1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 13:50:15.25 ID:zMfdCQrro
王「そ、その野球とやらは、いったいなんなのじゃ?」

勇者「球技です」

王「……すまぬ勇者。その、球技についても」

勇者「ボールを使ったスポーツです」

王「すまぬスポーツもボールもまったくわからぬ!!」

勇者「わかりました。順を追って説明しましょう」

王「うむ、その前にな」

勇者「?」

王「それが魔王討伐の旅にどのような影響が」

勇者「それはお聞きいただければわかります。少しお時間を」

王「ほ、ほお……」

勇者「スポーツというのは、人間の身体技能を使った遊びになります。走ったり、跳んだり、投げたり、という動きなどのことですね」

王「ふむ、以前城で行った剣技大会みたいなものか?」

勇者「そのような感覚ですね。剣ひとつでも、相手を倒すことを第一の目的としたり、反対に一人だけで剣を振って、その型の美しさを競ったりなど、様々な側面から楽しむことができますよね」

勇者「野球は『ボール』という球体を投げ、それを人間の半身の長さほどの棒、『バット』で打ち返す。この動作が流れの軸となるスポーツになります」


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引用元: 王「や、やきゅー……?」勇者「はい、野球です」 


 

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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 13:50:57.63 ID:zMfdCQrro
王「……すまぬ」

勇者「いえ、わかりませんよね。では僧侶、あれを」

僧侶「は……」

王「……勇者よ、僧侶もその野球とやらをよく」

勇者「知りませんね。私が先ほど思いついた競技ですから」

王「なのになぜあれだけ……」

僧侶「王、これを」

王「あ、ああ……これか、バットとボールは。……ん?」

勇者「はい。こちらの赤い縫い目がついている球、これがボールになります。大体私がここに戻るときに使用した『帰還のオーブ』と同じサイズですね」

王「ちょ、ちょっと、勇者よ?」

勇者「なんでしょうか」

王「これ、帰還のオーブではないのか?」

勇者「違います」

王「答えるのがやけに早くないか?」

勇者「普通です」

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 13:51:49.55 ID:zMfdCQrro
王「いや、これ、周りに鞣し皮を巻いた帰還のオーブでは?」

勇者「野球のボールです」

王「帰還のオーブ、出してみよ?」

勇者「………」

王「ほら、ほら!」

勇者「……僧侶」

僧侶「……は」

勇者「帰還のオーブ、王にお見せしろ」

僧侶「………」

王「僧侶の汗すごくないか?」

勇者「僧侶は元から汗かきです」

僧侶「……は、は」

王「声震えちゃってるではないか? なんか苦し紛れに笑ってるみたいではないか?」

勇者「そんなことはありません。……僧侶、オーブを」

僧侶「………ば、馬車の、なかにヒィ……!」

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 21:40:58.87 ID:zMfdCQrro
王「裏返ったではないか?」

勇者「僧侶は少々喉を悪くしているのです。僧侶、持ってきなさい」

僧侶「勇者様……」

王「僧侶もう『正気ですか』って言う口になってるぞ?」

勇者「僧侶……『君の母の作る料理は、美味いな』」

僧侶「行ってまいります」

王「もういいから!! というかその話はあとでわしにじっくり聞かせてくれ!」


勇者「僧侶は体調が優れないとのことで一度休養させました」

王「うむ……」

勇者「気を取り直して、このボールとバットをどう使うかをご説明します。王」

王「うむ?」

勇者「私はここから少し離れますので、このボールを王座からこちらに投げてください」

王「わかった……もうよいか?」

勇者「はい。ばっちこーい!!」

王「ば、ばっち……ええい、なんでもいい!」ポイッ

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 21:46:10.00 ID:zMfdCQrro
王「ば、ばっち……ええい、なんでもいい!」ポイッ

勇者「ふんッ!」ブルンッ

王「……」

勇者「これが空振りです」

王「あ、ああ。実演か。なるほどな」

勇者「これをすると『ストライク』という判定になります。これが三つ重なると『アウト』になり、またこれが三つ重なって『チェンジ』となります」

王「チェンジになると、なにが起こるのだ?」

勇者「まあまあ、今度は打ってから説明します。ボール、もう一度投げてみてください」

王「わかった。ほいっ」ピュッ

勇者「ふんッ!」ブルン

王「……」

勇者「……」

王「……もう一回やるか?」

勇者「いえ、王。すみませんが手で持ったボールを、このバットに当ててください。私が構えていますので」

王「諦めが早いな……」

勇者「王が予想以上に良いボールを投げるのですよ……」

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 21:59:00.48 ID:zMfdCQrro

勇者「そうです。これで、ボールが飛ぶのです」

王「ふむ。それで、どうなるのだ」

勇者「ボールがフェアゾーンに入らない場合はファールになります。ノーバンでキャッチしたりランナーがファーストに到達する前にファーストミットにボールが届く、またはファーストミットにボールが入ったままバッターランナーにタッチを」

王「いやがらせだな? 先ほどわしのボールが打てなかったからいやがらせしているのだな?」



勇者「ルールは大体覚えられましたか?」

王「うむ。まだタッチアップやフォースアウト辺りがわからぬが、御主のやりたいことは存分に理解できた」

勇者「では、今度は王がバッターをしましょう」

王「きゅ、急ではないか?」

勇者「いえいえ。こここそ野球の醍醐味ですから。もちろん、王がお打ちできるように、配分しますので」

王「むう、なら……やってみるか」

勇者「はい、じゃあ少し離れますね」

勇者(調子乗りジジイが。俺は元々バッターよりピッチャー向きなんだよ!)

王「勇者、少し遠くはないか? マウンドとホームベースの距離とはそれほどにあるものか?」

勇者「はい。では、行きますね」ズサァッ

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 22:13:37.80 ID:zMfdCQrro

王「なッ……なんだその豪快なピッチングフォームは!? ボールが背中の後ろに隠れて……見えんッ!!」

勇者「これが私の、ストレートです――よッ!」ピシュッ

ズバァン!

戦士「……ストライク」

王「………」

勇者「すみません、少し肩が慣れておらず、王に無礼を……」

勇者(ぷくくっ、超面白いなあの顔! まるでなにが起こったか分かってねえみたいだ!)

勇者(それにフォームもなんだあれ、ビビッて前に出た足がそんまま上がっちまってる……フラミンゴかな? くはは! 傑作!)

勇者「次はもう少し力を抜いて「かまわぬ」やりま……はい?」

王「――かまわぬ。同じボールを、投げるがよい」

勇者「……わかりました」

勇者(ついに耄碌したかあのジジイ……でも、あの顔は――まさか、俺の球を見て『打てる』、そう思ったと?)

勇者「……バカバカしい」ボソッ

勇者(そんなことあるはずがない。俺がこのストレートをどれだけ磨き上げてきたのか、こいつは感じなかったのか?)

王「早くしろ、勇者」

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 22:23:41.43 ID:zMfdCQrro
勇者(またあのフラミンゴ足……ジジイ、何を考えてるんだ?)

勇者「ッ、どうなっても、知りませんよ――ッ!!」ビシュッ

勇者(来たァッ!! ど真ん中、だがこの感覚は――俺のベストのストレート!)

王「……」

ニヤ

勇者(!? あいつ今、笑っ――)



ガッ――キーーン…



王「……なるほど。これが、

  『ホームラン』か」



 これは『野球』というスポーツに愛されたとある一国の王が、
 生涯に『868本のホームラン』を生み出し、
 
 
 ――『世界の王』と呼ばれることになる、それまでの物語である。

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 22:24:29.83 ID:zMfdCQrro