魔法少女ダークストーカー 前編

376: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/11(日) 06:44:34.35 ID:JkMVH0Dwo
●あらすじ

ある日突然、謎の怪物…ダークチェイサーに襲われた独り…もとい一人の男。

そして、それを助けた魔法少女…狩猟者ハル。

ダークチェイサーを影から操っていた黒幕にしてハルの親友、レミ。

ダークチェイサーの創造主にして、事件を引き起こした張本人…ディーティー。

この四人を中心に巻き起こった事件…通称ダークチェイサー騒動。


そしてそのダークチェイサー騒動を解決した後も、彼等は異世界で光の恩恵派というカルト集団の侵略に巻き込まれ…

悪の手に落ち、ハレルヤとして立ちはだかるハル。

そこに現れる三人目の魔法少女、カライモン。

光と闇の力を力を借り、最強に見えるようになった男により…もたらされる決着。

そして一度は命を落とすも、過去の記憶から復活を果たすハル。


更には、死んだ筈のディーティーが巻き起した事件…

通称ドゥンケルシュナイダー事件を解決し、以前の記憶を取り戻すハル。

そして、新たな魔法少女…ユズと、人型の姿で固定されたディーティーを強制的に仲間に加え…

彼と彼女達は、波乱ながらも平穏な日々を送っていた。

引用元: 魔法少女ダークストーカー 





377: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/11(日) 06:54:11.05 ID:JkMVH0Dwo
†魔法少女ドリットデーゲンシュトラーフェ†

●わたしが

「やーいやーい、アマイモンがまた甘い物食べてるぞー」

「私は亜門マイだもん!アマイモンじゃ無いもん!」

「やーいやーい、アマイモン、アマイモンー」

「だから違うって言ってるでしょ!私はアマイモンじゃないもん!」


言葉が残響して頭の中に響き渡る中、最悪の気分で目覚める私。

しばらくぶりに見た、昔の夢…

まだ私が幼く、何の力も持って居なかった頃の…幼馴染に苛められていた頃の記憶…

この夢を見ると決まって苛立ちを覚え、そのテンションが丸々一日続く事が約束されている。


…おっと、私とした事が自己紹介を忘れてしまっていたようだな。

私の名前は亜門マイ。大学教授をしているしがない学者…そしてお気付きの事だろうとは思うが、魔法少女カライモンだ。


とは言った物の…藪から棒に言われて納得出来ない人も中には居るだろうから、順を追って説明して行こうと思う。


そうだな…まずは私が魔法少女になるに到ったきっかけ…異世界へと続く門を潜った時の事から話して行こう

379: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/12(月) 03:21:15.60 ID:bLLNr6kOo
●きっかけ

私「何だ……一体何処なんだ此処は?」

私の実家のすぐ隣…幼馴染のアイツが住むアパートの庭で見つけた謎の扉…

学術的好奇心に負けてその扉を潜った私を待ち受けていたのは、見た事の無い景色だった。

そしてそれは、直接自分の目で見た事が無いという意味だけでは無く…見聞きした情報のどの国にも該当しない景色。


今、自分が居る崖の下に見える大河…その川に沿って泳ぐ巨大な蛇。

空を泳ぐ鯨に、それを取り巻く魚群の数々。

山の上にもう一つ、空中に浮んだ山。


あえて形容するならば、御伽噺や空想の…ファンタジーの世界だろう。

白昼夢にして明晰夢…最近、並列世界論に没頭していた故にこんな物を見ているのだろうか…そんな事を考える。

が………それが夢では無い事をすぐに思い知る破目になった。


この世界の異変に気を配る余り、疎かになってしまっていた周囲への警戒。


突然現れた私の体重に耐え切れなくなったのか…崩れ落ちる足場…

気が付いた時には既に遅く、手を振り回しても掴むのは空ばかり。

私の身体は、万有引力に引き寄せられるまま…岩肌にぶつかりながら、崖の下へと落ちて行き…


そこで意識を失った。

380: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/12(月) 03:45:06.20 ID:bLLNr6kOo
●せつめい

エディー「ご存命でしょうか?私の言葉が聞こえていらっしゃいますか?」

私「………っ」

そして、失って居た意識を現実へ引き戻したのは謎の声。


体中と走り回る痛みに耐えながら、何とか思考を手繰り寄せる私。

見知らぬ場所に来て、崖から落ちた…そこまでは憶えて居る。

そして、身体の痛みから…それが解決していない事も理解出来る。では、当面の謎は何か…この声の主の正体だろう。


私「キミは……一体何者だね?」

エディー「私の名はエディー。非常事態故に説明は省きますが、今…貴方の生命はとても危険な状態です。私と契約して下さい」

省き過ぎだ…と心の中で愚痴るも、自分の生命の危機を自覚出来るのもまた事実。

このエディーと言う存在が何を目的としているのか…いや、それを勘ぐった所で私に選択肢は無い。

例え悪魔の契約であろうとも、生き延びるためにはそれを交わす意外の選択肢が用意されては居ないのだろう。


私「…良いだろう…契約しよう。どうすれば良い?」

エディー「その確認さえ行えれば十分です。後の事はお任せ下さい」

その言葉を最後に、聞こえなくなる声…いや、周囲の音全て。


私は再び意識を失った。

381: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/12(月) 04:05:21.22 ID:bLLNr6kOo
●どなどな

そして再び………私が目を覚ましたのは、何かの荷台の上。

テントのような屋根が張られて居て周囲は見渡せないが、その振動から車状の…荷車か何かで運ばれている事は判った。

私「何だここは……っ――!!」


そして、意識の覚醒と共に全身を駆け巡る激痛…だが、最後に感じた物よりは幾分か和らいでいるそれ。

気付けば…傷だらけだったであろう皮膚からも、その痕跡は殆ど消え去っている。

何だ…これは一体どうなっている?どこからどこまでが夢で、どこからが現実なのだ?


エディー『貴方は私の『扉』を潜って此方の世界に訪れ…その直後に崖から落ちてしまわれた…そこまでが現実で御座います』

私「何だねこれは!頭の中から声が聞こえるぞ!?」

エディー『これは、我々獣人が契約者との間でのみ通わす事が出来るテレパシーで御座います』


あぁ…段々と思い出して状況が掴めて来たぞ。確か、崖から落ちた直後…エディーと名乗る者と契約する事になったのだ。


私『そして…契約の結果私はこうして生き延び、今に到ると言う訳なのだろうが…そもそも契約とは何なのだね?対価として何を要求するのだね?』

エディー『もうテレパシーを使いこなしているとは、恐れ入ります。申し送れましたが…私の要求は貴方の傷の完治で御座います』

私『どうも都合の良い話だね…私としては助かるけれども、それは君にとって何のメリットも無い内容に聞こえるのだが?』


エディー「そもそも事の発端は私の失態ですので。この上更に貴方に負債を負わせないよう…そう考え選択した結果の契約内容で御座います」

そう言って、テントの入り口から姿を現すエディー………いや、エディーなのだろうか?


私の目の前に現れたのは、犬ともカピパラとも付かない存在に羽根の生えたぬいぐるみのような存在。

一見して生物に見えないそれを目にして硬直する私。

だが、エディーはそんな事など気にする風も無く…淡々と説明を続けて行く。


エディー「あの扉は本来、ある程度魔力の素養を持った者にしか見え無い物…」

マイ「つまり、私にはその素養があったという事なのだね」

エディー「左様に御座います。故に、貴女のように侵入して好奇心で開けてしまう方に対しての対策を怠っておりました」

マイ「それはそうだろうね。例えそこに不思議な物があったとしても、わざわざ他人の敷地内に侵入して調べようと言う者などそうは居まい」

盗人猛々しい事この上無いが、あえてここは同意しておく。


エディー「そして同時に、私が同伴しなかった場合の転移座標の変異…この割り出しに手間取った故に、貴女の発見が遅れ、あのような事態に…」

私「それに関しては、来てすぐにあの状態になったので仕方が無い。それよりも…別件で一つ質問しても良いだろうか?」

エディー「如何な内容で御座いましょうか?」

382: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/12(月) 04:24:54.54 ID:bLLNr6kOo
●しつもん

私「そもそもキミは何者なのだね?先程は自らを獣人と名乗って居たが…」

と……その姿を見た時から、ずっと気になっていた事を口に出す

私「と言うか、その身体でどうやって声を出しているのだね?生命維持機構は?飛行方法は?そもそも、契約とはどういう仕組みなのだね?」


エディー「はい…私は獣人。獣の姿と人の姿の双方を持つ種族に御座います。まず、この姿での様々な行為を行う手段なのですが…」

マイ「詳しく聞かせてくれ給え」


エディー「まず声に関しては、魔力による空気振動で…複数音声の同時発音。その中でも対象に馴染みの深い言語のみを鼓膜に届ける仕様となっております」

マイ「成る程…それはまた便利な物だね。キミが日本語を話していると思ったのだが、そんなカラクリがあったとは…それも獣人の能力かね?」

エディー「いえ、これはこちらの世界の住人の基本技能に御座います。逆に貴女のように特定の言語で発言されても聞き手は理解できますのでご安心を」

何と言う事だ…異世界人の言語能力恐るべし


エディー「次に、生命維持や飛行方法ですが…これに関しては微量の魔力を用いる事で、貴女の世界のエネルギー消費とは異なった方法で行っております」

マイ「予想はしていたが…種の在り方や物理法則にまで干渉するとは。魔力とは底が知れぬね」

エディー「それに関しましては、世界の違い故の環境の差異かと。私共からすれば、過剰なまでに電力に頼った生活にこそ違和感を覚えます故」

マイ「成る程…それもそうだね。魔力が自然の一部なのであれば、それに適応した進化を行うのもまた必然か」


エディー「それでは最後に、契約の仕組みで御座いますが…こちらは少々長くなりますが、宜しいでしょうか?」

マイ「構わんよ、続けてくれ給え」

エディー「では……まずその初期プロセスから。我々獣人には、限定的ながらもテレパシー能力がある事は先程お伝えしたと思います」


マイ「契約者との間でのみ通わす事が出来るテレパシー…と言っていたね。これはニューロンネットワークの一部を間接的に接続していると言う事かね?」

エディー「左様にございます。そして、それにより記憶情報の一部を共有し…」

マイ「そうか…それにより魔法の行使手段を与え……更には、時に互いに遠隔干渉を行い、時に相互的に補助を行えると言う事だね」

エディー「左様にございます。しかし…あまり使い過ぎると双方の意識が混線してしまうため多用はお控え下さい」


マシンガンのような私の質問に対し的確に解答するエディー…こやつ、中々できる。

そして、会話の中のから得られる情報の数々

恐らくは、契約を行い私の魔力を使う事で私の身体を治療したのだろうが……


マイ「と言う事は…キミ達は、単体で保有する魔力はあまり多くは無いのだね?」

エディー「左様に御座います。故に私達の多くは、魔力を持つ者…主に人間との共生を主としております」

マイ「成る程…他者からの魔力供給を主とし…カロリーを消費せず、最小限の魔力で活動するためのその姿…と言う事か」


そして、更に拡張して行く思考…テレパシー…この能力における情報保持の可能性。

数多の応用方法が浮び、頭の中を埋め尽くす…が、そこで一旦思考を停止する。


どこまでが可能でどこからが不可能なのか、考え出したらきりが無い。それは後々模索して行く事としよう。

387: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/13(火) 06:31:33.67 ID:zqXa/ZJBo
●もくてき

マイ「しかしまた話しが変わるが…当面の目的は私の治療なのだろう?」

エディー「左様に御座います」

マイ「では、この荷車はどこに向かって居るのだね?この世界に来た時のように、あの扉を使って移動は出来ないのかね?」


エディー「その件に関しましては…まずあの扉。あれは世界と異世界の通行用のための物で、同一世界の別座標への移動へは運用できないのです」

マイ「さすがにそこまで便利な物では無いと言う事か…では、この荷車の目的地は?」

馬も動力も無く…恐らくは魔力で車輪を回転させて進むこの荷車…その行き先を問う


エディー「こちらの世界の医療施設に御座います。貴女からすれば元の世界の医療機関の方が信用に足るかとは思いますが…」

マイ「いや、そんな事は無い。むしろこちらの世界の医療を知る機会の方が重要だね。そして、文脈から察するに…あの扉は今は使えないのだね?」

エディー「流石は貴方様…あの扉は今、とある事情によりあるお方が使っておられまして…」

マイ「あぁ、私の事はマイと呼んでくれて構わない。そして、これは憶測でしか無いのだが……そのお方と言うのは男性で…ハル君の関係者かね?」


エディー「流石はマイ様………既にそこまでお見通しでしたか」

マイ「あの扉があった場所が場所なだけに、予想はね。となると…彼が元からこの世界に関わっているという推測も立つのだが…詳しく聞いても良いかね?」

エディー「そうで御座いますね…事情に巻き込まれてしまっている当事者である以上、その権利は所有されているかと。では簡略ながら―――」


そうしてエディーから説明される現在の状況…

ハル君が魔法少女になった経緯…光と闇の勢力による争い…その均衡が崩れ去ろうとしていてそのために動いている事

その中でハル君が何者かに攫われてしまった事と、その犯人の目星が未だに付いて居ない事。

ただその話を聞いている中で、一つ…引っかかる物があった。


マイ「光の勢力…そう言えば」

エディー「何かご存知なのでしょうか?」


マイ「私達の世界で最近動きを見せ始めている宗教団体があるのだよ。名前はそう、確か……光の恩恵派とか言って居たかな」

エディー「何ですとっ!?それは真ですか!?…そんな…いえ、ですがそれならば辻褄が……しかし」

その名前を聞いた瞬間、血相を変えて声を荒げるエディー。

そして暫く独り言を続けたかと思えば、急に押し黙り………


エディー「これは………予想以上に深刻な状態なのかも知れません」

重苦しくその一言を発した。

388: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/13(火) 06:58:09.75 ID:zqXa/ZJBo
●かくさく

医療施設にて……本格的に怪我の治療を始めながら、エディーの話を聞く私。

光の恩恵派と言う、この世界の過激派テロリストの存在…それにハル君が攫われてしまった可能性…私の世界の同名の団体との関連の可能性…

そして…それらを一通り聞いた所で現れる、新たなぬいぐるみ。

白と灰…いや、銀を基調とした猫に翼の生えたそれ。恐らくはエディーと同様獣人であると思われる。


エディー「彼女の名はDT。先に話したディーティーのオリジナルで…」

DT「はじめまして、ボクの名前はDT。本名はダークテイカー…元、光の恩恵派の幹部さ」

説明を始めるエディー…そして、それを遮って自己紹介を始めるDT本人。


私「成る程…容疑者が狭まった所で、その内部に詳しい人間を呼んだと言う所か」

エディー「ご名答で御座います」

DT「その通りさ」

私「では、具体的な話を聞こう。この先どういった手段でハル君を奪還しようと考えて居るのだね?」


エディー「それは…」

と、私がその質問を投げかけた所で口篭るエディー。案が無いのでは無く、それを口に出し難いのは見ていて判り…内容も大体予想が付く。

DT「キミには大変悪いと思っているのだけど…キミの力を借りるしか無いと思うんだ」

そしてそれを代弁するDT…まぁ、予想通りの内容だ。


と言うか…契約の内容を変更して協力させれば良い物を、それを行わない事からもエディーの性格が読み取れる。

だからこそ、これ以上それに甘える事は私の意に反するし…加えて言うなら、個人的にもハル君を助けたい。そして………

こんな面白そうな事に巻き込まれるチャンスを、逃す気も無いのだ。


エディー「ですがっ…」

私「よし、承知した。ではまず、魔法の使い方の詳細と…そうだな。変身方法を教えてくれないか?このままの姿で彼等の前に出るのも少々あれでね」

DT「そうだね…実戦向けの魔法となるとエディーよりもボクの方が詳しいし」

渋るエディーを余所に、進めて行く会話…


その様子を見て、諦めたのか折れたのか…エディーも説明に加わり始める

390: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/14(水) 04:27:56.28 ID:EzhUooKno
●まほうの

DT「じゃぁまず、魔法の使い方…これは、キミ達の世界で言う所のプログラミングや回路の組み立てに近い物なんだよね」

私「大体言いたい事は判る。問題は、その組み立て方法なのだが…」

エディー「それに関しては私がマイさまの意識に直接伝達しますのでご心配無く」


と言って、私の意識の中に魔法の式を書き込み始めるエディー。

…成る程、これは確かにプログラミングに近い。そして脳がハード代わりか。


そうして書き込み終わる魔法の基礎…だが、そこで一つ思い付く。

私「これは…私自身で無くとも、他の媒体に書き込んでも同様の効果を発揮できる物なのだよね?」

DT「術式を書き込んだ先が、魔力を流し込む事が出来る物であればね。大抵はステッキ状の物に、補助的な術式を書き込んで居るよ」

それを確認して、脳の片隅に置く私。


私「では次に変身方法を聞こうと思ったのだが…これもついでに書き込まれているようだね。しかし……」

予想はしていたが、難点が多数…

まず、変身と言ってもあまり大きな肉体的変化は起こせないと言う事。


私「これは本来、キミ達の変身プロセスを流用した物だろう?と言う事は、もっと大きな変化や…変身による損傷のリセットは出来ないのかね?」

DT「理論上はそれも不可能では無い…けれど、それらに関してはボク等自身にもリミッターがかかっているんだよ」

私「具体的にはどのようにだね?」


DT「まず、獣型と人型…この二つの形態は、どちらか一方に起きた変化に連動している。肉体の形状…つまり、脳の状態変化にもね」

私「成る程…でなければ変身の度に記憶が失われてしまうからな」

脳限定では無い事にも意味があるだろう事は伺えるが、その詳細までは判らない様子。私は一旦、その思考を片隅に押し退けて置く。


私「そして、契約者の変身にかかっているリミッターは…本来の用途とはまた異なる、例外的流用。それ故の措置…か」

エディー「左様に御座います。自分達でさえ危うい領域の存在する物故、それを本来持たざる方々にはより強固な制限を設けざるを得ないのです」

そしてその情報を、また一旦脳の片隅に追いやる私。


ふむ…全容と可能性が見えてきた。


私「不可能では無が、安全性を考えれば踏み込ませる事が出来ない領域…か」

エディー「はい…ですので、契約者の変身は原則的に装備の換装…及び、簡易的な色素の変換のみとなっております」

私「そして肉体の損傷リセットも、獣人同様に不可能…か」


DT「ま、その辺りは…ボクも研究しているんだけど。現段階の技術水準では、治療魔法で治すのが無難…って所なんだね」

391: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/14(水) 05:03:31.15 ID:EzhUooKno
そうして………それらの説明を頭の中でまとめ、形作り始める変身の姿と手順。

エディーに貰った魔法の基礎を元に、そこから応用と改変により自分なりのカスタマイズを加え……

私「よし、出来た」


DT「えっ?」

エディー「何ですと!?」

驚きの声を上げるエディーとDT…


と言うか、私自身アッサリと改変が終わった事に対して驚きを禁じえない。

もしかしたら、私は魔法の運用と相性が良いのかもしれない…そんな考えも浮ぶくらいだ。


私「と言う訳で…早速変身してみようと思うのだが…一つだけ確認して置きたい事がある」

エディー「何で御座いましょうか?」

私「エディー…君は女性だよね?」


エディー「正直、男性だと思われて居た可能性があった事の方が心外で御座います」

その喋り方なのだから仕方が無いだろう…と思う私……そして恐らくは同じ考えのDT。

しかし双方ともそれを口には出さず…


改めて唯一の懸念を拭い去った私。これにより、事実上は何の問題も無くなった。


最後確認を終え、変身の準備を整える私。変身と言ってもほんの数秒で終わるよう組んであるのだが…うん

何事にも共通する事なのだが、一番最初の試行と言う物はどうしても緊張してしまう。

大きく息を吸って、深呼吸をする私。そして覚悟を決めた所で…変身プロセスを開始する。


DTとエディーが見守る中…そうそう、念のために身体を発光させる魔法を追加して………

簡易的な身体の変化…装備の換装。


変身プロセス…その全てを終え、変身後の姿を二人…二匹?にお披露目する。

392: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/14(水) 05:33:30.13 ID:EzhUooKno
●いがいと

が………その反響は、予想外の方向に大きかった

DT「…………いや…うん、確かにあぁは言ったけど…えぇ…?」

エディー「と言いますか…言いますか……私、ご説明いたしましたよね!?」

私「うむ、説明された範囲の中で私にも出来そうな事をしてみた」


エディー「出来そうな事、ではありませんよ!!一歩間違えればどんな大惨事になっていたかも予想出来ないのですよ!?」

DT「しかしまぁ…色んな意味で随分と思い切った姿になったねぇ……うん、無茶もさる事ながら、チョイスも…」

私「そうかね?…と言うか私としては、姿よりもこれらの武装の方に注目して欲しかったのだが…」


と言って、くるりと身体を回す私…自己診断でも身体に異常は無し…エディーの心配するような不具合も特には無し。

作り出した武装…魔力により強化した装甲や、凝縮した魔力を打ち出す小型ミサイルポッド、感知ゴーグルにも異常は無し。

完璧な変身を行ったと自負するに足りる成果なのだが……どうも二匹…特にエディーはお気に召さないようだ。


エディー「当然で御座います!説明をお聞きになられましたよね!?その危険性故にリミッターがかけられていると!」

私「うむ」

エディー「では何故!そんなに大幅な肉体の改編を行われたのですか!」

そう言って私の体を指差すエディー。

説明が遅れたが…変身後の私の肉体は、私が12歳の時の物。そう…リミッター解除に成功したので、折角だからこの体型になってみた。

あの背恰好で魔法少女と名乗る事に抵抗を感じた訳では、断じて無い。

ちなみに当時はストレートでは無くサイドテールにしていたのだが…

彼はサイドテールを見ただけでそれが一体誰なのか区別できる変態だ。と言うよりもサイドテールで人を区別している可能性すらある。

一応は正体を隠して行動する以上、自分からそれを明かすような要素は排除しておく事にして……


私「戦闘能力と体格が比例して居ない以上。同じ性能ならばよりコンパクトな方が都合良いだろう?」

と、もっともらしい理屈を告げておく。

エディー「………」

そして、ついには諦めたのか…うな垂れて抗議の言葉を終えるエディー。


空気を読んでいたDTは、それを確認してから…

DT「じゃぁまぁ…無事変身には成功したから良いとして…この後は、具体的にどうするつもりなんだい?」

と問いかけてくる。それに対して私は…


私「そうだな…まずは私の世界の光の恩恵派の方を調べてみようと思う」

DT「成る程…名前からして無関係では無さそうだし、もしかしたらハルくんがキミ達の世界に連れ去られた可能性もある…そう踏んでいるんだね?」

私「そういう事だよ。折角来て貰ったDT君には悪いが、彼等が戻って来た時にそちらのサポートをして貰えるかね?」

DT「あぁ、うん…ちょっと気が重いけど、頑張ってみるよ」


エディー「しかし、あちらの世界に続く私の扉は彼等が使用中で…他の扉を借りようにも時間が…」

私「それならば問題は無い。私も扉を形成できるようにしておいた」

エディー「えっ」

DT「えっ」

と言って魔方陣を展開し、壁に扉を作る私。


そう………こうして魔法少女としての初陣が始まった。

396: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/15(木) 04:46:23.08 ID:3v4tAxjTo
●たんさく

………と、その場の勢いで飛び出しては来たのだが…正直、もう少し策を練ってから来るべきだったのかも知れない。

向こうの世界の時間経過はこちらの世界の10倍…もしハル君があちらの世界に居た侭の場合を考えると、無駄に時間を消費する訳には行かない。

なるべく簡潔に…無駄を省いた行動を必要がある。そう…いの一番に行うべきは、情報収集。


そして…そこでふと気付く。もしかしたらエディーなりDTが何かこちらの世界での光の恩恵派の動きを予測する手段を持っていたかも知れない。

聞き忘れた事は無いか、確認のためテレパシーでの通話を試みる………が、エディーからの返事は無い。

世界の壁の問題か、世界の速度の問題か…どうやら、世界を隔ててのテレパシーは行えないようだ。


となれば………まず最初に行うべきは、私が持って居る手段の中で有用と思われる手段を使う事だろう。

それは、ゴーグルに書き込んだ魔法…魔力の探知だ。


聞いた話では、ハルくんの魔力は都市一つを賄えるだけの物との事…

もしあちらの世界に残っているのではなく、こちらの世界に連れ去られたのならば

この方法で見つけ出すのは難しくは無い筈。そう踏んでゴーグルをかける…のだが


私「………」

正直、探知結果に絶句した。

市内だけでも、それなりに高い魔力を持った人間が十数人。隣の市に至っては………うん。見なかった事にして路線を戻す。


魔力の探知ではこの中のどれがハル君なのかまでは判別出来ない…となれば、それらの中から絞り込むしか無いだろう。

噂話が示して居た場所は街中……新興宗教、光の恩恵派が活動していると見られる場所。その近辺。


幾つかの小さな魔力の反応が取り囲む…巨大な魔力反応。

符合する状況から見て、これがハル君で間違い無いのだろうが…問題は、その反応が全く動かないという事。

嫌な予感を思考の片隅に置きながら……バックパックからウイングを展開する私。


魔力を燃料代わりにしたジェット噴射により、そのまま一直線に…ハル君の下へと飛んで行く

397: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/15(木) 05:02:26.79 ID:3v4tAxjTo
●しずけさ

そうして…程無くして辿り付いた先。光の恩恵派の集会場として使われていると思わしき場所。


かつては別の宗派の教会として建てられたのだろうが…今では管理する者も無く、蔦に覆われた廃墟も同然の建物。

ここから取れる手段は大きく分けて二つ…建物ごと壊してハル君の下に直行するか、建物の中を探索しながら進んで行くか…


個人的には前者の方法を取りたいのだが…万が一ハル君まで巻き込んでしまう事を考えると、それも出来ない。

故に、面倒ながらも後者を選び………入り口の扉を蹴破る。


宙を舞い…轟音と共に床へと落下する扉…呼び鈴代わりとしては騒がし過ぎる程の音を立てて床を転がるそれ。


しかし、教会の中を支配するのは不気味な程の静寂。

私「信者は皆地下…か」


改めてゴーグルで魔力探知を行い、信者達とハル君の居る方角を確認する。

しかし…地下に居たからと言って、これだけの事態に誰も偵察に来る様子すら無いのは極めて不自然。

気持ちの悪さと嫌な予感が頭の中を渦巻く中、私は地下へと続く階段を発見するのだが……同時に其処で一枚のプレートを見つける。


   カタコンペ

399: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/15(木) 05:26:32.62 ID:3v4tAxjTo
●いかれた

カタコンペ…直訳で地下墓地。

何を意図してそんな名前を付けたのかは判らないが…集会所と思われる場所にそんな名前を付ける時点で、頭がいかれた連中だと言う事が再認識できた。


一体何が起きているのか…何が待ち構えているのか…そんな事を考えながら螺旋階段を一歩一歩下りる私。


一歩…また一歩……始めは足音を殺して歩いていたが、長い歩みの途中でそれさえ面倒になり早足で下りて行く…

しかしおかしな事に…もうかなりの距離を降りている筈だと言うのに、次の階層への扉が一向に見えて来ない。

これ程まで地下深くに作る意味は何なのだろうか……それを考え始めた所で、根本的な間違いに気付く。


私「しまった…これは罠か!」

改めてゴーグルをかけ直し、行うのは魔力の探知。地上から見た時と同じく、自分よりも地下に存在する魔力の数々。

だが、その距離は一向に縮んで居ない。つまり………

恐らくは、ずっと同じ場所を歩かされていた。時間を浪費しただけで、何も進展していなかったのだ。


魔法への不慣れを差し引いても、本来ならば回避出来た筈のトラップ…まんまと出し抜かれたという事実に、沸々と怒りが沸きあがる。

なるべく穏便に…騒ぎを起こさず解決しようと心がけてはいたが、今の私にそんな心の余裕も時間の余裕も無い…

と言うよりも、余裕を奪ったのが光の恩恵派の連中なのだから仕方が無いだろう。


私はそれを言い訳にするように、周囲に魔方陣を形成し………そこに存在する魔法の一切を、解析…侵食…そして破壊する!


ガラスのように皹割れ、崩壊する景色…そして、目の前に現れる扉。

その扉に鍵が掛かっている事を確認し、その上で………感情に任せるまま、再び扉を蹴破る。


そして………今度こそ得られる、信者共の驚愕の表情。

蹴り飛ばした扉が乾いた音を立てながら中央の通路を転がり、信者共の視線がそれを追う。

更に私もその先に視線を向け……目にしたのは、無数の継ぎ目が走った棺のような物。


魔力の反応からして、恐らくはあの中にハル君が捕らえられているのだろう。私はその安否を確認すべく、足を進めるのだが…周囲の信者共がそれを阻む。

信仰すべき神聖な物を穢され、怒りに狂った狂信者特有の表情……とはまた違った感じの狂人の様相で立ち塞がる信者達。


「何者だ……」

「悪魔だ…悪魔が現れた……」

「新たなハレルヤ様の誕生を穢しに来たんだ…」


訂正…狂信による怒りも篭って居たようだ。と言っても、その様相が明らかに狂っているのは間違い無い。

私としては、穏便に事を済ませたいのだが…そう、穏便に事を済ませるべきだと思っているのだが……


それをさせてくれないのだから仕方が無いだろう。

400: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/15(木) 05:57:48.91 ID:3v4tAxjTo
●ざんさつ

私に掴み掛かる信者達…そしてそれを振りほどく私。

しかし振り解かれた程度で彼等の心根は折れる事無く、ゾンビのように何度も何度もしつこく掴み掛かって来る。

となれば……まぁ、取るべき手段は限られて来るだろう。


ガントレットに収納していたブレードを展開し…そのまま横に一線。

私に掴み掛かる男の肩から上が、其処より下の部位の進行から置いて行かれて…床に落ちる


「なっ………」

「人の所業では無い…」

「悪魔だ……やはり悪魔だ…」

「そうだ…奴は悪魔だ…」


人が一人死んだと言うのに…恐れるでも無く悲しむでも無く、非難から入るこの反応。

淡々とその思考を口に出して行動するだけの信者達。彼等も人の事を言える程の人間らしさを持って居るようには見えないのだが…恐らくそれを言った所で意味は無い。

今更ながら、会話が無駄である事を実感する。とまぁ、そんな事もあってか更に苛立ちが積もり…少し悪ノリをしていたのかも知れない。


私「そうとも…私は悪魔……私の名は悪魔アマイモン!」


元を遡れば、幼馴染の彼が付けたあだ名…偶然知った事なのだが、悪魔の名前でもあったそれ。

折角なので皮肉を混ぜて信者共にそれを宣言し……私は抵抗を再開する。そう、悪魔で抵抗だ。


そして…どこから取り出したのか、中世時代じみた武器を取り出す信者達。

ある者はその先端から光の刃を形成し、ある物は障壁を形成し…常人ならざる魔法の力を用いて私に迫り来る。

が……そのいずれも、私の存在を揺るがす程の力を持っては居なかった。


次々に肉塊へと変わる信者達…まさに圧倒的と言うに相応しい力の差で彼等をねじ伏せる悪魔…アマイモン。

一人…また一人その狂った人生に終止符を打って行く信者達。

だが、そこで遊びすぎたのが失敗だった。


私の存在に危機を感じ、何かの魔法を発動させる信者の一人。

そして私がその魔法の正体に気付いた時には、既に遅く……


ハル君…いや、恐らくハル君が捕らえられている棺は、ここでは無いどこか他の場所へと転送されてしまった。

403: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/16(金) 03:47:09.78 ID:Fq53GIN7o
●おくそこ

油断故の失態…本来ならばそこで解決出来た筈の事態を逃してしまった。生まれる焦り…更にそこから派生するであろう事態への不安

そして、更に不安を煽るのは…反復した記憶。

転送されるその一瞬で気付いたハル君の異変…その身体に動きが無かった事もさる事ながら…


右手にあたる部分から魔力の反応が無かった…という事。


考えたくは無いが、想定しなければならない状況…あの棺の形状…継ぎ目の意味…

一刻も早く行動しなければ、手遅れになってしまう可能性さえある。いや…恐らくその可能性が高い。

そしてその思考の結果、私はそれを追跡すべく扉の魔方陣を展開するのだが………

何故だろうか、そこに違和感を感じた。


私「何だ?私は何を戸惑っている?何に違和感を覚えている?」

私は自らの思考の奥底に意識を沈め、その違和感を探る。


早くハル君を助け出さなければいけない…どこに行けば良い?いや、それ以前…もっと根本だ

誰から助け出す?光の恩恵派からか?それならば今私が全滅させた…いや、あちらの世界には残っているのだから、そいつらからか?

いや、そもそも…奴等は何を考えている?何を目的としている?


共通の目的は、あるのだろう…だが、そこで生まれる差異に、どこで折り合いを付けている?

こちらの世界で発生した光の恩恵派に至ってもそう…目的だけで複数の意思が一つになる事などあり得ない…

つまり、それをどこかで纏める物が存在している筈だ。


では、それは一体何者で…何処に居ると言うのか。


何者か…その答えは深く考えるまでも無い。存在しないとされている…表にはその姿を現す事の無かった、教祖にあたる黒幕だろう。

そしてその黒幕が何処に隠れて居るのか…その答えを導き出すべく、今までの情報を統合して行くのだが………

その想定は、実に馬鹿馬鹿しく呆気の無い可能性の一つを導き出してしまった。


ゴーグルの魔力探知で周囲を探る私…

ただの骸と化した信者達からは、魔力を感じられず…ハルを転送した魔法も、その残り香が僅かにある程度。


そして…………

404: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/16(金) 04:10:41.14 ID:Fq53GIN7o
●かくれが

壁一枚隔てた先に存在する、微かな魔力の反応。


そう、もしも………あくまでもしもだが

黒幕が、身を隠しながらも暗躍する方法にあれを使って居たのだとしたら…

ハル君を早急に転送したのも、その行為が目的なのでは無く…あくまで手段なのだとしたら…

黒幕の正体はアレで…その隠れ家は……


その結論を出すや否や、発泡スチロールでも殴るかのように拳で壁を破壊する私。

舞い上がる土煙…そして、土煙が収まると共に視認出来るようになるそれ…

私の仮定を肯定する存在にして、この悪趣味な惨劇の舞台を作り出した存在。名前は恐らく……


私「貴様がハレルヤ…光の恩恵派の親玉と言う事かね」

ハレルヤ「いかにも。良くこの場所に辿り付いた…と言うよりは、よくこの場所に留まる事が出来たねぇ」


玉座に座り、胡散臭い声で私の質問を肯定するそれ。

背中からは鳥のような白い翼を生やし、顎からは黒く長い髭を伸ばした男。

名前とは言った物の、恐らくハレルヤとは代表者を現す記号であり本名では無い。そして、この男は恐らく人間では無く…


私「やはり獣人か。それも、獣人の中でも強力なテレパシーを保有している変異種と言った所かね」

ハレルヤ「自己紹介をする前から私の事を把握してくれているようで嬉しいよ。それが事前情報で無く推測ならば、他の推測の答え合わせにも付き合おうか?」

私「照合の必要は無さそうだがね。こうして想定と事実が一致した時点で、色々と底が知れたよ」

一番最初のダンジョンでラスボスとの決戦とは…興醒めも良い所だ

ハレルヤ「それは大変興味深い発言だ。では私からお願いしよう、何故私が此処に居ると判ったのか…教えて貰えるかね?」


私「ある仮定を立てたのだよ。もし巷での噂が間違いで、光の恩恵派に教祖が存在しているのだとしたら…その教祖は何故その存在を知られて居ないのか」

ハレルヤ「そう…その時点で可能性は絞られる」

私「その意思を知る事が出来ても、存在を確定する事が出来ない…意識でしか認識する事の存在だったからだ。そして、それを行う方法に心当たりがあった」

ハレルヤ「テレパシー…獣人の所有する能力の一つ、それに思い到った訳だね。それにより、この世界における光の恩恵派の仕組みが見えた…と」

紙面やネット等と言った可能性も考えた…だが、それで片付けるには不可解な事があった。


私「過剰なテレパシーにより信者を洗脳…あるいは先に洗脳して信者に仕立て、それらと契約…戦力や手足として扱って居た」

ハレルヤ「私は彼等を導いて居ただけだが…まぁしかし、その見方も間違いでは無いのかも知れないねぇ」

そう、そのカリスマ性である。およそ間接的に得た情報だけでは構築できない程の信仰心をつい先程目の当たりにした。


私「そして、操るためには同一の世界に存在して居なくてはならず…身を隠す場所も限られる。尤も、世界を隔てたテレパシーを使える可能性もあったのだけど…」

ハレルヤ「私を発見した時点でその可能性は潰えた…と」


私「そう、他にもまだまだ教祖ハレルヤが存在する条件や場所を想定はしたのだけど…これは一番つまらない結果だと言わざるを得ないね」

ハレルヤ「それは申し訳の無い事をしたねぇ…ではこうしよう。君が想定していないであろう可能性の一つをお見せしようではないか」


そう宣言するか否か、ゴーグル越しに私の瞳を見据えるハレルヤ。そして…


もう何度目か…私の意識は混濁へと飲まれて行った

405: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/16(金) 04:36:17.68 ID:Fq53GIN7o
●おくそこ

彼「なぁ…お前は何で素直にならねえんだ?」

私「勝手に私の記憶の中から彼を拾い上げないで欲しい物だな」

彼「お見通しか…んでもまぁ、現実での姿よりもこっちの姿の方が腹を割って話し易いだろ?」

私「思う存分敵意を露にして戦える相手…と言う意味ではその選択に感謝をしても良いかも知れないね」


彼「んじゃぁ、話し合おうぜ。何でお前は素直にならねぇんだ?いつも意地を張って天邪鬼で居るんだ?」

私「それは見解の相違だね。私は常に彼の上位の思考を持ち、それを彼は天邪鬼と勘違いしているだけだ」

彼「んでも、答えの出ない灰色の範囲の事でも…あえて反発した答えを選んでるだろ?」

私「否定も肯定も行う気は無いね」


彼「んじゃ、言わせて貰うが…それは弱さを隠すためだろ?俺と同調する事が敗北と考えて、それを避けるために反発してんだろ?」

私「世迷言だな。的外れも良い所だ」

彼「否定しても本心は判ってるぜ。ここは精神の世界なんだ、隠し事なんて出来やしねぇ。だがな…それは別に良いんだ」

私「それを良しとする理由を言ってみたまえ」


彼「それがお前を律するための手段だからだ。知性ってのは、秩序を作り出して己を律する事が出来る事を言うんだからな」

私「それはまた極論にして暴論だな」

彼「んでも、真理であって真実だ。自分を律する事で本能を抑え、理性を保つ事でより高位の思考に辿り着く…それが知的生命の証であり存在理由だとは思わないか?」

私「辿り付いた先が頂と言う名の停滞だとしても…か。成る程、それが光の恩恵派の思想という訳だね」


彼「そうさ…そして知性の高いお前はその結論に到る道程を既に見付け、反論の糸口を探している…んでも、見付からない。そうだろ?」

私「そうだね。確かに極論とは言え、一つの結論ではある。人が人であるために世界を犠牲にすると言う思考も理解出来る」

彼「だろ?だったらそれを認めて…そのために行動してみねぇか?そうすりゃぁ、もっと高潔な………っ!?」


言葉を続ける彼…彼の姿をしたハレルヤ。

だが、それを遮り…忌まわしきその姿を貫く、私のブレード

ハレルヤはその事態を把握する事が出来ず、困惑の瞳を私に向ける。


彼「な………何だこれは?何故こんな行動を起こす?何故こんな結論に到る事が出来る?私の思想を否定すら出来なかった筈では………」

私「あぁ、それなのだが。君の思想を否定出来ない…そう言う風に見えて居たのは、私の擬似思想なのだよ」

彼「な…に……!?」

私「君がテレパシーによる精神干渉を仕掛けて来る事は予想出来ていたからね。予め思考範囲を制限した思想を形成して、それに相手をさせていたのだよ」


彼「馬鹿な…そんな事が…」

私「出来たのだから、否定される謂れは無いだろう?まぁ、その点に関しては君の想定が甘すぎただけの事だ」

私が言い終えると共に崩れるハレルヤ。そして私の意識は現実へと引き戻され…目の前には、ブレードに貫かれたハレルヤの骸だけが残っていた。


私「さよなら、底の浅い独裁者。とてもつまらない戦いだったよ」

408: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/17(土) 03:27:42.42 ID:IzUMoMSOo
●そこから

そして…そこからは皆の知っての通り。

ハレルヤの精神攻撃で予想以上の時間を食われ、大分遅れてハレルヤとの決戦の場に辿り付いた私。


遅刻を埋め合わせるだけのお膳立てをされた舞台で、彼を助け…エディーと再会して、その部屋にあった扉への避難誘導。

扉を抜けた先は予想外の場所だったのだけれども…まぁ、その後は概ね想定範囲内。

ただ………


彼「あぁ…そうだ…助けて貰ったってのにまだお礼も言ってなかったな。ありがとう…えっと…」

あまり対応したくない事態が訪れた。


どう名乗るべきか…元の世界での光の恩恵派のアジトで名乗ったように、アマイモンと名乗るべきだろうか?

しかしそれでは、折角この姿になって正体を隠しているのにばれてしまうかもしれない…

だが…姿を変えた上に名前も無関係な物にすれば、正体に辿り付けないもの当然。アンフェア過ぎて勝利を実感出来ない。


そう考えている内に、エディーが口を開き…

エディー「あぁ、そう言えば紹介をしておりませんでしたね。この方は―――もがっ!?」

私はその言葉を遮り、続きを紡ぐ。


アマイモンでは思い出すだけで済む…では少しだけ捻って、ヒントだけに留める事にしよう。

私「……………カライモン」

甘いの反対で辛い…駄洒落のようなネーミングで、少し考えれば判ってしまうような名前だ。

幾ら彼が相手とは言え、少々手緩過ぎたか…そう考えもしたのだが…


エディ「…は、はい。そうで御座います。彼女の名前はカライモン…貴方方と同じく、特殊な資質を持っている魔法少女です」

彼「じゃぁ頼む、カライモン。俺達に力を貸してくれ」

私「………」


私の予想以上に彼は鈍感だったよう

ある意味で予想を上回られた事に敗北感を感じながらも…とりあえず、助力の要請には頷いて返した。

409: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/17(土) 03:53:19.45 ID:IzUMoMSOo
●あかすは

後はまぁ、特筆する事も無いのだろうが…あぁ、そうそう。ハレルヤ騒動終結後の裏話も一応しておこう。


私「それで…ハル君は肉体の再生を果たしながらも、記憶までは復旧する事が出来なかった訳だが…逆に、バックアップが在れば完全な形で復活できたのだろう?」

エディー「…と言う事になるのでしょうが…まさか」

私「うむ。私もあの手段を応用して、いざと言う時のための蘇生プロセスを構築してみようと思うのだよ」


エディー「それは………えぇ…あまりお勧めできませんね」

まぁ、判っては居たが…エディーはこの種の話には乗り気では無い様子。なので、DTに話を振ってみる。


私「まず肉体の再生に至っては…この世界では、クローン技術が確立され…更に実践されて居るのだよね?」

DT「非合法スレスレだけどね?」

私「そして逆に、部分生成に限っては…治療技術が発達しているため、余り進展しては居ない…と」

DT「その通り…って言うか、うん。大体言いたい事は判るよ」


私「ならば話しが早い。どうだね?少しこの分野の発展のため手を組んでみないかね?」

DT「そんな危険な橋を渡るような事………断るとでも思ったかい?」

私「勿論…食い付いて来ると思ってたとも」


こうして手を組み…共同で人体再生と蘇生の研究を始めた私達。

ただ…手を組むと言っても、実際はDTのラボや施設を借りて私の研究を行うだけで

ついでに言うならば、研究その物も…以前組んだ理論をそのまま魔法に転用するだけの物。

結果を共有するとは言え…負担部分の大小を考えれば、私の負担は少ない。これはDTに一つ借りだろう


そして………実質上、理論のコンバートと実験だけに時間と資源を費やして…10ヶ月。元の世界の時間にして、1ヶ月。


生成と再生…そして情報のバックアップにより、限りなく不死化に近い存在へと成る魔法理論を完成させた。

それと、あともう一つ…生成の実験で、副産物として生まれた物もあった。


私の…魔法少女カライモンの姿を持ったスペアボディである。

410: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/17(土) 04:24:55.95 ID:IzUMoMSOo
何故こんな物を作ったかと言うと…

私の変身プロセスはハル君の物よりも大幅な変化が必要となり、それに伴い…より多くの魔力を変身の時点で消費してしまうからだ。


ちなみに私はハル君以上の魔力回復力を持って居るらしいのだが、それを考慮した上でも大きな無駄使いには変わり無い。

かと言って今更元の姿を基準にするのも、敗北感を味わう事になるので……それらの解決策として、これを採用したのである。


予め変身後の身体を用意しておき、必要の際には乗り換える。

稼動して居ない時には魔力を吸収・変換して、マイクロミサイル等に貯蔵して置く。

至って合理的な手段、なのだが…


DT「テレパシーによるリンクは問題無しのようだね…調子はどうだい?」

私「そうだね…文字通り私の身体なのだから、何も問題は無いのだが…ただ」

DT「ただ?」


私「私と言う意識が一つしか無い状態で、二つの身体を動かすと言うのは少々骨が折れるね。これはある程度の自立性も必要のようだ」

そう…片方の身体を動かしている内は、もう片方の身体の操作が追い付かない…という問題があった。

片方は上半身を動かし、もう片方は下半身…と言った別々の動作ならば問題は無いのだが、両方の同じ箇所を同時に動かすのは至難の業である。


DT「そればかりはねぇ…でも、自立性を持たせるのだとしたら…」

私「判っているよ…君が懸念しているのは、02の事…発生した自我と自身の認識の差異だろう?」

ちなみにディーティー君は、DT君の物理的な複製では無くクローニングによるコピーだ

複製方法が異なる以上、同じ事態になる確率は少ないと思われるが…まぁ、心配するのも仕方の無い事か。


DT「判った上で実行するのならば止めないけど…後悔しないように立ち回るのは難しいよ?」

私「なぁに、その点は問題無い。と言うよりも…私の想定から逸脱してくれると言うのならば、それはそれで面白そうでは無いかね」

エディー「貴女はまたそんな…」

私「こういう性分なのだから仕方ないだろう。それに……」


DT「もし自分を越えるだけの何かを持ったコピーが現れたのならば、オリジナルの座を譲っても良い…そう考えているんだろ?」

私「勿論だとも」

そう………正直な所、私の最も深い部分にあるのは面白い事への興味だ。そのためには自身の存在すらも手段の一つでしか無い。


と、話が脇道に逸れた所で方向修正。

そうそう、このスペアボディが完成した時。またも余所…と言ってもDT君から、インスピレーションを得て思い付いた事があったのだった


私「さて…私は少し、この身体で彼の部屋に行って来ようと思う」


エディー「と仰いますと、例の件…ドリットデーゲンシュトラーフェ作戦…で御座いますか?」

DT「そう言えばそんな事を言っていたね。でも…別にそこまでしなくても、彼の事だからキミの正体には気付かないと思うんだけどなぁ…むしろ」

私「念には念を入れてだよ。それに、二つの身体を別々に動かすための練習も兼ねての事だ」


DTは言いかけて止めたが、ディーティーとDT…そう…コピーによる二人の存在という前提がある以上、逆にヒントを与えてしまう…そんな可能性もあった。

だが…恐らくはどこかの時点で意地になっていたのだろう。私は…予てから計画して居た、その作戦を実行する事にした。


そう………カライモンと亜門マイ。乗り換えの一人二役で一人芝居の修羅場を演じたのは…丁度この直後の事だった。

411: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/17(土) 04:52:29.75 ID:IzUMoMSOo
その後は………


ユズ君との戦闘で上半身を失い、そこで初めて実戦で起動した蘇生プロセス。

そう言えばあの後…彼はカライモンとしての私が死んだと思い込み、私の所に相談に来たのだったな。


何と言うか…あの時は、滅多に見れない彼の狼狽ぶりのせいで顔がニヤけてしまって

彼はそれを、不謹慎にも学術的好奇心から来た笑みだと勘違いしていたようだが…まぁ、些細な問題だ。


他には、再生を阻害しながら同時に状態の自然変化も停止させる空間凍結魔法…

力の弱いダークチェイサーくらいならば消滅させる事の出来る、広域浄化魔法等を開発及びお披露目して…

あぁ…私がユズを殺したと勘違いをして、彼が激昂したりもしたな。


そして、今では……


エディーやDTには行う事が出来なかった獣人の研究を、ディーティーの助力により行っている。

言っておくがあくまで合意の上の助力なので勘違いしないで欲しい。


とまぁこれにより、また新たな魔法の開発や、新たな可能性の発見も果たしたのだが…

それはまた別の機会にさせて貰うとしよう。



あぁ、そうそう…そう言えばまだ解決して居ない問題が残って居たな。


聞いた話によれば、闇の神殿も光の神殿も…本来ならば招かれなければ入れない領域の筈…

では…光と闇の核の一部を持ち出し、それをディーティー君やハレルヤに渡したのは一体誰なのだろうか?


今度本人に問い質して見るとしよう。


   魔法少女ドリットデーゲンシュトラーフェ ―完―

424: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/27(火) 05:52:30.52 ID:Ed+6P18wo
●あらすじ

ある日突然、謎の怪物…ダークチェイサーに襲われた俺。

……え?第一部のあらすじは前回聞いたって?んじゃぁ省略して

…………俺達は、また新たな事件に巻き込まれる事になった

【魔法少女ダンシングドラゴンスピリット】

425: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/27(火) 06:50:25.71 ID:Ed+6P18wo
●いわかん

英司「売ってくれよセンパイ、俺とセンパイの仲だろ?」

俺「黙れ未成年。二十歳になってから来たら幾らでも売ってやる」

就業時間も間近…常連と化している後輩が酒の購入を強請り、いつものように俺がそれを断る。


特に変わり映えもしない、平穏な日々…

客数も大分落ち着き、今日の仕事で残っているのは駐車場清掃のみ。

箒と塵取りを片手に、駐車場へと出向く俺……と、ふとそこでふと見上げる夜空。


満天の星空の中…その存在を主張する満月が、月輪を纏いながら闇夜を照らしている…

そんな見慣れた景色にも関わらず


何故か…その光景に違和感を覚えた。

426: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/27(火) 07:26:23.24 ID:Ed+6P18wo
●かくにん

カライモン「と言う訳で…解決していない疑問と、それに伴う懸念を明確にするための情報交換を行うために、皆に集まって貰ったのだけど」

ディーティー「その疑問て、光の核と闇の核の一部を奪い去ったのは誰なのか…って事かな?」

俺「ん?それって光の恩恵派の誰かとディーティー本人じゃ無いのか?」


DTの研究所…そこに集まった、ダークチェイサーやライトブリンガーを発端とした事件に関わった者達全員。

発案者のカライモンが口火を切り、それにより各々が己の考察を口に出して行く。


ディーティー「キミは本当に低脳だねぇ…あの神殿に入る条件を忘れたのかい?」

カライモン「そう…あの神殿に入るためには、光と闇の核…それぞれに招かれなければいけない」

俺「んじゃぁつまり………」


と、話がここまで進んだ事で理解出来た事が一つ。

情報交換に俺が呼ばれた理由…それは、俺の意見を求めての事では無く……俺の中に居る、光と闇の核の情報を求めての事だったらしい。

まぁ、当然と言えば当然か。判らない事を予想するよりは答えを知っている奴に聞けば良いだけなのだからな。


俺「って訳で…お前達が神殿に招いて、挙句に一部を持ち去った犯人の事を知りたいみたいんだが…一体誰を招き入れてあんな事になったんだ?」

闇の核「その件なのですが………私は永らく…具体的には121年の間、如何なる者も招き入れては居ませんでした」

光の核「我もまた…汝等以外ではハレルヤ以外の謁見を許しては居ない。そして奴の仕業ならば気付かぬ筈が無い」


はい?


俺「いや、それってちょっとおかしく無いか?だったら一体誰がどうやって…ってか待てよ、そもそもお前達、この世界の記憶を全部持ってるんだろ?」

レミ「そうよね…アーカイブを探れば、犯人もその意図も全部判ると思うんだけど…」

闇の核「修復したアーカイブに記憶されているのは、修復が完了した時点からの物…そのため」

光の核「我等の主観を除き、それ以前の情報は全て失われてしまっている」


情報源として使えねえ…と心の中で呟きかけるも、思い留まる俺。

アーカイブを崩壊させた原因が俺本人なだけに、他人の事をどうこう言える立場では無い事を思い出した。


レミ「でも、逆に考えれば…主観で犯人を記憶出来ないような方法で、事を起こされたって訳よね?奪われた時はどんな状況だったの?」


そして珍しく、核心を突いた鋭い推理をするレミ。

427: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/27(火) 07:59:43.41 ID:Ed+6P18wo
●はんこう

闇の核「何の前触れも無く…気が付いた時には既に一部を奪われていました。加えて言うのならば…」

闇の核「その直後、奪われた一部の痕跡を追った先は…そこの彼女、ディーティーの研究室の中でした」

光の核「我もまた同様…奪われた一部は光の恩恵派の研究室に送られ、ライトブリンガーを精製する材料とされてしまった」


レミ「じゃぁ逆に…ディーティーはどうやって闇の核の一部を手に入れたの?その犯人に依頼したの?何かの取引があったの?」

ディーティー「それに関しては、悪いけれど何の情報も持って居ないね。ボクが気付いた時には、既に闇の核の一部が室内にあったんだから」

俺「何だよそれ、信じられねぇなぁ……そんなあからさまに怪しい物を使って研究を始めようと思ったってのか?」


ディーティー「幾ら怪しまれても事実は事実だからね。検査してそれが闇の核の一部だって判った以上、そこに到るまでの経緯なんて気にもならなかったよ」

DT「まぁ、それは仕方が無いよね…」

カライモン「そう…そこから先に浮ぶ構想の前には無駄な経緯の考察など時間の無駄にしかならない」


何故かそこで同意を見せる一人と一匹…

正直突っ込みたくて仕方が無いが、それこそ時間の無駄になりそうなので我慢をしておく。


レミ「じゃぁ逆に…って、さっきからこればっかりだけど………その犯行はどうすれば実行可能なのか、それを考えてみましょうか」

俺「そうだな。それじゃぁまず…どうやって光と闇の神殿に犯人が侵入したかって所から考えてみようぜ。エディー、あの扉を使える奴ってどのくらい居るんだ?」

エディー「現存する扉は12…そしてそれらを扱う事が出来る者も12名…いえ、先代ハレルヤ…ケイエルの死去により11名に御座います」


俺「……犯人を絞り出すには、微妙に多いな」

エディー「しかし、先程から仰られて居ますように…神殿へと向かうには招かれる必要があり、その数は問題では無いかと」

と、振り出しに戻る会話。

だが同時に、とある事を思い出す。


俺「いや、待てよ?招かれ無くても神殿…あるいはそれに近い場所に辿り着く方法はある筈だ!」

レミ「え?どういう事?」

俺「思い出してみろ、闇の神殿に辿り着く前の事」


レミ「前って言うと…医療施設の前から扉を潜って……あっ、そう言えば」

俺「そう…闇の神殿に辿り着く前の段階で、闇の核に作られたジャングルがあった。そしてそれを作られた用途が確か…」

レミ「侵入者に備えるための………関門!」


俺「つまり、侵入者に備える必要があるという事は…侵入する方法が在ると言う事で、実際にライトブリンガーも侵入出来た訳だから…」

430: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/28(水) 05:10:15.02 ID:aI38mRfQo
●はんべつ

闇の核「その考察は間違いではありません。ですが…そこに今回の可能性を見出すのは少々早計かと」

俺「くっ……何が違うんだ?そこの所の説明を頼む」

闇の核「まずライトブリンガーの侵入…あれは光の核の一部を持っていたがために行う事ができた強硬手段です。更に言うのでしたら…」


ディーティー「光の核の一部を持っていたとしても…行けるのは関門までで、神殿には侵入出来ない。闇の核を持ったダークチェイサーでも同じ…と言う事だね?」

闇の核「その通りです。もしあのまま侵攻されていたとしても、それを私に気付かれずに行う事は不可能だったでしょう」

俺「あぁくそっ…また振り出しか」


闇の核「ですが………不測の侵入者が現れないと言う訳でもありません」

俺「どういう事だ?お前達が招くか侵攻しない限り…」

カライモン「そうか…案内人が不在の状態での転送…」


俺の言葉を遮り、思い出したように呟くカライモン。

それに連れられるように、俺もエディーの言葉を思い出した。


俺「でもよ…予め判ってるならまだしも、どこに出るか判らないような転送で特定の場所を狙うなんて…」

DT「あぁうん…それが意図的な物ならまず奇跡に近いような可能性だけど…」

カライモン「可能性としては…幾つかの条件が重なれば今回のような事態も………」


話の成り行きを聞いてか、何やら俺の考えも付かない範囲での可能性を模索し始めるインテリ組達。

その話に置いて行かれる中で、今までずっと頭をショートさせていたユズが口を開く。


ユズ「でもそれって…ヒカリさんとヤミさんのルールの中での話ッスよね?その外から手を出して来るような人は居ないんッスか?」

闇の核「………」

光の核「………」

DT「………」


そして、ユズの一言により言葉を失う面々。

身も蓋も無いと言えばそれまでなのだが、捨て置く事も出来ない…そんな発言だったらしい。

431: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/28(水) 05:33:17.50 ID:aI38mRfQo
●ようぎは

俺「って訳で…そう言う存在に心当たりはあるか?」

光の核「この世界において、干渉の可能性がある存在と言えば…」

闇の核「…………無限蛇」


小さく…闇の核が呟いた。恐らくはそれが今回の敵


光の核「…根幹を食らう竜…狭間に巣食う蜘蛛……数多の世界を記録する大樹…個にして全を持つ者……」

………では無さそうだ。闇の核に引き続いて、次々に二つ名のような名前を連ねる光の核。

ここまで容疑者が膨らむと、またも絞込み作業の停滞…イコール振り出しに戻ってしまう。


が…それらの言葉を聞いて、ディーティーが何かに気付いた様だ。

ディティー「まさか………スピリット?」

俺「スピリット?何だそれは?」

聞き馴れない言葉を耳にして、その内容を問いかける俺。


言い出したディーティーは自らの思考に没頭し…代わりにDTがそれに答える。

DT「スピリットと言うのは…僕達獣人の間に伝わる伝説の存在さ」

俺「んで、そのスピリットって言うのは一体どんな物なんだ?名前から察するに、魂とか精霊とかそんな感じの物っぽいんだが…」


カライモン「その存在に纏わる話なら私も知っている…が、しかし。伝説だけの存在と言い切るには早いかも知れない」

エディー「何ですと…?」

カライモン「それを説明するに当たって…横道に逸れてしまうが、君達獣人についての研究結果を報告させて貰って良いだろうか?


カライモンの発言により遮られてしまった俺の疑問…しかしその答えにも行き着きそうなので、今は黙って聞きに入る事にした。

432: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/29(木) 05:16:25.42 ID:bFfpuIZco
●かいせき

カライモン「まず最初に、特筆すべきはその遺伝子で…こちらの世界の人間ともあちらの世界の人間とも大きく違った特徴を持って居る事が判った」

語り始めるカライモンに、その場に居る全員が耳を傾ける。

カライモン「判り易い所から説明すると、まずテロメラーゼが人間のそれの10倍近い長さを持って居て…」


と、カライモンが語り始めたところで手を上げるユズ

ユズ「テロメラーゼって何ッスか?」

カライモン「細胞の中に入っていて、その細胞が分裂出来る回数を決める物…そう考えてくれれて問題無い」


ユズ「じゃぁ…それが人間の10倍って事は、DT達は人間の10倍長く生きれるって事ッスか?」

カライモン「残念ながら、単純計算で寿命に換算出来る物では無い…けれども、中々良い所を突いた質問だ」

良い所を突いているのか?その時点では何を言っているのか判らないので、俺はまた聞きに入る事にした。


カライモン「例え細胞分裂の回数が10倍に増えたとしても、脳細胞の劣化が限界に達すればそこまで…寿命を迎える事になる。では、逆に考えてみよう」

レミ「逆に……そうね。寿命が変わらないなら、そんなに長いテロメラーゼは必要無い筈って思うんだけど」

カライモン「その通り。ただ天寿を全うするためには必要無い筈の物を何故持って居るのか…一体どういう状況ならばそれが必要になるのか…」


あぁ、そうか…

俺の頭の中で、パズルのピースが嵌るような音がした。

俺「脳の寿命よりも先に細胞分裂の限界を迎える事がある…って事だよな?」

カライモン「珍しく頭が働いたようだね、正解だ。獣人達は、それこそ多岐に渡り細胞分裂を多用する生態を持って居るのだよ」


DT「変身…魔法による自然治癒の活性化…」

ディーティー「そして、クローニング…」

カライモン「魔法と共に生き、適応してきた種族故の特異的な性質…と言ってしまえばそれまでなのだが、語るべき事は他にもある」


ユズ「あ、質問ッス!何でDT達は皆、人間の姿と動物の姿を持ってるんッスか?何で動物の姿もバラバラなんッスか?」

カライモン「そう…正にそれなのだよ。皆が異なる…それこそ血縁者でも全く別の獣の姿を持ちながらも、何故か共通して人間の姿を持って居る。何故か判るかね?」

俺「人間の姿こそが本当の姿で、獣の姿はあくまでオプション…って事じゃないのか?」


カライモン「その見解も、別視点から見れば間違って居ない…とは思うのだけれども、私はそれとも異なる見方に気付いた」

俺「別の見方ってーと?」

カライモン「獣人にとっての人間の姿とは…生殖手段なのでは無いか…と」


俺「………は?」

その余りにも突拍子の無い言葉に、俺達は絶句した…が、DTとディーティーだけは何か真剣に考え事を始めたようだ

俺「んでもよ…生殖手段で人間の姿を取るってーのはどういう事だ?人間と生殖するための擬態とかそんな事言うんじゃ無いだろうな?」


カライモン「その可能性もある」

俺「あるのかよ!」

カライモン「だが…そんな事よりももっと重要な意味がある事に気付かないか?」


俺「って言われてもなぁ…わざわざ人間の姿になって生殖する意味なんて…」

と言った所で、俺を見るレミ。


レミ「あ………もしかして」

433: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/29(木) 05:42:15.51 ID:bFfpuIZco
●おくそく

レミ「重要なのは、共通の種族に変身する事で生殖が可能になる…って所?」

カライモン「その通り。そして人間の姿で新たな生命が宿れば、獣の姿に戻った際にもそれがフィードバックされる」

DT「そうか…ボク達の傷が変身で修復されないのも、新たな生命を異物として排除しないためか」


カライモン「更に言うならば、何故共通の生殖手段が人間なのか…と言う事なのだけれども…これは彼の意見を聞いてみよう」

俺「俺か!?………つっても、人間との交配は別問題なんだろ?んじゃぁ、他に人間の生殖に拘る必要何か無いだろ?」

カライモン「本当にそう思うかね?」


俺「だってそうだろ?ヤる事なんて突き詰めれば他の生物だって変わら無えし、その後の事にしたって人間の妊娠なんて動物よりもリスキーだし…」

カライモン「リスキーか…では逆に、何故人間はそんなリスキーな方法を進化の過程で残して来た?」

俺「それは…自然淘汰されなかったて事は多分、その方が都合が良いからで………ん?」


カライモン「気付いたようだね?そう…キミの視点でリスキーとされている物こそが目的であり理由なのだよ」

ディーティー「一対の雌雄から誕生する子供の数が他の種よりも圧倒的に少なく、それに反比例して出生率が高い…それがポイントという事かい?」

カライモン「そう………ここから先は私の憶測にしか過ぎないのだけど…」


一旦言葉を止めるカライモン。皆がその視線を集める中、小さく息を吸い…


カライモン「獣人達は…その個体数が爆発的に増加しないよう、繁殖にもリミッターをかけられている…そして、それこそがこの生殖手段……では無いのか?」


その言葉に、この場に居る全員が言葉を失った

434: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/29(木) 05:55:52.89 ID:bFfpuIZco
●うらづけ

カライモン「他にも、合理性だけを見れば不可解な点が存在する。少し話を戻すが、人間では無い方の獣形態…これの規則性の無さだ」

ユズ「そうッスよね…確かDTのお母さんは狼で、お父さんは羊なんッスよね?」

狼に襲われる羊…そんな構図が思わず脳裏に浮んだが、黙っておく。


カライモン「そう…先祖まで遡っても隔世遺伝のような物は見られず、ランダムと言って良い程に多種多様な種族が表面化している」

俺「んでも、それっておかしいよな?多様性を重視してるみたいな特性のくせに、繁殖手段にはリミッターがかけられてる………あ…いや、まさか」

とある可能性に気付き、DTとディーティーを見る。


カライモン「そのまさかの可能性も無視できないのだよね…」

俺「従来の繁殖方法では無く、特定の個体が複製される事…それ自体が繁殖方法の可能性がある…って事なのか?」

生物としては余りにも歪。人為的な干渉を疑わずには居られないその可能性を前にして、俺はまず今の現実を疑った。


カライモン「そして話は最初に戻るのだが…スピリットの伝説とその逸話について話して行こう。ここはDT君に任せるべきかな?」

そう言ってDTの発言を促すカライモン。

対してDTの方も、言葉を纏めたようで…俺達に向けて語り始める

435: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/29(木) 06:15:43.47 ID:bFfpuIZco
●でんせつ

DT「スピリットと言うのは…まぁ、簡単に言えば君達で言う所の精霊に近いかな。別の名前では、八百万の神々や、マニトゥ…そんな類の物なのだけど…」

精霊は文化によって定義が違うので纏め辛いが、日本の八百万の神々やアメリカのマニトゥに関しては判る。

物に宿った魂や、人間の魂が昇華し…霊的な上位へと変化した物、あるいは霊的な存在を持って生まれた物。恐らくはこの見解で間違い無い筈だ。


DT「ボク達獣人で言う所のスピリットと言うのは、この世界その物と一つになった獣人の事なんだ」

俺「それはあれか?物理的な意味か?それとも何か、哲学的な意味で……あっ…」

DT「肉体は元々この世界の一部だろう?それで、哲学論でも精神論でもあるんだけど…知ってるよね?僕達が持って居る能力の事」


俺「テレパシー………他者と意識を通わせる能力で、この世界その物と意識を一つにした…って言いたいのか?」


カライモン「あくまで理論上…それも伝説と言った御伽噺に分類される程の途方も無い内容なのだけれども…」

俺「それが、伝説同然に扱われて居るのは………リミッターにより、その存在の発生が抑えられていたからで…」

エディー「可能性が有るか無いかで言えば、有る…に分類される話………と言う訳で御座いますね」


確かに途方も無い話ですぐに納得出来ない。が、それ以上に引っかかる物が残っている。


俺「でもよ…そのスピリットってのが、今回の話…光と闇の核の一部を奪ってたって話と、どう繋がるんだ?」

改めてその疑問を口に出す俺。そして返すようにディティーが口を開き…

ディーティー「スピリットは、この世界と一体化した存在…つまり、この世界のあらゆる場所に存在しているのと同じな訳で…」

俺「おいおいおいおいちょっと待て、それだとアレか?こいつらの神殿の中にも現れる事が出来て………」


ディーティー「更には、光と闇の核に感知される事無くその一部を奪い去る事が出来る…という可能性が存在するね」

つまりはこういう事だろう。光と闇の核に…下手したら知覚範囲外からも干渉出来るだけの存在

如いては世界その物が今回のダークチェイサーやライトブリンガーに関わる事件を引き起こしたという事になる。


流石に突拍子の無さに拍車が掛かり過ぎている…と一笑に臥せようとも思ったのだが…

光の核「………」

闇の核「………」


俺の中に存在している光の核と闇の核は、事態をそこまで楽観視する事が出来ないようだった。

436: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/29(木) 06:43:59.90 ID:bFfpuIZco
●そこから

カライモン「以上の情報を踏まえる事により、スピリット実在に関する仮説が立てられるのだけれど…もう、皆の中でもある程度の推論が出来上がっているだろう?」

ディーティー「さっきも話題に上ったように、ボク達獣人のリミッターは…スピリットに変質しないために設けられた物の可能性がある」

カライモン「あるいは逆に、獣人と言う種その物がスピリットの前提として生み出された可能性さえあるのだけどね」


憶測が飛び交い、着地点も定まらないままに突き進む議論…


しかし、スピリットの存在の有無以外にも問題は浮んでくる。

もしスピリットなんて物が存在したとして…ならば、何故そんな事をしたのか?


情報も無く、意図が読め無い以上…それ以上の進展など望める筈も無く………

獣人達とカライモンはそこから更に推論を展開するのだが…

それ以外のメンバーは既に、議論をする以前に会話に入るためのきっかけすら見つける事が出来ない状態だった。


そして結局…結論が出ないまま会議は終わり、そのまま現地解散する事になった俺達。

俺とレミは日課のパトロールに繰り出し、他のメンバーは各自帰路に着く事となったのだが…


何故だろうか、バイトの終わりから感じている違和感が一向に消えない。


その違和感の正体が判ればこの変な感覚を消し去る事も出来るのだろうが、それが出来ないからこその悪循環。

拭い様の無いその感覚が次第に不快感へと変わる中…


ふと、視界の片隅に映り込んだ異質な存在に気が付いた。

439: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/30(金) 06:01:42.44 ID:iUfxRBClo
●かんそく

ビルの上…月を背にして俺達に視線を向ける………翼の生えた白い虎。


その翼という特徴から、自分にとって身近な存在…獣人を連想するが、その本体は見知った物とは明らかに異質。

更に言えば、俺の中で膨れ上がる違和感があの存在に起因している事を何故か理解する。


そう…ここまで条件が揃えば、あえてそれを避けて進む道は無い。

例えそれが次の騒動の引き金になるのだとしても、構いはしない…


そう覚悟して、白虎の佇む方向へと向けての跳躍を行う。


あと50メートル…30メートル…10メートル………

白虎へと向けて飛び込む俺。

膨れ上がる違和感を拭うため………その焦りが無いかと言いえば嘘になるが、決して油断をしていた訳では無い。


5メートル…2メートル……1メートル…

そう…今正に掴みかかるその寸前で姿を消す白虎。

俺は体表に無数の目を形成して、逃げた先を捜索……改めて白虎を発見。


今度はその白虎が存在する座標に停滞空間を発生させ、更には自分自身に加速空間を付与。

念には念を入れ、更に念入りに手を加えた上での行動だ。


白虎を捕まえた後はどうするか…獣人同様に意思の疎通は出来るのだろうか?

そもそも、俺の違和感に関係しているというのは思い込みなのでは無いか?

そんな事を懸念しながら、跳躍によって詰める距離。


いや…そもそもそんな心配はまだ早い。まずはこの白虎を捕まえてから…

そう思って手を伸ばした瞬間………またも消え去る白虎の姿。

停滞空間で限りなく停止に近い状態まで動きを遅らせ、更に俺自身が加速したその状態…にも関わらず逃げられた。


不可解という感覚を通り越して、本能的な嫌な汗が全身から流れ落ちる感覚を覚える。

白虎を逃して体制を崩す俺…

俺の身体は空中でぐるりと回り、夜空が…ビルが…道路が目まぐるしく俺の視界を駆け回る。


が…その感覚は錯覚だった。

全身から流れる嫌な汗も、体制を崩した感覚も、身体が空中で回る感覚も…

俺の視界に映った、ある一つの物により否定され…今の俺の状態を突き付けられた。


そのある物とは………首から下の爪先まで…一番上に乗せる大事な物を失った、俺の胴体だ。

440: ◆TPk5R1h7Ng 2015/01/30(金) 06:10:50.29 ID:iUfxRBClo
●もくぜん

不味い…いや、ヤバい……

首から下はダークチェイサーで形成しているが、頭は俺が人間の時のまま

首の部分に少し残っているダークチェイサーで止血くらいは出来るが、肺も心臓の無い状態では脳が死ぬ。

……と言うよりも、それよりも先に地面に激突して死んでしまう。


誰か助けてくれないだろうか…そう考えて直前の状況を思い出す。

レミは…加速した俺に追い付く事が出来ず、助けに入れる距離には居ない。

他の皆に至っては、さっき別れたばかり…助けとしては見込めない。


落下までの僅かな時間の中で、生き残るための手段を探る俺。

回りの景色がスローモーションになる中、駆け巡る走馬灯の中からありとあらゆる手段を模索する…

が、そのいずれも今この瞬間には使えない。どの手段も、実行するための下準備が間に合わない。


そう、結論は出た…

直面している死から、逃れる事が出来ない……

444: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/03(火) 04:16:25.24 ID:1RNRw8g2o
●ぜつめい

死ぬしか無い…となれば、逆に考えるべきは死んだ後の事。

カライモンの蘇生魔法…これはそもそも、他人の蘇生の準備までしているかが疑問。

光と闇の核の、アーカイブからの復活。


いや…あれは第三者の観測が不可欠で、尚且つ俺が同伴しなければいけない。

何か他に手は無いかと模索するが、一向にその手段に辿り着かない

万事休す………全ての可能性を諦めた所で、またぶり返して溢れ出す違和感。


おかしい…俺は何で今こんな事を考えた?


そもそも、何でこんな事を知っている?


思考を埋め尽くして行く違和感…

だが、そんな事はお構い無しに近付く地表。

もう駄目だ…そんな思考が頭の中を塗り潰した、その瞬間……


目の前に現れたのは、白い髪をサイドテールにした女の子。


真っ直ぐに俺を見詰める瞳に、既視感を覚える俺。

そしてその女の子は、逆さまになった俺の頭をそっと掴み……

暫くの間、観察するかのように俺を見続ける。


九死に一生…まだ危機その物は去って居ない物の、当面のそれは免れた事に安堵する俺。

だが、そこで改めて気付く。目の前の女の子に生えた耳と羽根…そして尻尾…

虎柄の模様が入ったそれ…と言うよりも虎その物のそれらが示すのは………


この少女こそが、つい先程まで追っていた白虎だと言う事。

そして、視線をずらして目視した先の手には…恐らく俺の物と思われる返り血。

そう…俺の首を刎ねたのもこの少女だと言う事が見て取れる。


助かってなど居なかった…むしろ絶体絶命の状態が続いてただけだった。

にも関わらず、脳の中に残った酸素はもう底を尽き………


俺は意識を失った。そして恐らく………命を失うだろう。

445: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/03(火) 04:37:27.03 ID:1RNRw8g2o
●かいせい

………と、思って居たのだが…予想外にも、目覚めを味わう事が出来た。

くっ…これで俺も死んだ死んだ詐欺師達の仲間入りか


場所は自分の部屋…隣に居るのは、レミ…と、カライモン。

レミ「どうしてあんな先走った事したのよ!死んじゃうかと思ったんだからね!」


涙目で俺を罵倒し、胸板をゴスゴスと叩くレミ。

ため息を付きながら俺を見下ろし、何かの魔方陣を形成するカライモン。

俺「なぁ…俺、一体どうなったんだ?あの白虎の獣人にやられて…それから…」


レミ「私にも訳が判んないわよ…一瞬だけ現れてアンタの首を刎ねたと思ったら、今度はその首を掴んで身体にくっ付けて…」

その時の状況を身振り手振りを添えて伝えてくれるレミ。

しかし、それを聞いてもあの白虎獣人の意図は読めず…謎が深まって行くばかりだった。


だが…あの白虎獣人の正体にだけは心当たりがあった。

俺「なぁ………もしかしてなんだが、アイツって…」

カライモン「状況及び痕跡から判断して…恐らくはスピリットだろう」


………とまぁ…先にカライモンに言われたが、俺の推測もその通りだ。


カライモン「停滞空間と加速空間を使用した形跡があるが…それによる干渉を受けながらも座標を移動したようだ。これだけでも十分脅威なのだけれど…」

俺「ディーティー達の話してた事が本当なら…倒す事も出来ない上に、襲撃を防ぐ事も出来ない…って事だよな?」

カライモン「…その通り」


レミ「何よそれ…気を付けないの言葉も言えないくらい危ない状況だって事?」

カライモン「そう…一切の楽観を許されない状況なのは間違い無い。彼の命がある事さえ、どんな気まぐれなのかも想像が付かない」

俺「ってかそもそも…スピリットってのはこの世界の意思でもあるんだろ?そんな物に命を狙われてるのか?」


カライモン「獣人達の伝説がそのままならば、そう言う事になる…が、状況からしてその信憑性は薄いかも知れない」


俺「って言うと?」

446: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/03(火) 04:48:46.36 ID:1RNRw8g2o
●ふかかい

カライモン「世界の意思の反映…にしては、その行動に一貫性を見られない。むしろ、迷いや判断に近い行動をが見受けられる」

俺「あぁ…そー言えば…」

思い出すのは、落下直前の白虎獣人の行動。


俺の首を刎ね、その首…と言うよりも俺を観察。更にはその首を胴体に戻し、こうして命を繋ぎ止める事が出来た。

こう言うとおかしいのかも知れ無いが、その行動は…いや、行動理念はまるで………

カライモン「君を観察していた…もっと砕いて言うならば、興味を持っていたようにも見える行動だね」


そう…カライモンと全くの同意見だ。


レミ「何それ…あ、でもそれって…この子達ダークチェイサーも、最初はそんな感じだったかも」

そして、レミの言葉により新たに見えてくる可能性…

状況から得た情報を統合すれば見えてくるそれを、頭の片隅に置く。


が………その可能性を否定するだけの出来事が起こるまで、そう長い時間はかからなかった。

451: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/04(水) 06:00:40.40 ID:1Azl6h6Lo
●そうだん

と言うよりも、時間をくれなかった…と言う方が正しいのだろうか。

視界の端に映るそれ………

今度こそ身体中から嫌な汗が噴き出し、それを伝って電流が脳まで駆け上がる。


レミとカライモンの背後…二人はまだ気付いて居ない、俺もまだ直視して確認はしていない。

だが…否が応でも突き付けられるその存在。

俺は辛うじて肺の中に空気を送り込み………


俺「一つ…聞かせてくれ。お前は一体何をしたいんだ?」

レミ「え?何?いきな…………―――」

カライモン「…………」


放つ言葉…それにより事態を察するレミとカライモン。

その場にはただただ沈黙が流れ、心臓の早鐘だけが内側から響き渡る。

そして、沈黙を破るように白虎獣人が口を開き…


白虎獣人「私の目的は………この世界をあるべき姿へと修復する事。そしてそれは、貴方達にも無関係では無い事です」

どこかで聞いたような内容を言い放つって来た。

だが、これで判った事が一つ。少なくとも会話が成立しない相手では無い…その点だけは何とか確認して、俺も言葉を返す。


俺「無関係じゃない…って所が引っかかるんだが…それは、俺達が修復する立場でって事か?それとも、邪魔者って立場でって事か?」

白虎獣人「それは…前者です」

その言葉を耳にして、やっと緊張の糸が一本解ける俺。だが二本目を解くにはまだ状況が許さない。


俺「だったら…何で俺を襲った?何で俺を殺そうとして…また助けたんだ?」


そう……まず確認しておかなければいけない、俺は白虎獣人にそれを問う。のだが…

452: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/04(水) 06:36:39.53 ID:1Azl6h6Lo
●まちがい

白虎獣人「それは違います」


返された言葉は否定だった。その否定がどの部分に掛かっているのか問おうともしたが、まだ言葉続くようなので踏み止まり…

白虎獣人「襲って来たのは貴方の方。ですから私は力を見せ…その上で貴方の命を奪わずに置きました」

………うん、正直下手な事を言わなくて良かった。


そうだ…殺されかけた事で一方的な被害者だと錯覚していたが、元を辿れば俺の方が功を焦って彼女に襲い掛かって居たんだ。

俺「ごめんなさい」

そう…それを自覚した俺は土下座で謝った。


俺「そりゃぁうん…そうだよな。見ず知らずの男にいきなり襲いかかられたら自衛もするよなぁ………ん?いや、一応俺の事は知ってたのか?」

白虎獣人「私はスピリット…それ故に貴方の事は知っていました。そして、あの時襲い掛かられる事も…」


ん………?


カライモン「未来視…と言う事かね?全ての現在を見渡す事が出来るのならば、理論上は可能だが…」

俺の疑問をカライモンが言葉にしてくれた。

白虎獣人「その通り…しかし、その未来視も絶対的な物では無く、ある不確定要素により揺らいでしまって居ます」


俺「そして、その不確定要素ってのが今回の敵なんだろうなぁ…ってか、いや!襲われるのが判ってたなら、わざとあんな意味深な誘い方すんなよ!?」

白虎獣人「あの流れで進行する事で、貴方達にとって円滑な理解を促せる…そう判断したので」

レミ「あぁ、確かに…私達はともかく、彼は直接身体に教え込んだ方が理解早そうよね」

俺「………」


反論しようとする俺…だが悔しいかな、それに足るだけの言葉が出て来なかった。

ので…あえて話題をずらす事にした。


俺「んじゃぁ…とりあえずアンタの名前を教えて貰えるか?俺達の事は知ってるみたいだから説明は要らないだろうけど、俺達はアンタの事を知らないんだ」

と、問いかける。

そして白虎獣人も…一呼吸おいてから、その問いに返すべく言葉を紡ぐ。


白虎獣人「私の名前は―――」

453: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/04(水) 07:20:09.53 ID:1Azl6h6Lo
●なまえは

白虎獣人「…神風」

俺「神風か…それじゃ改めてよろしくな、神風」

改めてその名前を呼び、右手を差し出す俺…そして、その手を握って返す神風。

だが、その光景を飲み込めずに居る物も居た。


カライモン「しかし…その神風君の言葉を全面的に信用すると言うのもどうだろう?もしかしたら、私達を欺いている可能性も…」

と、当然の懸念を口に出すカライモン。だが、俺はその否定するだけの確信を持って居た

俺「なぁに大丈夫だ、サイドテールの女の子に悪い奴は居ない。もし欺いたとしても、何かしらの事情がある筈だ」


そう…その確信を以って断言する俺。

カライモンに至っても、それを論破する事は出来ず…納得して、反論の言葉を止めてくれたようだ


俺「それで……話が纏まった所で改めて聞きたいんだが、俺達は一体どうすれば良い?」

神風「大きく分けて、やるべき事は二つ………この世界を歪ませる存在を倒す事と、この世界をあるべき姿に戻す事です」

と、その言葉を聞いて一つの可能性が思い浮ぶ。


この世界を歪ませる存在…それは恐らく、本来ならば存在していない筈のイレギュラーな存在。

そして、世界に干渉するだけの力を持った存在……そして、恐らくは俺が干渉出来る存在…と言う事は……

俺「この世界を歪ませる存在って言うのは、まさか…光と闇の核の事か!?」


思い浮んだその可能性をそのまま口に出し、神風へと問いかける。


が………

神風「いえ、違います」

光の核「違う」

闇の核「違います」


光と闇の核が今更出て来て、三人がかりの否定をかましてくれた。


神風「これらもまたこの世界の一部…予定調和に含まれる存在」

俺「だったら、何でこいつらに危害を…と言うか、こいつらの一部を奪ったんだよ…」

神風「それはそれで必要な行為だったからで…その理由はまた後で話す事になるでしょう」


と、はぐらかされた返答。しかしそれ以上突っ込んでも暖簾に腕押しなので、今の所は諦めておく。


レミ「じゃぁ話を進めるべきかしらね。私達が倒すべき相手って言うのは何者なの?」

と、方向修正して話を進めるレミ。

神風「それを説明するに当たり…まずは、魔法少女達とその契約者たる獣人を集めて下さい」


が…中々前には進められないようだ。

457: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/05(木) 03:40:39.93 ID:H1McA88co
●かいせつ

そうして集められた魔法少女達と獣人達。


神風は何かを確認するように、その面子を見渡して………

神風「やはり…」

と、意味深な言葉を呟いて押し黙る。


現在も未来も見渡す事が出来る筈の、スピリットらしからぬ行動…そんな感想を持ったのだが…

あながち間違いな感想でも無かったようだ。


神風「この世界に生じた歪みが、貴方達に深刻な影響を与えているようですね」

言葉を続ける神風。だがしかし…俺にはその言葉の意図する所がが判らない。

なのでその確認も兼ねて、俺は神風にその真意を問う。


俺「いや、深刻な影響って言われても…特に俺自身に変調があるわけでも………ん?」

と、言いかけた所で構築されて行く一つの仮説。もしやと思い、俺はそれを口に出す。

俺「もしかして………何も無いって事が…いや、何事も無いって思ってるって事が………深刻な影響って事なのか?」


感じて居た違和感と照らし合わせ、何故かそこで妙に一致する破片と破片。

全身を駆け巡る嫌な予感を抑えながら、神風の言葉を待つ

神風「そう…貴方達は大事な物を奪われ、それに気付く事が出来て居ない。それこそが歪により齎された影響です」


そして…俺達へと向けられた返答。仮説を肯定されるも、それを素直に喜べない俺。正直な所、否定された方が良かったとさえ感じて居る。

何かを失って居たとしても…それを認識する事が無いのならば、それは主観的には失っていないのと同じ事。

しかし、逆にその事実を突き付けられてしまえば…


襲い来るのは、正体の見えない喪失感。


俺「じゃぁよ、教えてくれよ!俺達が奪われた物ってのは一体何だ!?」

せめてその内容だけでも把握できれば……そう思って神風を問い詰める。だが…

神風「それは私の口から話すべき事では無い。真実は貴方達自身が奪い返すべきです」


と………はぐらかされてしまった

俺「だったらよ…それを奪ったのは一体誰だって言うんだよ!せめてそのくらいは教えろよ!」


神風「それを教えるため…今から、貴方達に向かって貰う場所があります」

458: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/05(木) 04:02:35.92 ID:H1McA88co
●ねもとに

そして神風に導かれるまま…エディーの用意した扉を潜って、辿り付いた先は………俺達が良く知る、もう片方の世界だった。

日本列島がそのまま収まるんじゃ無いかと錯覚する程に巨大な森と、その中央に聳え立つ巨大な樹。

………その根元だった。


神風「世界に歪を齎した者は、この地下に居ます」

レミ「って、まだここから進むの?だったら最初からそいつの居る所に転送すれば良かったんじゃない」

色々と勿体振る神風に抗議するレミ…だが、それに対する反論は神風とは別の所から放たれた。


闇の核「それは余り得策では無いでしょうね。この先に待ち構えているのは………」

光の核「根幹を食らう竜………故に、不用意な転送はその物の存在を食われ兼ねない」

根幹を食らう竜………確か光と闇の核に干渉するだけの力を持った存在として、こいつらが挙げていた中にあった名前だ。


俺「にしたって…さっきの口ぶりからしたら、今から最終決戦って感じじゃぁ無かったみたいだが………」

神風「そう…今回はあくまで、その存在を知るためにここに来て貰いました」

ユズ「つまり…良く判らないッスけど、カミカゼさん主催の安全な見学ツアーが出来るって事ッスよね?」


神風「下手な事をしなければ…ですけどね」

念を押す…と言うよりは釘を刺すように言い放ち、地下へと続く洞窟のような道へと歩き出す神風

そして神風に続き…俺達もその中へと進んで行く。


かなりの距離…加えてかなりの深さまで降りた所。大きく開けた空洞のような場所で、目にするそれ。

影絵の様に………平坦な床に移し出された巨大な竜の影。

時折緩慢で僅かな動きを見せるだけで、こちらに気付いた様子さえ伺えない。


ご対面…と言うよりも、恐らく一方的に見ているだけの状況だろう。

しかし相手の素性が判らない以上、迂闊な行動は取れない。

この竜について聞きたい事は山ほどあるが、正直この状況で口を開く事が許されるのかどうかすら判らない。


言葉にする事無く、胸に秘めた迷い…それを察したかのように、神風が口を開く。

459: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/05(木) 04:30:51.14 ID:H1McA88co
●そんざい

神風「まず………あれが誕生したのは、西暦1944年の日本」


レミ「61年前…私達の基準じゃぁ結構昔だけど、あんまり桁外れって訳じゃ無いわね」

俺「んでも、こっちの世界は10倍の時間が経ってるんだろ?そう考えれば………って、おい。今、日本って言ったか!?しかも西暦1944年の日本っつったら…」

カライモン「第二次世界大戦の真っ最中…と言う事になるね」


神風「その通りです。付け加えて言えば、私がスピリットになったのもそれとほぼ同時で…」

俺「こいつと無関係じゃ無い…って言うか、因縁がある…って事だよな」

神風「その通りです」


カライモン「ならば聞かせて貰うとしよう…この竜の生い立ちと君の事情を」

カライモンがそれを促し、同じくして聞きに入る一同。

神風はそこで一旦目を伏せ…再び語り始める。


神風「この竜は………戦争が…人間の憎しみや妬みと言った感情が作り出した存在」

神風「かつては獣人だった者の一体が、誤った変質によりスピリットから堕ち………根幹…人の想いを食らう物へと変化した存在です」


神風「当時、私はある少女達と契約し…多大な犠牲を払いながらもこれを封じる事に成功しました」

神風「しかし、その封印はあくまで一時的な物。効力が弱まるに連れてこの竜は力を取り戻し、遂にこの世界にその姿を現すまでに到りました」

神風「そして私は、かつて竜を封印した少女達の子孫の力を借り…それを再び封印しようと試みました。ですが………その封印は不完全に終わり、更には…」


神風「再び、多大な犠牲を払う結果となってしまったのです」


神風「そしてその犠牲こそが…」


俺「奪われた…俺達にとっての大切な物…って事なのか?」

神風「その通りです」

カライモン「と言う事は…ふむ。この竜の…人の想いを食らうと言う行為は…」


神風「そう……食らった人間の存在その物を、人々の記憶の中から消してしまうのです」

462: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/07(土) 05:34:47.96 ID:eToD091so
●きえるは

俺「何だよそれ…」

ここに来て、やっと明らかになった違和感の正体。

あるべき筈の物があるべき場所に無い…そんな感覚だった事に気付く。


しかしそれが一体何なのか…探る事すら出来ない現状に、苛立ちを覚え始める俺。


そしてふと…神風の言葉を思い出す。

俺「なぁ…お前の目的は、この世界を歪ませる存在を倒す事と、この世界をあるべき姿に戻す事…そう言ってたよな?間違い無いんだよな?」

神風「間違いありません、それが目的です」


俺「だったらよ…未来が見えててそうしてるって事は、その両方を果たす事が出来るって事で…こいつを倒せば、俺達が奪われた物も戻って来るんだよな?」

今までの情報を纏め、その先に見据えるべき物を確かめる。だが…


神風「…………」

神風は押し黙って言葉を濁す


カライモン「恐らくは…あるべき姿では無いが故に、それに関わる事の演算が行えない…と言った所なのだろうな」

神風「…その通りです。例えこの竜を倒す事が出来たとしても、彼女が戻って来ると言う保障はありません」

俺「何だよそれ……あぁでも…くそっ!奪還にしろ怨恨にしろ…俺には戦う理由があるんじゃねぇか…」


そう…例えどちらの可能性であっても、戦って倒す以外の選択肢が無い。更に言うならば、これは………つまり

俺「ここまで、神風の…スピリットの計画通りって事かよ」

神風「………その通りです」


と……悪びれた様子も無く神風が言い切った。

466: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/08(日) 02:12:27.25 ID:rScUveU4o
●それなら

カライモン「となると…目下の所の問題は、この竜を如何にして倒すか…と言う事になる訳だが。勝算はあるのかね?」

神風「理論上では…有ります」

カライモン「理論上では…か。先程までの言動から察するに、この竜は人間の集団深層意識にまで干渉出来る…あるいはその階層に存在しているのだろう?」


神風「はい、その推測の通りです」

カライモン「では、一体どうやってそれだけの階層に干渉………いや、そうか…そのための、彼か…」

神風「その通りです」


訳が判らない次元の話を始めたかと思えば、今度は俺の方を向く神風とカライモン。

カライモン「光と闇の核……その二つの力を合わせる事で、集団深層意識への直接干渉が可能になる…と言う事なのだね」

神風「はい。ですが、それを行うためには条件があります」


カライモン「説明して貰おう」

神風「まず…根幹を食らう竜が、今の彼と同じ次元に存在する事」

カライモン「次元が違えばお互いに干渉する事が出来ない…まぁそれは当然だね」


神風「そして…彼が光の力と闇の力を………竜を倒せるだけの段階まで使いこなす事が出来る事」

カライモン「それは中々の難問だね。彼の力は、どちらかと言えば闇側寄り…光の力に関しては、お世辞にも使いこなせて居るとは言えない」

当の本人の意思を無視して、言いたい放題で進むその会話…まぁ、実際その通りだから文句は言え無い。


と言うか…その問題こそが最も重要な所だろう。流石に無策でこれを推している訳では無いんだろうが…


俺「で…そこん所は結局どうするんだ?今から特訓とかするにしたって、間に合うのか?」

念のために、それを直接聞いて置く。


神風「今から特訓をしたとしても、残された時間では付け焼刃にすらなりません」

カライモン「では、どうすると言うのだね?」

神風「貴方達…魔法少女の力と経験を借り、それを彼の力とするのです」


成る程、皆の力を合わせて……っていう王道パターンな訳か。しかし…

俺「そんな事、どうやってやるんだ?」


そう…根本的な問題。明かされては居ない、その具体的な手段を問う。

467: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/09(月) 04:13:44.45 ID:pDBC1KA1o
●ひとつに

神風「それを説明するにあたり、最初に警告して起きますが…これは、スピリットの力を以ってしても危険な賭けです」

俺「危険の一つや二つ、どうって事無い!…って言いたい所なんだが、レミやユズやカライモンには…」


ユズ「その事なら心配無いッスよ!センパイに助けて貰ったこの命、いつ捨てても惜しくは無いッス!」

レミ「そうそう…って言うか、命の危険なんて今となっては毎度の事よねぇ?」

カライモン「私に関しては皆以上に問題無い。それどころかしぶとさには自信があるので、他の二人よりもぞんざいに扱ってくれても構わない」


頼もしいやら危なっかしいやら…各々が力強い言葉で返してくる。

しかしこれで…俺の中の覚悟も決まった。

俺「んじゃぁ…改めて教えてくれ。どうやって皆の力を借りるんだ?」


神風「貴方と彼女達…全員が、私と契約するのです」

俺「…………」

その言葉に俺の返答は詰まり、頭の中を色々な事が渦巻き始めた。


契約…DTとユズのように…エディーとカライモンのように…テレパシーで繋がると言う事だ。

前例を見て来た以上、その利点は理解出来る。だが…

同時に、未知への恐怖が俺の中に生まれる。


カライモン「その場合…二重契約による不具合は発生しないのかね?それと、意識が混濁してしまう可能性は?」

そして、俺の不安を具体的な言葉にして神風に向けるカライモン。

神風「最善は尽くしますが、そのどちらの可能性も無いとは断言出来ません。しかし…現状ではそれ以外の手が無いのもまた事実です」


カライモン「………私は、多重契約により精神が混濁し自我が崩壊した人間を見た。あんな有様になると言うのなら、私はそれに賛同する気は無いが…」

神風「………」

カライモン「ならない可能性を見据えた上での提案ならば、乗ってみても良いと思う。と言うか、決定権は彼にあるのだしね…」


と言う感じで……結局俺に戻って来てしまった決定権。

こうなってしまったら、尻込みして立ち止まっている訳には行かないだろう。


俺「皆…俺に力を貸してくれ」

468: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/09(月) 04:59:47.57 ID:pDBC1KA1o
●なるとき

神風『其れでは皆さん…間も無く根幹を食らう竜が目覚めます。準備は良いですか?』

カライモン『問題無い。現状で可能な限りの手は打っておいた』

ユズ『自分は何時でも準備OKッス!』


手順や経緯は幾つか省略するが…神風との契約を終え、再び訪れた根幹を食らう竜の根城。そこでテレパシーの会話を行う俺達。

ユズやカライモンは勝手知ったる何とやらで、すぐにそれを使いこなし、流暢な会話を繰り広げている。

が……俺やレミに至っては…


俺「正直俺はまだ…何っつーか、ダークチェイサー達との会話とはまた違った感じで…」

レミ「私も…言葉が聞こえるって言うよりも、誰かが考えてる事がそのまま自分の考えになってるみたいで………」

ぶっつけ本番を目前にしながらも、未だに悪戦苦闘していた。


…ちなみにテレパシーと言っても、皆の記憶を覗き込むと言った感じとはまた違って………

何と表現すれば良いだろうか?現在進行系で思考を巡らせて居る事を全員で共有するような感じだ。

しかも繋がっている誰かの体を動かせるような感覚さえ存在している訳だが………


カライモン『恐らくは、これを使って君の光の力と闇の力をサポートするのだろう』

毎度の事ながら説明をありがとう。


………などとやり取りをしている間に、少しずつながらもテレパシーに慣れ始めて行く俺とレミ。

ある程度、不自由無くそれを交わせるようになった所で…


神風『竜の目覚めまでもう余り時間は有りません。彼の補助を開始して下さい』

いよいよ、俺達の力を一つにする時が来た。

469: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/09(月) 05:22:28.54 ID:pDBC1KA1o
●そしたら

俺『皆…頼むぜ…!!』

テレパシーで掛け声を伝え、俺を経由して光と闇の核へのリンクを皆へと繋ぐ。

そして皆の方も、それを合図に光と闇の核への接続を開始して………


ディーティー「嘘…だろう………?」

ユズ「そんな………」

次々に驚愕の声を上げる。


不測の事態…深刻な問題が起きてしまった事を懸念し、繋がった精神を読む俺。

そして、各々から紡がれた思考は………


カライモン『これだけの規格外な代物を有しながら、あれだけの力しか使いこなせて居ないのか…!?』

ディーティー『これはもう、無能ってレベルの問題じゃ無いよ!?』

DT『………いや、語るまい。あえて言葉にすれば彼を傷つけてしまうだろうしね』


俺「いや、十分傷付いてますけどね」


ユズ『さすがにこれは…えっと…あぁダメッス!フォローの言葉が浮ばないッスよ!!』

レミ『豚に真珠とか猫に小判とかって慣用句が生易しく思えて来るレベルね…この無駄っぷりは』

ユズどころか魔法を使えないレミにまで言われるとか、どんだけ酷いんだよ俺


神風『と言う事が判った所で…皆さんの力で彼をどうにかして下さい』

俺『いや、どうにかって何だよ。他に言い方が……―――っ!?』


と反論する暇も無く、俺の身体に現れ始める変化。いや……正確には仲間達が好き勝手な干渉を始めたようなんだが………

470: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/09(月) 05:59:08.65 ID:pDBC1KA1o
●かいぞう

カライモン『まずは此方のメンバー全体の強化…闇の核で物理攻撃は完全無効化…光の核を使えば、更に因果干渉にも多少は抵抗出来るようだね』

俺達を包み込み…そしてすぐに見えなくなる光と闇の膜。


レミ『それと…万が一のために、外殻を多重構造にしてパージも出来るようにしておかないとね。あ、あとあれも追加しとこう』

強制的に中二病フォームに変身させられる俺。付け加えるならば、その姿は前回の時よりも外殻が多くなっていて………更に

俺『………いやこれ、必要あるのか?』

背中には三対の翼が付加されていた。しかもこれは…うん、コイツ動くぞ。


ユズ『後は、防御と攻撃にも…光の刃だけじゃなくて、ちゃんと存在干渉の魔法を付けて置かないとダメっすよね』

そして発光を始める外殻の先端。


DT『あぁ、後…質量を持った残像を発生する器官も精製しておこうか。名付けてザンゾー胞子だ!』

ディーティー『そうだ、ついでにネコミミも付けちゃおうか』

俺『いや、ネコミミはどう考えても要らないだろ!!』


…………と言った感じで好き放題弄られる俺の身体。

もうどうにでもしてくれ…と、諦めが入った所で………形成が完了した。


中二病フォーム末期モードの完成である。


と…自棄っぱち混じりの愚痴など漏らしている場合では無かった。

皆がそんな悪ふざけをして居る間にも、竜を封じた封印…影の映り込む床に皹が入り始め………

神風「竜が…目覚めます」


落ち着く暇も無く、決戦の火蓋が切って落とされた。

473: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/11(水) 04:23:15.54 ID:Nc2SoFBNo
●かいまく

遂に訪れた決戦…根幹を食らう竜との戦い。

辛うじて間に合った準備に併せて、再確認して置かなければならない注意点が幾つか存在する。中でも重要な物が………


一つ目………絶対に竜に食われてはいけない。食われてしまえば、その存在その物が無かった事にされてしまう。

二つ目………竜に決定打を与える事が出来るのは俺だけ。

三つ目………この空間の中で空間転移を行う事は出来ない。転移を行えば、その瞬間に無防備になって確実に食われてしまう。


以上の三つ。他にも細かい注意点が幾つか存在するのだが………

さすがに、そこまで説明する余裕を与えてくれる程サービスが良い相手では無いらしい。


開かれた二つの瞳で俺を見据える竜…


そして俺を食らうべくその大口を広げ―――


俺「何っ!?」

消えた……と思った次の瞬間には、俺の背後に現れる。

その巨体からは想像出来ない程の素早さ…では無いか。恐らくは、スピリットとして持っていた能力…転移。

あちらだけが自由に使えるその手段に、拭いきれないアウェー臭をひしひしと感じるのだが…


その分…能力的なハンデを補うだけの仲間が、俺には居る。

大きく開かれたその顎が閉じきるよりも早く、両足の外殻の一部を射出…その反動で竜の牙から逃れる事に成功する。

さすがはレミ…ダークチェイサーの指揮に馴れている分、こう言った事態への対応は早い。


………ん?


俺、今何で助かったんだ?

神風『レミの形成した外殻が囮になる事で窮地を脱しました。しかし、それが食べられてしまった事により記憶から消去されてしまいました…』

成る程…食われるとこう言う事態になってしまうって事か。


………背筋に嫌な感覚が走る

474: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/11(水) 05:01:17.62 ID:Nc2SoFBNo
●こうせん

本来ならば、神風の因果予測により如何なる攻撃も当たらない筈の俺達…

だが、相手も同様の能力を持ったスピリット…正確には元スピリットとなればまた話が違って来る。

互いの因果予測を読み合い、読み負けた方が皺寄せを受ける…あるいは、読み合いが硬直して…必然的に直感のみの戦いになってしまう。


だが…それのみの戦いで、何の策略も立てる事が出来ないか…と言えばそう言う訳では無い。


再び俺に狙いを定め、転移を行う竜………先の失敗から学習したのか、今度は俺の頭上にその姿を現し…その大口の中に俺を収めようとする……のだが

それを遮る、カライモンのマイクロミサイル。

俺と竜の双方に着弾し、双方の距離を離す…と共に微量ながらもダメージを与える。


そして、その仕返しとばかりに今度はカライモンが竜に狙われる事となるのだが………

俺「そうは問屋が卸さねぇ…ってな!!」

その隙を突き、今度は俺が竜に一撃を加える。


カライモンの時とは違い、確実に手応えを感じる痛打。竜の腹部を大きく抉り取り、その断片を無へと帰させる…その一撃。

対する竜は…その痛みからか悔しさからか、およそ生き物のそれとはかけ離れた叫びを挙げて暴れ回る。

追撃のチャンス…そう踏んで竜の元へと飛び込み、両手に………と次の行動を起こしかけた所で不意に止まる身体。


そして目の前…本来ならば俺が居た筈の場所を、空を切るように食らい去る竜の顎。

俺『危ねぇ………助かったぜエディー』

エディーの慎重さに助けられ、俺はその礼を告げる。


必勝パターンとまでは行かないまでも、善戦を展開出来るだけの戦力と戦略…

それを得る事で俺達の眼前に映ったのは、一筋の光明…そして


生まれてしまった油断の代償だった

475: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/11(水) 05:33:49.72 ID:Nc2SoFBNo
●しつねん

そう…俺達は完全に失念してしまっていた。

消滅に直結した竜の顎…最も警戒するべきそれに注視する余り、それが竜であると言う認識をどこかに置き忘れてしまっていた。


竜が俺に向けて再び牙を剥き、その顎が閉じきる前に後退する俺。後に…反撃を行う筈だった。

しかしその顎は閉じる事無く、口内が不自然な動きを見せ………

その異変に気付いた時には、もう遅かった。


噴き上がる息………


黒く染まった粒子のような物が俺に向けて噴き付けられ、その奔流が外殻や防御魔法を削り取って行く。

おまけにそれらはタールのように俺の身体に絡み付き、身動きさえもままならない状態へと陥れてくれた。


これは致命的だ………そう確信したまさにその瞬間………

俺の盾になるかのように、竜に立ち塞がる…レミ…ユズ…カライモン。


このままでは…女の子を犠牲にして生き残る、なんていう情け無い事この上無い状況になってしまう。

そんな事は断じて認める訳にはいかない。これ以上誰一人として犠牲なんかにさせる訳には行かない。

全身に力を込め、ブレスの残骸を引き千切る俺。そして翼から推進力を発生させ、皆よりも前に出る…のだが


正直な所、ここから先は何も考えては居なかった。皆に至っても、先走った俺をフォローする手段にまで思考が回らない。

食われる……そう直感する。

しかし、直後に待ち受けていた現実は…想像とは異なる物だった。


竜の牙を遮るようにして展開される魔方陣…

カライモンの魔方陣魔法かと思い、リンクした思考でそれを確認するも…答えは否。

困惑が伝染して巡る俺達。

更にはそんな思考さえも遮るかのように、竜と俺達の間に姿を現す…新たな来訪者。


俺は、その来訪者の姿に見覚えがあった。

そして、驚愕の声と共に………その名前を呼んだ。

478: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/12(木) 04:52:46.62 ID:AbUQQbXPo
●ひさしい

俺「なっ………マヤ婆ちゃん!?」

カライモン「―――――っ!?」


マヤ婆ちゃん…幼馴染であるマイの祖母で、俺が子供の頃から世話になっていた人物だ。

何故マヤ婆ちゃんがこんな場所に?…と言うか、この魔方陣はマヤ婆ちゃんの物なのか?

幾つもの疑問が頭の中を駆け巡る中、その思考を遮るように神風が呟いた。


神風「久しぶりですね…マヤ」

マヤ「久しぶりねぇ…もう60年も経つのかしら」

神風「正確には61年…ですが、その魔力は衰えて居ないようですね」


マヤ「勿論…この日がいつか来るんじゃないか…そう思うと気が気では無かったもの…」

神風「では……」

マヤ「えぇ………微力ながらお手伝いさせて貰うわねぇ」


俺達には意味の判らない会話の後、契約者のリンクの中へと加わるマヤ婆ちゃん。

そして、共有した思考から読み取ったのは……


俺「なっ…………マヤ婆ちゃん、魔法少女だったのか!?」


そう…とんでもない事実だった

479: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/12(木) 05:15:35.57 ID:AbUQQbXPo
●へんしん

マヤ婆ちゃんが予め持っていた変身プロセスが展開すると…そこからはカライモンへの直接リンクに切り代わり、俺には思考を共有する事が出来なくなった。

魔方陣で竜を遮りながら、稼いだ時間でマヤ婆ちゃんが行う…何か。

そしてその何かが完了した瞬間……俺は更に目を疑わざるを得ない状況に陥った。


マヤ婆ちゃんが光に包まれ…その光の中から現れたのは………一人の魔法少女。

巫女服を基調とした衣装を着込む……見た目12歳くらいの女の子だ。

もう一度言うが、魔法少女が光の中から現れた。


だがその正体はマヤ婆ちゃんである。


俺はその光景にただただ唖然として、開いた口が塞がらなくなっていた…のだが、いつまでもそんな事をしている暇は無いようだ。

魔方陣を食い破り、再び俺に向けてその牙を剥く竜

………だが俺はその場所から動かない。動かずに…マヤ婆ちゃんの魔方陣の展開を待つ。


マヤ『そんなにお婆ちゃんお婆ちゃんと言わなくても…今は若い頃の姿なんだから、マヤちゃんで良いのよぉ?』

俺『ちゃん付けは流石に抵抗が半端じゃないんで、名前呼びにさせて下さい』

そんなやりとりを交わしながら、俺と竜の間に魔方陣を展開するマヤ婆ちゃん…もとい、マヤ。


その魔方陣は、とりもちのように竜の口を覆って塞ぐ光を形成し………

俺はその好機に賭ける!!


光と闇の核…その力を両拳に集め………形成するは光の拳と闇の拳。

名前こそ無い物の、これこそが根幹を食らう竜を倒すための切り札……必殺の拳だ!!


地上に墜ちる竜を追って俺も下降を行い………

床にぶつかった衝撃で跳ね上がった身体に、拳を打ち込む!!


右!左!

右!左!


交互に…同じ箇所に向けて捻じ込むように放つ拳。その一撃一撃により削り取られて行く竜の身体。

補足しておくと、マヤの助力による底上げが予想以上に大きく響いて居るようで…

それが無ければこれだけのダメージを与えられて居たかすら怪しかっただろう。


九死に一生を得て、そこから連ねる起死回生の拳。

確かな手応えと、存在を死に追いやる感触。

…正直心地が良い物では無いが、だからと言ってそれを止める訳には行かない。


俺は、竜に向けて拳を放ち続ける。

482: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/13(金) 05:51:58.53 ID:AYNRAu3zo
●おどるは

避けるように体を捩らせる竜…それを追い、次なる一撃を叩き込む俺。

レミ「まるで…舞っているみたい」

テレパシーでは無く、声に出して呟くレミ。


浮き上がった竜の体を更に叩き落とし、周囲に轟音が鳴り響く。

竜の動きに合わせて俺が動き、俺の動きに合わせて竜もまた動く…

ある種のリズムを持って戦う様は、踊りとどこか似ている感じさえもする。


そんな事を一瞬考え、レミの言葉に共感を覚えもしたが…

すぐに、その余裕など無い事を思い出す。

そう………


俺達は、奪われた大事な物を取り戻すために戦っているんだ。

財宝を奪い返すために竜と戦うなんて、昔ながらの御伽噺のようだが…今はそれが現実になっている。


取り戻さなければ……絶対に取り戻さなければいけない!

この竜が奪った物は、俺にとってかけがえの無い大切な物………

もう二度と………失ってはいけない物なんだ!!


俺「し……やがれ……!!」

深々と竜の身体に沈み、その内側を削る俺の拳。

閉じられた口から苦悶の叫びを上げる竜。


そして……何かに触れる手応え。

その手応えに向けて、俺は拳を繰り出し続ける。

俺「返し…やがれ…!!!」


俺「ハルを………返しやがれ!!!」

その名を…俺にとって一番大事な、奪われた存在の名を叫びながら放つ拳。

遂にその拳が、竜の中の『何か』を貫いて……


『それ』は起きた

483: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/13(金) 06:22:36.36 ID:AYNRAu3zo
◎げんいん

隊長「諸君!よくぞこの再編蒼竜隊に志願してくれた!しかし、この部隊に入った以上は生きて帰るを望めると思うな!命が惜しい者は直ちに去れ!」

少女「貴女が、蒼竜隊の基軸となる………不思議ね、お人形さんみたい」

マヤ「貴方達が蒼竜隊の……あ、ゴメンなさい。そういう積りじゃ…うん、ありがとう」


少女「もう嫌!!何でこんな事をさせられるの!?あんた達もおかしいと思わないの!?」

少女「思ってるわよ!こんな事になると知っていたら、志願なんかしなかったのに!!」

少女「おかしい…な………死ぬ事なんて怖くなかった筈なのに…私もあんな死に方をするって考えると………」


少女「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!!!止めてやめてやめてヤメテヤメテヤメテヤメテ!!!」


少女「次は私の番じゃない…私の番はもっと後…次は私の番じゃない…私の番はもっと後…」

男「おい壱四番、お前の番だ!」

少女「私の番じゃない私の番じゃない私の番じゃない私の番じゃない私の番じゃない私の番じゃない!!」


『もう止めてくれ!私はこんな事を望んでは居ない!!』


少女「あ……あはっ…生きてる。私生きてるの?こんなになっても生きてるの?これって夢なの?覚めるのよね?ねえ?ねぇってばぁぁぁ!!!」

少女「私の番はもう終わった。私の番はもう終わったぁ。私の番はもう終わったんだからぁ……」

少女「あっはハはー…あっはっはー…あっハハはっはアッハッハ」


少女「ねぇ……殺して?お願いだから殺して?貴方なら出来るんでしょ?」

少女「そうよ…もう用済みだって言ってくれればそれで終わるんでしょ?」

少女「だからぁ…良い加減役立たずの烙印を押してくれない?処分して?」


『すまない…私の力ではどうする事も出来ないっ……』


少女「はじめまして!貴女が私達の指揮官なのよね?」

少女「本当に生きてるんだ…お人形さんみたいなのに」


『君達は…この先で待ち受けている物が怖くは無いのか?』


少女「怖い筈が無いわ。だってお国のためにこの命を捧げる事が出来るんですもの」

少女「そうよ、これ以上栄誉な事なんて無いわ。怖がるどころか誇るべき事じゃなぁい?」


『………』


隊長「ふむ…また失敗か、腑抜け共め。全くと言って良い程に進展が無いが…しかしまぁ、材料ならば幾らでも居ることだし『次』に期待するか」

486: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/15(日) 05:13:17.48 ID:iAE+UOfQo
○しんじつ

私「根幹を食らう…竜?」

エディーさんに連れられ、訪れた治療施設…

その控え室に突然現れた女の子から伝えられたのは、聞き馴れない名前だった。


神風「貴方の祖母…ハナ達の手により封印された、世界の根幹を食らう存在です」

私「その…根幹を食らう竜って言う物の封印が解かれると問題なのは判るんですけど……どんな事が起きるんですか?」

神風「こちらとあちらの世界…その双方に存在するありとあらゆる物の存在と記憶が食らい尽くされ…無かった事にされてしまいます」


私「それって…勿論………彼の存在もですか?」

神風「はい、そうです。根幹を食らう竜に食らわれた者は消えてしまいます」

その少女の言葉からは嘘偽りを感じる事が無く、真実を述べている事が判った。


そして…彼に関わる事となれば、避けて通る事が出来ない事も理解出来た。


私「じゃぁ…私はどうすれば良いんですか?」

神風「彼が闇の核の一部を取り込んだように、貴方も光の核の一部を取り込む必要があります」

私「その方法は?そのために私に何か出来る事はありますか?」


神風「貴方の了承さえあればいつでも開始する準備は出来ています。ですが……それを実行すれば、まず間違い無く貴方はその命を失います。そして…」


私「やります」

神風「そう答える事も判っていました…判っていて尚、私はその言葉に甘える事しか…」

私「私も…何となくだけど、そんな感じだと思っていました。だから気に病まないで下さい」


神風「………すみません」

487: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/15(日) 05:46:26.05 ID:iAE+UOfQo
○だんかい

私「それで…一体どんな流れになっているんですか?」

神風「まず…今夜、貴方は光の恩恵派と言う組織に誘拐されます」

私「それから?」

神風「そして、そこで貴女は光の核の一部と融合させられる事になるのですが…同時に脳の手術による洗脳を受ける事になります」


私「それも折り込み済み…必要な事なんですね?」

神風「…そうです。更には光の核の力を得た貴方の一部が彼等を襲い、それがきっかけで彼等の力が目覚めます」

私「彼とレミちゃんに命の危険は無いんですか?」


神風「瀕死には陥りますが、命を落とす事は無い…と言う段階まで追い込まれます」

私「………危ない目に遭わせたくは無いんですけど…仕方無いんですよね」

神風「…はい」


私「それから…洗脳を受けた後の私はどうすれば良いんですか?」

神風「彼等の力を高めた後…その彼等との戦闘で貴方自身の光との親和性を高め、根幹を食らう竜との決戦に備える事になるのですが…」

私「勝てる戦いだと断言は出来ないんですね?」

神風「それもあります。ですが、それとは別に………身体の部位を欠損した貴女の姿を彼等に晒す事になります」


私「それは…今の目的を考えると、ちょっと辛い目に合わせてしまいそうですね」

神風「………すみません」

私「良いんです、続けて下さい。その後はどうなるんですか?」


神風「彼等が一時撤退を行った後、残された貴方自身が…その力を以って根幹の竜の封印を行い、その後………」

私「…その後………暴走を止められなくなってしまった私を、彼とレミちゃんが止める…と言った流れなんですね」

神風「その通りです。これらの話を聞いた上でも、貴女はまだ…」


私「やりますよ?だって………」


そうしなければ…思い出さえ残さず彼の存在が消えてしまう……それだけは許せなかったから

490: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/16(月) 05:02:34.82 ID:hArHn3S1o
○さいせん

私「………それで…再び封印を行った筈の根幹を食らう竜が目を覚ましかけている…と言う事なんですね?」

神風「はい…本来ならばあと少し…彼が光と闇の力を使いこなせるようになるまで時間を稼ぎ、竜を滅ぼす筈だったのですが…」

私「再々封印の必要がある…そう言う事ですよね?」

神風「…その通りです。しかし、前回とは違いライトブリンガーの力を完全に制御している貴女ならば…」


私「勝てる見込みは十分…でもその予知じみた能力も、竜に直接関わる事だと精度が下がるみたいですよね?」

神風「…否定の言葉もありません」

私「最悪で敗北…次点で私の存在の消滅………でも」


神風「………」

私「やる以外の選択肢は…やっぱり無いみたいですね」


神風「…すみません」

491: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/16(月) 05:36:22.12 ID:hArHn3S1o
●めざめて

恐らくは…アーカイブの中で見た物と同じ、記録の断面のような物。

俺以外の皆も同じ物を見ていたらしく、過呼吸で肩を揺らしながら顔には脂汗を滲ませている。

訂正…皆ではなく、マヤを除く全員だった。


何故マヤは平然として居られるのか、その理由に至っては至極簡単で…

俺『知ってたのか…あの竜の正体……って言うか、あの出来事を』

マヤ『えぇ…ハルちゃんの事以外は全部ねぇ』


と、マヤは淡々と語る。

そして俺は、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせ…腕の中に視線を下ろし………


―――ハルを見下ろす。

やっと取り戻す事が出来た…奪われて居た大事な物…俺にとってかけがえの無い存在。

ずっと付き纏っていた違和感は消え去り、こんな状況だと言うのに安堵感が俺の中を満たして行く。


判らない事はまだまだ沢山…それこそ山のようにある。

だが、今一番やるべき事は曇る事無く見据えられている。

俺「ハル…目覚めたばかりで悪いんだが、いけそうか?」


ハル「………はい!」

力強く返事をするハル。

おっと、衝撃と感動のあまり忘れていた…


俺「っと…そうそう……お帰り、ハル」


ハル「ただいま…………お待たせしましたっ!」

492: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/16(月) 05:55:06.19 ID:hArHn3S1o
●ふたたび

ハルを助け出した…ラスボスの得物は無効化した………あとは俺達の愛の力で止めを刺すだけ。

そう…いつもならそれで終わっていた筈の戦いなんだが…

しかし、今回は……どうも勝手が違っていた。


俺「何だよ…あれ」

レミ「何て言うか…あれはもう、竜って感じじゃ無いわよね」

ユズ「何か、身体中に口みたいな物が出来てるんッスけど…」


カライモン「口…と言うよりも、あれは顔だね。他の部位も形成されて来て居るようだ」

エディー「えぇ…それも…」

DT「それぞれが個性を持った顔…」

ディーティー「恐らくは異なる複数人の顔を形成しているのだろうけど…」


マヤ「あれは………」

神風「…………」

ハル「………根幹を食らう竜を形成するまでに到った人達…戦時中に魔法少女となって……」


その先の言葉は誰もが理解し、あえて言葉にする事は無かった。


レミ「…………」

493: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/16(月) 06:23:08.25 ID:hArHn3S1o
●しびとの

俺『なぁ…あの変化もお前の予想の範囲内なのか?』

神風『正直…あのような姿になる事を想定して居ませんでした。彼女達は、自身を認識する事など出来ない状態の筈なので…』

レミ『じゃぁさ…それってつまり、自我があるかも知れ無いって事よね?』


カライモン『自我があったとしても、それが理性を持って居る可能性は極めて低いだろうね』

ハル『話を出来れば良いんだけど………そうでなければ、可哀想だけど…』

レミ『そうよね…ゴメン、無かった事にして』


言い終えて覚悟を決めるレミ。

それに連れられるように再び臨戦態勢を取る仲間達。

俺に至っては………先の連撃で殆どの力を使い切った訳だが、辛うじてハルのおかげでもう一度切り札を使う事が出来そうだ。


となれば、問題はその使い所なんだが………正直まだそれが見えて来ない。


相手の手の内が見えていない以上、慎重にならざるを得ない。

だが同時に、未知を前にした焦りが時間の経過と共に蓄積して……

先の発言からの責任感もあってか、レミが先陣を切る…いや、切ってしまう。


焦りから生まれる特攻。

無防備なままに竜に近付き、攻撃を加えようとしたその瞬間………顔の一つが変貌を遂げる。

レミを丸ごと飲み込みそうな程、大きく開かれる口。それが閉じられようとする正にその瞬間………


レミ「なっ………」


カライモン「………」


それを庇って…レミを口の外へと突き飛ばすカライモン。

以前も見た光景…ユズから俺を庇ったあの時と同じ………いや、違う。

あの時は復活の算段があったようだが、今回の相手は次元が全く異なる。


記憶その物を消されてしまったら、復活のしようが無い。

そう……いくら………



俺『ん……?今、レミはどうやって助かったんだ?』

495: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/18(水) 03:31:48.00 ID:8V8igGSYo
●ぜつめい

体中を駆け巡る嫌な予感…

神風『仲間の一人…彼女の犠牲により助かりました』

俺『それで…例によって、それが誰なのかは教えられないんだよなぁ!?』


神風『はい…私が教えてしまったら、その時点でその人物は…他者から与えられたただの情報になってしまいます。そうしたら、本人が戻って来る場所を失い…』

俺『復活の目が潰れる…だから、潰さないために教えないって事か』

しかし、思い出す事が出来なければ助け出す事も至難の業。


どうする………どうすれば良い?

ハルのように…いや、ハルを助け出せた理由さえまだ判って居ない。

そもそも、どんな行動を起こすのが正解で…何が不正解なんだ…!?


思考の袋小路に陥る俺…

くそっ…こんな時、アイツが居てくれたら…嫌味混じりながらも正解を教えてくれただろうに

心の中で渇望しながらも、無い物強請りをする訳にはいかない。


ではどうすれば良いのか…

俺『いや、答えは決まってる…か』

神風『根幹を食らう竜を打ち倒し…』


ハル『失った仲間を取り戻します!!』

496: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/18(水) 03:54:47.97 ID:8V8igGSYo
●きぼうの

マヤ『仲間を思う絆は…何時の時代においても変わらず、強い力を生み出す物よねぇ。私にも、昔は…』

ハル『昔の仲間はもう居なくても…今の仲間が…私達が居るじゃないですか』

俺『そうだぜ。今まで世話になった分、ここで恩返しをしねえとな!』


マヤ『貴方達……あら?お嬢さん、貴女………』

ハル『どうかしましたか?』

マヤ『いえねぇ…気のせいかしら。嫌だわぁ、歳を取るとこれだから…』


何かに気付き、急に困惑し始めるマヤ………

しかしこの状況での足踏みは致命傷に近い。

対峙している竜が…俺達のその隙を見逃してくれる筈も無く、当然ながら更なる攻撃を仕掛けてくる。


俺『……って、何だこりゃ!?』

俺に向けて襲い掛かって来たのは……紙切れ。いや、模様が描かれた…お札?

新たに現れた口の中からそれが飛び出したかと思えば、今度は俺の周囲を竜巻のように飛び回り…


俺『――――っ!?』

俺に張り付き、次の瞬間に爆発するそれら。

竜が…今までとは全く異なる攻撃方法を取り始めた。


突如頭上に現れる無数の氷柱…

四方八方から現れ、絡み付く無数の鎖………

行く手を遮る空気の壁…


そして………それらの妙手に絡め取られた所で、打たれる一手。

俺…だけでは無い。ハル…レミ…ユズ…マヤ…神風…DT…ディーティー…エディー………

9つに別れた首が、皆に向けて伸ばされて行く。くそっ、人の技をパクんなよ!


自衛するべきか…誰かを助けるべきか………

皆の思考は、切り札である俺を守る事に集中しているが………それは御免被る!

しかし、我儘を通そうにも絶体絶命の危機を覆す程の手段も無い。


巡る思考に結論を出せないまま、竜の首の一つが迫る…その瞬間。


突如として地表に打ち付けられる、竜の首達。

立ち上る土煙の中から現れたのは……見た事も無い魔法少女…いや


魔法少女…達…だった。

497: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/18(水) 04:23:22.99 ID:8V8igGSYo
●せんたい

レッド「私の名前はカライモンレッド!」

ブルー「私は…カライモンブルー…」

イエロー「カライモンイエロー!」

ピンク「私はカライモンピンク☆」

ブラック「同じくブラックだ」

シルバー「カライモン…シルバー!」

ゴールド「カライモンゴールド、ここに参上!」

マスター「百鬼夜行を切り開く…カライモンマスター!」

ブラックRX「私は太陽の子!カライモンブラックRX!!」


俺「いや、ブラック二人居るのかよ!」


と…思わず突っ込みを入れてしまったが……実の所、彼女達にはそれ以上に違和感を感じる物があった。

のだが…違和感の切り口は、思わぬ所から現れた。

神風『何故…竜に食われた筈の彼女が………?』


神風が、根幹を食らう竜以外でその存在を掌握出来て居ない人物………

にも関わらず、竜に食われたと言う経緯を持って居る存在。

これはつまり………既に復活している以上、聞いてはいけないと言うルールの前提から逸脱している訳で………


どういう事だ!?


神風『彼女は…つい先程、竜に食われた貴方達の仲間…カライモンです』

俺の疑問を汲んで話し始める神風。

レッド「事情は後で説明する…まずは私達とも契約してくれないかね?」


そして、その神風の思考さえも遮って事態を進行させるカライモンレッド。

案の定…思考を接続した後も、彼女の正体や経緯については説明が無いままなのだが…

その事に疑問を持ちながらも、神風は彼女の事自体を信用しているようだった。


と言う訳で…俺も半信半疑かつ間接的ながらもカライモンを信用し、彼女の思考を伺うのだが……

俺『なっ………お前、それ本気か!?』


伝わって来た内容に………テレパシーにも関わらず、俺は耳を疑った。

502: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/19(木) 05:56:46.01 ID:O72fw/37o
●にくほね

9つの首…それらに対して、首一本につき一人ずつ対峙するカライモン達。

他の仲間達はやや後方に下がり、それを見守っているのだが……

当然ながら竜の方は、そんな俺達の事情には構う事無く…それぞれの首の近くに居るカライモンへ達と襲い掛かる。


そして………それに応戦するカライモン達。

魔方陣でその攻撃を受け止めたかと思えば、今度は自ら竜の口の中へと飛び込み

自分の身体ごと、竜の首を魔方陣で束縛する。


首を束縛された本体はもがき、のた打ち回り…

闇雲に様々な魔法を展開して行く。

しかし…明確な目標を持たずに繰り出されるそれらは精度に欠け、皆は難無く回避してやり過ごす。


待ち構える機会…

チャンスは一度切り

俺はゴクリと唾を飲み、それに備る。


食い破られる魔方陣。

カライモンを食らい、飲み込む竜。

俺達はその光景を前にして、今はただ見守るのみ。


そう………ここまで作戦通りの展開だ。


一秒…また一秒と過ぎて行く時間。

カライモンを食らって尚のた打ち回る竜を前に、ただ次の事象を待つのみ。

彼女達の存在が俺達の中で消えて居ないか…それだけを何度も反復して確認する中…


それは起こった。

503: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/19(木) 06:19:05.47 ID:O72fw/37o
●うちがわ

『ねぇ…どうして私達こんな事になってしまったの?』

『無駄…無駄…私達の苦しみは全てが無駄だった!!!』

『悔しい…憎い……苦しみの無い全ての存在が妬ましい…!』


俺達の中に流れ込む、ドス黒い感情。

傾けた耳を抉り取られるような錯覚を覚えながらも、俺達はその言葉の一つ一つを飲み込んで行く。


『私達はただ、国のために…いいえ、ただ、人の役に立ちたかった…それだけだった』

『でも…待ち受けていたのは、辛く苦しいだけの意味の無い日々だった』

『皆使い捨てのボロ切れのように扱われていた…何の意味も残させて貰えなかった!』


竜の中に存在する、少女達の叫び…

戦時中、実験体にされた魔法少女達の記憶が俺達に叫び続ける。


『だったら…私達は何のために存在していたの?』

『私達がこの世に存在する価値も意味も無かったの?』

『いいえ…この世界こそ私達が存在する価値があったの?』


壊れて行く心…

少女達の最後の理性さえも崩れ去る、その瞬間が流れ込んで来る。


『無価値な世界なら消し去ってしまえば良い』

『全てを巻き込み…』

『全てを飲み込み…』

『全てを無に………』


『それが君達の望みなら…最後にそれを叶えるのが私の義務なのだろう』

504: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/19(木) 06:45:05.98 ID:O72fw/37o
●かいせき

少女達の声が消え、現実へと引き戻される俺達。

気が付けば荒いで居た呼吸を整え、再び竜を見据える。


レッド『解析及び収束完了だ。場所は…床に落ちた影を参照してくれ』


そしてカライモンレッドの声に促されるまま、竜の影に視点を落とす俺。

竜の影…その中央に位置する場所に輝く、一点の光。

カライモンの手により収束された…根幹を食らう竜を構成する、彼女達の意識がそこにあるらしい。


彼女達の記憶を覗き…正直、迷いが生まれて無いと言えば嘘になる。

だが、その迷いを理由にこの手を止める訳には行かない。


光の核の力の全てを右手に…

闇の核の力の全てを左手に…

皆の力を借り…僅かでもその出力を狂わせないよう、バランス調節して…


その両の手に、一対の剣を作り出す


俺『情けねぇなぁ……俺にあと少しでも力があれば、あの子達の意識も救ってやれたかも知れないってのに』

光の核『不甲斐無いのは我等も同じ事…』

闇の核『これが今出来る精一杯の事…それ以上を望む事など出来ません』


根幹を食らう竜へと向けて駆け出す俺………

苦し紛れに暴れる竜の…腕を、爪を、牙を、尾を遮る………ハル…レミ…ユズ…マヤ…


俺は力一杯地面を蹴り、跳び上がった先の天井に両の足を着け………

そのまま天井を蹴って、竜へと向けて垂直下降。

そして、竜の中心に向けて両手の剣を十字に構え………


決着の一撃を放つ

507: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/20(金) 05:30:41.61 ID:MWX3CxrIo
●ついめつ

根幹を食らう竜…その外装を吹き飛ばし、中核へと触れる二本の刃。

僅かでも気を緩めれば、逆に弾き飛ばされてしまいそうな程の力の奔流の中…皆の力を借りて、辛うじて退かずに耐える俺。

負けられない…ここで押し負ければ、失った物を全て失ったままになってしまう。


力は出し尽くした…

手段も出し尽くした…


もうあと絞り出せるのは気力くらいの物。

正直そんな物でどうにかなるのかどうかなど判らない…が、何もしないよりはマシだ。

俺は最後の気力を振り絞り、光と闇の刃を握る手に力を込め―――


ついにその刃が、竜の中核に沈み込む。

ほんの僅か…だが確かな手応えを感じるには十分なそれ。

俺は更に刃を沈ませるべく、力を込める………が、意図せずその動きが止まる。しかもその理由は…


俺『なっ…どう言う事だ!?神風!!』

神風による制止だった。

この状態で刃を止める理由など判らない。俺はそれを問い詰めるべく、神風の思考を探り……見る


俺『―――っ』

根幹を食らう竜の中核を断ち斬り、その反動で消滅する俺の姿と…

それを避けるために………神風が取ろうとしている行動。


俺『お前………竜と対消滅…心中するつもりなのかよ』

神風『現状ではそれ以外の手段がありませんから。それに…』

俺『それに…何だってんだよ』


神風『私は…自らの目的のために、貴方達を手駒として利用して来ました。せめて最後ぐらいは私自信がこの身を張らなければ、筋が通りませんので』

レッド『確かに…筋は通って居るね。今までの謀略を帳消しにするには打倒な対価だろう』

神風『ご理解感謝します』

レッド『しかし………』


神風の言葉に対して、それを否定するだけの言葉を出す事が出来ない俺達。

しかし否定出来ない事と反論出来ない事はまた別の事で……

満場一致で、一つの結論が導き出される。


そして…ただ、感情の赴くままに言葉を放つ。

508: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/20(金) 06:23:48.26 ID:MWX3CxrIo
●はんろん

俺「それが…どうしたぁぁぁぁ!!!」

レミ「それがどうしたぁぁぁぁぁ!!」

レッド『知った事か――――!!!』

ユズ「知ったこっちゃ無いッスよ――!!」

マヤ「丁重にお断りするわねぇ」


神風「なっ―――」


ディティー「そう言う自己犠牲の精神とか、認めないよ僕は」

DT「僕も同意見だね」

エディー「他者の屍の上を歩く趣味は持ち合わせておりませんので、はい」


俺達の言葉を聞き、呆気に取られる神風。

多数決により神風の作戦を却下し、制止を振り切って竜への攻撃を再開する俺達。


しかし、大見栄を切った手前言い辛い事だが…その行動に腹案など持ち合わせては居ない。


神風『ですから…私がかの竜と対消滅をする他…』

俺「だからそれは却下だっつってんだろうがぁぁぁ!!!」

が………だからと言って、それ以上に退くに退けないだけの理由がそこにはある。


妥協せず…

諦めず…

何が何でも、俺達が望む結末になるまで足掻いてみせる!!!


心の中でそう叫んだ、まさにその瞬間

俺の目の前に、一人の少女が……いや、少女の姿をした何かが現れた。

510: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/21(土) 03:57:29.83 ID:NL0SHWwSo
●あなたに

神風『そんな………ハナ、何故貴女が…』

ハル『えっ…お婆ちゃん?』

ハナ『………』


神風…ハル…そして俺に向けて微笑む、ハナと呼ばれた少女。

二人の思考から、それがハルの祖母にして神風の知人だった事が読み取れる。

かつて根幹を食らう竜を封印した魔法少女の一人


…ちなみに、少女姿な事に違和感を覚えない訳では無いのだが…

正直マヤのおかげで慣れた。


ハナは、ハルと重なるようにその身を寄せ…俺達の繋がりの中へと入り込んで来る。

俺からすれば見ず知らずの他人…にも関わらずそこには、本来感じる筈の違和感も疎外感も無く…そう、そこに居る事が当たり前のようにさえ感じてしまう。


俺『あぁ…そうか。そう言う事だったのか』

そして、その理由に気付いて零す一言。

ハルの魔力…いや、魔力だけでは無い。ハルの優しさや愛情…それを与え育んでくれたのが、このハナという少女だったんだ。


ハナ『………』

再び微笑み、瞼を閉じるハナ。

ハルを通じて感じるハナの力…


俺の中に存在する光の核の力が、闇の核の力に匹敵…いや、凌駕する程にまで引き出されて行く


この力ならば、根幹を食らう竜の中核を断ち切る事が出来る…そう確信する俺。

だが…確信を持ったが故に、同時にそこに生まれる疑念。

本当にこれで良いのか?これで決着なのか?


その疑念と疑問は、俺だけでは無く皆の思考を巡り…

そしてそれが一巡した所で………一つの答えが出た。

幸いな事に、誰一人としてその答えに異論を唱える者は現れない。


皆の心が、再び一つになる。


妥協など無く…

諦めも無く…

理想を捨てずに皆で導き出した結論。


俺はその答えを決行する事にした。

511: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/21(土) 04:27:44.47 ID:NL0SHWwSo
●こころを

俺「って事で…こっちの自己紹介は要らねえよな?」

竜「………………」


根幹を食らう竜…その心の中に入り込んだ俺…いや、俺達。

俺達は、俺の姿をを基軸にして各々が姿を現し…

対する竜は………その体に幾人もの魔法少女の屍を背負い、その屍にしがみ付かれて居た。


竜「何故…こんな事を試みる?私達を消し去りたくば、ただその剣で以って消し去れば良い。私達を尚苦しめたいと言うのか?」

神風「…………」


ディティー「今更、この程度の事で苦しむようなデリケートな精神でも無いだろう?話くらい聞いたらどうだい?」

竜「では問おう…お前達の目的は一体何だ?失った物ならば、私を倒せば取り戻せるぞ?」

自嘲気味に笑い、そう答える竜…だが俺達はそんな挑発には乗らず、言葉を連ねて行く。


俺「奪われた物を取り戻す…って目的もあるけどな。ただ、それだけじゃ終わんねえんだ」

DT「ぶっちゃけて言うと、僕達の目的は君なんだよ」

竜「成る程…私の力を得るため私を食らう…そう言う事か」


俺「いや、ちげーし」


竜「……………」

俺の否定を聞き、沈黙する竜…しかし俺は退く事も止まる事もせず、続きを言葉にして行く。

俺「解放しに来たんだよ…お前も、その魔法少女達もな」


竜「クク…お前がか?ハハ…ハハハハ!!」

そして、笑い出す竜。

竜「私は…決して許される事の無い罪を犯して来た。その罪の重さを貴様達が僅かでも背負えるとでも言うのか!」


竜は激昂と共に声を荒げ、俺達に牙を剥く…が、俺達はそれに臆する事無く剣を構え………竜の攻撃に備える。

俺「どうだろうな…正直、どのくらい背負えるかは判らないんだが………そんな判らない物だらけの中でも、一つだけ判った事はある」

竜の爪を闇の刃で受け流し、新たな確信を持った上で続ける言葉。


俺「少なくとも………救われたく無い、解放されたく無いとは言わなかった。つまり、お前はまだ心のどこかで解放されたいと思っているって事だよな」

513: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/22(日) 04:52:55.19 ID:Qc/I+/Sco
●かいほう

俺はそれをドヤ顔で言い放ち、それを塗り潰すべく竜が再び爪を振るう。

俺と竜の間で剣閃が飛び交い、その衝撃が俺達の存在へと響き渡る中…今度はレミがその口を開く。


レミ「正直…私達はアンタ達の望みを、本当の意味じゃ理解してないと思うわ」

レミ「世界その物を消したりたいって望むだけの憎しみのも…断片的に見ただけで、全部は理解して無いもの」

レミ「でも、だからこそ………もっとちゃんと理解して、少しでもその憎しみや苦しみを和らげたいのよ」


竜「それは所詮、貴様の自己満足に過ぎぬだろう…」

俺「それがどうかしたか?」

竜「…何?」


レミ「そう…アンタの言う通りこれは私の自己満足よ。でも、その自己満足が誰かの救いになるなら悪い事じゃ無い…そうも思うのよね」

竜「…………」

攻撃の手を止め、沈黙する竜…しかし竜の背負う屍はそれを許さず、その体躯を無理にでも突き動かそうと蠢く。


…そして


竜「だがそれも…それが彼女達の救いになるの…と言う前提の物。この世界を憎み消し去りたいと願う彼等の思念は、そんな意思では………」

カライモン「まぁ、満足どころか納得…いや、考察にさえ値しないだろうね」

竜の背負った屍の一つ…その奥底から姿を現す………カライモン。


存在を食われていた筈のカライモンがその姿を俺達の前に晒し…

レミの言葉に対し、否定を投げ付けて来た。


カライモン「さて…ここからは私のターンだ」


俺「………だったら、どうすれば良いのかお前は判ってるんだよな?」

改めてそれを問う俺。

カライモン「当然…こうして双方と一体になる事で、やっと解決の糸口を見付けたよ」


竜「解決の糸口など…」

カライモン「当然…皆が皆、同一の方法で解決するとは思って居ないよ。自我を殆ど無くしたとは言え、彼女達の根幹は残っているからね」

竜「では一体……いや、まさか…」


カライモン「そう…解決法は、簡単では無い物の実にシンプルだ」

と、ここまでカライモンが言った所で俺にもある程度の予想は付いた。


俺「あぁそうか………そいつら一人一人の執着が一つじゃ無いなら…一人一人を別々の方法で解放すれば………」

514: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/22(日) 05:39:45.87 ID:Qc/I+/Sco
●かいけつ

カライモン「とは言っても…この竜を含む大多数はレミ君の言葉に心を動かされ、この苦しみからの解放を望み…今は当然その手段もある」

竜「しかし…それだけでこの憎しみの繋がりを崩す事など出来はしない。一人でも憎しみが残るのならば…」

カライモン「根幹を食らう竜…その存在その物に張り巡らされた根幹が別離を許しはしないだろうね」


竜「それが判っているのならば、何故…」

カライモン「彼が言ったように…逆に、一人残らずその遺恨を消し去れば良いのだから……まぁまずは、彼に一働きして貰うとしようか」

カライモンがその言葉を紡ぎ終え、同時に俺が動き出す。


光と闇の刃を十字に構え…それを竜と少女の間に沈めて行く。

切り裂く…と言うよりは、引き離すように合間に刃を滑らせ………一人…また一人と竜の身体から少女達の意識を剥がして行く。

浅い階層に居る少女達は目に見えた抵抗も無く、救済を求めて俺達に身を任せる


…が、問題は奥底に潜む彼女達だ。

救済と解放を前にしても、まだその感情を鎮める事無く滾らせる者達…

いや…救済も解放も望まず、ただひたすらに崩壊を望む者達さえも居た。


俺「なぁ…本当にこの子達も…」

カライモン「憎悪に囚われているとは言え、彼女達も結局は人間の意識…救済する手段が違うだけで、解放する事は可能な筈だよ」

しかし、問題はその手段が無いと言う事なのだが…


と、杞憂する俺。しかしカライモンはそんな俺の事など気にも留めず、竜の奥底に眠る少女達へと近付いて行く。


カライモン「鍵となる記憶の断片は見た筈だと言うのに…君も中々に鈍いね」

恐らくは俺に向けられたであろう言葉。

しかしそれに反論するだけの言葉が出ずに、押し黙る中…更にカライモンの言葉は続いて行く。


カライモン「と言う訳で………君達が早々に諦めてしまった本当の望みを叶えようと思う。その竜から離れて、私の下に来たまえ」

竜「なっ!?」

俺「はぁっ!?」

517: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/25(水) 04:35:12.11 ID:yeqPh84co
●しんいの

カライモン「一旦君達に食われ、一つになった事で理解したよ…今迸っている感情の渦の奥に潜む本当の望みをね」

竜「そんな事…理解した所で実行出来る筈が…」

カライモン「出来る…と言うよりも…私でなければ出来ないだろうし、何より他の誰かでは納得もされないだろうね」


俺「いや、何の話をしてるのか判らねぇから説明してくれ!」

話しに追い付けず、ついには助け舟を求める俺。そしてその言葉を聞いてから、カライモンが不敵な笑みを浮べ…


カライモン「私が…彼女達の隊長の研究を引き継ぎ、それを完成させて見せる。そう言っているのだよ」

俺「………はっ?」


カライモン「はっきり言って、当時は施設がまず不十分…加えて隊長の手腕も発想も未熟だったと言わざるを得ない。しかし…私ならば出来る!!」

竜「………」

無言のまま戦慄する竜…そして、その中に眠る少女達。


カライモン「私ならば、君達の死を…研究成果を無駄にはしない。君達の死に…そして生に意味を持たせる事が出来る!!」


断言するカライモン。

そして………竜から離れ、カライモンへと近付き……その中へと消えて行く少女達。


本来ならば主役だった筈の俺は取り残されたまま…事態は解決へと向けて収束しているようだった。

518: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/25(水) 05:00:22.21 ID:yeqPh84co
●それなら

竜「彼女達は…自分の存在に対する意味を欲していた」

…俺に向けてと言うよりも、独り事を呟くような口調で語り始める竜。

竜「その意味を見出す事無く裏切られ、利用された事に価値さえ与えられないままその生涯を終えてしまった」


竜「全て私のせいだ…私と言う存在があちらの世界に迷い込みさえしなければ…いや、私が全てを諦め…あちらの人間との関わりを持たなければ…」

神風「それは違います…もしそれを責とするのならば、私もその責を負うべきです」

竜「イ…いえ、今は神風と言う名前だったわね」

神風「姉さん………」


竜「良い名前を貰ったわね」

神風「………はい」


話に乗り遅れてばかりの俺だが、このやり取りである程度の事は理解できた。


俺「つまり………お前達姉妹が俺達の世界に迷い込んで、帰れなくなって……」

ハル「元の…こっちの世界に送り返すためにという名目で、軍が魔法の研究を始めた…と言う訳ですよね」

レミ「そして…その結果、この子達が実験の犠牲になって…その罪滅ぼしとして意識を取り込んだら、暴走して根幹を食らう竜になっちゃった…と」


ディティー「で…神風の方は、根幹を食らう竜になってしまった姉を救うためにスピリットになって…」

DT「何だかんだで、僕達を巻き込んでその目的を達成した…と」

エディー「一件落着と申し上げればその通りなのですが…」


カライモン「全く以って傍迷惑な騒動だったね」

何故だろうか、カライモンがこのセリフを言っても同意する気が起きない。


俺「にしたって…お前はこれからどうするんだ?根幹を食らう竜じゃ無くなれば、一緒にその身体も無くなっちまうんだろ?」

竜「私は…このまま自然の摂理に従い、意識の奔流の中へ還ろうと思う」

俺「それってつまり…死ぬって事なんだよな?」


竜「厳密に言えばそれとは違うが…君達から見れば変わりは無いだろうな」

俺「だったらよ…別に無理して死ななくたって…」

竜「無理をしている訳では無い…むしろ私は長く生きすぎた。現世を去るには良い機会だとも思っている。ただ……」


俺「…ただ?」

竜「最後の未練が無い訳では無い」

神風「なら…」


竜「神風…お前に伝えておきたい事がある。それこそが私の未練だ」

神風「………」

竜の言葉に押し黙る神風。俺はそんな二人のやりとりに口を挟まず、ただただ黙してそれを見守る。

521: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/26(木) 05:03:01.50 ID:kPegj57Qo
●きもちの

竜「本当に…迷惑をかけてすまない」

神風「………」


竜「私が不甲斐無いせいで、お前達には途方も無い苦労をさせてしまう事になった」

神風「………」


竜「幾ら謝っても謝り足りない…しかし、それでも謝らなければ私の気が済まない」

神風「そんな事…ありませんから、謝らないで下さい」


竜「しかし…」

神風「私は…この事を迷惑だなんて思っては居ません。そもそも、私達のために姉さんがしてくれた事なんですから」


竜「………」

神風「…むしろ。それならば、私達のために姉さんがしくれた事に対して…私達が謝らなければいけないでしょう?」

俯いた顔から涙を落とし、竜の言葉に答える神風。


竜「そうね…ならば、こう言うべきよね」

神風「………」

竜の方もまた涙を零し、更なる言葉を紡いで行く。


そして…


竜「ありがとう…神風」

神風「――――っ!!!」

その言葉を最後に、薄れ行く竜………


その存在がより希薄な物へと変わって行くにつれ、俺達の意識も現実へと引き戻されて行き……


目覚めてまず始めに瞳に飛び込んだのは、綺麗な蒼に輝く…一匹の竜。

ゆらゆらと揺れるように宙を舞うその姿は…

文字通り、まるで舞いを俺達に披露しているような錯覚さえ感じた。


レミ「ダンシング…ドラゴンスピリット……って所ね。多分これ…彼女なりの感謝の意思表示よね…」


俺「あぁ…そうかも知れ無いな」

522: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/26(木) 05:24:50.85 ID:kPegj57Qo
●なじみの

ハナ「そう言えば…昔貴女に言った事、覚えてるかしら?」

神風「どの事でしょうか?」

ハナ「私に子供が出来たら、貴女みたいな良い女の子になって欲しい…って言う事」


神風「そう言えば、そんな事を言っていましたね」

マヤ「お子さんの方は大分お転婆になってしまいましたけど…代わりにお孫さんがその望みを叶えてくれたわねぇ…」


神風「そんな…私なんかよりも、ハルさんの方がずっと良い子ですよ。私なんて…自分の目的のために…」

と言いかけた所で神風の頭に落ちる俺の拳

神風「…えっ?」


俺「その話しはもう良いってーの。ハルも帰って来たしカライモンも帰って来たし…これ以上自己嫌悪するんなら、俺が怒るぞ」

神風「………」

俺の言葉に呆気に取られる神風。初めて見るそんな表情に俺の方も驚きながら……ふと、気付く。


俺「ん?いや、俺がこーいう事するって判って無かったのか?」

神風「先の戦いでスピリットとしての存在を消耗してしまったので…」

そして、まずい事に予感的中である。


って事はだ……


俺「で、それって…すぐ治るのか?」

神風「正直…判りません」


先も言ったが、それは非常に不味い。

何が不味いかと言うと…今まで黙って居たが、実は神風と思考を繋げた時に未来の出来事について幾つか知ってしまった事だ。


そしてそれが、具体的にどんな物かと言うと………

523: ◆TPk5R1h7Ng 2015/02/26(木) 05:55:16.24 ID:kPegj57Qo
●じかいへ

俺「………間に合うのか?」

ハル「間に合うって…何にですか?」


俺「狭間に巣食う蜘蛛の襲撃に…だ。他にも、十二大祭だとか災厄の日だとか…このままの状態で臨むのは結構ヤバいんじゃないか……」


狭間に巣食う蜘蛛の襲来。文字通り、異世界…厳密には世界と世界の狭間に巣食う蜘蛛の襲来…

十二大祭。獣人の中でも基盤となる、十二種の姿の代表者達…その選抜と契約者による最強魔法少女決定戦…

災厄の日。ただそれが起こる事以外は一切が謎に包まれた…スピリットの力を以ってしても見る事の出来なかった、災厄の訪れ…


解決策を見出す事も無く、山積みになったままの問題が待ち受けている。


俺「頼むから、広げる大風呂敷は畳めるだけのサイズにしてくれよ…

カライモン「まぁそれらの件に関しては私の方でも対策を練ってみよう。ある程度だが、祖父の研究が応用出来そうでもあるしね」

と、相も変わらず頼もしいカライモン。


しかし…その言葉の中に、気になる単語が一つ混ざって居た。

俺「ん?祖父ってのは誰の事だ?」

カライモン「先の話で判らなかったかね?彼女達の隊長と言うのは、私の祖父の事なのだよ」


俺「………」

数奇な巡り合わせと言うか運命の悪戯と言うか…明かされる事実に、ただただ唖然とするしか無い俺。

しかしそんな運命に対して突っ込みを入れる暇すら無く…問題は怒涛の勢いで押し寄せて来る。


エディー「お取り込み中の所、大変申し上げ難いのですが…扉の所有者の一人が、狭間に巣食う蜘蛛らしき存在に遭遇したようでございます」




どうやら…平穏な日々はまだまだ訪れそうに無いようだ。


   魔法少女ダンシングドラゴンスピリット ―完―

549: ◆TPk5R1h7Ng 2015/04/25(土) 03:46:46.67 ID:/dgsErfCo
●あらすじ

光と闇の核に俺達を引き合わせたスピリット…神風。

俺達はその神風と出会い、その真意の中に隠されていた本当の敵の存在を知る。


ハルを俺達から奪った存在…神風の姉にして、世界の根幹を揺るがす者…根幹を食らう竜

積み重なった幾つもの悲劇から生まれた存在だ。


俺達は、取り戻したハルとマヤ婆ちゃん…加えてハルのお婆さんの力を借りて、事態の解決に漕ぎ着く事が出来た。

のだが…ついでと言うのも何だが、更に深淵に潜む敵の存在も知る事となってしまった。


狭間に巣食う蜘蛛


名前以外の詳細を知る事は出来なかったが、それが根幹を食らう竜以上の強敵である事だけは判った。


そして…狭間に巣食う蜘蛛の鉤爪は、俺の知らない内に喉下にまで迫っていたのだが…

俺はまだその脅威に気付く事が出来ていなかった。

550: ◆TPk5R1h7Ng 2015/04/25(土) 04:00:23.74 ID:/dgsErfCo
▼魔法少女デュアルディメンションスレイヤー▼


●あくむの

俺「止めろ!頼む止めてくれ!そいつらには何の罪も無いんだぞ!!」

悲痛な声を上げ、懇願する俺…

しかしその願いは届く事無く、無慈悲な鎚が振り下ろされて行く


俺「そいつらが一体何をしたってんだよぉ!!!」

叫ぶ俺…だが制裁と言う名の鎚は止まる事無く、俺にとって大切な物は壊されて行く。


そして、ふと…鎚の担い手がある物に視線を向ける。


俺「そうだ、そいつは違う!そいつは完全に無関係だ!信じてくれ!」

必死になってそれを告げ、何とかしてその手を止めようとする俺。


しかし…無慈悲な鎚は振り下ろされ、残されたそれも潰される。


ハル「知っていますよ…末っ子のこの子。魔法少女スピンオフ作品のアニメ第三期で、成長してサイドテールになるんですよね?」

見透かされていた―――


俺の背筋に寒気が走る中、鎚の担い手は淡々とその言葉を続けて行く。


ハル「ダメですよ…他のサイドテールに浮気をするなんて」

俺「頼む…許してくれ…っ!!」


ハル「許しを乞うくらいなら、最初からあんな事をしなければ良かったんですよ」

俺「――――――」



………と言う夢を見た。


夢と言う物は…それがどんな夢だか覚えて居ない夢と、詳細までハッキリと覚えて居られる夢が存在するのだが…

今回は後者だったようだ。


俺の愛すべきサイドテールが存在する、全ての二次元をことごとく殺されて行くと言う悪夢…

しかし、幾ら後味が悪くとも夢は夢…

目を覚ましてパソコンデスクの棚を見れば…


見れば―――――

553: ◆TPk5R1h7Ng 2015/04/28(火) 06:17:35.17 ID:DztfusEFo
●ているす

俺「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

驚愕の声を張り上げる俺。

頭の中がクチャグチャに掻き回される中、俺は辛うじて残った意識で現状を整理する。


まず、悪夢を見た…

ゲームから映像媒体…果てはドラマCDに至るまで、サイドテール作品を悉くハルに潰される夢だ。

そして、目覚めた直後に見た物がこれ………


ツインテール作品で埋め尽くされたパソコンデスク

そう、ツインテール作品で俺のパソコンデスクが埋め尽くされて居るんだ。大事な事だから二回言った。


一体誰がこんな事をしたのか…

俺の見ていた物は、実は悪夢では無く現実の出来事だったのだろうか?

次々に沸きあがる疑問はその解答に届かず、全身から嫌な汗が噴き出す。


そして、嫌な感覚が全身を巡る中…ふと、俺は部屋の隅に佇む一つの存在に気付く。


俺「って…神風、お前一体何してるんだ?」

神風「観察です。私の事はお気になさらず」


白虎姿で片手を挙げ、そう答える神風…

あ、ちなみに。神風が居る事には驚いて居たが、このアパート内に居る事自体は別に驚く事では無い。

俺の寝床に居る事に驚いただけだ。


物のついでなので経緯を話しておこう。


神風は、根幹を食らう竜との騒動の後スピリットとしての能力を殆ど使えなくなり、その存在を世界に同化する事が出来なくなった。

そして、目下の所の住まいを探す事になったのだが…何故か俺の部屋を希望。

幾つかの条件を前提としてだが、その希望を通し…とりあえず俺の部屋で、白虎の神風を飼う形に落ち着いたのだ。


と、一通りの説明を終えた話を戻そう。


俺「で…具体的には俺の何を観察してたんだ?ってか、俺のデスクの有様について何か知ってるのか?」

神風「それに関しては…」


恐らくは事情を知っているであろう神風にそれを問い、神風の方からもその返答を紡ぎ始める。

だが…こうして何かを進める時に限って………そう、邪魔者と言う物は決まって現れる。


ディティー「いや、そんなどうでも良いような話をして居るような事態じゃ無いんだよねぇ」

そら見た事か。

555: ◆TPk5R1h7Ng 2015/04/30(木) 06:18:45.10 ID:fHnLjeU6o
●きおくの

何時の間にか俺の部屋に居るディティー…

どこから沸いて出てきた…と言うか、どこから入って来た?

俺のプライバシーと鍵の存在意義を教えてくれ。


俺「どうでも良い事じゃぁ無ぇよ!ってか何だよ藪から棒に。いや…もしかして、また何か起きたのか?」

ディーティー「何も起きないのに、ボクがわざわざキミなんかの部屋に来ると思うのかい?」


相変わらずの口の悪さが、着実かつ確実に苛立ちを煽って来る…が、俺はそこれを堪えて大人の対応をする。


俺「だったら、とっとと用件を話してとっとと帰りやがれ」

ディーティー「話すのも面倒だし、テレヴィジョンでも付けたら?多分どこかの局でやってるんじゃないかなぁ?」

素直にテレビと言いやがれ。


ディーティーに指図されるのは癪だが、他に情報源が無い以上は話しが進展しない。

俺は渋々ながらもリモコンに手を伸ばし、テレビの電源を入れる。

そして、映し出されたテレビの画面には何かのニュースが映し出され…


ニュースキャスター「このように、現在、集団の記憶混濁が世界各地で見られており、政府はこの原因を解明するため―――」


早々に嫌な単語が飛び出して来た。

と言うか、この時点で既に幾つかの嫌な予想が沸き上がって来て居る。


まず第一に、ディーティーがこれを伝えに来た時点でこの事件が普通の事件では無いという事…

続いて第二に、ニュースになっている=いつぞやの権力でも隠蔽し切れない事態になっている…という事。

そして最後に…


俺「で…これが今回の事件だとしてだ。何でこれを伝えに来たのがお前なんだ?」

ディーティー「キミの頭はただの中二病の入れ物かい?他に伝えられる役が居ないからに決まってるだろう?」

そう………一番当たって欲しく無い予想が当たっていた。


ニュースキャスター「また、この意識混濁が近日頻発している失踪事件に関与しているかどうかは―――」


俺「………どこに居るかは判ってんのか?」

ディーティー「どんな場所に居るかは判るけど、それがどこなのかは判らないよ」

俺「失踪して行方不明になってるって奴等も、そこに居るのか?」

ディーティー「多分ね」


ニュースキャスター「これらの事件について、政府は―――」


俺「場所の目星はついてんのか?」

ディーティー「ついてない。判っているのはそこに迷い込むための方法だけだね」

俺「その方法ってのは?」


ニュ-スキャスター「―――以上、亜門知事からのお言葉でした」


ディーティー「こっちの世界とあっちの世界を行き来する…扉だよ。ただし…それもあくまで片道切符、行ったら戻って来れないだろうね」

560: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/04(月) 05:39:04.45 ID:06MyNetQo
●いわかん


ノイズが走った


俺「で…エディー以外で扉を持ってる獣人とは、連絡が取れないのか?」

ディーティー「彼等も多分同じように捕まっちゃったんだろうね。多分獣人の持ってるゲートは全滅さ」

俺「んじゃぁ、どうやって………」


アパートの階段を下りながら、今後の対策について会議をする俺とディーティー…それと、子猫サイズにまで縮んだ神風。

ディーティーを右の肩に、神風を左の肩に乗せてて、俺は足を進めて行く。


ディーティー「あのさぁ…ちょっとは頭を使ってから話してくれないかな?残されたキミがそんな事じゃ、先が思いやられるよ」

俺「そうは言うがな…魔法の事に関しちゃぁ、俺はそんなに詳しく無いんだぜ?俺ん中にこいつ等が居なけりゃ……あぁ、そうか」

ディーティー「やっと気付いたかい?方法の一つはまずそれ…光と闇の核の力で扉の代わりを作れば良いんだけど…」


俺「いや、作ろうにも俺は作り方知らねぇし。ってか、核達は何かまたスリープモードに入ってんだよなぁ…」

ディーティー「やっぱり、期待するだけ無駄だったね。じゃぁ腹案だ、スピリットの力を復活させて………」

神風「すみません…私の力の回復にはまだ暫く時間がかかります」

ディーティー「となると後は、ケイエルの持っていた扉を探し出す……には情報が少なすぎるし………エーシーアイの扉はそもそも…」


何だか雲行きが怪しくなって来ちゃったぞ。


そして散々苦悩した挙句、ディーティーはやっと何かの決心をしたようだ。


ディーティー「仕方ない。こうなってしまったら、マ…カライモンに扉の代わりを作ってもらうしか無いか」

結論を出すまでの様子から伺える、カライモンに対する苦手意識。あぁ…そう言えばこいつ、罪滅ぼしで実験台になったんだったな。

しかし、文面から察するにカライモンは無事だったようで一安心。他人を頼るのも情け無いが、今はそこから逆転の手を捜すしか無い訳だ。


と、そんな事を考えていると…ふと階段の下に、知った顔を見つけた。

563: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/06(水) 06:05:09.07 ID:QVHUhWpXo
●そうぐう

俺「っと、誠司じゃないか。久しぶりだな」

誠司「あ、先輩…丁度良い所に。少しお尋ねしたいのですが、兄を見かけませんでしたか?」

俺「英司か?んー…2週間前くらいに酒をせびりに来て、それっきりだが…何かあったのか?」


学ランに身を包んだメガネくん…黒森 誠司、俺の後輩だ。


誠司「やっぱりその辺りからですか…いえ、その…失踪事件の事は知っていますか?」

俺「あぁ、ニュースでやってたな」

誠司「兄もずっと家に帰って来なくて…もしかしたら、また何かに首を突っ込んで巻き込まれたのでは無いかと……」


多分、誠司の予感は当たらずとも遠からず。

俺は少し考えた後、誠司の肩に軽く手を乗せる。


俺「んじゃぁ、俺の方でも気にしとくから、何か判ったら伝えるわ。ま、あんまし心配し過ぎんなよ?」

誠司「…ありがとうございます。では、よろしくお願いします」


そうして、軽く頭を下げてから立ち去る誠司。

状況から見ても、多分今回の件と無関係では無いだろうし…捨て置く訳にはいかない。

やる事が一つ増えた事に対し、俺は少しだけ疲労感を覚えた。


俺「んじゃぁ改めて、カライモンの所に………ん?」

改めて話を戻す…いや、戻そうとした所で、一つの存在が視界の端に映り込んだ。


10歳…あるいは11歳くらいの少女。

地面につきそうな程に長い、薄紫色のストレートヘアで…前髪は目にかかるくらいの長さ。

服装は…ゴシックロリータの分類だろうか、フリルまで真っ黒な洋服


異様な気配を放つその存在を、まじまじと見ていたせいか…あちら側も俺の視線に気付いて、視線を返して来る。

そして、小さく唇を動かし


少女「…………テ…」

消え入るような…聞き手が俺でなければ、届く筈の無いであろう程の小さな声で何かを呟いた。

567: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/11(月) 06:30:57.16 ID:aBq5S3D5o
●よりみち


ノイズが走った


マイ「黒森兄の行方…かね?。それなら、よく一緒に居る…何と言ったかね、あぁあれだ、弘康君にでも聞いてみればどうだね?」

俺「いや、それが。康の話だと、どーもマイの講義の直後辺りから姿が見えないみたいなんだよなぁ」


大学の正門前でマイに呼び止められ、物のついでに英司の事を尋ねる俺…

しかしマイの方も持って居る情報は殆ど無く、実質上は収穫無し。


マイ「まぁ、私の方でも何か判ったら連絡するとしよう」

俺「頼む、それじゃぁ俺はここで…」

マイ「あぁ、そうそう。少し待ってくれないかね?」


そして、立ち去ろうとする俺を呼び止めるマイ。

協力を頼んだ手前それを邪険にする事も出来ず、俺は立ち止まって振り返る。


マイ「新しいタイプの歯ブラシを作ってみたので、少し試してくれ。確かキミは虫歯になり易いタイプだったよね?」

俺「いや、さすがに今から歯磨きしてるような時間は…」

マイ「なに、そう時間は取らせんよ。と言うよりも、断る時間があったら実行した方が早く済むだろう?」


悔しいがマイの言う通り…ここから逃げ出すなり断る時間を考えれば、多分言う通りにした方が早く済む。

それを理解した所で俺は手を差し出し、マイはその手に歯ブラシを置いてくる。


俺「何だこれ…ブラシの変わりに付いてるのって…スポンジか?」

マイ「新開発の、水溶性フッ素式歯ブラシだ。まずは舌の上に乗せて唾液を染み込ませてくれ給え」

マイの言う通りにする俺…しかし、この実験には幾つかの問題点がある事に気付いた。


俺の身体…首から下はダークチェイサーにより構成されて居る事に関しては、説明は要らないと思うのだが…これにもう一つ付け加えておく事ガある。

首から上に至っても、表皮か口内に至っては多少のダークチェイサー化をしてあり…要は、虫歯にならない体質を作り出している訳だ。

となれば当然、マイの試みは正常な結果を出す事が出来ないのだが…それを説明する事は出来ない。


マイ「次に、頬の内側をスポンジの部分で擦って薬品を塗り込んでくれ」

俺「…こんな感じで良いのか?」

マイ「そうだね、上出来だ。では使用済みの歯ブラシをこちらに戻してくれ給え」


言われるままに歯ブラシを返し、マイはその歯ブラシをビニール袋の中に入れる密封する。

実験は一先ず終了。結果として…もどかしさと後ろめたさが僅かに残る物の、これでマイからの用件は済んだ

改めて俺は、本来の目的…カライモンの下へと向かう事となったのだが………


そこでまた、視界の端に例の少女が映りこんだ。そして―――

572: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/13(水) 05:40:24.18 ID:jxityo8Go
●ぱられる


ノイズが走った


カライモン「パラレルワールド…並列世界と呼ばれる物には、大きく別けて二種類の物が存在する」

俺「二種類?」


カライモン「片方は、今存在する世界とは別に実際に存在している双子のような世界…私はこれをAndの世界と定義している」

俺「もう片方は?」

カライモン「もしかしたら存在したかも知れない可能性の世界…仮定の世界。私はこちらをIfの世界と定義している」

俺「いや、その二つって具体的にどう違うんだ?」


カライモン「………そのどちらも目にしておいて、尚その言葉が出るのかね…」

俺「えっ?」


カライモン「まずAndの世界と言う物は、先にも言った通り双子のような世界…同じように誕生しながらも僅かな差が現れた、あちら側の世界の事だよ」

俺「…って、何だよその設定。あっちの世界の成り立ちなんて初めて聞いたぞ」

カライモン「あぁ、言って居なかったかね?しかしまぁそれは些細な事だ。それよりも、今回問題となっているのはIfの世界の方だ」


俺「些細じゃねぇよ!」

思わず突っ込んでしまう。


カライモン「Ifの世界と言うのは…」

しかし俺の抗議などカライモンは意にも介さず、パラレルワールドの解説を再開する。

カライモン「Andの世界にように並列して存在して来た世界では無く、本来の世界から分岐した世界…ありえたかも知れない可能性の世界の事だよ」


と、そこまで聞いてふと思い出す。ありえたかも知れない可能性の世界…そう言えばどこかで聞いた事がある気がするんだが…

もう少しで思い出せそうにも関わらず、あと一歩が出て来ない。

そして、思い出す代わりと言っては何だが…頭の中で、一つの疑問が沸き上がってくる。


俺「ん?でも、それってあくまで可能性の話で…実在しない世界なんだよな?何でそれが問題なんだ?」


カライモン「今回の敵…狭間に巣食う蜘蛛は、そのIfの世界から生まれた存在なのだよ」


俺「……………は?」

574: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/14(木) 05:40:28.33 ID:L61ZhO6fo
●へいれつ

俺「いや、だから。Ifの世界ってのは実在しないんだろ?だったらどうやって元の世界に干渉なんて…」

カライモン「現実に存在はしないが、空想としてなら…その個体という情報は確立している。そして、事実干渉して来て居るでは無いかね」

俺「それは、集団記憶混濁事件…あるいは、失踪事件の事か?んでも、幾らなんでもそんな話………」


あり得ない…と言おうとした所で、その言葉を飲み込む俺。

思い返してみれば、今まで戦って来た相手は…今までの常識ではありえない筈の存在ばかりだった筈だ。

俺は自らの浅はかさを反省し、カライモンの言葉を待つ。


カライモン「狭間に巣食う蜘蛛…あれはその名の通り、世界と世界の狭間に巣を張り、その糸を伝って世界間を移動する能力を持って居る」

カライモン「そして、Ifの世界の狭間から…こちらとあちらの世界の狭間にまでに糸を伸ばし、私達の世界にまで干渉するに到った訳だが…」


俺「ハル達は…いや、扉を使って世界間を行き来してた奴等は、世界の狭間にあったその糸に囚われた…って事か」

カライモン「その通り。そして、現状を見る限りでも、その糸は自力で脱出する事が出来ない物と考えるべきだろう」


俺「つまりはあれか?屏風の中の虎よろしく、Ifの世界から蜘蛛をおびき出して倒さなけりゃぁいけねぇと?」


カライモン「キミにしては大分、的を射た結論だね」

一言余分だが、お褒めに預かり光栄だよコンチクショウ

カライモン「しかし今回はその逆…Ifの世界に潜入し、蜘蛛を追いかける必要がある」


俺「そっちか…んでも、そんな事が可能なのか?」

カライモン「幸か不幸か…その手段は存在する。先も言ったが蜘蛛は糸を伸ばし、その糸で巣を作って移動する訳で…」


俺「あぁ、もしかして…俺達もその糸を利用して蜘蛛と同じようにIfの世界を出来るって事か?」

カイラモン「ご名答。しかし、それに関しては当然ながらリスクも存在する。糸の上を歩くと言う事は…」

俺「他の失踪者みたいに、糸に絡め取られる可能性もある…って事だよな?」


カライモン「その通りだ。文字通りミイラ取りがミイラになる可能性がある訳だが…それでも行くかね?」

俺「そんなの…行くに決まってんだろ。俺だけ平穏無事に逃げ隠れなんてしてられっかよ」

カライモン「では良いだろう、君に扉の術式とマーカーの術式を預けておく。私はここに残って、対策を練りつつ事態に対応するが…」


俺「っと…それはつまり、俺達のバックアップをしてくれるって事で良いのか?」

カライモン「さすがに同行するのはリスクが高すぎるのでね、そこまで過度な期待はしないでくれ」

俺「いや、扉を借りるだけのつもりだったから、むしろありがたいと思ってる。悪いな、俺達の問題なのにここまでさせちまって」


カライモン「あぁ、そういう事か。何、私としても無関係と言う訳では無いのだから気にする事は無い」

俺「そっか…そう言ってくれると助かる。んじゃぁ、ちょっくら行って来るぜ」


そう言って扉を開く俺

だが、この時点では予測する事も出来なかった。

まさか、俺が―――

576: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/15(金) 05:14:05.06 ID:uHf27aNXo
●はざまの


ノイズが走った


扉を潜った先…世界と世界の狭間。

景色一面に蜘蛛の糸が張り巡らされ、まるで幾重にも網をかけられた世界。


その隙間から見える糸も影がかかった糸で、それ以外の物が見当たらない。

そんな中で、ただ一つ特筆すべき点があるとすれば………

人が一人入りそうな大きさの、繭のような球体。


パッと見ただけでも少なくない数の球体が所々に存在し、その中でも一際目を引いたのが…

中央…何となくだが、中央だと感じる場所に存在する…一つの球体だった。


どこか懐かしく…それで居て、触れてはならない禁忌の匂いがする…それ。


俺はその球体を暫く見据えた後、何故か……それに手を伸ばしていた。


カライモン「それに触れてはいけない!その糸の一本一本が世界線だ!」

俺「えっ?」


どこからとも無く聞こえる、それを制止するカライモンの声。しかしそれを理解した時には既に遅く…

カライモン「そういう事か…れに絡まれ………戻れな…………」


球体に触れる俺の手。

その言葉を聞き終える事無く、カライモンの声が遠ざかって行き………

577: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/16(土) 05:13:14.67 ID:gALvZgMjo
●めざめる


ノイズが走った


瞼は鉛のように重い…にも関わらず、眩しい光を遮る役目を殆ど果たす事無く、不快感だけを与えてくる。

俺はそれに耐えられなくなり、何とかして重い瞼を引き上げ………

その瞳に、よく見知った人物…間違えようのその無い顔を映し込んだ。


俺「えっ………ハル?何でこんな所に?蜘蛛は………」

ハル「蜘蛛…ですか?この中庭では見た事ありませんけど、どうかしたんですか?」

穏やかな声で返答するハル。


どこか懐かしい感じのするその声に…俺は安堵すると同時に、何故か違和感を覚えた。


レミ「まさかとは思うけど…アンタまで例の記憶混濁を起こしてるんじゃ無いでしょうね?」

声がする方を見ると、そこには予防衣を纏ったレミの姿。そして、思い付いたように俺自身を見下ろすと…

案の定俺も予防衣を着ていた。


状況の変化に追い付く事が出来ず、周囲を見渡す俺。

判った事はと言えば、ここが以前来た事のある病院の中庭だと言う事…

そして、ハルとレミが居る世界だと言う事くらいだった。


何時の間に…何故こんな所にこんな恰好で居るのか…

違和感…いや、違和感と言う言葉だけでは済ませられない異変が起きている。


俺「悪ぃが…そのまさかかも知れない。色々確認させてくれ」


その異変を確かめるべく、二人に向けて問いかける俺。

そして更に気付けば、視界の先…二人の間から更にその先…ベンチの前に、佇む………例の少女。

つい先程見渡した時には存在しなかった筈のそれが、俺をじっと見据え……


次の瞬間…瞬きした直後には、俺の視界から消え去って居た。

581: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/18(月) 05:56:47.67 ID:oAwMA8ZZo
●いふから

ハル「ではまず事の発端、二人が意識を失う直前…アーカイブの中での出来事を覚えていますか?」

俺「あぁ…俺とレミで、ハルを探しにアーカイブの中に潜って…」

正確には、意識を失う寸前どころか大分前の出来事なのだが…あえてそれは触れずに置く。


レミ「アーカイブの崩壊寸前に、私達はハルを発見。あと一歩で連れ出せるって所まで行ったんだけど…」

ハル「間に合わず、私だけ先にアーカイブから排出されて…二人は崩壊に巻き込まれてしまった。レミちゃんからはそう聞きました」

レミ「で…私とアンタは崩壊の反動で脳にダメージを受けて………何ヶ月も昏睡状態にあった…と言う訳なんだけど。ここまでは覚えてる?」


俺「悪いが、思い出すどころか体験した記憶が無いんだと思う」

俺の言葉を聞き、ハルとレミが困った顔をしてお互いに見合っている。


ハル「…それで目覚めてからは、記憶とか体の機能とかを取り戻すためのリハビリをしていたんですけど…」

レミ「その辺りでは、完全にハルに迷惑をかけちゃったわよね…」

ハル「それは言いっこ無し。そもそも私を助けようとしなければ、二人共こんな事にはならなかったんだから」


と、一応ながらも一通りの説明を受け…確認を行った所で気付いた事が一つ。


俺「あ、そー言やぁ…ハルの方の記憶は大丈夫なのか?」

ハル「え?………あ、はい。大丈夫ですよ。私はちゃんと以前の記憶がある状態でアーカイブから連れ出して貰えましたから」

俺「そっか…」


つまり、その点が俺の居た世界のハルとは違う…

過去のハルが復活せず、本来のハルがそのまま復活した形になっているようだ。

あまり上手く動かない頭を何とかして動かし、俺は現状を一つ一つ噛み砕いて飲み込む。


俺「で、俺の記憶だと…ハルは魔法少女になる前のハルとして蘇って。そこから更に幾つもの事件に巻き込まれた訳なんだが…」

レミ「その、幾つかの事件っての物の記憶がアタシ達には無いわよ」

ハル「はい、二人の意識が失われてからは、私の方でも特に事件と言う事件は…」


俺「んー………聞けば聞く程俺の記憶とこの世界での出来事に差異があるなぁ。むしろ俺の方が記憶に自信無くなってくるぞ」

レミ「そうよ、聞いてる方からしたらアンタが変な妄想か夢を現実だと信じ込んでるようにしか聞こえないもの」


恐らくは記憶混濁事件の被害者もこんな感じなのだろう。

となれば…逆に記憶混濁事件の真相や原因にもある程度の察しが付いて来る。

そして、記憶混濁事件と失踪事件が同じ物なのだとしたら……と、今回の事件に対して考察を進める俺。


これらを裏付ける要素が他にも何か無いだろうか?そう考えながら、視線を自分の周囲に巡らせて、糸口を探すのだが…


見つけたのは、糸口では無く…糸その物だった。

583: ◆TPk5R1h7Ng 2015/05/19(火) 06:55:01.62 ID:O5VPIs5Uo
●いふへと

例の少女が現れ、消えた場所…

ベンチの脚付近に残った、一本の蜘蛛の糸。

カライモンが世界線と呼んでいた蜘蛛の糸なのか、この世界に棲むただの蜘蛛の糸なのかは判らないが…どうもその存在が気になった。


俺「なぁ…こっちの世界でも記憶混濁事件は起こってるんだよなぁ?」

レミ「そうよ。まぁ、そう言う意味では…アンタがさっき言った事件も、全く起こってないって訳じゃ無い事になるけど」

俺「で、この事件の犯人…ってか、原因に関しては何か掴んでるのか?」


レミ「まさか?そもそもこれが私達に関わりのある事かどうかも知らなかったのよ?」

ハル「はい…私も、貴方がそんな事を言い出さなければ特に気にも留めませんでした」


しかし二人は何も知らない様子…となると、蜘蛛に関する意見を求める事も出来ない。

となれば、確認する手段はただ一つ………正直どんな結果が待っているのかは判らないが、試さなければここから動き出す事すら出来そうに無い。

俺「んじゃぁ…ちょっと確認してくるわ。俺が居なくなっても、あんまり驚くなよ?」


そう言い残して、俺は糸に手を伸ばす。


レミ「ちょっと…それってどう言う…」

ハル「えっ………」


戸惑う二人を背に、指先で糸に触れる俺。

ただここで予想外だったのは…

もう片方の手に触れる、誰かの手の感触があった事。


誰かと言っても、俺以外ではその場に二人しか居ないのだから、別に考える程の事でも無いのだが…


手の主はどちらなのか…それを確認する暇も無く、あの感覚が俺に迫り来て居た。

588: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/12(金) 05:00:23.85 ID:SXNr5Fz/o
●しのくに


ノイズが走った


ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン………と、周囲に鳴り響く鐘の音。

周囲に人の気配は無く、見慣れたいつもの街並みが静寂に包まれている。

その光景はまるで、死の世界…いや、無の世界と表現するのが正しいのかも知れ無い。


何故こんな場所に迷い込んだのか…

いや、何故こんな場所に来たのかと言えば、その答えは明白だ。

俺があの蜘蛛の糸に触った事が理由に他ならない。


しかし問題は、何故迷い込んだ場所が…こんな場所なのかと言う事だ。

そこに在るはずの意図は見出せず、帰る糸も見付かりはしない。

袋小路…もしかしたら、俺は詰まされるために誘い込まれただけなのかも知れない。


そんな事を考え、気持ちが焦り始めた瞬間…


ハル「この世界では…誰も生きて居ません。停滞と言う名の死が世界を支配しています」

何時からか…はたまた最初から其処に居たのか、言葉を紡ぎ始めるハル。

そして俺は………ハルの紡いだ言葉から、一つの事を思い出した。


俺「停滞によるの死の世界って…それって確か、光の恩恵派の…」

ハル「はい…恐らくここは、光の恩恵派の目的であるダルマサンサーラが成された世界でしょう」

そう告げた後、更に背後を指差すハル。


そこにあったのは…ハルの言葉を裏付けするに足る存在…


鐘の音が鳴る教会を覆う…

ライトブリンガー、ハレルヤ…かつてハルが成ったその存在の亡骸だった。

589: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/12(金) 05:04:52.34 ID:SXNr5Fz/o
●あいつと

教会の中。

唯一の手掛かりである、その建物の中へと進む事を決めた俺達。

カタコンペ…そう書かれた札の、更にその先にある階段を下りた場所で…俺達を待っていたのは、見覚えの無い一人の男。


顎からは黒く長い髭を伸ばしていて…背中から生えた翼は、男が獣人である事を示唆している。

ハレルヤ「君達は…何故生きて……んいや、蜘蛛の影響で並列世界から来訪したのか」

そして、男から放たれた胡散臭い声が俺の耳に届くのだが…目の前のこの男の正体に関しては、思わぬ所から答えが飛び出して来た。


ハル「ハレルヤ…ケイエル」

俺「………は?」

ハル「貴方も知っての通り…私をライトブリンガーにした黒幕にして、この世界を停滞の死に追いやった張本人です」


ハレルヤ「相変わらず…私の思想には賛同してくれないようだねぇ。現存するこの世界を見て、何故そんな言葉が出て来るのだろう、あぁ…判らない」

俺「いや、何言ってんだ。こんな世界を見て何にどう賛同しろって言うんだよ。こんな人っ子一人居ない世界の何が良いってんだ?」

ハレルヤ「君に至っては理解すら出来ないようだねぇ。まぁ良いだろう、簡潔な言葉で説明をしてあげよう」


俺「………」

ハレルヤ「蜘蛛…あれは、何らかの意思が持つ虚構の並列世界に巣食い、それを食らい糧とする」

俺「それは俺も知ってる。とある情報通から聞いたんでな」


ハレルヤ「では、その虚構の並列世界を生み出す物は何か…それもおのずと判るだろう?」

俺「人…と言うか、生きる物の意思だろ?」

ハレルヤ「その通り…では、その不確定なる混沌を浄化し、この世を秩序で満たしたのならば…」


俺「その世界を蜘蛛が狙う事は無くなる…そう言いたいってのか?ふざけんな!」

ハレルヤ「しかし事実、この世界は蜘蛛に襲われて居ない。君達のような例外を除けば、正に平和その物では無いか」


俺「馬鹿馬鹿しい。誰も居なくなって平和になった世界に何の意味があるってんだよ」

ハレルヤ「それは価値観と見解の相違と言う物だね。私は人にそれ程の価値を見ない」

俺「………」


と、いつまで経っても平行線のまま進まない話。

直接顔を合わせて居なかった元の世界でもそうだったが…やっぱりこいつとは判り合えないようだ。

590: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/12(金) 05:10:49.93 ID:SXNr5Fz/o
●わかつわ

ハレルヤ「さて…お喋りが過ぎてしまったねぇ。君達は私にとって招かざる客。君達にしてもここは本来、来るべき場所では無かった筈だ。早々に立ち去るが良い」

俺「言われるまでもなく、俺だってそうしたい所だが…あぁ、そうだ。薄紫色の髪の女の子がこの世界に来て無いか?」

そう、余りに突然な出来事の連続で忘れて居たが…この世界に来た原因は恐らくあの女の子だろう。その事について何も解決しないままだった。


あれだけ何度も意味深な登場をしておいて、気にするなと言うのが無理な話。

きっと今回の出来事に大きく関わっていると見て間違いは無い筈

まずは、示された先のこの世界で手掛かりを探すのが無難な選択だと思うのだが…


ハル「………」

ハレルヤ「この世界には居ない…と言うよりも、もう居ないと言った方が正しいのだろうねぇ。今はすぐ隣の世界に居るようだ」

意外な程にすんなりと、その糸口を掴む事になった。


ハレルヤ「しかし君は、その少女の正体を知っているのかねぇ?」

俺「何となくの予想は…な。まぁ、色々と不可解な所はあるが…逆にそこに希望もあると思ってる」

ハレルヤ「ならばその点への口出しは野暮としておこう。が、しかし…そこに彼女を連れて行く気かねぇ?」


と言ってハルを指差すハレルヤ。

正直な所、一人でも味方が多い方が助かるが…このハルは本来の俺や蜘蛛の事件とは関係無い。

本来ならば、巻き込んでしまったハルを元の世界に戻す事が優先なんだろうが…


ハル「狭間に巣食う蜘蛛を倒しに行きましょう。私も放ってはおけません」

ハルは、俺の結論よりも早く………以前の、俺の知っているハルと同じ、聞き覚えのある語調でその意思を示して来た。

既視感と言うべきか…そんな感覚を俺は覚えた。


ハレルヤ「と言っているが…」

俺「まぁ、こうなったら曲がってくれねぇからなぁ…ハルは」

ハレルヤ「ふぅむ…それが君の選択であるのならば、私からの言葉は一つだ」


俺「何だよ」

ハレルヤ「後悔も納得も、全て自分自身の選択の先にある。汝が良き未来を迎えん事をここに祈ろう」

俺「それ、祝福ってよりフラグじゃねぇか!ってかわざとか!?わざと言ってるだろ!?」


と、ハレルヤからありがたくも無い助言を貰い…


俺達は、蜘蛛の居る…いや、蜘蛛の待つ世界への扉を開いた。

591: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/12(金) 05:14:13.58 ID:SXNr5Fz/o
じぜんに


ノイズが走った


カライモン「蜘蛛と遭遇したようだが、もう決着はついたのかね?」

扉を潜り、蜘蛛の居る世界に行く筈だった俺…その耳に突然飛び込むカライモンの声。

見渡した周囲には、白い線で描かれた地面以外に何も無く…地平線だけが無との境界線を作っていた。


俺「いや、まだだ。ってか、出発してから…どこからどこまでそっちで把握出来てる?」

カライモン「君が世界線に触れてから、今の今まで何も………まるで何者かに遮られたかのように情報を得られなかったよ」

やっぱりな…連絡が無かったのはそう言う訳か。


俺「蜘蛛と遭遇したって事が判ったのは?」

カライモン「簡単に言えば痕跡が残っていて、そこの差異から判断した。それ以外の詳細は判らないから説明してくれ給え」

俺「まだ断言は出来ないが、蜘蛛…ってか、多分蜘蛛が姿を変えてる奴は判った」

カライモン「それで、何か進展は?」


俺「まだ…ってーか、今正に蜘蛛の居る世界に行く所でここに迷い込んだ。そもそも何なんだ?この世界は」

カライモン「あぁ、その事なら心配には及ばない。ここは私が作った並列世界だ、すぐにでも元の座標や目的の座標に移動出来る」

俺「相変わらずのチートっぷりだな…」


カライモン「しかし、この先の世界でも先程までと同等の妨害がある可能性が高そうだね…よし、そちらの方も何とかしてみよう」

何とかしてみようと断言した以上は本当に何とかしてしまうのだろうな…

と、こうして何時までものんびりしている訳には行かなかったんだ。


俺「んじゃ、そっちの方はよろしく頼む。悪いが俺は急がなけりゃいけねぇんだ」

カライモン「そうだったね、また蜘蛛に逃げられる訳には…」

俺「いや、訳あって並列世界のハルも一緒に蜘蛛を追って一緒に移動したんだ。先に一人行かせたままだと心配だからな」


そう言って改めて扉を開く俺。

カライモン「成程…では、詳細はまた後で確認させて貰おう。モニタリング出来ない間は、くれぐれも無茶はせず退避に努め給えよ」

俺「ありがとな。それじゃ行って来る」


カライモンに一旦も別れを告げ、扉を潜る。


蜘蛛の待ち受ける世界…そこで待ち受けていたのは………

592: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/12(金) 05:29:34.40 ID:SXNr5Fz/o
●たたかい

ハル「さぁ…散々手を焼かされましたが、これで鬼ごっこはお終いです」

ライトブリンガー姿で、ヤンデレモードの時のように瞳を濁らせたハルが…薄紫色の髪の少女を追い詰めている場面だった。


俺「って…遅れてる間に何でここまで展開が進んでんだよ!ちょっと待ってくれハル、その子と話す事が――」

ハル「―――え?」

俺が制止の声を上げ切るよりも早く、振り抜かれる光の刃。


しかし少女は辛うじてそれを避け、脱兎の如く駆け出して行く。

そしてその少女を、今度は俺が追いかけ…


何の因果か、はたまた奇妙な偶然か………辿り付いた先は、例の廃工場だった。


俺「なぁ…お前が、狭間に巣食う蜘蛛なんだろ?」

少女「タスケ…テ………」

行き止まりに追いやられ、立ち止まる少女。俺はそれに問いをかけるが、返答は無く…少女の口からはただその言葉だけが紡がれる。


俺「安心しろ。俺はお前の敵じゃない。お前は何も悪い事して無いもんな」

少女「ホン…トウ?」

俺「あぁ、本当だ。俺の今回の敵は、お前じゃ無くて…他に居るんだからな」


俺「なぁ、聞こえてるんだろ?……ディーティー!」


今はまだ見ぬ聞き手に対し…俺は、周囲に木霊するように声を張り上げた。

594: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/20(土) 04:40:26.70 ID:JdQV9+5Jo
●しんそう

ディーティー「ふふ…フフフフフフ、アハハハハ!良く判ったねぇ!」

工場内に響くディーティーの声。

それに続くように周囲の景色が変わり、今まで不可視化されていたであろう蜘蛛の糸が周囲に現れる。


ディーティー「本当なら、もう少し弄んでからばらそうと思ってたんだけど…思ったよりも早く辿り付いたじゃないか」

そして遂に姿を現すディーティー。

今回は、蜘蛛の胴体から異形化した人間姿の上半身が生えている。


俺「毎度毎度ワンパターンなんだよ、お前は。それに今回は、あからさまに怪しい伏線…いや世界線もあったしな」

ディーティー「へぇ…言ってごらんよ、合ってるかどうか答え合わせしてあげるよ」


俺「俺が病院で目覚めた世界…あの世界ではドゥンケルシュナイダー事件が起きて居なかった」

俺「おかしな話だろう?俺が健在だった世界でもあの事件を起こしてた奴が、俺とレミが動けない世界で大人しくしてるなんてな。…で、幾つか考えた」

俺「事件を起こさなかったのは、どうなるかを知っていたから…ハル一人が相手でも負ける事が判って居たから。あるいは…」


ディーティー「あるいは?」

俺「あの世界以外にも、向ける矛先とその手段を見つけたなら……そう、お前がダークチェイサーだけでなく蜘蛛もその身に取り込んだのなら…」

ディーティー「空想の世界を飛び出し、現実の世界の君達に襲い掛かる…か。まぁ、90点って所かな」


俺「で、ついでに言っておくなら…この薄紫色の髪の女の子は、蜘蛛の本体だ。多分、お前に乗っ取られ切らずに逃げ延びたんだろうな」

ディーティー「正解。いやぁ、そこの蜘蛛を追いかけるのは結構手間取った手間取った」

ディーティー「空想世界が存在しないケイエルの世界に逃げ込んだ時は、どうしようかと思ったけど…君達が一緒に追ってくれたおかげで助かったよ」


俺「ついでに、現実の世界での集団記憶混濁事件と失踪事件の方も聞いとくが…あれもお前の仕業だな?」

ディーティー「否定はしないけど…断定する以上は根拠があるんだろうね?」

俺「ありもありで大アリだ、ディノボネラくらいのな。いや…大蜘蛛だからゴライアスバードイーターか?」


少女「………」

と、上手い事を言おうとして話がズレまくってしまった。


俺は一度咳払いをして仕切り直す

595: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/20(土) 04:41:29.64 ID:JdQV9+5Jo
●ついせき

俺「あれは二つの事件なんかじゃ無くて、糸…世界線を使った並列世界の強制移動だろ?」

俺「移動する前の世界では対象の人間が居なくなって、移動した先の世界では前の世界の記憶との辻褄が合わなくなる…まぁ、蓋を開ければ単純なカラクリだ」

ディーティー「うんうん、良いよ良いよ。94点をあげちゃおう」


事件の真相を暴いたってのに、たったの4点かよ


俺「そもそも、頻繁に走るノイズもそうだ。あれも並列世界を移動した影響と考えればしっくり来るし…多分気付かない間に世界線に触れてたんだろうな」

ディーティー「ノイズ?いや、世界線トラップは沢山張っておいたけどそれは知らないなぁ。あ…そうか、ふーん……そう言う事か」


俺「いや、何しらばっくれた挙句に一人で納得してんだよ!」

ディーティー「教えてアゲナイヨ、ジャン♪って言うか何で敵にそこまで教えて貰おうとするかなぁ?ここまで答えてあげたのもありえない大サービスだよね?」

俺「っ………」


いけしゃぁしゃぁと繰り出される言葉。しかも正論なだけにぐぅの音も出ない。


俺「まぁ良い…とにかく今回の事件の真相が判った訳だ。後はお前を倒して一件落着させて貰うぜ」

ディーティー「それまた勇ましい事で…で、ボクを倒すって、どうやって?」

俺「そんなの……」


と、言いかけた所で思い出す…今の状態。

光と闇の核は未だに休眠状態にあり、味方も居ない。手助けしてくれているハルに至っては、まだここに辿り着く気配が無い。

………となれば


俺「ダークチェイサー達の力で…」

ディーティー「どうにかなるような状況だと思う?ドゥンケルシュナイダールートのボクならまだしも、今のボクは狭間に巣食う蜘蛛の力を持って居るんだよ?」

俺「…………」


またも反論の言葉を出す事が出来ず、口篭るだけの俺。しかし、だからと言って諦める訳にも行かない。

やれるだけの事をやる…そう決心して、ディーティーを睨み付けた、その瞬間…


カライモン「何、心配する必要は無いよ。丁度今完成した所だ」


まるで硝子のように罅割れる空間。そして、その隙間から姿を現したのは―――

596: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/20(土) 04:43:34.46 ID:JdQV9+5Jo
●どらごん

俺「カライモン…なのか?その姿は、まるで……」

カライモン「研究の成果の一つ…根幹を食らう竜の力をこの身に宿す事に成功したのだよ。まぁ、さすがにこの世界での未来視までは出来ないがね」

そう…根幹を食らう竜のような角と翼と爪…それと尾を、カライモンが有していた。


カライモン「どうだねこの姿は?あぁ、そうそう…この姿を名付けるのならば、そう…モード・ニーズヘッ…」

俺「ドラゴンフォームのカライモン…ドライモンか!」

ドライモン「やぁ、ぼくどらいもん~…って、何を言わせるのだねキミは!!」


あぁうん…言われてみて気付いたが、確かにアレっぽい。さすがにアレがアレだとアレなので、訂正しようとするのだが…


ディーティー「ドライモン…まさか、根幹を食らう竜の力だなんて…」

その暇すら与えられる事無く、定着してしまったその名前。

しかし…それに突っ込みを入れる事も憚られる程に、ディーティーの声色は異質な物になっていた。


ドライモン「…まぁ、名前に関しては後々訂正させるとして…ここで戦うのはお互いに得策では無いだろう。場所を変えないかね?」

と言うか否か、真っ黒な球体を作り出して俺と少女…加えてディーティーや自分自身を包みこむドライモン。そして…


ノイズが走った


強制的に転移させられた先は、狭間の世界………蜘蛛が広大な巣を張った、完全なアウェイである。

ちなみに…気のせいか、以前来た時よりも球体の数が増えている気がする。


俺「おい、ここって蜘蛛の巣…相手のフィールドだろ?よりにもよって、何でこんな所に…」

ドライモン「その辺りは複雑なのだけど…まぁ簡単に言えば、あのまま倒してしまったら皆を助け出せなくなる可能性がある…とだけ言っておこう」


納得出来ないけれども凄く判り易く端折った説明をありがとう。


俺「でもそれってつまり…ここでなら倒しても問題無いって事で良いんだよな?」

ドライモン「説明したままの通りだよ。と言っても…キミの役割はディーティーを倒す事では無く他にあるので、そこは気にしなくても良い」

俺「は?他の役割?いやいや、そんなの何も聞いて無いぞ!?ここでラスボスを倒す以外に何をしろってんだ!?」

ドライモン「言って居ないからね。まぁ…まずは、そこで見学でもしていてくれ給え」


と……こうして、何だかんだでディーティーとの決戦が始まった。

597: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/20(土) 04:48:11.43 ID:JdQV9+5Jo
●きりふだ

切り結ぶ、蜘蛛の爪と竜の爪…

ドライモンは蜘蛛の巣の合間をねって飛び回り、ディティーの放つ糸を軽やかに避けて…背部一撃を加える。

しかしディーティーの方も負けてはおらず、その一撃と同時に反撃の爪をカライモンの翼に放ち…僅かにその体制を崩させて………


ドライモンの頭上に現れる、もう一体の蜘蛛…ディーティーと全く同じ姿をしたそれ。

その蜘蛛は、その爪を以って背後からドライモンに襲い掛かる…が、ドライモンもそれを黙って受けはしない。

突如、ドライモンの背後に現れる謎の魔法少女…いや、魔法少女達。

機械パーツをあしらったその服装からして、ドライモンの関係者である事は見て取れる…が、その詳細を問う暇は無さそうだ。


   中略


蜘蛛の巣の中央で対峙する、ディーティー達とドライモン達。

途中何度か、ディーティーは並列世界から無傷の自分を呼び出してバトンタッチしていたが…今となっては、それを行うだけの余力は残って居ない様子。

対するドライモン達に至っては、僅かなダメージを受けたのみで疲弊の色は見られない。


恐らくは次の一撃がトドメだろう…そう予想していた俺の方に、不意にドライモンが顔を向けて来る。


ドライモン「さて…それではそろそろ君の出番だ。一応確認しておくが、このディーティーは私達の世界に居たディーティーでは無いと理解しているね」

俺「あぁ、判ってる。どこで入れ替わったかは知らねぇけど、Ifの世界のディーティーだろ?」

ドライモン「理解しているのならば話は早い。では…本物のディーティーと区別するために、これを何と呼称する?」


ディーティー「っ……やっぱり…そう言う………」

俺「そうだな…ディーティーアナザー…ディーティーAとでも呼んでおくか?それで良いか?」

ドライモン「問題無い。では、ディーティーAを消し去るとしよう。そう…二度と復活も干渉も出来ないようにね」


そう言い放ち、両手を広げるドライモン。

そしてその両手のガントレットが形を変え…二つの竜の頭に変化する。


俺「って…おい!それってまさか………」

ドライモン「そう…根幹を食らう竜のアギトだよ。君の知っての通り、これに食われた者は…」

俺「その存在その物が消し去られてしまう…って、そんな事しちまったらディーティーが―――」


ドライモン「その点は心配無用…そのためにあそこのディーティーAに名前を付けて貰ったのだからね」

俺「…は?名前?いや、そんな事で大丈夫だなんて保障があんのか?!」

ドライモン「ある。まぁそれに関する詳細は、いずれ時が来たら話すとしよう」


と言って、俺の納得を待つ事無くディーティーAへと突撃するドライモン。


その両手の、大きく開かれた竜の口がディーティーAへと迫り―――

598: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/20(土) 04:51:49.27 ID:JdQV9+5Jo
●おくのて

ディーティーAの身体に、竜の牙が食い込んだその瞬間…目の前には信じられない光景が描かれた。


ドライモンの体を貫く、光の刃…そして、その光の刃を担う………ハルの姿。


俺「なっ………何してんだよ!ハル!!そいつは根幹を食らう竜の力を得たカライモンだ!お前の敵じゃないんだぞ!?」

ハル「大丈夫、判っていますよ。ただ、彼女の早まった行動を止めようとしただけです」

静かに…冷淡な声で返すハル。俺はこのハルの声色の意味を知っている。


ハル「貴方も言ったじゃないですか、確証も無しに根幹を食らう竜の能力でディーティーを食らえば、本物のディーティーも消えてしまうかも…って」

気付かなかった…いや、違う。気付くだけの情報を幾つも得ながら、あえてそれを考えないようにしていただけだった。

俺「頼む、ハル…それ以上余分な事を言わないでくれ」


ハル「余分な…あぁ、私ってば駄目ですね。やっぱり貴方に嘘を吐くのは苦手みたいです」

多分その言葉自体は偽りの無い事実だろうが、ハルの意図はその声色から伺う事が出来てしまう。


そう…あの声色は………敵に嘘を吐いている時の声色だ。


カチリ…カチリ…と音を立て、頭の中で幾つもの違和感と伏線が噛み合って行く。

止めろ…止めてくれ。こんな謎解きはしたくない。

知りたくも無い答えだと言うのに、考え出してしまうとそれが止まらない。


ハル「さぁ、それでは全部片付けて帰りましょうか………私達の世界に」


俺「悪ぃがそれは出来ない」

ハル「どうしてですか?」


俺「説明しなくても判るだろ?それより教えてくれ………どうしても判らないんだ」

ハル「何がですか?」


何で…どうしてディーティーAと組んでるんだ?


ハル「………」


ハルはその問いに答える事無く…不気味な程に透明な笑みを俺に向けて来るだけだった

599: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/20(土) 04:57:58.88 ID:JdQV9+5Jo
●かいせき


おかしな所は幾つもあった


ハル『え?………あ、はい。大丈夫ですよ。私はちゃんと以前の記憶がある状態でアーカイブから連れ出して貰えましたから』

以前の記憶があるハル…それはつまり、以前の記憶が無いハルが存在していた事を知っていると言う事。


ハル『狭間に巣食う蜘蛛を倒しに行きましょう。私も放ってはおけません』

ハルの前では、狭間に巣食う蜘蛛の事を…蜘蛛…としか呼んで居ない。


ハル『さぁ…散々手を焼かされましたが、これで鬼ごっこはお終いです』

いつから手を焼いていた?どんな理由で?


ハル『貴方も言ったじゃないですか、確証も無しに根幹を食らう竜の能力でディーティーを食らえば、本物のディーティーも消えてしまうかも…って』

そもそも、ドゥンケルシュナイダー事件で和解してないなら…ディーティーが消えても何の問題も無い筈だろう?


そう…あの世界に存在するハルならば知らない筈の事を、あまりにも知り過ぎて居た。


俺「くそっ…残りの6点の答えがこれかよ。これで100点満点なんだろ?ディーティーA!」

ディーティーA「98点って所かな、まだまだ大事な所が判ってないよ?」

ハル「…ディーティー」


ディーティー「おっと、喋りすぎてしまったみたいだ。ここから先はハル自身に話して貰おうか」

と言ってハルに発言を促し、口を閉じるディーティー。


それに続くように、ハルは視線をこちらに戻し…語り始める。

600: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/20(土) 04:59:29.61 ID:JdQV9+5Jo
●いきさつ

ハル「まず始めに…そうですね、私の居たIfの世界が誕生した所から始めましょうか」

ハル「と言っても、貴方の事ですからもう察しは付いているんでしょうし。一応確認だけしてみますか?」

俺「俺がアーカイブの中でハルに手を伸ばす直前…あの時に見た光景が、分岐したIfの世界だったんだろ?」


ハル「はい、正解です。あの時二人に望まれ、私とあの世界は生まれました」

俺「………」

ハル「ふふっ、さすがにここまで情報が出揃えば、推測もすんなり進んでくれるみたいですね」


ハル「ですが…全てが望んだ通りにとは行きませんでした」

俺「病院の中庭で聞いた通り…数ヶ月の間、俺とレミが昏睡状態になってたんだよな」

ハル「半分正解で半分不正解です」


俺「半分?」

ハル言葉を聞いて、背筋を嫌な感覚が駆け上がる。


ハル「昏睡状態になってから数ヵ月後のあの瞬間…ほんの一瞬、目覚めた時以来。二人が…目覚める事はありませんでした」

そう…そのたった一言で全てが繋がった。


点と点を線で繋ぐ…と言うよりも、ガラスに刻まれた弾痕と弾痕がヒビ割れて繋がるような感覚。

ヒビは亀裂へと変わり、やがて砕けて破片に変わる。そして砕けた破片は、鋭利な凶器となって降り注ぐ。


ハル「DTもエディーさんも…マイさんも尽力してくれたんですよ。でも…」

蛇足とも言えるその言葉に、何も返す事が出来ない俺。

伝えるべき事は全て痛い程に伝わった…にも関わらず、ハルの口から止め処なく言葉が紡がれる。


ハル「希望を持ち…絶望して………それから私が、新たに何を望んだのか…想像が付きますよね?」

俺「取り戻せないんなら、また新たに手に入れる…それこそ、どんな手を使っても…だろ?」

ハル「はい。魔法…ダークチェイサーにライトブリンガー……ありとあらゆる方法を模索して、見付けました」


俺「この子…狭間に巣食う蜘蛛か」

ハル「その通りです」

601: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/20(土) 05:03:57.22 ID:JdQV9+5Jo
●よくぼう

ハル「本当の世界とIfの世界を繋ぐ事が出来る存在…ミクトランより這い出した蜘蛛」

ハル「絶望の最中で再会して和解したディーティーと一緒に、その蜘蛛を取り込んで…まぁ、取り込み切れずに一部を逃してしまったんですけどね」

ハル「ともあれその蜘蛛の能力により、私は二人が生きている世界を…本当の世界を知りました」


俺「………」


ハル「最初は…自分が虚構の存在だと知って戸惑いましたが、それにも馴れて…色んな事を考えるようになりました」


ハル「どうしてあの世界の私には二人が居て、私には二人が居ないのか!」

ハル「私とあの世界こそが…二人に望まれて生まれた世界なのに、何故二人が居ないのか!」

ハル「望まれていた私と、二人が一緒に居る世界こそが本当に望まれた姿の筈です!」


ハル「………そう考えたら、答えはすぐに出て来ました」


ハル「私があの世界に行くか、あの世界の二人を私の世界に呼び込むか…どっちにしたかは、今更説明する必要もありませんよね?」

俺「それが今回の事件だからな…んでも、何でそっちの方法にしたんだ?」


ハル「あの世界には、既に私が居たからですよ。勿論力ずくで入れ替わる事も出来ましたが、それは目的を考えれば得策ではありませんでした」

俺「確かに…いきなりハルを並列世界のハルが乗っ取ったりなんかしたら、俺達の中に警戒心や敵対心が湧かない訳無いよな」

ハル「と言う訳で…何度かの実験を繰り返した後、二人を呼び込む事にしたんですが……そこで問題が起きました。想定しては居た事なんですけどね」


俺「案の定、元の世界のハル達の抵抗に逢った…この子が俺達に助けを求めて来た…って所か」


ハル「それもありますが…一番の問題は貴方です。何かしらの方法で抵抗はするとは思って居たんですけど、この方法は除外すると考えて居たので」

俺「……ん?それはどれの事だ?俺はどっちかって言うと、抵抗って言うよりも流され流されここまで来てるんだが…」

ハル「自覚出来ないのであれば、そのままで結構です。ただ…」


と、言葉の途中で光の刃を構えるハル。そして何故か、その刃を俺に向けて構え…


ハル「このままだとトゥルーエンドにはなら無いので………消えて下さい」


――――俺に向けて振り下ろす

602: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/20(土) 05:06:53.15 ID:JdQV9+5Jo
●ほんとう

俺「―――っ!?」

だがその刃は俺に届く事無く、何者かによって遮られた。

黒く長い髪…赤褐色の鎧……特徴ある後姿だけ確認すれば、それが誰なのかはすぐ判る。


俺「ド…いや、カライモン!無事だったか!」


謎の魔法少女達も、根幹を食らう竜の力は跡形も無く…普段の姿に戻ったカライモン。

装甲の大部分が砕けて居るが、胴体に受けた傷は治癒している。


ハルの意味不明な行動を前にして、困惑を続ける俺の思考…それを彼女の復活が、一旦纏め上げてくれた。


カライモン「元々しぶとさが売りなのでね。君達が長々と解説してくれている内に休ませて貰ったよ」

と言って俺の方へと振り返るカライモン。

装甲と同様にヘッドギアも破損し、その奥には彼女の素顔が見える。


思い起こせば、初めて見る彼女の素顔………

にも関わらず既視感を覚え、それが更に違和感と一致感と混ざり合って行く


あぁ、そうか……

ん?

いやいやいやいやいいやいや


俺「ってお前、マイじゃねぇかよ!!!」

カライモン「なっ!?」

突っ込みを入れる俺、そして何故か素っ頓狂な声を上げて驚くカライモン…いや、マイ。


カライモン「な、何故!?い、いや私は亜門マイなどでは無くっ…!」

俺「いやいやいや、昔と違って痩せてっけど、子供の頃のマイそのまんまじゃねーか!」

カライモン「待ち給え!どこがだね!?第一私はあの頃と違ってストレートヘアだぞ!?」


俺「どこも何も、その顔も声も全部マイじゃねーかよ!」

俺「前々から、何となくマイっぽい声や口調だとは思ったが…以前俺の部屋で二人共…ってあぁぁぁ!カライモンレンジャーの時と同じ要領か!」

俺「ってか、髪型なんか誤差だろ?俺の事を、人を髪型で区別する奴か何かだとでも思ってんのか?」


ハル「…えっ?」

ディーティーA「え………」

カライモン「違う………のかね?」


俺「お前等…揃いも揃って、人を何だと思ってやがる」

三人「「「サイドテールで人を区別する変態」」」


Oh………想像以上に酷い答えが返って来た。

603: ◆TPk5R1h7Ng 2015/06/20(土) 05:13:55.15 ID:JdQV9+5Jo
●なおして

俺「あー…ってかもう、とりあえず落ち着けマイ」

熱論により熱くなるマイをなだめ、平静を促す俺。


本来は緊迫すべき決戦の中、思わぬ所から崩れこんでしまったこの空気…それを本来あるべき流れに直すべく、俺はハルとディーティーAを見据える。

そして、やっとの事で平静を取り戻したマイもそれに続き…ハル達もそれに応えるように視線を返す。


カライモン「それでは…聞きたい事は山程あるだろうが、それは後回しにして……一体この先どうするのだね?」

俺「どうするもこうするも…」

と、その先を口に出そうとする所で止まってしまう俺。


どうする?

どうすれば良い?

いつものように、黒幕を倒してハッピーエンドか?何だかんだで和解すれば良いのか?


いや、そうは行かない…俺にハルを倒す事なんて出来やしない。

ハルがライトブリンガーになって、世界を滅ぼしかけた時だってそうだ…ハルのためだから、ハルを倒す事が出来たに過ぎない。

今回は、並列世界の存在とは言えハルと対立して戦わなければいけない…戦わなければ、ハルを助け出す事が出来ない。


無理だ。

となれば…


俺「なぁ…」

ハル「話し合いで解決する事は出来ませんよ?私は二人を手に入れるまで、退きませんから」

俺「だよなぁ…」


カライモン「ふん、彼を消し去ろうとしておいて何を今更言っているのだね」

あぁ、そうだ。そう言えば俺はついさっき、ハルに消されそうになったんだが…その辺りの事を全く説明されていない。

ハル「あぁ…その様子だとやっぱり気付いて居ないんですね。彼への愛がその程度と言う事ですよね?」


いや…緊迫した会話の中で悪いが、突っ込ませてくれ。マイは俺に対してそういう感情を持って無い。

607: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/15(水) 06:25:22.47 ID:u4sgglpZo
●できない

カライモン「成程…自分だけが持って居る情報に優越感を持ち、それを見せびらかしたくてたまらないと言った所だね」

ハル「そう取って貰っても構いませんよ」

カライモン「しかし、見せびらかせば見せびらかす程その全容も見えて来る。留守になった足元を掬われるぞ?」


初めて見る、ハルとマイの口論………一見するとただの問答だが、その水面下には敵意が隠れているのが嫌でも判る。


ハル「では試してみましょうか、全ての足を掬うのが先か…」

カライモン「ご自慢のアベレージが、この勝負を決めるか…」


火花散る中、その場に居る者全員が再び臨戦態勢を取る。

ハルは全身から光の刃を形成し、ディーティーは蜘蛛の大群を召還。マイは、右手だけを竜のアギトに変え………


俺「って…もしかしてまだダメージが残ってるんじゃないのか?ってか、竜の力はさっきので………」

そこで思い出す。本来の世界でも、ハルのライトブリンガーの力は、根幹を食らう竜を封印するだけの力を持っていた。

そしてカライモンは、その竜の力を使って居た訳だから…


カライモン「あぁ、力の大部分を封じられてしまった。悔しいが、この状態でハル君と正面からぶつかるのは好ましく無いね」

予感的中だったようだ。


俺「だったら、俺がハルと戦って…カライモ…マイにはディーティーAを片付けて貰うってのが得策か」

カライモン「この姿の時はカライモンと呼んでくれて構わない」

そして交わされるのは、肯定の言葉を必要としない意思の疎通。


俺は改めてハルに向き直り、臨戦態勢を取る。

…と言っても、このままの状態では勝ち目が無いのは明らか…何とかして光と闇の核を目覚めさせなければ…そう思った瞬間

全身から、嫌な汗が噴き出すような感覚を覚えた。


俺「まさか…いや、そんな………」

ディーティーA「気付いた…って訳では無さそうだけど、片足だけ踏み込んだと言った所かな?」

608: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/15(水) 06:32:03.02 ID:u4sgglpZo
●りゆうは

ノイズが走った…時の事を思い出す。

あのノイズはアーカイブの中で見た物と同じ物で、幾重にも折り重なった情報の集積体だ。

そう…アーカイブの中で見た物。

逆に言えば、アーカイブが機能して居なければ見れない物…


つまり、あれを見たと言う事はアーカイブが機能していると言う事になるんだが…俺の中の光と闇の核は休眠状態にある。

いや………そもそも本当に休眠状態なのか?

その考えに到った所で、俺は脳髄に氷柱を押し込まれたような寒気に襲われる。


俺「確かアーカイブは、他の並列世界も観測して記録してた筈。つまりは並列世界の把握も出来てる訳で…」

俺「その情報を元に、アーカイブの機能で………以前やったように…………」


俺「まさか………いや、もしかして…俺は…」

それ以上は言葉に出来なかった。


ハル「そうです…貴方は本物の彼ではありません」

が………俺が言葉に出来なかった内容を、そっくりそのままハルが口にした。


そして更に、ハルは球体の一つ…一際特殊な何かを感じた『それ』に手を伸ばし…


ハル「本当の彼は…ほら、ここに居るんですから」

世界線の糸で作られた繭状の球体…それを掻き分け、奥に存在する物の一部を覗かせた。


ハル「今の彼は眠って居ます。貴方と言う存在をアーカイブから作り出し、維持するために。この意味が判りますよね?」

ハルがそれを言い終えると…再び糸で包まれ、覆い隠される…俺。本物の俺。


俺は…心臓がバクバクと嫌な音を立てる中、残った理性で考える。

俺「俺は……一体どうすれば……」


ハル「そんな事は決まって居ます。とりあえず…とりあえず大前提として消えて貰います」

敵の言葉だと言うのに反論する事が出来ない。

例え目の前のハルを退ける事が出来たとしても、事件が解決したとしても………俺はこのままでは居られない…


全てが終わったら、消えて本物の俺にこの立場を明け渡さなければいけない。

ハルに限らず、カライモンやレミやユズだってそれを望む筈…そんな思考が頭を巡る中、視界に入って来たのはハルの光の刃。


あぁ…俺はここで消えるのか……そう思った瞬間―――

609: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/15(水) 06:38:47.45 ID:u4sgglpZo
●だいじな

激しい光を撒き散らし、肌を焼くような火花が周囲に弾け飛ぶ中で…

またも光の刃を遮る…カライモン。

何時の間にか修復した装甲に亀裂を走らせながら、その両手のガントレットでハルの刃を押し返す。


カライモン「悪いが、私としてはその大前提には納得していないのでね…邪魔をさせて貰おうか」

ハル「何を言っているんですか?そこの彼は本物の彼では無いんですよ?」

カライモン「それがどうかしたのかね?」

ハル「えっ………」


カライモン「彼が本物か偽者なのかは、この際どうでも良いのだよ。問題は彼が消える事…それ自体に納得出来ないだけだ」

ハル「それ…何も考えずに、ただ感情だけで暴走しているだけですよね?」

カライモン「そう取ってくれて構わない、否定はしないよ。どこかの幼馴染と同じで、そう言う部分だけはダメ人間なのでね」


キッパリと断言するカライモン。そしてその言葉に俺の迷いも切り捨てられ…俺の成すべき事が決まった。


俺「そうだな…そうだよな。納得できない事はしないで、納得出来る事をやる…ダメ男らしく、それで良いんだよな」

カライモン「やっと腹を決めたかね。全く昔から世話の焼ける男だよ」


俺「俺は…とりあえず囚われてる皆を助け出す。まずはそこからだ!」


ハル「折角決心した所ですが、それは叶いませんよ?」

俺「何?」

ハル「貴方達には、この糸に対抗する手段がありません。どうにかしたいのなら、まずは私とディーティーAを排除するのが先ですから」


くそっ…いきなり出鼻を挫いてくれる。

しかも相手がハルな以上、感情的な意味でも物理的な意味でも困難極まりない事が判る。

610: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/15(水) 06:41:19.74 ID:u4sgglpZo
●かいせん

ディーティーA「さて…そろそろ無駄話は終わったかな?ボクも手を出して言いのかな?」

ハル「良いわよ、そうね…向こうの提案に乗ってあげて、ディーティーはマイさんの方をお願い」

ディーティーA「えっ、ボクがあっちをやるのかい?だってあっちは根幹を食らう竜の力を……」


ハル「大丈夫…さっきの一撃で残りの力の殆ども封じたから。力が回復する前に片付ければ問題無いわ」

さっきの一撃…俺を庇った時に受けた攻撃の事だろう。


また迷いがヒビを生み、ヒビが亀裂になろうとしている…だが、俺はもう躊躇しない。


俺「マッチングは決まったみたいだな。折角だからインターバルも挟みたい所だが…」

ハル「さすがにそこまでサービスが良くはありませんよ」

笑顔のまま、却下された…が、このやりとりの時間を稼げただけでもよしとしよう。


光と闇の核を持たない俺に、根幹を食らう竜の力の殆どを封じられたカライモン。神風の姿は無く、おまけはに居るのは戦力外であろう狭間に巣食う蜘蛛。

戦力はこちらが圧倒的に不利…だが、それは諦める理由にならない。


俺「だったら俺は…やれるだけの事を、とことんやってやるよ…」

611: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/15(水) 06:45:47.18 ID:u4sgglpZo
●らんせん

ディーティーAの爪や糸を掻い潜り、その合間を縫ってヒット&アウェイを繰り返すカライモン。

先の攻防とは打って変わり、明らかにカライモンの劣勢…


そして俺とハルの戦いはと言うと………


ハル「光と闇の核が無い状態なのに、中々粘りますね。でも、そんな戦い方でマイさんの回復まで持ち応えられると思いますか?」

俺「そんなの、やってみなけりゃぁ判らないだろ?」

ダークチェイサー達を分化と分離して、それで攻撃をやり過ごす…消耗戦どころか、防戦一方で戦力を削られるばかり。


強がって見せてはみた物の、この戦法を続けて居ては勝ち目はゼロ。

………と言うのが現状だ。


ハルの攻撃を凌ぎ、後方へ…時には方向を変えて、右へ左へ避け続ける。

が…そんな回避行動ですら、何時までも続ける事は出来ない。


逃げた先は、丁度カライモンとディーティーAの交戦空域。

カライモンが避けた糸が、その延長線上に居る俺へと迫り来て…そこで一つ閃く。


ハルから見て糸が死角になる位置を取り、直撃する寸前に糸を回避。

俺にぶつかるだった筈の糸は、そのままハルに直撃する………そう言う目論見だったんだが


ハル「古典的な手ですね…無駄ですよ」

光の刃により、糸は弾かれてしまった。


ハルに対して一切の影響を与える事が出来なかった…だが、そこまでの結果を望むのは欲張りだろう。今はこれでも充分だ。


何事も無かったかのように、再び繰り出されるハルの猛攻…

俺はそれを凌ぎながら、弾き飛ばされるように後退を続ける。

そして…追い詰められた先は、球体の目前。


球体に触れれば並列世界へと飛ばされ、帰還するまでの間にカライモンが挟み打ちになって敗北確定。

ハルの攻撃を受ければ…言うまでも無い。


球体と周囲を繋ぐ糸が回避経路を塞ぎ、この場から動く事すら侭ならない。

そんな俺とは対照的に、ハルは悠々と落ち着いた動作で光の刃を構えて………


ハル「マイさんの回復まで、半分の時間も稼げませんでしたね。結局無駄な足掻きで終わってしまったじゃないですか」



その光の刃で―――俺の胴体を刺し貫いた。

612: ◆TPk5R1h7Ng 2015/07/15(水) 06:53:43.50 ID:u4sgglpZo
●もくろみ

これで良い…俺が、カライモンの回復のために時間稼ぎをしている…そう推測してくれる事も予想通りだ。

糸はハルに効かない事…その手で触れても光の刃でも、干渉出来る事は確認出来た。

自分で言うのも何だが…球体に触れる事無く、尚且つハルが球体に攻撃を当てる事を懸念しないくらいの距離に留まれたのは中々に上出来だったと思う。


とりあえず、ここまでは俺の目論見通り…後は仕上げをするだけだ。


両手を形成するダークチェイサーを肥大化させ、そのまま破裂。爆風がハル包むが、握り絞めた武器は離していない。

そして当然ながら、ハルは無傷…だがそれで良い。爆風が推進力になり、俺とハルの身体は、背後の球体へと飛ばされる。

視界の端を駆け抜ける糸の数々……俺を見据えるハルの表情が、確信じみた笑みから驚愕へと変わった時………


俺の胴体から飛び出た光の刃の切っ先が、球体に突き刺さり………届く。


ハル「そんな…まさか最初からこれを狙って…」

俺「まぁ…これ以外の方法を思い付けなかったからな」

ハル「で…でも、無駄ですよ!この程度の隙間では―――」


俺「脱出するには狭すぎるだろうな…んでも、ちょっとした足掛かりにはなるだろ…なぁ?」

ハル「えっ…………?」

俺の言葉に気を取られ…我に返ってから、初めて気付くその存在。


少女「タスケテクレル……ダカラ………タスケル」

球体の反対側に位置取り、光刃で切られて僅かに緩んだ糸に…手をかける少女。

そう…糸に干渉する事が出来る、残された一人だ。


ハル「そんな事…させな―――」


と…ハルが止めに入るが、もう遅い。

少女の手により糸は引き解かれ、球体はただの糸となって宙を舞う。


俺「それじゃ……あとは頼んだぜ………」


最後にその言葉を残し…



―――俺の命はそこで燃え尽きた




「あぁ……任せとけ、俺」

615: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/15(土) 05:05:03.23 ID:z+606XNAo
●はじまる

カライモン「それで…今の君は一体どこまで事態を把握しているのだね?」

俺「ここ…世界の狭間に来るまでの出来事は、フィードバックで知ってる。まぁ、そこからは逆に何も…って訳だが…」


ハル「そのカライモンさんは偽者です!耳を貸さないで下さい!」

カライモンとの会話…それに割って入るハル。

だが、その言葉は俺の意思を絡め取るには足らない。


俺「悪ぃな、ハル…いや、Ifの世界のハル。経緯こそ判らねぇが、状況くらいは推測出来てんだ」

ハル「え?何を…」

俺「確証こそ持って無かった物の、ハルに怪しい所があったのは判ってたからな。んで…実際にこの光景を見れば……」

ハル「っ………」


カライモン「ちなみに、あちらの下半身蜘蛛のディーティーはディーティーアナザー。ハル君もそれに倣って、ハルアナザーとでも呼称すると良い」

俺「何でわざわざ別の名前を…いや、二人を助け出した後の事を考えれば別の呼び方を考えておいた方が良いとは思うが…」

カライモン「その辺りを何度も説明するのは時間が勿体無いので、省略させて貰う」


俺「いや、俺は聞いてないんだから省略しないでくれ」


ハルA「そんな…いえ、彼が目覚める事こそが本来の目的だし。脱出してしまったのは予想外にしても、また捕らえてしまえば……」

俺「ところが、さすがに二度も捕まっちゃ居られ無いんだよな。あん時は不意打ちだったが、同じ手は…な」

ハルA「―――っ」


ハルAとディーティーAを包み込むように、俺は停滞空間を展開する。


そう…ハルAが俺を最初に捕らえた時と同じ方法で、今度は俺がハルA達を捕縛した訳だ。

616: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/15(土) 05:07:17.53 ID:z+606XNAo
●やくどう

俺「さて…それじゃぁ狭間に巣食う蜘蛛…子?今の内にハルやレミ達もその繭みたいな球体の中から助け出してくれないか?」

少女「クモ…コ?ナマエナラ、ベツノナマエガイイ」


余裕があるとは言え、この状況で我儘を言えるとは…中々に図太い精神の持ち主のようだ。


カライモン「ハルA君の話では…場所の事なのかは判らないが、ミクトラン…より這い出たと言っていたね。では、ミクトランテクートリで良いのでは無いのか?」

少女「ソノナヲモツモノハ、スデニソンザイシテイル」


俺「ってか、クートリは王だから男性名だろ。せめて女性名のミクトランシワトルにしとけよ」

少女「ソノナヲモツモノモ、スデニソンザイシテイル」

俺「そっちも使用済みかよ!」

うん、何だかネトゲキャラのネーミングで総当りしてるような気分だ。いっそ名前の前後に記号でも付けてしまおうか


カライモン「では、シンプルかつ定番な所でアラクネーやアトラク=ナクア辺りから変化させてみてはどうだろう?」

俺「いや、その二つって定番か!?つっても…まぁ、そこに突っ込んでも仕方ないか。んじゃ、両方から取ってアラクでどうだ?」


少女「アラク………」

暫く考え込んだ後、うんうんと何度か頷く少女…アラク。どうやら気に入ってくれたようなので、これ以降は少女をアラクと呼ぶ事にする。


カライモン「と…話し込んでいる間に魔力も大分回復して、根幹を食らう竜の力で二人のアナザーを屠れる程度にまで持ち直したのが……」

俺「はっ!?根幹を食らう竜の力!?そんなの持ってるなんて初耳だぞ!?」

カライモン「だから今こうして説明しただろう。君は昔からそう………はっ」


俺「昔?いや、そもそもカライモンと出会ってから1年も経って無いよな?」

カライモン「言い間違えただけだ、気にしないでくれ。それよりも皆を救い出す上での注意点を聞きたくは無いのかね?」

俺「っと、そうだ…そっちを先に話してくれ。危うくまた脱線する所だった」

617: ◆TPk5R1h7Ng 2015/08/15(土) 05:09:49.47 ID:z+606XNAo
●ゆくさき

カライモン「まず…彼女達はこの世界の中で倒す事が好ましい」

俺「まぁ、また別の世界に逃げ込まれちまったら探し出すのも一苦労だしなぁ」

カライモン「それもあるが…別の世界で倒した場合の、この世界への影響の方が懸念されるのだよ」


俺「あぁ…そっちか。で、他には?」

カライモン「彼女達をオリジナルと同一人物として認識してはいけない。君が認識してしまったら、根幹を食らう竜の力がオリジナルにまで及んでしまう」

俺「それ、さっき省略した話だよな?」


カライモン「そうだ。今ならば時間があるから説明しておこうかというのもあるが…それ以上に」

俺「何だ?まだ何かあるのか?」


カライモン「先の会話を見ても、念を押しておかなければ彼女達をオリジナルと混同してしまいかねないと思ってね」

まぁ確かに…と言うかこの口ぶりだと………

カライモン「当然…アナザーの彼女達を助けよう等と言う考えもしてくれるなよ。それはつい先程までの彼が乗り越えたばかりの事だ」


あぁうん、案の定お見通しのようだった。


俺「まぁ………そうだよな。今更そこで俺が迷ってる訳にはいかないわなぁ」


命を賭けて俺に全てを託した、もう一人の俺…その決断に応える義務が俺にはある。

俺は胸にその熱い思いを滾らせ…

決着への一手を指しにかかる


……だが


ディーティー「上…いや、全方角から来る!」

何時の間にか、アラクの手により戦線復帰したディーティー。

その声が警笛のように周囲に響き渡り、促されるままに俺達は視線を巡らせる。


周囲に存在しているのは、蜘蛛の糸ばかり…いや、蜘蛛の糸しか存在しておらず、俺達以外の異物は全く見当たらない。


ディーティーが一体何を言っているのか判らない。俺はディーティーの言葉の意味を汲み取るべく、それを考え始めるが…

思い至るよりも先に現実の方が迫り来て、ご丁寧にもその存在をアピールしてくれた。


俺「おい………もしかしてこれって」

ディーティー「もしかしなくても、見たままだよ」


俺「この空間の蜘蛛の巣その物が…俺達に向かって、収縮して来てやがるのかよ」

623: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/05(月) 09:32:45.31 ID:IrlJTJcoo
●さいやく

上下左右前後………六方向に向けて、俺は反射的に停滞空間を形成する。

収縮する蜘蛛糸は停滞空間に絡め取られ、事態は収束へと向かう……その筈だったんだが…


俺「あぁくそっ!」

停滞空間の範囲から外れ隙間を潜った糸が、已然として俺達に迫り来る。


全ての糸を絡め取るだけの停滞空間を形成したら、ハルAとディーティーAを捕らえている停滞空間を維持出来ない

高範囲の停滞空間を形成して、丸々全部飲み込んだとしても…その場合は俺達も停滞してしまうから意味が無い。


手詰まり……迫る敗北の影が胸に突き刺さり、脈動を加速させる

が………そこで、俺の思考が一つの可能性に辿り着き…


俺「また、一か八かの賭けになるのかよ…!」

俺は、愚痴りながらもその手段を実行に移す。


――――――


カライモン「なっ…これは…まさか…停滞空間の中に加速空間を形成しているのか!?」

俺「時間…稼ぎにしかならねぇ……頼むから…稼いだ時間で…どうにかしてくれっ!!」

カライモン「また無茶を…そんな事をすればどうなるか、判らない君でも無いだろうに!」


そう…カライモンの言う通り、俺はかなりの無茶をしている。

頭の中はぐちゃぐちゃに掻き混ぜられた上に電流を流されているような感覚に襲われ

一旦細切れにされてからドロドロに溶かされて、また固められてからバラバラにされるような状態になっている。


カライモン「しかし……この状態では私に出来る事は何も無い。出来る事があるのは、彼女だけだ」


そう言って、カライモンはアラクを見る。

624: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/05(月) 09:36:36.62 ID:IrlJTJcoo
カライモン「我々の中で、あの糸…世界線に対抗しうる手段を持って居るのはアラクのみ。彼女が皆を解放する事が出来るよう祈るしか無い」

俺「皆が…開放されれば………何かしらの…手が………」

カライモン「………無い。迫り来て居る糸に絡め取られ、別の世界に飛ばされる…それが現状に措ける最大の妥協点だ」


俺「アラクの力で………包囲網を…破る事は………」

アラク「ムリ。イトノカズガオオスギテ、マニアワナイ」

俺「………そう…か」


カライモン「だが、囚われの身のままこの空間に取り残される…と言う最悪の事態だけは避ける事が出来る筈だ」

俺「…んじゃぁ……無駄じゃぁ…無い………か」


アラク「ココニ………トリノコサレタ、バアイ…ドウナル?」


カライモン「良くて…別の世界に連れ去られ、二度と連れ戻せなくなる。悪ければ…ここで始末されてしまうだろう」

アラク「………ソウカ」

その言葉を聞き、一旦手を止めるアラク。そして…静かに目を閉じ……


アラク「ナラバ、ホンキヲ…ダス」

閉じた目を見開くと同時に、額と頬に現れる六つの目…それに続いて、服の隙間から飛び出す4本の蜘蛛の足。


見開かれた瞳が周囲を捉え、伸ばされた爪先が繭を巣から引き千切ってアラクに引き寄せる。


カライモン「この速度ならば………いや、問題は君の方か。あとどのくらい耐えられそうだ?」

俺「正直………結構ヤバい………」

カライモン「っ……最悪、救う順番を決めなければならないか。アラク君、残りは!?」


アラク「マダ、オオゼイ……」

エディー…DT…神風…ユズ…それとディーティー。

見て判る限りで、糸から開放された仲間はこの5人だけ。おまけに、ディーティー以外はまだ意識を取り戻してさえ居ない。


アラクは両手と4本の脚で、次々と繭の中から人々を解放して行くのだが………

俺「やば……い…………もう…」

俺の意識はグチャグチャのボロボロになり、停滞空間と加速空間を維持する事が出来なくなってしまった。


掠れる視界…薄れ行く意識………だが、そこで俺は見た。


繭の中から伸びた手が、アラクの手を掴み………


次の瞬間、周囲に黒い線が駆け巡る光景―――

625: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/05(月) 09:42:50.98 ID:IrlJTJcoo

●くろいと

―――

俺「――――っ!……俺、一体どのくらいっ!」

カライモン「安心したまえ、ほんの数秒程度だ。それよりも………」


停滞空間と加速空間が途切れ、この空間に在る全ての物があるべき速度に戻った世界。

本来ならば、俺達は糸の包囲網に囲まれて別の世界に飛ばされて居た筈……

にも関わらず、俺達は誰一人欠ける事無くこの場に居た。……と言うよりも


そもそも俺達を包囲していた蜘蛛の巣が、この場には無かった。

いや…厳密に言えば糸その物が無くなっている訳では無い。

包囲網を形成していた糸は確かにそこにある。だが…それは既に、本来の用途を成せるだけの形を保ってはおらず


………バラバラに切り刻まれて居た。


ハルA「そんな…まさか………」

ディーティーA「糸を…世界線を……切った…だって!?」


そしてその事実は、停滞空間から開放されたハルAとディーティーAを驚愕させるに足りて居たようだ。

もう一度停滞空間を形成するだけの余裕は無いが、決着をつける手立てが無い訳でも無い。

俺は二人に向けて、力一杯に跳び込み………その陰から、カライモン…いや、ドライモンが飛び出す。


ディーティーA「なっ――――」

呆気に取られたままのディーティーAに、不意打ちを決めるドライモン。

竜のアギトに変わった腕が、悲鳴を上げる隙すら与えないまま…ディーティーAを屠り去る。


ドライモン「包囲網の中では何も出来なかったのでね…おかげで回復に専念する事が出来たよ」


まずは一匹…ディーティーAはこれで片付いた。

626: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/05(月) 09:50:48.45 ID:IrlJTJcoo
ハルA「くっ―――!!」

返しの手でハルAを屠ろうとするドライモン。

だがハルAはハルAで、それを大人しく受ける筈も無く…咄嗟に後ろに跳んで回避する。


レミ「え………何で?ハル…?何で………?」

戦闘による騒音がきっかけか…黒い線を周囲に舞わせながら我に返り、ハルAを見上げるレミ。


俺「あのハルは、俺達の居た世界のハルじゃない…今回の事件の真犯人だ」

更に…俺がレミに事情を説明している間に、繭の中から救い出される………ハル

それを見て、レミも事態を把握したようで…ハルAに向かい、臨戦体勢を取る。


俺「さっきのアレ…糸を切ったのって、レミの黒い線だよな?」

レミ「覚えて無いけど…糸って…これ?」

黒い線を走らせ、近くにあった糸を切断して見せるレミ。


俺「瓢箪から駒…だな。まさか、こんな所に一発逆転のチャンスが転がっているとはな」

俺は思わず感嘆の声を上げ…レミを見る。

そして…俺達を後押しする風は、それだけでは止まらない


ハル「いえ…形勢その物が逆転です。私も…戦線に加われます」


レミ「…ハルッ!」

俺「おかえり…………ハル!」

ハル「………ただいまっ」


足元に少々のおぼつかなさは残る物の、意思の篭った声を返すハル。


ハルが………

遂に、ハルが俺達の元に返って来た。

627: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/05(月) 09:56:25.81 ID:IrlJTJcoo
●しんうち

ハルA「どうして…どうして、どうしてどうしてどうして!何もかも、あと一歩の所で私の思い通りにならないんですか!!」

カライモン「何事も…思い通りにいかないのが世の常だよ。完璧な計画に見えたとしても、綻びがあればそこから崩壊する」

ハル「いえ………今回はもっと単純です」

カライモン「…ほぅ?」


ハル「彼女の…もう一人の想いが、皆の想いよりも弱かった。それだけです」


ハルA「あぁ、そうね…もう一人の私だもの、そう言うよね。でも……結果論を言ったつもりでも、早過ぎるよ」

ハル「……それは、どう言う…」

ハルA「私の想いは負けて居ない!皆に負けない想いを持ってるから!!」


大声を張り上げ、ステッキを構えるハルA。

かと思えば今度は、ハルAの瞳のハート型が…クロウリーの六芒星のような形状へと変化する。


ハル「えっ………そんな、まさか………」

ハルAを中心に形成される、白と黒の六芒星。その二つが回転を始めたかと思えば、今度は…その中心から光と闇が溢れ出す。

俺「おい…嘘だろ………これってまさか…光と闇の…核の力か!?」


光と闇の奔流が収まり、姿を現したのは…ライトブリンガーの装甲の上に、ダークチェイサーのような外殻を纏った姿のハルA

俺の中二病フォームとはまた違った方式で、光と闇の力を併せ持っている事が…目視の時点で理解出来た。


カライモン「その形態は、ハル君では理論上不可能な筈。いや………私の知るハル君では、か」

ハル「それは…色々な、大事な物を捨てなければ出来ない事。つまり、もう一人の私…貴女はそれを………」


ハルA「そう…この力を得るために捨てて来た。と言うよりも…捨てる前に無くなった物が殆どだけどね」


俺「くっ………神風!スピリットの力は!?」

神風「まだです…それに、完全に戻ったとしてもこの世界での行使は…」


光と闇の核に優位性を持つ、スピリットの力…その回復を神風に問うが、あてには出来ない様子。

こうなってしまった以上、今のハルAに対抗するのは俺の中の光と闇の核の力だけな訳だが…


ハルA「私と貴方…どちらがよりこの力を使いこなす事が出来るか、判りますよね?」


そう…その格差は悲しい程に明らかだった。

628: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/05(月) 10:00:44.57 ID:IrlJTJcoo
●れんせい

ハル「いえ…ブラフです。あの力はあくまでイミテーション…本来の力を持っている筈がありません。それは今までの行動が物語って居ますから」


が………そんな俺の不安を振り払うように飛び出し、ハルAに向けて光の刃で切り付けるハル

ハルAはその刃を光の刃で切り払い、周囲に新たな光の刃を舞わせ……ハルもまた光の刃を展開して応戦する。


俺「そうか…そうだよな。光と闇の核の力を使えるってんなら…俺をアーカイブから複製するなり、昏睡状態から引き摺り出したり出来た筈だ」

俺は光と闇の核の力を開放し…毎度恒例の中二病フォームを形成

そこから更に、前回の状態を思い出し…中二病フォーム末期モードへと二段変身を行う。


カライモン「それに…光と闇の核が複数存在する可能性と言うのも怪しい話だから…ね!!」

両腕のガントレットを竜のアギトに変えて掴みかかるカライモン。だが…ライトブリンガーの力により竜の力は霧散されてしまう。


レミ「私は…正直、偽者とは言えハルと戦うのは乗り気じゃ無いわ。でも…ハルが危ないんなら…戦う!!」

先程は糸を切り裂いた黒い線。だがそれも、ライトブリンガーの光の刃に容易く切り刻まれて無効化…


そして…俺は三人の攻撃の合間を縫って、ハルAに接近。

光の刃の隙間を縫い、ライトブリンガーとダークチェイサーで形成したそれぞれの爪をハルAの首へと滑らせる


……が、その首を刎ねる事は叶わなかった。


ライトブリンガーの装甲とダークチェイサーの外殻…二重の防御程度には考えて居たが、実の所はそんな物では無かった

光と闇の力が複雑に絡み合って形成され、そのどちらの力も弾く万能の装甲と化していたのだ。


  強い………まだ全ての力を使って居ないに状態も関わらず、間違い無く俺達全員の総力を上回っている


焦りを抑えながら、ハルAに勝つ手段を考える俺達。

だが、その答えを導き出す暇さえ与えられないまま…ハルAの反撃が始まる。

629: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/05(月) 10:04:52.74 ID:IrlJTJcoo
ほんの一瞬…集中が途切れた瞬間にかき消える、ハルAの姿

何が起きたのか…理解が追い付いた所で、俺は咄嗟に加速空間を展開する。


光さえ色褪せる程に加速した世界…仄暗く染まった世界の中で、異彩を放つハルAの光の刃。

今まさにハルAがハルへと襲い掛かる…その瞬間に割って入る。


火花を散らしながら切り結ぶ刃と刃


俺は僅かな隙の間にハルを加速空間で包み込み、その身を退かせる

…が。ハルAは、更にその加速空間ごと停滞空間で包み込み、後退を阻害する。


俺「冗談だろ…加速空間と停滞空間を重ねといて、何とも無ぇのかよ…!」

ハルA「何とも無いと言う訳ではありません。ただ…そこまで気にする程の事では無いだけです」


痩せ我慢をしている…と言った様子も無く、言葉通りの余裕が見て取れる。

出力だけでは無く、耐久力の面でも圧倒的にハルAの方が勝っているらしい


俺「判らねぇな…なんでこんだけの力を、ギリギリになるまで隠してた?」

ハルA「決まっているじゃないですか…貴方のためですよ?最後に縋る奥の手を否定して、その心を折ってしまわないために隠していたんです」

俺「そりゃぁまた………心をへし折るのに充分な事を、言ってくれるじゃねぇか」


ハルA「でも…それも杞憂でしたね。この現実を前にしても、貴方は心を折るどころか対応策を考えていますね」

俺「買い被り過ぎだってーの…俺は、お前が好きなダメ男だぜ?」


ハルA「ダメ男で無くても、私は貴方を愛しています」


俺の加速空間が解除されると同時に、ハルAもまた加速空間を解いて…とびっきりの笑顔を向けて来る。

ちなみにハルは停滞空間に囚われたまま、開放される気配は無い。


ハルA「最後通告です、降伏して下さい。話し合う時間くらいは差し上げますよ?」

630: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/05(月) 10:07:34.51 ID:IrlJTJcoo
俺「って言ってるが…どーする?」

俺はカライモンと神風に目配せして、神風がそれに気付き…契約。以前にもやったように、思考を直結させる。


カライモン『ディメンションスレイヤー………根幹を食らう竜の心の中に干渉した、あの一対の剣の事は覚えて居るかね?』

俺『あぁ…光と闇の核の力を全部集めた二本の剣だよな?んでも、この状態であれをもう一度やるってのは…』


光の核『不可能では無い…』

闇の核『ですが…多角的に検討しても、リスクの方が圧倒的に多いでしょう』

俺『おわっ!?って…お前達、起きてたのかよ』


光の核『現在干渉している事象の解析と演算に膨大な時間を費やした』

闇の核『そのため、今の今まで助力を行えませんでした。申し訳ありません』

俺『そりゃまぁ良いんだが…あの剣…ディメンションスレイヤーだっけか?あれを使えばどうにかなるのか?』


カライモン『どうにかなる…と言うよりも、どうにでもしてしまう…と言うのが正しい所だろうな』

俺『何だそりゃ…あれって心に干渉出来る剣じゃ無いのか?』

光の核『否…それはあの剣の力ではあるが、全てでは無い』

闇の核『根幹を食らう竜との戦いで用いたのは、あの剣の力のほんの一面に過ぎません』


カライモン『これは私の憶測だが…あの剣の本来の力は、イデア…別次元、あるいはもっと深層に干渉する力を持っているのでは無いか?』


光の核『…肯定する』

俺『つまり…何にでも通用するチートって事で良いんだな?』

闇の核『しかし、無条件に万能の力を振るえると言う訳ではありません』

俺『って言うと?』


闇の核『貴方が対象をその剣で以って斬ったと言う事実…それが絶対不可欠になります』

俺『あぁ……そりゃそうだよなぁ』


ハルA「さて…作戦会議は終わりましたか?」


そして、終焉の鐘のように告げられる、ハルAの言葉。

万全では無いが、万策尽きた訳でも無い


俺達はハルAに向き直り…その内に滾らせる戦意を、瞳で語った。


ハルA「そうですか…残念です」

631: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/05(月) 10:14:39.11 ID:IrlJTJcoo
●ふたつの

同時に加速空間を展開する、俺とハルA

間髪入れぬ閃光のような踏み込みと共に、俺へと迫る…ハルAの光の刃

だがその刃が俺に届く前に…カライモンが間に割って入り、ハルAの刃を遮る。


ハルA「またですか…でも、その程度の時間稼ぎをした所で…」

カライモン「………それはどうかな?」

ハルA「……えっ?」


ほんの一瞬だけ俺から離した視線…それを戻すハルA

だがその一瞬の油断がここに来て大きく戦局を傾ける。


カライモンの後方…僅かにハルから死角になったその場所で展開する加速空間…いや

元々展開した加速空間に加速空間を加え…更にもう一つ重ねた三重加速状態で、ディメンションスレイヤーを創り出す。


少々、いや…かなりの勢いで無茶をしたせいか

全身…それこそ頭の奥深くから足の指先に至るまで、ありとあらゆる場所が負荷に耐え切れずに悲鳴を上げる。

二振の剣を握るだけで精一杯…指の一本動かす事すら儘ならない。


力を振り絞れるようになるまで、あと数秒…ほんの数秒あれば良い

俺自身の状態を把握して、予測を弾き出す。

そしてそんな僅かな間に、ハルAはカライモンを弾き飛ばし、俺へと迫るが………


遅い


ハルAに向け…光の束が真横から襲い掛かる。


ハルA「しまっ…」

光の束の元を辿りるハルA…その先で待ち受けるのは……ライトブリンガーへと姿を変えた、ハル。


ハルA「そんな…どうやって…」

ハル「注意が逸れている間…に彼が一瞬だけ加速空間を形成して、脱出させてくれたんですよ」


そして…ハルAの注意がハルに向いている間に、最低限だが…俺は力を取り戻し


ディメンションスレイヤー…二振の剣を携えて、ハルAへと斬りかかる。

632: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/05(月) 10:47:39.04 ID:IrlJTJcoo
未知の力に警戒しての事か…全ての光の刃を収束して備えるハルA

だがディメンションスレイヤーはその全てを断ち切り、ハルAへと迫る。


宙に舞う赤い鮮血……


切っ先はハルAの腕を掠めるのみで、その存在を切り裂くまでには至らないが…

同時に、ハルAに傷を負わせるだけの力があると言う事を立証して見せた。

ただし…ハルの方もそれに気付き、狙いを剣では無くそれを持つ腕に切り替えて来る


途切れる事無く続くハルの猛攻に、俺は防戦一方

このままでは決着を付けるどころか、攻撃に回る事すら出来ない訳だが…

俺達には、それを覆す仲間の力がある。


突如、ハルAの前に出現する光の球体………俺はその出現と共に後方に飛び退き、ハルAとの距離を取る。

ユズ「自分だって………ちゃんとセンパイの力になれるんッスよ!!」

ハルA「……え?」


ハルAが声を上げるとほぼ同時……光の球体が閃光と共に爆炎を巻き起こし、ハルを飲み込む。

ハルA中心に渦を巻き、球状の檻となって閉じ込める爆炎………

光の力を燃焼して炎を発生させると言う、ユズの新たな魔法。


俺達でさえついさっきまで知らなかったそれを、ハルAが知る筈も無く…ましてや備える事も出来ない。

ダメージこそ与えては居ないが、目眩まし…時間稼ぎには充分過ぎるだけの成果を上げた。


爆炎を振り払い、体制を戻すハルA

だが…それよりも早く、爆炎の切れ目から俺の持つ剣…ディメンションスレイヤーがハルAに向けて切り込んで行く。


光と闇を織り込んだ刃でそれを受け止めるハルA…

光の刃単品よりは格段に耐久力が上がっては居るが、それでも俺の攻撃を跳ね除けるには至らない。


ハルAの刃に沈み込むディメンションスレイヤー。

追い詰められたハルAは、世界線の糸を放って俺を絡め取りに来るが…それもレミの黒い線にって切り刻まれ、不発に終わる。


このまま押し切れば俺達の勝利…

俺は最後の力を振り絞り、剣を持つ手に力を込めた…


その次の瞬間


空間…いや、世界その物が捩れて歪み…俺達を中心に波動が解き放たれる。

身体の芯まで揺さ振られるような感覚…最小単位で存在を揺るがされる…そんな感覚と共に…


二振りの剣…ディメンションスレイヤーは………俺の腕諸共、砕け散った。


俺「……………は?そんな…何で………」

予想だにしない衝撃により、空っぽになった頭の中…そこを駆け巡るのは一つの疑問…

目の前の光景によりその疑問に答えは出るが、それがまた新たな疑問を生み出して俺を押し潰す。


俺が目にした物…それは………


両手にディメンションスレイヤーを携える………ハルAの姿だった。

635: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/06(火) 07:38:29.41 ID:NQ/Qqoywo
●じげんの

俺「何…だ?何が起きた?何でお前がその剣を……?」

ハルA「創り出したんですよ………かなり無茶はしましたけど…でも……どうしても…負けられないから…!!」


俺達が…仲間の力を借りて、やっとの事で創り出す事が出来た奇跡………

その奇跡を、ハルAは一人でやって除けた…一人で奇跡を創り出した。


一体何がハルAをここまで突き動かすのか…

俺達全員の想い以上の力を奇跡を起こしたのか…


こんなにボロボロになってまで…手足も顔も傷付いて……

いや………一箇所だけ……そうだ、ハルAは一箇所だけは攻撃を受けないように戦っていた?

その箇所だけは、怪我どころかかすり傷一つ付いていない。


致命傷を避けるため?だとしたら、胸部への攻撃を避けないのはおかしい……


―――まさか


その可能性に至った瞬間、俺の心臓は爆発と紛う程に跳ね上がった。


俺「そうか…そう言う事か………」

ハルA「………」

俺「俺達に無い想いを持って戦ってたって事か…そりゃぁ強い訳だ……奇跡も起こす訳だ…勝てない訳だ…」


ハルA「判って貰えたなら……出来れば、今のままの貴方を―――」

俺「………でもな」

ハルA「――――ッ……」


俺「それでも…自分達の背負ってる物より重い物を背負ってる相手でも…俺達は勝たなけりゃいけねぇんだよ!!!」

ハルA「どうして…どうして!!戦う力も残ってないのに!勝てる可能性も無いのに!どうして!どうして判ってくれないんですか!」


俺「どうして判らねぇのかって…そんな事は判り切ってるじゃ無ぇか」

ハルA「………」

俺「無理だって判ってる事にも、未練タラタラ残しまくって…自分が楽な気持ちで居られる方に逃げちまう………」



俺「ダメ男だぜ?俺は」

636: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/06(火) 07:43:40.41 ID:NQ/Qqoywo
●とどける

ハルA「戦う力も…手段も無いのに…」

俺「そうだな…何も無い」


ハル「勝ち目なんか無いのに…」

俺「あぁ…無いけど諦められない」


ハル「確固とした信念も無いのに…」

俺「あぁ…何だかんだ、その場の流れに流されて生きてるもんな」


ハル「それなら……このまま負けて下さい!!」

俺「それは出来ない…例えお前が相手でも、負けられない!」


「だったら………」


対峙するハルと俺……その二人の間に割って入るかのように、どこからとも無く響き渡る…

どこかで聞いた覚えがある声。

そして………俺の目の前に、光の柱が現れ………


「ダチからの餞別だ!使えセンパイ!!」


再び声が響くと共に、巻き起こる旋風。

その中心からは一際眩しい閃光が放たれ…

光がこの空間を満たした、その瞬間



目の前に、黄金色に輝く剣が現れた。



カライモン「何だあれは…光と闇の力の両方が……いや、完全に融合している…!?」

毎度ありがたいカライモンの解説…だが申し訳無い事に、今回に限ってはそれも不要だ

触れて確かめるまでも無く……同じ場所、同じ空間に居るだけでも判る。


俺「ディメンション…スレイヤー」

637: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/06(火) 07:53:55.86 ID:NQ/Qqoywo
光と闇の力を全て集めた剣、ディメンションスレイヤー…その発展型、あるいは上位互換

光と闇…その両方の力を分かつ事無く、一振りの中に秘めた剣。

流石にその正体やここに現れた理由の究明にまでは至らないが、それを理由に戸惑っている暇も躊躇している暇も無い


俺はその剣に手を伸ば……そうと思ったが、俺の手は腕ごと粉々にされたばかり。

残っている力では、両腕どころか片腕の再生すら儘ならない…

とにかく何か掴む物………これしか無いか。


思い付いたら即実行

俺は目の前のディメンションスレイヤーの柄に噛み付き、その牙で以って刃を振るう。


弾ける閃光…

横に一薙ぎする俺の一撃を、交差した二振りの剣で受け止めるハルA


ハルA「そんな…どうしてこう次から次へと…次々次々次々次々!!私の邪魔ばっかり!!」


ハルAはヒステリックな叫びを上げながら、二振りの剣を持つ手に力を込め…

俺は、吹き飛ばされて掻き消えそうな気持ちと身体を何とかその場に留まらせる。


圧倒的な装備の差にも関わらず、それさえも覆すほどの圧倒的な力の差

じりじりと押し返され…ついには剣ごと俺の体が弾き飛ばされようとした、その時…


俺の背中に何かが触れた


カライモン「どうしてもこうしても…そんな物は決まっているではないか」

ユズ「ハル先輩の偽者さんのしようとしてる事…」


そしてその何か…彼女達の手が、俺の背中を押す。


レミ「納得出来ない以前に、筋が何も通って無いからに決まってるじゃない!」

ハル「もう一人の私…いえ、貴女は…私達が知らない事を知っている。でも…私達を…私達が培ってきた物を、知ってもいない!」


触れた手から流れ込んでくる想いと力…

俺は失った両腕を…そして、二振りの剣…ディメンションスレイヤーを再構築して交差する。


ハル「だから……」


「「「「負けられない…負ける訳が無い!!」」」」



ハルAが手にしたディメンションスレイヤーが砕け散り、三振り…二対のディメンションスレイヤーがハルAへと沈み込む。

638: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/06(火) 08:03:53.54 ID:NQ/Qqoywo
●たびだち

ハルA「私は…ただ、彼とレミちゃんと……4人一緒の時を過ごしたかっただけなのに………どうしていつも一人に…」

淡い光に包まれ…その光の中で、小さな光の束となって消えていくハルA

黄金色のディメンションスレイヤーは何時の間にか消え去り、両手の二振りも光と闇の粒子となって消えて行く。


『一人じゃないさ…これからは俺が一緒に居てやるからな…』

ハルA「えっ………」


今にも消えてしまいそうな小さな声…

ただの空耳かと流してしまいそうな程に小さな声。


俺「んじゃ、今度は俺の方から言わせてもらうか…」

そして、俺はその声に言葉を返す。


俺「それじゃ…あとは頼んだぜ」


『あぁ……任せとけ、俺』


光の中へと消え行くハルA……

共に寄り添うように消えて行く声。

それは既に声と言うには余りにも小さな音と成り果てて居たが…


俺には確かに届いて居た。

639: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/06(火) 08:08:05.43 ID:NQ/Qqoywo
●それから

カライモン「さて、これでやっと解決に漕ぎ着けた訳だけれども……毎度の事ながら、余りゆっくりしている時間は無い」

俺「ん?前と違ってこの空間は元々存在してた空間なんだろ?だったら別に危ない事も無いんじゃぁ…」


レミ「あ、それってもしかして…この蜘蛛の巣が原因じゃない?だったらアタシの…」

カライモン「いや、それは止め給え。むしろそんな事をしたら余計事態がややこしくなってしまう」

レミ「えー…」


ハル「あの、急がなければいけない理由は…この世界の方じゃなくて、この世界に囚われて居る人達じゃないですか?」

ユズ「でもでも、もうハル先輩の偽者さんは居ないッスよね?別に急いで助け出さなくても…」

カライモン「なぁ君達…忘れて居ないだろうか?我々が居た世界ともう一つの世界だけでも…」


俺「そうか!時間の経過速度か!!」


カライモン「そう、その通り。ただでさえも日数が経過しているのだ、彼等を元の世界に戻した時の事を考えれば…なぁ?」

レミ「だったら、それこそチャチャっと片付けるためにもアタシの…」

カライモン「だから止め給え!あの力その物の危険性もさる事ながら、繭の中の人間を避けて切れる自信はあるのかね!?」


レミ「……………てへぺろ♪」

俺「………考えて無かったのか!?いや、そこは真っ先に考えろよ!!」


カライモン「…と言う訳で、スピードアップで頼むよ。君だけが頼りだ…うん、本当に」

アラク「シンドイ…アトデ、ウナギパイヲヨウキュウスル」

何故ピンポイントで夜のお菓子!?


ともあれ…こうしてハルAとディーティーAの起こした騒動は、その幕を閉じた。

640: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/06(火) 08:13:07.69 ID:NQ/Qqoywo
●あれから

俺「んで、アラクはこれからどーする?また並列世界の放浪に戻るのか?」

アラク「シバラクハ…コノセカイニ、イヨウトオモウ」

俺「となると…問題はどこに住むかってー話しになる訳だが…」


カライモン「研究対象としては興味深いが…能力の特性を考えると、私の周辺に置くのは得策とは言えないね」


ハル「私の所は……」

アラク「…………ムリ、コワイ」

ディーティー「まぁ、ボク達の偽者にやられた事を考えれば苦手意識の一つや二つ持つよねぇ」


俺「んじゃ、今回も俺…」


ハル「それはダメです」

レミ「それはダメ」


俺「いや…だったら、どーすんだよ!?」


ユズ「自分の所に来ると良いッスよ。部屋は屋根裏部屋しか余って無いッスけど、それでも良いなら」

DT「あと、ボクが一緒でも平気なら…かな」

アラク「アレトハ、ベツジン…ダカラ、ダイジョウブ」


と言う事で、アラクの滞在先は決定。

641: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/06(火) 08:17:08.12 ID:NQ/Qqoywo
俺「っと、そーだ…今回の騒動の件ですっかり忘れてたんだが、神風に聞いておく事があったんだ!!」

神風「何ですか?」

俺「朝起きたら、俺のデスクの棚の中身が全部ツインテール作品になってた件の事だよ!何か知ってるんだろ!?」


レミ「あ、それアタシ」

俺「はぁっ!?な…なんでそんな事をした!?」

レミ「いやさぁー…最近アタシの方にはご無沙汰だし、ほら…ね?だから、ちょっと発破かけるつもりで揃えてみたんだけど…ね?」


俺「ね? じゃ無ぇ!犯人はお前か!!ってか、元からあったサイドテール傑作集はどこにやった!?」

レミ「サイドテール…?アタシが見た時には何も無かったけど…」

俺「は?…いや、そんな筈…」


ハル「あ、それ私ですよ」

俺「はいっ!?」

ハル「覚えてないんですか?」


俺「え?……んじゃぁ………つかぬ事をお聞きしますが……あれらの作品達は…」


ハル「勿論、処分しましたよ?」


この時………ハルはもの凄く良い笑顔をしていた。

642: ◆TPk5R1h7Ng 2015/10/06(火) 08:25:12.00 ID:NQ/Qqoywo
カライモン「そう言えば、話は大分飛ぶが…英司君の件はどうなったのだね?蜘蛛の巣には捕えられて居なかったようなのだが…」

俺「あー……んー…まぁ、アイツはアイツで元気にやってるみたいだったから良いんじゃねぇか?」

カライモン「そうか…では、ついでと言っては何だが…あの黄金色のディメンションスレイヤーに関して、何か心当たりは?」


俺「サッパリ無し。ってか…あの時あれが無けりゃぁ、今の俺達は無かったんだよなぁ…」

カライモン「そう言う事になるね。しかし…やはり仮説を裏付けるような物は無しか」

俺「仮説って、どんなのだ?」


カライモン「ハルA…ハルくんの偽者が土壇場で創り出したように、並列世界で創られた贋作…あるいは」

俺「あるいは?」

カライモン「何かの到達点…それがあの形なのでは無いか、そんな仮説を立ててみたのだよ」


俺「到達点か…確かにそんな感じもあったなぁ。ってか、お前等本人としてはどうなんだ?」


光の核「我等の力を以ってしても、あの存在の全てを解析するには至らなかった」

闇の核「ですが…私達にとても近い存在である事だけは判りました」


俺「…だ、そーだ」

カライモン「手がかりにはなるが、解明には遠く及ばない…か」


俺「あぁ…そだ、何となくで良いなら…あれの存在の答えっぽいのを感じたかも知れねぇ」

カライモン「ほぅ?…言ってみたまえ」


俺「そうだな…ちょっとした我侭を聞いてくれる気前の良いヤツ………そんな所かな」


カライモン「何だねそれは、全く以って答えになっていないでは無いか」

俺「しょーがねーだろ。そーとしか言いようが無ぇんだからよぉ」


そう言って俺は空を見上げ………



  その向こう側に、あいつら…もう一人の俺とハルの笑顔を見た気がした。



   魔法少女デュアルディメンションスレイヤー ―完―

646: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/03(火) 17:02:08.04 ID:3+MjyHxlo
●あらすじ

光の核と闇の核…

不可解にして未知のその存在の下、数奇な運命に導かれた…彼と魔法少女達。


異世界より訪れた者………獣人

光の核と闇の核より生まれ出でた怪物………ダークチェイサー…ライトブリンガー

世界と同化し、一つになった獣人………スピリット

人の手により創られ、世界その物を呪った亡霊………根幹を食らう竜

虚構の世界より生まれ、虚構と現実の世界を渡る放浪者………狭間に巣食う蜘蛛


十二大祭で刃を交えた………12の派閥の強敵達


幾多の困難を乗り越え、その度に新たな絆を紡いで来た彼等…

そんな彼等も、休息の中に身を置いていた。


―――災厄の日【バースデー】―――

彼等にとって最後の戦いとなる、その日までの…束の間の休息の中に

648: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/03(火) 17:09:34.41 ID:3+MjyHxlo
《魔法少女独断独奏》

●ふりむき

さて…どこから振り返るべきだろうか


総理を辞任した辺りか、クリエイターを休業した辺りからか…

十二大祭で大敗を喫した辺りからか


いや、私が魔法少女になった直後辺りが無難な所だろう。


人間と言う生き物は、得てして力を手に入れた時その力に慢心する物である

だが私に至っては、幸運にもその範疇から外れる事が出来たらしい。


ではその幸運とは何か…

他でも無い、自分以上の強者の存在を知る事が出来た事だ。


光の恩恵派に攫われたハル君…その救出の際の事。

当時の隣の市…現時点での当市の同名区で探知した、圧倒的存在。

…後に十二大祭で文字通り刃を交える事となった、彼等の存在を知っていたからこそ…

切磋琢磨し、己の力を高め…今の今までこの命を繋ぎ止める事が出来たのだと断言できる。


そして…彼等との邂逅が齎した物はそれだけでは無い。


今まで知る事も無かった…私達が扱うそれとは、大きく異なった大系を持つ魔法…

魔法とは根本的に異なる力により形成される異能の数々…


私の慢心どころか、常識すら打ち壊したそれらの存在は

私と言う名の殻を破り、新たな視点と世界を作り上げた………のだが


同時に、新たな疑問と悩みを齎した。


………ここからが本題である。

649: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/03(火) 17:29:05.97 ID:3+MjyHxlo
ベリル「始めまして…私、悪魔公爵のベリルと申します。この度はお招きに預かりありがとうございます」

私「いや、私の方こそ急に呼び出してしまって―――」

ベリル「因みに私が好きな物は、黄金。貴金属の黄金を始め、金髪金眼や金色の動物…他にも黄金の彫像の、中でも造形の繊細な物が―――」


ゴシックドレスに身を包んだ淑女…私が異世界より呼び出した悪魔。名前はベリル…ベリル・ヒューペリオン

黄金好きな事は聞いていて判るが…その趣向を語らせると終わりが無さそうなので、一旦ここで区切らせて貰う。


私「ベリル君…キミに幾つか質問させて貰いたい」

ベリル「対価を頂けるのでしたら、幾らでも構いませんわよ」


私「ではまず…キミを召還する際にその存在を確認した異世界。DT君達の世界とも異なる異世界の事なのだが…」

ベリル「何でしょう?」


私「ああ言った世界…異世界、並列世界は幾つも存在しているのだろうか?」

ベリル「勿論存在して居ますわ。それこそ数え切れない程の数の異世界が」


私「そしてそれらは、当然ながら虚構では無く現実の世界…質量を持った世界。間違って居るかね?」

ベリル「間違って居ませんわ。ただ…虚構でありながらも質量を有した世界、あるいはそれと同意義の世界も御座いますわね」


私「ではやはり…この世界が数多の並列世界の大本である等と考えるのは…」

ベリル「ご冗談でしょう?」

私「………だろうね」

650: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/03(火) 17:32:49.08 ID:3+MjyHxlo
私「では次に…私達の扱う魔法と君達の扱う魔法、その差異について聞かせて貰いたい」

ベリル「それはまた、魔法を定義する上での線引きにもよりますわね」

私「線引き…かね?具体例を頼みたい」


ベリル「例えば貴女の用いる魔法…あれは科学に基いた理論に、魔力となる力を当て嵌める事で発動しているのでしょう?」

私「その口ぶりから察するに…異なる理論どころか、異なる魔力すら存在しているようだね」

ベリル「それどころか、理論を用いる事無く魔法を使う方々もご存知でしょう?」

私「薄々感付いてはいたが、やはりそう言う事だったか…」


ベリル「他にも…それを魔法だと自覚する事無く世界を改変する方や、魔力を用いる事無く事象を発生させる方…」

私「魔力を用いずとも、それは魔法と呼べるのかね?」

ベリル「ですから線引き次第なのですわ。線引き次第では貴女のそれは魔法でも魔術でも無く、科学と定義する事が出来るでしょう?」


私「確かに…ふむ、自己理論だけではやはり限界の幅が狭いな。では魔力を用いる物に限定してくれ給え」


ベリル「それでは魔力を用いた魔法に関して。まず…魔力と呼ばれる物にしても、当然数多の種類が御座いますの」

私「これまた無知を痛感するのは遺憾だが…聞かぬ一生の恥を晒すよりはマシか」

私は独り愚痴るように呟いた


ベリル「まず、貴女方の用いる魔力…この世界に存在する、魔力と呼ばれる物。この世界で最も一般的な故の名称ですわね」

私「一般的で無い物も…あるようだね」

ベリル「勿論御座いますわ。思考ロジックを変換した力に、何も無い存在の裏側への干渉を行う力…単純な活動エネルギー…これらも魔力ですもの」


私「キミが用いる物はどれにあたるのだね?」

ベリル「企業秘密ですわ」

652: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/09(月) 12:35:43.26 ID:d0ZUPzYyo
●もんだい

私「そう言えば…十二大祭で、朱桜と輪…二人の少女…いや、特異な存在に出会ったのだが…」

ベリル「そのお二人ですのね…」

私「さすがのキミでも、あの二人の事はおいそれと語る事が出来ないのかね?」

ベリル「………いえ。ただ…そのお二人の事に関しましては、私よりもリーゼさんの方がご存知でしょうから、其方にお伺いした方が宜しいかと」


私「…と言っているのだが…キミの話を聞くのにも、何か対価が必要かね?」


リーゼ「対価はもう貰っている…」

私の問いに答えた少女…先程から黙々とケーキを口にしている少女の名前はリーゼ…リーゼ・ミュレイヒ

十二大祭で竜の派閥に所属して居た、規格外の魔術師…リューゼ・ミュレイヒの妹だ


リーゼ「まず輪………特異性を感じたのは多分、魔法では無く特殊能力」

私「本人は魔法と言って居たのだが…ブラフと言う事かね?」

リーゼ「魔法を使っているのは確か…でも輪の能力は、魔法の仕組みその物を…自分の思い込んだ物に変えてしまう物だから…」


私「そう言う事か…魔法に法則性も理論性も無かったのはそのため…」

リーゼ「しかも…相手の使う魔法に類似性を見出した場合は、その相手の魔法の仕組みまで侵食してしまう」


私「………」

リーゼ「………」


私「出鱈目だね」

リーゼ「そう…だから注意して欲しい」

653: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/09(月) 12:40:19.42 ID:d0ZUPzYyo

私「では、次は朱桜と言う少女の事について教えて貰いたいのだが…」

リーゼ「朱桜は………一言で言うと、そう…逆らわない方が良い存在」


私「………」

リーゼ「………」


私「その理由は?」

リーゼ「朱桜は…情報と言う分野で規格外の能力を有している。言い方を変えれば…情報を支配しているとも言える」

私「キミが定義する情報の範囲は?個人情報程度なのか、それとも…」


リーゼ「ほぼ全部…並列存在を含めたほぼ全ての三次元に存在する情報の収集が出来る」

私「馬鹿な!?個体で全ての情報を処理しようとしたら、自己演算でパラドクスが…」

リーゼ「だから朱桜は複数…並列世界に存在して、群で情報を処理している」


私「数多の世界を記録する大樹…そうか、光の核が言って居たのは、彼女の事か」

リーゼ「そうも呼ばれている」



ベリル「そう言えば…一緒にいらしたユーキさんとリューゼさんの事に関しては、お聞きになりませんの?」

私「あの二人に関しては察しが付く…と言うか、知った所でどうしようも無い類の能力だろう?」

ベリル「あらあら、ご存知でしたのね」


私「リューゼと言う男は…リーゼ君と同じく、桁違いの魔術知識と魔力許容量の持ち主…」

ベリル「では、ユーキさんの方は?」

私「魔法による強化では無く、単純に出力が規格外なのだろう。物理法則を軽く超越していた所は、ある意味魔法とも言えなくは無いがな」

654: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/09(月) 12:48:56.00 ID:d0ZUPzYyo
●かくしん

私「さて…では最後の質問だ。君達は、DT君達のような獣人と呼ばれる存在…すぐ隣の異世界に住む彼女等の事を知って居るかね?」

ベリル「存じておりますわ」

リーゼ「………一応、知っている」


私「では、彼女達の事をどこまで把握しているのだね?彼女達が如何にしてあの世界に生まれたのか…あるいは…」

リーゼ「…それは言えない」

私「何故言えないのだね?」


ベリル「新しく作られた『ルール』で、核心に迫る干渉は禁じられて居ますの」

私「成る程…つまり、その答えが何かしら核心となっていると言う訳か」

私の問いに対し、ベリルは意味深な微笑みを浮かべて返す。


私「………もし、君達がその『ルール』を破って私に真実を告げた場合。君達はどんな罰則を受けるのだね?」


ベリル「別に何も御座いませんわ。私達…には」

私「………には?」

リーゼ「この場合…私達が干渉する事が…舞達にとって……良く無い事だと言う事」


私「…脅迫じみた事を言ってくれるね」

リーゼ「ただ…私達がそれを言う事は出来ないけど……舞がその核心に迫るのは自由。だから…その道を進むべき」

私「………」


リーゼ「あと…核心まで聞く事は出来ないと思うけど…後は、『ルール』を作った朱桜本人に聞いてみると良い」

私「それで、その朱桜君は一体どこに?」


リーゼ「…16号室」

私「どこのだね?」

リーゼ「舞が良く知っている所」


私「………あのアパートか」


頭を抱える私を他所に、示し合わせたように同時に立ち上がるリーゼとベリル。

そしてベリルから私に、一枚の紙が手渡された。

655: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/09(月) 12:54:15.47 ID:d0ZUPzYyo
私「………実家で埃を被っている黄金の獅子像や、金細工付きの刀はまだ判るが………日本円でも良いのかね?」

ベリル「最終的に黄金に代わる物でしたら、ドルでも構いませんわよ?それとも…命を対価にした方が宜しかったかしら?」

私「いや、金銭で済むならそれに越した事は無い。しかし…」


手渡された紙は請求書…言わば今回の情報への対価と言う訳だが………

拍子抜け…いや、ある意味驚愕したと言わざるを得ない。

彼女…ベリルの言う通り、命の一つや二つ差し出す覚悟で居たのだが…実際の所は


報酬として至極まっとうな、金銭や貴金属による支払いを要求されてしまった。相手が悪魔であるにも関わらず…だ


私「………よくこの世界の…それも日本に口座なんて作れた物だね」

ベリル「色々と融通を利かせて貰いましたの。貴女もその辺りの事はご存知では?」


ご存知…と言うよりは、その融通を得るために色々と策略を重ねて権力を手にして来た身。

ベリルはその事を言っているのだろうが、あえて話題を切り上げる事にした。


ベリル「それでは…本日はこれにて失礼致しますわね。またこのような機会がありましたら、お招きに預かっても?」

私「こちらとしてもそうしたいのは山々なのだが…今回の召喚は偶然のような物。どうすればキミをまた呼び出せるのだね?」

ベリル「でしたら、召喚用の魔方陣をお渡しして置きますわね。これに魔力を通して頂ければ馳せ参じますわ」


私「魔方陣か…こう言う所は確りと悪魔らしいのだね」

ベリル「褒め言葉と受け取らせて頂きますわね」

そう言い残し…足元から現われた黒い茨に包まれ、ベリルは姿を消した。


そしてベリルが去った後…私はリーゼに視線を向ける。

私「キミもそろそろ時間かね?」

リーゼ「そう…今日はご馳走様」


私「私の方こそ、有意義な話を聞けて助かったよ。また次の機会にも来て欲しい」

リーゼ「そうする……また近い内に来る事になると思うから」

私「それは…予想では無く予言かね?」


リーゼ「現時点では予想。だけど…舞はきっとこれからも、私達と関わる事になる筈」

私「その私達と言うのは………ベリル君だけで無く―――」


私は一旦俯いて考え、その言葉を向ける。

だがリーゼからの返答は無く…その姿はいつの間にか消え去っていた。


私「やれやれ…皆、揃いも揃って出入り口の存在意義を否定するのが趣味のようだ」

私「しかし…長きに渡る牛の派閥の時代を終え、新たに訪れる竜の派閥の時代か…一体この世界はどう変わって行くのやら…」


私は独りぼやくが…その問いに答える者は居なかった。

658: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/24(火) 14:35:12.40 ID:epFG0nVHo
●ふりむき

フミ「あら…皆様、もうお帰りになられたんですか?」

カップケーキの乗ったトレイを持って、廊下の角から現われたのは…フミ君。フルネームは西条 文

根幹を食らう竜の中に存在していた、旧日本軍蒼竜隊の元一員で…今では私の身の回りの世話をしてくれている人物だ。


因みに…フミ君以外にも、蒼竜隊の元一員が何人か私の周辺で働いてくれているのだが…

全員を紹介していると長くなってしまうので、今は割愛させて貰う。


私「あぁ…なので、このカップケーキは私の夕食にさせて貰う」

フミ「いけません。食事は食事でしっかりとバランス良く取って頂かないと、体調を崩しますよ」

私「バランス…か」

フミ「どうかしましたか?」


私「いや、キミも大分現代に慣れた物だな…と思っただけだ。ハイカラなカタカナ言葉なんて以前は使って居なかったものな」

フミ「お陰様で…今の日本にも大分慣れさせて頂きました。マイさんが居なければ、私達がこうして居る事なんて出来ませんでした」

私「止してくれ給え。そう言う意味で言ったのでは無い」


フミ「それでも…こういう機会でも無ければ、感謝の気持ちを言葉に出来ませんかので」

私「そもそも…君達をこうして現代に蘇らせる事が出来たのだって、偶然のような物なのだからね?」

フミ「その偶然の原因にしても、私達との約束が元なのでしょう?」


私「………あぁ言えばこう言う」

フミ「きっとマイさんに似たのでしょうね。以前仰っていた…そう、環境へ適応した結果です」

私「そう言えばそんな事を言ったような気がするね。あぁ、そうだ…物のついでなのだが、あの時のあれは何事も無いかね?」


フミ「はい。依然変わり無く…今はヤエさんが見周りをしていると思います」

私「ふむ………」

フミ「様子を見に行かれるのですか?」


私「あぁ、もしかしたらまたあれの出番が来るかも知れないのでね」

フミ「では、ヤエさんに伝えておきますね」

私「頼んだよ」


そう言って私は先に進み、すれ違い様にカップケーキを二個程拝借。

はしたない…と、フミ君から説教をくらう前に退散して、次の部屋に向かう。

659: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/24(火) 14:41:45.38 ID:epFG0nVHo

●とりかご

第三研究室…幾重にも重なった厳重なセキュリティの奥

今はただの赤褐色の塊となっているそれを、私は見下ろしていた。


私「………………」


祖父の研究の一つ………根幹を食らう竜に連なる研究の過程で生まれたそれ

…と言うと他人行儀に聞こえるが

ぶっちゃけ、私の身体の一つだ。


予想外の出来事や事故に見舞われた、実験と経過観察の日々…

根幹を食らう竜の力を得るために奮闘していた、あの頃を思い出す。


そうだな…次はこの件を振り返ってみるとしよう。

660: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/24(火) 14:57:19.65 ID:epFG0nVHo
●かこから

根幹を食らう竜………その名の通り、集団深層意識へ直接干渉して対象の存在その物を食らう力を持った竜。

主たるその能力の他にも…位相次元間の航行や獣人由来の記憶情報保管等……幾つかの能力を持っている事が確認されている。

ただ…因果予測はスピリットの特性らしく、物のついでで得る事は叶わないらしい。


さて…力を得ると一言で言っては見たものの、それを実現するのは容易い事では無い。

幾つかの手順は省くとして……解析…予測…実験。大まかに分けてこの三つは必須となる。


…では、それらの実行に入ろう。


………まずは解析


根幹を食らう竜は、スピリット同様に物質として存在しては居ない。

我々の居る三次元に於いては、物質と同質の力場をエミュレートして存在していた…いわゆる情報存在だ。

先の戦いにおいて、物理攻撃の効果が薄く決定打となり得なかったのはこれが原因らしい。


となると…力を取り込むために必要な物は、肉体では無く力場を形成するための媒体…

精神構造…あるいはそれよりも確実性の高い物。


魔力………その結論に至る。



………次に予測


根幹を食らう竜…その存在を取り込んだ際に、私の身に起こるであろう事はある程度予測出来た。

根幹を食らう竜の力を受け入れ切れず、心身のどちらか…あるいはその双方が崩壊してしまう可能性…

力その物、あるいは意思に取り込まれて暴走してしまう可能性…

集団深層意識に干渉する際、その奔流に取り込まれてしまう可能性…

その他諸々の事態を想定した上で、次の段階に移る。



………最後に実験


先に述べた通り…根幹を食らう竜の魔力構造を私に移植する事で、実験と経過観察を開始する。

移植は難無く成功…予想されていた事態への対策も恙無く効果を表わし、出だしは快調…

だが、実験とは須くして予想外の事態が付き纏う物で……多分に漏れる事無く、今回の実験においてもそれは訪れた。

661: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/24(火) 15:05:50.70 ID:epFG0nVHo
実験開始から三日目……体表の一部に、黒色に変色した箇所が現れる。

科学的な成分分析を行ったが、壊疽とはまた異なった変色で…当然ながらメラニン色素の沈着とも異なる物だ。

精神的な変質を主として想定しただけに、肉体的な変質が起きた事への驚きは大きい。


四日目……変色の範囲が広がり、皮膚の一部が角質化のような現象を起こす。

同時に…こめかみと肩甲骨付近、尾てい骨付近に違和感を感じるようになる。


五日目……皮膚の約九割が変色し、角質化が進行。角質の一部が瘡蓋のような物を形成し始める。

成分分析を試みるが、これも変色と同様に解析不可能…予想外の事態が着々と進行しているらしい。


七日目……身体全体の皮膚が黒色に変わり、瘡蓋の大きさが親指大まで膨れ上がる。

角質化から始まったそれは、現状では僅かに透明みを帯び…赤褐色の宝石のような外観を形成している。

これらの外見的特徴から見ても、私の身体が根幹を食らう竜と同質の物に変化しつつある事が判るのだが…

同時にそれが示唆する物…更なる進展の可能性を知る事となった。


八日目……問題を確認すべく幾つかの手段を試みて…その一つが的中。

手段は至って単純で、例の塊…その中の額の塊に魔力を通すだけ、と言う単純な物なのだが……これが予想外の成果をもたらした。


私「何かが見える………これは…根幹を食らう竜の記憶か?いや…そうなる以前の物もあるのか?」

まるでその塊が目であり耳であるかのように感覚を伝え、私の脳内に直接投影される竜の記憶。

あちらの世界からこちらの世界に漂流し、蒼竜隊と共に生き…根幹を食らう竜になり…そして、私達に倒されるまでの……


そう…今はもう存在して居ない筈の、竜の記憶。


私「ありえない…これはありえない事だ」

竜の魔力構造は解析済みで、それは移植した…だが、記憶までは移植して居ない。

ではこの記憶は一体どこから来た?

とりあえず…糸口を探すためにも、今までの経過と憶測をまとめてみよう。


竜の力を得るために移植した魔力構造…この影響により魔力が肉体に作用し、根幹を食らう竜のそれへと変質…それはまだ判る。

だが、この魔力構造自体は言わば設計図のような物で…後々刻まれた筈の記憶が蘇る理由にはなりえない。

幾つかの可能性は考えられないでも無い…が、それを証明する要素も皆無。

回答を得る事が出来ないまま、疑問だけが駆け巡る中…それは訪れた。


エディー「マイ様…お身体の調子は如何でしょうか?」

私の安否を気遣い、見舞いに訪れたエディー。

実験中は何が起こるか判らない以上、近付かないように言っておいたのだが…どうやら、いつものお節介が先に出たらしい。

エディーは持参したタオルを片手に近付き…いつの間にか溢れ出ていた、私の汗を拭い始めるのだが…


気を利かせた上でのその行動が、仇となった。

662: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/24(火) 15:12:29.89 ID:epFG0nVHo
小さな手で器用にタオルを折り畳み、乾いた面で再び汗を拭き始め…

と…そこまでは別に問題無かった。

だが………その小さな手がタオルから滑り、赤褐色の塊に触れてしまった瞬間……状況が激変した。


エディー「―――っ!?」

私「なっ―――」


突然襲いかかる衝撃…

その衝撃と共に私の身体の流れ込む魔力。そして………エディーの記憶。


以前…魔法少女になる契約の際にテレパシーの中で見たそれとは、根本的に違う質と量の…情報の奔流

それを受け入れ、私の意識が現実に引き戻される…と同時に

………一連の出来事から推測できる…嫌な予感が頭の中を過ぎって行く。


そして………その予感が的中した事を悟ったのは、次の瞬間。

エディーの姿を確かめるべく、視線を下ろした時だった。


私「エディー!!」

床に落ち、微動だにしないエディー…

私は声を荒げて叫ぶが、当然のようにエディーはそれに応えない。


間違い無い…根幹を食らう竜の力だ。

肉体こそ、こうして辛うじて残っているが……その記憶と魔力は私の中に在る


…いや、私がそれを食らってしまったと言うべきだろう。

665: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/30(月) 18:26:37.24 ID:Kkxfd8Jto
●かいせき

エディーを病室に移し…必要な処置を施してから、私は実験室に戻った。


私と言う存在が、まだ完全に竜に変質して居なかった…それが幸いしてか、エディーの身体は無事で済んだ。

元々契約者だった事も幸いし、記憶や魔力の方も滞り無く復旧する事が出来はしたが………

パートナーであるエディーに被害を被らせてしまった以上、この実験は凍結せざるを得ない。


ただ………一口に凍結と言ってもその準備にも時間がかかる。

準備が終わるまでの少しの間…私は、改めて今までの経緯を振り返る事にした。


赤褐色の塊……まず間違い無く、エディーから記憶と魔力を奪った元凶で…根幹を食らう竜の力その物。

奪った記憶や魔力はこの塊の中に保存され……私達が戦った竜と同じ構造で、各々の魔力と人格を保持する物と推測できる。

と………ここまで考察した所で、ある事に気付く。


私「人格…言うなれば個性。そしてそれを一つの大本に保存している…と言う訳だよな」

更にその個性を分化し、フミ君のように個体の中に乗せる…と言う手順は、本来の運用とは異なる筈。

……にも関わらず、何故かその仕組みに対して強烈な既視感を覚えずには居られない。


私「魔法少女と獣人の契約…いや、それよりも…そうか……これはダークチェイサーの仕組みに酷似しているのか」


と、その仕組みの正体を突き止めるに至るのだが…両手離しで喜ぶ気分にはなれない。

またも謎を解いた事で現れた新たな謎………この二つの類似性の理由を解明しない限り回答に辿り付けない事を、直感的に理解した。


私「双方は共に闇の核由来…いや、光と闇の核、両方に由来している。それが理由なのか?」

その可能性は充分にある

スピリットと言う、ある側面では光と闇を凌駕する存在…その力の干渉により別たれた種別という可能性は存在する。

だが……だとしたら、それはそれでまた不可解な部分が浮き彫りになって来る。


私「では……そもそも光と闇の核とは一体何者なのだろうか?」

存在を確立し、誕生するまでの経緯も去る事ながら…観察出来る範囲内の、主たる特性を上げても不可解な部分が多過ぎる。

そう、例えば………まずその力関係だ。


秩序・節制・不変等を司る光と、混沌・例外・変質等を司る闇………

一見すれば、拮抗する力を持った相反する二つの存在に見えるそれ……だが、その実の所は大きく異なる。

一部の例外を除けばの話だが…光の力及び光の眷属の持つ力は、闇の力及び闇の眷属に対して圧倒的な優位性を持っているのだ。


これが光の核の一神教であるのならば、何も違和感は抱かない…闇の核が引き立て役になる事で話がまとまる筈。

にも関わらず…あちらの世界では、明確な格差が存在する二つの存在が同格として信仰されている。

明らかにおかしい…では、何故そんな事が現実に起こっているのか?それを考えていると……私の中で、不意に一つの可能性が力を持った。


私「そうか…そもそもあの二つが、二つで一組の存在…そう考えて居たのが間違いだったのか」

確信にも似た予想へと変わる、その可能性。確証は無い…にも関わらず、私の中ではその可能性を前提に理論が組み上がって行った。

666: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/30(月) 18:39:03.44 ID:Kkxfd8Jto
棚からぼた餅…いや、ひょうたんから駒と言うべきか。思わぬ所から得た、祖父の研究に対する回答。

スピリットと契約した際に知った、災厄の日………バースデーの片鱗を垣間見た気がした。


……と、一区切り付けた所で、また根幹を食らう竜の力に話を戻す。


全容を見据え…異なる視点を持つ事で、新たに見る事ができるようになった別の側面。

その側面に触れるべく…まずは、以前DNA採取キットで採取した彼のDANサンプルを取り出す。

続けて、診察の際に採血したハル君の血液。レミくんの物はハル君と同じなので、今回は必要無い。


さて…再び準備が整った所で説明しよう。


概要はこうだ。

私は…魔力構造にこそ根幹を食らう竜の力が存在すると仮説を立て、その仮説を実証した。

だが…それではまだ不完全だった。

この方法では、力を得ても制御するには至らない。力の制御に必要な物…それは、無関係と思い込んでいた肉体側にあったのだ。

相変わらず確証は無い、が…充分な可能性が私を突き動かす。


実験開始…そして終了。結果を言うと、呆気無い程に滞り無く成功。

一応言っておくが…ダークチェイサー及び光と闇の核に適合している彼のDNA自体は、何の変哲も無い普通の人間の物だ。

特に何かしらの能力の兆候がある訳でも、疾患がある訳でも無く…当然、特殊な血筋と言う訳でもない。

故に………この上無い説得力を以って、私の仮説を後押ししてくれた。


私「やはり…条件と結果が逆なのだね。前提条件ありきで結果が伴うのでは無く、結果が条件に追随していると見て間違い無い」

仕組みさえ判れば、後は至って簡単な手順のみ。

根幹を食らう竜に適合しうるの遺伝子…その中の適合の鍵となるマーカーを抽出して、該当部分に移植する…これで適合可能。


と言っても…不適合のまま変質してしまった今のこの身体に、新たな因子を組み込むのは得策では無い。

この個体は当初の予定通りに凍結を行い、新たに用意した個体に適用するのが無難な所だろう。


とりあえずだが………以上をもって、根幹を食らう竜の力の獲得は完了。

祖父の遺した研究課題も一歩前進…これに伴って、狭間に巣食う蜘蛛を撃退するための手段も得た。

後は…災厄の日への対策だが、こちらはこの先の情報収集次第と言った所だろう。


事を終え…改めて過ごす、凍結準備完了までの残りの時間。まだ僅かに残った猶予の中で、私はふと思い付く。

根幹を食らう竜の記憶を、赤褐色の塊から入手する事が出来た…

それはつまり、あの塊が記憶媒体の役目を果たしていると言う事……と言う事は、だ…

667: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/30(月) 18:42:10.61 ID:Kkxfd8Jto
●げんざい

ヤエ「あんの…どうしただぁ……いんや、ですか?」


私「あぁ、すまないヤエ君…居たのだね」

ヤエ「いんえ、今来た所です。そんで、ボーっとして、どうかしたですか?」

私「昔の事を少し思い出して居て…ね。ほら、丁度君達を現代に蘇らせた時の事だ」


ヤエ「あーぁ…あん時の。確かあん時はぁ……」

私「摘出した塊に、君達…蒼竜隊の記憶と魔力構造を転写。その上で新たに生成した各々の身体に移植したんだったね」

ヤエ「そんでしたぁなぁ、あん時はえんらいびっくりしましたわぁ。いえねぇ、あんだしとしてはぁ、舞さんの中に居る方のが落ち着けたんですけどね」


私「おいおい、私の容量にも限界があるのだから勘弁してくれ給えよ」

ヤエ「んですよねぇ…あ、そうそう。キヨちゃんとぉチヅちゃんはぁ、どですかぁ?」


私「彼女達はまだ少々危険な…じゃじゃ馬だからね。もう暫く出番は無さそうだ」

ヤエ「んですかぁ……あの子達もぉ、今の世の中ぁ知ったら丸くなりそうな物ですけどねぇ」

私「そうだね…魔力構造を除外した上で、人格だけを転写する事が出来れば……うん、試してみる価値はあるかも知れない」


ヤエ「よんろしくお願いします」

私「あぁ…では、今日の所はこれで失礼するよ」

ヤエ君にそう告げて…私は第三研究室を後にする。


思えば今回の研究は、独断で独走…いや、独奏した部分があまりにも多すぎて……結果的にエディーを巻き込む事になってしまった。

私「そうか…多分私に欠如しているのは、そう言った他者への配慮や共感なのかも知れないな」


得る物は大きかったが、それ以上に反省する物が大きかった。

それを次回までの課題とする事を肝に銘じ…今回の締め括りとする事にした。

668: ◆TPk5R1h7Ng 2015/11/30(月) 19:20:07.17 ID:Kkxfd8Jto
○さいはて

私「私は…誰?カライモン…私……名前?」

眠っていた…ポッド……プレート…書かれた文字…見て、私の名前……理解する。


エディー『左様に御座います。貴方の名はカライモン……この終焉を向かえた世界で、観測者としての命を受けた存在です』

私「頭の中、声………誰?」

エディー『私めの名はエディー…この度は貴方の教育係を仰せ付かった者です』


私「教育係…?」

エディー『はい。初期化を終えた貴方は、魔法はおろか御自身の記憶さえ覚束ないのでは無いかと心配されておりましたので…』

私「初期化?魔法?」

知らない単語…ばかり。


エディー『しかし…そのご様子を伺った限りでは、会話すら儘ならないようですし……そうで御座いますね。まずは言葉からお教えしましょうか』

670: ◆TPk5R1h7Ng 2015/12/07(月) 22:02:49.63 ID:1GrZul23o
●しんそう

彼「んで、今日は一体どうした?」

予め召集をかけ、彼のアパートに集まった各々の面子…所狭しと並んで座る彼女達の顔を見渡して、彼がぼやくように呟く。


私「本日…皆に集まって貰ったのは他でも無い。近日中に訪れるであろう、災厄の日に関する説明と対策を行うためだ」

彼「マジか!何か判ったのか!?」

私「あぁ…一から十までとは行かないが、昨日スピリットとして復帰した神風君の協力で、一から三くらいまでの概要を把握出来た」


彼「四から十までは不明のままか…」

私「キミの中の光と闇の核がもう少し協力的ならば、大幅な進展を見込めるのだろうが…」

彼「そっちの方は相変わらずだんまりだ。災厄の日の事は全く口を割ろうとしねぇ」

私「…だろうね」


彼「どうせまた、主観がどうだの可能性が確定して居ないだのって理由なんだろうが―――」

私「いや…今回に関しては一概にそうとも言い切れない」

彼「…………どー言う事だ?」


私「これは根拠の無い憶測でしか無いのだが…」

彼「お前にしては珍しいな」

私「茶々を入れないでくれ給え。ともかく…私はどうもその辺りが腑に落ちないのだよ」


レミ「何で腑に落ちないの?」

私「光と闇の核は、彼と同化する際に彼に主観を…言わば、決定権を託した。だが考えてもみてくれ給え」

ハル「決定権を託した…その託したと言う行為その物が、光と闇の核の意思では無いか…そう言いたいんですか?」

私「その通りだ。そして…知っての通り、光と闇の核にも人格に相当する物が存在している。故に…」


彼「おいおい……まさかこいつらが災厄の日の事をわざと隠してる、とか言い出すんじゃ無いだろうな?」

私「欺こうとしているとまでは言わないが…言わない、あるいは言えない理由があるのでは無いかと…私は考えている」


彼「神風…その辺りの事、お前のスピリットの力で何とか判らねぇか?」

神風「該当する箇所の記録が抹消されているため、読み取る事ができません」

彼「…は?」


私「大方、神風君がスピリットの力を失っている間にでも消去したのだろう」

ユズ「え?大事な事なんッスよね?消しちゃって大丈夫なんッスか!?」

私「スピリットに感知される事の無い世界…Ifの並列世界にでも退避させたのでは無いかね?多分、必要になった時には帰還するような仕掛けも込みで…」

ハル「そこまでして隠し通したい内容…それが災厄の日の真実と言う事ですか」


光と闇の核に対しての不信と疑惑…この場に居る皆の中でそれらが深まって行くのが判る。

だが……

671: ◆TPk5R1h7Ng 2015/12/07(月) 22:03:47.87 ID:1GrZul23o
彼「そっか…こいつ等はこいつ等で、大変な事情を抱え込んでんだな」

彼の一言により、それらが大きく希釈される。


ハル「……え?」

ディーティー「いや、何でそう言う結論になるんだい?光と闇の核が僕達を裏切っているかも知れないんだよ?」

彼「いや、お前がそれを言うなよ!」

恐らくはこの場に居る全員が思って口に出さなかったであろう事を、彼が突っ込んだ。


彼「裏切ってるかも知れないって事は、その反対に裏切ってない可能性もあるんだろ?」

ディーティー「そりゃまぁ、理屈ではそうだけど…」


彼「だったら俺は、こいつ等が裏切って無い可能性の方を信じるぜ」

ディーティー「どれだけ楽観視するつもりなんだよ、キミは…」


彼「楽観視ってか、経験則だな。何だかんだこいつらは、事在る毎に俺達に力を貸して来てくれた……良い奴等だ。だから俺は、信じたい」

私「予想通りと言えば予想通りだが…こうなってしまっては、彼は梃子でも動かない。この件は保留して、次に進ませて貰おうか」

DT「次…って言うと?」


私「災厄の日に備える上で、避けては通れないであろう考察……君達獣人の起源に関してだ」

エディー「私めどもの…」

DT「……起源だって?」


ユズ「でも、それが避けて通れないって…どう言う事ッスか?」

ハル「無関係と言う訳では無い…むしろ、重大な関連性を持っていると言う事ですよね?」


私「その通り。前々から獣人の存在に関しては、疑問を持って居たが…それに対して限り無く核心に近いであろう仮説を、立てる事が出来たからね」

672: ◆TPk5R1h7Ng 2015/12/07(月) 22:04:54.80 ID:1GrZul23o
私「まず簡単に言うと…君達獣人は、言わば外来種だ」

彼「…何を今更言ってるんだ?あっちの世界から来た存在だってのは判ってるだろ」

私「そうでは無い…あちらの世界から見ても、獣人という存在は外部から訪れた者…外来種なのだよ」

彼「………は?」


私「獣人達の祖先があちらの世界に現れたのは、恐らく現在の人類が人類としての進化を遂げる前…」

ユズ「人類が誕生するよりも前に、あの姿を持ってたって事は…あ、ひょっとして、人類進化の謎がそこにあるって事ッスか!?」

私「いや…獣人の干渉を受けて居ない筈のこちらの世界との差異を考えると、その可能性は極めて低い」


レミ「あれ?でもそうなると。無関係の筈の、獣人の人型形態と…人間が、偶然同じような姿をしてるって事になるわよね?」

私「うむ、良い所に気が付いたね。ついでに言うと…人間の姿だけでは無く、動物の姿に関してもこれに当て嵌まる」

彼「いやいや…動物つっても、コイツらのはぬいぐるみみたいなマスコットだろ?」


神風「………」

彼「あ………いや、そうでも無いのか?」


私「獣人達は普段、魔力やカロリーの消費を抑えるためにあの形態を取っているが…それを度外視するならば同様の形態を取れるのだよ」

神風「そう…スピリットに限ってはそれを制限する必要が無いので、常にあの形態を取っているだけです」


彼「成る程な。それはまぁ判ったが…んで、それがさっきの話とどう繋がるってんだ?」

私「では続けて…スピリットの存在に辿り着いた際に行った、獣人達の存在に関する考察を思い出してくれるかね?」


彼「獣人達の存在に関する考察ってーと…あれだよな?細胞分裂の上限が異常に多いのと…」

ハル「それに追随するかのような、特殊な繁殖方法を有している事」

レミ「あと、テレパシー。生き物だけじゃなくて、世界とも一つなれる…だっけ?」


私「その通り。そして…それらの要素を、獣人達が外来種であると言う前提で当て嵌めた場合…その目的の片鱗が見えて来ると思う」

673: ◆TPk5R1h7Ng 2015/12/07(月) 22:05:57.24 ID:1GrZul23o
彼「まず棲息地域の拡大…は違うな。繁殖能力が限定的過ぎるし、特定の環境にありつけたとしても…そこからの拡大が見込めない」

レミ「テレパシーにしたって…一方的に盗み見るんじゃ無いって事は、意思の疎通を図るための物よね?」

私「そう……以上の事から、侵略が目的では無い事は判った筈だ」


彼「となると、他に考えられる目的は…文化や技術、教義の布教とかか?実際、魔法だとか光と闇の核の信仰だのを伝えてる訳だし…」

私「その一面もあるだろう。だが…更にそれを行うに至った原因にこそ、真実が隠されている」

ユズ「あの…話の途中で申し訳無いんッスけど…ちょっと良いッスか?」


私「構わんよ」

ユズ「布教するだけなら別に、信仰の対象その物…光の神殿や闇の神殿なんかをわざわざ持って来る必要は無いッスよね?」

私「そう………正にそこだよ。門を繋げば良いだけの所を、わざわざ移住させた。皆もこの発言で大体の予想が出来た事だろう」


彼「信仰対象である光と闇の核が、あっちの世界に現れた理由…時期は確か、あっちとこっちの世界が生まれた時から居たんだよな?」

レミ「って事は…二つの世界を観測するため?でもそれなら、あっちの世界に来る必要が無いんだから」

ハル「観測は副次的な物でしか無くて…本当の理由は、元の場所に居られなくなったから…何かから逃げて来たから…ですか?」


私「その通り。彼等は、何かから逃げて来た…遭難者にして箱舟。そして、獣人の一人一人がその副次的な役割を担って居る…という仮説が成立するのだよ」


彼「いや………ってー事は、だ。あっちとこっちの世界より先に、良く似た生態系の世界があったって事だよな?」

私「うむ、それは大前提だ」

彼「んで、こいつ等…光と闇の核と獣人達は、その世界から逃げ出さなけりゃぁいけねぇ状態に陥った。つまり…」

私「正確には、あちらの世界に逃げ延びたのは光と闇の核のみで…先に言った通り、獣人達は後から発生した訳だが…まぁ、続けてくれ給え」

彼「これは、話の文脈から予想しただけなんだが………こいつらが逃げ出す事になった理由ってのが……」


私「そう……災厄の日。バースデーと呼ばれる物だ」

676: ◆TPk5R1h7Ng 2015/12/15(火) 20:32:42.67 ID:e4idCqWHo
●そなえて

私「相変わらず…キミの中の光と闇の核はだんまりを決め込んで居るのかね?」

彼「あぁ…うんともすんとも言いやしねぇ」


DT「それにしても…もしマイの仮説が正しかった場合。災厄の日をこの世界に呼び込んだのは僕達…という可能性も出てくる訳だね」

私「可能性としては存在するが…肝心の相手の正体が判らない以上は、断言出来無い」

彼「結局の所…ある程度の予測が付いたってだけで、今の俺達に出来る事はまだ何も無ぇって事だからなぁ」


レミ「ねぇ…災厄の日って言うのを回避出来なかったら、アタシ達ってどうなっちゃうの?」

私「判らない…が、あまり良く無い事になると言うのだけは確かだろう」

ディーティー「大災害か…はたまた世界の滅亡か…何にせよ、光と闇の核が逃げ出す程の出来事なんだろう?」


ユズ「もしもの時に備えて…色々やっておかないと駄目ッスよね」

ディーティー「それまた縁起でもない事を…」

ユズ「ち、違うッスよ!?悔いを遺さないとかじゃなくて、事前準備の事ッスから!」


彼「まぁ……走馬灯って訳じゃ無いが、今まで色々あったよな。元を辿れば、神風が光と闇の核の一部を奪い去った所から始まって…」

神風「ケイエルが光の核の一部からライトブリンガーを、ディーティーが闇の核の一部からダークチェイサーを作り出し…」

ディーティー「それをボクが、証拠隠滅のために処分しようとした所で、こっちの世界に逃げ込んで…」


レミ「この子達…ダークチェイサーをアタシが助けて…」

ハル「勘違いから、彼を襲わせちゃって……それを私が助けに入って」

ディーティー「ま、助けに入ったのも計略の一部だったんだけどね」


彼「いや、だからお前は黙ってろ。色々台無しになる」

677: ◆TPk5R1h7Ng 2015/12/15(火) 20:33:52.78 ID:e4idCqWHo
彼「ってーか…あん時は驚いたよな。手足が何本も生えた真っ黒な芋虫の怪物が、いきなり『こいつか』なんて言いながら襲い掛かって来たんだからなぁ」

レミ「………………え?」

彼「そー言やぁ、あの時のダークチェイサー…アイツは何て名前だったんだ?」


レミ「…………知らない」

彼「…は?」


レミ「手足が生えた真っ黒な芋虫?そんな形状の子、私は知らないわよ!?」

彼「は!?いや、だってお前が差し向けたんだろ?お前だって、以前そう言ってただろ!」

レミ「私が向かわせたのは卵型の子…ロストよ!?そもそも、あの子達は発声なんて出来ないもの!」


彼「………………いや…待ってくれ。俺はむしろそっちの方を知らないぞ!?」

レミ「………」


彼「だとすると…」


彼「あの時俺を襲撃した………アイツは…一体何者なんだ?」



   魔法少女独断独奏 ―完―

686: ◆TPk5R1h7Ng 2016/03/05(土) 01:36:59.55 ID:+1/Gs39no
●ほしくず

輝く数多の星々と…有機物とも無機物とも取れない幾つもの白い塊……それが、解体された虚獣の欠片である事はすぐに判った。

そして…レミは、その中央に居た。


レミ「この子達…ね。銀河系ごと消滅させようとしてたから、仕方無く…こうするしか無かったの」


近い物は、手の届きそうな距離…遠い物は、恐らく何光年も離れた先まで……四散した虚獣の欠片を眺めながら、この状況に至った理由をレミの口から聞いた。

俺「あぁ…判ってる」


レミ「………ゴメンね」

俺「おいおい、謝んなよ。ってーか…この後どうするんだ?この虚獣は最後の抑止力だったんだろ?」

レミ「そうね…アタシとしても、この世界が無くなるのは嫌」

俺「………だよな、俺だって嫌だ。何だかんだで、俺はこの世界が好きだしな」


レミ「だから…終わらせよ?それが…アタシの最後の………」

俺「………」

レミ「………………」


俺「…そっか」

687: ◆TPk5R1h7Ng 2016/03/05(土) 01:57:44.90 ID:+1/Gs39no
★魔法少女でも大事な人を誰も救えない★

●いとぐち

俺「そうだ…神風。神風なら、スピリットの力でその辺りの事が判るんじゃないか?」


ハル…レミ…カライモン…ユズ…ディーティー…紛らわしいが、アルファベットのDT…エディー…神風…アラク。

六畳しか無い俺に部屋に、所狭しと並んで座るその面々。

全員揃った上で…迫る災厄の日に対しての考察や対策を練って居たんだが……その中で議題に上がったのが、俺が最初に遭遇したダークチェイサーの正体について。

俺は、手っ取り早くそれを突き止めるため……神風に真偽を問う事にした。


神風は…スピリットと言う名の…こちらの世界とあちらの世界の全てを知る存在。どちらに転んでも、真実を知る事が出来る筈…そう考えて聞いたのだが…

神風「……困りました。私の把握している領域では、そんな事象が発生した筈が無いのですが…」

どうにも…話の雲行きが怪しくなって来てしまったようだ。


カライモン「となると…彼の記憶違いと言う可能性が濃厚かね?卵と手の生えた芋虫を見間違えると言うのは、大分厳しいが…可能性が無い訳では無いしな」

ハル「あの…その事なら私も。私が見た姿も彼と同じでした」

ディーティー「…遺憾だけど、ボクも同じく。その場に立ち会った本人が行ってるんだから、これ以上疑ってもしょうがないんじゃないかな?」


カライモン「ふむ…」

俺達の証言を聞き、黙り込むカライモン。

そして…暫く考え込んだ後。何かの答えに行き着いたらしく、再び口を開いた。

カライモン「神風君の…世界視点で見て、事実が無いのならば…彼等の勘違い……あるいは、記憶を改竄されたと見るべきなのだろうが…」

神風「念のために言っておきますが…現時点では、彼等が記憶を改竄された形跡もありません」


俺「………ん?…いや、それっておかしくないか?」


カライモン「…そうだね。となると……これは予想以上に厄介な状況だな」

ユズ「ど……どういう事ッスか?」

688: ◆TPk5R1h7Ng 2016/03/05(土) 02:17:45.75 ID:+1/Gs39no
カライモン「問題は…最初に遭遇したダークチェイサーの認識について、相違が発生していると言う事」

ユズ「えっと…それって。センパイの勘違いで……それは神風さんなら…あれ?え?」

カライモン「そう…そして、その矛盾点をスピリットが把握出来て居ない…それが最大の問題なのだよ」


神風「もし、彼の言う通りの事実があったのだとしたら…それは、私を欺く存在が干渉していると言う事で…逆に、彼の証言が事実で無かったとしても……」

カライモン「彼の記憶を改変しつつ…その存在を隠蔽出来る者が存在する。つまり…どちらにしてもスピリットを欺く存在が居ると言う事だ」

エディー「それはつまり…もしその存在と戦う事になってしまいました場合には………」

ユズ「神風さんの力に頼る事が出来ない…って訳ッスね」


レミ「それだけなら、まだ良いんだけど……下手したら、現時点で既にアタシ達がソイツに躍らされてる…って事もありうるのよね」

ハル「更にその前提の上で……私達が、今こうして…その存在に気付く事が出来たと言う事は………」

カライモン「既に詰んでいる………それ故のネタバラシ展開…と、考える事も出来る訳だ」


カライモンのその言葉により、俺達は沈黙した。


俺「んでも、待てよ?ってー事は…だ。何しても遅いかも知れないって事は、逆に何をしても良いって事だろ?」

ユズ「………え?」

俺「だってそうだろ?今までの戦いじゃ、あれはダメこれはダメって制限ばっかりだったが…今回は、勝つ可能性を自分達で作る事も出来るんじゃ無いか?」

何とか空気を変えようと、半ば自棄になって言ってみたのだが………結果は、余す事無く一同唖然。

盛大に外してしまったのだろうか……そう思って、一瞬額に汗したのだが………


レミ「ま、アンタらしいわね」

カライモン「…全くだ」

ハル「それに…案外それが正解なのかも知れませんよ?」

ため息交じりながらも、皆の表情には僅かな余裕戻ってくれたようだった。


俺「それに…本当に何も出来ない状態だってんなら、俺ん中のコイツ等が何か言ってくんだろ?俺達は、とにかく今出来る事をやってみようぜ」

エディー「そうで御座いますね…そう考えれば、光明が見えて来たやも知れません」

ディーティー「黙ってやられるような奴等なら、今までだってしゃしゃり出て来なかっただろうしね」

カライモン「まぁ…もう少し様子を見てみるとしようか」


………と言った感じで、皆の賛同は得る事が出来て…俺達は、考察を次の一歩に進める運びとなった。

691: ◆TPk5R1h7Ng 2016/03/12(土) 08:38:10.06 ID:fHhC/rWmo
●いきさつ

カライモン「それで…一応決めておきたいのだが、一番最初に彼と遭遇したダークチェイサーは結局どちらなのだね?」


俺「って…話がそこに戻るのか?最終判断の材料が無い以上、堂々巡りの無限ループになるだけだろ?」

カライモン「だが、今一番重要なのはそこだ。それ次第では、対応も対策も大幅に変わって来るだろう?」

俺「え?」


カライモン「判らないかね?今まで我々は、君と同化したダークチィサーが…正規の物であるという前提で行動して来たのだよ?」

レミ「あ…そっか…」

ハル「そう…ですよね……」

ユズ「え?どう言う事ッスか?」


カライモン「そもそも…彼がダークチェイサーに適合するきっかけとなった存在が、最初に彼を襲撃したダークチェイサーだった訳だろう?」

ユズ「そうッスね」

カライモン「しかし…それは、彼を襲撃したダークチェイサーが、ロスト…レミ君が把握している範囲のダークチェイサーだった場合に限られる」

ユズ「あ………そうッスよね。もしロストちゃんじゃ無いとしたら…」


カライモン「そう…今まで私達が想定していた物とは全く別物だった場合…今までの彼とダークチェイサー関連の前提が、全て覆ってしまうのだよ」

ディーティー「まぁ、当然そうなるよね」

カライモン「後はまぁ…ダークチェイサーその物もさる事ながら、大本である筈の闇の核も…ひいては光の核も、これに該当して…」


DT「良くて、光と闇の核も欺かれた状態。悪ければ………」

ディーティー「光と闇の核さえも、敵の可能性がある…って事だね」

カライモン「更に言えば…本来ならばアーカイブでの照合で解決するべき、この件に出て来ない時点で、限りなく黒に近いと考えられる訳だが……」

アラク「ココマデ、ハナシタトコロデ……」


俺「……とは言っても、だ。コイツ等がいなけりゃ、今が無かったのも確かだろ?可能性としては考えても、それを前提に話を進めるのは危なくないか?」

アラク「ト…フォローガハイッテ、ケツロンニイタル」

レミ「ま、途中からは読めてた話よね」

ハル「では………神風さんの能力に干渉出来る存在が当面の敵で、彼に何か仕掛けた可能性がある…と言う事で、話を進めましょうか。名前は………」


神風「恐らくですが……彼の者の名は『終焉を齎す者』でしょう」

俺「って…それは判るのか。名前が判るんだったら、能力とか特徴なんかも判るんじゃ無いのか?」

神風「全容は判りません。判るのは……その名の通り、災厄の日に世界に終焉を齎す者である事と…それが必ず訪れると言う事だけです」


アラク「……ソモソモ…サイヤクノヒ、トハ、イッタイナンダ?」

ユズ「あぁ…アラクちゃんは根幹戦では居なかったから知らないんッスね」

俺「スピリットの能力…未来視で垣間見た未来の内の一つだ。現に、そん時に見たアラクの出現や十二大祭なんかも起きてるし…まず来ると思って間違い無い」

アラク「デハ…ソレハ、ヒツゼン……カ」


俺「肝心の経過までは、判らなかったけどな。ま、そんな訳で今はその事に関して話し合ってる訳だ」

アラク「…………」

話の展開を整理しているのか、単に難しい話だったのか…アラクはそのまま黙り込んでしまった。

692: ◆TPk5R1h7Ng 2016/03/12(土) 08:47:55.19 ID:fHhC/rWmo
カライモン「では、議題を少し移すとして…芋虫型のダークチェイサー…以下偽ロストと呼称するが、偽ロスト…あるいはその黒幕、終焉を齎す者の目的は何だと思う?」


俺「最終目的は、名前の通りそのまんまなんだろうが…問題は、そこに至るまでの経緯だよな」

レミ「ここまでの話じゃ、殆ど情報は無いけど…えっと、アンタが遭遇した時、ソイツ…偽ロストは『コイツカ』って言ってたのよね?」

俺「あぁ…そうだが、それが何か……いや、待て。え?あれってつまり…」

レミ「アンタを探してた………って事。もしあれが、偽ロストじゃなくてロストなら…それはアタシが指示した内容だから、何も問題無いんだけど…」


ハル「偽ロストが、それを口にしたと言う事は…レミちゃんの意思とは別の思惑で、彼を狙っていた…って事よね」

レミ「………そう…なるわよね」


俺「いや、でもおかしくないか?俺はハルみたいな魔力を持ってる訳でも、何かしらの特別な資質を持っている訳でも無いぞ!?」

ユズ「そう言えば…ヒカリさんやヤミさんとの融合にしたって、成り行きでそうなっただけなんッスよね?」

神風「あ、いえ…」

ユズ「え?違うんッスか?」


カライモン「根幹を食らう竜を倒すための、手段として…いずれ光と闇の核と融合する事自体は、神風くんの視点からすれば大前提だった筈だ」

ユズ「じゃぁ…先輩は選ばれた存在って事ッスか!?」

カライモン「と言っても、彼自身が言った通り…選ばれるべくして選ばれたのでは無く…本当にたまたま、その立場に居たから選ばれたに過ぎないのだろうがね」


神風「そう…彼は特異な存在故に選ばれた、と言う訳ではありません。なので…最初に偽ロストの標的となった理由が見当たらないのです」

ユズ「んー………だったらそれって、神風さんと同じ理由じゃ無いんッスか?」

神風「………え?」

ユズ「神風さんは、先輩がヒカリさんとヤミさんに選ばれるのが判ってたから…そう言う風に仕組んだんッスよね?だったら…偽ロストも同じなんじゃ無いんッスか?」


俺「………」

カライモン「………」

神風「………」


レミ「確かに…その線で話を整理してみれば、色々しっくり来るわよね」

カライモン「現に私も、根幹を食らう竜の力を得る過程で、それに近い手段を用いている。可能性は決して低くは無いだろう」


ハル「だったら…もしも偽ロストが彼の中に存在していて、光と闇の核の力を用いる事が出来たのだとしたら……」

神風「ディメンションスレイヤーの力を用いて、私に干渉し…その正体を隠す事も可能で……」

俺「現在進行形で、コイツ等…光と闇の核を取り込んで、表に出て来られないようにしている可能性もある…って事だよな」


俺がその言葉を放った後…皆は言葉を失い、各々が深く考え込み始めたようだった。


そして…かく言う俺もその中の一人となって、これまでの話を振り返り…一つ、確かめ忘れた事を思い出して質問を投げかけたのだが……

俺「っと忘れてた…そう言やぁ、ロストの所在はどうなってんだ?まずそこから確認すべきだったよな」

カライモン「それと…念のために、彼の中に居るダークチェイサーについても調べておくべきだね。スピリットの力ならば可能だろう?」


レミ「ロストなら、今もアタシ達と一緒に居るわよ?」

神風「彼と同化しているダークチェイサーに関しても…知覚可能な範囲での相違はありません」

俺「知覚範囲外であれば、言わずもがな…で、そちら側の場合はどうしようも無し…か」


こちらの疑問は呆気無く…そして、進展の無いままに結論が出た所で……俺達の考察は収束へと向かって行った。

693: ◆TPk5R1h7Ng 2016/03/12(土) 09:02:14.73 ID:fHhC/rWmo
●かくりつ

カライモン「しかし…こうして現実を見ていると、つくづく因果とは奇妙な物だと思い知らされるよ」

俺「そうだな」


カライモン「しかもこれが…妙な所で遺伝子だの何だのが鍵になり、繋がっているのがまた…」

俺「ん?何でここで遺伝子の話になるんだ?」


カライモン「考えてみ給え。何億…いや、何兆分の一の確率が出会いを呼び…その出会いがまた新たな出会いの引き金となって、今を形成しているのだよ?」

俺「いや、だから……」

カライモン「スピリットの干渉があったとは言え……この運命の歯車の噛み合いを、凄いと言わずには居られないだろう?」

レミ「………そうね、アタシとハルの出会いだって…今こうしてここに居るのだって。奇跡みたいな物だものね」


カライモン「あぁ……済まない。うっかり君達の事を彼に口走ってしまう所だったね」

俺「いや待て、何か今サラっと大事な事を流そうとしてないか?」

レミ「別に流そうとも隠そうともしてないわよ。話されたって困る事じゃ無いもの。ね?」

ハル「ねー?」


俺「あぁうん…ってか、そうだよなぁ…そう言えば、ハルとレミの過去とか…二人の出会いとか、そう言うの全然聞いた事無かったよな」

レミ「特に突っ込んで聞かれた事も無かったしね」

ハル「私達からあえて言い出すような話でも無いと思いましたから」

俺「………何だよそれ。何か物凄く気になって来たぞ、教えてくれよ」


レミ「んー………でもやっぱり教えてあげない」

俺「いや待て、さっき隠してないとか言ったばっかだよな!?」

レミ「気が変わったのよ。このまましばらく教えてあげない方が、面白そうだしー。あ、ハルも喋らないでね?」

ハル「え?あ、うん」


俺「ぐぬぬ…こうなったら意地でも聞き出してやる」

レミ「うわ、目が●●●。絶対●●●●方法で聞き出そうとしてるー」

俺「んな事しねぇよ!!!」


レミ「●●●●方法だったら白状するって言ったら?」

俺「それなら………はっ!?」

…と言ってから…いや、言わされてから気付くが、もう遅い。周囲の冷たい視線が、俺に突き刺さっていた。


レミ「にしても、遺伝子かー………ん?…あれ?もしかして…」

そして、視線による刺突が一段落した頃……ふと、何に気付いたのか…レミが何かを言いかけた所で………

神風「………話の途中ですみませんが…たった今、世界が変質されました。虚獣が………顕現します」

俺「………はっ?」

レミの言葉は、神風に遮られ………


事態は…予想外の方向に向けて急展開して行くのだった。


次回 魔法少女ダークストーカー 2スレ目