前回 サブ・ゼロの使い魔 (ジョジョ×ゼロ使) 第一章 その4

474 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/22(金) 17:13:22 ID:???
ルイズは夢を見ていた。夢の中で、ルイズは自分ではない誰かになっている。 
誰かになったルイズは、どこか古臭い部屋で仲間と思われる人々と会話を交わして 
いた。自分も回りもどこかかすみがかかったようにぼんやりとして、ルイズはそれに 
不安を覚えたが、それと同時に不思議な居心地の良さを感じていた。 
「――」 
仲間達は自分に何かを語りかける。 
「―― ――」 
しかし、その言葉もまたおぼろげにかすみ、 ルイズの耳には届かなかった。 
ルイズはそれが何故だかとても悲しいことのように思えて、なんとか声を聞こうと 
するが――聞こうと思えば思うほど、言葉はかすみ、彼らも自分もかすんでゆく。 
それでも彼らはルイズに何かを伝えようとしている。酷くかすんで彼らの顔は 
分からないが――きっと今の自分である『誰か』の大切な人達なのだろうと、 
ルイズは思った。そう思うと、彼らの声が聞えないのがなおさら辛くて、ルイズは 
声を張り上げようとする。だけどそれすらもかすみにとけて、そして、世界が、白く、 
包まれて。真っ白い闇に、全ては消えた。 

――ゾクッ、と寒気がする。誰かに見られているような視線を感じ、いつの間にか 
自分に戻っていたルイズはキョロキョロと周りを見渡すが、それらしいものは 
何もない。にも関わらず、ルイズの心はアラームを鳴らし始めた。何かよく 
分からんがこれはヤバいッ!と思うと同時にルイズの体は浮上を始め、心の 
海を上へ上へと上昇し―― 


意識が覚醒したルイズが最初に見たものは、今にもスタンドを発動させそうな 
眼でルイズを見下ろしているギアッチョの姿だった。 

475 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/22(金) 17:14:20 ID:???
「だから言ったじゃあねーか」 
バシャバシャと水音を立てて顔を洗うルイズを見ながらギアッチョは言った。 
「この時間になったら起きなきゃならねーってことを体が覚えこむってよォ~~」 
――覚えこまされたのはあんたの殺気と威圧感よ! 
と心の中でツッこむルイズである。 
「起きる度に殺されかけてちゃ身が持たないわよ・・・」 
ルイズはため息をつきながらクローゼットに向かう。ギアッチョに服を持って 
来いなどとは勿論言えない。ごそごそと着替えを漁っていると、ガチャリと音を 
立ててギアッチョが部屋の扉を開いた。 
「・・・どこ行くのよ」 
床に座り込んだ状態で首だけ向けて訊くルイズに、 
「厨房だ」 
と背中で答えるギアッチョ。 
「そう・・・それならいいわ だけど教室にはちゃんと来てよね」 
ルイズが言い終えると同時にギアッチョは廊下へ姿を消した。 
「何よ・・・そんなに早く出て行かなくてもいいじゃない」 
と一人ごちるルイズだったが、その原因が自分の着替えにあるとは気付く 
べくもなかった。 


476 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/22(金) 17:15:18 ID:???
昨日の決闘の噂は、一日も立たずに学院中に浸透したらしい。ギアッチョの 
行くところ常に生徒が道を開け、ギアッチョの後ろには謎の魔法を使う男を 
一目見ようと大勢の野次馬が付き従っていた。 
――やれやれ・・・シナイ山で啓示を受けた覚えはねーんだがな 
ギアッチョは畏怖と好奇の視線に辟易していたが、また同時に奇妙に新鮮な 
感覚を覚えていた。ギアッチョの生前は目立つという行為はタブーであった。 
暗殺を成功させる為、敵の刺客から逃れる為――何か特殊な場合を除き、 
ギアッチョ達暗殺者が目立ってしまうことは決してあってはならないことなのである。 
こんなに大勢の人間に注目されるのは初めてか、でなくとも久方ぶりの経験だった。 
まぁ実際にはギアッチョがそう思っているだけで、客観的にはギアッチョは暗殺者と 
して有り得ないぐらい目立ちまくっていたのだが。暗殺チームで刺客に襲われた 
回数にランキングをつけたならば、ギアッチョはブッちぎりで一位だったことだろう。 
「あいつじゃなきゃあ10回は死んでるな」とは地味度一位のイルーゾォの言である。 

478 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/22(金) 17:16:21 ID:???
「おはようございます」 
シエスタはにこやかにギアッチョを出迎えた。 
「ギアッチョさんの分、もう出来てますよ」 
悪いな、と答えてギアッチョは厨房に入る。マルトー達と適当に挨拶を交わして 
テーブルに着くと、そこには既にギアッチョの為に朝食が用意されていた。 
「さぁ食べてくれ!少しならおかわりもあるから遠慮するなよ!」 
マルトーはそう言うと意味もなく豪快に笑った。 
「いただくぜ・・・ん?」 
いざ食事を始めようとしたギアッチョは、窓の外から赤い何かが覗いている 
事に気付いた。よくよく眼を凝らすと、そこにいたのはキュルケの使い魔であった。 
――あの化け物・・・サラマンダーとか言ったな ご主人様の命令でオレを監視 
してるってェわけか・・・ご苦労なこった 
ルイズが言っていた、使い魔の視覚と聴覚を共有する力を使っているのだろう。 
ギアッチョはスープを飲むふりをしながら、キュルケがフレイムと名付けた化け物を 
観察する。どうやら本当に自分を監視しているようだ。脇目も振らずこちらを凝視 
している。ガンくれてやろうかとも思ったが、特に迷惑でもないのでギアッチョは 
そのまま無視を決め込んだ。 
「このままキュルケのヤローの疑いが晴れてくれりゃあ儲けもんだしな」 
そう結論すると、ギアッチョは今度こそ目の前のご馳走に専念することにした。 


それから数日は滞りなく進んだ。フレイムが四六時中ギアッチョの周りをうろついて 
いること以外は特に変わったこともない。ギアッチョ同様早々にフレイムに気付いた 
ルイズがキュルケに食ってかかろうとしたが、ギアッチョに静止されて引き下がった。 
ギアッチョがキレた回数もたったの3回と、実に平和な日々だった

481 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/22(金) 17:17:47 ID:???
「明日は街に出るわよ」 
その夜、ルイズはそう宣言した。 
「授業はねーのか」 
と訊くギアッチョに、 
「明日は虚無の曜日だからね」 
短く答えるルイズ。虚無だ何だと言われてもギアッチョに分かるわけもなかったが、 
まぁ要するに休日なのだろうと彼は判断した。何をしに行くのかと尋ねると、 
「剣を買いに行くのよ」という答えが返ってくる。 
「剣だぁ?誰が使うんだよそんなもんよォォ」 
当然の疑問を放つギアッチョをルイズは指差した。 
「ああ?いらねーよそんなもん オレは素手が一番力を発揮出来るんだからな・・・ 
第一ナイフや銃を扱ったことはあっても剣なんざ触ったこともねーぜ」 
ホワイト・アルバムはプロシュートのグレイトフル・デッドと同様、直触りが最も効果を 
発揮するスタンドである。わざわざ剣を握って片手をふさがらせる必要はない。 
そう言うと、 
「そ・・・それは・・・えっと、あれよ・・・だから」 
何故かしどろもどろになるルイズである。 
「・・・そ、そうよ!貴族の使い魔たる者、剣の一つや二つ下げていなければ格好が 
つかないの!分かったらつべこべ言わずに寝なさい!明日は早いんだからね!」 
そう言い放ってルイズは逃げるようにベッドに潜り込んだ。 
ギアッチョは「剣下げてる使い魔なんて見たことねーぞ」と言おうかと思ったが、 
ギーシュ戦の感謝を素直に言えないルイズの遠まわしな礼だと気付いて黙っている 
ことにした。 
「剣で何とかなる敵がいるならそれが一番だしな・・・・・・」 
今は平和だがこれから何があるか分からない。スタンドはやはり極力隠すべきだと 
判断したギアッチョだった。

265 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/23(土) 18:43:20 ID:???
翌日。いつものようにフレイムをギアッチョの監視に行かせたキュルケは、彼らが 
馬に乗ってどこかへ出掛けた事を知った。ここ数日でギアッチョを危険だと感じた 
事はなかったし、もうぶっちゃけ監視とかしなくてよくね?時間の無駄じゃね?と 
思いつつあったキュルケだが、学院外に出るという今までに無いパターンだった 
ので念の為もう一日だけ監視を続行することにする。キュルケが急いで支度を 
済ませて廊下に出ると、ルイズの部屋の前で棒立ちしていた男と眼が合った。 
松葉杖をつき、服の下からは包帯が見えている。ギーシュ・ド・グラモンその人で 
あった。 
「・・・あなた何してるの?」 
キュルケはいぶかしげに尋ねる。 
「・・・や、やあキュルケ ちょっとルイズに用があるんだが・・・まだ寝てるのか 
ここを開けてくれなくてね・・・」 
ギーシュはばつの悪そうな顔をしながら答えた。 
「用?あなたがルイズに?またあの子に何かしようとしてるんじゃないでしょうねぇ」 
「そ、それは違う!僕はただルイズに謝ろうと・・・」 
聞けばギーシュは二股をかけており、そいつがバレた上にビンタでフられて 
ムカムカしていたところにルイズとぶつかってモンモランシーの為の香水がブチ 
割れて、彼は怒りで周りが見えなくなってしまったのだという。 
「・・・呆れた 完全に逆恨みじゃない あなた貴族としてのプライドってものがないの?」 
二股のくだりだけはキュルケに文句を言われる筋合いはないはずだが、概ね正論 
だったのでギーシュは黙って耐えた。 

266 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/23(土) 18:44:32 ID:???
「それで、謝りたくてやって来たんだが・・・」 
「ルイズならもういないわよ」 
「な、なんだってーーー!?」 
物凄い顔で驚くギーシュにキュルケは溜息を一つついてから、 
「ルイズと一緒にギアッチョもいるんだからどっちか一人は気付くでしょ 常識的に 
考えて・・・」 
とのたまった。その「ギアッチョ」という言葉に、ギーシュの体がビクリと反応する。 
「・・・そ、そそそういや彼もいるんだったねぇ・・・ハハハ・・・ハ・・・」 
ギーシュにとってギアッチョは相当トラウマになっているようだった。ヒザが滑稽な 
ぐらいガクガク笑っている。あんな目に遭っておいてトラウマになるなというほうが 
無理な話ではあるが。 
「私はこれからタバサに頼んでシルフィードでルイズ達を追いかけるつもりだけど 
・・・あなたはどうする?」 
キュルケの助け舟に、「是非とも一緒に・・・」と叫びかけたギーシュだったが、 
「・・・ちょ、ちょっと待ってくれたまえ ルイズ『達』ということは・・・」 
「勿論ギアッチョもいるわよ」 
ビシッ!と心臓が凍った音が聞えた。ギーシュは「・・・あ・・・あう・・・」とまるで 
懲罰用キムチでも食らったかのように呻いている。そんなギーシュを見てキュルケは 
更に溜息を重ねると、 
「どの道ギアッチョはルイズの使い魔なんだから、いつでもあの子と一緒に 
いるでしょうよ ルイズが一人になる隙をうかがうよりは今特攻したほうが 
スッキリすると思うけど?」 
生きていればね、と小さな声で付け加えてギーシュを見る。 
「き、聞えてるぞキュルケ!やっぱりダメだ・・・ここ、こっそりルイズに手紙を渡して 
人気の無いところへ呼び出して・・・」 
常軌を逸した怯え方である。殺されかけたという事に加えて、自分の魔法を 
ことごとく破られ跳ね返されたという事実が彼の恐怖を加速させていた。 


267 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/23(土) 18:45:45 ID:???
キュルケは呆れを通り越して哀れになってきたが、いい加減出発しないと 
シルフィードでもルイズ達を見失うかもしれない。これを最後にするつもりで 
キュルケはギーシュに発破をかけた。 
「あなた少しは男らしいところ見せなさいよ こんなところをあの使い魔が見たら 
また『覚悟』が無いとか言われるんじゃあないの?」 

「――!」 

その言葉に、ギーシュは動きを止めた。彼は何かを考え込むようにわずか沈黙し、 
真剣な眼でキュルケを見る。 
「・・・ねぇ君 『覚悟』って一体何なんだろう」 
先ほどまでのヘタレ具合とは一転、彼の眼には苦悩の色が浮かんでいた。 
「あの男――ギアッチョに言われたことがずっと耳から離れないんだ 『覚悟』って 
何なんだ?彼と僕と、一体何が違うんだ? ギアッチョと僕を隔てる、絶対的な 
何かがあるのは解る だけど一体それが何なのか、いくら考えても答えが出ない」 
ギーシュの懊悩は、キュルケには解らない。あの男の真の凄み、そして恐ろしさは、 
対峙してみなければ理解は出来ない。ギーシュはそう知りつつも、誰かに疑問を 
ぶつけずにはいられなかった。例えギアッチョと同等の能力を持っていたとしても、 
自分は永遠に彼に勝つことは出来ない。そうさせる何かが、あの使い魔にはある。 
自分にはそれがない。その事実がただ悔しかった。 
「あの決闘で――自分がどれほど自惚れていたのかを思い知らされたよ」 
ギーシュはうつむいて言葉を吐き出す。 
「・・・そして どれほど愚かだったのかも」 

268 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/23(土) 18:46:53 ID:???
なまじっか顔と成績がいいばっかりに、高く伸びていたギーシュの鼻をヘシ折れる 
生徒は存在しなかった。そのギーシュを完膚なきまでに叩きのめしたのは、タバサでも 
キュルケでも、マリコルヌでもモンモランシーでもなかった。ゼロと蔑まれていた少女、 
その人間の、しかも平民の――加えて言うならば顔もよくはない――使い魔だったので 
ある。ギーシュのプライドは粉々にブチ割れた。そして同時に、自分がどれほど他人を 
見下していたかを理解した。 
「こんな屈辱に――ルイズはずっと耐えてきたんだ ・・・僕は 僕はどうしようもなく 
馬鹿だった」 
彼女に謝罪しなければならないと言うギーシュの眼は、紛れもなく本気だった。 

タバサはキュルケ達の頼みを快諾した。他でもない唯一の親友キュルケの頼みだと 
いう事もあるが、あのギーシュがそりゃもうジャンピング土下座でもしそうな勢いで 
頼み込んで来たのである。それも己の利益の為ではなく、純粋に少女への謝罪の 
為とくれば、いくら虚無の曜日とはいえタバサも力を貸すにやぶさかではなかった。 
そういうわけで彼女達は今タバサの使い魔である風竜、シルフィードに乗って 
ルイズ達を追っている。竜の背中でタバサは中断していた読書を再開し、キュルケは 
しきりとシルフィードを褒め称え、ギーシュは勢いで飛び出してきたもののやっぱり 
ギアッチョが怖いらしく、時折キュルケの口からギアッチョの名が出る度にビクビクと 
震えていた。 
「ギーシュ あなたいい加減腹をくくったら?」 
ちょっと男らしい事を言ったかと思えばこれである。キュルケはまたも呆れていた。 
「そ、そんなこと言ったって怖いものはしょうがないじゃないか!自分の魔法で全身 
蜂の巣にされる恐怖が君に分かるかい!?」 
ギーシュがまくし立てると、 
「自業自得」 
タバサが活字に眼を落としながら呟く。それを聞いたキュルケが思わず噴き出し、 
ギーシュはもういいよとばかりにがっくりと肩を落とした。

892 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/24(日) 18:40:50 ID:???
馬に乗ること3時間、ルイズとギアッチョはトリステインの城下町に到着した。ここ 
ハルケギニアに召喚されてから初めて見る学院外の景色だったが、ギアッチョは 
今それどころではなかった。生まれて初めて乗馬を経験した彼は腰が痛くて仕方が 
なかったのだ。 
「そっちの世界に馬はいないの?」 
ルイズが不思議そうに尋ねる。 
「いねーこたねーが・・・都市部で馬を乗り物にしてたのは遥か昔の話だ」 
ギアッチョが腰を揉みほぐしながら答えるが、ルイズはますます不思議な顔を 
するだけだった。 
「まぁ覚えてりゃあそのうち話してやる それよりよォォ~~ 剣ってなどこに 
売ってんだ?」 
「ちょっと待って・・・ええと こっちだわ」 
ルイズが地図を片手に先導し、ようやく周囲に眼を向ける余裕が出てきたギアッチョは 
その後ろを観光気分でついて行く。何しろ見れば見るほどメルヘンやファンタジー以外の 
何物でもない世界である。幅の狭い石敷きの道や路傍で物を声を張り上げて売る商人達、 
そして彼らの服装などはまるで中世にワープしたかのようだ。しかし中世欧州と似て 
非なるその建築様式が、ここがヨーロッパではないことを物語っていた。 
「魔法といい使い魔といい、メローネあたりは大喜びしそうだな」などと考えたところで、 
ギアッチョは自分が既にこの世界に馴染んでしまっていることに気付いた。 
リゾットはどうしているのだろう。見事ボスを倒し、自分達の仇を取ってくれたのだろうか。 
それとも――考えたくないことだが、先に散った仲間達の元へ行ってしまったのだろうか。 
このハルケギニアと同じように時間が流れているのならば、きっともうどちらかの結果が 
出ているだろう。 
ホルマジオからギアッチョに至る犠牲で、彼らが得る事の出来たボスの情報はほぼ 
皆無だった。いくらリゾットでも、そんな状態でボスを見つけ出して殺せるものだろうか。 
相当分の悪い賭けであることを、ギアッチョは認めざるを得なかった。 

893 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/24(日) 18:42:15 ID:???
――どの道・・・ 
ギアッチョは考える。どの道、もう結果は出ているのだ。自分はそれを知らされていない 
だけ・・・。 
「クソッ!!」 
眼に映るものを手当たり次第ブチ壊してやりたい気分だった。当面はイタリアに戻る 
方法が見つからない以上、こんなことは考えるべきではなかったのだろう。だがもう遅い。 
一度考えてしまえば、その思考を抹消することなどなかなか出来はしない。特に―― 
激情に火が点いてしまった場合は。 

――結末も知らされないままによォォーーー・・・ どうしてオレだけがこんな異世界で 
のうのうと生き長らえているってんだッ!ああ!?どうしてだ!!どうしてオレは生きて 
いる!?手を伸ばすことも叶わねぇ、行く末を見届けることすら出来やしねえッ!! 
何故オレがッ!!ええッ!?どうしてオレだけがッ!!何の為に!!何の意味が 
あってオレは惨めに生きている!?誰か答えろよッ!!ええオイッ!! 

一体何に怒りをぶつければいいのか、それすらも解らないまま――、ギアッチョは 
溢れ出しそうな怒りを必死に押しとどめていた。 

「・・・ギアッチョ ・・・・・・どうしたの?」 
その声にハッと我を取り戻したギアッチョが顔を上げると、ルイズが僅かな戸惑いをその 
顔に浮かべて自分を見ていた。 
「・・・・・・なんでもねぇ」 
思わずルイズに当たりそうになったが、彼女とて意図して自分を呼び出したわけではない。 
数秒の沈黙の後――ギアッチョは何とかそれだけ言葉を絞り出した。 

895 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/24(日) 18:43:40 ID:???
いつもと様子が違うギアッチョに、ルイズは当惑していた。ギアッチョを召喚してまだ 
数日だが、この男がキレた所はもう嫌というほど眼にしていた。そしてその全く 
嬉しくない経験から理解していたことだが、ギアッチョはブチキレる時にTPOを 
わきまえることはない。食堂だろうが教室だろうが、キレると思ったらその時スデに 
行動は終わっているのがギアッチョなのである。シエスタから聞くところによると、 
既に厨房でも一度爆発したらしい。傍若無人を地で行く男であった。 
そのギアッチョが怒りをこらえている。ルイズでなくても戸惑いは当然だろう。 
レンズの奥に隠れてギアッチョの表情は判らなかったが、ルイズには彼が無言の 
うちに発している悲壮な怒りが痛々しいほどに伝わってきた。 

――・・・ギアッチョ 私のただ一人の使い魔 ただ一人の味方・・・ 

ルイズはギアッチョの力になってやりたかった。圧勝とは言え体を張って自分を 
助けてくれたギアッチョに、せめて心で報いたかった。しかしルイズの心の盾は 
堅固不壊を極めている。自分の為に本気で怒ってくれたギアッチョに、ルイズは 
ただ一言の礼を言うことすら出来なかった。そして今もまた、ルイズの盾は 
忠実に職務を果たしている。ギアッチョに報いたいというルイズの思いは、自らの 
盾に阻まれて――彼女の心の内に、ただ虚しく跳ね返った。 

こうして、怒りを内に溜め込んでいるギアッチョと自己嫌悪に陥っているルイズは 
二人して陰鬱な空気を纏ったまま武器屋へと到着した。 

897 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/24(日) 18:44:58 ID:???
貴族が入店したと見るやドスの効いた声で潔白の主張を始める店主に「客よ」と 
告げて、ルイズは剣の物色を始める。 
「・・・ギアッチョ、あんたはどれがいいの?」 
使用者であるギアッチョの意向無しに話は進まないので、ルイズは意を決して 
話しかけた。 
「・・・剣なんぞに馴染みはねーんだ どれがいいかと聞かれてもよォォ」 
同じ事を考えているであろうギアッチョは、そう答えて適当な剣を手に取る。 
「――リゾットの野郎がいりゃあ・・・いいアドバイスをくれただろうな」 
刀身に視線を落とすと彼はそう呟いた。 
リゾット・・・何度かギアッチョが話した彼のリーダー。怒りや悲しみがないまぜに 
なった声でその名を呟くギアッチョに、ルイズは何かを言ってやりたくて・・・ 
だけど言葉すらも浮かんではこなかった。 

「帰りな素人さんどもよ!」 

ルイズの代わりに静寂を破ったのは、人ではなかった。二人が声の主を 
探していると、再び聞えたその声はギアッチョの目の前から発されていた。 
「剣なんぞに馴染みはねーだァ?そんな野郎が一人前に剣を担ごうなんざ 
100年はえェ!とっとと帰って棒っ切れでも振ってな!」 


898 :サブ・ゼロの使い魔:2007/06/24(日) 18:46:01 ID:???
「・・・何? どこにいるのよ」 
ルイズがキョロキョロとあたりを見回していると、ギアッチョがグィッ!と一本の 
剣を持ち上げた。 
「・・・インテリジェンスソード?」 
ルイズは珍しそうに持ち上げられた剣を眺めている。 
「は、いかにもそいつは意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ 
こらデル公!お客様に失礼な口叩いてんじゃあねえ!」 
店主の怒声をデル公と呼ばれた剣は軽く受け流す。 
「おうおう兄ちゃんよ!トーシロが気安く俺に触ってんじゃあねーぜ!放しな!」 
なおも続く魔剣の罵声もどこ吹く風で、ギアッチョは感情をなくした眼で「彼」を 
じっと見つめている。 
「聞いてんのか兄ちゃん!放せっつってんだよ!ナマスにされてーかッ!」 
なんという口の悪さだろう。ルイズは呆れて剣を見ている。そしてギアッチョも 
感情の伺えない眼でデル公を見ている。 
「・・・おい、てめー口が利けねーのかぁ!?黙ってねーで何とか言いな!!」 
ギアッチョは見ている。死神のような眼で、喋る魔剣を。 
「・・・・・・ちょ、ちょっと何で黙ってんだよ・・・喋ってくれよ頼むから ねぇ」 
ギアッチョは不気味に見つめている。彼の寡黙さにビビりだした剣を。 
「・・・あのー・・・ 丁度いいストレスの発散相手が出来たって眼に見えるんですが 
・・・僕の気のせいでしょーかねぇ・・・アハハハハ・・・」 
そして完全に萎縮してしまったインテリジェンスソードを見つめる男の唇が、 
初めて動きを見せ―― 

トリステイン城下ブルドンネ街の裏路地に、デル公の悲鳴が響き渡った。