1: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:23:36 ID:MRU
「お疲れさまです」

レッスンから帰ってきた凛が事務所に戻ってきた。
時刻は17時。こちらの仕事も終盤に差し掛かっている。

引用元: 【モバマス】凛「だって、まだ」 


2: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:24:07 ID:MRU
「お疲れ、プロデューサー」
「おう。お疲れ、凛」

一旦仕事の手を止め、薄く微笑みを浮かべている凛に視線を向ける。
シャワーを浴びた後だからだろうか、少し上気した頬や濡れた髪が色っぽい。

3: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:24:16 ID:MRU
「今日はもう終わりだったよな?」
「うん。プロデューサーは?」
「俺は後もうちょいだ。すぐ終わるから待ってろ。送ってやるから」
「わかった」

会話もほどほどに、再び作業に戻る。
凛は凛で待っている間に学校の課題に取り掛かろうとしていた。

4: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:24:26 ID:MRU
そういう姿を見ると安心する。
アイドル活動に打ち込みすぎて、本業である学業を疎かにされては困るからだ。
その点凛は優秀だ。過密なスケジュールの中、上手いこと時間を見て勉強をしている。

5: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:24:37 ID:MRU
そのかいあってか成績が落ちた、なんてことは今まで一度もない。
プロデューサーとしても鼻が高いというものだ。

そして、凛が頑張っているのなら俺もそれに応えなくちゃいけない。
横目で課題に取り組む彼女を見て、もうひと踏ん張りだと自分に喝を入れる。
彼女の頑張りを120%引き出す、それが俺の仕事なのだから。

6: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:24:46 ID:MRU
―――
――


「……ふぅ」

仕事に疲れた目を休めるべく、目頭をマッサージする。
その後、いつものように肩を回し、最後に首のストレッチ。

7: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:24:53 ID:MRU
「今日もお疲れ。はい、コーヒー」
「おー。サンキューな」

凛が残っている時には必ずやるやり取り。
いつごろだったかは忘れたが、仕事が終わるタイミングバッチリに凛がコーヒー淹れてくれるようになっていた。
それからずっと習慣になった砂糖三杯のティーブレイクは、仕事終わりの密かな楽しみだ。

8: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:25:10 ID:MRU
「今日のレッスンはどうだった?」
「うん。いい感じだったよ。苦手だったステップも物にできてきたし、それに――」

とりとめのない会話は二人のコーヒーが無くなるまで続く。
居心地のいい雰囲気と、嬉しそうに今日あったことを報告する凛の微笑みに自然とこちらの頬も緩んでいく。
しかし、楽しい時間というものはあっという間に過ぎるもので、いつの間にかコーヒーがもう残り少なくなっていた。

9: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:25:29 ID:MRU
「……ねぇ、プロデューサー」

神妙な声色で、残ったコーヒーを名残惜しそうに見つめる。
先程までの雰囲気とガラッと変わったものだから思わず身構えてしまう。

「なんだ?」
「……あの、さ。……最近、プロデューサーがレッスンとか撮影とか、見に来ること少なくなった……よね」
「ん? あぁ、確かになぁ。最初の頃はホント付きっきりだったもんな」
「うん。……それが、なんでなのかなって思ってさ」

恥ずかしそうに視線をそらしながら、照れくさそうに頬を掻く。

10: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:25:48 ID:MRU
「んー、そうだな。強いて言うなら……凛なら大丈夫って思ってるから、かな」
「……信頼してくれてる、ってことで……いいのかな?」
「あぁ。要領もいいからな。結構評判いいんだぞ、お前」
「そっか。……うん、ありがとう」

納得したように残ったコーヒーを一気に飲み干すと、俺の方に歩いてくる。
そしてそのまま、何を思ったのか、座る俺の肩に頭を乗せてきた。

11: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:26:00 ID:MRU
「な、ちょ、凛!? どうした!」
「いいから! ……ちょっとだけ、こうさせて」

そのまま抱きつけてしまいそうな距離。
額を肩に当てているからその評定は読めず、しばらく二人の呼吸音だけが静寂を彩る。

12: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:26:06 ID:MRU
「……なんかあったのか?」
「ううん。なんにも」
「嘘つけ。凛が何もなしにこういうこと――」
「私だって、するよ。こういうこと」

消え入りそうな声で、囁くように。
大人びた雰囲気の、それでいて心に情熱を秘めたアイドルが。
今はなんだか、か弱いただの女の子に思えた。

13: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:26:17 ID:MRU
――いや、違う。俺が勘違いしていた。
今だって彼女はか弱い女の子だ。他のことは違うなんてことはない、思春期真っ盛りの平凡な女の子だ。
年の割に落ち着いていて、仕事もしっかりこなしていたものだからすっかり忘れていた。
……いや、これはいいわけだな。うん。

「……ごめんな、手がかからないなんて思ってほったらかしにしてた」
「……うん」
「……寂しい思いをさせたか?」
「ちがっ……。――ううん。ちょっとだけ、寂しかった」
「……そっか」

14: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:26:38 ID:MRU
しおらしい凛が愛おしくなり、思わず頭を撫でる。
最初はびっくりした様子だったが、拒絶されることはなかった。
……そうだよな。凛だって甘えたいときぐらいある。

残ったコーヒーを飲み干し、熱を失った空のカップがその時間の終わりを告げる。

15: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:26:44 ID:MRU
でも、もうちょっとだけ。

16: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:26:49 ID:MRU
三杯の魔法をかけたティーブレイクは、まだまだ続く。

17: ◆KQ9OMhlEUtzQ 2017/08/21(月)10:27:02 ID:MRU
おわり