紗代子「分かったよ」

育「えっ……？」

紗代子「育ちゃんにだって人に言えないことがあるよね。大丈夫。今は言わなくていいから言えるようになったら教えてね」

育「……紗代子さん！」

紗代子「でも、ひとつだけ約束。悪い子になって良いのは一回だけ。終わったらすぐにいつもの育ちゃんに戻ってね」

育「うん！ありがとう！」

紗代子「とは言っても、私も悪い子へのなりかたなんて分からないし……」

琴葉「おはようございます」

育「琴葉さん、おはよう！」

紗代子「おはようございます、琴葉さん」

琴葉「おはよう、育ちゃん、紗代子。……どうかしたの、紗代子。浮かない顔をしてるけど」

紗代子「えーっと……そのー(ﾁﾗｯ」

育「琴葉さんになら大丈夫だよ」

紗代子「そう？実はですね……」

紗代子「……というわけなんです」

琴葉「悪い子になりたい、か……。普通なら見逃せないけど」

育「お願い、琴葉さん！」

琴葉「安心して、ダメなんて言わないわ。でも、一つお願いがあるの」

育「うん！わたし、わるい子が終わったらまた良い子にもどる！」

琴葉「ううん。それとは別。私も手伝っていいかな？」

紗代子「琴葉さんがですか！？」

琴葉「ええ。迷惑じゃなければだけど。どう、育ちゃん」

育「全然めいわくじゃないよ。むしろお願いします！」

琴葉「ありがとう。それじゃあどうしましょうか」

紗代子「ここは思い付く悪いことをやってみるのはどうでしょう」

琴葉「そうね。いくつか具体例を挙げてその中から悪い子の共通点や要素を探っていきましょう」

育「あっ、それだったらわたしが思い付いた悪いことでもいい？」

ｯｼｬｲｱｾ-

育「んーと……わたしはこれ！琴葉さんは？」

琴葉「そうね……。私もいちごにしようかな」

育「えへへ、おそろいだね！紗代子さんは？」

紗代子「このコンビニ、あいすおまんじゅうがない……」

育「あっ、これはどう？もなかだよ！前に食べたことあるけど、とってもおいしかった！」

紗代子「うーん、あんこが入っているほうが嬉しいけど……育ちゃんのオススメにのってみようかな」

375円ﾆﾅﾘﾔｰｽ。ｱﾘｱｯｼﾀｰ

育「いーい？いっせーの、で食べるんだよ？」

紗代子「うん」

育「いっせーの……！」

琴葉「ん～、おいひい～」

紗代子「最近、ちょっと暖かくなってきたから身体に沁みますね」

育「えへへ～」

琴葉「どう、育ちゃん。悪いことその①買い食いの味は」

育「うん、とってもおいしい！こういうの”きんだんのあじ”って言うんだよね！」

琴葉「難しい言葉知ってるね」

紗代子「禁断の味、かぁ。私も中学生に入ってからは帰り道に買うこともありましたけど、小学生の頃って禁止されてましたもんね」

琴葉「うちも同じだったなぁ。その分、中学生に上がって初めて買い食いしたときはドキドキしたっけ」

紗代子「育ちゃん、今の感想は？ドキドキしてる？」

育「うん！それにワクワクしてる！」

琴葉「ふふ、悪い子に一歩近づけたね」

紗代子「それで、次なんですけど……」

育「あっ！」

紗代子「どうしたの？学校の先生でもいた？」

育「これ、当たりだ！」

琴葉「おめでとう、育ちゃん。えーっと、私は……ハズレね」

紗代子「私も当たり付きにしておけばよかったなぁ」

琴葉「どうする？交換してくる？」

育「ううん。1日にアイスを２こ食べちゃうとおなかこわしちゃうかもだし、それにばんごはんが入らなくなっちゃうもん」

紗代子「ふふ、我慢できてえらいね、育ちゃん」

育「だから、これは持って帰って次の買い食いに使うの！」

琴葉「よし、じゃあお店の人に言ってアイスの棒を洗わせてもらおっか」

育「うん！」

琴葉「さて、公園についたけど……紗代子の考えた悪いことって何なの」

紗代子「はい。育ちゃん、今何時？」

育「えーっと、４時だよ」

紗代子「この時間に育ちゃんはいつも何をやっているっけ」

育「レッスンがある日はレッスンをやって、そうじゃない日はみんなで宿題をやってるけど」

琴葉「……紗代子、もしかして」

紗代子「はい。悪いことその②宿題をあとまわしにします！」

育「えっ……それは……」

紗代子「大丈夫。遊び終わったら一緒にやろう。今は悪い子になることに集中しなきゃ！」

育「……うん、そうだね！」

琴葉「あれ、でも今、育ちゃん、春休みだよね。宿題あるの？」

育「あるよ。一年間のふくしゅうするためなんだって」

紗代子「最近の小学生は大変なんだね」

琴葉「それじゃあ、なにやろっか」

紗代子「育ちゃんはやりたいことある？なんでもいいよ」

育「えーっと……悪い子っぽい遊びをやってみたいけど」

琴葉「……ゲームセンターとか？」

紗代子「確かに悪い子っぽいですね」

育「あっ、わたし、ゲームセンターに行きたい！」

紗代子「よし、じゃあゲームセンターにしゅっぱ～つ！」

育「おー！」

ｯｼｬｲｱｾ-

育「お、おー。人が多いね」

紗代子「3月最後の日だからね。みんな春休みなんじゃないかな」

琴葉「育ちゃんはゲームセンターに来るのは初めて？」

育「ううん。真美ちゃんたちに連れてきてもらったことがあるよ」

紗代子「そっか」

育「でも、宿題やらずに来るのは初めて！だから、ちょっとドキドキかも」

琴葉「よし、じゃあ、そのドキドキを楽しくしちゃいましょう」

育「あっ、わたし、あれやってみたい！」

紗代子「あれって……茜ちゃんメーカー？」

育「うん！前に遊ぼうとした時は行列ができてて……」

紗代子「今は空いてるね。よし、じゃあやっちゃおうか！」

ｹﾞｰﾑｽﾀｰﾄ！

育「え、えーっと……"あかねちゃんをなでてください"このお人形をなでればいいのかな」

ｱｶﾈﾁｬﾝﾀﾞﾖｰ!

育「わっ！いっぱい出てきた」

ﾅﾃﾞﾃﾅﾃﾞﾃｰ

育「たのしいー！」

ｱｶﾈﾁｬﾝﾀﾞﾖｰｱｶﾈﾁｬﾝﾀﾞﾖｰ

紗代子「……育ちゃん、楽しそうですね」

琴葉「ええ」

紗代子「……琴葉さん、一つ気になったことがあるんですけど、いいですか？」

琴葉「いいわよ、何？」

紗代子「どうして、育ちゃんを止めなかったんですか」

琴葉「……」

ｲｰｰｰﾔｯﾎｩｩｩ!

紗代子「なんか、琴葉さんらしくないな、って」

琴葉「それは紗代子も同じでしょ。私も何で紗代子は止めなかったのか気になるわ」

紗代子「それは……」

琴葉「きっと同じ理由だと思う。私たちがみんなからどう思われているかってこと」

ｱｶﾈﾁｬﾝﾀﾞﾖｰｱｶﾈﾁｬﾝﾀﾞﾖｰ

紗代子「……はい」

琴葉「真面目って悪い言葉じゃないはずなのに、あんまり言われると気にしちゃうわよね」

紗代子「茶化されるように言われることが多いですからね。でも、言われたほうからすればじゃあどうしたらいいのって思います」

琴葉「だからかな。育ちゃんが悪い子になりたいって言っても、応援したいって思っちゃったのは」

紗代子「育ちゃんも真面目でいい子ですからね。きっと大きくなったら同じ悩みにぶつかっちゃうと思います」

琴葉「でもこうやって経験させれば」

紗代子「はい。もしかしたら悩まずに済むかもしれないですよね」

育「紗代子さーん、琴葉さーん！」

紗代子「どうしたの、育ちゃん？」

育「手伝って！わたしじゃ手が足りないの！」

ｱｶｱkｱｶｱｶﾈﾁｬnｱｶﾈﾁｬﾝﾀﾞyｲｰｰﾔｯﾎｩｱｶﾈﾁｬｱｶｼﾞｬｲｱﾝﾄﾅｼﾞｭｳｱﾂ!?

琴葉「……画面が凄いことになってるわね」

紗代子「とりあえずは、今すぐ手助けが必要みたいですね」

育「紗代子さーん！？琴葉さーん！？」

ﾅﾃﾞﾅﾃﾞﾅﾃﾞﾅﾃﾞﾅﾃﾞﾅﾃﾞｼﾃｰ

紗代子「ごめーん、今、行くよー！」

育「えへへ。一番大きいお人形もらっちゃった♪」

琴葉「大丈夫、重くなかった？」

育「うん！ぜんぜん平気！それで、次はどうするの？」

琴葉「そうね。３つめはここでやります！」

紗代子「ここって、私たちの劇場ですか。それで戻ってきたんですね」

育「あ、だったら、その前にお人形さんをロッカールームに置いてきていい？」

紗代子「確かに動きにくいもんね」

琴葉「じゃあ、私たちここで待ってるから」

育「はーい！すぐおいてきまーす」

育「えっと……ロッカーの中には入らないや。ちょっと、じゃまだけどはじっこに置かせてもらおう」

亜美「おやおや、育りん。それは何ですかな？」

真美「なんだかジャイアントなジューアツを感じますなぁ？」

育「あ、亜美ちゃんに真美ちゃん。これはね、ゲームセンターでとってきたんだよ」

亜美「ゲーセン……だとっ……？」

真美「あのいい子で天使の育りんがゲーセン……だとっ……？」

育「うん！だって、わたしはわるい子になりたいからね！」

真美「育りんが……」

亜美「悪い子……」

真美「……ぷぷっ」

亜美「あははははははは」

育「なんで笑うの！？」

真美「笑うしかないっしょー！ゲーセンなんて悪い子検定１０級にもなんないかんね」

育「そ、そうなの？」

亜美「そーだよ。まったく悪い子になりたいなら７６５プロ一のワル、亜美と真美に聞きに来ればよかったんだよ」

真美（あ、そーだ、亜美。せっかくだから育りんにも手伝ってもらおうよ）ﾋｿﾋｿ

亜美（え？育りんに……あ、もしかして）

真美（そーそー、育りんもやったってなったら琴葉お姉ちゃんもそんなに怒んないと思うんだよね）

亜美（たしかにー！いあやぁ、真美殿はワルですのぉ）

亜美（いやいや、亜美さまほどでは……）

育「どうしたの？コソコソお話しして」

亜美「いやぁ、ワルを目指す育りんに手伝って欲しいことがあってね」

育「手伝うって、何を？」

亜美「んっふっふ→。ここに取り出したのはニセの張り紙」

真美「そこにはなんとぉ！"野球ＯＫ"の文字がぁ！」

育「ええっ！そんなことしたら昴さんたちがまた野球を始めちゃうよ。そしたら琴葉さんに……」

真美「育りんや、ワルってぇのは、ルールに縛られちゃあいけないんだ」

亜美「そう誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ」

育「で、でも……」

真美「あ、無理しなくていーかんね。いい子でゆーとーせーの育りんにはもともとワルの道には向いてないしね」

亜美「そーそー。せいぜい出来て買い食いぐらいっしょー」

育「そ、そんなこと」

真美「そんなことないなら……一緒に張り紙を貼れるよねん？」

亜美「だって、真面目なさよちんや琴葉お姉ちゃんと違って育りんはワルだもんねん？」

育「……」

真美「ほらほら～、育り～ん」

育「……そうだよ」

亜美「へ？」

育「紗代子さんも琴葉さんもまじめだもん。だから、わたしは紗代子さんにお願いしたし、琴葉さんからお手伝いしたいって言われてお願いしますって言ったんだもん」

真美「え゛え゛っ、育りん、その２人にお願いしたの……」

亜美「それはちょっとムボーっしょ……」

育「ううん、そんなことない。だって、２人ならわたしを本当にわるい子にはしないでいてくれるから」

真美「うあうあー、ワケわかんないよ！？」

亜美「でもでも、育りんはワルになりたくて、あれ？でも、悪い子にはなりたくなくて？」

育「だから、ごめんなさい。わたしは張り紙は貼らない。本当にわるい子になっちゃいそうだから」

真美「んー、とりあえず育りんをカイジューするのはダメっぽいね」

亜美「あり？タイジューじゃなかったっけ？」

紗代子「懐柔であってるよ」

真美「ほーら、さよちんもこう言ってるよ！まっ、これが姉のじつりきってやつだね」

琴葉「じつりきじゃなくて、実力でしょ」

亜美「やーい、琴葉お姉ちゃんに注意されてやんのー……？」

亜美「……」

真美「……」

亜美「……(ﾀﾞｯ!」

真美「……(ﾀﾞｯ!」

紗代子「あっ、こらっ！」

琴葉「その張り紙をこっちに渡しなさーい！……まったく」

育「紗代子さん、琴葉さん、どうして……」

紗代子「遅かったから迎えに来たんだ」

琴葉「育ちゃん、偉かったね。２人の誘いを断って」

育「聞いてたの！？」

紗代子「途中からだけどね。……育ちゃんは悪い子になりたいんじゃなかったんだ」

育「ううん、わるい子にはなりたいんだけど。ただ、本当にわるい子になったらきっとお母さん悲しむから」

琴葉「そっか」

育「紗代子さんと琴葉さんなら、わたしがわるいことを勉強して、本当にわるい子になろうとしたら止めてくれるでしょ」

紗代子「もちろんだよ」

琴葉「でも、それならどうして悪い子になりたいだなんて言い出したの？」

育「えーっと……その……」

紗代子「まだ言いたくないんだね」

育「あさってには、ううん、明日にはちゃんと話すから！」

紗代子「……うん。分かったよ」

琴葉「それじゃあ、最後の悪いこと、って言いたいけど真美ちゃん達の件があったからやりづらくなっちゃったな」

紗代子「何をやろうとしてたんですか」

琴葉「ホールで遊ぼうと思ったのよ。今日の劇場の営業はもう終わったでしょ。だから、お客様の迷惑にはならないから少しならいいかなって思ったんだけど」

紗代子「あんな貼り紙を貼ろうとしていた2人の前ではできませんね」

琴葉「そういうことで、今日はこれぐらいにしたいんだけど、いいかな？」

育「うん！……えっ、今日……は？」

琴葉「そう、今日は。また一緒に悪いことやろ」

紗代子「そうですね。私も楽しかったし、たまにはいいですよね。育ちゃんはどう？」

育「うれしいけど、でも、いいの？わるいことばっかり覚えちゃったら、わたし本当にわるい子に」

紗代子「そうならないように、今日は私たちに頼んだんでしょ？」

琴葉「お互いに本当に悪い子にならないように注意しながら悪いことやりましょ。もちろん、育ちゃんも私たちが本当に悪い子にならないように注意してね」

育「……うん！えへへ、なんだかナイショの集まりみたいだね。こういうのをサークルっていうの？」

琴葉「ちょっと違うかな。お互いがお互いを助け合いながらだから……同盟かな？」

紗代子「なるほど。わるい子同盟、ですね」

育「わるいこどうめい！なんかカッコいいかも！」

琴葉「よし、今日から私たちはわるい子同盟だね！それじゃあ、次に悪いことをするために今日は帰りましょう」

育「あ……でも、まだわたし宿題やってない」

紗代子「そうだったね。よし、それじゃあすぐに終わらせちゃおう！」

育「うん！ひかえ室にかばん取りに行ってくる！」

ﾊﾟﾀﾊﾟﾀﾊﾟﾀ……

琴葉「わるい子同盟……か」

紗代子「琴葉さん、なんだかうれしそうですね」

琴葉「そういう紗代子だって」

紗代子「……そうですか？」

琴葉「ええ……」

紗代子「……」

琴葉「……」

紗代子「……真面目でよかったですね、私たち」

琴葉「……うん」

ｶﾞﾁｬｯ

環「あ、いく！おつかれー」

育「環ちゃん、おつかれさま。……それ、なに？」

環「くふふ、これは……」

育「あっ、もしかして明日の！？」

環「うん！たまき特製のびっくり箱だぞ」

育「え、すごーい！見せて見せて！」

環「ダーメ。今見せちゃったら、戻せなくなっちゃうし」

育「あ、なるほど」

環「いくはどうするつもりなんだ？」

育「わたしはね、わるいことをたくさんやるんだ！」

環「おー、わるいことって、例えば？」

育「それを言ったら、環ちゃんおどろかなくなっちゃうでしょ」

環「あ、そっか」

育「えへへ。いっしょうけんめいわるい子やって、みんなをびっくりさせるんだ！」

環「たまきも、たまきも！びっくり箱でおやぶんをわぁっ！っておどろかせるんだ！」

育「環ちゃん、明日はいっしょにがんばろうね！」

環「うん！あ、じゃあさ、いく、これから作戦会議やろ！おやぶんたちを絶対にびっくりさせる作戦を考えよう」

育「あ……ごめんなさい。わたし、このあと約束があって」

環「約束？」

育「うん。今から紗代子さんと琴葉さんと、ね」

環「さよことことは？いくって２人と仲が良かったんだ」

育「へへ、今日いっぱい遊んでもらったんだ。このあとも宿題を見てもらうんだよ」

環「宿題？今から？だって、いつもこの時間には宿題終わってるじゃん」

育「今日はね、宿題を後回しにして遊んでたんだ」

環「ええっ！でも、さよことことはといっしょに遊んでたんでしょ？怒られなかったの？」

育「大丈夫だよ！遊んだ後にやるって約束したし、なにより」

環「なにより？」

育「わたしたちはわるい子同盟だから！」

終わりですー。

もっと育ちゃんの魅力をみんなに知ってほしいなぁ。