前回 【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:05:03.10 ID:pVIxyO240
塩見周子は京の町に入った。
利休白茶に光沢がついたような銀髪。
切れ長の瞳。
少し尖った鼻。
性格は陽気で飄々としている。
物事の深いところにあまりつっこまず、
適当に楽しく生きようとする。
それで人付き合いもあっさりしていたから、
軽薄と悪しく言われることもあった。
あだ名は塩見屋の銀狐。
老舗の菓子屋を継ごうともせず、
冬眠中の狐のようにぐうたらしていたから、
こんな名前をつけられた。
そして「穀潰しはいらぬ」と追い出されたのが数年前のこと。
此度は久しぶりの帰郷である。
利休白茶に光沢がついたような銀髪。
切れ長の瞳。
少し尖った鼻。
性格は陽気で飄々としている。
物事の深いところにあまりつっこまず、
適当に楽しく生きようとする。
それで人付き合いもあっさりしていたから、
軽薄と悪しく言われることもあった。
あだ名は塩見屋の銀狐。
老舗の菓子屋を継ごうともせず、
冬眠中の狐のようにぐうたらしていたから、
こんな名前をつけられた。
そして「穀潰しはいらぬ」と追い出されたのが数年前のこと。
此度は久しぶりの帰郷である。
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3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:06:21.93 ID:pVIxyO240
一方小早川紗枝は、京の大地主の娘。
艶めいた黒の長髪。
目尻はおだやかに下がる。
たおやかな物腰で柔和。
いわゆるはんなり美人で
人に優しく、人から慕われた。
周子と正反対の優等生であった。
しかし、周子が唯一、心の友としたのがこの紗枝であった。
あるいは紗枝のような友を最初に持ったから、
他の者が物足りなくなったのも知れぬ。
艶めいた黒の長髪。
目尻はおだやかに下がる。
たおやかな物腰で柔和。
いわゆるはんなり美人で
人に優しく、人から慕われた。
周子と正反対の優等生であった。
しかし、周子が唯一、心の友としたのがこの紗枝であった。
あるいは紗枝のような友を最初に持ったから、
他の者が物足りなくなったのも知れぬ。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:07:59.35 ID:pVIxyO240
2人にはある共通点があった。
時折、妙に強情な態度をとることである。
周子が、形式だけでいいものを
家を継がなかったのもしかり。
紗枝が、周りが悪しく云うのも気にせず
周子と付き合いつづけたのもしかり。
その強情さゆえであった。
時折、妙に強情な態度をとることである。
周子が、形式だけでいいものを
家を継がなかったのもしかり。
紗枝が、周りが悪しく云うのも気にせず
周子と付き合いつづけたのもしかり。
その強情さゆえであった。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:09:38.67 ID:pVIxyO240
2人の両親は、土地柄と職業柄もあって仲が良かった。
しかし彼女達は、自分たちの娘らが
親しくなるとは予想もしていなかった。
正反対の性格。
唯一の共通は強情さ。
相容れぬように思われた。
両親達だけでなく、京の住人達も「あの2人では…」などと言った。
大方の評に反して、周子と紗枝は肝胆相照らす仲になった。
強情者同士馬があったのやも、と町の笑い話になった。
しかし彼女達は、自分たちの娘らが
親しくなるとは予想もしていなかった。
正反対の性格。
唯一の共通は強情さ。
相容れぬように思われた。
両親達だけでなく、京の住人達も「あの2人では…」などと言った。
大方の評に反して、周子と紗枝は肝胆相照らす仲になった。
強情者同士馬があったのやも、と町の笑い話になった。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:10:10.37 ID:pVIxyO240
周囲が「おのろけ」に呆れるほど、
周子と紗枝はぴったり寄り添って大きくなった。
「紗枝はん」
「周子はん」
そう互いに言い合っているでけで、日が暮れることもあった。
周子と紗枝はぴったり寄り添って大きくなった。
「紗枝はん」
「周子はん」
そう互いに言い合っているでけで、日が暮れることもあった。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:10:59.59 ID:pVIxyO240
この2人は、また、新しい遊びをよく思いついた。
その中で一等気に入っていたのは、『茶会話』であった。
これは、2人が形式張った、
退屈な茶会に招かれた時に考案された。
要は茶菓子を用いた意思疎通である。
その中で一等気に入っていたのは、『茶会話』であった。
これは、2人が形式張った、
退屈な茶会に招かれた時に考案された。
要は茶菓子を用いた意思疎通である。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:11:44.13 ID:pVIxyO240
たとえば葛餅は『嫌い』。
ひなあられは『おめでとう』。
最中は『退屈』。
このような具合に、菓子に言葉を当てはめた。
対応した菓子を相手に送って、
また相手が返すことで会話がつながる。
これに、こっそり周りを巻き込むこともあった。
ひなあられは『おめでとう』。
最中は『退屈』。
このような具合に、菓子に言葉を当てはめた。
対応した菓子を相手に送って、
また相手が返すことで会話がつながる。
これに、こっそり周りを巻き込むこともあった。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:12:14.66 ID:pVIxyO240
打ち合わせもせず、気にくわない相手に2個
葛餅を送ってしまった時など、互いに笑いを堪えるのに苦労した。
無論その人は遊びなど知らないから、きょとんとする。
葛餅を送ってしまった時など、互いに笑いを堪えるのに苦労した。
無論その人は遊びなど知らないから、きょとんとする。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:13:41.18 ID:pVIxyO240
さて、周子が京に帰ってきたのは、この紗枝に会うためであった。
今度開かれる茶会は、紗枝が最後に参加するもの。
紗枝は肺に水がたまる病にかかって、現在療養中の身。
数年前は彼女が声をかけ、日がな集まって、茶会をやっていたものだ…。
塩見にはそれが、つい昨日のことのようである。
本当に楽しい日々であった。それが永遠に続くかと、周子は思っていた。
今度開かれる茶会は、紗枝が最後に参加するもの。
紗枝は肺に水がたまる病にかかって、現在療養中の身。
数年前は彼女が声をかけ、日がな集まって、茶会をやっていたものだ…。
塩見にはそれが、つい昨日のことのようである。
本当に楽しい日々であった。それが永遠に続くかと、周子は思っていた。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:14:45.46 ID:pVIxyO240
だが、2人を決定的に引き裂いてしまう出来事があった。
周子は、まだ紗枝が元気だった頃に、
彼女が大切にしていた茶器を借りた。
それを過失で壊してしまった。
紗枝は周子ならと信用して貸したわけであるから、怒った。
周子は彼女がそこまで怒るとは思っておらず、口を滑らせて、
「たかが茶器のことぐらいで」と言い返してしまった。
強情さが仇になった。紗枝は口を聞いてくれなくなった。
周子は、まだ紗枝が元気だった頃に、
彼女が大切にしていた茶器を借りた。
それを過失で壊してしまった。
紗枝は周子ならと信用して貸したわけであるから、怒った。
周子は彼女がそこまで怒るとは思っておらず、口を滑らせて、
「たかが茶器のことぐらいで」と言い返してしまった。
強情さが仇になった。紗枝は口を聞いてくれなくなった。
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:16:20.26 ID:pVIxyO240
周子は、それをなだめるために、
彼女の好物である羊羹を茶会のたびに持って言った。
無論、謝罪の意味が当てられている。
しかし紗枝は5度の茶会で、その羊羹を人に譲った。
『絶対に許さぬ』、そういうつもりであった。
彼女の好物である羊羹を茶会のたびに持って言った。
無論、謝罪の意味が当てられている。
しかし紗枝は5度の茶会で、その羊羹を人に譲った。
『絶対に許さぬ』、そういうつもりであった。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:17:26.82 ID:pVIxyO240
こうなってくると周子も頭にきて、
茶会に顔を出さなくなってしまった。
それどころか、京の町から飛び出してしまった。
家との関係悪化が主因なのは間違いがない。
しかし周子が抵抗もなく家を出たのは、紗枝との折り合いが悪く、
京にいるのがいたたまれなくなったからでもあった。
茶会に顔を出さなくなってしまった。
それどころか、京の町から飛び出してしまった。
家との関係悪化が主因なのは間違いがない。
しかし周子が抵抗もなく家を出たのは、紗枝との折り合いが悪く、
京にいるのがいたたまれなくなったからでもあった。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:17:58.79 ID:pVIxyO240
そうして口も聞かず、顔も合わせないようにして、数年経った。
しかし今度の茶会は、紗枝が顔をだす最後の茶会。
もしかすると、今生の別れになるやもしれぬ。
なので周子は京に戻ってきた。
しかし今度の茶会は、紗枝が顔をだす最後の茶会。
もしかすると、今生の別れになるやもしれぬ。
なので周子は京に戻ってきた。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:18:57.01 ID:pVIxyO240
京には死の匂いが充満していた。
周子が発つ前から、にわかに飢饉の予兆があったが、
まさかここまで深刻なものになろうとは。
凶作だけなら、余所から作物をもらうこともできたのだが、
まったく不運なことに、瀬戸内を蝗害が襲った。
打つ手がなかった。
周子が発つ前から、にわかに飢饉の予兆があったが、
まさかここまで深刻なものになろうとは。
凶作だけなら、余所から作物をもらうこともできたのだが、
まったく不運なことに、瀬戸内を蝗害が襲った。
打つ手がなかった。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:22:13.09 ID:pVIxyO240
貧しい住民達はおかしくなっていた。
死体を食らうことはなかったが、
毎日大量に出る遺灰を、これでもかと畑にまいていた。
それで作物が育つと思っているらしい。
多くの畑が灰白っぽく、三途の河原のようになっていた。
死体を食らうことはなかったが、
毎日大量に出る遺灰を、これでもかと畑にまいていた。
それで作物が育つと思っているらしい。
多くの畑が灰白っぽく、三途の河原のようになっていた。
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:23:50.15 ID:pVIxyO240
まさか、紗枝も畑の肥やしになるのか。
周子はふとそう思ったが、それはありえぬことであった。
京は富裕層と貧困層で分断されている。
富商や上流武家などは、金をかけて
食料を蓄えているから、まだ被害が少ない。
人死が出ても、それなりの葬儀をして
墓を作ってやることができる。
とはいえ周子が、紗枝の未来に
心を沈ませてしまうのは、しようのないことである。
周子はふとそう思ったが、それはありえぬことであった。
京は富裕層と貧困層で分断されている。
富商や上流武家などは、金をかけて
食料を蓄えているから、まだ被害が少ない。
人死が出ても、それなりの葬儀をして
墓を作ってやることができる。
とはいえ周子が、紗枝の未来に
心を沈ませてしまうのは、しようのないことである。
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:24:24.76 ID:pVIxyO240
周子は塩見家に戻った。
家族らは帰郷の理由を承知である。
だから何も言わず、周子を菓子蔵に通してくれた。
飢饉の最中でも、職人としての矜持がそうさせるのか、
菓子は毎日作られているようであった。
家族らは帰郷の理由を承知である。
だから何も言わず、周子を菓子蔵に通してくれた。
飢饉の最中でも、職人としての矜持がそうさせるのか、
菓子は毎日作られているようであった。
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:25:18.57 ID:pVIxyO240
周子は棚の前で頭を悩ませた。
茶会にどの菓子がふさわしかろうか。
また羊羹など持っていて、
工夫のないやつと思われては悔しい。
かといって、平然と他の菓子を送ることもできぬ。
口で素直に詫びればいいものを、
周子の強情さが、彼女の邪魔をしていた。
茶会にどの菓子がふさわしかろうか。
また羊羹など持っていて、
工夫のないやつと思われては悔しい。
かといって、平然と他の菓子を送ることもできぬ。
口で素直に詫びればいいものを、
周子の強情さが、彼女の邪魔をしていた。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:26:17.50 ID:pVIxyO240
ふと、大皿いっぱいに盛られた
おのろけ豆が目に入った。
豆に、あまじょっぱい煎餅をまとわせた菓子である。
形が悪いものがはじかれて、よく幼い周子と紗枝のおやつになった。
2人で、ぴーちく言いながらつまむから、「おのろけ雀」などと
たがいの両親がよく笑った。
豆ばかり食ったから、一時期吹き出物がひどくなったが、
それも「顔に豆ができた」と笑いあった。
紗枝と共に育った日々は、本当に、楽しい毎日であった。
おのろけ豆が目に入った。
豆に、あまじょっぱい煎餅をまとわせた菓子である。
形が悪いものがはじかれて、よく幼い周子と紗枝のおやつになった。
2人で、ぴーちく言いながらつまむから、「おのろけ雀」などと
たがいの両親がよく笑った。
豆ばかり食ったから、一時期吹き出物がひどくなったが、
それも「顔に豆ができた」と笑いあった。
紗枝と共に育った日々は、本当に、楽しい毎日であった。
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:27:16.85 ID:pVIxyO240
茶会が開かれる日になった。
場所は、小早川家の座敷。
外出がつらい紗枝に配慮してのことである。
冷夏のせいか、座敷から見える
庭園の花々には皆元気がない。
それが日差しでくっきり照らされているものだから、周子はぞぉっとした。
場所は、小早川家の座敷。
外出がつらい紗枝に配慮してのことである。
冷夏のせいか、座敷から見える
庭園の花々には皆元気がない。
それが日差しでくっきり照らされているものだから、周子はぞぉっとした。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:28:05.15 ID:pVIxyO240
以前の紗枝は、美しく均整のとれた身体をしていた。
しかし病のせいか、頰がこけ、腰回りが頼りないほど細い。
もしかすると、無理をして此度の茶会に出てきたのかもしれぬ。
自分に会うためか、と周子は思い上がらなかった。
参加は飛び入りで、周子が来ることを
紗枝は知らなかったはずである。
しかし病のせいか、頰がこけ、腰回りが頼りないほど細い。
もしかすると、無理をして此度の茶会に出てきたのかもしれぬ。
自分に会うためか、と周子は思い上がらなかった。
参加は飛び入りで、周子が来ることを
紗枝は知らなかったはずである。
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:28:42.26 ID:pVIxyO240
彼女は、他の来客と、にこやかに話などしている。
しかし周子の方は一瞥もしない。
やはり、まだ怒っているのか。
しかし周子の方は一瞥もしない。
やはり、まだ怒っているのか。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:30:02.97 ID:pVIxyO240
そうなると菓子が不安になった。
おのろけ豆を皆に一粒ずつ持ってきた。
安価で、食べると大きな音が出る。
さらに粉もぽろぽろ零れるから、
通常茶会には向かぬ。
菓子代をけちっていると思われる。
まして豆粒1つずつであるから、
周囲は興冷めするにちがいない。
「菓子屋の娘がなんとまあ…」などと。
おのろけ豆を皆に一粒ずつ持ってきた。
安価で、食べると大きな音が出る。
さらに粉もぽろぽろ零れるから、
通常茶会には向かぬ。
菓子代をけちっていると思われる。
まして豆粒1つずつであるから、
周囲は興冷めするにちがいない。
「菓子屋の娘がなんとまあ…」などと。
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:30:31.04 ID:pVIxyO240
だが、周子にとっては『以前のように仲良くしよう』。
そういう意味を込めた。
紗枝なら必ず意味を察するであろう。
許してくれる確証は全くないが。
そういう意味を込めた。
紗枝なら必ず意味を察するであろう。
許してくれる確証は全くないが。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:31:01.44 ID:pVIxyO240
紗枝が茶を汲んで、皆に配り始めた。
菓子の見せ合いはもうすぐである。
周子は、そわそわと脚が落ち着かない。
実は、信玄袋に羊羹も忍ばせてあった。
取り替えるなら今のうちである。
菓子の見せ合いはもうすぐである。
周子は、そわそわと脚が落ち着かない。
実は、信玄袋に羊羹も忍ばせてあった。
取り替えるなら今のうちである。
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:31:47.45 ID:pVIxyO240
だが、周子がぐずぐずしていると、
他の者が小さな羊羹を取り出して、
勝手に紗枝の盛り皿に置いた。
あっと周子は声を上げそうになった。
そいつは、かつて周子と紗枝が、葛餅を送った女である。
他の者が小さな羊羹を取り出して、
勝手に紗枝の盛り皿に置いた。
あっと周子は声を上げそうになった。
そいつは、かつて周子と紗枝が、葛餅を送った女である。
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:33:01.84 ID:pVIxyO240
手前勝手で、まったく忌々しい。
周子はきりきりと胃がもたれた。
普段の飄飄さが、まったく息を潜めてしまっている。
しかし、こうなっては仕方がない、腹を決めよう。
周子はきりきりと胃がもたれた。
普段の飄飄さが、まったく息を潜めてしまっている。
しかし、こうなっては仕方がない、腹を決めよう。
30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:33:34.30 ID:pVIxyO240
紗枝が茶を配り終わった。
先ほどの羊羹女を除いて、
皆もそわそわしはじめた。
いつもは、茶会には慣れている連中である。
しかし今回は、
紗枝の送別会のようなものであるから、
小さな失敗も笑い話にできぬ。
先ほどの羊羹女を除いて、
皆もそわそわしはじめた。
いつもは、茶会には慣れている連中である。
しかし今回は、
紗枝の送別会のようなものであるから、
小さな失敗も笑い話にできぬ。
31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:35:37.25 ID:pVIxyO240
皆が、一口分の菓子を全員分持っていて、
互いの盛り皿にのせる。
出て来る菓子は立派であった。
姫かのこ、越乃雪、村雨。
いずれも上等で、高価な菓子。
遠方から取り寄せたものもあるだろう。
紗枝のことを慮れば、当然のこと。
互いの盛り皿にのせる。
出て来る菓子は立派であった。
姫かのこ、越乃雪、村雨。
いずれも上等で、高価な菓子。
遠方から取り寄せたものもあるだろう。
紗枝のことを慮れば、当然のこと。
32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:36:29.85 ID:pVIxyO240
それに比べ豆菓子一粒など、
まさに吹けば飛ぶようなものである。
まさに吹けば飛ぶようなものである。
33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:37:16.55 ID:pVIxyO240
周子は、衝撃を受けていた。
紗枝も、びっくりしているようであった。
それぞれの皿には、おのろけ豆が“二粒ずつ”盛られていた。
紗枝も、びっくりしているようであった。
それぞれの皿には、おのろけ豆が“二粒ずつ”盛られていた。
34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:38:56.42 ID:pVIxyO240
くは、と周子は情けない声を漏らした。
紗枝の方は、昔のようににっこりとした。
そして2人の頰に、ほろり、と涙が伝った。
もちろん周りは、困惑するばかりである。
35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/02(金) 12:39:26.50 ID:pVIxyO240
おしまい
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