1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/20(日) 19:32:00.64 ID:/t4hcoiE0


勇者「乗り心地はどうですかぁ?」

姫「最悪ね、速く静かに歩いてよ」

勇者「はいはい」





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引用元: 姫「疲れた、おんぶして」勇者「はいはい」 



2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/20(日) 19:36:14.37 ID:/t4hcoiE0


姫「勇者、お腹すいた」

勇者「パンを持って来ようか」

姫「作ってよ」

勇者「半日はかかるけど」

姫「待ってるから速く作ってよ」



3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/20(日) 19:38:21.16 ID:/t4hcoiE0


勇者「出来はどう?」

姫「中はふんわりしてて外はさっくり、良いブレッドね」

勇者「味は」

姫「最悪ね、苺ジャムと合いそうかな」

勇者「はいはい」ごとっ



8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 18:14:53.22 ID:leYJxC9f0


姫「おはよう」

勇者「おはよう」

姫「口が嫌な感じ、歯磨きしたい」

勇者「洗面所あるだろ」

姫「抱っこ」

勇者「はいはい」がしっ



9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 18:18:08.53 ID:leYJxC9f0


姫「寝間着やだ、替えてよ」

勇者「メイド達呼んで来るよ」

姫「今日はドレスは着ないの、察してよ」

勇者「?」

姫「勇者の服と同じデザインのコスチューム作らせたの」ばさっ

勇者「おー、ちっちゃい」



10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 18:22:17.09 ID:leYJxC9f0


勇者「何で俺が手伝うんだ」

姫「面倒くさいからよ、早くして」

勇者「……これどう外すの」ぶちっ

姫「……最悪ね、今日は部屋から出ないで過ごすから」

勇者「下着くらい他にあるんじゃ?」

姫「今日はあれを着けてアンタと遊びたかったのよ、ばか」



11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 18:25:06.04 ID:leYJxC9f0


姫「フルハウス」

勇者「ツーペア、負けたなー」

姫「勇者は弱いのねいつも」

勇者「勝ったら怒るだろ」

姫「当たり前でしょばか、はい私が勝ったからまたマッサージしてよ」

勇者「はいはい」もみもみ



12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 18:28:01.00 ID:leYJxC9f0


勇者「今日は雨か……」

姫「外の散歩はムリね」

勇者「またトランプする?」

姫「じいやも混ぜたいからそこまで連れてって」

勇者「はいはい」がしっ

姫「お姫様抱っこは恥ずかしいからやめてよ」

勇者「はいはい」無視



13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 18:33:51.40 ID:leYJxC9f0


大臣「おやおや姫様、何かご用か」

姫「トランプでもしようかと思ったの、じいやもやろー」

大臣「姫様、もう少し上品に振る舞って下され……」

姫「なんでよ」

大臣「今宵は遠路はるばる伯爵様も見えておりますのじゃ」

姫「最悪、追い返してよ勇者」

勇者「さすがにマズいだろこのドアホ!」



14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 18:42:43.22 ID:leYJxC9f0


伯爵「おや、噂に聞くラダトームの姫様は実に美しいな」

姫「……」

大臣「姫様、この方がメルキドを治める辺境伯、伯爵様でございます」ぺこ

姫「……勇者」

勇者「はいはい」がしっ

伯爵「どうされたかな」

勇者「調子が悪いだけです」スタスタ



15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 18:45:38.79 ID:leYJxC9f0


姫「なんか眠い」

勇者「部屋に戻るか」

姫「戻らない、おんぶしてよ勇者」

勇者「はいはい」

姫「このまま城の中歩いてて」

勇者「はいはい」てくてく



16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 18:48:53.50 ID:leYJxC9f0


勇者「……」そー

姫「zZZ」すやすや

勇者(まさか背中に乗ったまま寝るとは)

姫「スヤァ」

勇者(じゃあまた後で来るか)

姫「んっ」ぎゅ

勇者「……はいはい」ベッド横のイスに座る



17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 18:53:08.44 ID:leYJxC9f0


勇者「お呼びですか王様」

王様「勇者よ、姫がまた勝手に伯爵殿に挨拶せず帰ったらしいな」

勇者「はい」

王様「教育係は古来よりそなたの一族が担って来たのだぞ、どうなっている」

勇者「はい」

王様「今度の満月の夜我が城で舞踏会を開く、その日までに改めさせよ」

勇者「はい」



18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 18:55:58.40 ID:leYJxC9f0


姫「疲れた、おんぶして」

勇者「もう少し歩いてみないか」

姫「なんでよ」

勇者「今度舞踏会らしい」

姫「何それ、私嫌よ」

勇者「そうか」がしっ

姫「いたっ、急におんぶするから顎ぶつけたじゃないばかっ」



19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 19:05:26.39 ID:leYJxC9f0


姫「勇者、バラ園連れてってよ」

勇者「咲いてないぞ」

姫「咲いてるわよ」

勇者「はいはい」

姫「本当なんだから! 行きなさいよ!」

勇者「はいはい、髪を引っ張るな」



20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 19:36:54.53 ID:leYJxC9f0


姫「ほらね、たんぽぽ」

勇者「あー、撒いたのか?」

姫「この間ふーふーして撒いたのよ」

勇者「水は雨だけか、逞しく育ったな」

姫「アンタとは大違いね」

勇者「はいはい」なでなで



22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 19:42:14.32 ID:leYJxC9f0


姫「今日なんか暑いわね、扇いでよ」

勇者「それ脱いだらどうかな」

姫「勇者と同じ服なのになんでアンタは涼しそうなのよ」

勇者「交換してみる?」

姫「ばかじゃないの、サイズが合わないでしょ」

勇者「はいはい、合えばいいんだなー」

姫「……ばか」



23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 19:45:45.23 ID:leYJxC9f0


勇者「かき氷を作ってみた」

姫「雪みたいなデザートね……美味しそう」

勇者「あ、こっちのシロップかけると良いと思う」

姫「キャラメルお願い」

勇者「あるわけないだろ」

姫「そうなの? ……じゃあなんでもいい」

勇者「冗談、用意してあるから泣くなよ」ごとっ

姫「泣いてない!」



24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 19:48:34.14 ID:leYJxC9f0


姫「頭がキーンとする……なにこれ」

勇者「一度に沢山食べるからだな」

姫「欲張りにかかる呪いってわけね、最悪」

勇者「姫は欲張りじゃないよ」

姫「……褒められても頭のキーンは取れないわよ、最悪」

勇者「はいはい褒めてない」



25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 19:52:24.55 ID:leYJxC9f0


メイド「キャー! スライムが台所に……!」

姫「大丈夫? 私がついてるわっ」


勇者「こらこら、女の子脅かしちゃダメだろ」

スラ「ぴっぴきぴー!」

勇者「だめ、姫は怖がりだから」

姫「余計なこと言ってないで追い出してよ!」

勇者「はいはい」がしっ

スラ「ぴー……」



26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 19:58:19.97 ID:leYJxC9f0


兵士「申し訳ありません! まさかスライムに侵入を許すとは……」

姫「この陽気じゃ居眠りしても仕方ないわよね」

勇者「でも心配になるな」

兵士「申し訳ありません姫様!! どうか王様には黙っていて下さい!」がしっ

姫「わっ……!」


勇者「触るな、次触れたら首がないと思え」

兵士「っ……はぃ」びくっ



27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 20:00:09.07 ID:leYJxC9f0


姫「あんなに怒る必要あったの?」

勇者「一応」

姫「そう、ところで勇者……」

勇者「はいはい」がしっ

姫「ん、楽ちん楽ちん」



28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 20:04:13.36 ID:leYJxC9f0


伯爵「おー、奇遇ですなラダトーム姫様」

姫「……」

伯爵「はっはっは、そう緊張なさらずとも大丈夫ですよ」

勇者「伯爵様、本日はどういった要件でここに?」

伯爵「なに、ちょっと王様とティータイムを楽しんでいただけですよ」



29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 20:09:04.14 ID:leYJxC9f0


伯爵「所で、何故に姫様は君の背中に?」

勇者「先程城内に魔物が侵入した際に、足を挫いたらしく」

姫「ちょっと……?」

勇者「そうですよね」

姫「……えぇ、そうね、早く医務室に連れてって」

勇者「はいはい、ではこれで」スタスタ

伯爵「ええ、お大事に」



30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 20:21:04.14 ID:leYJxC9f0


姫「さっきの何よ」

勇者「なんとなく」

姫「嘘なんか吐いて、ばかじゃない?」

勇者「ごめん」

姫「最悪ね、当分は毎日移動はアンタにお願いするしかないし」

勇者「……はいはい」なでなで

姫「なに撫でてんのよ」



31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 20:23:23.01 ID:leYJxC9f0


姫「勇者、痛い」

勇者「またか、どこだ?」

姫「言う必要ないでしょ、ホイミかけてよ」

勇者「? はいはい」ポォ

姫(……胸が成長する度に痛いなぁ)



32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/21(月) 20:24:50.69 ID:leYJxC9f0


姫「喉乾いた」

勇者「はいはい」ちゃぷ

姫「お腹すいた」

勇者「はいはい」ごとっ

姫「ねむい」

勇者「はいはい」なでなで

姫「zZZ」ぎゅ



37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 18:03:20.40 ID:fdHRESzm0


勇者「久しぶりの外だな、城の」

姫「珍しくお父様が外出を許してくれたものね」

勇者「まあお使いなんだけどな」

姫「最悪ね、お使いに手間取った事にして遊ぶわよ」

勇者「はいはい(楽しそうな声だな)」



38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 18:08:32.01 ID:fdHRESzm0


姫「勇者、あれやりたい」

勇者「射的か」

姫「ボウガンなんて触ったことないけど、やりたい」

勇者「矢は俺が付けるから、姫はよーく狙って撃つんだ」

姫「うん!」



39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 18:12:33.00 ID:fdHRESzm0


姫「……当たらない」

勇者「残り二本まだ矢があるよ」

姫「最悪な気分、やめる」

勇者「そっか」スコンッ←景品を当てた

姫「……」

勇者「どうかした?」

姫「おんぶして、それから……見てるから勇者が代わりに当てなさいよ」

勇者「はいはい、オヤジさん、矢を五本追加」



40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 18:16:15.84 ID:fdHRESzm0


姫「……もふもふしてる」

勇者「ぬいぐるみっていう、玩具みたいなものだよ」

姫「城には無いけど、なんでなの」

勇者「王族には必要ないんだってさ」

姫「……そうね、必要ないわ」



姫「だから城に入る前に、勇者にぬいぐるみあげるから大事にしなさいよね!」

勇者「はいはい」

勇者(持っててあげるから、俺の背中で泣きそうになるなよ)



41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 18:19:17.72 ID:fdHRESzm0


姫「zZZ」

勇者「寝てるのか……」

勇者「丁度いいからお使い済ませるか」

店主「いらっしゃい」

勇者「ラダトーム王様のオーダーした物を取りに来た」

店主「ラダトーム王様の、となるとそちらの方が姫様?」

勇者「ああ」



42: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 18:25:08.33 ID:fdHRESzm0


勇者「なんだこれ」

店主「ラダトーム王様のオーダーで作りました、姫様の舞踏会でのドレスになります」

勇者「……露出が多すぎるぞ」

店主「そう言われましても」

勇者「仕方ない、代金はこれでいいな」

店主「ありがとうございます」



43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 18:28:42.65 ID:fdHRESzm0


姫「ん……おはよ」

勇者「おはよう」

姫「……この体勢つかれた」

勇者「降りるか」

姫「抱っこ」

勇者「はいはい」ぎゅ

姫「おやすみ……」

勇者「また寝るのかよ!」



44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 18:34:05.61 ID:fdHRESzm0


メイド「お帰りなさいませ」クスクス

勇者「笑うなよ……」

メイド「小さな頃から仲が良いですね、姫様と勇者は」

勇者「俺の一族はロトの代から王家に仕えてるからな」

メイド「素直じゃないですねー」

勇者「素直だよ俺は」



45: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 18:41:40.08 ID:fdHRESzm0


勇者「こちらがドレスになります」

王様「おぉ! 実に美しいではないか」

勇者「王様、姫様には必要ない露出が含まれていますが」

王様「何を言うか、そなたが不甲斐ないばかりにわざわざ作らせたのだぞ!」

勇者「は?」

王様「今度の舞踏会を通して、メルキドの辺境伯である伯爵殿に姫の婚約者になって貰うつもりだ」

勇者「!!?」



46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 18:46:38.36 ID:fdHRESzm0


勇者「……うーん」

姫「zZZ」

勇者「……うーん」

姫「zZZ」

勇者「うーん……婚約かぁ」

勇者「……明日、姫に踊り教えるかな」



47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 18:53:09.16 ID:fdHRESzm0


姫「勇者、つかれた」

勇者「だめだ、練習練習」

姫「何よ、私は絶対に踊らないからね!」

姫「勇者なんて嫌い」

勇者「……はいはい」



48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 18:56:04.73 ID:fdHRESzm0


姫「勇者ぁ……っ」

勇者「ごめんってば! 大丈夫か足!」

姫「挫いたのに大丈夫な訳ないでしょばかっ」

勇者「悪かったよ、無理に踊らせようとして」

姫「……ホイミは部屋に着いてからかけなさいよ、話があるし」

勇者「…おう」



49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:00:19.25 ID:fdHRESzm0


姫「こ、婚約?」

勇者「ああ、それでせめて少しは踊れるようにって」

姫「心配したの?」

勇者「そりゃ心配だよ」

姫「本当最悪、ばか勇者……ホイミはかけなくていいわ」

勇者「でも踊れないだろ」

姫「踊らない、そもそも踊れないの知ってるくせに」



50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:02:05.24 ID:fdHRESzm0


勇者「あー、初めて追い出された」

メイド「どうしました?」

勇者「なんでもないよ」スタスタ

メイド「元気ないですね」

勇者「そりゃーもう泣きたいくらいにな」



51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:07:41.54 ID:fdHRESzm0


勇者「ただいまー……」

勇者(まあ1人暮らしなんだけどな、兵士の寮だし)

勇者「…………」

勇者(もう姫のわがまま聞いてられないな)

勇者(このまま隠し通したら、姫の心が壊れるかもしれない)

勇者(………)がさっ



53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:16:41.08 ID:fdHRESzm0


●ラダトーム王女、姫の体質


○男性恐怖症

○低血圧

○貧血?

○足に若干の障害有り(強く踏み込む事が出来ない)

○極度の不眠症(近くに人がいれば眠れるのを12歳の時に確認)

○今までの16年間で三度に渡って意識不明の昏睡状態になる(原因は不明・呪いの可能性有り)

○風邪を引くと咳が止まらない為、吐血する(キアリーで対処可能なのが幼少期に確認)



54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:20:17.76 ID:fdHRESzm0


勇者(……こんな物を見せて、どうするんだ)

勇者(姫が結婚すれば将来は安泰だ)

勇者(きっと俺より優秀な魔法使いも雇える)

勇者(姫の人生は明るいはずじゃないかよ)


  『勇者……おんぶ』


勇者「…………はいはい」



55: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:22:55.27 ID:fdHRESzm0


姫「なんでいるのよ」

勇者「鍵開いてたぞ」

姫「最悪、なんで開けるのよばか」

勇者「眠れないだろ」

姫「眠くない」

勇者「この時間は眠くなるからいつも撫でてたろ」

姫「……」

勇者「……」なでなで



56: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:26:17.72 ID:fdHRESzm0


姫「……勇者」

勇者「んー」なでなで

姫「私のこと、嫌いになるの?」

勇者「ならないだろ、姫に嫌われる事はあってもさ」

姫「……そう」

姫「………明日は……一緒に踊りの練習…しよ」

勇者「はいはい、おやすみ」なでなで



57: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:30:26.42 ID:fdHRESzm0


姫「そんなわけで練習ね、ちゃんと教えなさいよ」

勇者「無理するなよ」

姫「無理させないでよ?」

勇者「りょーかい」

姫「……じゃあまず腰に手を…」ごにょごにょ

勇者「はいはい」ぎゅっ



58: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:35:45.65 ID:fdHRESzm0


勇者「……やっぱり難しいな」

姫「特にターンがね」

勇者「なんか、姫の足が折れそうで怖いな」

姫「そこまで貧弱じゃないわよ、ばかっ!」ズキズキ

勇者「はいはい、既に挫いたのな」



59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:41:36.06 ID:fdHRESzm0


伯爵「これはこれは、姫様、もしや舞踏会に向け練習を?」

姫「!」

勇者「……ええ、少し苦戦していますが」

伯爵「なんと、私が少々見ましょうか姫様」すっ

姫「っ……」びくっ

勇者(…)



60: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:44:55.54 ID:fdHRESzm0


伯爵「……ふむ、お世辞にもダンスが上手いとは言えませぬな」

姫「っ、勇者」

勇者「はいはい……伯爵殿、姫様はこれより少々移動しますので」がしっ

伯爵「おやそうですか、では私もそろそろ行きましょうかな」

姫(………っ)ぎゅぅ

勇者「……」



61: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:48:03.10 ID:fdHRESzm0


姫「……勇者、お風呂入る」

勇者「大丈夫か」

姫「大丈夫よ……当たり前でしょ」

勇者「そうか、なら俺はメイド呼んで来る」

姫「すぐに浴びたいのよばか、呼ぶ間待つのは嫌」

勇者「はいはい…って、ぇ?」////



62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:52:18.75 ID:fdHRESzm0


勇者「俺は見てないぞー大丈夫だからなー」

姫「何赤くなってるのよ」

勇者「五年は久しぶりだからだよ、一緒に入るのは」

姫「別にいいでしょ、アンタは脱いでないんだから」

勇者「姫は脱いでるだろ」

姫「見ないんでしょ? なら平気よばか、早く私の体を洗いなさいよ」

勇者「はいはい…ってだから、え!?」



63: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 19:57:56.05 ID:fdHRESzm0


勇者「痒い所はありますかぁ?」

姫「なによそれ、とりあえず最悪ね、メイドの方が上手く洗ってくれるわよ」

勇者「目が見えないんだよ」

姫「もう、じれったいわね早くしてよ」

勇者「ああ、わかっ……」もみっ

姫「はぅ……、も、もう少し強く擦りなさいよっ」

勇者「今やっと気づいた、姫お前さっきから恥ずかしさで冷静じゃないだろ」

姫「胸に触って冷静になる勇者はどうなの?」

勇者「うっ…」



64: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/22(火) 20:01:41.57 ID:fdHRESzm0


姫「うぅ、のぼせた」

勇者「……服が蒸し蒸ししてる」

姫「勇者のせいよ、最悪……次から優しく丁寧にしてよね」

勇者「次なんて無いから」

姫「……」

勇者「はいはい」なでなで

姫「なんで撫でるのよ」



68: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 18:30:07.52 ID:Z5QT8bhI0


伯爵「いやあ楽しみですな、16になったばかりとはいえ美しくなられた姫様と踊れるとは」

王様「しかし姫は少々礼儀作法に欠ける、教育係たる者がしっかりしないのだ」

伯爵「おやいけませんよ王様、彼はとてもよく働いておいでだ」

王様「む? 伯爵殿は勇者の奴をご存知だったか」

伯爵「えぇ、彼は実によく働いてましたよ」



69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 18:39:45.57 ID:Z5QT8bhI0


伯爵「所で王様、実はお伺いしたい事があるのです」

王様「ほう、何かな」

伯爵「……随分とこの城は魔物の侵入を許してしまうのですね」

王様「何を言っている?」

伯爵「スライムすら侵入してしまう城……おお恐ろしい、民衆が聞いたらどんな顔をするか」

王様「……伯爵殿、何を……!」

伯爵「【それに比べてメルキドはとても防衛に優れている】……と思いませんか」

王様「……っ」

伯爵「王様、ここはどうかお考え下さいね? 私と姫様の婚約を絶対の物とする事をね」



70: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 18:44:38.91 ID:Z5QT8bhI0


姫「……」ぶるっ

勇者「どうした」

姫「寒い、勇者あっためてよ」

勇者「熱計ったらな」

姫「抱っこしながら計るから」

勇者「はいはい」がしっ



71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 18:49:21.60 ID:Z5QT8bhI0


姫「……見方わかんない」

勇者「あー、割と高い熱だな」

姫「そうなの?」

勇者「今日は安静にしてろよ」

姫「嫌よ、せめt

勇者「はいはい」←トランプに食料に水を取り出した



72: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 18:53:24.53 ID:Z5QT8bhI0


姫「手に力入らない」

勇者「はいはい、あーん」

姫「んっ」ぱく

勇者「美味しいか」

姫「最悪ね、今度は調子が良い時に食べたいわ」

勇者「そうか」ぎゅー



73: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 18:56:43.42 ID:Z5QT8bhI0


姫「……涙出る」

勇者「指でこすらないで、俺が拭くから」

姫「どうして涙が出るのよばかぁっ」

勇者「熱だからだな」

姫「知ってるわよ、ばーか!」

勇者「はいはい」←ちょっと今のばーかに萌えた



74: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 19:01:25.66 ID:Z5QT8bhI0


勇者「ん、水なくなったからメイドに取り替えて貰う」

姫「まだ喉乾いてないからいいわよ」

勇者「水分補給は大切なんだぞ」

姫「トランプの続きしたいの」

勇者「勝った方が罰ゲームってルールなのに?」

姫「そ、そうよ」

勇者「はいはいわかったよ」←直後にロイヤルストレートフラッシュ



75: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 19:06:44.71 ID:Z5QT8bhI0


メイド「……で、負けないで勝っちゃったんですか」

勇者「ああ、姫に罰ゲームするわけにもいかないしな」

メイド「ふーん」

勇者「なんだよ」

メイド「いえ、勇者さんって本当に男性なのかなっと」

勇者「罰ゲームで姫とキスしようかとは思った」

メイド「……勇者さんって煽られると負けたくないタイプ?」

勇者「素直なんだよ」



76: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 19:17:07.78 ID:Z5QT8bhI0


勇者「ただいまー」

姫「けほっけほっ、遅かったわね勇者」

勇者「咳か」

姫「そうよ…けほっ、けほっけほっ!」

勇者「姫、よしよし」なでなで

姫「なによ」

勇者「楽になるおまじないとかどうだ」

姫「ばかじゃないの? ……おまじないなんて年じゃないし」

勇者「はいはい」



77: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 19:21:37.92 ID:Z5QT8bhI0


姫「……zZZ」

勇者「……」なでなで

勇者(ちょっと眠くなってきた、椅子持ってくるか)

勇者「よっと」

勇者(……じゃあおやすみー)なでなで

姫「zZZ」



78: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 19:28:09.70 ID:Z5QT8bhI0


勇者「……」

勇者(よく寝た……って、なんかあったかい?)もぞっ

姫「zZZ」ぎゅ

勇者「……」

勇者(俺をベッドに上げるのも辛いのに、わざわざ……)

勇者「ありがとな」なでなで

姫「……」

姫(……はいはい)←熱のせいにしつつも顔真っ赤



79: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 19:32:56.79 ID:Z5QT8bhI0


姫「……だーるーいー」

勇者「ね、寝過ぎたな……昼寝にしては……」

姫「私は熱のせいね」

勇者「だな」

姫「勇者、冷たい物食べたい」

勇者「かき氷だめだぞ」

姫「勇者の作った物ならなんでもいいからぁ」

勇者「はいはい」←今の言い方にクラッとキタ



80: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 19:37:43.18 ID:Z5QT8bhI0


姫「なにこれ」

勇者「姫にも優しいバニラアイスだ」←全力で作った

姫「……ひんやりしてて真っ白」

勇者「はい、あーん」

姫「んっ」ぱく

姫「……最悪、しょっぱい」

勇者「なんだとっ!?」



81: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 19:42:58.48 ID:Z5QT8bhI0


勇者「……砂糖と塩間違えた」

姫「これじゃ食べられないじゃない、ばか!」

勇者「ごめん」

姫「最悪よ、もういいから下げて」

勇者「ああ……」

姫「勇者」

勇者「ん?」

姫「次は失敗してない、美味しいのが食べたいわ」

勇者「はいはい」



82: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 19:48:14.88 ID:Z5QT8bhI0


メイド「そんなことがあったんですかー」

勇者「ああ、今は姫寝てる」

メイド「今日はもうお帰りになりますか?」

勇者「まあな、姫も寝たし」

メイド「じゃあ私も帰ります」

勇者「そうか、送ってくよ」

メイド「助かりますね、いつも♪」



84: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 19:59:29.80 ID:Z5QT8bhI0


姫「勇者、おんぶ」

勇者「もう平気なのか」

姫「治ったわよ、当たり前でしょ」

勇者「そうか」がしっ

姫「今日は城の裏庭に行くわよ!」ぺしぺし

勇者「はいはい頭叩くな」



85: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 20:07:01.78 ID:Z5QT8bhI0


メイド「あれ、何しに来たんですか姫様」

姫「散歩!」

勇者「仕事中か? 悪かった」

メイド「いえいえ、1人で草刈りするよりは楽しいです」

勇者「1人? 他のメイドは?」

メイド「伯爵様をもてなす為に他の仕事中ですよ」

姫「……あの人、また来てるの」

勇者「最近頻繁に来てるな」



86: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 20:09:56.22 ID:Z5QT8bhI0


姫「勇者、私メイドの手伝いをするわ」

勇者「なんで」

姫「メイド1人じゃかわいそうじゃない!」

勇者「あー、メイドは手伝って平気か」

メイド「助かりますよ」

姫「ほらね! 私だってたまにはメイドの手伝いくらい……」

勇者「はいはい」がしっ

姫「なんで勝手に私を背負うのよ」



87: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 20:16:51.27 ID:Z5QT8bhI0


勇者「草刈り鎌は危ないんだ、もし姫が怪我したりしたら大変だろ」

姫「最悪ね、女は鎌も使えないっていうの?」

勇者「姫の手にこんなの刺さった所見たくない」ギラッ

姫「………」ぞぉ

勇者「わかってくれて良かった」

メイド(なんか面白いなぁこの2人)



88: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 20:20:40.58 ID:Z5QT8bhI0


勇者「終わったな」

姫「は、早い……」

メイド「大丈夫ですか勇者さん」

勇者「大丈夫」

姫「ほとんど1人で刈ったわねアンタ……」

勇者「どうだった?」

姫「え? そりゃかっこよ……って、何言わせたいのよばかっ」

勇者「はいはい」←満足



89: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 20:27:00.42 ID:Z5QT8bhI0


メイド「姫様と勇者さんにジュース入れて来ました」

勇者「悪いな」

姫「おー! 甘そうな匂いねっ」

勇者「オレンジ……に蜂蜜か?」

メイド「匂いで見破られたのは初めてです」

勇者「姫が好きな組み合わせなんだ」

姫「うんうん♪ 甘露甘露♪」



90: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 20:29:34.35 ID:Z5QT8bhI0


姫「ふぁぁ……気持ちいい陽気ね」

勇者「風とかいい具合だな」

姫「……」ぎゅー

勇者「?」

姫「しばらく勇者がベッドになっててよ」

勇者「はいはい」なでなで



91: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 20:32:15.18 ID:Z5QT8bhI0


メイド「……勇者さんと姫様は、いつからお知り合いに?」

勇者「なんだ急に」

メイド「なんとなく気になりまして」

勇者「なんとなくか、んーと……」

姫「……♪」zZZ

勇者「……多分赤ん坊の時からかな」

メイド「……ほー」



92: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 20:55:51.66 ID:Z5QT8bhI0


勇者「……両親が今の王の教育係で、俺も親と同じように姫の教育係になったんだ」

メイド「勇者さん、歳は?」

勇者「19……当時は3歳で俺はよくわかってなかったよ」

メイド「凄まじい記憶力ですね」

勇者「ああ、不思議だよな」

姫「zZZ」

勇者「姫との記憶は全部欠ける事なく覚えてるんだ」



93: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/23(水) 20:58:31.67 ID:Z5QT8bhI0


勇者「今まで色々あったな、病気とか怪我とか」

メイド「姫様、昔から体が弱かったですよね」

勇者「……必死に姫の病気治すために色々学んだな」

メイド「魔法も?」

勇者「ああ、姫を守る為に必要な力は全部」

メイド「惚れそうです」



98: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/24(木) 17:01:45.68 ID:aprQ2BCM0


メイド「……さて、と」

勇者「どうした」

メイド「いえ、そろそろ私も伯爵様の持て成しに参加しようかと思って」

勇者「そうか、ありがとうな」

メイド「ありがとうって?」

勇者「色々話し聞いてくれてだよ」

メイド「いえいえ♪」



99: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/24(木) 17:17:04.18 ID:aprQ2BCM0


メイド「……」スタスタ

メイド(本当になんていうか、聞いてるこっちが嬉しくなるくらい姫様愛されてるなぁ)スタスタ

メイド(今日は大収穫かな、勇者さんが姫様をどう思ってるか聞けたし)スタスタ

メイド(今度は是非とも姫様の気持ちを聞きたいかなー)スタスタ

メイド(………)

メイド(そう言えば、勇者さんって伝説ロトの一族なんだよね)

メイド「……あははっ」



100: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/24(木) 17:18:25.23 ID:aprQ2BCM0







メイド「なんか、おとぎ話みたいに勇者さんなら悪い魔王に捕まった姫様を助けに行っちゃいそう♪」









102: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/24(木) 17:37:20.63 ID:aprQ2BCM0


王様「……いよいよ明日、舞踏会か」

大臣「姫様の晴れ舞台ですな」

王様「晴れ舞台? とんでもない、娘にとって最悪の日になるに違いない」

大臣「王様、何を言うのですっ」

王様「そうだろう? 姫は愛してもいない男と、国の為に、そうだ……政略結婚する約束を交わすのだぞ」

大臣「し、しかし王様! 姫様もきっと王族として産まれたからには理解しているはず……」



103: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/24(木) 17:42:05.26 ID:aprQ2BCM0


王様「理解はしていても、姫の心は納得はせぬ」

王様「知っておるはずだな? 姫は勇者と共にいる時だけまるで生きているような表情をしている」

大臣「…………」

王様「伯爵の事だ、姫を独占し、近くに置くつもりだろう」

大臣「……王様、ならばあなたは何も悔やむ必要はありません」

王様「いいや!! 私だ! 私が娘から生も希望も夢すらも奪ってしまうのだ!! この汚い玉座のために!」

大臣「……王様」



104: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/24(木) 17:51:45.32 ID:aprQ2BCM0


「 よく来た……勇者よ 」

「 我こそが竜王……竜族の王にして、全ての覇を司る王だ 」

「 我は待っていたのだ、そなたのような強き若者をな…… 」


「 どうだ? 我が配下に加わらぬか、そなたの力も、大切なその姫も渡すのだ 」


「 そうすれば、そなたには世界の半分をやろう……闇に染まった絶望の世界をな 」

「 さあ……そなたの答えを聞かせて貰おう……! 」



105: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/24(木) 17:54:42.16 ID:aprQ2BCM0


勇者「……!!」ばっ

姫「勇者、大丈夫なの?」

勇者「………」

姫「な、何よそんな顔をして……怖い夢でも見たの?」

勇者「……そうみたいだ」なでなで

姫「大丈夫?」



106: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/24(木) 18:06:44.76 ID:aprQ2BCM0


姫「今日は満月、舞踏会の日ね」

勇者「……そうだな」

姫「なによ? まだ暗い顔して」

勇者「……ちょっと現実味がなくてさ、舞踏会で伯爵と姫が踊った後に婚約するんだろ」

姫「分からないわよ、私の 体質 はアンタが理解してるでしょ」

勇者「まあな」

姫「だから、きっと大丈夫よ」



107: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/24(木) 18:28:05.93 ID:aprQ2BCM0


姫「勇者ー、もう着替えるの?」

勇者「姫は王族だから、先にダンスホールで王様と待ってなきゃダメなんだと」

姫「退屈ね、私そういうの嫌」

勇者「知ってるよ」

メイド「所で勇者さん早く出て行ってくれません? 姫様にドレス着せたいんですが」



112: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 17:21:59.54 ID:RoFkM8za0


姫「……勇者から聞いてるわ、ドレスの見た目は」

メイド「そうですかー」

姫「だから私はどんな物でも覚悟出来てる」

メイド「なるほどー」

姫「あの、だから……目隠しとっていい?」

メイド「ダメです」



113: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 17:27:22.46 ID:RoFkM8za0


姫「…………」

メイド「どうですか、姫様にピッタリじゃないですか?」

姫「メイド、これって……」

メイド「私が自作したドレスですよ、動き易くて軽いでしょう」

姫「でもっ、お父様のドレスは……!」

メイド「今頃私が飼い慣らした野良猫達がビリビリにしてますよ♪」



114: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 17:30:17.34 ID:RoFkM8za0


勇者「おぉ、似合うけどそのドレスなんだ」

姫「メイドが作ってくれたみたいなの! 似合う? 似合う?」

勇者「はいはい……」なでなで

勇者(……メイド)

メイド(せめて姫様らしい姿で今日の舞踏会に臨んで頂きたかったんです)ひそひそ



115: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 17:34:01.15 ID:RoFkM8za0


メイド「では私は姫様をダンスホールまで連れて行きます」

勇者「いや、俺が行くよ」

メイド「そうお願いしたかったのですが、勇者さんに宝物庫の安全確認をしろと王様が」

勇者「王様が? わかった、直ぐ追いつくよ」

姫「……勇者」

勇者「はいはい、緊張するなって、まだまだ時間あるし」なでなで



116: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 17:37:20.96 ID:RoFkM8za0


勇者(宝物庫かー、久々に来たな)

勇者(……ん、錠の確認良し)ガチャガチャ

勇者(戻るか)くるっ

伯爵「こんにちは」

勇者「!」

兵士「動くな」シャキン

兵長「勇者殿、貴方を拘束させて頂く」



117: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 17:42:45.03 ID:RoFkM8za0


勇者「……兵長、アンタいつから伯爵の手下になった」

兵長「勇者、悪いがこれは王様の意志だ」

勇者「なんでだよ」

伯爵「貴方が婚約の儀式に邪魔を入れると、私と王様が判断したのですよ」

勇者「儀式? ……婚約を姫に申し込むんじゃ」

伯爵「おや、貴方はそれなりに博識だと聞いてましたが、まだまだ子供らしい」



118: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 17:48:00.90 ID:RoFkM8za0


兵長「……伯爵様、勇者は私の甥みたいなもの……どうか儀式については語らないで頂きたい」

伯爵「ふふ、そうですね……野蛮な一族の子孫など怒らせたくもない」

勇者「なんだよ! 姫に何するつもりだ貴様ァッ!!」

兵士「動くな!!」ドガッ

勇者「……っ!」ドサッ


伯爵「……無様ですねぇ、さっさとこの男に猿ぐつわと手足に枷を」

兵士「はっ」



119: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 17:53:12.89 ID:RoFkM8za0


勇者「……っ」

兵士「立て、妙な動きをすれば首を跳ねる」

兵長「よせ……今夜だけだ」

兵士「……」

伯爵「ああ、待ちなさい」

勇者「……?」ギロッ

伯爵(おやおや怖い、ですが何も出来ないでしょう? 王様が決めた事なんですから)ひそひそ

伯爵(せいぜい牢の中で想像するんですね……姫の○○が私に散らされる様を)くすっ


勇者「~ッ!!」ガタッ



120: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 18:02:27.57 ID:RoFkM8za0


ドガッ!!

勇者「………っ」

兵士「……頼む勇者、動かないでくれ」

勇者(畜生……っ)

兵長「我慢してくれ勇者、お前の辛さはよくわかる……」


勇者(誰も、姫の事を考えてくれないのか……畜生!!)



121: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 18:05:08.74 ID:RoFkM8za0


姫「勇者、遅いなぁ」

メイド「もしかしたら宝物庫の宝箱を一つ一つ確認してるかもしれませんね」

姫「舞踏会までに間に合う…かな」

メイド「間に合いますよ、勇者さんですから」

姫「緊張してきた……」

メイド(勇者さんいないと姫様って借りて来た猫みたいで可愛い)



122: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 18:12:28.60 ID:RoFkM8za0


兵士B「あーあ、なんで俺達は外壁の見張りなんだ」

兵士C「貴族やあの伯爵様が、王様の下に集まったんだ、仕方ない」

兵士B「でも貧乏くじだよなー、見張りって四方の見張り塔に2人ずつの合計8人しかいないんだぜ」

兵士C「文句言うなよ……俺まで悲しくなってきた」

兵士B「西側の見張り塔もそんな気持ちだろうな」

兵士C「なんで」



123: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 18:18:57.58 ID:RoFkM8za0


兵士B「だって、見ろよ……2人共突っ伏してら」

兵士C「……寝てないだろうな、起こすか」

兵士C「おーい!! 見張りなんだからシャキッとしろシャキッと!!」

兵士B「……」

兵士C「……反応ないな」



124: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 18:23:52.16 ID:RoFkM8za0


兵士B「な、なんかおかしくないか? 東側の見張り塔も同じだぞ……」

兵士C「…………」

兵士C「ま、まずい! 鐘を鳴らせー!!」


―――――― ドシュッ


兵士B「え、え……」

しにがみのきし「……シー」ブンッ


―――――― ドシュッ



125: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 18:27:27.54 ID:RoFkM8za0


メイド(……遅いわね、勇者さん何してるんだろ)

姫「メイドっ、もう舞踏会が……!」

メイド「すみません姫様、勇者さん探して来ます!」

< 「ではこれより、ラダトーム王家による舞踏会を……」

姫「は、始まったわよ?」

メイド「急ぎます! しばしお待ち下さい姫様!」たたっ



126: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 18:31:37.89 ID:RoFkM8za0


メイド「もう、勇者さんどこ行ったのかな……」

メイド(……まさか)ピタッ

メイド(勇者さんなら、姫様の幸せを一番に願うかもしれない)

メイド(だとしたらこれは勇者さんが姫様に伯爵と婚約させるための、わざと?)

メイド(……)



127: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 18:35:51.64 ID:RoFkM8za0


姫(……うわぁ、伯爵がこっちに来る)ビクビク

姫(どうしようどうしよう……勇者は? メイドは?)

姫(…………怖い)ビクビク


伯爵「こんばんは、姫様」ニッコリ

伯爵「私と踊って頂けますかな?」


姫「…………………ぁ…は、はい」



128: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 18:43:08.24 ID:RoFkM8za0


勇者(……どうしたら)

勇者(どうしたらいい? 姫……こんなの、酷すぎる……)

勇者(何かないのか…)


―――――― ビリィッ


勇者(!?)ビクッ

勇者(……今、【誰かが死んだ】……?)



129: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 18:50:31.51 ID:RoFkM8za0


メイド「はぁ……宝物庫にもいないなんて、どうなってるのかな」

メイド(……やっぱり姫様のために?)

メイド(だとしたら説教しなきゃね、姫様の気持ちはともかく勇者さんは姫様が好きなんだから)

メイド「うーん、でもどこに…………」


フッ


メイド「? あれ、なんで急に灯りが全部………」



130: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 18:52:50.52 ID:RoFkM8za0


勇者(……来る!!)

勇者(間違いない、何かとても大きな何かが……近づいてる!!)

勇者「うおおおおお!!」バギィンッ

兵士「勇者!? 何をして……」



131: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 18:56:06.56 ID:RoFkM8za0


―――――― ドゴォオオオオオオッッ


王様「なっ、何事か!?」


姫「きゃあっ!」

伯爵「今のはなんですかな…!?」


―――――― ゴバァアアアン!!


王様「ぬぉぉ!?」



132: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 19:01:06.08 ID:RoFkM8za0


―――――― 【 我に平伏すがいい、人間どもよ・・・! 】


姫「………ひ」

伯爵「魔物!? それも、巨大なドラゴン!?」


―――――― 【 クックック、そなたが美しきラダトームの王女か 】


姫「ひっ……ぁ」へなっ


―――――― 【 美しい、我が妻に相応しい美貌よ……! 】


―――――― ガシィッ


姫「ひゃぁぁ!? 誰かぁ!」



133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/25(金) 19:04:49.51 ID:RoFkM8za0


―――――― 【 我が忠実なる兵士よ! 邪魔する人間どもを喰い殺すがいい! 】


しにがみのきし「……」ガシャッ

大魔導「……」


兵士「姫様を守れー!!」


ガブッ


ダースドラゴン「……ゲフッ」


兵士「うわあああ!」

兵長「逃げるな! 戦えー!!」



147: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/28(月) 17:44:12.35 ID:8tgtp9I10


伯爵(ひぃっ、はぁ……なんなんだあの魔物達は!)

伯爵(ラダトーム王家の兵士達すら蹴散らす力……なんなんだこれは、悪夢なのか……)

伯爵(……!)


王様「……だ…れか いないのか……」


伯爵「ラダトーム王! ああなんと……瓦礫に挟まれているではないですか!」

王様「は、伯爵か……助けてくれ……」



148: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/28(月) 17:48:09.45 ID:8tgtp9I10


伯爵「勿論ですとも、さあ私に掴まって……」

伯爵(!)ピタリ

王様「どうした……はやくたのむ」

伯爵(……もしも)

伯爵(もしもここで私が王を亡き者にすれば?)

伯爵(王妃は既に亡くなっている、姫はあの巨大な魔物にきっと殺される)

伯爵「………ははっ」チャキッ

王様「なっ……なにを?」



149: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/28(月) 17:50:32.03 ID:8tgtp9I10


兵長「うぉぉ!?」ドサァッ

しにがみのきし「……シー」ガシャッ

兵長「おのれ……まるで刃が立たぬとは……」

しにがみのきし「……」ブンッ


スカッ


しにがみのきし「……?」



150: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/28(月) 17:53:49.92 ID:8tgtp9I10


メイド「はぁっ…はぁっ、兵長さん無事ですか!?」

兵長「メイドか? 危険だ! すぐに逃げろ!」

メイド「分かりました! っ!?」ズキッ

メイド(今のダイブで足を捻った? 立てないっ)


しにがみのきし「シッ!!」ビュッッ

兵長「メイド!!」

メイド「!?」



151: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/28(月) 17:56:51.43 ID:8tgtp9I10


バリバリィィッ!!


しにがみのきし「―――――― !?」ゴシャッ

< ズドォン!!


メイド「い、今のは……ギラ?」

メイド「!!」バッ

勇者「2人共怪我はないか!?」スタッ



152: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/28(月) 18:00:39.34 ID:8tgtp9I10


―――――― 【 ・・・ヌゥ 】


―――――― 【 我が忠実なる魔導師よ、あの男を殺せ 】


大魔導「御意」


バチバチィィッ!!

大魔導「消えるがいい人間、『ベギラマ』!」


ゴバァアアアン!!



153: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/28(月) 18:02:57.46 ID:8tgtp9I10


勇者「……邪魔だ」

大魔導「!? 何故だ、直撃した筈…」

勇者「ッ……!!」ドゴォッ

大魔導「ぐぁあああ!?」



154: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/28(月) 18:05:55.55 ID:8tgtp9I10


―――――― 【 ・・・ 】


ダースドラゴン「グルル……(私が行きますか)」


―――――― 【 よい、ダースドラゴン・・・そなたは先に大魔導達と共に城へ戻れ 】


大魔導「ぅぐ……く、ルーラを唱えます!」

しにがみのきし「……シー」ボロボロ



155: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/28(月) 18:08:27.76 ID:8tgtp9I10


勇者「……逃げる気か」


―――――― 【 我は逃げぬ 】


勇者「何者だ、何の目的で来た」


―――――― 【 クックック・・・我の目的は『コレ』よ 】


姫「……」ぐったり


勇者「!! 姫ッ!」



156: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/28(月) 18:13:26.34 ID:8tgtp9I10


勇者は叫ぶ。

巨竜の手に捕まる姫に、呼び掛けた。

しかし返事はない、気を失っていたのだ。


―――――― 【 我の妻となる王女は頂いた、もはやこの城に用は無し・・・!! 】


勇者「……っ!?」

聞き捨てならない言葉を放つと同時に羽ばたく巨竜。

勇者は僅かにその迫力に気圧され、後退りさえしてしまう。



164: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 18:37:48.30 ID:DbmRg+IT0


夜空の下で崩れるラダトーム城の上空。

巨竜は見下ろすように舞い上がり、王者の如き覇気で圧倒した。


―――――― 【 燃え盛る我が火炎にて、貴様達を葬ってやろう・・・喜ぶがいい 】

巨竜の喉が轟音を挙げ、凄まじい爆炎が漏れ出る。

その太陽にも似た光からはラダトーム城が業火に飲まれる事は誰にでも想像できた。


勇者「……!!」

勇者(絶対に……やらせない!!)


そう、勇者にも想像できた。

そして彼は・・・



165: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 18:45:58.31 ID:DbmRg+IT0


―――  ゴォオオッッ!!  ―――


ラダトーム城全体に響き渡る衝撃波。

巨竜の真下にいた兵士達はその音に自身の命運が尽きた事を悟った。


メイド「……え」

兵長「あれは……!?」


しかし、この2人は確かに見た。

天高く君臨した巨竜、その凶悪なアギトから放たれた爆炎は夜空に散っていたのだ。



166: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 18:54:11.97 ID:DbmRg+IT0


―――――― 【 何ィッ・・・!? 】


巨竜が初めて驚愕の音を上げる。

それもその筈、巨竜の視界はいつの間にか星空を見上げていたからだ。

後から瞬時に襲って来る顎の鈍痛、全身が麻痺する感覚。


勇者「……落ちろ、ドラゴン」

姫「…っ」


―――――― 【 貴様・・・一体・・・? 】


巨竜の手から解放された姫を勇者は抱き捕まえ、巨竜を見下ろしていた。

何故? と竜の王者は刹那に思う。

人間が飛べる高さでも無ければ、人間に巨竜を『殴り飛ばす』力がある筈もない。



167: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 18:59:28.87 ID:DbmRg+IT0


直後に巨竜はラダトーム城の真横に音を立てて落下した。

夜空に君臨していた筈の姿は、今や粉塵に隠されてしまう。


勇者「やったか?」

姫を抱きかかえた勇者は風に乗ったように静かに着地した。


勇者「姫! しっかりしろ、もう大丈夫だ!」

姫「……んぅ」

勇者「姫!! 良かった……無事か」



168: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 19:03:38.04 ID:DbmRg+IT0


何度か揺さぶり、目を覚まさなかったら……と勇者は心配したが姫は僅かに覚醒した。

少しだるさを残した表情で彼女は目を覚ます。


姫「……勇者? なんで私、確か舞踏会に……」

勇者「もう舞踏会なんて良い、本当に無事で良かった……」

安心し、勇者はそのまま姫を抱き締めようとする。




―――――― が




169: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 19:09:50.25 ID:DbmRg+IT0


―――――― ドシュッ!!


勇者「……っ?」

何かが、勇者の胸から突き出た。


【 ・・・まさか我を地に墜とすとはな、貴様は我が直接葬ってやる 】


聞こえたのは憎悪に満ちたような、威厳を感じさせる覇気に溢れた声。

勇者の体を貫いていた杖を勢いよく引き抜いた。


勇者「がぁ……ぐあああ!!」

姫「勇者!? 血が……!!」



170: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 19:16:02.44 ID:DbmRg+IT0


勇者が跪いたのと同時、次なる追撃が襲って来た。


―――――― バリィッ!!


勇者と不気味な闇に包まれた魔導師のような男の間で、閃光が衝突した。

威力は先の大魔導という魔物が放ったベギラマよりも上なのにも関わらず、結果は相殺だった。


【 そなた、本当に人間か……その傷で我と互角の呪文を操るとは 】

勇者「がはっ……ゲホッ、ぐはぁ……はぁ……っ」



171: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 19:23:13.73 ID:DbmRg+IT0


姫「いや…っ! もうやめて、何でもするから勇者を傷つけないで下さい!!」

勇者「……下がってろ姫……す、直ぐに終わる」


多量の血が流れる勇者を見た姫が叫んだ。

しかし勇者は姫を下がらせる、彼は分かっていたのだ。


勇者(姫が目的、なら……コイツを倒さない限り……)

【 初めて我に一撃を入れた人間よ、褒めてやろう……そなたは我にとって初の強敵と言えた 】

【 だが甘い、いや、弱い・・・そなたの『ベギラマ』では我の『ギラ』が互角なのだからな 】


勇者が止まる。

今、この敵は何と言った?



172: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 19:29:00.83 ID:DbmRg+IT0


【 クックック・・・今のは『ベギラマ』ではない、『ギラ』だ 】


勇者「なっ……!?」


【 そなたの持つ魔法はそれだけか、ならばそなたは我の『ベギラマ』にすら勝てぬ!! 】


天に突き出した魔導師のような男の手に、莫大な閃光が集まっていく。

勇者の表情が、体が、その強大な力の前に固まってしまう。

これが『王者の力』。

勇者はその言葉が脳内に響いてから、ある存在を意味する名前を思い出した。



173: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 19:33:39.50 ID:DbmRg+IT0



勇者「 ………【 魔王 】……? 」


姫「勇者逃げてぇぇぇぇっ!!!」


初めて、彼が戦った敵の正体。

そして彼が刹那に見てしまった格の差、力量の差。

……姫の必死の声は勇者に届かなかった。



――――――   ッッ!!!  ――――――



閃光が、勇者の姿を飲み込む。



174: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 19:38:18.59 ID:DbmRg+IT0


メイド「……!? 今の音は何?」びくっ

兵長「城の上からだな……」

メイド(勇者さん、まだ戦ってるのかも!)バッ

兵長「よせメイド!! 危険だ!」

メイド「大丈夫ですよ、勇者さんならきっともうやっつけたに違いありません!」



175: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 19:42:22.72 ID:DbmRg+IT0


メイド(勇者さんが戦ってるのは初めて見たけど、明らかに勇者さんの方が強かった!)

メイド(だからただの魔物なんかに勇者さんが負ける訳ないよね!)

< バサァッ!

メイド「!」ピタッ

メイド(さっきのドラゴンが飛んで行ってる……勇者さん勝ったんだ!)

メイド(怪我してないかな? 姫様も無事かな?)

メイド「急がなきゃ!」



176: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 19:45:36.66 ID:DbmRg+IT0


メイド「…………」


勇者「…」


メイド「……えっ?」

メイド「……ゆ、勇者さん?」


勇者「…」


メイド「ちょ、やだ……姫様? どこにいるんですか?」

メイド「勇者さん…も、ふふ、ふざけ……ないで下さいよ……」

メイド「………ぇ…?」



177: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 19:50:50.94 ID:DbmRg+IT0


―――――― 『ゆーしゃ! おんぶしてー』


―――――― 『えへへー♪ わたしだけのゆーしゃだからねっ』


―――― 『……なによ、泣いてないわよ』

―――― 『別に、ちょっと使用人の男の子と喧嘩したの……』

―――― 『わっ、わっ、なんでぎゅーするの!?』

―――― 『……ありがと、勇者』



178: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 19:54:13.97 ID:DbmRg+IT0


―― 『勇者、一緒に遊ぼう?』

―― 『勇者、ここの問題難しいから教えて』

―― 『勇者、今日は一緒に居て』



姫「勇者、起きてよ! もう……私を待たせないでよねばかっ」





179: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 19:57:27.22 ID:DbmRg+IT0



勇者「……は…ぃ………は……い…………っ」

メイド「!!」

メイド「勇者さん! 聞こえますか!? メイドです、私です! しっかり!!」

勇者「…………」

メイド「勇者さん? 寝ちゃダメです! 勇者さん!!」

メイド「誰か! 誰か来て!! 勇者さんの血が……」



180: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 20:02:02.67 ID:DbmRg+IT0


―――――― 『勇者・・・』


勇者「……っ、『ベホマ』!!」

< シュゥゥ…

メイド「! 全身の傷が塞がっていく……こんな呪文、見たこと……」

勇者「……」スッ

勇者(……待たせないさ、直ぐに迎えに行くよ)

勇者(待ってろよ……姫)



181: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 20:06:18.99 ID:DbmRg+IT0



大魔導「竜王様、ご無事でしたか」

死神の騎士「……シー」


竜王【 ・・・少々余興に手間取ったがな 】

竜王【 今宵は我が花嫁の歓迎して!! 宴を開くが良い! 】


大魔導「御意」



182: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 20:10:22.03 ID:DbmRg+IT0


竜王【 ああ、大魔導よ……我の玉座の間には誰も近づけるな 】

大魔導「は? ……分かりました」

竜王【 気にするな、折角の花嫁だぞ 】

大魔導「……左様で御座いますか、良い夜を竜王様」

竜王【 奴隷の人間共を食い、存分に今宵を楽しめ 】



183: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 20:17:33.99 ID:DbmRg+IT0


―――――― ギィ・・・バタンッ


竜王【 クックック・・・楽にして良いぞ王女よ 】

姫「……」ぶるぶる

竜王【 そう怯えるな、我はそなたを妻にしようというだけだぞ? 】

姫「……っ」ポロポロ

姫「アンタなんかの……妻になんて絶対ならないわよ」ポロポロ

竜王【 ・・・理解に苦しむ、何故涙を流すのだ 】



184: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 20:29:32.16 ID:DbmRg+IT0


姫「……分からないわよっ、他人を平気で傷つけて、勇者を……っ」ポロポロ

姫「アンタは私を妻になんて出来ない、……アンタには優しさも愛もある筈ない!!」


竜王【 ・・・ 】

竜王【 クックック、そなたを我が花嫁に選んで正解だったらしい 】

姫「っ……?」 ビクッ



185: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/05/29(火) 20:34:28.48 ID:DbmRg+IT0


竜王【 そなたの涙、今の言動から察するに『勇者』という男を思っているのだろう 】

竜王【 そして怒りはその男を奪った我への憎しみ、つまり『勇者』とは先の戦いで葬った男か 】

竜王【 何よりそなたの今の言葉……そなたは『恋』をし『優しさ』を受け、『愛』しているのだな 】


姫「………」


竜王【 我がそなたを妻に選んだのは『それ』だ、聞かせて貰おう 】

竜王【 『愛』とは、『優しさ』とは何だ・・・? 】



192: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/01(金) 18:05:22.51 ID:T9alyfJe0


竜王【 ・・・大魔導よ 】

大魔導「はっ」

竜王【 我は4日程前までは人間共の優しさなど理解出来なかった 】

大魔導「魔族たる我々には不要の感情ですから」

竜王【 だが今の我ならば相応しき相手さえ揃えば恋すらするだろうな 】

大魔導「はっ、・・・はい?」



193: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/01(金) 18:15:10.18 ID:T9alyfJe0


竜王【 クックック・・・この我が、たったの3日で人間の持つ感情を理解したのだ 】

竜王【 我はあのラダトーム王女を妻に選んで正解、否、もはや運命とすら言える 】

大魔導「……この3日、何を話されたのです」

竜王【 王女の半生……そして王女の目を通して我が垣間見た男の姿 】

竜王【 我は王女と話をしたのではない、聞いていたのだ、ただ静かにな 】

大魔導「…………竜王様、その男とは………」

竜王【 クックック、そなたに頼んだ調べ物もまた、我にとって正解らしい 】



194: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/01(金) 18:23:48.40 ID:T9alyfJe0


大魔導「……『マネマネ』にラダトーム城に潜入させ、3日前に我々と戦った男を調べました」

竜王【 それで、結果はどうか 】

大魔導「…あの男は、生きていました……」

竜王【 ! 】

大魔導「更に素性を調べ行くと、あの男は『勇者』で、古来からラダトーム城に仕える一族だそうです」

大魔導「その一族の名は…」

竜王【 【ロト】の一族、そして奴が今の【ロトの勇者】か 】

大魔導「ご、ご存知でしたか」



195: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/01(金) 18:30:47.71 ID:T9alyfJe0


竜王【 約数百年も前に、このアレフガルドを救った一族だ 】

大魔導「ではまさか彼の大魔王を討ち倒したのも?」

竜王【 ロトだ 】

竜王【 奴らは守る物がある事で力を増し、神すら越える力を持つ 】

竜王【 間違いなくこの世界で最強の『化け物』だ 】


196: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/01(金) 18:36:51.96 ID:T9alyfJe0


竜王【 クックック・・・ 】

竜王【 クックッ、フハハハハハハ!! 】


竜王【 大魔導よ、ラダトーム王女をこの城から遠ざけよ! 】

大魔導「御意、しかし何故に?」

竜王【 姫はしきりに我に言っていたのだ、勇者ならばどんな所にいようと助けに来てくれたとな 】

竜王【 ならば、我は見たいのだ! 大魔王ゾーマの闇を切り裂いた一族の、『愛』を! 】



197: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/01(金) 18:45:22.57 ID:T9alyfJe0


大魔導「では早速、私達四天王が姫を移動させましょう」

竜王【 うむ 】

大魔導「しかし、宜しいのですか?」

竜王【 何がだ 】

大魔導「ラダトーム王女の体は何故か急激に衰弱しつつありますので」

竜王【 ・・・構わぬ、もはや我にはあの王女が妻である理由も無いのでな 】



198: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/01(金) 18:53:13.02 ID:T9alyfJe0


竜王【 ・・・ 】


―――――― キィィィン


竜王【(……美しい光を放つオーブだ、だが我が優しき心を手放せば直ぐに我を拒絶し、消え去るだろう)】

竜王【(この光のオーブを闇に染め上げるまでは手放す訳にはいかぬ)】

竜王【(必ずや我は大魔王ゾーマを越える力を持ち、この世界を手に入れてみせる……)】

竜王【(それまでは・・・!)】



199: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/01(金) 19:04:44.11 ID:T9alyfJe0


勇者「……何の冗談だ」

メイド「あの、だから……」

勇者「王様が亡くなった上に、伯爵がラダトームの王? ふざけるな!!」

メイド「私……に言わないで下さい」ビクビク

勇者「……ごめん」  



206: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 18:02:21.99 ID:U0vej8je0


伯爵王「やあ」

勇者「……」

伯爵王「明日、私の戴冠式をするんだが……君に何かスピーチを頼みたい」

勇者「…………貴様は外道の屑だ」

伯爵王「NOか、そうだろうと思った」

勇者「姫にまだ王位継承権がある!! 伯爵に王位を継承する資格はない筈だ!!」

伯爵王「ふふ、姫様は魔物に連れ去られ、殺されましたよ?」

勇者「デタラメだ!!」ドガッ



207: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 18:10:46.15 ID:U0vej8je0


伯爵王「では証拠があるとでも? 王女様が、姫が生きているという証拠がね!」

伯爵王「答えは否ッ!! 皆無!! 何も無いだろう!?」

勇者「っ……」

伯爵王「ふふ、しかしそんなに君が意地になるならば私も悪魔じゃない……チャンスをあげよう」

勇者「なに……」

伯爵王「君が、姫を助け出して来れば良いよ……そうしたら彼女に王位は譲ろうじゃないか」


勇者「…………」



208: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 18:16:44.09 ID:U0vej8je0



―――――― ピチョンッ



まほうつかい「ケケッ、食事だぞ人間」

< がたんっ

まほうつかい「……けっ、返事もしねーのかよ」



姫「………」



209: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 18:27:33.92 ID:U0vej8je0


姫(……ご飯、食べないと)ズル

姫(………)ドサッ

姫「だるい……や」


姫「……っ」ググッ

姫(っ)ドサッ


姫(………動けないよ、勇者)



210: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 18:30:18.15 ID:U0vej8je0


姫(竜王に私の話を聞かせたのはいいけど……)

姫(……こんな洞窟の牢屋に入れられるなんてね)

姫(………最悪、だなぁ……)

ウルッ

姫(…………寒いよ)

姫(……おなか、すいたよ………)


211: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 18:33:33.41 ID:U0vej8je0


スライム「ぴきーっ!」タッタッ!

姫「……?」

スラ「ぴーっ、ぴーっ!」ズズ

姫「……食べろって?」

スラ「ぴー……」コクンコクン

姫「………スプーン、とって」

スラ「ぴきーっ!」カチャ



212: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 18:36:29.30 ID:U0vej8je0


姫「……ありがと、助かったわスライム」

スラ「ぴきーっ! ぴっぴきー!」

姫「……ごめんね、勇者とは違って私には君の言葉が分からないの」

スラ「ぴーっ…」

姫「………」

姫「もしかして、この間……お城の台所に忍び込んだスライム?」

スラ「ぴきーっ♪」コクン



213: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 18:40:07.63 ID:U0vej8je0


姫(……そっか、あの後勇者がこの子を逃がしたから……)

姫(………勇者)

ぴょこっ

スラ「ぴー?」

姫「…!」

姫「スライムなら、勇者を呼べる?」



214: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 18:50:19.77 ID:U0vej8je0


悪魔の騎士「……グォ…ッ」ガシャッ

悪魔の騎士(ば、馬鹿な!! この俺が手も足も出ないとは……)

悪魔の騎士「貴様、人間ではないのか……」


勇者「……勇者だよ、ただのな……」


―――――― ザクッ



215: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 19:00:18.11 ID:U0vej8je0



―――――― ギィンッッ!!



ゴールドマン「……オソロ、シイ・・・キサマ、ナニモノダ」

勇者「……姫はどこだ」

ゴールドマン「……コタエナイナラ?」

勇者「ここ一帯に住む魔物を全て殺す」

ゴールドマン「…………」


ゴールドマン「【メガンテ】」カッッ


勇者「!!」



216: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 19:07:14.20 ID:U0vej8je0



大魔導「ご報告致します」

竜王【 聞かずとも我には分かる、勇者が本格的に動き出したか 】

大魔導「……」

竜王【 どうかしたのか、大魔導よ 】

大魔導「お言葉ですが竜王様、我々は早急に姫を殺すべきだったのでは?」

竜王【 何が言いたい、大魔導 】

大魔導「……勇者は姫を探す為にたった2日で50を越える魔物を虐殺しています、あの悪魔の騎士やゴールドマンの『メガンテ』すら凌いだそうです」



217: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 19:14:35.70 ID:U0vej8je0


竜王【 ・・・ 】

竜王【 クックック、クク・・・ふはははははははは!! 】


竜王【 面白い……!! 奴はどうやら姫の命が風前の灯火にある状態なのが分かるらしい 】

竜王【 そして今、あの男は極限の力を持って姫を探している訳か!! 】


大魔導「……」

竜王【 大魔導!! そなたを含む四天王全員を姫のいる洞窟に集結させよ! 】

大魔導「!?」

竜王【 ロトの勇者が全力を出し切り、そして大切な者を守れずに殺される様を我に見せよ!! 】



218: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 19:23:00.57 ID:U0vej8je0


―――――― ガシャァン! ドサッ


スラ「ぴきーっ!? ぴーっ!」

姫「……」

スラ「ぴきーっ! ぴきーっ!」

スルッ

姫「…」トクン…トクン…


スラ「ぴきーっ!?? ぴーっ! ぴーっ! ぴきーっ!!」


219: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 19:25:44.73 ID:U0vej8je0


死神の騎士「……シー」ガシャッ

スラ「ぴきーっ!! ぴきーっ!!」

死神の騎士「……」

ひょいっ

ぽーん!

スラ「ぴぎ!?」ドサッ

死神の騎士「シー……」

スラ「ぴきーっ!! ピィィッキィィィィ!!」

死神の騎士「…」イラッ



220: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 19:36:38.01 ID:U0vej8je0


死神の騎士「シッ……!」ドガッ

スラ「ぴぃっ!」ドサッ

死神の騎士「……」スタスタ


スラ「ぴぃっ……ぴぃっ!」タッタッ!

死神の騎士「!」


ドラゴン「……グルル(そのスライム、どうしたんだ)」

死神の騎士「シッ(さあな、姫に情が芽生えた馬鹿なスライムだ)」

ドラゴン「ガゥ?(丁度ヒマだし殺る?)」

死神の騎士「……シー(勝手にしろ、同胞を斬る剣は無い)」



221: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 19:40:50.28 ID:U0vej8je0


ドラゴン「ガァアアアアアッ!!」ギュォッ

スラ「ぴっ?」


―――――― ゴシャァ!!


スラ「ぴぃっ……!!?」ドサッ

スラ「ぴっ……ぴきぃ……」ズルズル

ドラゴン「ガゥ♪(トドメ♪)」スッ


―――――― ガシィッ



222: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 19:55:06.91 ID:U0vej8je0


ダースドラゴン「ゴガァアアアア!! (ドラゴン貴様、同胞に何をしている!!)」

キースドラゴン「ギャオオオ……(スライム如きをいたぶって楽しいか貴様)」


ドラゴン「ガルル……っ」


ダースドラゴン「ゴガァア!! (大魔導、来てくれ!!)」

大魔導「何事だ」ズウッ

ダースドラゴン「グルル(そこのスライムにホイミをかけてやってくれ)」

大魔導「………いないが?」



223: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 20:02:55.08 ID:U0vej8je0



スラ「ぴぃっ……ぴっ……」ズルズル

スラ「ぴきー……」ガサッ


『偉いね……ありがとう、どこから持って来たの?』

『あのね、もし私に……余り、待つ時間が無い時この手紙を勇者に届けて欲しいの』

『なに? ……あはは、今のは私でも分かるよ……『どうして直接行かさないのか』でしょ』

『………信じてるから、勇者ならきっと助けに来てくれるって』


スラ「……ぴきぃ」ズクン

スラ「っ……」ドクドクッ
ドサッ
スラ「……ぴぃっ」ズルズル



224: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 20:05:35.89 ID:U0vej8je0


―――――― ザァァ・・・


勇者(……姫が浚われて、一週間)

勇者(手掛かりは何も無い……『太陽の賢者』や『雨の賢者』達も竜王の城しか分からない)

勇者(・・・)

勇者(嫌な、雨だ……)



225: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 20:12:52.93 ID:U0vej8je0


―――――― 降りしきる雨の中、一匹のスライムは長い距離を歩き続けた。


身に負った傷の深さを考えれば自殺行為。

それはわかっている、しかしスライムは止まれない。

幼き日の、とある少女と少年。

その2人にスライムはかつて命を救われたことがあった。

しかし成長した少女が覚えていないのは直ぐに分かった。

そしてそれにも理由があるのを知った。

少年がどれだけ成長したのかを知れた。


スライムは自身の体に限界が来るのを無視し、歩き続けた。


彼は、100年近く生きていた理由を知ったから。

小さな自分にできる事を彼は成し遂げる。



226: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/12(火) 20:14:26.86 ID:U0vej8je0


次回


勇者「……必ず、約束するよ」

スラ「ぴきーっ♪」




235: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 16:44:04.72 ID:cSlkh2Z80


―――――― 『……だれか、いないのかな』

―――――― 『………真っ暗』


薄れ行く意識。

それは静かに、確かにぼくに近づいていた。

見栄を張って森の深い所になど入らなければ……

そうすれば、こんな事にはならなかったかもしれないのに。



236: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 16:51:04.31 ID:cSlkh2Z80


―――――― 『スライムの癖に生意気なんだよ』

―――――― 『なんだ? やる気か』

―――――― 『ハハッ、そうだよなぁ! たかが100年くらい生きてたからって調子に乗るなよ?』


『お前はただ生きていただけだ』、そう言われたのが堪らなく悔しかった。

だから、少しでもぼくの勇気を見せたかったのに……


―――――― 『…………だれか……いないのかな………』


ぼくは崖から落ち、道に迷い、力尽きて動けずにいた。

なんてぼくは馬鹿なんだろう、そう思う度に涙しか出なかった。



237: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 17:02:39.49 ID:cSlkh2Z80


そんな時だった。

誰もいない筈の闇に包まれた森の中で、1つの光が照らしていた。


――― 『ほらね! この子スライムでしょー』

――― 『危ないよ姫ちゃん、僕の後ろにいて!』

――― 『危なくなんかないよ? 怪我してるよ、ホイミしてあげてゆーしゃ!』


・・・小さな2人の子供。

真っ暗な森を照らしていたのは少し大きな男の子だった。



238: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 17:14:22.26 ID:cSlkh2Z80


幼勇者『大丈夫? ホイミ』


男の子がぼくの傍に来て、呪文を唱えた。

驚いた、こんな小さな人間の子供が100年生きたぼくでも習得出来なかった呪文を使うなんて。


―――――― 『……あったかい』


……何より、淡い癒やしの光はとても温かかった。

こんなに温かい光があるのかと、ぼくは感動した。



239: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 17:20:19.14 ID:cSlkh2Z80


幼姫『ゆーしゃ、やっぱり来て良かったでしょ?』

幼勇者『うーん……肝試しのおかげでスライムを助けられたし、良かったのかな』

幼姫『良いに決まってるよっ! ねー?』なでなで



スラ『ぴ、ぴきーっ♪』






240: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 17:39:12.09 ID:cSlkh2Z80



―――――― ザァァ・・・



メイド「……勇者、このスライム………」

勇者「…………」


スラ「…」

ギュッ

勇者「……ありがとう、ここまで知らせに来てくれたのか……」

メイド「っ……酷い、どうしてこのスライム……」

勇者(・・・)



241: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 17:44:30.48 ID:cSlkh2Z80


―――――― 『ゆーしゃ! 見て見て~!』

―――――― 『ぴきぃぃ!?』

―――――― 『……スライムが可哀想だよ?』


―――――― 『えへへ、私とスラリンはお友達だもんね~?』


―――――― 『……ぴっ?(お友達?)』

―――――― 『うん、君と姫ちゃんは友達だよ』

―――――― 『あー! またゆーしゃとスラリンだけお話してるー! 私も仲間に入れてぇっ』


―――――― < 『わぁっ、泣かないで……というか、スラリンってスライムの名前?』

―――――― < 『うん! 可愛いでしょ!』



―――――― 『ぴきー……』





242: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 17:49:11.88 ID:cSlkh2Z80


―――――― 『ぴきーっ♪(久しぶり勇者っ♪)』

―――――― 『……スラリン、か』

―――――― 『ぴきっ?(どうしたの、元気ないよ?)』


―――――― 『あのさ……少し、姫と会えなくなりそうなんだ』


―――――― 『ぴきー! ぴっ?(なんで! どうして?)』

―――――― 『………凄く、姫の体調が悪いんだ……もしかしたら……』


―――――― 『…………ううん、なんでもない』

―――――― 『ぴきー…?』



243: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 17:52:24.16 ID:cSlkh2Z80


勇者(……ごめんな、それと…本当にありがとうな……)

スラ「…」

勇者(あんなに、一緒に遊んでたのにな……この間来た時、遊べなくてごめん……)

勇者(俺のせいで……)ギュッ


スラ「…」





244: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 17:59:48.23 ID:cSlkh2Z80


(……久しぶりに来たけど、姫ちゃんと勇者…元気かな)

(あ、あれっ? 抜け道がなくなってる……)


兵士「zZZ」


(……しずかにすれば、大丈夫大丈夫……)

兵士「むにゃ…」

(ひっ)びくっ

兵士「……zZZ」

(ホッ)



245: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 18:06:17.31 ID:cSlkh2Z80


(……どこに姫ちゃん達いるかな)


メイド「~♪」すたすた

(あっ……)

メイド「……っえ、ぃ」


メイド「キャー! スライムが台所に……!」

「ぴきー!(見つかっちゃったー!)」


<「大丈夫? 私がついてるわっ」


(え……姫ちゃん?)



246: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 18:13:38.82 ID:cSlkh2Z80


< 「こらこら、女の子脅かしちゃダメだろ」

勇者「……」すっ


「ぴっぴきぴー!(勇者! 姫ちゃん! ぼくだよ、スラリンだよ!)」

勇者「え…?」

勇者「……だめ、姫は怖がりだから」

姫「余計なこと言ってないで追い出してよ!」

(……えっ?)


勇者「(まずいな…)はいはい」がしっ

「ぴきー……(姫ちゃん、ぼくを覚えてないの……)」



247: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 18:18:12.79 ID:cSlkh2Z80


勇者「……悪いなスラリン、久しぶりの再会なのに」

「勇者、姫ちゃんはどうしたの? ぼくを忘れてしまったの?」

勇者「ああ……スラリンと最後に会ったあの日、姫はそれまでの記憶を失ったんだ」

「え……じゃあ、それじゃ……」


勇者「ごめんなスラリン、もう姫はお前とは遊べないんだ……俺もな」


「……そんな、何があったの……」

勇者「………言えない」

「…!」



248: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 18:25:33.78 ID:cSlkh2Z80


―――――― ザァァ・・・


勇者「……あの時、お前…凄い寂しそうな目をしてたよな」

スラ「…」

勇者「姫を守れなかったせいで、寂しい思いさせたよな……スラリン……!」


メイド「……」ポロポロ

勇者「………疲れたよな、痛かったよな…今ホイミするから……」

メイド「勇者さん……もうその子…っ」ポロポロ

勇者「このままじゃ可哀想だろ……?」



249: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 18:31:46.49 ID:cSlkh2Z80


勇者「……ホイミ……」ポウ


スラ「……」

勇者(………必ず)

スラ「…」

勇者(必ず、姫を助けるよ……)

勇者(きっと守る)



250: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 18:34:11.68 ID:cSlkh2Z80


勇者(だから、応援してくれ……)


勇者「……必ず、約束するよ」




スラ「ぴきーっ♪」







251: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 18:38:34.82 ID:cSlkh2Z80



―――――― 【スラリンのココロを手に入れた】 ――――――



勇者(……今、スラリンが笑った気がした)


メイド「勇者さん、この手紙もこのスライムと一緒にありました……」ガサッ

勇者「……ありがとう、後は任せてくれ」ガサッ

メイド「あの、スライムはどうしますか・・・」


勇者「…頼む、少ししたら埋葬してやってくれ」


メイド「……はい!」



252: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 18:52:58.81 ID:cSlkh2Z80


―――――― ザァァ・・・ッ!!


雨は数時間前に比べその勢いは増していた。

叩きつけるような雫の塊、そんな中を突風が切り裂き進む。

雨粒が触れるより速く、勇者の体はその雨粒をむしろ弾くように突き進んでいた。


その手には、雨と僅かな血が滲んでしまった手紙。


勇者「……!!」


走る、駆ける、雨を切り裂く。

急がなければならなかった。

もはや一刻の猶予は存在しない、スラリンが自身を犠牲にしてでも手紙を届けるのを優先したには意味がある。



253: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 19:06:31.62 ID:cSlkh2Z80


――― 勇者へ ―――


勇者、無事ですか?

って、元気よね そうに決まってる。

遅いわよ、今私はマイラって村から南……かな? そこの洞窟にいるの。

最悪よ ご飯も美味しくないし寒いし。


はやく きなさいよ ばか

からだが、へんで あたまがいたいの

むかえにきてよ おそいよ


ゆうしゃ


254: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 19:16:27.26 ID:cSlkh2Z80


勇者(この手紙は書きかけだったが、字がおかしい……それに姫が初めて『頭が痛い』と言った)

勇者(間違いない、このままじゃ また 姫が死んでしまう!!)


踏み込み、そして濡れた大地を蹴る。

一歩で数十mもの距離を縮め、更に大地を蹴る。


恐ろしいまでの速度で勇者はアレフガルドを走り抜けて行く。


雨の勢いは既に最高潮に達したのと同時、勇者の纏う風圧は更に増す。

否、他者から見ればそれは風ではなく、『覇気』そのものに見えただろう。

それ程に勇者は凄まじい気迫で雨粒を切り裂いていた。



255: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 19:33:42.60 ID:cSlkh2Z80


死神の騎士「……シー」


竜王直属の配下、四天王の1人『死神の騎士』は何かを感じて立ち上がった。


ダースドラゴン「グルル……」

キースドラゴン「…グルル」


そして同じく四天王の『ダース』『キース』のドラゴン達も、喉を鳴らし、辺りに殺気を散らした。


……竜王の右腕、『大魔導』もまた、彼等よりも正確にそれを把握する。

そうしながら、幕を上げようと言わんばかりに彼は言う。


大魔導「……来たか」



―――――― ゴバァァンッッ!!




256: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 19:44:46.57 ID:cSlkh2Z80


轟音と共に鋼鉄の巨大な扉が弾け飛んだ。

『魔法の鍵』が無ければ開かない筈の、大魔導が張った結界をただの力技で破ったのだ。


轟ンッ!! と凄まじい勢いで飛んで来る扉。

その威力は如何に魔物といえども直撃すれば致命傷になる。

しかし、彼等はただの魔物ではない。


死神の騎士「シャァァアアアアアアアアアッッ!!!!」

踊り舞う巨大扉の前に飛ぶ死神の騎士。


キンッと、死神の騎士が持つ黒い刃が軌跡を空中に残す。


そして次の瞬間。



257: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/13(水) 19:54:02.08 ID:cSlkh2Z80


―――――― ギィンッッッ


鋭い火花、金属が両断される断末魔。

それらが起こった時には巨大扉は既に左右へ、死神の騎士達四天王を避けるように後方へ吹き飛んでいった。

洞窟内を揺るがす衝撃。

同時に、扉が無くなった入り口からは嵐のような雨が入り込み始める。


だけでなく、1人の影もそこにはあった。


大魔導率いる竜王軍最強の四天王と、その男は対峙する。



勇者「……姫を、迎えに来た」



息を切らし、右手に血の滲んだ手紙を握り締めたまま彼はそう宣言した。

彼は命を賭け、必ず大切な者の命を救うと約束した後だった。



264: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/14(木) 18:37:04.89 ID:gSnTwmtP0


・・・洞窟の中は意外にも広かった。


元々が岩山を削って作られたのか、頭上の暗闇を様々な鳥達が飛び交う音が鳴り響いている。

何より、勇者が吹き飛ばした巨大扉の残骸はかなりの距離を飛んだのにも関わらず姫のいる牢まで届いていない。

そして……三体のドラゴンが待ち構えてられる時点で、ただの洞窟でない事がわかる。


勇者(……俺を罠にかけて、充分に向こうが戦えるスペースを作ったのか)


その読みは的中。

大魔導のローブが不気味に揺らいだ。


大魔導「ここが貴様の墓場だ、勇者……!!」



莫大な閃光が決戦の火蓋を斬った。



265: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/14(木) 18:50:37.26 ID:gSnTwmtP0


洞窟全体を瞬間的に照らす程の『閃光』は凄まじい熱波となり、勇者が立つ入り口を簡単に粉砕する。

辺りに散る鬼火がその凄まじい威力を物語っていた。


大魔導はローブに包まれたまま笑った。

大魔導(この洞窟は特殊な作りで、一時的に魔力の集まりやすい場所になっている)


大魔導(その神聖なる魔力の泉で私は奴が来るまで集中していたのだ、単純な破壊力は竜王様の『ギラ』を越える)


―――――― ジュゥゥ・・・

熱波の余波で発生した蒸気が視界を濁す。

しかし見るまでも無いと大魔導は感じていた、呆気ないとすら感じていた。


―――――― だが



266: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/14(木) 18:58:06.33 ID:gSnTwmtP0



死神の騎士「シィッ!! (上だ、上を狙え大魔導!!)」



突如襲う、死神の騎士の怒号。

ハッと我に帰った大魔導は呪文の詠唱と同時に頭上を仰いだ。

大魔導(この男・・・いつの間に!?)


―――――― カッッ!!


『ベギラマ』の閃光が上空の勇者を迎撃する、しかしその狙いは大魔導の油断が大幅に外れてしまう。

そしてその刹那に、勇者の左手が閃光を放った!


大魔導「……!!」



267: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/14(木) 19:05:00.39 ID:gSnTwmtP0


即座に大魔導はローブで少しでも自身を覆って防ごうとする。

そのタイミングは遅く感じられたが、まだ彼は肉体に熱は感じない。


大魔導「…………!!」


……熱はまだ来ない。


大魔導(なに!?)


―――――― シュタンッ


勇者「破ぁッ!!」

瞬時に大魔導の懐へ飛び込んだ勇者の拳が握り締められる。



268: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/14(木) 19:14:20.98 ID:gSnTwmtP0


―――――― ガァァンッッッ!!


勇者「……!」

死神の騎士「シィィィ………」


轟音、そして縫い止められる勇者の拳。

死神の騎士が持つ盾によって必殺の一撃は防がれていた。

直後、


バォォッ!! と唸る竜の息吹き、三体のドラゴン達が一斉に火炎を撒き散らしたのだ。


勇者「―――ッ―――」

飛び、火炎の渦の隙間を懐潜る。


その動きは既に人間の速さでは無かった。



269: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/14(木) 19:21:28.38 ID:gSnTwmtP0


―――――― シュインッッ


その着地した瞬間には死神の騎士が追撃の刃を振るう。

黒い軌跡は勇者の頬を掠め、そして乱舞の如く斬りかかる!


勇者「……ッ」


―――――― シュインッッ

―――― シャキィッ
―――――― ズドォッッ

ジャリィッッ


凄まじい連撃を勇者はいなしてかわし、そして刃の側面を弾き避ける。



270: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/14(木) 19:35:46.99 ID:gSnTwmtP0


勇者「……………」


トン。

そんな風に軽く勇者は地面を爪先で鳴らし、後ろへ下がった。

同時に、左手から閃光が死神の騎士を襲う。


死神の騎士「シャァアアアアアアアアアッッ!!!」


逃がさない、そう言うかのように黒い軌跡が勇者の胸元を浅く切り裂いた。

死神の騎士は勇者の放った『レミーラ』の閃光に怖じず、踏み込んで行く!



271: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/14(木) 19:42:07.58 ID:gSnTwmtP0


ダースドラゴン「―――――― ヒュゥ」


大魔導「―――――― !!」フォォォッ


挟み込むように、ダースドラゴンと大魔導が閃熱火炎の追撃を放つ。

ダースドラゴンの爆炎が広範囲に炸裂し、その上から大魔導の『ベギラマ』が叩き伏せる!!


勇者「ッ……」

勇者(1つ1つを丁寧に避ける余裕は無い……!)


額から汗の雫が一粒飛ぶのと同時、勇者の両腕に莫大な閃光が収縮される。



272: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/14(木) 19:49:02.61 ID:gSnTwmtP0


―――――― ゴォッッ!!


空気が悲鳴を上げ、勇者の両腕が放った『ベギラマ』が大魔導達の追撃を更にねじ伏せた。

そして瞬時に、勇者の足元に転がっていた巨大扉の残骸を軽々と蹴り上げ―――


―――― ギロチンの如く、踏み降ろす!!


死神の騎士「…ッ!!?」


ゴガァァアッ!! と強大な一撃が死神の騎士の片腕を盾ごと砕き折る!

死神の騎士の動きが一時的に止まったのを確認した勇者の姿は即座に闇に消え去る。



273: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/14(木) 19:54:07.33 ID:gSnTwmtP0


キースドラゴン「ゴガァ・・・カッ!?」


その勇者が消えたタイミングに合わせ、キースドラゴンの顎が打ち上げられた。


―――――― ズドォッッ!! ガガガガガッッ!!!


裏拳で勇者は高速で連打する。

息をさせる僅かな隙すら与えずにドラゴンを仕留める!!




       「…………ゆう……しゃ………?」






274: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/14(木) 19:55:09.04 ID:gSnTwmtP0



勇者「……!」



勇者の動きが、時間が止まった。








283: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 17:30:47.13 ID:HLuZepu50


勇者「……ひ、め…………」


視界の中心。

視線の先に、『彼女』は地面にぺたりと座り込んだままこちらを見ていた。

それも儚く散ってしまいそうに、勇者が声を出すのに躊躇してしまう程に。



大魔導(……王女? なぜ牢から出て…………)

大魔導(……………)



ふと、大魔導は洞窟内の広さに気づいた。



284: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 17:44:28.36 ID:HLuZepu50


勇者がこれだけ四天王と戦えるのですら驚愕すべき事かもしれない。

しかし、幾度と包囲を抜けるのは大魔導の計算に余りにも合わないのだ。

そう、例えば『味方の数が少ない』とかである。


大魔導(!!)


勇者の視線の先に座り込んでいる、王女の方へ大魔導もそちらを凝視する。

そして・・・彼は最悪のモンスターを見た気がした。



285: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 17:51:50.85 ID:HLuZepu50




―――――― 姫の背後に、一頭の『ドラゴン』が君臨していた。




ドラゴン「   ・・・ガパァ・・・   」



恐ろしい程に牙を闇に光らせ、開かれた口からは多量の唾液がザブッと流れ落ちる。

おぞましいまでにその一頭のドラゴンは、ただただ『悪意』に満ちていた。



初めて勇者が叫ぶ。



勇者「逃げろ姫ぇぇえええええ!!」



286: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 17:58:41.15 ID:HLuZepu50


勇者の絶叫に含まれた『何か』を感じた大魔導が、全身に震えが走った。

それは『ドラゴン』以外のそこにいた『四天王』全員が感じ取った。


彼らはその感覚の正体を知らない。

数百年前、彼らの先祖は今の『ドラゴン』と同じく初代ロトの前である事をした。

その結果、何が起きたのか?

それこそが答えであり、これから始まる事なのだ。



全てのモンスターが自身の遺伝子に刻み込む程の、『過ち』が起きる。





287: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 18:09:54.98 ID:HLuZepu50


―――――― フワッ


華奢な姫の体が、ドラゴンの牙先に引っ掛かるように浮き上がった。

洞窟の闇の中で、姫の体が上空へ飛ばされる。

余りにも軽く、人形のように、糸が切れたマリオネットのように。



勇者「  ――――――  」



勇者の漆黒の瞳に彼女がゆっくりと落下していく姿が映る。

勇者の体は、固まったように動かない。



288: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 18:16:40.27 ID:HLuZepu50




ガパァッ!! と、ドラゴンが姫を飲み込もうと口を開く。




―――――― バクンッッ




異様な 音が 鳴った 。

それは 人が 飲み込まれた 音 だ 。


勇者「  ・・・  」


だ れ が  の ま れ た ?  だ れ が  こ ろ さ れ た ?





289: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 18:19:45.18 ID:HLuZepu50







―――――― 『 勇者 』



―――――― 『疲れた、おんぶして』







290: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 18:29:00.66 ID:HLuZepu50




   ズバァアアアンッ!!!!



ドラゴン「 カッ? 」

―――――― ゴドンッッ!!


ドラゴンの首が根元から滑り落ちる。

巨大な頭蓋が地面に落下し、岩のように鈍い重低音が鳴り響く。


辺りには 金色の軌跡 がゆらりと漂っている。



291: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 18:34:06.04 ID:HLuZepu50



姫「……ゆぅしゃ……」


「……迎えに来たよ、疲れたろ? 寝てくれ…姫」


『勇者』と呼ばれた青年は、静かに姫の瞼にゆっくりと指を乗せる。

そして「『ラリホー』」とだけ唱えると、王女は静かに眠った。

『勇者』と呼ばれた青年は、姫の体をしばらく抱き締めていた。


その姿には微塵の油断も感じられなかった。




292: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 18:44:58.37 ID:HLuZepu50


大魔導達『四天王』は動けずにいた。


その彼らの姿は、一週間前に竜王と出会った時の勇者に酷似している。

然り、全く同じなのだ。

しかしそこには竜王以上の畏怖が存在していた。


―――――― 果たして、『勇者』とは髪が金色だったろうか?


―――――― 果たして『勇者』とは、視覚化出来る程の魔力を周囲に撒き散らせるだろうか?


―――――― 今まであの『勇者』が、凄まじい殺気を圧して来た事があっただろうか?



大魔導(………これが、先代魔王『ゾーマ』を倒した 【史上最強の化け物】 )


覚醒させたのは怒りか、悲しみか。

いずれにせよ、大魔導が竜王から勇者の話を聞いてから恐れていた事が現実となったのだ。



293: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 18:52:48.78 ID:HLuZepu50


大魔導(竜王様を越える『ゾーマ』様を倒したロトの勇者………)

大魔導(……その力に覚醒した奴に、竜王様にすら及ばない我々が勝てると?)


大魔導は隣にいる『死神の騎士』を見た。


カタカタッ・・・

鎧の中で、何かが震えている。

死神の騎士が、怯えているのだ。



294: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 18:57:59.98 ID:HLuZepu50


ダースドラゴン「ガァアアアアアッッ!! (我に続けぇぇ!!)」


ダースドラゴンが吠え叫んだ。

それは彼が誇り高い竜族である事の最後の証明でもあった。


―――――― ギュゥン!!


深紅の火炎弾がダースドラゴンの喉から撃ち出され、空気の壁を飲み込み貫く。

圧縮された爆炎は凄まじい破壊力を生み出した。




295: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 19:10:48.04 ID:HLuZepu50


「…………」


ただ勇者は片腕を向け、その場から動こうともしない。

しかしその片腕には金色の魔力が集中されている。



―――――― ゴバァッッ!! 



直撃。

その余波は周囲の地面に僅かに残っていた枯れ草が、全て燃え散った程である。


だが、唯一勇者の背後で横たわる姫は余波の風すら当たっていない。




296: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 19:15:30.94 ID:HLuZepu50


「……」


チラリと、背後で横たわる姫を『勇者』は見る。


「………直ぐ戻るから、安心してくれな」


蒼くなった瞳で、『勇者』は大魔導達へ目を向ける。

それから静かに彼は呟いた。

「殺す」、と。




297: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 19:20:15.04 ID:HLuZepu50


キースドラゴン「ギャオォォォッ!!」

ダースドラゴン「ガァァアアアッ!!」


豪ッ!! と二頭のドラゴンが瞬時に火炎弾を放つ。

渦を巻く業火灰迅は凄まじい物だった。

しかし――――――


―――――― バシュゥッッ!!


刹那に火炎弾が虚空へ消し去られ、洞窟に闇が突如戻った。

黄金の軌跡が走り抜ける。




298: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 19:25:24.96 ID:HLuZepu50


死神の騎士「シィィィッ!!」


迫り来る黄金の軌跡を迎撃すべく、神速の斬撃を放つ!!


―――――― ガシィ!


死神の騎士「……!?」

勇 者 「…」


バリィンッ!!

掴み取った漆黒の『アックス』を刃ごと粉砕した。



299: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 19:30:14.14 ID:HLuZepu50


―――――― カッッ!!


大魔導「おおおおおおお!!!!」


全身の魔力をフル活動させ、全力の『ベギラマ』を三連続で撃ち出す!

莫大な閃光の群が洞窟全体を震撼させ、『勇者』に最強の熱波を与える!!





勇 者 「 『デイン』 」






300: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 19:35:08.88 ID:HLuZepu50



――――――  ゴォオオオオオオオオオオッッ!!!



剛雷が唸り、凄まじい雷撃が三連の『ベギラマ』を消失させる。

その黄金の輝きは巨大な重圧を大魔導に与えて来る。

今の呪文は、何なのか? と。


大魔導「………な……」


圧倒的。

まさに【史上最強】。


大魔導の眼前に、更に強大な青白い光が轟いていた。




301: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/15(金) 19:37:29.18 ID:HLuZepu50





勇 者 「  『ライデイン』  」





―――――― 洞窟内に音が鳴る前に、大魔導達は最後の光を見た。







313: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/18(月) 19:17:04.10 ID:cfspbLG/0


―――――― 君はきっと、目を開けた時には僕の事を忘れてしまう。



『悲しいとは思わない』

『寂しいとも思わない』

『怒ったりもしないよ』


『でも……君は怒って良いよ、泣いても良い、寂しいって……僕に叩いて来て良いから』

『全部、全部僕がいけないから……君をこんなにしてしまったのは僕が悪いから』


『ねぇ姫ちゃん、今までごめんね』


『もっと姫ちゃんのしたい事や、食べたい物、見たい物……』

『叶えてあげたら良かったよね』

『だから君は覚えてなくても、僕だけの約束だよ』


『……姫ちゃんの願いは全部叶えるし、病気やお化けからも僕が守ってあげる』


『 僕は、君だけの勇者でいるよ 』



314: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/18(月) 19:22:04.51 ID:cfspbLG/0


――― 『…ここ、どこ?』


――― 『お目覚めですか、姫様』

――― 『だぁれ? おとーさまはどこ?』

――― 『……姫様、失礼ですが…………あなたは何歳でしょう?』

――― 『えっと、昨日で四歳だよ!』


――― 『………そうでございましたか』

――― 『姫様、今日から貴女には教育係としてお友達が出来ますよ』

――― 『?』



315: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/18(月) 19:25:47.47 ID:cfspbLG/0


――― 『初めまして姫様、僕は勇者です』


――― 『ゆーしゃ? 何歳?』

――― 『七歳、姫様より3つ年上ですよ』

――― 『私よりお兄ちゃんなんだ!』

――― 『うん、…じゃなくて……はい!』


――― 『私は姫、宜しくね! 髪の毛が金色のお兄ちゃん!』




316: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/18(月) 19:28:19.07 ID:cfspbLG/0
【明日からの本編】





姫「…………」





「……」



姫「そこに、いるのは誰……?」



「……初めまして、姫様」





320: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/19(火) 18:01:46.17 ID:W937Xwdj0


主人「ちょ、ちょっとお客さん! その女の子どうしたんだい!?」

「……何でも、ない、 部屋を借りたい……」

主人「あんたもどうしたんだその髪……生まれつきなのかい?」

「…………悪い、が、何も…聞かないでくれ………」

主人「……わ、分かったよ」

「…………」ズル…ズル…


主人(な、なんなんだ? 体中血まみれだし、髪の毛なんかあんな真っ白に……)

主人(あの抱きかかえられていた女の子はどこかで見たような…?)




321: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/19(火) 18:07:10.60 ID:W937Xwdj0


「……ッ」ズキッ

(……着替え…よう、それからシャワーも浴びて……少し、寝ないと)

(………もう……10日寝て……な…………………い)



ドサッ



(……動け)

(……………こんな姿、見られる訳にはいかない)


(……)



322: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/19(火) 18:14:07.16 ID:W937Xwdj0


姫「……」パチッ


姫「…っ、あたまいたい……」

姫(って、どこだろう? どこかの建物?)

姫(……不思議、ついさっきまで体が冷たかった気がするのにあったかい)

姫(勇者もいるのかな)

姫「勇者? いるの?」


――― ズキッ!


姫「っ!? ……頭が…………」ズキズキ


323: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/19(火) 18:20:06.48 ID:W937Xwdj0


姫「~~っ!!」ズキズキ

姫(い、痛い……!!)

姫「ぅ……ぁ…勇者………」ズキズキ


ドサッ


姫「ぃっ……ぐ、ぁぁ…!」ズルズル  

姫「ゆっ…………ゆうしゃぁ! ゆうしゃぁあ!!」

姫(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!)ズキズキ ズキ  




324: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/19(火) 18:23:53.72 ID:W937Xwdj0


「………っ!」ガバッ


「………………」

(姫……? いまのは、姫、なのか…?)


「姫……!」ズルズル


――― ズキッ!


「がッ……!? っ、体が……!」

(ま、まずい……体の限界を越えて痛みが今になって……)

「……ひ、め…」ズルズル



325: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/19(火) 18:34:00.30 ID:W937Xwdj0


姫(………ッ、ッ、ッ!!)ズキズキ


姫「………いた…ぃっっ!!」

姫「勇者っ……ぁ……ゆうしゃぁ! ゆーしゃぁぁ…」



――― ぎゅっ



「…………ひめ、だ……ぃじょ………ぶ……」


姫「…………」

「……………」




――― ドサッ




326: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/19(火) 18:38:27.69 ID:W937Xwdj0



――― 【こんな形であなた方と再会するとは】


――― 【お久しぶりですね、勇者様、そして……名も知らぬ少女よ】


――― 【目覚めなさい、私のかわいい勇者……そして少女】




ルビス「……こんにちは、お二人とも」



勇者「……!」

姫「?」



331: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 16:46:22.68 ID:4ge3x80G0
  


姫「どうなってるの……って、勇者?」

勇者「姫! 俺が分かるのか」


ルビス「……勇者様、私が誰かは分かりますね?」


勇者「!……【精霊神ルビス】、だよな」

ルビス「覚えていてくれましたね、では何故私が再びあなた方を呼んだか分かりますか」

勇者「…さあな」

姫「えと……勇者、この人は誰?」



332: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 16:52:57.32 ID:4ge3x80G0


ルビス「少女、貴女が『姫』ですね」

ルビス「私は【精霊神ルビス】、かつてロトの勇者と共にこの世界を守っていた精霊です」

姫「……あ、えっ?」


姫「知ってます! おとぎ話によく出て来た精霊ですよね!」


ルビス「……確か私は教会のシンボルにもなっていたのでは」

勇者「世間知らずなんだ、すまない」

姫「?」



333: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 17:05:06.29 ID:4ge3x80G0


ルビス「こほんっ、……それでですね勇者様」  


ルビス「今回あなたが使用した【メガザル】、あれが最後になってしまいました」

勇者「!!」

ルビス「もはや時間が無いという以前に、場合によってはあなた方2人が同時に死ぬかもしれません」

勇者「どういう……事だ、今までそんな事は一度も!」


ルビス「……しかし事態は『竜王』の出現で最悪の一途を辿りつつあるのです」

ルビス「姫様? 貴女が『竜王』に『慈愛の心』を理解させたせいです」


姫「ぇ…」



334: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 17:12:33.07 ID:4ge3x80G0


勇者「悪いがルビス、いくらアンタでも言い過ぎだ!!」バッ

ルビス「勇者様、私は今回限りなく怒りを感じているのです」


ルビス「特に勇者様はご自身の命をまるで薬草のように思い、そして平気で捨てている……」

ルビス「………もう一度言わせて貰います、姫様が何もしなければここまでの危機は迎えなかったのです」


姫「……私が悪い、の? 勇者、何を言ってるの」

勇者「何も姫は気にしなくていい、これは夢なんだ! 幻だ!!」


ルビス「……勇者様、もうごまかすのも隠すのもやめにしましょう」



335: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 17:19:15.36 ID:4ge3x80G0


姫「…………」

ルビス「姫様、これから話す事は何もかもが真実です」

ルビス「……そして貴女は幾つか信じられない事もあるかもしれません、記憶に無いかもしれません」


ルビス「しかしこれは全てが、貴女への最後の『試練』なのです」


姫「……」

勇者「姫、耳を貸すな……!」

姫「……」

姫「話して、精霊さん」

勇者「……っ」



336: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 17:24:00.26 ID:4ge3x80G0


ルビス「……」

ルビス「姫様の体は生まれた時より弱かったそうですね」

姫「? はい」

ルビス「そして本来ならばその年まで生きられるのは不可能とも誰もが言っていたのではありませんか」


勇者「……待てルビス、何を遠回しに言ってるんだ?」



337: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 17:35:01.65 ID:4ge3x80G0


姫「……はい」

ルビス「そうでしょう、貴女は幼少の間に死ぬ運命だと決まっていたのですから」

勇者「…は、」


ルビス「初代ロトの勇者が大魔王を討ち倒したその後、彼と私は大魔王が予言した事への対策を始めたのです」

ルビス「『ゾーマ亡き後、再びロトの勇者がいない世界に強大な魔王が再来する』……この予言を我々は恐れました」

ルビス「『大魔王ゾーマ』に匹敵する何者かが、ロトの勇者様が亡き時代に現れると言われてもどうしようも出来なかったのです」


勇者「………それが、姫の運命とどう関係がある?」

ルビス「姫様の運命は『偶然』なのです」

姫「勇者」

勇者「ッ……分かった、続きを頼む」



338: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 17:46:43.97 ID:4ge3x80G0


ルビス「そこで……私と当時の勇者様、2人の魂と魔力を注いだ『光のオーブ』を予言の時まで保管する事にしたのです」

姫「光のオーブって……もしかして」

ルビス「竜王が貴女の目の前で手にした『光の玉』の事です」


勇者「目の前で? まさか竜王の城に保管してたのか」

姫「ううん、私の前で手を翳したら出て来たのよ」

勇者「そうか……ん? ……!!」

ルビス「今勇者様が考えた通りです、私達は『1人の人間に』オーブを保管する事にしたのですよ」



339: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 17:57:20.60 ID:4ge3x80G0


ルビス「初めは大盗賊のカンダタ、彼は『光のオーブ』が放つ凄まじい魔力を生涯耐えきりました」

ルビス「そうして彼が亡くなると同時に、今度は『光のオーブ』は選んだ人間の中に移動する……」

ルビス「……常人ではとても『光のオーブ』の魔力を受け止めきれず、10年程で死んでしまいました」


勇者「………今までに何人死んだ……!」

ルビス「140人、でしょうね」

ルビス「…そして永き時を経て現在のオーブに選ばれたのが、姫様です」


姫「……」



341: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 18:15:28.60 ID:4ge3x80G0


勇者「ふざけやがって!! アンタ達はおかしいんじゃないのか!?」

ルビス「しかし現に今まで無事にオーブは守られて来ましたが?」

勇者「当たり前だ!! 竜王が出るまで平和だったからだろうが!!」


勇者「ロトの勇者とルビスが込めた魔力? そんなもん……要らなかったじゃねえか奪われたじゃねえか意味がないじゃねえかッッ!!」


ルビス「意味が無い? 本当にそう思ってるならば聞かせて下さい、オーブが無ければ勇者様は生き返る事は出来ないのですよ」

ルビス「ならばどうやって姫様を助けに行きましたか、どうやってあの夜生き返るつもりでしたか」

ルビス「今のあなた方がここにいられるのはオーブの魔力が助けているからなのですよ?」


勇者「……」

ルビス「…しかし今となっては勇者様が正しいのですが」



342: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 18:32:15.97 ID:4ge3x80G0


ルビス「話に戻ります、偶然オーブに選ばれた姫様は当然ながら幼い体では魔力の波動に耐えきれず『七歳』で死ぬ運命でした」

ルビス「ですがそこで貴女は奇跡的な『偶然』に救われた……ロトの子孫である勇者様にね」


姫「……七歳? 勇者に救われたの?」

ルビス「貴女は何歳の時に勇者様と出会ったのですか」

姫「四歳の誕生日……次の日」

ルビス「……本当は貴女が生まれた時から勇者様と一緒にいたのですよ」


ルビス「しかし貴女は記憶を一時的に失うしかなかった、そうするしか勇者様は貴女に【メガザル】を使えなかったのです」



343: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 18:39:14.30 ID:4ge3x80G0


姫「……勇者、メガザルってなに」

勇者「ルビス、ここからは俺が話していいか」

ルビス「包み隠さずお願いします」


勇者「姫は今ルビスが言った通り、七歳の時に一度『死んだ』んだ……」

姫「…でも生きてるよ」

勇者「生き返らせた……俺の命と姫の『思い出』を代償にしたんだ」

姫「思い出って、勇者との?」

勇者「………あの頃は俺としか過ごしてなかったから、まるで俺との記憶だけ忘れたように感じてるんだ」



344: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 18:47:30.98 ID:4ge3x80G0


勇者「……俺、本当は元々金髪だったんだよ? 覚えてるか」

姫「……ううん」

勇者「金髪だったんだ、でもそこからまた7年して姫が倒れた」

姫「うん」

勇者「二度目の『発作』だったから、姫が死ぬより先に俺がメガザルを使ったんだ……それでまた一時的に姫の体は元に回復した」

姫「勇者」

勇者「……なんだ」

姫「その時も、そのメガザルで死んだの? 私を治すために?」

勇者「………あぁ」

姫「わかった、続きを聞かせて」

勇者「……? わかった」



345: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/20(水) 19:10:05.87 ID:4ge3x80G0


ルビス「ちなみにその当時は勇者様の魔力が充分だったので『思い出』を代償にせずに済んだのですよ」

勇者「ああ、そうだったな」

勇者「……それからまた半年位して、覚えてるか姫」

姫「? 半年…………あ」

勇者「姫が突然倒れた時、その時もメガザルを使った」

ルビス「私は止めました」


姫「…私を……起こすために? 直ぐ目を覚ましたかもしれないのに?」

勇者「ああ」

姫「……えへへ」

勇者「えっ?」

姫「私が変なのかな……深刻な話なのに、なんだか嬉しくて」


ルビス(……この2人は何故いままで結婚してないのでしょうね)

350: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 17:38:17.98 ID:Uf1POa/L0


勇者「嬉しいって……何度も死にかけてたんだぞ?」

姫「勇者は何度も死んでるんでしょ?」

勇者「そうだけど、それは……」

姫「どうしてそんなに私を助けてくれるの?」

勇者「どうしてって、…………」


姫「……だから嬉しいの、言葉で伝えられない位の理由があるから私を助けてくれるから」


勇者「……」

ルビス「どうやら姫様にとってはそこまで思い悩む事ではないみたいですね」

勇者「……俺の12年間って一体……」



351: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 18:20:04.44 ID:Uf1POa/L0


姫「試練って言うから、凄く緊張したんだからね!」

勇者「姫は強いな……負けたよ」


ルビス「…」

ルビス(あのスライムについて、勇者様が話す気がないならば私は黙っていましょう)


勇者「ルビス、俺が話したい事はもうこれでいい」

ルビス「では本題に入らせて頂きます」



352: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 18:34:37.78 ID:Uf1POa/L0


ルビス「先程お話した通り、あなた方2人は現在とても危険な状態なのです」

勇者「っ、何故だ? 『あのメガザルが最後』っていうのはてっきり魔力が不充分だからとかだろ」

ルビス「その通りですが、もっと深刻なのです」


ルビス「竜王がついに勇者様が姫様を助け出したのを知り、『光のオーブ』を『ブラックオーブ』に変えようとしているのです」


勇者「ブラックオーブ?」

ルビス「魔界の『暗黒神』達をこの世界に呼び込めるオーブ、今は魔王の素質を持つ竜王にだけ作れる物ですね」

勇者「……まさか『光のオーブ』が闇に染められたせいで?」


ルビス「はい、勇者様と私、そして『メガザル』の魔力で生命力を得ている姫様の全員にオーブの魔力が供給されなくなっているのです」



353: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 18:48:45.94 ID:Uf1POa/L0


姫「全員? ルビスさんや勇者も魔力が無いと駄目なの?」

勇者「………俺と姫の場合はまだ『メガザル』を使用して7日すら経ってないからだ」

勇者「『メガザル』は発動者の命を代償にして人数を問わず発動者の望む人間を蘇らせる、けど……」

ルビス「勇者様は直前の戦闘で魔力を消耗していたのに続けて発動したので……」


ルビス「ただでさえオーブからの魔力供給が止まった中『勇者様の復活』と『姫様の蘇生』を同時にこなし、私を実体化させる魔力すら消耗してしまったのです」


姫「…え、じゃぁ……私達は7日経たないと蘇生と復活が完了しないの?」

ルビス「ええ、しかし後3日の猶予無く魔力が無くなります」



354: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 18:56:07.83 ID:Uf1POa/L0


勇者「何か手はないのか、ここまで遠回しに言ったからにはあるんだろ?」

ルビス「……それが姫様にとっての試練なのです」

姫「?」




ルビス「方法は唯一つ、あなた方2人の全ての『思い出』を代償に魔力を生み出すしかないのですよ……」




姫「……2人の思い出を」

勇者「代償に……だと!?」



355: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 19:05:20.68 ID:Uf1POa/L0


勇者「待てよッ!! 俺1人で充分だろ!? 姫まで記憶を失う必要は……」

ルビス「残念ですが、私はあなた方2人の記憶を魔力に代えても実体化は出来ず、勇者様と姫様2人しか救えないのです」

姫「ルビスさん…消えちゃうじゃない」

ルビス「えぇ、私は再びオーブに光が戻るまで眠りにつく事になります」


勇者「……他に方法は無いのか!? 記憶はどこまで消える!?」

ルビス「あなた方の場合は……互いの過ごして来た思い出を全て失うかもしれません」


ルビス「…それでも勇者様には『竜王は倒すべき存在』として記憶に残るので、世界は救えます」

勇者「………!!」

姫「……」


姫(……勇者との思い出が、三年分とかじゃなくて、全部…消える?………)




356: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 19:14:04.29 ID:Uf1POa/L0


姫「……やだ、勇者との思い出を全部失うなんてやだよ」

勇者「俺もだ……っ!! 3日も猶予があるんならその間に竜王を倒せばいい!!」


ルビス「不可能です、魔力が尽き……果てには髪の色すら白になる程『現実』のあなたは衰弱しています」


勇者「2日寝れば、少しは……っ」

ルビス「それでも竜王に満身創痍のあなたは勝てるのですか?」

勇者「勝てる! 勝つしかないだろ!?」


ルビス「……勇者様は理解している筈、『勇者の儀』を済ませたあなたを一度殺した竜王の強さを」


勇者「………ッ!!」



357: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 19:17:55.71 ID:Uf1POa/L0


ルビス「他に方法はありません、仮にどちらか一方が生き残っていても……八方塞がりです」

姫「勇者だけを生き返らせても?」

勇者「駄目だ!!」

姫「でも私だって勇者や世界のために……!」


ルビス「姫様、勇者様の言うとおりそれをすると勇者様は竜王と戦う事すら出来ませんので」

姫「そんな……」


ルビス(……本当に、特殊な性質の勇者ですからね)



358: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 19:22:38.81 ID:Uf1POa/L0



――― 「……2人に少しだけ時間をあげます」


――― 「その間に覚悟が出来ましたら、私を呼んで下さい」





姫「…………」

勇者「………」







359: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 19:28:35.98 ID:Uf1POa/L0


姫「……あはは」

勇者「……」

姫「勇者、なんか疲れちゃったよ」

勇者「……ああ」

姫「……おんぶ、じゃなくて良いから……」ポロポロ

姫「最後の思い出に……抱っことか、抱き締めてほしいな………」ポロポロ


勇者「……」ぎゅっ


姫「……っ」ポロポロ



360: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 19:33:15.07 ID:Uf1POa/L0


姫「こんなに好きなのに……っ」ポロポロ

姫「こんなにっ…っ、近くにいるのにっ」ポロポロ

勇者「……」なでなで

姫「わ、わすれたくないよっ……やっと勇者の気持ちも理解できて、勇者にどれだけ助けられたのかも知れてっ」

姫「……っ、私の病気の原因もわかって悪い奴の企みもわかってこれから出来る事もわかって……!」


姫「やっと勇者に何が出来るかなって、考えられると思ったのに……!」ポロポロ


勇者「………」なでなで



361: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 19:38:17.29 ID:Uf1POa/L0


勇者「……姫」

姫「……っ、…ひっく」ポロポロ

勇者「今から言う事は、絶対に『勇者の言葉』だと思ったらダメだ」

姫「……?」スッ


勇者「『勇者の家にある本棚の右から三番目の本の表紙を読む』」


姫「…なに、それ」

勇者「記憶しようとしたらダメ、俺の言葉だとも思うな」

勇者「……多分これが俺達の最後の賭けで、最後の『試練』なんだ……」

姫「…………わかった」



362: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 19:41:36.52 ID:Uf1POa/L0




ルビス「……もう、本当に良いのですね?」



勇者「ああ」

姫「……」ぎゅ


ルビス「………」

ルビス「私はもうこれが人間と会える最後の時なのです、姫様にお聞きさせて下さい」

姫「…?」

ルビス「私が出て来たというおとぎ話……どんなお話でしたか?」



363: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 19:46:11.35 ID:Uf1POa/L0


姫「もう長い間読んでないけど、確か……『囚われの身である精霊ルビスを、人間の男の子が助ける』お話だよ」


ルビス「……そうですか」

ルビス「作者は……覚えていますか」


姫「うーん、わかんないや……確か『アルス』とか『アベル』とか……そんな感じだったよ」


ルビス「…!」

勇者「……」

勇者「満足か、ルビス」


ルビス「………ぇぇ」くすっ



364: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 19:52:50.01 ID:Uf1POa/L0


―――――― 君(あなた)はきっと、目を開けた時には俺(私)の事を忘れてしまう。



『俺は……悲しいとは思わないよ』

『私も……寂しいとも思わない』

『俺(私)は……怒ったりもしないよ』


『でも……君(あなた)は怒って良いよ、泣いても良い、寂しいって……俺(私)に寄り添って良いから』

『君(あなた)がいたから、今の私(俺)がいる』


『姫(勇者)、今までごめん……』


『もっとしたい事や、食べたい物、見たい物……』

『一緒に叶えられたら良かったよね』

『だから君(あなた)は覚えてなくても、俺(私)だけの約束だよ』


『……勇者(姫)の願いは全部叶えるし、病気やお化けからも俺(私)が守ってあげる』


『 私(俺)は、君(あなた)だけの勇者でいるよ 』



365: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 19:55:33.03 ID:Uf1POa/L0





姫「…………」





「……」



姫「そこに、いるのは誰……?」



「……初めまして、姫様」




366: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 20:03:39.27 ID:Uf1POa/L0


姫「……」

勇者「お見苦しい姿をお許し下さい、俺は勇者って言います」

姫「…その姿はどうしたのです、髪まで白く……」

勇者「竜王に捕まっていた姫様を助けるため、洞窟のドラゴンと戦った時に魔力を使い切ってしまったようです」


姫「……何故、私のために?」


勇者「あなたはラダトームの大切な王女だからです」

姫「……そうですか」



367: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 20:06:14.75 ID:Uf1POa/L0



メイド「!! お帰りなさい勇者さん!」


勇者「…? 誰かは知らないがありがとう」スタッ

姫「これがキメラの翼ですか……凄いですね」


メイド「……え?」



368: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 20:09:03.65 ID:Uf1POa/L0


メイド「勇者さん、その髪……ていうか今私を知らないみたいに……」

勇者「…?」

メイド「姫様も! なんで勇者さんともっとイチャイチャしてないんですか!」

姫「……だ、誰ですか?」


メイド「……は? 2人とも変ですよ!」



369: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 20:14:13.33 ID:Uf1POa/L0


兵士「……お?」

兵士「勇者!? それに姫様!!」


兵長「おぉ! 姫様をついに助け出したのか勇者! 直ぐに伯爵の奴に姫様の事を伝えなきゃな!!」

兵士「俺は城中に言って来ます!!」


勇者「今夜はパーティーだなきっと」

メイド(……??)

姫「………」

姫(『伯爵』…)



370: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 20:16:20.13 ID:Uf1POa/L0


姫(『パーティー』……)

姫(『伯爵』『パーティー』……?)


姫(あれ、私はどうして竜王に捕まったのだろう?)

姫(どうして竜王は私を妻にしようとしたんだっけ……?)


勇者「姫様」

姫「ひゃっ!?」びくっ



371: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 20:20:06.96 ID:Uf1POa/L0


勇者「俺は今度の戦いでボロボロになった服を着替えに帰りますので、これで失礼します」

姫「えぇ、なんとお詫びをしたら良いか……」

勇者「礼なんて要りませんよ、勇者として当たり前の事をしたんだから」

メイド(……やっぱりおかしい? でも姫様はどこか…)


勇者「ではこれで……」スッ


姫「はい……」ぺこり



372: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 20:21:44.36 ID:Uf1POa/L0





―――――― 【 行かせちゃダメ! 】 ――――――






姫「!」

ガシッ

勇者「!?」



373: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/22(金) 20:35:00.42 ID:Uf1POa/L0


勇者「……姫様?」


姫「ぇ? ぁ……そのっ」

姫「……」

姫「私も……勇者様のご自宅にまでご一緒して良いですか…」

勇者「あ、あぁ……構わないですよ」

姫(……)


メイド「……?」



387: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 17:00:41.51 ID:mrFTtbuC0


勇者「かなり散らかってるけど、入って」

姫「ありがとう」スッ

姫「……本が沢山あるんですね」

勇者「まあね」

姫「………」そわそわ

勇者「どうかしました?」

姫「いえ、ぁ……何でもないです」



388: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 17:05:39.64 ID:mrFTtbuC0


姫(……なんで、かな)

姫(……)キョロキョロ

勇者「? 今飲み物持ってくるよ」

姫「はい」

姫(………当たり前なのに、『初めて』勇者様の家に来た気がする)

姫(それに、何だか……『本』が気になってしょうがない感じがする)


389: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 17:13:04.00 ID:mrFTtbuC0


姫「……でも、凄い量の本…」

姫「あっ」とんっ

バサッ

姫(どうしよう、勇者様の大切な資料だったら……もどさなきゃ)ガサガサ

姫「……?」

姫(なに? これ……)ガサッ



390: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 17:14:42.65 ID:mrFTtbuC0


●ラダトーム王女、姫の体質


○男性恐怖症

○低血圧

○貧血?

○足に若干の障害有り(強く踏み込む事が出来ない)

○極度の不眠症(近くに人がいれば眠れるのを12歳の時に確認)

○今までの16年間で三度に渡って意識不明の昏睡状態になる(原因は不明・呪いの可能性有り)

○風邪を引くと咳が止まらない為、吐血する(キアリーで対処可能なのが幼少期に確認)


391: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 17:18:09.73 ID:mrFTtbuC0


姫「……男性、恐怖症…?」

姫「不眠症……? 足に障害?」

姫(…………)

姫(え? ぇ……)

姫(なんで勇者様が私の体質を知ってるの、それに……)


姫「男性恐怖症の私が、どうして勇者様と普通に話せたの……?」



392: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 17:29:21.35 ID:mrFTtbuC0


姫(……おかしい)

姫(絶対おかしい、私はあの宿でついさっき勇者様と会ったはずなのに!)



―――――― 【本棚の右から……番目の本を…………】



姫「っ! ひゃぁっ!?」びくっ

姫(……な、なに今の……勝手に私の口が……!!)



393: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 17:38:27.33 ID:mrFTtbuC0


勇者「どうした、何かあったのか!」バッ

姫「い、いえっ……」

勇者「? あー……紙束落としちゃったのか」ガサガサ

勇者「怪我はないですか? 疲れてるなら少しそこで横になると良いですよ」

姫「ううん、平気」にこっ

勇者「良かった」にこっ


勇者「…」ハッ
姫「っ…」ハッ


勇者「……と、とりあえず飲み物を~」スタスタ

姫「わ、私もお言葉に甘えて休ませて貰います……///」カアア



394: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 17:42:24.82 ID:mrFTtbuC0


姫「…………」

姫(…………)

姫(私、もしかして勇者様の何かを知っていて……向こうも知ってる?)

姫(今の自然な動作と会話、間違いないよね)

姫(うん? でもなんで覚えてな


―――――― 【本棚の……勇者の…………】


姫「……っ」バッ

姫(また? あれ……)



395: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 17:49:02.72 ID:mrFTtbuC0


姫「………っ」ぱくぱく

姫(……唇の力を抜くと勝手に動いてる)

姫(………)


―――――― 【勇者の家にある本棚の右から三番目にある本の表紙を読む】


姫(!!)

姫「本棚って……これ?」ゴトッ

姫(なんで私が知ってるかはともかく……右から三番目? 何段目の?)



396: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 17:54:36.06 ID:mrFTtbuC0


姫「……『錬金釜とは』…?」

姫「……」キョロキョロ

姫(…何を期待してるんだろ、私)

ゴトッ

姫「えっと……『悟りの書』?」

姫(……次、かな)



397: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 18:02:02.16 ID:mrFTtbuC0


勇者「何してるんです?」

姫「ふぇっ!?」ビクゥッ

勇者「本を読みたいなら左から五番目がオススメですよ、描写が凄く細かいんです」

姫「へぇ……」

姫「……?」


姫「あの、『何段目の』ですか?」



398: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 18:08:28.53 ID:mrFTtbuC0


―――― 『ああ! 上から二段目ですよ』

―――― 『俺の目線に合ってるんで、よく手に取る本は上から二段目に入れてるんですよ』

―――― 『ところで、何か食べます? パーティー前だからおやつ程度なら出すよ』



姫「……上から二段目の右から三番目……」

スッ・・・

姫「…………」

姫(……な、なんでドキドキするんだろ……凄く、何か変……)

姫(……)スッ



399: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 18:13:03.93 ID:mrFTtbuC0



姫「………… 『 ぼうけんのしょ 』 ………?」



姫(元は日記帳かな、表紙の字は子供が書いたみたいな……)

パカッ

姫「って、あれ……中身は真っ白?」


―――― パラパラパラパラ・・・


姫「……何も書かれてない」パラパラ

姫「………」パラパラパラパラ

姫「………」パラパラパラパラパラパラ


姫「ぇ、・・・」パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ




400: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 18:16:55.47 ID:mrFTtbuC0


姫「何これ、ページがなくならない!?」

姫(……見た目はそこまで分厚くないのに、もしかして何か魔法でもかかってるのかな)


―――――― パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ・・・


姫「……」パラパラパラパラ


―――――― パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ・・・………ピタッ


姫「!」

姫「あ、あれ……なんで止まったの? ……ページがめくれない?」ググッ

姫(……よく見ると何か書いてある)



401: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 18:19:20.17 ID:mrFTtbuC0






―――――― さいしょから






姫(?)







―――――― さいしょから はじめますか ?





姫「『始める』って……なにを?」





402: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 18:21:36.93 ID:mrFTtbuC0



―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!



姫「な、なに!? 『鐘』?!」


カッッ!!


姫(本が光っ……)




―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!




403: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 18:28:52.56 ID:mrFTtbuC0


―――――― ・・・


あの日……僕にたった1人の家族が出来た。

昔、初代ロトの勇者は自身の宿命を知った時から『冒険の書』という日記をつけたらしい。

その日記は元はただの日記帳だったが、ロトの勇者が書き続けその人生を物語として描いた事で、魔法の力を持っていた。

僕はそれと同じように、この日記帳に魔法の力が宿る位にこれからの『冒険』をここに書き記したい。


僕は彼女だけの勇者だと、ここにその証を残す。



―――――― ・・・




404: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 18:32:55.99 ID:mrFTtbuC0


姫(……今の、勇者様の声?)

姫(何が起きてるの? 何も見えない、真っ暗……)



―――――― 初めて『姫』と会ったのは、彼女が生まれた時からだった。


姫(………視界が明るくなってく)


―――――― まだ3歳である僕は『見習い教育係』として、僕の父親に姫と一緒に教育された。




405: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 18:38:33.80 ID:mrFTtbuC0


幼勇者『おとうさん、ひめちゃんがかみのけひっぱるよー!』

幼姫『ー♪』ぐいぐい


父勇者『男は女の子の為に痛い思いするもんさ、我慢だ我慢!』


僕が五歳にもなると、二歳になり遊びたい盛りの姫と遊ばされた。

お父さんには、よく『女の子には優しく、痛いのは我慢しろ』と言われていた。


姫(……………)



406: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 18:43:33.34 ID:mrFTtbuC0


勇者母『勇者? 姫ちゃんに薬飲ませてあげて』

幼勇者『なんでー?』

勇者母『姫ちゃん具合悪いのに、どうしてもお薬飲まないのよぅ』


幼姫『だってにがいんだもん……やだぁ』

幼勇者『でも姫ちゃん飲まないとつらくなるよ』

幼姫『うぅー』

幼勇者『僕が背中さすってあげるから、飲もう?』

幼姫『………うん』



407: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 18:49:04.05 ID:mrFTtbuC0


父勇者『勇者、今日はキアリーの呪文をお前に教えるからな』

幼勇者『姫ちゃんは?』

幼姫『わたしもやるー!』

父勇者『こ、こらこら……姫様は魔力がまだ未熟なんだよ』


幼姫『やーだー!! ゆーしゃといっしょじゃなきゃやだー!!』


父勇者『……やれやれ、モテる男はつらいな? 勇者』ニヤニヤ



今思えば、僕が8歳の時のお父さんはニヤニヤする事が多くなっていた気がする。



408: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 19:02:03.91 ID:mrFTtbuC0


姫(……これ、ひょっとして私と勇者様の幼い時?)

姫(でもこんなの全く記憶にないけど……)



僕が九歳になった時、つまり去年の夏だ。

同じ年の使用人の男の子達が、小さな猫を城の庭でいじめているのを見つけた。

姫はとても怒ったが、男の子達は猫を人質にして逆に僕達に条件を出した。

あの時、僕が彼等を蹴散らしていたら『スラリン』と会えなかった気がする。


スラリンとは、僕達が男の子達に条件として『森に肝試しに行ってくる』のを出された時に森で会ったスライムだ。


スラリン『ぴきーっ!』

姫(……!)



409: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/25(月) 19:09:29.84 ID:mrFTtbuC0


今週中に今度こそ完結したいな

おやすみなさい

413: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 17:05:08.88 ID:6nBhNErE0


姫「……このスライム、前にどこかで…………」

スラリン『ぴきーっ♪ ぴっ?』ぴょこ

姫「……」すっ


スカッ


幼姫『スラリン! おいでー、ゆーしゃと遊ぼう♪』

スラリン『ぴー♪』


姫(……さわれない)

姫(なんでかな、悲しい気持ちになった)



414: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 17:13:02.77 ID:6nBhNErE0


幼姫『さあアンタ達! その子猫を大人しく渡しなさい!』

幼使用人『えー? 本当に森に行ったかも怪しいよな~』

幼使用人2『なー?』


幼勇者『姫ちゃんが頼んでるんだ、渡せよ』

幼使用人2『なんだよ勇者! 俺達は年上だぞ?』

幼使用人『年下のくせに生意気だ!』


スラリン『ぴきー!』ドゴォッ

幼使用人『ぐぼぁ!?』



415: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 17:23:52.62 ID:6nBhNErE0


幼使用人『な、なんだこいつ!』

幼使用人2『うわぁ! モンスターだ、逃げろー!』



スラリン『ぴっ!(とんでもない奴らだね!)』

幼勇者『えへへ、ありがとうスラリン』

幼姫『子猫ちゃん、大丈夫かな?』

『みぃ…』



姫(わー、優秀なスライムだなぁ)



416: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 17:32:03.48 ID:6nBhNErE0


―――――― スラリンが姫と友達になってからはほとんど毎日が楽しかった。


今度はスラリンも一緒に森を探検したし、姫の六歳の誕生日もスラリンと一緒にプレゼントを渡した。

去年の日々は、とても楽しかった。


―――――― ・・・


姫(……あれ)

姫(…………)

姫(何も聞こえなくなっちゃった、何も見えないし)



417: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 17:38:59.15 ID:6nBhNErE0


姫(それにしても)

姫(やっぱりこれは、私と勇者様よね?)

姫(仮にそうだとしてなんで覚えてないの……?)

姫(……)


―――――― 半年して、僕が10歳になって少し後の時だ。


姫(!)





―――――― ザァァ・・・



姫(……雨)



418: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 17:46:08.11 ID:6nBhNErE0


この日の朝、外ではお父さんとお母さんが何故か慌てていた。

外は物凄い雨の勢いなのに、2人とも傘すら差していなかった。

お父さんはお母さんの手を握ったまま、僕に言った。


父勇者『勇者、俺は母さんと一緒にちょっと海を見てくる』

父勇者『心配はしなくて良いからな、よくある事だと思って諦めてくれな?』

父勇者『……ああ、それから王様に話は通しておいた……姫様の部屋に泊まってろ』


僕はやはり心配で、呼び止めた。

何度も呼び止めた。



419: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 17:50:55.27 ID:6nBhNErE0


父勇者『……ははっ、心配し過ぎだ! 勇者は男だろ、今夜は小さな妹みたいな姫様を守ってやれ!』

勇者母『勇者、ちゃんと姫様の面倒は見てね? 勉強も教えてあげなさいね?』


・・・これで、最後の会話は終わった。

僕の両親は戻らなかった。



姫(…………っ)ズキ

姫(? こめかみがちょっと痛かった)なでなで



420: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 17:57:15.36 ID:6nBhNErE0


戻らないだけなら良かった。

もしも帰って来ないだけならば、良かった。



幼姫『ゆーしゃ……』

幼勇者『…………』



両親がいなくなってから、何故か雨は半月近く降り続けた。

あの嫌な感覚が、ずっと続いた。

しかし、雨は晴れていよいよ王様が僕の両親を捜索しようとした所で……。



421: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 17:58:55.72 ID:6nBhNErE0


王様『何という事だ・・・』


幼姫『…!!』

幼勇者『………おと…さん……』



―――――― ・・・










422: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 18:04:13.99 ID:6nBhNErE0


(……え?)


幼勇者「お父さん……お母さん、お父さん!」バッ


< 「リムルダールの海岸に倒れていたそうです……」

< 「一体何が……?」

< 「よせ、勇者や姫様がいる」


王様「……姫よ、ここは勇者を両親としばらく共に居させてやろう」


「……ううん、ゆーしゃと一緒にいる」




423: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 18:13:07.87 ID:6nBhNErE0


(……これって、もしかして……)


王様「………良かろう、そなたに様々な事を教えた2人に別れを告げると良い」

王様「私は……玉座の間にいる」


「うん」

「………」すっ


幼勇者「……うぁぁぁ…!! お父さん! お母さん!!」

幼勇者「うわぁあああん……わぁぁ……!」ポロポロ


「………」ポロポロ



424: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 18:19:26.41 ID:6nBhNErE0


(……私、が………幼い姫になってる?)

(それとも……これが…………)



幼勇者「うわぁあああ……!! ひっ、ぅぐ……ぁあ」ポロポロ

「…………」ぎゅっ


「……勇者お兄ちゃん、一緒にお別れしよう?」

幼勇者「やだっ!! 起きてお父さん! お母さぁん!!」

「おじさんが可哀相だよ、勇者」

幼勇者「うるさい!! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさぁい!!!」

ガッ

「ひゃ……っ」ドシャ




425: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 18:26:50.97 ID:6nBhNErE0


幼勇者「あ………」


「……っ、大丈夫だよ…私つよいもん」グスッ

幼勇者「ごめん姫ちゃん……」


「……一緒に、お別れしようよ」


幼勇者「………」チラッ

幼勇者「…おとうさん……おかぁ………さ……グスッ 」ポロポロ

「勇者、泣くのはお別れしてからにしよう?」

「……じゃないとおじさん達安心できないよ」



426: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 18:34:15.17 ID:6nBhNErE0


(勇者……)

(っ!)ズキ ズキ ッ



幼勇者「……うん」

幼勇者「でも、どうやってお別れすればいいの…?」

「ばいばい、今まで沢山大切な事教えてくれてありがとう……って」

「……私は今そうお別れしたよ」


幼勇者「…………………」




427: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 18:38:28.17 ID:6nBhNErE0


―――――― ・・・


姫「……!」

姫「…戻っ……た?」



姫は……ずっと僕のそばにいてくれた。

僕より小さくて、年下で、妹みたいにすら思ってしまうのに。

なのに・・・


< 「……彼女はずっと、俺なんかより大人だったんだ」


姫「!!」



428: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 19:02:08.31 ID:6nBhNErE0


勇者?「……」


姫「ゅ、勇者……? なんでここにっ」

勇者?「……あの夜、俺はどうしても両親の悲しみが拭えずに泣いてたんだ」

姫「……」


勇者?「当たり前なのにな……10歳なんてまだまだ子供なのに、直ぐ前を向ける訳がない」

勇者?「でも、姫は心配してくれたんだな……一度も俺は姫に泣いてたりする部分は見せなかったから」

勇者?「…………」スッ

姫「えっ?」

勇者?「………君はあの夜………」




429: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 19:07:17.22 ID:6nBhNErE0


幼勇者「……っ、…っ」グスッ グスッ

ガバッ!

幼勇者「!?」

幼姫「……泣いてるの?」



勇者?「……ほんの一瞬、心配してくれている姫を思わず冷たく追い出そうとした」

勇者?「せめてベッドの中で、1人で泣きたかったからだ」


姫「……」



430: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 19:12:23.69 ID:6nBhNErE0


―――――― 『泣いてるの?』


幼勇者『……出ていけよ』

幼姫『ゆーしゃ、一緒に寝よう?』

もぞっ

幼勇者『………』

幼姫『泣いていいよ』

幼勇者『……』

幼勇者『…っ……ひっく』ポロポロ



431: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 19:16:24.38 ID:6nBhNErE0


幼姫『…どうして泣いてるの』

幼勇者『ぅぁ…っ、ひっく……っ』ポロポロ


幼勇者『ぼくは……1人ぼっちになったから……っ』グスッ

幼勇者『っ……もう、お父さんやお母さんに会えないから……っ』ポロポロ

幼勇者『いやだ……ぁ、いやだよぉ……!』ポロポロ


幼姫『ぎゅー』ぎゅっ


幼勇者『!』



432: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 19:20:38.36 ID:6nBhNErE0


姫「ッ……!!」ズキ ッ

姫(…………………………)バッ


勇者?「……」



―――――― 『姫ちゃん、遊ぼう?』

―――――― 『姫ちゃん、僕の手を握ってれば転ばないよ』



姫「……ゆーしゃ……」



433: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 19:24:09.05 ID:6nBhNErE0


幼勇者『……姫ちゃん?』

幼姫『寂しくないよ』ぎゅぅっ

幼姫『私がずっと一緒にいるから、寂しくないよ……勇者』

幼勇者『……』

幼姫『好き』

幼勇者『!!』びくっ



434: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 19:32:15.67 ID:6nBhNErE0


姫「ぅ……ッ」ズキ ッ ズキ ッ !

姫「………!」




―――――― 『まだホイミできなくてごめんね……薬草、塗ってあげるからおいで』

―――――― 『姫ちゃんはよく具合悪くなるから、お粥の作り方お母さんに教えて貰ったんだ!』

―――――― 『美味しい? 良かった!』




―――― 『 姫、これ食べてみてくれ……作ったんだ 』

―――― 『 美味しい? そっか、今度もっと姫が美味しいって言ってくれる物を作ってみるよ 』





435: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 19:38:36.59 ID:6nBhNErE0


幼勇者『…………』

幼姫『私は勇者が好きだよ、大好きだよ』

幼姫『……だから泣かないで、1人じゃないよ……私もいるよ』

ぎゅっ

幼姫『ね、こうやってずっとぎゅーすれば寂しくないよ勇者』


幼勇者『……!!』ポロ…ポロ…

幼勇者『…………うん』


ぎゅっ




436: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 20:09:18.96 ID:6nBhNErE0



姫ちゃん、おはよう     そりゃ心配だよ
                        姫ちゃんは弱いもんね


姫は欲張りじゃないよ
                    かき氷を作ってみた
                        姫は怖がりだから
     悪かったよ、無理に踊らせようとして


 あ、こっちのシロップかけると良いと思う          姫ちゃん、大丈夫?


  


      姫ちゃん、大丈夫だよ……すぐに良くなるからね

      ルビスさん、僕にその呪文の詠唱を教えて下さい

       姫のためなら、僕は何度死んでも蘇ってみせるし、命だって幾らでも……!!





437: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) 2012/06/26(火) 20:10:06.57 ID:6nBhNErE0









姫「………………」



姫「……勇者……?」




次回 姫「疲れた、おんぶして」勇者「はいはい」 後編