1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:36:41.41 ID:FHXGCyN/o
Die Hard

意味:しぶといやつ、頑固者、中々死なない、保守主義、石頭野郎

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1499078201

引用元: ダイヤ「ダイ・ハード サン4ャイン」 善子「code;10.0」 



 
2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:37:38.40 ID:FHXGCyN/o

†YOHANE†さんが入室しました


†YOHANE†:ごきげんようリトルデーモン


†YOHANE†:さて 今宵の精霊会議を始めましょう


nico252さんが退室しました


†YOHANE†:ちょ


†YOHANE†:挨拶しただけじゃない!


nico252さんが入室しました


†YOHANE†:相談したいことがあるんだけど


nico252:なに?


†YOHANE†:前話した割のいいバイトの件で

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:39:09.86 ID:FHXGCyN/o







 カタカタカタカタ…


「そう…しんっ」


「もしもし近江で~す。今コードを送りました…ふわぁ」


「あの…それで報酬のことなんですけど」


「……はい、はい……確認しました」


「1000万を即金で……ありがとうございまふ……眠いのでもう切ります…」


「ふぁぁ。今回は中々割のいい仕事だったかも……これで遥ちゃんに美味しいもの食べさせてあげ」


<ピンポーン



「……誰? こんな時間に……もうおやすみたいのに」



「はぁい…どちらさまで」



4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:39:56.13 ID:FHXGCyN/o



 パシュッパシュッ  チリンチリン




 ドサッ…



『もしもし私です』



『ターゲットはオフライン化しました。よく眠ってるよ』



5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:40:31.42 ID:FHXGCyN/o

~~~~~


善子「ねえ、これって本当に合法なのよね?」


『勿論です。最初に説明した通り、私たちの会社のセキュリティシステムをテストしてるだけですから』


善子「…今送ったわ」


『――はい、確認しました。報酬の方は送金が完了しています。この度はご協力ありがとうございました』


善子「あなたちょっと鼻声ね。風邪でもひいてる?」


『へ…? いえ、これは生まれつきですけど』


善子「そうなの。変なこと言ってごめんなさい」


善子「これからの時期ますます冷え込むから。温かくしといたほうがいいわよ」


『…お気遣いどうも』


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:41:21.71 ID:FHXGCyN/o







「進捗は?」



「上々よ。プログラムとコードはすべて回収済み」


「依頼したハッカー共もあらかた始末して残すはあと一人」


「そっちも一時間以内には片付くわ」



「よろしい。じゃあ始めましょうか」


「まずは軽く挨拶から」




7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:43:06.67 ID:FHXGCyN/o

【トーキョー サイバー犯罪総合対策センター】


梨子「ハッキングされた?」

ことり「うん。間違いないと思うよ」


希「十秒間だけ、ここにあるモニタが全部フリーズした後再起動」

希「解析したところ目立ったダメージは無し。でも中に入られたのは確実やね」

梨子「そう…」

ことり「どうしますか?」


梨子「ブラックリストに載ってるハッカーの中でこんな真似が出来そうな人全員を取り調べましょう。ここまで引っ張ってきて」

ことり「でも…ハッカーの人たちは全国に散らばってるし。深夜で人手も全然足りません」


梨子「地元警察に協力を要請します」

梨子「こんなことを未然に防ぐための私たちがやられたんです。対応は早いのに越したことはありません」


8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:45:35.48 ID:FHXGCyN/o


【Love Live Free or Die Hard Sunshine!】


#1「マルダイの女」

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:46:07.55 ID:FHXGCyN/o
【同時刻 ヌマヅ】


 ブロロロロロロ…


運転手「本日のご予定ですが」

運転手「九時までにトーキョー入り。現地で全漁連の研究集会に参加後、十七時からは交流会を兼ねた会食の――」


ルビィ「ふあぁ」


運転手「お疲れですか」

ルビィ「…はい、少し」


運転手「お屋敷まで間もなくですが」

運転手「後ろの車、さっきからずっとついてきてますね」


ルビィ「え?」クルッ


ルビィ「…気のせいじゃないかな」



運転手「間違いありません」キキィ


運転手「ルビィ様は黒澤家の現当主。不遜な輩に狙われてもおかしくはない」


運転手「そこで待っていてください。後ろのやつを追い払ってきます」


10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:46:49.79 ID:FHXGCyN/o

運転手「おい、降りてこい! さっきからずっと付け回して、何が目的だ」


「お待ちを。決して怪しいものでは」


運転手「問答無用!」


――シュッ


運転手「あへっ」


 ドサリ


「…あら情けない。もうお終い?」



ルビィ「やめて!」


ルビィ「その人は昔のことを何も知らないの」


ルビィ「だからもうやめて、お姉ちゃん――!」



ダイヤ「……」

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:47:16.37 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「久しぶりね、ルビィ」


ダイヤ「貴女随分と雰囲気が変わったわ」


ダイヤ「髪も昔のように伸ばして…顔つきも逞しくなった気が」



ルビィ「…嫌でもそうなるよ」



ルビィ「お姉ちゃんが家を出ていってから…大変だったんだよ」


ルビィ「私なんかがお姉ちゃんの代わりになるなんて……無理なのに」


ルビィ「でも、やるしかなかった。皆がそれを望んでたから」


12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:47:42.11 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「ルビィ…私は」


ルビィ「分かってる」


ルビィ「仕方なかったんだよね。お姉ちゃんは誰よりお家のことを考えて」


ルビィ「今でもこうして私のことを心配して、こっそり様子を見にきてるの知ってるよ」


ルビィ「でもね。ルビィは大丈夫」


ルビィ「今日まで何度逃げ出したいと思ったか分からないけど」


ルビィ「それでも昔よりはちょっぴり、強くなれた気がするんだ」


ルビィ「もうお姉ちゃんに頼らないと何もできなかったルビィじゃないよ」


ルビィ「ちゃんと…一人で歩けるようになったんだから」

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:48:36.81 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「ルビィ…」


ルビィ「だからね」


ルビィ「もし…もしまた、ルビィがお姉ちゃんの助けを借りたくなったら」


ルビィ「その時はこっちから連絡するから」


ルビィ「そしたら、会いに来てくれますか?」




ダイヤ「…ええ、必ず」


ダイヤ「どこにいても、飛んでいきますわよ」




ルビィ「ありがと。お姉ちゃん」


ルビィ「久しぶりに話せて良かった…またね」

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:49:06.09 ID:FHXGCyN/o


 ブロォォォォォォン




ダイヤ(ルビィ…)


ダイヤ「……」


 
 ピーピーピー


ダイヤ「……はい、こちら7号車ですわ。どうぞ」


『そんな所でなにしてるずら』


『さては、またルビィちゃんのことつけてたでしょ』

23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:53:18.81 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「マルさん…貴女どうして」


『車両追跡システムを使ったのです。この前から公用車に搭載が義務付けられたでしょ、忘れちゃった?』


ダイヤ「私が驚いたのは、貴女がそれをちゃんと使えたことにです」


ダイヤ「それと、別に文句を言われる筋合いはありませんわ」

ダイヤ「妹のことが気になるには姉として当然でしょう。陰から見守っているだけです」


『例の接近禁止命令は解除されたの?』


ダイヤ「ついこの間また更新されたところですけど。五十センチ以内でなければセーフですわ」


『メートルじゃなかったっけ。むぐむぐ』

24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:53:52.98 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「人のことはいいでしょう。そういう貴女は音からしてまたのっぽパン?」


『トゥインキーずら』

『パンの方はドクターストップかけられちゃったから。代わりにこれで我慢してるわけなのです』


ダイヤ「…本当に病気になりますわよ」

ダイヤ「それで、こんな夜更けになんです。もう帰って寝ようと思っていましたのに」


『広域捜査の協力要請がきたの』

『ヌマヅ駅の近くに住んでるハッカーの人を護送してほしいんだって。トーキョーまで』


ダイヤ「…はい?」


25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:54:18.44 ID:FHXGCyN/o

『一刻を争う非常事態らしいずら。地元の腕利きデカをご指名とのことなので、ダイヤさんを推薦しちゃいました』


ダイヤ「私に何の断りもなく勝手に…」


『とにかく相手は重要参考人らしくて。向こうは今夜ハッキング攻撃を受けてテンテコ舞いなんだって』


ダイヤ「……はぁ。分かりました行きますわよ、行けばいいのでしょう」


ダイヤ「それで、その方のお名前は?」

26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:55:05.07 ID:FHXGCyN/o

 ブロロロロロ キキィ…


むつ「津島善子のマンションに到着。これより排除します」


千歌「ふぁ~もう四時半だぁ」

よしみ「かったるー…」

いつき「思ったんだけどさ。別に大勢で行く必要もないよね」

むつ「ちょっと大げさだよね。無防備なオタク一人にこの人数って」


むつ「というわけで、誰か行ってきてくれる親切な人―」

千歌「私運転で疲れてるからパスしたいなぁ」


凛「はいはーい!ここは凛に任せてよ」




27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:56:06.44 ID:FHXGCyN/o

†YOHANE†:確認したらホントに振り込まれてた


†YOHANE†:1000万


†YOHANE†:どうしよう


†YOHANE†:今更だけどヤバげな気がするのよね…


†YOHANE†:なんとか言ってよ


nico252:にっこにっこにー♡


†YOHANE†:ふざけないで


†YOHANE†:あなたならどうする?


nico252:今すぐ逃げるにこ


nico252さんが退室しました

28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:56:42.72 ID:FHXGCyN/o

善子「あ、もう…! もっと具体的に」カタカタカタ



<ピンポーン



善子「」ドキッ


善子(来客? こんな時間に?)



<ピンポンピンポン ドンドンドン



善子(ちっ、ママが起きちゃうじゃない)


善子「わかった今出るわよ。出るから叩くのをやめて!」




善子(誰よ一体!)ドアスコープノゾキ




ダイヤ「もし、津島さんのお宅で間違いないですわよね」


29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:57:11.31 ID:FHXGCyN/o

善子「あの、宗教の勧誘ならお断りですよ。既に天界を追放された身なので」


ダイヤ「私はお坊さんでもお遍路さんでもありません。お巡りさんです」


善子(警察ぅ? 私服ってことは刑事? まさかこれが噂に聞く早朝ノック…)


ダイヤ「ここを開けてくださいます?」


善子「……」


善子(一応ドアロックはかけたままにしとこ)


 ガチャッ


ダイヤ「どうも。朝早くに申し訳ありませんね」

30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:57:52.03 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「私がここを訪れたのは」


善子「待って。本当に警察なの? 手帳見せてもらえますか?」


ダイヤ「これで満足かしら」スッ



善子「警部補……野沢、ダダ?」



ダイヤ「どこの三面怪人ですか。ダ、イ、ヤです。野沢(のざわ)ダイヤ」


ダイヤ「ふざけるのもいい加減になさい。仏の顔も三度までですわよ」


善子「ふざけてんのはそっちでしょ。何よダイヤって。宗教家かAV女優の変名だわ」


ダイヤ「貴女今全国のダイヤさんに喧嘩を売りましたわよ?」


善子「はっ、ないない。あなたはオンリーワンよ。キラキラネーム界に燦然と照り輝く恥星のマスターピースってとこかしら」


31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:58:30.77 ID:FHXGCyN/o

善子「その手帳だってどうせレプリカなんでしょ。最近のは作りが細かいしね」


ダイヤ「確かに、これなんかも本物そっくりですわね」サッ


善子「うわー…モデルガンまで携帯してるんだ本格的―」


善子「気合入ってるのは分かったからもう戻って寝ていい?」


善子「これ以上失礼なこと言っちゃう前に。わかる? 頭ぼーっとしてんの寝不足で」


ダイヤ「単刀直入に伺います、貴女が津島善子さんよね?」


善子「悪いけど人違いね。私の名はヨハネよ」


ダイヤ「日本人の子にそんな名前をつける親がいるわけないでしょう」


善子「あなたがそれを言うわけ?」

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:59:13.92 ID:FHXGCyN/o

~~~~~


千歌「あれ、凛さんどうしてライフルケースなんか持って…」

凛「どうしてって、狙撃するからに決まってるでしょ」

凛「チャイム押して出てきたところをズドンじゃ芸がないし」


凛「最近ね、こっちの練習もしてるんだ。丁度いい機会だと思って」

千歌「ちゃんと当てられるんですかぁ?」ニヤニヤ

凛「大丈夫にゃ。標的はノロマだしらくしょーらくしょー」

凛「じゃ、行ってきまーす」











善子「分かった言うわ。善子は…双子の姉よ」


善子「あの子は…ついこの間この世を去ったの」


善子「とても…不運な事故で「善子~? 誰なのこんな時間に」 

33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 19:59:42.00 ID:FHXGCyN/o

「善子? お友達なの? 返事しなさい」


善子「な、何でもないのママ! 今帰ってもらうところだから」


ダイヤ「ふむ」


善子「全く、神がかり的なバッドタイミングね……いっつもそう。私の運の悪さときたら」ブツブツ


ダイヤ「頭を抱えるのは後にしてもらえますか」


ダイヤ「続きは貴女のお部屋でゆっくりお聞きしますから」


ダイヤ「三度目は言いません。今すぐここを、開けなさい」ズィ


善子「は…はいっ」


34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:00:08.51 ID:FHXGCyN/o

【マンション向かいのビル】


凛「~♪」カチャカチャ


凛「組み立てかんりょー」ガチャリ


凛(距離40メートル、北西の風、風速5ノットくらい? 気温、すっごく寒い、湿度、お肌はカサカサ)


凛「星空サーティーン、これより標的を……くしゅん!」


凛「さぶ…」ブルッ



35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:02:49.94 ID:FHXGCyN/o

~~~~~

ダイヤ「貴女、自室に消火器置いてますの? 防災意識が高くて何よりね」


善子「前に生配信中火事になりかけたことがあって――って、勝手に部屋のものに触らないでよ!」


善子「大体警察が何の用? 私何もしてないんですけど」


ダイヤ「私も詳しいことは知りませんの。ハッキング絡みのことでトーキョーのお偉方が貴女に話があるから連れてこいと」


善子「トーキョー? まさかこれから行くとか言わないわよね」


ダイヤ「残念ながらその通りですわ。ですから早く出発したいのです」



善子「そんな…」



善子「分かったわよ。まずPCの電源落とさせて。それから荷物まとめないと」



ダイヤ「そんなもの、コートだけで十分です。ほら」


善子「やだっ!持っていきたいのが沢山あるの!」


ダイヤ「はぁ…いいでしょう。一分だけ待ちますから急ぎなさい」


36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:03:34.69 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ(それにしても…)


ダイヤ(この部屋、得体のしれない物品で埋め尽くされていますわね。オカルトマニア…?)


ダイヤ「これ、本物の水晶玉かしら」ツルッ


 ゴトッ


ダイヤ「あ」


ダイヤ「ご、ごめんなさい…! 落とすつもりはなかったのです、少し触っただけで……津島さん?」



善子「くのっ、なんで開かないのよっ」ガタガタッ


ダイヤ「…何をやってますの?」


善子「はっ、バレた!」


ダイヤ「そこの窓から逃げるおつもり? 往生際が悪いですわよ…」    


――パリンッ!


37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:04:16.01 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「!?」


善子「ちょっとぉいきなり何すんのよ!? ガラスが割れ」


ダイヤ「伏せなさい!」



 パシュッ! バリィィン!


善子「きゃあっ? な、なに? 今の何!?」











凛「あーあ、外しちゃった。それに誰か他の人もいるみたいだし」


凛「メンドーだからばら撒くにゃ。下手なテッポー数撃ちゃ当たるよね?」カチッ



38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:05:52.20 ID:FHXGCyN/o

 チキチキチキチキチキチキチキチキチキッ!!!!! 


 バリィィン! スガガガ!   ――チュインチュインチュイン!



善子「きゃあああああああっ! 何なのよこれえええ!」


ダイヤ「伏せてなさい!それと机から身体を出さない!顔をあげない!」



 チキチキチキチキチキッ!!!!…………



善子(――静かになった…)



ダイヤ「…」ソーッ


39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:07:05.91 ID:FHXGCyN/o


――チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキッ!!!! ガシャァアアアン!
 


善子「ああああああああ! わあああああああっ」



ダイヤ(一瞬だけ相手の姿が。向かいの建物の屋上に陣取ってますわね)


ダイヤ(音からしてサプレッサー付きのライフルでの狙撃――暗殺? 私かこの子を??)



 チキチキチキッ――――――シーン……



ダイヤ「そして今度こそ弾切れのはず…!」BANG!BANG!



40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:07:55.87 ID:FHXGCyN/o

 チュイン! キィィン!


凛「わわっ?」ササッ


凛(なに今の? 撃ち返してきた? しかも凛のいる所へ正確に…!)


凛「ひょっとして凛の他にもスナイパーが?」



――パァン パァン パァン パァン



いつき「!」


よしみ「この音、凛さんじゃない!」


むつ「プランBに変更。よしみ、いつきと私で突入するよ。千歌は万一に備えて裏口で待機」


千歌「分かった!」

41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:09:07.11 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「今のうちに!身を低くしたまま、玄関まで逃げますわよ!」

善子「私の部屋がぁ…めちゃくちゃじゃない…」

ダイヤ「そこガラスに気を付けて!踏ん付けると後で辛いですわ」




凛「リロードおーわりっ!」


凛(ありゃりゃ、部屋の中に姿が見えないや)


凛「むつちゃん達聞こえる? 狙撃に失敗した、このままだと標的が逃げちゃう!」


『大丈夫、今部屋の前に到着した!』


42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:10:04.99 ID:FHXGCyN/o

よしみ「下がってて! 鍵を壊すから」


 ガツンガタンッ! バキッ!


ダイヤ(もう敵が玄関の前まで…)

善子「何よあれ、どーすんの!?」



ダイヤ(敵は複数、恐らく重武装。対してこちらは拳銃だけ)


ダイヤ(考えなさい、この状況を切り抜けるには…)



ダイヤ「善子さん。消火器を貸してください」

善子「ヨハネ! こんなもの何に使うっていうのよ?」

43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:10:41.67 ID:FHXGCyN/o

――バキン!


よしみ「よし開いた!突にゅ」


   
 カランコロン…


よしみ(ん…? これ消か)


 
ダイヤ「」BANG!BANG!

 
――ブシュアアアアアアアアアン!!!! 


   
銃撃で破裂した消火器が、中身と一緒に内包されていた圧力をまき散らす。


その凄まじい勢いは、今しがたエントリーしてきた襲撃者の一人を熱烈に歓迎。

玄関の外へ吹き飛ばされた彼女は、そのまま共用廊下の手すりを乗り越え、地上八階の高さから下のアスファルトまで一気にダイブ。

けたたましい破裂音とそれに続く長い悲鳴が、夜明けの鶏鳴代わりに響き渡り――唐突に静かになった。


ダイヤ「ご近所迷惑だったかしら」


44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:11:19.14 ID:FHXGCyN/o

いつき「よしみが…!」

むつき「構うな、ハッカー女を殺せ!」



ダイヤ「戻りなさい! リビングへ!」

善子「わわわっ」


――DoDoDoDoDoDoDo!!!!


ダイヤ「くっ…!」バタンッ


間一髪、銃弾の嵐を避けリビングへ滑り込むと、そのドアを足で蹴り閉める。



いつき「ターゲットは室内に戻った!そっちから見える? 姿が見えたら撃って!」



凛「りょーかい!」


47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:12:43.46 ID:FHXGCyN/o

善子「何なのよ、何なのよあいつら!」ガチャガチャ

ダイヤ「貴女こそ何をしているの!?」

善子「見てわかんない? 鍵かけてるの! 入ってこれないように」


ダイヤ「ならこちらを手伝いなさい…!」ズズズ


善子「どうして冷蔵庫なんか引きずって――ウソ、ちょっとマジで!?」


ダイヤ「そぉれっ」


ドアの前に横倒しされた勢いで、冷蔵庫の扉が開いて中身が散乱する。

簡易的なバリケードだ。

その陰にしゃがみ込んで重し代わりに背を預けると、手早く32口径のシグから空の弾倉を引き抜きにかかった。

48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:13:14.08 ID:FHXGCyN/o

むつ「おらっ!」ドガッ


ダイヤ「っ――」


その時、襲撃者の力任せのタックルでドアが一瞬半開きになり――
連動して動いた冷蔵庫に背中をド突かれ、思わず手からすっぽ抜けた拳銃が室内の床を滑っていく。


――DoDoDoDoDoDoDoDo!!!!


頭上で銃弾が次々ドアを食い破り、破片がバラバラと顔に降り注いで痛い。

息をつく間も与えず、敵はドアに穿った大穴から銃身だけを突っ込んで室内に弾の雨を降らせてくる。


善子「きゃあああああ!」


ダイヤ「隠れてなさい!」




49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:13:42.06 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ(っ、この体勢では)


野菜やらジャム瓶やら棒アイスやら、床に散らばった食料品のさらに向こう。
ストッパー代わりの冷蔵庫を押さえながら、飛んでいった銃に手を伸ばすも届かない。


いつき「捕まえたぁ!」ギュッ


弱り目に祟り目、ドアの開通口からにゅっと伸びてきた腕が、ダイヤの黒髪を乱暴に引っ掴んだ。


ダイヤ「は…放しなっ、さい…!」


いつき「アドバイスしてあげる、次からは髪を短くまとめといた方がいいよ!次があればね…!」


ダイヤ「後悔しますわよ…!」


いつき「するわけないでしょ? あなたはここで終わりなんだか…らっ!?」スポッ


50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:14:29.77 ID:FHXGCyN/o

いつき「あ…あれ」ファサ


いつき(なにこの黒い塊)


いつき「…これ、ウィッグ」



「見ましたわね…」



不意に猛烈な握力が骨を砕かん勢いで手首を掴み、女は長髪のカツラを取り落とした。
先程とは逆に、力任せに引き寄せられた彼女はドアに叩き付けられる。


いつき「あっ…!」


ダイヤ「ご忠告どうも!これはほんのお礼です!」


ドアに空いた弾痕の穴から最後に見えたのは、青筋だって何かを振りかぶる尼入道の眩しい姿だった。


51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:14:55.42 ID:FHXGCyN/o

いつみ「エ゛ン゛ッ!!!」

むつ「はっ…? いつみ? いつみってば」


いつき「」ドロォ…


むつ(し、死んでる……目に何か刺さって…アイスの棒!?)


 

善子「また一人倒したの!?」

ダイヤ「カチカチに凍った棒アイスは凶器。アイス好きには常識ですわ」

善子「なにそれ…って、ぎゃー!海坊主!?」


ダイヤ「落ち着きなさいダイヤ坊主です」ピカピカ


善子「ど、どどどどうしちゃったのよその頭。髪は…どっかに落としてきちゃったの???」


ダイヤ「あんなもの、あっても無くても私は私です。そんなことよりプリンが落ちていたので頂きますわね」プッチン


善子「もう勝手にしてよ…」

52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:15:21.72 ID:FHXGCyN/o

むつ「くそぉ、よくも…!」DoDoDoDoDoDo!!!!


最後に残った敵の乱射でとうとうドアの上半分が丸ごと崩れ去り、そこから侵入した彼女は冷蔵庫を跨ぎ室内へと。


――BANG!BANG!BANG!


その瞬間を、リビングのソファに隠れていたダイヤが狙い撃った。


むつ「ぐあ…!」


善子「やった!?」


敵の姿はキッチンの陰に倒れこんで見えなくなり――


むつ「ぐぅう…よくも撃ったなチクショウ…」


ダイヤ(…やはりこの銃では威力不足ね)

53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:16:07.78 ID:FHXGCyN/o

むつ「ハァ、ハァ…」ソロリ


ダイヤ「そこ!」BANG!BANG!BANG!


戸棚の陰から銃身がはみ出した途端、そこへ連射を浴びせ敵の動きを牽制するも、シグの弾はすぐ尽きた。


ダイヤ「もうっ」ガチャッ


お返しとばかりに十倍の連射速度と弾数で飛来する反撃をやり過ごしながら、
貧弱な小口径弾がたった8発しか入らないマガジンを交換する。


むつ「ぅあああああああ!!」DoDoDoDoDoDo!!!


ダイヤ「くっ…!」BNAG!BANG!BANG!


サブマシンガンの掃射がリビングの家具を片端から易々ぶち抜いていく。
苦し紛れに撃ち返したこちらの弾は、敵の隠れたシステムキッチンの分厚いステンレス板に阻まれた。


ダイヤ「火力が違い過ぎ!このままじゃジリ貧ですわ…!」

善子「警察なんでしょ? 何とかしてよ!」

ダイヤ「貴女も何か考えなさい!」

54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:16:45.67 ID:FHXGCyN/o


――DoDoDoDoDoDo!!!!


               BANG!BANG!BANG!BANG!――




善子母「ぅ~ん……騒々しいわねぇ」



善子母「また降臨の儀式ってやつをやってるのかしら…」


55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:17:55.28 ID:FHXGCyN/o

  BANG!BANG!BANG!…


むつ(ああウザったい!撃たれた足痛い!このままじゃ埒が明かない!だったら)

むつ(マシンガンの連射で釘付けにして、その隙にこの手榴弾を投げ込んでやる…!)


――ZDoDoDoDoDoDo!!!! ギャギャギャギャギャギャッ


大鎌を薙ぐが如く、ダイヤたちの隠れたソファの右半分を弾の濁流が引き裂いていく。
本当に敵の武器が大鎌だとすれば、こちらはカッターナイフのようなものだ。
リーチも威力も差があり過ぎて勝負にならない。


ダイヤ(まるで大人と子供の喧嘩…いえ、それより酷い)


ダイヤ(窓の方に近付けばまた狙撃手に狙われるから、この障子紙同然の遮蔽物から動けない)


ダイヤ「おまけに弾切れですわ…」


善子「ど、どうすんの!?」



ダイヤ「……」



ダイヤ「合図をしたら走りなさい。私が囮になります」

56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:18:28.42 ID:FHXGCyN/o

むつ「全部ブッ飛ばす…!」



ダイヤ「いきますわよ…今っ!」



むつ「逃がすかっ」DoDoDoDoDo!!!



 ガガガガガガガッ!!! バリィィン!


ダイヤ「っ、駄目です隠れて!」

善子「ひぃぃ」



むつ(そのまま縮こまってろ!そして[ピーーー]…!)ピンッ

57: >>56修正 2017/07/03(月) 20:19:47.58 ID:FHXGCyN/o

むつ「全部ブッ飛ばす…!」



ダイヤ「いきますわよ…今っ!」



むつ「逃がすかっ」DoDoDoDoDo!!!



 ガガガガガガガッ!!! バリィィン!


ダイヤ「っ、駄目です隠れて!」

善子「ひぃぃ」



むつ(そのまま縮こまってろ!そして死ね…!)ピンッ



58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:20:29.39 ID:FHXGCyN/o

善子母「うるさい善子! 今何時だと思ってんの!?」


むつ「はっ…? へぶっ!」


突如リビングに投げ込まれた黒の剛速球。


死角から襲い来るそれにこめかみを直撃され、襲撃者は白目をむいて人事不省に。


ばたりと倒れ伏した彼女のすぐ脇、AM4:44と表示された目覚まし時計が派手な音を立てて落下した。

59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:21:49.26 ID:FHXGCyN/o

善子母「全くもう…こんな子に育てた覚えはないわよ…」ブツブツ


それだけ言って寝室へ戻っていく寝ぼけ寝巻の背中を、「ママ…?」と呟く善子があっけにとられたまま見送る。


隣ではほっと一息ついたダイヤが、ふと時計と一緒に床を転がる球体に目をやり――


ダイヤ「ば、爆弾ですわっ」


善子「へ…」


ダイヤ「伏せなさぁい!」


60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:23:13.09 ID:FHXGCyN/o


――BOOOOOOOOOOOOOOOMMM!!!!!

 

                      パラパラパラ…





凛「うーーーーすっごい爆発……耳がキーンって」


凛「むつちゃん? 誰か生きてますかー?」


凛「おーい…」



凛(応答なし――てことは)


凛(あそこにいた人はみんな死んじゃったんだね…)



凛「ぐすっ、皆のことは忘れないにゃ」



凛「よーし任務完了っ、片付けて帰ろーっと」





61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:23:47.86 ID:FHXGCyN/o



善子「ゲホゲホ…!もういやぁ、次から次へと」


ダイヤ「…」ガチャガチャ


涙目で咳き込む善子とは対照的に黙々と。

爆発の盾にした敵の骸から、サブマシンガンとピストルにその弾倉類を回収し
てきぱきと状態をチェックしていく。


善子「…随分と手馴れてるのね」


ダイヤ(H&Kのサブマシンガン。拳銃の方はベレッタの92ですか)


ダイヤ(ダメね、この二挺を見ると嫌でも……忘れられるはずもない、オハラ・プラザのことを)



62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:24:19.79 ID:FHXGCyN/o

善子「どうしたの?」


ダイヤ「いえ何でも。とりあえずマシンガンは頂きです」ジャキン


ダイヤ「さあ行きますわよ。私のあとに続いて」


善子「ママは? 無事かしら」


ダイヤ「寝室に戻って寝たようね」


ダイヤ「敵の狙いは貴女らしいですからおいていっても平気でしょう。むしろ一緒にいる方が危険です」


ダイヤ「非常階段を使って外へ。あとは裏に停めてある車まで全力で走りなさい」

63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:24:55.34 ID:FHXGCyN/o


凛「ん…? あれれ?」



凛(階段を標的の子が下りてる!)



凛「どうしよ…またライフル組み立て直す暇はないし」



凛「よーしこうなったら、アレやるしかないにゃ」


64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:25:43.53 ID:FHXGCyN/o







ダイヤ「いい?周りに誰もいませんわね」


善子「お、オッケーだと思うわ」


ダイヤ「よし乗りなさい、早く!」




善子「はぁっ、はぁ」ガチャ バタン


ダイヤ「シートベルトを。飛ばしますわよ」カチッ…キュルルォォン



ダイヤ「至急至急、機捜117よりシズオカ本部」


ダイヤ「マルタイの護送中PMに向けて発砲あり、現在――」


善子「!…ねえ窓にっ」


警告と運転席側の窓ガラスが粉砕されたのは同時。

割れたガラスの向こうから伸びてきた両腕が、無線に話しかけていたダイヤの首に巻き付く。


千歌「逃がさないんだから!」


65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:26:14.02 ID:FHXGCyN/o



凛「すぅ…はぁー」


凛「いっくにゃー!」バッ


軽く助走をつけ、屋上の縁を蹴って跳躍する。

人間離れした大ジャンプは、そのまま隣の建物の屋上へと彼女を導いた。


   
凛「はぁ、よっと!」


さらに続けざま、今度は一階分低くなっている隣のビルの屋上へ受け身を取って何なく着地。


そこでようやく、斜め前方に掴まれそうな縁を擁した非常階段付きの建物を発見すると、
女は嬉々とした表情で数メートル離れた足場へ飛び移った。

66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:26:45.21 ID:FHXGCyN/o


ダイヤ「こ……の……放しなさいっ」

千歌「放すもんか!」


ダイヤ「これでも…?」ブォォォォォォン

千歌「うわっ!?」


両腕でダイヤの首をホールドしたままの女を引きずりながら、覆面パトカーが急発進した。
女の履いた鉄板入りブーツの踵が地面との摩擦で激しく火花の尾を引く。

それでも彼女は巻き付けた腕を放さず、むしろより必死にしがみ付いてくる始末。


ダイヤ「しっぶといですわねぇ諦めなさい!」

千歌「やだっ!これ放したら落ちちゃうじゃん!」


67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:27:47.13 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「あ…前方注意」

千歌「前!? この体勢じゃ見えな」ゴンッ


善子(うわ、あれ死んだわよね?)


サイドミラーごと、路地に突き出した鳥居のような設置物に激突して脱落した女を尻目に、
咳き込むダイヤが「神罰ね」と吐き捨てる。



善子「げっ、また変なのが」


安堵する間もなく助手席から見えたのは、前方のマンションの非常階段を
非常に特殊なやり方で下りてくるオラウータンじみた敵の姿。



凛「よっ」ガシッ
    /   
  /
凛「ほっ」ガシッ
    /
  /
凛「はっ」ガシッ
    /
  /
 「   」


段差を下りる手間ももどかしく、五階、四階、三階と縁から縁に掴まりながら瞬く間に垂直降下。

言うなればロープなしのオーバーハング・ラペリング。まるでサーカス小屋の見世物だ。

68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:28:32.91 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「大丈夫、このスピードなら…!」


相手が下りきる前に――こちらの予想は、敵が三階の高さから手を放したことであっさり裏切られた。

覆面パトが丁度真下を通るタイミングに合わせ、そのボンネットめがけ降下してきた女が
猫のようにしなやかな着地を決めたのだ。


善子「うわあああああ!? 空から女の子が!」


凛「着地せいこー!どう、驚いた?」


ダイヤ「何処のパルクールですの!?」


凛「じゃさよなら」


疾走する車の上で平然と仁王立ちしながら、女の腕に拳銃が光る。


69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:29:02.65 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「くっ…!」グィ


凛「わっと…!」


右に急ハンドルを切った車体の動きに、女は僅かにバランスを崩すも
すぐに持ち直してフロントガラスに銃口を突き付け薄ら笑う。


凛「この距離なら外さないよ」


善子「ひっ…!」

ダイヤ「掴まってなさい」キキィィィィィィ――!

70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:29:28.59 ID:FHXGCyN/o

急ブレーキの悲鳴をあげながら、それでも車は慣性で前進し続け――


凛「え…?」フワッ


勢いを殺しきれないままの車体が何かに激突した直後、猫女の身体は後方に投げ出され、宙を舞っていた。


ダイヤ「そこまで動けるなら水泳も得意でしょう」


長い長い自由落下の後、身体の芯まで凍るような水中に女は消えた。

マンション近くの橋の欄干からヘコんだフロントをバックさせると、
明けの明星が輝きだした空の下を、傷だらけの車は再び走り出した。


71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:30:16.95 ID:FHXGCyN/o







 チャパ チャパ…


凛「うー、さぶっ」


千歌「凛さぁん…」フラフラ


凛「あ、千歌ちゃん。生きてたんだ」

千歌「こっちの台詞だよぉ」


 ブーッ ブーッ


凛「電話、本部からだ」

千歌「確実に大目玉だよこれ…」


凛「じゃあ千歌ちゃんよろしくね」ポイッ

千歌「ええー?そんな殺生な」

72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:30:49.86 ID:FHXGCyN/o

『失敗? 何やってるの!?』


千歌「うぅ…すみません」


――――

――




理亞「待って。今姉さまと代わるから」

73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:31:44.25 ID:FHXGCyN/o

理亞「姉さまトラブルよ。ヌマヅのハッカーが生きてる」


聖良「…電話を」



聖良「もしもし。逃げられたってことでしょうか」


『はい。一緒にいたやつに邪魔されて。多分警官だと思うんですけど』


聖良「念のため確認しますが、万全を期して五人で行きましたよね?」


『…今は二人です』



聖良「いいでしょう、ヘリを向かわせます。それで今度こそ仕留めてください」


聖良「標的には何としても消えてもらう必要があるのは分かりますね?」


聖良「生きていられると私たちの狙いが露見する恐れがありますから。では」ピッ


理亞「……」


聖良「そんな顔しなくても大丈夫。ちょっとしたバグじゃない」


聖良「計画には何の支障もない。予定通り、二時間後には最初のステージの幕をあげるから」


74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 20:34:48.58 ID:FHXGCyN/o
月曜ロードショー


Next:#2「クリスマステロルが止まらない」   ラブライブ!× ダイ・ハード 4.0

75: 現在の状況 2017/07/03(月) 20:46:52.24 ID:FHXGCyN/o
【現在の状況】


【警察・一般人】                          【謎の武装集団】


【桜内梨子】                            【鹿角聖良】
警視庁サイバー犯罪総合対策センター長。         津島善子の殺害を命令。
全国のハッカーたちの取り調べを敢行する。        
                                   【むつ】
【国木田花丸】                           善子暗殺チームの班長。
ダイヤの同僚。                          手榴弾の爆発の盾にされ死亡
広域捜査の協力要請を受け、
地元の被疑者の護送をダイヤに依頼。           【いつき】
                                   ダイヤのウィッグと引き換えに棒アイスを目に突き立てられ死亡。
【野沢ダイヤ】                                                  
シズオカ県警の刑事。善子の護送を任される。      【よしみ】           
                                   消火器の爆発で吹き飛ばされ、マンション8階から転落死。 
【津島善子】                          
ヌマヅ在住のハッカー。                    【星空凛】                     
得体のしれないバイトで1000万の報酬を得た直後    アクロバットな身体能力に優れる半面射撃は不得手。
命を狙われるハメに。                     追跡の途中で川に突き落とされるも生還。                   
                                
【黒澤ルビィ】                           【高海千歌】                    
ダイヤの妹。黒澤家の現当主。                車に引きずられマンション近くの鳥居に激突するも生還。                               

76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:09:53.48 ID:FHXGCyN/o







 ブオオオオオオオオオ


ダイヤ「流石にもう追ってきてないようね。この上カーチェイスはご免ですわ」


善子「はっ、はっ…はぁ」


ダイヤ「深呼吸なさい。落ち着けという方が無理でしょうけど、何か喋るだけも大分マシになりますわよ」


善子「あっ、あい…」パクパク


善子「あいつら何なのよぉ!突然押し掛けてきたと思ったらいきなり銃ぶっ放して!私の部屋めちゃめちゃにして!」


善子「あげく人ん家を爆破!?と思ったら段差使わず階段下りるターザンが落ちてきたから川に落っことしちゃった!」


善子「ああ、思い返したら大変なことになっちゃってる! なにこれ漫画かアニメの世界!? 私今すっごく怖いし興奮してるし訳わかんない!」


ダイヤ「堰を切ったようにペラペラよく回る舌ですこと。やっぱりさっきのままで結構ですわ」


77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:10:25.36 ID:FHXGCyN/o

善子「これが落ち着いてられるかっつーの!あなたもあなたよ!こんな状況だってのにどこか飄々としてるし対応も冷静だったし!」


善子「一体どーなってるワケ? 分かった、あなた出家した尼さんなのね?」


善子「ダイヤじゃなくて大仏!涅槃の境地に達してんでしょ!徳の高そーな仏頂面しちゃってこの!仏(ぶ)ってやる!」ポクポク


ダイヤ「ちょ、おやめなさい!私の頭は木魚じゃありませんわ!」


善子「はっ…ごめんなさい」


ダイヤ「全く…私だって内心はビビリまくってます」


善子「ビビリって…ホントに?」


ダイヤ「ええ。そちらと同じですわ」


善子「…そう、なんだ」

78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:11:14.44 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「それにしても…」


ダイヤ「この国で、人ひとりをこんな贅沢な装備で殺しに来るなんて尋常じゃない。貴女一体何をしましたの?」


善子「だから何もしてないって!……たぶん」



ダイヤ「思い当たることがあるなら話してみなさい。トーキョーに着くまで時間はたっぷりあります」


善子「え?どっか近くの警察に行くんじゃなくて?」


ダイヤ「こういう時警察はあまりアテに出来ませんわ。少なくともこんな田舎のでは」


善子「あなた警官なのにそんなこと言うわけ?」


ダイヤ「こちらにも色々と苦い思い出がありますのよ」

79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:11:51.00 ID:FHXGCyN/o

【何処かの倉庫跡 駐機してあるセミトレーラー内】


雪穂「みんなおつかれー」ガチャ


「うーっす」
「レッドブル買ってきてくれた?」
「私も外の空気吸おっかな…」


雪穂(うわ、見事に徹夜明けの冴えない顔ばっか。それは私も一緒なんだけど)


雪穂(でもまあ、凄い時代になったもんだよ)


雪穂(ここにいる十数人のハッカーと、外で待機してる傭兵チーム合わせても三十人足らず)


雪穂(たったこれだけのグループで、国盗りを始めようってんだからさ)


雪穂(いや…理論上はこのトラックコンテナのオペレーションルームだけで、ここから動かず国をひっくり返すには十分なはずなんだけど)


雪穂「ま、私は私の仕事をするだけだね」


雪穂「チーフ、聖良さんから指令だよ。津島善子って人を探せって」


花陽「うん了解。こっちも準備が整ったところなの」


雪穂「いよいよかー。最初は国交省だよね?」

80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:14:04.07 ID:FHXGCyN/o

――――

――


 プァァァン ブブー


ダイヤ(無事トーキョーに入れたのはいいですけど…)


ダイヤ(通勤時とはいえ酷い渋滞。これでは高速じゃなく拘束ね。やっと抜けられましたわ)



善子「むにゃむにゃ…ふ、へへ…」


ダイヤ「ふぁぁ…私も眠気が」


ダイヤ「いけませんね。何か音楽でも」カチッ


~♪


ダイヤ(ベートーヴェン…)

81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:14:39.28 ID:FHXGCyN/o

善子「第九…それは歓喜の歌。それを耳にして、あまねく魂は震え上がらずにはいられない」


善子「この重厚な演奏にバリトン。堕天使ヨハネの目覚めに相応しい旋律です…」


ダイヤ「…」カチカチ


善子「あ、何で変えるのよ。戻しなさい!」


ダイヤ「変わってるのは貴女のキャラでしょうが。こんなのよりニュースを」


善子「ニュースぅ? はん、愚かな大衆を操作するための洗脳装置じゃない」


善子「少なくともこのヨハネ、そんなものに流されたりはしないわ。たとえ世界を敵に回しても!」カチカチ


ダイヤ「だから回してるのはチャンネル…もういいですわ」

632:   2017/07/04(火) 20:00:17.88 ID:5hs9uQbco

~♪~♪

善子「フフ、高ぶる高ぶるわ。荘厳よね…なんかこう、使徒とか降臨しそうな感じ」


善子「そういえばもうすぐクリスマスか。あなたもリア充爆発しろとか思ってる?」


ダイヤ「よくわかりませんが爆発は勘弁ね」


善子「ククッ、浮かれ気分の俗人たちは気付いていないのです。魔力満ちるこの日が聖夜と呼ばれる真の意味を…」


ダイヤ「さっきからそのミョーな喋り方はなんですの? シリアスな声色が間の抜けた顔と絶望的に合ってませんわ」


善子「なっ…なによそっちこそ!」


善子「今時お嬢様言葉とか流行らないわよ、気取るならまずはヘアースタイルから見直したら?」



ダイヤ「……」



善子「あっ…その、今のは言葉の綾よ」


善子「でも私だって……ねえ聞いてる?」



ダイヤ「危ないッ!!」



善子「え」


――プァァァァァァァァン

83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:16:22.99 ID:FHXGCyN/o

 バラバラバラバラバラバラバラ…


凛「うにゃーん、いい気分!」

凛「千歌ちゃんもおいでよ。風を思いっきり感じるのは気持ちいーよ?」


千歌「あはは、私は遠慮しよっかな。そんなに身を乗り出すと落ちちゃいそうだし」

凛「その時はうまく着地するからだいじょーぶ!」

千歌「えぇ…」


凛「それよりここが空の上で良かったね。下は大渋滞大事故の一大地獄絵図って感じ」

千歌「そこら中で接触衝突玉突きのオンパレードだ。クラッシュアワー…なんちって」


凛「でも流石に人の数が多すぎて、この中からあの二人を見つけるのはちょっと難しいかも」

千歌「いやいや、探すのは本部がやってくれますってば」

千歌「私たちはただ待ってればいいのだ。この特等席で、首都機能がマヒしてくのを見物しながら」


千歌「あ、みかん食べる?」モグモグ


84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:18:12.10 ID:FHXGCyN/o



 シュウウウウウウウ…


ダイヤ「大丈夫? 怪我は」


善子「ひたをはんちゃった…」


ダイヤ「丁度いいですわ。そこで待ってなさいな」



ダイヤ「そこの貴女! 下手に動かないで。救急車を呼びなさい」

ダイヤ「皆さん落ち着いて! 車を無理に動かそうとはしないように!」



善子「何よ車の上に乗って。交通整理でも始めようっての…」




ダイヤ(これは…)



ダイヤ「善子さん降りなさい。先程からの渋滞と今の事故の原因が分かりました」


ダイヤ「信号が全部青になっています。フリーパスというわけね」


善子「へ…?」



ダイヤ「ほら荷物を持って。有酸素運動の時間です」


ダイヤ「幸い目的地は目と鼻の先ですわ」

85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:18:45.56 ID:FHXGCyN/o

【サイバー犯罪総合対策センター】


『JRから鉄道局を通して、列車運行管理システムに深刻な障害が発生しているとの報告が』

『各地の私鉄も同様の状況です』

『航空局から、全国の空港で管制支援システムが次々ダウンしていると…』


梨子(誰なの? ここまで大規模なサイバー攻撃を一斉に…)











聖良「向こうは息が詰まってるでしょうね。外の空気を吸わせてあげますか」


雪穂「ラジャー」

86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:19:50.38 ID:FHXGCyN/o

 Bi―BiBi BiBiBiBi!


希「この警報って…」

ことり「火事?」


梨子「レ 疽菌警報です!」


梨子「全職員は外へ避難して!急いで!」











聖良「某カルト教団が開発しばら撒こうとした同性愛者撲滅ウィルス」


聖良「その騒動以来、主要な官公庁施設にはあらゆる細菌への汚染警報装置が導入された」


聖良「危機対策のそれが逆に仇となりましたね。一斉に誤作動させてしまえばほら、この国の中枢はもぬけの空」


聖良「しばらくは外で指を咥えて見ていなさい。自分たちの積み上げたものが崩壊していく様を」


聖良「さあ、ステージ2へ進みましょう。次は紙と電子の中にしかない不確かな数字の群れを根こそぎ洗い流してやります」


87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:20:50.23 ID:FHXGCyN/o


 ザワザワザワ…


希「これは中に戻れるまで時間がかかりそうやね…」

梨子「仕方がありません。安全が確認されるまでは、この指揮車を仮設の対策本部とします」


梨子「国交省と金融庁それと東証のトップに連絡を。手の空いてる人はクラッシュしたデータをしらみつぶしに調べてください」

梨子「何か痕跡があるかも。被疑者の方はどうなってます?」

希「これまでに九名の死亡を確認。ちょっとこの資料見て」


希「近江彼方、未明に家族が射殺体を発見」

希「ハッカーとしては大人しいタイプだったみたいで目立った前歴はなし」

希「他も似たり寄ったりやん。いずれもブラックリストの上位じゃない」


希「まあ言っちゃえば雑魚ばかりよ“犯罪者としては”。これ誉め言葉ね」

梨子「“高度な犯罪技術を持つ善人”はいくらでもいます。ホトケのハードディスクを押収して調べるよう言ってください」

88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:21:53.82 ID:FHXGCyN/o

ことり「やーん、忙しぃ忙しぃ」


ダイヤ「もし。ここの責任者と話がしたいのですが」


ことり「あ、今ちょっと手が回らないので…」


ダイヤ「シズオカ県警の野沢ダイヤです。そちらの要請で重要参考人の津島善「ヨハネ!」を連れて来ましたのよ」


梨子「!」




梨子「はい、私です。センター長の桜内梨子と申します」


善子「げっ、リリー」


梨子「よっちゃん無事で何より。今日一番ほっとしたよ」


ダイヤ「お知り合い?」


梨子「学生時代の後輩です」


善子「私のリトルデーモンよ。元だけど」

89: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:23:14.26 ID:FHXGCyN/o

梨子「あの、野沢さん」チラッ


ダイヤ「ダイヤで構いませんわ」

ダイヤ「ちなみにこの頭は剃っているだけなのでお気遣いないよう」


梨子「はぁ」


善子(やっぱ気にしてるんだ…)



梨子「ダイヤさん。私の友人を助けて頂いたことには感謝を」

梨子「ですがちょっと状況が変わりまして。もうよっちゃん一人に構ってる場合じゃなくなったんです」


善子(お腹すいたな…)グウウ


梨子「チョコレート食べる?」


善子「食べるっ! さっすがリリー気が利くわ」


ダイヤ「しっかり構ってるじゃないですの。随分仲がよろしいのね」

90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:23:47.15 ID:FHXGCyN/o

善子「何を隠そう、リリーをこの世界へ誘(いざな)ったのはヨハネなの。音楽やめて色んな意味で腐りかけてたのを見かねてね」


善子「元々ピアノをやってただけあって、手先のしなやかさと処理能力には光るものがあったし」


善子「まあ一番の幸運はこの私という師に巡り合えたことだけど。いえ、これも運命ね」


梨子「えーっと、昔のことはあんまり話さないで…その、恥ずかしいし…あとリリー連呼するのも」


善子「どうしてよ? 血の盟約を結び、失楽の園で寵愛を受けさせてあげたあの日々を忘れたとは言わせないわよ」


梨子「その言い方絶対誤解されるからやめて。あぅぅ、向こうで東條さんと南さんがにやにやしてる…」


善子「恥ずかしがらずにもっと胸を張りなさいよ。堕天使ヨハネとその眷属リリーと言えばその筋じゃ知らぬ者はなかったんだから」


ダイヤ「ああ成程。ヨハネとかリリーとか、要はハンドルネームのことでしたのね」


善子「コードネームよ!裏世界での!……このチョコ何が入ってるの?」


梨子「ハンバーグ味だよ」


ダイヤ(過激派がここにも…)

91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:24:33.45 ID:FHXGCyN/o

理亞「今ヒフミ班から連絡があった」

理亞「騒動に乗じて例の施設に入れたと」


聖良「拍子抜けするほどあっさりね。まあ予測できたことだけど」

聖良「では宣戦布告といきましょうか。例のPVの用意を」











『大変な一日です。全国的な交通マヒとレ 疽菌騒動に加え、取引開始直後の東証でも大混乱が』

『さらに各地の金融機関で取り付け騒ぎが発生しており――』


善子「ヘヴィね。ここまでのサイバーテロは世界でも初なんじゃない?」


梨子「そうだね。交通システムが駄目になったと思ったら次は金融」

梨子「こっちも手当たり次第に攻撃を受けて、口座情報や株なんかの取引情報がどんどん消されていってるの」


善子「中々のやり手じゃない、これを仕掛けたやつらは」

92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:25:49.35 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「お待ちを。これら全てが同一犯の計画的な犯行だとでも?」


善子「いい質問ね。理論的には十分可能よ」

善子「ただ実行するためのプログラムを書くにはもの凄い数のリトルデーモンを使役しないと」


梨子「よっちゃんひょっとして何か知ってる?」

善子「あ、いや別に。ただふと思ったことを」チラッ


善子(ん? あそこの壁に貼ってある写真って…)



ことり「あのー」


ことり「お腹空いてるんだよね? このサンドイッチあげるから」


ことり「昔の二人のお話、もう少し聞かせてくれませんか♡」


希「カロリーメイトと韓国海苔もつけるよ」


梨子「仕事してよ、ねえ」


『――ここで臨時ニュースをお伝えします』パッ

93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:26:52.90 ID:FHXGCyN/o


『~Oh, the weather outside is frightful♪』



『日本中が震撼する』



『世界に先駆け 国内独占初公開』



善子「?」



『来たるクリスマスに備え』



『テロルの初雪を降らせましょう』



『Let it snow, let it snow, let it snow♪』



94: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:27:49.56 ID:FHXGCyN/o


『ステージワン 交通機関』


『ステージツー 金融・通信』


『ステージスリー インフラ』



矢継ぎ早に切り替わるテロップ。合わせて次々映し出されるのは混沌と狂乱。

脱線する快速列車。滑走路に激突するボーイング。証券場で殺し合いを始める人々。燃え盛る原発。



梨子「何、これ…」


ダイヤ「新作映画の予告…というわけではなさそうね」

95: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:28:31.88 ID:FHXGCyN/o


『死傷者数150万人突破! 被害総額1000兆円越』



ことり「全部のチャンネルがこの映像です!」


希「どうやって侵入したんやろ…」



『五秒に一度のクラッシュシーン! 五分に一度の大爆発!』


『戦闘シーンは皆無! 役立たずの警察や自衛隊は出動不可!』


『SECURITY CONTROL』


『Destroy now! Destroy now!』

96: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:29:20.73 ID:FHXGCyN/o

激しさを増す画面の明滅。

比例して煩雑になるテロップと事故映像のカット。

液晶の中が、爆発と悲鳴の洪水で飽和する。



ダイヤ「滅茶苦茶ですわ…」



『Produced by Sain†Snow』



『【FIRE SALE】』



『Now Playing Everywhere!』



――ブツッ



97: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:31:04.41 ID:FHXGCyN/o










雪穂「ちょっと冗談臭かったかな。これだと」


花陽「あはは…出来は気に入ってるんだけどね」


雪穂「調子に乗ってありえない映像もガンガン入れちゃったしなー」


花陽「一応サブミナルも混ぜておいたし…どれだけ効くかは分からないけど」


雪穂「やっぱり電波ジャックはスタイリッシュさより不気味さだと思うんだ。マックス・ヘッドルームみたいな」


理亞「そこのオタク二人、仕事に戻って」



理亞「はぁ…これで信じたと思う?」


聖良「信じるようになる」


聖良「だって、これから現実に起こることだもの」



98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:32:39.63 ID:FHXGCyN/o

『た…ただ今の映像について詳しいことは何も分かっていませんが、当局とは一切関係ない無許可の――』


善子「これはマジでシャレにならなくなったわね」


ダイヤ「まさか今のを本気にした人はいないとは思いますが」


善子「あれは文字通りの予告編。これから実行していくつもりなのよ」


梨子「そんな…あり得ないよ」



善子「はぁーリリー…このヨハネと袂を分かってからすっかり鈍っちゃって。これは再教育が必要だわ」


善子「それともなに、相変わらず遠慮してて口に出せないっていうの? なら代わりに言ったげる」


善子「みんなも最後のテロップを見たでしょ。この騒ぎの仕掛け人はファイヤーセールを起こすつもりなのよ!」



希「……」


ことり「……」


梨子「よ、よっちゃん…」



ダイヤ「ファイヤー? 何が燃えてるんですの」


善子「不毛地帯は黙ってて!」



99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:33:40.27 ID:FHXGCyN/o


善子「ま、前が…光が見えない」ボロッ

ダイヤ「冗談はさておき、投げ売り(ファイヤーセール)とは何のことでしょうか」


希「スピリチュアル…というより誇大妄想のおとぎ話やね」

ことり「私も、流石にそれはちょっと…ないかな」


善子「xxx」


ことり「え?」


善子「リリー、ここにいる人たちってどうせ顔と    だけで採用されたんでしょ。話になんない」


梨子「よっちゃんお願いだから色々と自重して」

梨子「恥ずかしいセリフも禁止。一応公式の場なんだから」


ダイヤ「口に出すのも憚られるようなことですの? ますます説明を求めますわ」


梨子「…分かりました」

100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:34:51.13 ID:FHXGCyN/o

梨子「ファイヤーセールというのは、公共機関に対する三段階攻撃のことです」



梨子「始めに交通」


梨子「次に金融と通信網」


梨子「仕上げに電気ガス水道原子力レ 等の生活インフラ」



ダイヤ「あのテロップの通りですか」


梨子「コンピュータ制御されているものはとにかく全部です」


梨子「初めに移動と通信を遮断されるので補修も出来なくなります」


善子(うぬぬ、私に説明させなさいよ!)


梨子「つまり私たちの生活すべてが投げ売りされるという意味で……あくまで理論上の話ですけど」

101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:35:41.50 ID:FHXGCyN/o

善子「まだ言うかこのっ」ガバッ


梨子「ひゃん!」


善子「あんな映像を割り込ませてきたってことは、相手は通信システムをいつでも乗っ取る準備が出来てるってことでしょーが!」



善子「すっかり俗世に染まってぬるくなっちゃって! 意識改革してまたリトルデーモンに戻してあげる!」ワチャワチャ


梨子「くはっ、きゃははァハ! へ、変な声出ちゃ…やめてぇ~!こんなところで、みんな見てるからぁ…」


善子「やめない!アングラに還るのよ!堕天の感覚を思い出しなさいこいつめっ」


梨子「ごめんなさい!許して~><」




美渡「あのー」

志満「お取込み中失礼しまーす」


梨子「はっ…!」


102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:36:56.60 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「こちらの方々は?」


美渡「公安だよ。そこの子の身柄を引き取りに来た」



梨子「コホン…ハッカーの取り調べは彼女たちに任せてあるので」

梨子「この騒ぎでここら一帯の庁舎には入れないから、二人が別の場所まで移送してくれます」


善子「えーまたぁ? もう移動は疲れたんだけど。この場でちゃちゃっとやってくれない?」


梨子「上からの命令なの。ごめんね」



志満「じゃあ行きましょうか」

美渡「ほら、さっさと歩きな」


善子「あ…」



ダイヤ「……」



善子(ここでさよなら、か)



103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:37:26.79 ID:FHXGCyN/o

――――

――


理亞「津島善子はまだ見つからないの?」

花陽「は、はい…」


雪穂「トーキョー入りしてるのは間違いないと思うので」

雪穂「片付けやすい場所へ誘導するための偽の指令を出しておきました」


花陽「あとは警察無線を中心に都内の通話を自動音声認識ソフトで監視させています」

花陽「彼女の氏名が話された通信があればソフトが識別して、こちらにすぐ分かるようになってるんですけど」


雪穂(逆に言えば、その人を見つけるまでは通信の遮断が出来ないってことだけどねー)


理亞「ちっ、早く網にかかりなさいよ…」


104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:39:13.26 ID:FHXGCyN/o

梨子「ダイヤさん、ちょっと」


梨子「よっちゃんはああ言ってたけど。多分何か知ってると思うんです」


ダイヤ「奇遇ですね。私も同じ考えです」


梨子「それで、管轄外なのは承知なんですが」


梨子「よっちゃんに着いててもらえないでしょうか」


ダイヤ「言われなくてもそのつもりですわ」


ダイヤ「善子さんを襲撃した輩はただのチンピラではなく」


ダイヤ「特殊部隊か自衛隊か、さもなくばテロリストでないと持っていないような装備で完全武装していました」


ダイヤ「そんな連中が簡単に諦めるとは思えませんし。私、一度引き受けた仕事には最後まで責任を持ちたいの」


梨子「ありがとうございます。よっちゃんのことよろしくお願いします」

105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:40:02.84 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「ところで…」


ダイヤ「そこに貼ってある顔写真は被疑者のもの?」



梨子「ええ。ですがもう誰もこの世にいません」


ダイヤ「はい?」



梨子「この人たちはみなブラックリスト入りしたことのあるハッカーで、今回の事件の重要参考人でした」


梨子「今朝までに全員の死亡が確認されています。生きてここまで辿り着いたのは、よっちゃんだけなんです」


106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:41:01.41 ID:FHXGCyN/o


ダイヤ「というわけで、私も同行させてもらいます」


善子「…!」



美渡「おーい、こっからはうちらの管轄なんですけど。そんな勝手が通るとでも」


ダイヤ「テコでも動きませんわ」


志満「まあまあ。建物の前までならいいんじゃないかしら」




美渡「はぁ…ったく」


美渡「公安部サイバー攻撃特別捜査隊警部補の高海です。こっちは姉の高海」


ダイヤ「高海…警部補?」


志満「はい。二人とも高海で警部補です」


ダイヤ「そう…私も警部補です。シズオカ県警の野沢ダイヤです、よろしく」


志満「助手席へどうぞ。私はこの子と後ろに乗りますね」


美渡「本部へ。これよりシズオカ県警の野沢ダイヤ警部補より引き渡しのあった津島善子の移送を開始します」

107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:41:39.78 ID:FHXGCyN/o

『ザザッ――これよりシズオカ県警の野沢ダイヤ警部補より引き渡しのあった津島善子の移送を開始します』


花陽「彼女を発見しました!」

聖良「よし。そのまま情報を集めてください」


理亞「ヘリに車両の現在位置を!」



聖良「それと…」


聖良「一緒にいる珍しい名前の刑事の資料を呼び出してもらえますか」


108: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:42:41.72 ID:FHXGCyN/o

――――

――


 ププー ブロロロロロ…


美渡「混んでるなぁ」


志満「あちこち通行止めになってるね。みんな混乱してる…」



善子「ね?この風景が何よりの証拠。ファイヤーセールは現在進行形で起きてるってこと」


善子「全部のシステムを一度にダメにされるとこの通り。なんにも出来なくなっちゃう」

109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:43:16.46 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「だとしても、貴女のお友達の梨子さんはじめ各省庁が回復に尽力しているはずよ」


善子「災害救助ならいざしらず、うちの政府はこの手の攻撃には慣れてないわ。ノウハウも少ないし」


善子「のろのろやってるうちに、取り返しのつかないところまで逝っちゃうわよこれ」


美渡「こっちもノロノロノロノロ…さっさと動きなって」


志満「無線で本部に協力を要請しましょう」


美渡「そっか…あーこちらトチマンです」


美渡「渋滞で身動きが取れません。至急この地区の交通課へ連絡して――」

110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:45:46.70 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「さて、そちらの話は聞きましたから次は私の質問に答えなさい」


ダイヤ「さっき何故嘘をついたのです」


善子「へ? な、何のこと?」



『―――ガガッ――トチマンへ。次の角を右折してください』


美渡「…りょーかい」ブロロ



ダイヤ「指揮車の中で、壁に貼ってあった被疑者の写真をちらちら見てましたわね」


善子「見てな」


ダイヤ「彼女たちは全員亡くなったそうです」


善子「嘘っ!?」


ダイヤ「貴女方ハッカーにはこの事件に関して狙われる確かな理由がある。そして貴女はそれに気付いた」


ダイヤ「事の深刻さは分かっているのでしょう、正直に話しなさい。デカに嘘は通じませんのよ」


美渡「ぷっ」


ダイヤ「何か可笑しかったですか?」


美渡「くっく…いやごめんごめん、その喋り方で急にデカとか言い出すから面白くてつい」


志満「こら、失礼でしょ」



善子「……分かった」


善子「あれは同じ<罪(Sin)>を背負わされた「人間の言葉でお願いします」


善子「ライバルよっライバルたち!」


111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:47:11.67 ID:FHXGCyN/o

善子「ハッカーってのは何もみんなが警察に追われてるわけじゃないの」


善子「私も一度火遊びが過ぎて逮捕されかけて」


善子「それからは公認のホワイトハットになったわ。首輪付きみたいで癪だったけど」


善子「写真の人たちもそう」


善子「私たちは自分とこのセキュリティをテストしたい企業に雇われて、クラッキングのバイトをすることがあるの」


善子「んで、あの時も依頼が来てたのよ」


善子「ある会社が開発した、新型の暗号アルゴリズムを採用したセキュリティ・システムをクラックできるかやってほしいって」


善子「私はそれを数学的に解析して侵入または新たな暗号を設定できる、もう一段階上のプログラム」


善子「名付けて<ガブリエル>を組んで送ってやったってわけ」



ダイヤ「だから普通に話しなさいと言ってるでしょうこの口は」ムニー


善子「は、はにゃひてるって!そっちの頭には不通みたいだけど!」

112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:48:55.32 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「技術的なことはさっぱりですが、とにかくその依頼主は実はテロリストたちだったと」


善子「多分ね。他のみんなも似たようなことをやらされてたんじゃないかしら」


ダイヤ「例の、ファイヤーセールの準備のために?」


善子「ええ、各々の得意分野で」


善子「全国のハッカー一丸となっての共同作業よ。知らずのうちにだけど」


善子「そうやってこつこつ国家転覆のプログラムと侵入コードを集めた後は、製作者たちをまとめてゴミ箱へポイ」


善子「数十人が作り上げたプログラムも、実行するのはほんの一握りのハッカーがいれば事足りるからね」

113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:49:52.38 ID:FHXGCyN/o

善子「お願い信じて。騙されてたのよ私たち」


善子「まさかハルマゲドンの尖兵として利用されてたなんて、考えてもなかった」


善子「こんなことだって分かってれば私、絶対に…」


ダイヤ「堕天使という割にモラルはちゃんとしてるのね」


善子「こっ…このヨハネを使い魔扱いしたのが許せないの!不当な契約は無効よ無効!」



善子「あー喋ったら喉乾いた!誰か飲み物ちょーだい」


善子「リリーの部下たちときたらパサパサしたものばかり寄越してホントなってないんだから」ブツブツ



ダイヤ(ふふ、この子のことが少し分かってきたかも)

114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:50:26.91 ID:FHXGCyN/o

『そのまま直進してください。五十メートル先の封鎖を解除するよう要請しました』


善子「」ピクッ


美渡「おー快適快適」スイスイ


善子「待って、今の声」


善子「聞き覚えがある…」


ダイヤ「何ですって?」


善子「こいつ私にセキュリティのテストを依頼してきたオペレーターだ!」

115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:52:19.45 ID:FHXGCyN/o

志満「本当なの…?」


善子「こんな鼻にかかった声、間違えないわ」


善子「やっぱりやつら通信も掌握してるんだ…警察のフリして、現場に指示を出して操ってる」


ダイヤ「無線を貸りますわね」


美渡「ちょっと何する気?」


ダイヤ「お静かに。カマをかけてやります」

116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:53:45.50 ID:FHXGCyN/o

『本部どうぞ。そちらはどんな調子でしょうか』


花陽「!」ドキッ


『大変な日ですわね。渋滞に加えてメノノリの通報が相次いでいると聞いています』


花陽(メノノリ…何かの隠語?)


花陽(当たり障りのない答えで濁さなきゃ)


花陽「はい、全車に通達してます」


『気を付けたほうがいいですわ。やつら裸だから身軽で動きが素早いのです』


『丁度発情期のシーズンじゃないかしら。襲われたって報告はどのくらい入ってます?』


花陽「えっと、それは、ごめんなさい…情報が錯綜してて、こちらでも把握しきれなくて」


『目撃情報は?』


花陽「か、各所から…」



『ふむ。今日は随分と猫の捜索届けが多いんですのね』


『そういえばそちらにもぴょんぴょん身軽な猫女がいましたっけ…ねえ?』



117: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:55:06.97 ID:FHXGCyN/o

『っ…―――――』


ダイヤ「ラジオドラマごっこは終わりです。そちらのCEOを出しなさい」


美渡「志満ねえ、どうする?」

志満「…ルートを変えましょう」











花陽「ど、どうしますか」


理亞「姉さま…」



聖良「…」ハァ


聖良「いいでしょう。代わってください」

118: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:56:12.24 ID:FHXGCyN/o


『お待たせしました野沢警部補。いや、ダイヤさんとお呼びしても?』


ダイヤ「いきなり馴れ馴れしいですわね何処かのアホタレさん。こちらは貴女なんて知りませんわ」


ダイヤ「まあ今度面会に行きますからその時ゆっくりとお知り合いになりましょう。檻の中で」


『ご親切にどうも――でもその必要はありません』


『野沢ダイヤさん。それとも黒澤の方がよかったですか?』

119: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:57:07.56 ID:FHXGCyN/o

『あなたのことは何でも分かります』


『随分前のことですがあのオハラ・プラザ占拠事件を解決した英雄だとは』


『へえ、この時はまだ警官じゃなかったんですか。大したものです』



『その後も…ナリタ国際空港占拠事件にヌマヅ市連続爆破事件』


『凄いですね、面白いようにテロ事件に巻き込まれてるじゃないですか』



ダイヤ「…嫌なことを思い出させないでもらえますか」



『その全てを生き残り、現在は刑事部機捜隊で署内トップの検挙率。この前の拳銃射撃大会では準優勝ですか』


『一刑事としては中々に刺激的な経歴ですね。素直に感心しましたよ』

120: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 21:59:53.02 ID:FHXGCyN/o

聖良「さて、仕事の話はここまでにして次はプライベートのことでも」


花陽「…」カタカタカタカタ


聖良「御実家は旧網元…名家のご出身ですか。それがどうして警察なんかに?」


聖良「なになに、御実家から勘当――それは大変でしたね。現在はアパートで一人暮らしと」


聖良「実妹、黒澤ルビィへの接近禁止命令。当の妹さんはどう思ってるんでしょうか」


聖良「アマゾンの履歴は中々に興味深いですね」


聖良「ヒストリーチャンネルとB級映画と姉妹モノの作品がお好きなんですか? 心中、お察しします」クスッ

121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:00:30.25 ID:FHXGCyN/o


『失礼ですが意外と貯蓄少ないんですね――ああ借金ですか』



『市から破壊した器物の賠償を命じられて。必死に駆けずり回って街を救ったご褒美がこれでは、やり切れませんね』



『あれ…?』



『しまった、大変申し訳ありません。キーを押し間違えて…』



『そちらの預金と保険料の納付記録、全部消えちゃいました』



善子「ちょ…!」


ダイヤ「……」

122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:04:00.01 ID:FHXGCyN/o

理亞「次の交差点で仕掛けさせて」


花陽「了解です」カタカタカタ



聖良「ダイヤさん聞いてますか? 埋め合わせをさせてください」











『今すぐ津島善子の頭を撃ち抜いてくれれば』


善子「!」


『次の交差点に着くまでに、あなたは人生を取り戻せます』

123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:04:59.96 ID:FHXGCyN/o


ダイヤ「……」



『借金は帳消しになって、今後一切お金の心配をする必要もなくなります。どうでしょう?』




善子「ち、ちょっと…」





ダイヤ「それはそれは」




ダイヤ「とても魅力的な提案ね」




言うが早いか、隣の運転席めがけ引き抜かれたベレッタが咆哮した――

125: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:06:06.49 ID:FHXGCyN/o

美渡「うぐぅ!?」


そこからはあっという間だった。

身体を折った高海(リトル)の膝上に馬乗りになると、鳩尾に押し付けた銃口が何度も火を吹く。



ダイヤ「死にさらしなさいこのっ!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


美渡「げふっ…!」



貫通力に優れたパラベラム弾が肉の壁ごと座席をぶち抜き、真後ろにいた高海(ビッグ)をも穴だらけに。



志満「く、は…っ」



僅か二秒足らずで二人は血反吐を吐いて崩れ落ち、飛び散った鮮血と漏れ出したはらわたの臭気が車内を満たしていく。




善子「き…きゃあああああ!」


善子「やっややめてぇ撃たないで!お願いまだ死にたくないわよぉ!」



ダイヤ「落ち着きなさい!貴女を撃つつもりは毛頭ありません」


善子「へ…?」


126: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:07:56.67 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「よく見なさい」


運転手の死骸を弄ってキーを奪いながら言う。

血の池地獄となったシートに沈んだ高海(リトル)の手にはピストルが。

突如として無抵抗のまま撃ち殺さたはずの彼女には、似つかわしくない品である。


ダイヤ「この二人は一味の仲間です。私が断ったらすぐさま片付ける気だったのね」


善子「ニセ刑事ってこと…? でもどうして分かったの」


ダイヤ「デカに嘘は通じないと言ったでしょう」



ダイヤ「仲間内では階級でなく役職で名乗りあうのが普通です。高海“警部補”のお二人は古い刑事ドラマの観過ぎね」


ダイヤ「他にも小さな違和感はいくつかありましたが、一番の決め手は……前にも似たようなことがあって」


ダイヤ「その時と同じ空気を感じ取りましたの。あの嫌な感じを」


善子「何それ、それこそ刑事の勘ってやつ?」



善子(ダイヤがいなかったら今頃私…ぞっとしないわね)

127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:09:20.97 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「聞こえていたでしょう。これが答えです」


『…そうですか。こちらの誠意が通じず残念です』



『ダイヤさん。あなたはまるでデジタル時代の柱時計だ。古いお屋敷の隅で埃を被っているような』


『赤の他人のためにそこまでする必要が? 今時流行りませんよ、そういうの』


『時代錯誤も甚だしい。これまでさぞ生き苦しかったでしょうね』



ダイヤ「余計なお世話です」


『そんな石頭の分からず屋には……消えてもらうしかありませんね』


ダイヤ「やれるものならやってみなさい」


『ええ、やりますよ。では忙しいので失礼します』




善子「…よくそんな啖呵切れるわね。あっちは遠隔で何でも出来るのに」


ダイヤ「なら向こうまで乗り込んでいって、夢の国から引きずり出してやるまでです」

128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:10:30.10 ID:FHXGCyN/o


 ファンファンファン


善子「パトカーが集まってきたけど…」


ダイヤ「まあ、街中でこれだけ派手に発砲すれば当然の結果でしょう」


善子「どーすんのよこのスプラッタ。今からダスキン呼んでも間に合わないわよ」


ダイヤ「面倒なことになりましたわ。なんと説明したものか」




 バラバラバラバラバラ…



善子「ヘリ?」


ダイヤ「ッ――!」




千歌「奇襲だよ!」DoDoDoDoDo!!!


129: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:11:40.24 ID:FHXGCyN/o

 ガシャン! バリィィン!


ダイヤ「頭を下げて!」


善子「どわぁああっ!?」




千歌「みと姉としま姉の仇!くらえー!」


――DoDoDoDoDoDo!!!! ブスブスブスブス!!!!


上空より襲い来るフルメタルジャケット弾のミシンが車体の右半分を一文字に突き抜け、
真下にいたニセ刑事らの死体をさらに損壊させるのを見て善子が呻く。



ダイヤ「お退きなさい!」ドガッ



一方こちらはドライバーの残骸を車外へ蹴り出すと、大わらわで運転席に座りハンドルを握る。


130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:13:08.41 ID:FHXGCyN/o

千歌「逃がすか…!」



警官「そこのヘリ、発砲をやめなさい! やめないとこちらも撃つ!」



千歌「やめない!」DoDoDoDoDoDo!!!!



警官「撃ってきた!応戦、応戦しろォ!」




ダイヤ「今のうちに…!」




凛「千歌ちゃん逃げられるよ!」


千歌「分かってる…! パイロットさん旋回して後を追って!」



――バラバラバラ…キュイイイイイイン




警官「本部聞こえますか!? 所属不明のヘリから銃撃を受け負傷者多数です、至急救助と応援願う!」











理亞「本部了解。そのまま現在位置で待機せよ」


131: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:14:53.24 ID:FHXGCyN/o
月曜ロードショー


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132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:16:46.30 ID:FHXGCyN/o


ダイヤ「飛ばしますわよ!」


善子「これ以上に!?」


踏みっ放しのアクセルに加え、ハンドルを右へ左へ。

ダイヤはともかく、スペースの広い後部席の善子は度重なる遠心力の暴君に弄ばれながら
舌を噛むまいと必死に堪えている。


   
 バラバラバラバラ――!


ダイヤ(来た…!)


再び、ローターと銃撃の迫る音が。

流れ弾の一発が後部席に残された死体の顎から上を吹き飛ばし、
首ふり人形めいてがくがくと震えるそれが善子の方に倒れこむ。


善子「ギャー!いやぁこんなのっ! もっと速く飛ばして!」


ダイヤ(なるべく人のいない方へ…!)


ハンドルを切り、バリケードを吹き飛ばした車は通行止めで封鎖された通りへと。


133: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:18:32.69 ID:FHXGCyN/o

聖良「理亞、パトカーの進路を予想して今のうちに布石を打っておきましょう」

理亞「わかってる」カタカタカタ











 ブオオオオオオン!  キュイイインン――バラバラバラ…


ダイヤ(しつこく食らいついてくる…!まるで羽の生えた猟犬ですわ)


善子「ねえあれ見て!」


進行方向右手側に佇む街頭ビジョン。

そこに映し出されていたのは敵のヘリと、必死に逃げ惑う自分たちの姿。
今まさに繰り広げられている命がけのチェイスの生中継。


善子「ライブカメラの映像をモニターに…」


善子「この街はもうやつらの箱庭よ。逃げ場なんてないんだわ!」


ダイヤ「私たちは掌で踊っているだけと?」



ダイヤ「小癪な演出を…逆に肝を潰してあげますわ!」




134: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:19:34.14 ID:FHXGCyN/o

凛「ここからは見通しのいい直線だよ! 千歌ちゃん今度こそやっちゃえー!」

千歌「わかってる!」




善子「武器はないの?あれを撃ち落とせそうなやつ!そうだ、マシンガンはどうしたのよ!?」

ダイヤ「最初に乗り捨てた車の中です。物騒すぎてとても持ち歩けなかったので」

善子「じゃあ打つ手なしってこと!?」

ダイヤ「いえ…」


135: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:20:20.71 ID:FHXGCyN/o


――DoDoDoDoDoDoDo!!!!


善子「わっ、こんな近くまで肉薄して…きゃあ!」ガシャアアン


ダイヤ「頭を低く!そして何かに掴まりなさい!」



ダイヤ(これは賭けです――)




千歌「捉えた…!」


ヘリの射手が眼下の標的をロックオンするのと同瞬、
猛スピードで歩道に乗り上げたパトカーはそのまま正面の設置物に体当たりをかました。

136: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:21:22.83 ID:FHXGCyN/o

――SPLAAAAAAAAAAASH!!!!


千歌「へ…」


予想だにしなかった攻撃が、ヘリとそのスキッド(足)に身を乗り出していた傭兵を襲う。


パトカーが激突してへし折ったのは消火栓。

その下から一挙に噴き出した高圧水流の直撃を喰らい、ヘリはともかく人間の方はバランスを保てなかった。



千歌「うわああああああああ!!?」


善子「…あ」


転落してきた傭兵と車内の善子の目がかち合う。昨晩鳥居にキスしたあの女だと分かった。


千歌「ぎゃ!」


今度は車のトランク部に思いっきりキスしてバウンドした女の身体は、そのまま車道に吹き飛んで――


 プアアアアアアアアアン


千歌「へ…?」


 キキィーーーーーーーーーーーーー





善子「轢かれちゃった…この道封鎖されてるんじゃ」


ダイヤ「ツキのない人」

137: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:22:34.34 ID:FHXGCyN/o

凛(そんな…千歌ちゃんがやられるなんて)

凛「こうなったら凛がやるしかないにゃ!」ジャキ




ダイヤ「またあの猫女…!」

善子「この先右折して! ほらあそこ!トンネルがある!」

ダイヤ「ナイスナビ!」


再び車線を縦横無尽。
封鎖コーンとバリケードを跳ね飛ばしパトカーは緊急避難先へ一目散。

トンネル南側入口の標識下、ゲートのバーが下りているのを確認すると、
踏み込んだアクセルに一層力を込めて突破する。

138: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:23:25.27 ID:FHXGCyN/o



『トンネル内に逃げ込まれちゃった。追跡できないよ!』



聖良「そのまま入口で待機して」


理亞「流石は姉さま。ここまで読み通りね」


聖良「さて、あとはチェックをかけるだけ」


理亞「トンネル内全システム掌握完了。いつでもいける」


聖良「高坂さん、車の誘導は?」


雪穂「オールオッケー。さっきからずっとやってましたから」


雪穂「現在渋滞に痺れを切らした車が列を成して、北側入口でゲートバーが上がるのを鼻息荒く待機中」


雪穂「同じく混雑中のトオヤマICの電光掲示に迂回路の表示を出しておいたので、あと二分ほどで南側にもお急ぎ便が殺到予定です」

139: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:24:18.09 ID:FHXGCyN/o

聖良「ではまず南側ゲートを全車線開放。標的がトンネルの中ほどまで進んだところで今度は北側も全開放します」


聖良「完全に挟み込んだところで間髪入れず照明システムの電源を落としてください。それで詰みです」



花陽「あ、あの…」


花陽「本当に、そこまでやっちゃうんですか…?」



雪穂「…」チラッ


理亞「は?今更?バカなのあなた?」



花陽「う…」



聖良「小泉さん」


聖良「席を変わってもらえますか。私がやりますから」


140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:26:38.60 ID:FHXGCyN/o

――――――――――――

 プアアアアアアン  パパーン


善子「この音聞こえてる? 何か変よ!」

ダイヤ「ええ…!このトンネルは無人のはずじゃ」


ないことに気付いた時は半分手遅れだった。

進行方向よりバッファローの大移動めいて、全車線を埋め尽くす車の波が押し寄せてきたのだ。



ダイヤ「く…!」


ハンドブレーキをもぎ取る勢いで、強引にサイドターンで方向転換。
何度目かわからない後部席からの悲鳴。


ダイヤ(一度どこかに停めて…)


善子「ああ前よっ、前見て!」


ダイヤ「なっ」


またもや正面、今度は自分たちが来た方向から車車また車――


善子「あぁー!?ほぇあ~!ぶつかるぅうう」

141: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:27:28.79 ID:FHXGCyN/o

鳴り響くクラクションに急ブレーキ音の大洪水。


善子「ヤバいヤバいヤバい!こんなの無理よ神様!ほわぁー?!?」


ダイヤ「口を閉じてなさいっ舌を噛みますわよ!?」


衝突スレスレでその合間を縫いながら、クラッシュゾーンよりの脱出を図る。


善子「ぁうあダメぇ!わぁおうっ」


周囲で何台もの車が激突し、飛散した破片がパトカーを打ち叩く。



ダイヤ「ッ――!!」ガリッ


限界を超えて持続するストレスに噛み締め過ぎた奥歯が砕け、痺れ切った鼻孔が生温かい。

肥大した生存本能が無理やり研ぎ澄ませた反射神経と幾ばくかの幸運で、
ダイヤの運転する車は何とか包囲網を突破したところで横滑り気味に急停車した。


ダイヤ「はぁ、はぁ…平気ですか」

善子「…魂抜けそう」


ダイヤ(敵の昼食はサンドイッチ、具材は私たち…)

142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:28:00.69 ID:FHXGCyN/o

ふと見上げたバックミラーの中では、自分たちが逃れた地獄絵図の続きが現在進行形。


――突如、その光景が暗黒に塗りつぶされ見えなくなった。


ダイヤ(照明を切られた?)


トンネル内が完璧な闇に閉ざされる直前。
視界に飛び込んできたのは、前方より襲来する車両軍団の第二陣。


善子「嘘でしょ…こんなのって」


無辜の市民を利用したメイティング・ネット。
テクノロジーに乗せられた強烈な悪意が二人を挟み込み、盤上の全てを無責任になぎ倒そうとしていた。


143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:28:26.56 ID:FHXGCyN/o

善子「ここにいたら死んじゃう…!」バタン


最もな意見だが、錯乱気味に車外へ飛び出すのは賢明とは言えなかった。


ダイヤ「お持ちなさい…!」    プァァアアアアアアン――


慌てて後を追おうとした矢先、先陣切って突っ込んできた車両がパトカーの左側面を掠め、
スピンした車体から投げ出される形で路面へと。


――キキィィィィ!


ダイヤ「危な…っ!」


後続車に轢き殺される寸前で身を捻り、ゴロゴロとコンクリ舗装の上を回避移動。

まだまだ続く凶器の疾走パレード、その到来を告げる前照灯に睨まれた善子が
道のど真ん中で立ち竦んでしまっているのが見える。


ダイヤ「逃げ、いえ動かないで! 私が行くまでじっとしていなさい!」



144: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:29:14.88 ID:FHXGCyN/o


善子「あ…」


自身目掛けて走り込んでくるダイヤと車を交互に見比べ、もう一度彼女の方を。

抱き寄せるようにその身体を引っ張って、先頭車をやり過ごす。


ダイヤ「死にたくなければ側を離れないこと!さあ一緒に」


叫んで振り返った先には、目を疑うような光景が。

スピンした直後の横腹に激突されたミニバンが勢いそのまま跳ね飛ばされ、
回転しながら宙を舞って二人目掛けて飛来していた。


善子「ひっ」

ダイヤ(間に合わない――!)


咄嗟に、全身で覆い被さるように善子を押し倒すことしかできなかった。

145: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:31:25.10 ID:FHXGCyN/o



――グシャアアアアアアアアアン!!!!



ダイヤ「ぅ……っ…?」


善子「……あれ?」



何が起きたのか、伏せていた二人にはさっぱりだ。とにかく生きている。


ミニバンがダイヤたちを押し潰す寸前、丁度二人の両サイドに走り込んできた二台の車のフロントが
斜め上からの落下物を受け止める形になり、飛んできた方向へそれを弾き返したのだが、
それは新たな惨劇の引き金となる。


ミニバンは度重なる衝突で持て余した回転エネルギーを大型キャリアカーの運転席にぶつけることで発散した。

中身ごとひしゃげる運転席。

主のコントロールを失ったキャリアカーは減速どころか忽ち暴走、行く手を遮るもの全てを弾き飛ばす破城槌と化す。



ダイヤ「立って! こちらに突っ込んできますわ!」

善子「なんなのよもう~~~!!」


何故まだ生きているのか、この先も生き残れるのか。

考えている暇など一時たりとも在りはしない。


146: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:32:32.35 ID:FHXGCyN/o

~~~~~


聖良「ふぅ」


目の前のスクリーンには、乗っ取ったトンネル内システムの表示。
全車線開放に照明ダウン、そして車両の位置を示す光点の数々がぐしゃぐしゃと。



聖良「これで生きてたら奇跡ですよ」


無機質にトンネル内の状況を伝える情報を眺め率直なコメント。
平面上のデータから読み取れること以上の感慨は、特に持ち合わせていないようだった。



理亞「姉さま、ヒデコから連絡」


理亞「目的のサーバーに接続。ダウンロードが開始されたそうよ」

148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:33:20.56 ID:FHXGCyN/o

聖良「聞きましたか皆さん朗報です」


聖良「進行状況を常にチェックして20パーセント毎に報告してください」


聖良「理亞、あなたも出発の用意を。こちらも何名か失った分、班を編成し直さないと」



聖良「…ああ、それと」


聖良「小泉さん」



花陽「は…はいっ」



聖良「次は躊躇しないでくださいね」ニコッ



雪穂(…ドンマイ、チーフ)


149: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:34:14.55 ID:FHXGCyN/o

――

―――


ダイヤ「無事ですか」

善子「…心臓吐きそ」



頑強なコンクリ柱の陰に隠れている間も生きた心地などしなかった。
地獄のクラッシュアワーを耐え凌ぎ、玉突きのコーラスが鳴り止んだのを見計らって、恐る恐る顔を出す。



善子「あいつら何考えてんのよ…普通ここまでやる?」


ダイヤ「……そうね。犯人たちはやり過ぎました」

150: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:34:44.35 ID:FHXGCyN/o

「助けて誰かぁ! 閉じ込められたのぉ」


「背中が痛ぇ…」


「折れちゃってる……これ、どうやったら元に戻るの」


「アヤちゃんしっかりして! 誰か来てください!子供が」


「燃えてるぞ! 早く消防車呼んで!」


「ぬっ抜いて…これ、誰か…足、挟まって」


「ひっ、なんだこれ…ひでえ」


「いやあああああああああああああぁぁぁ」


「おかあさん…」




ダイヤ「……」



善子「ダイヤ…」



ダイヤ「ここにいなさい。すぐ戻ります」

151: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:35:27.74 ID:FHXGCyN/o


ダイヤ「――ダイヤ、貴女何をしようというの……皆さん壁際に寄ってください!」


ダイヤ「怪我してる人は無理に動かさないよう!――馬鹿げてる? 承知の上よ」


ダイヤ「大体朝の四時に広域捜査の協力要請って」


ダイヤ「堕天使な小生意気をトーキョーまで連れてこい? 地元の腕利きをご指名ですって?」


ダイヤ「たった数時間我慢すれば終わる簡単なお仕事。それがこのザマじゃない」



ごちゃごちゃと絡み合うようにクラッシュした事故車両の間を、
肩をいからせ練り歩いてパトカーに辿り着くと、半開きになったドアの隙間に身体を潜り込ませる。



ダイヤ「クリスマスが近付く度、こうして狭い場所に閉じ込めて。もう――ドタマに来たわよ」



怒りにまかせてドアを閉めた拍子、割れたパトランプに再び赤が灯り、正義の灯火がゆっくりと回転を始めた。



152: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:36:19.37 ID:FHXGCyN/o


『星空さん。ドローンを中に入れて遺体の確認を』


凛「…いや、その必要はないみたい」


   
――ブオオオオオオオオオオオオン!!!!


ダイヤ「来週の三途川は大渋滞。あと一人か二人送り付けても気にしないわよね?」


 
凛「っ…!」DoDoDoDoDoDoDoDoDo!!!!!


   
ダイヤ「渋滞も銃弾も、車が飛んできたって今の私は止められないんだから」



銃撃と事故車の群れを掻い潜り、今にも飛び上がらん勢いでパトカーは疾走する。


振り切れた速度計の向こう側――出口上空に待ち構えるヘリと、
その手前でゲートバーの装置に頭から突っ込んで停止したキャリアカーが見える。


斜め上を向いた空の荷台は、おあつらえ向きの射出台だった。



153: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:37:27.71 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「良い子は真似しないように――って誰に言ってるのかしらね」ガチャ


出口を目前にして降り注ぐ弾の雨がボンネットを吹き飛ばし、フロントガラスを割り砕いて運転席へ飛び込む。

その直前にダイヤは身を横倒して、開いたドアから飛び出していた。


ダイヤ「うあああああああっ!!!」ゴロゴロゴロゴロ


顔に食い込む砂利やガラス片の鋭さに歯を食いしばりながら転がり続ける彼女と同様、
十分すぎる加速を得たパトカーはトンネルの残りを爆走。

そのままキャリアカーの背を登板し、一発の弾丸めいてヘリ目掛け飛翔した。


凛(ウソ――)


パイロットが何か叫んでいた。叫ぶ前に凛は動いた。


凛「うにゃあああああああああああ」


スキッドを蹴り、宙に飛び出した凛の背後でパトカー弾頭の直撃を受けたヘリが爆破炎上。

爆風に煽られて落下し、その身体は路肩に停車していたステーションワゴンの屋根へ。

同じ頃、トンネル内のダイヤも壁面にぶち当たってようやく動きを止め、二人は揃って苦痛に呻いた。

154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:38:28.25 ID:FHXGCyN/o


 B O O O O O O O M … … ! ! 



善子「ジーザス…」


ダイヤ「うっ………あ゛ぁ」


善子「あッ、大丈夫!?」ダッ



ダイヤ「待って、ストップ…!お触りは駄目…死ぬほど痛いんですの」


善子「見れば分かるわよそんな血達磨で…せめて血を拭くくらい」


ダイヤ「私のことよりヘリはどうなりました…?」



――ガシャァァァァァァン  キュウウウウウウウン…



ダイヤ「…一矢報いることは出来たようですわね」


善子「奇跡よこんなの…車に翼を授けてヘリを撃ち落とすなんて」


善子「思い付いてもやろうとするのが理解できない…」

155: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:39:38.35 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「…私には二人の幼馴染がいましたの」


善子「?」


ダイヤ「昔から、一人はヘリで。もう一人はジェットスキーで登校してくることが多かった」


善子「!?…?」



ダイヤ「ある時、ヘリの彼女のスカした登場の仕方が気にくわないと憤ったもう一人が」


ダイヤ「飛行中のヘリにジェットスキーをぶつけたことがありまして」


ダイヤ「それをそっくり真似してみたまでです」


 
善子「…どっかの紛争地域育ちなの?」


ダイヤ「生まれも育ちもウチウラですけど」


善子「じゃあタイムトラベラーね。イルカサイボーグと戦争してる未来のヌマヅから来たんだ」


ダイヤ「――無論冗談に決まってるでしょうこんな話は。単に弾切れだっただけ…」

156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:40:18.45 ID:FHXGCyN/o

善子「弾切れですって…?」


善子「はっ…あなたには男だって持ってないような特大の肝っ玉がついてるじゃない」


ダイヤ「んまぁお下品ね……フフ」


善子「へ、えへへっ」


 エヘヘ…クスクス…ハハハ


―――



157: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:41:06.72 ID:FHXGCyN/o

 ゴォォォォ… パチパチパチ…


凛「いてて…本当に墜落しちゃってるよ。危ないトコだった…」


『星空さん。報告を』


凛「ヘリがなくなっちゃった…凛以外は全滅にゃ」


『標的はどうなりました?』


凛「…死んだはずだよ。パトカーで神風アタックしてきたんだから」


凛(生きてるわけないよ。あの怖い顔した刑事さんは死んだんだ、うん。めでたしめでたし…だよね?)



「凛さぁぁん…」



凛「うわっ千歌ちゃん?なんで生きてるの?」



千歌「奇跡だよぉ」フラフラ

158: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:41:46.78 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「それで、貴女の方は怪我してませんの?」


善子「耳たぶをちょっと切っちゃった。あと動悸も少し」


善子「ドキドキしてるっていうか…不謹慎かもしれないけど興奮しちゃってる」


善子「あなた凄いわよ…本当に」


ダイヤ「そんなに目を輝かせられても困ります。そう感じるのはアドレナリンが出ているせいよ」


ダイヤ「切れた時が辛いですわよ…お互いに。ダイヤモンドは傷付かないなんて嘘っぱちね」


善子「あっ、肩貸すわ。病院に行くのよね?」


ダイヤ「行くのは病院ではなく警察ですわ。まだ事件は終わってませんもの」


ダイヤ「反対側から出ましょう。その方が敵に見つかりにくいでしょうし」

159: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:42:58.26 ID:FHXGCyN/o

聖良「なんです星空さん。またトラブルですか?」


聖良「高海さんが生きていた? はぁ、トラックと地面の隙間に」


聖良「分かりましたから速やかにこちらへ合流を。計画は第三段階に突入しました」




雪穂「はい、理亞さんの偽造ID。この顔写真中々可愛く撮れてるじゃん」


理亞「…さっさと寄越しなさい」


雪穂(ちぇー不愛想な人)



聖良「理亞、あなたのサポートにはアライズの三人を」


聖良「百戦錬磨の彼女たちと一緒なら何も心配はないはずだから」


理亞「ありがたい話だけど姉さまは過保護よ。非武装のレ しかいない施設の制圧くらい私一人でだって」


聖良「万が一ということもあるから。じゃあ…気を付けて」


理亞「ええ。行ってくるわ、姉さま」



 キュイイイン――バラバラバラバラバラ…



聖良「トレーラーを温めておいて。ダウンロードが20パーセントを超え次第私たちも出ます」


161: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:50:26.39 ID:FHXGCyN/o










ことり「航空局があらゆるフライトを全面禁止にしました。飛んでいた旅客機も皆無事着陸できたって。良かったぁ」


梨子「通信とインフラ関連の保護はどうなってます?」


希「全部緊急回線に切り替えてるよ。最高レベルのファイアウォールと暗号化で完璧に守られてるはずやん」


梨子「そのまま監視を続行して」



「失礼。ここが今回の事件の対策本部ってことでいいのかしら」


梨子「どちら様…?」


親鳥「内閣官房国家安全保障局の者です」


親鳥「あなた達に手を貸せと言われて来ました。何か手伝えることはある?」


梨子「手伝い? (連絡役兼監視係って感じかな…) あーそうですね」


梨子「じゃあ、その、そこの隅に立っててもらえますか。何かあれば声をかけるので」



親鳥「…」ポツーン


ことり「お母さん」


親鳥「ことり…!」


ことり「皆にお茶をいれてくれる? はいこれポット」



162: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:51:50.97 ID:FHXGCyN/o

――

――――


善子「カオスだったわね、警察署の中」


ダイヤ「詰め掛けた市民の方々と一緒に警官までパニックを起こしているなんて」

ダイヤ「これじゃあ益々混乱が広がってしまいます…」


善子「…まるでこの世の終末が来たみたい」

ダイヤ「滅多なことを言うんじゃありません」



ダイヤ「それより携帯貸してくださいます? 私のは気付いたら粉々になってて」

善子「自分のは捨てちゃった」

善子「私たちの携帯はとっくにハッキングされてるはずだから使ったらソッコーで居場所がバレちゃうし」


善子「はいこれ、トンネルで拾った誰かのやつ」

善子「何も言わないでよ非常時なんだから。どこにかけるの?」


ダイヤ「貴女のお友達のところです。名刺を貰っておいて正解でした」

善子(何これカッコいい…リリーの癖に生意気だわ。後で私も貰っとこ)

163: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:52:40.32 ID:FHXGCyN/o


『テロリストたちに襲われた!? よっちゃんは』


ダイヤ「無事です。今二人で一緒にいるところですわ」


『よかった……え、なに?』


ダイヤ「梨子さん?」


『少し待ってください。今テレビに変な映像が』




善子「ねえ、また街頭ビジョンが乗っ取られたみたいよ。いや…これ全国放送ね」


ダイヤ「生中継…国会前から?」

164: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:53:13.06 ID:FHXGCyN/o

【皆さんは考えたことがありますか?】


【もし家が火事になって119番しても 電話が通じなかったら?】


【事故に遭って怪我をしても 警察も救急車も 誰も助けに来てくれなかったら?】


【今日これまでの騒ぎが 始まりに過ぎなかったとしたら】


【もっと悪くなるとしたら…?――ザザッ】



 ドォォォォォォォォォォォン  ガラガラガラガラ…




善子「議事堂が…」


ダイヤ「爆破された…?」

165: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:54:18.28 ID:FHXGCyN/o

【ザザーーーーー……しばらくお待ちください】


ダイヤ「そんなまさか…有り得ませんわ」


『ダイヤさん!今の映像見ましたか?』


ダイヤ「梨子さん…!今のは」


『フェイク映像です!模型とCGを使った特撮ですよ!』


『私たちは実際に近くにいるので分かります!本物の議事堂は爆破されてません』



善子「でもよく出来てたわ。信じちゃう人もいるんじゃない? 誰かさんみたいに」

ダイヤ「私は別に…もしもし梨子さん? もしもし」



『ダイ――ザザザ――聞―え――ギュルルルルル――ツー』



ダイヤ「どうしたというの…」ポチポチ


ダイヤ(ネットワークに接続されていません…ですって?)

166: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 22:55:39.84 ID:FHXGCyN/o

希「やられたよ…乗っ取られた!」


梨子「どこをです!?」


希「全部よ全部…テレビは衛星放送まで。携帯にネット、目立った通信関係は全部やられちゃった」


希「無線はもう使い物にならない。固定回線の方も時間の問題やん」


梨子「…何でもいいから通信を回復する手段を模索してください」



梨子「全国であんな映像が流れた後に通信が寸断されたとなれば混乱は必至です」


梨子「一刻も早く事態を収拾しないと。南さん!」


親鳥「はい」


梨子「あなたじゃないです。本部の安全確認の方は」


ことり「異常は何も見つからなかったって」



梨子(やっぱり…私たちはいいように踊らされてるんだ)


梨子「皆さん急いで中に戻りましょう!」



親鳥「このお茶美味しいわね…」ズズ




167: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 23:02:01.18 ID:FHXGCyN/o


 ザワザワザワザワ… 


       ウウウウー  ピーポーピーポー


善子「私たちの書いたコードで国が崩壊していく…」

善子「そう…これこそが新世紀のバーチャル・テロリズムなのです」

ダイヤ「こんな時にまた面倒臭いの始めないでもらえますか」



善子「マジな話ね、ファイヤーセールの概念を初めて知った時……私すっごくクールだと思った」


善子「指先一つで世界を燃え上がらせて、文明をリセットするのも気分次第」


善子「よくウィザード級のハッカーとか言うけどまさに魔法よ。私がこの世界に飛び込んだのもそういうのに憧れがあったからで」



ダイヤ「周りをよく見なさい。何がウィザードですか、こんなのはハザードって言いますのよ」


善子「それ、多分意味違うと思うけど」


ダイヤ「屁理屈をこねない! 魔法ならおとぎ話で済みますけどこれは現実に起きているの。実際に人々が苦しみ泣いてるのです」


善子「分かってる…分かってるわよ」


ダイヤ「その逞しい妄想力を総動員して考えなさい。貴女が犯人だったら次はどうします?」

168: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 23:02:35.41 ID:FHXGCyN/o

善子「そうね、えっと……やつらは通信を掌握したから次はインフラに手を付けるはずでしょ」


ダイヤ「それは知っています。貴女自分で言ったじゃありませんか、遠隔で全てを乗っ取る算段だと」


善子「いえ違うのよ。確かにそれはファイヤーセールの強みだけど、ハッキングは万能の手段じゃない」


善子「こんな時代でも何もかもがオンラインで繋がってるわけじゃないの。特に重要なものはね」


善子「外部から侵入してある程度セキュリティを破壊することは出来ても、肝心のスイッチを切るのは現地でしか出来ないものがある」


ダイヤ「話が少し見えてきましたわね。で、それは一体なんですの?」


善子「見せてあげる。携帯を返して」

169: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 23:03:46.73 ID:FHXGCyN/o

ダイヤ「機能が死んでるガラクタですけど」

善子「死んでるのはネットワーク。これ自体はまだ全然使える、別の手段を用いれば」ゴソゴソ


善子「持ってきて良かったマイハードディスク!こいつに繋ぎまして」

善子「古い衛星通信にリンクするようリプログラム!」ピコーン

善子「ハッカーがサーフする時よく使う手なんだけど。多分犯人たちもこれで通信してるはず」


ダイヤ「よくまあそんなこと知ってますわね」

善子「えへへ、実は私も細かいことは分かんないんだけど。使えそうなものは取り合えず頭に詰め込んどく主義なの」




善子「ビンゴ…! 繋がった。犯人の次の狙いは恐らくこれのはずよ」



ダイヤ「トーホクレ 力発電所…!」

170: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 23:05:10.51 ID:FHXGCyN/o

【トーホクレ 力発電所】



 バラバラバラバラ――ビュウウウウウウウウウウ



警備員A「なにかしらあのヘリ。聞いてないわよ」



理亞「…」スタッ


警備員B「どちら様で? ここは非常警戒中です。身分証を」


理亞「身分証? これよ」パシュッパシュッ


警備員A「なっ」


英玲奈「おい、こっちだ」パシュッ


あんじゅ「…♡」パシュパシュッ



 ドサッ…



ツバサ「三人とも、私の分も残しておいてよ」モグモグ


英玲奈「来るのが遅い。さっきからチョコバー何本食う気だ? 腹下すぞ」


理亞「無駄話はそこまで。的ならこの中に沢山あるから。一人残らず撃ち漏らさぬよう」


あんじゅ「鴨(レ )撃ちね。楽しみ♡」


理亞「ここからは時間との勝負。手早く落としましょう」


171: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 23:06:05.41 ID:FHXGCyN/o
月曜ロードショー


Next:#4「悪運☆ヒーローズ」         ラブライブ!× ダイ・ハード 4.0

172: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/03(月) 23:06:31.76 ID:FHXGCyN/o
※レ 力発電

レ の自由化により可能となった新時代の発電方式。
発電原理を考えれば低コストかつ半永久的なエネルギーの供給を約束するが、
ダーティーエネルギーなため全ての方式を完全に置換するには至らなかった。
世界に先駆けこれを採用した日本では電力供給の大部分をこの仕組みに頼っているのが現状。
電力のほかガスエネルギーへの変換も可能で、施設の多くは供給用のパイプライン設備を併設している。

176: 現在の状況 2017/07/04(火) 00:34:00.95 ID:5hs9uQbco

【悪運コンビ】                 【Sain†Snow】

【野沢ダイヤ】【津島善子】         ・コマンドセンター
                         【鹿角聖良】【小泉花陽】ほか
→トーホクレ 力発電所を目指す    
                         →セミトレーラーで移動中

                         ・発電所強襲班
                         【鹿角理亞】【綺羅ツバサ】ほか

                         →トーホクレ 力発電所に到着

                         ・ヒフミ班
                         【ヒデコ】【フミコ】【ミカ】

                         →何処かの施設で何らかのデータを違法ダウンロード中

                         ・善子暗殺班
                         【星空凛】【高海千歌】

                         →道草を食いつつトレーラーへ合流目指す

177: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:34:46.24 ID:5hs9uQbco

――

――――


海未「いいですか。お母さんはこれから警察の方と大切なお話をしてきますので」

海未「あなたは車の中で大人しくお留守番しているのですよ」


ほのか「やだやだっほのかもうみちゃんママといっしょにけいさついく!」


海未「駄目です。今あそこはプチ世紀末状態」

海未「あなたを連れていっても碌なことにならないのは目に見えていますから」


ほのか「ぶー、そういうのネグレクトっていうんだよ。いくったらいくんだもんっ」

海未「いい子にしてないと、今年もサンタさんが来てくれませんよ?」


ほのか「サンタさんならさっきみたよ」


ほのか「いはんきっぷきられておくるまをレッカーされてた」


海未「…あれは偽物です。クリスマスが近付くとああいう輩が出てくるのです」


海未「本物が車に乗ってこんな所にいるわけないじゃないですか」

178: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:35:18.66 ID:5hs9uQbco

ほのか「はぁ、もういいや」


ほのか「じゃあせめてキーちょうだい。くるまにいるあいだは、ほのかがあずかるんだもん」



海未「…仕方ありませんね」


海未「いつも通り絶対に車を動かすことのないよう。鍵を口に含むのもダメです」


ほのか「わかってる。はやくいってきてよ」


海未「お行儀よくしてるのですよ? 買ったばかりのアクアを汚さないでくださいね」

179: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:36:12.78 ID:5hs9uQbco


 ドルルォォォォンン


ほのか「まーどのあけしめ、たのしーるんるん♪」ヴィヴィーン


ほのか「よーし、うみちゃんママがかえってくるまでにしんきろくをつくるぞー」ヴィーン


善子「そこのあなた!」


善子「ちょっとお姉さんたちを助けてほしいのよ。話を聞いてあ゛あ゛あ゛!??」


善子「いっ痛い痛い!挟まってる!窓閉めないでっておい!」バンバン


善子「ギャー!ライター近付けんな!目が、網膜が焼けちゃう!」


善子「やりすぎでしょ!? ヨハネはそこまで怪しくないわよぉ!」


善子「お願い助けて、あなただけが頼りなの! 死にそうな人がいるのよっ」


180: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:37:39.12 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「うっうぅ…痛いですわ痛いですわ」


善子「ほらこの人!大怪我してるでしょ?ダンプに轢かれて重傷なの」


ほのか「うそだっ、どうせクルマをぬすもうとしてかえりうちにあったんだ!」


善子「ちっ違いますぅー!あなた名前はなんていうの?」


ほのか「あやしいひとにはなまえをおしえちゃダメって、ほのかうみちゃんママにいわれてるの」



善子「ほのか…ほのかちゃんにもうみちゃんママがいるのよね」


善子「早く病院に連れて行かないとこの人…私のお母さんが死んじゃうのよ!」


善子「お願いだから車を貸して、後で必ず返すから! まだお母さんとお別れするのは嫌なの、お願い…!」



ほのか「…わかった」



善子「ありがと…!」パァ

181: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:39:17.90 ID:5hs9uQbco

ほのか「」スッ


善子「…?なによこの手は」



善子「貸してあげるんだからレンタル代…なんですって?このガキンチョ」


ほのか「」ヴィ…


善子「オホン…で、幾らほしいの」


ほのか「」パー


善子「五百円…大金ね」



善子「ほら大事に使いなさいよ。これとキーを交換しましょ」

182: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:40:19.63 ID:5hs9uQbco


善子「…ちょっと。五百円あげたんだからキーを頂戴よ」


善子「は? 五十万んん!? 」


善子「ふっざけんな!ミョーに現実的な数字出しちゃって生意」


ほのか「」ヴィーン


善子「わわわわかったわよあるだけ払うから!」



善子「ダイ…じゃなくてお母さん、今どのくらい持ってる?」


ダイヤ「そんな急に言われましても持ち合わせなんて…」


善子「きぃー情けないわね、そんなんだからいい歳して馬小屋暮らしなのよ」


ダイヤ「実家暮らしのニートに言われたくありませんわ! さらに言えばこちとらつい先ほど全財産を失った身でして!」


善子「xxxx xxx ファイヤーセール!」



ほのか「ふたりともテンションたかいね」


ダイよし「徹夜明けですから!!」

183: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:41:53.35 ID:5hs9uQbco


 ブオオオオオオオオ


善子「あのチビッ子きっちり借用書まで書かせて。一体どんな教育を受けてるのかしら」


ダイヤ「ある意味ではしっかりした子だと思いますけど」



ダイヤ「…それにしてもお母さんですか」


善子「なによ。咄嗟にしては悪くないアイディアだったでしょ」


ダイヤ「確かに。さっきはいい演技でした。意外な才能ね」


 
善子「……」


善子「――ありがとお母さ…あ、違っ!」

184: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:42:29.33 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「なにテンパってるんですの」


善子「…面と向かって褒められるのに慣れてないの」



善子「生配信とかやってたし、ああいうのは割と得意」


善子「賞賛してくれる人もいたけど、全部ネットの中の出来事だったから」



ダイヤ「さっきので分かったでしょう。結局最後にものを言うのはアナログなやり方だと」


ダイヤ「敵がそれをやろうとしているなら、私たちも同じ土俵に上がって止めませんと」

185: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:44:13.23 ID:5hs9uQbco

【トーホクレ 力発電所 女子トイレ】











ツバサ「だーれか入ってますかぁ?」コンコン




ツバサ「ねえ、必死に息を殺してるとこ悪いんだけど」




ツバサ「下から足が丸見えなのよね」チャキッ




「ひっ…!やめてっ、殺さな」




ツバサ「♪」



 プスプスプスプスプスプス!!!!―――チリンチリンチン…





あんじゅ「撃ち過ぎじゃなぁい? 弾足りなくなるわよ」


ツバサ「そう思うんならあんじゅがやれば?」


あんじゅ「今手が離せないの」キュッキュッ


ツバサ「さっきから化粧直してばっかりじゃない。最初はノリノリだったくせに」


あんじゅ「返り血が顔にかかっちゃって…テンションさがちゃった」



ツバサ「それにしてもこの施設なんか変よね」


ツバサ「トイレだってほら、こんなに足元大きく開いてる。外国みたい」


あんじゅ「こういうスタイルが採用されるのは性犯罪防止のためだって、知ってた?」


ツバサ「おお怖。原発とレ の深い闇ってやつね」

186: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:45:31.91 ID:5hs9uQbco

†YOHANE†:というわけで 今その発電所にむかってるんだけど


nico252:(-人-)ナムナム


†YOHANE†:やめてよ


†YOHANE†:マジで不安になるんですけど


nico252:ま 死なない程度に踏ん張んなさい


†YOHANE†:それだけ?


†YOHANE†:私も遠隔でサポートするよとか


†YOHANE†:そういう展開になるのがフツーじゃない?


†YOHANE†:サマ魚のメガネ君みたいに

187: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:45:59.18 ID:5hs9uQbco

nico252:リアルにあんな都合のいいお人好しがいてたまるかっつーの


nico252:人のこと便利な道具かなんかだと思ってない?


nico252:お金貰ってるわけでもないのに


nico252:あまり舐めないでほしいにこ


†YOHANE†:しんらつ


†YOHANE†:世知辛いのねあなたって


†YOHANE†:スマイルゼロ円って言うじゃない


†YOHANE†:ヨハネのことも笑顔にしてよ


188: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:46:25.69 ID:5hs9uQbco

nico252:ったく


nico252:しょーがないわね


nico252:着いたら連絡しなさい


nico252:軽くアドバイスくらいならしてあげるわ


nico252:うちもそこから電気もらってるわけだし


†YOHANE†:サンキュー

189: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:47:36.74 ID:5hs9uQbco

善子「…」フゥ


ダイヤ「さっきから静かですね。退屈なドライブに眠気を催しましたか」


善子「緊張してるの」


善子「だって自分を殺そうとしてるやつらの所へ殴り込みに行くのよ?プレッシャーでおかしくなりそう」


ダイヤ「そのうち慣れますわよ」


善子「…そりゃあなたはね」


善子「敵が無線で言ってたけど、これまで何度もこういうの経験してきたんでしょ」


善子「その度に生き残って、事件を解決して。とんでもない英雄様じゃないの」


ダイヤ「やめて」


ダイヤ「そんな言葉、聞きたくありません。私はヒーローでも何でもないのです」

190: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:48:53.46 ID:5hs9uQbco

善子「どうしてよ。あなたもリリーみたく謙遜してる…ってわけじゃなさそうだけど」


ダイヤ「そうね…」


ダイヤ「ではそのヒーローとか呼ばれた女の昔話でもしましょうか。時間潰しに」







全ての始まりは私がまだこの仕事に就く前…

幼馴染のお嬢様が所有する超高層ビルで開かれたクリスマス・パーティに招待された夜でした。



エリー「今から三つ数えるわ」


エリー「その間に大金庫の扉を開ける解除コードを言いなさい。さもなくば」



鞠莉「人質を解放しないのなら教えられまセーン」


鞠莉「その手の脅しには屈しないわ。小原を舐めないで頂戴」



エリー「そう…」



エリー「ダスビダーニャ」



――BANG!



「ッ――!」


191: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:50:05.28 ID:5hs9uQbco

大会議室の窓ガラスに、飛び散った親友の金髪と後頭部の欠片がへばり付く様を見た瞬間、
私の中でも何かが弾けた気がしましたの。


~~~~~


(どうして、どうして助けなかったの――冷静になって…あそこで飛び出しても一緒に殺されてました!)


(犯人は恐ろしく頭が切れる…警察よりもずっと。しかも人質の命を屁とも思ってない)


(下の階にいる人質の中にはルビィも……私が何とかしなくては)


~~~~~


テロリストA「げぁあっ!」ゴキンッ


「ハァハァ…わ、私この手で人を……うっ、おええええっ」


~~~~~


テロリストB「教えてあげるわお嬢さん。殺れるチャンスがあったら逃さないこと」


テロリストB「引き金を引くときは躊躇っちゃいけな」


――BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


テロリストB「ぎゃああっ!!」


 ドサッ…


「…ご忠告感謝します」シュウウウウウ


192: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:52:12.11 ID:5hs9uQbco

~~~~~

「皆さんお逃げになって!これは罠です!屋上には爆弾が…きゃああっ!?」


「あれは警察のヘリ? 何故こちらへ向けて撃ってくるの…私はテロリストじゃありません!」


「はぁ…はぁ…ぐすっ、どうしてこんな目に遭わなければなりませんの…今日はクリスマス・イヴなのに」


「ひぃぃ…ここから飛ぶなんて……もうこれっきりにしてください…」


「ピギャアアアあああああ!!!!」


~~~~~


地上四十階の密室と化したオハラ・プラザで、テロリストを装ったカネ目当ての武装窃盗団と
命懸けの駆け引きを繰り返すうち、敵は一人また一人と倒れ、遂に妹を人質に取った
リーダーとの一騎打ちと相成りました。


エリー「動かないで」


ルビィ「ぉねえちゃ…」



「…降参しますわ」




エリー「素人の分際でよくもここまで引っ掻き回してくれたものよ。でも、それももう終わり」


エリー「ロシアでは別れの時こう挨拶するの。ダスビダっっ、にゃ…」

193: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:54:09.73 ID:5hs9uQbco


エリー「……」



ルビィ(噛んだ…)



「……ふふ」



エリー「フ、フフフ…」



「「うふふあははははは!!」」



ルビィ(おねぇちゃん?)



「あーっはははははははは!!!」サッ



ルビィ「!」



「ルビィ伏せなさい!」スチャッ



――BANG!BANG!










194: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:55:28.31 ID:5hs9uQbco

それからきっかり一年。

オハラを救った英雄だのなんだの言って私を祭り上げる声も聞こえなくなった頃。

妹を迎えに訪れたナリタ国際空港で、またしてもテロという名のクリスマスプレゼントを押し付けられました。


犯人はミモアート大佐率いる元某国陸軍特殊部隊の精鋭たち。
目的は護送されてくる上官で麻薬王エミツランザ将軍の奪還。


そのための手段として、犯人らは空港の管制機能を乗っ取り、
着陸できずに上空を旋回する妹含め多数の乗客を乗せた航空機たちを丸ごと人質としたのです。


見せしめとして墜落させられた旅客機の炎上する姿にテロリストらの本気を見た私は、
周りの助けを借りつつ事態の解決に奔走しました。

195: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:56:40.83 ID:5hs9uQbco


そこからです。何かが狂い始めたのは。


二年続けてクリスマスの夜にテロ事件に遭遇するなんてあり得ない偶然。

テロリストの一人に言わせれば“常に間の悪い時に間の悪い場所にいる”のが私の運命だそうで。



犯人たちの乗った逃走用のジェット機を、私は航空燃料への引火で木端微塵に吹き飛ばしました。


燃え盛るその残骸が燃料切れ寸前の人質航空機たちへの着陸誘導灯代わりとなることを期待した起死回生の一手。


その時はそれしか思い浮かばなかったのです。


しかし、世間はそう受け取らなかったようで。

196: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:58:22.00 ID:5hs9uQbco

黒澤ダイヤはテロリスト二十名余を空中爆破して皆殺した勘違いヒーロー気取り。

不死身のやりすぎ女、籍を入れたいテロリストランキング1位とかなんとか。

翌朝の見出しが散々だったことは記憶しています。



私は何も否定できませんでした。

しかしその矛先が私の生家にまで及ぶのは許容できません。


家に仇なす悪性腫瘍は直ちに切除すべし、たとえそれが身内であっても。

それが、古来より家の存続を第一としてきた黒澤家の方針。



自分自身を切り捨てる――次期当主だったこの私の最初で最後の決断でした。

結果として妹には重荷を背負わせることとなってしまいましたが…



苗字を変え、生活の基盤を失った私に残されていたのは、悪党を引き寄せる自らの才。

呪いとしか言いようのないこの悪運を何とか活かせる職にありつくという選択肢くらい。

197: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 00:59:43.26 ID:5hs9uQbco



『ゲームをしましょう。名付けて“アリサセッズ”です』



二度あることは三度ある。もはやここまでくると笑えませんけど。


刑事となって暫くした頃、二日酔い気味の私にかかってきた電話は
昔オハラ・プラザの窓から突き落としたエセテロリスト、エリーの妹を名乗るサイコ女からの挑戦状。


不思議の国に迷い込んだアリスでも気取っているのか、マザーグースかぶれの謎々テロゲームで
私とたまたまその場に居合わせたもう一人の幼馴染を翻弄し、これは互いに親しい者を殺された復讐者同士
宿命の対決などと宣いました。



アリサと私は似ているですって? 片腹大激痛ですわ。



198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:02:14.80 ID:5hs9uQbco









――ブロロロォォォン!


果南「どいてどいてぇー!」


「ぴぎゃっ」



果南「うっし、着地成功!」



通行人A「な、なに? 空からジェットスキーが」

通行人B「どこから来たんだろ…映画の撮影とか?」

199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:02:40.25 ID:5hs9uQbco


「マリンパークから駅まで十五分で行けなんて指令もムチャクチャでしたが…」


「まさかジェットスキー一本で川から街を突っ切るなんて」


「ハァハァ…貴女って人は何時も荒っぽ過ぎです…」



果南「でもこれで大分ショートカットできたでしょ。ダイヤのやり方じゃ絶対間に合わなかっただろうし」


「…そうでした! 通信機は何処です?」


果南「あの噴水前にあるやつじゃない? げっ、あのケース…また爆弾?」



「もしもしアリサさん? 着きましたわよ、まだ時間はオーバーしてませんよね?」


『ギリギリセーフです。驚きました、どんな手を使ったんです?』


「とても一口では説明できませんわ…色々あり過ぎて」


200: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:04:36.85 ID:5hs9uQbco

『まあいいでしょう。次のアリサセッズ』


『そこに3ガロンと5ガロンの容器があります。この二つを使って正確に4ガロンの水を測ってくさだい』


『目の前にある爆弾はぴったり4ガロン入った容器を載せることで解除されます。ではご健闘をお祈りします』




「爆発まであと四分と十二秒しかありませんわ…」


果南「分かったこんなの簡単だよ! 容器を貸して」


果南「まず5ガロンの容器いっぱいに汲んだ水を3ガロンの方に移すよ」ジャバジャバ…


「果南さんこぼれてます。もっと丁寧に」


果南「うるさいな分かってるよ。これで5ガロンの方には今2ガロン入ってることになるよね?」


「そこからあと2ガロンどうやって測るというの」


果南「分かんない? この2ガロンの方と同じになるくらいまで3ガロンから水を捨てて、それを」


「ぶー!ですわっ」

201: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:05:24.44 ID:5hs9uQbco

「犯人はきっちり4ガロンでないと爆発すると言いました。大体同じ、では駄目に決まってるでしょう」


果南「任せなって。私水には慣れてるから目分量でも正確に測れるよ、重さで分かるんだ」


「貴女1ガロンが何リットルか理解してますの? 大体どうしてガロンなのかしら。ここは日本なのに」


果南「問題はそこじゃないでしょ。もーダイヤはいちいち細かいんだから」


「今はその細かさが重要ですの! 下手したら私たちごと駅前が爆弾で吹き飛ばされますのよ!?」


果南「百も承知だよ!じゃあどうするの?今から爆弾を人のいない所に運ぶ?」


「言い争ってるうちにあと二分!もう無理ですわ!大体果南さんは昔から」



果南「なに? 昔から何?」


果南「今馬鹿って言おうとしたでしょ」


果南「スポーツしか取り柄のない脳筋だってそう言おうとしたんだ!」

202: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:06:45.30 ID:5hs9uQbco

「っ…違います、大雑把で繊細さに欠けるところがあると言いかけたんです」


「普段己に対して少なからず思うところがあるからそのような発想に至るのでしょう」


「果南さんは今自分で自分のことを貶めたのです」


果南「なにおう…」



「とにかく!今は爆弾を何とかしないと。あと一分しかないじゃないですか!」


果南「もう思いっきり遠くへブン投げちゃおう」


「おやめなさい!そんなことすれば即爆発ですわ」


果南「やってみなきゃ分かんないでしょ?」



「少し待ってください。これは意味不明なマザーグースの謎々でなく単純な和算の問題です。落ち着いて考えれば」


果南「へーならさっさと頭のいいところを見せてよ。ダイヤは私と違って勉強できたもんね」


「せかさないで。私二日酔いで頭がガンガンしてますのよ…」


果南「やばいあと三十秒!」


「大声も出さないっ」

219: >>202の続き 2017/07/04(火) 01:12:36.08 ID:5hs9uQbco

「…分かりました」


「その2ガロンの水を、空にした3ガロンの容器に注いで。そっとですわよ」


「これで3ガロンの容器に2ガロンの水。あと1ガロン注げるわけです」


果南「そうか、ここで5ガロンいっぱいにした容器から1ガロン分移せば!」


「4ガロン容器の完成ですわ。さ、早くそれを載せて!」



【タイマー解除】



果南「やったね!」ハイタッチ



 PLLLLLLLL…ピッ


『またしてもギリギリ、またもや正解です。このスリル、クセになってませんか? さて次の目的地ですけど』


「ちょっといい加減になさい。いつまでこんなジャリの使いを続けさせる気?」


『言ったでしょう。これは復しゅ――ドドドドドドドガガガガッ――リサとまだまだ遊んでもらいますよ』


(――今の、重機の音?)

220: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:16:10.63 ID:5hs9uQbco

『工事現場にでもいらっしゃるの? 声がよく聞こえませんわよ』


アリサ「おっと…失礼しました」


部下A「アリサ隊長!」


アリサ「しーっ、今は電話中です」


部下A「すみません…金塊の積み込みは間もなく完了するということを報告しようと」


アリサ「…そうですか」ニヤッ



~~~~~


ヌマヅの街全域を舞台に繰り広げられた知恵比べ。警察も一般市民も巻き込んだ一大復讐劇。


ですが何のことはありません。


アリサの真の狙いは小原家の保有する大量の金塊。要は姉と同じくカネ目当ての武装強盗。


復讐は警察の目をそらすカモフラージュ目的のついで。しかしそれなりに真剣な様子でもありました。


彼女が姉をどう思っていたかなんて知る由もないですけど。



とどのつまり、姉妹揃って小原にたかるハイエナの露 だったことに違いはありません。



結局、キレる頭脳と偏頭痛の持ち主であるアリサに私たちは惜敗。


ウチウラの海に爆弾と共に沈められかけ、その隙に彼女は戦利品を手に優々と行方をくらませたのです。


221: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:17:15.67 ID:5hs9uQbco










 カランコロン



「お待たせしました。レミーマルタン・ルイ13世です」



アリサ「――!」




「昼間から一杯二万はするお酒? いいご身分だこと」チャキ




アリサ「…お久しぶりですダイヤさん。少しやつれました?」




「………」


222: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:17:51.29 ID:5hs9uQbco

アリサ「よくこの場所が分かりましたね。警察は…」


「警察は関係ありません。今私は無期限停職中の身なの」


「そっちがあまりに鮮やかに姿を消してくれたおかげで、残された方々に出来たのは私のことを共犯と疑うくらい」


「マルさんが庇ってくれたけど、何度も嘘発見器にかけられる羽目になったのよ」


アリサ「泣ける友情ですね。そういえばもう一人のお友達はどうしました?」


「………」


「果南さんは――来てないわ」


「あの日からずっと、彼女は昏睡状態よ」

226: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:19:40.94 ID:5hs9uQbco


「――海の底で、相当な無茶を」



「私を助けようとしたばかりに…」



アリサ「それはお気の毒に」




「ええ全く。船の中で貴女にもらったこの頭痛薬がなければ今頃どうなっていたか」



「容器の底に書かれた製造情報から、この薬はこの先の店でしか売られていない特殊なものだと突き止めたの」



「まさか堂々と祖国へ凱旋していたなんて…ね。アリスじゃなくてジョニーだったというわけ」




アリサ「ハラショ…これは迂闊でした。あなたのしぶとさを見誤ったアリサの失点です」


アリサ「それで、逮捕でないなら何が目的なんですか」



「貴女にプレゼントを持ってきたのよ。折角のクリスマス・イヴですしね――」

233: >>226の続き 2017/07/04(火) 01:24:50.62 ID:5hs9uQbco


「中国製の小型ロケットランチャーです。これを使ってゲームをしましょう」


「貴女と私、テーブルを挟んで向き合う二人の間にこれを置いて」


「今から私の出す問題――外国かぶれでちょっぴり意地悪なマリーさんの謎々に答えられなかった時」


「貴女の手で発射スイッチを押すの。名付けて“マリーセッズ”よ」



アリサ「ちょ…ちょっと待って。これどっちから弾が出るんですか」



「さあ? そんなことはどうでもいいじゃない」


「頭の固い私は昔これに随分と苦しめられたの。今度は貴女がそれを味わう番」


「始めるわよ。マリーセッズ…」

234: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:25:50.38 ID:5hs9uQbco

「アキバとカンダとジンボウ町。三つの街の狭間にある学校の校舎で飛び降りがありました」


「この場合、生徒が命を落としたのはどの街ということに?」



アリサ(――?)



「回答は五秒以内に。五…四」



アリサ(落ち着いてアリサ。この手の問題の解き方は正攻法じゃないよ。回答時間を考えてもそれは明らか)


アリサ(あくまで謎々なんだから。屁理屈が大事。問いにそのまま答える必要もない)


アリサ(発想の逆転。答えが出せないのなら)



アリサ「……未遂よ。飛び降りた生徒は生きている、ですよね?」



「流石ね。正解したからロケット砲を半回転させる権利を得たわ」



アリサ「…なるほど」クルッ


アリサ(やっと把握できたかも。このゲームの仕組みが)

235: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:27:57.89 ID:5hs9uQbco

アリサ(これは確率二分の一のロシアンルーレット。回転させるのは弾倉じゃなく銃口の向きだけど)


アリサ(自分と相手、今どちらに銃口が向いているのか。引き金を引くまでに、それを把握しなきゃいけない)


アリサ(ロケット砲は…多分この人が改造して見た目は全くの左右対称。当然本人は正解の向きを知ってるはず)



「次のマリーセッズ。マリーさんは乗馬が趣味なの。勿論馬のことも大好き超愛しています」

「もっともっと馬の数を増やしたい。マリーが馬の赤ちゃんを産むにはどうすれば?」



アリサ(ロケットの向きを変えた時の相手の反応、出題される謎々の難易度の推移)


アリサ(それら諸々の要素から出題者の心理を読み切って弾の発射される方向を暴く。これはそういうゲーム…!)

236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:28:50.75 ID:5hs9uQbco



アリサ「マリーをマリーさせます」


「は?」


アリサ「飼い馬の名前もマリーなんでしょ。種馬と結婚(マリー)させれば万事解決です」


「ウマいこと言うのね、正解よ。また向きを変える?」


アリサ「…ええ」クルッ



アリサ(これでロケット砲は再び元の位置に。目の前の相手は眉一つ動かさない)


アリサ(まだ足りない、どちらが“当たり”の方向か確信するには)


アリサ(十分な判断材料が揃うまで、私は問題に正解し続けなきゃいけない)



アリサ(ニエットプロブレム! 謎々はアリサの得意分野なんだから)



「マリーセッズは続くわ。親と子ぐらい歳の離れた泥棒コンビが逮捕されました」


「二人のうち若い方が供述で『自分は相棒の成人した息子の父親』だと。はて?」


237: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:29:56.93 ID:5hs9uQbco


アリサ「二人は夫婦です」


アリサ(それにしても…狂ってる)



「お見事。さらなるマリーセッズ」



アリサ(こんなゲームを仕掛けてくるのはアリサへの意趣返しのつもりなんだろうけど)


アリサ(わざわざ自分の方が死ぬかもしれないリスクを背負って――普通そこまでする?)



「レ ビアンのマリーさんは人をどこまで好きになれますか?」



アリサ「半分まで。それ以上はバイセクシャルの領域ですから」



アリサ(さっきから問題が易しい…もしやこの向きが)


「今のはサービス問題。次のが本番でしてよ」


238: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:30:50.78 ID:5hs9uQbco

「酒場で善人と悪人が向かい合って座っています」


「善人の手にはピストル。悪人の手にはブランデーのボトルが」



アリサ「…」ゴクッ



「さあこの状況で、悪人が平穏無事にお酒を飲むため必要なものは?」



アリサ「…………っ」



アリサ(なに、それ…)



アリサ(それが出来ないから、こんなゲームをやってるんでしょーが!)




「答えなさい――さもなくば、引き金を引くだけ」チャキ





アリサ「…………」




アリサ「……コップ」




アリサ「コップ(警官)が必要よ…」



239: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:32:37.51 ID:5hs9uQbco


「ぶっぶー!よっ。あいにく警官は私なので」


「お楽しみの時ね。スイッチを押しなさい」



アリサ「……」



「今なら特別に向きの変更を許可してあげる。決めた?」



アリサ「…」コクッ



「そう…」




「では発射なさい。お姉様によろしく」



アリサ「ッ…!」クルッ




 カチッ



――BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!!!!!!




240: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:33:16.12 ID:5hs9uQbco



 パラパラパラ…



「……ゲホッ………ぅぐぇ」ビチャッ




「こう、いう時…ロシア…語でなん……て…言うんだったかしら…」




「思い出した――ダス…ビ、ダーニャ…で…しょ?」



―――――――――

―――――

――

241: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:34:14.89 ID:5hs9uQbco










「――はっ」



花丸「無理に動かないほうがいいずら」



「マルさん…? ここは」



花丸「西木野病院。ちゃんと昨日までの記憶はある?」


花丸「寝たり起きたり、もうひと月もそんな感じなの」

242: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:34:52.50 ID:5hs9uQbco


「…アリサは」


花丸「今度こそ跡形もなく消えちゃった。ロケット砲の後方爆風(バックブラスト)でダイヤさんも大火傷ずら」



「………鏡を」



「――ふ、どうやらベイダー卿にはならなくて済みそうね」



「雪ダルマみたいな…この時期にぴったりじゃありませんの」ツルツル



花丸「最初からどっちに転んでも自分ごと相手を吹き飛ばすつもりだったんだね。どうしてそんな…」



「さあ…ヤケになっていたのかもしれません。また死に損ねてしまいましたけど」

243: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:35:56.45 ID:5hs9uQbco


花丸「これからどうするの?」


「休みます…停職が解かれるまでは」


「もし――まだこれからも仕事を続けていいというなら、私は…」







ダイヤ「それから、今日までなんとなくやってきた…そんな感じです」


善子「……」


ダイヤ「貴女がヒーローというものにどんな幻想を抱いてるか知りませんが」


ダイヤ「現実はこの通り。貰えるのは敵からの鉛玉と全てが終わった後にちょっと褒めらるくらい」


ダイヤ「あの日から人生が段々おかしくなって生活は滅茶苦茶。妹や周囲にも多大な迷惑をかけてしまいました」


ダイヤ「最近は専ら人付き合いを避け、安アパートに帰って一人でご飯を食べる日々…」


ダイヤ「私はヒーローになりたかったわけじゃありません。ただ皆を助けたくてがむしゃらだった…それだけです」



ダイヤ「もう二度とごめんですわ…ヒーローなんて呼ばれるのは」


244: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:36:49.97 ID:5hs9uQbco

善子「じゃあ…なんでまだやってるの?」

善子「警察の仕事続けてなきゃ…私のこと何度も助けなきゃこんなことにならなかったのに、なんで」


   
ダイヤ「他にやる人がいませんもの」


ダイヤ「誰か代わりにやってくれると言うなら喜んで代わります。けどいないなら」


ダイヤ「私がやる他ないでしょう。丁度今こうしているように」



善子「……」


善子「そっか、納得」ボソッ


善子(だからあなたはヒーローなのよ。そういうとこも含めてね)

245: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 01:38:17.34 ID:5hs9uQbco
火曜
ロードショー



Next:#5「大停電だけど大丈夫?」       ラブライブ!× ダイ・ハード 4.0


278: >>245の続き 2017/07/04(火) 06:36:42.78 ID:5hs9uQbco



 ブオオオオオオオオ ガタガタガタ…



雪穂「うおっし、ダウンロードが50パーセントを突破」


聖良「ヒフミ班に連絡。間もなくそちらへ到着すると」



――サイコウダト イワレタイヨ! ピッ


『こちら理亞。遅くなった、今から作業開始する』


聖良「了解。焦らなくていいので確実に」


聖良「これが決まれば勝利したも同然ですから」

279: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:38:37.39 ID:5hs9uQbco

――

――――


善子「あーあ、本当に来ちゃった…来ちゃったのね」


ダイヤ「入口近くのヘリポートにあった機体。あれは私たちを追い回したのと同型でした」


ダイヤ「そして守衛室には警備員の死体。貴女の読み通り、やつらはここに来ているようです」


善子「カントー圏に電力を供給する最大の施設だからね」


善子「ここを堕とせば他の発電所の負荷が一気にデカくなってあぼん。ドミノ倒しに他の送電もストップして大停電よ」


ダイヤ「しかしそんなことをして犯人たちに何の得があるというのでしょう。敵の最終目標は?」


善子「さあね。カルトな終末思想でも持ってるんじゃない? お約束だと核ミサイル発射とか」


ダイヤ「そんなことさせません。さあこのマップを見て。犯人たちの居場所はどこです?」


善子「システムをストップさせるには…中央制御室、四階よ!」


ダイヤ「すぐに向かいましょう」


善子「あ…ま、待って!」


善子「実は…その前に行っておきたいところが」モジモジ


280: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:39:23.88 ID:5hs9uQbco

【中央制御室】


理亞「…」カタカタカタカタ


理亞「待たせたわね姉さま。システムに侵入出来た」


『よし。順に送電停止して』



英玲奈「…! おい」


あんじゅ「どうかした?」


英玲奈「カメラを見ろ。お客さんだ」



理亞「またあのゆで玉女……本ッ当にゴキブリ並みね」


理亞「駆除は任せる。ここに一人残して――綺羅さんは?」


英玲奈「今席を外してる。あいつは…」


281: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:41:49.40 ID:5hs9uQbco

~~~~~


ダイヤ「こんな時にトイレなんて…!」


ダイヤ「貴女分かってますの!? ここはもう敵陣ですのよ?」


善子「生理現象なんだからしゃーないでしょ? いや本当は緊張のせいだと思うけど」


善子「このままだと戦いが始まったら直ぐまき散らす自信あるわ」


ダイヤ「…分かりましたから早く済ませなさい」



左右にずらりと並んだ個室の扉へ奇妙な足取りで向かっていく善子をため息混じりに見送ると、
化粧台の鏡へ視線を移した。

鏡の中では切り傷と疲労がたっぷり刻まれた顔がこちらを見返している。



ダイヤ「……?」


ふと、さっきからある違和感が。近くで誰かが話しているような気がする。
それも肉声ではなくラジオがついているような…




『――――ザザ……バサ……シロ』



音の発信源を辿り、化粧台の隅に小さな黒い塊が置かれているのを発見した――これは超小型のインカムだ。



ダイヤ(いけない――!)

282: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:43:00.08 ID:5hs9uQbco

ほとんどタックルを仕掛ける勢いで善子の腰に絡み付くダイヤ。

両者が縺れ合ったまま倒れ込むのと、左側の個室の内より銃弾が飛び出したのは同時だった。


――バタン!


初弾が外れるや否や個室の扉が勢いよく開け放たれ、サイレンサー付きの拳銃を手にした女が鼻息も荒く飛び出す。


ツバサ「クソッ!クソクソクソ…落ち着いてクソも出来やしない」


ダイヤ「逃げて…!」


善子の身体を押して逃亡を促し、自分は敵に掴みかかっていく。

銃の狙いをつけさせる余裕など与えない。

283: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:45:23.72 ID:5hs9uQbco


ツバサ「」ヒュッ


ダイヤ「かぐっ!?」


瞬時に、冷静に繰り出された前蹴りはダイヤを反対側の角まで吹き飛ばした。

そのまま頭部に狙いをつけ、引き金が引かれる寸前――今一度身を屈める。



――パシュッ!  バリィィン!



二発目も外れた。

この隙にもう一度掴みかかるか(距離がありすぎる)、それとも銃を抜くか(その前に撃ち殺される)。

そのどちらでもなく、ダイヤは眼前――ツバサから見て反対側の個室の列めがけて飛んだ。



ダイヤ「ッ――!」ツルツルツル


足元の大きく空いたアメリカンなスタイルの個室だったのが幸いした。

床を滑り、その隙間から個室の中へ。

勢いそのままカーリングの石めいて、個室から個室の床を滑りながら一直線に通過していく。



――プスプスプスプスプスプス!!!!!



その後を、フルオートに切り替えたツバサのマシンピストルの銃火が追尾する。

一秒で弾倉の全弾を撃ち尽くすその猛火力はしかし悪手だった。


284: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:48:25.18 ID:5hs9uQbco


ツバサ「…!」カチカチッ


――BANG!BANG!


ツバサの銃撃が止むのと同時、今度は最後尾の個室からダイヤが撃ち返す。

攻守交替。

仰天して弾切れの銃を取り落としたツバサは、泡を食って元いた個室に飛び込み鍵をかけた。



ダイヤ「こちらの番ですわ!」バタンッ



起き上がって扉を開き、発砲しながら敵の隠れた個室へずんずんと。

鍵ごと穴だらけにした扉の前で立ち止まる。



ダイヤ「…」チラッ


床に倒れた敵の姿は見えない。便座の上で死んでいるのだろうか。

油断なく銃を構えたまま扉を開く。




ダイヤ(――いない?)




善子「ダイヤ後ろっ」




ツバサ「うおらああッ!」

285: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:49:19.66 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「くっ…」


善子の声で背後よりの奇襲に辛うじて応対できた。

敵もさるもので、こちらが外へ出てくるまでの僅かな間に、飛び込んだ個室から隣へ床伝いに移動し潜んでいたのだ。



ツバサ「ああああっ!!」


二人はがっちりと組み合ったまま、個室内に雪崩れ込む。



――ボチャン!


揉み合いとなった拍子に、ベレッタ拳銃が便器の汚水へ落下した。



ツバサ「私がこの世で一番我慢ならないのは――静かなトイレタイムを邪魔されることよッ!!」ブンッ


狭い個室の中で、持ち上げた水洗タンクの重い蓋を放るようにスイング。

それがダイヤの側頭部を捉え、あやうく意識が飛びかけ――

286: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:50:43.60 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「がッ――」


ツバサ「倒れるのはまだ早いわ」


ふらついた彼女を壁際に追い詰めると、内開きの扉を利用した容赦のない追撃を加える。



ツバサ「用を足すときはちゃんと扉を閉めないとね、ほらほら!!」ガッ!ガツン!ガツン!ドガッ!


乱暴なノックが続けざまに全身を打ちのめす。

何とか逃れようと身体の向きを変えたその顔面を扉がしたたかに打ちのめし、
鼻血を噴き出したダイヤはずるずると崩れ落ちてしまう。



ツバサ「はッ、ザマないわね」


床に這いつくばって肩で息をする様を冷たく見下すその瞳は嗜虐の翠。

一方で、滴る血液が床を汚し、それが砕けたタンク蓋の方へ流れるのを見た瞬間、
ダイヤのグリーンアイズに逆襲の炎が燃え上がった。

287: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:52:44.07 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「ふんッ」ザクッ!


割れた陶器は勝機の欠片。

打製石器を振り回す原始人よろしく、その塊で目の前の向こう脛を痛烈に打ち据えた。



ツバサ「ぐっ…!?」


バランスを崩したその足首をすかさず力任せに引っ掴んで転倒させる。

まだだ。まな板の鯉に思いきり包丁を振り下ろすイメージで、両手で保持したタンク蓋の断面を床上の足首に叩き付ける――!



ツバサ「ぎゃっ…!」


陶器と足首が共に嫌な音を立てた。

そのままもう一度、蓋によるギロチン攻撃を敢行しようとするも。



ツバサ「調子に乗んじゃないわよッ!」ドガッ


ダイヤ「ぶほ…っ!」


もう一方の足蹴りを鼻面に叩き込まれ、手から離れた蓋は便座の上に。

身じろぎすらままならぬ閉鎖空間で、二人は背後の壁を支えによろよろと立ち上がる。



ツバサ「ブッ殺…!」ダッ


ダイヤ「されるのは貴女!」


向かってきたその両腕を掴んで取っ組み合うと、自由な足で狙うは敵の負傷箇所。



ダイヤ「お、か、え、し、ですわ!!」ガッ!ガツン!ガツン!ドガッ!


何度も何度も何度も執拗に、ウィークポイントとなった足首に攻撃を加え続ける。

そして遂に――

288: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:54:59.19 ID:5hs9uQbco

 バキリッ


ツバサ「がっ…!あっ足が折れ」


ダイヤ「人体には二百十五本の骨があるそうです。さあ、もう一本いきますわよ!」ブンッ


――ゴリンッ


ツバサ「っあビ」


首元を狙って力任せに振るわれたタンク蓋が、絶対に折れてはいけない骨と絶対に傷付けてはならない神経を損傷せしめ、
一瞬で便座の上に倒れ込んだ敵の姿は糸の切れた操り人形という表現が相応しい。



ダイヤ「一体私たちは何をしてるんでしょうねっ!大の大人が二人!こんな場所で鼻を突き合わせて!あらぬ誤解を受けますわ!」



なおもその頭部を便座に打ち据え、やがて相手がこと切れているのに気付くと、我に返ったように掴んだ頭髪を手放す。

便器の中に浸かった後ろ頭を尻目に、洗浄レバーを引いた。



ダイヤ「興奮しすぎましたわ…お互い頭を冷やしましょう」ジャー

289: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:56:12.82 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「さて…善子さん怪我はしてない?」


善子「…ちょっと漏れた」


ダイヤ「全く言わんこっちゃない…」ザバァ



善子「げーばっちぃ、その汚物まみれのピストル使えるの?」


ダイヤ「使わなきゃいけません。どうやら相手の方は弾切れのようですし」


ダイヤ「一度分解して水洗いした後乾かさないと…」



290: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:58:14.04 ID:5hs9uQbco


あんじゅ「……」


トイレ脇に立ち、その出入口にぴったりと銃口をポイントしながら、傭兵は中の様子に聞き耳を立てていた。



「で、なんでその作業を私がやんないといけないのよ!」



あんじゅ(ツバサ…やられちゃったの?)



たった今この場に到着したばかりの彼女には、中の状況が把握出来ていない。

分かっているのは、どうやら中にいるのは侵入者の二人らしいこと。



「なによその目…黙ってないで何とか言ったら?」


「あ分かった。さっき私があなたを助けもせずに震えてたのを怒ってるんでしょ?」



あんじゅ(考えたくないけど…ツバサを倒した相手なら)


あんじゅ(正面切ってやり合うのは得策じゃないわ。出てきた瞬間を不意撃ちで仕留める)

291: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 06:59:53.19 ID:5hs9uQbco



「無理に決まってるじゃない。あんな野獣同士の争いの輪に入っていくなんて」



トイレの中からは、相変わらず標的のハッカー女が一人でまくしたてる声が。



「戦ってる時の顔、鏡で見せてやりたかったわよ。とても同じ人類とは思えなかったわ」



あんじゅ(中々出てこないわね…何してるの? 化粧直してるわけじゃあるまいし)



「画太郎とか押切漫画に出てくるババアみたいな顔してた。近代美術の醜さだわ」



あんじゅ(会話に集中しているならいっその事乗り込んでいって……いえ、万全を期すわ)



あんじゅ(――会話?)




「大体あなたはね…!……えっと…だ、大体そのダイヤって名前は何よ!?」



「宗教家か 女優の変名だわ。キラキラネーム界に燦然と照り輝く恥星のマスターピースよ!」



あんじゅ(何かおかしい…? さっきから女が一人で一方的に罵倒を繰り返してるだけ)




あんじゅ(――まさか)       ガコンッ  






 

292: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:01:26.91 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「ああああああっ」バッ


あんじゅ「!」


あんじゅの頭上、トイレ内と繋がる換気ダクトの蓋がいきなり外れ、ダイヤが姿を現す。


相手の死角をとった時点で、普通ならこの勝負は終わっていたはずだった。

しかし今の彼女の手に武器はない。よって――



あんじゅ「くっ――」


敵は即座に身を捻り落下してきた蓋を打ち払う。

素晴らしい反応だが、ダイヤが地面に飛び降りる隙を与えてしまう。



あんじゅ「こいつ!」


ダイヤ「はッ」クルッ


素早く銃を向けようとするあんじゅに半歩先んじて、その手首をとりねじった。

同時に半回転させた身体を使って、やや強引に背中と壁の間に彼女を挟み込む。



293: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:03:28.34 ID:5hs9uQbco

あんじゅ「放――せっ」プシュップシュップシュップシュッ


腰の辺りに絞めこんだ腕に握られた拳銃があさっての方向に唸っている。

そこで相手がもう一挺、バックアップ用の拳銃を脚のホルスターに携行しているのに気付いた。



ダイヤ(これを使って…!)


あんじゅ「ッ~~~~!!」


ダイヤ「大人しくなさい!」ゴツッ



真横から殴りつけるように頬を頭突き、拘束から抜け出そうともがく敵を全身を使って押さえ込んで、
さらには腕の自由も奪いながら、何とか片手でまさぐったホルスターの銃がなかなか引き抜けない――その間黙っている敵ではない。



あんじゅ(死っ、ねっ!)シャキン


袖の内に隠したナイフが今取り出され、目指すはすぐ目の前にある侵入者の脇腹へ――




294: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:04:51.97 ID:5hs9uQbco

――BANG!


あんじゅ「あぐっ?!?」


半ばホルスターに差さった状態で、拳銃の引き金が引かれた。

垂直に発射された弾があんじゅの右のつま先を吹き飛ばし、苦悶という名の稲妻が一気に脳天まで突き抜ける。


ダイヤ「っ――!」ガチャッ


発射の反動も利用して銃を引き抜くと即座に反転。

驚いたことに、敵も痛苦を無視して銃口を振り上げていた。


二つの銃口が同時に標的を捉え、激発――





295: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:05:45.21 ID:5hs9uQbco


――BANG!BANG!BANG!BANG!



あんじゅ「ぐふっ…」


胴体に連続して銃弾を受けた敵が膝をつく。

その胸部と頭部にさらに数発ずつ撃ち込んで確実に息の根を止めた。



ダイヤ「はぁ、はぁ…」ツー


一発だけ発射された相手の弾が掠めた頬から血が垂れている。

目の前では頬の大半を鮮血の死に化粧で染め上げた女が、虚ろな眼差しでこちらを見つめ返す。



ダイヤ(――また一人)



ダイヤ(この醜いやり取りを、あと何度繰り返せばいいんでしょうか)



ダイヤ「…出てきていいですわ」

296: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:07:55.76 ID:5hs9uQbco

善子「終わった…?」


ダイヤ「これで洗い物をする手間が省けました」ガチャガチャ


善子「…驚いた。こんなに上手くいくなんて」


ダイヤ「中々際どいところでしたけど」チャキン


ダイヤ「一人で喋るのが得意な善子さんのスキルがまた役に立ちましたわ」



善子(なんか素直に喜べない)


善子「私だっていざとなったら戦えるわよ。だからヨハネにも革命の力を」



ダイヤ「銃を寄越せと? 扱えますの?」


善子「詳しいわよ。それグロックでしょ」


善子「プラスチックで出来てるからX線に映らないのよね。テロリストご用達ってわけ。どう?」フフン



ダイヤ「やっぱり駄目ですわこのトンチンカン。ゲームしかやったことないのがバレバレよ」


善子「なっ…これでもプロ級の腕前なんだから!」

297: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:08:47.07 ID:5hs9uQbco

善子「しっかしさあ、あなた全然生かして逮捕する気ないわよね…」



ダイヤ「彼女たちは人殺しに特化した訓練を受けたプロです。こちらも加減している余裕など」


ダイヤ「力量差があっても命の儚さは一緒。単純ですが効果的な一手で相手の裏をかければ、その一瞬でほとんど勝負は決まります」


ダイヤ「ゲームと違って経験値とレベルの差は絶対じゃありませんの。私が何とか戦えているのもそのお陰でしてよ」



善子「そーなの? なんか色々ツッコみたいけど」


善子「とりあえずフツーにえげつないと思うわよ。仮にも警官でしょ?」


善子「死体に尋問しても意味ないし。生かしておけば情報を聞き出せるかもしれないじゃない?」


善子「っていうかその、すぐ人を殺しちゃうのはよくないと思う、やっぱり」



ダイヤ「……」


ダイヤ「分かりました、次は努力してみます」

298: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:09:23.23 ID:5hs9uQbco



 タッタッタッタッタッ…


英玲奈(クソッ、まさかあんじゅがやられるとは)


英玲奈(お陰で私まで出張る羽目に…ツバサは何をしている?)


英玲奈(人数が足りない、いや本来ならこのミッションは四人で十分だったはず)


英玲奈(無秩序をもたらすための秩序だった計画があの女一人のせいで狂っていく)


英玲奈(生かしてはおけない。ここで確実に始末せねば…!)



299: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:10:32.75 ID:5hs9uQbco


理亞「…」カタカタカタカタ


「お遊びはここまでです」チャキ


理亞「!」



ダイヤ「おっと、動かぬよう。この銃は没収します」


ダイヤ「手をあげて立ちなさい。ゆっくりとキーボードから離れるの」


理亞「……」


ダイヤ「さあ善子さん、貴女の出番ですわ」


善子「よしきた…!」ササッ



ダイヤ「元に戻せます?」


善子「もう八割方停止されちゃってる…ええ、やれるわ」


ダイヤ「なるべく急いで。貴女はこっちよ」グイッ


300: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:12:10.35 ID:5hs9uQbco

理亞「……」


ダイヤ「さて、この機に色々聞いておきましょうか、貴女の組織のこと」


理亞「…断る」ヒュッ


一閃。目にも止まらぬ手刀が首筋に打ち込まれた。

ひるんだダイヤの手を取り、銃を握った拳をその鼻面に叩き付ける。



ダイヤ「痛ッ」


理亞「…!」ガチャッ


流れるような動作でマグリリースボタンが押され、拳銃から弾倉が外れ落ちる。

タンゴでも踊るように、ねじり上げたその腕を密着させた身体ごと回転させ、
同時にトリガーにかかったままのダイヤの指に圧をかけた。銃口が向いたその先にいたのは――



ダイヤ「っ、避けて!」


善子「んぁ?」      



――BANG!


301: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:13:16.62 ID:5hs9uQbco

間抜けな顔で振り向いた善子の鼻先スレスレを、薬室に残っていた銃弾が飛んでいった。

かなり無茶な発射の仕方だったせいで、照準が安定しなかったのだ。


理亞「ちっ」


舌打ちして弾切れの銃をはたき落とし、右左右と矢継ぎ早のコンビネーションでダイヤの胸部に打撃の嵐。


ダイヤ「…くっ」


苦し紛れに理亞から取り上げた銃を抜いた瞬間には、下からつま先にそれを蹴り上げられていた。


理亞「いやぁ!」


サマーソルトキック。

それも銃を蹴り飛ばした後、さらにもう片方の足でダイヤの顎を打ち上げるというオマケつき。

見事な連撃に成すすべなく吹き飛ばされ、背後にあったディスプレイに後頭部を激突させる。


ダイヤ「ぐはっ…!」


302: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:14:33.22 ID:5hs9uQbco

敵は全く容赦がなかった。

よろめくその腕をとり、自分より体重のある相手をそのまま投げ飛ばす。

ダイヤは宙で半回転して頭からモニター機器の並ぶデスクに突っ込み、そのまま機材と一緒に床へ滑り落ちた。


理亞「フン…」


そこまでしてやっと、倒れ伏した彼女に一瞥をくれると、作業中の善子の方へ足早に向かっていく。


一つ抜けていたとすれば、相手の頑強さを見誤っていたことくらいか。



ダイヤ「………やっ、やってくれますわね。ワイヤーでも付いてるの…?」


ダイヤ「やっぱり善子さんの言うことに耳を貸すんじゃなかった。あれをどう生け捕れと…!」


ダイヤ「泣いて頼まれたってもう二度と悪党相手に手心なんて加えません!」

303: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:16:15.00 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「どっせいあああっ!」


理亞「!」


今度は向こうが床に叩き付けられる番だった。

強烈なタックルをかましてその身体を押し倒すと、髪を掴んで持ち上げた顔面を殴打殴打殴打――



ダイヤ「貴女方のような人種はっ、死んだ方が世のため人のためですわっ」


理亞「がっ…!ぐっ…!」


善子「うわあ…」


目の前で、ダイヤに何度も殴りつけられた相手の頭部が人形のように揺れている。



善子「……えっと、なんか手伝った方がいい…?」


ダイヤ「お構いなくっ!貴女は貴女の仕事をなさいっこちらは一人で十分です!」


理亞「くっ…舐めるな」


ダイヤ「舐めてません、全力で滅ぼします!」バッ


さっきのお返しとばかりに理亞をスチールラックの方へブン投げる。

勢いよくぶつかった拍子に棚の小物とさらにはラックそのものが倒れ込み、
彼女はその下敷きとなって動かなくなった。

304: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:17:02.48 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「ふぅ…私だって武道は修めていますのよ」


もはや武道というより力技で相手を叩きのめしたその手には、引き抜いた理亞の頭髪がごっそりと。


ダイヤ「沢山生えてて羨ましいこと」パラパラ


善子「……」


ダイヤ「で、そちらは終わりました?」


善子「……へ?」


ダイヤ「復旧作業は終わりましたかと聞いてるんです。まさか何もしてなかったの?」


善子「いや、違っ、ちょっと友達に連絡取ってて…」


ダイヤ「こんな時に何を」


善子「まあ待ちなさいよ、発電機繋ぐのとはわけが違うんだから。もうちょっと時間を頂戴」



305: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:17:32.09 ID:5hs9uQbco



理亞「………ぅう」




善子「なんか外からでもここのシステムにアクセス出来るようにされちゃったみたい。これを何とかしないと」


ダイヤ「どれくらいかかりますの」


善子「分かんない…出来ないことはないと思うけど」



理亞「よくも…!」ガタッ


ダイヤ「!」

306: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:18:47.37 ID:5hs9uQbco

起き上がった理亞はそのまま側転からのバク転を繰り返し、一気に距離を詰めてきた。


ダイヤ「しぶとい子…!」


手近にあった液晶モニタを手に取り、迎撃の体制を整えるが――


理亞「!」タンッ


ダイヤ「なっ――」


敵は華麗なムーンサルトでこちらの頭上を大きく跳び越え、背後に着地すると同時に鋭い後ろ蹴りを放つ。

モニタで辛うじてこれを防御すると、ダイヤはお返しのストレートを。

体重の乗ったパンチで理亞はすっ飛ぶも、すぐにヘッドスプリングで跳ね起きると倍々返しの蹴りと突き。



ダイヤ「っぐ、かっ…っ…!」


攻撃を受けるたび、ダイヤの身体が窓際に後退していく。

喉、胸部、顎と的確に急所に打撃を叩き込まれ、すっかりグロッキーになったところで、相手はトドメの大技を放つ。


理亞「せいあっ!!」


飛び後ろ回し蹴り、またの名をヘリコプターキック。

たっぷりと勢いの乗ったそれをまともに喰らったダイヤは、そのまま窓ガラスの方へ――

307: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:19:38.03 ID:5hs9uQbco


ガシャアアアアアアン!



「ああぁぁあああああぁ――」



 ドツン ドツン ドツン  ドン



理亞「…」クルッ


善子「ウッソ、やば」


地上四階、割れたガラスの外へダイヤが消えたのを確認すると、
額から血を流した恐ろしい形相のテロリストが善子の方へ向き直った。



善子「た…ただじゃやられないわよ。こう見えても空手(通信講座)初段なんだから」


善子「来なさい、混沌と漆黒の力を見せてあげる。神剣フラガぁいだだだだっ!!」


理亞「座ってなさい」ギリギリ


理亞「そして全部元通りにするの、今すぐ!」

308: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:22:13.07 ID:5hs9uQbco

――

――――


ダイヤ「…………くっ、はっ、こ、腰が…っ」


寒空の下、夜風が無数の傷口に染みる。首と耳から血が流れていた。

背中を強く打ったせいで、しばらくの間ままならなかった呼吸がやっと出来るようになったかと思えば、
息をするたび関節のあちこちに激痛が走る。



ダイヤ(痛い痛い痛過ぎよ――けど、まだ生きてる)



今しがた自分が落ちてきた建物を見上げる。

各階に張り出した極太のパイプのような設備にぶつかってはゆっくりと滑り落ちることを
繰り返したお陰で勢いが死に、自分が死ぬことは免れたようだ。



ダイヤ「足癖の悪い女。しつけがなってないのね」



ダイヤ(すぐ中に戻らないと――でもこの体たらくじゃ)



這いずって進みながら考える。

立ち上がることは出来るが、この身体を引きずりながら建物を駆け上がるのはしんどいし、何より間に合わないだろう。


そこで視界に入ってきたのは、自分たちが乗ってきたトヨタ・アクア――入口近くに停めたそれと
発電所のすぐ隣にそびえ立つ四階建ての立体駐車場。



ダイヤ「…足には足を、使おうかしら」



309: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:28:50.68 ID:5hs9uQbco


――ガシャッ ジャキン


善子「っ…」


テロリストが拾った銃に弾倉を差しスライドを引く音が、わざとらしいくらいに大きく響いた。



善子「あなた達、こんなことしてどうなるか分かってんの? 停電したら病院とか、命に関わる人だって大勢…」


理亞「ええよく分かってる。そんなの知ったことじゃない」


善子「…あっそ。言うと思った」


理亞「そのコマンドで最後ね。実行して」



善子「分かったやるわよ…やるから」


理亞「…」スッ


観念したようにキーを叩く善子の背後で、トリガーに指のかかった拳銃がゆっくりと持ち上がっていく――



633:   2017/07/04(火) 20:01:41.10 ID:5hs9uQbco


――ブオオオオオオオオオォォ キュイイイ


ダイヤ「待ってなさい。すぐに目にもの見せてあげる」



既に一度やったことだ。もう一回出来るはず。

アクアのハンドルを握り立体駐車場を駆け上っていく過程で、打ちのめされた気分も段々と高揚していく。


(飛べるよ――いつだって、あの頃のように)


ダイヤ「誰よ貴女」


幻聴のようなものまで聞こえ始めた。



ダイヤ(そういえば)


こんな時に何故か、昔観た映画の一場面が思い出された。いや、あながち場違いではないのかも。

戦いを目前にして、極限まで士気の高まったカウボーイが愛馬をいななかせると同時に何か叫ぶのだ。



ダイヤ(確か――)


そうこうしているうちに屋上まで到達した。

が、目一杯踏み込んだアクセルを緩めることはしない。


性能の限界まで加速した車が屋上の柵に達した瞬間、彼女はその言葉を思い出した。
311: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:33:08.39 ID:5hs9uQbco


――プァァァァァァァン


理亞「!?」


善子「え…?」


制御室の割れたガラス窓からヘッドライトの眩い光が差し込む。

そちらを向いた二人の目に飛び込んできたのは、文字通りこちら目掛けてダイブしてくる乗用車のボディ。



ダイヤ「“Yippee-ki-yay(ダイヤッホー)!”」



 ドガァァァァァァァァン!!!


理亞「あぁ゛あ゛っ!!??!?」


善子「ほぇあ!?」


善子の目と鼻の先で、突っ込んできた車体に理亞が跳ね飛ばされ、そのまま一回転してボンネットへ。


体術で勝るプロの軍人は轢くべし――

警察学校のマニュアルには載ってない、己の経験から編み出したアプローチだ。



理亞「ぐああぁ……!!!」ダンッ


ダイヤ「やっぱり、今一合わないわね――こういうノリって」


理亞「ぐっ…」


ダイヤ「あらごきげんよう」

312: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:37:55.34 ID:5hs9uQbco


――キィィィィィ ガシャァァン ドガァァァ


英玲奈(一体なんだこの音は? 何が起きている!?)


制御室へ通じる扉を開けた英玲奈の目の前を、室内だというのに爆走する車が全てを蹴散らしつつ通り過ぎて行った。

しかも何故かそのフロントには自分たちの副官が乗っかっているのだ。



 ドガシャァァァン! バリィィィィン!


ダイヤ「ホント、交通事故が多くて嫌になる日ね」


理亞「ぐうううぅぅ……!!」


ダイヤ「さあ、いくわよ!」


理亞「――!」


二つの部屋に廊下を突っ切りゴールは近い。

全くスピードを緩めることなく、二人を乗せたアクアは貨物用エレベーターの扉に頭から――



――グシャァァァァァァァァン!


理亞「うぐあああっ!!!」


もろに衝突して突き破り、シャフトの壁に激突したところでようやく停止する。

ボンネットに跳ね返ってきた理亞が思い出したように激しく吐血し、ボウル一杯分ほどの血反吐がフロントガラスにぶちまけられた。


ダイヤ「ひぇっ、やっぱり少しやりすぎでしたわ…!」


313: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:41:08.71 ID:5hs9uQbco


 グググ… オォォォォン


ダイヤ(車体が傾いて…)


理亞(このままじゃ落ちるっ)



この階にエレベーターの昇降機が停止していなかったのは幸か不幸か。

車体のほとんどをシャフト内に突っ込んでしまったアクアは、徐々に前傾しながら
ぽっかり空いたシャフトの縦穴に落ち込んでいく。



理亞「ぐっ…!」


激痛を堪え死に物狂いでワイパーにしがみ付き、何とかフロントをよじ登ろうとする理亞。

その動きが車体のバランスを悪化させ、傾斜はより急に。


――バキャッ


理亞「!」


さらには一連の衝撃で脆くなっていたフロントガラスが丸ごと外れて重力の方向へ導かれる。

当然その先には彼女が――




314: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:42:20.95 ID:5hs9uQbco

理亞「くっ…!」


即座にワイパーに見切りをつけてボンネットを斜め下に滑り落ち、
フロントバンパー部に掴まり直すことでガラスを回避した。

そしてこの動作が、危ういバランスを保っていた車体には致命的な一押しとなったのだ。


 バキャン!


ダイヤ「いけませんわ…」


――ギュラギュラギュラギュラギュラ!!!


今度こそ完全に、垂直に傾いた車体がワイヤーロープに絡み付きながら落下を開始した。

遥か頭上で、ワイヤーの巻上機が凄まじい勢いで火花を散らしながら猛回転している。

車体の屋根が壁をこすり、耳をつんざく金属の絶叫がシャフト内に反響する。



ダイヤ「ぐううぅ!!」


理亞「ああああっ!」



運転席で、バンパー部で、身動きのとれぬ二人は成すすべなく歯を食いしばり――

315: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:45:06.56 ID:5hs9uQbco

――ガッ!


ダイヤ「ぎゃん!」


唐突にフリーフォールは中断され、乱暴にハンドルへ打ち付けられたダイヤの額が抗議のクラクションを鳴らす。

落下途中で後輪とリアバンパーの一部がシャフトの鉄骨に引っ掛かった結果だった。



 ギギギギ――グググ…


すぐにも落下を再開しそうな危なっかしい音を立てる車体と一緒に、今や搭乗者たちの命運はシャフト内に宙吊りとなった状態だ。



ダイヤ「早くここから出ませんと…!」



ダイヤ(――なるたけそっと、刺激しないように)



ダイヤ(こんなシチュエーション、恐竜の映画で観た覚えが…)



そんなことを考えつつ苦労して体勢を変えた直後、割れたサイドウィンドウの向こうから一陣の突風が。



――ビュオン!


ダイヤ「ぐっ…!?」


風切り音と共に突入してきたのは、何度も味わった合成ゴムのブーツ底。こんなのは映画になかった。



ダイヤ「くっ…貴女もいい加減絶滅なさい、この冷血女!」


窓の外、天より垂れるワイヤーにぶら下がる女忍者は、スクランブルエッグ状態の臓腑から今も血潮を逆流させつつ
その鋭い眼光に宿る憤怒混じりの闘志を一片たりとも失ってはいなかった。


理亞(たとえ私は助からなくても……計画のため姉さまのため、こいつはここで殺す!)

316: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:48:37.31 ID:5hs9uQbco


ダイヤ(やばいですわやばいですわ)


ビビっている場合ではない。

恐怖心を生存への活力に転じ、近くに垂れていた二本のワイヤーをザイル代わりにして
一心不乱にドアをよじ登る――ゴール地点でダイヤを出迎えたのは容赦のないストレートパンチだった。


ダイヤ「がぁっ!」


前歯の欠片が宙を舞う。

ワイヤーを握っていたお陰で転落はせず、後ろに押し戻されたダイヤは、ターザン映画よろしく反動をつけ元の位置へ。

そのまま両手のワイヤーをクロスさせ、車体から頭を出していた理亞の首を挟み込んで締め上げる。


理亞「うぐっ!?」


ダイヤ「残念、エレベーターは私の庭みたいなものですの! 家元に挑戦するとはいい度胸ですわ!」




317: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:50:32.42 ID:5hs9uQbco

理亞「か、ぐっ…」


ダイヤ「降参しますか? それとも絞殺されます!?」


理亞「ぅぐぐぐぐうう゛う゛…!」


宙吊りになった車内、床に足が着いた状態での絞首刑という何とも奇妙な状態から逃れようと、
頸部に巻き付いた極太のワイヤーに両手をかけて理亞はもがく。

知恵の輪を力づくで引き千切ろうとでもするかのように、ありったけの筋力を動員し身体を反らせて踏ん張り…



理亞「―――――――ッぁは!」ドガッ


解放の時は唐突だった。

絞縛よりすっぽ抜けた反動で勢い余ってその身体は運転席まで後退。

その機を逃さず、ダイヤは一息に車内に滑り込むと、彼女の前を素通りして後部席へよじ登ろうとした。


理亞「げほッ、待て…」


ダイヤ「何するの!放しなさいこのタコッ」


理亞「タコはあんたでしょ…!」


言いながらも、軟体動物のように全身でダイヤに組み付いているのは理亞の方だった。


その目的は明らか――身動きを封じて地獄の道連れにするつもりだ。


318: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:53:24.45 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「このッ…ッッ」


理亞(こいつ、オタルの坂みたくツルツル滑るっ)


狭苦しい車内の中、いつ弾みで鉄骨からバンパーが外れるかも分からぬ状況で。

二人はもがき、暴れ、手足の動きを制限されて、苦し紛れに顔に爪を立て、
咄嗟に相手の髪を引っ掴み、負けじとこちらもやり返そうとしたところで
向こうに髪が無いことに気付き、代わりに目を潰そうと眼窩の下を圧迫した。


理亞「ぬ゛う゛う゛…」


カッと目を見開いた凄まじい形相がキスできそうな至近距離に。

これは自分の顔を写す鏡でもある。決死の戦いの最中に形振りを気にする者などいない。


ダイヤ「はぁァァ…!!!」


外連味の効いた台詞の代わりに、その口から漏れるのは言葉にならない呻きと喘ぎ。

全くもってスマートさとは無縁な、動物的な殺し合い。

閉所恐怖症とPTAの良識派が見たら発狂しそうなこの局面で、
当事者たちはタコめいて顔を真っ赤にしながらも、その思考は冷え冷えと冴え――



ダイヤ(タコ、タコ、そうです!)


全身雁字搦めで最小限の動きすら許されぬこの状態で拘束から逃れるにはどうすればいいか。

戦闘中に予期せぬ手段で相手の意表を突くことはシンプルかつ効果的だ。



ダイヤ(失礼――)


理亞「――――んむぅ!!?」


一も二もなく目の前の唇に吸い付いていた。

319: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 07:55:27.65 ID:5hs9uQbco


理亞「……!!!」


 ブチブチブチブチ…!


理亞「んぁあ゛あ゛あ゛っ!!!」


ダイヤ「ぺっ!」


真っ赤な唾液の糸を引きながら、理亞から“奪い取った”下唇の一部を吐き捨てる。

先程彼女の拳を受けて欠け、ドラキュラの牙そっくりに尖った前歯が血を吸ってぬらぬらと光った。



ダイヤ「はしたなくてごめんあそばせ!」


間髪入れずカチコチのヘッドバット。勢いづいて拘束から逃れると下腹に蹴りを叩き入れ。

これは流石に効いた様で、敵は目をむき血の泡を吹いて悶絶する。



ダイヤ(今のうちに…!)


座席をよじ登ってようやっと後部席まで到達し顔をあげたところで、
破られたエレベーターの入口から身を乗り出して銃を構える誰かと目が合った。



英玲奈「そこは駐禁だぞ、無作法者め」プシュップシュップシュッ


 

次回 ダイヤ「ダイ・ハード サン4ャイン」 善子「code;10.0」 後編