1: ◆3I/q9VviEw 2018/03/13(火) 21:58:01.54 ID:i/zTLECjo
─事務所─

「おはよう、P」

春らしさが感じられるようになった朝の事務所に、澄んだ声が響いた。

「おはよう泉。さくらと亜子は一緒じゃないのか?」

「2人は少し遅く来るって。それよりP、なにか言うことがあるんじゃない?」

「なんのことだろう」

「もう、とぼけないで」

もちろん、つい昨日なんだから本当は覚えてる。

「はは、ごめんごめん。新しいメガネ、すごく似合ってるよ」

「当然よ。私とPで選んだんだもの」

期待していた反応が返って来て、泉は嬉しそうだ。

「眼鏡ってすごいよね。実用的で、イメージチェンジにもなる」

「さすが泉、いい分析だな。と言っても、俺は何も考えず使ってたけど」

褒めすぎよ、と笑われた。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1520945881

引用元: 【モバマスSS】大石泉「よく見えるように」 


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2: ◆3I/q9VviEw 2018/03/13(火) 21:59:38.11 ID:i/zTLECjo
「そういえば、Pもずっと眼鏡かけてるよね」

「そうだな。もう中学の頃からの付き合いだ」

「ねえ、ちょっと外して見せて」

「いいけど、何も面白いことはないぞ?」

「いいからいいから」

妙に期待した様子でせがまれ、苦笑いしながらメガネを外す。

…外したのはいいが、泉はというと目を丸くして へぇ とか ふーん としか言ってくれない。

「あの、何か感想は…?あんまり人前で外さないから、ちょっと恥ずかしいんだぞ」

「ふふっ。ごめんごめん」

「なんていうか…見た目は変わるけど、やっぱりPはPだなぁって」

メガネなしでは自分でも見慣れない顔だから、少し予想外だ。

「ははっ、なんか照れるなぁ」

「別に、褒めてるとは限らないわよ」

「褒めてないの?」

「褒めてる」

なんだ、かわいいやつめ。

3: ◆3I/q9VviEw 2018/03/13(火) 22:01:04.95 ID:i/zTLECjo
椅子に座り直して泉の方を見ると、なにやら考えごとをしているようだ。

「どうした?」

「今のPを見たら、さくらと亜子はどんな反応するのかなって…。ねぇ、今日一日裸眼で過ごしてみない?」

「ダメダメ。裸眼で生活できるレベルはもう超えちゃったよ」

「そんなに見えないの?」

「うん」

「じゃあこれが何本かわかる?」

泉はピースサインをしてみせる。メガネのおかげで知的な印象に磨きがかかっているが、だからこそ茶目っ気がまた愛らしい。

「あのなぁ。いくらなんでもそれはわかるよ」

「そっか。そうだよね」

そう言うと今度はすたすたと離れて、

「そこから私の顔、わかる?」

うーん、ぼやける。やっぱりメガネはすごいもんだな…。

4: ◆3I/q9VviEw 2018/03/13(火) 22:02:30.22 ID:i/zTLECjo
「泉なのは余裕でわかるけど、表情はかなりきついな」

「そうなんだ、ふふ」

泉が微笑む声は、なんだか不敵なものに聞こえた。

「P、私ね、今うめぼし食べた時の顔してる」

「!?」

「はい、次はあっかんべー」

「ちょ、見たい」

「今度は寄り目」

「なんだって…あれ、眼鏡どこいった?」

「残念。私が持ってるよ」

「あっくそ。いつの間に」

俺は勢いよく立ち上がり、泉の方へ。

5: ◆3I/q9VviEw 2018/03/13(火) 22:03:33.29 ID:i/zTLECjo
「返s…痛っ!」

「え、大丈夫?」

イタタ…幸い、痛いだけで大したことは無い。

「今どこにぶつけたの。デスクの足?」

「ああ。慌てすぎた」

「もう。Pはすぐ周りが見えなくなるね」

「め、眼鏡がないからだよ」

「熱くなるといつもそうじゃない」

「それは、確かに…」

結構、見られてるものだ。

6: ◆3I/q9VviEw 2018/03/13(火) 22:05:03.27 ID:i/zTLECjo
「まだ痛い?」

俺がいつまでも座り込んでいるからか、泉はずいぶん申し訳なさそうにそう聞いた。

「え?ああもう全然平気。気にしなくていいよ」

「そう、なら、よかった」

む、まだ少し心配そうだな。

「嘘じゃないぞ。俺はそんなに気遣いできない」

「そうだよね、安心した」

「そこは否定してくれてもよかったんだけどな」

ともあれ、泉の顔は晴れた…いや、さっきより近いが、やはりよく見えない。

「あ、そろそろメガネ返して」

「もう少しいいじゃない」

「よくない」

「どうして?」

「泉の顔がよく見えない」

「ふふっ、そう。じゃあ…」

「!」

「こうしたら、よく見える?」

もし俺がかけていたら、メガネどうしがカチッとぶつかりそうな。そんな距離に、泉が…

「なんてね。P、顔真っ赤」

してやられた、としか言いようがない。

だが、やられっぱなしは好きじゃない性分だ。返してもらったメガネをかけながら、声をかける。

「泉」

「なに?」

「近くで、よく見えたよ。かわいいかわいい泉の顔が」

ほんのり赤らんだ泉の頬も、今度はよく見えた。

7: ◆3I/q9VviEw 2018/03/13(火) 22:06:35.17 ID:i/zTLECjo
それにしても、お互い周りをよく見ないといけないな。本当。

…眼鏡をかけなおした俺の目に映ったのは、ニヤニヤとこちらを見ているさくらと亜子だった。

泉も気づいたみたいだが、どうして平気でいられるんだろうか。

泉には、適わない…。

8: ◆3I/q9VviEw 2018/03/13(火) 22:08:57.88 ID:i/zTLECjo
おわりです。

初投稿ですので至らぬ点もあったかと思いますが、ここまでお読みいただきありがとうございました。