前回 楓「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝後編】

1: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/19(土) 21:34:52.78 ID:YaYYfmrb0


ごめんなさい。


止めに来てくれて…ありがとうございます。




でも……





なにも出来ないのは、もう嫌なの






SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1503146092

引用元: 卯月「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝完結編】 


5: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 22:54:49.84 ID:0nnYzKIl0

――――――――――――――――――――


凛(――普通に勉強して)

凛(――普通に就職して)

凛(――普通に人間ごっこをして)


凛(――借り物の戸籍でどこまで行けるか分かんないけど)

凛(――何も難しい事はない。普通に生きればいいんだから)

凛(――いつか、殺されるまで)


凛(――半年前までの私なら、そう思っていた)


凛(――そして今は)

凛(――全力で歌って)

凛(――全力で踊って)

凛(――全力で輝いて見せるって)


凛(――そう決めて、全力でアイドルをやってる)



凛(――いつか、殺されるまで)



凛(――踏み壊されるその瞬間まで、精一杯輝き続ける光のように)

凛(――私は、舞台の上に立っていたいと思っていた)



凛(――でも、蘭子はそれを)


凛(――『呪い』だと言った)


――――――――――――――――――――

6: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 22:55:36.03 ID:0nnYzKIl0

――――――――――――――――――――


武内P『――この度、企画した「笑顔の橋」の主な形式として……』

P『基本的には、参加する人間と皆さんを含む"喰種"の混合ユニットを作成します』

P『そして同じ舞台で同じ曲を共に歌ってもらうこと、またそれまでのレッスン等を通して両者の親交を深め』

P『それによって完成した共存の形をファンの"喰種"の皆さんに見てもらうことで』

P『人間と"喰種"の相互理解の形を知ってもらうことが目的となっています』

P『これらの企画は、神崎さんの意志から始まりました』

P『……神崎さん。皆さんにも、貴女の主張を伝えてください』


蘭子『うむ。感謝するわ、我が友』



蘭子『――この「儀式」は、我が僕たちを、同胞たちを「呪い」から解放せんとするものよ』

蘭子『我が右方の翼はいずれ射られ堕ち往く運命』

蘭子『そして左方の翼のみがエデンの飛翔を許される』

蘭子『我が右の同胞たちは、いずれ訪れる十二時の鐘を疑わず踊り続ける……』


蘭子『――否!!』

7: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 22:56:15.01 ID:0nnYzKIl0


蘭子『我らが翼は、地に堕つる門へとつながってはいない!!』

蘭子『ヒトに射られる為に私達は飛んでるんじゃない!』

蘭子『"喰種"だから、いつかは殺されて死ぬだなんて、そんなの……』


蘭子『そんなの、当たり前みたいに受け入れないでっ!』



蘭子『私、わかるもん! こっちから話しかけたら、分かってくれる人はたくさんいるもん!』

蘭子『飛鳥ちゃんだって、美穂ちゃんだって、芳乃ちゃんだって……』

蘭子『私達が"喰種"だからって、ちゃんと変わらずに受け入れてくれるって分かるもん……!』


蘭子『だから、皆ももっと人間のみんなを見てよ……!』

蘭子『このライブで、プロデューサーが作ってくれた舞台で……!』

蘭子『一緒に踊って、ファンのみんなを笑顔にするステージを作って……』

蘭子『そしたら、わかるはずだもん……!!』


蘭子『人間も"喰種"も、何にも変わらないって……!!』

蘭子『菜々さんは殺されて当たり前なんかじゃないんだって……!!』


――――――――――――――――――――


凛(――終わりの方には、涙でぐしゃぐしゃになっていた蘭子の訴えで)

凛(――私達はまた、揺らぎ始めた)

凛(――ずっとずっと、当たり前、これだけは仕方ないって思っていたことが)

凛(――あんなに必死になって否定されたのだから)

8: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 22:57:12.46 ID:0nnYzKIl0

凛(――そして、蘭子が間違ってないって証明したくて)

凛(――あの後すぐに動いた子がいた)



『――うん』

『そうだよね、らんらん』

『私も、そう思う。受け入れてくれる人は、ちゃんといるよ』



凛(――そう言った翌日に―――――)


『…美嘉姉の話を聞いてさ。ずっと、納得できなくて』

『どうしようか迷ってたんだけど、らんらんの話を聞いてやっと踏ん切りがついたんだ』

『ほら、皆』


『受け入れてくれる人は、ちゃんといたよ』



未央『ね、茜ちん!』



凛(――未央が)

凛(――あっさりと、垣根の一つを飛び越えてしまった)

9: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 22:58:43.23 ID:0nnYzKIl0

凛(――流石に、蘭子の訴えから自分の正体をバラしちゃう子が出たのは予想外だったのか)

凛(――未央のあまりの行動力に、プロデューサーがすごく慌てていたのを覚えてる)

凛(――あれだけ狼狽えてたのは……プロデューサーには悪いけど、ちょっと面白かった)


P『こっ……今回は、日野さんが本当に"喰種"を受け入れられる方であり問題は発生しませんでしたが』

P『やはり、隣にいる仲間が"喰種"だった時のショックは…人によって簡単に計り知れるものではないと思います』

P『ですので、これからは皆さんの安全を確実に守るため、これ以上の人間の皆さんへの秘密の暴露を禁止します』


P『……………………せめて』


P『……せめて舞台に立つまでに、隣に立って歌う方に十分触れて、その方を理解するまで』

P『待ってはいただけませんか……』


凛(――プロデューサーの必死な訴えが効いたのか、それとも)


杏『杏も今は正体バラすのやめといた方がいいと思う』

杏『人間よりの生活してた未央ちゃんだから判別出来たことだし』

杏『今、杏たちが同じことやって即通報ルートって危険性はゼロじゃないしね』

杏『少なくとも今はやめとこ。うん』

杏『いや、未央ちゃんはバラしていいって話じゃないからね』

杏『未央ちゃんもこれ以上はやめてね?』


凛(――めずらしく慌ててた杏の制止が効いたのか)

凛(――それ以上、人間に直接正体を明かす子は出なかった)


凛(――私も……まだ、未央みたいに一線を飛び越える度胸はなくて)

凛(――奈緒にも加蓮にも、私が"喰種"だってことは言えてない)

10: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 22:59:49.74 ID:0nnYzKIl0

凛(――でも)

凛(――蘭子が泣きながら主張して、未央が裏付けを取ってしまった二日間で)

凛(――菜々さんが死んでから、ずっと引っかかってた胸のつっかえが)

凛(――いつのまにか、無くなっていた)


凛(――「もしかしたら、受け入れてくれるかもしれない」)

凛(――「目の前にいる二人は、分かってくれるかもしれない」)


凛(――そんな願望が、少しでも現実に近づいたからなのかな)



凛(――「笑顔の橋」の告知から、みんなは人間の誰と組もうかって)

凛(――すごく、楽しそうに話してる)

凛(――それはシンデレラプロジェクトだけじゃなくて、ほかの皆も)


凛(――ああ)

凛(――きっと皆、現実を受け入れようとしていただけで)

凛(――本当は、この世界に変わって欲しかったんだ)


凛(――そういう、私だって)

11: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 23:01:05.66 ID:0nnYzKIl0

凛(――卯月は、美穂と一緒に歌いたいって嬉しそうに笑ってる)

凛(――未央はもちろん、茜と藍子と)

凛(――私も、奈緒と加蓮と歌いたい)


凛(――同じステージに立って、全てを打ち明けられる関係になりたい)


凛(――誘おう)

凛(――会ったらすぐに、いつものマックで)

凛(――あの鼻を刺す揚げ物の匂いも、今は待ちきれない)


凛(――はやく、2人に会いたい)





――――――――――――――――――――





凛(――その日は結局)


凛(――奈緒も加蓮も、いつまで待ってもマックに来なかった)


凛(――次の日になっても会えなくて、連絡も取れなかった)



凛(――そして茜も姿を消した)


――――――――――――――――――――

14: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/30(水) 23:31:51.56 ID:a7a4yjAC0

~「笑顔の橋」企画発表と同日、橘美樹と市原ギンによる忠告の翌日 346プロダクション~


セクギルP「……休暇、ですか?」

早苗「そ! 菜々ちゃんが死んじゃって、皆も落ち込んでるから」

早苗「あたしに近い人だけでも、郊外連れ回して元気になってもらえたらなって思ったの」

早苗「だから、今日の予定だけでいいからキャンセルして欲しいのよ。突然のことでビックリさせちゃってるのはごめんだけど」


P「……」

P「……まあ、早苗さんのワガママは今に始まった事じゃないですし」


P「仕事はこっちで何とかしますから、『ちゃんと』皆を元気づけてやってくださいね」

早苗「む! ちゃんとって、あたしはいっつもちゃんとしてるわよー!」

P「どうだか」


――――――――――――――――――――

15: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/30(水) 23:32:20.21 ID:a7a4yjAC0

――――――――――――――――――――


早苗「――よっし! 全員乗ったわね!」



早苗(――あたし、雫ちゃん、ありすちゃん、仁奈ちゃん)

早苗(――拓海ちゃん、有香ちゃん、桃華ちゃん、友紀ちゃん、心ちゃん)

早苗(――あたしが『人間』って断定できる子は、とりあえず全員車に乗せられた)


早苗(――皆にはひとまず、プロデューサー君に話したまま『日帰り旅行』って言ってる)

早苗(――あたしの嘘に気付いてるのは、たぶん心ちゃんだけ)

早苗(――本当は、CCGの本局に真っすぐ向かう)



早苗(――あ…駄目)

早苗(――残してきた子達のことがずっと頭をぐるぐる回ってる)

早苗(――もっと連れてこれる子もいたんじゃないかって)

早苗(――里奈ちゃんや夕美ちゃん、美優ちゃんのことじゃない)

早苗(――あの子たちは"喰種"だってほぼ確信してる)

早苗(――CCG本局にはRc判別ゲートがあるし、連れてきた子は検査を受けなくちゃいけない)

早苗(――連れてきたら、あの子たちは確実に死ぬ)


早苗(――あたしが悩んでるのは、有香ちゃんや友紀ちゃんのユニット仲間のこと)

早苗(――ゆかりちゃん、法子ちゃん、幸子ちゃん、紗枝ちゃん)

早苗(――なんでもっとあの子たちと関わらなかったんだろって、すごく後悔してる)

早苗(――もしあの子たちが人間だったら、危険な場所に置いてきたってことになるんだから)

早苗(――でも、もしあの子たちが"喰種"で、こっちに連れてきてたとしたら……)

早苗(――菜々ちゃんみたいな終わり方を目の前で見せられるなんて、有香ちゃんや友紀ちゃんには惨すぎる)


早苗(――だから、あの子たちに何も起きないことを願って)

早苗(――あたしは、ゆかりちゃん達を車に乗せなかった)


――――――――――――――――――――

16: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/30(水) 23:32:59.49 ID:a7a4yjAC0

――――――――――――――――――――



早苗(――この時の判断を、あたしは死ぬほど後悔することになる)

早苗(――理由はふたつ)

早苗(――ひとつは、あたしがゆかりちゃんと法子ちゃんを車に乗せなかったせいで……)

早苗(――有香ちゃんの人生を壊してしまったこと)


早苗(――そして幸子ちゃんを連れてこなかったせいで)



早苗(――346プロダクションを壊してしまったこと)



――――――――――――――――――――

17: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/30(水) 23:33:38.26 ID:a7a4yjAC0

~「笑顔の橋」企画発表の翌々日、未央から茜へのカミングアウト翌日―――





―――茜および奈緒・加蓮失踪の翌日 CCG本局~





橘「片桐さん」

橘「輿水幸子さんの身柄を、無事保護しました」

橘「喰種に襲われていたところを捜査中のギンが発見し、検査の結果『人間』と確定したため」

橘「彼女も皆さんと同じく、十分な説明のもと施設への入居を同意していただきました」


橘「そして、輿水さんの証言により」





橘「キャッスルの正体が判明しました」





――――――――――――――――――――

18: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/30(水) 23:35:08.34 ID:a7a4yjAC0

――――――――――――――――――――



凛「……茜も?」

未央「……うん。…その、しぶりんがいつも話してる奈緒ちゃんと、加蓮ちゃんも?」

凛「うん。連絡が取れない」

未央「……それって」

凛「……3人とも、攫われた」


未央「もしかして、私が正体を話したから……?」

凛「そうかもしれない。…誰が何のために攫ったのかは分かんないけど」

凛「346プロに"喰種"がいるってことを人間に知られたくない人がいたのかもね」


未央「……! ど、どうしようしぶりん!」

未央「私のせいで、茜ちんが……奈緒ちゃんと加蓮ちゃんまで……!」


凛「落ち着いて未央。未央は何も間違ったことなんかしてない」

凛「茜に話しただけなのに、奈緒と加蓮まで攫う意味も分かんない」


凛「悪いのは未央じゃない」

19: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/30(水) 23:35:37.28 ID:a7a4yjAC0

未央「……しぶりん?」

凛「未央。悪いけど、付いて来てくれる?」

凛「卯月は巻き込めない」


未央「……? いいよ。いいけど……」

未央「ついて行くって、どこに?」

凛「茜と奈緒と加蓮のところ。……あの子達を攫った奴らのところ」

未央「…???」

未央「場所……分かるの?」

凛「探せるよ」





凛「私の嗅覚で、奈緒と加蓮の匂いを追う」



凛「3人を取り戻すよ、未央」

26: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/31(木) 13:24:17.91 ID:DZlpiiFh0

~凛、未央による捜索開始と同時刻~


美穂「『笑顔の橋』?」

卯月「うん! プロデューサーさんが企画してくれたライブなんだけどね」

卯月「その宣伝のために、音楽番組で歌わせてくれることになったの!」


美穂「へー! いいなあ、楽しそう!」

卯月「えへへ……それでね。美穂ちゃんにも出て欲しいの!」

美穂「え? …私も!?」

卯月「うん!」


卯月「プロデューサーはね、宣伝のために私、李衣菜ちゃん、蘭子ちゃんを代表として出してくれたんだけどね」

卯月「その時に……」



武内P『「笑顔の橋」は、表向きは人と人をつなぐメッセージを人に届けるライブをコンセプトとしていますが』

P『本当の目的は「人と喰種」を繋ぐメッセージを喰種に届けるライブです』

P『ですので、今回の宣伝には人間アイドルの皆さんと仲の良い島村さん、多田さん、神崎さんに』

P『その人間アイドルの方と共に出演していただくことで、視聴した喰種に皆さんが構築した「信頼の形」を見ていただきます』



卯月(……えっと、"喰種"の話は喋っちゃダメだから……)


卯月「大切な友達と出演することが大事だって言われたんです!」


美穂「! 卯月ちゃん……!」

27: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/31(木) 13:24:45.24 ID:DZlpiiFh0

卯月「だからね、その宣伝は1週間後で、すごく大変なレッスンに美穂ちゃんを突き合せちゃうんだけど……」

美穂「いいよ! やろうよ!」

卯月「!!」

美穂「私、卯月ちゃんに誘ってもらってすごく嬉しいんです!」

美穂「卯月ちゃんに『大切な友達』とまで言ってもらえるなんて……!」

美穂「えへへ。宣伝だけど、やっと卯月ちゃんと一緒のステージに立てるんだなって思ったら……」

卯月「美穂ちゃん……!」


卯月「うんっ! よろしくお願いします!」

美穂「こちらこそよろしく、卯月ちゃん!」


――――――――――――――――――――


卯月(――よかったあ。ほんとに急なお仕事になっちゃったから、受けてもらえるか不安だったけど……)

卯月(――美穂ちゃんが『一緒にお仕事ができて嬉しい』まで言ってくれるなんて)


卯月「……」


卯月(――『喰種が殺されて死ぬのが当たり前なわけがない』)

卯月(――私は、そんなこと思ってたつもりじゃなかったんだけどなあ……)

卯月(――自分で、気付いてなかったのかな)


卯月(――私も、"喰種"だからアイドルになれないって言われて、だけど必死で頑張って)

卯月(――プロデューサーさんに拾ってもらえて、それでアイドルになれて……)

卯月(――結局、アイドルになったその先も)

卯月(――いつ殺されて死ぬか分からない、そんな厳しい世界だったけど……)


卯月(――もし、そうしなくても済む道があるなら)

卯月(――私はそのために、皆のために何かしたい)


卯月(――私なんかに何が出来るかなんて分かんないけど、出来ることがあるなら)

卯月(――島村卯月、全力で頑張ります!!)

28: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/31(木) 13:25:39.74 ID:DZlpiiFh0





卯月(――それにしても)

卯月(――なんで未央ちゃんは宣伝メンバーに選ばれなかったんだろ?)

卯月(――茜ちゃんに正体まで話して、一番うまくいってると思うのになぁ……)


卯月(――プロデューサーさんに、何か考えがあるんでしょうか?)


――――――――――――――――――――

29: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/31(木) 13:31:34.01 ID:DZlpiiFh0

――――――――――――――――――――


未央(――"喰種"は元々)

未央(――人間と比べて、視力や聴覚、嗅覚がずっと強い)

未央(――私が人間と"喰種"を見分けられるのも)

未央(――人間には分からないくらい僅かな"喰種"の匂いをかぎ取れるから)


未央(――ただ、才能の違いなのかな)

未央(――"喰種"の中には、他の喰種よりずっと強い感覚を持ってる子もいるみたい)

未央(――例えば杏ちゃんは目も耳も鼻も、他の皆よりずっと良い)

未央(――私達には聞こえないほど遠くにいた、きらりんの足音を聞きとって咄嗟に隠れたくらい)

未央(――ほかにも、りーなは耳がすごくいい)

未央(――何百メートルも離れたみくにゃんの悪口を、きっちり聞き取り怒って走って行ったくらい)


未央(――そしてしぶりんは、すごく鼻がきく)

未央(――一度嗅いだ人の匂いは、絶対に忘れなくて)

未央(――らんらんが半喰種だって気付いてた数少ない子だったし)

未央(――合宿の水鉄砲合戦では隠れても無駄無駄だったし)

未央(――私やしまむーが迷子になった時は、何度も正しい場所に連れ戻してくれた)

30: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/31(木) 13:34:18.26 ID:DZlpiiFh0

未央(――だから、しぶりんの鼻に間違いはなくて)

未央(――今回もしぶりんに任せれば、茜ちんも、奈緒ちゃんや加蓮ちゃんも、すぐに取り戻せるって思った)

未央(――私は甘かった)


未央(――今回だけは、しぶりんが間違っていて欲しかった)





未央「……あのさ、しぶりん。これ、冗談なんだよね?」

凛「…こんなことで冗談は言わないよ」

未央「じゃ、じゃあ、今日は体調が悪かったとか……」

凛「……熱を出した時も、匂いを間違えたことなんてない」

未央「……本当に、ここから3人の匂いがするの?」


凛「…………うん」





凛「346プロダクションの地下入口」



凛「……信じられないけど、3人は346プロの地下にいる」

34: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:01:02.91 ID:GXSjOIe50

凛「……」

未央「しぶりん……」



未央(――前に、プロデューサーやちひろさんから話を聞いたことがある)

未央(――喰種組織『キャッスル』)

未央(――大きさもアジトの場所も、何も分からない組織)

未央(――分かっているのは、あちこちのプロダクションから可愛い人間アイドルを誘拐してるってことだけ)

未央(――その被害者には346プロも入ってて)

未央(――人間でも大事なアイドルを攫って行く『キャッスル』は絶対に許せないって)

未央(――ちひろさんが怒っていたのを、よく覚えてる)


未央(――茜ちん、奈緒ちゃんや加蓮ちゃんを攫ったのも『キャッスル』の仕業じゃないかって)

未央(――私は思ってた)


未央(――正直、わけの分かんない組織に立ち向かうことはすごく怖かったけど)

未央(――それでも、しぶりんのおかげで、場所が分かりさえすれば)

未央(――戦いを避けて、ささっと友達3人を連れ戻すくらいなら)

未央(――私は怖くない)

未央(――臆病な私でも、それくらいは勇気を振り絞ってやるって)

未央(――私らしくもなく、息巻いてたんだ)


未央(――それが)


未央(――こんなところにたどり着くなんて)

35: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:01:33.71 ID:GXSjOIe50

未央(――346プロダクション)

未央(――お姫様になりたい女の子の夢を叶える場所)

未央(――たとえ、"喰種"であっても)


未央(――しまむーは、ただ純粋にアイドルになりたくて)

未央(――私は、"喰種"の私でも出来ることがあるって知りたくて)


未央(――しぶりんは―――――)


凛「……」


未央(――"喰種"だからって諦めてた、一生懸命になれることを探したくて)

未央(――この346プロに来たんだっけ)


未央(――それなのに)

未央(――ここは……)



未央(――346プロに、何があるっていうの?)



凛「……未央」



凛「行こう」



36: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:02:04.13 ID:GXSjOIe50

未央「ッ……!!」

未央「行こう、って……」

未央「待ってよしぶりん!」

凛「…未央も付いて来て。歩きながら話すから」


凛「この入口、たしかただの通路だったはず」

凛「ただ、長い道が続いて……そのまま進めば、普通に346プロの内部に出る」

凛「……多分、あれだと思う。未央も見たことあるでしょ?」


凛「赫子の壁」


未央「!!」


凛「莉嘉たちが使ってた、勉強部屋のそれとは全然違う」

凛「私でも、匂いで気付けないくらい精巧なカムフラージュがされてる」

凛「奈緒と加蓮の匂いを辿らなきゃ、私もここが分からなかっただろうね」


凛「……ここだ。ここで2人の匂いが途切れてる」

未央「……ここが……」


未央(――しぶりんが言った、匂いの途切れた場所は……)

未央(――ただの、レンガでできた壁にしか見えなかった)

未央(――触っても匂いを嗅いでも、周りの壁と何も変わらないように感じた)

未央(――これが赫子でできた壁だなんて、証明する方法なんてない)


未央(――この1個以外には)


凛「……下がってて、未央」ビキ


未央(――しぶりんの首筋から、鋭くて赤い羽がいくつも飛び出して、壁に刺さった)

未央(――そしたら、壁はウネウネと動いて……)

未央(――信じたくは無かったけど……)


未央(――さらに下に続く道が、現れた)

37: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:07:53.37 ID:GXSjOIe50

凛「……嘘でしょ?」

未央「……」


未央(――道が開けた瞬間、しぶりんの表情が変わった)

未央(――それまでは、まだ迷いがあるって感じの顔だったんだけど)

未央(――まるで、想像してた以上にひどい真実を聞かされたような……)


凛「信じたかったけど、もう駄目だよ。未央」

凛「346プロは、こんな道を隠してた」

凛「奈緒と加蓮の匂いも、ずっと強くなった」


凛「もう信じられない。ちひろさんも、今西部長も……」

凛「……プロデューサーも」



凛「3人の匂いがする」

凛「3人とも、ここを通ってる」


未央「!!?」


未央(――プロデューサーまで!?)

38: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:08:20.74 ID:GXSjOIe50

凛「…ずっと、そんなわけないって思ってた」

凛「ここで、知らない誰かが、勝手に悪い事をしてて」

凛「プロデューサーは、ただ346プロで仕事をしてるだけで、関係ないって」


凛「……なのに」

凛「プロデューサーの匂いが、すごく強いんだよ」

凛「一回だけじゃない。何度もここを通ってる」

凛「他の匂いにも、覚えがあるんだ」

凛「共演した同じ346のアイドルのプロデューサー」

凛「たまに顔を合わせる、役員の人」

凛「一緒にお仕事をしたことがある、346プロや他所の人間アイドル」

凛「……みんな、記事に載ってた人だ」


凛「『キャッスル』に攫われて行方不明になった人たちだ」

39: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:09:18.60 ID:GXSjOIe50

凛「未央」


凛「どうしよう、気付いちゃった」


凛「…『キャッスル』は――――――――――」





凛「キャッスルの正体は346プロなんだ」



凛「346プロのアイドルが攫われてるのは……」





凛「全部、346プロの自作自演なんだ」





未央「―――――!!」

40: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:09:47.03 ID:GXSjOIe50







「さすがに予想外でした。匂いだけでそこまで推理できちゃうなんて」







41: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:10:13.71 ID:GXSjOIe50

凛・未央「「……え?」」


未央(――周りを見渡しても、誰もいなかった)

未央(――なのに、声だけが聞こえた)

未央(――どこから聞こえたのか、誰の声なのか)

未央(――その答えはすぐに分かった)


未央(――長く続く通路の天井)

未央(――私達の頭のすぐ上から)


未央(――ぶよぶよとした赫子が垂れて)


未央(――真っ赤な目をしたちひろさんが、私達を目掛けて飛び降りてきたんだ)



ブスッ


未央(――それが分かった次の瞬間、目に激痛を感じた)

未央(――痛くないもう片方の目を必死に動かすと)

未央(――注射器の針が刺さっているのが見えた)

未央(――ちひろさんが、右手に持った注射器で私を)

未央(――左手でしぶりんの目を、それぞれ突き刺して)


未央(――そしたら、ちひろさんが今度は両手を放して)

未央(――私達2人の顔に手を添えて)



未央(――2つまとめて地面に叩きつけた)



未央(――それが、気絶するまでに見たものの全部だった)


――――――――――――――――――――

46: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 09:56:50.38 ID:SEAxogu10

~CCG本局~


早苗「『キャッスル』の正体が分かった……!?」

橘「はい。…と言っても、まだ証言と状況証拠から『キャッスルである可能性が最も高い団体』を絞り込めたと言う段階ですが」

早苗「…幸子ちゃんが、キャッスルの正体を知ったの?」

橘「いいえ」


橘「正確に申し上げれば、輿水幸子さんの証言の一部に気になるところがあり」

橘「調査を進めたところ、『キャッスル』と思われる団体の手がかりを得た……と言うべきでしょうか」

早苗「…?」

橘「…すみません。今のことは確定事項ではなく、皆さんの混乱を避けるため捜査対象の名前をぼかしてお話しする必要があったんです」



橘「そして、早苗さんにお伝えしたい事がもう一つ」

橘「輿水さんとは別に、もうひとり『キャッスル』について情報提供をしたいと言う方が現れました」

橘「私はこれから、その情報提供者と面会を行います」


早苗「…それは誰?」

橘「今お話しすることは出来ません」

橘「…ただし、例外として」



橘「片桐さんも面会に立ち会っていただけるのであれば」



橘「捜査対象の名前を含め、今現在『キャッスル』について知りうる全ての情報を片桐さんに開示できます」


――――――――――――――――――――

47: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 09:58:12.46 ID:SEAxogu10

――――――――――――――――――――


早苗(――立ち会いを断る理由なんてなかった)

早苗(――美樹ちゃんも、私の返事は最初から分かってたみたいで)

早苗(――あたし達はそのまま、もう1人の証人が待っている応接室に向かった)


早苗(――美樹ちゃんが言ったことを要約すると)

早苗(――その証人は、いわゆる『内部告発者』)

早苗(――"喰種"が運営している組織で働いていた人間だったけど)

早苗(――その組織について、ある情報を知ってしまったことで)

早苗(――告発を決めた……って感じね)


早苗(――美樹ちゃんは、証人に会うまでキャッスルの正体を教えてくれなかった)

早苗(――でも、もうすぐ分かる)

早苗(――この扉の向こうに、関係者がいる)

早苗(――ユッコちゃんを攫った犯人に、もうすぐたどり着ける)


早苗(――さあ)

早苗(――今までの悪事のツケ、全部清算してもら――――――――――)





「…君は、片桐早苗か」

「こうして直接話をするのは初めてだな」

「君を含む我がプロダクションのアイドル数名が、CCGに保護されていると言う情報は本当だったんだな」



早苗(―――――え?)

早苗(――この人が……)

早苗(――『内部告発者』)


早苗(――ってことは)

早苗(――『キャッスル』って)

早苗(――まさか)


早苗(――まさか!!)



「……気付いたようだな」


「真実は君の想像している通りだ」



「初めまして、橘美樹準特等捜査官」

「貴女の御息女は、短くも良い活動をしてくれた」





美城「346プロダクション所属、常務の美城だ」


――――――――――――――――――――

48: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 09:58:38.08 ID:SEAxogu10

~346プロ地下潜入の同日・夜 346プロダクション地下~


凛「……」

凛(――ここは……?)

凛(――真っ白で小さな個室……何も置いてない)

凛(――私は確か……346プロの隠された地下入口を見つけて)

凛(――ちひろさんに襲われて、目に針を刺されて……)


凛「……!」


凛(――そうだ! 346プロは……!!)


「お目覚めですか?」


凛「ッ……!!」

凛(――この声は……!!)



ちひろ「こんばんは、凛ちゃん」

ちひろ「よく眠れましたか?」

49: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 09:59:05.43 ID:SEAxogu10

凛「ッ!」ギリッ

凛「…ふざけた、こと、言わないでよ……!!」ググ

凛「……返して……!」

凛「奈緒と加蓮を……茜を、返せっ!!」


凛「ッ!?」ズルッ


ドシャ


凛(――なにこれ)

凛(――身体が、思うように動かない)

凛(――力が入らない……?)


ちひろ「あまり無理をしない方がいいですよ」

ちひろ「ただでさえRc抑制剤のせいで、しんどい思いをしているのですから」

凛「Rc……?」

ちひろ「凛ちゃんも知ってると思いますが、私達"喰種"の身体能力はRc細胞によって底上げされています」

ちひろ「これは白鳩も使ってる、Rc細胞の活動を抑制するお薬ですよ」


ちひろ「……まったく忌々しい」

50: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 09:59:34.68 ID:SEAxogu10

凛「……アンタ……!!」

ちひろ「ん? どうしましたか? 何か聞きたい事でも?」

ちひろ「ああ! 奈緒ちゃんと加蓮ちゃん、あとついでに茜ちゃんの居場所を知りたいんですね?」

ちひろ「それもそうですよね、わざわざこんな所にまで3人を取り戻しに来たんですから!」

ちひろ「それとも未央ちゃんの居場所でしょうか?」

ちひろ「優しいですねえ、凛ちゃんは」

ちひろ「あっちはあの子の自業自得だと言うのに」


凛「!!」

凛「未央をどこにやったの!?」

凛「あんた達は私達に隠れて何をしてるの!?」


ちひろ「まあまあまあ、がっつかなくても全部説明しますよ」


ちひろ「どうせ口止めするんです」


ちひろ「それなら最初から、大切なアイドルの知りたいことを教えてあげる優しさはあるんですよ?」

51: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 10:00:03.11 ID:SEAxogu10

凛「…どの口が……!!」

ちひろ「はいはい。…えっと、まずは神谷奈緒ちゃんと北条加蓮ちゃんの行方ですね」


ちひろ「あの2匹は、今回協力していただいたマダムの一人にお礼として差し上げました」

ちひろ「ああ、協力って言うのは菜々ちゃんが死んだときそれ以上346を詮索されないようにするため」

ちひろ「『安部菜々と言う"喰種"は「清廉潔白の346プロ」に潜り込んでいた』と言うストーリーの作成を手伝ってもらったってことです」


ちひろ「協力者の名前は『ビッグリリィ』」

ちひろ「少女同士、あるいは美少年同士の触れ合いを眺めるのが大好きらしくて」

ちひろ「ちょっと変わった方法で日々の癒しを得ている方です」


ちひろ「本人曰く、買った人間の少女2人を同じところに監禁して」

ちひろ「毎日少しずつ少しずつ身体のパーツを切り取って食べながら」

ちひろ「為す術もなく体を失い死にゆく絶望の中、唯一の救いである互いの存在を求めあい」

ちひろ「互いに縋るように身を寄せ合う姿が最高に尊い、だとか」


ちひろ「そうですねえ……今頃あの2匹は」


ちひろ「手足のない身体で互いを慰め合っているんじゃないでしょうか?」


ちひろ「これが『なおかれ』なんですねえ」

52: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 10:01:22.31 ID:SEAxogu10

凛「―――――」


ちひろ「…おや? どうしました?」

ちひろ「凛ちゃんには、まだ刺激が強すぎましたか?」


ちひろ「…まあいいでしょう。じゃあ次、未央ちゃんの安否ですね」

ちひろ「とりあえず五体満足ですよ。ほら」グイッ


未央「……」ドサッ


凛「! 未央!!」


ちひろ「凛ちゃんはともかく、未央ちゃんは少し悪い事をしちゃいましたからね」

ちひろ「まさか、あんなにも堂々と自分が"喰種"だとバラすなんて」

ちひろ「いや危ない危ない。こっちの事まで知られたら取り返しのつかないことになってましたよ」

ちひろ「なので未央ちゃんには、少しばかり、肉体的にも精神的にもきついお灸を据えてあげました」


ちひろ「でも、人間に育てられたとはいえ喰種。素晴らしい回復力ですね」

ちひろ「お腹に大穴を開けられたと言うのに、食事さえすればもう傷一つない」

53: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 10:01:55.60 ID:SEAxogu10

凛「未央、未央!? 大丈夫!?」

未央「……あ……」

未央「しぶ、りん……」


凛「未央……あいつらに何をされたの!?」

未央「何、って、あ……」

未央「っう……!」


未央「ごめんっ、ごめんなさい、しぶりん」

未央「わたしのせいで、茜ちん、が……!!」


凛「……茜?」



ちひろ「そしてこれが次の答え」

ちひろ「茜ちゃんはこうなりました。はいっ」



凛(――あの女は、未央を連れてきた入口から)

凛(――ボーリング玉ほどの何かを鷲掴みにして、私と未央のところまで放り投げた)

凛(――思わず受け取ると、細い糸がいくつも生えている感触が手から伝わって来た)

凛(――すぐに、髪の毛だって分かった)


凛(――これを持ったのは、初めてじゃなかった)



ちひろ「そうそう、これは未央ちゃんに向けて話してますけど」

ちひろ「茜ちゃんがどうやって死んだか、凛ちゃんに話すかどうかは未央ちゃんが決めていいですよ」

54: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 10:02:55.74 ID:SEAxogu10

凛(――もう、限界だった)


凛「―――――ふざけるなッ!!!」

ちひろ「…はい?」

凛「あんた達は一体何なの!? なんでこんなひどい事が出来るの!?」

凛「頭おかしいよ!! 狂ってるよ!! 人間を何だと思ってるの!?」

凛「こんなっ……346プロがこんなところだって知ってたら!」

凛「私はここでアイドルになんかならなかった!!」


ちひろ「……」


ちひろ「……はーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


ちひろ「今まで散々散々、346の恩恵を受けておいてひっどい言い様ですね」

ちひろ「自分も化け物だって自覚、あります?」


凛「はあ!?」


ちひろ「…あー、そう言えば」

ちひろ「私達がこれだけ裏でがんばってるの、ほとんどのアイドルは知らないんですよね」

ちひろ「まあ、私達はアイドルの笑顔が生きがいですから文句も言いませんけど……」


ちひろ「……いいでしょう」

ちひろ「凛ちゃんが知りたがってる346プロの事、全部教えてあげます」


ちひろ「答え合わせの時間といきましょうか」


――――――――――――――――――――

55: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 10:04:16.30 ID:SEAxogu10

――――――――――――――――――――


美城「とあるきっかけにより、私は知った」

美城「長大な歴史を誇る老舗ブランドを謳った、我が美城プロダクションは」

美城「その実、美しい城などではなかった」


美城「あれは無垢なる人間の少女で身を隠し、少女を喰い荒らし」

美城「そうして放り棄てられた人間の骸を礎にして作られし穢れた城」


美城「片桐早苗。君も存分に聞くがいい」



美城「私の知る全てを話そう」


――――――――――――――――――――

56: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 10:07:53.22 ID:SEAxogu10

一旦ここまで。

ウサミンに続き死者2人目です


ビッグリリィは原作喰種っぽく作れたと思うのですがいかがでしょうか?

ほぼ一発ネタですがクレイジー百合厨のキャラクターは設定作ってて楽しかったです

59: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:07:48.12 ID:SEAxogu10

早苗(――美城常務が語った真相は、簡単に言えばこういうことだった。



346プロダクションは"喰種"の身体能力に目を付けた人間の美城一族が、

その能力と、お金や生活補助との交換を吹っ掛けたことで生まれた会社。


美城一族以外の幹部や管理職、プロデューサー、女子寮の管理人、事務所の清掃員まで、

運営に関わらないような事務員を除いたほぼ全てのポジションで"喰種"が働いてる。


また、当然っちゃ当然だけどアイドルもその半分以上が"喰種"。

人間と"喰種"のアイドルを両方置いておくことでCCGや人間へのカモフラージュを作って、

「ご飯」を定期的に供給したり学校や教育を手配したりすることで、

ほかのアイドル事務所と比べて"喰種"が安心して生活しアイドル活動を続けていける環境を作った。


……ここまでが、表向き"喰種"アイドルや常務が元々聞かされていたお話。



ああ、あと346プロの秘密を知った人間はこっそり始末してるって話だけど、

良い悪いはともかく、目撃者は消さざるを得ないって言うのは、私もまだ納得できる……

問題はここから。



346プロが人間アイドルを雇うのはカモフラージュのためだって言ってたけど、

本当はもっとおぞましい理由がある。

60: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:08:21.30 ID:SEAxogu10

346プロは、"喰種"アイドルを守るために色々な事をしなくちゃいけない。


狩りの出来ない"喰種"のために、ご飯を用意する。

学校にいけない"喰種"のために、教材や勉強場所を用意する。

"喰種"としての正体を隠すために、偽の戸籍やRc検査診断書を用意する。

職員やアイドル個人の正体がバレた時、ほかのアイドルまで捜査が行かないよう根回しやもみ消しをする。

(分かりやすい例が菜々ちゃんの時のこと)

荒っぽい野良喰種が346プロに来ないよう牽制する。


そして、完全に"喰種"アイドルの正体を隠すには346プロだけの力じゃ足りない。


だから周りの喰種組織と協力して完璧な情報を隠す形態を確立した。



でも、周りの喰種組織はタダで協力してくれるわけじゃない。

346プロにしか出せないものがあるから、みんな協力してくれる。


346プロは、それを『財産』って呼んでる。





346プロは協力の報酬として、人間のアイドルを誘拐して報酬にしている。

61: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:08:47.01 ID:SEAxogu10

周りの"喰種"にとって、可愛い女の子はそれだけで価値のあるご飯になる。

アイドル事務所なんだから、可愛い女の子が集まるのも当然。

それにレッスンで鍛えられて、エナジードリンクや『レシピ』で整えられたしなやかな身体は評価が高くて、

346プロを手伝えばそれが貰えるようになるんだから、皆喜んで仕事をする。


でも定期的に自社のアイドルが減っていけば、誰だって不審に思う。


そのために、346プロは『キャッスル』って言う架空の組織を作り上げた。


あちこちのアイドルを攫い、どこかに出荷する極悪組織。

その実は、346プロが自分のところのアイドル失踪を誤魔化すために他所の子もまとめて攫ってるだけ。


そして、346プロから喰種組織に売り飛ばされた人間は、一部のお金持ちの喰種に―――――





―――――その先を聞いて、あたしは吐いた)


――――――――――――――――――――

62: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:09:15.34 ID:SEAxogu10

――――――――――――――――――――


ちひろ「―――っと、こんなところですかね」

ちひろ「どうです? 自分を支えた皆のやってることを知った気分は?」


凛「…………」

凛「……あ……」


ちひろ「…あーらら。絶句しちゃってますね」

ちひろ「一応補足ですが、『キャッスル』として攫った他所の子は346の子より肉質がずっと劣るため」

ちひろ「適当に下っ端にばら撒いて処理してます」


ちひろ「あと、普通なら346から出す子は『レシピ』に従って施術を行うのですが」

ちひろ「奈緒ちゃんと加蓮ちゃんに関してはビッグリリィの要望により、施術を行わずそのまま提供してるんですよね」

ちひろ「あそこの場合、再生能力は邪魔にしかなりませんからね」

ちひろ「…おーい? 今何気にすごい伏線貼りましたよー?」

ちひろ「聞こえてますかー?」


ちひろ「……ダメですかねこれ」

63: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:09:42.54 ID:SEAxogu10

――――――――――――――――――――


早苗「ッ……おえっ……うええっ……!!」


橘「…大丈夫ですか、片桐さん」


早苗「ぐっ……はあ、はあ」

早苗「ごめ、なさ……美樹ちゃ、ん……」


橘「いいえ、片桐さんの心情を鑑みず聴取を行った私にも責任があります。本当に申し訳ありません」

橘「すぐに医務室までお連れします。少しだけお待ちください」


早苗「はっ、はあっ……」


美城「……」

美城「……すまない、片桐君。君への配慮が欠けていた」

美城「堀裕子の居場所を除いて、君が知りたい筈の情報はすべて話した」

美城「彼女の居場所までは、私も突き止められなかった」


早苗「……ぐっ……う、う……!!」


早苗「……どう、して……?」


美城・橘「「?」」


早苗「どうして、あいつらは……!」

早苗「こんなひどいことを、平気で出来るの……!?」


美城「……」


美城「……そうだな」


美城「理由だけなら、私にも推測できる―――――」


――――――――――――――――――――


凛「どう、して……」

ちひろ「お」


凛「どうして、そんな、残酷なことが出来るの……?」


ちひろ「……まーだ分かりませんか」

ちひろ「何度も言ってる筈なんですけどねえ」


ちひろ「私達がここまでする理由なんて、ひとつだけですよ」


――――――――――――――――――――

64: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:10:11.13 ID:SEAxogu10










「すべてはアイドルのため」










ちひろ「これくらいやらなきゃ、"喰種"はステージに立てないんですよ」


美城「そして、このような吐き気を催す行為の支えなしに輝きを得られないなら―――」





美城「―――――"喰種"にくれてやる城やドレスなどない」

美城「骸を礎にしなければ保てない血まみれの城など、壊して当然の害悪だ」


――――――――――――――――――――

65: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:10:44.62 ID:SEAxogu10

――――――――――――――――――――


ちひろ「……さて、お仕置きとお説教はこれまでにして」

ちひろ「とりあえず、凛ちゃんも未央ちゃんもこのまま帰っていいですよ」

ちひろ「命なんて奪いません。ちゃんと出口まで案内します」


ちひろ「誤解しないでほしいんですが、私達にとっては」

ちひろ「お二人も守るべき大切なアイドルだって事は変わらないんです」


ちひろ「未央ちゃんは"喰種"としての自覚がちょーっと足りなかったみたいなので、厳しい躾をしてしまいましたけど」



ちひろ「……さて」

ちひろ「分かっているとは思いますが、ここで見たこと、聞いたこと、知ったこと、気付いたことは全て他言無用でお願いします」

ちひろ「もしお二人以外のアイドルの誰かに、このことを伝えたのなら……」


ちひろ「今度は卯月ちゃんと美穂ちゃんが」

ちひろ「その次は李衣菜ちゃんと夏樹ちゃんが」

ちひろ「これは骨が折れそうなので勘弁してほしいんですけど……さらに次は蘭子ちゃんと飛鳥ちゃんが」

ちひろ「未央ちゃんと茜ちゃんの代わりになります」


ちひろ「大切なお友達にこんな気持ち、させたくないでしょう?」

ちひろ「ね、未央ちゃん♪」



ちひろ「……それでは、今日はお疲れさまでした」

ちひろ「また明日から、夢に向かって頑張ってくださいね♪」

ちひろ「我々はその姿勢を、心より応援します♪」


――――――――――――――――――――

66: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:11:19.24 ID:SEAxogu10

――――――――――――――――――――


美城「……片桐君の様子は」

橘「とりあえず落ち着きました。…聴取を続けても?」

美城「構わない。だが、証言は一通り済ませた筈だ。まだ何か聞きたい事があるのか?」

橘「ええ。あと一つだけ」



橘「どうして貴女がそこまで知っている?」



美城「……何かおかしいか?」

橘「ええ。『キャッスル』……いえ、346プロダクションは長い間、その正体を隠し続けていた」

橘「我々の捜査の糸にすらかからなかった」

橘「忌まわしいことに奴等は我々の目を他所に逸らし続け、我々は騙され続けた」


橘「その346プロが、貴女に情報をリークされる可能性を考えていなかったとは思えない」

橘「一朝一夕の調査で手がかりなしの状態から得られる情報にしては、あまりにも精密かつ大きすぎる」

橘「……どうやって知った?」

67: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:12:02.23 ID:SEAxogu10

美城「……やれやれだ。『あの情報』だけでは信用してもらえないのか?」

美城「わざわざ担当アイドル4人を君たちに売ったと言うのに」

美城「一人は捕獲したと聞いているぞ?」


橘「ええ。貴女が我々の信用を得るために提供した情報……」

橘「『速水奏、塩見周子、宮本フレデリカ、鷺沢文香の4匹は"喰種"である』」

橘「4匹が揃って行動しているときに、ギン達に襲撃してもらって」

橘「前3匹には逃亡を許したものの、鷺沢文香の捕獲には成功した」

橘「……それぞれの赫眼も確認して、残る一人『大槻唯』の検査と保護も行い」

橘「大槻唯が人間だということも含め、貴女の提供した情報は嘘偽りない真実だと証明された」


美城「……それでもまだ、私が君たちを嵌めようとしていると?」

橘「怪しい箇所がひとつでも見つかれば疑うのは当然だ」

橘「なぜ知った。なぜここまでの情報を手に入れられた」

橘「答えろ」

68: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:13:18.75 ID:SEAxogu10

美城「……"喰種"とは言え恩人だから、できれば命だけは見逃してやりたかったのだがな」

美城「良いだろう、話そう」


美城「私がこの真実にたどり着いたのは、私自身の裏付けによって得られたものでもあるが……」

美城「そもそものきっかけは、とある"喰種"アイドルによるリークだった」

美城「内容は、『彼女』が独自に掴んだ346プロの違和感」

美城「そして、そこから構成された『彼女』自身の推論」


美城「制裁を恐れて証拠を掴めなかったため、裏付けを私に丸投げしたのだろうが」

美城「驚くことに、彼女の推理はほぼ当たっていた」

美城「あとは簡単だ。仮説さえ立てられれば、あとは証拠を集めるだけでいいのだから」

美城「奴等の武器は『気付かれないこと』。真実の欠片にさえ気付いてしまえば、容易に辿り着ける」


橘「……『彼女』の名前は?」

美城「…………」



美城「―――『佐久間まゆ』」



美城「佐久間曰く、彼女は君たちが346プロ職員から輿水幸子を保護したことを知ってリークを決意したようだ」

美城「"喰種"とは言え、大した先見の明だ。346プロの対応を予期し、私に集めた情報と推理を渡したのだからな」


橘「……」

69: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:14:21.03 ID:SEAxogu10

橘「…分かりました。ひとまず、貴女が一人の"喰種"を見逃すなどと堂々と宣ったことについては、後回しにしましょう」

橘「それはそれとして、意味が分からない。なぜ"喰種"がそんなことをしたのですか?」

橘「自分の安全な居場所を壊すだけだと言うのに。気が狂ったのですか?」


美城「その理由までは聞けなかった」

美城「……ともあれ、私にとっては十分に信用できる情報だ」

美城「そちらでも情報の裏付けを取ると良い。あまり難しくはないだろう?」

橘「ええ。当然です」


橘「……最後に確認しますが、美城さんが"喰種"だと把握している346プロのアイドルは」

橘「リークした4人に加え、佐久間まゆの合計5人のみ」

橘「間違いはありませんか?」

美城「ああ。それ以上は本当に知らない」


橘「分かりました。ではこれで、美城さんへの聴取を終わります」

橘「これより美城さんにはCCGの保護下に入っていただきます」

美城「構わない。君たちの許可なく、私から346に連絡など取らないと誓おう」

橘「…ご協力、感謝いたします」


――――――――――――――――――――

70: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:14:49.10 ID:SEAxogu10

――――――――――――――――――――


早苗「……ん……」

「お、目が覚めたか」

早苗「……ギンちゃん?」

市原「おう。体は平気か?」

早苗「なんとかね。…聞いたわよ。幸子ちゃんをあいつらから守ってくれたって」

早苗「ありがと」


市原「ハッ、別に構わねーよ。仕事だ仕事」

市原「こっちこそサンキューな。奴らが動く前に仁奈たちを連れてきてくれて、すげー安心した」

早苗「……もう。そんなに娘を心配するなら、ちゃんと会ってやればいいのに」

早苗「すぐ近くで皆と遊んでるわよ」


市原「…出来ねえよ。アタシは仁奈に会う資格なんかねえ」

市原「こんなクソでバカな母親よりアンタらの傍にいた方が……アイツにとってずっと良い」

市原「アタシに出来ることは、仁奈のために金を稼ぐことだけだ」


市原「…知ってんだろ? 仁奈の親父のこと」

71: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:15:17.69 ID:SEAxogu10

早苗「…うん、知ってる」

早苗「仁奈ちゃんのお父さん……あなたの夫は、海外になんて行ってない」

早苗「治療費にお金がかかるから、あなたがずっと喰種を倒して稼がなきゃいけないって……」

市原「……そこまで知ってンなら、分かるだろ?」

市原「アタシは、仁奈を親父に合わせてやりてえ」

市原「アイツ見殺しにして仁奈のところにノコノコ行けっていうのかよ」

早苗「……あのねえ」


早苗「お金が必要なら、私達がいくらでも稼いであげるわよ……」

早苗「資格とか寝ぼけたこと言ってないで……母親らしく仁奈ちゃんと遊んであげなさいよ」

早苗「仁奈ちゃんはずっと、ママが大好き、ママに会いたいって、言ってるんだから……」

市原「……!!」


市原「……どっちにしろ、今は無理だ」スクッ

市原「まず346プロを追い詰めなきゃいけねえ」


市原「早苗サン。アンタはゆっくり寝てろ」バタン


――――――――――――――――――――

72: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:16:33.75 ID:SEAxogu10

――――――――――――――――――――


ちひろ「……おや。プロデューサーさん、こんばんは」

ちひろ「ええ。凛ちゃんと未央ちゃんが、こっちに気付いちゃいまして」

ちひろ「釘は刺したのですが……きっとプロデューサーさんにはご迷惑をおかけすると思います」


ちひろ「……ああ、それともう一つ。あの二人について」

ちひろ「少し状況が怪しくなったので、ご報告したい事が」


ちひろ「神谷奈緒と北条加蓮の捕獲の際、一匹の人間アイドルに現場を目撃されました」

ちひろ「…ご存知でしたか。ええ、輿水幸子です」

ちひろ「規則に従って、幸子ちゃんを排除しようとしたのですが……」

ちひろ「運悪く、近辺を捜査していた白鳩に保護されてしまいました」

ちひろ「その後、交戦したときに一名、マスクが外れたらしく……」


ちひろ「万が一、あれに職員の顔を特定された場合……証言によって我々346プロが窮地に陥る危険があります」

ちひろ「もしそうなった時のため……例の職員を、その担当アイドルを含め切り捨てる準備を行ってください」

ちひろ「よろしくお願いします」


――――――――――――――――――――

73: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:18:38.93 ID:SEAxogu10

――――――――――――――――――――


(――事実、輿水幸子さんが保護されることで)

(――その後の動きに触発された常務の行動――翌日の出来事だったため、この時は知る由も無かったのですが――を含め)

(――346プロダクションは崩壊の道を辿ることになりました)

(――ですが、それは職員の正体が露見した事ではなく)

(――もっと別の方向……私にとっては、予想もつかない場所であり―――――)



(――私にとって考えられる限り最悪の方向から、シンデレラの城は崩れてしまうのです)



――――――――――――――――――――

74: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:19:25.92 ID:SEAxogu10

~CCG本局 輿水幸子保護直後~


ギン「輿水幸子、だよな。落ち着いたか?」

幸子「は、ははは、はいっ……! ぼ、ボクはもう平気です!」

ギン「んなガタガタ震えなくても殺しやしねーよ。もう検査で人間だって分かってんだぞ」

幸子「え……そ、そうなんですか?」

ギン「おう。…つか、本気で殺されると思ってたのかよ……」

幸子「し、仕方ないじゃないですか! ボクは実際殺されかけたんですからね!!?」

ギン「"喰種"にな」



ギン「……で。美樹サンも到着が遅くなるらしーし、今からアタシが簡単に質問する」

ギン「取り調べだ」

幸子「…あの。取り調べって普通、容疑者に使う言葉じゃ」

ギン「うるせーぞ意味がわかりゃいいんだよ」


ギン「…ともかく。幸子、お前を殺そうとした奴を追い詰めるために必要な質問だ。分かるな?」

幸子「わ、わかりました」

ギン「ん、オッケー。じゃあまず……お前を襲った奴の顔は見たか?」

幸子「…見ることには、見ました」

ギン「じゃあ、そいつの顔や声に見覚えは? どっかで会ったことあるか?」

幸子「……いいえ。あんまりにも特徴のない顔でしたから、会ったかどうかなんて……」


ギン「……ま、そうか。アタシもちらっと見たが、あれはモンタージュ作っても特定キツいぞ」

ギン「わりいな幸子。とりあえず取り調べは終わりだ、あっちで仁奈たちが待ってるから行ってこい」

75: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:19:59.91 ID:SEAxogu10

幸子「えっ? もう終わりですか?」

ギン「つっても奴らの情報なんて持ってねーだろ? お前があんなのと関わりがあるとも思えねーし」

ギン「……あ、悪い待った」


幸子「? まだ何か?」

ギン「美樹サンに取り調べン時は絶対これ聞いとけってやつ忘れてたわ」

ギン「いつも美樹サンに任せっきりだったからな」

ギン「座れ幸子。もうちょい付き合え」

幸子「ええ……なんですかそのいい加減な指示は」

ギン「うっせ」


ギン「まあ、なんだ。一応聞きたい事があんだよ」

ギン「えーと……ちょっと待て。これだ」パラパラ


ギン「……『あなたの周りに、変わった子供はいませんか?』」


幸子「はい?」

76: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:22:14.97 ID:SEAxogu10

幸子「なんですか、それ?」

ギン「お前の周りに"喰種"らしき奴がいないかって質問だよ」

幸子「いえ聞きたいのはそっちじゃなくて、なんで手帳を朗読して」

ギン「続けんぞ」


ギン「『いつも見すぼらしい恰好、学校に行ってる様子がない』」

ギン「『年齢の割に言葉をあまり知らない、食べ物の好き嫌いが異常に多い』」

ギン「あとは…『粗暴な面が目立つ子』とか。お前の周りにそんな奴いないか?」

幸子「拓海さん」

ギン「バカ野郎そいつは人間だってさっき言っただろ」

幸子「友紀さん」

ギン「今の証言そのままそっくりあいつらに教えてやろうか?」

幸子「すみませんでした」



幸子「いや……そんな子いませんよ。346プロの皆はちゃんと学校に行ってますし、優しくて良い子ばかりですし」

幸子「まあボクには敵いませんけどね!!」

ギン「はいはいカワイイカワイイ」

幸子「ちょっと!!」

77: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:22:40.49 ID:SEAxogu10

幸子「…で、なんですそれ? そんなので"喰種"かどうかなんて分かるんですか?」

ギン「そりゃ、"喰種"は人間と違ってまともな教育受けてねーからな」

ギン「もちろん学校に行ってやがる例外もあるが、普通なら正体がバレるからそんなとこ行かねえ」

ギン「あと、まともな金もねーしな」

ギン「だから、"喰種"は学校に行かなかった結果、文字もろくに読めねーのがほとんどなんだよ」

幸子「へー……」

幸子「……」










幸子「……文字が、読めない?」

78: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:24:05.36 ID:SEAxogu10

ギン「!」

ギン「……なんか知ってんのか。思い当たるやつがいるな?」

ギン「お前の知り合いに字が読めない奴がいるんだな?」

幸子「!! い、いえ、そんなことは……!!」

ギン「嘘をつくなよ。"喰種"を庇うのは重罪だぞ」

幸子「庇ってませんって! だ、大体……」

幸子「ボクの周りは皆優しくて良い子ばっかりって言ったじゃないですか!!」

幸子「あの人が"喰種"なわけない!!」

幸子「大体、あの人は、幼いころ病気だったから、ろくに勉強できなかったって……!!」

幸子「紗枝さんがそう言ってたんです!!」

ギン「……」


ギン「……別に、そいつを疑ってるわけじゃねえよ」

ギン「逆に考えろ、幸子。お前が今考えた奴を調べて、それで無実の人間だったら」

ギン「疑惑は晴れる。拓海たちと同じように、そいつは絶対人間だって安心できる」


ギン「だから話してみろ。本当に優しくて良い子なら、そいつは人間のはずだろ」


幸子「ッ……!!」

79: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:24:33.06 ID:SEAxogu10

幸子「……本当に、無実だって証明してくれるんですよね?」

ギン「ああ」

幸子「み、見たことがないから疑えるんです! 実際あの人を見たら、そんなわけないって思うんですから!!」

ギン「分かったよ。お前を信じる」

幸子「きっ……聞きましたからね!? その言葉、信じますよ……!?」


幸子「……」



幸子「……ち……」





80: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:25:01.25 ID:SEAxogu10










幸子「…………ちえり、さん」










幸子「……………………緒方、智絵里さん」

92: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:14:01.38 ID:i7c+7Ubm0

~1年前~


「紗枝。すまん、お前に謝らなきゃいけない事がある」

紗枝「…はい? いきなりどないしはったん、そない頭さげて」

「俺は……紗枝のほかにも、プロデュースしたい子が出来たんだ」

「そして、その子は人間だから……俺は『準1級プロデューサー』の申請をする」

「だが、準1級Pは人間のプロデュースと引き換えに、様々なリスクを負う」

「…紗枝。お前にも危険が付きまとう」

「どうか、俺が人間を……輿水幸子と、姫川友紀をプロデュースすることを、許してくれ」


紗枝「……へー」



紗枝「えらく度胸のある御方やわあ。そないな風に堂々と浮気する人、初めてやなあ」

「!?」

93: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:14:31.41 ID:i7c+7Ubm0

「うっ、浮っ……!? ち、違うぞ紗枝! 浮気とか、そういうことじゃ!!」

紗枝「いややわあ、プロデューサーはん。ほんの冗談どす」

紗枝「プロデューサーはんは、うちがついて行くって心に決めたお人」

紗枝「プロデューサーはんが決めたことやったら、反対する理由なんかあらへん」

紗枝「その…幸子はんと、友紀はん? が、プロデューサーはんの惚れた方なんやったら、うちもお傍で見守りますえ」

「紗枝……」

紗枝「でも……せやなあ」

紗枝「うちをずっと支える言うてくれたお人が、他の子によそ見するんをただで許すんは……なんや惜しいなあ」

紗枝「……あ!」


紗枝「そうや、プロデューサーはん。代わりに……」



紗枝「プロデューサーはんが隠してること、うちに全部教える言うんはどうどす?」

94: 僕は大阪人です。だから京都弁がおかしくても許して ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:15:36.76 ID:i7c+7Ubm0

「…は? 隠してる、って……」

紗枝「なんやプロデューサーはん、会社のことや思うしうちのためやって分かってたから今まで黙っとってんけど」

紗枝「うちに隠れて悪いことしとるなー思うてて」

「…!!」

紗枝「…うちは、プロデューサーはんを見損なったりしまへん」

紗枝「うちのために悪いことして、それをうちに隠して、苦しまんといて」

紗枝「プロデューサーはんなら、お話するのに、周りに聞いてる人だれもおらん所知ってはるやろ?」

紗枝「プロデューサーはん。プロデューサーはんの抱えてること、うちにも抱えさせてください」

紗枝「……な?」

「紗枝……」


「……分かった。全部話すよ」

「だが……紗枝、ごめん。お前を苦しめることになる」


――――――――――――――――――――

95: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:16:39.37 ID:i7c+7Ubm0

――――――――――――――――――――


紗枝「……そういうこと、やったんやなあ」

紗枝「『キャッスル』、『財産』、『人間アイドルを雇う理由』……」

紗枝「えらいこと、聞いてもうたなあ」

「…すまん」


紗枝「うちは大丈夫…どす。今聞いたことは、ちゃーんと誰にも言わんで内に秘めときます」

紗枝「うちが会う人間の子が、財産にされるって分かっても……うちはちゃんと、その上を歩きます」

紗枝「やることも、目指すことも、変わりまへん」

「……」


紗枝「……それで、プロデューサーはんが準1級になる言うことは」

「ああ。紗枝も知っている通り、プロデューサーは一人の例外を除いて全員が喰種だ」


「そのうち戦闘能力の高い喰種は、喰種アイドルを受け持つ1級P」

「弱い喰種は、人間アイドルを受け持つ2級Pに割り振られる」

「そして1級Pは、申請を行い準1級Pとなることで喰種と人間アイドル両方を担当できるようになり」


紗枝「準1級のプロデューサーはんは、担当の人間アイドル……幸子はんと、友紀はんを『財産』の候補から外してもらえる」

紗枝「…その代わりに、担当する喰種アイドルは人間に近付く分、正体を見破られる『りすく』が上がる……」

紗枝「せやから、うちにあない必死になって頭下げたんや」


紗枝「ほんまに、惚れた人には真っすぐなお方やなあ」

96: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:17:24.43 ID:i7c+7Ubm0

紗枝「…ふう」

紗枝「プロデューサーはん。幸子はんと、友紀はんに会うときを楽しみにしてます」

紗枝「うち以外に、プロデューサーはんが惚れた子がどないな子なんか。今から楽しみやわあ」

「……」

紗枝「…? どないしたん、プロデューサーはん」

紗枝「もう、隠してることはない思うてたんやけど…?」

「……ああ。隠してることは、もうない」

「だが、話せることはある」

紗枝「……?」



「紗枝。今から話すことは、出来るだけ一言一句間違えずに覚えて欲しい」

「もし紗枝が白鳩に捕まって、346プロについて尋問された時は……」

「この情報の価値が、紗枝をあいつらから助けてくれる筈だ」


「……もし、この情報が必要になった時は。俺がどれだけ時間をかけてでも紗枝を助けに行く」

「俺を信じて、戦い続けてくれ」


――――――――――――――――――――

97: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:18:54.47 ID:i7c+7Ubm0

~美城常務による内部告発の2日後・CCG本局~


~特等捜査官会議~


―――和修吉時/喰種対策局 局長

―――安浦清子/特等捜査官

―――御坂矜持/コクリア監獄長

―――田中丸望元/特等捜査官

―――橘実(ミノル)/特等捜査官

―――丸手斎/対策Ⅱ課 特等捜査官

―――宇井郡/準特等捜査官

―――篠原幸紀/特等捜査官

―――法寺功介/準特等捜査官

―――黒磐巌/特等捜査官


―――橘美樹/準特等捜査官



望元「ンン…まさか特等会議に3人もの準特等が参加するとは」

清子「能力を見込まれてのことでしょう。何か問題でも?」

吉時「何も問題はないよ田中丸特等。宇井準特等も法寺準特等も、期待の逸材だし……」

望元「いやいや、反対などしていませんぞ。橘レディが残した功績は、ここを参加する名誉にも匹敵するさ」

黒磐「うむ」

美樹「…ありがとうございます」

丸手「呼ばなくたってどーせあの非常識女の席が空くだけだろ」

篠原「まあまあマル…舞ちゃんもケガあっての引退でもあるんだし、ちゃんと娘も育てなきゃいけないんだから」

宇井「でも日高特等……たまに来ますよね」

法寺「訓練所に突然現れては捜査官達を叩きのめしていく様は…すっかり皆のトラウマになっているようですね」

実「彼女でさえ仕留められなかった『リトルバード』……奴は死んだのか、未だ生きているのかすらわからんな」

98: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:20:35.59 ID:i7c+7Ubm0

吉時「…まあ、関係のない話はここまでにしようか」

吉時「橘準特等には、輿水幸子さんの証言から『キャッスル』の正体を突き止めた経緯を事細かに説明してもらいたい」

美樹「承知しました」ガタ


美樹「判明のきっかけは輿水さんの証言より」

美樹「『年齢にしては漢字の能力が低い』様子を見せた緒方智絵里」

美樹「また、緒方智絵里の様子を『幼いころ病気だった』とフォローした小早川紗枝」

美樹「以上、346プロ所属のアイドル2人に喰種容疑が掛かったことです」


美樹「『キャッスル』につながる可能性があるとして2人の戸籍や提出されたRc診断書を精査したところ」

美樹「両方、巧妙に作成されたフェイクであることが判明しました」



美樹「小早川紗枝に関しては、現時点で捕獲済みであり」

美樹「検査の結果、喰種だと判明」

美樹「有益な情報を持っていると判断し、コクリアに収監しました」

美樹「小早川紗枝の尋問については御坂監獄長に一任しています」

99: 最初はsideMの人達を捜査官にしようとしましたが↓ ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:23:32.70 ID:i7c+7Ubm0

篠原「紗枝ちゃんがキャッスルの正体をバラしたってことかい?」

丸手「篠原。喰種を『ちゃん』付けすんな」

篠原「…ごめん。うちのチビ達がファンだったんだよ。正直ショックだ…」

黒磐「気を落とすな篠原。美里も安部菜々のファンだった」

実「……」

望元「死して尚、捜査官の純粋な心にさえ爪痕を残す喰種アイドル……厄介ですな」

法寺「橘準特等。説明の続きをお願いします」


美樹「…失礼しました。篠原特等の心境を考慮し、以降小早川紗枝をS、緒方智絵里をCと言い換えます」

美樹「確かにSは346プロの情報を所持していましたが、キャッスルが346プロだと突き止めた結果は我々の捜査によるものでありSの捕獲以前の話です」

美樹「先ほども述べた通り、SおよびCの戸籍や診断書は巧妙に作成されたフェイクでした」


美樹「しかし京都の地主である小早川家の娘であるSはともかく…」

美樹「Cの家族関係を調査したところ、ホームページで紹介されていた家族構成とは異なり、両親との関わりが一切見られませんでした」

美樹「恐らく親すらいない野良喰種だったCですが、その程度の喰種が用意できるような精度のフェイクではなかったのです」


美樹「Cが346プロに潜り込む際、何者かの手引きがあったと考え」

美樹「346プロ内部にまだ喰種が混ざっていると見て、捜査を続けていましたが―――」


清子「現実は混ざっているどころではなく、喰種そのものの組織だったと」

美樹「安浦特等の仰る通りです」

100: あの子らをちょっと知って「なんか違うな」と思ったので原作のオッサン連中に出てきてもらいました↓ ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:24:44.06 ID:i7c+7Ubm0

宇井「その後に、346プロダクションの常務が内部告発した……んでしたっけ」

美樹「ええ。それまでの捜査の結果では、キャッスルの第一容疑者として346プロが挙がる程度に留まっていましたが」

美樹「美城常務の告発とその後の裏付けにより、346プロの職員がキャッスルとして少女誘拐を行っていると正式に確定しました」

美樹「また御坂監獄長のご報告によると、Sの尋問によって得られた情報から……」


御坂「そこからは私が直接話そう。こは…Sは美城さん以上に346プロの運営等について詳しかった」

御坂「同じく346プロに所属するアイドルのうち、誰が喰種かまでは話そうとしないが」

御坂「それ以外…346プロが利用している喰種組織や、あとは346プロと類似した…」

御坂「つまり、346と同じように喰種が運営しているアイドル事務所の情報がぽんぽん出て来る」

御坂「今後も有益な情報源になると判断し、Sの廃棄は当分見送りだな」


御坂「『誰に仕込まれたのか、交渉が上手くて下手に拷問も出来ない』と灰崎が嘆いていた」


法寺「…346プロに所属する喰種アイドルは、全員事情を知っているということですか?」

御坂「いや、それは違うだろう。S本人も


『アイドルやったら、多分知っとるのはうちくらいちゃう?』


と主張していた」


美樹「それに、私が所有権を主張し私の手で尋問している鷺沢文香…」

美樹「『H』は、キャッスルについていかなる情報も持ち合わせていませんでした」

美樹「Sが例外と言うだけで、本来346プロに所属する喰種アイドルはキャッスルについて一切知らされていないと見るべきでしょう」

101: 各捜査官の階級は無印12巻あたりで亜門、真戸親子、滝沢、有馬以外の捜査官は大体出す予定 ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:27:16.00 ID:i7c+7Ubm0

黒磐「そういえば、おが……Cの話がまだだが、そっちはどうしたんだ」

美樹「止むを得ない事情があり、放置しています」

黒磐「…止むを得ない?」


丸手「こっからは俺が言う。346プロが人間アイドル雇ってる目的は聞いてるんスよね?」

清子「…カモフラージュと、周辺組織への『餌』としての提供ね」

望元「聞けば聞くほどひどい。もはや人間を道具としか思っていない」

丸手「実際そうっスよ望元さん。…んで、346プロの人間の使い方はもう一つある」

丸手「万が一、捜査が入った時に使う保険……言っちまえば、人質だ」


丸手「あんたらも聞いてんだろ。今朝、こいつがCCG本局の正門前に放り投げられてた」ドサ

篠原「ああ。確か……」

丸手「SおよびCの調査を任せた局員と、その風景の写真だ。こっちの動きを完全に把握してやがる」

丸手「…連中、事務所のセキュリティはほぼザルだっつーのにアイドルの事となるとガードがクソみたいにかてえ」

丸手「CやSでさえこっちが最初から疑ってたから、ようやくそれっぽい情報を掴めたレベル」

丸手「どっちか分かんねえ状態で捜査を始めたら、何日かかるか分かったもんじゃねえ」


丸手「それだけならまだいい」

丸手「あのクソ野郎共……資料だけじゃなくとんでもねえ置き土産していきやがった」





丸手「『水本ゆかり』、『椎名法子』」


丸手「橘ンとこで保護した中野有香のお友達で、今は人間だって判明してるが―――――」

102: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:28:55.60 ID:i7c+7Ubm0










丸手「―――――資料と一緒に半殺しで転がされてやがった」







丸手「特に水本ゆかりは両手の指全部ぶった切られてて」

丸手「椎名法子は意識が戻る見込みすらねえらしい……クソが」

110: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/09(土) 16:47:03.11 ID:I/+amali0

黒磐「SやCを調査した仕返しか」

吉時「その二人を攻撃したのは…橘準特等のところで保護された中野有香さんへの当てつけってことかな」

宇井「なんですかそれ……!! そんな理由で!?」

法寺「落ち着いてください宇井くん」


法寺「…しかし、これでは捜査も確保もやりようがありませんね。強制介入を行ってもアイドルの何人かは確実に巻き添えを喰らいます」

篠原「問題は何より『所属アイドルが人間か喰種か分かってない』うえに『調べさせてくれない』、か」

清子「…まさか、人質を助けられないからって346プロを見逃す気じゃないでしょうね?」


実「方法がないわけでもないだろう。時間効率は悪くなるが、奴等に見つからずにアイドルの情報を探ることも不可能じゃないはずだ」

実「…一人二人の犠牲を前提とするなら、この事実を公表して346プロの信用を失わせることもできる」

御坂「奴らも保護したアイドルと収監したアイドルの様子までは監視しようが無い。そこから情報を得ることも可能だな」


丸手「そうっすね。時間をかければかけるほど奴等は利を失っていく」

丸手「……元々、長期戦に持ち込む気も無えみたいですが」パサッ

111: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/09(土) 16:52:36.69 ID:I/+amali0

丸手「置き去りにされた資料は調査風景だけじゃなかった」

丸手「ご親切にでかでかとタイトルまで書いてやがる」


法寺「…『346プロアイドル避難計画書およびCCGに許可する捜査一覧』、ですか?」ペラ

清子「内容を要約すると……


『346プロダクション全職員のプロフィール。また、それらが全て"喰種"であることの証明』

『人間、喰種問わず所属する全アイドルの「野外ロケ」と称した避難計画、および避難完了予定日』

『避難完了までにCCGに対して許可する行動一覧……職員プロフィールの精査や346プロが支援を受けている周辺組織に対しての捜査など、所属アイドルに関係しない行動。そして速水奏、塩見周子、宮本フレデリカ、佐久間まゆ、以上4名の指名手配と捜査』

『「避難完了日には全職員を346プロダクション本社に待機させる」という旨の誓約書』


……そして、二言だけの手書きメモ。


『姫を置いて城を去る家臣などいない』

『1週間だけ時間をくれ 罪も罰も我々が負う』」



宇井「人間も喰種も、アイドルは全員遠くにやって職員だけ残る?」

篠原「マル。これってつまり、346プロ『自体』は……」


丸手「完全に掌の上で転がされてて気に入らねえが、そう言うことだ」

丸手「アイドルを盾に活動を続ける気なんざさらさらねえ。…346プロは―――――」



丸手「―――大事なお姫様だけ逃がして自壊する気だ」



丸手「『お姫様』に人間は入ってねえみたいだがな」


――――――――――――――――――――

112: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/09(土) 16:55:11.66 ID:I/+amali0

~小早川紗枝 確保直後 346プロダクション深部~


ちひろ「…KBYDPさん。先ほどの行為を深く謝罪します」

ちひろ「あなたの拘束には、もはや何の意味もありませんでした」

ちひろ「もう少し早く、美城常務が内部告発に足る情報を掴んでいたと把握できていれば……」


KBYDP「…過ぎたことに怒っても意味なんかありませんよ」

KBYDP「それに俺は…準1級Pの申請をした時すでに、幸子や友紀を通していつか紗枝が捕まるかもしれないってことも」

KBYDP「そのとき俺はあんたらに押さえつけられて、紗枝を助けにいけないだろうってことも想定してました」

KBYDP「だから、俺は殺させないために346プロの全部を紗枝に教えました。だからおあいこです」


KBYDP「失礼します。今から俺は、紗枝の情報が尽きないうちにコクリアから助け出さなきゃいけないので」

KBYDP「紗枝は仲間を売る子じゃないし今は売る必要も無いと思いますけど、他の子についてはまあ祈っててください。では」


ちひろ「ええ、紗枝ちゃんを無事に助け出してください。応援しています」

113: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/09(土) 16:56:05.99 ID:I/+amali0

ちひろ「…もう。幸子ちゃんや友紀ちゃんが保護されてるのを良いことにペラペラと好き勝手言っちゃって」


ちひろ「それに、私の知らないところでアイドルが全滅しかねない情報をあっさり話しちゃうんですから」

ちひろ「これだから、プロデューサーというものは侮れないんですよ」


ちひろ「本当に、担当アイドルの笑顔のためなら」

ちひろ「世界中の誰を犠牲にしたってかまわない人たちばかり……」


ちひろ「ですが許します」

ちひろ「あっさりとした裏切りには困りましたが、その意志には敬意を払いましょう」

ちひろ「我々に歯向かえど、その心は同じなのですから」

114: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/09(土) 16:58:39.59 ID:I/+amali0

ちひろ「…さあ、1級および準1級プロデューサーの皆さん。お話はすでに聞いていますね?」

ちひろ「当然のことですが、あなた達が働くのはは幹部のためでも346プロのためでもない」


「ええ」


JKTP「すべてはアイドルのため」

肇P「自分が見つけたシンデレラのためなら、自分の命など惜しくもない」


早耶P「すべてはアイドルの笑顔のため」
         ユメ
日菜子P「お姫様に幻を見せてあげられるなら、代わりに命を喰らい屍を背負うことも厭わない」


輝子P「すべてはアイドルの輝きのため」

美優P「全てを捧げた少女がお城で輝けるなら、喜んで血の河を渡り骨の階段を積み立てる」

            タベル     タベル     タベル     タベル
留美P「喰べるしかない、奪うしかない、守るしかない、失うしかない、間違うしかない」

NWP「ならば、運命を呪い涙を流す少女に代わって我々が喰べましょう」

ガルパP「灰に塗れても運命に抗い精一杯生きようとするシンデレラを、血に濡れた俺達の手で最期まで守り続けよう」


ブルナポP「そして、命を奪った報いを受ける時が来たら」

フリスクP「愛した子達、無実の子達に降りかかる断罪の刃を、すべて我々が飲み込み静かに失せましょう」

藍子P「お城を失ったシンデレラが、何の罪も知らず何の罰も背負わされずまた歩き出せるように」



ちひろ「素晴らしい心がけです!!」

ちひろ「愛する担当アイドルのためなら、何だって出来てしまう」

ちひろ「ここのプロデューサーは全て、そんな気狂い喰種の集まりだと私は知っています」


ちひろ「微力ですが、私も皆さんが見つけたシンデレラのため」


ちひろ「この手を血に染め、精一杯の策略をめぐらせましょう」





ちひろ「……とりあえず、我々を探る白鳩にご自分の立場を分からせるため」

ちひろ「そうですね。保護された有香ちゃんに因んで、ゆかりちゃんと法子ちゃんでも攫って痛めつけますか」

ちひろ「ゆかりちゃんはフルートを嗜むそうですし、演出のために指でももいでしまいましょうか」


ちひろ「では……」

115: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/09(土) 17:01:20.48 ID:I/+amali0





ちひろ「―――――『最終隠匿プロトコル』の準備をお願いします」





――――――――――――――――――――

121: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:29:08.24 ID:nATks/WC0

~凛・未央による346プロ潜入の翌日 渋谷家~


渋谷父「…凛の様子は?」

渋谷母「今日は家にいる、って」

渋谷母「仕事は入ってないから心配しないでって言ってたけど……」

渋谷父「…そうか」


渋谷父(……夜遅くにやっと帰って来たと思ったら、あの落ち込みようだ)

渋谷父(何があった、凛?)


渋谷父「……話を聞くのは後にしよう。何があったのかは分からないが、凛にはゆっくりと休んでもらって―――」


「……あの。渋谷さんのお父様とお母様ですね」


渋谷父母「「!!」」


渋谷母「あなたは……!」


――――――――――――――――――――

122: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:29:37.32 ID:nATks/WC0

~凛の部屋~


凛「……」ボフ

ハナコ「キューン……」

凛「……ただいま、ハナコ」ナデ


凛「私は大丈夫だよ。心配しないで……」

123: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:30:05.57 ID:nATks/WC0

凛「……」


凛(――ちひろさんは)


凛(――あの後、私と未央に特に攻撃することもなく)

凛(――普通に出口まで案内した)


凛(――未央は、ちひろさんに何をされたか話してくれなかった)

凛(――お腹に穴をあけられたことだけは知ってるし、無理に聞くことでもないけど)


未央『……しぶりん。ゴメン、今日はひとりで帰らせて』


凛(――ただ傷つけられただけじゃない筈だってことは、何となく分かったんだ)

凛(――346プロの真実を聞かされた私とも、また違うことを考えてた……)

凛(――そんな風に見えた)


凛(――家に帰って、お父さんとお母さんに怒られかけて)

凛(――でも、二人ともすぐに私が変だって思ったみたいで)

凛(――すぐに何も言わなくなって)


凛(――『ご飯』だけ置いて、部屋で一人にしてくれた)



凛(――お腹がすいていたことに気が付いた)

124: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:30:39.91 ID:nATks/WC0

凛(――346プロを出てから、家に帰るまで)

凛(――どこか、ふわふわした気分だった)

凛(――まるで、悪い夢を見ていたかのような)


凛(――でも、お腹がすいて)

凛(――お母さんが出してくれた『ご飯』をかじった瞬間に)



凛(――それは幼いころからずっと食べていた人肉の味だと気付いて、私は現実に引き戻された)



凛(――私は"喰種"だ)

凛(――今まで何を勘違いしてたんだろう)

凛(――346プロに入ったからって、人間みたいになれるわけがなかった)

凛(――人間みたいに、何も考えずがむしゃらに走って行けるのがおかしいことに、なんで気付かなかったんだろう)


凛(――考えてみれば、私達を隠すために)

凛(――何も悪い事をしてないなんて、そんなわけない)


凛(――分かってる)

凛(――本当に悪いのは、346プロだけじゃない)

凛(――ずっと346プロに居座り続けた、私もなんだ)


凛(――知らなかっただけだ)

凛(――私達が何も知らなかっただけで)

凛(――奈緒や、加蓮みたいに)

凛(――私や未央が悩んでいる間、ずっと人間の誰かが犠牲になっていたんだ)


凛(――私は、結局化け物なんだ)

125: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:31:12.32 ID:nATks/WC0

凛(――それに気付いてからは)

凛(――まるで変えようのない事実から逃げるように)

凛(――346プロに入ってから今までのことを思い出してた)


凛(――『踏み込めば、今までとは別の世界が広がっています』)

凛(――その言葉を聞いて、"喰種"でも何かに夢中になれるのかなって思って)

凛(――アイドルになった)


凛(――デビューライブの時、卯月や未央と一緒に"喰種"が人前に立つ不安にぶつかった時)

凛(――プロデューサーが迎えに来てくれた)

凛(――プロデューサーの本音を初めて聞いた)


凛(――サマフェスの時は、すごく楽しかった)

凛(――山ほどのファンレターを貰った)

凛(――どこまでも走って行けるって、確信した)

凛(――裏で、女の子がひどい目にあってることなんか、考えもしなかった)


凛(――あの時も、あの時も、あの時も)


凛(――何も知らなかっただけで、私達のために)

凛(――罪もない人たちが、たくさん死んでたんだ)

126: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:31:42.59 ID:nATks/WC0

凛(――プロデューサーに会いたい)

凛(――でも、会うのが怖い)

凛(――問い詰めてやりたい)

凛(――何も聞きたくない)


凛(――私に、世界が広がるだなんて言っておいて)

凛(――プロデューサーは、私達に真実を隠してたの?)

凛(――プロデューサーも、知ってて黙ってたの?)


凛(――プロデューサーも)





凛(――私達のために、人をたくさん殺したの?)







「……渋谷さん」

127: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:32:13.09 ID:nATks/WC0

凛「!!」


「…ご両親に許可をいただきました」

「部屋に行っていいから、娘に会ってあげなさいと……」



凛「……あ……」



凛「プロ、デューサー」










武内P「……入っても、よろしいですか」

128: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:33:46.63 ID:nATks/WC0

――――――――――――――――――――


凛「……どうぞ」

P「ありがとう、ございます」


P「…本日、渋谷さんのお宅に訪問したのは」

P「重要な連絡を、渋谷さんに伝えたかったからです」


P「346プロダクションの閉鎖と、アイドルの皆さんの解雇が決定しました」



凛「……そっか。…バレたの?」

P「はい。美城常務が、我々の知らぬ間に情報を手に入れ……内部告発したと聞いています」

凛「…これからどうするの」

P「346プロは、閉鎖宣言を行うわけではありません」

P「我々は1週間のうちに、表向きは野外ロケと称して」

P「人間・喰種を問わず、少しずつ郊外まで移動していただき」

P「CCGがアイドルを区別できていないうちに身を隠していただくことになっています」

P「シンデレラプロジェクトの皆さんにも、最後の仕事が終わり次第」

P「各自、脱出していただく事を説明しています」


P「渋谷さんには、シンデレラプロジェクトの皆さんと共に東京から脱出するか」

P「ご家族と一緒に東京を去るか、選ぶことが出来ます」

凛「……うん、分かった」

凛「多分、父さんと母さんと一緒に逃げると思う」

凛「…皆には、顔を合わせられないと思うから」


P「……分かりました」

129: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:34:38.04 ID:nATks/WC0

凛「……連絡はそれだけ?」

P「……はい」

凛「……そっか」

P「……」

凛「……」


P「……」



P「……驚かれないのですね。346プロが無くなると聞いても」

凛「うん」

凛「そうなるだろうな、って思ったから」


P「……千川さんから、お話は聞いています」

凛「……うん」


P「……渋谷さんの御友人を、本田さんの御友人を奪いました」

P「本当に、申し訳ありませんでした」

凛「……」


凛「……プロデューサー」



凛「プロデューサーは、どこまで知ってるの」

130: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:35:30.08 ID:nATks/WC0

P「…渋谷さん…」


凛「答えて。奈緒と加蓮を攫ったのはプロデューサーなの?」

凛「茜を殺したのはプロデューサーなの?」

凛「未央を傷つけたのも、プロデューサー?」

凛「プロデューサーは全部知ってて、私達に黙ってたの?」

凛「私達のプロデュースの裏で、罪もない人をたくさん攫って、殺したの?」

凛「そうしておいて、『笑顔の橋』をやろうとしたの?」


P「……」


凛「……ごめん」

凛「別に、怒ってるわけじゃないよ」

凛「一晩考えて、そうするしかなかったんだって分かった」

凛「私達の正体を隠すために、打てる手は全部打った」

凛「善悪なんて考えてる余裕はなかった……そういうことでしょ」

131: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:37:33.90 ID:nATks/WC0

P「……すべて答えます」


P「本田さんへの処遇に、私は一切関わっていません」

P「あれは千川さんの独断であり、私に報告が回ったのもつい先ほどのことです」

P「ビッグリリィへの報酬に神谷さんと北条さんを選定したのも誘拐を実行したのも、私ではありません」


P「……ですが、日野さんを攫ったのは私です」

P「私があの場にいれば、本田さんに制裁など加えません。ただ、規則に従い日野さんの処分は迷わず行っていたでしょう」

P「『財産』についても……私に選択権があれば渋谷さんに近しいお二人は選ばなかっただろうというだけで」

P「対象が出来るだけ関わりのない人間アイドルに代わっただけで、誘拐や売買そのものに躊躇はしません」


P「私も他の1級、準1級Pと変わらず、346プロの真実をすべて把握しています」

P「渋谷さんをスカウトし、シンデレラプロジェクトが正式に発足してから」


P「神谷さん、北条さんを除いた3名のアイドルを『財産』として誘拐し、日野さんを除いた2名のアイドルを口封じに処分し」

P「数百の捜査官や喰種を、この手で殺しました」


P「……皆さんのプロデュースを行っていた傍らで」


P「神崎さんや、本田さんに、人間の皆さんと深い繋がりを持って欲しかったのは、紛れもなく私の本音です」

P「『笑顔の橋』も、神崎さんの願いを最大限尊重したい一心で企画しました」

P「……ですが」


P「皆さんの命を失わせないことが、第一です」

P「……大切なものには順番があります」

132: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:38:22.60 ID:nATks/WC0

凛「そっか」

凛「……じゃあ、最後にひとつだけ教えて」


凛「プロデューサーが最初に担当した、3人のこと」


P「……!!」

P「なぜそれを……!?」


凛「未央がアイドルやめかけた後、今西部長が話してくれたんだよ」

凛「昔、とっても真っすぐな男がいたって」

凛「その人はアイドルの幸せを心から願ってたけど」

凛「アイドルが心から笑顔になるには、どうすればいいか真剣に考えて行動して……」

凛「その結果、プロデューサーが担当した3人は死んじゃったって」


凛「だから、プロデューサーは私達のために人を殺すようになっちゃったの?」


凛「プロデューサーの口から教えてほしい」

133: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:40:49.63 ID:nATks/WC0

P「……」


P「…どこにでもあるような、つまらない話です」


P「私が最初にプロデュースした3名のアイドルは、人間が好きな方ばかりでした」

P「神崎さんや本田さんのように、"喰種"の身であっても人と対等にかかわることを心から望み」

P「大切な御友人が攫われ、346プロの真実を知った時は、泣いて私に救いを求めました」

P「私はその願いを叶えたい一心で、346プロダクションに対立しました」

P「私には、それを可能にする力がありました」

P「人間の御友人を助け出して、彼女たちはご自分が喰種であることを話し」

P「それを御友人に受け入れられた彼女たちは、本当に心からの笑顔を見せてくれました」



P「そして、1週間もしないうちに」

P「御友人は恐怖に耐えきれず、彼女たちを通報しました」


P「3人の命は、絶望と泣き叫ぶ声と共にいとも容易く奪われたのです」


P「更なる被害を食い止めるため、私は御友人を殺し」

P「積み上げたものは、すべて無意味に消失しました」

134: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:42:29.84 ID:nATks/WC0

P「渋谷さん」


P「許してくれとは、言いません」

P「私は、広がっていく世界が屍の上に立つ幻だと知っていて貴女を引きずり込みました」


P「それでも、出来ることなら貴女に幸せな夢を見てほしかった」

P「それが虚構でも、広がっていく世界をその目で見て欲しかった」

P「それで貴女たちが笑顔でいられると思ったから、私はそれで良かった」


P「"喰種"に生まれたならば、喰べるしかない。奪うしかない」

P「すべての喰種が、自分の運命に苦しんでいる」


P「ならば、せめて我々が代わりに奪えばいい」

P「そうすれば、せめてアイドルは自分の運命を忘れられる」

P「我々が代わりに背負うことで、皆さんは輝ける」

P「嘘の世界でも、騙されていても」


P「私は皆さんが、生きて笑顔でいてくれるなら、それでよかった」


凛「…………」

135: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:43:13.77 ID:nATks/WC0

凛「……そっか」


凛「プロデューサーも、辛かったんだね」

凛「大丈夫。恨んだりしないよ。プロデューサーのこと、とっくに許してるよ」


凛「根っこは、私が見たままのプロデューサーと全然変わらなかった」

凛「公園で言ってくれたことは、私が信じた言葉は、嘘じゃなかった」

凛「私達を守るために、ずっと優しい嘘をつき続けてくれてたんだね」


凛「……もう、私のことはいいよ」

凛「あとは皆を見ててあげて」


P「……渋谷さん」

凛「ごめん。346がなくなるまでまだ時間はあるみたいだけど」

凛「もう私はそっちにいけない」


凛「大丈夫。最後の仕事は、なんとなく想像つくから。それはちゃんと見てる」

凛「テレビの前で応援してる」


凛「卯月たちは、まだ真っすぐに夢を見続けてる」

凛「卯月や蘭子の夢は、プロデューサーが支えてあげて」





136: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:43:50.45 ID:nATks/WC0

凛「プロデューサー」





凛「さようなら。元気でね」





P「…はい。渋谷さん」





P「さようなら。どうかご無事で」




――――――――――――――――――――

137: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:45:19.13 ID:nATks/WC0

――――――――――――――――――――


P「……本日は、凛さんとの面会の許可をいただき」

P「本当にありがとうございました」

P「……凛さんと、あなた方の無事を願っています」


渋谷父「ああ、ありがとう。君の言葉に嘘が無いことは何となく分かる」

渋谷父「…"喰種"の聴力が恐ろしくなるな。話は全て聞いてしまったよ」

渋谷父「君が悪くないことも分かる。娘のために必死で働いてくれていたことも」

渋谷父「……感謝は、している。君のおかげでこの1年、娘は本当に楽しそうだった」



渋谷父「……君を責めはしない。だが―――――」





渋谷父「―――――二度と娘に関わらないでくれ」



――――――――――――――――――――

138: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:46:08.98 ID:nATks/WC0

――――――――――――――――――――










――――――――――――――――――――

139: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:46:55.21 ID:nATks/WC0



プロデューサー。



あなたに会えてよかった。あなたが私のプロデューサーでよかった。



あなたは私が信じた通り、すごくアイドルや、私の事を考えてくれる、素敵な人だった。



怯えて隠れるしかない人生だって思ってたけど。



あなたが連れ出してくれた先は、すごく楽しかった。



あなたのおかげで、卯月や未央にも会えた。大切な仲間もできた。



プロデューサーには、本当にありがとうって思ってるんだよ。



……でも。私がアイドルをやってることで。



理不尽に殺されていく罪もない人が、いたのなら。



たくさんの人が、夢を踏みにじられたなら。



私が踏み出したせいで、生きられたはずの人が泣いて死んでいったのなら―――――





140: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:47:28.71 ID:nATks/WC0










アイドル、ならなきゃよかった。










――――――――――――――――――――

141: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:48:24.57 ID:nATks/WC0

今日はここまで。

次ちゃんみお編です。

142: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:51:17.00 ID:nATks/WC0

――――――――――――――――――――


未央『茜ちん、あーちゃん』

未央『ふたりに話したい事があるんだ』


未央『ずっと隠し続けてたけど、言わなくちゃって思って』



未央『私、本当は"喰種"なんだ』



藍子『……未央、ちゃん?』

茜『……?』

143: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:51:44.65 ID:nATks/WC0

茜『"喰種"ですか? 喰種って言うと、確か……』

未央『うん。見た目は人に似てるけど、人の肉しか食べられない生き物』

未央『こんな風に、目の色も変わるよ』ギョロ

茜『……!!』


茜『……未央ちゃんが冗談を言ってるわけじゃないんですね』

未央『うん。今まで隠しててごめん』

未央『でも、茜ちんには知ってて欲しかった』

未央『本当の友達に、なりたかった』

茜『……そうですか』


茜『……つまり……』

144: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:52:20.75 ID:nATks/WC0





茜『……今まで私相手に手加減していたと言うことですね!?』





未央『えっ』





藍子『……そっち!?』

145: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:53:10.47 ID:nATks/WC0

茜『なめないでください! 私も知っています! "喰種"は人間の何倍も速く走れると!!』

茜『しかしそのようなポテンシャルを持っていながら、私と走った時はあんなに遅かった!』

茜『本気を出せば私など追い抜けるはずなのに!』

茜『こうしちゃいられません、未央ちゃん! 勝負です!』

茜『喰種の未央ちゃんと私、どちらが速いか!!』

茜『今一度手加減なしの真剣勝負で決めようじゃないですか!!!』


未央『ちょ』

未央『ちょっと待って待って待って待って!? 問題はそっちじゃないよね!?』

未央『私言ったよね!? "喰種"だって! 人の肉しか食べられないって!!』

未央『食べられるかもしれないって考えなかったの!?』

茜『何ですって!? 私食べられちゃうんですか!?』

未央『食べないよ!?』

茜『そうでしょう!!』

未央『……え? あ、あれ?』

146: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:54:12.54 ID:nATks/WC0

茜『未央ちゃん! あえて話すなら、私は未央ちゃんに一つだけ言いたい事があります!』

未央『は、はい』


茜『…未央ちゃんや藍子ちゃんが私に隠し事をしてるって、私はちゃんと気付いてました』

茜『聞かれたくない事みたいでしたから、黙ってましたけど……』

茜『でも、寂しかったです。本音で語り合えてない気がして』

茜『私は、未央ちゃんと藍子ちゃんと仲間じゃないような気がして』


未央・藍子『『……!!』』


茜『でも、未央ちゃんが秘密を話してくれました!』

茜『怖かったと思います! でも話してくれました!!』

茜『私と本当の友達になりたいとまで言ってくれました!!』

茜『私はそれがすごく嬉しいです! 未央ちゃんと本当の仲間になれたから!!』

未央『茜ちん……』

147: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:55:40.46 ID:nATks/WC0

茜『だから藍子ちゃんも!』

藍子『!』

茜『藍子ちゃんが何を隠してても、私は藍子ちゃんを嫌いになったりはしません!!』

茜『もちろん、無理には聞きませんが……』

茜『それでも、藍子ちゃんが私を傷つけるだなんて考えてません! 未央ちゃんが私を食べるだなんて考えません!!』

茜『未央ちゃんや藍子ちゃんがどんな子でも、私はお二人が大好きです!!!』


藍子『茜ちゃん……!!』



藍子『…ごめんね、茜ちゃん』

藍子『私も、隠してた。私も、未央ちゃんと同じ"喰種"なの』

藍子『……"喰種"の私でも、今まで通り友達でいてくれますか?』


茜『……』



茜『……何っ!? 藍子ちゃんまで"喰種"だったんですか!!?』


未央『いや気付いてなかったんかい!?』

148: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:56:22.57 ID:nATks/WC0

茜『ま、まあ、藍子ちゃんまで"喰種"だったことには驚きましたが……』

茜『変わりません!! むしろ、今まで以上に強く結ばれた仲間!! 戦友!! マブダチです!!!』

茜『今から本当の本当に全力で走りましょう!! 自分を隠す必要なんてどこにもありません!!』

茜『行きますよっ……ボンバー!!』


藍子『……』

未央『っ……』


茜『ほらどうしたんですか二人とも!! 私は一緒に走りたいです!!』

茜『行きますよ! ボンバー!!』


藍子『ぼ、ぼんばー!』

未央『……あはは』


未央『…うっし! 走るか! ボンバー!!』


茜『その意気です未央ちゃん! 藍子ちゃん!! 体をほぐして!! 位置について!!』

茜『走る先をまっすぐ見て!! 思いっきり息を吸って……!!』



『『『ボンバー!!!』』』



――――――――――――――――――――

149: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 12:05:10.16 ID:nATks/WC0

――――――――――――――――――――


藍子(――なんであの日、茜ちゃんに正体を話したか聞いたら)

藍子(――蘭子ちゃんが『受け入れてくれるに決まってる』って言ってくれて)

藍子(――だから、蘭子ちゃんが正しいって証明したくて)

藍子(――茜ちゃんに全てを知ってもらおうとしたって話してくれました)


藍子(――『最初から信じてた』って、未央ちゃんは言ってましたけど)

藍子(――あのとき、未央ちゃんは)

藍子(――すごく、怖かったんだと思います)


藍子(――私が同じ"喰種"だって思われないように、話し方に工夫をつけて)

藍子(――もしもの時は、自分だけ犠牲になろうとした)

藍子(――それだけ怖かったのに、勇気を振り絞って一歩を踏み出してくれたから)

藍子(――私も、茜ちゃんともっと仲良くなれました)


藍子(――ありがとうって、言いたいんです)

藍子(――今までの不安を、取り払ってくれた未央ちゃんに)

藍子(――抱えてた不安を、簡単に壊してくれた茜ちゃんに)


藍子(――なのに)


藍子(――どうして2人とも、346プロに来てくれないんですか)


――――――――――――――――――――

155: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 16:03:21.60 ID:sYHaExIf0

~凛・未央による346プロ潜入から4日後 346プロ~


藍子「……閉鎖?」

藍子P「ああ」


P「……すまない、どうやら白鳩は346プロの秘密に気付いてしまったらしい」

P「上が『これ以上の活動は不可能』と判断してな」


P「藍子をトップアイドルにしてやりたかった」

P「でも、俺がプロデュースしてあげられるのはここまでみたいだ。ごめんな」

156: 振り分け画像見返したら夕美が人間扱いになってた。夕美は喰種設定です。 ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 16:05:37.46 ID:sYHaExIf0

藍子「ッ……」

藍子「……ううん。分かってます」

藍子「覚悟は、してました。いつまでも、このままアイドルを続けられるとは、思ってませんでした」

藍子「私だって、346プロに来るまでは……"喰種"がこんな世界にいられるなんて思ってなくて」

藍子「だから…こんな優しい世界にいられたことが……本当に夢みたいでっ……!」

藍子「……」


藍子「……本当に、終わりなんですか?」

P「終わりじゃないさ」

藍子「…えっ?」


P「確かに、346プロは終わりだ」

P「だが藍子の人生が終わるわけじゃない」

P「俺も346プロも、全力でお前を逃がす」

P「ここは無くなるけど、藍子が生きている限り夢を見ることはできる」

P「見た夢を実現するための時間だってある」


P「それは藍子の仲間だってそうだ」

P「生きていればまた会える。またやり直せる。また作り直せる」

P「ただちょっと危険から逃げて、しばらく身を隠すだけだ」


P「忘れるな、藍子」

P「君の未来はまだ無限に広がってる」

P「ここでの思い出や、いつか隣に立った仲間たちが、また立ち上がらせてくれる」

P「……そうだろ?」

157: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 16:08:50.04 ID:sYHaExIf0

藍子「…プロデューサー、さん」

P「だから藍子。泣かないでくれ」

P「十二時の魔法が解けても、シンデレラはまだ頑張れるだろ?」

藍子「……」

藍子「……はいっ」


P「よし良い子だ。さすがは俺の見つけたシンデレラ」

P「じゃあ脱出方法を簡単に説明する」


P「藍子にはこれから、野外ロケの仕事が入る」

P「これは全員同じだ。喰種も、人間も」

P「わざわざ『仕事』の名目にするのは、人間アイドルから事情を隠すため」

P「あとは、全員同じ理由にすることで誰が人間で誰が喰種か判別させなくするためだ」


P「すごく急な話だが……藍子には明朝までに必要な荷物をまとめて、バスを使って指定の場所まで動いてほしい」

P「俺はついて行けないから、ちゃんと一人でやる事を覚えて動いてくれ」

P「できるな?」

158: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 16:09:51.59 ID:sYHaExIf0

藍子「明朝? ほ、ほんとに急な話です……それも一人で……ひとり?」

藍子「あ、あの! プロデューサーさんはついてきてくれないんですか!?」


P「……ああ。ついて行けない」

P「俺は残って、仕事しなきゃいけないからな」

P「346のプロデューサーがほぼ全員"喰種"だとは気付かれてるらしくてな」

P「俺がついて行ったら藍子にもマークがついてしまう」

P「だから一緒にはいけないな」


藍子「そんな! じゃあ、プロデューサーさんはここでっ……!」

P「そうだな。俺はここで死ぬと思う」

藍子「い、嫌です! そんな事、絶対いやです!」

藍子「プロデューサーを置いて逃げるなんて……そんな話、いきなりされても……!!」

P「ははっ」


P「なんで急な話なのか分かっただろ?」

P「藍子は優しいからな。絶対そう言うと思ったよ」

159: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 16:12:32.61 ID:sYHaExIf0

藍子「いや……嫌です……こんな急に、お別れなんて……!!」

P「……俺から言えることはもうない」

P「大事なことはさっき言った」

P「藍子はちゃんと『はい』って言えた」


P「俺はずっと、藍子を応援してる。ずっと藍子の味方だ」

P「……良い子だから、ちゃんと言うこと聞いてくれ。な?」

藍子「ッ……グス……」


――――――――――――――――――――


藍子(――分かってます。駄々をこねたって、どうにもならないって)

藍子(――プロデューサーさんや346の皆さんは、最初からそのつもりだったんです)

藍子(――自分を犠牲にしてでも、最後まで私達を守ってくれる気だったって……)


藍子(――もし、プロデューサーさんが守ってくれなかったら)

藍子(――私もきっと、ああなってたって)



『指名手配 She is Ghoul』


『速水奏』

『塩見周子』

『宮本フレデリカ』

『佐久間まゆ』



「フレデリカさんたづ、"喰種"だったんだか? わだすも一緒にお仕事すだことあっだのに……」

「そういえば、数日前からお姿を見ていませんでしたわね。まゆさんも、プロデューサーと旅行に出かけたきり帰ってきませんわ」

「まさか"喰種"が紛れ込んでいたのに見抜けなかったなんて……この冴島清美、超☆風紀委員として一生の不覚です!」

「複雑でありますな……悪い人達ではないと思っていましたが、あれは演技だったのでしょうか」


藍子(――人間のみんなは、奏ちゃん達が悪い人だったんじゃないかって疑い始めてる)

藍子(――あんまり関わってなくても、同じ事務所の仲間だったのに)


藍子(――その"喰種"が、今ここにいるって知ったら)

藍子(――私も同じことを言われちゃうのかな)

160: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 16:13:19.22 ID:sYHaExIf0

藍子(――ううん。茜ちゃんは、ちゃんと受け入れてくれた)

藍子(――分かってくれる人はちゃんといたんだよ)


藍子(――だから、お願い)

藍子(――346プロに来てください)

藍子(――メールの返事をください)

藍子(――会いたいよ、茜ちゃん)

藍子(――会いたいよ、未央ちゃん……!!)





「……あっ」





藍子「!!」

藍子(――この声!!)バッ



「わっ、見つかっちゃった!」

「…参りましたなあ。皆の様子だけ見て、どっか行くつもりだったのに」


藍子「……み」


藍子「未央ちゃん……!!」



未央「……やっほー、あーちゃん」


未央「三日ぶり」


――――――――――――――――――――

161: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:05:09.63 ID:sYHaExIf0

~近くの喫茶店(346御用達。外伝前編参照)~


未央「……そっか。あーちゃんは明日出ていっちゃうんだ」

未央「うん、私もプロデューサーから聞いてるよ。346がなくなるって」

未央「最後の仕事はCPに回してくれるみたいでさ」

未央「テレビ放送もちゃんとやってくれるみたいだし、どっかでそれ見てからこの町を出ようって思ってる」


藍子「最後の仕事……『笑顔の橋』、ですか?」

未央「そ。来週その宣伝ライブをしまむー達がやる予定だったんだけど、ご存知の通り来年までもたないからさ」

未央「それでも、りーなやしまむー、らんらんはやりたそうだったから」

未央「その放送が終わって、みほちー、なつきち、あすあすと一緒に皆東京から出て」

未央「それで346アイドルの避難は完全に終わり、なんだって」

未央「CCGにバレないようこっそりやるから(本当は人質取ってるから手出しされないんだけど)、CPも大丈夫って言ってたよ」


未央「出演するのはCPの全員じゃなくて、しまむー、らんらん、りーな。あとらんらんのお願いでアーニャも参加するんだけど」

未央「私としぶりん以外は、楽屋で応援するみたいだよ」


未央「宣伝ライブって体だけど、最後の仕事でやれるだけやりたいって、らんらん達は本気でさ」

未央「余裕があればでいいから、あーちゃんもテレビで見てあげて欲しいな」

162: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:05:43.62 ID:sYHaExIf0

未央「……で」


未央「今まで来なかったのは、家族と折り合い付けなきゃいけなかったから」

未央「ほら、話したでしょ? 私は人間に育てられたって」

未央「このままじゃ確実に重罪人コースだったからさ。みんなには先に夜逃げしてもらったんだ」

未央「…皆して一緒に来い一緒に来てってずっと揉めたから、私はCPのみんなと逃げることにしたって言ったんだ」


藍子「…逃げることにしたって、『言った』?」

藍子「じゃあ、本当は……」

未央「うん。一人でどっか行くことにしたよ」

未央「しぶりんと同じでCPの皆には会い辛くて。…あーでも、ホームレス暮らしなんてやったことないからなあ」

未央「今までお仕事で貯めたお金はそこそこあるし、家を借りてもいいか」


未央「……そっから先は、どうしようかなあ」

未央「学校には、いけそうもないからなあ」


藍子「……」

163: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:06:28.53 ID:sYHaExIf0

藍子(――久しぶりに会った未央ちゃんは、どこか異様な雰囲気でした)

藍子(――私と話している時も、時々独り言のように呟いています)

藍子(――3日前までの未央ちゃんと比べて、何処が、とははっきり言えないけど)

藍子(――それでも、何かがおかしくなった事は分かります)

藍子(――まるでさっきのプロデューサーみたいに)


藍子「……?」


藍子(――何が? 今の未央ちゃんは、なにがプロデューサーに似ているの?)

藍子(――現実を見ていない目。悪い意味でふわふわとした喋り方)

藍子(――どこか悲しそうな顔)

藍子(――まるで、このまま何処かに消えていってしまいそうな……)


藍子(――あ)


藍子(―――――!!!)



藍子「……ッ、未央ちゃん!!」

未央「!? お、おおうッ!?」


未央「ど、どしたのあーちゃん? あーちゃんらしくないよ、いきなり大声出して」

藍子「……未央ちゃん」


藍子「今の未央ちゃんの様子……」

藍子「ついさっき会った、私のプロデューサーと同じ表情をしてました」

未央「……ん? どゆこと?」


藍子「今の未央ちゃんの顔……」



藍子「生きることを諦めた人の顔です」

164: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:06:58.06 ID:sYHaExIf0

未央「!」

未央「……そっか」


藍子「……否定、してくれないんですか?」

未央「…そーだね。そうかも」

未央「CPの皆に会いたくないのも、家族と一緒に行かなかったのも、こうやってあーちゃんとお喋りしてるのも」

未央「多分、終活気分なんだ」

未央「べつに自殺とかはする気ないけどさ」

未央「どこかで死に場所みつかるかな、くらいは考えてる」

藍子「そんなのダメです!」

藍子「なんでそんな事、軽々と言えるの!? 未央ちゃんに何があったの!?」

藍子「死ぬとか、終活とか、そんなこと言う人じゃなかったのに!」

未央「私のせいで茜ちんが死んだからかな」

藍子「だからってそんな……」


藍子「……茜ちゃんが、死んだ?」

165: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:09:02.99 ID:sYHaExIf0

未央「死んだ」

未央「私のせいで死んだんだよ」


未央「346プロはさ。メチャクチャ徹底して秘密を守ってた」

未央「茜ちんが、私とあーちゃんが"喰種"だって知ったこと、すぐに掴まれてたみたいで」

未央「すぐに捕まって、殺されちゃった」


未央(……財産のこととかは言うのナシにして、これくらいなら話してもいいよね)


未央「少し考えれば、分かる事なのにね。プロデューサーにペナルティくらい聞いとけば良かったのに」

未央「勝手に行動して、勝手に秘密ばらして。何様のつもりなんだろうね、私」


藍子「……!!」

藍子「……で、でも。それでも!!」


藍子「私は未央ちゃんに生きて欲しいです! 茜ちゃんが死んだからって、未央ちゃんのせいじゃないし、未央ちゃんまで失いたくないです!!」

藍子「お願いです、そんな、自分の事を責めていなくならないで……!!」


未央「……あーちゃん」



藍子「……そうだ。一緒に暮らしませんか?」

藍子「私、何かあった時はお母さんの実家に逃げるって家族で決めてたんです!」

藍子「未央ちゃんもこっちに来ませんか!? ううん、来てください!!」

藍子「お父さんもお母さんも歓迎してくれます! 未央ちゃんのこと話したら、会ってみたいって言ってくれたんです!!」

藍子「必要なものなら、たぶんなんでもあるから……このままいなくならないでください!!」

藍子「何をやったって、未央ちゃんは大切な友達なんです!!」

藍子「だから……だからっ……ヒグッ……」


未央「……もー」

未央「私ってば、ほんとに愛されてたんだなあ」


未央「お父さんもお母さんも兄貴も弟も、すっごくしつこかったし」

未央「これだけ言ってくれる友達もできた」

未央「……幸せ者だなー、私」

166: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:11:32.50 ID:sYHaExIf0

未央「でも、できないや」

未央「私みたいなのが傍にいたら、きっとあーちゃんも悪い子になっちゃうから」

未央「あーちゃんはふわふわで優しくて、私の憧れの女の子だったから」

未央「おんなじ"喰種"なのに、あーちゃんは人間と変わらず優しかったから。そういう所が大好きだったから」

未央「どうか、あーちゃんにはずっとそのままでいて欲しいな」


未央「…じゃ、そろそろ行くね―――」


ドスッ


未央「……もー。あぶないなあ」

未央「ちょっと壁えぐれてるじゃん」


藍子「…行かせません。絶対に行かせません」バキキ

藍子「茜ちゃんが死んだからって、未央ちゃんのせいじゃないんです」

藍子「そんな下らないこと考えてるなら、私だって厳しくなります」


藍子「……傷つけてでも、暴力に頼ってでも」

藍子「このまま死にたいなんてふざけたこと言うなら、私だって戦います」

藍子「このまま未央ちゃんを動けなくしてでも、引きずってでもうちに連れていきます」ギョロ


藍子「それくらいの才能なら、私にだってあります」

167: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:12:19.45 ID:sYHaExIf0

未央「…そういや、あーちゃんの赫子初めて見たなあ」

未央「私と同じ甲赫だったんだ。思ったより分厚くて固そうだけど、刃がついてないのはあーちゃんらしいや」

未央「参ったなあ。こっちはあーちゃんを傷つけたくないんだけどなあ」


藍子「じゃあ黙って私のところに来てください」

藍子「私は本気です……!!」


未央「まーったく……」

未央「……仕方ないかあ。これ以上、嫌われたくなかったんだけどな」


未央「実はね、あーちゃん」

未央「家族ともめた時、みんな最後まで私を外に出してくれなかったんだよ」

未央「兄貴なんかは、ずっと私にしがみついて離してくれなくて」

未央「まあ、やろうと思えば"喰種"の力で引き剥がして強行突破も出来たけどさ」

未央「でもそんなことしたらケガさせちゃうの目に見えてるし」


未央「それでね。結局、どうやって家を出たかなんだけど」

未央「『ある事実』を言ったら、皆すごく動揺したんだ」

未央「その隙をついて、家を出て、今ここ」

藍子「……?」


未央「よーく聞いてね、あーちゃん」

未央「私のせいで茜ちんが死んだって言ったでしょ? あれ、ちょっと違うんだ」

未央「まず私が散々に痛めつけられちゃってね。すごいもんだよ、お腹に穴空いたもん」

未央「一応治ったんだけどさ。やっぱりすごく体力使うみたいで、苦しくて苦しくて」

未央「食事も最低限にしかとってなかったからさ、お腹もすいちゃって」


未央「そんな時に、目の前に茜ちんを連れてこられた」

未央「茜ちんは、捕まってることも忘れて私の心配ばっかりしてくれて」

未央「そして、すっごくいい匂いがして」


未央「ここまでお腹がすいたの、実は初めてだったんだ」

未央「だから"喰種"の飢えが地獄だってこと知らなくてさ」


未央「あんまりお腹がすいたもんだから、意識も途切れ途切れで、何も考えられなくて」

未央「必死に声かけてくれる茜ちんのことも、耳に入ってこなくて―――――」





未央「そのまま――――――――――」





168: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:13:39.21 ID:sYHaExIf0










未央「食べちゃった」










未央「私、茜ちんのこと食べちゃった」





未央「気がついた時には、茜ちんの顔以外見れたもんじゃなくなってた」

未央「あ。涙でぐしゃぐしゃになってたから、顔も見れたもんじゃないのか」

169: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:16:19.11 ID:sYHaExIf0

藍子「―――――」



未央「……ほら。効果てきめん」スッ


未央「恨んでいいよ。気持ち悪いって思っていいよ」

未央「だってそうでしょ。信じてくれた友達を食べたんだもん」

未央「もう誰にも会わない方がいい。このまま死んだ方がいい」

未央「……本当に、生きてるだけで気持ち悪い」



未央「じゃあね、あーちゃん」カラン



未央「あーちゃんのコーヒー、好きだったよ」

170: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:17:13.27 ID:sYHaExIf0

――――――――――――――――――――


藍子「……っ!」ハッ


藍子「―――未央ちゃん!!」ガチャ


藍子「……あ……」



藍子(――何秒か後に、私は我に返って)

藍子(――店を出て未央ちゃんを探したけど)

藍子(――もうとっくに、影も形も見えなくなってしまっていました)


藍子(――分かってます。同じ"喰種"でも、未央ちゃんは私よりずっと足が速い)

藍子(――今から追いかけても、もう追いつけないってことくらい)


藍子「……うっ……」ヘタリ


藍子(――どうして気付けなかったんだろう)

藍子(――未央ちゃんが死にたがってた、本当の理由に)

藍子(――少し考えれば、分かりそうなものだったのに)

藍子(――どうして分かってあげられなかったんだろう)


藍子「ううっ……ぐすっ……ひっく……」


藍子(――お願い。死なないでよ、未央ちゃん)

藍子(――会いたいよ。このままお別れなんて嫌だよ)


藍子「未央ちゃんっ……ううっ……」

藍子「……うああぁぁぁぁぁああああ……!!」


藍子(――どうして。どうしてこんなに)


藍子(――こんなにいきなり、皆いなくなっちゃうの)



――――――――――――――――――――

171: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:18:27.63 ID:sYHaExIf0

――――――――――――――――――――



未央「……ここまでくれば、もう追っかけてこないかな」

未央「……」


未央「……泣かせちゃったなあ」

未央「こんな目に遭わせるなら、お喋りなんかしないで見つかった時点で逃げてた方がよかったかなあ」


未央「こんな調子なら、CPの皆にも会わない方が良さそうかなあ」

未央「応援くらい、言ってあげたかったんだけどなあ」


未央「……」



『あなたはちょっと、自分の立場が分かっていないようなので』

『"喰種"が本当はどんなものなのか、身体に教えてあげます』

『私達は"喰種"。どうあがこうと、人喰いの人殺しなんですよ』



未央「……」



未央「……これから、どうしようかな」



未央「せっかくなら、誰かを守って死にたいな……」



――――――――――――――――――――

172: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:25:27.64 ID:sYHaExIf0

一旦ここまで。


とある藍子Pをフォローしているのですが、その方のダイマから藍子が本当に優しくて穏やかな子だと言うのが分かります。

"喰種"の自分が嫌で嫌で仕方なかった未央にとって、"喰種"でも人間みたいに穏やかでいてくれた藍子の存在は本当に救いでした。

175: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 22:01:09.21 ID:sYHaExIf0

――――――――――――――――――――


丸手「――奴らの置手紙に、346プロ最後の仕事も書かれてた」

丸手「12月25日の金曜日、音楽番組への生放送ゲスト出演および346プロダクション単独ライブ宣伝」

丸手「あとはシンデレラプロジェクトほか選抜メンバー7人によるステージ出演だ」

丸手「で、避難完了日も同日」

丸手「こいつらを最後に346プロのアイドルは全員避難完了ってわけだ」


篠原「そして避難完了日には346プロ全職員を本社に待機させる、ってことは……」

吉時「皆の考えている通りだ。キャッスル討伐作戦は1週間後の12月25日」

吉時「番組終了時の午後9時ちょうどを以て開始する」

宇井「"喰種"が出ているかもしれない番組をそのまま放送させるんですか? 少なくともCは"喰種"だと分かっているのに……」

法寺「しかし人質が最後の一人まで残っている可能性がある以上、中止させるわけにもいきません」

清子「手間はかかるけど、346プロを壊滅させてから調べるしかないわね」

実「不可能ではないな。アイドルの行き先を調べて検査を受けさせれば、時間こそかかるが確実に喰種アイドルを追い詰められる」


吉時「そうだ。無闇に人質を危険に晒すこともない」

吉時「最優先はキャッスルの資金源および人脈を断ち社会的に無力化すること」

吉時「ただし346プロが大人しく捕まるとは考えられないから、十分な編成で討伐に臨む」

吉時「たとえそれが彼らの計画と一致していようが、ね」

176: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 22:01:46.34 ID:sYHaExIf0

丸手「…あー、そのことなんですがね局長」

吉時「なんだい? 丸手特等」

丸手「その番組出演メンバーへの対処について、『やらせろ』ってうるさい奴がいるんですよ」

吉時「誰だ?」


丸手「黒井上等です」


黒磐「! 崇男か」

篠原「ああ……なるほど。なんであれ喰種のアイドル見逃せって、あいつ絶対納得しないもんな」

丸手「そうだよ。作戦を聞いた黒井の野郎が、イヤミ並べたてながら迫って来やがったんだよ」

丸手「……つーわけで局長。出演メンバーの確保および駆逐について、黒井上等が単独でやりたいって言ってるみたいなんです」

丸手「方法についても、あてはあると」

吉時「…ふむ。どんな方法だ?」


丸手「この間『飛び級』で入局させた、3人の新人捜査官にやらせるそうです」

丸手「彼等なら顔が割れてない上に、実力も申し分ないと言っていました」

丸手「そうやって捕らえた喰種アイドルを情報源にして、同じアイドルの捜査を効率よく進めていくとも」


吉時「新人……なるほど、彼らか」


丸手「ええ」

177: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 22:02:18.50 ID:sYHaExIf0



丸手「天ヶ瀬冬馬、伊集院北斗、御手洗翔太」



丸手「以上3名が黒井上等捜査官の指示の基で」



丸手「『キャッスル討伐作戦』と並行して―――――」





丸手「―――『346プロ所属アイドル捕獲・保護作戦』を遂行します」



181: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/12(火) 19:53:50.76 ID:Z1xPk/XU0

――――――――――――――――――――


~特等捜査官会議 終了~


実「そう言えば美樹。市原一等が捕らえて君が所有権を持っている『H』、サギサワのことだが」

実「あれはまだ生かしておくのか?」

美樹「いいえ。まともな情報を持っていなかったし、近々廃棄するつもりよ」

美樹「せめて同類の振り分けに使えるかと思ったけど……何をやっても口を噤んだままだし」

美樹「ろくな交渉材料がない以上、生かしておく必要もないわね」

実「そうか」


実「なら、君の手を借りられるのもここまでだな。あとは私達に任せてほしい」

実「だから美樹は、その……ありすに構ってあげてくれないか」

美樹「!」

実「他に仕事があったとはいえ、私がろくに協力できなかったせいで君を忙しくしてしまった」

実「きっとありすも寂しがっている」

実「情けないが、特等として私はこれからもっと忙しくなるだろうから……せめて君だけは、あの子の側にいてやって欲しいんだ」

美樹「実さん……」


美樹「…そうね、分かったわ。一足先にお休みして、ありすと一緒に待ってる」

美樹「でも無茶はしないで。あなただってありすの父親なんだから」

実「分かっているさ」


――――――――――――――――――――

191: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/13(水) 21:45:45.09 ID:LaJhCUBn0

――――――――――――――――――――


橘「……もしもし、ギン?」

市原『もしもし美樹サンか。どした?』

橘「捜査について、特等会議が終わったところなんだけど……」

市原『おお、終わったか! 作戦はいつだ? クインケの新調も終わったしいつでもいけるぜ』

橘「気合十分ね。あと、キャッスル討伐作戦のことだけど」

橘「橘特等ほか特等の皆さんに引き継いでいただくことになったわ。だから私達の出番はここでおしまい」

市原『そーかそーか、ここでおしまい……』

市原『……は?』


橘「任務終了よ。貴女も私もしばらく休暇。娘に構ってあげなさいって言われたわ」

192: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/13(水) 21:48:00.90 ID:LaJhCUBn0

市原『ちょ……ちょっと待てオイ! 美樹サン知ってんだろ!?』

市原『こっちはハルオの治療費と仁奈の養育費稼ぐために喰種狩らなきゃいけねえンだよ!』

市原『休暇とか取ってられるか!』


橘「あら、言ってなかった? 市原ハルオ二等捜査官の治療のこと」

橘「片桐さんが桃華ちゃんを通じて櫻井家に協力してもらったのよ」

橘「今後、市原二等の治療費は櫻井家が全額負担してくれるらしいわ」


橘「『櫻井家の者が、娘を喰種の巣窟から救い出してくれた恩人のために、娘の友達の父親を助けないわけがない』ってね」


市原『……え……』

橘「だから……ありすのことがあったとは言え、私の援助を断ってまで仕事し続ける理由がなくなったのよ」


市原『……あ……い、いや待て!』

市原『カネのためだけじゃなくて、ハルオをあんな風にしやがった「隻眼」だって探さなきゃいけねェし……』

橘「まだ影も形も見つかってないでしょ。少なくとも今やることじゃないわ」

193: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/13(水) 21:50:39.49 ID:LaJhCUBn0

市原『ぐ……』

橘「……いい加減、仁奈ちゃんから逃げるのやめたら?」

市原『に、逃げてなんかねェよ。……実際、教育に悪いって思ってンだよ』

市原『こんなのが近くにいたら、仁奈がまともに育たねえって……』

橘「……はあ」


橘「ギン。貴女の今のクインケ、何て言う名前だったっけ?」

橘「私、あれ長くて覚えられないのよ」

市原『美樹サンが言う時は『アニマル』でいいって言ってんだろ』

橘「はいはい。それで? 本当はなんて名前?」

市原『……ウサギドラゴンヒツジオオカミパンダペンギンサメイカコアラ獅子舞アライグマカエルヒヨコニワトリツバメクマイヌサルリス旗ゾウハチ亀サンバ』

橘「……何か増えてない?」

市原『2コ足したんだよ。前のはウサギドラゴンヒツジオオカミパンダペンギンサメイカコアラ獅子舞アライグマカエルヒヨコニワトリツバメクマイヌサルリス旗ゾウハチだ』

橘「もういいわ、とにかく」


橘「娘がやった仕事をいちいち暗記する熱意があるならね、その間違った方向の親バカっぷりを少しは娘の前で見せてあげなさい」

橘「上司命令よ、今すぐ片桐さんや仁奈ちゃんがいる宿舎に向かいなさい」

市原『う……』

市原『……~~~~~ッ!!』


市原『……クソっ、分かったよ。行けばいいんだろ行けば』

橘「お見舞いは私が代わりに行ってあげるから。ちゃんとお喋りしてあげなさいよ、じゃあね」ピッ


橘「……ふう」



橘「……私も、人の事言えないわね」


――――――――――――――――――――

194: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/13(水) 23:03:33.74 ID:LaJhCUBn0

~某総合病院~


「ギ……ン……仁、奈……」

「見……ゲエだろ……キリン………」

「せか、ち……ブツブ…………なんだぜ…………」


橘「……お久しぶりね、市原二等」

橘「ごめんなさい。今日はギンのお見舞じゃないの」

橘「しばらくは仁奈ちゃんにかかりっきりで、夫の貴方は後回しになるかもね」



橘(――市原ハルオ)

橘(――ギンの夫で、仁奈ちゃんのお父さん)

橘(――CCGアカデミージュニアスクール卒業後、ギンと共に止むを得ない事情により)

橘(――アカデミーを経由せずCCGに入局、3等捜査官からの活動開始となる)

橘(――周囲の冷ややかな視線の中、生まれた仁奈ちゃんのために必死で喰種の駆逐に臨んでいた市原夫妻だったけど)


橘(――二年前、仁奈ちゃんが生まれて7年目……市原二等は望まぬ引退を強いられた)

195: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/13(水) 23:04:09.57 ID:LaJhCUBn0



橘(――『Rc細胞過剰分泌症』、通称『ROS』)



橘(――本来、喰種だけではなく人間の体内にも微量に含まれるRc細胞が、何らかの異常により過剰に生成される症状)

橘(――特徴は赫子に似た嚢腫の形成。症状が進行した市原二等は、今や意識が朦朧とし寝たきりになっている)

橘(――治療法は発見されておらず、Rc抑制剤で進行を抑えることが唯一の対処法となっている―――――)



橘(――原因は判明していない。ただ、きっかけは分かっている)

橘(――2年前の、『隻眼』による突然の襲撃)

橘(――10年以上前に、子供と思われる年齢にて既にSSSレート喰種『リトルバード』とほぼ互角に争った『隻眼』は)

橘(――当時の襲撃にて捜査官や一般市民を喰い散らかすだけでなく)

橘(――何人かの被害者に自身の赫子を埋め込み、操り人形にして『遊んだ』)


橘(――そのうちの一人が、捜査官の一人として立ち向かった市原二等)

橘(――手術によって一命を取りとめたものの、恐らく異質な赫子が直接体内に混入した影響でROSが発症し)

橘(――今も、人としての生き方、人としての喜びをすべて奪われ続けている)

196: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/13(水) 23:06:25.68 ID:LaJhCUBn0

橘(――ギンは夫の病気を仁奈ちゃんに明かしていない)

橘(――2年前から『海外に行った』と嘘をつき続けて、裏では市原二等の高い治療費と仁奈ちゃんの養育費を絞り出すため)

橘(――そして夫を壊した仇の『隻眼』にたどり着くために、喰種を殺し続ける生活を送っていた)


橘(――彼女の経歴を嫌う捜査官達に、助けを求めることもできない)

橘(――私が援助を申し出たこともあったけど、ありすがいるから受け取れないと躱し続けた)

橘(――ずっとずっと、本当は母親に甘えたいのに我慢している仁奈ちゃんから目を背けながら……)



橘「……ようやく、貴方の治療費を支払い続けてくれる人を見つけたわ」

橘「ギンは戸惑っていたけど、ようやく母親としての仕事に向き合えそう」

橘「仁奈ちゃんが貴方のことを知るかどうかは、まだ分からないけど……心配はいらないわ」

橘「だから目が覚めた時は……また貴方や、仁奈ちゃんの好きな動物園にたくさん連れて行ってあげて」


橘「…私も、貴方と話すのはこれまでにして……私の娘に会ってくるわ。どうかお元気で」


――――――――――――――――――――

200: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/14(木) 23:56:55.46 ID:BatE9BoQ0

――――――――――――――――――――


市原『……美樹サン』

市原『あたしはな、ゴミみてえな人間なんだよ』

市原『2人そろって喰種に喰われたから親もいねえ、金もねえ、頭もねえ』

市原『ジュニアじゃ2人でバカばっかやってろくに勉強もしねえ』

市原『卒業間際に後先考えねーでヤることヤって、養う準備もしてねえのに仁奈を産んで』

市原『クソみてーな三等捜査官からじゃなきゃCCGに入れなくてバカにされまくったバカ2人なんだぞ』


市原『仁奈を346に入れた時もそうだ』

市原『ただ仁奈と同じくらいのガキがたくさんいるみたいだから、家でアタシの相手するよりマシだろと思って入れたんだよ」

市原『ろくに調べもしねーでよ。アタシのせいで、仁奈が食い物にされるところだったんだぞ』

市原『アイツの父親だって守れなかった。仇すら取れてねえ』

市原『仁奈のために何かしようとしても、仁奈の近くにいようとしても、仁奈のためになった事なんか一つも無かった』


市原『仁奈の口癖聞いたことあるか? アタシの影響で、もう口が悪くなってる。このまま一緒にいたら、アイツまでクソになるぞ』

市原『今の仁奈は、周りにいい女がたくさんいる。あいつらと一緒なら、仁奈はまっすぐ育つ』

市原『アタシはただ、"喰種"狩ってアイツの金稼げりゃいいんだよ』

市原『"喰種"狩って、仁奈が生きやすいようにするしかできねーんだよ』


市原『母親なんか、名乗る資格ねーんだよ』


市原『……なんでアタシが、あの子を産んじまったんだろうな』



市原『もっとまともな親のところに生まれてりゃ、もう少し幸せになれたのによ』


――――――――――――――――――――

204: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:07:01.86 ID:ZGZy65VF0

――――――――――――――――――――


橘(――ギン。あなたが仁奈ちゃんの母親にふさわしいかどうかは、私が決めることじゃないけど)

橘(――それでも、少なくとも今だけは、あの子達にはあなたの存在が必要よ)


橘(――ただでさえ、今は)

橘(――"喰種"でもないのに、大事な人を傷つけられた子まで出てしまった)



~CCG 外部ゲスト用宿舎~


美樹「―――失礼します。橘です」

早苗「…おかえり、美樹ちゃん。ちょっといい?」

美樹「……? はい」

早苗「どうしても、美樹ちゃんに聞きたい事があるって……不安がってる子がいるの」

早苗「有香ちゃん」


有香「……お疲れ様です」


美樹「……こんにちは。中野有香さん」

205: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:07:39.73 ID:ZGZy65VF0

有香「あっ、あの……美樹さん」

有香「美樹さんが、あたし達に外の事を話せないのは、ちゃんと事情があるって分かってるんですけど……」

有香「そ、それでも……どうしても聞きたくて……」


美樹「……水本ゆかりさんと、椎名法子さんのことですか?」

有香「! 二人はどうなったんですか!? 無事なんですか!?」

有香「あたし……あたし! 自分だけこっちに逃げて、ゆかりちゃんも法子ちゃんも置いてっちゃって……!」

早苗「……何度も言うけどね。2人を連れてこなかったのは、あたしの判断よ」

早苗「有香ちゃんにさえ、こっちに来るまで『お出かけ』としか言ってなかったんだから」


有香「早苗さんのせいじゃないです……でも、2人は人間です! あたしには分かります!」

有香「今からでも、保護してもらうことは出来ませんか!? 大切な友達なんです、2人に何かあったら、あたし、あたし……!!」


美樹「……」


美樹(――今誤魔化しても、意味はない……わね)

206: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:08:22.18 ID:ZGZy65VF0

美樹「―――中野さん」

美樹「お二方は、もう……」

有香「……ッ!」

有香「もう、どうなったんですか……!?」

有香「まさか、食べられて……」


美樹「いいえ、2人とも生きています。今はただ、こちらの病院施設で入院しています」

美樹「……それでも、重症です。一命こそ取りとめていますが、担当医いわく以前と同じ生活は困難だと」

有香「……そんな」


有香「……あの」

美樹「面会はできません」

美樹「全てが終わるまで、皆さんにはこの宿舎からの外出、連絡を許可できませんし……」

美樹「我々の口頭によるもの以外、外部情報はこれまで通り一切遮断させていただいております」

美樹「どうか、ご理解ください」


美樹「……お力になれず、申し訳ありません」


有香「……ッ……」

有香「……いえ。今の2人のことだけでも、教えてくれてありがとうございます」

有香「……生きてるん、ですよね。それが知れただけでも……」


美樹(――仲間や、家族)

美樹(――本当のそれらを、"喰種"のせいで失う人達がいる)


美樹(――私は、一人の喰種捜査官として)

美樹(――こんな悲劇を、ひとつでも無くさないといけない)

美樹(――いえ。『ひとつだけでも』じゃない)

美樹(――『すべて』無くさないといけない)

207: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:10:48.78 ID:ZGZy65VF0

美樹(――でも)

美樹(――中には、背負う必要のない罪、罪ですらないものの意識に苦しむ子もいる)


幸子「……なんですか、友紀さん。ボクは別に、そんなにべったりくっつかれなくても……」

友紀「いーじゃんいーじゃん。あたしが幸子ちゃんにくっついてないと、不安でしょーがないんだよー。たすけてさっちー」

幸子「……仕方ないですねえ。ボクは優しいので、イヤがったりしませんけど……!」

幸子「…………」カタカタ

幸子「……ありがとう、ございます」

友紀「なんの話かなー」


美樹(――輿水さんは、緒方智絵里の正体をギンに伝え、キャッスルに繋がる入口を伝えてくれた英雄)

美樹(――でも、本人からすれば……友達を間接的に殺した、人でなし)

美樹(――それは間違ってるって言っても……耐えられる人ばかりじゃない)


美樹(――辛いのは、本当の友達を失う人だけじゃない)


美樹「……片桐さん。向井さんも」

美樹「いま中野さんにご説明した通り、キャッスルへの捜査が完了するまでは一切の外出・連絡を許可できません」

美樹「窮屈な思いをされることは承知しています。どうか、ご協力下さい」


拓海「……言われなくても分かってるよ、ンな事」

早苗「連絡なんてしたくても、出来やしないようになってるから安心しなさい」

美樹「ご協力、感謝します」


美樹(――片桐さんも、向井さんも。もしくは、佐藤さんも)

美樹(――恐らく、仲間の誰が"喰種"だったか見当がついている)


美樹(――今、それを聞き出す必要はない)

美樹(――最後には頼らなければいけないかもしれない)

美樹(――でも、今ほかに情報源を得られるなら)

美樹(――たとえまやかしでも、友達を売る辛さを強制することはない)


美樹(――ただでさえ、これから346プロは崩壊する)

美樹(――仲間や親友、思い出の場所が全部、虚像となって消えていく)

美樹(――その様を見せてあげることすらできない。何も分からないまま、失ってしまう)


美樹(――引き金を引くのは、刃を振り下ろすのは私達)



美樹(――その事実に、向き合わないといけない)

208: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:11:34.79 ID:ZGZy65VF0

美樹(――それでも)ガチャ


桃華「……あら! お帰りなさいませ、ありすちゃんのお母様」


唯「ミキミキおかえりちゃ~ん、今ちょーイイとこに帰って来たね~」ニヤニヤ

雫「おかえりなさい~。仁奈ちゃん、すごく幸せそうですよ!」


美樹「…ふふ。本当に幸せそうね」



仁奈「えへへー♪ ママのお膝に乗ったの、すげー久しぶりでごぜーます!!」ニコニコ

ギン「……………………おう」タジタジ



仁奈「早苗おねーさんから聞いたですよ! ママはしばらくお仕事ねーから、いーっぱいお休み出来るって!!」

仁奈「ママ、いつも忙しくてたいへんでやがりましたから、仁奈うれしーです!」

心「お? 仁奈ちゃん、この隙にたくさんママと遊んでもらうつもりだな? この甘えん坊め~☆」ニヤニヤ

仁奈「えへへー、ママには仁奈のダンスも歌もたっくさん見てほしーです! アイドルやって、色んなきもちになれたですよ!!」


ギン「い、いや……別にアタシが見る必要ねェし……」

心「見ろよ☆」

ギン「う……」


仁奈「…ママ……仁奈と遊ぶの、イヤですか?」

ギン「は? ち、ちげーよ。遊びたいに、決まってるだろうが」


仁奈「じゃあ仁奈と遊んでくだせー!」

仁奈「ママ、いっつもつらそーにしてやがるです。皆言ってたですよ、アイドルになったらみんなを笑顔に出来るんだって!」

仁奈「ママも笑顔になってくだせー!」


ギン「……仁奈……」


ギン「……分かったよ。悪かった。……仁奈がそれでいいって言うんなら、気が済むまで遊ぶから」

仁奈「!!!」


仁奈「わーい! ママとやりたいこといっぱいあるですよ! ウサギの気持ちにもなるですしゾウさんの気持ちにもなるですし、あとあと―――――!!」



美樹「……なんとか、うまく行ってるみたいね」



美樹(――それでも)

美樹(――この幸せな親子を、幸せな人たちを、壊させたくない)

209: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:12:24.58 ID:ZGZy65VF0

美樹(――何より)


「……」ギュ

美樹「!」

美樹「……ふふっ」


美樹「どうしたの、ありす?」



ありす「……あっ」


ありす「ち、違います! 今のは、その、つい裾を握ってしまっただけで……」

心「お? ありすちゃんもママに甘えたいのかな? 甘えたいんだろ☆」

ありす「ただのクセです! 別に仁奈ちゃんが羨ましくなったとかじゃ……! …ハッ」


美樹「…そうね。私も実さんも、ありすのこと一人で大丈夫だって思っちゃって」

美樹「甘えちゃってたのは、私の方ね。ごめんね、今まで寂しい思いさせちゃって」

美樹「今日から、しばらくお休みだから。ギンと仁奈ちゃんみたいに、私もありすとたくさん遊んじゃおうかな」


ありす「……!!」


ありす「お、お休みなら……いい、んだよね」

ありす「……どうしても、じゃないんだけど……お話ししたい事があって……」


ありす「……聞いてくれる?」


美樹「うん。ありすのお話、たくさん聞きたいな」




美樹(――喰種捜査官として、こんなことを考えるのは駄目かもしれないけど)

美樹(――それでも、何より)

美樹(――この子に幸せになって欲しい)

美樹(――この子が、笑顔で生きていけるように、戦いたい)

210: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:14:00.16 ID:ZGZy65VF0



美樹(――どうか、叶うなら)



美樹(――ありすと実さん、そして私の3人で)



美樹(――"喰種"のいなくなった世界を迎えたい)



美樹(――まやかしなんかじゃなく、本当に幸せでいられる日を迎えたい)



美樹(――もし、それが叶わなくても。私や実さんが、奴らの牙にかかって、あの子のそばにいられなくなっても)



美樹(――せめて)



美樹(――この子の未来を、幸せに生きていける未来だけは、絶対に守りたい)



美樹(――喰種捜査官として……いえ、それよりも、この子の母親として)



美樹(――この子の幸せだけは、絶対に守らなきゃいけない)



211: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:15:04.09 ID:ZGZy65VF0



美樹(――そのためなら――――――――――)



ありす「お母さん」

ありす「このお仕事が終わったら、お母さんに紹介したい人がいるの」

ありす「私ね。唯さんと一緒に、美城常務のところで『プロジェクトクローネ』ってグループに入ったんだよ」

ありす「そこで、素敵な人と出会って……」


ありす「鷺沢文香さんって言ってね」

ありす「すごい人なんだよ。知的で、おしとやかで……」

ありす「いつも、勉強になることをお話してくれて」

ありす「私の憧れの人で……」


ありす「お母さんがその時、忙しくなかったら、でいいの」

ありす「だから、全部終わったら文香さんに会って、仲良くなって欲しいな……」


美樹「……」

美樹「……本当に好きなのね。文香さんのこと」


ありす「……!!」カア

ありす「そ、尊敬してる人ですっ!」


――――――――――――――――――――

212: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:16:14.57 ID:ZGZy65VF0

――――――――――――――――――――


心「ママー!」

ギン「いきなり何やってんだお前」

心「なにって、察しろよ☆ ありすちゃんが甘えやすくするために、少しでも周りが幼児退行してやってんだよ☆」

ギン「頭おかしいんじゃねえのお前」

心「恥を忍んでやってんだよ☆ おい無表情で中指立てんな☆」

ギン「悪かったな。FuckFuckFuckFuckFuckFuckFuckFuck」

心「ボケ過ぎたのは謝るから娘の前でFワード連発すんな! 仁奈ちゃんが真似したらどーすんだ!?」

ギン「あっヤベ、いつものクセが……! 今のは忘れろ仁奈!」

仁奈「ふぁっくって何でごぜーますか?」

ギン心「「忘れろ!!」」


心「もー。仁奈ちゃんと距離を置きたがった理由は身をもって分かったけど、も少し言葉遣い考えろよ☆」

ギン「……そうだな。仁奈に真似させねーように、気ぃ付けねえとな」

心「少しは上司を見習えよ☆ あっちはTHE・レディってかんじなのに」

ギン「……あんたらの前じゃな」


心「お? なんか引っかかるもの言いだな? 美樹ちゃん、意外と私生活はだらしないとか?」

ギン「そういうワケじゃねーよ。ただ、あのヒトの仕事っぷりがえげつねえんだよ」

心「……えげつない?」

ギン「ああ」


ギン「美樹サン、過去に尋問官もやってたことがあってな」

ギン「アタシもパートナー組んでから、何回か美樹サンの尋問に立ち会ったことあるんだけどよ……」



ギン「あの人は"喰種"の前じゃ、アタシよりえげつねえ」


ギン「……まあ、同情する気なんかねえけどな」


――――――――――――――――――――

213: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:17:48.63 ID:ZGZy65VF0

~夜~


橘「……もしもし。ええ、私です御坂監獄長」

橘「申し訳ありません。ありすが寝付いてから、仕事に移りたくて……」

橘「はい、休暇中です」

橘「ですが、あと一つだけ…どうしても今やっておきたい仕事がありまして」

橘「……ありがとうございます」



~コクリア 独房~


「……はあ、はあ……」


ガチャ


「……!」



橘「……こんばんは。こんな時間だけど」


橘「捜査に協力してもらうわ」



橘「鷺沢文香さん」



214: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:18:49.45 ID:ZGZy65VF0

文香「……!!」

文香「……あ、あああ……!!」


橘「今日は『シンデレラプロジェクト』のメンバーおよび小日向美穂、木村夏樹、二宮飛鳥について」

橘「この中に、『緒方智絵里』以外で"喰種"はいる?」


文香「……い」

文香「…………いえ、ません」


文香「……何度も……言っています……」

文香「……友達を、売ることは……できません……!!」


橘「……そう」ジリ


橘「」グイッ


文香「ひっ……!」



橘「…知識量の割に、学習能力のない子ね」

橘「今度は何をしてあげましょうか?」


橘「また目に火箸を刺されたい?」

橘「また爪を延々と剥がされ続けたい?」

橘「また耳に虫でもいれてあげましょうか?」

橘「また人間の料理を延々とねじ込んだ方がいい?」


橘「拷問のレパートリーなら、あなたが本で読んだ以上に知ってるわよ」


文香「……っ……く、う……!!」



文香「……殺してください……」

文香「私から……あなたに、あげられる情報なんて……ないんです……」

文香「私のページは、もう、ここで終わりだって、知ってます……」

文香「はやく……殺してください……楽にしてください……」


文香「殺して……もう……解放、してください……!!」

215: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:19:46.85 ID:ZGZy65VF0

橘「頼まれなくても、もうあなたは用済みよ」

橘「もう廃棄することにした。何を言っても言わなくても、近いうちにあなたは死ぬ」

橘「その日まで、あなたはずっと身体を抉られ続ける」

橘「……同類を売った方が、まだ楽に死ねるわよ」


文香「……いやです」

文香「もう、それしか……縋れるものが無いんです……」

文香「友達を裏切ったら……もう……本当に何も、なくなってしまうから……」

文香「だから……このまま、殺してください……!!」


橘「……つまらない自己満足ね」



橘「安心しなさい。別にもう、あなたに期待することなんてない」

橘「情報を得られれば幸運、くらいに思っていただけ……」



橘「……だけど、そうね。もし、今日私が求める情報を差し出してくれたなら……」







橘「最後に、ありすに会わせてあげる」



216: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:20:54.59 ID:ZGZy65VF0

文香「――――――――――っっ!!!」



橘「娘が言っていたわ。尊敬してる人だって、知的でお淑やかな女性だって」

橘「とても会いたがってたわ。あなたも、ありすに会いたくないかしら?」


文香「っあ……あああ……!!」


橘「この資料を見て。今必要な情報は、シンデレラプロジェクトの誰が"喰種"なのか」

橘「どうせ庇っても、あなたには何の得もない。あなたはそのまま、ひとりで死んでいく」

橘「情報をくれても、あなたは死ぬ。でも、最後にありすに会うことは出来る」

橘「当然、情報が一言一句正確だったことが条件だけど」

橘「あなたが売るのは、シンデレラプロジェクトのメンバーだけ。他の仲間には逃げられるでしょうね」


橘「……どっちがいいかしら?」



文香「あ……」


文香「あああああ……」

文香「ありす、ちゃん……うう、ああああああ…………!!!」



文香「……あ……」


文香「……ごめんなさい」


文香「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


文香「許して……くださ、い……!!」



橘「……それで? 誰が"喰種"なの?」


文香「……」


文香「…………」


文香「…………ぜ」

217: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:22:04.66 ID:ZGZy65VF0





文香「……全員、です……」





文香「美穂、さん。夏樹さん、飛鳥ちゃんは……3人は、人間です」

文香「でも、シンデレラプロジェクトは……全員、"喰種"です」

文香「人間は、ひとりもいません……」


橘「そう」



文香「……約束です。ありすちゃんに会わせてください」

文香「一目でいい……一目見られるだけで、いいんです……」

文香「ありすちゃんは、ずっと私を慕ってくれて……すごく、可愛らしくて、愛しくて……!!」

文香「もう何もいらないから、ありすちゃんに会いたい……」


文香「お願いです……ありすちゃんに会わせてください……!!」



橘「……」


橘「……可哀想に」

橘「痛みでまともに物を考えられなくて、ただ一つ仲間に縋ることでしか、現実に耐えられなかった」

橘「そのたった一つの支えを手放してまで……ありすに会いたかったのね」


橘「ありすが愛しかったのね……」スッ



橘「あなたは、十分役に立ってくれた。これで、黒井上等達の作戦もやりやすくなるわ」

橘「だから…………」



218: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:24:06.12 ID:ZGZy65VF0



ズパッ



文香「……え?」



橘「ご苦労様。そのまま楽に死になさい」


橘「何もいらないからありすに会いたい? 何様のつもり?」


橘「会わせられる訳がないじゃない。娘をたぶらかしておいて、取り入っておいて……」



橘「娘を惑わす害獣が」





文香「そ、んな……」


文香「……あり……す、ちゃ……」


文香「――――――――――」



――――――――――――――――――――



橘「……もしもし、黒井上等?」

橘「私よ、橘準特等。夜遅くの連絡だけど、どうせ残業していたんでしょう?」

橘「あなた達の助けになる情報を得たから、電話させてもらったわ」



橘「……ええ、そうよ。サギサワからようやく得た情報」

橘「極限状況で、唯一の希望に縋ってようやく出した情報だから、信憑性は高いはずよ」


橘「……ええ。オガタの偽造診断書があんなに精巧だったのも納得ね」

219: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:25:34.76 ID:ZGZy65VF0







橘「『シンデレラプロジェクト』のアイドルは全員"喰種"よ」







橘「小日向さん、木村さん、二宮さんの3人さえ保護できれば……」



橘「あとはもう、気遣いも容赦もいらないわね」



――――――――――――――――――――

220: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:26:56.67 ID:ZGZy65VF0

今日はここまで。


次でようやく笑顔の橋、キャッスル討伐作戦が始まります。

一挙放送の前にここまで書けて良かったです。


来週から少し忙しくなるので、ちょっと書くの遅れると思います。

222: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 21:46:09.21 ID:ZGZy65VF0

ちょっと補足。

346プロの中では、智絵里だけでなくシンデレラプロジェクトのメンバー(ついでに美嘉姉)の偽造診断書はかなり手間をかけて作られています。

理由は2人目の隻眼であり最重要秘密事項の蘭子がいたから。

喰種アイドル内で格差をつけたかったわけではないのですが、万が一蘭子、ひいてはそれに繋がるCPを探られて蘭子の正体がバレたら
ウサミンのように単純な切り捨てでは済まずCCGが更に踏み込んでくる危険があったため手間を掛けざるを得ませんでした。


……にしては智絵里の喰種バレのきっかけが結構お粗末じゃないかと自分でも思ってはいるのですが、
キジマさんの言う通りヘマと言うのは総じて目も当てられぬお粗末なものと言うことにしておいてください。

236: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:45:33.83 ID:fvrq08M/0

――――――――――――――――――――



そして、魔法の解ける日が来る



――――――――――――――――――――

237: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:46:05.52 ID:fvrq08M/0

~12月25日 TOKYO MIX 放送スタジオ~

~楽屋~



美嘉「凛と、未央は……来れない?」



武内P「…はい」

みく「そんな……どうして!? シンデレラプロジェクト最後のお仕事なのに……!」

P「……」



P「……先日、日野茜さんと神谷奈緒さん、北条加蓮さんが行方不明になりました」

P「346プロでは『キャッスルの仕業だ』と結論付けられています」


P「……本田さんも渋谷さんも、そのことに責任を感じてしまい」

P「独自のルートで脱出を行う、と連絡を受けました」


P「よって……島村さん、神崎さん、アナスタシアさん、多田さんが『笑顔の橋』に出演し、放送が終わったあとは」

P「渋谷さんと本田さんを除く皆さん……そして、城ヶ崎美嘉さんの計13名で東京外への脱出を行います」

238: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:46:32.78 ID:fvrq08M/0

みく「……っ!!」

みく「じゃ、じゃあ……茜チャンは、未央チャンが喰種だって話したからいなくなったってことですか!?」


P「はい。キャッスルにとって、本田さんやアイドルの皆さんが"喰種"だと」

P「人間に知られては都合が悪かったため、日野さんに手を掛けたと思われます」


美嘉「…なにそれ。茜がCCGにアタシ達のことバラすとでも思ってたの!?」

美嘉「先に手を出してるのは向こうじゃんか……未央が可哀想だよ……!!」

美嘉「未央はただ、アタシたちを勇気づけようとしてくれただけなのに……!」


P「……止められなかった、私の責任です」

P「申し訳ありません」


アーニャ「プロデューサー……」



卯月「……」



卯月「……間違い、なんですか?」

239: 訂正。 ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:47:15.44 ID:fvrq08M/0

みく「……っ!!」

みく「じゃ、じゃあ……茜チャンは、未央チャンが喰種だって話したからいなくなったってこと!?」


P「はい。キャッスルにとって、本田さんやアイドルの皆さんが"喰種"だと」

P「人間に知られては都合が悪かったため、日野さんに手を掛けたと思われます」


美嘉「…なにそれ。茜がCCGにアタシ達のことバラすとでも思ってたの!?」

美嘉「先に手を出してるのは向こうじゃんか……未央が可哀想だよ……!!」

美嘉「未央はただ、アタシたちを勇気づけようとしてくれただけなのに……!」


P「……止められなかった、私の責任です」

P「申し訳ありません」


アーニャ「プロデューサー……」



卯月「……」



卯月「……間違い、なんですか?」

240: 訂正。 ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:47:54.48 ID:fvrq08M/0

美嘉「えっ?」


卯月「未央ちゃんが、茜ちゃんと、本当の仲間になろうとしたことは……」

卯月「ほんとに、間違いなんですか?」


みく「卯月チャン…?」


卯月「私、どっちかというと世間知らずで……もしかしたら、間違ったことを言ってるのかもしれません」

卯月「……それでも、未央ちゃんは、いつも私や凛ちゃんを助けてくれて……」

卯月「裏ではずっと悩んでて、サマフェスでファンレターをもらった時、すっごく嬉しそうに笑ってて……!」


卯月「そんな未央ちゃんが、私達のために、みんなと私達を繋いでくれたことが」

卯月「間違いだったなんて思いたくないですっ!!」


卯月「私は、あきらめたくないですっ! 人間のみんなと仲良くなること、未央ちゃんや凛ちゃんだって、ずっと願ってたこと!」

卯月「私だって、美穂ちゃんと本当の友達になって、今日だけじゃなくって、また一緒に歌いたいから……!!」

卯月「もう『喰種だから』って、好きな事を我慢しなくてもいいようになりたいからっ……!!」


卯月「だから、未央ちゃんや凛ちゃんが来れないなら、見せたいんです!」

卯月「私は、こんなに美穂ちゃんと仲良くなれたよって」

卯月「喰種とか、人間とか、そんなの関係なくて……秘密を話すことは出来ないけど、これだけ仲良くなれたんだよって」

卯月「未央ちゃんが悩んで、出した答えは、間違いなんかじゃないって……!!」


卯月「この最後のライブで、2人に見せたいんですっ!」



李衣菜「卯月ちゃん……!」


李衣菜「……うん、その通りだよ卯月ちゃん! 今更"喰種"がどうとか言って縮こまるのはロックじゃないよ!」

李衣菜「私だって、ちゃんと皆に見せてあげたい! なつきちとこんなに仲良くなれたって!」

李衣菜「ちゃんと分かってくれる人はいるんだって!」

李衣菜「ね、蘭子ちゃん!」


蘭子「……!」

蘭子「……ククク。感謝するわ、雷鳴の姫君よ。笑顔の姫君よ」

蘭子「我らこそ、下僕たちに道を示すもの。暗闇に双翼の軌跡を示すもの」

蘭子「我が翼。白銀の妖精に、我が共鳴者」

蘭子「今こそ始めましょう。我らが大翼の舞う舞台を!!」

241: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:48:41.30 ID:fvrq08M/0

莉嘉「……えーと」

莉嘉「蘭子ちゃんが言ったのって、アーニャちゃんと飛鳥ちゃんのこと?」

みりあ「そうだよ! どっちも大切って言ったんだよ!」

きらり「…それが、蘭子ちゃんの答えなんだね」


美波「……『なにも変わらない』って、言ってくれたもんね」

美波「頑張ってね、蘭子ちゃん。李衣菜ちゃんに、卯月ちゃんも」

美波「アーニャちゃんも、蘭子ちゃんのこと支えてあげてね」


アーニャ「ダー! ランコも、アスカも、アーニャも……なにも変わらないです」

アーニャ「ミナミ、言ってくれました。あの時の笑顔は、私もランコも、変わらなかったって……」


美波「うん! だから、胸を張って行ってきて」

美波「ここからちゃんと見てるから!」



かな子「あ、あのね蘭子ちゃん」

蘭子「む?」

かな子「今まで秘密にしてたんだけど……じゃんっ!」

蘭子「……これはっ!?」


かな子「えへへ。今日のために、ちょっと時間つくって……」

かな子「蘭子ちゃんの大好物、プリンを作ってきました!」

蘭子「わあ!」

かな子「今日のライブが終わったら、飛鳥ちゃんたちとはしばらくお別れになっちゃうから」

かな子「だから、その前に……蘭子ちゃんの大好きなプリンを一緒に食べて欲しいなって思ったの」

智絵里「わ、私もお手伝いしましたっ」

蘭子「かな子ちゃん、智絵里ちゃん……」


智絵里「蘭子ちゃん。私も、蘭子ちゃんに勇気づけられました」

智絵里「だから、精一杯のエールです……ふ、ふれーっ、ふれーっ!!」


蘭子「……!!」

242: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:49:33.38 ID:fvrq08M/0

美波「……よし! じゃあ皆、円陣組むよ!」

美嘉「お、やっちゃう?」

美波「ええ! 凛ちゃんと未央ちゃんはいないけど……2人にも届くって信じてるから」



美波「……改めて言うね」

美波「私達は、"喰種"だけど」

美波「合宿の時……あんなに楽しそうに笑ってた顔は、人間と何か違うだなんて思わない」

美波「346プロはなくなっちゃうけど、また皆歩き出せる」

美波「私達は、それを知った」


美波「だから、みんなにも教えてあげましょう!」

美波「人間と喰種は、ちゃんと仲良くなれるって!」

美波「卯月ちゃんが、李衣菜ちゃんが、蘭子ちゃんが作った絆を、みんなに見てもらいましょう!」


卯月「はいっ!」

李衣菜「おうっ!」

蘭子「うんっ!」



美波「今日のことは、ずっと忘れない!」

美波「ライブに出れない皆も、蘭子ちゃんたちをしっかり見守りましょう!」

「「「はーい!!!」」」


美波「行くわよ! シンデレラプロジェクトー……」


「「「ファイト! オー!!!」」」


次回 卯月「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝完結編】 後編