1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 21:49:58.22 ID:O82VYKAT0
─ 城下町 ─

ザワザワ…… ガヤガヤ……

町民A「聞いたかよ! ついに勇者様たちが魔王討伐の旅に出るらしいぜ!」

町民B「ああ、聞いた聞いた! 今、王様に謁見してるんだってな!」

町民A「勇者様なら、絶対魔王を倒してくれるぜ!」

町民B「なんたって、かつて魔王を封じた“勇者”の血をひく人だもんな!」



偽勇者「…………」

偽勇者(……ようやくか)

偽勇者(この時を待ってたんだ!)

偽勇者「ククク……勇者どもの手柄をかっさらってやるぜ」

引用元: 偽勇者「ククク……勇者どもの手柄をかっさらってやるぜ」 



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3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 21:54:22.79 ID:O82VYKAT0
まもなく、勇者たちの出発式が盛大に行われた。

ワアァァァァァ……!

「頼むぞぉっ!」 「しっかりなっ!」 「頑張ってえっ!」

勇者「皆さん、行ってきます!」

戦士「俺の剣技で、必ず魔王を倒してくるぜ!」

魔法使い「ボクの魔法なら、魔王なんてチョチョイのチョイさ」

僧侶「私がこの三人を死なせはしません!」



偽勇者(この四人が、勇者パーティーか)

偽勇者(悪いが、お前たちには俺の踏み台になってもらうぜぇ……)

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 21:59:19.36 ID:O82VYKAT0
─ 村 ─

偽勇者(まずは、近くの村に立ち寄った、か……)



村人「お願いします、たびたび村を襲う魔獣をやっつけて下さい!」

勇者「分かりました!」

戦士「俺たちに任せとけ!」

魔法使い「この程度のことなら、ボクだけでも十分だよ」

僧侶「村のために頑張りましょう!」



偽勇者(よし……こいつらが弱らせた魔獣を、俺がブッ倒して手柄にするとするか)

偽勇者(こういうコツコツとした積み重ねが大事だからな)

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:03:41.78 ID:O82VYKAT0
─ 村の近く ─

魔獣「ガルルル……!」ザッ…

勇者「お前が村を襲う魔獣か! いざ勝負!」チャキッ

戦士「十秒で片付けてやるぜ!」スラッ…

魔法使い「やれやれ、つまらなそうな相手だ」

僧侶「回復はお任せを!」



偽勇者(なんだ、大したモンスターじゃねえな)

偽勇者(これじゃ弱らせる前に終わっちまうだろうな……)

偽勇者(ま、お手並み拝見といくか)

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:09:08.47 ID:O82VYKAT0
魔獣「ガルァ!」バッ

バシィッ!

勇者「ぐはぁっ!」ドサッ

偽勇者(え?)

化け物「ガルルァ!」

ドゴォッ!

戦士「ぐええっ!」ドサッ…

偽勇者(お前が十秒でやられてるじゃねえか!)

魔法使い「──いたっ!」ガリッ…

魔法使い「呪文唱えようとしたら、舌噛んじゃった……回復して!」

僧侶「あわわ、どうしましょ、どうしましょ~!」

偽勇者(魔法使いも、紅一点の僧侶も役立たずかよ!)

偽勇者(なんなんだ、こいつら!?)

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:14:42.45 ID:O82VYKAT0
勇者「くそ~っ!」ブンブン

戦士「まだまだァ!」ブンブン

キンッ! ギンッ!

魔獣「ガルルァ!」

偽勇者(あのモンスターの胴体は頑丈だ! あんな剣さばきじゃとても斬れねえ!)

偽勇者(頭を狙えよ、頭を!)

魔法使い「痛いよ……舌が痛いよ……!」シクシク…

僧侶「わ、私、どうしたらいいんでしょ……!」オロオロ…

偽勇者(後方支援のこいつらはこいつらで、パニックになっちまってるし……)

偽勇者(前線はどうしても頭に血が上るんだから、お前らは冷静じゃなきゃダメだろ!)

偽勇者(ああもう、しょうがねえなぁ!)

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:18:33.84 ID:O82VYKAT0
「勇者と戦士、頭だけを集中して狙え! あと剣を握る時はあまり力むな!」

勇者&戦士「!」ビクッ

勇者「はいっ!」チャキッ

戦士「お、おうっ!」ギュッ…

「魔法使い! 舌噛んだって死にはしねえ! 我慢して、小声で魔法を唱えろ!」

魔法使い「う、うん!」グスッ…

「僧侶! まずは落ちついて深呼吸しろ! お前が落ちつかなきゃ全滅するぞ!」

僧侶「分かりました!」スゥ…ハァ…

勇者「でりゃあああっ!」ブンッ

戦士「どりゃあああっ!」ブンッ

魔法使い「赤き火よ、敵を燃やせ!」ボッ…

ザシュッ! ズバァッ! ボワァッ!

魔獣「グギャアァァ……!」ドサッ



偽勇者(ふう、どうにか倒したようだな……)

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:23:23.68 ID:O82VYKAT0
勇者「さっきの声……いったいだれだったんだろう?」

戦士「なんにせよ、あの声がなければヤバかったぜ」

魔法使い「ボクも舌噛んだら、血がいっぱい出て死んじゃうと思ってたから……」

僧侶「あの声のおかげで、私も冷静になれましたわ……」ホッ…



偽勇者(オイオイ、マジかよ……)

偽勇者(こいつらについていって、こいつらが魔王を倒すところまできたら)

偽勇者(こいつら四人と魔王の両方を始末して、俺が丸ごと手柄をいただく計画……)

偽勇者(なんだか不安になってきたぞ)

偽勇者(いや、今日はたまたまこいつらの調子が悪かっただけだ、うん)

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:26:42.65 ID:O82VYKAT0
─ 村 ─

村人「ありがとうございました……!」

村人「おかげで村が救われました! この包帯と薬草を持っていって下さい!」

勇者「助かります!」

勇者「ですが、また村に魔物や魔獣が現れるかもしれないので」

勇者「村の警備を怠らないようにして下さい」

村人「はい!」



偽勇者(ったく、俺だったらもっといいもんよこせって文句つけるがな)

偽勇者(人のいいヤツだ……)

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:30:21.12 ID:O82VYKAT0
─ 迷いの森 ─

勇者「険しい道だな……。みんな足元に注意して──」

戦士「おう」

魔法使い「いたっ!」ドデッ

魔法使い「っつぅ~……足をすりむいちゃった」

僧侶「今、回復を……」スッ…



偽勇者(バカか!?)

偽勇者(あんなケガでいちいち回復してたら、すぐ魔力切れを起こすだろうが!)

偽勇者(ったく……まるでなっちゃいねえな)イライラ…

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:33:56.37 ID:O82VYKAT0
「僧侶!」

僧侶「へっ!?」ビクッ

「回復魔法なんか使うな!」

「さっきの村でもらった包帯や薬草を使えばいいだろ!」

「そんなケガで魔法を使ってたら、肝心なところで息切れしちまうぞ!」

勇者「この声は、村で俺たちを助けてくれた……!」

戦士「魔法を使うなっていってるぜ?」

僧侶「どうしましょう?」オロオロ…

勇者「ここは……声のいうとおり、魔力を温存しよう」

勇者「僧侶の回復魔法は切り札のようなものだからね」

僧侶「分かりました……では、私が包帯を巻きますわ!」

魔法使い「魔法でも包帯でもいいから早くしてぇ……」ズキズキ…

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:36:35.33 ID:O82VYKAT0
僧侶「傷口に薬草を塗り込みましたが……」

僧侶「包帯の巻き方はこんな感じでいいのでしょうか?」グルグル…

勇者「いいんじゃないか?」

戦士「そんなもんだろ」

魔法使い「なんだか、すごく足が締めつけられてるんだけど……」



偽勇者(なんだ、あのメチャクチャな巻き方は!? ふざけてんのか!?)

偽勇者(あんな巻き方じゃ、傷はおかしくなるし、血管は傷めるし、ろくなことねえぞ!)

偽勇者(あぁ~もう!)ダッ

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:42:24.08 ID:O82VYKAT0
偽勇者「貸せ!」バッ

僧侶「きゃっ!?」

戦士「だれだてめえ!?」チャキッ

勇者「待った! あなたの声は──」

偽勇者「いいか、包帯の巻き方はな……こうしてこうしてこうするんだ」グルグル…

僧侶「なるほど……!」

戦士「すげえ、さっきと全然ちがうぜ!」

魔法使い「わっ、すごく足を動かしやすい!」クイクイッ

勇者「あ、あの……ぜひお名前を!」

偽勇者「名乗るほどのもんじゃねえよ、じゃあな!」ダッ

勇者「行ってしまった……」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:46:27.52 ID:O82VYKAT0
勇者「あの後すぐ、巨大植物のモンスターが出てきたけど……」

勇者「僧侶の魔力を温存してたおかげで、どうにか乗り越えられた……」

戦士「あのアドバイスがなかったら、回復が間に合わず全滅してたかもな」

魔法使い「ボクの足も、あの人のおかげですっかりよくなったしね」

僧侶「名前さえ教えてくれませんでしたが、あの人はいったい……」



偽勇者(あの程度の食人植物に手こずりやがって……情けねえ)

偽勇者(俺がかげながら援護してなきゃ、全員食われてたぜ)

偽勇者(しかも、植物モンスターは根を壊さないと復活するっての……)

偽勇者(ま、根は俺が壊してやったけどな)

偽勇者(これも全て、俺が最後に手柄を奪うためだ!)

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:52:23.44 ID:O82VYKAT0
─ 洞窟 ─

暗闇の中を進む勇者パーティー。

フッ……

勇者「しまった! たいまつの炎が消えてしまった!」

戦士「げえっ! 暗くてなにも見えねえよ!」

魔法使い「ボクも火を出そうにも、もう魔力が……!」ボシュッ…

僧侶「ど、ど、ど、どうしましょう! く、暗いのは怖いです、苦手です!」

ドタバタ……



偽勇者(暗闇で一番やっちゃいけないのは、パニックになることだ!)

偽勇者(ただでさえ目が利かないんだからな!)

偽勇者(なんでこいつら、そんなことも知らないんだよ!)イライラ…

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 22:56:44.77 ID:O82VYKAT0
偽勇者「こっちだ! 俺についてこい!」ボッ…

勇者「あっ、あなたは!? 村や森で俺たちを助けてくれた……」

戦士「アンタ、たいまつ持ってたのか……おかげで洞窟を楽に歩けるぜ!」

偽勇者「いや、これは消す」ジュッ…

魔法使い「な、なんでさ!?」

僧侶「そうですよ! この暗闇じゃ、たいまつは必須です!」

偽勇者「お前らが暗闇に慣れるためだ!」

偽勇者「いいか、暗闇では絶対パニックになるな!」

偽勇者「落ちついて、空気の流れや気配を肌で感じ取るんだ!」

偽勇者「そうすりゃ、そのうち外と同じように動けるようになる! 分かったか!」

勇者「は……はいっ!」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:00:40.15 ID:O82VYKAT0
ようやく洞窟を抜けた勇者たち。

魔法使い「やったぁ~! やっと洞窟を抜けられたぁ~!」

僧侶「これで暗闇とはお別れですね……だいぶ慣れましたけど」

戦士「太陽がまぶしいぜ……」

偽勇者「少しずつ慣らしていけよ。目がやられちまうぞ」

勇者「あ、あの……ありがとうございました」

偽勇者「あ? 気にすんな。じゃあな」ダッ

勇者「あっ……」

勇者(何者なんだろう……。彼も冒険者だろうけど、俺とは大違いだ……)

勇者「さて、もう少し歩けば“東の王国”だ」

勇者「城に着いたら事情を説明して、魔王討伐に力を貸してもらおう!」

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:06:29.34 ID:O82VYKAT0
─ 東の王国 城 ─

東国王「ふ~む……おぬしらの魔王討伐に協力、か……」

東国王「どう思うかね、大臣」

東大臣「我が国はまだ魔王軍に侵略されておりません」

東大臣「また、侵略されても問題ありません」

東大臣「彼らが勝手にやっていることです。手助けの必要はないでしょう」

東国王「うむ、余もそう思っていた。我が国は魔王など恐れぬ」

勇者「しかし……! 魔王軍は神出鬼没です! 現に他の国では──」

東国王「もう下がりたまえ。余は忙しいのだ」

東大臣「…………」ニヤッ



偽勇者(こっそりついてきたが……あの大臣、犬歯が妙に長くねえか……?)

偽勇者(……揺さぶってみるか)

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:11:02.56 ID:O82VYKAT0
「ヘイ、勇者たち! まだ斬らねえのかい!?」

勇者「へ?」

「城内で人間に化けてる魔物を、謁見中に斬り殺すって手はずだったろ!?」

「モタモタしてんなよ!」

戦士(この声はあの人だが……なんの話だ!?)

東大臣「ちいっ……」シュウウ…

勇者「!?」

魔物「まさかバレていたとはなァ……!」シュウウ…

正体を明かす大臣。

東国王「大臣っ!?」

魔物「スキを突いて勇者たちを暗殺し、その後ゆっくり国を乗っ取る予定だったが……」

魔物「さすがは勇者といったところか!」

勇者(ま、まさか大臣が魔物だったなんて……!)

魔物「まぁいい……。まずは勇者、お前から死ねいっ!」シュバッ

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:15:35.73 ID:O82VYKAT0
キンッ!

魔物「むっ!?」

勇者(俺だって、あの人のようになりたくて特訓してるんだ!)

勇者(力をほどよく抜いて、剣を振るうっ!)

ズバァッ! ザクッ! ザンッ!

魔物「ぐ、はァ……!」ドサッ…

勇者「ふう……なんとか倒せた……」

勇者(あの人がいなかったら……俺たちはみんな殺されてただろう……)

勇者「王様、これでも魔王は恐ろしくない、といえますか?」

東国王「い、いや……余が甘かった。まさか大臣が魔物だったとは……」

東国王「我が国も、全力を挙げて君たちをバックアップさせてもらうよ」

勇者「ありがとうございます!」

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:18:38.56 ID:O82VYKAT0
─ 宿屋 ─

戦士「いやぁ~、こんな豪華な宿まで用意してもらえて」フカフカ…

戦士「きわどい場面も多いが、旅は絶好調だな!」

勇者「ああ……」

魔法使い「大臣が魔物だったと知って、王様もとたんに態度を変えたからね」

僧侶「でも、本当に危ないところでした」

勇者「うん……」

勇者「ところで、いつも危ないところで俺たちにアドバイスしてくれるあの人は」

勇者「いったい何者なんだろう?」

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:24:37.59 ID:O82VYKAT0
戦士「俺は最初、勇者の血筋が流れる人間だと思ってたけどよ」

戦士「お前の親戚ってわけでもないんだろ?」

勇者「うん、ちがう。あんな人、見たこともないよ」

僧侶「じゃあ、いったい……」

魔法使い「もしかして、ずっと昔からやってきたかつての勇者、だったりして」

戦士「ああ~……たしかに。あの落ちつき具合は、ベテランって感じだもんな」

僧侶「ロマンがある話ですね」

勇者「勇者……か」

勇者(あの人が何者であれ、実力でいえばあの人こそが勇者に相応しい)

勇者(でもどうして、表舞台に出てこようとしないんだろうか)

勇者(なにか、表舞台に出られない理由があるんだろうか……)

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:29:47.00 ID:O82VYKAT0
東の王国でも、勇者たちは大人気となった。

ワアァァァァァ……!

東国王「たった数日間滞在しただけで、今や余をもしのぐ人気だ」

東国王「これが勇者殿の持つ人徳というものであろうな」

勇者「いえ、そんなことは……」

東国王「いや……余もおぬしをすっかり気に入ってしまっておる」

東国王「大臣に化けていた魔物を倒してくれたこととは関係なく、な」

東国王「おぬしほど誠実な若者はそうはおらぬ」

勇者「そこまでおっしゃっていただけて、光栄です」

東国王「この国を出れば、すぐ“剣の王国”だ」

東国王「世界でもっとも剣術の栄えた国……きっと魔王討伐の役に立つ情報もあろう」

東国王「ぜひ立ち寄ってみるといい」

勇者「はいっ!」

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:34:15.06 ID:O82VYKAT0
─ 剣の王国 ─

魔法使い「この国は剣術がとても盛んなんだってね」

僧侶「首都にある闘技場では、今度剣術大会が開かれるそうですよ」

戦士「へぇ……。なあ勇者、俺たちも出てみないか?」

勇者「えぇっ!? 俺たちは魔王退治の旅の途中だぞ!」

戦士「だからこそ、だよ」

戦士「もしここで苦戦するようなら、魔王なんかとても倒せねえぞ?」

勇者「たしかに……」

勇者(おそらくあの人でも、そうするだろうな)

勇者「分かった! 挑戦してみよう!」



偽勇者「…………」

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:38:57.43 ID:O82VYKAT0
─ 闘技場 ─

キィンッ! ギンッ! キンッ!

闘技者A「ま、参った! ──完敗だ!」

勇者「こちらこそ、いい試合ができたよ」

闘技者B「ぐおおっ……力で押し切られたか」ガクッ

戦士「よっしゃあ!」

ワアァァァ……! オオォォォ……! ワアァァァ……! オオォォォ……!



魔法使い「すごいよ、二人とも! 他の参加者たちを全く寄せつけない!」

僧侶「当然ですよ、過酷な冒険をくぐり抜けてきたお二人ですもの!」

魔法使い「それに、大会が進むにつれて、二人のファンが増えてるね」

僧侶「二人とも、正々堂々相手の力を引き出しつつ、打ち負かしてますからね」



偽勇者(今のあいつらなら、この程度の大会は余裕だろう)

偽勇者(そして……薄々感じてはいたが、やはり奴らは俺とはちがう……)

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:41:41.88 ID:O82VYKAT0
決勝戦──

ギィンッ!

戦士「ぐっ……降参だ!」

審判「そこまで! 剣の王国闘技大会、優勝者は──勇者!」

ワアァァァァァ……!

戦士「へっ……やられたぜ。さすが勇者」

勇者「こっちこそヒヤッとしたさ。強い仲間を持つことができて、嬉しいよ」

「すごいぞ、勇者!」 「戦士もよく頑張った!」 「二人ともカッコイイぞ!」



魔法使い「勇者も戦士も、もうすっかりヒーローだ……!」

僧侶「お二人の激闘が、剣が盛んな国の人々の心を掴んだんですね」

56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:45:09.86 ID:O82VYKAT0
─ 剣の王国 城 ─

剣国王「君たちが勇者パーティーか。なるほど、みごとなものだ」

勇者「いえ、この国の闘技者たちも、強い人ばかりでした」

勇者「まだまだ修業が足りないことを思い知らされました」

剣国王「いやいや、君たちほど強い剣士を、私は見たことがないよ」

戦士「へへへ、剣の王国のお墨付きだ!」

剣国王「うむ。他に君たちほど強い剣士は──」

剣国王「……いや。一人だけ……いたな」

魔法使い「え?」

僧侶「勇者さんや戦士さん並みに、強い剣士の方がいたんですか?」

剣国王「うむ……強さだけならば、我が国の歴史上でも一番だったかもしれない」

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:50:39.54 ID:O82VYKAT0
剣国王「だが……剣士としてはあまりにも非道だった」

剣国王「剣を相手を殺すための道具としか見なしておらず」

剣国王「ひとたび戦いとなれば、相手が降参しようと容赦なく命を奪い」

剣国王「名誉欲や支配欲が強く、自分を認めない人間がいると徹底的に攻撃し」

剣国王「喝采を浴びたいがために、人をそそのかして騒動や事件を起こさせ」

剣国王「それを自分で解決するなどといった工作もやっていた」

戦士「とんでもねえヤロウだ……」

魔法使い「力はあるのに、その使い方を間違っちゃったタイプだね」

剣国王「むろん、皆もバカではない」

剣国王「すぐさまそれらの悪事は知れ渡り、奴はこの国に居場所を失った」

剣国王「誰よりも強かったが、誰よりも嫌われていた男だった……」

剣国王「皆に好かれる勇者殿とは正反対──いや、比べることすら失礼かもしれん」

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:54:28.09 ID:O82VYKAT0
勇者「ところで、その剣士は今どこに……?」

剣国王「……分からん」

剣国王「あの性格を正さぬ限り、どこにいってもやってはいけないだろう」

剣国王「案外今もどこかで、懲りずに悪巧みをしているのかもしれない」

剣国王「いや、これは余計な話をした。どうか忘れて欲しい」

剣国王「今日は我が国を挙げて、優勝者であり英雄である君たちを歓迎しよう!」

戦士「やったぜ!」

魔法使い「ありがとうございます!」

僧侶「剣の王国の王様だけあって、さっぱりした気風の方ですね」

勇者「…………」

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/23(月) 23:59:31.78 ID:O82VYKAT0
─ 剣の王国 城外 ─

偽勇者「懐かしい景色だぜ……」

偽勇者「この国に帰ってくるのも、何年ぶりかな……」

偽勇者「さすがにこの国では顔を知られすぎてて」

偽勇者「ずっとあいつらについてるワケにゃいかねえな」

偽勇者(勇者たちが優勝した闘技大会……)

偽勇者(俺もずっと昔、対戦相手を全員ブッ殺して優勝したが、拍手や喝采はなかった)

偽勇者(あれから俺はどうしても皆に認められたくて、あれこれ策を練ったが)

偽勇者(どれも裏目に出て……この国を追い出されるはめになった)

偽勇者(おっと……イヤなこと思い出しちまった)

68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 00:08:23.43 ID:cYz+Xt/G0
剣の王国を出発し、勇者たちの旅はいよいよ佳境を迎えた。

─ 魔王軍基地 ─

勇者「──よし! 魔王軍幹部を討ち取ったぞ!」

戦士「こいつの指揮がなきゃ、俺ら人間界の軍隊がだいぶ有利になるぜ!」

魔法使い「ボクらの旅も……ついに終わりが見えてきたね」

僧侶「もうひと踏ん張りです。頑張りましょう、皆さん!」



偽勇者(まだまだ俺から見りゃ、スキだらけだが──)

偽勇者(こいつら、だいぶやるようになったじゃねえか)

偽勇者(──ん?)

69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 00:14:35.32 ID:cYz+Xt/G0
少年魔族「た、助けて……」ガタガタ…

戦士「生き残りがいたのか。気は進まねえが、復讐に来られたら面倒だしな」チャキッ

勇者「待ってくれ、戦士!」

戦士「! なんだよ……? なんで止めるんだよ?」

勇者「俺たちは魔族を滅ぼすために戦ってるんじゃない」

勇者「人間を守るために戦っているんだ……これ以上、血を流す必要はない」

戦士「へっ……分かったよ」スッ…

勇者「おい、君」

少年魔族「は、はい!」

勇者「これは戦いだ……俺たちがやったことを、君に謝るつもりはない」

勇者「だけど、もし恨みを忘れられなかったら、直接俺に挑みにきてくれ」

勇者「俺はいつでも受けて立つ」

勇者「みんな、行こう。魔王城はもう目の前だ!」クルッ



偽勇者「…………」

70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 00:18:24.55 ID:cYz+Xt/G0
─ 魔王城付近 ─

勇者「いよいよ明日……魔王城に乗り込む」

勇者「今さら夜襲もないだろう。今夜はぐっすり休んでくれ」

戦士「おうよ!」

魔法使い「念のため、周囲には結界を張っておくけどね」

勇者「ありがとう。それじゃ俺は、少し夜風に当たってくるよ」

僧侶「勇者さんも、早めに眠るようにして下さいね」



一人きりになった勇者。

勇者「…………」ザッ…

勇者「そこにいらっしゃるんでしょう?」



偽勇者「!」ピクッ

74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 00:24:58.77 ID:cYz+Xt/G0
偽勇者「俺の気配に気づくとは……ずいぶん成長したな」

偽勇者「なにもかもがド素人だったあの頃が、まるでウソのようだぜ」

勇者「俺が……いや、俺たちが強くなれたのはあなたのおかげです」

勇者「元々俺たちは血筋や学校の成績だけで、魔王討伐を任された四人だったんです」

勇者「素質こそあったんでしょうが、実戦経験はゼロでした」

勇者「あなたがいたから俺たちは強くなることができ、増長することもなかった」

勇者「本当に……感謝しています」

偽勇者「……で、話はそれだけじゃなさそうだな?」

勇者「あなたが何者なのか、俺にはもう分かっています」

偽勇者「……剣の王国で聞いたのか」

勇者「はい」

勇者「あなたがなぜ、俺たちを助けてくれてたのかも、分かったつもりです」

偽勇者「それで……どうするつもりだ?」

偽勇者「邪心を抱く悪党を……この場で倒そうってか?」

偽勇者「俺はかまわんぜぇ?」ニィッ

75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 00:30:56.23 ID:cYz+Xt/G0
勇者「いえ……逆です」

偽勇者「?」

勇者「どうか……俺たちの仲間になってくれませんか」

勇者「いや、俺の代わりに勇者になってくれませんか!?」

偽勇者「な……!」

勇者「過去の経歴はどうあれ、あなたの性格がどうであれ」

勇者「俺たちがここまでこれたのは、全てあなたのおかげです」

勇者「それに実力でいえば、まだまだあなたの方が上でしょう」

勇者「現に俺は、魔王には勝てる自信があるが、あなたに勝てる自信はまるでない」

勇者「たとえ他の三人と一緒に戦ったとしても、です」

勇者「世界を救ったという名誉、魔王を倒したという快挙──」

勇者「俺よりも、あなたにこそ相応しい」

勇者「戦士たちも、まちがいなく納得してくれるはずです」

偽勇者「…………」

77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 00:37:58.86 ID:cYz+Xt/G0
偽勇者「ありがたい話だが、俺にそんなつもりはねえよ」

勇者「なぜです? ……あなたは、勇者になることを望んでたはずだ!」

偽勇者「そう……そのとおりだ」

偽勇者「俺は誰よりも強くなりたかった。目立つことや褒められることが大好きだった」

偽勇者「だから、体がイカれるほど修業して、あれこれ策を練った」

偽勇者「だが……やり方をミスっちまって、慕われるどころか皆から嫌われて」

偽勇者「残ったのは……放浪生活で得た経験と、剣の腕だけだった」

偽勇者「やがて俺は、勇者の血を引く人間が住むという国に流れ着いた」

偽勇者「俺はこれが最後の大逆転チャンスだと悟った」

偽勇者「魔王とお前らを始末して、魔王を倒した勇者になっちまえば──」

偽勇者「みんなから慕われることができると!」

勇者「そうだ……あなたには資格がある。少なくとも、俺よりずっと!」

偽勇者「そう、俺もそう思ってた」

偽勇者「戦いのイロハも知らねえお前より、俺こそが勇者に相応しいと思っていた」

偽勇者「だが……そうじゃなかった」

78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 00:44:30.96 ID:cYz+Xt/G0
偽勇者「お前らは冒険の途中で、大勢の人間に勇気を与えた」

偽勇者「たとえ、活躍に見合わない報酬でも文句一ついわず」

偽勇者「闘技大会では、負かした相手を決して貶めず、称えさえした」

偽勇者「時には、敵である魔族にすら情けをかけた」

偽勇者「これは……とても俺じゃできねえことだ」

偽勇者「剣は殺すもの、弱い奴が死ぬのは当然、ってのが心の根っこにある俺じゃあな」

偽勇者「“勇者”は強いだけじゃダメだ。それがようやく分かったんだよ」

偽勇者「そして──これを俺に教えてくれたのも、お前だ」

偽勇者「もう俺に、お前に取って代わろうなんて気はねえのさ」

勇者「だけどッ!」

偽勇者「もういいッ! これ以上頼まれたら、また野心が戻ってきちまいそうだ……」

偽勇者「行け、勇者!」

偽勇者「明日……魔王をブッ倒してこい!」

勇者「……はい!」

そして、翌日──

80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 00:50:29.13 ID:cYz+Xt/G0
─ 魔王城 ─

魔王「ククク……ついに来たか、勇者よ」

魔王「しかし、しょせん人間ではこのワシには勝てぬ!」

魔王「魔族の王たるワシの力と恐ろしさをその身に焼きつけて、地獄にゆけいッ!」



勇者「みんな、行くぞ!」チャキッ

戦士「正真正銘ラストバトルだ! 思う存分暴れさせてもらうぜ!」スラッ…

魔法使い「ボクの魔法には、冒険の途中で出会った人の想いも詰まってるんだ!」ボッ

僧侶「回復はお任せを! 安心して戦って下さい!」



勇者「うおおおおっ!」ブオンッ

魔王「ぬううううっ!」シュバァッ

ガキンッ!

82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 00:56:51.15 ID:cYz+Xt/G0
戦士「でやあっ!」シュバァッ

ザシュッ!

魔王「ぐぬうっ……! こしゃくな……!」



魔法使い「さあ、みんなの防御力を上げるよ!」ボァァ…

僧侶「大回復魔法です! これで皆さんの傷は癒えます!」パァァ…



魔王(完璧なコンビネーションだ……よもやここまでやるとは!)

魔王「ぐっ……おのれ、人間どもがぁっ!」

魔王「カァッ!!!」

ズガガガガッ!

勇者「ぐわっ……! まだまだァ!」

84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 01:01:26.61 ID:cYz+Xt/G0
勇者「うおおおおっ!」シュバッ

魔王「ぐ……ぬうっ!」シャッ

ギィンッ!

勇者(こうして俺たちが魔王相手に互角以上に戦えているのは──)

勇者(あの人のおかげだ……!)ザッ



戦士「ハァ、ハァ……トドメはくれてやるぜ、勇者!」

魔法使い「いっけえ!」

僧侶「勇者さん、お願いします!」



勇者「うおりゃあああああッ!!!」

魔王「ぐうっ……!」ヨロッ…



偽勇者(……終わらせろ、勇者!)

85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 01:07:08.45 ID:cYz+Xt/G0
ザンッ……!



魔王「ぐはっ……! バ、バカな……!」

魔王「このワシが……人間如き、にィ……! ──ごふっ!」

魔王「も、もうし、わけ……」グラッ…

ドサァッ……



勇者「か、勝ったぁ……!」

戦士「よっしゃあああああっ! さすが勇者だぜ!」

魔法使い「やった……やったんだね!」

僧侶「ええ、ついに魔王を倒したんです、私たち!」



偽勇者(どうやら、最終決戦は……俺の出る幕はなかったようだな)

89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 01:13:07.40 ID:cYz+Xt/G0
戦士「ところで……いつものあの人はどこにいるんだ?」

戦士「せっかく魔王を倒したんだ。あの人にも来て欲しいぜ」

魔法使い「なんならボクの魔法で探してみるかい?」

僧侶「そうですね、もしかしたら近くにいるかもしれませんし!」

戦士「もし見つけたら、一緒に王国に帰って──」

勇者「いや……やめておこう」

魔法使い「えっ、どうして?」

勇者「あの人は……そういうことは望んでないと思うんだ」

勇者「だから俺たちは、このまま四人で帰るのが一番いいんだ」

僧侶「たしかに……表に出たがるような人ではありませんでしたね」

魔法使い「うん、勇者がそういうのなら……やめとこっか」

戦士「んじゃあ、とっととこんな辛気臭いところからはおさらばしようぜ!」

92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 01:19:35.19 ID:cYz+Xt/G0
偽勇者(……あいつらは帰ったか)

偽勇者(魔王を倒したのはまちがいなくお前たちの力だ。胸を張って帰れよ)

偽勇者(これで、俺の偽勇者としての生活も終わりだな……)

偽勇者(またあてもなく旅でもするか……)

偽勇者(──ん?)



魔王「うっ、ぐぐぅ……」ズル…



偽勇者(まだ息があるじゃねえか……)

偽勇者(あいつらの詰めが甘いのか、こいつの生命力がとんでもないのか……)

偽勇者(ま……あれなら放っておいても、すぐくたばるだろうが……)

94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 01:24:37.09 ID:cYz+Xt/G0
魔王「ク、クク……」ゲフッ

魔王「憎き勇者どもめ……いまいましい勇者どもめ……」

魔王「奴らは知らぬ……」

魔王「北の大地にて復活を遂げるであろう……大魔王様の存在、を……」

魔王「せいぜい、ワシを倒して浮かれておれ……クククッ……」

魔王「──ガハァッ!」ゲボッ

魔王「…………」ガクッ…



偽勇者「どうやら……まだ終わっちゃいないみたいだな」

96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 01:32:19.73 ID:cYz+Xt/G0
一ヶ月後──

─ 城 ─

ワイワイ…… ガヤガヤ……

魔法使い「ふう……。国中、まだどこもかしこもお祭りムードだ。落ちつかないよ」

戦士「いいじゃねえか。もう俺たちが戦う相手はいねえんだしよ!」

僧侶「そうですよ! とことんパーっと楽しみましょう!」

魔法使い「とことん、ねえ……」

勇者「…………」

姫「どうしたのですか? 勇者様?」

勇者「いや、なんでもないよ……姫」

勇者(なんだろう……。なにかとんでもないことが起こるような、胸騒ぎがする)

勇者(いや……もう、すでに起こっているような……)



すると──

100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 01:39:43.79 ID:cYz+Xt/G0
兵士「大変です、陛下!」ザッ

国王「どうした?」

兵士「遥か北の大地にて、大量の魔族が現れ、南下を始めたという報告が──」

国王「なにい!?」ガタッ

勇者(やはり……!)

兵士「あったのですが──」

国王「ん?」

兵士「発見者である極北観測人が、もう一度状況を確認しにいったところ」

兵士「南下していたはずの魔族たちが全員死体になっていた、と……」

国王「なんだと……!?」

103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 01:46:42.53 ID:cYz+Xt/G0
国王「それはいったい、どういうことだ……!?」

兵士「観測人によると、仲間同士で争ったとしか考えられない、と……」

国王「ふうむ……いずれにせよ助かった」

国王「もし同士討ちが起こらねば、今から勇者たちや兵士らを派遣しても」

国王「大勢の犠牲者が出ることは避けられなかっただろう……」

戦士「なんだよ、ビックリさせやがって……」

魔法使い「でも、ビックリで済んでよかったよ」

僧侶「まだ魔王軍が残っていたなんて……同士討ちしてくれたのは幸運でしたね……」

勇者「…………」

姫「どうしたの? 勇者様?」

勇者「いや、なんでもないよ」

勇者(これはまさか……あの人が……)

105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/12/24(火) 01:54:13.37 ID:cYz+Xt/G0
その頃──

─ 北の大地 ─

大魔王「ぐぬぬぅ……ありえぬ! 勇者の血を引くわけでもない者が」

大魔王「たった一人で、我が直属の軍団をこうもたやすく壊滅させるとは……」

偽勇者「勇者の冒険は、魔王を倒した時点でもう終わってんだよ」

偽勇者「ようするに、お前は“蛇足”なんだ。ここで人知れず退場してもらうぜ」チャキッ

大魔王「キ、キサマ……何者だァッ!」

偽勇者「あ? 俺か? んなもん、勇者様に決まってんだろ」

偽勇者「ただし──」

偽勇者(勇者……こいつは俺に任せて、お前は仲間と平和になった世界を楽しみな)

偽勇者(こんな北の果てにも、ちゃんと勇者様はいるから安心しろい!)

偽勇者「──ニセモノだけどなあッ!!!」





                                   ─ 完 ─