前回 【ゆるキャン】斉藤「レギュレーション違反」

1: ◆mL2ZRk1cK. 2018/05/20(日) 13:54:14.34 ID:tkd24pJW0


なでしこ(それは、リンちゃんが上伊那にソロキャンしに行った日の夜)

なでしこ(お見舞いついでにほうとうを振舞ってくれたあきちゃんも帰ってしまい、自室のベッドに横たわる以外に私のすることがなくなっていたときのことだ)

なでしこ(突然スマホが鳴った。SNSにて新着メッセージが届いた音だ)

なでしこ(何の気なしに見てみると、あきちゃんからのメッセージだった)


あき『しまりんもクリキャンに参加するってさ』

なでしこ(目を疑った)


なでしこ『ほんと!?』

あき『ほんとほんと。さっき本人から「やっぱ考えとく」って連絡きたから』



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1526792054

引用元: 【ゆるキャン△】なでしこ「障害物競走」 


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2: ◆mL2ZRk1cK. 2018/05/20(日) 13:55:45.13 ID:tkd24pJW0


なでしこ(……どうやら本当みたいだ)

なでしこ(あきちゃんが吐く嘘はもっとわざとらしい。一目見てすぐに分かるような嘘はよく吐いても、本当かどうか分かりづらい嘘を吐くような人間じゃない)

なでしこ(『素直じゃないよなー』と続いて表示されるメッセージを読みつつ、私は無言で文字を入力した)

なでしこ(『わーい!!』とか、『やったー!!』とか。喜んでいるふうに見えるような文字列を入力した)

なでしこ(文字のやり取りには色がない。どんな表情をしていようが、そこに感情は滲み出ない。言葉通りの意味だけが相手に伝わる)


あき『喜ぶのは分かるがもう遅い。今日はゆっくり休みたまえ、各務原隊員』

なでしこ『りょーかいしましたっ!』


3: ◆mL2ZRk1cK. 2018/05/20(日) 13:57:48.96 ID:tkd24pJW0


あき『おやすみー』


なでしこ『おやすみなさい』



なでしこ(ついでにマスコットが鼻提灯を出すスタンプも添えると、スマートフォンの電源ボタンを押した)

なでしこ(画面が真っ暗になり、私の顔が写る)

なでしこ(私は目を伏せて笑っていた)

なでしこ(嘆くように、見たくないものを見せられたとでも言うような目と共に、口元だけで笑みを作っていた)

なでしこ(深く、息を吐いた)


4: ◆mL2ZRk1cK. 2018/05/20(日) 14:00:11.90 ID:tkd24pJW0


なでしこ「そっかあ。リンちゃん、野クルのキャンプに来てくれるんだあ」

なでしこ(ひとりごちる)

なでしこ(多人数キャンプを、もっと言えば野クルを避けてたリンちゃんがついに野クルキャンプに参加する)
 
なでしこ(なんだろう、それは嬉しいことなのに。とてもとても、嬉しいことのはずなのに)

なでしこ(でも、私は素直に喜べる気になれなかった)

なでしこ(どうして今のタイミングなんだろう。さっきあきちゃんが、野クルが、私たちが誘ったときは拒否したのに)

なでしこ(なんで急に参加に意思が傾いたんだろう)

なでしこ(……いや。なんでとは言ったけど、なんとなくその答えは分かる)

なでしこ(斉藤さんだ。斉藤さんがリンちゃんを誘ったのだ)


5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/20(日) 14:04:20.09 ID:tkd24pJW0


なでしこ(斉藤さんはリンちゃんのお友達だ。確か、中学からの付き合いらしい)

なでしこ(たかだか一ヶ月ちょっとしか付き合っていない私たちに比べると、その年月は遥かに重い)

なでしこ(私たちがリンちゃんと付き合うにはまず氷を溶かすところから始めないといけないけど、斉藤さんはそんなの一切気にせずに飛び越えることが出来るんだ)

なでしこ(氷を溶かしきる頃には既に斉藤さんはリンちゃんに侵入している。ゴールテープを切って、一位の席に座っている。唯一無二の座を獲得して、障害物競走に励む私たちを見下ろしている)

なでしこ(斉藤さんのレーンにだけ、障害物が設置されていないのだ)


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/05/20(日) 14:06:36.78 ID:tkd24pJW0


なでしこ(ずるいなあ、と思った)

なでしこ(とてもずるい。ずるいよ、斉藤さんはずるい。リンちゃんと一緒に過ごした、その時間を分けてほしい。そうすれば、私だって一位争いに加われるのに)

なでしこ(でも、私とリンちゃんはこないだ出会ったばかりの新しい友達で。リンちゃんと斉藤さんは中学からの友達だ)

なでしこ(事実は覆らない。どうしようもなく手出しできない現実として私の目の前に転がっていて、どんなにやり直しを要求しても受け入れはされない。ただ、鼻で笑われるだけだ)

なでしこ(斉藤さんはずるい。そして、斉藤さんが羨ましかった)


7: ◆mL2ZRk1cK. 2018/05/20(日) 14:09:06.60 ID:tkd24pJW0


なでしこ(結局、リンちゃんを変えられるのは斉藤さんなんだ)

なでしこ(まだゴールしていない私にその権利はない。現に私たちの誘いは断られた)

なでしこ(リンちゃんが参加してくれたのは、斉藤さんがリンちゃんを変えてくれたからなんだ)

なでしこ(本当に、斉藤さんは唯一無二の立ち位置なんだ)


なでしこ「斉藤さんはずるいなあ」


なでしこ(私は呟いた。苦い飴玉を口の中で転がしているような気分だった)


8: ◆mL2ZRk1cK. 2018/05/20(日) 14:11:33.92 ID:tkd24pJW0







なでしこ(後日、クリキャンの打ち合わせということで斉藤さんが野クルに来た)

なでしこ(いつものようにたおやかな、しかし底知れない雰囲気を貼りつかせている)

なでしこ(はがす気配なんて全くない。あきちゃんの賑やかなノリに包まれているときでさえ、それは変わらなかった)

なでしこ(それが、なんだか妙に気になったんだ)

なでしこ(あおいちゃんが緩い関西弁で持ち物の説明を終えたとき、思い切って私は話しかけた)

なでしこ(なるべく無難な言葉遣いになるように気をつけながら、)


なでしこ「リンちゃん、来る気になってよかったよね」


9: ◆mL2ZRk1cK. 2018/05/20(日) 14:13:18.99 ID:tkd24pJW0


なでしこ(果たして、斉藤さんは)


斉藤「だね!」


なでしこ(頬の筋肉を持ち上げてにこりとした)

なでしこ(こういうふうに筋肉を動かせば笑顔に見える。そう思い込んでいるかのような表情だった)

なでしこ(私は、そこにかすかな屈託を見て取った)

なでしこ(雲が流れ、太陽の姿を隠していく。突如生まれた日陰が斉藤さんの顔を覆った)

なでしこ(何かが致命的に噛み合っていない。そう、私の感覚が告げていた)


10: ◆mL2ZRk1cK. 2018/05/20(日) 14:20:08.95 ID:tkd24pJW0
これで終わりです。