ダイヤ「ダイ・ハード サン4ャイン」 善子「code;10.0」 前編

320: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 08:05:11.99 ID:5hs9uQbco


最初の一発でリアウィンドウが粉々になり、細かいガラス片と一緒に
千切れたワイヤーの先端が車内へ。



英玲奈「停めるならもっと奥にしてくれないか」プシュップシュップシュップシュッ


降り注ぐガラスと銃弾から身を守るためにシートの陰に避難したダイヤを
上方からの銃撃は容赦なく狙い撃ち続ける。



ダイヤ(動けない…!)


顔のすぐ脇を貫通した銃弾が通り過ぎていく。

ビンゴゲームのカードのように穴だらけになっていくリアシート。

ダイヤの生命という景品にリーチがかかる寸前――



英玲奈(あともう少し、上の方を狙えれば)



ギリギリまで乗り出した身体をさらに前屈みにし、夢中になって射撃を続ける傭兵は
そんな状況でもプロらしく、背中にも気を配ることを忘れていなかった。

引用元: ダイヤ「ダイ・ハード サン4ャイン」 善子「code;10.0」 



 
321: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 08:07:16.16 ID:5hs9uQbco

が、そんな彼女もまさか頭上と足元からいきなり挟撃を受けるとは予期していなかっただろう。


突然、入口の内側つまりシャフトの縁に設置されたアップスライド式の非常用ドアが作動し、
上下から英玲奈をハンバーガーにしようとした。


英玲奈「なっ――」


あまりに不意のことに、前傾姿勢をとりすぎていた彼女はバランスを崩して、悲鳴の一つもなくシャフト内に落下。



――ガァァァァァン!


ダイヤ(!?…今のは)


見上げれば、落ちてきた傭兵が頭から後部ドアに叩きつけられたところだった。


意識を失った彼女はそのままずるずると車体から滑り落ち、シャフトのさらに奥底へ。

その手から離れた拳銃だけが、割れたリアウィンドウから車内に転がり落ちる。


322: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 08:08:19.92 ID:5hs9uQbco


「ごめんなさい、やっちゃった!」



緊急閉鎖した非常用ドアが再びスライドし、その向こうから姿を見せた善子がノートPC片手に叫ぶ。



善子「加減してる余裕なかったの!」



ダイヤ「助かりました!しかし状況はさらに悪化したようですわっ」



――ギギギギ…



善子「やっば、車が…そこから早く逃げて!」



ダイヤ「言われなくてもやってます…!」



理亞「……………ぁ」



323: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 08:10:38.22 ID:5hs9uQbco


善子「ダイヤ早くぅ!」



ダイヤ「ふぬぬっ」




理亞(銃……近くに…)




ダイヤ(あと少し…あのワイヤーに掴まれれば)




理亞(これで……あいつを…)




善子「もうちょいよ、頑張って!」




理亞(逃が…さない……)




ダイヤ「はぁ、はぁ……あっくッ」




理亞(殺す……私は)




善子「ダイヤああああ!」




リアウィンドウ近くに垂れているワイヤーを掴もうとダイヤが手を伸ばし、


虫の息の理亞が狙いを付けようと腕を伸ばし、


そして伸びきっていたように思われた破滅の瞬間がとうとう訪れる。


324: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 08:12:15.98 ID:5hs9uQbco


バンッ、という恐ろしい音がシャフト内に鳴り響く。


リアバンパーが硬質な悲鳴をあげて外れ飛び、最後の支えを失ったアクアは
シャフトの底で待ち構えていた昇降機の屋根まで一気に墜落。



ダイヤ「っ…」



間一髪、命綱となったワイヤーロープにぶら下がったダイヤの遥か足下で、
駐車に失敗したアクアは大爆発を起こして紅蓮の炎に包まれた。





善子「ワオ…」


一連の大脱出劇の見届け人となった善子は興奮も露わに呼び掛ける。



善子「ダイヤ無事!?……なのは分かるけど。大丈夫なのー?」



ダイヤ「……」


325: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 08:14:26.68 ID:5hs9uQbco


自然と、深いため息が漏れ出していた。


それまであった覇気が、一気に溶け出していくような。



十数秒前、死線を超えたあの瞬間。

ワイヤーを掴み、ほぼ同時にアクアが地獄へ向けて発進した刹那。



思わず後ろを振り返った彼女は確かに聞いた。


車内に取り残され、墜ちゆくテロリストが残した最期の言葉。



昔の誰かを彷彿とさせるツインテールの彼女が発した
「姉さま…」という、かすれた呟きを。




善子「ダイヤ…?」




ダイヤ「………私は平気です……が」




ダイヤ「少し……ほんの少し、疲れてしまいました…」



――――

――

326: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 08:16:03.32 ID:5hs9uQbco

【同時刻 トーキョー某所 エレベーター内】


ルビィ「ふぁぁ」


ルビィ(疲れたなぁ。こっちに辿り着くだけでもクタクタだったのに)


ルビィ(開始が遅れた分だけ伸びに伸びてこんな時間)


ルビィ(こんな大変な日に強行しなくてもいいのに)



ルビィ(って思うのは、私が甘ったれだからだよね)



ルビィ「はぁ、やっぱり向いてないよ…」



ルビィ(明日も早いし、ホテルに戻ってすぐ寝なきゃ)



 チカ…チカ…


         ――バツン!



ルビィ「ぴっ」



 ガコン…



ルビィ「と、止まっちゃった……停電、なの?」


327: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 08:17:44.22 ID:5hs9uQbco
火曜
ロードショー



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328: ※ちょっとした解説 2017/07/04(火) 08:37:05.53 ID:5hs9uQbco

Yippee-ki-yay(イピカイエー) (>>311)

ダイ・ハードシリーズの決め台詞。

元はアメリカのカウボーイがロデオの時に叫ぶ掛け声で、
専ら「イヤッホー」的な感じで使われるが、
本来はウルドゥー語で「これでも食らいやがれ」的な意味らしいので
マクレーンの使い方が実は正しい?



Live Free or Die Hard

ダイ・ハード4.0の北米公開タイトル。
公式訳は「自由に生きるか、死ぬまで闘うか?」
ニューハンプシャー州の標語「Live Free or Die(自由を与えよ、さもなくば死を)」のもじり。

【Love Live Free or Die Hard Sunshine!】 (>>8) ←訳は各自の裁量で。


余談だが原作映画では本日7月4日(アメリカ独立記念日)が舞台となっている。

規制でスレ建てを断念した先週6月27日は、北米での映画公開日(2007年6月27日)から10周年の節目だった。

329: ※読まなくていいです 2017/07/04(火) 08:39:46.35 ID:5hs9uQbco

原作映画豆知識 ~原作の原作~


【ダイ・ハード】

脚本の秀逸さが褒められることの多い一作目には原作となった小説が存在する。
かなりの部分で映画と同じ流れだが、よりダークでハードな展開がちらほら。


・主人公の娘(映画だと妻)が勤める会社が侵略的な開発を繰り返すブラック企業

・テロリストが本当にテロリスト(男女比半々)で、ブラック会社の不正を正すために立ち上がった

・人殺しのベテランである主人公が若く未熟なテロリストらをやるせない気持ちで血祭りにあげていくのが大筋の展開

・映画では一晩の出来事だが小説は三日くらい

・ラストで人質にされた娘が撃たれたボスと一緒にビルから転落死

・転落の原因となった腕時計は娘が関わった悪徳取引の記念品

・色々絶望した主人公がテロリストに代わって会社の金を屋上からばら撒く

・アルが無能の警察本部長をラストで蘇ったカールの銃撃の盾に使う

330: ※読まなくていいです 2017/07/04(火) 08:44:51.80 ID:5hs9uQbco

【ダイ・ハード2】

二作目にも原作が存在する(1とは別作者の単発もの)。

テロリストが空港の管制機能を乗っ取るという骨子、
目的は同士の釈放と見せかけて実は…という点以外あまり共通項は見受けられない。
綿密な取材によって書かれたテンポのいい娯楽小説な反面、
映像化すると地味になりそうな内容だからかも。



【ダイ・ハード3】

3の脚本は豪華客船を舞台にした海洋閉鎖空間ものだったが、セガールの映画と被ったためボツに。
そこで「サイモンセッズ」という全く別作品の脚本をマクレーン主人公にリライトして使用。

復讐がテーマだった元々のエンディングはブラックユーモア溢れる鬱屈としたもので、
一旦そのまま撮影したもののダイ・ハードらしくないと言われ撮り直すハメに。

ノベライズ版とこのSSではそちらのボツエンドを採用。



【ダイ・ハード4.0】

4.0の脚本もウィリス主演の「ティアーズ・オブ・ザ・サン」に化けたり
「ワールドウォー3ドッコトム」という別企画の脚本を転用したり色々あった。

当初あった、タンカーの爆発によって起きた津波がニューオーリンズを襲うというシーンも
同時期に起きたハリケーンカトリーナの被害を考慮してカットされた。

企画の初めには、相棒はハッカーとなったマクレーンの息子という案もあったとか。

4のノベライズ版は日本人の作者が英文のオリジナル脚本だけを頼りに書き下ろした内容のため、
完成版との微妙な変更点を垣間見れて興味深い。



【ダイ・ハード/ラスト・デイ】

五作目について、ノベライズ版は発売されていない(はず)。

撮影中のセット焼失事故で製作が遅れに遅れただけでなく、終盤の展開を大幅に省略・再構成した
(ダンサー志望の敵とのタイマンバトルもカットされた模様)影響かもしれない。

ノベライズ版が発売されていれば、オリジナル脚本に沿った展開が見れたかも。



【ダイ・ハード:イヤー・ワン(仮題)】

六作目となる次回作は若き日のマクレーンを描いた同名のアメコミをベースとするのかは不明。

監督は再び4.0のレン・ワイズマンに戻って現在企画進行中。

1以前の過去と現在が密接にリンクするハイブリッドストーリーになるとのこと。


332: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:19:23.36 ID:5hs9uQbco









花陽「カントーおよび中部の施設は押さえました。あとは理亞さん待ちです」


雪穂「……ねえ待って、おかしいよチーフ」

雪穂「トーホク発電所のセキュリティが生き返ってるじゃん。締め出されてるよ私たち」


花陽「え…?」


雪穂「早くなんとかしなきゃ…って何だこれ」

雪穂「誰かが次々スパムメール送り付けてきてる。ウィンドウが勝手に開いて…もうっ、邪魔しないで!」


花陽「今時こんな古典的なやり方…」


聖良「……」

333: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:22:35.21 ID:5hs9uQbco


善子「ふふん、私って意外とクラシックな手口が好みなの。古の叡智を思い知りなさいっ」カタカタカタ


善子(ってのは建前で)

善子(悪の親玉に大量のメール送り付けて邪魔してやる、これ一度やってみたかったのよね~)


善子「映画にドラマが永久無料、秘密のお誘いに精力剤、風水アイテムに邪教への入信あれやこれや」カタカタカタ

善子「全部ひっくるめてよろしくお願いしまぁぁぁす、なんてね。あっちより断然ウォーゲーム派だけど」ッターン!


ダイヤ「それって、〇×ゲームで核戦争を止めるあの映画のこと?」

善子「違う、アニメの方。ダイヤって結構そーいうの詳しいのね。映画好きなの?」


ダイヤ「趣味の一つです」

ダイヤ「と言っても昔は観る作品に少々偏りがありました。『シンドラーのリスト』のような」

ダイヤ「悲惨な映像体験を通して平和な日常のありがたみを噛み締めていたのですわ」


善子(この人にもそういうスイーツ臭い時代があったのね。それが今じゃ)


ダイヤ「つまらないしがらみを気にせず悪を叩きのめす!これぞ映画の醍醐味とようやく気付けたのです」

ダイヤ「あとは動物映画やミュージカルなど…」


――ダンスナウ!ダンスナウ!


ダイヤ「!」


善子「この携帯あいつのよね…? ボスからかしら。しかもテレビ電話…」


ダイヤ「貸して、私が出ます」



334: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:24:19.88 ID:5hs9uQbco


聖良「もしもし理亞? どうなっているの」



ダイヤ『理亞さん? ああ、あのワイヤーアクションがお上手な』



聖良「…!?」



ダイヤ『彼女、ついさっきトヨタのアクアでエレベーターシャフトの底へドライブに出かけましたの』


ダイヤ『魅惑の深海パーティってやつです。時速88マイルまで加速したデロリアンはいつも片道切符しか持ってませんの、おわかり?』



聖良「……っ、…」



ダイヤ『運転中もシートベルトとワイヤーはしっかり締めるべきでしたね……どうしました? 声が出せませんの?』


ダイヤ『ひょっとして貴女も溺れているとか。熱いお茶でもいかがです?』




ダイヤ『……いいですかよく聞きなさい。貴女のファイヤーセールは店仕舞いよ』


ダイヤ『さっさとこの人騒がせなサーカス小屋を畳んで家へお帰りなさい。さもなきゃこちらから 教しに行きますが』





335: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:26:53.98 ID:5hs9uQbco



聖良『……どうやら分かっていないようですね』



聖良『私がどんなことを出来るか、その気になればあなた達を捻り潰すことなど造作もないということを』



ダイヤ「そう。ならさっさと本気を出したら?」



聖良『確約します。今やってる作業が片付き次第そちらの消去に全神経を集中させると』



聖良『ここから先はもう仕事じゃない、あなたと私の私闘です』



聖良『互いのやり方で、使えるものは全部使って本気の戦いをしましょう』



聖良『……楽しみですよ』プツッ



 ツーーーツーー…


善子「精一杯取り繕ってたけど、ありゃ内心激おこね」


ダイヤ「顔写真、撮れました?」


善子「ばっちりいいのが」


ダイヤ「早速梨子さんのところへ送りましょう」



ダイヤ(この顔、見覚えがあるように感じるのは気のせい?)




336: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:27:55.53 ID:5hs9uQbco


花陽「……」


雪穂「…」チラッ



聖良「――……――、、」



雪穂(バグってフリーズしたPCみたい…って何考えてるんだ私は)


雪穂(でも、熱暴走を起こしてるとかそんな感じじゃない…むしろ)


雪穂(さっきより冷たく…白くなっているような気すら)



聖良「――…」キッ



聖良「小泉さん」


花陽「ひ、ひゃいっ」


聖良「こちらからコントロール出来る限りの天然ガスをトーホク発電所に送り込んでください。今すぐに」

337: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:30:46.69 ID:5hs9uQbco

~~~~~


梨子「いきなり電話がかかってきた時はびっくりしたよ。こんな手があるなんて流石はよっちゃんだね」


『ふふん、もっと崇め』


『るのは後にして、こちらから送った画像見ました?』


梨子「……ええ」



梨子「彼女は…鹿角聖良です」


親鳥「…!」ブフォ


ことり「お母さん汚い」



『……有名人のようね。そちらの世界では』


梨子「はい。一緒に仕事をしたこともあります」


梨子「彼女はNISC(内閣サイバーセキュリティセンター)の元分析官です」

338: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:31:41.97 ID:5hs9uQbco


『聖良さんは常日頃からこの国のサイバーテロ対策の不完全さを指摘し、人材育成や命令系統の合理化など様々な強化案を提言していましたが』


ダイヤ「尽く聞き入れられなかった。よくあるパターンというわけ」


『あの人はその…妥協知らずで、誰に対してもはっきりものを言うタイプだったので』


ダイヤ「組織じゃ鼻つまみ者でしょうねああいうのは……私も少し覚えがあります」


『それだけなら良かったんですけど。詳細は省きますが、ある日聖良さんはかなり強引なやり方で持論を証明して我を通そうとしたんです』


ダイヤ「今回みたく、ですか」


『聖良さんは秘密裏に罰せられました。クビはもちろん、信用情報の引き下げに資産の凍結まで』


『散々袋叩きにされて、あの人は私たちの前から去りました。その後は故郷のホッカイドーに戻ったと聞いてたんですが』

339: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:32:35.36 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「一つ付かぬ事を伺いますけど、鹿角聖良には兄弟がいたりということは」


『待ってください――妹が一人いますね。鹿角理亞、元陸自北部方面隊第1電子隊1尉』


『彼女も数年前から足取りが不明です。それが何か』



善子「ねえ!」


ダイヤ「何です?」


善子「ちょっとヤバいかも…」


善子「あいつらガスラインでレ を送ってきてる」


ダイヤ「はあ? パイプを使った殺し屋の宅配サービスでも始めましたの?」


善子「そーいう意味じゃないって! ガスよガス!」


善子「不安定なレ 力由来のガスをこんな一度に…!ああ駄目よ、ここからじゃルートを変えられない」



ダイヤ「どうなりますの……っ!?」



善子「聞こえるでしょ…この音」



340: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:33:44.36 ID:5hs9uQbco


善子「あぁぁ…窓の外見て」


ダイヤ「大変…」


これが目前の出来事で無ければ善子も「まるでゲヘナの炎ね…」と黄昏れていたかもしれない。

地面が次々火を噴いている。それも爆発的な勢いで。

整然と立ち並んだ送電鉄塔よりも高く火柱が噴き上がって、夜空を目に痛いくらいの紅に染め上げている。


発電所まで通じる地下のガスパイプは導火線。

その導火線自体が爆発を起こして多量の土埃を巻き上げながらこちらに到達する寸前なのだ。



ダイヤ「逃げますわよ!」


善子「どこへ!?」


ダイヤ「荷物を持って! 梨子さん、もう切りますね!?」


ダイヤ「鹿角聖良を探し出してください。そうすればこの事件は終わります。では!」


『あ、ダイヤさ』ブツッ


341: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:35:05.71 ID:5hs9uQbco


 ガタガタガタガタガタ…!!!!


善子「どーしてこの状況で外出るわけ!?」


ダイヤ「中にいる方が危険です!」



ダイヤ「ありました!あのバンに乗って!」


善子「あわわわわ…」


さっきから続く大地震にも近い大揺れに足元が覚束なくなってしまっている善子の尻に
ダイヤモンドヘッドの頭突きを食らわせて電力会社の白バンに押し込む。


自分も乗り込んで扉を閉める寸前、遂にゴールインしたレ の炎がパイプから溢れ出して建物を舐めつくそうとするのが見えた。



ダイヤ「屈んで! 対ショック姿勢を!」


善子「何よそれぇ!?」


ろくな覚悟も出来ていないまま、衝撃波が襲い来る。


常識外れの大爆発の前には2トン乗用車など玩具のミニカーも同然。

容易く吹き飛ばされて敷地内をごろごろ横転していく。



ダイよし「ごああああぁぁぁぁ――――!!!!」



内装がひしゃげ、二人は握り潰されたアルミ缶に閉じ込められたビー玉のように車内を転げまわった。

342: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:39:48.11 ID:5hs9uQbco


【回線切断】【送信エラー】【接続不能】



聖良(さようなら…理亞)



花陽「これで終わり…です、よね?」



聖良「…いえ」



聖良「野沢ダイヤには妹がいたはずです」


聖良「彼女が今どこにいるか、見つけてください」


花陽「……」


聖良「…保険ですよ。あくまでね」

343: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:41:38.06 ID:5hs9uQbco

―――

――



 プスプス… ガラガラガシャン!



ダイヤ「…生きてますか?」


善子「死んだわ…今度こそ……うっ」



善子「ぅぷ、おげぇぇ…!」



ダイヤ「しっかり…!」サスサス


ダイヤ(…普通の嘔吐のようね。血も混じってないし)



善子「ぅはぁ、はぁー…」


ダイヤ「…落ち着きました?」



善子「…」グスッ


ダイヤ「心配しなくても、このことは誰にも言いません」



ダイヤ「さ、外に出て。次はどこへ行けばいいのかしら」

344: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:43:07.94 ID:5hs9uQbco


善子「どこって…まだ戦う気?」


ダイヤ「まだ負けてません。私、やると決めたらとことんまでいかないと気が済まない質なので」


善子「し…信じらんない、ここまでボコボコにされて」


善子「結局発電所も吹っ飛ばされちゃったのに。私たちの苦労も水の泡!」



ダイヤ「ここまで滅茶苦茶やってくるとは想定外でしたが、それだけ向こうに余裕が無くなってきたとも言えます」


善子「あなたが無駄に煽るからでしょ…」


ダイヤ「挑発は劣勢の時にこそ有用な攻撃手段!それで相手が冷静さを失ってくれればしめたものですわ。これまでもこのやり方で」



善子「今回ばかりは状況が違うわよぉ…」


善子「敵はテロリストだけじゃない、ネットワークシステムをフル活用して私たちを殺しに来てるの」


善子「この社会が丸ごと敵になったようなものよ。そしてあなたはあいつらを怒らせちゃった」



345: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:43:59.58 ID:5hs9uQbco


善子「ああ…やっぱアニメみたいに一個人がサイバーテロに立ち向かうなんて不可能なのよ」


善子「部屋に居ながら世界を救うなんて、あんなの全部嘘っぱち…」


ダイヤ「確かにそんな所に籠っていたのでは無理ね。さあ立って歩いて行動して、ここから勝ちに行きますわよ」


善子「嫌っ、考えてみたら外は爆発で汚染されてるじゃない。レ って人体に悪影響なんでしょ」


ダイヤ「さあ? 髪の毛が抜けるくらいじゃないですか」


善子「こ、こいつ…」



ダイヤ「…ねえ善子さん」


ダイヤ「そちら風に言えば私がハードでソフトウェアが貴女。私には貴女が必要なのです」


善子「……」


ダイヤ「一人では無理でも、私たち二人なら勝てますわ」



善子「……仕方ないわね」


善子「もう少しだけ付き合ったげるわよ。ふん…」




346: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:46:38.39 ID:5hs9uQbco

善子「とはいえここからはノーヒント、そろそろヨハネ一人じゃ限界よ。ここは一つ魔法でも使わないと」

ダイヤ「魔法って貴女…」


善子「ああもうっこの肝心な時に携帯は電池切れだし。決めた、こうなったら直接会いに行ってやる」

ダイヤ「どこの、誰に?」


善子「オトノキザカのにこにー。私のハッカー仲間。この事件が始まった時からちょくちょくアドバイスもらってたの」

善子「あの人なら何か知ってるはず……いえ、性格的に絶対首突っ込んでるに決まってる。使えそうな車を探しましょ」


ダイヤ「なら、それよりもっといいものがあそこに」


善子「やつらのヘリ……操縦できるの?」


ダイヤ「貴女の心配することじゃありません。それよりその方は本当に使い物になりますの?」

善子「それこそ安心して。彼女は本物の魔法使い(ウィザード)よっ」


347: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:48:51.07 ID:5hs9uQbco


 バラバラバラバラバラバラ…


善子「わぁお…下見て。明かりがガンガン消えてってる」


ダイヤ「この調子だとオトノキザカに着く頃には一面石器時代に逆戻りね。その中からお目当ての家を見つけられますの?」


善子「それは心配ないわ。一軒だけ電気がついてる家がにこにーの自宅だから」










ことり「停電の地域が加速的に増加中…このままじゃカントー地方全域がまっくらに」


梨子「…非常用発電への切り替え急いで」



希「技術班よりほーこく。こっちの位置探査を避けるために、敵さんは常に移動してるのは間違いないみたいやね」


希「作戦に使用しているであろうハードの量から考えて、最低でもセミトレーラークラスの大型車両で」


梨子(移動中のセミトレーラー…ヒントとしては十分とは言えないけど)



梨子「各省庁へ協力を要請しましょう。空いてる人員と衛星、使えるネットワークを総動員して犯人たちを捜します」


ことり(…できるかな。今はどこもそんな余裕ないと思うけど)


梨子「無茶でもやれるだけのことはやるんですっ、犯人を見つけることが事態収拾への一番の近道なんですから!」


ことり「ぴいっ! は、はい!」










雪穂「停電はいい感じに広がってます。ダウンロードの方も80パーに」



聖良「電気以外も切れるものは全部切ってください」


聖良「それで時間は十分稼げるでしょう。私たちの仕事が終わるまでね」



花陽「聖良さん…例の人、見つけました」

348: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:50:18.40 ID:5hs9uQbco

~~~~~


ルビィ「あっつぃ…」



ルビィ(閉じ込められてどのくらい? 分かんなくなっちゃった。頭がぼーっとする…)


ルビィ(ルビィのも、備え付けのも、どっちの電話も通じないし)


ルビィ(今日は一人で来てるから、誰も探しには――)



ルビィ「…!」フルフルフル


ルビィ(やだな…すぐ人のこと頼ろうとしてる。昔と一緒じゃ駄目なのに)



ルビィ「……」



ルビィ(そういえば小さい頃ウチウラが大停電して、こんな感じにお屋敷が真っ暗になった時)


ルビィ(怖くて震えてたルビィを、お姉ちゃんがずっと抱き締めてたんだっけ)



ルビィ「お姉ちゃん…」

349: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:51:49.75 ID:5hs9uQbco

――――――

―――


 プァァンプァァンプァァンプァァン ガクガクガクガク


善子「この音なにっ?凄く揺れてるけど大丈夫なのこれ!?」


ダイヤ「平気ですこれが正常よ。ダイヤさんに任せて」



善子「ちっっっとも信頼できないんだけど。本当に免許持ってるわけ?」


ダイヤ「おだまらっしゃい!着陸が一番神経を使うのです」


善子「離陸の時も同じこと言ってたわよね!?だぁーもうっだから飛びたくなかったのよ!」


ダイヤ「私もです」


善子「じゃあなんで操縦習ったのよ!?」


ダイヤ「負けるのはもっと嫌いだからに決まってるでしょう」



善子「ぎゃー後ろっ!フェンス!!お尻がぶつかりそうよ~!」


ダイヤ「ブレーキに丁度いいですわっ」



――バリバリバリバリバリ!!! キュウウウウウウン…

350: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:53:46.73 ID:5hs9uQbco


善子「はぁ、はぁ。ダイヤって…何時も荒っぽ過ぎ…」


善子「もー二度とそっちの操縦するヘリには乗んない。一回の飛行でオシャカにするとかどういうことなの…」



ダイヤ「辛気臭い顔はそこまで。これから友達に会うのでしょう」


善子「そこで注意点なんだけど、あの人のことはプリチーにこにーと…」


善子「最低でもにこにー♡ってハートマーク付けて呼んで。じゃないと怒り出すから」


ダイヤ「…ハッカーってこんな方ばかりなのかしら」



ダイヤ(それににこにーって。同世代?)



ダイヤ「それとももしかして……まさかね、そんなはずありませんわ」


善子「なにぶつぶつ言ってんの? ほら行くわよ」



善子「それと刑事だってことは黙ってた方がいいわね。警察嫌ってるし」


ダイヤ「何か恨みでも?」


善子「ハッカーってのは無条件で公権力を憎んでるもんなの。そういうキャラ付けよ」ピンポーン


善子「こんばんわー」



「どなたですか?」ガチャ


351: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:55:46.82 ID:5hs9uQbco

善子「あ、夜分遅くにすみません。私」

ダイヤ「にこにー? 本物の矢澤にこさん!?」ガバッ



「あ、え、いや、その」オロオロ



ダイヤ「間違いありません…スクールアイドルだった頃とちっとも変ってない」


ダイヤ「プロデビューしてこれらからという時に突然失踪した時は驚きました。一体何がありましたの…」



「あの、私はにこ…お姉ちゃんではなく妹のここあですが」



ダイヤ「妹?」




「なになに? アネキの友達来てんの?」ドタドタ



ダイヤ「にこにーが二人…?」



「フンだ、何がにこにーだっつーの。今のアネキはニートニー、アンタらも同類?」



善子「ち、違うわよ!断じて!」




ここあ「こらこころ! 失礼だよお客さんに向かって」


ここあ「それにお姉ちゃんは働かないんじゃなくて働く必要がなくなったの。この家だって私たちの為に買ってくれたものだし」



こころ「ここあ、私らは昔からアネキにいい様に洗脳されてきたんだよ」


こころ「アタシは目覚めた、そっちの魔法はいつ解けんだ?」


352: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:57:27.07 ID:5hs9uQbco

 ギャーギャーギャー


ダイヤ「あわわ、何かマズかったかしら」

善子「私たちが拒まれてるわけじゃないみたいだし、勝手にお邪魔しちゃいましょ」スタスタスタ



「ばっくだんさー…」プカー


ダイヤ「……」



こころ「虎太郎ァ!テメーまたラリって! その状態で引っかけた   の話聞かされんのはもうウンザリなんだよ!」


こころ「キェー決めたっ来年こそ猟銃の免許取ってやる!ロクデナシ共のケツを片っ端から穴だらけにしてやんよ!」


ここあ「駄目だよこころ早まらないで。冷静に話し合えば分かるから」



ダイヤ「…この家庭大丈夫ですの?」

善子「あれはあれでそこそこ上手くやってるんだって」


善子「まあ兄弟姉妹ってあんなもんじゃないの? 私は一人っ子だから分かんないけど」


ダイヤ「…かもしれませんわね」

353: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 10:59:53.31 ID:5hs9uQbco


 カタカタカタカタ… ボリボリボリ


「わっかんないわねー。聖良のやつ、ここまでして何がやりたいのかしら」ブツブツ


ここあ「お姉ちゃん忙しいところごめんねー」


「んー? なによ」


ここあ「お姉ちゃんの友達が来たから案内を」


「友達ですって…?」



「ちょっとここあ、言いつけを忘れたの!?ここに人を連れてくるなってあれほど…」


善子「やっと会えた! 久しぶりね我が盟友、リトルデーモンのにこにー!」




「善子…? はん、こっちは会いたくなかったわよ。それにあんたの言うリトルデーモンは意味違う、響きも可愛くないし」



「正しくは電子の小悪魔、プリチーウィッチーにこにー♡よ」



ダイヤ「こ…あく…ま?」






         ,.,.::;:::;:;:::;::;.,.、
        /;::;::;:;:::;:;::;:;:;::;)._
      ,...;::;:" ´ ` ー" ヽ:;:ヽ
      ,:;::;           ヽ:;ヽ
     {:ミ            ミ;:.,
     ;:;:;:            i:;:ノ
     i;:;i ;;iiiiillllllll)  (llllllllliii;; l:;::;}
    r^ミ  /_(;;)ゝヽ / <(;;)_ゝ ミ
    i ^ヽ.    ̄ l l   ̄   /^i
    ヾ i: .   , i j 、    .:./^ i
     ヽi: : :   ^`-'^   . :./-'/
     _| i:. :.: .:_.:_.:_:._:. :. :. .:.lー'"
    /ヽ .: .:...´ニニニ`. :i..:/
  /   ヽ :.ヽ.: .: :. : .:. .:.i/
       ヽ . :.ヽ、: .:_:ノ/
         \.: .: .,'  /|_
          \_//  ヽ、
           /\ i    \


「さあご一緒に、にっこにっこに~♪」




ダイヤ「誰ですのこのオッサン!?」


354: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:06:52.46 ID:5hs9uQbco

ニコラス・ケイジ似のおっさん「…誰よこのハゲ」


ダイヤ「貴女だって禿げてますわ!」


善子「にこにー聞いて。確かに見た目は山賊の頭みたいだけど、ダイヤはね」


ニコラス(以下略)「そこから先は言わなくて結構、興味ないから」


ニコラス「それよりさっさと帰んなさい。あんた殺し屋に追われてるんでしょ」


善子「それよ。今回の事件、黒幕は鹿角聖良ってやつらしいんだけど」


ニコラス「ええ知ってる。そいつらのお陰でこっちは発電機九台フル稼働させる羽目になったし」


ニコラス「あんたがここにいるだけで私たちも危険なの。はっきり言って大迷惑よ、今すぐ消えて」

355: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:07:47.00 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「はーっ、期待して損しましたわ。一瞬本物のにこさんに会えると思いましたのに」


ダイヤ「出てきたのは頭のおかしいしょぼくれたサンタクロースとは」 (※別名聖ニコラス)



ダイヤ「…それにしてもこの部屋珍しいものが沢山ありますのね」


ニコラス「ちょっと、何勝手に触ってんのよ!」


善子(このやり取りデジャブ…)



ダイヤ「これ本で見たことありますわ。CB無線っていうんでしたっけ」


ニコラス「それはこの世の終わりまで使えるラジオシステムよ」


ニコラス「たとえ地上にゾンビとイカとゴキブリしかいなくなってもにこは発信し続けたいの、DJにこにーの週刊アイドル通信をね」



ニコラス「で、善子。なんであんたはここに自分の母親連れてきたわけ?」


善子「そう見える?」


ニコラス「髪型以外はね」

356: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:10:53.69 ID:5hs9uQbco

善子「まいったわ、あなたのこと警戒してるみたい」


善子「何とかしてリラックスさせなきゃ。共通の話題を見つけるのよ」


ダイヤ「と言われましても」キョロキョロ



ダイヤ(至る所にアイドルグッズが所狭しと。やはりこの方は年季の入ったアイドルファン)


ダイヤ「ふむ、この等身大パネル…μ’s時代の矢澤にこ」


ダイヤ「スクールアイドル。懐かしいですわ」



ニコラス「へえ、あんたそっちの話出来るの?」


ダイヤ「当時妹が熱中していまして、私も影響されて少々」


ダイヤ「というか私たちの世代なら知らない方が珍しいですわよ」


ニコラス「常識よねー」


ニコラス「だのに最近のドルオタときたらミューズって石鹸でしょとか古いボケを大マジメにかますニワカばっかりで…」


善子「に、にこにーはこう見えて元スクールアイドルなのよね。かなり有名だったんでしょ?」


ニコラス「そうよ」



ニコラス「なにせこの私こそが伝説と呼ばれたμ’sのセンター」


ニコラス「ロードオブザアイドルこと矢澤にこなんだから!」


ダイヤ「何をほざきますの貴女方は」

357: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:11:38.35 ID:5hs9uQbco

【???】


――ブロロロロロロロロ



ヒデコ「オーライ、オーライ」



 プシュウウウン…



聖良「ご苦労様です。やっと合流できましたね」


ヒデコ「作業は快調だよ。そっちでもモニターしてたと思うけどさ」


聖良「ええ、あと二時間ってところでしょうか」




358: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:13:18.02 ID:5hs9uQbco

~~~~~


ニコ「――それがデビューしてみて分かったこと。でもにこは後悔してないわ」


ニコ「あの頃の自分がやれるだけのことは精一杯やり切ったつもりだから」


ニコ「そこからどうしてこうなったかを話すとまた長くなるのよね。ま、人生生きてりゃ色々あるってことなんだけど」


ニコ「なんせユニット組んでた子は一人は医者、一人はテロリストになっちゃうし…」



善子(いつまで続くのこの話。早送りしたい)


ダイヤ(これはアレですわね。自分を特定の偉人と同一視してしまうという今流行りの。こんなのにいつまでも付き合ってられませんわ)



ダイヤ「あの、お話の続きは病院で聞きますので。その前に鹿角聖良のことを」


ニコ「聖良? ああ、第十一回ラブライブでホッカイドー代表だったのよあの子。妹と一緒にね」


359: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:14:22.10 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「知っています、昔雑誌で見かけたのを思い出しましたから…」ワナワナ


善子「スクールアイドルって未来の犯罪者養成キャンプなの?」



ダイヤ「全くどいつもこいつも…これ以上私の青春、スクールアイドルの名を汚さないでほしいですわ!」



善子「落ち着いてダイヤ。今はそんな話をしに来たんじゃないでしょ」


善子「鹿角聖良の目的や居場所、とにかく知ってることを教えてほしいのよ」



ニコ「にこも色々調べてはいるけど。今んとこそっちのご期待に沿える様な成果はないわ。悪かったわね」



ダイヤ「…色々と失望しました。善子さんもう帰りましょう」


善子「ウェイト!短気は損気ってね」

360: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:16:11.52 ID:5hs9uQbco

善子「ねえにこにー、昨日チャットで話したバイトのこと覚えてる?」

ニコ「新型の暗号アルゴリズム使ったセキュリティを破れるプログラムをあんたがコーディングした話でしょ。それが?」

善子「実は今持ってるハードディスクの中にそのコピーが入ってるんだけど」

ニコ「ちょ、それ早く言いなさいよ! 見せて」


ニコ「ふーん、確かに見たことないわこんなの」カタカタカタカタ…


善子「ほら、あいつら一度暗殺に失敗した後も執拗にこっちのこと狙ってきたじゃない」

善子「ファイヤーセールが始まっちゃえば、プログラム製作者の一人くらい生きててもほっといて問題ないと思うんだけど」

善子「もしかすると…このヨハネ特性の解析プログラム<ガブリエル>が計画の鍵を握る重要なファクターなのかも」


ダイヤ「こちらはあながち妄言とは言い切れませんね。どうしても貴女のことを消したがっていたようですし」

善子「このアルゴリズムがどこの何を守っているのかが分かればねー。それで向こうの出方も分かるかもなのに」


ニコ「分かったわ」

善子「はやっ!」

361: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:17:27.96 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「MOMENT RING…?」

善子「なにそのメメント・モリ的な」


ニコ「郊外にある歯車みたいなヘンテコな形した建物よ。とある法人の所有物らしいけど」

ニコ「国内でこの特殊なアルゴリズムをセキュリティに使ってんのはここだけ」


善子「うへぇ凄い電力消費量…」

ニコ「でしょ? 建物の地下にでっかいチリングタワーまであんの」

善子「ここまでしないと冷却が追っつかないって、一体中に何が…」


ニコ「思ったんだけどここ、例のマイナンバー管理してるサーバーがあるデータセンターじゃないかしら」

ニコ「都内の何処かにあるって言われてるやつ。国民の個人情報の集積場よ」


ダイヤ「鹿角聖良は、それも丸ごと削除しようというの?」


善子「かもね…」

362: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:20:04.32 ID:5hs9uQbco










花陽「あ、警報です! 誰かがこの建物にアクセスしてます」


聖良「逆探知して」



花陽「……ぴゃあ!ハッキングをかけてきたのはにこにーです!」


花陽「あの伝伝伝級の大銀河宇宙No.1スーパーハッカー…どうしよ、私ファンなんです」



雪穂「にこにーって…あのおなべで有名な?」



聖良「矢澤にこ…困った人だ。向こうの様子を見れますか?」


花陽「あ、はい。えっと、にこにーの自宅のウェブカメラをハッキングしますね」



花陽「出ました……あれ?この人たちって」



聖良「……」



聖良(野沢ダイヤに津島善子…やはり生きてましたね)



聖良「黒澤ルビィの様子を主モニターに。エレベーターの明かりを回復させてください」

363: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:21:03.71 ID:5hs9uQbco


ニコ「ん? モニターの調子がおかしいわね。急にどうしたっての…」


 パッ


聖良『矢澤さん』


ニコ「げっ、鹿角聖良!?」



聖良『覗き見とは感心しませんね。ケチなコソ泥のくせに、手を出す相手を間違えると痛い目を見ますよ』


聖良『そして…ダイヤさん。よもや生きていたとは』


ダイヤ「よく言われます」



ダイヤ(このカメラで映していますのよね)サッ


ダイヤ(居場所を突き止められます?)


ニコ(もうやってる!)カタカタカタカタ


ダイヤ(時間稼ぎは任せて)


聖良『ダイヤさん? カメラを手で覆ったところでマイクを通して丸聞こえですよ』

364: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:22:43.74 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「これは迂闊でした」

ダイヤ「ふふ、私古風な家で育ったものですから、昔からこういった機器の扱いには疎くて」


善子(今のは単に抜けてただけよね…?)


ダイヤ「で、貴女方はこんなアナログ人間一人に手こずっていますのよね」

ダイヤ「もう随分お仲間が少なくなったのではなくて?」


聖良『……』


ダイヤ「はっきり申し上げますと、今までお相手してきた中でここまで手応えのない方々は初めてです」


ダイヤ「クリスマスの度、倒しても倒しても湧いてくる害虫共にうんざりしてましたが、いい加減悪党の在庫も品薄のようね」


ダイヤ「ファイヤーセールなんて仰るけど、貴女の部下たちこそ投げ売りで手に入れたのでしょう。個性も練度も今一つなモブの集団ですわ」


ニコ(あんたのママ、毒舌キツイわね)

善子(普段はそうでもないんだけど、相手を挑発する時だけ何かが乗り移ってるのよ。あとママ違う)

365: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:23:38.65 ID:5hs9uQbco


聖良『随分とご自分に酔われていませんか?』


ダイヤ「ええ、とてもいい気分です。エンドルフィンが今にも耳から垂れそうなくらい」


聖良『そうですか…』


聖良『これでも?』



 パッ


ルビィ『はぁ……はぁ……ぅゅ』



ダイヤ「!?」


ダイヤ「…ルビィ?」

366: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:24:54.32 ID:5hs9uQbco


 PLLLL! PLLLL!


ルビィ『も…もしもしっ?』


聖良『こちら緊急救援サービス、担当の鹿角と申します』


ルビィ『はぁぁ、よかったぁ……もう何時間も閉じ込められちゃってて』


ルビィ『あの私…黒澤ルビィっていいます…これからどうしたら』



ダイヤ「ルビィ駄目です、今すぐ電話を切って…!」


聖良『機械音痴のダイヤさん。いくら叫んでもそちらの声は届きませんよ』


聖良『会話の邪魔をしないでもらえますか。すぐ救助しないと』


聖良『エレベーターが誤作動でも起こして“妹さんごとシャフトの底に落ちていったら”大変です』


ダイヤ「っ…」

367: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:26:32.87 ID:5hs9uQbco

聖良『ルビィさん。そちらの居場所は正確に把握しています。既に救援を向かわせましたのでご安心を』


ルビィ『ぅゅ…ありがとうございます』


聖良『よろしければこちらで誰かに連絡を取りましょうか』




ルビィ『……』




ルビィ『お姉ちゃんに』




ルビィ『名前は、野沢ダイヤ。苗字は違うけど…私のお姉ちゃんなんです』




ダイヤ「……」




ルビィ『もしかしたら心配してるかもしれないから。安心させてあげたいな…って』



ルビィ『……私も、声が聞きたいんです』



聖良『分かりました。ではひとまずこれで。頑張ってください』

368: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:27:59.44 ID:5hs9uQbco

聖良『聞いてましたか? 野沢ダイヤさん』


聖良『いい妹さんじゃないですか。会うのが楽しみです』



ダイヤ「……」



聖良『どうしました。舌を火傷でもしましたか? いつもみたいに面白い返しを期待してたんですけど』



ダイヤ「――わ」



聖良『?…よく聞こえませんね。もう一度』



ダイヤ「野沢じゃない…」



ダイヤ「今日だけは、黒澤ダイヤよ」




善子(ダイヤ!)チョイチョイ


ニコ(聖良の居場所が分かった。やっぱりモメリンの敷地内にいるわ。住所はこの紙に)


ダイヤ「…感謝します」



ダイヤ「それと、迷惑ついでに表にある車を貸してください」


善子「あ…待ってよ!」

369: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:30:04.20 ID:5hs9uQbco

――

――――


ルビィ「はひぃ…助かりました」


千歌「いえいえーこれが仕事ですから」



ルビィ「あの、あなた達は」


凛「警察だよ。ほらこれ手帳」


ルビィ「ちょっと…見せてもらってもいいですか」


千歌「どーぞどーぞ」スッ

370: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:30:30.61 ID:5hs9uQbco


ルビィ「ごめんなさい。お姉ちゃんも警官で」


ルビィ「こーいうの、たまに嘘つく人がいるから気を付けなさいって言われてて」


千歌「あはは、お姉さんは用心深いんだねーウチとは大違い」



ルビィ「だから偽物の見分け方とか……簡単なコツを教えてくれて……」



ルビィ「……」



千歌「…どうしたの? 黒さ」



――電光石火、千歌の喉に手刀が叩き込まれた。



千歌「は――」



今しがた起きたことに理解が追い付かず、凛ですら一瞬硬直したその空間で。


要救助者の女性だけが迷いなく目の前の胸に肘、顎に掌底を続けざまに打ち込んでいた。


レスキューに対する黒澤家流の謝意を込めて。



371: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:31:31.58 ID:5hs9uQbco


 ブロロロロロロロロロ…


善子「駄目ね。やつらとうとう衛星通信まで切ったみたい。リリーに連絡するのは無理よ」


ダイヤ「……」


善子「運転代わろっか? 疲れてるでしょ」


ダイヤ「結構よ。気にしないで」



善子「……」


ダイヤ「……」



善子(あーもうこの空気)



善子(お嬢様言葉じゃないダイヤってのも調子狂うし)



善子(どうしたらいいんだろ…)




ダイヤ「善子さん」


ダイヤ「貴女がついてくる必要はなかったのよ」

372: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:32:07.52 ID:5hs9uQbco

善子「な、何よ。藪から棒に」


善子「ちょっと前までは私の助けが必要とか言ってたくせに」



ダイヤ「ここから先は私と鹿角聖良の個人的な問題」


ダイヤ「そこに妹――ルビィを巻き込んでしまったのは私の手落ち」


ダイヤ「この上、貴女まで巻き添えにするのは」


善子「それなら私にだって今回のテロの責任の一端はあるし」



善子「……」



善子「私ね、昔からついてないのよ」


373: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:34:12.26 ID:5hs9uQbco

善子「いっつも運が無くて」


善子「不幸属性の持ち主だって思ってた。自分のこと、かわいそうな子だってね」


善子「そして昨日、初めて私と同じ……もしかしたらそれ以上の不運の持ち主に出会ったわ」


善子「マイナスと、よりおっきなマイナス」



善子「高校入ってすぐだったかな。数学の授業で宿題が出たの。マイナス同士の足し算に掛け算の問題」


善子「私、全部プラスの答えで出したら皆から馬鹿にされた」


善子「マイナスとマイナスは足してもプラスにならない。頭の中身は中二以下かよって」



善子「私は間違ったんじゃない、わざと間違えたのよ」



善子「…いえ、間違えたつもりはないわ。今でもね」




ダイヤ「…善子さん」




ダイヤ「やはりお馬鹿なのね、貴女って人は」



善子「何ですと!そこは感動することでしょー!?」



ダイヤ「フ…」



善子「さあとっとと車を走らせなさい。いざ、ラグナロクへ!」

374: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 11:35:24.29 ID:5hs9uQbco
火曜
ロードショー



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479: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:19:32.81 ID:5hs9uQbco


 これからのラブライブ洋画劇場は












――あなたのお名前を教えてください


「南、ことりです」



――御身分は?


「警視庁組織犯罪対策部捜査9課。通称マルキュー所属の刑事」



――お仕事について聞かせてもらえますか


「私には極秘の任務が課せられていました。長年追いかけている犯罪組織、女流マフィア『A-RISE』への潜入捜査です」



――出来れば詳しくお願いします


「特殊捜査班の協力を得て、私は個人的に因縁のある『A-RISE』幹部の一人、優木あんじゅに成りすますことになりました」



――そんなことが可能なのですか?


「最先端の皮膚移植手術で。先日死闘の末に逮捕、その際昏睡状態に陥った優木の顔面とことりのを取り換えたんです。ほらこの通り」



――俄かには信じ難いお話ですが


「でも恐ろしいことが起きたの」



――あれ?


「手術のショックで、一生植物状態だろうと言われていた優木が覚醒してしまった。そして彼女は……彼女?」



――あなたの本名を教えてもらえますか


「クスクス、あんじゅよ。優木あんじゅ。でも今は私が“南ことり”なの」



ラブライブ洋画劇場【フェイス/オフ】 〇月×日放送未定(放送予定は変更になる場合がございます)


480: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:21:21.35 ID:5hs9uQbco

【MOMENT RINGビル コントロールルーム】


 ガーッ


ミカ「暴れんなって!」

ルビィ「放してぇーっ!!!」

フミコ「ちゃんと押さえて!」


凛「往生際の悪いお嬢さんだにゃー」



聖良「どうしたんですか」


お目当ての人質を連れてきた部下たちの様子を見て理亞は訝しむ。

確保に向かわせた凛と千歌だけでなく、施設内の警備を担当しているはずのフミコとミカまで。
凛を除き、三人とも顔に無数の痣や引っかき傷を作っている。



千歌「聖良さんっ!!! この子、とんでもないじゃじゃ馬なんですっ!!!」


聖良「そんなに大きな声を出さなくても聞こえてますよ」


千歌「え?!? すみませんっ、もう一度言ってくださいっっ」


ミカ「一時的な難聴みたいだね。千歌ちゃんが一番近くにいたから」


凛「この子、ここに来るまで散々暴れて、とんでもない大声で喚き続けてたの」


聖良「…なるほど。確かにあの人の妹だ」




481: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:23:13.06 ID:5hs9uQbco


千歌「――あっ? こいつ!」

ルビィ「っ~~~~!!!」ガチャガチャ


聖良たちの注意が逸れた一瞬――ルビィは手近にいた千歌のレッグホルスターから拳銃を奪おうと手を伸ばしていた。

しかし脱落防止のために銃本体をロックする機構がそれを阻む。

ロックの解除法を知らないルビィはそれでも必死に銃を引き抜こうして――



――BANG!


千歌「いぎっ…!?」


暴発。解き放たれた圧倒的な運動エネルギーに右足の小指をもぎとられ、千歌は前のめりになって悶絶する。



ミカ「この…!」ドガッ

ルビィ「ぴぎゃっ!」


サブマシンガンの台尻を顔面に受け、床を転がるルビィ。

482: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:25:26.28 ID:5hs9uQbco

聖良「おっと、勢い余って殺さぬよう。もう少し痛めつける必要はあるかもしれませんが」


そう言って冷ややかな笑みを浮かべ、相手の反応を窺う。

彼女が俯いていたのは僅かな時間だった。



ルビィ「ぁぅぅ……ぺっ」



顔を上げると同時、血の垂れた唇から返礼代わりに吐き出されたのは折れた前歯。

この部屋に来てから終始おどおどしたままの表情と行動がまるで噛み合っていない。



ルビィ「はぁ、はぁぁ…」



正面から聖良を見つめ返すその瞳には、怯えの色と揺るぎのない何かが奇妙な同居を果たしていた。



聖良(本当に…よく似ている)



聖良「しっかり縛っておいてください。誰か高海さんの手当てを」



聖良「それと小泉さんをここへ。そろそろ出発の時間です」

483: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:28:41.15 ID:5hs9uQbco

【セミトレーラー内】



雪穂「あと2パーセント、か」



ハッカーA「やっぱ投資かなー」
ハッカーB「のんびりビーチで、夢の利息生活」
ハッカーC「とりあえず世界一周」
ハッカーD「それ無理。多分途中で捕まる」



雪穂「チーフは、これ終わったら報酬何に使おうと思ってる?」



花陽「………え?」



花陽「あ…ごめんなさい、聞いてなかったよ…」

484: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:31:47.79 ID:5hs9uQbco

 ガチャッ


ヒデコ「おーいたいた。花陽ちゃん、聖良さんが呼んでるよ」



花陽「あ、もう時間ですか…」



花陽「そ、それじゃあ皆さん。お疲れさまでしたっ」ソソクサ




雪穂(チーフ?)




ヒデコ「さてと」





ヒデコ「」BANG!BANG!BANG!




ハッカーA「ぎゃっ」
ハッカーB「うあっ!?」
ハッカーC「ちょ、なんで…」




雪穂「え…」



ヒデコ「」スッ



雪穂「ま――待っ」



ヒデコ「悪いね」BANG!




ヒデコ「……私です。ディスククリーンアップ完了」




485: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:35:36.91 ID:5hs9uQbco

【MOMENT RINGビル B2F】










善子「せっま」


善子「このヨハネともあろうものが、何が悲しくてこんな汚いダクトの中を這いずってるのかしら」ズリズリ


ダイヤ「…」ズリズリ


善子「入口のトレーラーからバンバン銃声が聞こえた時はもう終わりかと思ったわよ。いきなり見つかったのかと」


ダイヤ「貴女もぼやくのが様になってきたわね。でも今はエスコートに集中して」


善子「ところで何か作戦みたいなのはあるの?」


ダイヤ「ルビィ以外は皆殺しよ」


善子「えー…」


ダイヤ「どこかで武器を手に入れないと。銃は全部発電所で失くしたから」


善子「今見つかったら即お陀仏ってことね。よし、ここよ」ガチャ

486: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:37:13.34 ID:5hs9uQbco

善子「やーっと出られた。この建物の地下に冷却棟があるって話は覚えてるわよね」


善子「ここはそのシステムのメインフレーム。ここのコンソールにハッキングかけて」


善子「警報を鳴らせばビルの所有者たち――恐らく政府にも異常が伝わるはず」


善子「ただしテロリストに私たちが来たことを宣伝するようなもんだけど」


ダイヤ「構わないわ。やって」


善子「…オッケー」カタカタカタ


487: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:38:22.17 ID:5hs9uQbco

 Bi-! Bi-! Bi-!


花陽「け、警報が鳴ってます! B-2エリアで」


聖良「スポーツの実況じゃないんですよ。言ってる暇に切ったらどうですか」


聖良「ヒデコさんを見に行かせてください。フミコさんはダウンロードを終えたハードディスクの回収へ」



聖良「ルビィさん。あなたの救世主がご到着のようだ」


ルビィ(やっぱりこの人たち、お姉ちゃんのことを)



千歌「あははは、いー気分ら!もっとみかんとモルヒネもっへこーい!」


ミカ「やっべ、打ちすぎたかな」


凛「左にも打ってバランスをとったら?」

488: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:40:03.56 ID:5hs9uQbco

~~~~~


親鳥「――はい、はい。モメリンで警報が…」


親鳥「はい、分かりました。それでは」


親鳥「ふーっ…どうしろっていうのよ」



梨子「こそこそ隠れて一体何のお話ですか?」



親鳥「桜内さん!?」


親鳥「いえ何でもないのよこれは…」


――ドンッ


梨子「何の話かと聞いてるんです」


親鳥「ぴいいいっ」



希(決まったみたいやね)


ことり(お母さん…)

489: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:42:40.01 ID:5hs9uQbco

親鳥「MOMENT RINGは、国民の住基ネットのデータを管理する施設」


親鳥「というのは表の顔で、一部の関係者にしか知らされていないもう一つの役目があります」


親鳥「対サイバーテロ用に設置されたフェイルセーフ施設としての役割です」


親鳥「ネットが今回のような大規模攻撃を受けると自動で、我が国の金融データのバックアップが全てここに流れ込む仕組みなの」


親鳥「銀行、株式、法人記録、政府財源…」



梨子「この国の富を全てを一か所に? そんな無茶苦茶なもの…」


親鳥「分析官だった頃の鹿角さんはその脆弱性を指摘していたわ。でも、これまで改修されることはなかった」


梨子「聖良さんでなくても呆れますよ…」



親鳥「彼女は自分のハードディスクにバックアップデータを全て移すでしょう」


親鳥「そうすれば一夜にして世界一の資産家です。好きな時に追跡の心配なく巨万の富を手に出来る」



親鳥「…その逆に、全消去でもされたら」


梨子「ヘヴィだわ…」

490: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:43:53.49 ID:5hs9uQbco





ヒデコ「――動くなッ」チャキ



善子(っ…もう見つかっちゃった!)



ヒデコ「手をあげて、コンソールから離れろ!」



ダイヤ「……」



背後から慎重な足運びで、こちらに近付いてくる傭兵。
生け捕りにするつもりなのか、それとも――

491: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:45:13.52 ID:5hs9uQbco

ヒデコ「やっと会えて嬉しいよ。あんたのせいでどれだけ仲間が死んだと」


ダイヤ「次は貴女ね――」



死刑宣告は開戦の合図。


振り向きざま銃を構えた腕を掴むと気管に突き。

まさに息をつく間も与えず、胸部に肘鉄からの掌底で顎を打ち上げ。


黒澤家流の挨拶で、相手の手からすっ飛んだ拳銃が宙を舞う。



ヒデコ「がああ…!ぐっ、げほげほッ」


ダイヤ「べらべら喋って殺れる機会を逃すな、引き金を引く時は躊躇うなって習わなかったの?」


ダイヤ「来なさい、私が再教育してあげるから」



492: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:46:59.40 ID:5hs9uQbco

~~~~~


梨子「…」ゴソゴソ


希「梨子ちゃん…? ボディアーマーなんて着こんじゃってどうしたん?」



ことり「梨子ちゃん!さっきお母さんから聞いたんだけど」


ことり「今政府が、哨戒中の戦闘機をモメリンビルに向かわせるかどうかで揉めてるんだって」


ことり「制圧じゃなくて、威圧と監視のためらしいけど…」



梨子「アテに出来ないかな…そんなのじゃ」


梨子「やっぱり私たちで何とかするしかないみたい」


希「梨子ちゃんまさか…」



梨子「強襲チームとヘリの用意を。可及的速やかにモメリンビルへ向けて出発します」



493: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:48:17.82 ID:5hs9uQbco



ダイヤ「ぬっ…ぐぐぐぎぎぎぎ…!」



ヒデコ「なんだこのババア特殊部隊あがりか…?」グググ



ダイヤ「失敬なっ、婦警のお姉さんでしょ!?」



ヒデコ「お、お前みたいな婦警がいるかあああああ!」



善子(ひいいいい、この人たち絶対おかしい! どうしてそんな怖い顔できるのよぉ)




掴み、離れ、また取っ組み合い。

怒れる猛獣の如く激しくぶつかり合う二人から、善子は転がるように逃げ回っていた。




ヒデコ「畜生殺してやる!仲間たちの仇だ!子宮を抉り出して食ってやるぅ!」



ダイヤ「そんなもの、とっくの昔に犬の餌にくれてあげたわ!」ダッ



善子「わわっ、こっち来ないでよ二人とも…ひゃあ!?」ズルッ

494: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:49:44.94 ID:5hs9uQbco


コンソールの足場から、文字通り動転した善子が滑り落ちるのと同時、
勢いづいてヒデコの奥襟を掴んだダイヤは、そのまま相手を近くにあったPCチェアの方へ放り出した。


ダイヤ「おすわり!」


ヒデコ「う゛ぁああ!?」ドサッ


間抜けな姿勢で椅子に乗った彼女の首を押さえたまま、
遊び半分の子供がショッピングカートを走らせるように、その身体を椅子ごと向こうへ押しやる。



ダイヤ「身重の方は段差にご注意を!」ガーーーーーーッ



勢いよく足場を滑る椅子が下のフロアへ通じる階段に達するのと同じ頃、
善子は冷却装置に直結する金網の真上に落下していた。



善子「いったぁ、へぅあっ!?」バキャン!



衝撃で金網のロックが外れ、不運な自称堕天使は冷却システムのさらに底へ落ちていく。




ヒデコ「がっ…!ぐぁ…!げあ…っ!」


椅子から投げ出され、何度も宙返りを繰り返して段差に全身を強打しながら。



善子「あだっ、なにこれ滑っ…きゃあ!」


幾本も突き出し交差した、霜で覆われたパイプ群に弄ばれるように。



転落を続ける二人はダイヤの視界から消え去ってしまった。

495: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:52:03.50 ID:5hs9uQbco




ダイヤ「くっ…善子さん返事をして!」


ダイヤ(暗くて底が見えない。どこまで落ちてしまったの)



















善子「あぅぅ…っ」


善子「痛いし寒いしなんなのよもぅ」

496: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:52:51.61 ID:5hs9uQbco


善子「ダイヤ聞こえる? 何とか生きてるわぁ!」




「善子さん!? 良かった…」




善子「ここをよじ登るのはちょっと無理! またダクトがあるからそこから抜け出してみる!」




「気を付けて!」




善子「まったくなんて不運…いや逆にこれはツイてる方?」



善子「ダイヤと一緒にいると感覚マヒしちゃうのよね…」


497: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:53:49.41 ID:5hs9uQbco



ヒデコ「ヒュー…コヒュー…」


ダイヤ(善子さん…私がもっと注意していれば)



階段の下で、血まみれになって不規則不気味な呼吸を繰り返す敵を見下ろしながら、乾いた唇を噛む。

一歩間違えれば善子もこうなっていたかもしれない――



ダイヤ(悔やむのは後。今は情報を引き出さないと)チャキン



ここまで下りる途中で拾ったハンドガンの装填状態を確かめる。

自分の知っているのとは大分形が違ったが、刻印からベレッタ社の、恐らくは新型モデルのようだ。

498: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:55:06.99 ID:5hs9uQbco



ダイヤ(何か縁があるのかしらね)



思えば初めて人を殺した時も階段で、一緒に転がり落ちて相手の首をへし折った。

その時手に入れたのがベレッタ・ピストルだった。


ルビィを人質に取られているのも同じ。こうして傷だらけになりながら、あの時と同じことをまた…



因果めいたものを感じつつも、決定的な違いに至る。


旧型の、どこか気品と優雅さを感じさせたフォルムから、無駄を削ぎ落された攻撃的な形状に。


拳銃も自分も、あの日から随分と姿形を変えてしまっている。



ダイヤ(もう戻れないのかしら。あの頃には…)


499: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:55:51.19 ID:5hs9uQbco


ヒデコ「コヒュー…ヒッ、ヒッ、フーッ…」


ダイヤ「妹は何処です。答えなさい…!」チャキッ


ヒデコ「……だ……だりぇ、が…こたぇ」



 ピーッ ピーッ



『ヒデコさん? 状況の報告を』



ダイヤ「無線機持ってたの…」カチッ

500: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:56:41.51 ID:5hs9uQbco


『あーテステス。聖良さんよね? ヒデコさんはラマーズ法の講習に出かけたので私が代わります』


聖良「!」


ルビィ(お姉ちゃん…!)



『さて、これで鹿角サーカス団は残り何人かしら。あ、答えたくなければ構わないわ』




『――ちょいとお待ちを。今ヒデコさんが帰ってきたから。代わるわね』












ダイヤ「ほら、何か喋りなさい」



ヒデコ「……っ」



ヒデコ「い…いっ、いまちかしゃんがいにいるっ!っは、は、はやふおうへんを」



――BNAG!BANG!






501: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:57:25.49 ID:5hs9uQbco


『い…いっ、いまちかしゃんがいにいるっ!っは、は、はやふおうへんを――タァン!タァン!』


ルビィ「ピギッ」


聖良「っ…」




『――ザザッ…お聞きになった通りです。いっいっ今いる三階からそちらへ乱暴し、し、しに行きますわ』


花陽「ひゃっ」



『…それではごきげんよう』ブツッ



凛「どっちが悪役か分かんねえにゃ…」


千歌「え? なになに? どったの?」

502: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 17:58:47.74 ID:5hs9uQbco




ダイヤ「…」ゴソゴソ




ヒデコ「っ……ハッ…ハッ…ハッ」




顔の数センチ脇の床に空いた二発の弾痕を見て、冷や汗を垂らしながら浅い呼吸を続けるヒデコ。

そんな彼女から予備マガジンを収納したショルダーホルスターを剥ぎ取ると、手早く止血と簡単な応急手当を施し始めた。



ダイヤ「貴女運がいいですわ。数分前なら首をへし折っていたところです」



ヒデコ「……なんへ」



ダイヤ「もうこれっきりにしたいのです。こんなことは」





ダイヤ「………これでよし。そこでじっとしていなさい」



ダイヤ「後でお医者様を呼んであげます。代わりにこの無線機は貰っていきますわよ」


503: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:03:57.40 ID:5hs9uQbco


 ズリズリズリ…



善子「迷った…ここどこ?」


善子「とりあえず外に出ましょっか……あれ、このカバー外れないわね」ガコガコッ


善子「フフ…またしても堕天空手の真髄を披露する時が来たようね」


善子「受けてみよ、ルシファーズハンマー!」バァン



 Bi-! Bi-!



善子「げっ…」


 ダッダッダッダッ…


善子(誰か来る!隠れなきゃ…!)



504: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:05:20.16 ID:5hs9uQbco


フミコ「あっち行けこっち行けって。余計な手間増やしてくれちゃってもう」ブツブツ


 カツカツカツ…



善子(……行ったかな)


善子「今のうちに、あいつが行ったのとは逆の方向に…」ソソクサ





善子「って行き止まりじゃない!」



善子(いや、ここ何かの入口ね。分厚い扉…)



善子(あの人こんな所で何してたのかな)



【セキュリティコードの入力が必要です】



善子「このタッチパネルで開けるのね。うわ、何この数列…暗号化されてる」


善子「……」


善子(目まぐるしく変化し続ける5桁×7列の数字…これ見覚えある)


善子「もしかして…!」ゴソゴソ

511: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:07:06.17 ID:5hs9uQbco



 ウィーン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



善子「ホントに開いちゃった…」


善子(例のバイトで組んだ<ガブリエル>に解読させたら一発で)


善子「あのアルゴリズムはこの扉を守るためのものだったのね…」



善子「ひゅっ、この部屋さむっ。空調効かせ過ぎじゃない?」


善子「…まあこれだけデカいサーバーがあれば当然か」


善子(それで敵さんはここから何を盗もうとしてたの?)



善子「なにこれ、アタッシュケース型のハードディスク…? かっくいぃ…」ガチャ



【ダウンロード:100パーセント】



善子(この表示は金融データの――なるほどこういうことだったのね)



善子(確かに今の時代、現金や金塊盗むよか遥かにスマートだけど)




善子「……さて、どうしようかしらこれ」

520: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:08:16.16 ID:5hs9uQbco



 ウィーン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



フミコ「――? そこにいるのは誰!?」


善子「!」ビクッ



フミコ「動かないで!そこで何してるの!?」チャキッ


善子「わ、私を撃つと後悔するわよっ!?」



フミコ「何ですって…」


善子「私をこっ殺したらあなた達の計画もパーよ!? そそそっそれでもいいっての??」



フミコ「あなた何をしたの…」


善子「へっ、へへへ…何したと思う?」


577: >>520の続き 2017/07/04(火) 18:31:10.44 ID:5hs9uQbco


『ザザッ――さて、そろそろ死神の足音が聞こえてきましたか』



聖良「…ゴキブリの間違いでは? この街には多いですからね」


聖良「本当に参りますよ。自分が罠にかかってるのも分からずもがく耳障りな足音には」



『気を付けた方がいいですわよ。そちらがゴキブリホイホイだと思っているそれは、実は猛獣の檻ですから』


『そして貴女の墓標でもある。何か刻んでほしい言葉があれば、リクエストは今のうちに』

578: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:31:38.99 ID:5hs9uQbco

聖良「クス…」


聖良「ダイヤさん。あなたが何を考えているか分かりますよ」


聖良「こうやって会話に集中させることで、妹さんより自分に注意を引こうって算段ですよね」


聖良「威勢の良さは変わらずですが内心穏やかではないでしょう。そちらの焦りが私には手に取るように分かります」


ルビィ(お姉ちゃん…)



聖良「ですがこうは思いませんか?」


聖良「そちらの挑発にいい加減痺れを切らした私が、今すぐ目の前にある頭を撃ち抜くかもとは」


ルビィ「…!」

579: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:32:25.76 ID:5hs9uQbco



ダイヤ「…それはあり得ませんわ」



『どうしてです?』



ダイヤ「だって貴女はそんな方じゃありませんもの」


ダイヤ「常に冷静なリーダーたろうと努め、確実な勝利のために用意した手段を一時の感情に流され台無しにしたりはしない」


ダイヤ「そしてこの私のことを恐れている」


ダイヤ「妹はそのための切り札です。手放すはずがありません」




『………』




ダイヤ「…」ドックンドックン




『確かにその通りです。むやみに人質を傷付けるのも本意ではありません』




ダイヤ「」フゥ



580: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:33:14.57 ID:5hs9uQbco


凛「今度はどっちが勝つかな」


千歌「えーっと…聖良さんの方から無線を切るに一万だ!」


花陽(千歌ちゃん声大きいよぉ)




聖良「ダイヤさん。考えてみたんですが、私たちは少しお互いのことを誤解しているようです」


聖良「出会い方が良くなかった。本当はもっと仲良くできるはずですよ」



『お休みの時間にはまだ早くてよ。私が行くまでちゃんと起きててください』



聖良「まあ聞いてください。私はあなた方の敵である悪党やテロリストの類とは違います」


聖良「これは全て国のためなんです。私の前歴は知ってるんですよね?」

581: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:33:59.75 ID:5hs9uQbco

聖良「昔からずっと不満でした」



聖良「何故真面目に努力する者ほど足を引っ張られるのか。ストイックに上を目指すことの何がいけないのか」



聖良「私は警告してきました。こうなってからでは遅いと。その為の準備は怠るべきでないと」



聖良「その言葉は聞き入れられず、卑劣なやり口で排斥されましたけど」



聖良「しかし気持ちは今でもあの頃のままです。私は、この国を想っているんです」

582: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:34:45.14 ID:5hs9uQbco


『だから自分で破壊すると? 矛盾してないかしら』


聖良「他国のテロリストにされる前で良かったですよ。少数でも確かな技術を持った精鋭たちの手にかかればこの通り」


聖良「これが、この国の現状です」


聖良「しかもまだこの程度、アポカリプスの体験版といったところでしょうか。本気になればいくらでも酷く出来ますから」



『貴女は今さぞかしいい気分でしょうね。世界が燃え上がる様を見るのは楽しかった?』



聖良「私は混乱と殺戮を望む愉快犯じゃない。それ見たことかと思う気持ちが多少あったのは否定しませんが」


聖良「それだけです。ファイヤーセールはあくまで手段でしかない。遊びでやってるんじゃないんですよ」



『……そう』



『だから貴女は最低だと言うのです。私が昔葬った悪党たちは、まだ分別された方のゴミだったと気付きましたわ』

583: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:35:58.45 ID:5hs9uQbco

聖良「いいですか。世界が燃え上がることなんて誰も望んじゃいません」


聖良「私が壊したものは全て元通りに出来るんです。この国が誠意を示してくれれば」



『誠意ですって? 貴女も結局はお金が目的?』



聖良「金銭には興味ありませんよ。その気になれば不自由はしませんしね」


聖良「この施設に保存されているのは日本という国の富を数値化したデータです。これらを丸ごと頂いた暁には」


聖良「協力して頂いた皆さんへの報酬、そして残りは政府との交渉材料に使わせてもらうつもりです」



聖良「この国のサイバーセキュリティを根本から見直すための…ね。この事件で彼らは金の正しい使い道を学ぶんです」


584: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:37:04.81 ID:5hs9uQbco


『……ああ成程』



『やっと分かりました。要するにお金でプライドを買おうというわけ…』



聖良「…相変わらず口の悪い」



『事実でしょう。憂国だのなんだの御大層に。結局は自分のことを認めさせるための壮大な自作自演じゃないですか』



聖良「あなたなら分かるはずです。国のために尽くす人間の努力は正しく報われるべきだ。違いますか?」



『報いが欲しいのなら、私が命の小切手を切って差し上げます。額面の安さを見て卒倒しないことね』

585: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:37:49.73 ID:5hs9uQbco


『いいこと。ぼやくのは主役の特権です。時間稼ぎのためとはいえ、これ以上悪党のメソメソした身の上話を聞くのはたくさん』



『トンネルの惨状を貴女たちにも見せたかった……それだけじゃありません』



『ここに来るまで、明かり一つなく静まり返った街を見てどう思いました? 何の罪もない人々が今、家の中で肩を寄せ合い震えているの』



『ここまででもう貴女を処断するには十分な理由ですわ。覚悟なさいこのジャガイモ女、揚げた後で畑に蒔いてあげましょう』



『誰にも認めらずぼろきれのように死ぬのが貴女の運命です。ちっぽけな自尊心を満たすためだけに、無関心に踏みつけられた多くの命のように』



『そちらにも命の軽さを教えてあげます。座して死を待ちなさい』





千歌「……」


凛「……」


花陽「……」



聖良「…呆れた」


586: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:38:54.69 ID:5hs9uQbco


聖良「まるで話にならない…ここまでとは」



ルビィ「……」



聖良「…あなたとなら」



聖良「真面目に話すかもしれませんね。ルビィさん」スッ




ルビィ「……」



ルビィ「お姉ちゃん…聞こえる?」




『…ルビィ』




ルビィ「お姉ちゃん」




ルビィ「敵はあと六人だよ」

587: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:40:16.48 ID:5hs9uQbco

――パァンッ


ルビィ「っ…」ヒリヒリ



聖良「……」



ミカ(うわっ、あの人が手をあげるなんて。自分でも信じられないって顔してるし…)



『ルビィもう少し頑張りなさい。すぐに会えま』ブツッ




千歌「やった、チカの勝ち♪」サッ


凛「ちぇ…」っ諭吉




聖良(…いけない。深呼吸を)




聖良「フーッ…」



 ガーッ



フミコ「聖良さん! トラブルが…」



聖良「……すみません。何ですって?」



善子(げっ…マズい時に来ちゃったみたい)



588: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:42:25.08 ID:5hs9uQbco



フミコ「これ、見てください」ガチャ


【ww%7d@f9YhB2pT0?】



花陽「あわわわわ…ハードディスクのデータに新しい暗号をかけられちゃってます」



千歌「え? チカたちのお金はどーなっちゃったの?」


花陽「このままだとデータが使えないから引き出せません」


凛「それは困るよ!」




善子「ちなみに、どこかにバックアップ用のデータ転送してたみたいだけど。そっちの方にはウィルス送っといたから」


善子「つまり、このヨハネの<ガブリエル>が再設定した暗号を解かない限り!あなた達の計画はご破算ってワケよ!」


善子「どう?折角前々から準備して前日に現地入りして何時間も並んでやっとお目当ての品を前にして財布をすられたことに気付いた感想は!?」


善子「さあ解けるものなら解いてみなさい、普通にやったら人間の寿命じゃ無理でしょうけどね!ククク…アッハハハハハ!!!」



善子(決ぃまった気持ちいい~!今のあなたメチャクチャ主人公してるわよ、ヨハネ!)


善子(嗚呼、テロリスト達から向けられる殺気立った視線が心地よくすら――)



善子(感じるわけないでしょ!? 今にもチビりそうよぉ…)


589: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:43:55.90 ID:5hs9uQbco

聖良「小泉さん。解読できますか?」


花陽「………多分、時間があれば」


聖良「はぁ…頼もしい返事をどうも」



善子「そ、それにしてもこれだけ大掛かりなことしといて、結局目的はお金なんてちょっとがっかりよ」


善子「スケールの割にみみっちいっていうか、安っぽい動機」


聖良「そうですね。もう黙っててもらえますか」



善子「…ウシチチ女」ボソッ


善子(おっと口が滑った、聞こえてたらやばいわね)


善子(やさぐれお嬢様の口の悪さが感染っちゃったかな…)


善子「…ん?」



ルビィ「……」



善子「……」


590: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:45:25.47 ID:5hs9uQbco


ルビィ「…」ジーッ



善子「えっと…」



善子「血が垂れてる」


ルビィ「へ?」


善子「口のところよ。動かないで」



善子「拭いてあげる…手ぇ縛られてるからちょっとキツいけど」


ルビィ「ん……ありがと」


善子「歯を折られたの? 非道いことするのねあいつら」


ルビィ「私が抵抗したせいなんですけど…」

591: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:46:10.79 ID:5hs9uQbco

善子「黒澤ルビィさん…よね?」


ルビィ「えっ、どうして私の名前…」


善子「ダイヤから聞いてるわ。私は」


ルビィ「あ、あの…!」



ルビィ「さっきから見てて思ったんですけど、ひょっとしてYOHANEさんだったりしますか?」


ルビィ「精霊降ろしてみた動画とかで有名な! あ、間違ってたらごめんなさぃ…」



善子「それを知ってるなんて……あなたひょっとして私のリトルデーモン!?」


ルビィ「は、はい! 先週の【月夜に悪魔と踊ってみた】とっても良かったです!」

592: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:46:57.27 ID:5hs9uQbco


凛「踊ってみた…かぁ」


凛「千歌ちゃん。凛ね、本当はダンサーになりたかったんだ」


凛「でもそれだけで食べていくのはキツくて。世の中結局悪いことやった方がずっと楽にお金稼げるんだよね」


凛「だからさ、こんな凛を哀れに思ってくれるならさっきの一万円返して――って千歌ちゃん聞いてる?」



聖良「星空さんちょっといいですか」


聖良「黒澤ダイヤを始末すれば、理亞の取り分はあなたにあげましょう」


凛「…!」


聖良「やってくれますか?」


凛「」コクッ


593: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:53:23.63 ID:5hs9uQbco

花陽「っ…聖良さん、大変です!」


花陽「海自のF-35B……戦闘機がここに向かってきます。あと数分で…」



聖良「別に問題ありません。私たちはこの二人を連れてすぐにここを出発します」


聖良「ただし監視だけは怠らないでください。出撃コードの解析も忘れずに」



花陽「は、はい…!」カタカタカタカタ



凛「かよちん後で合流しよ! 凛はここで邪魔者をやっつけるにゃ」



ルビィ「……」


ルビィ「お姉ちゃんは負けません」


ルビィ「私たちのこと、どこまでも追いかけてくるもん。やっつけられるのはあなた達のほうです…!」



聖良「……」

594: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:54:14.86 ID:5hs9uQbco


善子「そ、そーよ! 今のダイヤは背ビレが溶け出したゴジラみたいなもんなんだから!メルトダウン一歩手前の暴走核弾頭よ!」


千歌「アハハ、それって死ぬ寸前じゃんかー」



善子「ちょっとちょっと…!」ヒソヒソ


善子「気持ちは分かるけど、今は下手に相手のこと刺激しない方がいいわよ? 逆上させたらヤバいじゃない」


ルビィ「ヨハネちゃん…さっきはカッコよかったのに」


善子「悪かったわねビビリで。あなた達姉妹が勇敢過ぎなの。流石あの人の妹ね」



ルビィ「…ルビィは」



ルビィ「本当言うと、すっごく怖いよ…」



ルビィ「悪い人たちの人質になるのはこれで三度目だけど…何回やっても慣れないよ、こんなの」

595: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:54:58.26 ID:5hs9uQbco

ルビィ「ルビィね、生まれた時からグズでノロマで…いつもお姉ちゃんに迷惑かけてた」



ルビィ「お姉ちゃんが家を出ていかなきゃいけなくなった時、ルビィがその代わりにならないといけなくなった時」



ルビィ「変わらなきゃ…強くならなきゃって、思ったの」



ルビィ「お姉ちゃんも…昔からそれを望んでたみたいだったし」



ルビィ「だってそうだよね? 黒澤家の当主が…いい歳した大人がいつまでもおどおどしてお姉ちゃんお姉ちゃんって」



ルビィ「こんなんじゃ示しがつかないって、私だって分かってたもん…ずっと前から」

596: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:55:29.01 ID:5hs9uQbco

ルビィ「ここ最近、ルビィの方からお姉ちゃんのこと避けるようになってた」



ルビィ「お姉ちゃんに甘えなくてもやってけてるんだって証明したかったのかも…」



ルビィ「でも…そんなルビィの態度はお姉ちゃんを傷付けてただけみたいで…」



ルビィ「ルビィはどうしたら良かったんだろう…? バカだから分かんないよ…やっぱり私ってダメダメで…」



ルビィ「全部…こんな風にルビィが弱いのがいけなかったのかな?……きっとそうだよね…」

597: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:56:20.80 ID:5hs9uQbco


善子「あの姉にしてこの妹ありってトコかしらね…」


ルビィ「え…?」


善子「あなたもちょっと頭が固い感じ?」



善子「どーして物事をゼロかイチかでしか考えられないのかな。デジタルの世界じゃどちらも必要不可欠なのよ?」


ルビィ「ど、どういうこと…?」



善子「あー…つまりさ」



善子「自分のやれることはしっかりやって、それでもどーしようもなかったり甘えたくなった時には」



善子「フツーに頼っちゃえばいいんじゃない? 何の捻りもないド直球な回答で悪いけど」



善子「それの何がいけないの? 姉妹じゃない、あなた達。いくつになってもね」



ルビィ「……」

598: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:57:04.45 ID:5hs9uQbco

善子「もちろんその…兄弟いる人たちって、あなたが言ったみたいに複雑な事情やら感情やら色々あるんでしょうけど」


善子「私一人っ子だからそういうのは分かんなくて…」


善子「だからそんな単純な話じゃないって言われたらそれまでなんだけど」



善子「でもね、そんな私だからこそ単純に思ったの」


善子「姉妹っていいなって……昨日からダイヤのこと見てたらさ」


善子「ちょっとあなたのことが、羨ましくなっちゃった」


善子「そういう関係を…変なプライドとか気負いで拗れさせちゃうのはやっぱり勿体ないっていうか…」


ルビィ「ヨハネちゃん…」


599: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 18:58:14.04 ID:5hs9uQbco


善子「だーっ今のナシナシ!」



善子「堕天使ヨハネは孤高の存在、こんな女々しい戯言は言わないの」




善子「…だから今のは人間、津島善子の言葉よ。間違えないでね」




ルビィ「……うんっ、善子ちゃん」


善子「善子じゃないヨハネ!」


ルビィ「え…でも今善子って」


善子「もうヨハネに戻ったの!」


ルビィ「そうなんだ…えへへ」




花陽(この人たち人質の自覚あるんでしょうか…)



600: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:00:10.51 ID:5hs9uQbco



 キィィ…


ダイヤ「…寒っ」ブルッ


彼女が足を踏み入れたのは、四方から吹き出す冷気と青白い照明に彩られた氷の世界だった。



ダイヤ(ここは何の部屋なのかしら…)


傍目には円形、その実十八角形にデザインされたその空間は、MOMENT RINGの建物内を垂直に貫くシャフト。

この施設全体が巨大な円柱型の冷蔵庫のようなものであり、ここはその冷却システムの中心部。

シャフトの中央にかけられた細いキャットウォークが、扉と扉を繋ぐ唯一の移動手段らしかった。



ダイヤ(扉を抜けるとそこは雪国でした――なんて浸ってる場合じゃありませんわ)


キャットウォークに一歩踏み出した途端、ジャリッとした感触と共にその縁から氷の塊が剥がれ落ちる。


見下ろせば、すぐ真下にも同じように伸びた足場やパイプ類が十字状に交差しており、
頭上や壁面を見やれば冷却水を循環させるホースが無数に這っている。


ダイヤ(まるで氷漬けのジャングルジムですわ)





601: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:01:47.16 ID:5hs9uQbco


――BANG! チュイン!


ダイヤ「!」


そんな零下の世界、ダイヤの眼前で小さな火花が飛び散った。



凛「あぁんもーっ、また外しちゃった…」


シャフトの底より悔しげな呻き。

眼下よりの銃撃で千切れたホースから、アクアブルーの液体が吹き出している。

602: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:02:27.91 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「ッ」BANG!BANG!BANG!



すぐさまベレッタで応射。

下層の狙撃手は弾かれた様に動き出し、近くにあった制御盤を踏み台にして頭上のキャットウォークへ駆け上がった。


――BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!



凛「うわわわわわっ」


途切れることなく降り注ぐ銃弾に追い立てられるように、足場からパイプ、
そこからさらに別の足場へ飛び移って、あっという間に射界の外へ。

薄氷で覆われたアスレチックの上だということをまるで感じさせない身のこなし。



ダイヤ「っ…」ガチャッ


見覚えのある軽業に舌打ちしながら、弾切れの銃から空のマガジンを振り落とす。

落下した空弾倉は、梁の下に隠れた凛の目の前を通過してシャフトの最下層――
高速回転を続ける大型冷却ファンの隙間に吸い込まれていった。

603: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:03:51.70 ID:5hs9uQbco


凛(チャンス!)


相手の弾切れを悟った凛が、遮蔽物から顔を出して上層に銃撃を叩き込むも。

既にダイヤは一度扉まで後退しており、銃弾は空を切って再び火花を散らすだけに終わる。



ダイヤ「あの時の猫女、あなた生きてましたの!?」


凛「それはこっちの台詞だよっ」



軽口を叩きながら、銃に新しいマガジンを装填してスライドを閉鎖。

全く同じ金属音が、頭上からも聞こえてきた。



凛(撃ち合いじゃ敵わない。やっぱり近付くしかないか…)


決心して、得物を懐にしまい込む。

604: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:04:26.05 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「いきますわよ…」


再び、ベレッタを構えたダイヤがキャットウォークに姿を現すと――



凛「ねえ、一つ教えてあげる!」


凛「みんなはもうすぐここを出る頃だと思うよ。あなたの妹を連れて!」



ダイヤ「なっ…」

605: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:05:21.25 ID:5hs9uQbco

凛(今にゃ!)


一瞬の空白を突いた見事なスタートダッシュ。

何かのメーターを足場に、壁を蹴って三角飛び、瞬く間にシャフトをひょいひょいと駆け上って
抹殺対象との距離を詰めていく。



ダイヤ「くっ…」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


眼下四時方向、かと思えば次の瞬間には二時、そして十時方向へ。

ほとんど壁を走ってシャフト内を縦横無尽に跳ね回る敵の動きに、ベレッタの照準は標的を捉え切れない。



ダイヤ「チョロチョロしないっ、弾が当たらないでしょう!?」BANG!BANG!BANG!BANG!


十八角形の中心で、ダイヤという銃座が下層の標的に翻弄される様は、さながら文字盤の上を狂い踊る時計の針のよう。



凛(あともうちょいっ)


ダイヤ(あと四発…!)



舞い散る火花と氷片を潜り抜け、遂に凛はダイヤの立つキャットウォークの真下に到達した。

606: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:06:16.51 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「っ…」


瞬時に足元に銃口を向けるも、金網下に沿ってまとめて伸びる冷却ホースの束が邪魔で狙えない。

その隙に凛はホースに手をかけるや否や体操選手めいて身体を捻り、足場とホースの間のスペースに潜り込んでしまう。



ダイヤ「蜘蛛男のお次はハムスターですの? 節操のない…!」


「凛はどっちでもないやい!」


その挑発に応えるように踵の方からにゅっと顔を出した銃口を、ターンした余勢を駆ったつま先が蹴り飛ばす。



ダイヤ「お利口さんッ」


「ちえっ…」


武器を失った相手は即座にホースの上を滑って、シャフトの外へ通じるダクトの中に姿を消した。



607: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:07:17.91 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「今度はモグラ叩きですか…」



ダイヤ(どうしましょう、今のうちに弾倉の交換を…?)



逡巡――その僅かな間に、ダイヤの頭上に口を開いた換気口から黒い影が躍り出た。

608: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:08:00.81 ID:5hs9uQbco

凛「頭上注意ってね!」バッ


ダイヤ「あッ…!」


裸の頭皮で全体重を乗せた足裏をモロに受けてバランスを崩した彼女はキャットウォークから転落。

反射的にホースの一本を把持してぶら下がる。



凛「へへっ♪」クルッ


楽し気に、凛はその場で側宙して身を投げ出したかと思うと反対側のホースを鉄棒代わりに。

そのままメダリストの鉄棒運動よろしく両足揃えのキックをダイヤに見舞う。



ダイヤ「ぁあうっ!!」


痛烈な一撃を受けてさらに落下、二階分下の足場の縁に何とか掴まる。

顔の前に、さっき自分が蹴り飛ばした凛の銃が落ちている。

609: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:09:29.67 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「これでも喰らいなさい…!」


すぐさま手にしたそれで頭上に反撃――その銃口が自分へ向く刹那、
驚異的な反射神経でホースから手を放した凛は射線から逃れ、下の足場に着地。



ダイヤ「ッ…」


凛「!」


素早く狙いをつけ直た銃の引き金に圧が加わる一瞬間前、再び足場より身を投げ出して
先程と同じ手順で潜り込んだホースの上からダクトに退却するまで三秒足らず。

610: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:10:17.70 ID:5hs9uQbco

ダイヤ(――速い、速すぎますっ)


弾丸より疾く――正確には照準から撃発までの数瞬で危機を察知し神速の回避行動をとる様が、
常人の目には銃弾を躱しているように映った。



ダイヤ(またダクトに…今度はどこから来るというの?)


キャットウォークによじ登って、思考する。



ダイヤ(狭く足場の不安定なこの空間は彼女の独壇場)



ダイヤ(接近を許せば体術では勝ち目はなし。しかも相手は銃弾より速く動く。どうすれば…)



ダイヤ(考えなさい、考えるのです…周りに何か使えそうなものは)



ダイヤ「……」

611: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:11:34.11 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「そこです!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!



凛「アハハ!どこ狙ってるのー?」バッ



突如、頭上目掛けて残りの弾を乱射し始めたダイヤを嘲笑うように、足元から飛び出してきた凛が次の瞬間には眼前に。



ダイヤ「くっ」


凛「遅いにゃ!」


銃口を向け直す暇もなく足刀がそれを弾き飛ばし、さらに連打でダイヤを再び足場から叩き落そうとする――その前に。



ダイヤ(ネズミ捕りにかかりましたね――!)


凛「えっ」  ヒュンヒュンヒュン――



凛の真横から、鞭のようにしなった黒い塊が襲い掛かった。

さながら毒液を吐いて突進してくる大蛇の群れのような――その正体は断面から冷却液を垂れ流す千切れたホースの集団。

頭上のキャットウォーク下に束ねられていたものをダイヤが銃撃で断裂させ、時差攻撃に利用したのだ。



凛「ばっ…!」


この距離じゃ自分ごと――横殴りの勢いに抗えず、至近距離にいたダイヤを巻き込んで。

二人はまとめてキャットウォークから弾き飛ばされ――


612: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:13:26.56 ID:5hs9uQbco










凛「は、放してよ! 重いじゃん!」


ダイヤ「……くっ」



まるでサーカスの空中ブランコのように。


天より垂れ下がったホースの束に両脚をがっちり絡めて逆さ吊りになった凛。


その左手首に巻き付いたミリタリーウォッチのバンド部と肌の隙間に指を引っかけ、片腕で全身全霊ぶら下がるはダイヤ。


彼女のすぐ真下では、冷却ファンの巨大な回転刃が唸りをあげていた。



ダイヤ(何とかしてよじ登らないと…!)


凛「いい加減諦めて落ちてぇ…!」


ダイヤ「お断りです…っ」


ハードな使用環境を想定した軍仕様なのが幸いし、腕時計のバンド部は彼女の体重に耐え切っている――今のところは。



凛「フーッ、シャーッ!」


腕を振り爪を立て、それでもダイヤの指は離れない。

凛自身この体勢では派手な動きは出来ず、一刻も早く振り落とさねば共倒れになることは必至な進退窮まった状態。

613: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:14:46.27 ID:5hs9uQbco


凛(そうだっ)


起死回生の閃きは至極単純。


凛(時計を外しちゃえば!)


引き攣った笑みを浮かべ手首を弄り始めた凛の様子でダイヤも察する。



ダイヤ(マズい、このままでは――何か、何かありませんの!?)


ダイヤ「――!」



丁度顔の高さ、数十センチ先の壁に凍り付いたバルブハンドル。その上には冷却液という表示が。



ダイヤ(冷却水のバルブ?)



そこで気付かされる。凛が両脚でしがみ付いているホースの断面。



ダイヤ(さっきまで吹き出していた冷却水が止まって…)



恐らく破断等の異常を感知すると自動で弁が閉鎖する仕組みなのだろう。


これをもう一度開ければ…!


614: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:15:43.70 ID:5hs9uQbco


凛「うう、外れない…このっ」ガチャガチャ



ダイヤ(やるしかありません)



幸い相手は腕時計に夢中でこちらに関心を払っていない。



ダイヤ「ふ……っっっ」


目いっぱい手を伸ばす。それでも二十センチほど足りない、届かない。




凛「悪く思わないでねっ、凛にはお金が必要なの――!」



ダイヤ(もう少し――もっと、限界を超えて――)



凛(外れろぉ…!)



ダイヤ(届いて…!)


615: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:16:38.40 ID:5hs9uQbco

届きそうで届かない――ハンドルに、妹の姿が重なる。



ダイヤ「ん…ああああっ!」



一気呵成、掴んだハンドルに掌の皮膚が張り付いた。



ダイヤ(好都合ですわ…!)



凍傷の痛みをものともせず、渾身の力でバルブを解放――



凛「これで終わわわっ!!??」SPLAAAAAAAAASH!



吹き出した大量の冷却水が股下から凛を直撃し、波打つホースは猛り狂う。



バルブハンドルを新たな拠り所としたダイヤと対照的に、今度こそ寄る辺を失い頭から落下する凛は
自ら最後の命綱――自分とダイヤを繋ぐ腕時計を外してしまっていた。



凛「―――っあ」



 ブォンブォンブォンブォン―――ザシュン!


616: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:17:47.73 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「…くっ」


パッと血煙、一緒に弾け飛んだ人体のポップコーンを浴びて顔を背ける。

巨大サーバーを冷却し続ける使命を帯びた大型ファンは、小さな異物を巻き込んだことなどまるで頓着せずに回転を続けた。



ダイヤ(ご愁傷様ですけど…これも人生の皮肉というやつです)



さっきまでぶら下がっていた方、今は痺れ切ってだらんと垂れ下がった片腕の指先には、
凛の腕から外れた時計が辛うじて引っかかっていた。


文字盤のガラスに付着した冷却水が早くも凍り付いて判読を困難にしていたが、
タフな設計の内部機構はこの寒冷下でも回転を止めず、指針は確実に時を刻み続けている――ぐずぐずしている時間はない。



ダイヤ(こんな所で立ち止まってる場合じゃありません。まずはハンドルから手を剥がさないと)



ダイヤ「ふぅ…はぁー……んんん゛ん゛っ!!!」ベリベリベリ



617: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:19:04.57 ID:5hs9uQbco

【MOMENT RINGビル 正門前】


そろそろと明るさを取り戻し始めた冬空の下、
ビル前にヒフミ班が乗り付けた緊急車両のハイエースに慌ただしく資材の数々が運び込まれていく。



フミコ「これで荷物は全部ですね。この二人を除けばですけど…」


よしルビ「……」


ミカ「本当に追いかけてくると思う? あのハゲモグラ」


花陽「り、凛ちゃんが何とかしてくれるはずです…きっと」



聖良「星空さんを待ってる余裕はありません。出発します」


聖良「私たちはこの車で。フミコさんはトレーラーで少し後から着いてきてください」



千歌「さあ乗って乗って!」


善子「痛っ、押さないでよ…」

618: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:20:07.06 ID:5hs9uQbco


 ブロロロロロロロロ…


フミコ(うーん、貧乏くじ引かされちゃったかな)


フミコ(盗んだ公用車に乗ってる皆はいいけど、もし警察とかに見つかったら真っ先に攻撃されるのトレーラーの私だよね?)


フミコ(これじゃ体のいい囮役じゃない…まあしばらくは大丈夫だと思うけど)



 ドンッ


フミコ「!?」


フミコ「なに今の、屋根が」 



「失礼します」ガチャッ



いきなり運転席のドアが開いたかと思えば、血の滲むダクトテープが巻きつけられた手がフミコの首根っこを捕まえた。

そのままのろのろと走行を始めたばかりのトラック部から、空き缶をポイ捨てるように彼女を放り出してしまう。



ダイヤ(何とか間に合いました…!)



619: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:20:49.77 ID:5hs9uQbco


聖良「さて、ハードディスクのデータを元に戻してもらえますか」


善子「…いやよ」


聖良「どうしても?」


善子「ええ」



聖良「…仕方ありませんね。高海さん、彼女を撃ってください」


善子「のわぁ!?ちょ、タンマタンマ!」


聖良「高海さん…? 聞こえてますか」



千歌「ねえ…あれおかしくない?」


620: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:21:29.99 ID:5hs9uQbco

昨日から無数の事故車両が放置されたままの幹線道路をひた走る聖良たちの車は、
間もなく高架にある多層構造のハイウェイと合流するインターチェンジに差し掛かろうとしていた。


その後ろから猛烈な追撃をかけるセミトレーラーは、事前の取り決めを無視して
フルスロットルで封鎖バリケードと放置車両を蹴散らしながら進撃してくるのだ。



『ザザッ――フミコさん聞こえますか? フミコさん?』


ダイヤ「残念私です。フミコさんはトイレ休憩とのことでさっき飛び出していきました」


『………』


ダイヤ「ビルに残してきたお友達も、今頃は回し車の中を走り回るのに夢中でしょうね」


ダイヤ「というわけで残り四人。今から貴女方のお尻へこのトラックで乗り込みますからお楽しみに」



ダイヤ(さて、挨拶はこのくらいにして…)


ダイヤ(この車CB無線機がついてますのね)

621: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:22:23.87 ID:5hs9uQbco


花陽「そんな…凛ちゃんが…」


聖良「小泉さん、F-35の出撃コードの解析は済みましたか?」



花陽「……へ」



聖良「出撃コードを用意してくださいと言ったんです」



花陽「あ……あああぁは、はい!今すぐに」カタカタカタカタ



聖良「折角ご足労いただいたのですから、ちゃんと仕事をさせてあげましょう」


聖良「後ろにいるテロリストの撃退任務をね」


622: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:25:09.53 ID:5hs9uQbco


――ドガァ! ガシャァァァン!


ダイヤ「ちぃ、放置車両が多すぎますわ」


ダイヤ(この図体じゃ避けきれませんし。ぶつかる度に減速して中々追いつけません)


彼女の乗っ取ったセミトレーラーは、電子機材を満載したコンテナ部とそれを牽引するトラック部で構成されている。

この状況では前者の質量が足を引っ張っていることは明らかだ。



ダイヤ(――ですがここからでも車のナンバーくらいは読めます)


ダイヤ「確か周波数の方は…」カチカチッ



ダイヤ「こちら黒澤ダイヤですわ。にこにーさん聞こえますか?」


ダイヤ「貴女のお部屋にお邪魔した時見たCB無線の周波数は25.2」


ダイヤ「これは貴女のチャンネルのはずです、にこにーさん聞こえているのでしょう?」



『ザザー……そんな人いないにこ』


『あんたが言うには私は本物のにこじゃないんでしょ?』



ダイヤ「認めます!貴女こそ唯一にして無二の偶像、大銀河宇宙ナンバーワンアイドル矢澤にこさんですわ!」

623: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:26:30.44 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「今頼れるのは貴女しかいませんの。この無線をサイバー犯罪対策センターの桜内さんに繋いでください」



『…冗談でしょ?』


『ブラックハットリストの頂点に君臨するにこに、サイバー警察の回線をこじ開けさせて』


『あまつさえそのトップに繋げって? 正気の沙汰じゃない』



ダイヤ「無茶は承知です。でもお願いします、私の妹が敵の人質になっているの」



『………』



ダイヤ「貴女にも大切な人たちがいるでしょう…? お願い、同じ姉のよしみで…」



『……わかった。ちょっと待ってなさい』



ダイヤ「恩に着ます…ありがとう」



624: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:29:19.28 ID:5hs9uQbco


 ガタガタガタガタガタ…


聖良「まだ繋げませんか」


花陽「待ってください。今パイロットの無線を隔離しました」


花陽「出撃コードを送ります。コールサインはヨーソロー2」


聖良「ヘッドセットを」スチャ



聖良「コントロールよりヨーソロー2応答せよ」



『こちらヨーソロー2、感度良好であります。何でしょうか』



聖良「MOMENT RINGよりテロリストの車両が出発しました。大型トレーラーです」



『はっ、こちらでも確認しました』



聖良「前を走る緊急車両に近付けさせぬよう直ちに攻撃を。あらゆる兵装の使用を許可します」



『攻撃…でありますか? しかし自分は監視任務と』



聖良「ヨーソロー2これは命令です。余計なことは考えず速やかに任務を遂行せよ」



『りょ、了解――ヨーソロー2…エンゲージ!』




聖良「―――これでよしと」



聖良「ミカさん、高速には入らずこのまま直進を。怪獣同士の戦いに巻き込まれては敵いません」


ルビィ「……」


聖良「ご自慢のお姉さんが戦闘機相手にどこまでやり合えるか、見物ですね」



625: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:30:37.51 ID:5hs9uQbco

【サイバー犯罪総合対策センター】


梨子「強襲チームが用意できてない? どうして…」


希「無茶言わんといてよ…災害派遣で大変な時にヘリ確保するのだってやっとだったのに」



希「政府も対応を決めあぐねてるのに、ウチらの一存でどこからそんな人員を引っ張ってこいって言うのよ」


梨子「そこを何とかするのがあなたと南さんの仕事です」


希「いくらウチでも無理なもんは無理だって」


梨子「去年の忘年会の写真ネットにバラまきますよ?」


希「別にいいよそれくらい」



ことり「梨子ちゃん!」


梨子「あの後南さんと…へべれけのお二人がどこ行ったか私知ってるんですからね?」


ことり「ぴえっ、何でそれを…じゃなくて」



ことり「たった今無線連絡があったんだけどその相手が…!」


626: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:31:46.71 ID:5hs9uQbco


『ダイヤさん!? 今どこにいるんですか?』



ダイヤ「コミヤICのあたりです。聞いてください、テロリストたちはビルを発ちました」


ダイヤ「現在追跡の真っ最中です。それでお願いしたいことが」



その時だった。世界中の掃除機をかき集めて一斉にスイッチを入れたような、破滅的な大騒音が舞い下りてきたのは。



『―――……!……!?―――…』



忽ち無線の声はかき消されて何を言ってるか聞こえない。自分の声も、トラックのエンジン音すらも。

音の暴力は痛いほどに鼓膜を揺さぶり続けて圧を強め、その発生源がこちらに接近して来ることだけが知覚できる全て。

視界の端でサイドウィンドウに亀裂が走っている。



ダイヤ「何事っ!?」



雷鳴にも似たプレッシャーがびりびりと空気を震わせ、地鳴りが起きているのではという錯覚すら抱く。

いや、実際に前方に見える軽乗用車が小刻みに振動し、地面を滑り始めていた。

627: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:32:53.06 ID:5hs9uQbco

数百キロはある車体を震わすものの正体――

高架下のレーンを走るハイエースとトラックの間に滑り込んできたのは、
鉄の隼とか怪鳥などといった月並みな表現ではとても形容していい物体ではない。



ダイヤ「んまぁ…」



F-35BライトニングⅡ。

テロリストたちと自分の間に立ち塞がったそれは、何もかもがあまりに強大で規格外。


低速でホバリングしつつ高架下に脇からするりと入り込むという大凡常識外れのマニューバは、
パイロットがとんでもない凄腕なのか、F-35という機体の秘めたるポテンシャルが異常なのか、
或いはその両方か。

634:  2017/07/04(火) 20:02:43.38 ID:5hs9uQbco

揚陸艦の甲板をはじめとする滑走距離を稼げない環境での運用を想定したこの機体は、
垂直離着陸機能を搭載する。


端的に言えばヘリコプターのような離着陸とホバリングが可能なのだ。


そのSVTOL機能をフルに生かしたF-35は今、ガンシップめいた挙動でトレーラーに牙をむいている。


通常の戦闘機ではあり得ない機動。

新幹線が路面電車の軌道に侵入して難なく走ってしまうような異質さ。


地表スレスレで空中静止した機体の周囲で事故車がじりじりと横滑りしていき、
垂直に傾いたノズルから吐き出される排気熱が道路の舗装を溶かし始めている。


こんなものは人間にしか生み出せない。

歪な進化を遂げたテクノロジーの集合体、グロテスクな浮遊要塞。


629: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 19:35:29.11 ID:5hs9uQbco


――GGGGGGGGGGGGG!!!!


何の前触れもなく、トラックの右隣にあったランドクルーザーが爆発を起こした。


近年増加している対テロ戦――地上車両掃討を意識してF-35の機体下部にマウントされたガンポッド。

そこから発射された25mm口径の徹甲弾が数発でSUVを引き裂くだけでは飽き足らず、斜め後ろの高架柱を粉々に打ち砕いていた。



ダイヤ「なんてこと…!」


トラックの牽引するトレーラーの背後で、支えを失った高架が崩落を起こして瓦礫と放置車両の雨が降り注ぐ。

兵装の中でも最弱の機関砲で、威嚇には十分すぎる圧倒的な破壊力を見せつけられるも。



ダイヤ「ちょっとそこ邪魔ですわよ、お退きになって!」


あくまでダイヤは、F-35が覆い隠してしまったテロリストの車両以外眼中に入れようとしなかった。

頑強さだけが取り柄の柱時計と揶揄された女と、最新鋭のハイテクステルス戦闘機。

新旧フェイストゥフェイス。一直線上に対峙した両者が今、交錯の時を迎える。

630: ※だいかいじゅー 2017/07/04(火) 19:36:18.39 ID:5hs9uQbco
火曜
ロードショー



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635: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:10:13.42 ID:5hs9uQbco



ダイヤ「退いて!退きなさあああい!!」ブーッ!ブッブー!



戦闘機との距離が加速度的に縮まっていく。

トラックの周囲では無数の爆発が道路をえぐり耕し破片をまき散らす。


ダイヤはクラクションを、F-35は威嚇射撃の機関砲を撃ち鳴らして警告を促すも、両者一向に譲る気配はなし。



ダイヤ(元より曲げる気など…!)


今にもハンドルにかぶりつきそうな決死の形相で、互いの顔が見えそうなくらいにまで近接した戦闘機の操縦席に死線を飛ばす。

636: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:14:04.21 ID:5hs9uQbco



―――イ゛ イ゛ イ゛ イ゛ イ゛ イ゛ イ゛ イ゛ イ゛ ン゛



ダイヤ「!」


左上方に急上昇し始めたF-35の動きに合わせ、反射的に逆方向へハンドルを切った。

次の瞬間、それまでトラックの居た地点に機関砲の火線が。


故意か、それとも焦って失念していたのか、パイロットが機関砲のトリガーを引いたまま上昇した分だけ照準がズレたのだ。



ダイヤ「くっ…」


今の動きでトラックは、多層構造のハイウェイへ通じるインターチェンジに侵入してしまった。

637: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:16:33.03 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「ええい、しゃらくさい…!」



左下、妹たちを乗せたテロリストの車が悠々一般道を逃げていく姿が映る。



ダイヤ(ルビィ…)




――B O O O O O O O O O O O O O O O M ! ! ! ! ! ! !



意識が逸れたのは一瞬。

前方の料金所が、上空より投下された誘導爆弾の直撃を受けて粉々に吹き飛ばされた。

凄まじい衝撃波がトラックの運転席にも伝播してこっちを忘れるなと言わんばかり。



ダイヤ「ッ、ッッッ――どうもっ! 無一文なので助かりましたわ!!」



立ち上る爆炎の中、穿たれた大穴が徐々に広がって道路が寸断されようとしているのが見える。



ダイヤ(ここで止まるわけには…!)


638: >>23参照 2017/07/04(火) 20:19:32.36 ID:5hs9uQbco


『ガギャギャギャギャ!!!――ギイイイイイインン――ザザザザッ』



希「さっきから一体何なんこの音…」


梨子「ダイヤさん聞こえますか? そっちで何が起きてるんですか!?」



『―――こ――――梨子さ――!』



梨子「ダイヤさ…」



『時間がありません、聞いて!』


『テロリストたちは妹と善子さんを人質にとって緊急車両で逃走中です!――ザザザ』



梨子「なっ…」



『―――ストが乗っている恐らくは盗難した公用ザザッには車両追跡システムが付いてるはずです』


『今から車のナンバーを言いまドガガガガッ!!!ゃあっ!?』



梨子「だっ、大丈夫ですか!?」


639: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:21:17.70 ID:5hs9uQbco


『っ―――私は今…撃を受けています……』


『ドッシャンガラン――んもぅ!悪党はあっちだと言ってるでし――』



ことり「どうなって…」


希「しーっ」



『……私に万一のことが――――後を頼みたいのです』



梨子「ダイヤさん…」



『ガガッ――必ず、二人を助け出してください』



梨子「……ええ、約束します」


梨子「車のナンバーを……はい、分かりました。すぐに照会を」



『感謝します。幸運を祈っててもらえると有難いですわ。それでは――ブツッ』



ことり「……」


梨子「ここで私たちが手をこまねいてる間、あの人は一人で戦っている…」


希「…」ポリポリ



梨子「行きますよ、私たちも。ダイヤさんを一人で死なせはしません」



640: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:23:42.85 ID:5hs9uQbco



――ギ ィ゛ ィ゛ ィ゛ ィ゛ ィ゛ ィ゛ ィ゛ ィ゛ ィ゛ ィ゛



パイロット「……」



眼下の多層高架で、至近距離の着弾の衝撃に煽られみっともなくフラつきながらも
けなげに走行を続けるトラックの姿は見ていて哀れなくらいだった。


力関係で言えば芋虫と猛禽類、その数百兆倍くらいの開きがある。

今も戯れに放った銃撃がトレーラーのすぐ真横に炸裂し、路面をボロ雑巾に加工した。



パイロット(何やってんだろ、私)


パイロット(どうしてこんな場所でこんなこと……私は)


パイロット(分かってる、自分の気持ちに正直に生きれなかったせいだって)

641: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:25:30.03 ID:5hs9uQbco

パイロット(素直に…それが出来たらどれだけ簡単か)


パイロット(だから私は逃げ出したんだ。陸から、誰も自分のことを知らない場所へ)


パイロット(嫌なこと考えてる暇もない、自分のこと嫌いになってる余裕もない環境)


パイロット(海の上に。昔からの憧れを言い訳に利用して。そしたら)


パイロット(渡辺、お前は船乗りよりこっちの資質がある。艦載機のパイロットをやれ)


パイロット(はい、光栄であります! なんて心にもないことを)


パイロット(逃げ込んだ先でも、結局私は前と同じだった)


パイロット(今もこうして得体のしれない命令に……私は、私は)


642: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:27:44.02 ID:5hs9uQbco

パイロット「――はっ」


パイロット「っ…ダメダメ!何してるんだ、任務に集中しろ…!」



パイロット(――ん?トレーラー相手に何だこの脅威判定…コンピュータの調子が悪いのかな)



パイロット「それにしてもあの車…全然停まる気配がない」


パイロット(脇目も振らずこっちに突っ込んできた時も驚いたけど)


パイロット(道路を寸断して停めようとしたのに、そのままギリギリで突破しちゃうし)


パイロット「それだけ向こうも必死ってことだよね…当然か」



『コントロールよりヨーソロー2。状況を報告せよ』



パイロット「……」


パイロット「こちらヨーソロー2…現在目標と交戦中」

643: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:28:49.99 ID:5hs9uQbco

パイロット「目標は一向に停止せず。無人とはいえ周囲に多大な二次被害が。このままだと…」



『ヨーソロー2、貴女の任務は目標の停止ではなく破壊です』



パイロット「は……破壊………市街地の近くで、そこまでやる必要が」



『目標はこの国を大混乱に陥れたテロリストの一味。しかもコンテナには危険物が積載されている疑いが』


『このまま取り逃がして市民にさらなる被害が出た場合、貴女は責任を取れるとでも?』



パイロット「ううっ」



『繰り返します。ヨーソロー2、目標を完膚なきまでに破壊せよ』


『任務を完了するまで帰投は許可しません、オーバー』



パイロット「………そんな」



パイロット(嫌だ……また居場所を失うなんて)



パイロット「そんなのごめんだっ…!」



644: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:30:29.72 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「っ…!?」


遥か前方に居並ぶ高層ビル群を望む急カーブ手前で、背筋に得体のしれぬ怖気が走った。

この感覚は何度も味わってきた――再び正面の視界にF-35の巨体が飛び込んできたのを見るや否や、
ハンドルを切りつつ身体を横倒す。


――GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!!!!!!!!


先程までの威嚇とは違う、直接トラック部を狙った機関砲の掃射。

一発一発がコーラ瓶ほどある機関砲弾が一秒間に五十発という
悪い冗談のような勢いで撒き散らされ、車両の上部に襲い掛かる。

645: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:31:19.30 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛―――っ!!!」


ワイパーより上を木端微塵に粉砕され、無残な顔付きに整形されたトラックはそれでも
カーブを曲がり続け、F-35も旋回しながら攻撃を続行。


コンテナ部までもがずたぼろにされ、なおも逃げようとするそれへの追撃が
上層の道路を支える柱をも巻き込んで粉微塵にしたところでようやく停止する。


まさに銃撃ならぬ術撃。


空飛ぶ大怪獣の無免許医が吐き散らしたレーザーメスが、セミトレーラーの上半分を乱雑に切開してしまった。

646: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:33:27.42 ID:5hs9uQbco

パイロット「はぁ、はぁ…」


パイロット(やっちゃった…この指で人を)


パイロット「クソ、なんでこんな…」




ダイヤ「っはぁぁ!危なかった…!上の方が随分と涼しくなってしまいましたわ!」




パイロット「!?」




ダイヤ「もっとよく狙いなさいこのヘボパイロット! そんなので何かを護れますの!?」




パイロット(ピンピンしてる…何叫んでるのか分からないけど)



パイロット「うわあ顔怖っ……いかにもテロリストって感じだぁ」

647: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:34:44.35 ID:5hs9uQbco

今や長大なオープンカーと化したセミトレーラーは、
すぐ後ろで連鎖的に崩壊を始めた上層部の礫片から逃れるように加速を続ける。



パイロット(機関砲の弾は尽きた。あとはミサイルとスマートボムしか)


パイロット(このどれか一発でも撃ったら…今度こそ一撃で、確実に)



ダイヤ「まだやりますかっ!? いいでしょう、受けて立ちます!」



パイロット(……やらなきゃ。相手は凶悪なテロリストなんだ)



バイザー越しの視界に、上層からの落石を懸命に潜り抜ける運転手の姿が映っている。

技術の粋を極めたクリアな赤外線画像からは、その生存本能が剥き出しとなった表情までもが読み取れるようだった。



パイロット(あんなに生き延びようと…必死で)


パイロット「っ……」


パイロット(やらなくちゃ、私だって…!)



僅かな逡巡の後――対地ミサイル発射。

648: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:36:02.07 ID:5hs9uQbco


爆炎とそれに付随する黒煙がトレーラーの足元から巻き上がる。

コンクリ舗装の路面が波打ち膨れ、破片の間欠泉が噴き出してトレーラーを下から突き上げた。



パイロット「ッッ……くぅ」



結局直撃させられなかった。しかしどうだ。


爆発の余波に揺さぶられながら、トレーラーは後部から金属のねじれる異音を発して傾き始めている。

その流れはコンテナ部からトラック部の運転席へ伝播し、このままいけば横転は時間の問題で…



ダイヤ「ふあああぁぁぁ…!!!」ギギギ



ダイヤ(まだっ、ですわ…!)



ドライバーは物理法則に抗うことを止めていなかった。

何とか姿勢を回復しようと歯を食いしばってステアリングを切り、セミトレーラーは曲芸めいた片輪走行で踏み止まっている。



ダイヤ「負けません――こんな、ところで…!」



そのしぶとさ、諦めの悪さが、故障中と張り紙のされた運命のラダーを強引に傾け直そうとしている。


649: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:37:36.88 ID:5hs9uQbco


――ド ツ ッ


ダイヤ「わぉうっ!」


無理を通して道路に引っ付く。

ドライバーの意地に根負けして再びタイヤを接地させたセミトレーラーは、一度大きく跳ね上がると安定を取り戻す。



パイロット「な、なんて往生際の悪い…」


パイロット「…生え際はない癖に」ボソッ



その間、ヨーソロー2は追撃を加えるでもなく、ただ唖然としてこの奇天烈な光景を傍観していた。



パイロット(何なんだ…何なんだあの人は)



知らず知らずのうちに、F-35は高度を下げ、セミトレーラーに近付いていた。

他にいくらでも手段はあるのに、ヘルメットのバイザー越しやセンサー類を通してでない、
この目で直接、もっとよく見たいという原始的な衝動に突き動かされて。

650: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:39:13.93 ID:5hs9uQbco

機関砲の流れ弾とミサイルの直撃に破片を受け、崩落がさらなる崩落を誘発するハイウェイはもう限界だった。

多層式のそれが次々崩壊していく様は、ゆっくりと崩れゆくトランプタワーのよう。


ダイヤ「まだまだぁ…!」


トラックの進路上に、突如として新しいスロープが出現した。

崩れた上層の道路がへの字に折れ曲がって下層に突き刺さり、急勾配の坂となって立ち塞がったのだ。


一気に過大な重量物が突き刺さった衝撃でセミトレーラーの足元に亀裂が広がり、瞬く間に崩壊を始める。

立ち止まるという選択肢はなかった。



651: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:42:17.07 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「登りなさぁぁい…!」ガコガコン


ギアをローに。しかしこの勾配を登り切るにはパワーが足りないのか。

坂の中ほどまで行ったところで徐々に滑り落ち始める。


エンジンのある足元から煙が立ち上っていることに今気付いた。

自分もこの車ももうボロボロだ。



ダイヤ「頑張って!」キキィィィィィ



ブレーキ、ブレーキ。白煙を吹き上げるタイヤがコンクリートにへばりつこうと悪あがく。


ついにトレーラーの後退が止まった。


しかし道路の崩壊は待ってはくれない。


652: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:44:14.55 ID:5hs9uQbco


――ガ コ ン ッ



ダイヤ「!」


またしても上層より落し物の気配。しかも今回は頭上から。



ダイヤ(危な――)


最後まで考える前に、背部のコンテナに飛び込んでいた。

直後、落下してきた元道路の一部がトラックの運転席を丸ごと押し潰す。




パイロット(何が起きてるんだ…?)



街灯に引き寄せられた羽虫のように、トレーラーの左側、少し離れた位置でホバリング中の
ヨーソロー2は、目の前で繰り広げられている一大スケールのピタゴラ装置に目を瞬かせた。


653: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:46:04.29 ID:5hs9uQbco

重量物にトラック部を潰されたことで結果的にその場に釘付けにされたトレーラー。

その連結部を軸として、コンテナごと徐々に左へ回転していく。


丁度九時を指し示す時計の短針のような動き。

コンテナが道路の縁を乗り越え宙にはみ出していく。



パイロット「ウソ…」


ある意味では高みの見物を決め込んでいたF-35に向けて、傾いたトレーラーの橋が架かった。

機体に向けて口を開いたコンテナの内部は、当然ながらえらいことに。



               ガ
             ラ
           ガ
         ラ 
       ズ
     ザ
   ザ
 ザ



ダイヤ(どうしてこう同じ日に何度も高い所から落ちそうになるの――!)


比較的緩やかな傾斜とはいえ満載していた電子機材の数々が滑り落ち、
それに巻き込まれる形でダイヤも一緒に空の旅へ。

654: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:47:13.14 ID:5hs9uQbco


パイロット「やば…!」


自身目掛けて垂れ下がるコンテナより吐き出された大量の落下物を、すんでの所で機体をバックさせ回避。

そのことに胸を撫で下ろす暇もなく、最後に飛び出してきたものはヨーソロー2の度肝を抜いた。



ダイヤ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あっ!!!!」



パイロット(人ぉ!!?)



ダイヤストライク――とはならない。


開きっぱなしのコンテナ後部、観音扉に辛うじて掴まりぶら下がっている。



ダイヤ「っく…ふぎぎぎ」



―――イ゛ イ゛ イ゛ イ゛ イ゛ イ゛ イ゛ イ゛ イ゛ ン゛



ダイヤ「う――うるさあああああああいいいいっ!それマナーモードに出来ませんの!!!???」


655: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:49:01.71 ID:5hs9uQbco

ダイヤ「公共の場ではお静かになさい!!!」BANG!BANG!



――チュインチュイン!



パイロット「ひっ…」


コクピットの風防に弾かれた豆鉄砲に、ヨーソロー2は心底怯えていた。

自機のコンピュータが生身の人間を最高レベルの脅威と判定していることに最早何の疑問も抱かない。



パイロット(もう全部が信じらんないよ…信じられないけど)



パイロット(あの人は、自分の信じる何かのために戦ってるのかな)



パイロット(少なくとも、私と違って逃げずに戦ってる)



パイロット(自分と向き合うことから逃げて)



パイロット(あげく自分じゃない誰かからの命令に右往左往してる私に比べたら、よっぽど――)


656: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:51:11.38 ID:5hs9uQbco


【Alert! Alert!】


コクピット内に反響するミサイル警報のアラームに、ヨーソロー2は我に返る。



パイロット「い、いない…? どこ行った!?」


コンテナドアにぶら下がっていたはずのテロリスト(?)の姿が消えている。

慌てて機体全周――足元から真後ろまでをくまなく透過して視認できるIRセンサーを頼りにステルス女を探すも、
そんなことをする前に機体を離脱させるべきだったのだ。



ダイヤ「落ちろというなら落ちてやりますわああああああ!!!!」



コンテナ内で助走をつけ、何かを押しながら勢いよく飛び出してきた女が虚空に舞う。

その大ジャンプはコクピットのある機首を飛び越え、その真後ろで便座の蓋そっくりに開いた
リフトファン・カバーにまで到達、その縁に取り付いた。

657: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:53:07.92 ID:5hs9uQbco

ダイヤと一緒に投射されたのは、彼女が一度コンテナによじ登って中にあった機材で急造した即席爆弾。

椅子の上にデスクトップとモニターを電源コードで縛り付けたそれがカバーにぶち当たって落下、
真下にあるリフトファンに吸い込まれる。



ダイヤ「もうパソコンはうんざり!」



パイロット「うお――ぅわおおおああああ!!???」



リフトファンから火の手が上がった途端、コクピットのキャノピーが吹き飛んで、
ヨーソロー2は何が起きたかも分からないまま座席ごと宙に射出された。


リフトファンの故障――これはヘリで言えば片方のローターを失ったのに等しい。

機体のホバリングが不可能になったことを検知した自動脱出機構が働いたのだ。

658: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:54:51.35 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「おいていくなんて酷いじゃありませんの! 一人で逃げ出すなんて!」


パイロットを失い墜落するに任せる機体に取り残されたダイヤはそれでも諦めない。


完全に制御不能となって、くるくると舞い落ちる20トンの木の葉と化したF-35から振り落とされぬよう、
両手両足両顎、全身を使って機体にかじりつきながら全霊で生還の道を探す。


眼下に、砕けたウェハースのようになって斜めに地面に突き立ったハイウェイの残骸が見える。


機体がそれに激突する直前に飛び降りればあるいは――



ダイヤ(こうなれば一度も二度も変わりませんわ)



意を決すると、尾翼をマストに見立てて立ち上がる。

初めてのサーフィンでステルス戦闘機をボードに使った女など前代未聞だろう。

合コンや婚活パーティでも生涯アピールできる殊勲だ。生きて帰れれば。



ダイヤ「やあああああああああああああ!!!!!!」





659: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:56:47.95 ID:5hs9uQbco

再び、ダイヤは決死のダイブを敢行した。

墜落スレスレで機体を蹴り、コンクリート製のスライダーへ飛び込んでいく。



ダイヤ「ッ゛ッ゛ッ゛~~~~ぐぅ゛ッ゛ッ゛――――――!!!!」



硬質な路面のおろし金に背中をすり下ろされながら滑り続けるダイヤの後を
墜落の衝撃で機首がくの字に折れ曲がったF-35が追いすがる。


スライダーは途中から二層構造に――下層の道路に崩れた上層が折り重なったのだ。


コイン投入口にも似たその隙間は人が通るには十分でも、F-35の巨体には狭すぎた。


衝突誘爆引火炎上。


大怪獣の断末魔が噴き上がる火の玉に溶けて、天に吸い込まれていく。

660: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 20:59:30.28 ID:5hs9uQbco




パイロット「うわわわわ…」



破壊の喧騒より遠く離れた安全地帯の上空を漂うパイロットは、パラシュートが開いたことによって緩やかな降下速度でじっくりと
自らのキャリアと一緒に崩れ落ちていくハイウェイの様子を特等席で観賞することとなった。



パイロット(怪獣映画って結構リアルだったんだなあ)



パイロット(怪獣と言えばあの人はどうなったんだろう)



パイロット(…普通に考えて生きてるはずないけど)



パイロット「死んだとも思えないんだよね…」



パイロット(脱出の時、凄い騒音の中だったけど)



パイロット(逃げるな、みたいな声が聞こえた気がする)



パイロット「私も……あの人みたいにしぶとく生き――ぁげぇ!??」グギィ


661: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 21:02:21.17 ID:5hs9uQbco

パイロット「いっ―――たぁあああ足が……着地失敗したよぅ」



パイロット「ああもうパラシュート鬱陶しい!ヘルメットも邪魔だよこんなものっ」ポイッ




曜「ふぅ…」



曜「………う゛わ゛ぁ゛!これザギンに土地が買えるくらいの値段するんだった!」




曜「――って今更か」




曜(百五十億のステルス血税機を首都高ごとオシャカにして)




曜「私、これからどうなっちゃうんだろ……」




662: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 21:03:27.75 ID:5hs9uQbco



曜「…知らないっ」



曜(決めたんだ。もう自分に嘘はつかないって)



曜(もう逃げない。これからは自分の本心と正面から向き合って生きてやる)



曜「だからこんなことしてる場合じゃないんだ。パイロットも辞める、自衛官も辞める!」



曜「早速辞表を出しに――いやいやそんなことしてる時間が勿体ない」



曜「このまま走ってウチウラまで帰る! 一度走り出したら止まらないよ私はっ」



曜「待ってて千歌ちゃん! 今会いに行くであります! 全速前進ヨーソロー!」


663: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 21:04:47.60 ID:5hs9uQbco



千歌「残念でした!もう会いに来れないと思うよ?お姉さんは」


ルビィ「っ…」



千歌「聞いたでしょあの音。高速ごと粉みかん」


千歌「じゃなくて粉微塵にされちゃったんだよかわいそーに……花陽さん顔色悪いけどどうかしました?」



花陽「あえ!? イ…イヤ、ナンデモナイヨー」ユビイジイジ


花陽(F-35との無線リンクが切れた…なんで機体反応までロストしちゃってるのぉ?)



ミカ「まーあの爆発じゃ生きてないだろうね。完っ璧に崩壊しちゃってるもん」


ルビィ「うっ…ぅぅぅ」



善子「ククク…愚かな」

664: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 21:06:17.44 ID:5hs9uQbco


善子「ここにいる誰一人として、最新版の彼女を知らないからそんな戯言が出るのです」


善子「昨夜よりこのヨハネは全てを見届けてきました。彼の者が潜り抜けてきた修羅場の数々」


善子「数多のゲヘナを生き残り彼女は進化し続けているの」


善子「ソフトウェアで言えばバージョン10.0くらいに……だから」



善子「だから…っ、必ず来るに決まってるじゃないっ。ダイヤは不死身なんだから…!」


ルビィ「よしこちゃぁん…」




聖良「フ、フフフ…」


聖良「くくくっ…フフフははっ」



花陽「聖良、さん…?」



聖良「フ……フフ…くっくっ…」



665: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 21:08:00.86 ID:5hs9uQbco











 ゴォォォォ パチパチパチ…



「ッ……ぅうあ」



瓦礫の中から、人の形をしたものがよろよろと起き上がって歩き始める。



「ぅっく、ぜぇはぁ…」



視界が揺らぐ。火災の熱のせいかと思ったがそうではないらしい。

記憶より火の手は大分弱まっていた。意識が飛んで――どのくらい?



「ふーっ……はーっ…」



四肢は繋がっている。が、背中の感覚がない。


それでも身体を動かせるならむしろ好都合だ。


それよりも、ハイエースの行方の見当が付かないことの方が困る。


何処へ行った? そもそも目的地は?

666: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 21:10:22.56 ID:5hs9uQbco



「ウチウラから……トーキョー」



呟いて、それは自分の護送ルートだったと思い直す。


知りたいのは出発点に残してきた彼女の行方だ。


同じウチウラにいながら手の届かなかった彼女。


あと少しで手が届きそうな彼女。



「ルビィ…」



意思とは無関係に身体が前のめりに。


何とか踏み止まろうとするも、両手と膝をついてしまう。


全身が声なき悲鳴を上げている。一度倒れてしまうと、もう動ける気がしなかった。



「ルビィ……善子さん………誰か二人を」



助けてくれるだろうか? 任せておけるだろうか?


しかし自分は最早、手詰まりで――




667: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 21:12:34.18 ID:5hs9uQbco



ダイヤ「いや…っ」



萎えかけの足腰に力を込め、挫けかけていた気持ちに喝を。


両足を奮い立たせてそのまま、一気に最初の一歩を踏み出す。



ダイヤ「私がやらないで……誰がやるというの…!」



一歩を二歩に。二歩を三歩に。前進以外の選択肢など無いのだから。




―――ィ ィ ィ ィ イ イ イ イ イ ン



突如吹き荒れ始めた強風が、消耗し切った肉体を再びに地に押しつけようとする。


それでも歯を食いしばって歩を進めることはやめない。


機械の騒音を伴った下降気流。


上空で何かがホバリングしている。


代わりの戦闘機がやってきたのか。




ダイヤ「望むところです……何機でも…落として…」




それが実は天使の羽音だと気付くまでにさほど時間は要しなかった。



突風を巻き起こして地表ギリギリまで降下してきたヘリコプターの“POLICE”と書かれたドアが開いて、
メギドの丘への水先案内人が顔を出した。




梨子「迎えに来ました!さあ乗ってください!」



668: 今夜中に終わらせたい… 2017/07/04(火) 21:13:35.70 ID:5hs9uQbco
火曜
ロードショー



Final:#9「Die Another Day」         ラブライブ!× ダイ・ハード 4.0

745: Final:「Die Another Day」   2017/07/04(火) 23:38:16.98 ID:5hs9uQbco








千歌「さあ降りて降りて!目的地にご到着だよ!」


善子「だから押さないでって言ってるでしょ?」



ルビィ(飛行機がある……格納庫…?)



善子(窓から見えたけどここやっぱり空港なのね…)

746: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 23:39:51.58 ID:5hs9uQbco



――キ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ィ ン



ミカ「お客様ーこれより当機は離陸の準備に入ります。シートベルトをお締めください、なーんてね」



善子(こいつらプライベートジェットまで用意してたなんて…)



聖良「これから数時間は空の旅です。その間小泉さんはハードディスクの解読をよろしく」



聖良「……まあ、誰かさんの気が変わればそれに越したことはないですが」



聖良「その件については高飛びした後でもいいいでしょう」



聖良「時間さえあれば、聞きだす方法はいくらでもありますから」



善子「っ…」ゾクッ




千歌「大変だ、みんな窓の方見て!」



千歌「ヘリが追いかけてきてる!」

747: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 23:41:14.49 ID:5hs9uQbco


 バラバラバラバラバラ…


梨子「格納庫に緊急車両の反応が。今出てきたあの機で間違いありません!」


ダイヤ「ぜーっ…もっと速く飛ばして…」


希「よっしゃ」



ダイヤ「はーっ…はぁー」


ことり「酷いケガ…すぐ病院で治療しないと駄目だよ」クルクル


ダイヤ「お構いなく…そのまま包帯だけ巻いてください」

748: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 23:42:30.78 ID:5hs9uQbco

千歌「警察のヘリっぽいよ…対応速くない!?」


花陽「でも一機だけ…」



聖良「……彼女かもしれませんね」



ルビィ「!」



千歌「まっさかー…あり得ない」



聖良「何のために妹をまだ生かしてると思ってるんです」



聖良「ミカさん離陸を急いでください。何やってるんですか高海さん、さっさと迎撃の用意を」



善子(ダイヤ…)

749: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 23:43:32.42 ID:5hs9uQbco


 キ ィ ィ ィ ィ ィ ン―――――バラバラバラバラバラ…!


離陸のための最終加速に突入した小型ジェット機にフルパワーで追いすがるヘリは、
今まさに自由の空へ向けて飛び立たんとする機体の尻尾、水平尾翼に辛うじて喰らいつく。


希「こっからどうするの? もう向こうさんは離陸寸前よ?」


ダイヤ「そのまま尾翼に乗ってください」


希「んな無茶な…パワーが違いすぎるって。こっちがバランス崩して墜落しちゃう」



その真下で、ギィィと鈍い音を立てて上向いた尾翼の後縁が、機体の離陸準備が最終段階に入ったことを示していた。



ダイヤ「このままじゃ逃げられます!やって!」


希「っ…どうなってもしらんよ!?」

765: >>749の続き 2017/07/04(火) 23:53:58.05 ID:5hs9uQbco


花陽「どうして離陸しないのォ!?」


ミカ「やってる!何かが邪魔して機首があがらないの!」



聖良「…!」



急ぎ窓に顔を寄せれば、上空のヘリがジェット機の尾翼で
持ち上がった昇降舵の働きを妨げるようにその質量を圧し掛けているのが見えた。


その内部より、怒りとか使命感だとかいったあれこれを一度に閉じ込めすぎて、
ある種超然的なものにまで昇華された翡翠色の眼差しが、聖良のそれと交錯する。



聖良「……F-35は足止めにしかなりませんでしたか」



言いながら、自然と口角がつり上がっていることに気付いて内心驚く。


何度も叩き潰したゴキブリがまだ生きてることを喜ぶやつがいるか?


その疑問に答えを出す代わりに、聖良はヘリに向け微か、妖しげな笑みを返した。

766: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 23:54:46.03 ID:5hs9uQbco

聖良「…高海さん」


千歌「合点承知!」


言うが早いか開いた乗降口から半身を乗り出し、邪魔者のヘリ目掛けてサブマシンガンの掃射を浴びせかける千歌。



梨子「わわっ」


希「アカン撃ってきたぁ!」


ダイヤ「ッ――!」BANG!BANG!



負けじとこちらも撃ち返す、が当たらない。

そうしているうちにも敵の銃弾が操縦席のガラスやその上で回転するローターを掠め飛んでいく。


飛ぶものと地を這うものの安定性の違い、拳銃とサブマシンガンの射程エトセトラエトセトラ。

射撃の腕だけでは覆しきれない条件差が立ち塞がって、状況はこちらに不利な方へと転じていく。

767: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 23:55:49.44 ID:5hs9uQbco


千歌「くっのぉぉ!!」DoDoDoDoDoDo!!!



――チュイン!  シュウウウウウ…



千歌「やたっ!」


とうとう千歌の銃撃がローターの根元を捉え、被弾箇所からは白い煙が。

ヘリ内に危機感を煽る警報音が鳴り響き、機体が尾翼から離れて浮かび上がる。



希「ぐうぅ、コントロールが…!」ガクガクガク




千歌「今だよっ飛んで!」




ダイヤ「絶対に飛ばせてはなりません!!」


希「ええい、ままよ!」


もうどうにでもなっちまえ――ヤケクソ気味の体当たり降下がスキッドをもろに尾翼にぶち当て、
火花を散らしてその後端を切断、破損せしめた。


768: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 23:57:00.77 ID:5hs9uQbco


ことり「きゃあ!」



千歌「うわっとぉ!?」



機体を揺さぶる凄まじい衝撃に、中にいる人間たちは外に放り出されまいと耐え――
一人がそれに失敗した。



千歌「またああああぁぁぁぁ―――ぐぇぶっ!!」



大型旅客機の離陸に耐えうる舗装を施された硬質な路面に叩き付けられた千歌は、
衝撃で今一度数十センチはバウンドすると、あとはその上をごろごろ転がっていくに任せた。



ダイヤ「今です! 機体の正面に回り込めますか?」


希「駄目…パワーが上がらない」



希「バランスを保つのも一杯一杯やん……どこかに不時着しないと、このままじゃ」



ダイヤ「……」



ダイヤ「――大変申し訳ありませんが、ここで降りさせて頂きます」




769: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 23:58:14.28 ID:5hs9uQbco




ミカ「上がれっ、上がれええええ!」




聖良「…高海さんが落ちてしまいましたね」



花陽「は、はい…」



聖良「次はあなたが行ってくれますか」



花陽「へぇあ!? わっわっわっ私がぁ…? えぇっと…そ、そんなぁ」




聖良「クスクス…冗談ですよ」




聖良「どうやら切り札を使う時が来たようです」


770: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/04(火) 23:59:30.08 ID:5hs9uQbco


ダイヤ「もう少し近付けませんか」



希「これがギリギリ…」



ダイヤ「結構です…!」



破損した機構にさらなる負荷をかけ、いつ墜落しても不思議でない状態の機体を希の操縦で必死に制御しながら。

ジェット機の速度に合わせて横移動するヘリは、主翼の丁度真上でのホバリングを維持する。



ことり「ちょ…ここから飛ぶ気なの!?」


ダイヤ「もう慣れました」



停車中のバスから降りるようなごく当たり前の調子で。

ヘリのスキッドに淀みなく足をかけたダイヤは、眼下の主翼を見やって目を細める。



ダイヤ「感謝します、梨子さん」



ダイヤ「たった三人でここまで来てくれたこと」



梨子「あなたを放っておけなかったんです。本当はもっと大部隊を連れてきたかったけど…」



梨子「よっちゃんのこと…頼みます!」



頷き「貴女達も幸運を」と。


それ以上の言葉を発することなく、ダイヤはヘリから飛び降りた。


叫び声をあげる気力すら今は惜しかった。

771: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 00:00:51.65 ID:O+RAWhVmo


聖良「ルビィさん、立ってください」


ルビィ「っぁ!」



善子「ちょっと!ルビィに何する気よっ!?」



聖良「よくあるシチュエーションでしょう。逃げる犯人と追う警察」


聖良「犯人は警察の前で人質に銃を突きつけ撃つぞと脅す。定番すぎて在り来たりですよね」



善子「……やめなさいよ」


善子「あなたが脅しで済ますような人間じゃないことは分かってる」



聖良「その通り。背中を撃たれて滑走路に落下する妹を見れば着陸せずにはいられないでしょう」



聖良「分かるんですよ。同じ姉ですから」



善子「やめ…」



――ド ォ ォ ォ ォ ォ ォ ン !




772: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 00:02:02.46 ID:O+RAWhVmo


ダイヤ「ふぅ」


着陸ではないが着地は終えた――加速を続けるジェット機の主翼上に仁王立ちしたダイヤは背後を振り返る。


真正面――水平尾翼のすぐ下で二基ある小型のジェットエンジンが咆哮している。

この条件なら外さない。

その片割れに狙いをつけ構えられたベレッタから立て続けに銃弾が発射される。



――B O O O O O O O M ! ! ! ! !



善子「きゃあっ!」


ルビィ「ぴぎゃっ」



 Bi―! Bi―!



聖良「何事です!?」


ミカ「二番エンジンに異常が!」



吸気口に飛び込んだ弾頭が重要部品を傷付け、連鎖反応的に破壊された内部から断末魔の悲鳴が上がる。

火柱と一緒に噴き出したオレンジ色の間欠泉が、背部の滑走路へ向けて雨あられと降り注いだ。


773: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 00:03:02.61 ID:O+RAWhVmo


 Bi―! Bi―! Bi―!


ミカ(もう飛ぶのは無理…! 機体を停めなきゃ)



ミカ(――――駄目だ、残りの滑走路の長さじゃ)



停止しきれないと悟ったパイロットは、操縦桿を大きく右に切った。



 ゴ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ――――



ダイヤ「う゛ ぅ゛ ぅ゛ ぅ゛ ――――!!!!」



急旋回する機体から振り落とされぬよう主翼にへばり付いて遠心力に抗いながら、
猛烈な空気抵抗にも負けず顔を上げる。


前方の視界は、既に自由を予感させる先の開けた大地の出口から、
航空機の檻である格納庫の閉ざされた入口へと変わっていた。

774: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 00:04:15.40 ID:O+RAWhVmo


ミカ(減速――とにかく減速を――!)


がくがくと暴れる操縦桿は半ば言うことを聞かなくなっている。

あらゆる手段を講じつつ、それでも建物との衝突は免れないことを理解すると客室に向かって叫ぶ。



ミカ「みんな、シートに座って対ショック姿勢を!」



善子「だから何よそれっ!?」


ルビィ「善子ちゃんこうだよ、こう」


775: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 00:05:19.37 ID:O+RAWhVmo


ミカ「ぶ、ぶつかる―――ッッッ!!!」



スイッチを切られた直後の掃除機を連想させる吸気音の残響の尾を引きながら、
プライベートジェットは大型格納庫に頭から突入した。


頑強な扉をばりばりと引き千切って進みながら減速しつつ、そのままハンガー内に駐機されていたボーイング787旅客機
その桃色にラッピングされた鼻先に強烈な口付けをかましたのだ。


さしもの質量差に、ジェット機は一度大きく身震いしたかと思うとそのまま押し返され。


二度三度、物理法則の許すがまま1トン超の機体がシーソーの如く上下し、
パンクした前輪に重量を預ける形で前のめりに傾いたところでようやく停止する。

779: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 00:06:20.06 ID:O+RAWhVmo

――

――――


動力を失い、力無く頭を垂れるだけとなった機体の乗降口が開き、
乗員たちは千鳥足でふらつきながらもタラップを降りた。

破損した尾翼が歪な角度に持ち上がった無様な後姿を晒すジェット機のボディはボロボロで、
今も故障したエンジンから火花の流星弾雨を垂れ流している。

ここにいる“五人”が目立った怪我を負っていないことが奇跡だった。



花陽「どうしてこんなことに…」


ミカ「こ、これからどうすんの…!?」


聖良「急ぎ機体から荷物を降ろしてください」


聖良「それから代わりの足を探すんです。小型機でも車でも荷物が積めれば構いませんから」


ミカ「そ…」


聖良「早く!」


ミカ「……わかったよ」



聖良「じきに空港警察が来ます。猶予は五分…」


聖良「いや、もっと短いでしょうね」

787: >>779の続き 2017/07/05(水) 00:12:13.66 ID:O+RAWhVmo


聖良「さて…」カチャリ


善子「…なに? 手錠を外すなんて、逃がしてくれる気になった?」



聖良「一分、あなたにあげましょう」ガチャ



【w%7d@f9YhB2pT0?】



聖良「元に戻す時間をです」



右手にアタッシュケース、左手にはステンレス製のジェリコ・ピストル。

マットな仕上げで銀というより雪の白に近いそれの銃口が、無言でこちらにハードディスクの復号を促している。


ゲーマーであってもガンマニアでない善子がFPSで見かけたその銃のことを強く記憶していたのは、
その名称が旧約聖書のとあるエピソードに由来するから、単にそれだけのこと。


白一色のボディで一箇所だけ、持ち手の部分が仄かに青く発光しているのが一際目立っていた。

788: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 00:13:06.55 ID:O+RAWhVmo

善子「ねえ、あなたヤケ起こしてるんじゃなくて?」


善子「どうせ捕まるなら、その前にデータを消去してやろうって」



聖良「そんなつもりは毛頭ありませんよ。ただ、状況と順序が変わっただけです」



聖良「ここから先の荷物は少しでも減らした方がいい。でしょう?」



善子「……そんなこと言われて、はいそうですかってやるやつが」



聖良「…」BANG!

789: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 00:14:20.08 ID:O+RAWhVmo



善子「……え?」



突然のことに、その場にいる誰もが狐につままれたような顔で立ちすくみ。


そんな中で事態を一番に飲み込んだのは善子の右足だった。



じわりとニーソックスの下より血が染み出し…


ボギャリと、ポッキーを数本まとめて噛み砕いたような破断の音が響く。



銃弾が貫通して脆くなった骨が体重を支え切れず、悲鳴と共に根をあげたばかりか
皮膚を突き破って外へ――



善子「あっ…あ あ あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~~~~っっっ!?!!???」



聖良「私が脅しで済ます人間ではないと分かってたんですよね?」



ルビィ「や、やめてぇ!」



聖良「動かないでください」

790: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 00:15:25.39 ID:O+RAWhVmo

聖良「津島さん」



善子「ひぐっ、うぅ…ぐすっ」



聖良「津島善子!」



善子「……っ、ぐぅ゛ぅ゛」



聖良「これ以上痛い思いをしたいですか?」




善子「…………い、やだっ」



聖良「フ…」




善子「いやだけど……っ、あなたの言いなりになるのも、嫌っ」




善子「……やらないわ…私……このヨハネは」




善子「人間風情になんか、屈しないんだから…!」




794: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 00:16:11.06 ID:O+RAWhVmo


――BANG!



善子「あ゛ぎゃぁっ! ぁ゛ぁ゛ぅ゛う゛う゛~~~」



聖良「これだけお願いしても駄目ですかね」



ルビィ「やめてっ…もうやめてよぅ…」




善子「~~~~~っっ、っ」



善子「……い゛や゛っ、死んでもやらない!」



聖良「やれやれ…この時間のない時に」



聖良「誰に感化されたか知りませんが、面倒臭いんですよそういうの」



聖良「……ではこれならどうでしょう」



ルビィ「あぅっ」

804: >>794の続き 2017/07/05(水) 00:39:22.85 ID:O+RAWhVmo


聖良「十秒で彼女を撃ちます」



善子「……待っ」



聖良「九」



ルビィ「善子ちゃんダメだよ…」



聖良「八」



善子「ちくしょう、待ってってば…!」



聖良「七」



ルビィ「……私のことはいいから」ジワッ



聖良「…六」



善子「っ………っぐ、ぐ…駄目、できないっ」




聖良「」BANG!BANG!



808: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 00:40:36.81 ID:O+RAWhVmo



善子「っぁ―――」



――BANG!BANG!



さらに二発。



聖良は躊躇なく銃弾を発射した。



天井に向けて。




ルビィ「ぁ…ぁぁあ」



耳元での発砲のショックに戦慄くルビィに、気だるげな表情の聖良が銃口を向け直す。



聖良「半分まで来ました…そろそろ我慢も限界ですね」



善子「わかった、わかったから…! やればいいんでしょ、やれば…」



聖良「四」



善子「やるってばぁ!ほらっ」カタカタカタカタ



聖良「…それでいいんです」


816: >>808の続き 2017/07/05(水) 06:46:13.84 ID:O+RAWhVmo



花陽「急がなきゃ…」


引き裂かれた格納庫の入口付近。

両手に抱えた大量の荷物をせこせこ運び出す作業に没頭する花陽とミカ。

その奥で、人質相手にもはや交換条件になっていない強引な取引を成立させた聖良。


――全ては金のために。

そんな人間たちの姿を、どこからか迷い込んできた一羽の白鳩が無感動な瞳で見つめている。


何事にも無関心に思えるその鳩が突然に、ぱっと飛び上がって白い羽根を散らした。

まるで閉店間際のスーパーに大股で乗り込んでくるような図々しいつま先に蹴飛ばされそうになったからだ。

至極当然といった顔つきでずけずけと踏み込んできたその闖入者に、丁度荷物を置いたところだった花陽は反応が遅れた。



花陽「ぁ…」


ダイヤ「お邪魔」



自宅のチャイムを鳴らすような気安さで放たれた右ストレートを鼻柱に受けて、叫ぶ間もなく鼻血を吹き出しその場に昏倒する。


817: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:47:07.17 ID:O+RAWhVmo


善子「!?」


ルビィ「おねぇちゃ…!」



聖良(一分半…思ったより早い)



ダイヤ(ルビィ、今助けるから)



コミックキャラのトゥーフェイスそっくりに顔の半分を赤黒く染め上げたダイヤは、
最後に残ったモブが銃を構える前に素早く三連射を叩き込む。



ミカ「ぐ…っ!」



着弾の衝撃にのけぞりたたらを踏む敵は、それでも悪態を吐いて遮蔽物の陰に逃げ込んだ。



ダイヤ(防弾ベスト…!)



相手の装備を認識するとすぐさま狙いをつけ直し撃ち続ける。

敵がバリケードにしているのは、調整のために取り外され床に固定された大型のターボファンエンジン――




818: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:48:15.04 ID:O+RAWhVmo


――BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!



ミカ(やけっぱちになってんの? そんなに撃っても――っ!?)



ミカ(――なにこの風と音は?)



ダイヤ「ブッ飛びなさい…!」BANG!BANG!BANG!



ダイヤが執拗に狙い撃つのはエンジンに直結された制御盤。

それが度重なる銃撃によって誤作動を起こし、命を吹き込まれたエンジン吸気口のファンが回り出す。



ミカ「しまっ、どわぁああ――――」



そこからの叫びは立っているのも困難な強風にかき消された。

何とか踏み止まろうとするミカを、ダメ押しの一撃で一気に燃焼した高熱排気の噴流が直撃。


紙切れのように格納庫の反対側まで吹き飛ばされた彼女は排気用のトンネルにホールインワンし、そのまま屋外へ吐き出された。


ダイヤ(あと一人…!)




819: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:48:52.88 ID:O+RAWhVmo



「ダイヤさん!……ダイヤさん、ダイヤさんッ」



格納庫に反響する半ば裏返った声の主は聖良。



「あなたという人は……例えるなら思春期のニキビ、ダイヤモンドの吹き出物です」



積み上がった木箱の陰からダイヤが頭を出した途端、立て続けに数発の銃声が。



「しつこくて潰そうにも硬すぎる。全くもって不愉快極まりない」



それらはまるであさっての地点に着弾したばかりか、自ら射手の位置を露呈させていた。



ダイヤ(あのコンテナの後ろね…)

820: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:49:35.45 ID:O+RAWhVmo

見当をつけた相手の居場所からダイヤが身を潜める木箱までは数メートル。

間には航空機専用の牽引車が一台停めてあるだけ。



ダイヤ(コンテナに回り込んでも、敵はルビィを盾にしてくるはず)



ダイヤ「そこから出てきたらいかがです? もっと…近付いてよく狙いなさい……ぐっ」



ダイヤ「ゼェ…今の私は半死人みたいなもの…チャンスですわよ」



喋りながら何か役立つものはないかと巡らした視線が、
牽引車のすぐ近くにくさびで固定された、天井より伸びる何かのチェーンを捉えた。



ダイヤ「来ないのなら……こちらから伺います…!」


821: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:50:50.65 ID:O+RAWhVmo

ズタボロの身体に鞭打ってチェーンに向けて走りながら照準、発砲。

弾け飛んできた金属片が頬を切り裂き、焼け付くような痛みが走る。



朦朧とした頭でもあまりいい考えとは思えない――そう感じた時にはもう、鎖を掴んだ腕ごと身体が宙に浮いていた。


ガラガラと巻き上げられるチェーンが自分の体重を持ち上げ、視野が拡張されていく。



ダイヤ(このままコンテナの上に降り立って、高所から――!)

822: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:51:55.42 ID:O+RAWhVmo


聖良「ッ――」


木箱の陰より飛び出したダイヤとその先のチェーンを見た瞬間、聖良はその狙いを察した。


かと言って、自身の未熟な射撃技術で動く標的を狙うのも、チェーンで上昇する彼女に偏差射撃で当てるのも不可能だと判断。



そこで彼女はもっと大きくて止まっている的に、先んじて銃弾を叩き込んだ。


ダイヤの頭上――格納庫の天窓に。



 BANG!BANG!BANG!―――ガシャァァァァァン!



ダイヤ「くはっ!?」



割れ落ちてきた大きなガラス片が頭部を直撃し、たまらずチェーンより落下。

牽引車の屋根に叩き付けられて跳ね、車体の陰に転げ落ちる。

拍子にベレッタは何処かへ飛んでいってしまった。


ダイヤ「ぁ………ぁぁぁああ」

824: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:52:48.12 ID:O+RAWhVmo


ルビィ「おねぇちゃぁぁぁん!」



善子「ダイヤ!?――っ痛ぅぅぅ!もぁ゛いっ」



反射的に、しゃがみ込んでいたドラム缶の陰から立ち上がりかけた善子に、膝下の激痛がすぐ現実を思い出させる。



しかも一瞬だけ見えた光景は最悪そのもの。



格納庫入口に銃を持った新手が走り込んできたのだ。オレンジ髪の。




千歌「私がいない間に大変なことになってるっ!?」



善子(なんであいつ生きてるのよ!? 補正効きすぎでしょーがザコAの癖にぃぃ)



効いてるのはモルヒネだったが、それでも銃弾二発で動けない自分とは生まれ持った星が違いすぎる。


825: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:54:01.56 ID:O+RAWhVmo


ダイヤ「ぅう………ぁ」



千歌「あ、こいつ…!」チャキ




聖良「駄目!」



聖良「その人は私のものです」




千歌「で、でも…!チャンスなのに」




聖良「撃つのは本人ではなくガラスです」



聖良「天窓を撃ってください、天窓を」



千歌「…そこまで言うなら」DoDoDoDoDo!!!!



秒間15発の銃火で微塵に砕け割れたガラスの土砂降りが、情け容赦なく車体の陰へ降り注ぐ。



ダイヤ「あ゛ぁ゛ぁ゛…! ぃ ぁ あ あ゛あ゛…」




聖良「フ、フフ…」



ルビィ(お姉ちゃん――!)

826: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:54:57.72 ID:O+RAWhVmo


ルビィ「えぇいっ!」


後ろ手に手錠をかけられ自由を封殺された状態でも、姉を想う気持ちが彼女を突き動かした。


真横から殴りつけるように聖良の頬に頭部をぶつけ、ひるんだ隙に銃を持った手首にかぶりつく。



聖良「っあ――!」ガチャン



取り落とされたジェリコ・ピストルは音を立てて床に――



千歌「や…やめろ!」



そのまま拾うとでも思ったのか、こちらに銃口を向けた傭兵には構わず、
思いっきり銃を蹴り飛ばした――姉の倒れる車体の下へ向けて。



ルビィ「受け取って、お姉ちゃん!」

827: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:55:50.98 ID:O+RAWhVmo


ダイヤ(ルビィ――!)


回転しながら床を滑る銃に手を伸ばす。

姉妹の絆、勝利へのロングパスを妨げるものは何もなかった。


ジェリコを手中に収めた瞬間、最後の余力を振り絞ってばね仕掛けのように跳ね起き、



千歌「っ…」



ダイヤ(遅い)



保持したグリップがグロテスクなまでに赤い輝きを放っている。


照準は完璧、がくっとした感触と共にトリガーが―――引けない。


828: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:57:16.04 ID:O+RAWhVmo


ダイヤ「!?」グググ…



――DOM!



ダイヤ「ぁあっ!!」



遅れて放たれた千歌の銃撃に右肩を撃ち抜かれ、ダイヤは再び地に這いつくばった。


骨や筋肉と一緒に、何か大切なものまでぷっつりと切れてしまった気がする。

悶え苦しむ気力さえ、残されてはいなかった。



ルビィ「そんな…!お姉ちゃ」



聖良「全く油断も隙も無い…」



聖良「高海さん、彼女のこと頼みます。しっかり見ていてくださいよ?」



千歌「ねえ…早く逃げようよ」



聖良「すぐ済みますから」



跳ね飛んだジェリコを拾い上げると、牽引車の方へ歩み寄る。



聖良「惜しかったですね…」




829: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:58:35.61 ID:O+RAWhVmo


聖良「指紋認証銃(スマートガン)ってご存知ですか?」



彼女が握ることで、ジェリコのグリップは再び落ち着いた青の光を取り戻していた。



聖良「興味本位だったんですけどね。まさかこんな形で役に立つとは…!」



ダイヤ「ぐぅう…」


車体にもたれて弱々しく喘ぐダイヤを無理やり引きずり出して立たせようとする。

ルビィと善子の方を向かせ、自分は背後からその肩を抱いて密着し、こめかみに銃を突き付けた。

830: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 06:59:24.02 ID:O+RAWhVmo

ダイヤ「ハッ…ハッ……」


聖良「…本当に死にかけてるんですね」


聖良「でももう少し頑張ってください……津島さんッ」



善子「じゅ…十秒待って!」カタカタカタ


善子「それであなたのお金になる。警察が来る前にさっさと行きなさい、誰も殺す必要なんてないから…!」



聖良「聞きましたか? 十秒です」



聖良「それが済んだらすぐあの二人を撃ち殺しますから」



聖良「それをあなたに見届けてもらいたいんですよ、私の完全な勝利の瞬間を…」

831: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:00:30.78 ID:O+RAWhVmo

今にも死のまどろみに墜ちていきそうな、朦朧とした表情のダイヤの耳元で、一言一句沁み込ませるように囁く。

目前まで迫った勝利と破滅の陶酔に、その口元は着飾ることをやめていた。


ダイヤ「…………ぁ」


聖良「ダイヤ、さんッ」


もはや自力で立っていられず、全体重を預けてくる相手の撃ち抜かれた肩に
ジェリコの銃口をねじ込むと、傷口を掘り返すようにえぐって覚醒を促す。


MOMENT RINGで彼女に言われた言葉を添えて。



聖良「お休みの時間にはまだ早いですよ。起きていてください」


ダイヤ「ぅ……っ………」



ルビィ「おねぇ、ちゃ…」

832: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:02:53.35 ID:O+RAWhVmo


聖良「そういえばこんなことも言ってましたっけ」



聖良「自分の墓石に刻む言葉を考えろって」



ぐりぐりと押し付けられる銃口に力がこもり、強く握り込まれたグリップが放つブルーライトが
ダイヤの頬の近くでその死人のような顔を照らした。



聖良「ダイヤモンドの石言葉は“不屈”だそうですが、あなたにはもっとピッタリの言葉を送りましょう」



聖良「“いつも間違った時、間違った場所に居合わせる世界一ツイてない女”…どうです、気に入りましたか?」







ダイヤ「…………前にも」




ダイヤ「似たようなことを言われましたわ…」



聖良「え?」



ダイヤ「借り物の言葉なら、もっとクールなのを知ってます」




明日の天気でも話すような調子で無造作に、肩に押し当てられた銃を両手で包み込むと言った。





ダイヤ「ダスビダーニャ……また会う日までっ!」




――B A N G !


833: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:04:43.87 ID:O+RAWhVmo

ダイヤに密着した聖良の真後ろ、牽引車のフロントガラスに、
二人を一直線上に貫通した銃弾が飛び込んで蜘蛛の巣状のヒビを作り出した。


一拍遅れて、吹き飛ばされた聖良の肉体がそのガラスを完全に叩き割るまでの間に、彼女は全てを悟った。



聖良(――嗚呼、そうか)



聖良(この人は…正面からぶつかりに来てくれたんだ)



聖良(勝つためには己の身を切ることも厭わない)



聖良(傷を増やして立ち上がってくる度、不快で愉快で堪まらなくなっていった)



聖良(金や権力で戦わずして人をねじ伏せる連中への冷ややかな軽蔑とは違う、心の奥底からの燃え滾るような闘争心と憎悪)



聖良(完膚なきまでに叩き潰して乗り越えたいと、本心から思えた相手)

835: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:07:19.71 ID:O+RAWhVmo


聖良(いつからだろう。学校で、社会で。誰もまともに戦おうとしてくれなくなったのは)




聖良(戦って、勝つことで頂点に立ちたい。不戦勝や不戦敗じゃ駄目なの)




聖良(人は何故上を目指すのか。頂からの眺めを知れば、答えが出ると思っていた)




聖良(単なる承認欲求のためじゃない。少なくとも私自身は、誰かに認めてもらいたかったわけじゃないんだ)




聖良(今やっと分かった。むしろ私は、誰かを)




口の端から血の泡が吹き出す。



自身の大きな胸に空いた小さな穴を見下ろした。



まさか傷口を通して自分ごと背中の相手を撃ち抜くなんて。




聖良(ダイヤさん、あなたって人は本当に)




クレイジーです。



そう一言、宿敵への賛辞を送りたいのに上手く唇が動かない。




それだけを心残りにしながら、聖良の意識は闇に溶けていった。



836: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:08:42.23 ID:O+RAWhVmo




ダイヤ「――――ぁう…」




言ってしまえばそれは、消耗し切った電池やバッテリーの入った電子機器が
何故か一瞬だけ起動するのに似ていた。



銃弾を発射した直後、ダイヤは膝から崩れ落ちた。


今度こそ、余力なぞ残っていない。




千歌「そっ…」



視界の端で、絶句しつつもこちらに銃を向けようとする女の姿がやけにゆっくりと、
テレビでも見ているような別世界の出来事に映る。



そして――銃声が轟いた。

837: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:10:52.55 ID:O+RAWhVmo



――BANG!BANG!BANG!




千歌「かっ、ぐっ…!?」



善子「いい加減にしなさいよこいつぅ!」BANG!BANG!



ルビィ(お姉ちゃんの銃<ベレッタ>…?)



善子「どこの引き延ばし漫画よ!?そっちの野望は打ち切りだっつーの!BANG!BANG!




善子「終われ! 終われえぇ!!」BANG!BANG!BANG!



千歌「ぅきゅ…っ!!」



 ドサッ…



善子「はぁ…はぁ……プロの腕前見たか」




善子「これでゲームオーバーよね…?」



838: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:11:50.59 ID:O+RAWhVmo


ルビィ「お姉ちゃん!しっかり!」



ダイヤ「………ルビ……ィ」



ルビィ「ぐすっ……きっと来てくれるって、信じてたよ…」



ダイヤ「当たり前……でしょ……」



ダイヤ「姉は……妹に尽くすんだから」



ルビィ「もういいよ、喋らないで!」



涙は出なかった。


溢れてくるのは血液だけ。


遠くから、聞き馴染んだサイレンの音が近付いてくる。

839: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:13:12.88 ID:O+RAWhVmo


善子「はは、リリーったら遅すぎよ…」



格納庫に踏み入ってくる沢山の靴音が、頭の片隅でうわんうわんと反響していた。


大勢の人間が、自分のことを見下ろしている気がする。


その様子を、自分が見下ろしている気すらした。




ダイヤ「帰ったら……みんなでプリンを頂きましょう…」



ルビィ「お姉ちゃん…」



ダイヤ「……今は……少しだけ休ませて」



そう言って、瞼を閉じる。


すぐ近くで、遊び疲れて眠りに落ちた幼子のような死に顔を見せている聖良と同様、全てをやり遂げたその表情は安らかで――


840: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:15:21.08 ID:O+RAWhVmo



梨子(よっちゃん…ダイヤさん…)


ストレッチャーに横たえられた二人が慌ただしく搬送されていく。


横に付き添っているのは例の妹さんだろうか。


足を撃ち抜かれた善子も心配だが、ダイヤの方は…




「彼女、生きてるわ!」



梨子「え…」



思わず顔をあげて声の方を見やる。


ドクターヘリに乗って来た女医の一人が、床でのびているテロリストを診ているところだった。



真姫「弾は全部防弾プレートのところで止まってる。この人もヘリに乗せて」



真姫「なに、空きがないですって? ここに来る途中で拾った自衛官いたでしょ」



真姫「両足を疲労骨折してた、そう彼女の担架使いなさい。大丈夫何とかなるわよ」



千歌「き…せき…だよ…」



梨子(奇跡…)



自然と、その手はミッションスクール時代に覚えた祈りの形を作っていた。


もしかすると、本気で祈るのはこれが初めてになるのかも。




梨子(神様…クリスマスにはまだ早いですけど)



梨子(奇跡をあの人にも分けてあげてください)



梨子(私たちの国を救ってくれたヒーローに…)










841: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:19:26.81 ID:O+RAWhVmo


――


―――――




花丸「おらが死んで、次に生まれ変われるとしたらパンダさんがいいなぁ」





果南「私はカマキリかなー…嘘々カワウソ、冗談だよぉそんな顔してないで」





果南「なんて言ってるうちに着いちゃったね……あれ?」




【西木野頭蓋骨病院】




果南「ここ名前変わった?」



花丸「知らなかった?」



果南「あれ以来病院にかかったことなかったからねー」



果南「ダイヤたちって頭のケガなの?」



花丸「普通の総合病院ずらよ」



果南「ふーん、面白いの」


842: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:21:29.71 ID:O+RAWhVmo


『未曽有のサイバーテロから二週間。落ち着きを取り戻したように見える世間もその爪痕は大きく――』



『今回の事件で浮き彫りになった各種サイバーセキュリティの様々な脆弱性について、専門家は――』



『桜内センター長は会見で、今後の改善策と官民一体となった連携強化の必要性について強く主張し――』



『気象庁の発表によれば、本日――』




果南「あ、受付の人。ちょっといいですか」



果南「ここに入院してる、えーっとヨハ…ネオイタン…だっけ」



花丸「ヨハネお異端ずら…ってそれは幼稚園の頃のあだ名!ちゃんとお話聞いてた? 津島善子ちゃんずら」



果南「そーそーそうだった。津島さんと黒澤さんの病室はどこですか?」




真姫「あら、二人ならさっき中庭で見かけたわよ」



花丸「あー西木野先生こんにちわ」



真姫「丁度良かったわ花丸。これを渡したかったの」ピラッ



【マキドク~いかにしてマキちゃんはドクター・パパエルと改造患者軍団に頭蓋骨病院で戦いを挑んだか~】


844: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:22:56.23 ID:O+RAWhVmo


花丸「わー新作のチケットずら~」


真姫「明日から上映開始だから。お連れの人も誘って是非観に来るのよ。じゃ私忙しいから」


花丸「お疲れ様ずらー」




果南「なになに、あの人お医者さんなのに映画にも出てるの?」


花丸「映画というかホームビデオというか。とにかく患者さんのために院内で上映会をやってるずら」


花丸「マルもたまに行くけど、おじいちゃんおばあちゃんたちには戦争してた頃を思い出すってウケてるみたい」



果南「へえ、仲良いんだねあの先生と」


花丸「マルは警察で実家はお寺ですから。どうしてもお付き合いが多くなるずら」


果南「あーなるほど…」



<ドンガラガッシャーン



「いったぁぁぁぁぁい!」



845: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:24:13.71 ID:O+RAWhVmo

~~~~~


「なんなのよもぅ! いきなり松葉杖が折れるなんて不幸すぎ…」



「私たちが支えますからあそこのベンチまで歩きましょう」



「頑張ってぇ……いっちに、いっちに」



「くぅぅ…座らせて…そっとよそっと」



「私、代わりの杖もらってくるね」



「頼んだわ…」




「ふぅ…貴女もよくよくツイてませんのね」



「…ていうかさ」




善子「どうしてそっちの方が治りが早いワケ!? どーいう身体してるのよっ」


ダイヤ「丈夫に産んでくれた両親に感謝しませんとね」

846: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:25:16.99 ID:O+RAWhVmo

善子「絶対何かがおかしい…そのうち毛の方も元通りになっちゃうんじゃない?」


ダイヤ「そのお団子もぎとって食べますわよ」ギュッ


善子「あいたたっ、私怪我人なのよ?」


ダイヤ「私だってそうですわ」



ダイヤ「大体髪は女の命と言いますが、女の価値を決めるのはハートだと私は思うのです」


善子「誰もそんなこと聞いてないって…」

847: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:26:43.69 ID:O+RAWhVmo



ダイヤ「まだちゃんとお礼を言ってませんでしたね」



ダイヤ「色々ありがとう…妹も感謝していました」




善子「私は別に…」



善子「やらなきゃいけないことをしただけよ。そうでしょ?」




ダイヤ「……」



ダイヤ「ヒーローになりましたわね、貴女も」




善子「それって素直に喜んでいいの?」



善子「そっちの話聞く限り最悪じゃない、ヒーローって」




ダイヤ「世界一不運な二人。私たちにはお似合いですわ」



善子「そーだったわね。ちっとも嬉しくないけど」



848: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:27:44.65 ID:O+RAWhVmo

ルビィ「二人ともー持ってきたよ!」


ダイヤ「あら、随分早かったわね」



ルビィ「途中で会ったおじいちゃんがね、そういうことならワシのを使いなさいって」


善子「そのじいさんはどうなったのよ…」



ダイヤ「それよりその全身に引っかけたお菓子の山は何? まるでハロウィン帰りの子供じゃないの」


ルビィ「これも会う人みんなが…」


善子「ここだとそういう遊びが流行ってるのよね。ルビィを見かけたらお菓子を投げつけろって」


ダイヤ「つまらない冗談はおやめなさい」

849: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:28:33.98 ID:O+RAWhVmo

善子「とにかくルビィの人気はちょっとしたものよ」


善子「その見た目で人々の心を惑わし欺く…このヨハネ直属のリトルデーモンになれる素質があるわ」



ルビィ「そ、そうかな…えへへ」



善子「お菓子より小悪魔の黒衣装の方が似合うはず。今度それを着て、ヨハネと一緒に堕天してみない?」



ルビィ「それって一緒に動画に出ろってこと? いいのかな…ルビィなんかが」



ルビィ「でも、ちょっと楽しそう」



ルビィ「やってみたい…かも」



善子「そうよ! 二人でこの地上の惰民を遍く虜にしてやりましょう」



ダイヤ「善子さん。ルビィに変なこと吹き込まないでもらえますか」


ダイヤ「ルビィも、あまりのぼせ上ったこと言ってると、昔みたいに冷蔵庫に入れて冷やすわよ」


ルビィ「ピギッ、それは勘弁して…」

850: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:29:35.98 ID:O+RAWhVmo

ダイヤ「冗談です」


ルビィ「へ…」



ダイヤ「貴女がやりたいと思うことをやればいいのよ」


ダイヤ「もう誰かに無理やり押し付けられた立場に縛られることもないんだから」


ダイヤ「これからは嬉しいことも辛いことも二人で半分こ。でしょ?」



ルビィ「お姉ちゃん…」



ルビィ「…うん!」



善子「うんうん、いい話ね」


ダイヤ「ただし、それを私が気に入るかといえばまた話は別ですけど」

851: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:30:33.96 ID:O+RAWhVmo

ダイヤ「前から言いたかったのですけど貴女その歳で堕天使とか…」


ダイヤ「もう少し慎みと恥じらいを覚えてもいいのではなくて?」


善子「ククッ、今更ね。ヨハネは再び天に還るその時まで…へっくち!」



善子「…さっむ」



ルビィ「そういえば冷え込んできたかも。中に戻る?」


善子「そうしようかしら…って、この杖全然サイズが合わないんですけど」


ルビィ「ピギャア! ご、ごめんなさぁい…またやっちゃった」



ダイヤ「しょうのない子たちね。ほら、また二人で肩を貸しますから。ひとまずこれで行くしかないですわ」



ルビィ「本当ごめんね、善子ちゃん…」


善子「捨てられた子犬みたいな目はやめい。どっちかっていうと泣きたいのはこっちなのに…」

852: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:31:18.70 ID:O+RAWhVmo


果南「……」


花丸「……」



果南「声かけないの?」


花丸「そっちこそ」



果南「いやー中々タイミングがつかめないっていうか」


花丸「三人の世界ずら。お邪魔しちゃ悪い気がするよね」



梨子「あ…やっぱりそう思います?」

853: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:32:05.80 ID:O+RAWhVmo

果南「…誰?」


花丸「さっきテレビに出てた人!」



梨子「桜内梨子です。私もあの二人にはお世話になって…それでお見舞いに」



果南「よーし、こっちも三人なら向こうに負けないはず。ほら行くよ!」



梨子「何ですかその理屈…あ、引っ張らないでー!」



花丸「二人とも待って……ずら?」




花丸「冷た…」




花丸「わあ…雪だぁ」



854: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:32:33.85 ID:O+RAWhVmo


花丸(はらはらと、空から舞い下りてくる白い粒)



花丸(マルたちの住んでる所では、年に数回あるかないか)



花丸(それも丁度この日に降るなんて、記憶を辿っても珍しいことだと思う)



花丸(もしかしたら、このまま積もっちゃうなんてことも――)



花丸(普段ならあり得ないんだけど、何故かそんな予感がする)



花丸(今年のクリスマスは、いつもと違うんじゃないかって)

855: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:33:06.06 ID:O+RAWhVmo


花丸(昔どこかで聞いたクリスマスソングで歌われてた)



花丸(運命は転調する時も、こんな感じにしんしんとしてるものだって)



花丸(静かな、静かな――クリスマス)



花丸(マルの家では、クリスマスを祝う習慣はなかったんだけど)



花丸(宗教とかは関係なしに、世界中のみんなが親しい人と過ごして幸せでいられる)



花丸(ただそれだけの、素敵な日であればいいなって、心からそう思うんだ)

856: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:34:01.63 ID:O+RAWhVmo


善子「げっ、あそこにいるのって…もしかしてずら丸!?」


ダイヤ「あら、お知り合いでしたの?」



ダイヤ「…合点がいきましたわ。それで私に護送を」


ダイヤ「マルさんときたら、可愛い顔していつもこれなんですから…」


ルビィ「花丸ちゃんこっちだよー」




花丸「今行くずら~」




花丸(だから――)




花丸「ひとまず、ここにいるみんなにハッピーメリークリスマス、ずら」


857: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:34:50.81 ID:O+RAWhVmo


                      <C A S T>          


      Dia Kurosawa(黒澤ダイヤ) as John McClane(ジョン・マクレーン)


Yoshiko Tsushima(津島善子<ヨハネ>) as Matthew Farrell(マシュー<マット>・ファレル)


    Ruby Kurosawa(黒澤ルビィ) as Lucy McClane(ルーシー・マクレーン)


      Sarah Kazuno(鹿角聖良) as Thomas Gabriel(トーマス・ガブリエル)


      Riko Sakurauchi(桜内梨子) as Miguel Bowman(ミゲル・ボウマン)


          Leah Kazuno(鹿角理亞) as Mai Linh(マイ・リン)


         Chika Takami(高海千歌) as Emerson(エマーソン)


      Hanamaru Kunikida(国木田花丸) as Al Powell(アル・パウエル)


                         A N D


               Nicolas Cage(矢澤にこ<ニコニー>)

                          as 

     Frederick "Warlock" Kaludis(フレデリック<ワーロック>・カルーディス)


858: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:37:38.02 ID:O+RAWhVmo

 
           Original Story by:Live Free or Die Hard


            Directed by:Mari Ohara(小原鞠莉)


            Screenplay by:Hanamaru Kunikida


      Music by:Maki Nishikino(西木野真姫) and Riko Sakurauchi



         Assistant director:Honoka Kousaka(高坂穂乃果)


Assistant assistant director:Yukiho Kousaka(高坂雪穂) and Eli Ayase(絢瀬絵里)


           Stunt coordinator:Umi Sonoda(園田海未)


Stunt:Rin Hoshizora(星空凛) You Watanabe(渡辺曜) and Kanan Matsuura(松浦果南)

                       ・
                       ・
                       ・

859: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:38:32.39 ID:O+RAWhVmo










ダイヤ「ハッピーメリーって…」


ダイヤ「それでは頭痛が痛いと言ってるようなものですわ」


果南「まーたダイヤが細かいこと気にしてるよ…」



ダイヤ「だって」


ダイヤ「もう痛みは懲り懲りですもの」



果南「痛みじゃなくて幸せなんだからいいじゃん」



ダイヤ「……」


ダイヤ「ま、それもそうですわね」

860: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:39:15.07 ID:O+RAWhVmo


善子「ハッピーメリークリスマース!イエー!」


善子「ほら二人とも!」



りこルビ「は…ハッピーメリークリスマス…」



善子「もっと大きな声で!」



りこルビ「ハッピーメリークリスマス!!」



果南「あはは、いいねハッピーメリークリスマス」


花丸「ずら!」



ダイヤ「仕方ないですわね。皆さんご一緒に」



「「「「「「ハッピーメリークリスマース!!!!!!」」」」」」


861: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/05(水) 07:39:52.07 ID:O+RAWhVmo



真姫「そこ!病院内ではお静かに!」



「「「「「「あ…」」」」」」



真姫「中庭も院内なんだから、まったく…」



「「「「「「ごめんなさい…」」」」」」




――ほらね、静かなクリスマスがやって来たでしょ?



 FIN 



862: おまけ 2017/07/05(水) 07:46:42.84 ID:O+RAWhVmo

黒澤ダイヤ


戦果

テロリスト×14(撃破×10 撃退×4)

内訳 拳銃×4 爆発×2 消火器×1 棒アイス×1 頸椎ポッキー×1 冷却ファン×1
    階段×1 ポイ捨て×1 顔面パンチ×1 ジェットストリーム×1



破壊したもの


水晶玉×1

消火器×1

消火栓×1

トンネルゲートバー×1

パトカー×1

ヘリコプター×1

トイレの個室×1

発電所制御室×1

貨物用エレベーター×1

海未のトヨタ・アクア×1

フェンス×1

冷却ホース×9

放置車両…測定不能

デスクトップPC一式×1

PCチェア×1

F-35B戦闘機×1

小型ジェット機×1

ジェットエンジンの制御盤×1

チェーンの固定用楔×1

牽引車のフロントガラス×1


車両強奪(レンタル)×3

ヘリコプター奪取×1

864: Chapter 2017/07/05(水) 07:52:38.80 ID:O+RAWhVmo

#1「マルダイの女」 >>2


#2「クリスマステロルが止まらない」 >>76


#3「キセキのファイヤーセール」 >>132


#4「悪運☆ヒーローズ」 >>177


#5「大停電だけど大丈夫?」 >>278


#6「魔法使いの輝夜城」 >>332


#7「回転輪(モーメント・リン)」 >>480


#8「ダイ海自you(大怪獣)空中決戦」 >>635


#9「Die Another Day(死に損ない日和)」 >>745

865: おまけ 2017/07/05(水) 07:55:22.56 ID:O+RAWhVmo

これからのラブライブ洋画劇場は



日本全土を震撼させたサイバーテロから二週間



世界一運の悪い女はようやく静かなクリスマスを手に入れた



――はずだった…




曜「ここが千歌ちゃんの入院してる西木野頭蓋骨病院」



曜「怪我が治ったら千歌ちゃんは警察に引き渡される…」



曜「そんなことさせない――決めたんだ、ずっと千歌ちゃんの側にいるって!」



親友の解放を目論み、病院を占拠するテロリスト!


戦場と化した閉鎖空間で、またしても不死身の女の孤独な戦いが――



花丸「やめるずら」


866: おまけ 2017/07/05(水) 07:56:58.40 ID:O+RAWhVmo


花丸「ダイヤさんは休んでるといいずら。ここはマル一人で十分だから」



ついに出た!今度はオラの出番だ!


ホラー界のセガール、寺生まれのHさん!その関節技は生身霊魂おかまいなし!



花丸「ずらァ!」



GOD語を喋るツルッパゲ女が本気で殺しに来る恐怖!



マルコメアクションシリーズ第二弾!【沈黙のテラリスト】




花丸「今必要なのはお医者様じゃなくコックさんずら」グゥゥ


善子「こいつに脚本(ホン)書かせるのやめない?」



製作中止!

867: おまけ 2017/07/05(水) 08:01:08.61 ID:O+RAWhVmo

>>667



―――ィ ィ ィ ィ イ イ イ イ イ ン



突風を巻き起こして地表ギリギリまで降下してきたヘリコプターの“ARIA”と書かれたドアが開いて、
ネオ・ヴェネツィアへの水先案内人(ウンディーネ)が顔を出した。



梨子「ウ、ウンディーネとか…/// 恥ずかしいセリフ禁止!><」



ダイヤ「貴女が似てるのはあまんちゅの双葉さんの方でしょう」



千歌「桜内てこ!」ウピョー



善子「出会った時のリリーはそんな感じだったけど…」



善子「今思うとどこが似てるのか分かんなくて、漫画版読んだらやっぱり似てたわ」



曜「っていうか洋画関係ないし…」



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