紗枝「なんですのん、藪から棒に」
周子「なんか気になって。紗枝ちゃんっていつも飄々としてるし、怖いものなんてありませーんて感じやん」
紗枝「当たり前どす。いかなる時も自若たるべし、とお父はんは言うたはりました」
周子「そうは言ってもさー、お年頃の女の子なわけじゃん。なんか無いの? 幽霊とか妖怪とか」
紗枝「今更そないなもんに怯えとってどないしますの。そこいらの草や石を恐れる道理はあらしまへん」
紗枝「せや、かくいう周子はんは? あんたはんもお年頃のおなごやない」
周子「あたし? あたしはねー、えっとまんじゅ」
紗枝「『まんじゅう怖い』は通用しまへんえ?」
周子「うっ先手を打たれた……」
周子「……う~ん? そうだなぁ、強いて言うならまあ、襲ってくるようなんは大体怖いけども」
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3: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:35:05.23 ID:FyFtp3wP0
紗枝「妖し、幽(かそ)けしものは東京(ここ)にもまだまだありますえ。本所には七不思議いうもんもありますさいなぁ」
周子「それこそ。あたし慣れてるし、今更びびってらんないでしょ」
紗枝「ほぉ~。慣れたいうんは……」
周子「? なんでそっぽ向いて――」
紗枝「こぉんな顔のことどすかぁ?」ノッペラボウ
周子「のわぁっ!?」ビクーン
ポンッ!
紗枝「うふふっ、引っかかった引っかかった~♪」コンコン
周子「ぐぬぬ……このあたしがしてやられるとは……!」
4: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:36:16.29 ID:FyFtp3wP0
―― 女子寮
周子「ということで」
周子「これより『紗枝ちゃんは何が怖いか会議』を開きたいと思います」
小梅「急……だね……」
輝子「け、ケンカでも、したのか……?」
周子「まあそういうわけでもないんだけど」
智絵里「紗枝ちゃんを、怖がらせたいんですか?」
由愛「でも……どうして、そんなこと……?」
周子「ふふふ……ちょっと仕返しがしたくてね」
周子「やられっぱなしのシューコちゃんじゃないってのふふふふ……」
輝子「な、何かのスイッチが入ってる……な」
小梅「でも、面白そう……♪」
5: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:36:57.33 ID:FyFtp3wP0
アアデモナイ
~会議中~
コウデモナイ
6: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:37:52.00 ID:FyFtp3wP0
周子(かくして、いくつかのそれっぽい案が出た)
周子(あたしらはその全てを実際に試してみることにした)
周子(そう……全ては)
周子(紗枝ちゃんを怖がらせるために……!!)
7: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:38:32.94 ID:FyFtp3wP0
【案1:ゾンビ映画】
ヴァー
キャー!
小梅「こ、これ、ここから先が面白いの……♪」
紗枝「はぁ~、海の向こうにはこないなこともあるんどすなぁ~」
輝子「きょ、興味津々……だな……紗枝ちゃん」
紗枝「骸が動きはるいうんは、あちこちでよう聞く怪異やさかいなぁ」
小梅「ほらっ、ここのゴアシーン……っ♡」ゾクゾクゾクッ
紗枝「ほあぁ~、真っ赤っかどすなぁ~」
周子「普通に楽しんどる……」
智絵里「」ガタガタガタガタガタ
由愛「」ブルブルブルブルブル
8: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:39:35.22 ID:FyFtp3wP0
【案2:怖い話】
智絵里「……お爺さんは、その汁物を全部食べました……」
智絵里「そして言ったんです。おいしかった、これは何のお肉なんだい? って……」
智絵里「…………すると狸は言いました…………」
智絵里「お前が食べたのは、お婆さんの肉だって……!!」キャアアーッ!!
周子「……カチカチ山って冷静に考えたら結構ひどい話だよね」
紗枝「昔の狸は加減を知らへんのもおったて言いますからな~」
由愛「お婆さん、かわいそう……」グスッ
輝子「リーベンジ! リーベンジ!」ワイワイ
小梅「ぺいばっくたいむだ~……」ウキウキ
智絵里「あ、あれ? 怖い話になってない……」
9: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:40:20.35 ID:FyFtp3wP0
周子「ちなみに智絵里ちゃん的には美穂ちゃんってどうなん?」
智絵里「えっ? 大切なお友達だけど……美穂ちゃんはそんなに酷いことしないし」
智絵里「あ、でも、兎仲間に会わせるのはちょっと危ないかも。……まだ恨みを持ってる子もいるんだ」
周子(一番怖いのは兎ってオチやないのこれ)
10: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:41:21.07 ID:FyFtp3wP0
【案3:絶叫マシン】
ゴオオオオオオオオオオオオオ!!
輝子「ヒーーーハーーーーーーッ!!! 冥王星までブッ飛ばせェェェエエエエエエエッ!!!」
小梅「わ~~~~……♪」
周子「いえーい!! いけいけーーーっ!!」
紗枝「あ~~~~~れ~~~~~~~♪」
智絵里「あっあっあっ、あ…………おはなばたけ…………」チーン
由愛「み、みんな、大丈夫かな……」
由愛「私が乗ったら、泣いちゃいそうだから……あ、ソフトクリームおいしい……♪」
ゴオオー
ヒャッハー!!
11: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:42:20.90 ID:FyFtp3wP0
輝子「フゥ……フゥ……限界の先が見えたぜ……!」フルフル
小梅「た、楽しかったぁ……♪」
紗枝「たまにはこういうのもええもんどすなぁ♪」
周子「むぅ、普通に楽しんでもうた」
智絵里「」
周子「……てか智絵里ちゃん大丈夫?」
智絵里『うん、ぜんぜん大丈夫ウサ! 私ならばっちり平気ウサ!』
小梅「あ……魂抜けてる……」
由愛「えぇ……!? も、戻さなきゃ……!」
小梅「えいっ」ズボー
智絵里「ふんむぎゅ!」
12: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:43:49.21 ID:FyFtp3wP0
【案4:怖い絵】
由愛「それで、これはベクシンスキーの絵で……」
紗枝「ほうほう~」
由愛「こっちは有名な、ゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』……」
紗枝「あらぁ……」
由愛「これはシッカートっていう画家の、『切り裂きジャックの寝室』っていうんだけど……」
紗枝「ほほぉ~……」
由愛「こっちはマグリットの『恋人たち』って絵で、作者の背景を考えると……」
紗枝「ふむふむ~……」
13: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:44:45.43 ID:FyFtp3wP0
由愛「紗枝ちゃん、平気なんですね。私、見るだけで泣いちゃいそうになっちゃって……」
紗枝「ん~、おっとろしいんはそうなんやけど……」
紗枝「人の絵いうんは、筆を取りはった人間はんが何を思うてはったかとか……」
紗枝「その時の思想やら時世やらが、うーっすら見えてくるもんやないかなぁと思てましてなぁ」
紗枝「せやから、あんまし偏見は持たへんように気ぃ付けとるだけどす~」
紗枝「日本の地獄絵かて、その頃の人らがどないなあの世を信じてはったか、ようわかるもんやしなぁ」
智絵里(地獄絵図は怖いよぅ……)ブルブル
輝子(フヒ……少しならわかるぞ……カーカスのジャケットみたいなのだろ……)
小梅(あ、それギーガーがデザインしたやつ……私も好き……♪)
周子「なんか、思いのほかアカデミックな時間になっちゃったわ……」
14: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:48:41.73 ID:FyFtp3wP0
―― 後日 事務所
周子「う~~~~~~ん全部ハズレ。どうしたもんかなぁー」
紗枝「まだ気張ってはりますの? 人間、諦めが肝心どすえ~?」
周子「くっ、人間じゃない子に言われると悔しい」
ガチャ
芳乃「ただいま戻りましてー」
蘭子「魔王の帰還よ!」バァーン
美穂「ただいまー。これお土産、みんなで食べよっ!」
15: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:49:29.88 ID:FyFtp3wP0
周子「おー三人とも、泊まりのロケお疲れさーん。箱根だったっけ?」
芳乃「いかにもー。とても趣のある道行きだったのでしてー」
美穂「でも大変だったよぉ。楓さんと茄子さんが『我々は日本酒を要求するー』って」
美穂「お酒が来るまでお風呂を出ないって、裸の籠城作戦を始めて……」
周子「相変わらず自由が過ぎるわ年長組……」
蘭子「ふっふっふ……そしてこれは、我が同胞への冥府よりの贈り物よ!」
【剣に絡みついたドラゴンのキーホルダー】ジャジャーン
周子「お、おぉ……修学旅行で誰か一人は買ってるやつ……」
蘭子「そなたらに闇の龍神の加護を与えん!」フンフン
周子「まあ一周回ってお洒落かもしんないね。スマホにでもつけとくわー」
16: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:50:50.55 ID:FyFtp3wP0
周子「あ、こっち紗枝ちゃんのぶ……」
紗枝「こん」
周子「遠ッ! 遠いななんか! いつの間にそこまで行ったん!?」
紗枝「なんでもあらしまへん」
周子「いやなんでもないってことないでしょ。こっち来なよ」
紗枝「せやったらな」
紗枝「その、それをな」
紗枝「むこうへやっておくれやす」
周子「それ、って……」
【剣に絡みついたドラゴンのキーホルダー】ジャジャーン
17: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:52:52.93 ID:FyFtp3wP0
周子「紗枝ちゃん」
紗枝「……」
周子「ひょっとしてこれ? これが怖いの?」
紗枝「…………」
周子「どっち? 剣? 龍? 剣じゃないよねー多分」ズイ
紗枝「………………」
周子「そういえば蘭子ちゃんのノート、一部分だけ見ようとしないことが結構あったけどー……」ズズイ
紗枝「……………………」
周子「それはひょっとして、そこに怖いものがあったからとか?」ズズズイ
周子「ひょっとしてひょっとすると、それってこの超かっちょよくて細長い伝説上の生き物の~……?」ズズズズイ
18: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:53:38.25 ID:FyFtp3wP0
紗枝「こ」
周子「こ?」
紗枝「こーーーーーーーーんっ!!!」バシィーッ
周子「あいたーっ尻尾ビンタ!!」
紗枝「あ、あ、あかん~……っ! 遭うてしもうたらうち、百年目やぁ~~~っ!!」ダダッ
美穂「ええ!? さ、紗枝ちゃんどこ行くのー!?」
蘭子「迅速(はや)いっ!?」
芳乃「紗枝さーん、お待ちになってくだされませー。まってーーーーー」
19: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:56:53.42 ID:FyFtp3wP0
―― しばらくして
周子「まさか龍が怖かったなんてねー」
紗枝「うぅ……」
紗枝「なんやご先祖様がえらいおっとろしい目に遭わされたいうて、御家で語り伝えられとるんどす」
紗枝「うちもよう寝物語に聞かされました。龍はんはほんまにおっかないもんや、出くわしてもうたら百年目や……」
紗枝「見つかったら最後、頭からばりぼり喰われてしもうておしまいやて……はうぅ」プルプル
周子「……って言ってもなぁ、いるのかねそんなん。あたし見たことも聞いたこともないわ」
周子「あ、そだ。聞いてみよ」
20: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:58:19.55 ID:FyFtp3wP0
茄子「流石にいませんよ~」
周子「ほらやっぱり。メルヘンやファンタジーじゃないんだから」
紗枝「せやったらええんやけど……」
茄子「間違いありませんよ。マンモスさんやサーベルタイガーちゃんだってもういないんですから、ね?」
周子「えっ何そのカテゴリーなん? 昔はいたってこと?」
茄子「ちょっと前はニホンオオカミ君だったし、そろそろウナギちゃんも危ないかもですね~」
紗枝「うち、ウナギもヘビも嫌やわぁ……似てはるし……」
周子「まあまあいいじゃん、実物はいないってことなんだしさ」
周子「ところで寮帰ったら一緒にド〇ゴン〇ール見ない?」
紗枝「こん!」バシィーッ
周子「あいたーっ!」
21: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 22:59:31.31 ID:FyFtp3wP0
―― 後日 事務所
P「ふーん、そんなことがなぁ」
周子「そうそう。以降気を付けてちょうだいねー」
紗枝「こん……」
周子「そいえばプロデューサーさんは何か怖いものある?」
P「そうだなぁ……まん」
周子「『まんじゅう怖い』はナシね、被ってるし」
P「ぐぬぬ」
P「………………じゃ白封筒かなぁ」
周子「ガチな奴やん……」
P「まあ深くは考えないようにしよう……。あ、昼飯食うか? 奢るけど」
周子「おっマジ? 行く行くー、どっかおいしいとこあんの?」
P「ちょっと歩いたとこに美味いラーメン屋を見つけてな。紗枝も行くか?」
紗枝「らあめん、どすか? いつもはよう食わへんけど、たまには乙なもんかもしれまへんな~」
22: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 23:00:52.30 ID:FyFtp3wP0
P「おし、決まりだ。駅の向こう側にある『ラーメンDRAGON』って店でな――」
紗枝「こん」
P「遠ッ! どうした!?」
紗枝「うちな」
紗枝「やっぱりおそばがええ」
紗枝「らあめん、あかん」
P「なんでいきなり語彙力壊滅してんのこの子」
周子「ああお店の名前ね……」
P「それも地雷なのか……じゃあそば屋にするか。関西風のとこでいいな?」
周子「紗枝ちゃーん帰っといでー。一緒にきつねそば食べようやー」
紗枝「……♪」ススッ
P(寄ってきた)
周子(かわいい)
P「えっと最寄りのそば屋は、っと」
23: ◆DAC.3Z2hLk 2018/04/24(火) 23:01:56.43 ID:FyFtp3wP0
―― 街中
【生蕎麦 辰屋】デデーン
P「……辰」
周子「イコール龍……」
紗枝「こん」
P「ああっ! 紗枝!?」
周子「ちょ、どこ行くん! 待ちなってば~!」
コンッコンッコーンッ
~オワリ~
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