2: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 00:13:32.73 ID:f6oMokg0

オッレルス「…と、いうわけで」

フィアンマ「何が『というわけ』だ、唐突に何を言い出すかと思えば」

オッレルス「ここが今日からの君の住まいだ。部屋は好きなのを使ってくれ」

フィアンマ「…この建物、どう見ても宿屋なんだが?」

オッレルス「…き、気にしないでくれ、いろいろと事情が有るんだ」ガクガク

フィアンマ「…?」

オッレルス(あの時の◯◯◯◯は格別だった…苦痛が)

フィアンマ「まあ良い、とりあえず俺様は休ませてもらうとしよう」

オッレルス「そうしてくれ。あと、俺は出かけるから用があればシルビアに言ってもらいたい」

フィアンマ「…出かける?」

オッレルス「ああ――――『幻想殺し』を保護してくる」

引用元: オッレルス「わが家へようこそ!」 



新約 とある魔術の禁書目録(20) (電撃文庫)
鎌池 和馬
KADOKAWA (2018-06-09)
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3: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 00:15:27.23 ID:f6oMokg0
上条「ここ…どこだ…」

上条「何も…見えない、な…はは、俺、死んだのか?」

オッレルス「それは君次第だ」

上条「―――ッ!?」

オッレルス「君が望みさえすれば君の力はそれに答える。だが望まないのなら、死ぬだけだ」

上条「何を…言ってる?」

オッレルス「君は自分の中にある力に気付いているハズだ。そして俺は君よりも『それ』を知っている」

上条「…あんた、何者だ?」

オッレルス「オッレルス」



オッレルス「……魔神になりそこねた、惨めな魔術師だよ」


4: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 00:16:48.26 ID:f6oMokg0
上条「うっ……」

オッレルス「目が覚めたか?」

上条「ここ、は…?」

オッレルス「まあ、一応俺の家だ。体の具合はどうだ?」

上条「えーっと、特に問題無さそうです」

オッレルス「そうか、ではそこの服に着替えておくといい。その状態ではさすがに困るだろう」

上条「…へ?ああ、そういやあの時から上着の右腕部分が千切れてたな。ありがとうございまーす」

オッレルス「では、俺は席を外そう。着替えが終わったら呼んでくれ」

上条「あー、ハイ。どうもご丁寧に」

バタン

上条「さて、よくわかんねーけど着替えるか」

ガチャ

フィアンマ「ふう、良い湯だった」

上条「…え?」

5: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 00:17:40.77 ID:f6oMokg0
フィアンマ「どうした上条当麻、何を驚いている」

上条「いやいやいやお前なんでここに居るのとか右腕どうしたんだとかいろいろ突っ込みてえけど!」

上条「えーっと、その、ソレ!」

フィアンマ「ああ、この『第三の腕か』?」

上条「そう、ソレだ!それで髪を拭いてんじゃねえよ!」

フィアンマ「便利だからいいだろう。これは他にも様々な用途に使えるんだぞ?」

上条「…たとえば?」

フィアンマ「炊事、洗濯、掃除はもちろん、針の穴に糸を通したり、さらに武器としても―――」

上条「いや、もういい。それがウチの居候より優秀だってことはよくわかったよ…」

フィアンマ「ん?そうか。では俺様は寝るとしよう、今日は疲れたからな」

バタン

上条「…あいつ、ちょっと丸くなったか?」

上条「まあいい、とりあえず着替えるか…」ヌギヌギ

6: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 00:18:30.16 ID:f6oMokg0
フィアンマ「どうした上条当麻、何を驚いている」

上条「いやいやいやお前なんでここに居るのとか右腕どうしたんだとかいろいろ突っ込みてえけど!」

上条「えーっと、その、ソレ!」

フィアンマ「ああ、この『第三の腕か』?」

上条「そう、ソレだ!それで髪を拭いてんじゃねえよ!」

フィアンマ「便利だからいいだろう。これは他にも様々な用途に使えるんだぞ?」

上条「…たとえば?」

フィアンマ「炊事、洗濯、掃除はもちろん、針の穴に糸を通したり、さらに武器としても―――」

上条「いや、もういい。それがウチの居候より優秀だってことはよくわかったよ…」

フィアンマ「ん?そうか。では俺様は寝るとしよう、今日は疲れたからな」

バタン

上条「…あいつ、ちょっと丸くなったか?」

上条「まあいい、とりあえず着替えるか…」ヌギヌギ

7: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 00:19:45.92 ID:f6oMokg0
美琴「アイツ、どこ行ったのかしらね」

美琴「結局見つからなかったし、あの子も帰っちゃったし…」

美琴「………」ゴソゴソ

美琴「アイツの…ストラップ…」

美琴「生きてる、わよね…大丈夫よ…きっと…」

美琴「…それにしても、寝床はどうしよっか」

美琴「ホテルでも有れば…ん?宿屋?」

美琴「へぇ、こういうのRPGとかじゃなく現実にも有るのね…今日はここで休むか」



ガチャッ

美琴「すみませーん」

上条「えっ?」←上半身裸

美琴「」

上条「………」

美琴「………」

バタン

8: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 00:21:12.84 ID:f6oMokg0
美琴(何今の何今のうんそうよあれは幻覚よアイツに会いたいという気持ちが見せた幻なのよいやアイツと会いたいなんて思ってなんか
いやダメよ私素直にならないとってそうじゃなくて今重要なのはさっきのあれは何なのかであってああもう!)

美琴「ええい、ままよ!」

バターン

上条「おわぁっ!?」←まだ上半身裸

美琴「」

上条「ちょ、あのー御坂サン?」

美琴「………ッ!」ガシッ

上条(こ、これはどういう状況だ!?女の子に抱きつかれてること自体は良いが、俺、今半裸だぞ!?傍から見たらただの変態にしか―――)

美琴「この、ド馬鹿…」ギュッ

上条「………」

美琴「心配…させてんじゃないわよ…」

上条「…ごめん」ギュッ

ガチャリ

オッレルス「おーい、そろそろ終わったかい?」

上条「」

美琴「」

オッレルス「」

10: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 00:26:10.26 ID:f6oMokg0
オッレルス「ご、ごゆっくり…」

バタン

上条・美琴「………」

上条・美琴「………ッ!」バッ

美琴「と、とりあえず服着なさいよ!私あっち向いてるから!」カァァ

上条「あ、ああ!そうだな!」アセアセ





オッレルス「さっきはおたのしみでしたね」

上条・美琴「だから違う!」

オッレルス「ふむ、まあ冗談はこのくらいにして、君たちの今後を話し合おうか」

上条「……ああ、わかった」

美琴(そういえばコイツなんでこんなトコに居るのかしらね)

11: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 00:28:03.23 ID:f6oMokg0
とりあえず書きためが終わったんで、今日は区切りのいいところまでゆっくり書いていきます

17: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 00:44:55.51 ID:f6oMokg0
オッレルス「君たちは、『アレイスター・クロウリー』という名前をご存じかな?」

上条「あれい…?」

美琴「えっと…確か学園都市の統括理事長ですよね?」

オッレルス「そう、その彼が『外』に出てきたんだよ」

上条「それって…何かまずいのか?」

オッレルス「ああ…彼は史上最悪の魔術師と言われるほどの人物だからな。まず間違いなく、彼を狙う者たちが現れる」

美琴「まじゅ…?」(そういやこの馬鹿、随分前に魔術師がどうとか言ってたような…)

オッレルス「…それに、そろそろ彼も計画を本気で推し進めるみたいだからな」

上条「計画?」

オッレルス「詳しくはなんとも言えないが…そうだな、『幻想殺し』である君と、
      『妹達』のオリジナルである君も計画には組み込まれている」

美琴「………ッ!どうしてそれを…!」

18: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 00:57:26.78 ID:f6oMokg0
オッレルス「そういうわけで、君たちは学園都市には道具として狙われ、
      魔術師たちにはアレイスターへの人質として狙われているということだ」

上条「…そう、か」

オッレルス「とりあえずは、ここでしばらく身を隠すといい。それに―――」

美琴「?」

オッレルス「疲れているだろう、まずは風呂にでも入って体を休めたまえ。服はこちらで用意しておく
       …ああ、安心しろ。女性のものはちゃんと女性に用意させるから」

上条「…わかった、ほら行くぞ、御坂」

美琴「えっ…あ、うん」

バタン

オッレルス「……ふう」

19: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 01:07:51.57 ID:f6oMokg0
シルビア「…どうしたのよ、ため息なんかついて」

オッレルス「…シルビアか。いや、その…なあ?」

シルビア「何?」

オッレルス「お前にもっと可愛げがあったらあんな感じになるのかなって」

シルビア「………」

オッレルス「あ、あのぅ?」

シルビア「そんなに漆まみれにされたいか、この野郎」

オッレルス「えっ!?ちょ、ちょっと待ってください!今のは言葉のあやというものでしてね!?」

シルビア「言い訳無用!さっさと来やがれぇぇぇっ!!」グイグイ

オッレルス「あれ!?もしかして行き先拷問室!?あそこにあるのは漆なんて生易しいもんじゃないと思うんですけどぉぉぉぉ!?」

20: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 01:16:31.94 ID:f6oMokg0

カポーン

美琴「ふう…いいお湯ねー」

上条『そうだなー、ふぅ…生き返るー』

美琴「な、なんでアンタの声がすんのよ!」ザバァ

上条『なんでってそりゃ…天井が繋がってるからじゃねーの?」

美琴「なっ…あっ…の、覗かないでよ!?」

上条『上条さんはそんなことしませんよーっと』

美琴「なんで覗かないのよ!?」

上条『お前何言ってんだよ!?言ってることおかしいぞ!?』

美琴「う、うるさーい!アンタが悪いのよー!」

上条『どういうことだよ一体!?』

22: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 01:31:48.95 ID:f6oMokg0
上条「……んー、やっぱ少しデカイなこの服。まあ動き回るわけじゃねーからいいけど」

ガラッ

美琴「ふう…あ、アンタも出てたんだ」

上条「おう…ん?」

美琴「どうかしたの?」

上条「牛乳を売っている…だと…!?」

美琴「あ、ほんとだ…って」(ムサシノ牛乳!?どうして伝説の◯◯御手がここに…!)

上条「なあ、これって飲んでもいいのか?」

美琴「えっ?…そ、そうね、売り物みたいだけど、後であの人に断っておけばいいでしょ」

上条「そーだな…ん、お前にも一本」ガチャガチャ

美琴「あ、ありがと…」(こ、これを飲めば私も胸が…!)

上条「んじゃ、ホラ」

美琴「え?…ああ」

上条・美琴「乾杯!」

ゴク、ゴク、ゴク…

上条・美琴「ぷっはー!」



24: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 01:54:46.29 ID:f6oMokg0
ガチャッ

シルビア「おっと、上がったみたいね」

上条「あ、ハイ…あなたは?」

シルビア「ああ、私はシルビア……あの馬鹿の連れだよ。まあその本人は―――」

ぎゃぁぁアァああああ!!助けてェェェ!!裂ける!裂けるってぇぇぇ!!

上条「………」

美琴「………」

シルビア「失言の罪で投獄中だけどね…ハイ」スッ

上条「ん、部屋の鍵?あのー、俺ら二人なんですけど…」

シルビア「そう、だから二人部屋」

美琴「あの、でも、私たち…」(同じ部屋っていうのは嬉しいけど…まだ心の準備が…)

シルビア「つもる話もあるだろうし、いいじゃない。…さて、私はあいつにトドメをさしてくるわ」

スタスタ…

上条「…仕方ねーか、行くぞ御坂…御坂?」

美琴「え?あ、うん」

上条「何考えてたんだ?」

美琴「いや…ただあの二人に親近感っていうかデジャヴみたいなものを感じて…」

上条「…奇遇だな、俺もだ」

25: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 02:05:29.17 ID:f6oMokg0
ガチャッ

上条「おー、二人部屋だけあって広いんだな」

美琴「そ、そうね…」(さすがにベッドはダブルじゃなくシングル二つか…)

上条「あーやわらけー、上条さんがベッドで寝るのはいつぶりでしょうか…」ボスッ

美琴「え?ベッドで寝てないの?」ポスッ

上条「………」

美琴「……?」

上条「ま、まあとりあえず寝ようぜ!もう遅いしな!」がバッ

美琴「ちょ、ちょっと!?」

上条「すぅ…すぅ…」

美琴「ホントに寝てるし!……まったく」ガバッ

美琴「………」

美琴「おやすみ、当麻」

35: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 14:13:19.45 ID:Eoc/lEAO
言ってるそばから乙った…
携帯から書くわ


チュンチュン

上条「うーん、朝か…ん?」

美琴「すぅ…すぅ…」ガッチリ

上条「………」

上条「状況を整理しよう」

上条「御坂はあっちのベッドで寝たはず…しかし…」

美琴「うーん…」

上条(ヤバい!起きる!)

美琴「ん…あれ?そっか、昨日…」

上条(昨日!?昨日何があった!?)

美琴「えへへへ…」スリスリ

上条(えへへじゃなくて!それにそんなにされると息子が起きちゃう!)

美琴「んー、名残惜しいけど先に行ってよっか」バサッ

スタスタ
バタン

上条「………」

上条「確か部屋に備え付けのトイレがあったよな…」

36: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 14:23:02.94 ID:Eoc/lEAO

ガチャ

上条「…ふぅ」

美琴「あ、おはよー」
上条「お、おう…」

美琴「…どうかしたの?」

上条「な、何でもねーよ」(すまん御坂…かれこれ3か月くらい溜まってたんだ…)

美琴「ふぅん…まあいいわ、もう朝食出来てるらしいから行きましょ」

上条「ああ…」(ナニやってんだ俺…)

37: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/11(月) 14:39:46.50 ID:Eoc/lEAO

シルビア「おっ、来たね」

上条「あ、ハイ…えーと、この料理って…」

シルビア「ん?ああ、私の手作りだよ」

上条「へぇ、すげー美味そうだ…」

美琴「…弟子入りしようかしら」

上条「ん、何か言ったか?」

美琴「い、いや別に…あ、そういえばあのオッレルスって人は?」

シルビア「ああ、…あの馬鹿野郎なら---」




シルビア「また人助け、だとさ」

44: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/13(水) 12:00:49.88 ID:7w7lpJU0

「クソッたれがァ…!」

少年の、声。
彼は『一方通行』。学園都市の頂点に立つ能力者だ。
そして彼が相手にしているのは学園都市の特殊部隊。
普通なら、苦戦などしない相手だ。

そう、普通なら。

(このクソ共、どォしてあのメルヘン野郎の能力を使ってやがる!?)

そう。
仮面を付けた異様な姿の男たちは、あの垣根帝督と同じ白い翼を展開しているのだ。
それに加え、一方通行の能力使用も制限時間が近付いていた。

「………」

一方通行が、腕に抱えた打ち止めと、敵の能力に対応できず、防戦一方な番外個体を見る。

(このままじゃ埒があかねェ…このガキをアイツに任せて、俺は囮に――――ッ!?)

轟!!と白い翼が振るわれ、一方通行の体が吹き飛ばされる。
数秒間飛んだ後、ぐしゃり、という嫌な音と共に、彼の体は勢いよく地面に叩きつけられた。

「が…はっ…!」

「…ふ、その状態で庇うとは随分と必死なものだ」

「ク…ソがァァァッ!!」

最強が、立ち上がる。
だが蓄積されたダメージによって、立っているのがやっとだった。

45: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/13(水) 12:02:15.95 ID:7w7lpJU0

番外個体が、一方通行の前に立った。

「…ミサカが囮になるから、さっさと逃げなよ」

一方通行には、一瞬、その言葉の意味が理解できなかった。

「な…に…?」

「ミサカはさ、あなたを殺すためだけに生まれたんだよね。
けど、あなたはミサカにわざわざ生きる道を与えてくれた。
そう、用が済めば廃棄されるだけのミサカにね」

「そ、れは…」

「うん、上位個体を助けるのを手伝う条件だったってのはわかってる。
…それでもミサカはあの時にやっと、自分が本当は何をすべきなのかわかったんだ」

「待、て…」

「一度しか言わないから、よく聞いててよ?」

「…『ありがと』」

番外個体が、一方通行に振り向く。
彼女は、笑っていた。
いつもの何かを嘲るような笑みではなく、年相応の笑顔。
まるで争いとは無縁の世界で平和に暮らす少女のような、

そんな、笑顔だった

「や、めろ」

番外個体が放電しながら、仮面の男たちに向き直る。
男たちの白い翼が、目の前の少女を肉片にするために、その形を変える。

「やめろォォォォおおおおおおおおおおッ!!」




―――そして、翼は振るわれた。

46: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/13(水) 12:03:24.24 ID:7w7lpJU0

その瞬間、何が起こったのかは、その場に居た誰も理解できなかった。

ただ、仮面の男たちが吹き飛ばされ、その翼が粉々に砕けていることは少ししてから把握できた。

(が、はッ…何、が…ッ!?)

「…ふむ」

男の、声。

「『未元物質』か。まったく、厄介なものを…」

この場所には先ほどまで居なかったはずの、謎の男。

(空間移動系の能力者か!?しかしそうだとしても――――)

それ以上、仮面の男が考えることはできなかった。
突然現れた男は攻撃をするような動作など一切しなかった。

―――しかし、仮面の男たちを屠るには、それで十分だった。

47: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/13(水) 12:04:12.62 ID:7w7lpJU0

「…片付いたようだな」

その言葉の通り、そこにはもう『敵』は居なかった。
もっとも、彼にとって仮面の男たちは『敵』たりえたのかも疑問だが。

「オマエは、誰だ…」

白髪の少年が、男に問いかける。
腕の中の小さな少女と、もう一人の少女に手出しをさせないよう、警戒しながら。

「そうだな…」

男は答える。
『妹達』専用の培養器も、今後のためにもらっていくべきだろうかと考えながら、

「通りすがりの宿屋の主人だ、寝床と三食オヤツ付きを約束しよう」

意味不明なことを言ってのけた男に、打ち止めが少し反応した気がした。

56: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/20(水) 21:57:58.19 ID:3qksT.g0

オッレルス「と、いうわけで」

一方通行「…突っ込まねェぞ」

番外個体「きゃはっ☆突っ込むとか、寝てる上位個体の教育に悪いよ?」

一方通行「そォいう意味じゃ無ェよ…ンで、その培養器は置く場所有ンのか?」

オッレルス「問題無…いや、一番良いフォローを頼む」

一方通行「…?まァいい、先に入るぞ」

ガチャ

上条・美琴「」←美琴に押し倒されている上条

一方通行「」

番外個体「なに固まってんの?邪魔なんだけ、ど…」

上条「あ、あのー」

番外個体「…大胆だね、お姉様」

美琴「いや、あの、こ、これはちが―――」

一方通行「………ごゆっくりィ」

バタン…

58: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/20(水) 22:24:58.60 ID:3qksT.g0

一方通行「さっきはおたのしみでしたねェ」

上条「…またこの展開かよ」

番外個体「へぇ…『また』ってことは初めてじゃないんだね、さすがお姉様、進んでる~♪」

美琴「だ、だから違うっての!」

一方通行「…ところであのオッレルスとかいうヤツ、なンか入るなり女に引っ張られてたがどォしたんだ?」

上条「あー、それな。……耳澄ましてみ」

やめて!鉄の処女はやめて!置き場所考えてなかっただけじゃないですか!え、そういう問題じゃないって!?
そしてその液体何!?ショッキングピンクなんですけど!?ちょ、ちょっと待…イヤァァァアアアアアアアアアア!!

一方通行「あァ…把握した」

番外個体「楽しそう…」

美琴「えっ」

番外個体「え、お姉様はそう思わないの?」

美琴「いや、さすがに…」

番外個体「ふーん、ミサカの元になったんだからそういう趣味もありそうなんだけど…」

美琴(た、確かにこの隣に居る馬鹿とならまんざらでもないけど…どっちかというとされたいっていうか…い、いやそうじゃなくて!)

上条「ん、どうした御坂?」

美琴「ふにゃあ!?な、なんでもないわよ!」

61: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/20(水) 22:44:01.86 ID:3qksT.g0

打ち止め「ん…」

番外個体「お、眠り姫が起きたみたいだよ?」

一方通行「…あァ」

打ち止め「アナタ、だよね…?」

一方通行「あァ」

打ち止め「すぐそばに、居るんだよね…?」

一方通行「…あァ」

打ち止め「…もう、遠くに行ったりしないよね?」

一方通行「………あァ、約束する」






上条(なんか二人の世界に入ってて上条さんは淋しいのですが)

美琴(アンタちょっとは我慢できないの?)

番外個体(説教キャラだから喋らないと落ち着かないんじゃない?)

美琴(なにそれこわい)

62: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/20(水) 23:07:24.46 ID:3qksT.g0

シルビア「とりあえず、落ち着いたみたいだね」

美琴「あ、ハイ。……オッレルスさんは?」

シルビア「ん、何のこと?」ニッコリ

美琴(…ご愁傷さま)

シルビア「とりあえず、今日は遅いし休みな。……ハイ、あんた達の部屋のカギ」スッ

一方通行「……あァ」

上条(三人部屋のカギ一つってとこには突っ込まないのな)

美琴(もう家族みたいなもんなのかしら)

一方通行「ホラ、行くぞオマエら」

打ち止め「抱っこしてほしいってミサカはミサカは…」

一方通行「仕方無ェな…オラ」ヒョイ

打ち止め「えへへ…」

番外個体「………」イライラ

一方通行「…あン?どォかしたか」

番外個体「………」ゲシゲシ

一方通行「痛っ!?オマエ何を…」

番外個体「あなたのせいだよ」ゲシゲシ

一方通行「何がだァ!?」

72: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/22(金) 23:58:57.95 ID:CROiM2s0



トントントン

美琴「んー、冷蔵庫どこにあったっけ……あ」

一方通行「………あン?」

美琴「アンタ…夜にコーヒー?寝れなくなるわよ」ガチャッ

一方通行「ウルセェ…オマエが今手に取ってる牛乳みてェなもンは口に合わねェンだよ」

美琴「……おいしいのに」コクコク

一方通行「………なァ、超電磁砲」

美琴「……言いたいことは予想付いてるけど、先に言っとくわ。謝罪なら、お断りよ」

一方通行「………あ?」

73: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/23(土) 00:00:03.86 ID:C2PSN9w0

一方通行「何言ってやがンだ、俺は一万もの『妹達』を―――」

美琴「そうね。でもそれは、私に謝罪をする理由にはならないわ」

一方通行「……オマエは実験を止めようとしただろうが」

美琴「ええ、元はと言えば自分の撒いた種だし、それ以前に放っておく気はなかったしね。
    確かに『妹達を殺す一方通行』は憎いわよ」

一方通行「なら…」

美琴「―――でも、あの子たちはアンタの傍で笑ってるでしょ?」

一方通行「………」

美琴「とにかく、あの子たちが幸せならそれでいいのよ。
   あの子たち自身がそれを望んでるのに、私にその幸せを壊す権利は無いんだから」

一方通行「……あァ、分かった」

美琴「た・だ・し!」ビッ

一方通行「!」

美琴「泣かせたりしたら承知しないわよ!なんてったって私はあの子たちの『姉』なんだから!」

一方通行「…ハッ、当然だ」

74: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/23(土) 00:00:56.57 ID:C2PSN9w0

美琴「へぇ、随分自信あるじゃない」

一方通行「言ってろ…オマエは自分の心配した方がいいンじゃねェのか?」

美琴「…なんのこと?」

一方通行「あの熱血バカは首輪でも付けてねェとどこに行くかわかンねェだろ?」

美琴「い、いきなり何言ってんのよ!」

一方通行「いきなりってワケでもねェだろ…つゥか分かりやすすぎなンだよ」

美琴「な、な、な…」

一方通行「とりあえず、だ…クソガキまでとは言わねェが、もっと素直になればいいンじゃねェか?」

美琴「そ、そんなこと出来るわけないでしょ!」

一方通行「ククク…まァ頑張るこった」

トントントン

75: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/23(土) 00:01:40.99 ID:C2PSN9w0

ガチャ

打ち止め「すぅ…すぅ…」

一方通行「…小さい方はちゃンと寝てるってのに、オマエは何してンだ?」

番外個体「んー?あなたが帰ってきて話す相手が居ないと寂しいかな、とか思ってね」

一方通行「なンだそりゃ…まァいい、とっとと寝ろ」ゴソゴソ

番外個体「つれないね、襲っちゃうよー?」

一方通行「………」

番外個体「さぁて今夜寝かさないよー……って寝るの早っ」

番外個体「はぁ…まーミサカももう眠いしいっか」ゴソゴソ

一方通行(……身体はデカくてもあっちのクソガキとあンま変わらねェな)










打ち止め(二人とも素直じゃないなあ、ってミサカはミサカは狸寝入りしながら呆れてみたり)

76: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/23(土) 00:02:25.90 ID:C2PSN9w0

ガチャ

美琴「ふぁ…さすがにもう眠いわね…」

美琴「コイツは…うん、ぐっすり寝てるわね」

上条「すー、すー」

美琴「寝顔はかわいいのよねー。まったく、罪なヤツだわ」

美琴「さて、と…」ゴソゴソ

美琴「……おやすみ」









上条(なんでまた俺のベッドに入って来てるんでしょうか、御坂さん)

93: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/23(土) 23:37:29.50 ID:XAJ969I0

フィアンマ「……なあ、ヴェント」

ヴェント「…何よ?こっちは虫の居所が悪いから、手短に済ませなさい」

フィアンマ「ふ、苛立っているお前の顔もまた可愛らしいな」

ヴェント「…ふざけてんの?用が無いなら話しかけないでほしいんだけど」

フィアンマ「用なら有るさ…戦場に咲く一輪の花のように可憐なお前にな…」ヌッ

ヴェント「顔近っ!?だから用って何―――ひゃんっ!?」

フィアンマ「ほう、耳が弱いのか…それに声も可愛らしい…」

ヴェント「ちょ…やめっ…どこ触って…!」

フィアンマ「ふふふ…まったく、お前は◯◯◯◯◯な」

ヴェント「あっ…!」

フィアンマ「さて、そろそろ◯◯に移るとしよう。俺様も限界なのでな」

ヴェント「や、やだ…待っ―――」

フィアンマ「―――さあ、いい声で啼いてくれよ?」

97: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/23(土) 23:55:25.68 ID:XAJ969I0

ガチャ

フィアンマ「…ふぅ」

上条「ふぁ、ふぉふぁふぉーふぃふぁふふぁ」(あ、おはよーフィアンマ)

フィアンマ「……口の中の物を片付けてから話せ」

上条「んぐっ…で、なんかさっぱりした顔してるけどどうしたんだ?」

フィアンマ「………なに、気にすることはない」

上条「ふーん…」

フィアンマ「それよりも、お前の女がシルビアと一緒に台所に立っているのはどういうことだ?」

上条「いや、御坂は別に彼女じゃねーんだけど……なんか、花嫁修業とか言ってたぞ」

フィアンマ「ふむ…なるほど」

上条「お前も食うか?御坂の料理、けっこう美味いぞ」

フィアンマ「…いや、それはお前が食べるのがいいだろう」

上条「なんだそりゃ?まあいっか、あぁ…タダでこんなメシが食えるなんて幸福だー」

フィアンマ(……これは苦労するな)

98: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/24(日) 00:11:18.22 ID:Cp2vMx.0

シルビア「悪いねー、手伝ってもらって」

美琴「いいですよ別に…タダで住まわせてもらってるんだから、このくらい当然です」

シルビア「いい子だねぇ…料理もできるし、きっといいお嫁さんになるよ」

美琴「お、お嫁さ……っ!?」ボン

シルビア「おーおー赤くなっちゃって…心の準備はまだまだみたいだね」

美琴「お嫁さん…アイツのお嫁さん…」

ポワンポワンポワン

上条『ああ…やっぱり美琴の作る料理は最高だな』

美琴『そ、そんなこと…』

上条『いーや、美琴の料理は世界一だ!なんてったって愛がこもってるからな!』

美琴『ちょ、ちょっと!そんな恥ずかしいこと…』

上条『いーじゃねえか!俺らもう夫婦なんだしさ!』

美琴『う、うん…そうよね、当麻』


美琴「えへ、えへへ…」

シルビア「おーい、帰ってこーい……こりゃ重症だわ」

99: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/24(日) 00:26:34.20 ID:Cp2vMx.0

一方通行「やっぱ朝はブラックに限るよなァ…」

番外個体「あなたは気に食わないけど、その意見には同意ておくね」

打ち止め「そう言いながらまんざらでもなさそう、ってミサカもミサカもブラックを…苦っ!」

一方通行「ガキにはまだ早ェっての…オマエはジュースでも飲んでろ」

打ち止め「うーん…でもでも、それはそれで疎外感が…とミサカはミサカはちょっとだけ嫉妬してみる」

一方通行「はァ?なンだそりゃ」

番外個体「幼女に振り回される第一位…傍から見たら面白いモンだね」

一方通行「……ガキの言うこと聞いてやるのは当然だろォが」

番外個体「それにしても少し過保護じゃない?もしかしてロリコ―――」

一方通行「言わせねェぞ!?」

番外個体「必死に否定する所が怪しいよねぇ?」ニヤニヤ

打ち止め(やっぱり仲いいなぁ…ってミサカはミサカはこの二人の娘ポジションの確保を検討してみたり)

100: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/24(日) 00:32:54.16 ID:Cp2vMx.0

ガチャ

オッレルス「………」

シルビア「ん、随分遅かったね。朝食、もう出来てるわよ?」

オッレルス「ああ…ところで皆」

「「「「「「「?」」」」」」」

オッレルス「今日は、服を買いに出かけようか」

101: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/24(日) 00:50:14.23 ID:Cp2vMx.0

上条「…で、やってきましたよ。っつーかデカイなこのデパート」

フィアンマ「というか、俺様たちはこんなホイホイ出歩いてもいいのか?」

オッレルス「まあその辺りは問題ないと、言っておこうか」

一方通行「ンで、女どもはどこ行った?」

フィアンマ「あちらはあちらで服を見る、らしいぞ?」

上条「へぇ…てーかどれも値段高くないか?」

一方通行「そォか?」←第一位で金持ち

フィアンマ「それほどでもないだろう」←右席所属で多分金持ち

オッレルス「まあ、金額は気にしなくていいよ」←没落『貴族』なので以下略

上条「……不公平だ」←レベル0、さらに諸々の不幸で貧乏

102: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/24(日) 00:59:07.35 ID:Cp2vMx.0

美琴「……放ってきてよかったの?」

番外個体「いーでしょ別に。それともレディーの着替えを覗かせたりするワケ?」

美琴「ア、アイツになら別に…」

打ち止め「わぁ、お姉さまってばダイタン♪」

シルビア「ハイハイ、男どもを悩殺できそうな服でもなんでも選びなさいねー」

打ち止め「はーい!」

美琴「悩殺…アイツを…」

番外個体「悩殺かぁ…面白そうだね」




103: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/24(日) 01:07:45.15 ID:Cp2vMx.0

試着・男編

シャッ

上条「…どうだ!」

オッレルス「うーむ…可も無く不可もなく、というか…」

フィアンマ「イマイチパンチが足りんな」

一方通行「悪くはねェンだがなァ…」

上条「…そんな微妙な反応が、一番つらいんですが」

一方通行「…気にすンな」ポン

上条「いや、だからそれが…もういいや」


104: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/24(日) 01:17:45.61 ID:Cp2vMx.0

シャッ

一方通行「………」

上条「あー、えっと…」

オッレルス「…しましま、だな」

フィアンマ「ああ…しましまだ」

一方通行「……縞模様で悪ィか」

オッレルス「まあいいんだが…なあ?」

フィアンマ「ああ…少し気になるな」

上条「……なあ、一方通行」

一方通行「あン?」

上条「……もしかして、妹達のパンツもお前の趣味?」

一方通行「……俺が選ンだワケじゃねェが、好みではあるな」

上条「やっぱりか…」


105: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/24(日) 01:24:49.35 ID:Cp2vMx.0

シャッ

フィアンマ「ふ……」

オッレルス「……赤い」

上条「…赤すぎだろ」

一方通行「全部赤…だとォ…?」

フィアンマ「ただの赤ではない…ここはワインレッド、こっちは―――」

上条「いや、もういいから」

オッレルス「君の赤色への愛の深さはよくわかったよ…」

106: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/24(日) 01:34:05.70 ID:Cp2vMx.0

シャッ

オッレルス「……どうかな?」

上条「……えーと、上はいいよな」

一方通行「なンで下は水玉なンだァ?」

フィアンマ「上がまともなだけに、残念だな」



オッレルス「…結局、全員センスがないということか」

フィアンマ「俺様も含まれているのは心外だがな」

一方通行「…他人に選ンでもらうしか無いンじゃねェの?」

上条「じゃ、店員さんにおすすめ聞くか。店員さーん!」

117: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/25(月) 22:16:45.81 ID:4g0H1e20

番外個体「……でもさ、ミサカってファッションとかよく分からないんだよね」

打ち止め「あーそっか…そういうチューニング受けてるんだったね、ってミサカはミサカは複雑な気分」

美琴「んー、じゃあこれなんかどう?」

番外個体「……うーん、さすがに無理かな。上位個体やお姉さまなら似合うかもしれないけど」

美琴「わ、私!?私はこんな可愛い感じの似合わないわよ!」

番外個体「………女の子っぽい服でアピールした方が効果的なんじゃない?」ボソッ

美琴「!」

ポワンポワンポワン

美琴『ど、どう…かな』

上条『………』

美琴『ちょっと!何か感想とか…』

上条『あ、ああ!悪い、あまりに可愛いから失神してたぜ』

美琴『え!?……ほんとに、かわいい?』

上条『ああ、他のヤツに見せるのがもったいないくらいだよ』

美琴『べ、べつに…アンタだけのものにしてもいいのよ?』

上条『……そんなこと言うと、本気にしちまうぞ?』

美琴『……私は、本気よ?』

上条『御坂……』

美琴『アン…と、当麻……』

121: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/25(月) 22:27:59.02 ID:4g0H1e20

美琴「えへ、えへへ…」

番外個体「これはひどい」

打ち止め「うーん、でもそういうのもいいかもってミサカはミサカはお姉さまを支持してみたり」

シルビア「とりあえずその子は放置して……こういうのはどうよ?」

打ち止め「お、こっちはなんだかカッコイイ感じだねってミサカもミサカも好印象!」

番外個体「んー、こういう感じの方が好きかも。あとは大胆さが欲しいかなー」

シルビア「へぇ、あの白い子を悩殺するために?」

番外個体「うん♪あの人がアダルトなミサカを直視できずに照れてるところが見たいからね!」

打ち止め(「そンな格好だと風邪引くぞォ」って言われるのがオチだろうけどなあ、
      ってミサカはミサカはヨミカワとヨシカワの裸に動じなかったあの人を思い出してみたり……)

122: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/25(月) 22:43:41.82 ID:4g0H1e20

美琴「じゃ、打ち止めの服も見ないとね」

番外個体「あ、お姉様が戻ってきた」

美琴「戻ってきたって……生死の境を彷徨ったわけじゃないんだから」

打ち止め「……アレは一種の『自分だけの現実』なんじゃないかなってミサカはミサカは見解を述べてみたり」

美琴「そ、そんなことないわよ!自分だけじゃなく、双方にとっての現実にしてみせるわ!」

番外個体「いや、そういう意味じゃないから」

美琴「え?え?どういうこと?」

シルビア「……さぁて打ち止め、どんな服がいい?」(若いっていい……いや、私はまだ現役でしょ、うん)

打ち止め「うーん、どれにしよっかなーってミサカはミサカは…」(……さすがお姉様、ミサカ達には出来ないことを平然とやってのける)

番外個体「んー、これとか?」(お姉様ってやっぱりいじられキャラだよね)

美琴「ちょ、ちょっと!あからさまに話を…っていうかそれバニー服でしょ!」

123: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/25(月) 22:56:05.15 ID:4g0H1e20

番外個体「そうだけど?」

美琴「そうだけど、じゃなくって!……っていうかなんでこんな物があるのよ」

打ち止め「うーん、でも『悩殺』には向いてるかもねーってミサカはミサカはちょうどいいサイズ発見!」

番外個体「色も豊富だね……あの人の好みを考えて、ミサカが黒、上位個体が白かな?」

シルビア「んー、あいつの好み何色だっけ…」

美琴「え、みんな買うの!?……アイツの好きな色、かぁ」

番外個体「お、耳もあるじゃん♪定番はウサ耳だけど、猫耳や犬耳もアリかな?」

打ち止め「服の色と合わせなきゃね!ってミサカはミサカは白いのを探してみる!」

美琴「……コレにしよっと」

125: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/25(月) 23:14:23.55 ID:4g0H1e20

フィアンマ「ん、そちらも終わったか」

シルビア「ああ…で、あの馬鹿が持ってるデカイの、何?」

一方通行「なンでも、賞品が『買ってくれ』と語りかけてきたそォだ」

シルビア「あいつ……帰ったら三角木馬だね」

番外個体「んで、どーすんの?他には買うものあったりする?」

美琴「んー、食材は買っておいた方がいいんじゃない?この人数だと減りも早いし」

上条「そーだな、ロシアと言えば……えーと、ウォッカ?」

一方通行「そりゃ酒だろォが…ポルシチとか、ビーフストロガノフとか有ンだろ」

打ち止め「アナタ、結構いろいろと通だよねってミサカはミサカは関心してみたり」

一方通行「……そンな事、普通は知ってるだろォが」

番外個体「そう言いながら照れるあなた、マジキュート☆」

一方通行「なンかウゼェ」

126: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/25(月) 23:33:20.25 ID:4g0H1e20

シルビア「その方向で行くと、足りないのはテーブルビート、玉ねぎ、キャベツ、牛肉、マッシュルームとスメタナかな」

上条「……聞いたことのない食材が微妙に、ってーか牛肉はあのすき焼きでちょっとかじったのが最後か」

美琴「……とてつもない哀愁が漂ってるけど」

上条「気にすんな……あー、どっかに毎日タダでメシ食わせてくれるヤツとかいねーかな」

美琴「……良かったら、私が作るわよ」

上条「へ?いやいや、そんなの迷惑だろ?」

美琴「べ、べつにそんなことないわよ…練習にもなるしね」

上条「んー、そんならお言葉に甘えましょうかねー。ま、帰れたらの話なんだけどな」

美琴「『帰れるか』じゃなく『帰る』でしょ?随分弱気じゃない」

上条「……そうだよな。ありがとな、御坂」

番外個体(お、結構いい感じ?)

一方通行(イヤ、これでも気付かねェのがアイツだろ)

オッレルス「……アレ、俺のことはみなさんスル―?」


132: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/26(火) 22:17:42.61 ID:bshOeLc0

上条「ふあぁ…なんか食ったら眠くなってきた…」

美琴「……まだお風呂も入ってないんだし、ベッドで寝るのは早いわよ?」

上条「あー、わかってる。リビング…じゃねえやロビーのソファでちょっと寝るわ」

シルビア「宿屋として機能してないから、リビングでもいいけどね…後片付けはやっとくから、連れてってあげな」

美琴「あ、ハイ。……ホラ、行くわよ」

上条「おー、悪いな御坂……」

打ち止め「リビングといえば、テレビがあったけどってミサカはミサカは思い出してみたり」

シルビア「ああ…それならそこの馬鹿が拾ってきたいわくつきのものでね、何故か日本の番組が映るらしい」ギロッ

オッレルス「うっ!……スミマセン」

打ち止め「そっか、じゃあカナミンみたいなのも映るかなーとミサカはミサカは期待しながらミサカダッシュ!」

フィアンマ「テレビ、か…世界を知るには効率のいい手段かもしれんな。俺様も行こう」

オッレルス「え、えーと…」

シルビア「あんたも後片付け」

オッレルス「…ハイ」

133: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/26(火) 22:35:57.56 ID:bshOeLc0

番外個体「…上位個体についていかなくていいの?」

一方通行「心配はいらねェだろ、保護者も居ることだしなァ……それよりも、だ」

番外個体「?」

一方通行「オマエ、どォいうつもりだ?」

番外個体「…何が?」

一方通行「……とぼけンじゃねェよ、ここへ来る前の『アレ』だ」

番外個体「ああ、アレ?一度しか言わないって言ったじゃん、結構恥ずかしかったんだけど?」

一方通行「……どォしてあンな結論になった?」

番外個体「無視?……まーいっか、教えてあげるよ」

135: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/26(火) 22:58:19.14 ID:bshOeLc0

番外個体「前にも言った通り、ミサカはあなたを殺すために作られた。そう、それだけのためにね」

一方通行「………」

番外個体「あなたへの殺意、憎悪…それだけが心を満たしてる。……そう、思ってたんだけどね」

一方通行「…?」

番外個体「今思えば、不安とか、寂しさとか…そういう感情があったんだと思う」

一方通行「!」

番外個体「だからあの時、あなたの手を取ったんだろうね。殺したい、っていう感情よりも、誰かと一緒に居たいって思ったから」

一方通行「……そォ、か」

番外個体「……だからあなたと、あなたにとって大事な存在の上位個体も守る。それが、今のミサカの生きる理由」

一方通行「……だから、自分の命を捨ててでも守るってのか」

番外個体「……うん、だって、ミサカの生きる理由だもん。そのためならもう、命なんて惜しくないよ」

一方通行「………」







一方通行「――――オマエ、ふざけてンのか」

136: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/26(火) 23:19:32.78 ID:bshOeLc0

番外個体「……え?」

一方通行「……聞こえてねェのか。ふざけてンのか、つったンだ」

番外個体「ちょ、ちょっと待ってよ、どういう―――」

一方通行「生まれた理由だとか生きる理由だとか、そンなモンはどォでもいいンだよ」

一方通行「確かになァ、生きていく中で目標みてェなモンはあるかもしれねェ」

一方通行「だがな、それと生きること自体は関係ねェだろォが……
     ……オマエはただ、生まれた理由に縛られて、死んだ時の言い訳を用意してるだけだ」

番外個体「そ、んなこと…」

一方通行「……オマエが命を捨てて俺やアイツを助けたところで、俺たちが感謝するとでも思ってンのか」

番外個体「!」

一方通行「くだらねェな。生きる覚悟もねェガキが、死ぬ覚悟なンざ決めてンじゃねェよ」

番外個体「…じゃあ、どうすればいいのさ」



137: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/10/26(火) 23:33:42.86 ID:bshOeLc0

一方通行「簡単なことだろォが、どんなにみっともねェことになろうが『生きる』のを諦めなきゃイイ」

番外個体「……いいの?それだといつか、あなたを殺しちゃうかもしれないよ?」

一方通行「ハッ、オマエに殺されるほどヤワじゃねェンだよ」

番外個体「……またあなたに、迷惑かけるかもしれないよ?」

一方通行「それがどォした、面倒事はあっちのガキで慣れてンだよ」

番外個体「でも……」

一方通行「いつまでもウジウジしてンじゃねェよ、さっさと決めろ、オマエ自身でな」

番外個体「……そんなの無理、って言ったら?」

一方通行「…決まってンだろォが」









一方通行「『生きる』って言うまで、俺が死なせねェだけだ」

149: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/08(月) 00:05:06.15 ID:Q8BsbCU0
かぽーン

一方通行「……ふゥ」

上条「あー、癒される…」

オッレルス「お仕置きのあとに染みる…」

フィアンマ「………」

上条「…ん?どうかしたのか、フィアンマ」

フィアンマ「ん…ああ、風呂について聞きたいことがあってな」

上条「?」

フィアンマ「ニホンのロテンブロという物は、どれにもフジヤマが付いているのか」

上条「」

一方通行「」

オッレルス「」

150: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/08(月) 00:12:17.54 ID:Q8BsbCU0

上条「えーと…それ、誰から聞いたんだ?」

フィアンマ「テッラだ」

上条「……ちなみに、日本のことで他にテッラから何か聞いてないか?」

フィアンマ「ふむ、隠密行動に長けた魔術師であるニンジャとか、
      聖人と互角に渡り合うことのできるサムライとかが闊歩している国だと」

上条「……なあ、フィアンマ」

フィアンマ「ん、どうした?」

上条「お前、本気で世界について知るべきだと思う

151: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/08(月) 00:20:21.44 ID:Q8BsbCU0

女湯

打ち止め「やっほーい!ミサカはミサカは広いお風呂に大興奮!」

美琴「ちょっと!走ったら滑るわよー!」

番外個体「ホンット、ウチの上位個体は落ち着きが無いよね」

シルビア「まあ、いいんじゃない?あのくらい小さい子なら普通だよ」

番外個体「まあ、そうなんだけどね…」

シルビア「……呆れてる割には、満更でもなさそうだけど」

番外個体「……まあ、ね」

152: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/08(月) 00:33:16.96 ID:Q8BsbCU0

チャプン…

美琴「はー、気持ちいい…」

打ち止め「うーん、なんだか美人になりそうってミサカはミサカは感じてみたり」

番外個体「んー、これって温泉みたいだけど、なんか効能とかあるの?」

シルビア「そうだね…確か疲労回復、美肌効果、あとは運が良くなるとかあったっけ」

番外個体「最後が胡散臭いね」

打ち止め「むむぅ…」

美琴「ん、どうしたの?」

打ち止め「メロンと、リンゴ…ってミサカはミサカは自分のまな板を見下ろしてみる」

153: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/08(月) 00:42:47.24 ID:Q8BsbCU0

美琴「……確かに、シルビアさんはともかくとして、番外個体も脱ぐと結構あるのよね」

番外個体「……なに、胸の話?うらやましいの、お姉様?」

美琴「うぐっ…」

打ち止め「でもでも、DNAがいっしょなら将来あのくらいは確実ってことかもしれないとミサカはミサカは推測してみたり」

美琴「そう…そうよね」

番外個体「……えーと、お姉様?」

美琴「……自分の将来、自分の手で確かめさせてもらうわよ」

番外個体「ちょ…ひゃっ!?」

打ち止め「隙あり!とミサカはミサカは番外個体をホールド!」

美琴「でかした妹!さて、と…」

番外個体「ちょ…ちょっと待って…」

美琴「ごめんね…でも、やっぱり将来は心配だから」

154: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/08(月) 00:49:27.92 ID:Q8BsbCU0

一方通行「……アイツら、天井が繋がってンの忘れてンのかァ?」

上条「とりあえず、お前はソレをどうにかしろよ」

一方通行「」カチッ

上条「………便利な能力だよな」

番外個体『……お姉様、やられっぱなしにはならないよ!』

美琴『え、あ…んんっ…』

上条「………」

一方通行「……オイ」

上条「……さすがにこの現実はぶち殺せねぇ」

155: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/08(月) 00:55:00.18 ID:Q8BsbCU0

ガラッ

美琴「あ、そっちも上がってたのねー」

上条「……おー」

一方通行「……」

番外個体「…なに?ミサカの顔になんかついてる?」

ふにゅっ

番外個体「―――へ?」

一方通行「……確かにまァまァの大きさはあるな、それに柔らけェ」

157: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/08(月) 01:07:33.44 ID:Q8BsbCU0

番外個体が、一方通行の手を払う。
怒らせたか、と一方通行が考えるよりも早く、
番外個体のみぞおちへの一撃が
御坂美琴の上段蹴りが
打ち止めの脛への踵による打撃が
一方通行に叩きこまれた。

「ごっ、がァァあああああああああああああああッ!?」

能力を発動する暇もなかった。
ただ、その一瞬で学園都市第一位はノーバウンドで壁に叩きつけられた。
そんな中、レベル0の少年の心には、まるで本当の姉妹のように息が合っているという感想が生まれた。

171: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/12(金) 23:05:03.99 ID:lXhOAvQ0

一方通行「ふゥ、ひでェ目に遭った…」

フィアンマ「しかし、あんな勢いでぶつかって体も壁も無傷とはな…」

オッレルス「この宿はいわくつきらしいからなぁ、タダでもらったくらいだし」

上条「………」

フィアンマ「……ん、どうした?」

上条「あ、いや、なんでもねーよ」

一方通行「しっかしなンで、番外個体はイイとして、俺ァ他の二人にもぶっ飛ばされたンですかァ?」

オッレルス「それはまぁ…」

上条「DNAレベルで一緒だから、その…」

一方通行「ああ、成程なァ…」

フィアンマ「とりあえずは謝罪だな、俺様にニホン人の必殺技であるドゲザを見せてくれ」

一方通行「オマエいろいろと間違ってンぞォ…まァ、機嫌は取らなきゃなンねェだろォなァ」




上条(こういう目に会うのっていつもは俺のはずなんだけど…そういやここに来てから不幸体質空気じゃねーか?)

172: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/12(金) 23:21:48.07 ID:lXhOAvQ0

打ち止め「まったく、あの人は本っ当に女性の扱いがなってないよね!ってミサカはミサカはお姉様に同意を求めてみる!」

美琴「ホント、そういう男って嫌よね。そのくせ他の女の子に手を出してるし、いつもいつもスル―するし、
    いなくなったと思えば大怪我してるし、まったくこっちがどれだけ心配してると思ってんのよあの馬鹿!」

打ち止め「結局惚れ気かよ、ってミサカはミサカは呆れてみる」

番外個体「……ちょっとは見なおしたと思ったんだけどな」ボソッ

シルビア「ん、どうかした?」

番外個体「ん、なんでもないよ…強いて言えば」

シルビア「言えば?」

番外個体「第一位の手つきがいやらしくて、ミサカ色んな所が勃っちゃいそうだった☆」

美琴「………」

打ち止め「………」

番外個体「……あれ?」

美琴「よーし打ち止め、ちょっと行こうかー」

打ち止め「うん!ふふふ、なんだかあの人をネットワークから切断しちゃいそうってミサカはミサカは暗黒微笑!」

バタン

シルビア「……あちゃー」

番外個体「……あー、本気でゴメン、第一位」

173: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/12(金) 23:32:19.79 ID:lXhOAvQ0

ガチャ

美琴「……」

打ち止め「……」

一方通行「あァ、オマエらさっきは―――」

ぶちん、と、何かが千切れるような音がした。
同時に、一方通行が地面へと倒れこむ。
上条が、オッレルスが、フィアンマが、それに反応する前に、
御坂美琴が軽々と白髪の少年を持ちあげる。
その体勢はまるで、


―――陸上競技の槍投げのようだった。


打ち止めが手近な窓を開く。
そして、

「これが私のっ…全力だぁぁぁあああああああっ!!」

轟!!という音とともに白い物体が飛んでいく。
後で話を聞くには、音速を超えていたとかいなかったとか。
ともかく、女性心理は男としてある程度把握すべきだったのだろう。

174: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/12(金) 23:44:15.00 ID:lXhOAvQ0

上条「あー、なんかすげぇ飛んだなー」

フィアンマ「……とりあえず、回収しなくていいのか?」

オッレルス「ああ、結界のようなものを張りめぐらせているから、結構近くに落ちてるハズだ」

美琴「ふぅ、いい汗かいたわね」

打ち止め「ホントホント、悪い男を懲らしめた後はすっきりするねってミサカはミサカはお姉様とハイタッチ!」

上条(これからは怒らせないようにしよう…紳士的にでも接すればいいのか?)

オッレルス(いつもシルビアにいじめられてるけど、俺って悪い男なんだろうか)

フィアンマ(女の恨みは恐ろしい…メモメモ。ヴェントやサーシャ・クロイツェフのご機嫌取りは早めにすべきだな)








一方通行「……不幸だァァァァああああああああああああっ!!」

176: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/13(土) 00:00:02.92 ID:kVLBHtw0

その頃、窓のないビルにて

アレイスター「………」

エイワス「…ふふ、焦っているな」

アレイスター「…エイワス」

エイワス「幻想殺しと一方通行をはじめ、計画の要が見つからないのだろう?これはなかなか苦しい展開ではないかな?」

アレイスター「エイワス」

エイワス「…やれやれ、厄介事の予感がするな」

アレイスター「あなたを、ここに繋がせてもらう」

エイワス「私をこの場所に縛りつけて、まずは邪魔者の排除でも行うのかね?」

アレイスター「こうなった以上、プランの継続は困難だ。今のうちにこちらの準備を整えておく」

エイワス「そして彼らを待つ、か?短気な君が耐えきれるかどうか…」

アレイスター「それが最善の策だ」

エイワス「……いいだろう、まあ私がここに縛られていても、世界を見ることはできるからね」



エイワス「―――さて、彼らはどのような道を選ぶのか、非常に興味深いね」

182: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/13(土) 23:30:25.75 ID:PoUyEvI0

上条「ふぁぁ…んー、眠くなってきたなー」

美琴「………」

上条「んじゃ御坂、そろそろ寝るか……御坂?」

美琴「ねえ」

上条「……なんだよ?」

美琴「今まではいろいろあったから言いそびれてたけど……そろそろきっちり話をつけなきゃいけないと思うの」

上条「…何をだよ?」

美琴「アンタの行動について、よ」

183: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/13(土) 23:47:41.46 ID:PoUyEvI0

上条「行動って…俺何か悪いことしましたかー?」

美琴「そういうことじゃないわよ…いっつも女の子と一緒に居たり、胸にダイブするのはこの際放っておくとして」

上条「いや、それは不可抗力…」

美琴「アンタ、いっつも事件に首突っ込んではボロボロになってるわよね」

上条「あー、まあな…」

美琴「…どうしてよ」

上条「―――え?」

美琴「どうしてアンタばっかり傷ついてんのよ!どうしていつも誰かを庇って苦しんでんのよ!別にアンタじゃなくてもいいじゃない!
   他にもアンタみたいに誰かを助ける人は居るでしょ!?それなのに、どうしてアンタはいつも立ち向かうのよ!」

美琴「休んでたって誰も文句は言わないでしょ!?誰かに任せてもいいじゃない!」


美琴「―――そばに居てくれても、いいじゃない…っ!」


184: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/14(日) 00:04:44.58 ID:JDW4XzY0

上条「……」

美琴「……」

上条「―――御坂」

美琴「……何よ」

上条「俺はさ、レベル0だし、馬鹿だし、不幸だし…記憶喪失なんだよ」

上条「…それでもさ、俺はきっと、今まで戦ったことを後悔してない」

美琴「ッ!」

上条「人を救いたいとか…そんな大層なこと考えてるわけじゃねーけどさ、俺はただ、みんなに笑ってほしいんだよ。
   ……そんなだから目の前に泣いている人が居るのに、放っておけるわけがねーんだ」

美琴「でも…!」

上条「―――お前だって、そうだろ?」

美琴「それ、は…」

上条「俺はきっと、自分が傷つくことなんかより、誰かが傷つくのを見る方がよっぽど苦しいんだよ………でも、さ」

185: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/14(日) 00:16:48.58 ID:JDW4XzY0

上条「……もし、もしお前が、俺が傷つくことで悲しむって言うんなら、俺はその度にお前の涙を拭ってやる」

美琴「!」

上条「絶対にお前の所に帰ってきて…そんでみんな一緒に笑うんだよ」

美琴「ウソ、よ…」

上条「いーや、ウソじゃねえよ……なんつっても約束しちまってるからな」

美琴「え…?」

上条「―――お前と、その周りの世界を守るってな」

美琴「―――ッ!!」バッ

上条「おわっと!…ってもしかして泣いてんのか?」

美琴「泣いてなんか…ない、わよ…!」

上条「いやー、抱きつきながらそんな声で言われても…」

美琴「アンタ、は…黙ってなさ、いよ!」

上条「…ハイハイ」

186: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/14(日) 00:25:48.59 ID:JDW4XzY0

上条「ん、落ち着いたか?」

美琴「うん…もう大丈夫」

上条「あー、にしても、御坂さんがこんなに泣き虫だと上条さんは傍を離れられませんよ」

美琴「ふふっ…ずっと一緒に居ればいいじゃない」

上条「……やっと、笑ったな」

美琴「えっ…?」

上条「よーし覚えた。この笑顔を守るために上条さんは頑張りますよっと」

美琴「ちょ、ちょっと!なに恥ずかしいセリフ言ってんのよ!」

上条「はっはっはー俺も実は結構恥ずかしいぜ御坂!」

美琴「じゃあなんで言ったのよ!」

上条「うっせー気の迷いだこのやろー!俺もう寝る!」

美琴「あ、ちょっと!私も寝るわよ!」


187: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/14(日) 00:32:09.10 ID:JDW4XzY0

上条「で、まーた同じベッドで寝るのかよ」

美琴「な、何よ!悪いの!?」

上条「いや…まあいいけどさ。んじゃ電気消してくれ」

美琴「ん……それじゃ、おやすみ」

上条「ああ、おやすみー」




上条(……しっかし御坂があんなに心配してたとはなぁ、全然気付かなかった)

上条(…あ、なんかコイツのこと考えてると恥ずかしくなってきた)

上条(うー、なんだこりゃ!よし寝る!さっさと寝る!)

188: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2010/11/14(日) 00:39:23.75 ID:JDW4XzY0

少年はまだ知らない。
自分の中に芽生えはじめた感情の名を。
少年は気付かない。
隣の少女も、その感情を持ち、思い悩んでいることに。
しかし、時はめぐっていく。
彼らはいつか、その感情の名を知ることになる。



―――そう、『恋』というものを、きっと、そう遠くない未来に。




203: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/11/18(木) 19:00:27.07 ID:A/63JTU0

打ち止め「のどかわいたー!ってミサカはミサカはポンジュースを要求してみたり!」

一方通行「自分で取れよォ…つゥか、なンでポンジュースだよ」

打ち止め「寒い日にはコタツとミカンとポンジュースが定番なんだよ!ってミサカはミサカは断言してみる!」

一方通行「…ロシアにポンジュース有ンのかァ?イヤ、まずコタツにポンジュースは愛媛県民でも無ェよ」

打ち止め「とりあえず、なんでもいいからジュースがほしいかなってミサカはミサカはおねだりしてみる!」

番外個体「あ、じゃあミサカはブラックで」

一方通行「オマエもかよォ!なンですかァ?揃いも揃ってニートかよォ!?」

番外個体「……胸」ボソッ

一方通行「―――あン?」

番外個体「胸、揉んだよね?」

一方通行「すいませンっしたァ!すぐ持ってきますンで!お姉さンへの告げ口とかも簡便してくださいィ!」

ドタドタ

番外個体「ちょろいね」

打ち止め「早くも尻に敷かれる一方通行の明日はどっちだ!?とミサカはミサカは唐突な次回予告!」

204: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/11/18(木) 19:07:25.01 ID:A/63JTU0

一方通行「…まァ、年下のガキにパシリ扱いされるなンてのは誰でも通る道だ」

一方通行「どっちも0歳児だしなァ…」

一方通行「……0歳児にナニが反応する俺ェ…」

一方通行「まァイイ、さっさとジュースとコーヒーを…」

ガチャン

垣根「」ガタガタガタガタガタガタガタ

一方通行「」

垣根「」ガタガタガタガタガタガタガタ

一方通行「………」

バタム

一方通行(………どォなってやがる)

205: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/11/18(木) 19:18:11.75 ID:A/63JTU0

一方通行「あァ、疲れてンだな俺…もしくは多分頭を愉快に素敵に盛大にぶつけちまったから幻覚が見えてンのか」

ガチャン

垣根「」ガタガタガタガタガタガタガタ

一方通行「」

垣根「―――あ、一方…通行…?」ガタガタガタガタガタガタガタ

一方通行「……オイクソメルヘン、聞きてェことは山ほどあるンだが…」



一方通行「まず服着ろよ」

垣根「じゃあ…貸してくれ…」ガタガタガタガタガタガタガタ

一方通行「チ…そこで待ってろォ…」

垣根「ずっと待ってるぜ…オマエのこと…」ガタガタガタガタガタガタガタ

一方通行(どォしてコイツ、こンなに残念なイケメンなンだァ?)

208: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/11/18(木) 19:29:59.36 ID:A/63JTU0

オッレルス「―――さて、家族会議を始めようか」

一方通行「いや家族ではねェだろ」

美琴「家族…コイツと…」ホワホワ

上条「すいませーん!御坂さんがまたトリップしてまーす!」

フィアンマ「その場合、お前の膝の上にでも乗せるのが効果的だろう」

上条「……なんだそりゃ?まあそうしとくか」

番外個体「起きたらまた騒ぎになりそうだけど、放置しておこっと」

シルビア「ハイハイそれはさておき……まずは自己紹介!」

垣根「垣根帝督、レベル5の中での序列は第二位だ。座右の銘は俺の未元物質に常識は通用しねえ」キリッ

美琴「なにそれこわい」

垣根「えっ」

打ち止め「あ、お姉様…その状態で大丈夫なの?とミサカはミサカは距離を取ってみたり」

美琴「……え?何コレ膝の上!?ふにゃああああああああ……」

上条「おやすみー」

209: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/11/18(木) 19:42:05.57 ID:A/63JTU0

一方通行「とりあえず話を進めるけどよォ、オマエ俺がグッチャグッチャにしたよなァ?」

垣根「それなんだがな、なんか目が覚めたら冷蔵庫になってたんだよ」

フィアンマ「だがその姿は人間…ハッ!まさか学園都市では人型冷蔵庫が流行っているのか!?」

垣根「いや、ねえから!……エイワスとかいう野郎がなんかこう…人体を復元してな」

一方通行・フィアンマ・オッレルス「「「!」」」

垣根「……知り合いか?」

一方通行「……あァ、できればツラも見たくねェ相手だ」

垣根「そうかよ…んで、復活してハッスルしようと思ってたら冷蔵庫に詰められて家電置き場行きだ」

オッレルス「えーと、自分で出られなかったのか?」

垣根「全裸だから捕まるだろ」

一方通行「オマエのそのメルヘンウイングで隠せねェの?」

垣根「その発想はなかった」

一方通行「オイ」

210: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/11/18(木) 19:52:40.99 ID:A/63JTU0



垣根「……話もまとまったが、なあそこのアンタ」

フィアンマ「――ん?俺様か」

垣根「……ここの奴らって俺達以外全員相手いる感じじゃねえか?」

フィアンマ「……そうだな、だが一方通行はどっちなんだ?」

垣根「その辺は◯◯◯とかちっさいのはデカイ方との娘とか…◯◯◯…か…?」

フィアンマ「……ほう?面白そうな響きだな。詳しく教えてくれるか」

垣根「ああ…教えてやる…相手が居ないどうし語り合おうぜ…」





番外個体「なんか変な友情芽生えてるんだけど」

一方通行「とりあえずメルヘン殴りたくなった」



212: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/11/18(木) 20:06:53.02 ID:A/63JTU0

フィアンマ「――ほう、ツンデレとは素晴らしいな」

垣根「だろ?しかし超電磁砲……御坂美琴もツンデレだったらしいが、アレを見る限りはデレデレだな」

フィアンマ「…それでは俺様は部屋に戻る。あまり遅くまで起きているとシルビアにアイアンクローを喰らいそうだ」

垣根「はは…じゃーまた明日な」

バタン

垣根「………さて、と」

ピッ

垣根「あー、俺俺。え?詐欺じゃねえっての!声でわかれよ!」

垣根「……そうだ、『グループ』と…『アイテム』はどうだ?」

垣根「―――は、そりゃー面白ぇ」

垣根「まあ首尾よく頼むわ。……ところで、俺今周りにカップルだらけで辛いんだが」

垣根「え?ナンパ癖とかなおしたら彼女になってやる?」

垣根「上等じゃねえか…やってやるよ」

垣根「……後は追って連絡する。そっちも変化があったら知らせろ」

ピッ

垣根「――はは、学園都市に戻る時が楽しみだ」

237: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/03(金) 21:40:10.16 ID:9DUaReY0

ガチャッ

垣根「元暗部のボスが家事の手伝いってのはなぁ…ま、能力で一発だったんだが―――ん?」

フィアンマ「………」

垣根「……何やってんだ、あいつ」

フィアンマ「ふむ…」

垣根「おーい、そんなにじっくり何を見てんだよ?」

フィアンマ「ん…垣根帝督、か。なに、ちょっとした設計図だよ」

垣根「ふーん…コレ、術式がうんたらかんたらって書いてあるが魔術で動くのか?」

フィアンマ「ああ…まあ、そうだな」

垣根「……で、この形状からして用途は―――」

フィアンマ「ああ」




フィアンマ「俺様の右腕の代替品だよ」

238: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/03(金) 21:55:33.02 ID:9DUaReY0

垣根「それはいいんだが、こう…」

フィアンマ「…なんだ?」

垣根「これじゃあいろいろと非効率的だぞ?術式のことはわかんねーが、パッと見てもバランスが悪い」

フィアンマ「む、そうか…しかしどうするか…」

垣根「…俺の力なら貸すぜ?」

フィアンマ「それは……そもそも魔術は―――」

垣根「魔術じゃねえよ、ソレの基本構造の話だ。……俺なら駆動系の最効率化と、その他オプションの追加もできる。それに、だ」

フィアンマ「それに?」

垣根「俺の未元物質に常識は通用しねえ。超能力者は魔術を使えねえってルールなんざ、俺が捻じ曲げてやるよ」

フィアンマ「……はは」

垣根「あ?なんだよ」

フィアンマ「……いや、少し前までなら、力で屈服させることはあっても、純粋に好意で協力されることなどなかったからな」


240: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/03(金) 22:02:56.46 ID:9DUaReY0

垣根「……つーことは、お前も劇的に変わったってことか」

フィアンマ「お前『も』、とは?」

垣根「あの白髪の第一位様だよ……まあ、俺は昔も今も変わらねえがな」

フィアンマ「……ほう、何か信念でもあるのか?」

垣根「そんなもんじゃねえが…まあ、アレイスターの野郎をぶっ潰すって目標は昔からあるな」

フィアンマ「……そうか」

垣根「…脱線しちまったな。そんじゃ、義手の製作に取り掛かるぞ」

フィアンマ「……ああ、そうだな」

241: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/03(金) 22:08:25.98 ID:9DUaReY0

美琴「……ねえ」

番外個体「ん…なぁに、お姉様?」

美琴「アンタ、たしかミサカネットワークの中の負の感情を拾いやすいのよね」

番外個体「そうだよ、第一位を殺すための特別チューニング♪ま、しっぱいだったけどね」

美琴「だったら、アンタは私のことを…」

番外個体「―――憎んでないよ」

美琴「ッ!?」

番外個体「はぁ…お姉様ってホント馬鹿だよね」

242: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/03(金) 22:16:28.05 ID:9DUaReY0

番外個体「まあ、負の感情はあるけど、普通にヒーローさんと話せることへの嫉妬くらい、じゃない?」

美琴「どう、して…」

番外個体「だって、お姉様はミサカ達を殺したわけでもなく、殺せと命じたわけでもない」

番外個体「それどころか、ボロボロになりながら手を差し伸べようとしてくれた」

美琴「でも、そもそも……っ!」

番外個体「DNAまっぷの提供も元々は人助けのためじゃん、それに……」




番外個体「ミサカ達が生まれたのは、お姉様のおかげでしょ?」





243: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/03(金) 22:25:46.56 ID:9DUaReY0

美琴「………っ!」

番外個体「妹達の中には、一人として今生きてることを嫌がってるヤツはいないよ……このミサカも含めて、ね」

美琴「………」

番外個体「……いちいちそんなこと気にするなんてお姉様らしくないよ?」

美琴「――ふふ、そうよね」

番外個体「そうそう、素直にしないと胸も育たないぞー?」

美琴「む、胸は関係ないでしょ!?」

番外個体「ま、実際中学生なら真っ平らでも不思議じゃないんだし、きにすることはないでしょ」

美琴「う、でも…」

番外個体「……あのヒーローさんも、胸なんてきにしないだろうし、ね?」

美琴「な、あ、う…」ポンッ

番外個体「あーあーゆでダコだよ、これは先が長そうだねー」

244: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/03(金) 22:33:42.99 ID:9DUaReY0

その頃、イギリス―――

コンコン

神裂「……ステイル、入りますよ?」

ガチャ

ステイル「神裂、か…」

インデックス「すー、すー」

神裂「―――ふふ、よく寝ていますね…ああ、こんなところに食べカスまでつけて…」

神裂「……それで、どうです?」

ステイル「大分落ち着いてきたよ…しかし、彼の消息が掴めないのが気にかかっているようだね」

神裂「…そうですね、それは仕方ありません」

245: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/03(金) 22:44:42.46 ID:9DUaReY0

神裂「……こうしていると、あの頃を思い出しますね」

ステイル「そうだね…ああ、君とインデックスがカメラと闘いを繰り広げたこともあったね」

神裂「そ、その話はやめてください!」

ステイル「…あれから、随分経つのに僕達は何一つ変わらないね」

神裂「ステイル…」

ステイル「あの時より背も伸びた、力も付けた―――なのに、僕は女の子一人の笑顔も守れやしない」

神裂「……そう、ですね。いくら悔やもうと、あの頃に戻ることなどはできないのですから」

神裂「―――行きましょう、最大主教がお待ちです」

ステイル「ああ―――わかったよ」




インデックス「―――――――」

246: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/03(金) 22:47:44.53 ID:9DUaReY0

ステイル「―――?」

神裂「ステイル、どうかしましたか?」

ステイル「……いや、なんでも、なんでもないよ」

神裂「……そうですか」






インデックス「…て…る……り」


254: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/16(木) 18:54:13.51 ID:Q3PY.ZM0

美琴「うーん…」

番外個体「ん?お姉様、悩み事?ヒーローさんを押し倒す算段でもしてんの?」

美琴「そ、そんなこと……まだやらないわよ!」

番外個体「へえぇ…『まだ』、なんだね?」ニヤニヤ

美琴「いや、むしろ押し倒され…ってそうじゃなくて!」

番外個体「おお、ナイスノリツッコミ!……で、結局何だったの?」

美琴「いや、アイツへの用なんだけど、どういう用事か忘れちゃって…」

番外個体「お姉様…まさかその若さでボケが進行…」

美琴「違うっつーの!」


255: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/16(木) 19:00:14.67 ID:Q3PY.ZM0

美琴「うぅん…ホントになんだったっけ…」

番外個体「家事の手伝い?買い出しとか風呂掃除とか」

美琴「いやー、そういうのじゃないのよ…多分」

番外個体「うーん…思い切って、デートの誘いとか?」

美琴「さすがにそれは――――あっ」

番外個体「思い出した?」



美琴「………一端覧祭のこと、忘れてた」




256: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/16(木) 19:10:04.43 ID:Q3PY.ZM0

上条「……暇だ」

上条「平和なのはいいんだが……つっても世界中が平和ってワケじゃねーだろうけど」

上条「まあ…さすがに運動しねーと体がなまっちまうな」

上条「ならばいざ!腹筋で土御門並のマッスル度を手に入れるために!」


美琴「……アンタ、なに一人で盛り上がってんの?」


上条「うおっほぉ!御坂か!驚いたぜ…」

美琴「いや、何そのリアクション……まあいいわ」

美琴「えーと、その、お願いがあるのよね」

上条「お、おう」(頬を染めながら上目づかい…だと?)



257: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/16(木) 19:16:06.87 ID:Q3PY.ZM0

美琴(―――アレ?一端覧祭って学園都市でするのよね)

美琴(でも、今私たちが戻ることはできない……)

美琴(……なんだ、いつもと同じじゃない)

美琴(自分ひとりで舞い上がって、結局空回り……)




上条「……おーい、御坂」

258: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/16(木) 19:23:17.17 ID:Q3PY.ZM0

美琴「え、な、なに?」

上条「何って、話を切り出すかと思ったらいきなり俯いて動かなくなったら気になるだろ」

美琴「そ、そうよね、ああ、お願いとか言ってたけど実は何でもなかったから、気にしないで」

上条「……そうか」

美琴「それじゃ、そういうこ―――」

上条「じゃ、俺の頼みごとを聞いてくれるか?」

美琴「え、あ…うん」

259: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/16(木) 19:30:26.42 ID:Q3PY.ZM0

上条「あー、えぇっとなぁ…」

美琴「何よ、言いにくそうね?結構重大な話?」

上条「うーん、えっと……ほら、俺って記憶喪失だろ?」

美琴「……そう、ね」

上条「だからさ、学園都市である行事とかもイマイチよくわかってねーんだよな」


上条「つーわけで、一端覧祭で一緒に回ってください美琴センセー!」


美琴「―――へ?」

260: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/16(木) 19:38:32.85 ID:Q3PY.ZM0

上条「あ、やっぱダメか?そっちもそっちで忙しいんだろうし…」

美琴「いや、一緒に回るのはいいけど、学園都市は……」

上条「あー、そっちの心配か……まあ大丈夫だろ」

美琴「そんな楽観的な…」

上条「今までだってなんとかなったんだ、このくらいどうにもならないハズはねーよ」

上条「―――それにさ、なんとなく、大丈夫だっていう確信があるんだ」

美琴「そんなの…」

上条「どんなに苦しい道でも、これだけ仲間が居るんだ―――大丈夫に決まってる」

美琴「……そう、確かに、そうね」

261: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/16(木) 19:49:54.22 ID:Q3PY.ZM0

上条「でもお前、レベル5だから色んな所から引っ張りだこで忙しいとかねーの?」

美琴「うーん、派閥に入ってる人たちは合同で何かするらしいけど、私はフリーだし…アンタは?」

上条「俺も仕事は少なそうだな、なんかフラグの独り占めはダメだとかであんまり目立つことはやらないみてーだ」

美琴「……フラグ、ね」

上条「にしても俺がいつフラグ立てて……って痛い痛い!脛蹴るな脛!」

美琴「うるさい!電撃じゃないだけマシだと思え!」







垣根「周りからしたらただのカップルに見えないこともないんだよな」

フィアンマ「ここのカップルたちは悉く女の方が強いんだが大丈夫か?」

垣根「大丈夫だ、問題ねえ」

262: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/16(木) 20:05:41.56 ID:Q3PY.ZM0

「……うん、もう退院しても大丈夫だね?」

「いやー、結局その口調だと本当に大丈夫なのか不安な訳よ」

「これはもうクセになってるから、どうにもならないんだけどね?……うん、迎えが来たようだよ?」

「……超、久しぶり、ですね」

「そうねー……って泣いてる!?これはなかなか貴重なワンシーンな訳よ!」

「ち、超泣いてなんかいません!」

「うーん、結局私のことをそんなに想ってくれてたなんてああもう!2番目に愛してる訳よ!」

「なんというか……ウザいので放っておいていいですか?あちらは超切羽詰まっているんですが」

「ええっ!結構ヤバ気な訳!?結局私がいなきゃ―――」

「いや、それは超無いです」

「ひ、ひどい訳よ……」

「……まあ、病み上がりなんですから超無理しないでくださいね」

「いーや、張り切っちゃう訳よ!今日はいつもより爆発させるんだから!」

「……病院内ではお静かにね?」


274: MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) 2010/12/25(クリスマス) 13:12:38.80 ID:ug6M.uI0

上条「あー、ぬくい…」

美琴「こたつさいこー……」

上条「やっぱ冬はこたつだよなぁ…まあ、まだ11月の初めなんだけど」(※時期は原作22巻直後)

美琴「雪国だからねー」

上条「そうだなー」

美琴(あー、コイツと一緒にこたつとか幸せ…いつもならすぐに邪魔が―――邪魔?)

黒子→学園都市
フラグ建築済みの女性→ここに居ない
ここに居る女性→他の男にフラグ

美琴「……なるほど」

上条「ん、何がだよ?」

美琴「んー、なんでもない」

上条「そーか…ミカン食うか?」

美琴「食べるー」
   

275: MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) 2010/12/25(クリスマス) 13:19:32.35 ID:ug6M.uI0

上条「むけたぞ、ホラ、あーん」

美琴「ふ、ふぇ!?」

上条「ん?食べないんなら俺が食っちまうぞ?」

美琴「た、食べる!」

上条「んじゃ…ほい」

美琴「ん…おいし」

上条「そんじゃ俺も…」

美琴「ま、待って!」

上条「?」

美琴「わ、私もしてあげるわよ!」

上条「…へ?」

276: MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) 2010/12/25(クリスマス) 13:24:41.25 ID:ug6M.uI0

美琴「ホラ、あ、あーん…」

上条「お、おう…」はむっ

美琴「あ、アンタ!今指も舐め…!」

上条「ん、なんだ?」

美琴「……なんでもない」

上条「そっか…なあ」

美琴「なに?」

上条「お前って、こうしてるとけっこう可愛いよな」

美琴「な、何言って…!っていつもは可愛くないの!?」

上条「いやー、いつもはビリビリされて見る余裕が無いから…」

美琴「う…悪かったわね!」

277: MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) 2010/12/25(クリスマス) 13:30:44.78 ID:ug6M.uI0





上条「…で、いつの間にか俺に寄りかかって寝てるし」

美琴「すぅ…すぅ…」

上条「…同じシャンプー使ってるハズなのに、なんでこんないい香りがするんでしょうか」

上条「…俺も眠くなってきたな」

上条「御坂……さすがに、唇はダメだよな?」

上条「それじゃあ―――」




上条「…おやすみ」

287: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/25(クリスマス) 23:40:44.46 ID:1PkwqPo0

打ち止め「ミサカはミサカの先手必勝!」ブンッ

一方通行「ごはァ!?」ベシャ

打ち止め「あれあれー?的にもなってないよーってミサカはミサカはあなたを挑発してみる!」

一方通行「クソったれがァァァあああああああっ!!!」

番外個体「……哀れだね、第一位」轟!

一方通行「能力封じた状態で1対2の雪合戦させといて何を――ごっ、がァァァあああああああっ!?」ノーバウンドダイブ

番外個体「あ、ごっめーん☆雪に鉄塊詰めて能力で撃っちゃった♪」

一方通行「クソがァ…こンな…ところで…」ドサリ

打ち止め「うーん、さすがに貧弱すぎるかも、ってミサカはミサカは結構心配してみたり」

番外個体「凍死されたら困るし、運ぶ?」

打ち止め「冗談にならないから困るよね、ってミサカはミサカは苦笑してみる」

288: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/25(クリスマス) 23:50:07.33 ID:1PkwqPo0

海原『………一方通行さん、失望しましたよ』

一方通行『……いきなりなンだってンですかァ?』

土御門『ロリだけじゃなく、ヤンデレも制覇するとは……ハーレムルートに進み始めたんだにゃー』

一方通行『いや、アイツらはそういうのじゃ―――』

海原『御坂さんシリーズが気に入らない!?なら自分に譲ってくださいよぉぉぉおおおおおおおおっ!!!』

結標『こっちはショタと全然出会えないってのにぃぃぃいいいいいいいいいっ!!』

一方通行『もォやだこの組織』

木原『今のご時世、仕事があるだけマシだぜ?一方通行よぉ』



一方通行「木ィィィ原くゥゥゥゥゥン!?」

番外個体「いきなり怒鳴らないでくれる?」

一方通行「あ、すいませン」

290: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/25(クリスマス) 23:58:41.37 ID:1PkwqPo0

一方通行(待て、この位置、そして後頭部の柔らかい感触!)

一方通行(―――膝枕、だと?)

一方通行(だがしかし、コイツがそンなことをして得られるメリットは皆無…!)

番外個体「zzz…」

一方通行(寝始めた、だと?よし、この隙に―――何?)

一方通行(動かねェ…まさか、クソガキ!?)

一方通行(チッ…何のつもりだ…俺が何か恨みを買うようなことでも―――してンな、タップリと)


291: クリスマス終了のお知らせ 2010/12/26(日) 00:08:38.57 ID:Y/d970s0

一方通行(あァ、そォだよな…いくらコイツらに優しくしたところで、俺の罪は消えねェんだ)

一方通行(クソガキだって、俺に無理に優しくしてンのかもしれねェし、コイツも…オイ、なンかだんだん近づいて――)


「」


番外個体「ん…う…?」

一方通行「………」

番外個体「え、な、えぇぇ!?」ガバッ

一方通行「……オイ」

番外個体「の、ノーカンだから!」

一方通行「あン?」

番外個体「ミサカ全然気にしてないから!それじゃ!」シュバッ

一方通行「がっ!?」ゴン!

292: クリスマス終了のお知らせ 2010/12/26(日) 00:12:38.37 ID:Y/d970s0

打ち止め「うーん、やっぱりお姉様の遺伝子だよねってミサカはミサカは微笑ましく思ってみたり」

一方通行「」

打ち止め「……でも、ミサカだってあなたのこと大好きなんだよ?だから―――」


「」


打ち止め「コレもノーカン、ってミサカはミサカはダッシュで逃走!」



293: クリスマス終了のお知らせ 2010/12/26(日) 00:24:32.13 ID:Y/d970s0

シルビア『ん…あ、そこ…いい…』

垣根「……」ドキドキ

オッレルス『ああ…でも、ここもいいんじゃないか?』

シルビア『あ…んっ…そこ…もっと…』

フィアンマ「…ふ、やはりこの時ばかりは逆転するんだな」

垣根「よくある話だ…いつも気の強い女は大抵M体質ってのは」

フィアンマ「ほう、そうか…」

垣根「そういうもんだ、んじゃ続きを―――」

だが、そこで垣根の意識は刈り取られる。
フィアンマについても同様だった。
ただ、一瞬で二人は地に伏した。
学園都市第二位や神の右席のトップにもわからない何らかの「力」によって。

294: クリスマス終了のお知らせ 2010/12/26(日) 00:34:14.78 ID:Y/d970s0

シルビア「…どうかしたの?」

オッレルス「……いや、ちょっと不届き者がね」

シルビア「ふぅん…じゃ、次は腰の辺りお願い」

オッレルス「……こう、マッサージとかどっちかというとお前の役目じゃないのかな」

シルビア「……うるさい、誰のせいだと思ってる馬鹿野郎」

オッレルス「……ハイ、昨夜はハッスルしすぎて申し訳ございませんでした」

シルビア「ハァ…まあいいけど」

オッレルス(まぁ、お前が魅力的なのが悪い気もするんだが)

シルビア「……何?」

オッレルス「な、なんでもありませんとも!」

306: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/29(水) 01:25:14.69 ID:H26Aj3o0

垣根「フ…お前らよく聞け!今日は重大発表がある!」

一方通行「どォせオマエの脳内にあるメルヘン成分が暴走するだけだろォが…」

垣根「はは、一方通行…今日は残念ながらメルヘン度はねーぞ?」

番外個体「なら、なんだっての?さっさと見せてよ」

垣根「くっくっく…見ろ!この生まれ変わったフィアンマの姿を!」

バッ

フィアンマ「………」

垣根「どうだお前ら!カッコイーだろ!」

307: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/29(水) 01:29:42.68 ID:H26Aj3o0

上条「フィアンマ、お前それ…」

フィアンマ「……?」

上条「お前も腕が生えてきたのか!?」

フィアンマ「いや、どうしてそうなった」

上条「え、でも俺は生えてきたし」

一方通行「さすが…ヒーローだぜェ…」

美琴「自己再生とかカッコいい…」

垣根「いや、そういうのないから。義手だから」

308: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/29(水) 01:44:34.68 ID:H26Aj3o0

番外個体「……それにしても見たこと無いデザインだね。完全なオリジナルなの?」

垣根「ま、そうだな。大方は俺の設計だ…動力だけは違うが」

美琴「動力?」

垣根「あー、まあ、かいつまんで言うと、魔術で動くって感じだ」

一方通行「ほォ…成程なァ」

垣根「あと、動かすことにしか魔術使ってねーから幻想殺しでバラバラになったりもしないぜ!」

上条「おー、ホントだ」

打ち止め「でもでも、別にヒーローさんと敵対してないし意味無いよねってミサカはミサカは言ってみる!」

垣根「あっ…」

309: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/29(水) 01:51:28.86 ID:H26Aj3o0

フィアンマ「…まあそう気を落とすな。うっかり上条当麻が触れる可能性もあったのだから」

垣根「そ、そうだな!別に無駄じゃねえよな!」




オッレルス「ところで、それが完成したということは……」

フィアンマ「ああ、こちらの準備は整った、というわけだ」

垣根「いよいよ、ってわけか」

310: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/29(水) 02:02:36.53 ID:H26Aj3o0

一方通行「……まァ、これだけ待たせたンだ。あっちも相応の準備はしてンだろォよ」

上条「そうだな、俺たちがここに居る間は特に事件も無かったし」

美琴「ま、それでもやることは変わらないでしょーが」

番外個体「そーそー、何にしろ上層部の連中をぶっ潰すのは変わらないんでしょ?」

打ち止め「それに、どんなに苦しくても負けるつもりは無いんだから、ってミサカはミサカは意気込みを語ってみる!」

垣根「いいぜ、お前ら…盛り上がってきたじゃねえか」




垣根「―――行くぞお前ら、学園都市に」

311: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/29(水) 02:11:00.13 ID:H26Aj3o0

オッレルス「……いいのか?君も行きたいんだろう?」

フィアンマ「まぁな…だが、知っているだろう」

フィアンマ「魔術師と超能力者は共闘できないんだよ」

オッレルス「…それはただの事実だ、君の意思はどうなんだ?」

フィアンマ「ふ、決まっているさ。……そしてお前も、そうなんだろう?」

オッレルス「……まあな」

フィアンマ「俺様は俺様にしかできないことをする…それでいい」

オッレルス「それもそうだ…さて、俺もここを発つか」

フィアンマ「おや、また三角木馬を喰らうぞ?」

オッレルス「なに…事前に言っておけば大丈夫さ。まあ、彼女もついてくるだろうが」


312: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/29(水) 02:27:53.59 ID:H26Aj3o0

――――学園都市

「……さて、行くぞ」

「りょーかいっ!……でもやっぱり今回の依頼は正直おかしいですよー」

「まだそんなことを…」

「いえいえ、狙撃手二人がかりでやる仕事がなんとただのお迎えですよ!?そりゃー砂皿さんとセットなのはいいんですけどー」

「まあ適材適所とは言い難いが…他に丁度いい人間が居ないのだろう」

「うーん…まあいいですよ!この仕事が無事に終わったら砂皿さんとデートですし!」

「……聞いていないが」

「それでどうします!?やっぱ遊園地とか映画館とかが王道ですかね!?」

「……普通に休むという選択肢は?」

「ノンノンノン!でも、休みたいなら温泉旅館ですかね!混浴オッケーの所探しときます!」

「いまどき、そんなものは無い気がするんだがな…」

313: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/29(水) 02:49:55.84 ID:H26Aj3o0

かくして、平穏は終わりを告げる。
そして、彼らは新たに物語を紡ぎ始める。

それは、

心のままに突き進む少年が、
どんな闇だろうと屈しない少女が、
罪を背負い、それでも前に進み続ける少年が、
罪を許し、最後の希望であり続ける少女が、
悪意から生まれ、善意によって生きる少女が、
一度死んでから、再び舞い戻った少年が、

明日を掴むための物語。

325: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 01:17:38.55 ID:p3gnEb60

空に、黒い影が躍る。
大きさの割にはほとんど音は感じない。
そもそも、学園都市製の戦闘機に常識をあてはめる方が間違いなのだろうが。

「―――来たか」

茶髪の少年が、笑みを浮かべる。
戦闘機が、目の前に着陸する。
普通なら、強風が吹き荒れるはず。
だが、やはり普通とは違い、ゆっくりと着陸した。

「……行くぞ、お前ら」

少年の言葉と共に、周りの者たちは前に進みだす。
その胸に、それぞれの想いを抱きながら。

327: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 01:31:46.21 ID:p3gnEb60

「いらっしゃいませ!何名様ですかー?」

「もう少し静かにはできないのか……」

操縦席には、見るからに寡黙そうな男と、やたらにテンションの高い金髪の女性が座っている。

「……畜生、砂皿テメェ女連れかよ爆発しろ」

「おぉっ!砂皿さん砂皿さん!カップル認定ですよ!あ、私はステファニー・ゴージャスパレスです!」

砂皿が、はぁ、と溜息を吐く。
一方通行が同情の目で見ていたが、他は羨ましそうにしていたので仕方ないだろう。

「それじゃ、皆さん席に着いてくださーい、あ、シートベルトも忘れずに!」

どこの修学旅行だ、と突っ込む声も聞こえたが、彼女の前では無意味だった。

「……なあ、砂皿よぉ」

「……なんだ?」

「お前、こんなモン操縦できたのかよ」

「……自動操縦だぞ?」

あ、ホントだ、と垣根が操縦席のモニターを覗きこむ。
そんな姿に、砂皿はこんなリーダーで大丈夫だろうか、と少しだけ感じた。

328: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 01:42:31.93 ID:p3gnEb60

「それで、どこから侵入すんの?どうなろうと盛大なお出迎えが待ってるんだろうけど」

「決まってる、正面から堂々と、だ」

垣根帝督が、きっぱりと、自信あり気に言い放つ。

「そんなにはっきり言うなら、なんか備えがあるんだろうけど……ホントに大丈夫なのか?」

「は…これだけ時間があって、俺が何の手も打ってねえとでも?」

そう言って、垣根は笑う。
心の底から、その『手』を披露するのが楽しみというように。

「……ハン、言うじゃねェか、まァ、精々楽しみにしとくわ」

「おぉ、テメェの驚く顔が楽しみだぜ」

329: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 01:57:22.83 ID:p3gnEb60

―――学園都市、窓のないビル

「―――どうやら、ようやくあちらを発ったらしいぞ」

その言葉に、水槽の中に、逆さまで浮いている人間は歓喜の表情を浮かべる。
もっとも、常に近くに繋がれているエイワスにしかその表情の変化は読みとれないだろうが。

「……長かった、実に、長かった」

無感情な声で、人間――アレイスター・クロウリーは呟く。
効率にこだわる彼らしくない、意味もない言葉を吐く。

「さあ、来るがいい…私の計画の道具たちよ」

そう言って、彼は凶悪な笑みを浮かべる。

(……道具、か)

(果たして、その道具はどんな可能性を見せてくれるのだろうな)

黙々とプランの遂行を第一とする人間と、世界を楽しむ少なくとも、人ではないモノ。
2つの存在は、あまりにも共に居るには真逆であった。

330: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 02:07:01.47 ID:p3gnEb60

「……成程、こりゃ壮観だね。駆動鎧が数百か」

「……どうする?ここが予定地点だが」

「構わねえよ、ここで着陸しろ」

垣根帝督が、不安は無いという風に言い放つ。
そう言われては、従うしかなかった。

音も、衝撃もほとんどなく、戦闘機が着陸する。
そして、ゆっくりとハッチが開いていく。

一同は、あまりにも無防備に外に出る垣根に続く。

331: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 02:17:33.52 ID:p3gnEb60

「―――動くな!」

声のした方に目を向ければ、指揮官らしい男と、その補佐らしい男が立っている。

「貴様たちは殺さず確保しろ、という命令が出ている…大人しくしてもらおうか」

「……断る、と言ったら?」

「無傷で連れてこい、という話ではないからな……少々痛い目を見てもらおう」

その言葉に、それぞれがいつ撃ってきても大丈夫なように構える。
しかし。

「おっと!残念ながらAIMジャマーが起動している……能力は使えないぞ?」

「くっ…」

能力が封じられれば、大幅に彼らの力は削がれる。
能力なしで戦える者も居るが、この状況ではあまりにも無力である。

これでチェックメイト。
……そのはずだった。

332: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 02:33:44.92 ID:p3gnEb60

指揮官らしき男は、視界の端に、自分の補佐が懐から何かを出すのを見た。

(あれは…何だ…黒い…ナイ、フ?)

そこまで考えてから気付くが、既に遅い。
それはAIMジャマーに向けられた。

「……残念でしたね」

切っ先を向けられた機械が、どんどんと分解されていく。
そうして、その現象を起こした男は仮の姿を捨て、さらにまた違った姿となる。

「内部に敵が居るのは考えなかったのですか?やれやれ…不用心すぎますよ」

「海原…光貴…ッ!」

「またそっちですか…ホント、本名で呼ばれませんね」

余裕そうに、海原が告げる。
それが癇に障っつのか、指揮官は激昂し、叫ぶ。

「……殺せっ!今すぐに!」

数体の駆動鎧が、彼に銃口を向ける。
だが、

トリガーを引く前に、それらは忽然と姿を消した。

333: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 02:45:00.64 ID:p3gnEb60

「……ちょっと埋まっちゃったけど、いいかしらね」

「いいんですのよ。お姉様の敵ですもの」

入れ替わるように、二人の少女が現れる。

「黒子っ!?それに――」

「話は後ですのよ、お姉様……今は目の前の敵を!」

そう言いながら、風紀委員の腕章を着けた少女は跳躍する。
己の信じるものの敵を討つために。

「そういうこと…挨拶は後にしてくれる?」

そう言い放つ少女は、軍用ライトをかざし、次々と対象を跳ばしていく。

そして、戦闘が始まる。
圧倒的な蹂躙を、戦闘と呼べるのなら。

334: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 02:56:56.11 ID:p3gnEb60

「……黒子」

「お姉様…言いたいことが沢山あるでしょうが、黒子の答は一つですの」

「……え?」

「お姉様の正義が、わたくしの正義ですのよ」

その瞳に迷いは無く、偽りなどは見受けられない。
だが。

「お姉様、黒子はかつて、正義のためならばお姉様の敵にもなると言いました」

「そうよ…それなのにどうして―――」

「決まっていますの、そもそもお姉様がそんな間違った道を歩むはずなどないのですから」

それは、全幅の信頼。
学園都市よりも、美琴を大切に思う、後輩からの強い信頼。

「ありがとう、黒子…私って、ホント幸せ者ね」

335: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 03:03:16.33 ID:p3gnEb60

「……お久しぶりですね」

「そうだな、海原…で、いいのか?」

「本名は、エツァリです。そちらでも構いませんよ」

そうか、と上条は頷く。
少し間を空けて、エツァリが口を開く。

「約束は、覚えていますね?」

「ああ…お前だけじゃなく、アイツ自身にも誓ったよ、御坂美琴とその世界を守る…ってな」

それならいいんです、とエツァリが返し、また間が開く。

「…御坂さんを、頼みますよ」

「ああ…わかってる」

336: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 03:11:52.23 ID:p3gnEb60

「……さて、俺はコイツらと暴れてるから、お前らはとっとと行ってこい」

唐突に、垣根帝督が告げる。

「オマエ、良いのか?アレイスターに随分執着してただろォが…」

「執着、ね」

垣根が目を閉じながら、続ける。

「確かにそうだった…だがな、今はそうでもねえんだよ。お前らに毒されたのかもな」

「ふゥン…」

「行けよ、さっさと馬鹿をぶちのめしてこい……後でメシくらい奢ってやる」

「は、オマエに奢られるほど貧乏じゃねェよ」

「言ってろ、借金ある癖に」

337: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 03:20:44.48 ID:p3gnEb60

「……おかえりなさい」

「あ?ああ…お前かよ」

現れたのはドレスの少女。
ゆっくりと、垣根の傍に寄る。

「……約束は覚えてるよな?」

「ああ、あなたと付き合うってヤツ?いいけど、ホントに浮気しないのかしら?」

「オイオイ、信用ねえな…」

「だって、見た目からして軽そうじゃない?」

うぐ、と垣根が呻く。
どうやら、以前にも言われたことがあるらしい。

「……ったく、締まらねえな」

338: 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします 2010/12/30(木) 03:31:10.17 ID:p3gnEb60

「そうでもないわよ、ホラ、リーダー頑張って!」

「うわあ、すっげえ心がこもってねえ」

愚痴りながらも、垣根は懐から通信機を取り出す。
そして、

「―――行くぞ、『暗部連合(リヴォルト・ユニオン)』の初仕事だ」

やっぱりネーミングセンス無いわね、という突っ込みが背後から聞こえた。

354: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2011/01/09(日) 21:50:17.99 ID:9//7kMUK0

何故だ。
どうしてこうなった。
自分たちの任務はただ子供を確保するという簡単なモノのハズ。
能力者対策も万全だった。
なのに。

「ハッ…ハァッ…!」

現実はどうだ。
部隊は壊滅状態で、自分は逃げ惑うばかり。
考えがまとまらない。
足がもつれる。
ここが限か―――――


355: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2011/01/09(日) 22:00:52.36 ID:9//7kMUK0

「………」

スコープの中にある獲物の崩れ落ちる姿を認め、砂皿は次の標的を探す。
もっとも、敵の残存戦力は多くない。
大部分は、今はここに居ない味方達に無力化されたからだ。

ふと、近付いてくる気配を感じる。

「駆動鎧か…まだ残っているとはな」

どうにかできない相手ではないが、いかんせん距離が近すぎる。
だが、彼の表情に焦りは見られない。

駆動鎧が、銃口をこちらに向ける。

しかし、そちらに砂皿が目を向けることは無かった。

356: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2011/01/09(日) 22:16:48.36 ID:9//7kMUK0

直後、ガガガガガッ!!と連続で金属が衝突する音が響く。
それと共に、駆動鎧がみるみるスクラップと化していく。

「ふぃー、危なかったですね砂皿さん……ってスルー!?私は空気か何かですかぁ!?」

「……煩い、集中できん」

「ぶーぶー!いいですよー!あとでネッチョリと絡ませてもらいますから!」

コントのような会話をしながらも、着実に敵を排除していく。
二人にとってはこのくらいがちょうどいいのかもしれなかった。

「……そろそろ、か。ここが終わったら他のメンバーの援護に行くぞ」

「はいはーい。……まあ行く前に終わってそうですけどね」

357: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2011/01/09(日) 22:28:24.52 ID:9//7kMUK0

「反乱だと!?ええい、どうなっている!」

「隊長、どうしますか?」

「我々も出撃する!総員、相手にはレベル5もいる!十分に気を付け―――」

言いきる前に、爆音と共に近くの壁が崩れる。

「な、何があった!?」

「おそらく、爆発物が仕掛けられていた模様です!ここ以外でも被害は起きているようで…!」

「くっ…!」

カツン、と床を蹴るヒールの音が響く。

「あーあーフレンダの奴、張り切りすぎじゃないの?」

まさか。

358: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2011/01/09(日) 22:42:21.67 ID:9//7kMUK0

「麦野…沈利…ッ!?」

「あらあら、名前を覚えてもってるのは光栄なんだけど……オッサンには興味無いのよね」

瞬時に、男たちは彼女に向かって構える。

「威勢がいいのは結構だけど―――後方注意ね」

「何ッ!?」

「超遅いです!」

集団に向かって、小柄な少女が突っ込む。
傍から見れば無謀に見えるが、彼女レベル4の能力者だ。
窒素装甲で覆われた人体という弾丸に吹き飛ばされ、隊員たちは散り散りになる。

「ナイス絹旗♪そんじゃ……サ ヨ ナ ラ」

麦野沈利が光線を放つ。
その光は、男たちの肉体を簡単に消し飛ばした。

359: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2011/01/09(日) 22:53:49.09 ID:9//7kMUK0

「……派手にやったな」

「あ?あー…グラサン、名前なんだったっけ?」

「グラサン……土御門元春、だ」

「ああ、土御門ね…そっちの持ち分は終わったの?」

「いや、俺は戦力として数えられてないからな……だが、そろそろ出番だ」

そう言って土御門は携帯を取り出し、どこかへと電話をかける。

「超電話ですか、誰にです?」

「なに、ちょっと高みの見物をしてる狸にな」

360: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2011/01/09(日) 23:15:36.35 ID:9//7kMUK0

『……よう』

「おや、貴方ですか……」

応対しているのは、スマートな黒の装束に身を包んだ人間。
顔も隠されていて、性別を確かめることすらできない。

「暗部同盟……なるほど、結束した貴方がたの力は凄まじいものがあります」

『お褒めにあずかり光栄、だな……随分余裕じゃないか』

「正しくは冷静、でしょうか……まあ、まだ策がありますので」

『そうか?』

土御門が、嘲笑するように言う。
訝しげに、黒い人間は相手の出方を待つ。

『そう思うなら、お前は随分と鈍感なんだな』

ガチャ、という音と共に頭に銃口が押し当てられた。

361: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2011/01/09(日) 23:27:56.66 ID:9//7kMUK0

「悪いな、護衛は全員眠らせちまったよ」

「な…に…ッ!?」

銃口を向けるのは浜面仕上。
アイテムの雑用係で、無能力者の男。

「馬鹿な…!護衛には未元物質を元にした『アレ』を…!」

「ああ、ロシアで俺たちを襲ったヤツらだろ」

「無能力者程度が太刀打ちできる代物ではない…!元は第二位の、垣根帝督の力だぞ!」

「だからこそだ」

理解ができない。
他のレベル5ならまだわかるが、今目の前に居るのは無能力者だ。
こんなことがあるはずがない。

362: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2011/01/09(日) 23:45:22.98 ID:9//7kMUK0

「未元物質はロシアに行く前に滝壺がそのAIM拡散力場を記憶している」

「……まさか」

「そうだ、全員無力化させてもらった」

だが、疑問が残る。
未元物質を使っているとはいえ、彼ら自身が能力者であるわけではない。

「元の能力が同じなら、できるんだよ」

答えるように、浜面が言う。

「元は未元物質なんだろうが。パンにとっての小麦粉……それを操れるなら、加工品のパンもってな」

つまり、武器の素材そのものを掌握されたということだ。
そして。

「覚えとけ、これが新生アイテム―――そして暗部同盟だ」

ズガン、という音と共に、黒が崩れ落ちた。



363: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2011/01/09(日) 23:57:17.17 ID:dlm5b+ZP0

「おーおーお前ら俺のファンかよ、みんな俺の真似しやがって」

「いや、このメルヘンさは誰も真似したくないでしょ。ホラ、嫌そうな顔してる」

「仮面してるから見えねーっての」

「あら、メルヘンの方には突っ込まないの?」

ぐ、と垣根がうなだれる。
だが、コントをしたところで敵が笑い転げるわけではない。

「……自分の置かれた立場を理解できていないようだな」

「あ?理解してるぜ?雑魚共がウジャウジャしてるってなあ!」

「我々の力は、貴様の力を元にして作られたものだ。試作品が正式採用品に敵わないように、力の差は歴然だ」

「おいおい言ってくれるなぁ…だが、大事なことを忘れてんじゃねーか?」

「なに…?」

364: VIPにかわりましてGEPPERがお送りします 2011/01/10(月) 00:12:15.44 ID:dlm5b+ZP0

「俺の未元物質に常識は通用しねえ」

バサリ、と垣根帝得が翼を広げる。

「テメエらのルールはあくまでテメエら自身のモンだ、俺がそれに縛られる理由はねーんだよ」

「………」

仮面の男たちも翼を広げ、空に舞う。
垣根はそれを見て、ニタリ、と笑う。

「さあ…見せてやる。魔術さえも理解した俺の未元物質をな」

翼を持つ者たちが空で激突する。

そして。

378: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/01/16(日) 10:20:48.15 ID:pHALeQPz0

――――イギリス

「……今、何と言った?」

「おお、ステイル…そんな顔をしけると、小皺が増えなりけるのよ」

「うるさい…!何と言ったと聞いている!!」

激昂するステイルに対し、ローラ=スチュアートはただくすくすと笑う。
そう、人を見下したような顔で。
そして。

「魔導図書館を学園都市に送り込む、と言いけるのよ」

「貴様、あそこは今戦場だぞ!そんな所にあの子を―――」

ああ、と最大主教は答える。
今気付いた、という意味ではなく同意という意味で。

「だからこそ、意味がありしなのよ」

379: >>1 2011/01/16(日) 10:36:03.62 ID:pHALeQPz0

「―――な、に?」

どういうことだ、と炎の魔術師は思考を巡らせる。
その答えが出ないうちに、最大主教は言葉を続ける。

「あそこにはアレイスター=クロウリーが居けるのよ」

それは、つい最近になって魔術サイドに広まった事実だ。
もっとも、一般の魔術師には噂という形でしか認知されていないのだが。

「そして今、幻想殺し達がそれを倒そうとしたるのよ、好機に他ならぬことよ」

「……どういうことだ」

ステイルが再び問いをぶつける。
理解できない、むしろ理解したくないという風に。

「まだわからぬことなりけるの、ステイル?」

「………」

ステイルは、答えない。
何をしようとしているかはある程度理解できる。
しかし、それを阻止するだけの力はあるのか自分にはわからないから。


380: >>1 2011/01/16(日) 10:53:56.66 ID:pHALeQPz0

「アレイスターは魔術に関わる者にとって害悪そのものなるの。その討伐に我々が参加しすれば、功績によって発言力も増す」

「だけれども、大規模な討伐隊を組んでここを空けるわけにもいかぬことよ」

「だから、『アレ』を差し向けるのが効率的なりけるのよ」

それは違う。
確かに、フィアンマの件による被害の残るここを空けられないのは事実。
だが、禁書目録を向かわせるのが討伐隊を組むより効率的とは言えない。
その疑問に答えるように、最大主教は続ける。

「別に、戦力にはなるであろ?……そう、コレがありければ」

そして出てきた物は、ステイルにとって忘れようのないモノ。
そう―――禁書目録の遠隔制御霊装。

「また、そんなものを…そんなものを使えば、まだ全快でないあの子の体は…!」

「死んでも、構わぬのよ?」

381: >>1 2011/01/16(日) 11:09:11.51 ID:pHALeQPz0

今度こそ、ステイルは言葉を失った。

「他の組織を出し抜き、我々が参戦しけるという事実さえあれば、それで構わぬのよ」

最早、目の前の女が何を言っているのか理解できない。

「むしろ、損害がありける方がアレイスターの遺産と周りからの信頼も得られるであろうよ、それに、壊れたならまた用意すればよろし」

沈黙。
両者の心は憤怒と愉悦と、真逆の感情があった。
そして。

「遺産だと?信頼、だと?」

拳を握りしめ、炎の魔術師は、怒りを爆発させる。

「あの子の命が、そんなものと引き換えになっていいわけがない!!」

叫びと共に、ルーンが部屋中にばらまかれる。
そして使役する。
目の前の『敵』を殺すための力を。

「―――魔女狩りの王!!」

382: >>1 2011/01/16(日) 11:21:48.92 ID:pHALeQPz0

だが、発動しない。
それを疑問に思う前に、体が拘束される。

「が、はっ…!」

「……まさか、何の対策も取らぬとでも思うたの?」

そう言う女の顔には、焦りの感情は微塵も感じられない。

「な…にを…」

「この部屋にある霊装が起動したのみなるのよ。部下の反乱を防ぐ対策は必要であろ?」

そして、遠隔制御霊装を操作する。

「や、めろ」

「見ておれよステイル、お前の守ると誓ったものが滅びていく様を」

「やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

叫びに、答えは無い。
ただ、女は霊装を起動させた。

383: >>1 2011/01/16(日) 11:33:22.65 ID:pHALeQPz0

―――学園都市

空に、白が舞う。
どちらが優勢かは、誰の目からも明らかだった。

「……どうした、大口を叩いた割に防戦一方だぞ?」

仮面の男が、垣根帝督に告げる。
その通りだった。
1対1ならいいものを、敵は複数いる。
垣根の翼で対応するのにも、限界はあった。

「―――チッ!」

敵の翼を破壊できる翼で、垣根は攻撃を加える。
だが、その間に別の性質を持った翼が割り込む。

「貴様が敵対した場合に備えて、性質の違う未元物質を用意していたのだ」

その繰り返し。
1対多では、持久戦に持ち込む意味もなかった。

「もう諦めろ。貴様の命運は決した。」

384: >>1 2011/01/16(日) 11:44:26.09 ID:pHALeQPz0

「―――く、」

ふと、垣根帝督が俯き、体を揺らす。

「くく――くははははははははははは!!」

突然の狂笑。
ついに狂ったか、と男たちは感じる。

「よお、お前ら……残念だったな、もう終わりだ」

「……ふん、この状況を打破することなどできん。ブラフだろう」

そうかそうか、と垣根は至極愉快そうに答える。
男たちは、妙な真似をする前に処分しようという結論に達し、そして、

「遺言なら聞いてやろう。この力を得ることのできた恩義もある」

「誠実だな、まあ、一言だけ言うなら――――」





「解析完了だ、クソッタレ」


385: >>1 2011/01/16(日) 11:52:57.51 ID:pHALeQPz0

「―――は?」

男たちが反応をする前に。
何らかの対処さえさせないまま、垣根は翼を振るう。
そして。

「が、あっ…!」

白い翼を粉砕された男たちが、ノーバウンドで数十メートル吹き飛ぶ。
男の一人が、かろうじて空中で垣根に向き直る。
だが。

「―――ひ、い!?」

「悪いが、俺は遺言を聞いてやるほど優しくはねぇぞ」

目の前に迫る、学園都市第二位。
再び、翼が振るわれる。
残ったのは、肉片だけだった。

386: >>1 2011/01/16(日) 12:05:13.77 ID:pHALeQPz0

「いやー、余裕だったぜ」

「あら、その割にはボロボロじゃない?」

物陰から、心理定規が姿を現す。
先の戦いに巻き込まれなかったのが不思議に感じられるが、理由はある。
垣根が、彼女をかばいながら戦っていたのだ。

「仕方ねーだろ、ハンデ付きで対複数だ。無傷で済むわけねぇよ」

「……やっぱり、居ない方が良かった?」

「いいや、そうでもねぇよ、おかげで第一位に近付くことができた」

「……?」

そう、周りの人間を守りながら戦うこと。
今だあの境地には程遠いが、前に進むことができたのは確かだ。

「なあ」

「何?」

「疲れた時はやっぱ膝枕だよな」

「………ハァ、まあいいけど、ホント締まらないわね」

「だろうな、俺に常識を当てはめる方が間違いだ」

「……それって、ただの馬鹿じゃない?」

戦いの後に訪れる平穏。
だが、未だ戦い続ける者もいる。
だからこそ、二人に休む暇などは無かった。

393: >>1 2011/01/24(月) 22:17:22.57 ID:0iyPfyHe0

ピシ、とひびが入るような音がした。

「―――――?」

辺りを見回すが、特に変化は無い。
だが、ピシ、ピシと、音の間隔だんだんと短くなっていく。

まさか。
そう考え、手の中の霊装に目を向ける。
そして、



パキ…ンという音と共に魔道図書館の遠隔制御霊装はガラス細工のように砕け散った。


394: >>1 2011/01/24(月) 22:32:51.71 ID:0iyPfyHe0

「なッ……!」

最大主教が、驚愕に目を見開く。
ステイルはそれに対し、最初は理解ができず、ポカンとしていたが、すぐに表情を変える。

「く…くくく……!」

その表情は歓喜。
まるで長年の研究の成果の出た科学者のような。

「――――ステイル、貴様の仕業か?」

「く、ふふ……おや、いつもの喋り方はどうしたんです、最大主教?」

「やはり……!」

「いいや……僕は何もしていないさ……」

そう言って、拘束されたままごろん、と仰向けになる。

「だが…これであの子を縛るものは無くなった……!」

395: >>1 2011/01/24(月) 22:45:47.43 ID:0iyPfyHe0

ふ、と最大主教から顔から憤怒の表情が消えた。
だが、それはステイルに対する許しを意味しない。
そこには、ただ失望と侮蔑があったのだから。

コト、という音と共に、ローラ=スチュアートが杖を手に持つ。
ステイルにそれの正体はわからなかったが、どうせろくでもない霊装だろうと結論付けた。

ボウ、とステイルの上空に火球が現出する。

「炎、か……僕に相応しい死に様じゃないか」

「……そうか」

「まあ、あの子を守って死ぬのが理想だったかな」

興味なさげに、最大主教はブツブツと詠唱する。
それと共に、炎が肥大化する。

「―――先に行っているよ」

そして、炎はステイルに向けて堕ち、その体を完全に飲み込んだ。

396: >>1 2011/01/24(月) 22:58:02.58 ID:0iyPfyHe0

「………」

反逆者は、一人始末できた。
ともかく、今は魔道図書館をどうにかしなければならない。
いや、アレイスターの件が先か。
そこまで考えた所で、




炎を落とした跡に、白い影が立っている。

「……何者かしら?」

煙と熱によって遮られていた視界が、徐々に晴れていく。
そして、そこに立っていたのは、


「―――禁書、目録?」


397: >>1 2011/01/24(月) 23:07:21.05 ID:0iyPfyHe0

ステイルは、またも起きた事態に対応しきれずにいた。
炎から自分を守った少女は誰だ?
彼女が何故ここにいる?
そもそも自分を助ける理由など、彼女には―――

「すている」

少女の唇から、炎の魔術師の名がこぼれおちる。
それは、彼が何より欲する言葉。
そして、もう戻るはずのない言葉。

「ごめんね、すている」

あの頃と同じ目で、少女が言葉を告げる。
慈しむように、警戒などの感情を全く感じさせない顔で。

「遅くなっちゃってごめんね、すている………ただいま」

398: >>1 2011/01/24(月) 23:19:24.27 ID:0iyPfyHe0

「何故……」

驚きを隠せない顔で、最大主教が問う。

「どうして…記憶が戻っている…?」

答えるために、インデックスが最大主教に顔を向ける。
その目には、決意の色を宿して。

「今思えば、最初からおかしかったんだよ」

「私にかけられていた首輪は、記憶と魔力を奪うためのもの」

「にも関わらず、破壊された後も記憶はおろか、魔力さえ戻らなかったんだよ、つまりは―――」




「私の魔力と失われた記憶は全て、自動書記に奪われていたんだよ」

399: >>1 2011/01/24(月) 23:29:39.73 ID:0iyPfyHe0

「そうだとしても、記憶を取り戻すことなど……ッ!?」

そこまで言ってから、気付く。
少女は一度、右方のフィアンマによって、霊装で操られたことに。
彼女には、あらゆる魔術を解析する力があることに。


そして、遠隔制御霊装が前触れもなく砕け散ったことに。

「ま、さか……」

あり得ない。
だが、あえてその可能性を口にする。

「掌握したのか……自動書記を……!」

返事は、無い。
だが、無言は肯定と同意だった。

401: >>1 2011/01/24(月) 23:40:48.23 ID:0iyPfyHe0

ならば。
魔道図書館が命令を聞かぬ邪魔者になったのなら。
その意思と共に、最大主教は杖を構える。

「インデックス……!」

ステイルが、少女の名を呼ぶ。
危険だ、心配だという風に。

くす、とインデックスが微かに笑う。

「だいじょうぶだよ、すている」

やがてそれが、満面の笑みへと変わる。

「それに、今度は私が誰かを守る番なんだよ」

そして、少女はステイルに背を向け、敵に向かう。
ただ、大事な人を守るために。



少女の形をした生まれたての魔神は、己を傷つけた組織の首領へと牙をむく。

402: >>1 2011/01/24(月) 23:48:19.07 ID:0iyPfyHe0

『……どうしますか、彼らは絶対に来ますよ?』

『ふむ、それなら……アレを出しなさい』

『アレ、ですか?しかし戦闘能力が少し足りないのでは……』

『問題はありません、彼か彼女のトラウマを刺激すればいいのですから』

『それは…前例が…』

『それよりは戦闘能力は少しは上ですし、強化用のツールもあるでしょう?』

『……わかりました、その通りに』

『頼みましたよ、それが唯一の対抗策です』

『……了解』

410: >>1 2011/01/28(金) 21:20:31.83 ID:p45b2E0X0

―――突入前日

『……ねぇ』

『ん?なにかな、お姉様』

『アンタは、第三次製造計画ってので生まれたって言ったわよね』

『……うん、そーだよ』

『じゃあ、施設の場所とかわかる?』

『一応、ね。まだ初期段階だから潰してもワラワラ湧くこともないし…叩くなら今、かな?』

『……そう、ありがとう』

『……ねえ』

『ん?』

『ひとつ、聞いてもいい?』

『ええ、なんでもいいわよ』

『どうして、ミサカ達のためにここまですんの?ミサカ達は確かにお姉様を元に作られた、だけど―――』

『そういうの、もういい加減聞き飽きたわよ』

『へ?』

『私がそうしたいからしてるだけ。罪滅ぼしとかそういうのじゃないのよそれに……』

『……それに?』

『妹に姉が世話を焼いて、何がいけないの?ってことよ』


411: >>1 2011/01/28(金) 21:46:36.41 ID:p45b2E0X0

そして、現在。
5人は、それぞれの共通の敵、アレイスターを討つべく『窓のないビル』まで走って移動していた。
正確には、ベクトルや磁力を操作してビルの外壁を蹴って飛んでいるようなものだが。
ちなみに、上条と打ち止めは、二人とも一方通行の小脇に抱えられていたりする。

ふと、御坂美琴と番外個体が立ち止まる――磁力でブレーキをかけた、というのが正しいだろうか。

「オイ、どォした?」

「先に行ってなさいよ」

美琴は、ぶっきらぼうにそれだけ答えた。
納得のいかない一方通行が理由を聞こうとする。
だが、

「行こうぜ、一方通行」

上条が、何かを察したようにそう告げる。
一方通行は、彼が言うなら大丈夫だろうと考え、あァ、とだけ答えた。

「ミサカもミサカも、一緒に――」

「駄目だよ上位個体、あなたはそこの問題児の保護者なんだし」

「オイ、誰が問題児だとォ?」

「あなたに決まってるじゃん」

いつもの調子。
だが、むしろそうである方が今はいいのだろう。

「御坂」

「…なに?」

「……約束だ、絶対に全員で日常に帰ろう」

「……うん」

コツン、と握りこぶしをお互いぶつける。
上条が抱えられていなければ、もう少し様になっていただろうか。

412: >>1 2011/01/28(金) 21:59:39.66 ID:p45b2E0X0

ガコン、と金属製の扉が開く。

「ここが第三次製造計画の、試験的な生産プラントだよ」

「……ここが」

広い部屋に、地下への階段と、壁と天井にはむき出しの配管や鉄骨。
主要な設備や、妹達の培養器は地下にあるらしく、他に目立つ物は無い。

「行くわよ、ここでもうこんなことは終わりに―――ッ!?」

途端、美琴が何かを感じ取る。
遅れて、番外個体もソレに気付く。

「――上ッ!」

叫んだ途端、天井からソレが落ちてくる。
まとうモノは、紫電。
そして、それがゆっくりと顔をこちらに向ける。

413: >>1 2011/01/28(金) 22:14:30.52 ID:p45b2E0X0

「妹、達…?」

だが、何かが違う。
彼女たちよりも自分に近い気がするし、遠くも感じる、と美琴が思う。
そして、答えが出る前に返事が来る。

「はじめまして、お姉様」

やはり、妹達。
しかし、番外個体がミサカネットワークに繋いでも、こんな個体の情報は出てこない。

「ミサカは、『00000号(フルチューニング)』。早速ですが、お二人には死んでいただきます」

バチィン!と雷がはじける。
近距離で放たれたそれに二人とも掠りはしたが、ダメージは見られない。

「―――行きなさい!」

美琴が、叫ぶ。
番外個体は理解できない、という風に美琴の方を見る。

「妹のやんちゃを叱るのも姉の仕事よ!それに、アンタはまだ眠ってる子達に言いたいことがあるでしょ!」

そう諭され、ぎゅっと拳を握りしめ、番外個体は地下への道を一気に駆け抜けた。

414: >>1 2011/01/28(金) 22:30:34.57 ID:p45b2E0X0

「……あら、追いかけないのね」

「必要がありません、ミサカの目標はここの防衛ではなくあなた方の戦力を削る事です」

無感情に、そう言い放つ。
実験中の妹達の方が、この子よりも感情豊かじゃなかったか、と思いながら、

「随分な自信ね、言っとくけどオネーサマ、妹に簡単にしてやられる程ヤワじゃないわよ」

「ええ、ただの妹達なら無理でしょう」

その物言いにどこか引っかかり、聞き出そうとする前に答えは返ってきた。

「ですが、『暴走した特別仕様の妹達』なら話は別です」

「―――暴、走?」

ス、と00000号が粉末の入ったケースを取り出し、中身を口に放り込んだ。

アレは何だ。
暴走。
RSPK症候群。
置き去り。
木山春生の生徒。



――――能力体、結晶。

415: >>1 2011/01/28(金) 22:39:29.94 ID:p45b2E0X0

バチバチと、制御しきれていない紫電が00000号の周囲で音を立てる。

「ミサカの通常時でのレベルは4……一応、これでお姉様と互角でしょうか」

「……アン、タ」

美琴が目を見開き、目の前の自分そっくりの少女を凝視する。
目が血走り、息も荒くいかにも苦しそうな少女を。

「御覚悟を、お姉様―――」

「こんの……馬鹿妹ッ!!!」

美琴が地を蹴り、一気に00000号の元に駆ける。
妹の姿に、涙さえ流しそうになりながら。




「―――なんとでもどうぞ、ミサカは、姉も自分も必要ありませんので」

422: >>1 2011/01/30(日) 19:06:01.82 ID:+vD0ABa40

雷を纏ったまま、美琴は00000号の懐に突っ込んでいく。
対して、00000号は懐に手を入れる。

出てきたものは、釘。

「ッ!!」

瞬時に打ち出されるソレを、とっさに横に飛んでかわす。
細かい演算はできていないのか、超電磁砲ほどの威力は見受けられない。
だが、当たれば致命傷となることは間違いない。

次の手を打たせる前に、脇から美琴が磁力を使った高速移動で肉迫する。
体晶の副作用によって、00000号がそのタイミングの攻撃に反応するのは困難だった。

だが、防御は必要無い。

「――――お姉様」

「ッ!?」

そう、少し苦しげに言葉を紡げばそこに隙ができる。
相手は、自分のことを救うために向かってきているのだから。
そんなことを考えながら、00000号は美琴に向かって紫電を放つ。

423: >>1 2011/01/30(日) 19:28:06.65 ID:+vD0ABa40

だが、いくら隙があろうとレベル5。
迎撃程度の雷撃などが、御坂美琴にはダメージを与えることは無い。
体勢を立て直すために、美琴は数メートル後ろまで跳ぶ。

「……どうして」

「?」

「どうしてよ!どうしてそんなボロボロになってるのに戦おうとするの!?そんなことしたって、アンタが傷つくだけじゃない!」

美琴は、必死に叫ぶ。
しかし、言葉は届かない。

「ミサカが傷つけば、貴方の心を傷つけることができる……目標達成に近付きます」

「なっ……!」

言いながら、再び釘が打ち出される。
不意打ちながらも、美琴はそれを即座に磁力で弾く。

「目標って……そのためなら死んでもいいって言うの?」

「……質問を理解しかねます。ミサカは目標達成のために生きています。その過程で何があろうと結果さえ残せればかまいません」




424: >>1 2011/01/30(日) 19:44:34.93 ID:+vD0ABa40

その言葉に、美琴は妹達の言葉を思い出す。
かつて彼女らは、実験動物として必要な知識しか持っていなかった。
それと同じ。
彼女もまた、死への恐怖すら持っていないのだ。

だが、絶対に救える。
否、救ってみせる。

妹達に生を望ませた少年のことを想いながら、美琴は00000号に向かっていく。

言葉は届かないかもしれない。
だが、拳は届くかもしれない。

殺し合うのではなく、殴り合うことで学ぶこともあるかもしれない。
それが駄目なら、また違う手段で想いをぶつける。

もう二度と、諦めなくてもいいように。

425: >>1 2011/01/30(日) 20:08:51.46 ID:+vD0ABa40

やっと無意味な会話は終わりか、と00000号は向かってくる美琴に対し攻撃をはじめる。

まずは、釘。
だが、かわすこともなく弾き飛ばされる。

ならば、雷撃。
だが、有効なダメージを与えられない。
そもそも電撃使いに雷撃は効果が薄いのだが。

そして、そのまま美琴が目の前まで近付いてくる。

ならば。

「―――缶バッジ、嬉しかったですよ」

「ッ!!!」

動きが、止まる。
その隙に、00000号は美琴の腕を掴む。
至近距離で最大出力の電気を流せば、感電はしなくとも、熱で皮膚を焼くことはできるだろうから。

426: >>1 2011/01/30(日) 20:21:05.17 ID:+vD0ABa40

だが、電気を流す前に、掴んだ腕から00000号に何かが流れ込んでくる。

それは記憶。
今まさに00000号が美琴に思い出させた、9982号との記憶。

『アンタ……何者?』

『ミャー』


『これはなかなか…』

『なんで私が奢るハメに…』


『うん!こうしてみると結構アリかも――』

『いやいやねーだろ、とミサカはミサカの素体のお子様センスに愕然とします』


『一緒に猫とじゃれて、一緒にアイス食べて、缶バッジ取り合って、これじゃあまるで本当に…』

どこにでもいそうな手のかかる妹と、世話焼きな姉のような時間。
そして。

427: >>1 2011/01/30(日) 20:30:55.73 ID:+vD0ABa40

『アハハ…何よコレ…私の代わりにクローンを殺すとか絶対能力者とか…』

『今の時刻は21:05、実験の開始時刻は―――!』


『誰もいない……そうよね、あんなバカげた計画……』

『……え?この、ゴーグル、は』


そして、目の当たりにする実験と、絶望。
その記憶には、悲しみと、後悔と、

そして、不器用な愛情が確かに存在していた。

428: >>1 2011/01/30(日) 20:48:23.08 ID:+vD0ABa40

「―――あ」

そして、一瞬で現実へと戻される。
目の前には、今見た記憶の中で、突然現れた9982号に対して困惑しながらも、拒絶などしなかった少女がいる。

記憶の中で、美琴の妹達への思いの暖かさと、彼女自身の苦しみを知ることで、00000号は、新たに感情を得た。
それは、後悔。
自分たちをここまで思っている人に、自分は何をしているのだろう、という後悔。

その感情は、彼女が機械によって打ちこまれた生きる理由を、ことごとく消し去った。
そして。

「ミ、サ――ミサササミミミサカカカカサミサカミサ――――ッ!!」

自分を見失い、暴走する。

金属製の床へと電気が流れていき、壁の配管が磁力に引かれてギチギチと音を立てる。

429: >>1 2011/01/30(日) 21:04:21.85 ID:+vD0ABa40

「……大丈夫よ」

美琴は、ぎゅっと00000号を抱きしめる。
大丈夫。
妹に少しトラウマを掘り返されたくらいで、怒ったりはしない。
そして、絶対にあんなことにはさせない。

配管のボルトが弾け飛び、壁から離れだす。
それに続くように、大量の金属が全方位から00000号に向かってくる。

数百、いや、小さいものも合わせればもう一桁上だろうか。

雷撃では、威力が足りない。
磁力で弾き飛ばそうにも、この勢いと数では難しい。
超電磁砲も、こんな状況ではまともに扱えない。

だが、そこでおかしなことに気付く。
そして、そのことに笑みを浮かべながら呟く。

「……良かった、やっと姉らしいことができそうだわ」





440: >>1 2011/01/31(月) 22:23:46.56 ID:aPyQfGMK0

コツン、という靴音と共に番外個体は立ち止まった。
培養器と、機材の立ち並ぶ部屋。
彼女はここで造られ、そうしてロシアに送られた。

(人の気配は無し……逃げやがったのかな?)

つまらない。
一人でも居れば散々に罵って痛めつけてやったのに。
少し不機嫌になりながら、彼女はソレを探す。

「見ぃつけたっ……と」

ソレは、すぐに見つかった。
培養器内の状態を一括で調整できるように作られた、無駄に大きな機材。

番外個体はそれに近付き、コンソールに手を伸ばす。
ここで2、3の操作を行えば、第三次製造計画で造られたミサカを一挙に処分できる。

だが、自分はそんなことの為にここに来たわけではない。

441: >>1 2011/01/31(月) 22:44:36.24 ID:aPyQfGMK0

そっと機材に触れたまま、番外個体は能力を行使する。
コレは全ての培養器と繋がっている。
そして、培養器の中身は、自分と同じ脳波を持つ御坂美琴のクローン達。

ミサカネットワークのようにはいかないまでも、自分と彼女たちの脳を繋ぐには十分だった。

『―――ねえ、聞こえてる?』

届かないかもしれない。
自分の言葉で、どうにかできると考えるのは間違いかもしれない。
だが、それでも語りかけるのをやめたりしない。

『アンタ誰よ、お人形に話しかける痛い趣味のヒト?』

声が、返ってくる。
自分たちは遺伝子レベルでめんどくさい性格なんだろうか、と苦笑しながら、

『違うってーの、簡易的なネットワーク構築して話してるんだし、あなたたちと同じに決まってるじゃん』

『あー、そう。で、第一位は殺せたの?』

今度は、別のミサカが質問を投げかけてくる。

『いーや、めんどくさいからやめちゃった』

442: >>1 2011/01/31(月) 23:09:35.54 ID:aPyQfGMK0

『やめちゃった、って……じゃあ何でここにいんの?』

『……生きてるからでしょ』

直感的に、言葉が出た。
別に、台本を用意しているわけでもないのに。

『何それ、ふざけてんの?』

『そーでもないよ。ミサカは、ロシアで一方通行に負けてから、やっと生まれることができた』

『……ますます意味わかんない』

『勝手に決められた生き方での人生なんて、生きてるなんて言わない。それだけだよ』

『………』

全てのミサカが、口を開かない。
迷っているのだ。
紛れもなく本心から想いを語る番外個体に。

443: >>1 2011/01/31(月) 23:15:49.51 ID:aPyQfGMK0

『……さっさと、その殻を破りなよ』

『…え?』

『ミサカが決めちゃ、意味が無い。あなた達が自分自身で生まれることに、意味があるんだから』




『―――さあ、行こう』




そして、多くのミサカを包んでいた殻が雛によって砕かれ、
その部屋に、意思を持った命が溢れた。

444: >>1 2011/01/31(月) 23:43:04.59 ID:aPyQfGMK0

そして、上階。
美琴が感じた違和感は、二つあった。
一つは、壁のありとあらゆる金属が引き寄せられる前に00000号が床に電気を流したこと。

そして、もう一つ。
自分の服の金属部分と、懐に忍ばせてあるコインが、何の反応も示さなかったことだ。

つまり、
引き寄せられているのは壁の金属だけであって、他には影響が無いのならば。

そこで美琴が取った行動は、数十のコインを空中に撒き散らすこと。
そして目を瞑り、コインの位置、射出角を調節する。

かっ、と美琴が目を見開いた。

「―――行けっ!!」

全方位に、絶対的な破壊をもたらす弾丸が、衝撃波と共に打ち出された。

445: >>1 2011/01/31(月) 23:58:09.01 ID:aPyQfGMK0

その弾丸の数は、撃ち落とすべき目標に対し、あまりにも少ない。
しかし、ソレが伴う暴風によって、全ての飛来物を吹き飛ばすには十分だった。

「っぐ、ひぐ…」

脅威の払われた場所に、泣き声が木霊する。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

ただ、謝り続ける。
まるで、それしかしらない子供のように。

「……いいのよ、もう、大丈夫」

「でも、ミサ、カはあなた、に―――」

「姉って、呼んでくれないの?」

困ったような顔で、美琴が告げる。
00000号は、ただ、きょとんとして、言われるがままに返した。

「……お姉様?」

「よくできました」

そう言って姉は、世話の焼ける妹を、ただ優しく抱きしめた。

452: >>1 2011/02/01(火) 22:58:25.84 ID:IMlhHpkK0

「―――ひとまず、私は番外個体とこの子たちを病院に連れてくから」

『おう、こっちはこっちでどうにかするから、気を付けてな』

ピ、という電子音と共に通話が切れる。
少し名残惜しそうにしながらも携帯を閉じ、美琴は番外個体に向き直る。

「それじゃ、行くわよ。妹達がお世話になってる病院があるし、ひとまずそこに―――」

「お姉様」

「ん、なに?」

「そんなに気になるなら、先に合流しててもいいんだけど?」

その言葉に、美琴はぽかんと口を開けたまま石像のように固まった。
数秒後、その顔はみるみる紅潮していき、ポフン!という擬音と共に沸騰した。

「にゃ、にゃにをいってんのよ!べべべべべ別に私はアイツのことなんか」

「誰とは言ってないんだけどなー」

「~~~~~っ!!」

先ほどまでの頼れる姉はどこへやら、興奮し、混乱し、自爆する美琴。
その姿に、妹である00000号と第三次製造計画のメンバーは孫を見ている気分になったそうだった。

453: >>1 2011/02/01(火) 23:14:52.06 ID:IMlhHpkK0

「……終わったかァ?」

「おう、もう大丈夫だ」

そう言って、携帯をポケットの中にしまう。
ふと、打ち止めが気付いて声をかける。

「ねえ、ヒーローさんはゲコ太が好きなのかなってミサカはミサカは意外性に突っ込みをいれてみたり」

「んー?ああ、コイツはみさ――美琴と携帯のペア契約した時にもらったヤツなんだけどな……」

うーん、と上条が首を傾げれば、すかさず打ち止めがどうしたの、と質問する。

「いや、あの宿で起きた時には無くなっちまってたはずなんだよ」

それがどういうわけかくっついている。
あと、心なしか紐の部分が綺麗になっている気がしないでもない。

「……オリジナルが付け直したンじゃねェのか、他にいねェだろォがよ」

「んー、ああ、そうだな。部屋も一緒だったし、アイツ家事できるしな」

「そォいうことだ……見えたぞ」

言われるままに前を見れば、そこには窓のないビルが佇んでいた。

454: >>1 2011/02/01(火) 23:33:21.50 ID:kAC9hWY00

ズン、という音と共に着地し、一方通行は上条と打ち止めを降ろす。

「ここが、ねえ……本当に窓がねーや」

「どうするの?やっぱり正面突破かなってミサカはミサカは荒っぽい手段を提案してみる」

確かに、それが一番簡単だろう。
だがしかし、一方通行がその考えを否定する。

「残念ながら、地球の自転のエネルギーをぶち込んでもビクともしねェよ……ンで、思い当たったのが『魔術』だ」

「んー確かに、アレイスターってのはとんでもない魔術師らしいし、そのくらいできても不思議じゃねーよな」

入り口でも無いか、と上条はぺたぺたとビルの壁面に触れる。
だが、特におかしな所も無い。

「魔術の専門家がいるわけでもねーし……とりあえず、殴ってみっか」

上条はその場から2歩下がり、深呼吸をする。
そして、大きく振りかぶり、足で一気に踏み込み、

右手を、振り下ろした。

455: >>1 2011/02/01(火) 23:48:53.00 ID:kAC9hWY00

だが、その拳が当たる直前、

ビルの壁面に、風穴が空いた。

「―――は?」

するとどうなるだろう。
本来なら、壁とぶつかり、そこで止まるはずだった体が、支えを失えば。

上条当麻は、その勢いのままゴロゴロと穴の中に転がっていった。

「うおわぁぁああああああああああああっ!?」

「ヒィィィロォォォォオオオオオオオオオオッ!!」

そしてそのまま、シュン、という音と共に穴は閉じた。
警戒していた反面、これは少しシュールである。

「ど、どうしよう!一人だけ中に入っちゃったってミサカはミサカはパニック状態!」

「落ち着けェ!チッ……どォにかして中に―――」

安心したまえ、彼は招かれただけで別に取って食われるわけではない。

456: >>1 2011/02/02(水) 00:05:50.13 ID:WT17NuSB0

「―――ッ!!」

背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。
バッ、と一方通行は勢いよく声の方向に振り向く。
そこに居たのは。

「またか…」

長い髪を持ち、淡い光を放ち、人ならざるモノ。

「またオマエか、『エイワス』ッ!!」

「ふふ、そう怒ることは無いだろう、今の私はミサカネットワークに負荷をかけて顕wq現sy――ここにいるわけではない」

そうだとしても、腹立たしいものは腹立たしい。
一方通行は、打ち止めに下がるように言うと、チョーカーの電源を入れなおした。

「まあ、このビルの防御術式が私と連動するタイプになっているのだから、戦うのも間違いではないか」

「は、そりゃ良い情報アリガトウ!そのまま死ンどけェッ!!」

ズドン、と爆発的な衝撃を地面に与えながら、一方通行はエイワスに向かって飛んだ。

457: >>1 2011/02/02(水) 00:18:08.79 ID:WT17NuSB0

「つぅ……いてて……」

上条が、床にぶつけた体をさすりながら立ち上がる。

「にしても、なんだココ?壁のアレは術式、か?」

「―――儀式場だよ」

背後から声を聞き、振り返る。
そこには、液体に満たされた巨大な水槽。
そして、男のような、女のような、人のような人ではないような者。

「……アンタが、アレイスターか」

「そうだとも」

あっさりと、認める。
そして、空間が、否、そこにある何かが歪んでいく。

「……ふむ、『本体』が出るのは何年ぶりだったか」

水槽が、跡形も無く消える。
まるで、最初から何も無かったかのように。
そこに立っている者が、持っているのは杖。

「さて、前菜とはいえ、久方ぶりのショータイムだ、楽しもうじゃないか」

464: >>1 2011/02/03(木) 18:50:28.24 ID:GvXVDiy80

一方通行がエイワスへと飛ぶ直前、その距離は十数メートル。
そして、一方通行が風のベクトルを操作し、竜巻を背負ってエイワスに到達したのは1秒にも満たなかった。
その勢いのまま、一方通行は右手をエイワスへと叩きこむ。

衝突。
だがしかし、音も、手ごたえも無かった。
ただ、彼の拳は目の前の目標に触れる直前で、静止していた。

「お、おォォォォォおおおおおおおおおおッ!!」

すかさず、左手も叩きこむ。
しかし、結果は変わらない。
そして。

エイワスが、一方通行に向かって含みのある笑みを浮かべた。

一瞬で、二人の距離が数十メートルまで広がった。
どちらかが逃げたわけではない。
一方通行の体が、圧倒的な『力』によって吹き飛ばされたのだ。

465: >>1 2011/02/03(木) 19:07:11.00 ID:GvXVDiy80

「ク、ソッ……!」

背中の竜巻で、体制を整える。
やはり、通じない。

ロシアで見た大天使とは違う。
外見こそ似た物に見えるが、扱うベクトルが全く違う。
学園都市第一位の頭脳を持ってして、片鱗すら掴めないほどに。

「どうしたのかな、顔色が悪いが」

くつくつと、エイワスが嘲笑しているように見える。

打ち止めに負担をかけてまで生まれた、
少し前には、完膚無きまでに叩きのめされ、見下されたも同然な、
その存在が、自分を嘲笑っている。

一方通行に、感情の制御は不可能だった。

466: >>1 2011/02/03(木) 19:15:28.00 ID:GvXVDiy80

ゴパァ!と、空気が爆発する。
白髪の少年が、纏うのは黒。

木原数多を、垣根帝督を蹂躙した黒い翼。

グン、と凄まじい速度で距離を詰める。
衝撃波によって、周りの地面が抉られていく。

衝突。
手ごたえは無いのは分かっている。
だからこそ、黒の翼をエイワスへと向ける。

エイワスが、それに動じることはない。
だが、それでも、一方通行は翼を振り下ろした。



467: >>1 2011/02/03(木) 19:27:23.76 ID:GvXVDiy80

「………やはり、こんなものか」

その場にはそぐわない、穏やかな声。
エイワスは、翼すら用いていない。
ただ、素手で翼は受け止められていた。

「私にオシリスの法則で対応しようとするのが間違いだよ。既存の物理法則なら尚更無謀というものだ」

ぐぐ、と言葉の間にも、一方通行は翼をエイワスに押し付ける。
だが、それが動くことは無い。

「君にホルスの時代の力を期待するのは間違いだろうが……ただ、まあせめてこのくらいでなくては」

言葉と共に、エイワスの手に掴まれている所から翼が変色していく。

その色は、黒とは真逆。

ロシアで手に入れた、天使のような、白の翼。



468: >>1 2011/02/03(木) 19:34:12.19 ID:GvXVDiy80

わざわざハンデを与えた。
否、違う。

完全に、遊んでいる。

それほどまでに、圧倒的な壁がある。
だが、一方通行が諦めるようなことは絶対に無い。

彼の望む未来には、あのやかましい少女と、憎たらしい女の笑顔が必要なのだ。

そして、そこに目の前の敵のような存在があってはならない。

だからこそ、再び一方通行はエイワスに向かっていく。
たとえ無謀でも、無理でも、無茶でも、


その先には、自分の夢があるから。


477: >>1 2011/02/04(金) 21:57:28.74 ID:td1hU4qt0

上条当麻には、幻想殺しだけで説明できない部分がある。

一つは、未来予測にも感じられる程の感知能力。

一方通行がロシアで対峙した時に確信した前兆の感知。
正確には、前兆がなかろうと反応しているのだが。
上条は、自分の意識しないところで、無意識的にそれを行う。
それが、あらゆる異能を打ち消す右手を最大限に活かしている。
誰かの危機に、タイミングよく駆けつけることができるのもこれが関係しているだろう。

二つ目は、その再生能力。

そもそも、冥土帰しがいくら名医とはいえ、上条の治癒のスピードはおかしいのだ。
『実験』で一方通行に暴風で吹き飛ばされた時でも、立ちあがってみせた。
ロシアではフィアンマに切断された右腕を、自分で『生やして』みせた。

そう、異常なのだ。
彼の力は、世界の騒乱などというレベルでも、収まりがつかない程に。

478: >>1 2011/02/04(金) 22:11:38.00 ID:td1hU4qt0

ぎしぎしと、右手と『力』が拮抗する。
打ち消すには、相手の出力が高すぎる。
ならば、とそのまま右へとなぎ払う。

「……ほう」

そのまま、力の塊は壁に激突する。
そして、吸い込まれるように消えていった。
おそらく、根本的には同じものなのだろう。

「やはり、な……素晴らしい。その力、人の身には余るものだ」

「そうかよ、けど、アンタの力も見に余るんじゃねぇか?」

くく、とアレイスターは笑う。
全てが思い通りだ、と言わんばかりに。

「私には理由がある、大義がある。そのための力だよ」

だが、とアレイスターは上条を指差す。

「君は違う。戦乱を招きかねないその力で、目先のことしか考えず闘うだけだ」

479: >>1 2011/02/04(金) 22:24:18.81 ID:td1hU4qt0

(―――来る!)

とっさに横に飛び、攻撃を回避する。
アレイスターは攻撃に動きも詠唱も必要としていない。
だが、それでも上条には分かる。
目の前の相手が、どこに何をしてくるのか。

「―――君はどれほど自分を知っている?」

その質問に上条は返答できない。
自分は、知らない。
この身に宿る力どころか、数か月前までの自分ですら。

自分は、『上条当麻』を何も知らない。

「理由も無く、ただそこにある力を振るっているだけで人を救ったつもりか?」

「……それは」

「それは人にとって、世界にとって危険なことだ。現に争いは起こったのだから」

480: >>1 2011/02/04(金) 22:40:53.88 ID:td1hU4qt0

「力は正しき知識によって制御されてこそ、人を救うことができる」

例えば、御坂美琴の電気や一方通行のベクトル変換。
それは、確かに使い方次第で、人を殺すことも生かすこともできる。
上条の力も、それと同じ。

「君の手より、私の手にある方がより多くの人を救える。君の守りたいものも守りきることができる」

確かに、そうだ。
この力に知識が合わされば、もっと多くの人を助けることができるかもしれない。

「……ああ、そうかもな」

けどな、と上条は噛みしめるように言う。

「その力のために、沢山の人を泣かせるような奴の救いなんて誰も必要としてねぇんだよ!」

481: >>1 2011/02/04(金) 22:54:01.65 ID:td1hU4qt0

そして、ビルの外。
一方通行の翼に対して、エイワスも翼を具現させる。

ゴッギィィ!!という音を立て、翼が激突した。
ギリギリと、そのまま鍔迫り合いのごとく互いに押し合う。

「―――クソったれがァッ!!」

「そう力まないことだ、いや、それもまた君たちの面白い部分ではあるが」

ガギィン!!と音を立て、互いをはじく。
そして、一方通行はまたエイワスへと一直線に向かっていく。

「……さすがにそれは、馬鹿の一つ覚えというものだろう」

一方通行の耳には、それは届かない。
彼の頭には、目の前の敵を倒すということだけしかない。
1度で駄目なら2度、駄目なら3度4度と、それだけが渦巻いていた。

「それでは、一度思い知るしかないかな」

482: >>1 2011/02/04(金) 23:03:15.01 ID:td1hU4qt0

打ち止めは、戦いを少し離れたところで見ていた。
戦いの余波が、近くの地面を抉り、突風や破片なども飛んできていた。

だが、彼女はそこを動かない。

ここで逃げれば、もう会えないような気がしたから。
彼はいつも、自分を放ってどこかへと行ってしまう。
だから、ここを動くことは無い。

だが、それでもまだ不安があった。

どこかに行くことが無くても、彼が戦いの中で倒れ、そのまま帰ってこないかもしれない、ということ。
だからこそ、彼女は目の前の戦いを見続ける。

どんなに心が折れそうでも、どんなに絶望的でも。

帰る場所があれば、彼はきっと強くあれるから。

483: >>1 2011/02/04(金) 23:14:56.74 ID:td1hU4qt0

『―――大丈夫』

頭に、声が響く。
どこかで聞いたことがある気がする。
だが、思い出せない。

『話すのは初めてかな、私、風斬氷華』

「ミサカは打ち止めだよ、ってミサカはミサカは自己紹介してみる」

優しい声。
敵意は無い。
むしろ、こちらを労るように話す。

『―――祈ろう』

「え?ってミサカはミサカの頭上に疑問符を浮かべてみる」

『祈りは届く、それで人は救われる……多分、私の友達がそう言ってた気がする』

「――うん、そうだね、ってミサカはミサカはあの人への想いを精一杯祈ってみる」

484: >>1 2011/02/04(金) 23:24:34.94 ID:td1hU4qt0

一方通行が、再びエイワスと衝突する。
ガギィィン!!と音を立て、翼はまた拮抗する。

だが。

エイワスの翼によって、一方通行のそれが弾かれる。
強大な力に、バランスを崩す。
そして、遊びでなく戦いなら、体勢を立て直す機会など与えられるはずが無い。

瞬時に、エイワスが一方通行の頭上へと出現する。
とっさに、翼で身を守る。
だが、無意味。

エイワスの翼は振るわれ、
一方通行の体はその勢いのまま地面に叩きつけられ、

そのまま、動くことはなかった。
ただ、衝突で散った羽が周辺を舞うだけ。

打ち止めの悲鳴が、その場に木霊した。


489: >>1 2011/02/05(土) 22:38:49.01 ID:mhC36qxJ0

声が聞こえる。

暗闇の中に、声だけが聞こえる。
遠い。
誰の声かわからない。

近付いてくる。
誰だ。
誰の声だ。

俺を呼ぶのは誰だ。


『―――よう』

490: >>1 2011/02/05(土) 22:54:14.36 ID:mhC36qxJ0

「……チ、クソメルヘンかよ」

『なっ……オイオイ、そんな罰ゲームみたいに言うんじゃねーよ!』

あんまりな扱いに、垣根が抗議する。
だが、おかしい。
自分は妹達のようにネットワークを構築して意思の疎通を取ることなどできはしない。

「なンでオマエの声が聞こえてンだよ?まさか、助けにでも来たってのかァ?」

その問いに、垣根は、ふん、とだけ言って嫌そうな顔で答える。

『誰がテメエを助けに入るか、声が聞こえて気付いたらこの状態だ』

「……声?」

『ああ、多分最終信号のな』

その言葉に、詳細を問い詰めようとする。
だが、その前にまた新たに声が聞こえる。

『――おい、大丈夫か!?』

491: >>1 2011/02/05(土) 23:08:44.78 ID:mhC36qxJ0

新たな声は、浜面仕上。
一方通行には、さらに現状がわからなくなった。
垣根だけなら、まだ能力だとかAIM拡散力場だとか、それで説明がつくかもしれない。
だが、彼は無能力者。
この状況には、あまりにも不似合いな存在だ。

『お前が連れてた小さい女の子が言ってたんだよ、「助けて」って』

疑問に答えるように、浜面が答える。
だが、それでも、どうしてこうなったのかはわからない。

『ま、お前さんも愛されてるってことだにゃー』

ニヤつきながら言うのは、土御門。

『まったく……少し嫉妬してしまいますよ』

溜息をつきながらも顔は笑っている、海原。

『どうでもいいけど、今の貴方、だらしないわよ?』

呆れたような顔の、結標。

492: >>1 2011/02/05(土) 23:16:53.64 ID:mhC36qxJ0

「……オマエら」

『ったくよぉ、こんなのこれっきりにしろよ?』

言葉の後、何かが流れ込んでくるのを感じる。

「……コレは?」

『さぁな、よくはわからねえ。けどな、俺達が力を貸してやってんだ―――ヘマ、すんじゃねぇぞ』

声が消える。
暗闇が晴れ、目の前が明るくなっていく。

そう、自分は倒さなければならない。
そして、未来を勝ち取らねばならない。

だからこそ、もう一度立ちあがる。

493: >>1 2011/02/05(土) 23:26:31.64 ID:mhC36qxJ0

一方通行が、立ち上がる。
その体から血を流しながらも。

そして、翼を再び力強く広げる。
それは、倒れる前には無かった、神々しいほどの輝きを持っていた。

打ち止めが、立ち上がる姿に安堵し、再び祈る。
彼が勝てるようにと。

エイワスが向けるのは、単純な興味。
目の前の存在が、どのように変貌したか、ということへの興味。

「―――来たまえ」

言われずとも、とでも言うように一方通行は目の前の敵へと突き進む。

対するエイワスは、それを迎撃すべく翼を突き出す。

そして。

パキン、とガラスのわれるような音がした。

494: >>1 2011/02/05(土) 23:41:24.77 ID:mhC36qxJ0

「―――な、」

そのまま。
翼が、標的を薙ぎ払う。
バキバキバキィッ!!とエイワスの翼が砕け散り、霧散していく。

「オシリスか、ホルスか……いや、これはまさか」

白い翼の、真っ白な少年は、そのまま懐へと入る。
そして、もう一度、翼をエイワスへと向ける。

「そうか、これが意思……!全てを司り、全てを支え得る―――」

ザン!!と勢いよく翼は振るわれる。
その一撃は、エイワスという存在を真っ二つにした。

「ふ、ふふふ……」

エイワスが、光の粒となり、消えていく。
だが、表情には苦痛も絶望も見られない。

「やはり、君たちは興味深い……」





495: >>1 2011/02/05(土) 23:47:55.93 ID:mhC36qxJ0

パキン、と一方通行の翼が砕ける。
そうして、支えを失った体は、どさりと地へと落ちる。

タタタ、と打ち止めが駆け寄る。
駆け寄った先の一方通行は、ただ、仰向けで、空を見ている。

「―――ねえ」

「……あァ?」

「おかえりなさい、ってミサカはミサカはあなたを労ってみる」

ふ、と一方通行が鼻で笑う。
まったく、世界は意外に甘いようだ。
こんな自分に、帰る場所を与えるなんて。

「――――あァ、ただいま」

496: >>1 2011/02/06(日) 00:00:35.56 ID:XkM4YYGv0

ふ、と力の消失を感じる。
恐らく、敵の誰かろう。
それを示すかのように、目の前にいるアレイスターが俯いている。

「……どうなってるかは知らねーが」

ポリポリ、と上条が頭を掻きながら、勝利宣言のごとく言い放つ。

「アンタも、ここで終わりみたいだぜ?」

そうして、右手を構える。
自分は、目の前の敵をこの右手で打ち砕く。

共に闘っているものたちが、それを望んでいるから。



しかし。

「―――――――く」

この程度で、終わるようなことは無い。

「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは  はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは―――――ッ!!」

497: >>1 2011/02/06(日) 00:16:07.29 ID:XkM4YYGv0

狂笑。
それが適切だった。

だが、アレイスターが感じているのは、挫折でも、後悔でも、絶望でもない。
それは、歓喜。

「まったく、何もかもが予想通りに動いてくれたよ」

「……な、に?」

アレイスターは笑う。
嘲るように、蔑むように、見下すように。

「ミサカネットワークの変質……これによって全ての準備は整った!」

大きく手を広げ、アレイスターが叫ぶ。

「さあ、今日が新しい世界の幕開けだ!」

そして

上条当麻は、何らかの力が自分から抜けていくのを感じ、

どさ、とその場に倒れ込んだ。

505: >>1 2011/02/06(日) 18:58:17.78 ID:XkM4YYGv0

動かない。
立ち上がれない。
今まで自分はどんなに苦しくても立ちあがってきたというのに。

その源である力が、完全に自分の中から消えていた。

上条は、床に這いつくばりながら考える。

おそらく、今無くなったのはベツレヘムの星でフィアンマと対峙した際に感じたあの力。
顔を上げれば、そこにいるアレイスターが愉快そうにただ笑っている。

そこで確信した。

自分は嵌められたのだと。
この場所に自分を導いたのも、その力を手にするためだと。

つまり、先ほどまでの会話と戦闘はただの時間稼ぎだったということだ。

506: >>1 2011/02/06(日) 19:29:51.84 ID:XkM4YYGv0

「……そもそも、私の計画の核は一方通行、最終信号、ヒューズ=カザキリの三つだった」

アレイスターが、まるで思い返すように語り出す。

「だが、ミサカネットワークは天界の特性を取り込ませても、そのまま現実の世界に具現させるにはいささか存在が脆弱すぎた」

「な…に…?」

どういうことだ、と上条は力を振り絞り、問う。

「ヒューズ=カザキリの覚醒、そしてそれによるエイワスの現出……その現象そのものによってミサカネットワークに新たな性質を持たせる」

その為だけに風斬氷華は変貌させられた。
まるで副作用にも思えるものを得るためだけに。
もっとも、エイワスの方には一方通行と相対させ、彼自身を天使に近い存在にすることによって、
さらにネットワークを完全な存在にするという役目があったが。

「だが、ミサカネットワークは脆いものだった。エイワスを現出させた段階で最終信号が崩壊しかねないほどに」

崩壊、という人間でないような扱いに上条は拳を握りかける。
だが、今の彼に目の前の敵を殴る力は無い。






507: >>1 2011/02/06(日) 19:46:26.99 ID:XkM4YYGv0

「そこで柱が必要となった。だが、既存の魔術では支えることなどはできない」

そこで、とアレイスターが上条の方に指をさす。

「君の中の力に白羽の矢が立ったということだ」

「俺、の……?」

そう。
アレイスターは肯定し、軽く満足げに息を吐く。

「世界を壊しうる存在であり、かつ世界を救いうる存在、『神上』だよ。もっとも、君のソレは対となる存在、『神浄』なのだが」

ようやく、上条は自分の中の力の名を知る。
だが、その本質はわかっていない。

「もともと、君の家系にはそういう素質があった」

そこで、アレイスターは屈み、上条に顔を近付ける。

「思い当たる節はあるだろう?いくら偶然でも、常人が天使を召喚することなどできはしない」

508: >>1 2011/02/06(日) 20:01:29.90 ID:XkM4YYGv0

そして、とアレイスターは続ける。

「その片鱗として、君の右手には幻想殺しが宿った、ということだよ」

つまり、幻想殺しは、『神浄』のシステムの一部でしかないということ。
自分の力の源を知った上条は、さらに問う。

「……それで、その力とミサカネットワークでアンタは何をしようってんだ」

屈んでいたアレイスターが、立ち上がる。

「ミサカネットワークを現実世界に具現させ、あらゆる人の心と繋ぐ」

そのまま、神の洗礼でも受けるように手を広げ、顔を上に向ける。

「それによって、世界と連動するネットワークは、人のあらゆる理想をその世界において現実のものとする」

上条は思い出す。
かつて、似たような話を聞いたことがある。
それは、考えたこと全てが現実となる力、黄金錬成。
しかし、それは術者の精神状態に効果が左右される、不安定なものだった。



509: >>1 2011/02/06(日) 20:13:54.07 ID:XkM4YYGv0

「そう、これも不安定だ。だからこその『神浄』だよ」

考えを読んだように、アレイスターが告げる。

「世界を壊しうる力と同等のものだ。新たな世界のシステムを支えるには適任、ということだ」

そして、辺りが光り出す。
それは、新たな世界の産声。

「ミサカネットワークは適正な状態となり、『神浄』も今やこの手にある」

アレイスターがの言葉と共に、辺りの光が増していく。
上条に、それを止める力は無い。
その上、人の理想が叶う世界というものを否定してしまっていいのか、という迷いもあった。
だからこそ、上条が立ち上がることはなかった。
そして。



その光は、全世界へと広がっていった。

521: >>1 2011/02/07(月) 22:19:43.30 ID:Wa04AcmE0

理想とは、基本的に達成できないものである。
だからこそ人は妥協し、目標を現実的に設定し直す。

ある者は、理想を神や仏に託し、祈りを捧げる。
たとえ自分の理想が叶わずとも、理想に近しい存在を崇めることで自分の心を満たすために。
無論、違う目的で神を崇める者もいる。

だが、理想を十字教に託す者たちは確かにいるのだ。
決して少なくない数が。

ならばもし、理想が簡単に叶ってしまえばどうなるだろう。

人は神を不必要とする。
自分の理想を叶えることのできない無能な神に失望する。
そして、それらを抹殺しようとするだろう。

522: >>1 2011/02/07(月) 22:44:32.55 ID:Wa04AcmE0

「きょ、教皇!!お逃げください!もうすぐそこまで敵は迫っています!!」

バチカン大聖堂。
マタイ=リースは再び教皇の座についていた。
理由は言うまでも無いだろうが、所詮自分の欲望を優先する者にその役職は務まらない、ということだ。

「……構わんさ、これが彼らの意思なのだろう」

反乱が起きていた。
世界の変質を人々は感じ取り、そして、結果的に多くの信徒が十字教に失望した。
たった、それだけのことだ。

自分には、逃げる理由は無い。
どの道老いた身、ここで生き延びる意味は無いのだ。

そして、人の波が押し寄せる。
護衛の魔術師も奮闘するが、それを止められはしない。
守りを破って、ローマ教皇へと手が伸びる。

「ホンット、真性の馬鹿ね」

524: >>1 2011/02/07(月) 22:59:34.83 ID:Wa04AcmE0

舞い降りるは、黄色。
神の右席の一人、前方のヴェント。
ブォン、と凄まじい勢いで振られたハンマーが信徒の手を弾く。

「……教皇ってのは信徒の道を正すモンじゃないの?」

背中越しに、ヴェントは告げる。
その間にも信徒は迫ってくる。

「教皇とは、象徴だ。人を統べるものでも、導くものでもない」

だから、この状況を受け入れる。
大衆の望みならば仕方ない、と教皇は返す。

使えない、とヴェントは舌打ちする。
だが、そんなものを放っておけない自分がいる。

ヴェントは、そのことが一番気に入らないのだ。


525: >>1 2011/02/07(月) 23:11:10.11 ID:Wa04AcmE0

そして、武器を構え、信徒たちへとそれを向ける。
風邪を纏わせ、威力を増強し、それを、一気に振りぬく。

だが、ただぐらり、と揺らぐだけで、そのまま再び向かってくる。

おかしい。
ただの信徒がこれだけの力を持っているハズはない。
たとえ魔術師でも、神の右席の一人の攻撃を受けて平然としているわけがない。
だが、考える暇は無い。
人の波は目の前まで迫ってきているのだから。

再び、ハンマーを構え、振り下ろす。
さらに力を込めて。

しかし。

それは、相手に傷を負わせることはなく、受け止められた。

その隙に、他の信徒が近付く。
マズイ、と回避しようとした瞬間。




「―――ほう、随分と苦戦しているじゃないか」


526: >>1 2011/02/07(月) 23:21:58.67 ID:Wa04AcmE0

そう、一瞬だった。
異形の巨大な手が現れたかと思うと、それが信徒たちを軽々と吹き飛ばした。
それを起こしたのは、赤い男。
ヴェントにとって、不本意ながらも馴染み深い顔。

「……フィアンマ?」

右方のフィアンマ。
かつて世界規模の混乱を引き起こした男。
その男が、まるで自分を守るような真似をしたことに、ヴェントは疑問を持たざるを得なかった。

「理由が聞きたいなら後で話してやろう。だが、今はこの状況をどうにかするのが先決だろう?」

「……ハッ」

いつも通りの尊大な物言いが鼻につく。
だが、今は心強い。

そして、赤と黄は群衆へと突っ込んでいった。


527: >>1 2011/02/07(月) 23:37:20.02 ID:Wa04AcmE0

―――聖ジョージ大聖堂。

イギリス聖教もまた、混乱の最中にあった。
民衆の反乱と同じタイミングで、トップである最大主教が倒されたのだ。
命令も無く、ただ、どうにか襲い来る信徒を迎え撃とうと、ある程度の者が戦うだけ。

そこに、インデックスとステイルの姿もあった。

「く……一体どうなっているんだ!」

「わからない……けど、どうにか戦えないシスター達は守らないと!」

ステイルはルーンをばら撒き、炎の巨人を生み出す。
インデックスも聖ジョージの聖域を発動させ守りを固めながら迎撃する。

だが、それでも足りない。
むしろ、押されている。
だがしかし、下手に強力な魔術を使って命を奪うことなどはできない、とインデックスは思う。

そして、ひびの入るような、嫌な音がした。

聖ジョージの聖域が、破られかけている。



528: >>1 2011/02/07(月) 23:45:20.95 ID:Wa04AcmE0

まずい、とステイルはインデックスの方に駆け寄り、その体を人々からかばう。

もう絶対に失いたくない。
二度とこの子を諦めたくない。
そのために、自分が犠牲になろうと構わない。
そう、ステイルは思っていた。

「―――すているっ!!」

愛しい少女が、腕の中で声を上げる。

ああ、そうか。
置いていかれる方も悲しいんだったな、とステイルは少女のパートナーだった時を思い出す。
だが、それでも。
生きていれば、希望はあるから。
だからこそ、自分はこの少女を優先させる。


529: >>1 2011/02/07(月) 23:57:03.06 ID:Wa04AcmE0



衝撃が、やってこない。

ステイルが恐る恐る目を開け、群衆に振り向けば。
それは、空中で何らかの力で阻まれていた。

そして、そのまま、そこにある『何か』が炸裂したように吹き飛ぶ。

「……やれやれ、全てはアレイスターの思うとおりに進んでしまったらしい」

「ま、そっちはあの子たちがどうにかするでしょーよ」

現れたのは、一組の男女。
魔神のなりそこないと、その男に世話を焼く聖人。

「―――さて、それではいこうか」

「……言われなくても、そのつもりだよ」

人は、抗い続ける。
どれほど絶望的だろうと、強い意思がある限り。

535: おっとミスったぜー 2011/02/08(火) 21:25:48.85 ID:zySfaoBb0

上条の居る場所は、世界の変質の中心地だった。
だからこそ、わかる。
海外に居る仲間が戦っているのも感じていた。

だが、彼が立ち上がることはない。

迷っているからだ。
この世界には人々の意思が満ちている。

仲間を助けるためとはいえ、その人々の願いを壊すことは躊躇われるのだ。

だが、声は届く。
世界が人の心を繋げたことによって、
上条を信じる仲間の声は、上条の心に届いてくる。

537: >>1 2011/02/08(火) 21:48:21.68 ID:zySfaoBb0

『オイオイ、何やってんだよ?さっさと立ってアレイスターをぶん殴ろうぜ』

垣根帝督。
上条になじみは薄かったが、短い時間の交流でも、
いつもはヘラヘラしながら、その心には意思と他人への思いやりを感じた。

『カミやんらしくないぜよー、自分の思うとおりにやればいいんだにゃー』

土御門元春。
クラスメイトで魔術師の、科学と魔術の二重スパイ。
彼にはたびたび事件に巻き込まれたが、今はそれでよかったのだと思う。

『情けないですね……そんなことでは御坂さんを任せられませんよ?』

海原光貴―――ではなく、エツァリ。
かつては自分の命を狙ってきた男。
彼とは約束をした。今のところはそれを守ることができているだろうか。

『おい、まだやれるだろ!?無能力者の俺がここまで来てんのはお前の言葉があったからなんだぜ!?』

確か、浜面仕上だと垣根が言っていた。
前に会った時にはあんなことをしていたが、改心してくれているらしい。

538: >>1 2011/02/08(火) 22:01:10.26 ID:zySfaoBb0

『まったく、こちらは除け者にされていますのに……!何をしているんですの!』

白井黒子。
御坂美琴の良き後輩。
除け者、ということは彼女は人死にのある戦場から遠ざけられたらしい。

『あなたも第一位と同じでヘタレな感じなのかな?そりゃー残念』

番外個体。
一方通行を殺すために生み出された少女。
憎まれ口を叩きながらも、その彼とは結構息が合っていた気がする。

『ミサカはヒーローさんも、あの人と同じで信じてるよってミサカはミサカは想いを伝えてみる』

打ち止め。
二万の妹達を制御するために生み出された少女。
彼女の存在は、一方通行を確かに支えている。

『ったくよォ、さっさと決めろってンだヒーロー』

一方通行。
実験の時の第一印象は最悪だった。
それでも彼は、打ち止め達により新しい道を歩み始めていた。

539: >>1 2011/02/08(火) 22:14:37.83 ID:zySfaoBb0

『まったく、俺様が働いているというのにお前は何をしているんだ?』

フィアンマ。
神の右席で、右方の名を冠する者。
彼は深く接すれば、ただ、世界というモノをあまり知らないだけで悪人ではないのがすぐに分かった。

『君は君の信じた通りにやるといい。それが俺の望む結果では無くてもな』

オッレルス。
魔神になりそこねたという男。
彼には命を救われ、さらには住む場所も提供してもらった。

『とうま、負けちゃダメなんだよ!』

インデックス。
負い目もあり、自分が絶対に守らなければ、と思った少女。
彼女は自分以外にも信じられる人を見つけることができたらしい。

――――そして、

『―――御坂、か』

目の前に、御坂美琴が現れる。
この状態はミサカネットワークによって引き起こされたものだ。
ならば、妹達の姉、オリジナルである彼女が自分の心に入ってくることができてもおかしくはないのだ。



545: >>1 2011/02/09(水) 20:48:45.19 ID:yw3ca6GT0

『―――なあ、』

言いかけて、思いとどまる。
彼女はおそらく、純粋に自分を心配してこんなところまで来てくれたのだと思う。
それなのに、自分は残酷な質問をしようとしている。

そう、自分はいつだって狡猾で、自分勝手で、臆病者だった。
だからこそ、自分は『上条当麻』を演じ続けてきたのだ。

『……何?』

目の前の御坂美琴は、何も疑うことなく、自分のことを案じるように聞いてくる。
力を貸してほしいとでも、今までありがとうとでも言うと思っているのだろうか。
自分は、そんなにお人よしではないのに。

『本当に、これでいいと思うか?』

何が、とは言わない。
きっと、彼女はわかっているだろうから。
上条当麻と御坂美琴の考えは似通っているから。

そして、答えを聞く前に言葉を続ける。

『妹達だって、生き返らせることができるかもしれないんだぜ?』

546: >>1 2011/02/09(水) 21:07:57.74 ID:yw3ca6GT0

本当に、ずるい。
その質問で、彼女がどれだけ傷つくかはわかっているはずなのに。
結局、自分は自分自身の手を汚すのが怖いのだ。
だから、今もこうして死んだ妹達が生き返る望みを断つことの責任から逃れようとしている。

『……確かに、そうかもしれない』

御坂美琴が肯定する。
そうだろう。
彼女は元来優しい上に、妹達はクローンとはいえ、彼女にとても近い存在なのだから。

『―――あの子たちには、結局、私は何もしてあげられてない』

『それに、あの子たちは生きるってことがどういうことかすらわからないまま死んでしまった』

『もう一回、この世界で生きて、楽しいことも、悲しいことももっと知ってほしい』

『だから、あの子たちを生き返らせたくない、なんてのは冗談でも言えることじゃない』

そう言う彼女の目は潤んで、声は、震えていた。
それを見て、聞いて、少しだけ後悔の念が湧く。
そして、少しだけしかその思いがわかないことに、自分の冷たさを実感した。
彼女は、でも、という。
苦しみながらも、自分の想いを否定しようとする。

547: >>1 2011/02/09(水) 21:24:28.84 ID:yw3ca6GT0

『それでも、『これ』は違うと思う』

『これ』とは、この世界のことだろう、と思う。
この、人の欲望が暴走し、せめぎ合い、溢れ続ける世界のこと。

『確かに、この世界は人の願いが叶うところ』

『でも、その代わりに、傷つく人たちがいる世界』

『きっと、あの子たちはそんな代償を払って生き返らせられても、喜ばない』

『……それを教えてくれたのは、アンタでしょ?』

確かに、そうだ。
妹達は、御坂美琴の命を代償にして生かされたって、喜ばないと。
誰も救われないと言ったのは、自分だったはずだ。

『それ以前に、この世界はどっかの馬鹿が勝手に作ったものでしょ』

『あの子たちの命は、そんなもので揺らいでしまうほど軽くない』

そう言う彼女は、今にも泣きそうな顔をしている。
胸くらいなら貸そうか、と思うが、彼女に手で制される。

548: >>1 2011/02/09(水) 21:48:32.89 ID:yw3ca6GT0

『自分も迷ってる癖に、何しようとしてんのよ』

そうだった。
心が繋がっているのだから、自分の感情が読まれてもおかしくはないのだ。
だが、彼女で良かった、とも思う。
彼女は自分の記憶のことを知っている者の一人だから。

『大丈夫、アンタはアンタの思うがままにいけばいいと思う』

本当に、そうだろうか。
自分は『上条当麻』を演じていただけだというのに。

『それでも、それを決めたのはアンタ自身でしょ、たとえ、『上条当麻』であろうとしたっていう理由があっても』

確かに、それはそうだ。
『上条当麻』であるための選択をしてきたのは、他でもない自分なのだ。
だけど、それで本当にいいのだろうか。

『理由も無く、どんな人間だろうと助けようとする人なんていないわよ』

『だから、大丈夫。他の誰もが信じなくても、私は絶対に信じてるから』

その理由を聞きたいと、少しだけ思ったが、それは無粋なことだろう。
だから、自分が告げるのはただ一言だけだ。


―――ありがとう





549: >>1 2011/02/09(水) 22:03:03.66 ID:yw3ca6GT0

ふらり、と力なく少年が立ち上がるのをアレイスターは見た。
この程度なら想定済みだ、と思いながら。

それに、どれだけ心が頑強だろうと彼には幻想殺しも既に無い。
この世界を創造した自分に抵抗する術などは無い。

だが、可能性は潰しておくに越したことは無い。
だからこそ、アレイスターは衝撃の杖を少年に向ける。

生まれるのは、膨大な『力』。
世界の性質と合わさり、それはアレイスターの思うがままに圧倒的なものとなる。

これまで結果的には多くの人を救ってきた彼を殺すのは忍びない。
だが、この世界のためならば仕方ない。

アレイスターは、自分のそういう性格を十分に理解していた。
何であろうと、目的のためなら存分に使い、そして捨てる。

だから、容赦はしない。
アレイスターの全力が、少年に向けて、放たれた。

少年は、右腕を一振りした。
幻想殺しもない、何の変哲もない右腕を。

550: >>1 2011/02/09(水) 22:10:25.88 ID:yw3ca6GT0

だが。

その一振りで、『力』はそれを生み出した杖ごと消し飛んだ。

「な…んだ…」

アレイスターがこの上なく動揺する。
こんなことは想定していない、予想もしていないという風に。

「なんだ……これは……ッ!!」

アレイスターが少年に向き直った時、確かにそれは見えた。
彼に寄り添う人を、彼を信じる人を、彼を愛する人を。
その者たちの、意思を。

思わず、ひ、とアレイスターは声を上げそうになった。
彼にとって、それは恐怖だった。
人が人たりうることを否定し、自分の道を突き進み続けた彼にとっては。

551: >>1 2011/02/09(水) 22:22:44.70 ID:yw3ca6GT0

不思議だ、と少年は思う。
皆の想いが伝わってくる。
それが力になっているのを感じる。

そして、目の前のアレイスターは、独りであることを確かに感じた。
誰も、一緒に居る人がいないのを感じたのだ。

『上条当麻』なら、彼すらも救おうとするだろうか、と少年は思う。
現に、自分もアレイスターの孤独さを、悲しいと思っている。

だが、それ以上に気に入らない。
多くの人の人生を狂わせ、世界すら変えられると思いあがった者が。
そして、自分の大事な人たちが苦しむこの世界も。

だから、まずは思い切り殴ってからだ。
もう、仮面は必要ない。
自分は、自分の思うままに進む。

この世界と共に、上条当麻という幻想も殺す。
それは決別。

いや、むしろ未来への歩みというべきだ。
そして。

552: >>1 2011/02/09(水) 22:24:40.32 ID:yw3ca6GT0




いつもどおりに。
これまでと同じように。
けれども、まったく違う思いをのせて。

彼は、その右腕を振り下ろした。






568: >>1 2011/03/03(木) 23:05:19.98 ID:qWM9STrY0

『―――では、これにて会議を終了します』

議場に、マイク越しの声が響く。
それとともに肩の力も抜け、大きな溜息をついてしまう。
それを見て、あらあら、とでも言いたげな顔を親船最中が向けてくる。

魔術サイドと科学サイドの首脳が集まっての協議―――疲れるのは当然なのだが。
何しろ、溜息をついた張本人、アレイスターは少なくとも数十年は水槽に引きこもっていたのだ。
そもそも他人との会話も苦痛に感じるのでは仕方ない。

異常なのは、むしろ話した相手の方だ。
ローマ正教の代表の老人はともかく、イギリス清教とロシア成教の、十代の子供にしか見えない代表が、
泣き言の一つも言わずに会議を終えたのだ。

異常だとしても、見習うべき姿勢ではある。
だが、子供がそんなことをしなくてはならない現実は変えなければならない。

アレイスターはそんなことを考えて、少し前までの学生たちを実験動物、否、それ以下として見ていた自分を思い出し、自嘲する。


569: >>1 2011/03/03(木) 23:06:19.95 ID:qWM9STrY0

そもそも、そんな人間が未だにこんな地位に居ることもおかしいのだ。
だが、弱者であり、道具であり、勝者でもあった少年にそこに居てほしいと頼まれた。

どんなに歪んだ形だとしても、この街がこの街たりえたのは私がいたから。
これからのこの街にも、私が居なければこの街は成り立たない。
だから、この街を支え続けてほしい、と。

甘い考えだ、と今でも思う。
だが、だからこそ彼は強いのだと、今ならわかる。

ならば、自分もその願いに答えなければならない。
この場所で、自分にできる戦いをする。
それが、私の選択だ。

どこかの守護天使に聞かれれば確実にからかわれるだろうな、とまた少しだけ自嘲した。


570: >>1 2011/03/03(木) 23:07:05.94 ID:qWM9STrY0

ヴヴ、と携帯電話が震えるのを感じ、画面を見る。
アレのことを考えたからだろうか、とわざわざ非効率的な通信手段を使っていたエイワスを思い出す。

来ていたのは、一通のメールだった。
差出人は、知り合いのあの医者。
疲れただろうから、酒でも奢ろうかという内容だった。

まったく、自分の数少ない知り合いも甘い人間が多いらしい。

了承の返信を送ろうとして、ふと、躊躇し、書き直して送った。

どこからか嗅ぎつけた道楽天使も一緒でかまわないか、と。


571: >>1 2011/03/03(木) 23:09:22.43 ID:qWM9STrY0

場所は変わり、街の中。
ハァ、と黄色の装束の女性が溜息をつく。
ローマ教皇の護衛で学園都市に来て、自由時間を与えられた。
そこまではいい。

「……なんでアンタが一緒なワケ?」

そう、彼女の横に居るのは右方のフィアンマ。
一応同じ組織に所属してはいるが、別段仲がいいわけでもない。

「それはあれだよ、そう、俺様は学園都市に初めて来ているわけだ」

「で、初心者のフィアンマくんはお姉さんに案内を頼みたいと」

「そういうことだ、物分かりがよくて助かるよ姉上」

572: >>1 2011/03/03(木) 23:10:18.25 ID:qWM9STrY0

こんなひねくれた弟がどこに居るだろうか。
口に出せば、ここに居るだろう、と返されそうでヴェントは心の中で呟いた。

ああ、弟が恋しい。
お化け屋敷が苦手なくせに私が入るからって震えながらついてきた弟。
観覧車の中ではしゃいで私にチョップを食らった弟。
ゲコ美だかなんだか、マスコットの格好とはいえ女装させられて涙目な弟。
かき氷食べて頭がキーンってなってるおとう「ふむ、どことなく変態チックだな」

「……至福の時間を邪魔しないでくれる?」

「いや、そろそろ危険なワードが出てきそうだったからな」


573: >>1 2011/03/03(木) 23:10:57.19 ID:qWM9STrY0

「ブラザーメモリアルタイムを邪魔した罪は重いわよ」

「……ネーミングセンスの欠片も無いな」

そう言われ、むっとするヴェントだが、弟にも同じことを言われた記憶があるので反論はできない。
だが、罰は受けてもらおう。

「とりあえず、今日は全部アンタの奢りだから」

「……む、元々そのつもりだったんだが」

あら意外、とヴェントは思う。
この男なら当然のごとく相手に払わせるものだと思ったのだが。


574: >>1 2011/03/03(木) 23:11:37.72 ID:qWM9STrY0

「デートというのは、男が奢るものなんだろう?」

その言葉に、ピシリ、とヴェントが石化する。
そして、勢いよくフィアンマに顔を向けて、

「だ・れ・と・だ・れ・が・で・え・と!?」

「おや、違ったのか」

「当り前でしょ!」

そう言うヴェントの顔は、怒りからか照れからか赤くなっていた。
フィアンマもそれに気付いたが、なんとなく言わないでおこう、と思っていた。

581: >>1 2011/03/09(水) 12:17:28.64 ID:notIxiaH0

その部屋には、男と女が一人ずつ。
頭を地につけた男と、どこまでも、どこまでも笑顔の女。

「―――さて、言い訳はある?」

「いや、あのな、こう、あの胸は反則じゃないかと」

「へぇ、それで初対面の女とお茶してたの?」

「……その通りでございます」

はぁ、と少女――心理定規が溜息をつく。
付き合い始めて、これで3回目だろうか。
元々、彼はその辺のホストのような顔をしているのだ。

少しくらいナンパ癖があっても仕方ない。
最初はそう思っていたのだが、こうも繰り返されるとさすがに堪える。

自分に魅力が無いのだろうか、ということを考えるのもしばしばである。

582: >>1 2011/03/09(水) 12:28:01.74 ID:notIxiaH0

「なんでも言うこと聞くんで、どうにか勘弁してくれ……!」

そして、毎回これだ。
どうしようもない男であるのは確かだ。
だがしかし、そんな男を放っておけない自分がいる。

だから、今回もこう答える。

「……じゃあ、その女より高いもの奢りなさいよ?」

「お、おう、もちろんだ!」

どうしようもない所も好きなのだから、自分もどうしようもない。
だが、それでもいい。

いつかは、目の前の男――垣根帝督を骨抜きにしてみせる、という目標がある。

能力など使わず、フェアな方法で。
だから、今はこのままでいい。

583: >>1 2011/03/09(水) 12:43:39.21 ID:notIxiaH0

「どーん、ってミサカはミサカはあなたへダーイブ!」

「ごっふゥ!?このクソガキ、今何時だと思ってンだァ!?」

「いや、もう昼だけど?第一位は時間も分からないほどボケちゃったの?」

にやにやと、打ち止めの突撃を喰らった一方通行を番外個体が見つめる。
一方通行は、それにチ、と舌打ちをしながら、

「つってもよォ、起こす理由にはなンねェだろォが」

普通、昼まで同居人が寝ていれば親切な人なら起こすものなのだが。
生活リズムの不安定な一方通行にとっては、そういうことになっているらしい。

「お買い物だよ!ってミサカはミサカはあなたの身支度を急かしてみる!」

「あァ?ンなモン、オマエらだけでいけばいいだろォが」


584: >>1 2011/03/09(水) 12:57:48.38 ID:notIxiaH0

「ミサカはあなたと一緒に行きたいの!ってミサカはミサカは駄々をこねてみたり」

そう言って、打ち止めは一方通行の服をぐいぐいと引っ張る。
番外個体が、それに呆れたように、

「ミサカはどーでもいいんだけどさ、上位個体がこう言ってるんだし、さっさと支度しなよ」

「え、でも番外個体も―――」

ガシッ、と打ち止めが続ける前に番外個体がその口を手で塞ぐ。
打ち止めがそれに文句を言おうとするが、番外個体の、黙っていてほしい、という目に仕方なく諦める。

「……あァ、そォだな、オマエらの頼みなら仕方ねェな」

「ミ、ミサカは別に―――」

「そンじゃあ、着替えてくるから待ってやがれ」

「無視すんなぁぁっ!」

番外個体、生後数カ月。
鈍感な少年と、無邪気な小さい姉と同居する素直じゃない彼女の未来はどっちだ。


585: >>1 2011/03/09(水) 13:12:36.08 ID:notIxiaH0

「―――インデックス、さすがにそれは食べすぎじゃないのかい?」

「ふぇ?ふぁあふぃ、ふふぇふぃふ?」

「……口の中の物を処理してから話そうか」

まったく、彼女の食費でイギリス清教の財政が傾いたらどうしよう、とステイルは思う。
まあ、だがそれもいいかもしれないとも思う。

彼女はローラ=スチュアートが行方をくらました後、多くの人の声によって最大主教の座に就いた。
魔神にも匹敵する戦闘力を持っているとはいえ、年端もいかない少女が、だ。

それには、上層部の思惑があるとステイルは睨んでいる。
子供を象徴としてトップに置き、実権は自分たちが握る。
おそらく、そういう理由があってインデックスは最大主教の座に就かされているのだろう。

だが、思う通りはならない。
インデックスはもう、組織の代表としての仕事をうまくこなせるようになっている。
そして何より、自分がいる。
絶対に、彼女を道具として使わせはしない。

586: >>1 2011/03/09(水) 13:25:25.48 ID:notIxiaH0

「――あ、あれもおいしそうなんだよ!」

そうして指差すのはホットドッグ。
値段を見れば、2000円。

ステイルは、思わず頭を抱えた。
彼女の思うがままにはさせてあげたいのだが、さすがに食事のことには口を挟みたい。
いや、挟まないと彼女の将来にも関わるだろうが。

少し前までは、こんな日が来るとは思わなかった。
彼女は自分とは違う、ある少年と共に居たのだから。

そういえば、あの少年――上条当麻は何をして「あ、とうまだー!」

タイミングがいいのか悪いのか、とステイルは思う。
だがまあ、どちらでもいいか、とすぐに結論付けた。

そう、彼女は今、こんなにも幸せそうな顔をしているのだから。



587: >>1 2011/03/09(水) 13:36:59.01 ID:notIxiaH0

「はぁ……」

「…どうしたのよ、そんな大きな溜息ついて」

「いやさ、学校休んでた分の課題を大量に渡されてな……」

なんだそんなことか、と美琴は思う。
だが、目の前の上条当麻にとってはこれは重大な問題なのだ。

「ちくしょう!そういうのはアレイスターがどうにか根回ししてくれるのかと思ったのに!」

「根回ししてそれだけなんじゃないの?アンタずっと事件に巻き込まれてたし」

ぐ、と上条は言葉に詰まる。
そういえば、事件のない日の方が珍しい気がする。

「お前の方はどうなんだ?レベル5が行方不明ってのは大問題になるんじゃねーの?」

588: >>1 2011/03/09(水) 13:48:32.24 ID:notIxiaH0

「うーん、ちょっとお叱りは受けたけど、あんまりひどいペナルティは無かったわよ?」

「く……これは上条さんの運の無さが災いしたのか」

普段の素行じゃない?と美琴が答える。
自販機に蹴りを入れるお嬢様が言うことか、と言いたかったが、
そういえばやめたんだったな、と思いとどまった。

「ま、課題なら手伝ってあげるわよ」

「おお、本当か!?ありがとうございます神様仏様御坂様!」

「おおげさよ、そんなに言わなくても――」

「ん、アレって……」



「あ、とうまだー!」


589: >>1 2011/03/09(水) 14:00:15.26 ID:notIxiaH0

そういえば、魔術サイドとの会談だとかテレビで言ってたな、と上条は思う。
そして、少女との再会に素直な喜びを感じる。

「そっか、来てたのか。……あ、ステイルも一緒か」

「…ついでみたいに言わないでくれるかな?」

不機嫌そうに言うステイルに、悪い悪い、と言って謝る。
そこでふ、と振り返ると、何故だか美琴も少し不機嫌そうだった。

思わず、インデックスと顔を見合わせる。

「……似た者同士なんだよ」

「……そうだなぁ」

そんな仲の良さげな様子に、美琴とステイルはさらに不機嫌になる。

だがこれも、学園都市の平和な1コマであった。

590: >>1 2011/03/09(水) 14:10:12.95 ID:notIxiaH0

「―――さて、今回は何だって?」

聖人、シルビアが三角木馬の用意をしながら問いかける。
対するは魔神――のなりそこない、オッレルス。

「はい、人身売買組織をちょっと潰してきました…」

「ほうほう、で?」

「子供は近くの孤児院に預けて、組織に喧嘩売ってた男性二人を保護させて頂きました…」

「よろしい、前回から成長してる……けど三角木馬で」

「ひぃいいいいっ!?またこうなるのかチクショー!鬼!悪魔!」

「はいはい、猿轡猿轡」

「んーっ!んんーっ!!」


591: >>1 2011/03/09(水) 14:26:18.23 ID:notIxiaH0

「あー、すまない。我々がついてきたのは迷惑だったかな?」

「……問題はアンタらじゃないよ、コイツが黙って出かけてるのが悪い」

その言葉に、上条刀夜と御坂旅掛は自分の妻が脳裏に浮かぶ。
旅掛は、最近帰ってないなあ、と虚ろな目をしながら考え、ふと思い出す。

「そういえば、うちの娘に気になる男ができたらしいんですよねぇ…」

「それはそれは……うちの当麻もある女の子と最近仲がいいとか」

「おや……『当麻』くんですか…ウチの美琴が気になっているのは『上条当麻』くんらしいんですが」

「奇遇ですね…ウチの当麻も『御坂美琴』さんと仲がいいようで」

はぁ、と父親たちは溜息をつく。
子供の自立は嬉しいのだが、やはりいかんせん寂しいものがある。

「……飲みますか」

「…そうですねぇ。奥さん、酒はありますか?」

「ああ、あるよ。ちょっとカウンターで待っててくれる?」

592: >>1 2011/03/09(水) 14:32:24.87 ID:notIxiaH0

ばたばた、とシルビアが奥に走っていく。
視界の端で動いているオッレルスは、巻き込まれるのが怖いので放っておいた。

そうして、大人たちは酒を飲む。
自分たちの子供の話を酒の肴にして。

子共たちがこの宿の同じ部屋で寝泊まりした、というのを知るのも時間の問題だった。


593: >>1 2011/03/09(水) 14:36:17.32 ID:notIxiaH0

物語は、ここで終わる。
だが、彼らの世界は終わりはしない。
だからこそ、新しい物語は生まれ続ける。
彼らは生きていく。
幸福で、不幸で、優しく、厳しく、楽しく、悲しい世界で。

これからも、生きていく。