2 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/09(日) 22:57:07 ID:AXmhXYJk

アルミン「……」ペラッペラッ

エレン「よっ、アルミン」

アルミン「ん……ああ、エレンか」

エレン「久しぶりの休日なのにどこにも行かないのか?」

アルミン「うん。特に買うものもないし、今日は天気もいいから外で本を読んで過ごす事にするよ」

エレン「そうか……俺もなんか本でも読んでみるかな」

アルミン「エレンは僕が勧めないと本なんて手にもしないからね」クスクス

エレン「じっとしてるのが苦手なんだから仕方ないだろ……」

アルミン「エレンこそどうしたのさ。休日でも訓練をしているのに」

エレン「ああ、アニに指導してもらうおうかなって思ったんだけど、休む事も必要だって怒られた」

アルミン「アニの言う事は正しいよ。エレン、君は最近身体を酷使し過ぎだ」

エレン「アルミンも同じ事言うのかよ……」

アルミン「まあ、たまにはリラックスも必要だよ」

エレン「仕方ねえな……んじゃ、ちょっと寝るわ」ゴロン

アルミン「うん。じゃあ、僕は隣で本を読んでいるから、適当な時間になったら起こすよ」ペラッ 



 

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3 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/09(日) 22:57:51 ID:AXmhXYJk

エレン「おう、ありがとうな」

アルミン「……」ペラッ

エレン「……」

アルミン「……」ペラッ

エレン「……寝れない」ムクリッ

アルミン「あはは、だろうと思ったよ」

エレン「やっぱ石の枕はきついな」

アルミン「いくら原っぱの上だからって、流石にそれは寝れないよね。けど、昔は石の枕を使っていたんだよ」

エレン「えっ、今みたいに麻袋じゃねぇのか?」

アルミン「うん。川を転がって角が削れた丸い石を用いたらしいよ」

エレン「へー」

アルミン「なんなら、本を枕にするかい?」

エレン「それだとアルミンが読めなくなるだろ。それに、本を枕にしてもいいのかよ」

アルミン「大丈夫、何冊か持ってきているから。後、僕もたまに枕として使う時があるから、別に気にしなくていいよ」ハイ

エレン「おう、ありがとうな」 


4 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/09(日) 22:58:55 ID:AXmhXYJk

アルミン「それじゃ、おやすみ」

エレン「おう、おやすみ」ゴロン

アルミン「……」ペラッ

エレン「……」

アルミン「……」ペラッ

エレン「……なぁ、アルミン」

アルミン「なんだい、エレン。やっぱり寝れない?」

エレン「いや、あの雲って何に見える?」

アルミン「雲、かい?」

エレン「おう。ほら、四つの雲に囲まれたあのちびっこいの」ユビサシ

アルミン「うーん……なんだろうね。何見えるかと言われても、雲としか言えないね」ミアゲ

エレン「だよなー」

アルミン「けど、いきなりどうしてそんな話を?」

エレン「いや、餓鬼の頃はよく雲の形が色んなものに見えたなーって思ってさ」

アルミン「童心ってやつだね。あの頃からエレンはずっと空ばかり見ていたよね」 

5 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/09(日) 22:59:48 ID:AXmhXYJk

エレン「まあ、空って言うよりは壁を見ていたんだけどな。けど、あの高い壁を見上げると自然と空も視界に入っていた」

エレン「そのうち、気付くと雲を追いかけてた。自由に壁を乗り越えていく雲を」

アルミン「羨ましいって思ったのかい?」

エレン「どうだろうな。鳥になって壁を越えたいって事はあったけれど、雲になりたいとは思った事はないな」

アルミン「空にあるという時点ではどちらも同じだと思うけれど」

エレン「んーなんていうか、あれだ」

エレン「鳥は自分の翼で自由に空を飛びまわれるだろ?」

エレン「けど、雲は自分の行き先を風に任せてるだけなんだ。それって自分の意志がないって事と同じじゃねえか?」

アルミン「……エレンはたまに面白い事を言うね」クスクス

エレン「な、なんだよ。別に笑う事ねえじゃねぇか!」

アルミン「ああ、ごめんごめん。でも、決してエレンを馬鹿にしたから笑ったわけじゃないんだ」

アルミン「あ、それよりあの雲、少し形が変わったね」

エレン「ん、ああ本当だな……馬か?」

アルミン「馬……ああ、あれが足で尻尾で、確かに馬に見えるね」

エレン「だろ?」 


6 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/09(日) 23:00:29 ID:AXmhXYJk

???「エレン、アルミン」

アルミン「やあ、ミカサ」

エレン「どうかしたのか?」

ミカサ「二人が楽しそうに話していたので、私も参加したくなった」

エレン「そうか」

ミカサ「そう。二人は何を楽しそうに話してたの?」

アルミン「童心に戻っていたのさ。エレンがあの雲が馬の形に見えるって言うんだ」ユビサシ

ミカサ「……真ん中にあるあの雲?」

エレン「ああ。ミカサは何に見える?」

ミカサ「私は馬というより兎に見える」

エレン「兎? いや、どう見ても馬だろ」

アルミン「まあまあ、人によって見方が違うんだから仕方ないじゃないか」

エレン「けど、あれはどう見ても馬だろ? ジャンみたいな馬面してるぜ?」

アルミン「……さすがにそれは同意できないな、僕は」 

7 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/09(日) 23:01:42 ID:AXmhXYJk
 ――――

ジャン「――ハックション!」

マルコ「ジャン、風邪かい?」

ジャン「いや……どこの誰か知らねぇが、俺を噂してるような気がしてよ」

マルコ「……そういうのってわかるものなのかい?」

 ――――


ミカサ「三人で過ごすのは久しぶりな気がする」

アルミン「それもそうだね」

エレン「そうか? 食事とかは一緒にしてるだろ」

ミカサ「それは訓練兵としての日常。私が言いたいのは、それ以前の日常」

エレン「……ああ、確かにそうかもな」

アルミン「僕達は知らない間に、色んなものを失ったんだね」

エレン「そう、だな……」

ミカサ「居場所、大切な人、そして雲を眺めるという童心すら失っていた」

エレン「……」 

8 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/09(日) 23:02:33 ID:AXmhXYJk

アルミン「ミカサの言う通り……僕達は多くのものを失ってしまった」

ミカサ「……」

アルミン「失ったものは取り戻せない」

アルミン「けど、そんな失ったものにも、取り戻せるものだってあると僕は思うな」

エレン「取り戻せるもの?」

アルミン「ああ。それこそ、さっき言った童心さ」

アルミン「こうやって空を見上げればあの頃を思い出す事ができる。思い出し、それを語り合うエレン、ミカサがここにいる」

アルミン「それって童心に戻ったって言わないかな?」

ミカサ「言わなくない」フルフル

エレン「でもさ、それって今の俺達に必要なのか?」

ミカサ「エレン。それは違う、と私は思う」

アルミン「うん、そうだよエレン」

アルミン「そもそも必要かそうでないかなんて関係ないんだよ」

エレン「意味わかんねえぞ?」

アルミン「ふふふ、僕も自分で何を言っているのかわかんなくなったよ」 

9 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/09(日) 23:03:21 ID:AXmhXYJk

エレン「なんだそりゃ」

ミカサ「けど、思い出す事、童心に返る事に理由なんて必要ない」

アルミン「そうだね。だから、昔みたいに理由なく空を眺めるのもいいかもね」

エレン「よくわかんねぇけど……まあ、たまにはこういう日があってもいいか」

ミカサ「たまにと言うのなら、三人で寄り添いたい」

エレン「はぁ!? 嫌だっての恥ずかしい!」

ミカサ「……アルミン、エレンが意地悪だ」

アルミン「エレン、君というやつは……」ヤレヤレ

アルミン「ミカサ、こうなったら……」

ミカサ「わかった」コクリ

エレン「なんだよ二人して……って、ほんとになんだよ!」バタバタ

アルミン「実力行使ってやつだよ」

ミカサ「エレン、暴れないで」

エレン「……ったく、わかったよ……今日だけだけだからな」

アルミン「やったね、ミカサ」 

10 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/09(日) 23:06:18 ID:AXmhXYJk
ミカサ「ありがとう、アルミン」

エレン「何が楽しいんだか……」

アルミン「エレンは本当に変わらないね……あっ、また雲の形が変わってるよ」

ミカサ「あれはサシャだと思う」

エレン「はぁ? あの丸っこいのがか?」

アルミン「丸っこいの……ああ、そういう意味か」

ミカサ「アルミンはわかったようだ」

アルミン「だってそれがサシャと言っても過言ではないからね」

エレン「んー……ああ、なるほどそういう事か」

アルミン「エレンもわかったみたいだね」

ミカサ「あの隣の雲はどう思う?」

エレン「隣の雲って……こう横に伸びたようなやつか?」

ミカサ「そう」

アルミン「そうだね……僕は――に見えるかな」

エレン「いや、あれは――だって」 


11 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/02/09(日) 23:06:52 ID:AXmhXYJk

ミカサ「私は――だと思う」

 …………
 ……
 …

 いつの間にか、俺は童心ってものを忘れていたみたいだ。

 そして、いつの間にか大人になって、知らない間に色んなものを失っていた。

 取り戻せないものがあり、戻せない時間がある。

 けれど、思い出す事ができるんだって、俺は今日知った。

 隣に並ぶこの二人がいれば、俺は思い出す事ができる。

 雲を眺め、それを追って語り合ったあの日々を。

 だから、俺は思う。

 絶対にこの二人を失ってはいけないと。

 忘れていた童心を思い出すためにも。

 そして、俺はこの壁の向こうを越えてみせる。

     ~エレン・イェーガーの手記から抜粋~