1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/26(土) 21:32:58.27 ID:ac/xYfgzo

「めっ!」

スパンッと

新聞の優しい打撃が私の頭を叩いた

「………………」

「冗談でも怒りますよ?」

「もう怒ってるわよ……はぁ辛い」

「熱出してるんですから、それはそうですよ」

やよいちゃんはそういうけど

実際は平熱

ただなんとなく仕事をサボりたかっただけ

ううん、ちょっと疲れすぎたのかもしれない

そうじゃなきゃ、やよいちゃんの検温を誤魔化すわけないわよね

プロデューサーさんや律子さんにも迷惑かけちゃうなぁ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1382790778

引用元: 小鳥「はぁ……死にたい」 


 

2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/26(土) 21:45:04.57 ID:ac/xYfgzo

「昨日は何時に寝たんですか?」

「あっ、ちょ、待っ」

「え?」

やよいちゃんが薄い本を持ってる

それは素晴らしいことかもしれないけど

自分のやつを片付けられてるっていうのはちょっと

「ダメですよっ、横になってて下さい」

「いや、でも……本」

「本がどうかしたんですか? あっ、読みたい本があるんですか?」

「いや、ないないないっ!」

やよいちゃんに本を手渡されるとか

いくら私でも恥ずかしい

「そうですかー? なら、安静にしていて下さい」

5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/26(土) 21:59:24.43 ID:ac/xYfgzo

いつ中身を見られるのかとヒヤヒヤしたものの

やよいちゃんは何も気にすることなく本棚に並べていく

いや、いつもは普通の本棚に並べてないんだけど

そこはやよいちゃんに言えないし

やよいちゃんは知らなくていいことよね

「小鳥さん、お粥作るんですけど……」

「やよいちゃんのお粥!?」

「は、はいっ。それで、どんなのが良いかなって」

どんなのがいいかって?

やよいちゃんの手料理なら何でも良いけど

「ごめんね、あるのは卵くらいよ」

「じゃぁ卵雑炊ですね、栄養満点ですーっ」

「う、うん……」

春香ちゃんたちなら

小鳥さんの卵ですか? とか、産地直送?

とか、色々言ってくれそうなのに……

6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/26(土) 22:10:55.97 ID:ac/xYfgzo

いや、ゲテモノ食べさせられたり

家が火事になったりする心配のない

やよいちゃんだし、そこは……ね

「……はぁ」

またため息

自分でも多いとは思うけど

なんだか我慢できないのよね

あれかしら、うつ病

仕事は多忙、結婚できない、お付き合いもできない

……はぁ。

いや、仕事は忙しくても楽しいし

恋愛は……かふっ

ま、まぁ、仕事が恋人だし?

7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/26(土) 22:30:27.45 ID:ac/xYfgzo

でも、なんでやよいちゃんは来てくれたのかしら

記憶によれば

今日はオフだから仕事上の心配はしてないけど

もしかして、事務所に来ていたのかしら

それでプロデューサーさんから聞いて

心配だから来た?

家にまで来てくれるとはおもってなかったけど、

「やよいちゃんだものね、ありえなくないか……」

「小鳥さーん、あとちょっとで出来ますよーっ」

いつもは私一人しかいない家

でも今は、やよいちゃんがいる

なんだか心がちょっと温かくなった……気がする

「誰かといるって、そういうことなのかしら……」

この歳になってそんなことで悩むなんて

どうしたのかしら、本当……

8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/26(土) 22:45:06.00 ID:ac/xYfgzo

「小鳥さん、お待たせしました」

そんな声と共に開かられる扉

廊下からの明かりを背中に受け

部屋の中へと影を伸ばす天使……じゃなかった

やよいちゃん

その姿があまりにも愛らしかったからか

「……やよいちゃん、うちに嫁がない?」

そんなことを思わず口走っていた

「はい?」

「なんでもない」

やばい、ちょっと血迷った

「えへへっ、私はまだ子供ですよ?」

「年齢的にはね。でも、色々な意味で、大人よりも優秀じゃないかしら」

「そう言って貰えると、凄く嬉しいかなーって」

満面の笑み

やっぱり、天使ちゃんだわ

9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/26(土) 23:08:28.99 ID:ac/xYfgzo

「とにかく、まずはお食事です」

「はーい」

「あははっ、小鳥さんなんだか子供みたいですよっ?」

「いいじゃない、病気の時くらい……」

なんだろう。

なんで、ちょっと悲しくなったんだろう

大人でいなくちゃいけないとか

そういうことはないはずなのに

「……別に良いと思いますよ?」

「え?」

「小鳥さん、いっつもお姉さんですから」

そういったやよいちゃんは

ほんの少し寂しそうな目をしてさらに呟いた

「……お姉さんですから」

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/26(土) 23:37:27.69 ID:ac/xYfgzo

やよいちゃんは高槻家長女

だからこそ

やよいちゃんは私の気持ちを……

私でさえ気づかないことに気づくことができる

「ずっとお姉ちゃんでいることは、疲れますよね」

「………………」

「悲しさも、痛さも、辛さも、苦しさも、全部見せられない」

お粥をすくい、私の口元へと運ぶ

その表情は哀愁を感じさせた

「そうよね……んっ、いい塩加減だわ」

「……私は、事務所では妹みたいなものですから。その分甘えられます」

「ふふっ、あの中でお姉ちゃんにはなれないわよ。あずささんに貴音ちゃんたちもいるもの」

「でも、小鳥さんはいつもお姉さんじゃないですか。甘えられる人、いないじゃないですか」

地味に大ダメージなんだけど……それ

やよいちゃんはそんなつもりないだろうけど

恋人いないじゃないですかって意味に聞こえた私って……

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/26(土) 23:56:45.55 ID:ac/xYfgzo

「だから」

そんな卑屈な考えを

やよいちゃんの声が呼び戻す

「甘えても、いいんじゃないですか?」

再び差し出されたスプーン

「やよいちゃん……」

私は仮病なのになんでだろう?

なんでやよいちゃんが別人に見える?

勝手に脳味噌が妄想してる?

いや、違う……

「私はこう見えてお姉ちゃんなんですよーっ」

えへへっとやよいちゃんは笑う

可愛いだけじゃない

このやよいちゃんは私よりも上に見えた……

13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/27(日) 00:14:54.14 ID:azOHb23ao

「私、やよいちゃんよりも倍近く生きてるんだけど」

「そうですね、ちょっと憧れてます」

「ちょっと?」

「えっ、あっいえ、す、すっごくですっ」

私ってあんまり目指されるような大人じゃないのかなぁ?

いや、やよいちゃんのちょっとっていう理由は

そんなことじゃなくて

誰もが思わざるを得ない

将来の不安による大人への抵抗から。だと思う

「やよいちゃん……大人になるのは怖いわよ?」

「でも、成長すれば勝手に大人になっちゃいます……」

そっか……やよいちゃんは3人も4人も妹や弟がいる

その分だけ、やよいちゃんは普通の子よりも先に進んでるのね

14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/27(日) 00:32:34.76 ID:azOHb23ao

「仕事は多いし、残業ばっかりだし、そのせいでろくに交際もできやしない」

「あははっそうなんですかー?」

「……ごめん、交際は嘘。でも、出会いは少ないわ」

まぁ出会いがないのはこういう職場

しかも男性は社長とプロデューサーさんの2人だけ

っていうせいだけど

「じゃぁ、つまらないですか?」

「ううん、楽しい。楽しくて仕方がない」

私は自然と笑っていた

自然と……やよいちゃんに零していた

「辛い、苦しいでも楽しい。悲しい、大変でも……嬉しいわ」

「えへへっ、小鳥さんの笑顔。今日初めてです」

「あ……」

「私、知ってました。小鳥さんが仮病だって」

「…………………」

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/27(日) 00:56:19.84 ID:azOHb23ao

「お姉ちゃんですから」

そう言ってやよいちゃんは笑う

ですよね

やっぱりやよいちゃんに仮病はきかないか

聞いた限りだけど

年齢的に長介くん辺りがやりそうだものね

「……ごめんね、せっかくのお休み。私のわがままで潰しちゃったわ」

「いえ、いつもお世話になってますから」

やよいちゃんは怒ろうとはしない

ちょっと見てみたいって思ったのは秘密だ

「お酒を飲めば酔えるって大人は言います。でも、逃げてるだけって大人は言います」

「ふふっプロデューサーさんかしら?」

「秘密ですっ」

やよいちゃん嘘下手だなぁ……可愛い

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/27(日) 01:11:29.54 ID:azOHb23ao

「まぁ逃げてるっていうより……自白剤みたいなものよ」

「じはくざい?」

「あー素直になる薬。みたいな?」

「なるほどー」

あんまり難しい話はダメなところは

やっぱり子供……か

でも、だからこそ話せちゃうのかしら

ただでさえ不思議と大人びて見えるのに。

難しい言葉を簡単に……そっか

難しい言葉を簡単な言葉に

固い頭を、子供のような柔らかい頭に

……ふふっ

「えっと、とりあえずですね? お酒ではやっぱり溜め込むだけだと思います」

「お酒で酔って、強引に……だものね。一理あるわ」

「だけど、今みたいにお酒飲まずに素直になれれば……吐き出せるんじゃないかなーって」

18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/27(日) 01:21:50.72 ID:azOHb23ao

「その手伝いができたなら、休みを使ったことを後悔したりしません」

「……良いお嫁さんになるわね。将来が楽しみだわ」

「そうですかー?」

家事完璧

子育て完璧

可愛いのち美人

しかも優しい

最高の奥さんね……口惜しい

男に生まれたかった

「そうじゃなくても」

「ん?」

「小鳥さんとゆっくりできたから満足ですっ」

やよいちゃん、嬉しそう

やよいちゃんが嬉しそうだと、私も嬉しい

19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/27(日) 01:29:37.47 ID:azOHb23ao

「やよいちゃん……ありがとう」

「はいっ」

「また、2人でゆっくり話をしたい」

「はいっ」

…………えっ?

「いいの?」

「はい」

流れで言っちゃったことを

やよいちゃんは簡単に受けてくれた

私の溜め込んだ楽しくもつまらない愚痴を

聞いて欲しいってお願いを

「その代わり、これからも甘えていいですか?」

「あら。甘える代わりに甘えさせてってこと?」

「ダメですか?」

「だめなんて……言えるわけないじゃない」

20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/27(日) 01:39:45.99 ID:azOHb23ao

寂しかった

みんなと一緒にいて楽しくて

みんなと一緒にいられて嬉しくて

でも、だから一人になった途端その分の寂しさが襲ってくる

大きくはない、でも優しいやよいちゃんの胸

温かい、やよいちゃんの体

「大人なのになぁ……」

「今は、熱を出したただの人ですよ」

「……そういえば、そうね」

そんな寂しさが、無くなる

やよいちゃんがそばにいてくれる

21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/27(日) 01:45:03.25 ID:azOHb23ao

「……結婚したい」

「良い人見つ――」

「やよいちゃんと」

「えへへっそれは無理かなーって」

……脈なしってレベルじゃないわ

まぁ、やよいちゃんは百合とか薔薇とか以前に

異性間恋愛ですら解ってないかもしれない

「つまり、染めるなら今ッ!?」

「なにをですかー?」

「ううん、なんでもない。ねぇ、やよいちゃん」

「はい?」

今はただの熱を出した人

その人を看病する女の子

年齢もなにも関係ない。だから

「もう少し、このままでいい?」

やよいちゃんに抱かれたままゆっくりと目を閉じる

温かい感覚、柔らかい感触

そこに加わる頭に触れる手の感触

それがあまりにも心地良くて、私はいつの間にか眠ってしまった

22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/27(日) 01:49:37.20 ID:azOHb23ao

これで終わりです

年長者である小鳥さん、年少組であるやよい
その掛け合でやよいが上でもいいんじゃないかなぁと


ζ*'ヮ')ζ<これが本当のやよとり!