1: ◆ODiSzNFjJk 2018/04/12(木)20:03:59 ID:uc8
飛鳥「自分を曝け出すのはとても勇気のいることだと、最近改めて思うようになったよ」
 
飛鳥「特に、偶像なんてものをやっていると、ね」
 
飛鳥「本当の自分を他人に見せるのは怖い。自分の弱みを見せているようなものだからね」
 
飛鳥「この冷たく孤独なセカイでは、誰しも強がっていないといけないんだ」
 
飛鳥「それが、自然の摂理というものなのだから」
 
飛鳥「けれど、本当の自分を誰かに見てもらいたい。そう思うことに罪は無いはずだ。キミもそう思うだろう?」
 
日記「………………」

引用元: 飛鳥「日記帳……?」 


2: ◆ODiSzNFjJk 2018/04/12(木)20:06:16 ID:uc8
飛鳥「……さて、そろそろ本題に入ろう」
 
飛鳥「目の前にあるのは何の変哲もない日記帳だ。表紙に大きく『日記帳』と書いてあるのだから、これは間違いなく日記帳だ」
 
飛鳥「ああ、先に言っておくと、これはボクのものじゃない」
 
飛鳥「ついさっきのことだ。ボクが忘れ物を取りに事務所に戻ってみると、机の上にこの日記帳が置いてあった」
 
飛鳥「瞬時に思ったね、これは罠だと。それも、巧妙に仕掛けられた罠だってね」

3: ◆ODiSzNFjJk 2018/04/12(木)20:08:05 ID:uc8
飛鳥「どこかの誰かが事務所に日記を置き忘れた。ああ、確かにそう考えるのが普通かもしれない」
 
飛鳥「けど、考えてみると良い。事務所に日記帳を忘れて帰るなんていうシチュエーションが、この世にあり得るのか? とね」
 
飛鳥「日記というのは、自己との対話だ。誰にも見せていない自分を書き綴るためのツールだ」
 
飛鳥「言って仕舞えば、日記帳というのは本当の自分の写し絵だ」
 
飛鳥「そんなものを、外に持ち出す人が本当にいると思うかい?」
 
日記「………………」

4: ◆ODiSzNFjJk 2018/04/12(木)20:11:23 ID:uc8
飛鳥「ボク以外誰もいない事務所、そして置き忘れられた日記帳」
 
飛鳥「まるで、『飛鳥さんどうぞ私の日記をみてください』と言わんばかりのこのシチュエーションじゃないか。ああ、これはまさしく罠だよ」
 
飛鳥「好奇心は猫をも殺すというが……はてさて」
 
飛鳥「………………」
 
飛鳥「人の真価とは、何をするべきかわからない時に、何をすべきかわかるかどうかで決まるものらしい」
 
飛鳥「そして、箱の中の猫が生きているのか死んでいるのかを知りたいのなら、出来ることは限られてくる」
 
飛鳥「つまりだ、ボクのやるべきことは一つというわけだ」
 
ペラッ
 
日記「今日から、日記をつけることにしました。大事なことだと思うんです、日記をつけるのって」
 
飛鳥「……」
 
飛鳥「…………」
 
飛鳥「………………」
 
飛鳥「……書き出しから痛いな」

5: ◆ODiSzNFjJk 2018/04/12(木)20:16:17 ID:uc8
飛鳥「まあ良い、続きだ続き」
 
日記「だって、気持ちって書いて残しておかないと、忘れてしまうじゃないですか」
日記「その日何を考えていたか。その日何を思っていたか」
日記「そういう事を書き残すのって大事なことだと思うんです」
日記「特に、私のような年頃の女の子は。だって、思っていることが毎日変わっていくのですから」
 
飛鳥「痛い!」
 
飛鳥「なんだこの文章は! ボクもボク自身をそこそこ痛いヤツだと認識してはいるけれど、これは群を抜いてるぞ!」

6: ◆ODiSzNFjJk 2018/04/12(木)20:16:37 ID:uc8
日記「ふふ……なんだかとっても変な気分です」
日記「実を言うと、日記を書くのって初めてなんです」
日記「いえ、本当は何度か書いたことはありますよ?」
日記「でも、書いたものはいつも、こう、何て言えばいいのでしょう」
日記「論文調……? というのが近いのでしょうか。ええ、そうですね。論文調。日記ではなかったんです」
日記「だから、これが人生初めての日記なんです」
 
飛鳥「何をどうやったら日記が論文調になるんだ……」
 
飛鳥「というか何でこの日記、誰かが読む前提の文体で……。こういうのが余計に痛いんだ」
 
日記「あ、すみません。自己紹介を忘れていました」
 
飛鳥「やかましいよ、日記で自己紹介ってなんだ」
 
日記「……ちなみに、私は誰だと思いますか?」
 
飛鳥「わかるか」
 
日記「ジャック・バウアーじゃないですよ?」
 
飛鳥「一言も言ってないよ」
 
日記「私の名前は、ありす」

7: ◆ODiSzNFjJk 2018/04/12(木)20:16:57 ID:uc8
飛鳥「………………」
 
飛鳥「………………」
 
飛鳥「……ありす?」
 
飛鳥「……あの、ありす? A.Tachibanaのありす?」
 
日記「不思議な名前でしょう?」
日記「私もそう思います」
日記「おとぎ話に出てきそうな名前ですよね」

8: ◆ODiSzNFjJk 2018/04/12(木)20:17:35 ID:uc8
飛鳥「………………」
 
飛鳥「………………」
 
飛鳥「…………あっ」
 
飛鳥「これ、読んだらマズっ……」
 
日記「でも、両親がつけてくれた大切な名前です。だから私は、この名前が大好きです」
 
飛鳥「ギィ……!」
 
日記「まあ、外国人と間違えられやすいのが玉に瑕ですけど」
 
飛鳥「くぅぅ!」
 
日記「あとあと、かわいすぎるニュアンスなのも」
 
飛鳥「ふーッ! ふーッ!」
 
飛鳥「……エクステがなければ即死だった」

飛鳥「……なんだこの、見る人を身悶えさせる内容は。ギャップ萌えで殺す気か」
 
飛鳥「まあいい、この際だ。最後まで読んでしまおう」
 
 ペラッ。
 
日記「BeHinD yOU.┓┏.」

9: ◆ODiSzNFjJk 2018/04/12(木)20:17:50 ID:uc8
 瞬間、二宮飛鳥は弾けるように振り返った。
 そこには、橘ありすの姿があった。だが、その様子はいつもの大人ぶる少女のそれとは異なっていた。
「見ましたね」
 瞳からハイライトが失せたその様子、見る人全てがぎょっとすること間違いなし。
 死期を悟った飛鳥は静かに十字を切った後、こう呟いた。
「ありす、安心してくれ。僕も、君の名前が好きだよ」
「ピイィィィィィ!」
 
おしまい