1: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 21:29:25.658 ID:njg17OZr0.net
男「夏も終わって、涼しくなってきたなぁ……ん?」

セミ「ジジッ…ジジッ…」

男「死にかけのセミ、か」

男「哀れなもんだな……こないだまでうるさく鳴いてたのに」

男「だけど、俺みたいにだらだらと生きるより、よっぽど有意義だったのかもしれないな」

セミ「ま、待ってくれ……」ジジッ

男「!?」

引用元: セミ「死にゆくオレの願いを聞いてくれ……」ジジッ 男「何をしろってんだ?」 



セミたちの夏 (小学館の図鑑NEOの科学絵本)
筒井 学
小学館
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18: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 21:32:50.597 ID:njg17OZr0.net
男「セミが……セミがしゃべった!?」

セミ「おい、お前……」

男「なんだよ!?」

セミ「死にゆくオレの願いを……聞いてくれ……」ジジッ

男「えええ……!?」

セミ「た、頼む……!」

男「い、いいけどさぁ……何をしろってんだ?」

セミ「み、水を……水をくれ……」

男「わ、分かった!」

23: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 21:35:36.292 ID:njg17OZr0.net
男「ちょうどよかった! あそこに池が――」

セミ「イヤ……だ……。池の水はイヤだ……。衛生面に不安がある……」

セミ「ミネラルウォーターが……飲みたい……」

男「はぁ? お前、ワガママいうなよ! ここらへんコンビニもスーパーもねえぞ!」

セミ「ああ……なんて冷たい人間なんだ……。やはりこの世で一番怖いのは人間……」

男「ええい、分かった! 分かったよ! 買ってきてやる!」タタタッ

セミ「急いで……くれ……」

27: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 21:38:17.970 ID:njg17OZr0.net
男「ハァ、ハァ……ほれ、買ってきたぞ」

セミ「……」ゴクゴク

セミ「ありがとう……」

男「これでもう満足して死ねるだろ? じゃあな」

セミ「……ま、待ってくれ……」ジジッ

男「なんだよ? お礼になんかくれるってのか?」

29: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 21:41:30.633 ID:njg17OZr0.net
セミ「ステーキ……」

男「ステーキ?」

セミ「ステーキを食いたい……」

男「ステーキだとぉ~? セミのくせに! てか、セミってステーキ食うのか?」

セミ「た、頼む……! 最期に……ステーキを……」ジジッ

男「分かった、分かったよ! 連れてってやるよ! ステーキハウスに!」

セミ「チェーン店は……ダメ……。個人でやってる店がいい……」

男(いちいち注文が多いセミだ!)

31: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 21:45:17.174 ID:njg17OZr0.net
―ステーキハウス―

セミ「モグモグ…」

男(セミのくせにナイフとフォークを使いこなしてやがる)

男「どうだ? うまいか?」

セミ「ああ、うまい」

店主「そうでしょう、そうでしょう! うちのステーキは安くて絶品ですから!」

男「ええ、1000円いかずにこの大きさのステーキなんて、なかなかありませんよ」

セミ「だが――」

男「?」

セミ「オレの目の前にいるこの男なら、同じ値段でもっとうまいステーキを作れる!」

男「え、同じ値段でステーキを!?」

36: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:08:26.651 ID:njg17OZr0.net
男「ちょっと待て! 俺は多少は自炊するけど素人だぞ!? できるわけが――」

セミ「た、頼む……」

男「!」

セミ「死ぬ前の最期の頼みだ……あの店主との料理勝負に……勝ってくれ……!」

セミ「それを見届けなければ……死んでも死にきれん……!」ジジッ

男「……!」

男「分かった、やってやる!」

男「おっさん、ステーキ勝負だ!」

店主「いいだろう! 受けて立つ!」

37: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:10:38.321 ID:njg17OZr0.net
男(それから勝負までの一週間、俺は死に物狂いでもっと安くてうまい牛肉を探し)

男(一流シェフに土下座して、ステーキの焼き方を猛特訓した!)

男(知り合いの女の子に味見してもらったりもした!)


男「どう?」

女「うん、おいしい! デリシャース!」


男(そして――)



男「付け焼刃とはいえ、特訓の成果を見せてやる!」ジュゥゥゥゥ…

店主(ほう……この小僧、かなり特訓してきたな!)ジュゥゥゥゥゥ…

38: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:13:27.618 ID:njg17OZr0.net
男「さあ、食ってくれ! 俺のステーキを!」サッ


審査員A「これを素人が作ったというのか!? 信じられん!」モグモグ…

審査員B「噛むごとに とろける肉汁 いとうまし」

審査員C「なんとジューシィな味……! ジューシー、ジューサー、ジューシェスト!」


男 98点 ― 97点 店主

バン!



店主「……!」

店主「フッ……俺の負けだ」

男「いや……マグレですよ。それにあなた、相手が素人だからって本気じゃなかったでしょう?」

店主「言い訳するつもりはねえ……負けは負けさ」

41: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:15:54.841 ID:njg17OZr0.net
男「ふぅ~、人間やればできるもんだな……。ステーキ焼く特訓で手がマメだらけだ」

男「さ、これで満足だろ?」

セミ「う、うぐぐぐ……! うぐぉぉぉ……!」ジジッ…

男「ど、どうした!?」

セミ「死ぬ前に……頼みがある……」

男「なんだ!? まだあるのか!?」

セミ「一度でいいから……エベレストの頂上からの景色が見たい……」

男「エベレストぉ!?」

44: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:19:05.683 ID:njg17OZr0.net
男「ちょっと待て!」

男「さっきの料理勝負は相手の油断もあって、なんとか勝てたが」

男「エベレストは油断なんかしねえ! 俺みたいなヘタレが登れるわけが……!」

セミ「た、頼むぅ……」ジジジ…

男「……!」

男「分かった! お前にエベレストの頂上からの景色を見せてやる!」

47: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:21:24.998 ID:njg17OZr0.net
登山家「ほう、私に弟子入りしたいと?」

男「はい、あなたは何度もエベレストを登っていると聞きました」

男「俺もまた、なんとしてもエベレストを踏破せねばならないのです!」

登山家「その眼差し……気に入った! 弟子にしてやろう!」

登山家「ただし、エベレストは死の山……いかな熟練者でも死ぬ可能性がある」

登山家「その覚悟はできているんだろうな?」

男「もちろんです! 死ぬことなんて怖くない……怖いのは友に悔いを残すことだけ!」

48: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:24:30.801 ID:njg17OZr0.net
女「ねえ、エベレスト登山するって本当!?」

男「ああ、本当だ」

女「無茶よ! あなた運動部にすら入ってないのに……死んじゃうわ!」

男「ああ、死ぬかもしれないな」

女「なのにどうして!? どうして、そんなことするの!?」

男「そこに山があるから……かな」

女「!」

男「じゃ、行ってくる!」

53: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:27:44.171 ID:njg17OZr0.net
―エベレスト―

男「さぁ、登るぞ」

セミ「うむ」

ザッザッザッ…

男(寒い……それに空気が薄くなってきた……。これがエベレスト……世界一の山……)

男(あちこちに遭難者の遺体が……俺もこうなっちまうのかな)

男(いや……必ず登りきってみせる!)

男(セミに“エベレストの頂上からの景色”を見せるためにも!)

ザッザッザッザッザッ…

54: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:31:12.385 ID:njg17OZr0.net
ビュオォォォォ……!

男「くっ、ブリザードだ!」

セミ「耐えろ、耐えるんだ!」

男「分かってる! こういう時は無理に動かず、じっとしてるに限る!」



ドドドドド……!

男「雪崩だぁっ!」

セミ「逃げろ! 巻き込まれたら終わりだぞ!」

男「ああ……ただし走ると高山病だ! 高山病にならないよう逃げないと!」

56: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:35:11.020 ID:njg17OZr0.net
―頂上―

男「や、やった……!」

男「俺はエベレストを登りきったんだ!」

セミ「よくやったな」

男(空気が薄くて頭がろくに働いていないが……やっぱり感動するなぁ)

男「これで満足だろ? さ、下山しよう」

セミ「う、うぐぐぅ……」ジジッ

男「お、おいどうした!? しっかりしろ! まさかとうとう寿命か!?」

57: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:37:58.247 ID:njg17OZr0.net
セミ「もう一つ……願いを聞いてくれないか……」

男「まだあるのかよ!?」

セミ「ああ……もう一つだけ、頼みを聞いてくれ……」

男「なんだよ、今度はまさか宇宙に行けなんていうんじゃ――」

セミ「東大生になったお前の姿を……見たい……」ジジッ

男「!?」

58: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:40:55.822 ID:njg17OZr0.net
男「東大生だと!?」

セミ「ああ……東大生になったお前を見なければ、悔いが残ってしまう……」

男「無理だよ……俺、今までちゃんと勉強したことなんてなかったし。学校の成績もひどいし」

セミ「まぁ、無理にとはいわんがな」

セミ「しかし……無念だ……」

セミ「願いを叶えることなく……俺は死を迎えることになるのか……」ジジッ

男「……!」

男「待てよ! お前の願い、叶えてやる!」

男「なってやるよ……東大生に!」

62: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:45:19.917 ID:njg17OZr0.net
女「お帰り! エベレストから戻ったのね!」

女「疲れてるでしょうから、ゆっくり休んでちょうだい」

男「いや、休んでいるヒマはない」

男「そういやお前、勉強できたよな? 俺に勉強を教えてくれ!」

女「いいけど……いきなりどうして?」

男「俺は東大を目指すからだ!」

女「なんで!?」

男「死にゆく友のために……俺は東大に入学しなければならないんだ!」

女「えええええ!?」

64: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:48:18.064 ID:njg17OZr0.net
男「うおおおおおおおおおっ!」カリカリカリカリカリ

男「う……」ウト…

男(眠い……だが、この程度! エベレストで感じた眠気に比べたら!)

女「ちょっとぉ、勉強のしすぎで手に血マメができて、マグマみたいになってるじゃない!」

男「このくらい……どうってことないさ……」

男「たとえ、両手が使えなくなっても、俺は東大に合格してみせる!」

66: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:50:31.630 ID:njg17OZr0.net
―東大―

試験官「では、始めて下さい」

試験官「……む!?」


男「……」カリカリ…


試験官(あの受験生、両手が折れているから、口でペンをくわえて解答している!)

試験官(フフフ……まるでかつての私を見ているようだ)

69: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:53:29.574 ID:njg17OZr0.net
男「……!」

男「やったーっ! 合格できたぞ! しばらくはリハビリ生活だけど!」

セミ「見事だ……」

男「これでもう、お前も心おきなくあの世に旅立てるだろ?」

セミ「いや……待ってくれ……」ジジッ

男「まだあるの!?」

セミ「お前に……恋人ができるところが見たい……」ジジッ

男「恋人……!?」

セミ「頼む……! それを見なきゃ、オレは……!」

男「分かったよ……見せてやるとも!」

71: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:57:16.713 ID:njg17OZr0.net
女「なに? こんなところに呼び出して」

男「今までずっと、ありがとうな」

男「俺のステーキ食べてくれたり、登山しようとする俺を止めてくれたり、勉強教えてくれたり……」

女「そんなことで呼んだの? 別にいいって」

男「いや……本当にいいたいことはまだある」

女「!」ドキッ

男「俺はずっと君に対して、ある気持ちを持っていたんだが、それを打ち明けることができなかった」

男「だけどある友の後押しによって、やっとそれを打ち明ける勇気ができた……!」

72: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 22:59:57.258 ID:njg17OZr0.net
男「俺は君のことが好きだ! 付き合って下さい!」

女「うん……こっちこそよろしく!」


セミ「フ……見せつけてくれる……」



――――――

――――

――

74: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 23:04:11.323 ID:njg17OZr0.net
―病院―

患者「おかげで調子がよくなりました! ありがとうございました……!」

男「お大事に」

男「……」

セミ「今日も大勢の患者を救ったようだな」

男「ああ、あれから俺は東大を出て医者になり、あいつと結婚し、名医と呼ばれるようになった」

男「なにもかもお前のおかげだよ」

セミ「オレはお前の力を引き出すきっかけになったに過ぎんさ……」

セミ「――うっ!」ズキン…

75: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 23:07:33.249 ID:njg17OZr0.net
男「セミ、どうした!?」

セミ「どうやら、今度という今度こそ……お迎えがきたようだ……」ジジッ

男「そんなこといって、まだなにか願いがあるんだろう? いつものパターンじゃないか」

セミ「いや……もうない……」

セミ「立派になったお前を見ることができた……オレはもうこの世に未練はないのさ……」

男「……!」

男「だったら……今度は俺が自分で願いを叶えてやる!」

セミ「……?」

79: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 23:09:16.354 ID:njg17OZr0.net
男「今の俺なら、お前を助けられる!」

男「みんな、このセミを手術室に運んでくれ! オペを行う!」


医者A「はいっ!」

医者B「分かりました!」



セミ「……」

83: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 23:12:19.545 ID:njg17OZr0.net
―手術室―

男(セミを手術するなんて、はじめてだが……)

男(ミネラルウォーターを買った時のスピード、ステーキ作りで手に入れた器用さ)

男(エベレストを踏破した体力、東大に入った頭脳、告白した時の勇気)

男(全てを駆使して、この手術に挑む!)

男(俺は必ずセミを助ける! 俺ならやれる!)

男「――メス!」サッ

87: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 23:17:17.450 ID:njg17OZr0.net
――

――――

セミ「やれやれ、まさか本当に助かってしまうとは……名医にも程がある」

男「あと20年は生きることを保証するよ」

セミ「そんなに長生きしてもしょうがないがな」

男「そういうなって。生きてれば、なにかいいことあるかもしれないんだから」

男「ところで、俺はある時期、お前がいったいなんて種類のセミなのか調べまくったことがある」

男「しかし、いくら調べても、どんな学者に聞いても、お前が何ゼミかは分からなかった」

男「だが、俺はようやくお前の正体が分かったよ」

セミ「……!」

88: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/09/20(水) 23:20:36.354 ID:njg17OZr0.net
男「お前は人間に“真剣になることの大切さ”を教えるセミだったんだ」

セミ「ご名答」

セミ「そこまで分かってるなら、もうオレの名前も分かっているな?」

男「ああ、お前の名は――」

男「真剣ゼミ……!」







おわり