1: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:23:39 ID:hskLPKOY

曜「よいしょっ……と」

曜「今日もあんまり捕れなかったなぁ」


学校を卒業してから早6年。
漁師になりたいという私の願いを両親は快く応援してくれた。

大学には行かず、お父さんの漁に付き添って漁の基礎を学んで……いつの間にか6年の月日が過ぎ去ったある日のこと

曜「え、本当にくれるの? 」

曜「やったー! 」


お父さんが、船を一隻くれた。

お父さんのおさがりだけど、自分の念願の夢だった"船長"という肩書きは思わぬ形でやってきた。


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※極度のグロ、暴力、ネガティブ描写があります。苦手な方はブラウザバックをお願い致します。

引用元: 曜「赤色水面に囲まれて」 



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2: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:25:43 ID:hskLPKOY
曜「うーん、しばらく日にちが経ってから漁に出かけた方がいいのかなぁ……」

曜「小魚しか採れないし、本当はマグロの一本釣りとかやってみたいんだけどね」


船を港に停め、地上へと脚を下ろす。


おーーーーい、ようちゃーーーん!!

曜「んん ?」


曜「あっ、千歌ちゃん! 」

3: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:26:37 ID:hskLPKOY
千歌「今日の調子はどうだった? 」タッタッタッ

曜「ううん、全然。」

千歌「うーん、そっか」


千歌「まぁ、こんな日もあるって。気にしないで、次頑張ろ! 」


曜「う、うん。もちろんだよ」

4: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:27:40 ID:hskLPKOY
千歌「でさでさ、ちょっと頼み事があるんだけど」

曜「なに、また果南ちゃん家? 」

千歌「うん、回覧板届けに」

曜「分かった、じゃあヨーソロー号に乗って」



私たち2人と果南ちゃんは、回覧板でまだ繋がっていた。


高校時代のように、千歌ちゃんが果南ちゃんに回覧板を届けに行く。

その時に出す船は私の船で、千歌ちゃんの付き添いついでに果南ちゃんの顔を見に。

5: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:28:23 ID:hskLPKOY
【ダイバーショップ】

5年も経てば建物も案外廃れるもので。

潮風に当たるこの場所では、木造の建物はそう長い命ではなさそう。


果南「やっほー、2人とも。」

果南「回覧板ありがとね」ニッコリ


また笑ってる。

果南ちゃんは、お父さんが亡くなってから笑顔になることが以前よりも多くなった。

6: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:29:44 ID:hskLPKOY
千歌「最近、鞠莉ちゃんとダイヤさん見ないけど元気してるー? 」


果南「あぁー……ちょっと言いにくいんだけど」


果南「鞠莉は起業に失敗して、今は借金返すために色々頑張ってるよ」


千歌「え、失敗したんだ……。」

曜「借金は大変だね……何万円くらい? 」

果南「さすがに金額は教えてもらってないよ。でも、一生かけてギリギリ返せるかレベルらしい。」

曜「ひゃあ……お金に余裕が出来たら手助けしてあげたいな」

果南「私もそのつもり。なんだけど、見ての通り経営難でさぁー 」

7: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:30:44 ID:hskLPKOY
千歌「ダイヤさんは? 」

果南「ダイヤは、仕事は上手くいってるよ。」


果南「でも、最近は結婚に悩まされてる。」

千歌「結婚するの!? 」

果南「ううん、結婚したくないって言ってるのに、両親が無理やりお見合いをさせてるみたいでさ。」

果南「だから最近のダイヤは結構ピリピリしてる。」

曜「そっかぁ…みんな色々と大変なんだね」

果南「うん。社会って、優しくないね」

8: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:31:47 ID:hskLPKOY
果南「そういえば千歌の方はどうなの?定職決まった?」

千歌「絶賛アルバイト掛け持ち中! 」ピース

果南「あはは……その年で定職についてないのはちょっと厳しくない? 」

千歌「そう、だからすっごい焦ってる。」

千歌「だけど、やりたいこととか特に見つからなくてねー。」


3年生はみんな苦労してるんだね。
1年生の3人も今は大学4年生、大変そう。


梨子ちゃんは、スクールアイドル時代の作曲活動が、とある音楽事務所の社長の目に止まってスカウト。

9: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:32:42 ID:hskLPKOY

千歌「あの、さぁ」

果南「どうかした? 」

千歌「みーんな苦労してるじゃん? 疲れてると思うんだ」


千歌「たまには息抜きにさ、遊ばない? 」

千歌「同窓会みたいな感じで、みんなでパーッと」

曜「いいねぇ、それ」

果南「みんな集まるんだ……確かに良いかも。」

曜「最近会えてなかったし、気晴らしにどっかで遊ぼうよ」

10: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:33:19 ID:hskLPKOY
果南「遊ぶってったって、どこで? 」

果南「あ、曜の船で船上パーティとかどう?」


果南ほら、よくセレブとかがやるじゃん」

曜「私はOKだけど……あとは みんなのスケジュールが大丈夫かどうかだね」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
私の不安を払拭するように、全員の承諾を得ることが出来た。

11: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:34:33 ID:hskLPKOY
>>10すみません誤字です

果南「遊ぶってったって、どこで? 」

果南「あ、曜の船で船上パーティとかどう?」


果南「ほら、よくセレブとかがやるじゃん」

曜「私はOKだけど……あとは みんなのスケジュールが大丈夫かどうかだね」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
私の不安を払拭するように、全員の承諾を得ることが出来た。

12: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:35:23 ID:hskLPKOY
パーティ当日


私と千歌ちゃんは船の上で、他のメンバーが来るのを待っていた。


花丸「みんな、おまたせー」

ルビィ「お久しぶりです! 」

善子「久しぶりね。」


千歌「わぁー! みんな大学生って感じー! 」

曜「まぁ大学生だからね」

13: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:36:17 ID:hskLPKOY
千歌「今は大学4年生?になるのかな」


花丸「あー…えっと」


善子「私はまだ三年生よ。」


千歌「なんで? 」

善子「なんでってあんた…あれよ、あれ」

曜(千歌ちゃん、多分留年だと思うよ)ボソボソ

千歌(えぇっ!?失礼なこと聞いちゃったよ……)ボソボソ

14: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:36:55 ID:hskLPKOY
千歌「ごめん! 善子ちゃん!! 」

善子「あはは……まぁ気にしないで。あんまり勉強してこなかった私が悪いから」

花丸「ゴホゴホ……ンン! 善子ちゃん、ずっと引きこもり気味だったもんね」

善子「あの頃は厨二病患ってたからね。そりゃ周りの目が気になって、引きこもりたくもなるわよ。」

15: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:37:26 ID:hskLPKOY
曜「ルビィちゃんは変わってないね」

ルビィ「あ、うん……。今でも高校生に間違われたりするよ。」

千歌「それって、嬉しいような嬉しくないような」

ルビィ「うーん、ルビィは何とも思わないです」

16: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:38:04 ID:hskLPKOY
あっ、千歌ちゃん!


千歌「んん? 」

千歌「あ、梨子ちゃん! 」

千歌「と、ダイヤさんも! 」

17: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:38:50 ID:hskLPKOY
梨子「懐かしいなぁ、またみんなと会えて」

ダイヤ「皆さん、お久しぶりですわね」

曜「梨子ちゃん、忙しいのによくスケジュール組めたね」

梨子「うん、最近は結構暇だから」


ダイヤ「ルビィ、大学の調子はどう? 」

ルビィ「えっと、人間関係はあんまりだけど……成績とかは良い方、だと思う。」

花丸「ルビィちゃん……。」

18: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:39:23 ID:hskLPKOY
ルビィ「お姉ちゃんは、良い人見つかった? 」

ダイヤ「はぁ……ぜんっぜん。」

ダイヤ「親が意見を曲げないのならばと、意を決して結婚をしようかと決めるまでは良かったのだけど」

ダイヤ「お見合いしてきた中には、好みの男が一切いませんわ。」

ダイヤ「大体、どういう流れで男の人を好きになるのやら。」

19: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:39:53 ID:hskLPKOY
ババババババババ

善子「あのピンクカラーのヘリコプターは……」

花丸「小原家ずら」


ババババババババ

プシュー


鞠莉「Ciao☆」

果南「遅れてごめん」

千歌「あ、果南ちゃんも一緒だ」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

20: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:40:28 ID:hskLPKOY
千歌「鞠莉ちゃん、借金大変そうだね」

鞠莉「んー、まぁね」

鞠莉「でもお父さんが半分くらい肩代わりしてくれたから、努力次第ですぐに返せる額よ」

曜「あれ?でも果南ちゃんは、"一生かけないとギリギリ返せるかどうかくらいの大金"って言ってたよ? 」

果南「あぁ、あれは私が誤解してただけだよ」

果南「さっき聞いたら、もう半分くらいは返しちゃったって言うからさ。驚いたよ。」

21: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:41:25 ID:hskLPKOY
曜「…」

千歌「ん、曜ちゃんどうかした? 」

曜(なんだろう……)


みんな集まって、みんな笑ってる。
なのに、なんだか、楽しい雰囲気には感じられない。

キラキラしてるのに、なんだろう、スローモーションにでもなったような、どんよりとした感じ。

22: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:42:07 ID:hskLPKOY
みんな表情は活き活きとしてるのに、目は死んでるみたいで……

あ、もしかして私の目が悪いのかな。そういうフィルター越しにみんなの事を見てるからみんなの事がキラキラに見えないのかな。


今まで綺麗な水槽を見ていたのに、急に濁った水槽に目を移したみたいで……

23: ◆32r/eU7DO2 2017/08/06(日) 23:42:39 ID:hskLPKOY
…うちゃん!ようちゃーーん!

千歌「曜ちゃん!」

曜「ハッ」

千歌「もー、曜ちゃんってばぁ! 」

千歌「さっきからボーッとしてどうしたの? 」

曜「あー…うん。なんでもないよ」

曜「さ、早く出航しようか」

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25: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:44:32 ID:Ir8sadpc
ヨーソロー号は無事出航。天気は快晴、波は穏やか。
いい感じに追い風も吹いてる。

ヨーソロー号は沖へ沖へと進んでいく。

【操縦室】


私が船の運転をしていると、梨子ちゃんがそーっと入ってきた。


梨子「ねぇ曜ちゃん」

曜「なぁに?梨子ちゃん」

26: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:45:56 ID:Ir8sadpc
梨子「千歌ちゃんとの恋路は、あれからどうなったの?」


そうだ、梨子ちゃんに言ってなかったや。

高校を卒業してから、千歌ちゃんへの想いを告白しようと決意したものの……すぐにお互い忙しくなって、告白する余裕なんて無かったことを。
女の子が女の子を好きになるなんて、おかしな話だもんね。

だから、千歌ちゃんとは まだ付き合えてはいない。
いや、きっと付き合うこともないと思う。


曜「まだ、だよ。」

27: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:46:35 ID:Ir8sadpc
梨子「そっか。今日告白したりするの? 」

曜「えぇっ!? 今日だなんていやいやそんな! いやぁ無理だよムリムリ!! 」

梨子「ふふ、焦ったら船がどこかにぶつかっちゃうわよ? 」

曜「おっとっと…あぶないあぶない」

28: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:47:15 ID:Ir8sadpc
梨子(千歌ちゃんから、前に一度聞いたことがある。)

ーーーーーーーーーーー

千歌「曜ちゃん見てると、なんだかこう…」

千歌「急に心配になったり、心がギューッと痛くなったりするんだよね。」

千歌「やっぱ曜ちゃん可愛いよ。幼なじみながらにその可愛さが羨ましかったりする。」

梨子「へぇ、大変そうだね」

千歌「いやもう大変なんてもんじゃないよっ! 」

千歌「もうね、すっごいの! 」

……

ーーーーーーーーーーー

29: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:48:21 ID:Ir8sadpc
梨子(千歌ちゃんはその気持ちは恋だということに気づいていないけど、あれは間違いなく 曜ちゃんに恋心を抱いていると思う。)

梨子(私自身が千歌ちゃんへの気持ちを諦められなくなる前に、千歌ちゃんの想いを知れて良かった。)

梨子(こうして、2人の恋を応援出来る立場になることに、妥協出来たから。)

30: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:49:00 ID:Ir8sadpc
曜「聞きたいことはそれだけ? 」

梨子「あ、うん。高校卒業してから会う機会ほとんど無かったから、ちょっと気になってて。」

梨子「じゃあ、運転頑張ってね。」

曜「うん、ありがと! 」

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31: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:49:37 ID:Ir8sadpc
曜「よし、ここいらでちょっと釣りでもしようかな。」

ガチャッ

【外】

船を停滞させ、釣り道具を出す。

船内には漁のための大きな網もあるが、網を引ける筋力があるのは私か果南ちゃんくらいかなーと思ったので網はやめておいた。

32: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:50:11 ID:Ir8sadpc
ダイヤ「釣り上げたりーっ! 」ザパァッ

果南「残念、長靴だね」

鞠莉「恥ずかし…ププッ」


鞠莉「釣ったー! 」ザパァッ

果南「それビール瓶だね」

ダイヤ「ぷっぷー 片腹痛いですわぁ! 」

果南「あっ…カサゴ釣れた…返そ……」ポイッ

33: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:50:58 ID:Ir8sadpc
善子「あわわわわわ」

花丸「どうしたの、善子ちゃん」

ルビィ「何か凄いものでも釣れたの? 」

善子「し、シーラ……」

花丸ルビィ「「カンス!? 」」

善子「シーラカンスが釣れた……」スッ

ルビィ「んぎゃあああ!! 」

花丸「古代じゅらあああ!! 」

ビチビチ

善子「シーラカンスが動いたあああ!! 」

善子「あっ、逃げた」

花丸「なーんだ、逃げちゃったずら」

34: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:51:48 ID:Ir8sadpc
千歌「ミカンを餌にして釣る!! 」スッ

梨子「それ、釣れないと思うな。」

曜「私は網引きばっがりで捕ってきたから、釣りはそこまで慣れてなくってさ~」ヒュッ

梨子「ん、なんかかかったみたい……!! 」グググッ

曜「えっ、凄い!! 大物じゃない!? 」

梨子「んんん! 強いよ!! 」グググ

曜「釣り竿が持っていかれる感じする? 」

梨子「いや、あんまり」

曜「もしかしてあれかな、地球釣っちゃったかな。」

35: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:52:24 ID:Ir8sadpc
千歌「地球って釣れるの!? 」

曜「あはは、違うよ千歌ちゃん」

曜「釣り針が地面とか岩とかに引っかかっちゃったりした時に"地球釣っちゃったね"っていうジョークだよ」

千歌「なーんだ、ジョークかぁ」

36: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:53:24 ID:Ir8sadpc
ガンッ!!

突如、船体に鈍い音が響く。

曜「ん、今の何? 」

果南「もしかして、でっかい魚が船にぶつかっちゃったんじゃ…」

曜「あ、いたいた! 水面に写ってるあのでっかい影!! 」

曜「イルカかも! 」

千歌「イルカ!? 見たーい!! 」

曜「だよねだよね、見たいよね! 」

曜「イルカを追っかけよー! 」タッタッタッ

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37: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:53:57 ID:Ir8sadpc
【操縦室】

曜「さぁてエンジンを…」カチッ

ブブブブブ……

ブゥン…………


曜「あれ、エンジンがかからない」

38: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:54:29 ID:Ir8sadpc
曜「もっかい! 」カチッ


ブブブブブ……

ブゥン…………

曜「マズイなこれ……エンジン壊れたかな」

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39: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:55:18 ID:Ir8sadpc
【外】

曜「みんな、もしかしたらエンジン壊れたかもしれない」

善子「えっ、大丈夫なの!? 」

果南「ちょっと潜って船底見てくる。」

梨子「エンジン故障したら船ってどうなるの?」

曜「あー、これあんまり新しい船じゃないからなぁ…。新しい船だったら設備とかも整ってて、予備のエンジンがあったり自動操縦出来たりするんだけど」

曜「オール使って、手で漕ぐしかないかな」

千歌「えぇ!? 人力でここから岸まで戻るの!? 」

曜「んー…そうなるね。エンジンが故障してたらの話だけど。」

曜「このまま海で野垂れ死ぬより苦労してでも岸に帰れた方がマシだよ。」

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40: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:56:15 ID:Ir8sadpc
果南「船底見てきたけど、やっぱりエンジンがある部分に大きなへこみができてた。」

曜「もしかしてクランクシャフトがやられちゃったか」

千歌「くらんくしゃふと?」

曜「んーと、まぁ要するにエンジンの大事な部分だよ。」

千歌「そこが壊れたとなると、そりゃ大変だね」

曜「とりあえず、体力のある今のうちで岸へと船を漕ごう。」

善子「ラジャ! 」

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41: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:57:41 ID:Ir8sadpc
Aqours1人1人にオールが1本ずつ配られ、全員で漕いだ。

が、思うように前へ進めない。


花丸「ハァ…ハァ……ゴホゴホ……ちょっとマルには耐えられないずら…」

ダイヤ「ひぃ…ふぅ……これを岸まで続けるのは無理がありますわ」

42: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:58:15 ID:Ir8sadpc
梨子「ねぇ曜ちゃん、ひとつ質問してもいい? 」

梨子「ここへ向かう時、追い風だった? 」

曜「うん、追い風だったよ。……あっ」

曜「なるほど、なんで進まないのか分かった! 」

43: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:58:54 ID:Ir8sadpc
曜「追い風だったってことは、今は逆走しようとしてるから向かい風になるんだ。」

曜「季節風だ、今の時期、強い季節風が吹いてるんだよ」

曜「西から東へと、強い風が吹いている。その中を、東から西へと漕いで移動するのはさすがに厳しいや。」

曜「男の人ならまだしも、女の子には無理があるよ」

44: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:59:24 ID:Ir8sadpc
ルビィ「季節風ってどれくらい続くんですか? 」

曜「何ヶ月か続くよ。」

善子「じゃあ何ヶ月も日本に帰れないじゃない!」

花丸「何ヶ月も待機してたら、餓死しちゃうよ」

曜「んー…携帯で助けを呼ぼう! 」

鞠莉「携帯は圏外デェース……」

45: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 13:59:56 ID:Ir8sadpc
曜「んー…じゃあさひとつ提案なんだけど。」

曜「このままアメリカ行かない? 」

みんな「アメリカ!? 」

曜「東から西へは、向かい風も強いし、女の子が人力で漕いで帰るのは無理だと思う。」

曜「そのまま季節風に乗って、東へと直進すれば、アメリカに着くと思うんだ。」

曜「早くても1ヶ月くらいではいけるんじゃない? 」

46: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 14:00:27 ID:Ir8sadpc
曜「このままここで死んじゃうよりは、アメリカ目指した方が良いかな~と思うよ。」

曜「それに、太平洋横断レースなんて、よくあるし。引き返すよりは現実的だよ。」

千歌「千歌もそう思う。」

千歌「食べ物とかはたくさんあるし、いざとなれば釣ったり捕ったりすれば良いし」

47: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 14:01:09 ID:Ir8sadpc
梨子「どうしよう、1ヶ月くらい無断でスケジュールを潰してしまうのは厳しい……。」

鞠莉「死ぬよりはマシじゃない? 」

鞠莉「途中で他の船に見つけてもらえれば、もっと早く帰れるし。」

鞠莉「日本に帰れたあとは、本でも書いたら売れると思うわよ? 」

果南「なるほど、確かにそうだね。」

48: ◆32r/eU7DO2 2017/08/09(水) 14:01:46 ID:Ir8sadpc
曜「まぁ任しといてよ、なにせ私は船長~! 」

千歌「任せたよ曜ちゃん~」

曜「みんなは、日本に帰るんじゃなくてアメリカに向かうことには賛成できる? 」

みんな「はーい! 」


ヨーソロー号は更に沖へ、アメリカへと向かう。

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50: ◆32r/eU7DO2 2017/08/10(木) 23:59:43 ID:b13/AoU2
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7日後…

引き返すのは難しくとも、沖へ出るのは随分と簡単だった。
指針はアメリカを指している。航海はほとんど順調に思われたが……

唯一、喜ばしくないことがひとつ。

大嵐に巻き込まれていた。

51: ◆32r/eU7DO2 2017/08/11(金) 00:00:43 ID:hcUaVK5M
ゴォォォォォォォオ!!

曜「いつ止むかな、この嵐 」

花丸「もう丸一日、ずーっと大嵐だよ」


外に出ては危ない、と必要な道具を室内へ入れ、9人でじっと待機していた。

9人も同じ部屋に入るとなると、まぁまぁ狭くて辛い。

52: ◆32r/eU7DO2 2017/08/11(金) 00:01:21 ID:hcUaVK5M
私が目をやると、千歌ちゃんもそれに応える。


千歌「大丈夫、止まない雨はないから」

曜「…うん!そうだね」


ザザザザッ!ピーーーーー……

善子「なに、何の音!?」


曜「もしかして…!! 」タッタッタッ

53: ◆32r/eU7DO2 2017/08/11(金) 00:02:01 ID:hcUaVK5M
曜「あぁやっぱり……」

ルビィ「どうかしましたか? 」

曜「船にもカーナビみたいに、方角をデジタル画面に示してくれる機械があるんだけど、それが壊れちゃったみたい。」

曜「多分、強風でアンテナが折れたのかな」

梨子「え、進路が分からないのはまずいんじゃ…」

曜「大丈夫大丈夫! 」

曜「そんな時のためにコンパスが~…」ガサゴソ

54: ◆32r/eU7DO2 2017/08/11(金) 00:02:33 ID:hcUaVK5M
曜「ない」

曜「ウソ、もしかして持ってくるの忘れた!? 」

曜「誰かコンパス持ってない? 」


しーん……

55: ◆32r/eU7DO2 2017/08/11(金) 00:03:08 ID:hcUaVK5M
ダイヤ「北極星さえ見つかれば、そこから方角が分かりますわ。」

曜「あ、そっかそっか」

果南「でも、方角は分かってもアメリカまでどのくらいの距離なのかが分からないよね」

56: ◆32r/eU7DO2 2017/08/11(金) 00:04:21 ID:hcUaVK5M
千歌「大丈夫だよ、いつかは着くって! 」

鞠莉「そうそう、方角さえ分かってればいつかは着くんだから」

ルビィ「"いつか"って、いつですか……? 」

千歌「それは……」


船内に重い空気が漂う。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

59: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:12:56 ID:FcgCzKTY
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

それから更に7日後…

嵐が過ぎ去ったし、とっくに雨も止んでる。
アメリカにどれだけ近づいたのか、遠ざかったのかは、分からない。


今、曜という1人の女の子ではなく、船長という立場として、心配していることは二つ。

60: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:13:48 ID:FcgCzKTY
ひとつ、みんなが持ってきた飲料水と、船に設置していた飲料水が残りわずかしかないこと。

具体的には、紙コップ満たんに入れても2杯分くらい。
涙は出るが唾液は出ないもので、喉の乾きが私たちを襲っていた。
人は3日水分を取らなければ死に至るという話を聞いたことがある。

61: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:14:53 ID:FcgCzKTY
ふたつ、花丸ちゃんの体調が悪くなったこと。

ただの船酔いとかそういうことではなく、ずっと咳が止まらない。咳をし続けてはまた吐きそうになる。
嗚咽と嘔吐の音が、たびたび船内に響く。

62: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:15:25 ID:FcgCzKTY
そして"曜という1人の女の子"として心配していることはただひとつ。

Aqoursの"絆"が、壊れかけていること。

63: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:16:19 ID:FcgCzKTY
花丸「ゲーホゲホッ!!ゴホゴホッ!!オェオォッ!! 」

善子「ズラ丸…しっかり!! 」

ルビィ「花丸ちゃん!! 」ギュッ

ダイヤ「何か必要なら遠慮せずに言ってください! 」

果南「喉痛いよね、水とか飲む? 」

64: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:17:28 ID:FcgCzKTY
鞠莉「今 花丸に水を飲ませたら、私たちが生きるために必要な水が無くなっちゃうわ…!! 」


鞠莉ちゃんは冷たい目で花丸ちゃんたちを見ている。

…梨子ちゃんも、花丸ちゃんたちを見つめていた。

私は、風や波の観察で花丸ちゃんの元へは駆け寄ってあげれないけれど、遠くから話を聞いている。


果南「鞠莉、今なんて言った? 」

65: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:18:01 ID:FcgCzKTY
鞠莉「花丸に今水を飲ませたら、私たちが飲むものが無くなっちゃうって言ったのよ。聞こえなかった? 」

果南「あんたっ……それ本気で言ってるの!? 」

果南「花丸が!こんなに苦しんでるのに!! 」

果南「私たちよりも、今は花丸の体調を少しでも良くしてあげるのがベストなんじゃないの!? 」

66: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:19:05 ID:FcgCzKTY
鞠莉「だからって、水が無くなったらどうするのよ!! 」

鞠莉「花丸を見捨てるだなんて誰も言ってないわ!残りの水が少ないんだから、花丸1人に多く水を消費させずに、私たち9人で均等に分断すべきだと言ったの!! 」

果南「でもそれじゃあ、花丸の喉を充分に潤せるほどの水分量が無いよ! 」

花丸「2人とも゛、マルの゛ことで喧嘩はやめ…」

花丸「がはっ!ゴホゴホゴホッ!! 」

ダイヤ「2人とも、いい加減になさい!! 」

果南「ダイヤ…」

鞠莉「…。」

67: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:19:35 ID:FcgCzKTY
曜「……」

私は、この空気に外から入るのは無理だなと思う。引き続き波や風の様子を観察してるフリをして誤魔化すことにした。

自分が不甲斐ない、船長でありながら。

68: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:20:09 ID:FcgCzKTY
ダイヤ「今言い争っている暇はありません! 」

ダイヤ「花丸さんを少しでも楽にしたいなら、私たちは笑顔でいるべきだとは思いませんか? 」

善子「えぇ、今は少しでも楽しい雰囲気でいたい。」

ルビィ「うん、嵐に襲われた時からみんなピリピリしてて、ずっと怖かった。」

鞠莉「この船は無事にゴールできるのか、とてつもなく不安な気持ちになったからね。そりゃあピリピリもするわ。」

ダイヤ「花丸さん、どうしましょうか……」

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69: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:21:09 ID:FcgCzKTY
私はいつからか海を観察することに集中しすぎていて、花丸ちゃんたちのいる室内の様子を聞いていなかった。

船の先頭で頬杖をついてボーッと眺める。

雲の流れは早い、潮風の匂いがする、遠くで跳ねたのはトビウオかな?
太陽は私たちを見守ってくれてるのかな、それとも見下してるのかな。

そんなことを考えてると、そーっと千歌ちゃんが隣にやってくる。

70: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:21:44 ID:FcgCzKTY
千歌「よーちゃん」

曜「どうしたの、ちーかちゃん」

千歌「いや、たそがれてるのかなって。」

曜「んー、半分正解。」

千歌「残り半分は? 」

曜「海の観察だよ。方角がずれたら大変だから、どうにかしてでも調節しないといけないでしょ? 」

曜「大きな方向転換は厳しいけど、早めの段階で気づいていれば、オールで漕げばなんとかなると思うから。」

千歌「結構厳しいよ、オール。果南ちゃんとか曜ちゃんは力持ちだから、あんまり厳しく感じないかもしれないね。」

71: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:22:38 ID:FcgCzKTY
千歌「そうえいば、さ。」

曜「なに? 」

千歌「さっきから、ダイヤさんたちの話聞いてて、水不足の話してたから。」

千歌「ひとつ、思いついたことがあって。」

千歌「多分、みんなは嫌がると思うけど。千歌もそんなこと本当はしたくないし。」

曜「どんなことを思いついたの? 」

千歌「それはね…」

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72: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:23:10 ID:FcgCzKTY
【船内】

千歌「みんな、ひとつ提案なんだけど」

鞠莉「ん、なに? 」

千歌「水が無くなっちゃいそうならさ、雨水を貯めるってのはどう? 」


千歌「雨が降るかは運任せだけど、海水よりは、まだ飲みやすいかなって」

鞠莉「…なるほどね。」

鞠莉「一応飲めたもんじゃないけど、"水分"には困らないで済むわね。」

善子「うぇ…私はちょっと嫌かも。」

果南「私はなんとか平気。」

ダイヤ「抵抗はありますけど、死ぬよりは……。」

73: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:23:55 ID:FcgCzKTY
鞠莉「じゃあ、花丸に今残ってる飲料水をプレゼントしても大丈夫ね。」

花丸「そんな、マルなんかのために貴重な水分を…」

花丸「ゴホゴホ、ゴホッ!!ガァッ!!おぇ…おええぇ!! 」

善子「ズラ丸、あんたは喋らなくていいから。ゆっくり休んで」ソッ

74: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:24:45 ID:FcgCzKTY
善子「あんた、喘息持ちとかだったり? 」

善子「あ、喋らないでよ。首を振って返事をして。」

花丸「」コクッ

善子「喘息持ちか、辛そうね……。薬とかはあるの? 」

花丸「」ブンブン

善子「持ってきてない感じかしら…? 」

花丸「…」ブンブン

善子「持ってきたぶんは飲みきった」

花丸「」コクッ

善子「なるほど、使い切っちゃったわけか。」

75: ◆32r/eU7DO2 2017/08/12(土) 09:25:21 ID:FcgCzKTY
善子「助かるまでの辛抱よ、しっかり頑張んなさいよ」ギュッ

花丸「」コクッ

花丸「」ギュッ


私達は、雨水から水分を得ることに決めた。

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77: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:12:53 ID:P77LC6SI
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二日後…

出来る限り節約していた飲料水だったが、花丸ちゃんがひとくち飲んだのが最後だった。ついに飲料水が無くなってしまった。

ペットボトルを逆さまにしても一滴も出ない。

78: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:14:10 ID:P77LC6SI
【医務室】

鞠莉と梨子が花丸の看病をしていた。室内には3人のみ。


梨子「ごめんね、花丸ちゃん。もう飲める水が……」

花丸「ううん、気にしないで」

鞠莉「貯めておいた雨水に手を出す時がついに来たようね…」

鞠莉「千歌っちが雨水を飲もうと言った 翌日に豪雨が来て助かったわ。」

79: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:14:43 ID:P77LC6SI
梨子「とりあえずみんなが持ってたペットボトル全部と、船に置いてあったバケツ5個、」

梨子「全てが雨水で満杯になるくらいには水を貯めれたね」

花丸「そうだね、ケホケホ……1ヶ月くらいは喉の乾きに困らない゛んじゃないかな」

鞠莉「雨水って、どんな味するんだろうね」

梨子「んー、飲んだことないから分からないな」

80: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:15:43 ID:P77LC6SI
鞠莉「ちょっとコップひとくち飲んでみるわね。」

鞠莉「じゃ、水くんでくる」スッ

スタスタ

ガチャッ

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81: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:16:34 ID:P77LC6SI
【外】


鞠莉「ん、何やってるの? 」

曜「あぁ、食料が少なくなってきたから、網で魚を捕えようかなって」スタスタ

曜「あ、千歌ちゃん」

角を曲がると、千歌ちゃんがいた。

82: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:17:04 ID:P77LC6SI
千歌ちゃんは海をボーッと眺めていて、私の声も聞こえてないみたい。
誰か待ってるのかな、と思ったのと同時に千歌ちゃんのところに果南ちゃんがやってきた。

千歌ちゃんへ近づこうとしたけど、とっさに物陰に隠れてしまった。

鞠莉「どうしたの曜…」

曜「鞠莉ちゃん、ごめん。ちょっと静かに…」

鞠莉「え、うん…」

私と鞠莉ちゃんは背中を壁につけ、2人の会話に耳を澄ます。

83: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:17:42 ID:P77LC6SI
千歌「話ってなに?果南ちゃん」

果南「あのさ、笑わないで聞いてほしいんだ。」

果南「こんなこと言うの普通じゃないって分かってるんだけど」

千歌「うん。」

果南「もしかしたら、この航海から生きて帰れないかもしれないと思うんだ。」

千歌「そんなこと言わないd「待って!」

果南「私の話を最後まで聞いてほしい。」

千歌「うん、……分かった。」

果南「死んで伝えられなくなる前に、後悔しないように今言っておこうかなと思って。」

千歌「?」

84: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:18:18 ID:P77LC6SI
果南「あのさ、千歌のこと……好きなんだ。」

千歌「うん、私も大好きだよ! 」

果南「違う、その"好き"じゃなくて」

果南「千歌が言ってるのは、"友達として好き"ってことでしょ」

果南「私が言ってるのは"恋愛感情としての好き"だよ。」


曜(ウソだ……ウソだよね? )

果南ちゃんの発言の意味を理解するのに時間はかからなかったけど、認めたくなかった。

85: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:19:12 ID:P77LC6SI
鞠莉(なにそれ……恋愛感情? )

千歌「え……どういうこと? 私たち女の子同士だよ? 」


鞠莉ちゃんや千歌ちゃんの反応は間違っちゃいない。

世の中には女の子が女の子を好きになる"レズビアン"というものがあるけれど、千歌ちゃはレズビアンがAqoursメンバー内にいるとは思っていないだろうし。

ましてや長年"友達として"接してきたから、急に恋愛感情だのなんだの言われても戸惑うだけだと思う。
だから、私は千歌ちゃんへの思いを言えなかった。

昔から恋人として接してたら、今更"好き"の違いに戸惑わなくて済んだのかもね。

86: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:19:51 ID:P77LC6SI
果南「ずっと千歌と一緒にいるけどさ、最近気づいたことがあって」

果南「私の千歌に対する思いは、単なる友達関係じゃないんだ。」

果南「千歌のことを考えたり、千歌を見てたりすると、心が痛くなって」

果南「千歌が曜とかと仲良くしてるのを見てると、すごく嫌な気分になってさ」

果南「千歌に恋してるんだよ…私は。」

千歌「心が痛くなる……恋……? 」

果南「そう、恋。」

87: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:20:24 ID:P77LC6SI
千歌「ごめん……果南ちゃんの気持ちに応えてあげたいけど、今はまだよく分からなくて…」

果南「…分かった。」

果南「告白だと受け取ってもらって構わないよ。」

果南「返事……待ってるから。」スタスタ


曜(なんで……なんで果南ちゃん…このタイミングでさ、そりゃ無いよ……)

88: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:21:46 ID:P77LC6SI
果南ちゃんがこっちへやってきた。

果南ちゃんが角を曲がると、果南ちゃんは眉間にシワを寄せた鞠莉ちゃんと涙目の私と出会った。


果南「……」

曜「……」

果南「……曜、ごめん」

曜「っ!!」ギリッ

鞠莉「果南……!! 」

果南「……」スタスタ



果南ちゃんの瞳は、輝いてた。

89: ◆32r/eU7DO2 2017/08/13(日) 23:22:19 ID:P77LC6SI
悔しい悔しい悔しい! もっと私がはやく気持ちを打ち明けるべきだった!
千歌ちゃんの隣のポジションを先に奪っておくべきだった!!


でもまだ、千歌ちゃんは果南ちゃんの気持ちに応えていない。千歌ちゃんが答えを出す前に、私も千歌ちゃんに気持ちを打ち明けなきゃいけない。


鞠莉「曜……ごめん、花丸と梨子待たせてるから、私はこれで」

鞠莉「…」スタスタ

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91: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 11:52:08 ID:njoaIrXc
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【医務室】

鞠莉「水持ってきたわよー」

梨子「誰が飲む? 」

花丸「ここはマルが」

鞠莉「いや、私が飲むわ。持ってきたの私だし。」

梨子「匂いはどんな感じ? 」

鞠莉「……」クンクン

鞠莉「無臭ね。」

92: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 11:53:16 ID:njoaIrXc
鞠莉「じゃあさっそく……」スッ

鞠莉「……」ゴクゴクゴク


梨子「あっそんな一気に…」

花丸「鞠莉ちゃん、一気に飲むのは……」

93: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 11:53:58 ID:njoaIrXc
鞠莉「……」ゴクゴク

鞠莉「……うっ」

鞠莉「おぇぇえっ!!おえええぇ!!あぇおおえええ!!」ビチャビチャ

鞠莉「おぇ……げぇええ!!」ビチャ

花丸「鞠莉ちゃん!! 」

梨子「大丈夫!? 」

94: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 11:54:48 ID:njoaIrXc
鞠莉「はぁ…はぁ……うっ…」

鞠莉「まっずい……!! 」

梨子「そ、そんなに……? 」

花丸「でももうこれしか飲み物は無いよ」

鞠莉「味に慣れるしかなさそうね……」

梨子「どんな味がしたの? 」

鞠莉「いや…味はしなかったけど」

鞠莉「その味の無さが逆にまずいというか」

花丸「ちょっと貸して」

95: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 11:55:46 ID:njoaIrXc
花丸「……」ゴク

花丸「……マルは飲めなくは無い…かな」

梨子「花丸ちゃん、私も」

梨子「……」ゴク

梨子「…うぇ、美味しくない」

花丸「もしかして鞠莉ちゃんの家って、結構豪邸だから、普段飲んでる水が美味しすぎるじゃない? 」

鞠莉「あー……なるほど。」

鞠莉「頑張って飲むしか無いか……。」

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96: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 11:56:19 ID:njoaIrXc
【外】

善子「どうしたの、千歌。」

善子「さっきから浮かない顔してさ」

千歌「あぁ……ちょっとね」

善子「もしかして恋愛でのトラブルかしら~? 」

千歌「…うん」

善子「えぇっ!? 冗談で言ったのに…。」

97: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 12:02:12 ID:njoaIrXc
千歌「ひとつ質問があるんだけど」

千歌「誰かから告白されて、自分は、その人のことじゃなくて他の人のことが好きだったりしたら」

千歌「善子ちゃんはどうする? 」

善子「えぇ…私、恋愛とかしたことないし…そんなリア充の悩みなんて分からないわよ」

98: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 12:02:42 ID:njoaIrXc
善子「あー…でもひとつだけ思ったのは」

善子「告白された人の気持ちを受け止めてあげるのは大事だと思う。」

善子「でも、自分の気持ちも大事にしなきゃいけないとも思う。」

善子「何かは諦めなきゃいけないと思う。」

千歌「諦める…か」

千歌「ちょっと、1人で考えてくるね。」スタスタ

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99: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 12:03:19 ID:njoaIrXc
曜「……」

曜「……」


スタスタ

曜「…! 」

足音が近づいてくる。咄嗟に涙を拭った。
この足音は……

100: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 12:03:54 ID:njoaIrXc
曜「あ、善子ちゃんか…」

善子「あれ、曜じゃない。ここで何してるの」

善子「壁にもたれて泣くなんて……。」

曜「あはは…泣いてるのバレてた…」

善子「そりゃあ、目の下が真っ赤だからね。すぐ分かるわよ」

101: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 12:04:25 ID:njoaIrXc
善子「で、どうしたの? 」

善子「あっ、分かった!」

善子「千歌に告白してフラれたのね! 」

曜「違うよ」

102: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 12:05:29 ID:njoaIrXc
善子「じゃあ何? 」

曜「……教えないよ、恥ずかしいし」

善子「そう。ま、辛くなったら頼ってね? 」

曜「うん、ありがとう」

103: ◆32r/eU7DO2 2017/08/15(火) 12:06:14 ID:njoaIrXc
善子「ほーら、元気出しなさいっての! 船長なんだから!! 」ギュウッ

曜「わわわっ///」ギュッ

善子「よーしよしよしよし」ワシャワシャ

曜「えへへ……元気でたでた! 」

善子「そ、なら良かった! んじゃ私はこれで」

スタスタ


曜「善子ちゃん、こういう時に案外面倒見良いなぁ」


その日は、魚が全く捕れなかった。

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104: ◆32r/eU7DO2 2017/08/22(火) 04:03:23 ID:mevAI26M
翌日、天気は曇り。食料が段々と無くなっているのが目に見えてきて、これじゃあいけないと網で魚を捕ることにした。

私と、果南ちゃんで。


曜「いくよ、せーの」

曜「よっ」バッ

果南「よっ」バッ

網を投げる。

105: ◆32r/eU7DO2 2017/08/22(火) 04:04:23 ID:mevAI26M
曜「…」

果南「…」

気まずいなぁ、と視線を海へ投げやる私の気持ちを無視して、果南ちゃんが話しかけてくる

果南「あの、さ」

果南「昨日のことなんだけど」

曜「あ、あぁはいあの事ね、うん。」

106: ◆32r/eU7DO2 2017/08/22(火) 04:06:31 ID:mevAI26M
曜「千歌ちゃんと両思いになれるといいね」ニッコリ

果南「…曜も千歌の事が好きなんでしょ?諦めていいの?」

曜「……」

曜「やっぱり果南ちゃんにはバレてたか、私の気持ち。あの時"ごめん"って言ってたのもやっぱそういう事だよね」

果南「まぁね、なんとなく分かるんだ。私と同じタイプの人」

果南「女の子を好きになっちゃうタイプ、ね。」

107: ◆32r/eU7DO2 2017/08/22(火) 04:08:05 ID:mevAI26M
果南「なんだか不思議なんだけどさ、私が"あ、この子も私と同じだな"って感じたの、曜と梨子なんだよね」

曜「えぇ、梨子ちゃんも!?」

果南「あー、これ言っていいかな……この前話した時に聞いたんだけど、梨子はレズビアンじゃなくてバイセクシャル。男の子も女の子も愛せるタイプ……らしい。」

曜「へぇ…知らなかった」

果南「千歌に最も近い、千歌を取り巻く人物3人が、同性愛者だなんて、ちょっとおかしな話だよね」

果南「だからこそ、負けてられないと思った。」

108: ◆32r/eU7DO2 2017/08/22(火) 04:09:47 ID:mevAI26M
果南「梨子は、千歌のことは諦めるって言ってた。けど、曜の事は分からなかった。直接 話を聞いてないからね。」

果南「生きて帰れるかも分からないこの状況なんだし、どうせなら曜に取られる前に告白しちゃえって感じで千歌に告白してみた。」

曜「してみたって……そんな軽いノリで……」


私は、果南ちゃんの軽いノリに負けたんだ。

109: ◆32r/eU7DO2 2017/08/22(火) 04:10:30 ID:mevAI26M
今更 千歌ちゃんに思いを打ち明けたところで、千歌ちゃんを悩ませてしまうかもしれない。

でも、千歌ちゃんが答えを出す前に私も告白しないと、千歌ちゃんを取られてしまうかもしれない。
私の気持ちは、千歌ちゃんへ迷惑をかけてまで、言うべきことなの?

そうこう考えてるうちに、千歌ちゃんに告白しない方が良いなと、昨晩 自分の気持ちに蓋をしてしまった。

110: ◆32r/eU7DO2 2017/08/22(火) 04:11:19 ID:mevAI26M
完 全 敗 北 。

果南ちゃんの勝ち。千歌ちゃんと幸せにね。せめてもの、千歌ちゃんが幸せでいてくれるなら、私はそれでもいいから。

果南「曜…どうかした……? 」

曜「ごめん、考え事してた!」

曜「うん、諦めるよ。千歌ちゃんのこと。」

曜「だって、私はもう海に恋してるから! 」グッ

果南「……そういうとこ、曜らしいね。」

111: ◆32r/eU7DO2 2017/08/22(火) 04:11:56 ID:mevAI26M
果南「さ、網はセットしたし、時間が来るまで皆のところに戻ろっか」

曜「うん、OK」


バイバイ、千歌ちゃん。
熟すのを待っていた初恋味のミカン、待ちすぎて、熟れすぎて、腐っちゃったんだよきっと。

112: ◆32r/eU7DO2 2017/08/22(火) 04:12:38 ID:mevAI26M
船室へ入る直前に、遠くに千歌ちゃんと梨子ちゃんが居るのを見かけた。
なんだか重い空気だったから、行くのはやめておく。

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113: ◆32r/eU7DO2 2017/08/24(木) 23:30:51 ID:pjylSqPE
千歌「梨子ちゃん……」ポロポロ

梨子「どうしたの…こんなに泣くなんて……」

千歌「あのね、よく分からなくなって」

梨子「分からない? 」

114: ◆32r/eU7DO2 2017/08/24(木) 23:31:54 ID:pjylSqPE
千歌「昨日、果南ちゃんに告白されたの」

梨子「そう、果南ちゃんに…。」

千歌「女の子を好きになるなんて、よく分からなくて」

千歌「でも、果南ちゃんが言ってたの」

千歌「私のことが好きで、心が痛くなる…って」

梨子「うん」

115: ◆32r/eU7DO2 2017/08/24(木) 23:32:45 ID:pjylSqPE
千歌「心が痛くなるって…ギューって感じだよね? 」

梨子「うん、そんな感じだよ」

千歌「なら、私……わたし!」

千歌「曜ちゃんのことが好き……ってこと!? 」ポロポロ

梨子「…うん。」

千歌「!! 」

千歌「じゃあ…どうすれば……」ポロポロ

116: ◆32r/eU7DO2 2017/08/24(木) 23:33:48 ID:pjylSqPE
千歌「果南ちゃんは私のことが好き、でも私は曜ちゃんのことが好き」

千歌「果南ちゃんの告白を断ったら、果南ちゃんが可哀想だよ」

千歌「しかもこんな状況なのに、ギクシャクするのは嫌だよぉ……」

梨子「んー……もしも曜ちゃんと千歌ちゃんが両思いだったら?」

千歌「両思い……曜ちゃんも女の子が好きってこと…?」

梨子「そ、だって果南ちゃんがレズなんだから、曜ちゃんがレズでもおかしくないでしょ? 」

千歌「…そっか、確かに」

117: ◆32r/eU7DO2 2017/08/24(木) 23:34:32 ID:pjylSqPE
梨子「曜ちゃんと千歌ちゃんが結ばれたなら、果南ちゃんは喜ぶと思うよ。」

梨子「その逆も然り、千歌ちゃんと果南ちゃんが結ばれたとしても、曜ちゃんなら喜ぶと思うよ。」

千歌「え~、何それ! 」

千歌「どうしよ~!! 」

梨子「ふふ、それを考えるのは千歌ちゃんの役目だよ。」

118: ◆32r/eU7DO2 2017/08/24(木) 23:35:08 ID:pjylSqPE
千歌「んー、曜ちゃんのことでドキドキしたことは今までにあった」

千歌「でも、告白された後だからかな、果南ちゃんのことを考えてもドキドキする」

千歌「どうしよう……」

千歌「あ、果南ちゃんは千歌のこと好きだって確定してるんだ」

千歌「ってことは、果南ちゃんとは滑り止めって感じだね。曜ちゃんに振られても、どっちみち果南ちゃんとは付き合える!」

119: ◆32r/eU7DO2 2017/08/24(木) 23:35:42 ID:pjylSqPE
千歌「じゃあ、曜ちゃんに告白して、断られたら果南ちゃんの元へ行こう! 」

千歌「よし、我ながら良い作戦だよ! 」タッタッタッ

梨子「応援してるよ、千歌ちゃん。」ボソッ

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120: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 17:23:34 ID:K6G5qZ3k
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千歌「あ、曜ちゃー…」

千歌(誰かと居る!? )


善子「よーしよし、辛かったわね~」

曜「うぅ……グスッ」ポロポロ


千歌(善子ちゃん……? )

千歌(曜ちゃんへの告白は、今はやめておこうかな。)

千歌「……」スタスタ

121: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 17:25:20 ID:K6G5qZ3k
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善子「うんうん、辛かった辛かった」

曜「うん!」ポロポロ

善子「んでもさぁ、千歌のこと諦める必要は無いんじゃないの? 」

曜「え? 」


善子「千歌が果南のことをフッちゃう可能性もあるでしょ? 」

曜「…うーん……確かにその可能性もあるかもしれないけど……」

122: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 17:27:37 ID:K6G5qZ3k
善子「それに、今は恋愛どうのこうのやってる暇なんて無いと思うけど……船長さん? 」

曜「あ、ごめん……」


曜「そうだね、船長なんだから、恋愛は出来る限り考えないようにする」



口ではそう言うけどさ、どうしても気になるよ……


あ……もしも果南ちゃんと千歌ちゃんが付き合ったとしても、別れるように仕向ければいいじゃん



そうだね、うん、そうしよう


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123: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 17:28:49 ID:K6G5qZ3k
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夜…


各々の好きな場所で、残りわずかしかない食料をむさぼっていた。

甲板には私と善子ちゃんと黒澤姉妹、そして離れたところに果南ちゃんが1人。

千歌ちゃんは多分室内かな?
鞠莉ちゃんと梨子ちゃんと花丸ちゃんは医務室で一緒。



9人で一緒の場所で食べよう!なんていう雰囲気が無かった。

124: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 17:30:11 ID:K6G5qZ3k
善子「残りの食料ってどれくらいだったっけ」


曜「花丸ちゃんが持ってきた 柿の種1袋 と じゃがいもチップス の Sサイズ が1袋」

曜「そして今私たちが食べてるこの 食パン! 」

曜「以上であります! 」


善子「きっつ!もう全然残ってないじゃないのよ! 」

125: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 17:31:48 ID:K6G5qZ3k
ルビィ「うぅ…お腹空いたよぉ……」

ダイヤ「……」

ダイヤ「ルビィ、お姉ちゃんの分も食べていいわよ」

ルビィ「え、いいよ……お姉ちゃんが食べて」

ダイヤ「大丈夫だから、さぁ。」

ルビィ「……分かった、ありがとう」


ダイヤさんを断っても無駄だろうなぁと、ルビィちゃんは分かっているみたいで。

さすが姉妹、お互いのことをよく知ってる。



ダイヤ「果南さんも、こっちへ」

果南「……いい、今は1人にさせて」

ダイヤ「……分かりました」

126: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 17:33:32 ID:K6G5qZ3k
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それから1週間後…

私と千歌ちゃん、果南ちゃんの間では何もなかった



けど……最悪の出来事が二つ


1つ、食料がついに無くなってしまった。網にも魚は一匹もかかっておらず。



2つ、花丸ちゃんの容態が急変した。

127: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 20:54:06 ID:K6G5qZ3k
【医務室】

花丸ちゃんの様子を八人で見守る。


1番近くで花丸ちゃんの手を握っているのは鞠莉ちゃん、反対側の手を梨子ちゃん。

花丸ちゃんの顔を覗き込むようにルビィちゃんと善子ちゃんが。

涙の止まらないルビィちゃんを後ろから抱きしめるダイヤさん。


私と千歌ちゃんと果南ちゃんは、ちょっと離れて……ゆっくりと、目を逸らさずに、事態を見守る

128: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 20:55:19 ID:K6G5qZ3k
花丸「ガハッゲホゲホッ!! 」

ツー…と花丸ちゃんの口から血が垂れる。



梨子「血……! 」

花丸「ゴホ!ゴホ!ゲェ……オゲェェ!! 」

鞠莉「誰か…袋!! 袋持ってきて! 」

ダイヤ「分かりました! 」


花丸「ゲェ…うげぇぇえ!! 」


びしゃびしゃと、吐き出したものが飛び散る。


鞠莉「花丸!! 」

ルビィ「花丸ちゃああん!! 」

善子「ズラ丸……」

129: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 20:56:27 ID:K6G5qZ3k
花丸「グェ……あ、あのね……ウッ……」


花丸「医務室…のね……引き出し、2番目の」

花丸「よろしく……」

花丸「ゴホ……あはは、ちょっとキツい……」

花丸「スゥ………」


花丸ちゃんが目を閉じる。


鞠莉「……今は、寝かせてあげましょう」

130: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 20:58:11 ID:K6G5qZ3k
梨子「……!? 」


梨子「ちょっと待って、うそ……」

梨子「花丸ちゃん、花丸ちゃん!! 」ペチンペチン


花丸「……」



鞠莉「ちょ…梨子、叩くのはやめてよ」


梨子「花丸ちゃんの手が…手の力が急に無くなったの! 」

鞠莉「言われてみれてば……!! 」

鞠莉「花丸!どうしたの、さっきみたいに強く手を握ってみせてよ! 」

131: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 20:59:25 ID:K6G5qZ3k
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曜「……まさか」



曜「死んだ?」




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132: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 21:01:51 ID:K6G5qZ3k
千歌「いやいや、まさかそんな……ねぇ」



ダイヤ「どうかしましたか!? 」ダッダッダッ

果南「花丸が、死んじゃったのかもしれない」


ダイヤ「はぁ? 」

鞠莉「さっきから全く動かないの!! 」

ダイヤ「はぁ、寝てるだけじゃないんですか? 」

千歌「うんうん」



ダイヤ「誰か、懐中電灯はお持ちになって? 」

曜「あ、そこの机の上にあるよ」

133: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 21:02:57 ID:K6G5qZ3k
ダイヤ「じゃあちょっと……失礼しますわ…」スッ



ダイヤさんが花丸ちゃんの まぶた をこじ開け、懐中電灯の光で花丸ちゃんの目を照らす。



ダイヤ「そんな…!! 」

ダイヤ「し、死んで……」クラッ

バタッ

鞠莉「ダイヤ!! 」

善子「死んだ……? ズラ丸が……!? 」

曜「そんな…急に……」

134: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 21:04:07 ID:K6G5qZ3k
千歌「どうして死んだと言いきれるの!! 」

果南「千歌、刑事ドラマとか見たことない? 」

千歌「へ?……ない。」

135: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 21:05:48 ID:K6G5qZ3k
果南「人間の目は、強い光を見ると、瞳孔が小さくなるように出来てるの。」


果南「警察の人とかは、死んでるか確認をするため、目に光を当て、反応を確認することがあるの。」

果南「ダイヤはそれをやって……おそらく花丸の瞳孔には変化が無かったんだと思う。」


千歌「そんな……花丸 ちゃん……? 」



ルビィ「うわあああああああああ!! 」

136: ◆32r/eU7DO2 2017/08/27(日) 21:08:37 ID:K6G5qZ3k
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花丸ちゃんは死んだ。



遺体を船内に残しておくと、肉が腐ってウジやハエが湧いてしまうため、水葬することにした。


花丸ちゃんを水に投げ入れる。
ジャボンと音が鳴ると、すぐに花丸ちゃんは見えなくなった。


花丸ちゃんなんて最初からパーティに参加してなかったんじゃないかと考えたくもなるけれど、確かに花丸ちゃんはついさっきまで、ここで、生きていた。


そして、死んだ。


投げ入れた辺りの海面が、赤く染まっていることが何よりの証拠だ。


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137: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 18:59:46 ID:a.Ls19KE
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花丸ちゃんの遺言をたよりに机の2番目の引き出しを開ける。ここには航海日誌が入っている。


航海日誌は出航前から引き出しに入れていたものだけど、なんで花丸ちゃんがそれを指定したんだろう…

という疑問はすぐに晴れた。中身を見てみると、出港した日から、今日までに起こった出来事がキチンと書き記されていた。


多分、花丸ちゃんが偶然引き出しから見つけて、今まで日記をつけていてくれたんだと思う。
普段 航海日誌なんて触らないし、ずっと気がつかなかった。

138: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:01:18 ID:a.Ls19KE
良い天気にも恵まれて、みんなでワイワイとお話しながら過ごした日。
みんなで釣りをして、善子ちゃんがシーラカンスを釣ってしまったこと。
…イルカが船にぶつかってエンジンが壊れてしまったこと。
オールで漕いでも戻れなくて、アメリカへ向かうのを目指したこと。
飲料水が尽きて、雨水を飲むことにしたこと。
鞠莉ちゃんと梨子ちゃんと一緒にパンを食べたこと。


そして……花丸ちゃんが書いた最後のページの隅っこには " マルは皆のことが大好きだよ!" という一言が添えられていた。

139: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:02:26 ID:a.Ls19KE
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曜「"大好きだよ" かぁ……」




花丸ちゃんは、自分の死期を悟っていたのかもしれない。死ぬ前に、どうしてもみんなに伝えたかった言葉が "大好き" なんだ。

でも、私たちが少しずつギクシャクし始めて、花丸ちゃんは医務室で寝たきりになってしまって……話す機会が無かったんだ。




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140: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:04:12 ID:a.Ls19KE



"大好き" この言葉の表す真意は何?感謝を伝えたかったのか、それとも何も考えずに書いたのか。
"私はみんなのことが大好きなんだ、だからみんなも他のAqoursメンバーのことが好きだという気持ちを思い出して!" と伝えたかったとしたら花丸ちゃんは相当頭のキレる人物だね。


花丸ちゃん自身が "大好きだよ" と告げて死ぬことで、他のメンバーにとって忘れられない言葉になる。他のメンバーの頭に"大好き"という愛情のこもった言葉を植え付ければ、殺気立った環境にはならないと花丸ちゃんは考えたんだ。




自分の死期が近づいてると自覚している中で、それでもまだ仲間同士の絆を戻そうとすることを考えていたということになる。

そう、それこそ "生き延びたい" という気持ちよりも強く、強く願っていたのだろう。



花丸ちゃんは自分の死を受け入れていた。本当に強い子だと思う。




航海日誌は千歌ちゃんが、継ぎたい と言い出したので千歌ちゃんが受け継ぐことになった。


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141: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:05:24 ID:a.Ls19KE
私達に悲しむ暇なんてない、今もアメリカを目指して航海をしているのだから。
でも、例え生還出来たとしても花丸ちゃんが居ないというのは、あまりにも大きく辛いこと。


船内の雰囲気は、花丸ちゃんの願いも虚しく、更に更に重くなっていった。

142: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:06:41 ID:a.Ls19KE
【医務室】


鞠莉「……」ギュルルー

鞠莉「……お腹の虫はいつ死ぬのかしらね 」

梨子「もうかれこれ3日、何も食べてないもんね……」

鞠莉「私は4日…」

鞠莉「花丸にあげてたから……」

梨子「あ、そっか…」


ガチャッ


梨子(……ダイヤさん)

ダイヤ「ふふ、お二人共ごきげんよう」

ダイヤ「食べ物をお持ちではありませんか? 」

143: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:08:41 ID:a.Ls19KE
鞠莉「ダイヤ……悪いけど、私たちの方が食べ物を求めたいくらいよ……」


ダイヤ「あーら、すみません!これは失礼しました♪」

ガチャリ


梨子「ダイヤさん、やっぱり花丸ちゃんが亡くなってからおかしいよね? 」

鞠莉「えぇ。……今までのダイヤとはなんか違う」

鞠莉「花丸の件の時に、ダイヤ…気を失って倒れたじゃない? 」

鞠莉「あの時にどうやら強く頭を打ったみたいで……」

鞠莉「この状況であそこまで明るいのは、はっきりいって異常だと思う。」

144: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:10:07 ID:a.Ls19KE
鞠莉「この状況であそこまで明るいのは、はっきりいって異常だと思う。」

梨子「見るかんじ、花丸ちゃんの死と、頭を打った衝撃で頭がおかしくなっちゃったみたいね……。」

鞠莉「そうね……ほんと、勘弁してほしいわ………フゥ……人が空腹で、今にも力尽きそう…だってのに。」

梨子「……同意。」



梨子「……水で空腹をごまかしましょうか」



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145: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:11:42 ID:a.Ls19KE


ルビィ「……最近のお姉ちゃん、ちょっと怖いよ……? 」ボソッ

ダイヤ「あら、そんな怖い顔でもしてますの? 」

ダイヤ「ちょっと鏡を見てきます」スタスタ



ルビィ「花丸ちゃん、今元気かなぁ…」

ルビィ「今頃 お家でまんじゅうでも食べて笑ってたりして、ふふ」

ルビィ「花丸ちゃんは今日は来なくて正解だったよ。海で遭難するはめになっちゃうだなんて、誰も想像してなかったし。」

146: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:12:57 ID:a.Ls19KE


善子(ルビィ……? )

善子(なんかちょっと変……大丈夫かしら)スタスタ

善子「ルビィ、大丈夫? 」

ルビィ「あ、善子ちゃんだ! 」


善子「ズラ丸が死ん」

ルビィ「 死んでなんかないよ!! 」


善子「!! 」

ルビィ「なんでそんなこと言うの、善子ちゃん! 」

善子「ルビィ…あんた………本気…? 」


ルビィ「本気だよ! 」

147: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:14:47 ID:a.Ls19KE
ルビィ「今日、花丸ちゃんがパーティに参加出来なかったからって、死んだなんて、いくらなんでも酷いよ! 」


善子「えっと……ごめん……」

善子「私、お邪魔だったみたいね」スタスタ




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148: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:16:23 ID:a.Ls19KE
【大部屋】


曜「今日も釣れなかったね……なにも。」

千歌「うん……」


曜「あのさ、千歌ちゃん……」

千歌「えっ、なに? 」

曜「花丸ちゃんが亡くなって……すごく怖い……! 」ポロポロ

曜「目の前にあるものが全部、無くなっちゃう気がして……! 」ギュッ

149: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:18:08 ID:a.Ls19KE

千歌「曜ちゃん……」

千歌「大丈夫だよ、きっと。」ギュッ


千歌( あぁ、やっぱり私は曜ちゃんのことが好きだ )

千歌( 果南ちゃんよりも……。)

千歌(果南ちゃんには申し訳ないけれど……曜ちゃんに告白しよう……)グッ


千歌「あのね、曜ちゃ」


ガチャッ


果南「千歌……曜……」

果南「あはは…ごめん、なんか邪魔しちゃったみたいだね」

千歌「ううん、邪魔なんかじゃ……」

曜「……」

邪魔だよ、千歌ちゃん。千歌ちゃんは せっかく私のことを慰めてくれてたのに……。

150: ◆32r/eU7DO2 2017/08/28(月) 19:19:05 ID:a.Ls19KE
果南「んー、でもやっぱごめん。気が変わったから、外で釣りでもしてくる」


ガチャリ


千歌「曜ちゃん……怖い顔してどうしたの? 」

曜「へっ?あっ、ううん、ちょっと眠くなっちゃって…! 」


千歌「そっか……船長って大変そう。無理しないでね? 」

曜「うん、ありがとう 」

曜「私、そろそろ操縦室に戻るね。」


千歌「あ、うん……」

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151: ◆32r/eU7DO2 2017/08/29(火) 03:42:41 ID:JyQfqDJI
【甲板】



果南「ふぅ……今日も全然釣れないなぁ……」

鞠莉「果南」スタスタ


果南「あ、鞠莉。凄い やつれてる けど……大丈夫……? 」


鞠莉「あはは、へーきへーき! 」

鞠莉「ちょーっと……ハングリーだけど、水でごまかしてるから」

152: ◆32r/eU7DO2 2017/08/29(火) 03:46:36 ID:JyQfqDJI


果南「水って……あれ雨水でしょ。色んなバイ菌とか入ってるんだから、あんまり飲みすぎない方がいいと思うけど」



果南「花丸も、多分雨水の菌でやられたよね。」

果南「花丸は喘息持ちで病弱だったから、更に雨水のダメージがでかかったんじゃないかと私はにらんでる。」

鞠莉「なら、尚更大丈夫よ。私は持病は無いし……! 」ガタガタ


果南( …! )

果南「脚、震えてるよ」


鞠莉「あは……」ガクッ

果南「鞠莉!! 」ダッダッダッ

153: ◆32r/eU7DO2 2017/08/29(火) 03:48:46 ID:JyQfqDJI
鞠莉「ハァ……ちょっと……力が入らない……」

鞠莉「人生で……初めてこんなにお腹が空いた……」

鞠莉「……果南のところへ来たのには、理由が2つあるの」

果南「ん、なに? 」

154: ◆32r/eU7DO2 2017/08/29(火) 03:50:13 ID:JyQfqDJI
鞠莉「千歌っちが、果南よりも曜が好きなの……自覚してるよね? 」

果南「……っ」

鞠莉「分かってるなら、どうして、千歌っちに告白したの?負け戦と最初から分かっているでしょう? 」


果南「千歌が曜のこと好きなのくらい分かってたよ……だけど、黙って千歌を取られるのは嫌……! 」

果南「それに、もしかしたら私達は全員死んじゃうかもしれない……だったら、死ぬ前に思いきって告白しようかなって。」


鞠莉「そうなのね…。 果南がなんで告白したのか、真意を知りたかったの。」


鞠莉「あともうひとつは……」

155: ◆32r/eU7DO2 2017/08/29(火) 03:51:43 ID:JyQfqDJI
鞠莉「ダイヤを、果南に監視していて欲しい」


果南「え?どうしてダイヤを……!? 」

鞠莉「なんか、今までのダイヤと違うのよ。」

鞠莉「何をしでかすかも分からないし、危ないことしないように見張っていてほしいの。」

鞠莉「ほら、私……もうろくに動けないからさ……」


果南「……分かった。」

果南(船長の曜は忙しいし……他に人間を抑えられる力があるのは、私だけだもんね……)

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156: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:27:03 ID:2k6AA6BQ
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それから2日後の朝……


船内に響いた梨子の悲鳴で、他メンバーが目を覚ました。



【甲板】


千歌「どうしたの梨子ちゃ…」

梨子「鞠莉ちゃんが……」

157: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:28:30 ID:2k6AA6BQ


鞠莉ちゃんが、水の溜まったバケツに顔を突っ込んで息絶えているのが発見された。

梨子ちゃん曰く、みんなよりも早く起きたのだが、周りを見渡すと鞠莉ちゃんが見当たらないことに気づいたらしい。

そして、甲板の方でついさっき発見した……と。


果南「鞠莉……」

158: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:29:46 ID:2k6AA6BQ

千歌「ひぃぃっ!! 」タッタッタッ

ダイヤ「梨子さん…まさかあなたが鞠莉さんを殺した……? 」


梨子「うぅ……違います……グスリ 」

ダイヤ( 怪しいですわ…… )

159: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:30:42 ID:2k6AA6BQ
ダイヤさんが梨子ちゃんのことを怪しがっているけど、梨子ちゃんが鞠莉ちゃんを殺すなんてことは絶対にしない。


多分 鞠莉ちゃんは、餓死だ。


空腹に耐えきれず、夜中1人で起きて、水を飲もうとしたところで力尽きたんだ。


大きく開いた鞠莉ちゃんの口が、乾きを訴えているように私は感じた。

160: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:31:47 ID:2k6AA6BQ
ルビィ「…うぷ……おぇ……」

ルビィ「おぇえ! おぇぇええ!! 」


ルビィちゃんが吐いても、口からは何も出てこない。



善子「大丈夫、大丈夫……必ず生きて帰れるから、必ず…。」

千歌「み、みんな……こ、こういう時こそ明るくしなくちゃ……!! 」

曜「千歌ちゃん……無理だよ、この状況じゃあ。」

千歌「…そうだよね……ごめん。」




鞠莉ちゃんを水へと投げ入れた。7人でやっとのことだった。

161: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:33:29 ID:2k6AA6BQ


千歌「……そうだ、日記…」

千歌「花丸ちゃん死亡は書いたから………その次のページに、鞠莉ちゃん死亡…と」

千歌「死亡……。」




嗚呼、何人生きて帰れるのだろう。

この船は、アメリカまでどれくらい近づいたのだろう。


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162: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:34:33 ID:2k6AA6BQ

【医務室】

梨子「…グスッ……」


果南「辛いね……」


梨子「うん……」


果南「…そうだ、」

果南「ちょっと気分転換にさ、私の相談にのってくれない?」

梨子「え、えぇ。私で良ければ…。」

163: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:35:26 ID:2k6AA6BQ

果南「今こんな話するのもなんだけどさ、まぁ気を紛らわせたいってだけだから、あんまり変に思わないでね」


果南「千歌って、曜のことが好きでしょ? 」

梨子「……うん」

果南「どうやったら、千歌を私のものに出来るのか……考えてみたんだけど思いつかなくってさ」

164: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:36:46 ID:2k6AA6BQ

梨子「質問の答えになってるかは分からないけれど、」

梨子「……千歌ちゃんは今、曜ちゃんと果南ちゃんの間で揺れ動いてるよ」

梨子「果南ちゃんの告白によって、千歌ちゃんは曜ちゃんへの想いを自覚した。」


梨子「もし自分が曜ちゃんと付き合えば、果南ちゃんが悲しんでしまう」

梨子「その逆、果南ちゃんと付き合えば曜ちゃんが悲しんでしまう。」

梨子「どっちにしろ誰かが悲しんでしまう……っていうことが千歌ちゃんにとっては凄く悩ましいことみたい。」

165: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:37:39 ID:2k6AA6BQ


梨子「果南ちゃんと曜ちゃんがギスギスしてたら、千歌ちゃんは迷いに決断を下しにくいと思う。」

梨子「だから、私は 果南ちゃんと曜ちゃんには仲良くしていてほしい。」


梨子「果南ちゃんのアドバイスには答えきれてないけれど、千歌ちゃんの幸せを願うなら、協力して欲しいな。」


果南「あはは……厳しいこと言うね」

166: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:38:22 ID:2k6AA6BQ

果南「でも梨子の言いぶんも分かるよ。私と曜が喧嘩してたら、千歌の肩身が狭いもんね。」

果南「それに、今は2人も亡くなって……こういう状況だし、出来る限り雰囲気悪くしないように頑張ろうと思う」

果南「ありがとう、梨子。なんか少しだけ気が楽になったよ」ギュッ

梨子「へっ、あっ/// 」

167: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:39:19 ID:2k6AA6BQ

梨子「果南ちゃん、強いね」

果南「ん? 」

梨子「親友の鞠莉ちゃんが亡くなったというのに、笑顔でいられる精神力……」


果南「……けっこう、無理して笑顔を作ってるよ。本当は今にでも泣き出したい気分だよ。」


梨子「私はもう沢山泣いちゃった……医務室に一緒に居た2人が亡くなってから、次に死ぬのは私なんじゃないかって、ずっと怖くて……。」


果南「大丈夫だよ、私が、もう誰も死なせないから。」


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168: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:40:41 ID:2k6AA6BQ

【大部屋】


善子(気まずい……)

ダイヤ「~♪」


.

169: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:41:30 ID:2k6AA6BQ

ダイヤ「善子さん?」

善子「えっ、は、はいっ!! 」

ダイヤ「さっきからうかない顔ですけど、大丈夫ですか? 」

善子「えっ、あー、うん!大丈夫ー、あはは」



善子(はっきりいって、ダイヤさんと2人きりが怖いのよ…!! )


善子(だってこの人、何するか分かんないじゃない!! この状況で、ここまで陽気なのは明らかに正気じゃないでしょ……)

170: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:42:23 ID:2k6AA6BQ

ダイヤ「気分転換に、相談に乗ってくれませんか? 」


善子「えっ、えっと……OK~! 」

善子「このヨハネに、どーんと任せなさい!! 」

善子(私の中のヨハネ…頼む、この場を何とか乗り越えさせてくれたまえ……!!)

171: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:42:54 ID:2k6AA6BQ

ダイヤ「気分転換に、相談に乗ってくれませんか? 」


善子「えっ、えっと……OK~! 」

善子「このヨハネに、どーんと任せなさい!! 」

善子(私の中のヨハネ…頼む、この場を何とか乗り越えさせてくれたまえ……!!)

172: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:43:54 ID:2k6AA6BQ

ダイヤ「実はあまり料理をしたことがなくて、少し困ってまして」

ダイヤ「魚や牛などをゲットしたとして、どうやって料理すればいいんですの? 」


善子「え、えーっとぉ……」

善子「まぁとりあえず、魚だったら、頭をまずは切り落とすかな~」

善子「それで内蔵を抜いて、開いて刺身に! 」

善子「牛は…ごめんだけど、市販の肉しか使ったことないから分からないわ。」

173: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:44:48 ID:2k6AA6BQ

善子「もしかして、ダイヤさん…魚釣ったの? 」

善子「まさかそれをみんなに隠して独り占め~とか!? 」

ダイヤ「ふふふ、まさか…まだ釣ってませんよ」

ダイヤ「それに、食料が手に入ったら独り占めなんてせずに、みんなで共有した方がいいでしょう? 」

善子( あぁ良かった、異常だと思ってたけど、そういう倫理観はしっかりしてるみたいね)

174: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:45:45 ID:2k6AA6BQ


ダイヤ「もうひとつ、相談してもいいかしら? 」

善子「えぇ、どうぞ」


ダイヤ「ルビィの様子が最近変なのですが、同じ1年生として……何か話とかを聞いたりしませんでしたか? 」

善子「あー、えっとルビィは……」


善子「話せなかった。花丸が死んだことを受け入れてないみたいで、現実逃避中……なのかな」

ダイヤ「なるほど……。花丸さん、鞠莉さんの死は、確かに受け入れ難いことですものね…。」

175: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:47:05 ID:2k6AA6BQ


ダイヤ「姉として見過ごすわけにもいかないですし、今からルビィと話をしてきます」スクッ


善子(ふぅ…なんとか乗りきった……!!)

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176: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:48:40 ID:2k6AA6BQ

ガチャッ


【甲板】


ダイヤ「あら、果南さん」

果南「ダイヤ、どこか行くの? 」


ダイヤ「えぇ、ルビィのところに」

果南「私もついて行ってもいい? 」


ダイヤ「構いませんわ」


スタスタ

177: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:49:47 ID:2k6AA6BQ


果南「ダイヤ! 」


ダイヤ「なんですの? 」

果南「妙な真似……しないでよ? 」

ダイヤ「…妙な真似も何も、妹の様子が心配で話をしに行くだけですわ」ニッコリ

果南「……」

ダイヤ「さぁ、行きましょう」スタスタ


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

178: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:50:35 ID:2k6AA6BQ

ダイヤ「ルビィ、具合が悪そうだけど大丈夫? 」

ルビィ「あ、お姉ちゃん……」


果南(ルビィのおでこ……酷い傷…!!)

ダイヤ「酷い血……!! 頭突きでもしたのですか? 」

ルビィ「……」コクッ


果南(現実逃避した……のかな? )

果南(壁についた血が、何よりの証拠だね…)

179: ◆32r/eU7DO2 2017/08/30(水) 23:52:18 ID:2k6AA6BQ


ルビィ「花丸ちゃんは死んだんでしょ…!? 」

ダイヤ「……えぇ。」

ルビィ「鞠莉さんも死んだんでしょ…!? 」

ダイヤ「えぇ。」


ルビィ「だったらルビィも死ぬ!! 」

ルビィ「こんな場所居たくない!! 」

ルビィ「花丸ちゃんが寂しがってる!! 」ガンガン


ダイヤ「こらっ、ルビィ!! やめなさい!! 」

果南(とても見てられないよ……こんなの)

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

180: ◆32r/eU7DO2 2017/09/03(日) 01:50:06 ID:N5fJTRKo

【操縦室】

ガチャッ


梨子「あ、千歌ちゃん、曜ちゃん、ここにいたんだ」


千歌「あっ、梨子ちゃんだ! 」

曜「おっはヨーソローー! 」ビシッ



梨子ちゃんがやってきた。学生時代の、いつもの光景が戻った感じがしてちょっぴり嬉しい。

スクールアイドルを始めた時も、3人で笑いあってたね。

181: ◆32r/eU7DO2 2017/09/03(日) 01:51:23 ID:N5fJTRKo

梨子「二人とも、どうしてそんなに明るいの……? 」

千歌「あー、いやぁなんか、そのー」

曜「ほら、みんな凄く暗いでしょ? 」


曜「だから、外の世界とは隔離された、この操縦室で千歌ちゃんと現実逃避してるっていうか」

曜「無理にでも明るい空間を作ると、現実を見ずに済むから。」


梨子「なるほど…。どうりでこの部屋に入った瞬間、なんか気が楽になったんだ。」

182: ◆32r/eU7DO2 2017/09/03(日) 01:52:21 ID:N5fJTRKo


梨子「2人とも、付き合ったりしないの? 」


千歌「えぇぇっ!? なに急に!! 」

曜「ないない!付き合ってないから!! 」


梨子「なんだか、二人とも一緒にいるのが似合ってるなーって思ってさ。ちょっとした冗談」


千歌「んもー!梨子ちゃんってば~! 」

曜「う、うんうん!私と千歌ちゃんが付き合うだなんてそんなぁ!ないない!! 」


千歌(えっ……)


千歌ちゃんが隣にいるから、恥ずかしさのあまりに梨子ちゃんの意見を否定してしまった。

183: ◆32r/eU7DO2 2017/09/03(日) 01:53:22 ID:N5fJTRKo


千歌(これ、遠まわしにフラれたようなもの……? )


曜「千歌ちゃん……どうかした? 」

千歌「あっ、ううん。なんでも。」


千歌「梨子ちゃんは、彼氏とかはいないの?」

梨子「ううん、いないよ」

梨子「そもそも恋愛する暇なんて、今の私には無いよ」

梨子「色んなアーティストさんから、作曲が来てて、自慢じゃないけど忙しいのよ」

184: ◆32r/eU7DO2 2017/09/03(日) 01:54:18 ID:N5fJTRKo

曜「ほうほう、どんな人から依頼を? 」

梨子「有名どころだと、天才ピアニスト集団〇〇とか、幽体離脱アイドルの✕✕とか」

千歌「うわ、その人たち知ってる。よくテレビに出てる人達じゃん」


梨子「芸能人から依頼が来たって、前にも言ったと思うんだけど……」

曜「あっはは…ごめん、忘れてました」

千歌「同じく」

185: ◆32r/eU7DO2 2017/09/03(日) 01:55:52 ID:N5fJTRKo


梨子「2人は最近何してたの? 」


曜「ずーっと、漁! 」

曜「魚が捕れなければ文句、捕れたとしても褒められも、感謝もされない……みんなが思ってるよりは厳しい世界。」

曜「食料があるのは当たり前だなんて思ってたけど、漁を初めてから、今こういう状況になってから、食べ物があるのが当たり前ではないと実感した。」

曜「だけど、"食料があるのは当たり前"にするのが、私の役目かな……って思う。頑張りたい。」

梨子「…応援してるよ。」

186: ◆32r/eU7DO2 2017/09/03(日) 01:56:37 ID:N5fJTRKo

梨子「千歌ちゃんはどんな感じ? 」


千歌「バイトかけもち、アパートで一人暮らしだよ」

千歌「大学行く時に借りた奨学金を返済する必要があるんだけど、バイトひとつじゃお金が足りなくて……」

梨子「……それは辛いわね」


千歌「はいはい!暗くなっちゃった!!明るくしよ!! 」パンパン

梨子「うん、ごめん暗くして」

187: ◆32r/eU7DO2 2017/09/03(日) 02:01:25 ID:N5fJTRKo

曜「今日はお話してたい気分なんだけど、明日は みんなで久しぶりに釣りでもしない? 」

曜「もう魚なんて捕れないって、諦めちゃったけど……やっぱりこのまま餓死するよりはマシかなって」

千歌「ん、やりたい」

梨子「善子ちゃんがまたシーラカンス釣ってくれないかなぁ」

曜「よーし、じゃあ私もシーラカンス狙う! 」


千歌「じゃあ私はマンモスを! 」

梨子「千歌ちゃん、マンモスは海にいないから」クスッ

千歌「あれ、そーなの? 」

188: ◆32r/eU7DO2 2017/09/03(日) 02:02:15 ID:N5fJTRKo


寂しさや空腹を紛らわすため、3人での談笑は深夜まで続いた。

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189: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:27:52 ID:DbSOQzH.

翌朝……


【甲板】


様子のおかしい黒澤姉妹は放置して、私と千歌ちゃんと梨子ちゃん、そして果南ちゃん、善子ちゃんの5人で釣りを始めた。

私と果南ちゃんは、網を引っ張る程の力が残って無かったので、釣りをやることに


.

190: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:28:48 ID:DbSOQzH.

千歌「釣らなきゃ、死ぬ……!!」

善子「シーラカンス!こーーーい!! 」

梨子「今度こそ、魚を釣るわ」

曜「流石に今日くらいは釣れるでしょ」

果南「とりあえず大物じゃなくて小魚でも、釣れたら捕っておこう。」


……



善子「全然釣れない……」

曜「こんなに沖に出てるのに……」

191: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:30:08 ID:DbSOQzH.

梨子「ん……ちょっと、これってもしかして……」グイッ


曜「もしかして、かかった!? 」

梨子「…っ、かもしれない」

曜「大丈夫?重かったら変わるよ! 」


梨子「大丈夫、いける……!! 」

ダイヤ「……」スタスタ

果南「ダイヤ、丁度今、梨子が魚を釣りそうなところなんだ」

192: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:31:05 ID:DbSOQzH.

曜「梨子ちゃん、今! リール巻いて!! 」


梨子「えっ、分かった…!! 」ガーッ


ザパァッ


千歌「魚だ!! 」

曜「果南ちゃん、網! 」

果南「よっ! 」

善子「ナイス! 」


梨子「釣れた…!! 」

193: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:32:08 ID:DbSOQzH.

梨子「これ、なんて魚? 」


曜「これは…アジだね」

千歌「やった!アジって、食べれるやつじゃん!! 」


ダイヤ「梨子さん」

梨子「はい? 」クルッ


.

194: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:33:33 ID:DbSOQzH.
.




木刀で叩かれたスイカのように、梨子ちゃんの頭に手斧が刺さる。




梨子ちゃんから、梨子ちゃんだったものへ。
一瞬だった。



.

195: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:35:16 ID:DbSOQzH.


ロープを切るために船に乗せていた斧を、ダイヤさんは見つけてしまったのだろう。


善子「きゃあああああああ!! 」

曜「千歌ちゃん、見ちゃダメ!! 」

千歌「…っ!! 」


果南「うあああああ!! 」


果南「ダイヤァァァ!! 」


頭に血の昇った果南ちゃんが、力いっぱいダイヤさんを殴る。




ダイヤ「何をするのですか! 」

ダイヤ「鞠莉さんのかたきを取っただけですわ……!! 」

196: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:36:19 ID:DbSOQzH.

ダイヤ「私の邪魔をするというのなら、遠慮は致しませんわ……」


手斧を振りかざすダイヤさんに歯向かおうとする者は誰一人いなかった。
素手と斧では、あまりにも力が違いすぎる。



ダイヤ「どきなさい」

千歌「は、はい……」

曜(今のダイヤさんに近づいたら私達も殺されるかもしれない……)

197: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:37:11 ID:DbSOQzH.

曜「…ダイヤさん? 何を……」


ダイヤ「勿体ないでしょう、せっかくの食料じゃないですか」

ダイヤ「皆さんも、さぁ」



曜「え、遠慮しておきます……」


ダイヤ「あいにく、目玉を食べる趣味は無いので……と」


ガンガンと、梨子ちゃんだったものの後頭部を叩き、目玉を取ろうとする。

198: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:38:14 ID:DbSOQzH.

ダイヤ「……出ませんわ」

ダイヤ「直接取りましょうか。」グイッ

ダイヤ「…案外、つるつるして掴みにくいですわ」

ダイヤ「取りやすいように穴をほぐしましょうか」


グチャ!グチャ!


曜「に、逃げよう…!! 」ガシッ

善子「グスッ……」ダッダッダッ

千歌「…!! 」ダッダッダッ

199: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:39:15 ID:DbSOQzH.


梨子ちゃん、ダイヤさんの攻撃により、死亡。



黒澤姉妹以外の4人で梨子ちゃんの遺体を見に行ったのだけれど、ご丁寧に骨と内蔵以外はほとんど食されていました。


更に、どうやらダイヤさんは皮までは食べることが出来なかったようで、梨子ちゃんの皮膚と思わしきものが周りに散らばっていました。

全員が梨子ちゃんの残骸に触るのを拒否したため、遺体は放置という形になりました。



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200: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:40:06 ID:DbSOQzH.


【大広間】

ダイヤさんがやってこないように、念のため扉の鍵を閉めた。


千歌「うぅ……梨子ちゃん……」

曜「ダイヤさん……どうしてこんなことを」

果南(私が、私がもっとしっかりダイヤを見張っておけば……)

善子「……状況を整理しましょ」

201: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:40:50 ID:DbSOQzH.


善子「黒澤姉妹には、近づかない方がいい。」

曜「そうだね、何をするか分からない。」

善子「でも、私達4人でどうにか黒澤姉妹をなだめて、アメリカへ着くことが1番の理想」


果南(梨子は死ぬ前に、曜と仲良くして って私に告げた。)

果南(梨子の思いには、応えなきゃいけないね……。)



善子「ざっとこんなところかしら?」

曜「うん、そうだね。」

202: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:41:43 ID:DbSOQzH.


唐突に、甲板の方からダイヤさんの叫び声が聞こえた。


善子「えっ、なに!? なによ!! 」

果南「……私が見てくる、みんなはここで待ってて。」

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203: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:43:25 ID:DbSOQzH.

【甲板】


果南(……今度は何をしでかしたんだか)

ダイヤ「ルビィ!! 」


果南「!? 」

ルビィ「お姉ちゃんが梨子ちゃんを殺すなんて!ありえないよ!! 」ガンガン

ダイヤ「あっ、果南さん! そこで見てないで助けてください!! 」

204: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:44:14 ID:DbSOQzH.


果南「……何があったの」


ダイヤ「ルビィが、梨子さんが死ぬところを遠目から見てたそうなのですが」

ダイヤ「殺したのは事実なのに、受け入れられないといってワタクシの話を全く聞かなくて……」

ルビィ「うああああ!! 」ガンガン

果南「ルビィちゃん、やめて!! 」

果南「それ以上やったら死んじゃうから!! 」

205: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:45:21 ID:DbSOQzH.

ルビィ「うるさい!うるさい!! 」ガンガン


ダイヤ「やめなさい!ルビィ!! 」


ルビィ「うるさい!……うるさい!! 」ガンガン

ルビィ「…うるさいうるさいうるさい……うるさい!! 」ガンガン

ルビィ「ゲホッ!! おぇっ!! 」


ダイヤ「吐血……!! 」

ダイヤ「ルビィ!!だから止めなさいと言ったでしょう!! 」


ルビィ「おぇぇっ……げぇぇ」ビチャッ


果南(ダメだ……この吐血量じゃ助からない……)

206: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:46:18 ID:DbSOQzH.

果南(みんな死んでく……もうやだ……)


タッタッタッ

ダイヤ「果南さん、どこに行きますの!! 」


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207: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:47:06 ID:DbSOQzH.

【大広間】

果南ちゃんが船から飛び降りようとするのが、窓越しに見えた。

曜「果南ちゃん!! 」

曜「千歌ちゃん、善子ちゃん来て!! 」


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208: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:47:59 ID:DbSOQzH.

【甲板】

ガチャッ


果南(もう死んでやる……!!)スッ


曜「果南ちゃん!! 」ガシッ

千歌「果南ちゃん!! 」ガシッ


善子「いったい何があったって……」

善子「!! 」

善子「ルビィ!! 」タッタッタッ

209: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:48:43 ID:DbSOQzH.

曜「果南ちゃん待って!! 死んじゃダメ!! 」

果南「離してよ!どうせこのままみんな野垂れ死ぬんだからいいじゃん!! 」

果南「先に死なせてよ!! 」

千歌「……」


バチィン!!


果南「……っ」

果南「千歌……」


千歌「果南ちゃんがそんなこと言う人だったなんて……思ってなかった…!! 」

210: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:49:23 ID:DbSOQzH.

千歌「最近の果南ちゃん、色々かっこいいなって思ってたのに……」

曜(えっ……)


果南「……私だって、いつも強いわけじゃないよ……」

果南「……」スタスタ


曜「ど、どこ行くの!? 」

果南「医務室。頭冷やしてくる。」スタスタ

211: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:50:03 ID:DbSOQzH.


曜「……」

曜「千歌ちゃ」

千歌「果南ちゃんが心配だから私も行ってくるね」


曜「あ……うん……」



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212: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:50:43 ID:DbSOQzH.


善子「ちょっ……ダイヤさん……自分のしてること分かってんの!? 」


ダイヤ「えぇ。何かおかしいですか? 」

善子「逆に聞くけど、妹を食うことの、どこが普通だって言うのよ……!!」

ダイヤ「善子さん、訂正してください。もう妹じゃないです」

ダイヤ「まぁ確かに先程までは妹でしたが……ですが、人間 死した後はただの肉ではありませんか。」グチャ


善子「ひっ……」

213: ◆32r/eU7DO2 2017/09/05(火) 22:51:17 ID:DbSOQzH.

ダイヤ「皆さん空腹でしょうに、せっかくですし一緒に食べませんか? 」スッ


善子「い、いらないわよ!! 」

善子「もう知らないっ!! 」タッタッタッ

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214: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:47:45 ID:VH9fxPiw
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【医務室】


千歌「果南ちゃん……」

果南「千歌……」

果南「ちょっとくらい1人で居させてよ…」


千歌「やだ! 」


果南「曜は一緒じゃないの……? 」

千歌「曜ちゃんは……どうせ善子ちゃんと一緒だよ」

果南「そう…。」

215: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:48:28 ID:VH9fxPiw

千歌「果南ちゃん」

果南「どうしたの、改まっちゃって」

千歌「私、果南ちゃんには死んで欲しくない!! 」

果南「千歌……」


千歌「あのね、私…バカだから、言葉が変になっちゃうかもしれないけど、それでも聞いてほしい事があるの」

果南「……分かった。立ち話もなんだし、とりあえずベッドにでも座ろうよ」

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216: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:49:31 ID:VH9fxPiw

千歌「この前の、返事。いいよ。」

果南「えっ? 」

千歌「だから、この前、果南ちゃんからされた告白の…返事。」


千歌「本当はね、私 曜ちゃんの事が好きだったみたいなの」

果南「……」

217: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:50:30 ID:VH9fxPiw

千歌「でもね、果南ちゃんに告白されてから、なんだか果南ちゃんの事も気になって仕方がなくて」

千歌「ほら、果南ちゃんお父さんが亡くなってから、ずっと明るく振舞ってたでしょ」

千歌「あの笑顔だって、皆に泣いてる顔見せたくないから作ってる笑顔だって、分かってた」

千歌「そして今さっき、初めて果南ちゃんが現実から逃げようとしてるのを見た」

218: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:51:10 ID:VH9fxPiw


千歌「なんていうか……守ってあげたくなった!……って感じかな」


千歌「曜ちゃんは、やっぱり友達って感じ。」

千歌( 曜ちゃんのことは、諦めるって決めたんだ )


果南「千歌ぁ…… 」ポロポロ


千歌「果南ちゃん……辛かったら、泣いても良いから」ギュッ

千歌「泣きたい時は、私の胸に飛び込んで構わないから」


果南「うぅ……」ガバッ

219: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:51:43 ID:VH9fxPiw

千歌(何人も死んだ、こんな状況でイチャイチャするなんておかしいと、自分でも分かってる……)

千歌(けれど、今出来る気休めはこれしか……)チュッ


千歌が果南をそっと、ベッドに押し倒す。


千歌「経験したことないから、よく分からないけれど、慰めてあげるね……果南ちゃん」


千歌「じゃあ、始めるね……」

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220: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:52:15 ID:VH9fxPiw

時は少し遡り、千歌と曜が別れた直後


【甲板】


曜「千歌ちゃん……」


善子「うわあああああん!! 」タッタッタッ

曜「善子ちゃん!? 何があったの!! 」


善子「ルビィが、ルビィがぁぁあ!! 」

曜「ルビィちゃん……? 」

221: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:53:00 ID:VH9fxPiw

善子ちゃんがやってきた方向に目をやると、まるで血肉のドレスでも来たように、真っ赤に染まった黒澤姉妹の姿が見えた。


曜「うっ……また食べてるの……!? 」


善子「…」コクッ

善子「……」ポロポロ

曜「善子ちゃん……」

曜「おいで」ギュッ

222: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:53:34 ID:VH9fxPiw

ふと、出航してからを思い出す。


果南ちゃんが千歌ちゃんに告白をして、千歌ちゃんに抱きしめてもらって、千歌ちゃんと沢山お話して、でも千歌ちゃんには告白出来なくて、千歌ちゃんは果南ちゃんのところへ行っちゃって……

結局、前と何も進展してないや。むしろ千歌ちゃんを果南ちゃんに取られちゃったような気がする……


善子「曜、大丈夫? そんなに泣くなんて……」

曜「えっ、あっ、なんでもないよ」ゴシゴシ

223: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:54:04 ID:VH9fxPiw

善子「もしかして、千歌と果南のこと……? 」

曜「な、なんでその事を…」

善子「梨子が殺されるちょっと前くらいに、2人で話す機会があって、その時に梨子から聞いたの」

善子「"もし私が曜ちゃんよりも先に死んでしまったら、フォローよろしくね"ってさ。」

曜「梨子ちゃん……」

224: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:54:43 ID:VH9fxPiw

善子「好きなら、さっさと好きって言っちゃったら? 」

曜「でも、断られるのが怖くて……」

善子「告白せずに他の人に取られるくらいなら、告白して振られた方が良いんじゃない? 」

善子「もし、千歌に振られちゃったとしても……私が、愛してあげるから」

善子「曜を1人には、しないから。」

曜「善子ちゃん……」

225: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:57:26 ID:VH9fxPiw

曜「私は、善子ちゃんに恋愛感情が無いんだよ? それでもいいの? 」

善子「別に構わないわよ。私だって曜に恋愛感情は無いし。」

善子「無いなら無いで、曜が私に恋愛感情持ってくれるように頑張る! 」

善子「それに、愛の形だって色々あるんだし」


曜「善子ちゃん……!! 」

226: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:58:38 ID:VH9fxPiw

善子「もし千歌への告白が成功したなら私も喜ぶし、失敗したなら居場所になってあげる。」

善子「高校の時、ずっと一緒に帰ってた仲だもん。友情ヨーソローよ」

曜「友情ヨーソロー? 」

善子「そ、私たちの友情に問題なし!真っ直ぐな気持ちでぶつかろう!ってこと。」

曜「うん、そうだね……せめて善子ちゃんとだけでも本音でぶつかりあいたい」

227: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:59:09 ID:VH9fxPiw

善子「じゃあ、行って」

曜「え、今? 」

善子「当たり前よ、果南と千歌を2人きりにさせたら何するか分からないでしょ」

善子「良い感じに千歌を呼んで、2人きりの状況を作って告白するのよ」


曜「うん、分かった」


善子「私も後ろから見守っておく! 」

228: ◆32r/eU7DO2 2017/09/09(土) 23:59:45 ID:VH9fxPiw

曜「じゃあ、行ってくるね」

曜「……」スタスタ


角を曲がり、医務室の前に立つ。

善子ちゃんが遠くから見守ってくれているし、大丈夫。


曜「全速前進、ヨーソローだよ」

いつものおまじないを小声で呟いて、ドアに近づく。

229: ◆32r/eU7DO2 2017/09/10(日) 00:00:17 ID:H3hMmlZs


窓から中を除くと、ベッドの上で布団が不自然な膨らみ方をしていた。

まさかと思いドアに手をかけると、中から少しだけ音が漏れてることに気づいたので、耳を澄ます。



『んっ……千歌……そこ』『ここ? 』『あっ……』『強さはこれくらいで良いの? 』『あん……もうちょっとだけ……強くして』


自分の耳を疑うと同時に、全身の力が抜けた。

曜「は……? 」

善子「曜……? 」タッタッタッ

曜「いくらなんでも……こんなの酷いよ……」ポロポロ

善子「どうしたの、曜! 」

231: ◆32r/eU7DO2 2017/09/10(日) 00:02:06 ID:H3hMmlZs

善子ちゃんの声が微かに聞こえつつ、私の意識は遠ざかっていった。


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233: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:15:02 ID:slWkrxQI

【医務室】


目を覚ますと、医務室のベッドの上にいた。

隣には善子ちゃんだけがいて、心配そうに手を握ってくれている。


曜「あれ……私……」

善子「良かった……目、覚ましてくれた」

善子「千歌達のいる部屋に入ろうとしたら、倒れたから……心配したのよ? 」

曜「!!」


そうだ、私は千歌ちゃんに告白しようとして……ドアノブに手をかけて、そしたら中なら音が聞こえてきて

私が今寝ているこの場所であの2人は……2人は……!!


曜「うああああ!! 」ブンッ

善子「ちょっ、どうしたの!? 」

234: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:15:55 ID:slWkrxQI

曜「こんな布団、触りたくない!! 」

曜「このベッドにだって乗りたくない!! 」

善子「ご、ごめん……私が運んだの……」

曜「あっ……ごめん、善子ちゃん……」

善子「ううん、気にしないで。勝手に運んだ私も悪いから。」

曜「えっと……うん、ごめん。ありがとう。」

善子「何があったの…? 言えないこと? 」

235: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:16:46 ID:slWkrxQI

曜「……」

曜「思い出したくないことだけど、頭から離れない……!」ギュッ

善子「そう……じゃあ、忘れるまで泣いたらいいわ。」ギュッ


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236: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:17:43 ID:slWkrxQI

泣き始めてから何分たったのだろう、いつの間にか景色は夜になっていた。


曜「千歌ちゃんと果南ちゃん、この部屋に居たと思うんだけど……今はどこにいるの? 」

善子「曜が倒れちゃってから、すぐに千歌達が出てきて、私は曜を連れて医務室に駆け込んだからその後の動きはさっぱり……」

曜「そう……。」

237: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:18:25 ID:slWkrxQI


ふと、脳裏に浮かぶ。


"果南ちゃんが千歌ちゃんと付き合ったとしても、別れるように仕向ければいい"という言葉。


あの時は善子ちゃんに、船長なんだから恋愛なんてしてる暇ないだろうと言われたけれど、今は状況が違う。

そう、今の私は果南ちゃんが憎い。憎くて仕方が無い、殺したいとまで思っている。

千歌ちゃんに振られるだけならいいものを……身体を目の前で奪われて……さすがに酷すぎる。


今現在、死者は4人。梨子ちゃんはダイヤさんの手で殺された。
私が果南ちゃんを殺してもダイヤさんのせいに出来る。

いや、待って。ダイヤさんに直接頼めばいい。"果南ちゃんを殺してほしい"と。


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238: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:19:08 ID:slWkrxQI

善子「曜、さっきからボーッとしてるけど大丈夫? 」

曜「あっ、うん。大丈夫。」

曜「ちょっと、千歌ちゃん達と会ってくるね。目の前で倒れて迷惑かけちゃったし。」

善子「無理、しないでよ? 」

曜「うん……」

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239: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:19:57 ID:slWkrxQI

【甲板】

ルビィちゃんの死骸に、海鳥達が群がっている。私が近寄ると、海鳥達は空へ羽ばたいてしまった。

その近くですやすやと眠っているダイヤさんを起こす。

ダイヤさんはよくここで寝れるなぁ と思いつつも、自分自身、よく平気でダイヤさんに近寄れるなぁと思う。

ダイヤ「ふわぁ……」

ダイヤ「あら、曜さん。わたくしに何か用ですか? 」

240: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:21:02 ID:slWkrxQI


周りに誰もいないことを確認。小声で話す。


曜「あのさ、ダイヤさん。」

曜「果南ちゃんを殺してほしいのだけれど」

ダイヤ「ほう……何故果南さんを? 」

曜「その……ダイヤさんを殺そうと計画してたのを聞いちゃってさ」

ダイヤ「あら……それは聞き捨てなりませんわね。」

曜「はい、手斧。持ってきたから、これでお願いします。」

ダイヤ「ありがとうございます」パシッ

241: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:21:34 ID:slWkrxQI




ダイヤ「では」

ダイヤ「まずは曜さん、あなたからです」



曜「えっ、何で……? 」



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242: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:22:37 ID:slWkrxQI

ダイヤ「私が梨子さんを殺したのは、梨子さんが鞠莉さんを殺したからです」

ダイヤ「人殺しをする方は、次に私を殺しにくるかもしれません。」

ダイヤ「ならば、私が殺される前に、先に相手を殺せばよいのです。」

曜「違う、梨子ちゃんはやってない! 」

ダイヤ「医務室で鞠莉さんといつも一緒にいたのは彼女なんですから、梨子さんが殺したに決まってます」

243: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:23:16 ID:slWkrxQI

ダイヤ「そして曜さんも、果南さんを殺そうとした。」

ダイヤ「私が果南さんを消した後、曜さんは私のことを狙うかもしれない」

曜「ち、違っ……」

ダイヤ「問答無用です」ブンッ


振られた手斧は私の右脚を切りつけた。


曜「痛っ!! 」

曜「に、逃げなきゃ……殺される……!! 」タッタッタッ

ダイヤ「待ちなさい! 」タッタッタッ

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244: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:24:58 ID:slWkrxQI

【医務室】

ガチャッ

ドアの鍵を閉める。


曜「ハァ…ハァ……助けて、殺される!! 」


善子「曜! どうしたの…!? 」


パリィン!と窓ガラスを割って、ダイヤさんが部屋へ無理やり入ってきた。


ダイヤ「待ちなさいと言ったでしょう」

善子「だ、ダメ!曜には指一本触れさせない!! 」

ダイヤ「あら、善子さんも共犯者ですか? 」

善子「共犯者?」

245: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:49:21 ID:slWkrxQI


ザシュッ



善子ちゃんも梨子ちゃんと同じように、頭をかち割られた。



曜「善子ちゃん……!? 」

曜「い、いやぁぁぁぁあ!! 」


ダイヤ「さぁて、お次は曜さん……」

246: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:49:59 ID:slWkrxQI

果南「ダイヤぁぁぁ!! 」

割られた窓から果南ちゃんが飛び込んできた。
騒ぎが聞こえて、やってきたのだろう。


果南「善子……? 」

果南「善子まで殺したの……?」

果南「もう許さない……!!」


果南ちゃんが、椅子を手に取ると、ダイヤさんの頭を殴った。


ダイヤ「……殺す気ですか? 」

果南「もちろん……!! 」

247: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:51:17 ID:slWkrxQI

ダイヤ「…っ!!」ブンッ


ダイヤさんが、果南ちゃんの右腕を切りつけ、果南ちゃんは椅子の角をダイヤさんの頭に打ち付ける。


私の目の前で、2人が血だるまになっていく。

果南「曜まで死んだら千歌は……千歌は……!! 」


曜「果南ちゃん……」

248: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:51:52 ID:slWkrxQI

果南ちゃんは私のことを守ろうとしてくれている。

私ときたら、さっきまで果南ちゃんを殺そうとしていた。
いや、2人の戦いを黙って見ている今も、果南ちゃんを殺そうとしているのかもしれない。



あぁ、2人がぐちゃぐちゃになっていく。
動けなくなって戦いが静まっていく。


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249: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:52:27 ID:slWkrxQI


この部屋で、新たに3人が死んだ。



やった、邪魔な果南ちゃんも、なにかと危ないダイヤさんも、同時に居なくなった。

善子ちゃんは……必要な犠牲だったんだよ。仕方ない。


さて、千歌ちゃんのところに行こう。


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250: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:53:09 ID:slWkrxQI

【甲板】

曜「ここには居ないか…、じゃあ大部屋かな」

曜「痛っ……」ズキッ

脚の痛みに意識が向かう。痛みに耐えきれず、途端に動けなくなってしまう。


曜「ちょっと、壁にもたれよう……」

251: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:54:40 ID:slWkrxQI

タイミングよく、向こうから千歌ちゃんがやってきた。


千歌「曜ちゃん……」

曜「千歌ちゃん……来てくれたんだ……」

千歌「ダイヤさんと、果南ちゃんと、善子ちゃん……死んじゃったんだ……」

曜「うん。千歌ちゃんと2人きりになっちゃったね……」



千歌「あの……今日の昼のことなんだけど」

千歌「果南ちゃんを押し倒したのは私の方で」

千歌「慰めてあげようと思って…その……ごめん。」

252: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:55:16 ID:slWkrxQI

千歌「今言うのもおかしいとは思うけれど……本当は曜ちゃんのことが好きでさ」

曜「え……? 」

曜「でも、果南ちゃんのことが好きだって……」


千歌「それは、曜ちゃんと善子ちゃんが仲良くしてるのを見て」

千歌「曜ちゃんには私じゃなくて善子ちゃんの方がお似合いだー……って、思っちゃって。」

千歌「勝手に曜ちゃんのこと好きになって、勝手に曜ちゃんのこと諦めて、わがままでごめんね」

千歌「えっと、果南ちゃんに告白された時に、私は曜ちゃんのことが好きなんだってことを初めて自覚して……」

253: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:55:51 ID:slWkrxQI



曜「私も……千歌ちゃんのことが好きだよ」


千歌「へ……? 」


曜「ずっと言えなかった……本当は好きだってことを」

千歌「嬉しい……両想いだったんだ……」

曜「やっと、やっと結ばれたんだね……私たち」

千歌「うん……!! 」

254: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:58:40 ID:slWkrxQI


千歌「はい、航海日誌」

曜「え、急にどうしたの……? 」

千歌「いいから、黙って受け取って」

曜「あ、ありがとう。」


千歌ちゃんに渡された航海日誌を見ると、花丸ちゃんが書いた「大好き」の文字があるページが開かれていた。

遠回しだけど、彼女なりに私のことが本当に大好きだということを伝えたかったんだと思う。


曜「ふふ、千歌ちゃん…」


千歌ちゃんと手を繋ぐと、なんだか眠たくなってきたので、目を閉じた。

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255: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:59:13 ID:slWkrxQI

あれから何日経ったのだろう、目を覚ますと隣には白骨化した千歌ちゃんが転がっていた。

私と手を握っているのだから、間違いなく千歌ちゃんだろう。


私もがりがりに痩せ細っていて、骸骨みたい。


まだ船はアメリカへ着く気配すらなく、辺りには果てしなく水平線が広がっている。


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256: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 17:59:47 ID:slWkrxQI


思い返せば、血に染まった航海だった。


最後の力を振り絞り、航海日誌に書き加える。

「まるで血の池に浸かっているかのような航海だった。我没す、赤色水面に囲まれて。」


航海日誌と、まぶたを閉じる。

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257: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 18:01:17 ID:slWkrxQI
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【甲板】


照りつけるような太陽の光で、目を覚ます。

ふと隣を見てみると、千歌ちゃんの骨が無いことに気づく。


曜「あれ……私の身体ってこんなにふっくらしてたっけ……? 」


手に持った航海日誌にはしっかりと「まるで血の池に浸かっているかのような航海だった。我没す、赤色水面に囲まれて。」と書かれている。


曜「あれ……よく見ると脚の傷も治ってる……? 」

曜「なんでだろう……」

258: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 18:01:50 ID:slWkrxQI


ふらふらと立ち上がり船を散策する。


曜「梨子ちゃんの骨も無い……」

曜「ルビィちゃんの骨も無い……」


曜「確か医務室で3人が死んだはずだよね」


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259: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 18:02:24 ID:slWkrxQI

【医務室】

曜「窓ガラスが割られていて……」

曜「あれ? 死体も骨もない……?」


曜「どういうこと……? 」



手に持った航海日誌にもう一度目をやる。


すると、気づくことがあった。

260: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 18:03:03 ID:slWkrxQI



曜「全部筆跡が同じ……? 」


曜「最初から全ページ私の筆跡だ……」



花丸ちゃんが書いたはずの「大好き」も、千歌ちゃんが書いた航海記録も、全部 私が最後のページに書いた文字と筆跡が同じだった。


ズキンと頭が痛み、今までのことを思い出す。

261: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 18:03:34 ID:slWkrxQI



曜「あ、そっか」




曜「ずっと1人だったや。」



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262: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 18:04:37 ID:slWkrxQI

曜「千歌ちゃんと果南ちゃんと話し合って、パーティしようねって決めて」

曜「食料を貯めておこうと思って、パーティ前日に沖に漁をしに出て、エンジンが壊れて」

曜「岸へ帰れなくなって、連絡も出来なくて、アメリカを目指すことになって」

曜「水が尽きて、食料も尽きて、自暴自棄になって部屋を荒らして」

曜「暇だったから、妄想して現実逃避をしてたんだ」

曜「元から仲間なんて乗ってなかったや」

263: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 18:05:07 ID:slWkrxQI

曜「はは……無事に帰れたら本でも出版しようかな」

曜「タイトルは…どうしようかな」

曜「うーん……さっき書いた文、結構気にいってるし"赤色水面に囲まれて"でいこうかな」

曜「無事に帰れたら、だけど。」



曜「帰ったらみんなに謝らなくちゃ……」


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264: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 18:05:48 ID:slWkrxQI
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千歌「果南ちゃん、今朝のニュース…見た? 」

果南「うん……やっぱり曜は……」


『アメリカに日本漁船漂流、船内からは白骨化した1人の遺体。船内には航海日誌が残っており……』



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265: ◆32r/eU7DO2 2017/09/11(月) 18:06:21 ID:slWkrxQI

おしまい

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。