1: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:32:24.93 ID:u/An8gSe0
提督「箱?」
雪風「これです!倉庫を整理してるときに、雪風が見つけました!」
提督「おぉ……たしかに」
提督「なんだかいかにもって感じの、古めかしいデザインの箱だぁ」
雪風「えっへん!」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1480023144
引用元: ・【艦これ】雪風「しれぇ!ヘンテコな箱が見つかりました!」
2: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:33:06.45 ID:u/An8gSe0
提督「こりゃおそらく、そうとう昔の鎮守府で使われていた無線機だな」
雪風「無線機?この変な箱がですか?」
提督「うん、たしか……そうだったと思うが」
雪風「へぇ~!」
雪風「……あ、そうだ!」
雪風「しれぇ!」
3: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:33:54.05 ID:u/An8gSe0
雪風「もしよければコレ、雪風が頂いてもいいですか?」
提督「あぁ、とっくの昔に使われなくなったものだし、別にかまわんが……」
雪風「ありがとうございますっ!」
雪風「これが“れとろ感”ってやつですね!雪風、なんだか気に入っちゃいました!」
提督「でも……もう壊れてると思うぞ、これ」
雪風「えっ、そうなんですか!?」
提督「イヤ、露骨にがっかりするなよ……当たり前だろ?」
雪風「しゅん……」
4: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:34:48.38 ID:u/An8gSe0
提督「とにかく、今日はもう遅い」
提督「明日は朝から鎮守府の一般公開もあるからな」
提督「いつもみたいに菓子食って夜更かししてないで、さっさと寝ちまいなよ」
雪風「うぅ~……」
……
…………
………………
ネロネロネロ ミナ床トッテ……
雪風「フタヒトサンマル……消灯時間……」
雪風「お菓子よし、懐中電灯よしっ……」
雪風「ごめんなさいしれぇ!夜戦、開始します!」
5: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:35:30.19 ID:u/An8gSe0
雪風「しれぇはああ言ってましたけど」
雪風「後生大事、物を大切にすれば……」
雪風「この無線機だってきっと、使えるようになるはずです!」
雪風「今日は夜空が変な曇り方をしているので、あまりいい電波は届かないかもしれませんが……」
雪風「ふだんの演習用の無線機と、これの配線は取り換え済み!」
雪風「あとは適当な“しゅーはすー”に合わせて、雪風がいつもの要領で使ってあげれば……!」
6: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:36:19.58 ID:u/An8gSe0
ガチャ
雪風「えっと、昔のものはこうして使うのかな?」
雪風「えー、“しーきゅーしきゅー”!」
雪風「こちら、雪風です!」
雪風「どなたか応答を、どうぞ!」
シーン……
雪風「やっぱり、だめですよね……」
7: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:37:00.41 ID:u/An8gSe0
雪風「うんともすんとも言いません……」
雪風「いくらなんでも、壊れちゃったものはどうしようもありませんよね」
雪風「はぁ……」
『……ザ……ッ……』
8: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:37:46.74 ID:u/An8gSe0
雪風「この無線機でもし、どこかの知らない人とお話ができたら」
雪風「すっごく素敵だと思ったのに……」
『……ザッ……ザ……』
雪風「……でも、仕方ありませんねっ」
雪風「今夜はホゲモンでもしながらお菓子を食べて、早めに寝まし……」
『……!……ザッ……!』
9: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:38:36.41 ID:u/An8gSe0
『……イC…………ハイC.ヒト……ハイ……ト……!』
雪風「へ?」
『……応答…………ぞ!……をど……ぞ!』
雪風「きゃっ!」
10: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:39:18.98 ID:u/An8gSe0
雪風「やりました!誰かと繋がったみたいです!」
『……気の……だっ……?』
『たし……我々宛て……波を受信……たと思っ……なぁ……』
雪風「え、ええ、えーと!こ、こちらは“じゅりえっと”、“つー”、“けべっく”――」
雪風「――です、どうぞ!」
11: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:40:02.24 ID:u/An8gSe0
『!?』
『ほ……!ホホ、C、タナ……ゼロ、フタ、ロク――』
『ホネ、お……女の子が……を使用し……るのか!?』
『固有略符……聞い……とのない……だが、日本から……か?』
『何に……も驚きだ……ど、……ぞ』
雪風(わぁ……!なんだか、ワクワクしてきちゃいました!)
雪風(でも、雑音がひどくてなんだか聞き取りにくいですねっ)
12: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:40:57.85 ID:u/An8gSe0
雪風「えぇーと、そうです!こちらは日本です!」
雪風「何故でしょう、お返事がすごく遅れて聞こえてきますね!どうぞ!」
『そうか、や……内地か!こ……現在、徳山…………田尻沖』
『内地から……う離れて……ないからな』
『同様の……で混線し……るものと思われ……、どうぞ』
雪風「沖?」
雪風(もしかすると……この方は漁師さんか何かでしょうか?)
13: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:41:26.77 ID:u/An8gSe0
雪風「そうですか、分かりました!」
雪風「こうして知らない方と無線をするのは初めてですが、よろしくお願いしますね!どうぞ!」
『少々感……よろしくない……だが、こちらで送信調整を試み……よう』
『どうせ、これは最……宴の後の夢……だからな』
『……前に子供……を聞けて安心し……、よろ……頼む、どうぞ』
雪風「?」
雪風(言っていることがよく分かりません……)
雪風(心なしか、お酒で酔っぱらっているみたいです!)
14: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:42:18.21 ID:u/An8gSe0
雪風(えーと、何を話しましょう……えっと……)
雪風(……あ、そうだ!)
雪風「宴ってことは、何か“おめでたいこと”があったのでしょうか?どうぞ!」
『…………』
『……あぁ……うだな』
15: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:42:54.08 ID:u/An8gSe0
『幾度となく……を生き……たこのフネとて、生……帰れは……いだろうが』
『お国の……、陛下や……のため、この身を……る』
『これほど……たいことは、他……ないだろうな』
雪風(な、なんだか分かりませんが……)
雪風(とても落ち込んでいる……ようですね)
雪風(雪風のせいでしょうか?どうにかして元気づけてあげなきゃ……!)
雪風(なにか、明るい話題を!)
16: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:43:28.23 ID:u/An8gSe0
雪風「そ、そういえば今度、○○に新しい大きなスーパー銭湯ができるそうですね!」
雪風「しれぇが今度、皆で行って来たらどうだって言ってくれています!とても楽しみです!」
雪風「あなたも、お風呂は好きですか?どうぞ!」
『……えっ』
『……し……しれぇ?』
雪風(……あっ)
雪風(司令なんて言葉を使ったら、私が艦娘だってバレてしまいますね!)
雪風(“きみつほご”の関係で、これはよくありません!)
17: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:43:55.76 ID:u/An8gSe0
雪風「ゴホン!」
雪風「し、紫麗さんです!親戚のおじさんのなまえです!どうぞ!」
『そ、……か』
『スーパ……湯という言……ど聞いたこ……無いが、やはり入浴施……のか』
『そ……一体、どのよう……ころなのだ?どうぞ』
雪風(スーパー銭湯を知らないなんて、珍しい方ですね!)
雪風「えーと、そうですねー!」
雪風「とても大きなお風呂があって、その他にもサウナとか泡の出るお風呂とかがあって!」
雪風「お風呂あがりに美味しいコーヒー牛乳が飲めるようなところです!どうぞ!」
『……』
18: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:44:45.43 ID:u/An8gSe0
『あははっ、やは……れは夢なの……っ』
『そ……うな贅の限……尽くした施……ど、今の疲……た日本にあるは……ない』
雪風(えっ?)
『だが……し本当にそ……施設があ……す……らば』
『海水風……限ら……真水で過ごす我……とって、……も羨ま……話』
『是非と……行っ……たいものだ』
雪風(うぅ……やはり、何か大変なお仕事をされているようですね)
19: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:45:50.77 ID:u/An8gSe0
『だが、我とて飯だけ……良い……のを食べ……るぞ』
『先刻の宴に至っ……冷酒も飲めたし』
『コンドビーフ……久方……の白米な……平らげ……だ』
『あれは、ありっ……の贅沢だった』
『かつて、飯にあ……きたくて……に志願した時代……い出すよ、どうぞ』
雪風「へぇ~っ、コンビーフですか!」
雪風「あれ、おいしいですよね!」
雪風「意外と白米ともよく合いますしね!どうぞ!」
雪風(こういう話をしていると、なんだかおなかが空いてきました!)
雪風(お菓子を開けちゃいましょう!)
20: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:46:52.27 ID:u/An8gSe0
『……ははは』
『そうだ、やはり君は……夢の世……住人なのか……れぬな』
『そ……、そうか』
『どうぞ』
雪風「モグモグモグ……ふぇ」
21: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:47:26.60 ID:u/An8gSe0
雪風「モグモグ……すみません!」
雪風「ちょっとモグモグ……待って下さいモグ……どうぞ!」
『???』
『な、……を食っ……るのだ?』
雪風「はい、マカロンです!」
雪風「最近発売されたばかりのやつです!美味しいです、どうぞ!」
22: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:47:57.72 ID:u/An8gSe0
『!?』
『マ……ンだと、な……なんとい……とだ』
『……でも士官しか食べ……ないよう……ロモノを、女の子が……!』
雪風(しかん?)
23: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:50:51.06 ID:u/An8gSe0
『……はは、はははは……!』
雪風(う、うぅ……)
雪風(お話し中にお菓子を食べたのが、やっぱり良くなかったのでしょうか)
雪風「あ、あの……」
雪風「もし、お気に障るようなことをしたのでしたら……その、ごめんなさいっ」
24: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:51:24.44 ID:u/An8gSe0
『あはは……イヤ、怒ってなん……ないさ』
『それ……も、私はと……素晴らしい夢……見ているのだ』
『なん……とて……良い気分だ』
雪風「??」
25: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:52:12.66 ID:u/An8gSe0
『この夢は、我々帝……軍の皆……夢見た……理想……!』
『内地……る国民が飢えに苦し……となく、満足……活を送っ……る』
『我々が果た……とのでき……った、理想の日本……姿……っ』
『坊ノ岬……特攻……かう前に、こうい……夢が見られた……うことは』
『幾多……場を惨めに……生き延びた……フネも、やはり最後を迎え……だろう』
『ようやく、先に逝……仲間に会……る』
雪風「え、えっと……?」
26: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:52:49.67 ID:u/An8gSe0
『ありが……、夢……界の君……!』
『私は戦……散る前……素晴らしい夢を見るこ……でき……!』
雪風「あ、あのっ」
27: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:53:36.64 ID:u/An8gSe0
雪風「先程からなんだか夢、夢とおっしゃられていますけど……」
雪風「これは夢なんかじゃありませんっ」
『!?』
雪風「皆でお風呂に入れるのも」
雪風「ご飯がおいしく食べられるのも」
雪風「そして今、こうやってお話しているのも……」
雪風「全部、本当のことなんです!」
『な……!』
28: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:54:06.11 ID:u/An8gSe0
『まさか……』
雪風「……」
『……』
『……ひとつ、聞いて……ろしいか、どうぞ』
雪風「は、はいっ!どうぞ!」
29: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:54:42.55 ID:u/An8gSe0
『ついさっきまで、三田尻……甲板……らは雲一つな……綺麗な夕焼……見えた』
『君のいる場……らは、空に何……える?』
雪風(三田尻のあとが、よく聞こえませんでしたっ)
雪風「お、お空ですか?えーと、そうですね!」
雪風「こちらは雲に覆われた、どんよりとした夜空が……」
雪風「……あっ、雲が切れて、綺麗なお月様が見えるようになりました!どうぞ!」
30: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:55:12.97 ID:u/An8gSe0
『……そうか』
『……あは、あはははっ!』
雪風(よ、よく笑う人ですね……)
31: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:55:55.36 ID:u/An8gSe0
『あぁ……マナイ!』
『少……おかしくてね!』
『なんだか、さっきま……を覚悟してい……分が馬鹿馬……くなったのだよ』
雪風「え?」
『……そうか、そ……話を聞いちゃ、まだ当分死……いな』
『内地に残……家族を連……、そのスーパー銭湯とや……も行ってみ……し』
『マカ……も食べさせ……りたいなぁ』
32: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:56:48.82 ID:u/An8gSe0
『あり……う君、私にも勇気が湧い……たよ』
『本当に、……がとう』
雪風「はい!なんだかよく分かりませんが!」
雪風「元気になってもらえたのでしたら、“雪風”も嬉しいです!どうぞ!」
『雪……風……!』
『ははっ、本当に奇……因果だな!』
33: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:57:42.01 ID:u/An8gSe0
『君の話……、艦の皆にも話……みよう』
『……と、……な勇気……られるは……だ』
『こ……夢でない……証とし……いつか……君に会……たい……だ』
雪風「あわわっ、電波が……」
『あ……こち……よ……聞……なく……』
『ここ……お別……な』
雪風「うぅ~っ、もっとお話をしたかったですが、しかたありませんね!」
34: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:58:30.17 ID:u/An8gSe0
『こち……“雪…”より、“…風”……へ』
『君た……未来……幸あれ……!』
『さ……な……』
雪風「はい!そちらの皆さんも、幸運を!」
雪風「さようなら!」
35: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:59:00.60 ID:u/An8gSe0
『……ザザッ……』
『プツン』
36: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 06:59:34.78 ID:u/An8gSe0
シーン……
雪風「何も聞こえなくなりました……」
雪風「……不思議な方でしたが」
雪風「お話はとても楽しかったです!」
雪風「また、どこかで会えるといいですねっ」
37: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 07:00:04.86 ID:u/An8gSe0
雪風「ふわぁ……それにしても、眠くなっちゃいました……」
雪風「ふにゃ……おやすみ……なさい……」
……
…………
………………
提督「……」
提督「ゆーきーかーぜー!」
雪風「ひゃっ!」
38: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 07:00:54.64 ID:u/An8gSe0
提督「随分と長く、気持ちよく眠っていたようだねぇ?」
雪風「うぅ……」
提督「こんな日に寝坊とは、だからあれほど夜更かしをするなと」
雪風「ご、ごめんなさい……」
提督「まったくもー……」
提督「……それよりさっきからさぁ、おもしろいお客さんが来てるんだよ」
雪風「へ?」
39: ◆9l/Fpc6Qck 2016/11/25(金) 07:01:40.44 ID:u/An8gSe0
「なんでも、去る大戦を生き延びた駆逐艦の通信兵だったって爺さんがさ」
「最後の艦隊特攻の際に、変な無線を誰かと交わしたって話をするんだよ」
「へぇ~!」
「私は忙しいから、もしよかったら相手してやってくれよ」
「はい!分かりました!」
fin
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