ダイヤ「心にも あらでうき世に 水面夢」 前編

227: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:36:41.06 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「確かにこの漢字を見ただけでは意味が分かりにくいと思いますが、これは私と皆さんの関係だからこそ意味を持ちますの」


ダイヤ「まず…倚子(いし)は平安の貴族の使っていた椅子のことですの。この時雨亭の部屋にも置いてありますわ」


英玲奈「ああ。確かに全部屋の窓辺の簾の前に置いてあるな」


ダイヤ「《水面透く 雲出窓倚子 をりもえたり》は、

【私達の内浦では雲が出て月が見えないので当然水面を透かしてもそれを見ることができない。どうせ貴方はそれを知っていながら時雨亭のさぞ豪華な椅子に腰掛け、窓からさぞ綺麗な国宝級と謳われる水面に浮かぶ月を眺めているのでしょうね。そんなことだろうと思いました】

という皮肉が込められているんですわ。ふふっ…本当に知らなかったんですわ…」


ダイヤ「しかし私が内浦の天気を把握していなかったのに無理な課題を出したことを怒られた…と言うよりも、その会話をした私達にしか知り得ない情報を込めること自体に意味があったのだと思いますわ。この和歌が皆さんから私への送り歌であるという証拠になりますから…」


ーー
ーーーー

果南『もう、大袈裟だよダイヤ!』


梨子『そうですよ!内浦からの月も素敵ですよ?』


ダイヤ『かつて屋敷に住まう者は、夜が更けると簾を上げて倚子に腰掛け、その煌々たる月…そして水面に映るもう一つの月を眺め和歌を詠んでいたそうですの…ああ、なんと羨ましい…』ホレボレ


曜『正直ちょっと羨ましいなぁ。私もそんな絶景なら見てみたいかも』


ーーーー
ーー



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引用元: ダイヤ「心にも あらでうき世に 水面夢」 


 

228: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:37:07.71 ID:H71/+Fhm0


海未「すごい…」


ダイヤ「更に上の句の最後、《し をりもえたり》は《栞燃えたり》。つまり本に対して造詣の深い花丸さんが死んでしまったことを表していますわ」


英玲奈「上の句だけでここまで…」


ダイヤ「しかしここまでの和歌を作れるのは花丸さんくらい…花丸さんが考え、それを誰かが代弁したのですわ」


英玲奈「練りに練ったのだろうな。即興だとまんじゅうの歌になるのだから…」


海未「Aqoursの残された皆さんはダイヤさんの状況をある程度把握しています。つまり、私達と同じように神隠しについて推理ができる比較的安全な環境に置かれていますね」


英玲奈「少なくとも地獄の業火に身を焼かれていると言ったことはないようだな。安心した」


ダイヤ「あちらでは午前0時を迎えると強制的に眠らされ死ぬ者、そして月の夢を見る者がいる。それ以外の時間は普通に起きて推理に励んでいるのですわ」


ダイヤ「…そして私が月を眺めて詠ったあの和歌は皆さんのいる異世界へ届いた。皆さんはそれが私の和歌だと気付き、花丸さんはその返歌に出来るだけ情報を詰め込もうと最後まで奮闘したんですわ」


ダイヤ「問題はこの下の句にどんな意味が込められているかですが…」

229: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:37:50.94 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「上の句にあれだけ詰め込んだんだ。下の句にも何かあるはず…」



~時雨は知らに 去ぬ期の調べ~



海未「この《時雨》とは、涙という意味の他にここ、時雨亭を表しているのではないでしょうか?」


英玲奈「成る程な。つまり下の句はここに関することだな」


ダイヤ「時雨亭のことを何か知り得たんでの?」


英玲奈「…ところで、この《去ぬ》の読みは(いぬ)、(さぬ)どちらだ?」


ダイヤ「古典文法上なら(いぬ)ですが…(さぬ)と読ませて何かを掛けている可能性もありますわね」




海未「讃岐の調べ」

230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:38:44.61 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ 英玲奈「!!!!」


海未「百人一首には二条院讃岐という方の歌があります。《サヌキの調べ》は二条院讃岐さんの和歌のことではないでしょうか?」


英玲奈「…だとしたら残った《は知らに》は《柱に》!!!」


ダイヤ「柱が例の柱時計だとしたら…」


~時雨柱にサヌキの調べ~



三人「時雨亭の柱時計にサヌキの和歌!!!!」


海未「確かダイヤさんの家にはここ、時雨亭で作られた柱時計があるんですよね!?」


ダイヤ「はい!!」


英玲奈「!!!!!」


英玲奈「百人一首の讃岐の和歌!!」


~わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の
人こそ知らね 乾く間もなし~


海未「この沖の石というのはまさか!?」


ダイヤ「鐘に嵌めるための石!!」


英玲奈「もう一つの石が…二条院讃岐の沖の石…」


海未「何故サヌキさんの歌に…」


海未「まさか彼女も過去に神隠しに!?」


英玲奈「間違いない。サヌキは異世界に囚われている時、この神隠しの手掛かりである石を残したんだ。Aqoursはそれを見つけたんだろう。そして柱時計はAqoursの八人と共に異世界へ消えた…」


英玲奈「…だとしたら」



ダイヤ「ええ。皆さんは時計に石を嵌め込み終歌を手に入れたんですわ。午前0時、次に私の頭に流れてくる和歌は皆さんの見つけた終歌で間違いありませんわ」

231: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:48:10.85 ID:H71/+Fhm0


コチッコチッコチッ……


果南「昨日千歌がダイヤの和歌に返歌したけど、もしそれがちゃんと届いているならダイヤはまたそれに対して和歌を返してくるはず」


千歌「ダイヤさんは何を伝えてくるんだろう…」


曜「順番だとこっちが先に和歌を送らなきゃいけないよね?」


果南「ああそうか。曜の時もそうだったからね」


ルビィ「……」


果南「どうしたのルビィ?」


曜「ルビィちゃん?」


千歌「…悲しいんだよ」


曜「え?」


千歌「…次にルビィちゃんが送らなきゃいけないのはダイヤさんが欲しがってるもう一つの和歌。でも、多分次がダイヤさんと繋がる最後のチャンス…」



千歌「伝えたいこと…いっぱいあるんでしょ?」


ルビィ「うん…」ポロポロ

232: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:48:38.94 ID:H71/+Fhm0


果南「そっか…」


曜「……」


曜「だったらさ、この和歌に隠された暗号を見つけてその答えとルビィちゃんの気持ちを掛詞にできないかな?」


千歌「そうだね。やってみよう!」


ルビィ「うん…ありがとう……」ポロポロ



果南「ちょっとトイレ行ってくるね」スッ


曜「あ、うん!」

233: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:49:12.92 ID:H71/+Fhm0


~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~




千歌「ごめん…私古典全然わかんない…」


曜「私も学校で習ってるだけの素人だし…ましてやここから何かを見つけようなんて…結構難易度高いかもね」


ルビィ「あ…ねえ……」ゴシゴシ


千歌「どうしたの?」


ルビィ「…この下の和歌はサヌキさんが詠ったんだよね?」


曜「そうだよ」



ルビィ「じゃあ上は誰なんだろう?」

234: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:49:46.23 ID:H71/+Fhm0


千歌「サヌキさんの大切な人…だよね?」


ルビィ「しかも内浦出身なんでしょ?」


千歌「内浦出身で有名な偉人…」


千歌「うう…歴史も苦手だ…」


千歌「あ!そういえば花丸ちゃん、元旦の朝早くからお寺の挨拶回りに行って色々もらってきてたけど…その中に本もいっぱいあったから何か分かるかも…」


ルビィ「確かあの時計も元々はどこかのお寺に送られたんだよね?それがどこなのか分かるかもね!」


千歌「…曜ちゃん、本をーー」


曜「……」


千歌「曜ちゃん?」


曜「あれ…」


千歌「え?」


曜「あれ…見て…」


ルビィ「??」


千歌「あれ…って時計でしょ?」クルッ



コチッコチッコチッ…



千歌「え」



11時56分

235: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:50:24.55 ID:H71/+Fhm0


千歌「嘘…」


ルビィ「あと八分…」


曜「いつの間にこんな時間に…考察に夢中で全然気にしてなかった…」



千歌「!!!!!!」


千歌「果南ちゃん!!!!!」


曜「このタイミングでいなくなるなんておかしい!!きっと分かってたんだ…」


ルビィ「なんで……なんで黙って消えちゃうの…」


千歌「早く…早く探さないと……」



ザバザバザバ…



千歌「!!!!!!!!」


千歌「水の音!海の方だ!!」ダッ


曜「千歌ちゃん!!」ダッ


ルビィ「待って!!」ダッ

236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:50:57.33 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…


ザザーン…



果南「……」ザバザバ



千歌「果南ちゃん!!!!!!!」


果南「来ないで!」


千歌「!!!!」


千歌「どこに行くの……なんで黙って行っちゃうの…?」



果南「…おととい、私は千歌を殴りかかったよね」


千歌「!!!」



曜「はぁ…はぁ…待って!果南ちゃん!」


ルビィ「はぁ…はぁ…果南さん!!」



果南「……」


果南「自分でも恥ずかしいくらい感情のコントロールができなくて…」


千歌「違う!!!あれは私がみんなを人殺しなんて言ったから!!!!!!!!」



果南「でも千歌は最初からそんなこと思ってなかったよね」


千歌「……!」

237: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:51:24.39 ID:H71/+Fhm0


果南「梨子が死んで…鞠莉が死んで…私も千歌も精神的にかなり参ってた。どこだか分からないこの場所で何が起きているのかも分からない。でも、鞠莉が言ってたように見ている場所、進もうとしている場所は同じだった…それはみんなを助けるってこと」


果南「…やっぱ一番年上の私がみんなを支えなきゃいけなかったんだよ。みんながAqoursのお姉さんって呼んでくれてるように、その期待に応えるべきだったのに…あの時の私はその姿から一番遠かった。なのに私は取り乱してみんなを混乱させてそして…」


果南「花丸を傷付けた」


千歌「違う……」ポロポロ


曜「果南ちゃんが救急箱取りに行ってる時、善子ちゃん…言ってたよ。年とか関係ない。みんな一緒だって…」


果南「…聞こえてたよ。でもその善子はさ、死ぬ直前に自分の胸の内を語ってくれた。自分とは何か…自分のあるべき姿とは何か…それを輝かせることができるのがAqoursという存在だ…って。その本音を全て聞いた時全くその通りだと思ったよ。やっぱり自分にしか無い、自分にしか持てない役割…こうやって命ある限りそれを生かしてみんなを助けたいって…そう思った」


果南「…なら私には何があるか。ううん、なんにもない。みんなより年上ってだけ。だったらその分、今度こそみんなを引っ張って行かなきゃいけないと思った」

238: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:51:51.89 ID:H71/+Fhm0


果南「…でも、それは私なんかよりよっぽど頭のキレる花丸の役割だったんだよ。神隠しの謎を解いてみんなを助けたい。引っ張りたいって気持ちは誰よりもあったのに…それを行動で示せない私に存在意義なんてあるのかなって」


果南「だけど昨日…花丸はそんな私に言ってくれたの」



ーー
ーーーー


花丸『これからは四人で辛いと思うけど…優しくて、温かくて…聡明なみんなのお姉さん、果南さんがみんなを先導していってね?』


ーーーー
ーー


果南「こんなに頼りなくてダメな私を…殴った私を…それでもお姉さんだって言ってくれたの。信じられなかった…」

239: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:52:35.69 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「そうだよ!!!果南ちゃんもすっごく頭が良くて!!!時系列のことも水面夢のこともサヌキの和歌のことも!!!果南ちゃんが引っ張ってくれたおかげでここまで謎が解けたんだよ!!!!」


曜「うん!果南ちゃんがいてくれたからこんな不安な場所でも安心していられた!!」


ーー
ーーーー


果南『よーし、今日こそは大漁目指すぞ~!!』


曜『ふふっ…』


果南『なんちゃって♪』


ーーーー
ーー


曜「凄く頼りになって心強かった!!!」


ーー
ーーーー


果南『間違いない。この序歌は内浦で生まれた誰かが歌ったものだよ。サヌキの大切な誰かが…』


果南「つまり時雨亭にある柱時計の沖の石にあたり、カラクリを解くことができる石…サヌキの大切な人の残したもう一つの石が去年時雨亭から見つかったんだよ!それで柱時計に嵌め込んだことでサヌキの大切な人の和歌が出てきた!急遽序歌がこれに変わったってことは日本のどこかで眠っているはずの、つがいになるこの歌を探しているってことを知らせたかったんだよ!!」


曜『そういうことだったんだ…』


ーーーー
ーー


果南「ルビィ…曜…」


ルビィ「だから行かないで…」


曜「果南ちゃん…」


果南「……」


果南「…そっか。そう思ってくれてたなら嬉しい」



果南「…でもいいの。行かせて」ザブザブ…

240: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:53:04.56 ID:H71/+Fhm0


曜「どうして!!!!」


果南「それでも自分が許せない!!!」


曜「!!!」


果南「…私はやっぱみんなのところにはいられない!私が生きているうちに、託された想いに応えるべきだった!成し遂げるべきだった!!それが叶わず情けなく事切れてみんなの隣に並べられるなんて絶対嫌だ!!!」


曜「そんな……」


ルビィ「ううっ……」ポロポロ


果南「…それに善子や花丸みたいに美しく死ぬにはスカスカな人生だったから。梨子だって鞠莉だって…死ぬって分かってたら色んなこと話してくれたと思うけど…私はいい。何も言うことはないから」


果南「だからこうして、大好きだった海で一人ーー」



千歌「やああああああああああああ!!!」バチャバチャ



ドガッ!!!!



曜 ルビィ「!?!?」



果南「きゃっ!?」バシャーン!

241: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:53:30.32 ID:H71/+Fhm0


千歌「……」


果南「千歌…何すーー」



千歌「ふざけないで!!!!!」バシャッ


果南「!!!!!」


千歌「美しく死ぬって何?死ぬのは悲しいことなんだよ!!芸術じゃないんだよ!!!涙を飲んで死を受け入れた善子ちゃん花丸ちゃん…それに何も伝えることができなかった梨子ちゃんや鞠莉さんにも!そんなこと言うなんて失礼だよ!!!!!」


果南「……」


果南「ごめん…」


曜「千歌ちゃん…」


千歌「それになんで…なんでそんなに自分の在り方に囚われるの?なんでそんなに無理するの?」


果南「だから私の役割はみんなのーー」


千歌「そういうことじゃない!!!」

242: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:54:22.68 ID:H71/+Fhm0


果南「え…」


千歌「…果南ちゃんは一人じゃないじゃん!!曜ちゃんだってルビィちゃんだって…私だっている。果南ちゃんはAqoursの果南ちゃんなんだよ!!」


千歌「私はリーダーなのに、バカで古典も赤点ギリギリで頼りなくて…だからこっちに来てからも全然引っ張っていけてない。それどころか取り乱してつい人殺しなんて言っちゃった…」


千歌「でも誰もそのことで私を責めなかった。その後も普通に接してくれた。本当ならリーダー失格だよね?なのに善子ちゃんは自分の分身である黒い羽を託してくれた。花丸ちゃんはずっと使ってた大切な栞を託してくれた。それで私気付いた」


千歌「ずっと繋がってた…ううん。これからもそう。ずっとずっと繋がってるんだよ。京都にいても…異世界にいても…例え死んじゃってもどこにいても。Aqoursはずーっと繋がってて一つなんだよ」


千歌「自分で言うのもなんだけどさ、リーダーだから全部やんなきゃとかリーダーだから全責任負わなきゃとかじゃなかったんだよね。みんなと一つならお互い足りない部分を補強し合っていけばいい。私は足りない部分だらけでたくさん助けてもらったけど、みんなに信じてもらえる存在でいることができた」


果南「千歌…」

243: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:55:01.68 ID:H71/+Fhm0


千歌「果南ちゃん。果南ちゃんは確かに優しくて温かくて頭もいい。まるでお姉ちゃんみたい。ずっと昔から一緒だからさ、そんな果南ちゃんのことはよーく知ってる」


千歌「…でも、本当は繊細で傷付きやすくて、みんなの為についつい一人で抱え込んじゃう。そんな果南ちゃんのこともよーく知ってる」


果南「……」


千歌「…果南ちゃんが頼りにされてるのは確かだよ。でもさ、それを果南ちゃん自身がプレッシャーに感じる必要も、自分を出そう自分を出そうって一人焦る必要も無いんだよ」


曜「果南ちゃん…」


ルビィ「うぅ……」ボロボロ


千歌「最後まで…ううん。ずっと一緒にいて…どこにも行かないで…果南ちゃん…私たちが頑張るから……」


果南「……」




果南「覚えてる?あの日のこと」

244: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:56:01.18 ID:H71/+Fhm0


ーー幼少期


ザザーン…


果南『怖くないって千歌!ここで飛び込むのやめたら後悔するよ!』プカプカ


千歌『うう……』ブルブル


果南『絶対できるから!』


千歌『ううぅ……』ブルブル


果南『さあ!!』


千歌『うん…』


千歌『……』グッ



千歌『たぁぁっ!!!』バッ



バシャーン!!!

245: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:56:28.74 ID:H71/+Fhm0


果南『わっ!?』ザバァッ


ブクブク…


果南『ち、千歌!?大丈夫!?』



ザバァッ!!


果南『!?』


千歌『ばあっ!!』ギュッ


果南『千歌!!!』


千歌『飛べたよ!私、飛べたよ果南ちゃん!!!』スリスリ


果南『もう!驚かさないでよ!』


果南『でも…ふふっ。よく頑張ったね♪』



千歌『うん!!!』

246: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:57:22.16 ID:H71/+Fhm0


ーーーー
ーー



千歌「うん。本当はすっごくすっごく怖かったんだけどね…」


果南「……」


果南「…ルビィは私がダイヤと遊ぶために家におじゃました時、いつも柱の影からこっそり見てたよね。ダイヤがこっちに来て一緒に遊びましょうって言っても恥ずかしがって隠れちゃってた」


ルビィ「えへへ…うん…」


果南「…曜は市営プールの帰りによく千歌と淡島に寄ってくれたよね」


果南「ふふっ。覚えてる?私がさ、魚がいないプールで泳いでもつまんないって言った時、曜ったらすっごく怒ってさ。一ヶ月後に勝負だ!って言って練習凄い増やしてたんだけど…結局私に勝てなくてわんわん泣いて…」


曜「…ふふっ。覚えてるよ。あれは海にばっか潜ってた果南ちゃんにプールの良さを知ってほしくてムキになって…」


果南「…三人とも、小さい時からずっと知ってた。外へ出る時ダイヤにトコトコ付いて来て次第に一緒に遊ぶようになったルビィ。ダイバーショップにいると『果南ちゃーん!』って嬉しそうに走ってくる千歌と曜。それは桜が咲き誇っても、蝉がやかましくても、夏服から冬服になっても、水溜りに氷が張っても、また春を迎えて桜が咲いても…季節が巡り巡っても変わらない光景をずっとずっと見てきた」


果南「それはAqoursになってからもそう。でもそれはいつしか当たり前の風景で永遠に続くものだと思っていた。ここに来るまでは…」

247: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:58:08.50 ID:H71/+Fhm0


果南「…驚いたよ。みんなは私が思っている以上に強かった。強くなっていた。どんなに辛くても悲しくても…霧で前が見えなくても必死に答えに辿りつこうと?いていた」


果南「そこで気付いた。恥ずかしがりだったルビィは今やスクールアイドルになってみんなの前で歌って踊ってる。負けず嫌いの曜は今や私なんかよりうんと速く泳げる。臆病だった千歌は私と違って物怖じせず五人を東京の大舞台へ導きライブをやってのけた」


果南「あの当たり前の風景の中でもみんなは確実に成長してたんだね。嬉しかった。嬉しかったけど…ちょっぴり寂しかった。妹みたいに可愛いかったみんなが遠くへ行っちゃって私だけが取り残されたみたいで…」


三人「……」


果南「私は今までの景色だけじゃなくてみんなが変わっちゃったって認めたくなくて…なんとかみんなのお姉ちゃん松浦果南でいたくて…それで……」ポロポロ




千歌「……」ギュッ


果南「!!」

248: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:58:35.99 ID:H71/+Fhm0


千歌「果南ちゃんはずっとずっと見守ってくれてたんだね…ほら。やっぱりお姉ちゃんだ…美渡姉や志満姉にも劣らない三人目の…」ボロボロ


果南「千歌…」ポロポロ


ルビィ「お姉ちゃんがいなくてすっごく寂しくて心細かったけど…果南さんがいたからルビィは折れちゃわなかった…優しく包んでくれる果南さんの温もりのおかげで安心できた。すっごく嬉しかったんだよ?」


果南「ルビィ…」ボロボロ


曜「私が成長できたのは果南ちゃんを目指してたから!ずっとずっと、果南ちゃんみたいなかっこよくて水も滴るいい女に向かってヨーソローしてたであります!」ビシッ


果南「曜…」ボロボロ


曜「……」


果南「おいで」ニコッ


曜「うん…」ポロポロ


ルビィ「……」


果南「ルビィも」


ルビィ「!!!」


ルビィ「うん…」ポロポロ



ザブザブ…



果南「……」ギュッ


千歌「……」ギュッ


曜「……」ギュッ


ルビィ「……」ギュッ


果南「最後に一つ、みんなにお願いがあります…」


曜「えへへ…何さ?かしこまっちゃって…」


千歌「らしくないよ果南ちゃん?」


ルビィ「なんでも言って」



果南「みんなに甘えたい…」

249: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:59:03.93 ID:H71/+Fhm0


曜「……」


千歌「……」


ルビィ「……」


果南「え?みんなどうして黙…」



曜「ぷはははははは!!」


千歌「あはははははは!!」


ルビィ「ふふふっ…」


果南「ちょっと!?なんで笑うの!?」


曜「あはは。ごめんごめん。普段は聞かないからさそんなセリフ」


果南「い、いいでしょ!?だって…」


果南「だって……」ボロボロ


千歌「うん……」


ルビィ「ううっ……」ボロボロ


曜「いいよ……」ボロボロ

250: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 16:59:30.43 ID:H71/+Fhm0


果南「一つだよ…ずっとずっと…」ボロボロ


曜「分かってるよ…果南お姉ちゃん…」ボロボロ


ルビィ「ありがとう…果南お姉ちゃん…」ボロボロ


千歌「これからもずっとずっと見守っててね…」


千歌「約束だよ。果南お姉ちゃん…」ボロボロ


果南「うぅ……」ボロボロ




果南「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん……


……


……




こうして目を閉じると、波の音や千歌達の声が胸に響く…


懐かしいなこの感覚…


内浦での毎日が走馬灯のように頭を駆け巡る…


…情けないこんな私を慕ってくれてありがとう


最後まで私は…ちゃんとみんなのお姉ちゃんだったんだね


ううん。私たちは一つだから。これからもみんなの中で見守っているよ



ずっとずっと…




ゴーンゴーンゴーン…

251: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:00:19.37 ID:H71/+Fhm0


……


……



ダイヤ「どういうことですの!!」バンッ!


英玲奈「曇り…こんな時に限って…」


海未「これでは向こうから和歌が送られて来てもこちらから返すことはできません…」


ダイヤ「くっ…」



英玲奈「…いや、まだだ!」


海未 ダイヤ「!!!」


海未「何か方法があるのですか!?」


英玲奈「ああ」


ダイヤ「一体どうすればいいんですの!?」


英玲奈「こう考えるのはどうだろう?先程言ったサヌキが異世界で神隠しにあっていたのなら、彼女の残した終歌とは対極の序歌の読み手は黒澤ダイヤ、過去に貴方と同じ紋章を刻まれし九人目の可能性が高い」


ダイヤ「!!」

252: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:00:45.15 ID:H71/+Fhm0


海未「二人はダイヤさん達と同じく和歌のやり取りをしていました!その誰かとサヌキさんの和歌の掛け合いが今の序歌と終歌です!」


英玲奈「この部屋の入り口の時計に嵌め込まれている石。この後0時のタイミングでそれに触れれば何か起きるかもしれない」


英玲奈「可能性は保証できないが…貴方と同じ立場の人間が残した石だからな」


ダイヤ「やってみますわ。もうそれしかありませんもの!!」ダッ


英玲奈「頼んだぞ…」


海未「どうかご無事で…」



ダイヤ「お願いです…」タッタッタッタッ



コチッコチッコチッ…



ダイヤ「どうか!!!」タッタッタッタッ



コチッコチッコチッ…





ダイヤ「届いて!!!!!」





バッ!!!




ゴーンゴーン…
ゴーンゴーン…

253: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:01:22.99 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…



…ん?


ここは…


海の上?


どうやら水面に浮かんでいますわね…


…これは夢ですの?


先程、柱時計の石に触れたところまでは覚えていますが…


いつもと違う…


紋章は既に刻まれたのでしょうか?


でも和歌は聞こえてきませんわ…



!!!!!!!


まあ…


なんと綺麗な月と星空でしょう…


時雨亭より拝することのできる静かで上品でどこか物憂げな月とは違い、煌びやかで猛々しい立派な月ですわ


周囲の星々も…どれが一等星でどの星座なのか分からぬ程煌めいていて…滅多にお目にかかれませんわね。こんな絶景…


…そして、月明かりで微かではありますが…少し遠くに島が見えますわ


…ただ淡島とは違う。少し小さくて岩壁のそびえる島ですわ


…ここはどこなんですの?


一体どうなっているんですの?





!!!!!!


もしかしてこの月は…

254: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:02:12.76 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…



ずっと水の中にいたルビィ…


やっと水面に上がって来れた…


やっと見ることができた…


これがみんなの見ていた世界…



月が綺麗…


星も綺麗…


すっごく…


…でもなんでそんなに煌めいてるの?


嬉しいの?悲しいの?怒ってるの?


あなたはみんなに思いを託されてきたんだよ?


誰かが死んで、自分もまた死に近づいて…その悲しみや苦しみを歌にして…


…ちゃんと聞いてた?味わった?だからそんなに眩しいの?だからそんなに激しいの?


…そう。辛かったね。でも、もう一晩だけ我慢してね?ルビィで最後だから。ちゃんと聞いててね?壊れてしまわないで…

255: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:02:54.01 ID:H71/+Fhm0


…怖い夢を見て泣いた


梨子さんが死んだって知ってまた泣いた


朝起きたら鞠莉さんが死んでいて泣いた


元の世界に戻れてなくて泣いた


善子ちゃんの言葉に泣いた


やっぱり戻れてなくて泣いた


花丸ちゃんの言葉に泣いた
多分人生で一番…


でも翌朝は泣かなかった


そして果南さんの言葉に泣いた


星の数ほど流した涙は、この海のように大量の涙は、月のように激しく高ぶって流した涙は…


枯れなかった


だってずっと大切だから…


ずっと繋がっているから


その繋がりをルビィは守りたいから…


お月様…


もしあなたが繋がりの守護者なのなら…



…どうか、ルビィのお願いを聞いてください

256: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:03:26.24 ID:H71/+Fhm0


…もしかしてここは、皆さんが囚われている異世界の月の夢!?


そしてこの月こそが…皆さんがはち切れそうな想いを和歌に乗せ託した月だったのですわ


…だとしたら今宵、今こうして私と同じ月を眺めている誰かがいるはずですわ!


梨子さん…善子さん…花丸さん…不明な一名と今宵の死者を除くと、残りはあと三人…



!!!!!!!!

257: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:03:56.29 ID:H71/+Fhm0


…仮にルビィが死んでしまっているのなら、今までの和歌にそれを仄めかす掛詞があったはず。妹故皆さんは真っ先にそれを伝えようと考えるはずですわ…


そしてルビィが和歌を詠んだのなら…私へのメッセージがあったはず…


いずれもまだ無いということは…


ルビィは死んでおらずまだ月の夢も見ていない


ならば……


…夜半の月よ


…もしあなたに心があるのなら



……


お月様…お願いです


……



ルビィに一目…



……



お姉ちゃんに…



……



「「会わせて……!!!」」




ゴツン…

258: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:04:27.57 ID:H71/+Fhm0


「「ぴぎゃっ!?」」


「いたたた…なんですの?」


「うゆ…頭に何かぶつかった……」クラクラ



「もう…なんですの!?」ザバァッ!



「お月様のバチが当たったんだ…」



「ご、ごめんなさーー」ザバァッ!




ザザーン…



ダイヤ「あ………ああ………」



ルビィ「おねえ……ちゃん……?」

259: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:04:59.05 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「ルビィ……」



ルビィ「おねえちゃん…」



ダイヤ「ルビィ!!!!!!」ザバァッ!



ルビィ「お姉ちゃん!!!!!!」ザバァッ!



ギュッ



ダイヤ「ルビィ……」ボロボロ


ルビィ「お姉ちゃん…うっ…ううっ…」ボロボロ


ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!お姉ちゃん!!!お姉ちゃん!!!!!」ボロボロ


ダイヤ「ごめんなさい…辛かったわね…苦しかったわね…」ボロボロ


ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!怖かったよぉぉ死にたくなかったよお姉ちゃああん!!!!!!」ボロボロ


ダイヤ「本当にごめんなさい…まさかこんなことに……」ボロボロ


ダイヤ「でもずっと…ずっとずっと、ルビィのことを忘れはしませんでしたわ…」ボロボロ


ルビィ「うぅ……ルビィだって…ぐずっ…ルビィだって!!!!ずっとずっとお姉ちゃんのこと考えてた!!!!!」ボロボロ


ダイヤ「繋がっていた…」ボロボロ


ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!」ボロボロ




今はずっとこうしていましょう……



月の許す限り……

260: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:05:29.60 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…

ザザーン…



ルビィ「ぐすっ…」ギュッ


ダイヤ「…ルビィ。こちらの状況を詳しく説明して」


ルビィ「うん…」


……


……



ダイヤ「そう…鞠莉さんまで……」


ルビィ「うん…その水面夢の順番だと今夜死んじゃうのは果南さん…多分もう……」


ダイヤ「水面夢…これが…」


ルビィ「あとはルビィと…千歌ちゃんと曜さん…」


ルビィ「なんでこんなことになったのか。どうしたらいいのか。それをずっと解明しようと頭を悩ませて…なんとか答えに近付こうとしてたけど…そんな中次々みんなが死んじゃって…」


ダイヤ「…それであの和歌を」


ルビィ「うん…」


ルビィ「やっぱりお姉ちゃんに届いてたんだね…」


ダイヤ「…ええ。こちらもずっと、ルビィ達を助けるため悪戦苦闘していました…」


ダイヤ「でも大丈夫。こうして繋がることができたのですから…今は思いのままに語れますわ」


ルビィ「うん…!」


ダイヤ「……」

261: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:07:00.81 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「八人の神隠し」


ルビィ「!!!」


ダイヤ「…歌合で聞かされましたの。百年ごと下二桁が十五の年、私たちの家系に降り注ぐ災厄。それは内裏歌合に紛れ込んだ妖の四十六家目の存在により引き起こされる…」


ルビィ「その妖のせいでみんな……」


ダイヤ「その神隠しは二日未明から五日の正午に起こり、それが過ぎるといなくなった八人ともう一人…九人目の死者が見つかる」グイッ


ルビィ「その模様は!!!」


ダイヤ「紋章ですわ。決まって九人目の死者の首に刻まれている…今、どうなっていますの?」


ルビィ「えっと…複雑でよく分かんないけど、丸の中に赤い文字が刻まれているのが五つある」


ダイヤ「やはり果南さんは…」


ルビィ「どういうこと?」


ダイヤ「これはこちらで誰かが死ぬ度に文字が増えていきます。あと三人…それが全て刻まれた時に私も死にます」


ルビィ「そんな!!!」


ダイヤ「こちらではその水面夢の順に一人ずつ死んでいくということですわね……そしてこれが五番目の夢。私と繋がる最後のチャンスということだったわけですか…」


ルビィ「……」

262: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:08:49.34 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「ですが大丈夫。必ず助かりますわ。こちらが予想していた通りに、そちらでも推理が進んでいたようなので…もう少しです」


ルビィ「その四十六家目は見つかりそうなの?」


ダイヤ「今歌合の参加者は皆私が犯人で逃げ回っていると思っていますの。正確にはそう思い込ませて真犯人を探るという算段で海未さんや英玲奈さんと奮闘しているところですわ」


ルビィ「うみさんと…えれなさんって…」


ルビィ「!!!!」


ルビィ「み、μ'sの園田海未さんとA-RISEの統堂英玲奈さん!?お姉ちゃん会ったの!?」


ダイヤ「ワケあって二人も神隠しの謎に迫っているんですの。だから大丈夫。必ず助け出してみせますわ」


ルビィ「う、うん!分かった!」


ルビィ「全部…全部解決したらサイン貰わないと…」


ダイヤ「ええ」ニコッ


ダイヤ「……」



ダイヤ「それからサヌキの和歌のことですが…」

263: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:09:52.09 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「うん…うちにある柱時計から見つかったよ」


ダイヤ「やはり…」


ルビィ「この水面夢の中で、サヌキの沖の石を見つけたの。それを鐘に嵌め込むと和歌の書いてある紙が出てきて、台座の部分の表面に四つの窪みが浮かんできたの」


ダイヤ「四つの窪み…時計の台座は最初から窪んでいるのではなかったのですわね…」


ダイヤ「その石はどこにあったのですか?」


ルビィ「それは…」ザパッ


ブクブク…


ダイヤ「ルビィ!?」ザパッ


ブクブク…



ダイヤ「!!!!」


ダイヤ(明るい…まるで陽が射しているようですわ…空は夜なのに何故!?)


ダイヤ「ぷはぁっ!!」ザパッ!


ダイヤ「……」


ダイヤ「やはり夜…」プルプル


ダイヤ「ん?」


ダイヤ「この水……」



ルビィ「ぷはぁっ!!」ザパッ!


ダイヤ「!!」

264: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:10:23.56 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「この水の底に落ちてたんだよ」


ルビィ「そしてこれは昨日…ルビィが見た四番目の水面夢…」


ダイヤ「夢は繋がっているということですか!?」


ルビィ「はっきりと分からないけど…」


ダイヤ「そうですか…」


ダイヤ「…しかし見つかってよかったですわ」


ダイヤ「その石の柱時計は昔、時雨亭より送られたものだという記述が見つかりました」


ルビィ「うん!横に書いてあった!!1235年に送られたって!!」


ダイヤ「間違いありませんわね」


ルビィ「…やっぱり時雨亭にもう一つあるの?」


ダイヤ「ええ。お屋敷の廊下の隅に、家のものと全く同じものが置いておりましたわ」


ダイヤ「鐘の石と窪みの有無の差はありましたが…」


ルビィ「その時雨亭の石って…」

265: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:11:40.19 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「ええ。去年、時雨亭の幹事様がお屋敷の庭園にある例の池の底から見つけられたものですわ。それを嵌め込むとその時計からあの序歌が出てきたんですの」


ダイヤ「そしてその裏には…定家が百人一首を定めたとされる『夜半の間』という名の部屋が見つかりましたわ」


ダイヤ「そこには序歌…そしてもう一つ、終歌の存在が書き記された書が見つかったそうです」


ルビィ「終歌…じゃあそれがあの歌…」


ダイヤ「ルビィ…終歌を教えてください」


ルビィ「分かった」



~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~



ダイヤ「……」


ルビィ「これなんだけど…」


ダイヤ「これが……」


ルビィ「何か分かる?」


ダイヤ「いえ…」


ダイヤ「ただ、序歌との関係を踏まえて考えれば何か分かるはず」


ルビィ「二つの歌は掛け合いになってる…恐らく凄く親密な二人のやり取り…」


ダイヤ「二人は今の私とルビィのような状況なのでしょう」

266: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:13:19.23 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「え?」


ダイヤ「サヌキは五番目の水面夢を見た。もう一人はこうして私のようにその夢に入ることができた。そして二人は出会えた…しかしそれが、二人が出会える最後の機会だと気付いてしまった…」


ルビィ「……」


ダイヤ「だから和歌を残した。それは辞世の句であり…この神隠しを解き明かす鍵でもある。その時にサヌキは石を水底に沈めたんですわ」


ルビィ「そっか…五の夢の水面から石を落とせば四の夢の水底に辿り着くから…」


ルビィ「じゃあルビィがお姉ちゃんと会えるのも…」


ダイヤ「いえ、それは違いますわ」


ルビィ「!!!」


ダイヤ「こちらに和歌の作者についての記述はありませんでしたが、終歌はサヌキのものだと分かりました。あとは序歌の作者について分かれば…神隠しの謎が見えてくるはずですわ」


ダイヤ「二人は自らの死に刻んだのです。未来に生きる私達へメッセージを…災厄を断ち切るための鍵を…」



ダイヤ「だから例えこの夢が覚め再び離れ離れになっても…謎を解き明かして……」フワッ


ダイヤ「!!!」


ルビィ「お姉ちゃん!!!!!!」

267: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:13:55.84 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「もうそろそろ時間ですわね…」キラキラキラ


ルビィ「そんな…まだ話したいこと……」


ダイヤ「大丈夫ですわ。私達はずっと繋がっています」キラキラキラ



ダイヤ「例えどこにいても……何百年と離れていても……」キラキラキラ


ルビィ「お姉ちゃーー」



ルビィ「!!!!!!」


ダイヤ「?」キラキラキラ


ダイヤ「ルビィ?」キラキラキラ



ルビィ「なんであの島が…」


ダイヤ「あの島がどうしたのですか!?」キラキラキラ


ルビィ「あそこ…!さっき言ったルビィ達が囚わーー」



……


……

268: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:14:28.09 ID:H71/+Fhm0


…イ……ん…


…丈…か……



ダイヤ「うう…」パチッ


海未「ダイヤさん!!」


英玲奈「目が覚めたか!?」


ダイヤ「海未さん…英玲奈さん…」


英玲奈「あの後駆け寄ってみれば時計の前で倒れていたからな…再び夜半の間の中へ運んだのだ」


海未「大丈夫ですか?」


ダイヤ「はっ!!!」


ダイヤ「ルビィ!!ルビィは!?」


英玲奈「ずっとその名を呼んでうなされていたな…」


海未「夢の中で会ったのですか!?ルビィさんに…」


ダイヤ「夢…」


ダイヤ「そうでした…ルビィは…」ガクッ


英玲奈「……」



海未「お話ください。何があったのか」


ダイヤ「ええ…」ポロポロ

269: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:14:56.30 ID:H71/+Fhm0


ーー
ーーーー



曜『ほわたたっ!?』


ステーン!!


『大丈夫!?』


曜『あだだだだ…』


『曜ちゃんの着ぐるみ、裾が長すぎるのかもね』


『先生に直してもらう?』



曜『だ、大丈夫だよ!もう時間も無いしさ、とにかく数こなそう!』



千歌『そ、そうだよ!伝統芸能なんだから絶対に成功させよう!』プルプル


『鎧凄く重そうだけど…』


千歌『平気平気!このくらい!』ヨロヨロ


ツルッ


千歌『うぎゃっ!?』


曜『えっ』



ドンガラガッシャーン!!!


ーーーー
ーー

270: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:15:25.01 ID:H71/+Fhm0


曜「…はっ!?」ビクッ



ザザーン…
ザザーン…



曜「……」


曜「…ああ、釣りしながらウトウトしてたんだ…」


曜「…ルビィちゃんは布団に潜っちゃっててまだ和歌のこと聞けないし…千歌ちゃんは果南ちゃんの側にいたいって言うから…」


曜「……」


曜「寂しいな」


曜「昨日までは隣に果南ちゃんがいて元気付けてくれてたからさ…」


曜「……」


曜「ダメダメ!しんみりしちゃ!」


曜「…元気出るように昨日逃した魚を釣って二人に食べさせてあげないと」


曜「それが…」



曜「それが今夜死ぬ私にできる、精一杯だから…」

271: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:16:13.74 ID:H71/+Fhm0


曜「…って、あれ?」


曜「浮きが沈んでる…」


バシャバシャ!


曜「!!!!!!」


曜「うおおおおおお!!!!」グイッ



ザバァッ!!!


ピチピチッ!!


曜「やった!釣れた!!」



ペチーン!!



曜「ごはっ…!?」ドサッ

272: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:16:42.37 ID:H71/+Fhm0


曜「いたたたたた…思いっきし顔引っ叩かれちゃった…」スリスリ


曜「うわ…ほっぺたちょっと切れてるよ…後でバンソコウ貼っとこ…」


曜「……」


ピチピチッ…


曜「この子もここに迷い込んじゃったのかな?かわいそうに…こんな霧の海ーー」



曜「!!!!」


曜「あれ!?!?」


曜「こ、この魚……」



「曜さん!!!!」


曜「!!!」


曜「ルビィちゃん!」



ルビィ「大切なお話があります」



【松浦果南 死亡】

ーー残り3人

273: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:17:33.27 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「成る程…」


海未「神隠しにあった皆さんのいた世界…そこは霧に包まれたどこかの島だったのですね」


ダイヤ「どうやら私の家もその島にあるそうで…そこで皆さんは生活していたそうです」


英玲奈「つまりこちらの世界から消えたのは八人と柱時計、家は両方に存在していることになるのか…」


ダイヤ「そこで毎晩…各自が水面夢という夢を見ていたそうなんです」


ーーーーーーーーーーーーー

一…血に染まった水中
二…生暖かくて濁った水中
三…真っ暗で冷たい水中
四…水底に沖の石がある美しい水中
五…綺麗な月明かりと星空の水面
六…新月の冷たい水面
七…雨に晒される水面
八…死の夢

ーーーーーーーーーーーーー

274: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:18:49.84 ID:H71/+Fhm0


海未「成る程…順番に夢を見ていくことでいずれ八番目の夢を見て死に至るということですか…」


英玲奈「黒澤ルビィはこの四の夢の水底に沖の石が落ちていてそれを拾った…それを時計に嵌めることで暗号を解いたということだな?」


ダイヤ「おっしゃる通りですわ。そして五の夢の月を眺めて和歌を詠むことで、紋章の刻まれている私と繋がることができんですの」


英玲奈「やはり満月の夢の仮説は間違っていなかったか…」


海未「その水面夢は、サヌキが沖の石を沈めた約八百年前の世界ということですね」


ダイヤ「更にその四の夢と五の夢は水中と水面の関係…つまり繋がっていたんですの」


英玲奈「どういうことだ?」


ダイヤ「五の夢は夜です。しかし、ひとたび水中に潜ると何故か上から陽の光が射していて…昼のような世界になるんですの。その光景はまさしく四の夢で…しかし再び水中から顔を出すと夜の空が広がっていましたわ」


海未「夢が繋がっている…?」


英玲奈「もう一つ分からないのだが…八人が起きている時に囚われていた島は霧で周辺を見渡せない。だからどこなのか分からないのも無理はない。では水面夢の海域はどこなのか?話によれば水面夢で霧は出ていないらしいな。夢の中で周辺を見渡すことは叶わなかったのか?特徴的な島や目印があればある程度場所が特定できるはずだ」


ダイヤ「……」


英玲奈「どうした?」



ダイヤ「それについてですが…」

275: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:19:23.97 ID:H71/+Fhm0


曜「えっ……」バンソコウペタッ


千歌「ダ…ダイヤさんに会った…?」ガクッ…


千歌「それにμ'sの園田海未さんやA-RISEの統堂英玲奈さんって……」



ルビィ「うん…ルビィも驚いたよ」


曜「それに…八人の神隠しって…」


ルビィ「信じられないと思うけど…お姉ちゃんが全部説明してくれた…ルビィ達はその呪いにかかったんだって…」


千歌「許せない…その四十六家目のせいでみんなが死んじゃった……」


曜「それに…このままじゃダイヤさん達も危ないんじゃ…」


ルビィ「今、お屋敷の人はみんなダイヤさんが犯人で逃げ回ってるって思ってるみたい。今下手に露骨な犯人探しをすると本物の四十六家目に怪しまれるって…」


曜「全部分かるまでは歩み寄れないってことか…」


ルビィ「そしてやっぱり、この和歌にその秘密が隠されているって…」


千歌「……」


千歌「向こうでもずっと頑張ってくれてたんだね」

276: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:20:02.75 ID:H71/+Fhm0


曜「…うん。ちゃんと繋がっていたんだよ」


千歌「私たちも頑張らないと…!」


曜 ルビィ「うん!!」




三人
「「「それでちょっと気になることが」」」




三人「「「あ」」」


三人「……」


曜「じゃあ私から」スッ


ルビィ「ルビィが…」スッ


千歌「えっ…じゃあ私が」


曜 ルビィ「「どうぞどうぞ」」スッ


千歌「えええええええ!?!?」


曜「ぷはははははは!」


ルビィ「あははははは!」


千歌「もう!二人とも!!」


千歌「ふふっ…」

277: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:20:38.52 ID:H71/+Fhm0


スススッ…


梨子「…」


鞠莉「…」


善子「…」


花丸「…」


果南「…」


曜「みんな…安らかに眠ってるね…」


ルビィ「うん…すごく綺麗なまま…」


曜「綺麗……」


曜「……」


ルビィ「どうしたの?」


曜「あ、ううんなんでもない」


曜「それで千歌ちゃん、気になることって?」


千歌「梨子ちゃんと果南ちゃんの体をよく見て」


曜「梨子ちゃんと…」スッ


曜「果南ちゃん…?」スッ


ルビィ「あっ!!」

278: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:22:02.62 ID:H71/+Fhm0


曜「何!?」


ルビィ「おんなじだ…」


曜「え?」


ルビィ「死体の状態…」


曜「!!!!」


千歌「そう…死後硬直とかよく分からないけど、これだけ日が経つと一番最初に死んだ梨子ちゃんと半日くらい前に死んだ果南ちゃんにはどうしても差が出てくるはずだよね?その…腐ったりとか」


千歌「なのに梨子ちゃんの体は全く腐ってない…硬いままなんだよ」


曜「硬いまま!?」


曜「死後硬直っていうのは…しばらくすると解けてまた柔らかくなるはずだよ!筋繊維が機能を失うから…」


ルビィ「解けてない…ってことは」


千歌「死体の時間が止まってる」

279: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:22:36.53 ID:H71/+Fhm0


千歌「…私が思ったのはつまり、もしこの呪いを打ち破ればみんなも生き返るかもしれないってこと!!」


曜「そ、そうか!一時的な仮死状態ってことだよね!!」


ルビィ「希望が見えてきたね!!」


千歌「うん!!!」


千歌「はい次ルビィちゃん!」


ルビィ「ぴぎっ!?」


曜「多分…夢の中で起きたことだよね?」


ルビィ「うん…それなんだけどね?」


ルビィ「お姉ちゃんが空へ消えてく時、ふと周りを見渡したんだけど…そこにあったの」



ルビィ「この島が…」


曜 千歌「!!!!!!」

280: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:23:26.01 ID:H71/+Fhm0


千歌「本当!?」


ルビィ「間違いない…あの岩壁や裏手の森…遠くからだったけどこの島だよ!」


曜「見渡すっていう発想は無かった…私の時はずっと月と星を眺めてたし…六の夢は新月で真っ暗、七の夢は豪雨で目が開けていられないから…」


千歌「うん…私もすぐ潜っちゃったし…」


千歌「でもつまり…」スッ



ルビィ「水面夢はあの霧の向こう…夜はみんなこの島の周辺の海に浮かんでいることになる」


千歌「起きている時も眠っている時も…いる場所は同じだったんだね」


曜「海…」


ルビィ「?」


千歌「曜ちゃん?」




曜「その考えがミスリードだったんだよ」

281: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:24:21.63 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「それは本当か!?」


ダイヤ「はい。夢が途切れる瞬間、ルビィはそのようなことを言っていました」


海未「起きている時に過ごしていた島…逆に眠っている時はその島を水面から眺めていたということですか?」


ダイヤ「はい。間違いありませんわ」


英玲奈「成る程…島から周辺の海域は霧で見渡せないが眠っている間はそれが晴れる。そして水面夢はその海域にいるんだ」


ダイヤ「海…」


英玲奈「どうした?」


海未「海未は私ですが…」




ダイヤ「そもそもあそこは海なのでしょうか?」

282: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:25:02.67 ID:H71/+Fhm0


千歌「どういうこと!?」


曜「これ!」バチャ!


ルビィ「バケツ?」


千歌「うわ!魚だ!!」


曜「これ、さっき釣れたんだけど…」


ルビィ「なんていうお魚さん?」


曜「その前に、この水ちょっと舐めてみて」


千歌「う、うん…」チョビッ


千歌「……」ペロッ


千歌「!!!!!」



ルビィ「しょっぱくない…」


曜「この魚はフナ。淡水魚だよ」


千歌「ここは海じゃない…」


曜「しかも…」グイッ


曜「ほら、口の奥…エラの所に鰓耙(さいは)っていう濾過器官があるの分かる?このトゲトゲみたいなの」


ルビィ「うわ…すごい数…」


曜「そう。普通のフナよりうんと多い。それに見た目もちょっと違う」



曜「私も海の魚以外はあんまり詳しくないんだけど…これは固有種の可能性が高い」

283: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:26:18.75 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「私、その四番目の夢と繋がっているという事を確かめるために水に潜ったんですが、その時に口に入った水…全くしょっぱくなかったんですの」


海未「淡水!!」


英玲奈「どこかの湖だということか…」


ダイヤ「はい」


ダイヤ「分かったのはこのくらいですが…」


海未「いえ、十分な情報だと思いますよ」


英玲奈「ああ。場所が特定できれば何か分かるかもしれない」


海未「あとは終歌ですが…」


ダイヤ「それならルビィから聞いてきましたわ」


英玲奈「ならばその解読にあたろう。序歌と合わせてな」

284: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:29:48.13 ID:H71/+Fhm0


~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~



英玲奈「これが終歌…」


海未「僅かですが親密な方と最後の時を過ごせた喜びが伺えますね」


ダイヤ「この《いろは》という部分、まるで生まれたばかりの赤子の時を思い出す…ということでしょうか?」


海未「成る程。そのような捉え方もありますね」


ダイヤ「と言いますと…?」


海未「…いえ、《いろは》とは古典文法上だと実の母という意味を持っているんです。ですから、

【あなたはまるで幼き頃自分を寝かしつけてくれた本当のお母様のようです】

という意味になるんじゃないかと思いまして」


英玲奈「成る程な。つまり序歌の歌い主はサヌキの腹違いの母親という線が濃厚か」


ダイヤ「……」


海未「……」


英玲奈「……」


ダイヤ「まさか…」


海未「その母親って…」


英玲奈「ああ…内浦出身というのも当てはまるな…」

285: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:30:17.25 ID:H71/+Fhm0


コチッコチッコチッ…


曜「うーん…」ペラペラ


千歌「そっちありそう?」ペラペラ


ルビィ「ダメ…海のお魚さんしか載ってないよ…」ペラペラ


千歌「確かお正月にタイを釣るためのエサを使ったんだよね?それと同じものを食べるフナなんじゃない?」


曜「使った餌は『オキアミ』っていうちっちゃいエビだけど…フナって基本雑食だからなぁ…まあ、そもそも八百年前のフナの食習慣が今と同じってことは無いと思うけど…」


ルビィ「そ、そうだよね…平安時代の人がお昼にコーラやハンバーガー食べてたら変だもんね」


曜「極端だけどそういうこと」ゴロン


千歌「ふわあ…困ったなあ…」ゴロン


ルビィ「…あ、花丸ちゃんがお寺で貰ってきた本でも読もっかな」


曜「ああそっか…こっちからサヌキの親密な人を探さなきゃだっけ」


千歌「こんな難しい本達の中に手がかりが…」バサバサ


千歌「ん?このチラシは…」パラッ

286: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:30:56.97 ID:H71/+Fhm0


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【第50回 伊豆長岡温泉 鵺ばらい祭
2015年 1月25日 13:30 湯らっくす公園 】

・地元中学生による伝統芸能「鵺踊り」
・弓道家による弓のデモンストレーション
・福を呼ぶ豆まき
・芸者衆による踊り
・出店もございます!

※駐車場には限りがありますので、公共交通機関のご利用をお願いします。

※昼の部と夜の部がありますが、深夜にお子様を連れる場合は目を離さないよう注意してください。

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千歌「うわ!懐かしい!!」


曜「どうしたの?千歌ちゃん?」


千歌「見て!鵺ばらい祭り!中学の時に出たよね!!」


曜「!!!!」


千歌「どうしたの?」


曜「ううん、さっき私もこの時のこと思い出しててさ」


曜「へえそっか…今年ももうすぐそんな時期だもんね」


ルビィ「ぬえばらいまつり?」

287: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:31:33.79 ID:H71/+Fhm0


千歌「私達の通ってた中学では、毎年この鵺ばらい祭で「鵺踊り」っていう踊りを披露するんだけどその時の練習がまあ大変で大変で…」


曜「私は鵺の着ぐるみの裾が長すぎて転びまくってたし…」


千歌「私は武士の鎧が重過ぎて動けなかったし…」


ルビィ「あははは…」


千歌「ところで鵺ってなんだったんだろう」


曜 ルビィ「「知らないでやってたの!?」」


千歌「う、うん…昔話の劇なのかなーとは思ってたけど…」


曜「千歌ちゃん…」


ルビィ「鵺ってあの平家物語に出てくる妖怪だよね?」


曜「うん。どんなお話かはうろ覚えだけど…」


千歌「聞きたい聞きたい!!」


曜「うん!ルビィちゃんの読み聞かせ!」


ルビィ「えへへ…分かったよ!」

288: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:32:03.17 ID:H71/+Fhm0


…むかーしむかし、それは平安時代のこと。

当時14歳だった近衛天皇(このえてんのう)は夜な夜な悪夢にうなされていました。

全国から名のあるお坊さんが駆けつけお経を唱えたり秘薬を与えたりしましたが一向に良くなりません

それは決まって丑三つ時。御所(ごしょ)の上空を黒雲が覆った時「ヒョー!ヒョー!」という鳴き声と共に起こります。

その正体は妖怪の鵺(ぬえ)でした。

頭は猿、体は虎、尻尾は蛇の妖怪です。

近衛天皇の父であり、当時幼い彼の代わりに院政を行っていた鳥羽上皇(とばじょうこう)はそれを見かね、勇敢な弓の達人に討伐
の勅令を出しました。



千歌「ストップ!」

289: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:32:30.52 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「ぴぎっ!?」


曜「どうしたの千歌ちゃん?」


千歌「じょうこう…って何?天皇とどう違うの?」


曜「上皇っていうのは太上天皇(だじょうてんのう)の略称で、自分の天皇の位を譲位…つまり後継者に譲った、元天皇の呼び方だよ」


ルビィ「お弁当で例えるとね」


曜「お弁当!?」


ルビィ「ソースが天皇っていう位で、それを入れた小さいボトルがその人間で、カツがその息子ね」


ルビィ「その天皇の位をジョバーって息子にかけるとソースカツ、つまり息子に皇位を継承したことになるよ。逆に天皇の地位を失って空っぽの人間になったのが上皇だよ」


曜「うん、すっごく酷い例えだね。そんなに悪くないよ。立派だよ。上皇」


千歌「なるほどぉ…」フムフム


曜「納得するんだ」

290: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:33:05.65 ID:H71/+Fhm0


で、その勅令を受けた人物が源頼政(みなもとのよりまさ)です。

頼政は部下の猪早太(いのはやた)を連れ夜の天皇の眠る清涼殿へと駆出しました。



千歌「ちょっと待って!」


ルビィ「ぴぎっ!?」


曜「今度はどうしたの?」


千歌「さっき、その近衛天皇…って人がいたのは《御所》って言ったのに何で今度は《清涼殿》なの?ワープしてるの?」


曜「ううん、どっちも同じだよ。敷地全体を《京都御所》って言って、その中の建物の一つが《清涼殿》、天皇のプライベート空間!」


ルビィ「《京都御所》がお弁当箱で、《清涼殿》が卵焼きみたいなものだよ」


曜「だから何でお弁当にこだわるの?」


千歌「なるほどぉ…」フムフム


曜「やっぱ納得するんだ」

291: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:33:37.91 ID:H71/+Fhm0


えっと…で、午前2時頃、話に聞いていた通り清涼殿の上に暗雲が立ちこめます。

頼政はその雲の中に動く影を見つけました。この日の為に用意した武器は、代々源家に伝わる伝説の弓《雷上動(らいしょうどう)》

そこから放たれた渾身の一撃は瞬く間に鵺を捉えました。

庭園に落ちてきた鵺に、早太は《骨食(ほねぐい)》と呼ばれる短刀でとどめを刺しました。

そして、鵺の死体は近くの淀川に流されました。

これにより近衛天皇は悪夢から解放され鳥羽上皇も大喜び。

頼政はずっと意中にあった鳥羽上皇に仕えていた女性を賜ろうとお願いしました。

無論上皇は承諾し、二人はめでたく結ばれましたとさ。



めでたしめでたし。

292: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:34:06.81 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「ふう…」


曜「お疲れ様ルビィちゃん」パチパチパチ


千歌「そんなかっこいい物語があったんだねぇ…」


曜「本当に知らなかったんだね…」


千歌「…ってことは私があの時やったのは頼政の役だったんだ」


曜「そうだよ!で、私が鵺!」


千歌「ふーん…」



千歌「で」


曜 ルビィ「で?」


千歌「それと内浦にどういう関係があるの?その鵺退治のお話って舞台は京都なんでしょ?」


曜「…ん?ああ、実はその時に頼政と結婚した女性が菖蒲御前って言って内浦出身の人なんだよ」


ルビィ「うん!それに肖ってーー」


千歌「……」


曜「……」


ルビィ「……」




三人「ああああああああ!!!!!!」

293: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:35:06.73 ID:H71/+Fhm0


ーー菖蒲御前(あやめごぜん)


ダイヤ「何故気が付かなかったのでしょう…」


海未「菖蒲御前(※以下アヤメ)…源頼政の側室(妻)、そしてサヌキとは腹違いの母にあたります」


ダイヤ「内浦では毎年7月の頭に《伊豆長岡温泉・源氏あやめ祭り》という催しを行いますの」


英玲奈「その催しは私も知っている」


英玲奈「まあ諸説あるが…鵺退治をきっかけに京都にて源頼政と結ばれたアヤメ。しかし1180年、宇治平等院で平氏の軍の前に散った頼政は、死ぬ直前に最愛のアヤメを都から逃していた。アヤメは平氏の追っ手から逃げ回り、遂には生まれ故郷の伊豆長岡へと戻ってきた。そして現在の《西琳寺(さいりんじ)》にて草庵を結んで頼政の菩提を弔った。その後出家し、西浦…浦の星女学院の南西部にある、現在の《禅長寺(ぜんちょうじ)》にて余生を過ごした」


英玲奈「そんなアヤメと頼政の冥福を祈るのがその《伊豆長岡温泉・源氏あやめ祭り》だろう?」


ダイヤ「そうですわ。全国津々浦々にアヤメを祀る祠がありますが…この内浦が本物だと思いますの」


海未「家系図…そして序歌の《三津のおもひで》も考慮するに間違いありません」


海未「しかし、そのアヤメは八人の神隠しの九人目の死者にあたるはずです。辞世の句となった序歌を残されたのもこの屋敷時雨亭。そうなると逃げ回った末故郷の内浦で事切れた…という説に矛盾します。逃げ回る前…1180年かその次の年には時雨亭で呪いにより殺されているはずです」


ダイヤ「…確か、八人の神隠しの記述の最も古いものは1315年ですわよね?」


海未「ええ…」



ダイヤ「アヤメの亡くなった年は…1215年とされていますの」

294: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:35:57.23 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「なっ!?」


海未「ではアヤメは特例…九人目の死者として紋章を刻まれたにもかかわらず生き残った…ということですか!?」


ダイヤ「もしくはアヤメが1215年まで生きながらえてしまった故に…神隠しはその年から百年ごとに起きるようになったのかもしれませんわ」


英玲奈「どういうことだ?」


ダイヤ「アヤメは何かしらの理由で本来死ぬはずの紋章の呪いで死ななかった。そして歴史にあるように1215年に内浦の禅長寺で…恐らく老衰か何かで呪いとは関係なく普通に死を迎えた。一時的に機能を失っていた紋章は対象の死により再びその瞬間、百年ごと発動するようひっそり動き出していたんですわ」


海未「それで今現在の神隠しと同じ記述があったのが1315年からだったのですか。本当はその前…アヤメの世代からあったもの。しかし百年ごとの呪いとして動き出しのがたまたまアヤメの寿命と重なった下二桁十五の1215年…つまり神隠し自体はもっと前…アヤメは89歳でこの世を去っていますから、1215-89=1126年。1126年以降に最初の神隠しが起きたのでしょう」


英玲奈「時系列でまとめると

・1126…アヤメ生誕
・1xxx…神隠し発起&呪い付与(不発)
・1215…アヤメ死去&呪い発動(百年毎)
・1315…神隠し(記述最古)
・1415…神隠し
・1515…神隠し
~~~~~~~~~~~~
・2015…神隠し(Aqours)


…ということだな。やはりこの1xxxは頼政が死に、逃亡を開始した1180年…もしくは81年が濃厚だ。その時時雨亭を訪れていたのだろう」


ダイヤ「成る程…」


海未「ではどうして死ななかったのでしょう?」


英玲奈「そこだが…」


英玲奈「憶測が過ぎてもアレだ。そろそろ暗号の解読に移ろう。何か分かるかもしれない」

295: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:36:29.32 ID:H71/+Fhm0


~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~



海未「特に怪しい点は見つかりませんが…」


英玲奈「まさか何も隠されていなくて本当に死を嘆いただけの和歌ではあるまいな?」


ダイヤ「お言葉ですがそれは無いと思いますわ」


英玲奈「どうしてだ?」


ダイヤ「サヌキの和歌の《巴ぐさ》。何故平仮名なのでしょう?《巴草》と記せばいいのに…しかも本来《巴ぐさ》では無く《巴そう》と読むはずですわ」


海未「草を平仮名にする必要があったのではないでしょうか?そして《巴そう》では意味が分かりにくいため《巴ぐさ》にしたのだと思います」


英玲奈「成る程な。そう考えると《三津のおもひで》の《おもひで》《気なつかし夜》の《なつかし》も、《いろはのごとく》の《ごとく》も平仮名だな…」



ダイヤ「これは漢字の部分を変換して組み合わせるのではありませんか!?!?だから暗号に関係ない部分はわざと平仮名にしたんですわ!!」

296: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:37:04.17 ID:H71/+Fhm0


海未「世も泣かせは《夜も鳴かせ》。紅は《こう》とも読みますから《口》、京は《兄》、夜は《四》、桜は《おう》とも読みますから《王》!!!」


~夜鳴 口兄 四王~


英玲奈「夜鳴は鵺(ぬえ)のことじゃないか…?伝説でも夜中にヒョーヒョーと不気味に鳴く妖怪として名高い」


英玲奈「それに、アヤメは平家物語の鵺退治がきっかけで源頼政と結ばれている」


ダイヤ「鵺の呪い…」


海未「それに四王…!!」


【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】


ダイヤ「あの暗号ですわ…!!」


海未「四人の王は変換して《王王王王》ではありませんか!?」


英玲奈「待て!!アヤメの序歌のそれは全て上の句の漢字!!それにサヌキの終歌の上の句の漢字、《比ぶれど》《巴ぐさ》を組み合わせると!!!!」


鵺、呪
王王王王+比巴=琵琶




三人「琵琶湖!!!!!」

297: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:38:14.41 ID:H71/+Fhm0


海未「あの水面夢の場所ではありませんか!?海と見紛う程広くて淡水の!!」


英玲奈「四つの王…この琵琶という漢字の王は水面に浮かんでいる四人、水面夢の五~八番目のことを表していたのだ」


英玲奈「つまり…この神隠しは鵺による呪いでその場所は琵琶湖にある島…」


ダイヤ「琵琶湖にある島となると限られますわ!岩壁のそびえる淡島より小さいあの島は…」


ダイヤ「おそらく《多景島》ですわ!!!」


海未「平家物語に出てくる鵺ばらいの話にはまだ続きが…」


英玲奈「ああ…あの話はあくまで逸話だと思っていたが…」


ダイヤ「更にアヤメの序歌の下の句の《水面知る》はやはり掛詞…《知》は《ち》とも読みますから《皆も散るらむ》…つまり皆さんが死んでしまうでしょうということを表しているんですわ」


海未「残った漢字はアヤメの序歌の下の句の《三津のおもひで》サヌキの終歌の下の句の《気なつかし夜》から【三・津・気・夜】ですが…」


英玲奈「これはそのまま読めるな」


英玲奈「【見・つ・け・よ】と」


ダイヤ「気付いて欲しかったんですわ…自分たちの無念…その幸せを断ち切った鵺という存在に…」



海未「詳しく時系列を分析していきましょう」

298: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:39:17.50 ID:H71/+Fhm0


コチッコチッコチッ…


曜「まさかサヌキの大切な人って…!!」


ルビィ「間違いないよ!サヌキさんは頼政の娘!!腹違いだけどアヤメさんはお母さんにあたる!!」


千歌「じゃあ…あの序歌と終歌は一応親子であるアヤメさんとサヌキさんのやり取り…ってこと!?」


曜「そういうことだったんだ…」


ルビィ「あ!!」


千歌「どうしたの!?」


ルビィ「花丸ちゃんがお寺の挨拶周りで訪れた所…見て」


曜「この《禅長寺》って浦の星女学院の南西の山奥にあるお寺だよね?」


千歌「あんな遠くまで…」


ルビィ「ここ、アヤメさんが平氏の追っ手から逃れてきて最終的に余生を過ごした場所なんだけど…」



ルビィ「定家がサヌキさんの終歌を込めた柱時計を送ったっていうのはここのお寺じゃないかな?」


曜 千歌「あ!!!」

299: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:39:55.68 ID:H71/+Fhm0


曜「そうか…そこにあった柱時計が過去にルビィちゃんの家に…」


千歌「でも、アヤメさんって京都…ダイヤさんのいる時雨亭で九人目の死者になったんじゃないの?そもそも逃げ帰ってこれないんじゃ…」


ルビィ「死ななかった…その呪いに打ち勝てる加護があった…」


曜「それこそ夫の頼政なんじゃない?」


千歌「…と言うことは、頼政が勝てるもの……」




三人「鵺!!!!!!!!」


ルビィ「この呪いは鵺によるものだったんだよ!!歴史だと平氏に追われてあちこち逃げたってあったけど恐らく…」


千歌「本当に逃げていたのは平氏からじゃなくて鵺からだった…」


ルビィ「鵺…」


曜「あの鵺ばらい祭の鵺が…」


千歌「神隠しの正体…」

302: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:41:00.10 ID:H71/+Fhm0


千歌「!!!!!!」


千歌「ルビィちゃん、さっきの鵺退治のお話で鵺の死体が流されたのはどこって言ったっけ!?」


ルビィ「淀川だけど…」


千歌「中学の修学旅行で京都に行った時にバスガイドさんが言ってた…!!」


千歌「淀川は唯一、ある大きな湖から流れ出る河川ですって…」



千歌「それって琵琶湖のことだよ!!!」


曜「そうか!さっき釣ったフナは琵琶湖の固有種、ゲンゴロウブナだったんだ!!今はあちこちに生息してるけど八百年前は人為放流なんてされてなかった!!」


千歌「ここは琵琶湖に浮かんでいる島…当時にこれだけ竹が多い島ってことは…うーんと確か…」


千歌「多景島!!琵琶湖の多景島っていう島に間違いないよ!!」


ルビィ「この島とその周辺をテリトリーにして神隠しを…」

303: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:43:50.00 ID:H71/+Fhm0


曜「平家物語の鵺退治…鵺は死んでいなかったんだ。ずっとずっと淀川を川上に昇って辿り着いた琵琶湖に住み着いていたんだ…それで自分を撃った頼政を恨んで神隠しをしたんだよ。その対象は頼政の娘、確かその頃二条天皇に仕えていたサヌキを含んだ八人…そして九人目には頼政の大切な側室アヤメを選んだんだ。その場所がここ多景島と島周辺の水域…つまり水面夢の場所。水面夢は毎晩一人ずつ殺していくための儀式…」


ルビィ「サヌキさんは私達でいうルビィの位置にいたんだと思う。神隠しの最後の一人。それで五番目の水面夢でアヤメさんと最後に会って歌を交わしたんだよ…結局その後サヌキさんは死んじゃった。でもアヤメさんは鵺を倒した頼政の妻。その加護のおかげで死ななくて済んで、お姉ちゃんのいる時雨亭にそのことを知らせる和歌を残して故郷の内浦まで逃げて来た…後に定家がそれを見つけて弔いのために二つの柱時計に二つの和歌を込めてそれぞれに置いた…ってことかな?」


千歌「それでおんなじ神隠しが百年ごとにその親戚に起きてるんだよね?なんでだろう?」


曜「百年ごと…っていうのがその呪いのルールならそれは突き詰めても見えてこないけど、親戚…って言うのは引っかかるね。私や千歌ちゃん…他のみんなもそのアヤメやサヌキ…つまりダイヤさんやルビィちゃんと親戚じゃ無いし…」


千歌「なんで私達が…」


ルビィ「……」


千歌「あ!ち、違うよルビィちゃん!別に責めてるわけじゃなくて…」



ルビィ「花丸ちゃんの粗品…」


千歌 曜「え?」

304: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:44:43.70 ID:H71/+Fhm0


……


ジワァ…


千歌「…ほとんど真っ赤だよ」


曜「誰かが死ぬ度に広がってくんだね…」


曜「血の涙みたいに…」


ルビィ「この百人一首は花丸ちゃんが元旦にお寺周りで貰ってきたものだけど…」


ルビィ「そのお寺って禅長寺のことじゃないかな?」


曜「花丸ちゃんも言ってたけどこのかるたの紙すっごく古いね…」


ルビィ「つまり約八百年前、定家が禅長寺に時計と同時に送ったのがこの小倉百人一首かるただったんだよ」


ルビィ「サヌキさんの終歌の入った柱時計と、二人を繋ぐ百人一首かるたには、長年の月日の中でそこで亡くなったアヤメさんの想いが染み付いてて…後に柱時計がルビィの家に来た。そして今年の元旦にかるたを花丸ちゃんが貰ってきた」


曜「揃っちゃったんだね…」


ルビィ「お姉ちゃんの言ってた四十六家目の犯人も誤算だったのかな?本当は血縁のある人を神隠しに選ぶつもりだったのに偶然私たちが…」


千歌「でも…花丸ちゃんは悪くない」


千歌「それにアヤメさんも」


千歌「アヤメさんは…自分をずっと守ってくれた頼政さんも、水面夢で和歌を詠み合った腹違いだけど本当の娘みたいなサヌキさんも、暗号を解いていつか自分達の無念を晴らしてくれるだろう未来の誰かのことも…」



千歌「信じてた」


千歌「だから助けてあげたい。八百年も待たせちゃったけどその想いに私が…私達が答えてあげたい」


曜「そうだよね!」


ルビィ「うん!」

305: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:46:06.16 ID:H71/+Fhm0


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・1104 源頼政 生誕
・1126 アヤメ 生誕
・1153 鵺退治&頼政とアヤメ 結婚
・1162 藤原定家 生誕
・1180 頼政 死去(享年77歳)
・1215 アヤメ 死去(享年89歳)
・1235 定家 百人一首制定&柱時計制作
・1241 定家 死亡(享年79歳)

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海未「ふう…年表にするとこうなります」カキカキ


ダイヤ「ありがとうございますわ」


英玲奈「まあ、これで大方まとまったな」


英玲奈「…まずここ。1235年。元々定家が時計を送った寺は西浦の禅長寺で間違いない。これはいいな?」


ダイヤ「はい。アヤメが亡くなった禅長寺に弔としてサヌキの言葉を込めた柱時計を送ったんですわ。それが今現在私の家にあるんですの」


英玲奈「そして、さっきも確認したが神隠しの起きた年、及び一般的に知られている歴史と違い本当にサヌキが亡くなった年だが…」


海未「それは頼政の亡くなった年と同じ1180年、もしくはその次の81年辺りが最も有力だと思います。もし頼政が生きているのならその腕で鵺からアヤメ達を守れたはずですから。それに頼政は平氏に襲われ亡くなる直前、アヤメに京の都から逃げるよう言っています」


海未「そしてアヤメは一時的にこの時雨亭にてその身を潜めていたのでしょう。その時に奴が来たのです」


ダイヤ「鵺…ですわ」


海未「そして八人の神隠しが始まったのです」

306: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:46:36.28 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「一人紋章の死のカウントダウンを待ち恐怖に震えるアヤメだったが水面夢にて腹違いの娘サヌキと出逢うことができた。そこで和歌のやり取りで鵺を示す暗号を作った。残された日でそのことを時雨亭に記し、遂には自分も紋章の呪いで死んでしまう…そのつもりだった」


海未「しかし死にませんでした。その原因は恐らく…」


英玲奈「……」


ダイヤ「……」


海未「……」



三人「「「通ひの意思(石)」」」


ーーーーーーーーーーーーー

文暦二年 七月二日
権中納言定家

……柱時計…………………
…………送りて………も…
……………二台目目………
…《通ひの意思》…………
………………………で………
………見つくることかな…
はず……………………………

時雨亭 依 伊豆国君沢郡……寺

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307: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:47:11.73 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「それはずっと頼政とアヤメの二人がお揃いで持っていた強い愛の証。別れ際に頼政は例え二人が離れ離れでもずっと繋がっている。だからこれを持っていなさいと…そうしてアヤメに《いし》を託したのですわ」


英玲奈「そして元々アヤメの持っていた《いし》は水面夢でサヌキの手へと渡った。和歌の返しで自分のことを本当の母親のようだと詠ってくれた彼女に自分の《いし》を託したのだ。囚われのサヌキはその大切な大切な《いし》が鵺に見つからないよう水底に沈めた。それが《沖の石》」


英玲奈「世間で《沖の石の讃岐》だなんて謳われているが…本当に幸せだろうな。サヌキは…」


海未「ええ…その頼政の《いし》が紋章の呪いからアヤメを守りました。そうしてアヤメは命を取り止めたわけですが、自分は平氏からも追われている身。これを持って逃げて捕まり殺されでもしたら頼政に合わせる顔がありません。そう踏んで、庭園の池に投げ入れ隠したのです。命からがら生まれ故郷内浦に逃げた彼女は1215年、西浦の禅長寺で果てたのです」

308: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:48:00.66 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「時は流れて二十年後の1235年。小倉百人一首選定のためにたまたま時雨亭を訪れていた藤原定家はアヤメの残した文を発見したんですの。恐らくそこに記されていたのは

・鵺と神隠しのこと
・アヤメの所在(禅長寺)
・二人の和歌とそれに込められた暗号
・アヤメの石の在り処(庭園の池)
・サヌキの石の在り処(水面夢)
・無念を晴らして欲しいという願い

頼政は二人の弔としてアヤメの歌を込めた柱時計を時雨亭に置き、逆にサヌキの歌を込めた柱時計をアヤメの果てた禅長寺に送ったのですわ。私が天井裏で見つけたこの時の記録に《見つくることかなはず》と記してあったのはサヌキの石のこと。当然見つかるはずがありませんわ。それが沈んでいるのは琵琶湖の底ですもの。ただ、《いし》は二人のお揃い。だから池の底にあったアヤメの《いし》を使って二つの時計の鐘に同じ形の窪みを作ることができたんですの。その《いし》は定家がまた池に沈めて隠し、去年幹事様が見つけられるまで深い眠りについていたのですわ」


ダイヤ「《通ひの意思》とは、【運命によりどんな別れを告げようと、どんなに離れていても心が繋がっている証である同じ形の石】のことを言っていたんですわ」



海未「では無念を晴らすために定家がしたことは何でしょう?ふふっ。もうあれしかありませんね」


英玲奈「ああ。そのアヤメの歌を序歌とし
サヌキの歌を終歌とした。それに挟まれている、始まりと終わりを繋ぐ百の和歌」


ダイヤ「小倉百人一首。頼政は神隠しの呪いを打ち破るための方法を見つけこの百の和歌に隠したのですわ!」

309: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:48:41.42 ID:H71/+Fhm0


海未「歴史は紐解けました!」


英玲奈「さあ残るは百人一首に隠された謎…そして」



英玲奈「四十六家目の正体だ」


ダイヤ「ええ…」


海未「まだこの屋敷に歌合の参加者として紛れ込んでいます」


英玲奈「奴には聞かなければならないことが山程ある。神隠しはどうやって行ったのか。あちらの世界でどうやって人を殺めるのか。どうして百年ごとの歌合に顔を見せるのか。血縁に無いAqoursが巻き込まれたのは何故なのか。お前は鵺なのか。それとも鵺と何かしらの関係を持つ者なのか。目的は何なのか…」


英玲奈「この後、午後からは今回の内裏歌合の目玉である競技かるた大会を行う。それで上手くいくかは分からんが、奴の正体を暴くための算段がある」


ダイヤ「本当ですか!?」


海未「ええ。私達はそれを取り仕切るため一旦広間へ向かいますが…」スチャ…


白狐「解読の方、お願いできますか?」


ダイヤ「はい…どうかお任せください」


英玲奈「急いでは欲しいが焦らなくていい。心を鎮め集中して解読に励んでくれ」スチャ…



黒狐「間も無く紋章は残り二つになるが…」


ダイヤ「……」


ダイヤ「曜さん…」

310: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:49:40.27 ID:H71/+Fhm0


コチッコチッコチッ…



鵺 呪 王王王王+比巴=琵琶
皆も散る 見つけよ



千歌「や、やった…」


ルビィ「すごい…解けた……」


曜「千歌ちゃん絶好調だったね…!」


千歌「あんまり文法とか関係なかったからさ。結構楽しかったよ解くの…!」


ルビィ「…やっぱり鵺の呪いだったんだね」


千歌「ずっと叫んでたんだね…助けてって…」


千歌「…なんか分かる。やっぱり運命だったのかも。この神隠しに立ち向かうのは」


ルビィ「うん」


曜「そうだね」


千歌「希望は捨てないよ。最後まで!」


ルビィ「頑張るびぃ!」


曜「ヨーソロー!」



曜「…で、あのさ?いくつか気になってることがあるんだけど…」

311: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:50:31.72 ID:H71/+Fhm0


千歌「?」


ルビィ「どうしたの?」


曜「水面夢ってさ?八人共同じ、この島の周りにいて繋がってるんだよね?」


ルビィ「うん。さっき分かったけどみんな寝ている時は水面夢を見ていて、ここ琵琶湖の多景島の周りの水中や水面にいるんだよ」


千歌「一応夢だからずっと水の中にいても死んじゃわないんだよね。水の冷たさとかはリアルだし何故か沖の石もこっちに持ってこれたのは謎なんだけどさ…」


曜「昨日沖の石を取った時、千歌ちゃんとルビィちゃんは出会った。つまり四番目の夢と五番目の夢は水上と水面下の関係。これもいいよね?」


ルビィ「う、うん。びっくりしたよ千歌ちゃんがいた時は…」


曜「でも周りには誰もいなかったんだよね?」


千歌「うーん…誰もいなかったよ。水面夢で会ったっていうのが昨日の私達だけだよね?」


曜「やっぱり……」


千歌「曜ちゃん?」


曜「もう一回水面夢を確認してみて」

312: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:51:17.92 ID:H71/+Fhm0


ーーーーーーーーーーーーー

一…血染めの水中
二…生暖かくて濁った水中
三…真っ暗で冷たい水中
四…水底に沖の石がある美しい水中
五…綺麗な月明かりと星空の水面
六…新月の冷たい水面
七…雨に晒される水面
八…死の夢

ーーーーーーーーーーーーー


ルビィ「曜さん、何が分かったの?」



曜「この夢は四と五だけじゃない。他の夢も水面と水中でセットになっているんじゃないかな?」


千歌 ルビィ「!?!?!?」


曜「例えば《三・真っ暗で冷たい水中》と《六・新月の冷たい水面》。これは一致していると思わない?」


曜「それに、《二・生暖かくて濁った水中》と《七・雨に晒される水面》。これがセットなんだよ。上では雨が降っていたから水中が濁ってた」


曜「そして《一・血染めの水中》と《八・死の夢》。もちろん八の夢を見たって人はここにいるはずがないからどんな夢か分からないけど…夢の構造上、一の夢はそこからスタートしたルビィちゃんただ一人が見ることができた」


ルビィ「……」


曜「そしてこれが繋がっているのなら…ルビィちゃんが水中で見た真っ赤なアレは、水面で起こっていた死の夢の様子だったんだよ」




曜「梨子ちゃんが鵺に食べられた時に流した大量の血」

313: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:52:07.46 ID:H71/+Fhm0


千歌「!!!」


ルビィ「ひっ…」


千歌「で、でも!梨子ちゃん…ううん。みんなの死体に傷は無いよ!」


ルビィ「そ、それに…水上と水面下が繋がっているなら四の夢と五の夢が昼と夜なのも説明がつかないよ…」


曜「ルビィちゃんが教えてくれたダイヤさんの紋章…それからその後に和歌が流れてたことを考慮すると、その日八の夢を見る人は鐘の音と同時に死んで、死体の状態で水面夢に入ると思う。つまり鵺は死体を食らっていることになると思うんだけど…」


曜「…ただなんで死体に傷がないのか。じゃあルビィちゃんの見た赤い液体はなんなのか……」


曜「……」チラッ



梨子「…」


鞠莉「…」


善子「…」


花丸「…」


果南「…」



曜「まさかね…」

314: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:52:36.57 ID:H71/+Fhm0


千歌「曜ちゃん?」


曜「あ!う、うん…ごめん。やっぱ分かんないや…」


ルビィ「そっか…」


曜「それで水面下と水上の関係だけど、
それこそが【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】であって
百人一首に隠された暗号であり、この神隠しを打ち破る鍵になるんじゃないかな?」


千歌「どういうこと?」


曜「……」


千歌「曜ちゃん?」



曜「ごめん。もうすぐお別れの時間だよ…」

315: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:53:04.00 ID:H71/+Fhm0


千歌「!!!!!」


ルビィ「……」


コチッコチッコチッ…


曜「ごめんね…もう一息だったのに力及ばず…」


千歌「曜ちゃん…そんなことーー」


曜「千歌ちゃん!」


千歌「!!」


曜「それにルビィちゃん」


ルビィ「うん…」


曜「私ね、今日ずっと考えてた」


曜「眠っちゃう前に二人に何話そうかなーって」


曜「それでね…決めた」


千歌「……」


曜「……」



曜「いい!」


千歌 ルビィ「え?」


曜「いつも通り、楽しくお喋りして笑って…そうやって過ごしたい。だから砂浜に行こう!」


千歌「曜ちゃん…」


千歌「ふふっ…」


千歌「うん!!」


ルビィ「賛成!!」


曜「よーし、最後の定期船発進であります!ヨーソロー!!」ドタバタ


千歌 ルビィ「「ヨーソロー!!」」ドタバタ

316: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:53:34.01 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…


曜「ほら、湖へお帰り」


ルビィ「フナさんバイバイ」


バシャッ…


曜「……」


曜「やっぱ海はいいなー」ゴロン


千歌「ふふっ、5秒前に自分で湖って言ったじゃん」ゴロン


曜「そうだっけ?忘れちゃった!」


ルビィ「でも間違えちゃうよね…多景島は砂浜も波もあるし…」


千歌「確かテレビかなんかで見た時は岩だらけでゴツゴツしてたから…この砂浜も八百年後には消えちゃってるよ…」


ルビィ「そっか…しょうがないね」

317: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:54:00.19 ID:H71/+Fhm0


曜「湖だって波は起きるものだよ。例えば水を入れたコップの表面にふーって息を吹きかけると表面が揺れるでしょ?」


ルビィ「うん、熱いお茶とかお姉ちゃんにフーフーしてもらってる時とかもそうなるよ!」


千歌「してもらってるんだ」


曜「この湖も一つのコップだとして、そこに大きい人が息をかけたらどうなる?」


ルビィ「ぴぎっ!?それはもう大洪水だよ…」


曜「大洪水では無いけど…要は、湖の上にも風が吹いてるからさ、肌で感じる風はそうでもないけど、湖全体の水面…ましてや琵琶湖サイズの面積だとそれだけ凄い力がかかってるから海みたいな波が立つんだよ」


千歌「はえー流石だね曜ちゃん」


曜「体感天気予報も雲の流れとか波のうねりとか風向きとか…そのほとんどは風から分かるんだよ!」


曜「ふむふむ…西南西、16時の方向より冷たく湿った空気を感知!大雨が接近しているであります!!」ビシッ


ルビィ 千歌「おおお!!!」

318: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:55:19.04 ID:H71/+Fhm0


曜「こんな感じ!」


ルビィ「す、凄い…!これが船乗りの娘の力!」


千歌「前も梨子ちゃんと三人でお出かけした時雲一つない晴天だったのに曜ちゃんだけ傘持って来ててさ。二人でからかってたらすぐに土砂降りになってビチョビチョに濡れちゃって…ぶー。曜ちゃんたら教えてくれればよかったのにー!」プクーッ


曜「あはははっ!ごめんごめん!!でもあれは二人に私とお揃いの傘買わせる作戦だったからさ!」ニシシッ


千歌「ええええ!!じゃああれは曜ちゃんに誘導されて…」


曜「まいどありーっ!!」ビシッ


千歌「勘弁してよ~!美渡ねえにすっごく怒られたんだから~!!」


ルビィ「なんて策士…」


曜「あはははっ!」


千歌「…まあでも、おんなじの揃えられて嬉しかったよ」ニコッ


曜「ふふっ私もっ!」ニコッ


千歌「それに梨子ちゃんだって…」


曜「……」


千歌「あれ?曜ちゃん?」


曜「う、うん!そうだね!!」


千歌「曜ちゃん…」


曜「……」


ルビィ「……」

319: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:55:51.31 ID:H71/+Fhm0


曜「私ね」


千歌「うん」


曜「普段言えないこと、伝えたいこと…抱えきれない程いっぱいあって…それはこういう時こそ言うべきだと思ってる。みんなもそうだった」


千歌「うん」


曜「でも言わないよ」


千歌「うん」


曜「それは全てが終わってから。またみんなで元の生活に戻ることができてから。それは朝のバスだったり、休み時間だったり、練習の休憩中だったり、松月で駄弁ってる時だったり、浜辺だったり…何気ない瞬間にさり気なく伝えたい」


千歌「うん」


曜「それは二人を信じてるって証だから。だから許してね」


千歌「うん」


ルビィ「任せて…曜さん」


曜「だから泣かないよ」


千歌「私も」


ルビィ「ルビィも…それは昨日でおしまい」

320: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:56:36.47 ID:H71/+Fhm0


曜「ふふっ…千歌ちゃん!」


千歌「なぁに曜ちゃん?」


曜「いや、いいや。聞くまでもないかな」


千歌「えええええ!!?言ってよ!!!眠れなくなるでしょ!!!!」


曜「あはははっ!!それに越したことはないんだけどね!」


曜「…千歌ちゃん」


千歌「…なぁに曜ちゃん?」



曜「やめる?」


千歌「ううん。やめない」


ルビィ「ふふっ」


曜「ありがとう。絶対だよ?」


千歌 ルビィ「うん!」


曜「……」


曜「それじゃあ最後に、二人にお願いがあるんだけど…いいかな?」

321: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:57:23.87 ID:H71/+Fhm0


千歌「もちろん!なーんでも言って!!」


ルビィ「ルビィ達にできることなら!!」


千歌「いや、できなくてもやる!!」


曜「……」


曜「そう…じゃあ、しっかり聞いててね」


千歌 ルビィ「「うん!!!!」」


曜「……」




曜「………で」ボソッ




千歌「え…」



ルビィ「なんで…」




曜「時間だよ…ごめんね……」



ルビィ「曜さん!!!!!」



千歌「曜ちゃんどうして!!!!!」




曜「さようなら。千歌ちゃん、ルビィちゃん……」ポロッ



ゴーンゴーン…

322: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:57:52.42 ID:H71/+Fhm0


ザァァァァァァァァァァァァァ…


バッシャァァァァァァァァン…
ザバァァァァァァァァァン…



ぷはぁっ!!ゲホッ、げほっ…!


…七番目の夢。起きている時の白い霧とは正反対にドス黒い雲が立ち込めて視界を奪って…


そこから大粒の雨が降り注いで顔や腕…そして水面を激しく打ち付けてる


空が涙を流しているのか…湖が泣き叫んでいるのか…なんだか善子ちゃんが言いそうだね


とても浮いてなんかいられないから立ち泳ぎしないとだけど…波がうねってて呼吸すらまともにできない…苦しい……


気休めだけど体が沈まないよう足をばたつかせて、片方の腕で水を掻いて、息を吸うタイミングで水が口に入ってこないようにもう片方の腕で口を押さえながら…


寂しくて怖い、いつ終わるかも分からない…認識できる人生最後の夢の終わりを待つ…


ルビィちゃんは今頃真っ暗な新月の夜なのかな?あっちも怖い。何もない…何も見えない静かな水の上…背中には冷たい感覚があるのだけが分かる…不安だよね……


怖くて震えてないかな?大丈夫かな?明日のこの夢…耐えられるかな?

323: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:58:35.69 ID:H71/+Fhm0


…ふふっ、ここまで来ても自分のことじゃなくてルビィちゃんのこと心配してるなんて…


みんなもそうだったのかな。辛くても苦しくても残ってる皆や死んじゃった皆のことを思いながら雨に打たれて波に揉まれて…


それでも最後の一日まで全力で生きて全部話してくれて…私達に託してくれた


だからーー



!!!!!!!!!!



バッシャァァァァァァァァン…
ザバァァァァァァァァァン…



今……


つ、月が出たよね?


黒い雲の間から…


一瞬だけど…パッと……


まんまるの満月が…


激しい雨や荒れ狂う波はそのままに…


雷みたいに明るく光った…


湖や遠くの島がはっきり分かるくらい…


みんなはこんなこと言ってなかった…


私を覗き込むように…


なんでだろう…


どうしよう…こんなことならちゃんと和歌を作っておけばよかった…


ダイヤさんに鵺のことを伝えたかった…


いや、ダイヤさんならもうとっくに見つけてるよね?


あの月は…それ自体がそういうサインだったのかも…


希望の光…

324: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:59:12.92 ID:H71/+Fhm0


その希望が照らして一瞬だけ視界に入った多景島…


あそこが砂浜を囲んでいる岩壁だから…


ここは西南西かな…


そんなところにいるんだね…


あれ?


あの時曜ちゃん…


ーー
ーーーー


曜『ふむふむ…西南西、16時の方向より冷たく湿った空気を感知!大雨が接近しているであります!!』ビシッ


ーーーー
ーー


…って言ってたけど


あれは本当にここで雨が降っているのを…つまり七番目の水面夢がここ、多景島より西南西の水面だって当ててたんだ


でも、なんであんな言い方したんだろう?


8時の方向って言えばいいのにわざわざ16時の方向って…


ここ異世界標準ならそうだけどさ…


船乗りさんもそんな言い方しないよね?


でも、時間と方角ってよくできてるよね…


昔の人はそれを使っーー



……


まさか……




バッシャァァァァァァァァン…
ザバァァァァァァァァァン…

325: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 17:59:41.12 ID:H71/+Fhm0


ジュッ……


ダイヤ「……」


ダイヤ「もう痛みにも慣れてしまいましたわ」


ダイヤ「曜さん…必ず助けますわ」


ダイヤ「千歌さん…ルビィ…」


ダイヤ「……」


ダイヤ「……」


ダイヤ「そ、そうでしたわ。もう待っていても和歌は流れて来ないのですわね…」


ダイヤ「今私が向き合わなければいけないのは…」シャカシャカ



バサバサ…


ダイヤ「この百の和歌ですわ」


ダイヤ「海未さんはこのかるたも夜半の間で見つかったと仰っていましたわ。きっと定家はこのかるたにーー」


ダイヤ「ん…?」


ダイヤ「このかるた…あの時計の台座の窪みにぴったりハマりそうですが…」



白狐「お疲れ様です」スチャ


ダイヤ「海未さん!」


海未「ふう…」


ダイヤ「広間の方は大丈夫ですか?」



海未「ええ。時期に英玲奈さんも戻って参ります。作戦の方もばっちりですよ」

326: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:00:12.98 ID:H71/+Fhm0


ーー広間


ザワザワ…


黒狐『静粛に』


白狐『皆さん、遅ればせながらおはようございます。さっそく、今回の内裏歌合の主要行事…競技かるた大会を行いたいと思いますが…』


『ちょっと狐のお二人はん。その前にハッキリさせとくことあるんでおまへん?』


『ええ。先日の会合で仰っていた例の神隠しとやらの犯人、黒澤家の娘はまだ見つかっていないのですか?』


『黒澤家の娘だと判明したにも関わらず、毎晩毎晩人の部屋の前に誰か居られると思うと気遣わしくて眠れないのであります。どうかご説明を』


『このまま我々の信頼を欠くような案件が続発するようなら来年以降、この内裏歌合の主催自体が脅かされる。まずは信頼の証としてそのお面を外していただきたい所存だ』


ザワザワ…



黒狐『静粛に!その件は私が説明する!』ズイッ!

327: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:00:54.80 ID:H71/+Fhm0


『『『!!!!!』』』


白狐『黒、お願い致します』


黒狐『御意』


『『『………』』』


黒狐『…コホン。最後まで静かに聞いて欲しい』


黒狐『昨日昼過ぎ、我々は黒澤ダイヤを捕らえた。皆が広間に集い歌合を行っている最中、警備が薄くなったこの時雨亭から脱け出そうとしているところを屋敷の者が捕らえたのだ』


黒狐『奴は今一族と共に別の場所で拘束しており今宵、我々が黒澤家を全員処刑する。悪夢の源を根絶やしにするのだ』


黒狐『奴は口を割らないが、恐らく黒澤の家系には下二桁十五の年にその代となった人物が何かしら呪術的な方法で八人を監禁して殺害する習慣があったと踏んでいる。今屋敷の者が引き続き尋問を続けている。御一同はもう安心してくれて構わない』


黒狐『…そして、彼女が歌合に潜り込んでいた四十六家目であると判明したにも関わらず御一同への警戒を解かなかった理由。これは単にまだ奴が屋敷内を逃げ回っており、誰かがそれを匿っている可能性を気宇しての判断だ。ご了承願いたい』


黒狐『そして、昨晩の時点では既に彼女を拘束していたが、それを御一同に伝えることが出来なかったのはこちらの不手際だ。色々立て込んでいたのもそうだが、何百年と続いた悪夢が今我々の代で絶える喜びに浸っていたが故、そこまで頭が回らなかったのもまた事実。それに関しては申し訳なかった』ペコリ


白狐『……』ペコリ

328: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:01:48.64 ID:H71/+Fhm0


『へ、へぇそうなんや…えらい苦労されとったんやなぁ』


『成る程。我々を不安にさせないよう秘密裏に調査なさってくださっとったのに、逆に我々はそれを不審に感じてしてしまっていた。互いの思惑に行き違いがあったのでありますね』


『末代までの安寧が守られるのも時雨亭の方々の永きに渡る奮闘のお陰…ということですか』


『…ならそれこそ、そのお面は外してもいいのでは?』


黒狐『それはできない』


『どうして…』



黒狐『これは余興だからだ』

329: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:02:31.00 ID:H71/+Fhm0


『『『余興???』』』


黒狐『御一同はこの内裏歌合に参加されてからずっと疑問に思っていたはず。例年の幹事様に代わって突如現れた代理を名乗る謎の二人。狐のお面を被った絵に描いたような怪しい人物の正体は果たして誰なのか?』


黒狐『この競技かるた大会の優勝者には特別にその正体を明かしてやろう』


『『『おおおおおお!!!』



黒狐『四十五名を各部屋に二名ずつ振り分け対戦を行ってもらう。組合せとシードはくじ引き。読手は屋敷の者に任せる。対戦に勝った者は読手に報告して隣の部屋の勝者と対戦
。それを繰り返して勝ち残った者は、23時より、私達と最終決戦に挑んでもらう。それまでに広間へ来て欲しい…この』スッ



黒狐『紅の狐の面を被ってな』

330: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:03:08.24 ID:H71/+Fhm0


『『『!!!!!!』』』


黒狐『広間の前に掛けておく。敗れた者は22:30以降、決して部屋を出ないこと』


黒澤『白』



白狐『…ここまでご説明ありがとうございます』


白狐『そして更に優勝者には…』スッ


白狐『こちらの石を差し上げます。如何なる物か存じ上げておりますでしょうか?』


『なんやろ?随分うつやかな石やけぇ…』


白狐『これは最近、この屋敷の庭園の池から見つかった石です』


白狐『調べるとどうやら…菖蒲御前という人物の持ち物だということが分かりました』


『あやめごぜん?』


『どなたでしょう?』


白狐『彼女はどうやら平安末期から鎌倉初期に生きていた人物らしいのですが、何故ここの屋敷から見つかったかは判然としません』


白狐『しかし、約八百年間この国宝と謳われる月の光を浴びてきた悠久の歴史が染み込んだ美しい石…価値は保証できます』


『『『おおおおおおお!!!』』』



黒狐『それでは只今を持って競技かるた大会を開始する。組合せのくじは……』



?『……』

331: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:03:54.47 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「成る程…かつて九人目として紋章の呪いをかけたアヤメが持っていたとされる石、神隠しの年に現れた謎の二人組の正体…四十六家目が喉から手の出る程欲しがる代物ですわ!!」


海未「四十六家目は妖の類、必ず何かしらの力を使って競技かるたを勝ち上がって来ます」


ダイヤ「つまり、広間に現れた紅狐がその四十六家目…ということですわね」


海未「ええ。それまでに奴に抗う方法、及び神隠しを解く方法を見つけ出さなければいけません」


ダイヤ「タイムリミットは今日の23:00…」




海未「…それで、解読の方の進行具合は如何程ですか?」


ダイヤ「いえ…今まで慣れ親しんで来た和歌であるが故、その内容に疑問を抱く事さえままならず、皆目見当も付かない状況ですが…」


海未「そうですか…」


ダイヤ「一つ気になることがありますの」


海未「??」


ダイヤ「ルビィと会った時、あの子は石を嵌めこんだ瞬間に起こった事としてサヌキの和歌の発見…そして」


ダイヤ「時計の四つの窪みの出現について話していましたの」


海未「!!!!!!!」

332: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:04:27.95 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「その時計の窪みなのですが…」スッ


ダイヤ「この百人一首かるたをぴったり嵌め込むことができますわ」


海未「あの窪み…元々あったものだとばかり思い込んでいましたが…」


海未「つまり百の和歌から、ある適切な四首を選んで嵌め込むことでまた何かが起こるということですか!?」


ダイヤ「いえ」


海未「?」


ダイヤ「あちらの柱時計とこちらの柱時計は二つで一つ。つまり八首です。合計八首の和歌を必要としてますの」


海未「八首…」


ダイヤ「ただ適切な和歌というのが一体どれなのかは皆目見当も付かない状況でして…」


海未「そうですか…」


ダイヤ「お力に添えず申し訳ございません…」


海未「いいえ、謝らないでください。ダイヤさん。あなた本当に強いと思います。遠く離れた場所で恐怖に震える仲間のため、一人見知らぬ地で奮闘されてきたのですから…」


ダイヤ「一人だなんてとんでもありませんわ…私一人ではとても抗えなかったでしょう。本当に感謝していますわ」


海未「ふふっ…」



海未「…ダイヤさんはどの歌がお好きですか?」

333: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:04:55.21 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「え?」



海未「私はこの七十七番目の歌です」


~瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の
われても末に 逢はむとぞ思ふ~



ダイヤ「この歌は…」



海未「ええ。これは崇徳院の詠んだ歌で

【川の流れが速く、岩にせき止められた急流が幾つに割れてしまおうと、それがいずれ一つになるように、私達もいつか逢いたいと思います】

という意味が込められています」




海未「私達μ'sは音ノ木坂を卒業した後、それぞれ別の道を歩みました」

334: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:05:23.68 ID:H71/+Fhm0


海未「穂乃果は穂むらで働いているため頻繁に顔を合わせますが…ことりはデザイナーの勉強のためフランスへ留学、絵里は亜里沙とロシアへ帰国しスクールアイドルを主としたダンス教室の開講、花陽は稲の品種改良のため研究室に籠る日々、凛は駅近のラーメン屋に弟子入りしたそうで…かなりしごかれているみたいです」


海未「真姫は医大へ入るため二浪するも叶わず、お父様の知り合いの医薬品の研究機関に勤めることになったのですが、浪人時代の知識が功を成し今まで不治とされていた病の治療方法を発見し今、若きエリートとして注目されているそうです。希は一般企業で事務の仕事をしていますが、夜は街で占いの館を開いていると……にこはアイドルオーディションに何十通もエントリーしてやっと事務所に所属。近々新曲を出すそうでμ's時代からのファンも注目しています」


海未「皆、それぞれの道を選んで進みましたが、今はその道なき道につまずき、悩み、苦労する日々を送っていると思います。しかしどんな人生を歩もうとも、やがてその九人がまた揃う日が来れば…それはかつてスクールアイドルとして活動していたμ'sとして一つになります」


海未「この歌はそんな私達のことを示しているようでならないのです」


ダイヤ「皆さん…それぞれ素敵な人生を歩まれておられるのですわね…」

335: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:05:54.51 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「私達Aqoursは一度、音ノ木坂学院を訪れました。その時出会った生徒の方は、μ'sはここに何も残さずに卒業されたとおっしゃっていましたがそれも…」


海未「ええ」


海未「立つ鳥跡を濁さず。心はずっと繋がっていますから…」


ダイヤ「本当に素敵な方々です。μ'sに出逢えて…そしてファンになれたことを心から幸せだと思いますわ」



ダイヤ「…私も、ずっと憧れていたんですの。μ'sという伝説に」


ダイヤ「一年生の頃、果南さんと鞠莉さんと組んだスクールアイドルAqoursは…想いの行違いにより実質失敗に終わり…一度はバラバラになってしまったんですの」


海未「今の九人Aqoursの前にも一度…」


ダイヤ「はい。しかし二年の時を経てそのわだかまりは解けました。最初千歌さんと曜さんがスクールアイドルをやりたいと申請しに来た時は豆鉄砲食らいましたが、それが梨子さん…ルビィ…花丸さん…善子さんと繋がっていくうちにかつての日々が思い起こされ…自分でもよく分からない感情が押し寄せてきましたの」


ダイヤ「それは憧れだとか…嫉妬だとか…心配だとか…一言で表せるものではなくて…」


海未「……」


ダイヤ「この渦巻いた感情の原因…それは互いの本音に霧がかかっていたこと。それを全て打ち解け霧が晴れた瞬間…目の前にはかつて夢見るも航海には至らなかった大海原が広がっていましたの」


ダイヤ「今度は三人では無く九人…肩を組んで足並み揃えて光り輝く海へとオールを漕ぎ出さんとしていました」



ダイヤ「そんな最中でした…この神隠しに襲われたのは」

336: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:06:31.44 ID:H71/+Fhm0


海未「本当に残酷です…」


ダイヤ「皆さんがどこにいるかも分からない。どんな状況なのかも分からない。ただ死…という現実を突きつけられどうしたらいいのか分かりませんでした」


ダイヤ「様々な険しい道のりと葛藤の果てに結ばれたAqoursという存在は切っても切り離せない存在…もし皆さんが死んでしまうのなら自分も皆さんと運命を共にする。一度はそう決めました」


ダイヤ「しかしルビィ達は諦めていなかったのです。限られた手段…和歌で私にメッセージを送っていましたの。そして…遂には会うことができた。諦めかけていた…もう二度と会えないのではないかと思っていたルビィに。そして気付きました。皆さんが必死に前を向いているのに私がこんなところで諦めてしまってはいけません。再び九人が集えるその日まで…」



ダイヤ「長くなりましたが、これが私の好きな歌です。五十番目、藤原義孝の…」


~君がため 惜しからざりし 命さへ
長くもがなと おもひけるかな~


【あなたのためには例え捨ててしまっても惜しくは無いと思っていたこの命、しかしあなたと会ってしまった今、いつまでも生きていたいと思っています】

337: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:07:06.92 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「海未さん」


海未「はい」


ダイヤ「私達Aqoursが生まれた根源にはμ'sの存在があり、今もそれを追い続けていますわ」


ダイヤ「必ず九人揃って再びステージに立ち、感謝の意を示してみせます!」


海未「ふふっ…私も、ダイヤさんのように強くたくましい若葉に出会えて本当に嬉しく思います。これからのAqoursの皆さんのご活躍、ずっと期待しております!」



海未「隠された暗号を解きましょう…想いを一つにして!」


ダイヤ「はい!!」

338: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:07:36.74 ID:H71/+Fhm0


コチッコチッコチッ…



曜「…」



千歌「……」


ルビィ「曜さん…」


ルビィ「みんなの部屋に移して…」スッ



千歌「ダメ!!!!!!!!」


ルビィ「!!!!」


千歌「最後に曜ちゃんがお願いしてくれた…だから守らないと…」


ルビィ「う、うん…」


ルビィ「そう…だよね…」


千歌「曜ちゃん……」



千歌「なんであんなこと…」



【渡辺曜 死亡】

ーー残り2人

339: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:08:25.50 ID:H71/+Fhm0


……


ルビィ「昔の時間の表し方?」


千歌「うん。昨日ルビィちゃんが鵺のお話してくれた時、『丑三つ時』って言ってたでしょ?あれって時間を表す言葉なんだよね?」


ルビィ「う、うん…」


千歌「詳しく教えて」


ルビィ「分かった…ちょびっと難しいかもしれないけど…説明がんばるびぃ!」


ルビィ「昔の人は時間を十二支、子(ね)丑(うし) 寅(とら) 卯(う) 辰(たつ) 巳(み) 午(うま) 未(ひつじ) 申(さる) 酉(とり) 戌(いぬ) 亥(い)で表していたんだよ」


ルビィ「それでその十二の干支はそれぞれ二時間ぶんの時間帯を言っててね?例えばルビィの話した『丑』は午前1時~午前3時の二時間ぶん」


ルビィ「更にその二時間を三十分ごと四つに分けてたんだよ。午前1時~1時30分が『丑一つ時』、1時30分~2時が『丑二つ時』、2時~2時30分が『丑三つ時』、2時30~3時までを『丑四つ時』って言うの」


千歌「じゃあ鵺のお話に出てきた時間は2時~2時30分のことを言うんだね」


ルビィ「この時間は一番お化けが出やすいなんて言われ方もするんだけどね…」


ルビィ「こういう時間の表し方を《十二時辰(じゅうにじしん)》って言うんだけど…」


千歌「これって方角も表せるの?」


ルビィ「う、うん!」


ルビィ「確か花丸ちゃんの本の中に…」ガサゴソ


ルビィ「あった!!」

340: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:09:07.51 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「表にするとこんな感じかな?分かりにくかったらごめんね…」


ーーーーーーーーーーーーーーーー

子(ね)《23~1時》~北~【11月】
牛(うし)《1~3》~北北東~【12月】
寅(とら)《3~5》~東北東~【1月】
卯(う)《5~7》~東~【2月】
辰(たつ)《7~9》~東南東~【3月】
巳(み)《9~11》~南南東~【4月】
午(うま)《11~13》~南~【5月】
未(ひつじ)《13~15》~南南西~【6月】
申(さる)《15~17》~西南西~【7月】
酉(とり)《17~19》~西~【8月】
戌(いぬ)《19~21》~西北西~【9月】
亥(い)《21~23》~北北西~【10月】

ーーーーーーーーーーーーーーーー


千歌「おお……」


ルビィ「ちなみによく聞く《黄昏(たそがれ)》って言葉は元々戌の刻の事を言ってて、季節差はあるけど日没前~日没後の約二時間、空が赤い時間のことを指してたみたい」


ルビィ「あとはお姉ちゃんが言ってた夜半の間の《夜半(よわ)》って言葉も23時~1時を…ってあれ?」


千歌「……」


ルビィ「千歌ちゃん?」

341: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:10:03.99 ID:H71/+Fhm0


千歌「昨日曜ちゃんがさ、浜辺で西南西16時の方向に大雨が降っているって言ってたじゃん?」


千歌「私多分、七番目の水面夢でそこにいた」


ルビィ「え!?」


千歌「それでこの十二時辰を見ると…
●申(さる)《15~17》~西南西~【7月】
16時の方向…西南西…
それが当てはまるんだよ」


ルビィ「それじゃあ…」


千歌「うん。他の水面夢も…そしてそれが全部、四の夢と五の夢みたいに水面と水中で繋がっているんだったら…」


千歌「他にも三箇所、水面夢の地点があるはず!」

342: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:10:31.23 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「だったらやっぱりこうなるけど…」


ーーーーーーーーーーーーー

一…血染めの水中
二…生暖かくて濁った水中
三…真っ暗で冷たい水中
四…水底に沖の石がある美しい水中
五…綺麗な月明かりと星空の水面
六…新月の冷たい水面
七…雨に晒される水面
八…死の夢


~左:水中 真ん中:水面 右:方角~

一・八・?
二・七・西南西
三・六・?
四・五・?

ーーーーーーーーーーーーー



ルビィ「で、でも…四と五の水面夢が昼と夜で別だったし…」


千歌「思ったんだけどさ、この水面夢って方角以外の十二時辰も全て反映されているんじゃないかな?」


ルビィ「え?」


千歌「私ね。今日豪雨に晒された時感じたの。確かに水は荒れ狂って容赦無く襲い掛かってきてすっごく怖かった。でも…」


千歌「温かかった」


千歌「この水面夢はさ、その七の夢や二の夢みたいに水が温かかったり、三の夢や六の夢みたいに冷たかったりもする。そして四と五で明るかったり暗かったりもする」


千歌「これって季節や時間帯も反映されてるってことだよ」

343: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:11:21.07 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「あ!!!!」


千歌「そしてこれが鵺の方角なのなら…」


ルビィ「頭が《申(さる)》、体が《寅(とら)》、尻尾が《巳(へび)》…」


千歌「全部干支だよ。私がいた七の水面夢は申の方角。繋がっている二の水面夢もそう。水が温かかったのは7月だから。
●申(さる)《15~17》~西南西~【7月】」


ルビィ「じゃあ三と六の水面夢は冷たい…冬ってことは
●寅(とら)《3~5》~東北東~【1月】」


千歌「そして、四と五の水面夢は残った
●巳(み)《9~11》~南南東~【4月】
この流れだと一、八の夢は…


ーーーーーーーーーーーーーーーー

子(ね)《23~1時》~北~【11月】
牛(うし)《1~3》~北北東~【12月】
●寅(とら)《3~5》~東北東~【1月】
卯(う)《5~7》~東~【2月】
辰(たつ)《7~9》~東南東~【3月】
●巳(み)《9~11》~南南東~【4月】
午(うま)《11~13》~南~【5月】
未(ひつじ)《13~15》~南南西~【6月】
●申(さる)《15~17》~西南西~【7月】
酉(とり)《17~19》~西~【8月】
戌(いぬ)《19~21》~西北西~【9月】
★亥(い)《21~23》~北北西~【10月】

一、八…亥 ★
二、七…申
三、六…寅
四、五…巳

ーーーーーーーーーーーーーーーー


千歌「亥…ってことになるよ」

344: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:11:56.65 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「でも…やっぱり四と五の水面夢で昼と夜が違うのが分からない…」


千歌「逆にさ、五~七の水面夢は全部夜だよね?夜の豪雨、新月の夜、ダイヤさんと繋がった綺麗な月と星が浮かぶ夜空。恐らく八の水面夢も夜」


千歌「それこそがあの暗号

【四人の王に陽は昇らず、ただ月が浮かぶのみ】

なんじゃないかな?」


ルビィ「あ!!!!!」


ルビィ「四人の王は果南さんが言ってたように水面に浮かんでる五~八の夢の人…『琵琶湖』って漢字も上に四つ王がある。これは水面に浮かんでいる四人を表していて…その四人は時間が夜に固定されるんだ!!!」


千歌「うん。でも今日ルビィちゃんの見た六の夢は冷たいし私の見た七の夢は温かい。
つまり一日の『時間帯』は夜に固定されるけど、『季節』は十二時辰通りに変化するんだよ。これが
【四人の王に『陽』は昇らずただ『月』が浮かぶのみ】の意味」


ルビィ「水面はdayは固定。monthは変動するってことだね」

345: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:12:32.74 ID:H71/+Fhm0


千歌「だから四の夢と五の夢で昼と夜が別々になるって不思議なことが起きたんだよ。
本当なら
●巳(み)《9~11》~南南東~【4月】
だから朝からお昼前のはず。実際四の夢の水中はそう。水中に陽の光が射してて沖の石を発見できた。でも、五の夢は水面。時間帯が無視されて夜になるんだよ」


ルビィ「三の夢と六の夢がどっちも真っ暗で冷たいのは
●寅(とら)《3~5》~東北東~【1月】
六の夢は夜に固定されるからともかく、時間の反映される三の夢も朝の3時~5時だから真っ暗だったんだ!」


千歌「そして、二の夢と七の夢」


ーー
ーーーー


果南『そう…じゃあ今日は?』


ルビィ『今日は血じゃなかったけど…生暖かい水の中は酷く濁ってて分かりにくかった…』





善子『で、ルビィが見た夢…見たの?』


千歌『うん…昨日ね。なんだかよく分からなかったけど、ルビィちゃんの見た夢で間違い無いと思う。生暖かくて濁って分かりにくい水の中を泳いでた』


ーーーー
ーー


千歌「二の水面夢は私とルビィちゃんしか見てない。水の中は生暖かくて濁ってる」


千歌「生暖かいのは7月だから。濁っているのはその二の夢の真上にあたる七の夢で雨が降っていたから」


●申(さる)《15~17》~西南西~【7月】


千歌「だから濁って分かりにくくてお昼だって上手く認識できなかったんだよ」

346: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:13:16.86 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「それじゃあルビィの見た一の夢は…」


★亥(い)《21~23》~北北西~【10月】


千歌「赤くてドス黒い血みたいな液体はまだよく分からない…でも、水中の時間帯も夜。真っ暗なはずなのにルビィちゃんはその液体の色を認識できた…ってことは、その真上の八の夢は…」


ルビィ「五の夢の月にも負けない程綺麗で明るい月が海を照らしている…」


千歌「そうだと思う」


千歌「季節も時間もバラバラのこの水面夢…その十二時辰に当てはまる八つの時を示すのが…」


ルビィ「小倉百人一首の和歌!」


千歌「水面夢に適した和歌がこの中にあるんだ。それを探さないと…」


ルビィ「ねえ千歌ちゃん!この百人一首かるたの形!柱時計の台座の窪みにぴったりじゃない!?」


千歌「!!!!」


千歌「見つけるべき和歌は四首…窪みも四つ…間違いないよ!何かが起こるんだ!!」


千歌「この四つの窪みは水面夢の方角!その中心がこの島なんだよ!!」


ルビィ「お姉ちゃんのところにも窪みがあるはず!全部で八首だよ!」


ルビィ「でも何が起こるんだろう…」


千歌「……」


ルビィ「千歌ちゃん…?」



千歌「今日だ」

347: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:13:50.79 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「え?」


千歌「多分私が死んだらルビィちゃんはもう助からない」


ルビィ「えっ!?」


千歌「曜ちゃんが最期に言ったあの言葉…」


ーー
ーーーー


曜『そう…じゃあ、しっかり聞いててね』


千歌 ルビィ『うん!!!!』


曜『……』











曜『私達の死体には二度と触らないで』


ーーーー
ーー

348: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:14:22.20 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「!!!!!!」


ルビィ「まさか…」


千歌「まだ分からない…」


ルビィ「……」


千歌「でも、多分その可能性が高い。だから準備しよう」




千歌「今夜の最終決戦に向けて」


ルビィ「……」


ルビィ「うん、分かった」

349: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:14:52.63 ID:H71/+Fhm0


ーー時雨亭 廊下


?「……」ギシギシ


?「……」


?「……」スチャ



紅狐「……」



ススススススッ……



紅狐「……」


白狐「おめでとうございます。あなたが見事、2015年時雨亭主催内裏歌合の目玉、競技かるた大会を勝ち抜き栄えある勝利を手にされたのですね」


白狐「どうぞ部屋の中へ。並べてある札の前にお座りください」


紅狐「……」スッスッスッ


紅狐「……」スッ…


黒狐「ここからは余興だ。肩の力を抜いてくれ」


白狐「本来なら私達が対局するべきなのですが…」



ススススススッ…



紅狐「!!!!!!!!!!」





ダイヤ「その役は私が買って出ますわ」


紅狐「……」



白狐「騙すような真似をして申し訳ございません」


黒狐「だが…分かっているよな?」



ダイヤ「この対局は悠久の歴史が紡いだ人々の想いの集大成…絶対に負けるわけにはいきませんわ!」



紅狐「……」

350: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:15:44.81 ID:H71/+Fhm0


コチッコチッコチッ…



千歌「……」


ルビィ「夜半…時計が23時30分を指したら向こうの世界の23時だよ。そこから時計が0:00を指すまでに決着を…」


千歌「……」


ルビィ「千歌ちゃん」


千歌「…え!?…あ、うん!」


ルビィ「大丈夫?やっぱり私が…」


千歌「ううん。私にやらせて。ダイヤさんと約束したから。次会うまでに百人一首できるようにするって…」


ルビィ「千歌ちゃん…」


千歌「だからルビィちゃん。読み手…お願いね」


ルビィ「う、うん!分かった!」



千歌「……」




コチッコチッコチッ…

351: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:16:32.63 ID:H71/+Fhm0


ーー
ーーーー


……


海未『そういうことだったんですね…』


ダイヤ『そんな秘密がこの百人一首に…』


英玲奈『ああ…謎は解けた』


英玲奈『23:00…これは予選が長引くことを考慮し思い付きで口にした時間だったが…』


海未『直感が冴えていましたね。むしろこの時間にこそ私達の戦いは始まるのですから』


ダイヤ『夜半の間…定家が名付け隠した部屋。ちゃんとその名にも意味があったんですのね』


英玲奈『夜半は23:00~1時を指すが、恐らく向こうで高海千歌が死ぬ0:00までには決着を付けねばならない。向こうの二人もそれは分かっているはず。何故なら…」


海未『和歌の読み手がいなくなってしまうから…ですね』


英玲奈『ああ。そして向こうとは時差がある。こちらの世界とあちらの世界…その歩みを揃えて競技かるたを同時進行する』


ダイヤ『大丈夫です。私達は繋がっていますわ』


英玲奈『しかし、手順を踏んだ末に何が起きるのは全く分からない』


海未『はい…それに、相手も人間ではありません。まず奴から全てを聞き出せるかすら怪しいですが…最悪何もできずに奴にたちまち殺されて終わりでしょう』


ダイヤ『一かバチか…ですか』


海未『ここまで来たら信じるしかありません』


英玲奈『ああ。大丈夫だ。必ず成功する。我々は一つだ!』


ダイヤ『海未さん…英玲奈さん…』


ダイヤ『はい!!』



英玲奈『さあ、時計を広間へ運ぶぞ』


ーーーー
ーー

352: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:17:12.00 ID:H71/+Fhm0


コチッコチッコチッ…


白狐「……」


黒狐「……」



ダイヤ(大丈夫ですわ…落ち着いて…)ドキドキ


紅狐「……」



白狐「まだ対局の23時まで少し時間があります。何か言いたいことはありますか?」


黒狐「…と言っても、こちらとしては洗いざらい話してもらいたいのだが…」



紅狐「……」



黒狐「……」


黒狐「そうだな。仮面を外す約束だった」スチャ


白狐「……」スチャ



紅狐「……」



英玲奈「これが私達の正体だ」


海未「思うところはあると思います。しかし、これであなーー」





紅狐「裏切られたのか」

353: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:18:38.95 ID:H71/+Fhm0


三人「!!!!!!!!!!!」



紅狐「鵺様の生贄という分際で醜い愚行に走り、その血を引く我を欺くとは…やはりどの時代も変わらぬのだな。薄汚れた魂胆を胸に宿し、粗末に塗りたくったペルソナで見苦しく取り繕おうとするその情け無い様は…」


紅狐「…なあ?生きとし生きる人間共よ」



海未「……」ゾクッ


英玲奈「こいつ……」


ダイヤ(ぬ、鵺の血を引いている!?)


紅狐「そろそろあちらでも我の分身が目を覚ます頃か…まだ不完全ではあるが致し方無い」


海未「あなたは一体何者ですか!!!」


英玲奈「その面を外せ!!!」



紅狐「最初に泣き付いてきた時はいささか心が揺れ、ならば我の策に利用してやろうと意企していたが…」


ダイヤ(……)ゴクリ


紅狐「期待外れ?失望?どの道我らが一族の糧となるには相応しく無い憐れな存在だったというのだな…」スチャ



ダイヤ「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」










聖良「なあ黒澤ダイヤよ?貴様にはほとほと愛想が尽きた」

354: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:19:32.31 ID:H71/+Fhm0


コチッコチッコチッ…



千歌「……」


ルビィ「……」



梨子「…」


鞠莉「…」


善子「…」


花丸「…」


果南「…」


曜「…」


千歌「みんな綺麗だよ…あんなに辛かったのに…生きたいって願っていたのに…必死で抗って…でも最後は受け入れて…」


千歌「そんな辛いことがあったとは思えない程…綺麗で静かに横たわってる…」




千歌「でもおかしいよね?」

355: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:20:06.12 ID:H71/+Fhm0


千歌「初日、鞠莉さんは裏の森に入って切り傷だらけになって帰って来たはずなのに死体には傷一つ無い。綺麗」


千歌「二日目、花丸ちゃんは果南ちゃんから私を庇って殴られて口元を切っていたはずなのに死体には傷一つ無い。綺麗」


千歌「昨日、曜ちゃんは釣り上げたゲンゴロウブナにほっぺたをはたかれて切り傷を作ってバンソコウを貼っていたはずなのに…」



千歌「死体には傷一つ無い。バンソコウも無い。すっっごく綺麗」


梨子「…」


鞠莉「…」


善子「…」


花丸「…」


果南「…」


曜「…」


千歌「水面夢には四つの地点があるんだよ。一つは鵺の尻尾、一つは鵺の体、一つは鵺の頭…そしてもう一つは…」


千歌「鵺のお皿」

356: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:20:34.38 ID:H71/+Fhm0


千歌「つまり八番目の水面夢で起きていたことは…その日浮かんでいた死体を食べること。ルビィちゃんが水面下で見た赤くてドス黒いあの液体は…やっぱり梨子ちゃんの血だったんだね」


千歌「私が七の夢の途中で見た月…あれは月なんかじゃ無かった。曜ちゃんを食べ終えて本来の頭の部分に戻って来た…」


千歌「鵺の目玉だったんだ」


千歌「ここには毎日毎日全く傷一つ無い死体が増えていく。それは鵺の食い散らかしじゃない。でも元々付いていた傷も無い。死体はどれも死後硬直がストップしてるなんて言ったけどさ…そもそもどの死体も私達が目覚めた時から全く状態が変わってないんだよ」




千歌「あなた達は誰?」




曜「…」ピクッ




ルビィ「!?!?」

357: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:21:00.66 ID:H71/+Fhm0


千歌「曜ちゃんは薄々気付いてたんだね…だからあんな事言ったんだ…」


千歌「中学の時の鵺ばらい祭…あの時とおんなじ役になっちゃうなんてね…」



千歌「私が頼政で…」




梨子「…」ピクピク


鞠莉「…」ピクピク


善子「…」ピクピク


花丸「…」ピクピク


果南「…」ピクピク


曜「…」ピクピク



ルビィ「あ…ああ……」ガクガク



千歌「みんなが鵺」

358: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:21:30.34 ID:H71/+Fhm0


梨#p/@鞠$子「ゴボボボボボボ…」ベチョ


k>°#善花j@l「グゴゴゴゴゴゴ…」ベチョ


果p#●〆:曜※「ギギギギギギギ…」ベチョ



ルビィ「み…みんなの死体がくっついて……」ガクガク


千歌「……」ゴクリ



#p/●@$:k>°@
「ギョゴゴキバキゴキゴゴキバキバキバキ…」



千歌「来るよ」


ルビィ「うぅ…」ビクビク



スッ…



千歌 ルビィ「!?!?!?」



聖良『ふゥ"…まさカ"不完全なマ"ま呼びダザレ"るとは…』



千歌「聖良さん…まさかあなたが…」


ルビィ「……」ギュッ



聖良『……』ゴキッゴキッ



聖良『お久しぶりです千歌さん。そして…』



聖良『お悔やみ申し上げます』ニヤッ

359: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:22:00.82 ID:H71/+Fhm0


聖良「……」ゴキッゴキッ


英玲奈「北海道の鹿角家…そうかお前たち家系が四十六家目だったのか」


海未「確かに気付いてしまえばこっちのものです…当時の北海道…蝦夷地はまだ完全に朝廷の支配下にありませんでした…ましてやその地に幹事様の家系の者が住んでおられるはずがありません!」



ダイヤ「どうして……」


聖良「ふう…成る程。μ'sの園田海未さん、A-RISEの統堂英玲奈さん。名簿にはあなた方の名前が刻まれていたのですね。故に公開することが出来なかった…」


聖良「あなたがそれさえ見つけて持って来てくれれば粗方の合点がいきましたし、本当の推理状況を把握してこの屋敷の者を殺めていたのですが…」


聖良「残念です」



ダイヤ「それはこちらの台詞ですわ。ずっと信じていましたのに…今日まで同じスクールアイドルとして高みに登ろうと、それを妨げる障壁を打ち破ろうと共に誓ったあなたが…」


聖良「そこまで信頼されていたのですか。照れますね」


ダイヤ「ふざけないでください!!!!!」


聖良「ふざけてませんよ」


聖良「あなた達のようにバカ正直で希望を真っ直ぐ見つめている人間がそれに裏切られ、絶望へと叩き落とされる様…」



聖良「大好物なんです。鵺様も我々も…」ペロッ


ダイヤ「くっ……」ゾクッ



英玲奈「コイツ……」プルプル


海未「英玲奈さん…抑えてください…」


聖良「……」



聖良「…分かりました。どうせあなた達の命も今宵で散ります。せっかくなので冥土の土産に全てお話しましょう」

360: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:22:39.84 ID:H71/+Fhm0


聖良「…1153年。当時源頼政は平家物語に語り継がれる鵺退治にあるよう、私達の祖先である鵺様を倒し淀川へと流しました」


聖良「しかし鵺様は滅びてなどおらず、そのまま上流へ上流へと昇られ、着いた場所は現在の滋賀県の琵琶湖。そこの多景島に辿り着かれました。ですが傷は深く、それを癒すため深い眠りにつかれていました」


聖良「中々癒えなかった傷ですが1180年。それは急激に治癒しました。そう、頼政は鵺様に封印術を掛けていた。彼が死んだことで鵺様の封印は解かれて傷も癒えた」


聖良「鵺様の怒りは収まらず、頼政の大切な人物を末代まで呪うことを誓われました。そして、手始めに襲ったのが彼の側室であるアヤメ。彼女は平氏から逃れるためたまたまこの時雨亭に潜んでいましたから。そして彼女に掛けた呪いというものが…」



英玲奈「八人の神隠し」

361: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:23:06.15 ID:H71/+Fhm0


聖良「御名答。更に鵺様は頼政と血の繋がりが強い人物八人を当時御所に仕えていた中から選び、自らの傷を癒すために滞在されていた多景島、その砂浜に連れ去りました。そして毎晩、一人ずつ水面で食い殺していく…」


海未「それが水面夢…」


ダイヤ「その中にサヌキも…」


聖良「そちらでは七日ですが時雨亭のアヤメにとっては三日半…半日ごとに犠牲者が出る度に首の紋章が刻まれ続け、痛みと孤独と恐怖に震えていたでしょう」


聖良「そして八人目が死ぬ時、同時に紋章が全て刻まれアヤメも死ぬはずでした。しかしどういうわけか死ななかった」


聖良「アヤメは平氏の追っ手もあり直ぐ様時雨亭を後にしてしまいました。鵺様もアヤメにかけた呪いが発動せず、直接殺めようとされたが彼女を見つけるには至りませんでした。本来頼政の死んだ1180年から百年ごとにその家系を襲い続ける神隠しとして掛けた呪い…しかしその紋章が役目を終えない限り永遠にその百年後は来ない…」


聖良「…と思われていた矢先、1215年の1月2日。鵺様はその紋章が不自然に発動した事を察知されました。それが表すのは菖蒲御前がどこかで死んだということ。それにより呪いは1215年から百年ごとに発動するようになったのです」


英玲奈「……」


聖良「この百年…いえ、鵺様の住まれるあちらの世界では倍の二百年。それは鵺様が眠りにつかれる時間。その間、次の神隠しの標的を鵺様のいる異世界に送り込む役目。そしてアヤメの果てた地を探し、彼女が残したであろう鵺様の存在を示す何かを掴み抹消する役目を託され生み出されたのが…」




ダイヤ「あなた達鹿角家」

362: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:23:43.84 ID:H71/+Fhm0


聖良「そうです。先祖様は当時あまり管轄の行き届いていない蝦夷にて住を成し、密かにそれを探っていましたが…」


聖良「1236年1月2日より、この時雨亭にて全国の名家を揃えた内裏歌合の催しを行うことを知りました。それは翌年も翌々年も…毎年のように行う恒例行事と化しました」


聖良「その時雨亭はかつてアヤメが神隠しの間過ごしていた邸宅。日にちもアヤメの死と同じ。偶然とは考えにくい。ひょっとしたら内裏歌合はその前の1235年、時雨亭でアヤメの残した鵺様の手掛かりを発見したことがきっかけで催されるようになったのではないか?」


聖良「そう踏んだ先祖様は当時時雨亭を訪れていた藤原定家を怪しみ、捕らえようと計画していましたが束の間の1241年…彼は亡くなってしまい、真相は闇に葬られてしまいました…」


聖良「しかし内裏歌合の様子は至って普通で、ただ単に定家が小倉百人一首を定めたことで翌年の正月より催されるようになっただけ…そう考えました」


聖良「さて…しかしここに集まる名家は皆アヤメと血縁のある者。次の1315年の歌合から密かに紛れ込み、その中から鵺様の生贄を決めれば何かと都合が良い。そうすれば屋敷の者は1180年に御所で起きた神隠しを想起し調査に動き出すはず。そこからアヤメの情報を引き出せれば御の字だろうと踏んだのです」

363: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:24:18.81 ID:H71/+Fhm0


聖良「しかし1315年までの調査でアヤメの果てた地の伝説が残り、その寺や石塔、墳墓までもがある地は全国津々浦々だと判明。どれが本物なのかは見当も付きません。当時情報網も発達していませんでしたから。故にそれを発見する度にその近辺に住まう血縁の者を神隠しの標的にすれば、それがアヤメの果てた本当の地なのか否かまで判明すると踏んだ先祖様」


聖良「最初にアヤメの情報が見つかったのは現在の東広島の福成寺。よって1315年の歌合ではその近辺に住まう家系の八名を神隠しし、参加者に紋章を刻みました。当然屋敷は騒ぎになりますがアヤメの事は見えてこない…ハズレです」


ダイヤ「ハズレ…人の命をなんだと…」


聖良「百年後の1415年。次の代がアヤメの情報を見つけたのは現在の新潟にある金仙寺。裏には『菖蒲塚』だなんて名の付いた古墳もありますから間違いないと思い、歌合にて新潟の家系を神隠ししました。更にその年から砂浜に家を複製し、八人をそこに置きました。時雨亭を訪れている九人目にあたる人物の家です。アヤメの家系であるが故、もしかしたら八人がその家から彼女に関する情報を探し出すと踏んだのですが…やはり何も見えてこない…」


ダイヤ「私の家が異世界にも存在するのはそういうことでしたのね…」


聖良「そうしてアヤメが果てた本当の地について全く見えて来ないまま百年…また百年と月日が流れて行きました」


聖良「しかし、ある年に新たな動きがありました。それは当時私の曽祖母が神隠しを行った1915年から二十年後…1935年」


ダイヤ「!!!!!!!」



ダイヤ「伊豆長岡温泉源氏あやめ祭り!!」

364: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:24:53.22 ID:H71/+Fhm0


聖良「そうです。現在の静岡県伊豆の国市で毎年夏に行われている催し…これがかつて頼政とアヤメに関係しているのは明白。直ぐにその地へ焦点を絞り調査していくとアヤメが頼政の菩提を弔った西琳寺、そして余生を過ごした西浦の禅長寺の存在が浮き彫りになりました。その二つの寺院から鵺様に関する決定的な証拠を掴むことはできませんでしたが、アヤメの果てた地で間違いないでしょう」


ダイヤ(つまり禅長寺に鹿角家の調査が入る前に間一髪で私の家に柱時計が移されていたのですね…仮にそれを鹿角家が見たとして気付いたかどうかはともかく、見つからないに越したことはありませんわ…)



聖良「ご丁寧に1965年からは鵺ばらい祭まで開催してくださって…それが確信を強める要因になりました。当然次の2015年の神隠しの標的はそのすぐ近くに住を成すアヤメと血縁にある家系、黒澤家に決まりました。それを執り行うのが1996年、鹿角家に生まれ落ちた私の役割…」


聖良「そして…」



聖良「出会ってしまったんですよ…素敵な素敵な九人に…」ニヤッ

365: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:25:42.29 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「どうして…どうして関係のない皆さんを…」


聖良「対象の決定権は私にありますから。本来なら歌合を訪れるであろうあなたを九人目として、残り八人も黒澤家から選ぶつもりでした」


聖良「…私は以前から黒澤ダイヤについて調べていました。すると2012年の夏、東京で行われたスクールアイドルの大会にあなたの所属するAqoursという名の三人組のグループが出場していたことが判明しました」


聖良「…それを知った私はあなたに接近するため理亜と共にスクールアイドル、Saint Snowを結成しその機会を伺っていました。そして去年、あなたが出場した同じ東京の大会で会えることを信じていました」


聖良「…しかし去年の夏、神田明神を訪れたそのAqoursのメンバーにあなたの姿は無かった…」


聖良「最初はもう引退してその後輩に身を譲ったのだと思いました。しかし実際はそんな単純なことではなかったんですね。複雑な糸が絡んで…或いは解けて…その後あなた達の言う奇跡のように想いが繋がった結果生まれたのが現在のAqours…」


聖良「だからUTXへその九人を呼び出したのです。それは皆希望に満ち溢れていた。嬉しかったですよ…あなたが命よりも大切なものを提げていたのですから。それに……」


ダイヤ「……」



聖良「ふふふっ…奪いがいがあるなぁって思って…」

366: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:26:26.63 ID:H71/+Fhm0



……


……


千歌「…そういうことだったんですね」


聖良『はい』


千歌「神隠しにあったのは…ルビィちゃんの家に時計とかるたが揃ったからじゃないんだね…」


聖良「私がこの目で選びましたから。あなた方を」


ルビィ「Saint Snowが…そんな……」


千歌「ひょっとしたらみんなは助からないんじゃないかって思ったりもした…でも、やっぱりみんなを救える。辛くて苦しくて…折れちゃいそうな今を乗り越えたらまたいつもの生活が待っている…」


千歌「そう信じてたのに…」


聖良『今までもそうでした。その年の神隠しを実行し終えた者は最終的にこの地の鵺様に報告も兼ねてその生贄となる運命。しかし、あちらの世界から本人が消えてしまえば鹿角家は代々行方不明云々と、また別の神隠しとして騒ぎになってしまいますから。それに私も鵺様の血縁にはありますが異世界を自由に行き来出来る程の力はありません。故に鵺様の力を借りながら少しずつ自身の分身となる器を送り、とある形に留めておく必要がありました。代理…ではありませんがそれを鵺様の生贄に捧ぐのです。こちらで生き残る者に怪しまれず最も都合のいい形。それは…』


千歌「みんなの死体」


聖良『悲し過ぎますね。朝起きて涙を捧げていた死体が皆さんでは無くそれに化けた私の分身の一部だったなんて…』


ルビィ「酷い……」ポロポロ


聖良『本当はもう一日…千歌さん。あなたの死体ができた後に私は完全な形でこちらに現れ、最後の一人…つまりルビィさんと共に鵺様の生贄となるはずでした。しかし現実の世界ではもう決着を付けなければいけない状況。故に不完全なままこうして現れたのです』


聖良『故に私はあなた達が今日まで何を調べ、何を知り、何を企んで来たのか皆目検討も付かない所存です』


聖良『しかし目の前にあるのは並べられた競技かるた…これはどういう意味ですか?』



千歌「そのままです」


聖良『?』

367: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:26:54.42 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「全部…全部神隠しのためだったんですのね…」フルフル


聖良「ええそうです。いい品定めになりました。グループにはあなたの妹…つまりアヤメと血縁のある黒澤ルビィという人物がいましたから。血縁にある彼女を一人異世界に放り込んでおけば後の七人くらい違ってもいいだろうと…」


聖良「まあ、それよりもあなたのその顔を見たかったんですよ。大切な人が見知らぬ地で見知らぬ力により死んでいく…絶望の淵に立たされ、唯一知り合いである私に縋り付いてくるその情けない顔がーー」




ダイヤ「こんのっ!!!!!」ブンッ



パシッ!!



ダイヤ「!!!!!」


海未「ダメです。言わせておけばいいのです」


聖良「ふふっ…」


ダイヤ「くっ…」ポロポロ



英玲奈「鹿角聖良」


聖良「はい?」

368: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:27:41.02 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「我々A-RISEやμ'sは今日のスクールアイドル文化の第一人者だと自負している。…スクールアイドルとはな?今までごく普通の…なんの変哲も無い人生を送ってきた人物が集い、限られた時間の中でメンバーと…そして自分自身と向き合い精進していくために設けられた掛け替えのない宝なのだ。そしてそれはそう上手くいくものでは無い。どこかで歯車が欠けたり…立ち止まったり…打ちのめされたり…バラバラになりかけたり…」


英玲奈「しかしな?そんな辛いことを尻目にアイドルがステージで笑顔を振り撒くのは何故か分かるか?それを乗り越えた時の奇跡のような喜びを皆に分け与えたいからだ」


英玲奈「それを正に体現しているのがAqoursだ。こうして死に直面してもそれに負けじと限られた手段で戦ってきた誇り高き戦士達だ。彼女達こそ我々の思う最もスクールアイドルらしいスクールアイドル。そちらの事情は知らないが…」



英玲奈「貴様等にその領分を汚す権利など無い!!!」



ダイヤ「英玲奈さん…」ポロポロ


聖良「おや…残念です。私達一応もA-RISEを見ながらアイドルとして育ったのですから…」


英玲奈「不名誉だな。そんな名乗る資格もないアイドル擬きの手本となっていたとは…」


聖良「……」

369: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:28:18.73 ID:H71/+Fhm0


千歌「私と競技かるたで対局してください。あなたが勝ったら望み通り。いつもの神隠しと同じ…いえ、もう誰もあなた達の邪魔はしなくなります」


千歌「そして私が勝ったら…今日をもって神隠しはおしまい。鹿角家も滅びます」


聖良『……』


聖良『ふふっ…面白いです』


聖良『あなた達は真実に辿り着いた。そして、この競技かるたにも意味がある…』


聖良『ならそれに勝ってアヤメ達が残し、紡いできた厄介な証拠を消し去るのみです!』


千歌「……」


聖良『さっきからやけに冷静ですね』


千歌「本当はすっごく怒ってますよ。すっごく悲しいですよ。背負ったものは大きくて重くて…今にも涙になって零れ落ちてきそうです。思いっきり怒鳴りたい。思いっきり泣きたい。それでも足りない。私の感情では表しきれない程の気持ちです」


千歌「でもそれを全部ぶつけるのはこの小倉百人一首競技かるた!!!!」


聖良「ほう…」


聖良「面白いです…」



千歌「絶対に負けない!!!!!!」

370: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:28:49.82 ID:H71/+Fhm0


海未「ダイヤさん。まもなく23時…夜半を迎えます」


ダイヤ「!!!」


海未「八百年間の歴史に紡がれた無念の想い、そしてそれ以上に固く繋がったあなた達の絆…この競技かるたで見せてください」



海未「あなた達は最高です」ニコッ


ダイヤ「海未さん…」ボロボロ



ダイヤ「……」ゴシゴシ



ダイヤ「聖良さん」


聖良「ええ」


ダイヤ「《ライバルとは共に戦うだけでなく共に戦う仲》…あなたの言葉です。よく覚えてますわ」


聖良「ええ。それはどうも」


ダイヤ「あの時とは逆の意味になってしまいましたわね」


聖良「そもそもライバルと見なしてくださるのですか?」


ダイヤ「ええ。私はこの最後の戦い…鵺の血を継ぐ者ではなく、Saint Snowの鹿角聖良と対局しますわ」


聖良「ほう」


ダイヤ「Aqoursの…スクールアイドルの底力、思い知らせてやりますわ!!」


聖良「…まあいいでしょう。言うまでもなくあなた方はアヤメについて何かを突き止めた。その石も…それが嵌め込まれている柱時計も…そしてこの対局にも、鵺様の神隠しに対抗する何かしらの算段があるのは明白…」


聖良「…しかし勝てばいい」

371: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:30:11.12 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「……」スッ


聖良「……」スッ





千歌「……」スッ


聖良『……」スッ



ルビィ(お姉ちゃん…千歌ちゃん…みんな…)


ルビィ「よし!」グッ





英玲奈「……」コクッ


海未「……」スッ




海未 ルビィ

「「~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面散るらむ 三津の思ひで~」」




【23:00 対局開始】

持ち札
ダイヤ25 聖良25

持ち札
千歌25 聖良25

372: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:31:16.25 ID:H71/+Fhm0


コチッコチッコチッ…


英玲奈(本来競技かるたは持ち札…つまり自陣に敷いてある札を0にすれば勝ち)


英玲奈(しかし…)



海未
「~あしひきの…」



パァン!!!



三人「!!!」


英玲奈「なっ…」


聖良「ダイヤさんの目の前にありましたよ。油断しないでください?」スッ


ダイヤ「くっ……」


海未(速い…やはり妖の力ですか)


聖良「送り札です」スッ


持ち札

ダイヤ:25
聖良:24

373: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:31:42.52 ID:H71/+Fhm0


ルビィ
「~ちはやぶる…」


パッァァァン!


ルビィ「ぴぎっ!?」


千歌「くっ……」


聖良『構えが素人ですよ』


持ち札

千歌:25
聖良:24

374: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:32:10.99 ID:H71/+Fhm0


海未
「~人はいさ…


パッ


ダイヤ「あっ…」


パァン!!!


聖良「こっちですよ」スッ


英玲奈(今黒澤ダイヤは他の札に触れたが、それは今詠まれた句と同じ陣にあった別の札。ルール上お手つきにはならない)


英玲奈(しかし全く違う札に手を伸ばしていた…それも奴の妖の力か?)


英玲奈(いや…)


ダイヤ「……」ドキドキ


英玲奈(そうではないか…)


聖良「もっとリラックスしてくださいよ。このままじゃ楽しめませんから」


ダイヤ「……」


英玲奈(肩の力など抜けないだろうな。どんな大会やステージをも凌ぐプレッシャーは相当なものだろう)


持ち札

聖良:23
ダイヤ:25

375: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:32:38.78 ID:H71/+Fhm0


ーー第七首目


ルビィ
「~奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の
声聞くときぞ 秋は悲しき~」



聖良『空札ですか…』


千歌「……」


聖良『もうここまで七首詠まれていますが…空札三回、詠まれた四枚の札も全て私が取りました』


聖良『負けますよ。このままだと』ニヤッ


千歌「……」



持ち札

聖良:21
千歌:25

376: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:33:04.65 ID:H71/+Fhm0


ーー第八首目


ダイヤ「……」


聖良「……」


英玲奈(もう七首読み終え差は四枚…)


聖良「ふふっ」


ダイヤ「……」



英玲奈(だが…)



海未
「~きりぎりす…」



パチィィィィィィィン



聖良「!?!?!?」



ダイヤ 「まずは一枚」シュッ!



英玲奈「……」パシィッ!


ーーーーーーーーーーーーーーー

《九十一 後京極摂政前太政大臣 》

~きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに
衣かたしき ひとりかも寝む~

●亥(い)《21~23》~北北西~【神無月】

水面夢 其ノ一
【血染めの水面下】

旧暦十月・宵の歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


英玲奈「北北西…左上だ」カチャ

《第一封印解除》

377: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:35:15.44 ID:H71/+Fhm0


ドクン…



聖良「『ぐっ……』」パラパラ



五人「!?!?!?!?」


英玲奈「か…顔が…」



ルビィ「崩れた……」


聖良「気にしない…で…ください……」


聖良『続けて和歌を……』



千歌「ダイヤさん…やってくれたんだね」


千歌「次は私の番だ」



持ち札

聖良 21
ダイヤ 24

378: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:35:52.06 ID:H71/+Fhm0


ーー第十二首目


コチッコチッコチッ…


ルビィ「~住の江の…



パチィィィィィィィィン!!!



千歌「……」


聖良『また知らない札でしたか?』


千歌「……」


聖良『ふふっ…』



ルビィ
「~むらさ…」


パッァァァァァァァァァァン!!!!



聖良『なっ…!?』


千歌「《む》で始まる和歌はこれしかありません」スッ


ーーーーーーーーーーーーーーー

《八十七 寂蓮法師 》

~村雨の 露もまだ干ぬ まきの葉に
霧立ち上る 秋の夕暮~

●申(さる)《15~17》~西南西~【文月】

水面夢其ノ弐
【生暖かき濁りの水面下】

旧暦七月・降雨の影響・夕暮の歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


ルビィ「西南西…左下の窪み!」カチリ

《第二封印解除》


聖良『何故また時計に…』


ドクン…

379: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:36:27.73 ID:H71/+Fhm0


聖良「『ぐあっ…!?』」パラパラパラ…



千歌「また…」


ダイヤ(千歌さん…ルビィ…やはりそちらでも動いているのですわね)


ダイヤ「どんどん行きますわよ」



聖良「『何故だ…』」



持ち札

聖良20:千歌24

380: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:36:56.08 ID:H71/+Fhm0


ーー第二十首目


海未
「~花の色は うつりにけりな いたづらに
わが身世にふる ながめせしまに~」


聖良「ちっ…また空札ですか」


ダイヤ「今のは小野小町の歌…色褪せた桜を、衰えた自分の容姿に当てはめていますが…」


ダイヤ「先程までの余裕とアイドルとしてのご自慢の美貌…剥がれ落ちていますわよ」


聖良「くっ…」



海未
「~かささぎの…」



パァァァァァァァン!!



聖良「!!!」



ダイヤ「よそ見厳禁ですわ」シュッ!


英玲奈「……」パシィッ!



聖良「……」

381: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:37:29.66 ID:H71/+Fhm0


ーーーーーーーーーーーーーーー

《六 中納言定持》

~かささぎの 渡せる橋に おく霜の
白きを見れば 夜ぞ更けにける~

●寅(とら)《3~5》~東北東~【睦月】

水面夢其ノ三
【漆黒と低温の水面下】

旧暦一月・未明の歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


英玲奈(そう。こちらのアヤメの時計に一、三、五、七の和歌。あちらのサヌキの時計に二、四、六、八の和歌の札を順番に嵌めていくのだ!)


英玲奈(三つ目の札。東北東だから右上の窪み!!これで台座の和歌は二つ…!)カチリ

《第三封印解除》



ドクン…



聖良「『ぐああああああっ!!!』」バラバラボロボロボロ


ルビィ「ひぃぃっ!!」


千歌(次は私…)

382: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:37:57.58 ID:H71/+Fhm0


聖良『はははっ…そう"か…そ"ういう"こト"か…』ゴキッ


聖良『端から勝ツ気なド"更々無かっダのダナ?』


聖良『ソノ時計に嵌め込ム"和歌ダゲを手ニ"入レレば…』


千歌(バレた…)


ルビィ「……」ゴクリ


ルビィ
「~吹くか…」



ズバァァァァァァァン!!!



千歌 ルビィ「!?!?」

383: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:38:23.94 ID:H71/+Fhm0


聖良『ア"ハハハハ"ハハ"ハハ』グシャ


ルビィ(は…速い……それに…取った和歌を潰した…)


千歌(あの力…手がぶつかったら終わりかもしれない…)


聖良『面白い"!いいタ"ロ"ウ"!!全テ"ノ札ヲ掻っ攫ッ"テ"やル"!!!


聖良『さア"…次ノ和歌ダァァ"ァ"ァ"ァ!!』




千歌(でも…)



ルビィ「……」スゥッ



千歌(それでも…)



聖良『来イ"ッ"!!!!!』ズォッ



ルビィ
「~春過…」



パァァァァァァァァァァァァァン!!!


聖良『!?!?!?!?』




千歌「勝たなきゃいけないんだよ」スッ

384: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:38:52.34 ID:H71/+Fhm0


ーーーーーーーーーーーーーーー

《ニ 持統天皇》

~春すぎて 夏来にけらし 白妙の 
衣ほすてふ 天の香具山~

●巳(み)《9~11》~南南東~【卯月】

水面夢其ノ四
【陽光の照す優美なる水面下】

旧暦四月・亭午前の歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


ルビィ「南南東は右下!えいっ!」カチリ

《第四封印解除》



ズズズズズズズズズ…


ガタガタガタガタ


海未 英玲奈 ダイヤ
「!?!?!?!?!?」


英玲奈「なんだ!?周りの空間が歪んで…」


海未「それに柱時計が揺れています!!」



聖良「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」ブンブン



海未「まさか…千歌さん達が!!」


ダイヤ「はい!恐らく四首目の和歌を取りサヌキの時計に嵌め込んだのだと思います!」


ダイヤ「しかしこれは…」



ズズズズズズズズ…

385: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:39:51.51 ID:H71/+Fhm0


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…


ガタガタガタガタ…


千歌「何!?」


ルビィ「わ、分かんない!!和歌を嵌め込んだら…!!」



聖良『グォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"!!』



ルビィ「時計が…家が揺れて…」



ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……





聖良「ぐぁぁぁぁぁぁ」ドサッ



ダイヤ「きゃっ!?」ドサッ


海未「くっ…」ドサッ


英玲奈「ここはっ!?」ドサッ



千歌 ルビィ「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

386: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:40:19.44 ID:H71/+Fhm0


千歌「ダイヤさん!!!!!!!!」


ルビィ「お姉ちゃん!!!!!!!!!」


ダイヤ「ルビィ!!!千歌さん!!!!!!」



ギュッ…



ダイヤ「繋がっていましたよ…」


千歌「うん…ずっと…」


ダイヤ「信じていましたよ…」


千歌「うん…ずっと…」


千歌「だからこうして今があるんだね…」


ダイヤ「ええ」


千歌「向こうで…一人で…私達の…Aqoursのために頑張ってくれて…」


ダイヤ「突然こんなわけの分からない場所に幽閉され…皆さんが次々いなくなって…恐怖と哀しみに苛まれながらも戦い続けてくださって…」



千歌 ダイヤ「「ありがとう…」」

387: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:40:47.59 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「うぅ……」ポロポロ


ダイヤ「ルビィ…」


ルビィ「ルビィ…泣かないって…ぐずっ…もう泣かないって…そう決めたのに……」ボロボロ


ダイヤ「あなたは本当によく頑張りました…強かった…自慢の妹です…」


ルビィ「うん…ううっ…えぐっ……」ボロボロ


千歌「ふふっ…」ギュッ



海未「ここが異世界…神隠しの大元、鵺の住む世界…ですか」


海未「柱時計が導いたんですね」


ルビィ「!!!!!」


ルビィ「μ'sの海未さん…それに…」


英玲奈「離れ離れだったアヤメとサヌキ…その時計が今ここに揃った!!」


千歌「A-RISEの英玲奈さん!」


英玲奈「お取り込み中済まないが、まだ戦いは終わっていない」


ルビィ「は、はい!」


英玲奈「ふふっ…話は後だ。全て終わればサインでも握手でもなんでもねだってくれ」

388: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:41:19.79 ID:H71/+Fhm0


聖良「………」シュゥゥゥゥゥゥ


聖良『グゴゴゴゴゴゴゴ』ゴキゴキ



英玲奈「鹿角聖良が二人…」


ダイヤ「こちらの世界にいた者は分身でしょう。しかし、もう鹿角聖良の面影はありません」


ダイヤ「崩れかけた顔から覗く悪意に満ちた眼光、人体の限界を超え今にもはち切れんばかりの筋肉、自ら意思を持つかのように自由に動き回る尻尾…」


ダイヤ「あれは間違いなく鵺の子ですわ」



鵺ノ子『グォォォォォォ!!!!!』ダッ



ルビィ「時計を狙ってる!!!」


英玲奈「しまった!!!!」



ドゴォッ!!!!



鵺ノ子『グォォォッ!!』ズザザザザザ



千歌「あ!!」



海未「……」スッ


海未「それはさせません」



千歌 ルビィ ダイヤ
「「「海未さん!!!」」」

389: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:41:54.05 ID:H71/+Fhm0


海未「園田流武術…それはかつて幹事様のご先祖様から授けられ今日までその歴史が紡いだ賜物」


海未「表に出なさい。あなたの相手は私です」ダッ


鵺ノ子『オ"モシ"ロ"イ!!食イ"殺シ"テヤ"ル!!!!!』ダッ



英玲奈「おい!!!!」


海未「こちらはお任せください。皆さんは本体と決着をつけてください!お願いします!!」タッタッタッタッタッタ…



聖良「成る程…」パラパラ


ルビィ「か、顔が…」


聖良「安心してください。鵺様の神聖なる地にて暴れ回るなど無礼千万…あなた達が欲しがっている和歌の札、正々堂々勝ち取って全員鵺様の生贄に捧げますので」



聖良「二人まとめてかかってきなさい」


千歌 ダイヤ「……」ゴクリ


英玲奈「今更何が正々堂々か分からんが…そっちの方が都合がいい」


ダイヤ「ええ。必ずこの悪夢に終止符を打ち…」


千歌「元の生活を取り戻す!!!」


英玲奈「……」チラッ


英玲奈(現実世界からかるたまでは持って来れなかったか…だがどちらも形は同じ。こちらのかるたでもアヤメの時計の台座に嵌まるだろう。代用は効くはず…)


英玲奈「今からの対局はこちらの世界で進行していたかるたを使う。対局は先程の途中から。読み手は私ーー」



ルビィ「ルビィがやる!!!!!!」

390: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:42:24.87 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「!!!」


ルビィ「ルビィに…ルビィにやらせてください…お願いします!!!」バッ


英玲奈「……」


英玲奈「ふふっ…分かった。頼んだぞ」ポンッ


ルビィ「はい!!!」


千歌「任せたよルビィちゃん!!」


ダイヤ「お願いしますわ!ルビィ!!」


英玲奈「取った札は私に渡せ。時計に嵌め込む」


千歌「お願いします!!!」



コチッコチッコチッ…
コチッコチッコチッ…



聖良「……」


英玲奈「……」


ルビィ「……」


千歌(ダイヤさん達と一緒に移動して来たアヤメさんの時計。こっちの異世界標準になってる)


千歌(ふふっ…嬉しいのかな?揃う事ができたのが…)


千歌(……)


千歌(あと約三十分…それまでに決着を付けないと…)

391: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:43:19.14 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「……」ゴクリ


千歌(ダイヤさんがいる)


ルビィ「……」ドキドキ


千歌(ルビィちゃんがいる)


海未「はぁっ!!!」ドゴッ


千歌(海未さんがいる)


英玲奈「……」


千歌(英玲奈さんがいる)


千歌(サヌキさんもいる)


千歌(アヤメさんもいる)


千歌(頼政さんもいる)


千歌(定家さんもいる)



千歌(Aqoursのみんなだってここにいるんだ)


千歌(過去と現在を繋いだ今…)



千歌(次に繋ぐのは未来への切符であるこの栞…裏表紙はまだ見たくない…だから…!!)



千歌(その想いよ一つになれ!永遠に!!)



ルビィ「すぅぅ…」


ルビィ「はぁぁ…」



ルビィ「よし!」


ルビィ「先程の競技かるたを続行致します。第二十三首目より…」


ルビィ「始め!!!」



持ち札

聖良:19
千歌&ダイヤ:23

392: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:44:02.04 ID:H71/+Fhm0


ーー第二十三首目


ルビィ
「~百敷や…


パァァァァァァァン!!!



千歌 ダイヤ「!!!」



聖良「ふふっ…」スッ


ダイヤ(やはり速いですわね)


持ち札

聖良:18
千歌&ダイヤ:23

393: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:44:32.61 ID:H71/+Fhm0


ーー第二十四首目


ルビィ
「~今来むと 言ひしばかりに 長月の
有明の月を 待ち出でつるかな~」



シーン…



ダイヤ「空札…」


千歌「……」


聖良「……」



持ち札

聖良:18
千歌&ダイヤ:23

394: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:45:07.74 ID:H71/+Fhm0


ーー第二十五首目


ルビィ「すぅっ…」



ルビィ
「~ほ…



千歌「はぁぁぁぁっ!!」パチィィィィィィィィン!



聖良「!!!!!」



ダイヤ「ナイスですわ千歌さん!」


千歌「《ほ》で始まる句は…」


千歌「これしか無いよ!」シュバッ



英玲奈「……」パシッ


ーーーーーーーーーーーーーーー

《八十一 後徳大寺左大臣》

~ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば
ただ有明の 月ぞ残れる~

●巳(み)《9~11》~南南東~【卯月】

水面夢其ノ五
【煌々たる望月と満天の星空の水面】

旧暦四月・初夏・月の和歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


英玲奈
(【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】)


英玲奈(これは五~八番目の水面夢に対応する和歌に全て月が含まれていることも表している)


英玲奈「どうだ!」カチリッ!



シーン…


英玲奈「なっ!?」

395: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:45:36.44 ID:H71/+Fhm0


千歌「英玲奈さん!?」


ダイヤ「どうされました!?」


聖良「おや?何か不都合でもありましたか?」


英玲奈「……」


英玲奈「いや…何でも無い…」



聖良「ふふっ…そうですか。なら続けましょう」


英玲奈(何故だ…何故何も起きない…)


英玲奈(この和歌で合っているはずなのに…)


英玲奈(このかるたでは代用が効かないのか?いやそんなはずは…)



持ち札

聖良:18
千歌&ダイヤ:22

396: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:46:29.70 ID:H71/+Fhm0


ーー第二十五首目


ルビィ「すぅっ…」


千歌「……」ピクッ


聖良「……」ニヤッ


ルビィ
「~朝ぼらけ…


千歌「目のまーー」スッ


聖良「遅い!!」バッ




パチィィィィィィィン!!!!




千歌「あ……」


聖良「残念」スッ



ルビィ
「~朝ぼらけ ありあけのつきと…」


聖良「!?!?!?」


ダイヤ「……」ヒョイ


ダイヤ「ありましたよ。あなたの目の前に」クスッ


聖良「何故……」


ダイヤ「百人一首の中に《朝ぼらけ》で始まる歌は二首ありますの。千歌さん。ナイスフェイントです」


千歌「うん!」


聖良「小賢しい真似を…」


ルビィ「聖良さんは取札のない相手陣の別の札を触ったのでお手つきになります。更に二人は相手陣にある正しい札を取ったので…合計二枚の送り札をお願いします」


ダイヤ「ええ」スススッ


聖良「チッ…」


千歌「あと二枚だよ!!」


持ち札

聖良:19
千歌&ダイヤ:20

397: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:47:09.90 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「英玲奈さん!!」シュバッ


英玲奈「ああ」パシッ


ーーーーーーーーーーーーーーー

《三十一 坂上是則》

~朝ぼらけ ありあけのつきと みるまでに
吉野の里に ふれる白雪~

●寅(とら)《3~5》~東北東~【睦月】

水面夢其ノ六
【漆黒と冷水に苛まれし新月の水面】

旧暦一月・月の和歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


英玲奈(六番目…今度はサヌキの時計の右上に!)カチリッ


シーン…


英玲奈「何故……」


ダイヤ「?」


千歌「英玲奈…さん?」




英玲奈「……」


英玲奈「何も起きないんだ…」

398: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:47:40.87 ID:H71/+Fhm0


三人「!?!?!?!?」


英玲奈「こっちに来てからの水面の二首…それを嵌めても全く何も起きない…」


ダイヤ「そんな…」


英玲奈「アヤメの時計はともかくサヌキの時計まで反応しないなんてあり得ない…」



聖良「なぁる程…読めてきましたよ」


四人「!!!!」


聖良「アヤメは夢で会ったんですね。現在百人一首にある沖の石の和歌を詠った腹違いの娘にあたるサヌキと。そこでどうにかして鵺様を記す暗号を作りあの時雨亭に隠した。それを見つけた定家が暗号を隠した二つの柱時計を作り時雨亭と…そしてアヤメが亡くなった本当の地、西浦の禅長寺に送ったんでしょう」


聖良「その柱時計があなたの家に移されたのです」黒澤ダイヤさん」



聖良「禅長寺に鹿角家の調査が入る前に」


ダイヤ「……」ゴクリ

399: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:48:20.60 ID:H71/+Fhm0


聖良「やはり去年時雨亭から新たな序歌が提出されたのは偶然では無かったのですね。それで時雨亭にあったアヤメの石がサヌキの沖の石とやらと繋がっていたと?」


聖良「ふう…先代ももう少し頭が回っていればワリと簡単にアヤメの尻尾を掴めたかもしれないのに…」


聖良「まあいいです。しかしその柱時計がなんだと言うのですか?こちらの世界とあちらの世界を結んだ時は驚きましたが…所詮それだけの事だったんですよ。むしろ好都合でしたね」


聖良「真実を知る皆さんだけが誰にも見つからないここに来て…更に鵺様の生贄まで増えたんですから」ニヤッ


英玲奈「……」


千歌「英玲奈さん…」


ルビィ「うぅ……」



英玲奈(黒澤ルビィ)サッサッ


ルビィ(ぴぎっ!?)ビクッ


英玲奈(もしかしたらこの札には謎が隠されているかもしれん。それを解くまで空札や別の札で時間を稼いでくれ)サッサッサササッ!


ルビィ(わ、分かりました!)コクコクッ



聖良「さて…続けましょうか」スッ


聖良「持ち札0を目指す…何の変哲もない競技かるたをね?」クスッ


ダイヤ「ええ…」スッ


千歌「そうですね…」スッ



持ち札

聖良:19
千歌&ダイヤ:20

400: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:49:05.19 ID:H71/+Fhm0


ザバァァァァァァァン…
ザバァァァァァァァン…


鵺ノ子『グォォ"ォ"ォ"ォォ"!!!』ダッ


ブンッ!!


海未「……」サッ


海未「せいっ!!」ドゴッ!


鵺ノ子『ゴボァ"ァ"ァァ"ァ"』ボタタ


海未「重心が不安定。呼吸も乱れていますし腕に自分が振り回されています。いくら強靭な筋肉でも使いこなせなければただの肉の塊です」


鵺ノ子『貴様ァァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!」


海未「大人しく散りなさい!」


海未(……)


海未(波が激しい…)


海未(それに空気も不穏です…)


海未(何か良からぬことが…)



鵺ノ子『グォォ"ォ"ォ"ォォ"!!!』ダッ


海未「!!!」


海未「はぁああああ!!!」ダッ

401: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:49:39.63 ID:H71/+Fhm0


ーー第三十首目


ルビィ
「~浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど
あまりてなどか 人の恋しき~」


聖良「また空札…これで四連続…」


ダイヤ「……」


千歌「……」


千歌(空札はここに並んでない札で全部で五十枚…)


千歌(今が三十首目だから、つまり空札は十九枚詠まれたことになるね)


千歌(これで適度に時間稼ぎをして残りの二首を確実に取らないとだけど…)チラッ


コチッコチッコチッ…


千歌(時間もあんまりない…)



パァァァァァァン!!!


千歌「!!!!」


聖良「ぼーっとしないでください」スッ


ダイヤ「千歌さん。大丈夫ですか?」


千歌「う、うん…!大丈夫!!」


聖良「では…送り札です」ススッ


千歌「!!!!」


ダイヤ「この札は…」


聖良「どういうわけか真っ赤っかですね。これがサヌキの和歌なのは偶然なのか…」


聖良「それとも?」ニヤッ



持ち札

聖良:18
千歌&ダイヤ:20

402: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:50:16.26 ID:H71/+Fhm0



……


英玲奈(落ち着け。落ち着いて考えるんだ)


英玲奈(五番目と六番目の和歌はこれで間違いないはず…)


~ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば
ただ有明の 月ぞ残れる~

~朝ぼらけ 有明の月と みるまでに
吉野の里に ふれる白雪~


英玲奈(月の和歌という解釈が間違っているのか?)


英玲奈(特殊な和歌で普通に嵌め込んだだけではーー)


英玲奈(月……特殊な和歌……)


英玲奈(!!!!!!)



英玲奈(そうか!有明の月!!!!!)

403: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:50:43.97 ID:H71/+Fhm0


英玲奈(ありあけ…夜明けに空に浮かんでいる月のこと…)


英玲奈(月というのは満月の日を境に段々出るのが遅くなる。欠けて下弦の月になった状態だと朝になっても消えないのだ)


英玲奈(成る程…確かに、本来月は夜の帳を照らすもの。それが夜明けに出ているというのなら《特殊な月》という解釈になるだろうな)


英玲奈(つまりこの二つの有明の月の札は特殊な嵌め方をしなければいけない)


英玲奈(まずはこちら…)


~ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば
ただ有明の 月ぞ残れる~


英玲奈(この札は五番目の札で

●巳(み)《9~11》~南南東~【4月】

…だからアヤメの時計の右下に嵌めるものだな)


英玲奈(この《ほととぎすの鳴きつる方)に答えがあるのだとしたら…)


英玲奈(何かの音……)

404: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:51:24.70 ID:H71/+Fhm0


ーー第三十二首目


ダイヤ「もう残りの二首だけに手を出すのはやめましょう。分かる札はどんどん取って構いませんわ」


千歌「分かったよ…!」


ルビィ
「~陸奥の…


ダイヤ「よし!」バッ


パァァァァァァァン!!!


ダイヤ「なっ…」


聖良「残念」スッ


千歌「今ダイヤさんが札を払ったように見えたのに…」


聖良「ふふっ…歌合の名簿を弄れる私ですから。このくらい造作もありません」


千歌「そんな…」


ダイヤ「その名簿の中身に辿り着けなかったくせに少々口が達者でよ?」


聖良「なんですって?」


ダイヤ「本当は先代の誰かがその名簿に百年ごと、鹿角家が怪しまれないように錯覚させるまやかしをかけたのでしょう。あなたは何もしていないませんわ。鵺の血縁とは言え所詮その端くれ。今宵、あなたが末代となるんですわ!」


千歌「ちょ、ちょっとダイヤさん!そんなに挑発したら…」


聖良「言ってくれますね。ええ、分かりました。その端くれに完膚なきまでに叩きのめされ鵺様の糧となる絶望…」



聖良「その身で味わいなさい」ズォッ!


千歌「うっ……」ビリビリ


ダイヤ「……」ビリビリ


ルビィ「うゆ……」ビリビリ


持ち札

聖良:17
千歌&ダイヤ:20

405: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:51:57.19 ID:H71/+Fhm0


ーー第三十三首目


ルビィ
「~め…」


パァァァァァァァァァァン!!!!


ルビィ「ぴぎっ!?」


千歌「速い…!!」


聖良「千歌さ~ん。《め》で始まる歌はこの紫式部の和歌しかありませんよ?」クスッ


千歌「……」


聖良「自陣の札を取ったので送り札はありませんね」


ダイヤ「本当にそんな力が…」


聖良「当たり前です。言ったじゃないですか。じゃなければ神隠しや紋章の対象をどうやって定めるのです?」


ダイヤ「くっ…」


持ち札

聖良:16
千歌&ダイヤ:20

406: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:52:47.43 ID:H71/+Fhm0


……


英玲奈(この《ほととぎすの鳴きつる方)に答えがあるのだとしたら…)


英玲奈(何かの音……)



コチッコチッコチッ…


英玲奈(!!!!!!!!)



英玲奈(そうか…秒針の刻む音!)


英玲奈(ほととぎすの鳴きつる方とは秒針の示す方向を表していたのか…!)


英玲奈(この札はアヤメの時計の右下…つまり南南東の方向に嵌める札…)


英玲奈(時計の数字で言う南南東は……)



英玲奈(『5』!!!)



英玲奈(黒澤ルビィ!!!)ギロッ


ルビィ(ぴぎっ!?)ビクッ

407: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:53:29.67 ID:H71/+Fhm0


ーー第三十四首目


聖良「ふふっ…」


ダイヤ「……」


千歌「……」


ルビィ「すうっ…」



コチッコチッコチッ…


英玲奈(秒針が5の数字を指すタイミング!)


英玲奈(今だ!!!!!!!!)カチリッ!

《第五封印解除》



ドクン…


聖良「『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』」


ルビィ
「~夏の夜は…


ダイヤ「はいっ!!」バッ



パァァァァァァァン!!!



千歌「やった!」


ダイヤ「お願いします!」バッ


英玲奈「ああ!」ガシッ

408: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:54:07.85 ID:H71/+Fhm0


ーーーーーーーーーーーーーーー

《三十六 清原深養父》

~夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを
雲のいづこに 月宿るらむ~

●申(さる)《15~17》~西南西~【文月】

水面夢其ノ七
【豪雨と荒波の洗礼の水面】

文月・雲・月を探す(見失う)和歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


千歌(鵺が食事で頭の部分からいなくなる時のことを、月(眼)が雲から消えたってところに掛けてるんだ)


英玲奈(これで二人が取るべき和歌は残り一首となった)


英玲奈(順番通りなら…この七番目の和歌を嵌め込む前に六番目の和歌について推理しなければな)



持ち札

聖良:16
千歌&ダイヤ:19

409: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:55:01.14 ID:H71/+Fhm0


ザバァァァァァァァァァァン


ドクン…


鵺ノ子「グォ"ォ"ォ"…」


海未「どうしました?もう終わりですか?」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



海未「!?!?!?!?」


海未「なんですかこの揺れは!?」


鵺ノ子「鵺様ダァァ"ァァ"ァァ!!鵺
様カ"降臨サレ"ルゾォォ"ォォ!!!」


海未「なっ!?」


海未「どうして鵺がここに!?」

410: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:55:36.20 ID:H71/+Fhm0


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


千歌「な…何!?」


ルビィ「家が揺れてる!」


ダイヤ「地震ですわ!」


聖良「ははははっ…鵺様……自ら赴いてくださるとは…今回の生贄が相当極上だということですね!!あはははははははははははははははははははははっ!!!」


英玲奈「狂ってやがる…」


聖良「…」スッ


英玲奈「!!」


聖良「さっさと終わらせましょうか」


ダイヤ「そ、そのつもりですわ」


千歌「うん…こっちが狙ってるのはあと一首…!!」


聖良「ふふっ…」

411: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:56:08.72 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「……」


英玲奈(この有明の月の和歌…)


~朝ぼらけ 有明の月と みるまでに
吉野の里に ふれる白雪~


英玲奈(これは六番目の和歌…

●寅(とら)《3~5》~東北東~【1月】

つまりサヌキの時計の右上に嵌める札だ)


英玲奈(厳密にはこの和歌は月の和歌ではない。吉野の里に積もっている雪に朝陽が当たり、その様子がまるで有明の月ように光り輝いている様を詠ったのだ)


英玲奈(五番目の札の要点がほととぎすの鳴き声…今回注目すべきは…)


英玲奈(下の句の《吉野の里に ふれる白雪》の部分…)


英玲奈(先程は音に関するトリックだったが、この札はそうではない)


英玲奈(吉野の里とは今の奈良県の吉野山とその一帯のことを言う。平安当時は桜よりもそこに積もった雪景色の方が美しいとまで言われていた程…その堂々たる静寂の中にある趣が詠われているのだ)


英玲奈(しかし…だからなんだと言うのだ?それとこの札の嵌め方になんの関係が…)

412: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:56:52.00 ID:H71/+Fhm0


ーー第三十五首


グラグラグラ…



ルビィ「……」ゴクリ



ルビィ
「~これやこの…


千歌「はいっ!!!」


パシィィィィィィィィィン!!!



千歌「よし…」


千歌「あれ!?」


聖良「ふふっ…ここですよ」スッ


千歌「また!どこが正々堂々だよ!!」


聖良「ふふっ…怒らないでください。これだって私自身の能力なんですから。持てる力を使って何が悪いんです?」


聖良「むしろ、あなた達の言う暗号とやらの和歌が全て…空札に含まれずここに並んでいること自体が…」


聖良「卑怯ですよ?」フフッ


千歌「うるさい!」



ダイヤ「千歌さん」


千歌「!!!」

413: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:57:34.31 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「落ち着いてください。対局で心を乱してはいけませんわ」


千歌「ダイヤさん…」


ダイヤ「家を出る前…私はあなたと善子さんに言いましたわよね?百人一首を覚えなさいと…」


千歌「……」


ダイヤ「しかしあなたは今のように…この短期間で私より早く取れるまでに成長していますわ」


千歌「命がけだから…初心者って理由付けて負けるわけにはいかないよ」


ダイヤ「ふふっ…そうですわね」



千歌「でも、戻ったら…」


ダイヤ「?」


千歌「戻ったら百人一首…しっかり教えてね。私と…」



千歌「善子ちゃんに」


ダイヤ「千歌さん…」


ダイヤ「ええ」ニコッ


千歌「……」



聖良「そんな悠長にしていていいのですか?」

414: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:58:02.95 ID:H71/+Fhm0


千歌 ダイヤ「!!!」


コチッコチッコチッ……


聖良「23時57分…つまりあと六分ですよ」


聖良「そして…」




ヒョオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ……




英玲奈「なっ……」ビリビリ


ダイヤ「この鳴き声…」ビリビリ


千歌「鵺だ!!!」ビリビリ


ルビィ「ひぃぃっ!!!」ビリビリ



海未「皆さん!!」バッ


千歌「海未さん!!!」


英玲奈「奴はどうした!?」



海未「あそこです!!!」

415: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:58:30.95 ID:H71/+Fhm0


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



英玲奈「おいおいなんだこの黒雲は…」


ルビィ「いつの間にこの島の上に…」


ダイヤ「平家物語の記述と同じ…鵺と共に現れる暗雲ですわ!」


千歌「もう待ちきれなくて直接襲いに来たんだよ…」


海未「恐らくあの暗雲の中に鵺が…」





鵺ノ子『鵺様ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!』
バッ




ダイヤ「あんな高いところに…」


ルビィ「ま、まさかあの雲を目指してるんじゃ…」



ズボボボボボボボボボボッ!!!



五人「!?!?!?!?」


英玲奈「雲に吸われたぞ!!」



ヒュン……



バチャバチャビチャドボボボバタタ…

416: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:59:19.95 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


英玲奈「なっ!?」


千歌「血…血だ……」


海未「食らったんです…分身を…」



聖良「そうです」


五人「!!!!」


聖良「やはり不完全な我が分身は少々コントロールが効きませんでしたね」


聖良「しかし、次はあなた達の番ですよ」バラバラバラ…


ダイヤ「顔が…」


聖良「こうなってしまった以上、もう私も人間界では生活できません。しかし鵺様の糧となれるのなら本望…」


千歌「続きをやるよ!!」


聖良「無駄です。0時…鵺様が襲ってくるまであと数分。それまでに対局は終わりません。それに、あなた達の求めている和歌だって私がこの力で取りーー」


千歌「やってみなきゃ分かんないよ!!!」

417: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 18:59:53.14 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「そうですわ!!私達は最後まで戦います!!!」


ルビィ「そ、そうだよ!ルビィだって!!」


聖良「はあ。仕方がありませんねぇ…その命、最後の一滴まで届かぬ希望に捧げていなさい」


聖良「さぞ旨味のある絶望と化しますから。鵺様もお喜びでしょう」


英玲奈「上等だ」


海未「ええ。そのつもりです」



ヒョォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ…



ルビィ(大丈夫…)グッ


ルビィ「対局を再開します!!」



持ち札

聖良:15
千歌&ダイヤ:19

418: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:00:24.36 ID:H71/+Fhm0


ーー第三十六首目


コチッコチッコチッ…


ルビィ
「~玉の緒よ…



パチィィィィィィィィィィィン!!!



聖良「ふふふ…」スッ


千歌「くっ…」ダンッ!


千歌「ここまで来たら絶対取らなきゃなのに…」


ダイヤ「奴の力がある限り対局の流れは崩せませんわ…」


海未「一体どうしたら…」



英玲奈「園田海未」ヒソッ


海未「!!!」


英玲奈「恐らくだが、時計に全ての和歌を嵌め込んだ時何が起きるか判明した」ヒソッ


海未「誠ですか…!?」ボソッ


英玲奈「それはな?」



英玲奈「……」ボソッ



海未「!?!?!?」


英玲奈「…だから準備を頼む。私が必ず六番目の和歌の暗号を解く」


海未「……」



海未「承知しました」スッ

419: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:00:55.09 ID:H71/+Fhm0


ーー第三十七首目


ルビィ
「~恨みわび ほさぬ袖だに あるものを
恋にくちなむ 名こそ惜しけれ~」



聖良「空札…」


ダイヤ「……」


千歌「……」




英玲奈(奴の隙を作るには先程と同じく正しい方法で札を嵌め込めば良い。奴が怯んだその瞬間、黒澤ルビィに八番目の和歌を詠んでもらうのだ。そうすれば六、七、八の和歌の札を一度に嵌め込むことができる)


英玲奈(しかしその正しい方法と言うのが分からない…)


~朝ぼらけ 有明の月と みるまでに
吉野の里に ふれる白雪~


英玲奈(里……白雪……これは一体……)



パァァァァァァァン!!!


英玲奈「!!!」



スルスルスルスル…コツン

420: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:01:26.55 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「……」


聖良「あはははははは!!すみません。飛んで行ってしまいましたね」


千歌「英玲奈さん…!」


ダイヤ「大丈夫ですか!?」


英玲奈「構わない」スッ


英玲奈(ん?)


聖良「ふふっ」スッ


聖良「すみません。さあ、時間まで最高に楽しみましょう♪」




英玲奈(この札…)スッ

421: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:01:57.02 ID:H71/+Fhm0


英玲奈(裏側と縁が真っ黒になっているのか。珍しい)


英玲奈(かるたとは本来、字の書いてある生地を緑や紺色の和紙で包み込むように作るのだが…その製法は江戸時代から始まったものだ)


英玲奈(平安時代当時、そのような技術は無かった。これは単に厚紙に字を書き縁と裏を黒く染色しただけだな)


英玲奈(……)


ーー
ーーーー


鵺ノ子『鵺様ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!』
バッ



ダイヤ『あんな高いところに…』


ルビィ『ま、まさかあの雲を目指してるんじゃ…』



ズボボボボボボボボボボッ!!!



五人『!?!?!?!?』


英玲奈『吸われたぞ!!』



ヒュン……



バチャバチャビチャドボボボバタタ…


ーーーー
ーー


英玲奈(血が地面を染めた…)



英玲奈(白雪が里を染める…)



英玲奈(白雪が里に積もる)



英玲奈(里の地面に雪の結晶が積もる…)





英玲奈(!!!!!!!!!!)

422: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:02:31.34 ID:H71/+Fhm0


ヒョォォォォォォォォォォォォォォォ!!!



ガタガタガタガタ…



聖良「あと一分!あはははは!!鵺様がこちらに向かっています!!!」ビリビリ…


千歌「そんな…」ビリビリ…


ダイヤ「くっ…時間がありませんわ…!」ビリビリ…


ルビィ「ぴぎぃぃ!!」ビリビリ…






英玲奈「黒澤ルビィ!!!詠めぇぇ!!!!!」


ルビィ「!!!!」



ルビィ「分かりました!!!」



聖良「無駄です!!!どう足掻こうと私には勝てない!!!!」



千歌「そんなことない!!!!」


ダイヤ「この一手で必ず勝ちますわ!!!」



ルビィ「すぅっ……」




英玲奈「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」


カチリ!


《第六封印解除》


ドクン…

423: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:03:40.27 ID:H71/+Fhm0


聖良「あがっ……」ピクッ



英玲奈「雪の結晶が里の地に積もる…」


英玲奈
「それは 里→黒 という事だ。裏の黒い面を表にして嵌め込む…これが答え!!」




ルビィ
「~秋風に…


千歌「やぁぁぁぁぁぁぁ!!!」バッ


ダイヤ「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」バッ



聖良「負ケ"ル"カ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ!!!」



英玲奈「なっ!?」



バチィィィィィィィィィン!!!!!



ダイヤ「ぐっ…」ピシッ


ダイヤ「!!!!」




千歌「ぐぬぬぬぬ…」ギリギリギリ

424: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:04:09.29 ID:H71/+Fhm0


聖良「離セ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"!!!」ズォォォォォォ!


千歌「くっ……」ギリギリギリ


ダイヤ「千歌さん!!!」



ヒョォォォォォォォォォォォォォォォ!!!



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



英玲奈「降りて来たぞ!!」


ルビィ「千歌ちゃん!!!」



聖良「ヒャハハハハ"ハハハハハハハ"ハハハハハハハ"ハ"ハハハ"ハ!!!」ズォォォォォォ!




千歌「おまえなんかに…」



聖良「!!!!!」ズォォォォォォ!



千歌「おまえなんかに…」ズォォォォォォ!



聖良「なっ!?」ズォォォォォォ!




千歌「私達の未来を奪われてたまるものかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!



ズバァァァァァァァァァァァァン!!!



聖良「かはっ…」ビュン

425: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:05:14.68 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「英玲奈さん!」シュバッ


英玲奈「任せろ!!!!」



ヒョォォォォォォォォォォォォォォォ!!!



バリバリバリバリバリバリ…
ギシギシギシギシ…
ズズズズズズズズズズズズズズズ…



ルビィ「も、もうそこまで来てるよ!森を食べながらこっちに向かってる!!!」



英玲奈「はぁぁぁぁぁ!!!」カチリッカチリッ


ーーーーーーーーーーーーーーー

《七十九 左京大夫顕輔》

~秋風に たなびく雲の 絶え間より
もれ出づる月の 影のさやけさ ~

●亥(い)《21~23》~北北西~【神無月】

水面夢其ノ八
【鵺の供物】

旧暦十月・暗雲より覗く鵺の目玉に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー

《第七封印解除》《第八封印解除》


《全封印解除》



ガタガタガタガタガタガタガタガタ…
ガタガタガタガタガタガタガタガタ…



ダイヤ「サヌキとアヤメの二つの時計が共鳴してますわ…」



バラバラバラバラバラバラバラバラ…
バラバラバラバラバラバラバラバラ…



三人「!!!!!!!」


千歌「こ、壊れちゃった!!!」


ルビィ「待って!!でもこれは!!!」




ダイヤ「《雷上動》!!!それにこっちは《骨食》!!!!

426: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:05:40.99 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「そういうことでしたのね!!定家がこの柱時計に隠していたのは、かつて頼政と猪早太が鵺退治に使った弓矢と刀!!!!」



英玲奈「…」パシッ!



英玲奈「頼んだぞ園田海未!!!!!!」ビュン!!



海未「お任せください!!!」パシッ!



聖良「サ"セ"ル"カ"ァァ"ァ"ァァァァァァ!!!!」ダダダダッ



千歌 ルビィ「!?!?」


ダイヤ「くっ…最後まで邪魔を!!」




英玲奈「……」サッ


ダイヤ「英玲奈さん!!」



聖良「グォォォ"ォォォォ"ォォ"ォ"ォォ"ォォ!!!!!!!!!」ダダダダッ



英玲奈「破邪を纏いて悪を断つ…骨食よ」シャキッ



英玲奈「骨の髄までしゃぶり尽くせ」ヒュッ



ズバッ!!!!



聖良「カ"ッ……」ボタタッ



英玲奈「悪く思うな」スチャ



ドサッ…

427: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:06:38.79 ID:H71/+Fhm0


ヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



ズガガガガガガガガガガガガガ…
バキバキバキバキバキバキバキバキ…




海未「食らいなさい!!!!!」



三人「いっけぇぇぇぇぇ!!!!!!」




海未「ラブアローシュートォォォォォォォォォ!!!!!!!」ズバァァァァァァ!!



ズガァァァァァァァァァァァァァン!!!



ヒョォオォォォォォ"ォォオ"ォォォ"ォォォォ"ォォォォォ"ォォォォ"ォ"ォォォ"!!!!!!!



英玲奈「命中した!!!!!」

428: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:07:06.67 ID:H71/+Fhm0


ヒョォォォオォォオオオォォ………
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン………



ダイヤ「やった…倒しましたわ!!」



ビュォッ!!


バキバキバキバキバキバキ!!



五人「!!!!!!!」


海未「くっ…!?」


英玲奈「浜辺へ逃げろ!!奴が落ちた衝撃で家が崩れる!!!」ダッ


千歌「はい!!!」ダッダッダッ…


ダイヤ「分かりましたわ!!!!」ダッダッダッ…



ルビィ「はぁ…はぁ…」ダッダッダッ



ルビィ「あっ…!」ツルッ



ドサッ!



四人「!!!!」

429: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:07:33.34 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「ルビィ!!!」ダッ



千歌「ダイヤさん!ルビィちゃん!!」


海未「いけません!!」グイッ


英玲奈「死ぬぞ!!!」グイッ


千歌「でも…!!!!!」



ガラガラガラガラガラガラ…
バキバキバキバキバキバキ…



英玲奈「急げ!!!!!!!」ダッ


海未「来てください!!!!!」グイッ


千歌「嫌だ!!!嫌!!!!」




ルビィ「うゆ……」ズズッ


ダイヤ「大丈夫ですかルビィ」




ルビィ「あっ…」


ダイヤ「えっ?」クルッ





千歌「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」




ガラガラガラガラガラガラガラガラ…
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン…

430: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:08:21.54 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…


海未「あ…ああ…」ガクッ


英玲奈「くっ……」ドサッ



千歌「……」ザッザッザッ


千歌「……」ピタッ



ガラガラガラガラ……
パラパラパラ……



千歌「ダイヤさん…ルビィちゃん…」ガクッ


千歌「うっ……うぅ……」ポタポタ



英玲奈「すまない…もっと早く謎が解けていれば…」


海未「英玲奈さんは悪くありません…いえ、誰も……」



千歌「そんな……なんで………」ボロボロ


海未「……」


英玲奈「……」



ポクポクポクポク…



英玲奈「ん?」

431: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:08:56.03 ID:H71/+Fhm0


海未「英玲奈さーー」


英玲奈「しっ何か聞こえる」


千歌「え…?」



ポクポクポクポク…



海未「これは…木魚の音ですか?」


千歌「!!!!!!!」



ーー
ーーーー


花丸『まあ、おかげでお菓子とかお餅とかたくさんもらったけどね』ドッサリ


曜『うわ…難しそうな本とかお経まで…』


梨子『これ木魚だよね?なんで全部風呂敷に詰めようとするの?』ポクポク


果南『あははは…』


ーーーー
ーー


千歌「花丸ちゃん…花丸ちゃんがお寺から貰ってきたやつだ!!!」


海未「音の出どころを探しましょう!!!二人が助けを求めているんです!!!」ダッ


千歌「ダイヤさん!!!ルビィちゃん!!!」ガラガラ


英玲奈「木魚は響く。だがかなり音が小さい。深いところに埋まっている可能性が高いから慎重に探せ!闇雲に?き分けると一気に崩れて潰されるぞ!!」ダッ



千歌「……」スッ



ポクポクポクポク…



千歌「あっちだ!!」ガラガラ


海未「気をつけて下さい!!」ガラガラ



英玲奈「ん?」

432: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:09:40.22 ID:H71/+Fhm0


英玲奈「これは…」スッ


海未「どうされました?」


英玲奈「サヌキの札だ」


海未「!!!」


英玲奈「さっまで真っ赤だったのに…少しずつ元に戻っている」




千歌「ここです!!!」


英玲奈 海未「!!!!」



ポクポクポクポク…



海未「真下です!!」


千歌「ダイヤさん!!ルビィちゃん!!!」



ポクポクポクポク…



千歌「声が返ってこない…どうしよう……」


海未「……」


英玲奈「体力の消耗を抑えているのかもしれない。崩さないように上の瓦礫から慎重にどかすぞ」


千歌「はい!!」



海未「待ってください」

433: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:10:09.95 ID:H71/+Fhm0


千歌 英玲奈「!!!!」


千歌「なんでですか!!!」


英玲奈「あまり長時間圧迫されていると危険だ!慎重に…だが迅速に救助をーー」



海未「おかしくありませんか?」


英玲奈「何?」


海未「体力の消耗を抑えるなら木魚を叩くよりも叫んだ方がよっぽど楽です」


海未「それに、木魚を叩ける程隙間があるなら瓦礫に圧迫されているのも考えにくいです」


海未「わざわざ木魚を叩いて知らせているのは…声を聞かれて自身の正体がバレてしまうのを防ぐためでは無いですか?」


千歌「そんな…」


英玲奈「じゃああの音は…」



?「全ク"…勘ノ"イイ奴タ"…」


三人「!!!!!」



海未「離れてください!!!!」



ガラガラガラガラ…
ドゴッ!!!

434: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:10:46.26 ID:H71/+Fhm0


海未「かはっ…」ビュン…


千歌「海未さん!!!」



聖良「鵺様ノ"…鵺様ノ"生贄ニ"…」ボタタ…



英玲奈「死に損ないめ…」


英玲奈「鵺は死んだ!!見ろ!!あの森で朽ちている!!!!」


聖良「!?!?」クルッ



ヒュォォォォ…
パラパラパラ……



聖良「ヌ"…鵺様……」ボタタタタ


英玲奈「もう終わったんだ。お前達鹿角家の役目も終わりだ!共に朽ち果ーー」


ドガッ!



英玲奈「かはっ…」ビュン



ドゴッ!!


英玲奈「……」ズズッ





聖良「嘘タ"…鵺様ハ…我ラ"ハ永久ニ"不滅…」


聖良「!!!」



千歌「……」


聖良「貴様モ"鵺様ノ"ーー」




パチィィン!!

435: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:11:17.39 ID:H71/+Fhm0


聖良「……」


千歌「返して」グッ


聖良「貴様ーー」



パチィィィィィン!!!!



聖良「!!!!!!」


千歌「みんなを……」グッ


千歌「みんなを返して!!!!!!!!!!!!!!!!!」ブンッ!



聖良「黙レ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェェ"!!!!!」ズォッ!




ザシュッ!!!!!



千歌「……」ボロボロ



千歌「え……?」ボロボロ



聖良「カ"……ク"カ"カ"………」ドボボボボ…



ズブブ…



千歌「骨食……」



千歌「!!!!!!!!!」






ダイヤ「何をしているんですの?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ…

436: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:11:53.00 ID:H71/+Fhm0


千歌「ダイヤさん!!!!!!」


ダイヤ「一体どれだけ仲間を傷付ければ気が済むのやら…」グッ



ダイヤ「この腐れ外道がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」ズブブブッ!!



聖良「カ"ア"ア"@ア"ア/&#"ア"d〆?ア"!!!!」ドボボボボボ…



「離れてください!!!」



千歌 ダイヤ「!!!!」バッ



ヒュォォォォッ…


ドスッ!!!



聖良「カ"…」ピクッ




海未「はぁっ……はぁっ……」スッ



千歌「海未さん!!!」




タッタッタッタッタッタッ


ルビィ「……」バッ


千歌「ルビィちゃん!!!」


ルビィ「こ…これで終わりです…全ての悪夢を終える歌…」


聖良「ヤ"……メ"ロ"…………」



ルビィ「……」スゥッ


聖良「ヤ"メ"ロ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ'!!!!!!!!!!!」

437: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:12:25.43 ID:H71/+Fhm0


……

梨子『これ木魚だよね?なんで全部風呂敷に詰めようとするの?』ポクポク

……


ルビィ
「比ぶれど…」


……

鞠莉『ダイヤ!!曜がまだ詠んでる途中でしょう!?人の話は最後まで聞いてから取らないとダメよ!!』

……


ルビィ
「うちつけなりや…」


……

善子『…みんな、今まで本当にありがとう!』


善子『そして、こんな私だけどこれからもよろしくね!』ニコッ

……


ルビィ
「巴ぐさ…」


……

花丸『マルを素敵な世界に導いてくれてありがとう。マルの心を開いてくれてありがとう。今日まで一緒に旅をしてくれてありがとう。今まで読んだどんな一冊よりも素敵な素敵な物語だった。大好きなルビィちゃんと出逢えて本当に良かった』


花丸『ありがとう……ルビィちゃん』ポロッ

……


ルビィ
「気なつかし夜は…」


……

果南『一つだよ…ずっとずっと…』ボロボロ

……


ルビィ「……」ポロッ


……

曜『私達の死体には二度と触らないで』

……



ルビィ
「いろはの…ごとく……」ポロポロ

438: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:13:05.22 ID:H71/+Fhm0


聖良「!!!!!!!」パラパラ…



聖良「我ガ身ガ…滅ビテ行ク…」パラパラ…


スッ…


聖良「鵺様…先代様…そして理亜……ごめんなさい……鹿角家は……もう終わりです……」パラパラパラ…



聖良「本当に…ごめんなさい……」ポロッ



スゥゥゥゥッ…

439: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:13:40.45 ID:H71/+Fhm0


千歌「終わった……」


ルビィ「ほっ……」ドサッ


ダイヤ「あっけない最後でしたわね…」ドサッ



海未「大丈夫ですか!?」バッ


ルビィ「海未さん!」


ダイヤ「ええ…なんとか。私達のいた場所は奇跡的に空洞となり潰されずに済みましたの」


英玲奈「よかった…皆無事だったんだな…」
ヨロヨロ


海未「英玲奈さん!!!御無事でしたか!?」バッ!


英玲奈「ああすまない…骨の二、三本がやられているのは間違いないが…辛うじて助かったようだ…」



英玲奈「ん?」


ダイヤ「?」


英玲奈「首の紋章が消えているぞ!!」


ダイヤ「!!」


海未「ええ、本当です!!何も残っていません!!!」


ダイヤ「やった…やりましたわ…」


ダイヤ「これで鵺の呪いは終わりましたわ!!」


海未「ええ…長い…本当に長い戦いでした」


ダイヤ「これでAqoursの皆さんも戻ってーー」




千歌「来ないよ」

440: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:14:15.44 ID:H71/+Fhm0


三人「!!!!」


ルビィ「……」


ダイヤ「な…何を言っているのですの千歌さん?」


千歌「みんな水面夢であの鵺に食べられちゃった…梨子ちゃんも鞠莉さんも善子ちゃんも花丸ちゃんも果南ちゃんも曜ちゃんも…」


海未「そんな…」


英玲奈「…薄々そんな気はしていたが」



ルビィ「……」ギュッ


ダイヤ「あ…ああ……」ガクッ


ダイヤ「では一体…私はどうすれば…」ボロボロ


ダイヤ「何の為に頑張って来たと言うのですか…」ボロボロ


ダイヤ「約束を忘れたんですの…?向こうに戻ったら千歌さんと…それから善子さんに百人一首を教えると…」ボロボロ


千歌「……」


ダイヤ「み…みなさんに出した和歌の宿題は…わ、私が悪かったですわ。提出は晴れてからでも構いませんから…ですから……」ボロボロ


ルビィ「……」ギュッ


ダイヤ「ずっと繋がっていると…一つだと…そう信じ続けて…希望が垣間見えて…必死に必死に戦った結果がこれですの?」ボロボロ


ダイヤ「…こんなの」ボロボロ



ダイヤ「こんなの綺麗事ですわ!!!会えないのならもう繋がりもクソもありませんわよ!!!!!!!!!!!!」ダンッ!



海未「……」


英玲奈「残酷過ぎる……」


千歌「ごめん…ダイヤさん……」


ダイヤ「うぅっ…うう……」ボロボロ

441: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:14:50.83 ID:H71/+Fhm0


ルビィ「お姉ちゃん…」スッ


コロコロコロ…


ルビィ「あ…」


英玲奈「これは…」スッ


千歌「柱時計の石…」スッ


ルビィ「さっき…壊れた時計の中から見つかって…」


英玲奈「そうか…」


千歌「……」ギュッ



ブゥゥゥゥゥゥゥゥン…



五人「!!!!」



海未「石が反応しています!!!」



ズォォォォォォォォォ…!!

442: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:15:17.74 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ「なっ……!?」ズズッ


海未「空間が裂けた!?」ズズッ


英玲奈「どうやら現実世界への扉だ…」ズズッ



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



ルビィ「じ…地震!?」ヨロッ


海未「マズいです…鵺がいなくなったことでこの世界が崩壊しているんです!早く戻らないと二度と帰れなくなります!!!」ズズッ


ダイヤ「そんな……」ズズッ





千歌「私は残る」

443: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:15:47.49 ID:H71/+Fhm0


四人「!?!?!?!?」


海未「な、何を言っているんですか千歌さん!?」ズズッ


千歌「私はここに残って…みんなを助けます」


ルビィ「ち、千歌ちゃん!!」ズズッ


英玲奈「バカ言うな!!この世界は崩壊している!!そんな所にしたらどうなるか分からないんだぞ!!!早くこっちに来い!!!」ズズズズッ


ダイヤ「嫌…嫌です千歌さん…あなたまで行ってしまわないで…!だったら私も残ります!!」ズズズズッ


ルビィ「嫌お姉ちゃん!!だったら私も!!!!」ズズズズッ




千歌「ダメ!!!!!」


ダイヤ ルビィ「!!!!!」

444: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:16:15.68 ID:H71/+Fhm0


千歌「ダイヤさんが来ちゃったらルビィちゃんはどうするの?そのルビィちゃんも来ちゃったらAqoursはどうするの?」


ダイヤ「でも!!!!!」ズズズズッ


千歌「これ」ヒュォッ


ダイヤ「……!」パシッ


ダイヤ「これは…」ズズズズッ


千歌「栞だよ。花丸ちゃんが託してくれた…Aqoursを紡ぐ大切な大切な栞」


ルビィ「どうして……」ボロボロ


千歌「私はね。この世界の成り行きに全てを賭けてみる。もしかしたらみんなを救えるかもしれない。またAqours九人が揃えるかもしれない…」


千歌「だから待ってて…それまでそれを預かってて…」


ダイヤ「そんな…」ボロボロ



英玲奈「……」


英玲奈「…分かった。信じよう」

445: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:16:48.56 ID:H71/+Fhm0


ダイヤ ルビィ「!!!!!」


英玲奈「高海千歌がいなければ決して揃うことは無かったAqours…例えそれがバラバラになっても、再び一つにできる力があるのは彼女だけだ」ズズズズッ


ルビィ「英玲奈さん…」ボロボロ


海未「そうですね…」ズズズズッ


ダイヤ「海未さん…」ボロボロ


海未「奇跡によって生まれたAqoursなんです。そして、こうして奇跡を紡いで鵺の悪夢を終わらせました。例えそれが時を越えようと世界を越えようと…また奇跡で元に戻ります」ズズズズッ


海未「いつかμ'sが集まれるその日のように…」



ルビィ「うぅ…うう…ぐずっ…」ボロボロ


ダイヤ「くっ……」ボロボロ

446: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:17:25.26 ID:H71/+Fhm0


千歌「ダイヤさん…ルビィちゃん…今日まで本当にありがとう。二人のおかげですっごく楽しかったよ。いつになるか分からないけど、絶対にみんなと一緒に戻ってくる。だから泣かないで…」



千歌「ほんの…ほんのちょっとの……」ポロッ


千歌「お別れだから…」ボロボロ



ダイヤ「くっ……」ボロボロ


ダイヤ「待っています…ずっとずっと!!どんな時も絶対に忘れません!!!」ボロボロ


ダイヤ「このアヤメとサヌキの《通ひのいし》…二人が繋がったように私達もまた出会えます!!!!」ボロボロ


千歌「絶対に無くさない!ずっとずっと持ってる!!!」ボロボロ



ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!」ブワッ



海未「頼みましたよ千歌さん…」ポロッ



英玲奈「達者でな…」



英玲奈「くっ……」ポロッ



ブゥゥゥゥゥゥゥゥン…



千歌「じゃあね……」ニコッ




フッ……



ダイヤ「!!!!!」




千歌さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!

447: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:17:56.23 ID:H71/+Fhm0


……


……


……


あれ?


真っ暗だ…


えっと…


私どうなっちゃったんだろう?


死んじゃったのかな?


そんなはずないよね?


ちゃんと私だって分かるもん


えっと…私の名前は高海千歌!


浦の星女学院の二年生で


家は十千万っていう旅館なんだよ!


お姉ちゃんには志満ねえと美渡ねえ…


それからしいたけっていうおっきい犬を飼ってる!


学校ではAqoursっていうスクールアイドルのリーダーをやってるんだ!!


えっとメンバーは…

448: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:18:29.48 ID:H71/+Fhm0


大人しくてピアノが上手くて変な本が好きで…怒るとすっごく怖いけど大切な梨子ちゃん!


ものすっごくお金持ちで理事長権限連発して私もいっつも振り回されちゃうんだけど、本当はみーんなのこと全部分かってて見守ってて元気をくれる大切な鞠莉さん!


自分のことを堕天使だと思ってる…ちょっと変わってて…不思議で…でもそれが大好き!!羽を広げて飛び立つことを恐れないチャレンジャー、大切な善子ちゃん!


色んなこといっぱい知ってて、頭の中が図書館みたい!かけがえのない光の物語の大賢者のような主人公、大切な花丸ちゃん!


海みたいに大らかで、波みたいに優しくて、泡みたいに繊細で…ずっとずっと私たちを包み込んでくれるお姉ちゃん、大切な果南ちゃん!


嵐にあっても座礁しても…霧の海域に迷い込んでも…ずっとずっと一緒に水平線に向かって直進してきた永遠の大親友!大切な曜ちゃん!


ちょびっと泣き虫だけど、いくつもいくつも辛いことを乗り越えて…強くてたくましくて勇気のある女の子!私を信じて全てを託してくれた大切なルビィちゃん!


何でもできて完璧…かと思ったらちょいちょい抜けてて…でも、本当に大事なことや譲れないことは命に代えてでも貫き通そうとして…ずっと私達を信じて戦ってくれてた。諦めないで戦ってくれてた…全てを託してくれた大切な大切な大切なダイヤさん!


なーんだ。ちゃんと覚えてるじゃん!



じゃあ大丈夫!


どこにいても


どんな時でも



同じ空見上げていれば…



繋がっているから…




ーーいつか必ず

449: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:19:19.37 ID:H71/+Fhm0


ーー三週間後


『…昨年末、新たに小倉百人一首の序歌を選定したとされる時雨亭の……』


ポチッ


『…亡くなったことが公表され、日本かるた協会は、序歌を元の《なにわづの歌》に戻すことを決め、今年をもって時雨亭での内裏歌合を中止…』


ポチッ


『今月5日未明、琵琶湖の多景島にて堕天使の形をした凧を揚げ助けを求めていた高校生四人を保護した件を受け、滋賀県警は…』


プツッ…



ダイヤ「……」



…私達はあの後多景島で救助され、事の経緯を話しましたが誰も信じてはくれませんでしたわ。


海未さんは行方不明がμ'sの皆さんに知れ渡り、とても不本意な形で九人が揃われたそうですの。でも、その旨を連絡してくださった際は凄く幸せそうでしたわ。


英玲奈さんは事務所から一時的に謹慎処分を言い渡されたそうですが、幸いにもライブを終えた後でしたので活動に大きな影響は無かったそうです。むしろ未だにツバサさんやあんじゅさんがからかってくる方が辛いと仰っていましたわ。


家ではルビィが突然消えた事でパニックになっていたらしく、パトカーで二人揃って帰宅した際はかつてないくらいこっぴどく叱られてしまいましたわ。


そして、Aqoursの皆さんのことを聞くと…皆口を揃えてこう言うんですの…





そんな人知らないって。


あれから三週間


未だに千歌さん達は帰ってきません。



ルビィ「お姉ちゃん!!」


ダイヤ「!!!」


ルビィ「そろそろ行こっ!」

450: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:20:03.42 ID:H71/+Fhm0


『ただいまをもちまして、第50回、伊豆長岡温泉 鵺ばらい祭り 夜の部を終了致します。おかえりの際はお足元に…』



ダイヤ「さあ、行きましょうルビィ」スッ


ルビィ「うん!」パタパタ



テクテクテク…



ルビィ「すごかったね鵺踊り!」


ダイヤ「ええ。中学生とは思えない程キレがありましたわ」


ルビィ「それにあんな重そうな鎧着てよく動き回れるよね」


ダイヤ「あれはニセモノではないんですの?」


ルビィ「でも千歌ちゃん、昔頼政役やった時重たくて全然動けなかったって」


ダイヤ「ふふっ…そうですか」


ルビィ「……」


ダイヤ「……」



ダイヤ「月が綺麗ですわ。海岸に寄って行きましょう」

451: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:20:33.12 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…


ダイヤ「……」


ルビィ「……」


ダイヤ「鹿角家…あれからどんなに調べても一切の情報が出てきませんでしたわ。恐らく、完全に消えてしまったのでしょう」


ダイヤ「Saint Snowも…」


ルビィ「うん…」


ダイヤ「それに…私達はスクールアイドルですら無い…もう皆さんがいた痕跡が跡形も無くーー」



ルビィ「ルビィ達がいる!!」


ダイヤ「!!!」


ルビィ「それに、海未さんや英玲奈さんも…」


ダイヤ「ルビィ…」


ルビィ「《通ひのいし》だって片方ずつ持ってる。それに栞だって……」



ポンッ


ルビィ「!!!」


ダイヤ「ありがとうルビィ」ナデナデ


ルビィ「うん…」


ダイヤ「皆さんが戻ってくるまでの刹那…栞は挟んで閉じておきましょう」


ルビィ「…うん。いつか千歌ちゃんが戻ってくれば全部全部…元通りになるから……」


ダイヤ「ええ。そうですわね…」


ダイヤ「きっと…今もどこかであの夜半の月を眺めているのでしょうね…」


ルビィ「絶対そうだよ…絶対に…」



ダイヤ「次に眺める時は…」



ダイヤ「是非九人で……」




ダイヤ「……」スゥッ

452: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:21:05.55 ID:H71/+Fhm0


ザザーン…
ザザーン…


ーーさても静かなる宵の更け。


風はとうに眠りにつき、こだますはただ遠くでさざ波が寝返りをうつのみ。


我が現前に広がりたるは、うたかたの如くおのづを主張しては消ゆる数多の星々。


さては更けるに連れ、我が心をわづらはしく惑はす煌々たる月。


いとをかし。



千歌「……zzz」プカプカ


………



…汝は誰そ?



!?!?!?!?


その手にとらへし石は…


今しがた母アヤメから給い、湖の深きところに沈めたるもの…


何ぞ汝がーー



ドクン……

453: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:21:35.66 ID:H71/+Fhm0


~皆人は 何ぞ定むるや 憂し時が
兎輪の契りに 流るると知らで~


【人は何故虚しく悲しいだけの時間という概念を定め、別れや離れを憂うのか。兎輪(永遠)(月)の約束を交わし、ずっとその変わらぬ輝きを眺めて想い続けているのなら、これもまた変わらず打ち寄せる波の前では意味を成さず流れてしまうものだということも知らないで】



!?!?!?


今の歌は……



千歌「むにゃむにゃ……」プカプカ



…………



汝、うつせみにあらずか。


此の鵺の巣窟に迷ひぬるとはいと哀れなり…


汝にもまた、想い想はるる人がいるらむ。


今しがた終の別れを告げた、石を賜うびける母、アヤメのやうな…


そして今の歌も…



千歌「……ん……みんな……」プカプカ

454: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/22(水) 19:22:33.45 ID:H71/+Fhm0


……


何処に生きとし生ける詠み人よ。


汝に歌を返そう。


その契りが確かなら


何時か必ず巡り逢わん。



我が名はサヌキ。



此の乙女にかはって歌を詠む者。



行く先を照らす乙女にかはって…



……




~しののめに 移りにければ うら然り
しるべは高み 誓ひ永遠にあれ~



【昔から変わらぬその眺めに想いを委ねているのも悪く無いが、東の空が明るくなってきたのなら心も同じ。新たな光に向かってその高みを目指し歩き出しなさい。ずっと信じ合っている『彼女』がそう望んでいるのだから…】





ーー字余り。


最後まで読んでくださってありがとうございました!