1: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:19:07.63 ID:kEZhe6sq0
プロローグ
~某日とある東京のマンションの一室~

???「………100点」


マンションの一室に置いてある黒い球体。そこには私の顔写真、名前と100点という表示。ここまで稼ぐのにどれだけの時間と犠牲を払ったことだろうか…
画面が切り替わりそこには100点を獲得した者が選べる3つの特典が提示された。


100点メニュー
1. 記憶を消されて解放される
2. より強力な武器を与えられる
3. メモリーの中から人間を再生する


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1477559947

引用元: 千歌「GANTZ?」 


 

 
3: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:26:43.78 ID:kEZhe6sq0
やっと…やっとこの戦いから解放される。今までの怖くて、痛くて、悲しい記憶が走馬灯のように流れていった。


???「お疲れ様…その年でよくここまで来たね。後のメンバーは……私が何とかするから心配しないで!」

???「リーダー…ホントにいいんですか?」


そう……今回のミッションで8人もの犠牲を払ったのだ。
全員リーダーととても親しかったメンバーだけにショックも大きい。
私が抜ければ…リーダーは一人で戦わなくてはならない。
それでも彼女は


???「大丈夫っ! 今までみんなに助けられてばっかりだったんだもん……今度は私の番。あなたにはあなたの人生があるんだから!……ファイトだよ!」

もう…こんな時に無理して明るく振る舞わなくてもいいのに。
でも、そんなリーダーが背中を押してくれるんだ…なら私の答えは――


???「1番…私を解放してっ!」





一章
~3年後、内浦~

千歌「明日はついに入学式かぁ~、先輩って呼ばれるんだね!」

曜『そうだね! …まあ千歌ちゃんは部活やってないから呼ばれる機会は少ないんじゃないかな?』

千歌「うぅ…そうだよね…やっぱり部活に入らないとダメだよねぇ……」


入学式を翌日に控えた夜、私と曜ちゃんは電話でおしゃべりをしていた。そう…それはいつも通りの会話だった。


千歌「部活かぁ…入りたい部が無いからどうしようもないんだよね」

曜『入りたい部活が無いんだったら作っちゃえばいいんじゃない?千歌ちゃんがやるんだったら私も……っ!?』ゾクゾク

千歌「?? どうしたの曜ちゃn」

曜『ごめん千歌ちゃん!! 急用思い出しちゃった!!! もう切るね!』


まただ…高校生になってから時期は一定じゃないけど、夜におしゃべりしたり出掛けたりしてると突然用事を思い出して終わらせようとするようになった。


千歌「もうまたぁ~用事があるなら仕方ないけど…じゃあまた明日ね」

曜『……うん、また明日。明日…絶対会いに行くからねっ!』


そしてこんな時は必ず…必ず曜ちゃんは悲しそうに、でも覚悟を決めたような口調で会話を終わらせる。
今回もそうだった。

……ただ今回違っていたのは、翌朝待ち合わせの時間を過ぎても
曜ちゃんが来ることは無かった――


4: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:32:26.99 ID:kEZhe6sq0
――――――
――――
――

果南「曜が行方不明になってからもう3日たったんだよね…少しは落ち着いた?」


私は幼馴染で3年生の果南ちゃんの家にいた。
曜ちゃんがいなくなったあの日、警察や学校総出で探したけど手がかりは一つも見つからなかった。
今も捜索は続いているけどこのまま何も見つからなければ捜索は打ち切られてしまうらしい…


千歌「曜ちゃん…本当にどこに行っちゃったんだろう……」

果南「…電話では急用だって言ってたんでしょ? ならまだその用事が済んでないから帰って来ないんじゃないかな?」

千歌「連絡も無しに? そんなの絶対おかしいよ! …それに曜ちゃん明日絶対会うって言ってたんだもん…」

果南「千歌……」

千歌「今日も曜ちゃんを探しに行こうよ! もしかしたら…今日なら……」

果南「千歌…大丈夫だよ、私が必ず…どれだけ時間がかかっても曜を連れ戻すからさ……千歌は安心して待ってなよ」

千歌「……果南ちゃん?」


私はこの時、曜ちゃんとの最後の会話と同じ感覚を覚えた。
もしかして果南ちゃんも突然いなくなってしまうんじゃ…そんな気持ちが顔に出ていたことに気付いた果南ちゃんは優しい表情で


果南「そんな顔しないの。心配しなくても大丈夫だよ! 私は“強い”からね?」



果南ちゃんの家か帰る頃にはすっかり日が暮れていた。
果南ちゃんはああ言っていたけどやっぱり曜ちゃんを早く見つけたい…


千歌「今日はどこを探そうかな…時間も遅いしあんまり遠くまで行けないけど、明日は休みだし……うーん」

???「……あなたがタカミ チカさん?」


考え事をしながら歩いていた私の前に誰かが立っていた。
右手を後ろに隠し、フードを深く被っていて顔はよく分からないけど身長や体つき、声色か考えて女の子だということはわかった。


千歌「確かに私の名前はそうですけど…どちら様ですか?」


私は答えるがその子は何も反応しない。
早く行きたいんだけどな~なんて思っていた私はそのまま立ち去ろうとその子とすれ違おうとしたまさにその時、


ザクッ――!


腹部に鋭い痛みを感じた。

5: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:36:10.69 ID:kEZhe6sq0
千歌「えっ…はっ? ……えっ………?」


あまりにも突然の事で何が起こったのか直ぐに理解できなかったが、痛みのする方に目をやるとそこにはその子の右手と握られていた包丁が深々と刺さっていた。
包丁を引き抜かれると私の体を巡っていた赤い液体が滝のように溢れ出し、崩れるようにその場に倒れた。


千歌(…よ…う……ちゃん…果………南…ちゃん……)


薄れゆく意識の中、二人との思いでが頭の中を駆け巡った。
そんな私が最後に目にしたものは綺麗な長い赤髪をした女の子の泣き顔と「ごめんなさい」という言葉だった。
そして、私の意識は冷たくて暗い闇へと落ちていった――



――――――
――――
――

千歌「――――イヤアア!!!??」


再び私が目を覚ましたのは見知らぬ部屋の一室だった。


千歌(えっ!? えっ?? 私っ…道で刺されて?? お腹からいっぱい…でも生きて……なんでっ?)


何が起こったのか私には全く理解できなかった。


千歌(誰かが救急車を呼んでくれたの? でもここって病院じゃ…ないよね??)

???「な…何で……何で千歌がここにいるの!!!??」


絶賛混乱中の私の両肩を力強く抑えながら酷く動揺した口調でいきなり問い詰めれれた。
――その人物は私がよく知ってる人物であった。


千歌「果南ちゃん!!?」




――私は果南ちゃんと別れた後、つまりこの部屋で目覚める直前に何が起きたのかを説明した。


果南「―――なるほどね。じゃあ千歌はその子に刺されて死んだからこの部屋に来たって事だね」

千歌「えっ? でも私こうして生きてるよ?? 心臓も動いてるし足もあるよ」

果南「違うんだよ千歌…この部屋に来たってことはみんな一度死んでるんだよ。…もちろん私もね?」


理解……出来なかった。


果南「私は半年くらい前に、ダイビング中の事故でね?あのときの私も今の千歌と同じ反応だったな~。でもね……」

千歌「ちょっと待って!? ホントにみんな死んでるの!!? ここにいる全員!?」


見渡すとこの部屋には私と果南ちゃんの他に3人の女の子がいたのだ。
一人は隅っこで膝を抱えてすすり泣いていて、一人はブツブツ独り言を言いながら部屋を行ったり来たり、
そしてもう一人はとても落ち着いた様子でいて、グレーのパーカーを着たとても可愛らしい子で下に黒いぴちぴちした服を着ている。


千歌(よく見ると果南ちゃんも同じもの着てるな…)


果南「そうだよ…他の“二人”にはもう状況は説明したんだけど…まあそう簡単には受け入れられないよね」

果南「…それと、もう隠してる必要が無くなったから言うけど実はね、よ……」

黒い球『あ~た~~らし~い~あ~さがっ来た』

5人「「「「「!!?」」」」」

6: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:37:31.83 ID:kEZhe6sq0
突然部屋の端にあった黒い球からラジオ体操? の音楽が流れ始めた。
この部屋に来てから理解できないことが多すぎる…


果南「そっか、今回はこれで全員なんだね」

千歌「どういうこと? 毎回違う人が集まるの??」

果南「ちょっと違うね。前回生き残ったメンバーに毎回新しい人が集められるんだよ。集まる人数は日によって違う。今回は結構少ないかな…」


果南ちゃんが説明し終わると同時に黒い球から流れていた音楽も終わり表面に文字と機械的な音声が流れ始めた。


黒い球『てめえ達の命は、
無くなりました。

新しい命を
どう使おうと
私の勝手です。

という理屈なわけだす。』

千歌「なに…これ……?」

果南「この球はGANTZ(ガンツ)っていうの。」

千歌「ガンツ?」


また表示が切り替わった


GANTZ『てめえ達は今から
この方をヤッつけてに行って下ちい
こだいぎょ星人 特徴:少し強い、生臭い 好きなもの:人間 口くせ:ぎょぎょぎょ』


果南「そう。私より前に居た人がそう呼んでたんだ。……っと、そこの君!危ないから一旦こっちに来て!」


隅っこに座っていた子に果南ちゃんは注意した。
何が起こるんだろうと思っていたら突然ガシャン!とガンツの両端が勢いよく開いた。


千歌「これは…銃なの? おもちゃみたい」

果南「使い方はあとで説明するから! 初参加のみんなはこの球から自分の名前の書いてあるケースを持って!」


果南ちゃんの指示通りケースを探すと、「みかん星人」と書かれたケースを見つけた。


千歌(多分これだよね?他のは私要素無いし…)

果南「みんな見つけた? なら…」


果南ちゃんが言い終わる前に一人の女の子が悲鳴をあげた。
驚いてその子を見ると両腕が徐々に無くなっていった。
そして一人また一人と体が徐々に消えてく。


果南「っ!! もう転送が始まった! 千歌! 早くケースに入ってる服を着てっ!!!」

千歌「ちょ…え? 待ってよ! わけわかんないよ!!!」


そうこうしてるうちに窓ガラスを見ると私も頭の先が無くなり始めている。


果南「千歌お願い!! 早く着替えて!!」


すでに果南ちゃんは口とお腹しか残っておらず、他の人はすでに消えてしまった。
パニックになりながらも言われた通り着替え終わった頃には、手足の消失も始まっていて頭もおでこまで消えていた。
消失が目まで達したとき私は見覚えのある場所に自分が立っていることに気が付いた。


千歌「ここは…沼津港?」



そこは店もすべて閉まった誰もいない夜の沼津港だった。

7: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:39:42.34 ID:kEZhe6sq0
~沼津港 夜~

パーカーの子「へー、この子はちゃんとスーツ着たんだね。あの二人とは大違いだよ」

果南「んな!? 何でスーツ着てないの!!? それにもう一人の子は…」

泣いていた子「ひぃ! あの時…び…びっくりしちゃって…それで落として……もう一人は家が近いって…」

果南「くっ! 早く連れ戻さなきゃ!!」

パーカーの子「ほっときなよ果南さん! 説明はしたんだよ? そこまで世話する必要はないはずよ」

果南「でも…」

千歌「あの…果南ちゃん?」

果南「ん? あぁごめんね…説明しなきゃだよね」


そう言って果南ちゃんは手首に付いていた小さな機械を操作した。
すると画面には沼津港周辺の3Dマップが表示された。


果南「いい? 青い丸で表示されてるのが私で敵が現れると赤い丸が表示されるの」

千歌「敵?私たちこれから戦うの??」

果南「あー…うん、そうだよ。戦うんだよ…でも今回千歌は戦わなくていいよ?」

千歌「えっ、なんで?」

果南「だって千歌は今回が初めてだし…それにあんまり運動神経がいいイメージもないし…」

パーカーの子「つまり戦いに参加しても足手まといってことよ」

果南「ちょっと! そこまでは言ってないでしょ!?」

千歌「あはは…そうだよね~」

パーカーの子「まあ、囮とかには役に立つんじゃない?」

果南「………」ギロッ

パーカーの子「ははっ、……ジョーダンよ」

果南「はぁ…でも千歌も一応武器は持っておいてね」

千歌「? これってあの部屋にあったおもちゃの銃??」

果南「“おもちゃ”なんかじゃないよ? これはね」

パーカーの子「――果南さん」


さっきまでのおちゃらけた話し方とはうって変わった声で名前を呼び、真剣な眼差しで先ほどの機械を見ている。


果南「…レーダーに映ったんだね。二人は物陰に隠れてて!」


私たちは少し離れた所に身を隠した。スーツを着ている私にも果南ちゃんが持っていたレーダーが付いていたので操作してみると、複数の赤い丸が表示されていた。


千歌「敵だ…奥の方にいるんだよね??」


辺りは真っ暗、街灯の光だけが頼りなので遠くのものはハッキリと見えない。
…でもわかる。
100m先にいるのは決して人ではない何かである。
徐々に近づいてくるそれは、大きなサメのような外見で人間の手足のようなものが付いている。
50mを切ったところで、奴が手に何か持っているのがわかった。
隣の子は目が悪いみたいで分からないみたいだけど、私には分かった。…正直分かりたくなかった……


千歌(さっき部屋にいた子の頭だ……)ゾワッ


街灯に照らされた奴らは皆口元が真っ赤になっていた。間違い…あの子を食べたのだ。


千歌(二人とも……本当に大丈夫なのかな……)ブルブル

8: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:43:57.30 ID:kEZhe6sq0
~数分前~

果南「……二人ともちゃんと隠れたみたいだね」

パーカーの子「…フゥー……フゥー……フゥー……」ブルブル

果南「……まったく、あなたもまだ“新入り”なんだからカッコつけなくてもいいのに」

パーカーの子「そうだけどっ! ……それでもあの二人と違って私は一回経験してるんだから……安心させる義務というか、責任というか――」

果南「……やっぱ“善い子”だね?」

パーカーの子「うっさい!! そもそもなんで前回から3日でもう次のミッションなの!?話がちがうじゃない!!」

果南「そんなの知らないよ……私だってこんな短期間に次が来たこと無かったし……」

パーカーの子「何よ……それ」

果南「――でも、好都合だよね?」ニヤ

パーカーの子「は??」

果南「こんな短期間でミッションが続けば100点まであっという間だってこと」

パーカーの子「ちょ……本気で言ってるの!? あんの繰り返してたらいくら果南さんでも……」

果南「――大丈夫だよ、私は強いからね?」ニコ

パーカーの子「……果南さん」

果南「……っと、おしゃべりはここまで。敵も大分近づいてきたね。数は5……6体だから一人頭3体だね」

パーカーの子「えぇ!? 一人で3体も相手するの!?」

果南「文句言わない!! ほら構えて!!」カチャ


サメの姿をした6体の星人が果南たちに一斉に襲い掛かってきた―――




星人との距離が10mを切ったタイミングで果南は構えていたハンディサイズの太い円筒形の銃を二発発射した。
しかし、星人に変化は無く勢いそのまま果南目がけてその鋭い牙で噛みつこうとしていた。


千歌(――果南ちゃん!!)


果南は全く動じない。
星人が噛みつこうとしたその瞬間


バンッ――!


星人の頭と胴体が突然破裂した。
付近の星人もその現象に驚いている。


果南「もう一体っ!!」


ギョーンという独特な発砲音と共に見えない弾丸を発射する。
しかし、星人は素早く横へかわす。


果南「へー、魚なのに陸でも意外と速いんだね……」


果南と二体となった星人は一定の間合いのまま睨み合った。


9: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:47:03.07 ID:kEZhe6sq0
その一方


パーカーの子「くっ……この!この!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!


パーカーの子も銃の連射で応戦している。
が、全く当たらない。
三発目を発射したところで発砲音がしなくなった。
その隙を見逃すはずもなく――


ドゴッ――!


パーカーの子「ぅぐあっ……!!」


体当たり攻撃をまともに食らった。
衝撃でノーバウンドで数メートルも飛ぶほどである。
並の人間、ましてや女の子なら無事なはずがない。
……だが――


パーカーの子「このっ! 油断した!!」


なんとすぐに立ち上がり銃を構えた。
無傷だったのだ。
あんなに吹っ飛んだのにも関わらず。


千歌(この黒い服のおかげ……なのかな?)


千歌は無意識のうちに自分が着ているスーツに目を向けた。
――いくら隠れているとはいえ、戦闘中に敵から目を離すことは命取りになる。


果南「――!? 千歌!! 避けてぇぇぇ!!!!!」


スパッ――


千歌(……えっ?)


遮蔽物ごと少女が真っ二つに引き裂かれた―――




~数十秒前~

果南(参ったな……今回の星人は思った以上に賢いみたい……)


銃を構えたまま近づくと、星人も後退して距離を保ってくる。


果南(この銃の射程がだいたいバレちゃってるね……こんなことなら“大きい方”も持ってくるべきだった)


星人の一体の頬が急激に膨らんだ。


果南(んな!? 何か来る!!!)


星人は自分の足元に口からビームのようなのを発射した。
そのまま果南目がけて振り上げる。


果南(マズッ!? ギリギリ避けられるか!!!?)

10: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:47:55.60 ID:kEZhe6sq0
紙一重で回避。
しかし、この延長線上に何があるのかを思い出した果南は青ざめた。


果南(まずいっ! この方向は!!)




果南「――!? 千歌!! 避けてぇぇぇ!!!!!」


果南の叫びも空しく星人の攻撃は二人のいる遮蔽物を切り裂いた――




―――千歌には何が起きたのか分からなかった。
誰かが叫んだと思ったらいきなり真っ二つにされたのだ。
隣にいた女の子がやられた。
辺りの赤い水溜りと無残な姿になり果てたその子を認識とき、直感で分かってしまった。
“次は私の番”だと


パーカーの子「ヤバッ! 一体そっち向かった!!」

果南「!? こっちも手一杯だよ!?」


そんな千歌に向かって猛スピードで襲い掛かて来る――


千歌(ちょっと!? コッチ来てる!!?)


千歌の手には先ほど果南から渡された武器がある。
しかし、まだ使い方は教わっていなかった。




果南(早くこいつらを倒さないと! でも……)ギョーン!ギョーン!ギョーン!

パーカーの子(連携が凄い! 進路が完全に塞がれる!!)ギョーン!ギョーン!


まだ戦いなれしていない人が目の前の敵以外を考えれば、隙が生れる。
敵の片方の予備動作を完全に見落とした。


スパッ――!


パーカーの子の右肘から下がボトッと落ちた。


パーカーの子「っっっうあぁぁあああぁぁあああ!!!!!!!」


あまりの激痛でその場にうずくまる。
傷口からの激しい出血。

敵はとどめを刺そうと再びビーム攻撃の予備動作に入る。


果南「このっ!!」バキッ!


間一髪、果南の右ストレートが決まりビームは明後日の方向へ。
怪我人を抱え距離を取る。


果南(やっぱりあの攻撃はスーツで守れない……このままじゃこの子が死んじゃう)

果南(千歌……!?千歌はどうなった!!?)――



11: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:48:37.50 ID:kEZhe6sq0
――とっさに銃を構えた千歌は今までの動揺がウソのように無くなっていた。


千歌(引き金は二つ……上を押し込んで起動、下も押し込めば発射……三発連射するとエネルギーチャージが始まって撃てなくなる………射程は――)ブツブツブツ

千歌(――スーツを着ていれば素手でも奴を倒せる……射程がバレてるから銃じゃ難しいから………)ブツブツブツブツ


不思議な感覚だった。
このままじゃヤラレル、戦わなくっちゃダメなんだと自覚してから明らかに“何か”が変わった。
――いや違う、変わっただけで初めて扱う物の使い方が分かるか?
自分がなぜ武器の使い方が分かっていたのか、今の千歌は疑問にすら思っていなかった。
生き残る為。
目の前の敵をどう排除するかで頭がいっぱいだったのだ。

星人はビームの予備動作に入る。
もちろん銃の射程外。

千歌は――。


千歌「いっっっけええええぇぇ!!!」


構えていた銃を思い切り投げつけた。

普通の女の子の肩なら大したことは無い。
……が、スーツの力が加われば?

銃は星人の目に直撃した。
うめき声と共に大きく怯む。

千歌はそのまま間合いをつめ――


ギョーン!ギョーン!ギョーン!――


突き刺さったまま引き金を引いた。

若干のタイムラグの後、星人は内側から三回破裂した。





12: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:50:02.34 ID:kEZhe6sq0
果南「―――……千歌」


星人の返り血で染まった千歌の姿は、果南が見てきた千歌とはまるで違って映った。
その姿はまるで。
散っていったかつての仲間の姿と被ったのだ――


果南(千歌……あなたは一体………)

千歌「っ!? 果南ちゃん!! その子は!!!?」


こっちに気が付いた千歌はいつもの千歌だった。


果南(まあ、かなり特殊な環境だけど……これはいつも通りの千歌かな?)

千歌「果南ちゃん!! 腕が!!! 早く病院に連れて行かないと!」

果南「落ち着いて千歌。大丈夫だから」

千歌「大丈夫って……腕が無くなってるんだよ!?」

果南「あのね、このミッションを終わらせれば……つまり敵を全滅させればあの部屋に帰れるの」

千歌「……帰れる?」

果南「そう。その時に“生きて”さえいればどんな大ケガをしてても治る」

果南「……ただ、この子の出血が止まらない。このままじゃ死んじゃう」

千歌「だったら……やることは一つだね?」

果南「そう…残り三体の星人を私たちで倒すしかない」――




果南が二体、千歌が一体倒し残りは三体となった。
千歌の奇策はすでに見られていのでもう使えない。
距離を開けるとスーツを貫通するビーム攻撃がくる。
となれば……

果南「素手の格闘戦しか無いよね?」

千歌「うぅ……生き物を殴ったことないよぉ」

果南「千歌……さっき銃で倒したじゃん? 殴るよりよっぽど過激なことだと思うよ?」

千歌「そうだけど……」

果南「……まさか初回から千歌と共闘するなんて思ってなかったよ」

果南「――覚悟はできてる?」

千歌「……もちろんだよっ!」


傷ついた仲間を救うため。
再びあの日常に変えるため。
二人の少女は立ち向かう―――




13: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:54:01.07 ID:kEZhe6sq0
―――星人はパワーこそないものの、素早い動きでこちらの攻撃をかわす。
そして確実に二人のスーツにダメージを与えていく。


千歌「っうう! 全然攻撃が当たらないよ!?」シュッシュッ

果南「……仕方ない、千歌! 合図したら思いっきり上に飛んで!!」


千歌「!? わ…わかった!!」


どうやら果南には策があるようだ。


千歌(よくわからないけど、果南ちゃんに任せるしか無いよねっ!)


敵の攻撃を防ぎながら時を待つ。
果南にはまだ敵に使用していない武器がある。
それは果南が最も使いこなせる武器であったが……。


果南(チャンスは一瞬、パンチが当たらない以上“この武器”も無理。最低でも一体は仕留める!!)


青く光っていたスーツが点滅し始める。
スーツの耐久が限界まで近づいているのだ。
早くしないとヤラレル……

――その瞬間、果南の正面に星人三体が並んだ。
チャンスが、来た―――


果南「――飛べ!! 千歌!!!」


果南は腰に付けていたブレード展開し、水平に薙ぎ払った。


スパッ――!!


――三体の星人の上半身と下半身は切り裂かれた。




合図を聞いた千歌は力の限り上に飛んだ。
着地したときには星人は皆切られてバラバラに転がっていた。


千歌「それって……剣?」

果南「うーん、形状的に刀だとおもうな?切れ味が凄いから倒せるのは分かってたけど……私の剣術じゃ当たらないと思ったからね。チャンスを待ってたんだよ」

千歌「もう……ダメだとおもったよぉ」グスッ

果南「はは、ゴメンゴメン。でもまとめて倒せたからいいでしょ?」

千歌「まあね……これならあの子も助かるね!」

果南「そうだね! もうすぐ部屋に転送されるはずだけど――!?」

14: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:55:02.64 ID:kEZhe6sq0




―――前にも言ったが戦闘中に敵から目を離すのは命取りである。
腰から下を切り落としただけではすぐには死なない。

不運にもまだ絶命していない星人は千歌の方向に上半身が向いていた。
一矢報いるため最後の力を振り絞り、ビームを放った―――




―――それは反射的だった。
千歌の後ろにいた星人が攻撃するのが目にはいった。
このままでは千歌がやられる。

千歌を横に押しのける事は出来た。

ただ、千歌に向けられた攻撃は……果南の心臓を貫いた―――



千歌(――……えっ?)


果南の胸を何かが貫き、崩れるように倒れる。


千歌「か……な……イヤ………イヤアアアアアァァ!!!!!」


星人は追撃する力はもう残っていなかった。
千歌は必至で呼び起こす。


千歌「いやだよ!! 果南ちゃん!!! しっかりして!!!!!」

果南「………ち……か、よか……った………」ドクドク

千歌「っっ!? そうだ……もうすぐ戻れるんだよ!!戻れば治るんだよね!!?」

果南「はは……千歌……きい………て……」

千歌「もうしゃべらないで!!」


果南の体がどんどん冷たくなっていく。
目の焦点も合っていない……


果南「あの………ね……よ………う……も………ひゃく……て……――」


――そのまま果南は動かなくなった。
うっすらと目を開けたまま……
その瞳孔は大きく開いていた。


千歌「うそ……うそでしょ!? 起きて!! 起きてよ!!」ボロボロ

果南「………」


転送が始まった。
泣きじゃくりながら果南に呼びかけ続ける。
まだ生きているはず。
まだ間に合う。
千歌は叫び続ける――

――だが、その日果南が転送されることは無かったのだった。
千歌は

また


大切な人を



失った……




15: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 18:57:55.78 ID:kEZhe6sq0
――――――
――――
――
~GANTZの部屋~

パーカーの子「………果南さんは?」

千歌「うぅ……果南……ちゃん………」ボロボロ


あの部屋に戻って来られたのは二人だけ。
千歌の様子を見て、彼女も察するのは容易だった。


パーカーの子「っあのバカ! あとちょっとで100点だったのに!! 死んじゃったら意味ないじゃない……」

千歌「ぐすっ……100点?」


チン! という昔の電子レンジの音がGANTZからした。

今までの制限時間の表示が消え、新たな文字が浮かんだ。


GANTZ『それぢは、ちいてんを
はじぬる』

パーカーの子「今回のミッションの採点が始まるのよ。」

千歌「採点?」

パーカーの子「そう。倒した敵の数と強さに応じた点数が貰える……らしい」


GANTZ『堕天使(笑)
0点
TOTAL 10点』

パーカーの子「ほらね? 今回は誰も倒せなかったから0点」

GANTZ『ミカン星人
10点』

千歌(10点……私は一体倒したんだもんね……)

パーカーの子「あの星人10点だったのね……今回生き残ってれば100点だったのに!!」

千歌「ねえ、この点数って何なの? 100点取るとどーなるの??」

パーカーの子「えーっと……果南さんが言うには……いや、見てもらった方が早いか」

パーカーの子「ガンツ! 100点メニューを見せて」


その子の呼びかけで再び表示が切り替わる。


100点メニュー
1. 記憶を消されて解放される
2. より強力な武器を与えられる
3. メモリーの中から人間を再生する


パーカーの子「今日みたいなミッションをこなして100点を取ると、この中から一つ選べるらしいの。……実際に見たこと無いからホントか分からないけど」

16: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 19:00:05.18 ID:kEZhe6sq0
千歌「一番を選べば……もうあんな戦いをしなくてもいいって事だよね?」

パーカーの子「そうでしょうね……果南さんは三番を選ぼうとしてたけど」

千歌「!? そっか!! 私が100点を取れば果南ちゃんは生き返るんだね!!」


―生き返る。
また果南に会える。
ほんの僅かだが希望があった。


千歌「果南ちゃんは……誰を生き返らせようとしたの?」

パーカーの子「あぁ、あなたは知るはず無いか。多分、前回までリーダーをやってた人だと思う。」

千歌「え? 果南ちゃんがずっとリーダーだったんじゃ無いんだ」

パーカーの子「私も3日前の前回が初めてだったからよく分からなかったけど……果南さんもその人の指示に従ってたから多分そう」

パーカーの子「その人も普通の女の子だったのに滅茶苦茶強かったな……」

千歌「ならなんで……」

パーカーの子「果南さんをかばったのよ……即死だったわ」

千歌「そんな……」

パーカーの子「果南さんもかなりショックだったみたいでね……『私のせいで大切な幼馴染の親友を死なせてた』って言っていたわ」

千歌「大切な幼馴染の……親友??」


―千歌は何かが引っかかった。
3日前……親友の失踪……この部屋………前リーダーの死……果南ちゃんの幼馴染……

ほとんど分かっている自覚はあった。
しかし……聞かずにはいられなかった。


千歌「――前のリーダーの名前って……分かる?」

パーカーの子「えぇ、確か――



“曜ちゃん”って呼ばれてたわ?」

17: ◆ddl1yAxPyU 2016/10/27(木) 19:02:00.70 ID:kEZhe6sq0
――千歌は今までの曜の妙な異変の原因がやっとわかった。


千歌(曜ちゃん……一年前からこんな戦いに参加してたんだね。いつ死んじゃうか分からないこんな夜を何度も――)



――曜との最後の電話に込められた思い。
絶対に明日千歌ちゃんに会う。
千歌ちゃんとおしゃべりをする。
千歌ちゃんと遊ぶ。
千歌ちゃんと……


どんな事を思っていたか、全部は分からない。
でも、あの夜。
曜は確かにここにいた。
姿は無いけれど、確かに曜を見つけた――




涙は出なかった。


自分がどうするべきか。



その答えが見つかった――




パーカーの子「そういえば、私たち自己紹介がまだだったわね?」

千歌「え?あぁそうだったね!すっかり忘れてたよ……」アハハ

千歌「私は高海 千歌。浦の星女学院の二年生だよ!!」

パーカーの子「えぇ!? 同じ学校の先輩だったの!!?この学校の生徒率たっかいわね……」

パーカーの子「私も今年、浦の星に入学したの」

千歌「そうなの? 後輩なんだぁ」

パーカーの子「まぁそうなるわね。名前は―――」




善子「―――津島 善子よ」



第一章 完

21: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:21:33.30 ID:Xr5TecOi0
二章
――
――――
――――――


???(私が……私が何をしたっていうの?)



フードを深く被り右手には包丁
左手には―――小さな黒い球


黒い球には“タカミ チカ”とこの名前であろう顔の表示

さらに、その人物の殺害が指示されていた


こんな指示に従う人間はまずいない

報酬も無ければ、恨みもない

ましてや彼女は自分が“全く知らない”人間である



それでも彼女はタカミ チカの殺害を実行する。


――家族を人質にされているからだ



彼女はまだ知らない

これから自分が殺める人間と“再びあの戦場”に戻ることを―――


22: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:22:58.36 ID:Xr5TecOi0



~初ミッションから二日後 教室~

千歌(自己紹介が終わった後、私たちは一旦家に帰ることにした)

千歌(善子ちゃんに聞きたい事は山ほどあったけど、善子ちゃんもかなり疲れていてそれどころじゃ無かったんだ。まぁ……当然だよね?)

千歌(部屋を出るとそこは、沼津駅の近くにある高層マンションの一室だったんだ)

千歌(善子ちゃんの家は割と近くにあるみたいだけど……まだ夜明け前だったから当然バスは無く、私は走って帰る羽目に)

千歌(内浦まで普通だったら徒歩で三時間はかかるけど……スーツの力を使ったら三十分もしなかったよ。凄いねこの服)

千歌(家に着いたら美渡姉に思いっきり殴られたよ……スーツ着てるから美渡姉の方が凄く痛かっただろうな)

千歌(『あんたいままでどこに行ってたんだ!!』『私たちがどれだけ心配したかっ!!!』って泣きながら怒鳴られてね……)

千歌(私はこの時になってやっと自覚したんだ。『――私は帰って来られた』ってね)

千歌(そしたら今までの緊張から解放されて……そりゃワンワン泣いたよね。騒ぎを聞きつけた志満姉も一緒になってさ……)

千歌(二人には詳しい事情は話せなかったけど、曜ちゃんを探してたって言って納得してもらった。……ウソじゃないもんね?)

千歌(――そして今日は休みが明けた月曜日、私は教室にいるんだけど……)




23: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:24:03.29 ID:Xr5TecOi0

千歌「――転校生?」

クラスメイトA「そうなの!なんでも東京の学校から来る子らしくてさ」

クラスメイトB「本当はもう少し早かったらしいんだけど、ほら……曜ちゃんの件でちょっとごたごたしたでしょ?」

クラスメイトA「曜ちゃん……どこに行っちゃったんだろうね………なんでも三年生のクラスでも一人行方不明になったみたいだよ?」

クラスメイトB「うちの学校だけじゃなくて全国的みたいだよ?ただ人数はそこまで多くないみたい」

千歌「………」


先生「はーい全員席につけー」ガラガラ



先生「何人かは知ってると思うが、このクラスに新しいメンバーが加わる。入っておいで」


先生の呼びかけで、扉から一人の女の子が入ってきた

長く綺麗な赤っぽい髪に少しつり目をしている。
多くの人は彼女を見れば綺麗な人だと感じるだろう


梨子「音の木坂学院から来ました、桜内 梨子です。よろしくお願いします――」





24: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:25:25.99 ID:Xr5TecOi0
―――放課後

千歌(綺麗な子だったな~)


千歌の率直な感想だった。
休み時間になれば彼女の周りには多くの人が集まった。
転校生、それも東京からとくれば聞きたいことは沢山ある。

千歌(でも、なんで私が話しかけた時あんなに驚いたんだろう??)


千歌が話しかけた時……正確には千歌の顔を見た時、梨子は激しく動揺した


――まるで、いないはずの人間が目の前に立っている
そんな反応だった

おかしな反応をしたのは一瞬だけで、その後は何気ない会話をした


千歌(私が誰かに似てたのかなー?驚かれたのはちょっとショックだったなぁ)


そんな事を考えながら廊下を歩いていると――



???「あなたがタカミ チカさん……?」



背後から声をかけられたとき
―――体が冷たくなる感覚がした


あの時と同じだ……誰かに刺されたあの時と!!

嫌な汗をかきながら恐る恐る
振り返る――





25: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:26:15.08 ID:Xr5TecOi0
ダイヤ「わたくしは、生徒会長の黒澤 ダイヤと申します。あなたは果南さんのご友人の高海 千歌さんですよね?」


千歌「あ……あぁはい!そうです私が高海 千歌です!!」

ダイヤ「??それはわかりました。では、わたくしの質問に答えてくださいます?」

千歌「はい?何ですか??」

ダイヤ「――果南さんが行方不明になっているのはご存知ですよね?」

千歌「っ!!……はい、“今朝”聞きました」

ダイヤ「今朝……ですか。なら最後にあったのはいつ頃ですか?」

千歌「先週の金曜日の夕方です。果南ちゃん家で話してました」

ダイヤ「金曜の夕方……ですか」

千歌「……探してるんですか?」

ダイヤ「当たり前ですわ!!わたくしの学校で、もう二人も行方不明になっているのですよ!?」

ダイヤ「黒澤家として……いや、生徒会長としても必ずお二人を探し出してみせますわ!!」



――できっこない。
事情を知っている千歌にとってダイヤの宣言はとても無意味なものだった



千歌「そうですね……頑張って下さいね」


軽く頭を下げ、ダイヤのもとから去った

後ろから何か言っていたようだが
千歌の耳には届かなかった―――





26: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:26:57.24 ID:Xr5TecOi0
善子「―――遅かったわね?」


千歌は学校からそのまま善子の家に向かった。

あの時に聞けなかった事を全部話してもらうつもりだ。



千歌「いやー、ちょっと色々あってバスに乗り遅れちゃってさ」アハハ

善子「まあいいわ、んで?何から聞きたいですか?」

千歌「……あの部屋について全部」

善子「え……ざっくりしすぎじゃないですか!?」

千歌「だってさ!何から聞いたらいいか分からないんだもん!!」

善子「……仕方ないわね、だったらこのノートを見ながら順に話しますね?」

千歌「?なあに、そのノート??」

善子「前に果南さんから受け取ったの。このノートには部屋でのルールとか武器の使い方なんかがまとめてあるわ」

善子「私もしっかり読む時間が無かったから……ホント、無理してでも読むべきだった……」

千歌「善子ちゃん……」

善子「今さら言っても仕方ないか……いい?大前提としてあの部屋に転送されるのは完全に不定期よ。今もスーツはちゃんと持ってる?」

千歌「もちろんだよ!ちゃんと着てきた」

善子「いいわ。不定期といっても、転送される時間帯は必ず夜だから今日みたいに夜まで家に帰れない時はスーツだけでも持ち歩いて下さいね」

千歌「うん。このスーツにはかなり助けられたからね……着てなかったら生き残れなかったよ」

善子「スーツの重要性については説明の必要は無さそうね。次は武器についてだけど―――」



果南が残したノートを頼りにあの戦いで生き残る方法を話し合った

――気がつくと辺りはすっかり暗くなっていた

27: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:28:04.68 ID:Xr5TecOi0
善子「結構話し込んじゃったわね……バスも終わっちゃったんじゃない?」

千歌「大丈夫だよ!このスーツなら走って帰れるからね!」ニコ

善子「ならいいけど……あんまり見られないようにしなさいよ?」

千歌「わかってるって!じゃあ善子ちゃん……また明日ね」

善子「……えぇ、また明日」



幸運にもしばらくの間、つぎのミッションが来ることは無かった―――





――
―――少女は部屋の隅でうずくまっていた
机にはあの子を殺めた包丁
そして小さな黒い球が置いてある


???(なんで高海さんが生きてるの!?確かにあの時……それに黒い球にもミッション完了って………)


――黒い球から音声が流れだした


ミニガンツ『次はこの方をたおしてくだちい。
クロサワ ダイア
クロサワ ルビィ
期限:明日の夕方
場所:生徒会室』―――






28: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:29:41.28 ID:Xr5TecOi0
千歌(今日の桜内さん……なんか元気ないな)


善子との最初の会議から半月が過ぎた
あの後も定期的に集まり、武器やスーツの訓練をしていた

いつあの部屋に呼び戻されるのか……
びくびくしながらの生活


――という事無く、クラスメイトや善子と普通の学校生活を送っていた
転校生ともそこそこ打ち解けていったのだが……

今日はいつもと違い、明らかに様子がおかしい


千歌(なんかずっとうつむいてるし、話しかけても“何でもない”としか言ってくれないんだもんなー)

千歌(結構仲良くなれたつもりだったけど……そろそろもっと踏み込んで名前で呼んでみようかな?)



千歌「梨子ちゃん!お昼一緒に食べない?」

梨子「―っ!?ビクッ……ご……ごめんなさい。今日は一人にさせて………」

千歌「あー……うん、わかった。また今度誘うね」


梨子はそのまま教室からどこかへ行ってしまった


昼休みが終わる頃には戻ったが、相変わらず暗い表情のまま。
放課後になると誰よりも早く教室から出て行った。


千歌(ヘンな梨子ちゃんだったなー、悩みがあるなら相談してくれてもいいのに)ムスゥ

クラスメイトA「おーい千歌ちゃん、廊下で一年生が呼んでるよ!」

千歌「あ!善子ちゃんだね!!今行くねー」

29: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:30:44.04 ID:Xr5TecOi0




――
―――

黒澤 ダイヤは生徒会長である
基本的な業務は一人でこなすことが多く、帰りは遅くなる事が多い。
普段なら帰りも一人

だが、今日は妹のルビィが一緒にいた
帰りに二人で買い物をする約束をしているからだ
姉妹の仲の良さは知り合いの中では周知の事で
特に珍しいことではない

ほとんどの生徒は下校しており、校内にはおそらくこの姉妹しかいない


――はずだった
生徒会室の扉の前に深くフードを被った少女が立ちすくんでいる。
右手には先日、千歌の血液をたっぷりと吸わせた包丁が握られていた。



???(教室は全部確認して誰もいなかった。この時間帯なら見回りの先生もしばらく来ない……)ブルブル

???(前回は海に沈めたけど、二人の遺体を運ぶのは難しい……一旦ロッカーに隠して夜に移動させるしかない……)ガタガタ


部屋からは姉妹の楽しそうな笑い声が聞こえる
これから自分たちがどうなるのかも知らずに



???(………よし)



包丁を強く握りしめ、少女は扉を開けた―――






30: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:32:04.50 ID:Xr5TecOi0
―――千歌は教室まで迎えに来た善子と一緒にいつものようにバスに乗っていた

千歌「そういえば善子ちゃん、いつも私を教室まで迎えに来てくれるね?」

善子「何よ?ダメなわけ?」ムスゥ

千歌「そうじゃなくて、ほら……クラスのお友達はいいのかなー……なんて?」

善子「………私に友達がいない、みたいな言い方ね!!」プンプン

善子「私にだってね!ルビィとずら丸っていうリトルデーモンがいるのよ!!」

千歌「リトル……その子達は友達じゃないの??」

善子「いや……まあ、うん友達です………」

千歌「ならふつーに友達って言えばいいじゃん!善子ちゃんたまによく分からない言い方すくよねー」ジトッ

善子「ぐぬぬ……まだ中学の癖が残ってるのよ……」

千歌「でもさー……だったら何でその子と帰らないのさ?」

善子「……わかるでしょ?私たちがどんな立場なのか」

千歌「………」

善子「あんまり親しくしちゃうと……もしもの時悲しませちゃうから」

善子「だからさ……千歌さんが……同じ立場の人が近くにいてくれてホントに助かってる」

千歌「善子ちゃん……」

善子「―――雰囲気悪くしちゃったわね。そういえば一昨日、駅の近くに新しい雑貨屋がオープンしたんだけど……!?」ゾクゾク

千歌「!?ゾクゾク――善子ちゃん!これって!!」

善子「えぇ……この寒気が来たってことは、もうすぐ転送が始まるわ」




――――――
――――
――


???「ハァー……ハァー………ハァー」ガクガクガク

先ほどまで姉妹が楽しく会話をしていた生徒会室は

辺り一面

真っ赤に染められていた――


二人を仕留めるのに五秒もかからなかった
部屋に入ると同時に
近くに座っていたルビィの喉を一突き

間髪入れず、状況を理解し切れないダイヤの元に駆け寄り
頸動脈を切り裂いた

床に倒れたダイヤは

首から大量の血を流しながらも
最後の力を振り絞り

ルビィの元へ……



弱々しく這って進むダイヤ。

既に絶命したルビィの手に届いたダイヤは

安心した表情のまま



動かなくなった――

31: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:33:00.34 ID:Xr5TecOi0



???「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ………」


これで三人の人間を殺めてしまった
人の命だ
軽いはずがない

得体のしれない感覚が彼女を蝕む




???「―――何をしてるずら?」


この日、出掛ける約束をしていたのは姉妹だけでは無かった
確かに“教室”には誰もいなかった

約束をしていたもう一人は
図書室にいたのだ


目撃された事実を認識した少女の体は
自分にとって“最善の行動”へと
考えるより先に移していた―――





―――転送の前兆を感じた二人はすぐにバスから降り、人気の少ない場所に入っていった

善子「いい?あの寒気を感じてたら、すぐに準備をしなさい?」

善子「しばらくすると突然動け無くなって転送が始まるからね」

千歌「わかってる!今日もスーツは下に着てきたっ!!」

善子「ならいいわ。……でもおかしいわね。まだ夕方だってのに転送が始まるなんて……」

千歌「確かに……ノートにも転送は夜のみって書いてあったもんね」

善子「………転送が始まったわ」

32: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:33:59.88 ID:Xr5TecOi0



千歌と善子の体が徐々に消えていく
少女達は再び
生き残りをかけたミッションへ送られた――




~GANTZの部屋~

転送された部屋にはすでに3人の女の子がいた
幸か不幸か、この戦いに巻き込まれてしまったのだ


千歌(それにしても……女の子しかメンバーが増えないなー)

新人A「うぅ……おねぇちゃん……」ブルブル

新人B「……大丈夫よ。お姉ちゃんがずっと傍にいますから」ヨシヨシ

新人C「ほえー、この黒い球はなんずらかー?」ペシペシ


千歌(……なんか一人だけ適応力が高いというか、緊張感が無い子がいるな)アハハ

千歌(それにあの人……どこかで会ったような??)


善子「―――………ルビィ? ずら丸?」ブルブル


善子の顔は青ざめていた


ルビィ「善子ちゃん!? いつの間に来たの!??」

花丸「もう善子ちゃん! 私の名前は“花丸”ずらっ!」ジトッ

花丸「でも、善子ちゃんにルビィちゃんも来たってことは……この部屋は秘密基地か何かなの?」

33: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:34:50.94 ID:Xr5TecOi0


善子「そんな……だって……なんでよ………」

千歌「よ……善子ちゃん? この二人ってさっき話してたクラスメイトだよ……ね?」


新人B「――高海さん? やっぱり高海さんですわね?」

千歌「え!? せ……生徒会長!!? 会長も来ちゃったんですか!!」

ダイヤ「ダイヤでいいですわ……。 どうやらお二人は何か知っていらっしゃるのですね?」

千歌「ほぇ? あぁ……はい。 ダイヤさん達よりは知っています……」

ダイヤ「でしたら今すぐ! 今すぐ状況を詳しく説明して下さい!!!」


ダイヤが激しい口調で千歌に問いただしたと同時に
GANTZから前回同様、ラジオ体操の音楽が流れ始めた


ダイヤ「……何ですの? このふざけた音楽は??」イライラ

千歌「ごめんなさいダイヤさん……。時間が無いので詳しくは説明できません」

ダイヤ「は?」


千歌「この音楽が終わったら黒い球が開きます。 中には武器とスーツが入っています―――」

ダイヤ「ちょっ……――」

千歌「スーツは自分の名前、それか関係のある単語が書かれたケースに入っているのを着てください――」

ダイヤ「ちょっとま……――」

千歌「少し経つと外へ転送が始まりますが、絶対にその場から移動しないでください。 あと」

ダイヤ「ちょっと待ってください!! 一度に色々言われてもわかりません!!!」

千歌「とにかく! 何がなんでもスーツだけは着てください!! 今回は生き残ることだけを考えればいいんです!!」


ダイヤ「生き残る……? それって一体……」



34: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:35:31.33 ID:Xr5TecOi0
GANTZ『てめえ達は今から
この方をヤッつけてに行って下ちい
ひょうほん星人 特徴:きもい 好きなもの:かがく 口くせ:ごごご』


ガシャン―――!


勢いよく両端開き、武器が現れた


ルビィ「ピギィィ!? び……びっくりした……」

花丸「おぉーー、未来ずらぁ」キラキラ



いままで黙っていた善子が激怒した



善子「いい加減にしなさいよずら丸!! あんた自分の状況分かってんの!!?」

花丸「ずらっ!? よ…善子ちゃん……?」ビクッ

善子「やけにテンション高いけど、ピクニックに行くのとはわけが違うのよ!!? そんな浮かれた気持ちでいたら気持ちでいたら絶対に死んじゃう!!!」

善子「なんでよ……なんであんた達この……ヒック……こんな部屋なんかに……」


花丸「………マルにはよく分からないけど……ごめんね?」

善子「……バカ、分かってないのに謝ってんじゃないわよぉ……」グスッ



千歌「―――……時間がありません。三人は早くスーツに着替えてください。善子ちゃん、準備するよ」

善子「グスッ……ええ、分かったわ」



全員の準備が完了したのと同時、順々に転送が始まった―――

35: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:36:16.25 ID:Xr5TecOi0




――
――――
――――――完全に誤算だった
まさか近くにまだ生徒が残っていたなんて

口封じの為、反射的に息の根を止めてしまった
が、この子の殺害はあの黒い球の指示では無い

動揺した彼女は、思わず部屋から飛び出した


???(ナンデナンデナンデ………誰もいないはずだったのに!? そもそもコロス必要は無かった!! 顔は見られて無かったんだ――いやもしかしたら―――証拠は残せない―――あれは仕方ない――ワタシハ、ワルクナイ……そう、悪くない)ブツブツブツ

???(―――戻って処理しなきゃ)



これは彼女の才能なのだろう

凄まじい罪悪感に襲われようとも
想定外の事態に陥ったとしても

すぐさま、次に何をすべきか瞬時に判断し
冷静かつ大胆な行動へ移せるのだ


???(隠す遺体が三人に増えただけ。リスクは多少高くなったけど問題無い……)



急いで生徒会室へ戻った
相変わらず辺り一面血で染まっていたが――


???「……えっ?」


ついさっきまでそこにあった遺体が忽然と消えていたのだ―――




36: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:36:57.23 ID:Xr5TecOi0


~沼津市内 某高校 特別棟三階 廊下~


ルビィ「ここって……学校?」

ダイヤ「ええ……ただ、浦女ではないようですね」

花丸「外に出られたならこのまま帰れるんじゃないかな?」

善子「ダメよ。今回はこの学校の敷地が範囲だから、その外に出ると死ぬわよ」


レーダーで今回の範囲を確認した善子は三人に警告する。


千歌「ちょっとマズくない? この時間帯だとまだ生徒が残ってるんじゃ……」

善子「かもね。 まあ、向こうからは私たちは見てないから大丈夫だと思うわよ?」

ダイヤ「見えない?」

善子「そうよ。 ただこっちからは干渉出来るから人がいても無闇に触れないようにしなさいよ?」


ルビィ「あの……これから私たちは何をするんですか?」ビクビク

千歌「簡単に言えばサバイバルゲームをするんだよ。 出てくる敵を全員倒せばゲームクリア。 逆に全員やられたり、時間内に倒し切れなかったらゲームオーバー……」

花丸「ゲームオーバーになったら……マルたちは――」

善子「勿論死ぬわよ? 今度こそ本当にね」

花丸「え? マルは死んでるの??」

善子「………まさかそこから理解してなかったとはね」ヤレヤレ

千歌「あははは……」




37: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:38:20.18 ID:Xr5TecOi0
ダイヤ「!? 何か来ましたは!!?」


ダイヤの声に千歌と善子はすぐに銃を構え臨戦態勢に入った
その先には、頭部の無いヒト型の骸骨か立っていた

数は……廊下の曲がり角や教室の中から現れどんどん増えていく


花丸「うわぁ! 後ろからも来てるずらぁ!!」


千歌「この数じゃ小さいXガンじゃ厳しそうだね?」

善子「私のデカいやつなら大丈夫よ! 後ろの方は任せてっ!!」



『Xガン』、果南が残してくれた本にはイラストと共にそう命名されたこの銃にはハンディサイズタイプと大型のXショットガンがある。
どちらも着弾した部位を内部から爆発させる

発射してから効果が出るまでタイムラグがあるが、二つの大きな違いは威力と射程距離、それに弾切れの有無である。

ハンディサイズのXガンは小回りが利き、扱いやすい反面
射程が短く三発連射するとエネルギー切れとなり、チャージの為に一定時間使えなくなる

ショットガンタイプは大きく近接戦には向かないが、遠距離からの狙撃も可能で威力も高く、フォアグリップのスライドを引くことで瞬時にチャージが完了し連射が可能となっている。


善子とダイヤはこのXショットガンを部屋から持ってきていた



しかし千歌はダイヤからその銃を受け取らず、構えていたXガンを右大腿部のホルスターに収める。

そして逆側のホルスターにある柄と鍔の部分しかない刀に手をかけた


果南により『ガンツソード』と命名されたこの武器は通常はグリップ部分のみであるが、スイッチを押すことで伸縮自在の刀身が出現する。
その形状は日本刀に近く切れ味は鉄をも切り裂く



千歌は刀身を程よい長さまで伸ばし、体の正面に構えた


千歌「―――さあ、行くよっ!!」

38: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:39:42.79 ID:Xr5TecOi0




――――――
――――
――
ルビィ「す……凄い………」

花丸「あれがホントに喜子ちゃんなの……?」



善子は迫りくる敵の群れを次々に狙撃していく
時々撃ち漏らしがあるものの、格闘による近接攻撃により対処している

千歌との訓練により前回までと明らかに動きが良くなっていることは
善子自身も自覚していた


善子(大丈夫……数は多いけど、前の敵よりは随分動きが遅い! 落ち着いて戦えば勝てる!)ギョーン!ギョーン!ギョーン!


善子側の敵の数も残り僅かになり殲滅まであと少しとなった




ダイヤ「………」


千歌の戦いを見ていたダイヤは唖然としていた

目の前にはバラバラになった骨の残骸と千歌の後ろ姿が映っていた


一瞬……まさに一瞬の出来事であった

武器を構えた千歌が敵陣に切りかかったと思えば
次々と敵が倒れていった


敵からの攻撃は一切食らわず、一撃で敵を行動不能にしていく

数十体はいた敵の群れは千歌の前では無力であった



ダイヤ(――千歌さん……あなたは一体……)


千歌「善子ちゃん! そっちはどうなった!?」

善子「あと少しっ!ギョーン!……よし、全部倒したわ!」

千歌「ふぅ……これでひと段落だね」

ルビィ「これで終わったの?」

善子「まだよ。ガンツにあったあの星人を倒せてない」

花丸「がんつ??」

千歌「部屋にあった黒い球の名前だよ。 あの写真の敵が今回のミッションのボスみたいなものだと思う」


善子「レーダーだと下の階に居るみたいね……三人はここにいてもらう?」

千歌「いや、一緒に来てもらおう。 これで最後じゃないかもしれないからね」



周囲に警戒しつつ、五人は敵がいる下のフロアへ向かった

39: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:40:29.03 ID:Xr5TecOi0





~二階 生物実験室前~

善子「レーダーによるとこの中ね」

ダイヤ「生物室……ですか」

千歌「どんな敵か分かりません……三人は私たちの後ろにいてください」


三人は無言で頷く
千歌と善子は目で合図を送ってから静かにドアを開けた



中に入ると、実験室の後ろによくある人体模型が立っていた。
言うまでもない、写真の敵である……


善子「……私が狙撃するわ。 外した時はすぐに切りかかって…」

千歌「わかった。 準備しとく……」カチャッ


善子は銃の標準を敵に向ける

トリガーにかける指はブルブルと震えている

大きく息を吐き、トリガーにかけた指に力を加えた直後――


――星人は素早く横に動いた……



40: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:41:50.36 ID:Xr5TecOi0


善子が撃った弾丸は先ほど星人がいた壁に当たり、大きな穴を開けた



千歌は星人が回避した刹那
地面を勢いよく蹴り、星人との距離を詰める――


スパッ――!


千歌の斬撃が敵の左腕を切り落とす
――が、敵は構わず後ろの四人へ襲い掛かった



銃を外したショックと千歌が仕留めそこなった驚きで善子は硬直している

星人は残った右腕で善子と花丸を吹き飛ばす


バキッ―!


善子は勢いそのまま窓ガラスを突き破り外へ、花丸は実験室の机に叩きつけられた

衝撃で机は大破、花丸は自身に何が起こったか分からないでいた



花丸(あ……れ……? 痛くない??)


花丸はスーツの自動防御により無傷である



しかし星人の攻撃は止まらない

口から得体のしれない液体を
ルビィに吹きかけた――



ダイヤ「――! ルビィ!!!」ドン


ダイヤはルビィを押しのけ、液体の直撃を防いだ


――液体の一部がダイヤの左腕と右足にかかった瞬間
瞬く間に触れた部分からみるみる溶けていったのだ


ルビィ「っ!!? おねぇちゃん!!!?」

ダイヤ「あアあァァあっ!!! くうぅぅううウヴヴぅぅ!!!」


ダイヤは今までに味わったことのない痛みにのたうち回っている
星人が止めを刺そうともう一度液体を口に溜める


ギョーン――!!


奇妙な発砲音が教室に響く――
不思議に思った星人は音のする方向を向くと

千歌がXガンを構えていた


バンッ――!


星人の頭がはじけ飛ぶ――

41: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:42:40.61 ID:Xr5TecOi0



千歌「ルビィちゃん!! 花丸ちゃん!! 無事!!!?」

ルビィ「千歌さん!!! おねぇちゃんが!! おねぇちゃんがぁ!!!!」

千歌「……よかった。 まだ生きてる」フゥ


千歌がダイヤの生存を確認すると転送が始まった

今回のミッション
誰一人死者を出さずに生還する事ができたのだ――






~GANTZの部屋~

ダイヤ「……わたくしは…確かルビィをかばて手足が……」

千歌「ミッションが終わった時に生きていれば、どんな大ケガをしても元通りになるんですよ」

ルビィ「グスッ……よかった、よかったよぉ……」ポロポロ


善子「うう、私がしっかり当ててれば……」

花丸「善子ちゃんも大丈夫だった? 窓から落っこちてたけど……」

善子「ピンピンしてたわ! スーツ着てなきゃ大ケガだったけどね」

花丸「やっぱり私が無事だったのもこの服のおかげたったずらかー」ペチペチ


千歌「ほら、採点が始まるよ」



いつの間にかガンツの表示が切り替わり採点画面となっていた。

42: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:43:19.99 ID:Xr5TecOi0
GANTZ『硬度10
0点』


ダイヤ「……は?」イラ



GANTZ『ずら丸
0点』


花丸「だから花丸ずらー……」



GANTZ『ピギィ
0点』


ルビィ「擬音語……」



GANTZ『堕天使(笑)
22点
TOTAL 32点』



善子「ふぅ……まあまあって感じね?」



GANTZ『ちかっち
42点
TOTAL 52点』



善子「うお!? 42点とか……凄すぎじゃない?」

ダイヤ「そもそも……この点数てなんですの? そろそろキチンと説明して頂けますわよね?」


千歌「……そうだね。 ここじゃなんだから、一旦私の家に行こうか」

43: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:44:14.12 ID:Xr5TecOi0




――
――――
――――――
彼女は生徒会室の清掃を済ませていた
遺体が消えていた事が気がかりだが、無いものは仕方ない
むしろ運ぶ手間が省けたと思えばいいと考えていた


???(もう……帰りましょう………)


さすがの彼女も疲弊しきっていた
また明日も“いつも通りの自分”を演じるためには
休養が必要である

使用した雑巾をカバンにしまい、生徒会室を後にした



――そんな彼女をずっと監視していた人物の存在に最後まで気が付く事はなかったのである





~千歌の部屋~

千歌「―――説明はこんな感じかな……」


千歌はダイヤ、ルビィ、花丸に自分達があの部屋で経験した事など
知っていることを全て説明した。

話を聞き終わった彼女たちの雰囲気はとても暗く重いものとなっていた。


ルビィ「……ルビィたちはホントに一回死んじゃったんだね?」

善子「ええ……あの部屋に来たってことは間違いないわ」

花丸「………あの時、善子ちゃんが言ってた意味……わかったよ」グスッ

善子「ずら丸……」


ダイヤ「あの部屋から解放されるには、星人を倒して100点を取る以外に方法は無いのですね?」

千歌「……おそらく」

ダイヤ「行方不明になったお二人もあの部屋で……」

千歌「………はい」


ダイヤ「……覚悟はできましたわ。千歌さん、善子さん、私に戦い方を教えてください!」

千歌「ダイヤさん?」

ダイヤ「戦いが回避出来ない以上、生き残るすべを身に着けることは必然」

ダイヤ「――皆さんと一緒にあの部屋から出たいのです!!」

ルビィ「ルビィも!! 見てるだけじゃ出られないなら……!」

花丸「……マルもお願いします」ペコ


善子「みんな……」

千歌「――もちろんだよ!! 全員であの部屋から解放されよう!!」

44: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/04(金) 14:45:43.16 ID:Xr5TecOi0





~同日 同刻 浦の星女学院 理事長室~
浦の星女学院の理事長に就任している人間は全国的にも類を見ない学生である
しかも自身もその学校の三年生に所属している

本来なら彼女もこの時間帯は自宅に帰っているのだが
家ではできない調べものをする為に理事長室に残っている

ノートパソコンのディスプレイには複数のウェブサイトのページが表示されている


内容は
『最近発生している行方不明事件』『沼津市内で多発している建物の破壊事件』
『5年前に発生した高速道路でのバス爆破事故』『大人気スクールアイドルに関する都市伝説』『謎の部屋にある黒い球』――
などなど様々である


???「……やっと分かってきたわ」


彼女はパソコンを閉じ、窓の方を向いた


???「近いうちに関係者へ話を聞く必要がありますネ……まあ、全部は答えてもらえないでしょうけど――」


彼女が核心に辿り着くのに時間はかからないだろう
“決定的な瞬間”を生徒会室で目撃したのだから


???「――もうすぐ見つけてあげるわ……果南っ♪」




―――三章へ

48: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:29:22.12 ID:x6/UvMV00
三章

部屋に帰った彼女はそのまま自室のベッドへ倒れこんだ。
制服から着替えたり晩御飯を食べたりする気力はすでに残っていなかった……
そのまま彼女は夢の中へ――


――奇妙な夢だった。
彼女は夜の街に立っていた。

自分の容姿は今より少し幼い
……中学二年生くらいだろうか?


周りには自分より年上だと思われる女性が九人……
全員同じ黒い独特なスーツを身にまとっていた。



全く覚えがないはずのこの光景に
彼女は懐かしさを感じていた。


夢の中の女性が彼女に話しかけてきた。
何を言っているのかほとんど聞き取れなかった
彼女は一体何と言っていたのだろう

49: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:30:16.74 ID:x6/UvMV00




――――――
――――
――


千歌(ダイヤさん、ルビィちゃん、花丸ちゃんが参戦してから一か月以上が過ぎた)

千歌(その間にあの部屋に一回呼び戻され、追加メンバーもいなかったけど、幸いなことに犠牲者は出なかったのだ)

千歌(訓練のおかげでダイヤさん達もそれなりに点数を稼げるまでに戦えるようになったのだ!)

千歌(ダイヤさんはもう一人でも十分戦えると思うけど……ルビィちゃんと花丸ちゃんは危なっかしい場面が多くてひやひやするよ……)

千歌(けどルビィちゃんはダイヤさんが、花丸ちゃんは善子ちゃんがフォローしてくれているから大丈夫かな?)


千歌(今では普通の学校生活を送りながら、週に三回は夜に学校近くの森に集まって戦闘訓練をしている。なんだか部活動みたいだったよ!)



千歌(――今は昼休み、みんなで一緒にお弁当を食べているんだけど……)





50: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:31:45.19 ID:x6/UvMV00
千歌「――ダイヤさんが理事長に呼び出された?」

善子「確か……小原家の人だよね? 家がホテルを経営してる学生理事長の」モグモグ

ルビィ「そうだよ。『鞠莉さんに呼ばれたから先に生徒会室に行ってなさい』って言われたんだけど……」

千歌「けど?」

ルビィ「なんだかその時の顔が……とても怖かったんです……」

花丸「ダイヤさんの怖い顔かぁ、あまり見たくないずらねー」

千歌「あはは…怒ると凄く怖いもんね」


善子「……大丈夫なんでしょうね? うっかりあの部屋のことを話したりしたら、もれなくあの世行きよ?」



果南のノートによれば、あの部屋についての話を他人に漏らしたり、武器を目撃されるのはタブー

基準は分からないが、ガンツに発覚すると即抹殺されるらしい。



花丸「それは無いんじゃないかなー? あのダイヤさんだよ?」

ルビィ「そうだよ。それにあの部屋の話題が出る事なんてそうそう無いよ」

千歌「でもダイヤさん以外に抜けてるところあるからなー。この前の訓練だって、Xガンは二つのトリガーを引かなきゃダメなのに、上側しか引いてなくってさ――」



ダイヤ『あら? なんで撃てませんのぉぉぉ!!!?』カチカチカチ



善子「――確かそのまま地面に叩きつけてたよね? さすがにあれは無いわ~」ケラケラ

ルビィ「普段武器は使ってないからね……ド忘れしちゃったんだよ」アワアワ

花丸「実践だったら命取りずら」モグモグ

善子「ずら丸だって人のこと言える? 崖から飛び移る訓練の時『無理ずらぁぁ!! 怖いずらぁぁ!!』って言ってずっと泣きわめいてたじゃない?」ニヤニヤ

花丸「んな……/// あれは初めてだったから/// そもそもあんな高さなんだから怖いのは当然ずら!!」

千歌「でもルビィちゃんは大丈夫だったよね?」

ルビィ「何度も落っこちてましたからね……さすがにもう馴れました」ズーン

善子「つまりあんたはルビィよりビビりって事よ」ニヤニヤ

花丸「むぅ……善子ちゃんのばか」プイ



ガラガラ――



ダイヤ「戻りましたわ……」

千歌「お帰りなさい! 結構早かったですね」

善子「先に食べ始めてるわよー。ダイヤさんも早く食べましょ?」

51: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:32:33.91 ID:x6/UvMV00
ダイヤ「……千歌さん、鞠莉さんが、理事長がお呼びです。放課後に理事長室に向かってください」

ルビィ「次は千歌さんがお呼びだし?」

善子「なんか悪いことでもしたんじゃない? 理事長呼ばれるなんて」

花丸「善子ちゃんが言える事じゃないずら。むしろなんで呼び出されないのか不思議なくらいずらよ」ジトー


千歌「別に何もしてないんだけどなー? なんだろう??」

ダイヤ「分かりません……ただ気を付けてください」

千歌「?」


ダイヤ「“あんな顔”をした鞠莉さんはだいたい予想も付かないことを言いますから―――」





~放課後 理事長室前~

千歌(うぅ……ダイヤさんがあんな事言うから緊張するよぉ……)


早く話を済ませて帰りたい千歌はすぐに理事長室の扉をノックした。
中から『どうぞ~』という何とも明るい声が聞こえたので部屋に入る。


鞠莉「チャオ♪ 初めまして高海さん。いや、親しみを込めて“ちかっち”って呼ばせてもらうわ!」

千歌「はぁ……」


鞠莉はニコニコしながら千歌に話しかける。


鞠莉「いや~前からちかっちとはお話ししたかったのヨ。突然呼び出してゴメンなさい」

千歌「それはいいんですが……要件は何ですか?」


鞠莉「……そうね、勿体ぶっても仕方ないから単刀直入で聞くわね?」


今までの雰囲気とは一変
真剣な眼差しで千歌の眼を見つめる。




鞠莉「―――ガンツって知ってる?」








52: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:33:26.48 ID:x6/UvMV00
―――千歌には鞠莉が発した言葉を理解するのに時間がかかった。
なぜ彼女からその言葉が出てきたのか?
まさか……ダイヤさんが――


鞠莉「……“どうして知っているのか”って顔をしているわね? 取り敢えず、私が今まで調べて得た情報を元に話を続けるわ」

鞠莉「あぁ、ちかっちは“何も”答える必要は無いわヨ? まあ、答えられる事は答えてもらえると助かるけど」

千歌「………」


鞠莉は話を続ける


鞠莉「最近、沼津市内で謎の破壊事件が多発していることは知っている?」

千歌「……ハイ。テレビのニュースでよく流れていますから」

鞠莉「そうね。ここ最近なら『沼津港』と『市内の高校』なんかが特に被害が大きいわネ」



どちらの場所も千歌が戦闘慣れしていなかった時期の戦場である。



鞠莉「この他にも被害の規模は小さいけど、道や民家の壁なんかが何者かによって壊されている場所が多く存在している……」

鞠莉「実はね――沼津市内だけじゃなくてこのような破壊事件が全国的に起きているのよ。そして、そんな破壊事件の前日には必ず行方不明事件も発生している……」

千歌(全国? 私たちと似たようなことをしている人が他にも……?)


鞠莉「これには諸説あってね……破壊に関してはただのイタズラ、同時に行方不明者が発生しているのも偶然。私も最初はそう思っていたわ……」

鞠莉「――ネットでこのサイトを見つけるまではネ♪」



鞠莉は机の上にあるノートパソコンの画面を千歌に見せる。
そこに書かれていたのは――


千歌(『謎の部屋にある黒い球~GANTZ~』っ!?)



そのページには、あの部屋での出来事が大まかに書かれていた。

外部に漏らせば死んでしまうルールのはずなのに。

53: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:34:24.93 ID:x6/UvMV00



鞠莉「『死んだ人間が謎の黒い球のある部屋に連れていかれ、黒いスーツを身にまとい、怪物と戦いを強いられる』――誰が書いたか分からないけど、普通に考えればこんなのはただの妄想……」

鞠莉「でもこのサイトのリンクに五年前と三年前に起きた事件が貼られていてね、この妄想に信憑性を持たせているの」



鞠莉はページをスクロールさせリンク先のURLをクリックした。

そこには東京の高速道路で発生したバスの爆発事故の記事の抜粋と
とあるスクールアイドルの都市伝説が載っていた。



鞠莉「この事故は乗客40人を乗せた静岡行きの高速バスが居眠り運転をしていた大型トラックと衝突し炎上、その火が漏れ出したガソリンに引火して爆発。運転手も乗客全員が死亡した大事故よ……」

鞠莉「ただね……消火した後にバスの中の乗客人数を確認すると、確かに乗っていたはずの乗客の遺体が何人か無くなっていたのよ」

千歌「遺体が……無くなった?」

鞠莉「そう。百歩譲って炎で完全に炭になったと仮定しても……消えた遺体は9人。明らかに多すぎる」

鞠莉「さらにこの消えた9人はちょっとした有名人でね、『ラブライブ』って言うスクールアイドゥの全国大会で優勝したグループメンバーだったから事故発生直後のニュースではかなり大きく取り上げられていたのヨ」

千歌「スクールアイドル……」


鞠莉「―――グループ名はμ’s(ミューズ)。音の木坂学院のスクールアイドゥデース」

54: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:35:08.41 ID:x6/UvMV00






――
――――
――――――
彼女は徐々に思い出す。
夢で見た光景は紛れもなく自分が過去に経験したことだと。

自身が誰と出会い
あの場所で何をしていたのか。

もうじき全てを思い出すだろう―――



――――――
――――
――



千歌「ミューズですか? メンバーの顔と名前は知っていますが……」

鞠莉「当時はかなり話題になっていたみたいよ? あのバスに乗っていた彼女達全員のあるはずの遺体が消えたんですもの」

鞠莉「――そして翌日の早朝、9人とも何事も無かったようにそれぞれの自宅に帰っているのよ」


千歌「ただバスに乗っていなかっただけじゃ……?」

鞠莉「いいえ。バスの乗客リストにも停留所近くの防犯カメラにも、確かにミューズのメンバーは爆発したバスに乗っていた」

鞠莉「なら仮にバスに乗っていなかったとしても、彼女達は早朝まで一体何処にいたのかしら?」


千歌「……だとしても、これだけではその妄想話が本物だって言うには無理があると思います」

鞠莉「その通り。この記事だけではまだ足りない……最も重要なのは、都市伝説の方の記事ヨ」



鞠莉はもう一つの記事までページをスクロールした。



鞠莉「これは三年前に新宿で起きた大規模な虐殺事件に関する記事よ。かなりの大事件だったから覚えているでしょ?」


千歌「……? こんな事件ありましたか??」

鞠莉「あら? 覚えていないの……まあいいわ。この事件は突如現れた人型の化け物がそこにいた大勢の通行人を無差別に殺害していった。ここ最近で発生した事件の中でも最悪な事件ヨ」

千歌(そんな大事件があったんだ……何で私は覚えてないんだろう??)


鞠莉「警察や自衛隊も出動して化け物を倒そうとしたのだけど、全員返り討ちにあって止めることは出来なかった」

鞠莉「――そんな時にこの人たちが現れたの」

55: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:35:43.52 ID:x6/UvMV00



鞠莉は一枚の写真を千歌に見せた。

――その写真には10人の女の子が千歌達と似たような黒い格好、武器を持ち
化け物と戦っていたのだ。



写真は拡大加工したもので全員の顔はハッキリとは分からなかったが
先頭に立っていた人の顔だけは何とか判別できた。

オレンジ色の髪色に片側だけをリボンで結んだ独特な髪形の女の子。
それは千歌も知っている人物であった……




鞠莉「――高坂 穂乃果さん、μ’sのリーダーだった人よ。本人はこの写真について否定したみたいだけどネ」

千歌(この顔に髪形、間違いなく穂乃果さんだ……本当にμ’sも同じ経験を?)


鞠莉「判別できない人も髪形や人数から考えて恐らくμ’sのメンバーがでしょうネ。バスの事故以来、メンバーが夜になると一時的に行方不明になったことが多々あったみたいだし、この時もそうだった。これら全てが事実だとするなら……」




鞠莉「――メンバーはバスの事故で死亡し、あの部屋の住人となった。と考えられない?」




千歌「……」


鞠莉「そ・し・て、同じような部屋が日本中に存在し、それが沼津市内にもあるとするならば、行方不明のまま見つからない子の手がかりが見つかると思わない?」


千歌「仮に……仮にそんな部屋が存在したとして、何で私にそれを聞くんですか?」



この質問に鞠莉はニヤリと笑い


鞠莉「――だってちかっち、少し前に行方不明になったわよネ?」

56: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:37:41.71 ID:x6/UvMV00



千歌「んな!? どうして!?」

鞠莉「小原家の情報網は伊達じゃないのよ♪ この学校で行方不明になったことのある生徒には“全員”話を聞いているの」


鞠莉「ただ、全員最初の質問の反応で分かるし人数も大していなかったから時間はそれほどかからなかったわ~♪」


千歌「……昼休みにダイヤさんを呼び出したのも?」

鞠莉「ウーン……ダイヤのは少し違うかな?」

千歌「え?」

鞠莉「ダイヤの場合、質問するまでも無かったわ! ちなみに、ちかっち以外のメンバーは既に三人検討は付いているのよ?」

千歌「っ!?」

鞠莉「ああ……ちかっちが“あの部屋のメンバー”だとも決まったわけでも無いし、そもそも“まだ”あの部屋があるとは確定したわけでも無かったわネ」アハハ

千歌(どうして知ってるの!? もしかして訓練を見られた? でも…だったらこんな回りくどい話はしないか)ブツブツ


鞠莉「取り敢えず、話は以上デース」

千歌「え? 終わりですか?」

鞠莉「ええ。こっちはいろいろ話したけど、ちかっちは何も話せないみたいだし…まあリアクションでどの位合ってるか分かったけどね」ニヤリ

鞠莉「時間を取らせてごめんなさいネ! 戻っていいわよ~~」フリフリ


千歌「……失礼します」


千歌は理事長室から出ようとした。
その直前――



鞠莉「――果南が今いないのは、やっぱり“そういう”ことなの?」



弱々しい声で千歌に質問してきた。
千歌は一瞬足を止めたがその質問に答えることは無く
そのまま部屋を後にした――




千歌(結構ガンツのことバレてたけど、死んでないって事はセーフなんだとね?)


部屋からでた千歌は自分がガンツに抹殺されなかったことに安堵していた。
μ’sが昔、自分達同じ戦いを強いられていたことには驚いたが、

正直言って今の千歌達には関係のない事だった。


千歌「穂乃果さんみたいな経験者が仲間だったら心強いけど、三年前の話じゃなー……とっくに100点取って解放されてるか、やられてメモリー内だもんね」ウーン


千歌(そもそもなんで私はあの事件を覚えてないんだろう? 三年前でしかも大事件だったらいくら私でも覚えてるはずだよね??)

千歌(――あれ?? よく考えたら三年前の私って何やってたんだっけ?)



中学二年生の学校での思い出、世間のニュースなどなど

いくら思い出そうとしても全く分からない。

まるでその時の記憶がすっぽり無くなってしまっている

必死に思い出そうとしていると…



梨子「千歌さん? こんなところで何してるの?」

57: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:38:43.92 ID:x6/UvMV00
千歌「梨子ちゃん! いやー、理事長に呼び出されててさ…」

梨子「理事長に? 何か悪いことでもしたんだ」ジトッ

千歌「ち、違うよぉ!アセアセ 単純に“おしゃべり”がしたかっただけみたい。ほら、理事長もこの学校の生徒だし?」


梨子「ふーん……なら理事長は今部屋にいるのね?」

千歌「うん。ついさっきまで話してたからいると思うよ?」

梨子「ならいいわ。わたしも理事長に用事があるから……」

千歌「梨子ちゃんも? 意外だねぇ……何悪い事したの?」ニヤニヤ

梨子「“わたし”が理事長に用があるの! 千歌ちゃんと一緒にしないで」プンプン

千歌「私だって悪い事なんてしてないもん! まあいいや。早く終わるなら待ってるよ? 一緒に帰ろうよ!」

梨子「うーん……止めておく。結構時間が掛かるから先に帰ってて?」

千歌「そっかぁ。残念」ガッカリ

梨子「ごめんなさい……また誘ってね?」

千歌「うん! また明日ね! 梨子ちゃん!!」

梨子「えぇ、また明日……」フリフリ



――――――
――――
――

鞠莉「――どうやら、あの部屋は本当に実在しているようね」

鞠莉「ちかっちには話さなかったけど、学校で私見ちゃったのよねー……。その前からあの部屋の事は結構調べていたけれど、自分の中で決定的なものが欲しかったところで“あれ”を目撃出来たのは――」


ゴソゴソ――


扉の前で何か物音がする。
鞠莉にはこれが何なのか、おおよその検討は付いていた。

ただ、確証は無かった。

気のせい、考えすぎ、痛い妄想
そんな事が頭の中を巡っていたが万が一この後、自分が考える展開になった場合
最悪、聞きたい事を聞けないままこの世を去ることになる。


鞠莉「――中に入って来なさい。私は逃げなから安心しなさい?」

58: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:40:34.49 ID:x6/UvMV00


――ガラガラ

しばらくの沈黙の後、扉から少女が入ってきた。
千歌やダイヤ達を殺害したときと同じ服装に凶器を携えて……



鞠莉(……来ちゃったか。覚悟はしてたケド)

鞠莉「聞いてもいいかしら? 私がこれから殺されるのは、あの現場を見ちゃったから?」

???「!? 見たんですか!!?」

鞠莉「あら? ち……違うの?? ちょっと予想外」


???「あの現場を見たのに……なんで通報しなかったんですか?」

鞠莉「そうねぇ…最初は通報しようと思ったんだけど、あの現場で不思議なものを見たの」

???「不思議なもの?」

鞠莉「そうよ、――あなたが殺したダイヤ達の死体が消えていったのよ。まるでどこかに転送されるよな、そんな感じの消え方だった」


鞠莉は千歌に見せた写真をともう一枚別の写真を彼女に見せた。

千歌に見せたものとは異なり被写体が二人だけであった。
一人は高坂 穂乃果の後ろ姿
もう一人は―――




鞠莉「これ、あなたよね? 桜内 梨子さん―――」


今より顔が少し幼くて髪も短いが、確かにそれは梨子の姿だった。



梨子「――あなたも“元”あの部屋の住人だったんですか?」

鞠莉「いいえ。“元”って事は今はもう違うのね?」

梨子「私も……つい最近まで全く覚えていなかったんです。東京でも普通に暮らしていたんですが、内浦に引っ越してきたその日にポストにこんな球が入っていたんです」


梨子はポケットから小さな黒い球を取り出し、鞠莉に見せた。
そこには『オハラ マリ』の殺害命令が表示されていた。


梨子「最初に千歌ちゃんの殺害を命令されました。その時は引っ越してきたばかりだったし、ただのイタズラだと思って無視していたんです」

梨子「――次の日、母が腕の骨を折るケガをしたんです。原因が転倒とか事故とかでは無くて……私と話している最中にいきなり折れたんです」

鞠莉「………」

梨子「何が起きたのか分からなかった……そんな時この球がしゃべったの――
『指示に従わないなら次は殺す』ってね………」

梨子「それから命令された通り……千歌ちゃんを……」


鞠莉「ダイヤ達をやったのも命令で?」

梨子「そうです。でも千歌ちゃんもダイヤさん達も次の日学校に登校してきた時は驚きました……黒い球にはミッション完了の文字があったのに」

梨子「その頃から……同じ夢を見るようになった…ちょうどその写真みたいな場所のね?」

鞠莉「ならやっぱりこの写真に写っているのは……」


梨子「ええ、確かに私よ。その写真を見たおかげで全部思い出せた……」フー


大きく息を吐く

梨子は悲しそうな目で鞠莉を見つめた。


59: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:41:14.46 ID:x6/UvMV00
梨子「――鞠莉さんには申し訳ないけど、これからあなたを殺さなければいけません」

鞠莉「……でしょうね? じゃなきゃあなたは家族を失うんですもの」

梨子「安心してください、十中八九あの部屋に転送されるはずですから……出来るだけ痛みが無いようにやります」

鞠莉「転送されなくちゃ困るわ~、きっとあの部屋に果南がどうなったかの手がかりがあるはずですもの。確実に送ってもらうわよ?」

梨子「フフ…おかしな人ですね」


梨子は握りしめていた包丁を鞠莉へ―――




――――――
――――
――

ダイヤ「――千歌さんを待たなくてよかったんですかね?」


ダイヤ達四人は沼津のカフェにいた。
この前善子が千歌に紹介しようとした店であの後、定期的に通うようになっていた。


善子「仕方ないじゃない? どれだけ時間が掛かるか分からなかったし、先に行ってて~とも言われたしね~」モグモグ

ルビィ「メールも送ってるし、終わり次第きっとこっちに来るはずだよね」ハムハム

花丸「心配する必要はないずらー」ズズズ

ダイヤ「……鞠莉さんとどんな話をしたのか、非常に気になりますわ」ムムム

善子「そんなの千歌さんが帰ってくればすぐに分かる事じゃない? こっちから聞かなくたって千歌さんから話してくれるわよ……多分」

花丸「善子ちゃん、自信がないからって最後に『多分』って付けるのは卑怯ずら!」

善子「卑怯って……」ヤレヤレ

60: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:42:31.78 ID:x6/UvMV00
いつも通りの日常、ありきたりな放課後、ごく普通の会話
そんなひと時は一瞬にして変貌する―――



ゾクゾク――!



全員は独特な寒気を感じた

再びあの部屋に転送される日が来たのだ



善子「……そろそろだとは思っていたけど、今回は夕方なのね」

ダイヤ「本来なら前回みたいに夜中に呼びだされるはずなんですよね?」

善子「そのはずなんだけど……まあいいわ、取り敢えず準備しましょう」



四人は会計を済ませ、人の目が少ない路地裏へ移動

数分後、順番に転送が始まった―――





~GANTZの部屋~

千歌「おっ、みんな来たね~」


ダイヤ達より先に千歌が部屋にいた。
制服は畳んで隅に置いてあり、スーツの着替えを済ませている。


ダイヤ「またこの日が来てしまったのですね……」ハーッ

ルビィ「分かってはいたけど、やっぱり馴れないよ……」

善子「いい加減受け入れなさい? 嫌ならさっさと100点取るしか無いんだから」

花丸「……ちょっと言い方が冷たいずら」ムスッ

善子「何よ? 事実なんだから仕方ないでしょ?」カチン


千歌「まあまあ二人ともケンカしないの! そんなことより早く着替えなくっちゃ」

61: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:43:22.93 ID:x6/UvMV00
千歌が仲裁に入るがまだ善子と花丸は睨み合っている

そんな中、ガンツから新たな人間の転送が始まっていた


ルビィ「あれ? 誰か転送されてきてるよ??」

千歌「ホントだ……前回は追加されなかった新メンバーだね」

善子「聞き分けのいい子だといいわねー、変な人だと最悪ですもの」

花丸「知り合いだったら……ちょっとショックだな」


胴体の転送が完了――


ダイヤ「この服装は……」

善子「また浦女の生徒!? ちょっと多すぎでしょ」ドン引き

千歌(あれ? なんか見覚えが??)


全身の転送が完了した。



???「――どうやら無事にこの部屋に来られたみたいデース♪」


後ろ姿なので顔はまだ分からないが

派手な金髪に片側に輪っかのある独特な髪形をした彼女は

まさしく千歌が先ほどまで会話をしていた人物だった



千歌「ま……鞠莉さん!!? 来ちゃったんですか!?」


千歌の声に反応し、振り返った鞠莉は満面の笑みを浮かべた


鞠莉「シャイニー☆彡 来ちゃったわ!」ニコ





千歌が驚くのは当然だが、意外にもクラスメイトのダイヤは冷静だった。


ダイヤ「やはり来たのですね……つまりあなたは――」

鞠莉「そうよ。私はあなたに話したように殺されたのよ」

千歌「話したようにって……どういう意味ですか?」

62: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:44:10.09 ID:x6/UvMV00


ダイヤ「わたくしがこの部屋に来る前、どのように死んだのかは以前話しましたわよね?」

千歌「はい。生徒会室で……殺されたんですよね………」

ダイヤ「ええ、その時の私達の死体と殺した犯人を鞠莉さんが目撃したようで……その事で近いうちに自分の身に何が起こるか分からないと話されたばかりだったのです」

鞠莉「そうそう♪ ちかっちとはさっきまでこの部屋について色々話してたのよね~。まさか本当にこんな部屋があるなんて驚きだわ」キャッキャッ

ルビィ「え……この部屋がある事を知ってたんですか!?」

善子「さすが小原家……」

花丸「――また誰か転送されてきてるずら」


花丸が気付いた頃には、ほとんど転送が完了していた


善子「ん? 随分赤い斑点の多い服着てる子ね……って下にまた浦女の制服着てるじゃない!」

千歌「ちょっと待ってよ……この服装は!?」ゾッ

ダイヤ「んな!? なんでここにいるのです!!!?」



転送が完了したその子は血まみれのパーカーを着ており

フードは顔が見えたいほど深く被っていた。


見間違えるはずがない

間違いなくこいつは、千歌やダイヤ達を殺害した殺人鬼だった。

63: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:45:39.59 ID:x6/UvMV00



千歌とダイヤが身構える中
意外にもその殺人鬼に襲い掛かったのは花丸だった


素早く殺人鬼に接近

胸倉をつかみ、そのまま足が付かない高さまで持ち上げた。


ミシミシと音を立てながら首元を締め上げる花丸は激怒していた。
花丸「お前が……お前がルビィちゃん達を!! ……お前がぁ!!!」


温厚そうな彼女からは想像もつかない恐ろしい表情で殺人鬼を締め上げる。



???「があ……ぐうぅ……あがあぁ……」ギチギチ


必死に抵抗する

しかし、スーツの力もあり凄まじい力で首元を締め上げられ

徐々にその抵抗も弱くなっていく



鞠莉「――す……ストップ! ストップ! 一回落ち着いて!!」

花丸「ずら!?」


鞠莉の制止により花丸は我に返る
そのまま手を放して解放する。


ドサッ!――


床に落とされ、そのままうずくまる

???「ゴホッゴホッ――ま……鞠莉さん、止めなくていいんです。私はそれだけの事を彼女達にしたのですから……」


落下の衝撃でフードが外れていた

その顔に千歌は驚愕する


千歌「ええ!? り……梨子ちゃん? 梨子ちゃんだよね!?」

鞠莉「そうよ。この子はちかっちのクラスメイトの桜内 梨子さんデース……驚いた?」

千歌「驚くも何も……じゃあ梨子ちゃんが……え?」アセアセ

梨子「……きちんと説明します」


梨子はもう一度なぜ千歌達を殺さなければならなかったのか、自分は何者なのか

鞠莉に話した事情を説明した――

64: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:48:11.52 ID:x6/UvMV00




梨子の説明が終わり、各々は梨子に対し複雑な思いを抱いていた


ダイヤ「―――事情は分かりましたが……」

花丸「納得いかない! もしかしたらマルはあのまま死んじゃってたかもしれなかったてことでしょ!?」

梨子「ええ…だから花丸さんには本当に悪い事したと思ってる」

花丸「っ!? このっ―――」


思わず掴み掛ろうとするが


善子「止めなさい花丸。今この人に死なれちゃ困るわ」

鞠莉「100点達成の実力者を失うのはデメリットしかないものね?」

ルビィ「そうだよ花丸ちゃん! ルビィだって梨子さんと同じ立場だったら……同じ事をしてたかもしれない…」

花丸「ルビィちゃん……」



善子「そもそも、なんで“このメンバー”だったんでしょうね? 私は事故でこの部屋に来たけど、経験者が欲しいだけなら梨子さんだけ転送すれば良かったのに……」


鞠莉「確かに……花丸さんは善子さんと同じ理由と考えても、ガンツに指示されたちかっち達はなんで選ばれたのか」

ダイヤ「………」

千歌「………」


65: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/12(土) 22:48:50.25 ID:x6/UvMV00


――心当たりはあった。

初めて戦った時の違和感

最近見る夢

もしかしたら自分も昔は……


そんな考えもガンツから流れる音楽によってかき消された。




GANTZ『てめえ達は今から
この方をヤッつけてに行って下ちい
うちっちー星人 特徴:つよい 好きなもの:海 肉 口くせ:しゅーしゅー』


鞠莉「オウ……まさかあのうちっちーが星人だったなんて」

ダイヤ「そんな事よりさっさと着替えなさい? この部屋の事を知ってるなら手助けは必要ないでしょ?」

鞠莉「もう! ダイヤったら冷たいんだから!!」プンプン


千歌「梨子ちゃんも着替えよ? スーツとか武器の使い方は覚えてる?」

梨子「ええ、覚えているわ。戦力にはなると思うから安心して?」

花丸「……なってくれなきゃ困るずら」

千歌「花丸ちゃん! 気持ちは分かるけどさ……」アセアセ

花丸「………」プイッ


梨子「いいの千歌ちゃん。悪いのは私だから……」




不安要素を残しながら

戦場への転送が始まったのだ――






68: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:42:35.84 ID:SD8FVmn80
~静岡駅東口前~


鞠莉「随分と遠いところに転送されたわね」キョロキョロ

ダイヤ「ちょっと……かなりマズいんじゃありませんか?」ゾッ

善子「? 私達の姿は見えて無いんだから大丈夫よ」

ダイヤ「そうじゃありません!! こんな大勢の人がいるこんな場所で戦ってみなさい、何人の犠牲がでるか!?」


花丸「でもマル達から教えることも出来ないし……」

鞠莉「仕方ないでしょ? 出来るだけ被害が無いように素早く倒しまショーウ」ガチャ

千歌「レーダーを見る限り、今回は広範囲に星人が散らばってるみたい。ひとまず3グループに分かれよう」


鞠莉「なら、私はダイヤと!」ダキッ

ダイヤ「くっつかないでください!」グイグイ

ルビィ「る……ルビィもおねえちゃんと…」


善子「ならずら丸、行くわよ」

花丸「ずら!」


梨子「千歌さんも善子さん達のグループに加わって?」

善子「え? 何でよ??」

梨子「私は…ほら経験者だし、ひとりでも大丈夫だから」

ダイヤ「梨子さん……しかし」



千歌「――ダメ、梨子ちゃんは私と来て」ガシッ

梨子「千歌ちゃん? でも……」

千歌「ここでは私の、リーダーの指示に従ってもらうよ。勝手な行動は許さない」

梨子「………」


花丸「あれ? いつから千歌さんがリーダーになったずら??」

千歌「ほぇ?」

ダイヤ「確かに、経歴で言えば善子さんの方が長いわけですし……まあ、かと言って善子さんはリーダーの器ではありませんけど」ヤレヤレ

善子「さりげなく悪口言わないでよ!」




最終的に梨子は千歌とペアを組み、敵の密集地へそれぞれ向かった

69: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:43:19.46 ID:SD8FVmn80


~チームA 新静岡駅前~

ダイヤ「レーダーだとこの辺りに密集しているはずですが」


<ガヤガヤ


ルビィ「普通の人しかいないよ?」

鞠莉「でも、あれがそうなんでしょ?」



鞠莉が指をさす先にはスーツを着た男性がいた

どう見ても帰宅途中のサラリーマンであるこの人間が星人なのか?


間違えたでは済まされない

慎重な行動を求められる場面だが

鞠莉はためらいもなくXガンの引き金を引いた



ダイヤ「何してるんですの!?」

鞠莉「だってレーダーは星人だっていってるんでしょ? 先手必勝よ!」



サラリーマン頭が破裂した


本来、ガンツの住人と同様に星人も一般人には認識できない

彼が星人の場合その法則に従い、彼の死はダイヤ達以外には認知されない



通行人「!? ひぃぃ!!」

通行人「いきなり頭が破裂したぞ!?」

通行人「誰か警察呼んで!!!」


ルビィ「え? なんで見えてるの?」アセアセ

ダイヤ「どうやら一般人も星人の方は見えているようですね」



一般人が星人の死に驚く中

見えないはずのダイヤ達を無言で凝視する者がいる

一人二人では無い

その数、十人以上
さらに数は増えている

その見た目はみるみる変異し、上半身が異常なまでに筋肉が膨張した

半魚人のような姿となった


突如、化け物が大量に出現し何も知らない通行人はさらにパニックとなる


半魚人はそんな通行人へ攻撃を開始した



ダイヤ「ちょっ!? なんで!?」ゾワッ

鞠莉「どうでもいいでしょ! 早く倒さないと!!」ギョーン!ギョーン!

70: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:44:21.68 ID:SD8FVmn80




~チームB 伊勢丹周辺~

善子「こいつら! 無差別に攻撃しすぎじゃない!? それに数も多すぎ!!」ギョーン!ギョーン!

花丸「マルの腕じゃ誤射しちゃうよ!」アワアワ

善子「何でもいいから倒しなさい! このままじゃ犠牲が増える!!」



星人は手の平から水滴を飛ばして攻撃してくる
その速さは拳銃の弾丸に匹敵し生き物の体を容易に貫く

最悪なことに精度が悪い為、周囲の通行人に被弾し

辺りは激痛に苦しむ人であふれ返っていた


二人もXガンで応戦するが
人が多すぎるので思うように狙いが定まらない

星人の何体かは二人を無視し通行人を襲い続けている



善子「――どうすればいいっての!?」




~チームC 江川町通り~

当然こちらも逃げ惑う人で大パニックだった

Xガンでの攻撃は適さないと判断した千歌はガンツソードで星人の殲滅を試みた


梨子も同様に戦っているが――


千歌(――梨子ちゃん凄いな、久しぶりの戦闘のはずなのに私より強いかも…)



梨子は完璧に星人の動きを見切っていた

一瞬の隙を見逃さず

確実に仕留めていく


恐怖など微塵も感じないその戦いぶりに千歌は驚愕していたが
そんな梨子に対し安心感を覚えると同時に危うさも感じていた


千歌(確かにこれなら一人でも大丈夫そうだけど…なんだかそれはダメな気がする……)



梨子「千歌ちゃん! こっちは全部片付いたよ!」ズバッ

千歌「こっちも終わった! 次の場所に急ごう」

71: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:45:00.02 ID:SD8FVmn80





――――――
――――
――


ミッション開始から一時間が経とうとしていた
新静岡駅前は静寂に包まれていた

周辺には多くの通行人と星人が倒れている


そんな中、半魚人の怪物と黒いスーツを身にまとった“二人”の少女が睨み合っていた


この半魚人は他の個体と異なり、スピードに特化していた
逃げ惑う通行人をこの個体が最も多く虐殺したのは言うまでもない

しかし犠牲になったのは通行人だけでは無い



ルビィ「ヒュー……ヒュー……ヒュー……」ブルブル


ダイヤと鞠莉が他の雑魚を相手にしている間、運悪くルビィがこの個体のターゲットにされていた

ルビィでは相手になるハズもなく、二人が気付いた時にはルビィはこの怪物により倒されていた

顔面は血まみれ、左腕はねじ曲がった姿で倒れており
はたから見たら生きているかも分からなかった



ダイヤ「このっ!! よくもルビィを!!!」グワッ

鞠莉「落ち着きなさい。無暗に突っ込んでもルビィの二の舞になるわ」ガシッ

ダイヤ「しかし! 奴を倒さなければルビィが!!」

鞠莉「二人で同時に撃っても当たらない程のスピードよ? 接近したところで袋叩きにされるのがオチよ」


鞠莉「それにダイヤ、あいつの動きを目で追えてなかったでしょ?」

ダイヤ「……やけに冷静ですね? まさかこのまま逃げるなんて言いませんよね?」ギロ


鞠莉「笑えないジョークね。ダイヤが逃げるって言ったって私は戦う」



鞠莉は手に持っていたXショットガンを捨て怪物の方へ足を進める
その手は力強く握りしめられていた


鞠莉「親友の大切な妹をあんな姿にしたあいつを……絶対に許さない」

ダイヤ「鞠莉さん…?」


鞠莉「――私がぶん殴る!!」

72: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:45:47.37 ID:SD8FVmn80




――合図は無かった


怪物は右へ、左へ、前へ、後ろへ

人間の反応速度を遥かに超えるスピードで鞠莉を囲むように移動する



ダイヤ(っ!? こんなのどうやって!?)



ダイヤには全く捉えれれない

恐らく相手がダイヤだったとしてもルビィと同じ結果となるだろう

ましてや今回初参加の鞠莉が相手になるはずがない

ダイヤは鞠莉を一人で向かわせた事を今になって後悔する


だがもう遅い
怪物は鞠莉の背後から頭部目がけて襲い掛かる――



ゴキャ――!!



何かが潰れる音が響く


だが、鞠莉の頭が潰れた訳ではない

彼女の肘が怪物の顔面を完璧に捉えていた


鞠莉にとって軽い肘打ちであったが
星人のスピードが相まって
その破壊力は絶大であった


勢いそのまま空中で半回転し仰向けに倒れる



鞠莉は力強く握りしめた拳を

倒れた怪物の顔面に叩きつけた――!



グシャ――!



アスファルトに穴を開ける程の威力
怪物の頭部は完全に潰れた




ダイヤ「……あの動きが見えていたのですか?」

鞠莉「いいえ。全く見えなかった」

ダイヤ「んな!? だったらなんで!?」


鞠莉「パパの知り合いに武道の達人がいてね、教えてくれたの。『速い敵は点では無く線で捉えろ』ってね♪」

ダイヤ「えぇ……」

73: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:47:09.42 ID:SD8FVmn80


急いでルビィのもとへ

意識はあるが余りにも酷いケガである
本来なら後遺症が残ってもおかしくない


鞠莉「これ……本当に治るの?」

ダイヤ「わたくしの腕が溶けた時も治りましたから大丈夫だと……」


鞠莉「頭を打ってるかもしれないから動かすのはダメそうね…ダイヤはここでルビィと待っていて? 私はちかっち達と合流する」

ダイヤ「その方が良さそうですね……頼みましたよ?」


鞠莉「任せて♪ パパッと終わらせて、みんなで一緒に帰りましょ!」ニコッ





~同刻 チームB~


善子「――避けなさいずら丸!」


先ほどまで花丸がいた場所に止めてあった車がグシャリと潰れた
上から3mを超える星人が落ちてきたのだ

今までの雑魚より更に筋肉質な体つき

鞠莉が戦ったのがスピード特化ならば
こちらパワー特化だろう



花丸「危ないずらね!!」ギョーン!ギョーン!



すかさずXガンを発射する

今まで同様に内部から破裂し倒せるはずだった


しかし、当たった個所が風船のように膨らむだけで
すぐさま元通りになった


花丸「き……効いてない!?」ギョーン!ギョーン!ギョーン!

善子「とにかく撃ち続けて!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!



頭、腕、胴、足
様々な部位に打ち込むがどこも効き目が無い

星人も善子との距離を詰め、殴りかかる


身をかがめて回避


――バキン!


背後にあった標識が星人の拳により吹き飛んだ
善子はゾッとしたが、星人の胴体目がけて殴りつける

74: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:47:46.98 ID:SD8FVmn80
――効き目は無かった


善子(うそ……でしょ? 硬すぎでしょ!?)


この動揺が回避を遅らせた
星人の拳が善子の腹部に直撃した



善子「カ……ハッ……!」ミシミシ


スーツの防御力を上回る衝撃が善子を襲う
後方へ吹き飛び、後ろにあった店の壁を突き破っていった


花丸「善子ちゃん!!」


――返事は無い
星人はターゲットを花丸に切り替えた



花丸「………」


不思議と恐怖は無かった

大丈夫、一人でも戦える


その為に訓練してきたのだから



花丸「――かかってくるずらぁ!!!」








~数分前 チームC~

既に周辺の星人は全て倒しており
救急隊や警察による怪我人の搬送等が始まっていた


千歌「この辺はもう大丈夫そうだね。次の場所に行こう!」


レーダーを見ながら次の場所を探す千歌だが



梨子「……国木田さんの所に行きましょう」

千歌「? もう星人の数は少ないから大丈夫なんじゃない?」

梨子「なんだか行かなきゃダメな気がするの……胸騒ぎがする」


千歌「……わかった。急いで向かおう!」

75: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:48:36.46 ID:SD8FVmn80




――――――
――――
――


善子「う……うーん……」


善子は瓦礫の山となった店の中で目を覚ました

かなりの衝撃ではあったがスーツはまだ壊れていない


善子(どのくらい気絶してたの……?)


時間にして1分も経ってはいなかった

銃の発砲音が聞こえない
戦闘は終わったのだろうか?




――ズドン! ――ズドン! ――ズドン!



奇妙な地響きが聞こえる
まるで何かを叩きつけているような音だった

善子「ずら丸は…どうなったの?」


痛む腹部を抑えながら善子は店から出る


外には先ほどの星人の後ろ姿があった
―――誰かに馬乗りになっている後ろ姿だ


その人物に何度も何度も何度も
その拳を叩きつけている



善子(ずら丸は逃げたの?)


――違う


善子(千歌さんに助けを呼びに行ったのよね…?)


――違う


善子(そうに決まってる。間違い……ないわ)


――違う




受け入れるわけにはいかなかった

認めたくなかった



でも、見間違えでは無かった

一目で分かってしまった


――奴の股下から見える黒いスーツの足が一体誰なのか

76: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:49:13.36 ID:SD8FVmn80





善子「―――あ………あああぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!


効き目が無いのは分かっている
とにかく奴の攻撃を止める

たとえそれが無味だったとしても


善子の攻撃に気付いた星人は攻撃を中断
直ちに襲い掛かってくる


パワーはあるがスピードはそれほどでは無い

捕まったら死
一定の距離を空け、撃ち続ける



――バンッ!



十数発撃ち込んだところでやっと胴体が破裂
星人は完全に動かなくなった



善子は星人が殴り続けていた場所に向かった


――そこには人間だったモノが倒れていた

腰から上は原型を留めていない
個人を判別するのが不可能な程に

それは肉塊と化していた




しかし、善子には分かる
この亡骸が“国木田 花丸”だという事が

77: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:50:07.11 ID:SD8FVmn80


善子「――何してるの? 早く起きなさいよ…」

善子「まだ……ミッション中なのよ? そ…そんな所で、ね……寝てる場合じゃないでしょ?」ポロッ




梨子「――津島さん……」


梨子と千歌、少し遅れて鞠莉が合流した


千歌「………」

善子「あ…千歌さん、千歌さんからも言ってよ……ずら丸ったら返事……しないんだよ」ヒックッ

善子「あぁそっか、ここに倒れてるのは……ずら丸じゃないんだ。だって……こんなの……あんまりじゃない」ポロポロ


梨子「――早く終わらせましょう。死を惜しんでいる時間は無いわ」

善子「……何ですって?」ギロ

千歌「梨子ちゃん!?」



心無い梨子の発言に善子の怒りは爆発した



善子「そもそもあんたが!! あんたのせいでずら丸がこんな戦いに巻き込まれたんじゃない!!! それなのに惜しんでる時間は無いだって? ふざけるな!!!」

梨子「………っ」

鞠莉「落ち着きなさい。りこっちの言っている事は正しいわ」

善子「ああ!!?」ギロッ

鞠莉「ルビィが瀕死の重傷を負っているの。急がないとそのまま死んでしまうわ」

善子「!? なんですって!!?」


鞠莉「花丸の事は…確かにショックだけど、あなたはまだ助かる大切な友達を見捨てるつもり?」

善子「………」


千歌「――行こうか。残るはボスだけだよ」

78: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:50:46.80 ID:SD8FVmn80




~静岡駅前~

星人による大量無差別殺人により、駅前は警察や機動隊が多く出動していた

千歌達によりほとんどの星人は殲滅されており事態は終息に向かっていたかのように見えた


機動隊員A「おい、あそこにいる着ぐるみは何だ?」

機動隊員B「あれって……“うちっちー”じゃないですか?」

機動隊員A「なんだと? あの水族館のマスコットキャラのか? なんでそんなのがここにいるんだよ」



突如道の中央にうちっちーの姿が現れた
勿論ただのうちっちーではないが、彼らが知る由もない



機動隊員A「そこのお前! こんな状況でふざけた格好をしてるんじゃない!」

うちっちー?「………」

機動隊員A「無視するつも――」


グシャリと何かが潰された

隊員Aの頭が握り潰されたのだ


その姿はすでにうちっちーの原型は留めておらず、完全に化け物と化していた


機動隊員B「この!? 化け物がぁ!!!」バババババ



装備していたマシンガンを撃ち尽くした
しかし弾丸は星人の皮膚を少し傷を付けただけでダメージは皆無

星人による虐殺が始まる――

79: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:51:33.24 ID:SD8FVmn80








――――――
――――
――

ルビィ「……お…ねぇちゃん……」

ダイヤ「気が付きましたか。どこが痛みますか?」

ルビィ「左腕が……凄く…痛い。頭も……ガンガンする」ハァハァ

ダイヤ「っ! お姉ちゃんが側にいながら妹をこんな目に合わせるなんて……!」ギリッ


ルビィ「ごめん……なさい……ルビィが…弱いから……」ハァハァ



――ゴソゴソ



ダイヤの目の前で何かが立ち上がった


ダイヤ「――頭部を潰すだけじゃ倒せないとは」


鞠莉によって倒したはずの星人が再び立ち上がったのだ

先ほどとは違い動きがぎこちないが

ダイヤの方へ向かってくる


ダイヤ「ルビィ、少しだけ待っていて下さい。すぐに戻ります」スクッ

ルビィ「……おねぇ…ちゃん?」

ダイヤ「安心してください。何も心配しなくていいのですよ?」ニコ



動きを見切れた鞠莉はいない

頼れる仲間も側にいない

大切な妹を守るため


姉はその拳を握りしめる――

80: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:53:16.41 ID:SD8FVmn80




~同刻 静岡駅前~

千歌達が到着した時には決着がついていた

機動隊と警察は壊滅
生き残りも完全に戦意を失っていた



梨子「――私が切り込む。バックアップお願い!」ダッ

千歌「ちょっ!? 待って!」


千歌の制止を無視し単独で切り込む
星人も気配に気づき応戦している


鞠莉「私たちも行くよ!」

千歌「分かってる!」カチャ

81: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:53:47.01 ID:SD8FVmn80
千歌と梨子はガンツソードを展開し、鞠莉は素手で殴りこむ



星人の動きは今までの雑魚とは別格だった

スピード、パワー共に特化型ほどでは無いが
それに近いものを持っていた

千歌と梨子の斬撃や鞠莉の打撃は全てかわされる


逆に星人の攻撃は確実にヒットし
ダメージは蓄積されていく


鞠莉「――っ!!」バキッ


鞠莉の拳が星人の右足にヒット
すかさず胴体、顔と連打

が、顔面への攻撃で腕を捕らえられる



――パキン!



まるで木の枝のように鞠莉の腕をへし折った


鞠莉「っ!!? あがああぁぁああ!!!!?」


女の子が耐えられる痛みではない

鞠莉はそのまま投げ飛ばされ近くの店に突っ込む



千歌(鞠莉さんがやられた!? 掴まれてもアウトなの!!?)ヒュン!ヒュン!


千歌の顔面を星人の指先がかする

掴まれたら死
その恐怖心が千歌の動きを鈍らせる

不意のヘッドバットが千歌を襲う


千歌「ぐはっ!?」グラッ



致命的な隙だった

星人の手は千歌の頭を捕らえた――

82: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:54:51.16 ID:SD8FVmn80




――――――
――――
――

ダイヤ「くっ! 速すぎます!!」ドゴッドゴッドゴッ


ダイヤはスピード特化の星人と戦っているが
鞠莉が言っていた通り、袋叩きにされていた


ダイヤ(先ほどよりスピードは落ちていますが……わたくしの反射神経では!)


ぐずぐずしているとスーツの耐久限界が来てしまう
それはダイヤの死を意味する

自力で乗り切るしか方法は無い


ダイヤ(――『点では無く、線で捉える』、でしたね)

ダイヤ(奴の動きは直線的、方向転換の際に一瞬だけ制止する。そこから次の動きを予測するには……)


ダイヤ(つま先の方向に全神経を集中させる!!)



スーツの耐久的にも次の一撃で壊れる
一か八か、全神経を集中させる




ダイヤの正面で一瞬の制止後――

つま先はダイヤの方向を向いていた


ダイヤ「!! はああっ!!!」


方向が分かれば後は簡単だった

軌道に合わせて拳を突き立てる


ダイヤの拳は星人の腹部を貫いた
同時にスーツも壊れ、メキメキと鈍い音たてながら
突き立てた腕の骨が砕かれる


ダイヤ「痛っ……! ギリギリでしたわね」フー


激痛に耐えながらも
ホルスターからXガンを抜き取り
今度こそ止めを刺す


星人「ガガ……ゴガ………」

ダイヤ「ふっ……冥土の土産に一言申しますわ」


ダイヤは星人を背に、ルビィのもとへ歩みを進める



ダイヤ「―――黒澤家にふさわしいのは常に勝利のみ。覚えておきなさい」



バンッ! という音がダイヤの後ろで響いた





83: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:55:25.45 ID:SD8FVmn80
――――――
――――
――

千歌の頭を星人が捉える

千歌(――やばっ!? 死……!)



――スパッ!



ギリギリのタイミングで梨子が星人の腕を切り落とす
解放された千歌は一旦距離をとる


梨子「千歌ちゃん大丈夫!?」

千歌「ハァ……ハァ…大丈夫。ありがとう」



度重なるダメージで二人のスーツも限界が近い


梨子「これ以上はもう食らえない。時間的にも決着をつけよう」スチャ

千歌「そうだね……行くよ!!」



――二人同時に切りかかる

タイミングは完璧
回避は不可能だった


星人は切り落とされた片腕で千歌を薙ぎ払う


千歌「んな!?」バキッ


梨子の斬撃をもう片方の腕で軌道をずらし致命傷を避ける

体勢を崩した梨子を足で地面に叩きつけ
腹部を踏み潰す


――グチャ!


梨子「ぶはぁ!!」ベチャベチャ


スーツは壊れ、内臓は完全に破裂した
――致命傷である


千歌「!? 梨子ちゃん!!?」


千歌も助けに入ろうとするが
瓦礫の破片が足に刺さり動けない

千歌「いや! 梨子ちゃん!!!」



星人は勝ち誇った顔で梨子を見下す

鞠莉も千歌も梨子も
チーム屈指の戦闘力を持つ三人を倒したのだ
邪魔するものはもういない


星人の勝利―――

84: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:56:03.67 ID:SD8FVmn80






―――梨子は不敵な笑みを浮かべた

梨子(――今よ……津島さん!!)





――――――
――――
――


梨子『津島さん、ちょっといいかしら?』

善子『……何ですか?』ギロッ

梨子『津島さんには遠距離からの狙撃をお願いしたいの』

善子『はあ? 狙撃なんて出来ないわよ。弾速が遅すぎて当たらない』

梨子『止まっている的なら…問題ないよね?』

善子『それなら大丈夫だけど…止められるくらいならあなた達で仕留められるでしょ?』


梨子『もし、三人ともスーツが壊れてどうしようもない状況になったら、私が何としてでも奴を止める。そしたら、あなたは転送が始まるまで奴を撃ち続けてね―――』

85: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:56:32.99 ID:SD8FVmn80



――――――
――――
――

~建物 屋上~

善子「終われぇぇぇぇ!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!


善子(梨子の捨て身の作戦を無駄にする訳にはいかない! 気に入らない人だけど…でもあんたにはまだまだ言いたい事があるのよ!! 勝手に死なせないんだから!!)ギョーン!ギョーン!


善子によるXショットガンによる遠距離狙撃は酷いものだった
ほとんどが道や建物に被弾

梨子や千歌の真横に当たったものもある

しかし一発、たった一発だけ当たればいい
幸運にも最初に放った一発が星人の頭を見事に被弾

頭部は破裂
完全に息の根を止めた



最後の星人を倒したことで
部屋への転送が始まった――






86: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:57:07.93 ID:SD8FVmn80
~GANTZの部屋~

ルビィ「おねぇちゃん! みんな帰って来たよ!!」

善子「ルビィ! よかった……間に合ったのね」

ルビィ「うん……おねぇちゃんと鞠莉さんが助けてくれたの。その時のおねぇちゃんの決めゼリフがカッコよくて――」

ダイヤ「んん!? 余計な事を言わなくていいです!」アセアセ

鞠莉「ほほーう、相当痛いセリフを言っちゃったんでしょうね」ニヤニヤ

ダイヤ「やかましいですわ!! そもそも鞠莉さんがキチンと仕留めないから――」ガミガミ



梨子「私……生き残ったのね」

善子「全く、何としてでも止めるって言ってたけど…もっと他の手は無かったわけ?」

梨子「まあ…私がどうなろうと別に構わないと思ってるし、津島さんだってそうでしょ? 私があなたの友人を巻き込んでしまったから……」

善子「確かに事情はどうあれ、ずら丸達を巻き込んだ事は許せない。でもね……あなただってもうこの部屋の住人でしょ? “リーダー”の方針で住人はもれなく大切な仲間なの」

梨子「仲間……」

善子「仲間が傷つく姿なんて見たくないの。自分の事はどうでもいいなんて言わないで」

梨子「うん……」

善子「それに、ずら丸達がこの部屋から解放されるまでサポートしてもらわないとね。責任とってきちんと生き残りなさい! ……梨子さん」プイッ

梨子「そうね、分かったわ……善子ちゃん」

87: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 21:57:56.47 ID:SD8FVmn80




ルビィ「――そういえば、花丸ちゃんは? まだ帰って来ないけど……」キョロキョロ

善子「っ!?」

千歌「………」

ダイヤ「確かに遅いですわね。他のメンバーはもう揃っているのに」



――チ~ン♪



ガンツから終了を知らせるベルの音がなった
“全員”の転送が済んだのだ


ルビィ「え……待ってよ。花丸ちゃんがまだだよ? なんで終わっちゃうの?」ポロッ

ダイヤ「そういう事……ですか」

ルビィ「どういう意味? なんで……なんで花丸ちゃんが……」ポロポロ


GANTZ『小原家
29点』


千歌「今回は星人の数が多かったから100点までいったメンバーも多いかもね」

鞠莉「100点になると解放されるんだったわね?」

千歌「そうです。自分の自由を諦めれば……死んだメンバを再生できる」

88: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 22:00:05.75 ID:SD8FVmn80



GANTZ『ピギィ 14点 TOTAL 19点』


鞠莉「再生……果南にもう一度会える……」

ダイヤ「………」



GANTZ『堕天使(笑)45点 TOTAL 102点』



鞠莉「オウ!! 100点越えですネ!!」

ルビィ「善子ちゃん……自由になれるんだね」


善子「………」


画面が切り替わる


100点メニュー
1. 記憶を消されて解放される
2. より強力な武器を与えられる
3. メモリーの中から人間を再生する



善子(私はこの部屋から解放される為に戦ってきた。いつ死ぬか分からない戦いはもう続けたくないよ……でも――)


千歌「――……一番だよ、善子ちゃん」

善子「!?」

千歌「花丸ちゃんを再生するか迷ってるんだよね? 多分私も100点を超えてるはずだし、もし違っても次のミッションで達成してみせる」

千歌「私が必ず花丸ちゃんを再生させるから安心して」ニコ


89: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 22:00:34.45 ID:SD8FVmn80
ルビィ「ダメだよ! 千歌さんには生き返ってほしい人がいるんでしょ!? 花丸ちゃんはルビィが生き返らせてみせる。だから善子ちゃんには自由になって欲しい」

鞠莉「どうする? 善子ちゃん」


善子「……ふふふ」

ルビィ「?」


善子「ルビィが100点までいくのに、どれだけ時間が掛かるのよ? 仮にずら丸を再生できてもあんたが解放されるまでにそこから一年は必要でしょうね?」

ルビィ「うりゅぅ……」シュン

善子「千歌さんだって次回も生き残っている保障はどこにもない。現に今回だって危なかったわけだし」

千歌「ぐぬぬ……」

善子「だからさ……私の答えは決まってる」フー





善子「――三番、ずら丸を……国木田 花丸を再生しなさい!!」

90: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 22:01:04.67 ID:SD8FVmn80



――ジジジジ



善子の選択を聞き入れたガンツは
転送時に放出されるレーザー光線を照射する

レーザーは徐々に人を形成していく


―――そして




花丸「―――ずら? なんで二人とも泣いてるの??」



ルビィ「うあぁぁぁん!! よかった!! 良かったよぉぉ!!」ダキッ

花丸「ルビィちゃん!? 何があったの!?」アセアセ


善子「ずら丸、あなたどこまで覚えているの?」グスッ

花丸「えーっと、善子ちゃんが吹き飛ばされて…一人で戦おうと決心した後……あれ? その後は覚えてないよ??」

善子「そう……」



GANTZ『堕天使(笑) 2点』


GANTZ『ずら丸 0点』

91: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 22:01:49.77 ID:SD8FVmn80


花丸「え? 0点?? 善子ちゃんも2点になってるよ?」


ダイヤ「花丸さんは今回のミッションで死んでしまったのです。100点を取った善子さんが自らの自由と引き換えにあなたを再生させたのですよ」

花丸「!? 善子ちゃん……なんで」

善子「別に……あんたを今再生しないとルビィが解放されるまで数年はかかるから仕方なく選んだまでよ!」

ルビィ「さっきより期間が長くなってる!?」ガーン

花丸「そっか……マルは死んじゃったのか……善子ちゃん、ありがとうね」ニコ

善子「っ!?ウルッ つ……次は無いんだからね!!」プイ



本当に死んだメンバーが再生された

これほど嬉しいことは他に無い
採点待ちのメンバーも内心そわそわしていた



ダイヤ「次はわたくしですわね」



GANTZ『硬度10 35点 TOTAL 101点』



ルビィ「おねぇちゃんも100点だ!!」

善子「どうするつもり?」

ダイヤ「わたくしはどうするか始めから決めています。ルビィが解放されるまではこの部屋に居続けるつもりですから」


梨子「なら、二番を選ぶんですか?」

ダイヤ「いいえ。鞠莉さんには悪いですが――」

92: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 22:02:35.57 ID:SD8FVmn80





ダイヤ「――三番。松浦 果南さんを再生しなさい!!」



――ジジジジ



果南「――……? どうなってるの……千歌は?」


千歌「か……果南ちゃん!」ポロポロ

ダイヤ「全く……勝手にいなくなるんじゃありません。どれだけ必死に探したと思っているのですか!!」

鞠莉「もう! 私が再生しようと思ったのにぃ!! これから何を理由に戦えばいいのよ」プンプン


果南「ちょっ……なんで二人がこんな所にいるの!?」ゾッ

千歌「果南ちゃんが死んじゃってから結構時間がたったんだよ。その間に色々あってメンバーも増えたんだ」

善子「ベテランが全員いなくなった時は……ホント終わったと思ったんだから!!」

果南「千歌…善子……ごめんね? 私がもっと強ければ…」


鞠莉「果南は一人で頑張り過ぎなのよ。ちかっちも善子も誰かを守るだけの力を既に持っているわ」

果南「そうだね……仲間も多くなったみたいだし、私が死んじゃってた間にずいぶん成長したね」ニコ

善子「当然よ! 私だって100点を取るまで強くなったんだから!!」ブイ

果南「ふふ、ならこれからは善子に守ってもらおうかな?」



ガンツの画面が切り替わり採点が再開される

93: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 22:03:19.59 ID:SD8FVmn80



GANTZ『ちかっち 45点 TOTAL 112点』



千歌(ついに……ついに100点を超えた)

果南「おお、千歌も100点越えか!」

花丸「おめでとうございます!」

鞠莉「ま、当然っちゃ当然の結果よね」


善子「……やったわね、千歌さん」

ダイヤ「これであなたの願いも……」


最初は自分をかばって死んだ果南を生き返らせる為だった

もう一人の親友もここで死んだ事を知ってからは

二人を生き返らせると誓った


果南が仲間によって再生された今

千歌の選択は決まっていた――




千歌「――曜ちゃんを、渡辺 曜を再生してください」

94: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 22:04:04.24 ID:SD8FVmn80



――
――――
――――――

(あれ……なんで倒れてるんだっけ?)

果南『曜! しっかりして!! こんなところで死ぬわけにはいかないでしょ!!?』

善子『果南さん! まだ襲ってきます!!』ギョーン!ギョーン!


(ああ……そうだ、果南ちゃんをかばったんだっけ)

果南『くっ! 血が止まらない!! お願いだから目を開けて!!』

(よかった……果南ちゃんは無事だったんだね)


(――声も出ないし、体も動かないや。転送まで…間に合いそうもないか)




(もうすぐ100点だったのになぁ…うまくいかないもんだね)





(千歌ちゃん……ごめんね。明日…一緒に登校できそうに無いや……)






(千歌ちゃん…きっと心配するだろうな……)

95: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 22:04:48.66 ID:SD8FVmn80







(――――ずっと一緒に………いたかったな)










――
――――
――――――



―――ジジジジ




「う……うぅ……」ポロポロ


(――あれ? ここは……あの部屋だ。間に合ったの?)


「久しぶりね。曜さん……」

「また会えて嬉しいよ」

「この方が千歌さんの親友ですか」

96: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/13(日) 22:05:17.69 ID:SD8FVmn80
「すごく……可愛いです!」

「ずらぁ~」


(果南ちゃんに善子ちゃん……残りのメンバーは知らないぞ?? どうなってるの?)




「――もう……もう二度と会えないんじゃないかって……凄く怖かった」ポロポロ


(え? この声って……まさか―――)







曜「―――千歌……ちゃん?」

曜「どうして……どうして千歌ちゃんが“また”この部屋にいるの!?」




千歌「………」グスッ

梨子「――え?」



千歌「曜ちゃんお帰り……そして―――“ただいま”」ニコ





―――四章へ

105: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 18:51:11.08 ID:yu6rYD1l0
四章


静岡駅周辺で発生した無差別大量死傷事件
死傷者は今現在判明しているだけでも100人を超え
三年前の新宿の事件に次ぐ被害である

どの局のチャンネルもこの事件の概要や速報で持ち切りである



「おねーちゃん! 明日の仕込み始めるよー。早く来てよ!」



妹の呼び出しを聞き、居間のテレビでニュースを見ていた彼女は電源を切る


この事件の犯人が誰なのか
事態を終息させたのが一体誰なのか

彼女には見当がついていた



???「静岡チームも中々やるね。結構強い人が多いのかな?」



新宿の事件を経験した彼女にとって被害規模から犯人
いや、星人がどれほど強いか分かっていた

家族も多くの知り合いも
彼女が長年ある戦いに参加していることを知らない



「もう! 早くしてよーー!!」


「―――今行くよーー!」


サイドテールのその彼女は妹のいる調理場へ向かった――

106: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 18:52:01.10 ID:yu6rYD1l0




――――――
――――
――

千歌(あの戦いの翌日、内浦は大騒ぎになった)

千歌(行方不明だった曜ちゃんと果南ちゃんが帰ってきたのだ。警察や先生に呼び出されて凄く忙しそうだったな)

千歌(今は放課後。今日はもう学校には来ないと思ったんだけど――)



曜「うぅ……めちゃくちゃ疲れたぁ」ガラガラ


千歌「曜ちゃん!」

梨子「お疲れ様。放課後だからもう来ないと思いましたよ?」

曜「あはは……ちょうど近くまできたからね。待っててくれてありがとう」

千歌「なんで梨子ちゃん、曜ちゃんに敬語なの? 同じクラスメイトなんだから普通にしゃべろうよ!」

曜「そうだよ! 千歌ちゃんの友達なら私の友達だよ?」ニコニコ


梨子「そ……そう? なら普通にしゃべります……しゃべるね?」

曜「その調子! よろしくね梨子ちゃん♪」



果南「お? 三人揃ってるね」ガラガラ

曜「あれ? 果南ちゃんももう終わったんだね」

果南「まあね。誤魔化すのにホント苦労したよ」アハハ

千歌「確かに……二人ともどうやって説明したの?」


曜「うーん…旅に出てたってゴリ押した」

千歌「えー、それは無いでしょ」ジトッ

果南「正しくは“覚えてない”でゴリ押したんだよね」



ダイヤ「――ここにいましたか」

鞠莉「オウ! 曜ちゃん、シャイニー☆彡」

善子「なんだ、結局学校で揃っちゃうのね」


気が付くと教室に部屋のメンバーが全員揃っていた

107: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 18:53:46.17 ID:yu6rYD1l0
千歌「――なんか不思議な感覚だな」

ルビィ「千歌さん?」

千歌「だって最初は作戦会議も訓練も善子ちゃんと二人だけだったのに、今は9人もいるんだよ?」

善子「……仲間が多いとやっぱり心強いものね」


曜「私と果南ちゃんが復活したからにはもう大丈夫だよ! 大船に乗ったつもりでいてね」エッヘン

花丸「うーん……大船かぁ…」

果南「最近まで死んでた人に言われてもね…説得力が無いよ?」苦笑

曜「ぐふぅ……ごもっともです……」ズーン

千歌「アハハ……そろそろ行こうか」






~黒澤家~

ダイヤ「――早速ですが昨日の事について話して頂けますか?」


今回集まったのは千歌が曜に対して“ただいま”と言ったことについてである
今後の戦いに関して影響がある訳では無いが、その言葉の意味について
やはり全員気になるものがあった


千歌「えーと……何と言えばいいのか――」

曜「それについては私が説明します。千歌ちゃんはほとんど覚えて無いと思うから…」

108: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 18:55:52.25 ID:yu6rYD1l0

曜「――千歌ちゃんは元々あの部屋の住人だったんです。この中では一番ベテランになりますね」


果南「私が初めて参加した時にはもう曜がいたけど、それよりも前にいたんだね」

曜「私は一年前、ちょうど中学を卒業した春休み中に事故に遭ってあの部屋に…」

曜「メンバーは私を含めて6人、その中に千歌ちゃんはいました」

曜「千歌ちゃんは中学二年生の時から参加してるって言ってました」


鞠莉「なるほど、だから三年前の事件を覚えてなかったのね」

梨子「解放される際、記憶は全て消されるものね」

曜「その時の千歌ちゃんは…それはもう強かったですよ? チームのリーダー的存在で……今まで私が知ってた千歌ちゃんとは別人でした」

曜「その時のミッションで100点を取った千歌ちゃんは一番を選んで解放されたんです」


善子「意外ね。千歌さんの性格なら曜さんが解放されるまで一緒にいると思ったのに」

曜「千歌ちゃんも最初はそうしようとしてたよ? でもこんな戦いをもう繰り返して欲しくなかったから私が無理やり選ばせたの」

曜「だから再生されて時、目の前に千歌ちゃんがいたのは本当に驚いたよ……」


果南「千歌があの時、武器の使い方が分かってたのも昔の感覚を体が覚えてたからなんだね」

千歌「武器を握ったら不思議と分かったんだ」

千歌「思い出したのは鞠莉さんの話を聞いたときだよ。新宿の事件を全く覚えて無かったから変に思って……いろいろ考えてたら少しだけ思い出したんだよ」

109: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 18:57:23.33 ID:yu6rYD1l0



梨子「ねえ、千歌ちゃんが参加していたときのメンバーに黒澤姉妹や鞠莉さんはいなかった?」

千歌「うーん……思い出したのは昔あの部屋にいた事とメンバーに曜ちゃんがいた事だけだからな」ウーン

曜「私が来たとき、ダイヤさん達はメンバーにいなかったよ?」

梨子「そう……」

ダイヤ「千歌さんが指名されたのはあの部屋の卒業生だったからのようですが、私達の場合が説明できませんね……」


果南「指名?」

ダイヤ「善子さん以降のメンバーはガンツに指名されてあの部屋に転送されたんです。まあ花丸さんは違いますけど」

曜「ガンツに? でもそれって……」


梨子「――私が殺したの。家族を人質にとられてね……」

果南「!?」


梨子「私も昔似たような部屋のメンバーだった。場所は東京だったけどね」

曜「東京にもあるんだ…」



千歌「あのさ、東京チームには穂乃果さんがいたんだよね?」

ルビィ「穂乃果さん!? あのミューズの!?」グワッ

ダイヤ「本当なのですか!?」グワッ

梨子「うえぇっ!?」

花丸「二人ともミューズの大ファンだからね~」

千歌「この前調べたんだけど、今は実家の和菓子屋を継いでる。だからお店に行けば会えるはずだよね」

曜「会いに行ってどうするの?」

千歌「えーと……どうするって訳でもないんだけど、今後のミッションについて何かアドバイスをもらえないかなー……なんて」

梨子「確かに長年戦ってた人から話を聞けたら参考になりそうだけど…」ウーン

鞠莉「戦っていたのは三年も前よ? 今生きていたとしてもとっくに100点取って解放されてるでしょ」

110: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 18:58:46.26 ID:yu6rYD1l0
千歌「私もそう思ったけどさ……私や梨子ちゃんみたいにもう一度呼び出されてるかもしれないし」

果南「でもどうやって確認するの? もし違ったらガンツに消されるんだよ?」


千歌「そこは大丈夫。でも…もしもの時の為に聞きに行くのは私一人で行くね」


ルビィ「ええ? 一人で行くんですか!?」

ダイヤ「……ガンツの判断基準が分からない以上、全員で聞きに行って違った場合、最悪全滅する可能性があるというわけですね?」

善子「それはちょっとリスク高いわね……」


花丸「でも、話をしに行くなら桜内さんがいいんじゃないかな? 昔同じメンバーなら顔を見た時の反応で分かるんじゃないかな?」


千歌「そうだね……でもいいや。一人で行くよ」

曜「………」


千歌「明後日が休みだからその日に行くね」

果南「まあ、気を付けて行ってきなよ?」

梨子「………」

111: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:00:20.56 ID:yu6rYD1l0



――――――
――――
――

~翌日 浦女~

梨子「――こんな所に呼び出してどうしたの?」

曜「ごめんね? 昼休みに屋上まで来てもらってさ」アハハ…


梨子「それで? 場所を変えたってことは千歌ちゃん関連の事でしょ?」

曜「……昨日の千歌ちゃん、どうして梨子ちゃんを連れて行こうとしなかったと思う?」

梨子「………」

曜「花丸ちゃんの言う通り梨子ちゃんを連れていけば、ほぼノーリスクで有無が確かめられるよね?」

梨子「そうね……いくら何でも不自然だった」

曜「今朝聞いてみたんだけどさ、わざわざ数人で行く必要は無いとか、交通費が勿体無いとか無難な事しか答えてくれなかった」

曜「梨子ちゃんだったら何か分かるかと思ったんだけど……どう?」

梨子「普通に考えれば私に聞かれたくない事を聞くってことだもんね…」

梨子「あれから色々考えてみたんだけど…心当たりが全く無いのよ」ウーン

曜「そっか~…考えすぎなのかな??」ムムムッ



千歌「ああ! 二人ともこんな所にいた」ガチャ

曜「千歌ちゃん!?」

千歌「ひどいよ! 気づいたら二人ともいなくなってるんだもん!」プンプン

梨子「ご…ごめんなさい」アセアセ

千歌「――まあいいや、お昼食べよ!」



結局、千歌が何故誰も連れて行こうとしなかったのか
梨子と曜は分からないまま昼休みが終わってしまった

――当然である
千歌はウソをついている

そもそもいくら議論したところで
分かるハズがないのだから――

112: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:00:54.17 ID:yu6rYD1l0





~放課後 松月~

花丸「んん~~美味しいずらぁ」ウットリ

善子「よくもまぁ毎回食べる量が多いわね…太ったんじゃない?」ジトッ

花丸「いつもの訓練で動いてるから大丈夫ですぅー」モグモグ

ルビィ「でも……授業終わってすぐにのっぽパン食べて、それからロールケーキも食べるのはちょっと多いんじゃ……」

花丸「むぅ、ルビィちゃんまでマルが太ったって言いたいずらか?」ムスッ

善子「まあ、後で困るのずら丸なわけだし~? 体重計に乗った時に『ウソずら~~!?』って絶叫しないことね」ニヤニヤ

花丸「ああ! なんか今の言い方、ちょっと馬鹿にしたね!」プンプン

ルビィ「ふふ…アハハハハ」

花丸「もう! 笑い過ぎだよ~」

ルビィ「アハハ……ごめんごめん。何だか幸せだなって思っちゃってさ」

善子「?」

ルビィ「だってね、いつ死んじゃうか分からない戦いを繰り返してるのに、こんな風に大好きな友達と楽しく過ごせるんだもん。これ以上の幸せは無いよ…」


善子「…普通の女子高生でこのやり取りに幸せを感じる子は稀でしょうね」

花丸「あんな部屋が無ければもっとよかったのに……」

113: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:02:24.07 ID:yu6rYD1l0


善子「それは困るわ」モグモグ

ルビィ「ええ!? 善子ちゃんはあの部屋好きなの?」

善子「違うわよ。二人と違って私の場合、普通に事故で死んでるからあの部屋が無かったら今こうしてあなた達に会えてないの」

花丸「そっか……」


善子「それに……千歌さんや梨子さんの話じゃ、解放される時に消される記憶は部屋に初めて参加した時から解放されるまでの範囲みたいじゃない?」

善子「そうなると…みんなと一緒に過ごしてきた記憶も消されちゃう……そんな目に遭うくらいなら私はずっと戦い続ける覚悟よ」

ルビィ「善子ちゃん……」


花丸「……善子ちゃんはおバカさんなの?」

善子「はあぁ!?」

花丸「忘れるのが分かっているなら、ノートにメモを取るとかいくらでもやり方はあるでしょ?」ハァー…

善子「あ……その手があった」

花丸「――それに、記憶が無くなったって私達ならまた友達になれる。そこから思い出も新しく作り直せばいいずら♪」


善子「……そうね。なら花丸達にはキチンと迎えに来てもらわないとね。全部忘れちゃったら多分私から話しかけるなんて性格的に無理だと思うし」フフ

花丸「了解ずら!」ニコッ



ルビィ「よーし! 今日は追加でもう一個プリン食べちゃお」

花丸「マルも食べるー!」ワーイ

善子「ちょっ…あんたは流石に控えなさいよ……」

114: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:05:31.39 ID:yu6rYD1l0





~同刻 生徒会室~

果南「――だあぁ! 課題が多すぎるよぉ……」グデーン

ダイヤ「仕方ないでしょ? 三か月近くも休んでいたのですから。遅れを取り戻す為にもしっかりやってもらわねばなりません」

果南「わかってるけどさー…でも少し休憩してもいいよね? 何だかんだ一時間近くやってたし」

ダイヤ「たかがその程度で休憩? 片腹痛いですわ!」グワッ

鞠莉「まあまあ、別に今日中に終わらせなきゃいけないものでも無いんだしー、そんなに怒らなくてもいいんじゃない?」

果南「ほらー! 鞠莉理事長もこう言ってるわけだしー」ブーブー

ダイヤ「くっ…! 仕方ありませんね」ぐぬぬ……


鞠莉「というわけで、二人にはおやつのプリンを持ってきましたー♪」

果南「おお! ありがとう鞠莉!」ニコッ

ダイヤ「これは…とてもおいしそうですわね」キラキラ

鞠莉「ふふーん! かなりいい店のプリンだもの?」ドヤァ

115: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:05:58.37 ID:yu6rYD1l0



ダイヤ「ふう……満足ですわ~」ウットリ

果南「ホントに美味しかったよ!」

鞠莉「……よかったわ、本当に」

ダイヤ「? 鞠莉さん?」

鞠莉「果南が突然いなくなった時は…もうどうしていいか分からなかった。どれだけ調べても決定的な手がかりが見つからないんですもの」

ダイヤ「――まさか、奇妙な部屋でつい最近まで死んでたなんて思ってもみませんでした」ヤレヤレ

果南「あ…あはは……申し訳ない」


果南「――思ったんだけど、今まで死んでた私が奇跡の蘇生を遂げたのに二人とも意外と冷静じゃない?」

ダイヤ「そうですか?」キョトン

鞠莉「な~に? もしかして果南は私達に感動的で情熱的な反応をしてほしかったの?」ニヤニヤ

果南「……///」テレッ



ダイヤ「冷静と言えば、千歌さんの反応も意外と冷静でしたね?」

鞠莉「そう? 私達と違って涙も流していたじゃない」

果南「そうだ…私は泣いてすらもらえなかったんだ……」ズーン

果南「…まあ確かに意外だったな。千歌にとって曜は家族みたいなものだから再生されたときにもっと取り乱してもおかしくないよね」ウーム

鞠莉「それに、やっと会えたっていうのに最初の休日に一人で東京に行く? 私だったら一日中果南と過ごすわ~」

ダイヤ「どのような心境なんでしょうね……?」

116: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:06:30.55 ID:yu6rYD1l0





~同刻 千歌の部屋~

曜「うだあぁぁぁ!! 終わらない! この量は終わらないよおぉぉ!!」ウガー

千歌「曜ちゃんうるさーい。愚痴っても何も変わらないよ」ペラッペラッ

梨子「そうよー早く今日の目標まで終わらせないと」ポチポチ

曜「へいお二人さん、漫画読んだりスマホいじったりしてるなら手伝ってくれてもいいんじゃない?」

千歌「えー、今いいところだから後でねーー」ゴロゴロ

梨子「まあ…その課題は曜ちゃんの為のものだからね」アハハ…

曜「ぐぬぬ…ごもっともです」


千歌「でもさー、二人とも今日泊まっていくんでしょ? だったらもう終わっていいんじゃない?」ゴロン

曜「確かに!」グワッ

梨子「はいはい、後もう少しなんだから終わらせよ?」

曜「むぅ…」ストン

117: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:07:01.14 ID:yu6rYD1l0





曜「――よっしゃ終わったぁ!!」

梨子「お疲れさま。千歌ちゃん終わったみt……」


千歌「………zzz」


曜「ありゃ、寝ちゃったか……」ナデナデ

梨子「……こんなに可愛い寝顔の子があんなに強いんだから驚きね」



曜「そういえば梨子ちゃんは私と入れ替わりで転校してきたんだよね! 私がいなかった頃の話が聞きたいな!」

梨子「そうねー…多分私より善子ちゃんの方が色々知ってると思うんだけど――」

118: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:07:35.32 ID:yu6rYD1l0




――――――
――――
――


千歌(――あれ? ここはどこ? 真っ暗でわかんないよ??)


『―目とも――――る……出―も多―』『い―――下が――! 時――――わ!!』『――かりして!! ――ない――歌ちゃん!!』


千歌(何…なんて言ってるの? 体も動かないし……どうなってるの?)



――――――
――――
――

千歌「―――はっ!?」ガバッ


千歌「ここって……ガンツの部屋」キョロキョロ

千歌「制服が畳んであるって事は…私はミッションが終わって帰ってきたってことだよね?」

千歌「ミッション中の記憶が無い…何と戦ってたんだっけ?」



――チン!


GANTZ『それぢは、ちいてんをはじぬる』



千歌「―――――……は?」


ガンツは採点を始めようとする
しかしこの部屋に帰ってきたのは千歌だけである

これが意味するものはたった一つである――



千歌「ちょっと待ってよ……みんなは? みんながまだ帰ってきてないじゃん!!」

千歌「――私だけ……私だけ生き残ったの?」ゾッ

119: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:08:07.86 ID:yu6rYD1l0


ガンツは答えない
この球にそんな機能が備わっていないことは重々承知している

しかし、ガンツは普段とは異なる表示を出してきた


GANTZ『選んでくだちい
1. 記憶を消して解放される
2. このまま戦い続ける』




――――――
――――
――


千歌「――――……っ!?」パチッ

曜「お? 千歌ちゃんやっと起きたね」

梨子「途中で少しうなされていたけど、怖い夢でもみていたの?」


千歌「え? 夢? うーん……見ていたような見ていなかったような」ムムムッ

曜「お姉さんがご飯出来たって呼んでたよ!」

千歌「あ…なら行こうか」



このまま夢の内容を思い出すことは無く
三人は一夜を過ごした


翌日
千歌は二人に見送られながら
朝の早い時間の電車で東京、穂乃果がいる“穂むら”へ向かった

120: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:09:32.82 ID:yu6rYD1l0




~正午前 穂むら前~


千歌「――……ここだね。このお店に穂乃果さんがいる」


入口の戸に手をかけるが千歌にとってそれは容易な事ではない
千歌には予感がしていた

もしこの店に本人がいて尚且つガンツの事を知っているならば
千歌にとって今後を左右する話を聞く事になる予感が

彼女の“記憶”がそう告げる



千歌(覚悟は……できてる)ガラガラ



店員「! いらっしゃいませ!」



店に入るとそこには可愛らしい女性の店員が迎えてくれた
顔を確認するがどうやら穂乃果ではない



千歌「あの…このお店に“高坂 穂乃果”さんはいらっしゃいますか?」

店員「穂乃果ですか? 少々お待ちください」


店員「おねーちゃん!! お客さんだよーー!」



店員は店の奥に向かって呼び出す

『今行く』という声が帰ってきてからしばらくすると
彼女が姿を現した



鞠莉から見せられた写真やスクールアイドル時代とは違い
トレードマークであるあの髪形はしておらず
髪も少し伸びている

何より活発的で元気全開な雰囲気だった当時とは一変
落ち着きのある大人の女性へと変わっていた

121: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:10:15.88 ID:yu6rYD1l0



穂乃果「一体誰が来たって――!?」



千歌の顔を見た穂乃果は驚愕していた

千歌にとってこの反応は
穂乃果がガンツの事を
少なくともあの日のから今日までの記憶が確かにあるという
何よりの証拠であった



千歌「……“お久しぶり”です。穂乃果さん」





~穂乃果の自室~

穂乃果「――何年ぶりだっけ?」

千歌「新宿のミッション以来ですから…三年ぶりくらいですね」


穂乃果「あの時はまだ中学生だったんだよね……それがまあ立派に成長したね」ジロジロ

穂乃果「それに…“いい目”になったね。それなりの修羅場も仲間の死も経験してる」

千歌「…復帰したのは割と最近ですけど…昔よりも厳しいミッションばかりでしたからね」



穂乃果「それで? 何しにわざわざ私の所まで来たの?」

千歌「………」



千歌はメンバーに黙っていたことがあった
思い出した内容は一部ではない
本当は今まで消されていた内容の全てを思い出していたのだ

122: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:11:01.11 ID:yu6rYD1l0
梨子は覚えていないが
あのミッションには千歌達のチームも参加していたのだ

その時、千歌はある質問を穂乃果にしていた
穂乃果はその質問に対し
「それを知る必要は無い、聞けばあなたは一生戦うことになる」
と答えていた



千歌「――あの時の質問の答えを聞きに来ました」





千歌「何故、私達は星人との戦いを強いられているのですか?」



穂乃果は千歌の眼を真っすぐに見つめる


穂乃果「覚悟は…出来ているみたいだね? なら…どこから話そうかな」ウーン



穂乃果「――あの黒い球が日本中に存在していることは知ってる?」

千歌「見た事はありませんが…沼津と東京にもあるくらいですから、予想はしていました」



穂乃果「なら、日本だけじゃなくて世界中に存在しているのは?」

千歌「!? 本当ですか!?」

穂乃果「長い事ミッションに参加してると他のチームと合同で戦うこともあるんだけど、アメリカや中国、ドイツのチームと一緒になったことがあるの」

穂乃果「ドイツのチームに黒い球に詳しい…いや、開発関係者がいてね。いろいろ教えてもらったんだ」

千歌「開発…あれって人間が作った技術なんですか!?」


123: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:11:34.20 ID:yu6rYD1l0


穂乃果「そう。あの球や武器はドイツのとある企業が開発したもの。なんでも宇宙から設計に関する情報が送られてきたそうだよ」

千歌「宇宙…なら私達が今まで戦ってきた星人って……」

穂乃果「紛れもない、本物の宇宙人だよ。かなり前から地球に住んでいたみたい」


千歌「なら…私達はその宇宙人に侵略されない為に戦っているって事なんですか?」

穂乃果「違うよ。この戦いはあくまでも予行練習、訓練に過ぎないの」

千歌「あれが……訓練?」

穂乃果「近い将来、全人類を巻き込んだ大きな事件が起こるの。それが戦争なのか災害なのか、はたまた宇宙からの侵略なのか……」



穂乃果「彼らはこの日を『カタストロフィ』と呼んでいた」


千歌「…そのカタストロフィはいつ頃に来るの?」

穂乃果「残念ながら分からないの…明日かもしれないし一週間後、来年かはたまた数十年後かも」



千歌「そんな……」


穂乃果「でもね、これは最近知った事なんだ。あの時に話そうとした内容とは違うの」

穂乃果「――カタストロフィなんかより現実的でこれから起こる可能性が高い事実だよ」

124: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:12:25.43 ID:yu6rYD1l0



――――――
――――
――

曜「そーいえばさ、梨子ちゃんもあの部屋で昔戦っていたんだよね? どんな星人がいたの?」

梨子「ええーと…実は思い出したって言っても、あの部屋にいた事とメンバーに穂乃果さんがいた事しか思い出せてないのよ。後は戦い方くらいしか……」

曜「そっか……沼津では魚っぽい星人が多いんだよね。だから東京ではどんなのが現れるか気になったんだけどなー」

梨子「確かに。千歌ちゃんもそんな事言ってた」

曜「あーあ、なんで私達を連れて行かなかったのかなー? 私達もこれから向かっちゃう?」

梨子「…見送ったばかりだしこれから準備すれば……」

曜「…やっぱ止めようか。きっと理由があるんだろうし…今日は梨子ちゃんとの親睦を深める日にするよ♪」

梨子「そうね。私も曜ちゃんと仲良くなりたいな!」ニコッ





――――――
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千歌「どういうことですか?」

穂乃果「“戦いを強いられている理由”に関してはさっきの話が有力。でもあの時はまだ違ったの」

125: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:13:40.81 ID:yu6rYD1l0


穂乃果「千歌ちゃんが初めて部屋に来たとき、どうやって生き残った?」

千歌「それは…私より前から参加していた人から色々教えてもらって……」


穂乃果「――なら、その前から参加していた人は誰に教えてもらったの?」

千歌「そ……それは…あれ?」ムムムッ


穂乃果「つまりあの部屋には必ず一人は経験者がいるようになっているの」

穂乃果「その人数が下回りそうになると、解放されたメンバーに小さい黒い球が送られて、指定された人間を抹殺させる。全員の抹殺が完了すると持ち主も部屋へ転送させられる」


千歌「ターゲットにされる基準とかはあるんですか?」

穂乃果「話によれば、元メンバーや現メンバーのモチベーションを上げる人、知り過ぎた人なんかが該当するかな?」


千歌(ダイヤさんや鞠莉さんが選ばれたのはそういう理由なんだね)


穂乃果「このルールを覚えていてね? あの部屋では、不定期に緊急ミッションが実施されるの。頻度はかなり少なくて私もまだ二回しか経験していない」

126: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:16:20.92 ID:yu6rYD1l0


千歌「普通のミッションとは何が違うんですか?」

穂乃果「まず敵がかなり強い。油断したら一瞬でやられる程にね。それをクリアすれば倒した人だけでなく生き残った人もとある二択を迫られるの」

穂乃果「“解放”か“残留”の二択をね」


千歌「緊急ミッションをクリアすれば全員が解放されるんですね! ならこの先も生き残ってさえいれば……」



穂乃果「でもね、黒い球に選ばれた一人の人間は強制的に残されるの。強制ミッション後は100点メニューからも一番が無くなっている」

千歌「え……つまり…一生戦い続けなきゃダメって事?」

穂乃果「そうなるね。死ぬかカタストロフィを迎えるまではあの戦いを繰り返す羽目になる」


千歌「………」

穂乃果「選ばれる基準は分からない。でも必ず一人は残される。この一人が生き残っている限り解放者からの再招集は無くなるよ」






127: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:17:37.16 ID:yu6rYD1l0
千歌「…どうして当時は教えてくれなかったのですか?」


穂乃果「……あの時の千歌ちゃん、正義感が凄く強かったからね…誰かがやらなきゃダメなら自分がやるって感じだった。まだ中学生なのに死ぬまで戦いに参加する選択を選んでほしく無かった」

穂乃果「でも今は違う。一生を左右する選択はもう出来るはずだと思う…私がそうだったようにね?」



千歌「――私は…」

穂乃果「今決める必要は無いよ。もしかしたら緊急ミッションを経験しないまま解放される事だってあり得るからね。ただ頭の隅っこには置いておいてほしい」




穂乃果「――重い話はここまで。せっかく沼津か来てくれたんだから穂むらの和菓子をごちそうするよ!」ニコッ

穂乃果「雪穂―! 和菓子の在庫ってどのくらい残ってる?」ガラガラ


千歌「ふふ…大人な女性になったと感じたのは気のせいだったかな?」クスッ


千歌(緊急ミッションか…この話をみんなが知ったらどうするんだろう?)



解放を求めて戦っている人にとって必ず誰かが残らなくてはならないこの事実は
とても酷な選択となる

どのような順番で選択を迫られるのか
もし、どちらも解放を望むメンバーが最後の二人に残ってしまったら?

いくら仲が良くても争いが生れるだろう
罪悪感に襲われる者もいるはず


伝えるべきか否か
この選択は今後を左右する――

128: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:18:07.45 ID:yu6rYD1l0




穂乃果「お待たせ! 取り敢えず“ほむまん”持ってきたよ」ドサッ

千歌「こんなに沢山! いただきま――!?」ゾクゾク



穂乃果「え? まさか…」


千歌「呼び出しみたいです…まだ数日しかたってないのに」ブツブツ


穂乃果「このタイミングなら残党狩りだと思う。前回の星人並の強敵は現れないとは思うけど油断はしないでね?」

穂乃果「お饅頭は箱に詰めておくから持って行ってね」

千歌「あ…ありがとうございます」アハハ…



千歌「帰りの交通費が浮いて良かったです。高校生にはちょっと痛い出費だったので」

穂乃果「あはは。ずいぶん前向きだね? さっきも言ったけど油断はしないでね」



――ジジジジ



千歌「転送始まりましたね……今日はありがとうございました」

穂乃果「うん。またね」フリフリ

129: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:18:51.40 ID:yu6rYD1l0




――――――
――――
――


千歌(穂乃果さんに会いに行ってから一か月が過ぎました)

千歌(あの後ミッションは穂乃果さんの言っていた通り、まさしく残党狩りだったね。曜ちゃんと果南ちゃんの復帰戦のつもりで大体の星人の相手をしてもらったんだけど……)

千歌(二人は『リハビリどころか準備運動にもならなかった』って言ってたよ…どんだけ強いんだよ)アハハ…


千歌(穂乃果さんから聞いた話はみんなにしていない。緊急ミッションが来る前に100点を取ってもらうことにした。カタストロフィの方も…いつ来るかも分からない事を話すのは良くないと思ったからこっちも話してないよ)


千歌(今日は放課後に生徒会室に全員集まってるんだけど――)





曜「――ねえ千歌ちゃん、やっぱり何か隠してない?」

千歌「と……突然どうしたの?」ギクッ

曜「だって、東京から帰ってきてからずっと考え事してるじゃん? 表情だって暗い事が多いし……何かあったとしか思えない」

ダイヤ「前回も戦闘中、それに最近の訓練中だってボーっとしている事がありましたものね」

花丸「穂乃果さんから…本当は何を聞かされたの?」

130: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:19:23.18 ID:yu6rYD1l0


千歌「前にも言ったけど、ガンツが日本だけじゃなくて世界中にあって宇宙人の侵略を防ぐために戦ってる事だけだよ?」アセアセ


鞠莉「………」


果南「ならさ、最近の異変はどういう事なの?」

千歌「それは…体調があまり良くないだけだよ。仲間が増えて気が抜けちゃったんだと思う。ごめんね?」


梨子「ホントに体調の問題なんだね?」ジーッ

千歌「……そうだよ」

ダイヤ「そうですか…どうやら私達の思い過ごしだったようですね」



ルビィ「じゃあさ! 今日はみんなで松月行かない? 今までみんな揃って行ったことないし……どうかな?」

花丸「行こう! 絶対に行くべきずら!」キラキラ

千歌「それじゃ、準備してみんなで行こうか」






善子「――ちょっといい?」

千歌「ん? どうしたの??」

131: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:19:51.69 ID:yu6rYD1l0


善子「千歌さんが“何でもない”って言うならそれを信じるわ」

善子「この際だからはっきりと言うけど、私は千歌さんの判断なら絶対に従う。囮になれって言われればそうするし、死ねって言えば迷わず死ぬ」


千歌「ちょっ!? 本気で言ってるの?」

善子「……ちょっと盛った。流石に死ねって言われても死なない。ただね…千歌さんがあの部屋にいる限り私も一緒に戦うつもりでいるって事だけは伝えておく」


千歌「なら…次に100点取ったら私は一番を選ばないとね」フフフ

善子「頼んだわよ! 二番なんて選ばないでよね!!」



曜「二人ともー! 早くしないと置いて行っちゃうよーー!!」オーイ


千歌「……行こっか?」

善子「ええ」ニコッ





~夜 千歌自室~

千歌「やっぱ話すべきだったかなー」ウーン

132: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:20:38.25 ID:yu6rYD1l0


千歌はベッドの上で寝転ぶ
松月で曜と果南の復帰を祝ったプチパーティーも終わり
9人の絆はより深まっただろう
……梨子と花丸はまだ溝があるが
これから仲良くなって欲しいと願う


この関係を崩したくは無い
失うわけにはいかないのだ


千歌「――なら、私は……」



――ゾクゾク!



千歌「……来たね。そろそろだと思ってたよ」



転送が始まる前にいつものスーツに着替え
準備は整った

各メンバーがあの部屋へ転送されてゆく――

133: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:21:46.08 ID:yu6rYD1l0





~GANTZの部屋~

果南「千歌も来たね。これでいつものメンバーが揃ったけど…」

ダイヤ「今回も追加メンバーはいないようですね」


曜「まあ、9人もいれば十分だよ。あんまり多いと点数も稼げないし」グイグイ


準備運動をする曜と果南
落ち着きなく部屋をウロウロするルビィ
腕を組んで壁に寄りかかり目をつぶっている善子

それぞれが緊張をほぐすため何かしらやっている


そして、ガンツからいつものように音楽が流れ
今回のターゲットが表示された




GANTZ『てめえ達は今から
この方をヤッつけてに行って下ちい
天狗星人 特徴:つよい 好きなもの:うちわ 血 口くせ:ほーほー』



果南「今回は結構強そうな見た目だね」

千歌「関係ないよ。いつものように油断しないように戦おう」


ダイヤ「分かっているとは思いますが、危ないと思ったらすぐに下がりなさい! 決して一人で戦おうとはしない事。いいですね?」

花丸「了解ずら!」



――ジジジジ




転送が始まる――





~???~

曜「――ここは……どこだ?」


曜が転送された場所は見覚えのない場所であった
少なくとも内浦でも沼津でも無い
高い建物がたくさんある


千歌「――…うそ……ここって…」

134: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:22:15.87 ID:yu6rYD1l0



気が付くと千歌も転送されていた
何かの看板を見て驚いている

しかし、他のメンバーが見当たらない
いつも全員同じ場所に転送されるはずなのに…


曜「千歌ちゃん? ここがどこだか分かるの?」



曜も千歌が見ている看板に目を向けた

その大きな黄色い看板には赤い色で『ラジオ会館』と書かれていた



千歌「――ここは…秋葉原なの?」







135: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:23:09.58 ID:yu6rYD1l0
~秋葉原 神田明神~

善子「あれ? 鞠莉さんだけ?」

鞠莉「どういう事? みんなとは別々の場所に転送されたの?」


善子「そんな…今までそんな事なかったのに……」ゾッ

鞠莉「見た所…ここは神田明神ね。まさか静岡県から遠征するなんてね」



善子「……鞠莉さん」カチャ

鞠莉「……ええ」



もう既に二人は気が付いている
周囲には大量の星人が潜んでいる事に…



鞠莉「――二人で乗り切るしかないって事ね♪」グググッ


鞠莉は拳を強く握りしめる――





~音の木坂学院 教室棟三階~

ダイヤ「ルビィ! 構えなさい!!」カチャ

ルビィ「おねぇちゃん! この数を二人で相手するの!?」



黒澤姉妹も星人と対峙していた
人型や猛獣型の妖怪のような星人であった



ダイヤ「まずは…退路を作ります!!」ギョーン!ギョーン!







136: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:23:36.28 ID:yu6rYD1l0
~UTX高校前~

花丸「――どうして桜内さんと二人だけなんですか」ムスッ

梨子(…非常に気まずい! どうして仲の悪い二人を一緒にしたのよガンツ!!)ダラダラ


梨子「そう言われてもね――っ!?」ゾワッ



梨子は花丸の背後から何かが振り下ろされようとしているのに気付いた

間一髪、花丸を突き飛ばす
気付くのがあと一瞬遅れていたら真っ二つにされていただろう



花丸「え? えぇ??」ドクンッドクンッ

梨子「文句は後で言って! もう囲まれてる!!」シュッ!



ガンツソードを構える梨子の目の前のには
両手に鎌を付けたヘビのような怪物が二匹

それが前後に現れたのだ――






~中央通り 末広町駅付近~

果南「――参ったなぁ…私だけか」ポリポリ


果南は大通りのど真ん中に転送されていた
しかもそこには大小様々な妖怪星人が退路を妨げるように居座っている
客観的に見ても一人で何とかできる数ではなかった

しかし、なぜか果南は不敵な笑みを浮かべていたのだ――



果南「うーん、少し大変そうだけど…“リハビリ”には十分かな?」ニヤッ



ソードを展開しゆっくりと軍勢へ歩みを進める

星人は果南から発せられえる独特な雰囲気に圧倒されていた




果南「――かかって来なよ? 来ないならこっちから行くよ!!」ガッ!

137: ◆ddl1yAxPyU 2016/11/16(水) 19:24:07.45 ID:yu6rYD1l0



それぞれの場所へ、イレギュラーに転送された彼女達の
生き残りをかけた戦いが始まる――





――――――
――――
――

~ガンツの部屋~

とあるマンションの一室
この部屋にも黒い球が置かれている

ただし、ここは沼津ではない
東京である


ここでも今夜、星人討伐のミッションが開始されようとしていた

メンバーの召集は完了済みでターゲットの表示もされていた


???「天狗星人か……強そうだね」



ここには千歌達同様、9人の女性がいた
彼女達の中には千歌達の部屋には無い
黒い大きな武器を携えている者もいる

すでに準備はできていた



――ジジジジ



???「――さあ、行こうか」


9人の転送が始まった――





―――五章へ