前回 東郷あい「彼女のいない事務所で過ごす彼」

1: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 00:53:41.20 ID:8eFJHDuL0

カランコロンカラン

マスター「いらっしゃいませ」

P「ども」

瞳子「Pさん……ここって」

P「ああ、俺と瞳子が初めて会ったバーだよ」

マスター「ああ、どなたかと思えば瞳子さんにPさんじゃないですか。お久しぶりですね」

P「ええ、お久しぶりです。とりあえず、瞳子が良く飲んでたの二つ下さい」

マスター「かしこまりました」

P「ほら、瞳子隣座れよ」

瞳子「え、ええ……」

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引用元: 服部瞳子「彼に連れられたバーで過ごす十月十一日」 


 

2: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 00:54:55.95 ID:8eFJHDuL0
P「瞳子」

瞳子「何かしら?」

P「誕生日、おめでとう」

瞳子「えっ……」

P「悪いな。ロマンチックとかそういうの、苦手でさ。いいシチュエーションとか作れなかった」

瞳子「……気にしないで。祝ってくれるだけで嬉しいから」

P「そうか。……もう一つ、謝る事がある」

瞳子「もう一つ……?」

P「ああ。…………悪い。あの時の約束、まだ果たせなくて」

瞳子「…………」

3: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 00:55:42.41 ID:8eFJHDuL0
――――

P『こんばんはー』

マスター『おや、Pさんいらっしゃいませ。何にしましょう』

P『あはは、懐寒いんで一番安いヤツで』

マスター『ふふ、かしこまりました』

P『…………お』

瞳子『…………』

P『……あの人、いつも来てるな』

マスター『……惚れましたかな?』

P『間違っちゃいないかな。ちょっと声かけてみます』

マスター『ご武運を』

4: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 00:56:36.62 ID:8eFJHDuL0
P『隣、いいかな』

瞳子『……どうぞ』

P『……名前、聞いても?』

瞳子『……服部瞳子よ』

P『瞳子、か。どこかで聞いたような……まあいいか。俺、こういう者なんだけど』

瞳子『……CGプロダクション……?』

P『あんたさえ良かったら……ウチでアイドル目指してみないか?』

瞳子『……名前を聞いておきながら、私をアイドルに誘うなんて、何かの皮肉?』

P『へ……?』

瞳子『いえ、ごめんなさい。少し自意識過剰だったみたい。知らなくても当然よね』

5: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 00:57:37.52 ID:8eFJHDuL0
P『……服部、瞳子…………そうだ、思い出した。七、八年前だったか、そんな名前のアイドルが……』

瞳子『ええ、それが私よ。結局、夢を掴むことなく、リタイアしてしまったけどね』

P『…………』

瞳子『悪いけど、私はもうあの舞台に立つことは出来ないわ』

P『…………何があったかは、聞かない。多分、言いたくないだろうしな』

瞳子『そうしてもらえると、嬉しいわ』

P『でもな、そのカバンの中……』ガサガサッ

瞳子『あ、ちょっと……』

P『アイドル雑誌だ。最近の号なのに、何度も何度も読み返したようにボロボロ……』

瞳子『…………』

6: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 00:58:30.88 ID:8eFJHDuL0
P『まだ、未練があるんじゃないのか?』

瞳子『……全く無い、といえば嘘になるわ』

P『なら……』

瞳子『でもね、一歩踏み出せないのよ。あの時の事を思い出すと』

P『…………』

瞳子『思い出す度に、肩も脚も震えだして……結局こうしてお酒に逃げる。もう何度もね』

P『…………』

瞳子『もう私は、あのスポットライトを浴びられないのよ。分かるでしょ?』

P『…………いや、そうは思わないな』

瞳子『え……?』

7: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 00:59:31.12 ID:8eFJHDuL0
P『本当にその気が無いなら、名刺を見た時点でさっさと帰ったっておかしくない』

瞳子『…………』

P『もう舞台には立てない、もうスポットライトは浴びられない。でも……』

瞳子『…………』

P『まだ《立ちたい》んじゃないか? まだ《浴びたい》んじゃないか?』

瞳子『! ……』

P『瞳子にその気があるのなら、俺にサポートさせてくれ。必ずお前を、大きなステージに上がらせてやる』

瞳子『…………いいの? トラウマを抱えた女って、面倒よ?』

P『面倒なら、とっくに何人も抱えてるよ。今更一人増えたってどうってことないさ』

瞳子『……ふふっ、面白い人ね……』

8: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 01:01:23.40 ID:8eFJHDuL0
マスター『またお越し下さい』

P『明日、空いてるか?』

瞳子『ええ』

P『そうか、なら十時にプロに顔出してほしい。形式的にオーディションを受けてもらう』

瞳子『分かったわ。……ねえ、Pさん』

P『どうした?』

瞳子『私を大きなステージに、って……約束よ?』

P『……ああ、もちろん。お前を不死鳥みたいに舞い戻らせてやる』

瞳子『ふふ、頼もしいわね。じゃあ、また明日』

P『ああ、またな』

9: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 01:02:17.28 ID:8eFJHDuL0
――――

P「まだ、お前に大きな仕事を回してやれてない。……約束は、まだ果たせてない」

瞳子「そんな…………」

P「俺の腕が悪いからだな。瞳子、本当にすまん」

瞳子「……気にしないで、Pさん。だって……」

P「だって……?」

瞳子「私はPさんのお陰で、またアイドルをやろう、って思えたんだから。それだけでも充分よ」

P「瞳子……」

瞳子「それに、期限は決まってないわ。まだまだチャンスはあるってことよ」

P「……ありがとな」

瞳子「ええ」

10: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 01:02:58.19 ID:8eFJHDuL0
P「まさか、瞳子から励まされるとはな」

瞳子「あら、それはどういう意味かしら?」

P「ああ、悪い悪い。……っと、そうだ。プレゼントがあるんだ」

瞳子「私に? 何かしら……」

P「ほら、これ」

瞳子「……イヤリング……?」

P「オパールだよ、十月の誕生石。石言葉は真実・友情、あと……」

瞳子「……希望、ね」

P「何だ、知ってたのか」

瞳子「……ふふ、ありがとうPさん。最高の誕生日プレゼントよ」

11: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 01:03:43.24 ID:8eFJHDuL0
マスター「…………」スッ

P「ん?」

瞳子「あら……このお酒、頼んでいないけど?」

マスター「お気になさらず。私からのバースデープレゼントです」

瞳子「そういうことなら、ありがたくいただくわ」

P「こういう所に連れて来ておいてなんだけど、あんまり飲みすぎるなよ?」

瞳子「大丈夫よ、こう見えて心がけてるから」

P「……まあ、いいか。マスター、俺ももう一杯お願いします」

マスター「はい、Pさんの分はしっかり料金いただきますがね」

P「……手厳しいことで」

12: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 01:04:45.94 ID:8eFJHDuL0
マスター「またお越し下さい」

P「……うっぷ」

瞳子「人に飲みすぎるなと言っておいて、それじゃあ格好つかないわね」

P「面目ない……」

瞳子「それで明日大丈夫なの?」

P「あ、ああ……俺明日オフだから……」

瞳子「ああ、そうだったわね。……じゃあ明日みんなにこのイヤリング自慢してまわろうかしら」

P「ぶっ!? そ、それだけはやめてくれ……留美さんに吊るし上げを食らう……」

瞳子「ふふ、冗談よ」

P「冗談に聞こえなかったぞ……」

13: ◆JZ7iYv4mkA 2013/10/11(金) 01:05:20.16 ID:8eFJHDuL0
瞳子「……ねえ、Pさん」

P「ん?」

瞳子「正直に言うと私、あなたにスカウトされてからもまだ迷ってた」

P「…………」

瞳子「またダメなんじゃないか、なんて、最初のころはずっと考えてた」

P「…………」

瞳子「でも、今は…………」


瞳子「…………お仕事、とても楽しいわ」


おわり