沙々「わたし、マミさんの弟子になりたいんです!」 前編


246: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 16:37:26.40 ID:BM9C0kDqo


沙々「なっ……!」


沙々(やられたっ……!)

沙々(こいつらの狙いは巴マミの身柄の確保)

沙々(わたしの処分に関する問題は二の次)


沙々(あくまで巴マミが目的っ……!)

バッ

ほむら「動くな」ダァン!


沙々 さやか「!」


ほむら「次は当てる。今のはさやかに配慮しての一発」

ほむら「流血は、みたくないでしょうからね」

ほむら「次は確実にどこかに当てるわ」


ほむら「選びなさい」

ほむら「大人しく巴マミの洗脳を解くことを選ぶか」

ほむら「それとも……」

引用元: 沙々「わたし、マミさんの弟子になりたいんです!」 




 

 
247: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 16:40:16.93 ID:BM9C0kDqo


沙々 ほむら さやか「…………」


沙々「…………」ギリッ


沙々(ふざけるなっ……!)

沙々(こっちがどれだけの手間を、巴マミに費やしたと思ってるんですか……!)

沙々(大体わたしにだって、あれは今更どうにかできる段階を越してるっつうの)


沙々(……とはいえ残念ながら、もうマミのことは諦めるしかないかもしれませんね)

沙々(今から佐倉杏子の元へ行って割り込もうとしても、ほぼ間違いなく間に合わない)


沙々(それより生き延びる、自分の立場の改善。それらを優先するべき)

沙々(考えろ、この状況を切り抜ける方法をどうにか考えるんです)


沙々「暁美ほむらさん」


ほむら「何かしら?」


沙々「あなたの目的は、なんですか?」


ほむら「目的……?」

248: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 16:43:27.58 ID:BM9C0kDqo


沙々「ええ、バカみたいにグリーフシードを集めることじゃないでしょう?」

沙々「何かあなたには、特別な目的がある」


沙々(鹿目まどかを覗いた時に見た、夢)

沙々(あれがなんなのかはいまだにわからないですけど)


沙々(多分暁美ほむらの目的は……)


沙々「あなたの目的、それはもしかして」






沙々「――鹿目まどかを契約させないこと、なんじゃないですか?」


ほむら 「!」


沙々「当り前ですよね、あんな素質の子が魔法少女になったら何が起こるわからない」

沙々「万が一敵になる前に、手を打っておくのは合理的な考え方です」

沙々「ただ、あなたと鹿目まどかを結び付けてる、何かが妙ではありますが……」

249: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 16:46:03.08 ID:BM9C0kDqo


ほむら「……惜しいわね」


沙々「はい?」


ほむら「それで?そうだとして、あなたは何を言おうとしていたの?」


沙々(食い、ついた……?)

沙々「あの、ですね。わたしなら、鹿目まどかの契約を絶対に食い止められます」


ほむら さやか「――っ!」


ほむら「……だから、巴マミについては不問にしろ、そういうこと?」


沙々「ええ。正直言って、巴マミとの間に繋いだパイプは」

沙々「もうわたしにもどうしようもありません」


沙々「でも、命を助けてさえくれるなら、見逃してくれるなら」

沙々「鹿目まどかの契約を絶対に阻止してみせます」


沙々「あなたにとって、それは悪い取引ではないでしょう……?」

250: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 16:48:06.67 ID:BM9C0kDqo


ほむら「まどかの精神を、弄る、そういうこと……?」


沙々(あれ?心持ち殺気が増しているような……)


沙々「ひ、人聞きが悪いですよ。彼女の思想、感情そのものに干渉するわけじゃないのに」


沙々「そう考えたとしても、そういう選択ができないようにロックをかける」

沙々「元からそういう風に考えられなくする」


沙々「お、同じようで全然違うことじゃないですかっ!」


沙々「それすらも嫌だというなら、いつまでも不確定な要素を残したまま」

沙々「あなたは彼女が契約するかどうか、ずっと監視し続けるつもりですか?」


ほむら「…………」


沙々(……このまま行ける、か?)


ほむら「なるほど、冷静に見ればあなたと組むことには、ちゃんとしたメリットがあるわね」

251: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 16:53:34.31 ID:BM9C0kDqo


沙々「だったら――」


ほむら「でも、あなたの要求は承服しかねる」


沙々「えっ?」


ほむら「それではあなたの手に、巴マミを操縦する手段が残ることになる」


ほむら「私にとってはあなたのもたらすメリットよりも」

ほむら「巴マミに恩を売れたり、あなたがいないメリットの方が大きく感じられる」


ほむら「佐倉杏子と巴マミの和解も、あなたがいなくなった方が」

ほむら「きっと上手くいくんじゃないかしら」


沙々「なっ!そんな身勝手なっ!」


沙々(……くそっ、せめて美樹さやかは)

沙々(あっ、ダメですね)


沙々(完全にどちらが正しいかを見失って、呆けてます)

沙々(これじゃ役に立ちそうにありません)

252: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 16:55:19.06 ID:BM9C0kDqo


ほむら「ただ何よりも、私があなたを認められないのは感情面でのこと」

ほむら「どう背中を預けて共に戦えというの?」




ほむら「――魔法少女の成れの果てを、自分の道具扱いするあなたと」




沙々「…………」



沙々「え?」




沙々「魔法少女の成れの果て?」

沙々「なんの、ことですか?」

253: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 17:00:02.36 ID:BM9C0kDqo


ほむら「……知らなかった、の?」


ほむら「本格的な操作をする際には、相手の感情を少なからず共有しているはず」

ほむら「そう、杏子が言っていたものだから、てっきり知っているのだと思っていたけど」


ほむら「魔女を使役する時には、必要ないのかしら?」

ほむら「それとも魔女と魔法少女って、根本的に別のものになっているの?」


沙々「魔女……、魔女……?」ガタガタ


ほむら「グリーフシードとソウルジェムを、今一度見比べてみれば――」


ほむら「……いえ、その様子を見る限り、知らない振りをしていた」

ほむら「そんなところかしらね」


ほむら「本当は、あなたもわかっていたんでしょう?」

ほむら「――私達の、末路」



沙々「――っ!!!!」

254: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 17:03:20.95 ID:BM9C0kDqo
~☆


魔女『――――――』


そう、わたしにはわかっていた。


魔女『――――――』


私には動物は操れない。


魔女『――――――』


操れるのは人間、魔法少女。


魔女『――――――』


……そして、魔女。


魔女『――――――』


喜び、楽しみ、悲しみ、恐怖、そんな感情の全てを感じなくなって

記憶をなくし、昨日、今日、明日といった区別もやがて消滅してしまう。


255: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 17:05:49.08 ID:BM9C0kDqo


魔女『――――――』


例えば憎しみ、それだけを誰かに倒されるまでの間、ずっと抱き続ける。

人の身であってはとても思えない程に強く、強く。

深く、深く。


魔女『――――――』


知らなければよかった。

知らなければ、耐えられるのかもしれない。


どんなに強い純粋な負の感情を抱くのだとしても

それを前もって意識しなければ。





沙々『――――――』




ただし、それを先に知ってしまったのなら――


256: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 17:10:54.05 ID:BM9C0kDqo
~☆


沙々「……魔女になるなんて」ヘンシン

沙々「イヤだァアーッ!」ダッ


ほむら「!」


ダァン!


ほむら「ちっ!」

ほむら(また、腕があらぬ方向に……!)


ほむら「に、逃がす――」


ブワッ

パーン パン


魔女s「――――」


ほむら「魔女が大量に湧いて……!」


ブォォォォン


さやか「ほ、ほむらっ!?こ、これって!?」

さやか「というか魔法少女の成れの果てって――」


ほむら「ちょっと黙ってて!」

257: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 17:15:51.79 ID:BM9C0kDqo


ほむら(まさか、この量の魔女を使役できるだなんて)


ほむら(……いや、違う)

ほむら(これは使役してるなんてものじゃないわね)


ほむら(時間差で、魔女を無秩序な状態に、支配から順に開放しただけ)

ほむら(それらの結界が、何重にも重なる形でこの場に展開されている)


ほむら(完全に逃げるための時間稼ぎが目的)


ほむら(厄介なことに、一つ一つ破壊して、その度に時間停止を解除し結界の崩壊を待つ)

ほむら(そうしていかなければこの包囲を私は突破することができそうにない)


ほむら(魔力消費を考えると、癪だけど時間停止は温存して、地道にやるしかなさそうね)


ほむら「さやか!私から絶対に離れないで!」


さやか「い、言われなくてもっ!」

258: ◆2DegdJBwqI 2013/11/02(土) 17:21:23.06 ID:BM9C0kDqo
~☆

ダッダッダッ


沙々「はぁ……。はぁ……。はぁ……」


沙々(なんで、わたしは、はしってるんでしょう?)

沙々(こんなとき、なにをしたらいいのか)

沙々(なにもかんがえず、にげだしてきてしまった)


沙々(もういちど、やりなおせないでしょうか?)

沙々(……でも、どこから?)


沙々(………………っ)





沙々(――巴、マミ)


ダッダッダッ

268: ◆2DegdJBwqI 2013/11/03(日) 11:43:33.05 ID:LFHzGWlco
~☆

ー少し前 見滝原のはずれー


杏子「これだけ話せばわかっただろ?優木沙々がどんな奴かって」

杏子「証拠として、タリスマンの魔法構成から丁寧に説明したしな」


マミ「……随分とたくさんのことを、調べたのね」

マミ「この資料だけでも既に、結構説得力あると思うわ」


マミ「しかも見覚えのあるアイテムの構造を、こうも鮮やかに見せられては」

マミ「優木さんが私を籠絡してる。そのことに疑問を挟む余地はもはやない」


杏子「ああ。でも、もう心配はいらないよ」

杏子「アンタに繋げられた接続を切るために、今ほむら達が動いてるから」



マミ「……ふふ、馬鹿みたい」クスクス


杏子「?」

杏子「馬鹿みたいって、何が?」








マミ「――そんな簡単なこと、私が知らなかったと思って?」


杏子「…………え?」

269: ◆2DegdJBwqI 2013/11/03(日) 11:46:30.95 ID:LFHzGWlco


マミ「見くびられたものね」

マミ「佐倉さんに魔法の基礎から教えたのは誰?私でしょう?」


マミ「あなたの幻惑の魔法と、優木さんの魔法は様々な面で違う」

マミ「それでも根底にある魔法構成には、かなり共通した所がある」


マミ「一年……、一年間も……。あったのよ?」

マミ「彼女が私に何をしてるかについて、気づかないはずがないじゃない」


杏子「それじゃ、それじゃどうして、アンタは……?」


マミ「彼女と深く繋がるとね、断片的、いくらか抽象的ではあるけど見えるの」

マミ「彼女の記憶、感情、願い、そういった物が切実とね」

マミ「あの体験の中に嘘は一つもないと、私は確信してるわ」


マミ「彼女がどういう人間かだなんて、言われるまでもなく私は一番よく知ってる」

270: ◆2DegdJBwqI 2013/11/03(日) 11:50:10.58 ID:LFHzGWlco


マミ「凄く、酷い人よ」

マミ「自分のために誰かを犠牲にすることに、罪悪感を欠片も感じていない人」

マミ「でも、感情をなくしたロボットというわけでは決してない」


マミ「とても弱い人なの」


マミ「自分に関係のない人に対してはぞっとするほど無関心なのに」

マミ「自分と、自分に関係した人には自然と心揺さぶられずにいられない」


マミ「弱いから、彼女はそういう閉じ籠もった態度を取らざる負えなかった」

マミ「はたして、それが自分から選んだものなのか、選ぶしかなかったのかはわからないけど」


杏子「アンタは……、アイツがどういう奴かを理解した上で……!」

杏子「それをそのまま受け入れてるのか……!?」

271: ◆2DegdJBwqI 2013/11/03(日) 11:52:05.96 ID:LFHzGWlco


マミ「でも実際、そんなに悪いことかしら?」

マミ「そういう無関心さって、程度の差こそあれ、皆持たずにはいられないものじゃない?」


マミ「彼女は自分の真情にひたすら忠実であるだけだわ」

マミ「私が自分の信条に従って、使い魔を倒したり人を助けたりするように」


マミ「魔女を使役したり、誰かを無理やり操ったり、そんなことはもちろん非難されるべき」

マミ「だけどこの街ではそんなこと、私がさせてない」


マミ「優木さんは私という抑止力の元、魔女だけではなく使い魔も倒し、外面よく生きている」

マミ「彼女が唯一、深く精神に干渉してる対象は、それを受け入れている」


マミ「ここに非難されるいわれはないと思うんだけど」

マミ「佐倉さんは、どう思う?」

273: ◆2DegdJBwqI 2013/11/03(日) 12:16:07.56 ID:LFHzGWlco


杏子「…………巴マミ」


杏子「アンタきっと、優木沙々に知らない間に洗脳されてるんだよ」


マミ「どういう意味?」


杏子「アタシの知ってる巴マミは、そんなこと、言う奴じゃなかった」


杏子「アタシの知ってる巴マミはもっと信念に愚直で」

杏子「自分の理念と合わない奴を隣にはべらせておくなんて……」


マミ「あなただって、あの頃とはかなり変わってしまったじゃない」

マミ「優木さんは、自分の利益と衝突しない限り私の方針に従ってくれる」


マミ「この一年、あなたと袂を分かってから、私の孤独を埋めてくれたのは彼女なの」

マミ「彼女の隣には私の居場所がある」

マミ「それ以上は、もう望まない」


マミ「あなたの喪失が、私に教えてくれたことなのよ?」


杏子「――っ!」

274: ◆2DegdJBwqI 2013/11/03(日) 12:19:12.07 ID:LFHzGWlco


マミ「佐倉さんが、何故この街に再び顔を見せたかなんて知らない」

マミ「それに必要以上の文句をつけるつもりもない」

マミ「ただし、優木さんに危害を加えることだけは絶対に許さない」


マミ「何があっても守るって私、決めてるの」

マミ「あの子と、この街の両方を」


杏子「…………」


マミ「だから、この話はこれで――」


マミ「――――」


マミ「――」


マミ「」


ドサッ


杏子「…………!」


杏子「……マミ?」

275: ◆2DegdJBwqI 2013/11/03(日) 12:22:00.00 ID:LFHzGWlco


杏子「おいっ!?」

杏子「突然倒れるなんて何が――!」ガバッ


シュルルルルルル


杏子「っ!?」

杏子(リボン……!?)


バタンッ


杏子(いってえっ!受け身とれるかこんな状態でっ!)


杏子(……くそっ!リボンに全身絡まれて、身動きができねぇ)ジタバタ

杏子(いったいどうなってんのさ……!?)ジタバタ


シュルルルルルル


杏子(落ち着け……、冷静になれ……)

杏子(包んでるリボンを、槍を出して切り開けば……)


マミ『――――――』


杏子(…………?)


マミ『――――――』


杏子(……!)

276: ◆2DegdJBwqI 2013/11/03(日) 12:24:31.06 ID:LFHzGWlco


杏子(ああっ、くそっ、優木沙々の仕業かよ)

杏子(直には通せないからって、マミを仲立ちにして魔法を通してきやがった)


杏子(アタシの一番弱い所を、薄皮を抉って……)

杏子(しかもマミのリボンの中が、一種の増幅機関になってやがる)


マミ『――――――』


杏子(眠い……)

杏子(こちらを傷つける意図はないみたいだが……)

杏子(ここで、マミに追い打ちされたら死ぬな……)


杏子(ああ、ダメだ……、目を開けてらんない……)


杏子「zzzzz」クー クー


スッ


マミ「――――」


マミ「――――」


ダッダッダッ

277: ◆2DegdJBwqI 2013/11/03(日) 12:26:50.76 ID:LFHzGWlco
~☆

ーまどか宅ー


まどか「優木さん、それにマミさん」

まどか「こんな時間に用事って、どうしたの?」

まどか「しかも窓から、私を呼ぶなんて……」


マミ「――――」


まどか「マ、マミさん?」


沙々「…………」


沙々「鹿目さん確か、私には何もできない」

沙々「そんな感じのことを前に言ってましたね」


まどか「……えっ?」


沙々「何もできないのが、嫌なんでしょう?」

沙々「それなら存分に、わたしの役に立って貰おうじゃないですかっ……!」


マミ「――――」


シュルルルルルル


まどか「――っ!?」

278: ◆2DegdJBwqI 2013/11/03(日) 12:37:41.15 ID:LFHzGWlco
~☆


さやか「どう、杏子?目は覚めてきた?」


杏子「……さっきよりはだいぶましになったね」

杏子「まだ本調子どころか半分夢心地だけど」


ほむら「さぁ、それじゃ手早く、今の状況をまとめましょう」

ほむら「私達がここへやってきて見たのは」

ほむら「地面に倒れて爆睡しているあなただけ」


ほむら「巴マミは、どこへ行ったのかしら?」


杏子「ふんっ、逃げられたよ」

杏子「遠くからではあるが優木沙々からの干渉を感じた」

杏子「あいつらの間において、この程度の距離は意味をなさないらしい」


杏子「で、そっちの様子からして、優木沙々にも逃げられたってとこか」

279: ◆2DegdJBwqI 2013/11/03(日) 12:43:37.37 ID:LFHzGWlco


ほむら「ええ、その通りよ」

ほむら「まんまと逃げられたわ」


杏子「……はは、最悪の状況じゃないか」

杏子「まず間違いなく、あいつらはとっくに合流し終えてる」


杏子「それに優木沙々は今現在、自分の保身に必死だろう」

杏子「何をするか全く予想がつかない」


さやか「一応マミさんの家に行ってみたけど、どっちもいなかったよ」


杏子「まあ、そらそうだろうね」


ほむら「外でねぐらを探しているようなことがあれば、見つけられるかもしれない」

ほむら「手分けして、探してみる?」


杏子「なんかあんま気乗りしないね、それ」


さやか「じゃあ、明日にする?」

さやか「それはそれで不安な気がするけど」


杏子「どうすっかねー」


杏子「――まぁなんにせよ、このままで済ますつもりは更々ないけどな」

286: ◆2DegdJBwqI 2013/11/04(月) 14:44:28.18 ID:CgZlKPPvo
~☆

ー仁美邸 仁美の寝室ー


まどか「仁美ちゃんは、大丈夫なんだよね?」


沙々「ええ、ちゃんと事態が収束すれば無事に解放します」

沙々「彼女に後々悪影響が出るような魔法は、何一つかけていません」

沙々「なんなら、神に誓ってもいいですよ?」クスッ


まどか 沙々「…………」


仁美 マミ「――――」


まどか「ねぇ、優木さん」


沙々「……なんですか?」


まどか「どうして、こんなことを、したんですか?」


沙々「どうしてって、先に喧嘩を吹っかけてきたのはあっちですよ」

沙々「ちょっと今精神的に不安定なせいで、思考がまとまってませんけど」


沙々「佐倉杏子への人質としてマミの確保」

沙々「そして、暁美ほむらへの人質としてあなたの確保」


沙々「生き延びるために最も可能性の高そうな選択をしてるだけです」

287: ◆2DegdJBwqI 2013/11/04(月) 14:46:12.20 ID:CgZlKPPvo


まどか「ほむらちゃんへの、人質……?」


沙々「ええ、気づいてなかったんですか?」

沙々「彼女、あなたのことを確実に特別視してますよ」

沙々「まぁ、あなたのその膨大な素質のためだと、私は睨んでますけどね」


まどか「…………」


沙々「でも、冷静に考えると、それだと少しわたしは困っちゃうんですが」


まどか「?」


沙々「だって、魔法少女になってほしくない、ただそれだけで彼女が行動している場合」

沙々「あなたの命、あなたの安全は交渉材料には使えない」


沙々「むしろただ魔法少女になって欲しくないだけなら、あなたを見張るよりもっと簡単な方法がある」

沙々「殺してしまえばいい」


まどか「っ!」

288: ◆2DegdJBwqI 2013/11/04(月) 14:48:54.11 ID:CgZlKPPvo


沙々「にもかかわらず彼女はそれをしない」

沙々「純粋に、なるべく人を殺したくない故か、それとも他に事情があるのか」

沙々「私としては後者に賭けるしかない訳です」


沙々「まぁ、わたしを殺そうとすることには躊躇いなんてなかったようですし」

沙々「それほど分の悪い賭けだとは思いません」


まどか「あ、あの、いったい何が起きてるんですか?」

まどか「私の知らないところで、いったい何が……」


沙々「…………」


沙々「どうせですから鹿目さん、一つ忠告しておきます」

沙々「絶対に魔法少女には、なってはいけませんよ」


沙々「魔法少女の結末は、とてもおぞましいモノなんですから」


まどか「おぞましい……、モノ?」

289: ◆2DegdJBwqI 2013/11/04(月) 14:58:52.77 ID:CgZlKPPvo


沙々「ええ、そうです」コクリ


沙々「魔法少女はみないずれ……」

沙々「わたし達が見知ったあの化け物」


沙々「魔女になる、そう宿命づけられた存在なんですよ」


まどか「…………ぇ?」キョトン


沙々「……くっくっく、お似合いでしょう?」

沙々「条理を覆す願いをした結末が、それですよ」

沙々「些末な願いか重大な願いかに関わりなく、全て結末は平等に」


沙々「前に話しましたよね?魔女についてわたしの知ってること」

沙々「あんなモノになるよう定められてるんですよ、予め魔法少女は」

沙々「巴マミも、暁美ほむらも、佐倉杏子も、そしてこのわたしも」


沙々「幸運ですねぇ、美樹さやかとあなたは。まだ、やり直せるんですから」


沙々「…………」


まどか「そんな……、そんなのって……」ガタガタ


沙々「嘘だと思いますか……?」

沙々「そう思ってもいいですよ、別に」

290: ◆2DegdJBwqI 2013/11/04(月) 15:08:27.62 ID:CgZlKPPvo


沙々「けれどわたしは、それを嘘だと否定するには」

沙々「あまりに魔女について知り過ぎています」


まどか 沙々「…………」


沙々「先ほどわたしはこのことを理解しました」

沙々「当然頭が真っ白になりましたよ、ええ」

沙々「……どうしようもないパニックに陥ってる時」


沙々「――何故か、巴マミの顔が浮かびました」


沙々「そのあと何もかもから逃げ出して、今、ここであなたと会話している」

沙々「ソウルジェムを壊してしまおうかとも、途中考えたりもしました」

沙々「けれど、ちらつく巴マミのイメージがわたしにそれをさせなかった」


沙々「そして、生き残るにはとりあえずまず、あなたを確保しなくてはいけない」

沙々「そう思ってふらふら、あなたの家を目指していたら」

沙々「急にこの状態の巴マミが私の前に姿を見せたんです」


マミ「――――」

291: ◆2DegdJBwqI 2013/11/04(月) 15:12:38.71 ID:CgZlKPPvo


沙々「それだけで、少し、冷静な状態に回復しました」

沙々「ああ、これでひとまず安心なんだって……」


沙々「…………」


まどか「優木さん」

まどか「あなたはそこまでマミさんを大切に思ってるのに」

まどか「どうしてマミさんの心を、元に戻してあげないの……?」


マミ「――――」


沙々「大切……?」

沙々「うん、大切といえば確かに大切ですね」


沙々「わたしにとって巴マミは、 手持ちの中で唯一信頼できる、まさに切り札ですから」

沙々「それを手元に置いて安心することに、何も不思議はない」

292: ◆2DegdJBwqI 2013/11/04(月) 15:36:10.19 ID:CgZlKPPvo


まどか「…………」

まどか「ううん、嘘だよ、そんなの」

まどか「じゃあなんで、あなたは仁美ちゃんの家を逃避先に選んだの?」


まどか「マミさんを連れて、もっとどこか遠くに行けばよかったんじゃないの?」

まどか「それをしなかったのは、ここ見滝原でのマミさんとの生活に」

まどか「優木さんの中で愛着があるから、なんじゃないかな?」


沙々「…………くふふふふ」

沙々「何を言い出すかと思えばバカらしい」


沙々「そんないきなり遠くへ逃げなくても、ここが即座にバレるとは思えません」

沙々「なんなら志筑仁美の記憶を一時的に消して、普段通り登校させておけばいいんです」


沙々「それに今日はもう疲れました。遠くに行く元気なんてこれっぽっちも残ってない」


仁美「――――」


沙々「他の家人の扱いについては、多少面倒ですけどね」

沙々「後はそういう諸々にかかる魔力のやりくりとか」

沙々「だから長期的に、ここで隠れ続けるのは難しいでしょうね」

294: ◆2DegdJBwqI 2013/11/04(月) 15:44:38.24 ID:CgZlKPPvo


沙々「しかしそれとは別に、わたしはこの街から引く訳にはいかないんです」

沙々「いわゆる家庭の事情って奴ですよ」


沙々「たとえどんな種類の問題が起きたとして」

沙々「わたしの居場所はもうこの街にしかない」

沙々「次の失敗は、わたしにとってどれ程高く付くことか」


沙々 まどか「…………」


沙々「……いいえ、最後のは下手な誤魔化しですね」


沙々「魔女になることより、悪い事象がこの世に存在するはずはない」

沙々「その次点で死んでしまうこと」


沙々「マミのことがどうでもいいのなら彼女を置いて」

沙々「何もかも捨てて、どこか遠くでやり直すという選択肢もある」


沙々「しかし、その選択肢を選ぼうとは、わたしにはどうしても思えない」

沙々「加えて見滝原を出ようとも思わない」


沙々「わたしはマミを大切に思ってる」

沙々「もしかしたら、全部あなたの言う通りなのかもしれませんね」

295: ◆2DegdJBwqI 2013/11/04(月) 15:50:06.68 ID:CgZlKPPvo


まどか「だったらどうして、マミさんを口の利けない、あんな状態にしてるの?」

まどか「必要としているなら、直接そう言っちゃえばいいんだよ」


マミ「――――」


沙々「……そんなこと、できるわけがないでしょう」

沙々「今更、何を言えというんですか」

沙々「まさかわたしはあなたを洗脳しています、ごめんなさいとでも?」


沙々「バカバカしい」

沙々「それを言うことで、何になるというんですか?」

沙々「わたしにとって損しかないじゃないですか」


沙々「第一わたしはそのことに毛ほどの罪悪感を感じていない」

沙々「そんな嘘の気持ちで謝るだなんて、それこそ申し訳ない話でしょう?」

296: ◆2DegdJBwqI 2013/11/04(月) 15:52:47.52 ID:CgZlKPPvo


まどか「…………だとしても、ダメだよ」


まどか「それじゃあ優木さんはこのままマミさんを」

まどか「一生自分の思い通りに動く人形にするつもりなの?」

まどか「いくらマミさんが大切だとしても間違ってるよ、そんなの」


まどか「……絶対に、間違ってるよ」ジッ


沙々「…………」

沙々(……鹿目まどか)

沙々(とても意志の強い目をしています)

沙々(自分じゃ何もできない癖に、何がここまで彼女を支えているんでしょうか?)


沙々(何か一つ、わたしにもこれだけ力強い何かがあればあるいは――)


沙々(…………!)

297: ◆2DegdJBwqI 2013/11/04(月) 15:54:32.63 ID:CgZlKPPvo


沙々(……ああ、なるほど)

沙々(わたしは怖かったんですね)

沙々(マミを失ってしまえばわたしが誇れるものは)

沙々(間接的であれ一つもなくなってしまう)


沙々(逆に言えば魔女の真実を知った後に)

沙々(こうして正気を多少なりとも取り戻せたのは――)


沙々「…………ふふっ」クスッ


まどか「……?」


マミ「――――」


沙々「……確かにこんな巴マミといたって、つまらないですね」


マミ「――――」

マミ「―――」

マミ「――」

マミ「―」

マミ「」

301: ◆2DegdJBwqI 2013/11/05(火) 20:07:56.51 ID:j3dJmAtVo
~☆


マミ「……」パチッ


マミ「ここはどこかしら……?」


沙々「おや、ようやく目が覚めましたか」

沙々「どこって安全な所、ですよ」


マミ 沙々「…………」


マミ「私の記憶の繋がりが不自然だわ」

マミ「私がここにいるのは、優木さんの仕業ね?」


沙々「否定はしません」


沙々「わたしの無意識、もしくはなんらかの意識的な働きが」

沙々「あなたを無理やりわたしの元へ引き寄せる原因となったのは」

沙々「ほぼ疑いようがないことですから」


沙々「けれど、それらについて謝りもしません」

沙々「悪いだなんて、思ってませんし」

302: ◆2DegdJBwqI 2013/11/05(火) 20:13:28.34 ID:j3dJmAtVo


沙々「むしろわたしに、ここまで付け入られる隙を見せたあなたが悪い」

沙々「たとえいくらかわたしに非があるとしても」


沙々「どの道もはやあなたは私のモノです」

沙々「そのつま先から髪の毛の一本一本、一挙手一投足まで」


マミ「……それなら、今更私に何が言いたいのかしら?」

マミ「黙って、自分の思い通りに動かせばいいじゃない」


沙々「……それでもいいと、思ってたはずなんですけどね」

沙々「愛着、親近感?」

沙々「ううん?言葉選びに、少し手間取りますね」


マミ「えっと、つまり私と、もっと仲良く一緒にいたいってこと……?」


沙々「あー、多分、大体そんな感じでいいと思いますよ」

沙々「そんなことを思うようになった自分に虫唾が走りますが」


マミ「酷い言われようね」

303: ◆2DegdJBwqI 2013/11/05(火) 20:15:49.32 ID:j3dJmAtVo


沙々「でも、これってよくよく考えればそんな不思議なことでもないですよね」

沙々「人間は例えば犬や猫を、家族みたいに思って可愛がったりします」

沙々「同じ道具を使い続ければ、その道具を新しくすることに抵抗を覚えたりします」


沙々「だったら一年も誰かと親密な関係で屋根を共にすれば」

沙々「それ相応の愛着が芽生えるのもまた、至極真っ当な成り行きでしょう?」


マミ「……ほんっとうに、酷い言われよう」


マミ「それで結局、優木さんは私を完全に自分の制御下に置いた上で」

マミ「私には自分からそれを受け入れて欲しいって言いたいのかしら?」


マミ「言っちゃ悪いけど、あなたの言ってることって凄く無茶苦茶だと思うの」


沙々「う、うっさいですねぇ」

沙々「こっちだって、他に何か上手い手が思いつくなら喜んでそうしますよ」

沙々「思いつかないから仕方なくこういう形で、命令じゃなく、お願いをしてるんです」


マミ「なんでお願いしてる側が、微妙に恩着せがましい感じなのよ」

304: ◆2DegdJBwqI 2013/11/05(火) 20:19:43.86 ID:j3dJmAtVo


マミ「……でも、あなたにとって好意的な見方をすれば」

マミ「お願いって行為の内に、ぎりぎり誠意のようなものを感じなくはないかもね」

マミ「曲がりなりにも、私にその意思があるかを面と向かって尋ねてるんだもの」


マミ「実は私の思考をこっそり操って、こういうやり取りをやらせてる」

マミ「なんてことはないでしょう?もしそうならとんだ茶番だけど」


沙々「ええ。証明する手段はありませんけど、違います」

沙々「あなたの人格に直接手を加えるような魔法は、リスクの面からなるべく避けるようにしてるので」


沙々「人の心は、何もかも思い通りにするには脆すぎて、不安定要素が多すぎて」

沙々「弄ってそれで壊してしまっては、元も子もないですから」

沙々「小手先の誤魔化しでは魔力消費の観点からみて、長期的に考えれば現実的ではないですし」


マミ「なら私は、それをこう捉えることにするわ」

マミ「あなたは私に対して、他の誰でもない私としての価値を認めてくれている」

マミ「私を一人の人間として、大切にしてくれてるってね」


沙々「…………これまたわたしにとって、相当に都合のいい解釈ですね」

305: ◆2DegdJBwqI 2013/11/05(火) 20:22:08.31 ID:j3dJmAtVo


マミ「あなたにとってだけじゃない」

マミ「私にとっても、そうよ」


マミ「いったいどれだけの人が、包み隠さず本当の自分を」

マミ「誰かにさらけ出しているというの?」


マミ「あるいはどれだけの人が、たとえたった一人のことでさえ」

マミ「他人を完全に理解できているというの?」


マミ「いいじゃない、都合のいい所しか見なくたって」


マミ「私は、あなたを失わないで済む」

マミ「それに、自分の好きに正義の味方をやっていられる」


マミ「優木さんは私を自分の利益に生かせる」

マミ「いざという時の操縦手段もある」


マミ「今までだって、それでやってこれた」

マミ「両方にとって得しかないわ。そうでしょう?」

306: ◆2DegdJBwqI 2013/11/05(火) 20:24:35.00 ID:j3dJmAtVo


沙々「…………」


マミ「けれど、その代わりに私と約束して」




マミ「――死ぬまでずっと、絶対に私から離れていこうとしないでって」




マミ「約束を証明する手段なんてないけれど、そう明言してくれるだけでいい」

マミ「そしたら私はあなたの言葉を信じるから」


沙々「……いいでしょう」

沙々「私の意思の及ぶ限りにおいては、絶対にそうすると約束します」


沙々「じゃあ、マミさんも私に一つ約束してください」

沙々「わたしが今際の際、自分で始末を付けるのをしくじるようなら」


沙々「なるべく早く、わたしをその手で殺してくれるって」


沙々「あなたなら、わたしをきっちり殺してくれる。そう、信じます」

307: ◆2DegdJBwqI 2013/11/05(火) 20:28:38.70 ID:j3dJmAtVo


マミ「…………ねえ、優木さん」


マミ「どうしてそんなことが必要なのか、聞かせてくれるかしら?」



沙々「…………」



沙々「マミさん、わたし達の末路について、知ってますか?」


マミ「私達の末路……?」


沙々「ああ、そうですか。知らないんですね」







沙々「――いずれわたし達は、魔女になってしまうんです」


マミ「え?」

310: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 17:24:02.91 ID:fxIFEwufo


マミ 沙々「…………」


マミ「どうしてそんなことが、わかるの?」


沙々「わたしにそれを語ったのは暁美ほむらでした」

沙々「しかし、わたしがそれを確信する根拠は、わたし自身の魔法とそれに基づく体験です」


沙々「おそらく既に佐倉杏子から聞いたんじゃないかと思いますが」

沙々「わたしは人間、それと魔女を操ることができます」


沙々「そして、誰かの行動を全て自分の思う儘に操縦するには」

沙々「相手の深層をいくらか把握してる必要があるんです」


沙々「マミさんは、誰かのことを本気で憎んだり恨んだりしたことはありますか?」


マミ「……う、うーん?ちょっと、思いつかないわね」


沙々「たとえあったとしても、それは魔女の抱くそれには到底及ばないでしょう」


沙々「他のことは何もかも全て忘れてしまう、感じなくなってしまう」

沙々「それが魔女の憎しみや、恨みです」


沙々「それほどに強く純粋な敵意は、まともな人間ではとても抱けるものじゃありませんから」

311: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 17:31:01.81 ID:fxIFEwufo


沙々「はっきり言って、わたしは多くの人のことが嫌いです」

沙々「特に幸せそうで得意げな面をした奴が妬ましい」


沙々「……でも、それでも、あんなモノとは絶対に違う」

沙々「わたしだって、敵意や嫉妬だけで生きているわけじゃない」

沙々「喜んだり悲しんだり、幸せになろうとしたり、恥ずかしく思ったり、色々とにかく感じます」


沙々「しかし、魔女には執着めいた感情しか残っていない」

沙々「きっとそれは、事前に意識さえしなければ、それほど恐ろしいことではないのでしょう」

沙々「辛いということすら究極的には感じないのですから」


沙々「…………」


沙々「わたしよりも魔女が優れていると、わたしが感じる点はそこです」

沙々「それしか感じないこと。そしてそれの人では及ばぬ激烈さ」


沙々「けれどそれは同時に、わたしが魔女をおぞましく思う理由でもあります」

沙々「結局のところ、どこまでも中途半端なんですよ、わたしって」

312: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 17:35:39.43 ID:fxIFEwufo


沙々「誰かの不幸を嘲笑いはしますが、本気で誰かを憎むほど他人に興味を持てない」

沙々「誰かと心を通わせることに抵抗はあるけど、誰かにすがらなければ生きていけない」

沙々「弱い自分が嫌いなはずなのに、今更何を選り好みしてるんでしょうね?」



マミ「…………」



沙々「えっと、マミさん、どうかしましたか……?」




マミ「……魔女?」


マミ「ま、魔法少女が魔女になる……?」



マミ「ふふ、ハハハ……」ブルッ

マミ「あぁ……。ぁ。ぁぁ……」ガタガタ




沙々「!」


沙々(ああ、しくじりました……!)

沙々(魔法少女の末路を知って、予想以上にショックを受けてます)

沙々(ま、まずい、このままじゃ――)

313: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 17:39:11.48 ID:fxIFEwufo


沙々「マミさん!わたしの目をじっと見て!」ガシッ


マミ「っ!」ビクッ


沙々『魔女という言葉に、心動かされるのをやめろっ!』


マミ「――――」ズキッ


マミ 沙々「…………」


マミ「…………ふぅ」


マミ「優木さん、ありがと」

マミ「おかげでちょっと怖いくらいに、精神的に落ち着いたわ」

マミ「ただ引き換えとして、頭痛と吐き気が酷いけど」


沙々「す、すいません。つい、焦り過ぎました」ペコリ


沙々「やっぱり精神を直接書き換えるようなのは危険過ぎますね」

沙々「次からは、こういうことをやるにしても」

沙々「もっと浅い、簡単にショックで解けるような、一時的なので止めておきます」

314: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 17:42:40.95 ID:fxIFEwufo


マミ「ええ、そうね。そうしてくれると凄く助かる。凄く助かるわ」


マミ「…………」


マミ「ねえ、優木さん」


沙々「なんですか?」


マミ「あなたは魔女になるのを嫌がることに、長々と理由をつけてたけど」

マミ「もっと単純に言っちゃっていいんじゃないかしら?」


沙々「と、言いますと?」


マミ「だって化け物になるのは、誰だって怖いわよ」

マミ「私が今まで殺していたのは同じ魔法少女の成れの果てだった」

マミ「私もまた、いつかはそれの仲間入りをする」

マミ「化け物になりたくないって思うのは、人間として当然の反応でしょ?」


マミ「……ってさっきまでの私ならそう思ったはず」

マミ「今じゃ魔女についてどこまでも冷静で」

マミ「自分の本当の心情がまるで掴めなくて気持ち悪い」


マミ「優木さん、これって、どうやったら治るの……?」

315: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 17:47:38.38 ID:fxIFEwufo



沙々「いや、その、ははは、どうでしょうねー……?」


マミ 沙々「…………」


沙々(い、勢いで書き換えちゃいましたからねー、ついうっかり)

沙々(都合悪いからさっさと話題変えましょう)


沙々(そして後からこっそり、治せるだけ治しましょう)


沙々「にしても魔女について動揺したのは仕方ないとして、マミさん落ち着いてますねぇ」

沙々「普通は自分の心を掌握した相手の前にこうして立ったら」

沙々「もっと激昂や動揺したりすると思うんですが」


マミ「……いきなり知ったなら、佐倉さんにさっき言われるまで何も気づいてなかったら」

マミ「あるいはそうだったかもしれないわね」


マミ「だけど正直、優木さんが私の心に干渉してるって、私、前から知ってたもの」



沙々「えっ?」


沙々「嘘ですよね?それはさすがに」

316: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 17:52:56.09 ID:fxIFEwufo


マミ「嘘なんかじゃないわよ」

マミ「……最も表現として正確とは言い難いかもしれない」


マミ「より詳しく言えば、私はあなたが私の心を探ったり何かしてるのは知ってたけど」

マミ「それがどの程度のものかまでは判別がついてなかった」


マミ「あなたがどんな人間かってことくらいなら、とっくにわかってたわ」

マミ「おそらくあなたが私を深いレベルで自分の思い通りにしようとしたから」

マミ「私もまた、あなたの深淵を少し覗くことになったんじゃないかしら?」


マミ「もっと大胆に予想すれば、優木さんと魔女の場合にも同じことが起こってる」

マミ「それは本来双方向性のものだけど、魔女の場合は、魔女側がそれを気にかけないだけ」

マミ「これが多分一番合理的な事態の解釈だと思う」


沙々「……じゃ、じゃあ、あなたから見るわたしはどんな奴だって言うんですか?」


マミ「ふふふ。とても弱くて寂しい子なのに、僻みっぽくて性格悪い」

マミ「一人でいるのが怖いのに、私以外に頼れる存在がない」

マミ「それが私にとっての優木さんだけど?」

317: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 17:56:27.15 ID:fxIFEwufo


沙々「ふ、ふーん」


沙々(……悔しいけど大体当たってると認めざるおえません)

沙々(なんかこう、自分が隠してたと思ってたことが)

沙々(ずっと前から実は相手に知られてたって恥ずかしいですね)


マミ「でもだからこそ、佐倉さんと久しぶりに再会したあの時から」

マミ「あなたが私に何をしてるのかが不安で仕方なかった」


マミ「あなたは酷い人だから」

マミ「私があなたにとって特別に必要な存在でなかったのなら」

マミ「心を自在に弄ることに何の抵抗も持たないでしょうし」

マミ「用が済んだり使い潰したら簡単に捨てていくはず」


マミ「それが、すごく怖かった」


マミ「私には何かを弄られていても、それを自覚する術はないわけでしょう?」

318: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 18:02:32.59 ID:fxIFEwufo


沙々「今は、怖くないんですか……?」


マミ「ええ。優木さんに襲い掛かかった佐倉さんの形相を見た時には」

マミ「私が弄り回されてると確信してたから、あんなに動揺してたのかなって疑ったけど」


マミ「実際に今日話を訊いてみたら、そこまでは彼女もわかるわけじゃないみたいだったし」


マミ「それとさっきも言ったけど、優木さん、こうして私に意見を尋ねてくれてるじゃない?」

マミ「一緒にいてくれるって言ってくれた」


マミ「私のことがそこまで大切じゃないなら、あなたのことだから」

マミ「とっくに私を捨てるか始末してるはずだと思うの」


マミ「もしただ道具として必要なだけだったら、意見を聞かずに強制してると思う」


マミ「私の意見を聞いてくれた」

マミ「その事実だけで、今は十分だわ」


沙々「今は……、ですか」


マミ「ええ、今のところは、ね」

319: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 18:27:27.04 ID:fxIFEwufo




沙々「……だけど、今から先って本当に必要なんでしょうか?」


マミ「へ?」


沙々「いや、もしかして、もしかしての話ですよ?」

沙々「――ソウルジェムを破壊すれば、こんなふざけたことから、解放されたり……?」


マミ「……なるほど、そうかもしれないわね」

マミ「いつからそのことについて考えてたの?」


沙々「魔法少女の末路が魔女なんだと」

沙々「暁美ほむらのおかげできちんと理解してからずっと、ですね」


マミ「…………」


マミ「あなたの言うことには確かに一理ある」

マミ「それで何もかも完全解決してしまうなら」

マミ「魔女になるって仕組みがあること自体不気味だけど」


マミ「ソウルジェムについて、壊したらどうなるかとかの情報はあるの?」


沙々「いや……、特にないですけど……」

320: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 18:36:49.93 ID:fxIFEwufo


マミ「でも、それで何が起こるにせよ」

マミ「つまりそれって、魔法少女じゃなくなるはずでしょ?」


マミ「私は絶対に、嫌よ」


沙々「どうしてですか?」


マミ「逆に一つ聞かせてくれない?」

マミ「優木さんは、なんでそれを最初この事実を聞かされた時にやらなかったの?」


沙々「…………」


沙々「あなたとの繋がりが、なくなると思ったんですよ」

沙々「あなたを操縦する術、あなたと一緒にいる意味、」

沙々「どちらも魔法少女の中にしか見当たらなかった」


沙々「あなたと一緒にいたいと思うならば」

沙々「魔法少女であることを否定する選択肢は、どんな形であれ選べなかった」


沙々「最初躊躇してしまったのが、わたしの運命を決定づけてしまった」


沙々「わたしがあなたへ縋るには、魔法少女であり続ける道を選ぶしかなかった」

321: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 18:40:19.95 ID:fxIFEwufo


マミ「そう……。なら私も、優木さんと大体似たようなものよ」

マミ「私が魔法少女じゃなくなったからと言って」


マミ「魔女や使い魔と、それらがもたらす災いがなくなるわけじゃない」


マミ「私が生き延びたのは契約のおかげだわ」

マミ「自分にまだ誰かのため力を奮う機会があるのに」

マミ「それから目を背けて、自分のための選択を選ぶなんて、納得できない」


マミ「私が生きる意味を見いだせるのは、縋ることができるのは正しくあること、そこにしかない」


マミ「……まあ、魔女についてあなたのせいで何も感じないから」

マミ「こんな威勢のいいことを現在言えるのかもしれないけど」

322: ◆2DegdJBwqI 2013/11/10(日) 18:43:59.99 ID:fxIFEwufo


沙々「はは、ハハハ……」

沙々(ま、また話がわたしの都合が悪い方向に……)


マミ「結局私達どちらともにも今の所」

マミ「魔法少女をやめて生きていける居場所なんてないのよ」


沙々「……それじゃあ、どうするんですか?」


沙々「暁美ほむら、佐倉杏子、あの二人と敵対するのは得策とは言えない」

沙々「だけど、見滝原からどこかへ出るのは避けたい」


沙々「やはりましなのは見滝原から出る方――?」


マミ「ちょっと早計過ぎない?」

マミ「どっちも嫌なら、もう一つ選択肢があると思うけど?」


沙々「もう一つ?何を言ってるんですか?」


マミ「佐倉さんのあの話ぶりからして、私のことを色々思ってのことだったみたいだし」



マミ「どうせなら両方、追い求めちゃうのも、ありでしょ?」

324: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 14:38:36.53 ID:tbccy/epo
~☆

ー翌日 夜ー


ほむら「優木沙々、一刻も早くまどかを開放しなさい」


沙々「それはあなたとの話し合いが済んでからです」

沙々「大丈夫、鹿目さんはあなたの知ってる彼女そのまま、健康そのものですよ」


沙々「ご覧の通り、ね」


まどか「……」


沙々「ほら、なんか喋ったらどうですか?」


まどか「ほ、ほむらちゃん!私は大丈夫だから!」

まどか「優木さんと争うのをやめてっ!お願いっ!」


沙々「ち、近くで大きな声いきなり出さないで下さいよぉー」キーン


ほむら 杏子 さやか「…………」

325: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 14:41:55.83 ID:tbccy/epo


ほむら「杏子、まどかが優木沙々に操られてるかどうか、わかる?」ボソボソ


杏子「アイツなら今、間違いなく操られてないよ」ボソボソ

杏子「自分の意志だけで思考、行動してる。自信を持ってそう保証してやる」ボソボソ


ほむら「……そう、それは良かったわ」ホッ


さやか「ほむら、今度は無駄に沙々さんを刺激したりしないようにね」ボソボソ


ほむら「もちろん。わかってる」ボソボソ


ほむら「…………」


ほむら「優木沙々、じゃあその話し合いとやらをすぐに始めて、手早く終わらせましょう」

ほむら「あなたの要求は?」


沙々「なあに、そんな難しいものじゃありませんよ」

沙々「これから仲良くしていきましょう、ただそれだけのことです」

沙々「争って双方を危険に曝すよりは、互いに共存の道を模索するのがより健全でしょう?」

326: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 14:46:40.24 ID:tbccy/epo


沙々「マミさんに恩を売りたい、あなたはあの時たしかそう言ってましたね?」

沙々「現時点、マミさんは私側についてくれています」


沙々「恩を売りたいなら、今どういう選択をすべきかは一目瞭然」

沙々「あなたがわたしに行った無礼の数々、特別に目を瞑ってあげます」


沙々「もし感情論でこんな有益な取引をご破算にしたら、はっきり言ってバカ、ですよ?」


ほむら 沙々「…………」


マミ「ねえ、優木さん。なんで相手をちょっと挑発してるのよ」ボソボソ


沙々「奴には一度、こちらから提示した和解を拒絶されましたからね」ボソボソ

沙々「はっきり言って腹に据えかねてるんです……」ボソボソ


マミ「あなたが感情論で交渉をややこしくしてどうするのっ!」ボソボソ


沙々「でも、きっと大丈夫だと思いますよ」ボソボソ

沙々「ここで全てをぶち壊した場合の損得勘定くらいは、彼女もするでしょうから」ボソボソ

327: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 14:48:48.61 ID:tbccy/epo


ほむら「…………」


ほむら「……そうね、あなたの言うとおりだわ」


沙々「ほら、やっぱり」ボソッ


ほむら「巴マミは事実を知ってもなお、あなたの側につくみたいだし」

ほむら「まどかは争いを望まない。さやかもあなたへの糾弾には消極的」

ほむら「今ここで私が強硬な手段を取っても、私に益は少ない」


沙々「それなら、これまでのあれこれは互いに水に流す。それで構いませんね?」


ほむら「ええ」


沙々「……とはいえ、こっちはこれまで散々迷惑かけられてきましたからねぇ」

沙々「完全にこれまで通りってのも、正直なところ納得しがたいです」


マミ「っ!?」

マミ(な、何言ってるの優木さんは……!)

328: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 14:52:31.92 ID:tbccy/epo


ほむら「……それはつまり、どういうことかしら?」


沙々「これまでのことは不問にする代わりに」

沙々「そちらの目的をちゃんと明かしてくださいってことです」

沙々「グリーフシードがたくさん欲しい、それがあなたの目的では当然ないんでしょう?」


沙々「今後このような事態を引き起こさないためにも」

沙々「これから私達は、今までよりもっと強い絆で結ばれるべき」

沙々「そのためにはあなた達、暁美さんと佐倉さんの目的」

沙々「それを明かしてもらわないと、話の筋としておかしいと思いませんか?」


沙々 ほむら「…………」


ほむら「……わかったわ。丁度いい機会だし、正直に話しましょう」

ほむら「どういうカラクリかはともかくとして」

ほむら「巴マミは、魔女の真実を乗り切ったみたいだし」

ほむら「あえて黙っている理由は今となってはない」


ほむら「私達、そして私の目的は」



ほむら「――やがてこの街にやってくる、ワルプルギスの夜の討伐よ」

329: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 14:55:09.35 ID:tbccy/epo


まどか「…………ワルプルギスの、夜?」


沙々(ワルプルギスの夜……、暁美ほむら……)

沙々(それじゃあ鹿目まどかの心を覗いたときに見た、アレはもしや本当に……?)


マミ「どうして、そんなことがわかるの?」


ほむら「信じられない?」

ほむら「でも、それは真実なの」

ほむら「魔法少女が魔女になることが、あなた達にとって隠された真実であったように」


ほむら「私はあの伝説の魔女を倒すため、気が遠くなるほど長いあいだ準備を重ねてきた」

ほむら「証拠、とは言えないかもしれないけれど、信憑性は高めてくれるだろう資料を」

ほむら「私の家に来てくれれば、あなた達に山ほど見せてあげることができるわ」


沙々(私の家……、罠でしょうか?)

沙々(いや、いくらなんでも、そうとは言い切れませんね)


沙々(少なくともわたしが鹿目まどかの中に見たアレが、ワルプルギスの夜なのだとしたら)

沙々(暁美ほむらにはワルプルギスの夜と、何かしら因縁があるのは間違いないでしょう)


沙々(問題は、ぼんやりとしていたとはいえ、あの光景がどうして鹿目まどかの中に――)

330: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 14:56:59.40 ID:tbccy/epo


ほむら「優木沙々ははっきり言って、あの魔女との戦いにおいて戦力になるとは思えない」

ほむら「しかし巴マミはとても貴重な……」












杏子「――ちょっと待ってよ」

331: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:00:41.58 ID:tbccy/epo


ほむら「……杏子?」


杏子「無事に大団円の方向で話が進んでるなか悪いね」


杏子「アタシは絶対に、このまま優木沙々を認めるつもりはない」

杏子「ほむらは自分の目的、利益のため、認めるつもりみたいだけど」


さやか まどか「っ!」


沙々 マミ「…………」


ほむら「じゃあ、どうするつもり?」

ほむら「巴マミに事のあらましを教えて、目を覚まさせるのには失敗したわよ?」

ほむら「何か他に手だてがあるというの?」


杏子「そんなの決まってるでしょ、最終手段だよ」ヘンシン


ヒュッ


杏子「ぶっ潰しちゃえばいいのさ、こうなった原因を根っこからね」ブンッ


ほむら「それをやったら巴マミの精神が不安定になるだろうって、あなた前に……」

332: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:03:01.18 ID:tbccy/epo


杏子「不安定なら、まだいいじゃないか」

杏子「今まで、優木沙々にマミが何もされてないって、なんで言えるんだよ?」

杏子「アイツがマミの人格を都合よく改竄した可能性」

杏子「少なくともその時間と機会はいくらでもあったはずだ」


杏子「たとえ今まで何もされていなかったとしても」

杏子「そもそもアタシは優木沙々という人間を全く信用できない」


杏子「アタシがわかるのは、アイツが人格を改竄できるレベルでマミを掌握してることだけ」

杏子「もし今まで、何もしてなかったとしても、これからずっと同じ保証はどこにもない」


ほむら「……優木沙々が信用できないと主張したくなる、あなたの気持ちはわからないでもないわ」

ほむら「でも、現実問題私達に何ができるというの?」


ほむら「不必要に巴マミを損なうかもしれないリスクを負うのは――」

333: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:10:35.58 ID:tbccy/epo


杏子「現実、現実、現実……、クソくらえだそんなのは」


杏子「魔女が人間を操る」

杏子「優木沙々が人間を操る」

杏子「本質的な差はそこにはないだろ?」


杏子「だったらこいつの能力なんてのは、本来最初から許されるべきじゃないんだよ」


杏子「あるいは、どんな能力でも使い方さえ正しければ、人のためになる正しい働きをする」

杏子「確かにそうかもしれないね」


杏子「でも、こいつが一度たりとも、自分のしたことを悔いた素振りを見せたか?」


ほむら「…………」


杏子「もちろん、今のアタシなんかがそれを責める権利はない」

杏子「アタシが偉そうに口を出すのは誰が見たって筋が通ってない」

杏子「ああ、わかってるよ」

334: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:13:05.01 ID:tbccy/epo


杏子「……ただ、それでもアタシはマミを助けるって決めたんだ」

杏子「愛だ勇気だなんだって、御大層な言葉を持ち出すつもりはないけれど」

杏子「本当に助けられないのかどうか、それを確かめるまでは諦めたくない」


杏子「このまま黙って、この違和感を残したままなし崩しの形で」

杏子「新しく二人と組んでワルプルギスと戦う、なんてのはアタシには無理だ」


ほむら「……もし、杏子の行為の結果として、巴マミが死んでしまったとしても?」

ほむら「そんなことになったらあなた、絶対後悔することになるわよ?」


杏子「そりゃ、後悔するだろうな」


杏子「……ふん、今更後悔の一つや二つ増えたところで、それがどうだっていうんだ」

杏子「このまま黙って見過ごしてもどうせアタシは後悔する」


杏子「優木沙々が死んで、それでマミまで死んじまうなら、きっとそこまでの人生だったんだろ」

杏子「魔法少女なんて、いつだってそんな割に合わない存在だよ

杏子「ほむらもわかってるだろ?」


ほむら「…………」

335: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:16:07.41 ID:tbccy/epo


杏子「どうなるかなんてやってみないとわからない」

杏子「わかんないからこそ、やるんだよ」

杏子「マミのため?むしろアタシ自身のために、だ」


杏子「アイツの生き方が、アイツの人生が、誰かの手によって歪められるなんて許せない」

杏子「これまでそうしてきたように、アタシはアタシの好きなようにやる」

杏子「本当にマミが何を考えてるかなんて、アタシなんかにわかるわけはないし」


杏子「その前にほむらが立ち塞がるつもりなら、残念だけど同盟はここまでってことになる」


ほむら「……っ!」

ほむら「……お願いだから、やめて頂戴」


ほむら「巴マミが真実を知ってもなお、闘う意志を見せている」

ほむら「私にも信じられないくらいに、とても上手くいってる流れなの」


ほむら「この機会を逃したら、ひょっとしたらもう二度と――」




杏子「そう、それが詰まる所アンタの本心なんでしょ?」

336: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:18:22.37 ID:tbccy/epo


杏子「わかるよ。アンタはただ、自分の本当に守りたい物のために戦ってるだけ」


杏子「ただし暁美ほむらにとっての巴マミは、所詮自分のプランにおける道具の一つなのさ」

杏子「なるべく波風は立てたくないけど、いざとなったら見捨てたり、利用する、そんな存在」


ほむら「……」ギリッ


杏子「アタシとアンタでは、立ってる立場、気持ちの重みが違うんだ」

杏子「アタシに味方しろなんて贅沢は言わない。ただ傍観しててくれればいい」

杏子「たとえ三対一になったって、アタシはやるつもりだけどな」



ほむら「……もう、止まる気はないのね?」


杏子「もう決めたこと、だからな」


ほむら「…………」

337: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:22:33.24 ID:tbccy/epo


ほむら(今ここで、杏子を三人がかりで押さえつけることは難しくないでしょう)

ほむら(私の時間停止、巴マミのリボン)

ほむら(むしろ二人がかり、この状況ならおそらく私一人でだって可能ね)


ほむら(……しかし、それでは杏子が納得しない。必ず関係に亀裂が生じる)


ほむら(ここで遺恨を残したら、間違いなく後に尾を引くわ)

ほむら(魔法少女にとって心のしこりがどれほど危険か、嫌というほど思い知らされてきた)


ほむら(こうなってしまえば、三人がわだかまりを無事解決するのを)

ほむら(半ば部外者の私はもはや祈るしかないか……)


杏子「そろそろ、答えを聞かせてもらえる?」


ほむら「…………」


ほむら「優木沙々、まどかから手を離して」

ほむら「彼女を危険な目にあわせるわけにはいかない」

ほむら「私がまどかとさやかを戦いから保護するから」

338: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:26:30.54 ID:tbccy/epo

沙々「……」

沙々(ここで断っても、話がややこしくなるだけですね)


沙々「話は終わってませんがまあ、いいでしょう。これで貸し一つ、ですよ」パッ


ほむら「ありがとう、恩に着るわ」ヘンシン


カチッ


ほむら「……」

まどか さやか「!」


沙々(相変わらず発動条件とかがよくわからないテレポートですねぇ)


沙々「やれやれ、長い長い打ち合わせ、やっと終わりましたか」ヘンシン

沙々「待ちくたびれちゃいましたよ」


杏子「ああ、ようやくな」


杏子「……ちゃんと待ち時間に、今生の悔い改めは済ませといたか?」ニヤリ


沙々「けっ、バカ言ってんじゃねーよ」

沙々「ここまで漕ぎ付けたのに、あっさり死んでたまるかっての」

339: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:28:40.22 ID:tbccy/epo


マミ「…………」ヘンシン


マミ「佐倉さん、あなたってホント素直じゃないわね」

マミ「こんな形であなたの想い聞きたくなかった」


杏子「へっ、マミ先輩みたく素直なだけじゃ、しぶとく生き残れないからね」


マミ「……私達、またあの頃みたいにやり直せないの?」


杏子「そいつがいる限り、難しいだろうな」


杏子「――まあ、これからアタシと戦って勝てたら、一応は考えてやる」


杏子「優木沙々一人だけじゃ話にならないし、二人がかりで一斉に来なよ」


マミ「……そう、それは朗報ね」スチャッ





まどか「――っ!」


まどか「ほ、ほむらちゃん、魔法少女同士で争うなんて絶対おかしいよっ!」

まどか「だから――」

340: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:31:40.01 ID:tbccy/epo


ほむら「私には無理よ。ああなってしまった杏子は言葉ではもう止まらない」

ほむら「ただ少なくとも巴マミが直接殺されることは、ないと思うわ」


ほむら「……優木沙々の生命の保証は、残念ながらできない」


まどか「そんな……」


さやか「だ、大丈夫だよまどか」

さやか「なんてたってあのマミさん、それにいくら優木さんが弱くても二人がかり」


さやか「どれだけ杏子が強いのか知らないけど」

さやか「さ、さすがに二人が圧勝して、杏子も目を覚ますっしょ!」


ほむら「…………」








ほむら(本当に、そうなるかしら?)

341: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:34:55.46 ID:tbccy/epo


ほむら(ループにおける事象のズレ、揺らぎ)


ほむら(その中でも生きてさえいれば、巴マミに師事したか、師事してないかに関係なく)

ほむら(杏子の実力というものはかなり安定している)


ほむら(それに対して巴マミには経験上、大まかに三つほどのパターンがある)

ほむら(一つ目は孤独の中で、自分の生き方を純粋に追求し続ける生き方をしたマミ)


ほむら(理想に殉する覚悟を持ったこの巴マミは、最も強い)

ほむら(ただしその分、魔女の真実がより深刻に彼女に圧し掛かる訳だけど)


ほむら(杏子と師弟関係を結ばなかった場合は、基本的にいつもこのパターン)


ほむら(二つ目は杏子との決別を、乗り越えたマミ)


ほむら(乗り越えたとはいっても、一度仲間のいる生活に慣れてしまった後となっては)

ほむら(戦闘力、精神面において、常時少しだけ不安定な面が出てくる)


ほむら(まどか達を魔法少女に誘うことにもいくらか積極的になる)

342: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:37:02.27 ID:tbccy/epo


ほむら(三つ目は杏子との決別を、乗り越えられなかったマミ)

ほむら(戦闘力に関しては二つ目とさほど変わらないけれど、精神面での弱さが目立つ)

ほむら(まどか達への勧誘も積極的)


ほむら(……しかし、今回の巴マミは、大きくその三パターンから外れている)

ほむら(魔女化の真実に耐えるというイレギュラーではあるけれども)







ほむら(――私がこれまで見てきた巴マミの中では圧倒的に弱い)


ほむら(杏子の実力がいつも通りでいる以上、このままでは……)

343: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:39:22.46 ID:tbccy/epo
~☆


杏子(どうしていつも、こうなってしまうんだろう?)

杏子(どんな奴であれ、マミにできた新しい仲間をアタシは殺そうとしてる)

杏子(アタシは間違ってるのか?それとも正しいことをしてるのか?)


杏子(……ふん、もはやどっちでもいい話か)


杏子(……でも一つだけ、アタシが優木沙々に対して)

杏子(どうしてこんなにも苛立つのかようやくはっきりした)


――全部おまえが生み出した幻じゃないか。


――そうして惑わした人々をお前は手にかけるつもりだったんだろう?


――教会の娘があろうことか悪魔に魂を売るなどと……。


杏子(親父のこと、少しは振り切ったと思ってたけど)

杏子(だけど、実際は全然ダメだったんだ)

344: ◆2DegdJBwqI 2013/11/17(日) 15:41:53.05 ID:tbccy/epo


――今のお前がやっていることは何だ?


――父親などいなくとも世の中は救えるのだと、


――信仰を踏みにじり、人を惑わし嘲り笑う悪魔の所業ではないか


杏子(優木沙々は、親父がアタシを非難したとき、魔女と呼んだモノと酷似してる)


――それすらの自覚なくして語るお前の姿を……。


――魔女と呼ばずに何と呼ぶんだ。


杏子(人を惑わし嘲り笑う悪魔)

杏子(それがアタシにとって、正義の象徴になってるマミに覆いかぶさってる)


杏子(だから、アタシは――)

349: ◆2DegdJBwqI 2013/11/20(水) 14:28:10.85 ID:u4lw8pL4o
~☆


ダァン!ダァン!ダァン!

ギィン ギィン ギィン


杏子「おらっ!どうしたマミ先輩っ!」

杏子「アンタの本気はそんなもんなのかよっ!」ブンッ


マミ「くっ……」ガキィン


シュルルルル


杏子「もしかしたら昔よりもリボンの使い方」

杏子「下手になってたりしてな、アンタっ!」ダッ


マミ「っ!」


ドガッ!


杏子「……チッ、外したか」

350: ◆2DegdJBwqI 2013/11/20(水) 14:31:23.07 ID:u4lw8pL4o


沙々(うーん、わたしからすればまさに別次元の戦いですねぇ)

沙々(ただし現状、佐倉杏子の方が優勢、実力は拮抗していない)


沙々(唯一幸いなのは、佐倉杏子が巴マミを殺そうとはしていないこと)

沙々(でもだからといって、手加減してくれてるってわけでもないですし)

沙々(こうしてマミの後方でコソコソしてるのにも限界が……)


まどか「ああっ、あわわ……」


さやか「沙々さぁーんっ!なぁにやってんのぉーっ!」

さやか「はやくぅ、マミさんにぃ、加勢してあげてよーっ!」


沙々「そんな無茶わたしに言わないで下さいよっ!」

沙々(というか空いてる距離考えても声でかすぎ)

351: ◆2DegdJBwqI 2013/11/20(水) 14:44:40.23 ID:u4lw8pL4o


杏子 マミ「…………」


杏子「これだと決着まで、無駄に手間取りそうだな」

杏子「つい、決め手に躊躇しちゃってる、お互いに」


マミ「ええ、確かにそうね」

マミ「それじゃちょっと、聞いてみましょう」


マミ【ねえ、暁美さん】


まどか さやか「!」


沙々(オープン回線のテレパシーですか)

沙々(様子を見る限り、一般人二人にもわざと聞かせてるみたいですね)


沙々(大方なるべく仲間外れにしないようにってことなんでしょうが)

沙々(どうせ部外者なんですし、そういう公平さは別にいらないような……)


ほむら【何かしら?】


マミ【魔法少女について、あなた詳しいわよね?】

マミ【魔法少女がどこまで肉体の損傷に耐えられるか、わかる?】

352: ◆2DegdJBwqI 2013/11/20(水) 14:54:03.53 ID:u4lw8pL4o


ほむら「…………」


ほむら【一応回復魔法が得意かどうかという違いはある】

ほむら【けれど、魔法少女の本体は肉体ではなくソウルジェム】


まどか さやか マミ「……っ!」


杏子「……」ニヤリ

沙々(こ、こっちみんな)


ほむら【理論上はソウルジェムさえ無事なら】

ほむら【どんなケガも時間と魔力さえあれば修復可能よ】

ほむら【逆に言えばソウルジェムが壊れてしまえば――】


マミ「……」


杏子「――余所に注意、向けてる場合?」

ダッ

マミ「――っ!」バッ

353: ◆2DegdJBwqI 2013/11/20(水) 14:56:47.70 ID:u4lw8pL4o


ブゥン

ザシュッ!

まどか さやか 沙々「!」


ほむら「……」


マミ「…………迂闊だったわ」ヨロッ


杏子「油断した?」

杏子「はっ、仮にもアンタが戦ってる最中に相手への注意を怠るなんてね」

杏子「手ごたえからして右肩から右足まで結構深く入った」


杏子「これで、少なくともさっきまでの動きはできない」

354: ◆2DegdJBwqI 2013/11/20(水) 15:05:40.85 ID:u4lw8pL4o


沙々(……うわぁー、こりゃ非常にまずい)

沙々(マミのリミッターを外す?)


沙々(そんなことしたら余計佐倉杏子がブチ切れて)

沙々(和解の可能性がなくなりますね)


沙々(やれやれ。赤鬼みたいで怖いし、失敗したら殺されちゃうから)

沙々(あまり前に出て戦いたくなかったんですけど……)

沙々(マミが動ける内に、ここで覚悟を決めた方がよさそうです)


沙々【マミさん、一度後ろに下がって】


マミ【えっ?で、でも……】


沙々【そんなケガで、佐倉杏子の攻撃を受け切るなんて、不可能ですよ】

沙々【わたしがこれから前に出るんで、後ろからそのケガ回復しつつ援護してください】

355: ◆2DegdJBwqI 2013/11/20(水) 15:12:04.88 ID:u4lw8pL4o
~☆


ブゥン


沙々(『左っ!』)


ドガッ!


杏子「チッ!」


ダァン! ダァン! ダァン!


杏子「ぁあっ!クソうぜぇっ!」バッ


さやか「……な、なんかさっきと比べて、戦い随分地味になったね」

さやか「私にでも、どういう攻防が行われてるのかよくわかるっていうかさ」


ほむら「優木沙々のせいよ」


さやか「えっ?」


ほむら「杏子が攻撃を仕掛ける瞬間、明らかに彼女の意思と異なる余計な動作が見てとれる」


ほむら「精神操作、というよりは、身体の支配権をほんの僅かの時間奪って」

ほむら「それによって攻撃を逸らそうとしているのね」


ほむら「杏子も必死で抵抗しているから、あんな風に動きがぎこちなくなってる」

356: ◆2DegdJBwqI 2013/11/20(水) 15:27:56.51 ID:u4lw8pL4o


さやか「沙々さんって、私が思ってたより凄い魔法少女だったんだ」


ほむら「それでも、優木沙々がこれまで避け続けることができたのは」

ほむら「巴マミを後ろに下げてから、最初に上手いこと杖による一撃を杏子に当てたから」

ほむら「そろそろそのダメージから、杏子は回復するはずよ」


まどか「…………」


沙々(それにしてもなんで、佐倉杏子に少しだけとはいえ魔法が通るんでしょう?)

沙々(耐性があるんですから、普通いきなり通るはずないんですが)

沙々(つまり一度は何かしらの形で通したことがあるはず……、うーん?)


沙々(まぁ、とはいえいい加減決められないとヤバそうですね)

沙々(いつまでも誤魔化し続けられるほど、いくらなんでも甘くはない)


杏子「おい、優木沙々」イライラ

杏子「正々堂々、やったらどうだい?この腰抜け」イライラ


沙々「そんなことしたらわたし、死んじゃうじゃないですか」

357: ◆2DegdJBwqI 2013/11/20(水) 15:43:06.65 ID:u4lw8pL4o


沙々(マミのリミッター外したりしてない分、遠慮してるわけで)

沙々(むしろこっちは感謝してもらってもいい立場なはずなのに)


杏子「……だから大人しく死んでろって」


杏子「言ってんのさっ!」ダンッ!


ジャラジャラジャラジャラ



マミ(多節棍っ!)

マミ「――優木さん逃げてっ!」





沙々(――やっと、全力で踏み込んで来ましたねっ!)


シュルルルルル


ビシィッ!


杏子「なっ!?」

364: ◆2DegdJBwqI 2013/11/23(土) 19:27:50.49 ID:ygqa3IoBo


沙々「うらぁぁあああ!」グイッ

ガッ ドサッ

バターン!


杏子「ぅぐっ!」


さやか「……え?」


さやか「ねえ、ほむら」

さやか「杏子が突然バランス崩してよろめいて」


さやか「それから沙々さんが思いっきりタックルして」

さやか「沙々さんが馬乗りになった」


さやか「だよね?状況あってるよね?」


ほむら「ええ、その通りよ」

365: ◆2DegdJBwqI 2013/11/23(土) 19:32:42.34 ID:ygqa3IoBo


さやか「……え?どうして?今、完全に杏子優勢だったじゃん」

さやか「なんで杏子バランス崩したの?」

さやか「ねえ――」


ほむら「ちょっと静かにしてて、さやか」

ほむら(あの瞬間、どう見ても優木沙々の手から……?)


まどか「…………」


杏子「降りろっ!アタシの上から降りろっ!」ジタバタ


沙々「げふっ!」バキッ

沙々(こ、こいつ顔殴りやがったなぁ……!)


マミ「ゆ、優木さんっ!」


沙々【マミさん!早く佐倉杏子をリボンで拘束して!】

沙々【わたしが上から体重をかけて、動きを封じるのはこれ以上は無理です!】

367: ◆2DegdJBwqI 2013/11/23(土) 19:42:54.22 ID:ygqa3IoBo


マミ「っ!」

シュルルルルル

ビシィッ!

杏子「――っ」ギリッ


沙々「はぁ……、はぁ……」ゼーゼー


沙々【そうしたら後はそこで距離を取ったまま、静かに待機しててください】

沙々【マミさんが間に入ると話がこじれます】


沙々【佐倉杏子が気に入らないのはわたしの存在そのものです】

沙々【彼女はどう見たって、第三者の説得で納得してくれる性格じゃないでしょう?】

沙々【わたしと彼女の間で、きちんと折り合いをつけなくては何も解決しませんから】


マミ【……わかったわ、優木さんを信じる】

368: ◆2DegdJBwqI 2013/11/23(土) 19:58:33.04 ID:ygqa3IoBo


杏子 沙々「…………」


杏子「一体全体、これはどういうカラクリの手品だよ……?」

杏子「アンタの手から、いきなりマミのと同じリボンがアタシの足に伸びて」

杏子「そして今、マミが使うようなデザインの短銃がアタシに向けられてる」


沙々「手品も何も、今まで使わなかったわたしの魔法の応用ってだけですけど?」


杏子「……なるほどね。それがアンタの奥の手ってことか」


沙々「奥の手ってほどでもないです」

沙々「マミさんと繋いだ魔力のパイプから、魔法のコツみたいなのをちょっとばかし引いてるだけ」

沙々「誰かを操る、自分のモノとして従わせることの応用です」


沙々「とはいえ一種の借りものなので、あなたを転ばせたらリボンは勝手に自壊しちゃう程度ですし」

沙々「銃も短銃にしたい、というよりは短銃でしか生成できない」

沙々「しかも威力と安定性に欠ける。この瞬間も維持するのに多大な精神力を要する」プルプル


沙々「マミさんによる芸術的な生成物と比べれば、玩具みたいな物です」


沙々「それでも拘束された相手を、上から圧し掛かって脅すには十分すぎる玩具ですが」カチャッ

369: ◆2DegdJBwqI 2013/11/23(土) 20:00:54.19 ID:ygqa3IoBo


杏子「…………そうかい、じゃあ撃ちなよ」

杏子「悔しいけど、誰が見たってアタシの負けだ。失敗した時の覚悟は端からできてる」


沙々「うぅーん、そうですかぁー……」

沙々「それも選択肢としてはありですけどぉ、わたしは優しいですからねぇ」

沙々「条件一つさえ満たせば、特別にこのまま許してあげなくもないですよ」


沙々「これからワルプルギスの夜が来るのなら、お互い仲良くいられるのがベストですし」


杏子「条件?」


沙々「…………」


沙々「弱すぎ、マミさんの足を引っ張りまくってる」

沙々「前にわたしにそんな口きいてくれちゃったこと、ありますよね?覚えてます?」


沙々「でも現在、そんな雑魚にあなたは負けて、こうして頭に短銃突きつけられてるわけですが」

沙々「どうですか?どんなみじめな気持ちですか?ねえ、どんな気持ちですか?」ニヤニヤ


杏子「…………」

370: ◆2DegdJBwqI 2013/11/23(土) 20:05:27.81 ID:ygqa3IoBo


沙々「わたしの足元の地面を舐めるくらいに這いつくばって」

沙々「とてもみっともなく謝罪をしてください」



沙々「優木沙々サマァァぁ!とんだ身の程知らずでしタァァぁ!」エグエグ

沙々「ごめんなサィィぃ!バカなアタシが全て悪かったんでスゥゥぅ!」エグエグ



沙々「……」ゴホン


沙々「最低限、これくらいはやってもらいましょうか?」

沙々「謝るだけで何もかも許してあげるんですから、とぉっても優しいですよねぇ?」


杏子「……ふざけんなよ、クズが」

杏子「誰がテメエなんかに頭下げるか」

杏子「どんな条件を出すのかが、ただ気になっただけさ」


杏子「覚悟は端からできてる。殺せばいい」

371: ◆2DegdJBwqI 2013/11/23(土) 20:11:12.25 ID:ygqa3IoBo


沙々「殺す?そんなわけないじゃないですか」

沙々「わたしをワルプルギスの夜の戦力として考えるのは無理がある」

沙々「となるとあなたがいないと、マミさんと暁美ほむらだけが計算できる戦力になる」


沙々「あなたは暁美ほむらに雇われいるんでしょう?」

沙々「きちんと仕事してもらわないと、わたしも困っちゃうんですよ」


杏子「それじゃあアタシを、これからどうするつもり?」


沙々「くふふ、そんなの簡単ですよ」


沙々(一応テレパシーは佐倉杏子と暁美ほむらに限定してっと)

沙々(マミに聞かれると面倒ですからね)


沙々【暁美さん】


ほむら【なに?】


沙々【ソウルジェムが無事なら、魔法少女は大丈夫なんですよね?】

沙々【どんなケガもってことなら、頭を銃弾で撃ち抜かれたとしても?】


杏子「……」

372: ◆2DegdJBwqI 2013/11/23(土) 20:16:18.17 ID:ygqa3IoBo


ほむら「…………」


まどか「……ほむら、ちゃん?」


ほむら「何でもないわ、大丈夫よ、まどか」


ほむら【ええ、そうね。ソウルジェムが無事ならそれくらいのケガは問題ない】

ほむら【頭を打ち抜かれた程度では、確かに魔法少女が死ぬはずはない】


杏子 沙々「…………」


沙々「これでわたしが何をしようとしてるのか、佐倉さんにもわかりましたよね?」クスクス


沙々「あなたがこれまでどんな悪いことをしてきたかとか知りませんし」

沙々「わたしにそれをどうこう言う筋合いなんて存在しません」

沙々「いい子として生きてきたつもりなんてありませんからね」


沙々「でもそれとは別に、わたしはあなたに殺されかけて、そして争いに打ち勝った」


沙々「あなたがわたしにやろうとしたこと、やったことの落とし前は必要です」

沙々「わたしを満足させる気持ちのいい謝罪か、それとも額にちょっと風穴開けてみるか」ボソッ

373: ◆2DegdJBwqI 2013/11/23(土) 20:21:19.79 ID:ygqa3IoBo


沙々【……なんだったら、これから命乞いを誠心誠意マミさんにしてみたらどうですか?】


沙々【たずげでぇー、マ゛ミ゛先輩ぃ゛ー……、なんてね】


沙々【それがもし恥ずかしいということなら、別にみっともなくやらなくたって】

沙々【マミさんならきっと喜んで、あなたをわたしの魔の手から救ってくれますよぉ?】


杏子「うるせえ。、さっさと撃つなら撃てよ」

杏子「アタシはアンタのこと、絶対に認めないし許さないから」


沙々「へー、そうですかぁ、怖いですぅー」ビクビク

沙々(……他にもう特別言いたいことが思いつきませんね)


沙々「それじゃあ、お望み通りに」ダァン!


杏子「――――」ビクン


まどか さやか「えっ?」

ほむら「…………」

マミ「さ、佐倉さん……?」


杏子「」

374: ◆2DegdJBwqI 2013/11/23(土) 20:23:11.04 ID:ygqa3IoBo
~☆


――魔女になんかなりたくない。

――魔女になんかなりたくない。

――魔女になんかなりたくない。



杏子(なんだこれ?)



――魔女になるのはイヤだ。

――化け物になんかなりたくない。

――あんな醜いのになるくらいなら、死んだ方がましだ。



――イヤだ、死にたくない。

――死ぬのはイヤだ。

――死にたくない。

375: ◆2DegdJBwqI 2013/11/23(土) 20:26:06.20 ID:ygqa3IoBo


杏子(……どうやら優木沙々の深層心理、みたいだな)

杏子(魔力で作った銃弾が媒介になって、脳に入ってきてるのか?)

杏子(抵抗はしたけどさっき魔法も使われてたし、不思議じゃない)


杏子(わけねーな。それっぽいこと考えてみても変なもんは変だ)


――マミさんがいれば、どうにかなるんじゃないか?

――いや、でも。


――マミさんがいれば、どうにかなるはず。

――いや、でも。


――マミさんがいれば、どうにかなる。


――いや、でも……?

376: ◆2DegdJBwqI 2013/11/23(土) 20:28:53.90 ID:ygqa3IoBo


杏子(それにしてもこいつの心の底って)

杏子(自分のこととマミのことばっかりなんだな)

杏子(なんだかんだいって、大事には思ってるってことか)



杏子(アタシはマミのことを思って、あれこれやってたのかな?)

杏子(優木沙々のことが単純にどうしても気に入らないから)

杏子(それで理由をつけて排除しようとしてただけじゃないのか?)



杏子(……アタシが本当にしたかったことって、いったいなんなんだろう?)

382: ◆2DegdJBwqI 2013/11/26(火) 05:54:13.78 ID:TL8WYtTRo
~☆


杏子「…………んっ」ビクッ


マミ「あら、やっと目が覚めたのね。佐倉さん」


杏子「……マミ、さん」


マミ「ごめんなさい、優木さんのこと止められなくて」

マミ「あんなことするって予めわかってたら止めに入ったんだけど」

マミ「まさか脅しじゃなくて発砲するなんて思わなくて」


マミ「今言っても白々しいかもしれない。ただ私はあなたと本当に仲直り――」


杏子「いいよ、それは別に」

杏子「アタシが無理やり我儘に付き合ってもらったんだ。何か落とし前は必要だっただろ」


杏子「第一知らなかったんだからしょうがないよ」

杏子「こうしてアタシのケガを親身に治してくれた、それが重要じゃない?」

383: ◆2DegdJBwqI 2013/11/26(火) 05:58:05.12 ID:TL8WYtTRo


マミ 杏子「…………」


杏子「で、他の奴らは?」


マミ「もう時間も遅いし鹿目さん、美樹さんの二人を暁美さんに送ってもらってる」

マミ「優木さんなら冷静になった後、自分のやったことが段々怖くなってきたみたいで」

マミ「おどおどそそくさ逃げ出して行ったわ」


マミ「マミさん、彼女が目を覚ましたら上手いこと謝っといてくださいって」

マミ「私の予想だと、多分普通に家にいるんじゃないかと思うけど……」


杏子「小物すぎだろ」


マミ「でも、だからこそ、どこまでも悪くなることはできない子なのよ」

マミ「いい子になるかどうかとはまた別の話だけど」


杏子「…………まあなんであれ、アイツがマミを大事に思ってるのは確かみたいだな」


マミ「……?」

マミ「急にどうしたの?さっきあんなに暴れた子のセリフとはとても思えないわ」

384: ◆2DegdJBwqI 2013/11/26(火) 06:00:32.32 ID:TL8WYtTRo


杏子「一部だろうけど見たんだよ、優木沙々の深層心理」

杏子「頭を撃ち抜かれたときにね」

杏子「それとも感じたっていうべきかな?」


杏子「多分だけどそれの原因は二つ」

杏子「一つ目は銃弾がアイツの魔力で構成されてたこと」

杏子「あともう一つは、アイツ主導による魔力のパイプが開通してたこと」


杏子「マミがあの時言ってたことの意味が良くわかった」

杏子「アタシが感じたあの体験の中に嘘はない、そう確信できる」

杏子「こうして二つの目でモノを見ていると感じるように」


杏子「どうして、と聞かれると困る。ただそう感じるからとしか言えない」

杏子「……あるいはもしかしたら、アタシも操られちまったのかもしれないな、アイツに」

385: ◆2DegdJBwqI 2013/11/26(火) 06:04:09.80 ID:TL8WYtTRo


マミ「優木さんを害する意思は、もうないのかしら?」


杏子「ふん、アイツのことは気に入らない。気に入らないよ」

杏子「だけどアタシは二人と戦って負けた」


杏子「加えてマミを大事にしてるんだなってことが一応わかって」

杏子「毒気を抜かれたちゃったって感じ」


マミ「だったらまた、昔みたいにやり直せない?」

マミ「優木さんとの問題が曲がりなりにも解決したらしい今」

マミ「あなたさえそのつもりになってくれれば、可能なことだと思うけど」


マミ 杏子「…………」


杏子「マミ……、いや、マミさん」

杏子「ずっと前、まだ二人で組んでた頃に約束したこと、覚えてる?」

杏子「もしかしたらマミさんの中じゃ、約束ってことになってないかもしれないけど」

392: ◆2DegdJBwqI 2013/11/27(水) 21:14:24.65 ID:12IgSYr3o
マミ「約束?」


杏子「もしいつか本当にワルプルギスの夜がやってくる時が来たら」

杏子「一緒にこの街を守りましょうってやつ」


マミ「……!」


マミ「もちろん、覚えてるわ」

マミ「暁美さんが言ってたワルプルギスの夜が見滝原に来るという話」

マミ「あなたはあの約束を守るため、見滝原に来てくれたの?」


杏子「…………」


杏子「よく、わかんねーんだ。自分が本当はどうしたかったのか」

杏子「ワルプルギスの夜なんて、ホントはどうでもよかったのかもしれない」


杏子「アタシはただマミさんと仲直りして、昔みたいに良い夢を見たかった」

杏子「それだけのために見滝原に来たのかもしれない」


386: ◆2DegdJBwqI 2013/11/26(火) 06:07:39.29 ID:TL8WYtTRo


杏子「だけど、知れば知るほど優木沙々のことがどうしても許せなくなって」

杏子「あまりにも嫌悪感が強すぎて、自分でもどんどんわからなくなった」


杏子「マミさんをアイツの手の内から救い出したいのか」

杏子「それとも単にアイツの存在をとことん否定したいのか」


杏子「自分のことしか、考えてなかったかもしれないんだ」


杏子「…………」


杏子「アンタと決別した時だってそうだ」

杏子「アタシは自分勝手で、マミさんのやさしさに甘えてばっかりで」

杏子「わがままばっかり言って、傷つけて」


杏子「そんなアタシが、今更どの面下げてアンタとまた同じ道を歩けって言うのさ」

387: ◆2DegdJBwqI 2013/11/26(火) 06:12:37.33 ID:TL8WYtTRo


マミ「…………」


マミ「いいじゃない、そんなのなかったことにすれば」


マミ「自分が本当は何を考えてたのか、そんなことでくよくよ悩むだなんてバカらしいわ」

マミ「人間の記憶なんて、私たちが思ってるよりずっといい加減なものよ、きっと」

マミ「自分に都合のいいところばっかり抜き出して、自分に都合のいいように作り変えて」


マミ「佐倉さんは、私と一緒にいたいって思ってくれてるんでしょ?」

マミ「だったらそれだけ都合よく抜き出しちゃえばいいの」


マミ「私だって、そうやって自分のやりたいように正義の味方をやってるわ」


杏子「…………なんかマミさん、変わったんだね」

杏子「アタシと一緒に組んでた時より相当図太くなったというか、逞しくなったっていうか」


マミ「ふふふ、だとしたら優木さんのおかげよ」

マミ「たとえ彼女みたいな酷い人とであっても、一緒にいたいって強く思ってしまうんですもの」

マミ「嫌でも普段から、そんな自分の弱くて醜い所に向かい合わざるおえないわ」

388: ◆2DegdJBwqI 2013/11/26(火) 06:15:26.16 ID:TL8WYtTRo


マミ 杏子「…………」


マミ「また、新しくやり直しましょう?」


マミ「優木さんと仲良くってのは、いくらなんでも難しい問題かもしれないけれど」

マミ「やってみなくちゃわからないわ」


マミ「もちろん世の中には、二度とやり直せないことが山のように溢れてるけど」

マミ「私たちの間には、やり直すための機会と力があるのだから、また、やり直せるはずよ」


杏子「……そうだね、そうかもしれない」


杏子「でも、それはまた今度ゆっくり考えよう」

杏子「まずはワルプルギスの夜を一緒に倒す。その約束が済んでからだ」


杏子「少なくともそれまではまたよろしくね」


杏子「……マミ先輩」ボソッ


マミ「…………ええ、佐倉さん。おかえりなさい」ニコッ

395: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 20:45:51.94 ID:ApgKesCGo
~☆


ー翌日ー


沙々「で、話ってなんですか?」

沙々「まさかまた、わたしを罠にかけるつもりじゃないですよね?」


さやか「違うよ、そういうのじゃなくて、今度こそ凄い個人的な用事」

さやか「なんの話かって言われたら……、前の人生相談の続き、かな?」


沙々(ということは惚気話ですか?)

沙々(ちょっとそういうのは勘弁して欲しいんですが)


沙々「わたしよりマミさんとか、他に頼りになりそうな人たくさんいません?」


さやか「まぁそれは……、そうなんだけどさ」

さやか「私が恭介と付き合えたのって沙々さんのおかげだし」

さやか「だから今度も、できるなら沙々さんに相談したいなって思って」


沙々「……ふーん、そうですか。わかりました」

沙々「乗り掛かった船です、そこまで言うなら最後まで引き受けましょう」


沙々「それで肝心の相談内容は?」

396: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 20:49:05.50 ID:ApgKesCGo


さやか「…………」


さやか「魔法少女の本体は肉体じゃなくてソウルジェム」

さやか「しかも最終的には魔女になるって知っちゃったせいで」


さやか「魔法少女になることが、どうしようもなく怖くなっちゃった」


沙々 さやか「…………」


沙々(ワルプルギスの夜のことだけを考えると、美樹さやかが癒しの祈りで契約)

沙々(戦闘に回復役として参加、そして戦死するか勝利後にソウルジェムを砕く)


沙々(こんな形が理想ですけど、言ってもわたしの立場が悪くなるばかりですからね)

沙々(さすがに口に出すのはやめておきましょう)


沙々「よかったじゃないですか。まだ間に合う段階で知れて」

沙々「契約した後にそれを知っても後悔先に立たず、ですよ?」


さやか「……違う、そういうことじゃないんだよ」

さやか「私の弱い心のありようが問題なの」

397: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 20:58:00.67 ID:ApgKesCGo


さやか「恭介のことを本気で思ってるなら、そんなのは些細なことであるべき」

さやか「今、私に契約の機会がないことはわかってる」

さやか「優木さんたちに迷惑をかけるつもりはない」


さやか「でも、仮にその機会が訪れたとして、私は勇気をだして契約できるのかな?」

さやか「恭介の腕を治せる手段と機会があって、なのに契約しないんだとしたら」

さやか「それってつまりは自分が可愛いからだよね?」


さやか「恭介のことよりも、自分のことの方が大事」

さやか「そんな私に、恭介の恋人でいる価値ってあるのかな?」


さやか「……だけど当然、魔法少女になったら、みんなを真剣に守らなきゃいけなくなる」

さやか「しかも恭介はヴァイオリンに一途だから、腕が治ったらどうなるかは目に見えてる」

さやか「二人で会う時間をろくに取れなくなる」


さやか「どうしても投げ出さなきゃいけない幸せの尊さと」

さやか「立ち向かわなきゃいけない不幸や困難の大きさが」

さやか「私の足をどうしようもないくらい竦ませるの」


さやか「契約ができるか、できないかの状況が問題じゃないの」


さやか「私って、本当にこれでいいのかな……?もっと、もっと何か……?」

398: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 21:02:48.51 ID:ApgKesCGo


沙々「…………」


沙々「そんな堅苦しく考えなくてもいんじゃないですか?」

沙々「自分が大事って、わたしも含めてわたしの知ってる人全員そうですよ」

沙々「美樹さんは契約をするのが怖い、つまり嫌なんでしょう?」


沙々「それでも契約しなくちゃって思うなら、まず上条君に直接聞いてみればいい」

沙々「私の命と、あなたの左腕、どっちが大事ですか?って」


沙々「真剣に尋ねた結果、君の命よりも僕の左腕の方が大事だって答えが返ってくるようなら」

沙々「そんな奴に命を懸けてやる価値なんてないですから、跳び膝蹴りでもしてやればいい」


沙々「君の命の方が大事だって言われたなら、そう言われた通りに生きればいい」

沙々「あなたにとって損がない、まさにハッピーエンドじゃないですか」


さやか「…………」


さやか「嫌だよ、そんな……」

さやか「恭介に私の醜いところ、知られたくないんだ……」

399: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 21:10:46.84 ID:ApgKesCGo


沙々「…………」


沙々「別に事情を全部明かせって言ってる訳じゃないんですけど、それでもダメですか?」


沙々「……というかそれとは別に、そもそも上条君本人にとって」

沙々「勝手に陰であなたに知らず知らず命を賭けられるのは」

沙々「はたして親切かつ適切なことなんでしょうか?」


沙々「親切に何か見返りを求めないのが美徳、って考えてるのかもしれませんけど」

沙々「メリットデメリットをちゃんと事前に知らされていない契約の恐ろしさは」

沙々「魔法少女のおかげで嫌というほどわかったでしょう?」


沙々「いや、上条君とあなたとの間に生じる関係は、契約とすら呼べませんね」


沙々「上条君は左腕を治すかどうかの決定に全く携わることができないんですから」


沙々「相手に黙ってやる親切ってのは、もちろん気持ちのいいものでしょう」


沙々「ですが、その問題が深刻になればなるだけ」

沙々「先に相手の確認を取ってからやるべきだとわたしは思いますよ」

400: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 21:13:35.85 ID:ApgKesCGo


沙々「今回の場合、あなたはあまり気が進まないって考えてるんでしょう?」

沙々「だったらなおさら、無理な親切の押し売りにならないよう相手の意思を尋ねるべきです」


沙々「もしも上条君が左腕の回復を他の何よりも望んでいて」

沙々「そしてあなた自身も、それを全てに優先して望むのだとしたら」

沙々「だったらもう好きにしたらいいです。ただし、わたしが関係しないところでね」


沙々「取り返しがつかなくなる前に踏みとどまることを、わたしはオススメしますが」


沙々 さやか「…………」


沙々「私個人の意見としてはざっとこんなところですけど、何か参考になるところ、ありました?」


さやか「…………なんかありがと」

さやか「話したりそれに答えてもらったりして、ちょっとスッキリした」


さやか「沙々さんが言ったことも十分参考にして」

さやか「自分が何をしたいのか、何をするべきなのか」

さやか「時間をじっくりかけて、これからもっと深く考えてみるよ」


沙々「まあ、ほどほどに頑張ってくださいね」

401: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 21:17:45.81 ID:ApgKesCGo
~☆

ー数日後 夜ー


テクテク テクテク


まどか「…………」


テクテク テクテク


まどか(こんな時間に一人で出歩いて、私、何してるんだろう?)

まどか(魔法少女でもないのに、何してるんだろう?)


まどか(魔法少女の皆は、ワルプルギスの夜と戦う準備に忙しくて)

まどか(なのに私は、何もできない)


まどか(…………)







仁美「…………」トコトコ


まどか(あっ、仁美ちゃんだ)

402: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 21:19:33.25 ID:ApgKesCGo


テクテク


まどか「仁美ちゃーん!今日は御稽古ごと――」


仁美「…………」トコトコ

まどか「……?」


仁美「…………」トコトコ


まどか「っ!?」

まどか(あれって、もしかして……!)


まどか「仁美ちゃん!ねえ、仁美ちゃんってば!」ユサユサ


仁美「あら、鹿目さん、ごきげんよう」


まどか「ど、どうしちゃったの?ねえ、どこに行こうとしてたの?」


仁美「どこって、それは……」

仁美「ここよりもずっといい場所、ですわ」ニコォ


まどか「仁美ちゃん……」


仁美「ああ、そうだ。鹿目さんもぜひご一緒に」

仁美「ええ、そうですわ……。それが素晴らしいですわ……」

403: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 21:28:17.48 ID:ApgKesCGo


まどか(どうしよう、これってやっぱり、そうだよね)

まどか(……あっ!ほむらちゃんかマミさんに連絡すればいいんだ!)


まどか「えっと、よし、じゃあ――」スッ

まどか(まずはほむらちゃんに――)


仁美「ダメですわ、鹿目さん」パシッ


まどか「あっ!か、返してっ!仁美ちゃんっ!」

まどか(け、携帯がないとメールも電話もできない……)


仁美「ダメですわ、鹿目さん」

仁美「私たちがこれから向かうのは、とても素晴らしい場所」

仁美「そこを目指す儀式に、俗世の穢れを持ち込んではならないんですの」


仁美「鹿目さんは私の大切な友人として、今回特別にそこにお招きしますが」

仁美「だからといって、他の選ばれていない方々をお呼びになるのは、ダメですわ」


まどか(……ひ、仁美ちゃんから無理にでも携帯を取り返す?)

まどか(いやいや無理だよ、だって仁美ちゃん護身術も習ってるんだもん)


まどか(仁美ちゃんをひとまずおいて、公衆電話を探すか、通りすがりの誰かから携帯を借りる?)

まどか(ああ、ダメだ……。携帯の番号とかメールアドレス、あの携帯がないとわかんないや……)

404: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 21:30:17.13 ID:ApgKesCGo
~☆


工場主「そうだよ……、俺、ダメなんだ……」

工場主「こんな小さな工場一つ、満足に切り盛りできなかった……」

工場主「今みたいな時代にさ、俺の居場所なんて、あるわけねぇんだ……」


コポコポコポ


まどか(洗、剤……?)


まどか(ママが言ってた、ああいう洗剤は扱いを間違えると)

まどか(とんでもないことになる、家族みんなあの世行きだって……)


まどか「――っ!」

まどか「ダ、ダメ……、それはダメっ!」ダッ


仁美「……」ドンッ


仁美「邪魔をしてはいけません。あれは神聖な儀式ですのよ?」


まどか「だって、あ、あれ、危ないんだよ!?ここにいる人たち、みんな死んじゃうよっ!?」


仁美「そう、私たちはこれからみんなで、素晴らしい世界に旅に出ますの」

405: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 21:33:41.38 ID:ApgKesCGo


まどか(……どうしよう、どうしよう)


まどか(ここには、ほむらちゃんやマミさんはいない)


仁美「それがどんなに素敵なことかわかりませんか?」


まどか(……私が、私がやらなくちゃ)


仁美「生きてる身体なんて邪魔なだけですわ」


まどか(私が……、私が……!)


仁美「鹿目さん、あなたもすぐに――」


仁美「――――」


まどか「……?」


ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ


まどか「!?」


まどか(み、みんな倒れてく……!?)


まどか(毒、毒……?)


まどか(でも……、仁美ちゃんはまだ立ってる)


まどか(それに私はなんとも――)

406: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 21:36:30.28 ID:ApgKesCGo


仁美「――――」 


テクテク テクテク


沙々「――こんばんは、鹿目さん」


まどか「ゆ、優木さん!?」


沙々「やれやれ、実に大仕事でした」

沙々「全員を眠らせる魔法には、さすがに苦労しましたよ」


沙々「魔女の支配下にある人間にはわたしも干渉しやすい」

沙々「とはいえ一度にこの人数となると、成功させた自分を、全く褒めちぎってやりたいです」


まどか「間に合ってくれて本当によかった……!」

まどか「誰も間に合わなかったら、私、どうしようかと……!」


沙々「こっちこそどうしようかと思いましたっての」


沙々「志筑仁美が魔女の口づけを受けたことをはるばる感知して」

沙々「仕方ないから助けようと走ってここまで駆けつけてみれば、そこにあなたまでいるんですから」

407: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 21:42:22.90 ID:ApgKesCGo


沙々「本当に、無事な状態であなたを確保できてよかった」


沙々「さあ、鹿目さん。志筑さんを連れて、あの出口から帰りましょう」

沙々「時間もだいぶ遅いですし、これも縁です。家まで送りますよ」


まどか「…………えっ?」


沙々「?」


沙々「どうかしました?急ぎましょう、私の魔法が解ける前にここを出ないと」

沙々「この規模で急ごしらえだと、そんなに長い効果は保証できません」


まどか「…………」


まどか「だけど、だけど魔女を倒さなくちゃ……」

まどか「優木さんは、そのためにここに来たんでしょ……?」







沙々「何寝ぼけたこと言ってるんです。わたし一人で、無理に決まってるでしょう」

408: ◆2DegdJBwqI 2013/11/28(木) 21:47:23.33 ID:ApgKesCGo


沙々「わたし個人の戦闘力は、使役する魔女がいなかったら酷いものですよ?」

沙々「使役するためのグリーフシードには、特殊な魔法をかける必要があるんです」


沙々「今、そんなグリーフシードを持ってたら、自分の立場を悪くするだけじゃないですか」


沙々「それにマミさんと一緒に手に入れたグリーフシードの管理は、基本あちらに任せてます」


沙々「あくまでわたしは、ここに志筑さんを助けに来ただけです」


沙々「起きると面倒ですから、この人たちが目を覚まさぬ内に、この場からさっさと離れなくては」



まどか「……じゃあ、私たちがいなくなったらここで倒れて眠っている人たちは」

まどか「ここにこのまま取り残される人たちは、いったい、どうなるっていうの……?」


沙々「…………」


沙々「どうなる?そんなの決まってるじゃないですか」



沙々「当然みんな、次に目を覚ましたら自殺します」

沙々「魔女に魅入られたのが運のツキ、ただそれだけの話です」

414: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 12:10:35.62 ID:KqxkD1Fgo


まどか「ダ、ダメだよ!そんなの絶対おかしいよ!」

まどか「みんな、助けなくちゃ!」

まどか「私たちだけが逃げるなんて、間違ってるよ!」


沙々「そんなこと言われても、わたしの実力からして無理なものは無理ですよ」

沙々「助けようとして巻き込まれて、結局は力及ばずにどっちも死ぬ」

沙々「仮にそれが誰かの耳に伝われば、生前の美談にでもなるのかもしれませんね」


沙々「ですが、わたしにとって死んでからが一体何になると言うんです?」

沙々「死んでから後も生かせる美談なんて、この世に存在しません」


まどか「……」


まどか「なんで優木さんだけが、ここへ来たの?」

まどか「マミさんさえいてくれたら、きっとどうにかしてくれるはずなのに……」


沙々「あいにくマミさんは、グリーフシードを工面しようと知り合いの元へ遠出中です」

沙々「マミさんって、魔法少女の間で結構顔広いらしいですからね」

415: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 12:13:09.92 ID:KqxkD1Fgo


沙々「どうも魔女の口づけを受けた一般人がいるみたい。だから早く帰ってきて」

沙々「ここに来る前に、そうメールしときましたけど、この状況では間に合わないでしょう」


沙々「いくら全力で帰ってくるにしても、ある程度人目もありますし、あと数時間はかかるかと」

沙々「おそらく今頃リボンで、上空飛び立たんばかりに必死で建物を伝ってるんじゃないですか?」


まどか「……」


まどか「だったらほむらちゃんなら――」


沙々「彼女の電話番号なんてわたし知りませんよ」

沙々「じゃあ佐倉さんとなると、そもそも持ってるかどうかが怪しい」


まどか「……っ!」

まどか「でも、私!ほむらちゃんの携帯の番号とメールアドレス知ってるよ!」


まどか「仁美ちゃんに盗られちゃってたけど、その携帯に――」


沙々「あー、知ってるんですか。じゃあここから出たら連絡とってみましょう」

416: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 12:17:49.49 ID:KqxkD1Fgo


沙々「ただ彼女の魔法がどんなものか詳しく知りませんし」

沙々「今どこにいるのかも定かじゃありませんが」

沙々「この切羽詰まった状況にはたして間に合うと思います?」


沙々「人々の自殺を防ぐには、いくら彼女が凄腕でもその場にいなくては……、ねえ」

沙々「テレポート系の能力の持ち主みたいですし、一応連絡しておく価値はあるでしょうけど」


まどか「……」


まどか「じゃ、じゃあ私たちが頑張って時間を稼げば――」


沙々「あっ、ちょっと待ってください」

沙々「さっきかけた魔法がもう解けそうなんで、ちょっと強めにかけ直します」


沙々「思ってたよりは早いですが、まぁこんなものでしょう」


沙々「さっさとこの場から離れとけばかけ直す必要なかったんですけど……」

沙々「集中しなきゃいけないんで静かにしててくださいね」

417: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 12:22:06.82 ID:KqxkD1Fgo


まどか 沙々「……………………」


沙々「はい、終わりました」

沙々「言っときますけど、さっきよりも状況悪くなってるんですよ、これ」


沙々「この魔女の結界が及びうる範囲は、工場一帯をあますことなく包み込んでいます」

沙々「では、なぜわたしたちは結界に巻き込まれずにいられるのか?」


沙々「魔女には、自分の結界の中に誰かが入り込むのを好まないモノが多い」

沙々「だから工場の中という現実の領域で、こうして集団自殺が行われようとしてるんです」


沙々「……とはいえそれは、何事もない場合の話にすぎません」

沙々「何か邪魔をされたと感じたなら、普通は本腰を上げて相手を潰そうと動き始める」


沙々「わたしが人々を眠らせたことも、かなりギリギリの線を渡っています」

沙々「それがどういう手順でかの説明は省きますが、魔女を刺激しているのは間違いない」

沙々「これ以上何か邪魔をしては、確実に敵とみなされます」


沙々「そうすれば間違いなくわたしたちは結界に取り込まれて、わたしは魔女と戦う羽目になる」


沙々「時間稼ぎ?いいえ、そんな余裕はありません」

沙々「一刻も早くこの場を逃れることが最善手です」

418: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 12:27:26.54 ID:KqxkD1Fgo


まどか「…………」


まどか「たとえそうだとしても、ダメだよ」

まどか「私はここから、逃げ出したくない」


沙々「……あ゛ー、もう、まどろっこしいですねぇっ!」イライラ

沙々「どうしてわたしが、鹿目さんを強制してこの場から連れ出そうとせずに」

沙々「ここまで丁寧に説得しようとしてるのかわかりますか?」


沙々「わたしに対する感謝を、あなたに心底アピールして貰いたいからです」

沙々「あなたをなんの怪我もなく魔女から救い出した」

沙々「そう暁美ほむらに恩を売るため、あなたにはここで納得してもらわないと困る」


沙々「優木さんが私をあの場から無理やり引きはがした」

沙々「もしかしたら他の人たちを助けられたかもしれないのに」


沙々「後になってから万が一そんなようなことを言われてしまっては」

沙々「せっかくあなたを助けたうまみが少なくなってしまう」


沙々「現状、わたしたちが生き延びるにはこうすべきなんです。わかるでしょう?」

419: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 12:29:58.27 ID:KqxkD1Fgo


まどか「…………」


まどか「優木さん、前に私に言ったよね」

まどか「自分に自信がないって理由で、魔法少女になるのはやめろって」


まどか「あれから私なりに色々考えてみたの」

まどか「そもそも、私に自信がないのはどうしてなんだろうって?」

まどか「最初は、自分に何も才能がないからだと思った」


まどか「だけど本当は違った」


まどか「自分から何もしようとしなかったからだったんだ」


沙々「…………」


まどか「魔法少女になって、こんな自分を変えたいなって」

まどか「奇跡の助けがあれば、私でもきっと最初の一歩を踏み出せる」

まどか「そうすれば後はトントン拍子で、新しい私が開けてくるはず」


まどか「そんな風に魔法少女のことを知って、浮かれてる気持ちもあったんだと思う」


まどか「だけど知れば知るほど、その道は踏み入れたらいけない道だった」

まどか「私は、自分の力で私を変えていかなきゃならない」

420: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 12:32:36.63 ID:KqxkD1Fgo


まどか 沙々「…………」


まどか「実際魔法少女になるかどうか、そんなことは全部二の次なの」

まどか「大事なのは、私が魔法少女になるに値する人間かどうか」


まどか「でも、私には誰かに誇れるような才能は何もない」

まどか「才能がないから、いつか変わるためには、私はここで引いちゃダメなの」


まどか「今、誰かが取り返しのつかない理不尽な不幸を背負わされようとしてる」

まどか「それを私は、この両目でひしと見据えてる、知ってる」

まどか「ここで自分を誤魔化すなんて、そんなの絶対おかしい」


まどか「私は魔法少女じゃなくて、何もできない無力な存在だけど」

まどか「ここで自分だけ助かろうとするのは、間違ったことだって信じてるから」

まどか「優木さんにだったらこの気持ち、きっとわかってもらえると思うんだけど……?」


沙々「…………」


まどか「…………っ」ブルッ




まどか「だから、だから、ごめんなさいっ!」ダッ

421: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 12:41:33.92 ID:KqxkD1Fgo


沙々「っ!」


パシッ

タッタッタッ


ガシャーン!


沙々(あっ、終わった……)

沙々(魔女が活発に動き始めた気配がひしひしとここまで……)


タッタッタッ


沙々(なんともまぁ、元気よく走って行っちゃって……)

沙々(液体の入ったバケツを投げるとは、結構ガッツあるんですね)


仁美「――――」


沙々(鹿目まどかのことは、残念ながら見捨てるのが正解でしょう)


沙々「…………」



沙々(――自分から何もしようとしなかったから、ですか)



沙々「…………やれやれ」


沙々(彼女とあまり関わらなければよかった)

422: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 12:43:12.99 ID:KqxkD1Fgo
~☆

使い魔「~~~~!」


まどか「…………」


まどか(なんで、こんなことしちゃったんだろ……)

まどか(死にたく、ないな)


使い魔「~~~~!」
 

まどか(罰なのかな……?)

あどか(私が無駄に意地張って……)


まどか(優木さんの言うことを聞かなかったから……)

まどか(だから、私はその報いを――)


使い魔「――――」


まどか(……?)


使い魔「――――」



沙々「……」ヘンシン

423: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 12:48:19.69 ID:KqxkD1Fgo


沙々【こうして顔を合わせてみてわかりました】

沙々【朗報ですよ、鹿目さん】


まどか(優木さん、どうして……!?)


沙々【元々あの人数が操られてるってことに違和感はあったんです】

沙々【今日の見回り担当は佐倉杏子】


沙々【彼女は風見野と見滝原の両方を見回っていたんだと思います】

沙々【あちらで魔女との戦闘があったと考えれば、こちらに魔女の取りこぼしがあってもおかしくない】


沙々【……しかしそれにしたって、事の規模に比べて進行があまりに急すぎる】

沙々【その原因は、この魔女が精神操作に特化した能力の持ち主だったから】


沙々【わたしと同じく、直接戦闘に割く力はほとんど持たない】

沙々【わたしでも、むしろわたしだからこそ、奴に対抗できます】


沙々【精神系の固有魔法の持ち主は、互いに影響を与え辛い】

沙々【魔女になっていてもその法則は変わらない】


まどか(じゃあ、優木さんでもこの魔女を倒せるってこと……?)

424: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 12:59:44.07 ID:KqxkD1Fgo


沙々【わたしがまともに一人で戦って倒せるかとなると】

沙々【あなたを守りながらですし、ちょっと微妙、というか多分無理です】

沙々【グリーフシードの手持ちがないのが不安ですが、マミさんが来るまで、時間を稼ぎます】


沙々【使い魔ならある程度の数は使役したり無効化できるはず】

沙々【私の後ろで目を閉じて、ひっそりと神様にお祈りでもしててください】


まどか(どうして、私を助けに来てくれたの……?)

まどか(優木さん、この魔女がどんな魔女か見るまで知らなかったんだよね……)

まどか(だったら……)


沙々【さあね、知りませんよそんなこと】


沙々【それよりもまず、この場を生き残ることを考えなくてはいけません】


沙々【こんなつまらない死に方で死んでなるものですかっ……!】

425: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 13:04:15.17 ID:KqxkD1Fgo
~☆

ー翌日 マミホームー


沙々「それで鹿目さん。なんの用ですか?」


まどか「……謝りに来たの」


沙々「謝りに?いったい何に対してですか?」


まどか「優木さんを私の我儘に巻き込んじゃったこと」

まどか「マミさんが来るのが速かったからよかったけど」

まどか「あの時でさえ優木さん、限界寸前だったし」


まどか「本当だったら、あのまま魔力が尽きて魔女に――」

沙々「本当なのは、わたしたちが生き延びたことだけですよ」


沙々「あなたに頭を下げられてもわたし、何も嬉しくないんですけど」


沙々「誠意があるということなら、あなたがわたしの献身に対して」

沙々「何か報いとしてできることはあるんですか?」

426: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 13:08:59.66 ID:KqxkD1Fgo


まどか「…………」


沙々「くふふ、そんな辛そうな顔をしなくても大丈夫です」クスッ

沙々「もう、見返りはこっちで勝手に貰ってますから」

沙々「わたしがあなた自身に要求するのはあと一つだけです」


まどか「えっ……?」


沙々「自分の命を投げ出してまで、一般人と鹿目さんの盾となり魔女と対峙した」


沙々「わたしのソウルジェムの穢れ除去とケガの治療が一通り済んでからの」

沙々「マミさんのあの感激した素振り。中々に気分が良かったですよ」


沙々「それにその様子を隣で見てる、佐倉杏子のあの苦虫を噛み潰したような顔」

沙々「いやー、あそこに彼女が居合わせてくれてよかった。あの顔は最高でしたね」


沙々「暁美さんがあなたを家に送っていたせいで、あの顔を見せられなかったのは残念です」

427: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 13:13:40.63 ID:KqxkD1Fgo


沙々「……そう、それとあなたと無事に再会して抱き着いたときの暁美さんの様子」

沙々「どう見ても彼女の本心が出ていましたね」

沙々「おかげでどう関係していけばいいのか、かなり行動指針を決めやすくなった」ニヤァ


まどか(優木さん、すごい悪い顔してるなぁ……)


沙々「暁美さんの中でのわたしの信頼度も、多少は上がったでしょう」

沙々「わたしが望むのは、あれをあなたが皆を守ろうとした結果だと主張しないこと」

沙々「真実を心の底にしまっておくのは、あなたにとって別に不利益ではないはずです」


まどか「……私が守ろうとしたからじゃないよ」


まどか「結局、私は見てるだけで何もできなかった」

まどか「みんなを守ったのは、やっぱり優木さんだよ」


沙々「それはただの結果ですね」


沙々「あの魔女が戦闘能力をあともう少しでも備えていれば、二人とも死んでいた」

沙々「しかし、私たちは生きている」

428: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 13:18:49.78 ID:KqxkD1Fgo


沙々「それと同じで、あなたが無茶をしなければあの一般人たちは皆死んでいた」


沙々「暁美ほむらは、武器収集のため奔走していたとあなたに言い訳していました」

沙々「結界の外で連絡してもおそらく間に合わなかったでしょう」


沙々「それにわたしは、あなたと仁美さんを連れて撤退する気満々でしたからね」


沙々「けれど現実は、わたしの妨害もその一端ではありますが」

沙々「魔女がわたしたちにばかり注意を向けていたおかげで、集団自殺は行われなかった」

沙々「全く幸運としか言いようがありませんが」


沙々「どれほど非合理な選択から生じたものだとしても、この結果はあなたの行動が原因です」

沙々「誰かに誇れるものではないかもしれませんが、あなたが、人々の命を救ったんですよ」


まどか「……優木さんって、優しいんだね」


沙々「ええ、まあよく言われます」

429: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 13:27:25.57 ID:KqxkD1Fgo


沙々「これで用事は全て済みましたか?」

沙々「マミさんに今日は念のため、一日家で休んでなさいって言われたので」

沙々「そろそろその言葉通り、ダラダラ布団の中で眠っていたいんですが」


まどか「……うん、じゃあ最後に一つ、優木さんに気になること聞いたら私帰るね」







まどか「――あの時、仁美ちゃんが魔女の口づけを受けたこと、なんではるばる感知できたのかな?」


まどか「魔女の口づけを受けたのが仁美ちゃんだって、初めからわかってた言い方だったよね?」


沙々「…………」


沙々「これまた中々痛いところに気付きましたね」


沙々「……彼女に何か危険があったら反応するようなのを、念のためかけておいたんですよ」

430: ◆2DegdJBwqI 2013/12/01(日) 13:29:51.83 ID:KqxkD1Fgo


沙々「あなたの大切な友人でしょう?」

沙々「ぶっちゃけた話、彼女に何か万が一があった場合」

沙々「間接的な恩を暁美ほむらへ売れるようにね」


沙々「優木さんが仁美ちゃんのこと助けてくれたの」

沙々「あなたがそう言えば、多少好感度、信頼度は上がるはずと考えて」


まどか「優木さん、仁美ちゃんを無事に解放するって言ってたじゃないっ!」


沙々「無事には解放したじゃないですか。あの時かかってた魔法は全部解きましたし」


沙々「ただ、新しくて安心なのを、彼女の安全のため、保険に新しくかけただけ」


沙々「嘘はついてませんよ。それでも不安なら、後で佐倉杏子にチェックさせてみればいい」

沙々「結果として、颯爽とピンチの場に駆けつけることができた」


沙々「それで今はいいじゃないですか?ね?」


まどか 沙々「…………」

436: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 12:13:05.01 ID:FX1/g9hvo
~☆

ー1週間後ー


QB「優木沙々、わざわざキミからボクに接触を図るなんて、珍しいこともあったものだ」

QB「何か、解決に困るような問題でもあったのかい?」


沙々「どうでしょう?もしかしたら自力でも解決できるのかもしれません」

沙々「ですがどちらにせよ、あなたに聞いてみたほうが早いし多分確実です」


沙々「あなたがわたしを、魔法少女の契約において手酷く引っ掛けた」

沙々「それを許すつもりなんて毛頭ありませんけど」


QB「ボクがキミを引っ掛けただって?」

QB「いったい何について言ってるのか、まるで心当たりがないよ」


沙々「……心当たりがない?」

沙々「ふーん、そこまで言うなら、なんのことか言ってやりますよ」


沙々「暁美ほむらから全部聞きました」

沙々「魔法少女の本体は肉体じゃなくてソウルジェム」

沙々「そして、魔法少女は魔女になる末路を背負わされているんだとね」

437: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 12:17:16.71 ID:FX1/g9hvo


沙々「これらとを知らされなかったことについて、わたしは引っ掛けられたと言ってるんです」

沙々「事前に知っていたら、あんなバカな願い事で契約なんて考えませんよ」


QB「…………」


QB「ふむ、一つ聞きたいんだけどいいかな?」


沙々「いいですよ、なんですか?」


QB「暁美ほむらの発言に、キミはどれほどの信憑性があると考えているんだい?」

QB「それが本当かどうかを、直接何かの手段で確認したわけじゃないんだろう?」


QB「以前のキミなら、言葉だけの浮説とも捉えうる話をそう簡単には信用しなかったはずだ」


QB「いわゆる心境の変化ってのが原因なのかな?」

QB「どうも暁美ほむらや杏子とだいぶ親交を深めているようだし」


沙々「確証が言葉だけなら、もちろんそれを信じはしないでしょうね」


沙々「しかし本体がソウルジェムだという実感こそありませんが」

沙々「魔法少女が魔女になる、これについては彼女の発言よりもっと、信頼に足る確証があります」

438: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 12:19:31.27 ID:FX1/g9hvo


沙々「それはわたしが魔女や人間、魔法少女を使役してきた、その経験です」

沙々「魔法少女と魔女は元は同質のものだった」

沙々「あなたが違うと言ったとしても、それは嘘だと言い張れるくらいには確信しています」


QB「…………なるほど、魔法少女と魔女の内面深くへ接続するという経験があれば」

QB「比較から、その二つを結びつける判断を肯定するのは自然なことなのかもしれないね」


QB「これまでは、その可能性を意識的か無意識かは別として、考えようとしなかっただけということか」


沙々「わかっていただけましたか?」


沙々「さあ、それじゃあわたしを契約の際に引っ掛けていことについて」

沙々「そして心当たりがないなんて言った嘘を、今ここで謝罪してもらいましょうか」


QB「謝罪して、と言われても困るんだけどね」

QB「嘘なんて、ボクは一度もキミについていないんだから」


沙々「はぁっ?これでもまだ言いやがりますか」

439: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 12:28:10.94 ID:FX1/g9hvo


QB「だって、キミや他の人々が普通嘘や引っ掛けたって言葉に込めている意味は」

QB「事実とは違うことを、事実だと相手に伝えるということだろう?」


QB「ボクがそんなことをキミに対し行ったという事実は、一度たりとも存在しない」

QB「魔法少女がどういうものかという説明は一部省略したけれど」


QB「ボクは願いを一つだけ叶える。そしてその代わりにキミは魔法少女に、なる」

QB「この二つの事柄に嘘偽りは一切ない、違うかい?」

QB「なんならそれに魔女と戦うを付け加えてもいい」


QB「普段から常に、ボクはキミに嘘なんてついていなかったはずだ」

QB「ただし聞かれなければ、そのまま双方に不都合が出ない形で話を進めるけれどね」


沙々「…………」ギリッ


沙々「なんでキュゥべえは、いつか魔女になる魔法少女という存在を」

沙々「わざわざ奇跡という願いで釣り上げてまで産み出すんですか?」

沙々「あなたの奇跡だって、きっとタダではないんでしょう?」

440: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 12:30:58.59 ID:FX1/g9hvo


QB「キミたちが自身の魂を揺さぶる願望を、現実の形にすることを目指すように」

QB「もちろんボクにはボクとしての崇高な目的、理念がある」

QB「それはね、キミたちの感情からこの宇宙全体を救うエネルギーを創出することなんだよ」


沙々「は?」


QB「沙々はエントロピーという言葉を知ってるかい?」

QB「簡単に言うと――」


沙々「あー、そこら辺のこまごまとした話はいいです、面倒です」

沙々「どうせ大して興味もないのに聞いたこっちがバカでした」


沙々「キュゥべえと今更敵対しても、わたしに得がない以上そうする気もないですし」

沙々「あなたたちが魔法少女の契約を仮に止めて、魔女が産まれなくなれば困るのはわたし」


沙々「魔女にはなりたくありませんが、だからといって早々と死にたいわけでもない」

沙々「契約内容が不満ではありますが、どうせやり直しが可能なものじゃないんでしょう?」

441: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 12:38:53.09 ID:FX1/g9hvo


QB「うん、そうだよ」

QB「キミたちの魂をソウルジェムに変換するという行為は、ボクの知る限り不可逆だ」

QB「新たな願い、奇跡の力を借りるならばまた話は別だけど」


QB「誤解しないで欲しいのは――」


沙々「はいはい、もういいです」

沙々「いい加減相談に話を戻します。構いませんよね?」


QB「ボクは構わないよ。それじゃあ話を聞くとしよう」

QB「解決の役に立つような助言を、キミに与えられるかどうかはまた別だけどね」


沙々「…………」


沙々(こういうことに一番詳しいだろうって理由で)

沙々(まずこいつを相談相手に選んだのは失敗だったかもしれませんね)

沙々(どうも思ってた以上に胡散臭いです、こいつ)

442: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 12:42:32.91 ID:FX1/g9hvo


QB「どうしたんだい?さあ、話してごらんよ」

QB「話を聞かなくては何もわからないし、何も言うことはできないじゃないか」


沙々「……あー、あのですね。あれです。わたしの魔法が、以前と比べておかしいんです」

沙々「この頃どうしてなのか、魔女を操作することが急激に下手になってきています」


沙々「魔法が新しく使えるようになっていくことはこれまで数々ありましたが」

沙々「魔法が使えなくなっていくなんてことは、これが初めてで……」


沙々「魔法少女と契約を結んできたあなたなら、こういうことにも詳しいんじゃないかなって思って」

沙々「何か原因について、推測でもいいから思いつきませんか?」


QB「……魔法が使えなくなる原因、か」

QB「例えば使えなくなる原因として、自分の願いを心の底で拒絶してしまったというものがある」


沙々「願いを、拒絶?」

443: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 12:47:41.16 ID:FX1/g9hvo


QB「魔法少女の固有魔法は願いとかなり密接な関係を結んでいる」

QB「それがどういう固有魔法かにもよるけれど、潜在意識の働きというものは存外大きい」

QB「願いの否定を原因として、自分の魔法の使用範囲を限定してしまった子はこれまでに数多くいた」


QB「しかし、キミにそれは当て嵌まらないはずだ」

QB「ボクの目から見ても、今のキミの精神状態はいたって健康に見える」


沙々「ええ、いたって心身ともに健康ですよ」


QB「キミは願いを否定しているわけじゃない。なおかつ君の願いは固有魔法に人一倍強く繋がっている」

QB「となるとキミの変化は、何かしら願いに沿ったものだと考えるのがまともな筋だろう」

QB「それが成長という正常な反応ならともかく、劣化しているんだからなおさらね」


QB「そしてキミの願いは、自分より優れた者を従わせたい」


QB「明らかな証拠があるわけじゃもちろんない。これはボクが導き出した推論に過ぎない」

QB「しかしおそらくは、こういうことなんじゃないか?」



QB「キミにとって、優れていると思うものが変わってきている」



沙々「……つまりわたしが、前と比べて魔女を優れていると感じなくなっていると?」

444: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 12:49:33.01 ID:FX1/g9hvo


QB「そう考えるのが最も合理的だろう」

QB「人間の価値評価の基準はきっかけさえあれば容易く変動するものだ」


QB「もっとも原因がわかったところで簡単に治せるものでもないだろうし」

QB「治す必要があるかどうかも確かじゃない」


QB「価値評価とは相対的なものだからね」


QB「キミの願いが正常に機能している以上、下手になった魔法があれば」

QB「同時に目に見えて上達した魔法もまたあるはずだ」




QB「ボクの推測が正しければ、心当たりは既にキミの内にあるはずだよ?」


沙々「…………」

445: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 12:51:24.35 ID:FX1/g9hvo
~☆

ー数日後 マミホームー


杏子「それでここまで呼びつけていったいなに?」

杏子「まさかつまんない用事なんかじゃないよねぇ……?」


沙々(こ、こえぇぇ……)

沙々「いやいや万に一つもそんなはずないじゃないですかやだなー佐倉さんったら!」ハッハッハッ


沙々 杏子「…………」


マミ「佐倉さん、優木さんが怖がってるわ。怖い顔をするのはやめて」


杏子「……チッ」


ほむら「続けてくれる?」


沙々「あっ、はい」


沙々「ずばりですね、ワルプルギスの夜との戦いにわたしも加えて欲しいんです」




ほむら 杏子 マミ「…………」

446: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 12:56:39.17 ID:FX1/g9hvo


杏子「アンタ、正気で言ってんの?」


沙々「いきなり人を狂人扱いしないでくださいよ」


杏子「いや、でも、ぶっちゃけ沙々がまともに戦いに加わっても犬死にするだけだよ」


マミ「ちょっと佐倉さん!?」


杏子「だってホントのことじゃんか。むしろ本人が一番よくわかってるはずでしょ」


沙々「誰がまともに、戦いに加わると言いましたか」


沙々「どうですか?練習してみて三人の連携はうまくいってますか?」


ほむら「まずまず、想定していたレベルには達しているわね」


杏子「あったりまでしょ、アタシとマミさんは前にコンビ組んでたんだし」

杏子「コンビ勘さえ思い出せれば楽勝、楽勝」


沙々「佐倉さんはそれで十分だと、本気で思ってるんですか?」


杏子「……何が言いたいのさ?」

447: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 13:00:48.71 ID:FX1/g9hvo


沙々「相手はあのワルプルギスの夜ですよ?」


沙々「どうです?マミさんと一緒に戦ってみて」

沙々「思ってたより強くないな、とか思ったりしません?」


杏子「……っ!」ギリッ 

マミ「…………」


沙々「所詮雑魚のわたしには本当のところはわかりませんよ?」

沙々「ただ両者争ってた時とかを見る限りは、今はあなたの方が強そうだなって」


杏子「それは――!」

マミ「確かに、私の目から見ても佐倉さんの方が強いわ」


マミ「魔法のバリエーションはあるけど、一番この三人で弱いのは私よ」


杏子「…………」


沙々「マミさんを超えるほどにあなたが強くなったのは、とても喜ばしいことでしょうけど」

沙々「チームとして考えた時、あなたが隣にいなかった歳月は今埋めるにはあまりに大きすぎる」


沙々「暁美さんは、これでワルプルギスの夜と戦っても間違いないって思いますか?」

448: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 13:04:48.61 ID:FX1/g9hvo


ほむら「間違いない、なんてことはアイツとの戦いに臨む中でありえないわ」

ほむら「どれほど準備をしたところで、満足できる妥協点なんて見つかるとは到底思えない」

ほむら「……だからこそ勝率を少しでも上げる方法があるというのなら、見過ごすわけにはいかないわね」


沙々「ワルプルギスの夜との勝率を少しでも上げる、あるいは安定させたいと思うなら」

沙々「互いの呼吸を絶えず嗅ぎ分けられるようなコンビネーションを目指すべきです」


沙々「優れた魔法少女であるあなたたちなら、きっと基礎的な動きの中での連携は完成しつつあるんでしょう」

沙々「しかしそれは年季の入った、心の底から通じ合ったものとは違う」

沙々「ワルプルギスの夜のありとあらゆる攻撃パターンに対処できるとは思えない」


沙々「どんな時であれ、一人で挑むような状況を作ってはならない」

沙々「一人でダメでも二人なら、二人でダメでも三人なら、そうでしょう?」


ほむら「ええ。理想では、確かにそうね」

ほむら「でもそれとあなたがどう関係するというの?」


ほむら「あなたが輪に加わっても、かえって精一杯の調和を乱してしまうだけに感じるけど」

449: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 13:10:42.76 ID:FX1/g9hvo


沙々「前線に出て戦うということならそうでしょうね」

沙々「言うなればわたしが、三人の輪を繋げる鎖になります」


沙々「マミさんを主軸にして、佐倉さん、暁美さんに感覚その他を繋げる」

沙々「テレパシーとは全く別物の、感覚を伴った距離を無視した共感」


沙々「理想に足らない経験値は、魔法を使えば埋められます」

沙々「わたしが間に入りさえすれば、連携は見違えたものになるはずです」


杏子「……おい」

杏子「待てよ、それって――」


沙々「そうです。言い方をマイルドにしてはいますが」

沙々「わたしが三人全員をどういう形であれ一度に掌握するってことです」

450: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 13:16:18.08 ID:FX1/g9hvo


沙々「デメリットは、その接続を実際に行うとすれば」

沙々「マミさんに対するほどではなくても洗脳が可能なレベルにまで」

沙々「あなた方二人の精神にも潜る必要があること」


沙々「潜ってしまえばその間、佐倉さんはそうはいかないでしょうが」

沙々「暁美さんはわたしが支配しようと考えればそれに抗うことはできない」


沙々「更にそこまで深く潜る以上、あなた方の記憶にいくらか触れることを避けるのは不可能です」


沙々「深層心理にこっそりとしまっているようなことまで」

沙々「わたしに全てではないにしても把握されてしまうことになる」





ほむら「…………」

451: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 13:18:59.00 ID:FX1/g9hvo
~☆

ー夜 外ー


沙々「いやぁー、さっきは佐倉さんを説得してくれて助かりましたよぉー」

沙々「ワルプルギスの夜がどれほどの化け物か」

沙々「おかげでイメージがより鮮明になって、気分が重いですが」


ほむら「優木さんは前線に出て戦う訳じゃないでしょう?」


沙々「結局は、あなたたちがワルプルギスの夜に負ければわたしもそれでお終いですよ」

沙々「自分で戦う術さえあれば、負けた場合の未来を考えることもできる」

沙々「しかしそんな未来は現実的じゃない。わたしもまた、命を懸けているというわけです」


沙々「……で、二人きりになってまで、言いたいことってなんですか?」


沙々「わたしのプランに不満があるわけではないようですが」


ほむら「…………」


ほむら「私の記憶を一部覗くことになる、そう言っていたわね」

ほむら「私の過去にたとえ何を見たとしても、誰にもそれを漏らさないで欲しい」

452: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 13:29:14.37 ID:FX1/g9hvo


沙々「……誰にも、ってこうして念押しするということは、何かよほど後ろめたいものがあるんですか?」


ほむら「誰にも、とは言ったけど、本当に知られたら困るのはまどかに対してよ」

ほむら「しかし情報は握るものが増えれば増えるだけ漏洩のリスクが高まる」

ほむら「だから漏らさないで欲しいと言っているの」


ほむら「どんな些細な取っ掛かりであれ、知ってしまえば興味が湧いてくるのが人の性」

ほむら「私はあの子をずっとそばで守ってあげられるわけじゃない」


ほむら「これ以上、足枷のようなものになりたくないの」


ほむら「今はあなたの魔法でまどかの契約を阻止している」

ほむら「魔法少女の素質というものが曖昧である以上、いつまで続ければいいか定かじゃないけど」

ほむら「それだって、いつまでも続けられるものではないでしょう?」


沙々(もっと色々弄ったり触らせてもらえれば、わたしが死んだ後も解けない魔法は可能ですが)

沙々(あまり鹿目さんの心に干渉されることを好まないのはわかりきっています)

沙々(下手に話がややこしくなると嫌ですからここは黙っておきましょう)


沙々(例えばキュゥべえが、わたしの死後に何か干渉した場合とかまで保証することは無理ですし)


ほむら「彼女には自らの足で、前を見て歩いて行ってもらわないといけない」

453: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 13:35:22.96 ID:FX1/g9hvo


沙々「……えー、細かい話は今のところいいんですけど」

沙々「それを受けることによって、わたしにどんなメリットがありますか?」


沙々 ほむら「…………」


ほむら「ワルプルギスの夜を討伐後、残った銃火器を贈呈するわ」


沙々「グリーフシードは?」


ほむら「余ったグリーフシードは既に佐倉杏子との間で話がついてるの、ごめんなさい」


沙々「だけど魔法の代物貰ってもわたし困りますよ。消えちゃいますし」


ほむら「魔法で作ったものじゃなくて正真正銘本物よ」

ほむら「私が色々な所から武器を収集しているのは知ってるでしょう?」


沙々「いやいやいやいや!そんなの貰っても、日々警察に怯えなきゃいけなくなるだけじゃないですか!」

沙々「武器にしたいと仮に思ったとしても、わたしじゃ結界の中に持っていけませんって」


ほむら「でも、それ以外に私があげられる物って……」


沙々 ほむら「…………」


沙々「うーん、じゃあ仕方ないので、ワルプルギスの夜を無事に越えてから、そういうことは考えましょうか」

沙々「秘密の内容によっても考えますが、一応大きな貸し一つってことで」

454: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 13:49:07.34 ID:FX1/g9hvo
~☆

ーワルプルギスの夜襲来 前夜 マミホームー


マミ「暁美さんの言っていたことが正しければ、明日はいよいよ決戦の日ね」


沙々「暁美さんの予測、間違ってる可能性が僅かでもあると思いますか?」


マミ「そうだったら涙が出るほど嬉しいんだけど、間違ってるとは思わないわ」

マミ「本当に明日来るんでしょう」

マミ「長年の経験って言うのかしら、嫌な予感がするもの」


沙々「そういえばキュゥべえに聞いたら言ってましたよ」

沙々「ワルプルギスの夜は確かに近い内に来るって」


沙々「具体的な日にちがいつなのかまではわからなかったようですけど」

沙々「暁美さんの情報の根拠を強化してくれますね」


マミ「……優木さん、いまだにキュゥべえと普通に接するわよね」

マミ「その心の持ちようが、少し羨ましいわ」


沙々「自分から探しに行くようなことは極力しませんけど、だってあいつ便利ですし」


マミ「あなたのそういうところ、本当に変わらないわね」クスッ

455: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 13:51:18.92 ID:FX1/g9hvo


マミ「あなたと出会ってから、本当に色々あった」


マミ「……ふふ。私ね、ずっと考えてたことがあるの」

マミ「あなたのことを色々知ることができた今、心にようやく決まったことがあるの」

マミ「聞いてくれる?」


沙々「もちろんですよ。聞かない理由がないじゃないですか」

沙々「大事な話、なんですか?」


マミ「ええ、とっても大事な話」












マミ「――レクス・ネモレンシス(森の王)」


沙々「えっ?」

456: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 13:57:20.57 ID:FX1/g9hvo


沙々「……今、なんて言いました?」


マミ「色々探して、良さそうなのを見つけるのにだいぶ苦労したのよ」


マミ「あなたの他人を操る魔法、その神髄、奥義」

マミ「複数の人間を繋ぎ合わせ、自分と他者を同一の目的の元に収斂する」


マミ「あなたは一本だけでは立ち続けるのも難しい弱々しい灌木」

マミ「だけど一人でダメでも二人なら、二人でダメでも三人ならば」

マミ「木々の集まりが森を形成するように、いくらでも強くなれる」


マミ「優木さん、あなたは特別な聖なる木なの」


マミ「魔法少女という木々が育つ地中に根を深く伸ばし、輪の中心となって相互に伝達、全体を統率する」

マミ「その有り様はまさに、森の王と呼ぶにふさわしい」



マミ「って、設定を考えておいたけど、どう?」

457: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 14:00:17.68 ID:FX1/g9hvo


沙々「えっ?どうと言われても戸惑うばかりなんですが」

沙々「なんでしたっけ、レク、レク……?」


マミ「レクス・ネモレンシス、森の王という意味らしいわ」


沙々「あー、はいはい、レクス・ネモレンシス、レクス・ネモレンシス」


沙々「…………」


沙々「あなたのこういうところも、本当に変わりませんね」


マミ「こういうのは心意気が大事だっていつも言ってるでしょう?」


マミ「……明日は頑張って、生きてワルプルギスの夜を倒しましょうね。優木さん」


沙々「言われなくても、私は裏方支援の類ですから大丈夫だと思いますよ」


マミ「もう、そういうことは言わないのっ!心意気が大事なんだからっ!」

458: ◆2DegdJBwqI 2013/12/04(水) 14:04:20.82 ID:FX1/g9hvo


沙々「軽い冗談ですよ、冗談」


沙々(それにしても見たところ、相当気を張っていますね)


沙々(彼女だって、さすがにワルプルギスの夜と戦うのは恐ろしい)

沙々(わたしの必殺技の名前調べて考えて、はやる気を紛らわせたりしてたんでしょう)


沙々(……必殺技を叫ぶ機会がなさそうなだけ、だいぶましか)


沙々(大体どうしてわたしだけ――)

沙々(うん?待てよ?)


沙々「ねぇ、マミさん」


マミ「何かしら?」


沙々「佐倉さんもあなたの弟子だったということは、既に何か必殺技があったりするんですか?」


マミ「佐倉さん?佐倉さんはね――」

462: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 14:48:10.30 ID:hxf9l/eSo
~☆

ーワルプルギスの夜 当日 避難所ー


沙々「前に試した時は大丈夫だったんですが、万が一ということもあります」

沙々「例えば長時間意識が離れていたせいで、呼吸などの生命活動が停止するとか」


沙々「つまり死体と変わらない状態になる、なんてことが起こったとしても」

沙々「暁美さん曰くソウルジェムさえ身体から離さなければ大丈夫だそうです」


沙々「だからそうなっても慌てずに、ただし周りの目は気にしておいてください」


まどか「うん、わかった」


沙々「それじゃわたしの身体とソウルジェムのこと、よろしくお願いしますね」


まどか「うん」


沙々「よし、これでもう事前にやり残したことは……」


沙々「……あ」ビクッ


沙々「そう言えば一つ、大事なこと忘れてましたよ」ゴソゴソ


まどか「?」


沙々「これを、わたしの身体に絶えずくっつけておくようにしてください」スッ

463: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 14:53:24.00 ID:hxf9l/eSo


まどか「これは?」


沙々「タリスマン、と呼ばれる物です」

沙々「これって作るの大変だったんですよ」


沙々「マミさんが魔法のリボンから手軽に何かを生み出すのと違って、正真正銘手作りですから」

沙々「おかげで呪術的というか、一風変わったアイテムとして様々な用途に長く使えますけど」


沙々「今回はわたしの意識が帰って来られるようにという目印ですね」

沙々「何度か三人とシミュレーションを繰り返す内に、そうした方がいいという結論に至りました」


まどか「……優木さんは、怖くないの?」


沙々「怖いって?」


まどか「だって、こんな自然現象を引き起こす魔女とこれから戦うんだよ」

まどか「普通誰だって怖いはずだよ」

464: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 14:56:30.92 ID:hxf9l/eSo


沙々「どうなんでしょうね」

沙々「えー、実物もまだ見てないし、どうも実感が湧かないと言いますか」


沙々「それに実物がどうあれ、少なくともここでわたしの肉体は守られている」

沙々「鹿目さんに任せれば安心だとわたし、信じてますから」ニコォ




まどか「……やめてよ」ボソッ


まどか「そんな風に無理やり、私もみんなの輪に加えてくれるような言い方」

まどか「そんなの、私がいなくたってどうにかなるよ」


まどか「優木さんだって、面と向かっては戦えないなりに、ワルプルギスの夜を倒そうとしてる」

まどか「でも私ができることって、こうして避難所で震えて皆が無事に帰ってくるのをただ待つだけ」


まどか「今更だけどつくづく私って、本当に何もできないんだね……」


沙々「…………」


沙々「いいえ、決してそんなことはないです」

沙々「戦うことに囚われすぎているからそういう発想になるんです」

465: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 15:00:22.55 ID:hxf9l/eSo


沙々「戦える人間が戦うのは当然のこと。そして戦うことだけが何も全てじゃない」

沙々「できることをできる人間がやればいいんです」


沙々「あなたが戦ってしまえば、下手をすればこの世界が終わってしまうかもしれない」

沙々「そんなの嫌でしょう?」


沙々「というか第一、この戦いが終わったらすぐ」

沙々「あなたにしかできないとても大切な仕事が一つ、待ってますけどね」


まどか「……えっ?」





沙々「暁美ほむら。生還した彼女を親身に労ってあげるのがあなたの大仕事です」


沙々「今までよく頑張ったねって暁美さんを褒めてあげてください」


沙々「わたしのことを守ってくれてありがとう。助けてくれてありがとう」



沙々「その言葉だけで、きっと彼女の人生は救われたものになるでしょうから」

466: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 15:07:39.33 ID:hxf9l/eSo
~☆


空中に逆さの状態で浮ぶ巨大な魔女、ワルプルギスの夜。


それに決死の覚悟で命を削り挑む、三人の魔法少女。


三人分の情報を迅速に、適切な形に組み換えて、それぞれへと伝達し直す。


その感覚たちはどこまでもリアルで、にもかかわらず、自分自身はその場のどこにも存在しない。


白昼夢さながらの光景と体験。攻撃を避けて、攻撃を加える。

467: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 15:09:19.05 ID:hxf9l/eSo


わたしの魔法の手助けがあっても、処理速度ギリギリで行われるそれらの繰り返し。


戦いのこと以外を考える余裕は微塵もない、そんな時間が刻々と流れていく。


徐々に、最も心の奥深く繋がった巴マミの中へと、自分が埋没していく。


まるで自分が巴マミであるような錯覚を抱き始めていた。


躍動する手足。極限まで思考は冷徹に研ぎ澄まされ、躊躇いなく銃の引き金を引く。


リボンが伸びやかな様で自在に宙を舞っている。

468: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 15:11:40.85 ID:hxf9l/eSo


どうしようもない規格外の怪物が目の前にいるというのに、恐怖は感じない。


一つの身体に存在する全く別の二つの人格、一人ではないから?


それともやはり、その場に自分の本当の身体がない、それが傍観者のような平静さを生み出している?


元の身体のままでは想像することも許されないような、壮絶な戦いに身を投じているこの瞬間の自分。


わたしが巴マミを動かしているわけじゃない。ただその場に繋がりとして居合わせただけ。


なのに、奇妙な満足感と全能感が、そこにはあった。



469: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 15:16:38.01 ID:hxf9l/eSo
~☆
 
ー数か月後 見滝原ー


沙々「あのですね、キュゥべえ」

沙々「佐倉さんと仲良くなる方法って何かありません?」


QB「これまた急な相談だね。何か新しい問題でも?」


沙々「だって、いくらなんでも彼女とわたしの関係って、悪すぎると思うんですよ」

沙々「もう出会ってだいぶ経ちますよ?少しくらい、そろそろ改善されてもいいでしょうに」


QB「……それは正直難しいと思うよ」

QB「キミたちの不和は、人間的な相性だけが問題のモノじゃないし」


沙々「どういう意味ですか、それ?」


QB「どういう意味ってそのままの意味さ。杏子がキミを受け入れられないのは当然だよ」

QB「何しろ彼女は、いまだに潜在的に自分の願いを拒絶し続けたままなのだから」


沙々「…………」


沙々「えーと、願いの拒絶がどうわたしと関係してるんですか?」

470: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 15:20:18.91 ID:hxf9l/eSo


QB「キミには前も似たようなことを話したと思うけど」

QB「願いの否定というのは固有魔法の否定も含み込むものだ」


QB「彼女の固有魔法は幻覚、つまりは精神に作用する魔法」

QB「彼女はそれを心のどこかで願いと共に拒絶せずにはいられない」


QB「杏子がキミを嫌うのは、キミの人格や行為が気に入らないからだけじゃない」

QB「自分の中にある醜いモノを君の中にも重ねる、無意識に投影せずにはいられないんだ」


沙々 QB「…………」


沙々「それだと例えば、もしわたしが完璧な人間で」

沙々「欠点の何一つない人間だったとしても――」


QB「杏子はキミを、何故か気に入らないと考えることだろうね」


沙々「…………はぁ」グッタリ


QB「杏子が自身の願いを改めて受け入れること、つまり願いを必要だと実感すること」


QB「それがキミと杏子が歩み寄る、親しくなるには必要不可欠だろう」

QB「だけど、これはあくまでボクの推論の域を出ない話であって――」


沙々「いいです。凄い納得しましたから」

471: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 15:25:31.47 ID:hxf9l/eSo


沙々「じゃあ、もう一つ聞きたいことを」


QB「なんだい?」


沙々「あなた、最近鹿目さんの前に姿を見せてないそうですね」

沙々「いったい何を企んでるんですか?」


QB「特に何も企んでなんていないよ?」

QB「どうしてそんなことを?」


沙々「あなたを信用してないってことですよ」

沙々「なんで、鹿目さんに接触しようとしないんですか?」


QB「だってキミが、まどかの契約という選択を禁じる魔法をかけているからね」

QB「いくら彼女をその気にさせたとしても」

QB「無意識の領域でその行動が否定されていたら意味がない」


QB「全く、厄介なことをしてくれたものだ」


沙々「……それで諦めるような、あなたですか?」


沙々「どうにも話がきな臭いんですよねぇ」

472: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 15:34:38.44 ID:hxf9l/eSo


QB「それは考えすぎだよ」

QB「元々ボクのプランとしてはまどかとの契約を」

QB「ワルプルギスの夜が過ぎるまでに済ませるはずだったんだ」


QB「普段の彼女にはこれといった強い欲望がない」

QB「契約には強い感情があればあるだけ好ましいというのに」


QB「そんな彼女を強く揺さぶる数少ないものの一つ、それは他者の不幸、不条理だ」

QB「だからボクは適度な干渉を行いながら待つことにした」


QB「まどかの契約を阻害する動きもあったからね」

QB「契約せざるを得ない状況でもちかけるのがベスト」


QB「見滝原に存在する四人の魔法少女。やってくるだろうワルプルギスの夜。問題は山積みだ」

QB「キミたちの脱落、それを覆そうとするなんらかの契約が最も理想的だと判断した」


QB「それがまさか最後まで、無傷で誰も欠けることなくワルプルギスの夜を退けるなんてね」

473: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 15:42:47.78 ID:hxf9l/eSo


沙々「満身創痍ギリギリのところで、追っ払っただけですけどね」


QB「それだって予想外の快挙さ」

QB「これでワルプルギスの夜は数百年、自分の結界の中で力を蓄えるだろう」

QB「キミたちにとっては事実上倒したこととほぼ同義だ」


QB「ワルプルギスの夜がここまで攻めあぐねるなんてね」

QB「運が良かったのか、それともほかに何か普通じゃない要因があったのか……」


沙々「それで?なんで鹿目さんに接触しようとしてないのか」

沙々「その理由についてはどうもまだ少し足りない気がしますが」


QB「いつもなら、魔法少女になる子の願いを考慮する必要なんてない」

QB「素質に応じて叶えられる結果には契約の範囲内でセーブがかかる」


QB「でも鹿目まどかは文字通り、何でも、叶えることができるからね」

QB「彼女の願いを叶えるための歪みで、宇宙が崩壊することすら考えられるんだ」

474: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 15:46:57.84 ID:hxf9l/eSo


QB「最初に気軽な気持ちのまま契約を取り結べなかった以上」

QB「キミたちのため、といったわかりやすい動機がなくてはかなりリスクがあるんだよ」

QB「しかも無事に魔女化してもらえるかどうかもわからない」


QB「だからワルプルギスの夜を倒すため」

QB「もしくはキミたちを甦らせる等の願いで契約してもらおうとした」

QB「それらに失敗した今、まどかに対して積極的に動いてもボクにとって確実な利が少ない」


沙々「それが、あなたたちが鹿目さんに接触しない理由ですか?」


QB「本当に必要なら、あるいは契約に何も障害がなければ、やるだろうね」

QB「だけど魔法少女というシステムがきちんと機能してる以上、なくても困らないのさ」


QB「一度に回収できるか、時間をかけて細かく回収するかの違いでしかない」

QB「エネルギー回収のノルマが達成されるまでの間」

QB「キミたちの文明が続くかというリスクの微妙な天秤だと言い換えてもいい」

475: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 15:56:31.06 ID:hxf9l/eSo


QB「勘違いしないでほしいのは、ボクはキミたち人類に」

QB「別に悪意を持っているわけじゃないんだ」


QB「契約には自由意志が必要なのもあるけど」

QB「ボクは努めてキミたちへの干渉を平等に、かつ最小限に留めている」


QB「五人目の魔法少女にするため、さやかと契約しようと無理やり画策したり」

QB「関係をかき乱すため、勝手にキミの本性や来歴を」

QB「マミや暁美ほむら、杏子に伝えたりはしなかっただろう?」


QB「その代わり善意でやってるわけでもないから」

QB「聞かれなければそのまま言わないことも多いけど」


沙々「……ふん」

沙々「ではあなたの目から見て、人類の未来は明るそうですか?」

476: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 16:03:47.72 ID:hxf9l/eSo


QB「どうだろう。技術というものは発展の途上にある内は」

QB「それが進むにつれ力の制御を失って」

QB「再建不可能の失敗をしてしまうリスクも高まる」


QB「ただ社会が肥大化していけば、価値観の相対的な関係から」

QB「より大きな幸福と不幸がそこに生まれることだろう」


QB「人は自分と他者を見比べて、幸福を判断する生き物だからね」

QB「人類の、というよりエネルギー回収の未来は明るいと言える」


沙々「……やれやれ。キュゥべえの話をずっと聞いてると、嫌な気疲れがしてきますよ」


沙々(こいつが見ているのはわたしが死んだ後の話)

沙々(スケールデカすぎてとても手に負えません)


沙々(わたしが死んだ後のことなんて気にしたってしょうがない)

沙々(やっぱり未来の誰かに丸投げしときましょう)


沙々(できる人に、そういうのはやらせとけばいい)

477: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 16:10:30.50 ID:hxf9l/eSo
~☆

ーほむらホームー


沙々「どうですか?魔法の調子は?」


ほむら「ええ、何も問題なく機能してる」ガチャガチャ


沙々「絶対忘れないで下さいよ」

沙々「盾の収納魔法くらいしか残ってなかったあなたが生き延びていられるのは」

沙々「全部わたしのおかげなんですから」


ほむら「巴マミと杏子の二人から寂しくあぶれても」

ほむら「あなたが魔女と戦えるのは私のおかげでしょ」ガチャガチャ


沙々 ほむら「…………」


沙々「はっ、何を言い出すかと思えばくだらない」

沙々「佐倉さんには譲ってあげてるんです」


沙々「その気になって強気で談判さえすれば」

沙々「あっという間に元の立ち位置に復帰できますよ」

478: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 16:15:29.88 ID:hxf9l/eSo


ほむら「その気になる日なんて、くるのかしら?」

ほむら「争うあなたたちを見る時の巴マミの悲しそうな顔」


ほむら「それが嫌で、杏子が打ち解ける様子を見せるまで」

ほむら「私と二人で組むなんて提案したんでしょ?」


ほむら「杏子はそう簡単には態度を軟化させないでしょうね」

ほむら「おそらくあなたと組むくらいなら風見野に閉じ籠もってしまうくらいに」


ほむら「私がいないと困るのはあなたも同じ。これは対等な契約よ」


ほむら「大体、放っておいてくれてれば私は黙って生命を絶っていたわ」

ほむら「それを助けただの恩着せがましく蒸し返されるのは気に食わない」


沙々 ほむら「…………」


沙々「だって、それにしたってハードじゃないですか」

沙々「銃火器の弾丸等を生成して装填し、それを盾に収納する」

沙々「消滅せずに貯められるのはいいですけど、下準備に魔力がかかり過ぎる」


沙々「これじゃ余分なグリーフシードを全然確保できない」

沙々「恩にでも着せとかないととてもやってられません」

479: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 16:24:12.11 ID:hxf9l/eSo


ほむら「仕方ないわ。それが私とあなたの魔法の限界なのだから」


ほむら「優木さんは、わざわざ私に巴マミの魔法の要領を横流ししてくれている」


ほむら「それは自分が使っても、あまり上手くいかないからそうしてるんでしょう?」

ほむら「誰かを操る、というところにあなたの魔法の本質はあるのだから」


ほむら「その面倒なひと手間を加えているのに」

ほむら「あの人の魔法と全く同じようにとはいかないのは残念だけど」


沙々「わたしが悪いって言うんですか?」


ほむら「いいえ、私の才能がないせいよ。あなたのせいじゃない」


沙々(……その才能のない魔法少女と、なんでわたしはここまで戦闘力に差がつくのか)


沙々(深く考えるのはやめましょう)


沙々(ほぼ期間限定とはいえ、時間を巻き戻せる奴だっておかしいんです)

480: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 16:28:47.90 ID:hxf9l/eSo


沙々 ほむら「…………」


沙々「最近わたしたちが風見野を見回ってること多いと思うんですけど、おかしくないですか?」


ほむら「どうでもいい。魔女がいて、グリーフシードが手に入れば」


ほむら「それよりも最近、あなたを盗られた巴マミが時々」

ほむら「嫉妬の目つきで私を見つめてくる方が余程困る」


沙々「……よくわからないけど大変そうですね」

沙々「わたしだって、マミさんと組めた方が気楽ですよ」


沙々「どうにかあなたから佐倉さんを説得して」

沙々「わたしと一緒に戦うことを認めさせてくれません?」


ほむら「それができるならとっくにやってる」

ほむら「巴マミだって現在進行形でやってるだろうし」


沙々 ほむら「…………はぁ」

481: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 16:30:50.02 ID:hxf9l/eSo
~☆

ー ゲームセンター ー


仁美「優木さんはゲームセンターに来たことはありますか?」


沙々「ええ、まあ、一応」コクッ


仁美「私、こう見えてこういうゲームに結構強いんですのよ」

仁美「さやかさんに散々鍛えられましたから」


沙々「へー、そうなんですか」

沙々「鹿目さんは?」


まどか「ふ、普通かな?」


沙々(改めて、なんで三人でゲームセンターなんて来てるんでしょう?)

沙々(これじゃあ本当に友達みたいじゃないですか)


沙々(でも……、家柄のいい子と繋がりを持っておくのは有利ですし……)

沙々(まぁ、いいか)

482: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 16:32:59.70 ID:hxf9l/eSo


沙々「まず何をします?志筑さんの好きなのからでいいですよ?」


仁美「ではまずは、私の最も得意なパンチングマシーンから」

仁美「私の実力をこれでもかとお見せしますわ」


仁美「目をしっかり見開いて見ていて下さいね?」


沙々「あー、はいはい」

沙々(お嬢様ですし、どうせへにゃへにゃの……)


仁美「――っ!」スッ


ボコォッ!


沙々「!?」

沙々(えっ、これが女子中学生のパンチ……!?)


まどか(みんな最初はそうなるよね、うん)

483: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 16:34:11.70 ID:hxf9l/eSo
~☆

ーマミホーム 夜ー


マミ「どう?最近楽しい?」


沙々「ぼちぼち、ですね」


マミ「面白い話でもあった?」


沙々「面白い話というか……」

沙々「前に話した仁美って子、パンチも凄かったです」


マミ「パンチ?」


沙々「本当のお嬢様って格闘も求められるんですね、わたし知りませんでした」

マミ(流石にそんなことはないと思うけど……)


マミ「なんだか随分面白そうな人ね、私もいつか会ってみたいわ」


沙々「じゃあいつか紹介しますよ」

484: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 16:40:30.98 ID:hxf9l/eSo


沙々「……それはそれとして、佐倉さんとそろそろ少しは打ち解けたいんですけど」

沙々「何か方法ありません?」


マミ「頑張って説得してるけど、無理ね」


沙々「やっぱり……、ですか」


マミ「でも、少しは打ち解けてきたんじゃないかしら?」


沙々「え?」


マミ「こうして私とあなたが、二人同じ屋根の下で暮らしてることを認めてるのよ」

マミ「一緒に戦ったり顔を見たりするのは本気で嫌がってるみたいだけど]

マミ「最初のアレからは考えもつかないような進歩だわ」


沙々「ポジティブですね……」


マミ「いいじゃない、生きてさえいればまだまだ時間はあるんだし」

マミ「暁美さんと一緒に二人で戦うのだっていい経験でしょう?」

マミ「暁美さんほどの凄腕になら優木さんを任せられる」


沙々(マミさんは暁美さんが時間停止使えなくなってるの知りませんからねぇ)

沙々(それはそうですよね、時間停止が暁美さんの能力だということをまず知らない)

沙々(でも口止めされてるからわたしからそれをばらすわけにもいきませんし……)

485: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 16:45:11.52 ID:hxf9l/eSo


沙々「え、ええ、そうなんじゃ、ないですか?」


マミ「私は今佐倉さんに鍛え直してもらってるところよ」

マミ「結構強くなったんだから」


マミ「佐倉さんだってやっぱりマミさんは筋がいいねってニコニコ言ってくれてるし」

マミ「ああ見えて、私と二人きりの時はかなりくつろいだ様子なのよ、最近のあの子」

マミ「できのいい妹が新しくできた気分ね」


沙々「……もしかして佐倉さん、二人きりの時は甘えてきたりします?」



マミ「ふふ、それは秘密」クスッ


マミ「生きてれば、焦る必要なんてないわよ」

マミ「きっと四人で肩を並べて戦えるようになるはずだわ」


マミ「だって優木さんは、私とずっと一緒にいてくれるんでしょう?」


沙々「ええ、それはまあ前に約束しましたから」



486: ◆2DegdJBwqI 2013/12/08(日) 16:46:50.28 ID:hxf9l/eSo




沙々「――それにわたしは、マミさんの弟子、ですからね」






                                  終わり