1: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/05(日) 23:59:52.16 ID:GbqYNGk70
ドラマの撮影向かう車の中、考え事をしながら窓の外を眺める。ぐるぐると回る景色を見てると、ぐるぐる頭も回るかなと思ったけど、全然そんなことなかった。
運転席のお兄ちゃんを見る。鼻歌なんて歌ってごきげんだ。桃子はこんなに頭がもやもやしてるのに、ほんとに呑気なんだから。
考えてたのは、さっきのレッスンのこと。次のライブでは、765プロのアイドルでペアを作って新曲を歌うみたい。
今日は初めてのレッスンで、ペアの相手の瑞希さんと一緒に仮歌を聞いて、ダンスを見せてもらって、ステージのテーマみたいなものを考えた。
瑞希さんはずーっとポーカーフェイスで、表情があんまり変わらない。雪歩さんとか、ロコさんとか、千鶴さんとは違うタイプ。
みんなは思ってることが顔にでるから、何を考えてるかわかりやすい。でも、瑞希さんはあんまりわかんない。あと、あんまりお喋りするタイプでもないし、やっぱり瑞希さんが何考えてるかよくわかんなかった。
とりあえず桃子はお仕事があるから、あんまりお話しできずにバタバタと出て行っちゃった。桃子上手くペアのお仕事できるかなぁ?
車が信号で止まって、ぐるぐる回してた頭を一回お休みさせる。もう一回お兄ちゃんを見ると、まだごきげんに鼻歌を歌ってた。
それを見てるとやっぱりむーっとする。いいもん、お兄ちゃんなんて頼りにしてないから!桃子絶対にペアのお仕事成功させる!
にょきにょきって角を出した不安をぎゅっと押しつぶす。桃子は絶対に、こんな不安に負けないんだもん!
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2: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:01:21.97 ID:BLy54r+K0
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765プロシアター
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最初のレッスンの日、早めにシアターに着いたけど、それより早く瑞希さんが来てた。
桃子「おはようございます」
瑞希「おはようございます」
瑞希さんはトランプでタワーを作ってた手を一回止めて、あいさつを返してくれた。タワーはあと1段で完成しそう。5段くらいのタワーはけっこう高いのに、バランスよく立ってた。
すごい!って思ったけど、声には出せなかった。口がモニョモニョするけど、言葉が出てこない。『桃子はすごいすごいってはしゃぐような子供じゃないもん!』って頭が言い訳みたいな言葉を用意する。その言葉をごくっと飲み込んで、レッスンルームにむかう。
瑞希さんの座ってるソファーとすれちがって一歩、二歩歩いたところで、ササッとトランプのこすれる音がした。きっと、瑞希さんが続きを始めたんだと思う。
桃子は立ち止まって、周りに誰もいないのを確認した後、そーっと後ろを振り返る。瑞希さんがゆーっくり2枚のトランプをタワーに乗せようとしてた。それを見てるとなんだかドキドキしちゃう。心の中で『くずれないで、くずれないで』ってくり返す。胸のドキドキが瑞希さんに聞こえてないか、ちょっと心配。
瑞希さんは2枚のトランプをてっぺんに乗っけて、ゆーっくりそこから手を離す。タワーが少しゆれたように見えて、一回胸がドキッとする。
でもタワーは崩れずに、きちんと三角を作って立ってた。ほっと力が抜ける感じがする。よかった!完成!瑞希さんの肩が少しだけふっと下がる。たぶん、桃子と同じ気持ちになってるんだと思う。
そこまで見て桃子はあらためて急いでレッスンルームにむかう。あんまり見てると、瑞希さんに桃子が見てたことバレちゃうから。
3: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:02:36.87 ID:BLy54r+K0
そして瑞希さんとのレッスンが始まった。なんだかダンスが全然合わない。ユニットならちょっとくらいバラバラでも、人の多さでそれは目立たない。でも、ペアだと目立っちゃう。
だから、どちらかが相手のダンスに合わせないとって思う。それなら、芸歴が長い桃子が合わせてあげないとね。うん。
瑞希さんの動きを見ながら、自分の動きにも気を配る。2つのことを一緒にやらないといけないから大変だけど、桃子ならこのくらいできるよね。
って言いたいけど、やっぱりそれは難しかった。桃子は瑞希さんよりも体がちっちゃいから、一緒のタイミングで腕を回し始めても、瑞希さんよりも先に回すのが終わっちゃう。
そういうひとつひとつの動きを全部、きちんと合わせないとダメなんだ。ペアのお仕事って、やっぱりすっごく難しい。
休憩に入って、床にぺたんって座る。座ったまま、どうやって瑞希さんに合わせようって考えてると、その瑞希さんはハンカチで手を隠し始めた。隠された手がモゾモゾ動いてるのが見える。
もぅ!人が考えごとしてるのに、何遊んでいるの!って思ったけど、何をしてるのか気になったから言わないでおく。あんまりじーっと見るのは嫌だから、瑞希さんにバレないように他のところに体を向けて目線だけチラって動かす。
瑞希さんのハンカチに隠された方の手の動きが止まった。『何が起きるのかな?』って期待しちゃう。
2、3秒くらい間を置いて、シュッとハンカチを引くとそこからお花がピョンって飛び出してびっくり!!
驚きでちょっとだけ体がびくってはねる。あっ、だめ。瑞希さんにコソコソ見てたのバレちゃう!
ひざを立ててそこに顔をぎゅってする。すごいすごいお花が出てくるなんて思わなかった。もしかしたら、クマさんも出せたりするのかなぁ?なんて考えて、はっと気がつく。
ダメダメ、桃子はお仕事のこと考えなきゃ。瑞希さんの先輩として、引っ張ってあげないといけないんだから!
うでをひざに回してぎゅっと力を入れる。気合い注入!!
4: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:03:41.54 ID:BLy54r+K0
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桃子の自室
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次のレッスンも上手くいかなかった。桃子の部屋で今日のレッスンを思い出す。
瑞希さんがダメダメなわけじゃない。瑞希さんはきちんとダンスも歌詞も覚えてて、しっかりしてた。じゃあ、できてないのは桃子の方だ。
鏡の前に行って、わんつーわんつーダンスを確認する。レッスン中の瑞希さんのダンスを思い出しながら、それにタイミングに合わせる。わんつー、わんつー。
うーん。あんまり上手く行ってる気がしない。心がもやもやする。そんなもやもやに足を引っ掛けられて、桃子はどーんとしりもちをつく。
まずい!大きな音がしちゃった!部屋の外を確認する。いつもと変わらずしーんと何も音がしない家の中。うん、良かった。いつもどおり。
部屋に戻って、座り込んでため息をつく。なにこれ、ダメダメでへっぽこじゃん。身体中にもやもやが回りそうなのを感じて、それを追い出すように吸って吐いて深呼吸する。
私は周防桃子。私なら、絶対にできるはずでしょ。一人でも、大丈夫。ひざに力を入れて、よいしょって一人で立ち上がる。誰の助けもいらない。一人でも、やってみせる。
5: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:04:44.52 ID:BLy54r+K0
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学校
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レッスンが上手く行かないのに、学校にはちゃんと行かないといけない。仕方がないので、桃子は頭の中でダンスを繰り返す。何度も何度も確認する。
下校時刻になって、『さようなら』で終わりの会が終わる。みんなそれぞれに友達同士で集まって、遊びの予定を立ててる。
ざわざわと賑やかになる教室。この時間が桃子は嫌い。桃子は独りだって、見せつけられる時間だから。
みんな子供だ。学校に行って、遊んで、帰って、家族みんなでご飯を食べて。
クリスマスなんかには、たくさんいろんなものを貰うんでしょ?それで、よかったねって喜んで、ニコニコ笑って。ほんと子供だ。バカみたい。
桃子は違う。そんなもの欲しくない。いらない。
桃子の欲しいものは自分1人で手に入れる。子供じゃないもん。
荷物をまとめて教室を出る。ランドセルはズシっと重い。桃子はきちんとそれを背負って、まっすぐ歩く。
深呼吸して、気持ちを入れ替える。今日はまたレッスンだ。今日こそちゃんとしなきゃ!
6: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:06:15.40 ID:BLy54r+K0
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765プロシアター
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そして、ライブに向けての合同レッスンも始まった。合同レッスンは評価の意味もあるみたい。他のペアとくらべて上手く行ってないペアは、ダンスを減らされるって聞いた。
絶対にそんなことはされたくない。だって、この曲にはこのダンスがいい!2人の実力ならここまでできる!って決められたダンスなのに、減らされちゃうってことは桃子たちが全然ダメダメだったってことだもん。そんなの絶対に許せない!
順番が回ってきて、桃子たちの番がやってくる。瑞希さんと目を合わせる。うん、瑞希さんすごく落ち着いてるみたい。
イントロが流れて、ステップを踏み出す。あっ、ちょっと桃子の方が早く踏み出しちゃった。
今度は腕を大きく振る。あっ、今度は桃子の方が少し遅い。
おっきく見ればなんてことないズレだって思うけど、でも確かなズレ。ダンスがズレるたびに、ギラってトレーナーさんの目が光ってる気がするし。
そうやって、小さなミスをたくさん積み重ねて、桃子たちのダンスは終わった。他のペアの人たちのダンスを見る気にもなれずに、桃子はレッスンルームを出て、自動販売機の陰になるところに行く。
周りに誰もいないことを確認して、ゴツンとおでこを自動販売機にぶつける。おでこをグリグリして、唇をぎゅっと噛み締めて、手のひらをぐーって握る。
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。なんでできないの?なんで上手くいかないの???
できるはずなのに、ダンスもきちんと覚えてたし、瑞希さんのダンスも頭に入ってるし、なのに、なんで??
かーって熱くなる気持ちを思いっきり吐きだす。わーって叫べないし、暴れられないから、おでこと唇と手のひらに力を入れてその気持ちを逃がす。
でも、次々にあふれてくる気持ちは逃しきれなくて、目から涙がぽとりぽとりとこぼれた。だめ、目がはれたら泣いたのバレちゃう...。
ゴシゴシ目をこすって、上を向く。こうしたら、涙はこぼれないよね。
いつもみたいに、吸って吐いて深呼吸して、気持ちをいれかえる。うん。周防桃子は、弱さを見せちゃダメ。できるよね。
7: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:07:30.84 ID:BLy54r+K0
何日かたったある日、レッスンの後に桃子と瑞希さんだけお兄ちゃんに呼ばれた。ちょっとお兄ちゃんの顔は暗い。その顔を見て呼ばれた理由に気がつく。そんなの、一年生の算数より簡単。
ミリP「さて、お前らには言いにくいんだけど、ライブのダンス減らすことになった」
あぁ、やっぱり。わかってたから、桃子はそれへの答えを用意してた。
桃子「やだ」
お兄ちゃんは、やっぱりなって苦いものを食べたときの顔をする。これも桃子の予想どおり。
ミリP「そう言うと思ってたよ。でもな、ライブまで確実に間に合わせるには、こうした方がいいんだ」
桃子はさらに用意してた答えを言う。
桃子「桃子のスケジュール、空いてるところ全部レッスンにして!絶対に、今のダンスのままで完ぺきにして見せるから」
ミリP「いや、ドラマの撮影も入ってるし、レッスンだけに時間を割くには...」
桃子「そっちもちゃんとやるよ!当たり前でしょ!桃子は完ぺきなステージをしないといけないの、今じゃ全然足りないんだから、練習するしかないじゃん!」
足りないなら、増やせばいい。これも小学1年生でもわかることだよね。実力が足りないなら、練習を増やせばいいだけ。でも、お兄ちゃんはそんな簡単な算数をわかってくれなかった。
ミリP「明らかにオーバーワークだ。ケガでもしたら、どうするんだ?」
桃子「そんなダメダメなことしないよ!桃子だもん!絶対にやりとげるの!やりとげないといけないの!」
ミリP「だから、ちゃんとやりとげるためにダンスを減らそうって言ってるんだろ?」
桃子「そんなの、全然やりとげたことになんないよ!!そんなこともわかんないの!?それでも桃子のプロデューサーなの!?」
桃子もお兄ちゃんもどんどん声が大きくなっていく。2人とも怒りがてっぺんに届きそうなとき、パーンって音がそれをさえぎった。
8: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:08:36.86 ID:BLy54r+K0
桃子もお兄ちゃんも、びっくりしてそっちを向く。向いた先では、瑞希さんがハットから鳩を出していた。
瑞希「鳩は平和の象徴です。一時休戦しませんか、くるっぽー」
瑞希さんの呑気な言葉にぼーぜんして、桃子もお兄ちゃんも何も言えないでいた。
瑞希さんがコホンと一回のどの調子をととのえてから言う。
瑞希「周防さんはカッコ良すぎます。ズルいです」
へ?ズルいってなんのこと?
瑞希「私たちはペアです。1人で背負いこんで責任を取るなんて。私の責任を返してください、てやんでぇ」
なんで江戸っ子になったの?なんてツッコミはやめておく。
瑞希「プロデューサー、そう言うわけで私のレッスンも増やしてください。ダンスもそのままで、お願いします」
ちょっと、瑞希さんはレッスン増やさなくてもいいよ。だって、できてないのは桃子だもん。
そう言おうとしたとき、瑞希さんは桃子にぺこっと頭を下げた。
瑞希「ごめんなさい、周防さん。周防さんが私にダンスを合わせてくれてるの、気がついていました」
気がついてたって?え?ずっと、気がつかないふりしてたの?
瑞希「ペアなので、本来なら二人でダンスを合わせるべきです。でも、それでは周防さんのプライドを傷つけてしまうと思い、そのままにしてしまいました」
桃子が一人でやりきるって思ってたことも、全部、わかってたの?
瑞希「こんな事態を招いてしまったのは、私のせいです。だから、ごめんなさい」
ううん、それは違う。やっぱり桃子のせいだよ。どうしてか唇がふるふる震えて上手くしゃべれないけど、なんとか言葉をしぼり出す。
桃子「違う。瑞希さんは、桃子のこと、信じてくれてたんでしょ?だから、何も言わなかった。だったら、やっぱり、悪いのは桃子だよ」
9: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:09:17.06 ID:BLy54r+K0
そう言い切ったとこで、お兄ちゃんがはーっとため息をつく。
ミリP「お前らなぁ。どっちも自分が悪いって、これじゃらちがあかん。俺がお前らを裁いてやる。被告人たちは心して聞くように」
お兄ちゃんはコホンともったいぶった後で、言葉を続けた。
ミリP「おまえらどっちも悪いよ。ペアの仕事を一人で背負おうとした桃子も、気を使いすぎて背負わせてしまった瑞希も悪い」
ミリP「だから、両成敗だ。罰としてダンス据え置きの刑とレッスン増加の刑だ。心して罪を償うように」
ドヤ顔でそう言って、カーッカッカッとどこかの時代劇の人みたい笑うお兄ちゃん。セリフはクサイし、演技も下手だし、いつもの桃子なら怒っちゃってるよ。
でも、ありがとう。うん、言葉にするのはちょっと恥ずかしいけど。
10: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:09:54.64 ID:BLy54r+K0
瑞希「周防さん。私は2人でレッスン頑張りたいです。私たちは仲間ですから。周防さんは、どうしたいですか?」
そんな質問、答えは決まってるよ。
桃子「うん。2人でレッスンやるべきだよね。いっしょに」
そう答えると、瑞希さんの目の奥がしょぼーんてしたような気がした。あれ?なんで?
瑞希「少し違います。私はどうすべきか?ということを聞いたのではなく、周防さんがどうしたいかを聞いたのです」
瑞希「周防さんの願いを聞かせてください」
11: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:10:32.30 ID:BLy54r+K0
願い事?
『そんなもの、あるわけないじゃん』と頭の中から声がする。
思い浮かぶのは、しーんと静まりかえった、いつもの家の中。
桃子の願ったことが、叶ったことなんて一度もなかった。
ざわざわと賑やかな教室を思い出す。
他の子には当たり前で、ありふれて、身近すぎる願い事さえ、桃子には絶対に叶わないものだった。
桃子の願い事を叶えてくれる人なんていなかった。
だから、桃子は自分で全部叶えることにした。
強くなって、1人で、自分の願い事を全部叶えるんだ。
ずっとそうやってきたし、これからもずっとそうやっていかなきゃいけない。
そんな桃子の、願い事?
12: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:11:22.01 ID:BLy54r+K0
何も答えられない桃子に瑞希さんは言う。
瑞希「願い事、例えば『マジックを見せて欲しい』みたいなことです。私にやって欲しいこと、言ってください」
そう言って、瑞希さんはいつの間にか右手被せてたハンカチをさっと引いて、そこからお花がニョキッと生えてきた。
初めてのレッスンの日のマジックと同じ、もしかして瑞希さんあの日桃子が見てたの気がついてたの?
次のレッスンの日も、その次のレッスンの日も瑞希さんはマジックをやってて、もしかして、桃子に見せるために?
瑞希「周防さん、願い事を口にしてください。誰かに届くように。少なくとも、私たちはそれを大事に受け止められます」
そう言って、ニコッと微笑む瑞希さん。その笑顔の温かさが、桃子の心の奥の凍ってたものに触れる。それはポトポトと水滴を作る。
気がつけば、目から涙があふれてた。鼻がツーンと痛む。のどがヒックヒックって勝手に動く。
13: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:11:53.95 ID:BLy54r+K0
ホントはね、ずっとずっと持ってたんだ。
絶対に手に入らないって思ったから、凍らせて奥にしまい込んじゃってた。
桃子ね、前の職場でも、学校でも、ずっとずっと欲しくて仕方がなかったの。
それ、欲しいって言っていいのかな?言ったら本当にもらえるのかな?
14: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:12:31.24 ID:BLy54r+K0
瑞希さんとお兄ちゃんに顔を見られないよう、うつむいちゃったけど、心だけはまっすぐ届くように伝える。
桃子「一緒に、レッスン、頑張りたい。手をつないで、一緒に、頑張りたい。桃子と、仲間になってください」
ポンポンって優しく肩を叩かれる。そこだけすごくあったかくなった気がする。人の体温って、こんなに温かいなんて、初めて知った。
瑞希「周防さん、わかりました。瑞希お姉さんに任せなさい、フンス」
瑞希「付け加えると、みんな、周防さんのこと既に仲間だって思ってますよ。たくさん頼って甘えてあげると喜びます、ニコニコ」
みんなが桃子を仲間って?嘘みたいだけど、信じてみたいって、そう思った。
15: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:13:56.06 ID:BLy54r+K0
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765プロシアター 屋上
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瑞希「プロデューサー、私だけ呼び出して、お話とはなんでしょうか?」
ミリP「あぁ、レッスンの方はどうかと思ってな。桃子とうまくやってるか?」
瑞希「はい。周防さんからレッスンを受けて、すごく上達した気がします、メキメキ」
ミリP「まぁ、もともとハイスペックのお前らだからな。息さえ合えば、コロコロ転がるように上手くいくか」
瑞希「コロコロですか?」
ミリP「あぁ、特に桃子な。角さえ取れればコロコロ上手くいくと思うんだけど、なかなかにガンコ者だからなぁ」
瑞希「いえ、周防さんは別方向でコロコロ転がろうと頑張ってますよ」
ミリP「別方向?」
瑞希「はい。ずっと突き抜けて、自分を曲げないで、足りないところがあったら、妥協するのではなく全力で克服してニョキッと角を増やすんです、ニョキニョキ」
ミリP「ん?角増えちゃったら、ダメじゃないか?」
瑞希「いいえ。角を無限大まで増やすと、丸に近づきます。そこまで行けば、コロコロ転がれますよ、コロコロ」
ミリP「なるほどな。でも難儀な生き方だなぁ...俺にはとてもできないな」
瑞希「えぇ、誰しもできないことがあったら妥協を選ぶことの方が多いと思います。それでコロコロできるなら」
瑞希「私は周防さんの角を増やすお手伝いをしたいです。仲間として。きっと、周防さんのやり方は一人では難しいので」
瑞希「プロデューサーは、周防さんを見守ってあげてください。プロデューサーとして」
ミリP「あぁ、夜に夢を見ながら泣いちゃうようなことは、絶対にさせないよ」
16: ◆uYNNmHkuwIgM 2017/11/06(月) 00:14:44.96 ID:BLy54r+K0
休憩時間はとっくに過ぎてるのに、まだ瑞希さんは帰ってきてない。
まさかサボり?桃子のレッスンに耐えられなくなって、逃げちゃったとか?そうだったら、桃子先輩のお説教タイムなんだから!
ドタドタと大股でシアターを探し回って、最後の屋上のドアを開ける。見つけた!瑞希さん、お兄ちゃんとお話ししてる。
桃子「ちょっと、瑞希さん見つけた!もう休憩時間終わったよ、早くレッスンするんだから来て!」
桃子のお説教を聞いてるのか聞いていないのか、瑞希さんはなーんか生暖かい笑顔で桃子を見てる。お兄ちゃんはもっとデロデロの生暖かい笑顔。なんなの?なんか2人とも怖い。
桃子「なんなの2人とも?変な顔して!行くよ!」
瑞希さんの手を引っ張ろうとしたら、代わりに瑞希さんにギュッて抱きしめられた。
瑞希「桃子ちゃん先輩!可愛いです!ぎゅっ」
ちょっと、なんで桃子のことぎゅって?
離そうとしてジタバタ暴れてもビクともしない瑞希さん。案外、力強かったりするのかな?
なんて考えてると、大きな手が桃子の頭をナデナデして来た。
ミリP「まぁまぁ、お前らはもうステージに出していいレベルまで仕上がったよ。だから少しくらい休め、うりうり」
桃子子供じゃないし、髪がボサボサになるからやめてよ!!!
いくら離れようとしても、この人たちはなかなか離してくれなかった。
もー!!なんなの!この人たち!!
END
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