2: ◆U.8lOt6xMsuG 2017/05/13(土) 23:15:29.69 ID:+3YSvwyM0

『10年後の私へ   五十嵐響子』

「この手紙は…」

先日、実家からたくさんの荷物が送られてきました。その中に紛れていた一つの手紙を手に取ります。

「懐かしいなぁ…四年生ときに、私に書いた手紙だ。」

10歳の時。私が小学四年生の時。二分の一成人式で私宛に書いた手紙。

「10年後の私へ…か。」

どこか、気恥ずかしい。でも、何を書いたのか覚えてなくて気になる。気になるなら、仕方ないよね?そう思いながら封を切り、中の便せんを取り出します。

読み進めていくと、手紙の上の懐かしい文字が、今の私に尋ねました。

『わたしのゆめは、かないましたか?』

「夢…かぁ。」

引用元: 五十嵐響子「私から私へ」 


THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 045五十嵐響子
歌、トーク:五十嵐響子(CV:種崎敦美)
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3: ◆U.8lOt6xMsuG 2017/05/13(土) 23:16:56.93 ID:7Hf73thz0

夢。

昔の私の夢は、お母さんみたいなお嫁さんになること。お父さんみたいな素敵な旦那さんと出会って、素敵な生活を送ることでした。

でも、Pさんに出会って、スカウトされてからは、アイドルとして輝くことが私の夢…だったのに。

「お疲れ、響子。今回も最高のライブだったな。」

「はい、プロデューサーさんのおかげです!」

「いや、俺は何もやってないけど…響子の実力だよ。」

10歳の私へ。

驚かないでね。私はね、故郷を離れてアイドルになるんだよ。そこで君は、一人の男の人を好きになっちゃうんだ。

そして、その男の人と恋人同士になることが、私の夢になるんだよ。


4: ◆U.8lOt6xMsuG 2017/05/13(土) 23:17:32.24 ID:7Hf73thz0

その人は、私の担当のプロデューサーさん。

とっても優しくて、明るくて、でもどこか抜けてる所があって、ほっとけなくて。最初は、「好き」って言うよりも、「信頼出来る」って感じだったな。

好きになったきっかけとかは、特にないよ。一緒にいるうちに、気がついたら好きになってた。ちょっと、ガッカリしちゃったかな?昔の私は、ドラマチックな恋に憧れてたもんね。それこそ、ドラマであるみたいなやつ。

でもね、ドラマチックな恋じゃ味わえないような、素敵な思い出がいっぱい出来たよ。何気ない日常も、それからちょっと離れた日々も、全て宝石みたいに心の中で輝いてるの。

待ち合わせの時、早く着きすぎてそわそわしちゃったこと。人混みの中、「はぐれないように」ってプロデューサーさんが出した手を、上手く握れなかったこと。私が作った料理を、プロデューサーさんが食べている姿を見るだけで、とっても嬉しくなっちゃうこと。

他にもたくさんあるけど…あんまり言い過ぎたら、ダメだから、このあたりでやめておくね。

だから、楽しみにしててね。


5: ◆U.8lOt6xMsuG 2017/05/13(土) 23:18:17.51 ID:+3YSvwyM0

でもね、プロデューサーさんは、私が好きになっちゃいけない人なんだ。

「気持ちは…すごい、嬉しい。嬉しいよ、響子。」

「………。」

「でも…俺はプロデューサーで、響子は担当のアイドルだ。」

「…はい。」

「こういうことは、あっちゃいけないことなんだ。」

「…ぐすっ、は、はい…。」

「だから…ごめん。」

アイドルになって好きになった人は、アイドルが好きになっちゃ行けない人だったんだ。

10歳の私へ。

とっても楽しい時間のあとに、とっても悲しい瞬間が来ちゃうんだ。

これまでの私の人生の中で、一番悲しい日。それは、私がプロデューサーさんに告白した日だよ。


10: ◆U.8lOt6xMsuG 2017/05/14(日) 17:48:40.12 ID:X2MsgMn40

「お、おはよう、響子。」

「あ……おはよう、ございます…。」

その悲しい日の次の日。プロデューサさんは、必死にいつも通りにしようとしてるけど、私はまだまだダメで。プロデューサーさんのことを少し避けちゃうんだ。

「響子ちゃん、響子ちゃん。こっちこっち。」

「…ちひろさん?」

そんなとき、ちひろさんが私に声をかけてくれたの。

「ちょっと、これを見てみて。」

そう言われて、ちひろさんのスマホの画面をのぞき込むとね。

『やっぱり、俺おかしいんでしょうか?』

「…プロデューサーさん?」

「この前…といってもだいぶ前、相談を受けて…これは、その時の映像。」

『どうしてですか?』

『だって…俺はプロデューサーなのに…自分より何歳も年下の、担当のアイドルを好きになっちゃうなん…ちょ、ちひろさ、ちひろさん!なんで撮っ』

そこで、動画は不自然に終わっちゃうけど、それよりももっと、気になることがあって。

「プロデューサーさんはね、響子ちゃんの事が好きなの。」

「…へ?」

「証拠はこれ、もう一回見ます?」

「い、いえいえ!」

プロデューサーさんが、私のことを好き?


11: ◆U.8lOt6xMsuG 2017/05/14(日) 17:49:34.72 ID:X2MsgMn40

「プロデューサーさんが響子ちゃんの告白を断ったのは、響子ちゃんが好きだから。」

「好きだから、自分がアイドル活動の邪魔をしたくないから。」

「だから、自分を押し殺して、自分の気持ちに嘘をついて…って響子ちゃん?聞いてる?」

「ほぇ!?」

急のことすぎて、よく聞けてなかったし、よく分からなかったけど。

「プロ、デューサーさんが…私のこと…?」

「大好き。」

「だい…すき…。」

「いつも嬉しそうに自慢してて…作ってくれた料理が美味しいとか、卯月ちゃんたちと楽しそうに喋ってたとか、出会えてよかったとか…正直、惚気みたいなのも多くて。」

「そ、そうなんですか…ふふっ。」

このときほど、ニヤニヤしちゃったときも、顔が赤くなっちゃったこともなかったなぁ。

「だからね、響子ちゃんが告白したことも無駄なんかじゃないから、これからも頑張って!」

「ちひろさん…」




「そいえば、なんで私がプロデューサーさんに告白したことを知ってるんですか?」

「あ、えーと…。」

「ちひろさん?」


12: ◆U.8lOt6xMsuG 2017/05/14(日) 17:51:04.27 ID:X2MsgMn40

でも、このときのおかげで、更に前に進もうって思えたのも事実だから。

「響子…?なんでそんな、笑顔で…。」

「ふふ、なんでもないですよ♪」

10歳の私へ。

とっても悲しくなったあと、もっと嬉しくなるから。だから、落ち込みすぎないでね。


13: ◆U.8lOt6xMsuG 2017/05/14(日) 17:51:50.25 ID:X2MsgMn40

・・・

「あれ?響子なにそれ?」

「Pさん!見てくださいよ、これ!」

「『10年後の私へ   五十嵐響子』…か。ちょうどだね。」

「はい…このときから、ちょうど10年ですね。」

この手紙から、10年。アイドルになってから、5年。私は、五十嵐響子は、今二十歳。

「明日には…五十嵐じゃなくなっちゃうんですね。」

「…そうだな。」

10年前の私へ。

私は、明日、プロデューサーさんと結婚します。


14: ◆U.8lOt6xMsuG 2017/05/14(日) 17:53:25.10 ID:X2MsgMn40

あの告白の後も、プロデューサーさんは私の担当のままだった。だからその間に、何回もアプローチしたんだよ。

あの動画とは違って、プロデューサーさんは私に決して「好き」とは言わないから。言える立場じゃないから。だからその分、私が「好き」っていうことを示し続けたんだ。

「好き」って、言葉だけじゃなくて、いろんな事で伝えることが出来るの。料理だったり、歌だったり、プレゼントだったり…とにかく、私は「好き」と伝え続けたんだ。

そうして気づいたら、いつの間にか事務所の皆も、ファンのからも皆からも応援されるようになっちゃってね。隠し事が出来なくなっちゃった。

卯月ちゃんと美穂ちゃんは、私に言わなかっただけで、プロデューサーさんが好きなことを前から知ってたらしいの。で、ラジオで「響子ちゃんは好きな人が居ますもんね!」って卯月ちゃんがついぽろっと零しちゃったのがはじまり。

「響子ちゃんの恋を応援してます!」なんてファンレターも多く届いて、恥ずかしかったり、嬉しかったりしたなぁ。

もちろん、「アイドルとしてそれはどうなんだ」って意見もあったよ。酷い内容のメッセージも多く届いた。でもね、プロデューサーさんのことは、諦めきれなかった。

どんなに酷いことを言われても、どんなに苦しい気持ちになっても、プロデューサーさんおためなら、頑張れた。

10年前の私へ。

私は、アイドルとしては、失格だよ。でも、アイドルである前に、私は、君は、一人の女の子なんだから。だから、自分の好きなことを、好きにやってほしいな。

そうしてたらいつか、応援してくれる人が増えて行くよ。アイドルじゃない、一人の女の子として、「五十嵐響子」として、皆が支えてくれる。

そして、大好きな人と、一緒になれる日が必ず来る。

そのときまで、時間はかかるし、苦しいことも多いけど。でも、前を向いて進み続けてね。


15: ◆U.8lOt6xMsuG 2017/05/14(日) 17:54:37.88 ID:X2MsgMn40

「それじゃ、俺はそろそろ寝るよ。響子は?」

「私は、もうちょっとこの手紙を…。」

「…わかった。それじゃ、おやすみなさい。」

「おやすみなさい。」

Pさんが寝室に行った後、手紙を一から読み直します。

『10年ごのわたしへ、元気ですか?けんこうに日びを送れていますか?』

うん。元気だよ。でも、ドキドキしちゃって、明日は少し寝不足になっちゃうかな?それ以外は大丈夫だよ、安心してね。

『10年ごのわたしは、どんなゆめをもってますか?今といっしょですか?それとも、かわりましたか?』

うん。変わったよ。ただのお嫁さんじゃなくて、Pさんのお嫁さんになることが、夢になるんだ。

『好きな人はいますか?その人はすてきな人ですか?』

うん。居るよ。とってもとっても、好きな人がいるよ。とってもとっても、素敵な人なんだよ。出会う時まで、待っててね。

『10年ごのわたしへ わたしのゆめは、かないましたか?』

ううん。ごめんね、まだ叶ってないんだ。叶うのは、明日。でも、君の、私の夢はちゃんと叶うから。私が、君が、夢を叶えるまで、楽しみに待とうね。

そして、夢が叶った後は、私にも分からない。でも、Pさんがそばにいてくれるから。私はPさんが、君も、私も、間違いなく幸せにしてくれるって信じてるから。

だから、これから楽しみなんだ。

これから先の日々がどうなるか、二人で一緒に、見ていこうね。

~終わり~