ウルガル本星、皇族が住まう一際大きな居城。
そこの私室に、私は幽閉されていた。
もう五十年ほどになるだろうか。私はこの小さな部屋の中で、ただただ来る日も来る日も、一人で静かに過ごしていた。

ときどき、幻聴が聞こえることがある。何十年と閉鎖された日常を過ごしていたことに対する精神的な消耗ゆえのことか、あるいは。
きっと、私の脳細胞の中に眠る、忘れることの許されない大切な思い出が聞かせるのだろう。

『――オーレリア』

ああ、また聞こえた。どんなに時が経っても失われない、彼の声。
トーンや喋りの癖、その全てが、忠実に再現されて、私の耳に響いてくる。

『オーレリア、君のことを……愛している』

そうだ、彼は今際の際に、そんなことを言ってくれた。
忘れないでくれ、と。ずっとずっと、その幻聴は言い続けているように思えた。

引用元: 【MJP】銀河機攻隊マジェスティックプリンスで短編【マジェプリ】 



 

482: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 11:38:25.05 ID:A4G9URFE0
私の名は、オーレリア。汎銀河統一帝国ウルガル、そのエグゼシア――伝わるように言えば、女皇といったところだろう。
ただし、今は女皇としては何の権限も持たない。
何せ、今は国の反逆者として、ずっと幽閉されているのだから。

そのように扱われている理由は、至って単純。
まさしくその通り、私がウルガルという場所を裏切ったのだ。

このウルガルという星に生きる我々は、他の星から遺伝子を奪い、摂取することで命を永らえてきた。

私は、その略奪行為をを先導して行ってきた皇族の身でありながら、
そのやり方に異を唱え、あろうことか新たな標的にされたとある星にウルガルの最新技術の全てを送り込んだのだ。

ウルガルに対抗するための力を、私と遺伝子を同じくする娘と共に。

そして、今やウルガルの裏切り者として、私は全ての自由を奪われている。
重大な裏切りに対して、処刑がなされないでいるのは、単に私を生かそうとしている者がいるからだ。

もっとも、その者もまた、私に好意的な理由で生きていてほしいわけではないのだが。

とにかく、私はどうにか生き永らえていた。
何度も何度も、誰もいない、何も無い、孤独な世界に心が蝕まれそうになったこともあった。
しかし、私は何とか生き続けた。私の命を助けてくれた人との『約束』が果たされるのを、何が何でも見届けたかったのだ。

483: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 11:41:12.46 ID:A4G9URFE0
そもそも、私が標的となった星に肩入れしたのも、ある異星人の青年との出会いがきっかけとなったからだ。
彼はウルガル人などよりもずっと弱い、狩られるだけの存在だったはずなのに。
私たち、ウルガルにはない無二の力を以て、私を救ってくれた。

その力の名前は――確か――

「――エグゼシア・オーレリア」

思考の最中、急に聞こえた声に、私は立ち上がった。
さっきの幻聴とは違う。確実に実在する人間のもの。
そして、聞き覚えのある声だった。

ガルキエ。久しぶりじゃないか、シカーラはどうしたんだ?

私は、部屋の入口に立つ男を見据え、挑発するように言った。

エグゼス・ガルキエ。
私の義理の息子。私の夫であった男の、前妻の子。
今では自らの父を殺し、王座を手に入れてみせた男でもある。

そして、私の守ろうとした星を狙う男だ。
確か私のいるウルガル本星を離れ、今は遠く木星の辺りまであの星を狩りに出ていたはずだが……。

484: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 11:50:55.51 ID:A4G9URFE0
ガルキエはこちらへとほんの数歩近付くと、いくらか距離を置いて、静かに語りだした。

「お前の庇っていたラマタが、ゲートを破壊したものでな。一時的に戻ることにしたのだ」

……そうか。

ゲート。あの星へと続く、道の一つ。
それが破壊された報告とはつまり、我々ウルガルが初めて獲物に退けられたということだ。
そして、私と彼の『約束』がとりあえずは守られたということを示しているということにもなる。

安堵するように微笑んだ私を、ガルキエは、ふ、と一笑に付す。

「我々には進化の道がまだまだ残されているようだ……やつらを狩り尽くしたときの貴様の顔が楽しみだよ」

そのときの光景を想像でもしているのか、ガルキエは笑みを浮かべた。
やつにとって、私の存在は目障りなのはよく知っていた。裏切り者であり、目的である狩りの邪魔をした存在なのだから。
私の絶望する姿など、やつにとっては気分のいいモノに違いない。

しかしながら、そんなガルキエが期待していたであろう私の反応は、確実に予想外だったことだろうと思う。
やつが勝ち誇るような表情をしていたのに対し、私は――

いいや。彼らはお前に狩られたりはせんよ。

私は――笑ってみせたのだ。
そんなことはありえない、と自信を持って。

485: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 11:56:39.50 ID:A4G9URFE0
「……ほう」

私の強気な発言を耳にした途端、ガルキエは興味深げに私を見つめていた。
私はさらに続ける。

お前の、いや、ウルガルにはあの星の――地球の人々が持つものがない。だから、地球は狩られたりなどしない。

「それは結構なことだ。いったい、何をやつらが持っているというのだ?」

いいだろう、教えてやる。よく聞くことだ。

私は一度、瞳を閉じ、教わったことの全てを思い浮かべる。
そして。はっきりと、言い切った。

――地球には、『愛』、それに『ヒーロー』がいる。
それは、どんなに遺伝子をいじくって作ろうとしても生まれなどしない。お前のようなやつには、きっと生み出せない存在だ。

そうだ。私は一度、それを見た。
圧倒的に戦力で劣るはずの異星人の彼が、優位な立場のはずのウルガル人との戦いに勝利し、見せてくれた。
何よりも強く、暖かく、そして――優しい力。
あの力がある限り、必ず、彼ら――地球人たちは、ウルガルになど負けない。それを、私は信じている。

「……『愛』に、『ヒーロー』、か」

私の言葉をそのまま呟くと、ガルキエはくつくつと笑った。
その存在への脅威ではない、むしろそのような未知の存在があることに喜びを感じているようだった。

やつは感情を包み隠さず、堂々とした調子で宣言した。

「――それすらも、俺は狩り尽くしてくれよう」

はっきりと言い切り、ガルキエはひらりと身を翻した。
もはや話は終わりだ、と一方的に告げるように、やつはもうその場からいなくなった。
私にわざわざ宣戦布告をしにきたわけだ。まったく、律儀なやつだ。

ふん、と鼻を鳴らすようにすると、私は備え付けのイスに座り込んだ。
足を畳んで、腕を腿に絡めると、自らを抱きしめるようにして、丸くなる。

瞳を閉じて、私は、また独りの時間を過ごし始めた――――

486: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 11:58:38.84 ID:A4G9URFE0



また、夢を見た。幽閉される前、ウルガルの侵攻拠点で暮らしていた頃の。
見慣れた私のかつての城、その居室の中。
彼と共に、そこに私はいた。

『オーレリア』

トウマ……。

他に誰もいない、白で染まった何も無い部屋の真ん中で、私たちは互いに向き合った。

懐かしむように笑みを向けてくれた彼に、私は同じようにする。
不思議だ。彼が笑うと、私も笑いたくなるのだ。いったい、どういう心の作用でそうなるのか、皆目見当もつかない。

……と、最初の頃はそう思っていた。今は、違う。

『今の君なら、きっと「愛」を分かるはずだ。俺は、そう信じてる』

そんな私の思考を見透かしたように、夢の中の彼は言った。
当然か。目の前の彼は、私の夢――すなわち私が作ったトウマなのだ。
私の思考など、私の思い出から作られた存在に、分からないわけがない。

487: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 12:04:17.24 ID:A4G9URFE0
冷静な意見が脳裏から聞こえてくるが、それを無視して、私は素直にトウマに答えた。
科学などでは測れない、感情の動きに従って。

……ああ。私にも、『愛』が理解できたと思う。感じたと思うよ。あの子に。そして――君に。

『そうか…なら、それは、いいことだよ』

心から私を祝福するように、幻が微笑んだ。
しかし、その幻の笑顔が、何よりも私にとっての救いだった。
五十年近く、何もすることなく、されることなく。永劫にも感じられた孤独から私を助けてくれる、『ヒーロー』の笑顔だったのだ。

…………なぁ、トウマ。

『ああ』

君は、私を愛していると、そう言ってくれたな。

私の確認するような言葉に、彼は頷いた。
それだけは、幻じゃない。何故なら、彼との別れの時に、たった一つ、彼が聞かせてくれた言葉だったから。

『そうだ。何度だって言うよ。俺は君を愛している、オーレリア』

……私はそれに返したこと、一度もなかったな。五十年も経って今さらかもしれないが。

本当に、今さらなことだとは思う。しかしながら言わなくてはならないことだとも思った。
約束を一時的に守れた、今だからこそ。

視線を真正面に、彼の瞳を捉えると、私は自分にできる、精一杯の笑みを生み出した。
そして、そっと。その言葉を口にした。彼に教えられた、大切な言葉を。


――私も、あなたを愛しています、トウマ。


たとえ夢でも、幻でも。
あなたがいたから、私はこの感情を学ぶことができた。手に入れることができた。
ありがとう、と。

488: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 12:06:20.35 ID:A4G9URFE0
私の言葉に、そんなセリフを言うなんて、とでも言うようにトウマは少しだけ面食らったようにして、それから、改めて穏やかな笑みを見せた。

『こちらこそ、ありがとう。君に出会えて、俺はきっと、幸せだった』

そうか。なら、それはいいことだ。

『ああ……ははっ、ホント、今さらだったな』

ふふっ。そうだな、まったくだ。

何だかおかしくなって、私たちは互いに笑い合った。
本当に、遅すぎた。会ってから五十年、結局直接に現実で伝えることなんてなかった。それをようやく私から言えたのが、夢現の中だなんて。
まったく、おかしな話だ。

しばらく笑って、それも治まると、トウマが私の方へと歩み寄る。
私も彼に近付く。そうして、その胸元に、ぽすん、と頭を埋めた。

彼は何も言わず、私の背に手を回す。ぎゅ、と抱きしめられた。
彼の腕の中は、夢の中で感覚なんてなかったけれど、何だか温かい気がした。

彼の顔を見上げると、変わらず穏やかな目で、私のことを見守るように見つめていた。

『……オーレリア。君はまだ生きている。だから、諦めないでくれ。きっと、いつか――』

トウマ?

彼の言葉を聞いているうちに、違和感に気付いた。
どんどんと、彼の姿が消えていく。ボロボロと、崩れていく。

いやだ、と思った。消えないでくれ、と手を伸ばそうとしても、私の両手は空を切る。
彼の姿が薄まっていく。まるで、そこに最初からいなかったように。

それでも、彼は変わらない笑顔のまま、私に言葉を投げかけていた。
『ヒーロー』らしく、堂々と。

『地球……の「ヒーロー」…たちが――き、みを――――』

489: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 12:07:13.89 ID:A4G9URFE0



そこで、目が覚めた。どうやら、いつの間にやら眠っていたようだ。
組んでいた腕を解き、立ち上がって、周りを見回す。誰も、何もない。
ただの空虚な空間の中に、私がただ一人でぽつんといるだけだ。

トウマ。

うつむいたまま、私は呟いた。
彼の姿はもう見えない。もしかしたら、これで夢はもう終わりなのかもしれない。
だけど。

信じるよ。私の『ヒーロー』が言ってくれたんだ。信じてる。

私は顔を上げた。
きっと、その表情には悲壮感なんてまったく出てないはずだ。
私の心には、そんな感情なんて一切無かったから。

490: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 12:09:35.94 ID:A4G9URFE0
テオーリア。

ぽつり、とその名を呼んだ。
私の希望。約束の象徴。トウマと私、地球とウルガルの。たった一つの、小さな、しかし強力な希望。

あなたもきっと、『ヒーロー』を見つけたのよね。

短い時間を共に過ごし、伝えたことを思い出す。
地球には『愛』、そして『ヒーロー』がある、と。
彼女も見つけたに違いない、自分だけの、『愛』と『ヒーロー』を。

そして、いつか、きっと。
彼女の存在が、変えてくれる。歪んでしまったこの星の、全てを。
その日まで、私は生きていよう。



『約束』はいまだ果たされていない。だが、そのはじまりである、私はまだここにいる。
たった一人の、歴史にも残らないかもしれない、私の『ヒーロー』のことを憶え続けて。

きっと。今は、それで十分だろう。

想いは消えない。私がいなくなったとしても、託された誰かがいるなら。その誰かが、新たに別の誰かへとそれを託し続けてくれるなら。

私と彼の『約束』は、そこに生き続けて。いつか、叶うときがくる。そう、信じている―――――

491: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 12:11:03.22 ID:A4G9URFE0
おしまい。個人的には小説の話もいつか映像化してほしい。オーレリアおばあちゃんとトウマの話はわりと本編にも繋がる大事な話だと思いますので。
では次をば。

492: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 12:11:59.38 ID:A4G9URFE0
三兄弟(三兄弟とはいっていない)

スターローズⅡ――格納庫

タマキ「皆ー、ローズスリーはどうー?」

三兄弟「」ジトー

タマキ「うげ…な、何なのらー?」

シンイチロウ「何、じゃないだろうがバカ」

シンジロウ「俺たちのローズスリー、あんな無茶な変形させやがってバカ」

シンサブロウ「おかげで一から設計の見直しだバカ」

タマキ「あたしのせいじゃないのらー!」

493: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 12:12:47.38 ID:A4G9URFE0
シンイチロウ「…で? 何しにきたバカ」

シンジロウ「ゲームならまた今度貸してやるバカ」

シンサブロウ「俺たちは忙しいぞバカ」

タマキ「むーっ! どーせアニメ見てるだけのくせにー!」

シンイチロウ「趣味の時間だ、何か文句あるか?」

シンジロウ「まったくだ、どっかのバカのせいで最近はずっと休む暇なかったんだぞ」

シンサブロウ「」ウンウン

タマキ「ふーん、だ。じゃあさっさと用事だけ済ませて帰るもん! ……はい」テワタシ

三兄弟「?」

タマキ「いろいろと苦労かけたから、差し入れなのらー。無茶苦茶美味しいんだからー」ニコニコ

シンイチロウ「……まぁ、受け取っておく」

シンジロウ「ほら、さっさと行けよ」

シンサブロウ「休むのもお前の仕事だろ」

タマキ「言われなくてもそうするもん! べー、っだ!」タタタッ…

494: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 12:13:23.59 ID:A4G9URFE0
三兄弟「……」

シンイチロウ「…三次元、ちょいうぜー」

三兄弟「」ウンウン

シンジロウ「…白飯もらってくる」

シンサブロウ「じゃあ、俺は茶を」

シンイチロウ「おう、頼…「あ、そうだー!」…何だ?」

タマキ「イズルがねー、医療カプセルに絵描いた人探してるのー、誰が描いたか知らない?」

三兄弟「知らん」

タマキ「…ほんとー? ……まぁ、別にいいけどー」

タタタタッ…

三兄弟「……」

シンイチロウ「教えてやってもいいが、あいつ、絶対弟子入りとか頼んでくるからな」

シンジロウ「あのバカだけで手一杯なのにさらにバカが増えちゃあな」

シンサブロウ「何よりも、あいつリア充だし」

シンイチロウ「……三次元、やっぱうぜー」

三兄弟「」ウンウン

495: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/19(土) 12:16:19.62 ID:A4G9URFE0
おしまい。三兄弟でなんとなく思いついた話でした。
似ているけれど彼らはまったくの赤の他人の関係だとか。ドラマCDだとタマキと遊んだりもしてるらしいので、意外に面倒見もいいのかもしれませんね。
ではまたいつか。次は小鹿ちゃんとアンジュの話とイズルとテオさんの話をやろうと思います。

498: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/24(木) 21:38:51.05 ID:0bM3l3xg0
黒兎と小鹿

グランツェーレ都市学園――学生寮の一室

アンジュ「ここも相変わらずみたいだね」

クリス「まなー、っつか、アンジュがいなくなってからそんな経ってないし」

アンジュ「いや、前にも敵が攻めてきたとき、結構被害があったっていうから。寮の方はそうでもなかった?」

セイ「ここはな。一部の方じゃ、やっぱりそれなりに被害があってさ、建て直しとかあったらしいぞ」

アン「ちょっと羨ましいかもー。ここ、やっぱりちょっと古いし」

ユイ「それよりも」

アンジュ「うん?」

クリス「そーそー、なな、アンジュ!」

アン「チームラビッツの先輩たちってどんな感じなの?」ズイ

アンジュ「え?」

499: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/24(木) 21:39:51.69 ID:0bM3l3xg0
ユイ「ほら、あなた、よく戦闘の映像とかこっそり送ってくれたけど…戦いのとき以外の先輩たちがどんな人たちか、私たちよく知らないじゃない?」

クリス「やっぱさ、すっげー訓練とかしてんのか?」キラキラ

アン「イズル先輩って普段はどんな風なの? リーダーっぽくしてて、やっぱかっこいいの?」キラキラ

セイ「イズル先輩はさっきの言動だと、なんつーか噂通りのザンネンな人っぽかったけど…ケイ先輩は? あの美味しいケーキ、アンジュはよく食べるのか?」

ユイ「あれが美味しいって言えるセイの味覚が理解不能なんだけど……」アタマガー

アンジュ「本当にそう思うよ……。普段の先輩たちか…そんなの、さっき本人たちに聞けばよかったのに」

クリス「ば、そんなの無理無理! さっきだって、ちょっと話しただけでキンチョーしちまったし!」

アン「それにー、先輩たちなんかあちこち回って忙しそうだったしー」

アンジュ「ああ…まぁ、そうだね。イズルさんたちにとっては久しぶりだからね、ここ」

500: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/24(木) 21:41:18.74 ID:0bM3l3xg0
クリス「名前で呼ぶなんて、すっげー親しげなんだな」

アンジュ「同じチームだからね。最初は、まぁ、ちょっと慣れなくて、呼び方にも困ってたけど」

ユイ「ふーん…私たちのことも、前は名前にさん付けだったわよね」

アンジュ「それは……知ってるだろ。私、人付き合いは苦手なんだから」

セイ「そういう意味じゃ結構驚いたな。まさかあのアンジュが、俺たち以外の人たちにあんな風に笑ってるなんて」

アンジュ「まぁ、ね。いろいろとあったから」

アン「そっかー」ニコニコ

501: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/24(木) 21:42:52.87 ID:0bM3l3xg0
クリス「あ、そうだ! 見たか? 俺たちのアッシュ!」

アンジュ「ああ……あの新機体?」

クリス「そうそう! へへ、前は先越されちまったけど、もうこれで同じだな!」

セイ「ま、活躍はそんなにできなかったけどな」

ユイ「そうね…チャンドラさんたちにだいぶフォローしていただいて、何とかなったけど」

クリス「そういうこと言うなよー…」ションボリ

アン「そうだよ! チャンドラさんたちも言ってくれたじゃない? 私たちにできることをやれるだけやったんだからそれでいい、って!」

アンジュ「ザンネンだけど戦ってるところは私見てないから、何とも言えないけど…でも、たくさんいたウルガルの残党を倒したのはセイたちだろ?」

セイ「アンジュ……?」

アンジュ「私も、まぁ、そんなに活躍はできなかったかもしれないけど、それでもやれることを全部やったんだ。……たぶん、今はそれで十分じゃないかな?」

502: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/24(木) 21:45:49.85 ID:0bM3l3xg0
ユイ「……」ポカーン

クリス「……」ポカーン

セイ「……」ポカーン

アン「」ニコニコ

アンジュ「……え、何?」

ユイ「いえ、その…」

クリス「アンジュが、あのアンジュが、そんな気ィ遣うようなこと言うなんて……」

セイ「かなり驚いたというか、なぁ?」

アン「アンジュもいろいろあったんだねー」ニコニコ

アンジュ「……ひどいこと言うなぁ。私なりにフォローしてるのに」

503: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/24(木) 21:46:28.98 ID:0bM3l3xg0
セイ「はは、悪い悪い。いや、そっか。そうだよな。やれることは全部やった、か」

ユイ「うん……。今はまだ、それで十分よね」

クリス「そうだなー……ぜってーいつかは先輩たちみたく活躍しようぜ!」オー

アン「おー!」オー

アンジュ「そうだね。……今度、五人で先輩たちとの模擬戦でもさせてもらえないか頼もうか?」

クリス「マジ!?」

アン「模擬戦…イズル先輩たちと……」キラキラ

セイ「模擬戦か…久しぶりにチームフォーンの完全復活ってわけだな」

504: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/24(木) 21:47:24.83 ID:0bM3l3xg0
ユイ「となると、またアンジュのあれを聞くことになるわけね……」アタマガー

アンジュ「わ、私だって、少しは抑えられるようになったよ」

アン「え、そうなのー? 私、あれもアンジュらしくて好きだけどなー」

クリス「いやいや、味方のメンタル削る言葉聞いて楽しんでるのお前くらいだから」

ユイ「……まぁ、確かにアンジュらしさではあるわよね、たぶん」

アンジュ「そんならしさなんて……いや、そうだね。それも私、か」

セイ「…ま、何はともあれ。そのときはまた、よろしくな、アンジュ」フッ

アン「よろしく、アンジュ!」ニコニコ

クリス「頼むぜー、アンジュ!」ヘヘー

ユイ「お願いね、アンジュ」ニコリ

アンジュ「……うん、よろしく、皆」ニコリ

505: ◆jZl6E5/9IU 2016/11/24(木) 21:54:40.36 ID:0bM3l3xg0
おしまい。投下してからなんですが、映画の円盤特典のドラマCDを見て思いついたネタでした。
小鹿ちゃんとラビッツの会話シーンが聞けるのは唯一の媒体ですので、映画の円盤を買おうかな、と悩んでいらっしゃる方にはTOHOストア限定販売版のご購入をオススメします(宣伝)
ではまたいつか。次の次でネタも百五十個目になります。今度はその分までまとめて投下しようと思います。

507: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 21:03:43.75 ID:d4ojKR3R0
『これはなんですか?』

『これですか? 「ヒーロー」の出てくる、物語というものだそうです』

『ひー…ろー?』

『ええ。地球にだけある、素晴らしいものなのだそうです』

『私の母――お母さんが教えてくれたんですが…まだ実際にお会いすることがなくて』

『テオーリアさんは、「ヒーロー」がいるとうれしいんですか?』

『もちろん。「ヒーロー」、いつかきっと、出会ってみたいものです』

『……』

『イズル?』

『――じゃあ、ぼくがテオーリアさんの「ヒーロー」になります!』

『……まぁ…』

『テオーリアさんがうれしいなら、ぼくもうれしいです! だから…』

『……では、約束しましょう?』

『やくそく、ですか?』

『ええ。約束です。あなたが、またいつか出会ったとき、そのときは、あなたが私の「ヒーロー」になってくれる、と』

『はい! ぜったい、なにがあっても、ぼくはかならず、テオーリアさんの「ヒーロー」になります! ぜったい、ぜったい、なります!』

『ええ。私も、絶対に憶えています。あなたが私を忘れても、必ず――』

地球に来て、およそ五十年。長く長く、いまだ終わらない私の旅。
長い暮らしの中で、私には多くの忘れ得ない大事な思い出ができました。
その中でも、一際大切なモノがあります。交わした相手は憶えていないでしょう、私だけの、大切な約束が。

いつか、きっと。そう思いながら、私はその約束が果たされる日を信じ、日々を過ごして。
そして、つい先日のこと。約束は、数年の歳月を経て、果たされました。

508: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 21:05:50.03 ID:d4ojKR3R0



「――リア様……テオーリア様?」

「っ……ダニール、ですか?」

新造の大型宇宙船、スターローズⅡにある、MJPから与えられた小さな私室で。
まどろんでいた意識が、ずっとこれまで付き従ってきた彼の声で覚醒するのを、私は感じました。
座ったまま、胡乱げな瞳で、声の主――ダニールの姿を捉えると、彼はいつも通りのすました表情で私の顔を覗き込んでいました。

視線を彼から外し、正面にやると、小さな目の前の丸テーブルの上に、この間彼に購入してきてもらった本が一冊、開いた状態で置いてあるのが見えます。
私は、自分が読書の途中で疲れて眠ってしまったらしいことを察すると、また顔を上げました。

「どうしたのです?」

半ば呆然としながら彼の用件を伺いつつ、私は開かれた本のことについて考えていました。
今読んでいるのは、確か、互いに遠く離れることになってしまった親子の話です。
途中までしか読んではいませんが、内容としては、子が遠くへと行った母を追い、いくつかの冒険を経て――確か、そんな物語でした。

おそらく、そんな本を読んでいたせいでしょう。懐かしい夢を見たのは。

私にも、親として正しく接することができたかは怪しいかもしれませんが、子供がいます。
あくまでも遺伝子上のことではありますし、共に過ごした時間のことも、もう子供の方は忘れていますが。
それでも、私にとって、愛すべき存在には違いありませんでした。

509: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 21:10:37.15 ID:d4ojKR3R0
そのことについて、様々な想いが思い浮かびました。ですが、それを深く考える前に、ダニールがただ淡々と用件を伝える声が耳に届いて。
その声が伝える、まるで私の思考を読み取ったように現れたその用件に、私は少しばかり戸惑うことになるのです。

「いえ。イズルさんがテオーリア様にお会いしたい、と」

「イズルが、ですか?」

「はい。お話したいことがある、と」

こうも狙い澄ますようにその名が出るなんて、と偶然の力に私は驚きました。
ちょうど親と子の物語に触れているところに、彼との懐かしい日々を夢に見て、次はその彼が直接会いに来るなんて。
運命、という言葉が地球にはありますが、そのような不可思議なモノを私はひしひしと感じました。

例のディオルナとの戦いの間に目覚めて。その後、彼は確か綿密な検査を受けさせられていたはずです。
もう検査は終わったのでしょうか。終わったとして、彼が私にいったいどんな用があるのでしょうか。

それを想像していた私でしたが、本当のところは、そのことについて、何故か予感めいたものがありました。
彼の用件がいかなモノか、何となく分かる。そんな気がしたのです。

「そうですか……通してください」

私は迷いなく答えると、ゆっくりと立ち上がりました。
彼の用件、その内容を想像しながら、私はそのことに対して、覚悟を決めることにしました。
いつまでも真実を隠すことなど、できはしないのですから。

510: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 21:13:53.73 ID:d4ojKR3R0
私の答えに特に何か言うようなこともなく、では、とダニールはすぐに部屋から姿を消しました。

立ち上がった私は、部屋の中心にある、イスとその前に置かれたテーブルから背を向け、四角く縁取られた窓の方へと歩み寄りました。
外の方には、ゲート破壊によって、一時的ではあるけれど、侵略から守られた青い星が見えました。
あの澄んで輝く青い惑星――あれこそが、お母様が私に託した『約束』の象徴です。

そして、私が彼と約束を交わしたときに眺めていたモノでもあります。

はるか五十年前のこと。私はウルガルから亡命し、この地球へとやってきました。
ウルガルがこの星を狙っていることを知る母――エグゼシア・オーレリアが、地球を助けようとした罪で幽閉される前に、自身の代わりに私を送ったのです。

地球の人々に出会い、いくつかの技術を提供した私は、MJPの協力者として、地球に希望を生み出そうとしました。
そうして、幾度かの失敗と成功を経て数十年。新たな希望が生まれたのです。

ヒタチ・イズル。
私の遺伝子とMJPの司令であるシモンの遺伝子で、MJPの技術によって生み出された、私にとって、息子と表現すべき存在です。

彼は唯一、ウルガルの血を引く地球人として、MJPに生み出された他の子供たちとはさらに特別な扱いを受けることになりました。
MJPの子供たちは、基本的には地球人の養父母――育てるためだけに存在する親元を言うのだそうですが――に預けられているのですが、彼は別でした。

その血に宿る特殊性を考慮されたのと、それに――私の希望もあって、MJPに戻される適正年齢に成長するまで、イズルは私と共に過ごしたのです。

511: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 21:18:05.16 ID:d4ojKR3R0
彼の養母になることを希望したのには、理由がありました。興味があったのです。
地球の人々は、血の繋がりを重視し、そこに『愛』を宿らせる。そう、その当時に読んだ物語にありました。

私の母は、地球に存在する『愛』なるものについて、その存在を教えてはくれましたが、それの詳細は何も教えてくれなかったのです。
地球に来て以来、私は『愛』のことを完全に理解したくてしょうがありませんでした。

もちろん、それまでの間に多くの人との出会いや別れ、あるいは物語との出会いから、
私も多少『愛』という感情がどういうものか、感覚的には理解し始めていたのです。

そしてその頃には、『愛』にもいくつかの種類がある、ということも理解していたのです。
男女の交わり、友人同士の親愛など――『愛』は様々な形で、無知であった私を地球で迎えてくれました。

その中でも唯一、私にはどうしても知る機会のない『愛』があったのです。
それは、家族愛、と呼ばれるものでした。

私と血の繋がった存在は、当然ながらウルガルにしかいませんでした。
母は確かに『愛している』という言葉と共に、私に接してくれましたが、それ以外の家族とはまったく『愛』など無縁な関係だったのです。

そのときの私は知りたかったのです。娘である私に、『愛している』と言ってくれた母の気持ちを。
自分と血の繋がる子供と触れ合うときに、生まれるであろう『愛』について。

行動を決めるとすぐ、私は彼を引き取ることを希望しました。
本当は、私だけでなく、イズルの遺伝子提供者の片割れであるシモンにも、共にイズルと過ごさないかと提案したのですが、それは断られました。

おそらくは共に過ごせば、必ず情が移ってしまうと彼は考えたのでしょう。
彼は優しい人だから、いつか自分の遺伝子を継ぐ者に、まったく知らないふりをして戦場へ送り込むことは、辛いことに違いありませんでした。
せめて、共にいた思い出さえなければ、多少は非情になれると、そう思ったのでしょう。そう、私は勝手に解釈しました。
…シモンはこういうとき、語ることを一切しないので、実際のところは分かりませんが。

……とにかく、結果として申請は通り、私はイズルと共に、忘れ得ない日々を過ごしました。

512: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 21:20:37.95 ID:d4ojKR3R0
『テオーリアさん!』

『まぁ、イズル…これは?』

『ダニールさんにつれていってもらった、やまでとってきたんです! すごくキレイだから、テオーリアさんにもみせたくて』

『ありがとう、イズル。この花は大切にしましょう』

『……花瓶をお持ちしました、テオーリア様』

イズルと触れ合っていたとき、私は常に、これまでにない感情に出会っていました。
純粋で、ただ素直に私を慕い、共に過ごしてくれた彼の存在に、私は温かで不思議で、何とも言葉に表すのが難しい気持ちを抱いたのです。
ただ彼がそこにいるだけで、私の中で何かが満たされていって。
その存在を守りたいと、そう思えたのです。

母もきっと、このような気持ちで私に『愛している』と言ってくれたのでしょう。
そう確信できるような気が、そのときの私にはしました。

……しかし、そうした幸せと表現できる時間も、終わりを迎えました。
イズルが適正年齢まで成長し、とうとうMJP機関に引き取られる時が来たのです。

MJPでは、養父母の手を子が離れる際、その記憶を消すこととなっていました。
戦場へと向かう子供たちが、いざ戦いへと向かう時に、過去のしがらみに囚われたりなどして、逃げ出さないようにするための処置、とのことでした。

イズルももちろん、例外ではありません。
彼と別れる前日、私は彼と一つ約束を交わしました。
あの青い星を、共に眺めながら。

513: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 21:23:22.01 ID:d4ojKR3R0
まだ、スターローズが健在であった頃。
スターローズⅡに用意してもらったのと同じような私室にて。
私と彼――イズルは、地球を見つめながら、最後の時間を共に過ごしていました。

あと数分もすれば、イズルはあの青い星へと降り立ち、そこで戦いについて学ぶことになっていました。
せめて出発をする前に、私は彼と静かな時を共有したかったのです。

『テオーリアさん……』

やがて、その時間にも終わりが近付き、イズルがゆっくりと私の方へと向き直りました。
私もそれに応え、彼の顔を見つめ、その揺らぐことのない瞳を捉えていました。
これから私と離れ、近い将来戦場へと行くことになるというのに、イズルはまるで不安を感じさせない、穏やかな表情でいました。

『イズル…覚えていますか? 昔、あなたが幼い頃に約束してくれたことを』

ふと、過去の彼との会話を思い浮かべながら、私はそれを尋ねました。
今よりもずっと幼い子供だったイズルが、私に言ってくれたことを。

『もちろんです。いつかきっと、僕はテオーリアさんの「ヒーロー」になって、必ずテオーリアさんのことを守ります』

自信に満ちた表情で、イズルははっきりとそう告げてくれました。
その言葉には、絶対にそうしてみせる、という意志が込められているように感じられて、私はそれを嬉しく思っていました。

しかし、そうだというのに。

『テオーリアさん?』

『ごめんなさい……こんなときだというのに、何一つ良い別れの言葉が、思い浮かばなくて…』

その感情よりも強く、悲しい、という気持ちが私の胸中を過ぎっていきました。
彼と過ごした温かな時間。それを彼が失ってしまうのは、とても悲しく、寂しいことだったのです。

それでも、私は彼を送り出さねばなりません。
彼が、私だけでなく、あの青い星に住む全ての人々にとっての『ヒーロー』になれるように。
それに、母と交わした『約束』を果たすためにも。

514: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 21:31:19.01 ID:d4ojKR3R0
諦めて自分に踏ん切りというものをつけるためにも、何かしらの別れの言葉を出さないといけない。
そう思ってはみたのですが、結局そのための言葉は一つも出てきませんでした。

これではいけない、イズルがもう旅立ってしまうというのに。自分を叱咤したものの、それでも、何も出てこなくて。
どうしよう、と私は言葉の詰まった自分を恨めしく思いながら、深く悩みました。

しかし、そんな私の気持ちをいとも簡単に、あっさりと。イズルは解消してみせました。

『いいんですよ、そんな言葉なんて。きっとまた会えます!』

別れだというのに、彼は何も変わらない笑顔のまま、私に断言してみせました。
再会の可能性がどれほどのものか分からないというのに。不思議とその笑顔は、私にイズルとの再会を思わせてくれました。
まさしく希望に満ちた、そんな笑顔だったのです。

私がその笑みに見とれているうちに、彼はさらに思いついたように手のひらをぽんと叩きました。

『あ、そうだ! それならもう一つ約束しましょう!』

『約束、ですか?』

突然の彼の提案に首を傾げると、彼は自信に満ちた明るい表情で頷いてみせました。

515: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 21:32:40.24 ID:d4ojKR3R0
『はい。もう一度、僕はテオーリアさんに会いにきます! 絶対絶対、たとえ記憶がなくなったって、会いにいきます!』

『イズル……』

『確かに、僕は忘れちゃうかもしれませんけど、でも! テオーリアさんが覚えててくれるなら、きっと大丈夫です! ……たぶん』

『……ふふっ』

思わず、イズルの最後の言葉に、私は笑みを零しました。
途中まではとても勇気付けられる言葉だったというのに、最後の最後に、たぶん、と加えられて、何だか力が抜ける気がしたのです。

ですが、それこそがイズルらしさなのかもしれません。どこか頼りなくて、でも、触れ合う人たちに不思議と勇気を与えてくれる。
それが、私のたった一人の子供だったのです。

『…分かりました。私、絶対に忘れません。いつかもう一度会うことを、約束しましょう』

『はい! 約束です!』

悲しい別れになることだろう、と考えていたはずなのに。
いつの間にか、私もイズルと共に笑っていました。

別れの時まで、彼は前向きで。私に限りない希望を与えてくれました。
そのときの私は、気付かなかったのですが、きっと、既にその時、イズルは私の『ヒーロー』だったのでしょう。
今なら、そう言える気がしました。

516: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 21:40:13.25 ID:d4ojKR3R0
「――テオーリアさん」

ぼんやりと地球を眺めて、そのように過去を回想していると、突然、ひどく懐かしく感じる声を私は耳にしました。

ああ、と私が振り返れば、その視界の先には、変わらない彼の姿がありました。
よく考えてみれば、彼とこうして会うのは、クレインとの戦いが起きる前のことですから――ずいぶんと以前のことのような錯覚がしました。

最初は少しだけ自信のなさそうな弱弱しい表情をしていた彼――イズルでしたが、私の姿を見た途端に、その表情を明るいものに変えるのが分かりました。
私はできるだけの笑みを心がけながら、イズルの方へと歩き出します。

「イズル。……よく、来てくれましたね」

数歩の距離を置いて、彼と向かい合います。
すると、私の笑みに応えるように、イズルも穏やかな笑顔を見せてくれました。
その曇りない笑みに、私は安堵を得た気がしました。

よかった。

私は内心で緊張の解ける気がして、ほっと息を吐きました。
彼の身体に見られていた異常は、少しずつ治まってきている。
そのことについては、シモンや彼の主治医から聞かされてはいたけれど、こうして実際に会うまではそれを実感できなかったのです。

……本当に、無事でよかった。

517: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 21:44:55.60 ID:d4ojKR3R0
「あ……ええと……その…」

しかしながら、別の異変に私はすぐに気が付きました。
私の歓迎する声に、イズルは最初笑みを見せていたけれど、何故か徐々にその表情をまた変えたのです。
そう、私に対してどう話しかけたものかと――困ったような、複雑そうな表情に見えたのです。

「どうしたのですか?」

彼の不思議な態度に、私が思わず質問すると、彼ははっとしたように表情を改め、まっすぐに私の顔を見つめました。
何か、大変なことを口にしようとする。そんな顔でした。
私は彼の言葉を待つことにしました。きっと、それほどに彼にとって重要な話をしようとしているのであろうことが容易に想像できたからです。
そうしてじっと彼の声に耳を集中させていると、その告白は、突然に始まりました。

「……アサギお兄ちゃんから、聞きました」

「……そう、ですか」

何を、と聞くまでもないことを、彼の言葉から私は察しました。
彼は知ったのでしょう。私と、自分の関係を。

私は顔を伏せぎみにすると、少しだけばつの悪そうにしました。
ずっとずっと黙っていたことを知られたのだと、私は来るべきときが来たことと、それを秘密にしていた自分のことを思い、後ろ暗い気持ちになったのです。
その秘密は、彼にとってはきっと、知る権利のあることだったのですから。

518: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 21:59:06.76 ID:d4ojKR3R0
「イズル、ごめんなさい。私はずっと、あなたに真実を黙っていました」

申し訳ないと感じる気持ちを胸に思うと、その言葉が自然と出てきました。

私は、一般的な母親としてはひどい人です。
自分の子供に嘘をつき、関係を秘密にし、そして、戦いに利用したのですから。

深い罪悪感と共に伝えた私の謝罪に、イズルはますます困ったような顔をして、慌てて何やら身振り手振りをしていました。

「いえ、そんな、いいんです」

謝られる側のはずの彼は、申し訳なさそうな顔をすると、頭の後ろに片手をやって、苦笑いをしながらこうも言いました。

「確かに、驚きましたけど。でも、何ていうか、その、嬉しかったです」

「……嬉しい、ですか?」

予想していなかった答えに、私はつい聞き返しました。
てっきり、ずっと私が彼との関係を偽ったことに失望したり、怒りを感じているのではないかと、少しだけ身構えていたものですから。
私の疑問に、イズルは目を伏せながら、しみじみとしたようにぽつぽつと言葉を紡ぎました。

「はい。アサギお兄ちゃんが家族だって分かったときも、僕にはちゃんと家族がいたんだ、ってことが嬉しかったですし」

言いながら、イズルは、アサギとの関係が判明したときのことを思い出したのか、懐かしむように笑みを零しました。
それから視線を上げて、私を見据えると、

「どうせならお兄ちゃん以外にも家族がいればなぁ、って思ってましたから。だから、お父さんとお母さんがそばにいるって分かったとき、すっごく嬉しかったんです」

だから、ありがとうございました。

そう、イズルは自分の言葉を締めました。
その言葉には確かな喜びの感情しか見られず、彼が私に遠慮をして何かしら取り繕うつもりのないのがはっきりと伝わってくる気がしました。
まさか感謝されるとは思わず、私はただ、その言葉を受け止めて、深く噛み締めていました。

優しくて、少し頼りないところもあるけれど、不思議と希望を与えてくれる私の子供は変わらない笑顔で。
親としてひどいことをしてきた私に、それでも、まだ向き合ってくれる。

それは、きっと。

「……そうですか」

何物にも変えられない、彼の持つ強さで、そして。
その強さに、ほんの少しだけ、私の中で罪悪感が薄まるような――救われたような気が、しました。

519: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 22:04:57.57 ID:d4ojKR3R0
私が小さく微笑み返すと、彼はとても嬉しそうに頷いて、

「はい! あ、えっと、勝手にお母さんなんて呼んじゃいましたけど」

「いえ。あなたの好きな風に呼んでください。あなたは私の子供なのですから」

「じゃあ、お母さん」

私の許可に、彼はあっさりとした調子で、私をそう呼びました。
まるでこれまでのことなんて関係なく、ただ自然に、私を『母』として認めてくれたのです。

そう認識した途端、私の胸中を熱い感覚が過ぎりました。
それはとても奇妙な熱でした。痛みはないのですが、何故かその熱は顔の辺りまで昇ってきて、それで。
目頭の辺りを強く刺激してくるのです。

私はその感覚に戸惑いを覚えながらも、それを振り切るように一歩、歩みました。
イズルは首を傾げて、近付く私を見つめていました。

特に何も言わず、私はさらに数歩歩みを進め、そして。
イズルのすぐ目の前まで迫り、私は彼と向かい合いました。

これから試みることに緊張を感じながら、それを解消するために大きく息を吸うと、私は落ち着いた調子を心がけながら、イズルに語り掛けました。

「――不思議ですね。私、地球の方の親子関係のことはよく分かりませんが、でも、なんとなくどうすればいいのか分かる気がします」

「あ……」

ぎゅ、と彼の身体を、その胸に抱き寄せました。
その行為に、私は何となく、生まれたときのことを思い出しました。

幼い頃、母に培養器から引き上げられ、状況が理解できずに不安を感じたまま、泣きじゃくって。
子供と接したことのないらしい母は、私の状態に戸惑って、それで。
こうして、優しく抱きしめて、ただただ、愛していると、そう言ってくれたのです。

きっと、母も、私に対してこんな風に『愛』を伝えようとしてくれたのでしょう。
そう思っていると、心から、説明のつかない温かな感覚がまた生まれてくる気がしました。
それは目頭を熱くした感覚をどこかへと押し込めると、私にいくつもの言葉を自然と喋らせたのです。

520: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 22:15:27.89 ID:d4ojKR3R0
「イズル。これまでよく頑張りましたね。あなたは、ヒーローになれたんですね?」

「……はい、お母さん。僕は、ヒーローになりました。僕だけじゃありません、皆と一緒に」

耳元でする彼の声を聞きながら、私は。
ふと、イズルと出会ったばかりの頃のことを思い出していました。

『――じゃあ、ぼくがテオーリアさんの「ヒーロー」になります!』

あのときのままから、何も変わることのない。
私に約束してくれた彼が、そこにいることが証明されたように思えました。

迷いのない調子で、言ってくれたことが嬉しくて、それを懐かしむ感覚が何だかくすぐったいような気がして。
私はただ、静かに微笑みました。

…ああ、そうだ。

突然に伝えたいことができて、私は一呼吸しました。
戦いが終わった今。伝えなくてはならないことがあったのです。
ずっとずっと、言ってあげたかった、言葉が。

私は、ゆっくりと息を吐くようにし、そして。

「……お帰りなさい、イズル」

母として、ヒーローに守られた一人の人として。
言うべきことを言ったのでした。

「はい。……ただいま、お母さん!」

応えるイズルの声と共にそっと身体を離し、私たちは笑い合いました。
ようやく、私と彼が本当の意味で再会できた。そんな気がしました。

521: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 22:16:29.58 ID:d4ojKR3R0
「……あ、そうだ!」

そう感慨に耽っていると、イズルが何か思い出したように声を上げました。
どうしたのでしょう、と私が不思議になって見つめていると、彼は一つの誘いを告げてくれました。

「これから、皆で戦いが終わったことを祝ってパーティーするんです。お母さんも、よければ」

「まぁ……ぜひとも参加させていただきます」

パーティー、という単語に、私の瞳が輝くように感じました。
その意味も、どういうものなのかも知っていましたが、一度もそのようなことには参加したことなどなかったのです。
知識欲が刺激され、好奇心が私に勝手に返事を言わせようとする錯覚を感じながら、私は答えました。

私の答えに、イズルは実に喜ばしそうに笑みを浮かべると、くるりと身を翻しました。

「じゃあ、後で時間を連絡しますね! 僕は、準備の手伝いがあるので、これで」

「ええ。楽しみにしていますよ、イズル」

とんとん拍子で話は進み、イズルが私の方へと顔だけ向けながらそう言い残すと、走り出しました。
まるで風のように急ぐ彼の姿が何だかおかしくて、私はくすくすと笑みを零しながら、小さく彼の後ろ姿に手を振りました。

ばいばい、と。

522: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 22:18:28.65 ID:d4ojKR3R0
「……ふぅ」

彼がいなくなり一人になると、私は小さく息を吐き、すとん、とイスに座り込みました。
私にとって、長い長いウルガルからの旅に、一区切り付いた気がして、人心地ついたのです。
でも、まだこれで旅は終わりではありません。

エグゼス――皇帝であるガルキエ兄様は、一度の失敗で諦めるような人ではありません。
必ずまたいつか、ウルガルは攻め込んでくることでしょう。

それに戦いが終わった今。
様々な情報が一般の方々にも開示され、私の存在が公になれば、地球の方々の間で何かしらの波乱が起きることだろう――そう、シモンが言っていました。

でも、そうだとしても。

お母様。

小さく、呟きました。
今も生きているのか分からない、私に大切な言葉を伝えてくれた人。

私も、『愛』と『ヒーロー』を知りました。
きっと、あなたの伝えたかったことも。

それを忘れずに、私はここで……地球の人たちと共に、生きていきます。

あなたが教え、私が育んだ『愛』に従って――――――

523: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 22:21:00.89 ID:d4ojKR3R0
おしまい。いつかテオーリアさんとイズルの過去話をやってほしいです。いろいろと疑問が残ったままですし。
では、次をば。これで一応書いたモノも150個目になります。

524: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 22:26:47.72 ID:d4ojKR3R0
ヒーロー。
ずっと変わらない、アイツの目指したいモノ。
アイツにとって大事な大事な、目標。

そして、アイツはそれになれた。
きっと、間違いなく言えることだろう。

俺はどうだろうか。
別に、皆のヒーローになることなんて、どうでもいいことだったけど。
ただ、俺も確かに、目指してたんだ。アイツだけの、たった一人のヒーローってやつを。

「――ヒーロー、ってさ」

「……何だよ、急に」

新造宇宙ステーション、スターローズⅡ。
その中の、俺たちが一時的に与えられている部屋の、一つ。
俺の部屋で、弟――イズルの突然の言葉に、俺は怪訝そうにイズルを見た。

ちなみにこの場に他の皆はいない。気を遣ってくれたんだ。

ディオルナ含むウルガル残党との戦いが終わって、いろいろと落ち着いた後。
皆で勝ったことを祝い、いくつかの検査を終え、待機任務を言い渡されて。
ようやく時間が空いた今になって、話したいことがたくさんあるだろう。そんなことを、チームの仲間たちが言ってくれたんだ。

525: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 22:39:06.67 ID:d4ojKR3R0
そういうわけで、今。俺とイズルは二人で向かい合って、部屋の真ん中に二つ置いたイスに座っていた。

話すことはそんな大したことじゃない。
検査の結果がどうだったとか、イズルが起きるまでの間、皆で医療カプセルに寄せ書きしたことだとか。
当たり障りのない、そんな話だった。

その中で、イズルがふと、思い出したようにその言葉を口にした。
俺の反応に、イズルはにこやかに笑みを浮かべて、自分の考えを語りだした。

「ううん。ヒーローって、強くてかっこよくて、何でもできるようなものだ、って何となく、最近まで思ってたんだけど」

「今は違うのか?」

「うん。色んなヒーローがいるんだ、って最近になって、そう思ったんだ」

たとえばさ、とイズルはいくつか例が思いついたのか、すらすらと述べる。

「それこそ、ピットクルーの皆さんとか。ほら、あの人たちがいなきゃ、僕たちまともに戦えないわけだし」

イズルの言葉に、俺たちを支えてくれる人たちの姿が、すぐに俺も脳内に浮かんだ。

確かに、その通りだろう。俺たちが機体を思い切り動かすために調整したり、修復したり。
いつもいつも、俺たちが戦場で戦う代わりに、彼らもまた、格納庫であったり戦場であったり、多くの場所で任務をこなしているのだ。
俺たちと共に、ここまで一緒に戦ったピットクルーたちも、地球を救った『ヒーロー』といえるのかもしれない。

526: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 22:41:22.94 ID:d4ojKR3R0
「あとは、ええと、スズカゼ艦長でしょ、オペレーターの二人、整備長――」

そのまま、イズルはいくつもの人たちの名前を挙げた。
ここまで俺たちを支えたり、一緒に戦ったり。
とにかく、地球のために、守りたい場所のためにそれぞれの戦いをしてきた人々。

ただただイズルの挙げる名前を聞いては、その人たちのことを俺は思い浮かべていた。
MJPで戦いのことを学び始めた頃は、何もない自分たちだったけれど、いつの間にかこれほどに共に戦った仲間ができたなんて、何だか、不思議な気分だった。

「……イズル?」

と、そうしているうちに。深く感慨に浸っていた俺は、イズルの言葉がぴたりと止まったことに気付き、意識を前に向けた。
視界にいた弟は、その視線を下に向けていた。何かを思い出して、それのことを集中して考えているように見えた。
その表情は、少しだけ寂しそうに見えた。

どうしたんだ、と尋ねようとすると、ちょうどそのタイミングで、イズルはその名を口にした。
その言葉が出たときには、イズルの顔は明るくなっていた。

「ランディさんも、そうだよね。すっごくガッカリで、ザンネンな人だったかもしれないけど、でも。チャンドラさんを助けて、ゲートのデータを届けてさ」

「……そうだな」

今はもういない、俺たちに多くのことを教え、助けてくれた先輩。
頼りがいがあるのに、上官をナンパしたり、後輩を誘って大人の世界を覗かせたり、とてもガッカリな人ではあったけれど。
それでも、あの人はチームの仲間を守り、地球に光明を示してくれた。
立派に『ヒーロー』だと、そう言えるだろう。

527: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 22:51:37.53 ID:d4ojKR3R0
頷く俺に、イズルはとても嬉しそうにうんうん、と頷き返すと、さらにこうも続けた。

「それに、お兄ちゃん!」

「俺?」

突然に挙げられた自分のことに、俺は驚きながら聞き返す。
すると、イズルは満面の笑みを作って、まっすぐに俺を見た。

「うん。お兄ちゃんは…まぁ、ええと、こないだの戦闘は、うん」

「おいやめろよ」

イズルの言葉に、俺は胃が若干痛み出す気がして、呻く。
高価なアッシュを、それも二機、思い切りバラバラにしてみせたことを、帰ったときに、整備班の一人であるアンナに泣かれながら怒られたんだ。
おかげで整備班は、ブルーワンの修復と改修で今もまだ、寝る間も惜しんで働くことになったのだ。

……後で、差し入れ持っていこう。

そんなことを思っていると、考えが顔に出ていたのか、イズルは慰めるように軽く笑うと、こう付け加えた。

「まぁ、決まらなかったかもしれないけど。でも、それでもさ」

イズルは少し間を置いて、軽く息を吸った。
それから、誇らしげにこう言った。

「――たぶん、お兄ちゃんは僕のヒーローだよ。他に誰も認めてくれないかもしれないけど」

だから、大丈夫。
そう言葉を締めると、イズルは自分の言ったことがとても嬉しいことであるかのように微笑んだ。

528: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 23:01:53.75 ID:d4ojKR3R0
俺は、ただ黙って、その言葉を静かに聞いていた。

僕のヒーロー、か。そんなこと、言われるなんて思わなかったな。兄貴として、俺がお前にしてやれること、全然ないのに。

そんな考えが一瞬過ぎったけれど、そんなマイナスに考えることもないな、とそれを打ち消した。
せっかく、弟がそう言ってくれたのだ。甘んじて受けよう。

「……そうか。それは、まぁ、悪くはないな」

「うん!」

二人で、何となく笑い合った。
そういえば、こんな風に気楽に笑えたのは、久しぶりのことだったかもしれない。
イズルも俺も、ここ最近は目まぐるしいことばかりで、そんな余裕なんてなくて。

いや、厳密には俺に余裕がなかったというべきか。
イズルは、この通り恐ろしいほどに前向きだし、俺との関係が分かっても、頼りにしたい、って向き合ってくるし。

……俺は、ちゃんと兄としてすべきことができているのだろうか。
世間一般の兄弟なんて、どうすればいいのか分からないけれど。
こいつのためにできることを、しっかりとできているんだろうか。

……なんか、できてない気がする。

急に不安を感じて、俺は胃が若干痛くなる気がした。
こんな、軍のこととかじゃない、普通のことで緊張だとか不安だとか、昔は感じなかったのにな。
これもある意味、成長したってことなのだろうか。

529: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 23:09:18.66 ID:d4ojKR3R0
そんなことを一人で勝手にいろいろと悩んでいると、イズルががた、とイスを鳴らしながら立ち上がる。
なんだよ、と聞く前に、イズルが何か思いついたように言う。

「あ、そうだ」

ちょっと机借りるね。

それだけ言うと、イズルはいつものことのように持ってきていたスケッチブックを、自分の後ろにある事務机に広げて、何か描き始めた。
あまりにも見慣れた光景に、おい、と形式的にたしなめることも忘れてしまっていた。

「何だよ急に」

「ちょっとだけ待って」

質問する俺の言葉にそう返すと、イズルはもう自分の世界に入り込んでしまった。
こうなると、もう大人しく待つくらいしか選択がない。
何となく様子だけ後ろから観察していると、どうやらイズルにしては珍しく、スケッチにいくつかの色の付いたペンを使っているらしいことが分かった。

医療カプセルの絵に感化でもされたか、と思いながら完成を待って、俺はただ、イスに座り込んだ。
たぶん、できあがるまで絵の中身は見ないでおいた方がいいだろう。わざわざ今描き始めたってことは、俺に絵を見て欲しいわけだし。
何となくそう思って、俺はイズルの背中をぼうっと眺めていた。

530: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 23:14:14.42 ID:d4ojKR3R0
「……うん、できた!」

そうしているうちに、三十分かそこらか、それくらいでイズルがイスを鳴らしながら立ち上がる。
それから、ふふん、と何やら自信のある様子で、スケッチを広げて見せてくる。

そこにあったのは、何やら赤く塗られた覆面の――たぶん、男性だろうか――と、何やら女の子の絵だった。
だいぶ前に見た、イズルが初めての任務のときの記者会見で見せた絵に似ていた。

「……あー。何だ、これ?」

聞いて聞いて、と言わんばかりに、イズルがぐいぐいと広げた絵を目先に押し付けるようとするものだから、質問した。

分かった、分かったからあんま近づけるなよ、見難いだろ。

俺の質問を聞くと、イズルは待ってましたといわんばかりに自信たっぷりに答えた。ただ、一言だけ。

「僕のヒーロー!」

「お前の?」

俺の機体の基本カラー青なんだけど。これ思い切り赤いよな? あとこの女の子誰だよ。

531: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 23:20:56.36 ID:d4ojKR3R0
そう問い詰めてやろうかと思ってるうちに、イズルは勝手に説明しだした。

「うん。ちょっと決まらなくて、いつも胃を痛めててプレッシャーにも少し弱くって――」

「……泣いていいか?」

「でも! 誰でもない、僕だけの! たった一人のヒーローだよ!」

イズルは変わらない笑顔のまま、俺に言った。
堂々と、自分のことのように、自慢げに。

いいのか、と聞きたかった。俺はお前みたいに皆のヒーローになれないし、なるつもりもないし。
自分で言うのも癪だけど、ザンネンなところ、いっぱいあるし。

でも、そんなことを聞くのは無粋だと、そうも思った。
だって、イズルは笑ってくれてるから。
俺のことを、本気で誇ってくれて、こうして絵にして――

「……そうか」

それで十分か、と俺も笑った。
イズルのヒーローになりたい。あのとき、そうスギタ教官にも言った。
他の誰でもないイズルが認めてくれたんだ。もう、それだけでいいに決まってる。

532: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 23:28:33.21 ID:d4ojKR3R0
俺が笑みを見せると、イズルはますます嬉しそうに眉を下げて、ニコニコと満面の笑顔のまま、その絵を俺に差し出した。

「はい、これ」

受け取れ、とどうやら俺に言いたいらしい。

「もらってどうしろってんだよ」

こんなザンネンで、その……あんまり上手とはいえないようなモノ。
部屋に置くにも、困るだろ、こんなの。

そんな俺の反応に、イズルは心底ガッカリしたように俺を見る。

いやいや、俺そんな悪いか?

「ええー……そこは喜んで飾ってよ」

どこに飾れってんだよ。だいたい皆がよく来るところなんだぞ。
飾ってるの見られたら、また『お兄ちゃん』ってからかわれるじゃねーかよ。

そんな反論をしようと思ったけれど、その言葉は一つも喉元を通って口から出ることはなかった。
絵を差し出すイズルが、ずっと手持ち無沙汰に俺を見上げているからだ。
ここでこの絵を拒否しようものなら、イズルのことだから、落ち込んでしまって、それで。
その様子から、いろいろと察したチームの連中(主にケイ)が蔑みの目で見てくるに違いない。

つまり。
絵を受け取ろうと受け取らなかろうと、俺は兄としていろいろと皆に言われることになる未来に違いはないわけで。

533: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 23:31:19.80 ID:d4ojKR3R0
「……分かったよ」

諦めて、俺はふぅ、と息を吐いた。
そうして絵を手に取ると、イズルはさっきまでの顔はどこへやら、一気にその表情を明るくする。

……俺、家族には甘いのかもしれないな。
別にブラコンとか、そういうわけじゃないんだけどな。……たぶん。

自分の甘さにつくづく内心で呆れながらも、俺はそういう自分が何だかんだ悪い風には思っていなかった。
たぶん、昔の自分なら嫌がっただろう。だけど、人は変わるものだ。時間と共に、心まで変わっていくんだ。

昔の俺は、イズルのヒーローという言葉なんて、どうでもよかった。
ただ、生まれたときに与えられた理由らしく、兵士としてあろうとしていた。

でも、今は。

ヒーローになった自分を、誇りに思いたいと感じていた。
何もない自分にもできた、大切なものを。

こうしてイズルとの話が終わり、俺の部屋に新たに俺以外が持ち込んだモノが増えた。

それは、タマキが来たときのための毛布だったり、スルガが来たときのためのレトルトカレーであったり、
果てはケイがケーキ焼いたときのための人数分の食器であったりしたけれど。

今回は、それとは全然毛色が違った。
ベッドのある壁際にピンで留められた、ザンネンで、俺自身のことを考えると、ちょっと趣味を疑うようなイラスト。
でも、俺にとって、何よりも。大切なモノになってしまった、宝物。

きっと、これは。
これまでに受けたどれだけの勲章と比べても、比べ物にならないくらい、俺にとっての『誇り』となることだろう。

――ヒーローになりたい。
多くの人々にとってじゃなくていい。大してすごくなくたっていい。賞賛されなくてもいい。
たった一人、俺を認めてくれて、頼ってくれる。
大切な家族の、ヒーローになりたい。

534: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/02(金) 23:35:29.68 ID:d4ojKR3R0
おしまい。今回の映画の主人公は間違いなくお兄ちゃんでした。
ここまで自分の書いたものを見返すと、我ながらよくこんなに書いたなぁ、と思います。
とりあえずできるだけこのスレを埋めようと思います。保護者の方々、よければお付き合いください。では、またいつか。

538: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/05(月) 22:36:54.00 ID:7Gt8Qd1m0
その出来事の発端は、彼女の一言からだった。

「……やはり、よく分からないな」

ウルガル、とかいう星の連中の拠点。その一区画にある城の一室。
たくさんのモニターに囲まれた、子供なら目を輝かせそうな科学的な部屋の中。

この城の主である女性の声に、突っ立ってぼうっと城の外の景色をモニターから見つめていた俺は、自然と意識を集中した。
視線を動かした先にいるその女性は、モニターの前でイスに座って、唸るようにしている。

俺の名はツダ・トウマ。女性の名はオーレリア。

俺は一人では危険すぎるこのウルガルとかいう星で生き残り、地球へと帰るため。
オーレリアは自分の命を狙う連中から身を守るため。

お互いに利害関係を結んで、助け合うことになったんだ。

そして今日は、彼女の夫のエグゼス――地球でいうところの皇帝という意味らしい――が、自身への反乱を企む連中を誘き寄せるための式典を行うらしい。
それを乗り切り、このオーレリアを狙うやつがいなくなれば、俺は晴れてボディーガードとしての役目を終え、対価として地球に帰ることができる。
そういう契約だった。

それで、昨日の夜、今日行われるであろう戦いの緊張を解すべく、彼女といくらかの会話をして。
その翌日の今日も、まだ式典までに僅かな時間があるらしいから、こうして彼女と過ごして、まだまだ完全に落ち着いたわけじゃない心を静めにきたんだ。

ここは彼女の研究室だ。研究室といっても、ここにあるのはモニターと端末だけで、実際に研究するもののサンプルやら何やらは別室にあるらしいが。

ちょっと端末いじるだけで危険な実験も遠く離れた部屋で自動でやれるんだよなぁ。便利なもんだ。

地球で大きな科学実験なんてやろうとすれば、それなりに厳重に閉ざされた部屋なんかで、事故が起きないようにいくつかの段階を踏むものだ。
それをこの圧倒的に技術が進んでいる星では、当たり前のように機械が複雑な実験の実行を代行し、しかも人間がやるよりも精密な結果を上げる。
本格的な技術者がいたら、きっと羨んで憤死するに違いないな、と何となく思う。

539: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/05(月) 22:38:46.27 ID:7Gt8Qd1m0
「…何が分からないって?」

とりあえず、彼女の声に反応してみる。
地球よりも進んだ技術や物質を所有するウルガルに、何が分からないことがあるというのだろうか。

俺の質問に、彼女はイスを回転させてこちらを見る。
そして、ただ一言。

「愛、だよ」

思い切り恥ずかしい言葉を、淡々と述べてきた。

「またその話かよ……」

ぷい、と俺は気恥ずかしいセリフに若干の照れを感じて、顔を逸らす。
どうもウルガル人というのは、そういう羞恥を感じたりとかしないし、こっぱずかしい言葉への抵抗というものがないようだ。
…いや、そもそもウルガルの文化には『愛』なんて言葉はないそうだから、抵抗を感じる俺の方がこの星の中では異端なんだろうけれど。

「また、か。そうは言うが、君の説明ではさっぱり理解できなかったんだ。しょうがないだろう?」

「俺のデバイスでいくらか勉強してみたんじゃなかったのか?」

呆れたように言うオーレリアに、俺は多少の反論を試みた。
この星に来るきっかけとなった、探査船テルス。
その中にあった、俺の私物の情報デバイスから、彼女はいくつか地球に関する知識、文化を調べたらしい。

そしてその調査の中でも、このウルガルの女王サマの興味を特に引いたのは、『愛』なんていう何とも説明のしづらい感情だった。
昨日の夜も、それについていくらか質問責めをされたけれど、俺は特にうまい説明ができず、彼女の興味をますます深めてしまったらしい。

540: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/05(月) 22:41:20.34 ID:7Gt8Qd1m0
ふむ、と彼女は顎に手をやり、考えるそぶりを見せる。
幼い印象がありながら、どこか大人びていて知的な彼女の雰囲気に、その仕草はよく似合っていた。
絵になるな、と揺れた白銀の髪に俺が素直に見とれていると、彼女はさらに返してきた。

「確かに。昨日から見返してみて、君のデバイスに数点の資料を見つけたが……どうも、ただ無償で他者を助けるための感情の動きだけでなく、『愛』にもいろいろとあるようだな」

そう言いながら、彼女は部屋の端末をいじりだす。
どうやら、デバイスの中のデータは、とっくにコピー済みらしい。
何だ何だ、と待っていると、ある映像データがモニターに大きく映し出された。

「………………っ!?」

あんぐり、と俺は口を広げて、目の前の光景に目を点にしてしまう。
それから数秒ほど固まって、そして。

「なっ――!?」

言葉にならない声を上げて、オーレリアに視線を送る。何考えてんだ、と。

モニターに映し出された映像データは、その、つまり。
長い長い宇宙の旅で、その、まぁ。俺が多少世話になった、男女の交わっている映像だった。

いろいろと女性と一緒に見るには、一般的な地球の感覚では真っ青になってしまうような。

541: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/05(月) 22:43:57.45 ID:7Gt8Qd1m0
慌てて言葉の出ない俺とは裏腹に、オーレリアは涼しい顔でこちらを見ていた。
青ざめるような気分から、一気に頭のてっぺんまで熱い感覚がする俺に、彼女は特に気にする様子もなく続ける。

「どうにもよく分からない。この映像での『愛』を見るところ、つまるところは生殖のための――」

「――いやいや、それとはちょっと違うんだよ! ……や、まぁ確かにこれも『愛』の表現かもしれないけどな」

あんまりオーレリアがけろっとした表情でいるせいか、俺も少し落ち着きを取り戻した。
俺の言葉に、彼女はやはり納得のいかない顔をした。

「どう違うのだ? 結局は総括すると、種を存続させるための、ちょっとした本能の働きではないのか?」

「違うもんは違うんだよ! もっと、こう……つまり、その、昨日言ったみたいなだな…」

感覚的に否定してはみたものの、俺の口からは綺麗な説明が出てこない。
もっと言葉の勉強をしておくべきだった、と根っからの技術屋である自分を俺は少しだけ責めた。

「……そうか。やはりよく分からんな」

と、思っていると。オーレリアは俺の言葉に納得しかねた様子で、唸っていた。

分からなくていいよ、と内心ちょっとだけ思う。
それで理解するのを諦めてくれたら、こっちとしてはさっき起きたことをもう考えなくて済んでありがたい。
そう願っていた俺の想いは、しかし簡単に裏切られることとなる。

542: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/05(月) 22:47:02.90 ID:7Gt8Qd1m0
「たとえば」

「ん?」

突然、オーレリアが立ち上がった。
それから、俺の方へと少しずつ歩いてくる。
どうした、と俺が聞く前に、彼女は俺のすぐ一歩先へと向き合う。

「……」

「? オーレリ……っ?」

彼女の名前を呼ぶ前に。俺の唇が塞がれた。名前を呼ぼうとした、彼女の唇に。

……。え。

目の前の光景に、俺はただ、驚くしかなかった。

俺の視界いっぱいに広がる、瞳を閉じた彼女の顔。
視界の端っこに映っている、特徴的な銀の髪。それに、なんだか分からない、ふわふわした女性の香り。
何もかも、こんな星では体感することのないと思っていた、異常なことだった。

543: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/05(月) 22:48:55.80 ID:7Gt8Qd1m0
「……ん」

「……っ」

固まっていると、彼女が唇を離す。
それから、俺を見上げて、何も大したことは起きていないような様子で言った。

「どうだろう、これで君は『愛』を感じるのか?」

「…………」

小首を傾げて、ずいぶんとかわいらしい仕種で、オーレリアは俺を見つめていた。
対して、俺は何も言わず、起こったことについて呆然と考えていた。

「…? トウマ?」

「いやいやいや! いやいやいやいやいや!」

彼女の呼びかける声にはっとして、俺はとにかく大声で喚きながら自分の唇を押さえて、驚くやら何やらで慌てていた。

な、何考えてんだ、この女皇サマは!?

544: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/05(月) 22:50:42.84 ID:7Gt8Qd1m0
「何だ急に。もっとちゃんとした言葉を話してくれ」

そんな俺のことなど知ったことではないように、オーレリアは呆れたような目で俺を見つめていた。

呆れるのはむしろこっちだと思うんだけど。っつか、柔らかか……いやいや!

とりあえず頭の中で目まぐるしく浮かんだ言葉の数々を整理しながら、俺はゆっくりと口を開く。

「…あー、なぁ、オーレリア」

「何だ?」

「その、だな。『愛』っていうのは、つまり。こういう肉体的な交わりで生まれるわけじゃないんだよ」

もっと説明がうまければなぁ、と俺は自分の言葉足らずぶりに辟易としながらも、もう少し伝わるように言葉を探してみた。
その甲斐あってか、彼女は僅かながら理解したのか、していないのか、ふぅむ、と考え込むようにした。

545: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/05(月) 22:52:29.02 ID:7Gt8Qd1m0
「……そうなのか? しかし、先ほどの映像データでは確か、『愛している』という言葉を、いくらか行為の最中に喋っていたぞ?」

「いや、それはだな……ええと…」

そういう風に言う方が盛り上がるというか…ああ、もうだめだ。碌な説明ができる気がしない。
言葉に詰まっていると、勝手にオーレリアの方から追求を諦めてくれたらしい。
彼女は軽く息を吐くと、くるりと踵を返す。

「まぁいい。まったくもってよく分からないな。『愛』とかいうものは」

「いいよ、分からなくて…」

(見た目は)若い女性に、あんな映像見せられながら、『愛』とは何ぞや、なんて難しいことを尋問されることがなくなるなら、それで結構だと思う。
まったく、異なる星の人間との文化交流は大変なモノらしい。
そういう交流をテーマにしたSF映画をいくつか見たことがあるけれど、こんな交流をされるような映画なんて一つもなかった気がする。

戦いとはまったく違う方向で感じた緊張が解けていく感覚に、何やってんだろう、と内心で自分を奇妙な目で見てしまう。
生き死にがかかってくる日だというのに、一気に気が削がれてしまった。

546: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/05(月) 22:55:01.37 ID:7Gt8Qd1m0
……そうだ、そういえば。

落ち着いてきた頭で、俺はふと浮かんだ疑問に気付いた。
すたすたと自分のイスに向かうオーレリアの背に、俺は質問返しをすることにした。
どう考えても、女性にする質問ではないけれど、この際だ、相手も特に何か思うことがあるわけではないようだし、聞いてしまってもいいだろう。

「な、そういえば、ウルガルにはああいうの、その、なかったのか?」

「ああいうの?」

振り返らずに聞き返してくる彼女に、俺は具体的に説明することに一瞬抵抗を覚えつつも、分かるように伝える。

「だから、その、映像みたいなこと」

ここウルガルだって、男女がいて、しっかりと生殖もされているというのなら。
地球の尺度で言うなら、多少の大人の関係、というやつだって存在するのではないのか。
そんなことを、何となく思ったのだ。

俺の質問に、何だそんなことか、とでも言うような調子で、オーレリアはあっさりと答えを返してくれた。

「そんな古めかしい行為などせんよ。ウルガル人は培養ができるのだからな。ついでに言うなら、さっきしたようなこともしない」

「へ? それじゃ、さっきの―――」

「? ああ、そうか。地球ではいちいち初めてすることに意味付けをするのだったな。ファーストキス、とかいうやつか」

「……まぁ、そうだけど」

普通なら少しは喜びの感情を抱いてしまうところだと思うけれど、何だかそんな気は一つもしなかった。
淡々と保健体育の授業を受けているときの気分だった。
彼女の態度から感じられるのは、あくまで学術的に先ほどの行為を捉えているような、そんな雰囲気で、さっぱりロマンのある空気がしなかったんだ。

何ともまぁ、ザンネンだ。

547: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/05(月) 22:56:52.60 ID:7Gt8Qd1m0
一人勝手に慌てて、道化みたいだ。少しだけそんな自分を空しく思いながら、ふぅ、と軽くため息を吐いた。
と、そうして肩を落としていると、彼女の声が聞こえた。
いつもの淡々とした調子じゃない、ほんの少しだけ、何かを考えながら言葉を紡ぐような、そんな調子の。

「……まぁ、古めかしいが、こういう行為も悪くないのかもしれないな」

「え」

それ、どういう意味だ――

詳しく聞こうとする前に、オーレリアが立ち上がった。
彼女はさっさと俺の横をすり抜けて、格納庫のある方へと向かう。

「さ、出番だぞ、トウマ」

言われてみて、手持ちのデバイスを覗いてみる。
もう、例の式典とやらの時間らしかった。

「あ、ああ。分かってるよ」

デバイスを仕舞い込み、一人先へと行くオーレリアを追いかけて、俺は駆け出した。
さっきまでの会話で一瞬考えたことも、これから来る戦いのことを思うと、どこかへと追いやられてしまった。

548: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/05(月) 23:01:42.20 ID:7Gt8Qd1m0
おしまい。三十日も女性と過ごしているわけだからいろいろと大変だったのかな、と若干下世話なことを考えながら思いついた話でした。
たぶん命のかかった生活でそんなことを考える余裕はないでしょうが。
では、またいつか。

550: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/07(水) 19:32:48.24 ID:GCKOwwEV0
教える人間、学ぶ人間

グランツェーレ都市学園――避難シェルター

スギタ「――地上の安全をこちらでも確認した、これから救援部隊との合流を図る」

リン『……そちらの方が済んだら、チームフォックス及びチームラビッツの機体の受け入れ準備の手配をお願い』

スギタ「もちろん、全て了解している。……あー、その、スズカゼくん」

リン『―――何か?』ジロッ

スギタ「ひっ……いや、その、だな。ええと――」

リン『言いたいことがあるなら早くしてもらえる?』ジトー

スギタ「ほ、報告が遅れたのはこちらの不手際だ。その、申し訳ない。だからそろそろ――」

ブツン!

スギタ「怒りを収めてもらえると――あ、切れた……」

スギタ「」ハァ

MJP生徒「――教官! こっちの方の通路、まだ生きてました! ……教官?」

スギタ「あ、ああ…。では、これから負傷者を優先して順に外へと向かう。動けない者に関しては担架を活用して――」

551: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/07(水) 19:33:58.20 ID:GCKOwwEV0



グランツェーレ都市学園――メイン格納庫

スギタ「――というわけで、チームフォックスは、この後機体と共に宇宙ヘ上がり警戒任務を。チームラビッツは、スターローズⅡが地球圏に到達の後、検査のために戻ってもらう」

スギタ「何か質問は?」

シーン…

スギタ「では、各自解散、チームフォックスは二時間後に準備が整い、補給が済み次第出発。チームラビッツは、寮の方に部屋を取ってあるので、よければ休んでくれ、以上」ビシッ

チームフォックス&ラビッツ「」ビシッ

通路

スギタ「」スタスタ

アン「――スギタきょうかーん!」

スギタ「ん? …ああ、チームフォーンじゃないか、何か問題でもあったのか?」

アン「いえー、そういうのじゃなくってー」エヘヘー

クリス「へへ、どうでした、教官! 俺たちの活躍っぷり!」

ユイ「ほぼ先輩たちの活躍だったでしょうが…」

スギタ「ふ、後で戦闘データは見せてもらうつもりだが…とりあえず、全員無事に帰ってきたのならそれで十分活躍したといえるさ」

セイ「……」

スギタ「? どうかしたか? セイくん」

セイ「いえ……思ってたよりも、活躍なんてできなかったけど。教官の言っていた、チームの連携の大切さってやつ、少しは分かった気がします」

スギタ「…そうか。学ぶことがあるということは、今以上に伸ばせる点があるということでもある。ドーベルマンやラビッツと比べればまだまだかもしれないが、これからだ」フッ

アン・クリス「「はーい!」」

チャンドラ「チームフォーン! 集合してくれ!」

パトリシア「上に戻るルートをブリーフィングするわよ、来てー」

セイ「は、はい! 今! ……では、スギタ教官」

ユイ「失礼します」

クリス「また後でー!」

アン「ありがとございましたー!」

タタタ…

スギタ「…小鹿も、成長期というわけか」フッ

552: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/07(水) 19:34:58.74 ID:GCKOwwEV0



グランツェーレ都市学園――ラベンダー畑

MJP技術スタッフ「」ガヤガヤ…

スギタ「お疲れ様です」スタスタ

スタッフ「ああ、スギタ教官」

スギタ「どうですか、ホワイトゼロは」

スタッフ「どうもこうも、こんなにバラバラになっちゃねぇ。まぁ、所詮試作機だし、修復の必要はありませんがね」

スギタ「そうですか。では、戦闘データの回収だけを?」

スタッフ「ま、そうなりますな。もしかしたら、今回のデータのフィードバックもちょっとは役に立つかもしれませんし。…気になりますか? 元々のテストパイロットとしては」

スギタ「いや。…まぁ、動かないガラクタとしてではなく、ほんの少しでも戦いの助けになる一手として散ったのなら、いいことだと思いますが」

スタッフ「はは、そりゃそうだ。そうだ、さっき、こいつを操縦してた子が来ましたよ」

スギタ「ああ、彼が。何か言っていましたか?」

スタッフ「いや、ただ高価な機体をバラバラにして申し訳ない、と。あとは、ブルーワンの回収が済んだのかも聞いてましたかね」

スギタ「なるほど。回収したブルーワンの残骸は確か――」

スタッフ「予備の格納庫ですよ。あればかりは、専用の整備クルーに一任しなくてはなりませんし」

スギタ「そうですか。では私はこれで。ホワイトゼロの方はお願いします」ビシッ

スタッフ「」ビシッ

553: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/07(水) 19:36:05.81 ID:GCKOwwEV0



グランツェーレ都市学園――予備格納庫

アサギ「……」

スギタ「――やぁ、大丈夫か?」

アサギ「あぁ、ええと……」

スギタ「? …ああ、そうか、名乗っていなかったな。スギタだよ。……自分の機体が心配かい?」

アサギ「まぁ、それなりに。一緒に戦ってきましたし…あと」

スギタ「?」

アサギ「コイツを壊すと怖いやつが、一人いるものでして…」イガー

スギタ「そうか。……私も、怒らせると少し怖い人を怒らせてるところさ。なかなか、緊張するものだな」ハッハッハ

アサギ「は、はぁ……」

スギタ「……」

アサギ「……」

554: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/07(水) 19:36:46.63 ID:GCKOwwEV0
スギタ「……少し、話でもしないか?」

アサギ「話、ですか?」

スギタ「ああ。さっきも聞いてみようと思ったんだが」

アサギ「はい?」

スギタ「君は目的を達成できたのかと思ってね。弟――イズルくんの『ヒーロー』になれたかい?」

アサギ「………そう、ですね」

アサギ「たぶん、なれたと思います。アイツの、『ヒーロー』ってやつに」

アサギ「その、高価な機体を二つも無茶苦茶にしたし、そのことでチームの皆には苦笑いされてしまいましたけど、でも」

アサギ「アイツは、イズルは俺のこと、『ヒーロー』だって、そう言ってくれましたから」フッ

555: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/07(水) 19:37:49.39 ID:GCKOwwEV0
スギタ「…そうか。なら、よかった。送り出したこちらとしても、そこが気になってね。ホワイトゼロに乗った君のことを報告するのが遅れて、スズカゼくんに散々怒鳴られてしまったわけだし――」

アサギ「へ?」

スギタ「あ、いや、何でもない。気にしないでくれ」ゴホンゴホン

アサギ「……もしかして、怒らせると怖い人っていうのは――」

スギタ「あー! ごほっ、ごほっ! まったく、ここはホコリっぽいな! さ、君も寮に部屋があるからそちらで休んでくれ! 疲れているだろう!?」

アサギ「……は、はい。あの、よければ、スズカゼ艦長に、俺の介抱に時間がかかったせいでスギタ教官の報告が遅れたって、後で伝え――」

スギタ「い、いいから! 早く行きなさい!」

アサギ「す、すみません!」タタッ

スギタ「……」

スギタ「はぁ……どう機嫌を直してもらおうか…」フー

アサギ『アイツは、イズルは俺のこと、「ヒーロー」だって、そう言ってくれましたから』フッ

スギタ「……まぁ、いいさ。生徒たちの命が助かったんだし、それで十分だろう。……そうだ、デートにでも誘って――」

556: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/07(水) 19:40:09.16 ID:GCKOwwEV0
おしまい。わりとサービスキャラなスギタ教官でしたが、いざ出番がくるとおいしいキャラでしたね。
個人的にはもっと掘り下げがほしかったです。では、またいつか。

558: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/13(火) 00:24:50.29 ID:ZHNT9lMi0
父と兄と弟と

スターローズⅡ――MJP司令室

リン『――以上が、今回の報告になります』

シモン「そうか……。チームラビッツ、ならびにゴディニオンは補給を済ませ、待機任務に就くように。残党への警戒任務はチームフォックスに任せる」

リン『了解しました。……あの、シモン司令』

シモン「何だ」

リン『……お聞きにならないのですか? アサギ・トシカズとヒタチ・イズルの検査結果を』

シモン「問題ないことは既にルーラ医師に確認してある。君に聞くようなことでもない」

リン『……』

シモン「何か?」

リン『いえ、何でもありません。では、これより待機任務に就きます』フフッ

プツン!

シモン(……君の作った技術と私の遺伝子、どちらも約束を果たすのには十分だったようだ)

シモン(君の元へ行くことはできなかったが、まぁ、よしとしよう)

シモン(あとは、このまま――)

559: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/13(火) 00:25:52.20 ID:ZHNT9lMi0
イズル「――失礼します!」プシュッ

シモン「…ヒタチ・イズル。呼んだ覚えはないが」

イズル「いきなり来てすみません。でも、どうしてもお話したくて」

シモン「……」

イズル「あの、アサギお兄ちゃんに聞きました。司令が、僕の――僕とお兄ちゃんの、お父さんだって」

シモン「……その話は無意味だ。確かに私は君の遺伝子の提供者ではあるが、だからといって、世間一般でいうところの父親とは少し違う」

イズル「でも、司令がお父さんだってことに違いはないんでしょう?」

シモン「……それで、何を話したいと?」

イズル「一言、お礼が言いたいんです。心配してくれて、ありがとう、って」

シモン「……」

イズル「ずっと、不思議だったんです。お兄ちゃんも思ってたみたいですけど、僕とお兄ちゃんにだけ教官になって前線を下がらないか、なんていきなり聞いたり」

イズル「僕が倒れたときも、戦場には来ちゃダメだ、ってあんなに言ってくれたりして」

イズル「……僕のこと、心配してくれたんですよね。だから、ありがとうございました」

560: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/13(火) 00:26:35.19 ID:ZHNT9lMi0
シモン「……全て、君の勘違いだ。君とアサギ・トシカズに教官職を勧めたのは、戦力の増大を狙ってのこと。君に艦から降りるように命じたのも、病人を戦場に連れてきても無駄だからだ」

イズル「でも! お父さんは僕の頼みを聞いて、艦に乗せてくれましたよね」

シモン「……」

イズル「僕のお願い、聞いてくれたんですよね。きっと、僕のことを思ってくれてるから、無駄だって分かってるのに、許してくれたんですよね」

シモン「……」

イズル「お父さんの言う通り、僕の勘違いで、自惚れなのかもしれません。でも、それでも、いいんです」

イズル「――ありがとう、お父さん」ニコリ

シモン「……用件はそれだけか?」

イズル「はい! あ、そうだ。この後、皆で勝ったことを祝ってパーティーするんです。お母さん――テオーリアさんも来てくれるそうですから、よければ――」

シモン「私には戦争の事後処理がいくつかある。遠慮させてもらおう」

イズル「……そう、ですか。じゃあ、これで。頑張ってください、お父さん!」タタタッ

プシュッ

シモン「……生命は学ぶ、か」

シモン「ジュリア……」フッ

561: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/13(火) 00:27:25.11 ID:ZHNT9lMi0



スターローズⅡ――廊下

プシュッ

アサギ「……どうだった?」

イズル「えっと、断られちゃった」アハハ

アサギ「だろうな。あの人、どう見てもパーティーとか、集まるの好きじゃなさそうだし」

イズル「まぁ、そうだよね。でも、いいんだ。言いたいこと、言えたし」ニコニコ

アサギ「そうか。……お前、すごいな」

イズル「え? 何が?」

アサギ「いや、どうも俺、あの人が父親だって分かったのはいいけど、こう、正面向かって父さんなんて、呼べる気がしなくてな」

イズル「ええー、お兄ちゃんもお父さんって呼んであげようよ。たぶん、喜んでくれるよ」

562: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/13(火) 00:28:29.21 ID:ZHNT9lMi0
アサギ「いやいや、それはないだろ」

イズル「そう? さっき、『お父さん』って呼んだら、ちょっとだけ嬉しそうだったよ?」

アサギ「……さすがに気のせいだろ、たぶん。あ、いや――」

イズル「?」

アサギ(寄せ書きとかしてたしな…案外、顔に出さないだけで――いやいや! ないだろ!)

イズル「お兄ちゃん?」

アサギ「あ、あぁ。何でもない、気にするな」

イズル「ならいいけど……そうだ、後で今度はお母さんとお兄ちゃんで会いに行こうよ! もしかしたら、少しくらい笑ってくれるかも!」

アサギ「よくそんな気になれるな……まぁ、いいけど」

イズル「うん! 約束だよ!」ニコニコ

563: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/13(火) 00:29:43.27 ID:ZHNT9lMi0
おしまい。ちょっと短すぎましたね。司令の親バカぶりはなかなかだと思います。
ではまたいつか。

565: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/19(月) 23:02:26.78 ID:AmxrUbHT0
冬とウサギ

スターローズⅡ――アサギの部屋

アサギ「……で、これ何だ?」

スルガ「何って、コタツだよ、コタツ」

イズル「あったかいらしいよ、お兄ちゃん」

アサギ「いや、それは分かる。だから、何で俺の部屋に?」

スルガ「そろそろ下の方じゃ冬らしいぜ、せめてこっちで気分を味わおうと思ってよ」ヘヘ

アサギ「別に宇宙で季節感なんて味わう必要ないだろ…」

スルガ「いーじゃねーかよ! 学園時代、こういうの縁なかったしよ」

アサギ「そりゃ寮にこんな家具追加したら怒られるしな」

イズル「まぁまぁ、せっかくスルガが持ってきてくれたんだし」

アサギ「何がせっかくなんだよ…おい、勝手に電源繋げるなよ!」

スルガ「気にするなって…お、暖まってきたな」

アサギ「……だいたい、ここは暑くも寒くもないんだから、そんな家具いらないっての」

イズル「あ、じゃあ冷房かけようか」ピピッ

アサギ「そういう問題じゃない!」

566: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/19(月) 23:03:29.15 ID:AmxrUbHT0
スルガ「…おー、いい感じに冷えてきたな」

イズル「じゃ、さっそく入ってみよう!」

アサギ「お、お前らなぁ……」イガー

スルガ「ほほー……」ヌクヌク

イズル「うわぁ……」ヌクヌク

アサギ「……」ジトー

スルガ「なるほどなぁ…こりゃいいな」グデー

イズル「なんていうか、どんどん力が抜ける感じがするね」アハハ

アサギ「」フー

スルガ「お、何だよアサギ。結局使うんじゃん」

アサギ「お前らのせいで部屋が冷えてるんだよ…っ」

アサギ「」ヌクヌク

イズル「どう、お兄ちゃん? いいでしょ、これ」ニコニコ

アサギ「……まぁ、否定はしないけどよ」

567: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/19(月) 23:05:19.98 ID:AmxrUbHT0
シュッ

タマキ「皆いるー? ……さむっ!」

スルガ「おー、タマキ」ヌクヌク

タマキ「な、なんなのら、こ、こここ、この寒さ」ガタガタガタ

イズル「あ、ごめんごめん。ここ入りなよタマキ。まだ空いてるから」

タマキ「そ、そそそそ、そうする」ガタガタガタ

タマキ「」ヌクヌク

タマキ「ほへー……生き返ったー…ぬくぬくしてるー…」

イズル「いいよね、これ」

タマキ「これ…なにー……?」グデー

スルガ「コタツだよコタツ。季節も季節だし、ネットで売ってたの買ってよ、どうせ皆アサギの部屋に来るだろうから、持ってきたんだ」

タマキ「スルガもたまにはいいことするのらー……」

スルガ「たまにはって何だよ…」

イズル「あはは…でも、これいいよね。丸型だから、ちょっと詰めれば皆で入れそうだし」

アサギ「ちょっと無理があると思うけどな…そういえば他の二人は――」

568: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/19(月) 23:06:23.90 ID:AmxrUbHT0
シュッ

ケイ「皆いるかしら? ちょっとケーキでも焼こうかと……ひっ!?」

アンジュ「どうしたんですか、ケイさん……っ!」

イズル「あ、噂をすればだね」

タマキ「あ、アンジュー、ケイー」グデー

ケイ「ど、どうしてこんなに寒い、の?」ブルブル

アンジュ「な、何というか、ここだけ真冬みたいですね」

スルガ「まーまー、二人ともこれに入れよ」

タマキ「ほら二人ともこっちに詰めるのらー」ポンポン

ケイ「え、ええ…」

アンジュ「は、はい…」

ケイ「」ヌクヌク

アンジュ「」ヌクヌク

イズル「どう、二人とも?」

ケイ「温かい……」

アンジュ「これ、コタツですよね……ヒーターとは少し違う温かさで、いいですね…」

569: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/19(月) 23:07:24.17 ID:AmxrUbHT0
タマキ「うんうん、もー、今日はここでずっと過ごしたくなるのらー」

アサギ「いやいや、さすがに就寝時間には帰れよ」

スルガ「まー気持ちは分かるけどなー…お、そうだ」ゴソゴソ

イズル「何これ? みかん?」

スルガ「コタツにはみかんらしいぜ。さっきシオンさんに会ってよ、これもらったんだ」

タマキ「何でみかんー?」

ケイ「さぁ……」

アンジュ「みかんはこの時期が旬ですからね。あとは、確か風邪の予防に良いとされている点でよく食べられていたのが、そのまま風習として残ったということだったと思います」

アサギ「あとは、皮を剥くだけで食べられて、コタツを出たりする必要がないってのもあるらしいな」

タマキ「へぇー」モグモグ

570: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/19(月) 23:08:08.96 ID:AmxrUbHT0
ケイ「確かに、わざわざここを出たいとは思えないわね…」ヌクヌク

イズル「なんていうか、他の暖房器具とは全然違うよね。ホント、このまま寝ちゃいそう」アハハ

アンジュ「それはダメですよ。上半身だけ冷えて、風邪を引きます」

アサギ「っつか、ここは俺の部屋だっての」

スルガ「硬いこと言うなって。そーそー、あとコタツで楽しむなら鍋料理なんかいいって言ってたな」

タマキ「鍋料理ー?」

イズル「あ、聞いたことある! 大きい鍋に食材と出汁を入れて煮込んで、そのまま鍋から取って食べるんでしょ?」

タマキ「えー、何それー」

アンジュ「日本の伝統料理ですね。大勢で楽しむのにとても便利な料理だとか」

ケイ「聞いただけだと、ずいぶんと簡単そうね」

アサギ「いろいろとバリエーションがあって、かつ、準備も楽で重宝されるらしいな。……まぁ、俺はやったことないけど」

571: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/19(月) 23:09:47.13 ID:AmxrUbHT0
イズル「なんかおもしろそうだね! ――そうだ、今度皆で食べようよ!」

スルガ「お、それいいな」

タマキ「よく分かんないけど、さんせー!」

ケイ「そうね…たまにはそういうのもいいかも」

アンジュ「そうですね……なんというか、楽しみです」

アサギ「……まぁ、そうだな」

スルガ「よし、じゃあ準備は頼むぜ、アサギ」ヘヘッ

タマキ「よろしく、アサギー」ニコニコ

アサギ「ちょっと待て! 俺かよ準備するの!」

イズル「いやー、こういうのって僕たちの中じゃお兄ちゃんとかアンジュくらいじゃない? できそうなのって」

アンジュ「私は鍋料理はしたことがないですね」

アサギ「いや、俺もそうなんだけど」

572: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/19(月) 23:10:29.64 ID:AmxrUbHT0
ケイ「じゃあ皆で準備しましょうか。せっかくだし、それぞれで材料を持ち寄って…!」

アサギ「! い、いや。俺とアンジュでするよ、な、アンジュ」

アンジュ「そ、そうですね。簡単な料理なわけですし。わざわざ全員で取り掛からなくても」

スルガ「そうか? 別に材料くらいなら用意するけどなー」

タマキ「あたし、いい塩辛持ってくるのらー!」

ケイ「鍋によさそうな甘いモノは……」

アサギ(あ、こいつらに用意させるのはダメだ)

573: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/19(月) 23:11:32.39 ID:AmxrUbHT0
イズル「ま、まぁまぁ。お兄ちゃんとアンジュに任せようよ。ほら、僕らは料理の道具とか借りてきたりとか」

スルガ「道具ねぇ。まぁとりあえず鍋だろ? あとはコンロと…」

タマキ「人数分のお皿とかー?」

ケイ「シオンさんに頼めば貸してもらえるかしら」

イズル「じゃあ後で頼もうか。…とりあえず、今は出たくないけど」ヌクヌク

アサギ「まぁ、そうだな」ヌクヌク

スルガ「こうなるといつ出るか決められねーなー…」ヌクヌク

タマキ「もーあたし、ここに住むー……」ヌクヌク

アンジュ「それは不可能な気がしますけど…でも、その気持ちも分かります」ヌクヌク

ケイ「そうね……ここは反則的に居心地がいいもの…」ヌクヌク

イズル「あはは…確かに、そう、だね……」ボー

アサギ「? おい、イズル?」

イズル「……皆、寝ないで、ね…」スヤァ

イズル以外「「「「「お前が寝るな!」」」」」


後日、食堂のお姉さんの手助けを借りながら、さらなる日本の冬の過ごし方を楽しむラビッツなのでした。

574: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/19(月) 23:13:04.61 ID:AmxrUbHT0
おしまい。ラビッツで闇鍋しようものなら地獄を見ることになるに違いない(主にアサギが)
ではまたいつか。またネタふりとかあればお願いします。

577: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 20:53:11.56 ID:RMo2bVJz0
こいつ……踊ってやがる!

スターローズ――ブリーフィングルーム

リン「――以上が、今回の広報任務よ」

ラビッツ「……」

リン「何か質問があれば――」

ケイ「納得いきません! 前のあれが最初で最後だっていう話じゃ――」

リン「そのはずだったのだけれどね……任務は任務よ、異論は受け付けない」

ケイ「…分かりました」ムゥ

リン「他に何か質問は? ……無いわね? では後はペコが説明するわ。お願いね」

ペコ「はいー、お任せください」

578: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 20:54:03.62 ID:RMo2bVJz0



スターローズ――アサギの部屋前

ペコ「皆さーん、それじゃ、また明日打ち合わせしますので八時くらいに食堂に集合してくださいね」フリフリ

タマキ「はーい」ニコニコ

プシュッ

ケイ「アンタ、よく笑ってられるわね…」ストン

タマキ「ケイと歌うの、あたし好きだもんー」ゴロゴロ

ケイ「ああ、そう……しょうがないわね」フー

タマキ「ふっふっふー、ケイだってけっこー楽しいくせにー」

イズル「大丈夫だよケイ。こないだのだって、タマキといい感じにやれたじゃないか」ヨイショ

スルガ「ちぇー、俺たちは歌わせてもらえないんだぜ? そんなにヤなら代わってくれよー」ヨット

アンジュ「私としては歌なんて緊張してしまうし、ありがたいです」ヨイショ

イズル「アンジュは歌とか上手なの?」

アンジュ「いえ上手かどうかは…」

579: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 20:54:56.64 ID:RMo2bVJz0
アサギ「……だからなんで普通に俺の部屋入ってくつろいでるんだよ…ああ、もういい」ハァ

スルガ「へへ、もう諦めろって」

アサギ「お前なぁ……歌わなくていいのはありがたいけど…今度は踊りかよ」

イズル「アッシュでバックダンサーかぁ。ちゃんとやれるかな」

スルガ「ばっちり決めたら、少しはナンパもうまくいくように……」ヘヘ

???「そうはいかないな。俺が美人のねーちゃんたちの目を全部かっさらうからよ」シュッ

イズル「! チームドーベルマンの皆さん! どうしたんです?」

ランディ「よう。今回の広報任務、俺たちもバックダンサーで参加することになってな」

チャンドラ「こちらとしてはあまり乗り気じゃないんだがな…このバカ者が二つ返事で了解してしまってね」

パトリック「まぁあくまで君たちのサポートだけどね…や、やぁ、タマキちゃん」

タマキ「? こんにちはー」ニコニコ

パトリック「!」ドキン

タマキ「? どーしたのらー?」

パトリック「い、いいいいや、な、何でもないよ。あ、あの、その…頑張ってね、タマキちゃん。応援してるから」

タマキ「? ありがとございます!」ニコリ

パトリック「!」カァ

580: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 20:55:31.84 ID:RMo2bVJz0
ランディ「あー、まぁ、そういうわけでまた明日な! ダンスでも俺がヒーローだってところ見せてやるよ、イズル」

イズル「ヒーロー…負けませんよ、ランディさん!」

チャンドラ「それではな。ほら、パトリック、行くぞ」

パトリック「は、はい。じゃあね」

タマキ「また明日なのらー」フリフリ

プシュッ

アサギ「先輩たちもいるのか…少しは負担が減るか」ホッ

スルガ「操縦技術じゃ負けちまうからなぁ。マジで見せ場取られちまうかもな、イズル…イズル?」

イズル「僕、今からダンスの勉強してくる!」タタッ

プシュッ

アンジュ「……元気ですね、イズルさん」

ケイ「いいことじゃない。私も、頑張らないと…」

タマキ「お、ケイやる気になったのらー?」

アサギ「……負けてられない、か」

581: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 20:56:12.01 ID:RMo2bVJz0



広報コンサート、当日――会場

リン『レッドファイブ、ブルーワン、ゴールドフォー、ブラックシックス、チームドーベルマン各機、配置につけ』

イズル『了解!』ガコッ

レッドファイブ「」ギューン

アサギ『…了解』ガコッ

ブルーワン「」ギューン

スルガ『りょーかいっと』ガコッ

ゴールドフォー「」ギューン

アンジュ『了解』ガコッ

ブラックシックス「」ギューン

ランディ『うし、行くぜ、お前ら』ガコッ

チャンドラ『頼むから目立つようなことをするなよ』ガコッ

パトリック『タマキちゃんに少しでも印象に残るように…!』ガコッ

ライノス「」ギューン

582: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 20:57:09.83 ID:RMo2bVJz0
『それでは、今日の慰安ライブのメインゲスト! MJP所属、我らがチームラビッツだ! 魅力的な歌と、GDFのエース、チームドーベルマンとの合同パフォーマンスから目を離さないでくれよ!』

パチパチパチパチパチパチ…!

♪~

ケイ『――♪』

イズル『ようし、まずはフォーメーションムーンライト!』ガコッ

アサギ『そのフォーメーション名やめろっての』ガコッ

スルガ『まーいいんじゃねーの、伝わるんだから』ガコッ

アンジュ『……』ガコッ

アッシュ各機「」ギューン、クルクルクル、ビシッ!

ランディ『よし、俺たちもムーンライトだ!』ガコッ

チャンドラ『そんなフォーメーション決めてないだろうが』ガコッ

パトリック『あはは…適当に合わせましょうか』ガコッ

ライノス各機「」ギューン、ビシッ!

583: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 20:58:01.43 ID:RMo2bVJz0
タマキ『――♪』ピョンピョン

パトリック『タマキちゃんかわいいなぁ…』

チャンドラ『集中しろパトリック、ぶつかっても知らんぞ』

ランディ『後でライブの映像録画したやつ見せてやるって』

パトリック『約束ですよ、ランディさん! っとと…』ガコッ

イズル『♪』フンフフーン

アサギ『おい集中しろって、鼻歌歌ってる場合かよ』

スルガ『イズルなりの集中の仕方なんだろ? 話聞いてないし』

アンジュ『……っ』

584: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 20:59:10.30 ID:RMo2bVJz0
アサギ『…? おいアンジュ? どうかし――』

アンジュ『――だーっ! こんなアップテンポの曲でちんたら踊れるかーっ!』ガコッ

ブラックシックス「」ギューン!クルクルクルクル!

アサギ『お、おい! フォーメーション崩すなよ!』

スルガ『すげー、ブレイクダンスだろあれ』

アサギ『感心してる場合か! おいイズル!』

イズル『あ! アンジュ!』

アサギ『早く止め――』

イズル『ずるいよ! そんなにかっこよく踊るなんて!』ガコッ

アサギ『おい!』

レッドファイブ「」ギューン!ダンッ!スタッ!

スルガ『もー止まらないなありゃ、適当に合わせとこーぜ』ガコッ

アサギ『……あー、もう! どいつもこいつも!』ガコッ

585: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 20:59:58.53 ID:RMo2bVJz0
ランディ『お前らだけ目立つなんてこと許すかよ!』ガコッ

ライノス「」ギューン!

パトリック『ちょ、ランディさん!? いいんですか、チャンドラさん?』

チャンドラ『放っておけ。あいつなら何とかまとめるだろう。それより、ブルーワンたちと連携して何とか形にするぞ』ガコッ

レッドファイブ・ブラックシックス・ライノス「」クルクルクル!ビシィッ!


ケイ(イズル――頑張ってるのね。私だって苦手だけど……!)

ケイ『――♪』ニコリ

タマキ『――♪』ニコニコ

アンジュ『私よりも機敏に動けるか、ダンゴムシども!』ガコッガコッ

イズル『負けないよアンジュ!』ガコッガコッ

ランディ『へ、子ウサギが生意気な! 番犬に勝てると思うなよな!』ガコッガコッ

アサギ『構成とか決まってたはずなのに…』イガー

586: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 21:02:07.22 ID:RMo2bVJz0
ワーッ!ガヤガヤ…

スルガ『……ちぇー、あいつら相手じゃ目立てねーよなー…あ、そうだ!』ガコッ

ゴールドフォー「」クビガション

アサギ『!? おい、スルガ!』

スルガ『曲のシメ、確か特製花火が上がるんだろ? これもついでに…』

アサギ『バカ! いくら射線上に何もないからって――』

スルガ『まーまー大丈夫だって。音だけだし、どーせもう命令違反しまくってん、じゃん!』カチ

ケイ・タマキ『『――――♪』』キメッ

レッドファイブ・ブラックシックス・ライノス「」ビシィッ!

ブルーワン・ライノス「」ビシィッ!

ゴールドフォー「」ドーン!

587: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 21:03:04.71 ID:RMo2bVJz0
シーン…

アサギ(……会場が静まり返った…や、やっぱまずかったか――)

ワーッ!パチパチパチパチパチ…!

イズル『わぁ…すごい拍手!』

アンジュ『ふん、オラオラ、もっと喝采しろ、ただ聞いてるだけの置物ども!』

スルガ『へへ、けっこー盛り上がったじゃん』

チャンドラ『何とかなったか…やれやれだ』

パトリック『あはは…お疲れ様です』

ランディ『まだ踊り足りねーけどな、ま、いいさ』

アサギ『……はぁ』イガー

588: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 21:03:39.05 ID:RMo2bVJz0
イズル『あれ? アサギ大丈夫?』

アサギ『大丈夫じゃねーよ……』フー

イズル『? あ、タマキたち』

アサギ『何だよ…』

タマキ『』フリフリ

ケイ『』チイサクフリフリ

イズル『あはは、お疲れ、だって』ガコッ

レッドファイブ「」フリフリ

アサギ『……あぁ、そうだな。まったく…』フッ

ブルーワン「」フリフリ

ランディ『……ふ。よくやったなお前ら、さ、帰投するか――ん?』ピピッ

リン『チームラビッツ、およびチームドーベルマン――戻ったらすぐに集合しなさい!』

スルガ『げ』

イズル『あ、あはは…』

アサギ『…まぁ、そうだよな』

ランディ『へへ、楽しみが増えるってもんさ、行くぞ』

アンジュ『このドMが!』

チャンドラ『まったく…ガッカリなやつだよ、本当に。ほら、パトリック』

パトリック『あはは…お疲れ様、タマキちゃん』フリフリ

589: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 21:04:11.69 ID:RMo2bVJz0



スターローズ――アサギの部屋

タマキ「あー、つーかーれーたー」ゴロゴロ

ケイ「まったく…もうこれで本当に終わってほしいわ、広報任務なんて」

イズル「あはは…確かに敵と戦うより疲れちゃったや」

スルガ「スズカゼ艦長にたっぷり搾られたしな…」ウガー

アンジュ「す、すみません。元はといえば私がああなってしまったせいで…」

ランディ「何言ってんだ。あれがあったから盛り上がったんだぜ?」

チャンドラ「気にするな、だいたいコイツのせいにしておけ」

パトリック「た、タマキちゃん、すごくよかったよ」

タマキ「えへへー、ありがとなのらー」

590: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 21:04:51.01 ID:RMo2bVJz0
アサギ「……あの、なんで先輩がたまでここに…?」

ランディ「なんでって、打ち上げだろ?」

チャンドラ「君の部屋が会場だと聞いていたが」

アサギ「いやそれ違いますから。……はぁ」

イズル「いいじゃないアサギ。アサギの部屋ってすっごく落ち着くんだよ?」

アサギ「そんなこと言われても嬉しくねーっての…」

ランディ「それだけ懐かれてるってことだ、誇りに思ってもいいぜ?」

チャンドラ「そうだな。君の人徳というやつだろう」

アサギ「は、はぁ…」

591: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 21:05:24.25 ID:RMo2bVJz0
ランディ「それはそうとイズル! どうだ俺の踊りは? 負けたろ?」

イズル「何言ってるんですか! 僕だって負けてませんでしたよ!」

スルガ「アンジュもすごかったよな、あんなに動けるなんて、さすがはMF86の系列からさらに進化を遂げたアッシュの――」ペラペラ

タマキ「アンジュの踊りも確かに負けてないのらー、こー、ぎゅーん!ってして、ばしー!っとしてー」フラフラ

ケイ「何よその踊り……い、イズルも負けてなかったわよ、たぶん」

ランディ「へ、意見が分かれたな。ならもう一度勝負するか?」

イズル「望むところです!」タタッ

チャンドラ「私が審判してやろう。これでも、祖国では踊りの心得がある」

プシュッ

592: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 21:06:14.66 ID:RMo2bVJz0
アサギ「まったく…どこにそんな元気があるってんだ」

タマキ「おもしろそー、あたしも行くー!」タタッ

パトリック「あ、タマキちゃん! じゃあ僕も行こうかな」タタッ

ケイ「わ、私も…」タタッ

スルガ「じゃ俺も」タタッ

アンジュ「わ、私も。ここで失礼しますね」タタッ

アサギ「お、おい! 何だよ、急に来といて…」フー

シーン…

アサギ「……俺も、行くか」ハァ


その後、ラビッツとドーベルマンの踊り勝負は発展し、審査員にゴディニオンクルーを迎えながら、大いに盛り上がりを見せたとか。
さらには後々に、新たな後輩たちを巻き込んで、勝負は続くのでした。

593: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/22(木) 21:08:50.21 ID:RMo2bVJz0
おしまい。流行のダンスというのがよく分からなかったので、ロボットとダンスといえばこれしかないと思い好きに書いてみました。
ダンスシーンはマクロスデルタの一話とか三話のイメージで補完していただけるとありがたいです。
それではまたいつか。またよければネタふりしてやってください。

596: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/31(土) 00:14:26.92 ID:GDk56EvY0
一年も終わりまして

アサギ「ふぅ……」イガー

イズル「どうしたのお兄ちゃん。いつにもまして胃を撫でて」

スルガ「へへ、とうとう胃に穴でも空いたんだろー、いつかはやると思ってたんだ」

アサギ「ワイドショーのインタビューみたいに言うな…はぁ」

ケイ「いったいどうしたの? 映画では立派に、私たちの中でも一番出番があって、今年は実りあるいい一年じゃなかったんじゃないの?」

アンジュ「そうですよ。イズルさんを差し置いてまるで主役交代と言わんばかりの活躍をしたのに」

タマキ「頑張りすぎて穴が空いたの?」

アサギ「ちげーよ! っつか胃に穴はできてないから」

597: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/31(土) 00:15:21.71 ID:GDk56EvY0
スルガ「じゃあ何だよ?」

アサギ「……いや、ほら、プロモーションビデオ、見たろ?」

イズル「ああ…お兄ちゃんがすごくかっこよかったやつ?」

スルガ「ついでに爆散したやつな」ケラケラ

ケイ「それはやめなさいよ…」

アサギ「俺は結構期待してたんだ…まさか俺にも覚醒があるなんて想像もしてなかったからさ。……なのに」

アンジュ「なのに?」

アサギ「なんで覚醒からほんの四、五分で出番終了なんだよ! 俺の覚醒なんだったんだよ!」

タマキ「あー」

アサギ「おまけにその後はあんなポンコツ乗っけられて! ゴロゴロ転がされた挙句最後まで決まらない感じの動きして!」

イズル「あれはちょっとかっこ悪かったねー」アハハ

アサギ「笑い事じゃねーよ! まったく…」ハァ

598: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/31(土) 00:16:33.90 ID:GDk56EvY0
スルガ「いーじゃねーかよ。むしろ短い時間であんなにすげぇ動きして観た人たちの心を掴んだ癖になにゼータク言ってんだよ」

アサギ「それは! …まぁ、確かにそうなんだけどよ」

イズル「そうだよお兄ちゃん! 僕なんて間に合わせの機体だからか知らないけど、覚醒すらしなかったんだよ?」

ケイ「そうよ。勝手に追加された演出であれほどに魅せたんだもの、誇るのは分かるけど、そんなにガッカリすることないんじゃないかしら?」

アサギ「……まぁな。ただ、なぁ」

アンジュ「なんだと言うんですか。敵をバタバタと薙ぎ倒していって不満だなんて。私なんて、ディオルナに散々ボロボロにされたんですよ?」

アサギ「そこだよ」

タマキ「そこって何なのら?」

アサギ「せっかくの覚醒なのに、俺はそのディオルナとまともに戦うことすらできなかったんだ」

スルガ「それが?」

アサギ「だから! てっきり俺は、イズルみたくジアートとの戦いみたいなすごい戦闘をディオルナと繰り広げた後に、ギリギリ及ばず負けるみたいな、そういうのを期待してたんだよ!」

イズル「え、僕?」

ケイ「ああ、なるほど。せっかくの覚醒が、周りの護衛隊の相手だけで終わってしまったのがアサギは納得がいかないってことなのね」

アサギ「そういうことだ」

599: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/31(土) 00:17:27.39 ID:GDk56EvY0
スルガ「んだよ。そんなこと言ったら、俺だってシェルターをドリルで掘ってるだけの連中を狙い撃ちしただけだぜ?」

アサギ「あーそうだな。無茶苦茶難しい条件での狙撃をな」

タマキ「そんなしょげなくてもいいじゃーん。アサギは十分かっこよかったのら?」

イズル「そうだよお兄ちゃん! 実際映画のチラ見せでだって、お兄ちゃんのシーンがピックアップされたじゃない!」

アサギ「それはそれ、これはこれだよ」

アンジュ「わがままですね。私なんて覚醒すらなかったのに」

ケイ「もう、どうすれば満足いくのかしら?」

アサギ「…もっと俺の活躍シーンが見たい」

イズル「十分すぎるくらい活躍したじゃない」

アサギ「いいや、全然足りない! 俺の覚醒シーン、もっといい感じに使ってほしいんだよ」

スルガ「そうはいっても、もう映画公開終わったしなぁ」

タマキ「今さら撮りなおしはできないのらー」

600: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/31(土) 00:18:38.44 ID:GDk56EvY0
アサギ「撮りなおしなんてする必要はない。続きをやればいい」

ケイ「続き?」

アサギ「そうだよ、見ろよこの記事。俺たちみたいにテレビ放映から映画、それからまたテレビ放映した作品だ。最近また続きが作られることが発表されたんだ」

アンジュ「その記事私も見ました。しかし、それはいくらなんでも参考にならない例だと思いますが…」

アサギ「それはそうだけど、少しくらい希望を持ちたいだろ」

アサギ以外「」ポカーン

アサギ「……何だよその反応」

イズル「お兄ちゃん、なんていうか変わったね」

スルガ「そうだな、こんな前向きなこと言うなんてアサギらしくねーっつーか」

タマキ「やっぱりアサギ、胃に穴が空きすぎておかしくなったんじゃ…」

アサギ「……たまにはイズルみたいなこと言おうとしてんだよ。察しろよ…」イガー

601: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/31(土) 00:19:48.19 ID:GDk56EvY0
ケイ「…まぁ、それはともかく。確かに、私もせっかくだし続きが見たいわね」

タマキ「えー。もーいいじゃーん。あたし疲れたのらー。なんかてきとーに幸せになりましたとさー、とかでいいのらー」

アンジュ「それはいくらなんでもテキトウすぎるような…ですが、続きというのはありですね。結局、ウルガルとの決着もついていませんし」

スルガ「まーなー。俺たち、映画の後結局どうなるか分かったもんじゃないし」

イズル「僕は、とりあえず普通に目が覚めたからそれでいいけど…テオーリアさんが心配なのも確かかも」アハハ

ケイ「」ムムッ

タマキ「? どーかしたのらー?」

ケイ「い、いえ。別に。そうよね、ウルガルだって、一時的に退却させただけだものね」

アサギ「そういう点も含めて、俺は続きが見たいんだよ」

イズル「なるほど。お兄ちゃんの言いたいこと、なんとなくわかったよ。僕も、結局あの上手な絵の人が誰か分かってないしなぁ」

イズル以外「「「「「いやそれはどーでもいい」」」」」

イズル「あれ?」

602: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/31(土) 00:21:12.35 ID:GDk56EvY0
アサギ「……まぁ、俺たちには何もできないけどな。続きが見たくても」

タマキ「それはそうかもー。……じゃ、誰に頼むの?」

スルガ「そりゃお前…まぁ、その、天の声というか、なんつーか」

タマキ「テンノコエ?」

イズル「ええと、そうだよね。天の声さんかぁ……あ、そうだ。じゃあ皆で呼びかけよう」

アンジュ「呼びかけ、ですか」

イズル「うん。今年も終わりだしね。三年ぶりに僕たちを活躍させてくれたお礼も兼ねて」

ケイ「そうね。そうしましょうか」

アサギ「ああ、そうだな」

603: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/31(土) 00:21:41.70 ID:GDk56EvY0
イズル「ようし。じゃあ、僕が。――――監督さーん! 久しぶりに活躍できて嬉しかったでーす! ありがとうございました!」

イズル「でもでも! お兄ちゃんはちょっと不服そうだし、お話もまだ、ちゃんと終われてないし…ええと、あとー!」

スルガ「いいから締めろって」

タマキ「イズルに任せてたら終わらないのらー」

イズル「ご、ごめん。―――とにかく! 三年ぶりに無茶してもらって早々で少しだけ困るかもしれないですけど!」



ラビッツ「「「「「「――もう一回、僕たちに出番をくださーいっ!」」」」」」

604: ◆jZl6E5/9IU 2016/12/31(土) 00:25:23.34 ID:GDk56EvY0
おしまい。今年最後のネタとしては少しあれですがご容赦いただけると助かります。
個人的には今年は実にマジェプリにとってめでたいと思える一年でありました。
映画が終わってすぐはありえないでしょうが、また思い出す頃に続編があると嬉しいです。

ではまた来年に。次辺りはもう少しシリアスな話をやろうと思います。

607: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 00:51:05.31 ID:WSL0Mai00
ヒタチ・イズルの場合

え? 皆のこと?
……うーん、そうだなぁ。

じゃあ、タマキから。
ええと、タマキは、初めて会ったときは、なんていうか、皆そうなんだけど、静かな印象だったかな。
ほら、僕たち、記憶を消されてから入学するから。皆、同じように全然話さなくてさ。

で、ちょっと慣れて、話すようになってからは、すごく元気なんだなぁ、って感じかな。
かっこいいから、とか、優しくしてくれたから、とか言って、タマキ、とにかくいろんな人に告白してさ。
エネルギッシュって、ああいうことなんだ、ってマンガのネタになって――え? あ、ごめん、そういう話じゃないよね。

あ、でもね。そんな風に告白してばかりでザンネンに聞こえるかもしれないけど、タマキってそれだけじゃないんだ。
意外に周りのことも結構見てるというか、皆のこと、気遣ってるところもあるっていうか。

608: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 00:52:50.26 ID:WSL0Mai00
前にね。ちょっと任務で無茶なことがあってさ、タマキが撃墜されそうになって。
…え? あ、そっか。君もそこにいたよね。そうそう、コミネ大佐。

それで、僕たち大慌てでタマキを助けようとしてさ。タマキは、皆までやられちゃダメだから見捨てろ、ってそのとき言ったんだ。
もちろん、僕はそんなの嫌だからすぐにそんなことダメだ、って返したんだけど。

ただ、そのときになって、僕、思ったんだ。普段はあんまり感じないけど、タマキって、皆のこと考えてくれてるんだなぁ、って。

あとは、そうだなぁ……。うん、同じ話だけど、タマキが無事だったときは、なんていうか、ほっとしたかな。
あぁ、そっか、僕たち、結構タマキの元気さに引っ張られてたんだなぁ、って。そう思ったんだ。

ええと、だからね。タマキって、僕たちのチームにとって、かけがえのない存在なんだなぁ、って思うよ。うん。

609: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 00:55:33.71 ID:WSL0Mai00
え? もっと? …んー。じゃあ、今度はスルガかな。

スルガはまぁ、なんていうか、同い年の同姓だったからさ、初めて会ったときは、アサギよりももう少し話しやすかったなぁ。
まぁ、そうは言っても、ちょっと授業の話とかしてただけだけど。

それでちょっとずつ慣れてくるとさ、どんどんスルガも素を出してきたというかなんというか。
要するに、好きなことでいろいろと語ってきてさ、付いていけなくなっちゃったんだよね。

それで、僕が好きになったことの話――マンガとかのことね?――を語っても、スルガはスルガでピンときてなくてさ、結局、そのときはそんなにお互い仲良くはなれなかったんだ。

変わったのは、うん、やっぱり授業のときの事件からかなぁ。
授業のときにね、スズカゼ艦長に僕たちさんざん怒られてさ、それで、アサギがスルガのこと殴ろうとしちゃったんだ。
僕が慌てて止めたからよかったんだけどね。

うん、そうなんだ。それからさ、なんとなく皆遠慮がなくなったっていうか、ちょっとくらいは話すようになったっていうか。
え? あはは、そうだね、殴られ損にならなくてよかったかもね。

610: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:00:01.11 ID:WSL0Mai00
それからいろいろとあってさ、スルガはタマキ以上に僕らの中でもいろいろと喋って、気分を下げないようにしてくれて。
うん、そうそう、ムードメーカーってやつ。

もしも僕たちのチームが、僕とお兄ちゃんとケイとアンジュだけだったら、たぶんすっごく息苦しくなってたんじゃないかな。
ほら、皆マジメだからさ。肩に力ばっかり入っちゃったままだったと思う。そうやって考えると、スルガもタマキもチームにとって大事な存在だよ。

スルガがいなかったら、たぶんアサギとはあんまり話せなかっただろうしね。
スルガ、僕たちの中でいろんな話題を出してくれてたから、今になって思うとすっごく重要な立場だったんだな、って気がするよ。

そういう意味だと、スルガは僕にも、アサギお兄ちゃんにとっても、実はすごく大きな役割を果たしてくれたんじゃないかな。

611: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:01:25.62 ID:WSL0Mai00
えっと、じゃあ次は……アンジュにしようかな。

アンジュは、そうだなぁ。
僕たち、五人でこれまでチームラビッツで頑張ってきたんだけど、そこに急にもう一人、って話になったときは、びっくりしたっていうか、ちょっと慣れないなぁ、って感じだったかな。

それでも、嬉しさの方が大きかったけどね。
直接的な後輩っていうのはいなかったからさ。

でもそう思ったのもつかの間で、アンジュはすっごく難しい子だったんだ。
機体に乗れば、丁寧な物腰もなくなっちゃうし、指示も聞いてくれないし。

僕だけじゃなくて、皆も大変だったと思うよ。

612: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:03:08.28 ID:WSL0Mai00
でもね、それも少しずつ変わってきたんだ。
僕らが慣れてきたっていうのもあるのかもしれないけど、アンジュとも距離が短くなってさ。

最初の頃は待機中でも集まってくれなかったりしたけど、いつの間にか、アサギの部屋に皆で集まるようにしてくれたし。

連携だって、単独行動だって、前に比べてずっとよくなったしさ。
ディオルナ、だっけ? との戦いだって、アンジュがいなかったらきっと負けてたし。

だからさ。最初から僕たちと一緒だったわけじゃないけど、アンジュももう僕らチームラビッツの一人なんだよね。
今なら、堂々と本人もそう言ってくれるんじゃないかな。僕は、少なくともそう思うよ。

あ、あと僕のマンガにいろいろと意見くれる貴重な人材だね! ……え? それはどうでもいい?

613: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:04:15.73 ID:WSL0Mai00
うーん、そっかぁ……あ、次ね。
ええと、じゃあ…ケイにするよ。

ケイは、うーん……なんていうんだろう?
初めて会ったときは、あんまり印象に残らなかったかなぁ。

ほら、ケイってさ、すっごく人見知りなところあるから、特に僕たち男子なんて全然話せなくて。
それに、本人もあんまり話すの得意じゃないみたいでさ、タマキも、最初の頃は話せなかったんだって。
ケイって、耳がよすぎるから、外出もあんまりしないみたいだったし。

話すようになってからは……うん、はっきりと言うタイプなんだなぁ、って思ったかな。
たとえばタマキがフラれてしょんぼりしてても、厳しい意見をずばっと言ったりとか。
僕がマンガとか絵を見せてもさ、即座に首を横に振ったりしてさ。遠慮がないっていうか、なんていうか。

614: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:13:36.50 ID:WSL0Mai00
それで、アッシュに乗るようになってからかな。ケイのことが少しだけ分かった気がしたのは。
任務の前にバカンスに行ったときにさ、ケイと二人で話して、そこで知ったんだ。
いつもいつも、ケイはクールな感じで、戦うのだって何でもなさそうに振舞ってたけど、これから大丈夫なのかな、ってホントは不安だったんだ、って。

それで、僕が自分の考えを話したら、少しだけ気分が晴れたみたいで。
うん、あれからちょっとだけ打ち解けたのかも。

それからしばらくいろいろあってさ、ケイは何かと僕を気にかけてくれるんだ。
ケレスのときは一緒にヒーローになれるように頑張るって言ってくれたし、アンジュにスケッチを破られそうになったときも止めてくれたし。
入院したときも、何かとお見舞いしてくれて……うん、いろいろとお世話になったなぁ。

タマキとかスルガとか、アンジュもそうだけど、なんていうのかな、その三人は同世代とか、妹とか弟とか、そういう感じなんだけど。
ケイは、お姉ちゃんみたいだなぁ、って思うよ。

僕だけじゃなくてさ、皆にそうやって接してるな、って思う。

そういうポジションってさ、あとはアサギお兄ちゃんだけだから、やっぱり大事だなぁ、って思うんだ。

確かに、やたら甘いケーキを焼いたりするかもしれないけど、ケイは僕らのチームには必要な人なんだよ。
少なくとも、僕は、ケイがいてくれてよかったって、そう思うよ。

615: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:15:31.62 ID:WSL0Mai00
さてと。じゃあ最後だね。
アサギお兄ちゃんかぁ。

初めて会ったときはね、まぁ、お兄ちゃんだなんて知りもしないから、正直大したことは思ってなかったなぁ。
ただ、あ、この人は年上の人なんだ、じゃあちゃんとして接しないといけないんだよね、って、覚えてる常識に従ってたかな。

それで、ほら、あの通りマジメだから、訓練成績のことでいつもいつも、僕らにいろいろと文句言ったり、スルガとケンカしたりしてさ。
アサギとスルガの間に挟まれて、僕はどうすればいいんだろう、ってケンカする度に困っちゃって。

え? あ、いや! ううん、今はそうじゃないよ。うん、ええと、だからそういう危ない物はしまっておいていいよ。

ええと、どこまで話したっけ。
あ、そう。スルガとよくケンカしてたな、ってこと。

それでさ、話すようになって、少しはケンカもおとなしくはなったんだけど、それでもやっぱりお互い意地っ張りなところもあってさ、ちょっとした小競り合いはあって。
でも、その頃には僕もどうすれば二人とも落ち着いてくれるか分かってきてさ。

616: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:17:20.61 ID:WSL0Mai00
それで、アッシュに乗るようになってからは、だんだんと僕たちも少しは仲良くなってきてさ。
まぁ、アサギはどうしてか分からないけど、僕にちょっと冷たいところもあったりしたけど、それも少しずつなくなってきて。

ケレスのときとか、僕も仲間を頼りにするってことを教わってさ、僕がいない間の指示を頼んだりしたんだ。
アサギなら、きっと僕よりも作戦とか上手に立ててやってくれるって、信じてたし。

それからもさ、任務のときも普段の生活のときも、皆アサギのことを頼りにするようになったんだ。
ほら、アサギってとっても気配り上手だし、なんだかんだ優しいし、皆して甘えちゃうんだよね、たぶん。君も分かるでしょ?
そうそう、その頃からもうお兄ちゃんだったのかもね、アサギって。

ええと、それで、まぁ、いろいろとあってさ、アサギがお兄ちゃんだってことが分かったんだ。

そのときはどう思ったか? ……うーん。いろいろと驚きはしたんだけどね、それよりも、嬉しかったかな。

僕たちってさ、ほら、家族なんて無いものだと思ってるから、他の人の言う家族っていうのも、よくは分からなかったけど、それについて話す人皆がさ、なんだか楽しそうで、表情も明るくって。
羨ましいな、って正直思ったんだ。僕たちにはたぶん縁が無いんだろうな、って思ってもいたし。

アサギがお兄ちゃんでよかった、って素直に僕は思ったんだ。
優しくて、皆に頼られる、アサギみたいな人が僕の家族だなんて嬉しいな、って。
まぁ、お兄ちゃんは照れてるみたいだけど、でも、ちゃんと僕のこと家族だって認めてくれてるから、それでいいんだ。

今回の戦いで、僕はお兄ちゃんがいてよかったって、もっと思ったよ。
僕や皆のために、ちょっとかっこ悪いところもあったかもしれないけど、必死に戦って、助けてくれた。

お兄ちゃんは、僕にとってのヒーローなんだ。
他の誰でもない、僕だけのヒーローで――僕のたった一人の、大切な家族だよ。

617: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:20:01.32 ID:WSL0Mai00
……え? うん、そうだね。よかったよ、ホントに。……ね、これ、皆に見せるんだよね?
じゃあ、僕からのメッセージを残させてもらってもいいかな? うん、ありがとう。

――ええと、皆、久しぶり。皆には、たくさん言いたいことがあるけど、それは検査が終わってからにするよ。
たぶんそんなに時間が空くってことはないと思うし。
だから、一つだけ、言いたいこと言うね?

皆、ありがとう。チームラビッツっていう居場所がなかったら、僕はきっとここまで頑張ってこられなかった。
皆がいてくれたから、僕はずっとずっと、ヒーローになるために進み続けることができた。ヒーローになれた。
でも、だからってヒーローになったのは僕だけじゃない。僕たちチームラビッツ、皆がヒーローになったんだ。

だから、ありがとう。一緒にヒーローになってくれて。検査が終わって、自由になれたら、アサギお兄ちゃんの部屋に皆でまた集まろう。
それで、ケイのやたら甘いケーキでも食べて、たくさんたくさん話をしよう。

――待っててね。なるべく早く、戻るから。皆がいてくれる、僕たち全員で帰るところに。

618: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:21:05.39 ID:WSL0Mai00



――そこで、映像の再生は止まった。

スターローズⅡ、彼ら、チームラビッツが集まるいつもの場所にて。
部屋の主である青年――アサギは、ゆっくりと映像を再生するのに使っていたデバイスのスイッチを切る。
部屋の中心に位置する、その小さなデバイスを置いた、大型の丸テーブルの周りには、アサギの所属するチームの仲間である少年少女たちが、彼と同じように座っている。

彼らは、それぞれに思うところのあるような表情をして、じっとデバイスを見つめていた。

この映像記録を送ってきたのは、青年の搭乗する機体の整備クルーの一人である、顔馴染みの少女であった。
つい最近まで、アサギたちは軍人として、地球を守るための大きな戦いをこなしたのであったが、その戦いの中で、アサギの弟は、様々な事情があって身体に大きな異常を来たしていたのだった。

戦いも終わり、落ち着いてから、彼は何度も精密な検査のために仲間たちから離れてちょっとした入院生活をしているのである。
仲間として、アサギたちも何度か見舞いに行こうとはしていたのだけれど、ザンネンなことに、敵の残党が完全にいなくなり、戦いが完全に終わったと判断されるまでの間は警戒任務に就かなければならなかった。

せめて通信装置を使って少しばかり話を、と彼らが考えたところで、ある提案が、アサギの機体の整備クルーの少女から出たのである。
通信で少し話をするくらいなら、入院生活で退屈しているであろう彼のために、いつでも何度でも仲間たちの姿を見ることができるように映像記録を送ったらどうだろうか、と。

その提案はあっという間に名案として採用され、少女にいくつか映像を撮影してもらい、彼らはそれを見舞いとして渡してもらったのである。
そして、先ほど流れたのは、入院中の彼――イズルから、返事として受け取った映像だった。

619: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:22:31.64 ID:WSL0Mai00
「…へへ、イズルのやつ、思ったよりも元気そーじゃん」

軽い調子で、仲間の一人、スルガが口を開く。
その声色は、軽口とは裏腹にほっとしたような様子だった。

「うんうん、一緒に送った塩辛効果なのらー」

それに続くように、今度はタマキがしたり顔で頷いた。

「いえ、塩辛はどうでしょうか……」

彼女の発言に同意しかねるようにアンジュが被せる。
それから、やはり前の二人のように、若干の喜びの見える表情のまま、

「ですが、イズルさんは相変わらずのようで、その、よかったです」

と言葉を締めた。

「そうね。よかった…」

アンジュの言葉に、ケイがとても大切なモノを眺めるような目で、デバイスに視線を落とすと、軽く息を吐いた。
映像が再生されるまでの間、どこか落ち着かない様子でいた彼女であったが、こうしてイズルの普段通りのような姿を見ることができて、安心したのだろう。

620: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:23:16.43 ID:WSL0Mai00
アサギはケイと同じようにデバイスに目を移して、それから、ぐるりと仲間たちを見回してみた。

最初の頃は、誰一人として知らない、赤の他人だった彼ら。
それが今は、こうしてここにはいない一人のことについて、それぞれの考えの中、一緒になって想っている。
何だか不思議な感覚だな、と彼は感慨深げに思う。

初めて会ってから少ししたときは、彼らとはきっと仲良くなどなれないと思っていた。
まとまることもなく、互いに重たい空気のままに、共に戦場へと行くのだろう、と。

しかし、結果はまったく違った。
皆に影響を与えた、彼がいたから。

「イズル……」

その名を口にしながら、アサギは思う。

今になると、よく分かる。
イズルが――弟がいたから、ここまで皆来れたのだ。

とんちんかんで、どこか危なっかしくて、頼りないところもあるけれど。
それでも、イズルは皆を引っ張ってくれた。

621: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:23:44.30 ID:WSL0Mai00
そして、自分を見つめなおすきっかけをくれた。

昔は、皆のヒーローになりつつある彼を羨み、少しの妬みを感じることもあった。

今は、違う。自分にしかできないことがあることを知ったから。自分にとって守りたいことが、存在ができたから。

皆のヒーローになるのではなく、大切な家族のヒーローになる。
たった一つの、自分だけにしかなれない、自分だけの目標ができたのだ。

弟が――イズルがいてくれてよかった。そう、彼は思った。

622: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:24:24.64 ID:WSL0Mai00
と、そう考えているうちに、仲間たちはさらに話を続けた。

「ったく、イズルのやつ、早く戻って来いよなー」

「そーそー。こっちだって言いたいことがたくさんあるのにー」

「来週には検査は終わるそうですから……迎える準備をしないといけませんね」

「私、とりあえずケーキ焼くわ。イズル、食べたいみたいだし」

「や、食べたいとは別に言ってないよーな…」

「何か?」

「何でもないです……」

仲間たちの平和なやり取りを眺めながら、アサギは小さく微笑んだ。
赤の他人から、戦友、そして――『家族』になった彼ら。
そんな彼らのいる風景に、弟が入ってくる光景を思い浮かべて。


イズル、皆もお前に会うのを楽しみに待ってる。早く帰ってこい。
お前は、皆のヒーローで――俺たち皆の『家族』なんだから。

623: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/06(金) 01:25:57.74 ID:WSL0Mai00
おしまい。今年もどうぞよろしくお願いします。
ではまたいつか。

627: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 19:56:47.60 ID:nvw37pnR0
先輩の先輩と先輩と後輩

スターローズⅡ――食堂

キャスター『――次のニュースです。本日、日本時間で午後一時の会見にて、謎多き侵略者たち、ウルガルとの戦争が終結したことがGDFより公式に発表されたました』

ピッ!

キャスター『――敵の残党に対する警戒はまだ解けてはいないとのことではありますが、長かった戦いにも終わりが見えてきたようです』

ピッ!

キャスター『――今回の戦いの一番の功労者であるMJP機関、その中でも大きく勝利に貢献したチームラビッツに対し、環太平洋・インド連合は勲章授与を発表し――』

プツッ!

スルガ「あーやめやめ。ったく、どこも同じことしか言ってねーや」

タマキ「ねーねー、くんしょーっていつもらいに行くのー?」グデー

ケイ「さぁ…そのうちスズカゼ艦長かペコさんが教えてくれるでしょ」

イズル「こうやってニュース眺めてると、ホントに終わったんだー、って感じするね」

628: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 19:58:12.75 ID:nvw37pnR0
アサギ「実際はこれからの方が忙しいと思うけどな」

イズル「へ? 何で?」

アンジュ「勲章授与に始まって、いくつかの式典などに引っ張りだこになるんじゃないでしょうか」

スルガ「あと、あれな、よその経済圏は間違いなくこっちの技術に探りを入れてくるだろうから、それに対してある程度スケープゴートにされたりとか」

アサギ「事実、近い将来にグランツェーレの方に何人か交換留学生を送る、って話になってるらしい。俺たちでその連中の相手をして、適度に技術の流出を防ぐんじゃないか?」

アンジュ「一番アッシュの技術に近いですからね。パイロットである私たちがそういう人たちの相手をすれば、多少は向こうも納得するでしょう」

スルガ「で肝心の技術には近づけないでおく、と」

イズル「ふーん…なんか、大変そうだね」

アサギ「一応だけどお前がリーダーなんだからな? 先陣切って矢面に立つのはリーダーのお前だぞ」

イズル「あ、そっか」

スルガ「ホントに大丈夫なのかねー、コイツで」フー

タマキ「そーいうのスルガの方が向いてそうなのらー。ほら、いつもの早口でてきとーにアッシュの説明でもしてさー」

イズル「確かにそうかも」アハハ

629: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 19:59:39.28 ID:nvw37pnR0
ケイ「…ま、まぁ。今はいいじゃない、そんないつかも分からない将来のことなんて。こほん、そうだ、これ私の新作ケーキなんだけど…」ガサゴソ

アサギ「お、俺は遠慮しておくよ…もう食えないし」

スルガ「お、俺も…」

タマキ「もー塩辛でいっぱーい……」

アンジュ「わ、私も、ですかね…」

イズル「あれそう? じゃ、僕はいただこうかな」

ケイ「そ、そう? せ、せっかくだから皆に食べてもらおうと思ってたんだけど、そういうことならしょうがないわねええ。はい、イズル」

イズル「うん。いやぁ、前よりもなんていうか、ケイのケーキ美味しくなったよね」ニコリ

ケイ「本当? それならよかったわ」ニコニコ

スルガ「(アイツどうしちまったんだ? 前は食べられはしても俺たちくらいにはしんどそーだったのに…)」コソコソ

アンジュ「(突然変異なんじゃないでしょうか? ほら、身体の異常がまだ治まっていないとか…)」ヒソヒソ

タマキ「(イズル、まだビョーキなのら?)」コソコソ

アサギ「(お前らウチの弟を何だと思ってんだよ…)」コソコソ

イズル「うん。あまーい♪」モグモグ

ケイ「それはそうでしょ、ケーキなんだから」クスクス

アサギ「(……まぁ、いいんじゃないか? 本人は問題無さそうだし)」

スルガ「(ま、それもそうか)」

630: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:01:22.16 ID:nvw37pnR0
???「あ、先輩方ー!」

アンジュ「あ、皆…」

アン「や、アンジュー」

クリス「ど、どうもっす…」

ユイ「こ、こんにちは…」

セイ「お、お疲れ様です、先輩方」

アサギ「ああ、君たちは確か…」

アンジュ「チームフォーンですよ。元々は私もいたチームです」

ユイ「そ、その、ご一緒させていただいてもよろしいですか? ちょうど私たちもお昼休憩でして…」

スルガ「もちろん! ここ空いてるから座るといいぜ! ほら、せっかくだし同じ型の砲戦機体を扱う先輩としてのアドバイスを…」ヘヘヘ

ユイ「あ、アサギ先輩、よろしければお隣いいですか? フォワードについて、いろいろとお伺いしたいことがありまして」

アサギ「え? あ、ああ。いいけど」

スルガ「あ、アーサーギィィィィ……」グヌヌ

タマキ「そんな見え見えの態度取るからなのらー」クスクス

631: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:02:31.10 ID:nvw37pnR0
クリス「タマキ先輩、お隣失礼します!」

タマキ「んー、えっとー」

クリス「クリス・ソルフェーノです! 前にも話しましたけど、よければ今度一緒に飛んでもらえませんか?」

タマキ「えー、別にいいけどー」

クリス「やったー! じゃあ細かい日時は…」

???「あらら、さっそくナンパってわけかしら?」

タマキ「あ! パトリシアさん!」タタッ

パトリシア「あらら、タマキちゃん。熱烈ねー」ギュー

クリス「……」

チャンドラ「まぁ、そうガッカリするなよ。あの子、自分に向けられる感情に疎いんだ」ポン

クリス「…うっす」

アンジュ「あ、チャンドラさんたちも。休憩ですか?」

チャンドラ「ああ。量産アッシュ部隊にようやく警戒任務が引き継げてな。やっと地球に降りれるよ」フッ

アサギ「ああ、そうか。チャンドラさん、婚約者さんに会いに行くんですね?」

チャンドラ「まぁね。落ち着いたことだし、そろそろ身を固める頃だと思ってね。その話をしに行くのさ」

アンジュ「なるほど」

632: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:03:28.85 ID:nvw37pnR0
セイ「あ、あの。イズル先輩、ケイ先輩」

アン「こんにちは、イズル先輩、ケイ先輩!」ニコニコ

イズル「あれ? あ、君たちは確かこないだの…」

ケイ「」ムムッ

セイ「セイ・ユズリハです。あの、お隣、いいですか?」

アン「アン・メディクムです! 私も隣いいですか?」

イズル「うん、いいよ」

ケイ「……まぁ、どうぞ」

633: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:04:30.45 ID:nvw37pnR0
イズル「あ、そうだ。君も食べる? ケイのケーキ」

セイ「え、いいんですか?」

イズル「もちろん。僕一人じゃ余っちゃうし。ね、ケイ?」

ケイ「…イズルが、言うなら。はい」

セイ「あ、ありがとうございます」

イズル「アン、さんもどう? ケーキ」

アン「あ、いえ! 私はエンリョしておきます…」アハハ…

イズル「そう?」モグモグ

634: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:05:07.79 ID:nvw37pnR0
アン「」ジー

イズル「? どうかした?」

アン「いえ。憧れの先輩に会えて感激してるんです」

ケイ「憧れ?」

アン「はい! こないだのグランツェーレ防衛戦も、ちょっと前の戦いでも、イズル先輩の戦ってる姿、すっごくかっこよくて! 私、すっごく憧れてたんです!」

イズル「ホント? 何か嬉しいなぁ」アハハ

ケイ「よかったわね、イズル」ニコリ

イズル「うん」

アン「イズル先輩にはいろいろと教えてほしいこと、たくさんあるんです! よかったら後でお話を…」

イズル「え? まぁいいけど」

ケイ「! ……」ムムッ

アン「やった! じゃあ、後でご連絡しますから! …アンジュー!」タタッ

イズル「あはは、元気な子だね」

ケイ「そ、そうね…」

635: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:06:05.06 ID:nvw37pnR0
セイ「…やっぱりケイ先輩のケーキはうまいなぁ」モグモグ

イズル「あ、分かる? やっぱり君もそう思うよね」

セイ「これでもかというほどの、脳を突き抜けるような甘さが実にいいです」

イズル「そうなんだよね。前よりもずっとすごくなってるんだよ」

ケイ「……そう」

セイ「あ、あの」

ケイ「何かしら?」

セイ「お、俺。同じコントロールの機体を扱ってて、それでその、ケイ先輩には前から憧れてて、ええと、その、感激です」

ケイ「…そう」

セイ「は、はい。そうなんです…」

636: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:06:33.65 ID:nvw37pnR0
タマキ「気にしなくていいのらー、ケイってばすっごい人見知りさんだからー」

ケイ「た、タマキ! そういうのは言わないでよ」

イズル「あはは、確かに、ケイって初めて会ったときはすごいぶっきらぼうだったよね」

ケイ「い、イズルまで……」

セイ「い、いえ。大丈夫です。その、ただ、感激したってことだけ言いたくて」

ケイ「……ケーキ、まだあるけど、その、食べる?」

セイ「は、はい! 喜んで!」

イズル「うんうん。あ、僕も食べるよ」

637: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:07:12.35 ID:nvw37pnR0
アンジュ「それで? 言いたいことは言えた?」

アン「うん! イズル先輩っていい人なんだねー」ニコニコ

スルガ「イズルがいい人ねぇ」

タマキ「ただの天然ボケなのにー。どこがいいの?」

アン「えー、優しくってかっこいいじゃないですか」

アサギ「かっこいい、ねぇ」

アンジュ「まぁ、アンは感性が独特なところがありますから」

ユイ「確かにそうね」

アン「えー二人ともひどくない?」

638: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:08:08.79 ID:nvw37pnR0
チャンドラ「まぁしかし、イズルもリーダーとしてはだいぶ成長したものだな」

イズル「え、そうですか?」

スルガ「あー、確かに。前に比べりゃもうちょいリーダーっぽくはなったのかねぇ」

アサギ「最初の頃は皆勝手だったしな。今はイズルが中心でよくなったと思うけど」

タマキ「一番勝手だったアサギに言われたくないのらー」

アサギ「う……」

ケイ「ま、まぁ。とにかく、イズルもリーダーらしくなったってことじゃない」

アンジュ「そうですね。イズルさんはチームラビッツのリーダーですよ。間違いなく」

クリス「それって最初からそうなんじゃないのか?」

ユイ「そういう意味の言葉じゃないでしょ」

639: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:09:35.44 ID:nvw37pnR0
セイ「リーダー……」

イズル「? どうかした?」

セイ「あの、イズル先輩。リーダーって、どうすればいいんですか」

イズル「へ?」

セイ「いえ、その…今回の作戦、俺、敵を通さないように、って頑張ったけど、失敗しちゃって…どうすれば、もっとうまくいったのかな、って」

パトリシア「そんなに気に病むことはないわよ。今回の初陣だって、しっかり指示できてたと思うよ?」

セイ「そ、そうでしょうか」

チャンドラ「ああ。私とパトリシアで保障しよう」

イズル「うーん。リーダー……あ、そうだ」

セイ「は、はい」

イズル「これは、その、人から教えてもらったことで、僕の言葉じゃなくて悪いんだけど、でも、たぶん大事なことだから」

セイ「大事なこと、ですか?」

イズル「うん。――決断する、諦めない、仲間を信じる。これが、皆と戦う上で大切なことだよ」

640: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:10:33.21 ID:nvw37pnR0
セイ「決断する、諦めない、仲間を信じる…」

イズル「うん。これを教えてくれた人はね、とっても頼りになって、まさにリーダーって感じの人だったんだ。その人の言葉を信じて、僕は皆と一緒に頑張ってきた。君は、仲間のこと信じてる?」

セイ「それは…もちろん。皆、それぞれ操縦技術は高いし、連携だって…」

イズル「じゃあ大丈夫! 君はきっといいヒーローになれるよ」

セイ「え? ひ、ヒーロー、ですか?」

イズル「うん! だって、僕もヒーローになれたからね!」

アサギ「ヒーローになってどうするんだよ。その子はリーダーになりたいって言ってんだろ」

イズル「あれ? あ、そっか」

スルガ「まったく、やっぱリーダーとしちゃまだまだだねー、ウチのヒーローは」

タマキ「ホントなのらー」

641: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:12:24.78 ID:nvw37pnR0
チャンドラ「決断する、諦めない、仲間を信じる、か」

パトリシア「? どうかした? チャンドラ?」

チャンドラ「いや。このチームの前のリーダーは、ガッカリなだけではなかったらしいことが分かって、な。少しだけホッとしたよ」

パトリシア「……ああ、そういうことだったの」

イズル「ええと、まぁ、とにかく。これからも頑張ってね!」

セイ「…はい。俺、イズル先輩に負けませんから」

イズル「へ? …そっか。君もヒーローになりたいんだね! 僕も負けないよ!」

セイ「いえ、あの、そういうことじゃなくて…」チラッ

ケイ「……あの、ホントにいらない? 結構自信作なんだけど…」

ユイ「い、いえ。私、今お腹いっぱいで…」

パトリシア「あら、じゃあ私がいただこうかな♪」

タマキ「ぱ、パトリシアさん! それより塩辛一緒に食べる約束だったのら!」

イズル「? ケイがどうかした?」

セイ「い、いえ。何でもないです」

642: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:13:20.64 ID:nvw37pnR0
チャンドラ「…ふむ、新しい世代、か」

アサギ「どうかしましたか?」

チャンドラ「いや、この先も地球は心配なさそうだと思ってな。正直、君たちのような存在が出てくるまで、私たちくらいしかまともに戦える人材がいなかった頃を思うと、不思議な感覚だよ」

アサギ「…でも、まだまだチャンドラさんみたいな先輩がいないと。俺たちも、後輩なんてどうすればいいか分からないですし」

チャンドラ「ああ、いや、引退しようってわけじゃないんだ。ただ、イズルのようなやつがいて、よかったと思ってね」

アサギ「そう、ですね。アイツがいたから、俺たち、ここまで来れましたから」

チャンドラ「願わくば、イズルにはあのガッカリリーダーのように、あとから来る者たちを引っ張ってほしいものだ」フッ

アサギ「ええ。きっとできますよ、イズルになら」フッ

643: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:14:45.15 ID:nvw37pnR0
イズル「お兄ちゃん! ケイのケーキ一緒に食べない?」

パトリシア「ううっ…チャンドラー、ちょっと助けてー」ウヘー

タマキ「だから言ったのにー…」

チャンドラ「ご指名のようだぞ? お兄ちゃん?」

アサギ「チャンドラさんまでそれはやめてください…ああ、食べるよ。……ちょ、ちょっとだけ、な」

チャンドラ「……」

ラビッツ「」ワイワイ

フォーン「」ワイワイ

チャンドラ(見てるか、ランディ、パトリック。俺たちだけで頑張ってきたあの頃とはだいぶ変わったぞ。だから、安心して休んでいることだ)

パトリシア「チャンドラー……」

チャンドラ「ああ、今行くよ。…まったく、ただのケーキで何をそんなに……」ヤレヤレ

644: ◆jZl6E5/9IU 2017/01/20(金) 20:17:12.02 ID:nvw37pnR0
おしまい。レンタルの方は知りませんが、劇場版マジェスティックプリンス、ブルーレイ発売おめでとうございます。
劇場では見れなかった方も今頃劇場で見てきた人たちと同じ興奮を味わっていることだと思います。
では、またいつか。よければまたネタふりしていただけるとありがたいです。

648: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 20:53:47.28 ID:R7emCxWW0
目の前で敵の機体が激しい明滅と共に大きな爆発音を響かせ消失したその瞬間、私は思わずブリッジの席で立ち上がっていた。

圧倒的な戦力を以て、直属の部下である教え子たちを苦しめていた敵だった。
今行われた、決死の一撃で本当に倒せたのか、教え子たちは無事だろうか、といろいろな要因で焦っていたのだ。

戦場の中継映像が爆発で埋まっていたのが一転、見慣れた富良野の青空に変わってから、やっと私は呆然と映像を見守っていたところから意識を戻し、オペレーター二人に声を掛けた。

「敵は?」

「……反応、消失しました。グランツェーレに敵の残存戦力は確認されません」

「……こちらもチームフォックスから入電です。宇宙の残党の方も片付いた、と。センサーにも敵の残存戦力は確認されていません。……勝利、ってやつですね」

私の質問に、オペレーターたちはそれぞれに答える。
それから、立ち上がった私に向かって、何やら言いたげに意味深な微笑みを浮かべた。

「やったわね、リンリン」

その意味を考える前に、隣からレイカが喜びの声を上げる。
そうだ。まさしく今、これまで長く続いた戦争の、ちゃんとした終局を、私たちは目の前にしているのだ。

649: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 20:54:27.16 ID:R7emCxWW0
「ええ……っ、チームラビッツは?」

レイカに頷いてから、私ははっとしてもう一つのことを尋ねた。
敵がいなくなったことはいい。教え子たちは、彼らは無事なのだろうか。

すると、ジュリアーノは笑みを崩さないまま、何でもなさそうにあっさりと答える。

「全員の生命反応が確認できてますよ。何なら通信も繋ぎますか?」

「……そう」

その言葉にようやく私は力を抜くと、そのまま脱力感と共にすとんと席に倒れこむように座った。

……皆無事で、本当によかった。

安堵感やら達成感やら、生徒たちの成功への誇らしさなども感じつつ、私は大きく息を吐いた。
アサギの撃墜、まだまだ体調の万全ではないイズルの出撃、もはや打つ手の無いような状況の、ギリギリの賭けのような攻撃。
正直、気が気でなかった。

650: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 20:55:56.06 ID:R7emCxWW0
「ふふ、よかったわねー、リンリン?」

「え、ええ……?」

何故か少し、というか大いにからかうような笑みを浮かべて、レイカは私の顔を覗き込んだ。
戦いに勝って、笑みを浮かべるのは分かるけれど……さっきから何故、このブリッジクルーたちは私に意味深な笑顔を見せるのだろうか。

と、そう思っていると、レイカは続けてこう言った。

「帰ったら抱きしめてあげたらー? もう、そんなに心配しちゃってさー」

「そうですねぇ。それがいいんじゃないですか? 何というか、母親みたいで」

「おいおい、そう言ってやるなよ。スズカゼ艦長は本気で心配していらしたんだぞ?」

レイカたちの声を聞いて、ようやく彼らの、私に対するおかしな様子の理由に気付いた。
さっきから私が、生徒たちに対して思い切り私情を態度に出していて、それがおかしかったのだ。

651: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 20:56:53.32 ID:R7emCxWW0
イズルが出撃する時に、私、何て言った?
私情に流されないように? それはどの口が――

その事実に気付いた途端、私は急激に顔の辺りから頭のてっぺんまで熱を感じて、言葉に窮した。
たぶん、とんでもなく人に見せられないような顔をしていたことだろう。
恥ずかしさのあまり、目尻に少しの水分を感じてしまった。

とはいえ、黙っているわけにもいかない。

「――あ、あなたたち! 私は上官なんだから、からかうのはやめなさい!」

とりあえずどうにか口を突いて出てきたのは、そんな言葉だった。

「はーいスズカゼ艦長ー」

「いやはや失礼しました、つい艦長の様子につられてしまいまして」

「すみません。勝利の喜びで口が滑ったんでしょう。見逃してください」

やれやれ、と言わんばかりに彼らは私にテキトウな調子で答えを返すと、それぞれに仕事に戻った。
ここで言い返すと何だか負けた気がしてしまい、私も何も言わず、状況を改めて確認する。

652: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 20:57:44.68 ID:R7emCxWW0
作戦は終了。とにもかくにも、終了したのだ。これからは事後処理の時間。
まずは現場の確認を――

と、そこですべきことを考え、私は指示を飛ばした。

「チームラビッツに連絡は取れるかしら?」

「はい。他の機体は覚醒状態の消耗が激しく装備に問題がありますが、レッドファイブの通信はまだ生きています」

「では繋いで」

「了解しました。画面、出ます」

オペレーターたちはすっかり仕事をする顔に戻り、私の命令に従い、彼らのリーダー――イズルへと通信を繋ぐ。
少しの間を置いて、モニターに先ほど問答をしたばかりの少年が、明るい笑顔で現れた。

653: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 20:58:35.87 ID:R7emCxWW0
『こちらレッドファイブ! ゴディニオン、聞こえますか?』

屈託の無い笑みだった。まるで体調が万全ではないことを窺わせない、彼らしい。
そのことに内心でまた軽く息を吐きながら、私は答えた。

「こちらゴディニオン。レッドファイブ、そちらの状況を――何?」

と、そこで隣からレイカに肘で突かれて、言葉が途切れる。
見ると、彼女は呆れたような顔をしていた。

「まずはちゃんと褒めてあげなさいよ。リンリン、堅苦しすぎ」

「何言ってるのよ? 今はまだ作戦行動中なんだから――」

「いいじゃないのよ、ちょっとくらい。もう戦いは終わったんだしー。イズルちゃんだってさー、少しはリンリンに褒められたら喜ぶわよ?」

レイカの非難するような細まった目を見つめながら、私は反論しようとして、言葉に詰まった。
いくらでも返す言葉はあるのに、不思議とそれが喉元から出てこない。

654: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 20:59:34.18 ID:R7emCxWW0
『? 艦長? スズカゼ艦長?』

私の返答が途切れて、イズルが不思議そうに首を傾げているのが横目でチラリと確認できた。
レイカはもう一度、私の脇を肘で突くと、小さくウィンクした。

……わ、分かったわよ。言えばいいんでしょ、言えば。

イズルの無事、作戦の成功、私情を挟まないように、イズルの無事……様々な言葉がめくるめく葛藤と共に、私の脳内を駆け回るのを感じながら、私は、こほん、と咳払いを一つした。

『艦長?』

「な、何でもないわ。全員、無事ね?」

『はい! 僕、今度は約束を守りましたよ!』

私の質問に、イズルは誇らしそうに、嬉しげな笑みを向けてくる。
その姿はまるで、母親にいいことをした、と褒められた幼い子供のようだ。
そんな彼の純粋な反応に、私は、なおさら彼を褒めなくてはならないな、という気持ちに駆り立てられてしまった。

655: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:00:36.07 ID:R7emCxWW0
「そ、そう。……その、イズル」

『はい?』

私の呼びかけに、イズルはどうしたんだろう、というように、私のどこかおかしな様子に感づいているのか、怪訝な声を上げる。

……言え、言うのよ、スズカゼ・リン。これくらい、簡単なことでしょう。ちょっと二、三言、告げるだけでいいんだから。

伝えたいことを、どう表現するか必死になって頭を捻る。捻りに捻って、そして。慣れない言葉を、口にした。

「――よく、やったわね」

たった一言だけ、漏らすように告げた。
頭の中ではいろいろと考えていたのに、出てきたのは、そんなシンプルな言葉だけだった。

また顔が熱くなってきたように錯覚して、私は顔をイズルから背けた。
逸らした方向では、レイカが笑っている。
さっきのようなイジワルな笑顔ではない。眉尻を下げて、見守るような温かな笑みを浮かべていた。

656: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:01:17.37 ID:R7emCxWW0
そして、言われた方のイズルはといえば、

『え? ……ええっと、ありがとうございます!』

特に私の葛藤など知る由もなく、彼は、ただ言われた言葉を素直に受け止めて、満面の笑顔でこちらを見ていた。

……その真っ直ぐさ、羨ましいわ。

そう思いながら、私は少しだけ心が落ち着いてくると、こほん、ともう一度咳払いした。
ここからは、ちゃんと仕事をせねばならない。

イズルにいくつかの指示を出してから、チームフォックスにも命令を与え、ラビッツととりあえず合流させることにした。
その間に、グランツェーレの方にも通信を繋ぎ、同期のスギタに若干の八つ当たりじみた説教と、それから事後処理の相談をした。
さらにはGDFで現場の指揮を取るアマネ、MJPの司令であるシモン司令にも連絡をし――

「……では、これよりゴディニオンは向かっているスターローズⅡとの合流をします」

『ああ。合流後はチームラビッツ、およびチームフォーンのメディカルチェックをまず行うように』

シモン司令との通信を終え、私はそこで肩の力を抜いて、座っている席に身を預けた。
これで、とりあえずは一通りの連絡は終えたはず。

657: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:01:59.98 ID:R7emCxWW0
「おつかれ、リンリン」

「ええ……」

労うレイカの声に、雑な返答をしながら、私はぼうっと艦のモニターを眺める。
いろいろと連絡を取っている間に、どうやらチームラビッツたちが宇宙へと上がってくるようだ。
他にもいくつかの情報が映っていたけれど、私の目はその情報から離れないでいた。

「そろそろウサギちゃんたち戻ってくるって。見に行きましょ?」

「いや、まだ事後処理が……」

レイカの誘いに乗りたかったのは事実だけど、まだまだやるべきことがたくさんある。
今回の作戦の被害の確認、補填、それから――

「残りは事務仕事ですよ、それぞれ数字が出るまでまだ時間はあります」

「ちょっとした計算なら、我々だけで十分です。出てきた数字に対する行動は、艦長の仕事ですけどね」

と、気遣うような調子で、オペレーター二人がそれぞれ連携して声を掛けてくれる。

658: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:02:28.95 ID:R7emCxWW0
「いや、しかし――」

「いいじゃないの、ここはありがたく任せなさいな」

「レイカ……でも」

諭すようなレイカの言葉に、私は反論しようとした。
しかし、それよりも早く、彼女は私の唇に人差し指を押し当てると、片目を閉じた。

「それにさー。そんなそわそわした様子で仕事なんて、手につかないでしょ? ここは一回、ウサギちゃんたちに会って、落ち着きなさいって」

「う……」

見抜かれていたか、とぎくりとしながら、私はそっと目を逸らした。
逸らした先で、オペレーター二人が親指を立てていた。……どうやら、皆お見通しらしかった。

「……お願いね、ジュリアーノ、ジークフリート」

素直に負けを認めると、私はゆっくりと立ち上がった。
隣ではレイカが、それでよろしい、と言いながら、先にブリッジから出て行く。

オペレーター二人の、行ってらっしゃい、という声を背に、私もそれに続いた。

659: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:03:27.19 ID:R7emCxWW0



スターローズⅡに合流した艦から出ると、私とレイカは格納庫へと向かった。

イズルに関しては、レッドファイブプラスの大気圏突入能力のテストと整備も兼ねて、彼だけ機体で宇宙に上がってもらったが、他のチームのメンバーはそうはいかない。
イズル以外の機体はボロボロになっていたし、一部を除いて宇宙に上がることはできないので、彼らはシャトルを使って地上からスターローズⅡへと合流する手はずになっていた。

まだ新造のスターローズⅡには軌道エレベーターもなく、当然のことだった。

そして、そんなスターローズⅡの格納庫は、私とレイカが辿り着く前に、大盛況だった。
どうやらピットクルーたちが、無事に帰ってきた彼らを温かく出迎えているらしかった。

660: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:04:01.72 ID:R7emCxWW0
格納庫の外からでも聞こえる元気な声に、私はぽつりと感想を述べた。

「……皆、嬉しそうね」

「当たり前でしょー。あの子たちは、家族みたいなものなんだから」

「家族、か……そうよね」

入口の隔壁の前で立ち止まって、私はその言葉の意味を深く考えようとした。
あの子たちに本当の家族など、例外を除けばいない。だけど、こうして迎えてくれる人々がいる。

私には、ああやって温かく迎えるようなことは、きっとできないだろうな。

……と、いろいろと頭に考えを浮かべたけれど、特に意味はない。
単に、温かく盛り上がっている空気の中に、今さらになって踏み込むのがちょっと躊躇われただけだ。
これまで厳しく接してきた私が、あんな風にできるのだろうか、と。

661: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:04:43.35 ID:R7emCxWW0
しかし、そんな私の考えなどお見通しなのか、レイカが私の肩を叩く。

「ほらほら、リンリンも混ざりに行きましょ」

「ちょ、やだ、押さないでよ」

とん、と背中を押されて、私は若干のつまずきを感じながら、反応して開いた隔壁を潜り、彼らの前へと出た。

「あ、スズカゼ艦長!」

輪の中心にいたというのに、少年――イズルはあっさりと私の姿を人々の間から見つけると、すぐに近付いてきた。
それにつられるように、彼の仲間たち――アサギ、ケイ、スルガ、タマキ、アンジュ――皆が、嬉しそうに歩いてくる。

662: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:05:14.60 ID:R7emCxWW0
「あ……その、ええと……」

目前にやってきた彼らの姿を確認して、私は何か言おうと頭の中で言葉を作ろうとする。
が、どれも浮かんでは泡となって弾けて消えてしまい、どれ一つとして、発することができない。

どうしよう、言いたいことがたくさんあるのに。何も喋れない。
心の中で勝手に混乱しながら、私はただ前を見ていた。
目の前では、私の生徒たちが、私が何を言うのか、と言葉を待っていた。

その様子を見て、なおさら混乱が増していく。
落ち着け、と必死に冷静になるように自分に呼びかけても、まったく効果がない。

663: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:05:55.04 ID:R7emCxWW0
「――んもう、もどかしいんだから!」

え。

突然に衝撃を背中に感じて、私はまた、前へと押し出された。
チラリと後ろを見ると、両の手を無駄に大きな胸の前で突き出している、親友の姿が確認できた。
しかし、その認識も一瞬で。

「わ、艦長、危ない!」

と、イズルの声が、すぐ近くで聞こえた。
それと同時に、飛び出した私の身体に、一つの感触がした。
床ではない。温かくて、少しだけ硬かったけど、柔らかい感触。

――人間の、感触だった。

664: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:06:36.64 ID:R7emCxWW0
「あ……」

勢いで投げ出された腕が肩を掴み、そこに身体が預けられる。
頭がポスン、と埋まってしまう。誰のなんて、考えなくても分かる。
収まったところから顔を上げてみれば、心配そうなイズルの顔があった。

「ご、ごめんなさい。ありがとう」

言いながら、私はイズルの顔を見上げた。
たぶん、私は眉を寄せて、困ったような顔をしていた。

……レイカ、後で覚えときなさいよ。

そう思った私は、しかし、先ほどまでの混乱が治まってきていることにも気付いていた。
……やっぱり、後でお礼を言おう。

665: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:07:33.91 ID:R7emCxWW0
それから、私は一度イズルの肩に乗せた手を離し、少し距離を取った。
イズルは苦笑しながら、私のことを、出撃する時と変わらない、真っ直ぐな瞳で捉えていた。

そうだ。イズルはずっと、真っ直ぐに行動してきた。
迷いも躊躇いも振り払って、ずっと。

なら、私もそうやって応えよう。

するべきことを認識し、私は決心すると、迷いなく行動に移った。

666: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:08:11.58 ID:R7emCxWW0
目の前の少年に、手を伸ばす。
今度は人の力なんかじゃない、自分の力で。

伸ばした手は肩を越え、背中に回る。
イズルはただ、私を見ていた。

私は背中に回した手に力を込めた。
この気持ちを、伝えるために。

そして――


私は、そのままイズルの身体を引き寄せ、強く、抱きしめた。

667: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:08:52.29 ID:R7emCxWW0
身体と身体が触れ合う。胸元からは心臓を伝わって、生命の鼓動が伝わる。
物理的な感覚だけではない。気配、と言うだろうか。

イズルがそこにいることを、私の身体は余すことなく伝えてくれていた。

周りにたくさんの人がいることも気にかけず、私は抱きしめた彼の耳元へと口を近付け、ただ、一言、告げた。

「――お帰りなさい、イズル」

なるべく私なりに優しく伝えたつもりだった。
何よりも言いたかった、大切な言葉を。

668: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:10:58.21 ID:R7emCxWW0
私の声を耳にしたイズルは、びくりと身体を少しだけ震わせた。
それから、ゆっくりと自らの手を伸ばして、私の背に当てて、同じように力を込めて引き寄せた。

「――はい、ただいま、スズカゼ艦長」

私の胸の中で、イズルがそう返したのを聞いて、今度は私の身体がびくりと震えた。
その震えは足元を伝わって、身体を上っていき、そして、脳へと到達した。

必死にその感覚を抑えようとしているのに、脳は聞いてくれず、むしろそれを助長していた。

目に、唇に。顔全体へと震えは伝わり続けて。

その感覚が、私の瞳から一筋の液体を、零すように流させていく。

それがいったいどういうことか、分からないわけはなかった。
しかし、今は。

私は誤魔化すようにイズルの頭に顔を埋めた。
今はただ、この温もりを確かめていたかった。

何よりも失うのが怖かった、大切な生徒の――

669: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/01(水) 21:14:33.21 ID:R7emCxWW0
おしまい。映画でもリンリンはヒロインでありおかん枠でした。
それはそうと最近、残り三百レス近くが埋まる気がしなくなってきました。
もしかしたら急に終わるかもしれませんがそのときはそのときでお願いします。

ではまたいつか。

672: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 00:50:09.07 ID:eH2iignl0
笑う門には福来る

スターローズⅡ――食堂

タマキ「待機任務飽きたー…いつまでここで過ごすのー?」グデー

ケイ「さぁ…上の人たちが必要ないって決めるまでじゃない?」

スルガ「機体が壊れちゃ困るからって特に訓練もなし、自主トレ以外はメシ食ってダラダラ過ごして…」

アサギ「勲章授与とかは決まったけど……それも結局、完全に戦いが終わったって宣言されるまではお預けだしな」

アンジュ「とりあえず、このまま戦いがないことを祈るばかりですね……」

タマキ「っていうかイズルはー?」

ケイ「検査ですって。まだ身体が本当に大丈夫かは分からないから」

スルガ「ふーん……お、噂をすれば」

673: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 00:51:26.29 ID:eH2iignl0
イズル「皆、ただいま」

ケイ「お帰りなさい。どうだった、検査?」

イズル「うん。とりあえず今のところは大丈夫だって。…何の話してたの?」

タマキ「退屈ー、って話ー」

スルガ「特に何のイベントもねーまま、ダラダラ過ごすのに飽きてるっつーことだな」

イズル「ふーん…じゃあトレーニングでも」

タマキ「やーだー。もっと楽しいことがいいのらー」

アサギ「楽しいことねぇ……」

イズル「何かあるかな?」

シオン「おっす! なーにダラついちゃってんの?」

スルガ「お、お姉さん! ああ、戦いばかりで荒んだ僕の前に現れたお姉さんはまさしく、窮地の補給ぶっし!?」ゴーン!

シオン「はいはい……で、どーしたの? 我らが英雄、チームラビッツが、何をそんな悩ましげにしてるの?」

イズル「や、実は……」

674: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 00:52:44.14 ID:eH2iignl0



シオン「ふーん…退屈ねぇ」

タマキ「何かないー?」

シオン「……」ウーン

アサギ「あ、いや、無理に付き合わなくても…」

シオン「そーだ!」ピーン!

タマキ「おお、なになにー!」

シオン「今日ね、日本だと節分の日なの。よかったら豆まきでもやらない?」

タマキ「ほえ? せつぶん?」チラッ

アンジュ「節分というのは、日本の特別な暦日のことですね。各季節、つまり春夏秋冬の前日の区切りの日を元々は意味していますが、今はだいたい立春の前日を指します」

アサギ「豆まきっていうのはあれだな、その日に行われる行事の一環で、厄払いの願掛けなんだとか」

ケイ「昔は、季節の変わり目に邪気が現れると言われていて、それを退治するためにいり豆を投げたのだそうね」

タマキ「ふーん…何で豆なのら?」

シオン「その昔、豆を使って悪い鬼を退治したっていう伝説があるんですって。ゲンかつぎみたいなものね」

675: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 00:53:33.75 ID:eH2iignl0
イズル「へぇ…何だかおもしろそうですね! マンガにも使えるかな?」キラキラ

アサギ「それは分からないけど…まぁ、とにかくちょっとした願掛けみたいなモノだよな、無病息災とか、そんな感じの」

ケイ「それはいいわね。私、やりたいわ」

タマキ「ケイがそう言うならやるのらー。楽しそーだし」

スルガ「そういうことなら俺も」

アンジュ「わ、私もやります」

676: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 00:54:08.61 ID:eH2iignl0
シオン「じゃ、決まりね。場所は……」

イズル「お兄ちゃんの部屋にしましょう! お兄ちゃん、今回だけでかなり悪い目に遭ってるし」

アサギ「おい!」

スルガ「確かにそれがいいや。アサギ、お前一回そういうのやっといた方がいいって」

タマキ「それもそうなのらー」

アンジュ「そうですね、アサギさんが一番ひどい目に遭いましたし」

ケイ「そうね…ついでに私たち皆の分も願掛けしましょう」

アサギ「お、お前らな…」

677: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 00:54:44.71 ID:eH2iignl0
シオン「あはは、じゃあ決まりね。私、豆を持ってくるから。ええと、節分の準備は…」

アンジュ「あ、私がやります。多少知識はありますから」

シオン「じゃ、お願いね。後でー」タタッ

スルガ「……うし、じゃ行くか」

イズル「うん。…ようし、皆でお兄ちゃんの厄払いをしよう!」オー!

タマキ「おー!」

アンジュ「お、おー…」

アサギ「お前までこいつらに感化されなくていいからな、アンジュ……」イガー

678: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 00:55:48.30 ID:eH2iignl0



スターローズⅡ――アサギの部屋

アサギ「……で? これは何だ?」

スルガ「何ってお前、鬼のお面だよ」

アサギ「んなこた言われんでも分かる。何で俺に被せたんだって聞いてるんだよ」

タマキ「アンジュがさっき言ったのら。誰か鬼役の人を用意して、豆をその人に投げる、って」

アサギ「それが何で俺なんだよ!」

679: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 00:56:31.93 ID:eH2iignl0
イズル「や、だって、お兄ちゃんが一番運が悪かったわけだし」

ケイ「アサギが鬼になることで、その鬼を完全にアサギの中から追い払おう、ってことね」

アサギ「……何か、理不尽なんだけど」

アンジュ「あの、そういうことでしたら代わりましょうか?」

アサギ「い、いや、いい。さすがに後輩にやらせるのもな」

シオン「お待ちー。お、アサギくんが鬼役?」プシュッ

アサギ「はい…何かよく分からんうちに」

アンナ「アサギが鬼で大丈夫かー? すげぇヘマしそうな鬼だなー」

アサギ「あのう、何でこいつもいるのでしょうか?」

アンナ「シオンとそこで行き会ってさー。何か楽しそうだし」

シオン「いいじゃなーい。アンナちゃんにもアサギくんの厄を落としてもらいましょ?」

アンナ「おう! 私がアサギを災難から守ってやるぜ!」

アサギ「ははは……ドウモアリガトウ」

イズル「ええと、じゃあ、始めようか」

680: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 00:57:26.57 ID:eH2iignl0



シオン「それじゃまず、鬼から!」

アサギ「が、がおー。鬼だぞー」

スルガ「アサギー、もっとやる気出せよー」

タマキ「そんなんじゃ迫力足りないのらー」

アンナ「そーだそーだー」

アンジュ「仮にも鬼なんですから…」

アサギ「あーうるせーな! 分かったよ! ……がーっ! 鬼だー! お前ら全員不幸にしてくれる!」

681: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 00:58:13.03 ID:eH2iignl0
イズル「ようし、お兄ちゃんに巣食う悪い鬼は、ヒーローとして僕が退治するよ!」

ケイ「がんばって、アサギ! 私たちでアサギの悪い運をどうにかするから!」

アサギ以外「鬼はー外ー!」パラパラッ

アサギ「ぐわっ! お、おのれお前ら!」

タマキ「もっと投げるのらー!」

アサギ以外「鬼はー外ー!」パラパラッ

アサギ「いてっ、お、おい。もうちょい加減しろよ! …え、ええい、覚えていろ!」プシュッ

682: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 00:58:58.59 ID:eH2iignl0
シモン「む?」バッタリ

アサギ「あ」

シモン「……」

アサギ「……」

シモン「……節分、か」

アサギ「」カァッ

アサギ「あ、あの、いえ、これは、その……」

イズル「あ、司令! 司令もご一緒にどうですか? 豆まき」

シモン「いや、遠慮しておこう。…ではな」カツカツ

683: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 00:59:34.75 ID:eH2iignl0
スルガ「クールだねー司令は。……ん? どしたアサギ?」

アサギ「い、いや……も、もういいだろ、鬼は」

シオン「んー、そうね。じゃ、次は皆で部屋の中に豆をまきましょう」

タマキ「何で? 鬼にぶつけるんじゃないの?」

アンジュ「いえ。中にまくと今度は福を呼び寄せるんだそうです」

タマキ「ふーん…」

イズル「じゃ、まこうか。悪いことはなくなって、いいことが起きるように」

シオン「うんうん。じゃ、行くわよー」

全員「福はー内ー!」パラパラッ

684: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 01:00:20.15 ID:eH2iignl0



シオン「いやーお疲れ様。久しぶりだわ、豆まきなんて」ポリポリ

タマキ「ねーなんで豆を年齢より一つ増やした数食べるのら?」ポリポリ

アンジュ「詳しくは分かりませんが、身体が丈夫になって病気しなくなるそうですよ」ポリポリ

イズル「へぇ……じゃあ僕、ちゃんと食べないと」ポリポリ

ケイ「そうね…あんなことが、もうないようにするためにも」ポリポリ

スルガ「願掛けはいーけどさー……豆十七個はけっこー飽きるな」ポリポリ

アサギ「そうだな…水が欲しくなる」ポリポリ

イズル「来年になったらもう一個増えるんでしょ? 三十歳くらいになったら大変そうだね」

アサギ「確かに…正直しんどいだろうな」

アンナ「めんどくさがらずに食えよアサギ! これだけで運がよくなるならいいじゃんか!」ポリポリ

アサギ「ホントに効果あるのかねぇ……」

イズル「ダメだよお兄ちゃん! せっかくアンナちゃんが心配してくれるんだから」

アサギ「はいはい…あとお兄ちゃんはいい加減やめろって」ポリポリ

685: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 01:01:04.36 ID:eH2iignl0



テオーリアの部屋

テオーリア「ダニール、準備はよろしいですか?」

ダニール「は。問題ありません」

テオーリア「では…鬼はー外ー!」パラパラッ

シモン「……」パラパラッ

テオーリア「福はー内ー!」パラパラッ

シモン「……」パラパラッ

テオーリア「…ふぅ。これで終わりなのですか?」

シモン「はい。後は、豆を年齢に一つ足した数を食べれば」

テオーリア「まぁ。それだけでお腹が膨れてしまいそうですね」ポリポリ

シモン「そういう慣例ですので」ポリポリ

テオーリア「どうして急にこれを教えてくれたのですか?」

シモン「いえ……人がしているのを見かけて、思い出したものですから」

テオーリア「なるほど……誰なのか何となく分かりました」ホホエミ

シモン「……ご想像にお任せします」

686: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 01:04:37.88 ID:eH2iignl0



イズル「来年もやろうね、豆まき!」

アサギ「とりあえず次は鬼役は勘弁してくれ…」

ケイ「そうね、アサギももう十分悪い運が落ちたでしょうし」

アンナ「えー、じゃあ次は誰がやるんだ?」

アンジュ「あ、じゃあ私がやりますよ」カブリ

タマキ「あはは、アンジュがやっても怖くないのらー」

アンジュ「……誰が怖くないって?」

スルガ「へ?」

アンジュ「おらおらお前ら! 鬼様のお出ましだ! おとなしく豆を寄越せ!」ウガー

イズル「うわっ、急に始まった!」

アサギ「鬼が豆を所望してどうすんだよ! っつかどこでスイッチ入ったんだ!?」

ワイワイガヤガヤ…

687: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/04(土) 01:05:45.03 ID:eH2iignl0
おしまい。勢いで思いついたままでした。
コタツを囲んで豆を食べてる子ウサギを思い浮かべてもらえば幸いです。
ではまたいつか。

690: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 20:54:07.88 ID:laTvHUDH0
新宇宙暦八十八年。宇宙へと進出を始めた地球人類は、謎の侵略者ウルガルによって、未曾有の危機にさらされていた。
地球にはまるで存在しない圧倒的な技術を誇る強大な敵に対して、地球側は、ある禁忌へと手を染めて対抗を始めた。
遺伝子改造による、人体の強化だ。

私――パトリシア・ホイルは、その研究の一人として、生まれた後に肉体に手を加えられ、通常の人間よりも強化されて、現在地球の兵士として戦っている。
私と同じような人間はたくさんいて、MJP機関というところで養成された。
第二世代、と位置づけされるらしい私たちは、MJPの士官学校を卒業した後、全地球防衛軍――GDFに配属され、地球のために戦う兵士として日々を過ごしている。

が、私は今、少しばかり休養中だった。
最近行われた大きな反攻作戦――ケレス大戦、とか公式には呼ばれている――で、敵の弾に被弾し、ちょっとした怪我を負って、GDFの医療施設で治療に励んでいるところだ。

怪我のおかげ、というと、今も命がけで戦う仲間たちに申し訳ないけれど、とにかく、私はそういう理由で、危険な前線から遠く離れていた。
日々を治療とリハビリに捧げ、あとは精々が遠い戦地からの戦況報告を眺めているだけで、私は戦時中だというのに平和な時間を過ごしていた。

もちろん、個人的にはいい気分じゃない。しかしながら、ろくに動かない身体で戦場に出たところで、役に立つわけもない。
だから大人しく、私はひたすらに治療に励んだ。幸いなことに、私はまだ生きている。
これまで、過酷な戦いの中で、多くの仲間たちは私のように治療することもなく、死んでいったのだ。
無理をして彼らの仲間入りをしてしまっては、それこそいなくなった彼らに申し訳ない。

691: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 20:55:21.74 ID:laTvHUDH0
話が長くなってしまったが、とにかく、私は毎日毎日、施設のベッドの中で怪我からの回復を待ち続けていた。
歩けるようになってからは、身体を動かすようにいくらかリハビリを続けた。

たったそれだけの、特筆するようなこともない日々だったけれど、唯一、特別なこともあった。
弟との、通信だ。

弟といっても、大して年は離れていない。双子なのだ。
だから弟というのも少しばかり不思議だ。ちょっと生まれるのが早かっただけなのだから。
しかしながら、事実として彼は弟らしく私のことを姉として慕ってくれているし、私も、そんな彼を弟として受け入れている。

だから、まぁ特に問題はないのだろう。

弟も、私と同じくGDFで一士官として戦っていた。
同じGDFの中でも、エースチームとして活躍していて、その噂は私にもよく届いていた。
誇りに思える、いい弟だ。少しだけ天然で抜けてるところもあるけれど、優しい、本当なら戦いなんて無縁そうな子だった。

692: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 20:56:03.67 ID:laTvHUDH0
彼は入院している私を心配し、時間ができては通信をしてくれた。
その度に、私はまるで彼が見舞いに来てくれているようで嬉しくて、何もない生活にも少しの潤いというのか、味気というのか、そういうものが出ていた。

彼とは、様々なことを話していた。実家の両親のこと、弟の同僚で、先輩でもある二人のこと、戦いのこと。
いつもいつも、時間ギリギリになるまで話をした。
そこが唯一、戦時中でも存在した、大切な姉弟の時間だったのだ。

ある日、私は普段のように弟との通信を始めた。
今日も今日とて、また彼の日々のことを聞かせてもらうことになるのだろう。先輩たちとの何気ない会話や、最近遂行した作戦のこと。
そんな聞き慣れた話題で、姉弟二人、気軽に笑い合う。そう、思っていた。

しかし、その考えはまったく予想していなかった言葉で、裏切られた。
弟の、ある告白によって。

693: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 20:57:13.45 ID:laTvHUDH0
――姉さん、姉さん、聞いてる?

机に広げた端末の、画面越しに掛けられた声に、私は、はっとぼんやりしていた意識を向けた。
すっかり聞くだけに集中していたはずなのに、考え事に気を取られていた。

「ごめんごめん、えっと、もう一回さっきの聞かせて?」

謝りながら、私はもう一度同じ内容の話を通信相手の弟に尋ねた。
そもそも、弟の話の内容が意外すぎて、考え事に耽ってしまったのだ。

私の声に、弟は、しょうがないなぁ、と言いながらしかし、どこかその内容をもう一度告げられることを嬉しそうにすると、朗らかに告げた。

『ですから、好きな人ができたんです。僕』

694: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 20:57:57.49 ID:laTvHUDH0
やっぱり私の耳に聞き間違えは特になかったらしい。
そう思うと同時に、内心の驚きも少しは軽減されたようだ。
さっきよりは考え事に気を取られないで済んだ。

「……へぇ。どんな子? 年上? 年下?」

とりあえず興味を持ったので聞いてみることにした。
あの弟――パトリックが、恋だなんて。何だかふわふわした態度で、正直まだまだ幼い印象の弟だったけれど、もうそんなことを考えるようになったのだ。
いや、齢二十二にもなって、そんなの当たり前のことだとは思うけれど。
私も少しばかり、過保護が過ぎるのかもしれない。ちょっとだけ反省した。

そんな私の心境など知らずに、パトリックはそれを聞かれて、待ってましたと言わんばかりに語りだす。

『年下です。ええっと……七つ下かな?』

「へ? じゃ、十五歳?」

『はい』

「あんた、そんな年下の子がタイプだったっけ?」

『いやいや、年齢なんて関係ないですから! 僕が好きになった子が偶然年下だっただけですから! たとえタマキちゃんがものすごい年上だろうと、僕は彼女が好きになってましたよ!』

私の追及に、弟は急に慌てふためく。
その様子がちょっとだけかわいらしくて、私はこっそりと笑みを零した。

695: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 20:58:45.97 ID:laTvHUDH0
「よく聞く言い訳ねぇ……ま、いいわ。どんな子なの?」

私が改めて問うと、弟は嬉々としてその女の子のことを話す。

自分たちの後輩であること、最近パイロットとして正式にグランツェーレの士官学校から上がって、同じ兵士となったこと。
その子は噂のチームラビッツの一人らしく、何度か面倒を見てきてあげたこと。
そして、今は逆に助けられることもあって、その助けられたときに、惹かれてしまった、ということ。

相変わらず単純なんだから、なんて思いはしたけれど、彼が純粋にその女の子――タマキちゃん、というらしい――を本気で好いている、ということは彼の語り口から理解はできた。
ただただ弟の話を聞いていると、彼は更に、そのタマキちゃんなる人物への新たなアプローチの仕方を語りだした。

『それで、今度彼女の好きな物を取り寄せて、プレゼントするんです』

「ふーん。……ランディの入れ知恵?」

言いながら、弟の所属するチームの、軽薄なリーダーのことを思い浮かべた。
女のことは任せておけ、とかなんとか豪語してるけど、実際に彼がナンパに成功しているところをあまり見たことがない。

696: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 20:59:22.04 ID:laTvHUDH0
『違いますよ! 僕なりに、どうすれば喜んでもらえるか、考えたんです』

「そっか」

真剣なのね、と弟の気持ちを理解しながら、私は小さく呟いた。
男の子って、いつの間にかこうやって大人になるのかしらねぇ、なんて思いながら、嬉しいやら寂しいやら、私は特に返す言葉を見失ってしまった。

もちろん決して悪いことなんかじゃない。応援してあげたいくらいだ。
ただ、ちょっと感慨深いモノが、何となくあったのだ。

どう表現すればいいのか分からない感覚が、胸の中を渦巻いていた。
でも、まぁ。こんなご時勢に、そんな戦いなんかから遠い、普通の人みたいなことがあるのは、良いことに違いなかった。

697: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 21:00:39.05 ID:laTvHUDH0
「……ね、パトリック」

『はい、姉さん』

「こんな世の中だし、大変だけど……そのタマキちゃんって子。大事にしなさいよ?」

何か言おうとして口を開いて出てきたのは、そんな月並みな言葉だった。
でも、姉として言える、一番いい言葉だとも思った。

『はい! 今度、ちょっと大きな任務に出るんです。それが終わったらプレゼントしますから、結果はその後に報告します!』

弟は、はっきりとした口調でそれだけ言うと、一度ニコリと笑みを私に向けると、時間だから、と通信を終えた。
画面から弟の姿が消えても、私は特に動かず、瞼の裏に焼きついていた、告白をしたときの弟の表情を思い浮かべていた。

少しだけ恥ずかしげで、でもそれを口にするのが、言い表せないくらい幸せそうで。
見てるこっちまで幸せな気分になれそうな、そんな顔だった。

そういう弟が惚れたのだ。きっと、そのタマキちゃんという子はステキな子なんだろう。
そう確信して、私はそっと端末を仕舞って、リハビリ施設へと向かった。
いつか、そのタマキちゃんに弟から紹介される日に備えて、身体をしっかりと動かせるようにしないといけない。

がんばろう。そう、私は決意を新たにしていた。――パトリックの戦死の知らせが届いた、あの日まで。

698: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 21:01:34.08 ID:laTvHUDH0



弟の訃報が届いてから数日後、私はようやく完全に怪我の治療を終えていた。
しかし、その時には、既にウルガルへの一大反攻作戦が始まっていて、私は結局、蚊帳の外に置かれていた。

ただ何もできずに、私は宇宙の、新たに建設中だった宇宙ステーションの警護に当たりながら、地球側の勝利を祈っていた。
そして、その祈りが少しは届いたのか分からないけれど、作戦は成功し、地球は勝利した。

しかしその喜びを噛み締める余裕もないらしく、敵の残党を倒し、前線へと向かった部隊への補給をするため、私にある命令が下った。
その宇宙ステーション――スターローズⅡの、前線への移動に随伴し、護衛すること。
ようやく、私にも戦いに参加する機会が与えられたのだ。

699: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 21:02:26.70 ID:laTvHUDH0
任務の説明を受けるべく、私はできたばかりのブリーフィングルームへと向かう。
そこには、私と新たにチームを組む仲間がいた。
弟と同じチームに所属し、唯一生き残った、チャンドラという男だった。

――パトリシア、か。

彼は私の姿を確認すると、まっすぐに私を見つめてきた。
いつも冷静であった彼の瞳には、若干の揺らぎが見て取れた。
たぶん、昔からの知り合いじゃないと、気付けないくらいの。

私はそれにあえて触れず、彼にかける言葉を探しながら、話しかけた。

チャンドラ……その、ランディたちのこと、残念だわ。

いいんだ。それよりも、私こそすまない。君の弟を、私は……。

そう言うと、チャンドラは頭を下げた。
本当に申し訳なさそうに、深く、深く。
私は頭を下げる彼に、慌てながら言葉を返す。

700: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 21:03:04.15 ID:laTvHUDH0
いいっていいって。あの子だって、覚悟できてたはずだもん。それより、任務でしょ?

本当は、たぶん割り切れていなかった。
でも、取り乱している場合じゃなかった。そんな風にしてるくらいなら、弟が守ろうと頑張った意味を無駄にしないためにも冷静に戦わなくてはならない。
泣くなんて、後になっていくらでもできることだ。

チャンドラもきっと、同じはずだ。
これまでずっと共に戦ってきた仲間を失った、彼だって。
私だけ泣き言を言うわけになんか、いかない。

チャンドラは目を細めながらも、小さく頷いた。
私の気持ちを理解してくれたのか、それ以上はそのことについて何も言わなかった。

701: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 21:04:08.68 ID:laTvHUDH0
その後、私とチャンドラは、スターローズⅡの責任者であるコミネ大佐の指示を受けて、ライノスに乗り込んだ。
どうやら目的地では、例の残党の攻撃に前線部隊が遭っているらしく、彼らを支援するため、前線に到達すると同時に出撃することになっていた。

そして、出撃の時はすぐにやってきた。
機体の調子を確認すると、私はチャンドラと共に出撃する。

……さて、行こう。君は初めてだったな? チームラビッツは。

うん。ね、例の『タマキちゃん』がいるんだよね?

ああ。

そっか――楽しみだよ。

ただそれだけの、短いやり取りを終えると、私とチャンドラはスターローズⅡに随伴して噂のウサギたちを迎えた――

702: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 21:05:04.56 ID:laTvHUDH0



敵の残党との戦闘を他の部隊に引き継ぐと、私たちチームドーベルマンはすぐに別の作戦へと召集された。
今度は、地球の方へと敵が進軍し始めているらしかった。

急いで誰かが行かないと、地球が大変なことになってしまう。
私たちは、チームラビッツとの合同作戦の元、敵を迎撃することとなった。

そして、今。私はスターローズⅡのブリーフィングルームで、噂の彼女を含む、まだ見ぬ後輩たちが現れるのを待っている。

ちょうどいい機会でもあった。
実際に会ってみれば、きっと、パトリックがどれほどにその子に惹かれていたのか少しは理解できるに違いない。
せめて、弟の守りたかった人のことくらい、知りたい。

それが、残された私にもできることだと、そう信じていた。

703: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 21:05:45.85 ID:laTvHUDH0
落ち着くように心がけながら、私は待った。

いったい、タマキちゃんはどんな子なのだろう。私を見てどんな反応をするんだろう。
私にはまるで予想がつかない。それ故に楽しみなような気もしたし、少しだけ不安なような気もした。

しかし、そうやってそわそわする時間も、すぐに終わった。

シュッ、排気音と共にドアが開いて、私とチャンドラのいる部屋にメガネの男の子が一人、突然に入ってきたのだ。
彼は当初、部屋を軽く見回すと、私とチャンドラの姿を確認し――

「って、うわあっ!?」

私を見るや軽い悲鳴と一緒に、その場から逃げた。

704: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 21:06:30.31 ID:laTvHUDH0
「えー……」

思わぬ反応に私は不服を感じながら、チャンドラに視線をやる。
彼は私の視線を受けて、まぁ、察してやってくれ、とそんなことを言った。
気持ちは分からないでもない。死んだ人間(にそっくりな人間)が目の前にいるのだ。何も知らないと当然だろう。

……まさか、タマキちゃんにも同じ反応されないよね。

私はここにきて、嫌な予感を感じながら、もう一度、ドアの開く音を耳にした。
今度は、メガネの男の子以外にも何人かの子がそこにいた。

やっぱり彼らは驚いたような目で私を見ていた。
何なら、パトリックさん!? と声にまで出している。
まぁそうなるのか、と私は当たり前といえば当たり前の反応だと思いながら、一歩前に出て説明しようとした。
と、そのときだった。

705: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 21:07:23.46 ID:laTvHUDH0
「――――パトリックさーんっ!」

一人だけ、反応の違う声を、私は確かに聞き取った。
驚きはしても、それよりも、パトリックが生きていることが何よりも嬉しそうな、その声を。
そう認識すると同時、前に立っていた子たちを押しのけて、一人の女の子が前に出てきた。

もしかして、この子が――

私はすぐに直感した。きっと、この幼い印象の、人懐っこそうな女の子が、パトリックの――

そう思っているうちに、快活で、人の全てを明るく包んでくれるような甘ったるい声と共に、彼女は私の元へと、駆け寄ってきた。

誰よりも喜びを露にして、どんどん進んでくる彼女を正面に、私は迎えるように、小さく微笑んだ――

706: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/08(水) 21:14:59.17 ID:laTvHUDH0
おしまい。

一つお知らせしたいと思います。
これまでたくさんのネタで書いてきましたが、次のネタで、おおよそ私が書きたいことが全て終わってしまいました。
ので、次の投下でこのスレを終了としたいと思います。
埋まるまでがんばると言っておいてこうなってしまい申し訳ない気持ちです。

早ければ今日のまた深夜にでも最後のネタを投下したいと思います。では、ありがとうございました。

708: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 00:20:11.61 ID:XDYaZWeI0
戦いが終わった。
僕たちが生まれた理由だった、戦いが。

生まれてから何もない僕だったけれど、長いような短いような戦いの中で、僕はいろいろな物を手に入れて、失って。

戦いの先に、僕は何を得たんだろうか。目指していた、ヒーローになれたんだろうか。
その答えを知るのは、戦いが終わって、それなりに時間が過ぎてからだった。

709: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 00:21:15.19 ID:XDYaZWeI0
「――はい、これでもう検査は一旦終わりよ。これまでお疲れ様、イズルくん」

「ええと、ありがとうございました、ルーラ先生」

新造大型宇宙ステーション、スターローズⅡ。
まだできたばかりの医療施設の一室で、僕――ヒタチ・イズルは検査着のまま立ち上がると、主治医であるルーラ先生に一礼して、着替えのためのスペースへと向かった。

のんびりと着替えながら、僕は肩の荷が下りた気分のまま、ぼうっと考え事に浸る。

あのジアートとの戦いから目覚めて、これで五度目。でも、これが最後の検査だった。
今のところ、僕の身体に起こっていた異常がぶり返す気配はないらしい。
機体の覚醒以来、僕を襲っていた症状もすっかり見る影がない。

710: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 00:24:38.37 ID:XDYaZWeI0
ディオルナとの戦いの後、僕は宇宙に戻ってから、検査をしては自室待機をする日々を送っていた。
まだまだ病み上がりだからと、以前は皆でやっていた訓練もさせてもらえず、僕はただ部屋でマンガを描くだけだった。
別にマンガが久しぶりに描けるだけ、十分文句はないといえばその通りなんだけど、習慣みたいになってた訓練がないと、ちょっと味気なかった。

味気ないと感じるのは、他の皆に会う時間が、圧倒的に減ってしまったのもあるだろう。

検査をしては自室で過ごすだけの僕と違って、他の皆は何だか忙しそうだった。
ウルガルの残党がまだいるかもしれない、油断はできない、ということらしく、交代で警戒任務に就いているんだ。

そのせいで、チームラビッツ全員が揃うのは戦いに勝ってから一度やったパーティーのときくらいで、その後はずっと、僕を含めた全員が揃うことはなかった。
もちろん、別に皆と会えない、ってわけじゃない。交代で任務をしているから、休息を与えられてるメンバーと食堂で会うこともある。
でも、それで会えるのは二人とか三人で、誰一人欠けることなく集まるってことはなかったんだ。

711: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 00:26:49.42 ID:XDYaZWeI0
と、そうこうしてるうちに着替え終えて、僕は部屋を出ようと歩き出した。
そういう寂しい生活も、もう終わりだ。だって、今日で検査は終わりだから。
それはつまり、自室待機から解放されて、堂々とチームの仲間のところに行っていいという許可をもらったことになる。

もちろん任務については上官のスズカゼ艦長から言われない限りは行けないだろうけど、出撃前の皆に会いにピット艦に行くことくらいはいいだろう。
そうやって考えれば、これからは皆に会いに行けるんだ。何も悪いことなんかない。
前向きに考えると、僕はウキウキした調子でルーラ先生に挨拶して、部屋を出た。

これで自由に過ごしてもいいけれど、あまり無理はしないように、なんて先生は僕の背中に釘を刺すように言っていた。

はーい、とだけ、気が気でない僕はテキトウな返事をすると、一歩進んだ。
さて、どうしようか。ようやく他の誰かの部屋に行けるようになったことだし、さっそくお兄ちゃんのところにでも――

と、そのときだった。僕を待っていたかのように声をかけてくる人が現れたのは。

712: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 00:29:18.81 ID:XDYaZWeI0
「イズル!」

「あ、ケイ」

部屋を出てすぐ、廊下に設置されたソファから立ち上がった彼女に気付いて、僕は反応した。
彼女――ケイは、僕に近付いてくると、微笑みながら僕の隣に並んで、一緒に歩き出した。
どうやら検査を終えた僕が出てくるのを待っていてくれたらしい。

「どうだった、検査?」

「うん、もう大丈夫だろう、って。……もう、ようやく他の人の部屋に行けるよ」

「……そう。よかった」

僕の答えに、彼女は心から安心したように、胸を撫で下ろしていた。
まるで自分のことみたいだ、と僕は何となくその姿にそんな印象を抱いた。

ホント、ケイってば心配性だなぁ。

そんなことを思いながら、僕は隣を歩く彼女を横目で窺う。
僕が自室待機しているときから、彼女はちょくちょく僕を訪ねてきていた。

新しいスケッチブックを持ってきたり、他の皆は最近どうしてるだとか話してくれたりして。
どうも空いた時間を見つけては僕のところへと来てくれているらしかった。

もちろん、それだけ僕を気遣ってくれてるってことだし、彼女の存在は素直に嬉しかった。
何というか、お姉ちゃんができたみたいで。

「うん。ありがとう」

心の底から湧き出る気持ちのままお礼を言うと、彼女はただ微笑み返して、それからある用件を告げた。

713: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 00:34:21.05 ID:XDYaZWeI0
「ねぇ、イズル。アサギの部屋に来ない? 実は、皆待ってるの」

「え、ホント!?」

思わず身を乗り出して、僕は彼女に聞き返した。
皆が集まってるだなんて。
それが本当なら、行きたいに決まっている。

落ち着いて、とケイはくすくすと笑いながら勢い余りそうな僕を宥めると、ゆっくりと説明してくれた。

「さっきね、新しく追加の部隊が来たのよ。その人たちが警戒任務を引き継いでくれる、って」

なるほど、と僕は頷いた。
ちょうど僕と同じように、皆もやっとちゃんと休めるようになったんだ。
なんていいタイミングなんだろう、と僕は幸運な自分を喜ばしく思いながら、はっと気付いた。

「……って、そういうことなら急ごうよ! 僕、待ちきれなかったんだ、皆に会うの!」

渡りに船、といった感じに僕は急ぎ足に切り替えて、すいすいと廊下を進む。
検査生活が始まって、もうかれこれ二週間は経つ。
そこに皆が揃うということを聞かされて、僕はすっかり気分が高揚してしまっていた。

714: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 00:39:11.44 ID:XDYaZWeI0
「ちょ、イズル、走っちゃダメじゃ……もう」

後ろでケイが僕を止める声がしたけれど、僕は止まらなかった。
だって、しょうがないじゃないか。待ちきれないんだから。

そんなはやる僕の気持ちを分かってくれたのか、ケイはそれ以上は何も言わず、ただ僕を追ってきてくれた。
そうして二人で急ぐこと、数分。僕らは目的の場所へと着いた。

ドアの前に立ってから、僕はケイの方を見た。ホントにここに皆がいるんだよね、と、事実を確認するように。
僕の視線に気付くと、彼女は苦笑しながら頷いて、一歩下がる。

譲られるまま、僕はうずうずした気持ちのままドアの方へと一歩踏み出し、反応して自動で開いたドアを潜って、部屋の中へと進んでいった。

715: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 00:40:29.13 ID:XDYaZWeI0
「おー、イズル!」

「イズルーっ!」

「イズルさん!」

「イズル……久しぶりだな」

ドアを越えた先、そこには僕を待ち構えていたかのように、チームラビッツの皆――スルガ、タマキ、アンジュ、それにアサギお兄ちゃん――がいて、出迎えてくれた。
まだたったの二週間かそこらのはずなのに、ここにチームラビッツが集合できたんだと思うと、何だかひどく懐かしかった。

「うん! ただいま、皆!」

飛び切りの笑顔で、僕は返した。嬉しくてしょうがなかった。
こうして皆と一緒に、またアサギお兄ちゃんの部屋に集まれた。
たったそれだけのことが、僕には何だか、とてもとても大きなことのように思えたんだ。

716: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 00:44:25.18 ID:XDYaZWeI0
そうして僕らは久しぶりの集合を喜びながら、いろいろな話をした。

これまでの任務のこと。
僕が検査生活を退屈に過ごしていたこと。
新しくできた後輩たちやチームドーベルマンのこと。

他にもたくさんのことを、とめどなく話し続けた。
話題は尽きることなく、僕らはひたすらに語り続けた。

単にお喋りしてるだけだったっていうのに、不思議なことに、大好きなはずのマンガを描いているときよりも、僕はずっと充足感に満たされていた。
それほどに、きっと僕はチームラビッツという場所に飢えていたんだろう。
僕にとって、皆のいるここが、帰る場所なんだから。

717: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 00:47:10.64 ID:XDYaZWeI0
そうしてかれこれ二時間は経っただろうか。さすがにその頃には、口を動かすのも一度止まって、僕らはちょっとだけ喋るのを止めた。

だけどそうしながら、次は何のことを話そうかな、と僕はその間に考え始めた。

まだまだ話し足りなかったんだ。二週間分、もっともっといろんなことを話していたい。
いや、話さなくてもいい。とにかく、皆とここにいたかった。

そう思いながら、僕は一応話題を考えた。何がいいだろう。最近描いてるマンガのこと? それとも――あ、そうだ。

と、そこで。ふと、僕はあることを思いついて、尋ねることにした。
本当は戦いが終わってからすぐにでも、聞きたかったことを。

718: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 00:57:37.44 ID:XDYaZWeI0
「ねぇ、皆。一つ聞きたいことがあるんだけど」

「? どうした?」

僕の一声に、お兄ちゃんが不思議そうに反応する。

それから、皆が一斉にお兄ちゃんと同じような顔をして僕を向く。
五つの視線を感じながら僕は頷くと、一度息を吸って、喉元まで来たそれを口にした。

「あのさ、僕って、ヒーローになれたと思う?」

それは、僕にとってすごく大事な質問だった。

こうして戦いが終わったということはつまり、マンガとかで言うなら物語の終わりなわけで。
僕の知っているヒーローというモノは、物語が終わるその時に、道行く人たち皆から、ヒーローだって認められる。
そうやって、お話が終わるんだ。

そしてその理屈で言うと、戦いが終わったんだから、僕がヒーローになれたかどうかも、もう決まったことになる。

これまでの戦いで、僕は結局ヒーローになれたんだろうか。
いろいろと落ち着いた今になって、それがとても気になっていたんだ。

719: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 01:04:52.20 ID:XDYaZWeI0
僕は真剣な面持ちで皆を見回して、反応を確認する。

どうなんだろう。皆は、なんて言うんだろう。

僕はどきどきしながら、皆からどんな答えが飛び出すかを想像しながら待った。

と、次の瞬間。

「はぁ?」

「えー?」

「ええと……」

何故か、皆は僕のことを奇怪なモノでも見るみたいな目で見返していた。

あれ? 僕そんなにおかしなこと聞いたかな?
結構マジメに質問したつもりなんだけど……。

と、そう思っていると、今度は少しの間を置いてから皆は顔を見合わせると、急にくすくすと笑い始めた。

ええ……。笑われるくらいおかしかったかな。うーん?

720: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 01:06:21.03 ID:XDYaZWeI0
一人で理解できない状況に困っていると、お兄ちゃんが含み笑いのまま、皆に向かって言った。

「まったく、自覚がないんじゃ、ヒーローなんて呼ばれてる意味ないな?」

「え、ヒーロー?」

思わず僕は尋ねた。
いつ、僕がヒーローなんて呼ばれたんだろう。

ますます理解できなくて僕が首を傾げると、今度はケイがゆっくりと僕に歩み寄ってきた。
それから、笑みを崩さないまま、小さな情報デバイスを渡してきた。

「そうよ、ほら。見て?」

言いながら、彼女は僕の隣に立つと、僕が受け取ったデバイスに指を伸ばして操作した。
すると、一つの映像が画面に浮かんできた。

721: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 01:13:13.89 ID:XDYaZWeI0
そこには、画面外から差し出されたマイクに答える、小さな男の子と、お姉ちゃんらしき女の子の姿があった。
男の子の方が、マイクに向かって喋る。

『僕ね、大きくなったらレッドファイブになりたい!』

『バカね、機械になれるわけないでしょー?』

男の子の言葉に、女の子は呆れ顔で言った。
だけど男の子は、そんな女の子の言葉を意にも介さない調子で、ニコリと笑った。

『じゃあパイロット! レッドファイブが地球を守ったんでしょ? 僕、あんな風になりたい!』

その目は、まっすぐに輝いていて、そう言ったことに対してまるで迷いを感じなかった。
男の子が本気でそう言ってくれてるんだということが、僕にははっきりと伝わる気がした。

それで、映像は止まってしまった。
たった二、三言だけの会話が流れる、短い映像。
でも、それだけで。僕は皆が言いたいことが分かってしまった。

722: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 01:21:35.75 ID:XDYaZWeI0
僕が顔を上げて、皆を見てみると、どこかしたり顔で僕を見て笑っていた。

「へへ、驚いたろ? お前みたいになりたい、だってよ?」

「正直あたしはどーでもいいけどー、イズルが喜ぶだろうからってケイとアサギがさー、検査終わるまで内緒にしといたの」

「イズルさん、マンガは……ともかくとしてですね、その。イズルさんは、ヒーローですよ。私も、そう思います」

「イズル。私ね、あなたのこと、誇りに思うわ。だって、あなたはなったんだもの。あの日、初めてアッシュに乗る前に言った通り、ヒーローに」

「そうだな……イズル、お前はちゃんとヒーローになれたんだよ。兄貴として、俺が保証する。お前は、この地球の、たった一人のヒーローだ」

皆の言葉を聞きながら、僕はもう一度映像の方に目をやった。
それから、皆に言われた言葉と映像の子の言葉とを噛み締めて、その意味を理解する。

皆、僕のことをヒーローなんだって、そう認めてくれたんだ。

「皆……僕、僕は……」

返す言葉を考えながら、僕は口を開こうとして、ろくな音が出てこないことに気付いた。

おかしいな。嬉しいのに、どんどん涙が溢れて、止まらなくて、頭の中がぐるぐるとして、胸が苦しくて、でも、気分は悪くなくて。
僕はどうしようもない混乱を抱きながら、皆の前でただ、泣いていた。

723: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 01:26:17.05 ID:XDYaZWeI0
そんな僕に、皆はそれぞれ反応をくれた。

「お、おいおい。泣くのかよ」

スルガは、泣き出した僕に驚いたのか、身振り手振りをしながらちょっとだけ慌てて、

「もー、だらしないのらー」

タマキは、僕のことを呆れたようにしながら、でも優しく微笑んでくれて、

「……せっかくいい感じだったのに、ザンネンですね」

アンジュは、ちょっとガッカリそうな顔で笑みを浮かべて、

「それくらい嬉しかったってことよ……ふふっ」

ケイは、ちょっとだけ涙目のまま、おかしそうにくすくす笑って、

「まったく……しょうがない弟だな」

お兄ちゃんは、目を細めて、僕を見守るようにしていた。

724: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 01:27:00.32 ID:XDYaZWeI0
「あ、あはは……ごめん。何か、急にさ。そんなつもりなんて、全然なかったんだけど、勝手に出てきちゃって」

どうにかこうにか思いついた言葉で取り繕いながら、僕は必死に自分を落ち着かせていた。
その甲斐あってか、少しずつ、涙は引っ込んでいって、気付けば、僕は渡された端末の画面をもう一度じっと見つめていた。
一時停止された映像の中で、小さな男の子が、お姉さんらしい子と一緒に笑っていた。

それだけで、僕は一つ納得した。ああ、僕はこういうものを守ったんだ、って。
初めてアッシュに乗ったときから、ずっと変わらずに。僕は――

「そっか、僕、ヒーローだったんだ」

そうだ、僕はヒーローになってたんだ。
結論なんて、とっくに出てた。
自分でも気付かないうちに、自然と僕は目指していたモノになっていたんだ。

725: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 01:30:32.21 ID:XDYaZWeI0
「何だそりゃ」

皆、口を揃えて、呆れたような視線と一緒に、僕にそんなことを言った。
それに対して、特に僕は説明しようとしない。
別にいいんだ。皆に今気付いたことが伝わらなくても、僕が納得したんだから。

改めて、僕は皆をぐるりと見回した。
スルガ、タマキ、アンジュ、ケイ、アサギお兄ちゃん。
僕がヒーローになるのを、ずっと見てくれた人たち。
僕と一緒に歩いてきてくれた、記憶を失ってからずっと、僕の小さな世界の中にいる、僕の初めての仲間。

ヒーローだけじゃない。

僕という人間にとって、何よりも大切な存在。

726: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 01:31:43.75 ID:XDYaZWeI0
「ありがとう、皆。皆がいてくれて、よかった。生まれてから何もない僕だったけれど、今は皆がいる。ヒーローとかマンガとか、それだけじゃなくて、もっと大切なモノに、僕は出会えたんだ」

僕は大きく息を吐いて、とびきりの笑顔を作った。
皆も、同じように笑ってくれた。それだけで、僕の味気なかった世界が全部反転して、何もかもが変わっていく。そんな気がした。

僕はそのときに感じた気持ちを、ずっと忘れないだろう。
何よりも大切な、その感覚を。

そう確信しながら、僕はこれからもそれが続くことを祈って、その言葉を力強く、口にした。

「――――これからもよろしくね、皆!」

727: ◆jZl6E5/9IU 2017/02/09(木) 01:39:29.02 ID:XDYaZWeI0
おしまい。映画の中で一番心にきたのは、正直なところあの子供たちのところです。イズルがヒーローとして認められたみたいですごく嬉しかった。

これにてこのスレはいったん終わりです。一番最初のスレが立ってからおよそ三年経ちました(間がかなり空いたので書いたのは実質一年くらいでしょうが)。
読んでくれた皆さんには感謝してもしきれません。そして、これだけのネタで書くことができたマジェプリという作品の厚さにも驚くばかりです。
一度マジェプリで書くのは終わりですが、また思いついたら単発でスレを立てたいと思います。

最後に、よければ今後の参考にしたいので、これまでのスレの中でおもしろかったと思うネタを教えていただけると幸いです。
ここまでありがとうございました。マジェプリ二期が始まることがあれば、同じようなスレを立てます。そのときはまた読んでやってください。
では、またいつか。