前回 高垣楓の晴飲雨飲 その3

2: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/27(水) 00:54:59 ID:0TjYXbEk0
外では雨が降っていた。

高垣楓は、一昔前の幅広なブランデーグラスに酒を注いだ。

手がふれる面積が広いとアルコールが揮発しやすいと言われているが、

彼女にとってはどうでもいい。

グラスを、これまたひと昔の俳優のように揺らしながら、

楓はリモコンの『再生』ボタンを押した。

最近、休日を多少なりとも生産的なものにするために、

映画を観るようになった。

引用元: 高垣楓の晴飲雨飲 その4 


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3: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/27(水) 00:56:49 ID:0TjYXbEk0
一日中呑んだくれて、一人でくだを巻いていたのでは、

トップアイドルとして申し訳が立たない。

画面の中では、人々が、キスシーンの削除された映画に不満の声を上げていた。

物語に登場する映画館は教会の一部で、

神父が“不健全な”シーンはネガごとカットしてしまうのだという。

この場面を楓は、まるで自分の人生のようだと思った。

どこかにディレクターがいて、彼あるいは彼女が、全くもって不可逆な力で、

アイドルとしての高垣楓を編集していく。

4: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/27(水) 00:58:25 ID:0TjYXbEk0
私の過去、私の未来、そして、私の今…。

若いブランデー独特の、甘みと刺激が渾然となった味わいに、

楓は身をゆだねた。

目眩がする。

それを酔いということにして、楓は二杯目のブランデーをグラスに注ぐ。

今度は画面を食い入るように見つめて注いだので、

溢れんばかりに、なみなみになってしまった。

「二杯目なのにいっぱい…ふふっ」

5: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/27(水) 00:59:48 ID:0TjYXbEk0
初めてブランデーは、『ヘネシーVS』だった。

初心者向けという言葉を鵜呑みにして購入したものだったが、

初めはウィスキーとまるで区別がつかなかったし、

それでいてウィスキーより値が張るから、なんだか損をした気分になった。

けれども何度も飲んでいるうちに、正確には飲むペースで、

ブランデーがウィスキーより軽妙で、やさしげな味わいであることを感じ取った。

6: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/27(水) 01:01:20 ID:0TjYXbEk0
そして今飲んでいるのも、『ヘネシーVS』である。

望めばもっと“お高い”酒を買うこともできるが、

そういうことをするのは、なんとなくいやだった。

まるで自分の中の喜びを、すべて金銭で置き換えていくような気がした。

まだまだ若いし、どうせ自分の舌じゃあ…。

そんな風に考えて楓は、テレビに映し出される主人公の青春が

途方もなくまぶしいものであるように、目を細めた。

7: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/27(水) 01:03:01 ID:0TjYXbEk0
いつか、『アイドル 高垣楓』の生が完全に終わったころ、

そこに残された女は、過去を懐かしむだろうか。

外では雨が降っていた。

グラスの中に、音もなく波紋が広がった。

8: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/27(水) 01:13:03 ID:0TjYXbEk0
【ヘネシー VS】

コンビニでもお試しサイズで買えるブランデー。
度数が高い割にウィスキーより飲みやすい(気がする)。
いつか同社のXOも飲んでみたいが、そんな機会が訪れるだろうか…。

11: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/28(木) 10:37:03 ID:tQ4GK7YM0
【ホエールポイント カベルネ・ソーヴィニョン】

12: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/28(木) 10:37:52 ID:tQ4GK7YM0
空にはおぼろげに月が浮かんでいた。

地上では、夏祭りの灯が煌めいていた。

けれども人々の視線は、ただ一つの存在を見つめている。

かすかに翡翠がかった、艶やかな髪。

くっきりと、それでいて温かみがある碧と蒼の瞳。

微笑を浮かべるやわらかな頰。

しなやかで、悩ましげな曲線を描く身体に、今は水仙模様の浴衣を纏っている。

13: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/28(木) 10:38:45 ID:tQ4GK7YM0
高垣楓。

美城プロダクションが誇るトップアイドル。

男も女も、老人も子どもも、あたかも人生の一大事のような顔をして、

彼女に見惚れていた。

だが、当の本人はすっかりくたびれていて、げんなりしていた。

というのも今日は仕事の撮影で、祭りが始まってからというもの

浴衣をとっかえひっかえにしてバシャバシャとフラッシュを焚かれている。

いいかげんお腹周りが窮屈だし、なにより肩が凝る。

14: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/28(木) 10:39:47 ID:tQ4GK7YM0
しかも食べ物(お酒に合いそうな!)の香りがたえず鼻先をくすぐるのであるから、

なんというか、ため息も出ない程の疲れを感じる。

目の前に人参をぶら下げられて、それを追いかけるロバのような気持ちである。

彼女がカメラから開放されたのはそれから小一時間後のことであったが、

すでに屋台の半数以上が畳まれつつあった。

撮影中は、これが終わったらイカ焼きと茜霧島で一杯などと考えていたが、

その夢は脆くも崩れ去ったのである。

とは言っても彼女が人々から向けられる視線の中、

堂々とイカ焼きが買えたかは定かでないが…。

いじけたように下駄を鳴らした後、彼女は神社の脇に仮設された衣装室へ向かった。

15: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/28(木) 10:42:19 ID:tQ4GK7YM0
楓は冷たくなった戦利品(広島焼き \680

プロデューサーが自分のために購入)を携えて家に戻った。

本懐からは外れたが、酒に合って腹におさまればよしとして、酒棚を開く。

そこで絶句した。

焼酎がない。

霧島シリーズも、晴耕雨読も、下町のナポレオンもいらっしゃらない。

通販でいつも買い物をしていると、

指先ひとつでいつでも買えるという安心感からか、

かえって買い物がたまってしまう。

その臨界点がこの日だった。

16: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/28(木) 10:43:03 ID:tQ4GK7YM0
完全に焼酎モードの頭が、怠惰な過去の自分に呆然としていた。

「エングリーよりもあんぐりー……」

とほほ、と“焼酎用の”棚を閉めて、楓はリビングのソファに寝そべった。

すると、なぜかテレビ台の下にワインがあることに気づいた。

さて、いつぞやの自分がワインセラーを勝手に増設していたらしい。

引っ張り出して埃を払ってみると、ラベルの中でクジラが身を曲げていた。

『ホエールポイント カベルネ・ソーヴィにション』。

南アフリカのワインということで、物珍しさに購入した記憶がある。

17: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/28(木) 10:43:57 ID:tQ4GK7YM0
楓はダイニングの方へ振り返った。

テーブルの上には、温め直した広島焼きが乗っている。

「………」

楓はテーブルの隅にあった、多分きれいであろうグラスにワインを注いだ。

1,000円もしないワインだが、南米にも負けず劣らず香り高い。

まず、割り箸で広島焼きを一口。

もちもちとした太麺に、くったりとしたキャベツ。

少なめの肉と、ふわふわの生地の上にかかったソース。

全体的にこってりと甘い。

18: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/28(木) 10:45:49 ID:tQ4GK7YM0
だが、それがいい。

楓はワインを口に含んだ。

酸味やタンニンの渋味がくっきりとやってくる。

その刺激が広島焼きの甘みと、抜群に合う。

接点のなかったはずの二人が、ユニットで大成功を収めたような気分である。

「高垣Pにかんぱーい…ふふっ」

ワインは広島焼き、いや粉物と非常に相性が良い。

これは一本空けられる。

楓はほくほくとした笑顔で、リモコンに手を伸ばして、

テレビの電源を入れた。

19: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/28(木) 10:46:28 ID:tQ4GK7YM0
『大物芸能人、酒で大失態_____』

楓はすぐにテレビを消して、ワインのキャップを閉めた。

20: ◇ryT0LtXC8Y 2017/09/28(木) 10:49:56 ID:tQ4GK7YM0
【ホエールポイント カベルネ・ソーヴィニョン】

1000円以下ではあるが、本当に味が濃厚。
これでミディアムボディだというのだから、作者の舌もまだまだ修行が足りない。
最近のワインの価格破壊は恐ろしい…。

24: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/05(木) 23:14:50 ID:FllOwMLU0
【メイナーズ ファインタウニーポート】

25: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/05(木) 23:15:51 ID:FllOwMLU0
高垣楓は夢をみていた。

顔のない、けれどもなんだか、ぼんやりと温かい誰かと

幸福な日々を送る夢を。

「日本中が恋する」と言われたアイドルの姿はそこにはなく、

ただ当たり前のようにその“誰か”と手をつないで、

誰の目にはばかるでもなく、自由に街を歩く。

木漏れ陽が肩にかかって温かい。

さわさわと髪をゆらす風が心地よい。

けれども、なんだか大切なことを忘れているような…。

26: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/05(木) 23:18:06 ID:FllOwMLU0
そう思った瞬間、彼女は目を覚ました。

部屋には、ゆったりとしたクラシック曲が流れている。

これは映画鑑賞と同じく、“高尚な”趣味の一環だった。

楓自身、趣味と尋ねられれば「温泉巡り」と答えるのだが、

今となっては趣味というよりある種の願望である。

日常的に実践できて、心を豊かにしてくれるもの。

彼女が探し求めているのは、すなわちそれ。

27: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/05(木) 23:20:13 ID:FllOwMLU0
とはいえ楓は、耳目よりももっぱら舌の方に感度が偏っている。

彼女はゆったりとのびをして、酒棚に向かった。

寝起きなのであまり食欲がない。

なので、つまみや、パンチの強い酒は避ける。

淡麗辛口の日本酒か、それとも梅酒か…。

そう逡巡していると、一昨日購入したワインのことが思い浮かんだ。

『メイナーズ ファインタウニーポート』。

ポートワインという種類の酒で、

度数は20度と決して低くはないが、甘口で飲みやすいと評判だった。

28: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/05(木) 23:22:10 ID:FllOwMLU0
まだ封は切っていない。

ちょうどよい機会だし飲んでみようか…。

楓は小一時間かけてワインを探し出し、テーブルにグラスと共に並べた。

どっしりと、堂々としたボトルデザイン。

近頃は味だけでなく、見た目も値段に釣り合わない。

まるでアイドルだ、と楓は思う。

現在はアイドルの戦国時代。

目を見張るほど美しい少女が、驚くほど低い値段をつけられて

芸能界に狭い入り口にぎゅうぎゅうと押し込められる。

それで潰れてしまう少女もいる。

だが、値札がつけられるだけまだ良いというのが現実だ。

養成所には一般人以上、アイドル未満達がさらにひしめきあって、

何が正解で、どこがゴールかも分からずにレッスンをしている。

そして夢と現実の間で自分をすり減らして、どこかへ消えていく…。

29: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/05(木) 23:23:14 ID:FllOwMLU0
楓はハッとして、いけないいけないと首を振った。

彼女はキャップを開けて、グラスに酒を注いだ。

紅とも、紫ともつかない美しい色。

通常のワインよりも色彩は明るい。

見ているこちらの心が、ぱあっと華やかになる。

飲んでしまうのが勿体無い、と頭は考えていたが、

腕はその思考を超える速度で、ワインを口に運んでいた。

そして驚いた。

30: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/05(木) 23:24:20 ID:FllOwMLU0
度数と、実際のアルコールの刺激がまるで違うように感じられる。

飲みやすい!

グラスがあっという間に空になる。

味わいは甘いが、それはハキハキとした甘さで、

口の中にまどろっこしく残らず、どこかへ消えていく。

まるで幸せな夢のように。

楓はさきほど見た夢を思い出した。

そして、二度と同じ夢を見ないよう祈った。

31: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/05(木) 23:27:14 ID:FllOwMLU0
【メイナーズ ファインタウニーポート】

少量で気持ちよく酔っ払いたい時にはおすすめ。
グラスに注いでもグイグイ飲めるので、量には注意。

35: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/23(月) 22:09:02 ID:uN7zz3p20
【八重泉 グリーンボトル 43度】

36: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/23(月) 22:10:55 ID:uN7zz3p20
酒を楽しむための器官は、舌とのどだ。

だが秋冬に限って言えば、そこにもう1つ加えてもよいだろう。

「さ、む…」

10月末に訪れた急な寒さに、高垣楓は布団の中で縮こまった。

彼女は薄着だったので、余計に身体の芯がこごえる思いがした。

とはいえせっかくの休日。

寝て過ごすのではなく、もっと有意義に過ごしたい。

いや、過ごすべきだ。

37: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/23(月) 22:12:32 ID:uN7zz3p20
楓はもぞもぞと布団にくるまったまま、キッチンへ移動した。

その姿はさながら、一匹のあおむし。

「寒さをむしするおおむし…ふふっ、へ…へくちっ」

棚から取り出したのは、緑色の瓶。

『八重泉 グリーンボトル43度』。本日のガソリンである。

直飲みするのは流石にはしたないので、意を決して布団から出て、

紙コップを探した。

一杯だけのつもりだったが、ここで身体がさらに冷えたので、

二杯飲むことにした。

少なくとも、この時はそう決めた。

38: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/23(月) 22:17:06 ID:uN7zz3p20
ようやく見つけた紙コップに、ぷるぷる震えながら泡盛を注ぐ。

「へへっ…」

それは他人が見たら誤解を招くような光景だった。

「ふ、ふう…」

そんな息を漏らし、楓はぐいとあおった。

目がさめるような、それでいてやわらかなアルコールの刺激。

焼酎やウィスキーよりも、二杯目がつづきやすい風味。

ぽかぽかと、胃袋から熱が広がっていく。

寒さを肴にして飲んでいるような心地がする。

39: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/23(月) 22:19:31 ID:uN7zz3p20
楓はこれから訪れる季節に思いを馳せた。

おでん、熱燗、湯葉鍋、芋焼酎…こたつ、ホットビール。

季節に関わらず飲んでいるだろうに、想像の三分の二は酒の羅列だった。

楓は、楽しい1日が始まる予感がした。

そのあとすぐに、自分が至極単純な人間のように思われて、

嬉しいのか、つまらないのか奇妙な気持ちになった。

40: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/23(月) 22:20:48 ID:uN7zz3p20
それをかき消すように、楓は幸福をおかわりした。

今日はめいっぱい有意義に過ごそう!

それから楓はお湯で溶かすカップスープを苦心してこしらえ、朝食をとった。

口の塩梅がよくなかったので、泡盛で流した。

それから後輩アイドルから借りた映画のDVDを見ながら、また酒を飲み、

寝落ちして、気づいたら夜になっていた。

「あれー?」

楓の優雅で有意義な休日は、こうした終わった。

41: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/23(月) 22:33:00 ID:uN7zz3p20
【八重泉 グリーンボトル 43度】

実家の倉庫で眠っていた泡盛。
個人的にはブランデーよりも香りがおさえめで、まったりとした刺激という印象。
泡盛は水割りが食中に向いているというが、これはストレートでも十分おいしい。

42: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/28(土) 01:26:27 ID:PsEpUX9c0
【本格 黒糖梅酒】

43: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/28(土) 01:27:52 ID:PsEpUX9c0
アルコールは身体に悪い。害を挙げればキリがない。

しかし酒がなければ人間は、特に高垣楓という人間は生きてはゆけない。

トップアイドルとはいっても、いや、トップアイドルだからこその重圧。

事務所の仲間を含めた、周囲からの過剰な期待と偏見。

“たまには”逃げ出したくなる。

つまみや肴と一緒に。

44: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/28(土) 01:28:44 ID:PsEpUX9c0
後輩アイドル達との合同レッスンを終えた楓は、

ため息を吐いて自室の扉を開いた。

レッスンがうまくいかなかったわけではない。

彼女自身としては何のミスもなかった。

けれども、現場の空気の重々しさが、いまだ肌にまとわりついている。

遠慮と萎縮。

羨望と嫉妬。

期待と依存。

その他諸々の煮凝りの中で、楓は歌い、踊らねばならなかった。

45: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/28(土) 01:30:04 ID:PsEpUX9c0
いつもの倍以上の疲労を癒すために、彼女は禁断のユニットをテーブル上に展開した。

CHOYA『本格黒糖梅酒』、『ハーゲンダッツ 抹茶味』。

まず梅酒を一杯すする。

舌にずっしりくる濃厚な甘み。

その甘みが疲れた身体にしみわたる。

次にアイスクリームの真ん中をスプーンでくり抜き、大きめの一口。

梅酒の甘みによって、こちらは上品な苦味が前面に出てくる。

46: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/28(土) 01:30:59 ID:PsEpUX9c0
抹茶を選んだのは楓のプロデュースの妙である。

仮にバニラであれば、甘み風味ともに梅酒に負け、

その個性は霧散していたことだろう。

これで終わりではない。

楓は、カップの真ん中にできた空白に梅酒を注ぎ込んだ。

そしてしばらく待ち、とろけたアイスと黒い蜜を同時に含んだ。

まぶたの裏がぴりぴり痺れるような、白くなるような、

何とも言えない味がした。

47: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/28(土) 01:31:57 ID:PsEpUX9c0
これは絶対に身体に悪い。

だが、「それがどうした!」という勢いで、楓は2口目を食べた。

明日もレッスンがあるのだ。

これくらいのご褒美がなければやっていられない。

いやむしろ、今日のカロリーを消費するために明日頑張ればいい。

目的と手段がないまぜになった頭をよそに、手と口が動いた。

48: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/28(土) 01:32:52 ID:PsEpUX9c0
「当分糖分はいらない…ふふっ…」

楓は、アイスクリームがなくなった後は潔く梅酒に蓋をした。

勇気がわいてきた。それから何に対してかは定かでないが、愛も。

それらは、明日のレッスンで全て吐き出してしまうかもしれない。

それでもまた、楓はアイドルになる。

飄々とした笑顔で、また舞台に立つ。

その3歩後ろに、お酒とつまみがついてくる。

49: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/28(土) 01:35:34 ID:PsEpUX9c0
【本格 黒糖梅酒】
ずぶずぶに甘い。だが、それがいい。
しょっぱいものよりも、かえってアイスクリームの方がつまみに合う。
いけないことをしてる背徳感でまた酒が美味い。

50: ◆ryT0LtXC8Y 2017/10/28(土) 01:38:45 ID:PsEpUX9c0
おしまい