奏「『一日誰か好きな人を好きなだけキスしてもいいチケット』？」

奏「………なによこれ。いつの間に鞄のなかに入ったのかしら」

奏「『このチケットにある上枠に書かれている名前の方は、下枠に書かれた名前の者に、当日中好きなだけキスをする権利が与えられます』……………」

奏「ふーん………誰かのイタズラかしら。既に今日の日付と、上枠には私の名前が書かれているし。もう………」

奏「………………」ﾁﾗｯ

奏「　　　　　　」ｶｷｶｷｯ

奏（まぁ、仮に効果がなくても、私なら冗談で済むわよね）

朋「…………フレグランス、かな？」

千鶴「左様ですわっ。今月の蟹座のラッキーアイテムは花の香りのフレグランスですの！朋ちゃんにはちょっと特別な、原産地がアフリカの花のフレグランスを、と」

朋「ほ、ホントですか！？それは嬉しいですっ！」

朋「これ、私の知らない花だなー。さすが千鶴さん！」

千鶴「当然ですわ！世界各国の珍しい香りを集めるのもセレブの嗜みですからｺﾞﾎｺﾞﾎｯｹﾞﾌﾝｯ！」

朋「ち、千鶴さん大丈夫！？」

千鶴「ｺﾞﾎﾝｯ…ふう、失礼致しました…ところで、まだ中身が入っているはずですわ。ご覧くださいまし？」

朋「えっ？あっ、確かにまだ感触が………」ｺﾞｿﾘﾝｺ

奏「さて、名前を書いたはいいけれど、これって………」

～♪♪♪

奏「あら、電話？」

奏（っ……………）

奏「ﾋﾟｯ)もしもし？」

恵美『あ、もしもし奏？やっほ～♪アタシ恵美だよ！ところで今日ってもしかしなくても奏の誕生日だよね！おめでと～！』ﾜｲﾜｲ

奏「恵美………ええ、そうよ。ありがとうっ」

恵美『ねぇねぇ～奏は誕プレは何か欲しいのあったりする？今日暇だったら一緒に遊ぼうよ～♪何か買ってあげるからさっ！…って奏に限って今日なんかに予定が空いてるなんてないよね～にゃはは～…』

奏「今日は空けてあるわよ？」

朋「これは………写真立てですか！枠縁が花柄のものと、貝殻の模様？なんかオシャレかも！」

朋「んー、でもなんで写真立て？」

千鶴「風水ですわ。それぞれ景色の写真を入れて、花柄の、正確には、ヒャダネマイカという花が描かれているものの方を玄関先に、」

千鶴「貝殻のものの方を寝室に飾ると出逢いの運が高まるそうよ！ぜひ試してみてはいかがかしら？」

朋「そうなんだ！？初めて知ったなーっ。もちろんしてみますね！」

千鶴「気に召されたようで安心しましたわ。ホント、朋は占いが好きなのですね」

朋「うんっ！占いは自分自信で見出だせないチカラをかきだすキッカケになるから…だから何か、誰かが導いてくれたモノも信じたいなって思うのっ」

千鶴「朋ちゃん………」

千鶴「フフ、でしたら、今から私のオススメのお店にランチに出かかけませんか？今日の朋ちゃんの、ラッキーレシピをふるまいますわよ！」

恵美『うぇっ！？ねぇねぇホント？今日は奏と遊んでいいの？』

奏「ええ、もちろんよっ。私も、恵美がかけてきてくれて嬉しいわ」

恵美『わーい！やったー！じゃあどこ行く？』

奏「そうね…一旦待ち合わせして、その時の気分で決めないかしら？」

恵美『りょうかーい！じゃあ待ち合わせ場所はー…………』






ｶﾁｬｯ　ﾂｰﾂｰﾂｰ

奏「ふふっ。こんなにワクワクするのも久しぶりね…どうなるのかしら…」ｿﾞｸｯ

朋「キス、ですか？」



千鶴「ええ、鱚の天ぷらですわ。そういえばこの時期、鱚は旬だったでしょうか」

千鶴「今日はその料理を食べると、思わぬ好運に恵まれるかもしれないとのことですわ」

朋「ふーん…鱚ってあんまり食べないかも。特別な感じもするし、運気も上がるならお得かも！」

千鶴「ふふっ。ではよろしければ私の行きつけの定しょ…和食料理屋へ参りましょうっ」

朋「うわ、千鶴さんの行くようなお店か…なんだか高級そう…」

千鶴「そ、そんなことはないですわ！どのような層にも合うよう、リーズナブルなお値段で上品な味わいを堪能いただけますの！」ｱｾｱｾ

朋「そっか！じゃあ安心！あんまりお高いと困っちゃうしねー。」

千鶴「おほほほ………」

朋（あ、じゃあ今もらったフレグランス、早速使ってみよ！）

奏（待ち合わせ場所は静かな、落ちついた空気のある公園）

奏（それで、ここならウチと向こうの事務所の中間ぐらいの距離にあるから合わせやすいわよね）

奏（ﾁﾗｯ…

奏（これ…チケットというわりには半券に切れるような加工は施されていないし、ホントにイタズラのレベルの稚拙なできよね…大丈夫かしら…）

奏（恵美には見られないようにしまっておきましょう…）ｺﾞｿｺﾞｿ


「か～なで♪だ～れだっ♪」ﾒｶｸｼｰ


奏「……………えっとーどっかで聞いたことあるような声ねーあっもしかしてー最近よくテレビでも見かけるとっともかわいいアイドルの所恵美ちゃんだったりするかもー(棒読み)」

恵美「ちょっとちょっと！本気で照れるからやめてよ～っ！」

奏「…………」

恵美「それはそうと、奏、お誕生日おめでと～！これファミレスのクーポン券！プレゼントだよ～♪」

奏「あらありがとう。じゃあこれで、一緒にファミレスにでも行く？」

恵美「ううん、アタシはここよく行くから気遣わないで、奏のためだけに使っちゃってもいいよ！」

奏「本当？ならそうさせてもらおうかしら。恵美はいい人ね。ひとの誕生日も覚えてくれたり…」

恵美「誕生日はなんか忘れれないんだよね～やっぱりそれぞれ大切な日だからかな？なんてね～♪」

奏「本当、いい子………」

恵美「それよりもさっ、今日はどこ行」

く………
　　　　ﾁｭｯ

朋「んんっ…甘酸っぱくておいしいっ！」



千鶴「いかがでしょうか、鱚の南蛮漬け。こちらのお店のオススメの一品のひとつですわっ」

朋「この味と歯ごたえ、活力がみなぎってきそう！」

千鶴「これから夏真っ盛りの季節に入りますわ。夏バテ解消にこういう酸っぱいものをとるのもいいですわね」

朋「なるほどね～」

朋「……………千鶴さんって、いいお嫁さんになりそうだなー」

千鶴「っ！？」

朋「だって育ちもいいし品もあるし、いろいろな知識もありそうだしさぁ」

千鶴「と、朋ちゃん！？褒めても何も出ませんわよ！？」

朋「何よりもセレブだし！」


ｸﾞｻｯ

ｽﾞｸﾝ
　　ｽﾞｸﾝ

ﾌﾟﾊｯ

恵美「ぅ、んっ………？」ﾄﾞｷﾄﾞｷ

奏「ここでいいわ…ここで…ね」

恵美「か、かなで…………………………あ、あのさ……………」

奏「……………………………………………………ふふっ、冗談よ……………」

恵美「もっとして……………」

奏「……………えっ」

恵美「奏がよければ、もっとキスしてほしいな………」ﾄﾛﾝ

奏（う、嘘………）

千鶴「う、嘘おっしゃい！朋ってばもうっ！」

朋「嘘なんて言ってないですよーっ」

千鶴「本当かしら…じゃあわたくしのこと、セレブに見える？」

千鶴（って…私は何を言って…！これでは実はセレブではありませんとみすみす打ち明けているようなものじゃないの…！）

千鶴「あの…ごめんなさい、今のは聞かなかったことに………」ﾎﾞｿﾘﾝｺ

朋「へ？もちろん…というか千鶴さんはセレブでしょ？」

千鶴「！」

朋「あー、アタシも千鶴さんみたいになりたいなぁ」

千鶴「朋ちゃん……………ふっ、当然ですわ！このわたくしがセレブでないなんてことはっ！」

奏「あっていいのね………こんなことが………」

恵美「どうしたの………早く、もっとしていいよ………」

奏（恵美…吐息が熱くて………）

恵美「んっ…くっ………///」

店員「お待たせいたしました。鱚と夏野菜の天ぷらでございます」

朋「わっ、きたきた～」

店員「それとお客様、店内ではくれぐれもお静かにお願いします」ﾁﾗｯ

千鶴「あ、し、失礼致しました！」

店員「それではごゆっくりどうぞ」ｽﾀｽﾀ

朋「………………」ｼｰﾝｯ

千鶴「………………」ｼｰﾝｯ

朋「………味わって食べた方がご利益ありそうだしねー」ﾊﾟｸﾊﾟｸ

千鶴「正論ですわ」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

奏「ﾊｧｯ…ﾊｧｯ…///」

恵美「あはは………奏がずっとキスしてくれるなんて、アタシは幸せ者だな………///」ﾂｰｯ

奏（恵美………唇から、垂れてる………）

恵美「かなで………すき………///」

奏「っ………」

奏（あのチケットは人をここまで変えてしまう能力があるっていうの………？）

恵美「奏………キス………もっときて…………」ｸﾞｲｯ

奏「恵美………」ｺﾞｸｯ



奏「…………………ダメ………私たちアイドルがこんな穢れた姿をしていては………」

恵美「………？そんなことないよ…？今の奏、すっごくかわいい………」

奏「私が悪かったわ、恵美。………ごめんなさい、今日はお互いもう帰りましょう」

朋「いやー食べた食べたー」

朋「千鶴さん、早速だけど、アタシ今からプレゼントの写真立てに飾れそうな風景撮ってくるねっ」

千鶴「あら、まだ時間空いていらしたの？」

朋「今日はオフだったのよ、なんとなく事務所には来ちゃってたんだけど」

朋「それに善は急げでしょっ。いつもアタシ、デジカメ持ってるんだよねー」

千鶴「まぁ。でしたらそうね、気をつけて行ってらっしゃいっ」

朋「うん、撮った写真とか、また千鶴さんにも見せてあげよっかなー。じゃあ、今日はどうもありがとうございましたっ」

私は強引に恵美と別れた。

半ば壊れかけていた恵美はなかなか私から離れようとしなかった。

だから私は、これが最後のキス、これでオシマイよ、と言って、今までで一番力を込めて唇を交わした。

キスってこんなに口元も、胸も、痛いモノだったんだ…と文字どおり痛感した。

そして恵美は、惚けながら私を後にした。

明日には元通りになってほしいーーー



奏は未だ、待ち合わせの公園にいた。
ベンチに腰をかけ空を仰ぎながら惚けていた。

今日はなんて日なの………そう言えば、今日は私の誕生日だったんだわ………もしかしてこのチケットは誕生日プレゼントなのかしらね………ふふ………

奏は、もう軽々しくキスなどしまいと思った。キスは人を狂わす…もう封印しよう………、と

思ったのだが、それは5分と保たなかった。

朋「風景を撮るとは言ったものの、一体どこがいいのかしら…」

朋「パワースポットとか…？いや、出逢いが起こってほしいトコ…」

朋「出逢いといっても事務所じゃプロデューサーぐらいしかまともな人いないしなぁ………」

朋「うーん…とりあえずちょっと歩こうかなー」

………

朋「都会ってあんまりいいトコないわー…」ﾍﾄﾍﾄ

朋「と………見知らぬ公園発見っ。ちょっと休憩しようかなー」


ﾌﾜｯ


奏「あ………この香り………」

奏（いい匂い………なんだろう………この仄かに甘酸っぱい香り………）

奏（………）


奏（……………………キス、したい）ｷﾞﾗｯ


奏（この香りはどこから？何が…誰が？）ｷｮﾛｷｮﾛ

奏「あっ」





朋「まぁ…ありきたりな公園よね。人もあんまりいな…」

朋「………ん、あれ？あそこに座っているの………奏ちゃん？」

奏（最初からカン付いてはいた）

奏（このチケットは『好きな人を好きなだけキスできる』と書いてあったけど、それは一人だけではなく、何人でも相手をすることができるという可能性があるということ………）

奏（現に、チケットの対象相手を記入する『下枠』は『上枠』より面積が大きい）

奏（まだ名前は書けるのよ………）ﾋﾟﾗｯ

奏「『藤居朋』」ｻﾗｻﾗ



朋「やっぱり奏ちゃんだよね！どうしたのー今時分こんなところで？」

奏「……………」

朋「ん？大丈夫？アタシのことわかるよね？」

奏「やっぱり、この香りは朋さんから溢れていたのね」

朋「え？香り？」

奏「……………『キスして』」

朋「え、鱚？」


ﾁｭｯ
　　…ﾌﾟﾊｯ


朋「…………！？///」

奏「あはっ…♪朋さんの唇…奪っちゃった…♪」

朋「か………奏ちゃん…冗談でも…急にそんなことをするのは…よくないわ…」

奏「あら？抵抗するの？まぁ…それも面白いわ♪」ｶﾞｯ

朋「んっ！んぅーっん………///」ﾊﾞﾀﾊﾞﾀ


……
　　……



朋「あっ…はっ………奏ちゃん………///」ﾋﾟｸﾝｯ

朋（力…入んない………）

奏（さぁどうなるかしら…？）

朋「……………奏ちゃん………もっとキスしてちょうだい………」

奏（やっぱりっ………）

奏「朋さん、この辺り、家近かったっけ…？」

……………

奏「ふふっ、おじゃまします…♪」

朋「うん…楽にして………」

朋（あ、そうだ………これだけは先に………）

ｶﾁｬ

ｶﾁｬ

奏「なに、それ？」

朋「風水………」

奏「へぇ、写真立てをね………あら」

奏（これはヒャダネマイカの柄ね………ヒャダネマイカの花言葉は『奏の訪れ』だったかしら………できすぎね………）

奏（こっちの、寝室に置いた方のは貝殻の模様………直球的すぎるんじゃないかしら………ふふっ………♪）

奏「その風水にはどんな効果があるんです？」

朋「……………出逢い運が上がる、かも………」

奏「ふーん…その写真立てに収められた人とか景色に縁が生じるってことかしら………」

奏「でも、そんなことしなくても運命の出逢い、あったんじゃないですか？」

朋「…………………………(ｺｸﾘ」

奏「ふふっ、可愛いわね」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

朋「えへ………えへへへ………」

奏「さてと………そろそろ何か欲しいものあるでしょ？言ってみてよ」

朋「ほしい、もの…？」

朋「アタシは……………………奏ちゃんのキスが欲しいな………」

奏「………私もよ」ﾁｭｯ





その日、朋はなにも写真を千鶴に見せることはできなかった。
そして蟹座の恋愛運は1位だったらしい。