2: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:13:13 ID:bv4
小日向美穂主演のラブストーリーは、突然終局を迎えた。
汲んでも汲んでも汲みきれないように思われた、
恋の泉が空っぽになってしまったのだ。
そのことに対する戸惑いと年齢特有の、異性に対する潔癖に彼女は苦しんだ。
私、どうしちゃったんだろう?
以前まではあれほど熱っぽく見つめていた男の動作1つ1つが、
途轍もなくいやらしく感じてしまう。
冷めてしまった、と言えばそれまでのこと。
しかし小日向美穂にとって、これはアイドルを続けていく上で死活問題なのだ。
汲んでも汲んでも汲みきれないように思われた、
恋の泉が空っぽになってしまったのだ。
そのことに対する戸惑いと年齢特有の、異性に対する潔癖に彼女は苦しんだ。
私、どうしちゃったんだろう?
以前まではあれほど熱っぽく見つめていた男の動作1つ1つが、
途轍もなくいやらしく感じてしまう。
冷めてしまった、と言えばそれまでのこと。
しかし小日向美穂にとって、これはアイドルを続けていく上で死活問題なのだ。
引用元: ・小日向美穂「ラブストーリーは突然に」
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3: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:14:17 ID:bv4
彼女のアイドルに対する情熱の炎は、
大部分がプロデューサーに対する恋慕という薪をくべて燃え上がっていた。
それが消え失せた今、なにをたよりにして仄暗い世界を歩いてゆけばいいのか。
それがわからない。
わからないがゆえの苛立ちが、すべて男への嫌悪へと転じる。
徹夜明けの体臭、タバコの匂い、ちょっとした寝癖やネクタイの乱れ、
シャツのシワや、数秒にも満たない欠伸まで。
美穂は最低限仕事の伝達を行うだけで、プロデューサーと距離を置くようになった。
大部分がプロデューサーに対する恋慕という薪をくべて燃え上がっていた。
それが消え失せた今、なにをたよりにして仄暗い世界を歩いてゆけばいいのか。
それがわからない。
わからないがゆえの苛立ちが、すべて男への嫌悪へと転じる。
徹夜明けの体臭、タバコの匂い、ちょっとした寝癖やネクタイの乱れ、
シャツのシワや、数秒にも満たない欠伸まで。
美穂は最低限仕事の伝達を行うだけで、プロデューサーと距離を置くようになった。
4: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:14:37 ID:bv4
しかし、情熱の喪失を隠し通せるほど美穂は器用ではない。
表情が強張り、言葉には思いが籠らない。
仕事は次第に減少し、ただ家でぼうっとしている時間が増えた。
表情が強張り、言葉には思いが籠らない。
仕事は次第に減少し、ただ家でぼうっとしている時間が増えた。
5: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:15:15 ID:bv4
夜の9時、女子寮の一室。
美穂は「プロデューサーくん」と名付けた白いクマのぬいぐるみを抱きながら、
2人が出会ったときのことを思い返していた。
人並み以上のはにかみ屋で、ちょっと自分に自身がなかった頃の自分を、
プロデューサーは「可愛い」と言ってくれた。
今考えて見れば、馬鹿馬鹿しいほど単純に、彼女は男に恋をした。
アイドルになったばかりの頃。
恐ろしくて…世界のすべてが敵にしか見えなくなるような、
苦しい時もそばにいてくれて、声をかけてくれた。
そのことに対する感謝の気持ちはいまでも、失っていない。
美穂は「プロデューサーくん」と名付けた白いクマのぬいぐるみを抱きながら、
2人が出会ったときのことを思い返していた。
人並み以上のはにかみ屋で、ちょっと自分に自身がなかった頃の自分を、
プロデューサーは「可愛い」と言ってくれた。
今考えて見れば、馬鹿馬鹿しいほど単純に、彼女は男に恋をした。
アイドルになったばかりの頃。
恐ろしくて…世界のすべてが敵にしか見えなくなるような、
苦しい時もそばにいてくれて、声をかけてくれた。
そのことに対する感謝の気持ちはいまでも、失っていない。
6: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:15:43 ID:bv4
なのに、かつての慕情が湧き上がってこない。
自分がひどく薄情な人間になってように感じて、美穂は強く、
強く、ぬいぐるみを抱きしめた。
本当はプロデューサーのことを好きじゃなくなってしまう自分が、一番嫌。
じりじりと胸を焦がすような恋をしていたから、魂に火が灯っていたのに。
美穂は他のアイドル達のことを考えた。
彼女達は、どうしてアイドルを続けれらるのだろう。
みんなを笑顔にしたいから。
自分の魅力が、どこまで世界に通用するのか試してみたいから。
アイドル前の人生をひっくり返したいから。
お金がほしいから。
他人より上にいないと気が済まないから。
動機、理由は様々だが、美穂は途中で諦めたアイドルを知らない。
皆まっすぐ、自分の筋を通して道を皆走り続けている。
自己嫌悪に疲れ果てた美穂は、そのうち眠りについた。
自分がひどく薄情な人間になってように感じて、美穂は強く、
強く、ぬいぐるみを抱きしめた。
本当はプロデューサーのことを好きじゃなくなってしまう自分が、一番嫌。
じりじりと胸を焦がすような恋をしていたから、魂に火が灯っていたのに。
美穂は他のアイドル達のことを考えた。
彼女達は、どうしてアイドルを続けれらるのだろう。
みんなを笑顔にしたいから。
自分の魅力が、どこまで世界に通用するのか試してみたいから。
アイドル前の人生をひっくり返したいから。
お金がほしいから。
他人より上にいないと気が済まないから。
動機、理由は様々だが、美穂は途中で諦めたアイドルを知らない。
皆まっすぐ、自分の筋を通して道を皆走り続けている。
自己嫌悪に疲れ果てた美穂は、そのうち眠りについた。
7: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:16:08 ID:bv4
翌日女子寮を、美穂の母親が訪れた。
美穂は「連れ戻されるのではないか」と身構えたが、
ただ様子を見に来てくれただけだった。
親の優しさを、優しさとして迎えなかった自分が恥ずかしくなる。
それを紛らわすのと、疑問を解消するのを兼ねて、
美穂は尋ねた。
「お父さんのこと、愛してる?」
母親はちょっと困ったような顔をして、答えた。
美穂は「連れ戻されるのではないか」と身構えたが、
ただ様子を見に来てくれただけだった。
親の優しさを、優しさとして迎えなかった自分が恥ずかしくなる。
それを紛らわすのと、疑問を解消するのを兼ねて、
美穂は尋ねた。
「お父さんのこと、愛してる?」
母親はちょっと困ったような顔をして、答えた。
8: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:16:48 ID:bv4
お見合い結婚だったから、恋愛をする間もなく夫婦になった。
だから正直、男として愛してはいないけれど、夫としては信じている。
美穂は訳が分からなくなった。
その後、他愛ない会話をして、美穂の母親は帰っていった。
アイドル活動について何も聞かないでくれたことを感謝して、美穂は見送った。
手を振りながら、思った。
そもそも私は、どうしてアイドルを続けたいんだろう。
情熱が失くなってしまったのなら、辞めてしまえばいいのに、
必死でしがみつく口実を見つけようとしている。
思考の堂々巡りで、頭が痛い。
美穂は、誰かに打ち明けたい気持ちになった。
自分の今の感情を吐露しても、困惑せずに受け止めてくれる相手に。
だから正直、男として愛してはいないけれど、夫としては信じている。
美穂は訳が分からなくなった。
その後、他愛ない会話をして、美穂の母親は帰っていった。
アイドル活動について何も聞かないでくれたことを感謝して、美穂は見送った。
手を振りながら、思った。
そもそも私は、どうしてアイドルを続けたいんだろう。
情熱が失くなってしまったのなら、辞めてしまえばいいのに、
必死でしがみつく口実を見つけようとしている。
思考の堂々巡りで、頭が痛い。
美穂は、誰かに打ち明けたい気持ちになった。
自分の今の感情を吐露しても、困惑せずに受け止めてくれる相手に。
9: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:17:13 ID:bv4
美穂には親友がいる。
同じくアイドルの島村卯月。
特徴は、頑張り屋。それだけ。
それだけでアイドル界の壁を超えて、美城の看板アイドルになった。
性格は温厚で、人の言葉に真摯に耳を貸す。
美穂は出来ることなら、卯月に相談したかった。
しかし、自分の相談で彼女が思い悩むことを恐れた。
「それで暇そうに見えた私に声をかけた、と言うわけかい?」
東郷あいは、皮肉っぽい笑顔を浮かべて言った。
「いえ、あいさんなら恋愛経験も豊富そうで、何かわかるかなって」
「“恋愛経験が豊富”…褒め言葉として受け取っておこう」
ネクタイを緩めながら、
あいはカフェテリアの椅子に腰掛けた。
同じくアイドルの島村卯月。
特徴は、頑張り屋。それだけ。
それだけでアイドル界の壁を超えて、美城の看板アイドルになった。
性格は温厚で、人の言葉に真摯に耳を貸す。
美穂は出来ることなら、卯月に相談したかった。
しかし、自分の相談で彼女が思い悩むことを恐れた。
「それで暇そうに見えた私に声をかけた、と言うわけかい?」
東郷あいは、皮肉っぽい笑顔を浮かべて言った。
「いえ、あいさんなら恋愛経験も豊富そうで、何かわかるかなって」
「“恋愛経験が豊富”…褒め言葉として受け取っておこう」
ネクタイを緩めながら、
あいはカフェテリアの椅子に腰掛けた。
10: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:17:35 ID:bv4
「率直に言うけれど、馬鹿だよ」
「馬鹿?」
「そう、取り返しのつかないほどにね」
むっとした美穂に構わず、あいは続けた。
「私たちはずっとアイドルでいることはできない……。
それでも10年か、長ければ20年この世界にいることになるんだ。
そのパートナーを一時の生理的好悪で決めるなんて、無謀にもほどがある」
美穂は言い返すことができない。
正論である。
「馬鹿?」
「そう、取り返しのつかないほどにね」
むっとした美穂に構わず、あいは続けた。
「私たちはずっとアイドルでいることはできない……。
それでも10年か、長ければ20年この世界にいることになるんだ。
そのパートナーを一時の生理的好悪で決めるなんて、無謀にもほどがある」
美穂は言い返すことができない。
正論である。
11: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:18:08 ID:bv4
「心や価値観はころころと変わるし、なにより人は飽きっぽいんだ。
小日向君もよく知ってるだろう?」
そう、美穂もよく知っている。
一生ファンでいる、そんな風に嘯いていた人々が、
自分から離れていく様を嫌と言うほど見てきた。
「じゃあ、私はどうすればいいんですか?
これから、何を信じてアイドルをやっていけばいいのか…」
美穂は、震える声で尋ねた。
「アイドルを辞める気はないんだね」
「わかりません」
「……まあいいさ」
小日向君もよく知ってるだろう?」
そう、美穂もよく知っている。
一生ファンでいる、そんな風に嘯いていた人々が、
自分から離れていく様を嫌と言うほど見てきた。
「じゃあ、私はどうすればいいんですか?
これから、何を信じてアイドルをやっていけばいいのか…」
美穂は、震える声で尋ねた。
「アイドルを辞める気はないんだね」
「わかりません」
「……まあいいさ」
12: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:18:35 ID:bv4
あいは肩をすくめた後、どこか遠くを見るような目で、答えた。
「かつて本気で恋したなら、その時の自分を信じればいい。
“かつて本気で恋する価値があった”相手を、今度は信じてあげればいい。
プロデューサーは、君がいままでアイドルでいられるよう、
頑張ってきたんだから」
美穂は、はっとした。
17年間を父親、それ以上長い年月夫であり続けたひとだから、信じられる。
積み重ねた日々を、その日々こそを大切にして一緒に生きてゆける。
母親の言葉の意味が今、理解できた。
「かつて本気で恋したなら、その時の自分を信じればいい。
“かつて本気で恋する価値があった”相手を、今度は信じてあげればいい。
プロデューサーは、君がいままでアイドルでいられるよう、
頑張ってきたんだから」
美穂は、はっとした。
17年間を父親、それ以上長い年月夫であり続けたひとだから、信じられる。
積み重ねた日々を、その日々こそを大切にして一緒に生きてゆける。
母親の言葉の意味が今、理解できた。
13: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:19:30 ID:bv4
「私、プロデューサーさんに謝らなきゃ…」
駆け出そうとする彼女を、あいは一度引き止めた。
「“ありがとう”」
「え?」
「謝るんじゃなくて、ありがとう、って言うんだよ
彼にそう言えるのは、小日向君だけなんだから」
美穂は頷いて、“再び”、走り出した。
自分がアイドルを続けようとする理由が、ようやくわかった。
あの日々の美しさを、その時の気持ちを、無かったことにしたくないからだ。
プロデューサーさんに会いたい。
義務感や罪悪感ではなく心から、美穂はそう思えた。
駆け出そうとする彼女を、あいは一度引き止めた。
「“ありがとう”」
「え?」
「謝るんじゃなくて、ありがとう、って言うんだよ
彼にそう言えるのは、小日向君だけなんだから」
美穂は頷いて、“再び”、走り出した。
自分がアイドルを続けようとする理由が、ようやくわかった。
あの日々の美しさを、その時の気持ちを、無かったことにしたくないからだ。
プロデューサーさんに会いたい。
義務感や罪悪感ではなく心から、美穂はそう思えた。
14: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:19:53 ID:bv4
小日向美穂主演のラブストーリーは突然終局を迎えた。
それでも美穂は、プロデューサーと一緒にアイドルでいることを選んだ。
燃え上がるような恋慕の代わりに、小さな胸の温もりを携えて。
それでも美穂は、プロデューサーと一緒にアイドルでいることを選んだ。
燃え上がるような恋慕の代わりに、小さな胸の温もりを携えて。
15: 名無しさん@おーぷん 2017/07/28(金)00:19:58 ID:bv4
おしまい
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