1 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:08:18 ID:RzdyADzo

 ガタンガタン バタン…


男「なんだなんだ? ゴキブリでも出たか……?」


 ガタンバタン

 ……シーン……


男「……収まったか……」

男「じゃあ気を取り直して、  画像収集の作業に戻るか……」

男「最近は、機械 のジャンルに、ハマってるんだよな……」 マウスカチッ カチッ

男「…………」 カチッ カチッ 


 

2 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:09:13 ID:RzdyADzo

――翌日 家の外


男「――ふぁぁああ」

男「眠いな……」ショボショボ

男「まぁ、それも仕方ないか」

男「xxxxしてたら、気づいたら朝になってたんだもんな……」


男「……にしても、今日は幼馴染の奴、遅いな……」

男「そろそろ出発しねーと、遅刻するぞ……?」

男「……寝坊か……?」


男「……」

男「仕方ない、こっちから行くか……」 


3 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:09:46 ID:RzdyADzo

 ピンポーン


男「…………」

男「……出ないな……」


 ピンポーン


男「…………」

男「……駄目だこりゃ」

男「――ん?」ガチャ

男「……玄関の鍵が、開いている……?」

男「仕方ない。勝手に入らせてもらうか……」 

4 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:10:20 ID:RzdyADzo
――幼馴染の家


男「…………」


 …シーン


男「……相変わらず、静かだな……」

男「あいつの親父は、やっぱりこの時間は寝てんのかね」

男「……」

男「前までは、真面目でいい人だったんだけどな……」

男「仕事を失い……妻を亡くし……」

男「……最近はずっと、酒に溺れてばかり……」

男「……なんとかならないもんかね、まったく……」 

5 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:10:53 ID:RzdyADzo

 スタスタ

 ――ガチャ


男「さて、リビングだが―――」

男「――――――!!!!?」


男「……なっ……!!」

男「なんだ!? これは……!!」


 ゴチャゴチャ 

6 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:11:27 ID:RzdyADzo

男「リビングが、荒らされている……?」

男「戸棚は倒れ、テーブルには変な傷がつき、そして……」

男「あちこちに、血痕がある……!!!」


男「――!!」

男「幼馴染っ!!」

男「幼馴染!! どこだ!! どこにいる!!?」 

7 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:12:01 ID:RzdyADzo

 ドタドタドタ


男(リビングにはいない!)


 ドタドタドタ


男(一階を全部回ってみたが、どこにもいない……!!)


 ダッダッダッダ


男(幼馴染の部屋に行けば、さすがに……!) 

8 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:12:34 ID:RzdyADzo

 バタンッ


男「幼馴染っ!!!」


 スッ


男「――――!!」


幼馴染「!!!」 ブオン


 バアァァァンッ!


男「――――っ!!!」 

9 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:13:08 ID:RzdyADzo

男(幼馴染は、部屋にいたっ!!)

男(しかし、いきなり、金属バットで殴りかかってきた……!!)

男(なんとか避けたが、この攻撃……)

男(明らかに、手加減などしていない!!)

男(直撃したら間違いなく、俺は死んでいたっ!!)


男「――お、おい待て!!」

男「一体どういうつもりなんだ!!?」


幼馴染「――――」

幼馴染「――――――え……?」

幼馴染「……男……?」 

10 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:13:42 ID:RzdyADzo

男「――ああ、俺だっ!!」

男「正真正銘、男だ!!」

男「だからまず、その金属バットを下ろしてくれ……」


幼馴染「――」

幼馴染「――お――」ガタガタ

幼馴染「――男ぉっ!!」バッ!


 ヒシッ


男「!?」

男「ど、どうしたんだ? お前……」 

11 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:14:14 ID:RzdyADzo

男「リビングが荒れていたが、何かあったのか?」

男「血も、ついていたし……」


幼馴染「……えっ……?」

幼馴染「血……?」


 ガタガタ


幼馴染「そうだ……血が……」

幼馴染「私は、昨日……」

幼馴染「――」ガクガクブルブル 

12 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:14:48 ID:RzdyADzo

男「お、おい、しっかりしろ!!」

男「何があったのかは分からないが、大丈夫だ!! お前は今ここにいる!!」

男「そして俺がいる!!」

男「もう何も、お前に危害を加えることはできないんだっ!!」


幼馴染「……お、男……」

幼馴染「――――」ブワッ 

13 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:15:21 ID:RzdyADzo

――幼馴染の家 リビング


男(……幼馴染は、泣き疲れて眠った……)

男(とりあえず彼女は、俺の部屋のベッドに寝かせてきた……)

男(そして……)

男(今、幼馴染の家の中を隅々まで歩きまわった結果、わかったことがある)

男(……この家には、誰もいない、ということ……)

男(……)

男(……正確には……)

男(――生きている人間は、いない――――!) 

14 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:15:55 ID:RzdyADzo

男(……)

男(リビングから、引きずったような血の跡が、廊下に続いていた……)

男(そして、その先の、脱衣所まで……)

男(……風呂場にまで、続き……)

男(その浴槽の中には、俺の良く知る男の死体があった……)



幼馴染の父「     」


男「……」

男「……くそっ……」 

15 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:16:28 ID:RzdyADzo

男(幼馴染の父の頭部には、何か重たい物で殴られたような跡がある)

男(……そして思い返して見れば、幼馴染の持っていた、あの金属バット……)

男(……血が、ついていた……!)


男「……あいつが、殺したのか……」

男「あの、幼馴染が……」


男「……どうすれば……」

男「どうすれば、いいんだ……!!」 

16 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:17:01 ID:RzdyADzo

――夕方頃 男の家 リビング


男「……」


 ガチャ


幼馴染「……」


男「お? 目が覚めたか……」


幼馴染「……」コクン


男(……ひどく、疲れた顔をしている……)

男(それに、その目の中にあるのは、怯え……)

男(……)

男(人を一人――それも自分の父親を殺したのだから、無理はない、か……) 

17 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:17:35 ID:RzdyADzo

 コトッ


男「――まぁ、コーヒーでも飲んで、落ち着けよ」


幼馴染「……うん」

幼馴染「――」ズズズ


男(……)

男(聞きづらいが、やはり、きちんと確認しておくべきだな……)


男「――なぁ」


幼馴染「……何?」


男「単刀直入に聞くが……」

男「お前、父親を、殺したのか……?」


幼馴染「――――――――」 

18 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:18:08 ID:RzdyADzo

男「…………」


男(この反応……もう間違いない……)

男(間違いなく、殺している……!!)


幼馴染「――」


男「……なぁ」


幼馴染「な、何……?」


男「人を殺すことが悪いことだとか、そういうことは、今はまぁ、いい……」

男「それよりも」

男「お前が、殺人を犯していたとすると……」

男「お前は、刑務所に、入らなくちゃいけなくなる……」


幼馴染「!!」 

19 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:18:41 ID:RzdyADzo

男「――それについて、どう思っている?」


幼馴染「そ、それは……」

幼馴染「そんな、刑務所なんて……」


男「……」


幼馴染「入りたく、ない……!!」


男「……」


幼馴染「――全部、全部、あの男が悪いんだっ!」

幼馴染「働きもせず、酒を飲んで、そして、殴って、……!!」

幼馴染「そして……!」

幼馴染「そして、挙句には……!!!!」 

20 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:19:15 ID:RzdyADzo

男「――もう、いい」

男「言いたくないなら、良いんだ」

男「嫌な質問をした俺が悪かった……」


幼馴染「…………」


男「だけど……」

男「刑務所に入らないようにするには、警察を、なんとかしなくちゃいけない……」

男「そのためには、できるだけ早く、冷静に、その方法を考える必要がある……」 

21 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:19:48 ID:RzdyADzo

幼馴染「……うん」

幼馴染「ごめんね……男……」

幼馴染「私なんかの、ために……」


男「……」

男「……馬鹿だな」

男「……お前が困ってたら、俺が助けるのは当たり前のことだろ……」 

22 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:20:22 ID:RzdyADzo

――夜 幼馴染の家


男(……)

男(あの後すぐ、俺達は警察に行った)

男(その理由は簡単で、幼馴染の父の失踪届を出すためだ)

男(父の不在を、いつまでも誤魔化し続けることはできない……)

男(そして誰かが気づいた時、失踪届が出ていなければ、間違いなく幼馴染が怪しまれてしまう)

男(失踪届を出すのは最優先すべきことだった) 

23 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:20:55 ID:RzdyADzo

男「……さて……」

男「じゃあ、やるか……」


男「――」ガタガタ

男「……ちっ」

男「足が、震えてやがる……」

男「くそっ……!」


男(警察に失踪届を出した次にやるべきことと言えば、もう、一つしかない……)

男(――死体を、隠すこと……!)

男(理論上は、死体が誰にも見つからず、そして失踪届が出ていれば、その人は本当に失踪したことになる)

男(……言うまでも無いが、この"死体を隠す"というのが、一番重要……)

男(そして、死体を隠す時、まず最初に、やらなくてはならないことがあった……) 

24 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:21:29 ID:RzdyADzo

――夜 幼馴染の家 風呂場


男「――――」


幼馴染の父「    」



男(幼馴染は今、街中のコンビニからうまい棒を買い漁っている頃だろう……)

男(死体を隠すのに必要だと、そう俺が滅茶苦茶適当な嘘をついたからだ……)

男(……しかし、良かった……)

男(『そんなに大量に買うならコンビニじゃなくてスーパーで買えばよくね?』 ということに気づかない馬鹿な幼馴染で良かった……)

男(そもそも、『死体を隠すのにうまい棒とかいらんだろwwww』って思わないくらい馬鹿な幼馴染で良かった……) 


25 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:22:03 ID:RzdyADzo

男(……)

男(なんてな……)

男(幼馴染はそこまで馬鹿じゃない……)

男(ただ今は、気が動転し、錯乱しているだけ……)

男(俺の言った、あんな馬鹿げた言葉を、疑うこともできないくらいに……)


男「――――」

男「――やら、ないと……」 

26 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:22:37 ID:RzdyADzo

男(――幼馴染の父の死体を、どこに隠せばいいのか?)

男(色々と考えてみたわけだが、候補としてはいくつかある……)

男(そのどれもが、人通りの少ない場所であり……)

男(この家からは、それなりに距離がある……)

男(どこを選択するにしても、死体を移動させる必要がでてくる……)

男(しかし、俺も幼馴染も車などは使えない)

男(だから、死体を運ぶためには――――まず死体を小さくしないといけないのだ……!!)


 ジャキン


男(――このノコギリで、幼馴染の父の体を解体する……) 

27 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:23:11 ID:RzdyADzo

男(……)

男(こんなことを言えば、幼馴染は絶対、自分でやると言い出すだろう)

男(……しかし、恐らく、幼馴染にこんなことはできない……)

男(嘘を言って、幼馴染が長時間家に戻ってこないようにしたのは、これが理由だ……)


男「……」

男「――」ガタガタ

男「――」ガタガタブルブル


幼馴染の父「    」 

28 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:23:44 ID:RzdyADzo

男「――――」

男「――そんな目で、見ないでくれよ……」


  (幼馴染の父「――おお、男君! 今日もうちの娘と登校するのかい?」)

  (幼馴染の父「いやいや、仲睦まじくて結構! うらやましいねぇ」)

  (幼馴染の父「何か危険があった時は、ちゃんと守ってやってくれよ……?」)


  (幼馴染「――もう、やめてよお父さんっ!!」)


  (幼馴染の父「はっはっはっ!」)


男「―――」

男「あんた、昔はあんなにいい人だったのに……」

男「どうして、こうなっちまったんだよ……!!」 

29 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:24:17 ID:RzdyADzo

 スッ


男「―――――――!!!!」


 ――ザリッ


男「――――――」


 ザリッ ザリッ

 ジュリジュリ…… 

30 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:24:51 ID:RzdyADzo

男(……)

男(……これは、罰、なのかもしれないな……)

男(職を失い、プライドを失い……そして、妻も、失い……)

男(自分の立ち位置を見失い……酒に溺れ、大切な娘を、大切にすることができなくなった、幼馴染の父の……)

男(……そして)

男(そうした状況に幼馴染が置かれていることを、うすうす気づきながらも……)

男(なんとかなればいいな、という感想で片付け、動くことができなかった、俺に対する……)

男(……罰……) 

31 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:25:25 ID:RzdyADzo

 ジュリジュリ……

 ガリゴリガリゴリ


男(……俺は……)

男(何を、しているんだろう……)


 ゴリゴリッ

 ……ジュリジュリ

 ゴロン


男「…………」

男「……ようやく、首が終わったか……」

男「次は――――」 

32 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:25:58 ID:RzdyADzo

――翌日 朝 男の部屋


男「…………」


幼馴染「Zzz」


男(……)

男(安心して、眠ってる……)

男(繋いだ手を、決して離さず……)

男(……) 

33 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:26:32 ID:RzdyADzo

男(昨日、あの後帰って来た幼馴染は、俺の姿を見て、すぐに俺が何をしていたのかを知った)

男(その時俺は軽く錯乱していて、血だらけになった服を着替えるべきだという、そんな当たり前のことを、失念してしまっていたのだ)

男(……そしてそれから、幼馴染はわんわん泣いた)


男(……)

男(……今の季節は、冬……)

男(一日や二日で、死体は腐敗しない……)

男(しかしだからといって、あんまりゆっくりしていられるわけでもない)

男(……今日か明日の夜、死体を、捨てに行こうと思っている……)

男(……) 

34 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:27:05 ID:RzdyADzo

幼馴染「Zzz……」

幼馴染「…………」パチッ


男「――お」

男「目が、覚めたか?」


幼馴染「うん……」ギュ


男(……温かい……)

男(なんだか、随分久しぶりに、人の温度というのに触れた気がする……) 

35 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:27:39 ID:RzdyADzo

男「……」

男「起きたなら、下に行くか」

男「朝メシ作ってくれよ。お前、料理得意だしな」


幼馴染「……うん……分かった」 

36 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:28:13 ID:RzdyADzo

――昼 リビング


幼馴染「Zzz」


男「……」

男「……しかし、よく寝るな。こいつは……」

男「…………感情とか記憶を、整理、しているんかね……」 

37 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:28:46 ID:RzdyADzo

男(……)

男(ほんとは、俺もそうしないといけないんだろうけどな……)

男(どうしてか、俺の内面は今、ひどく静かだ……)

男(……)

男(……もしかすると、これは、俺の中の大事な何かが、失われてしまった、ということかもしれない……)

男(人の死体を解体したんだから、そうなるのも、当然か……)

男(……) 

38 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:29:20 ID:RzdyADzo

 ピロロロロロッ


男「……ん? 俺の携帯電話が」


 ピッ


男「――はい」


キモオタ『――●●●』


男「――――」

男「――●●●」


キモオタ『――ふふふ……どうやら正真正銘、男でござるな……』


男「……まぁな」 

39 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:29:54 ID:RzdyADzo

男「――しかし、大丈夫かよ、お前みたいなキャラ……」

男「明らかのこのスレの雰囲気とあってないじゃねーか」


キモオタ『フォカヌポウwwwwww』


男「……やれやれ」


キモオタ『……』

キモオタ『それで、今月の進捗状況は……?』


男「ふん……」

男「純愛ゲー3作と 辱ゲー1作、そして電波ゲーが2作だ」 

40 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:30:27 ID:RzdyADzo

キモオタ『……くくく、相変わらず早いな……!』


男「言ってろ」

男「――して、お前は?」


キモオタ『純愛ゲー10作――』


男「……ほう」


キモオタ『そして、伝奇バトル系を4作……』


男「!?」

男「――計、14作……っ!!」


キモオタ『……ふふふ……』 

41 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:31:01 ID:RzdyADzo

キモオタ『――とまぁ、そんな挨拶はまぁいい』

キモオタ『それよりお前、昨日はどうして学校に来なかった?』

キモオタ『欠席なんて珍しいじゃないか』

キモオタ『風邪か?』


男「――――」


男(――ここは、はっきり言っておくべきか……)


男「――実はな、幼馴染の父が、行方不明になったんだ」 

42 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:31:35 ID:RzdyADzo

キモオタ『……?』

キモオタ『行方不明?』


男「ああ」

男「幼馴染の父については知ってるだろ?」


キモオタ『……まぁ、お前から聞いた話だけだけどな』

キモオタ『家に篭もり、出るとすれば、行き先は居酒屋かパチンコ……』

キモオタ『ずいぶん、幼馴染は苦労しているみたいだが……』 

43 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:32:08 ID:RzdyADzo

男「幼馴染の話では、幼馴染の父は昼頃に家を出たらしいんだ」

男「そして、どういうわけか、そのまま帰らなくなった」

男「朝になっても帰ってこなかったから、不安になって俺に言ってきてな……」

男「昨日はずっと、帰りを待ったり、あるいは町に出て探したりしていたんだ」


キモオタ『でも、見つからなかった……?』


男「ああ」

男「昨日の夕方、警察に失踪届を出してきた」


男「――そういうわけで、色々あって、昨日は学校に行けなかった」 

44 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:32:41 ID:RzdyADzo

キモオタ『失踪、か……』


男「ああ」


キモオタ『……』


男「……」


キモオタ『……そうか、それは大変だな』

キモオタ『そういうことなら、俺も父に少しだけ話をしてみるよ』


男「――ああ、そういえば、キモオタの父さんって警察官だったか……」

男「――――」

男「――それは助かる。ぜひ話しておいてくれ」 

45 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:33:15 ID:RzdyADzo

キモオタ『……それじゃあ、またな』

キモオタ『何か相談事があったら、遠慮なく言ってくれ』


男「ああ、その時はそうさせてもらうよ」

男「じゃあな」


 ピッ


男(……)

男(キモオタ……)

男(……なんとなく、こちらが嘘をついているのがバレてしまったように感じるのは……)

男(俺の、被害妄想か……?) 

46 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:33:48 ID:RzdyADzo

――夜


男「…………」


幼馴染「…………」


男「……幼馴染、それじゃあ、行けるか?」


幼馴染「――う、うん……」


男「よし……」

男「じゃあ、出発するぞ」 

47 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:34:21 ID:RzdyADzo

男(……幼馴染の父の死体は、分割して俺と幼馴染の自転車で運ぶことにした)

男(どこに運ぶのかだが……色々考えた末、俺は町外れの廃工場に投棄することに決めた)

男(かなり前に会社が倒産し、そのまま誰が手入れすることもなく放置されていた、ところどころ崩れかけた工場……)

男(土地の再利用の目処も立っておらず、恐らくはこのまま先十年ほどは、あのままだろうと思われる)

男(だから、その工場の奥に、死体を捨てる……!)


幼馴染「はぁ――はぁ――」


 シャー


男(……ただ、普通に自転車に乗っているだけなのに、幼馴染の息は荒い……)

男(……)

男(死体を前と後ろに乗せているのだから、それも当然か……)

男(冷静な俺の方が、狂っているのか……) 

48 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:34:55 ID:RzdyADzo

――夜 廃工場


男「……」


幼馴染「……」


男「……随分、奥までこれたな……」

男「このあたりに、するか……」


幼馴染「……そうだね」 

49 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:35:28 ID:RzdyADzo

男「……」

男「だけど、このまま鞄ごと捨てていけば、発見された時に足がつくかもしれない……」

男「……死体を、中から取り出したいんだが……」


幼馴染「うん」


男「……」

男「お前は、先に戻っておいたほうがいいと思う」

男「見ないほうが――」


幼馴染「ダメだよ、それは」

幼馴染「……あ、あんな」ガタガタ

幼馴染「あんな、馬鹿な男の、最後なんだから……っ」ガタガタ

幼馴染「ちゃんと見ないと、気が済まない……」ガタガタ 

50 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:36:01 ID:RzdyADzo

男「……」

男「お前が、そこまで言うのなら……」


 ズズズッ

 ドサッ ゴロンッ


幼馴染「!!!!」


男「…………」


 ドサッ ゴロン

 ドサッ ドサッ ドサッ 

51 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:36:35 ID:RzdyADzo

男「……これで、全部だ……」

男「この瓦礫の陰なら、誰かが入り口から覗きこんでも、見つかる可能性は低いだろう……」

男「じゃあ、もう行くぞ、幼馴染」


幼馴染「――――」


男「……幼馴染?」


幼馴染「――――っ!!!!」


 ゲシッ!


男「!!?」 

52 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:37:09 ID:RzdyADzo

 ゲシッ! ゲシッ!


幼馴染「この――! このっ――!!」


男「お、おい……!」

男「お前、何を……!?」


 ゲシッ! ゲシッ!


幼馴染「この、馬鹿な男のせいで……!!」

幼馴染「全部……!」

幼馴染「全部……っ!!」


 ゲシッ! ゲシッ! 

53 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:37:42 ID:RzdyADzo

男「――――」

男「――そのへんで、やめておけよ!」


 グイッ


幼馴染「――」

幼馴染「私、は……」


男「……」


男(強烈な、憎悪……)

男(凄まじい怒り……)

男(だけど、こいつは気づいてないのか?)

男(こいつの目から、涙が…………)


幼馴染「……」 

54 : ◆1ZeiE0m4Qo:2014/12/31(水) 18:38:16 ID:RzdyADzo

俺「……」

俺「……じゃあ、帰るぞ……」


幼馴染「………………うん」

幼馴染「……ごめんね、取り乱して……」


幼馴染「……あと、ありがとう……」

幼馴染「こんな、私のために……!」


男「……」

男「……だから、別に良いって、前に言っただろ……」


幼馴染「……」


男「――さあ、帰るか……」 

64 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:41:51 ID:7HTizjs2

――夕方 幼馴染の家 リビング


幼馴染「Zzz……」

幼馴染「――っ!」ハッ


幼馴染の母「――あら、起きた?」


幼馴染「え……?」

幼馴染「お母、さん……?」 

65 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:42:25 ID:7HTizjs2

幼馴染の母「あらあら、どうしたの? 顔色が真っ青よ?」

幼馴染の母「何か嫌な夢でも見た……?」


幼馴染「え? 夢って……」

幼馴染「……」

幼馴染「夢……だったの……?」


 ガチャン


幼馴染の父「おーい。帰ったぞー」


幼馴染の母「おかえりなさい」

幼馴染の母「この時間に帰って来るのは久しぶりね」


幼馴染の父「ああ、そうだとも!」

幼馴染の父「頑張って仕事を早く終わらせてきたんだ」

幼馴染の父「いやー、三人揃って食事ができるなんて、久しぶりだなっ」 

66 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:42:59 ID:7HTizjs2

幼馴染「……」


幼馴染の父「ん? どうしたんだ? 幼馴染……」

幼馴染の父「顔色がすぐれないぞ?」


幼馴染の母「それが、何か嫌な夢でも見てしまったらしくて……」


幼馴染の父「嫌な夢?」

幼馴染の父「それは、どんな夢だったんだ?」


幼馴染「えっと……」

幼馴染「私が、お父さんを殺しちゃった、夢……」 

67 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:43:33 ID:7HTizjs2

幼馴染の父「――――」

幼馴染の父「――――あっはっはっはっ」

幼馴染の父「殺した? 幼馴染がお父さんを?」

幼馴染の父「そんなこと絶対にありえないよ!」

幼馴染の父「幼馴染は優しい子だから、人を殺すなんてとてもじゃないけどできやしないっ!」

幼馴染の父「なんて非現実的な夢だったんだ! あははははははっ!」


幼馴染「……うん!」

幼馴染「そうだよね!」

幼馴染「――あれが夢で良かったっ!」

幼馴染「なんだかすっごく重くて、潰れちゃいそうだったんだ……」

幼馴染「――――」

幼馴染「――」 

68 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:44:07 ID:7HTizjs2

――朝方 男の家 客間


幼馴染「」パチッ


幼馴染「……」

幼馴染「……やっぱり……」

幼馴染「あっちが、夢だった……」

幼馴染「……」

幼馴染「私は、あの人を殺した……」

幼馴染「苦しくて、辛くて、憎くて……殺した……」

幼馴染「あの感情が全部夢だったなんて、さすがに、都合が良すぎるよ……」


幼馴染「――」

幼馴染「――さて、起きよう」

幼馴染「そろそろ男も起きてくる」

幼馴染「せめて、美味しい朝ごはんを、作ってあげよう」 

69 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:44:40 ID:7HTizjs2

――朝 男の部屋


男「……」

男「……もう、朝か……」


男(――)

男(……死体を隠してから、もう二週間が経った……)

男(その間、なんの変化もなく、まるで以前と同じように普通に生活をすることができている……)

男(変わったことと言えば、二つだけ……)

男(毎朝、食い入るように新聞を隅の隅まで読んで、死体が発見された記事はないかと探す習慣がついたことと……)

男(……夜、なぜだかひどく目が冴えてしまって、ほとんど眠れなくなってしまったこと……)

男(それ以外は、今までと同じ、日常だ……)


男「…………」

男「そろそろ、幼馴染が朝食を作る時間だな……」

男「起きるか……」 

70 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:45:14 ID:7HTizjs2

――朝 学校 教室


男「……」


キモオタ「フォカヌポウwwwwww」


男「おう。おはよう」


キモオタ「フォカヌポウwwwwww」


男「なんだ、寝不足なのか」

男「今期は確かに豊作だが、リアルタイム視聴はほどほどにしとけよ」 

71 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:45:48 ID:7HTizjs2

キモオタ「フォカヌポウwwwwww」


男「……ああ、すまん。深夜アニメじゃなくてSS深夜VIPか」

男「お前、滑舌悪くて時々聞き間違えちまうんだよ」

男「もうちょっとはっきりしゃべってくれ」


キモオタ「――それはすまなかった」


男「そう、それでいい」 

72 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:46:21 ID:7HTizjs2

キモオタ「――」

キモオタ「そんなことより、お前のほうはどうなんだ?」

キモオタ「お前もここ最近ずっと、どこか顔色が悪いぞ?」


男「そうか?」


キモオタ「いやまぁ、俺の気のせいかもしれない、って程度だがな」

キモオタ「……」

キモオタ「……そういえばお前、幼馴染の父がいなくなってから、幼馴染と一緒に暮らしてるんだよな……」

キモオタ「まさか、朝までベッドでイチャイチャしてて寝不足なんじゃ――」


 ガツンッ


キモオタ「――ぐぬっ」

キモオタ「何をする」 

73 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:46:55 ID:7HTizjs2

男「アホ」

男「そんなわけねーだろ馬鹿」


キモオタ「……」

キモオタ「だけど、世間体的に、そう見られても仕方がないぞ」


男「……」


キモオタ「……お前、両親が居ないだろ?」

キモオタ「そして、今は、幼馴染も、だ……」

キモオタ「さっきのは俺のただの冗談だが、実際に、影では噂になってるらしいぞ」 

74 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:47:28 ID:7HTizjs2

男「……」

男「俺と、幼馴染が……?」


キモオタ「そうだ」


男「……ふん」

男「まぁ、言いたいやつには言わせておくさ」

男「別に、俺たちがそれで何か困るってことはないからな」


キモオタ「……」

キモオタ「……お前、変わったな……?」


男「?」 


75 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:48:01 ID:7HTizjs2

キモオタ「今までのお前だったら、そんな噂、放っておかなかっただろうに……」

キモオタ「そういうの、必要以上に気にしてしまうタイプじゃなかったか?」


男「……」

男「まぁ、そうだったかもなぁ……」


 キーンコーンカーンコーン


キモオタ「おっと、もう時間だ」


男「席につくか……」 

76 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:48:35 ID:7HTizjs2

――夕方 男の家 リビング


幼馴染「ねぇ……」


男「ん……?」


幼馴染「……今更だけど、さ……」


男「ん?」


幼馴染「どうして、私のことを、助けてくれたの……?」


男「……」 

77 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:49:08 ID:7HTizjs2

幼馴染「……あれは、私と、私の父の間だけの問題だったのに……」

幼馴染「男は、助けなくても良かったのに……」


男「……なんだ、嫌だったのか?」


幼馴染「そうじゃなくて!!!」

幼馴染「そうじゃなくて……」

幼馴染「……だって、男は私のために色々してくれて……」

幼馴染「あんなことをしてしまえば、男だって、罪を負うのに……」

幼馴染「いや、罪だけじゃなくて……もっと本質的なものを、失ってしまうのに……」

幼馴染「どうして……」 

78 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:49:42 ID:7HTizjs2

男「……」

男「……どうして、か……」

男「…………」

男「……俺にも、よく、分からないな……」


幼馴染「馬鹿なことを言わないでっ!!」

幼馴染「私なんて、助けなければ、男は、普通の日常を送れたはずなのに……」

幼馴染「私なんかを……」


男「……」

男「お前を放っておいて、普通の日常が送れるのなら、俺はそうしていたよ」


幼馴染「……」


男「送れないから、助けるしかなかったんだ……」


幼馴染「……」 

79 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:50:15 ID:7HTizjs2

――夜 男の部屋


男「……」


男(……先ほど、助けた理由は分からないと言ったが……)

男(あれは、嘘だ……)

男(俺には明確な、理由がある) 

80 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:50:49 ID:7HTizjs2

男(――)

男(俺の両親は、今から十年前に交通事故で亡くなった)

男(その時、俺は、親戚の家に預けられることになった……)

男(……そして俺は、ただその現実に、従っていた……)


男(だけど、親戚の叔父さんと一緒に家を出たところで、幼馴染に会ったんだ……)

男(……幼馴染は、俺と離れ離れになるのが嫌だと、そう言い、泣き喚いた)

男(――それはもう見事に、小さな子どもが駄々をこねているような、思い切った泣きっぷりだった……) 

81 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:51:23 ID:7HTizjs2

男「――ふふふっ」


男(思い返しただけでも、笑いがこみ上げてくる……)

男(まさかあいつが――普段おとなしいあいつが、あんなに大声で喚きながら泣くとは思ってなかったからな……)

男(……もしかしたらそこは、感動して俺も泣くべき場面だったのかもしれないが……)

男(その時の俺も、幼馴染のその泣き方がおかしくて、笑ってしまっていた)

男(大声で泣く幼馴染と、それを見て腹を抱えて笑う俺……)

男(なんともまぁ、想像してみると面白い光景だ……) 

82 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:51:56 ID:7HTizjs2

男(……)

男(とにかく、その後色々とあって、俺は結局この家に一人で残ることになった)

男(幼馴染の号泣に引きずられるような形になったわけだ)

男(そしてそれからは、困ったことがあれば、幼馴染の父や母に相談したりして過ごしていた)


男(今考えれば、随分おかしな話だ……)

男(10歳より下の少年が、一人暮らしを始めるなんて……) 

83 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:52:30 ID:7HTizjs2

男(……)

男(――幼馴染が、俺のために号泣したその時……)

男(俺の中に、形容しがたい強い衝動が生まれた……)

男(――こんなに俺のためにここまで泣いてくれるのなら、俺は、こいつのために生きるべきなのではないか……)

男(そんなことを、思い)

男(そして俺は、その考えを、そのまま受け入れてしまったんだ……)


男(……好きだとか、惚れただとか、そういう恋愛感情とは、少し違う)

男(もっと、奥の奥で、俺は、幼馴染のことを大切に思ってしまっている……) 

84 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:53:04 ID:7HTizjs2

男(――)

男(……思い返してみれば……)

男(幼馴染の父が、幼馴染に殺されたんだと知った時……)

男(……俺は、幼馴染がどんな動機で殺したのかも知らないまま……)

男(あいつを、助けなくちゃいけないと、思ったんだった……)

男(……なんの、躊躇いもなく……)

男(……)

男(――よく考えれば、これは異常だな……)

男(俺は、狂っている……)


男「ふふふ……」

男「……そうだな、俺は、狂っている……」 

85 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:53:37 ID:7HTizjs2

男(――)

男(――もし、俺が、狂っていなかったとしたら、どうなっていただろう?)

男(……)

男(……きっと、俺は、警察に自首するよう、幼馴染を説得していただろう……)

男(そして幼馴染は消え、一人残され……)

男(その状態で、普通の日常を送っていただろう……!!)

男(胸には虚無感と、強烈な寂寥……)

男(しかし、そんな痛みを抱えてなお、俺は、普通に生活ができていただろう……)

男(……少なくとも、死体を解体するなんていう、狂気の沙汰としか思えないような行動は、しなくても済んだはずだ……)

男(……)

男(俺は、狂っていたせいで、とんでもない苦痛を味わうことになってしまったんだな……) 

86 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:54:10 ID:7HTizjs2

男「…………」

男「……だけど、それで、良かった……」

男「狂っていて、良かったと、そう思える……」

男「……」 

87 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:54:44 ID:7HTizjs2

――明け方 男の部屋


 ピロロロロロロッ


男「――んぁ?」

男「なんだ? ようやく、眠りにつけたと思ったのに……」


 ピッ


男「……はい」


キモオタ「――男か?」


男「ん、そうだ……」

男「キモオタか? ……一体、今何時だと……」


キモオタ「緊急事態だ」 

88 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:55:17 ID:7HTizjs2

男「あん……?」


キモオタ「――昨日の夕方頃」

キモオタ「父は帰宅してすぐに、急な呼び出しを食らって家を出て行った」


男「――――」


キモオタ「そして深夜になって、父は一度家に戻ってきた」

キモオタ「そしてこう漏らしたんだ」

キモオタ「――『町外れの廃工場で、バラバラ死体が発見された』」


男「!!?」 

89 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:55:50 ID:7HTizjs2

キモオタ「――発見したのは、工場を探検していた小学生」

キモオタ「その死体の状態の酷さに、随分と衝撃を受けたらしいが……」

キモオタ「とにかく、そういうことだ……」


男(――それは、衝撃をうけるだろう……)

男(バラバラ死体なんて、普通の人間じゃあ、決して見ることのできないものだ……)

男(小学生の時なんかに見れば、それこそ一生もののトラウマになりかねない……)


男「……」

男「事件のことは、分かった」

男「だけど、どうしてそれを、俺に……?」 

90 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:56:24 ID:7HTizjs2

キモオタ「…………」

キモオタ「……なんとなく、お前に必要そうな情報だと、思ったからだ」


男「!!!」


男(……間違いない!)

男(こいつ、気づいて……!)


キモオタ「……」

キモオタ「……警察の動きは、お前が思っているよりも迅速だぞ」

キモオタ「先に先に行かなければ、裏をかくことはできない……」


男「……っ!」

男「分かった……!」 

91 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/01(木) 15:56:57 ID:7HTizjs2

キモオタ「……じゃあな」

キモオタ「せめて、悔いが無いように……」


男「――ああ」

男「ありがとう……!」


 ピッ


男「――――」


男(――こうなったら、もう、キモオタが言うように、時間との戦いだ……)

男(出来る限り早く、この場所を離れなくてはならない……!!)

男(……ここから、逃げなくては……!!) 

99 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 17:54:21 ID:2cxxm34w

――朝 電車内


 ガタン ゴトン


男「…………」


幼馴染「…………」

幼馴染「……それで、えっと……」

幼馴染「私たちは、どこに向かっているの……?」


男「……うーん……」

男「正直、目的地はまだ決めてないんだよな……」

男「……むしろ逆に、幼馴染はどこに行きたい……?」


幼馴染「え……?」

幼馴染「……うーん」 

100 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 17:54:55 ID:2cxxm34w

男「……とりあえずは、北に向かってるんだけど……」


幼馴染「え? どうして北に?」


男「だって、昔から、逃亡する人は北に行くって言うだろ?」


幼馴染「え? なにそれ?」


男「いや、俺もそう聞いたことがあるってだけなんだけどな……」

男「――」

男「まぁ、そんな冗談はともかく……」

男「一般的に、日本だと南の方に人の多く集まる都市があって……」

男「北の方には、そういう都市があまりない」

男「だからまぁ、北に行った方がいいんじゃないかと……」 

101 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 17:55:29 ID:2cxxm34w

幼馴染「ああ、それで……」


男「……だけどそもそも、人が多い場所にいけばいいのか少ない場所にいけばいいのか……」

男「どこに行けばうまく逃げられるのか……さっぱり分からない……」

男「正直、どうすればいいのか……」 

102 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 17:56:03 ID:2cxxm34w

――とある町


幼馴染「うわぁ……雪で真っ白っ!」

幼馴染「北国、って感じだね」


男「俺達が住んでたとこは、あんまり雪とか降らないからな……」


幼馴染「それに海も見えるっ」

幼馴染「冬の海って、すごく寒そうだね」


男「俺達が住んでたとこは、海とかも無いからな……」 

103 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 17:56:36 ID:2cxxm34w

男(……それにしても、幼馴染、妙にテンションが高くなってやがる……)

男(もともと感情の浮き沈みが激しいタイプだったが、最近、それも顕著になったな……)


幼馴染「せっかく来たんだから、町をぐるっと回ってみようよっ」


男「はいはい……」

男「だけどその前に、泊まる場所を探さないとな――」 

104 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 17:57:09 ID:2cxxm34w

――夜 ビジネスホテル 二人部屋


 ガチャ


幼馴染「――はい。というわけで、コンビニで適当に買ってきたよ」


男「ああ、おかえり……」

男「……」

男「って、お前、これ全部菓子パンじゃねーか……」


幼馴染「え?」


男「え? ってお前……」

男「俺は普通の弁当が食べたかったんだがな……」 

105 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 17:57:42 ID:2cxxm34w

幼馴染「――――」

幼馴染「ご、ごめんね!」

幼馴染「今から買ってくるからっ!」


男「!?」

男「お、おいちょっと待てっ」 ガシッ


幼馴染「!!」


男「――いや、俺が悪かった」

男「別に菓子パンでも構わないって」

男「こういう状況で、あれこれ言う俺の方がおかしかった……」


幼馴染「……そう、なの?」


男「ああ、そうだ」 

106 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 17:58:15 ID:2cxxm34w

男(……ちょっとしたことで、すぐにナイーブになる……)

男(やはり、相当、精神的に疲れているのか……?)


幼馴染「……」

幼馴染「……ごめんね……」


男「?」

男「だから別に良いってば」


幼馴染「そうじゃなくて、今みたいなこと……」

幼馴染「私、男に嫌われたくなくて……」

幼馴染「……なんだか、頭が真っ白になっちゃって……」 

107 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 17:58:49 ID:2cxxm34w

男「……」


 ギュッ


男「落ち着けよ……」

男「そう簡単に、俺はお前を嫌いにならないから……」


幼馴染「……」


男「……」


 ……シーン


幼馴染「――――」

幼馴染「――私、ずっと、男のことが好きだったの」


男「え――?」 

108 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 17:59:22 ID:2cxxm34w

幼馴染「……ごめん」

幼馴染「こんな、警察から逃げているなんて状況で、言うべきことじゃないかもしれないけど……」

幼馴染「……今言っておかないと、言いたいことが、全部、どこかに行ってしまような気がするから……」


男「……」


幼馴染「……ずっと……」

幼馴染「小学生くらいの頃から、ずっと……」

幼馴染「私は、男のことが好きだった……」

幼馴染「――」

幼馴染「だけど、それと同時に、男は、絶対に私を好きになってはくれないって、そう思っていた……」 

109 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 17:59:56 ID:2cxxm34w

幼馴染「……物心ついたときから、なんとなく、漠然と、思ってた……」

幼馴染「私の人生は、何を得ることもなく、空っぽのまま、終わっちゃうんじゃないかって……」

幼馴染「……」


男「……」

男「……俺も、好きだよ。幼馴染のこと」


幼馴染「……!」

幼馴染「ほ、本当、に……?」


男「――ああ、本当だ――」


幼馴染「――」

幼馴染「」ブワッ


男「……」 

110 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:00:30 ID:2cxxm34w

――とある町


男「……」


男(……逃亡を初めて、大体一週間程が経った……)

男(その間、ゆっくりと、ひたすら北のほうに向かっていた)

男(その先に何があるのか、分からないまま……)


男(……最近時々、頭の奥が、ひどく痛むことがある)

男(それはほんの一瞬で引いていくのだが、視界が瞬時に真っ暗になるほどの、強烈な痛みだ)

男(その原因がなんなのか、はっきりとは分からないが……まぁ、ストレスだとか、そういったもののせいなんだろうとは思う……) 

111 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:01:03 ID:2cxxm34w

男(――時折、自殺という二文字が、なんの脈絡もなくふいに意識に浮上してくる)

男(……閉塞された、どうすればいいのか、さっぱり分からない状況……)

男(死んでしまったほうが楽なんだろうと、本気で、考えてしまう……)


男(……だけど、ここまで、やってきた……)


  (キモオタ「……じゃあな」)

  (キモオタ「せめて、悔いが無いように……」)


男(……)

男(もう少しだけ、頑張って、みよう……) 

112 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:01:37 ID:2cxxm34w

 タッタッタ


男「お? 見つかったか?」


幼馴染「うん。やっぱり駅の近くにあるって」

幼馴染「ちょっと道が入り組んでるから、分かりにくいみたいだけど」


男「そっか……じゃあ、気長に道を聞きながら探してみるか……」


幼馴染「……でも、大丈夫?」


男「え? 何が?」 

113 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:02:10 ID:2cxxm34w

幼馴染「えっと、その、こうやって毎日ビジネスホテルに泊まってるけど、そのお金は……」


男「――ああ、それなら――」

男「町を出る時に、貯金をかなり下ろしてきたから」

男「しばらくは大丈夫だ」


幼馴染「そうなら、いいけど……」 

114 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:02:44 ID:2cxxm34w

――とある大きな公園 休憩所


男「――全然見つからねぇ……」

男「駅付近のビジネスホテルを探し始めてどれくらいか……」

男「なんで俺たちは、公園で休憩してんだ……」


幼馴染「道、とんでもなく入り組んでたからねぇ……」

幼馴染「もうちょっと休憩したら、また探しにいこうよ」 

115 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:03:18 ID:2cxxm34w

男「そうだな……」

男「……?」


幼女「……」


男「――ん? なんだ?」


幼馴染「女の子? それも、幼稚園くらいの……」


幼女「……」

幼女「」ブワッ

幼女「うわああぁぁぁぁぁああんっ!」 

116 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:03:51 ID:2cxxm34w

男「!!?」

男「唐突に号泣!?」

男「お、おい、どうしたんだ……?」


幼馴染「な、泣かないで」

幼馴染「ね?」


幼女「――――」

幼女「うわあぁあああああんっ!!」 

117 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:04:25 ID:2cxxm34w

――しばらく後


男「――つまり、お前は、両親とはぐれたってわけか?」


幼女「」コクン


男「それはまた、面倒な……」


男(さて、どうするか……)

男(……別に、ここに放っておいてもいいんだけどなぁ……)

男(……あんまり、目立つのもよくないし……)

男(……)

男(だけど……)


幼女「」ウルウル


男(放っておけないよな……) 

118 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:04:58 ID:2cxxm34w

幼馴染「――お母さんやお父さんとはぐれたのは、この公園の近く?」


幼女「」コクン


幼馴染「……じゃあ、一緒に、ここでお母さんとお父さんを待とうか?」

幼馴染「下手に動きまわって、入れ違いになったらマズいし……」

幼馴染「きっと、向こうも幼女ちゃんのことを探していると思うから……」


幼女「」コクン


男(……まぁ、こうなるよな……)

男(放っておいて、変な人達にさらわれたりしたら大変だし……)

男(……)

男(……変な人達か……)

男(俺も幼馴染も、立派な犯罪者だけどな……) 

119 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:05:32 ID:2cxxm34w

幼馴染「じゃあ、迎えが来るまで、ちょっとお話していようか」


幼女「」コクン


男「……じゃあ俺は、一人でビジネスホテル探しを続行するよ」

男「無事にチェックイン出来たら戻ってくるから」


幼馴染「うん」

幼馴染「ごめんね……?」


男「いいって」 

120 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:06:05 ID:2cxxm34w

――夕方頃


男「――さて、なんとかビジネスホテルの場所を突き止め、チェックインを無事に済ませてから、もう結構経つわけだが……」

男「…………」

男「……来ないな……」


幼馴染「うん……」


男(……)

男(しかし、よくよく考えたら……こういう場合は交番に行くのが一般的なんじゃないだろうか……)

男(もっとも、俺と幼馴染は交番になど絶対に近づきたくないわけだが……) 

121 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:06:38 ID:2cxxm34w

男「まだ、来ないな……」

男「もしかして、こいつ、捨てられたんじゃ……」


幼女「……」

幼女「」ブワッ


男「!!?」


幼女「うわあぁああああああんっ!!」


男「わ、悪かった!」


幼馴染「そういう事を言うのはやめてあげて!」


男「いや、ほんとに悪かった」 

122 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:07:12 ID:2cxxm34w

幼馴染「もうっ」

幼馴染「――大丈夫だよ、幼女ちゃん……」

幼馴染「きっとすぐに、お母さんかお父さんがやってくるから……」 

123 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:07:46 ID:2cxxm34w

――夜


男「……」


幼馴染「……」


幼女「……」


男(全然こねぇ……)

男(本当にこの近くではぐれたのか……?)

男(……)

男(だいたい、両親のほうが交番に行っていたらどうする?)

男(そして警察とかそういう人たちが、この子を探していたりした場合……)

男(一緒にいた俺と幼馴染は、何か事情聴取されたりしないか……?)

男(……) 

124 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:08:19 ID:2cxxm34w

幼女「」ウルウル


幼馴染「な、泣かないで! きっと大丈夫だから」


男(……でもまぁ、本当に警察とかが動いていたら、こういう大きな公園は真っ先に調べるよな……)

男(それがないってことは、まだ警察は動いていないということ……)

男(……)

男(こいつ、まさか本当に、捨てられたんじゃ……?) 

125 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:08:53 ID:2cxxm34w

幼女「……」

幼女「!?」ビクッ


幼馴染「……え? 急にどうしたの? 幼女ちゃん」


 ダダダッ


幼女「――――」


幼馴染「え? ちょっと待って!」


男「おい!」


 ダダダッ 

126 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:09:27 ID:2cxxm34w

幼女の父「――おーい!」

幼女の父「幼女ー!」

幼女の父「いないのかー!?」


 ダダダダダッ


幼女の父「……!!?」


幼女「!!」


幼女の父「おお! 幼女っ!!」

幼女の父「こんなところにいたのか!! 探したぞっ!!」


幼女の父「――おい、こっちにいたぞっ!!」


幼女の母「――え? 本当!!?」

幼女の母「良かった――――っ!」 

127 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:10:00 ID:2cxxm34w

男「……」


幼馴染「……」


男(……幼女は、再会した、自らの両親と抱き合っている……)

男(三人共、すごく幸せそうで……幸福そのもので……)

男(――あまりにも、遠くて……)

男(俺も幼馴染も、ただ、そこに立ち尽くすことしかできなかった……) 

128 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:10:33 ID:2cxxm34w

――夜 ビジネスホテル


男「……」


幼馴染「……」

幼馴染「あの幼女と、その両親……」

幼馴染「すごく、幸せそうだったねぇ……」


男「……」

男「そうだな……」 

129 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:11:07 ID:2cxxm34w

幼馴染「……」

幼馴染「ねぇ、私たちは、これからどうなると思う?」


男「――」

男「分からない、けど……」

男「うまく行けば、きっと、どこかで住む場所を見つけて……」

男「俺とお前の二人で、そこで生きていくことも、できるかもしれない」

男「そんな可能性も、ある……」 

130 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:11:40 ID:2cxxm34w

幼馴染「……」

幼馴染「私……」

幼馴染「子供を、作りたい……男と……」


男「――――え?」


幼馴染「さっきの光景を見てたら、なんだか、すごく幸せそうで……」

幼馴染「私も、あんな家族が、欲しくて……」

幼馴染「だから、お願い、できないかな……?」

幼馴染「――この前、私の事、好きって言ってくれたよね……?」

幼馴染「だったら……」 

131 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:12:14 ID:2cxxm34w

男「――いや、でもそれは……」


幼馴染「……」

幼馴染「私、もう●●じゃないんだ……」

幼馴染「あの男に、●されちゃったから……」

幼馴染「あの、馬鹿で醜い、腐った男に……」

幼馴染「……」

幼馴染「なんだかあれ以来、全身からひどく、嫌な匂いがするようで」

幼馴染「だから……」


男「……」 

132 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:12:47 ID:2cxxm34w

幼馴染「汚くて、穢れていて……」

幼馴染「……やっぱり、嫌かな……そういうのって……」


男「……嫌とは、思わない……」

男「だけど、いいのか?」

男「こんな――」


 チュ


幼馴染「――――」


男「――――」 

133 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:13:20 ID:2cxxm34w

――明け方


男「……」


男(……そうか……あれから、朝まで……)

男(気が狂ったかのように……) 

134 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:13:54 ID:2cxxm34w

男(……)

男(いや、実際、気が狂っている……)

男(今のような状況下で、子供を作るなんて……)

男(馬鹿げている……)

男(もし仮に、子供が無事にできたとして)

男(こんな状況に置かれた俺と幼馴染に、まともに育てられるとは思えない……)

男(……最初から、無理な話なんだ……) 

135 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:14:27 ID:2cxxm34w

幼馴染「……」ムクリ


男「……?」

男「幼馴染? まだ起きて……?」


 スッ


男「――――」


幼馴染「――――」


 グッ


男(――幼馴染が、俺の首を、締めて……!!) 

136 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:15:01 ID:2cxxm34w

幼馴染「……ごめんね」


幼馴染「色々、想像してみたんだ……未来を……」

幼馴染「だけど、やっぱりうまくいかなかった」

幼馴染「私と男が、一緒に幸福になれる未来を、想像することはできなかった……」


幼馴染「きっと、無理なんだよ」

幼馴染「どうやっても、幸福には、なれないんだと思う」

幼馴染「だから――」 

137 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:15:34 ID:2cxxm34w

幼馴染「――少し苦しいかもしれないけど、ごめん……」

幼馴染「私も、すぐに、そっちに行くから……」


 グググッ


男(――――)

男(――地元から逃げ、北に向かい、そして、ただ偶然立ち寄っただけのこんな場所で……)

男(俺達は、死ぬのか……?) 


138 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:16:07 ID:2cxxm34w

男(……)

男(……だけど、それもいいのかもしれないな?)

男(幼馴染の言った通り……)

男(もうこの世界に、俺達が幸福になれる場所は、どこにもないような気がする……)

男(だったら、こういう終わり方も、いいんじゃないか……?)


 グググッ


男(……抵抗せず、受け入ようか……?)

男(このまま……) 

139 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:16:40 ID:2cxxm34w

男(――北の国で、逃亡した男女が、心中)

男(それは悲劇でありながら、ロマンチックで、美しい……)


 グググッ


男(――――)

男(――美しい……)


 グググッ

 ――ガシッ


幼馴染「……!!」 

140 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:17:14 ID:2cxxm34w

男(だけど、その美しさは……)

男(何か……違うような、気がする……)

男(――)

男(受け入れてはならないもののように、思うんだ……!)


男「――ごほっ! がはっ!」


幼馴染「……」


男「――はぁ……はぁ……!」 

141 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:17:48 ID:2cxxm34w

幼馴染「……どうして……」


男「……!」

男「生きないと……!」

男「生きないと、ダメだ……!」


男「死は決して、美しいものじゃない」

男「――美しく、思ってはならない」

男「……」

男「俺達は、生きるべきだ……」 

142 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:18:21 ID:2cxxm34w

幼馴染「――――」

幼馴染「だけど、どうやって!!?」

幼馴染「ここから、どうやって、生きていけばいいってっ!!」


男「――戻ろう」


幼馴染「も、戻るって……」


男「俺達の住んでいた、あの町へ……」

男「きっと……」

男「こんな俺達にでも、もし、幸福というものがあるとすれば」

男「きっと、あそこにしかないんじゃないかって、思う……」 

143 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:18:55 ID:2cxxm34w

幼馴染「それは……」

幼馴染「警察に、自首すると、いうこと……?」


男「――そうだ」


幼馴染「――――」

幼馴染「」ブワッ 

144 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:19:28 ID:2cxxm34w

――朝 帰りの電車の中


 ガタン ゴトン


幼馴染「……」


男「……」


幼馴染(……平和な、光景だ……)

幼馴染(柔らかな、優しい朝日が、まだ人の少ない電車の中を、照らしている……)

幼馴染(……) 

145 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:20:02 ID:2cxxm34w

幼馴染(……お父さん……)

幼馴染(私は、あなたが、憎い……)

幼馴染(憎くて――)


  ( ゲシッ! ゲシッ! )


  (幼馴染「この――! このっ――!!」)


  ( ゲシッ! ゲシッ! )


  (幼馴染「この、馬鹿な男のせいで……!!」)

  (幼馴染「全部……!」)

  (幼馴染「全部……っ!!」) 

146 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:20:36 ID:2cxxm34w

幼馴染(憎くて……)


  (幼馴染「あの男に、●されちゃったから……」)

  (幼馴染「あの、馬鹿で醜い、腐った男に……」)

  (幼馴染「……」)

  (幼馴染「なんだかあれ以来、全身からひどく、嫌な匂いがするようで」)

  (幼馴染「だから……」)


幼馴染(憎くて……心の底から、大嫌いだけど……)

幼馴染(でも――) 

147 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:21:09 ID:2cxxm34w

幼馴染(……こんな、やさしい陽の光を見ていると、ふと、思い出してしまう)

幼馴染(最後はあんなふうになってしまったけれど、かつては、私を愛してくれていた、たった一人の父親だったということを……)

幼馴染(思い出して、しまう……)


幼馴染(今がどれだけ辛くて、苦しくて、憎しみばかりがあったとしても……)

幼馴染(かつて、私に大切な父がいたという事実は……)

幼馴染(……決して、消えない……) 

148 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:21:42 ID:2cxxm34w

幼馴染(……)

幼馴染(ああ――この世界は……)

幼馴染(思っていたよりもずっと、沢山の、愛で満ちているのかもしれない……) 

149 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:22:16 ID:2cxxm34w

――地元の駅



男「着いた……」

男「――」

男「少しの間、離れていただけなのに……」

男「すごく、懐かしい場所に戻ってきたような気がする……」


幼馴染「……うん……そうだね……」 

150 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/02(金) 18:22:50 ID:2cxxm34w

男「…………」


幼馴染「…………」


男「――」

男「それじゃあ、行こうか……」


幼馴染「……また、会えるよね?」

幼馴染「これが、全部、終わっても……」


男「――――」

男「――もちろんだ」


幼馴染「うん、それじゃあ……行こうか――」 

156 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:08:21 ID:YqHpPE/Q

――とある刑務所 面会室


男「……」

男「お……?」


キモオタ「フォカヌポウwwwwww」


男「おお、キモオタか!」

男「久しぶりだなっ!!」


キモオタ「フォカヌポウwwwwww」


男「変わりないようでなによりだ……」 

157 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:08:54 ID:YqHpPE/Q

キモオタ「フォカヌポウwwwwww」


男「――しかしまぁ、前々から思ってたんだが……」

男「フォカヌポウwwwwwwっていう笑い方……」

男「――そのネタ、もう古いぞ?」


キモオタ「……………………」

キモオタ「…………マジ?」 

158 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:09:28 ID:YqHpPE/Q

男「マジだ」


キモオタ「……」


男「……」


キモオタ「ま、まぁそんなことは些細なことだ……」


男(動揺してる……) 

159 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:10:02 ID:YqHpPE/Q

キモオタ「――」

キモオタ「――それにしても、面会するのに苦労したぜ……」

キモオタ「ここの刑務所は、基本的に親族しか面会できないっていうルールだからな」

キモオタ「親父に頭を下げて、コネを使って、無理矢理にねじ込んでもらったが……」

キモオタ「なかなかに大変だった」


男「それは、わざわざすまんな……」


キモオタ「いやいいよ」

キモオタ「俺が勝手にそうしたいと思っただけだ」 

160 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:10:35 ID:YqHpPE/Q

キモオタ「――それよりか、何か欲しい物とかはないか?」

キモオタ「簡単なものなら、俺が用意できるが……」


男「……」

男「いや、今のところ特にないな……」


キモオタ「お前が望むなら、玲愛ちゃんの抱き枕を持ってきてやってもいいぞ」


男「…………………………………………………………………………」

男「……………………………………………………いや、別にいい」


キモオタ(今の沈黙長かったな……) 

161 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:11:09 ID:YqHpPE/Q

男「まぁ、そういうのは、ここを出てからにするよ」

男「……それよりも、幼馴染のほうの様子はどうなんだ?」


キモオタ「幼馴染か……」

キモオタ「直接会ったわけじゃないけど、特に問題は無いって聞いてるぞ」


男「そっか、それならまぁ、大丈夫なんだろう」


キモオタ「……」

キモオタ「――っと、そろそろ面会時間も終わりか」


男「おう、そうか」


キモオタ「それじゃあな、達者で――」


男「ああ――」 

162 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:11:43 ID:YqHpPE/Q


――刑務所 夜


男「……」


男(今では随分と、良くなってきたが……)

男(それでもこうして、なぜだか目が冴えて眠れない夜が、ある)


男(……とりとめのない思考が浮かんできては、また、消えていく)

男(――あの時俺は、どうすればよかったのか?)

男(――俺は、幼馴染のことをどう思っているのか?)

男(――俺はこれから先、幸福になることができるんだろうか?)

男(……)

男(答えなんて、どこにもない……) 

163 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:12:17 ID:YqHpPE/Q

男(だけど、いつか)

男(俺がここを出る時までには……)

男(こうした思考の中、大切な何かを、見つけなければならないんだと思う)

男(それは、俺だけじゃなくて……)

男(こうして、刑務所に入れられた人は、皆……) 

164 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:12:50 ID:YqHpPE/Q

――ある日の夜 明け方


男(――ある日、俺は夢を見た)


男(その夢の中で、俺は、幸福な生活を送っていた)

男(幼馴染にも、俺にも、優しい両親がいて……これ以上ないくらい幸せな日々だった)

男(皆、誰もが笑顔で、そして世界中がキラキラ輝いているように見えた……)


男(だけど)

男(だけど俺は、その幸せな夢を、許すことができなかった) 

165 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:13:24 ID:YqHpPE/Q

男(――俺は幼馴染の手を引き、その場を飛び出した)

男(その世界から逃げるように、走って走って走って……)

男(そして気づけば、俺の両親も、幼馴染の両親もいない、寂しく冷たい世界にやってきていた)


男(大切な人がいなくなった悲しみに、幼馴染はわんわん泣いた)

男(そして俺もまた、泣いてしまっていた)

男(泣いて泣いて泣いて……そうして、いつの間にか、夢から覚めていた)


男「――」パチッ 

166 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:14:32 ID:YqHpPE/Q

男(目が覚めた時、俺は本当に泣いていた)

男(幼馴染の父が死んでから、俺が涙を流したのは、これが初めてだった)


男(――心は、ひどく落ち着いていた)


男(ふと、部屋に一筋の光が差し込んでいることに気がついた)

男(太陽が、昇り始めている)


男(昨日とは違う新しい一日が、始まろうとしていた――) 

167 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:15:06 ID:YqHpPE/Q

――数年後 刑務所前


 ギィイイイ

 ――バタン


男「―――」

男「……久々に、塀のない外だが……」

男「やっぱり、気分がいいもんだな……」 

168 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:15:40 ID:YqHpPE/Q

男「さて――じゃあとりあえずは、家に帰るか……」

男「……」

男「家、さすがに無くなってたりとかしないよな?」

男「……まぁ、大丈夫か」

男「無かったら、適当にアパートでも借りれば……」


 テクテクテク


男「……しかし、家に帰ったら、どうするか……」

男「とりあえずは、働いて、お金を溜めなくちゃいけないかな……」

男「――幼馴染は、まだ中だろうからな……」

男「……」

男「先は、長い……」 

169 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:16:13 ID:YqHpPE/Q

――さらに数年後 自宅前


男「……さて、今日も働いてきた……」

男「疲れたな……」

男「今日は、飯も風呂も明日にして、さっさと寝るか……」 

170 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:16:47 ID:YqHpPE/Q

 スタスタ


男「……ん?」

男「誰かが、家の前に……」

男「!!!」


幼馴染「……」


男「お、お、お……幼馴染……」


幼馴染「……あ……」

幼馴染「男……?」


男「――――!!」


幼馴染「――――!!」


 ダッ! 

171 : ◆1ZeiE0m4Qo:2015/01/03(土) 17:17:21 ID:YqHpPE/Q

男(――幼馴染と再開した時、最初にどうやって声をかけようだとか、そういうことは今までに何度もシミュレーションしていた)

男(だけど実際、彼女を前にした時、それらの考えは全部吹き飛んでしまった)

男(ただ、抱きしめて……涙が溢れて……)

男(二人でわんわんと、外で泣いた……)


男(――だけど、だんだんと、そうやって大声で泣いているのが、バカらしくなってきて)

男(気づけば二人で、笑っていた)


男(やがて、その笑いさえも収まった俺と幼馴染は……)

男(これからの未来についての話を、始めた――――)


         ―― 了 ――