恵美はプロデューサーのことが好き

直接聞いたことは無いけれど、恵美の視線の先にはいつもプロデューサーが居た

恵美が私を、私だけを見てくれるのは私が落ち込んでいる時だけ

そう、恵美は優しいから私に構ってくれる、私のことが好きな訳じゃない

私が何をしたって恵美は私を見てくれない、唯一私を見てくれる瞬間は恵美に迷惑をかけている時だけ、だから私は一生プロデューサーに勝てない

私の想いが叶う、恵美の想いが叶う、この二つは絶対に両立しない

私は恵美に幸せになって欲しい

だから恵美に迷惑をかけたくない

私は私に幸せになって欲しい

だから恵美の優しさに付け込んで甘える、側に居てもらう

こんなことを続けたら、いつか優しい恵美だってうんざりして愛想を尽かすって そうわかっているのに辞められない

恵美無しじゃ生きられない、私は弱くて誰かにしがみついていないと立つことすらままならない人間だから

今日の私はいつもより強い私

誰も居ない場所へ貴女を呼び出してふたりきり

恵美に好きって伝えて告白してフラれて気持ち悪がられて拒絶されて私は全てが終わって恵美は私から解放されて自由になる

そういう決断が出来た今日の私はとっても強い私

現れた恵美はとても真面目な顔

今がどういう状況なのか、恵美はそれがわかっているから笑ったりしない、茶化したりしない

「好きです、付き合ってください！」

「いいよ」

恵美は首を縦に振る

私たちは付き合うことになった


恵美がプロデューサーのことを好き なんていうのは私の思い込みで、本当は私たち両想いだったんだ！

恵美が私の側に居てくれたのは優しいからじゃなくて恵美がそうしたかったから！

恵美は私と同じで、私無しじゃ生きられないくらい 私のことが大好きだったんだ！

なんてこと考えもしなかった

すぐにわかるよ、恵美のウソ

だっていつも恵美のことばっかり見てきたもん、恵美がプロデューサーのこと見てる時だって私は貴女を見続けていたよ？

恵美は優しいんだね、もし断ったら私が壊れてしまう そうわかっているから告白を受けたんだね

貴女は優しくて優しくて、心地良いところから逃がしてくれない

その優しさは沼のように私を捕らえて離さない

そんな恵美のことが…………い

恵美と初めてのデート

制服のまま街を歩いて、駅前のクレープ屋さんに並んで、口元のホイップを拭き取られて、少女漫画みたいな甘い時間

だけどこれは悲しい時間、恵美は私の恋人のフリをしてくれているだけ

私が伸ばした手、恵美がそれを取ることは無かった

恵美と私の間には見えない壁があるんだから手を繋げないのは当たり前、二人並んで歩いていても私に出来るのは恵美の横顔に見惚れることだけ

ねぇ、恵美 どうして貴女はそこまで優しいの？

私のことを嫌いって言ってよ、私を『少し優しくされて勘違いしたバカ女』にしてよ

恵美が私のために無理してるの、私だって辛いんだよ 本当に私のことを思ってるなら私の心をバラバラに、粉々に砕いて 私は強い子だから欠片を寄せ集めてまた元に戻れるよ

優しくされる度にもしかしたら可能性あるのかもってまた勘違いしちゃうんだよ 恵美が悪いんだからね

私はまたひとつ覚悟を決めた

帰り道に肩を抱いてまっすぐに貴女を見つめる そらしたりしないでね？

恵美ならどういう状況だかわかるよね？ 私が何を考えてるかわかるよね？ このままだと…… キス、されちゃうんだよ？

これで私のこと嫌いになれるよね もう無理して優しくしなくていいんだよ

目を閉じて唇を近付ける

ねぇ早く振りほどいて、こんなの可笑しいでしょう？ いつまで恋人ごっこを続けるつもりなの？

何で無抵抗なの？ ほらほら早く、早くしてよ！ 恵美だって女の子なんだから初めてのキスは好きな人に思いきりロマンチックな口付けをして欲しいでしょ？

優しさでファースト・キスを捨てたりしないでよ……



そして私は初めてのキスをする

その唇は世界一不味い、悲しい味がした

大好きな人との初めてキス、それをこんな台無しにするなんて……


恵美なんて、大嫌い



おしまい