前回 ほむら「それは、もう一つの結末」 完結編 前編

353: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:30:35.65 ID:CqqKe4Aqo
マミ「……暁美さん、知っていたのね」

ほむら「ええ」

マミ「ならどうして?
どうして話してくれなかったのよっ!!!!?」

ほむら「美樹さんや、杏子にも同じ理由なのだけど……
キュゥべえの正体とかと一緒に、そこまでいっぺんに話すと理解が大変で混乱してしまうと思ったから……」

マミ「嘘よッッッッ!!」

ほむら「!? う、嘘じゃ……」

マミ「嘘、嘘、嘘よっ!
あなたは自分にとって都合の良い相手に自分にとって都合の良い事だけ伝えて、
みんなを利用しようとしていたんでしょう!?」

ほむら「ち、違……」

マミ「違わないっ!」

ほむら「っ!」




 

引用元: ほむら「それは、もう一つの結末」 完結編 


 

354: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:31:07.14 ID:CqqKe4Aqo
マミ「最初から自分でそう言っていたじゃないのっ!
利用してるだけだって!」

ほむら「あ……」

その……通りだ。

ほむら(でも、昨夜違うって謝って……巴さん、わかってくれて……)

──いや、それこそ自分本位な甘い思い込みだったのではないか?

相手が傷付くような事をしておいて、本当にあれだけで許されたとでも?

巴さんは、ただ許したふりをしてくれていただけだったのでは?

ほむら(で、でも、あの時の巴さんの笑顔はっ、そんなんじゃ……
けどっ……!)

私は混乱していた。

355: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:32:09.14 ID:CqqKe4Aqo
マミ「お前はそうやって私達を騙して、最終的にみんなを魔女にしようとしていたのよ!
そして魔女になった私達を皆殺しにして、グリーフシードと、この見滝原を手に入れようと企んでいたんだ!」

ほむら「ち……違……」

マミ「そうだ! そうなんだっ!!
やっぱりそうだったんだ!!! やっぱりっ!!!!
あはは、あーーーーはははははははははっっっ!!!!!」

ほむら「あ……あぁ……」

どうして?

昨夜は私達、確かに通じ合えたはずなのに。

ほむら(なのにどうして……?
こんな、こんな事に……)


ザッ。


絶望に、私は両膝をついた。

356: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:33:06.10 ID:CqqKe4Aqo
ほむら(……違う)

これは、自分が蒔いた種なのだ。

ほむら(私が、彼女に嫌な態度を取ったり、嫌な事を言ってきたから……)

それが無ければ、たとえキュゥべえがどう動こうともこんな事態にはならなかったのではないか?

ほむら(この現実は、自業自得……)

私のせいで。私の、せいで……!


ドゥンッ!


ほむら「っ!!!」

杏子「!」

私の胸を、巴さんが放った弾丸が直撃した。


ドサッ。


私はそのまま地面に倒れ伏す。

357: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:34:14.68 ID:CqqKe4Aqo
杏子「マミ、てめえ!」

マミ「許さない! 暁美ほむらッ! キュゥべえの思い通りにもさせない!!!」

頭を抱えて叫ぶ巴さんは、もはや目の焦点が合っていなかった。


カクンッ。


マミ「……うふふ」

杏子「っ!」

佐倉杏子が一瞬震えた。

首を横に倒した巴さんに、狂気の笑顔を向けられて。

マミ「佐倉さんと美樹さんは大丈夫。
そんな狂った運命から救ってあげるわ」

ほむら「ま、まずい……」

巴さんのソウルジェムの穢れが激しい。

このままでは彼女は……

358: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:35:14.35 ID:CqqKe4Aqo
でも、私に巴さんを助ける資格があるのだろうか?

彼女を追い込んでしまったのは、私の……

ほむら(……いや、違う!)

そうだとしても、だからこそ私は巴さんを救わなければならない。

ほむら(ここで罪の意識に負けて呑まれてしまうのは、ただの逃げに他ならない……!)

これまでに幾多の世界を巡る中で、どんなに悲しい結末を迎えても私は諦めなかったじゃないか。

少なくとも、決して逃げ出しはしなかったじゃないか!

ほむら(だから今だって!)

私は自分を奮い立たせ、なんとか立ち上がった。

359: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:36:01.85 ID:CqqKe4Aqo
マミ「魔女になんかさせない。みんなを魔女になんかさせない。
させないさせないさせないさせないさせないさせないさせないさせないさせるものかぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!」


ドンッ!


杏子「ぐっ!」

襲いくる巴さんの銃弾を、佐倉杏子は上に跳んでかわす。

ほむら「杏子っ!」

マミ「あなたはじっとしていなさい!」


ビュンッ!


ほむら「ぅあっ!」


ギリギリギリッ……!


信じられないほどのスピードで、巴さんのリボンが私をきつく拘束した。

360: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:36:40.99 ID:CqqKe4Aqo
ほむら(し、しまった!)

動けない!

これでは、腕を使う時間停止の能力は使えない。

いや、そもそもこんな状態で、
私に触れているものには何の効果も表れない時間停止をしても無駄ではあるのだが……

なんにせよ、この時点で私は役立たずになってしまった。

ほむら(そんな、そんなっ……!)

しかし、どれだけもがいてもリボンは緩みすらしない。

ほむら「こんなっ、時に……っ!」

361: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:37:22.70 ID:CqqKe4Aqo
マミ「まずは元気な佐倉さん……」


スッ。


巴さんは、左手の中に一瞬でマスケット銃をもう一丁召喚し、


ニコッ。


笑った。

杏子「!」


バッ!


そのまま巴さんは、佐倉杏子が落下してくるスピードよりも速く、彼女へと向かって跳んだ。

二丁のマスケット銃を、まるで二刀流の剣のように構えて。

362: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:38:08.66 ID:CqqKe4Aqo
杏子「あたしと接近戦するつもりかッ!」


ガギィンッ!

ガヅッ!

ガッ!

ギィィンッ!


空中で、巴さんのマスケット銃と佐倉杏子の槍が激しくぶつかり合う。


スタッ!

バッ!


その攻防は二人が着地するまで続き、足が地面についた瞬間、巴さんが後ろに跳んで間合いを取る。


バッ!


しかし、佐倉杏子はそれを許さずすぐさま跳躍し、追随した。

剣のように使っていても、巴さんの持つ得物は遠距離で真価を発揮する銃だからだ。

363: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:38:47.88 ID:CqqKe4Aqo
杏子「おらっ!」


ブンッ!


巴さんが再びの着地をする間も無く、佐倉杏子の鋭い突きが放たれた。

避けられる体勢でもタイミングでも無い。

364: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:39:20.86 ID:CqqKe4Aqo
しかし、


ガチッ!


杏子「!!!」

巴さんは右手を伸ばし、その手に持つマスケット銃の銃口でそれを受け止めた。


グアッ!


そのまま、押される力に逆らわずに巴さんは吹っ飛ぶ。

そちらには、土手。


タッ。


しかし、巴さんは微塵も慌てずに空中で体の向きを変え、坂になっているその大地に着地して──


ドンッ! ドンッ!


両手のマスケット銃を撃ち、


バッ!


その銃を捨てながら土手を蹴って佐倉杏子の方へと跳んだ!

365: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:40:00.69 ID:CqqKe4Aqo
杏子「ぐっ!?」

追撃をかけようとした佐倉杏子だが、慌てて足を止めて迫り来る弾丸をかわす。


ドンッドンッドンッ!!!


しかし巴さんは跳びながらも再びマスケット銃を召喚し、
撃っては捨て、また召喚してを繰り返して銃を乱射する。

杏子「くそっ!」


ババッ!


これは避けきれないと判断したか、佐倉杏子が毒づきながら魔力の壁を眼前に展開した。


ドドドドドドッッ!!!


巴さんの放った銃弾は、その壁に当たり、弾けて消えた。

366: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:40:47.52 ID:CqqKe4Aqo
杏子「おらあッッ!!!」


ジャギンッ!


攻撃が止んだとみると佐倉杏子はすぐに魔力の壁を解除し、巴さんに向かって槍の切っ先を向ける。

まだそれが届かないほど巴さんとは離れているが、


ドンッ!


槍が伸びた!

それは跳んでくる巴さんとの距離を一瞬で縮め……


ドドンッッ!


巴さんを貫くという時、彼女が二つのマスケット銃を地面に向けて放ち、その反動で空中へと飛んだ!

367: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:41:39.86 ID:CqqKe4Aqo
杏子「そうくるだろうと思ったよっ!」


ブンッ!


しかし佐倉杏子は叫ぶと、伸ばした槍を上へと振り上げる。


ジャランッ!


長槍が巴さんに向かう最中に、槍の節々が、鎖に繋がれた──
例えればヌンチャクのような形にいくつも分離した!

そう、佐倉杏子の扱う槍は多節棍なのだ。


ジャララララララッ!!

ビュンッッッ!!!


さらに長さを増すそれは、まるで蛇のように空中で動いて巴さんの包囲した後、鋭い切っ先が彼女を襲う!

これでは回避したとしても不規則な動きで追尾してくるだろうし、どこへ避けたとしてもその先には鎖の壁。

この『結界』から抜け出すのは、いかな巴さんと言えど容易ではないはずだ。

368: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:42:15.64 ID:CqqKe4Aqo
マミ「──そうね」

しかし、空に舞う巴さんは冷静に呟くと、両手足を開いて仁王立ちのような体勢になり……


バッ!


杏子「っ!?」

身体全体から全方位にリボンを放った!


バババババッ!


それらは息をする間もなく佐倉杏子の得物にまとわりつき、動きを止めた。

369: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:42:51.36 ID:CqqKe4Aqo
杏子「バカな……っ!?」

驚愕する佐倉杏子は、手にする武器を完璧に拘束される事によって、自身も動けなくなってしまった。

手を離すなり今実体化させている槍をいったん消すなりすれば問題無いのだが、

マミ「そうくるだろうと思ったわ」


スタッ。


マミ「私もね」

佐倉杏子がそれを思い付いて実行するより速く、彼女の目の前にはすでに巴さんが居た。

370: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:43:31.90 ID:CqqKe4Aqo
杏子「!!!」


ビュンッ!


巴さんの左手のマスケット銃での右切り上げを、
佐倉杏子は槍を消しつつ左足を軸に右半身だけ一歩後ろに旋回し、何とかかわした。


ガギンッ!


続けて放ってくる巴さんの右手のマスケット銃での袈裟斬りは、
体勢を崩しながらも再び実体化した槍を両手で握り締め、それで辛くも受け止める。

杏子「ぐっ……!」

だが、受けた体勢が悪かった影響か、今の一撃の重さに押されて佐倉杏子の右膝が大きく折れ、体が沈み込んだ。


バッ!


そんな彼女に僅かな間すら与えない巴さんは、右肩から逆回転して佐倉杏子の懐に深く潜り込み、
その流れのまま勢いのついた両の手の銃を振る!

371: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:44:16.27 ID:CqqKe4Aqo
これは……

かわせない!


ドガッ!


杏子「がはっ!!」

まずは右手のマスケット銃が佐倉杏子の右脇腹に。


ガヅッッ!!!


杏子「っ!!!!!」

続けての左手のそれは佐倉杏子の右こめかみに直撃し、
彼女は上半身を左側に大きく反らした状態でたたらを踏んだ。

普通ならばありえない、とても不自然な動きをする佐倉杏子は、今の一撃で脳震盪を起こしたのだろう。


バッ。


そして、巴さんは二丁の銃を佐倉杏子へ向け──

372: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:44:53.04 ID:CqqKe4Aqo
ほむら(まずいっ!)


ドンッッッッ!!!!!


放った。

杏子「──!!!」


ドザッ!


声一つ上げられずに佐倉杏子は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

ほむら「あ……」

彼女は……動かない。

373: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:45:32.30 ID:CqqKe4Aqo
私達魔法少女は、魔女化するかソウルジェムを砕かれない限り死なない。死ねない。

だが、今の一撃は佐倉杏子の首付近に放たれた物であり、その辺りには彼女のソウルジェムが……

私の脳裏に、昔の悪夢が再びフラッシュバックした。


マミ『みんな死ぬしかないじゃない!』


あの時も、巴さんが撃ち殺したのは佐倉杏子だった。

ほむら(な、なんて……事……)

悲劇は、再び繰り返されてしまった……

374: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:46:12.52 ID:CqqKe4Aqo
マミ「あら……外しちゃったわ」

ほむら「えっ?」

しかし、目の前が暗闇に包まれかけた私の耳に届いたのは、抑揚のない巴さんの呟きだった。

マミ「ソウルジェムを狙ったのだけどね」

彼女は、無表情に肩をすくめた。

よく見てみれば、倒れている佐倉杏子は確かにまだ魔法少女の姿のままだ。

もし魔法少女が変身した状態で死亡してしまえば、その変身は解けるはず。

……そうか。

恐らく、強烈な一撃が直撃する瞬間、佐倉杏子は僅かながら身をよじったのだろう。

その為に狙いが逸れ、彼女のソウルジェムは助かったのだ。

ただ、大きなダメージを負った事には違いないだろうが……

375: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:46:46.44 ID:CqqKe4Aqo
マミ「まあ良いわ。
とどめをさせば良いだけだもの」

にこにこと笑うと、巴さんはこちらに向き直った。

ほむら「……!」

マミ「でも、今ので佐倉さんよりあなたの方が距離が近くなっちゃったぁ。
先に暁美さんから殺ろうかな???」

ほむら「巴さん……」

私の拘束は、未だに解けない。


スタ、スタ……


巴さんが、どこかおぼつかない足取りで向かってくる。

……駄目だ。どうやってもリボンから抜け出せない。

美樹さやかも佐倉杏子も、今はとても動ける状態ではないだろう。

私の最後の手段である時間遡行も、体を動かせなければ使えないというのもあるが、
そもそも、とある『制約』によって今の段階では行う事自体が不可能だ。

376: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:47:30.62 ID:CqqKe4Aqo
ほむら(こんな所で……)

終わるのか。

私の頬に、涙が流れる。

誰も救えず。

ほむら(まどか……)

なにも出来ないまま。

ほむら(巴さん……っ!)

絶望に、私は自分のソウルジェムが黒くなっていくのを感じた。

377: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:48:32.40 ID:CqqKe4Aqo
マミ「──さようなら」

私の目の前まで来た巴さんが、私の左手の甲にあるソウルジェムに、マスケット銃を向けていた。


ガヅッ!


しかしその時、横から飛んで来た『なにか』が、巴さんが右手に構える銃を弾き飛ばした!

ほむら・マミ『!?』

私と巴さんは、その『なにか』が飛んできた方を向く。

378: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:49:13.83 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「み、美樹さん……」

そこには、左肘をついて上半身を起こしただけの状態で、巴さんを睨む美樹さやかが居た。

彼女が、得物の剣を投げてくれたのだ。

マミ「驚いた……一年は寝た切りになるような怪我だったはずなのに」

美樹さやかの手足に開いていた無数の穴は、この短時間で半数ほどが塞がっていた。

……そうか。

忘れていたが、美樹さやかの力の源は『癒し』。

そんな彼女の回復力は群を抜いていて、だからこそ今こうして動けているのだろう。

379: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:50:06.19 ID:CqqKe4Aqo
さやか「話……ずっと聞いてたけど、さ……
マミさん、もうやめてよ……」

マミ「どうして?」

さやか「せっかく大切な人がっ、恭介……が元気になって幸せ、だったのに……
どうしてこんな……」

マミ「でも、それはそう遠くない未来に最悪の形で必ず消える。失うわ。
戦いの中殺されるか、魔女になる事によって」

さやか「それでもっ!
……嫌だよ……
せっかく、マミさんやほむら……みたいな『仲間』だって出来たのに……」

マミ「!!!
…………」

380: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:51:13.52 ID:CqqKe4Aqo
さやか「あたし、さ……やっぱり、戦いとかすっげえ不安で怖かったんだよ?
でも、最初からマミさんが支えてくれたおかげでなんとかやって来れたんだ……!
マミさんが居てくれたから、ほむらとだってここまで仲良くなれたんだっ!」

マミ「…………」

さやか「正直、魔法少女が魔女になるとか言われてもすぐにはピンと来ないけどさ……
どんな理由があっても、やっぱりこんなの嫌だっ!
マミさんに殺されるのも、マミさんが人を──仲間を殺すのも……!」

マミ「あ……」

……死人のようだった巴さんの瞳に、微かに感情が戻った。

さやか「こんなの認めない! 憧れのマミさんが仲間にこんな事するなんてありえない!!
ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

美樹さやかは泣いていた。

巴さんを睨みつけたまま、泣いていた。

381: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:51:50.56 ID:CqqKe4Aqo
マミ「け、けど、だからよ! だからよっ!!
仲間だから失いたくないっ!」

ほむら「じゃあ、なぜ殺すの……?」

マミ「だって! 失いたくないけどっ! けどっ、私達は生きていたって最後は魔女になるしかないのよ!?
そんなの嫌っ! みんながそうなるのなんて見たくない!!
だから殺すのっ! 殺して救ってあげるのっ!!
魔女になって他の魔法少女に殺されてしまうくらいなら、私の手でっ!!!」

382: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:52:31.91 ID:CqqKe4Aqo
杏子「ふ……ざけんなよ!」

ほむら「杏子っ!」

腹の辺りを押さえ、足を引き擦りながらこちらへと歩いてくるのは佐倉杏子だった。

彼女は辛うじて魔法少女の姿ではあるが、
もはや武器を実体化する魔力は残ってないのか、その手に槍は持っていない。

杏子「救うとか言って、結局自分の為っ、自分が嫌だからじゃねえかっ!」

マミ「!」

杏子「あたし達は誰もそんな事されるのを望んでねえ!
なのにお前は、てめえのエゴで仲間殺すのかよっ!」

マミ「わ、私……」

佐倉杏子の叫びに巴さんは狼狽し、視線が泳ぐ。

383: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:53:13.68 ID:CqqKe4Aqo
杏子「あたしだって、絶望に負けそうになって、なにもかも捨ててやろうと思った時は何度もあったさ……
でも、昔あんたがくれた『優しさ』が、あたしを今日まで生かしてくれたんだ。
その事を、すっごく感謝してんだぞ?」

マミ「佐倉さん……」

杏子「あたしがバカで弱かったせいで、あんたに酷い事して嫌な別れ方しちまったけど……
本当は、本当はね……」

詰まりながらも、佐倉杏子は必死に言葉を紡ぐ。

杏子「あたし、甘っちょろい……でも、どんなに辛くても、絶対に負けずに理想を求めて頑張る、
優しいマミの事が大好きだったんだ」

マミ「さ、佐倉さ……」

杏子「──そんなっ、そんなお前が仲間を殺すなんて嘘だよな!?
魔女になろうが何だろうが、お前だったら逆に助けようとするんじゃないのかよっ!
殺して、とかそんなやり方じゃなくてさぁっ!」

マミ「わ、私……私……!」

384: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:53:48.48 ID:CqqKe4Aqo
杏子「頼むよ、あたしにそんなお前を見せないでくれよ……」


ドサッ。


力尽きたのか、私達まであと二メートルほどまで来た所で、佐倉杏子は座り込んでしまった。

杏子「こんなの、嫌だよ……」

マミ「う……」

ほむら(……杏子)

385: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:54:17.60 ID:CqqKe4Aqo
さやか「マミさん、あたし死にたくないよぉ」

マミ「!!!」

さやか「恭介やまどか、マミさんやほむらに仁美……ずっと、みんなと楽しくしてたい。
それが無理なんだったら、せめて魔女になったり魔女に殺されるまではみんなと一緒に居たい……」

マミ「美樹、さん……」


ドッ……


涙を流す美樹さやかの視線を受け、巴さんの左手からもう一つの銃が落ちた。

さやか「あたし、マミさんに殺されるなんて嫌だぁっ!
そんな死に方寂しいよ! 悲しすぎるよぉっ!!!」

マミ「あ……!」

ほむら(美樹さん……!)

386: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:54:48.39 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「うん。
私も、死にたくなんかない」

杏子「あたしだって……そうだよ」

マミ「わ、私……なんて事を……!」

巴さんは、頭を抱えて両膝をついた。

そして、戦意を失ったのか、正気に戻ったのか──それと同時に彼女の変身が解けた。

387: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:55:46.28 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「大丈夫よ、巴さん。
先の事はわからないけど、みんなで頑張りましょう?」

もはや、まどか『さえ』救えれば、という考えは、私の頭から完全に消えていた。

やっぱり、みんなを救いたい。みんなで幸せになりたい。

巴さんと幸せになりたい。

ほんの僅かでも、妥協するつもりは……無い!

388: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:56:34.39 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「ほら、私達が──
私が居るから。
泣かなくても、心配しなくても良いの」

マミ「暁美、さん……」

巴さんは、涙に濡れた瞳で私を見た。

マミ「あり、がとう……」

ほむら「うん」

私は、そんな彼女にそっとほほえみかけた。

389: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:57:37.24 ID:CqqKe4Aqo
……しかし。

マミ「……でも、ごめんね。
もう、駄……目みたい……」

ほむら「えっ?」


ゴウッ!!!


突如、巴さんから激しい風が吹き荒れた!

さやか「!?」

杏子「なっ!?」

ほむら「こっ、これは……!」

まさか、魔法少女が魔女になる時の──

マミ「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

邪悪な風の中、巴さんが体を軽く後ろに反らした状態で数センチほど浮いた。

彼女の胸の前には、巴さんのソウルジェムも浮遊している。

穢れを溜め込みすぎた、『それ』が。

390: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:58:21.95 ID:CqqKe4Aqo
……私を拘束していたリボンが消えた。


ピシッ!


巴さんのソウルジェムに、無数のひびが入る。


ビッ、ビビッ……!


そして、そのソウルジェムは闇色に染まり・発光して、私達のよく知る存在の気配を徐々に放ち始める。

さやか「こっ、この魔力って、そんな!?」

その存在とは、そう……

杏子「魔女の……」


ゴウッ!!!!!


杏子「──ぅわっ!」

さやか「あぁっ!」

疲弊している美樹さやかと佐倉杏子が烈風に吹き飛ばされ、土手に強く叩きつけられた。

二人はその状態のまま、風に押し付けられて動けないようだ。

391: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:59:17.29 ID:CqqKe4Aqo
ほむら(そんな……)

このまま、巴さんのソウルジェムは完全にグリーフシードへと変わり、彼女は魔女になる。

この段階まで及んで、魔女化を止められた例は無い。

ほむら(そんな事って……)

そんな事って……!


認 め ら れ る も の か ! ! ! ! !


この段階まで及んで魔女化を止められた例は無いが、
この段階で止める事が不可能だと断言出来るほどの経験や情報も、私には無い!

392: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 21:59:56.10 ID:CqqKe4Aqo
ほむら(巴さん!)


バッ!


私は左手の盾からグリーフシードを両手に持てるだけ取り出すと、
巴さんのひび割れたソウルジェムにそれらを当てた。

ほむら「巴さんっ!」


キュゥゥゥゥゥゥゥ……


『穢れ』が、複数のグリーフシードにどんどん移り、巴さんのソウルジェムを浄化していく。

その影響か、烈風が少しだけ弱くなった。

ほむら(これなら間に合う!?)

393: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:00:33.19 ID:CqqKe4Aqo
だが、

マミ「うっ! あ、あああああああああああああああ、あああああッッッッッ!!!!!」

ほむら「っ!?」

浄化を押し返す勢いで、再び彼女のソウルジェムが黒く穢れていく!

ほむら(こっ、これでも足りないのっ!?)


ゴウウウウウッ!!


ほむら「くっ!」

駄目だ! これ以上穢れを吸わせると、今使っているグリーフシードのすべてが孵化し、魔女が生まれてしまう!

394: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:01:11.84 ID:CqqKe4Aqo
しかし、どんどん強くなる風に、私は身動きが取れなくなっていた。

下手に体を動かすと、そこから吹き飛ばされてしまいそうだ。


バッ!


私は両手を離し、それによって今まで持っていたグリーフシード達が風に飛ばされていった。

……取り出したグリーフシードはすべて使い切ってしまった。

グリーフシード自体はまだあるが、それはすべて盾の中。

また取り出そうにも、これほどの強風だと動けない。

もう手は……無い?

395: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:01:48.56 ID:CqqKe4Aqo
ほむら(嫌だ)

巴さんが居なくなる。

ほむら(嫌だ、嫌だ!)

そして、魔女になった彼女をどうする?

放っておいて逃げる?

……殺す?

ほむら(嫌、嫌だ嫌だっ! どっちも嫌っ!)

396: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:02:33.56 ID:CqqKe4Aqo
この世界での、巴さんと過ごした時間が脳裏に蘇る。

月夜の晩に、神秘的に現れた巴さん。

普段の、優しい巴さん。

戦闘での、凛々しい巴さん。

昨夜の、弱々しくて儚げな巴さん。

その一つ一つの彼女が、私の心に深く刻み込まれていた。

それは、幾多の世界で何度となく出会った『巴マミ』としてではなく、『あなた』という唯一の存在として。

397: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:03:13.75 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「……行かないで」

『あなた』が良い。

そうだ。

いくら時を繰り返そうとも、『あなた』とはこの世界でしか会えない。この世界にしか居ないのだ。

今の私は、ずっと不可解だった、巴さんに対する自分の気持ちが何だったのかを完全に理解していた。

そして確実に言えるのは、もはやなにがあっても『あなた』を見捨てる選択肢など存在しないという事。

398: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:03:57.51 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「巴さんっ! 行かないで!!
私の側に居てよっ!!!!!」

マミ「っ!?」

一瞬──

ほむら「!」

風が止んだ。


ギュッ!


その一瞬で、私は巴さんをきつくきつく抱き締めた。

ほむら「あなたを失いたくない!」

だって私、あなたを……


ドンッ!


ほむら「っ!」

すぐに再び彼女から烈風が生まれ、密着している私の体に直撃した。

ほむら「ぐ……!」

399: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:04:40.21 ID:CqqKe4Aqo
強くて脆くて、優しい。

憧れの、愛しい巴さん。

彼女を癒したい。力になりたい。支えたい。

ほむら「あなたが良いのっ!」

あなたを失いたくない。

ほむら「ずっと、一緒に居てよっ……!!!」

気が付くと、私は涙を流しながら──

400: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:05:10.77 ID:CqqKe4Aqo
巴さんにキスをしていた。

401: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:05:56.77 ID:CqqKe4Aqo
──永遠に、あなたに触れていたい──

マミ「……!」

私の腕の中の巴さんから、力が抜けた。

……今度は、完全に風が止んだ。

長い長いキスの後に唇を離し、私は彼女を見つめる。

マミ「暁美、さん……」

そこに居るのは、いつもの巴さんだった。

402: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:06:28.03 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「……お帰りなさい」

マミ「ぅ……
あぁっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!!!!」

巴さんは泣きじゃくりながら、私に抱きついた。

強く、強く。

403: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:08:36.41 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

杏子「マミの奴はどうだ?」

巴さんを、彼女の部屋に寝かせて戻ってきた私に、かりんとうを頬張る佐倉杏子が聞いてきた。

ほむら「変わらず眠っているわ。落ち着いてる」

何度となく訪れた、巴さんの家のいつものリビング。

ここに、私・美樹さやか・佐倉杏子の三人が集まっていた。

杏子「そっか」

さやか「よかった……」

例のおしゃれなテーブルの前に座って、安堵の表情を見せる二人を横目に、私もゆっくりと腰かける。

──あれから、さらに沢山のグリーフシードを使用した事もあり、
巴さんのソウルジェムの穢れは止まって彼女は救われた。

しかし、巴さんは号泣した後に泣き疲れて眠ってしまったのだ。

……いや、巴さんも睡眠不足気味だったはずだし、精神的なダメージも酷くあったに違いない。

だとすれば、それは気絶といっても良いだろう。

私達はそんな彼女を、ここ──巴さんのマンションに運んで来たのだった。

404: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:09:37.30 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「……二人こそ、身体は大丈夫?」

杏子「ああ、問題無いよ」

さやか「あたしもなんとか」

先の戦いで傷付いていた佐倉杏子と美樹さやかだが、魔力を使って回復した為、今は共に五体満足だ。

杏子「つっても、あたしは言うほど大したケガでもなかったけどね。
それより驚いたのはこいつだよ。
まさに致命傷ってレベルだったのに、凄いもんだ」

さやか「はは、なんかあたしは治癒ってのが得意みたいでさ」

美樹さやかの手足にあった沢山の穴も、今は一つの例外も無く塞がっている。

ほむら(……まどかは大丈夫かしら)

まだ彼女が眠る時間には早いし、出来れば様子を見に行きたい所だが……

今はやめた方が良いだろう。

まどかが無事だと推測出来る材料があるし、それならば私はここから動かない方が良い。

これから起こるだろう問題に備えて。

405: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:10:57.57 ID:CqqKe4Aqo
さやか「しっかしキュゥべえの奴許せないよ。
この子けしかけてきて、なにを企んでんのか……!
今度会ったらただじゃおかない!」

ほむら「杏子から話を聞いたの?」

杏子「あんたがマミを寝かせてくる少しの間に、『キュゥべえの奴に頼まれて』ってだけね」

まあ、話すにしても時間的にそれが限界か。

しかし……

杏子「だけど、面識は皆無と言っても良いあたしの話をアッサリ信じるとはね。
もちろん嘘じゃないけど、ちょっとばかり単純すぎない?」

ほむら「そうね、正直私も思ったわ」

さやか「うるさいなぁ、もーっ。
別に……えっと、佐倉さんだっけ?」

杏子「あたしの事は『杏子』で良いよ。
こっちもあんたの事、『さやか』って呼ばせて貰うからさ」

さやか「ん、わかった。
──あたしは杏子がどうとかってより、キュゥべえが信用出来ないだけ。
だってさ、あいつソウルジェムの事全然話さなかったじゃん……!」

低く、憎々しげに美樹さやかが呟いた。

ソウルジェムや魔女・魔法少女の秘密に関しては、
彼女達も巴さんが魔女に変わりかけるのを間近で目撃した為、もはや二人とも疑ってはいないようだ。

さやか「マミさんが言ってたのが本当なら、それってあたし達魔法少女にとってなによりも大切な情報だよね!?
それを隠していた奴なんか、絶対に信じられない!」

杏子「だね。
……ほむらの言ってたキュゥべえの目的とやらも、これで信憑性が増したよ」

さやか「え?」

406: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:12:19.49 ID:CqqKe4Aqo
杏子「なんでも、キュゥべえは宇宙を救うやらの為にでっかいエネルギーを欲していて……
それには、第二次性徴期の女の感情エネルギーが一番効率が良いとかだったよね?」

ほむら「ええ」

杏子「マミが魔女になりかけたあの時、とんでもない力が放出されていた。
──キュゥべえが求めるエネルギーって、ようするにそういう事なんじゃないのか?」

佐倉杏子が、鋭い瞳で私を見た。

ほむら「その通りよ」

それを受け、私は深く頷く。

407: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:12:56.17 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「……これに関しては私の推測だけれど、その為にあいつは──『インキュベーター』は、
利用出来ると目をつけた子の身体をこんな風にしているのだと思う」

杏子「いずれ、魔女にならざるをえない身体に……」

昔ソウルジェムの件をキュゥべえに問い詰めた時、
『生身のまま魔女と戦えなんて無茶は言わない』という風な話をされた事があった。

だがそれは嘘ではないにしても、
あいつが契約した子の魂を、ソウルジェムに移す一番の理由ではないと私は考えている。

嘘こそついていなくとも、事実すべてを話しているとは限らない……これは、キュゥべえの得意技だ。

408: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:14:33.35 ID:CqqKe4Aqo
さやか「なるほど……そこまでは気付かなかったな。
杏子って頭良いんだね」

杏子「キュゥべえの話を聞かされたのが河原に行く前で、その後忘れる間も無くすぐにマミのあんな姿を見たからね。
それがデカかっただけさ」

さやか「あ……
そういえばさ、二人ともありがとね。
二人が来てくれなかったら、あたし……」

ほむら「気にする必要は無いわ」

杏子「ま、あたしは別にあんたを助けに行った訳じゃないから、礼なんて言われても困るよ」

さやか「……でも、さ」

美樹さやかが、ソウルジェムを取り出した。

さやか「これが魔法少女の本体ってなら……
あたし達、もう人間じゃないって事なんだよね」

ぽつりと呟く彼女の顔には、大きな影が差していた。

そして、

ほむら「あ……」

そのソウルジェムが、ゆっくりと濁っていくのが見えた。

杏子「そういう事になるな。
──だよな? ほむら」

ほむら「…………」

さやか「ちょっと、ここでだんまりは無いでしょ?」

美樹さやかが不機嫌そうな声を上げる。

409: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:16:00.77 ID:CqqKe4Aqo
……当然、こんな流れになるわよね。

気持ちが高ぶっていた先程までならともかく、一度緊張の糸が切れたらこうなるだろうと予測していた。

ほむら(やっぱり、この場を抜け出さなくてよかった)

ここで上手く美樹さやかに対応しなければ、取り返しのつかない事態になる可能性があるからだ。

……いや、それは一見落ち着いた様子の佐倉杏子にしたってそうだろう。

ほむら(……大丈夫。
大体、まどかから離れてかなり時間が経っている。
ならば、今すぐに彼女の元に駆けつける意味はほとんど無い)

もしキュゥべえに接触されて、彼女が契約をするつもりならとっくにやっているはずだし、
そもそも今のまどかにはすぐに叶えたい願いなど無いはず。

また、だからといって『なんでも願い事を叶える』と迫られ、
こんな短時間で願いを決められるほど、まどかは決断力があったり短慮な人間ではないはずだ。

ほむら(……これが、他人が関わってくると、
一転して普段の彼女からは信じられないほどの行動力・決断力を見せてくるのだけど)

それは逆に言えば、自分一人の問題だけならばそんな力は無いという事でもある。

ほむら(……しかし、『はず』ばかりで落ち着かないわね)

これは、ただの私の弱さ。

それを排除して見れば、現状を冷静に考えた上でのこの推量に間違いは無い自信がある。

そして、まどかの無事が確信出来ていて他の仲間が危機に陥っていれば、私はそちらを助けようと決めたのだ。

ほむら(私は、もう迷わないわ……!)

410: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:16:57.08 ID:CqqKe4Aqo
さやか「ねえっ、ほむら!?」

ほむら「……この身体がただの入れ物になってしまった以上、そうね」

さやか「っ……!」

考え方は色々あるだろう。

しかし『人間』という生き物は、この肉体があり、
それに心が──魂が宿っているからこそ『人間』なのだと私は思う。

その二つがソウルジェムという宝石みたいな物に一纏めにされた私達は、やはりもはや『人間』とは呼べない。

さやか「……こんな大事な事知ってたのに、なんであんたも話してくれなかったのよ?」

ほむら「河原で巴さんにも言ったと思うけど……
そこまでいっぺんに話すと、理解が大変で混乱してしまうと思ったから……」

さやか「だからって、だからってこんな……!」

ほむら「ごめんなさいっ!」

さやか「わっ!?」

私は、美樹さやかに大きく頭を下げた。

411: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:17:39.38 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「理由はどうあれ、嫌な思いをさせてしまったのなら謝るわ。
だから……お願いだから早まらないで!」

さやか「ちょっ……」

ほむら「自暴自棄にならないで。魔女に……ならないで……!」

さやか「や、やめろって!
なんかあたしがいじめてるみたいじゃんっ!」

杏子「違うのか?」

さやか「違ぁうっ! てか、なにニヤニヤしてんだっ!
ほむらも頭上げろぉ!」


ぐいっ!


と、美樹さやかが私の両肩を掴んで上半身を上げさせる。

さやか「……!」

そのまま私と目があった彼女が、目を見開いて絶句した。

412: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:18:22.65 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「美樹、さん……?」

さやか「……わかったよ」

ほむら「えっ?」

さやか「信じるよほむらの事。
ってゆーか、そんな悲しそうな顔されたら信じざるをえないし」

ほむら「……顔?」

私は自分の顔に手をやった。

……その感触でわかるほど、私の表情は歪んでいた。

自分では気付かなかったが、どうやらよほど酷い顔をしていたらしい。

さやか「ただしっ!
ここまで来たからには全部話して貰えるんだよね?」

ほむら「ええ。
……といっても、ソウルジェムに関しては巴さんが話していた事ですべてなんだけど……」

さやか「そ、そうなのか……」

413: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:19:05.35 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「ただ、キュゥべえの事も含めて、一度すべての情報を整理する必要はあると思う」

さやか「……確かにね。
ハッキリ言って、この一日二日で色々ありすぎ。
もう、何がなにやらでイライラするよ!」

美樹さやかが不愉快そうに唇を噛みしめるが、ふと苦笑して私を見た。

さやか「──そう考えると、あんたの判断は正しかったのかもだね」

ほむら「えっ?」

さやか「いっぺんに話すと混乱してしまうと思ったから云々。
確かにあれもこれも一気に話されてたら、理解出来ないを通り越して頭パンクしてたかもしれない。
で、あたしもマミさんみたいになってたかもね」

その可能性は、ゼロではない。

さやか「まあ、なんの事件も起きずに済んだ可能性もあるけどさ。
それ言い出したらキリが無いし、こうしてみんな無事なんだからやっぱりそれでよかったんだよ、うん」

早口気味に言う彼女は、どこか自分に言い聞かせているようだった。

414: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:19:57.85 ID:CqqKe4Aqo
……いや、実際そうなのだろう。

そうやって『これでよかった』としないと、この現実に耐えられないから。

さやか「でも……そっか。あたしもう人間じゃないんだ。
だって、話聞く限りだと、ゾンビになっちゃったようなもんじゃん……?」

もはや、どうやっても私達の身体は元には戻らないのだから。

杏子「……ゾンビ、ね。上等じゃん」

これまで黙っていた佐倉杏子が、口を開いた。

さやか「えっ?」

杏子「ソウルジェムが魔法少女の本体ってーなら、つまる所こいつさえ無事なら、
この身体は刺されようが貫かれようが死にはしない訳だ? それこそ頭が吹き飛んじまおうがさ」

ほむら「そうなるわね。
身体が損傷しても、魔力で治せる訳だし……」

ただ、例えば肉体が完全に消滅したりしたら、
その肉体を治す前に絶望して魔女化してしまうかもしれない。

どれだけ精神力の強い人でも、
度を超えた自分の状態に動揺・動転して、それが抑えられなくなり呑まれてしまったりするだろうし、
第一それほどの損傷を回復させるだけの魔力が残っているかもわからない。

色々と考えてみると、理論上は可能でも、事実上不可能な状況もあるのではないかとは思うが……

415: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:21:10.45 ID:CqqKe4Aqo
杏子「だったらさ、こうなっちまったのはむしろメリットだと考えれば良いのさ」

さやか「メ、メリット!?」

杏子「だってそうじゃん?
ソウルジェムをやられなければあたし達は不死身な訳だし、
そいつを知った今なら、それを踏まえた戦い方だって出来るんだ」

そう言う佐倉杏子は、笑顔だ。

杏子「大体、魔法少女になったおかげで今まで好き勝手やってこれたんだしね。
そして、これからもそのつもりだ。
それを考えれば、少々の不満なんざ屁でもねえ」

さやか「少々の不満って……!
あんた現状わかってんの!?」

杏子「わかってるから言ってんのさ。
こうなった以上、泣こうが喚こうがどうしようもないし、どうにもならないんだって事をな。
──だよな?」

ほむら「そうね。
ただ、未契約の子がキュゥべえに頼めば、あるいは……だけど……」

杏子「そんなお人好し、居る訳ないな」

……唯一、まどかなら、もしかしたら頼めば助けてくれるのかもしれないが……

ほむら(──いや、たとえそうだとしても、それは私が絶対に許さない)

これは考えるだけ時間の無駄だ。

416: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:21:58.62 ID:CqqKe4Aqo
杏子「つー訳だから、うじうじ悩んで下向くより、現実を見て今の良い所捜した方が得だろう?
どっちみち、一生この身体で生きてかなきゃいけないんだからさ」

さやか「……うん。わかってるよ。
わかってるけどさ……」

杏子「それにさ、あたしは契約の時にソウルジェムの話をされていても、願い事はやめなかったろうね。
……あの時は、それだけ叶えて欲しい願いがあったから」

さやか「……!」

杏子「だからどっちにしろ、キュゥべえと出会った以上あたしの運命は絶対に変わらなかったと思うよ」

さやか「…………」

杏子「だったらこの現実は、自分で選んだ自己責任の結果だと割り切って生きるのが一番だろ?
そりゃあキュゥべえの奴はムカつくが、それはそれだ」

さやか「そう……だね」

……佐倉杏子の言葉に、喧嘩腰だった美樹さやかの放つ空気が徐々に和らいでいく。

417: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:22:47.80 ID:CqqKe4Aqo
さやか「うん、あたしもきっとそうだ」

そして、ゆっくりと漏らす彼女の声は、穏やかなものだった。

さやか「そりゃ、悩みはしただろうけどさ……
こうして魔法少女になる未来は変わらなかったと思う。
あたしの願いも、なにがあっても絶対に叶えたいものだったもん」

ほむら「……私もよ」

杏子「おっ、同類かい?
なら、あたしの言ってる事はわかるはずさ」

ほむら「それに、美樹さんには誰よりも大切な人が居るでしょ?
……ううん、その人だけじゃない。
家族とか友達とか、色々な人達の為にも自分を諦めちゃ駄目よ。
もしそんな事をしたらみんな悲しむわ。
もちろん、私だって」

さやか「……うん。
こんな身体になっちゃったけどさ、でも、だからこそ出来る事だってあるはずだよね?」

そう問う美樹さやかは、とても不安そうな顔をしていた。

今の言葉を肯定して欲しいのだろう。

418: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:23:38.92 ID:CqqKe4Aqo
杏子「たりめーだろ。魔法少女なんだからさ」

ほむら「杏子の言う通りよ」

誰だって不安な時・心が潰れそうな時は、優しくされたり、優しい言葉をかけて貰いたいものだ。

ほむら「人間ではなくなった分、私達は大きな力を手に入れた」

私にはわかる。どんなに強がっても、私もずっとそうだったから。

ほむら「この力を使えば、大切な人達を守る事が出来るはずよ。
失ったものは確かに大きすぎるけれど、でも、その代わりに手に入れたものだって決して小さくはない」

だから、私の言葉なんかであなたの心が少しでも楽になるのなら……

ほむら「自分の頑張り次第で、失ったもの以上の大きな『なにか』を、
これからさらに手に入れ続ける事だって出来るはず」

いくらでも肯定してあげたい。

ほむら「私は、そう信じてる」

さやか「ほむら……」

ようやく──

さやか「うんっ!」

美樹さやかに笑顔が戻った。

ほむら(……よかった)

杏子「…………」

419: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:24:37.85 ID:CqqKe4Aqo
さやか「──あっ!」

しかし突然、美樹さやかが横を向いて青い顔で叫んだ。

その先には、時計。

さやか「あ、あたし、家に連絡とかしてない……また怒られる……」

時間は、もう22時を回っていた。

美樹さやかが慌てて携帯を取り出す。

さやか「うっわ、着信めっちゃ来てるしっ!」

話によると、今日に限って学校でバイブにしてからそのままにしていて、着信にまったく気付かなかったらしい。

さやか「えっと、色んな事の話の整理? まとめ? って明日にして貰って良い!?」

ほむら「そうね。本音を言えば私もその方が助かるわ。
今日はさすがに疲れちゃったし、どうせなら巴さんも交えて話したいから」

丁度明日は土曜日で学校も無いので、尚更都合が良いだろう。

さやか「じゃあそうしようっ!
んじゃ、あたしは帰るねっ!」

パタパタと慌ただしく美樹さやかは出て行き、私と佐倉杏子はリビングに二人きりになった。

420: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:25:09.30 ID:CqqKe4Aqo
杏子「……そのまとめとやら、あたしも混ざらせて貰うよ。
馴れ合うつもりは無いけど、このままサヨナラじゃあモヤモヤしてしょうがないからね」

ほむら「ええ、それはこちらからお願いしたいくらいだから、ぜひその場に来て頂戴」

杏子「──ああ。そういや、ワルプルギスの件が宙ぶらりんなままだったか」

思い出したように佐倉杏子が呟く。

そう。ワルプルギスの夜との戦いに佐倉杏子の力も借りる為、ここで彼女に去られては困るのだ。

421: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:25:44.31 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「でも……ありがとう」

杏子「あん? なんだ急に?」

ほむら「私一人だったら、さっきの美樹さんを上手く落ち着かせられたか自信が無い……
フォローしてくれて、凄く感謝してる」

杏子「別にフォローとかそんなつもりは無かったんだけどね。
ただ、同じ魔法少女が同じ事でヘコんでんのを見てらんなかっただけさ」

この言いようだと、やはり彼女もショックを受けていたのだろう。

ほむら(……当然よね……)

杏子「あと、あんたらにはキュゥべえに踊らされたからとはいえ、襲っちまった借りがあるからね。
さやか自身には手は出してないが……まあそれは置いといて、だ。
河原ん時は結局なにも出来なかったようなもんだし、それを返す意味も含めてね」

ほむら「理由はどうでも良いの。あなたが居てくれてよかったわ」

杏子「……やめろよ。くすぐったいな」

佐倉杏子が、どこか居心地が悪そうに視線を泳がせた。

ただ、やや赤くなった頬を見る限り、不機嫌になった訳ではないようだ。

422: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:26:40.54 ID:CqqKe4Aqo
杏子「あとさ、さっきさやかに言ったあんたの言葉……」

ほむら「?」

杏子「素直に同意出来ない部分はあったけど……
けどさ、嫌いじゃないよ」

噛みしめるように彼女は言った。

ほむら「……杏子」

杏子「──さて! あたしも行くよ」

一瞬の間を置いて、彼女は一転して元気な声を上げた。

杏子「集まる場所はここで良いのか? 時間はどうするんだい?」

ほむら「あ……場所はそのつもりだったけど、時間は決めてなかったわね。
後で美樹さんとメールでもして決めるわ」

この家を使う許可はもちろんまだ巴さんに取っていないが、万が一駄目ならば私の家に行けば良い。

杏子「まあバタバタしてたしな。
んじゃあ……そうだな、朝にでもまた来るよ」

ほむら「泊まる場所はあるの?」

杏子「……そんな事までお見通しなのか。あんたって本当に不思議な奴だね。
なーに、いつも通りなんとかするさ」

ほむら「……今晩は、ここに泊まっていけば良いんじゃないかしら?」

杏子「ん? そりゃあ、寝床がさっさと決まるのは嬉しいが……」

423: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:27:22.00 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「まあ、私が言うのも変な話だけどね。
でもあなたなら、巴さんも良いって言うと思うわ」

杏子「……そうかな」

ほむら「そうよ。
むしろ喜んでくれるわよ」

杏子「ん……情報通のあんたが言うならそうなのかもね」

彼女はどこか嬉しそうな表情を見せると、

杏子「わかった。じゃあそうさせて貰うか」


ドサッ。


その場で横になった。

424: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:27:58.08 ID:CqqKe4Aqo
杏子「で、あんたはどうするんだい?」

そのまま彼女は懐からさきイカを取り出すと、それを頬張りつつ片腕を枕代わりにして私に問う。

ほむら「……私は、巴さんについているわ」

それは彼女が心配というのもあるが、なにより……

河原での事が忘れられなかった。

彼女の剥き出しの感情に触れ、肉体に、唇に触れ……

そのすべてが私の感覚を捉えて、離れなかった。

──巴さんの側に居たい──

425: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:28:30.93 ID:CqqKe4Aqo
杏子「……だな。マミには『人のぬくもり』って奴が必要だ。
今のあいつには尚の事、な。
悔しいけど、それはあたしよりもあんたのが適任だろうよ」

そう呟いてほほえむ佐倉杏子は、少し寂しそうだった。

ほむら「えっ?」

杏子「いや、なんでもない。
ほら、そうと決まったらさっさと行った行った。マミの奴を頼むぞ」

ほむら「ええ」

426: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:29:29.82 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

闇の中、月明かりが射す部屋のベッドで巴さんは眠っていた。

ここは、昨日倒れた私が巴さんに運ばれた部屋だ。

ほむら(あの時と逆ね)

彼女を起こさないようにそっと近付き、私はベッドに腰掛ける。

巴さんは──綺麗だった。

元々美人ではあるのだが、微かな月光に照らされて、その美しさは何倍にも増しているように見える。

そして、表情。

大人びている中に幼さも見られ、安らかさと切なさが混じり合って、瞳の端にうっすらと涙が浮かんでいる。

それは造形の美しさだけではなく、強く・脆く、でも繊細で──

とても複雑で魅力的な彼女の内面が滲み出ていて、より色香を高めていた。

427: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:30:07.69 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「…………」

私は唾液を飲み込みながら、彼女の目尻の涙を指でそっと拭う。

その指が微かに震えている。

私はどうしたのだろう? 彼女の美しさに圧倒されているのだろうか。

いや……それもあるが、嬉しいのだ。

こうして彼女が生きている事が。

一度は本気で失ってしまうと思ったこの人に、また触れられる事が。

だから、私の身体が、心が。歓喜に震えているのだ。

428: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:30:46.31 ID:CqqKe4Aqo
マミ「ん……」


ドキン。


巴さんの閉じられたまぶたがわずかに揺れ、私の心臓が跳ねた。

ほむら「…………」

こうして、反応があるのはなんと幸せなのだろう。

ほむら「巴さん……もう居なくなっちゃ嫌だよ。
死んじゃ、嫌だよ……」

巴さんの目尻から涙が無くなると、今度は私の目から流れ出した。

ほむら「う、っく……」

それは次から次へと溢れ、嗚咽と共に止まらなくなった。

マミ「ん……
……暁美──さん?」

その声の為か、巴さんが目を覚ましてしまった。

429: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:31:22.70 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「ご……ごめんなさいっ、起こして、しまって……っ」

私は慌てて身をよじり、巴さんの視界に自分の顔が入らないようにする。

マミ「……泣いているの?」

だが、当然そんなもので誤魔化せる訳は無かった。

巴さんはゆっくり上体を起こすと、そっと私の頭を撫でた。

ほむら「あ……」

マミ「ごめんね……私のせいで凄く迷惑かけちゃった……」

……どうやら、彼女にはきちんと記憶があるようだ。

ほむら「本当、よ……」

マミ「泣かないで。
暁美さんが泣いていたら、私まで悲しくなっちゃう……」

ほむら「!」

その言葉に、私は怒りが沸き上がった。

430: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:32:08.29 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「なによその言い方。他人事みたいに……!」

マミ「えっ?」

ほむら「誰のせいで泣いてると思ってるのっ!? あなたのせいじゃない!
心配したのよ!?」

マミ「ごっ、ごめんなさい、そんなつもりじゃ……
謝っても謝りきれないような事、しちゃったよね……」

巴さんは悲しそうに俯くが、しかし私の怒りはどんどん大きくなっていく。

これは別に、本当に彼女の言動が気に入らなかったとかそういう訳ではない。

落ち着いた場所で、巴さんが無事に動き・喋っているのを──生きているのを見れた事で緊張の糸が切れ、
溜まっていた感情が爆発したのだ。

だからさっきの巴さんの言葉は、こうなってしまったただのきっかけ。

でも、私は溢れるこの感情をあえて止めようとしない。

怒っている事は嘘ではないから。

431: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:32:50.00 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「本当よ。
あなたは馬鹿よ。たとえ何を聞いたのだとしても、あんな風に勝手に思い詰めて勝手に絶望して!
言ったでしょ!? 苦しかったら人に助けを求めろって! 私はあなたの力に、支えになるからって!」

マミ「……うん」

ほむら「あなたは最低よ。どんな理由があっても仲間を殺そうとするなんて最低だわっ!」

マミ「あ……ご、ごめ……」

私の本気の怒りに触れていくにつれ、巴さんの動揺もどんどん大きくなっていくのがわかる。

良い気味よ。

ほむら「悲しい? これに関しては少しは苦しみなさい。
自業自得だわ!」

私は立ち上がると、巴さんに背を向けた。

マミ「あ、や、やだ……!
待って、行かないで……」

432: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:33:26.43 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「──でも」

マミ「えっ?」

しかし私はすぐに彼女の方へと向き直ると、


バッ!


マミ「きゃっ……」

飛びかかるようにして巴さんに抱き付いた。


ドサッ!


その勢いで、私達はベッドに倒れ込む。

433: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:34:17.07 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「……か……った」

マミ「暁美……さん?」

彼女の首筋に顔を埋めている為、私にはおどおどとした呟きしか聞こえない。

ほむら「よかった。あなたが無事で……」

一度は止まったはずの嗚咽が、また漏れ始める。

ほむら「悲し、かったんだから。巴さんに襲われた事が。
怖……かったんだから。巴さんが居なくなるっ……事が……!」

マミ「ごめ……んなさい」

ほむら「こうして戻ってきてくれて。生きていてくれて……
本当によかったっ!」

マミ「ごめんなさいっ……!」

月明かりの中でそのまましばらく──私と巴さんは、抱き合ったまま泣いた。

434: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:34:54.20 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

マミ「私ね、魔女になりかけた時……
暗い暗い『闇』の中に居たの」

ほむら「うん……」

二人ともが少しだけ落ち着いた後、巴さんがぽつりと語り出した。

435: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:36:04.10 ID:CqqKe4Aqo
……………………

…………

マミ「『闇』は、私を呑み込もうと濁流しながら、語りかけてくるの。

『生きていても、お前が望むものは永遠に手に入らない』

『死にたくないという気持ちを誰よりも知っている癖に、死を望まない仲間を殺そうとする──
愚かで救いようのない大罪を犯しておいて、まだのうのうと生き続けるつもりか』

……って。

最初のはともかく、二つ目はその通りよね……

そして、『闇』が私の顔まで浸食して来た時、
心が無くなっていくような感触と共に、もう駄目……もう良いや──なんて思ってしまった。

こんな人生なんて、もう捨てちゃおうって。

でもね、ふと──みんなの事が頭に浮かんだの。

436: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:37:06.17 ID:CqqKe4Aqo
美樹さんは、みんなと……私なんかとも、死ぬまで一緒に居たいと言ってくれた。

佐倉さんは、私なんかを大好きだって言ってくれた。

暁美さんは、『私が居るから大丈夫』って、私なんかに優しく笑いかけてくれた……

それを思い出したら、『闇』に抗う力が湧いてきたわ。

何がなんでも死にたくなくなった。生きたくなった……!

でも『闇』は強くて、やっぱり私は負けそうになったんだけど、その時あなたの声が聞こえたの。

強く、強く私を求める声が。

その後、上から一筋の『光』がそっと私に向かって伸びてきた。

私は必死でその『光』に手を伸ばしたわ。

『闇』は激しく抵抗したけれど、私だって死に物狂いにもがいた。

そしてなんとか……やっと、その『光』を掴む事が出来た。

すると『闇』は霧散して、私の身体はまばゆい『光』に包まれ──」

437: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:37:45.29 ID:CqqKe4Aqo
……………………

…………

マミ「気が付けば、目の前にあなたが居た」

ほむら「巴さん……」

マミ「……私ね、人からなにかを求められたり、頼られたり……期待されるのって、重荷に感じる時があったんだ。
ふふっ、勝手よね。
人に嫌われるのが怖いから真面目な先輩ぶって、いつもみんなに良い顔しておいてこれだもの」

ほむら「そんな事……」

しかし、巴さんは笑顔で続ける。

マミ「でもね、『闇』の中ですべてを失いそうになってようやく気付いたの。
期待されるって、頼られるって、どれだけ嬉しい事なんだろう。幸せな事だったんだろうって」

この笑顔に、曇りは一切無い。

マミ「私は、誰かに甘えたい……誰かに優しくするんじゃなくて、優しくしてくれる人が欲しいと思っていたけれど、
人からそんな風に求められる事で、その願いは叶っていたのよ」

ほむら「えっ?」

438: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:38:19.20 ID:CqqKe4Aqo
マミ「だって……
──えっと、自分で言うのも何だけど……
例えば、美樹さんは私に憧れてくれているみたいよね」

確かに、それは美樹さやか自身が常々公言しているし、河原でも言っていた。

マミ「佐倉さんも、
『魔女になろうが何だろうが、お前だったら逆に助けようとするんじゃないのか~』
とか言ってくれたのを考えたら、私になにかしらの期待をしてくれていたみたい」

少し照れくさそうに、でも嬉しそうに巴さんは言う。

439: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:39:25.44 ID:CqqKe4Aqo
マミ「今にして思えばね、そんな風に私に憧れ・期待してくれる人が居てくれたから、
私はこうして生きて来られたんだと思う。
その人達は、私に『期待する』という気持ちをプレゼントし、逆にずっと助けてくれていたのよ」

ほむら「…………」

マミ「その人達が居なかったら、
私は『寂しい』とか『苦しい』を通り越して、とっくに自殺していたんじゃないかしら……」

彼女が、伏し目がちに呟く。

マミ「だって、期待してくれるって事は、私の存在を認めてくれているって事じゃない?」

ほむら(そうか……)

重荷に感じる時があったとしても、それは彼女にとって、
実は寂しさを埋める大切でかけがえのない贈り物だったのだ。

マミ「だから、私が求めるものは昔から与えられていたんだわ。
私はそのありがたさにずっと気付かず、ただただ自分が可哀想だと、悲劇のヒロインを気取って……
素敵なプレゼントをくれていた優しい人達に、知らないうちに甘えさせて貰っていたの」

再び私を見つめてくる巴さんは、とても澄んだ瞳をしていた。

ほむら「巴さん……」

440: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:40:09.97 ID:CqqKe4Aqo
マミ「……そして、今は暁美さんも居てくれる」

ほむら「……!」

マミ「私を支えるって──永遠に、私に触れていたいって言ってくれるあなたが」

そっと、彼女が私の肩に寄りかかって来た。

マミ「私に期待し、憧れてくれる人が居て、支えてくれる人も出来た」

ほむら「…………」

マミ「ああ……私って、幸せだったんだ。幸せなんじゃないのって──
そう気付いたら、絶対に死にたくなくなった。生きたくなったの。
……ふふっ、私って大馬鹿よね。どうしてこんな簡単な事に今まで気付かなかったのかな」

ほむら「巴、さん……」

441: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:40:54.85 ID:CqqKe4Aqo
──巴さんが魔女にならずに済んだ直接にして最大の理由は、
彼女が『闇』から帰ってきた後にグリーフシードを沢山使ったからだ。これは間違いない。

だが、佐倉杏子の言葉が、美樹さやかの叫びが……私のキスが。

その一つ一つは、彼女が救われる為のただの小さなきっかけにすぎなかっただろう。

けれど小さなそれらが合わさった結果、巴さんに『闇』と戦う力を与え、
グリーフシードを使用する隙を作り上げるほどの巨大な力となった。

あの時私達三人のうちの誰が欠けていても、どの行動が欠けていても、巴さんは助からなかったのだ。

442: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:41:36.51 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「……私はあなたを支えてみせるけれど、私にだってあなたが必要だわ」

マミ「えっ?」

ほむら「だから、もうどこにも行かないで。
たとえ『闇』がまた巴さんを狙っても、今度はあなたに近付ける事すら許さないから……
ずっと、側に居て」

マミ「暁美さん……!」

巴さんが、まるで満開の花のような笑顔を浮かべた。

マミ「私なんかにそう言ってくれるなんて……」

ほむら「さっきから気になっていたけど、『私なんか』とか言っては駄目よ。
……って、昨日も似たような事を言ったかしら……?
とにかく、あなたはもう少し自分の価値を──自分を信じなさい」

マミ「ん……その通りね。ごめんなさい。
ありがとう」

ほむら「……うん」

443: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:42:23.12 ID:CqqKe4Aqo
マミ「けど……こうやってあなたとわかり合えてよかった。
最初から、それをずっと望んでいたから……」

ほむら「最初?」

マミ「ええ。
あの、初めて出会った時から……」

ほむら「ああ……」

それは、あの夜の事だ。

室内と外という違いはあるが、今と同じ月明かりの下での、この世界で彼女と初めて出会った夜。

ほむら「……!」

唐突に──私は思い出し、気付いた。


ほむら『……暁美ほむらよ。
よろしく』

マミ『……こちらこそ』


その時の握手の後に彼女から感じた、当時の私にはわからなかった『感情』。

ほむら(そうか……)

それがなんだったのか、今ようやく理解出来た。

444: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:43:05.70 ID:CqqKe4Aqo
縄張り争い等の問題で、本来心を許してはならない・許さない方が良い──

しかし、同じ魔法少女だからこそ一番心を許したい存在と握手をする事で、彼女は期待してしまったのだ。

どれだけ接近しても、握手という肌と肌を重ねる行為までしても、敵意のまったく感じられない私に。

大きな期待を。

この人とは、この人とならわかり合えるんじゃないか。この人とわかり合いたい、と。

でも巴さんは、その時にその気持ちは口に出せなかった。

……後日の学校の屋上で、
私と仲良く・仲間になろうとやって来た彼女は、ありったけの勇気を振り絞って頑張ったのだろう。

でも、私も同じ気持ちだったのに、
弱くて、素直になれない私は愚かにもそれを突っぱねてしまったのだが……

445: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:43:43.13 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「……私だって同じ」

マミ「えっ?」

ほむら「私だって……
みんなと、あなたと。出来ればもっと早く仲良くしたかった。
苦しい時はずっと誰かに助けて欲しかったし、優しい言葉だってかけて貰いたかった」

それは、身を切られるような現実を繰り返してきた為に、
求めても決して与えられるものではないと自制していたが……

ほむら「けれど、素直に求めるなんて、それを口にするなんて……
なかなか出来ないのよね」

マミ「……うん。とっても難しいわ」

怖いから。

結局それなのだ。

自分の弱さを見せたり、誰かにすがろうとする事で人が離れてしまうのが怖いのだ。

巴さんはその過去故に、少しでも接点が出来た人との関係を失うのを過剰に恐れすぎてしまうから。

私は、どれだけ求め・訴えても、誰にも決して信じて貰えないどころか、憎しみすら向けられたりしたから。

自分の気持ちに素直になれなくなってしまった。

446: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:44:40.68 ID:CqqKe4Aqo
そっか。

私と巴さんは、どこか似ている所があると思っていたけれど……

似ている、なんてものじゃない。

ほむら「……私とあなたは同じなのね」

今まで巴さんと関わる事で、それは十分わかり得たはずなのに、どうして今まで気付かなかったのだろう。

もちろん、すべてがすべて一緒などとは言わない。

けれど、深い所では同じ。

そして、

マミ「でも、今はあなたの側には私が居るわ。
私、どんなにわがまま言われたって、理不尽な事をされたって……
もう暁美さんから離れるつもりなんてないもの」

ほむら「そうね。
けれど、それは巴さんもそう。あなたには私が居る」

今はきっと……

ほむら「これからは、いくらでも『巴マミ』を見せても良い……
ううん。
むしろ私には──私だけには見せて欲しい」

二人の『想い』も同じなのだ。

447: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:45:32.09 ID:CqqKe4Aqo
マミ「……うん。私も、あなただけに見せたい。
それだけでもう……満足だわ」


ドクン。


そう言って、まるで女神のような笑顔を見せる巴さんに、私は自分が徐々に理性を失っていくのを感じた。

ほむら(……やっぱり、そうだったんだ)

私だって、こんな欲望にかられた経験くらいはある。

でも、こうやって『誰か』に対してその欲望が湧いたのはあなたが初めて。

まどかにも、当然他の誰にも湧いた事は無かった。

これは、どちらの方が上だとかそういう事ではなくて。

448: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:46:10.29 ID:CqqKe4Aqo
大切な一番の友達には、一番の友達への深い気持ちが。

恋をしてしまった相手には、恋をしてしまった相手への深い気持ちがあるだけ。

まったく別物で違った、だけどなによりも尊く・愛おしい想いが同時に存在している──

ただそれだけなのだ。


ぎゅっ。


ほむら「……ずっと離さない」

私は、彼女をきつくきつく抱き締めるとキスをした。

そして……

449: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:46:52.91 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

ほむら「私ね、未来から来たんだよ」

マミ「未来……?」

ベッドに座ってしばらく二人で窓から月を眺めていたその最中、
呟いた私の言葉に、隣のマミさんがこちらを向いた。

マミさんの綺麗な髪が私の裸の肩に擦れ、ちょっとくすぐったい。

今、私はいつものヘアバンドを外しているし、彼女も髪をほどいている。

見慣れない髪型のマミさんも、やっぱり美しかった。

ほむら「うん」

450: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:47:27.56 ID:CqqKe4Aqo
……………………

…………

私は、ゆっくりと話し始めた。

自分がなにを目的に動いていて、なにを考えているのか。

遠い世界でのまどかとの約束や、私が同じ時を繰り返している事も……全部。

今なら──彼女ならばそのすべてを信じ・受け入れてくれると思ったし、一緒に背負って欲しくなったのだ。

自分の運命を、マミさんに。

ほむら(最初は……
あなたの力に、支えになって、あなたが側に居てさえくれれば満足だと思っていたけれど)

愛しい人とは、お互いに求め合い、支え合う。

その両方がどれだけ嬉しいか。

心と身体が一つになる事で、私は学んだ。

451: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:48:08.80 ID:CqqKe4Aqo
……………………

…………


マミ「…………」

私の話が終わり、彼女は黙り込んだ。

ほむら「やっぱり……信じられないかしら」

マミ「ううん、そんな事ない。信じるわ。
むしろ今の話を踏まえて考えたら、ほむらさんのこれまでの行動のすべてに納得がいくもの」

そう言ってくれるマミさんから、嘘はまったく感じられない。

話して……よかった。

ほむら「……ありがとう」

私は、自分の頭を彼女の肩にそっと乗せた。

 

453: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:50:02.75 ID:CqqKe4Aqo
マミ「辛かったのね……」

ほむら「うん。辛くて苦しくて、何度諦めようとしたかわからない。
でも諦められなかった。
キュゥべえの思い通りになんてさせたくないというのもあったけど、なによりも……
まどかとの約束は、絶対に、絶対に守りたかったから……!」


ギリ……


マミ「……そんな事しないで」

血が滲むくらい唇を強く噛みしめる私を、マミさんが優しく咎めた。

ほむら「……ごめんなさい」

マミ「でも、今回は大丈夫なのね? いけそうなのよね?」

ほむら「うん。
みんなとこれだけ良好な関係を築けたのは初めて。
そもそも、みんながここまで無事に生きていてくれる事自体ほとんど経験が無いもの」

マミ「そう……
じゃあ、なんとしてもこの時間軸で決めてしまわないとね」

その言葉に、私は大きく頷いた。

ほむら「まどかを魔法少女になんかさせない。
誰も死なせない。
全員で幸せになる。
なってみせるわ……!」

454: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:51:04.51 ID:CqqKe4Aqo
マミ「うん。
……話してくれてありがとう」

ほむら「私の方こそ、聞いてくれて、信じてくれて嬉しいわ。
でも、こうなったからには、あなたにも私の運命を半分背負って貰うつもりだから……大変よ?」

まどかに対しては、私は影で良い。

もちろん、出来れば友達でい続けたいし、一緒に遊びに行ったり楽しくお喋りをしたいな、と、
友達として求めてしまうものはあるけれど……

たとえまどかがそう思わなくても、私が彼女の事を一番の友達だと思っていれば、それで十分だ。

彼女を救えさえすれば、それだけで満足出来る。

その結果嫌われても、離れ離れになったとしても構わない。

それほどの固い固い覚悟と決意がある。

でも、マミさんに対しては違う。

彼女には私の側に居て私を支えて欲しいし、彼女を支えたい。

その分、マミさんには絶対にまどかに対するような固い覚悟は持てないし、逆もまた然りだ。

455: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:51:58.65 ID:CqqKe4Aqo
ほむら(やっぱり、彼女達への想いは別物)

そして、誰よりもなによりも大切な二人。

ほむら(私は幸せだわ)

これほどまでに強く・深く想える人が、同時に二人も存在してくれているのだから。

456: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:52:50.16 ID:CqqKe4Aqo
マミ「ふふっ、わかってるわよ。
むしろ、そうさせてくれなかったら怒るわ。
……一緒に頑張りましょうね」

ほむら「うん、マミさん」

私と彼女は再び横になって向かい合い、お互いの両手を結んだ。

ほむら「……愛してる」

私達はこのまま、明け方まで色々な事を語り合った。

457: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:55:08.88 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

結局深夜の深い時間まで起きていた為、私とマミさんが目覚めたのは昼過ぎだった。

杏子「やーーーーっと起きたかお前ら」

そんな私達を迎えたのは、横になってグミを頬張りながらリビングでくつろいでいた佐倉杏子。

だが彼女は、マミさんの姿を見ると体を起こし、胡座をかいて座った。

杏子「で、だ。えっと……その……
マミ、邪魔してるぞ」

マミ「ええ、ほむらさんから聞いているわ。
気にせずのんびりしてね」

どこかバツの悪そうな佐倉杏子だったが、
マミさんは彼女がここに居る事がとても嬉しいといった様子の笑顔でそう言った。

杏子「……うん」

しかしマミさんはすぐにその笑顔を曇らせ……

マミ「でも、あの……
佐倉さん、昨日は……」

杏子「──っとっと! そいつは後にしようぜ。今日はその為にも話をするんだろ?
なら、その話はさやかの奴が来てからでも遅くはないはずだ」

なにやら言いかけたマミさんを、佐倉杏子が止めた。

マミ「……わかったわ」

458: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:56:20.42 ID:CqqKe4Aqo
杏子「つ、つーかさ、結局その集まりとやらはいつ始めるんだよ?
あたし、朝から待ちくたびれちまったぞっ」

ほむら「──ああ、それなら……」

──今日、ここで四人集まって話をしたいという旨はもうマミさんに軽く伝えているし、
この部屋を使わせて貰う許可も取ってある。

集合時間は、『昼前辺りにでも』とひとまず軽く決めたのだが……

それが深夜だった為にすでに佐倉杏子は眠っていたし、
時間的に美樹さやかにも連絡がし辛く、二人まとめて朝に伝える事にした。

細かい時間はそれから決めてもよかったからだ。

……が、肝心の私とマミさんが眠りすぎてしまった為、
それは目覚めた今(美樹さやかにはついさっき)になってしまったのだった。

私達が眠っている間に美樹さやかからの着信が何回か入っていたので、気付いてから慌てて電話を返したのだが、
彼女は『もう準備万端だから、すぐにそっちに行って良い?』と言ってきた。

もちろんそれを断る理由は無いので、私達はそれを承諾して今に至る訳だ。

459: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:57:00.68 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「今から美樹さんが来るから、その後すぐに始めるわ」

杏子「そうか。了解」

マミ「……私、ちょっとシャワーを浴びたいわ」

マミさんがぽつりと言った。

ほむら「……そうね」

昨夜も(すでに佐倉杏子が寝ていた為に)こっそりお風呂に入りはしたのだが、
目を完全に覚ます為に私もマミさんの言葉に同感だった。

ただ、マミさんにとっては眠気覚ましではなく、気合を入れる為なのだろうが……

……これからの集まりは、確実に昨日の河原での件にも言及する為、彼女にとっては少々辛い物になるはずだ。

ただ理由はどうあれ、マミさんが私達に迷惑をかけた事には(その私達が気にしてはいなくとも)違いないので、
彼女はそれから逃げる訳にはいかない。

ほむら(でも、大丈夫よ。マミさん)

私もついているから頑張りましょう。

460: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:57:51.43 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「じゃあ、軽く浴びて来ましょうか?」

杏子「おいおい、これからあいつが来るんじゃないのかよ?」

マミ「大丈夫よ、すぐに上がるつもりだから」

まあ、電話ごしながら、美樹さやかは魔法少女に変身してこちらに来るような勢いだったので、
確かに髪の毛をしっかり洗ったりする時間は無いだろう。

ほむら「悪いけど、ちょっと行って来るわね」

杏子「ああ……
って、時間無いっつっても二人いっぺんに入るのかよ?」

461: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:59:15.85 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

さっと体を流し終えた私とマミさんが、
湿気と飛沫の為に少しだけ濡れた髪をドライヤーで乾かしていると、美樹さやかがやって来た。

さやか「やあっ!」

ほむら「おはよう」

美樹さやかは挨拶をしながら、
テーブルを挟んで私とマミさんの向かい側の、干し芋をかじっている佐倉杏子の隣に腰掛ける。

マミ「……美樹さん、えっと、あの……昨日は……」

さやか「はいそれは後っ!
これから話し合い? 情報の整理? するんだから、そいつはマミさんのターンになってから聞くよ」

マミ「う、うん……わかったわ」

ほむら「…………」

杏子「…………」

ついさっきマミさんと佐倉杏子がやったようなやり取りをする二人を見て、
私と佐倉杏子は思わず顔を見合わせて苦笑してしまった。

ほむら「──ところで美樹さん、着信に気付かなくてごめんなさい」

さやか「ああ、良いって。
昨日大変だったし、爆睡くらいするだろ」

と、彼女はパタパタと両手を振った。

462: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 22:59:53.96 ID:CqqKe4Aqo
さやか「んじゃあ早速話を……
っとその前にっ!
ほむら、まどかの事はちょっとだけ安心して良いよ!」

美樹さやかが、満面の笑顔で私に向かって親指を立ててくる。

ほむら「えっ?」

……この集まりは、キュゥべえと同レベルで厄介な超怪物・ワルプルギスの夜打倒の為に必要だし、
マミさん達の心に残っているだろう不安・疑心を完全に振り払う為にも絶対に不可欠。

それはつまり、マミさん達の迷いを無くす=彼女達が戦闘で最大限の力を発揮出来る事に繋がるし、
そうなる事がマミさん達──そして、まどかが救われる未来に直結するのだから。

それなりに時間もかかるだろうから腰を据えて行いたく、小声しか出せないのもやりずらいと思ったので、
この間のようにまどかの家の屋根に集合するのは不適当だと判断して、ここを使わせて貰う事にした訳だ。

だからこそ、その分なるべく早く話を終わらせてすぐにまどかの元へ向かおうと決めていたのだが……

463: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:00:40.16 ID:CqqKe4Aqo
さやか「ここに来る前にふと思い立って、『まどかを連れ出してくれ~』って頼もうと仁美に電話したのね。
ほら、一人で家に居たりどっか行かれると、キュゥべえの奴に付け込まれる可能性が高まるじゃん?
それを少しでも防ぐ為にさ」

ほむら「ええ」

さやか「するとさ、あの二人とっくに遊びに出てやんのっ!」

美樹さやかが右手の指先を揃えて、テーブルをぽんっ、と軽く叩いた。

さやか「なんでも、まどかに相談したい事があるからだってっ」

ほむら(……それって)

さやか「それ聞いた時は、
『なんだよーっ、あたしとほむらには出来ない相談事?』ってちょっとだけイラっときちゃったんだけど……
……えっと、電話切る時ね?

『私、必ずさやかさんにぶたれますわっ!
ほむらさんを振り向かせてみせますわっ!』

──なんて言ってたからさ。
ほら、その……わかるじゃん? あー、そっかぁって」

……想像通り。

そして、美樹さやかの志筑仁美のモノマネはなかなか上手い。

464: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:01:56.19 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「志筑さんにも困ったものね……」

軽い眩暈を覚え、私は右手を軽く握ってこめかみを押さえた。

しかし、(恐らく)私と美樹さやかに内緒にするつもりでまどかに相談しに行ったはずなのに、
そうやって喋ってどうするのだろう……?

ほむら(志筑仁美……
やっぱり少し変わった子)

さやか「ともあれ、おとといの下校中での仁美の活躍考えたら、
これでまどかの事はちょっとは安心出来ると思うぜっ」

ほむら「……そうね」

そういえばこの世界で初めて佐倉杏子が現れた時も、
志筑仁美のおかげで、私が戻って来るまでまどかとキュゥべえが接触(会話)するのを防げたのだったか。

なんにせよ、これは嬉しい誤算だ。

昨日述べたのと同じ理由で、
まだまどかは大丈夫だという計算は当然ある(これは過去のループでの経験上、一晩強程度では変わらない)のだが……

この集まりが終わるまではなんの手も打てないと思っていたのだから、
そんな中少しでも安心出来る材料が新たに生まれたのはありがたい。

465: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:02:32.88 ID:CqqKe4Aqo
杏子「おい、まだ始めないのか?
もう干し芋無くなっちまったよ」

佐倉杏子が、待ちくたびれたように横から声を上げた。

さやか「っと、ゴメンっ」

マミ「あ……よかったらお菓子持ってきましょうか?
杏が入った、美味しいケーキがあるのよ」

杏子「おっ! なんだよ、そんなもんがあるなら早く出してくれよっ」

マミさんの言葉を聞くやいなや、先程とは打って変わって期待に満ち溢れた笑顔になる佐倉杏子。

466: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:03:16.69 ID:CqqKe4Aqo
マミ「ごめんね、うっかりしていたわ。
ついでにお茶も一緒にすぐ持ってくるわね」

そんな彼女に柔らかなほほえみで答えると、マミさんは立ち上がってキッチンへと向かって行った。

ほむら(……いつものマミさんなら、率先して──かつ一番最初にお菓子の用意をしてくれるのに)

そんな彼女が今回忘れていたのは、ただうっかりしていたからではないだろう。

緊張しているのだ。

……言葉通り、マミさんは全員分の紅茶とケーキを乗せたトレーを手に短時間で戻ってきて、
それからすぐに話は始まった。

467: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:03:48.44 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

まず、佐倉杏子がマミさんと美樹さやかに話し始めた。

その内容は、昨日公園で私にしたものと同じだ。

468: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:04:18.99 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

さやか「なるほどね。
キュゥべえ……汚い奴」

マミ「…………」

佐倉杏子の話を聞いて、美樹さやかが冷たい表情で呟き、マミさんは怒りと悲しみの混じった表情で唇を噛み締めた。

杏子「まあ、でもさ……
あたしも悪かったよ。
あんな奴に踊らされた訳だからね」

そんな二人に、佐倉杏子がバツが悪そうに言った。

さやか「あー、まあ確かにそうだね」

杏子「む……」

469: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:04:53.60 ID:CqqKe4Aqo
さやか「ホントそういうの困るわー。やめて欲しいわ。
でもまあ、マミさんと二回戦って両方とも一方的にボコられてたし……
それ考えたら許してやっても良いかな?」

にやり、と、美樹さやかはいたずらっぽい笑みを浮かべた。

杏子「なんだよ、そこまで言わなくても良いだろっ!
大体、前言ったようにマミとは互角だ!」

さやか「まあ、山の上の時はともかくとして、昨日はまぎれも無くマミさんにやられてたじゃん」

杏子「ご、互角なんだから十戦やれば五勝五敗になるっ!
昨日はたまたまあたしが負けただけだっ!」

さやか「ふふふっ、ごめんごめん。からかいすぎた」

顔を赤くしてムキになる佐倉杏子を見て、美樹さやかがによによと謝った。

杏子「なにー!?」

470: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:05:44.07 ID:CqqKe4Aqo
さやか「昨日も言ったけどさ、むしろあたしは感謝してるんだ。
だってあんた、ほむらと一緒にあたしを助けに来てくれたじゃん」

そう言う彼女は、さっきと違ってとても優しい表情と口調だ。

杏子「……いや、だから別にあんたを助けに行った訳じゃないし……
それこそマミに負けちまったんだから、大して役に立たなかっただろ?」

さやか「そう? そんな事無いと思うけどなあ」

ほむら「美樹さんの言う通りね。
私はいきなり拘束されてしまったし……」

首を傾げる美樹さやかに、私は頷いた。

ほむら「杏子が居なければ、こうやってみんなで話す事なんて出来なかったと断言出来るわ」

今こうして居られるのは、あの時このメンバーが揃い、全員が全力を尽くしたからこそなのだから。

471: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:06:35.12 ID:CqqKe4Aqo
さやか「そうそう。だから謝るどころか、あんたが来てくれてよかったんだって。
──ね、マミさん?」

マミ「……そうね。
って、えっと……迷惑かけちゃった張本人が偉そうに発言するのもなんだけど……」

話を振られ、今まで黙っていたマミさんが申し訳無さそうに口を開いた。

マミ「それと、私にはわかっていたわ。
二回の戦闘とも、どれだけ激しい攻撃を仕掛けてきても、佐倉さんは決して私を殺そうとはしていなかった事」

杏子「!」

472: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:07:30.64 ID:CqqKe4Aqo
マミ「……あのね、私ね、また佐倉さんと仲良く出来てとっても嬉しいの」

杏子「…………」

──私は昨夜、過去にあったマミさんと佐倉杏子の因縁のすべてを聞いた。

その昔を思い出しているのだろうか。

そっと閉じられたマミさんのまぶたから伸びる、長いまつ毛がどこか切なそうに揺れる。

マミさんはしばしの間の後に再びまぶたを開くと、

マミ「だから、ありがとう。
馬鹿な私と、私の大切な仲間を助けてくれて。力になってくれて。
こうして、ここに居てくれて」

一言一言噛み締めるように丁寧に言いながら、佐倉杏子を優しく見つめた。

杏子「……っ……だよ」

その言葉と視線を受けた佐倉杏子は、顔を手で押さえて後ろを向いた。

杏子「なんで謝らないといけないはずのあたしが、礼……言われてんだよ。
意味、わっかんね……っ!」

その呟きは、彼女の魂が歓喜に叫んでいるように聞こえた。

473: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:08:12.36 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

次にマミさんの話だ。

まずは、彼女の土下座から始まった。

私達三人は大して気にしていない為、すぐに止めさせたが。

474: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:08:43.86 ID:CqqKe4Aqo
……昨日の朝、私が帰ったすぐ後に彼女は目覚めたらしい。

すると、キュゥべえが現れた。

そしてそそのかしたのだ。

魔法少女のソウルジェムが穢れ切ると、その子は魔女になると。

魔法少女は、戦いで死ぬか魔女になるか、どちらかの結末しか無いと。

暁美ほむら……私は、それを知っておきながら周りには隠し、自分の目的の為に他人を利用していると。

憎々しくも上手いやり方だ。

昨日の、精神的なショックが抜けきれていないマミさんに悪夢しか待っていない未来を伝え、
心を許しかけた私がいずれ必ず裏切ると口にする事で、彼女の不安と絶望を最大限に煽ったのだ。

それで狙い通りマミさんをあそこまで追い込んだ話術は、さすがキュゥべえといった所だろう。

もちろん、これは皮肉だが。

475: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:09:20.35 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

マミ「それで、まんまと絶望に呑まれてしまった私は……」

すべてを壊そうとした。

壊して、私達を魔女になる運命から救おうとした。

歪んだエゴと、やり方で。

マミ「……とんでもなく自分勝手だったよね。
本当に……ごめんなさい」

杏子「そいつはもう良いさ」

さやか「そうですよ。みんな無事だったんだし、結果良ければなんとやらって言うじゃん?
それよりも……」

笑顔でマミさんを慰めた佐倉杏子と美樹さやかだったが、すぐに暗い顔になった。

476: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:10:44.77 ID:CqqKe4Aqo
杏子「……あの時のお前、明らかに正気じゃなかった。
あたし達を救おうと~って気持ちがあったのも別に嘘じゃなかったんだろうけどさ……
なんつうか、人が変わったようだったよ」

ほむら「あれが、魔女化が近付いた魔法少女の姿よ」

さやか「えっ?」

ほむら「深く絶望した魔法少女は、心の闇に呑まれ、負の感情を剥き出しにしてしまう。
ううん、徐々に負の感情しかなくなってしまうの。
それが暴走し、あんな事になってしまう」

マミ「…………」

俯くマミさんの手を、隣に座る私がそっと握った。

477: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:11:33.72 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「昨日の彼女みたいに心が追い詰められ、
あそこまでソウルジェムが穢れてしまえば、魔法少女なら誰だってああなってしまうの。
きっと私だってそう。杏子も、美樹さんもよ」

さやか「そっか……」

ほむら「そして、心の闇に完全に喰われてしまうと、暴走すら超えて存在自体が変わってしまう」

杏子「……魔女に」

ほむら「本来は、あんな状態から無事に生還出来るなんて考えられないし、考えてもみなかった。
少なくとも、私が知っている限り前例は無い。
これは間違い無く奇跡だわ」

みんなの頑張りが生んだ、奇跡。

無意識に、私のマミさんの手を握る力が強くなった。

マミ「……ほむらさん」

478: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:12:24.76 ID:CqqKe4Aqo
さやか「──ともかく、もう自分を追い詰めすぎないで下さいよ」

マミ「そうね……ご迷惑をおかけしました」

さやか「ホントですよ。
体中に穴いっぱい開けられて、ホント痛かったし怖かったし悲しかったんだから」

マミ「うぅ……」

さやか「でも」


ぎゅっ!


マミ「!」

ほむら「!」

杏子「!」

唐突に、美樹さやかがマミさんに抱きついた。

さやか「よかったよ。またマミさんとこうしてお喋り出来て」

マミ「……うん」

ほむら「…………」

そんな二人の様子に、私の中でほのかに嫉妬心が生まれた。

マミ「私もよかった。みんなを殺してしまわなくて。昨日の愚かで馬鹿な私を止めてもらえて。
許して貰えて、嫌われなくて……
私、寂しいのはもう嫌だもの……」

杏子「…………」

479: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:13:27.58 ID:CqqKe4Aqo
さやか「まあ、また昨日みたいな事したら、今度は問答無用で軽蔑して大嫌いになりますけどね」

マミ「ぅうっ!?」

さやか「はははっ!
でもマミさんって、ほんとバカ。
マミさんみたいな人を、そんな簡単に嫌いになってたまりますかって!
つーか、憧れとか尊敬の念って奴は今だって全然変わってないし!」


ぎゅっ。


マミ「美樹さん……」

ほむら「…………」

杏子「チッ、なんだよ。マミの奴、随分素直になったじゃん。
……まあ、お前はそれで良いんだよ」

横で佐倉杏子がなにやら言っているが、私は我慢の限界でそれどころではなかった。

──二人とも、いつまでやっているのよっ!──

480: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:14:36.77 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「……マミさん!」


ぐいっ!


私はマミさんの服を引っ張り、彼女の身体を美樹さやかの腕の中から離した。

さやか「あっ、なにすんのさほむらっ!」

ほむら「……別に」

さやか「てか、ずっと気になってたんだけどあんたら親密度増しすぎてない?
ほむらとか昨日、マミさんの大ピンチにキスとかしてたし……」

ほむら・マミ『!』

杏子「ああ、そういえば……」

みっ、見られていた!?

……いや、まあ彼女もあの場所に居たんだし当然か……

481: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:15:47.24 ID:CqqKe4Aqo
杏子「なんであんな事したんだ?
なんか意味とかあったのか?」

ほむら「あ、あれはつっ、つま……そう、躓いて……」

杏子「?」

さやか「はっはーん!
さては昨日言ってた、ほむらが『もっとしたい~』って思ってしまった人ってマミさんか!?」

ほむら「ちょっ……!///」

マミ「えっ!?///」

杏子「?? なにを?」

さやか「それに、あんたらお互いの呼び方変わってない?
いつの間に名前で呼び合う仲になった訳?」

ほむら「! こ、これはその……」

マミ「…………」

さやか「……もしかして二人とも、昨夜になにか?」

ニヤリと笑い、からかうように言う美樹さやか。

ほむら「っ!///」

マミ「///」

さやか「え……
…………マジ?」

本当に冗談のつもりだったのだろう。

真っ赤になって顔を背ける私とマミさんを見て、
あるいは私達以上に顔が赤くなった美樹さやかは唖然とする。

482: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:16:24.61 ID:CqqKe4Aqo
一瞬リビングを沈黙が支配した……が、

杏子「──っだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁもうっ!!!」

さやか「うひゃぁっっっ!!!?」

ほむら「っ!?」

マミ「きゃっ!?」

佐倉杏子の絶叫が、それをあっさり破壊した。

さやか「ビッ、クリした!」

マミ「さ、佐倉さん?」

ほむら「どうしたのよ……?」

483: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:17:11.70 ID:CqqKe4Aqo
杏子「羨ましい」

さやか「は?」

小さな呟きを聞き返す美樹さやかに、佐倉杏子はそっぽを向いた。

杏子「……実はな、羨ましかったんだ」

さやか「なにが?」

杏子「~~~っくそっ!
マミの奴もだいぶ素直になったから、あたしも正直に言うぞ!?」


ビシッ!


と、視線を外したまま佐倉杏子がマミさんを指差した。

マミ「えっ、ええ」

ほむら「杏子、人を指差しては駄目よ」

484: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:17:52.35 ID:CqqKe4Aqo
杏子「あたしは確かにキュゥべえにそそのかされてこの町に来たが……
ここでマミの奴が、ほむらやさやかと楽しくやってるって聞いて、あんたらが羨ましく……妬ましくなったんだよ」

ほむら「え?」

さやか「あたしとほむら?」

杏子「ああ。
それで、あんたらとマミの事がどうしても気になっちまって、つい見滝原に戻ってきて……」

マミ「…………」

杏子「で、実際あんたら──つっても最初見付けた時はマミとさやかだけだったが、見たら確かにその通りだ。
楽しく談笑したり、仲良く魔女退治してやがる。
それで『ちくしょう』って思っちまって……それで、さ……」

さやか「……あたしとマミさんが仲良くしてるのに我慢出来なくなって、襲いかかったって事?」

485: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:18:32.87 ID:CqqKe4Aqo
杏子「……本当はね、戦闘をしかける気なんてなかったんだ。
いや、そもそもは様子を見るだけで、マミの前に姿を現そうとすら考えていなかった。
……ほむら。あんたには、
『あたしの一番の狙いは、魔女が沢山居るこの町を頂く事』みたいな話をしたけど、あれは嘘さ」

私に困ったような笑顔でそう言うと、佐倉杏子は再びよそを向いた。

杏子「ただね……ただ、あたしだってマミとじゃれ合ったり、仲良くしたかったんだ。
でも、もうあたしにはそんな資格は無いんだなって……
あの女の──さやかの居る場所は昔はあたしのもんだったのに、今はもう違うんだなって思ったらさ……
自分の感情を抑えられなかった」

マミ「佐倉さん……」

486: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:19:14.22 ID:CqqKe4Aqo
杏子「──へっ、つまんねえよな。ガキみたいだよな。
そんなの自業自得だってのにさ。
笑って良いよ」

マミ「そんな……笑わないわ」

マミさんがとても嬉しそうにほほえみ、

さやか「うん。
……けどさ」


ぽんっ!


美樹さやかが佐倉杏子の頭に手を乗せた。

杏子「むっ」

それに反応した彼女が、美樹さやかを見る。

487: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:20:05.09 ID:CqqKe4Aqo
さやか「あんたがすっごい可愛い女の子だってのは、よ~くわかった」

杏子「なんだよそれ……」


ナデナデ。


杏子「だぁっ、やめろよ!」

さやか「良いじゃん。
あんたはもうマミさんだけじゃなくて、あたしやほむらとも友達で仲間なんだからさ」

杏子「はあ!? 何だよ、なんでだよっ!?」

佐倉杏子は頭を撫でられる事に抵抗していたが、次第にそれは弱くなり、やがて完全に抵抗を止めた。

杏子「……ちっ、くせえよこの野郎」

さやか「はいはい」

488: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:20:47.22 ID:CqqKe4Aqo
ほむら『……マミさん。
これが、あなたが積み上げてきたものよ』

ほほえましい二人の姿を見ながら、私はマミさんにテレパシーで語りかけた。

マミ『えっ?』

ほむら『昔に悲しいすれ違いがあったにせよ、こうして杏子が笑顔でここに座っているのも、
あんな目に合わされながら、未だにあなたへの尊敬を失わない美樹さんの気持ちも……
ずっとマミさんが精一杯頑張ってきた『結果』よ」

マミ『…………』

ほむら『もちろん、今回みたいに失敗した時もあったでしょう。
でも、やっぱりあなたがこれまでにやってきた事は正しかったのよ。頑張ってきてよかったのよ。
だから、こんなに嬉しい現実がある』

マミ『ほむらさん……』

489: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:21:38.39 ID:CqqKe4Aqo
さやか「ところでさ、ずっと気になってたんだけど……
あんたとマミさんは前から知り合いだったの?」

杏子・ほむら・マミ『あ』

そういえば、美樹さやかには二人の関係の事はまったく話していなかった。

反応を見るに、佐倉杏子とマミさんも同じだろう。

杏子「……まあ、そうだ。昔色々あってね」

さやか「色々?」

杏子「ああ。
気が向いたら話してやるよ。
──な、マミ?」

マミ「そうね。この集まりがひと段落したら、ゆっくりと……」

さやか「ふむ、ならさっさと終わらせて……って、他にも話す事あったっけ?」

杏子「──ほむら」

マミ「…………」

さやか「えっ?」

ほむら「……そうね」

佐倉杏子とマミさんの視線に促され、私は頷いた。

私にとっては、これこそがこの場で一番話さなければならない事だ。

490: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:22:24.83 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「杏子には昨日、マミさんには昨夜軽く話したのだけど……」

さやか「おいおい、これに関してもさやかちゃんハブ?
あたしってハブかちゃん?」

ほむら「近々、この町に『ワルプルギスの夜』がやって来るの」

491: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:24:22.13 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

キュゥべえ「やれやれ、まさかこんな展開になるなんてね」

ほむら「!」

あの集まりから一日経った日曜日の朝、
まどかを見守る為に彼女の家の屋上に来ていた私の元に、キュゥべえが現れた。

ほむら「何の用かしら?」

キュゥべえ「そんな目で睨まないでくれよ」

ほむら「マミさんや杏子にふざけた事をしておいて、よく姿を見せられたものね」

キュゥべえ「ふざけた事とは酷いなぁ。
杏子には僕が懸念していた話をしただけだし、マミには事実を伝えただけじゃないか」

ほむら「ふん……」

キュゥべえ「まあ、仲間が利用されたように見えて気分を害したのなら謝るよ」

ように見えて、ではなく確実に利用された訳だが、
それを突っ込んでもどうせまた論点ずらしなり言い逃れなりするだけだろう。

492: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:25:17.90 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「……私と世間話でもしに来たのかしら?」

キュゥべえ「うん、そんな所かな」

ほむら「?」

キュゥべえ「しかし、鹿目まどかはあの志筑仁美って子と随分仲が良いんだね。
一昨日は帰宅してから眠るまでずっと電話していたし、昨日は君も知っての通りその子と遊びに行っていたよ」

ほむら「…………」

昨日は、話し合いを終えて即まどかを捜しに行ったのだが、彼女を見付けた時にはまだ志筑仁美と外で遊んでいた。

キュゥべえの姿は一度も見なかったのだが、
今の奴の言葉を考えると、私が現れた事ですぐに撤退したのだろう。

まどかには契約をした様子が無かったので、
一昨日も合わせてこいつの思惑は外れた・防げたと喜んでいたのだが……

それは正しかったようだ。

493: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:26:34.72 ID:CqqKe4Aqo
キュゥべえ「だけどあの志筑仁美って子は凄いね。
昨日も一昨日も、鹿目まどかは何やらずっと恋? の相談とやらを受けてて、とても邪魔出来る空気じゃなかった……
というか、出来なかったよ」

表情は変わらないが、こいつがどこか疲れている感じがするのは気のせいだろうか?

ほむら「……という事は……」

キュゥべえ「うん。二日とも、鹿目まどかとは会話一つ出来なかった」

なんと。

一昨日はマミさんの事件があった為、接触どころか魔法少女の話をされたぐらいは覚悟していたのだが……

しかし、ならばまどかはまだ、佐倉杏子が現れた日にしかキュゥべえとまともに会話をしていない事になる?

ほむら(……志筑仁美、やるわね)

これは素直に感謝だ。

キュゥべえ「まあ仕方ないさ。人間にとって恋愛というのは大切らしいし。
あの子の君への想いも成就すると良いよね」

ほむら「…………」

……志筑仁美が私を好きになったというのは、本当に本気なのかしら……?

494: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:27:30.98 ID:CqqKe4Aqo
キュゥべえ「それに、チャンスはまだまだいくらでもあるからね」

ほむら「!
そんな物は無い。お前には、無い……!」

キュゥべえ「そうかい。
──けれど、マミを救った上に佐倉杏子との因縁を解決して、友好関係まで築くとは驚きだよ」

ほむら「当てが外れたわね」

キュゥべえ「純粋に感心しているだけさ。
……そういえば、もしや君は二週間後のこの町に訪れる事件を知っているのかい?」

こいつ、さっきから何なんだ。

かまをかけているのだろうか?

これに関しては、どう答えても問題は無いとは思うが……一応とぼけるか。

ほむら「……何の話かしら?」

キュゥべえ「やっぱり知っているんだね」

!?

495: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:29:01.93 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「なぜそうなるの?」

キュゥべえ「わずかな体の動き──顔だったり瞳だったり、拳を握るとか、
そこまで行かなくても指先の些細な動きなどを見ていると、人間の本心はおおよそわかるんだよ。
僕には感情が無いんだからね」

感情が無い──

これまでのキュゥべえの言動を見る限り、私の中でそれは嘘だと決めつけていたのですっかり忘れていたが……

ほむら(確かにこいつはそれを自称していたわね)

だが、

ほむら「意味がわからないわね。
感情の無いあなたが、人の気持ちを見抜けると?」

本心がわかるとは、つまりそういう事だろう。

キュゥべえ「そうさ。僕は感情が無いし、その大半を理解も出来ないが、感情の推察は出来る。
まして人類と出会ったばかりの頃と違い、
今は人間という種に関しての知識は十分積み上げてきたつもりだからね」

ほむら「……?」

496: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:30:37.30 ID:CqqKe4Aqo
キュゥべえ「その知識と合わせ、僕には感情が無いからこそ色々読めるものがある。
人がなにかを取り繕ったり、はぐらかそうとすると違和感を強く覚えるんだ」

ほむら「感情が無いからこそ、感情を持つ者では気付きえない、些細な気持ちの変化を察知出来ると?」

キュゥべえ「そうさ。
それで、建前や嘘を言っていたりすると簡単にわかる訳だよ」

……しかし、こいつがべらべらと喋るのは頂けない。

それは大抵なにか企みがあった上で、一見正論と思える話をしながら、
実は詭弁や論点のすり替えなどで自分のペースに持ち込もうとしている場合が多い。

その企みがなにかはわからないが、あまりこいつに自由にさせすぎない方が良いか。

497: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:31:57.77 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「なるほど。
……ところで、さっきの言い方だと、理解出来る感情もあるみたいだけど?」

キュゥべえ「そうだよ。とても合理的なものならば、理解は、出来る」

ほむら「ならば、それと……
さっきあなたが言った、違和感を覚えたりするのは、あなたに感情があるからじゃないの?」

キュゥべえ「なぜそう思うんだい?」

ほむら「それ自体が、自分の『意思』のなせる技だからよ」

キュゥべえ「……ふむ」

498: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:34:09.22 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「あなたは、自分の知らない──
理解出来ない種類の感情があるだけで、感情そのものは持っているんじゃないの?」

実際私は、過去のループの時のものも含め、そう思わせるだけの言動をこいつが取るのを幾度も見てきた。

例えば、キュゥべえがきちんと抑揚のついた喋り方をするのもそうだ。

これはスピードの緩急だけではなく、声のトーンなども含めて、である。

そんな真似は、完全に無感情の生き物には不可能だと思うのだが。

私の問いに、キュゥべえは一瞬思案する様子を見せた。

キュゥべえ「……そんな事、考えてもみなかったよ。
どうなんだろうね。僕にもわからない」

……その言葉からは、こいつが本心を言ったのか、それともいつものはぐらかしなのかは読めなかった。

ほむら(まあ良いか。
キュゥべえ主導の会話を途切れさせたかっただけだし、そもそもこいつの事なんか興味無い)

キュゥべえは、絶対に信用の出来ない存在──それだけわかっていれば十分だ。

499: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:35:14.72 ID:CqqKe4Aqo
キュゥべえ「とりあえず僕はおいとまするよ。
これで用は済んだしね」

ほむら「?」

キュゥべえ「君は、この時間軸の人間ではないね?」

ほむら「……!」

キュゥべえ「一昨日マミから詰め寄られた時に聞いたけど、君は僕の目的を知っているらしいね。
その他にも、君は普通なら知りえない事を把握し、それらを踏まえて行動していた節が多々あった。
だから、この結論には割と早い段階でたどり着けたよ」

ほむら「…………」

キュゥべえは私の瞳をじっと見つめている。

相変わらずの無表情だが、私にはこいつが薄ら笑いを浮かべているように見えた。

ほむら(……不愉快な存在め)

500: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:36:29.43 ID:CqqKe4Aqo
キュゥべえ「ただ、君がそんな存在だという確証は無かったから、確認しに来ただけさ。
そして、さっきまでの話でそれを確信出来た」

ほむら「!?」

キュゥべえ「例えば……僕は君とそれほど深く関わったり、会話をしてはいない。
なのにそこまで僕の事を推察出来るのは、沢山の積み重ねがあったから。
その推察自体が正しいかどうかは別としてね」

こいつ……!

キュゥべえ「それはつまり、君がそういう存在だという事なんだろう?」

ほむら「…………」

キュゥべえ「……君はすべてを知った上で、鹿目まどかを助けようとしている訳だ。
仲間を集めるのも、ワルプルギスの夜を倒してその目的を果たす為の一環」

ほむら「……勝手に想像していなさい」

キュゥべえ「そうさせて貰うよ」

ほむら「ふん……」

キュゥべえ「じゃあね」

朗らかに言うと、キュゥべえは去っていった。

501: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:37:01.59 ID:CqqKe4Aqo
ほむら(不愉快な……存在めッ!)

……落ち着け。

あと少しなのだ。

キュゥべえがこれ以上なにを企んでいようと関係ない。

あと少しで悲願は達成されるのだ。

最高の形で。

502: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:39:33.24 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

それからはまどかを見守る傍ら、マミさん達と対ワルプルギスの夜に向けてのミーティングを幾度となく行った。

マミさんと美樹さやかは私の話をすぐに信じ、私に協力すると言ってくれた。

佐倉杏子も、『ワルプルギスの夜を倒した後に、見滝原の魔女退治やグリーフシードを好きにさせろ』、
という約束で参戦してくれる事になった。

ただ、美樹さやかは、

『仲間の頼みに見返り求めるわけ?』

と少し不満そうだったが、佐倉杏子いわく、

『それはそれ。ずっとこんな生き方してたから、もうそう簡単には変えらんないのさ』

との事。

それに対してこの町の今の魔法少女であるマミさんは、

『私達が必要な分のグリーフシードをわけてくれて、
あなたよりも先に私達の誰かが魔女を見付けた場合は、その人が退治しても良い』

事を条件に出し、佐倉杏子はそれを了承した。

なおも美樹さやかは不満げだったが、ここもマミさんが説得し、上手くなだめてくれた。

そして、ミーティングは順調に進み、作戦は問題無く完成していった。

503: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:40:41.66 ID:CqqKe4Aqo
……………………

…………

さやか「うーん、聞けば聞くほどその何とかの夜ってのは化け物ね……」

ほむら「そうね……あいつは、これまでの魔女とは次元が違う。
この世の天変地異は、すべてワルプルギスの夜が起こしていると言われるほどなのだから」

さやか「一回具現化するだけで数千人の被害とか……意味わかんねーし」

マミ「私も詳しくは知らないのだけど、
ワルプルギスの夜に戦いを挑んだ魔法少女で、生き残りは居ないのよね……」

ほむら「そう言われているわね。
それは噂ではあるけど……私は正しいものだと思うわ」

杏子「まあ、生き証人的な存在が発見されていないんだから、確認のしようがない。
──はずなんだが、ほむら」

ほむら「なに?」

504: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:42:21.44 ID:CqqKe4Aqo
杏子「さっきから聞いていると、あんたがその『生き証人』みたいだね。
魔法少女の間でも、正体不明の超怪物としか知られていないはずのワルプルギスの情報にやけに詳しい。
どうしてだい?」

ほむら「……それは……」

杏子「別に疑ってるとかじゃないんだけどね。
あんた、嘘とも冗談とも思えない密度の話してるから。
ただ気になっただけさ」

ほむら「…………」

マミ「ま、まあ良いじゃない。
ほむらさんの過去を聞いたって、なにか作戦を閃くとも思えないし……」

杏子「まあそうなんだけどね」

505: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:43:57.29 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「──あの、その説明は……
この戦いに、みんなで……全員で生き残ってからにさせて貰えないかしら?」

杏子「ん? ああ……
でも、話したくないなら別に聞かないよ?
無理に他人を詮索するのは主義じゃないからさ」

さやか「そうだね。
気になるっちゃ気になるけど、マミさんの言ったようにそれでどうにかなる感じはしないし」

ほむら「ううん。
話したいの。あなた達にも……」

マミ「ほむらさん……」

ほむら「けど、正直言って今それを話す勇気が無い。
だから……」

杏子「……ああ、わかった。
じゃあ、さ。さやか」

さやか「──だね、杏子」

杏子「そいつの説明をして貰う為にも、ちゃんとみんなで生き残らないとな」

さやか「あっ! でも、これまで謎だったあんたの能力の事は教えてよ!
これはみんなで協力して戦う為には必要でしょっ」

ほむら「ふふっ。
ええ、そうね」

506: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:46:12.38 ID:CqqKe4Aqo
……………………

…………

別に、美樹さやかと佐倉杏子を信用していない訳ではない。

この時間軸の今の彼女達ならば、きっと信じて貰えると思う。

ただ……私が真実を述べる事によって、
私達が仲違いしたいくつもの経験が、とてつもなく大きなトラウマになっているだけだ。

すべてが通じ合えたマミさんには、何とか──それでも、『何とか』話す事が出来たが……

けれど、この戦いが終わったら。

不思議と、美樹さやかや佐倉杏子にもそれをすんなりと話せるという確信があった。

507: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:46:47.59 ID:CqqKe4Aqo
─────────────────────

マミ「いよいよ明日ね……」

ほむら「うん」

私とマミさんは、私の家のソファーで二人寄り添い、ワルプルギスの夜襲来前夜を過ごしていた。

マミ「……大丈夫?」

体が密着している為に、先程から私の震えが止まらない事が気になっていたのだろう。

マミさんが、俯く私の顔を心配そうに覗き込む。

508: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:47:33.95 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「……怖いの」

俯いたまま、私はぽつりと言った。

ほむら「結果だけ見れば、ここまでは完璧よ。
ここに至るまで危ない時はあったけど、文句のつけようもないわ。
でも、だからこそ……怖い」

マミ「もし、また駄目だったらって思うと?」

ほむら「うん……」

再び敗北してしまうと、この世界からも去らねばならない事を意味する。

それはつまり、まどかはもちろん、かつてないほど大きな絆を築けた、佐倉杏子や美樹さやか……

そして、マミさんとの別れだ。

ほむら「そんなの嫌……」

ドライに言ってしまえば、私が死にさえしなければまたやり直せば良いし、やり直せる。

しかし、これまでの自分ならともかく、今の私にはそんな考え方は出来なかった。

これから別の世界で何度チャンスを得ても、もはや今の彼女達ほどの関係を築く自信が無いというのもある。

だがそれ以上に……

509: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:48:17.94 ID:CqqKe4Aqo
ほむら「私、マミさんと離れたくない……」

マミ「それは私だって……死んでも離れたくないわ」

マミさんが切なげな瞳で、私の肩に頭を乗せる。

マミ「……でも、大丈夫よ」

ほむら「どうしてそう言えるの?」

マミ「だって、今あなたが言ったじゃない。
『ここまでは完璧。文句無い』って」

ほむら「そうだけど……」

マミ「それって、これまでに無いくらいの準備も出来ているって事でしょ?
なら、かつてないレベルの勝率を手にしているって事でもあるわ」

ほむら「……そうね」

510: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:49:15.74 ID:CqqKe4Aqo
その通りだけれど……


ワルプルギスの夜『アーハハハハハハハハハハハハハッッ!!!』


ほむら「っ!」


ゾクッ。


ある意味では、キュゥべえ以上に絶望を味わわされた伝説の化け物の姿がフラッシュバックし、私の震えが強くなる。

マミ「……だからね、あなたがこのひと月を繰り返す中……
考えられる最大のチャンスが今なのよ」

確かに。

まどかの魔法少女化・戦力化を考慮したら話は別だが、もちろんそれは論外中の論外だ。

511: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:50:36.30 ID:CqqKe4Aqo
マミ「私はね、あのお菓子の結界の魔女との戦いから自分の弱点を身を持って知り、反省した。
佐倉さんは、ああ見えて誰よりも冷静な戦い方が出来る子。
美樹さんは……まだちょっと心配だけど」

マミさんが、一瞬だけ苦笑した。

しかし、すぐに表情を引き締めて私の肩から顔を離し、私の瞳を見つめる。

マミ「……少なくとも私達は誰も気を抜かないし、勝利を信じて精一杯戦う。
持っている力のすべてを発揮してね。
なのに、肝心のあなたがそんなんじゃあ勝てる戦いも勝てなくなっちゃうわよ?」

ほむら「…………」

マミ「ほむらさんは、私達の中で唯一ワルプルギスの夜と戦った経験があるんだから、
指揮だって取って貰う必要があるんだし」

ほむら「……うん」

512: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:51:37.34 ID:CqqKe4Aqo
マミ「──ごめんなさい、怒っている訳じゃないのよ」

と、マミさんは私の肩に手を置き、優しい笑顔を向けた。

マミ「思い付く限りの最悪の想定はしたわ。
ならもう、ここで悩んでも仕方ない。
最善を信じ──全力を尽くしましょう」


トクン。


……湧き上がる、力。

513: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/11(水) 23:53:49.58 ID:CqqKe4Aqo
もはや、私に先程までの弱気は消えていた。

大切な人が側に居て、こうやって言葉をかけてくれるって……こんなに凄い事なのね。

望んでそうしていた訳ではないにしても、一人で戦っていたり、仲間を利用していた頃には決して気付かなかった。

……思えば、この世界では心の支えになるものが沢山増えた。

その一つ一つが、今の私を大きく・強く支えてくれている。

ほむら(中でも、マミさんの存在は私の新しい道しるべ)

まどかの存在と、あの『約束』だけを胸に生きていた私の前に現れた、もう一つの道標。

ほむら「……はい」

私は、笑顔でそう頷いた。

514: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:02:56.00 ID:zAuU8VuXo
という事で、前スレでの投下分に追い付きました。
パッと見パッと修正ではありますが、ちょっとだけ手直しした部分があります。

変わったのは、誤字などを直したり、
『貴女』が『あなた』になったみたいに、漢字表記の一部がひらがなになったとかです。

あとは変な表現だったと感じた所(『緊張』を『緊張感』にしたとか)を修正したとか、
強調していたつもりが、改めて見てみるとなんか弱いな? と思ったところに『』をつけたりとか、そんな感じです。
>>4の某文などなどですね。

追加シーン的には、
仁美ちゃんの最初からの『ほむらさん』呼びを『暁美さん』に変更、
>>116で、『ほむらさん』呼びに変えるシーンを新たに入れただけです。

これも些細なものですし、少なくとも本筋に関わる所の追加シーンはございませんです。

なので、前スレからお付き合い頂いている方はここまではスキップしてもまったく問題無し! ですね。

……ちょっとでも、読みやすさ・わかりやすさがUPしてれば良いなぁ。
まさか抜けてる文章はあるまい……

さて、では続きを投下して行きますです。
ここからはageてレスして行きますね。

515: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:08:54.06 ID:zAuU8VuXo
─────────────────────


ゴウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!


その日は、明朝から薄暗く、風が強かった。

遠くに建ち並ぶ工場群が見える川の前で、私とマミさん、美樹さやかと佐倉杏子の四人が立っていた。

杏子「まるで台風だな……」

ほむら「実際、気象庁はそれに近い判断をしているでしょうね」

すでに見滝原の人達は避難しており、町に一般人は一人も居ない。

私達は、すでに全員魔法少女の姿だ。

マミ「……恐ろしい気配ね。
まだ具現化はしていないはずなのに、ここまでの力を感じるなんて……」

さやか「あー、ちょっとブルッちまうよ……」

マミ「ところで、美樹さんは家族の方々は大丈夫なの?
心配させてたりしない?」

さやか「避難所に向かう途中で、はぐれた風を装って抜けて来たんで……まあ心配してるかな?
でも大丈夫っすよ」

軽い口調で言う美樹さやか。

これは恐らくわざとだろう。

家族への意識を振り払う為と、私達を心配させまいとして。

517: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:10:41.24 ID:zAuU8VuXo
ほむら「……ごめんね」

さやか「なんであんたが謝るのよ。
悪いのはワルプなんとかと、ついでにキュゥべえの奴だ!
それにあたしだって、みんなやこの町のピンチに黙ってなんていられないしさ」

あのまどかの家の屋根の上で会って以来、キュゥべえの姿は確認出来ていない。

話によると、マミさん達も同じらしい。

ほむら(また、なにか企んでいるのでしょうね)

ちなみに、美樹さやかの家族だけではなく、クラスのみんなはもちろん、
まどかも避難所で彼女の家族と一緒に居るのを確認済みだ。

後はワルプルギスの夜を倒してしまうだけ……!

519: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:11:22.91 ID:zAuU8VuXo
ほむら「うん……そうね」

さやか「ま、正直あたしが居てもあんまり変わんないかもだけど、ね」

彼女もワルプルギスの夜の強大な気配を感じているのだろう。これは、苦々しい口調だった。

杏子「いや、こいつぁ話に聞いていた以上の怪物だ。
新人ちゃんの手も借りたいほどだから、居てくれて助かるよ」

さやか「ちょっ、その言い方酷くない!?」

ほほえましい口論を始めた美樹さやかと佐倉杏子を横目に、私はマミさんの真横にそっと立った。

520: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:12:06.92 ID:zAuU8VuXo
マミ「ほむらさん?」

ほむら「…………」

しかし私は無言で、


ぎゅっ。


彼女の手を握る。

マミ「…………
……うん」

マミさんも、そっと私の手を握り返してくれた。

……この後に及んで、言葉は不要だった。

嵐の前の静けさか──

この場に、少しだけ穏やかな時間が流れる。

521: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:13:12.59 ID:zAuU8VuXo
そして。


ドンッッッ!!!


マミ「!!!」

杏子「……っ!」

さやか「!?」





辺りに物凄い瘴気が吹き荒れ、弾ける。

ほむら「来た……!」





──使い魔が現れ出した。


『パオーーーーンッ!』


高らかに鳴く緑色や赤色の像に、騎士みたいな格好をした人型のなにかを乗せた、大型のプードル。





下部にカーテンのついた台の上に立つ、派手な色の……馬? だろうか。

その使い魔達の上部や背中に紐が取り付けられており、
それに赤や黄色・オレンジなど色とりどりの三角フラッグが垂れている。





そう、この様はまるでサーカスの行進だ。

そして、その三角フラッグの先には──





具現化をした巨大な魔女、ワルプルギスの夜!

522: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:14:31.97 ID:zAuU8VuXo
その体は、恐らく百メートルは優に超えるだろう。

姿形だけではなく、存在感・威圧感までもが圧倒的に巨大な存在。

奴は、青と白のツートンカラーのドレスを身にまとった、白磁の肌をした女性のような姿をしていて、
目は無く、真っ赤な唇が常に不気味な笑顔の形に釣り上がっていた。

スカートからは下半身の変わりに細長い車軸が伸びていて、その先に、ゆっくりと回転する巨大な歯車が直結している。

そんな伝説の魔女は、恐ろしいまでの魔力をほとばしらせながら、上下逆さまの格好で宙に浮いていた。

523: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:15:43.75 ID:zAuU8VuXo
杏子「あ、あれか……?」

ほむら「ええ」

マミ「なによあれ……!」

さやか「じっ、時間も方向も、ほむらの言う通りに来やがったね!」

私達と奴との間には、目視した限りでは数キロの距離があるだろう。

にも関わらず、距離など無視しているように届くその禍々しさに、この場の全員に動揺が走る。


カタ……


私の膝が、軽く震えた。

ほむら(やはり恐ろしいわね……)

だが、それに呑まれる訳にはいかない。

524: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:17:32.82 ID:zAuU8VuXo
ほむら「さあみんな、行くわよ!
グリーフシードはちゃんと持っているわね!?」

マミ「ええ!」

杏子「おうよ!」

さやか「もちろんっ!」

ここに集まるとすぐ、私達は各々のグリーフシードを分け合った。

そうする事により、
グリーフシードが無くなるまではソウルジェムの穢れを気にせずに全力で魔力を使い続けられるからだ。

いや、そもそも魔力の節約などを気にしていて勝てる相手ではない。

奴は生半可な攻撃では傷一つつけられない防御力と耐久力を持っている為、小技を出したり長期戦を挑むのは愚策。

小技など使ったところで、ダメージを与える以前に牽制にもならないし、
時間が経てば経つほど、魔力が少なくなった私達は威力のある攻撃が出来なくなるからだ。

ほむら(初めから出来る限りの攻撃を仕掛け、押して押して押しまくり、短期決戦で決めるのが最善!)

それと、私の能力的にも長期戦はしたくない。

私が時間停止の力を使えるのは、時間遡行してからひと月の間だけであり、その期間はこの戦いの最中に切れるのだ。

そうなると私の戦力としての価値は激減し、結果この戦いの勝率も大きく下がってしまうだろう。

また、なによりも……

下手に時間をかけると、まどかが町の危機を救う為に魔法少女になる可能性もあった。

ほむら(そんな事にはさせない!)

とにかく、すべての面においてこの戦いに時間はかけられない。

525: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:19:32.77 ID:zAuU8VuXo
ほむら「マミさんっ!」

マミ「ええ!」

まず第一陣。

ワルプルギスの夜を視認したら、私とマミさんの遠距離砲で先制攻撃を仕掛ける!


バッ!


私は、辺りの地面一杯に対戦車用のロケット弾を。マミさんは超巨大な大砲を召喚した。

恐らく、この戦いで柱になるのはマミさんだ。

これまでの経験から考えると、ワルプルギスの夜を倒すのに一番必要なのは攻撃力。それに尽きる。

そして、私達の中で一番の火力を持つのがマミさんなのだ。

526: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:21:29.64 ID:zAuU8VuXo
ほむら「マミさん、頼むわよ」

マミ「任せて!」

ほむら「……行けっ!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッ!!!!!!


私は、時間停止を使ってすべてのロケット弾をまったく同じタイミングで放ち、

マミ「ティロ・フィナーレッ!!!」


ド ン ッ ッ ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! !


マミさんの必殺技が火──いや、炎を吹く!


ドォンッ! ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!


それは狙い違わずワルプルギスの夜に伸び、直撃した!

私の攻撃にもありったけの魔力が込められている為、その威力はただのロケット弾の比ではない。

使い魔のような雑魚相手なら、重火器を普通に使うだけでも十分な場合が多いが、
魔女──それもこんな奴が相手だとそうはいかないからだ。

527: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:23:07.27 ID:zAuU8VuXo
さやか「すっげ……!」

マミ「まだまだっ!」

ほむら「っ!」

私とマミさんの攻撃は、まだ終わらない。

奴がもっと接近してくるまでに、出来る限りダメージを負わせる!


ドォンッ! ドドドドドドォン! ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!


上空で激しい土けむりが舞うが、それはどんどん近付いて来る。

これは、奴がまだまだ健在である証であった。

528: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:25:11.42 ID:zAuU8VuXo
さやか「マ、マジかよ……」

杏子「チッ、あたし達も手を貸せれば……!」

彼女達も遠距離攻撃の技が無い訳ではないが、私とマミさんのものに比べれば威力は格段に落ちる。

そもそも、その射程距離も『遠距離攻撃』という枠の中では短い為に、彼女達の攻撃はここからでは届かない。

それゆえ、佐倉杏子と美樹さやかは、最初は待機させる事にしたのだ。


カッ!


マミ「!」

ほむら「散って!」

私の叫びが響いた瞬間、


ゴウッ!!!


土けむりを引き裂き、赤茶けた、邪悪なオーラを放つ炎が、先程まで私達が居た空間を焼いた。

幸い、全員回避出来ている。

529: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:26:37.05 ID:zAuU8VuXo
さやか「あ、危なっ!」

杏子「あんにゃろっ!」


ワルプルギスの夜『アーハハハハハハハハハハハハハッ!』


マミ「わ、笑い声?」

突如、ワルプルギスの夜が甲高い笑い声を上げた。

ほむら「くっ……」

マミ「ほむらさん!」

ほむら「ええ!
美樹さん、杏子! そろそろお願いっ!」

杏子「おうっ!」

さやか「わ、わかった!」


ダッ!!


私の声を聞き、二人がワルプルギスの夜へと走って行く。

もう、かなりの接近を許してしまった。

ここまで近付かれたら彼女達には接近戦を仕掛けて貰い、その後ろで私とマミさんも攻撃を続ける。

ワルプルギスの夜に接近する事に加え、私達に誤射をされる可能性があるので、
二人にとってこれはかなり危険なのだが……

そんな事は言っていられない。

530: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:27:46.13 ID:zAuU8VuXo
ほむら・マミ『ふう……』

私とマミさんは、早速グリーフシードでソウルジェムを浄化した。

ほむら「大丈夫?」

マミ「もちろんよ」

私の問いに、マミさんは余裕の表情で頷くと、

マミ「ほら、私達も行くわよっ!」

先行した佐倉杏子達の方へと駆け出しながら言った。

ほむら「ええ!」

531: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:29:06.78 ID:zAuU8VuXo
─────────────────────

杏子「おおおおおっ!」

佐倉杏子の槍が、

さやか「やぁぁぁぁぁぁっ!」

美樹さやかの剣がワルプルギスの夜を突き刺し、斬り裂く。

マミ「このッ!!」

ほむら「くらいなさいっ!!」

それと同じく、遠くからのマミさんのティロ・フィナーレと私の大砲が直撃する。


カッ!


杏子「っ!」

さやか「!?」

しかし、ワルプルギスの夜の体が一瞬発光したかと思うと、佐倉杏子と美樹さやかが吹き飛ばされた。


ドサッッ!!!


マミ「二人とも、大丈夫!?」

杏子「おうよ!」

さやか「平気ですっ!」

マミさんの言葉に、二人はすぐに起き上がって答えた。

532: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:33:07.65 ID:zAuU8VuXo
ほむら「……でも」

まったく効いている感じがしない。


ワルプルギスの夜『アーハハハハハハハハハハ!
アハハハハハハハハハハアーーーーーハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!』


──ワルプルギスの夜は、建物を破壊しながら避難所の方角へ向かっていた。

それまでに奴を倒すか、最低でも進行方向を変えなければ……


キキキキキキャキャッ!


ほむら「っ!」

踊り狂う、真っ黒な人影のような使い魔の群れが現れ、私達の周りを飛び回る。

マミ「邪魔よっ!」

さやか「ぅぉあぁぁっ!」

杏子「ハァッ!」

しかし、マミさんのマスケット銃と、美樹さやかと佐倉杏子の一撃がそれらをあっさりと全滅させる。

533: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:34:47.72 ID:zAuU8VuXo
杏子「おいほむら! このままじゃダメだ!
あの化け物、タフすぎるっ!」

マミ「そうね……!」

さやか「くっそぉ! 何なんだよあいつ! これだけ攻撃してんのにっ!!」

ほむら「……ここからは、あの手でいくわよ」

それは、これまでの作戦会議で決めた奥の手の一つ。

出来ればこれを使う前に決着をつけたかったが、やはり無理だったか。

マミ「もう完全に市街地に入れてしまったからね……」

さやか「町はなるべく壊したくなかったけど、しゃーないかっ!」

それに、タイミング的にもその作戦を使うのは今しかない。

ほむら「みんな、私に続いて!」

杏子「おうっ!」

534: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:36:01.44 ID:zAuU8VuXo
─────────────────────


ブウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!


私は一人、魔力によって猛スピードで走るタンクローリーの上に乗っていた。

およそ百メートルほど先で、みんながワルプルギスの夜と戦っている。

これは、奴の足止めの為だ。

奴に自由に移動させると、いくら魔力で高めたタンクローリーのスピードでも追い付けないからだ。

535: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:39:41.20 ID:zAuU8VuXo
ほむら『みんな!』

戦場が間近に迫り、私は三人にテレパシーで語りかけた。

マミ『ほむらさんっ!』

杏子『やっと来たかっ!』

さやか『待ってたよ!』

見ると、私が彼女達と別れた時よりもワルプルギスの夜の高度が下がっている。

三人が、足止めだけではなく、私が行動をし易くなるようにあいつの動きをなんとか誘導してくれたのだろう。

ほむら(ありがたいわね)


ブロロロロロロッ!! ガッ!!!


私はタンクローリーを操作して、崩壊して倒れている元高層ビルの上に乗り上げた。


ワルプルギスの夜『アーハハハハハハハッ!!!』


この向こうに、ワルプルギスの夜とマミさん達が居る。

かつて壁だった地面は、
所々ひび割れていたり、崩れて段になっている為にかなりガタガタしていて車体が揺れるが、なんとか走行は出来る。

急な坂道のようにもなっており、進めば進むほど空が近くなっていくが……


ブウゥゥンッ!!!


あと数メートルでこの道が途切れるという段階まで来た所で、私はさらにタンクローリーのスピードを上げた。

536: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:44:28.91 ID:zAuU8VuXo
ほむら『──みんなっ!』


ドンッ!


そして、私がテレパシーで叫ぶと同時に、ついに走る道を失ったタンクローリーが空を舞う!


バッ!


同時に、私はすぐにタンクローリーから飛び降りた。


バババッ!


落下する私の視界の端に、ワルプルギスの夜から離れていく三つの影が映った。

ほむら(よしっ!)


カチッ!


それを確認すると、私は時間を止めた。


スタッ!


私が着地したのは、大型トラックの荷台に載せられた、巨大な筒の上。

この筒は六つあり、すべてが強力な対艦ミサイルの発射チューブだ。


ウィィィン……


荷台を動かし、発射チューブの先端をワルプルギスの夜に向ける。

537: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:47:00.93 ID:zAuU8VuXo
ほむら(……いけッ!)


ドウンッ!!!

カチッ!


対艦ミサイルをすべて発射させると同時に、私は時間停止を解除した。


ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッッ!!!


時が動き出した事で、まずは空中に浮いたままだったタンクローリーがワルプルギスの夜の顔面辺りにぶつかり、
爆発・炎上を起こす!

ここまで丁度よい所に当てられたのは、みんなが奴の飛ぶ高度を下げてくれたおかげだ。

続けて、


ドガッ、ドガッ、ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!


タンクローリーの爆発がおさまる間も無く、対艦ミサイルもそのすべてが命中した!

今の攻撃のどちらも、魔力によって元のそれとは比べ物にならないほど威力を高めているが……

まだ奴は倒れていないどころか、大したダメージすら無いだろう。


ドウッッッッッ!!!


突如として上の方からティロ・フィナーレの光が伸び、


ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!!!


ワルプルギスの夜へと直撃し、先の私の攻撃のものを上回る爆発が起こる!

538: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:54:56.27 ID:zAuU8VuXo
ほむら(……よし!)

今のは、私が先程まで居た、崩れたビルの上からのマミさんの攻撃だろう。

作戦通りだ。


ババババッ、ビュンッ!


さらにマミさんの一撃に続いて、
美樹さやかの剣が複数と、佐倉杏子の巨槍がワルプルギスの夜に向かって飛んでいった。

遠距離戦は不得意な二人だが、この距離のこの攻撃だと問題無く届く。

接近戦での彼女達のそれと比べたら威力が落ちるのは否めないが、
それでも、少しでも破壊力が欲しいこの戦い・この作戦では、これはとても貴重な援護射撃だ。


ド ン ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! ! ! ドドドドドドドドッ!!!!!


これらがワルプルギスの夜に到達する前に、続けて再びマミさんの攻撃が放たれた!

先程とは違い、この攻撃にはティロ・フィナーレ以外にもいくつもの光の軌跡が在る。

マミさんは予め多数のマスケット銃を召喚しておき、
自身の必殺技を撃つのと同じタイミングでそれらも放ったのだろう。

ほむら(よしっ! これなら……!)


ビュンッ!!


美樹さやかと佐倉杏子の攻撃が、ワルプルギスの夜が居るだろう土けむりの中に吸い込まれ──


ドドドドドドドドッドドドドドドドドッ、
ドゥォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッッ!!!!!


マミさんの攻撃も奴に到達し、青と赤と黄色と……

そのすべてが混じり合った、強烈な破壊の光が荒れ狂った!

539: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:57:19.78 ID:zAuU8VuXo
ほむら「くっ!」

それに呑まれた辺りの建物が、崩れる間も無く消滅し、
私は攻撃の余波で生まれた爆風に飛ばされないよう、腰を落として踏ん張る。


ワルプルギスの夜『アーーーーーハハハハハハハハハハハッッハハハハハハハハハハッッッッッ!!!!』


そのあまりの威力に、ワルプルギスの夜が押されるどころか吹っ飛んでいくのが見える。

ここまで来てタイミングを逃しては最悪だ。

私は慌てて爆弾の起爆装置を二つ、盾から取り出し……


ワルプルギスの夜『アーーー──』


ほむら(今だっ!)

奴がベストの位置に到達した瞬間に、その一つを押した!


カッ……!


一瞬、ワルプルギスの夜の周りの高層ビル達が発光し……


ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!


爆発!

破壊された建物は一気に崩れ、爆風も手伝ってワルプルギスの夜を地面に叩きつけた!

ほむら「もう一つっ!」


カチッ!


奴が地面に接触した所で、もう一つの起爆装置を押す!


ヅ……ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッッッッッッッッッ!!!


コンマ以下の間の後、今ワルプルギスの夜が居る地面に仕掛けていた、強力で、無数の爆弾達が大爆発を起こした!

540: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 00:58:58.99 ID:zAuU8VuXo
ほむら「やった!」

これらの爆弾達と、タンクローリーと……すべてをまとめて奴に叩き込めるのは、このタイミングしかなかった。

そして、私達の持ち手の中で一番の攻撃力を期待出来るこの作戦は、見事に成功した!


ドンッ! ドウッ!


上からは、まだ幾重もの光がワルプルギスの夜に向かって伸びている。

私は射線に入らないように軽く回り込みながら、再び元高層ビルの上に戻ってきた。

そこには、引き続きワルプルギスの夜に追撃をかけるマミさん、美樹さやか、佐倉杏子の三人が居た。

541: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 01:03:37.21 ID:zAuU8VuXo
ほむら「みんなっ!」

マミ「はぁ……はぁ……」

杏子「ふぅ、ふぅっ……!」

さやか「あ、あたしもうダメだわ……」

私が三人に駆け寄ると、彼女達は肩で大きく息をしながら攻撃を止め、
あるいは膝をつき、あるいは座り込んだ。

ほむら「とりあえずは、作戦成功ね……」

杏子「だな……
くそっ! これで倒せてなかったらキレるぞっ!」

さやか「へんっ! 化け物め、ざまあみろッ!」

マミ「……ふふっ、やったわね……!」

私も含め、全員が急いでソウルジェムを浄化する。

542: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 01:06:40.13 ID:zAuU8VuXo
杏子「──あんたら、グリーフシードはどれだけ残ってる?」

マミ「私はもう一つしか無いわ」

ほむら「私も」

さやか「あたしは三つ残ってる」

杏子「あたしは二つだ。
……だいぶ減っちまったね」

ほむら「もう……私達に残された時間は少ないわね」

私が盾から対戦車砲を取り出すと、三人もそれに合わせて立ち上がった。

全員、疲労の色が濃い。

魔力はグリーフシードで回復、体力は魔力でカバー出来ても、
度重なるかつてない緊張感と集中は、確実に私達を疲弊させていた。

また、接近してワルプルギスの夜と戦っていたマミさん達は、
魔法少女の衣装が所々破れ、肌にも多数の傷を負って出血している。

これは、回復力が群を抜いている美樹さやかとて例外ではない。

魔力を使っても怪我がすぐに完治する訳ではない上に、守りや回復よりも攻撃に魔力を集中させていたからだ。

543: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/12(木) 01:09:04.69 ID:zAuU8VuXo
マミ「さあ、最後の一押し……行くわよっ!」

ほむら「ええ!」

杏子「おうっ!」

さやか「よっしゃ!」

ふらつきながらも声を上げるマミさんに私達は応え、
未だ土けむりが止まぬ、ワルプルギスの夜が居る場所に向けて再び攻撃の構えを取った。

……その時。


ビュンッ!!!


ほむら・マミ『!?』

杏子・さやか『なっ!』

超スピードで飛んできた、ワルプルギスの夜の放った極太の闇色のビームが、私達を呑み込んだ!

553: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:31:52.61 ID:EJxvqCWEo
─────────────────────

一瞬、私は気を失っていたのだろう。

ほむら「!」

いつの間にか地に倒れていた事に気付いた私は、慌てて立ち上がった。


ヨロッ……


ほむら「ぐっ……!」


バシャッ。


酷い眩暈に、足元がふらつく。

ほむら(な、なにがあったの……?
──みんなは!?)

辺りを見回すも、私以外に誰の姿も見付けられなかった。

554: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:35:47.18 ID:EJxvqCWEo
ほむら「…………」

周囲は、大地には足首が浸かるくらいの水が溢れていて、崩壊した建物が散見される。

空には厚い灰色の雲が広がり、数キロは向こうだろうか? 遠くの空には、相も変わらずワルプルギスの夜の姿が見えた。

これは、これまでにも何度も見てきた……ワルプルギスの夜に敗北した時間軸での、私にとっての世界の終末に似ていた。

ただ、この惨状は、前方は奴が居る辺りから始まって、私の後方は地平線まで続いてはいるが……

左右は数十メートル先ぐらいまでで、そこから先は綺麗な建物が立ち並ぶ様子が確認出来る。

ほむら(……そうか……)

思い出した。私は──私達は、あいつの闇色のビームを喰らって吹き飛ばされたのだ。

555: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:37:08.01 ID:EJxvqCWEo
ほむら「くっ……!」

破壊されている周囲は、あのビームの射程範囲内だったのだろう。その広さに、私は言葉を失う。

しかし逆に言えば、攻撃範囲が広い分威力そのものはそれほどでもなかったのだろうが。

そうでないと、まったく防御が出来ずに直撃して、ここまで五体満足で動ける訳はない。

ほむら(さっきのワルプルギスの夜の攻撃が、範囲をもっと絞って威力を重視したものだったら……)

そんな『もしも』は、考えたくなかった。

だが、これならば、みんなは別の場所に飛ばされ・はぐれてしまっただけできっと無事で居るはず。

全員が同じ場所に集まっている中、同じ攻撃にやられたのだ。

ほむら(それで、私しか助からなかっただなんてありえないわ)

556: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:38:24.20 ID:EJxvqCWEo
……!

ようやく私は気付いた。

遠くに見えているワルプルギスの夜の姿が、段々大きくなっている事に。

奴がこちらに近付いて来ているのだ。

ほむら(望む所だわ……!)

このまま迎え撃ってやる。

ほむら(とはいえ、もう一対一では絶対に勝ち目が無い……)

そういえば、さっきまで持っていたはずの対戦車砲はどこにも見当たらなかった。

気付かないうちに落としたのだろう。

今の私には、ワルプルギスの夜相手に使える武器はほとんど残っていない。

戦闘開始からだいぶ時間が経った為に焦燥感が募るが……

まずは、みんなを捜して合流するべきだろう。


カッ!


ほむら「!?」

そう決断した時、遠くのワルプルギスの夜が闇色に輝いた!

それは──

557: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:40:09.20 ID:EJxvqCWEo
ほむら(この距離から撃ってきたっ!?)


ヴァヴァヴァヴァヴァッ!!


こちらへと伸びる黒い稲妻を見て、私は慌てて回避行動を取ろうとしたが、


カクンッ!


ほむら「あっ……!」

先程のダメージが抜け切っていなかったのだろう。再び襲ってきた眩暈に、私の膝が折れた。


ギュンッ!!


稲妻は、みるみるうちに私へと迫る!

ほむら(避けられない!)

私の背に恐怖と絶望が走り抜けた……その時!


ビュンッ!!!

──ガッッ!!!!!


背後から飛んできた桃色の光が、私の間近まで来ていた黒い稲妻とぶつかった!

558: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:42:17.83 ID:EJxvqCWEo
ほむら「!?」


ドドドドドドドドッッッッッ!!!!!!!


『光』は稲妻を呑み込み・打ち消しながら、ワルプルギスの夜へと向かう!


ドゥンッッッッッッッッッ!!!!!!!!!


そして、そのままワルプルギスの夜に直撃し、巨大な体躯のあいつを軽々と弾き飛ばした!

もはや、ここからでは豆粒程度の大きさの影にしか見えないほどに。

ほむら「な……なっ……!?」

もの凄い威力だ。

私達と戦ったダメージがあるのかもしれないが、それでもあの化け物をあそこまで簡単に……!

大体、桃色の光は、あの稲妻と真正面からぶつかって押し返していったのだ。

それを考えると、ワルプルギスの夜に届く前にその威力はかなり削られていたはず。

今の一撃を直接叩き込めていたら、その一発だけであいつを倒せていたのではないだろうか?

559: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:43:21.63 ID:EJxvqCWEo
ほむら「…………」

私にはわかっていた。

今の攻撃を誰がしたのか。

あの輝きを放つ、あれほどの威力を持った攻撃が出来る可能性のある人物は、私の知る限りただの一人しか居ない。

私達は、私は……

間に合わなかった。


まどか「ほむらちゃ~~~~~んっ!」


背後から届いてくる声に、私はゆっくりと振り向く。

これが夢であってくれと願いながら。

560: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:44:48.86 ID:EJxvqCWEo
─────────────────────

ほむら(こうなる前に……終わらせるつもりだったのに)

そこには、私の一番の友達である少女が走って来る姿があった。

桃色の鮮やかな衣装に、胸元にあるソウルジェム……

その姿は、まぎれも無く魔法少女のそれだ。

まどか「よかった、無事で!
ふぅっ、ふうっ……へへっ!」

まどかは、満面の笑顔で私の側に来た。

汗をかいて激しく息を切らせているのを見ると、さっきの一撃でだいぶ体力と魔力を消費してしまったらしい。

これはそれだけの攻撃だったのもあるかもしれないが、まだ力の上手い使い方がわかっていないのだろう。

561: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:47:06.97 ID:EJxvqCWEo
ほむら「ど、うして……まどかが魔法少、女に……?」

唇が震えて上手く言葉を紡げないが、それでも私はなんとか問うた。

まどか「あのね、避難所に居たら白い……キュゥべえだったかな?
が現れて、この災害の本当の原因を教えてくれたの」

ほむら「!」

まどか「この町を救う為に、ほむらちゃんが、さやかちゃんとか──他の仲間の人達と一緒に、
魔女? と戦ってるって聞いたよ」

ほむら「…………」

まどか「でね、とても信じられなかったんだけど、確かに避難所のどこにもほむらちゃんもさやかちゃんも居ないし……
二人が心配だったし、胸騒ぎがして止まらなかったから、なんとか避難所を抜け出してみたの」

そうしたら、上空にはキュゥべえが言った通りの見た事もない怪物が居て、その近くで爆発が頻繁に起こっている……

それはどう見ても自然現象ではなく、確かに怪物と戦っている人が居るのだと確信した、と彼女は言った。

ほむら(そうね……
素質を持つまどかは、契約をしなくてもワルプルギスの夜を視認する事が出来る。
出来た……)

562: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:48:47.14 ID:EJxvqCWEo
まどか「あのね、それで戦ってるのがほむらちゃん達だと思ったら、わたし居ても立っても居られなくなって……
キュゥべえに案内されて、この近くまで来たんだ」

ほむら「どうしてっ!」

まどか「!?」

私は、怒りと悲しみにまどかの両肩を掴んで叫んでいた。

ほむら「どうしてこんな所まで来たの!? あなたには出来る事なんて無いじゃないっ!
無かった……はずなのに……」

まどか「……キュゥべえがね、『自分と契約して魔法少女になった』ら、
わたしなら、ほむらちゃん達を助けられるって言ったから」

ほむら「!」

まどか「怖くて、信じられなくて……でも、確かに怪物が暴れてて……
本当にわたしなんかが、そんなのと戦うほむらちゃん達を助けられるなら、
わたしなんかに出来る事があるんならって思って……来ちゃったの」

それでもまどかは、目の前で起こる非現実的な光景と状況に混乱・恐怖して動けなくなり、
キュゥべえと一緒に物陰に隠れてしばらく震えて見ているだけだったらしい。

563: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:50:57.74 ID:EJxvqCWEo
まどか「やっぱり、自分があんな風に戦うって考えたら怖くて……」

だが、先程私達に放たれたワルプルギスの夜のビームを見た後、キュゥべえは言ったのだ。


キュゥべえ『暁美ほむら達は、今の攻撃で壊滅的なダメージを受けたんじゃないかな?
これが彼女達を救う最後のチャンスだ。
今すぐに君が魔法少女になって参戦しないと、暁美ほむら達は全員死んでしまう!』


……そして、その言葉にそそのかされたまどかは魔法少女になった。

私達を救う為に。

564: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:53:30.80 ID:EJxvqCWEo
キュゥべえ『そんな風に長話をしていて良いのかい?』

ほむら「っ!」

突然、どこからかキュゥべえの声が聞こえてきた。

私は慌てて周囲を見渡すが、奴の姿は無い。

まどか「ほむらちゃん?」

ここからそう遠くない場所にある瓦礫の影にでも隠れて、テレパシーを使っているのだろう。

キュゥべえ『まだワルプルギスの夜は生きているようだ。
早く倒してしまわないと、この町は完全に壊滅してしまうよ?』

ほむら『キュゥべえ……っ!
お前、まどかを……まどかをッッ!!!』

折角ここまで上手くいっていたのに……折角……!

キュゥべえ『鹿目まどかに契約を持ちかけるのに、君達に邪魔をされてどうしたものかと考えていたんだけどね。
ある日思ったんだ。君が僕の考えている通りの時間遡行者であり、人間なら、少し待てば最高のチャンスが訪れるって』

ほむら『なんですって……!?』

565: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 22:57:31.60 ID:EJxvqCWEo
キュゥべえ『君達は……
少なくとも君は、ワルプルギスの夜の恐ろしさと、襲来をわかっていながらも町から逃げ出しはしない様子だった。
しかも避難をしてやり過ごしもせずに戦うつもりらしいが、いくらマミや杏子達と手を組んでも勝算はゼロに等しい。
それだけあの魔女は強大なのだからね』

ほむら『…………』

キュゥべえ『そして、君と、美樹さやかは鹿目まどかの友達だ。
なら、下手に動くよりもワルプルギスの夜が来るまで待つのが上策さ』

友達の為なら、どんな危険の中にでも身を投じられる優しさと強さを持っているまどかだ。

ほむら『私達が勝ち目の無い戦いに挑み、追い詰められれば、簡単に契約を結べると踏んで……』

キュゥべえ『そうさ。
それに、君達がみんな出払ってくれれば、鹿目まどかに接近するのも容易いしね。
こんな状況ではさすがに志筑仁美も邪魔はしてこないと思っていたし、実際今日を迎えてみたらその通りだった』

ほむら『くっ……!』

566: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:00:54.51 ID:EJxvqCWEo
キュゥべえ『この間、鹿目まどかの家の屋上で君の前に現れたのは、それを『確信』したかったからさ。
君が彼女を救おうとしているのはあの廃工場での時にわかったが、
もし僕の考え違いだったら、無意味に時間を捨てる事になるからね』

ほむら『…………』

キュゥべえ『だってそうだろう?
この事件でチャンスが無さそうなら、わざわざこの日を待つだけなんて無意味で非効率的だ。
そんな風に時間を無駄にするつもりは無かったからね』

わかっていた。

キュゥべえ『もちろん、最大のチャンスがあると見越せているのに、その前に下手に動くつもりも。
そんな事をして、時間遡行者たる君に、万が一でも僕の思惑に気付かれても困るし』

時間をかけすぎると、こうなる可能性があったのはわかっていた事だ。

567: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:02:52.02 ID:EJxvqCWEo
だが過去の経験から、ワルプルギスの夜とはどうしても全員で戦わないと勝てないと判断した為に、
私達は四人で立ち向かった。

全精力を持って、速攻で奴を倒してしまえばすべては問題無く終わるはずだったし、
その作戦に賭ける方が、下手にまどかに護衛を回すよりも彼女を救える可能性が高いと思ったのだ。

実際四人で協力してあのザマだったのだから、
どうしてもワルプルギスの夜に勝つ必要があった以上、戦力を集中させたこの選択自体に間違いは無かった。

……そのはずだったのに。

ほむら(もし誰かをまどかの守りにつけたりしていたら、
戦いにもっと苦戦していて彼女の契約を早めるだけではないか? と……)

そもそも、そうすると戦いに勝てたとしても犠牲者が出てしまうか、下手をしたら全滅してしまうのではないか?

それでは結局何にもならないと、そう考えたのに……

??「……さ……!」

568: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:03:43.94 ID:EJxvqCWEo
ほむら(……もっと早い段階で、あえてまどかとキュゥべえを出会わせておいた方がよかったというの?
それで、魔法少女の現実を教えておいて、絶対に契約はするなと念を押す方がよかった……?)

でも、それで成功した事なんて……

マミ「ほむらさんっ!」

激しい動揺から、混乱する私を現実に引き戻したのはマミさんだった。

569: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:05:27.50 ID:EJxvqCWEo
ほむら「……!?
マ、マミさん、いつの間に……!」

マミ「ちょっと前から居たわよ? ずっと声をかけていたのに気付かないんだもの」

ほむら「ごめ……んなさい」

見ると、辺りにはマミさんとまどかしか居ない。

マミ「ワルプルギスの夜の攻撃にやられた後、綺麗な桃色の光が見えてね。
それを目印にしてやって来たら、あなた達が居たの」

ほむら「うん……」

佐倉杏子・美樹さやかとはすでに合流出来ていて、みんなで手分けして私を捜してくれていたらしい。

魔力の波動で私の大まかな位置はわかっていた上、彼女達もあの光を見ていたはずなので、
すぐにでも二人もやって来ると思うとの事だ。

570: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:07:03.29 ID:EJxvqCWEo
マミ「それにしても……」

マミさんが苦々しい表情でまどかを見る。

マミ「あの子、鹿目さんよね……?
なら……」

まどか「え、と……?
あ、あの、巴先輩も魔法少女だったんですね。
えへへ、驚いちゃいました」

その視線を受けてか、まどかはやや居心地が悪そうに言った。

そういえば、この世界のまどかとマミさんは一度だけ会って話をした事があるのだったか。

ほむら(……まずい)

気力が、どんどん無くなっていく。

なまじここまで上手くいっていた分、ここに来てこれは……

571: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:09:14.91 ID:EJxvqCWEo
マミ「マミ、で良いわよ」

まどか「はい……
えっと、マミさん」

マミ「うん……」

まどか「えへへっ」


とくん。


ほむら「……?」

しかし、ふと──

こうしてまどかとマミさんが並んでいるのを見たら、
私の中にゆっくりと、そして熱く・強く湧き上がってくる『もの』があった。

マミ『……ほむらさん、こうなってしまったのなら……もう……』

不安そうに立ちすくみながら、マミさんが私にテレパシーを送ってくる。

ほむら『……そうね』

私がずっと追い求めてきた最大の目的は、これで達成出来なくなってしまった。

ほむら(結局、また……)

……でも。


ぎゅっ!


マミ「!」

私は、マミさんの手を力強く握った。

572: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:10:51.25 ID:EJxvqCWEo
ほむら『でも、私にはまだやるべき事がある!
守るべきものがあるっ!』

マミ『!』

そうだ。まどかは魔法少女になってしまったが、それで彼女が死ぬ訳でも、不幸になると決まった訳でもない!


『この力を使えば、大切な人達を守る事が出来るはずよ』


これは、この間私が美樹さやかに言った言葉だ。

ほむら(そうだっ! これまでに積み重ねてきた力があれば、同じ魔法少女だって……
今のまどかすら『守れる』はず!)

573: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:12:15.21 ID:EJxvqCWEo
遠い──遠いあの世界でのまどかとの約束は果たせなくなってしまったけれど、
それこそ自分の頑張り次第で、その約束を果たす以上の幸せだって彼女に与えられるはずだ!

ほむら(まどかと、マミさんと、美樹さんと、杏子と……)

最高の友達、愛しい人、大好きな仲間達。

大切なみんなで過ごせる幸せが手に入るなら。幸福な結末を手に出来るのなら……!

この現実を捨てるつもりも、諦めるつもりも無い!

ほむら(私は、あの時の『約束』だって超えてみせるッ!!!!!)


ゴゴゴゴゴゴッ!!!


ほとばしる、力。

そう。

二人のかけがえの無い存在を間近に見、感じる事で、
意気消沈していた私に再び気力が湧き上がってきたのだ。

574: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:14:03.23 ID:EJxvqCWEo
マミ「ほむら……さん?」

まどか「ほむら……ちゃん?」

ほむら「さっきからボーッとしちゃってごめんなさい」

私は、決意の瞳で二人を見た。

ほむら「とにかく……」

杏子「ようっ!」

さやか「待たせた!」


スタッ!


私が上げかけた声に被さるように、佐倉杏子と美樹さやかが到着した。

マミ「二人とも!」

杏子「悪かったね。待たせちまった」

ほむら「大丈夫、問題無いわ。
そんな事よりも無事でよかった……」

575: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:15:51.04 ID:EJxvqCWEo
まどか「さやかちゃんっ!」

さやか「!!? ま……どか?
えっ?」

美樹さやかの姿を認めたまどかが驚きの声を上げ、それを受けた美樹さやかも驚愕の表情になった。

まどか「本当にさやかちゃんも魔法少女だったんだねっ!」

さやか「う、うん……」

杏子「まどか……
まどかだと!?
じゃあ……!」

さやか「ほ、ほむら……あんた……」

ほむら「大丈夫」

佐倉杏子と美樹さやかが心配そうな視線を向けてきたが、私は笑顔で返した。

576: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:16:38.55 ID:EJxvqCWEo
さやか「ほむら……?」


ビュゥンッ!


ほむら・マミ・杏子・さやか『っ!?』

──唐突に生まれた禍々しい風に、まどか以外の四人は同じ方向を向いていた。

まどか「えっ?」

それに釣られ、まどかも。

その先には、ワルプルギスの夜の姿。

……なのだが、今までは頭を下にして飛んでいたあいつが、逆に──つまり、人型の部分を上にして飛んでいる。

奴のこんな姿は見た事が無い。

577: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:18:03.29 ID:EJxvqCWEo
マミ「ちょ、ちょっと待って……
なによ、この魔力……?」

ワルプルギスの夜の魔力を探ったらしきマミさんが、絶望感を漂わせながら呟いた。

さやか・杏子『…………』

美樹さやかと佐倉杏子もその力に気付いたのだろう。絶句している。

ほむら(ワルプルギスの夜は……まだ、力を隠していたというの!?)

今の奴は、人型を下にして飛んでいた時とは比べものにならないほどの魔力を放っている。

ほむら(これまででさえ、とんでもない化け物だったのに……)

杏子「お、おいほむらっ! なんなんだアレ!?」

ほむら「……私にもわからない。私もあんなの、知らないわ……」

さやか「ふ、ふざけないでよっ! あんなの勝てる訳ないじゃんっ!」

確かにそうだ。全員が力を合わせても、さっきまでのあいつを撃破出来なかったのだから。

だが、こんな状況にも、私には絶望感というものがまったく無かった。

まどかとマミさんという、私にとって最高の存在のおかげで。

578: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:19:41.24 ID:EJxvqCWEo
ほむら「……まどかの事も含めて、細かい話は後よっ! 最後の作戦を行うわ!」

マミ「えっ!?」

さやか「はあ!?」

杏子「正気かお前!?」

私の言葉に、事情を飲み込めずにオロオロしているまどか以外の三人が驚愕した。

さやか「なに言ってんのさ! みんなを連れて逃げようよっ!
あんなの無理だって!」

ほむら「それこそもう無理よ」

さやか「……!」

こうして話している間にも、私達と奴との距離はあっという間に縮まっていた。

どうやら魔力だけではなく速さも増大しているようで、それはまるで暴風そのもの。

お互いの距離・奴のスピードを考えたら、今から逃亡を試みた所でとても逃げ切れないだろう。

避難所の人達も見捨てるつもりが無いなら、尚更だ。

579: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:20:49.69 ID:EJxvqCWEo
ほむら「……美樹さん、あなたは上条恭介を──大事な人達を守りたいのよね?」

さやか「!?
あ、当たり前じゃんっ!!」

ほむら「杏子、あなたはこの町を自分の縄張りに……
ううん。
また、この町で頑張りたいのよね?」

杏子「!
……ああ!!」

ほむら「マミさん──」

マミ「──私は、あなたについていくわ」

私にみなまで言わせずそう断言してくれたマミさんに、私は思わずほほえんでいた。

580: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:22:09.27 ID:EJxvqCWEo
ほむら「……なら、まずはワルプルギスの夜を倒すわ!
可能性は低いかもしれないけれど、私達にはまだ出来る事があるっ!」

さやか「……どうせ逃げらんない訳だし、みんなを守る為なら……!」

杏子「諦めるのは、本当に万策尽きてからでも遅くはない、か」

……二人にも、闘志が戻ってきた。

さやか「おっしゃあ! だったらやってやるッ!!!」

杏子「万一があるかもしれねえしな。
あの化け物に目にもの見せてやろうぜッ!!!」

マミ「そうねっ!!!」

ほむら「お願いまどか、あなたも力を貸してっ! この町を、みんなを救う為に!!!」

そして、あなた自身を守る為にも!

まどか「!
うん、もちろんだよっ!!!」


ダッ!


私はまどかと笑い合うと、ワルプルギスの夜に向かって駆け出した。

みんなもそれに続いてくれるのが、背後の気配でわかる。

581: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:23:57.45 ID:EJxvqCWEo
ほむら『……マミさん』

マミ『えっ?』

そんな中、私はテレパシーでそっとマミさんに話しかけた。

ほむら『心配しないで。
なにがあっても、私はこの世界を……あなたたちを決して見捨てないわ。
この戦いに必ず勝ち、その後にみんなでお茶でも飲みましょう』

マミ『ほむらさん……』

ほむら『だから、あなたがそのお茶を淹れてね。
もちろん、美味しいお菓子もつけて』

マミ『ええ、わかったわ!』

ほむら『そして、それからは……』

マミ『?』

582: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:24:23.19 ID:EJxvqCWEo
ほむら『一緒に生きていきましょう』

マミ『!!!
……はい』

583: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:26:19.04 ID:EJxvqCWEo
─────────────────────

私達五人は、ワルプルギスの夜の前の、奴の魔力で空中に浮いている崩壊した建物の上に立っていた。

ワルプルギスの夜は百メートルほど向こう。それほど距離は離れていない。

585: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:29:03.45 ID:EJxvqCWEo
まどか「えっと……
わたしは、マミさんが合図をしたら攻撃すれば良いんですよね?」

マミ「そうよ。
とにかく全力で、ね。それだけで良いわ」

まどか「はいっ!」

私達は、最後の作戦に急遽まどかを組み込んだ。

彼女がやる事自体は、マミさんが言った通りとても単純なもの。

それこそ、新人の魔法少女でも簡単に出来るくらいの。

最初までのワルプルギスの夜が相手で、まどかの攻撃力を持ってすれば、
彼女を軸に立ち回ればそれで奴を倒せる可能性も十分に考えられたが……

さすがにそうする為の連携に不安があるし、
そもそもこれほどまでの魔力をほとばしらせて来るあいつに、それは不可能だと判断した。

また、あと七つまで減ってしまったグリーフシードの残りを考えたら、私達はなんとしてもこの攻撃で決めたかった。

この戦いに勝利しても、穢れたソウルジェムを浄化出来なければそこで魔女化して終わってしまうからだ。

ちなみに、そのグリーフシードは役割上すべて美樹さやかに預けてある。

586: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:30:17.84 ID:EJxvqCWEo
ほむら「さあ……行くわよ!」

私の言葉に、全員が頷く。


ワルプルギスの夜『アーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!』


ほむら「──美樹さんっ!」

さやか「おっしゃあっ!」

美樹さやかは私の声に応えると、刃がワルプルギスの夜に向いて浮く三十本もの剣を、自身の体の周りに召喚した。


バッ!


そして、彼女は奴に向かって右手を勢いよく差し出すと、

さやか「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

高らかに叫んだ!


ドンッ!!!!!


それと共にすべての剣が青白く輝きながら、
中央に数メートルの空間を開けた、ドーナツ状の形でワルプルギスの夜へと飛んで行く!

587: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:31:37.94 ID:EJxvqCWEo
杏子「次はあたしだっ、いくぞッ!」


ビュンビュンビュンッ、ジャギンッッ!!


佐倉杏子が槍を手元で三回転させ、構えた。

杏子「おおおおおっ!!!」

彼女は、その自分の得物にありったけの魔力を込めると、槍がどんどん巨大化していく!

やがて佐倉杏子は、柄が太く、長さは五メートルほどになっただろう紅く発光するそれを両手で持ち上げ……

588: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:33:16.05 ID:EJxvqCWEo
杏子「おおおおおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!」


ブンッ!


ワルプルギスの夜へと投げつけた!


タッタッタッタッタッ!


ほむら「杏子っ!」

杏子「おうっ!」

そして、後ろから走って来ていた私と並ぶように彼女も駆け出す。


ババッ!!!


それから私達は同じタイミングで跳ぶと、先程佐倉杏子が投げた巨槍の上に乗った!


ビュゥンッ!


巨槍はみるみるうちに美樹さやかの放った剣の群れに追い付き、中央の空間に入る。


カッ!


魔力の込められた武器達の光が束ねられ、
巨槍と剣の群れは、青白い輝きを放ちつつも紅い光をほとばしらせて共に飛ぶ!


ワルプルギスの夜『アーハハハハハハハアーーーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!!』


それは一瞬でワルプルギスの夜の眼前まで来、

589: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:34:39.88 ID:EJxvqCWEo
杏子「くらいやがれクソ怪物ッッッ!!!」


ガッ!


巨槍と剣達の切っ先が奴に触れた瞬間、佐倉杏子が私の肩を掴み、二人で後ろに大きく跳んだ!


ドズンッッッッッ!


それと同時に、奴にいくつもの刃が突き刺さる!!


カチッ!


私は空中で急いで時間を止め、盾から複数の爆弾を取り出した!

これで、私がストックしていた中で、ワルプルギスの夜に通用しそうな武器はすべて。

あとは拳銃等の小物しか残っていない。

590: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:39:37.95 ID:EJxvqCWEo
杏子「やっちまえっ!」

側に居る佐倉杏子は、私に触れている為に時間停止の影響は受けていない。


ブンッ!


私はすぐさま、取り出した爆弾達をワルプルギスの夜へ投げつけた!


……カチッ!


そのまま数秒ほど落下するに任せ、時間停止を解除!


ドガッ!! ドドドドドドドッ!!!!!


突き刺さった刃達がワルプルギスの夜の体内で弾け、それによって開いた穴の前に、私の投げた沢山の爆弾が──


ゴウッッッッッッ!!!!!


爆発する前に、


ド ガ ァ ァ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !


直径数十メートルはあろうかという黄色く超巨大な光の大砲が、爆弾達を押してワルプルギスの夜に直撃した!

591: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:41:24.40 ID:EJxvqCWEo
守りなど他の事を完全に排除し、攻撃だけに全精力を込めた、マミさんの最大威力のティロ・フィナーレ!!!

時間停止を使わなかったり、すぐに解除をしていたらこの攻撃に巻き込まれていただろう。


ドオンッ! ドォォォォォンッ!!!


ティロ・フィナーレのおかげで押され、奴の体内に入った私の爆弾達がここで爆発し、


ギャンッ!!!

ヅ ド ァ ッ ッ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !


そこへさらに続けて、美しい桃色の光線がワルプルギスの夜に突き刺さった!!!

592: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:43:35.32 ID:EJxvqCWEo
ほむら(よしっ!)


カッ……カカッ……!


奴を中心に、まどかの一撃と、まだワルプルギスの夜の体内に残っていたティロ・フィナーレの力が合わさった、
桃色と黄色の光が放射状に溢れ……

ほむら「杏子っ!!」

杏子「あたしの魔力っ、全部持ってけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」


バッ!


佐倉杏子が、手の甲を外にして指先を上に向け、腰の辺りにやった両腕を頭の上まで一気に上げた!


ブゥゥゥゥンッッ!!!


それに呼応して、あいつの巨体の周りに赤色に鈍く光る魔力の壁が生まれる!


ヅッッドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!!!!!


そして、黄色と桃色の輝きが大爆発を起こした!!!


ビビッ!


その未曾有の威力に、佐倉杏子の作った魔力の壁が一瞬で消滅したが……これで良い。

593: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:46:43.84 ID:EJxvqCWEo
外に向かおうとした力が、ほんの一瞬、ほんの少しでも弾かれ・中に跳ね返される事によって、
ワルプルギスの夜に叩き込まれる破壊力は多少でも増したはずだ。


ゴウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッ!!!!!!!!!!


荒れ狂う閃光の濁流は、もがいているワルプルギスの夜を包み込んで喰らった後、
大きな光の柱となって天空へと立ち昇った!

その相貌はとても麗しく……

神々しかった。

594: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:49:12.68 ID:EJxvqCWEo
杏子「ほむらっ!!」

ほむら「ええ!」

あとは、迫り来る爆風から逃れる為に時間停止をし、佐倉杏子とこの場から撤退して作戦は終了だ。

ほむら(やった……!)

佐倉杏子に肩を抱かれる感触を感じつつ安堵の息を吐きながら、私は時間停止を……


カチッ。

…………


しようとしたが、能力が発動しない!

ほむら「っ!」

595: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:51:19.05 ID:EJxvqCWEo
時間切れ。

時間遡行をしてから、ひと月が経ってしまったのだ。


ゴウッ!!!!!!!!


杏子「──うわっ!!!」

ほむら「ああっ!!!」

私と佐倉杏子は、激しい爆風に呑み込まれた。

596: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:52:33.64 ID:EJxvqCWEo
─────────────────────

マミ「ほむらさんっ!」

まどか「ほむらちゃんっ!」

ほむら「う……」

私は、立った状態でマミさんとまどかに抱かれていた。

ほむら「く……痛っ……」

まどか「だ、大丈夫?」

ほむら「う、うん。
大丈夫よ、ありがとう」

マミさんとまどかは、あの爆風に飛ばされてきた私を、受け止め・守ってくれたのだ。

マミ「ううん、気にしないで」

まどか「そうだよっ」

笑顔の二人の言葉を受けながら、私はそっと彼女達の腕の中から離れた。

……周りを見てみるが、辺りには砂塵が大量に舞っていて、ほんの数メートル先すら確認出来なかった。

しかし、どうやら爆風自体はおさまったみたいだ。

597: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:54:00.76 ID:EJxvqCWEo
ほむら(や、やった……!)

さっきの作戦が成功したのはわかっている。

あの神々しい光の柱など、思い返すだけで鳥肌ものだ。

ほむら(やったわ! ついに、ついに勝ったんだ!)

マミ「!」

まどか「ほむらちゃんっ、その背中……!」

ほむら「えっ?」

私からは見えないが、二人によると、私の背は肌がむき出しになっていて出血しているらしい。

ほむら(どおりで背中が痛いはずだわ……)

ただ、骨が見えていたりする訳でも、動きに影響を与えるほどの痛みがある訳でもない。

治療しないとと言う二人を『深い傷ではないから』と制し、私はさっきから気になっていた事を口にした。

598: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:55:47.02 ID:EJxvqCWEo
ほむら「ところで、美樹さんと杏子は?」

そうだ。致命傷ではないのだから、治療などより彼女達を捜す方が先だ。

マミ「……わからない……
私が確認出来たのはほむらさんだけだったし、風が止むまでは目も開けていられなかったから……」

まどか「わたしも……」

三人で周囲を見回す。

さっきよりはほんの少しだけ砂塵が晴れ、十メートルほどの周りはなんとか視認出来るようになった。

そこには、相変わらず地面に広がる浅い水と、廃墟と……

ほむら「……!」

マミ「!」

まどか「あっ!」

──七・八メートルほど先に、私達が探していた二人が、崩れた建物を背に倒れているのが見えた。

佐倉杏子が美樹さやかに覆いかぶさるような体勢で、なにやら二人ともが頭を抱えている。

……距離と砂塵の為に細かく確認は出来ないが、佐倉杏子の背も私と同じ状態になっているようだ。

599: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:57:14.95 ID:EJxvqCWEo
ほむら「美樹さんっ、杏子!」

私達は慌てて二人に駆け寄る。

私もまどかもマミさんも、疲労困憊の上に水に足を取られて思うように前に進めないが。

さやか「や、やあ……」

杏子「おう……」

私達が美樹さやかと佐倉杏子の元にたどり着く前に、二人が立ち上がって私達に手を振った。

さやか「まどか達も無事だったかぁ。よかった……」

杏子「お、おつつ……」

笑顔ながら、彼女達はやはり頭……いや、額の辺りを押さえている。

どうやら、お互いに額を負傷しているようだ。

600: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:58:31.64 ID:EJxvqCWEo
マミ「ど、どうしたの!? 大丈夫!?」

杏子「あ、ああ、問題無い……」

話によると、美樹さやかは私と同じく飛ばされて来た佐倉杏子を受け止めようとして、
彼女と頭と頭をぶつけてしまったようだ。

杏子「さやか、すまん……」

さやか「いや、良いって。ちゃんと受け止められなかったあたしが悪いんだし」

美樹さやかが、『ここに瓦礫があって助かった~』と笑う。

さやか「なにも無かったら、二人してもっと遠くに飛ばされてたっしょ?」

杏子「違いない」

601: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/25(水) 23:59:42.29 ID:EJxvqCWEo
ほむら「ふふふっ! でもよかったわ! みんな無事でっ!」

まどか「うんっ!」

……いけない。感情を抑えられない。次から次へと『嬉しさ』が溢れてくる。

杏子「へっ。そう簡単に死んでたまるかってーの!
でも……ああ、そうだな」

さやか「つかほむら喜びすぎ!
あははっ、いや、気持ちわかるけどさ!」

マミ「うふふっ。
ほむらさん、とうとうやったわね……!」

そんな私につられてか、みんなもどこかはしゃぎながら歓喜の言葉を口にする。

602: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:01:02.04 ID:F1c3OBR8o
さやか「──って、まあ嬉しすぎる気持ちはみんな同じだろうけどさ、
詳しい話は後にしてまずはちょっと休まない?」

マミ「そうね……」

……喜びに多少感覚が麻痺しているが、よく見たら私も含めて全員肩で息をし、
膝も軽く震えていて立っているのもやっとといった具合にボロボロだ。

全精力を使い果たしたから当然だが、みんなのソウルジェムの穢れもかなりのもので、
このまま放っておくと不味いレベルに達している。

冷静に考えたら、今最優先にすべきは、他のなによりもソウルジェムの浄化や体力の回復だろう。

さやか「よっしゃ、じゃあ……」

とりあえず私達は目の前の瓦礫の上に座り、変身を解いた。

全員すぐにでもその場に座り込みたいのが本音だったが、
今の状態でもさすがに水の中に腰かけるのは抵抗があったからだ。

603: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:02:34.96 ID:F1c3OBR8o
さやか「ちょっ! 杏子とほむら背中に怪我してんじゃん!」

杏子「ああ、そのようだな。痛い。
てかさやか、今更気付いたのかよ」

さやか「だって、爆風止んでからあんたらの背中見たの今が初めてだもん」

ほむら「……ごめんなさい杏子。
私のせいであなたにまでそんな怪我を……」

杏子「ん?
ああ、前言ってた、あんたの能力の時間切れって奴だろ? 仕方ないさ。
別に大したケガでもないし、こうして生きてんだから気にするな」

ほむら「……うん、ありがとう」

しかし確かに間近で見ると、あの爆風にまともに巻き込まれたにしては傷が浅い。

さすがに自分で自分の背中の傷具合の確認は出来ないが、痛みの度合いを考えたら私も同じなのだろう。

多分、あの時閃光が柱のように吹き上がり、威力がある程度上空に逃げた事が大きかったのだと思う。

604: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:04:40.91 ID:F1c3OBR8o
これははっきり言って予想外だった。

あの複合攻撃は、ミーティングの時に私達(もちろんまどかを除いた)の攻撃の特性を踏まえ、
最終的な威力や周りに及ぼす影響を何度も予想したのだが……

杏子の魔力の壁の効果を含めて考えても、最後には周囲に広がる大爆発が起こるとしか予測出来なかったのだ。

ほむら(これは、まどかの一撃が加えられた事で攻撃の特性が変わったんじゃないかしら……?)

もしまどかの射撃が無かったら、
予測通りの大爆発が起こって、私も佐倉杏子も助からなかったのではないだろうか。

ほむら(あの作戦は、私に時間停止の能力がある事前提のものだった)

元々、あの爆風に呑み込まれたら、命を失う可能性もあると予測していた為だ。

605: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:05:51.30 ID:F1c3OBR8o
ほむら(結局……
まどかを守るつもりが、守られてしまったのね)

戦局的に彼女に力を貸して貰う事自体は仕方無かったにしても、これでは逆だ。

ほむら(情けない……)

だが爆風の件もそうだが、私達の攻撃だけでは、本気になったのであろうあのワルプルギスの夜を倒す事はとても……

さやか「まどか、どうした?」

ほむら「?」

まどか「えっと……」

耳に入ってきた美樹さやかの言葉に、思考を中断して隣に座るまどかの方を見ると、
彼女はグリーフシードを右手、ソウルジェムを左手にしてなにやら考え込んでいた。

ちなみに、他のみんなはソウルジェムの浄化中だ。

606: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:07:42.67 ID:F1c3OBR8o
まどか「あの、これ……
どうするんだっけ?」

……どうやら、まどかはソウルジェムの浄化の仕方がわからないらしい。

さやか「とっとっ、ごめんっ。
そういや使い方教えてなかったや!」

マミ「あっ……
ごめんなさい、私も気付かなかったわ」

杏子「いや、あたしもウッカリしていたよ」

ほむら「私もそうね」

美樹さやかはともかく、百戦錬磨のはずの魔法少女達が、
揃いも揃って自分の事で頭が一杯になって新人への気遣いを忘れていた……

これが、全員が本当にギリギリの所だった事を物語っていた。

さやか「いや、グリーフシード預かってて、みんなに渡したのはあたしだからね」

それは、あの一斉攻撃の際、
一番最初に役目を終える彼女がグリーフシードを一手に引き受けて大事に守っていた為だ。

さやか「いやぁ、うっかりさやかちゃん!」

美樹さやかが笑顔で頭をかきながら、まどかの側に来る。

607: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:08:53.21 ID:F1c3OBR8o
マミ「あっ、任せて。鹿目さんには私が教えるわ」

マミさんの『先輩ぶりたい病』が発症したのだろう。彼女が、いわゆるドヤ顔で美樹さやかに言った。

さやか「ううん、ここはあたしにやらせて。
──へへへっ、あたしも人になにかを教えるってやってみたかったんだ。
これまではずっと、マミさんとかほむらに教わってばかりだったからね」

マミ「美樹さん……」

さやか「しかぁも! 初めて教える相手が親友のまどかだなんて、こいつぁ嬉しいっしょ!」

杏子「ぷっ……」

ほむら「ふふっ」

ガッツポーズをとりながら興奮した様子を見せる美樹さやかに、佐倉杏子と私が吹き出した。

608: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:10:46.01 ID:F1c3OBR8o
杏子「まあ良いんじゃないか? 全然難しいモンでもないんだし、やらせてやれよ」

マミ「ふふっ、そうね。
じゃあ美樹さんに任せるわ」

さやか「オッケー!」

と、力強く親指を立てる美樹さやか。

やけに元気だが、そこは回復力の高い彼女だからだろう。

まどかを除いたみんなはソウルジェムの浄化が終わったが、
私も含めてまだまだ彼女ほど疲労は抜けていないようだ。

ちなみに、使用したグリーフシードはすべてが二度と使えないほどの穢れを吸ってしまったので、残りは二つ。

それは美樹さやかの胸元にでも入っているのだろう。

それが尽きる前に、絶対に人数分のグリーフシードを入手しないといけない訳だが……

予備が二つもあって、この町の魔女の出現率を考えればまあ大丈夫。

609: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:12:12.44 ID:F1c3OBR8o
ほむら(……だいぶ気持ちが落ち着いてきたわね)

多少の時間ならば先程みたいに喜びに身を任せるのも良いが、
ここからは色々な意味で現実を見つめなければならないだろう。

ほむら(とにかく、まずは安心出来るだけのグリーフシードを集めないと)

さやか「良い、まどか? これの使い方はね……」

上機嫌の美樹さやかが、自分の使用済みグリーフシードを胸の辺りに持ってきてまどかに見せる。

まどか「う、うんっ」

それを受けて、両手を膝の上にやっていたまどかも、
ソウルジェムを左手、右手にグリーフシードを握ってその両の手を自分の胸の前にやった。


つるっ。


まどか「あっ!」

その時に勢いがつき過ぎたか力を入れ過ぎたか、はたまた疲れで握力が弱まっていたのか。

まどかの手からグリーフシードがこぼれ、瓦礫の上から落下していった。

610: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:13:41.07 ID:F1c3OBR8o
さやか「おっと!」

それを見た美樹さやかが誰よりも速く反応して手を伸ばしたが、届かない。

取れこそしなかったが、その反応の速さを見るに彼女はもうほぼ本調子なのだろう。


カンッ、カンッカンッ、バシャッ。


グリーフシードは別の瓦礫の上に落ちて跳ね、また別の瓦礫の上に落ちて跳ね……

水に侵食された大地まで行ってようやく止まった。

さやか「む~~~っ!」

指パッチンをすると、美樹さやかが立ち上がって瓦礫から飛び降り、グリーフシードの元へと向かう。

611: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:14:41.79 ID:F1c3OBR8o
まどか「さ、さやかちゃんゴメンっ!」

さやか「良いって事よ!」

マミ「うふふっ、美樹さんたら元気だわ」

まどか「えへへっ、それがさやかちゃんの一番良い所ですから」

杏子「違いないね。
……やれやれ、あいつのあの部分にだけは敵わねーや」

ほむら「ええ、そうね」

こんなに爽やかに気持ちになれたのはいつ以来だろうか?

612: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:15:55.12 ID:F1c3OBR8o
みんな笑顔だ。

幸せそうだ。


まどか『キュゥべえに騙される前の、バカなわたしを……
助けてあげてくれないかな?』


……あの時の事を思うと、胸が張り裂けそうになる。

きっと、なにがあってもこれは一生変わらないだろう。

それでも……私は……

誰も、なにも、見捨てない。

ほむら(そうね。
今回、まどかに逆に守られてしまった事だって、私達の人生はまだまだ続いていくんだから……)

これから、今度こそ改めて彼女を守り続けていけば良いのだ。

613: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:17:57.79 ID:F1c3OBR8o
ほむら(うん。
そうしながら、まどかとマミさん……みんなと生きていくんだ)

そうする事によって、あの『約束』を果たす以上の幸福な未来を迎えられると……

ほむら(私は、そう信じる)

そして、その現実を手に入れられた時こそ、あの『約束』を超えた時なのだ。


バシャッ!


美樹さやかが、グリーフシードの前までやって来た。

さやか「へっへーんっ、さやかちゃんから逃げ切る事なんて出来ないのさぁ~~~~~っ!」

マミ「うふふっ」

まどか「あははっ!」

杏子「へっ、なに言ってんだよ」

ほむら「ふふっ」

美樹さやかの、元気で楽しそうな声を聞いて全員に笑顔がこぼれる。

614: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:18:33.06 ID:F1c3OBR8o
そして……


ジュッ!


美樹さやかの膝から上が消滅した。

615: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:19:37.06 ID:F1c3OBR8o
─────────────────────

なにが起こったのかわからず、全員が硬直していた。


パシャッ……


美樹さやかの、膝から下だけ残された両足が力無く倒れる。

ほむら「美樹さんっ!!!」

それと同時に、硬直の解けた私は立ち上がって絶叫していた。

杏子「い、一体……」

マミ「な、なに……?」

まどか「…………えっ?」

他の三人も、唖然としながらふらふらと立ち上がる。

616: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:21:21.78 ID:F1c3OBR8o
ほむら・マミ・杏子『!!!』

私、マミさん、佐倉杏子の三人は気付いた。

さっき、前方の遠くから『なにか』が飛んできて、その『なにか』が美樹さやかに直撃した。

そのせいだろう。前方の砂塵が晴れていた。

その先には……


ワルプルギスの夜『アーハハハハハハハハハハアーーーーーーーーハハハハハハハハハハハハッッッ!!!』


ワルプルギスの夜!

617: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:22:23.57 ID:F1c3OBR8o
マミ「あ、ああ……」

ほむら「ま、まだ……生きて……?」

なぜ……

ほむら(なぜ私はあいつの生死を確かめなかった!?)

いや、それ以前に、そんな発想すら持てていなかった。

これは完全な……そして、致命的な油断だ。

すべてのループも含め、過去のどれもが足元にも及ばない最高の攻撃を放て、
その後にみんなとすぐに合流出来た。

その上、今まで気絶でもしていたのだろうか。ワルプルギスの夜の気配をまったく感じず、
砂塵の影響で姿を確認する事も出来ない状況でもあり……

そんな様々な要因が重なって、私はすべてをやり切り、戦いが終わった──そんな気持ちになっていたのだ。

618: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:23:43.35 ID:F1c3OBR8o
浮かれていた。

ほむら(なにかが……なにか一つでも違っていたら、こんな油断などしなかったかもしれないのにっ!
誰かがワルプルギスの夜を倒せたかどうか、疑問に思ってくれていたら、こんな……っ!)

……これは、幼稚なただの言い訳だった。

ワルプルギスの夜と今回初めて戦ったみんなには、なんの落ち度も無い。

誰よりもあいつの脅威を知っている私が、しっかりしていないといけなかったのだ。

せめて、魔力の波動を調べるとか……私に些細な事が一つでも出来てさえいれば、
こんな事にはなっていなかったはずなのだから。

しかし、完全に錯乱していた私は、他のせいにせずにはいられなかった。そうしないと耐えられなかった。

ほむら(美樹さんっ……!)

彼女は、自分のソウルジェムを手に持っていた。

両足の半分しか残っていない以上、そんな彼女が生きている事はありえない。

619: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:24:49.38 ID:F1c3OBR8o
まどか「さやかちゃんッッッッッ!!!!!!」

ほむら「!」

突如叫び声を上げたまどかが、私が静止する間も無く美樹さやかの亡骸へと走り出した。

ほむら「まどかっ!」

マミ「鹿目さん!」


ゴウッ!!!


ほむら・マミ・杏子『っ!?』

私とマミさんはまどかを追いかけようとしたが、そこへワルプルギスの夜の攻撃の第二波が来た!


ガガンッ!!!


それは誰にも直撃こそしなかったものの、足元の瓦礫を破壊して私達を地面へと落とす!

ほむら「くっ……」

バランスを崩して倒れ込んだ私はすぐに立ち上がったが……

620: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:25:53.17 ID:F1c3OBR8o
ほむら「──!」

マミ「ぐ……うぅっ!」

隣に、腹に大きな瓦礫の破片が突き刺さり、右手首から先を失ったマミさんが倒れていた。

ほむら「マ、マミさ……」

杏子「ふざけんじゃねぇッッッッッッッ!!!!!!!!」

私の言葉を遮って絶叫が響き渡った。

ほむら「!?」

その声の主は、再び魔法少女に変身し、右手で槍を構える佐倉杏子。

621: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:27:05.94 ID:F1c3OBR8o
ほむら「……!」

彼女は、左手にソウルジェムを持っていた。

胸元についていた、自身のそれを引きちぎりでもしたのだろうか……?

ほむら(ま、まさか……)

その構えは!

杏子「さやかを殺して、マミまでこんな目に合わせやがって!!
くそったれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」


ドンッッッ!!!!!!


ほむら「杏子っ、ダメぇぇぇぇぇっ!!!」

彼女はソウルジェムを投げ、それに槍の切っ先を当てると、そのままワルプルギスの夜へと突撃していった!

622: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:29:56.96 ID:F1c3OBR8o
杏子「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!」

これは、命そのものを力として特攻し、自爆をする佐倉杏子の最後の切り札……!


カッ!


ほむら「!」

しかし、彼女の命を捨てた特攻がワルプルギスの夜に届く事はなく……


ジュッ!!!


佐倉杏子は、奴の放った闇色の炎に呑み込まれた。

ほむら「きょ……」

……その炎が消えた後には、なにも残ってはいなかった。

ほむら「杏子ッ!!!」

私の悲鳴も虚しく、炎はそのまま空を伸びていき……


ゴァァァァァァァァッ! ドォォォンッッッ!!!


遠くで、激しく爆発・炎上した!

623: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:31:00.88 ID:F1c3OBR8o
ほむら「……!」

この方向は……まさか。

愕然とそちらを向いた私の、魔力で視力の高められた瞳に映ったのは……

完全に崩壊し、燃えさかる、つい今の今まで避難所だった建物の姿。

ほむら「あ、あ、あぁ……あ……」

624: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:33:19.76 ID:F1c3OBR8o
まどか「ぅ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

まどかが、苦しげな叫び声を上げた。

ほむら「まどかっ!?」

彼女は、美樹さやかの亡骸の前に膝をつき、両手で頭を抱えていた。

まどか「ど、どうして……?
なんでこんな事に……!
頭、頭が……さやかちゃ……」

ほむら「!」

まどかの傍に転がる、彼女のソウルジェムが真っ黒になっていた。

そうだ。まどかはまだソウルジェムを浄化していない!

ほむら「まどかっ!!!」


タッ!


私は焦り、まどかへ向かって駆け出そうとした。

625: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:34:22.54 ID:F1c3OBR8o
まどか「ほむら、ちゃ……たっ、助け……」

……だが、私はまどかの元にたどり着く事は出来なかった。


ゴウッ!!!


ほむら「!」

彼女を中心にして生まれた激しい烈風に、私と、私の足元に倒れているマミさんが吹き飛ばされた。

ほむら「まどかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

必死に手を伸ばすが、もちろんそれは届くはずもなく。


カッ!!!


ほむら「!」

私の視界の端で、ワルプルギスの夜が発光したのが映った。

奴の放った漆黒のビームが伸びてくる。

626: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:35:39.91 ID:F1c3OBR8o
ほむら「あ……」

この軌道だと、私とマミさんに直撃するだろう。

風に飛ばされているので回避行動など取れないし、そもそも私には、もはやそんなものを取るつもりもなかった。

ほむら(もう……良いや)

そして、闇色に輝くそれが私とマミさんに迫り……

627: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:37:30.83 ID:F1c3OBR8o
─────────────────────

ずっと、夢みていた。

まどか「ほむらちゃ~~~んっ!」

まどかが居て、

さやか「おぅほむらっ、一緒に学校行こうぜっ!」

美樹さんが居て、

仁美「うふふっ」

志筑さんも居て、

マミ「あら、みんな揃って。
おはよう」

マミさんも居て、

まどか「あっ、マミさんだ♪」

さやか「へっへ~! ほむらかわいすぎ抱きついちまえっ!」

仁美「あらっ!///」

628: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:39:51.63 ID:F1c3OBR8o
まどか「や、やめたげてよぉ。
ほむらちゃん、真っ赤になってるよ???」

さやか「じゃあまどかに抱きついちまえーーーっ!」

まどか「きゃっ!///」

仁美「まあっ!!///」

マミ「あらあら、うふふっ」

さやか「へへへっ、かわゆいヤツめぇぇぇっ!」

杏子「何だなんだ、朝っぱらから元気だな」

杏子も居て。

629: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:40:46.18 ID:F1c3OBR8o
マミ「まあっ、また朝からそんなものばっかり食べて!
ちゃんと栄養のあるもの食べないと駄目よ?」

杏子「う、うるせーな。良いだろ別にっ」

さやか「相変わらず仲良いねえお二人さんっ」

杏子「どこがだっ!」

仁美「ああ、幸せですわ……」

みんな、居て。

630: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:44:35.60 ID:F1c3OBR8o
……もちろん、私の願いはずっと、『まどかを救う事』だった。

それをずっと第一に考えて幾多の時間軸を巡って来た。

でも、『他の人を犠牲にしてまで』などとは一度も望んだ事はない。

いや、初めは『たとえそうしてでも』という決意もあったかもしれないが、
気の狂いそうな残酷な悪夢を繰り返すうち、それだけは薄れていった。

その中でも、まどかの為にマミさん達を切り捨てた事はあったが、それは仕方なくだ。

本当は、まどかとの『約束』を果たした上で全員で生きていきたかった。

生きていきたかった……のに。

631: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:46:41.65 ID:F1c3OBR8o
まどか「ほむらちゃんっ!」

さやか「ほーむらっ!」

仁美「ほむらさんっ」

杏子「ほむらっ!」

マミ「ほむらさん」

もう少しで、それは叶ったはずだったのに。

初めに願っていたものよりも、もっともっと嬉しい最高の形で。

でも、確かに掴みかけていた最高の未来は、あと一歩の所で掌から零れ落ちて、

ほむら「マミさん……」

もはやどうやってもたどり着けない場所に消えてしまった……

ほむら「まどか……」

そう、これはもう一つの結末。

632: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:50:40.57 ID:F1c3OBR8o
……………………

…………

ほむら「マミさん……」

私は泣きながら、うっすらと水に覆われた大地に倒れるマミさんを見つめていた。

ほむら「どうして? どうして私なんかを……」

彼女は、体の大半を失っていた。

……ワルプルギスの夜の攻撃が、私とマミさんを呑み込む前。

魔法少女に変身した彼女は、残っていた左手だけで私を抱え上げてから全力で投げ、
私を攻撃の射程範囲内から脱出させた。

それによって私は無傷で済んだのだが……

私を投げた反動で多少軌道上から逸れはしたものの、マミさんは奴の攻撃から回避出来なかった。

そして……

頭、わずかな肉と骨で辛うじて繋がっている肩口と、
そこから伸びる左手しか残らない体になってしまった。

甲を上にしたその手も、様子を見るともう動かせないに違いない。

633: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:52:16.19 ID:F1c3OBR8o
マミ「ふふっ……」

マミさんのソウルジェムは、彼女は変身した状態だと髪飾りに装着される為に無事ではあった。

しかし、もう魔法少女の姿を維持出来る魔力すら残っていないのだろう。

変身が解けている為に、彼女の頭の横に落ちているマミさんのソウルジェムは酷く穢れていた。

ほむら「どうして私なんかを助けたのよぉ……」

私は魔法少女に変身し、さっきから魔力を使って必死に治療をしようとしているが……まったく効果が見られない。

当たり前だ。

私は、時間停止という魔法少女の中でも特殊な能力を持っている代わりに、魔力そのものは決して強くない。

まして、美樹さやかのように『癒し』の力に特化してなどいないのだ。

634: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:53:49.54 ID:F1c3OBR8o
マミ「もう……やめ……て」

ほむら「えっ?」

マミ「治療なんか……いらな、いっ……」

ほむら「ど、どうして!? このままじゃ……!」

もはや私も、そして恐らくマミさん自身も……

彼女は助からないと悟っていた。

マミさんの怪我の状態や私の力もあるが、なによりも、私のソウルジェムの穢れも深刻だからだ。

これでは、たとえ私に彼女を回復させる力があったとしても、救う前に力尽きて魔女になってしまうだろう。

ソウルジェムはさっき浄化したばかりだが、今の私は心のほとんどを絶望に支配されていた。

635: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:55:08.35 ID:F1c3OBR8o
美樹さやかと佐倉杏子を失い、避難所は崩壊した。

そしてまどかは……

つい先程、彼女が居た辺りであまりに強大な魔女が生まれたのを見た。

……こんな状況では、私にはもうなんの希望も持てなかった。

それでもなんとか魔女にならずにこうして居られるのは、
かろうじてだとしても、マミさんが生きて目の前に居るから。

彼女の魔女化は止められないだろう。

いっそ、このまま魔力を使い切ってマミさんと一緒に魔女になってしまおう──私は、そんな風に思っていたのだ。

636: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:56:23.36 ID:F1c3OBR8o
マミ「そ……うね。このままだと、助からない」

ほむら「そうよっ! そんなの……」

マミ「──あなたも、ね……
それをわかって、いながら……無理に私を……助けるようとするなんて、許さ、ないわ……」

ほむら「……!」

マミ「馬鹿ね。愛している人の考えて……いる事、くらいわかるわよ」

マミさんは、かさついた唇を笑みの形に歪めた。

ほむら「マミ、さん……」

マミ「私はあなたを救いたくて……救えた、のに……
自、殺みたいな事されたら……たまらないわ」

637: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:57:44.43 ID:F1c3OBR8o
ほむら「ふざけないでよっ!
まどかも美樹さんも杏子も、志筑さんもクラスのみんなも失ってっ、その上あなたまで……!
大事な人達をみんな失っても、私一人で生きていけって言うの!?」

マミ「そうよ」

ほむら「そ、そんな……」

マミ「だって……」

──私は、あなたに生きていて欲しいと思うから──

マミさんが、そう呟いた。

638: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 00:59:09.71 ID:F1c3OBR8o
マミ「ほむらさんは、今なら……時間を遡れるんでしょ……?」

確かに、この世界に来てからひと月の時間が経った事で時間停止が使えなくなった分、
『制約』は解けて時間遡行は可能になったが……

ほむら「嫌だっ! もう嫌よ!
もうまっぴら! こんな現実耐えられないっ!!」

いくらやり直せても、もはや私は限界だった。

ほむら「だからもう死ぬの! 私もこの世界でみんなと一緒に死ぬ!
それか、魔女になるっ! そしてすべてを壊してやる! 全部無茶苦茶にしてやるんだッ!!」

マミ「馬鹿っ!!!」

ほむら「!?」

マミさんの叫び声に、私は押し黙った。

かなり無茶をしたのだろう、彼女は激しく咳き込んだ。

ほむら「マ、マミさんっ!」

639: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:01:54.70 ID:F1c3OBR8o
マミ「あなた……にはっ、鹿目さんとした、大切な『約束』があるでしょっ……!」

ほむら「!」

マミ「そして、あなたにはまだっ、それを果たせるだけの力……が、あ、あるっ!」

ほむら「……まどか」

そうだ。私は、なんとしてもその約束を果たすと、まどかと……

ほむら「……でも、もう駄目よ」

マミ「えっ?」

ほむら「私のソウルジェムも、こんなに穢れちゃったもの」

私は、自分の左手の甲にあるソウルジェムをマミさんに見せた。

ほむら「こんな状態だと、時間遡行をした瞬間に魔女になっちゃう」

嘘ではなかった。

640: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:05:21.90 ID:F1c3OBR8o
ほむら「だから、ね?
もうすべては終わったのよ……」

私は呪いの言葉を吐き出すように言うと、両手を地面について大きくうな垂れた。


パアァ……


ほむら「…………えっ?」

ふと生まれた違和感に顔を上げてみると、マミさんが左手に持ったグリーフシードを私のソウルジェムに当てていた。

ほむら「なっ!?」


ブチッ……


マミ「ぁぐっ!」

ほむら「!」


パシャッ。


私のソウルジェムを浄化し終えたのとほぼ同時に、マミさんの左腕が千切れた。

ただでさえ、わずかな肉と骨でなんとか繋がっていた状態だったのだ。

恐らく、最後に残された魔力で無理をしたのだろう。

641: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:07:10.22 ID:F1c3OBR8o
ほむら「マ、マミさんっ!」

マミ「う、うふふっ……
今のは、鹿目さんが結局使えなかった……最後に残っていたグリーフシード」

まどかが魔女になる時の烈風で、彼女の足元にあったグリーフシードも飛ばされてきたのだという。

それを、マミさんは手にしていたのだ。

ほむら「そんな物があったなら……自分に使えばよかったのに……」

マミ「私に使っても、こんな状態、じゃあ私は……結局助からな、かったわよ。
それに、そんな事したら……あなたを救えないじゃない……?」

ほむら「マミさん……」

642: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:08:28.23 ID:F1c3OBR8o
マミ「……ねえ、ほむらさん。
私とも『約束』……してくれる? 頼みたい事があるの……」

ほむら「や、くそく……?」

マミ「うん……」

マミさんは、しっかりと私の目を見据えて言う。

マミ「これから先、なにがあっても……
この世界での事より、たとえもっと辛い目にあった、としても……
決して諦めないで」

ほむら「!」

マミ「絶対に諦めずに負け、ずに……生き抜いて……
鹿目さんとの『約束』を果たして」

──あなたが、ずっとずっと目指してきたその『約束』を──

643: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:09:25.55 ID:F1c3OBR8o
ほむら「……うん、うんっ! わかった!
私はもう弱音なんか吐かない! 絶対に負けないっ!」

マミ「よ……かった」

マミさんの瞳に映る死の色が、濃くなった。

マミ「も、もう一つ……お願いして良い……?」

ほむら「うんっ、なんでも言って! なんでもするっ!」

644: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:11:25.77 ID:F1c3OBR8o
マミ「ん……
あのね、私のソウルジェムをっ、く、砕いて欲しいの……」

ほむら「!?」

そ、それは……!

マミ「私、魔女になんかなりたくない……」

ほむら「あ……」

そんな、そんなっ!

ほむら「そ、それだけは嫌だっ! やだッッ!!!」

マミ「──っぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

ほむら「!」

マミさんが、かつてないほど苦しみだした。

彼女の頭の横にあるソウルジェムが、昏く輝き始める。

魔女化が……近いのだ。

645: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:12:48.92 ID:F1c3OBR8o
マミ「あぐっ、あぐぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ほむら「マミさんっ!」

マミ「せ、せめて……あなたの手、で……っ! お願……!」

マミさんは、苦悶の表情で私に懇願する。

マミ「お、おね……」

もはや一刻の猶予も無い。

646: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:14:23.20 ID:F1c3OBR8o
ほむら「~~~~~~~~~っ!」

……私は、血が溢れるほど唇を噛み締めながら、盾から拳銃を取り出した。

また、また私は。

ほむら「ぐ……ぐぅぅっ!」

また私は、大切な人をこの手で……!!

ほむら「ヴ ヴ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ ッ ッ ! ! ! ! ! 」


ドンッ!


……………………

………………

…………

……

647: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:16:36.52 ID:F1c3OBR8o
─────────────────────

キュゥべえ「やあ、暁美ほむら」

ほむら「…………」

私にとって、この世界のすべてが終わってしまった後にキュゥべえが現れた。

声からすると背後に居るようだが、私はいちいち振り向かない。

648: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:18:42.95 ID:F1c3OBR8o
キュゥべえ「鹿目まどかはやっぱり凄いね。
魔女になった彼女は、ワルプルギスの夜を一撃で倒してしまったよ。
本気を出したあの怪物を……
予想出来てはいたんだが、間近で見たらさすがに驚いた」

ほむら「……れ」

キュゥべえ「今の彼女なら、十日かそこいらでこの星を滅ぼしてしまうだろう」

ほむら「……まれ」

キュゥべえ「まあ、マミや美樹さやか、佐倉杏子が魔女にならなかったのは残念だけど……
鹿目まどかのおかげでエネルギー回収ノルマは概ね達成出来たし、よしとしようか」

ほむら「だ……まれ」

キュゥべえ「ところで、君はこれからどうするのかな?
また時を巡るのかい?」

ほむら「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


ドウンッ!


私は振り向きざまに銃を発砲し、キュゥべえを撃ち殺した。

649: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:20:20.76 ID:F1c3OBR8o
キュゥべえ「──やれやれ、そんな事をしても無駄だってわかって……」

ほむら「死ねッ!!!」


ドウンッ!


別の体で再び現れたキュゥべえを、また殺す。

ほむら「死ねっ! 死ねっ!! 死ねぇぇぇぇぇ死んでしまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!」

もはや姿を見せるまで待たない。気配を感じた方向へ、私はただただ発砲を続けた。

ほむら「そもそもはっ、そもそもはお前さえ居なければっ! お前さえ居なければぁぁっ!!!
ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
ぅ あ ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ッ ッ ッ ! ! ! ! !」

650: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:25:24.02 ID:F1c3OBR8o
……………………

…………

ほむら「はぁっ、はぁっ……」

残っていた銃もほとんど無くなって、激しい疲労に私がへたり込んだ頃。

もはやなんの気配も現れなくなっていた。

あいつは、これ以上私の前に姿を見せようとしても無駄だと悟ったのだろう。

ほむら「…………」

私はふらつきながら立ち上がると、マミさんの前まで来た。

彼女のはるか向こうには、ワルプルギスの夜をも遥かに凌ぐ大きさの黒い影が見える。

まどかだ。

ほむら「……まどか」

651: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:28:04.25 ID:F1c3OBR8o
私はそっと膝をつく。

ほむら「……マミさん、私行くね」

そしてそっと語りかけると、私は彼女を持ち上げた。


……………………


──マミさんとの最後のキスは、冷たい死の味がした。

その後、私は彼女を優しく地面に置くと、

ほむら「……こんな物しかないけれど」

彼女に私のヘアバンドをつけた。

652: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:29:00.69 ID:F1c3OBR8o
ほむら「…………」

私は最後に一言だけ囁いて立ち上がると、ゆっくりと……


カシャン。


左手の盾を回した。

653: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:30:35.05 ID:F1c3OBR8o
……………………

…………

歪んだ時空を、私は行く。

ほむら「…………」

ここを抜けた先に、『マミさん』は居ない。

ほむら(……ううん)

もはや、どの時間軸にも居ない。

『巴さん』や、『巴マミ』は居るだろう。

でも……

私が恋心を抱き、身も心も深く深く愛し合った『マミさん』は、もうどの世界にも存在しないのだ。

654: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:32:40.50 ID:F1c3OBR8o
ほむら(マミさん……みんな……)

未だに心にまとわりつく……

それは、もう一つの結末。

目の前まで来ていた、それに対する未練が無いなどありえない。

しかし、私はその未練すら断ち切ってみせる。

マミさんと『約束』したから。

そして必ず、まどかとの『約束』も果たす。

ほむら(負けるものか……!)

あの世界で新たに出来た、大きな道しるべは失ってしまった。

でも、私にはまだまどかという存在が、唯一無二の道しるべが在ってくれる。

ほむら(マミさんとの想い出と……)

その道しるべがあれば、私はまだ頑張れる。

655: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:36:10.86 ID:F1c3OBR8o
……そうだ。今回の事だって、経験としてちゃんといかさないと駄目だ。

そうでないと、マミさん達に失礼になる。

例えば、ワルプルギスの夜との戦いで使用した、タンクローリーを使った作戦。

あれは初めて行ったのだが、よかった。

もし次の決戦の時に四人揃わなくても、そこは臨機応変に上手く応用すれば、
ワルプルギスの夜戦に常に組み込んでも良いレベルの作戦だと思う。

ほむら(……もっと冷静に、冷徹にならないといけない)

656: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:37:39.89 ID:F1c3OBR8o
思えば、みんな全員で幸せに、などという考えが甘すぎたのだろう。

もっともっとまどかの事を、まどかだけを考えて動くべきだった。

そうしなかったから、また失敗したのだ。


『いいえ、違うわ』


そうしないと、まどかを救えないのだ。


『あなたの真情こそが、正しいの』


ほむら(どれだけ苦しくても、やらないと……)

頭に響く、愛する人の幻聴を振り払って私は強く思う。

美樹さやかにも、佐倉杏子にも……

ほむら(『巴マミ』にも)

もう、情は一切持たない。

657: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:40:19.73 ID:F1c3OBR8o
……本当は、私にはそんな事は出来ないのはわかっていた。

過去すべての時間軸での事もあるが、自分の本心なんて誤魔化しきれるものではないから。

でも、やらないといけないのだ。やるしかないのだ。


『大丈夫。心配はいらないわ』


ほむら(今度は、そんな自分の『弱さ』にも打ち勝ってみせる)


『あなたは、自分のその『優しさ』を信じて、失わなければいつか必ず……』


シュゥゥゥゥゥ……


出口が見えてきた。

それはつまり、新しい世界への入り口でもある。

658: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/09/26(木) 01:43:12.52 ID:F1c3OBR8o
これから先、私はもう恋はしない。

ほむら(……ありがとう)

私の愛した人。

そして……

ほむら「さようなら。
……『マミさん』」





完。

672: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 21:53:29.57 ID:ntvxJi8Zo
マミ「これが、私の結末」

673: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 21:55:34.30 ID:ntvxJi8Zo
ほむらさんと共に烈風に吹き飛ばされる私は、ワルプルギスの夜が放った漆黒のビームが迫ってくるのを見た。

マミ(死にたくない……!)

でもそれ以上に、ほむらさんを死なせたくないと思った。


ガシッ!


ほむら「!?」

そう思うと同時に行動を起こしていた私は、
瓦礫の破片が突き刺さったお腹と右手を失った痛みを堪えながら、左手でほむらさんを掴むと、

マミ「ぅ、ぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」


ブンッ!


出来うる限りの魔力と腕力を使って彼女を投げた。

674: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 21:56:34.03 ID:ntvxJi8Zo
ほむら「マっ、マミさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

これで、ほむらさんはビームの射程範囲内から逃れる事が出来た。

マミ(や、やった……)

彼女を投げた時の反動で、私が飛ばされる軌道も変わる。

しかし、それはあの怪物の攻撃を回避出来るほどのものではなく……


キラッ。


視界の端に映った『なにか』に手を伸ばしたのは、ただの悪あがきだった。

675: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 21:58:34.92 ID:ntvxJi8Zo
─────────────────────

……なぜだろう。

体がまったく動かない。

目すら開けられないので、ここがどこなのか、今自分がどんな状態になっているのかもわからない。

そんな私の意識は半分眠っているようにおぼろげで、
どこかフワフワしていて……まるで夢の中に居るようだった。

マミ(…………)

ふと唐突に、私が魔女になりかけた──『闇』の濁流に襲われた時の事を思い出した。

つくづく、あの時の私は情けなかったと、みんなを殺してしまわなくてよかったと心から思う。

自分の『闇』に呑まれつつあった私が最初に襲ったのは、路地裏に居たほむらさんと佐倉さんで、
その時こそ二人に怪我はさせずに済んだけれど……

それからは危なかった。本当に危なかった。

676: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:00:09.12 ID:ntvxJi8Zo
二人と離れて、次に出会ったのは美樹さん。

最初のうちはまだ自分の『闇』と戦えていた為に、銃の狙いも甘かった。

いや、わずかに残っていた自分の冷静な部分・意思で、甘くする事が出来た。

しかし徐々にそれも叶わなくなり、私はどんどん彼女を追い詰めていった。

あの時、ほむらさんと佐倉さんが現れなければ、私は間違いなく美樹さんを殺してしまっていた。

677: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:02:30.13 ID:ntvxJi8Zo
その後に佐倉さんと戦った時は、冷静な部分はまだ残っていこそすれ、もはや完全に自制が効かなくなっていた。

美樹さんに引き続き、彼女をもさして苦労をせずに追い込めたのは、
佐倉さんが私を殺してしまわないように動いてくれていたからだと思う。

彼女が本気で『殺し合い』をするつもりだったら、こうはいかなかっただろう。

その戦いの最後、私は佐倉さんのソウルジェムにマスケット銃を放とうとした。


──ダメっ!!!──


しかし、その意識が弾けた瞬間、自制が効かなくなっていたはずの私の腕がほんの少しだけ下に動いた。

これは、ここまでの私に残っていた最後の力が、無意識に爆発した結果だったのだと思う。

そして、さすがは佐倉さん。

私の攻撃を避ける為に、彼女は半ば気を失いながらも身をよじっていた。

この二つが重なり、私の銃は佐倉さんのソウルジェムを砕かずに済んだのだ。

678: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:06:04.00 ID:ntvxJi8Zo
次のほむらさんに対しては、美樹さんが居なかったら私はほむらさんを……

マミ(…………)

こうして考えると、本当みんなに迷惑かけちゃったな。

いくら私が自分の『闇』と戦っていたと言っても、表立った効果なんて些細なものだった。

ほむらさんと佐倉さんが駆けつけるまで美樹さんが生存してくれたのは、
彼女が魔法少女としてもの凄いスピードで成長をしていたから。

それが無ければ、私がどれだけ銃の狙いを甘くしても無意味だったと断言出来る。

マミ(それに……
美樹さんの能力が。回復力が、私の手からほむらさんの命を救う、彼女のあの援護に繋がったのよね)

佐倉さんとの戦闘も、彼女が私と戦ってくれたおかげで美樹さんが回復するまでの時間を稼げたのだし……

マミ(実力者の佐倉さんだからこそ、全力を出せない中でも生き残ってくれたんだわ)

私が『闇』に完全に喰われかけた……魔女になる寸前だった時は、もはや言うまでも無い。

その後にグリーフシードを使ってくれただけではなく、佐倉さんと美樹さんの思いと、
ほむらさんが私をあそこまで求めてくれたからこそ私は私のままで帰ってこれたのだ。

679: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:08:14.42 ID:ntvxJi8Zo
……そして、気が付いたら私は自分のお部屋に居て……

マミ(ほむらさんと結ばれたのだったわね)

私の胸に、嬉しくて、でもちょっと気恥ずかしい──不思議な気持ちが湧き上がる。

まさか、彼女とこんな関係になれるなんて。

マミ(最初から、ほむらさんとは仲良くなりたいな、とは思っていたけれど……)

……最初、か。

ほむらさんと初めて出会ったのは、月が美しく輝く夜だった。

それから、彼女がショッピングモールでキュゥべえを襲っているのを目撃したり、
次の日に、学校の屋上に居るほむらさんに勇気を振り絞って話しかけたりしたっけ。

マミ(その時も、彼女は鹿目さんを見守っていたのよね)

680: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:11:23.88 ID:ntvxJi8Zo
鹿目さん。

ほむらさんが、数々の悪夢を繰り返しながら……それでも決して諦めずに救おうとしている少女。

マミ(あの子と最初にお喋りしたのは、佐倉さんと再会した日だったわ)

私とほむらさん、美樹さんと、志筑さんに、鹿目さん。

この五人で下校した時だ。

あの時は、わずかな間だったけれどとても楽しい時間だった。

鹿目さんと会話して得た彼女の印象は、


『凄く心が綺麗で、芯の強さを感じさせる可愛い子』


といった所だろうか。

681: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:13:05.09 ID:ntvxJi8Zo
当時は詳しい事情を知らなかったが、ほむらさんが鹿目さんを守りたいと思う気持ちを素直に理解出来た。


マミ((うん……
私も、この子を守りたいな))


そう自然に思わせる素敵な魅力を、鹿目さんから感じたのだ。


マミ((確かに、こんな子を魔法少女の世界なんかには引きずりこみたくない))


ただ、それと同時に……


マミ((……もしほむらさんと出会わなかったり、出会う前に鹿目さんと縁があって、彼女が魔法少女になっていたら……
私の一番のパートナーになってくれていたのかも))


不思議なのだが、そんな風にも感じた。

理屈とかではなく、直感で。

これは、短い時間だけれど彼女の……
まるで人を包み込むかのような、透き通った大きな心に触れたからかもしれない。

682: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:15:11.85 ID:ntvxJi8Zo
マミ(うふふっ。こんな風に思うのって、浮気になっちゃうのかしら?)

そんな事は無いだろう。

マミ(……と、思うんだけど)

ほむらさんに対する気持ちと、鹿目さんに対する気持ちは違うから。

第一、恋人にしか『大切』だとか思っちゃいけないのなら、友達だって作れないものね。

マミ(でも、他の人に恋心を抱くなんて絶対にありえないにしても……
この事で嫉妬はして貰いたいかも)

先日四人で私の家に集まった日、美樹さんに抱きつかれた時のほむらさんの嫉妬……嬉しかったな。

マミ(ほむらさん、凄く可愛かったし)

勝手なもので、自分が嫉妬をしてしまうような状況になるのは嫌だけれど、
彼女から嫉妬されるのは嬉しいなと思ってしまう。

マミ(うふふっ、私っていじわるだな)

683: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:16:15.68 ID:ntvxJi8Zo
そして、ほむらさんを想えば想うほどわかる。深く深く感じる。

私は、彼女を愛しているんだって。

マミ(…………)

それを実感するほど、私の喜びは大きくなっていく。

永遠に、無限大に広がる幸せ。

マミ(……でも、それももう終わり)

もっと、みんなと一緒に居たかったな。

マミ(ほむらさんと、居たかったな)

それは無理みたいだけど。

マミ(でも、愛しいあの人を守れてよかった……)

684: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:18:04.17 ID:ntvxJi8Zo
……?

私はなにを考えているのだろう。

それに、どうして以前の事をこんなに思い出しているのだろうか。

マミ(これってもしかして……)

死ぬ間際に、過去の出来事が走馬灯のように蘇るっていうけれど……

マミ(そ、そんな!)

嫌だっ!

マミ(嫌だ、嫌だ、嫌だっ!!!)

もう、先程までの幸福感は無かった。

マミ(私は死んでないわ! 死んでないっ!!
死んでなんか!!!)

そう。私は死んではいない。

じゃあこれは何? 今、私は……ほむらさん達はどうなっているの?

──!!

現実に意識を向けた途端に思い出した。

そうだ……

685: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:21:51.63 ID:ntvxJi8Zo
……………………

…………

突如として生まれた烈風に、私は吹き飛ばされていた。

マミ「……!」

そんな私の視界に映ったのは、ワルプルギスの夜の放った漆黒のビームと、
私と同じく風に飛ばされるほむらさんの後ろ姿だった。

──このままでは、二人ともあの攻撃にやられてしまう!──

そう確信した私は、残っていた左手にマスケット銃を召喚して風の流れに逆うように発射。

そのおかげで、ほむらさんの体が間近に来た。

マミ(……この風の勢いと、あのビームの射速を考えたら、二人が無事に回避するのは……)

不可能だと、私は悟った。

686: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:23:36.53 ID:ntvxJi8Zo
マミ(死にたくない……!)

でもそれ以上に、ほむらさんを死なせたくないと思った。


ガシッ!


ほむら「!?」

そう思うと同時に行動を起こしていた私は、
瓦礫の破片が突き刺さったお腹と右手を失った痛みを堪えながら、左手でほむらさんを掴むと、

マミ「ぅ、ぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」


ブンッ!


出来うる限りの魔力と腕力を使って彼女を投げた。

687: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:25:22.51 ID:ntvxJi8Zo
ほむら「マっ、マミさぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

これで、ほむらさんはビームの射程範囲内から逃れる事が出来た。

マミ(や、やった……)

彼女を投げた時の反動で、私が飛ばされる軌道も変わる。

しかし、それはあの怪物の攻撃を回避出来るほどのものではなく……


キラッ。


視界の端に映った『なにか』に手を伸ばしたのは、ただの悪あがきだった。

……………………

………………

…………

……

688: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:26:32.98 ID:ntvxJi8Zo
─────────────────────


パッ……


意識を取り戻した私は、まぶたごしに微かに光を認識した。

……どうやら、まぶたは動くようだ。

マミ(…………)

私はゆっくりと目を開いた。

689: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:27:06.99 ID:ntvxJi8Zo
─────────────────────

ほむら「っく……うぅっ、マミ、さん……」

最初に瞳に映ったのは、号泣するほむらさんだった。

690: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:27:34.04 ID:ntvxJi8Zo

691: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:29:10.93 ID:ntvxJi8Zo
ほむら「……! マミさんっ!」

私が意識を取り戻したのに気付いたのだろう。ほむらさんが声を上げる。

マミ「っ、っ……」

彼女の名前を呼ぼうとしたが、声を出せなかった。

ほむら「今治してるから、治すからっ! 大丈夫だから!」

……どうやら彼女は、ワルプルギスの夜の攻撃を受けて大怪我を負った私を、
魔力を使って治そうとしてくれているようだ。

692: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:32:53.43 ID:ntvxJi8Zo
マミ「…………」

無理、ね。

私は悟っていた。

相変わらず体はまったく動かないが、感覚でわかる。

これは、動かない・動かせないんじゃない。動かしたい部分が無いのだ、と。

瞳の端に見える、大地を覆っている水が赤い。

これはきっと、私の血。

たとえ魔法少女でも、たとえ美樹さんほどの回復力があったとしても、もう絶対に助からない……

これまでの戦闘経験でそれを──自分の状態を悟ってしまった私には、
恐怖と絶望のあまり発狂してしまわないよう理性を保つのに精一杯で、
魔力を自分の回復の為に回す余裕すら無かった。

当然、テレパシーも使えない。

痛みをまったく感じないのは、私の生存本能が無意識のうちに魔力を使って、痛みを完全に遮断しているのだろう。

693: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:34:11.50 ID:ntvxJi8Zo
マミ(……嫌だ)

死にたくない。

時間が経てば経つほど大きくなっていく、死の影と恐怖。

マミ(嫌だっ!)

私の中に生まれる後悔。

あの時、別の行動を取っていればこんな事にはならなかったかもしれないのに。

しかし……私が、自分だけが助かろうとしていたらほむらさんは死んでいただろうし、
どう考えてもあの状況では二人が助かる方法は無かったのだ。

694: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:36:18.46 ID:ntvxJi8Zo
マミ(死にたくないっ!)

死んだら、ほむらさんと離れ離れになってしまう!

いっそ、下手に動かずに二人で死んでいればよかった……

後悔、後悔、後悔。


じわり。


私の『魂』が、闇に染まっていくのがわかる。

頭を動かせないので確認は出来ないが、私のソウルジェムは凄まじい勢いでどんどん穢れていっているのだろう。


ぐっ……


マミ(!)

そんな中でもこの状態に慣れてきたのか、ささやかながら左手が動いた。

きっと、これが頭以外に残っている私の唯一の肉体なのだ。

マミ(これは……!)

そして、手の中にある物の存在にようやく気付いた。

私が、悪あがきをして掴んだ物だ。

695: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:38:15.35 ID:ntvxJi8Zo
マミ「う……」

微かに、声も出るようになった。

これらは慣れだけではなくて、ほむらさんの必死の治療の効果もあるのだと思う。

でも、ここまでだ。

さっきチラッとほむらさんの左手が見えたが、彼女のソウルジェムもだいぶ穢れている。

私の魔力も、もう残り少ないだろう。

このままでは、二人まとめて魔女になってしまう未来しかない。

マミ(……それも悪くないわ)

彼女と離れ離れになってしまうくらいなら、それも……

696: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:40:51.26 ID:ntvxJi8Zo
マミ(……でも)

激しい恐怖や後悔・絶望がとめどなく溢れてきて、もはや止められないのは間違い無いが、
それすらも上回る『想い』が私の中にあった。

マミ(でも、ほむらさんを助けられてよかった)

あなたを愛しているから。

誰よりも、あなたを愛しているから。

二人で生きていきたかったけれど。

それが叶わないならば。

せめて、なんとしてでもあなただけには生きて欲しいと思った。

マミ(よかった……)

この想いは、どんどん巨大化していく私の『闇』を凌駕していた。

そんなものに負けずに、なんとか抑え込めるほどに。

だから、ようやく喋る事が出来るようになった私は、あなたへの想いと祈りを込めてこう言うのだ。

マミ「もう……やめ……て」

──助けて!──

ほむら「えっ?」

マミ「治療なんか……いらな、いっ……」

──お願い、見捨てないで……!──

697: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:42:28.57 ID:ntvxJi8Zo
ほむら「ど、どうして!? このままじゃ……!」

マミ「そ……うね。このままだと、助からない」

私は、ともすれば支配されてしまいそうな、自分の『闇』と必死に戦いながら言葉を続ける。

ほむら「そうよっ! そんなの……」

マミ「──あなたも、ね……
それをわかって、いながら……無理に私を……助けるようとするなんて、許さ、ないわ……」

ほむら「……!」

マミ「馬鹿ね。愛している人の考えて……いる事、くらいわかるわよ」

負けるものか。

マミ「私はあなたを救いたくて……救えた、のに……
自、殺みたいな事されたら……たまらないわ」

負けるものか。

ほむら「ふざけないでよっ!
まどかも美樹さんも杏子も、志筑さんもクラスのみんなも失ってっ、その上あなたまで……!」

ここで負けてしまうと、きっとあなたの命運も尽きてしまうから。

698: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:43:26.35 ID:ntvxJi8Zo
ほむら「大事な人達をみんな失っても、私一人で生きていけって言うの!?」

マミ「そうよ」

ほむら「そ、そんな……」

──だって……──

マミ「私は、あなたに生きていて欲しいと思うから」

精一杯の力で、ゆっくりと、はっきりと。私はそう呟いた。

699: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:44:45.59 ID:ntvxJi8Zo
マミ「ほむらさんは、今なら……時間を遡れるんでしょ……?」

ほむら「嫌だっ! もう嫌よ!
もうまっぴら! こんな現実耐えられないっ!!」


ズキンッ!


マミ(うぐぐっ!)

彼女の絶叫に、私の心が激しくきしむ。

言いたい。『もう良いんだよ』って。

『もう苦しまなくても良いの。一緒に死のう?』って、『一緒に死んで』って言いたい!

言いたい、言いたい!

……でも! 私はっ!!

700: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:46:39.57 ID:ntvxJi8Zo
ほむら「だからもう死ぬの! 私もこの世界でみんなと一緒に死ぬ!
それか、魔女になるっ! そしてすべてを壊してやる! 全部無茶苦茶にしてやるんだッ!!」

マミ「馬鹿っ!!!」

ほむら「!?」

無理に声を張り上げてしまった。

私は、激しく咳き込む。

ほむら「マ、マミさんっ!」

マミ「あなた……にはっ、鹿目さんとした、大切な『約束』があるでしょっ……!」

ほむら「!」

マミ「そして、あなたにはまだっ、それを果たせるだけの力……が、あ、あるっ!」

ほむら「……まどか」

そうだ。あなたには、なにがあっても絶対に生きなくてはならない理由があるはずよ。

701: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:47:50.12 ID:ntvxJi8Zo
ほむら「……でも、もう駄目よ」

マミ「えっ?」

ほむら「私のソウルジェムも、こんなに穢れちゃったもの」

彼女が、自身の左手の甲にあるソウルジェムを見せる。

ほむら「こんな状態だと、時間遡行をした瞬間に魔女になっちゃう」

その穢れの激しさを見ると、嘘ではないのだろう。

ほむら「だから、ね?
もうすべては終わったのよ……」

ほむらさんは、まるで呪いの言葉を吐き出すように言うと、両手を地面について大きくうな垂れた。

702: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:49:20.08 ID:ntvxJi8Zo
……一瞬、自分の無意味な延命の為に、『それ』を使いたいという強烈な欲求が湧き上がった。

これに似た感覚は、どこか覚えがある。

そう、私が魔法少女になったあの時だ。

マミ(お父さん、お母さん……)

あの時は、私は自分だけが助かる事を望んでしまった。

無意識だったとか、魔法少女になる際の契約の事を知らなかったとか……
そんなのは関係ない。言い訳にすらならない。

マミ(けれど、今度は。今度こそは……!)

──お父さん、お母さん、見てて!──

703: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:51:15.37 ID:ntvxJi8Zo
私は最後の魔力を振り絞って左手を動かし、


パアァ……


手の中にあったグリーフシードを、ほむらさんのソウルジェムに当てた。

マミ(ぐっ……!)

意識を取り戻してから初めて視界に入った自分のその腕は、わずかな肉と骨で、かろうじて繋がっている状態だった。

マミ(負けない、私は負けないわっ!)

……彼女のソウルジェムから、穢れが消えていく。

ほむら「…………えっ?」

やった。

これで彼女は……


ブチッ……


マミ「ぁぐっ!」


パシャッ。


彼女のソウルジェムを浄化し終えたのとほぼ同時に、私の左腕が千切れた。

もう、あの状態の腕を繋げたまま維持出来るだけの魔力が残っていなかったのだ。

704: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:54:11.99 ID:ntvxJi8Zo
ほむら「マ、マミさんっ!」

マミ「う、うふふっ……
今のは、鹿目さんが結局使えなかった……最後に残っていたグリーフシード」

ほむら「そんな物があったなら……自分に使えばよかったのに……」

マミ「私に使っても、こんな状態、じゃあ私は……結局助からな、かったわよ。
それに、そんな事したら……あなたを救えないじゃない……?」

ほむら「マミさん……」

これで、ほむらさんは時間遡行が出来る。

──意識が薄れてきた。

『闇』が、すぐ目の前まで迫っている。

私がそれにやられてしまう前に……

705: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:56:09.85 ID:ntvxJi8Zo
マミ「……ねえ、ほむらさん。
私とも『約束』……してくれる? 頼みたい事があるの……」

ほむら「や、くそく……?」

マミ「うん……」

私は、しっかりと彼女の目を見据えた。

少しでも長い時間あなたを見て、その存在を自分の魂に焼き付けておきたかったから。

マミ「これから先、なにがあっても……
この世界での事より、たとえもっと辛い目にあった、としても……
決して諦めないで」

死なないで。

マミ「絶対に諦めずに負け、ずに……生き抜いて……
鹿目さんとの『約束』を果たして」

お願い。

マミ「あなたが、ずっとずっと目指してきたその『約束』を」

生き抜いて。

そう、私は願った。祈った。

706: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:57:00.11 ID:ntvxJi8Zo
ほむら「……うん、うんっ! わかった!
私はもう弱音なんか吐かない! 絶対に負けないっ!」

マミ「よ……かった」

ほむらさんの叫びと表情を見て、私はほほえんだ。

……ああ。『来た』。

もう、抑えられない。

707: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 22:58:32.90 ID:ntvxJi8Zo
マミ「も、もう一つ……お願いして良い……?」

ほむら「うんっ、なんでも言って! なんでもするっ!」

マミ「ん……
あのね、私のソウルジェムをっ、く、砕いて欲しいの……」

ほむら「!?」

ごめんね、ほむらさん。

マミ「私、魔女になんかなりたくない……」

私が私でなくなって、すべてを忘れてしまうなんて嫌だ。

お父さんもお母さんも。

私が苦しい時に声をかけてくれたクラスメートも、なんとか私の力になろうとしてくれていた先生も。

佐倉さんも。

美樹さんも。

鹿目さんも。

ほむらさんも!

マミ(忘れたくないっ! 忘れたくないよぉっ!)

そして、大好きで、大切な人達が確かに生きて存在していたこの世界を壊したくなんかない!

708: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:01:08.25 ID:ntvxJi8Zo
ほむら「そ、それだけは嫌だっ! やだッッ!!!」

マミ「──っぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

もう、目が見えない。

私という存在は、魂は、徐々に消えていっている。

マミ(やだ、嫌だっ! 怖いっ!)

再び襲ってくる恐怖。

助けて!

ほむらさん、負けないで!

ずっと私と一緒に居て!

あなたは生きるのよ!

マミ「あぐっ、あぐぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ほむら「マミさんっ!」

709: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:03:16.81 ID:ntvxJi8Zo
マミ「せ、せめて……あなたの手、で……っ! お願……!」

ごめん、ごめん、ごめんなさい。こんな事をあなたに頼むなんて。

けれど私は、みんなと、この世界が大好きで……

マミ(あなたを愛する『私』として終わりたいの)

最後の最後で、こんなに酷いわがままを言ってごめんね……

ほむら「~~~~~~~~~っ!」

……視力を失っても気配でわかる。ほむらさんが、銃かなにかを取り出したようだ。

マミ(ありがとう)

ほむら「ぐ……ぐぅぅっ!」

……でも。

710: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:07:01.63 ID:ntvxJi8Zo
マミ(やっぱり寂しいよぉ……)

今はもう、私という存在のほほすべてを『闇』に侵食されたからだろう。

もはや私の中には、絶望や未練、寂しさしか無くなってしまったが、どうにもならない。

ほむら「ヴ ヴ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ ッ ッ ! ! ! ! ! 」

だって。

これが、私の……


ドクンッ!!!!!


マミ(あ……!)

ほむらさんが、私のソウルジェムを砕くよりもほんの一瞬早く。

ついに力尽きた、私という存在が弾けた。

711: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:09:30.71 ID:ntvxJi8Zo
『闇』が私のすべてを喰らい尽くしたのと、私が私のまま終わる事が出来たのと。

自分が迎えた結末は、果たしてどちらだったのだろうか。

今の私にはわからなかった。


『あなたの頑張りを、祈りを──
絶望で終わらせたりはしません』


しかし、意識が完全に途切れる瞬間、優しい……そんな声が聞こえたような気がした。

712: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:11:02.41 ID:ntvxJi8Zo
─────────────────────

私は、真っ白な光の中に立っていた。

ちゃんと目は見えるし、五体満足だ。

……私は死んだのだろう。魔女になる事なく。

不思議と、その確信があった。

マミ(ほむらさん……)

湧き上がるのは、彼女に対する深い申し訳なさと、感謝。

なぜか、今際の際に捕らわれていたはずの絶望はまったく無くなっていた。

マミ(……ほむらさん、大丈夫かしら……)

私はもう側に居てあげられないし、最後にとんでもないお願いをしてしまった。

713: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:12:41.22 ID:ntvxJi8Zo
マミ(やっぱり、あんな事頼むんじゃなかったわ……)


『大丈夫ですよ』


マミ「えっ?」

光の中響いてきた声は、確かに私が死ぬ前に聞こえた声だった。


パアァッ……


目の前の真っ白な空間に、『慈悲』そのものとしか表現出来ない輝きが生まれる。

それはゆっくりと人の姿を形取っていき……

マミ「!」

あなたは……

マミ「鹿目、さん……?」

そう、そこに立っているのは、まぎれもなく鹿目さんだった。

714: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:15:00.01 ID:ntvxJi8Zo
まどか「はい、そうです。マミさん」

マミ「どうして……あなたが?」

……いや、そうか。ここは恐らく死後の世界。

きっと鹿目さんも、魔女になった後に……

まどか「ううん、違いますよ」

彼女は私の側まで来ると、そっと私の両手を取った。

マミ「……!!!」

『すべて』が──

私の中に流れてきた。

715: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:17:07.74 ID:ntvxJi8Zo
マミ「あ……」

そうか。そう、だったんだ。

まどか「えへへっ!」

私がすべてを知ったのを見て、鹿目さんが女神のように美しく、そして可愛らしく笑った。

マミ(……ううん。もう、『ように』じゃないわね)

まどか「ほむらちゃんは大丈夫。
『マミさん』だってそうですよ」

マミ「ええ、そうみたいね。
よかった。
……よかったっ!」

私も含めた『巴マミ』の事もそうだけど、それ以上にほむらさんの事がなによりも嬉しい……!

まどか「……じゃあ、マミさん」

マミ「ええ」

鹿目さんの言葉に、私は頷く。

彼女がどうしてここに現れたのかも、今の私にはわかっていた。


ふわっ。


私と彼女は手を繋ぎながら浮き、ゆっくりと飛びながら前へと進む。

716: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:19:25.11 ID:ntvxJi8Zo
マミ「……!」

しばらく進んだ後、私達の両脇に沢山の人達が現れた。

マミ「あ、あ……っ!」

それは、私が産まれてから死ぬまでに出会った──お世話になった人達。

彼らは、手を振ってくれたりとか、細かな仕草こそ人によって違うが、全員に共通している事があった。

みんな、笑顔なのだ。

マミ「…………」


サアッ……


その、沢山の人達の『思い』が私に入ってくる。

717: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:20:53.82 ID:ntvxJi8Zo
マミ(ああ……やっぱりそうだったのね)

私はこんなに思われていたんだ。

心配して貰ってたんだ。

あの時も、あの時も。あの人にだって。

マミ(やっぱり、河原で魔女になりかけた時に、ほむらさん達から気付かせて貰った通りだったんだ……)

やっぱり、私は一人ぼっちじゃなかったんだ。

ずっと、ずっと。

それに気付かず──見ようとすらせずに一人勝手に寂しがって、
悲劇のヒロインを気取っていたかつての自分が酷く恥ずかしくなり、私は苦笑した。

718: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:22:37.82 ID:ntvxJi8Zo
マミ「……!」

沢山の人達の中に、お父さんやお母さん、美樹さんや佐倉さんの姿もあった。

四人の声が、優しく頭に響く。

『よくやったね』と。

『頑張ったね』と。

さやか『マミさん、色々ありがとうっ!
ありがとーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』

杏子『もう、時間も距離も……次元だって関係ねえ。
あたし達は、永遠に仲間で友達だよ』

マミ「うんっ、うん……!」

いつの間にか、私は涙を流していた。

歓喜の涙を。

719: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:26:17.81 ID:ntvxJi8Zo
まどか「──さあ、そろそろですよ」

マミ「ええ」

鹿目さんの言葉に、私は指で涙を拭いながら答えた。

そして、つい今しがた愛しい人からプレゼントされたヘアバンドにそっと手をやる。

マミ「うふふっ」

幸せだわ。私、幸せだ。

……鹿目さんは、本当は『巴マミ』のすべてを束ねようと考えたらしい。

でも、『私』にはこうするのが一番の救いになると思ってくれ、
『巴マミ』の中であまりに変わった道を歩んだ『私』に対してならば、それを行うのも可能だったのだという。


パアァァァッ……


進めば進むほど光の濃度が上がり、私と鹿目さんは徐々にそれと同化していく。

720: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:28:58.80 ID:ntvxJi8Zo
……再び時を巡る、ほむらさんの意識も届いてきた。

彼女は、深い悲しみの中に居た。

マミ(本当は、こんな時こそ私があなたの力にならないといけないのに……
ううん、あなたをそんな風にさせてしまう事自体を防がなければいけなかったのに)

これだけは無念で仕方がないけれど、今の私は、それで後ろ向きになったりはしない。

そんなの、みんなに……ほむらさんに失礼になるから。


ほむら((思えば、みんな全員で幸せに、などという考えが甘すぎたのだろう。
もっともっとまどかの事を、まどかだけを考えて動くべきだった。
そうしなかったから、また失敗したのだ))


マミ「いいえ、違うわ」

これまで以上に自分の気持ちを無理に縛りつけようとしている彼女に、私はそっと語りかける。

721: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:33:01.43 ID:ntvxJi8Zo
マミ「あなたの真情こそが、正しいの」

これが幻聴だと思われても良い。

でも……


ほむら((美樹さやかにも、佐倉杏子にも……
『巴マミ』にも。
もう、情は一切持たない))


マミ「…………」

無理矢理自分に嘘をついてまで、痛々しい決意をするほむらさんには申し訳ないのだけれど……

正直、その末にこれほどまでに胸を痛める彼女の気持ちが私には嬉しかった。

それはほむらさんが優しい人だというのもあるけれど、私達を大切な存在だと思ってくれているからこそだから。

そして、私に対してはさらに……未だにその『想い』を持ち続けていてくれる事を、この魂に直に感じるから。

たまらなく、嬉しい。

722: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:34:55.23 ID:ntvxJi8Zo
これから先彼女が生きていく中、その想いは変わってしまうかもしれない。

逆に、彼女が今の目的を果たした後も、さらにその先にまで行っても……

永遠に私を想い続けてくれるかもしれない。

もはや、私にはそのどちらでも満足だった。

これだけ沢山の人や思いに恵まれ、与えて貰っていたのだから、もうなにも求めるものは無い。

求める必要は無い。

マミ(形はどうあれ、あなたが幸せになってくれさえしたらそれだけで良いの)

……本当、私は馬鹿ね。

もっと早く色々な事に気付けていれば、自分も含めた、もっともっと沢山の人達の為に頑張れていたのにね。

マミ「大丈夫。心配はいらないわ」


ほむら((今度は、そんな自分の『弱さ』にも打ち勝ってみせる))


マミ「あなたは、自分のその『優しさ』を信じて、失わなければいつか必ず……」

723: ◆LeM7Ja3gH2ba 2013/10/02(水) 23:39:29.31 ID:ntvxJi8Zo
私は、ほむらさんを見守る存在になる。

さすがに鹿目さんみたいにはなれないし、私の力でなにかをどうこう出来る訳でもないとは思うけれど。

これからは、永遠にあなたを愛し、想おう。

なにを求める事もなく、ただただあなたを。あなたの幸せだけを。

想う。

想いを、与える。与え続ける。

そんな存在になるのだ。

マミ「みんな、鹿目さん……
ありがとう」

まどか「はい、マミさん」

マミ「ありがとう、ほむらさん」

そう。

これが、私の結末。





完。