【FEif】カムイ「強くてニューゲーム、ですか…」 前編

308: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/27(土) 21:41:05.88 ID:VMtrJwPCO

「ごめんごめん。いや、でもそうあることじゃないと思うわよ?才能を妬まれてありもしないスキャンダルこしらえられて同僚ともどもぶっ飛ばされるなんて」

シャーロッテ「はっ、もういいんだけどね。逆に馬鹿でかいスキャンダルこしらえ返して処刑に追いやってやったんだから。何せ私の最短ルートを潰してくれたんだもんね。女の恨みってのは怖いのよ、テヘッ♪」

「いやー、こわいこわい。笑顔が怖い。ブノワ元気にしてる?」

シャーロッテ「ああ、あいつ?最近は森のくまさんと相撲の稽古なんてやってるわ」

「相変わらずね…」

シャーロッテ「それよりさ、客が来ないんだよね。みんな家にこもっちゃって。店番としちゃらくちんでいいんだけどさ」

「ふーん…だから素が出っぱなしなのね。じゃあ会計お願い」

シャーロッテ「随分気がせいてるのね…」ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ

シャーロッテ「ん?あんた、このシリーズ全部買うの?」

「え、ダメなの?」

シャーロッテ「別にダメじゃないけど、ちゃんとタイトルまで見たの?ほら」

『恋愛必勝法part2~年下編~』
『恋愛必勝法part3~年上編~』
『恋愛必勝法part4~玉の輿編~』
『恋愛必勝法part5~禁断の愛編~』

「あ、ほんとだ」

シャーロッテ「要らない分は返してらっしゃいよ」

引用元: 【FEif】カムイ「強くてニューゲーム、ですか…」 



 

309: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/27(土) 21:41:36.42 ID:VMtrJwPCO

「じゃ、はいこれ」つ5

シャーロッテ「」

「か、勘違いしないでよね!別にそういう意味じゃないんだから!」

シャーロッテ「いやそういう意味しかねえだろうがよ…私だって人の事言えた義理じゃないんだけどさ…part4もいる?」

「あんたバカァ!?私がカミラ様に発 してるって言いたいの!?」ダンッ!

シャーロッテ「違うならいいわよ」

「いいから会計!さっさとやる!」バンバンバン

シャーロッテ「へーへー、一点の980ゴールドになりまーす」



シャーロッテ「悪いけどアドバイスはできそうにない…ごめんな」

「だから違うんだってば!これは知的好奇心を満たすというかなんと言うか…」

お客さん「おーい、店員さーん」

シャーロッテ「はいはい、いま参りまぁす。ということで金払ってさっさと帰んな」

「とにかくね、そういう意味じゃ無いんだからね!みんなにいっちゃダメよ!他言無用だからね!」

コロンコロン♪ バタン

お客さん「おーい、まだかーい」

シャーロッテ「はいはいただいまぁ」

310: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/27(土) 21:42:17.01 ID:VMtrJwPCO


(ったくもう…何で知り合いが店番なんてやってるのよ…)

いつも以上に人影がない街を、てくてく歩いて帰る。そういえばアイスを頼まれていたのを忘れていた。

※コンビニはない

ニュクス「アイスは~アイスはいらんかね~…はあ、こんなんじゃ商売あがったりね。思いつきで起業してみたけど、もうやめようかしら…店仕舞いセールだよ~アイス買っとくれ~」ガラガラ

「あっ、アイスくーださいな」

ニュクス(やった!3日ぶりの客…恐らく…私のアイス売り人生における最初で最後のお客ね…何とか全てのアイスを押し付けて…厄介払いする方法はないかしら…)

「何よ、売るの?売らないの?売らないなら行っちゃうわよ」

ニュクス「嬢ちゃん…アイスが欲しいのね…?」

311: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/27(土) 21:45:17.44 ID:VMtrJwPCO

「え、ええ…(口調が…変わった?)」

ニュクス「ふふ…いい度胸ね…では…賭け事なんてどうかしら?」

「か、賭け事?」

ニュクス「あなたが勝ったらアイスをタダで好きなだけあげる。ただし私が勝ったら…アイスを全ての買い取ってもらおうかしら」

「な、何よバカバカしい!暑さで頭沸いてるんじゃないの?!帰るわよ!じゃあね!」スタスタスタ

ニュクス「…怖いの?」

ピタッ

ニュクス「戦わずして負けを認めるのね…腰抜け!!」

「…今、何て言ったの?」

ニュクス「腰抜けよ!あなたみたいな腰抜けはおうちに帰って震えてるのがお似合いね…」

「…乗る」ボソッ

ニュクス「ん?聞こえないわ…」

「乗るって言ってるんでしょ!?あんたなんかケチョンケチョンのぬっこぬっこにしてやるんだから!!」

ニュクス「若い子は扱いが簡単でいいわね~」

「いいから勝負の内容を言いなさい!」

ニュクス「…>>312よ」

312: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/28(日) 05:23:47.16 ID:bxMEVVrAO
エルフィと早食い対決

313: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/29(月) 00:32:13.96 ID:l5TUXce/O

「…え?いや、エルフィはお城で伸びてるはずだけど…てか何で面識あんのよ」

ニュクス「代わりにこの魔符を使いましょう。胃袋は本人と同じぐらいよ」

ヴオン

エルフィ「お腹すいちゃった…」

ニュクス「今から早食い対決をしてもらう。いいわね?」

エルフィ「私はいつでも準備万端よ」

「はんっ、上等じゃない!さっさと用意しなさいよ!」

ニュクス「OK、じゃあ時間は5分、このアイスをたくさん食べた方が勝ちとするわ。負けたらその分のお金も払ってもらうから」




ニュクス「位置について…よいどーん!」

314: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/29(月) 00:33:06.66 ID:l5TUXce/O



同僚が息急き切らして部屋に駆け込んでくる。両手に馬鹿でかい紙袋を抱えて。どうやらドライアイスの白煙をあげるそれは、いつもの食器類では無さそうである。

ガチャ
ルーナ「はい、約束のアイス。好きなだけ食べなさいよ…あーもう!」

「…ひいむうみ、どうして200本も買ったの」

ルーナ「カクカクシカジカってことよ!全くもう!これで今月の小遣いパーよ!」

「…」ガリガリ

ルーナ「カミラ様は?」

「どっか」

「そっかー。くっそ~…何で負けちゃったのかな…」

どう考えても勝つ見込みの無い勝負である。後先考えずにほいほい挑発に乗るのは彼女の悪い癖だ。

ルーナ「次は負けないわよ~!くぅう~っ!」

自分でそれに気づいていないのだから余計始末が悪い。

315: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/29(月) 00:34:55.01 ID:l5TUXce/O

「…アイス、ありがと」

ルーナ「うん…喜んでくれて、よかった」

「…」ガリガリ

ルーナ「じゃあちょっと冷蔵庫に入りきらなかったアイス、配ってくるから。またなんかあったら言いなさいよ!」バタン

「…」シャリシャリ

「…」 ペロ

さっきのルーナの態度…余りにも従順すぎる。ほぼ間違いなく「あれ」の影響だろう。記憶さえ飛ばせば何とかなると思ったのが甘かったのだろうか。

仮にそうだとして…どうする?このまま彼女がどんどん記憶を取り戻していき、いつしか私の行為を暴露したとしたら。いや、自尊心の強い彼女のことだ。それは無いだろう。だとしたら考えられることは、一つだ…

厄介なことをしでかしたものだ。自分で蒔いた責任はいつか取らなければならない。年貢の納めどきが明日になるか、10年後になるか、はたまた次の瞬間彼女が扉を蹴破って部屋の真ん中で怒鳴り散らすのか。それは誰にも分からない。

316: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/29(月) 00:35:50.77 ID:l5TUXce/O

その時はその時と割り切るしか無い。蓋を開けてみないことには、箱の中身は分からないのだから。それより今は…

「エリーゼ様…」

あの姿を思い浮かべるだけで、心拍が2オクターブも上がるのが分かる。あの可愛らしい微笑みを思い出すだけで、心臓が早鐘を打つのだ。そっと枕を抱きしめる。自分に軽く引く。

さっさと病気なんて治してしまおう。寝てしまうのが一番だ。

しかし、次に目覚めたのは真夜中で、まずいことに事態はさらに逼迫していた。

317: ◆r9UtvwUCQI 2016/09/03(土) 00:32:07.71 ID:g5C+f2bKO

「アイス要りませんか~」ガチャッ

オーディン「いらん…」

ラズワルド「悪いけどいらないよ…しまっといて」

「あそ。張り合いのないやつら」

「あれ、アズールあんたハロルドと相部屋じゃなかったっけ」

ラズワルド「…ああ、病人はまとめて看病してもらってるんだよ…ハハッ」フラフラ

「ふーん。2人ともずいぶん悪そうね。ナントカは風邪ひかないって言うけど」

オーディン「…」グッタリ

ラズワルド「いやほんと、ほんとに辛いから。アイスありがと。おやすみ」

「おーだいじにー」バタン

318: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/03(土) 00:32:49.00 ID:g5C+f2bKO

どうしてだろうか、ちっとも嬉しくない。ちっともときめかない。ほんの一時期とはいえ、ラズワルドとは恋人同士だったのに。月日が人を変えてしまったのだろうか。

ベルカ『…アイス、ありがと』

ほら、絶対におかしい。この一言だけでミラの大樹のてっぺんまでぶっ飛びそうなほど嬉しかったなんて絶対おかしい。

アイスの食べ過ぎで頭をやられたに違いない。そういえば何だか体が火照っている。心臓が異常な速さで全身に血液を送り出している。インフルエンザの初期症状と酷似したものだ。


「アイスいるー?」ガチャ

ピエリ「ゴホッゴホッ…ありがとなの!今はいらないから冷やしといてなの!」

エルフィ「…いただきます」


ピエリ「わおー、瞬く間に100本ほどなくなったの…」

大きな棒付きアイスがきなこ棒のようにひょいひょいと口に放り込まれていく様はまさに圧巻であった。先ほどあのアイス屋で見たのと比べても何ら遜色はない。

エルフィ「ごちそうさま。残りはしまっておいてもらえる?」

お前絶対もう治ってるだろというセリフを何とか飲み込み、お大事にと言って部屋を出た。

319: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/03(土) 00:34:02.51 ID:g5C+f2bKO

「こんちわー」

レオン「…zzz」

寝ているので仕方がない。アイスを50本ほど冷蔵庫に押し込んで出て行くことにした。起きた時にどんな顔をするか楽しみだ。きっといい顔はしないだろうが。


ずいぶんと紙袋も軽くなった。中身ももう片手で数えられるほどしか残っていない。

カミラ「あら、何やってるの?」

「アイスがいっぱい手に入ったから、みんなに配ってたの。カミラ様こそ何してたの?」

カミラ「看病よ。みんなは看病てんてこ舞いだってのに、あなたはどっかに行っちゃうんだから、全くもう…用事が終わったら手伝いなさい。そうそう、エリーゼもどこで油売ってるのかしらね。見つけたら教えて頂戴」

「分かった。マークス様、どんな様子?」

カミラ「割と元気よ。ところで…」

カミラ「…あなた、この頃なんだか変よ?言葉づかいだけじゃなくて態度とか、姿勢とか」

「…」

カミラ「ふっふーん…さては何かあったわね…?」

「別に。残りのアイス配らなきゃいけないから、失礼」

カミラ「後で私の部屋に来なさい」

「…それは命令?」

カミラ「もちのロンよ」

命令とは違反するためにある。ついでに職務とは放棄するためにある。

320: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/03(土) 00:34:52.12 ID:g5C+f2bKO

「失礼しまーす」

仮にも大国の第一王子ともあろう人間が、ソフトのビニールカバーごときに苦戦しているとは驚きだ。

マークス「む、どうした?」

「アイスいる?余ってるのよね」

マークス「冷蔵庫にしまっておいてくれ。悪いが私は忙しいのでな」

ようやく忌々しいビニールを剥がされ、パッケージが露わになる。輝くような笑みを浮かべたガロン王がそこにいた。正確にはロゴの後ろにいた。悪趣味を絵に描いたような構図だ。

「…何よ、このゲーム。見るからにクソゲーの臭いがぷんぷんするんだけど」

マークス「まあ見ていろ」

そう言って彼はディスクを、ベッドサイドに置かれたwiiの中に押し込む。

321: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/03(土) 00:35:35.71 ID:g5C+f2bKO

「あっ、そこ!また湧いてる!」

マークス「む、何としつこい連中だ!メティオを喰らえ!」

隙あらば自然発生し、街中に深刻な公害を垂れ流すする鋳物工場を隕石やUFO等の自然災害を駆使して更地に還すするなかなか乙な街づくりゲームだった。

マークス「国の、為だ…」

「じゃ、帰るわね。いっぱい遊べたし。アイスは無くなったし」

マークス「うむ、悪いな。だが面白かった…今度は違うソフトを買ってくるから、その時はまたやろう。いいか?」

「うん!…じゃなかった、べ、別にマークス様を喜ばせたかったとかじゃないんだからね!たまたま面白かったから付き合ってあげただけなんだから!」

マークス「そうか」

「あと、シャーロッテが来てたわよ。仕事が休みだからって」

マークス「分かった。あいつには昔スーパースクリブルノーツを貸したはずなんだが…預かってないか?」

「いいえ」

マークス「そうか…久しぶりにやりたかったんだがな…」

核爆弾や津波、ブラックホールなどを使って公園のゴミを掃除したり、潜水艦や冷凍銃で空間を歪めたりするゲームである。死んだライオンが世界を救うゲームでもある。

マークス「まあいい。シャーロッテの事だ、自分で持ってくるだろう」

322: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/03(土) 00:36:14.74 ID:g5C+f2bKO
ふたたび城下町

では逃げなければならない。適当に時間を潰して帰れば、カミラ様も忘れてくれているだろう。多分。

夕方になってもやはり人通りは少ない。いつもならびっしりと並んでいるはずの薄汚い屋台やら出店やらさえ、今日はまばらだ。

と、道の向こう側から誰か歩いてくるのが見える。エリーゼ様だ。心なしか疲れているようにも見える。

「こんちは。どうしたの?」

エリーゼ「あ、ルーナ!いいところに来てくれたね!ちょっと来て!」

「えーっ…はいはい」

腕を引っ張られながら、私はベルカのことを考えていた。エリーゼ様と仲良しそうに話しながら帰途につく、その横顔を。

323: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/03(土) 00:36:46.20 ID:g5C+f2bKO

カシータ「おや、お客さんかい?よっこいせっとゴホッゴホッ…」

エリーゼ「わわっ、だめだよ、まだ寝てなきゃ」

カシータ「そうかい。じゃあ引っ込んでるよ」

「えっと…あの人は?」

エリーゼ「わたしの昔の乳母さんよ。ここのところ風邪が流行ってるでしょ?で、カシータもかかっちゃって、それでお見舞いに来てたの。ご飯作ったり洗濯物干したり…」

カシータ「ふふふ、まるで昔の逆だねぇ。私がエリーゼちゃんにお世話してもらうなんて」

エリーゼ「だから寝ててって!ほらほら!」

カシータ「まあまあ、せっかくのお客さんだ、お茶の一つでも…ゲェッホゲッホ!」

エリーゼ「強情なんだから!よいしょっ、ルーナ、代わりに淹れて!缶がそこに入ってるから!」

324: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/03(土) 00:38:17.80 ID:g5C+f2bKO

乳母さんね。確か母さんがルキナの世話係やってたな。本当に諦めの悪い人だった…とか考えながら缶を探す。そこってどこだよ。片っ端から戸棚を開ける。大体客に紅茶を淹れさせるのは褒められたことではないだろう。

「ここっかな~ここかな?ここでもないな~む?これは…」

ピンクのアドベンチャラーの衣装に、丸めた鞭とぎんの弓だ。鞭は乗馬用とかじゃなくて、あの…この前カミラ様と見た映画に出てきた…あれだ、インディとかいう人が持ってたみたいなやつ。

そっとクローゼットを閉じる。人には見られたくない一面だってあるんだ。私にだってある。一面と言わず二面も三面もある。


その後、缶はすぐに見つかった。ティーバッグ入りの奴で助かった。

あいにくティーポッドを持ち歩く趣味はないので、台所にあったティーポッドを借りる。いかにも主婦らしいキッチンで、狭いスペースが効率的に機能するように器具が収納されている。コンロには半分ほどおかゆの入った片手鍋が置いてある。

325: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/03(土) 00:39:00.53 ID:g5C+f2bKO

「淹れたわよ~」

エリーゼ「はーい、今行くね~」

「…で、何であたしを呼んだわけ?家事手伝いなら一人でできるでしょうに」

エリーゼ「えっとね、ちょっと話しづらい事があって…えっと…」

ガタタッ

エリーゼ「あっ、カシータ!盗み聞きしないでよっ!」

カシータ「おやおや、何のことかねえ~私は別に~」



エリーゼ「で、相談っていうのがね…ちょっとこっち来て」

体がくっつくぐらい近くに寄り、耳を澄ませる。

エリーゼ「えっとね、それが…その…」

「何よ」

エリーゼ「ううん、やっぱり…ごめん。言えない」

「言わなきゃダメ」

何だか嫌な予感がする。知ったらきっとがっかりすることになる…そんな予感が。だが残念な事に、悪い予感はいい予感よりはるかに的中しやすい。それでも催促しないわけにはいかないのだ。

エリーゼ「あのね…あなたの同僚のベルカって人、いるでしょ…?」

ほれみろ。これだから催促なんてするもんじゃない。

エリーゼ「ヘンだなって思われるかもしれないんだけど…あたしね、何だか…」

「…」

エリーゼ「あの…えっと…うーん…こんなことルーナに相談すべきじゃないのかな…」

「…あたしの思うところに多分、その問題はカミラ様に相談すべきじゃないと思う」

エリーゼ「そう…じゃあ言うけど…」

335: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/07(水) 23:23:26.75 ID:7QoYsC+aO

カムイ「…あれ?私、生きてる…」

師匠「ふっ、間に合った…みてえだな…」ガクッ

カムイ「あっ、あなたは…!誰でしたっけ?」

師匠「サイゾーだよ。先代サイゾー。『外伝』にいたろ?あれ俺だから」

カムイ「…は?いやいや、喋らないでください!胸に刺さってるんですから!今すぐ救護を…」

師匠「…いや、無駄だ…やめとけ」

カムイ「でも…!」

師匠「ほら。胸ポッケに入れてたあのレシピの紙…こいつが守ってくれたんだよ…」ガサゴソ

カムイ「」

師匠「嘘だ。こっちのペコちゃんキャンディーで弾が止まったんだな…」

カムイ「ふざけないでください!」

師匠「『ミルキーはママの味』ってな…」コロン

ガンズ「何やってんだおめえらは!死ねい!」バシュッ!

326: ◆r9UtvwUCQI 2016/09/05(月) 01:05:02.64 ID:js/NME+NO
本筋の方


セツナ「はーい、こっちこっち…危ないからね…見てないでちゃんと避難して…」

カゲロウ「いいのか?主君と一緒に戦わなくて」

セツナ「めんどいからいい…平常運転のヒノカ様ならあれぐらいちょっちょいのちょいだから。あなたこそいいの…?」

カゲロウ「サイゾウと顔合わせたくないからな」

327: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/05(月) 01:05:42.60 ID:js/NME+NO

セツナ「…」

コケッコッコケッ

セツナ「…あ、フリードリヒ。こっち来ちゃだめ。危ない…」

カゲロウ「フリー…何だ?そのニワトリの名前か?」

セツナ「うん。この前暗夜で拾ってきた…」

カゲロウ「そ、そうか…あ、そうだ!お前、向こうでサイゾウと何も無かったのか?」

セツナ「…?どういう意味」

カゲロウ「だから…えーっとだな…何というか…ヒノカ様がカムイ様にやろうと長年目論んでいた類のことというか…」

セツナ「それはカムイ様の×××に×××で×××したり×××を×××したり××××××××××のこと?」

カゲロウ「…随分と直接的な言葉を使うのだな」

セツナ「長い付き合いだから…」

カゲロウ「で、あったのか?あるわけないよな…」

セツナ「なかった。沼から引っ張り上げてもらったぐらい…楽しかった…」

カゲロウ「サイゾウは楽しくなかったと思うがな。だが…私が間違っていたようだ。あいつは任務に乗じて浮気なんてするような奴ではない…」

セツナ「戦い、終わったみたい…」

カゲロウ「そうか。ではそろそろ行こう」

セツナ「怒られそう…」


328: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/05(月) 01:06:13.90 ID:js/NME+NO

カムイ「みなさん、ありがとうございました。おかげで町にもほとんど被害が出ず、簡単に鎮圧できました」

タクミ「いやいや、あんたの指示が的確だったからこそ、僕らが動けたんだ。正直見直したよ…まるで、一度見てきたみたいだったもの」

カムイ「ふふっ、前とはえらい違いですね…」

タクミ「え?」

カムイ「えっ、いえ、何でもないです…褒めても何も出ませんよ?」

タクミ「ふっ…改めてよろしく、カムイ姉さん」

カムイ「…ええ!」

329: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/05(月) 01:06:44.83 ID:js/NME+NO

リョウマ「いてて…ご苦労だったな、カムイ。役に立てず申し訳ない」

カムイ「いえいえ、前もそんな感じ…じゃなかった、お気持ちだけで十分ですよ…あら?白夜竜の様子が…?」

ミコト「カムイ…この剣を受け取ってくれますか?」

カムイ「…こ、この剣は…!」



カムイ「何ですか?」

ミコト「これはサンダーソード(+7)…白夜王家に代々伝わる伝説の神剣です」

カムイ「…あ、ありがとうございます」

ミコト「きっとあなたなら使いこなせるはずです。此度の戦…本当にお疲れ様でした。そのお礼と言っては何ですが、どうでしょうか」

330: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/05(月) 01:07:49.37 ID:js/NME+NO

カムイ「嬉しいです…(何でよりによって…?)ちょっと握ってみますね………こ、これは…!!」

カムイ(頭に流れ込んでくるこのイメージは…?そうか…これはきっと、128本のサンダーソードの記憶…なんですね。その一本一本に歴史があり、物語があり、ドラマがあった…)

カムイ(これもいわば一つの集大成…ファイアーエムブレムといってもいいのでしょうか…?なんてね。128本のみなさん…力を…少しの間、貸してください)

ミコト「どうでしたか?」

カムイ「…素晴らしい刀ですね。よく使い込まれています。きっと、持ち主に大切にしてもらっていたんですね」

ミコト「そうですか。よかった…さあさあ、今夜はパーティーですよ、皆さん!みんなでカムイの帰還を祝いましょう!」

カムイ(よかった…今度こそ守れたんですね…)

カムイ(あれ?でも母上が生きてるってことはマークス兄さんたちも来れないってことですよね…?どうしましょう…)

カムイ(まあいいや、リリスさんが向こうで何かしてくれているはずですから)

331: ◆r9UtvwUCQI 2016/09/06(火) 00:12:04.55 ID:6uxSeSouO

翌朝

ヒノカ「ふぁぁぁ…よく寝たぁ…よっこらしょっと、顔洗ってカムイでも眺めに行くか…うふふふふ…待ってろよ…」

ヒノカ「ん?なんじゃこりゃあ…この前から付けだしたカムイ観察日記に紙が挟まってる…?」

332: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/06(火) 00:12:50.96 ID:6uxSeSouO

『未来の私へ』

この手紙を読んでいるということは、あなた(私か)はおそらく記憶を失っている。試しに昨夜の記憶を思い出してみてほしい。きっと無理だ。

今から私はアクアに事の次第を尋ねに行こうと思う。ずばり、カムイの事だ。私がカムイに異常な 欲を抱いている原因について、彼女は何かしら知っている。いや、彼女が私にかけた暗示だか催眠だかが直接の原因になっていることはほぼ間違いない。

だが…アクアは強いだろう。私はぶちのめされて、再び術を掛けられるかもしれない。そうなれば待っているのは…ぶるる、破滅しかない。今度こそあのベルカとかいう薄気味悪い女に力づくでアレされる。想像したくないが…

つまり、私が言いたいのはこういうことだ。

①カムイに手を出さない

②アクアから目を離さない

これを守ってくれればいい。奴の狙いは分からないが、ろくでもないことなのは確かだ。そろそろアクアを人気のないところに呼び出して問い詰めねばならない。

幸運を祈る。

ヒノカ

333: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/06(火) 00:15:24.88 ID:6uxSeSouO

ヒノカ(思い出せないわけないだろう…確か昨日は戦闘の片付けをしたあとパーティーに行って、その後…その後どうしたんだっけか…?忘れてるな…なんてこった)

ヒノカ(…信じていいものだろうか?だがこの金釘みたいな汚ったない字は間違いなく私のだ…)

ヒノカ「ふむ…」

ガラガラ
アサマ「ヒノカ様、大変です。暗夜の大軍勢が攻めてきました。すでに白夜平原まで侵入を許しています」

ヒノカ「な、何だって!?母上のバリアがあるんじゃ無かったのか!?というか何でそんなに落ち着いていられるんだ!?」

アサマ「いえね、白夜平原から一歩も進んでこないんです。あそこでストップ」

ヒノカ「…は?」

アサマ「それに偵察部隊によれば、暗夜兵たちはやけにニコニコとして…戦争をふっかけに来た顔には見えなかったんですと」

アサマ「ですからせいぜいゆっくり支度してから来てください。セツナは私の方で探しときます。また罠にかかってるみたいですからね」

ヒノカ「そ、そうか…拍子抜けだな…」

ヒノカ(さっきから一体どうなってるんだ…)


第5章 母と子 終わり

336: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/07(水) 23:24:06.45 ID:7QoYsC+aO

ガギンッ!

ベルカ「…ダンボールをいかに活用するかが作戦の成否を左右するのよ」ダンボールパサッ

師匠「遅えじゃねえか。護衛対象ほっぽってどこで油売ってたんだ?」

ベルカ「いざとなったらあなたが来ると思ってたから」

師匠「ったく…臨時料金はきっちり請求するからな」

リョウマ「…生きてたのか」

師匠「おっ、リョーマ様じゃねえか!元気してたか?ん?」

リョウマ「厄介払いできたと思ったんだがな…チッ…(そちらこそ元気そうで安心したぞ)」

ガンズ「ちっくしょう、どんどん増えてきやがる…仕方ねえ、出てこい野郎ども!」

透魔兵たち「…」ユラア…

リョウマ「厄介だな…俺が敵将の相手をする。残りに全員でかかれ。以上」

リョウマ(E:葉隠)「行くぞ!うおおおおお!!!」ダダダダダダッ

ガンズ(E:逆金棒)「何だぁ、あのエビは…」

リョウマ「ぎゃあああああっ!!!!!」

カムイ「お母様、リョウマさんの回収をお願いします」

ミコト「あらあら、世話のかかる子ですねぇ…」


337: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/07(水) 23:24:47.80 ID:7QoYsC+aO

カムイ(今いるのは…私にベルカさん、師匠さんだけと。あとの方々は避難する町民の誘導やなんかにてんやわんやですか。何とか私達だけで鎮圧を…)

カムイ「えっと師匠さん、でしたっけ?ちょっとクラスを拝見…」

カムイ(まあ上忍かアドベンのどっちかですよね、多分)

師匠 遊び人 Lv40

カムイ「…」

カムイ「持ち物は…」

E:トッポ

カムイ「…ベルカさん、この人何者ですか?」

ベルカ「ふざけた人」

カムイ「見りゃわかりますよ。本当に強いんですか?」

ベルカ「…残念ながら」

師匠「指示はまだか?ん?トッポなくなっちゃうぜ?いっくら最後までチョコたっぷりっつっても」

カームイー! ダイジョウブカー!


338: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/07(水) 23:25:19.05 ID:7QoYsC+aO

サクラ「はあ、はあ、やっと着きました。お怪我はないですか?」

カザハナ「ちょっと!ツクヨミあんた重すぎ!さっさと降りなさいよね!」

ツクヨミ「仕方ないだろう、私だけ移動力5なんだから…えっとな、ヒノカ様とタクミ様と家臣もすぐに合流するそうだ、カムイ殿」

カムイ「…?あれ、その衣装…まあいいや、どんな作戦がいいと思いますか?」

サクラ「ばくは しましょう!」

カムイ「駄目です!ここ街の中心でしょう!?…私が指揮するのでその通りに行動してください。以上!散開!」

カザハナ「じゃあ行くわよツクヨミ!祖国のために!!おりゃああああ!!!」ドゴオオン!

カムイ「ヒノカさん!タクミさん!早く来て下さ~い!!」

341: ◆r9UtvwUCQI 2016/10/02(日) 13:56:53.00 ID:8Ilr3fSwO
ヒノカ「さて…支度も済んだし、そろそろ出発だ。カムイ、天馬乗ってくか?」クイッ

カムイ「結構です」プイッ

ヒノカ「まあそう言わずに…」

カムイ「人を呼びますよ?」

ヒノカ「参ったな…完全に犯罪者扱いじゃないか…まあそうか。じゃあいいや。気をつけて行けよ」ポリポリ

バッサバッサバッサ

ヒノカ(空の上というのは、考え事をするのにぴったりな場所だ…眺めもいいし空気も澄んでる。悪くない一日になりそうだ)

ヒノカ(しかし…奴らはいったい全体何でこんな時期に来るんだ?ああ、カムイか。まあ取り返しに来るのが自然だな)

ヒノカ(それより…アクアはなぜあんなことをしたのだろうか?私がカムイを手篭めにして彼女が得することも無いだろうし…彼女が誰と繋がっているか分からない以上、相談できる人間は自ずと少なくなってくる)

ヒノカ(兄様は…あり得ん。あのへタレ…問題外だ。サクラは…怪しいかもしれんな。実の妹を疑いたくは無いが、かなりアクアとも親しい。繋がりがなくとも、本人も気づかないうちにバラしてしまう可能性もある。タクミは…やっぱりあり得ん。アサマは…論外だな。セツナは…うむ…今度ぼんやりしてなかった時に相談してみよう。少なくとも奴は(主に私の)命を懸けて凶行を止めようとしていたからな)

342: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/02(日) 13:57:29.58 ID:8Ilr3fSwO
ヒノカ(あとはあの無表情女……カムイを守る為なら何でもするって言ってたよな…一応聞いてみるか…?それにしても今日は天馬がにぶい)

ヒノカ「どうした?ん?疲れたか?……え?2人も乗せるなんて聞いてない?さっさと下ろせって?いや私しか乗ってないが?下を見ろって?何だよ…」

ヒョイ

ベルカ「…奇遇ね」

ヒノカ「…いつから下にしがみ付いていた?」

ベルカ「あなたがカムイ様に話しかけた時、隙を見て」

ヒノカ「私もニブくなったかなぁ……まあ上がれよ。これでは話しづらい」

ベルカ「…」ヒョイ

ヒノカ「はあ…何で乗ってるんだ?」

ベルカ「天馬に興味があったから。飛竜とどんなに違うのかなって」

ヒノカ「本当は?」

ベルカ「早くフィアンセのところに行きたかったから」

ヒノカ「カムイは?」

ベルカ「いざとなればあなたの家臣たちが何とかすると思った」

ヒノカ「…この前から思ったんだが、お前他力本願が過ぎないか?」

ベルカ「…チームワークよ」

ヒノカ「個人プレーと言うんだ。そうそう、ちょうどいいと言えばちょうどいい時に来たな。この手紙を見てくれ。こいつをどう思う?」ピラッ

343: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/02(日) 13:59:28.43 ID:8Ilr3fSwO
ベルカ「………了解。アクアの身辺を徹底的に洗い、その目的を調査する。カムイ様の護衛関連だから報酬はいらない」

ヒノカ「……そうか。ここまで簡単に引き受けてくれるとは思わなかったぞ」

ベルカ「それよりあなたがアクアの催眠か何かから逃れたことを、決して、誰にも言ってはいけない。分かった?」

ヒノカ「分かった分かった…要するにこれまで通りを演じていればいいんだろう?とは言っても肝心のカムイがどっちにつくか分からないとなると…それにアクアのバックに暗夜がついていたとしたら?ありえない話じゃないだろう」

ベルカ「その時はその時。場合によってはあなたの協力も仰ぐ。それに、カムイ様の敵はカミラ様の敵。つまり私の敵よ」

ヒノカ「そうか。協力、感謝する…おっ、見えて来たぞ、白夜平原だ」

344: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/02(日) 14:00:19.81 ID:8Ilr3fSwO
__________白夜平原

ヒノカ「下流の方からなら向こうの陣の後ろから合流できるだろう。といっても…正面からでも問題はなさそうな空気だな」

ベルカ「…一応人質じゃなかったの?」

ヒノカ「いいんだ。アクアとカムイの身柄は今の所こっちにある。いざとなればそれで交渉するさ…それに、お前を置いておく方が物騒だ。早くどっかに行ってくれ」

ベルカ「…さよなら」


ヒノカ「行ったか…変な奴だった。ほんとに真ん中を突っ切って行きやがった…あの二人もあれぐらい頑張ってくれればいいのに…」

ヒノカ「というか早く来すぎたかな…?」

リョウマ「むっ…もう来ていたか、ヒノカ」

ヒノカ「兄上…あの者たちの狙いは?戦争をふっかけに来たようには見えないが」

リョウマ「分からん。多分カムイか、恐らくついでにアクアも取り返そうという腹だ…みんなが揃い次第、俺が直談判してくる」

ヒノカ「そうか…くれぐれも気をつけてくれ」

リョウマ「うむ」

345: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/02(日) 14:02:35.52 ID:8Ilr3fSwO

そして、時は満ち________


「我こそは、白夜王国第一の王子、リョウマ!暗夜軍の将よ、一騎打ちを所望する!」


「暗夜王国第一王子、マークス。一騎打ち、受けよう。我が剣の露と消えるがいい!」







リョウマ「…空き瓶で一騎打ちか?」

マークス「そっちこそ大根で切りかかってくるとは、舐められたものだな」

カムイ(あれ…?)

マークス「む…カムイ、生きていたか。よかったよかった…では帰るぞ。こんなところに長居は無用」

カムイ「マークス兄さん、私は…」

346: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/02(日) 14:03:43.27 ID:8Ilr3fSwO

マークス「あのサークライとかいう男に圧力をかけたお陰で、念願のスマブラ参戦も叶ったそうだ。早く帰ってみんなでやろう」

カムイ「別に構いません…じゃなかった、そんなこと出来ません!私にはこっちのきょうだいが…」

マークス「む…今度のは8人まで同時対戦出来るんだったな。多分レオンは抜けるからそっちのきょうだいを合わせてもみんなで出来るぞ」

カムイ「…」チラ

サクラ「…」ウズウズウズウズウズ

カムイ「いやいやいや、ですが戦争は…?」

マークス「そうだ、スマブラに比べてあまりにどうでもいいことなので忘れていたが、こんな手紙を預かったったんだ」ガサ

ピエリ、コレヲミコトドノニ
ハイナノ!

ハイ、オテガミサンナノ!
アラ、アリガトウゴザイマス

ミコト「………停戦、と?」

マークス「ええ、そうです。つい先日、我が父ガロン王が急に心変わりしたのでして…突然このような事を」

ミコト「そうですか…ふーん…あの人が、ね………分かりました。いいでしょう。停戦協定を結びます」

マークス「流石話が早くていらっしゃる…こちらからは、

・無限渓谷から、双方のすべての兵を撤収させる

・互いに協力して野生化したノスフェラトウ及び絡繰人形の駆除を行う

・…etc

などを要求する。どうです?」

ミコト「ええ、正式な調印は後日として、すべての条件を飲みましょう。ですが…」

マークス「何かご不満でも?」

ミコト「この『双方の軍備の縮小』…これはまだ必要ないでしょう。そうですよね、カムイ?」

カムイ「…はい。残念ながら兄様、みんなでスマブラが出来るようになるのはは少し後になるかもしれません」

カムイ「まずは…心変わりされたお父様について、教えていただけますか?」

マークス「ああ、あれは一昨日の晩のことだったな…」

フェリシア「えっと、では私から。わたしがガロン様のお食事を作って差し上げた日の事でした」


348: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 16:51:19.14 ID:XXpTth+Z0
おととい

フェリシア「おかかと梅ですよ…うふふ…」

リリス「本当ですか?なんか変な匂いですけど?マシンの燃料みたいな」クンクン

フェリシア「自分の体臭じゃないですかぁ…?また機械油とかっぱ寿司の臭いがしますよぉ…?」

リリス「えっ、そんな…体洗ってきます…」

ガチャ バタン

フェリシア「さようなら~」

フェリシア「さて…私のロシアンルーレットおにぎり…まあほぼ自動小銃ルーレットなんですけどね…うふふふふ…」

フェリシア「みぃんな滅びてしまえばいいんですよ…白夜も…暗夜も……うふふふっ…どんな顔をするでしょうか……一口が致死量…服毒……これ即ち死…!ってね…あはははははっ!」

349: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 16:51:51.54 ID:XXpTth+Z0

____________________

カムイ「え…」

フェリシア「えっと、今は正気です。最後まで聞いてくださいね」

____________________

フェリシア「失礼します…うふふふっ…」ユラァ…

ガロン「入れ」

フェリシア「うふふふっ…ゆうげにございます…」ユラァ…

ガロン「む…今日は握り飯か。シンプルだが…うまそうだな…形もいい」

ガロン「なんだが苦学生時代を思い出すぞ…ふっ…そうだな。少しばかり年寄りの昔の思い出に付き合ってもらえるか?」

フェリシア「うふっ…もちろん」ユラァ…

ガロン「あれは…確か40年ほど前のことだったな。当時芸術を専攻していたわしは、ミューズ公国に一年間留学しておったのだ」

350: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 16:52:22.20 ID:XXpTth+Z0
40年前、ミューズ公国にて


若かりし頃のガロン「ラッシャッセー」

ミコト「九番ください」

ピッ ピッ

ガロン「580ゴールドになります」

ガロン「アリヤッシター」

ガロン「くそっ…何でアルバイトなんぞ…」

ガロン「ラッシャッセー」

ニュクス「肉まんとピザまん一つづつ」ポン

ガロン「ポイントカードつけますか」

ガロン「アリヤッシター」

ガロン「ありえん…ありえん…いくら道楽のような留学と言っても仕送りゼロだぞ…仮にも王族だぞ?一国の未来背負ってるんだぞ…?」

ガロン「ラッシャッセー」

アシュラ「えっと、これとこれください」

ガロン「はい。230ゴールドね」

アシュラ「え、えっと…ごめんなさい…200ゴールドしかないんです…」

ガロン「む…いや、どうやら200の間違いだったようだ」

アシュラ「え?ありがと、お兄ちゃん!」

ガロン「アリヤッシター」

ガロン「子供は苦手だな…」

ガロン「ラッシャッセー」

ユウギリ「手槍と特効薬」

ガロン「ライセンスは…はい、はい。有難うございます」

ガロン「アリヤッシター」

ガロン「ったく…手槍なんざ武器屋で買えばよかろうのに…」

ガロン「ラッシャッセー」

ガロン「!?」

シェンメイ「温めお願いします」

ガロン「えっ、は、はいい…」



351: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 16:52:56.12 ID:XXpTth+Z0

ガロン「今思い出せば苦い思い出だった…これが最初の出会いだった。みんな若かった」

フェリシア「…」

ガロン「そうだ、おにぎりだったな。寮ではスメラギと相部屋だったのだが…」



スメラギ「きったねーな、ちょっとは掃除しろ」

ガロン「そっち半分はお前のテリトリーだろうが!自分でやれ!」

スメラギ「ったく…金もない。飯もない。仕送りは米だけ。どーしろっての…」

ガロン「粥でもすすってろバーカ!」

スメラギ「おめーだって食パンしかねえくせによ!鳩か!」

ガロン「おまけに冷蔵庫にはハムはおろかチーズすらないと……朝は大家さんの慈悲に預かるとしても…どうやってあと1週間生き延びる?流石に一日一食じゃ死ぬだろうし、王族として生パンと心中する訳にもいかん」

スメラギ「ふん…そうだな、いっそ食パンと米を交換するか?塩と梅干しなら腐る程あるぞ」

ガロン「一応庭に自生してる謎野菜もあるしな。やってみるか」



352: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 16:53:28.49 ID:XXpTth+Z0
ガロン「ということで、私は梅おにぎりだけ。奴は1週間きうりサンドだけで食いつないだ。今思えば馬鹿なことをしたものよ…」

フェリシア「うふふっ…うふふふふっ…きうりサンド、お作りしましょうか…?」ユラァ…

ガロン「いや、要らんけども…」

ガロン「おや、おまえのその紫の瘴気、お前もわしら仲間だったのだな」

フェリシア「何のことでございましょう…」ユラァ…

ハイドラ『ふん、今日は随分質素だな。今日も食べにきたが…よかろう。だがこの召使い…………いやちょっと待てこんな娘うちの名簿にいない』

ガロン「黙れ!…いただきます」

ハイドラ『…それに、これは殺意の』

モニュッ

353: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 16:54:15.43 ID:XXpTth+Z0
コンコン
バタン

マクベス「みなさんの治療、完了しましt…ひ、ひいいいいっ!?」

マークス「ち、父上…!」

レオン「これは…!?」

エリーゼ「い、いやあああああああっ!!お父様ぁっ!!口からなんかでてる!?」

カミラ「そんな…これが…」

ガロン「グ、グホォ…コレホドカ……!不味すぎる……あり得ぬ……!」

ガロン「おのれえええっ、お前!わしに何を食わせたぁ!あ、あがががががっ!体が!燃えあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )←ハイドラが抜ける音

フェリシア「うふふふふ…何でもありませんよ…ただ、ちょっとしたね…」ユラァ…

ハイドラ『があああああっ!!かくなる上は…血だけでも回収しなければ…!逃げねば!』ドロドロ

マークス「む、父上にまとわりついていた泥の怪物が逃げるぞ!捕まえろ!」

マクベス「あわわわっ、親衛隊!親衛たーい!」

354: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 16:54:42.65 ID:XXpTth+Z0
勇者「む、怪しい奴!みんな行くぞ!突撃だあ!」

勇者B「続け続けえ!!」

勇者C「ありゃ?消えちまった…」

勇者D「まだその辺にいるはずだ!草の根を分けてでも探し出せ!」

ウオオオッ!イタゾ!コッチダ!

マークス「おい、フェリシア!貴様何を食べさせた!!」

フェリシア「うふふふふふ…うふ…ふふ………」ユラァ…

フェリシア「…」ユラ

フェリシア「あれ?私は…何を……あああっ!?わ、私は何て事を……ぐずっ…」

フェリシア「命でお詫びします…こんな事をしてしまった以上、もう生きていられません」チャキ

マークス「いいから何を食べさせたんだ!言え!!」

フェリシア「あわわわわわっ、手作りのおにぎりです!これっ!」

355: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 16:55:14.03 ID:XXpTth+Z0
カミラ「これは……食べ物じゃないわね。石炭か何かかしら?」

レオン「いや、どちらかと言うと魔法物質に近いものじゃないかな…こんな物を口にするのは自殺行為だよ」

フェリシア「も、申し訳ございません…」

ガロン「…構わぬ……お陰で…正気に戻ったようだ…こんな気持ちは……何十年……いや、もっと前だろうか…?礼をいうぞ…何、いずれあの化け物にとられていたはずの命……もう無くなっても構わんわい…」

フェリシア「へ…?」

エリーゼ「お、お父様!?しっかりして!」

ガロン「そこにいるか……子供達よ……」

マークス「はい…」

356: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 16:55:42.78 ID:XXpTth+Z0
ガロン「わしは…ようやく……長い夢から…覚めたようだ…長い…悪夢であった…」

ガロン「……力を求める余り…わしは…大切なものを失っていた……身を滅ぼし、心を捧げ……かつての友さえこの手にかけた………」

ガロン「子供らよ…許せ……駄目な親父だった…何一つ……父親らしい事をしてやれなかったな…」

ガロン「マークスよ…どうか、暗夜王国を…この国を頼むぞ…白夜とも手を取り合い、民達が笑って暮らせるような……そんな国に…」

マークス「…はい…」

ガロン「レオンよ…お前はマークスを手伝ってやれ……奴は余りにも真っ直ぐで…どうも残忍さや冷酷さに欠ける……あいつにはお前が必要だ……」

レオン「分かった……」

ガロン「カミラ、お前は…政治には向かなんだが、お前無しにはきょうだいは…バラバラになってしまうだろう……お前の海より深い愛…絶対的で、無条件の愛が…必要だ……」

カミラ「ええ…」

ガロン「最後にエリーゼ……ハハハ、お前は…この国の太陽になる……闇に差す一筋の光…民を導き照らす…太陽になるんだ……いや、その前にあの娘を……幸せにしれやることだ、な……」

エリーゼ「え…知ってたの…?」

ガロン「子を見守るのが父親の…務めだ…お前の花嫁姿…見られないのが残念だが……」

エリーゼ「…」

357: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 16:56:12.05 ID:XXpTth+Z0
ガロン「カムイとアクアにも…伝えろ……酷いことばかりしてきて……虫の良い話かもしれんがな……まるで自分の子のように……愛していた…どうか許してほしい……とな…」

ガロン「泣くんじゃない、子供らよ…笑って送ってくれ…最後ぐらい…」

ガロン「どうやら……もうこれまでのようだな……迎えが来た……おお…お前は…!……許してくれるのか…スメ……ラ…」

ガロン「……我が子らよ…ありが……」




エリーゼ「お父様あああああっ…!ううっ…うえっ………」

カミラ「ほら……泣いてはダメよ…お父様がおっしゃってたでしょう……」

エリーゼ「でもっ……お姉ちゃんだって……ううっ……」

マークス「まるで…眠っているかのような……くっ……」

レオン「父上、どうか安らかに…」







358: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 16:56:41.46 ID:XXpTth+Z0





マクベス「えっと…お取り込み中失礼します。ビフレスト!」フワワワン

レオン「…」ブチッ

レオン「…塵になるがいいっ!!!」

マクベス「ぎゃあああああああっ!!!」

レオン「で、また発作だったのかい?フェリシア」

フェリシア「ええ、済みません…丁度薬を向こうに置いてきて、切らしてたんです…」

レオン「そうか。困ったね…まあ今回は暴れて消火器を振り回さなかっただけ良いとしようか」

フェリシア「あ、有難うございます!」

エリーゼ「ええっ!?そ、そんなことまであったの!?」

359: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 16:57:19.52 ID:XXpTth+Z0

____________________

カムイ(オボロさんとは全然違うベクトルで酷いですね…)

マークス「父上の状態は安定しているが、かなり衰弱している。流石に歳だ。今回のはこたえたのだろうな…回復し次第、遅れてこっちに来られるらしい」

マークス「それで、とっ捕まえた泥の怪物の一部がこれだ。今も中で暴れているが…常に一定の方向に向かっているようにも見えるな。お前が言いたいのは…これ、だろう?」

カムイ「ええ…そうですけど…兄上にしてはいささか察しが良すぎます…」

マークス「何、伊達に5分に一回刺殺されているわけではないぞ」

カムイ(なーんだ。ゲーム感覚か。がっかりです…)

カムイ「ええ、そうです。このドロドロが指し示す先に…ガロン王に寄生し、戦争を引き起こした黒幕が隠れているのです」

リョウマ「本当か、カムイ?」

カムイ「いえ、単なる憶測ですが…一応の筋は通っているかな、と」

リョウマ「それで、その調査を手伝えと?」

カムイ「そうです」

リョウマ「…承知した。母上を助けてもらった恩もあるし…何よりきょうだいだものな…うむ」

ミコト「ええ。行ってきなさい、リョウマ」

カムイ「…ありがとうございます!」



こうして白夜と暗夜の戦争は終結し、ひとまず打倒『黒幕』の旗印の下に団結したのであった。

第6章 その手が拓く未来 終わり

360: ◆r9UtvwUCQI 2016/10/09(日) 16:58:03.05 ID:XXpTth+Z0





アクア「間に合わない…このままじゃ絶対に……今夜…もう今夜しかない…」

アクア?『ふふ、無事にあなた達がハイドラ討伐に成功すれば……あなたの負け。私は体を取り戻せる…』

アクア「させるもんですか…やっとの思いで手に入れた体を……世界を……やるわけには…!」

カムイ「アークアさーん!野営の準備手伝ってくださーい!」

アクア「ぐっ……今行くわー!」


アクア「手段を選んでいる余裕はない……カムイ……それでもあなたは許してくれるかしら……」

361: ◆r9UtvwUCQI 2016/10/25(火) 00:26:29.20 ID:DKkO9cRXO
ひさーしぶりに過去編(外伝)

362: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 00:27:50.32 ID:DKkO9cRXO
「ねえ、どうしたのよ。急にやめちゃって。変よ?」

あたしは装置の片付けを手伝った後、また彼の肩を担いで、階段を降りていた。電気を落としたばかりの機械は火傷するほど熱かった。すぐ横に見える目は虚ろで、何かを考えこんでいるように見える。

オーディン「…」

「ねえってば!」

オーディン「…!ああ、うん…悪いな。おえっ…」

「わわっ、こんなとこで吐かないでよね!」

オーディン「いや、大丈夫だ。それより…本当に知りたいのか?俺の口から?後悔するかもしれんぞ?」

「どういう事よ」

オーディン「成り行きに任せた方がいいかもしれん、という事だ。こういう事は自分で知るべきなのかも…」

「…そんなに酷いことだったの」

オーディン「…ああ。俺には応えたぞ。できれば二度と見たくないな。だが新しく商売の道具になるかもな…最近発掘されたVRとかいう技術と組み合わせればあるいは…うーむ…」

オーディン「おっと、すまん。話が逸れたな。どうする?決めるのはお前だ」

363: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 00:28:26.14 ID:DKkO9cRXO

「…」

「ヒントちょうだい。いっこ」

オーディン「はあ……ヒントはな、『ベルカ』だ。これ以上言ったら全部言うことになるぞ」

「………そう」

オーディン「思い出したか?」

「うん」

オーディン「そうか。まあアレだ…頑張れ。うん。どんな事があっても、少なくとも俺とあいつだけはお前の味方だ。随分頼りないかも知れないが…ごほっごほっ」

「…ありがと」

口の端に笑顔を浮かべるだけで精一杯だった。それぐらい精神的に消耗した。

364: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 00:29:01.88 ID:DKkO9cRXO
母さんもこんな気持ちだったのかな。上の空で残り仕事を済ませる。枕を換え、食事を作り、溜まっていた書類を片付けるのだ。片付けるべき書類があるのは良い事だ…少なくとも片付けるべき死体があるよりずっといい。

気がつくともう夜だ。廊下の窓から外を見ると、月が沈み、もう一つの月が出てくるところだった。月が二つあるのだ。太陽のかわりに白い月がのぼり、月のかわりに緑の月が沈む。つくずく不思議な場所だ。



お風呂

水音が心地よく響く…

風呂はいい。面倒な思い出を泡と一緒に押し流してくれる。たとえば子供に『ら』とかいうふざけた名前をつけたお陰で、死ぬ間際に『らめええええええええええ!!!』と叫ぶ羽目になったファウダーの爺さんのこととか。あんなのがおじいちゃんで、『ら』が父さんなのだ。世の中は理不尽かつ不可解な物事に満ちている。

だが、結局思考は堂々めぐりしてここに戻ってくる。どうすればいいのか。どうしたいのか。

部屋に忍び込んで、「されたこと」をそのまんまやり返してやるのもいいかもしれない。高熱で弱っている今なら押さえつけるのも楽だろうし。そして二人は幸せなキスを交わしたのでした。めでたしめでたし。


駄目駄目、問題外だ。


じゃあどうする?カミラ様にでも相談してみるか。

365: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 00:30:27.09 ID:DKkO9cRXO




自室の高そうなマホガニー製の机に向かっていたカミラ様は、椅子を半回転させてこちらを向く。

カミラ「え?ベルカにそんな事を?」

「…はい。どうしたらいいか分かんなくなっちゃって…」

カミラ「そう…あの子がそんな事を…かわいそうに……いいわ。私が慰めてあげる。こっちにいらっしゃい…」

「え」

カミラ「ほら、遠慮しないで…」

香しく匂う黒髪がたなびき、背後から抱き竦められる。あたしや母さんには一生かかっても習得できない動きだ。私はメンデルを心の中で口汚くののしりながら、差し伸べられた艶のある唇に応え、神とメンデルとコザキの愛を一手に受けて熟れきった、みずみずしい肉体に溺れ

366: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 00:30:59.24 ID:DKkO9cRXO


まあこうなるだろう。てごわいシュミレーション。勝ってくるぞと勇ましく。だが現実は非情だ。これは考えうる限り一番生易しい結末に過ぎない。実際に突きつけられるのは懲戒免職の四文字。そして自分は彼女のクビを望んでいない。

てごわい妄想を適当なところで打ちきり、茹で蛸にならないうちに風呂を出ることにする。蛸は思考能力をほとんど持たない。茹で蛸はもっと持たない。考えなければならない目下の要件があるのだ。大至急。

367: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 00:32:40.99 ID:DKkO9cRXO
自室前、廊下


ドアの前に立つ。そうだ。開くんだ。扉を…開けば自ずと答えは出る。開け…開けドア…!動け、あたしの手…!

逃げちゃダメだ…!


逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ…逃げちゃ……ダメだっ…!!!








賽は投げられた。扉は開き、答えは出た。最初から問題用紙に書かれていたような答えだった。a=b、b=c。このときa=cとなる。Q.E.D

368: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 00:33:16.05 ID:DKkO9cRXO





酷い夢だった。年の離れていない妹と、刺し違える夢。

私はその子を憎んでいた。彼女の憎しみが空気を通して、こちらにひしひしと伝わってきた。私にはきょうだいはいなかったはずだが、血を分けた姉妹が、これ程までに妬み、憎しみをぶつけ合えるものなのだと感心した。

おおよそ女の子同士が交わすべきでないような口論の末に、彼女はナイフを突き出してきた。だが私はそれをいとも簡単に見切る。妹は武人だったが、短刀の扱いには長けていなかったのだ。首の皮一枚を切らせただけでかわし、身を返す一振りで利き手の腱を切る。そして憎悪と屈辱を湛えた目に思い切り……ナイフを突き刺した。とっさに手に持っていた果物ナイフは眼窩を通して頭蓋骨を貫通し、彼女は痙攣して地面に倒れ臥した。私の愛した男の名を____彼女の夫の名を____口にしながら。

369: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 00:33:59.20 ID:DKkO9cRXO
勝負は一瞬でつく。そこには騎士道も、名誉も愛もいらない。要るのは憎悪____どんな闇よりも真っ黒で、どんな光よりもはっきりした憎悪だ。

荒い息を整え、顔についた返り血を拭う時間は、そこの私には残されていなかった。どうやらナイフには猛毒が塗ってあったようだ。傷口から侵入したそれは大動脈を通じて全身を駆け巡り、頭の働きをゆっくりと鈍らせる。心臓にやんわりと、致死的な長期休暇を勧める。ちょうどこんな風に。

_________ねえねえ、心臓さん。どうですか?この際有給でもとって、グアムにでも遊びに行ってはどうですか。あなたはもう頑張りましたよ。二十数年間も休みなしに働き続けたんです。そろそろ休んでもいい頃でしょう________

草の青臭い匂いが鼻をくすぐる。倒れた妹の靴底が目の前にあった。馬鹿なことをしたものだ。私たち姉妹はとことん男運がないらしい。最後に私の頭に蘇ってきたのは男の顔でも、ましてやもう一人の妹の顔でもなかった。それは…

370: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 00:34:27.99 ID:DKkO9cRXO


その顔は………



371: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 00:35:39.93 ID:DKkO9cRXO
ここで目が覚めた。本当に酷い話だ。姉妹で殺しあうなんて。でもまるでその場にいるみたいに、臨場感のある夢だった。心臓がどくどくと波打ち、息は走ってきたかのように荒く、シャツはべっとりと背中に張り付いていた。熱はいつの間にか下がっていた。いい兆候だ。明日には起き上がれるようになるだろう。

だが大変まずい事に、体がぴくりとも動かない。誰かのあたたかい吐息が首筋にかかっている。油断した…心の中でそっと舌打ちする。年貢の納め時かもしれない。これは多分好き勝手して来た罰だ。でも覚悟は出来ていた。

372: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/25(火) 00:36:31.73 ID:DKkO9cRXO





開け放たれた窓からの風に、カーテンがはたはたと揺れる。そっと後ろ手に閉めたドアが、不気味なほど大きな音を立てたように思えた。月光に照らされてみどり色に染まった部屋は、昼間とは違う場所みたいだ。そっと自分のベッドに腰掛ける。

「ベルカ」

返事はない。ぐっすり眠っているようだ。時々うめき声をあげ顔を歪ませている。悪夢でも見ているのだろうか。

腰を上げて、真上から顔を見下ろす。今はメロンソーダみたいな色だけど、ぞっとするほど綺麗な寝顔だ。少なくとも今のあたしにとっては、すごく。バンダナをしていない分、顔のパーツが一つ足りないように見える。そして……触れるか触れないかぐらいに唇をつける。合成された微かなソーダの残り香を感じながら、同じベッドの中に潜り込む。後ろから手を回して、耳元にそっとこう囁くのだ。


「ねえ、あなたが欲しいのよ。ベルカ…」



374: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:30:11.13 ID:5B/tUOsyO
______夜の白夜平原

ホー ホー

リリリリリ

アクア「もうすっかり秋ね」

カムイ「ですね。つい1週間前まで春だったんですけどね。不思議ですね。遅筆って罪ですよね。でも秋はいいです。こうして河原に座って、のんびりしていると何もかも忘れられる気がします…」

カムイ「でも良かったですよ。いつぞやみたいに両方に喧嘩を吹っかけたお陰で両方から追われる羽目にならなくて」

アクア「…そうね。喧嘩売ってるの?」

カムイ「アクアさんが軍師に向いていないということはよーく分かりましたよ。でもほんと、何でこんなにすんなり行ったんでしょうかね。私の気持ちが通じたんでしょうか…?」

375: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:30:52.86 ID:5B/tUOsyO
アクア「そんな訳ないでしょう。馬鹿ね。あなた、あの時から何も成長してないのね。夢見がちで、お人好しで、世間知らず…」

カムイ「…え?」

アクア「あの人達が仮にでも手を結んでいるのは、ハイ何とか討伐のためでもあなたを慕っているからでもないの。彼らを一つの道に導いているのは…利権よ」

カムイ「ど、どういう事ですか!?」

アクア「あのね、何でこの世界に電子機器が溢れているか知ってる?『掘り出した』からよ」

カムイ「掘り…?」

アクア「どうやらここの世界はあっちとは根本的に成り立ちが違うらしいの。うわべだけは同じだけど、殆ど違う世界線に連れてこられたの」

376: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:31:27.45 ID:5B/tUOsyO
カムイ「…」

リリス「その辺の説明は私から」ヒョイ

カムイ「あれ、リリスさん。留守の間に色々やらかしてたらしいですね。クビにならなかったんですか?」

リリス「ええ、リアルに処刑されそうになりましたけどね。マークス様が各方面に口聞きしてくださったおかげで何とか生きてます。仕事ももらってます」

カムイ「すいませんでした…」

リリス「いいんですよ。どうせこれが終わったら王族になれるんだし。家と研究室も取り戻せますし」

リリス「で、この世界の電子機器ですが、全部地下から掘り出されたものなんですね。何でも何千年も昔に滅びた古代文明が丸々埋まってるんだとか。例えばこのゲームボーイ」

リリス「何千年経っていてもちゃーんと動くんです。凄いですよね。いや本当にすごいんです。一緒に出てきた古文書によれば、戦闘機の爆撃を受けてもなお問題なく電源が付いたんだとか。とにかくもうすごいんです。ここには科学技術の真髄が詰まっているんです。私も一科学者として、こんな…」

カムイ「リリスさん、脱線脱線」

377: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:31:54.50 ID:5B/tUOsyO
リリス「おっと、失礼しました。とにかくこの古代遺産の利権を巡って、白夜も暗夜も大忙しなんです。何しろそこらじゅうから出てきますからね。私の足元の一メートル四方の土地からでも、今までの常識をひっくり返すような恐るべき発明品が出てくるかもしれないんです」

リリス「とにかく土地、土地、土地なんですよ。まあ実際は掘るべき土地がありすぎて人手が追っついてないんですけどね。戦争どころじゃないんです。『銀の剣より鉄のツルハシを』なんて標語ができるぐらいです」

リリス「何が言いたいかと言いますと、彼らは先を越されたくないんですよ。調査と称してお宝を全部持ってかれたらたまったもんじゃありませんからね」

カムイ「ふーん………なるほど…………グウ……」

リリス「絶対わかってないですよねこの人…ねえ!ほら起きて!風邪ひきますよ!」ユサユサ

カムイ「寝る前に子供にお菓子を食べさせるなって言ってるじゃあないですか……ムニャムニャ」

リリス「ったくもう…」

378: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:32:30.61 ID:5B/tUOsyO
アクア「よいしょ。私が天幕まで運ぶわよ。じゃあおやすみなさい」ヒョイ

リリス「おやすみなさーい。…あれ?なんか忘れてるような…何でしたっけね…?最近物忘れがひどくっていけないや…」ブツブツ

パサ

リリス「むむ、何か落ちましたよ…?ああ。私の冊子ですか。この感じだとカムイ様最後まで読んでないですね…全くもう…せっかくあちこち飛び回ったってのにやんなっちゃいます」パラララッ


白夜王国第二王女 ヒノカ

~中略~

その精神はただひたすらカムイを追い求めているようだ。非常に危険である。見つかったら背中を向けずに逃げるべし。しかし……これは彼女の本心なのだろうか?私の調査によると、「ある」日を境にしてこのような性質が現れているように見える。頭でも打ったのか?それとも誰かから操られているのだろうか?これ以上の詳細な調査は過去への干渉を引き起こすため不可能だ。自分の目で慎重に確かめられたし。

379: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:34:28.68 ID:5B/tUOsyO

名前を言ってはいけないあの王国の王女 アクア

義理のいとこである。謎の多い人だ。例えばなぜ写真を撮るたびに胸部が異常に縮んだり膨らんだりするか。これは彼女が体内の脂肪組織を自由自在に伸縮させる事ができるということを示唆している。ケーメルン・ホックの宇宙第五法則を根本から覆す可能性が無きにしもない恐るべき謎であり、ソニー・タイマーやポリゴン・ショックにも匹敵する科学史に名を残す重大な謎である。



冗談は置いといて、彼女の行動には本当に謎が多い。気をつけたほうがいい。彼女はあなたの知っている人ではないのかも。人というものは得てして変わりやすいものだ。もしかすると、あなたの知っているアクア様はすでに致命的に損なわれ、失われてしまったのかも…なんてね。



リリス(いっけね…自分で見て来たことぐらい覚えとけって話ですよね…一応見に行ってみますか。今なら過去に干渉せずに調べられますからね)

リリス「うっ…寒ぅ…やっぱ明日にしよう…」

380: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:35:01.24 ID:5B/tUOsyO
河原(事あるごとに干上がる)

チャッチャッチャッチャッチャッ ポチャン


チャッチャッチャッ ポチャン


チャッチャッチャッチャッチャッチャッチャッチャッ ポチャン


チャッチャッチャッチャッチャッ ポチャン

師匠「へっ、俺の勝ちだな」

ベルカ「…ねえ、師匠」

師匠「何だ?」

ベルカ「どうして私を拾ったの?」

師匠「…あの日の朝のZIPでポンで3回とも大当たりを引けてな。すっごく気分がよかったって痛い痛い痛い!つねるな!」

師匠「Mocosキッチンで『オリーブのオリーブオイル炒め~謎野菜と三種のチーズをのせて~』というのをやっていてな。材料を買ってきたはいいものの俺は料理ができない。だから適当な孤児でもさらってきて料理を仕込めばいいなと思っ」

ベルカ「…あなたを最後に師と呼べてよかった…眠りなさい。わたしの思い出の中に」

師匠「分かった分かった!その死を呼ぶナイフを下ろせ!俺が悪かったから!」

エリーゼ「ベールカ!何やってるの?」ヒョイ

ベルカ「…プロレスごっこ」

エリーゼ「わたしの知ってるプロレスごっこにナイフは使わなかったと思うよ?それともルール無用のダーティファイトなの?虎の穴なの?」

エリーゼ「ほら、おいたしたいで。ね?」

ベルカ「…うん」

ベルカ「じゃあそういうことで。邪魔者は消えなさい。消される前に」

師匠「へいへいわっかりました~おっかしーな~お父さんこんな子に育てた覚えないのにな~」スタスタ

381: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:35:53.65 ID:5B/tUOsyO

エリーゼ「よいしょっ」ステン

エリーゼ「どうだった?白夜王国。酷いことされなかった?心配だったんだよ…?昼に平気な顔して歩いてこっちにくるまではだけど」

ベルカ「全然。酷いことはしたけど」

エリーゼ「ど、どんなこと!?」

ベルカ「xxxされそうな主君を捨てて散歩に行ったり、向こうの第一王女を窒息させて拷問したり」

エリーゼ「」

ベルカ「色んなことがあったけど、わたしは元気です」

エリーゼ「わたし、ベルカのことがよく分からないかも…」

ベルカ「…怖くなった?」

エリーゼ「ううん。そういうとこ、嫌いじゃないよ?むしろ好きだって。おかしいかな?」

ベルカ「…さあ」

エリーゼ「えへへ、ありがと」

ベルカ「…」

師匠「ヒューヒュー、お熱いね~」

ドスッ

師匠「ふごっ!?」ドサ

サイゾウ「こいつをもう親父とは思わん…じゃあな」ズルズル

エリーゼ「あれ?今の忍者さんって捕虜の…」

ベルカ「…義理の兄よ」

エリーゼ「えっ?ええっ??」

382: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:36:35.71 ID:5B/tUOsyO

ジー ジー

コロコロコロ

ザワワ…

エリーゼ「でねでね、もうちょっとで全滅するところだったけど、レオンお兄ちゃんが助けてくれたの!」

ベルカ「…そう。私なんかよりずっとえらい目にあってたのね」

エリーゼ「でも面白かったな~それでね、サクラ王女のそっくりさんが来たの!」

ベルカ「…え?」

エリーゼ「すぐにメイドさんに連れてかれちゃったんだけど、面白い子だったな。今頃どこにいるんだろ…」


サクラ「ふんふふんふふーん…あ、エリーゼさん!また会いましtグフォッ」ガツン

カザハナ「え、えっへへ~すいませんね~うちのバカ主君がえへへ~初めまして~さようならっ!」ズリズリ


サクラ「いてて…何するんですかっ!」

カザハナ「あそこで会ったらこの前の不法進入がバレるでしょうが!どあほ!」

サクラ「行軍を共にするのですから、露見は時間の問題だと思ったんです」

カザハナ「あ、そっか…?そうかな…?」

サクラ「じゃあちょっと遊びに行って来ますね~」タタッ

カザハナ「あっ!ちょっと!全くもう…どっちがお転婆だか分かったもんじゃない…ま、なよなよしいよりはましなのかな…?」

カザハナ「秘密にしときなさいよー!はあ…刀でも磨くか。確か道具は…」

383: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:37:29.94 ID:5B/tUOsyO
サクラの天幕

カザハナ「よいしょ、あれランプ点いてる」

ゴソゴソ

カザハナ(むっ…誰だろ?怪しげなやつ。どうみても白夜風の服装じゃないから…賊か!一人なら何とかなるかな。後ろからそーっと、そーっと…)

カザハナ「せいっ!」ゴン

???「あたーっ!うう、いてててて…」

カザハナ「あれ?第二王子じゃない。何やってるのよ、こんな所で」

レオン「あたたたた…いやね、ちょっと道を間違えて」

カザハナ「あんたたちの陣は川向こうだと思ったけど?え?何しに来たのよ。はっはーん…分かった。サクラ様でしょ。一目惚れってやつ?」

レオン「いやいや誤解だ。頼むから刀にかけた手を離してくれ。危ない。ついでに氷嚢をくれると嬉しいな」

カザハナ「ダメよ。あんたは女の子を天幕の中で待ち構えているようなろくでもない男なんだから」

レオン「参ったね…」

カザハナ「後ろに持ってるものを見せて。そうよ。ゆっくり手を前に持って来て…下ろす。そのまま頭の上に両手を上げて…」

384: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:38:06.58 ID:5B/tUOsyO

カザハナ「何よこれ…スコップと植木鉢?魔導に使うの?」

レオン「いやね、さっきちょうどこのあたりに野生のトマトが植わってるのを見たんだ。白夜だけに生える結構珍しい品種だったから失敬して持って帰ろうと…」

カザハナ「嘘おっしゃい!何がトマトよ!第一、王族なんだから苗ぐらい簡単に手に入るでしょ!?」

レオン「それじゃあ意味がないんだよ。自分の足で探し回って、自分の手で土を掘り起こすことに意味があるんだ。むしろそっちの方に意味があると言ってもいい。じゃなきゃあこんなことしない…」

レオン「って君、暗夜に親戚でもいるのかい?王城で似たようなメイドがいたような…」

カザハナ(げえっ!)

カザハナ(どうしよう…オロチはヘラヘラしてたけど多分あの装置は白夜王国の技術の真髄を集めた最高国家機密…あれでワープしましたなんてバラしたら切腹ものだよね…)

レオン「いや待てよ…あれはもしかして本当に君たちだったという可能性は無いだろうか…?この説は一見荒唐無稽に見える。第一こんな短時間で大陸の端っこ同士にある王城を往復できるはずがない。だがここで一つの仮定をしてみようじゃあないか…そうだ、あのアホが作っていたワープ装置が何らかの要因によって白夜王国のどこかのそれと連動していた…?」

カザハナ(察し良すぎぃ!)

385: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:39:57.25 ID:5B/tUOsyO
レオン「ふむ。その証拠にどうだい?その雪駄に引っかかっている草の切れ端は暗夜でしか見られない種類のものだ…」

カザハナ「!?」ヒョイ

カザハナ「な、何バカなこと言ってるのよ!そんな物付いてないじゃない!」

レオン「ほら。ちょっとカマかけたら直ぐに引っかかる。全く白夜は機密保持がなってないね…旧日本軍じゃないんだから…それじゃ」ヨイショ

カザハナ「ち、ちょっと待って、どこ行くつもり!?」

レオン「オーディンに聞いて確かめるんだよ。3日前ぐらいにその類の装置を起動しなかったか?って」

カザハナ「や、やめなさいよ!」

レオン「…何で?」

カザハナ「え、えっと…」

レオン「悪いけど僕もあんまり暇じゃないからね。それじゃ」

カザハナ「やめてよ頼むから…お願いっ!ね?そればっかりは何とか…」

レオン「無理だね。本当にそのワープ装置を使ったのなら不法入国及び条約違反になる。第一にこれは今までの輸送の常識をひっくり返せる代物だ。今まで成功例が無かったから研究開発費もスズメの涙ぐらいしか出てなかったけど、これを報告しさえすれば少なくとも250万ゴールド…今の250倍は予算が回るだろうな…あのバカも喜ぶ」

カザハナ「に、にひゃくごじゅう…お給金何ヶ月分かな…で、でも!あなたが言わなければいい話じゃない!」

レオン「言わない理由が無いし…」

386: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:41:55.02 ID:5B/tUOsyO
カザハナ「お願いよ…何でもするから…」

レオン「ふーん…」

レオン「…」ニヤッ

レオン「そうだね。じゃあとりあえず、これからする事を誰にも言わないでもらえるか、な?」

カザハナ「!」ビクッ

レオン「いやいや、直ぐに終わるからさ、うん…良いって言うまで目、つむってて」

カザハナ(やっぱりこうなっちゃうよね…さよなら、綺麗なままの自分…)

レオン「ここか?こっちかな?いやこっちかな?」ガタッガタガタッ

レオン「おっと、こんなところにあったな。よかった、引っこ抜かれてなくて…」

カザハナ「え?」

レオン「うまく寝具の下に隠れてたんだね。何とか掘り起こせるかな…ちょっと、そっちの端持って。そうそう。せーの、よいしょっ!…ふう」

カザハナ「ほっ…え?どこにあるのよ。雑草しか生えてないじゃない」

レオン「芽だよ。ほら。ここんとこに生えてる…スコップスコップ…あれ、どこやったっけか」

カザハナ「はいこれ」

レオン「悪いね」ガッガッ

387: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:43:02.30 ID:5B/tUOsyO
カザハナ「ねえ、あの時からこれを狙ってたの?あんたの兄さんがリョウマ様と殺陣を繰り広げてる時に?」

レオン「そうだよ」ガッガッ

カザハナ「あの距離から見えたの?」

レオン「そうだよ。目はいいんだ。いや、これには語弊があるな。正確には僕が苗を見つけたんじゃなくて、苗の方が僕を引き寄せたんだ」

カザハナ「…」

カザハナ(王族ってあほしかいないのかも…)

レオン「よしよし、とれたぞ~帰ったら植え替えないとね…氷嚢ももらえるかい?コブになったみたいだから…」



レオン「じゃあね。おやすみ」

カザハナ「頭、ごめんね」

レオン「いいよ。ワープ装置の件は…そうだな。僕の家臣が長年の基礎研究を実らせました~って形で発表することでいいかな?」

レオン「おやすみ」




カザハナ「…シャベル忘れてってる」

カザハナ「…」

カザハナ「刀…磨かなくっちゃあ」

388: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:43:56.74 ID:5B/tUOsyO
マークスの天幕

サクラ「『や~りはじ~めた~ら~ね~むれない~♪』」

マークス「…何の歌だ?」

サクラ「このゲームのラベルに付いてたんです。酷く傷んでてタイトルは分からないんですけど…箱いっぱいに入ってる。ふむふむ、サブタイトルは何とか読めますね。『暗黒竜』に『外伝』。『紋章』に『聖戦』。『トラキア776』、『封印』、『烈火』、『聖魔』、『蒼炎』、『暁』、『新暗黒竜』、『新紋章』、『かくs」

ラズワルド「う、うわわわーっ!サクラ様、危ない!」ヒョイ

サクラ「え?どうされました?」

ラズワルド「いえね、一応セロBだから教育上よろしくないかな~って。えへへ」

389: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:44:39.16 ID:5B/tUOsyO
サクラ「そうですか。この次は…あれ?この人私に似てますね…てかこれ」

ラズワルド「ぎゃあああああっ!?こ、これも危ないですよ!!」バッ

マークス「騒がしいぞラズワルド!仕事の邪魔をするな!今日の報告書を書いているんだ!」バニッバニッ

ラズワルド「すいません…」

ラズワルド「これもダメです。ほら、セロCでしょ?絶対ダメです」

サクラ「といっても私もう成人して…」

ラズワルド「い・い・か・ら!こんなものは不燃ゴミに出さないといけません。では」スタスタ

サクラ「まあいいです。暗黒竜からやってみますかね…ファミコン借りますよ~」

サクラ「第二王女…オン!」キュピーン!

サクラ「あれ、まだ一本箱の底に引っかかってましたか…む、『暗…』…?色褪せてて殆ど絵柄が見えませんね…マークスさん3DSありますか?」

マークス「あいにくこの前ピエリがぶち切れて画面を割ってな…スペランカーなぞやらせたのが間違いだった。最後の一台だったが、すまんな」

サクラ「いえいえ、いいんですよ。こっちやりますから…」



ラズワルド「全くもう…何で僕たちがゲームになってるんだろ…?そもそもこれ何千年も前の遺物だよね…?他人の空似…いやでもこれどこからどうみたってそれだもんね…クロム王子…ルキナも…」ブツブツ

ラズワルド「なんかおかしいんだよな…む、あれはエリーゼ様…とベルカか。相変わらずラブラブだ…やっぱり何かおかしいんだよなあ…」ボリボリ

390: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:45:05.54 ID:5B/tUOsyO
エリーゼ「んちゅっ……ふふっ、さっきのシチューの味がするよ…?」

ベルカ「…」ヨシヨシ

ベルカ「…仕事を忘れてた。行かなくちゃ」

エリーゼ「ええっ?そんなあ…いいとこなのにぃ、ついてっていい?」

ベルカ「だめよ。危ないわ」

エリーゼ「ぷくっ…ひどいや」

ベルカ「だめなものはだめ。ほら、明日早いんだから。一人で帰れるわよね?」

エリーゼ「はあい…じゃあね。おやすみ」

ベルカ「おやすみなさい」



エリーゼ「まあついて行くけどねっ♪」

エリーゼ「そーっと、そーっと、気づかれないように…」

エリーゼ「むむっ、あっちの陣地に行くの?」

ベルカ(尾けられてる…ま、いっか)

391: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:45:47.66 ID:5B/tUOsyO
ヒノカの天幕



ベルカ「…寝てる」

ベルカ「…」

ベルカ「…」ツマミ

ベルカ「…」フサギ

ヒノカ「…」

ヒノカ「~~!!」

ヒノカ「ぶはぁっ…はあっ…はあっ…変な起こし方をするな!何の用だ!」

ベルカ「静かにして。作戦会議よ」

ヒノカ「明日でいいだろ…私は眠いんだ…誰かさんに拷問されて死ぬほど疲れたからな…おやすみ」

ベルカ「そう…カムイ様がトランス状態のカミラ様にあんなことやこんなことをされてもいいの。あっそう。じゃあね」クルッ

ヒノカ「作戦会議しよう!今すぐやろう!」ガバ

ベルカ「その意気よ」クルッ

392: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:46:33.26 ID:5B/tUOsyO


エリーゼ「なになに…よく聞こえない…」ペタッ

アサマ「何を、されているのですか?」

エリーゼ「わわっ、だ、誰?」

アサマ「質問に質問で返すのは褒められたことではありませんが…私、ヒノカ様の家臣のアサマと申します。で、何をされているのですか?」

エリーゼ「えっと…かくかくしかじかで」

アサマ「ふむふむ。しかし、さっきから見張っておりましたが誰も入っていきませんでしたよ?」

エリーゼ「見逃したんじゃないかなぁ。あの子そういうの、得意だから」

アサマ「そうですか。じゃあこっそり覗いてみるのもいいかもしれませんねえ」

エリーゼ「え…?」

アサマ「考えてもみてください。あなたという女性がいるにも関わらず、むざむざほっぽり出してヒノカ様とこっそり密会」

エリーゼ「そんなことする人じゃ…ないと思うけど…」

アサマ「ちょうど天幕のこっちの方が破れているんです。昼に繕っておくように言われたのですが、面倒くさかったので無視したのが良かったですね。ちょっと引っ張れば中に気付かれずに様子を伺えますよ」

アサマ「で、来るんですか?来ないんですか?」

エリーゼ「…一緒に見る」

アサマ「そうですか。ではこちらへどうぞ」

393: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:47:47.07 ID:5B/tUOsyO

ヒノカ「さて…私の方でも色々探りを入れてみたが、何も出て来なかった。そっちはどうだった?」

ベルカ「何も。カミラ様やマークス様にもそれとなく聞いてみたけど、多分何も知らないと思う。だから考えられるのは

・謎の第3勢力による干渉

・アクアの独断

・やっぱりあなたの妄想

ぐらいしかない。あくまであなたを信用するとして、私のリサーチが間違っていないとしたら、消去法で彼女の独断ということになる」

ヒノカ「ではやはりとっちめて聞き出すのが…」

ベルカ「…不意を突かれたとはいえ、あなたを一瞬でノック・アウトできる人間よ。二人掛かりでも上手く捕まえられるかどうか…それに人を呼ばれたら厄介なことになる。説明のしようがない以上、なるべく事を荒立てたくない」

ヒノカ「じ、じゃあなぜ私を躊躇なく拷問したんだ?」

ベルカ「…人望って知ってるかしら?」

ヒノカ「………」

ヒノカ「分かった。じゃあどうする。何か事が起こってからでは遅いだろうに」

ベルカ「…彼女の目的が何なのかわからない限り、対策のしようが無い。襲われるのはカムイ様出なければならないのか?襲うのはあなたじゃなきゃいけないのか?そもそも女性でなければならないのか?……何だか言ってたら馬鹿らしくなってきたわね…」

ヒノカ「言うな。ふん…そうだな、それなら私がカムイを、お前がアクアをそれぞれ見張ればいいんじゃないか?一応暗夜の密偵であるお前が元捕虜の素性を調査するのに不思議はないし、私がカムイを白昼堂々尾け回していても怪しがるものはいないだろう」

ベルカ「そうね。悪く無いと思う。いくつか改善点はありそうだけど………!シッ…」

ヒノカ「敵かっ!?」

ベルカ「静かに…誰かいる」

エリーゼ(あちゃー…)

アサマ(いけませんね。捕まるのは御免です。逃げましょうか)

エリーゼ(そーっと、そーっと…)

ベルカ「待ちなさい」ヌッ

394: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:48:44.99 ID:5B/tUOsyO
________________
__________
……


……
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________________


エリーゼ「ごめんなさーい」

アサマ「もうしませーん」

ヒノカ「全く…盗み聞きなど王族として恥ずかしくはないのか?」

エリーゼ「だってぇ、ベルカがかまってくれないんだもん…」

エリーゼ「任務だ出撃だって、全然私の側にいてくれないじゃない…ひどいよ…」

ベルカ「そう…ごめんなさい。でも盗み聞きは駄目。どこから聞いてたの?」

アサマ「最初っからです」

ベルカ「…どうする?秘密を知っている人間が多ければ多いほど、秘密の保持は難しくなる」

ヒノカ「む…監視できる人数が増えただけ、いいんじゃないのか?」

ベルカ「ど素人が2人増えただけよ」

ヒノカ「ぐむむ…」

395: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/05(土) 23:50:06.56 ID:5B/tUOsyO





アサマ「結局私もやらされるんですか…あーあ。さっさと帰って寝たいんですけどねぇ」スタスタ

ベルカ「黙りなさい…先ずはアクア様を探さないと。むっ」スタスタ

アクア「…」

アサマ「カムイ様を担いで天幕に…これは危ないですね。どうしますか?」

ベルカ「……彼女が自分で襲わないとしたら、誰か人を呼んでそれとなくけしかけるはずよ。薬を使うか、催眠術を使うか…だからさっき立てた作戦通り先回りしてその可能性を確実に一つ一つ潰す」

アサマ「もし万が一アクア様がご自分で襲う気になったとしたら?」

ベルカ「……その時は 声が聞こえた時点でこのトーガラシ爆弾を天幕に放り込むわ。それどころじゃなくなるだろうし、動きを封じられるから堂々と現行犯逮捕できる」

アサマ「…本当に上手くいきますかねぇ?」

ベルカ「……別に世界がひっくり返る訳でもないし」

アサマ「本当にそうですか?」

ベルカ「…何が言いたいの?」

アサマ「はて、何のことやら…ほら、そうこう言っているうちにアクア様が出てきましたよ。二人に連絡しましょう」

ベルカ「…作戦開始。これより任務を遂行する」

アサマ「何ですかそれ?」

ベルカ「ジンクスよ。ジンクス。成功率が心なしかあがる」

アサマ「ふーん。興味ありませんね」

ベルカ(組むんじゃなかった…まあいい。どうせしくじっても世界が終わる訳じゃないし…)



ベルカ(でも、本当にそうかしら…?)



396: ◆r9UtvwUCQI 2016/12/05(月) 23:53:59.10 ID:gxUUbRBkO
終わりの見えない脇道

ルーナ「ねえ、起きてるんでしょ…?」

一瞬間を空けて、そっと、気づかれないぐらい小さく首を動かす。

ルーナ「思い出したわ。全部。ぜんぶ」

「…ごめんなさい」

ルーナ「謝って欲しくなんか、ない」

ルーナ「ねえ、分かるでしょ?私がどんなに苦しかったか。身体が真っ二つに裂かれるみたいに苦しんだわ。足の先から頭のてっぺんまで」

「…ごめんなさい。償えることなら何でもする。何ならもう一度…」

ルーナ「ねえ、こっち向いてよ」

そう言って彼女は締め付けを緩めた。気づかないうちに、それは私が動けないほど強くなっていたのだ。ほっ、と息をついて、慎重に身体を半回転させる。

ルーナ「私の目を見て…そう。何が映ってる…?」

顔にかかる暖かい息。あの時と同じにおいだ。

397: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 23:54:36.22 ID:gxUUbRBkO
ルーナ「私を汚した女の子。私を傷つけ、蹂躙した人。でもね、私にはあなたが必要なの。分かる…?」

「…分からない」

ルーナ「…寒いわ…もっと…」

窓を閉めようと身体を起こしかけたが、彼女は目で拒否する。再び毛布に身体を沈め、背中に手を回す。暖かな吐息。

ルーナ「あなたの…アズールのとは全然違った。あいつ、意外と慇懃無礼でね…すごく丁寧なの。す・ご・く」

ルーナ「でもあなたのは何ていうか…まるで死体を解剖する医学生みたいだった。精神的な交流や交わりとかじゃなくて、ただ、私を貪るためだけに解剖した。自分の手札を一切見せることなく私のカードを把握しちゃったのよ」

ルーナ「あなたはね、ほじくり出しちゃいけないところまでほじくりだしたの。周りのみんなはおろか、あたし自身でも気づかないようなところまで」

ルーナ「ねえ、分からないの…?」

分からなかった。分かりたくなかった。

ルーナは今にも泣き出しそうだった。涙がめの縁に溜まって、今にも溢れ出しそうだった。あの時は舌でそっと舐めとったけれど、今はそうするべきではなさそうだったのでやめた。

ルーナ「私を見てよ、ベルカ…最後まで。私が望むのはそれだけよ…」

「……どうすればいいの?」

ルーナ「こうして私を抱きしめて…話を聞くだけでいいの。そしてたまにあいづちを打ってくれればいいの。『それで、どうしたの。ルーナ』って。簡単でしょ?」

確かに簡単だ。少なくともやくざのボスの寝首をそっとかいて、そっとアジトから脱出するよりずっと簡単だ。

だけど、それは間違いだった。『本当の意味で』人の話を聞くのは人を殺すよりもずっと難しいことなのだ。私はそれを知らなかった。

398: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 23:56:27.61 ID:gxUUbRBkO
次の日

間の悪いことに、次の日から3人で地方視察に行く事になっていた。最初の視察地はフウマ公国。先日、公王が「謎の死」を遂げたため、新しく王が選出されたそうだ。事実上暗夜の属国であるフウマの公王には、平時ならガロン王の息のかかった者がなるはずである。

残念ながらこちら側の諸事情によりそれが行われず、(そんな事が問題にならないぐらいの大問題があったのだ)現実としてこちらサイドが全く把握していない人物が、どんな魔術か忍術を使ったかは分からないがとにかく公王になってしまったのである。

もし戦が本格的に始まれば、フウマは真っ先に前線となる位置。万が一にでも白夜に寝返られることがない様に、先に手を打っておくのだ。つまり、新王を確実に暗夜の傀儡と化させる。第一王子はああ見えて多忙なので、代わりにカミラ王女が行くというわけだ。

表向きにはただの「就任祝い」となる。私たちにもそう聞かせられている。が…これが上記のような企みの上にあるということは明らかだ。

さらば愛しき我が家。しばしの別れ。そしてエリーゼ様…届かぬ想いと分かってはいるけど…

ルーナ「ねえ!聞いてるの!?」

399: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 23:57:14.32 ID:gxUUbRBkO

いけない。耳をつんざくようなキンキン声は相変わらずだ。昨日のアレが嘘みたいだ。

ルーナ「ほら、さっさと飛竜を小屋から出しなさいよ!今日はこっちに乗るんだから!」

「カミラ様のに乗るんじゃなかったの?いつもそうだった」

ルーナ「るっさいわねえ…あたしが乗ってあげるって言ってるの!感謝なさい!」

「…そう」

飛竜に鞍を二つ付ける間、彼女はずっと神経質そうに髪をいじっていた。指に巻き付けたり解いたり、その仕草はなぜか私をいらいらさせた。

ルーナ「随分大人しいのね、その飛竜。飛竜って持ち主に似るのかしら?」

「…持ち主じゃないわ。この子は大事なパートナー。何でそんなこと聞くの?」

ルーナ「母さんの友だちにすっごくおっちょこちょいな天馬乗りがいてね。その天馬もものすごくおっちょこちょいなの。すぐ飼い葉桶を蹴っ飛ばすし、味方を敵と間違えて噛み付いたり、花壇を踏み荒らしたり…悪気があったんじゃないんだろうけどね」

ルーナが故郷のことを話すのは初めてだったが、それを口には出さなかった。

ルーナ「あんたの飛竜もそう。感情を表に出さないみたい…いや、出すのが苦手なのかしら…?乗り手に従順ではあるけど、きちんと面倒を見てあげないといけないタイプの子ね…」

「…見ただけでそんなことが分かるのね。すごいわ」

ルーナ「そうでしょそうでしょ!あたし、動物の目利きには自信があるの!」

400: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 23:57:45.23 ID:gxUUbRBkO
すぐ自信過剰に陥るのも彼女の悪い癖だ。丁度準備が整った。先に離陸した主君が空中を旋回しながら、私たちのそれを待っている。

「準備出来たわ。乗って」

ルーナ「遅いじゃないのよ!もっと早く付けなさいよね!」

ルーナ「で、この子なんて名前なの?」

「…ニノ」

ルーナ「ふーん。聞かない名前ねー。よろしくね、ニノ!」

そう言って彼女は後ろの鞍にまたがって、ぺしぺしとニノの背中を撫でた。動物に接するときの彼女は、人間に接するときの彼女よりずっと気楽そうに見える。素直で、楽しそうだ…

自分も鞍に飛び乗り、鐙に両足をかけて手綱を握る。逆鱗をそっと撫でてやると、彼女は嫌がって、私を振り落とすような仕草をした。といってもこれは私達の一種の挨拶で、ニノの方も本当に嫌がっているわけではない。

「どうどう…さあ、しっかり掴まってて。それっ」


そして、特に語るべきこともなくフウマ公国に着いた。そこには語るべきことが山のようにあった。

401: ◆r9UtvwUCQI 2017/01/22(日) 21:31:43.83 ID:bWWzebKwO
______無限渓谷にて

マークス「…随分とすっ飛ばしたな」

カムイ「できれば四月までに終わらせたいですからね」

マークス「そうか。何のことかよく分からんが…」

ガッタガタガッタ

マークス「この瓶の中の生き物は、どうやらこの谷の底に帰りたいらしい。どうする?ここに降りて調査するとしたらそれ相応の器具が必要だが…」

リョウマ「今回はここまで…のようだな。残念だがうちの軍でザイルは標準装備ではない。帰ろうか、みんな」

アクア「まずいわね…帰っちゃうらしいわよ。あの人たち」

カムイ「ま、待ってください!ここには…ここには何かあるんです!今すぐ対処しなきゃいけない危険な物が!」

マークス「カムイ…なるべくお前の希望には添いたいが、こればかりはどうしようもない。何しろ土地の領有権を主張するためだけの寄せ集めの調査団だ…ただでさえ面倒なここの領土問題をこれ以上こじらせる訳にはいかない。もし…この下にどちらの領土でもない…前人未踏の楽園でもあれば別だがな」

カムイ「…」ニッ

カムイ「……それがあるんですよ」

マークス「…私にハッタリは通じないぞ、妹よ」

402: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:32:22.36 ID:bWWzebKwO
カムイ「本当です。何なら天馬でひとっ飛びして見てきますか?」

マークス「そんなものはありえないと言っているんだ。それにお前も知っている通り谷の中には常に異常な電場が渦巻いている!飛兵がほんの5秒も滞空するだけで落雷するのだぞ!そんな危険なところに行かせるわけにはいかん!」

カムイ「垂直落下すれば落ちませんよ!」

マークス「雷は落ちないかもしれないがな、それこそ自殺行為だ!谷底に叩きつけられて死ぬに決まっている!」

ミコト「…やめなさい」

カムイ「だから大丈夫だって言ってるじゃないですか!落ちますよ!私!」

マークス「できるものならやってみるがいい!ハッタリで命を捨てられるのか?」

ラズワルド「…マークス様、落ち着いて落ち着いて。これ以上額が割れたら」

マークス「黙れ!それとも貴様が先に落ちてみるか!?」

403: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:32:49.75 ID:bWWzebKwO
ラズワルド「そ、それは…」

ミコト「…やめなさい」

カムイ「もうたくさんです!アクアさん、リリスさん、行きましょう!3人で十分ですよ!」

アクア「……三人じゃ流石に勝てないわよ、あいつ」

カムイ「向こうまで行けばひみつ道具で何とかしてくれますよ!そうですよね?リリスさん?」

リリス「わ、私ですか…?えっと…無理じゃないですかね…さすがに。お城に着く前に死んじゃう…」

マークス「もう十分だ!…私の負けでいい。危ないから戻ってこい!カムイ!」


ミコト「お黙りなさい!!」


マークス「!」

カムイ「!…母様」

ミコト「…王国は有るのです。忘れられてしまっただけ…オロチ」

オロチ「あいやっ!今お持ちするぞい…」




404: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:33:22.37 ID:bWWzebKwO
ミコト「この資料を見てください。これらの綿密な調査に裏付けられた資料は、全て『この大陸に昔、別の文明が存在した』ことを示しています」

マークス「そんな事は分かっている。現にその辺を少し掘り返すだけで『がらくた』は幾らでも出てくるのだ」

ミコト「いいえ、それではありません…それはもっとずっと前の話。今問題なのは、『超古代文明』の滅んだあと、さらにもう一つ別の文明があったかもしれないという事です」

ミコト「様々な解釈は存在しますが、この証拠からただ一つ確実に言える事は…『古代文明は存在して、無限渓谷の奥底に沈んでいった』」


レオン「おいオーディン…我らが誇る暗夜王国の考古学の老人たちはこんな重大な事も知らなかったのかい?」

オーディン「え、えーとですね…考古学は俺の担当じゃないので何とも…」

レオン「…」キッ

オーディン「ひえっ…すみません…どうやらふたつを混同してたみたいですね…古代の臣民の紡ぎし幻の文明…その解の難解たるや」

レオン「…来月の給与査定、楽しみにしておくといい。ついでに研究予算も減らしてやる。大幅にな!」

オーディン「そりゃあ楽しみが増えて何より…」


マークス「…今ひとつ納得がいかない。確かに示唆しているのは分かる。だがどうしてこれが『かつて古代文明があった決定的な証拠』になるのだ?全ての資料に出てくるようだが…この印がなんだというのだ?」

405: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:33:52.97 ID:bWWzebKwO
ミコト「いいですか?旗印…ねえ、そこの人」

エルフィ「…」モグモグ

エルフィ「…」ゴク

エルフィ「私ですか?」

ミコト「ええ、槍を少し拝借しますよ。オボロさんも」


ミコト「こうやって二王国の国旗を重ねて光源にかざすと…見えてきませんか?」

マークス「…これは…!」

ミコト「やっとお気付きになられましたか…そうです。これこそが古代文明が存在した証拠。今現存する白夜暗夜の両国が、この古代文明のなごりと考えるに値する十分な証拠なのです」


カムイ「あれ?そんな成り立ちでしたっけ?確か…」

アクア「少し違うみたいね。さっきも言ったけどここは『同じようで少しずつ違う』のよ。気にしちゃだめよ。大事なことを見失いたくなければね」


ミコト「では…善は急げと言いますしね。行ってください、皆さん」

マークス「そうだな。一考する余地は…あるかもしれない。…ミコト王女も来るのだろう?」

ミコト「いいえ、私はここまでですね。長い間国をほったらかしにするわけにはいきませんし」

マークス「何だと…!」

ミコト「スメラギ様が生きてらしたら私もご一緒できたのですが…」ニコッ

マークス「……分かった。留守を頼もう」




406: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:34:23.80 ID:bWWzebKwO
レオン「…本当に大丈夫なのかな」

ヒノカ「カムイのやつ、真っ逆さまに落ちてったぞ…大丈夫か…」

レオン「とうっ!」

ヒノカ「うわっ、レオン王子まで…ううっ、深そうだな…」


エリーゼ「…ねえベルカ」

ベルカ「なに。急いでるから10字以内でね」

エリーゼ「何でお姫様だっこ?」

ベルカ「着地の衝撃を抑えるためよ。あなたに怪我なんかさせたらわたしは…」

エリーゼ「ベルカ…」

ベルカ「…その場でりんごペーストにされてしまう」

エリーゼ「…あそ」

ベルカ「愛してるわよ、エリーゼ…ふんっ!」ピョン

エリーゼ「ちょ、ちょっと待っ」

イヤアアアアア……


オーディン「時は満ちた…今こそ我らの崇高且つ至極なる望みを解放する時…定めを」

ルーナ「うっさいわね…なによ、もうマスターしちゃったの?暗夜式ジョーク」

オーディン「ふっふっふっ、残念ながらな。だが今の俺は実力のうち僅か5パーセントすら」

ルーナ「降りるわよ」ピョン

ヒュ-……

オーディン「お、おい!ちょっと!」

ラズワルド「やっぱり怖いね…」

オーディン「そうだな。俺たちだけこっそり水たまりワープを使っても…」

ラズワルド「いや、そっちじゃなくてね。こんなにスムーズに行っちゃっていいのかなって」

オーディン「ふっ…きっと異界の神々に遣わされし異形の使者たちに、この世界の神々も恐れをなし、その憐憫を垂れたのに違いない…」

407: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:35:03.00 ID:bWWzebKwO
ラズワルド「なんか出来すぎてる気がするんだよなぁ。じゃっ」ピョン

オーディン「えっちょっとおま…くそっ…高いとこは苦手だなぁ…どうにもあの橋を思い出すんだ…あの時は頑張ってたよな、あっちの『俺』」

リリス「どうかしましたか?」

オーディン「ん?別に?」

リリス「そうですか。一緒に頑張りましょうね!お父様の目を覚まさせましょう!」グッ

オーディン「そうか。お前にとっては親父さんなんだもんな…」

オーディン「いかんいかん、無駄に感傷的になってしまった。…俺は漆黒のオーディン!いざ、遥かなる旅路へと旅立つドンッ

オーディン「なんでですかあああああ!!!」アアアアアア……

アクア「さ。後は私達だけね。降りましょう」

リリス「そうですね。じゃあ…」

アクア「一つ、いいかしら?」

リリス「はい」





アクア「『星の夢』って、知ってる?」





リリス「…いいえ。どこでそれを?」

アクア「別に。知らないなら構わないもの。…そうそう、従姉妹同士で敬語ってのもなんだから、これからはタメってことにしない?」

リリス「いやあ、これは私の数少ないアイデンティティですから簡単に外す訳には…」

アクア「フェリシアと丸被りだと思うのは私だけかしら?」

リリス「げっ…言われてみれば…そうかもしれませんね。考えときましょう…でも今は!早く飛び込まないと!」

アクア「…そうね」

アクア「…」

リリス「どうしましたか?」

アクア「…いつか、後悔することになるかもしれないわよ」

リリス「?何がですかぁ?」

アクア「別に。さ、行きましょう」

408: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:35:45.21 ID:bWWzebKwO
______透魔王国、名もない平原

カムイ「名前はあるんですよ。ただ…忘れられているだけ」

ヒノカ「そうか。いいところだな…ここは。静かで。空気もうまい」

カムイ「ってうわああああっ!?悪霊退散!悪霊退散!疾風迅雷!閉所防御!」

ヒノカ「お、落ち着け。何もしないから、ほら」

カムイ「嫌ですっ!私にはもう心に決めた人がいるんですよおっ!」

ヒノカ「そりゃ本当かカムイっ!誰だっ!教えろ!教えてくれえええええっ!」ガックガック

カムイ「いやですぅ!助けて誰かぁぁ!」ガックガック

リョウマ「おいヒノカ…やめろ」

ヒノカ「い、いや兄上これは…」

リョウマ「やめるんだ。妹の胸ぐらを掴んで揺さぶるのはあまり褒められた行為ではなかろう?」

ヒノカ「む…」

リョウマ「もう子供じゃないんだ、少しは分別とか責任感という物を持ってだな…」

リョウマ「袖を引っ張るんじゃない。何だ、サクラ。ん?LINEスタンプ…?」



409: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:36:17.55 ID:bWWzebKwO
マークス「ほう…面白いな。半分死にに行くような気持ちで飛び込んだが…このとおり生きている。いや、本当はここはあの世ではないのか?岩も浮いている…うむ」

マークス「ラズワルド、ちょっとこっちに来い」

ラズワルド「なんですか?いてててっ!な、何するんです!いきなりつねらないでください!」

マークス「ふむ、夢でもないようだな…」

ラズワルド「何で自分で確かめないんですか!」

タッタッタッ

伝令「大変ですマークス様!東方向から敵襲!現在交戦中です!一刻も早く増援を!」

マークス「何だと…!双眼鏡を貸せ!むむっ、あれは忍びの部隊ではないか。おまけにフワフワした幻術まで使用している。どういうことか説明してもらおうか…リョウマ殿」クルッ

リョウマ「漆黒の騎士…リフすら二枠もあると言うのに…俺は…!何かしたか俺は…!そもそも覚醒から」

マークス「説明してもらおうか、タクミ殿」クルッ

410: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:36:47.76 ID:bWWzebKwO

タクミ「それはこっちの台詞だね。西の方から突進して来るドラゴンマスターの大群はあんた達の指揮じゃないのか?」

マークス「竜騎士隊が紫の電飾を始めたとかいう話は聞いたことがないな。そっちはどうだ?」

タクミ「紫の忍者は隠密に向かないんじゃないかな」

マークス「ふむ…ここは著しく治安の悪い土地のようだな。仮にも王族にに先制攻撃を仕掛けるとは。少し君主に灸を据えてやる必要がある。この瓶詰めの泥とも関係があるかもしらん」

マークス「となると…1度暗夜軍と白夜軍を高台に集結させ、集まってきた敵を一気に撃破するのが良さそうだ。幸いにしてここが高台になっている…」

タクミ「僕は反対だね。そんな真似したら十中八九、そのまま包囲殲滅されるだろう。逆に味方を散開させて、各個撃破した方がいい。王族六人を軸にして、その他家臣と一般兵に補佐をさせよう」

マークス「あり得ん。それこそ各個撃破されるだけだ」

タクミ「いいや、散開しかないね」

マークス「集結だ!」

タクミ「散開だ!」

伝令「何でもいいから早く指揮をお願いします!もう限界です!」

411: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:37:22.89 ID:bWWzebKwO

タクミ「くそっ…片方だけじゃどうしても無理がある、か。全く…こんな事なら兵士にまともな装備を着けさせておくんだった」

マークス「そうだな…ここはひとつ、カムイかアクアにでも全軍の指揮を任せてみるのが良いのかもしれん。それなら文句もあるまい?」

タクミ「確かに…姉さんの凄まじい指揮は昨日見たばかりだ。異存はないよ。姉さん!カムイ姉さーん!」


カムイ「…はあ、はあ…えっと、今の味方の配置がこうで…そうですね。こんな動きが良いんじゃ……はあ、はあ……良いんじゃないでしょうか」

マークス「ほう…斬新の一言に尽きるな。どうやら我々とは付いている目の位置が違うらしい」

タクミ「はあ…こりゃ凄いや。支援ね…カミラ隊とエリーゼ隊…」

タクミ「ん?大丈夫かい?顔色が真っ青だけど」

カムイ「いえいえ!全然!…けほっ…大丈夫ですよ!…けほっけほっ…」フラ

マークス「おい、大丈夫か!?直ぐに侍医を…」

カムイ「い、行かなきゃ…早く…敵が…」フラ

バッタ-ン!

マークス「おいカムイ!しっかりしろ!カムイ?カムイーッ!!!」

________________

__________

____



412: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:38:07.38 ID:bWWzebKwO
________1年前、ロウラン城 王の間

カムイ「私達の最後の戦いです!大丈夫。私達の絆は、こんな仏像の化け物なんかよりずっと強い…」

カムイ「重装兵は前へ!後ろを盗賊隊が補佐!魔道兵は討ち漏らしを狙って下さい!」

カムイ「行きますよ、全員突撃です!!」




413: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:39:16.82 ID:bWWzebKwO


カムイ「分かっています。ぐっ…あなたの犠牲は無駄にしません!一気に畳み掛けましょう、皆さん!」



414: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:39:50.88 ID:bWWzebKwO



カムイ「う、嘘でしょう、こんなに増援が…このままじゃハイドラに触ることすら…」

カムイ(どうする、どうするカムイ…乗るか、反るかです…今撤退するなら損害も軽微ですけど…トドメを刺すチャンスはもしかしたら永遠に…)

ウオオオオオオ!!

カムイ「わ、勝手に行かないで下さい!」

カムイ「…………もう一か八か…」

カムイ「彼に続きますよ!目標はハイドラただ一人!全軍前進して下さい!」



415: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:41:01.52 ID:bWWzebKwO



カムイ「う………ぁ……………」

アクア「まだ泣くのは早いわよ!カムイ!剣を握りなさい!」

カムイ「で、でも……ひぐっ………」

グッ

アクア「あなたがここで死んだらどうなるのよ!!暗夜は!白夜は!ここで散った仲間たちのために!今剣を握りなさい!」

カムイ「でも、もう…………」

アクア「…」

ハイドラ『…ドウシタ、モウオワリカ…ワガムスメヨ…ミソコナッタゾ……』

アクア「チッ…あんたも結局駄目だったの…そう…」

アクア「でも、もう関係のない話ね…」

アクア「…シグレ、カムイを私の後ろに」

シグレ「…はい」

ハイドラ『オワリカ…ジャマダ…ソコヲドケ……」

ゴオオオオオオ…

カッ!

ズウウウウン…

アクア「…!」パラッ

ハイドラ『アクマデテイコウスルカ…ムダナコトヲ……』

カムイ「あ、あくあ……さん……」

アクア「…」キッ

カムイ「!」ビクッ

ゴオオオオオオ…

カッ!

ズウウウウン…

………

……


416: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:41:54.14 ID:bWWzebKwO

ハイドラ『…ドウシタ…モウオワリカ!モウオワリカ!!』

カムイ「…や…」

カムイ「やめて下さいッ!もう…」

ハイドラ『…』

カムイ「わ、私は…何でもします…だ、だから……シグレさんだけでも……」

シグレ「ま、待って下さい!母さんは…あなたのために!」

ハイドラ『フン…トクイノジコギセイ…ヨカロウ………イケ』

カムイ「お願いです…行って下さい。ほら…握手です」ギュッ

417: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 21:42:34.63 ID:bWWzebKwO
シグレ「しかし…!」

カムイ「いいから!」

シグレ「…」ギュッ

シグレ「?」

シグレ(これは…ペンダント)

カムイ「…帰ってきて下さいね。絶対に」

シグレ「…ええ」

バサッ バサッ バサッ

ハイドラ『フン…イッタカ…』

シウウウウ…

ハイドラ「さあ、来るんだ。案内してやろう、我が娘よ」

カムイ「む、娘…?」

ハイドラ「そうだ。言っていなかったか?」

カムイ「それに、なぜ殺さないのですか…?」

ハイドラ「はっ…1度折れた心は簡単には直らん。1度折れた剣を鍛え直すようには行かんよ。それより…」

カムイ「なぜ彼を行かせたのです?」

ハイドラ「…お前の代わりを…探すためだ。異界のお前なら…きっと…」

カムイ「そもそもどうしてこんな大事なことをべらべら喋るんですか!?あとどうして口調がカタカナじゃないんですか!?」

ハイドラ「もう尺が…ないんだ。1のメンタルもそう長くは持たん」

カムイ「?」

ハイドラ「来い。案内してやろう」

ハイドラ「もたもたするな!早く来い!カムイ!」

ハイドラ「カムイ!早く…ん?どうしたうずくまって…おいカムイ?カムイ!」



____

_________

________________

418: ◆r9UtvwUCQI 2017/03/03(金) 19:41:51.36 ID:jMKAuzCaO
______カムイの天幕

カミラ「そう。分かったわ。補給が済み次第出発ね。私には異存はないけど…」

パサ

カムイ「……ぅ…あう……」

カミラ(可哀想に、悪い夢を見ているのね…できれば代わってあげたいぐらい…)

カミラ(獣舎係の子が起こすなって言ってたけど…)

カミラ「…カムイ…起きなさい…カムイ…」ユサユサ

カムイ「…いやです…1人はいや……リリスさん…死なないで…」

カミラ「…」ユサ

カムイ「リリスさん……やぁ………ぁ……」

カムイ「…」パチ

カミラ「…おはよう。ずいぶんうなされてたわ…大丈夫?」

カムイ「だ…大丈夫です…すいません。心配おかけして」

カミラ「ふふ…あなたはいっつも人のことばかり考える。たまにはほら、お姉ちゃんに思いっきり甘えなさい…?」

カムイ「…わたしは…そんな人間じゃありませんよ」

カミラ「?」

419: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:42:24.65 ID:jMKAuzCaO
カムイ「あっ…そうだ、戦いはどうでしたか!?」ガバッ

カミラ「ええ。アクアが代わりに頑張ってくれたから、心配はいらないわ。ほら、ゆっくり休みなさい…きっと疲れてたのね。疲れた時は悪い夢を見るものよ…」

カムイ「そうですか。良かったです…」

カミラ「どう?紅茶でも飲む?」

カムイ「……ありがとうございます。姉さんが淹れてくれたんですか?」

カミラ「いいえ、アクアがわざわざ来てくれたのよ。こちらの陣には来づらいだろうに、大変ねえ…」

カムイ「そうですか…アクアさんが」

ガシャン!

カミラ「うっ…!」

カムイ「きゃあっ!だ、大丈夫ですか!?」

カミラ「どこからか…矢が飛んで来て…」

カムイ「け、ケガは!?」

カミラ「ティーポットに当たって助かったわ…ほら、ベッドの陰に」

ルーナ「どうしたのよ!凄い音がしたわよ!?」パサッ

カミラ「…犯人はまだ近くに居るはずだから、探して捕まえなさい。ケガしないようにね」

ルーナ「任せてちょうだい!ベルカ!行くわよ!」

タタタタタ…

カムイ「変ですね。ティーポットを狙うなんて…」

カミラ「そんな訳ないでしょう。きっと私かカムイを狙って逸れたのよ」


ルーナ「ちょっと!何ニヤニヤしてるのよ!」タタタタ

ベルカ「別に…」タタタタ


カミラ「まあ、どうせ誰かの悪戯よ」

カムイ「今敵って言ったじゃないですか!」

カミラ「…この矢、刃が付いてないもの」

420: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:43:08.25 ID:jMKAuzCaO



リリス「ちゃんと眠れてますか?」カキカキ

カムイ「…はい」

リリス「ごはんは三食食べてますか?」カキカキ

カムイ「…はい」

リリス「じゃあ何でこんなひどい数値なんですかね…」

リリス「そんな顔しないでくださいよ。元気元気。ね?笑顔が一番!」ニッ

カムイ「…ソレイユさん……あんなに素敵な笑顔だったのに…」

リリス「むー…」

カムイ「…」

リリス(ふむ、ここは一喝して元気を出させるか…)

カムイ「…」ボ-

リリス「ってカムイ様!」

カムイ「!」ビクッ

リリス「あなたがそんな事でどうするんですか!死んで行ったみんなのためにも!あなたが!立ち上がらなければならないのでしょう!?」

カムイ「…」

リリス「…」

421: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:43:51.12 ID:jMKAuzCaO

カムイ「もう嫌なんです…何もかも…どうせ私なんて何の役にも立ちやしないんですから…」

リリス「姉様…」

カムイ「こんな事言うのも何ですけど…とどのつまり……あなたは私の妹じゃないんです…みんなも…リョウマ兄さんもマークス兄さんだって…!みんな、みんな私が殺してしまった…!」

リリス「…」

カムイ「私はひとりぼっちです…アクアさんも…何だか人が変わってしまったみたい…」



リリス「…言って欲しいですか?」



カムイ「…え?」

リリス「『あなたのせいじゃない』そう言って欲しいですか?」

カムイ「そ、そんな…」

リリス「言うのは簡単です。モルヒネを打つのと同じで」

422: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:45:00.43 ID:jMKAuzCaO
カムイ「…う…向こうのリリスさんなら……言ってくれました…背中を撫でながら…」

リリス「…私はその人ほど優しくないということです。愚かでもない」

カムイ「う……ぁ……」

カムイ「そうですよね…他人……ですもんね……所詮……」

リリス「……人間は1年で『変わる』と言われています」

カムイ「…?」

リリス「一部の神経組織を除いて、人間の体は全て、とりかわってしまうんです。筋肉も、血液も、髪の毛だって」

リリス「皮膚組織なんて数日でビフォーアフターします。でもいまあなたが見ている私と、3日後に見る私…違うということになりますか?」

カムイ「…」フルフル

リリス「ひとりぼっちになりますか?」

カムイ「…」フルフル

リリス「それと何が違うんですか?だって、私たちはみんな、あなたが大好きです。…あなたの元の世界の私たちと同じように」

カムイ「…」

リリス「きっと…わかる日が来ますよ」

リリス(自分のミスで仲間を…それもきょうだい全員も含めて亡くして、自分も死にかけた上に子供達も目の前で負けて…とどめに向こうの『リリス』が自殺…持ち前の能天気さで今まで頑張られてたみたいですが…この地で指揮を行なった事で、一気にトラウマがフラッシュバックしてしまったのですね)

423: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:45:26.48 ID:jMKAuzCaO
リリス(体の傷は簡単に治ります。発達した今の医術なら傷跡すら残りません…でも心の傷は……たった今、どくどくと血を流していたとしても分からない)

リリス(ごめんなさい…姉様の傷…見つけられなかった…ちょっと抱きしめたくらいで満足しちゃって…『あなたはもう立ち直った』なんて…ずっと辛かったでしょう…自分の愚かさに腹が立ちます)

リリス(心を癒すには時間がかかります。しかも必ず傷は残る…損傷が激しいほどそれは酷くなる…)

リリス(泣き続けるのも、童心に帰るのもいい。どれも心を守る強力な戦術です)

リリス(それでも…立ち上がらなければならない。運命は残酷です)

リリス「…あなたのせいでみんなは死にました。でも、あなたが気にするべきことではありません。彼らはそのために戦ったのですから。あなたがすべきなのは…立ち上がること。あなたならハイドラを倒せます…本当は元の世界のハイドラをも、ね」

リリス「その為なら私は何でもします。何でもできます。立ち上がって、剣を握るまでそばにいますよ。ずっと」

カムイ「…ありがとう…ありがとう、リリスさん…!」ギュウウ

リリス「ふふ、どういたしまして。苦し…」

リリス「どうです?元気も出てきたことだし、気晴らしに星界でも行ってみますか?」

カムイ「水浴びでも行きませんk」ガッ

リリス「やめなさい。いくら見てる人がいないからってやっていいことと悪いことがありますからね。この辺に予備の水晶が…」ゴソ


424: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:45:53.05 ID:jMKAuzCaO

______マイキャッスル

リリス「着きましたね」

カムイ「なんか酷く焦げ臭いですけど…」

リリス「ああ、マクラディアさんが頑張ってくれたから…」

カムイ「…この炭の塊は…もしかして…」

リリス「…私の城に侵入した報いです」

カムイ「…」ゾワッ

リリス「後で充電してあげないと。お疲れ様です」

マクラディア「ドウモ」ゴゴゴゴゴ

カムイ「ううん…これ全部リリスさんが作ったんですか?」

リリス「そうですよ。向かって左半分が材料とゴミ。右半分が完成したガラクタです。持っていってもいいですよ」

カムイ「へえ………あれ?このシューターは…」

リリス「ええ、姉様が帰るための……そうだ、ぶっ壊れてたんだっけ…」

カムイ「…どれぐらいで直るんですか?」

リリス「……部品を異界に取りに行けばいいんですが、生憎ゲートが黒焦げになってましてね…」

マクラディア「スミマセン…」

リリス「ちょっと待っててくださいね」



425: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:46:29.21 ID:jMKAuzCaO


リリス「次元転移装置は無傷…電場制御プロトコル半壊…LCTギア全壊…むむ…」ガチャガチャ

カムイ「ど、どうですか?」

リリス「話しかけないでください」

カムイ「す、スミマセン…」



リリス「結論から言って非常にまずいです」

カムイ「ちょっと焦げてるようにしか見えませんが…」

リリス「精密機器が半分ダメになっています。逃げる時に無理やりうごかしたから…」

カムイ「…え?」

リリス「何でもないです。あり合わせの材料じゃかなり低い出力になる…とてもじゃないけど異界に転移できるほどじゃありません」

カムイ「じ、じゃあ待ちますよ、わたし。部品さえ取りに行けばいいんでしょう?」

リリス「よくないです。あなたを来た時とぴったり同じ時間に向こうに送らなきゃいけない。私の力では異界に転移させる事は出来ても、時間を移動させることは不可能です。姉様がここに来るのに使った、あの機械でもなければね」

カムイ「で、でも色々な別世界を回ったっていってたじゃないですか!」

リリス「ラジコン式カメラを使ったんです。物質の転送は簡単なんですが、生物となると…倫理上の問題もありますし…」

426: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:47:34.52 ID:jMKAuzCaO
リリス「とにかく、これ以上の問題を起こさないために、姉様を来た時とぴったり同じ時間に転送しなければならないのです!姉様がハラキリをして、こっちの世界の過去に転送されたその瞬間に、ね。でも絶対間に合いません。これの開発に10年かかりましたから。頑張っても3年…」

カムイ「じ、じゃあ…」

リリス「私がタイム・マシンを発明するまでここに待ちぼうけってことです…」

カムイ「そんな…じ、じゃあ来たときと同じ機械を使うのはどうですか!?だってロウラン城にあるんでしょう?」

リリス「あれは…最後の手段ですね。命令通り動いた試しがありませんし…また変な世界に飛ばされたらたまったもんじゃないでしょう?」

リリス「そうですね…何か強い…ものすごく強力な、世界の理を揺るがすようなイベントでも起きれば…その波に乗せて今のマシンで時間を超えられるんですが…ま、ありませんよね。そんなもの」

カムイ「…」

リリス「それとも物質転移用のタイム・マシンを使いますか?だいたい60パーセントが失敗して分子レベルで粉々になっちゃうんですけど…」

カムイ「…あるんですよ。それが。『白夜と暗夜の空が入れ替わる』…」

リリス「な…」

リリス「なんですって…!それなら…十分です!わ、分かるんですか!?その日が!」

カムイ「ええ、今からちょうど1ヶ月後の今日。…この世界では分からないんですか?」

リリス「ええ。そちらと違ってこっちでは太陽暦を使っていますから…技術が発達していないんです。やれやれ、それなら間に合いますね」

カムイ「良かったァ…一時はどうなる事かと思いましたよ」フラ

グシャ

カムイ「?」

リリス「あ…」

カムイ「…え?」

427: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:48:09.92 ID:jMKAuzCaO
_____ロウラン城 正門前

リョウマ「こりゃまた随分飛ばしたものだな…」

カムイ「あと一月がリミットですからね。D判定連発するアホに書かせるわけにはいけませんので」

リョウマ「?」

カムイ「あとベルカさんの外伝は大幅に短縮してほんへに無理やり組み込むんだそうです…」

リョウマ「???」

カムイ「と、とにかく!全ての手がかりはここを指しています!是非とも調査すべきです!」

マークス「…待て」

428: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:48:35.27 ID:jMKAuzCaO
マークス「もう茶番はやめにしようではないか、カムイ…アクア…ん?お前たちは何かを隠している。そうだろう?」

カムイ「…」

マークス「我々をこの国に導いたのはそもそもお前たち2人だ。ここが何であるか知っていて、私たちを戦力として利用したのだ…」

カムイ「…」チラ

アクア「…」コク

カムイ「はい。今まで隠していたことは謝ります。私とアクアさんはこの国の…『透魔王国』の王族なのです。もうすぐ話そうと思っていましたが…」

タクミ「ま、待ってくれ、あんたは僕らのきょうだいで…白夜王国の王族のはずだろう!?」

タクミ「兄さん!」

リョウマ「…すまん」

タクミ「…まさか…あんた知って…」

リョウマ「…すまぬ」

カムイ「詳しい話は後です。今は一刻も早くハイドラを、ガロン王を操り大戦を引き起こした元凶を、叩かなければなりません」

カムイ(そして『星の夢』の部品を回収し、私が壊してしまった部分を埋めなければならないのです…リリスさん…ごめん)

429: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:49:02.67 ID:jMKAuzCaO
カムイ「また、私とアクアさんは…これまで通りそれぞれの国で過ごすことになると思います。つまりこの国は分割占領してしまって構わないということです。ハイドラを倒してくれさえすれば」

カムイ(そして然るべき時にそっと元の世界に帰れば…めでたしめでたし、と)

マークス「…理解するのにもう少し時間が欲しいが…取り敢えず今はその『元凶』を叩くのが先だろうな」

カムイ「ええ。行きましょう、皆さん」


リリス「カムイ様」

カムイ「あ、リリスさん。確かここで別れるんでしたっけ?」

リリス「はい。私は一旦、自室で一通り道具を揃えてから大広間で合流します」

カムイ「本当に護衛は付けなくていいのですか?」

リリス「大丈夫ですよ。いざとなればブレスで戦えますから。それに、この隠し通路は私しか知らないんです」

カムイ「そうですか。では…」


430: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:49:29.44 ID:jMKAuzCaO



リリス「ふう…愛しの我が家……ああ愛しの我が家…」スタスタ

アクア「…」スタスタ

リリス「あれ、アクア様も?」スタスタ

アクア「ええ」スタスタ

リリス「えへへ、恥ずかしいところを聞かれてしまいましたね…どうしてですか?」スタスタ

アクア「…」スタスタ

リリス「…?」スタスタ

リリス「…」ゴソ

リリス(…光線銃…腰にぶら下げてたはずなのに…どこに落としたんでしょう?…ま……まさか…!)


_____リリスの部屋兼研究室


アクア「…これは何?」スチャ

リリス「ああ、私が作った槍です。有名な古代の『あにめーしょん』から作ったコピー品ですね。赤い二股の槍でしょう?見栄えがいいんで壁にかけておいたんです」カチャカチャ

アクア「…そう。使えるの?」

リリス「ええ、良ければ差し上げます」カチャカチャ

アクア「そう…」

アクア「…手を挙げなさい」

431: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:49:57.91 ID:jMKAuzCaO

リリス「いま忙しいんです…後にしてください。おっかしいなー…この辺に置いて…」カチャカチャ

リリス(やばい…!やばい…!どうしよう…!?レイガン…はバッテリーが上がってる…!ビームサーベル……は接触不良…動かない……!)

アクア「…胃ろうの穴が欲しいかしら?」

リリス「ま、冗談は後にしてくださいよ…」カチャカチャ

リリス(あわわわわわ…考えろ考えろ…そうだ竜に変態………で…できない……!?り、竜石は…!)

アクア「この……」プルプル

リリス(何か武器…!)

アクア「…!」ブンッ

リリス「え、A.T.フィールド!」

ガギィンッ!

ガ…シャ-ン!

リリス(一撃で…破れた…!?そうか…この槍……)

432: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:50:25.79 ID:jMKAuzCaO
リリス「…っ!」

アクア「甘いわ。ふんっ!」ズンッ

リリス「ぐ…ほ…」ズズ…

リリス(お…おなかを殴られた…息が…)

アクア「答えなさい。時間がないの…」スチャ

リリス「…」

リリス(床に何か…落ちて……エクスカリバー……じゃなくて百科事典ですか…ははっ、笑っちゃいますね…)

アクア「…3、2、1…」

リリス「けほっ…な、何の…ことですか……!」

ザクッ

リリス「…!アアッ…!い、痛……」

アクア「とぼけないで。…次はお腹を突くわよ。死にたくないわよ、ね?」

リリス「ど…どうせ生かしておく気もないのでしょう…?」

アクア「あなたの返答次第ね。…もう一度聞くわ」

アクア「…『星の夢』はどこ?」

リリス「…………」

リリス「玉座の間の奥です…ヘッドセットがテーブルにあります……頭にかぶれば、あとは自動操縦です……」

アクア「そう。ありがとう」

リリス「…ッ……一つだけ教えてください。あなたは…何を叶えるつもりなのですか…?」

アクア「…おしゃべりが過ぎたようね」

433: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:50:56.14 ID:jMKAuzCaO

ズチュッ

リリス「…ァ…が…はっ………」

アクア「両脚がやられてたら…流石のあなたも動けない。そうでしょう?」

リリス「…痛い…痛いです……血が……止まらない……」

アクア「…血……青色なのね」

アクア「…」ゴソゴソ

アクア「…これね。コントローラー。貰っていくわよ。ふうん…ほかにも幾つか失敬するわ」

リリス「だ…駄目…いけません……」

アクア「…喉を突いたほうが良かったかしら」

リリス「…!」

アクア「…じゃあね。…さよなら」タタタタ



リリス「…」

リリス「…止血…どうするんだっけ…?血が……足りない……何も……考えられない……?」

リリス「痛い…!」

リリス「ここで……終わりですか……」

リリス「とどのつまり…ミジメに…死んでいくんですね…ひとりぼっちで……ハゲに撲殺されたり……人形に撲殺されたり……蜂の巣にされたり……挙句に自殺……?私は…あの子達とは…違うのに………」

リリス「…もっと生きたかった……もっともっと……」

リリス(…うらやましい…です……カムイ様の…側で……腕に抱かれて……死ねた……あの子……た…ち……きっと……しあわ…せ…だっ………)

リリス「………」

リリス「…」




434: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:51:35.59 ID:jMKAuzCaO
_____ロウラン城 王の間の前

カムイ「とうとうですね…皆さん、準備はいいですか?」

リョウマ「ああ。この奥にいるお前の父親を倒せば…全ては終わるのだろう?」

マークス「本当にいいのか?仮にも…」

カムイ「…………」

カムイ「……決めていた…事ですから。それにあべこべにやられちゃうって事も、あるかもしれませんよ?そしたら笑っちゃいますよね。あはっ?」

タクミ「笑えないよ…ねえ、大丈夫かい?緊張でおかしく…」

カムイ「…」

カムイ(扉を通して伝わるハイドラの『気』…私の世界のものよりずっと弱いです。それにそこまで邪悪でもない…総力を結集すれば、難なく倒せるはず。上手くいけば生きたまま捕虜に…)

カムイ「行きましょう。私が先陣を切ります」

タタタタ

アクア「…間に合った」

カムイ「アクアさん!良かった、間に合いましたね!…リリスさんは?」

アクア「もう少し時間がかかるみたいよ。最終兵器を持ってくるって意気込んでたわ」

カムイ「ほう、それは心強いですね!」

カムイ「…?」

アクア「どうしたの?カムイ」

カムイ「………」

カムイ「いえ、何でも無いです。行きましょう」

カムイ「涙…出てる……?」

アクア「?」

カムイ「い、いえ。何でもないです…どうしちゃったんでしょうね?」

カムイ(どうしてでしょう?まだ何も終わっていないのに…)

ギギギ……

435: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:52:43.66 ID:jMKAuzCaO

_____ロウラン城 王の間

レオン「ここが…王の間だね。随分と散らかってるな…獣舎係の子の私物だっけ?姉さん」ペキッ

カムイ「危ない!」

レオン「ぬおおおっ!?」

ボボボボボボボボンボボンボボボ

リョウマ「くっ……罠か…何とか避けられたな。みんな無事か?」

サクラ「はい。ちょっと着物のスソが焦げちゃいましたけど…」シュゥゥゥゥ…

ツクヨミ「直撃しておるではないか!!髪が燃えとるぞ!?」

サクラ「え?何か?」

ツクヨミ(これが噂の世紀末か…?)

カムイ「み、皆さん大丈夫ですか!?怪我とか…」

マークス「……………」

マークス「カムイ、先ほどの言葉、本当に偽りはないのだな?本当は私たちを騙していて、今の爆発で全員始末する予定だった…なんて事は無いのか?」

カムイ「…(どうしましょう!?今回ギュンターさんぎっくり腰で寝てるんですよ!?)」チラ

アクア「…(どうしたもこうしたも無いでしょうが!適当に誤魔化して切り抜けなさい!)」チラ

カムイ「ま、まさかそんな事あるわけ…」

ゼロ「ふっ…言い訳は見苦しいぜ、カムイ様。先に言っておくが、あんたは今非常に不利な状態にいる」

カムイ「な…」

ゼロ「突入の直前になってあの突然の告白…マークス様の突っ込みが無ければ黙っておくつもりだったんだろう?…あんたがこの国の……透魔王国の、王族である事を!」

カムイ「そ、それは…」

ゼロ「おまけにこの罠、あんた達だけ掛からなかったじゃねえか…リリスが操作してるんじゃ無いか?今もどこからか覗いているんじゃあ無いのか!?」

カムイ「い…ち、違います!」

ゼロ「ふっ…その必死な目、いいねぇ…ゾクゾクさせやがる…」

カムイ「や…ぁ…」

レオン「やめろ。姉さんが嫌がってる」

ゼロ「くっ…真実に指を引っ掛かけた刹那に…都合よく邪魔が入る。アツいシチュエーションじゃねえか…」

436: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:53:09.85 ID:jMKAuzCaO
レオン「…そこまで言うのなら追求を許してもいいだろう。しかしゼロ、お前は姉さんとアクア、それにリリスの造反をはっきり証明できるのか?」

ゼロ「…一度突っ込んでみないことには分からんですよ…ふっ…そうですね、シロだったら、俺が1ヶ月トマトの水やり当番をするというのはどうです?」

レオン「…それは確かに魅力的…」

カムイ「…レオンさん!」

レオン「…僕に証明することができたなら…正式な尋問を許そう。…ただし、あまり過激な手を使う事は許さないからな」

ゼロ「…だってよ、カムイ様。どうだい?弟にトマトと引き換えに売られた気持ちは…?」

カムイ「酷いです…」

レオン「馬鹿馬鹿しい。こんな頭のネジとナットとボルトが全部緩んでるような姉さんに、そんな大それたことができるわけないだろう?水やり当番は頼んだよ、ゼロ」

カムイ「だからって……いや……」

アクア「…頭の否定はしないのね。でも困った…」

ハイドラ「おーい…誰か気づいてくれー…」

カムイ「今取り込んでるので、後にしてくださいね……」

ハイドラ「」

437: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:54:32.71 ID:jMKAuzCaO

ゼロ「ふっ…暗夜国家保安委員会(通称AKB)のトップとして、屈するわけにはいかねえんだよ。大人しく…ミジメな姿を晒してくれねえか…?カムイ様」

カムイ「そ…そんなはずないじゃありませんか!私達が…皆さんを殺そうとするだなんて!」

ゼロ「『真実』を探し出すことが俺の役目…あんたのイチバン弱くて感じるところを…繰り返し、執拗にこねくり回す。フェリシア!」

フェリシア「は、はい!」

ゼロ「…調べは大体ついてるんだ。お前の知ってること…知られたくないこと…洗いざらいぶちまけちまうんだよ。その台の上で…!」

フェリシア「あわわわ…え、えーっと…具体的には?」

ゼロ「ちっ…お前、ここは初めてか…?力抜け。…カムイ様の『傷』の事だ。毎日背中を流してやってる…知らないはずはない」

フェリシア「えーと…あ、は、はいっ!頑張ります!」


フェリシア「どきどき…じ、じゃあ喋りますね…?」

カムイ「フェリシアさん…」

フェリシア「カムイ様…私、信じてます。この証言が、カムイ様の疑いを晴らせたらいいんですけど…」

カムイ「…」

438: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:55:02.96 ID:jMKAuzCaO



フェリシア「えーと…少し前の話です。カムイ様が城塞を出る前…」


アクア「待った!」

フェリシア「はわわ…わたし、なんか言っちゃいましたかっ!?」

アクア「具体的に、どれぐらい前の話かしら?」

フェリシア「そうですね。アクア様は知らないんでしたっけ…それがよく覚えてないんです。自分で書いたのを見返すのもめんど臭い…」

アクア「見返しなさい!」

フェリシア「一月前ですっ!!一月前に…」

439: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:55:34.84 ID:jMKAuzCaO


フェリシア「その前の日までカムイ様、熱で寝込んでらしたんです。当然その間、湯浴みも召されてませんでした」


アクア「待った!」

フェリシア「ひゃうっ!な、何ですか!?」

アクア「…どれぐらいの間かしら?何の病気で?」

レオン「…姉さん、いや…姉さんじゃないんだっけ。アクアさん。それは意味のない質問だ。ここですべきではないんじゃないかな」

アクア「…ちっ…」

レオン「僕が答えよう。大体一週間ぐらい高熱を出して寝込んでいたね。高熱で、意識も朦朧としていた。僕とマークス兄さんは忙しかったから、カミラ姉さんが付きっきりで看病していた。エリーゼはうつるといけないから近づかせなかったよ」

アクア「…」

フェリシア「えっと…続けますね」


フェリシア「ずぼらなカムイ様は、召使いと同じお風呂に入るんです…私を呼ぶのが面倒なんでしょうか?」


フェリシア「そこで…私、見たんです。あとでよくよく考えて見たんですけど、やっぱりおかしいなーって…」


アクア「待った!」

アクア「…一体何が『おかしかった』のかしら?」

ゼロ「異議あり」

ゼロ「ふっ…証人は口に出そうとしてる。せっかちな女の子は嫌われるぜ…?」

レオン「僕も知りたい。フェリシア…続きを」

フェリシア「はい!えーと…おかしかった事、でしたよね?」

アクア「…」

440: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:56:16.93 ID:jMKAuzCaO


フェリシア「…私、見たんです。カムイ様…全身が傷だらけでした」


アクア「待った!」

アクア「…それが『おかしかった事』だったのかしら?ふっ…笑止千万ね。カムイだって訓練で傷付くことぐらいあるでしょう?」

フェリシア「いえ!そんな事ありません!あれは確かにおかしかったんです!…あの痛々しい古傷…それなりに沢山の人のお背中をお流しして来ましたけど…あのっ……ギュンターさんと同じくらい酷かったのは初めてです…」

マークス「な…何だと!?カムイ!それは本当か!?」

カミラ「そんな…!カムイ。誰にいじめられたのか教えなさい。…可愛いカムイにそんな傷を付けた大馬鹿もののスットコドッコイには…」

カムイ「…」

カムイ「…はい。できれば秘密にしておきたかったのですが…これは私自身の秘密の特訓のせいです。別に怪しい物ではありませんよ」

レオン「…それなら一応矛盾はないね。審理に移ろうか」

フェリシア「あ、あの…違います!おかしいって思ったのはそれだけじゃなくて…」

レオン「ふーん…」

441: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:56:45.11 ID:jMKAuzCaO


フェリシア「あの、あの…確証はないんですけど…カムイ様…寝込む前はあの傷、無かったと思うんです…」


レオン「…」

アクア「…」

マークス「…」

ヒノカ「…私達、いい感じに空気だな」

リョウマ「…家族会議なら後にしてもらいたい。いったいどこに問題があるのか?」

サクラ「問題って…あ、ありまくりじゃないですか!だって…だって…」

タクミ「普通、布団で寝てるだけじゃ生傷は付かない。それとも暗夜のベッドは人に噛み付くのかい?」

ゼロ「くっ…これは看過できない事実だな…カムイさんよ。説明してもらおうか…」

ゼロ「…」

アクア「…何を説明するのかしら?」

ゼロ「その…クッ…どうやら俺も混乱してるみてえだ…」

ゼロ「その、あんたが入れ替わった…事についてだ!カムイ様!」

レオン「…随分自信が無いみたいだね」

442: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:57:19.81 ID:jMKAuzCaO

アクア「…ゼロ、あんたの主張は体を成していないわ。あなたはカムイが…偽物と、本物のカムイが合わせて二人いたというの!?」

ゼロ「…そこが分かんねえとこなんだ。仮に傷のあるカムイ様が…透魔王国から差し向けられて、何らかの手段で本物のカムイ様を排除して、今ここにいるというという仮定は…」

レオン「…成り立たないだろうね。その仮定の上では、父上を操った奴とこのカムイ姉さんを操ってる奴が同じって事になるだろう?『そいつ』は白夜と暗夜の戦争の激化を望んでいるはずだ。ミコト王女を身を呈して守るはずがない」

ゼロ「…その行動で俺たちを騙したあとで、こうして一網打尽にする計画だったのかもしれませんぜ…?両国の王子がここで倒れれば、否応無しに戦争は激化します…」

カムイ「もう…やめてください…」

ゼロ「…!」

アクア「まさか…やめなさい!カムイ!」

カムイ「ごめんなさい、アクアさん。私はもう…嘘を付けない…」

カムイ「私は皆さんに二重の嘘を付いていました。いま、二つ目の真実を皆さんに…」

カムイ「信じてもらえないかもしれません。私も初めは半信半疑でした。でも…夢では無かった」



カムイ「私は…カムイではないのです」




443: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:57:57.08 ID:jMKAuzCaO
ザワザワ ザワザワ

マークス「そんな…まさか…!」

エリーゼ「お、お姉ちゃん…本当なの!?」

アクア「…」

カムイ「…私は…別の物語からやって来ました。滅んでしまった未来から…時間の旅人として」

マークス「…本当はその世界に帰るために、私たちを利用した…本当のことを言ったら引き留められると思った…そういうことか?」

カムイ「…はい。でも知られてしまった以上、帰るわけにはいきませんね…」

エリーゼ「…ぷぷぷ…」

サクラ「…ふふっ…」

タクミ「……ははははっ…」

レオン「ふ…」

マークス「…はっ…」

リョウマ「…笑わせるな、カムイ」

カムイ「…ごめんなさい…」

444: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:58:32.71 ID:jMKAuzCaO

リョウマ「ふっ…可愛い妹の望みを、なぜ私たちが遮らなければならないのだ?」

カムイ「え…?」

リョウマ「お前はお前なりに頑張った。それで十分だ。お前が本当に幸せになれるのならば…俺たちは一切の協力を惜しまない」

カムイ「で、でも…私は皆さんを…」

リョウマ「…気にするな。本当の罪は嘘をつくことではないだろう。仮にお前が無理をしてここに残るというのなら…俺たちはきっと悲しむだろう。お前がいなくても…俺たちは何とかなる。その…『神器』とやらが無くてもな」

カムイ「…みなさん……ぐずっ……」

マークス「泣くのはまだ早いぞ。泣くのは…あいつを倒してからだ、な」

ハイドラ「…」

マークス「何だ、貴様。その顔は。私たちと戦うのだろう?」

ハイドラ「いや。お前達の話を聞いていたら…何だか…昔のことを…ふっ……本当の家族……無償で、絶対の、尽きることのない愛……ありえないはず……」

マークス「…?」

ハイドラ「…だが、私はお前達と戦わなければならない。私を倒すことで…お前達は本当に一つになれる。けじめは付けなければならぬ…」

445: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:59:11.39 ID:jMKAuzCaO
マークス「何をごちゃごちゃと…聞こえんぞ!」

ハイドラ「……準備ができたら…かかってこい。私達は一切の手加減はしない…」

マークス「………ああ…」

マークス「カムイ、今度こそ最後の決戦だ!総指揮を取れ!」

カムイ「はい…!」

カムイ(手の震えが…弱くなった…!)

カムイ「皆さん……これが本当に最後の戦いです!絶対に……みんなで帰りましょう!ハイドラ!!あなたもです!」

カムイ「あなたを…助けてみせる!」

ハイドラ「…来るがいい、我が娘よ」




「異議あり!」




446: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 19:59:43.50 ID:jMKAuzCaO
カムイ「!?」

リョウマ「!?」

マークス「!?」

サクラ「?」

タクミ「何?」

アクア「……く…!」

カミラ「…ベルカ、TSUTAYAの延滞料金なら私が…」

ベルカ「…まだ…審理は終了していない!」バンッ!

ベルカ「レオン王子!」

レオン「…!…な、何だい!?」

ベルカ「私は……この場でアクア王女を告発する!…この…この狂言の、黒幕として!」

447: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:00:12.61 ID:jMKAuzCaO

アクア「な……何を馬鹿なことを!今はハイドラを…」

ベルカ「…はっきり言って…あなたはカムイ様と比べ物にならないほど『異常』よ。あなたも同じく別の世界からやってきたようだけど…」

ベルカ「……まだ、あなたには隠していることがある!それを暴くまで、この審理は続けなければならない!もちろん、決戦も延期しなければならない!」

ハイドラ「ほう…私も知りたい」

ベルカ「時間ならあるわ。私は…あなたの嘘を暴く鍵を持っている。アクア王女…」

レオン「…ベルカ、もしその言葉に偽りがあれば…」

ベルカ「その時は…エリーゼと一緒に亡命でもするわ」

レオン「それお前にメリットしかないじゃないか!そもそも姉さんと兄さんは同意してるかもしれないけどね、僕は同性婚なんて断じて反対…」

ベルカ「…証人としてヒノカ王女を召喚する」

レオン「聞けよ!」

448: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:00:47.13 ID:jMKAuzCaO

ヒノカ「…」

レオン「……あんたの芳しくない噂は色々と聞いている。×××を×××で×××したとか、×××に×××したとか、色々とね」

ヒノカ「…私が証言するのは、その『噂』についてだ」

レオン「へぇ…それは興味深い」

カムイ「アクアさん…!本当なんですか!?まだ隠していることがあるって…」

アクア「……だまれ……」

カムイ「…え?」

アクア「…なんでも無いわ。この疑いを晴らすために、あなたも協力してくれるでしょう?」

カムイ「え、ええ!勿論ですとも!」

レオン「…ヒノカ王女、ではアクアの造反行為について、『証言』を」

ヒノカ「…ああ」

449: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:01:20.93 ID:jMKAuzCaO


ヒノカ「…白夜の皆は知っていると思うが、私はカムイに……そう、色々と……しようとした。繰り返し試みてきた」


アクア「待った!」

アクア「は…話にならないわね。何をしようとしたのかしら?」

ヒノカ「それはお前が…!」

ベルカ「異議あり!」バシィッ!

ヒノカ「うおうっ!?な、何をする!」

ベルカ「…これについての詳細な発言は、されるべきでは無い。そうよね?」

レオン「…まあ、そうだね。異議はあるかい?」

アクア「…そうはいかないわ。事実を…明らかにしなければならないのでしょう?」

ベルカ「…」バシィッ!

アクア「…っ!」

ベルカ「見苦しい時間稼ぎ…無駄は省かなければならないわ」

レオン「そうだね。異議を却下する」

アクア(…もう…ダメなのかしら…?)


アクア『…もう時間切れよ。残念ながら…あなたの負け。大人しくカラダを明け渡しなさい?』

アクア(まだよ…!絶対に諦めない…!まだヒノカの洗脳も少しは残っているはず…そこを…突く!)

450: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:01:48.75 ID:jMKAuzCaO


ヒノカ「しかし!それは私の意思で行ったことでは無い!」


アクア「待った!」

バンッ!

アクア「じゃあ……一体誰の意思だっていうの?言ってみなさい…?ほら」

ヒノカ「……あ……」ピク

アクア「…」スタスタ

ペタ

アクア「ね…言えるはず…無いわよね?だって……」

バシィッ!

アクア「…ッ!」

ベルカ「異議あり!被告があなたである以上、ヒノカ王女にへの不必要な接触は認められない!」

レオン「そうだ。これ以上の接触にはペナルティを課すよ?」

アクア(私が…誰の……!)グッ…

アクア「…」スタスタ

アクア「…証言を続けて頂戴」


ヒノカ「私を操った奴の名前は……名前は…………!!」


アクア「異議あり!」

アクア「そ…その名は……!」

ベルカ「異議あり!」バシィッ!

ベルカ「…無闇に証人を脅すことは認めない。黙って聞きなさい…」

ヒノカ「名前は………!」

ヒノカ「ア……アクア………」

451: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:02:20.45 ID:jMKAuzCaO

レオン「な………」

カムイ「……な………な……」

カムイ「な、な、な………」

カムイ「なんですってええええええええええええええええええええええええ!!!!??」

ザワザワ ザワザワ

レオン「…静粛に!静粛に!ヒノカ王女……そ、それは本当なのかっ!?」

ヒノカ「ああ、そうだ…!よくもやってくれたな…アクア!」

アクア(ぐ…!)

アクア「し…知らないわよ!そんな事!無茶苦茶な言いがかりだわ!」

ベルカ「言いがかりかどうか…これを見なさい!」バシィッ!

ヒノカの手紙 を提出した

レオン「ほうほう…ふむふむ…な……嘘だろう!?馬鹿な…」

カムイ「か、貸して下さい!」パシッ

カムイ「…!……そ…そんな……アクア…さん…どうして……信じてたのに……」

アクア(ここで…ここで逆転しなきゃ負ける!)

452: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:02:48.12 ID:jMKAuzCaO

アクア「……カムイ、あなたは思い違いをしているわ。全てはあの女の仕組んだ罠……あの手紙も証言も、自作自演よ」

カムイ「………」

アクア「…よくもこんな言いがかりを付けてくれたものね。ふっ…手紙?証言?何とでもなるわよ、そんな物」ニヤッ

ベルカ「な…」

レオン「…確かに、これだけでは不十分だ。他に…何か無いのかい?」

ベルカ「……」

アクア「操られているのはあなたの方よ。こんな大嘘つきに騙されて…私を訴えるなんて!」

ベルカ「そんな…そんなはずはない…!」

アクア「それともあなたは持っているのかしら?私が…ヒノカに…あるいは他の誰かに、術をかけた証拠を!」

ベルカ「………ティーポットの破片を提出する。かなり高濃度の媚薬成分が検出された。先日、あなたがカムイ様に差し入れた物よ」

アクア「フン…同じこと。私が薬を盛った証拠にはならない!私が差し入れた後、第三者が入れた可能性は否定できないでしょう?」

ベルカ「…っ!」

レオン「…極めて怪しいけど、決定的な証拠がないね」

レオン「そうだな…姉さんはどう思う?」

カムイ「……え……」

453: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:03:25.99 ID:jMKAuzCaO
レオン「アクアと最も長い時間、一緒に過ごしてきたのは姉さんだよ。何か変わったことは無かったかい?」

カムイ「あ…ありません…アクアさんはいつも優しくて……時に厳しくて…頼りになって……」

アクア「そうよ、カムイ。カムイが『あなたを信じる』と一言言えば…審理は終わり。もうあの女に貞操を狙われて、怯えながら眠り必要も無いのよ」

ヒノカ「ち…違うっ!カムイ!信じてくれ……!私は……私は……!」

カムイ「…」

アクア「ねえ、カムイ。単純に考えなさい。あなたはヒノカと…正確にはこの世界のヒノカと出会ってからどれぐらいを過ごしたかしら?…所詮、こいつは違うのよ。前の世界のあの人とは」

カムイ「ヒノカ姉さん…私が……」

アクア「あ…あなたのせいじゃ無いわ。仕方の無かったことだもの…だから…ね。一言…言うだけでいいのよ。『あなたを信じる』って」

カムイ「私のせいじゃ…ない……?」



リリス『あなたのせいですよ。カムイ様』



カムイ「…」

454: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:04:04.59 ID:jMKAuzCaO
カムイ「…ヒノカさん…ごめんなさい。私は…あなたを信じることはできません」

ヒノカ「……ぁ………そん……な……」ガクッ

ベルカ「…失敗…した…」

レオン「…ここまでだ!この事件は極めて明白…疑問の余地はない!ベルカを其れ相応の謹慎処分に処し、ヒノカ王女を拘束することとする。詳細は追って、結果を出す。以上!」

ベルカ「…やっぱり…モノマネじゃダメ…ね」

ヒノカ「カムイ………どうして………」

アクア「ふん…ざまあないわね。私に刃向かったことを後悔しなさい……」

カムイ(良かったんでしょうか……本当に……これで…?)

アクア「さ、行きましょう、カムイ。ハイドラを倒して、帰るのよ。元の世界にね」

アクア「そこに私の槍があるわ。取って頂戴」

カムイ「………」

アサマ「ヒノカ様……残念です。非常に残念だ。さあ…こっちへ」

ヒノカ「カムイ……」

カムイ「…」フイ

ヒノカ「カムイぃぃ……」ズルズル

カムイ「…」

455: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:04:44.39 ID:jMKAuzCaO
カムイ「…」

カムイ「……?」

カムイ「この……槍…まさか……」

アクア「どうかしたかしら?」

カムイ「…答えてください。アクアさん…」

アクア「…何?」

カムイ「この槍に付いた血……誰のものですか?」

アクア「………透魔兵の血よ。ここに来る間…」

カムイ「………そん……な……」

アクア「…?」

カムイ「本当なんですか…それは……?本気で言っているのですか…?」

アクア「ええ。そうよ」

カムイ「…青い…血………リリスさんの…」

アクア「あ…アアッ…!」

カムイ「答えて…答えて…いや……答えなさい!リリスさんを…リリスさんをどうしたんですか!?」

アクア「…リリスは私を殺そうとしたわ。だから…」

カムイ「嘘…嘘…嘘……全部嘘です!!じゃあどうして隠そうとしたんですか!!ここに来た時に…どうして言わなかったんですか!」

456: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:05:20.46 ID:jMKAuzCaO
アクア「………」

カムイ「どうして…どうして……」

アクア「……」

ペタ 

ペタ 

ベタ 

ペタ

ベタ

アクア「ハイドラ…」

ハイドラ「…」

ドスッ

ハイドラ「ぐ……な…に……を………」

ドッ

アクア「…こんなにも脆いのね………『フリーズ』」

カムイ「……アクアさん…!」

マークス「まさか…お前が裏切り者だったのか…!?くっ…動けん!」

リョウマ「来るなら来い…!道連れにしてやる……」チャキ

透魔兵「…!!」

透魔兵「!!?……!!」

レオン「…あいつらにもかけたのか?どうして…三国に勝てる訳ないだろ!?…僕らなんて1人でも潰せるってことかい?」

アクア「さあ…考えなさい。夢の中で…『漆黒の悪夢』…」

ズブブ…

457: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:05:54.55 ID:jMKAuzCaO
アクア「…」

ズズズ…

カムイ「わっ…きゃぁっ!?な、何ですか、これ!?」

アクア「…ワールド・ツリーのツタよ。私の意思で動くわ。ふふっ…ここまで手こずらせるとは思っていなかったけど…最後の最後でどうやら……」

カムイ「認めるんですね!?ヒノカさんを操ったことを!」

カムイ(う…両手両足が絡め取られて…動けない…)

カムイ「なぜ…どうしてですか!?ヒノカさんをけしかけたり、こんなマネをしたり、リリスさんを…!リリスさん……!」

カムイ「余りにも…その……」

アクア「馬鹿げている」

カムイ「そうです!余りにも…ひゃぁっ!」

カムイ「や……どこ触ってるんですか!」

アクア「お話は終わりよ。いくら何でも…これを無視することはできない。あいつといえど…」

カムイ「何のことですか!それに最後の手段って…きゃうぅ…答えて…いひぃんっ!くすぐったいです!」

アクア「不感症…?まあ良いわ。少し手間が増えるだけだもの…」

カムイ(何か…この状況を何とかできるものは…!)

カタ


458: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:06:39.46 ID:jMKAuzCaO
カムイ(サンダーソード!でも…腰まで手が届きません…ぐっ……もう…)

カムイ「アクアさん!あなたはこんな事する人じゃない筈です!昔のあなたは…もっと…どうして変わってしまったのですか!」

アクア「ふふ…答える義理は無いわ。…この服硬いわね…」

ギッ…ギギッ…

アクア「マークス…こんな邪魔な鎧を…わざわざ…」

カムイ「こんな事をして、あなたに何のメリットがあるんですか!私達みんなを敵に回して…」

アクア「…目覚めないわ」

カムイ「え…?」

アクア「…永遠に…続く悪夢。目覚める事のない…ふふ…私が術を解除するか…あるいは……くく…彼らが知ってるはずも無いわね…」

カムイ「そんな…!」

アクア「そうして、邪魔立てする者もなく、あなたは私に 辱され続ける…ここで、永遠に」

カムイ「…?どう言う意味です?」

アクア「本当に知らないのね…?一番愚かで、世間知らずで、我儘で、情けなくて…」

アクア「すぐ分かるわ。ふふ…『あいつ』もどうやら大人しくしてるみたいだし。さあ…」




アクア「…ショーの時間よ」



459: ◆r9UtvwUCQI 2017/04/04(火) 00:18:38.49 ID:s2ddKpWAO
#Re 蒼鴉

_____ベルンのとある城下町

大陸一の軍事大国、ベルン。時間がないので説明は飛ばす。

気持ちの良い昼下がり。特に特徴のない宿屋の前に、女が一人と少女が二人。もしこの会話に注意して耳をそばだてるものがあれば、彼女らがただの親子連れではないことに気づいたに違いない。

そしておそらく…その不幸な傍聴人は、翌日には魂を抜かれた死体と成り果てて、街道の脇に転がることになるだろう。シャーベッドかステーキかは、お優しいソーニャ様の気分次第だ。焼き加減は選べない。

460: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:19:17.55 ID:s2ddKpWAO
彼女らは『黒い牙』。大陸一怖い暗殺集団だ。秘密を知るものを生かしてはおかない。場合によっては知らなくても生かしておかない。で、今は業務連絡中というわけ。君たちは感謝するべきだ、安全な場所からその事を知れる幸運を。

「…手順は分かってるわね、ニノ」

「うん!にんじん…パン粉に…じゃがいも…をぐにぐにと」

「…ベルカ、お仕置きしなさい」

「…はい」

「ご、ごめんなさいお母さん!いててててて…」

「…離しなさい」

「…はい」

灰の髪の方の少女が、もう片方の少女の頬をぐにぐにとつねりあげたのである。うずくまって、しばらく呻いていた少女はやがて顔を上げると

461: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:20:02.15 ID:s2ddKpWAO
「うん…緊張ほぐそうかなって…」

「…私がそういうの嫌いだって、知らなかったかしら?」

「えへへ…」

「…ベルカ、今度は耳」



長いお説教の後で、ようやく解放された二人。どうやら彼女らは姉妹ではなさそうである。

「う…じんじんする」

「…ごめんなさい」

「あ、いいよいいよ!悪いのは私だもん…」

しばし、そのベルカと呼ばれた少女はニノの腫れた耳と頬を眺めていたが、やがて首を振ってポケットのメモを取り出すと、ニノに渡した。

「買い物メモ。おこづかいは持ってる?」

「うん!もちろん!」

「そう…できるわよね?」

「えへへ、買い物ぐらい一人でだいじょぶだよ?」

「そう…そう言って『キテレツ大百科』を全巻大人買いして大目玉を食らったのはどこの誰だったかしら」

「も、もうしないもん!じゃあね!夕方には戻るから!」

ベルカはこちらに手を振り振り、駆けだしていく少女の背中を見つめた。その若草色の髪が人混みに紛れ、見えなくなるまで。

ゆっくりと、もう一度頭を左右に振り、とある約束の場所に歩き出す。何かを振り払うように。

462: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:20:40.36 ID:s2ddKpWAO
_____個室喫茶 『リゾチウム』

ベルカと向かい合わせに座っているのは、お馴染みウルスラさん。実力は四牙の4本の指に入るとか。え?最下位?

また女の子だって?仕方ないだろう。そういう話なんだから。悪趣味?どうとでも言いたまえ。

店内には落ち着いた音楽が流れ、同じく落ち着いた香が焚かれ、同じく落ち着いた店員が注文を取りに来る。新し物好きの暗夜王国ほど文明が進んでるわけではないので、CDプレーヤーではなくレコードを使う。

「要件…は…」

沈黙に耐えかねてそう切り出したベルカの顔は、幾分か赤らみ、それなりに手入れされた左手は、もう片方の腕を強く握りこんでいた。

「…『要件は何ですか』、でしょう…?悪い子ね…」

463: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:21:09.30 ID:s2ddKpWAO
十分すぎる間を取り、もうとっくに冷めきてしまった紅茶をゆっくりとかき混ぜながら、彼女はそう返した。

「は…ご要件は…何ですか…ウルスラ様…?」

のちの彼女を知っている者が見れば、というかこの一月前の彼女を知る者がこの振る舞いを見れば、きっと眉をひそめることだろう。

以前の彼女なら決してこんな事はしない。渇望に身を震わせ、熱っぽい眼差しで誰かを見つめるなんて絶対にしない。精一杯の色っぽい仕草で相手を誘うなんて事は、夢にも考えないだろう。仕事以外では。というか彼女の色仕掛けの通じる相手はそう多くは

話が逸れた。とにかく彼女は今、その青白い肌を紅潮させ、向かいあった相手に蕩けた視線を送っているのだ。

しかしウルスラは顔色一つ変えず、しこたまミルクをぶち込んだ紅茶をさも美味しそうに啜る。

「ご…ごようけん…は…?」

「ふふ…しようのない子ね…」

464: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:21:56.28 ID:s2ddKpWAO
ゆっくりと落ち着いた口調で、のらりくらりと引き延ばす。というか無視する。次第に少女はもぞもぞと余裕をなくしていき、丸いソファに沿って躰を徐々にウルスラの方にずらしていく。

狭い個室の中に、ふたり。遠くの方で微かに響くポップ・ミュージックの他には、何も聞こえない。

やがてウルスラが純白の恐るるべき紅茶を飲み干して、縁に微かな紅の残るカップを脇に押しやると、どちらからともなく顔を……近づけ……そっと唇を合わせる。一度二度、二度三度と繰りにけり。二人の軌跡の後に、暫し白銀の糸が宙に残る。

やがてついばむような柔らかい接吻は互いを貪るような貪欲なものに変わり、ウルスラはゆっくりと少女の躰をその岩より少し柔らかいソファに押し倒すべきところであるが、そうは問屋が卸さないのであった。

465: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:22:33.68 ID:s2ddKpWAO



アクア「こんの……野郎……!いつまで………!いや、書く気が無いのかしら…?」

カムイ「何のことですか!」

アクア「……」

アクア「別に。それよりも…どうしてこの鎧には鍵がついているのかしら?」

カムイ「ベルカさんが付けてくれたんです。ヒノカさんに襲われてもいいようにって…まあ結果オーライです」

アクア「そうね。ずいぶん頑丈に作っちゃって…まあ良いわ。時間ならまだたっぷり残っているのだから…」




466: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:23:12.90 ID:s2ddKpWAO
_____宿

ニノが間違えて荏胡麻油20リットルを買ってくるというファインプレーがあったものの、二人は何とか明日の準備を整えた。

「だって!だって!」

「…一般に、離宮ごと標的を燃やすのは『暗殺』ではなく『テロ』というわ」

「その方が楽かな…って。違うかな?」

「…本当にやるのなら10倍以上のガソリンが必要よ。馬鹿ね」

「今夜零時にここを出発。仮眠を取っておいた方がいい」

もごもごと弁明を続けようとしたニノを片手で静止し、きつい西日の差し込む窓に、カーテンをぴったりと閉めた。

467: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:23:42.41 ID:s2ddKpWAO
この子といるとリズムが狂う。段取りが覚束なくなる。予定が滅茶滅茶になる。暗殺者としての適性は無きに等しい。一番パートナーにしたくないタイプだ。

すとん、とベッドに腰を下ろしたベルカは、寝巻きのボタンを一つずつ、コンスタントに掛け違えるニノの手に目線を止める。

「あれれ?おっかしいな…」

もぞもぞと不器用そうに動く指は、どちらのとも分からぬ体液でべとべとの私の躰を、ていねいに拭いてくれたのと同じ指。
忙しなく動く青い目は、地下牢の鉄格子越しに ぐ私の目を、心配そうに見つめていたのと同じ目。
お古の魔道書と新品の雑巾ぐらいしか握ったことのない手は、 教に疲れ果て、動けなくなった私の口に、スープに浸したパンを運んでくれたのと同じ手。

468: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:24:08.48 ID:s2ddKpWAO
そしてベルカは思い返す。昼間のウルスラから言付かったあの言葉。次の行程へと進もうとする彼女を遮り、一つだけ言い放たれた『要件』。


「ニノを…あの子を殺しなさい」


あの時はためらわなかった。なぜって?ウルスラ様の命令は絶対だから。

でもようやく寝巻きに着替え終わり、布団に潜り込む彼女を見ていると、頭の中の小さいベルカはそれに反対する。それも猛烈に。

頭の中の自分について考えると、彼女の頭は激しく痛んだ。

自らも布団に包まり、眠りにつく。無論眠らなくても問題はないけど、何だか…今は眠りたい気分だった。

469: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:24:44.31 ID:s2ddKpWAO




ふと目が覚める。背後に黒い影が一つ。何も寝込みを敵に狙われるのは、今日に始まったことではない。

飛び起きて侵入者の右腕を掴み、そのままテコの原理で後ろに捻りあげて床に引き倒す。手馴れたものだ。

「い、痛いよ!ベルカ!痛い!」

何だ、ニノだ。ベルカはニノを乱暴に引き起こし、ベッドに座らせた。叩いてホコリを払う。

「…どうしたの?トイレ?」

「う…ううん」

「そう。おやすみ」

470: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:25:16.61 ID:s2ddKpWAO
時計を見ると、出発までまだかなり時間があった。もう一度布団に潜り込むベルカ。

ひとつくしゃみをすると、ニノは少しだけ…本当に少しだけ躊躇った後、ベルカと同じ布団に滑り込んだ。

「あ…悪かった、かな…?」

答えはない。

暫しの沈黙の後、布団の主は背中を向けたまま、僅かに首を横に振った。構わないらしい。

「…は……んっ……」

そっと腕を前に回し、薄青い髪に顔を埋める。微かに残る石鹸の匂いが、その幼い鼻腔を満たす。

471: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:26:00.12 ID:s2ddKpWAO
「お姉ちゃんのにおい……かあさんに似てる…」

きっと血の匂いよ、とベルカ。

「ねえ…もう少しこのままで…いい?」

沈黙。

「…ベルカ?」

ニノの気付いた時には、すでに腕の中に抱かれていた。強く、とても強く。

「く…苦しいよ…」

目と、目が合う。蒼の瞳と、灰の瞳。またしても、沈黙。

やがて…ベルカはさんざ迷った末に…ニノの額にキスをして、胸元へ抱き寄せた。

472: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:26:27.95 ID:s2ddKpWAO


もしこの時…もっと別の行動を取っていたのなら。額でなく、唇に接吻をしていたのなら。この物語はもっと違った結末を迎えていたのかもしれない。


兎に角この時、彼女は我が子を慈しむ母親のようにニノの頭を撫で、もう一度抱きしめた。

「…ありがとう…」

さて困ったぞ。ベルカは思う。こうなってしまった以上、私にこの子が始末できるのだろうか…?そもそも私は始末したがっているのだろうか…?確かにこの子を愛していたのである。

再び激しい頭痛。考えるのはよそう。きっとその時になれば…なるべきようになる。

そして、彼女もまた眠りに落ち、目覚めたのは午前零時丁度であった。

473: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:27:06.22 ID:s2ddKpWAO
_____ベルン離宮

予定より1時間遅れの出発でも、到着時刻には間にあわせる。

「余裕を持っておいたおかげだね」

ウルスラの命令を、たった今実行しようとする自分を、死力を尽くして止める。

「…ずいぶん簡単な仕事だよね。メイドさんに化けてケーキを持って行って、脇にトロンを挟んであげるだけなんて」

『脇にトロンを挟む』とは牙式の隠語である。感電させて殺す、という意味の。

「…私は行かない。こんなに目つきの悪いメイドはそういないから」

「そんな!一人じゃ無理だよう…」

「…無理そうなら私も突入する」

そうこうするうちに扉の前である。鍵のかからないタイプのようだ。

474: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:28:21.40 ID:s2ddKpWAO
こくりと頷き、ニノはお盆の逆の手に抱えた本を掲げた。夕方に買って来たパリパリの新品だ。

しかしベルカ、ここで不吉な予感をぴりりと感じる。ニノから引ったくったその本の表紙には、踊るような飾り文字でこう書かれていた。

『ファイアーエムブレムEchos 完全攻略Book』

小さな音で舌打ちし、モンブランの乗ったお盆も引ったくると、ベルカは扉に耳を押し当てて、突入のタイミングを計った。

「…作戦を変更。プランBに移行する」

「…分かった。ガソリンだね?」

475: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:29:10.07 ID:s2ddKpWAO
さっきのロクでもない本で頭をぶっ叩いてやりたい気持ちに襲われるが、ニノが泣くだろうからやめた。代わりにポケットのカロリー・メイトを口に放り込む。ニノにもあげる。

「…もぐもぐ…ごくん。えっと、無言で入って行って、一発芸で注意を引いてから絞め殺すんだっけ?」

「…もしかしてあなた、緊張をほぐそうとか考えてないでしょうね?」

「しっ…ベルカ、なにか聞こえるよ…?」

あの我慢弱いソーニャがよくこの子を引き取って育てようと考えたものだ。……あの女はウルスラ様をいじめるから嫌いだ。口中にこびりついたカスを舌で必死にはがしながら、ベルカはそう思った。

「神様……」

「明日は私の成人の儀…これまで父上の期待に添えるように頑張ってまいりましたが…努力が足りないのでしょうか…?」

「父上はいつだって私に冷たい。いつもは側にいるマードックだって、今日に限っていない。おまけに王宮のランプは全て消え、皆死に絶えたように寝静まっている…」

「…?どういう事だろう?」

まずい、と思った時にはすでに遅し、扉は標的の手によって開かれ、中の明かりが廊下に溢れる。仁王立ちになったゼフィール王子には既に王としての気迫が幾分か宿り…

「ん…お前達は…」

ニノ。なんか言いなさい。私は何を言っても怪しまれるだろうから。ベルカは真剣に祈った。神様仏様エリミーヌ様。苦しい時の何とやら。

「え…えっと…お夜食です……」

「…入れ」

ベルカは真剣に、聖女エリミーヌを呪った。

476: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:29:51.78 ID:s2ddKpWAO
部屋に置き去りになっていた大きなワゴンには、丁度小さなお茶会が開けるほどの食べ物と、それを即座に調理するための、ぴかぴかに磨かれた調理器具が積み込んであった。

小さなやかんにお湯を沸かしながら、ベルカはぐるりと部屋を見渡す。大陸中から集められたたらしい沢山の調度品が、それぞれきちんと整理されて壁際に収まっていた。きっと腕のいい掃除婦がいるのだろう。

そして部屋の奥にある二人がけの丸テーブル。王子と向かい合って、なぜかニノが座っている。手伝えよ。何の為の仮装だ。

ベルカの思いを知ってか知らずか、二人は楽しげに談笑を始める。さっさと二人とも始末して、城下に宿を構えているはずのウルスラのベッドに潜り込むべきだと分かってはいたのに、何かが…彼女を押し留めた。

沸騰したお湯で、手早く紅茶を淹れる。ジョーカーによれば、茶葉を蒸らす時間はどの工程よりも重要らしい。

ジョーカー……?

477: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:30:26.09 ID:s2ddKpWAO
ベルカは二人ぶんの紅茶とサンドイッチを盆に乗せ、テーブルに運ぶ。そしてエプロンのポケットに入っている小刀に意識を集中させる。まず王子の頚動脈を掻き切り…ニノも同様に。そしてあたかも王子がメイドと心中したかのように現場を偽装し、裏門からスタコラ逃げる。

シミュレーションは完璧。ベルカは盆をテーブルに置くと、さりげなく右のポケットに手を突っ込み、親指の腹で銀色の刃を押し出した。

「ふう…こんなに笑ったのは久し振りのことかもしれないな。ニノ…少し、我儘に付き合ってくれるか?」

「えへへ…何ですか?」

「私を、殺せ」

「はいはい。お安い……え?」

しっかりと頚動脈を捉えたはずの右手が、動き出す直前でぴたと止まる。

478: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:31:07.53 ID:s2ddKpWAO
「お前達は殺し屋だろう?仕事を全うするだけだ。さあ…やれ」

「ちょ…ゼフィール王子!」

がたん、と椅子を後ろに跳ね飛ばして立ち上がるニノに、ゼフィールは静かに答えた。

「…もうゼフィールでいい」

「じ、じゃあゼフィール!な…何でそんなこと言うのさ!そんな…」

「おかしいか?成人の儀の前日に、王子が自殺したら」

「おかしいも何も…だって…」

「ふん…いいだろう。話してやる。私が…」

王子は立ち上がり、脇にあった机の引き出しから、一通の封筒と魔導式拳銃を取り出した。

「…なぜ自殺を企てたか」

「そんな…じ、じゃあ、私たちが来なくても…?」

「そうだ。こいつでこめかみを撃ち抜いて死ぬつもりだった…たった今までは、な」

479: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:32:55.70 ID:s2ddKpWAO
魔導拳銃とは今5秒で考えた設定である。一詠唱分の魔力を一個の弾丸に込んだ、その名の通り魔導式の拳銃である。生まれつき魔力を持たない者のために開発された武器だが、当然魔力を込めないがためにその威力は低く、有効な射程は僅か50センチメートル程しかない。

それでも眉間に押し当てて引き金を引けば、魔防と化したキルロイであろうと確実に絶命する。自決用の拳銃だ。

「ふっ…見てみろ、それ」

ニノは覚束ない手つきで中の便箋を引っ張り出し、三つに開く。逆さまに。

「…お前、字が読めないのか?」

ゼフィールが呆れたように言い放ち、ベルカは遺書を取り上げて読み上げる。

「…『精神的に向上心のない者は、馬鹿だ』……あなた、イニシャルはKじゃないでしょう?」

「ふっ…だから聞いてくれ。大人になれない子供の、最後の頼みを」

王子は紅茶を一口啜ると、重々しく切り出した…



480: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:33:30.88 ID:s2ddKpWAO
王子はテーブルに乗った、未だ手を付けられていないモンブランを指差して言う。

「ニノ…お前はこいつが何で出来ているか知っているか?」

「もちろん!…牛乳と…生クリーム…あと栗、小麦粉と砂糖…ぐらいかな」

ニノは嬉々として言う。王子はもう一口紅茶を飲むと、続ける。

「…そうだ。その材料を…これは城下で買ってきたものだな…?…ケーキ屋の主人は、指一つ動かすことなくこれだけの材料を集められる。そして…」

「これは幾らだった?」

「えっと…3つで500ゴールドだった」

そのうちの2つ、即ちショートケーキとチーズケーキは今頃彼女の胃袋の中だ。と、ベルカは心の中で付け足す。そっとエプロンから手を抜き出し、机の上の盆を両手で抱えながら。

481: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:33:57.19 ID:s2ddKpWAO
「そうだな…じゃあ諸々の材料を、ケーキ屋の主人は300ゴールドで買うことができる、としよう」

「そして店の家賃とか、ボウルとか泡立て器の維持に50ゴールド掛かるとしよう」

「小麦粉と栗をボウルにぶち込んだだけではモンブランは出来ない。クリームを泡立てて、上に栗を乗せる人間が要る…そうだな?」

「うん。パテシェさん、いっぱいいた」

「そうだ。じゃあ彼らに100ゴールド支払うとすると、残りは幾らだ?」

少女はその小さい指を折って数える。

「えっと…50ゴールド、かな」

「そうだ。50ゴールド。私はその50ゴールドのために…」

「死ぬのだ。もうすぐな」

助けを求めるかのようにパートナーを見つめるニノ。首を振り、視線で話の先を促すベルカ。

482: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:34:40.22 ID:s2ddKpWAO
「分からないか…?ケーキ屋の主人は指一つ動かすことなく、客が三つで500ゴールドのケーキを買って行くたびに、50ゴールドが懐に転がり込むんだ。一方で、それを作るのに5人の人間が必要なら…そいつらには一人頭20ゴールドしか儲けがない。仮に40ゴールド分の仕事をしても、それは変わらない。仮に店長が給与カットを断行したとしても、彼らにはそれに対抗する手段はない…分かるか?この意味」

「人間は……余りに愚かだ。自らが弱い者である事に気付いていないふりをして、にこにこと愛想笑いをばらまきながら……もっと弱い者から搾り取る事ばかり考えている」

「そ…それはこじつけだよ!」

いいや、とゼフィールは続ける。

「もちろんこれは単なる一例さ…お前でも解るように挙げただけだ。でも…いくらお前でも解るだろう?」

483: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:35:12.39 ID:s2ddKpWAO
「国王は貴族から…貴族は資本家から…資本家は労働者から…労働者はもっと弱い労働者から…もっと弱い労働者は貧しい子供達から……その余剰を啜って生きている。そして一番上に踏ん反り返った国王は、自分の子供を憎むんだ。いつか、自分を殺すんじゃないかって…震えながらいじめるんだ」

「諸国を回ってわかったさ……どこの国でもこの仕組みはあんまり変わらない。せいぜい国王が公爵になっているぐらいで」

「もしお前達に暗殺の腕がなくて…傭兵の口も無くて…親もなく…護ってくれる強い男も居なかったら…?私は…………」

「なあ、私とあの………エトルリアの貧民街にいたあの幼い男婦と……何が違うというのだ?余りにも……そう…理不尽だ。私はこの家に生まれて…ちょっと剣ができて…簡単な微分ができるだけの人間なんだ。あの子と何も変わらない…」

484: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:35:47.07 ID:s2ddKpWAO
「…世界一醜く、傲慢で、強欲で、臆病な動物。この星の上で、最もつまらない生き物。私は…その王になるなんてまっぴらごめんだ。虫唾が走る」

言ってしまうと王子はもう一度カップを手に取り、口元に運んだ。

先ほどからずっと俯いているニノ。唇をぷるぷると震わせ、両手を膝の上で硬く握り締めている。やがてその震えは頂点に達し…

「違うよ!」

思わず仰け反る王子。ついでに紅茶も吹き出した。

「違う、違う、違う…全然違うよ!まるっきり違うよ!!」

違う、と口に出すたび、ニノは思い切り、そのちいさい拳を机に叩きつけた。カップが少しだけ宙に浮かび、そのまま着地する。

「何が…何が違うと言うのだ!弱く、醜く、愚かで、そして致命的に間違っている!」

ゼフィールは問う。目を剥き、歯をむき出しにして、さながら鬼のような表情で、身を乗り出して彼女に迫る。

485: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:36:15.41 ID:s2ddKpWAO
「間違ってないもん…間違っているのはあなただもの……」

みるみるうちにその蒼色の瞳は涙で満たされ、二本の筋がツツ、と両の?を伝う。それでも…それを拭うこともせず、ニノは絞り出すように呟いた。

「だって…あの人たち…働きながら…嬉しそうだった。生きているのが楽しいって…わたしも…えぐっ…私も、あんな風になりたいって…思ったもん。私と同じぐらいの子が……銀貨4枚で身体を売らなきゃいけない女の子は……あなたよりも、明るい顔をしてた。あの子には希望があった。いつかかっこいい男の人と会って、静かな丘の上で、みんなで仲良く暮らすって夢……今のあなたには……何もないの。なにも」

「人間は…強くて、弱くて、美しくて、醜くて、賢くて、愚か」

「ある時には…そうでない時ももちろんあるかもしれないけど……それでも!最後は絶対に!正しいんだよ!ゼフィール!!」

最後はもう絶叫と呼ぶに相応しかった。少女の魂の叫びだった。

486: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:36:55.90 ID:s2ddKpWAO
「……正しくなくちゃ…いけないんだよ。正しくしなきゃ…いけない。きっとあなたなら…いい王様に、なれると思うよ…?」

そして…袖で涙をぬぐい、鼻をすすると、冗談めかしたようにこう付け加えて、にこりと笑った。

「でも…でも、もし本当に…人間が愚かで醜いと思ったなら…その時に死ねばいいよ」

ニノ自身も気づいていなかったかも知れないが…それはベルカでさえぞっとするような…恐ろしい笑顔だった。ソーニャでさえ、眉を潜めるぐらいはしたかもしれない。

しかし、それはほんの僅かの出来事で、

「でも死ぬのは…その時でいい。その時まで一生懸命生きる意味が…あなたにはあると思う。それは、ベルン王家に生まれたあなたの務め」

「あるいは…そのつまらない世界を叩き壊すのが、あなたの役目なのかもしれないね。ゼフィール」

その凛とした表情に…メイド服の代わりに菜種油を買ってきた時とは似ても似つかないニノの表情に…魂の奥底を見つめ、眼差しで貫くようなその表情に…すっかり気圧されたような王子の口の端から、空気の抜けるような音が聞こえたかに思えたが…彼は直ぐにそれを取り消すかのように…こう言った。ただ一言…

「…ありがとう」

と。


487: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:37:35.08 ID:s2ddKpWAO
「…ベルカ、帰ろうよ」

どこか間の抜けたような顔に戻り、ニノはベルカのエプロンの裾を引っ張った。

「……………………あなた、ここに何しに来たか覚えてる?」

「…お茶会だっけ?」

「あ ん さ つ !」

ベルカは光の速さで王子の後ろに回りこみ、腕を回して頚動脈を絞める。

「見てなさい。ニノ…正しくここを抑えれば、どんな人間でも10秒と持たずに気絶するわ」

ニノを殺す必要がある以上、このレクチャーには何の意味もない。そう知っているはずなのに、彼女はそれをした。

果たせるかな、王子はちょうど10秒で動かなくなる。乱暴に床に下ろすベルカ。

「さあ……ここからはあなたの仕事よ。その魔導拳銃で…こいつのこめかみをぶち抜きなさい。これぐらい出来るでしょう?」

銃が暴発したかのように現場を偽造する事など、彼女には訳もないことだ。数時間後には、もう永遠に大人になる事のない王子と、銃を暴発させた間抜けな暗殺者の死体を二つ、マードックは発見する事になるだろう。

488: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:38:10.85 ID:s2ddKpWAO
……できない」

「…撃鉄を起こして、引き金を低く。分かった?」

「それぐらい知ってるよ!ねえ…ベルカ…私には……できないよ」

此の期に及んで…ベルカはぎりりと歯を食いしばり、拳銃をもぎ取ろうと手を伸ばす。

だが…そのひんやりした銃口は、ベルカの心臓に…向けられていた。

「ねえ…お願いだよ…」

無論、この場で拳銃を奪い取る事など訳はない。というかこれ、安全装置が掛かったままである。

「殺したくない。この人は殺すべきじゃないの。ねえ…」

「…私たちは道具よ。殺すべきか殺さないべきかは上が考えること…」

「ねえベルカ…考えてよ…考えて……」

489: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:38:50.23 ID:s2ddKpWAO
ニノはそう言って…安全装置を外し、銃口を自らの口に咥えた。ベルカははっと息を飲み、やっと彼女の考えに気付く。

「…もし王子を殺すなら…私も死ぬ。ね…?」

「駄目よ…!やめなさい!」

こんな時になって初めて、ベルカは…

「…やめてくれるの?」

自分の気持ちを、知覚し始めたのだ。

「あなたを失うなら…いいえ、あなたを失うわけにはいかない。だから…拳銃を、こっちに」

「本当…?」

「本当よ。だから…!」

少女は唾液に濡れた筒を慎重に取り出し、そっと安全装置を掛け直して、地面に落とした。かしゃん、という冷たい音が、寒々とした廊下に響く。

「ニノ!」

ベルカはニノの元に駆け寄り…思い切り抱きしめた。ニノもぎこちなくではあるが、それに応える。

「はぁっ……なんて事するの…?死ぬ気なの…?」

「えへ……ごめんね?」

「もう……バカね……」

「帰ろうよ。今度こそ…ね?」

その何もかもが愛おしくて。

壊れるほどに抱きしめて。

何よりも近くなりたい。その青い瞳に、私だけを映してほしい。たったひと時だけでも。

が、この何とも甘たるい雰囲気をぶち壊す不届き者が約2名。

ウルスラさんとマクシムさんである。

490: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:39:26.55 ID:s2ddKpWAO
「あなたは…パ、パスカル!」

「…違うな」

「じ、じゃあカムラン!」

「…惜しいな」

「…………誰だっけ?」

「マクシムだ。本名はマックスウェル・マキシマム・マクシム。よろしくな」

「うん!よろしくね!」

「…相変わらず人を苛立たせるのが上手な子ね。ベルカ…何でこの子が生きてるのかしら?」

対峙する4人。

「何しにきたの…?ここはまだ…」

「『何をしに来られらのですか』、でしょう?全く…」

「ほら、早くその子を始末しなさい。今なら百叩きで許してあげるから…ね」

「ベルカ……?それって…」

491: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:40:07.23 ID:s2ddKpWAO
「わ、私は……もうあなたの……っ…ドレイじゃないわ。だから……」

うまく声が出ない。喉に引っかかっているのは声か唾か。

「…そう。そういう事」

ウルスラは口の端を曲げてにやりと笑い……もう1度、繰り返した。

「…その子を殺しなさい。早く」

その一言一言が彼女の心を再び抉り、血を吹き出させた。骨を砕き、痛めつけた。

「い、嫌……だ…」

「……今ならジャファルの席が空いているわ。どう?幹部になれば…もっと空いた時間が取れる。いつでも好きなように時間を使えるし…」

「……好きなだけ可愛がってあげてもいいのよ。どうかしら?」

「…ぁ…」

ベルカはもう陥落寸前だった。繰り返し植えつけられた情念は身を内部から焼き焦がし、禁断症状として表面に現れた。

身をよじり、苦悶するベルカ。ウルスラは追い討ちのように続ける。甘美な囁きで、もう一度彼女を誘惑する。

492: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:40:49.81 ID:s2ddKpWAO
ベルカはもう陥落寸前だった。繰り返し植えつけられた情念は身を内部から焼き焦がし、禁断症状として表面に現れた。

身をよじり、苦悶するベルカ。ウルスラは追い討ちのように続ける。甘美な囁きで、もう一度彼女を誘惑する。

そして…ついにベルカは、ニノの首に手をかける。ちょっと乱暴に扱えば壊れてしまいそうなそれに、少しずつ、少しずつ加える力を増やしていく。

「そうよ…!もっと…そうすれば……あなたは……!」

「…お…ねえちゃん……けほっ………」

馬から身を乗り出すようにして叫ぶウルスラの声も、目の前で哀しげに ぐニノの声も、もはや彼女には遠い、遠い虚ろな響きとしか…届いてはいなかった。

493: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:41:31.69 ID:s2ddKpWAO
「『そして私はニノを絞め殺し、逆上してウルスラその他も皆殺しにして、失意とともに暗夜王国に帰りました』。ちゃんちゃん。ってか…?」

驚くべきことに、ベルカが気が付いた時には…全てが止まっていた。燭台の炎すら、壁に描かれた絵のように、しんとして動かなかったのである。

ただ2人、マクシムとベルカを除いて。

「さて…どうする?もうとっくに気付いているはずだが…?」

ニノの首に回した手を離し、応える。

「…分かってる。夢だって。これはアクアの試練…それで、あなたは…?」

「ふっ…ただのしがない聖騎士さ。何の因果かこの人より強くなっちまったが…強いて言えば、ナビゲーターってとこだ」

そう言って、にやにやと嫌な笑みを浮かべながら、横で固まっている上司を顎で指す。

「……私はこの後、この子を絞め殺す。邪魔しないで」

「……もう一度、嘘をつく気か?」

逸らしていた目を馬上に戻すと…彼はもう、笑ってはいなかった。

494: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:42:37.22 ID:s2ddKpWAO
「…真実を話せ。でなければ永遠に出ることはできん。無論…」

「エリーゼにも会えない、でしょう?」

「そうだ。これは忠告だ。何よりも許されざる罪は…自らへの嘘。偽り」

「………」

「真実を話せ。楽になるぞ?偽りの記憶で、自分を騙し続けるよりも。ずっとな」

「……楽になんか、ならない」

「ふん……では、身をもって語るんだな!」

マクシムは差し上げた左手をぱちんと鳴らす。途端に世界に時間が戻り、ベルカはもう一度…ニノの首を絞め直した。

495: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:43:07.23 ID:s2ddKpWAO
もはや彼女を遮るものは何もない。気道は圧迫され、空気の通る余地は無くなった。そうであったはずなのに…

ニノは…何かを口に出した。それはベルカの目の錯覚だったかもしれない。あるいは単なる唇の痙攣だったのかもしれない。それでも…ベルカはそこに…意味を読み取った。

そっと左手の力を抜き、ニノの体の影になるように床に下ろす。

落ちていた魔導拳銃を手に取り、片手で撃鉄を上げる。安全装置を再び外す。

そして一瞬の隙を突き…一分の狂いも無く、ウルスラの眉間に向けて発射したのだ。

いくら威力が低いとは言え、まともに顔面に食らえばひとたまりもない。

496: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:43:34.83 ID:s2ddKpWAO
暗殺者はターゲットに、立ち直る隙を与えない。無論反撃のチャンスなど与える気はさらさらないし、辞世の句など詠ませない。

三段跳びに飛び、馬の頭を支えにしてナイフを突き出す。銀色の刃はしっかりと…ウルスラの右の眼窩を捉え……それが致命傷となった。

一瞬の沈黙の後、鮮血を吹き出しつつ愛馬から崩れ落ちる【蒼鴉】。

それを目の端に見届けるとベルカは、すぐにニノの元へ駆け寄った。暗殺者としてでは無く、一人の女の子として。


だが、それが間違いだった。

『相手が血飛沫を上げて倒れるまで、油断するな』

師匠は口を開くたびにそう言った。ある時は『ごちそうさま』の代わりに口に出した。


ウルスラは最後の力を振り絞り…ほぼ無意識に、サンダーストームを唱えた。例え片目でも、頭蓋を突き破った鉄片が脳味噌に食い込んでいても、彼女は狙いを外しはしなかった。

凄まじい威力の雷雲がベルカの頭上に現れ、雷を落とそうとして……


マクシムは言った。

「これが真実だ」

497: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:44:22.65 ID:s2ddKpWAO
_____ベルン離宮 外


「ねえ…ニノ…?」

「なあに…?」

これが、真実だ。

「明日は…いい日…?」

「…いい日だよ。きっと…」

「…何か、欲しいものはある…?」

「…ううん……」

「ニノ……明日は…いい日……?」

渦巻いた雷撃は少女の体を貫き…

「うん…いい日だよ…」

致命的な火傷が、全身を蝕んだ。

「ニノ…ごめんなさい…」

ベルカの足取りは重く…

「謝らないで…ね?」

背中の鼓動は、だんだんと弱々しくなっていく。

「おー……い………」

遠くに見えていたたくさんの点は、だんだんと人の形になり…

498: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:45:02.75 ID:s2ddKpWAO
「ねえ、大丈夫!?あなたたちはここの…?」

深緑の髪をなびかせて一番に走ってきたのは、この人。どこと無く私と同じニオイがする、と遠い心でベルカは思った。

「うっ…凄い火傷だ…おい、セーラ!早くリライブと包帯!早くしろ!」

この人は確か新聞に出てた…オスティア侯爵の…

「ふう…ふう…だ、大丈夫かい!?」

こいつは知らない。

「ねえ、あなた達、この中から出て来たわよね!?一体…」

「…王子なら中で寝てる。敵は全滅させた…」

「……ありがとう。あなたは?」

「…………【牙】」

その少女は何か言いたげだったが、ベルカに思い切り睨まれると口をつぐんだ。

「リカバーと止血帯を持って来ました。すぐに始めましょう」

この人は…男…?女…?担架に乗せられて、運ばれていくニノ。

ぽん、と肩に手を置かれた感触がして、ベルカは振り返った。マクシムだ。

499: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:45:41.06 ID:s2ddKpWAO
「さあ、どうする?」

「…私は真実を語った。もう帰ってもいいはず」

「ふん…とどのつまりだな。アクアはこれが言いたかったんだ。『ニノを守れなかったお前に…誰が守れる?』」

自分を見据えるマクシムから目をそらし、代わりにニノの方を見やる。

さっきの司祭が手際よく施術を進めていた。熱い湯を沸かし、傷ついた組織に丹念に癒しの光を当てる。爛れた箇所にきずぐすりを塗り込み、包帯を巻く。ニノはみるみるうちに真っ白に覆われていった。

「…現実のニノは助からなかったが、ここなら違う。間違いなく治療は成功する。ただ右脚に少し麻痺が残り…お前はあの子に一生ついてやらなくちゃならなくなる」

「そういう筋書きだ。アクアの筋書き」

そう言って、マクシムは二本の指で空中に線を描いた。

「さあ…どうする?お前はここで偽物の記憶で本物のそれを封印した。ニノを守れなかったという記憶を。そして夢うつつのまま暗夜王国に帰り……現在に至る」

500: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:46:10.37 ID:s2ddKpWAO
「お前は選べるんだ。このままニノと過ごすか…エリーゼのところに行くかだ。後者を選ぶとすれば…お前は死ぬかもしれん。いかんせんアクアは強い。お前が二人掛かりでかかっても勝てないかもしれん」

「そもそもエリーゼ自体がお前の中で、ニノの虚像なのではないか?」

「…うるさい!」

「…時間はある。少し考えろ」

ぽこぽこと足音を立てて騎士は去り、ひとり残されるベルカ。徐々に蒼く染まっていく空と、小鳥達のさえずり。

「…こんにちは」

「…!」

「あ…驚かないでください。私、この軍の軍師…です。マーク。軍師のマーク」

また女の子か。たまげたなぁ。

「…被ったままってのもナンですね。よいしょ」

501: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:46:46.20 ID:s2ddKpWAO

現れたのは、どことなくカムイを思わせるような顔。夢だから…だろうか?

ただ彼女はカムイよりずっと眠そうで、さらに薄ぼんやりとしていた。

「…あれ、どこかでお会いしましたっけ。すいません、ワタシ物忘れが激しくて…」

ぺこり、と頭を下げるマーク。背中からするりとフードが落ちて、再び頭に被さる。

「ありがとうございました。ゼフィール王子を助けてくれたんですね。ニノちゃん…でしたっけ?こっちで寝てます。ハイ」

「…王子の安否は確認したの?」

「え…?あ、ハイ。エリウッドさん達が見に行ったはずです。あ…【牙】の皆さんの死体、片付けますか?」

マークはもぞもぞと体の前で組んだり解いたりしていた指を解いて、離宮の方を指した。

「…一応確認させて。時間がなかったから」

「セインさんが持って来てくれたみたいですね。ちょっと行ってみましょうか」

502: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:47:37.37 ID:s2ddKpWAO

「ん~この人が【アオキジ】さんですか。綺麗な人だったんですねぇ」

「…そうあ」

「へっ!?報告書には確かアオガラスって…」

草の上に寝かされた彼女にはすでに死後硬直が起こっていて、蘇生は見込めなかった。ナイフは誰かが抜いたようで、滅茶滅茶になった眼窩がグロテスクにこちらを覗いている。

「…こんばんは」

ふと目をあげると、どこかで見た顔が一つ。確かリム…リム…

「…お疲れ様」

リムステラは袖口からポケットサイズの魔導書を取り出しかけたが…一瞬遅かった。その唇が死の呪文を唱える前に、強烈なアッパー・カットが彼女の顎を捉えたのだ。嫌という程舌を噛み、もんどり打って倒れる。

「えへへ…どうです?」

拳を放ったのは、マーク。目を丸くするベルカ。

「…ぐ…」

よほど応えたのか、蹲ったまま立ち上がれないリムステラ。マークは死体をひょいと跨ぎ越し、ベルカが止める間も無く駆け寄る。

503: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:48:16.43 ID:s2ddKpWAO
「…あなた達モルフは、こんな事を想定して作られていませんからね。苦しいでしょう?えへ…えへへ…うふふ…」

ローブからいそいそと何かのビンを取り出し、顎を上げてぐいと口に含む。表情は見えないが、多分笑っているのだろう。

そしてわかめのようにのたうつ黒髪を引っ張ってこちらを向かせ、口の液体を直接流し込んだ。

「うぐ……ん……む…」

ベルカの方からはマークの表情を伺うことはできず、ただリムステラの驚いた表情が見えるのみ。

「…ン……ぷはっ、えへ…どうです?」

その赤っぽい液体が喉を滑り落ちた途端、まるで空気の抜けた風船のように、マークに枝垂れかかるリムステラ。

「えへ…痺れてるでしょう?指一本動かない。ですよね?」

マークは実に手慣れた様子で彼女の上着を脱がせ、地面に横たえ、 着を上にずらし、ポケットから取り出した緑のチョークで、質の良い陶器を思わせる背中に一本の線を描いた。

504: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:48:49.41 ID:s2ddKpWAO
何のためらいもなく、これまたポケットから取り出したる肉切り包丁で背中を一文字に割る。

「えへ…ちょっと痛みますよ…」

薄い手袋をした両手を中に突っ込み、作業を始めるマーク。彼女が配線を切ったり入れ替えたり繋いだりするたびに、リムステラは苦悶の表情を浮かべた。当たり前だ。

ものの1分もしないうちに作業を終え、マークは透明な体液でべとべとになった手袋を裏返してポケットにしまった。代わりにごつい針と糸を取り出して、ターキーのお腹を縫うように背中を縫い合わせていく。

「えへ…どうですか?生まれ変わったような気分でしょう?えっと…エーギルはどこです?」

驚くべきことに、リムステラはうつ伏せになったまま、腰に下げていた皮の袋を外して、震える手でマークに渡した。

「うふ…いい子ですねぇ。上手くいったみたいで良かったです」

そして、袋の中身を少し手に開けて、丁寧に背中に塗り込んだ。彼女が手を滑らせるたびに、きらきらとした命の残り香が、朝焼けの光に舞う。

エーギルの効果たるや目覚ましく、傷はたちどころに塞がり、マークは糸を抜く。徐々に感覚を取り戻しつつあるリムステラに服を着せ、体を起こして自分にもたれさせる。

505: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:49:28.25 ID:s2ddKpWAO
「えっと…あなたの主人は誰ですか?」

もはや自分のものとなった人形と向かい合うマークの目は、元の濁ったものに戻っていた。どろんとして、何も考えていなさそうな目。

「……マーク…様…です」

しかし対するリムステラの目は、もっと何も考えていなさそうだった。

「うん、よろしい。いや~…苦労した甲斐がありましたよ。片っ端からモルフを捕まえてはばらし捕まえてはばらし…」

「でも…うへへ…ぱっちりした黒い目…波打つような黒髪…血のような赤い唇…」

マークは片方の腕を、リムステラのその贅肉一つ付いていない腰に回し、もう片方の手で順繰りに顔のパーツを撫でる。

一方リムステラはどこか恍惚とした表情を浮かべ、新しい主人の愛 を受け止めていた。

そしてマークはリムステラの肩を担いで立ち上がると、まるでベルカのことを忘れてしまったかのように、軍の方へとフラフラ歩いていってしまった。

「…」

後にはウルスラの死体が一つ。

改めてまじまじと観察したところで、これといった感情は湧いてこなかった。

506: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:50:21.36 ID:s2ddKpWAO
ベルカの全身に、順繰りに所有印を刻んでいった唇も、くしゃくしゃと髪をかき乱し、頭をしっかりと引き寄せた腕も、もう動かない。

かつて震える手でそのボタンを外し、ゆるゆると脱がせたやたら露出の高い上着……

上着?

「気がついたか」

はっと後ろを振り向き、飛び退くベルカ。またマクシムだ。

「さっきの…どう思った?」

「流行ってるのかしらね。洗脳 辱」

「まさにお前の主君が受けているところだと思うぞ?」

そういってマクシムは上を指差した。なるほど。意識を失う直前に見たあれには、そういう意味があったのか。

「…早く、帰して。エリーゼのところに」

「そうか。意思は固まったか…いいだろう。いやな、お前が本当にその気になれば、すぐにでも目がさめるはずなんだが…まだ、やり残したことがあるらしい。解き明かしてない秘密。誰も知らない真実」

「…そんなもの、ない」

「探せ。そうだな…ヒントはくれてやろう」

マクシムはひらりと身を踊らせ、ウルスラの近くにしゃがみ込んだ。そして胸元から何かを取り外し、立ち上がってベルカに握らせる。

「…じゃあな」

「ばいばい。…師匠」

また助けられてしまった。そう思いながら手の平を開き、中身を確認する。

バッヂ……だった。どこかの機関のものらしい。どこかで見たような…それも最近…


そして全ての記憶が繋がり…

目を覚ました。

特に感動的なエンディングも無い、暴力的とも言っていい目覚め。夢とはそんなものだ。



Q.ベルカの正体は何でしょうか?




507: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:50:54.27 ID:s2ddKpWAO
_____ロウラン城 王の間

アクア「ふう……ふう……や…やっと外れた……」

カムイ「鎧が邪魔でしたね」

アクア「今に……ゼイゼイ……見てなさい……はあ…はあ…」

アクア「…!」

アクア「あなたが持ってたのね…そのペンダント。寄越しなさい」

ジャラ

バチィッ!

アクア「…っ…あなた、何かした?」

カムイ「…?いいえ。シグレさんから貰ってからそのままです」

アクア「ま……いいわ。ふふ、その方が却っていいかもしれないし…裸ペンダントってのもオツかしら…」

カムイ「…」

アクア「…悔しくないの?妹を殺した相手に、あなたは今から酷い目にあわされるのよ?」

508: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:51:20.65 ID:s2ddKpWAO
カムイ「…悔しいです」

アクア「じゃあどうして…そんな悲しそうな顔をするの?私を睨みつけて…裏切り者と、 売と罵ってもいいのよ。むしろそうすべきでしょう?」

カムイ「…いやです」

アクア「なぜ!」

カムイ「……罵られるべきは、私だからです。リリスさんを守れなかった。ヒノカさんを信じられなかった。自分の目を閉じて、考えるのをやめてしまった…」

アクア「そうやっていっつもあなたは…自分だけが傷つけばいいと思って…周りを傷つけ続けるのよ。そしてめそめそ泣く。いっつも」

カムイ「…はい。仰る通りです」

アクア「特に『あなた』は酷いわ。余りにも…弱すぎる。二つの中の一つさえ選べないあなたに…あなたの弱さに…」

アクア「…1度でもほだされたのが間違いだったわね。カムイ」

カムイ「…何の…事ですか?」

509: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:51:50.98 ID:s2ddKpWAO




ベルカ(ルーナ!…ルーナ!起きなさい!)ガスガス

ルーナ「…ったいわねえ…起きますよ。起きれば…んぐっ」

ルーナ(何すんのよ!びっくりしたじゃない!)フガフガ

ベルカ(…近くにいる人をそっと起こしなさい。時間がないから数人だけね)



ラズワルド(で、どうするんだい?小さなかわいい参謀さん?)

ベルカ(…いつか殺す)

ベルカ(いっせーのせで私がカムイ様に巻きついてるツタを切って、そのまま全員でアクアに斬りかかる。以上)

オーディン(ふっ…面白い。『紅い3月作戦』とでも名付けようか)

ルーナ(…なんで?)

オーディン(……何でもない)

ルーナ(…?)


カムイ「ふぁ……なんかぬるぬるします…」

アクア(調子狂うわね…こんなのでいいのかしら?)


510: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:52:32.17 ID:s2ddKpWAO
ベルカ(いっせーの…)

ベルカ「せ!」

ダッ

ルーナ「さっきはよくもやってくれたわね!?」

ラズワルド「女の子だからって今度は容赦しないよ!」

オーディン「悪しき者に裁きを…喰らえ!超究極爆絶必殺技 !『邪剣【夜】粹魔焼練』!!」

3人「うおおおおおお!!」

アクア「……ぐっ…!」

ドッ…

カムイ「わーお…息ぴったり」

ベルカ「…切れた」ザク

カムイ「…ありがとうございます」チャキ

アクア「……ぐ…」

カムイ「ぬるぬるするけど…ええい、上から付けちゃいましょう」パチン

カムイ「さあ、一転攻勢ですね。…覚悟してください」

アクア「…あなたは…誤解をしているわ」

アクア「私はあなたのためを思って…」

カムイ「…ふざけないでください」

アクア「…そう」

ズズズズズズ…

ラズワルド「な…」

ルーナ「つ、ツタがどんどん太くなってきたわよ!?」

アクア「…」タタタ…

ベルカ「ま、待て!…ツタが壁に…?このままじゃ逃げられる…な、カムイ様!?危険よ!」

カムイ「待ってください!」ダッ

ルーナ「お、追いかけるわよ!」

ベルカ「駄目よ。もう間に合わない…」

オーディン「ちっ…一旦引くぞ!」



511: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:53:02.14 ID:s2ddKpWAO
ラズワルド「止まった…ね。みんな、怪我はない?」

ルーナ「無いけど…せいやっ!」

ギン!



ルーナ「…このツタ、物凄く硬いわね。悔しいけど…私たちじゃどうにもならないわ。魔法で焼くしかない」

オーディン「ふっ…とうとう俺の」

ルーナ「あんたじゃ火力が足りないわよ。レオン様か…カミラ様か…あるいはエルフィに捻じ曲げてもらう…?」

オーディン「悲しいこと言ってくれるじゃねえか…レオンさまー。起きてくださーい。出番ですよー」

レオン「むにゃむにゃ………トマトがひとつ…トマトがふたつ…」

オーディン「よし、他を当たろう」

ラズワルド「エルフィ!ほら!ご飯だよ!起きて!」ユサユサ

エルフィ「」ガバ

エルフィ「夢…zzz」

ラズワルド「わわっ、寝ちゃ駄目だよ!」ユサユサ

エルフィ「…ごはん…」

ラズワルド「仕方がないね…何か食べる物は……」ゴソゴソ

ラズワルド「…?このツタ、もう実を付けてる。…これでいいかな?毒とか入って…」ブチ

ラズワルド「…どう思う?」

ベルカ「…その人に消化できないものはないわ」

ラズワルド「そりゃまた随分と。はいエルフィ。どうぞ」

512: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:53:37.83 ID:s2ddKpWAO


ルーナ「カミラ様!ホラ起きて!カムイ様大ピンチよ!」

カミラ「何ですって!?カムイは!カムイはどこ!?」ガバ

ベルカ(最初からこうすれば良かった…)

ルーナ「一人であっちに行っちゃったんです。止める間も無く…」

カミラ「…そう。ライナロックを持ってきなさい。私があなた達の失敗に懲罰を課す前に…」

ルーナ「は、はい!これ!」

カミラ「うふふ…いい子ね…」ヨシヨシ


ボッ

ズウウウウウン…


カミラ「もう一丁!」


ボッ

ズウウウウウン…


カミラ「…私もトシかしらね…」ガックリ

ルーナ「ま、まあ…調子が悪い時ぐらい、誰にでもあるわよ。元気出して」

エルフィ「…どいて下さい」

エルフィ「…破ッ!」




513: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:54:10.44 ID:s2ddKpWAO
エルフィ「…私が抑えてる間は通れます。早く通って下さい。長くは持ちませんから」

ラズワルド「素手でこじ開けた…何て力だ…」

オーディン「おまけに何か虹色のオーラまで出ている…?エルフィ、これは一体どういう」

エルフィ「早く!」

ルーナ「ほら!行くわよ!早く!」

ラズワルド「…迷ってる時間は無さそうだね。行こう!…?」

ベルカ「…私はみんなを起こす。カミラ様も慰めないといけないから。先に行って」

オーディン「そうか。おm

ルーナ「ほら!さっさと行く!」



カミラ「…時とは残酷なものね。幾らでもあるように思えて…後悔ができるのは、それが過ぎ去った時だけ。後の祭り」

ベルカ「…さあ、どうかしら」

カミラ「…私に、聞きたいことがあるのでしょう?ふふっ…可愛い子。何を思い出したのかしら…?」

ベルカ「…あなたはどんな夢を見たの?」

カミラ「………夢」

ベルカ「…?」

カミラ「…ふふっ…何でもないわ。こっちにいらっしゃいな」

カミラ「…どんな匂いがする?」

ベルカ「……スミレ…香水の匂い…他の花も…」

カミラ「それから?」

ベルカ「………汗と皮脂の匂い…」

カミラ「あら。やっぱり強行軍って嫌なものねぇ…」

ベルカ「…………エリーゼの匂い。少し…似てる」

カミラ「…そう。もう無いのかしら?」

ベルカ「…これ以上は意味のないこと」

カミラ「そう…ウルスラならあと3つは、挙げていたわね。あの人、『そういう人』だったから」

ベルカ「……!」

カミラ「…ゆっくり話しましょう。時間ならあるもの…ね?」



514: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:54:56.02 ID:s2ddKpWAO
_____ロウラン城 埋もれつつある廊下

オーディン「
その 美しさで 皆を魅了する
美と 権力に 執着した
悪しき王女。 三つの国を我がものとし、
支配をもくろむ、真の……黒幕だ!


オーディン「うーん…イマイチ決まらねえんだよなぁ…」

ルーナ「何がよ!ちっ…このままじゃツタで生き埋めよ!早く走る!」

ラズワルド「あっ!あれ、カムイ様じゃないか!おーい!カムイ様ー!」


_____ローラン城 世界の裂け目


タッタッタッタッタッ


カムイ(ここは…!)

カムイ(あれが『星の夢』…前に見た時と同じ…)

カムイ「アクアさん!どこですか!出てきなさい!」


ガッ


カムイ「あ…」ドッ

アクア「…最後まで、馬鹿ね。竜石を…返しなさい」

カムイ「だ……駄目…です…」

アクア「…これだけ溜まっていれば十分かしら?」


「READY……?」


アクア「…よいしょ。ここに乗るの?」

515: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:55:30.95 ID:s2ddKpWAO


「…えねるぎーノコリ……2ぱーせんと…EMPTY…」


アクア「これ。使えるかしら?」


「…OK…〉…ノコリ87ぱーせんと…再起動…」


アクア「…とうとう。とうとう終わりよ…カムイ。私の長い長い物語も…」

カムイ「…ふざけないで下さい!…何する気ですか!?元の世界に帰るなら…」

アクア「…【スレッドリムーバー】」

カムイ「…え?」

アクア「…いずれ、分かるわ」


「READY・〉」


アクア「…スレッドリムーバーを呼び出しなさい。異動先は…」

「あくせす権限が・ありません…ぷろせすノ・カンリョウは・フカノウ…」

アクア「…これがあればいいんでしょう?ヘッドギア。馬鹿馬鹿しい…」カチャ

アクア「…ねえ、カムイ。私はこれのためにリリスを殺した。一体…何が出来ると思う?」

カムイ「…なんでも出来る…」

アクア「そうよ。どんな夢でも叶う。文字通り夢の機械…代償さえ支払えば、ね」

カムイ「…駄目です!機械で叶えた願い……そんな物に、意味があるはずが無いじゃありませんか!」

アクア「…リリスの受け売り…でしょ?」

カムイ「…」

516: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:56:12.64 ID:s2ddKpWAO


「アナタの・ねがいを・ひとつダケ・カナえて・さしあげマス・・・>」


アクア「…最高管理者権限を私に寄越しなさい。幾らでも願いが叶うように」


「…OK>」


アクア「ふふ…これぐらいに役得、あったっていいわよね。…スレッドリムーバーを起動。…この世界をR板に」


「OK> 3・2・1・GO!!>」


ピピピピピピ…

カムイ「な…何を…」

アクア「…依頼スレに書き込みに行ってもらうのよ。ふふ……」


「…作業・20ぱーせんとカンリョウ〉」


カムイ「…結局…何がしたいんですか!?R板だのスレッドリムーバーだの…何のことを言っているんですか!!」ヨロ

アクア「……そうね。もう良いかしら…ほら、そこに山積みになってる古本…ハイドラがまとめて捨てようとしてたのね」

カムイ「……?」ガサ

カムイ「こ……これは……私……?やたら薄い本ですね…」ペララ

カムイ「…か……は……」ペラ

アクア「…私はね、この世界を…」

カムイ「……い……いいい……」バサッ

アクア「…そんな世界に変えるの」

カムイ「嫌ですよ!!そんなの!だ、だってコレ……道徳とかモラルのカケラも無いじゃ」

アクア「…無くなるのよ。もうじきね。この世界から道徳という概念が無くなる。ほら、これを見なさい?」ポイ

カムイ「…携帯電話…」キャッチ

カムイ「……ss…」スッスッスッ

カムイ「な………なるわけないじゃ無いですか!?そんな事!そもそもそんな文章力が有ったらこんなゴミみたいなの書いてませんって!無理ですよこんなの!」

アクア「…やるのよ。否応無しに」

517: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:56:44.84 ID:s2ddKpWAO
カムイ「う…嘘です!そんな…だってアクアさんがこんな事言うわけないじゃ無いですか!『逆…」

アクア「…無断転載禁止よ。ふふ…意外と面白そうね…これ」

カムイ「嘘です!嘘に決まってます!そんな…本心で望んでるわけじゃ無いでしょう!?何か事情があって…」

アクア「…」

カムイ「教えてください!」

アクア「……言えないわ」

カムイ「な…や、やっぱり!教えてください!」

アクア「…の…『呪い』…げほっ……」

カムイ「だ、大丈夫ですか!?」

アクア「げほっ……あのね…馬鹿すぎて忘れてるのか知らないけど…私は妹の仇なのよ?何で心配なんかしてるの…?」

カムイ「…過ぎたことは仕方ありません。…教えてください。償いのために」

アクア「………い……ゲホッ…言えないの。ふふ……当ててみなさい?無理だとは思うけど…」

カムイ「無理じゃありません。私は、あなたととても長い時間共に過ごしてきました。今となっては私が一番長くなってしまったようですけど…少しは分かっているつもりです。アクアさんの事」

アクア「…あなたは知らないわ。私のことなんて、何一つ…自分のことだって何も分かっていないくせに」

カムイ「…」

カムイ(…アクアさんが引き起こした一連の事件をまとめると、こうなります)

518: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:57:22.38 ID:s2ddKpWAO
?ヒノカの洗脳

?リリスの殺害

?【星の夢】の強奪

カムイ(これは全て、『世界を変える』ために行われたこと。ここまでは簡単)

カムイ(ではなぜ『世界を変える』必要があったのでしょうか?)

?アクアは色狂だった

?誰かに命令されている

?その他

カムイ(?なら絶望です……?と仮定すると、『誰か』を断定する必要が出てくるわけです。今までアクアさんに接触のある人物で、アクアさんを操る能力がある人物…)

?ハイドラ

カムイ(…これしか考えられません。現にガロン王や前のギュンターさんも操られていましたからね)

カムイ(…しかし、この世界のハイドラはそこまで切れ者ではありませんでした。第一に、彼は先程アクアさんに殴られて気絶していましたから、黒幕というのはあり得ません)

カムイ(…つまり…)

カムイ「…アクアさん。やはり私に隠し事は効きませんよ」

アクア「…そう?」

519: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:57:56.07 ID:s2ddKpWAO
カムイ「…あなたは、前の世界のハイドラに操られてこんな事をしている。…そうですね!?」

アクア「…」

アクア「…あなたには失望したわ」

カムイ「え……違いますか?」

アクア「全然違うわね。ハイドラがそんな事を望むと思う?あいつが望むのは生きとし生けるものの全てを殺すこと。日がなxxxxばかりさせることじゃないでしょ」

カムイ「ぐ…考え直します」

カムイ(方向性は間違っていないはずです…)

アクア「…ペンダント」

カムイ「…え?」

アクア「…ヒントはその本の山と、あなたの首にかかってるペンダント。これで分からなかったら…もう駄目よ」

カムイ「本って…これ…ですよね。やっぱり。む…む…いやー分からないです」

アクア「あのね、片目で表紙だけ見ていても分からないわよ?開いて、中身を見るの。何冊も読めば自ずと分かるわよ」

カムイ「ええ…でも…」

アクア「…いいえ、それは参考にならないわ。その左手に持ってる…」

カムイ「…え…やたら    が大きい私とカミラ姉さんが複雑に絡み合ってる本ですか…?」

アクア「…それよりそっちね。その右手にある山の一番上にある…」

カムイ「………狐…と狼………野獣と化した野獣……世界って広いんですね…確かエポニーヌさんが縛って捨ててた資源ゴミに混ざっていた覚えがありますけど」

アクア「…分かった?」

カムイ「…分かりました。アクアさんは…」

カムイ「あなたはやはりハイドラに操られていたのです。ヒノカさんを始めとして、みんなを特殊な 癖に目覚めさせることで出生率を暴落させ、GDPを…」

520: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:58:31.27 ID:s2ddKpWAO
アクア「…馬鹿なの?」

カムイ「でも!総人口は国力に直結します!」

アクア「…違うわ。もっとよく考えなさい?」

カムイ(…よくよく考えればそうですね。別に前者でも出生率は下がりますし…)

カムイ(…私とカミラ姉さんには無くて、ニシキさんとフランネルさんにあるもの…とは…?)

カムイ「……分かりません」

アクア「…例えが悪かったかしら?私の望む世界は…どちらも選ばなかったあなたの世界でしか、実現しない」

カムイ「……??」

アクア「…邪魔が入ったようね」

タッタッタッタッタッ

オーディン「ふう…ふう…だ、大丈夫ですか!?怪我は…」

ルーナ「うわっ…何よここ…落ちたらどうなるのよ…」

ラズワルド「…っ…あれが…アクア様…あの機械の攻撃は僕らが食い止めます。カムイ様…その合間を縫って攻撃してください」

アクア「…邪魔」

オオオン…

グワッ!

521: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 00:58:59.86 ID:s2ddKpWAO
ルーナ「来るわよ…せーのっ、A.T.フィールド!」

シュゥゥゥゥ…

オーディン「長くは持ちません!カムイ様、早く!」

カムイ「………」

カムイ「…すみません、みなさん。一旦引いてください。私たちはまだ戦うわけにはいかないのです。真実を知らなければ…」

ルーナ「な…あんた、何言ってんのよ!ばっかじゃないの!?」

カムイ「…アクアさん、やめてください。これ以上近くつもりはありませんから。…今の所は」

アクア「…」

カムイ「……私は、己の軽薄さのために何度も仲間を失いました。仲間を…子供達を…先ほどはヒノカさんさえ、見捨てそうになりました。私のことを第一に考えてくれた人なのに…私は裏切った」

カムイ「……考えさせて下さい。まだ時間はある…少しは。そうですよね?」


「50ぱーせんと・カンリョウ・〉」


カムイ(とは言っても…手がかりがペンダントと…本だけ、ですか。せめてペンダントの意味が分かれば…)

522: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:00:03.02 ID:s2ddKpWAO
カムイ(…ペンダントはアクアさんの力を補助するための道具です…アクアさんの力について、私が知っていることは?)

?竜石を作り出す

?戦意を喪失させる

?ハイドラを封印する

カムイ(この三つですね。何か共通点は…?)

カムイ(………竜石は、私の中の『憎悪』の感情を物質に定着させたもの。戦意は敵への憎しみから表れます。ハイドラは……何もかもを恨み、妬み、絶望していました)

カムイ(ペンダントは…『憎悪』を操る道具?一応説明はついています)

カムイ(そして…)


アクア『あなたが持ってたのね…そのペンダント。寄越しなさい』

ジャラ

バチィッ!

アクア『…っ…あなた、何かした?』

カムイ『…?いいえ。シグレさんから貰ってからそのままです』




523: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:00:34.14 ID:s2ddKpWAO

カムイ(ペンダントは、あの時アクアさんにはっきりと【拒絶】の反応を示しました)

カムイ(これらの仮説から導かれるものは…)

「アクアはハイドラに呪われている」

カムイ(…アクアさんは前の世界のいつかの時点で、ハイドラの呪いに汚染されていました)

カムイ(汚染とは即ち憎しみ。ハイドラの呪いを浄化することで、自分がそれを取り込んでしまったのでしょう)

カムイ(ペンダントに拒絶されたのも納得がいきます。本来あの魔法具は透魔竜の暴走を鎮めるための道具…透魔竜が触れることを好むはずがありませんからね)

カムイ(しかし…世界を変えることは、世界を終わらせる事と相反するのでしょうか?その答えがこの本にあります)

カムイ(これらに登場する『私達』は、さしたる困難もなくハイドラを倒し、 蕩に塗れた 生活を送っているように見えます。つまり…)

カムイ(……世界を変える事は世界を終わらせないことに繋がるということになります。たとえ、それが私達の望まない世界だとしても…少なくとも『絶望の未来』だけは回避できるという事ですか)

524: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:01:15.45 ID:s2ddKpWAO


「100ぱーせんと・カンリョウ・〉ホントウニ・ホントウニ・イインデスネ・〉」


アクア「…時間よ。さあ、どうするの?力づくで止めてみる…?何度も言うように、これはあなた達のために…」

カムイ「……アクアさん」

アクア「…何かしら?」

カムイ「……なぜ、私達を信じてはくれなかったのですか?私たちは、ハイドラに蝕まれたあなたを…」

525: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:01:47.85 ID:s2ddKpWAO
カムイ「助ける事だって…」

アクア「…馬鹿ね。本当に馬鹿。さあ…どうするの?」

ボタンに、指をかけるのが見えた。あと何分の1グラムかの圧力がかかるだけで、この歪んだ世界は、さらにその歪みを増すことになるだろう。

カムイ「…あなたを、止めます。救ってみせる…」

裸足の足に、冷たい埃と小石がきつく食い込む。節くれだった剣を抜くと、それは私の有り余るエネルギーを吸って、ぼうと光を帯びる。

カムイ「ルーナさん。ラズワルドさん。おでんさん。…手伝ってくれますね?」

ルーナ「もちろんよ!そのために頑張って来たんだから!」

ラズワルド「一体どこまで役立てるか分からないけど…できる限り手伝えるといいな」

オーディン「いやおでん……ふっ…どうやら時は満ちたようだ。来るべき暗黒の予言g」

アクア「…なぜ?私はあなたを裏切った。あなたの妹を殺した。あなたの心につけ込んで騙した。おまけに、治療の見込みの無い、致命的な呪いに侵されている。あなたは私を殺すべきよ」

淡々と続けた。アクアさんはいつもそう。初めて会った時も。初めて顔を触った時も。結婚の報告に来た時も。

526: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:02:13.99 ID:s2ddKpWAO
そして今は、その有機質な──
確かに有機質な──機械の上に鎮座して、私を見つめる眼差し。

問いかけるように。あるいは射竦めるように。何も考えていないような、それでいて私の全てを知っているような目。

カムイ「できません。私はあなたを助ける」

喉に張り付く声を、力ずくでひり出す。1度目は掠れてもいい。2度目は大声で。

アクア「…陳腐な表現ね。陳腐という形容が陳腐なほど陳腐だわ」

蒼を湛えた瞳に、揺らぎは無い。

カムイ「始めましょう。ショーの時間です」

左手をそっと胸に当て、ひんやりとした鎖に指を絡ませる。その先に下がったペンダントを手繰り寄せ、ぎゅっと握りしめる。

527: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:02:47.23 ID:s2ddKpWAO

ユラリ ユルレリ

風を受けた燕のように、目標に向かって突進する。

泡沫 思い 巡る 秤

その刹那、機械から放たれる無数の光弾。片っ端から薙ぐ。叩き落とす。あるいは避ける。

伝う 水脈

動かない表情。我ながら目を見張る迫る私を見つめ、推し量る目。

その手が 開く 明日は

突然、行く手を阻まれる。無機質な透明の壁…?

「あああああああああっ……」

誰が叫んでいるのかも分からない。ただそこに剣を叩きつけ、持てる力の全てを右手に注ぎ込む。

「ああああああああああ!!!!」

手応えは段々と強まっていく。しかし、それが臨界点へ到達した途端、呆気なく割れる。

そして一歩踏み出し、飛び上がってアクアのヘッドセットを、開いた方の手で掴む。

抵抗は、ない。身をよじることも、瞬きさえ無かったのだ。

そして置き土産とばかりに……その円柱の胴体に、深い斬撃を刻む。亀裂はその中心まで達し、竜石がころりと転がり落ちる。



528: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:03:14.08 ID:s2ddKpWAO
カムイ「…どうですか?」

アクア「………ぁ…よくも…」

カムイ「…もう、機械は使えないはずです。投降して下さい。今なら…」

アクア「…なんて事……ヲ…シテ……くれたの……」

カムイ「…アクアさん?」

その機械は致命的な一撃を見舞われ、完全に停止した。筈だった。

アクア「…ァ……ぁ…ガ……」

カムイ「…!?どうしたんです…」

オーディン「危ない!」

カムイ「きゃあっ!」

だが、それは間違いだった。機械にとって未知のダメージは、思いもよらない結果をもたらそうとしている。【星の夢】は今や一つの生命体として、かつての主人を取り込み、それにとっての外敵を滅ぼさんとしているのだ。

529: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:03:50.08 ID:s2ddKpWAO
アクア「……私……は……ガ…ッ…!…」

カムイ「そんな…し、しっかりしてください!今助けます!」

オーディン「待った!いまは危険です!噂には聞いていたが……これが【星の夢】か。はっきり言って最悪の事態ですよ、カムイ様」

カムイ「知ってるんですか!?」

オーディン「…ええ。大体ですがね。魂の契約の所産により、如何なる願いも、望みも叶う悪魔の絡繰。まさか本当にあったとは…」

カムイ「契約…?聞いてないですよ?」

オーディン「…身も蓋もない言い方すれば、エネルギーを馬鹿食いするって事です。何でもいいんですけどね。電気でも、熱でも、放射能でも、なんなら魔力でも。でも…」

カムイ「でも!?」

オーディン「………これが悪魔の機械と呼ばれる所以が、これなんです。こいつは、最終的に『記憶』を要求するんですよ。使用者の記憶」

カムイ「記憶が…力…?」

カムイ(そうか。シグレさんが言っていた…)


シグレ『記憶は…命より重い』


オーディン「改変されてません?…とにかく、あなたの一撃で【星の夢】はコントロールとエネルギーをいっぺんに失ったことになります。…それ、被ってみたらどうですか?コントロールが戻るかも…」

カムイ「…」カチャ

ボンッ!

カムイ「きゃっ!」

530: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:04:20.41 ID:s2ddKpWAO
アクア?「…ァ…」

アクア?「…私は…アクア……?ハイドラ…?それとも……いいえ、もはやどうでも良い事…ね」

カムイ「な…」

アクア『……やっと…出てこられた…ふふ…あの女…よくも私をここまで…』

カムイ「あ、アクアさんを返しなさい!ハイドラ!人の体を乗っ取るなんて…卑怯ですよ!」

アクア『…?私はアクア……私は…汚染されたアクア………コレハ・〉あくまで私自身の判断…』

カムイ「……救ってみせます。少しでも、本当のアクアさんが残っているなら…」

アクア『まだ・分からないの?ホントウノ私……そんなもの・ナイ〉』

カムイ「……あなたが望むのは…世界の破滅、ですよね。なら、それを止めることが…アクアさんへの贖罪になります」

アクア『止める…?・外敵と判断・〉最終ぷろぐらむをアンロック……・〉……起動。これより、あなたたちの排除に入るわ。悪く思わないで』

カムイ「……今度こそ…今度こそ…!私たちの…いいえ。私の最後の戦いです!」

531: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:05:12.38 ID:s2ddKpWAO


終章 Mind Controlled By A Program


カムイの送る言葉は、叫びは、もう彼女には届かない。全てを失い、暴走するかつて王女だった悲壮な骸…

亡骸 埋れ 狂い果てて
水面に 映る 我が意を 誰が 知るや


『カムイ様……』

カムイ「リリスさん…!?一体…」

『…化けて出ました。(リアルに)時間がないのでかいつまんで説明しますよ』

『【星の夢】の力だけで、すぐさまこの世界を滅ぼすことはできません。いくらアクア様の記憶のエネルギーを持ってしても、せいぜいここら一帯を吹き飛ばすのが山です」

『今のところ、やつが使えるのは亜空間転移システムだけ。【英雄の召喚】。私の妨害が効いているうちは、ね。便利ですよ?この体』

『と言っても時間の問題です。【星の夢】が自己を完全に修復したなら、もう打つ手がなくなります』

532: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:05:38.38 ID:s2ddKpWAO
カムイ「そ、それって…」

『…具体的にはこの星全体を核融合エネルギー化させる事で第3型超巨大ブラックホールを形成し、時間軸をへし折ってスレッドをすぐさま停止させます』

カムイ「そんな…」

『…アクア様は…いや、ハイドラか、もしくは【星の夢】と呼ぶべきでしょうか?今となっては違いがありませんから……そうやって世界を滅ぼした後、元の世界に帰ってハイドラと融合するつもりのようです』

カムイ「そ…そうなったらもう…」

『ええ。全ての異界は絶望的なな危機に晒されるでしょう。【星の夢】は文字通り、どんな夢も叶えてくれます。神器で対抗できる相手ではありませんから』

カムイ「…私が食い止めます」

『…あなたを止めるためなら、【星の夢】はどんな手でも使ってきます。奴に感情やプライドはありませんから』

カムイ「…覚悟はできています。それにこのペンダント……私は、一人ではありませんでした。ずっと」

533: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:06:16.36 ID:s2ddKpWAO

『…?』

カムイ「……かわいそうに、アクアさん。ずっと……ずっと一人ぼっちだったんです。何千年もの間…繰り返し…繰り返し生まれ変わり続け…もはや、自分が何のために生きているのかも忘れてしまった」

カムイ「私は……僕が……あたしが……俺が……」

カムイ「この夜が明けるその前に…永遠なる…眠りを!!」



アクア『……アクセス権限オール・アンロック・〉……銀河最強の騎士達を…ここに召喚するわ…』

?「…」ユラア…

?「…」ユラア…

?「…」ユラア…

カムイ「うっ…これは…」

カムイ(と…とても太刀打ちできる相手じゃない…!1人ならともかく、複数なんて…!)

透魔兵「…」ユラア…

カムイ「と、透魔兵まで…あんなにたくさん…」

透魔兵「…」ニヤ

ポイッ

カラン

カムイ「…?武器を…捨てた?」

534: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:06:44.74 ID:s2ddKpWAO

ハイドラ「ふっ…私も、これぐらいなら手伝いができるぞ。我が娘よ」

カムイ「お、お義父さん!?一体…」

ハイドラ「…私たちは敵扱いだからな。奴らと合わせて50人までしか同時には出撃できん。46人連れてきたから…残りは何人だ?ん?」

カムイ「えー…4人ですかね?」

「アクアも合わせるから3人だよ、姉さん」

カムイ「た…タクミさん!皆さんも!目が覚めたんですね!」

タクミ「まあね。うっ…あいつらすごい気迫だ…空気がビリビリする。…まあ雑魚は僕たちで何とかするよ。姉さんは…」

カムイ「…はい。ありがとうございます」


カムイ「…アクアさん。もしあなたが少しでも残っているのなら…謝らせてください」

カムイ「ごめんね、アクア。僕は…知らなかったんだ。君がタクミの呪いを引き受けて…こんなにも苦しんでいたなんて…勿論、無知は免罪符の代わりにはならない。だから…」

カムイ「悪かったわね。あなたが消えたとき、てっきり逃げたのかと思ったもの。でも未来永劫苦しみ続けるなんて…あんまりね」

カムイ「……ハイドラを倒さない限り、あなたの物語は終わらない。そういう呪いですか。あなたが生を繰り返すたびに…私も苦しみ続けてきました。この一撃には…」

カムイ「私たちすべての思いが詰まっています。どうか…受け取ってください」

535: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:07:13.58 ID:s2ddKpWAO
___________
________
……

フェリシア「カムイ様…起きて下さい…カムイ様…」

フェリシアさん…?

フェリシア「起きてください…カムイ様…」

ああ、私…死んでしまったんですね。また最初から…やり直し、ですか。

フェリシア「うぇっ……カムイ様ぁ…朝ですよ……起きてくださいよぅ……」

えへ…苦しいですよ。あれ…?何だか?ぺたが温かい…

カミラ「フェリシア…残念だけど、もう…」

それに…何でみんな泣いてるんですか?

フェリシア「そんなこと言わないで下さい!えうっ……カムイ様ぁぁぁ……」

カムイ「起きますよ。起きますから泣かないで…へぶぅ!」

フェリシア「うう……良かった…良かったです……生きてて…」

カムイ「く、苦しいです……」

536: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:07:40.82 ID:s2ddKpWAO



以下、戦績と後日談



537: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:08:22.06 ID:s2ddKpWAO


ドジな整備兵 フェリシア

戦争終結後、正式に工兵部隊に配属される。なぜか機械をいじっている時だけはドジを踏むことが無かったが、たまにお茶を汲んだりするとそれだけで一個大隊が全滅したという…



538: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:09:02.07 ID:s2ddKpWAO


平凡な侍 リョウマ

特に語ることもなく、平凡に生き、平凡に国を治め、平凡に死んだ。普通が一番。お陰で後の、白夜史選択の学生たちに大いに恨まれることとなったが、そんな事は彼の知ったことではないのだ。


539: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:09:30.73 ID:s2ddKpWAO


やっぱコタロウはxx カゲロウ
&駄目になった忍 サイゾウ

結局よりを戻したらしい。ただ不幸なことに子宝に恵まれず、5代目サイゾウはミドリコが継ぐことになりそうだ。というかスズカゼ出すの忘れてたね。



540: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:10:00.99 ID:s2ddKpWAO


ひどい役回り ヒノカ

戦前とは打って変わってモラリズムの化身と化し、専ら兄の補佐役として国に貢献した。しかし、時折思い出したように女の子の尻を追っかけ回していたのは公然の秘密だ。



541: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:10:35.47 ID:s2ddKpWAO


ペインに蛇毒乗せたい アサマ

セツナが抜けた穴を何とか埋めようと頑張るも、自慢の毒舌が全身に廻り死亡。



542: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:11:12.49 ID:s2ddKpWAO


(画面に)囚われし瞳 サクラ

戦争終結後、何もかもほっぽり出して異界に渡る。課長の右腕になったとも、YouTuberになったとも言われているが全て遠い国の又聞きの噂であった。


543: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:11:44.28 ID:s2ddKpWAO


すまぬ完璧 ツクヨミ

サクラの失踪後、暫しタクミ王子に仕える事となった。成人後は修行僧として各地を廻り、族長としての器を求めたが、女性に対するトラウマと誤解は長い事消えることがなかったという。


544: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:12:25.33 ID:s2ddKpWAO


ピンクの悪魔 エルフィ

突然失踪した主君を追って、旅に出る。が、途中に立ち寄った呆れかえるほど平和な国の軍隊に仕官し、盆と正月を除いてそのまま帰ってこなかったという。体重も20キロ増えた。



545: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:12:55.07 ID:s2ddKpWAO


星条旗よ永遠なれ ハロルド

周囲には祖国に帰るとだけ言い残し、姿を消す。スチームパンクの力は偉大である。



546: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:13:21.41 ID:s2ddKpWAO


ずっこけ三人組
ラズワルド&ルーナ&オーディン

晴れてアカネイアに帰還する。ルーナについては一つ小噺を拵えていたんだけど披露できなくて残念無念。



547: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:13:50.39 ID:s2ddKpWAO

最後まで知らぬふり ジョーカー
&一転攻勢メイド フローラ



氷の部族 村の正門

ジョーカー「…じゃあ、な」

フローラ「…忘れ物は無い?」

ジョーカー「…もう5度も確認させられたからな」

フローラ「…ねえ…本当に、ここに住む気はないの?良いところよ?夏は特に」

ジョーカー「…みんなに宜しく行っとこう。じゃあな」

スタスタ

フローラ「ええい…ここで言わなくてどうするのよフローラ…言っちゃえ…よし…」

ジョーカー「あ、そうだ」クルッ

フローラ「!?」ビクッ

ジョーカー「今年から地方豪族の統治方式が変わるそうでな。たしか村ごとに地頭職を設置して、徴税やなんかを一括して任せるようになるそうだ」

ジョーカー「ガロン王も丸くなったもんだよな。近々王位を譲るなんて話も出てるし…」

フローラ「……なりなさいよ。役人」

ジョーカー「ふ…最初から言やあ良いんだよ」


カムイの去った今、王城に仕える意味の無くなったジョーカーは猛勉強の末に、地方役人として取り立てられ、残りの一生を氷の村という僻地中の僻地に捧げることとなった。実際その手腕には目を見張るものがあり、人々は彼をその地位に付けることを惜しんだとか。



548: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:14:28.75 ID:s2ddKpWAO
我、剣を極めし者 カザハナ
&野望の王子 レオン


_____暗夜王国 クラーケンシュタイン城 執務室


レオン「ふう…ひと段落ついた。何か食べようか」

ピポパ

レオン「うん。早めにね」ガチャン

レオン「はあ…」

ガシャアン!

レオン「早かったね。そこ置いといて。あとで食べるから」

カザハナ「…久しぶりね、レオン王子。いや、もう王様なんだっけ」

レオン「……お前は…ああ、サクラ王女のアレか。窓ガラスは直していってくれよ」

レオン「何しに来た?昔話…じゃないよね」

カザハナ「…あなたを殺しに来た」

レオン「…そうか。あと5分もすればメイドがサンドイッチを持ってくるから、さっさと済ませてくれ」

549: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:15:06.25 ID:s2ddKpWAO
カザハナ「…」

レオン「でも、僕を殺しても戦争は起こるよ。君にはもう止められない」

カザハナ「…兄を裏切り…父を殺し…それがあなたのやりたかった事なの?腐った貴族たちの傀儡になるだけの…」

レオン「…残念ながら、これはハイドラの呪いなんかよりずっと強い。本当に恐ろしいのは…人間なんだよ」

レオン「カムイ姉さんが帰ってから…みんな変わってしまった。家臣は半分以上居なくなるし、エリーゼも失踪するし、やっと正常化した国交もギクシャクしだしたし…」

カザハナ「…昔のあなたなら、そんな情けないカオなんかしなかった。のらりくらりと言い訳しながら、心の中で10も策を練っていた。このスコップだってそう」

レオン「…?何だい、それ」

カザハナ「……忘れてしまったのね。あんなに好きだったのに」

レオン「トマト…か。最近は土をいじる暇も無くてね」

カザハナ「……逃げよう」

レオン「え?」

カザハナ「私と一緒に、逃げよう。ここにいたら、いつかあなたは殺されるもの。どこか、追っ手の届かない所で…」

レオン「…残念だけど、今の僕には奥さんが3人もいるんだ。貴族に押し付けられてね…愛していないからといって、捨ておく訳にはいかないんだ」

カザハナ「…」

コンコン

ガチャ

レオン「…まあ、何か食べながら話そう。早く終わる話じゃない」

カザハナ「…」


550: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:15:45.45 ID:s2ddKpWAO


穏健な暗夜王 マークス
&実装はまだかのう婆さんや シャーロッテ

押しかけてきたシャーロッテとともに僻地の村で早めの隠居生活を楽しんでいたが、レオンが繰り返し謝罪と王位の継承を述べてきたために仕方なく戴冠式を行う。その政治的手腕は時に見るものを唖然とさせ、やはり後世の受験生を苦しめ続けたという。


551: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:16:12.92 ID:s2ddKpWAO

自覚せし人形 ベルカ
&あなたのための花 エリーゼ

戦が終わると、ベルカはひっそりと姿を消した。僅かな手がかりをもとに、エリーゼもまた跡を追う。それが暗夜王室の崩壊に繋がったことは、後世でも指摘されている。

別の伝承によれば、その後エリーゼは国に帰ってきて、1貴族として無名の貴族と結ばれたらしい。その家系は長いこと、その高い素質故に王室の魔導師として重宝された。

しかし、また更に別の、あまり信用に値すると言えないような資料もある。グルニア王国の民家のタンスの奥の奥に眠っていた、とある木箱。マリーシアの婆さんのの嫁入り道具と一緒に入っていたとか。中には薄汚れた、灰色の細長い布切れが入っているだけ。婆さんの話によれば、それははるか昔、エリーゼが肌身離さず身につけていた物だという。

箱に書かれた文字は、既に風化して読むことができない。ただ、布切れの一文字の刺繍だけは、はっきり残っている。

『∞』

と。


552: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:17:16.62 ID:s2ddKpWAO


弓殺しー。 セツナ
&悲壮な骸 アクア

_____シラサギ城 アクアの私室


コンコン

カムイ「アクアさん、居ますか?」

セツナ「…入って、どうぞ」

セツナ「障子をノックするのはどうかと思います」

カムイ「えへ…つい、ですね。…何をされてるんですか?」

アクア「…」ペタペタ

セツナ「…お絵かきです。指の運動は頭に良い影響があるって、お医者さまがおっしゃってましたから」

カムイ「…へえ…これは…セツナさんですね。凄い…何というか、鬼気迫るモノを感じます」

セツナ「何の用ですか?」

カムイ「…今夜、発ちます」

セツナ「そう…ですか」

カムイ「…はい。できれば連れて行きたかったのですが、今回ばかりは戻ってこれないでしょう」

553: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:17:49.80 ID:s2ddKpWAO
セツナ「そう…アクア様の面倒は私がみます。ほら、一応主君ですから」

カムイ(……ヒノカさん、よく異動を呑みましたね)

アクア「…?」

セツナ「…妹みたいなものでもあります。私がしっかりしなくちゃ…この前2人して落とし穴に落ちた時は、本当に危なかったから」

アクア「…」ニコ

カムイ「……奪い去られた記憶…」

セツナ「…あるいは、無くしたほうがよかったのかもしれません。何百年という記憶の重みは、一人の人間が背負うには余りにも重すぎますから」

カムイ「やたら雄弁になりましたね。この前よりしっかり者に見えますよ」

セツナ「…お姉ちゃんですから」

カムイ「フフ…」

カムイ「…アクアさん?」

アクア「…?」

その時の、夕日を背にしたアクアさんの笑顔は、今でも私の目に焼き付いています。今まで決して見せることがなかった、アクアさん本来の笑顔。幾重にもこびりついた汚れに、歪まされていない微笑み。

それは呆けてしまったひと特有の、意味のない、腑抜けた空笑いだったのかもしれません。それでも貫く様な怜悧さと、射すくめる様な冷ややかさの残滓が、そこにはあったように思います。


アクアの記憶は最後まで残ることはなかった。【星の夢】は、彼女から全てを奪っていったのだ。過去も、未来も、その身さえ、全て。




554: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:18:28.42 ID:s2ddKpWAO

亡霊と化した妹 リリス
&未来を繰り返す王女 カムイ


無限渓谷

リリス『…遂に…帰ってしまうのですね』

カムイ「ええ。今まで本当にありがとうございました。リリスさん。おでんさん」

オーディン「ふっ…礼を言うのはこちらの方だ。あなたとリリスのおかげで、俺の

リリス『時間がありません。おでんさん、最終チェックは済みましたよね?』

オーディン「むっ、終わってるに決まってるだろ。俺はな、そういうとこは抜かりがないんだ」

リリス『ふふ、知ってます。実体がない私の代わりに、スパナを握ってくれたこと本当に感謝しています』

オーディン「えっ…それってやっぱr

リリス『出発まであと1分です。カムイ様、どうするかは分かっていますね?』

カムイ「はい。何度も練習しましたから」

リリス『計算によれば、改造したシューターが時速88マイルに達した瞬間、一点に集約されたダーク・エネルギーでこじ開けた僅かな亀裂にバンパーの頭をねじ込めます』

リリス『この機を逃せば、次のチャンスは1145141919年後…一番早い秘境でもお婆ちゃんになっちゃいます』

リリス『お土産は持ちましたね?』

カムイ「あ」

リリス『まあ良いでしょう。…時間です。カムイ様…あなたに会えて、本当に良かったです』

カムイ「ええ。私も」

バタン



ババババババン!



オーディン「成功みたい…だな」

リリス『…帰りましょうか』

オーディン「お土産…忘れてっちまったな」

リリス『…結構高かったんですけどね』


オーディンはその後、宮廷魔導師として研究に専念したが、その保守的な風潮に嫌気がさして祖国に帰った。
リリスは異界に渡り、配管工のために喋るポンプだのオバケを吸い取る掃除機だのの開発に携わったらしい。


555: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:19:34.45 ID:s2ddKpWAO
_____透魔王国 ロウラン城 王の間

「…久しぶりですね、ハイドラ」

最後に彼を見たのは、いつだっただろうか。リリスさんが自殺した時?私が自殺した時?

「おお…カムイ…よく帰ってきてくれたな…」

嬉しそうな声色とは裏腹に、玉座に腰かけた彼の表情に揺らぎは無い。

「お前を喜ばせるために、沢山の宝を集めた のだ。見てくれ」

透魔兵たちが、次々に財宝を運んでくる。その中にはかつて共に戦った顔が、自らの手で倒した顔があった。

「どうだ…喜んでくれるか…?」

ゆっくりと首を振って、もう一度ハイドラを見つめる。がっくりと肩を落とし、ため息をつくハイドラ。

556: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:20:07.09 ID:s2ddKpWAO
「…一体、どれ程の異界を滅ぼしたのですか?どれ程の人間を、生き物たちを、あなたは屠ってきたのですか?」

「…必要な犠牲だ」

この人は、狂っている。

「…もし、私があなたを殺そうとしたならば、あなたはどうしますか?」

私も、狂っているのかもしれない。セツナさんの言うように、時の重みに耐えかねて。

そっと、腰の剣を外し、掲げる。

「…無理であることは分かっています。今の私はどう頑張っても、あなたに傷一つ付けることはできない」

剣を捨てる。節くれだったそれは、石の床に当たって桁ましい音を立てる。

「…だから、話をさせて下さい」



私は話をした。時間はいくらでもあったから。

557: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:20:42.46 ID:s2ddKpWAO


あの時白夜を選び、ガロン王の凶刃に倒れた僕。

あの時暗夜を選び、タクミの矢に貫かれて死んだわたし。

あの時白夜を選び、戦争に勝ったにもかかわらず、自らの良心に苛まれ、自ら命を絶ったあたし。

あの時暗夜を選び、戦争に勝ったにもかかわらず、最後は暗殺者の手に掛かって殺された俺。

あるいは、自らの種族を守るために、地龍たちを束ねる王として君臨した王。彼が優しさを失ったのは、いつからだったろうか?

あるいは、竜たちを守るために、人間を滅ぼすという恐ろしい計画を作った王。彼の心はいつから歪み、矛盾したものになっていったのだろうか?

あるいは、妻を蘇らせる。その為だけに記憶を捨て、過去を忘れ、守るべき子供達すらその手にかけようとした男は?

あるいは、国のために魂を悪魔に捧げた少年は?

あるいは自らの死をもって、運命を変えた少女は?

558: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:21:19.01 ID:s2ddKpWAO
「…彼らは…恨んでいたと思いますか?」

「止めろ…」

「運命を呪い、毎日を退廃の色に染めていたと思いますか?」

「やめろ…!」

「…彼らには……愛するものがいたと…思いますか?」

「黙れええええええええええ!!!!!私は…私はあああああああああ!!!!」

顔を覆い、崩れ落ちるハイドラ。

そっと近づき、私は手を伸ばす。

何かを恐れるかのように、震える男の背中にそっと手を置き、こう呟く。

「私は…あなたを許す。未来は変えられる。だから…」

そっと顔を上げたハイドラの顔が、驚愕の表情に染まる。ぽたぽたと赤く染まる。

同時に、腹部に焼け付くような鈍痛が走る。徐々にそれは剣の形になり、鈍痛は激痛へと変わる。

559: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:21:48.80 ID:s2ddKpWAO
引き抜かれた剣は、もう一度刺される。今度はもう少し下の方に。正確には下腹部のあたり。

カンナが生まれてくるはずだった場所。

ああ、そうだ。これは報いだ。

腕をついて上体を起こすと、カンナの顔が見えた。手には血染めの【夜刀神】。

「ねえ、ハイドラさん…?」

視界が真っ赤に霞んで、よく見えない。ハイドラが立っているのか、それともしゃがんだまま震えているのか。

「憎しみでは…何も変わりません…」

エリーゼさん、マネしてごめんなさい。そっと、心の中で詫びて、続ける。喉から血がせり上がってくるのを感じながら。

「大切なのは…温かい手と…涙………で……」

ぷつん。目の前が真っ暗になって、私はまた死んだ。ハイドラはどう思うだろう?それだけが心配だった。

560: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:22:19.97 ID:s2ddKpWAO




私は償い続ける。

いつまでも満たされることなく。誰とも愛し愛されることなく。物語を紡ぎ、宇宙を彷徨い続ける。

それが、私の贖罪。払うべき代償。





561: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:22:57.49 ID:s2ddKpWAO
_____アクシス・アークス 第三秘書室


私としたことが…居眠りしちゃったわね。失敗失敗。えーと、今日の予定は…

うん。午後から『惑星開拓』が一件か。変な夢だったなぁ…

でも、なんか懐かしいような…恐ろしいような…

『スージー!スージー!早く来い!』

いっけない、早く行かなくちゃ。全く、話すぐらいテレビ電話を使えばいいってのにネ。

562: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:23:26.55 ID:s2ddKpWAO
_____アクシス・アークス 社長室

はあ…お説教、長いなぁ。たった100万ハルトマニーの損失、何でこんなにガミガミ言われなきゃならないんだろうなぁ。

「はい…申し訳ございません…以後気をつけます…」

この馬鹿オヤジ。私が娘だって言ったら、どんなカオするのかしら。

「迅速な惑星開拓のためには、スージー。キミの力が必要だ。これからは一層励みたまえ」

このセリフは、『もう下がっていい』っていう合図。頭を下げたまま、ホバー・シューズを後ろに下げて…

「む?キレイなペンダントだ」

ペンダント…?

こんなの付けてたっけ?ま、いいか。

「次の開拓惑星…何と言ったかな。ポップコーン星だったか?」

まったく…私がいなきゃダメね。何にもできやしないんだから。

「第17宇宙、D-L6号星系の第4惑星…シュヴァルツワリウム・ヴィクトリアス」


「現地語で、ポップスターです」




563: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/04(火) 01:24:00.11 ID:s2ddKpWAO
【FEif】カムイ「強くてニューゲーム、ですか…」

おしまい