2: ◆EfAxsxd6xU 2016/06/25(土) 17:22:27.68 ID:SmrfR4Nu0

―――雨が降っている。



それは冷たく降り続けて、私の体を濡らしていく。

でも、不思議と寒さは感じなかった。

目の前には、もう目を開けることの無い、私の大切な人がいる。


ほむら「どうして……?目を開けてよ!」


もう何度も呼びかけている。

だが、返事はない。

動く気配を感じることも、もう出来なくなっていた。


ほむら「返事してよ!鹿目さん!」

ほむら「まどか!」


何も答えてくれない。

耳に入るのは、ただ無慈悲に降り続ける雨の音だけ。



雨が、降っていた―――

引用元: ほむら「雨」 


 

3: ◆EfAxsxd6xU 2016/06/25(土) 17:23:35.88 ID:SmrfR4Nu0

―――雨が降っている。



私の前には、私の大切な人。

聞こえるのは、雨が降り続ける音だけ。

……前と同じ状況だ。

違うのは二つだけ。

一つは、自分もこの人と同じ存在であるということ。


ほむら「……まどか……」


もう一つは、彼女を殺したのは私だということだった。


もう既にずぶ濡れの私を、雨はさらに濡らしてゆく。

どこまでも、どこまでも、濡らしてゆく。


ほむら「……っ」


もう、行こう。

まだするべきことがある。

希望は残っている。

私は、彼女との約束を果たさなければならない。

たとえ、それがどんなにつらくても。



雨が、降っていた―――

4: ◆EfAxsxd6xU 2016/06/25(土) 17:25:00.30 ID:SmrfR4Nu0

―――雨が降っている。



私の大切な人は、いま私の目の前にいる。

彼女は今、世界を呪っていた。


ほむら「……また、駄目だったのね」


雨は非情に私を打ちつけている。

服が、体が、濡らされていく。

すっかり冷えた私の心を、さらに冷やしていく。


ほむら「まどか…、ごめんなさい……」


つらい。

どれだけこの光景を見てきたかわからない。

何度も絶望しそうになった。

希望を感じることも少なくなっていた。

それでも私は、あの子との約束を果たしたい。

こんな運命を変えたい。


絶対に、変えてみせる。



雨が降っていた―――

5: ◆EfAxsxd6xU 2016/06/25(土) 17:25:52.64 ID:SmrfR4Nu0

―――雨は降っていなかった。



それどころか、曇る気配もない。

よく晴れていた。


目の前には、一人の魔法少女。

私の、誰よりも大切な人。


初めてあの子と会ったとき、私は助けられた。

そして、今もあの子に助けられようとしている。


ほむら「………………」


真剣な顔で弓を構える彼女は、かっこよくて。

でも、どこか優しい雰囲気を放っている。


「もう、大丈夫だよ」


あちこちが痛い。

さっきまで戦っていたからだろう。

でも、不思議と体は軽かった。



雨は、降っていなかった―――

6: ◆EfAxsxd6xU 2016/06/25(土) 17:27:41.11 ID:SmrfR4Nu0

―――雨は降っていなかった。


空はよく晴れていた。

雨が降る気配はない

陽射しがとても暖かい。

風が、暖かく、静かに吹いている。


ほむら「……ふふっ」


今この世界に、あの子はいない。

でも私は、私の大切な人のことを覚えている。



彼女とはまた、いつか会える。

でも、それはいつかは分からない。



ふと、彼女のことを思い出すことがある。

そんな時、決まって私の心は締め付けられる。


会いたい。

彼女に。

まどかに。



雨は、降り続いていた―――

7: ◆EfAxsxd6xU 2016/06/25(土) 17:28:51.50 ID:SmrfR4Nu0

―――雨が降っている。



雨には、なんだか良くない思い出があった気がする。

具体的に何があったのか、思い出せる訳じゃないけれど。


今、私はとても幸せだと思う。

まどかや美樹さん、巴さんとベベ、佐倉さん。

みんなと一緒だと、とても楽しい。

ナイトメアとの戦いは、まだ少し怖いけど。


ほむら「……………」


でも、何だろう。

何かが引っかかる。

それが、私の心を曇らせている。

ちょうど今降っている雨のように。



雨が、降っていた―――

8: ◆EfAxsxd6xU 2016/06/25(土) 17:30:21.32 ID:SmrfR4Nu0

―――雨が降っている。



私は雨が嫌いだった。

とても嫌な思い出しかないから。

雨と共に思い出すのは、かつての希望と、大きな絶望。

私は今も、それに振り回され続けている。


ほむら「……………」


だが、それは自分で選択したことだ。

私はまどかが幸せならそれで良い。

たとえどんな存在になったとしても。


雨はまだ止まない。

いつまでも降り続いている。

いつか、この雨が止む日は来るのだろうか……。



雨が、降っていた―――

9: ◆EfAxsxd6xU 2016/06/25(土) 17:32:02.61 ID:SmrfR4Nu0













まどか「雨、降ってるね」

ほむら「そうね」

まどか「……」

ほむら「……」

まどか「……ほむらちゃんって、雨は嫌いだったりする?」

ほむら「どうして?」

まどか「なんだかほむらちゃんの顔、少し固くなってるような気がしたから……」

ほむら「……そう」

まどか「あっ、ご、ごめんね?」

ほむら「ううん、気にしないで」

ほむら「そうね、確かに雨は嫌いかもしれないわ」

ほむら「あまり良い思い出がないの」

まどか「そうなんだ……」

ほむら「……」

まどか「……」

10: ◆EfAxsxd6xU 2016/06/25(土) 17:33:04.53 ID:SmrfR4Nu0

ほむら「……でも」

まどか「?」

ほむら「あなたと一緒なら、雨の日も少し楽しいかもしれないわね」

まどか「そうなの?」

ほむら「えぇ」

まどか「……そっか」


ほむら「……ふふっ」

まどか「えへへ」











―――雨は、止んでいた。











おわり