」

あかり「あるよ」

結衣「そんなことない……「あるんだってば」」

あかり「だって、あかりのせいなんだから」

あかり「あかりが、キュゥべえをみんなに会わせちゃったのが全ての始まりだったんだから」

結衣「え……?」

あかりの脳裏に最初の世界で始めてQBを見つけたときが浮かび上がる。
あの時はみんなに見てもらいたかった。
こんなに可愛くて、喋れる猫を見せたらみんな驚くし喜んでくれると思った。
それがこんな地獄の始まりだと気付きもしなかった。
あかりはあの時に自分がQBを結衣たちに会わせてしまったことを後悔し続けていた。

あかり「あかりには責任があるの。みんなを傷つけて、みんなを巻き込んで、みんなを殺してしまった責任が」

あかり「あかりがキュゥべえをみんなに見せなかったら……」

あかり「あかりが最初の世界のことを夢だと思わなかったら……」

あかり「あかりがあの時怪我をしなかったら……」

あかりの中で今までの世界で結衣たちの最後が浮かび上がる。

あかりはずっと自分のせいだといいながら手を握り締め、その目は見開かれ血走っていた。
結衣はそんな事はないと叫ぶがあかりにはその言葉は届いていないようで、あかりは血走った目を結衣に向けながらお願いを始める。

あかり「だから……」

結衣「あかり!!」

あかり「結衣ちゃん。あかりにみんなの力を移してほしいんだ」

あかり「そうすれば、みんなは助かるんだよ? ねっ、お願いだよ」

あかりの目を見て結衣は気付いてしまった。
あかりは既に自分では止まれない所まで来ていることを。
それならば、あかりが自分の意思で止まれないなら、

結衣「……おい、あかり」

結衣は決めた。

あかり「なぁに、結衣ちゃん?」

全力であかりを止めると。
その結果あかりが傷つくこととなっても。

結衣「お前を絶対に止める!! お前に力を与えることなんて絶対にしない!!」

あかり「…………残念だよ」

結衣とあかりはそれぞれ魔力を展開し、その魔力を開放した。

549: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 03:17:18.64 ID:4bm/kQIU0
先に動いたのは結衣であった。
魔力を開放して光速の動きであかりに一撃を加え一瞬で気を失わせる。
単純だが確実な方法、今のあかりが予知を行えると言っても光速の一撃を避けることなど不可能。
そう思い動いた結衣だったが、突如目の前に現れた巨木に視界を奪われあかりの姿を見失う。

結衣「なっ!?」

一体どこからこんな巨木が? と考えるが、一瞬で思考を切り替え結衣は上空に飛び上がろうとするが、その結衣の行く手には黄金色の魔力弾が雨霰のごとく降り注いだ。

結衣「~~~っ!?」

結衣はその魔力弾を見た瞬間に光速で背後に動き全ての魔力弾を回避する、だがその結衣の背中に衝撃が走る。

結衣「いたっ!? ま、また木!? なんなんだよっ!?」

いつの間にか周りには数十メートルはある巨木がそびえ立つように現れていた。

結衣「な…… なんだよ、これ……?」

呆然とする結衣だったが、再び上空から魔力弾が結衣目がけて降り注いできた。
それを見てあかりは上空にいると判断した結衣は、飛び上がろうとするが、完全に意識外からの激しい衝撃が結衣を襲った。

結衣「うぁぁぁぁっ!?」

結衣「し、下から? 一体……!?」

それはあかりの魔力弾だった。
京子の力を得ている結衣には魔力自体は無効化していたが、着弾した際の衝撃までは無効化できなかった。

結衣「あかりの攻撃……? 上からじゃ…… っっ!?」

再び結衣に魔力弾が襲い掛かる。
今度は上下左右、全ての方向からの一斉砲撃であった。

結衣(よ、避けきれない)

結衣「それならぁっ!!」

結衣は上空の魔力弾に突っ込み、その魔力弾を無効化して空に飛び上がった。
下では巨木に囲まれてあかりの姿を見ることも出来ない、だが数百メートル上空から見下ろせばあかりの姿を見つけることも出来ると考えた結衣は上空に飛び上がる。

そして、そこで結衣は驚愕に目を見開いた。

550: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 03:17:51.25 ID:4bm/kQIU0
結衣「な、なんなんだよこれ…… 空中に木?」

そこは巨木の樹海だった。
確かに結衣は上空にいる、だがその目に映るのは巨木の森。
結衣は自分の目がおかしくなってしまったのかと思ったが、巨木は全て不自然な形で空に留まっており、その根は地面にはなく、ただ空中に巨大な木が留まっているという状態だった。

結衣「まさか…… これはあかりが……?」

あかり「そうだよ結衣ちゃん」

結衣「!?」

突如聞こえてきたあかりの声に振り向いた結衣だったが、その目に映ったのはあかりの魔力弾だけだった。

結衣「~~~っ!!」

あかり「いくら早く動けても。これだけ沢山の木に邪魔されて、あかりの姿も見えないんだったらどうしようもないよね?」

結衣「うぁっ!?」

あかりの声はするが、その方向に振り向くと決まって魔力弾がある。
結衣は体勢を崩しながらも、魔力弾を無効化し、再びあかりを探そうとするが意識を向けた先とは別の方向から襲ってくる魔力弾を喰らい行動が出来なくなっていた。

結衣「一体…… うぁっ!? どうやって…… あうっ!?」

気がつけば結衣の周りは隙間がないくらいの巨木があり、その巨木を通過するように魔力弾が結衣に襲い掛かる。

あかり『もう動けないよね? 結衣ちゃんの周りにはあかりが成長させた木がもう数キロ近く覆われているから逃げ出すことも出来ないよ』

あかり『もうわかったでしょ? 降参して、あかりに…………』

超上空であかりは見ていた。そして、結衣にテレパシーを送っていた。
自分が木の時間を加速させ成長させた巨木の樹海と、結衣の周りに隙間なく木を生長させ作り出した巨木の牢獄を。
だが、その巨木の牢獄に一本の線が入ったかと思うと一瞬で数十の線に分かれ、巨木の牢獄は内側から爆散し中から両手に騎士剣を持った結衣が飛び出してきた。

551: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 03:18:41.11 ID:4bm/kQIU0
結衣「はぁっ! はぁっ! あかりぃぃぃっ! どこだぁぁぁっ!!」

あかり「…………」

超上空にいるあかりの姿に気付かず結衣は辺りを見渡す。

あかり(あれじゃ駄目なんだ…… それなら……)

見下ろすあかりは両手を広げ、巨大な魔力を作り始める。

結衣「!?」

結衣も上空に魔力の胎動を感じ視線を上に向けた。
そして、その瞳にあかりの姿を捉えた瞬間、あかりに向かい一歩を踏み出したところで、
巨木にその身を打ちつけた。

結衣「ぶっ!? ぐぁっ!?」

あかり『……あかりには結衣ちゃんがどう動くかわかるの』

隙が出来た結衣に容赦なく巨大な魔力の奔流が襲い掛かる。

結衣「うぅぅぅぅぅぅっ……」

あかり『結衣ちゃんが動く先、動こうとするところにあかりはいろんな罠をしかけたんだよ』

結衣が魔力の奔流に耐え切り上空を見上げたとき、そこには再び巨木の樹海とさらには大量の水が落ちて来ていた。

結衣「!?」

あかり『木を生長させたり、雲を元の水に戻したり、いろんなことが出来るんだよ』

結衣は完全にあかりの手の上で遊ばれていた。

結衣「…………」

あかり『ごめんね…… でも、こうしないとあかりはすぐ結衣ちゃんに捕まっちゃうんだ』

あかり『結衣ちゃんの魔力もあかりの魔力を打ち消して大分減ってきてる…… 京子ちゃんより打ち消すのは苦手みたいだね』

あかりの言葉どおり結衣は京子よりも魔力を打ち消す際に多量の魔力を使っていた。
あかりの時間停止をキャンセルしながら、魔力弾を打ち消していた結衣はかなりの魔力を消耗していた。

552: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 03:19:28.92 ID:4bm/kQIU0
あかり『結衣ちゃんの魔力がなくなるまでこうやって…………!?』

結衣「うぉぉぉぉぉおおおおおぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

結衣が叫んだと同時に結衣の姿が掻き消えた。
それと同時にあかりの瞳に映っていた未来が書き換わった。
結衣の周囲に動く先に設置していた全ての罠がが全て吹き飛んでいる未来、そして数秒後に自分の背後に結衣が両手を振りかぶりその手を振り下ろす瞬間が見えた。

あかり(うそ……)

あかり(後3秒であかりの後ろに結衣ちゃんが……)

あかり(今までは本気じゃなかったんだ……)

あかりの瞳は目まぐるしく可能性を選択し結衣から逃れる未来を探すが、全ての未来があかりの後頭部を結衣が殴り抜き、あかりは気を失い地面に衝突する寸前で結衣に抱きとめられる未来しか浮かび上がらなかった。

あかり(そんな…… もうどうしようもないの?)

あかりの未来は変わらない。

あかり(……そんなことない、絶対にそんなことないもん)

既に時間は1秒を切っていた。

あかり(……あかりは絶対に、負けられないんだもん!)

そして、その時が訪れる。

あかり(例えそれが京子ちゃんでも、結衣ちゃんでもっ!!)

あかりの背後に結衣が現れ、その手をあかりに振り上げ。

あかり(あかりはっ! 負けられないのっっっ!!!!)

あかりの瞳の中の時計の針が歪み、新たな未来が発生した。

553: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 03:20:13.96 ID:4bm/kQIU0
結衣「うらぁぁぁぁぁっっ!!!!」

結衣はあかりの後頭部に手を振り下ろした。
手加減も微塵に感じさせない攻撃、
手加減などしていたらあかりを止める事などできやしないと思い知った結衣が行った攻撃。
その攻撃はあかりの後頭部に吸い込まれ、完全にあかりの意識を奪う、それどころか下手をしたら骨まで砕くほどの一撃だった。

確実に振りぬいた。
手ごたえもあった。

結衣「っっっ!?」

だがその場にあかりは留まっていた。

何故? 確かに当たった、あかりが吹き飛んでいないとおかしい。
結衣の疑問は尽きなかったが、その答えを導き出す前に結衣の全身に魔力弾が打ち込まれた。

結衣「っあぁぁっ!!」

あかり「はぁーーーっ! はぁーーーっ!! はぁーーーっ!!!」

再び距離を取ったあかりは荒い息をしながら両手に魔力弾を形成した。
だが、結衣がその姿を再び消し、あかりの背後を取り同じように回避不能の攻撃を放つ。
先ほどと同じように手ごたえもあった、だがあかりは攻撃を受けたにもかかわらず振り向きざまに結衣に魔力弾を打ち込んできた。

結衣「っぁああ!! な、なんでだよっ!? 当たってるのに何でっ!?」

あかり「…………これって」

あかりは何かに気付いた。
その間にも結衣の攻撃に晒され続けていた。
だが先ほどと同じように何かが起きていた。

結衣(な、なんなんだよこれは!? 当たってるのに! それなのにあかりはまるで当たってないように平然としてる!?)

結衣(そ、それどころか、反撃までしてきて…… ど、どんどんあかりの攻撃が激しく……)

あかりは結衣の攻撃を受けながら、お返しとばかりに結衣に0距離で魔力弾を打ち込み始める。
結衣があかりを殴りつけ、あかりが結衣に魔力弾を放つ双方の攻防は激しく続いたが、
その状態は長くは続かず、たまらず距離を取ったのは結衣だった。

554: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 03:21:01.24 ID:4bm/kQIU0
結衣「な、何をしたんだよ!?」

あかり「…………」

結衣「答えろよあかりっ!!」

あかり「……もう結衣ちゃんはあかりに勝てなくなったって事」

結衣「っっ!?」

あかりの言葉に目を見開き、あかりを凝視する結衣。
あかりは再び口を開いた。

あかり「この力も時間操作の応用だよ」

結衣「時間操作!? そんな馬鹿な! 私にはあかりの魔法は……」

あかり「そうだね、結衣ちゃんにはあかりの魔法は効かないよ」

あかり「だけど、あかり自身にかけることは出来るんだよ」

結衣「どういうことなんだよ!」

あかり「あかりが結衣ちゃんの攻撃を受けた時、あかりの眼には二つの未来が見えたんだ。あかりがそのまま結衣ちゃんの攻撃を受けた未来と受けなかった未来」

あかり「あかりはその受けなかった未来のあかりを結衣ちゃんの攻撃を受けちゃった今のあかりに上書きしたんだよ」

結衣「………………は?」

あかり「その結果は、こうやって無傷のあかりがいる。もう結衣ちゃんがどんなことをやってこようとしてもあかりには絶対に届かないの。あかりに都合の悪いことはぜーんぶなかったことに出来るんだよ?」

結衣「い、意味が、分からない……」

結衣は混乱の極みに陥っていた。
あかりの言うことが正しければ、あかりを気絶させることはもう出来ない。
攻撃自体がなかったことにされるのではもうどうすることも出来ない。
だが結衣は頭を切り替える、これも魔法の一つ。
だったら魔力がなければ使うことなどできない。

結衣「……それでも、それは魔法なんだろ? それなら魔力がなくなれば使うことも出来ないだろ!?」

あかり「そうだね。確かに魔力が使えないとこの魔法も使えないよ?」

結衣「だったら、根比べ……」

あかり「だけど、魔力を持っているあかりを上書きすればいいだけだよね」

結衣「え……?」

あかり「言ったでしょ? あかりに都合の悪いことは全部変える事が出来るの」

今度こそ結衣は完全に固まった。
あかりはそのまま続ける。

555: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 03:21:49.02 ID:4bm/kQIU0
あかり「あは、あははは…… すごいよ、この力があればもう間違うことはないんだよ……」

あかり「もう失敗することなんてないんだ。失敗しても正解の道を上書きすればいいんだもん」

あかり「あは、あははははは、あははははははははははは!!」

狂ったように笑い出すあかりを見て、結衣は空中で後ずさった。
あかりの言うことを信じたわけじゃない、だが今までの情報を整理するとあかりの言葉が嘘ではないことが理解できる。

魔法を無効化しようしても自分は自分自身に影響がある魔法しか無効化することは出来ない。
あかりが新たに得た力を防ぐ術を結衣は持っていなかった。

あかり「さあ、結衣ちゃん。もういいでしょ?」

結衣「っ!」

あかり「あかりにみんなの力を移してよ。そうすればぜーんぶ元通りなんだから、ぜーんぶあかりが元に戻せるんだから」

あかりがゆっくりと近づいてくる。
あかりが近づくたび結衣は後退する。

あかり「ねっ、結衣ちゃん」

結衣「…………あかり、確かにもう私はお前を止める事は出来ないのかも知れない」

あかり「うん、出来ないよ?」

結衣「だけどな!! 私はまだ諦めてなんかいないんだからなぁっ!!」

あかり「あっ」

あかりの前から結衣の姿が忽然と掻き消えた。

あかり「……もう、本当に諦めてないんだね」

あかり「あかりがみんなの力を得る未来がまだ見えないよ……」

あかり「でも、それも時間の問題」

あかり「結衣ちゃんが諦めたその時…… みんなの力を得る未来が見えた時」

あかり「その時が…… あはははは…… あはははははははは!!!!」

あかりは笑いながらゆっくりと降下していった。
逃げた結衣を捕まえる為に、歪んだ笑みを浮かべ行動を開始する。

556: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 03:22:22.93 ID:4bm/kQIU0
中編2 終わり。

562: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 19:29:28.55 ID:4bm/kQIU0
中編3


あかりの前から逃げの一手を打った結衣は光速を超える速度で動きある場所へとたどり着いた。

結衣「はぁっ!! はぁっ!!」

結衣の目の前には空中で静止した京子、その京子の身体を掴み結衣はまた別の場所に移動する。

結衣(くっ! やっぱり今の私じゃ京子に触ってもあかりの時間停止を解除できない)

結衣は自分に影響を受ける魔法効果を無効化することは出来たが、その無効化の範囲はあくまで自分だけにしか広げれなかった。
これが京子ならば自分にやったみたいに他人の魔法効果も無効化できたというのに。

結衣(それを考えるのは後! 次は……)

京子を抱えた結衣はもうひとつの目的地、
ちなつの傍に降り立ちちなつも抱きかかえる。

結衣(よし! 次は……)

そのまま飛び立とうとした結衣の周りの地面にひびが入った。
結衣は気を取られ視線を向けると、地面から再び木の芽が現れ瞬く間に巨木へと変化して結衣の周りを取り囲むようにどんどん成長していった。

結衣「っ!?」

飛び上がろうと上を見上げた結衣は、あかりが空にいることを思い出し飛び上がらずに足に力をこめ巨木を蹴りぬき、巨木の腹を粉砕しつづけ横に横に突き進み、
そして巨木の中から飛び出した。

飛び出した結衣がまず見たのは、目の前に立っているあかりの姿だった。

結衣「~~~っ!?」

結衣はとまることも出来ずにあかりに突っ込む。
あかりは結衣に突っ込まれたが、何事もなかったかのように結衣の肩に手を回して耳元でぼそりと囁いた。

あかり「結衣ちゃん、捕まえた」

結衣「うぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

結衣はあかりを振りほどこうと反射的に飛び上がった。
しがみ付かれて拘束されるかと思っていた結衣だったが、以外にも簡単にあかりは手を離し結衣はあかりを振りほどくことに成功する。

あかり「も~、逃げないでよぉ」

結衣「はぁっ!! はぁっ!!」

あかり「結衣ちゃんはもうあかりから逃げられないんだから諦めてよぉ」

結衣「諦める、もんか!!」

結衣は足に力をこめ、あかりとは反対方向に飛び立った。

あかり「……ふふっ、鬼ごっこだねぇ」

563: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 19:30:35.81 ID:4bm/kQIU0
あかりから距離を取る為に飛び立った結衣の視界は目まぐるしく変化する。
一回の跳躍で日本とは別の国にあるそびえたつ山の山肌の側面に結衣はたどり着いた。
足元は衝撃でクレーターが出来、山肌の形はへこみ歪な形に変化していた。

結衣「こ、ここまで来れば少しは時間が……」

結衣はあかりが追って来るであろう方角を見つめ荒い息をついていた。
そんな結衣に背後から肩を触れられる感触が襲う。

結衣「ひぅっ!?」

全身が硬直し、心臓の鼓動が大きく跳ねる。
結衣は恐る恐る振り向く。
振り向いた結衣の視界に、

あかり「えへへ、捕まえたぁ」

あかりの顔が飛び込んできた。

結衣「うわあぁぁぁぁぁぁっ!?」

結衣はたまらず叫び、京子とちなつを離し山肌を転がり落ちていく。
だが転がり落ちる途中で、結衣はあかりに支えられた。

あかり「結衣ちゃん、大丈夫?」

結衣「な、なななな、なんで?」

あかり「? なんでって?」

結衣「なんでっ! 私の居場所がわかるんだよっ!! それになんであかりが私の動きについてこれるんだよっ!!」

結衣はあかりが自分の動きについて来れる、いや先回りをしていたことが理解できなかった。
結衣はあかりに問いかけ、あかりは素直に結衣の問いに答える。

564: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 19:31:01.61 ID:4bm/kQIU0
あかり「え? だって結衣ちゃんの動きは予知で分かるし」

あかり「結衣ちゃんが動いた先にあかりが先回りすることも、あかりがあかりの動きを加速させれば簡単だよ?」

結衣「なん……だよ、それ……」

あかり「京子ちゃんと、結衣ちゃんのおかげであかりはこの新しい力をすごく使いこなせるようになったんだ」

結衣「わ、私たちのおかげって……」

あかり「うん、二人があかりに力をくれたんだよ」

あかりは笑っている。
対称的に結衣は顔を引きつらせている。

あかり「だから」

あかり「ねっ」

結衣「うぅぅっ……」

あかり「諦めよっ? ねっ?」

結衣「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

結衣はあかりの手を振りほどき駆け出す。
京子とちなつの手を取りそのまま山が崩壊するほどの踏み込みを行い上空に跳躍した。

あかり「えっ?」

あかりの眼に結衣の未来が映った。

あかり「そ、そんな!? た、大変!!」

あかりは自分自身に時間加速を行い、その場から姿を消す。
あかりは見てしまった。
結衣の跳躍により、3人は地球を飛び出し宇宙空間へと飛び出してしまったことを。

565: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 19:31:28.56 ID:4bm/kQIU0
結衣は跳躍して気が付いた。
あかりから逃げる為に何も考えずに全力で跳躍した。
その結果、今結衣の視界には今まで見たこともないような煌く星空が映っていた。

結衣(あ…… これってもしかして……)

視界は変化して目の前に青く丸いものが映った。

結衣(あー…… やっぱり……)

ものすごい勢いで青く丸いものは小さくなる。

結衣(地球は青かったって…… 何のん気に考えてんだよ私……)

結衣(これはやっちゃったな…… こんな事で死ぬなんて……)

結衣(…………)

ほんの少し、ほんの少しだけ諦めかけた結衣だったが、再び目を開き魔力をその身体から噴出させる。

結衣(……死ぬもんかよ)

結衣(……やっとここまで来たんだ、こんな事で死んでられるか)

結衣(宇宙に飛び出しちゃったからってまた戻ればいいだけの話!)

結衣(どこか足場を! 足場があれば地球まで飛んでやる!!)

その時、結衣は自分の背後に大きな何かがあることに気が付く。
そしてそのまま結衣はその何かに背中を打ち付けることとなった。

結衣「ぐっはぁぁっ!?!?」

結衣「な、なに……? 何かにぶつかって……?」

結衣「…………地面?」

結衣と衝突した衝撃で巨大なクレーターが出来上がったそこは、
月だった。

566: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 19:31:57.09 ID:4bm/kQIU0
結衣は自分が今月にいることを瞬時に察する。
地球とは違い大気もない、宇宙服もなく生身の状態の人間は即死している環境。
だが、結衣や京子、ちなつは人間でも魔法少女でも魔女でもない存在。
今、結衣は自分たちが宇宙空間でも存在できる状態であることを理解する。

結衣「……じ、自分のことながら信じられない」

結衣「ここって月だよな…… ああ、そっか…… 私の本体は……」

結衣は自分の胸をそっと触った。
自分の体内にしまいこんだ、ソウルジェムとグリーフシードが一つになったナニカ。
それが破壊されない限り自分は死なない。

結衣「初めて感謝するかもね、こんな身体になってしまったことに……」

結衣はそこまで考え頭を切り替える。

結衣「流石に月まであかりも追っては……」

結衣「……いや、今のあかりだったら追ってくる。絶対に追って来るはず……」

結衣「でも、さっきみたいにすぐ現れない…… ということは少し手間取っているってことか……」

結衣「今のうちって事か…… 時間もかけてられないな……」

結衣は覚悟を決める。

結衣「……賭け。完全な賭け」

結衣「お願い、うまくいって……」

もう自分だけの力であかりを止める事は不可能。
京子に頼まれて、あかりのことを引き受けた、だが自分ではその願いを聞き入れることが出来なかった。
京子でも駄目、自分でも駄目、一人ずつじゃあかりを止められない。
だったら。

567: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 19:32:23.30 ID:4bm/kQIU0
結衣「京子、お前に貰った力、今返すよ……」

結衣「私の魔力も半分受け渡す……」

結衣「うまくいってくれ…… 頼むよ……」

結衣は京子の手を握りながら京子から受け取った力を京子に戻した。
自分の魔力と共に。

それと同時に結衣の時間は停止し、結衣は京子の手を握り祈るような姿勢で固まった。
結衣が固まったと同時に京子の手がピクリと動く。
薄っすらと閉じられていた京子の目が開き、その目が結衣を捕らえた。

京子「…………結衣?」

京子「……あれ? 結衣?」

京子「!? な、なに!? ここどこ!?」

京子「結衣!! ねぇっ!! どうしたのっ!? あかりはどうなったの!? ねぇっ!?」

京子の問いかけに答えない結衣、それと同時に岩と砂しかなく見たことのない場所にいることに気付いた京子は結衣の肩を持って揺さぶるが結衣が反応することはなかった。

京子「っ! こ、これってもしかして、まだあかりの時間停止が続いてるっての?」

すぐさまあかりの魔法がまだ続いたままだと気が付いた京子は行動を起こす。

京子「ここがどこだかは分からないけど、とりあえず結衣の時間停止を解除しないと……」

そこですぐ傍にちなつがいることにも気付く。

京子「!! ちなつちゃんも? ……ちなつちゃんの時間停止も解除して結衣に説明してもらわないと……」

京子は自分の魔力が少し戻っていることに疑問を持ったが、まずは二人の時間停止を解除する為に魔力を注ぐ。
京子の手から溢れ出た闇が二人の身体を覆い尽くしたところで、二人は時間停止から逃れ、結衣は京子の顔をみて安堵のため息をつき、ちなつは何が起きているのか分からない様子で二人の顔を見比べていた。

568: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 19:32:59.61 ID:4bm/kQIU0
結衣「よ、よかった…… 成功したんだ……」

ちなつ「え? え? なに? どうしたんですか?」

京子「結衣! 一体どういうこと!? なにがおきてるの!? あかりはどうなったの!?」

ちなつ「え? あかりちゃん……? あかりちゃんがどうかしたんですか!?」

結衣「二人とも落ち着いて! 今は時間がないんだ!」

三者三様にお互いに問いかける。
京子はあのあとにどうなったのか、今のこの状況はいったい何なのかと。
ちなつはあかりという言葉を聞き、あかりに何かがあったのかを問いただす。
そして結衣は二人に説明をする為に、二人の言葉を遮り話し始める。

結衣「まず京子! 今あかりの魔法を無効化している状態でちなつちゃんの思考を繋げる魔法って使えるのか!?」

京子「え? あかりの魔法だけを無効化するってこと……? た、多分できるけど」

結衣「多分じゃない! やって!」

京子「う、うん」

結衣「それじゃあちなつちゃん! みんなの意識を繋げて!」

ちなつ「え? で、でも……」

結衣「いいから早く!!」

ちなつ「わ、わかりました」

結衣の有無を言わせぬ迫力に二人は言われるがまま魔法を使う。
そして、3人の意識が繋がり、京子が見たあかりと結衣が見たあかりの記憶が3人に共有された。

569: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 19:33:40.45 ID:4bm/kQIU0
ちなつ「……うそ、あかりちゃん……」

京子「あ、あかりのやつ…… あんな事考えてやがったのかよ……」

結衣「二人とも今のあかりの状態がわかった!? もうあかりは自分じゃ止まれないし、止まらない状態なんだよ!」

ちなつ「…………」

京子「……結衣でも止められなかったんだね」

結衣「ああ、悔しいけどその通りだよ! もう私一人でどうすることも出来ないんだよっ!」

俯く結衣の肩に京子が手を置き、結衣を慰めるように言う。

京子「……結衣、結衣の考え伝わったよ」

結衣「うん…… 物理攻撃はあかりに全部無効化される。多分魔力で気絶させようとしても同じ……」

京子「後、私達ができる事って言ったら……」

二人の視線はちなつに向けられた。

ちなつ「…………」

京子「ちなつちゃん……」

結衣「ちなつちゃん、もうちなつちゃんしか可能性はないんだよ……」

ちなつ「……それしかないみたいですね」

ちなつ「でも、私の力でも効果がない可能性は高いですよ? その、あかりちゃんが未来のあかりちゃんを上書きする力でしたっけ?」

京子「……チートすぎるよね」

結衣「それでも、ちなつちゃんに賭けるしかないんだ……」

ちなつは目を瞑り少し考えながら頷く。

ちなつ「わかりました」

ちなつ「でも、あかりちゃんの心を操ったりなんて絶対にやりませんからね? 私がやることはあかりちゃんに私たちの気持ちを全部伝えることだけ」

京子「うん、わかってるよ」

結衣「もとよりそのつもりさ」

ちなつ「分かりました…… それじゃあ」

ちなつはあかりの位置を正確に掴み、

京子「あかりの元に」

京子はちなつからあかりの居場所を受け取り、

結衣「行こう」

3人はその姿を闇と共に消し、再びあかりの元に舞い戻った。

570: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/12(日) 19:34:50.03 ID:4bm/kQIU0
まず3人の目に映ったのは、雲ひとつない青空。
いや、雲は自分たちの遥か下に存在していた。
そして青い空にひとつの色が存在していることに気付く。
その存在は黄金色の魔力光を溢れさせ、両手を広げて3人を迎えるように言う。

あかり「おかえり、みんな」

あかりは穏やかな笑顔で3人を迎える。

京子「よう、あかり。その様子じゃ、私たちを待ち構えていたって事だよな?」

あかり「そうだよ、結衣ちゃんが宇宙に飛び出しちゃったときはすっごく焦っちゃったけど、すぐこの未来が見えたからここでみんなを待ってたんだよ」

結衣「……随分と余裕だな? 私たち3人に簡単に勝てると思ってるのか?」

あかり「勝てる勝てないじゃないよ? あかりに未来が見えている限りみんなが何をしようともあかりはなかったことに出来るの。何をやろうとしても無駄なんだよ?」

ちなつ「あかりちゃん……」

あかり「ちなつちゃん、先に言っておくけど、あかりにちなつちゃんの魔法は効かないよ。あかりを説得しようとしているみたいだけど何の意味もないんだよ?」

京子「!」

あかり「さ、もう終わらせよう。みんなでやってもあかりにかないっこないってわかってもらわないとね」

あかり「みんなが諦めるまで、何度でも、何度でもあかりがみんなの相手をしてあげる」

あかりの全身から渦巻くように魔力が立ち昇り、
3人はそれと同時に散開し、各々魔力を発動させ、
最後の勝負が始まった。

577: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:32:59.18 ID:THTzGysx0
後編


最初に飛び出したのは結衣。
京子とちなつの眼には結衣の姿は映っていなかった。
眼に映すことも出来ないほどの速攻であかりに一撃を加えようとした結衣だったが、あかりはその結衣の攻撃をいとも簡単に回避し、さらには回避をするついでに結衣に無数の魔力弾を打ち込んでいた。

結衣「くっ!?」

京子「ゆ――――」

結衣(京子! ちなつちゃん! あかりに魔法をっ!)

京子(!)

ちなつ(!!)

結衣の声が二人の脳裏に響く。
それと同時に二人はあかりに向かって魔法を発動させた。
京子はあかりの周囲を囲む触れたものを強制的に瞬間移動させる闇を。
ちなつはあかりの精神を己の精神世界に取り込む為に、あかりの魔力を掴もうとする。

だが、二人の魔法は、あかりを捉えることは出来なかった。
あかりの姿はいつの間にか二人の背後、その上空に現れ二人はあかりの魔力弾を打ち込まれその衝撃に空中でたたらを踏む。

京子「っぁあ!?」

ちなつ「あぅっ!?」

背後に無数の魔力弾を展開させたあかりは3人に向かって語りかけた。

あかり「ほら、かないっこないでしょ?」

あかり「あかりにはみんながなにをするか全部見えてるから、何をしようとしても意味も無いしあかりにはぜーったいにみんなの魔法は届かないんだよ」

結衣「そんなこと! やってみないとっ! わからないだろっ!」

またも一瞬であかりの前に現れ攻撃を仕掛ける結衣。

あかり「わかってるんだってば」

その一撃はあかりの手によって受け止められた。

京子「う、嘘だろ? ゆ、結衣のパンチを…… 受け止めた……?」

あかり「今はあかりの考える速さとからだを動かす速さを加速させてるの。だから結衣ちゃんがすごい速さで動いていてもあかりもそれと同じ速さまで加速させて動いているからこんな事もできるんだよ」

言いながらもあかりは結衣に0距離の魔力弾を打ち込み、結衣は衝撃で大きく吹き飛ばされた。

ちなつ「結衣先輩っ!?」

結衣「~~っ!!」

あかり「みんなの動きがわかるからこんな事もできるの」

578: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:33:49.05 ID:THTzGysx0
あかりが3人に魔力弾を投げつけた。
簡単に回避できる速度の魔力弾。
3人とも真正面から自分に向かってくる魔力弾を回避したその瞬間。
それぞれの背中に鋭い衝撃が襲った。

その衝撃、それは3人の背後からあかりの魔力弾が襲いかかったのだ。
気を取られたと同時に3人の意識外から、意識できない死角からの衝撃が3人を襲い続ける。

あかり「どう? みんながあかりをどうすることも出来ないってわかったでしょ?」

回避すること、いや知覚する事も出来ずに魔力弾の嵐に晒されていた3人にあかりは語りかける。

あかり「結衣ちゃんが無理矢理あかりの魔法の弾を受けながらこうやってもあかりは避けることができるの」

あかりの魔力弾を喰らいながらあかりの背後を取って一撃を加えようとした結衣の手が空を切る。

あかり「京子ちゃんがあかりの魔法を消して、瞬間移動をしてきてあかりに触ろうとしているのも見えてるんだよ」

あかりの魔力弾を打ち消して、あかりの背後に瞬間移動をした京子は背後を取っていたはずのあかりにさらに背後を取られ魔力弾を打ち込まれる。

あかり「ちなつちゃんの魔法は二人と違って少し時間がかかるみたいだね。それだと絶対にあかりに魔法をかけることは出来ないよ」

ちなつの魔法にはあかりが言うように若干の溜めが必要だった。
それを指摘しながらあかりはちなつに魔力弾を投げつけ続ける。

そういった攻防、いやあかりによる一方的な攻撃は3人の体力と魔力を削りつづける。
3人の姿は疲弊と焦り、そしてあかりの魔力弾を受け続けボロボロとなっており。
それに対し、あかりは薄い笑みを浮かべながら魔力を全身から噴出させ、3人を見下ろしている。

579: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:34:40.56 ID:THTzGysx0
あかりを見上げながら、あかりの行動に疑問を持った京子が問いかける。

京子「……あかり、最初と違ってその魔力弾で私たちを気絶させる事はしないんだな?」

あかり「うん。だってあかりはみんなに分かってもらいたいだけなんだからね」

京子「……随分と余裕だな?」

あかり「余裕? そんなのじゃないよ?」

結衣「そんなのじゃないって、どういうことだよ……」

あかり「だってもう未来は決まっているんだよ? あかりが未来を見ている限り、みんなは絶対にあかりには勝てないし、みんながあかりにできることなんて何もないんだから」

ちなつ「…………」

あかり「だから、みんなは諦めてあかりのお願いを聞いて」

京子「…………んな」

あかり「あかりにみんなの力を頂戴」

結衣「……ざけんな」

あかり「そうすればあかりがみんなを助けてあげれるんだから」

京子「ふっざけんなぁっ!!」

あかり「? どうしたの京子ちゃん?」

京子「なにが未来は決まってるだ!! 未来は決まってなんかないっ!!」

あかり「決まってるよ? だってあかりには見えるんだもん。未来は決まってるしみんなには変えられないんだよ?」

結衣「変えられないわけないだろ!! 私たちは未来を変えに来たんだ、あかりの未来を変えに来たんだ!!」

あかり「無理だよ? あかりの未来を変えることなんて出来ないよ。あかりの未来は……絶対にみんなにはあかりの未来は変えられないんだからね」

ちなつ「……あかりちゃん。もう止めて、それ以上言わないで……」

3人とも気持ちは同じだった。
あかりの未来を変える為にやってきた。
それなのに当のあかりは自分たちでは未来を変えられないと言う。
あかりの言う未来と、3人の考える未来は別物だが、3人はあかりに未来を変えることは出来ないと否定されたことによって気持ちが爆発した。

京子「おい!! あかりぃっ!!」

あかり「? なぁに? 京子ちゃん?」

京子「私たちはなぁっ!! お前の未来をブッ壊す為にここに来たんだっ!!」

あかり「?? だからそんなことは…………」

結衣「出来ないなんか言わせないぞ!! 私たちはお前の見てる未来を変えて見せるんだからな!!」

あかり「無理だって。みんながあかりに勝つ未来なんて……」

ちなつ「無理なんかじゃないよあかりちゃん……」

ちなつ「それを、証明して、あげる」

あかり「!?」

3人が各々の魔力を立ち昇らせる。
今まで魔力を使い、さらにはあかりの攻撃に晒され続け、既に全力の力を引き出すことはできないかと思われた3人の全身から爆発するように力があふれ出した。

それと共にあかりの瞳に映る未来がノイズと共に書き換わった。

580: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:35:15.99 ID:THTzGysx0
3人の思考は刹那ともいえる一瞬で伝わる。

結衣(京子、ちなつちゃん、私があかりに突っ込んであかりの動きを封じる。だから二人は私ごとあかりを無効化する魔法を使ってほしい)

京子(わかったよ。こっちは任せて、あの馬鹿あかりに私たちの力見せてやろうぜ)

結衣(ん)

ちなつ(はい、私たちが力を合わせれば出来ないことなんて何もないんだってあかりちゃんに見せてあげましょう)

結衣(ああ)

二人の心が伝わる。
二人とも結衣を信頼し、あかりの行動を結衣が封じてくれると信じ切っていた。
先ほどまで結衣はあかりに動きを読まれあかりの動きを封じることなど出来なかったのにだ。

二人の信頼を裏切るわけにはいかない。
その想いが結衣の心に、肉体に、意思に力を与えた。

結衣(今のあかりに生半可な行動は通用しない……)

結衣(それなら、今の私の限界を超えて……)

結衣(持てる全ての力を今全部出し切ってやる……)

結衣(私を信じてくれる二人のためにも……)

結衣(なによりも、あかりのために……)

結衣(いくぞ、あかり)

結衣(いくよ、みんな)

そして、結衣の心から無駄な思考は掻き消え、同時に結衣の精神は研ぎ澄まされていく。
それと同時に周囲に溢れ留まっていた魔力が全て結衣に集まり、結衣に吸収された。
吸収された魔力は結衣の体内で結衣の使いやすい魔力に変質し、圧縮され、収縮しその時を待つ。
そして、その魔力が開放されるその時はやってきた。
極限まで圧縮された魔力を体内から爆発させ、目を見開いた結衣が動くと同時に周囲の空間が捻じ曲がった。

581: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:36:03.38 ID:THTzGysx0
――二人とも、ありがとう。

結衣が動いたと同時に結衣を覆っていた魔法を無効化していた闇が全て吹き飛ぶ。

――あかり。

結衣はあかりに到達する刹那にも満たない時間であかりに対する想いを溢した。

――あかり、お前はすごいよ。

それはあかりに対するどこまでも湧き出る賞賛の気持ち。

――私一人じゃお前にかないっこない。

ここに来て結衣はあかりに敗北を認める。

――だけどな。

だが、

――私には二人がついていてくれる。

自分は負けても、私たちは負けない。

――私たちみんなでお前を止める。

負けてやらない。

――お前の未来を変えてやるんだ。

そのためにも絶対に負けられない。

――それでこれが終わったら。

結衣の手があかりに届く。

――あかり、お前も一緒に…………

あかりの全身に数え切れないほどの衝撃が叩き込まれた。

582: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:36:43.96 ID:THTzGysx0
あかりの瞳に映る未来は全てあかりが勝利する未来だった。
京子と結衣の魔力は尽き、ちなつはあかりに手を出すことも叶わず停止する世界に取り残されその世界であかりは笑う、そんな未来。
全てを最良の選択で進んでいった先、あかりにとっての最良の未来。

だがその未来は変わってしまった。
変わった未来が映し出すは結衣の攻撃により、全身に攻撃を叩き込まれたところで終わる未来。
未来があかりが敗北する未来に書き換わってしまったのだ。

あかり(未来が変わった!?)

あかり(そんなわけない)

あかりは新たな未来を探すために眼に魔力を注ぎ込む。
そして無数の未来のひとつに結衣の攻撃を防ぐ未来が見えた。
だが、一発を防いだ後は無数の攻撃があかりに吸い込まれ同じように全身に攻撃が叩き込まれている。

あかり(……もっと、もっと先を……)

あかりの瞳は更なる未来を検索する。
結衣の攻撃を防ぎきる未来を探すが、あかりの瞳に映る未来は全て結衣の攻撃を防ぎきれずに全身に攻撃を叩き込まれ気を失ってしまう未来しか映らなかった。

あかり(うそ…… なんで……?)

思考を加速させ、未来予知の速度を加速させてもその未来は変わらない。
あかりの瞳に映る未来の結衣は光速を越えて時空を歪ませてあかりに攻撃を加えていた。
どんなにあかりが肉体速度を加速させてもその加速を上回る速度で動く結衣にあかりはどうすることも出来なかった。

あかりは動揺する。
絶対に負けるはずがないと思っていた。
未来が見え未来を操作できると言っても過言ではない今のあかりにとって自分が負けることなど微塵も思っていなかった。
勝利を確信していたから、その動揺はとてつもなく大きいものだった。

あかり(なんで? なんであかりが負けちゃうの?)

あかり(未来が見えてる限りあかりに負けは無いはずなのに、なんで?)

動揺の次にあかりの心に浮かぶのは自分に拳を叩き込むであろう結衣の姿。

あかり(結衣ちゃん……)

あかり(結衣ちゃんは本当にすごいなぁ……)

あかり(未来をこんなに簡単に変えてしまうんだもん……)

最初は驚愕と共に結衣に対する羨望の気持ちが湧き上がる。

あかり(あかりも結衣ちゃんみたいな力があったらみんなが苦しむことなんてなかったのに……)

あかり(……そう、こんなに簡単に未来を変えてしまえるほどの結衣ちゃんの力)

あかり(……そんな力があかりにあれば……)

しかしあかりの思考はすぐに黒く染まり始める。

583: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:37:46.50 ID:THTzGysx0
あかり(……そうだよ)

あかり(……あかりが見た未来も変えてしまえるくらいの結衣ちゃんの力)

あかり(……そんな力があればもう誰にも負けないし、みんなを苦しめる未来も全部変えてしまうことなんて簡単なことだよ)

あかり(……そのためにも結衣ちゃんの力を奪わないといけない)

あかり(……京子ちゃんの力も、ちなつちゃんの力も!)

あかり(……そうすれば、そうすれば!)

あかり(……みんな助かる!! みんな生き返る!! みんーな元通り!!!!)

その思考とは対照的に、あかりの全身から眩い光が生み出されあかりの眼は黄金色に輝く。

あかり(負けられない、負けられないの!!)

あかり(だから、だからぁっ!!)

あかり(未来をっ!! あかりの進む未来を見せてぇぇぇっ!!)

あかりの想いが、結衣を京子をちなつを助けたいというただそれだけの純粋な想いがあかりに更なる力をわきあがらせた。

あかりの瞳の時計の針が分裂し数本に分かれた。
それと共にあかりの瞳が映し出す未来は分裂し、無数の未来があかりの瞳に、脳裏に映し出される。
最良の未来を探し出す。
結衣の攻撃が当たらない未来、偶然避けられる未来、何か外的要因で助かる未来、様々な未来を、選択をあかりは探し続けた。

そして、見つける。

あかり(あはっ、あははっ!!)

あかり(見えたっ!! 見えたよぉぉぉっ!!!!)

あかりの眼は再び未来を映し出した。

それと同時にあかりは自分の思考速度の加速、そして肉体の行動速度の加速を限界まで行う。


あかりと結衣の最後の攻防が始まる。

584: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:38:43.54 ID:THTzGysx0
結衣があかりに攻撃を開始した時、あかりはその瞳を閉じていた。
無限ともいえる未来を見切ったあかりが出した結論は、結衣の姿を捉えることは不可能、見えもしない、反応も出来ない。
ならば見るのは未来、未来だけを見続ける。

結衣の手があかりの身体に触れる。
この攻撃はどの未来でも必ず当たる攻撃、故に未来を上書きしようとしても出来ない攻撃。
だから、あかりはその攻撃があたる場所に先に手を置き、衝撃を吸収させ受けるダメージを最小限まで落とす。

次の攻撃は偶然当たらない未来があった。
攻撃を受けたと同時に未来を上書きする。
その次の攻撃は必ず当たる攻撃、同じように防御しダメージを減らす。

あかりは常に未来を見続けてその時にあった行動を常に行っていく。
単純な行動、だがそれ以外の行動を何をしても無駄だった。
あかりはまるで詰め将棋のように一つ一つの行動を選択していく。
細い、恐ろしく細い糸の先に見えるたった一つだけの未来。
結衣の猛攻をギリギリのところで耐え切るその未来に向かって。

結衣の攻撃が始まって既にあかりの身体には千を越える攻撃が叩き込まれている。
あかりはその攻撃に耐え、いまだに意識を失わず結衣の攻撃を処理し続けていた。
閃光のような一瞬だったが、その終わりが見えた。

あかりにはその未来が見え、
結衣には己の限界がすぐ傍まで来ていることを悟る。

――後5発

――耐えればあかりの勝ち
――決めれなければ私の負け

585: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:39:34.50 ID:THTzGysx0
結衣の攻撃があかりの腹部を貫いた。
だがあかりはその攻撃を耐え切る未来を上書きする。

結衣の手があかりの頭部に直撃する。
あかりはその攻撃に合わせて首を動かし衝撃を逃がしきる。

返す手であかりの首元に攻撃する結衣。
あかりは首と結衣の手の間に自分の腕を滑り込ませ防御する。

結衣があかりの胸に掌底を打ち込む。
その一撃はあかりに吸い込まれ、あかりがたまらず息を吐き出し致命的な隙を結衣の前に晒しだした。

あかりが晒しだした隙。
結衣は無防備になったあかりに最後の一撃を繰り出した、
結衣の拳があかりの頬を打ち抜くかと思われたその時、
あかりの身体がわずかにブれる。
それと共に結衣の拳は完全に空を切った。

全てはあかりが見た未来の通り。
あかりは耐え切った。
時間にすると万分の一秒といった一瞬にも満たない時間の結衣の猛攻。
千を超える結衣の猛攻をあかりは全てを予知し、その攻撃を最善の行動で防ぎ、かわし、上書きしきった。

そして、あかりは「結衣」の攻撃を耐え切った。
その姿はボロボロ、満身創痍という言葉ですら言い表せないくらいボロボロになっていたが、あかりは全てを出しつくした結衣を見て勝ち誇った顔を見せる。
そんな余裕なんてなかったが、結衣に負けを認めさせる為に強がりながらもそんな顔を作って結衣の顔を見た。
だが、あかりが見た結衣の顔は何かをやりきったような顔。
そして、聞いた。
聞こえるはずのない結衣の声と、京子の声を。

――任せた

――うん、任せろ

「結衣」の攻撃を耐え切ったあかりは、その先の行動に1手遅れることとなった。

586: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:40:12.24 ID:THTzGysx0
あかりは結衣の攻撃を読みきる為に魔法を駆使していた。
時空間を歪めながら攻撃してくる結衣、時間停止すら跳ね除けて攻撃を仕掛けてくる結衣の攻撃を耐え切るには他のことを考えている余裕も、思考をまわす余裕もなかった。
そのためにおきた本当の隙。
あかりが結衣の攻撃を耐え切った際に見せた相手を誘い込む隙ではなく、本当の意味でのあかりの隙。

あかりが未来予知を行う前に、あかりの視界は全て闇で覆われる。

――もう逃げられないぞあかり。

――私の魔力で地球を覆い尽くした。

――地球ごとお前を私の結界に取り込んでやるよ。

結衣との戦いによって極限まで研ぎ澄まされていた感覚もあいまって、あかりは聞こえるはずもない京子の声をしっかりと知覚していた。
京子の声にあかりは再び未来を見る為に魔法を使う。

あかり(今度は京子ちゃんの魔法)

あかり(あかりの目の前…… ううん、地球全部が京子ちゃんの魔力で覆われてる)

あかり(京子ちゃんの魔力をさっきみたいに…… 駄目、今からじゃ間に合わない)

あかり(未来を上書きして…… 駄目、京子ちゃんの魔力に触れたらあかりの魔法が無効化されてしまう)

あかり(逃げるしかない、京子ちゃんの魔法が届かない場所まで)

あかり(その場所を…… 見つける……)

あかり(あかりのこの魔法でっ!)

あかりの瞳が激しく輝き、闇に覆われた未来にひとつだけの光が映し出される。

あかり(見えたぁっ!!)

あかり(未来が、見えたよぉぉっ!!)

587: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:40:56.98 ID:THTzGysx0
あかりはその未来を見て、魔力を爆発させ飛翔し始めた。
あかりは黄金色の光となり京子の闇の空間を上へ上へ上っていく。
京子の闇の空間はまだ完全に地球を覆い尽くしてはいなかった。
だが既に地球のほぼ99%は京子の闇で覆われ、空間内の闇を触れただけでもあかりは完全に無効化され強制的に瞬間移動を喰らい京子に捕まるといった状況だった。

先ほど京子の魔力を無効化した時間加速を使おうとしてもあまりにも多い京子の闇にあかりはどうすることも出来なかった。
そして、あかりが見た未来で助かる道は一つ。
地球を飛び出し、京子の魔力範囲外に逃れる道唯一つだった。

あかりは光となり闇の空間を突き進む。
京子の闇が影響していない空間を進み、一点に向かい上昇し続ける。

京子(あかりのやつどこに……)

京子(!? 私の魔力で覆われていない一点を目指してる!?)

京子(間違いない! それだったら……)

京子があかりの進む先を封じようと魔力を展開するが、あかりはその全てを回避しながら突き進む。

京子(くっそぉ!! 捕まんない!!)

京子(あかりの動きも速すぎる!! このままだと逃げられてしまう!!)

京子(せっかく結衣が作ってくれたチャンスを……)

――もうちょっと頑張れよ

京子(……え?)

――私はお前のことを信じてるぞ

京子(結衣の声? だけど結衣は力を使い果たして気を失ったはず……)

――京子

京子(……何?)

――任せた

京子(!!)

京子(……うん、任せろ!!)

京子は自分の内から聞こえた声に力強く答えた。

588: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:41:51.64 ID:THTzGysx0
あかりは一点に向かい上昇を続ける。
触れたらアウトの京子の魔力が今だ覆い尽くされていない道筋を選択し続け回避しながら上昇を続ける。
そしてたどり着く、地球全てが京子の魔力に覆い尽くされる寸前のわずかな穴。
その穴にあかりは光となり飛び込み、京子の魔力の外、
地球の外側に飛び出した。

あかり(あはっ!! はははははっっっ!!!!)

あかり(どう!? 逃げ切ったよ!!)

あかり(もうあかりを捕まえることなんて…………)

あかりは振り向きざまに闇に覆われてしまった地球を見る。
そして愕然とした。
京子の闇が、地球を包み込んでいる闇がさらに広がり宇宙を侵食し始めたからだ。

――へっ、地球ごとでも駄目なら

――この宇宙ごとお前を取り込んでやんよ!

呆然と京子の闇に侵食されていく宇宙を見るあかり。
だが、あかりは再び未来予知を行う。
ここまでされてもあかりは今だ勝利の道を見つけ出そうと足掻いた。
しかし、あかりは先ほど京子の力に呆然とし、わずかな隙を見せた。
その隙は致命的な隙。
「結衣」と「京子」の執念があかりの行動をさらに1手遅らせ、あかりの加速された思考、加速された肉体、そして未来予知を以ってしても対応できないほんのわずかな間を生み出すことに成功した。

――今だ!! ちなつちゃん!!

――はいっ!!

あかりの加速された思考は、それをはっきりとその眼に映し出す。
闇に覆われたはずの地球が、半分に割れるように線が現れる。
線はゆっくりと上下に分かれ、開かれていく。
中から現れたものは大きな瞳、水色の大きな瞳。
あかりはその瞳を驚愕と共に見た。
そして、その巨大な瞳が怪しく煌いたかと思うとあかりは全身を強張らせ動かなくなった。

589: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:45:42.34 ID:THTzGysx0
ごらく部?


あかりは困惑していた。
先ほどまで地球を飛び出して真っ暗な宇宙空間にいたはず。
だけどここは……

あかり「……部室?」

ちなつ「ううん、私の世界だよ」

扉を開いてお茶を持ってきたちなつがあかりの問いに答えた。

あかり「!? ち、ちなつちゃん!?」

京子「本当に手間取らせやがって……」

結衣「やれやれだよ、まったく……」

あかり「京子ちゃん!? 結衣ちゃん!?」

テーブルの死角から起き上がってきた二人はちなつのお茶を受け取りため息をついた。
どうやら寝転がっていたようだ。

ちなつ「はい、あかりちゃん」

あかり「…………」

あかりの目の前のテーブルにお茶が置かれる。
それを見ながらあかりは震える声で呟いた。

あかり「……あかりはみんなに負けたの……?」

3人はあかりの言葉に同時に頷いた。

あかり「なんで…… なんで……」

京子「なんでって、当たり前だろーが!」

結衣「3対1なんだからあかりに勝ち目なんて最初からなかったんだよ」

あかり「そんな事ない…… あかりは絶対勝つはずだったのに……」

590: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:46:25.48 ID:THTzGysx0
ちなつはあかりの隣に座りあかりの手を握る。

ちなつ「ねっ、もういいでしょ? あかりちゃんはもう一人で頑張らなくても大丈夫なんだよ?」

ちなつ「みんなが力を合わせれば出来ないことなんてないって分かったでしょ? だからあかりちゃんも一緒に私たちと……」

あかりはちなつの手を振り解き立ち上がって叫んだ。

あかり「駄目なのっ!! あかり一人でみんなを助けないといけないのっっ!!」

京子「おい、ほんっといい加減にしろよあかり……」

あかりはそのまま結衣の元まで駆け寄り結衣の肩を掴み懇願し始める。

あかり「ねぇっ!! 結衣ちゃん!! 早くあかりにみんなの力を移してよっ!!」

結衣「……おい、あかり」

あかり「そうすればさっ!! みーんな元通りなんだよっ!! ぜーんぶあかりが元に戻せるんだからぁっ!!」

結衣「あれだけ殴られても、まだ分からないのかよ……」

あかり「ねぇっ!! はやくっ!! おねがいっ!!」

あかりは狂気に囚われた顔で結衣に懇願し続ける。
結衣と京子はそんなあかりを見ながらどうしてこうなってしまったのかと顔を顰め、ちなつに向かって叫ぶ。

京子「ちなつちゃん! 何でみんなの心を共有させてないの!?」

結衣「そうだよ! みんなの気持ちが伝わればあかりだって!!」

ちなつ「…………」

この世界にやってきてから、意識を共有していた3人は共有状態を解除されそれぞれの思考を取り戻していた。
以前のこの世界では全員の意識が、記憶が共有されていたのに何故か今はそうではない。
それに疑問を浮かべた二人はちなつに問いただすが、ちなつは二人に向かって小さく言った。

ちなつ「……ちょっとだけ、あかりちゃんと二人っきりにさせてくださいね」

その言葉と同時に京子と結衣の姿は消え、あかりとちなつだけが残される。

591: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:47:20.71 ID:THTzGysx0
あかり「!?」

ちなつ「あかりちゃん…… やっと二人っきりになれたね」

あかり「どこ!? 結衣ちゃんはどこに行っちゃったの!? ねぇっ、ちな…………」

ちなつの胸倉を掴む勢いで迫ったあかりはちなつによって言葉を封じられた。
精神を操作されたわけではなく、あかりは物理的にちなつによって言葉を封じられた。

ちなつがあかりの唇を自分の唇で塞ぐことによって。

あかり「……え?」

あかりの思考は一瞬固まるが、再びちなつを問いつめる為に言葉を紡ぐ。

あかり「な、なにをしてるのか分からないけど、結衣ちゃんはどこ……」ムグッ

再び唇が重ねられあかりの言葉は遮られた。
あかりには今何が起きているのか理解できなかった。
突然ちなつに口付けをされている。

あかり「ぷはっ!? な、なに!? なんなのちなつちゃん!?」

ちなつ「やっと見てくれた」

あかり「どういうことっ!?」

あかりの意識はちなつに向けられる。
ちなつはあかりを真っ赤な顔をして見続けていた。

ちなつ「あかりちゃん、私の話を聞いてほしいの」

あかり「なんなの!? あかりはお話なんかしなくてもいいの!! あかりは結衣……」ムグッ

三度ちなつに唇を奪われた。
その後もあかりは自分が結衣の居場所を聞きだそうとするたびにちなつに唇を奪われ言葉を封じられる。
幾度も繰り返し、ようやくあかりはちなつの話を聞き始めた。

592: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:48:27.93 ID:THTzGysx0
ちなつ「無理矢理キスしちゃってごめんね。でも聞いてほしいの」

あかり「……なにを?」

ちなつ「私が見たあかりちゃんの未来、それと私たちの…… ううん、私の気持ち」

あかり「…………」

あかりは静かにちなつの話を聞く。
ちなつが話すあかりの未来、自分が未来でみんなの代わりに魔法少女の力を奪って最後には自殺をしてみんなを救う。
その話を聞いたあかりは喜びが湧き上がり笑顔になる。

ちなつ「どうして、どうして笑ってるのあかりちゃん……?」

あかり「だってみんなが助かるんでしょ!?」

ちなつ「あかりちゃんは死んじゃうんだよ……?」

あかり「あかりが死ぬだけでしょ? あかりが死んでみんなが助かるんだったらあかりは喜んで……」

再びあかりの唇が塞がれる。

ちなつ「……あかりちゃん、ひとつだけ言わせて」

あかり「……?」

ちなつ「あかりちゃんが死んだら私も死ぬから」

あかり「!? な、なん……」

ちなつの言葉にあかりは目を見開く。

ちなつ「あかりちゃんが私の記憶を奪おうとしても無理だよ? 私にはどんな魔法でもあかりちゃんのことを忘れることなんて出来ないし、あかりちゃんがどこに行ったとしてもあかりちゃんのことが分かるの」

ちなつ「だから、あかりちゃんがどこに逃げても私は追いかけ続ける。あかりちゃんが私の知らないところで死んじゃったら私も死ぬ」

あかり「な、なんで…… なんでそんな……」

ちなつの本気の目にあかりは動揺しながらちなつに問いかけた。
そしてちなつからの返答。

593: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:48:57.59 ID:THTzGysx0
ちなつ「だって好きになっちゃったから」

あかり「………………え?」

ちなつ「愛しちゃったから」

あかり「………………なに?」

ちなつ「あかりちゃんのことを、この宇宙で誰よりも愛しちゃったから」

あかり「……え? ……え?」

告白を受けた。
あかりの頭が真っ白になる。

ちなつ「あかりちゃんの事は全部知ってる。生まれたときから、あかりちゃんが死ぬまでのことを全部見ちゃったし、体感した」

ちなつ「あかりちゃんが私の事をただの友達としてしか見ていないことも知っている」

ちなつ「だけど、あかりちゃんの心に触れて、誰よりも綺麗で繊細で純粋なその心に触れて私の中で小さな何かが芽生えた」

ちなつ「そしてあかりちゃんの未来を見て、どんなに辛くても、どんなに悲しくても、どんなに傷ついても、最後には自分の命をなげうってまで私を救ってくれたあかりちゃんを見て私の中で芽生えた気持ちは大きくなっていったわ」

ちなつ「決定的だったのはこの世界であかりちゃんの姿を見たとき」

ちなつ「私の目の前に生きているあかりちゃんがいてくれる。あかりちゃんの顔を見たその瞬間分かったの、私はあかりちゃんが好きなんだって。愛しちゃったんだって」

あかり「あ、愛してって…… だ、だって、ちなつちゃんは、結衣ちゃんのことが……」

ちなつ「結衣先輩は憧れ、私が愛してるのはあかりちゃんだけ」

あかり「そ、そんな事、急に言われたって……」

あかりが明らかにうろたえ始める。
ずっとみんなが助かることだけを考えていたあかりに突然の愛の告白。
あかりの思考は完全に停止し、どうすればいいのかも分からない状態に陥っていた。
それに畳み掛けるようにちなつは行動する。

594: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:49:26.86 ID:THTzGysx0
ちなつ「……あとあかりちゃんに見てもらいたいものがあるの」

あかり「……?」

ちなつ「私の記憶をあかりちゃんに見てほしい。勝手にあかりちゃんの全てを見てしまった私の記憶を……」

あかり「ちなつちゃんの、記憶?」

ちなつ「あかりちゃんが目を背けたくなるような私も映っていると思う、黒く汚い心の私なんてあかりちゃんに見られたくない…… だけど、だけど、これはけじめ。けじめとしてあかりちゃんに見てもらわないといけないと思ってる」

あかり「…………」

ちなつはあかりに手を伸ばす。
あかりはその手を見て、一瞬戸惑うがゆっくりとちなつの手に自分の手を重ねる。
あかりを見つめるちなつの目を見ているとそうしないといけないと思ってしまったからだ。

そして触れ合った瞬間、あかりの意識とちなつの意識が完全に繋がった。
一瞬で流れ込むちなつの記憶。
小さな頃から中学に入りあかりと会うまでの記憶。
あかりの知らない記憶があかりの中に流れ込んでくる。

記憶は流れ込み続け、目を背けたくなるような記憶も流れ込んできた。
ちなつと結衣が裸で絡み合っている。
心の底から幸せを感じていたのもつかの間、結衣と同化しその肉体が結衣に喰われてしまう記憶が流れ込む。

その記憶も一瞬で通り過ぎ、今度はあかり自身の記憶を追体験していた。
ちなつが願った結果、あかりの全てを見てしまった記憶。
自分の記憶を客観的に見ているような不思議な感覚。
だがその記憶を見ている間にもちなつの心が流れ込んでくる。

そしてその後は今の世界に至るまでの記憶。
その記憶が流れ続ける間、ちなつはずっとあかりの事を想い続けていた。
この世界にたどり着きあかりの顔を見てその想いは爆発するが、あかりに対して後ろめたさ、あかりの心を勝手に覗いてしまったという後悔もあってすぐに想いを伝えれなかった。

そしてあかりは暴走し、再び自分の元から離れていくと知ってしまった。
もうちなつは足踏みをするのは止めようと思う。
あかりに想いを伝え、あかりと共に生きていこうと思う。
たとえこの記憶を見せて、自分の汚い部分を見られて嫌われることになろうとしてもあかりと一緒に生きていこうと決心した。

一瞬で想いは伝わり、あかりとちなつの手は握られたままちなつは話し始める。

595: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:49:58.53 ID:THTzGysx0
ちなつ「これが、全部だよ」

あかり「…………」

ちなつ「私の気持ち、伝わったかな?」

あかり「……うん」

ちなつ「そっか、それならよかった」

顔を伏せながらちなつはあかりの言葉を待っていた。

あかり「あの…… ちなつちゃん……」

ちなつ「ん」

あかり「あかりにちなつちゃんの気持ちは伝わったよ…… だけど、あかりは…… ちなつちゃんのことをそんな…… 友達としか思えないよ……」

ちなつ「ん、そうだよね」

あかり「…………」

ちなつ「…………」

沈黙が訪れる。
あかりの中で渦巻いていた狂気は、ちなつの心を見て、ちなつが自分を愛しているという気持ちが伝わり小さくなっていた。

ちなつ「あかりちゃん、これからどうするの?」

あかり「どうするって……」

ちなつ「まだ私たちの力を奪おうって考えてる?」

あかり「…………」

あかりの狂気が小さくなっている今、あかりは冷静に自分の心と向き合うことが出来た。

596: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:50:24.64 ID:THTzGysx0
あかり(どうしてあかりはみんなを傷つけてまであんな事をしようとしていたんだろう……)

あかり(みんなを助けたいっていう気持ちは本当の気持ち……)

あかり(だけど、みんなを騙したり、傷つけてまで……)

先ほどまでの狂気に囚われていたあかりではなく、元のあかりに近い精神まで一時的に戻っていた。
だが、あかりの心の天秤はどちらにも傾く状態だった。

何かの拍子に狂気の思考に再び囚われるか、それとも元のあかりのような優しく純粋な心に戻るか、その瀬戸際だった。

そしてその心の天秤をちなつが動かす。

ちなつ「あかりちゃん。おねがい、元のあかりちゃんに戻って。私は苦しんでるあかりちゃんを見たくないの」

ちなつ「みんなのことが大好きで、誰かを傷つけちゃったら泣いちゃって、誰よりも綺麗に笑っているあかりちゃんに戻ってほしいの」

あかり「…………」

ちなつ「もうそんなに苦しみながら笑う顔は見たくないの、だからおねがい……」

ちなつの涙が零れ落ち、あかりの手に降り注いだ。
最初の一滴があかりの手に落ちたと同時に、あかりの心の中に一滴の波紋が広がり、

あかりの心から狂気の思考は消え去り、元のあかりのような優しく純粋な心へと戻った。

597: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:50:57.24 ID:THTzGysx0
あかり「うぅぅ…… うわぁぁぁぁぁぁ!!」

ちなつ「あかりちゃん……」

あかり「ご、ごめ…… ごめんねぇぇぇ…… なんであかり、あんなこと……」

あかり「みんなを騙して…… ひぐっ みんなにあんなひどいことをして…… えぐっ」

あかり「みんなを傷つけちゃった…… うぁぁぁぁぁぁん!!」

ちなつはあかりを抱きしめながら優しく背中を擦り続ける。
あかりは滝のような涙を流し続ける、助けたいと守りたいと思っていたみんなを傷つけてしまった、騙してしまった。

ちなつ「大丈夫、大丈夫だから」

あかり「ひっぐ…… みんなに…… ひどいことしちゃった……」

ちなつ「大丈夫、みんな許してくれるよ」

あかり「えっぐ…… みんなにあんなにいっぱい魔法を使って傷つけちゃった…… ひぐっ……」

ちなつ「私は気にしてないし、二人とも気にしないよ。大丈夫だから」

あかり「でも…… ひぐっ…… でもぉ…… えぐっ……」

ちなつ「それなら二人にも聞いてみようよ、ほら……」

ちなつが視線を動かすと、京子と結衣がちなつの視線の先に現れる。
二人とも困惑した顔でちなつを問い詰め始めた。

京子「!! ちなつちゃん!! 私たちを…… ってなにこれ……?」

結衣「!? これは…… どういうこと……?」

二人が現れたと同時にあかりも二人に視線を向ける。
涙に覆われた目では二人の姿を見ることもままならなかったがあかりはそのまま二人に向かい駆けだし飛びついた。

あかり「きょうこちゃん、ゆいちゃん、ごめん…… ごめんねえぇぇぇ……」

結衣「うわっと!?」

京子「おわっ!? これって、もしかして……」

ちなつ「みなさん、あかりちゃんを許してあげてください。それでさっきのことはなかったことにしましょう、それでいいですよね」

あかり「ひどいことしちゃってごめんなさい…… うそついちゃってごめんなさい…… ひっぐ…… えぐっ……」

結衣「ああ…… そういうことか……」

京子「いいとこは全部ちなつちゃんが持っていったってことね…… はぁ~~……」

二人を抱きしめて離れないあかりを見ながら京子と結衣は安堵のため息をついた。
あかりが落ち着くまで3人はあかりに寄り添いあかりを慰め続けていた。
やがてあかりの涙も止まり、3人に囲まれながらあかりは顔を上げる。

598: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:51:36.30 ID:THTzGysx0
あかり「みんな…… ごめ……」

京子「はーい! もうそれはお終い! あかりのごめんはもう1万回は聞いた! 耳にタコが出来るほど聞いたからもうなーし!」

あかり「そ、そんな……」

結衣「そうだよ、それにさっきのはちょっとしたケンカだからね。私たちもあかりにひどいことしちゃったし………… って、わ、私あかりを本気で殴りまくっちゃったんだけど…… だ、大丈夫なのか……?」

あかり「え……?」

ちなつ「……!? あ、あかりちゃんの身体ボロボロですよ!? 全身骨折してますし、今宇宙空間にありますから放っておいたらとんでもないことに!!」

あかり「……へ?」

京子「ちょぉーーー!? 結衣!! 何やってんのさ!? いくらなんでも全身骨折させるなんて馬鹿じゃないの!?」

結衣「うっさい!! あの時は無我夢中で手加減してる余裕すらなかったんだよっ!!」

ちなつ「二人ともケンカするなら後でやってください!!!! すぐあかりちゃんの身体をどっちでもいいから回収して来てください!!!!」

あかり「……えと、えっと……」

結衣「わ、私が行くよ! 使ったことないけど回復魔法を使えばあかりの身体を治すことも……」

ちなつ「さっさと行ってください!! 絶対にあかりちゃんの身体を治してくださいよ!?」

結衣「わ、わかったよ」

京子「ち、ちなつちゃん、こええ……」

ちなつ「京子先輩も結衣先輩を手伝ってきてください!! 私はあかりちゃんの精神に肉体のフィードバックがないように調整してますから!!」

京子「はいーーーっ!!」

あかり「あう……」

外の世界で結衣があかりの身体を回収し、治療したあとあかりの身体は京子の結界に厳重に保管された。
そして、結衣と京子はちなつからの任務を終え、ちなつの世界に舞い戻ってきた。

599: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:52:06.02 ID:THTzGysx0
京子「た、ただいま」

結衣「ただいま……」

あかり「お、おかえり。ごめんね、あかりのせいで……」

ちなつ「ありがとうございます。これであかりちゃんの精神を肉体に戻しても大丈夫そうですね」

京子「そだね……」

結衣「痛みとかはもうないと思うけど、戻ったときに一気に痛みが押し寄せるなんてことは……」

ちなつ「そうならないようにしますので大丈夫です」

京子「そっか……」

結衣「それなら安心だ……」

二人とも疲れた様子でため息をつく。
あかりはそんな二人を見ながら、言葉をかけようとするが、

京子「あー、あかり。もう本当に謝んなくていいよ」

あかり「で、でも……」

結衣「結果的に見たら、私達が寄ってたかってあかりをいじめた状態になっちゃったから、あかりは気にすることなんて何もないさ」

あかり「そ、それでも……」

ちなつ「そうだよ、それにさっき結衣先輩も言ったじゃない。さっきのはちょっとしたケンカなんだから。1対3のケンカであかりちゃんは私たちに無謀なケンカを仕掛けただけっていうこと」

あかり「うぅ……」

京子「そーそー、なんだかんだであかりとマジケンカするのなんて初めてだからちょっと新鮮だったかもなー」

結衣「それは言えてるかも、これだけ長い付き合いだけど本気でケンカしたのって私たち始めてじゃない?」

ちなつ「……私はあのときに結衣先輩と本気でケンカしましたけどね」

京子「あー! あのときか! あの子がちなつちゃんだったって全然気が付かなかったよ!」

結衣「記憶を共有して初めて気が付いたもんね。あの時は本当に気に入らない子だって思ったからなぁ……」

ちなつ「私も同じ気持ちでしたよ、本当に生意気なヤツだって思いましたもん」

600: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:52:34.90 ID:THTzGysx0
あかりが3人のやり取りを見ていると、京子があかりの肩に手をかけ引っ張ってきた。

京子「ほら! あかりもそんな顔してないでこっちにこいよ!」

あかり「京子ちゃん……」

京子「覚えてるか? あの公園で私を虐めてたのってちなつちゃんだったんだぜ!」

結衣「よくよく考えたらあんまり変わってないね、ちなつちゃん」

ちなつ「えーー!? それどういう意味ですか、結衣先輩!!」

あかりは3人が笑いながら話す光景を見て思い出す。
自分はこの光景を求めていたんだと。
そして自分はこの光景を自らの手で遠ざけていただけだと理解する。

あかりの目から一筋の涙が零れ落ちた。
それと共に決意する。
今度は間違えない、この光景を手放すようなことは二度としないと。

――あかりはもう二度と

――二度とみんなと離れるようなことなんてしない

――これからはずっと一緒

――どんなことがあっても

――あかりはみんなの手を離さない

あかりの想いは何も言わずとも3人に伝わり、3人ともあかりに微笑みかけ手をさしのばす。
あかりは泣き笑いの表情で3人の手を取った。

601: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:53:34.04 ID:THTzGysx0
あかりたちが和解し、通常空間に戻ってきたとき世界は混乱に陥っていた。

突如発生した大地震により某国の山は崩壊し、世界のいたるところで激しい暴風が巻き起こり、日本のある街では山の木々が全て消え去るという異常事態が起き、さらには夜が昼に変わってしまうといった天変地異が起きていたからだ。

その原因を作り出した4人は世界の混乱も気にすることもなく、自分たちがやるべきことをやっていた。

結衣「よし、これで大丈夫だ」

結衣『わ、私がもう一人いるなんて変な感じだな』

4人はこの世界の3人から魔力を受け取っていた。
魔力を受け取る手助けをしたのは結衣、魔女としての力を使いこの世界の3人から膨大な魔力と魔法少女の才能を受け取った。

この世界では既にQBを全て捕まえている。
魔法少女になることは無いが、膨大な魔力がその身に宿っていることで何が起きるか分からない為に、魔力と才能を回収しようと考えたのは京子だった。

京子「よし、そんじゃこの世界でもやることは終わったね」

京子『えーっと、私だよね? やることってさっきそっちの結衣に触れてもらっただけなんだけどそれでいいの?』

京子「そだよー、さっきのでこの世界の私たちの魔力は私達がちゃんと受け取ったからね」

ちなつ『えっと、私はなんであかりちゃんと手を繋いでるの?』

ちなつ「あかりちゃんが不安にならないように」

ちなつ『……ずーっと繋いでるよね?』

ちなつ「あかりちゃんが許してくれるならずーっと、永遠に繋いでたいわね」

ちなつ『…………』

あかり「ち、ちなつちゃん~~」

あたふたとしながら二人のちなつと会話するあかり。

この世界の3人は全ての事情を聞いていた。
そして、これから行うことも全て聞いて、別の世界の自分たちを見送りにきていた。

京子『そんでさ、今から別の世界に行くんだよね?』

京子「うん、一番最初の世界、そこで全部終わらせてくる」

京子『あかりも一緒に行っちゃうんだよね……?』

京子「うん、あかりも連れて行く」

京子『……この世界だとあかりはどうなっちゃうのさ』

京子「それは……」

答えようとした京子の前にあかりが出る。

602: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:54:13.43 ID:THTzGysx0
あかり「京子ちゃん、あかりが説明するね」

京子『あかり……』

あかり「全部終わった後、あかりたちは人間に戻る方法を探そうと思ってるの」

あかり「最初の世界のみんなを生き返らせたあと、人間に戻るための方法を色々探してそれと一緒にあかりもそれぞれの世界に戻る為に3人に分かれる方法を探そうと思ってるんだ」

京子『わ、分かれるって、お前はプラナリアじゃないんだぞ……』

あかり「あはは」

京子『わ、笑い事じゃないだろ? お前が3人になるなんてそんな事一体どうやって……』

あかり「今はどうやってやるかっていうのは分からないかな…… でも絶対に見つけて見せるよ」

京子『む、無理だろ?』

あかり「無理なんかじゃないよ? だってそうしないと、全部の世界でみんなが助かったことにならないからね」

あかりの心の変化、
それはあかりの言うみんなの中に自分自身も含まれた事。

あかり「あかりは欲張りさんなんだ」

あかり「全部の世界でみんなが助かって幸せにならないと嫌なんだ」

あかり「だから、あかりはまた戻ってくるよ」

あかり「この世界のみんなとも一緒に生きて行きたいと思っているからね」

京子『……どれくらいかかるの?』

あかり「わからない……けど、待つ必要なんてないよ」

京子『え?』

あかり「みんなに寂しい思いなんてさせたくないからね」

京子がどういう意味かと問いただそうとするが、あかりは踵を返し別の世界の自分たちの元へ歩いていく。

京子『あかりっ!』

あかり「みんな…… 行って来ます」

既に準備ができていたのか、あかりの姿は黒い霧につつまれて見えなくなる。

京子『おいっ!!』

あまりにも自然に別れを告げあかりは旅立ってしまった。
急すぎて京子はただ手を伸ばしたまま固まりそれ以上は何もいえなかった。

結衣『京子……』

ちなつ『京子先輩……』

京子『……なんだよもう』

京子『そんなにあっちの私達が良いって言うのかよ…… あかりぃ……』

「そんなことないよ」

京子『え?』

その声に反射的に振り向く。
その先にいたのは。



「ただいま」




603: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:54:57.66 ID:THTzGysx0
始まりの世界


ワルプルギスの夜が通り過ぎた街を離れるQBはピタリと止まり、今まで走ってきた道を振り返り視線を上空にあげた。

QB「……なんだこれは?」

何かを感じ取ったのか、QBは再び今まで駆けて来た道を逆走し始める。

QB「これは…… 魔力……?」

感じ取った場所に近づくにつれその気配は大きくなる。

QB「信じられない…… 一体なんなんだこの魔力は……」

目的地にたどり着いたQBの見上げる先に、空間が裂け中からおぞましいほど強大な魔力があふれ出してくる。

QB「空間が裂けた? その中から何かが出てくる……」

裂け目から溢れ出した強大な魔力は闇となり空中に漂う。
その闇は4つの塊を形作りさらに強大な魔力の胎動をQBは感じ取っていた。

QB「……ありえない」

QB「……こんな事がありえるはずがない」

呆然と上空を見上げ続けるQBの瞳に闇から溢れ出す黄金色の光が入り込んだ。
闇の中から現れたのは白い衣に身を包み、光の翼をはためかせ、空から舞い降りる少女。
それに続くように、白と黒の翼を持った二人の少女が舞い降りる。
最後に漆黒の翼を広げ、黒き少女が現れる。

QB「あれは…… あかり?」

QB「それに、結衣とちなつ……?」

黒き少女は空中に留まり、手を空に上げ何かをしているようだった。
QBはとてつもない魔力の波動を感じその瞳を向け観測を始める。
少女が一体何をしているのか、それを見極める為に観察をし続ける。

数分がたち、上空は真っ黒な闇で覆いつくされていたが、QBは今だ何が起きているのかも観測しきれないでいた。
そして、次の瞬間。

QB「!?」

上空にQBが現れた。
空を埋め尽くさんばかりの自分たちの個体。
宇宙にいる全ての個体だった。

QB「ば、馬鹿な……」

そして次の瞬間、全ての個体が消え去った。
呆然と上空を見続けるQB。
何が起きたのかも理解できず、ただただ見上げるQBの瞳に黒い少女が映る。

そしてその黒い少女は、
QBを見て、
笑った。

604: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:55:45.10 ID:THTzGysx0
QB「!!!!」

その瞬間QBは駆け出していた。
なぜかは分からない、だけど本能的な何かがQBの足を動かさせた。

一歩、二歩、三……
QBが動けたのは二歩まで。
気が付けばQBの身体は黒い少女の手のひらに納まっていた。

QB「!?!?」

京子「おいっす、キュゥべえ~、始めまして~」

QB「き、京子なのかい?」

京子「おう! 京子ちゃんだぜ!」

QB「そ、その姿は一体……?」

京子「カクカクシカジカ」

QB「な、何を?」

京子「あれ? わかんない? おっかしーなー」

QBの身体を持ち、ケタケタと笑いながら京子はQBには理解できない返答をし続ける。

京子「ならばちゃんと説明してあげよう!」

QB「君は一体……」

京子「私は時空を超えた魔女っ娘キョウコリン!! 華麗にこの世界に登場!!」キュピーン

QB「わ、わけがわからないよ」

京子「ムカッ、訳が分からないってどーいうことよ。せっかく名乗りを上げてあげたのに訳が分からないってどーいうことー!?」

QB「き、君の言っている事は何一つ理解できない。君は一体なんなんだ? 君は確かに死んだはず、一体どうやって……」

京子「…………」イラッ

605: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:57:06.86 ID:THTzGysx0
京子「……あー、京子ちゃんすっごくキャッチボールしたくなってきちゃったー」

QB「な、何を?」

京子「ゆーいー、キャッチボールやろーぜー」

結衣「何急に言ってるんだよ…… ボールなんてどこに……」

京子「ここにあるでしょ? ほら、これ」

QBを振り回しながら言う京子。
それを見てやれやれといった表情で頷く結衣。

結衣「あんまり無茶して壊すなよ? あかりにも言われてるだろ、そいつには用があるって」

京子「わかってるって~~」

QB「い、一体何をしようとしてるんだい?」

京子「ん? だからキャッチボール」

QB「キャ……」

京子「ボールはお前ね、んじゃ…… ほいっ!!」

QB「うわああああああああああああああ!?」

京子の手から放たれたQBはとてつもない加速をし空中を舞って行く。
QBはそのままどこまでも飛んでいくかと思われたが、空中で何者かにキャッチされそのキャッチした人物を見た。

QB「きゃぷっ!? ……ゆ、結衣!?」

結衣「おーい! どこに投げてるんだよ!? 投げるなら私に向かって投げろよ!!」

京子「めんごめんご」

結衣「はぁ…… 仕方のないやつだな、ほらっ」

QB「~~~~~~~~~~~ッッッ!?!?!?」

京子が投げた速度とは桁違いの加速がQBを襲い、QBの身体は超高速で空中を進む。

京子「あっ」

あろうことか京子はQBをキャッチすることが出来ず、QBはそのまま地面に吸い込まれる。
QBが地面に叩きつけられる寸前に京子はQBをその手に移動させ結衣に文句を言い放つ。

京子「何やってんのさ!! あんなボールとれるわけねーだろ!!」

結衣「あー、ごめん」

京子「まったくもう!!」

QB「ぜぇーっ!! はぁーっ!! ぜぇーっ!! はぁーっ!!」

プンスカと怒る京子に結衣は素直に謝っていた。
だがそのやり取りはQBの目に入っていなかった。
そしてQBの耳に京子の声が届く。

京子「次ー、変化球行くからねー!」

結衣「はいはい」

京子「おりゃー! 大リーグボール2号!!」

結衣「……古い」

QBの地獄が始まった。

606: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:58:26.26 ID:THTzGysx0
空で京子たちがQBと遊んでいる間、空から舞い降りたあかりとちなつは目的の場所にたどり着いていた。

あかり「みんな……」

二人の視線の先には無残な姿の3人がいた。

ちなつ「あかりちゃん……」

あかり「大丈夫…… 絶対に失敗なんかしないから……」

あかりは横たわって動かない3人に近づき、3人を覆うように魔力を発動させた。

あかり「時間操作の細かい調整はあの時、結衣ちゃんとのけんかをしたときに覚えた……」

あかり「絶対に失敗なんかしない、みんなの時間を少しだけ戻して……」

あかりの手のひらに汗がにじむ、もしも調整が失敗したら3人の時間は戻りすぎてしまって無に帰ってしまうことを理解していたからだ。
失敗するわけがないと何度も言い聞かせるが、あかりの手は震え続けていた。
そのあかりの手をちなつはそっと重ね、あかりに優しく囁く。

ちなつ「大丈夫。私も一緒にやるから」

あかり「……ありがとう」

あかりの震えが止まり、あかりは3人に向けて魔法を開放した。
眩い光が辺りを照らし、その光が収まる頃には横たわっていた3人の姿が変化していた。

首に線が入って、青白い顔色だった京子の首から線は消え、顔色は健康的な色に戻り。

下半身がない状態だった結衣の下半身は元の状態に戻り。

胸に穴が空いていたちなつの胸の穴は塞がり。

3人とも胸を上下しながらその場に横たわっていた。

あかり「あは…… あはは……」

ちなつ「す、すごい……」

あかり「よかった…… これでこの世界のみんなは助かったんだよね……」

3人には小さな魔力の欠片は感じられるが、魔法少女の力は微塵も感じさせていなかった。
あかりがそれぞれ魔法少女になる前までに時間を巻き戻していたからだった。

しばしあかりはうれし涙を流し続け、ちなつはあかりを見ながら微笑み続けていた。
その二人の上空に京子と結衣がQBを片手に現れた。

607: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 21:59:24.55 ID:THTzGysx0
京子「お? 成功したの!?」

あかり「うんっ!! みんなを助けれたよぉ!!」

結衣「よかった…… よかったなぁ、あかり……」

あかり「うん!! ありがとう、みんなぁ……」

泣き笑いの顔で二人に返答するあかり、そのあかりの後ろでちなつは京子が持っているQBの姿を見てあきれた顔で話し始める。

ちなつ「あの…… そのボロ雑巾みたいなのはキュゥべえですか?」

京子「ん? おわっ!? いつの間にこいつこんなにペラペラになったんだ!?」

結衣「お前なぁ…… あんな無茶苦茶にぶん投げてたらそうなるだろ……」

ちなつ「生きてるんですか? それ……」

京子「た、多分……」

京子が細長くなったQBをぷらぷらと上下に振り回していると、QBの姿を見たあかりが京子に声をかける。

あかり「……京子ちゃん、あかりキュゥべえに用があるって言ったよね……?」

京子「!? あ、あかりさん? 目! 目ぇ、怖いから!!」

あかり「……ごめんね? キュゥべえを見るとまたあかりの胸の中がキューってなっちゃうの、目元もピクピクしちゃうし……」

鋭い目つきで京子とQBを見ながらあかりは京子に近づき、京子からQBを受け取った。

京子「あー…… こえー……」

結衣「お前あんまりあかりを怒らせるようなことするなよ」

京子「そんなこと分かってるって!! あかりキレたら何するかわかんないから私も細心の注意を払ってだな……」

後ろから聞こえてくる声は気にせず、あかりはQBに魔法を使い京子と結衣によって身体中の関節が外れた状態から何も無い状態に巻き戻された。

608: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 22:00:37.41 ID:THTzGysx0
QB「!? こ、これは!?」

QB「き、君はあかりなのか……?」

あかり「質問するよ。一人の人間を二人にする魔法ってある? ない? 答えて」

QB「き、君は、その魔力係数、本当にあかりなのか……?」

あかり「……もう一度だけ聞くよ? 一人の人間を二人にする魔法ってある?」

QB「一体どういうことなんだ…… 君といい、他の3人といい……」

あかり「…………」

QB「し、しかも、死んだはずの京子たちが生き返っている!? 一体どういう……」

あかり「…………」

あかりは手に力を込めながらQBの顔を覗き込むように質問する。

あかり「…………これが、最後だよ? あかりの質問に答えてほしいなぁ…………?」

あかり「魔法で、人間を、二人にすることって、できるのかなぁ?」

QB「先ほど観測した魔法…… 僕の周囲の時空間を操作していたね? その結果僕は破壊されかけていた体が修復された…… 君の魔法は時間操作魔法の類だね?」

あかり「…………」

QB「信じられないが君の魔法は魔力範囲内の時空間を自由に制御できる魔法ということか…… 時空間魔法をそこまで使いこなす魔法少女なんて始めて観測するよ!!」

京子「お、おい、結衣、あれやばくね……?」

QB「君のその魔法があれば……!! そうだ、あかり! 僕のお願いを聞いてくれないかな!?」

結衣「あ、ああ……」

あかり「…………なに?」

QB「僕と協力してこの宇宙のエネルギーを回収しようじゃないか!! 君さえいれば魔女となった魔法少女を元に戻して再び魔女に出来る!! それが成功すればこの宇宙のエネルギー不足は完全に解消される!! 君は英雄になれるんだよ!?」

あかり「…………」ピクピクピクッ

QB「魔法少女システムの完成系だよ!! 君さえいれば魔力係数の高い魔法少女を捕らえてリサイクルをし続ければあっという間にエネルギーはこの宇宙に充足させることが出来る!!」

あかり「…………」ピキピキピキッ

QB「そうだ!! その3人を使って試してみようじゃないか!! 3人ともとてつもない魔力を持っている、1人だけでもこの宇宙のエネルギーを全て補えるくらいの力があ…………る…………」

あかり「もういいよ」

QB「」

QBの身体がゆっくりと上昇し始める。
あかりの魔力が球状にQBを包み込みQBはその中であかりを見ながら何かを言い続けていた。
しかしその声はもう誰にも届かず、QBを包み込んだ魔力の内側で時間が加速し続ける。

あかり「消えてなくなっちゃえ」

QBの身体は塵一つ残らず消滅した。

609: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 22:01:15.83 ID:THTzGysx0
しばしの静寂が訪れたが、その沈黙を京子が破ってあかりに提案し始めた。

京子「あ、あかりさーん! そんな事しなくても私が調教したキュゥべえに聞けば答えてくれると思いますよぉー!!」

あかり「まだいるの? 出して」

京子(し、しまったーーーー!!)

瞬きもせずゆらりと京子に近づきあかりは手を差し出す。

あかり「ほら、早く出して」

京子(ゆ、結衣…… 助けて……)

結衣()フルフルフル

京子は涙目で結衣に目配せするが、結衣は自分で何とかしろと首を振る。
京子があかりの視線に、圧力に耐え切れず、結界からQBを取り出そうとしたその時、

あかりを後ろからちなつが抱きしめていた。

あかり「ちなつちゃん?」

ちなつ「あかりちゃん、こっち向いて」

あかり「……? むぐっ!?」

ちなつ「ん~~っ」

あかりはちなつによって顔を固定されてキスをされていた。
数十秒、あかりは手をばたつかせていたがちなつにがっちりとホールドされて動けないままやがてあかりの手が力なく下がったところでちなつの拘束とキスは解除された。

ちなつ「目が覚めた?」

あかり「な、ななな、何をするのぉ~~!?」

ちなつ「目覚めのキス、目が覚めたでしょ?」

あかり「わ、わけわかんないよぉ!!」

目を白黒させながらちなつに文句を言うあかり。
その様子を見て、京子と結衣はほっと胸をなでおろす。

610: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 22:01:56.83 ID:THTzGysx0
その後はあかりが崩壊した街の時間を巻き戻して何もかもを元通りにして、気絶したままのこの世界の3人を病院に運び空から3人の病室を見ていた。

京子「あかり、本当にいいの?」

あかり「うん」

結衣「お前にとってはこの世界が本当の自分の世界なんだからここに留まって人間に戻る方法を探してもいいだぞ?」

あかり「大丈夫、あかりはみんなを助けられたんだもん。それで満足、これからはみんなと一緒にいろんな世界を巡って人間に戻る方法を探すよ」

ちなつ「京子先輩がキュゥべえに聞いても私達が元の人間に戻れる確証がある方法はなかったんだもんね……」

京子「まあ、ないものねだりをしててもしょうがないからね。ないなら別の世界で探す、見つかるまで探し続ける!」

結衣「のん気に言って…… どれだけ時間がかかるかわからないんだぞ?」

京子「時間がかかっても問題なーし!! みんながいれば私はそれだけで幸せだし、どんな困難も乗り越える自信がある!!」

結衣「はぁ…… まあ、私は付き合ってやるけど…… あかりとちなつちゃんも本当にそれでいい?」

ちなつ「私はあかりちゃんが行くならどこにでも」

あかり「うん、あかりもみんなと一緒に行きたいな」

京子「よーし! 決定だね!!」

それと同時に4人の姿は闇につつまれ4人の上空の時空が裂けた。
あかりは最後にこの世界の3人を見てその姿が見えなくなるまで見続けていた。
そして闇につつまれたと同時に呟く。

――行って来ます

あかりの呟きと共に、どこかから声が響いてきた。

――みんな、ただいま


611: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 22:11:06.20 ID:THTzGysx0
闇につつまれた4人はそれぞれ手を繋ぎ、真っ暗な空間を飛び続けていた。

結衣「それでどんな世界に行こうとしてるんだ?」

京子「わかんない」

結衣「は?」

ちなつ「わかんないって…… 行き先ですよ?」

京子「だからわかんない。テキトーに飛んでみた」

あかり「えええ!? だ、大丈夫なのそれ?」

京子「まあ、なんとかなるっしょ!」

結衣「お前なぁ……」

京子「だって、私知らないところに行くの結構好きだし、自分で知ってるところより全く知らないような世界に行きたいでしょ?」

ちなつ「そんなの京子先輩だけですよ……」

京子「ええーー!? 結衣はそう思わない!? あかりだってそう思うでしょ!?」

結衣「私はちなつちゃん派」

あかり「あかりも知らないところにいくのはちょっと怖いかなぁ……」

京子「ぶーぶー!」

あかり「でも」

ちなつ「?」

あかり「みんなと一緒なら知らないところでも楽しいかも……」

612: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 22:11:46.34 ID:THTzGysx0
京子「!! だろ!? ほら見たか! これで2対2だぜー!!」

結衣「何を競ってるんだよ…… でもそうかもしれないな」

ちなつ「私はあかりちゃんと一緒ならどこでも楽しいよ」

京子「……そういえばさ、二人はその、今どういう関係なの?」

あかり「え?」

結衣「……あれ以来みんなの思考をつなげても無いしさ、ちなつちゃんがあかりの事を好きだって言うことは知っていたけどその後の進展は何も聞いてないんだよね」

京子「ちなつちゃんは完全にあかりラブって感じだけど、あかりはちなつちゃんのことを好きだって言わないし、そういう雰囲気もださないから二人の関係ってどうなのかなーって思ってさ」

あかり「ええ~~~…… えっとね……」

ちなつ「私たちの関係は友達ですよ? 今は」

ねっ、とちなつはあかりに微笑みかけた。
その微笑に困った顔をしながらあかりは答える。

あかり「あのね、あかりは誰かが好きとかって言う気持ちはまだよくわからないんだけど……」

あかり「ちなつちゃんが好きって言ってくれるのはとってもうれしいし、少し胸がドキドキするんだ」

あかり「だから、いつかあかりの本当の気持ちが分かったらその時はあかりの気持ちを聞いてくれるかな?」

ちなつ「~~~っ」

京子「へぇ……」

結衣「ふふっ」

あかりの言葉にちなつは心ここにあらずといった雰囲気で呟く。

ちなつ「友達から前進…… うふふふふふふ……」

あかり「ちなつちゃん? ちなつちゃ~~ん?」

京子「おおっ!? そろそろ終点だぞっ!! 結衣ー頼むー!」

結衣「ああ、わかった」

613: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/19(日) 22:12:24.29 ID:THTzGysx0
結衣ちゃんが京子ちゃんに頼まれて先に見える空間を切り裂いた。

あかりたちの目の前は光につつまれて何も見えなくなる。

不安なんて何もなかった。

あかりには頼れるみんなが一緒にいてくれる。

どんなところに行ったってみんながいれば楽しいし、寂しいことなんて何も無い。

やがて光が収まりあかりの目にまずみんなが映し出される。

そしてみんなはあかりに手をさし伸ばし言ってくれた。

――行こうぜ、あかり
――行こう、あかり
――行こ、あかりちゃん

あかりはみんなに向かって笑顔で頷き、まだ見ぬ世界に足を踏み入れた。