文香「きっかけは些細なことでした」

奏「待ちなさい！モノローグには入らせないわよ！！」

文香「どうしてですか？」ふみぃ

奏「どうせモノローグであやめが出てきて色々あって私のお…おしりを貫く気でしょ//」

文香「お尻という単語だけで赤くなる奏さんかわいいですね」ぐっ

奏「だ・か・ら！もうその手には引っ掛からないわよ」

文香「奏さん。貴女は何か勘違いしていませんか？」

奏「えっ？」

文香「『俺の尻を舐めろ』はあの稀代の作曲家、モーツァルトが作曲したカノンのひとつです」

文香「現地ではLeck mich im Arschと呼ばれており、6人の合唱隊で歌われる格式高い音楽なのです」

文香「しかし、日本語に翻訳される際にドイツ語のニュアンスを拾いきることが出来ず、直訳してしまった結果このような曲名として知られることとなったのです」

奏「そうだったの…」

文香「この曲を作曲したと当時のモーツァルトは神童とたたえられながらも不遇の時代を送っていました」

文香「パトロンの要求する音楽と、自分の表現したい音楽との狭間で揺れ動いていた彼は、わざと口汚い言葉を使いながらも自分の信じる音楽を追い求める姿勢を表現した、哀しい曲なのです」

奏「そんな逸話があったのね」

文香「それでも奏さんは、この曲のことを下品な曲だというのですか？」

奏「いえ、同じ表現者として彼の気持ちも理解できるわ」

文香「そんな悲しい物語のあるこの曲を、もっと正当な評価をするためにも奏さんの美しい美声で歌ってほしいのです」

奏「美しいって//」

文香「それに原曲のドイツ語では格式高い響きとなっております」

文香「これが参考の動画です」ぴっ

参考動画↓
https://www.youtube.com/watch?v=C78HBp-Youk



奏「あら？とてもそんな曲には聞こえないわね」

文香「如何でしょうか…？」

奏「……正直かなり抵抗はあるけれど、一度だけならありかもね」

文香「つまりは」

奏「歌ってあげてもいいわよ」

文香「はいありがとうございます」ぴぴっ

奏「……文香、そのICレコーダーは何？」

文香「大学の授業で使うこともあるので重宝しますよ」

奏「違う違う、そうじゃ、そうじゃない」

文香「では言質もとりましたのでこちらへ」

奏「なんで事務所にステージが用意されてるのよ！！」

文香「今回はクラシックということもありますのでL.M.B.Gの皆様に来ていただきました」

奏「なんてことを…ていうかクラシック要素はどこにいったのよ！」

文香「そこはゆかりさんを加えた特別編成となっておりますのでご安心を」

奏「フルートの負担が大きすぎると思うの」

奏「そもそも私、歌詞を知らないんだけれど」

文香「大丈夫です。こちらに歌詞カードをご用意させて頂きました」

奏「あら、ありがとう」ぴらっ

奏「…あの、文香？」

文香「なんでしょうか？」

奏「ドイツ語に振り仮名を振っていたりとお気遣いはうれしいんだけれど――」

奏「どうして日本語訳も一緒に書いてあるのよ！」

文香「そのほうが感情移入しやすいかと」

奏「そうね、『私の尻を舐めろ』なんて連呼して書いてなければね！」

文香「原薬の「俺」に当たる部分は女性詞に変えておきましたよ」

奏「なんてことを」

文香「あとこれ生配信しますから」

奏「なんてことをおおおおお！！」

文香「いやー楽しみですね」

奏「こんなの歌ったら私のイメージが」ぐすん

文香「大丈夫ですよ」

奏「えっ…？」

文香「私も、一緒に歌いますから」

奏「文香…」

文香「ふふっ、奏さんをひとりぼっちにはしませんから」

奏「そういう問題じゃないのおおお！」

その後半泣きになりながら「Leck mich im Arsch」を歌い上げる奏と、今まで見たことの無いような笑顔で歌う文香の姿が全世界に配信され、L.M.B.Gのみんなは「カッコいい曲だね！」と聞きほれていて事務所で流行ったとか。
全世界に配信された映像はあやめ殿の暗躍により音声が聞こえなかったが、なんかもうそんなことどうでもよくなるくらい二人の歌う姿は神々しかったそうです。
でもドイツ語がそこそこ理解できたゆかりには何を歌っているかバレバレだったとさ。


めでたしめでたし