矢矧「いいわね………血が滾ってくる」

能代「島風の………あんな楽しそうな様子、久々に見たわ」

五十鈴「………少し、羨ましいわ」


 憧憬を滲ませる者もいる。


天龍「回せ回せ踏みまくれ!! 気合だ気合!! どっちも負けんじゃねえぞ!! ビビッてんじゃねえ!!」


 そして、ひたすらに檄を飛ばす者。


龍田「ほら、声出しなさい、声を!! 応援よ!!」

長良「うん!! がんばれーーーー!!」


 それは波となって、誰もが大声を上げた。


長波「島風ぇえええええ!!! 頑張れぇええええええ!!」

天津風「負けんじゃないわよ島風!! アンタ速いんでしょ!! 誰よりも速いんでしょ!!」

大淀「ゆ、夕張ーーーーーっ! ファイト! ファイトーーーーー!!」

引用元: 【艦これ】長良「なんですかそれ?」 提督「ロードバイクだ」 




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336: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/07(火) 23:57:18 ID:eDKasKBw

鬼怒「うぉおおおお!! パナイ!! ずるい! 鬼怒もやりたい! でも頑張れ! 今は気合いッ! 気合いだーーー夕張ーーーッ!!!」

瑞穂「っきゃ………きゃあああああ!! が、がんばって! どっちも!! がんばってください!!」

酒匂「ぴゃーーーーっ!! がんばれぇええええ!!」

川内「そうだっ! 水雷魂を見せろぉおおおッ!! どっちも負けんな!!」

摩耶「もっともっとアゲてけ、夕張!! 島風ぇ! ヘタってんじゃねえ!!」


 ――――夕張は、確かにその声を聴いた。

 その声は、もちろん島風の耳にも届いていた。

 遠いのか近いのか。

 大きいのか小さいのか。

 分からない。

 分からないけど、確かに聞こえる。

 それは確かに、応援だった。


 夕張――――と呼ぶ声がする。

 島風――――と呼ぶ声がする。

337: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:00:16 ID:TCcIKW4Q

島風「おぉぉおおおおおおおうッ!!」

夕張「らぁあああああああああッ!!」


 だから、返事をする。喉を掻き鳴らし、両足に力を込めて、加速することを応答とする。

 歓呼の声に雄たけびを返す。

 あ、と叫ぶ声がする。

 お、と応える声がする。

 赤熱する身体と思考に、更なる起爆剤が投下されたように。

 ますます熱く、激しく、鼓動は爆ぜて燃え上がる。

 だが、消えない。


 ―――隣を走る存在が、後方へ消えていかない。


 もはや、己を叱咤する余裕さえない。

 今や、ただただ、互いに互いを忌々しく思う。

 隣にいる者の存在が消えない。

338: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:04:40 ID:TCcIKW4Q

 さっさと後ろに下がれと思う。

 とっとと諦めて楽になれと思う。

 そうしなければ、自分が楽になれないだろうと。

 それは、憎悪ではない。似ているが、違う。

 戦いが終われば――――或いは、終わらずとも消えてなくなる類の、一瞬の感情。

 そして――――やはりその考えは、一瞬で消えてなくなる。
 

夕張(―――――知るか!! 勝ってから! 考えよう! そういうのは!! だって、凄く楽しいんだから!! 私! 今!!)

島風(全力、全速! 島風の! 最高の! 最速で! 勝つ!! 勝つのは――――私の速さだ!!)


 純粋に己の勝利のためだけに思考を費やす。

 それ以外の全ては邪念と切って捨て、強くハンドルを握りしめた。


 永遠を感じるほどの苦しみ。

 されど、終わりは近づいていた。

 体力の終わり。

339: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:05:48 ID:TCcIKW4Q

 気力の終わり。


 ――――そして、残りの距離もまた。

 最後のカーブに差し掛かる。


島風(直線で……全力。全力。全力。もうそれだけ頭にあれば、ほかはいらない。それだけ。今までも、今も、そしてこれからも―――)

夕張(自信なんてない。あるわけない。足が遅いって、言われた。言われ続けた。自分で自分に言われ続けて―――)

島風(―――わたしはわたしの、最速を信じる)

夕張(―――でも、もういやだ。誰に言われようと、もう自分で自分を見捨てるのだけは嫌だ)


 そうして、最後に縋るものこそが本質。



島風(島風の速さを、ここに改めて証明する――――!)

夕張(もう、もう二度と自分に失望したくないもの……!)



 どちらが勝つなどという話ではない。

340: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:08:54 ID:TCcIKW4Q

 自然と二人は、足を止める。並走したまま足を止め、コーナーへと進入する。

 カーブに対し、夕張は外側に。島風は内側に。

 コーナーを抜けるまで、およそ何秒あるだろう。

 五秒か? 六秒か?

 その時間を二人は、何に使う?


島風「すぅーーーーーー、はぁーーーーーーー、すぅーーーーー、はぁーーーーーーー……」

夕張「ぜっ、はっ、ぜっ、はっ、ぜっ……ひゅぅーーーーー、ふぅーーーーーー……」


 既に崩壊しかけている呼吸を、僅かにでも整える。ほんの僅かに活力が戻っていくのを感じる。

 互いの吐息すら感じ取れる距離。

 自然、互いに互いの意図を悟る。

 最後のカーブを抜け、ゴールまで、残り500m弱。

 極わずかとはいえ、それで追い風の恩恵が消える。

 風は建造物で遮られた。

 そして、残ったのは。

341: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:10:42 ID:TCcIKW4Q

 眼下にバイクが一台。

 地面の鼓動。

 心臓の鼓動。

 視線の先には、提督と、沢山の仲間達。

 隣には同じ鼓動を有する、待ち望んでいた好敵手が。


島風「――――」

夕張「――――」


 一瞬だけ、視線が絡んだ。


島風「ひ、にひ、にひひっ……」


 島風が笑う。


夕張「………は、あははっ」


 夕張は一瞬呆気にとられた顔をして、しかし笑い返した。

342: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:13:33 ID:TCcIKW4Q

 泣いても笑っても。

 これが、最後の――――。


島風(さぁ―――)

夕張(―――戦いだ)



 横にいる存在との。そして己との。

 もしも願いが叶うならば、己自身とは無論のこと。

 互いに前を向く。

 もう二度と、少なくともゴールするまで、互いに互いを見ようとして見ることはないだろう。

 しかし、心の中では強く二人は繋がっていた。



 ペダルを回す最後の一踏みの時に――――隣にいるこの恐ろしく速い存在よりも、1ミリでも前にいたい、と。

343: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:16:52 ID:TCcIKW4Q

https://www.youtube.com/watch?v=Pv3Tcy2cAmE#t=1m56s






夕張「元大日本帝国海軍所属―――――第六水雷戦隊旗艦、軽巡・夕張」


島風「元大日本帝国海軍所属―――――第二水雷戦隊所属、駆逐艦・島風」




 誇りある己の名に誓い、互いに拳を突き出した。

 こつ、とぶつかり合った音と感触が合図。



島風「こぉッ………」

夕張「っしィ………」



 共に前を向き、最大限に息を吸い込み、止める。

 それは、終末の平穏。

344: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:22:33 ID:TCcIKW4Q

 提督が、鎮守府の入り口に立っている。


提督「―――――」


 提督は無言で、己の足元を指さし、横切る。

 線を引くように。

 それで、察する。


島風(ゴールは………ゴールラインは!)

夕張(提督だ……!!)



 二人の両目が、にわかに光を帯びた。



明石「ッ………(な、なんで、こっちまで、息が、苦しく……?)」



 膨れ上がる緊張感を察した、観客たる艦娘達もまた息を呑む。

345: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:24:05 ID:TCcIKW4Q

 尋常ならざるものが、今からここに顕れる。

 その予感を、彼女たちもまた感じていた。

 かつてない速度が、来る。



島風「とッ………つげきぃいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」

夕張「ばっ………つびょぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」



 灼熱を孕む二陣の風が――――征く。

 昨日までの己を捕まえるために。

 最速に挑むために。


 互いにとっての理想――――アキレスに、勝つために。

346: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:27:33 ID:TCcIKW4Q

https://www.youtube.com/watch?v=xupFATmmdLI




 両者は同時に動いた。

 島風は中指を。

 夕張は親指を。

 バチンバチンと弾き、最大ギアへ。

 両足には、残るすべての力と想いを集約させる。



提督(ひでえ変速タイミング。ペダリングも、疲労のせいか無茶苦茶だ。駆け引きなんざどこにもねえ。なのに――――凄いな)


 猛烈な勢いで己に向かってくる二人を、愛おし気に見つめて、提督は思う。

347: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:30:50 ID:TCcIKW4Q

提督(なあ島風、なあ夕張よ――――今、みんながどんな顔しておまえら見てると思う?)

提督(あの扶桑と山城が、伊勢も日向も……子供みたいに目をきらきらさせてる)

提督(夕張よう。駆逐艦たちが、おまえの速度に魅せられてる)

提督(なあ島風。五十鈴や金剛なんか、どうして自分がそこにいないって嫉妬全開だ。おまえや夕張と競いたいってさ)



 憧憬、嫉妬、鼓舞。

 様々なものを一身に受けて、レーサーは走る。

 それができるならば。



提督(熱いレースを魅せたなら、そいつは最高の競技者だ)



 もう誰も、二人から目を逸らせない。

348: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:32:34 ID:TCcIKW4Q

 どちらも全力。全速。

 されど、先に飛び出したのは、



島風(右足、最大戦速ッ!! 左足、最大戦速……ッ!!)



 ――――島風であった。



長良「ッ………なんて加速……」



 激烈たる踏力が抵抗するペダルを力任せにねじ回し、爆発的な推進力へと変わる。



島風(合わせて、世界最速――――疾きこと、島風の如し!! です!!)



 輝く髪を靡かせて、黄金の風が走る。

 全てを置き去りにしてこそ、褒め称えられる世界へ向かって。

349: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:37:49 ID:TCcIKW4Q

島風(体中が、痛い、熱い、辛い、苦しい――――知ったことか! 私の身体でしょ!? ホントに、あとちょっとだから!! もっと頑張れ!!)


 あっという間に、夕張と数メートル以上の距離を引き離す。


五十鈴(――――島風の脚は……その瞬発力とシフトウェイトのバランス感覚は類を見ない。それだけの天賦を感じた)

天龍(………瞬間的な加速力において、島風に勝るヤツが果たしてこの先、艦娘の中に現れるかどうか)

龍田(ッ、やっぱり……島風ちゃんには……)


 先駆者たちは、この結果をある意味で、当然と受け止めた。

 ――――二人を、除いて。


長良(―――――まだだ)

提督(流石だ、島風。しかしおまえは知るだろう。今日ここで、明日以降も知るだろう)


 二人の視線は、島風の後方――――。


長良(速さには色々種類がある)

提督(島風………仕掛けるのが、少しだけ早かったな)

350: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:41:54 ID:TCcIKW4Q

 夕張にこそ、注がれている。


長良(夕張は体力づくりを怠ったことはなかった。運動能力測定の時に……中距離走で、いつも思っていた)


 その変化をいち早く察したのは、誰あろう――――彼女の前方を走る、島風であった。


夕張「ぅ、ぅううううううううう………ッ!!」

島風「ッ………!?」


 呻くような声に、ホイールのラチェット音が――――ある一定距離から、離れていかなくなった。


夕張(速さを、証明、する………私は、信じてる)

島風(ぐ――――こ、これ、って……!?)


 それは、ゆっくりと、しかし確実に。


夕張「おぉお………ッ―――――――――」

天龍「ッ、じわじわと、追いついて……!?」

351: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:44:00 ID:TCcIKW4Q

https://www.youtube.com/watch?v=A358-QODoI0





夕張「ッッシャアアアアアッ!!」

島風「ッ、お、うッ………!!」


 両者の距離が、縮まっていく。


夕張(いつだって遅い私についてきてくれた、私の――――)



 史実において航続能力に問題を抱えていた夕張は、スタミナを鍛えに鍛えた。その結果が、



五十鈴(………!! そうか……夕張! 貴女は海上じゃ出足は良くて、しかし航続能力に難があった)

龍田(体力面でも同じかと思ってた――――でも、本当は)

天龍(ッ、まさか……鬼怒と、同じタイプの)

352: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:45:54 ID:TCcIKW4Q

夕張「この―――――両脚を!!」

島風「………!!」


 ――――後発式。


提督(夕張の走りは―――そのスプリントは)

長良(後半から伸びるタイプ……!!)

五十鈴(ッ――――速い!)

鬼怒(――――ッ、パナイ)


 まだ伸びる夕張、対して速度の限界を迎え、少しずつ失速する島風。

 追う夕張。追われる島風。

 追われることの恐怖を、島風は知っている。

 追い続けることの苦しみを、夕張は知っている。

 知っていることを、互いに知っている。

 だから。

353: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:46:53 ID:TCcIKW4Q

夕張「るぅぉおおおおおぁあああああああああああッ、おぉおあああッ、おあああああッ!!!!!」


 ――――ここ、だ。

 その時、確かに夕張は己の極限を捉えた。島風と並んだと同時、それを自覚する。

 亀の甲羅を破り、理想のアキレスが夕張自身とリンクする。アキレスたる自分が、此処にある。

 そして越える。

 越えんとする。その道を捉えんと、一直線に。


 されど。


島風「っ、ぎ、だぁらぁあああああぁああああああああああッ、あああッ、ああああああッ!!!!!」


 その道をつけんとする存在に、更なる加速を以って立ちはだかるからこそ――――最速の艦娘。

 マイナスに向かっていた速度が、プラスの方向に伸び始める。

 己に並ばんとする夕張の速さに対し、これほどとは―――という動揺はない。

 それでこそ―――という感動だけがあった。

354: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:47:46 ID:TCcIKW4Q

島風(――――苦しさから解放されるためには、より苦しむしかない)


 伸び悩む己。

 頭打ちされる速度。

 もっともっと速く。そう願っても願っても、艦隊の速度に己を合わせる痛苦の日々が続く。

 それでも、島風は陰で走り込みを行うことを怠ることはなかった。

 それが、どれだけ辛いか。

 島風は知っている。過去の己を超えるため、己を置き去りにするために、どれだけの覚悟が必要か。

 島風は知っている。いつだって昨日までの自分は、今日の自分より遅いのだと。

 そう誓って、誓って、毎日誓って、走る。

 昨日までの自分を嘘にしないために、努力を続けることが、どれだけ辛いか。

 だからこそ島風は、夕張を心の底から尊敬する。その心根を、速さを求めんとする執念に。


島風(認める!! 夕張、あなたは、私の知ってる誰よりも速い!! この島風が、貴女の速さを保証する! それ、でも―――!)


 最速を体現する者――――その矜持において、速さで道を譲るわけにはいかない。

355: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:49:50 ID:TCcIKW4Q

 己が最速の駆逐艦であることを、島風はいつだって誇ってきた。


長良(ッ!? 島風……まだ、速度を上げるの……!?)


 引き離さんとする。島風は、夕張の道を塞ぐことはしなかった。このレース中で、一度たりともそれはしなかった。

 ただひたすらに一直線に。それが一番速いからだ。それが誇りだからだ。


提督(だよな――――かっこいいよ、島風)


 駆け引きなど、そこにはない。


島風(島風は、真っ直ぐに……己を、貫くだけ! 最速の保証は………それだけは!! あげないから!!)


 互いに必死だ。余裕などない。

 握りしめる下ハンドル。

 スタンディングで、全力でペダルを踏みしめる。

 夕張は踊る様に。

 島風は滑る様に。

356: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:51:33 ID:TCcIKW4Q

 どちらにとっても初めての――――されど一世一代のダンシング。


天津風「島風ッ! 勝ちなさいッ!!」

長波「負けんな島風ぇ!! 気合いだ気合い!!」

能代「島風ぇ!!」

五月雨「負けないでっ! 夕張さん!!」

如月「夕張さん!! 気持ちで負けたら、そこで終わりよ!!」


 途切れかける集中力が、声援に繋ぎ止められる。

 萎えかけた心に注ぎ込まれる熱量。限界を迎えた両足は、しかし速度を求めて更なる躍動を。


夕張(こんなにも、人の、他人の声が染みるなんて――――島風に勝って、私は、私は―――!!)

島風(理想の私は、最速の私はそこにいる!! 夕張に勝てば、私は、私は――――!!)



 そして。


 ゴールの時が。

357: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:53:51 ID:TCcIKW4Q



 ――――来た。




夕張「ッ………!!!」

島風「ッ、ッ、ッ………!!!」




 場が、静寂に包まれる。


 握りしめた両手の拳を、頭上に掲げ、引き絞る様に両脇へ引き込む。


 緊迫する空気を一撃で粉砕するような、勝利の絶叫を上げたのは、

358: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 00:55:06 ID:TCcIKW4Q




島風「ッ………しゃああああああああああああああああああああッッッッ!!」

夕張「ッ、そぉ…………ッ!!」



 世界最速の駆逐艦。

 最速を名乗る矜持を示し、


 ――――ここに改めて、最速の誇りを取り戻す。




……
………

359: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:05:29 ID:TCcIKW4Q

………
……



 蒼天を突き抜けるような、勝利の雄たけびを上げる島風。

 ハンドルに持たれるように項垂れる夕張。

 勝者と敗者。


長良「…………」


 その姿は――――長良には、酷く残酷なものに見えた。


長良「しれい、かん」

提督「………ん」


 胸中に浮かび上がる疑問を、吐き出す。


長良「―――――拳一つ分もない差だった、よ?」

提督「おまえがその拳一つ分の差で負けたら、同じことを言えるか」

360: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:11:07 ID:TCcIKW4Q

長良「っ、う………」

提督「その動揺が答えだ。それがレースだ。艦隊戦でMVP獲ったヤツと、獲れなかったヤツ。みんな頑張ったから全員同じ分褒める? そんな馬鹿な話があるかよ」

長良「そ、それ、は……」

提督「ここだけの話だ――――褒めてやりたいよ。俺だって。そんな馬鹿な話で、全員褒めてやりてえさ」

長良「え………?」

提督「みんなみんな、命懸けてやってたんだぞ。そりゃ頑張った奴は褒めるさ。一番成果上げたならそりゃ褒めるよ。でもな――――」


 誰一人、手なんて抜いてない。

 なのに、結果が違う。


提督「俺は、司令官だからな」

長良「ッ――――し、失礼しました!! 申し訳ありません!!」


 察しの悪い長良でも、その言葉で気づいた。司令官は、司令官なのだ。

 信賞必罰は良軍の証。それをないがしろにするのが、よりにもよってその長?

 そんなことは、有り得てはならない。

361: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:18:19 ID:TCcIKW4Q

提督「繰り返すが、ここだけの話だ。いいな。口外したら厳罰を下す」

長良「はっ!」ビシッ

提督「でもま――――これは俺の任務外だ」

長良「はっ………はい?」キョトン

提督「ま、そのうちわかる――――っと、島風ーーーっ!!」



 長波や時津風、天津風、雪風に子日―――そして軽巡や重巡にもみくちゃにされている島風に、手を上げて呼び寄せる。

 弾かれたように島風が、艦娘の群れの中から、ぼさぼさの髪の毛でよろめきながら―――ロードバイクを引いて、提督の前に現れる。


提督「――――見つかっただろ、新しい世k」

島風「ねえ、提督!」

提督「お、おう?」

島風「ロードバイクって、速いのね!!」


 久しく見る島風の、花咲いたような笑みだった。

362: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:22:09 ID:TCcIKW4Q

島風「提督、その………あ、ありがと!! 島風、もっと速くなってもいいよね!」

提督「そりゃあ、もちろんだ。夕張は、速かっただろう?」

島風「私の次に速い人は、絶対に夕張だよ!!」

提督「島風の、次か」

島風「うん! でも、明日は分からない! 絶対に、今日より速くなってるから! だから!」

提督「おう」

島風「島風は、明日の夕張よりも、ずっとずっと速くなるから! だから、負けない!!」


提督(く、はは……こいつは)

長波(昔の、島風だな……シンプルで、いつもニコニコして、楽し気で、誰彼構わず駆けっこの勝負を挑んでさ……鬱陶しかったけど……あの時は)


島風「って、あ………そ、そうだ、でも……」

提督「ん?」

島風「あ、あの、提督……こ、この、自転車……」


 おずおずと、提督の前に島風の乗車――――スペシャライズドの誇るエアロロード、ヴェンジ・ヴァイアスを差し出す、島風。

363: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:25:14 ID:TCcIKW4Q

提督「………」ハァ


 提督はため息を一つ、ポン、と島風の頭を撫ぜる。

 唖然とする島風に、いたずら小僧の笑みを浮かべて、言う。


提督「それはもうお前のものだ。おまえの、おまえだけの『特別』だ。さっきも言ったろ?

   ―――スペシャライズド・Sワークスのヴェンジ・ヴァイアスが、おまえの愛車だ。

   ロードバイクちゃんでもヴェンジ・ヴァイアスちゃんでも、好きに呼んで乗りまわせ」

島風「い、いいの?」

提督「ああ、もちろん」

島風「あ………!」


 くしゃくしゃの、泣き出しそうな笑顔で、島風は深く礼をした。


島風「ありがとうございます!!」

連装砲ちゃん【=w=】ペコリ

提督「おお、連装砲ちゃんもよろしくな」

364: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:27:15 ID:TCcIKW4Q

 そう言って、踵を返し、ひらひらと手を振る。

 提督のその背に――――島風が言う。

 いつもの調子で。

 昔の頃の、速さが大好きだった島風の声で。


島風「これ以上速くなっても知らないから!」

提督「―――――っ、ははは」


 なまじ海ばかり航行してきた彼女たちである。陸に興味が皆無だろうか?

 船体のままならばどうあっても陸を行くことはできないだろう。しかし今や彼女たちは人の身体を持っている。

 これからは、ずっときっと――――。


提督「よ、夕張」


 次いで、提督は夕張のもとへと歩みを進めていた。

365: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:30:03 ID:TCcIKW4Q

夕張「てい、と、く………」


 夕張は、泣いていなかった。


提督「夕張もご苦労だった。素晴らしい走りだったぞ」


 夕張は困ったような顔で、首を左右に振った。


夕張「は、はは、慰めは、いいですよ………相手が島風だったとはいえさ、遅れてスタートした子に……乗ったばかりの子に、引き分けじゃ……」

提督「おまえだって乗ったばかりだろう?」

夕張「でも……」

提督「悔しがることはない、なんて言わん。噛みしめろ。漫然と受け入れるだけじゃあ、次はない」

夕張「え………?」

提督「何もかも、全部搾りだせたか?」

夕張「それは―――――………うん」

366: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:35:11 ID:TCcIKW4Q

提督「心の奥に凝り固まったそれを根こそぎ洗い流したいなら、続けることだ。それが必ずお前にとっての宝になる」

夕張「…………」

提督「信じられんか? 慰めで言ったつもりはない――――今日のお前は、凄く速かった。速くて、カッコ良かったぞ」

夕張「ほんと、ですか?」

提督「俺だけじゃない。みんな、そう思った筈だ」

夕張「あ、あはは、だったら、結構………あ」

提督「ん?」

夕張「そ、そうだ。この自転車、私……勝手に」

提督「勿論、罰は受けてもらう」


 その言葉に、夕張はしょげるように肩を縮こませる。

 しかし、与えられるその罰の内容は―――。


提督「その自転車で、おまえの最速を目指せ」

夕張「…………え?」

367: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:36:57 ID:TCcIKW4Q

 それが、罰? 分からないという顔で、提督を見上げる夕張に、提督は意地悪な顔で問う。


提督「そのロードバイクの名前、知ってるか?」


夕張「え、あっ、あっ……そ、そういえば、よく見てもいなかったのに、私、見た目が気に入っちゃって……これ、なんて?」

    ビアンキ スペシャリッシマ・カウンターヴェイル
提督「BIANCHI Specialissima・CVという」

夕張「…………え? ス、スペシャリッシマ……?」

提督「イタリア語で『特別中の特別』って意味だ。ビアンキのフラッグシップ。最速を競うレースに挑む上での加速性能は言わずもがな、極限の振動吸収性能を備えたフレームだ」

夕張「え………これ、そんな、凄い、バイク……最後に、私が、頑張れたのって……」

提督「ソイツの力もあるだろうよ。あの島風を、あと一歩ってところまで追い詰めた」


 ――――提督が島風のヴェンジ・ヴァイアスと同時に注文した、もう一台。


提督「コイツをやるよ。島風とも違う、おまえの『特別』だ」

明石「カッコつけちゃって……もともと夕張にあげようと思ってたくせに」

夕張「え………?」

368: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:43:50 ID:TCcIKW4Q

 ヘルメットを脱いで、夕張はそれを胸に強く抱きしめた。


提督「バラすなバカ石」

明石「なっ!? あ、明石です!! そんな言われ方したの初めてですよ!?」

提督「……常識的に考えてみろ。バラしたらもっとええかっこしいだと思わんか?」

明石「あっ」

提督「だから明石はバカ石なんだ。きみはじつにばかしだな」

明石「なぁんですってぇ!?」


夕張(あ………シートポストと、サドル位置以外……ほとんど、調整、いらなかったのは……)


 答えに、行きつく。


夕張(それじゃ、このバイク、もともと……明石さんの言ってた、運命って、それは……)


提督「ゴホン………あー、まー、うん。なんだ、その、あれだよ」


夕張「ひゃい!?」

369: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:45:22 ID:TCcIKW4Q

提督「………」ポン

夕張「ふぇ……?」

提督「………よくやったよ、夕張」ナデナデ

夕張「わ、わ……ぁう……」カァア


鬼怒(きぬぅ!!)ズザァアアア


 姉妹どころか島風・夕張にさえ先を越された鬼怒の五体投地。コロンビアはこれから一体どうなってしまうのか。


夕張「わ、たし、提督に、酷いこと、言いました」

提督「言われたなぁ。ショックだったなぁ。大事な夕張を、当て馬になんかするかよ」

夕張「わ、わだ、わたし……き、嫌われたと、お、おもっで、で、でも、ていどく、この、バイク、わだじの、だめに、なのに、わだじ、ひどいごと……」


 鎮守府で、誰よりも足が遅かった。

 軽巡の中で一番チビで、運動神経もダメダメだった。

 徒競走ではいつもビリだった。

370: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:50:07 ID:TCcIKW4Q

提督「夕張みたいな頑張り屋のいい子を、嫌いになるわけないだろ……だから、それが罰だ。これからも、よろしくな」ポンポン

夕張(……あ、あ、まずい、まずいよ、これ……)


 涙が、こらえきれなくなる。頬の熱さが消えない。胸の高鳴りが、甘い痛みを発している。

 夕張に、速度の世界を見せてあげたかった―――優しい提督の想いが、伝わる。

 ――――最速と最遅。

 提督は対極の二人を、同じように愛している。

 そうして手を離し、去って行こうとする提督の背に、夕張は手を伸ばし――――。


五月雨「す、すご、すご、がっだ。すごがっだ、でず……!」

夕張「え……?」


 抱きしめられる。二人の駆逐艦が、自分の身体を左右から抱き止めていた。


如月「あの、島風ちゃんに、諦めないで、頑張ってて、はじっで、わ、わだ、わだじ……」

夕張「え………さみ、ちゃん? らぎちゃん……? な、なんで、ここに」

五月雨「提督から、メールで、みんなに……島風と、夕張さん、頑張ってるから応援してあげなさいって、だから、私、夕張さん、走ってて、一生懸命、頑張ってて」

371: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:52:23 ID:TCcIKW4Q

https://www.youtube.com/watch?v=vZsgTwMIbn0




夕張(あ、あ、だ、だめだ。これ、もう、だめ……)


 胸の奥に爆発物が投下されたような、一気に燃焼していく想い。

 こんな、こんなに想ってもらったら。もう、意識するしかない。

 その上、こんな、素敵なサプライズまで――――。



五月雨「夕張さん――――すっごく速くて」

如月「とっても、とってもかっこよかったわ!!」



 もう、それで崩壊した。

 夕張の両目に、涙があふれた。

 あ、とかすれた声が己の喉から漏れた。もう、それで一切合切の我慢が利かなくなった。


 夕張は泣いた。大声で泣いた。赤ん坊の産声のように、何にはばかることなく。

372: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:53:17 ID:TCcIKW4Q

 悔しさがあった。悲しさがあった。

 だけど、それだけじゃなかった。


 一番欲しかった言葉が、雨あられと降り注いでくる。

 万雷の拍手が、己の速さを讃えてくれる。


 それがとても嬉しかった。


 だから。

 嬉しさも悔しさも噛みしめようと、そう強く思った。

 今度は勝ってこの言葉を貰いたいと、そう強く願った。

 この『特別』な、ロードバイクと共に。

 もっと、もっと、遠くに。

 より速く。

 

……
………

373: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:58:03 ID:TCcIKW4Q

https://www.youtube.com/watch?v=7VzzpzGleHI




【4.二人の特別~アキレスと亀~】

【失敗!】


【4.『特別』と『特別中の特別』~アキレスとアキレス~】


【大成功!!】

【続く!】

374: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 01:58:45 ID:TCcIKW4Q
********************************************************************************

島風型駆逐艦:島風

脚質:スプリンター

 ――――疾きこと島風の如し、です!
 その言葉に違わず、最上級のスプリンターとしての脚質を持つ。未来予測に等しい勘の良さを持ち、反応速度が鎮守府最速。
 惜しむらくは駆逐艦であるため、体重とパワーを生かしたペダリングは重量級スプリンターに劣る。パワーウエイトレシオという法則から逃れられるものはいない。
 ――――そう思っていた時期が、提督にもあった。島風の速度に対する思いを過小評価していた己を恥じる。
 島風には多くの武器がある。抜群のシフトウェイト。ペダリングスキル。超反射。筋肉の柔軟性からくる深い前傾姿勢。爆発的な加速力。
 動力確保のためにバイクを引き付けるようにして足を回すスタイルで、戦艦すら凌ぐ速度を絞り出す秘訣が、この上半身の使い方が上手いため。
 並のスプリンターには影すら踏ませない。高いケイデンスを維持しつつ一踏み一踏みに己の全体重を効率よく乗せる。
 独特なバイクを振らないダンシングは、往年のマーク・カヴェンディッシュを彷彿とさせる。敵のアタックは発動した瞬間に即潰す。
 小柄と言っても駆逐艦内では一二を争う高身長のため、駆逐艦内では文句なしの最速スプリンター。
 駆逐艦故の軽さも持ち合わせているため、短い登りならそこそこ走れる。が、あまりにスプリントに特化した脚質の為、持久力に乏しい典型的なスプリンターの欠点を持つ。
 加速力においては群を抜いており、ゼロ発進から一秒待たずにトップスピードに乗るほどで、鎮守府でも最高の加速力を誇る。
 チームでスプリントポイントを狙う場合、発射台無しで後発単独発射しても五車身はつけて獲る怪物クラスのスプリンター。放っておいても勝手に勝つタイプ。
 その速きこと島風の如しの呼び声と、風に靡く髪から、ついた異名は『黄金の風』。
 最速を目指す駆逐艦たちの前に立つ、決して避けて通れぬ風として立ちふさがる。

使用バイク:SPECIALIZED S-Works Venge ViAS Di2 SATIN PROJECT BLACK
 世界最速を目指すためのエアロロード、アメリカのスペシャライズド・SワークスのヴェンジヴァイアスDi2だよ!
 名前も見た目もかっこいいでしょ? コンポが電動だから変速がはっやーい!!
 だけど見た目だけじゃないんだよ! SPECIALIZEDって特別って意味なんだ!
 たーまっく、っていうのと迷ったみたいだけど、最速に挑むこのバイクは島風にこそ相応しいって、提督が選んでくれたんだよ!
 そのスペシャライズドの中でも特別中の特別のエスワークスに乗る島風はとびっきりの特別! だって速いもん!
 こんなすごいのをくれるなんて、これ以上速くなっても知らないんだから!

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375: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 02:03:25 ID:TCcIKW4Q
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夕張型軽巡洋艦:夕張

【脚質】:スプリンター?

 ―――最速を証明する! 私の、自慢の! この両脚で!!
 後発型のスプリンターで、じわじわと伸びていくスプリントを得意とする。軽巡で一番背が低く軽い体格から、今後の訓練次第でいくらでも脚質は変化する。
 島風とのスプリント勝負に敗北してより、一念発起。
 才能はちょっぴりのスプリント能力だけ。その能力をどう伸ばしつつ、他の苦手を、大理石から彫刻を作り出す芸術家のように丹念に削り上げるか。
 それが現在の課題である。

【使用バイク】:BIANCHI Specialissima CV
 私のバイクは、ハイモジュラスカーボンモノコックフレームにカウンターヴェイルを採用した、ビアンキ・スペシャリッシマ・カウンターヴェイルよ!
 そう! かつてグランツールを達成したフェリーチェ・ジモンディの愛車の名を冠した、特別中の特別なバイクよ!
 実験巡洋艦としてはあるまじき考えかもしれないけれど、見た瞬間にビッと来たわ。運命感じちゃった。
 贔屓目あるかもしれないけど、凄くいいですよコレ。振動吸収性が、並のコンフォートモデル以上! ホントに段違いなの!
 装備も色々試してみたけど、ポジション出しした後はステム一体型のハンドルでチネリのラム3がしっくりきたわ。
 サドルはやっぱり軽量化重視で、比較的乗り心地が良かったセライタリアのSLR・テクノね。
 コンポはカンパの電動スパレコ。シフト時に気持ちごと切り替わる感じが心強いの。
 ホイール? ホイールは、うーん……こればっかりはね、コース次第で使い分けよね……そうね、お気に入りは結構あるわよ?
 まあ、純粋な登坂の性能だけ見ればレイノルズのエアロ46の方が……あ、クリンチャーね。そっちの方がいい感じ。
 平地重視で総合力も意識するなら、文句なしでジップ・404かな。高速巡航性能がダンチよ。
 体感的にちょっと重さを感じるのがマイナスね。加速力不足な感じがして、スピードがノるまで遅い感じがするかな??
 乗り心地の面や総合的な使い勝手を考えると、ボーラウルトラ2って感じかしら。
 あっ、でしょでしょ? さっすが、分かってる!
 ね、ね、ね、次は提督の番ですよ。提督のロードバイクの話、いっぱい聞かせてね!

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383: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 21:48:22 ID:TCcIKW4Q

【4.1 提督道はシグルイなり】


長良「良かったね……島風も、夕張も……ちゃんと自分の誇り、見つけられたんだ」


 熱くなるレースを観戦した長良は、満足げに笑みを浮かべて、同意を求めるように天龍や五十鈴たちに振り返る。

 しかし――――。


天龍「………さて、龍田、五十鈴、大淀」

龍田「うん」スクッ

五十鈴「ええ」スクッ

大淀「はい」スクッ


 彼らの表情は、何故かこれから戦場へ赴く戦士のそれであった。


長良「え?」


 訳が分からない、という顔の長良。

 ―――まさかレースの熱に当てられて、これから自分たちもレースをするのか?

384: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 21:50:25 ID:TCcIKW4Q

 そんなことを思いつき、「あ、それも悪くないかも」なんて能天気なことを長良は思っていたが、



天龍「――――逃げるか。俺と龍田は第六駆逐隊を」

龍田「はーい」

長良「え?」


 疑問の声を上げる長良だったが、天龍と龍田はガンスルーで動き出す。


五十鈴「私は妹たちと、このダメな姉を」

大淀「私は念のために、金剛さんたちに改めて声をかけてきます」

長良「え、え、え?」


 テキパキと動き出す彼女たちに、当惑する長良。

385: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 21:52:41 ID:TCcIKW4Q

 その長良に、


五十鈴「はぁ、やっぱり………長良、あんた、スマホは? メール来てるだろうから、ちょっと読んでみなさい?」

長良「え?」


 呆れた顔で五十鈴が言う。

 言われるがままにスマホのメールソフトを立ち上げ、メールの着信を確認する。

 1件の通知――――提督からのメールを開き、本文を読む。

 そこには、


長良「」


 それで、長良もまた全てを悟った。


 ――――これから、この鎮守府は地獄の業火に包まれるのだ、と。



……
………

386: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 21:56:26 ID:TCcIKW4Q

………
……



 泣きじゃくる夕張を抱きしめて慰める、五月雨と如月。その三名に惜しみない拍手を送る艦娘達。

 そんな光景に、明石が涙ぐんでいると。


提督「…………………さて、と」ガシッ

明石「ひょ?」


 唐突に提督に襟首をつかまれて引きずられる。

 明石は、戸惑った。


提督「さあ、約束の時だよ、明石くん。――――地獄に行こうぜ(裏声)」ズルズル

明石「えっ、えっ………えっ?」


 地獄開始。


 一体何が始まるというんです?

387: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:00:59 ID:TCcIKW4Q

提督「ロードバイクの組み立ての練習をしたいと俺に申し出た艦娘がいてな」ズルズル

明石「え?」


 本館の影―――他の艦娘達の視界から隠れる位置にまで明石を引きずった提督が、唐突に話を始めた。


提督「俺は二つ返事で、そいつにロードバイクを二台預けたんだ」

明石「………え?」

提督「練習がてらってこともあるし、その二台をプレゼントしようとしてた艦娘は、その申し出をしてきた艦娘が恩人でもあるし、いいプレゼントになるだろうと思ってな」

明石「…………そ、それって」

提督「まあ見事な完成度だったよ。申し分ないよ。文句のつけようのない組み立てだったよ」

明石「え、えへへ。そこまで褒められると、流石にテレて―――」


提督「――――俺の許可なく、夕張に試乗させたりしなけりゃホントにパーフェクトだったのにな」シャガッ


明石「」


 明石は、提督が何を言いたいのか、次第にわかってきた。

388: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:03:07 ID:TCcIKW4Q

提督「おまえは聞いたな? さっき俺にこう聞いた――――確かに聞いた。『どこまで読んでいるのか』と。

   教えてやるよ……おまえから電話が来て、大体のあらましを聞いたところでもうこの絵面が見えてた」

明石「あ、あの……それで、なんで私をこうして引きずってきたお話と、今のお話になるんです? 提督、積極的に島風ちゃんと夕張ちゃんにレースさせようとしてましたよね? ご自分で?」

提督「はっはっは……おまえの脳味噌には虫でも涌いてんのか? あそこで俺がゴリ押ししてレースさせず、なあなあのままに止めたらどうなってた?

  ええ? セラピストの資格も持ってる明石さんよぉ……?」

明石「」


 プライドをいたく傷つけられた島風は走ることをやめていたかもしれない。

 鈍足がコンプレックスとなっていた夕張は、ますます自信を喪失していたかもしれない。

 そう、かもしれない、だ。

 しかし、提督には確信があった。

 そして明石も思い至る。

 ――――これ、あかんやつやと。


提督「島風も夕張も、姉妹艦がいない。ある種の問答無用で繋がってる縁ってやつを―――絆ってのを求めてることは、お前も知ってるだろう? 知らんと言ったらおまえの頭をスパナで修理する」

明石「」コクコク

389: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:05:33 ID:TCcIKW4Q

提督「その心の空白を、島風は駆けっこや速度への誇り、夕張は機械弄り・兵装実験っていうもので埋めていた。そうだな?」

明石「は、はひ……」

提督「しかし島風の速さは突出しすぎた。天津風も速いが、それでもだ。あいつは一緒に走れるライバルが欲しかった。

   それを絆としたかったんだよ。切磋琢磨したかったんだよ。だけど、島風は速くなり過ぎた。

   走ることの楽しさを見失いかけ、誇りも忘れそうになっていた。

   なあ? 島風が昔、俺になんて言ってきたと思う?

   『―――どうして、島風には妹やお姉ちゃんがいないの?』

   島風だってそれがどうしようもない我儘だって自覚してたんだろう……すぐになんでもないよって、健気に笑ってたよ。泣きそうな顔で笑ってたよ。

   それを物陰で聞いてた天津風が飛び出してきて、泣きながら『あたしがアンタのお姉ちゃんよ!』って島風を抱きしめてな……島風がわんわん泣いてな……。

   俺ぁ自分の無力さに、自分の頭を叩き割ってやりたくなったね」

明石(´;ω;`)ブワッ

390: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:09:02 ID:TCcIKW4Q

提督「夕張は己の足の遅さをずっとコンプレックスとしていた。逃避からか、機械弄りに没頭した。あくまできっかけだ。

   その後は、もっと速度を上げる兵装が作れないかとか、より軽量化して鈍足が解消できないかとか、一生懸命に機械工学を学んだ。

   脚が遅くてもちゃんと艦隊の役に立てるような強力な兵装の実験に、協力は惜しまないって……。

   さて、質問だよばかしくん――――そんな夕張や島風の相談に乗ってたのは、俺とどこの誰だったっけぇ?」










\  ヽ  |  /  /
 \ ヽ | /  /
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_ ば か し で す _
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391: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:10:59 ID:TCcIKW4Q

提督「大戦が終わってからも毎日毎日走り込んで、しかし運動測定ではいつもビリで、陰で泣いてたことも知ってる。

   本当にいい子だよなぁ……みんなが遅くなればいいとか、人を貶めるようなことや恨み言を、一回も言わなかった。自分が遅いのが悪いんだって。

   先月のことだよ……俺との面談でな……今期の目標はなんだって話をしてな……夕張の奴、なんて言ったと思う?

   『いつか足が速くなって、みんなと一緒に同じ速度で走りたいなぁ』って、消え入りそうなぐらい儚い笑顔で溢してたんだよ。

   その後、夕張が退席してから超泣いたよ俺」クッ


明石(´;ω;`)ブワッ


提督「だからロードバイクプレゼントするにあたって、真っ先に欲しがる子は島風と夕張だと思ってたのさぁ……だから真っ先に用意したのさぁ……長良が先に興味持ったのはイレギュラーではあったがなあ……」

明石「」

提督「それをよぉ……あんな形でプレゼントすることになってよぉ……誰かさんのせいでね!」

明石「」

提督「俺がさっき言ってた保険ってのはなぁ……応援要員という意味もあるがね?

   仮にボロックソに夕張、ないし島風がレースに負けた時のフォロー要員を呼ぶことが最大の目的だったんだよ……?

   夕張の場合は五月雨に如月……仮に島風が負けてたら、天津風を始め、長波や時津風らが慰めてた。もちろん俺も全力でペラ回して慰めたさ」

392: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:13:20 ID:TCcIKW4Q

 しかし結局は、島風の心の炎に焚きつけられて、夕張もまた己に自信を得る結果に繋がったというわけである。

 が。


提督「しかしこの保険ってのは、俺にとって自爆なんだよ。言ったよな? 何故だと思う? 明石? これが、俺がおまえを引きずって、こんなところで内緒話してる理由だよ」

明石「え、え、え……?」

提督「ヒントをやろう……多くの艦娘に、あのレースを目撃させた。これがマズい」

明石「え……? そ、それの、何が悪いんです……?」

提督「――――ただでさえ速度やら強さやらを気にしてる艦娘が、あのレースを見ておめでとう凄いね速いね感動した! めでたしめでたし、で終わると思うか」

明石「…………お、終わらないんですか?」

提督「馬鹿言っちゃいけねえよ。俺はおまえらを見縊っちゃあいないが、過大評価もしていない」

明石「つ、つまり?」

提督「………おまえらああいう目に見えて派手で速いもの好きだろ。どいつもこいつも。大人しそうな顔してる奴ほど好きだろ」

明石「は、はぁ……?」


 特に特型は顕著である。虫も殺さぬ顔をして、実質は仏の三度目の顔に近い。

 海の上では誰も彼もが鬼神と化す。

393: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:15:30 ID:TCcIKW4Q

提督「察しろよ………では明石よ。あいつらがこれからどうすると思う? 流石に分かるだろ?」

明石「それは――――…………ま、ましゃか」




 事ここに至り、明石もまた察した。

 この鎮守府は、




提督「――――ロードバイク強請ってくるに決まってんじゃねえか。それも一斉に。百を超える艦娘たちが、一斉に――――俺に」




 地獄と化す。



明石(^q^)

提督「今はレースの熱に当てられて興奮しているが、やがて冷静になった時、あいつらはふと気づくんだよ。内なる獣が吼えるんだ」

394: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:17:22 ID:TCcIKW4Q


提督「―――あるぇ? おかしいなぁ? どうして自分たちはロードバイクを持っていないのかなぁ?(裏声)」

明石「」

提督「提督の手違いかなぁ? 落ち度かなぁ………ねぇ、ていとくぅ……ロードバイクどこ?(裏声)」

明石「」



 提督は七色の声を持っている。軽空母の呑兵衛ども相手の宴会芸では鉄板の爆笑ネタだ。

 多くの艦娘達にも大ウケしてる持ちネタでもある。

 だが、今の明石にはまるで笑えなかった。



提督「………といった具合だろうよ。どうして人は争うんだろうねえ?」

明石「………ほ、欲しいから?」

提督「はっはっは――――わかってんじゃねえか(真顔)」

395: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:18:37 ID:TCcIKW4Q

提督「たまに物事の確信ズバリついてくるよな。そーだよ、その通りだ。欲しいからよ。欲しけりゃ奪うんだ。基本だ」

明石「で、では、彼女たちはこれから……」

提督「その感情の矛先は、一斉に俺へと向けられる。そして俺に言う。ロードバイクをここに出せと。俺に魔法を見せろというんだよ。

   そして俺は魔法使いじゃないから、魔法のようにあいつらの前にロードバイクを人数分出すことはできん」


Q.いくぞ提督、ロードバイクの貯蔵は充分か。

A.全然足りません。


提督「でもやれっていうんだよあいつら。ゼッテー言うよ。テクマクマヤコン? チンカラホイ? リリカルトカレフ? I am the bone of my sword?

   ふざけんなこちとらすでに明石ィ! てめえからクルーシオ喰らってんだよアバラケダブラ喰らわすぞ」

明石(あ、提督、これ、かなり混乱してる。これ焦ってる時の口調だ)

提督「明石よ……今こそおまえの秘められた改二の力を覚醒させて、あいつらからロードバイクに関する記憶をオブリビエイトするんだ。もしくは記憶改竄のギアスでも可だ」ガッ

明石「無茶言わんでください!?」

提督「頼むよ、明石。おまえだけが頼りなんだ(裏声)」

明石「そ、そんなイケボ+キメ顔で言ったって無理ぃ!! っていうか、か、顔、ち、近いですぅ!!」

396: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:20:55 ID:TCcIKW4Q

 顔を真っ赤にしながらも、明石はその光景を脳裏に思い描いた。

 自動筆記めいた速度で描かれたのは――――地獄絵図である。

 なんせ大戦時、この鎮守府はとんでもない戦果を上げ続けた。

 その作戦指揮を執り、命じたのは提督だが――――実際にその構図に線を引いて形としたのは彼女たち艦娘だ。その強さたるや凄まじいものがある。


提督「よしんば戦艦や空母、重巡は一部を除いて精神的に大人びてるから自重するとしても、一部の軽巡や駆逐艦らが待つと思うか? 大人しく? ハハッ、ナイスジョーク。ここはいつからそんな天使のみが住まう楽園になった?」

明石「………」


 明石が脳裏に描くのは、暴れるだろう艦娘のリストだ。

 多分、重巡クラスだと足柄や摩耶もブチ切れるし、空母あたりじゃ瑞鶴や隼鷹、千代田あたりが暴れまくる。

 彼女たちはまだいい。カウンター的な存在がいるから抑えられるだろう。

 だが、睦月型とか特型とか陽炎型とか白露型とか初春型とかとにかく駆逐艦娘は無理である。

 抑え役が抑え役として機能していないのだ。

 数が多すぎて軽巡らも手が回らない。それどころか球磨型と川内あたりは便乗して暴れる。

397: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:21:46 ID:TCcIKW4Q

提督「こういうとき、メチャクチャ頼りになる天龍と龍田、五十鈴や大淀には今回は期待できんし?

   だってあいつらロードバイク持ってること、みんな知ってるもんな!! 抑えようとしたって『自分が貰ってるからって』って理論になるよ! 説得力ねえよ!

   つーか先行してロードバイク与えたヤツらにはこれからロードバイク乗ってサイクリング、もとい大逃げカマす指示を、別途メール送ってるし?

   青葉は今日、衣笠と古鷹・加古を連れて試乗会に行ってるから、そのまましばらく帰ってくんなってメールも出したし? わあ、俺ってば超艦娘想いの提督の鑑ぃ~!」

明石(テンパッてるテンパッてる)



 実際のところ提督は超有能であったが、自分から地獄へ突っ込んでいく類の苦労人であった。



提督「海外艦のほとんど……ろー以外は長期遠征に出てるタイミングなのが不幸中の幸いだ……ビスマルクやローマあたりはゼッテー怒る。間違いなく怒る」ユーレル

提督「鉄血のオリョクルズはまためんどくせえ感じの落ち込み方するだろう……」マーワル

提督「全部パァだ………皆が一斉にリクエスト出して来たら、俺でも対応できん……だから少しずつ浸透させようと思ったのに……」フルエル

提督「刺激少な目に、押しつけがましくなく、興味持った子から自主的に広がっていけばいいなーと思ったのに……」セーツナーイキモチー


 提督はとうとう頭を押さえて、三次元的にのたうち回り始めた。

 解放された明石も責任を感じてるのか、覚悟を決め始めた。

398: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:25:10 ID:TCcIKW4Q

明石「れ、レース、見ちゃいましたもんね。しかも、あんなに熱いの……」


 誰だって興味を持つ。

 駆逐艦たちは頬を紅潮させて、手に汗握って応援した。

 軽巡も声を張り上げて大興奮していた。

 重巡も、空母も、水上機母艦も、潜水艦も、誰も彼もが魅入った。

 戦艦たちだってそうだ。大和や武蔵さえ目をくぎ付けにされたのだ。

 まして提督からプレゼントされるとあれば、欲しがるのは必然となる。


提督「まあ、明石よ。君にも悪気はなかったのは分かるよ。分かるんだけど、俺に未許可ってのは越権だよなぁ? 罪は罪だから罰として、ごめんな?」

明石「は、はい……みんなを一緒に、説得しに行きます。もちろん、望むところです」


 そして明石は自分の仕事に責任を持てる大人だった。


提督「そうか……だが」

399: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:29:07 ID:TCcIKW4Q

 ひとしきりのたうち回って冷静さを取り戻した提督は立ち上がり、キメ顔でこういった。

 否、本人はキメ顔のつもりだったらしいが、


提督「実は、これからロードバイクフレームがいっぱい届くんだぁ」ガタガタ

明石「この事態を想定してですか!? あんた有能にもほどがあるでしょ!?」


 その顔は死人のそれだった。

 なお、流石にこの事態を想定してのことではない。想定してたら既に完成車を艦娘の数だけ用意している。

 先々週の話である。金剛型や長良型のロードバイク発注が相次いだため、今後も増えていくことを予想した提督。

 しかし仮に10~20を超える艦娘が一斉にロードバイクを頼みに来たら対応しきれないと踏んだ提督は、一計を案じる。


提督『あ、そうだ……ロードバイクフレームを50本ほど注文しておこう。鎮守府共用の試乗車にすりゃいいんだ』


 明石のロードバイク組み上げの練習にもなるだろうし、整備に興味を持つ子もいるだろうから実演して勉強会でも開こう。

 バラで注文しておけば無駄にはならないし、既にロード乗りの艦娘のフレームが、最悪破損した際のスペアバイクとしても活躍する。

400: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:30:03 ID:TCcIKW4Q

提督『全部バラ組みでいっか。時間は一杯あるもんな』


 そんな天使のような心で、二週間前の提督は子日よろしく、


提督『再来週は、どんな日が来るかなぁ』ウフフ


 夕張と島風にロードバイクをプレゼントして。

 整備に興味を持った夕張と一緒に楽しくバラ組みして。

 他の艦娘達なんかも一緒にキャッキャウフフと笑いながら素敵なロードバイク生活が来る。



 ―――そう思っていた時期が、提督にもありました。



提督「だから……今から俺と一緒に、ロードバイクを組もうぜ? なあに、たったのバラ組み50台ぐらいだ」シャガッ

明石(目が死んでる……)


 ふたを開ければ地獄であった。

401: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:31:59 ID:TCcIKW4Q

 そして、運がいいのか悪いのか、そのフレーム50本をはじめ、コンポ類やホイール、各種パーツが届くのは――――今日の12時である。

 今は午前10時35分。つまり。


提督「明石よ。とりあえず、あと一時間半、俺と一緒に生き延びることだけ考えよう」

明石「」チーン


 放心する明石を俵抱きした提督は、執務室へと駆けた。スニーキングスーツを取りに。

 ――――俺と一緒に地獄へ行こうぜ。

 それは比喩表現ではなかったし、決してプロポーズなどではなかった。

 提督が全力ダッシュする振動を腰のあたりに感じながら、明石はそんなことを考えていた。


明石(ま、まあ……提督と二人っきりで、一緒にロードバイク整備っていうのも……うん、ある意味役得だし? 辛いだろうけど、頑張ろ)ニヘ


 あまり反省の色がない明石であった。
 


……
………

402: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:33:07 ID:TCcIKW4Q

【4.1 提督道はシグルイ也】


【(ある意味)大失敗!!】



【4.1 明石の(ある意味天国)整備地獄】


【大成功!】


【続く!!!】

403: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:37:44 ID:TCcIKW4Q

>>258 遅くなってごめんね。IDの末尾がAだから、あきつ丸に応えてもらおうと思って。

  何? 阿賀野? 朝潮? 朝霜? 荒潮? 朝雲? もしくは阿武隈がいい? 贅沢言ってんじゃねえ!。


【番外:あきつ丸のオススメロードバイク編】

あきつ丸「何とも言い難いでありますよ……というのも何を以ってオススメとするのか、それだけじゃ基準が明確になってねえのであります」

あきつ丸「コスパ? このブランドはイヤといった例外は? ボトルケージやペダル代は50万円に含まれるでありますか? コンポはどのグレードが最低条件で? そもそも用途はなんでありますか? レース? ヒルクライム? トレーニング? ポタリング? ロングライド? 通勤? それとも全部でありますか?」

あきつ丸「これが予算20万とかなら、それこそ『好きなバイクにするとよろしい』と言ったであります。でも50万となるとミドルグレードが買えるであります! レースもイケるであります! 易々とオススメできねえであります!!」

あきつ丸「価値観と用途は人それぞれ! その辺り明確にしておくであります! 安易に人のオススメなんぞ信じたら後悔しか見えねえであります!

     そんな質問を、仮に提督殿のよーな性格したショップ店員に投げかけたら、彼奴等はカモを見つけたとばかりにシレッと50万オーバー推してくるでありますよ! こんな魔法の言葉を使って……!」


店員(提督)『あと〇万円ほど予算を上乗せすれば、こちらをご用意できますが……?(ただし税込みとは言ってない)』ニコォ……


あきつ丸「ぐう畜であります! あるいはこんな感じであります!」

404: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:39:11 ID:TCcIKW4Q

店員(提督)『こちら、アルテグラ装備の35万の完成車ですが、いかがでしょう? その分、ウェア類が充実しますよ……?(ただし型落ちとは言っていない上にミックスコンポでコスパが曖昧)』ニコォ……


あきつ丸「正直に言えであります! 在庫処分でありましょうが!? ふざけんじゃねえであります!

     よって注意すべき点は一つ! 完成車のホイールは基本的にクソだと思え! これであります!

     そして結論! ほとんどのロードバイクフレームは、ガチ勢以外には大差ねえであります!

     なので、金をかけるべきはホイール! 30~40万(税込み)完成車を買って、後はホイール全振りでOK! であります!!」

あきつ丸「………ふう。では授業料に50万出せであります。ほら、はよ」ハヨ


 ポンポン


あきつ丸「ん? なんでありますか? 今取り込み中で――――」クルッ


提督「…………」ニコリ


あきつ丸「」

405: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:41:14 ID:TCcIKW4Q

提督「なあ、あきつ丸」

あきつ丸「な、なんでありましょう……し、親愛なる、提督殿……こ、このあきつ丸、決して嘘などついてはおりませんし?」

提督「もう一遍、一航戦・二航戦との訓練で死んでみるか? 今度は……蘇生してやらんが……」

あきつ丸「」


 一航戦・二航戦の調練はシグルイ也。


【艦】

406: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:42:30 ID:TCcIKW4Q

【番外:提督のオススメロードバイク【注意!:一部本編のネタバレが含まれます!】】


あきつ丸「まだ足がしびれてるであります……正座で二時間説教はキツいであります……」ジンジン

提督「50万以内のカーボンフレームでディスク仕様? ホイール履き替え前提なら、俺だったらコレ買う」


 http://www.bmc-racing.jp/bikes/rm02.php

 BMC Roadmachine 02 Ultegra/Grey OR 105/Super Red


敷波「あっ! あたしの乗ってるのと同じメーカー! BMCだ!」

提督「メインコンポはシマノ105のほうな。フレーム自体はエンデュランスフレームと銘打っちゃいるが、オールラウンドに走りを楽しむ点は無論、反応性もなかなかイイ。

   ロングライド向けの軽快さを残しつつも、根っこはしっかりレーシングフレームって感じで頼りになるぞ」

敷波「おおー!」

あきつ丸「でも、お高いんでしょう? であります」

提督「いや、コスパを重視するならジャイアント選べよって話になってしまう訳でな……この性能と装備でこのお値段はかなり良心的だよ? ワリとマジで」

407: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:44:27 ID:TCcIKW4Q

提督「いよいよ死ぬか貴様」ジャゴッ

敷波「わ゛ーッ!? わ゛ーーーーッ!? お、落ち着いて、司令官!!」

あきつ丸「お口チャックであります!」

提督「まあ、実際のとこホイール履き替えするなら105だけどな。なおかつエンデューロやブルベとかもやるならアルテグラの方。

   やや予算オーバーするけど、フルのアルテコンポでこのお値段は悪くない」


 http://www.bmc-racing.jp/bikes/rm03.php


敷波「わぁ、こっちの白いのもいーなぁ」

提督「カラーリングが気に入らんなら、ちょいとグレード下げてこっちもアリ。むしろ断然こっちをオススメする。

   ディスクなら105で十分すぎるストッピングパワーを誇るし、変速性能も十分すぎる。つーかホビーならティアグラでもOK。

   しかも105仕様で税込み32万ちょい。丸々18万ぐらい余る計算だから、ホイールとかペダル・ウェア類に注げるのはかなりオイシイ」

敷波「ホイール変えるとしたら、なんか注意点ってある?」

提督「最初から装備されてるホイールのスプロケがどのグレードでも11-32Tだから、ホイール交換時にスプロケごと売っちゃって、11-28Tに変えるってのもアリ。

   峠を攻めないなら32Tはいらない子だし? 25T? 剛脚専用だそれは。

   夏場にダウンヒル攻めるなら、ディスクローターを160㎜から180㎜に変えた方がいいかな。重さは増すが、面積広い方が放熱性も高くなる」

408: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:47:30 ID:TCcIKW4Q

提督「まあ、こんなところだ。でも結局のところ自分の気に入ったバイクが一番カッコイイんだよ」

あきつ丸「うむ! 流石は提督殿! 自分も同じことを言いたかったのであります!」

提督「人に言われてアレコレ買う予算があればいいけどな。

   後悔するなら自分で決めたこと。どうせ乗るなら自分の好きなフレームがいいさ」

あきつ丸「ええ。これにて一件落着、でありますな!」

提督「ああ、そうだな。ははは」

敷波「やっぱさ、BMCってカワイイよね、へへ……」ニヨニヨ

提督(び、BMCが、か、可愛い……? あんま飾り気や洒落っ気のない、ストイックな男バイクって印象の方が強いぞ……?)

あきつ丸(ゴツいとかカッコイイならまだしも、か、可愛いでありますか……?)


 敷波はBMCが大好き。


【艦】

409: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/08(水) 22:53:59 ID:TCcIKW4Q

 次回のロードバイク鎮守府の日常は?

 ロードバイクには多くの脚質がある。

 どこでも速い奴。平地で最強を誇る奴。延々長距離をスゲエ速度で走る奴。

 アップダウンに強い奴。最強のボトル運び少女。

 だけど一番輝くのは、激坂を登る選手。

 そんな奴等を坂バカと呼び、その脚質のことを――――。

 次回・ロードバイク鎮守府の日常、第5話と番外編が二つ

 【番外編:その後の地獄と島風と夕張】

 【5.山を制する脚質】

 【番外編:金剛型のロードバイク】


 陽炎型、全員集合!! 山の女神のキスを感じちゃいます! 

 楽しみに、待て! 未定! ごめん!

422: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/18(土) 22:45:43 ID:dP/vAt/2


【番外:その後の提督と明石の地獄】


 体はカーボンで出来ている

 血潮はクロモリで、心はアルミ(なおときどきチタンだったり竹だったり木だったりすることもあるもよう)

 幾たびのレースを越えて不壊

 ただの一度もBB異音はなく

 ただの一度もチェーン落ちはない

 彼の者は常に独り自転車の丘でバラ組みに酔う

 故に、その手は常にレンチを握り続け

 その体は、きっとロードバイクで出来ていた

423: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/18(土) 22:54:41 ID:dP/vAt/2

 あれからあんなことやそんなこと、果てはとんでもないことまで起こったが、無事に1時間半というジェリコの壁を乗り越えた提督と明石は、


江風「うおおおおお提督ゥゥウウ! 早くロードバイク寄越せコラァァアアア!! あンな面白そうな艤装をこの江風に黙ってるなンて、義に悖るぜ!!」ドンドンドン

涼風「そうだァアアア!! ここ開けろよぉーー!! もう待ってらんないよ!  第六駆逐隊にプレゼントしたこと知ってんだぞ!!」

白露「あんなに速い乗り物だって分かったら、欲しいに決まってんでしょおーーー!!」

夕立「夕立もアレ欲しい!! 島風と夕張さんだけなんて、ろこつなひいきっぽい!! さべつはダメっぽい!!」ドガンッガスンッ

時雨「ごめん、提督。止められなかったよ……でも、素直に言わせてもらえば、僕だって欲しいよ。開けてよ、提督。たまには無理しないで甘えてもいいって、前に言ってくれたじゃないか」コンコン


 ――――未だ地獄のただなかにいた。

 執務室の外扉には、大勢の艦娘が群がっている。


提督(時と場合を考えて甘えてほしかったなァ、時雨よう……)

明石(既に執務室周りを包囲されてる……)チーン


 ロードバイク組み上げてる途中だっつってんのに聞きやしねえのであった。

424: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/18(土) 22:58:45 ID:dP/vAt/2

 彼女たちも分かっているのだ。

 先刻、アナウンスによって提督から伝えられた、用意される試乗車が50台。

 そう、50台だ。鎮守府の艦娘の大半が駆逐艦ということを考慮して、半分以上は小さめのサイズで組み上げられる。

 だが、足りない。圧倒的に足りないのだ。数が。

 となれば、誰が最初に乗る? そんな話になる。なればこそ、この状況は必然であった。

 平和的にじゃんけんで決めろ、なんて言っても聞きやしない。それはそうだ。もしそれをやれば、誰が勝つかは目に見えている。


白露「いっちばん速いロードバイクをちょーだい!! いっちばんに白露型を優先していいよ!! だって白露型がいっちばんだから!!」ゴンゴンゴン

陽炎「はァッ!? 陽炎型に決まってんでしょうがッ!! わざわざ取りに来てやったんだからさっさと出迎えなさいよ提督ゥッ! お礼ならロードバイクでいいのよッ!?」バンバンバン

不知火「この落ち度のないッ! 不知火にッ! 真っ先にッ! 寄越さないとはッ! どういうことですかッ!! 司令ッ! 司令官ンンンン!!」ガキンゴキンガキン


提督(現時点で落ち度晒している輩が何かをほざいてやがる……)

425: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/18(土) 23:05:11 ID:dP/vAt/2

時津風「しれー! しれーーーーーー!! ロード! ロード! 時津風も欲しい欲しい! だからくれ!! くれちん!! すぐでいいよ!! 謙虚でごめんね!!」ゲシッゲシッ

雪風「しれぇ! 雪風も、ロードバイクほしいです!! 白くてぴかぴかなのがいいです!!」ニコニコ

嵐「アレさえありゃあ川内さんにだって負けやしねえんだ!! 寄越せ!! ロードバイクで俺がこの鎮守府に嵐を起こしてやるぜぇえええ!!」ガンガンガン

天津風「ちょ、やめなさいアンタたち!? いくら欲しいからって大勢で押し掛けるなんて……」アワワワ


 天津風は奮闘しているが、数が数だけにどうにもならない。


親潮「新任早々、鎮守府内でクーデターめいた暴動が発生している件について………ホントやだ……ここやだ……」シクシク

萩風「サラリとこの暴動に混ざってる嵐……止められなかった……」シクシク

黒潮「お、親潮、萩風も……ベソかくことないで? あいつらちぃとばかし頭おかしいんや」ヨシヨシ

浜風「あのロードバイク……ええ、確かに惹かれるものはあります。認めますが……それによって提督と明石さんの重荷になることは避けたいですね」

磯風「ああ……とはいえな、司令? 司令が色々と手を尽くしてこれだということはわかっている。わかっているが――――この私とて、胸に燃える嫉妬の火は消しがたい」ジトッ

浦風「もー、提督もいけずやねー? うちにあんな素敵な乗り物のこと黙ってるなんて……おどりゃああああ!! 開けんかこらぁあああああ!! 初風姉が泣いとるんじゃぞ!?」ゴンゴンゴン

初風「ひ、ひっぐ、ひっぐ………ば、ばか、ばーか、妙高姉さんに、い、いいづげで、やるぅ……な、なんで、わたし、わたしに、最初に、くれな……えぐっ、う、ぅうううう」ポロポロ


 『やや』提督に対し精神的に依存気味の初風は、感情が上手く処理できずに泣き出していた。

426: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/18(土) 23:12:04 ID:dP/vAt/2

明石「初風ちゃん、泣いてますよ提督……着任当初、少し孤立気味だったからって優しく接しすぎたんじゃ……」

提督「言葉を選べ、明石。孤立気味だったかなんてのは関係ない。だから優しくしたなんて打算はない。泣きそうな子がいたら慰めて綺麗な笑顔にしてやる。それ男の仕事よ」

明石(そんなんだから色んな子に惚れられちゃうんでしょう……)ジトッ


 グリスアップしながら、明石は嘆息して提督を睨む。


初春「初春型を蔑ろにする気かや!? 荒々しくも典雅! 優美にして疾風の如き挙動!! あのろぉどばいくとやらを、すぐに初春型に献上せい!! ええい、聞いておるのか提督よ!!」ゴンゴンゴン

子日「今日は何の日? ロードバイクの日ぃ!! 早く子日にくれないとー…………今日はとっても〝悲しい日〟になっちゃうかもよ」ボソッ

初霜「ね、子日、姉さん……?(レ級を昼戦でワンパン轟沈させた時と同じ顔してる!)」ビクッ

若葉「怖いぞ!! 良くない!! 提督、早く出てきてくれ! そして子日姉さんにロードバイクを!!」


 かつての大戦―――ソロモン海深部において対峙した恐るべき戦艦・レ級。

 その日――――子日は言っていた。


子日『今日は何の日? ――――貴女の命日だよ?』キュボッ


 肉薄した子日の零距離砲撃を受け、レ級が沈んだのはその数分後のことであったという。

427: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/18(土) 23:16:28 ID:dP/vAt/2

睦月「にゃしぃ………ねぇ、司令官。睦月、なにか悪いことをしちゃったかなぁ……私にはともかく、如月ちゃんや妹たちには……ふぇ」ジワッ

如月「あらあら、大丈夫よ。今日が無理でも、明日や明後日に、ね? ホラ、我慢してた方が司令官と一緒にお買い物に行けたりしちゃうんじゃない?」アセアセ

弥生「……怒ってないよ……弥生、怒ってなんかいないよ……怒ってなんか……ほんとうだよ……だから……ここを開けてください、司令官」コンコン

卯月(う、ウソぴょん……絶対ウソだぴょん……弥生ブチギレだぴょん……○○○○漏れそうだぴょん……)ガタガタ

皐月「司令官! アレってロードバイクっていうんだって? アレすっごくいいよ! カッコイイね!」

水無月「そうだよねさっちん! かっこいいよね! ボクも欲しいよー! ねー、ねぇーー!! ボク、新参者だけど頑張るからさー! あれ、僕にもちょうだいよ!!」

文月「てんりゅーたちだけなんてずーるーいーよぉー。ねぇねぇ、司令官! 文月もほーしぃーいぃーーー!!」

長月「見損なったぞ司令官!! 最新鋭の艤装を我らにだけ与えないなど! 聞けば艦種を問わず装備できるのだとか! とにかくここを開けろ! 話を聞かせてもらう!!」プンプン

菊月「司令官……貴方には以前、気を遣いすぎと言ったことがあったが………失望とはこのことだ………なんなのさ……なんなのさ……ぐすっ……嫉妬心だと分かっていても、この思いが抑えられん……」ポロポロ

三日月「ふふ、まぁまぁ、二人とも落ち着いて。ね、司令官。差し出口ですが、ここは三日月が取りなしますから……開けてください」

望月(なぁ、司令官。三日月が冷静そうに見えるだろ? キレイな笑みしてんだろ……キレてんだぜこれ……やべえよミカは。開けんなよ。死ぬぞ?)


 悪魔と天使と鬼とすげえよミカはが入り乱れる、それが睦月型駆逐艦である。


提督(ある意味子日と三日月が一番ヤバいからな……)

明石(ドアの向こうからとんでもない殺気が……)ゾッ

428: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/18(土) 23:21:26 ID:dP/vAt/2

夕雲「主力オブ主力の夕雲型に、あんな素敵な玩具をお預けするなんて……提督も焦らすのが好きなんですから……でも、少々、度が過ぎる悪戯よね? 怒らないから開けて頂戴? ね?」ガチャガチャ

早霜「あけてあけてあけてあけてあけて」ガリガリガリガリ

高波「ぴっ!?」ビクッ

朝霜「この朝霜様に黙ってほかの子にやるとか、いい度胸じゃんか!! さっさと出てきて壁に手ェつきなよ!!」ガンガン

清霜「お姉様たちの言う通りよ!! 清霜にもロードバイクください!! くれないと、お姉様たちにあのことバラしちゃうわよ!!」

風雲「清霜。あのことってなに? 怒らないから言いなさい? 大丈夫、あなたには怒らないから。あなたには」

沖波(……やだ、やだ、こんなの……帰りたい。お部屋の押入れの中で、膝を抱えて震えていたい……)グスッ

巻雲「は、はわわ、お、沖波。大丈夫、大丈夫です。しれぇかんさまは優しい人ですし、この巻雲お姉ちゃんがついてますよ!」ヨシヨシ

長波「やれやれ……聞いてるかー、提督? まあ、アンタのことだしいろいろ考えちゃいるんだろうけどさ、正直に言えば、あたしも滾ってんだよねぇー……島風どころか、夕張まであんなカッコイイとこ見て、昂ぶっちまったよ」


提督「夕雲型は比較的マシ、というか……それと清霜? 内緒でおまえにだけアイス奢ってやっただけじゃねえか。それバラしたら自爆だってわかってんのか?」ボソッ

明石「あのヤンデレっぽい子をマシと言い張る提督を、改めてパネエと思いました。鬼怒ちゃんじゃないですけど。ほんと。まじで」



 提督はヤンデレに対する零式防衛術を極めている。

429: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/18(土) 23:27:42 ID:dP/vAt/2

敷波「ひっ、ひっく、ひ、ひどいよ、司令官……みんな、大事にしてぐれるっで、いっでだのに……。

   おなじ特型駆逐艦なのに、どうじで第六駆逐隊にはあげで、あ、綾波たちには……どうじで、あだじにぐれないの……? どうじで……? 敷波が、か、可愛ぐ、ないがら……?」エグエグ

深雪「し、しれいかんは、みゆきのことが、きらいなんだ、ぐずっ……電が、かわいいから、あだじだちに、ぐれないんだ……えっぐ、ひぐ」

白雪「そんなことないわよ、泣かないで深雪ちゃん」ヨシヨシ

吹雪「泣かないで、敷波、深雪。司令官に限って、そんなこと、あるわけないよ?」

初雪「ん……何かの手違いだよ……手違いじゃなくて悪意だったら、許さないだけのことだよ……ねえ、司令官?」シャガッ

綾波「吹雪ちゃんと初雪ちゃんの言う通りですよ。しーれーえーかーん? 早く出てこないと、おしおきが酷くなる一方ですよぉ? 綾波が『きれちゃう』前にお願いしますね? えへへっ♪」ボキボキッ

磯波「あの、司令官。司令官に限って、そういうことないと思うんですけど、ですけど…………その、今の皆の状態は、とてもよくないと思います。止められる自信がないです」ビクビク

朧「おかしいですよね。おかしいですよ。第六駆逐隊には配備したのに、第七駆逐隊にはないなんて。それっておかしいですよね……多分なんかじゃなくて……絶対おかしいですよ」シャガッ

漣(怖いよー、怖いよー、ごしゅじんしゃまー、こわいよー。ボーロが怖いんですよぉー、助けてちょんまげ)アバババ

潮「ひっ……」ビクッ

曙「は、はやく出て来なさいよ、クソ提督!! やっぱりアンタなんかクソ提督よ! 朧が怖いのよ!! 全部アンタのせいよ!! なんとかしなさいよ!!」ガンガン


 嗚咽と怒りの波動が入り混じる混沌の吹雪型と綾波型。


提督「このテのが一番心に来るんだよな……敷波、深雪! 俺はお前らのこと大好きだぞ!! だから泣くな!! すんげえのプレゼントしてやっから!! な!!」


431: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/18(土) 23:31:28 ID:dP/vAt/2



 扉の奥から泣き声が消えた。

 だが一方で殺意が増した。


提督「解せぬ」

明石「解せて!? し、しかし、っていうか、はい……なんというか重ね重ねすいません提督……私が不用意に夕張ちゃんにロードバイク貸したりしたから……」

提督「もうそのことはいいって。いいから手ェ動かせ、手。ポストカットするから、鉄粉の除去準備頼むぞ」キコキコ

明石「あ、は、はい!!」



 ――――ここの艦娘は、ごく最近になって着任した少数の艦娘を除き、練度最大である。

 着任から現在に至るまで、古参も新参も分け隔てなく艦娘たちを大事にしてきた。愛されてきた実感を、駆逐艦娘達も持っている。

 島風・夕張のロードバイク。そして長良型、天龍幼稚園……彼女らへのロードバイクのプレゼント………ここに来て、まさかの贔屓(艦娘主観)である。

 艦娘たち、ことさら精神的に幼い駆逐艦の子らが激発するのは必然と言えば必然だった。

 執務室前に殺到する駆逐艦らの中に秋月型と朝潮型、そして最近鎮守府に加わった神風型の姿は見えなかったが、それは自重したから、というわけではない。

 なおレーベとマックス、リベッチオを始め、海外艦娘は現在イタリアへ長期遠征中である。

432: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/18(土) 23:35:20 ID:dP/vAt/2

朝潮「きっと、何かの手違い……司令官が、朝潮型を蔑ろにするわけがない……だからほら、すぐ司令官が来てくれます……座して待つのが礼儀です……。

   ………なのに、どうしてでしょう、身体に力が、入らない……床に伏したままなんて、こんなの、礼を失して……朝潮型の誇りが……」ブツブツ

秋月「質素倹約に……欲しがりません勝つまでは……ああ、でもあのロードバイクという艤装……あのフォルム……あ、あああ、どうして、どうして秋月には……。

   あぁ、と、時が、時が……見える………妹たちが、私を手招きしているわ………」ボソボソ

神風「…………ねえ、春風。どうしてかしら……私たちが新参で、認識すらされてないってことなのかな……」

春風「そ、そんなことは……あ、でも、修羅ばかりでしたし? あ、ありうる、のでしょう、かしら?」

大潮「ぎゃーーー!? み、満潮ーーっ! 早く司令官をここに連れてきてよぉーーーーーっ!! もうこの三人が、持たない!!」

初月「提督はどこだ!? どこに行った!? どんな手違いかは知らんが、まだまだ新参者の僕はともかく、先任の秋月姉さんと照月姉さんを無碍にするとは………おのれ、許さんぞ!!」

照月「し、執務室にいらっしゃるみたいだけど、他の子が邪魔で呼べないのよっ!! ああ、秋月姉さん、もう戦争は終わったんです! 私たち、勝ったんですよ! 贅沢したっていいんですって!! すぐ提督来ますから!!」アワワワ

満潮「あの下種野郎! こんな雑な差配で、姉さんたち苦しませて! 絶対許さないわ!」

霰「暁ちゃんたちも……それと島風ちゃんも……おへやにいなかった……よ」

霞「ありがと、霰。こっちも軽巡寮に行ったけど、長良型の六姉妹に、天龍さんと龍田さん、大淀さんもいないわ!! ロードバイクに乗って逃げたわねえ!? キィーーーッ!!」

朝雲「重巡寮行ったけれど、青葉さんたちがいなかったわ。お買い物で外出してるみたいよ」

山雲「あら~……これはいけませんわ~。私たち、みそっかすにされちゃってるのかしら~?」

荒潮「うふふ~……許さないわよぉ~………うふふ、ふふ、ふふふふっ♪」

442: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/19(日) 22:38:26 ID:dDtal7Og

 ――――そして場面はまた執務室。

 その廊下側ではなく、ベランダ側へと場面は映る。


ニム「ねえ、提督? 私の名前はニムだよ? ニーナじゃないよ? 新参だから、影が薄いから忘れちゃった? でも思い出したよね? ここにいるよ? ニム、ここにいるよ? ねえ、こっちむいて、ねえ?」ガリガリガリガリ

イムヤ「何よ……なんで開けてくれないのよ……イムヤのこと、嫌いになった……?」ギギギギギ

ゴーヤ「ゴーヤたちのこと構ってよう……一緒にサイクリングいこ? 寂しいよう……ねー、てーとく……ねー……ねぇー、ねぇー、ねぇーーーーーー」ドンドンドン

イク「い、いくぅ………」ガリガリガリガリ

はち「戦時はいっぱいがんばったのになぁ………ご褒美にロードバイクほしいなぁ……ドイツ製がいいなぁ……あれぇ? おかしいなぁ……なんで私のロードバイクないのかなぁ……?」ミチチチ

しおい「サイクリングロードとか……サイクリングロードとか、行きたいな……海沿いがいいな……ねえ、聞いてる?」ギチチチチチ

ろー「ろーちゃんにもロードバイクくださいって……欲しいって……」ギチギチチチチ

まるゆ「たいちょー……まるゆですよー、まるゆです。もーぐもぐ♪ ……もぐモぐ♪ ……まるゆはね、もグ モ ぐ……も ぐ う ま……まるゆなんですよ」モグモグ


 潜水艦たちが、ガラスよりもガラスの目をしてガラスに張り付いてた。

 かつての大戦時、恐らくどの艦種の誰よりも前線で活躍し、そして深海棲艦たちから誰よりも恐れられていた部隊があった。

 ひたすらに敵の資源集積地を襲い続け、敵艦隊を蹂躙し、資源を略奪していく。

 その部隊は『海軍の海賊』、『海峡の悪魔』、『破軍』……その武功と異名は枚挙の暇がない。

443: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/19(日) 22:41:06 ID:dDtal7Og

https://www.youtube.com/watch?v=_pyfH3oj_eg&feature=youtu.be&t=24s




 そして、深海棲艦の誰もが、その名を聞いただけで心胆を寒からしめるほどに有名な異名がある。


 『鉄血のオリョクルズ』――――オリョール海の制海権を奪取し、三年の歳月をかけて海域内の全ての深海棲艦を絶滅させた部隊こそ、彼女たちである。


 彼女たちには共通点がある。

 ある者は父のように。

 ある者は兄のように。

 ある者は恋人のように。

 誰もが提督のことを想っている。


明石「あ、あの、て、提督? か、彼女ら、ど、どーすんです? ヤバいんですけど……? ほんと、ヤバいんですけど……?」

提督「何が? あ、このホイール振れ取り終わったからそっちのフレームにセットしといて」ハイ

明石「え、えっと……ガ、ガラスに張り付いちゃって、凄い目でこっち見てて……だ、大丈夫かなー、なんて……」ハ、ハハ

提督「大丈夫。硬化テクタイト製のガラスだ。35.6cm連装砲の直撃にも数発は耐えるよ。あ、トルクレンチ取って」ホレ

明石「い、いや、そういうことじゃなくて……か、彼女たち、なんか精神状態がちょっとアレっぽいんですけど……?」

444: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/19(日) 22:43:07 ID:dDtal7Og

提督「ん? そんなに? 素直ないい子たちばっかりだぞ? ちょっとめんどくさい落ち込み方してるだけだって」

明石「アレを見てもそう言えるんですか!?」


 怯える明石の声に「ンモー仕方ないなあ」とばかりに提督は立ち上がり、ガラスの前へと立つ。

 一斉に、八対の視線が提督に向けられる。


明石(KOEEEEEEEE!!)


 空母や戦艦をしてしめやかに失禁せざるを得ない眼光を前に、しかし提督は笑う。


提督「ははは、そんなに急くなよおまえたち。ガラスに顔くっつけて、せっかく可愛い顔がぶちゃいくになってんぞ」ハハハ


 その一言が、劇的な効果を生み出した。


イムヤ「あ、あっ……や、やだっ、見ないでっ」カァアッ


明石(!? 瞳に光が戻った!?)


提督「こっち見ろっつったじゃんか。ほら、全員もっとよく見せろよ」ハハハ

445: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/19(日) 22:44:51 ID:dDtal7Og

ゴーヤ「う……て、てーとく、か、からかうなんてダメでち!! ゴーヤたち、怒ってるんでちよ!」プンプン

イク「そ、そーなの! イクたちもそのロードバイクってやつが欲しいのね!!」プリプリ

提督「なんだ、おまえらも興味持ったか? ならこれやるよ」ガチャッ


 そう言って、提督は窓ガラスの鍵を解放する。


明石(!? ま、窓、鍵、あっさり、開け――――ヤバ――――死――――)ゾッ


 しかし明石の動揺は杞憂に終わる。


ニム「!?」


 あっさりと窓を開いた提督に、むしろ潜水艦たちが唖然としている。

 その思考の空白に割り込むように、提督は二冊の冊子を彼女たちの前に差し出す。それは、



提督「ロードバイクのカタログな。今日の夜にでもお前らの部屋行くから、いろいろ相談して欲しいもん決めとけよ」

446: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/19(日) 22:47:10 ID:dDtal7Og

 その瞬間であった。潜水艦たちに、電流が走る。


ニム(!? ――――ニムは、特製のカレーを作っておもてなしする!! はっちゃんはデザートを!)ハンドサイン

はち(提督が!? ヤー! アプフェルシュトルーデル焼かなきゃ!!)ハンドサイン

まるゆ(!? た、たいちょーがお部屋に来る!? あ、あわわ、しおいちゃん!!)ハンドサイン

しおい(!! お、お部屋の掃除! 掃除しなきゃ!!)ハンドサイン

イク(ま、まずいの……! お菓子とか、ゴミとか、散らかりっぱなしなの!!)ハンドサイン

ゴーヤ(ゴーヤも掃除するでち! ピッカピカに磨き上げるでち! マリア様でもう〇こしたくなるようにでち! ろー! おめーも手伝うでちよ!)ハンドサイン

ろー(任せて欲しいって!! イムヤは遊撃部隊として、全員の仕事の最終チェックをよろしくですって!!)ハンドサイン

イムヤ(了解よ!! 手を抜いた仕事したやつはオリョールクルーズ100周よ! 休憩無しで!!)


オリョクルズ((((オーケイ、オリョクル!!))))b



 ※ここまで約0.8秒。

447: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/19(日) 22:49:19 ID:dDtal7Og

提督「急でごめんな。ホントはもっと落ち着いてる時におまえらのところでゆっくりしたかったんだが……」


 そう言って、提督は一人一人、彼女たちの頭を撫でていく。

 優しく、愛おし気に。

 明石は恐怖した。

 提督の手つき、表情、声の震えから感じ取れる感情や嘘の有無――――そこには一切の打算がなかった。

 それが逆に恐ろしい。


ゴーヤ「と、とんでもないでち!! てーとく! ゴーヤ、ゴーヤは、てーとくのこと、信じてたでち!!」テレテレ

イムヤ「い、イムヤだって!! や、やだ、私たちったらなんてこと! お仕事中に、ごめんなさい、司令官!!」テレテレ

イク「イク、お部屋でいい子にして待ってるのね!! てーとくからもらえるロードバイク、期待しちゃうのね~♪」チュッ

はち「はっちゃん、ドイツのロードバイクがいいなぁ」ウフフ

ニム「ニムは日本製のがいいかなぁ」アハハ

しおい「しおいはねー、しおいは……カタログみて決めよっ! ね、まるゆ! ろーちゃん!」エヘヘ

まるゆ「はい!」ニコー

ろー「楽しみですって!! また後でね、ていとく!!」バイバイ

448: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/19(日) 23:26:19 ID:dDtal7Og

提督「おー、また夜になー!」バイバイ


 壁を伝って降りていく彼女たちを手を振って見送る提督の背後で、明石は戦慄に身を焦がしていた。

 震える明石を尻目に、何事もなかったかのように提督は窓を閉め、再度鍵をかけ、


提督「さて、作業に戻るぞ、明石……な? 素直で可愛いだろ、あいつら」

明石「え、え…………? へ……?」

提督「どうした? 何を驚くことがある?」


 不思議そうな顔で、提督は言う。

            ・・・
提督「俺はあいつらの司令官だぞ? 部下の統率ができずして何が司令官か」

明石「そ……そうです、ね……は、ははは(や、やっぱりこの人、どっかズレてる……)」



 『深海棲艦皆殺して資源奪いつくすまで絶対帰らないマン』とも呼ばれた潜水艦達である。

 なお後に加わる伊13、伊14………ヒトミとイヨもまた、オリョクルズの鉄血の掟に縛られることとなるのであった。

457: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 22:35:41 ID:vtzWEmFw

………
……


 執務室周りの喧騒と比べ、一方で鎮守府内道路は平和なものであった。

 先ほどのレースの熱はすっかり消え失せ、人気もない。

 提督の想定通りといえばそれまでであるが、戦艦や空母、重巡はレースの熱を確かに感じ取りはしていたが、一部を除いて激発することはなかった。

 そう、『一部を除いて』である。

 その一部のメンツであるが、あまり問題はなかった。


那智「落ち着け、足柄!!」

羽黒「だ、駄目ですよ足柄姉さん!! 私たち、駆逐艦の子たちを止めないといけないのに!」

足柄「やぁーだーあぁあああああ!! はーなーしーてぇーーーー!! 提督のところに行くのーーー!! 私もロードバイク貰うのーーーーー!!」ジタバタ

妙高「まあ、はしたない! 子供みたいなこと言うんじゃありません!!」


 普段は自制心が働くものの、あのロードバイクが提督からのプレゼントされた代物と知った途端にワガママを発揮する足柄。

 他の妙高型は、それを三人がかりで止める―――どんだけだよこの餓えた狼。

 見方を変えれば、三人がかりでなければ止められないほどに、この時の足柄は滾っていたともとれる。

458: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 22:38:57 ID:vtzWEmFw

摩耶「はなぜぇえええ! はなぜよぉおおお!! 姉貴ぃ!! あんなろぉ、絶対ブン殴ってやるぅ!! あたしを除け者にしやがってぇ!!」ジタバタ

高雄「ダメ」

愛宕「だーめっ♪」


 暴走を危惧されていた摩耶もまた、高雄・愛宕によって左右からガッチリと拘束されていた。


鳥海(摩耶が二人に掴まっている今なら……私の計算通りなら、司令官さんにロードバイクをこっそりおねだりに行くことも可能……)コソコソ

高雄「鳥海? 貴女もよ? そこから一歩でも動いたら……」

愛宕「ぱんぱかぱーん☆(物理)」

鳥海「!? ッ……!!」コクコク


 分かりやすい力関係に支配されている高雄型もまた問題ない。

459: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 22:41:18 ID:vtzWEmFw

 問題は、


利根「なぁちくまー、ちくまぁー! どうして吾輩は、あのロードバイクとかいう艤装を持ってないのじゃ?」

筑摩「………」


 利根型である。利根は自分が提督の一番だと信じて疑っていない子であった。

 底抜けに明るく自信家な利根に、筑摩は常にできた妹として寄り添う存在である。


利根「吾輩、哀しいのじゃ……提督は吾輩のこと、忘れてしまったのかのう……」ショボン

筑摩「うふふ、利根姉さん? 大丈夫ですよ、提督のことですからきっと利根姉さんを驚かせようと隠してるんですよ」

利根「!! う、うむ! そうか! そうじゃな!! あやつめ、さぷらいずという奴じゃな! もちろん吾輩は分かっていたぞ!」

筑摩「まぁ、利根姉さんったら。それじゃあ、利根姉さん――――」


 筑摩はいつも笑顔が似合う子であった。

 鎮守府で過ごす時も。


 ―――――海の上で戦っているときも。

460: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 22:50:54 ID:vtzWEmFw

https://www.youtube.com/watch?v=0Z0S2h9aiFk




筑摩「今から提督のところにお伺いして―――――ロードバイクを頂きに行きましょう?」

利根「そうじゃな!!」ニパ


 抑え役が抑え役として機能しない典型例―――それが利根型である。

 筑摩が利根を抑える?

 否。


筑摩「………」

利根「ふんふふーん♪ ろーどばいくぅー♪ ぎゅーん♪ なのじゃー♪」テクテク


 利根が筑摩を抑えるのだ。

 利根が笑顔ならば筑摩には良し。

 利根が泣き顔ならば筑摩にとって悪。

461: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 22:53:29 ID:vtzWEmFw

筑摩「…………」


 利根を喜ばせる提督ならば筑摩も好き。

 利根を悲しませる提督ならば、筑摩は―――提督を。


筑摩「……………」


 筑摩は。

 提督を。


筑摩「――――――あらやだ、いけない」

利根「ん?」


 立ち止まった筑摩に、気分よく歩いていた利根が怪訝そうに振り返る。

 筑摩はやや困ったような顔で申し訳なさそうに、


筑摩「すいません、利根姉さん。私、お部屋のやかん、火をかけっぱなしだったかも」

利根「な、ななななんと!?」

462: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 22:57:51 ID:vtzWEmFw

筑摩「ちょっと戻って確かめてきますね。すいませんが利根姉さんは、先に提督のところに」

利根「う、うむ! 火のもとの確認は大事じゃぞ! 火は怖いからな、火は。全く、筑摩はうっかりさんじゃの!」

筑摩「うふふ、ごめんなさい、利根姉さん」

利根「よい! それじゃ吾輩、提督のところに行ってくるのじゃ!!」



 尊大に胸を張って、利根は再び歌を歌いながら執務室へと歩いていく。

 その背中を笑顔で見送りながら、


筑摩「………」


 筑摩は、この三年間の日々を想う。

 筑摩は覚えている。利根を本当に守ってくれた存在は誰なのか。

 だから分かっている。自分にとって大好きな人は、二人いることを。


筑摩「――――ばか」


 筑摩は空にぽつりと呟いて、重巡寮へ踵を返した。

463: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 22:58:46 ID:vtzWEmFw

 その筑摩とすれ違う影が四つ。


最上「よーし、ボクも提督にロードバイク貰いに行くぞー!」スタタタタ

熊野「あっ、ずるいですわ最上さん! 抜け駆けはずるいですわよ!!」タタタタッ

三隈「あっ、モガミン……熊野さんもお待ちになって! と、止めなきゃ……!」タタタッ

鈴谷「ちょ、だ、ダメだって! 今は――――ああもう!? 鈴谷の話、聞いてないしぃ!!」タタタッ


 全くの悪意ゼロの最上と熊野。

 三隈も鈴谷もそれを止めようとするが、思いついたら即行動というシンプルな二人に、いつも後手に回ってしまうのだった。

 そうして執務室前での駆逐艦の大抗議にサラリと混ざってしまう始末であった。

464: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 23:01:59 ID:vtzWEmFw

 また提督の予想では軽空母枠では隼鷹や千代田も激発すると思われていたが、これは杞憂だった。


隼鷹「うぷ………やっべ、あのロードバイク、スゲー欲しいけど………こ、興奮しすぎて、よ、酔いが……だ、駄目だ、今日は、もう……むりぅぇえ……」ウプ

飛鷹「飲み過ぎよ隼鷹。千代田も、祥鳳も!」

千代田「あだまいだいよぉおおおお!! ぢどぜおねえええええええ!!」ビエエエ

千歳「もう、千代田ったら……しょうがない子ね。ほら、お水いっぱい飲みなさい」

瑞鳳「し、しじみ汁、つくりゅ?」

祥鳳「お、お願い、瑞鳳………っていうか、貴女そんなにお酒強かったっけ?」ウプ


 酒に呑まれていた。隼鷹に至ってはレース中の二人に大興奮して向かい酒した結果である。

465: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 23:10:35 ID:vtzWEmFw

龍驤「なんや、えらいカッコええモンに乗っとったなぁ……なぁ、鳳翔?」

鳳翔「………」

龍鳳「……………鳳翔さん?」

鳳翔「え? な、なんでしょう?」

龍驤「なんや? ポケーっとして」

鳳翔「あ、す、すいません。ちょっと、あの二人の熱に、当てられちゃったみたいでして」テレテレ

龍鳳「あ、そう、そうですよね!! もー、私すっごく興奮しちゃって!! 凄かったですね!!」

龍驤「せやろせやろ! 司令官、ウチらにもアレくれるんやなー! 結構、シンプルやったけど繊細な機構やったし、組むんは時間かかりそうやけど――――楽しみやな!」

龍鳳「はい!! ね、鳳翔さん、龍驤さん! 貰ったら、一緒に私たちも走りましょうね!」

鳳翔「ふふ……ええ、約束です」


 同じ軽空母でも、この三人は非常に平和であった。

466: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 23:14:00 ID:vtzWEmFw

 そして水母や、揚陸艦・補給艦、練習巡洋艦であるが、秋津洲が興奮して、やはり駆逐艦に混ざって執務室前で大騒ぎしているのを除けば、大人しいものである。


瑞穂「はぁ……瑞穂ったら、大声出してしまいました……恥ずかしい」テレテレ

鹿島「か、鹿島も、大声出しちゃいました……えへへ」テレテレ

香取「ふふ、でもカッコ良かったわね、夕張ちゃんも島風ちゃんも」

あきつ丸「うむ! 瑞穂殿も鹿島殿も、恥ずかしがることはないものと。自分も、あのロードバイクとやらに、非常に興味がわいてきました……であります!」

速吸「は、はい! 速吸も興奮しました! でも、今はその、駆逐艦の子たちを……」

あきつ丸「うむ……鎮守府内の風紀を保つためにも、ここはひとつビシッと言ってやらねばなりますまい」

瑞穂「そ、そうですね! 止めに行かなきゃ……」

香取「きっと提督のことですし、深いお考え合ってのことでしょう」

鹿島「うん! あの子たちにもちゃんと諭せば、分かってくれますよ!」

速吸「はい! 速吸も、微力ながらお手伝いさせていただきます!」


あきつ丸(――――そして点数を稼ぎ、このあきつ丸は提督殿から優先的にロードバイクを拝領されるという寸法であります)ニヤリ


 非常にいい子たちであった。超打算的な一部を除いて。

467: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 23:17:31 ID:vtzWEmFw

 ならば問題があるとすれば――――空母。

 二航戦に雲龍、大鳳などは事情を察して、駆逐艦の子等の説得に当たっている。当たっているのだが。


加賀「………」

瑞鶴「………」


 言うまでもなくこの二人であった。

 大戦時、空母枠に置いて最強を争ったのは、加賀と瑞鶴。

 両者は現在、演習海域の海上で距離を取って対峙している。

 加賀の背後にはのほほんとした表情の赤城と、怯え果てる天城。

 瑞鶴の後ろでは困り果てた表情で立ち尽くす翔鶴と、威嚇の態度を隠そうともしない葛城。

 互いのパートナーとしての立場にある赤城も翔鶴も紅の衣を纏っているが、心情は対照的であった。

 しかし加賀と瑞鶴――――蒼と赤、相容れぬ色の二人は、心情もまた相容れぬとばかりに睨み合う。

468: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 23:22:43 ID:vtzWEmFw

瑞鶴「どうしても……邪魔しようってことですか?」

葛城「私たちが提督さんに抗議するのが、そんなに気に喰わないんですか! 加賀さんは!!」

加賀「貴女と話す舌はないわ――――今は五航戦と話をしているの。弁えなさい、五航戦未満」

葛城「五航戦未満!?」ガーン

天城「ひどい」ガーン


 流れ弾で背後の天城までショックを受けている。


加賀「見ればあのロードバイク、かなり繊細な艤装と見ました。提督が御自ら手で組まれているとなれば、相応の時間を要するでしょう。明石さんの助力があるとしてもです。

   提督が私や赤城さん、ついでに五航戦とそのモドキ――――貴女方をないがしろにしたなどという言い掛かりをつけ、提督に当たるなど言語道断。流石に目に余ります」

瑞鶴「くっ……」


 正論オブ正論であった。これまでの提督の実績や行動を見続けてきた瑞鶴も、それは分かっていることだった。

 しかし、それはそれだ。

 論理と感情はまるで別の生き物のように、しかし時としてまるで互いに矛盾することなく人の心の中で互いを主張する。

 ――――例えば、自分がライバル視している相手に正論を説かれた時など、早々簡単に納得できるものではない。

469: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 23:30:37 ID:vtzWEmFw

赤城「私や加賀さんも欲しくなったのは否定しないけど、だったら駆逐艦の子たちはもっと欲しがるでしょう? 貴女も空母なら、大人にならなきゃいけませんよ、瑞鶴」モグモグ

瑞鶴「貴方は食べ過ぎです赤城さん!!」フギャー!

葛城「そーだそーだ!! 話の途中にムシャムシャムシャムシャって!!」プンスカ

加賀「……赤城さん。仰ることは尤もなのですが、その右手に持っている御焼きはなんとかなりませんか? 締まるところが締まりません」

赤城「…………」ニコー

加賀「ああっ、この笑みを見ると私は何も言えなくなる……!!」

天城「私もです!」


 ちなみに言えなくなるのは瑞鶴も葛城も、果ては提督もである。

 戦果的なトップ争いをしていたのは加賀と瑞鶴であるが、実質的なリーダーは依然として赤城であった。

 これは瑞鶴も渋々ながら納得している。


翔鶴「そ、そうよ、瑞鶴? 提督のことだから、私たちにも配備してくださるわ、きっと。今は待ちましょう、ね?」

瑞鶴「ふざけないで! 駆逐艦の子や軽巡の子に先に配備するなんて、そんなのとっくに不平等よ!!」

葛城「そうですよ、翔鶴さん! こんなの許さないんだから!!」

470: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 23:33:37 ID:vtzWEmFw

赤城「―――――――瑞鶴さん、葛城さん」


 なおも言い募ろうとする瑞鶴と葛城を遮る様に、赤城が一歩前に出る。


瑞鶴「な、何よ、赤城さん」

葛城「う、な、なんですか!」


 二人は赤城が苦手であった。普段は幸せそうな顔で、いつもなんか食ってるという印象しかない赤城であるが、いざ海の上に出ればまるで鬼神の如き強さを誇る。

 その立ち振る舞いにもまるで隙がない。

 御焼きを食べ尽くした赤城は、いつもの優し気な笑みを浮かべて、


赤城「拗ねなくても大丈夫。提督は、貴女達のこと、ちゃんと大事に思っていらっしゃいますよ」ニコリ

瑞鶴「ッ、そ、そんなの、わかってる、けど……」

葛城「そ、そういう問題じゃ、ないっていうか、えっと」


 もじもじし出した二人に、翔鶴と天城がホッと一息をつく。

 これでなんとかまとまりそうだ――――そう思った時、赤城は懐に手を入れる。

471: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 23:36:05 ID:vtzWEmFw

 加賀すら唖然としていると、赤城は再び御焼きを頬張って、むっしゃむっしゃ、もぐもぐ、おいしい。


赤城「ところで二人とも、御焼き食べます? いっぱい食べないと○○○○大きくなりませんよ?」モグモグ

瑞鶴・葛城「「ふっざけんなぁあああああ!!!」」


 ここに龍驤がいたら大惨事であっただろう。


天城「ああっ、ちょっと揺れた二人がおちょくられたと思って色々台無しに!?」

加賀「あ、赤城さん、どうして貴女は……」

赤城「………」ニコー

加賀「うっ……!」ガクッ

天城「何も言えなくなるぅ!」ガクッ


 加賀と天城は膝をついた。

 カオスの権化とは赤城のことであった。

 その様子を見ている瑞鶴は、ますます怒りのボルテージを上げていく。

472: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 23:37:55 ID:vtzWEmFw

瑞鶴「もー!! あったまきた!! アンタらが何と言おうと! 私は絶対絶対絶対絶対、ぜーーーーったいに!! 提督さんに抗議するわ!!」

加賀「やれやれね……口で言ってもわからない子を、私がどのように黙らせてきたのか……少し実戦を離れただけで忘れましたか―――」スッ

瑞鶴「はっ! やっぱりそう来る? いいわよ、そっちの方が手っ取り早い!!」スッ


 互いに、利き腕に矢を掴む。


加賀「その緩い記憶力に今一度……礼儀を叩き込んでやる要を……認めます。赤城さん、危ないのでここは……」

赤城「はい、下がりますね」ムシャムシャ


 赤城はまだ食っていた。

 そして天城は、


加賀「それと………………………? ………………誰だったかしら?」

天城「天城です!!?」ガーン

赤城「正規空母の天城さんですよ」モグウマー

473: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 23:40:25 ID:vtzWEmFw

加賀「知らない子ね。知らないったら知らないわ。とにかくそこの痴女臭い格好をした空母の恥さらし。邪魔だから下がっていなさい」スチャッ

天城「痴女臭い空母の恥さらし!?」ガーン

赤城「おいしい」ムシャムシャ

瑞鶴「しゃらくさいわ!! 今日こそ私が勝つんだから!! 翔鶴姉! 葛城! 手出し無用よ!」スチャ

翔鶴「ごめんなさいごめんなさい加賀さんごめんなさいすいません赤城さん許して」ブツブツ

葛城「ギッタンギッタンにしてやってください!!」フンギャー


 互いに矢を番え、引き絞る。


加賀「――――空を穿ちなさい、烈風改」

瑞鶴「――――覇を吼えたてろ! 岩本隊!!」



 かくして二人が出会ってからおよそ二年半――――その間、通算にして、激突した回数は百を優に超える。

 演習という形式だ。その戦績は、『現状は』ほぼ互角。

 後にロードバイクにおけるレースにおいてもエースの座を争う二人の、これは前哨戦であった。

474: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 23:42:10 ID:vtzWEmFw

天城「痴女……恥さらし……」エグエグ

赤城「よしよし」モグナデモグナデ

天城「食べながら慰めないでくださいぃ……」

赤城「………」ニコー

天城「ああっ、赤城さんのこの顔を見ると何も言えなくなるぅ……!!」

翔鶴「私もですぅ!」ガクッ

葛城「なんなのよこの人やだー!」ガクッ


 概ね空母は平和であった。いつも通りという意味である。

475: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/21(火) 23:44:05 ID:vtzWEmFw
※力尽きた。ごめ。次こそ、うん。明日。おわる。ばんがいが。

481: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 21:08:53 ID:DBfQCh7I

 そして戦艦枠―――――実は提督は、日向や武蔵辺りが激発したらマジでどうしようと思っていたが、これまた杞憂であった。

 武蔵は落ち着いたとはいえ元はとんでもない問題児である。

 そして現在進行形で問題児である日向は―――。


日向「なあ――――なぜ私は縛られている? まだ何もやってないだろう? この仕打ちはあんまりだと思うのだが……?」ジタバタ


 伊勢と扶桑、そして山城によって、両手両足をワイヤーで縛り上げられ、転がされていた。

 彼女たちは非常に有能である。

 転がる日向をジト目で睨みながら、山城が問いかける。


山城「………質問。あんた、仮に縛られなかったら、どうするつもりだった?」


 日向は口元に笑みを浮かべ、


日向「フッ、それは無論――――あのロードバイクという特別な瑞雲を手に入れ、私自身が、瑞雲となる!」DOYA…


 信じられないだろ。正気なんだぜこいつ……。

482: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 21:14:49 ID:DBfQCh7I

 この手遅れ感は、提督が助走つけてスプーンを全力投擲するほどである。マッハ3ぐらいで。


山城「わけわかんないけどロクなことじゃないだろうからやっぱりギルティ」

伊勢「我が妹ながら意味不明すぎる………やっぱりあんたは今後もやらかす前に拘束すべきね……」

扶桑「どっちみち『疑わしき日向は拘束せよ』と、提督から名指しでお願いされちゃってるから……ごめんなさいね、日向」


 そうして丸太に縛り付けられ、運ばれる日向であったが、


日向「なぜそうなるのか……解せんな。これだから人の世は面白い」フッ

伊勢・扶桑・山城「「「………」」」イラッ


 キメ顔でなにやら納得したように頷いている日向に、流石の伊勢と扶桑と山城もイラッときたようである。

 「このまま海に沈(チン)しちゃおうかな」なんて脳裏によぎるほどであった。

 何はともあれ、問題児の一人である日向はこの通り無力化されたため、ひとまずは安心である。

483: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 21:17:18 ID:DBfQCh7I

 残る戦艦四名……長門型と、大和―――問題の武蔵であったが、


長門「………絹を裂くような瑞鶴の悲鳴が聞こえたな」

陸奥「そうね……演習海域の方から」

大和「……加賀さんが勝ったみたいですね。これでひとまずの懸念は消えた、といったところでしょうか?」

武蔵「川内や球磨も不安ではあるが………何にせよあいつらには、いい加減に歴戦の艦娘として、もう少し落ち着きを持ってほしいのだが」

陸奥「翔鶴や天城はともかく、瑞鶴と葛城には無理な話よ……それよりお茶淹れるけど、みんなは何か飲む? コーヒー? 緑茶? 紅茶?」

大和「ありがとうございます。緑茶を頂けますか、陸奥」

武蔵「そうだな………コーヒーを。ブラックで頼めるか」

長門「牛乳。低温殺菌のな……もちろんビンだぞ。提督のすすめで飲んでみたが、いやはや、アレはいいものだ。味のまろやかさが違う。お腹がゴロゴロしないのは実にいい」ウンウン

陸奥「オッケー♪」

大和(印象と裏腹に、胃が弱いんですよね、長門って……)

武蔵(意外な弱点だ……)


 極々平和に、自室でのんびりしていた。

484: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 21:23:51 ID:DBfQCh7I

長門「これを飲んだら執務室に行こうか……駆逐艦の子らを始め、皆に提督が贔屓や差別を行ったわけではないことを説明してやらねばな」

大和「ええ。先に神通さんが向かいましたが、本気の川内さんを相手にしながらでは流石に手に余るでしょうし」

武蔵「球磨型はどうする? いつもはストッパーの多摩も野生化してたし、木曾がアワアワしてるのが目に浮かぶぞ?」

陸奥「全く……あの人ったら、こういう面倒ごとの後始末をいっつも私達や大和たちに押し付けるんだから」プンスコ

長門「ははは! それも提督の信頼の裏返しだと思えば、可愛いものではないか」

武蔵「フフ、そうだな。それに闘いの最中では、いつも苦労を買って出ていたのは提督だぞ?」

大和「この平和な世で、これぐらいの甘えは安いものでしょう……それにね? まんざらでもないことは知っているのですよ、陸奥?」

陸奥「っ……もう。それを貴女が言う?」


 少し頬を赤くして拗ねたように言う陸奥に、くすくすと笑う大和。

 長門は牛乳を飲みながら、手元の冊子のページを繰る。


長門「しかし、このロードバイク……悩むな。どれがいいものか……デザインはこれに惹かれるが、スペックは……やはり乗ってみないことには」ウウム

485: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 21:28:27 ID:DBfQCh7I

武蔵「ほう……遠目には見ていたが、なるほど……こうしてカタログで見てみるとまた味わいが深い……ムッ! 長門、スペックの割に値段がいいこれはどうだ?」コレ

長門「おお、それに目を付けたか! 私もこれはなかなかいいと思うのだが……いや待て、こちらも……」コッチ

大和「あら、私にも見せて? まあ、素敵……カラーリングが鮮やかですね……むむ、ですが夕張さんが乗っていたロードバイクのほうが上品な感じが……」アッチ

武蔵「悩むな」ツマリ

長門「悩む!」ハンシンハンギ

大和「悩みますねえ」アッチコッチ

陸奥(可愛い子たち)ププ


 長門の手にはロードバイクカタログがあった。大和や武蔵もそれを食い入るように覗き込んでいた。

 元々金剛型のすすめで、長門と陸奥は数日前にカタログを手渡されていたのである。やたらイギリスバイクを推されてきたことに辟易したのは御愛嬌であった。

486: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 21:30:57 ID:DBfQCh7I

陸奥「決まらないんだったら今度提督にアドバイスを貰いましょう? この後始末のお礼ってことで、ね?」フフ

長門「やれやれ……そうしてまたチャラか。いつになったら借りを返し切れるのやら」

武蔵「一生をかけねば無理ではないか?」

長門「ううむ、やはりそうなるか……アジア圏の平和は守られたとはいえ、欧羅巴を始めとした海外諸国ではまだまだ戦いは続いている。そこで多くの戦果を上げる事にて報いるとしよう」

陸奥(そういう意味じゃないんだけどなー)

武蔵(そういう意味じゃないんだがな)

大和(そっちの意味じゃないと思います)


 長門は自覚してないタイプである。


長門「? なにやら視線が気になるが……なんにせよ! 駆逐艦の子等を止めに行かねばな! さあ、行くぞ!!」

武蔵「ああ」


 そう言って立ち上がった長門を筆頭に、次々と連れ立って戦艦寮を出る。

487: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 21:35:10 ID:DBfQCh7I

長門「しかし、おまえはあの熱に当てられて激発するものと思ったがな――――武蔵」

武蔵「………どれだけ私は信用がないんだ? いつの話をしている、いつの」ムスッ

大和「正直私もそう思って、いつでも拘束できるようにしてたんですけど」

武蔵「姉の信頼度の低さが骨身に染みる」ズーン

陸奥「……ああ、そういえば、着任当初、命令違反で大破進撃をやらかして、たった一人で沈みかけた戦艦がいたわね」

武蔵「う゛ッ」グサ

長門「――――おおそれなら私も知ってる。随伴の子の通信で事情を察した提督が単身高速艇で駆け付けて、自分で散々馬鹿にしてた提督に救助され」チラ

大和「……ええ、考えうる限りで最低最悪の無様を晒した戦艦がいましたね」ジト

武蔵「がはッ」ドズッ


 言葉の砲撃が、次々と大和型の装甲を紙のように穿っていく。

488: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 21:37:54 ID:DBfQCh7I

大和「帰還後、提督と私と長門と陸奥に囲まれて五時間の説教コース」

武蔵「やめろ……」ブルッ

大和「挙句に駆けつけてきた清霜ちゃんにわんわん泣かれて、精神的にトドメを刺されてた子が、随分と優等生になったって褒めてあげればいいかしら?」

武蔵「やめろォ!? 悪かったよォ!! 私が悪かったァ!!」ブルブル

長門「イジメすぎだ、大和」

陸奥「あら? あらあら?」

大和「貴女達もノリノリだったでしょう? この子にはいい薬です!」ムスッ


武蔵「あの頃の私はどうかしてたんだよ………やめてくれ……私は聖徳太子じゃないんだ……囲い込んでの罵詈雑言はやめろ……その攻撃は私に効く………やめてくれ……」プルプル


大和(ぷるぷるしてるわ)ププ

陸奥(あの武蔵が子犬のように)ププ

長門(まるで駆逐艦のように可愛いな)キュン

489: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 21:42:50 ID:DBfQCh7I

 トラウマの海に沈んでいる武蔵をよそに「その後だったな……本当の地獄は……」と語るのは長門である。

 「そんなに死にてえなら予行演習だ……この世にこそ地獄があることを教えてやる」と、提督主導で『第二次ブートキャンプ~戦艦編~』が開催されたのだ。

 その長門の軽率な一言で、三名のトラウマスイッチが入った。


大和「………」プルッ

陸奥「………」プルッ


 当時着任していた戦艦たちは誰もが顔を蒼褪め、長門すら「だぢげでぐでええええ!」と恥も外聞もなく泣き叫び、逃げ出そうとした。

 しかし速攻で他の戦艦たちに捕まった。一人逃げればその分負担が増えるからだ。とんだとばっちりである。

 当時を思い出したのか、大和と陸奥も苦々しげに表情をゆがめた。なお別の艦種では天龍や摩耶も昔同じことをやらかして地獄を見たもよう。


陸奥「や、やめましょ、この話題は? 私たちだって、ねえ? 着任当初とか、それ以降もかなり提督に迷惑かけちゃったし―――私の場合、第三砲塔とか」

大和「そ、そうですね、はい。お互いいい思い出じゃないですし――――ホ、ホテルじゃないですから(震え声)」

長門「あの光は……ッ!? い、いかん、戻ってこれなくなる!!」

武蔵「……ごみ……だに……くず……この世で最も役立たずの産廃……ムサコッス……駄肉……嫌らしく肥大化した脂肪の塊……たけぞう……ちじょ……へんたい……」ブツブツ

長門「戻って来い武蔵! 昔のお前ならいざ知らず、今やウチの最強の戦艦と言えばおまえだ」

490: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 21:44:54 ID:DBfQCh7I

長門「戻って来い武蔵! 昔のお前ならいざ知らず、今やウチの最強の戦艦と言えばおまえだ」

陸奥「そうそう。自信もっていいのよ?」

大和「ええ、自慢の妹です」

武蔵(おまえらには、今後一生、別の意味で勝てる気がしないがな……)


 武蔵的にはブートキャンプ前の五時間説教もトラウマになっていた。

 そんなこんなで元問題児の戦艦四人は執務室へと向かって行った。

 その道中で、他愛もない話を繰り広げながら。

 そんなことを笑いながら話せる平和を、噛みしめながら。



……
………

491: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 21:55:42 ID:DBfQCh7I

………
……


 提督たちがロードバイクのバラ完を開始し始めて、二時間ほどが経過した。

 執務室前で暴れていた駆逐艦たちも、今は静かであった。

 暴れつかれたというのもあるが、阿賀野型や重巡、その他の艦種の艦娘達が冷静に説得に当たったことが大きい。

 遅れてやってきた戦艦と空母たちによる一喝も効いたのか、それでもなお暴れようとしていた駆逐艦も静かにしている。
 
 ベランダ側から聞こえてくる「ヤセン! ヤセンレース!」とか、「クマが蔑ろにされるとかそんなことがあっていいはずがクマーーーーー!?」とか、やたら喧しい声が響いているのは御愛嬌。

 そろそろ執務室を解放してもいいかな、なんて提督が思い始めていた頃である。


明石「ぷはー……!! これで下準備はほとんど終わりですね! 何台かは先行して仕上げちゃいましたし!」

提督「ああ」

明石「しかし、私もまだ慣れてないせいかな……結構時間がかかっちゃいましたね」

提督(ひょっとしてそれはギャグで言っているのか?)


 コラムやポストのカット作業があらかた終わり、フレームの洗浄・鉄粉除去も完了。フレーム表面に簡素なコーティングを行い、グリスアップも完了。

 それを五十台分――――既に五台ほどは完成している――――僅か二時間で。凄まじい速度である。普通は無理である。

492: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 21:59:17 ID:DBfQCh7I

 提督とてかなりの速度で動いていたが、明石はそれ以上だ。作業の八割――――否、九割は明石が実行したのである。

 工作艦の名は伊達じゃないな、と提督があらためて実感しつつも「さあ組むぞ」という段階に入った。


提督「しかし明石……ホントに流石だね。メッチャクチャ速いじゃん、組むの」カチャカチャ

明石「え? あ、は、はい! そりゃもう、私ってば工作艦ですしね!」ジャッババババババッ

提督(手元を見ずにその動きはどうなんだ? つーかもはや何やってんのか俺の動体視力じゃ捉えられないんだけど)


 1台のバイクを組むにあたって必要な所要時間が軽く20分を切り、数をこなすうちに更に加速していく。

 大戦時、深海棲艦の下っ端駆逐艦や空母・戦艦に一番恐怖されていたのは先刻のオリョクルズだったが、

 深海棲艦の中で最優先での轟沈を求められていたのは、この明石である。


提督(――――よし)ムン


 提督も整備や組み立て方を教えた者として、負けていられないと気合を入れる。

493: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 22:02:15 ID:DBfQCh7I

提督「っと、こっちのリムにタイヤを……」

明石「あ、全部やっておきましたよ。スプロケも全部取り付け完了です」フンス

提督「あ、そうなのか? じゃあ俺は……振れ取りの続きを」

明石「済みましたよ」フンス

提督「そ、そっか………き、機械式のワイヤー張らないとな」

明石「終わりましたよ」フンス

提督「………え、えっと、じゃあ俺はフレームにブレーキ取り付けなきゃ」

明石「あ、お願いしますね! ――――もう半分ぐらい、取り付け終わってますけど」

提督「…………」

明石(褒めて褒めて)ワクワク




提督「…………」ムスッ

明石「な、なんでスネてんですか?」


 提督はふてくされた。提督は乗るのも好きだが、何気に組むのも好きなのだった。

494: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 22:12:12 ID:DBfQCh7I

提督「いーよいーよ……どうせ俺なんてクソ提督だよ……クソ虫ペダルですよ……俺はこのバイクだけ仕上げちゃいますよ……」カチャカチャ

明石「あ、あはは……そ、そういえば提督? 提督ってほとんどそのバイクばっかり弄ってますよね? それだけは完成車で来てましたけど、なんなんです?」

提督「………」カチャカチャ

明石「なんか言ってくださいよー!」

提督「あー、うー、あー」カユウマ

明石「ゾンビかッ!」


 明石がツッコミを入れた時である。執務室の扉が、今までと比べれば非常に優しくノックされる。


高波「あ、あの! た、高波、です!」

秋津洲「秋津洲も来たかも! さっきは騒いでごめんなさいかも! お詫びに、秋津洲もお手伝いするかも!!」


 高波と秋津洲のかもかもコンビであった。


明石「あら、高波ちゃん! 秋津洲ちゃんも!」

高波「あ、あの! ご飯、お持ちしましたかも、です!」

提督「そういえば昼飯食べてなかったな。入れてあげて」

495: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 22:14:47 ID:DBfQCh7I
※あ、フレ取りとタイヤの順番逆かも……かもじゃなくて(ry

 の、脳内保管よろしく(震え声)

496: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 22:21:28 ID:DBfQCh7I

明石「はーい! 今開けるね!」ガチャ

高波「あ、あの、手が汚れてるかもだろうからって、おしぼりと、一口おにぎりを作ってきました! 長波姉さまのアドバイスです!」ハイ

秋津洲「秋津洲はお茶淹れてきたかも!」

明石「わ、うれしーなぁ! さ、入って入って!」


 明石が招き入れると、二人は挨拶もそこそこに、執務室内に所せましと並べられたロードバイクに、目を輝かせた。


高波「す、すごいかもです! こんなにいっぱい……!」

秋津洲「これ、全部、提督と明石さんが組み立てたかも!?」

提督「…………」デローン

高波「し、司令官? なんで、脱力して寝転がってるかも、です?」ヒキッ

提督「こちらの方がより鎮守府との一体感が増すんだよ……鎮守府の好感度上げてるんだよ、ワカるかね?」

高波(わからないかも……です)ドンビキ


 いじけモードに入った提督に、カンのいい秋津洲が「あっ」と声を上げ、


秋津洲「わかったかも! 提督、自分より明石さんの方が組み立て上手だからすねてるかも!」

497: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 22:28:30 ID:DBfQCh7I

高波「え、ええっ!? し、司令官……それってホント……かもです?」

提督「何を言うかね君たち。俺がいつ拗ねたって言うんですか。俺を拗ねさせたらそりゃ大したもんですよ、ええ」ヤサグレー


秋津洲(こんな提督、初めて見るかも!)ププッ

高波(ぷっ……し、司令官ったら、可愛いかもです)プフ


提督「今……俺を、笑ったか?」

明石「はいはい、威嚇しない!! さ、提督もご飯食べましょ? 腹が減っては、ですよ!」

提督「ん………そうだな」ムクリ

明石「あ、こっちのシャケおいしい」モグモグ

提督「あ、昆布うめー……茶も……うん……うまい」モグモグ

高波「嬉しいかも、です!」ニコニコ

秋津洲「秋津洲特製のお茶かも!」フンス


 自転車のパーツやオイルやグリス缶、チェーンやワイヤ類が散らばる床に、四人は輪を描くように座る。

 提督と明石はおにぎりと茶に舌鼓を打ち、高波と秋津洲は嬉しそうにそれを眺める。

498: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 22:33:44 ID:DBfQCh7I

 食べ終わったあとは、高波は自転車を興味深そうに一台一台見学していく。

 秋津洲は明石の横で、組み立て方を実践しながら学ぶ。

 提督は、再び一台のとあるロードバイクにつきっきりで整備を再開した。


提督(まあ、なんだ……俺と明石のそれぞれが、組み立て平均所要時間に1時間を見込んで、総作業時間は軽く24時間超はかかるとみてたんだが……)チラ

明石「もう……頑張って覚えたのにさー。ぷんぷん!」ババババババババ


 いつしか提督は手を動かしながらも、明石の作業の手際をじっと見つめていた。

 文句を言いながらも、明石の手は恐ろしい正確さで、まるで神のように動いていた。


明石「ありゃ、これブレーキ位置がBBの下にあるんだ? えっと、これはこうかな?」

提督(うん、正解)

明石「えーっと、ワイヤのテンションの張りは……と」

提督(正解)

明石「あ、こっちはワイヤが外装式? へー、クロモリだと外に露出してるんですねー。これはこれでメカニカルな感じが好きだなー」フンフン

秋津洲「わぁ、明石さん、すごく早い!? 秋津洲……ひょ、ひょっとして、お邪魔だったかも?」

499: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 22:35:45 ID:DBfQCh7I

明石「そんなことないよ? ほら、こここうやって……」カチャカチャ

秋津洲「おお……すごいかも!」

高波「わ、わ! ほんとかもです!」

明石「にひひっ! でしょー?」

提督(お?)


 ふと、提督は明石の声色に思うところがあったのか、明石の手ではなく――――その表情を注視する。


明石「わお、ダブルレバー式……利便性で言えば近年のSTIレバーですけど、これは機能性とは違った美しさというか、かっこよさがあるなあ」ナルホド

高波「はい! なんか、かっこいいです!」

提督(おお……)

明石「カンパの変速ってなんかオトコノコって感じ。親指ジャゴーって! ふふっ」ガシュッ、シュコンッ

高波「やってみてもいいかも、です?」

明石「いいよー! ペダル回してるから、ほら、変速してみて!」

高波「よ、よーし、えいっ、えいっ!」ジャコッ、シュコン

明石「うん、調整バッチリ!」

500: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 22:37:52 ID:DBfQCh7I

秋津洲「あっ! つ、次は秋津洲がやってみたいかも!」

提督「く、ははは、はははは」ケラケラ

明石「へ? な、なんですか提督? 褒めてくれない提督? こんなに頑張ってる工作艦を! 褒めてくれない! 提督? 何笑ってんです?」ジトッ


 明石は褒められたがりである。

 提督はもう呆れるしかなかった―――――明石が1台のバイクを組み上げるまでの所要時間は、既に10分を切っていた。

 しかも、まだまだ早くなっていく。しかし、提督が笑ったのは、そこではなく――――。


提督「こりゃ、残業いらねえな」

明石「ん? 何か仰いましたか、提督」ジロッ

提督「いや……明石は凄いなって」

明石「! で、でしょ!! んもー、出し惜しみしちゃって! ちゃんと褒めてくれなきゃ、私もすねちゃいますよ!」ドヤー


 ふふんと胸を張る明石に、提督は、


提督「楽しいか、明石?」

明石「………え?」

501: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 22:50:26 ID:DBfQCh7I

提督「ロードバイク、組むのは楽しいか?」

明石「え、え? えっと………はい」


 質問の意図が掴めず、戸惑いながらも、明石は頷く。


提督「最近、長良と大淀と青葉にも似たようなこと言ったが………兵器をいじってるより、そっちの明石の方がイイ顔してるよ」

明石「―――――! ………あ、ほ、ほら! 提督! 手が止まってますよ! ちゃんと手を動かして!」

提督「お? おお! そうだな。人のこと言えんな、俺も」カチャカチャ


 そう言って、提督は今度こそロードバイクに向き直り、最後の仕上げにディレイラー調整、次いでバーテープの巻きに入った。


秋津洲「はぁー……明石さん、ホントにすごいかも……魔法の手かも!」

明石「…………」


 秋津洲の呼びかけにも応えず、明石は手を動かしながら思考の海に意識を沈めていた。


明石(そっか。私……兵器とかじゃなくて、もう)

502: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 22:51:20 ID:DBfQCh7I

 記憶の海をさまよう。


秋津洲「?? 明石さん?」

明石(これからは、こういうの、弄れるんだよね)


 大戦の日々。

 終わらない戦いの日々。

 ただ、艦娘達を見送るだけの、日々。


高波「明石さん? どうかしたんですか?」

明石(あ、あれ?)


 いい子たちばかりだった。乱暴な子もいるけど、誰も彼も心根は真っ直ぐだった。

 明石が会話したことのない艦娘は、一人もいない。

 彼女たちの何千という艤装を整備してきた。

 大好きな人たちを戦場に送るために、日々レンチを振るう。

 溶接して、ハンマーを振るって、完璧に完璧を求めて、もっともっとと。

503: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 22:54:46 ID:DBfQCh7I

https://www.youtube.com/watch?v=nkm2nHpMgnE




 明石の手で造られた装備で、艦娘達が大きな戦果を上げる。

 それを聞いても、明石にはあまり喜べなかった。

 喜ぶべきだと、分かっていた。だから笑った。


秋津洲「明石さん? 手が止まっ―――――ッ!?」

高波「え? え? どう………あかし、さん?」

明石「や、やだな。なんだろ……お、おかしいな。目が……なんだろ、良く見えない」ゴシゴシ


 より戦果を上げられる兵装を作る。その誇りは確かにある。だから、大いなる戦果は喜んでしかるべきことだった。

 なのに――――明石は、ただ艦娘達が全員、無事に帰ってきてくれたという報を聞いて、初めて喜べた。本心から笑えた。

 ああ、よかった。自分は今回もベストを尽くせたんだと。


明石「あ、あは、なんだろ、変だね……提督、ちょっと、ごめんなさい、わ、わたし、なんか、目が」

高波「あかし、さん?」

秋津洲「だ、大丈夫かも? 大丈夫じゃないかも? ど、どこか痛い?」

504: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 22:56:47 ID:DBfQCh7I

明石「え? ああ、大丈夫。なんかちょっと、目がかゆいって言うか、視界が歪んで……一気に気張りすぎちゃったかな?」


 その喜びはほんのひと時だ。

 彼女たちの悩みを聞く。辛いとか、苦しいとか、悲しいとか。些細なことから、重いものまで。

 彼女たちの思い出を聞く。楽しかったとか、怒ったとか、凄く興奮したとか。

 それに一つ一つ答えていく。一緒に悩んで、一緒に泣いて、一緒に笑って、歩いていく。

 また次の戦いが始まる。また、艦娘達が海へと出ていく。

 ――――敵を沈めに行くのだ。戦いに行くのだ。


高波「あ、明石さん? 気づいて、ないかも、です?」

明石「え? な、何が? なんで二人とも、そんな」


 なのに、明石は。


秋津洲「明石さん――――泣いてる、よ……?」


 明石はずっと、ここにいた。

505: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 23:01:55 ID:DBfQCh7I

明石「…………え?」


 敵を沈めに行く彼女たちもまた―――沈むかもしれないのに。


明石「え、あ、やだ……なんだろ、私、こんな」


 そこでやっと、明石は、自分が泣いていることに気づいた。

 ぽろぽろとこぼれていく雫を、掌で受け止める。

 グリスやオイルに塗れた、汚い手だな、と明石は思った。

 戦うこともできない、弱い手だな、と明石は思った。


明石「―――――ぅあぁ……」


 明石の表情がくしゃくしゃに歪む。


明石「やだ………い、行かないで……」


 歪んだ視界の中に、高波と秋津洲が映る。

506: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 23:05:25 ID:DBfQCh7I

 手を伸ばそうとして――――それを引っこめる。

 こんな汚い手で、触っちゃダメだと。

 卑怯者の手だ。

 工作艦だから、修理が本業だからと、言い訳して。

 その罪悪感から、心理学を学んで、勉強して、セラピストの資格を取って――――。


明石「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……ひ、ゆるして、ごめんなさい……」


 見えない何かに怯えるように、明石はへたり込んで許しを請う。


高波「し、司令官!! あ、明石さんが、明石さんが………!」

秋津洲「しっかりして欲しいかも!! 明石さん!? 明石さん……!」


 明石の尋常ではない様子に、秋津洲が肩を掴んで揺さぶり、声をかける。

 その声が、明石には罵声に聞こえた。

 卑怯者、と。

 軟弱者、と。

507: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 23:11:05 ID:DBfQCh7I
 偽善者、と。


明石「ちが、わた、し……ごめんなさい……」

提督「――――し」


 ぱさりと、布状の何かを投げ捨てる音。


明石「弱くて、ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、一緒に、行けなくて、ごめんなさい」

提督「――――かし」


 肩にかかる圧力が、より太いものに切り替わる感触。


明石「卑怯者で、ごめんなさ――――」

提督「明石」


 次いで、温かな感触が、頭を包んで。

508: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 23:17:20 ID:DBfQCh7I

明石「………ぁ、あ? て、いとく?」

提督「おう。おまえの提督だ、明石よ。褒められたがりで罰せられたがりの馬鹿工作艦――――お前の提督は、ここにいるぜ」


 やっと明石は、提督の胸に、己の頭を抱き止められていることに気づいた。


提督「言ったよな、明石。さっき、確かに言った」

明石「あ、て、提督、わ、私、手、汚くて」


 離れようとして、より強く提督は明石を引き寄せる。


提督「泣いてる子がいたら、綺麗な笑顔にしてやるのは男の仕事よって」

明石「あ、あは、はは……わ、たし、泣いてますよ。まだ」


 渇いた笑みとは裏腹に、虚空をさまようその手は、震えて。

 いいのか、と尋ねるように、ゆっくりと閉じられていく。


提督「そうだな。スマンがありゃ嘘だった。仕事じゃなくて、これは全部、俺の私的なもんだ」

明石「え、な、にが……?」

509: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 23:20:16 ID:DBfQCh7I

 何もかも吐き出したくて、叫びたくて、泣き喚きたい思いを抱えてきた。


提督「泣きたい子を、思いっきり胸の中で泣かせてやるのは――――男冥利に尽きる」

明石「っう……ふぇ、あ、あ……あ゛ーーーーー! あ゛ーーーー! あ゛ーーーーー!!」


 汚れた手で、提督の身体に手を回す。

 じとりと滑った手が、提督の服を掴む。

 後はもう、明石には何もかも分からなくなっていた。ただ喚いていた。

 子供のように。


明石「わ、わだじっ、ご、ごわくでっ……」

提督「うん」

明石「わだじのっ、メンテナンスが、わるぐで、みんな、みんなが、しずんじゃっだらっで……こわぐでっ……」

高波「あ、明石、さ……」


 高波の潤んだ瞳からも、涙がこぼれた。

510: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 23:24:38 ID:DBfQCh7I

明石「なんで、なんで、わたし、よわぐで、た、たたかうの、苦手でっ、なんで、わだじ」

提督「うん」

秋津洲「ひ、ぐ、ぅう」


 泣き声が二重奏から、三重奏へ。

 その背を優しくたたきながら、提督は頷く。


明石「でも、みんな、生きでで、嬉じぐで、みんな、わだじに、ありがとうっで……」

提督「うん」


 提督の手の温かさが嬉しくて、それが尚更明石の劣等感を加速させた。


明石「わだじのおかげで、戦い抜げだっで……頼りに、なるっで、いっでぐれで、う、うれじがっだ……」

提督「うん」


 泣いてすがるなんて、どこまでも自分は卑怯なんだと、思い知らされて。

 なのに。

511: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 23:31:35 ID:DBfQCh7I

明石「でも、わだじ、情けなぐっで、ら、らって、わたし、弱いから、だから、なにか、別のこと、できないとって、でも、やっぱり、よわくで」

提督「うん」


 吐き出すたびに、一つ一つ重荷が消えていくような感覚があった。


明石「せ、ぜめで、みんなの、こっ、こっ……こころの、ささえに、なれればっで、セラピストの、しがく、わだじ、ほんどに、ひきょう、で」

高波「ぞ、ぞんなこと、ない、です!! か、かもじゃなぐで、ほ、ほんどうでず!!」


 背に感じる温かさが、右の腰にも広がる。


明石「で、でも、みんなのごと、知れば、知るほど、ごわぐで……ごわぐて、こわぐで、たまらなぐなっで……」

提督「うん」

明石「き、昨日まで、えがおで、話してた、こが、いなぐなっだら、って……そ、んなの、やだよぉ……こ、ごわいよぉ……」

秋津洲「秋津洲がっ! こごにいるよっ!! みんな、いる、よぉ……」


 左側にも、温かくて、熱い、命の鼓動。

512: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 23:42:07 ID:DBfQCh7I

提督「なあ、明石」

明石「う、うぅ、うー……うぇ、あ、ぅあ、あ……」

提督「誰もいなくなってないぞ。おまえの大事なものは、何一つ失ってない」

高波「っ……です!!」

秋津洲「うん!!」


 力強く頷く、高波と秋津洲。


提督「秋津洲も言ってただろ? おまえの手は、汚くなんてない―――どんな損傷だってあっという間に直しちまうし、作り上げることだってできる魔法の手だ」

明石「ぅ……うぁあ……」

提督「俺の指揮する最強の艦隊は――――誰も沈まない。それはすでに証明してる。世界一強くて優しい優秀な工作艦がいるんだから、当たり前だ」

明石「っ、うぞ、づきっ……さ、ざ、さっき、ば、ばかこうさくかんって……」

提督「ああ、それも嘘だ。褒められたがりの罰せられたがりってのは、本当だけどな」

明石「う゛ぅ、う、うあ゛………あ゛ぁーーーー! あーーー!」


 三つの泣き声の響く執務室の中で、提督はただ優しくその背を叩き続けた。

513: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/22(水) 23:49:55 ID:DBfQCh7I

………
……



 それから、およそ数十分後。


明石「………たらし」グスッ

提督「距離を取るな」


 床にへたり込んだまま後ずさる明石は、真っ赤になった目元を抑える袖から僅かに視線をのぞかせて、提督を恨むように見上げている。


提督「そっち行っちゃダメ?」

明石「ヤダ、寄らないで……見せられません、こんな顔……」グスッ

高波「近寄ったら、司令官でも許さないです」ジャキッ

秋津洲「二式大艇ちゃんを喰らわす」バルバルバルバル

二式大艇ちゃん【┃皿┃】<ブッコロスゾコゾー


提督(両者共に語尾から「かも」が消えた……本気だな)ゴクリ

514: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/23(木) 00:17:21 ID:YHtX7cb.

提督「………あーじゃーもうアレだ。解散ね、解散。あとは俺がバイク全部仕上げとくからよ……(結局、残業か)」ハァ


 と言っても残る作業は微々たるものである。

 明石の超高速組み立てにより、休憩無しでぶっ通せば、提督一人でも5~6時間程度で終わる作業であった。

 明石ならば1時間足らずで終わってしまうというのが悲しいところである。


明石「ん………その、提督………」

提督「あん? なんだ褒められたがりの泣き虫工作艦よ」カチャカチャ

明石「………ばーか、しね。あほ、女たらし」

提督「よし、戦争か」ヤレヤレ

高波「手を上にあげるです!!」ジャキッ

秋津洲「寄らば撃つ」バルルルル

二式大艇ちゃん【┃皿┃】<ヨラナクテモウツ

提督「あーもう分かったよ降参だよ、もうどっか行けおまえら……慰めただけなのによー……なんだよー……」ブツブツ


 立ち上がりかけた腰を再び下ろして、提督はバイクの組み立て作業に戻る。ブツブツと文句を呟きながら。

515: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/23(木) 00:19:20 ID:YHtX7cb.

高波(司令官が、明石さんのもやもやを吐き出させたのはわかりますけど……なんか、むかむかするかも、です)ムカ

秋津洲(イライラするかも……あ、二式大艇ちゃん、戻っていいかも)シュバッ

二式大艇ちゃん【┃v┃】<マタイツデモヨベヨ

明石「………提督」

提督「なんだよ、馬鹿工作艦」


 背を向けたままぞんざいに返事をする提督。

 顔を見られたくない、という明石を気遣って―――さっきからわざとぶっきらぼうに振る舞っているのが、明石には分かった。

 その目元は赤く腫れあがっていたが、すっきりした顔をした明石は、


明石「あ、ありがと……ございます」ペコ

提督「………ん」


 提督の背に、深く頭を下げた。

 そして、踵を返して執務室から出ようとして――――。


提督「あー………明石」

516: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/23(木) 00:20:53 ID:YHtX7cb.

https://www.youtube.com/watch?v=7VzzpzGleHI



明石「え?」


 振り返る。


提督「忘れ物」


 提督は明石には背を向けたまま、部屋の隅を指先で示し、


明石(あれって………提督が、ずっと組んでた、バイク……?)

提督「――――試乗車五十台って言ったろ?」

高波「かもです?」

秋津洲「かも?」

提督「さてここで問題です。この部屋には一体何台のロードバイクがあるでしょうか」

高波「え? えっと、いーち、にー、さん、しー……」

秋津洲「よんじゅうはち、よんじゅきゅー………あ、あれ?」

高波「1台、多いかもです!? 司令官のバイク除いても、やっぱり多いかもです!!」

517: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/23(木) 00:22:07 ID:YHtX7cb.

明石「え、え………えっと、その、まさか?」


 むしろ、どうして気づかなかったのかと、明石は提督の背中と、そのバイクを交互に見やる。

 だってそのバイクは、



提督「もともと、なんだ、その、おまえには、組むの手伝ってほしかったっていうか……組む楽しさ知ってほしかったというか……だから、なんだ、その」



 明石の髪の色と同じ――――ピンク色のフレームで出来ていて、



提督「お、お礼にバイクでも組んでやろうかなって思って……」

明石「――――~~~~~~~っ!!」



 思わずその背に、抱きつきたくなる衝動をこらえて、明石はバイクのハンドルをぎゅっと握りしめた。


明石(あー……私、やっぱり、ばか工作艦だなぁ……提督の言う通りだったや……)

518: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/23(木) 00:23:48 ID:YHtX7cb.

 そう自嘲しつつ、バイクを転がして、再び提督に向き直り、


明石「素敵なプレゼント、ありがとうございますっ! 大事にしますね、提督っ! にひひっ♪」

提督「……けっ、うるせ、どっかいけどっか」シッシッ


 提督はぶっきらぼうに返事をする。明石には、それがこちらを気遣って――――ではないことがわかった。

 それは高波にも、秋津洲にも分かった。何故なら。


明石「―――――――照れ屋提督さん♪」

高波「かもです、えへへっ」

秋津洲「かも~~~~♪」

提督「やっぱ戦争だてめえら!!」



 こちらに背を向けて座り込む提督の――――首筋から耳までが、真っ赤だったからだ。



……
………

519: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/23(木) 00:24:35 ID:YHtX7cb.


【番外:その後の提督と明石の地獄】

【失敗!】



【番外:明石の自転車工房へようこそ!】

 &

【番外:提督だけ地獄に行くんだよ!(残業)】


【W大成功!】


【続く!!】

520: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/23(木) 00:30:07 ID:YHtX7cb.

********************************************************************************

工作艦:明石

【脚質】:ポタリング派

 ――――提督のばーか! にひひっ♪

 圧倒的ヒロイン臭がする……ということで金剛型に目を付けられるようになってしまった可哀想な明石。
 別の世界線では非常に不憫だが、ここではとても幸せな毎日を送っている。
 駆逐艦のあの子も、軽巡のあの子も、戦艦のあの子も、今度は一緒に、どこにだって行ける。


【使用バイク】DEANIMA Unblended Bice Rosa chiaro(light pink)
 純正のメイドインイタリー、しかもハンドメイドカーボンフレームのデ・アニマ! そのビーチェデザインです!
 かの有名なスチール工房ペゴレッティの弟ジャンニ氏が意欲的にチャレンジしたカーボン素材のロードバイク!
 新参ブランドだからレースでの実績はないけれど、ハンドメイドならではのこだわりがたっぷり詰まったキレイなバイクでしょう?
 その、うん、私の髪の色と同じに、合わせてくれて、その、なんか、わ、悪い気はしないなーって、にひひっ♪

 ところで、デ・アニマってどんな意味だったっけ? それにビーチェって、確かベアトリーチェっていう女性の愛称だったよね?
 調べてみよっと……。

 ………ふぇ!? て、提督!?

********************************************************************************

521: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/23(木) 00:31:51 ID:YHtX7cb.

※プチ後日談~高波・秋津洲・明石のサイクリング~


高波「とってもかわいいです! かもじゃなくて、ホントです!」

秋津洲「うん! ピンク色って明石さんにはすっごく似合っててかわいいかも! ……っと、かもじゃないかも!」

明石「あははは、どっちなのよー」

高波「ホ、ホントです!!」アセアセ

明石(そういえば……デアニマってなんて意味だったっけ? なんか心理学の本で読んだ気が……ん? ん? んん………)ポチポチ

秋津洲「?? 明石さん? 何を調べてるのー?」

明石「い、いや、ちょっと気になることあって、調べ事……えっと、デ・ア・ニ・マ、と……」ピロン

高波「それじゃあ、みんなと一緒にシェイクダウンにいくかも……って」

明石「…………////」プシュウウウウ

高波「あ、あわわ!? あ、明石さん、お顔がまっかっかかも!?」

秋津洲「デ・アニマを調べた後からああなったかも! 秋津洲も調べてみるかも!」

明石「!? だ、だめ……! や、やめて、ほんと……恥ずかしくて、死んじゃうから」

秋津洲「結果が出たかも! デ・アニマって、『魂』って意味かも!」

522: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/23(木) 00:32:55 ID:YHtX7cb.

明石(あ、そ、そっち……そっちなら、いいや)ホッ

高波「あれ? でも、別の意味もあるかもです!」ポチポチ

明石「らめええええええ!!」


 デ・アニマ。『魂』『心』『命』を意味し、精神科医であるユングが分析心理学の用語として用いた言葉である。

 セラピストとして艦娘達の『命』や『心』を守り、工作艦としての信念―――『魂』を持つ明石に贈るという意味では洒落っ気が利いている。

 ――――のだが。


高波「わ、わ、わ……え、えっ//// こ、これって、そ、そういうことかも……です?////」ポッ


 アニマには別の意味もある。

 ―――――――『男性の理想の女性像』という意味だ。

 提督が其方の意味で贈ったとなると、デザインの『bice(ビーチェ)』を選んだ理由に、別の意図が見えてくる。


秋津洲「て、提督ってば、す、すっごく、情熱的、かも……////」ドキドキ


 イタリア語の女性名である『ベアトリーチェ』の愛称たる『ビーチェ』は、かの詩人ダンテが理想とした女性の名前である。

523: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/23(木) 00:34:53 ID:YHtX7cb.

 ダンテの詩文作品に曰く――――『出会った瞬間に『魂』を奪われるかのような感動を覚えた』という。

 そしてかの有名な『神曲』においては、ベアトリーチェは物語の主人公たるダンテを、天国に居ながらも支え続ける永遠の淑女として描かれている。

 つまり、そのバイクを明石に与えたということは。


明石「―――――ぁぅあ」ブシュッ


 明石は熱病に浮かされたようにふらつき、鼻血を出して失神した。


明石(に、にひ、にひひ……きっと、私、普通に、指輪貰うより、嬉しいもの、貰っちゃったんだ……♥)ドクドク


 幸せそうな笑みを浮かべて床にうつ伏せに倒れた明石は、致死レベルの鼻血の海に轟沈しながらも妙に幸せそうだったという。


秋津洲「わ゛ーーーーーッ!? し、しっかりしてかも!! 傷は浅いかも!!」ユサユサ

高波「ゆ、揺らしちゃダメです! かもじゃなくてホントです!! は、はやく入渠! 入渠を!! 長波ねえさまーーーー!!」

提督「?」


 なお提督としては製作者たるデ・アニマの『魂』という意味で明石にプレゼントしたもよう。誤解である。なおこの誤解は誤解のままに放置しても否定しても厄介な代物であった。

 自転車と共に提督の命日への速度もまた加速していくロードバイク鎮守府であった。

524: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/23(木) 00:36:42 ID:YHtX7cb.
※プチ後日談・艦




※なお別のスレだと恐ろしく扱いが悪い明石である

 女の敵という意味ではどっちの提督も大差ねえ

 さて、次は金剛型のロードバイクです。お楽しみに!

532: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 00:37:32 ID:o8o9ua0w

【番外:その後の夕張と島風】


 鎮守府がロードバイクに飢えた餓鬼で埋め尽くされる少し前の話である。

 天龍型・長良と五十鈴は手分けして妹たちや第六駆逐隊、そして島風や夕張をこっそりと軽巡寮に連れ込んだ。

 取り急ぎ事情を説明され、事情を察した彼女たちは脱出準備を整えていた。



大淀「さて、これから鎮守府を脱出するわけですが。その前にやることがあります」


 のだが。まず一つの問題を片づける必要があった。



天龍「ああ。島風、夕張」

島風「はい!」

夕張「うん、何?」


 それは―――。

533: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 00:41:43 ID:o8o9ua0w

天龍「――――四の五の言わずにレーパンを穿け……!!」


 鬼気迫る表情で、天龍はそう言った。

 レーシングパンツ――――通称・レーパン。

 裏地にパットが縫い込まれている、自転車競技用のアンダーウェアのことである。


龍田「拒否権はないわ。というか、穿かないなら途中でリタイアは確実よ」

長良「うん。なんせ少なくともこれから5~6時間は外に出てるわけだし……途中で走れなくなるかもしれない」

島風「おうっ!?」

夕張「えっ、そ、そこまで?」

天龍「大淀の予備があるから夕張はそれを。それと暁」

暁「ええ! ちゃんと電話で聞いた通り、レーパンをもう一着持ってきたわよ!」

島風「えー、そ、そこまでしてもらわなくても」

夕張「そうだよ? そんな、わざわざ借りてまで穿かなくても―――」


 二人はそう言うが、龍田は首を横に振る。

534: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 00:43:04 ID:o8o9ua0w

龍田「ほんの四キロ程度走った程度だから実感がないのは分かるけど………甘く見ない方がいいわ。穿かないと――――死ぬわよ?」

夕張「死活問題なの!?」

島風「う、嘘でしょ……?」


 流石に大げさだろうと夕張と島風は他の面々の顔を見回すが、


長良「いや、冗談抜きで」ホント

五十鈴「………穿いててもヤバいときはヤバいわ」

名取「は、穿いた方がいいよ? これがあるだけで、全然違うから」

由良「今日はともかく、そのうち一緒に買いにいこ? 由良、ついてくから。ねっ?」

鬼怒「恥ずかしいならサイクルスカートもあるしね」

阿武隈「うんうん」

暁「一人前のれでぃは皆、レーシングパンツとサイクルスカートを身に着けるのよ!」エヘン

響「それは違うが、まあつけた方がいいと思うな。特に島風は」

雷「まあ……島風ちゃんは、ねえ?」

電「そのままだと色んな意味で大惨事なのです……」

535: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 00:44:59 ID:o8o9ua0w

島風(えー……)

夕張(ちょっと恥ずかしいんだよなあ……)


 誰も彼もがレーパンを推してくる事態に、島風と夕張は率直に戸惑った。

 特に、長良と天龍と龍田の推しっぷりは凄まじいものがある。


長良「穿くのよ。念のためにパット部分にはこのシャモアのクリームを塗るの……いい?」

龍田「ちょっと塗りすぎかなってぐらいがいいわ……」

天龍「いや、オレが塗ってやるからそのレーパン貸せ」

島風「お、おう……?」

夕張(なんで長良といい天龍といい龍田といい……こんなに必死なんだろう……)

長良「………」

天龍「………」

龍田「………」


 この三名は先駆者ゆえの悲劇を経験したが故であった。

536: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 00:46:58 ID:o8o9ua0w

 提督にロードバイクをプレゼントされて間も無く、調子に乗った長良・天龍・龍田が、提督抜きで遠出した際のことだ。

 この当時、まだ三人はレーシングパンツを着用していなかった。

 「そのうち買えばいいだろ」的な考えや「少しアレは恥ずかしいわ」といった羞恥心によって、購入を後回しにしていたのである。

 
長良『まずは目指せ、200kmだね!』フンス

天龍『おお! サイクリングロード沿いに100km走って折り返してみるか!』ヨッシャ

龍田『うふふ、走り切ったら提督に自慢しちゃいましょうね~♪』


 ロードバイク初心者はまず30kmとか、いいとこ50kmとかを目指して走るものだが、この三人はとにかく走ることが大好きであった。体力も馬鹿みたいにある。

 意気揚々と出発した三人が――――異変を感じたのは、80kmを走り抜けたあたりであっただろうか。

 期せずして、三者三様、それに気づく。


長良(…………あ、あれ?)

天龍(なんか………あ)

龍田(―――――いけないわ、これ)


 三人は【非常にデリケートな部分】に激痛を覚えたのだ……!!

537: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 00:50:27 ID:o8o9ua0w

長良(………ど、どうしよう。い、痛い。メチャクチャ、痛い……我慢できる類の痛みじゃない……筋疲労とかじゃないよ、これ!!)

天龍(ろ、路面からの、衝撃が、ひ、響くぅ………ぐがっ!? ………か、かといって、い、痛くない乗り方すると、こ、腰に来るッ……!!)

龍田(ぬ、布地に、す、スレて………ぽ、ポジションを、変えるたびに、やだ、い、痛い。これ、凄く痛いわ……!!)


 それなりにロードバイクを乗り込んでいれば、路面の凹凸を超える際にサドルから僅かに体重を抜く―――抜重(ばつじゅう)の技量は身に付くものである。

 しかし、鎮守府内の整備された路面ばかりを走ってきた長良と、初心者の天龍・龍田である。

 鎮守府内の路面は非常にコンディションが良く、非常に凹凸が少ない。坂道など皆無であった。こんなアクシデントは三人とも想定していなかった。


長良(…………)チラッ

天龍(…………)チラッ

龍田(…………)チラッ


 以心伝心。考えることは同じ。

538: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 00:52:44 ID:o8o9ua0w

長良(痛い、痛い、痛い)ナミダメ

天龍(フフ……痛いか?)ナミダメ

龍田(あら~? 痛くて声も出ないわ~……)ナミダメ


 感じてることもきっと同じ。三人は引き攣った笑みを浮かべてブレーキをかけて停車。


長良『――――帰ろう』グッ

天龍『ああ。帰ればまた来られるからな――――』フッ

龍田『木村少将、ごめんなさい』ニコリ


 木村昌福少将に内心で全力土下座をしつつ、三人は進路反転――――鎮守府へ向かって走り出した。行きに比べてやけに遅い速度だったのは言うまでもない。

 200km走破ならず――――帰還後、入渠……もとい入浴して汗を流した三人は、顔を真っ赤にして提督のもとを訪ねた。

提督(長良や天龍はともかく、龍田がこんなレア顔を晒して自分のもとを訪ねてくるのは珍しい)

 もしや深刻な話かと、提督が真剣に相談に乗ってしまった。


 悲劇の第二幕――――その幕開けであった。

539: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 00:58:11 ID:o8o9ua0w

 言いよどむ三人をいつも通り無駄に弁の立つ提督はペラ回して話を聞きだし。


天龍「/////」イジイジ

龍田「/////」モジモジ

長良「/////」テレテレ


提督(極大の地雷踏んだ)


 後悔する。トークスキルが高いことが毎回いい方向に向かって行くとは限らない、その典型例であった。

 提督の脳裏に浮かぶのは『仲の良い兄妹』である。

 ○○の始まった妹に涙目でそれを病気じゃないかと告白された兄の気分――――提督の心情はそれに似ていた。

 が、もう聞きだしてしまった以上、シレッと流して追い出しては後腐れが残る。

 かつて駆逐艦の子に来た【○○○の日】の相談に乗った時のように、戦艦や空母に丸投げすることもできない。

 提督は少し困ったような顔でレーパンの着用やクリームといった存在と使い方、抜重のやり方などをレクチャーした後、非常に申し訳なさそうにこう言った。


提督『………なんで男の俺にそれ聞くねん。ネットで調べたらええやん』

天龍『』

540: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 00:59:50 ID:o8o9ua0w

 提督も流石にテンパッたのか口調にキレはなく、似非関西弁での応答だったという。


提督『や、まあ、うん。俺のこと信頼して聞きに来てくれたんは嬉しいんやけどな? その、なんや、デリケートな話やさかい……』

龍田『』


 龍田は「いますぐこの場に穴を掘って埋まりたい」とでも言いたげな激レアフェイスを晒していたという。


提督『―――――とにかく、あれだ。ごめん』

長良『』



 天龍と長良は平手を振りかぶり、直後、提督の両頬に赤い紅葉が咲いた。

 龍田は酷く赤面して部屋に一日引きこもった。

 一晩間をおいて、天龍と長良は提督に謝りに行って、提督がそれを軽い罰則で許した。嫌な事件だったね。


長良(死にたい……恥ずかしさのあまり司令官にビンタして……長良型ネームシップとしての名が泣くよ……)ズーン

天龍(そーだよ、なんで男の提督にオレ……そりゃ、信頼してるけど……なんだって提督に……)ズーン

龍田(私ってホントバカ……そうよ、普通に提督に聞くなんて、どれだけ私……)ズーン

541: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 01:01:57 ID:o8o9ua0w

 その後、龍田も謝りに行って、同じように軽い罰則を与えられ、これで本当に悲劇は終結した。

 三人の黒歴史に新たな一ページが刻まれたのは言うまでもない。


龍田「それにね、島風ちゃん? その格好で外を走れるとでも思ってるの?」

島風「えっ、ダメなの?」

名取(本気で分かってないよぉこの子……)

夕張(流石にこれはダメだってわかる。どっち道、島風は着替えなきゃ……)


 レーシングパンツをはかず、島風パンツをはいて女の子がロードバイクで走る世界なんてのは、聞く限り幸せなように感じられる。

 しかし世の中には需要と供給ってもんがある以前に、モラルとか法とかが存在している。

 ―――R-18指定である。

 あらゆるローディが島風の背後のスリップストリーム(意味深)につくためだけに、秘められたスプリンターの才能を開花させる事態にもなりかねない。

 まるでスプリンターのバーゲンセールだな。

542: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 01:03:13 ID:o8o9ua0w

龍田「あら~? 何やってるの、二人とも?」

夕張「え?」

島風「え?」


 しぶしぶと言った感じにレーパンを穿こうとした二人に、龍田が声をかける。

 疑問符を浮かべる二人に、


天龍「――――○○○脱げ」


 天龍は率直に言った。


島風「えっ」

夕張「や、やっぱり? やっぱり、ホントに、そのまま……穿くんだ?」

島風「ええええええええ!?」


 夕張は知識として知ってはいたが、まさか本当に下着無しで穿くことに関しては半信半疑であったらしい。

543: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 01:04:37 ID:o8o9ua0w

長良「下着つけて穿いたら、ものすごくスレて痛むらしいよ。この三人が証人」スッ

五十鈴「………」

阿武隈「………」

大淀「………」


 五十鈴と阿武隈と大淀はそれで物凄く痛い目を見ている。長良達のアドバイスを「まさかそんな」と一蹴したが故の自業自得ではあるが。

 なお名取と由良と鬼怒、第六駆逐隊の四名は素直に言うことを聞いた故に、我慢できないほどの痛みはまだ未経験のもよう。

 かくして二人は、御着替えを完了させた。


夕張「なんか、すっごく恥ずかしい……サイクルスカートも貸してくれる?」

島風「別に恥ずかしくはないけどー………なんか、すごいぴちぴちする」

天龍「体型が似てる大淀と夕張ならともかく、島風には暁のだとやっぱ少し小さいか……とはいえ、俺や龍田のだとブカブカに……」

島風「あ、天龍も龍田も、おしりおっき―――なんでもありません!」

龍田「………」


 余談だが、龍田は殺気だけで駆逐イ級を轟沈に追い込んだことがある。

544: ◆9.kFoFDWlA 2017/02/24(金) 01:07:42 ID:o8o9ua0w

島風「うー、なんか歩きにくいー……」

鬼怒「サドルに跨って漕いでると、そのうちに違和感はなくなるよ!」

雷「そうそう! 習うより慣れろ、よ!」

電「なのです」コクコク

阿武隈「うんうん」

夕張「あ、あはは、そういうもんかな……?」

由良「さ、準備も整ったことだし――――急ぎましょ、ね?」

五十鈴「ええ、行きましょ!!」

響「ウラー!」


 そんな裏話であった。




【番外:その後の夕張と島風】

【艦(ケツ)】

550: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 20:07:21 ID:JqDMzcCo


【1.7 金剛型のロードバイク】


 提督が長良にロードバイクを奪われてからニ日が過ぎた。

 当初はガンダムを強奪された連邦軍のような顔をしていた提督だったが、それでも仕事はやってくる。

 その間に天龍型が第六駆逐隊を従えて執務室にロードバイクをねだりにやって来たりもしたが、それはそれとして執務である。

 流れるようにペンが紙と擦れる音と、雨音にも似たキーボードをタイプする音が執務室の中に響く。

 提督が資材発注の見積書を作成する傍ら、既に処理した書類の校正を行う艦娘――――秘書艦がいた。

 この日の秘書艦は――――。


霧島「――――司令。こちらの案件ですが」

提督「そのまま処理して構わん」

霧島「はい」


 金剛型戦艦、その四番艦・霧島であった。

552: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 20:12:20 ID:JqDMzcCo

 更にその傍らに控えているのは、


嵐(――――執務ってこんな感じなのか……むつかしそーだなぁ。俺にゃ向いてないかも)

萩風(アジア圏での戦争は終わったっていうのに、こんなに沢山の案件があるのね……それに多くの先輩方が、提督のご意見を求めにひっきりなしにやってくるし……)

初月(………この鎮守府は提督の執務手腕が凄まじいという噂を聞いていたが――――どうして単調な執務だ。独裁めいたワンマンというわけではないらしい)


 陽炎型駆逐艦の嵐と萩風、そして秋月型防空駆逐艦の初月――――今年に入って着任したばかりの、まだ新人の域を出ない艦娘達である。

 鎮守府発足時こそ初期艦が専任していた秘書艦業務であった。

 しかし日を増して鎮守府に着任する艦娘の増加と人員適正などを鑑みて、当初は秘書艦複数人に新人艦娘が付いてのOJT形式での教育体制を取った。

 現在では提督の秘書艦としてベテランが一名、その補佐として、訓練の合間を見て数名の新人艦娘が付くことが恒例となっていた。


霧島「司令、欧羅巴に遠征中のビスマルク、リットリオより入電――――夕雲型駆逐艦・沖波、陽炎型駆逐艦・親潮の教育についてですが、教育過程の進捗に遅延が発生しているとのことです。詳細はこちらに」ピラッ

提督「読もう――――ほう? 思いのほか面白い奴みたいだな、沖波は」パラパラパタン

霧島「ええ。流石のメガネ艦娘です」

提督「メガネは関係ないだろメガネは」

霧島「いいえ、メガネは重要です」

553: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 20:25:45 ID:JqDMzcCo

提督「そんなバカな………うん? 待てよ……ウチで秘書艦適正の高い艦娘って、筆頭が大淀と香取だろ? 次いで鹿島――――を飛ばして霧島と、遠征中のローマ」

霧島「ええ」

提督「武蔵も結構イヤイヤながら処理速いし……鳥海も、はちも、望月も巻雲も……うそだろ?」

霧島「でしょう?」

提督「上位陣の艦娘ってメガネ着用率高いな!? そのメガネって実はなんか凄かったりするのか? 度は入ってんのか?」

霧島「いえ、望遠機能は備わっていますが、伊達ですよ?」

提督「知覚眼鏡(クルークブリレ)かよ……いいなー、それ」


 ――――といったやりとりをする二人の傍ら、


嵐(おっ? 親潮姉が来るのか?)

萩風(あの分厚い報告書を一瞬で読んだの!?)

初月(成程、速読というやつか)


 萩風が目を向いて驚くが、なんのことはない。

 ―――激戦の最中、途切れることなく入ってくる情報の群れを迅速かつ効率よく処理するために、必要に迫られて得たスキルである。

554: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 20:39:14 ID:JqDMzcCo

 秘書艦経験が多く長い艦娘ほどこの技能を取得している者は多かった。

 提督は言うまでもなしである。


提督「…………さておき。神風、春風の着任については予定通りだったか?」

霧島「はい。そちらは滞りなく――――グラーフ・ツェッペリンとアクィラ、ポーラとアイオワ、そしてリベッチオにつきましては、引き続きイタリア・ドイツ連合海軍にて教育を行う予定です」

提督「ならば彼女たちと同時期に着任できるようにスケジュールの再調整を。無理に当初のスケジュール通りに調練する必要はない。無理はさせず、無茶は程ほどに、そして納得いくまでやれと伝えてくれ。ただ、あまり陽炎型と夕雲型をやきもきさせるな、とも」

霧島「ふふっ、畏まりました。陽炎型と夕雲型には間宮券を?」

提督「任せる」


萩風(既に着任している同型の艦娘姉妹にも配慮しつつ……教育については現地で指揮権を委譲した艦娘の判断に任せるんですね)

初月(僕の時も秋月姉さんと照月姉さんをわざわざドイツに寄越してくれたっけ。成程、こういう経緯だったのか……)


 個性を発揮したがる将帥は、得てして独善的な司令部になりがちである。

 萩風と初月は、委譲できる仕事は部下に信頼して割り振っていく提督の執務姿勢を高く評価した。

 一方で、


嵐(早くおわんねーかなー……間宮でスイーツ食いてー)

555: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 20:45:03 ID:JqDMzcCo

 こういう不真面目系の艦娘はどこにでもいる。別に嵐が特別劣っているというわけではない。

 ないが―――物事には適材適所が存在する。

 そして、


霧島(――――――後で私が直々に演習してあげましょう。ええ、川内も呼びますか)ギラリ

嵐(殺気?!)ビクッ

提督(オタッシャデー)


 ベテランがベテランたる理由――――霧島は非常に目ざとく新人を見ている。

 そうした演習面で別の適性を発掘するのもまた秘書艦の仕事でもあった。

 未だ深海棲艦がはびこるヨーロッパ方面の海域だが、この鎮守府にとっては絶好の新人を育てる環境として使われていた。

 嵐・萩風・初月もつい先月まではティレニア海・地中海・北海・バルト海といった海域において、ビスマルクやリットリオ率いる艦隊に付き、深海棲艦の間引き作戦に参加していた。

 また政治的な兼ね合いもあり、日独伊の連携強化のために、一時的に艦娘を貸し出しているという風に捉えることもできる。


提督「霞、皐月、大潮、江風の改二実装についてだが、必要資材の調達はどうなっている? 現在の在庫リストを」

霧島「こちらに」

556: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 20:51:05 ID:JqDMzcCo

提督「では―――」

霧島「ああ、これでしたら――――」


 こうして提督は日々執務に励む――――傍らでは新人たちが参考にしつつメモを取る。



初月(成程………資材の調達タイミングは不足する見込みの時ではなく、別件が生じて完全にマイナス値になる時に……)カリカリ

萩風(有事の際の出撃用資材は別途としてカウントして……修復にかかる資材はどうなのかしら。後で質問しようっと……)メモメモ

嵐(˘ω˘)スヤァ



 なお途中で居眠りを開始した嵐は、後程、川内率いる三水戦との夜戦演習が組まれることとなった。サツバツ。



……
………

557: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 20:55:22 ID:JqDMzcCo

………
……




 かくして執務もひと段落し、新人たちは昼食後に訓練や演習――――なお嵐には特別メニューが組まれるもよう――――に向かった。

 提督はと言えば、霧島から折り入って相談があるとの申し出から、昼食も兼ねて金剛型の部屋へと招かれた。

 そこに待っていたのは、


比叡「はい、司令! 比叡カレーです!!」

提督「おお、旨そうだな」



 比叡カレーである。








 比叡カレーである。

558: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 21:03:50 ID:JqDMzcCo

比叡「今日は霧島が司令を連れてきてくれると聞いていたので、気合! 入れて! スープカレーにしてみましたぁ!」

提督「おお、旨そうだな」

比叡「ふふん、そうでしょうそうでしょう! 昨夜から煮込んだ豚角煮と、素揚げしたお野菜をふんだんにトッピングした自信作です!」

提督「おお、旨そうだな」

比叡「更にスープは特製のスパイスを使っています! ほら、香りもすっごくいいでしょう?」

提督「おお、ウマソウダナ」



 提督の喉はもはや壊れたラジオのように同じ音だけを繰り返す装置と化していた。

 心なしかスプーンを握る手が震えている。


金剛(OH………)

榛名(だ、大丈夫です、提督。ちゃんと私も味見しましたし、美味しかったですよ? 本当です。大丈夫です。本当に)

霧島(以前のトラウマが魂にも刻みついているのね。私も不覚ながら手が震えます……)ブルブル


 提督が大戦時に死にかけたことは一度や二度ではないが、絶体絶命に陥ったのは後にも先にも恐らく比叡カレー以外にはない。

 霧島もまたその犠牲者であった。

559: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 21:13:41 ID:JqDMzcCo

提督『おんもにでて光合成しなきゃ』ガラッ

武蔵『!? て、提督!? 正気に戻れ!!』ヒシッ

霧島『ほっぷ すてっぷ ですとろい』ダーイ

大和『だめぇえええええ!?』ガシッ


 紆余曲折は省略するが――――食した結果、精神に一時的な異常をきたした提督と霧島は、執務室の窓から投身自殺を図ろうとしたのである。

 鳳翔と間宮と伊良湖と金剛に四方を囲まれて五時間説教を喰らった比叡。

 その後、『間宮・伊良湖式ブートキャンプ~料理編~』に参加し、まともな料理を作れるように教育――――否、矯正されたのであった。

 なおその数か月後に加わった磯風も同様の矯正を経ることでメシマズを無事に脱却――――できなかった。

 彼女は今もなおメシマズのままである。間宮も伊良湖も、鳳翔も匙を投げた。提督はトラウマのせいでガタガタ震えて使い物になりゃしねえ。

 閑話休題。

 本日、比叡の作ったスープカレーであるが、


提督「…………おいしい」モグモグ

霧島「あら………イケますね」モグモグ

比叡「でしょ!」

561: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 21:23:33 ID:JqDMzcCo

 問題なく食えるものであった。というかとても美味であったという。


提督「うん……細切りのタケノコは別途炒めたのか。トロみのある『あん』に絡んで、トロットロのシャキシャキ……そう、トロシャキだ」モムモム

霧島「これだけ自己主張の強い汁なのに、他の食材の風味が生きていますね」モグモグ

比叡「味の変化をつけるなら、この付け合わせのココナッツ入りのダシ汁を入れてみてください。辛みも少し薄まりますよ!」

提督「うん、うん………いいね。俺はダシ汁入れた方がいいな。激辛系のカレーは苦手だったが、比叡のこれはイケる」ゴクゴク

霧島「この角煮、いいお味です……噛みしめると肉汁が溢れてきて……甘味さえ感じるのに、このスパイシーなスープと不思議と喧嘩しませんね」アムアム

提督「うむ」ゴチソウサマ

霧島「ええ」ゴチソウサマ

提督「10点をやろう」

霧島「ええ、10点中の10点です」

比叡「やった! 大好評です、金剛お姉さま!」

金剛「イエース! 良かったですね比叡!」

榛名「榛名も嬉しいです!」


 かくして昼食タイムは終了し、ティータイムへと移る。

562: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 21:34:04 ID:JqDMzcCo

金剛「今回ばかりは比叡のカレーに合わせて、カルダモンを入れたチャイ風のミルクティーデース!」

榛名「榛名はクッキーを焼いてみました、どうぞ召し上がって下さい!」

提督「ありがとう。いただくよ」

霧島「ありがとうございます、金剛お姉さま、榛名。いただきます」

比叡(あれ? 心なしか、二人の表情が私のカレーを出された時より柔らかいような……?)


 それはきっと気のせいではない。

 美味しいチャイ風ミルクティーとクッキーに舌鼓を打って、一心地付いたころ、


提督「それで――――俺に金剛型が揃って相談だって?」

金剛「ハイ! ねー、テートクぅー……長良に面白そうな玩具を上げたみたいじゃないデースか……」


 提督が話を促すと、切り出したのは金剛だった。ソファに腰かけた提督の横にいる金剛が、甘えた言葉を出しながらしなだれるように体を預ける。


金剛「ワタシたちもぉー………欲しいなって、ネ?」


 上目遣いのままに、くてんと小首をかしげるように提督の肩に乗せる。

563: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 21:43:40 ID:JqDMzcCo

 しかもさりげなく提督の左腕を己の胸に抱くように引き寄せている。

 それはあからさまに誘惑なのだ!

 提督が口を開こうとする直前に、今度は左から同様の感触。

 比叡であった。


比叡「は、はい……その、是非とも、あの素晴らしく速い艤装を、この金剛型にも、と思い……えっと、えっと」テレテレ


 恐らく金剛による脚本と指導であろう――――ものすごく恥ずかしそうに提督の右腕を抱きしめ、演技ではない栗色の潤んだ双眸が提督を見上げる。

 更に提督が口を開こうとすると、今度は正面――――ティーテーブルの下から潜り込んできた榛名が、提督の膝にしなだれかかる。


榛名「い、いただけないでしょうか。もし、もしいただけるのでしたら……榛名は、榛名は、大丈夫ですから、その……」


 金剛による脚本と指導――――かは分からないが、一切の素で悪気なくこちらを貶めようとしている点では凶悪な破壊力を有している。

 またまた提督が口を開こうとすると、待ってましたとばかりに提督の後頭部を、柔らかな感触が包み込む―――霧島が背後から抱き付いてきたのだ。


霧島「この霧島。司令のために、これまで数々の海域を攻略し、共に執務に励んできた自信があります。望むならば……そのお情けをいただけたら、と。所望する次第です」


 提督の胸元あたりで交差する霧島の両手は微かに震えている。背後故に提督からその表情は窺い知れなかったが、恐らく真っ赤に染まっていることは想像に難くなかった。

564: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/05(日) 21:47:35 ID:JqDMzcCo
※今日はこのあたりで。次回、ロードバイク選定編。

577: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/12(日) 22:57:14 ID:fE25hqXI

提督(―――――いかぬ)


 提督の脳内では、この状況を打破するための戦術論がフルスピードで交わされていた。

 この三年間で何千回開かれたか分からない脳内提督会議の始まりであった。


提督(脱出―――無理。右腕、左腕、両足、そして背後、全て拘束済み。痛覚を刺激するほどではないが、拘束には十二分の力で抑えられている)

提督(――――メッチャ柔ら……四肢および後頭部の感覚を遮断。野生さんステイステイ、オーケイ、ステイヒア……クール……ビィクール……)

提督(このままロードバイクのプレゼントを了承―――下策。元々ロードバイクは強請られればプレゼントするつもりだったが、この状況下でOKを出せば色に屈したと見做されかねん)

提督(恐らくロードバイクが欲しいという言葉に嘘はない……ないが! 一石二鳥とばかりに、俺とのケッコンまでなし崩しに持っていくつもりか――――!)


 金剛は提督ガチラブ勢の一人であった。しかし、あまりにドストレートなアタックばかりのために提督からは脅威とみなされていなかった。


提督(愚劣………!! 己の愚劣さに腹が立つ……!! 霧島ァ……!! 貴様の策だなこれは……!!)


 霧島は艦隊の頭脳(ガチ)であった。この三年間で頭脳的な意味で最も成長した艦娘の中の一人である。

578: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/12(日) 23:02:13 ID:fE25hqXI

提督(何よりこの拘束……俺が何を言おうが、このまま【そっち方面】に持って行こうとしているな……? 考えたじゃないか霧島………実に有効だよ!)

提督(頃合いを見て、何も知らぬ第三者がこの部屋を訪れる手筈も整えているんだろう? お茶会がどうとか……恐らく素直で嘘をつけない性格の駆逐艦を誰かしら! 目撃させてそのまま鎮守府中に噂を流す気だな?)

提督(それが真実かどうかなど問題ではないのだ。そういう噂が立って、どんどん外堀から既成事実として内縁の妻としての立場を確立していく気だな……?)


 ここまでの思考に消費した時間――――なんと0.3秒である。大戦の英雄たる頭脳は伊達ではなかった。しかし時間はあまり残されていない。

 こうしている間にも、提督の『自分では押せないスイッチ』のリミットであるSAN値(すごく・ア艦・なにかの値)はみるみる削られているのだ。

 これが0になるとこのSSは健全でなくなってしまう。

 提督は理性さんが強いが、野生さんも強いのである。野生さんが「あーあ、出会っちまったか」と言いたげに重い腰を上げてアップを開始し始めた―――非常にまずい。

 四つの一級山岳ステージを超える自信はあるが、越えたら最後、この鎮守府は終わりだ。


提督(もういいよね三年も我慢してたんだもの。もうゴールしてもい―――かぬ、考えろ。いかぬ!)

提督(前後左右を囲う、このおっそろしく素敵な匂いが俺の思考をどんどん馬鹿にしていっている――――嗅覚を遮断)

提督(勝つための道筋は………状況を再確認。四人が同時に、同時にロードバイクを強請ってきている)

提督(ヘーイ、金剛ー? 触ってもいいけどさァー、時間と場所を弁え――――てやがるなコイツ)

提督(クソッ……油断したことは認めるが、それは後回しだ――――感情遮断)

579: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/12(日) 23:09:18 ID:fE25hqXI

 ここまでの思考にかかった時間、合計約0.5秒である。

 提督の思考速度の速さを知る金剛は、更にもう一手を重ねる。

 口元をへの字にしたまま思考の海にダイブ中の提督の耳に己の顔を寄せて、拗ねたように唇を突き出しながら、


金剛「ね………テートク………いいでショ……?」ンー


 ふっ、と息を吹きかける。それを合図に、比叡や榛名、霧島も動く。


比叡「そ、その……司令? だ、だめ、ですか? その、私はだめでも、金剛お姉さまや、妹たちには、どうか……」ギュッ

榛名「そ、そんな! 提督? どうか榛名は大丈夫ですから、せめてお姉さまたちと霧島には、どうかロードバイクを……」ギュッ

提督(あっ(察し))


 思考が乱れる。金剛のそれは耐えた。だが比叡と榛名は無理だった。

 比叡と榛名は、何も考えてない。

 ナチュラルでこれなのだ。恐らく金剛や霧島から何も伝えられていないのだろう。

580: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/12(日) 23:12:02 ID:fE25hqXI

 乱れ、浮上した意識の間隙を見透かしたように――――、


霧島「し、司令………私のような可愛げのない女に、このようなおねだりをされるのはやはり……お嫌、でしょうか……」


 更に後頭部に押し付けられる甘美な圧力感が増す。策略の内なのだろうが、伝わる感情と思いは純粋な生である。

 遮断したはずの提督の感覚が色鮮やかに蘇り始め、もはや支離滅裂な思考に陥りつつあった。


提督(はるなぁー! はるなぁあああ!! 提督が大丈夫じゃないのじゃ!! ――――カット)

提督(うわあ比叡おまえなんでこんなミルクみたいな甘い匂いさせて――――ダメ)

提督(嫌なわけあるかよむしろもっとやってくれ霧島もっとモアおっぱ――――いかぬ)

提督(金剛って顔ちっちぇえまつげなげー唇やわらかそう息までいい匂い―――――――視界ならびに全感覚を再遮断)


 セルフ天舞宝輪にて、提督は涅槃に入った釈迦のような面持ちで、再び思考に入った。


提督(思考しろ思案しろ思索しろ思惟しろそもそも前提が間違っているのだ素数なんざ数えてる暇はねえし俺は神なんぞに縋りはしねえ)コヒューコヒューコヒュー

提督(完全勝利を放棄。戦術的勝利条件の模索――――この状況を逆手にとって、四人の拘束を同時にかつ一瞬でいいから緩めさせること)ゼヒーゼヒーゼヒー

提督(さすれば脱出――――『可』能)カヒューカヒューカヒュー

581: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/12(日) 23:23:16 ID:fE25hqXI

https://www.youtube.com/watch?v=AAYx8WPCCrM




 そして提督は――――答えを導き出した。


提督「………金剛、比叡。両手を離してくれるか?」

比叡「え………あ、い、いえ!! 買ってくれるって言うまで、離しちゃダメって、金剛お姉さまが!!」ギュッ

提督「そうなのか? なんで拘束されたのかが分からなかったんだが―――――元々俺はお前たちにロードバイクを買ってやるつもりだったんだぞ?」

比叡「ひえっ!? そ、そうだったんですかぁ? な、なーんだ……って、す、すいません、司令! 私、その、はしたないこと、というか……つ、つまらないものを、お、押し付けてますよ、ね……?」

提督「つまらないなんてことないよ。比叡、凄くいい匂いがした。人に抱きしめられる温かさっていいよな……凄く安心したよ」

比叡「――――!」


 提督の言葉は、半分だけ本心だった。人のぬくもりというものは、とてもいいものだと思っている―――時と場合によっては、だが。

 比叡は提督のことをライバルとして認識している一方で、信頼する上司であり、激戦を潜り抜けた戦友でもある。

 比叡には姉妹艦がいる。甘えられる姉もいる。甘えさせたい妹たちもいる。だけど、提督はどうだろう――――?

 そう思うと、どこか母性にも似た思いが、提督に対して湧き上がってきた。

583: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/12(日) 23:28:47 ID:fE25hqXI

比叡「あ――――は、はい!! 司令がお相手なら、比叡で良ければ、いつでも司令をぎゅっとして差し上げます! 存分に! 甘えて! 下さい!!」

提督「頼もしいな、比叡。でも、もう十分だ。また俺が寂しくなった時は、頼むよ」

比叡「はい!! いつでも! 気合! 入れて! ぎゅってして差し上げます!!」ニコー

提督「ああ。それじゃ、腕を――――」

比叡「はい!」パッ


 あっさりと提督の右腕を解放する。


提督(比叡がいい子で助かった……さて、第一条件はクリアした……)


 しかし今の話を聞いていてなお、金剛は左腕を解放しようとしない。


提督「……金剛? どうして離してくれないのか、なんて聞かないよ――――それでも言おう。離してくれ、と」

金剛「ノー! なんだから! 買ってくれるって言っても、その証拠が――――」


 その言葉を言わせれば、比叡がそれもそうでした! と再び右腕を拘束してくるのは明白。

 故に提督は、金剛の言葉に被せるように、更に一言。

585: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/12(日) 23:37:07 ID:fE25hqXI

提督「両手が塞がってちゃ……お前を抱きしめられないよ」

金剛「えっ……エッ、エーーーーーーッ!?」


 その言葉で、金剛の意識を揺さぶる。


金剛「ッ!!! て、テートク………♥ や、やっとワタシのラブを……♥」

提督「ああ……ずっとかまってやれなかったしな……目を離したら、ノーなんだろう? ちゃんとお前の方に体を向けて、抱きしめるには――――榛名、霧島?」

榛名「は、はい! 離しますね!」パッ

霧島(―――――!? ま、拙いわ……!)


 素直な―――というか何もわかっていない榛名は――――当然のように提督の膝を解放する。

 この流れで、提督は両脚と左腕の自由を得た。残りは金剛の抱きしめる右手と、背後から抱きすくめるように上半身を押さえ付ける霧島の拘束のみ。

 だが、金剛もまた揺らごうとしていた。どれだけアプローチをかけてものらりくらりと躱してきた提督が、今、まっすぐに金剛の瞳を見据えて、抱きしめたいと言っている。

586: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/12(日) 23:41:40 ID:fE25hqXI

霧島(こ、金剛お姉さま!? 耐えて! 耐えてくださ――――)

金剛「モッチロンねー、テートクゥーーーーッ♥」パッ

霧島(ハハッ、ですよねー)


 あっさりと提督の左腕を解放し、さぁハグしてとばかりに両手を広げて待ち構えている。


提督(第二、第三条件はクリア。後は霧島、おまえだけだが)チラッ

霧島「ッ!」キュッ


 背後からの拘束力が、やや強くなる。


提督(おまえは絡め手で潰す――――ここは俺からのアプローチではなく)

提督「さあ、金剛……おいで」

金剛「えーっ! でもぉ、ワタシ、テイトクから抱きしめて欲しいネ……」

霧島「!?(し、しまっ――――!?)」

提督「(言わせたかったのはその言葉だよ……)――――ああ、霧島が俺を抱きしめててな。おまえから来てくれないと」

587: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/12(日) 23:45:58 ID:fE25hqXI

金剛「ンー………」

霧島(こ、金剛お姉さま? 分かってますよね? 私がこの拘束緩めたら、司令は逃げちゃうんですよ? 分かってますよね!?)


 あくまでも解放を命令するのは提督ではなく、姉である金剛。金剛が是とすれば、妹として霧島はそれに従うだろう。


提督(金剛が霧島に拘束を解くように言うのならば最善。だが金剛から俺に抱き付こうとしてきたならば、次善策を執る)


 そして、金剛は、


金剛「霧島ァー! そのままでイイデース! ワタシから提督にハグしちゃいまーす!!」

霧島「!! は、はい!(やった! これで――――)」

提督(ああ――――おまえの負けだ、霧島)


 両手を広げてこちらに近づいてくる金剛。

 そこに、提督は一つだけ疑問を投げた。



提督「ああ、そうだ……ロードバイクを買ってやるのはいいが―――――誰が『最初に』俺に買ってもらうんだ?」

588: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/12(日) 23:50:18 ID:fE25hqXI

金剛「エッ」

比叡「ひえっ?」

榛名「あっ」

霧島「……え?」


 思考の間隙を生み出せるのは、何も金剛型の特権ではない。

 そしてその隙を見逃さぬからこそ、提督は――――。


提督「出さなきゃ負けよー、最初―はグー、じゃーんけん……」

金剛「ワッツ!?」チョキ

比叡「ぽん!」チョキ

榛名「えっ」グー

霧島「ちょっ」グー


 金剛型の四名は思わず片手を差し出してそれぞれの手を形作る。霧島もまた、じゃんけんのために右手を使ってしまった。

 たった一つの拘束が――――緩んだ。

589: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/12(日) 23:52:57 ID:fE25hqXI

 その瞬間、提督はごく自然に流れるような動きで、胸の前に置かれた霧島の残る左手の拘束をそっと押しのける。

 霧島が気づいたころには、もう遅かった。提督が跳躍したのだ。


金剛「し、シィット!?」


 提督は飛び上がっていた。


比叡「なッ……!? す、座ったままの姿勢!? 膝だけであんな跳躍をするなんて……!!」

榛名「し、しまった、一瞬の隙を――――!?」

霧島(この霧島をして、時々……司令が人間なのか疑わしい時があります)


 金剛型の誰からも距離を取る位置―――ソファの反対側へ着地した提督は、


提督(明石……おまえのアホ発明『バネ脚ジャックくん』を靴に仕込んでいなければ……俺は……屈していたな……)


 靴底に仕込まれた強力なバネによる反動を利用したジャンプシューズである。使用者の膝への負担が大きい故、連続使用不可能、そして水上での使用ができないという致命的欠点があった。

 戦艦クラスでも二度が限界だという。

 「一番重要なところだろうそこ」という提督がツッコミを入れる傍らで、共同開発した夕張は「むしろなんで提督は一回とはいえ耐えられるの」という疑問を何とも言えない表情で呑み込んだという。

590: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/13(月) 00:05:25 ID:yrQWNfsY

 さておき、提督は金剛に向き直り、ビッと指をさし、


提督「金剛? お触りはノー、なんだからね? 時間と場所を弁えても、ああいうのは俺、好きじゃないな」

金剛「くッ………も、申し訳ありませんデース……(逃げられたデース……)」グヌヌ

提督「比叡と榛名も、金剛たちに言われたからって素直に言うこと聞かないの! 俺が困るだろ?」

比叡「ひえっ……あ、あの、すいません……ひょっとして、凄く迷惑をかけてしまったんでしょうか?」

榛名「榛名は、とにかく提督を抑えておきなさいって……逃げられちゃダメって」

提督「霧島―――良い策だったが、その後は考えてるのか? 俺からの信頼はガタ落ちだぞ?」

霧島「ッ――――た、大変失礼いたしました。罰であれば、いかようにでも……!!」


 それぞれが畏まり敬礼する中、提督はふっと笑い、


提督「ま、色々後で言いたいことはあるんだが――――」


 金剛型四姉妹、それぞれの顔を見て、

591: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/13(月) 00:07:13 ID:yrQWNfsY


提督「ロードバイク、何が欲しいか決めちまおうぜ」


 そう言って子供のように笑った。

 怒りはなかった。

 むしろよくぞあそこまで俺を追い詰めたという感心と喜びすらあった。

 そしてこうも思った。


 ――――こいつらがロードレースでチーム作ったら、面白そうだな、と。



……
………

606: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 21:34:59 ID:7rwcgXZE

………
……



 かくして金剛型の相談を受ける提督だったが―――まずやることがあった。

 金剛型の部屋から執務室への移動。ほとんど事務仕事は終わっているとはいえ、勤務時間内である。

 次いで霧島が手配していたであろう、目撃させる第三者――――なお谷風と浦風であったらしい―――にお茶会の中止の連絡を入れさせる。

 そして、


提督「首謀者の君と参謀の君、ちょっとそこで正座してなさい」

金剛「イ、イエース……」ショボン

霧島「つ、謹んで……」ショボン


 金剛と霧島を正座させた。残当である。

 聞けば霧島は金剛にゴリ押しされて致し方なくといった感じであるが、罪は罪だ。

607: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 21:36:09 ID:7rwcgXZE

提督「はい、榛名と霧島からね。ああ、霧島はもちろんそのままの姿勢で」

榛名「い、いいのでしょうか……榛名が先で……」

霧島「い、いいの、いいのよ……これでいいの」

金剛「Oh……テートク、強引デース……」


 そしてじゃんけんで勝った榛名と霧島から相談に乗ることになったのだ。霧島は正座のままである。


提督「さて、それじゃ二人のどちらが先にやるか、もう一度じゃんけんを―――」

霧島「お待ちください、司令。それなのですが――――榛名」

榛名「ええ………提督。実は私と霧島の求めるバイクのスペックというか………求めるもの、そのものが同じようでして」

提督「ん? 同じメーカーの同じバイク、って意味じゃなさそうだな………ふむ、まずカタログで目星はついてるか?」

霧島「それがさっぱりでして……」

榛名「お恥ずかしい限りです」

提督「ふむ……見た目ではあまりピンと来なかったか。使用目的は?」

霧島「それならば、私もレースです。金剛お姉さま、比叡お姉さま、そして……」

榛名「はい、榛名も同じ、レース目的です」

608: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 21:38:13 ID:7rwcgXZE

提督「となるとフラッグシップやそれに次ぐレーシングバイクに絞られるが……メーカーにこだわりは?」

霧島「国にこだわりはありませんが………」

榛名「新興のメーカーよりは、信頼性のあるメーカーが望ましいですね」

提督「なるほど……それでは、性能面は? 山に特化した軽量フレーム? 悪路に強いエンデュランスフレーム? 平地の高速巡航を主眼に置いたエアロフレーム? それともオールラウンドフレームか?」

霧島「それは………申し訳ありません。レース目的である点はともかく、私たちはまだ己の脚質が分からないので……」

榛名「ええ。何とも言えないのが正直なところでして」

提督「む、それもそうだな。愚問だった、許せ」

霧島「いえ。御心遣い痛み入ります」

榛名「はい! 提督の貴重なお時間を裂いて戴いているのはこちらですので」

提督「何を水臭いことを。俺とお前達の仲だろうに」

霧島「司令……」

榛名「て、提督……」

金剛(むぅー………なんか通じ合ってる感じがしマース……大事なシスターズとはいえ、ジェラッちゃう……)ムー

比叡(比叡のロードバイク……うーん、これもかっこいい……こっちもかっこいいなぁ……悩むなぁ……)ニヨニヨ

609: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 21:39:21 ID:7rwcgXZE

 面白くないといった表情の金剛とは対比的に、比叡はカタログを眺めて悩みながらも、至極ご満悦そうな表情である。


提督「となると、後は細かい好み……整備面は置いとくとして、フィーリング的なものになってしまうが、試乗会に参加してみるというのは?」

霧島「その……実は、昨日にショップへ行って試乗させてもらったのですが……」

提督「ほう」

榛名「ますます分からなくなりました……」

霧島「ええ……あまり知識がないままで乗っても、良い感触が得られなかったというか」

榛名「はい……あれも良いなこれも良いですね、となってしまい……」


 ロードバイク、アルアル話。試乗会に出てますます何買えばいいのか分からなくなる現象である。

 しかも榛名も霧島も、買い物の際に店員のセールストークに惑わされるタイプであった。


提督「……分からなくもない。というか分かる……あれこれ欲しくなりそうというか、何を選べばいいのか迷うというか」

霧島「は、はい……」


金剛(分かるんデースか……)

比叡(コンポは……やっぱりここは変速性能の極みたるシマノでしょうか。ああ、でもカンパも綺麗だしスラムもカッコイイから捨てがたい……ひええ、悩みなのに楽しい! 不思議!)

610: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 21:41:25 ID:7rwcgXZE

 金剛は提督たちの話に夢中、比叡はコンポ選びに夢中であった。


提督「じゃあ質問を変えよう――――榛名も霧島も、フレームの性能や信頼性を重視している、それに間違いはないな?」

霧島「はい」

提督「霧島のことだからロードバイクのフィッティングについては知っているだろうが、フレームのジオメトリ(フレームを構成する三角形の辺の長さや角度などの設計)の細かい差とか気になる方?」

霧島「!! ……さ、流石は司令です……!」

提督「榛名も同様の理由で、自分に本当にフィットするバイクなのか――――大丈夫なのか気になってしまう?」

榛名「!! お、おみそれしました。仰る通りです、提督」

金剛「Wow、ビンゴですか?」

霧島「はい、そうなんです。性能を追求していくと、レース実績、素材、そしてジオメトリに行き当たったのですが……」

榛名「考えれば考えるほど、これは本当に私に適切なものなのかと、堂々巡りになってしまい」

提督「うんうん」

霧島「私、霧島専用とでも申しましょうか……私にもっとも適したフレーム構造のバイク、というのは難しいでしょうか」

榛名「流石に、そんなの大丈夫じゃないですよね……」


金剛(榛名といい霧島といい、結構な無茶振りデース……)

611: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 21:42:38 ID:7rwcgXZE

比叡(ホイール………ホイールって何がいいんだろう……メーカー多すぎますよぅ……え、カーボンディープ? そ、そんなのもあるの……ひぇえええ……)


 金剛は姉妹の無茶振りに少し眉を顰め、比叡は一度沈んだら戻ってこれなくなる沼に片足を突っ込もうとしていた。


提督「となると、フルオーダーできるここいらだな」ホレ

霧島「えっ」


金剛(あるんデース!? そういうの!? 無理難題なんてナッスィン!?)


提督「最近は一般レーサー向けにも、フレームのジオメトリから何から何までフルオーダーするメーカーが増えてな。しかもカーボン素材でやってくれる。

   雷や電が乗ってるアンカーや、青葉のパナソニックにも乗り手の目的や体型に合わせてフレームを作ってくれるプランがある」

榛名「!! は、榛名、感激です!!」

霧島「そ、そんな素晴らしいシステムが……!!」


 ※実際はある程度ロードバイクに乗り慣れて求めるジオメトリや剛性感がハッキリしている人向けです。

  ISP(インテグラル・シート・ポスト)はプロでも嫌がる人は多い。

  間違っても初心者が乗ろうなんて考えるべきではないロードバイクなので注意されたし。

612: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 21:48:43 ID:7rwcgXZE

提督「それで榛名と霧島の希望である実績あるメーカーというと、このあたりで絞られるな。これと、これと、これ、あ、こっちもか」ホレ

霧島「あ、ありがとうございます、司令!」

榛名「す、少し、パソコンで調べてきます! ある程度絞れたら、またご相談に上がってもよろしいでしょうか?」

提督「ああ、執務時間外であればいつでもおいで――――霧島、立っていいぞ。もうこんなことするなよ?」

霧島「は、はい……!」

榛名「はい! 提督、本当にありがとうございます!!」

提督「ん。霧島、今日はもう上がりでいいぞ。あとは俺だけでも終わる作業しかないからな」

霧島「か、感謝いたします! さ、榛名、部屋に戻って調べるわよー!」

榛名「そうですね! それでは失礼させていただきます! 金剛お姉さま、比叡お姉さま、また後ほど!」

金剛「イエース、バイバイネー」

比叡「――――ふぇ? あ、うん! そうね! また後で!」


 金剛はニコニコ笑顔で手を振り、比叡は沈みかかった片足をなんとか沼から引き揚げて事なきを得ていた。

613: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 21:52:22 ID:7rwcgXZE

提督「それじゃ次は比叡だな」

比叡「はい! 司令、よろしくお願いします!!」

金剛「ワッツ!? 私はァーーーー!? じゃんけんでは比叡とはまだ……」

提督「金剛にはあとで追加の説教があるから、必然的に先に比叡だよ……文句あるのか? あ?」

金剛「シィット!?」

比叡「ひえっ……す、すいませんっ、金剛お姉さまぁーーー!!」

提督「気にすることはない。さあ、比叡。どんなバイクが欲しい?」



 提督の柔らかな、しかし有無を言わせぬ笑みと眼光に、比叡は気圧されつつも、ややあってからこう答えた。



比叡「カッコイイやつでお願いします!!」


金剛(比叡! アバウトすぎデース!?)

提督(なんて真っ直ぐな目をしてやがるんだ……)


 提督はむしろ感動した。

614: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 21:55:49 ID:7rwcgXZE

提督「うん、なるほど。カッコよさは重要だな。うん、改めてそう思う。もう一度言う――――カッコイイのは、非常に重要だ」

比叡「ですよね! さっすがオメガ高いです、司令! ところでオメガ高いってなんですか? ハイパー的な意味でしょうか?」

提督「腕時計的な意味なら高いよな。ちなみにこの場合のオメガってギリシア文字の意味じゃねーしそもそも日本語だから」

比叡「???」


金剛(なんかコントが始まったデース!?)


提督「まあ、それは置いておくとして……カッコイイバイクだな。だが俺も比叡の好みをすべて把握できているわけじゃあないんだ……カタログの中で「これは!」というものがあったか?」

比叡「いくつかありました! えーっと、ちょっと待ってくださいね…………カタログで言うと、これと、これ、それと、これです!」

提督「どれ……」フムフム


金剛(オーウ、見事な軌道修正デース)

金剛(だけど提督ぅー? 問題はここからデース……比叡は、えっと、なんというか、その、ランゲージよりフィーリングというか、パッションというか……)


 金剛の懸念は正しい。

615: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 21:59:02 ID:7rwcgXZE

提督「ふむ………この四台の中でどれがいいかと思ってるわけだ。使用目的は? 用途だ」

比叡「それはもっちろん! 高速戦艦の名に恥じぬバイクです!!」


金剛(雑ゥ! 比叡、雑ゥ!! テートクは用途って言ってるデース!?)


提督「なるほどレース目的でかつ金剛型という栄えある戦艦に相応しい歴史と伝統と実績を持つバイクということだな―――いいね。ならコレだな。一択だ」

比叡「はい! ありがとうございます!!(司令は私の話、よく分かってくれるなあ)」

金剛(ウソでしょーーーーッ!? スピーディにも程がありマース!)


提督「他の三台はロングライド用のバイクだしなあ。乗り心地や安定性を重視しているが故に、剛性や反応性を犠牲にしている」

比叡「ごうせい?」キョトン

提督「剛性っていうのは……いや、いい。まあ、この二台は要は長く走ることを主眼に置いたバイクであり、速度を一番重視しているわけじゃないんだ」

比叡「え、えっとぉ……つ、つまり?」

提督「…………悪いバイクじゃないんだが、比叡の望む性能はないだろう」

比叡「ひぇえ……私には見た目じゃ全然判断が付きません……」

616: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:02:53 ID:7rwcgXZE

提督「んで、こっちのもう一台はリアサスが入ってて、とにかく振動吸収性能は高いが速度が出ない。ほら、見てみ?」

比叡「あ、ああっ!? 本当です!?」

金剛「フム………それに、ハンドルの位置、デスか? ほら、フレームで見てみると、サドル位置と比較して高さが……」


 正座しながら器用に背筋を伸ばして、金剛が指摘すると、比叡も「ああ」と納得したように頷く。


比叡「……それに、このスローピングフレームとか、ホリゾンタルとか……」

金剛「オーウ……なかなか奥が深いデース」

提督「脱線してるぞ。とにかく、比叡が惹かれた四台のうちの一台、これは文句なしのハイエンドモデル。間違いなくレースのためのロードバイクだ」

金剛「なかなか独創的な見た目ですが、不思議な上品さがありマース」

提督「このメーカー、『いつかは』と言われるほど、ロードバイク乗りにとっては憧れのバイクだぞ」

比叡「!! そ、そんなに凄いバイクなんですか、これ!? わー! それは楽しみです!! じゃあこれ! これでお願いします!!」

提督「了解。明石のところ行ってサイズ測ってもらって来い。話は通してある。それを元にフレーム発注だ。フレームカラーやコンポーネントについては、後でじっくり決めようか」

比叡「はい! 行ってきます!!」ダダダダ

提督「走るな」

617: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:06:47 ID:7rwcgXZE

比叡「は、はい! き、気合、入れて、ゆっくり、行きます……!!」ズリズリ

金剛「す、すり足で……?」

提督「……た、楽しみにしてテンションおかしくなってるのは分かるが、な? フツーに歩いていきなさい」

比叡「あ、は、はぁい!」エヘヘ


 照れ臭そうに笑い、比叡は執務室から退室していった。


提督「……ナチュラル可愛いよなあいつ」

金剛「比叡はいい子なんですけど……ちょっと元気が空回りなのデース……」

提督「まあそれはともかくだ――――さて」

金剛「!!」

提督「執務を始めるか……どれ、この書類はと……」カリカリ

金剛「テートクゥーーーーーッ!?」

提督「冗談だ。立っていいぞ――――紅茶を入れてくれるか、金剛?」


 ※なお、比叡のロードバイクは本来注文から納車まで最悪半年から一年以上かかるそうです。

618: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:07:55 ID:7rwcgXZE
※とりあえずこの辺りまで

 ちょこちょこ更新できるように頑張ります

619: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:24:34 ID:7rwcgXZE

※まだ書き溜めてるところあったので再開


金剛「ふぇ……? お、お説教、は?」

提督「ちゃんと反省してるだろ? それに説教の後にロードバイクの話する気になるか?」

金剛「て、テートクぅ……」

提督「美味しい紅茶を入れてくれ。今回はそれでチャラにしよう」


 金剛は嬉しそうに立ち上がると、さっそく紅茶を入れる準備を整えた。


金剛「テートクゥーーー!! スペシャルな紅茶が入ったヨぉーーーーっ!」

提督「おう、サンキュ………ん?」


 この時、金剛が入れた紅茶は、珍しくドイツメーカーの缶であることに目ざとく提督が気づく。


提督「ロンネフェルト? ドイツのメーカーの?」

金剛「イエース! 遠征中のビスマルクたちが送ってきてくれたのデース!」

提督「ああ、だからか……いい香りだな」

620: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:32:31 ID:7rwcgXZE

金剛「イングリッシュブレックファーストのSTジェームスだヨー! さ、ミルクとレモンはお好みデス」

提督「んー、じゃあレモンで――――いただきます」

金剛「私はストレートにしまーす。いただきマース!」


 くぴ、と二人は一口。


金剛「ウン! 美味しいネー……」

提督「ん…………ああ、美味しいな」

金剛「テートクと一緒に飲むと、いつもよりずっと美味しいネー」

提督「はは、そうだな。俺も金剛と一緒に飲む紅茶は、美味しいと感じるよ」


 そこからしばし二人とも無言になる。

 決して気まずい沈黙ではない。金剛は良く喋る方だし、提督も空気を読みつつ相手と会話ができる話術を持っている。

 不思議と、提督と金剛は二人きりになると、あまり会話をしなかった。

 特に紅茶を飲むときはどちらからともなく黙る。

 飲み終わるまでは―――そんな暗黙の了解があった。

621: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:34:44 ID:7rwcgXZE

提督「――――」

金剛「――――」


 それでも互いに互いを考えていることが、それとなく分かる。

 ――――紅茶の香りを楽しみつつ、これを飲み終わったらどんな話をしようか。

 早く飲み干してお話をするのもいいけれど、こんな風にゆっくりと過ごせる時間は心地良い。

 そんな柔らかな時間が過ぎていく。

 示し合わせたように、両者のティーカップが空になり、


金剛「さぁ、テートクゥ! この金剛に相応しい、上質なイギリス製のロードバイクをチョイスして下サーイ!!」


 口火を切ったのは金剛。そして提督はにこりと微笑み、



提督「ない」



 執務室内の空気が凍り付いたのは言うまでもない。

622: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:36:31 ID:7rwcgXZE

金剛「………エ?」

提督「ない」


 二回も言った。ないと。鬼か。


金剛「ど、どういう意味ネ………ワ、ワタシなんかに選んでやるロードバイクはネーから! ってことデスか……」ウルッ

提督「スマン、言葉が悪かった。ないというのは正しくないか――――レースで勝つためのバイクで、かつイギリス製、ということで相違ないな?」

金剛「そうデース!」

提督「となると俺の知る限りでしかない。要は選択の余地がほとんどないんだ」

金剛「どういうことデス?」

提督「うーん、なんというか……イギリス……というよりグレートブリテン及び北アイルランド連合王国な」

金剛「は、はい……」

提督「あんまりレースを主眼に置いたロードバイクメーカーがないんだよ」

金剛「ワッツ!?」


 ※あくまで有名でかつレースへの供給実績のあるメーカーという意味です。

623: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:37:28 ID:7rwcgXZE

提督「アレックス・モールトンとかプロンプトンとか、素晴らしい折り畳み自転車を作るメーカーはある。(つーか前者はもはや病気レベル)

   メルシャンとかボブ・ジャクソンとかの、伝統的なクロモリラグフレームを作るメーカーもある。まさに芸術品だな。

   パッと思いつくだけでこんだけメーカーがあるんだが、イギリス国産のレーシングフレームを考えると、途端に「んん?」ってなる」

金剛「そ、それって……」

提督「いや、誤解するな。単に俺の見識が狭いだけかもしれん。ただレースで実績を上げてるメーカーっていうと、あまり思いつかんのだ」

金剛「イ、イエース」


 ※少ないという表現はイタリアやフランス、ベルギーやドイツと比しての意味。

  なおかつ日本の市場における知名度的な意味です。


提督「けどまァ、イギリスのチームはとにかく強いぞ。チーム・スカイは今や常勝チームだ。

   勝つための地道な努力をコツコツ積み上げていくのはどこのチームも同じだが、チーム・スカイは病的なまでに徹底しててな」

金剛「OH! なんだか誇らしいデース」


 騎士の称号を受けたサー・ブラッドリー・ヴィギンスや、ツール・ド・フランス優勝者のクリス・フルーム、数多くの有力選手を輩出している。

624: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:38:56 ID:7rwcgXZE

提督「話を戻すが……レーシングフレームを作り、かつレースでそれなりに実績と知名度のあるイギリスメーカーとなると、『ラレー』か『ファクター』だな」

金剛「ふむ……それぞれの特徴を教えて欲しいデース」

提督「端的に……というか非常に乱暴に言えば、前者は歴史が古いが、実績は遥か過去。後者は歴史が浅いが、まさに今高い実績を上げている」

金剛「ほほーう。実績についてのポイントは、やっぱりレースでのリザルトが?」

提督「そういうことだな。有名なレースで優勝したチームや山岳賞やスプリント賞を取った選手が乗っているバイク、そのメーカーが評価される傾向がある」

金剛「ファンの心理デスネー」

提督「さて、少し脱線するが――――プロのロードバイク選手の所属するチームについてざっくりと説明しよう。チームはそれぞれの実績によって格付けされている」


 UCIワールドチーム

 UCIプロフェッショナルコンチネンタルチーム

 UCIコンチネンタルチーム


提督「上から順にランクが高いのは、名前から大体想像がつくと思う」

金剛「ふむふむ、つまりワールドチームはストローングという印象でOKデス?」

提督「うむ。その理解でOK。では話を戻して、まずはラレーだ」

金剛「イエース!」

625: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:40:43 ID:7rwcgXZE

提督「ラレーはロードバイク……というか、自転車業界という世界の中で見ても、現代に残るメーカー中では、最古の部類に入る。それほど歴史の長い老舗中の老舗だ」

金剛「OH!」

提督「かつてはレースにおける実績も高いブランドであったんだが、吸収合併や……」

金剛「Hum......」メモメモ


 以降、提督による非常に生臭い話が小一時間ほど続く。


提督「――――というわけで、クラシックな外観やクロモリ独自の乗り味を求めるユーザーには、日本のアラヤ・ラレーはベストマッチだろう。

   アメリカのラレーUSAにおいてもクロモリ製のなかなかデザイン性に富んだクラシックなフレームもあり、こちらも人気を博している。

   が、どちらもレース志向となるとオススメできない。

   となると、ラレーUKだ。コンチネンタルチームにレース供給している」

金剛「よくわかりました!! 勉強になりマース!」カキカキ

提督「さて、続けてファクターだが、これは非常に歴史が新しい。なんせ2007年創業のブランドだ」

金剛「HAHAHA! まだまだヒップがブルーなニューフェイスでーす!」ケラケラ

提督(おまえも艦娘としての年齢考えると『金剛改二(さんさい)』(笑)なんだが……)

626: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:42:23 ID:7rwcgXZE

 ツッコミ入れてもいじけるだけなので提督はスルーした。


提督「そんなファクターだが」

金剛「が?」

提督「2017年度のワールドツアーチームへフレーム供給するッッ!!」

金剛「なんですと!?」

提督「しかもAG2Rに!」クワッ

金剛(し、知らないデース)


 ※有名なレースでの優勝・区間優勝を数多く獲得するチーム。

  2016年度のツールドフランスで総合2位になったロマン・バルデも所属しているチームである。


提督「それまではプロコンチネンタルチームへの供給でな。俺も「ふーん」ぐらいにしか思ってなかったんだが、ここにきてファクターがワールドツアー初参戦とか胸熱だ!」

金剛「OH!! かつてのラレーのような神話を築いてくれることに期待がバーニング! デース!」

627: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:45:28 ID:7rwcgXZE

提督「さて、それを踏まえた上で金剛よ、おまえはどちらの――――」

金剛「後者デース! ファクターが欲しいネー!」

提督「(即答か)だろうな」


 金剛は英国の伝統を尊びつつも、実を伴わないものに関しては嫌悪を示すタイプであった。

 俗っぽいといえばそれまでであるが、


金剛「――――ハイ! それでお願いしマース! エアロにストロングなのがイイデース!」


 それだけではないのが金剛の魅力であると、提督は思っている。


提督「え? それだけでいいのか? スペック詳細とか見ないのか?」

金剛「二言はnothingデース!」

提督「……まあいいけど。本当にいいのか? 見なくても。せめてネット上にアップされてるフレーム画像ぐらい見たらどうだ?」


金剛「テートクが選んだモノを信じマース!! 愛してますからネー!」


提督「――――」

628: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:47:12 ID:7rwcgXZE

 こういう時に、思い知らされる。そして、


提督「ははは……分かった。確かに相応しいものを用意しよう。しばし待て」

金剛「オーケィ! あ、そうだ! 一つだけ注文をし忘れてたデース!」

提督「カラーリングのことか? そんなもんは聞かん」

金剛「ワッツ!?」

提督「二言はないんだろう」

金剛「そ、そんなあ………」

提督「………はぁ、金剛」


 だから提督は、


提督「おまえの提督は、金剛が好む色ぐらいは把握してるつもりだが――――任せてくれないのか?」

金剛「!」



 いつだってその期待や信頼に応えてやりたくなるのだ。

629: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 22:49:59 ID:7rwcgXZE

 感極まった金剛は大きな瞳を光り輝かせ、提督にダイブする。


金剛「テーイートぉーーーークぅうううううーーーーッ!! アイラビュー♥ 大好きネー♪」ガバッ

提督「やめろバカ擦り寄るな男として刺激される」

金剛「ンモー、照れちゃってぇー! チュー、チュウゥーーー! チッス・ミー!」ムチュー

提督「ギャーやめろばか分かった分かりましたテレてるテレてるから離れろイイにほいがする○○するやめろ辛抱たまらん理性さん頑張ってぅゎ野生さんっょぃ」



 戦いはいつも、むなしい。

 ―――かくして、金剛型のロードバイクは決定した。



……
………

633: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 23:23:25 ID:7rwcgXZE

【プチ番外編:ある日のひえーっ!】


暁「今日は楽すぃー、今日は楽すぃー、ヒルクーラーイーム~♪」フフン

響「ひぃえーひぃえー、ひえいさんの~ひーめーいーがーすぅーる~~~♪」フンフン

雷「しーれいーかんしれいかーん♪」ルンルン

電「しれいかーーーんは~♪ 卑劣だ、なぁ~~~~~♪」フリーダム

提督「ハハハ、こやつらめ! ハハ!」

比叡「ひぇえええええ……!! し、しれぇ……!! ひ、比叡をッ! だ、だッ、だましましたねぇッ!?」ゼェゼェ

提督「人聞きの悪いことを……サイクリングに行くと言っただけだよ……?(峠を攻めないとは言ってない)」

比叡「ひぇ~~~ん……」



【艦】

634: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 23:52:15 ID:7rwcgXZE

https://www.youtube.com/watch?v=7VzzpzGleHI



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金剛型戦艦:金剛改二
【脚質】:オールラウンダー

 ―――あのマリッジリングを嵌めるのは、ワタシデース!!

 高次元で纏まった総合力の高いオールラウンダー。
 登坂も細かいアップダウンも平地巡航もアタックも高いレベルでこなす金剛型のエース。
 高速戦艦の名に恥じず、どのような状況においても常に高速で移動できるのが最大の武器。本来、高速戦艦ってのはそういう意味じゃねえ。
 ……なのだが、真っ向勝負を好み、腹芸が苦手の為、チーム戦では実力を発揮できないもよう。
 おまけに比叡と霧島が実に熱しやすいタイプなため、大体戦術的に勝てない。実力は高い未冠の女帝的な立ち位置。
 が、金剛自身のメンタルは非常に強い。伊達に何十回と提督に袖にされてない。
 人、それを諦めが悪いとも言う――――。
 ??「提督は私と夜戦したいのにね」
 ヘーイ、そこの夜戦バカー!? なんか言いましたかー!?

【使用バイク】:FACTOR ONE CHPT./// SPECIAL EDITION
 英国で生まれた新生ロードバイクブランド、ファクターのフラッグシップ・ワン、そのスペシャルエディションなのデース!
 大人の黒地にワタシの熱いラァァァブを体現するようなバーニングレッドのポイントカラーがホットデショ?
 帰国子女のワタシに合わせて、イギリスフレームに日本のシマノのDi2コンポに乗せ換えて貰ったのデース!
 テートクのラブを感じるネー……て、テートクぅ……こ、今夜一緒にお茶会でもいかがデスか? 二人きりで、ネ♥
 ………そんなこと言わずにー。モー、テートクはいけずデース……♥

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635: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 23:53:27 ID:7rwcgXZE

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※提督ラブ(ガチ)勢。何が何でも提督と添い遂げたい勢。

 そして時間と場所は弁えるがその上でなら容赦しない勢。つまり現在進行形で問題児である。時々、日向がまだマシに見えるレベルで暴走する。

 なお何十回と提督へアタックかけては玉砕している。提督がアタック潰しの名手というわけではなく、金剛のワンパターンな攻めのせい。

 初見殺しを避ければ後は容易にいなすだけ。

 しかし確実に提督のSAN値(すごく・あかん・なにか)はゴリゴリ削られている。


提督「ひょっとして金剛って、マジで俺のこと好きなんじゃね?」

伊勢「(いまさら)何を言ってんの提督?」

日向「提督、君は疲れてるんだ」


 なお提督は正常だし鈍くはない。初対面でいきなりラブ特攻(ブッコ)んでくる相手の想いを本気にする方が難しい。妙なところでリアル思考な提督。

 着任当初から好意的だったが、日々を過ごしているうちにますます提督を好きになった。

 じわじわ好きになってきたころには周囲に恋のライバルだらけで、普段からバーニングしてたせいで本気と取られなくなったクチ。

 何気に女子力高い提督に釣り合えるよう、色々チャレンジしているもよう。実はかなりスペック高い金剛だが、一部視野狭窄なところがある。

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636: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 23:54:47 ID:7rwcgXZE

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金剛型戦艦:比叡改二
【脚質】:パンチャー

 ―――気合! 入れて! 回します!!

 独走力の高いスプリンター寄りの剛脚を持ちながらも、金剛をサポートするために独走力の強化よりサポート能力を高めた。
 その結果、何故かルーラーではなく特級パンチャーに仕上がったという謎。比叡カレー並に謎。
 戦艦では身体的に小柄な部類に入り、かなり登れる。更に小柄で体重の軽い駆逐艦や軽巡のピュアクライマーたちが相手だと流石に厳しい。
 平地での高速巡航やアタックなどの瞬発力には非常に優れており、苦手が少ない。
 が、あくまでもパンチャーの比叡にルーラーの役割が比叡の持ち味をスポイルしている。
 ペース配分が恐ろしく下手で、挑発や駆け引きに弱い。気合! だけじゃ! 勝てません! そんな!?
 金剛を勝利に導くには、いかに榛名が挑発に乗った霧島と比叡を押さえ付けられるかにかかっている。
 榛名はどこまで大丈夫なのだろうか。

【使用バイク】:LOOK 695 Aerolight SR(PRO TEAMカラー)
 はい! フランスのルックの旧フラッグシップモデル! 695エアロライト! です!
 え、性能? よくわかりませんが、司令のオススメで決めました!! 美しいです!
 それにフラッグシップだったら金剛お姉さまのように強いですよね!
 しかもSRってついてるし! アレですよね、スーパーレアって意味ですよね?
 ………え? 違う? 清々しいぐらいテキトーに凄いの選んだなって………?
 え? 褒めてる? 褒めてない? ひえっ!?

 (提督説明後……)
 ひ、ひえーーー!? そんなに凄いバイクなんですか、これ!! で、でも、それなら万事OKです!
 司令には、恋も! レースも! 負けませんからっ!

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637: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 23:58:03 ID:7rwcgXZE

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比叡「このバイクッ………す、素敵すぎます!! し、司令!! これからは恋も、戦いも、そしてロードバイクもっ! 負けませんっ!」

提督「よし、じゃあ山岳を鍛えよう」

比叡「えっ」


 謎はすぐに解けた――――比叡の明日はこうして決まったのである。

 言わずと知れたルック。なおSRとはSuper Rigidの略。直訳通り、超剛性の高いパワーバイク。めちゃんこ固い。ぎゅんぎゅん進む。

 しなり? 無理。固すぎ。全部推進力。

 プロスプリンター並の脚力があって初めてその真価を発揮できるLOOKでも特別注文枠の激レアフレーム。

 比叡の脚質とフィーリングからしてもベストマッチのバイクと言える。メンテナンス? し、司令と明石さんがいるから大丈夫です。(小榛名感)

 当初は愛しの金剛お姉さまに着く悪い虫と認識していたが、次第に実力を認めて提督ライバル勢に落ち着いた………はずだった。ところがだ。

 提督がめちゃんこ料理上手で競っているうちに、いつの間にか提督のお料理弟子になって修行、

 メシマズから脱却というプロセスを経て、提督のオーラに金剛とは違った年上属性、いわゆる兄属性を感じはじめたもよう。

 恋も戦いもロードバイクも負けないとは言うが、比叡は戦いはともかく、まだ本当の恋もロードバイクも知らない。

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638: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/25(土) 23:59:43 ID:7rwcgXZE

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金剛型戦艦:榛名改二
【脚質】:TTスペシャリスト

 ―――榛名! いざ! 独走します!!

 平地における高速走行が得意で、強風の中でも安定してプロトンをぐいぐい引っ張っていく力強さがある。
 長い平地を含むレースにおいてはチームを牽引する重要なポジションであり、高速戦艦の面目躍如といったところか。
 ところで高速戦艦とは何だったのか、うごご……。
 反面アップダウンの激しいコースでは途端に減速し、速度を保てなくなる点はTTスペシャリストの欠点そのままを排しきれていない
 逃げの場合、平地でどれだけ差を付けられるかが勝利の鍵。
 なお独走時のライディングが非常に華やかでカッコイイと一部駆逐艦にキャーキャー言われるもよう。
 エアロポジションがやや独特。
 ややワイドにハンドルに腕を置き、小指をブレーキレバーに引っ掛けるように絡め、ぴったりとハンドルに胸を押し付ける前傾姿勢。
 あざとい。

【使用バイク】:CARRERA ERAKLE (BODY SIZE ORDER) R162(White)
 イタリアブランド・カレラが展開するエアロロードの最上位グレード、エラクルです!
 フラッグシップに乗れるだなんて……榛名、感激です!
 TTを得意とする榛名にとっても、これがベストバイクで――――あれ?
 あ、ちょ、ちょっと、比叡姉さま!? 霧島!? 勝手なアタックは、榛名が、許しません!
 と、とにかく榛名はこのバイクで、皆を運ぶ最速の箱舟になってみせます!
 待って!! 待ってください、比叡姉さま、霧島!! き、霧島ぁーーーー!!?

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639: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/26(日) 00:02:44 ID:lI.HanPE

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提督「乗り心地はどんなもんよ?」

榛名「は、はい! 少々硬い気もしますが、高速域からの伸びが素晴らしいです! 物凄くしっくりします!」

比叡「わぁ、榛名、凄く速いですね!」

榛名「乗っている榛名自身が一番驚いてます! ボディサイズオーダーとは、これほどのものなのですか!?」

提督「馴染むだろう」


 ボディフィットに限らず、プロショップなどでしっかりフィッティングさせただけで、恐ろしく乗り心地が変わる。

 上手いことポジション出しできない人は素直にショップに行くのが吉。

 提督ラブ勢だが、結ばれないならせめてずっとお傍に居たい勢でもある。この時間がずっと続いて欲しいと願っている。

 ヤンデレフラグかな? 

 いずれにしても提督のSAN値をゴリゴリ削る存在の一人には間違いない。


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640: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/26(日) 00:05:13 ID:lI.HanPE

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金剛型戦艦:霧島改二
【脚質】:スプリンター

 ―――脚質チェックー、ワンツー、ワンツー、さん、死ねぇッ……!!!

 完全なスプリント特化型で、他は並かそれ以下という極振りロマン仕様。普段は参謀ポジだがロードバイク乗るとリミッター外れるタイプ。
 攻撃に全振り。脚力とVO2MAXと乳酸閾値を上げてスプリントでチギればいい。
 出だしの反応速度では島風に一歩も二歩も劣るものの、最高速では島風に劣らぬピュアスプリンター。
 というか最高速だけなら島風をごく短時間ながら超える。このメガネ高速で追いかけてきて怖いんですけど。
 迫力あるダンシングで他の選手を威圧する、超攻撃的な制圧型スプリントを得意とする。
 ロードバイクに乗ると性格が急変する艦娘の代表格。トラック競技やってれば花形スターだっただろう。
 そうしたスプリンターとしての爆発力も凄まじいが、煽り耐性についても爆発力が高すぎるのが難点。
 この人のスイッチガバガバで漏電してるんですけど!? 命を背負っている艦隊戦とは違ってレースでは素が出まくるもよう。
 言うまでもないが山岳コースが超苦手。潜水艦隊に対する高速戦艦の如きお荷物と化す。あんなもんは的でち。ダンケwwwダンケwww
 だから瑞雲を積めとあれほど言っただろう、とは日向の言。中距離のスプリントにおいては間違いなく鎮守府最速なのだが、色々残念な子と化した。

【使用バイク】:CARRERA PHIBRA ONE(BODY SIZE ORDER) R161カラー(Black/White)
 とうとう納車しました。これが霧島のマイク………じゃなかった、ロードバイク、カレラのフィブラ・ワンです。
 ええ、メーカーは榛名と御揃いよ。同じボディフィットでもこちらはよりスプリント向きね。
 私のボディサイズに最適のジオメトリで設計した完全オーダーメイドの、霧島専用決戦マシン。
 固く、力強く、しなりを帯びたフレームは、私の脚力を全て推進力へと変えてくれる素晴らしい性能です。
 コンポはもちろんデュラエースDi2装備、スプリンタースイッチも増設して、いつでも急加速可能よ。
 私にぴったりで、実にいいものです。流石は司令、私のことを私以上にご存知ですね!
 ………? ………!?
 …………すいません、ちょっとマイク切って下さい

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641: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/26(日) 00:06:42 ID:lI.HanPE

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提督「………」テレテレ

霧島「な、なにをニヤケてるんですか!!」

提督「やあ、照れるなァと」

霧島「ば、ば、ばっ、馬鹿じゃないですか!? そ、そんな幸せそうな顔して……もう。怒るに怒れないじゃないですか」

金剛「ワーォ、霧島のレアフェイスダヨー! まったくオトメなんデスからウフフフ―――あとでとっちめる」

比叡(……何故でしょう。金剛お姉さまじゃないのにイライラする! これはきっとアレですね、可愛い妹にたかる蠅が気に入らないっていう気持ちですね)イラッ

榛名「霧島も提督の魅力に気づいたのですね! 榛名、嬉しいです」

提督「なんにしても………坂道、鍛えような」

霧島「残念な子を見るような目で見ないでください!?」

提督「少しは登れないと、山岳コースのあるチームレースじゃお荷物決定だぞ……?」

霧島「う、うう………」

提督「あーもー、しょーがねーやつだなー……一緒に走ろうぜ」

霧島「!! は、はい……!」

642: ◆9.kFoFDWlA 2017/03/26(日) 00:08:32 ID:lI.HanPE

比叡「なんだかイライラします……」

金剛「OH!(比叡が自覚しようとしてマース……)」


※自分の言った言葉を反芻して恥ずかしくなったもよう。うっかりちゃん。

 提督ラブなのを隠している。普段は見事な隠ぺい振りなのだが、こういううっかりで暴露する可愛い奴

 実は、かつて提督とかなりいい雰囲気になって、勢いでそういうことになりそうになったが、金剛って奴のせいでおじゃんになった。

 それ以来、霧島は提督からかなり距離を置くようになった。というか恥ずかしすぎてしばらく顔が見れなかった。最近ようやく距離を詰められるようになった。

 毎回毎回ペース配分が狂いそうな人筆頭。次点に鳥海や深雪が来る。

 文字通りジオメトリを個々人に合わせるフルオーダーのため、霧島専用。気軽に他人が乗れないのが欠点っちゃ欠点

 なお霧島のアイウェアはオークリーのレーシングジャケット着用。視野角の広いジョウブレイカーと迷ったがレンズ交換が手軽にできるこっちにした。

 頭にヤのつく自由業を想像した者は修理が必要と思われるので後で明石の工廠に来なさい


 まとめ:金剛型は高速戦艦の名に恥じぬ、スプリントの才能を有した者ばかり。高速戦艦とはいったい……。


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658: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 10:23:44 ID:GrYwkcE.

【番外編:ちょっとだけ未来のお話】


【本日の阿賀野による提督日誌】

・阿賀野でーす! みんなロードバイクにハマってきたところで、改めてみんなのジャージ姿とかを観察してみたいと思います、まる

・ポニテの子や長身の子がグラサンつけると恐ろしく速そうだと思いました、ウチの矢矧はとてもカッコイイ妹、まる

・なのに熊野ちゃんがつけると急に遅そうに見えるのは気のせいじゃないと思いました、まる

・陸奥さん・加古さん・足柄さん・愛宕さん・速吸ちゃん・天龍ちゃん・龍田ちゃんはグラサン似合いすぎ、かっこいいわろた。全私が嫉妬、まる

・霧島さんとローマさんと武蔵さんと以下略、あれは別の意味で似合いすぎ怖い。どこの組の鉄砲玉だろう、まる

・金剛さんも比叡さんも榛名さんも似合ってるのに、どうして霧島さんはああなってしまったんだろう、まる

・吹雪型はグラサンの似合わないこと似合わないこと、まる

・ねえ叢雲ちゃんってやっぱり妾の子なの? 吹雪型なのにグラサン似合いすぎでしょって言ったら悪魔みたいな顔をした叢雲ちゃんが「結べ!」って叫びながら槍で突いてきた。刃に映り込んでたら死ぬところでした、まる

・球磨ちゃんと多摩ちゃんはグラサンない方が怖い……なんでだろ、まる

・やめて北上様……グラサン着用でそのポーズは阿賀野の腹筋に効く……やめてください

・「新しい北上、それがあたし」じゃねーわよなんなのよどうやってそのポーズのまま水平移動してくんのよ寄らないでよわかってやってるでしょ腹筋が痛いのよやめてひどい、まる

・大井ちゃんは女スパイのような怪しさといかがわしさを感じました、まる

659: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 10:26:43 ID:GrYwkcE.

・やっぱり木曾くんってばイケメン、まる

・朧ちゃんと曙ちゃんと漣ちゃんと潮ちゃんのグラサンはまさにちびっこギャングでした、まる

・レディwwwwwいい意味で暁型はグラサン似合わないwwwwwまる

・上記は撤回。響ちゃんに関してはちびっこギャングなんてレベルじゃない、ありゃガチのマフィアだわ、ハラショー

・改白露型はグラサンが似合うなあ、涼風ちゃん以外は、まる

・夕雲型はギャング団(ガチ)

・夕雲ちゃんがどうみてもマフィアの女ボス的な雰囲気をかもしだしている

・ちびっこギャング朝潮団(かわいい)

・霰ちゃんがとっても可愛い。ドヤッてる口元のvがとっても微笑ましいのでした、まる

・秋月型がスタイリッシュすぎて「もはや清貧さの欠片も感じないね!」って言ったら秋月ちゃんが涙ぐんで照月ちゃんと初月くんが怒った、ごめんなさい、すねを蹴らないで地味に痛いの、まる

・ねえ島風ちゃん、この世の理とはすなわち速さだと思いませんか!?って台詞、それは誰の入れ知恵かな? 秋雲ちゃんか、納得、まる

・それはそれとして島風ちゃんにサングラスは思いのほか似合ってました、まる

・秋津洲さんと子日ちゃんと荒潮ちゃんと山雲ちゃんが意外なほどしっくり来ていて絶句した。やっぱり手足がすらっと長いからかなぁ、まる

・海外艦の子はリベちゃん以外は結構似合うのはなんとなくわかってたけど、テストさんにグラサンがしっくりきすぎ。さすがおフランスだと思った、おしゃんてぃ、まる

・グラサン+ジャージの長良型と妹たちの強者感がマジパナイ、名取ちゃんが意外すぎるほどバッチリ決まってかっこよかったです、まる

660: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 10:28:06 ID:GrYwkcE.

・グラサンをかけた大淀さんに見つめられると、阿賀野は何も言えなくなるのだ、まる

・皐月ちゃんと文月ちゃんがサングラス姿を見せびらかしに寄ってきて、可愛かったので頭を撫でたらニコニコしてた、実に和んだ、まる

・睦月ちゃんと長月ちゃんと菊月ちゃんと、新入りの水無月ちゃんはじつにスポーティで健康的な溌剌さに満ち満ちているなあ、まる

・卯月ちゃんも弥生ちゃんも三日月ちゃんも可愛い。阿賀野、このまま彼女たちを養子にしたい、まる

・如月ちゃんは何故か胸元を大きく開けて頬を染めながら提督の傍に寄っていったのでアームロックをかけて成敗してやった、まる

・鉄血のオリョクルズ

・オリョクルズ、あいつらヤベー、視線合わせたらタマ取られるって思いました、まる

・伊勢さんと日向さんが恥ずかしそうに身をよじってる。体のラインがでるもんねえ。でも恥ずかしがる二人の姿は、正直カワイイ。いかんいかん、まる

・扶桑さんと山城さんはグラサンかけてもどこか品があるなあって思わず見とれました、いかんいかん、まる

・大和さんもアイオワさんもビスマルクさんもプリンツさんも似合ってるんだけど「このままビーチにでも繰り出すのかな」ってぐらい場違い感がありました、まる

・正規空母組は特に言うことないぐらいジャージもグラサンも似合ってて面白みに欠けます、まる

・一航戦も二航戦も五航戦も普段は着物なのにあのしっくりくる感じはなんだろう、不思議だなー、まる

・鳳翔さんはいい意味で似合ってないです、そのままの貴女が好きです、まる

・「龍驤さんええやん、かっこええやん」って褒めたら「でしょでしょー」ってにこにこ笑ったので、やっぱり可愛いと思いました、まる

・油断していたところにドヤ顔隼鷹さんのグラサン姿という奇襲を喰らい、阿賀野の腹筋はもはやここまでのようだ、「ひゃっはー」じゃねえわよばか、まる

661: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 10:31:01 ID:GrYwkcE.

・春日丸ちゃんが不良になっちまっただ……思わずなまっちまっただ、まる

・飛鷹さんと千歳さんは流石にバッチリ決めてて感嘆の声しか出てこなかった、まる

・瑞鳳さんと龍鳳さんと千代田さんのちょっと背伸び感がどっか背徳的で、いや、これ以上は無粋だわ、まる

・祥鳳さん、貴女もまた強者オーラを醸し出すグラサンの担い手であったか、まる

・同じ和服路線なのに、何故瑞穂さんがグラサンつけると極道の妻のようになるのか、まる

・古鷹さんのグラサンはコメントに困った。左目の奥の輝きが怖い、まる

・妙高さん……率直に似合わなすぎわろた、まる

・あれー、最上型は熊野さん以外は一番しっくりとスポーツ感がするぞ、どういうことだ、はてな

・摩耶さんかっこよすぎわろた

・油断したところで、利根さんのグラサン姿が阿賀野の視界にシュゥウウウウッ! 超! 腹筋がエキサイティン! まる

・陸軍からの殺し屋・あきつ丸さん現る

・やっべーわ、なんだあの怖さ……あの人きっとダース単位で人殺してるよマジで……

・神風型のグラサン姿はノーコメント。しかし神風ちゃんったら小柄なのに、ああいう体のラインが出る服装だと意外と……げふんげふん、まる

・天津風ちゃんの「バケーション中です」感がパナイの、まる

・雪風ちゃん似合うけど似合わない。かわいい。かっこよくはない。そう言ったら雪風ちゃんがしょんぼりして、陽炎型が集団で襲い掛かってきた、げせぬ、ちんぴらかあいつらは、まる

662: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 10:34:32 ID:GrYwkcE.

・不知火ちゃんはちんぴらというより若頭って感じ。サングラスでも眼光が隠し切れないの、まる

・明石さんの色気がヤッベー、神威ちゃんも超○○○わヤッベー、べーわ、マジベーわ

・サラトガさんが本日のグラサン、ベストドレッサーでした。もう見惚れるしかないぐらい似合ってた、まる

・日誌はおしまい、まる。


大和「阿賀野はどこ!? どこに行った!!」チュドーン

武蔵「お望み通り鉄砲玉が来たぞ!!」

不知火「タマを獲ってやる!!」ドゴーン

霧島「阿賀野を何処に隠したのですか! 言え!」

能代「た、大西洋にタンカー輸送護衛に行きました!!」

妙高「………どうせ私にサングラスは似合いませんよ。前髪? 前髪がいけないのですか?」ズーン

那智「そ、そんなことはありません。落ち込まないでください」

羽黒「そ、そうですよ! 私の方がよっぽど似合わないですし……サングラスに負けてる感じするし……」ズーン

足柄「励ますつもりであんたまで落ち込んでどーすんのよ」


【艦】

663: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 10:37:53 ID:GrYwkcE.

【おまけ:提督のサングラスと着用する意味など】


提督「――――どうだ?」スチャ

艦娘(((((似合う……そして威圧感が物凄く増した)))))


 どうして今まで掛けてなかったんだってぐらい似合うようです。


提督「さて、ロードバイク用のアイウェアだが、これはあった方がいい。安物でもあるのとないのでは違う。あれはカッコつけでつけてるわけじゃないんだ」

巻雲「ふぇえ、そうなのですかぁ」

提督「紫外線対策、防風・防塵対策は今更語るまでもないことだ。普通の眼鏡と違ってレンズが曲線を描いており、びっくりするぐらい風が入ってこない」

霧島「はい、かけるのとかけないのでは、物凄く違いますよね。普通の眼鏡と違って、レンズ自体が顔のラインに沿って屈曲しているせいでしょうか」

提督「うむ…………4~5時間も走るとなるともうアイウェアは必須だ。目が乾いて仕方ない」

望月「わかるわー……それに夏場の帰り道とか、西日が結構きっちーんだよねぇ」

提督「ああ、特に夏場は必須だ――――サイクリングロードを走ったことのある人には大体想像がつくと思う。西日もそうだが、もっとヤバイ敵がいるからな」

鳥海「なんですか、それ?」

664: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 10:44:30 ID:GrYwkcE.
提督「――――虫だよ」


はち「ああ……羽虫ですね。それわかります」

提督「なー。奴ら、狙ってんのかってぐらい目に飛び込んできやがる」

大淀「ちょっと町中まで軽く走るつもりでアイウェアじゃなくて普通の眼鏡で走ったら、レンズが凄いことになりました……思い出したくもない」

提督「災難だったな……まあ、ともかく! アイウェアは安物でも必ずかけるべきだな。兆時間走る人は、むしろ金掛けて良いところだよ」

武蔵「ほぉ? なぜだ?」

提督「偉い人は言いました――――運動競技において、身体に設置する場所や、直に装着するものは、少々高くても良い物を使うべき」

沖波「そ、そうなのですか?」

提督「ああ。ロードバイクは人間8割、機材2割のスポーツ。機材に金をかけるならホイールが一番コスパがいい。どれだけ軽いものを使おうとそれは変わらない」

ローマ「ふぅん……? では体が触れるところはどこかと言えば?」

提督「自転車ならサドル、ハンドル、ペダル。体ならばグローブ、レーシングウェア、ヘルメット、そしてアイウェアだ。

   グローブとウェアについては好みが九割を占めるから好きにせよ。冬場は防寒性能の良し悪しも重要になるが、それはそのうち別の機会があれば話す」

巻雲「しれーかん様、質問です! おすすめのヘルメットとかサングラスはありますか!」

提督「ヘルメットは日本人の丸顔だとやはりカスクかメット(メットという紛らわしいヘルメットのメーカーがある)がフィットしやすい」

665: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 10:56:36 ID:GrYwkcE.

望月「アイウェアは?」

提督「アイウェアに関してはオークリーのアジアンフィット(平たい顔族用のサングラス)で、ジョウブレイカーとかレーシングジャケットあたりが使いやすい。度入りだと高いが、大事に使えば10年以上使える」

霧島「成程……ふむふむ」メモメモ

鳥海「じょう、ぶれいかー……」カリカリ

提督(つってもおまえら目鼻立ちがはっきりしてっから、アジアンフィットじゃなくても問題ねえと思うが。特にローマ)

ローマ「…………? な、なに? ジロジロ見て?」

提督「いや、なんでも。ヘルメットは値段が高いほどエアロ効果や軽量化を狙ってるものが多いが、大差ないから用途や好みに合わせて好きなもん選べばいい。

   アイウェアにせよ好みはあるだろうが、値段=使い心地の傾向が高い。できれば直接店に行って着用感を得てから買った方がいい。乗ってる間はつけてることを考えれば、自分に合った装着感ってのが大事だ」

武蔵「同感だ。まァ、私たちは普段から眼鏡を付けてるからな」

提督「レンズもちゃんとUVカットや偏光レンズ、プリズムレンズなど用途に応じてきちんとした性能を有しているから、ナイトライドとかするならそれ用のレンズは別途用意すべきだな」

大淀「あー……川内さんあたりが好きそうですね、ナイトライド」

香取「最近、夜になると鎮守府道路から「夜戦!」じゃなくて、「ナイトライド!」って聞こえることがありますわ」

沖波「その後、神通さんの「イヤーッ!」って声が響いて、川内さんの「グワーッ!」って悲鳴が聞こえるのもセットですよね」

提督「…………そのうち、ちゃんとした装備でナイトライド連れてってやるかなァ」

666: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 11:07:57 ID:GrYwkcE.


香取「ところで提督? 私たちの眼鏡は視力補強というよりは、望遠作用などの意味合いが強いものですが…………本当に目が悪い人の場合、何か注意点などは?」

提督「注意点? うーん………そうだな、レンズの値段だ。度入りになると急にバカ高くなるので注意されたし。ロード乗る時だけコンタクトレンズ使って、度無しのレンズのアイウェアって組み合わせもありだな」

鳥海「勉強になりました、司令官さん。さーて、どんなアイウェアにしようかしら……」

霧島「鳥海、私にも見せてくれる?」

武蔵「厳冬期に曇りにくいのがいいな……」

巻雲「あっ、霧島さん、鳥海さん! 巻雲にも見せて欲しいです!」

沖波「わ、私も見たいです!」

667: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 11:08:48 ID:GrYwkcE.

大淀「シングルレンズで視野角を確保したいような……デュアルレンズの方が装着感が良いような……」

ローマ「やっぱりイタリアのルビー……あら? フランスのボレーのサングラスも、案外いいじゃない」

はち「ドイツ、ドイツのアイウェアはないかしら……?」

香取「ポックの丸みのあるデザインもいいですね」

望月「なぁなぁ司令官、めんどくせーから司令官のと御揃いでもいいか?」

提督「ん? そりゃ別に構わんが、おまえ相変わらずそういうところテキトーな」

望月「いいのいいのー。…………す、好きなモンつけた方がいいんだろー?」ボソッ

提督(俺は別に難聴系じゃないから聞こえてるぞ、望月?)


 そんな経緯で彼女たちはロードバイク用のアイウェアを購入していくのであった。


【艦】

673: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:10:16 ID:GrYwkcE.

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川内型軽巡洋艦:川内改二

【脚質】:オールラウンダー(スプリンター寄り。ブルベも大好き)

 ―――さ、私とレースしよ?

 ちょっとアレ見な、レース馬鹿が通る。瞬発力と勝利への嗅覚においては川内型随一。
 山も平地も速く、伸びのあるスプリントを得意中の得意とする。
 更に集団のコントロールと位置取り、駆け引きのタイミングが抜群に上手い。
 逃げ集団を形成できればアタックで独り勝ちを狙える。腹芸が達者で、騙し賺し時に脅し窘め最後に必ず裏切る。(きたないなさすが忍者きたない)
 ゴール前のスプリントは勿論、エースを立てるアシストとしてもなかなか優秀である。
 夜戦夜戦うるさいのが、最近はレースレースうるさい。絶対レース開催してよね、約束よ?
 なおナイトライドも好きなもよう。夜はいいよねえ、夜はさ!

【使用バイク】:DE ROSA PROTOS Navy Orange Matt
 三水戦旗艦・川内ッ! デローザ・プロトス! フラッグシップにて華麗に参上!
 えっへっへぇ、川内型は三姉妹全員が同じブランドに統一だよ!
 このプロトスなんだけどさ、見た目は気に入ってたし色も好きだったけど、
 私としてはもっと軽いフレームが欲しかったんだ。最初はね?
 でも提督が川内ならこっちだって言うんだよ
 で、乗ってみたらこれがホントもう……なんていうか、提督の言いたいことが良くわかったよ
 乗り心地といい、漕ぎ出しの軽さといい、踏んでも踏んでも撓まない固さといい、クイックな反応といい
 何もかもが私ぴったりだったんだ
 単にフレームが軽ければいいってわけじゃないことの証左みたいなバイクだよ!
 ポイントの奪い合いなら私に任せといてよ! マイヨ・ヴェールは私が獲るからさ!

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674: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:11:12 ID:GrYwkcE.

【川内の夜】

川内「真のニンジャは地形を選ばないオールラウンダーなのだ」

萩風「そうですかありがとうオールラウンダーすごいですね」

川内「それほどでもない(謙虚)」

嵐「プロトスってダークパワーが宿ってそうで強い」

川内「黄金の炭素の塊で出来ているプロトス軽巡が炭素装備の艦娘に後れを取るはずが無い」

江風「わー、やっぱり川内さンすごいなー。あこがれちゃうなー」


 まだ新人上がりのこの三名は川内に預けられたところ見事に夜戦教団の信者となっていたがどこもおかしくない。

 提督が承知の上で川内に預けるあたり、並々ならぬ葛藤があったもよう。


川内「さあ! 待ちに待ったナイトライドだーーーッ!!」

提督「その辺にしとけよおまえら」

川内「げえッ!? 提督!?」

提督「夜走るのは、百歩譲っていいとしよう(夜戦夜戦騒いでるよりはうるさくないし)」

675: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:12:51 ID:GrYwkcE.

川内「さっすが提督! 話がわかるねー!」

提督「ただし反射ベストは絶対に着用、尾灯は多めに点けろ。テメーの場合は前照灯もコレ(VOLT1200)使え! ヘルメットに付けるタイプのも!」

川内「はーい! やったぁ! ナイトライドだぁーーー!!」

古鷹「私も前照灯を?」ピカー

提督「君は例外……(その探照眼、便利すぎだろ)」





 問題児。夜戦! 夜戦! 最近じゃレースだナイトライドだと、とにかくうるさい。

 ロードバイクを与えたらド嵌りして、夜にはヘトヘトになるぐらい走り込むため、夜がとても静か。あら、意外なこと!

 が、その平和は長くは続かなかった。「夜戦もレースも体力が必要だよね!」とあちこち走り回っているうちにオールラウンダーとなり、

 夜は別腹と言わんばかりにメキメキと体力を付け始めてしまったため、騒がしい夜が帰ってきた。あまりの計算外に霧島と大淀と鳥海の眼鏡が割れる。

 川内さんが夜に鎮守府道路を走っててすっごくうるさいんですけど!?

 黙ってれば美人なのは提督とて認めている。だがうるさい。すごくうるさい。

 神通の気苦労がしのばれる。

【艦】

676: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:14:51 ID:GrYwkcE.

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川内型軽巡洋艦:神通改二

【脚質】:オールラウンダー(万能型)

 ―――通りませ、通りませ、ここは神通の路なれば。

 バランス感覚とペダリング技術最強の軽巡。軽くトランス状態入ってリミッターを自分で切れる求道者タイプ。
 神通、おまえもか! 提督は頭を抱えた。しかも川内とは少しタイプが違い、正しく万遍なく強いタイプ。
 エースでもアシストでもイケる対応力の高さとメンタル面での強さ、そして武勲艦としての戦歴から
 勝利の味がどれだけ甘露で敗北の味がどれだけ苦いかをこれでもかというほど知っている、敵に回すと非常に厄介なタイプ。
 神通に目を付けられたら慈悲なく容赦なく丁寧に執拗に徹底して万遍なく潰される。
 川内型の中ではパワーバランスのほぼ中心におり、弱点が一つもない教科書通りのオールラウンダーである
 その秘訣は高いスタミナと、単純に反復訓練の賜物によるペダリングスキルの高さ。
 非常に効率の良い走法を会得しているためである。生真面目な神通はまず基本中の基本であるペダルの回し方の多様性とその熟練に力を入れ、
 様々な地形や己のコンディションの良し悪し問わずに試し、ペダリングとライディングスキル、ライン取りに限界スプリントといったトレーニングを積み重ねた結果、
 気が付けばオールラウンダーになっていた。提督曰く「一番まともな鍛錬で高レベルのオールラウンダーになった。ある意味ホッとしてる」とのこと。
 なお人に教えるのも上手いが、モノになるまで徹底的という教育方針に震え上がる駆逐艦多数。

【使用バイク】:DE ROSA KING XS White Lumia Matt
 はい、愛車は川内型御揃いの、イタリアはデローザブランドです。
 前へ前へと進もうとしてくれる愚直なまでのその直進安定性の高さ、
 スプリントでもヒルクライムでも高速巡航でも実力を発揮できる、全局面対応型のオールラウンドバイクです。
 また、速度だけではなく乗り心地の良さにも定評があり、レースのみならずロングライドにも………あっ。
 す、すいません。少々、興奮して喋りすぎてしまいました……二水戦の陸の走り、存分にご覧ください。陸上でだって大活躍してみせます。
 それと、その……提督が私……たちを応援をしてくれたら、凄く嬉しいです。

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677: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:17:01 ID:GrYwkcE.

神通「努力の積み重ねがレースの結果に反映されるというのなら、私の勝利は揺るぎません」

提督「お前が言うと重みが違う」


 なお神通とのトレーニングは駆逐艦人気が非常に評価が分かれる。地獄だから。

 ストイックな子は率先して参加するが、ダラけたい子は忌避する感じ。

 提督ガチラブ勢。物陰から(怖くない意味で)乙女の目をした神通が提督の背中を見ている。

※神通が遅いなんて印象を欠片も抱けなかった>>1である

 提督ラブ勢。結構いい雰囲気まで行くけど邪魔が入って鬼と化すパターン入ってる可哀想な人。

・瞬発力:川内>>神通>那珂
・最高速:川内≒神通>那珂
・持久力:那珂>>神通>川内
・登坂力:那珂>神通≒川内
・高速巡航速度:那珂≒神通>川内
・駆け引き:川内>神通≧那珂

 見事なまでに神通はオールラウンダーとしてバランスが整っている。

 ん? ちょっと待て、ということは……。

678: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:17:33 ID:GrYwkcE.

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川内型軽巡洋艦:那珂改二

【脚質】:オールラウンダー(クライマー寄り)

 ―――那珂ちゃん☆スピードあーっぷぅ♪

 そこのけそこのけアイドルが通る。
 まさかの川内型三姉妹の全員がオールラウンダーに成長し、提督はついに「ウォアアアア」と金切り声を上げて鳳翔を心配させた。
 しかも全員エース級で実力は総合的にほぼ横並びである。仮に川内型でワンデーレースのチームを組んだら他のチームのアシストが疑心暗鬼で発狂すること請け合い。
 那珂の個性的な性格と相まって、相手チームを混乱のさなかに(素で)陥れる。川内型の突然歌い出す奴とは那珂ちゃんのことよ。
 川内型とのツーリング時、激坂含むロングコースを走りきっても、那珂ちゃんは一人へっちゃらだった。
 最初はクライマーかと思った提督だったが、後の健康診断で驚きの体質が判明。
 血液中の赤血球の体質割合を示すヘマトクリット値(高いほど酸素運搬能力が高い)がなんと50%(成人女性で34~45%が規定値)を記録。
 提督は当初ドーピングを疑ったがガチの超人体質だった。また、アイドルのトレーニングと称してボイトレや肺活量を鍛える運動をしているため、
 姉二人と比べて、最高速や瞬発力はやや劣り、技術的な面とタクティクスでは一歩も二歩も劣り、作中で致命的な弱点も明らかになるが、
 筋持久力・スタミナ・回復力においては鎮守府内でも上位五指に入り、高速巡航やヒルクライムでは姉二人より長く走れる。長良型並みのタフネス。
 序盤が平地コースのヒルクライム大会ならピュアクライマーにも勝てる。
 他の選手からすれば無限のように続く体力によって平地で置き去りにされ、遂には誰も追いつけず、二位に三分もの差を付けて優勝した逸話からついた異名が『遥遠の華』である。
 トレーニング後の回復走や食事の栄養バランスにも余念がなく、姉妹の健康管理を担っていてかなり意外な一面が見れる那珂ちゃんである。
 この一件から、提督はロードバイク乗りとしての那珂ちゃんのファンになった。

【使用バイク1】:DEROSA IDOL Black Fluo Pink Matt
 艦隊のアイドルぅ♪ 那珂ちゃんだよー! よっろしくぅ~! よーし、那珂ちゃん今日もかわいい♪
 那珂ちゃんの愛車はもちろんハートのデローザだよー! ピンク色がちょーキュートで、ハートマークがまたチャーミングでしょ~♪
 しかも名前がアイドル! これはもう那珂ちゃんのためにあるようなバイクだよね! ますます魅力的になっちゃったぁ! きゃはっ♪
 ……え? アイドルに乗るんじゃ、そりゃ○○○じゃないか……って、ち、違うんだから! こっちは実費購入なのー!
 んもー、提督のバカバカ! あくまでこっちは外回り営業用(ツーリング用)で、提督からもらっちゃったライブ用(レース用)がもう一台あるんだ!

679: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:19:31 ID:GrYwkcE.

【使用バイク2】:DEROSA SK Blue Black Glossy
 チームのエースぅ♪ 那珂ちゃんだよー! よっろしくぅ~! よーし、那珂ちゃん今日もめちゃんこ速い♪
 二台目のバイクもデローザだよー! 那珂ちゃんは、絶対路線変更しないんだから! 全国ツアー(高速巡航)に最適のバイクなの♪
 バイクさんがもっと踏んでって言ってくるみたい。も~、那珂ちゃんはアイドルで女王様じゃないんだゾ? きゃはっ♪
 ステージ衣装(ジャージ)もハートマークが可愛いPISEIだよー♪ 川内型はバイクも衣装もみんなおそろい♪
 ロードバイクがつまらなくっても、那珂ちゃんのことは、キライにならないでください!

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680: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:20:47 ID:GrYwkcE.

※鎮守府内最強クラスのオールラウンダーと言ったら、するっと那珂の名前が上がるほど

 なおそのせいかファンが物凄く増えた模様

 一方でロードバイクに乗せると川内よりうるせえよあの軽巡、という意見もちらほら上がる

 思いのほか那珂ちゃんとロードバイクの親和性が高い

 提督は大事なファン勢。なお提督はロードバイクに乗る以前の那珂ちゃんのファンになった覚えはない。



【此処から先は裏設定】

 この那珂ちゃん、出撃時はまさに『四水戦』といった存在に豹変するので注意

 みんな~、那珂ちゃんの(戦果になる)ために集まってくれてアリガトー♪ だけどごめんねぇ、貴女たちに聞かせてあげる歌はないんだぁ☆

 つまりね―――魚雷と砲弾をくれてやるからちゃっちゃと散れ、海の塵屑(ごみくず)ども。

 駆逐艦たちには『殺る時は殺る人なのか』と、むしろファンが増えたらしい。

681: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:24:18 ID:GrYwkcE.
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・球磨型軽巡洋艦:球磨
【脚質】:オールラウンダー(スプリンター寄り)

 ―――舐めるなクマァアアアアアアア!!

 鬼怒に匹敵するロングスプリント力を備え、更に登坂も苦手としないオールラウンダー。川内・鬼怒にとっては目下最大最強のライバルである。
 ワンデーレースにおいてはスプリント型のハンターでもある。この球磨を狩ろうとか命がいくつあっても足りない。大戦時においては長良と球磨が軽巡ツートップで戦果を上げていた。
 神通と矢矧は教導と実戦半々でやってたので除外。
 雄たけびを上げて突進する非常に攻撃的なスタイルのダンシングスプリントを得意とする。
 スプリント継続距離が極めて長く、鬼怒のお株を奪うようなゴール前1キロからの超ロングスプリントは脅威の一言。
 意外でも何でもなく優秀なクマちゃんである。
 自転車に乗ると本能剥き出しになるタイプ。協調性/ZERO。どいつもこいつも球磨を勝たせるために死ねというタイプのエース。きっと多摩より闘争本能が高い。
 提督は球磨の恐ろしいスプリントを目の当たりにしたとき「そういえば野生の熊って百メートル7秒で走れんだよな……」と現実逃避した模様。
 名前にガチで熊が入っている熊野がロングライド目的でロードを購入したときはちょっと安心したとかなんとか。
 トルクに物を云わせたペダリングで、技術面には少々荒が目立つものの、
 今後のトレーニング内容と密度次第では、大化けする可能性がある。
 鬼怒とは仲良しなのだが、川内とは非常に仲が悪い。なお川内も鬼怒とは仲良し。板挟み状態の鬼怒ェ……。

【使用バイク】:KUOTA KHAN(PRO TEAM EDITION)
 クマのバイクはイタリアンバイクだクマ! クオータのフラッグシップ、カーンだクマ。
 クマ? ハマーン? そんなバイクは知らないクマ。ハマーンじゃなくてカーンだクマ。
 多くのレースを制した知名度も戦績も高いバイクで、他のイタリアンブランドバイクにも後れは取らないクマ。
 オーソドックスな外見に惑わされたらイカンクマよ? 高い剛性に身軽な車体、そのくせ直進ではどっしりとした安定力。
 まさしくクマだクマ! む? な、ナデナデするなクマー……駆逐艦が見てるクマ……。
 や、やめるクマァ……威厳が保てなくなるクマ……。
 く、く……クマァ♥

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682: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:26:31 ID:GrYwkcE.

【共通の友人:鬼怒】

鬼怒「? 二人とも仲良しでしょ? ねえ、球磨ちゃん、川内さん!」

球磨「も、もちろんだクマ」ゲシッゲシッ

川内「ッ、ええ、とっても、仲良し、だよっ……」ガスッガスッ

提督(鬼怒、おまえスゲーよ。尊敬する。その図太さと鈍さ、マジでスゲー)


 で。


提督「で、ここだけの話、なんで鬼怒と仲良しなん?」

川内「夜戦に光るセンスがあるのと、体力馬鹿でどんな激戦の後でも安定して夜戦の戦果を出すから」

川内「それにツラいときツラいって言ってくれるのって、管理する側の旗艦としてはむしろありがたいしね。あの子いいよー」

球磨「無理しないヤツは長生きするクマ。それに鬼怒は球磨の嫌いな対潜哨戒で、度々フォローしてもらった恩もあるクマ」

球磨「持ちつ持たれつクマ。お茶目なところも愛い奴だクマ。いい子だクマー……」

提督(ああ……おまえら、妹がアレだもんな……いや、うん……鬼怒はテンプレ的な妹って感じだし? 素直に甘えてくる感じ?)

683: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:27:58 ID:GrYwkcE.

神通←超ストイック。姉に甘えるとかいう発想すらない。

那珂←我が道を行く。

多摩←猫じゃないと言い張る猫。球磨にはめったに甘えてくれない。妹というより戦友に近い。

北上←いいから魚雷だ。ねーちゃんと呼んではくれるがマイペースでフラフラ系。

大井←ぎだがみざぁああああん。言わずもがな。

木曾←中二病。ヘタレ。パシリ扱い。


川内「あとあの子、スキンシップ好きでさ。隙あらばぎゅーってしてくるんだけどチョーいい匂いするの」

球磨「癪だけど同意だクマ。冬の時期に欲しいクマ……めっちゃ温いクマ……」

川内「でしょー? 分かってんじゃーん」

球磨「クマクマ」

提督(おまえらホントは仲いいんじゃねえの?)


【艦】

684: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:29:10 ID:GrYwkcE.

 最初はKUOTA KHARMA(クオータ・カルマ。通称クマ)を愛車と考えたが、やっぱりやめたのだ

 決してディスるつもりはないが、以前ロングライド用のフレーム求めてた時期に狂ったようにあれこれ試乗してた時期があって、その時試乗したクマのフィーリングが合わなかったことに由来する。

 速く走る球磨のイメージが湧きにくかった。

 提督ラブ勢。というかあんな人が弱ったタイミングで餌付けをされつつ優しくされたら惚れてまうクマ、って具合に釣れたらしい。提督の作るスモークサーモンは絶品。

 他の艦娘の目がないと思いっきり甘えるタイプ。規律は大事だクマ。二人きりになるとぎゅーってするクマ。たまには抱き返してほしいクマ。

 上記の通り人目のあるところで撫でると突っぱねる。「ぬいぐるみ扱いじゃなくて、可愛い女の子と認識した上で撫でてる」とかしれっと言いやがったこの提督。

 提督に(毛づくろいならぬ)ブラッシングをされるのがお気に入りで、たまに初雪らと一緒にしゅっしゅして貰うのがお気に入り。

 なかなか手際が良くて、一部の艦娘からはしばしば頼まれる。(見返りとして事務作業手伝いをやらせるところは抜け目ない)

 あー、もっと梳くクマー。あー、髪がツヤツヤになってくクマー。クマクマァ♪

 クマ? 多摩もそんなところで威嚇してないで、こっちに来て一緒に梳いてもらうクマー。気持ちいいクマー?

 この提督、弟がいるせいか非常に兄属性が高い。料理もできて面倒見が良く、おかん属性まで備えている。


提督(お、おかしい。おかしいぞ……このアホ毛、櫛を弾きやがる……!?)シュッシュッ

球磨「くまぁ♪」ゴキゲン

685: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:30:34 ID:GrYwkcE.

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・球磨型軽巡洋艦:多摩
【脚質】:オールラウンダー
 理想的な瞬発力を備えた、機敏で俊敏なオールラウンダー。
 初動の瞬発力が尋常じゃない。咄嗟に反射の速度で最適解の行動を行う野生が最大の強み。
 そのため誰かに合わせるというのが非常に得意で、合図なしでアタックに同調できる怪物である。
 まさに猫のようにしなやか、強靭にして柔軟な筋肉の質を持っており、トータルバランスも高い。
 天才型の五十鈴と同じ、純粋な天才タイプ。同じ課題を与えても経験値にプラス20%的なイメージ。
 大戦時も実力や戦績が五分、今もまた乗ってるバイクが同じということもあり、互いにライバルとして意識し合っている節がある。
 また、球磨と同じく直感に優れ、場の空気を読むのが上手い。
 虫の知らせ的な直感で、「なんとなくやな感じがするにゃ」で落車発生や敵のアタックを察知する。
 もうやだこの猫、とは五十鈴の言。五十鈴も大概チートなのでお前が言うな。

【使用バイク】:CAT cheetah
 キャットチーターにゃ。猫じゃないにゃ。
 だけど猫のような俊敏さと、チーターのようなマックススピードを誇るスゴいヤツだにゃ
 でも非UCIフレームだから公式試合じゃ使えないのにゃ……残念だにゃ

【使用バイク2】:COLNAGO C60
 たーまがミャーたゴロニャーゴ♪
 イタリアのゴロニャーゴ……じゃなかった、コルナゴの60周年記念で作られた栄光のフラッグシップなのにゃ
 二番艦の多摩がフラッグシップに乗れるなんて感激だにゃ……本当は球磨型じゃなくて、多摩型になったかもしれないのにゃ
 ……ううん、球磨の妹であることに不満なんてないにゃ。毎日が楽しくて、本当に楽しくて、夢みたいで………ホントだにゃ
 でも、そういう気遣いは嬉しいにゃ………うにゃ、ありがとにゃ提督
 にゃっ、でも今日は御触りダメなのにゃ……そういう気分じゃないのにゃ

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686: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:31:58 ID:GrYwkcE.

提督「いつも触ってるみたいに言うな」

多摩「ごめんにゃ」

球磨「なんやかんやで多摩と五十鈴って仲良しだクマ? 次女同士、通じ合うものがあるクマ?」

多摩「なんというか……名前に惹かれるものを感じるのにゃ」

提督「名前………あっ(察し)」

球磨「クマ?」

提督「耳かせ」

球磨「クマ? …………ん? 多摩? タマ……タマは猫……猫と言えば鈴……おお!!」

多摩「猫じゃないって言ってるにゃ」

五十鈴「???(何の話してるのかしら?)」



※コルナゴC60。アレ何もかも完璧ですわ。値段以外。
 コルナゴはコスト度外視するからこその超高性能であって、レースあってのコルナゴだからね。ちかたないね。
 某自転車の歌のため、日本国内ではコルナゴに猫のイメージを持っている人も結構いる。本当にいる。
 猫……うっ、頭が……。
 キャットチーターは完全にネタ。後悔はしていない。
 提督に対しては気まぐれ猫そのもの。擦り寄る時もあれば威嚇する時もある。嫉妬深い。提督に擦り寄るメスがいると不機嫌になる。

687: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:34:56 ID:GrYwkcE.
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・球磨型軽巡洋艦(重雷装巡洋艦):北上改二

【脚質】:パンチャー

 ――――新しい北上……それがあたし!

 脚質はパンチャーで、個人ワンデーレースを得意分野とするが、チーム戦も苦手ではない。
 フツーこのタイミングでやるかよってところでアタック仕掛けて、しれっと成功させたりする油断ならないところがある。
 キツい登り坂が続く山道で、残り10キロ近く登りがあるところで逃げたりとか。他の参加者からすれば「あいつ何考えてんだ」って感じ。
 分の悪い賭けは嫌いじゃないんだよねーとは本人談。ロードバイクに関しては、独特の戦闘感覚めいたものを持っている。
 こうやってしれっと逃げカマすのが上手い。ポーカーフェイスで独特のペース感覚を持つため、チーム戦にはあまり向かない。
 何を考えているのか分かりづらいと良く言われるようだが、実はかなり情に厚く、仲間を大事にする性格。
 ンモー、しょうがないなーって感じに敵チームなのに駆逐艦を曳いてあげたりとかしちゃう人。
 阿武隈の前? あー、あんまり走りたくないかなー……。自分自身の勝利より、人の頑張りを見て痺れたいタイプ。
 しかしそこはやはり球磨型というべきか、一度闘争心に火が点くとギッタンギッタンにするまで止まらない。

【使用バイク】:WILIER ZERO 6
 あたし? あたしは提督もご存知、ハイパー北上様だよ?
 …………冗談だよー。このロードはイタリアの……えーっと……なんていったっけ。
 そうそう、ウィリエールのゼロ・セーイっていうの。6は「ろく」でも「シックス」でもなくて「セーイ」ね?
 セーイ。あ、別に英語を絡めたギャグじゃないよ? イタリア語だし? 鬼怒じゃあるまいに。しょうもない。
 あー、これにした理由? うーん………一目見て痺れたから? あ、ダメ? うん、そうだねぇ……。
 あたしってパンチャーでしょ? 別に平地も苦手じゃないんだけど、やっぱり坂でガンガンアタックかけたいからさー。
 そうなるとやっぱ軽いフレームがいいよね。これ凄く軽いよ。あとはまー、見た目の好みかなぁ……。
 ……まー、そのぶん取り回しにはひときわ神経使うんだけどねー。かなりピーキーな感じ。んー? うん、楽しいよー。
 にししし……提督、かなりヤるでしょ? そういうの分かるんだー、あたし。一緒に今度走ろうねー? ねー♪

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688: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:36:31 ID:GrYwkcE.

【アブとキタ~二人は仲良し~】

北上「あーぶーくーまー」クルクルクルクル

阿武隈「ヤダッ、コナイデェ! コナイデヨォ!!」ビューン

北上「速っ!? うわ、阿武隈ってば登り速っ!? なんだ、あいつクライマーだったのかー。おー、あっちゅーまにつづら折りまで……こりゃー追いつけないねえ……ちぇっ」

提督「悪乗りが過ぎるぞ北上。いじめよくない」

北上「提督までそんなことをゆう……あたしは一緒に走りたかっただけだよぉー」

提督(こ、こいつ……表情あんまり変わんねえから嘘かホントか分かりづらいんだよなぁ……)



提督「まあ分かりづらいだけで分かるけどね」チョップ

北上「あいた」

提督「イジメかっこ悪い」

北上「イジメていいのは?」

提督「深海棲艦と国家反逆者と非国民だけです」

北上「あんたも大概だよ」

【艦】

689: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:41:11 ID:GrYwkcE.
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・球磨型軽巡洋艦(重雷装巡洋艦):大井改二

【脚質】:ルーラー(スピードマン)

 ――――誰も私たちの前を遮れないわ。

 実力、完全に未知数。分かっているのは恐ろしく優秀なルーラーであるということ。
 そして北上と組んだ際にはレースで入賞ないし優勝をもぎ取っていくこと。
 そして『殺しの女王』の二つ名を持っている。彼女に敵と認識されたスプリンターは悉く潰されることからその名がついた。
 She's a Killer Queen.

【使用バイク】:WILIER ZERO 6
 私のバイクですかぁ? 北上さんと御揃いのウィリエール・ゼロ・セーイですぅ♪
 ふ、ふ、ふ……誰も私と北上さんの前を遮れないわぁ……♥
 あっ、も、もちろん提督からいただいた自転車のおかげですよ、はい♥
 ええ、提督のことも愛してますから♥ だから………。


 ――――裏切ったら、絶対許さないから。


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690: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:47:27 ID:GrYwkcE.

提督「裏切るぅ? そりゃ有り得ん話だな」

大井「口だけなら、どうとでもいえるわ……誰かに取られるぐらいなら、いっそ……」

提督「俺が大井を裏切るとすれば、大井が俺を裏切った時だからな」

大井「…………はい? あの、侮辱してるんですか? そうですよね? 私が、提督のことを裏切る?」

提督「うん。だからだよ」

大井「は……?」

提督「大井。おまえは絶対に俺を裏切らない。そうだな? だったら有り得ん話だろ? 違うか?」

大井「――――――」

提督「大井は時々、そういうふしぎな、なんていうか……『有り得ない話』をするよなあ」

大井「…………そんな貴方だから、私は」



 ヤンデレである。紛れもなくヤンデレであるが、提督の真っ直ぐな、何一つ疑ってないって目を見る度に自己嫌悪してしまう。

 その絶対の信頼が心地良い。だけど、最近はもう信頼だけでは足りなくなってしまった。先へ進みたいのに、どうして、どうして、と。

 黒い思いが渦巻く己の心に必死に蓋をし続けている。ただ「ずっと一緒にいて」という言葉が出ない。

 そんなピュアラブな大井っちの恋模様である。

691: ◆9.kFoFDWlA 2017/05/21(日) 22:48:47 ID:GrYwkcE.
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・球磨型軽巡洋艦(重雷装巡洋艦):木曾改二

【脚質】:オールラウンダー

 ――――それで逃げたつもりなのか?

 球磨型最後の刺客は、球磨型最強のオールラウンダー……なのだが、如何せんメンタルが脆弱。
 山は上級クライマークラス、平地はTTスペシャリストのそれ、アップダウンはパンチャーの対応力、ダウンヒルでは鬼ブッ込みと隙がない……様に見えてメンタルが弱い。
 オールラウンダーとしての万能性に加え、空間把握と五感の鋭敏さに優れる。特に目がいい……んだけどメンタ(ry
 集団における適切なポジション位置をいち早く察知したり、落車発生時に際どく回避したりとかなり要領がいい。
 また、煽るのが得意。おまえらのチームのエースは無能だな! 不安なのか? なぁ? なぁ? なぁーーーー? これはひどい。
 個人戦よりチーム戦が得意なタイプで、放っておいても上手に周りに頼りつつも自己主張を忘れない。
 ちゃっかりした末っ子気質であり、なんやかんや球磨型の姉や天龍・龍田には可愛がられている。
 なお中二病という病魔に侵されている。
 そんな木曾だが、煽るのは得意だが煽られるのが苦手。ンモー、すぐ弱気になるゥー。
 一度崩れると調子を落とし続けるタイプ。エースとしては致命的な弱点かもしれない。弱泉くんかおまえは。中二病という鎧を纏おうと、心の弱さは守れないのDA!
 実は着任当初からしばらくは、海戦でもまるで戦果が上がらず燻っていた。
 姉たちや天龍(後者の比率が9割)の励ましを受けて努力を続け、後に改二となり、才能が羽化。
 姉以上に天龍を慕っているため、球磨と多摩がぐぬぬ。この姉二人は結構理不尽である。
 北上と大井はそれもしょうがないとは思う一方で、二人も天龍のことは気に入っているのでまあOKといった感じ。
 余談だが、性的知識/ゼロ。

【使用バイク】:???

 まだまだ見せられねえな。秘密兵器って奴だ!

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